2021-700702
記録方法
- 審判番号
- 2021-700702
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2019-138610外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 登録番号
- 6816797
- 請求日
- 2021年07月20日
- 審決日
- 2022年05月19日
- 公報発行日
- 2022年08月26日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 分類
- P1651.121-YAA(B41M) / P1651.537-YAA(B41M)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第2項、特許法第36条、特許法第29条第2項、特許法第29条
- データ出所
- 審決公報(XML)
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結論
理由
目次 ▾ 14項目
第1 手続等の経緯
特許第6816797号(以下「本件特許」という。)の請求項1~14に係る特許についての出願(特願2019-138610号)は、平成27年6月19日(先の出願に基づく優先権主張 平成26年9月19日)に出願した特願2015-123636号の一部を令和元年7月29日に新たな特許出願としたものであって、令和2年12月28日にその特許権の設定登録がされ、令和3年1月20日に特許掲載公報が発行された。
本件特許について、特許掲載公報発行の日から6月以内である令和3年7月20日に特許異議申立人 栗暢行(以下「特許異議申立人」という。)から全請求項に対して特許異議の申立てがされた。その後の手続等の経緯の概要は、以下のとおりである。
を、以下「本件訂正請求」という。)
第2 本件訂正請求について
1 訂正の趣旨及び訂正の内容
(1)訂正の趣旨
本件訂正請求の趣旨は、特許第6816797号の特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~14について訂正することを求める、というものである。
(2)訂正の内容
本件訂正請求において特許権者が求める訂正の内容は、以下のとおりである。
なお、下線は当合議体が付したものであり、訂正箇所を示す。
ア 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「前記着色インク組成物付着工程において、前記乾燥する工程により乾燥させた前記記録領域S1上の前記反応液の揮発成分残存率が、付着前の前記反応液に含まれる揮発成分の総質量100質量%に対して、30~50質量%である状態で、色材及び樹脂を含む前記着色インク組成物を前記記録領域S1へ付着させて、前記記録領域S2を形成し、」と記載されているのを、「前記着色インク組成物付着工程において、前記乾燥する工程により乾燥させた前記記録領域S1上の前記反応液の揮発成分残存率が、30~50質量%である状態で、色材及び樹脂を含む前記着色インク組成物を前記記録領域S1へ付着させて、前記記録領域S2を形成し、前記揮発成分残存率は、下記式で算出したものであり、揮発成分残存率%=100-((Af-A)/(Af-Ae)×100(Afは被記録媒体へ付与する反応液の合計の付与量、Aeは反応液を付与した被記録媒体を60℃で10分乾燥させた場合の被記録媒体の反応液の残留物量、Aは着色インク組成物付着直前の被記録媒体の反応液の総質量。)」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2~14も同様に訂正する。)。
イ 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に「前記乾燥させる工程において、前記被記録媒体の記録領域の温度が45℃以下であり、前記反応液が、水の含有量が、反応液の総質量に対して40~80質量%である、」と記載されているのを、「前記乾燥させる工程において、前記被記録媒体の記録領域の温度が45℃以下であり、前記反応液が、水の含有量が、反応液の総質量に対して40~80質量%であり、前記凝集剤が、多価金属塩を含み、前記記録媒体が、低吸収性記録媒体又は非吸収性記録媒体である、」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2~14も同様に訂正する。)。
ウ 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3に「前記被記録媒体が、吸収性被記録媒体又は低吸収性記録媒体である」と記載されているのを、「前記被記録媒体が、低吸収性記録媒体である」に訂正する(請求項3の記載を引用する請求項4~10、12~14も同様に訂正する。)。
エ 訂正事項4
特許請求の範囲の請求項6に「前記凝集剤が、多価金属塩及び有機酸の少なくとも何れかを含む」と記載されているのを、「前記多価金属塩が、アルカリ土類金属の塩を含む」に訂正する(請求項6の記載を引用する請求項7~14も同様に訂正する。)。
オ 訂正事項5
特許請求の範囲の請求項10に「前記凝集剤が多価金属塩を含み、前記多価金属塩が、カルボン酸塩、硫酸塩の何れかを含む、」と記載されているのを、「前記多価金属塩が、カルボン酸塩、硫酸塩の何れかを含む、」に訂正する(請求項10の記載を引用する請求項11~14も同様に訂正する。)。
カ 訂正事項6
特許請求の範囲の請求項11に「前記記録媒体が、低吸収性記録媒体又は非吸収性記録媒体である、請求項1~10の何れか一項に記載の記録方法」と記載されているのを、「前記低吸収性記録媒体が塗工紙であり、又は前記非吸収性記録媒体が、プラスチック類のフィルムまたはプレート、金属類や合金のプレートの何れかである、請求項1~2、4~10の何れか一項に記載の記録方法。」に訂正する(請求項11の記載を引用する請求項12~14も同様に訂正する。)。
(3)本件訂正請求は、一群の請求項〔1~14〕に対して請求されたものである。
2 訂正の適否
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的
訂正事項1による訂正は、特許請求の範囲の請求項1に記載された「揮発成分残存率」について、「揮発成分残存率%=100-((Af-A)/(Af-Ae)×100(Afは被記録媒体へ付与する反応液の合計の付与量、Aeは反応液を付与した被記録媒体を60℃で10分乾燥させた場合の被記録媒体の反応液の残留物量、Aは着色インク組成物付着直前の被記録媒体の反応液の総質量。)」という数式によって明瞭にする訂正である。
したがって、訂正事項1による訂正は、特許法120条の5第2項ただし書3号に掲げる事項(明瞭でない記載の釈明)を目的とする訂正に該当する。
イ 新規事項追加の有無
本件特許の明細書において、【0089】には、【0088】の「揮発成分残存率」の式として、「Afは被記録媒体へ付与する反応液の合計の付与量(mg)である。また、Aeは、記録物を使用するのに十分な状態まで反応液を乾燥(揮発)させた状態の被記録媒体上の反応液の残留物量である。さらに、Aは、着色インク組成物付着直前の被記録媒体上の反応液の総質量である。揮発成分残存率%=100-((Af-A)/(Af-Ae)×100」と記載されている。Af及びAの求め方は、【0090】に記載されているとおりである。また、Aeについては、【0087】に「表2に示す記録条件でインクジェット法により各ヘッドから、着色インク組成物を付着量7mg/inch2で吐出し、記録領域S1上に記録領域S2を形成し(着色インク組成物付着工程)、その後60℃で10分乾燥させた。」と記載されている。
ここで、着色インク組成物付着工程後に60℃で10分乾燥させた場合、反応液が、記録物を使用するのに十分な状態まで反応液を乾燥(揮発)させた状態の被記録媒体上の反応液の残留量となることは、明らかである。
また、揮発成分残存率の式を変形すると、揮発成分残存率%=(A-Ae)/(Af-Ae)×100となる。【0087】~【0090】の記載により、分母は、付着前の反応液に含まれる揮発成分の総質量であり、分子は、乾燥工程により乾燥させた反応液の揮発成分であるといえる。
そうしてみると、訂正事項1による訂正は、本件特許の明細書の【0087】~【0090】の記載に基づくものであるから、当業者によって、明細書、特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものである。
したがって、訂正事項1による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものである。
ウ 拡張又は変更の存否
上記訂正内容からみて、訂正事項1による訂正により、訂正前の特許請求の範囲には含まれない発明が訂正後の特許請求の範囲に含まれることにならないことは明らかである。
したがって、訂正事項1による訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
(2)訂正事項2について
ア 訂正の目的
訂正事項2による訂正は、特許請求の範囲の請求項1に記載された「凝集剤」」について、「多価金属塩を含」むものとし、特許請求の範囲の請求項1に記載された「記録媒体」について、「低吸収性記録媒体又は非吸収性記録媒体である」と、限定するものである。
したがって、訂正事項1による訂正は、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる事項(特許請求の範囲の減縮)を目的とする訂正に該当する。
イ 新規事項追加
本件訂正請求前の特許請求の範囲の請求項10及び本件特許の明細書の【0021】には、「凝集剤」が「多価金属塩」を含むことが記載されている。また、本件訂正請求前の特許請求の範囲の請求項3並びに本件特許の明細書の【0067】には、「記録媒体」が「低吸収性記録媒体又は非吸収性記録媒体」であることが記載されている。
そうしてみると、訂正事項2による訂正は、本件特許の特許請求の範囲の請求項3及び10並びに明細書の【0021】及び【0067】の記載に基づくものであるから、当業者によって、明細書、特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものである。
したがって、訂正事項2による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものである。
ウ 拡張又は変更の存否
上記訂正内容からみて、訂正事項2による訂正により、訂正前の特許請求の範囲には含まれない発明が訂正後の特許請求の範囲に含まれることにならないことは明らかである。
したがって、訂正事項2による訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
(3)訂正事項3について
ア 訂正の目的
訂正事項3による訂正は、訂正事項2に関連して、特許請求の範囲の請求項3の「吸収性被記録媒体又は」との記載を削除するものである。
したがって、訂正事項3による訂正は、特許法120条の5第2項ただし書3号に掲げる事項(明瞭でない記載の釈明)を目的とする訂正に該当する。
イ 新規事項追加の有無
上記訂正内容からみて、訂正事項3による訂正は、当業者によって、明細書、特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものである。
したがって、訂正事項3による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものである。
ウ 拡張又は変更の存否
上記訂正内容からみて、訂正事項3による訂正により、訂正前の特許請求の範囲には含まれない発明が訂正後の特許請求の範囲に含まれることにならないことは明らかである。
したがって、訂正事項3による訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
(4)訂正事項4について
ア 訂正の目的
訂正事項4による訂正は、訂正事項2に関連して、特許請求の範囲の請求項6の「及び有機酸の少なくとも何れか」との記載を削除するものである。
したがって、訂正事項4による訂正は、特許法120条の5第2項ただし書3号に掲げる事項(明瞭でない記載の釈明)を目的とする訂正に該当する。
イ 新規事項追加の有無
上記訂正内容からみて、訂正事項4による訂正は、当業者によって、明細書、特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものである。
したがって、訂正事項4による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものである。
ウ 拡張又は変更の存否
上記訂正内容からみて、訂正事項4による訂正により、訂正前の特許請求の範囲には含まれない発明が訂正後の特許請求の範囲に含まれることにならないことは明らかである。
したがって、訂正事項4による訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
(5)訂正事項5について
ア 訂正の目的
訂正事項5による訂正は、訂正事項2に関連して、特許請求の範囲の請求項10の「前記凝集剤が多価金属塩を含み」との記載を削除するものである。
したがって、訂正事項5による訂正は、特許法120条の5第2項ただし書3号に掲げる事項(明瞭でない記載の釈明)を目的とする訂正に該当する。
イ 新規事項追加の有無
上記訂正内容からみて、訂正事項5による訂正は、当業者によって、明細書、特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものである。
したがって、訂正事項5による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものである。
ウ 拡張又は変更の存否
上記訂正内容からみて、訂正事項5による訂正により、訂正前の特許請求の範囲には含まれない発明が訂正後の特許請求の範囲に含まれることにならないことは明らかである。
したがって、訂正事項5による訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
(6)訂正事項6について
ア 訂正の目的
訂正事項6による訂正は、特許請求の範囲の請求項11に記載された「吸収性被記録媒体」及び「非吸収性記録媒体」を、それぞれ、「塗工紙」及び「プラスチック類のフィルムまたはプレート、金属類や合金のプレートの何れか」であると限定するとともに、訂正事項3に関連して、特許請求の範囲の請求項11に記載された「請求項1~10の何れか一項に記載」を「請求項1~2、4~10の何れか一項に記載」とするものである。
したがって、訂正事項6による訂正は、特許法120条の5第2項ただし書1号及び3号に掲げる事項(特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明)を目的とする訂正に該当する。
イ 新規事項追加の有無
本件特許の明細書の【0069】には、「低吸収性記録媒体」として「塗工紙」が記載されている。また、本件特許の明細書の【0070】には、「非吸収性記録媒体」として「プラスチック製のフィルム」であることが記載されている。
そうしてみると、訂正事項6による訂正は、本件特許の明細書の【0069】及び【0070】の記載に基づくものであるから、当業者によって、明細書、特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものである。
ウ 拡張又は変更の存否
上記訂正内容からみて、訂正事項6による訂正により、訂正前の特許請求の範囲には含まれない発明が訂正後の特許請求の範囲に含まれることにならないことは明らかである。
したがって、訂正事項6による訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
(7)小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正(訂正事項1ないし6による訂正)は、特許法120条の5第2項ただし書、同法同条9項において準用する同法126条4項から6項までの規定に適合する。
よって、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~14〕について訂正することを認める。
第3 本件特許発明
上記「第2」のとおり、本件訂正請求による訂正は認められた。
したがって、本件特許の特許請求の範囲の請求項1~14に係る発明(以下、それぞれ、「本件特許発明1」などという。)は、本件訂正請求による訂正後の特許請求の範囲の請求項1~14に記載された事項により特定される、次のものである。
「【請求項1】着色インク組成物の成分を凝集させることができる凝集剤を含む反応液を、被記録媒体へ、前記凝集剤の付着量100~1000nmol/inch2で付着させて、記録領域S1を形成する反応液付着工程と、前記被記録媒体を加熱して前記付着させた反応液を乾燥する工程と、前記被記録媒体のある位置への前記反応液の付着の終了から、その位置に対して前記着色インクの付着を開始するまでを30秒以内とし、色材及び樹脂を含む前記着色インク組成物を前記記録領域S1へ付着させて、記録領域S2を形成する着色インク組成物付着工程と、を有し、続きを表示(全38行)前記着色インク組成物付着工程において、前記乾燥する工程により乾燥させた前記記録領域S1上の前記反応液の揮発成分残存率が、30~50質量%である状態で、色材及び樹脂を含む前記着色インク組成物を前記記録領域S1へ付着させて、前記記録領域S2を形成し、前記揮発成分残存率は、下記式で算出したものであり、揮発成分残存率%=100-((Af-A)/(Af-Ae))×100(Afは被記録媒体へ付与する反応液の合計の付与量、Aeは反応液を付与した被記録媒体を60℃で10分乾燥させた場合の被記録媒体の反応液の残留物量、Aは着色インク組成物付着直前の被記録媒体の反応液の総質量。)前記乾燥させる工程において、前記被記録媒体の記録領域の温度が45℃以下であり、前記反応液が、水の含有量が、反応液の総質量に対して40~80質量%であり、前記凝集剤が、多価金属塩を含み、前記記録体が、低吸収性記録体又は非吸収性記録媒体である、記録方法。【請求項2】前記反応液付着工程において、前記反応液を液滴として吐出して、600dpi以上×600dpi以上の付着密度で前記被記録媒体へ付着させる、請求項1に記載の記録方法。【請求項3】前記被記録媒体が、低吸収性記録媒体である、請求項1又は2に記載の記録方法。【請求項4】前記凝集剤の含有量が、前記反応液の総量に対して、0.090mol/1000g以上0.91mol/1000g以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載の記録方法。【請求項5】前記凝集剤により凝集する前記着色インク組成物の前記成分が、前記色材としての顔料及び前記樹脂の少なくとも何れかを含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の記録方法。【請求項6】前記多価金属塩が、アルカリ土類金属の塩を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の記録方法。【請求項7】前記反応液付着工程及び前記着色インク組成物付着工程において、インクジェトヘッドと、前記被記録媒体との相対的な位置を変化させつつ、前記インクジェトヘッドから前記反応液又は前記着色インク組成物を吐出させる走査を1回行うことにより、付着を行う、請求項1~6のいずれか1項に記載の記録方法。【請求項8】前記反応液付着工程において、反応液をインクジェットヘッドから吐出して行う、請求項1~7のいずれか1項に記載の記録方法。【請求項9】さらに前記着色インク組成物付着工程中において前記記録媒体を加熱して前記反応液を乾燥する工程を有する、請求項1~8の何れか一項に記載の記録方法。【請求項10】前記凝集剤が多価金属塩を含み、前記多価金属塩が、カルボン酸塩、硫酸塩の何れかを含む、請求項1~9の何れか一項に記載の記録方法。【請求項11】前記低吸収性記録媒体が塗工紙であり、又は前記非吸収性記録媒体が、プラスチック類のフィルムまたはプレート、金属類や合金のプレートの何れかである、請求項1~2、4~10の何れか一項に記載の記録方法。【請求項12】前記反応液付着工程において、前記反応液を液滴として吐出して、1200dpi以上×1200dpi以上の付着密度で前記被記録媒体へ付着させる、請求項1~11の何れか一項に記載の記録方法。【請求項13】前記ある位置への反応液の付着の終了から、その位置に対して前記着色インクの付着を開始するまでを20秒以内とする、請求項1~12の何れか一項に記載の記録方法。【請求項14】前記乾燥させる工程において、前記被記録媒体の記録領域の温度が40℃以下である、請求項1~12の何れか一項に記載の記録方法。」
第4 取消しの理由の概要
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1~14に係る特許に対して、当合議体が令和3年9月30日付け取消理由通知書により特許権者に通知した取消しの理由(以下、単に「取消理由」といい、この通知を「取消理由通知書」という。)の要旨は、次のとおりである。
理由1 進歩性欠如
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1~14に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された発明に基づいて、本件特許の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
(当合議体注:甲1~甲2は、主引用例であり、甲3~甲7は、副引用例又は周知技術を示す文献であり、甲8は、本件特許の優先権主張の基礎とされた先の出願の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面である。
なお、本件特許は、先の出願による優先権主張の効果は認められないものであるとした。)
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1~14に係る発明についての特許は、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない。
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1~14に係る発明についての特許は、特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない。
第5 当合議体の判断
1 進歩性欠如について
(1)優先権主張による効果について
本件特許発明1において、「前記着色インク組成物付着工程において、前記乾燥する工程により乾燥させた前記記録領域S1上の前記反応液の揮発成分残存率が、付着前の前記反応液に含まれる揮発成分の総質量100質量%に対して、30~50質量%である状態で、色材及び樹脂を含む前記着色インク組成物を前記記録領域S1へ付着させて、前記記録領域S2を形成し」と記載されている。
これに対して、本件特許の優先権主張の基礎とされた先の出願(特願2014-191845号の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「甲8の出願当初明細書等」という。)の【0040】、【0091】及び請求項9には、それぞれ、「着色インク組成物付着工程においては、記録領域S1上の反応液の揮発成分残存率が、付着前の反応液に含まれる揮発成分の総質量100質量%に対して、70質量%以上である状態で、色材及び樹脂を含む着色インク組成物を記録領域S1へ付着させて、記録領域S2を形成することが好ましい。揮発成分残存率は、付着前の反応液に含まれる揮発成分の総量に対して、好ましくは70質量%以上であり、より好ましくは75質量%以上であり、さらに好ましくは80質量%以上であり、特に好ましくは90質量%以上である。上限は100質量%以下である。」、「実施例11以外の実施例及び比較例では揮発成分残存率はいずれも90%以上であった。また、実施例11では揮発成分残存率は約50%であった。」及び「前記着色インク組成物付着工程において、前記記録領域S1上の前記反応液の揮発成分残存率が、付着前の前記反応液に含まれる揮発成分の総質量100質量%に対して、70質量%である状態で、色材及び樹脂を含む前記着色インク組成物を前記記録領域S1へ付着させて、前記記録領域S2を形成する」と記載されている。
しかしながら、上記【0040】、【0091】及び請求項9には、当該揮発成分残存率の上限が50質量%であることは記載されておらず、また、記載されていることが自明であるともいえない。さらに、上記以外の甲8の出願当初明細書等にも、当該揮発成分残存率の上限が50質量%であることは記載されておらず、また、記載されていることが自明であるともいえない。
そうしてみると、本件特許発明1は、先の出願に基づく優先権主張の効果を享受できない。
本件特許発明2~14は、本件特許発明1の構成をすべて含むものであるから、本件特許発明1と同様の理由により、先の出願に基づく優先権主張の効果を享受できない。
したがって、本件特許出願の新規性及び進歩性の判断基準日は、現実の出願日である平成27年6月19日であるとして、以下、判断する。
(2)甲1の記載及び甲1発明
ア 甲1の記載
取消理由に引用された甲1には、次の記載がある。なお、当合議体が発明の認定等に用いた箇所に下線を付した。
(ア)「【技術分野】【0001】本発明は、インクジェット記録用インクセットおよびインクジェット画像記録方法に関する。・・・省略・・・続きを表示(全78行)【発明が解決しようとする課題】【0006】しかしながら、特許文献1に記載のインクジェット記録方法では、インクの凝集性が不十分であり、また、白地光沢、着弾干渉、画像の耐傷性についても不十分であった。本発明は、白地光沢、着弾干渉、および画像の耐傷性に優れるインクジェット記録用インクセットおよびこれを用いたインクジェット画像記録方法を提供することを課題とする。【課題を解決するための手段】・・・省略・・・【0009】<11> 有機酸、および、前記有機酸に対する含有率が0.15~0.70の水溶性有機溶剤を含み、25℃における表面張力が40mN/m以上である反応液を、記録媒体上に付与し、乾燥する反応液付与工程と、25℃における表面張力が25以上40mN/m未満であるインク組成物を、前記反応液が付与された記録媒体上に、インクジェット方式で打滴するインク打滴工程と、を備えるインクジェット画像記録方法。<12> 前記インク打滴工程は、前記反応液付与工程の後、0.1秒以上10秒以内に開始される前記<11>に記載のインクジェット画像記録方法。【発明の効果】【0010】本発明によれば、白地光沢、着弾干渉、および画像の耐傷性に優れるインクジェット記録用インクセットおよびこれを用いたインクジェット画像記録方法を提供することができる。【発明を実施するための最良の形態】【0011】<インクジェット記録用インクセット>本発明のインクジェット記録用インクセットは、25℃における表面張力が25mN/m以上40mN/m未満であるインク組成物の少なくとも1種と、有機酸および前記有機酸に対する含有率が0.15~0.70(質量基準)である水溶性有機溶剤を含み、25℃における表面張力が40mN/m以上であって、前記インク組成物を凝集させる反応液の少なくとも1種と、を含む。かかる構成のインクセットを用いることで、非画像部の白地光沢に優れ、インクの着弾干渉が抑制され、耐傷性に優れる画像を形成することができる。【0012】(反応液)本発明のインクセットは反応液の少なくとも1種を含む。本発明における反応液は、インク組成物と接触した場合にインク組成物を凝集させる。これによりインクジェット記録を高速化することが可能となり、さらに高速記録においても濃度、解像度の高い画像を形成することが可能となる。本発明における反応液は、有機酸および水溶性有機溶剤を含むが、必要に応じて、水、界面活性剤、およびその他の添加剤を含んで構成することができる。【0013】-有機酸-本発明における反応液は、有機酸の少なくとも1種を含む。有機酸はインク組成物を凝集させる凝集成分として反応液に含まれる。前記有機酸としては、少なくとも1種の酸性基を有する有機化合物であれば特に制限はない。前記酸性基としては、リン酸基、ホスホン酸基、ホスフィン酸基、硫酸基、スルホン酸基、スルフィン酸基、およびカルボキシル基等を挙げることができる。本発明において酸性基は、インク組成物の凝集速度の観点から、リン酸基またはカルボキシル基であることが好ましく、カルボキシル基であることがより好ましい。・・・省略・・・【0016】前記反応液における有機酸の含有率については特に制限はないが、インク組成物の凝集速度の観点から、10~35質量%であることが好ましく、15~30質量%であることがより好ましい。また前記反応液は、インク組成物の凝集速度の観点から、有機カルボン酸を10~35質量%含むことが好ましく、有機カルボン酸を15~30質量%含むことがより好ましく、2価以上の多価カルボン酸を10~35質量%含むことがより好ましく、2価以上の多価カルボン酸を15~30質量%含むことがさらに好ましい。【0017】本発明における反応液は、インク組成物を凝集させる成分として有機酸を含むが、インク組成物を凝集できる他の凝集剤をさらに含んでいてもよい。他の凝集剤としては、多価金属塩およびポリアリルアミン等を挙げることができる。多価金属塩としては、周期表の第2属のアルカリ土類金属(例えば、マグネシウム、カルシウム)、周期表の第3属の遷移金属(例えば、ランタン)、周期表の第13属からのカチオン(例えば、アルミニウム)、ランタニド類(例えば、ネオジム)の塩、及びポリアリルアミン、ポリアリルアミン誘導体を挙げることができる。金属の塩としては、カルボン酸塩(蟻酸、酢酸、安息香酸塩など)、硝酸塩、塩化物、及びチオシアン酸塩が好適である。中でも、好ましくは、カルボン酸(蟻酸、酢酸、安息香酸塩など)のカルシウム塩又はマグネシウム塩、硝酸のカルシウム塩又はマグネシウム塩、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、及びチオシアン酸のカルシウム塩又はマグネシウム塩である。多価金属塩の反応液中における含有量としては、例えば1~10質量%とすることができる。・・・省略・・・【0030】(インク組成物)本発明のインクジェット記録用インクセットは、少なくとも1種のインク組成物を含むが、2種以上のインク組成物を含むことが好ましい。また本発明におけるインク組成物は25℃における表面張力が25mN/m以上40mN/m未満であるが、27~37mN/mであることが好ましい。これにより打滴性が良好になる。またインク組成物の表面張力が、前記反応液の表面張力よりも小さいことで、着弾干渉、画像の耐傷性が良好になる。尚、インク組成物の表面張力は、例えば、界面活性剤を含むことで調整することができる。またインク組成物の表面張力は前記反応液と同様にして測定される。【0031】本発明におけるインク組成物は、水および色材の少なくとも1種を含み、必要に応じて、水溶性有機溶剤、界面活性剤、ポリマー粒子、およびその他の添加剤を含んで構成することができる。本発明におけるインク組成物は水を含有するが、含有する水の量には特に制限はない。本発明において水の好ましい含有量は、10~99質量%であり、より好ましくは30~80質量%であり、更に好ましくは50~70質量%である。【0032】-色材-本発明におけるインク組成物は、色材の少なくとも1種を含有する。前記色材は水不溶性色材であることが好ましい。水不溶性色材を含有することで、インク着色性が良好になり、色濃度及び色相の良好な可視画像を記録できる。水不溶性色材とは、水に殆ど不溶であるか、又は難溶である色材をいい、具体的には、25℃の水に溶解する量が0.5質量%以下であることをいう。【0033】水不溶性色材を構成する色材成分としては、公知の染料、顔料等を特に制限なく用いることができる。具体的には、例えば、各種顔料、分散染料、油溶性染料、J会合体を形成する色素等を挙げることができ、顔料がより好ましい。本発明においては、水不溶性の顔料自体、又は分散剤で表面処理された水不溶性の顔料を水不溶性色材として含有することができる。・・・省略・・・【0043】本発明においては、顔料の分散安定性と凝集性の観点から、親水性基がアニオン性基であることが好ましい。・・・省略・・・【0065】-ポリマー粒子-本発明におけるインク組成物は、ポリマー粒子の少なくとも1種を含むことが好ましい。これにより形成される画像の耐傷性がより効果的に向上する。・・・省略・・・【0114】インクジェットヘッドとしては、単尺のシリアルヘッドを用い、ヘッドを記録媒体の幅方向に走査させながら記録を行なうシャトル方式と、記録媒体の1辺の全域に対応して記録素子が配列されているラインヘッドを用いたライン方式とがある。ライン方式では、記録素子の配列方向と直交する方向に記録媒体を走査させることで記録媒体の全面に画像記録を行なうことができ、短尺ヘッドを走査するキャリッジ等の搬送系が不要となる。また、キャリッジの移動と記録媒体との複雑な走査制御が不要になり、記録媒体だけが移動するので、シャトル方式に比べて記録速度の高速化が実現できる。本発明のインクジェット記録方法は、これらのいずれにも適用可能であるが、一般にダミージェットを行なわないライン方式に適用した場合に、吐出精度及び画像の耐擦過性の向上効果が大きい。【0115】本発明におけるインク打滴工程は、反応液付与工程の後、0.1秒以上10秒以内に開始されることが好ましい。これにより高速に画像を記録することができる。また本発明のインクジェット画像記録方法においては、既述のインクジェット記録用インクセットを用いることで、高速に画像を記録した場合でも、着弾干渉が抑制され、高精細な画像を形成することができる。ここで「反応液付与工程の後、0.1秒以上10秒以内に開始」とは、反応液の付与・乾燥終了から、最初のインク滴が記録媒体上に着滴するまでの時間が0.1秒以上10秒以内であることを意味する。【0116】-記録媒体-本発明のインクジェット記録方法は、記録媒体に上に画像を記録するものである。記録媒体には、特に制限はないが、一般のオフセット印刷などに用いられる、いわゆる上質紙、コート紙、アート紙などのセルロースを主体とする一般印刷用紙を用いることができる。セルロースを主体とする一般印刷用紙は、水性インクを用いた一般のインクジェット法による画像記録においては比較的インクの吸収、乾燥が遅く、打滴後に色材移動が起こりやすく、画像品質が低下しやすいが、本発明のインクジェット記録方法によると、色材移動を抑制して色濃度、色相に優れた高品位の画像の記録が可能である。【0117】記録媒体としては、一般に市販されているものを使用することができ、例えば、王子製紙(株)製の「OKプリンス上質」、日本製紙(株)製の「しおらい」、及び日本製紙(株)製の「ニューNPI上質」等の上質紙(A)、王子製紙(株)製の「OKエバーライトコート」及び日本製紙(株)製の「オーロラS」等の微塗工紙、王子製紙(株)製の「OKコートL」及び日本製紙(株)製の「オーロラL」等の軽量コート紙(A3)、王子製紙(株)製の「OKトップコート+」及び日本製紙(株)製の「オーロラコート」等のコート紙(A2、B2)、王子製紙(株)製の「OK金藤+」及び三菱製紙(株)製の「特菱アート」等のアート紙(A1)等が挙げられる。また、インクジェット記録用の各種写真専用紙を用いることも可能である。【0118】上記の中でも、色材移動の抑制効果が大きく、従来以上に色濃度及び色相の良好な高品位な画像を得る観点からは、好ましくは、水の吸収係数Kaが0.05~0.5でmL/m2・ms1/2の記録媒体であり、より好ましくは0.1~0.4mL/m2・ms1/2の記録媒体であり、更に好ましくは0.2~0.3mL/m2・ms1/2の記録媒体である。【0119】水の吸収係数Kaは、JAPAN TAPPI 紙パルプ試験方法No51:2000(発行:紙パルプ技術協会)に記載されているものと同義であり、具体的には、吸収係数Kaは、自動走査吸液計KM500Win(熊谷理機(株)製)を用いて接触時間100msと接触時間900msの水の転移量の差から算出されるものである。【0120】本発明において、処理液の付与量、および水性インクの付与量は、必要に応じて調節することが好ましい。例えば、記録媒体に応じて、処理液と水性インクとが混合してできる凝集物の粘弾性等の物性を調節する等のために、処理液の付与量を変えてもよい。」
(イ)「【実施例】【0121】以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。尚、特に断りのない限り、「部」及び「%」は質量基準である。・・・省略・・・続きを表示(全97行)【0123】<実施例1>~インク組成物の調製~[顔料分散液の調製](ポリマー分散剤P-1の調製)攪拌機、冷却管を備えた1000mlの三口フラスコにメチルエチルケトン88gを加え窒素雰囲気下で72℃に加熱し、ここにメチルエチルケトン50gにジメチル2,2’-アゾビスイソブチレート0.85g、ベンジルメタクリレート60g、メタクリル酸10g、メチルメタクリレート30gを溶解した溶液を3時間かけて滴下した。滴下終了後、さらに1時間反応した後メチルエチルケトン2gにジメチル2,2’-アゾビスイソブチレート0.42gを溶解した溶液を加え、78℃に昇温し4時間加熱した。得られた反応溶液は大過剰量のヘキサンに2回再沈殿し、析出した樹脂を乾燥してポリマー分散剤P-1を96g得た。得られた樹脂の組成は1H-NMRで確認し、GPCより求めた重量平均分子量(Mw)は44600であった。さらに、JIS規格(JISK0070:1992)記載の方法により、このポリマーの酸価を求めたところ、65.2mgKOH/gであった。【0124】(シアン分散液の調製)ピグメント・ブルー15:3(フタロシアニンブル-A220、大日精化株式会社製)10部と、前記ポリマー分散剤P-1を5部と、メチルエチルケトン42部と、1規定NaOH水溶液5.5部と、イオン交換水87.2部とを混合し、ビーズミルにより0.1mmφジルコニアビーズを用いて2~6時間分散した。得られた分散物を減圧下、55℃でメチルエチルケトンを除去し、更に一部の水を除去した後、更に、高速遠心冷却機7550(久保田製作所製)を用いて、50mL遠心菅を使用し、8000rpmで30分間遠心処理を行ない、沈殿物以外の上澄み液を回収した。その後、吸光度スペクトルから顔料濃度を求め、顔料濃度が10.2質量%の樹脂被覆顔料粒子(ポリマー分散剤で被覆された顔料)の分散物(シアン分散液)を得た。【0125】(マゼンタ分散液の調製)シアン分散物の調製において、ピグメント・ブルー15:3(フタロシアニンブル-A220、大日精化株式会社製)の代わりに、ピグメント・レッド122を用いた以外はシアン分散液の調製と同様にして、樹脂被覆顔料粒子(ポリマー分散剤で被覆された顔料)の分散物(マゼンタ分散液)を調製した。【0126】(イエロー分散液の調製)シアン分散液の調製において、シアン顔料ピグメント・ブルー15:3の代わりに、イエロー顔料ピグメント・イエロー74を用いた以外は、シアン分散液の調製と同様にして、樹脂被覆顔料粒子(ポリマー分散剤で被覆された顔料)の分散物(イエロー分散液)を調製した。【0127】(ブラック分散液の調製)シアン分散液の調製において、シアン顔料ピグメント・ブルー15:3の代わりに、カーボンブラック(デグッサ社製NIPEX160-IQ)を用いた以外は、シアン分散液の調製と同様にして、樹脂被覆顔料粒子(ポリマー分散剤で被覆された顔料)の分散物(ブラック分散液)を調製した。【0128】(自己分散性ポリマー粒子の調製)攪拌機、温度計、還流冷却管、及び窒素ガス導入管を備えた2リットル三口フラスコに、メチルエチルケトン360.0gを仕込んで、75℃まで昇温した。反応容器内温度を75℃に保ちながら、フェノキシエチルアクリレート180.0g、メチルメタクリレート162.0g、アクリル酸18.0g、メチルエチルケトン72g、及び「V-601」(和光純薬(株)製)1.44gからなる混合溶液を、2時間で滴下が完了するように等速で滴下した。滴下完了後、「V-601」0.72g、メチルエチルケトン36.0gからなる溶液を加え、75℃で2時間攪拌後、さらに「V-601」0.72g、イソプロパノール36.0gからなる溶液を加え、75℃で2時間攪拌した後、85℃に昇温して、さらに2時間攪拌を続けた。得られた共重合体の重量平均分子量(Mw)は64000(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によりポリスチレン換算で算出、使用カラムはTSKgel SuperHZM-H、TSKgel SuperHZ4000、TSKgel SuperHZ200(東ソー社製))、酸価は38.9(mgKOH/g)であった。次に、重合溶液668.3gを秤量し、イソプロパノール388.3g、1mol/L NaOH水溶液145.7mlを加え、反応容器内温度を80℃に昇温した。次に蒸留水720.1gを20ml/minの速度で滴下し、水分散化せしめた。その後、大気圧下にて反応容器内温度80℃で2時間、85℃で2時間、90℃で2時間保った後、反応容器内を減圧にし、イソプロパノール、メチルエチルケトン、蒸留水を合計で913.7g留去し、固形分濃度28.0%の自己分散性ポリマー微粒子(B-01)の水分散物(エマルジョン)を得た。【0129】<インク組成物の調製>上記で得られた各色の顔料分散液、及び自己分散性ポリマー微粒子を用いて、下記表1に示したインク組成(固形分)になるように各成分を混合してそれぞれインク組成物を調製した。調製したインク組成物をプラスチック製ディスポーサブルシリンジにて、PVDF5μmフィルター(ミリポア社製Millex SV、直径25mm)で濾過して完成インク組成物とした。各色インク組成物について、東亜DKK(株)製pHメーターWM-50EGを用いてpH(25℃)を測定した。また、協和界面科学(株)製 FASE Automatic Surface Tensionmeter CBVP-Zにて、25℃における表面張力を測定した。結果を表1に示す。【0130】【表1】[図:0001387490000001.jpg]【0131】[反応液の調製](反応液1)以下の材料を混合して、反応液1を調製した。・マレイン酸 ・・・ 5g・アニオン性界面活性剤A(10%) ・・・ 0.01g・ジエチレングリコールモノエチルエーテル ・・・ 20g・イオン交換水 ・・・ 全体で100gとなるように添加尚、アニオン性界面活性剤Aは下記構造式で表される化合物である。【0132】【化1】[図:0001387490000002.jpg]【0133】得られた反応液1について、東亜DDK(株)製pHメーターWM-50EGにてpHを測定したところ、pH値(25℃)は、1.89であった。また協和界面科学(株)製 FASE Automatic Surface Tensionmeter CBVP-Zにて、25℃における表面張力を測定したところ、43.5mN/mであった。【0134】(反応液2~25の調製)反応液1の調製において、有機酸、水溶性有機溶剤の種類および添加量を下記表2に示す組成に変更し、アニオン性界面活性剤の添加量を反応液の表面張力が40~50mN/mになるように適宜変更した以外は、反応液1の調製と同様にして反応液2~反応液25を調製した。【0135】<インクジェット画像記録>記録媒体としてA4サイズの特菱アート(三菱製紙製)を用いて、上記のインク及び反応液を用いて、下記画像記録条件で画像を描画記録した。尚、反応液付与工程の後、1秒以降にインク打滴が開始されるようにした。【0136】-反応液付与工程-媒体へのインク描画の直前に表1に示した反応液を、塗布バーを用いて1.7g/m2になる様に記録媒体表面に塗設した。【0137】次いで下記条件で反応液が付与された記録媒体を乾燥した。--反応液用乾燥条件(送風乾燥)--風速 :15m/s温度 :記録媒体の表面温度が60℃となるように記録媒体記録面背面から接触型平面ヒーターで加熱した。送風領域:450mm(乾燥時間0.7秒)【0138】-インク打滴工程-インク組成物として、上記で得られたシアン顔料インクC1、マゼンタ顔料インクM1、イエロー顔料インクY1、黒色顔料インクK1を用いて、下記の条件で、4色シングルパス画像形成を行った。尚、インクの各色の打滴順は、M1-K1-C1-Y1の順で行った。反応液が付与された記録媒体上に下記条件で、インク組成物を付与した。ヘッド :1,200dpi/20inch幅ピエゾフルラインヘッドを4色分配置した。吐出液滴量:2.4pLの記録とした。駆動周波数:30kHz(記録媒体搬送速度635mm/sec)【0139】次いで下記条件でインクが付与された記録媒体を乾燥した。--インク用乾燥条件(送風乾燥)--風速 :15m/s温度 :記録媒体の表面温度が60℃となるように記録媒体記録面背面から接触型平面ヒーターで加熱した。送風領域:640mm(乾燥時間1秒間)【0140】次いで下記条件で加熱定着処理を実施し、記録媒体上に画像が形成された試料を作製した。--定着--シリコンゴムローラ(硬度50°、ニップ幅5mm)ローラ温度:90℃圧力:0.8MPa・・・省略・・・【0149】【表2】[図:0001387490000003.jpg]【0150】表中の水溶性有機溶剤の種類における略号は以下の通りである。DEGmEE:ジエチレングリコールモノエチルエーテルDEGmME:ジエチレングリコールモノメチルエーテルTEGmME:トリエチレングリコールモノメチルエーテルDPG:ジプロピレングリコールTPGmME:トリプロピレングリコールモノメチルエーテルGP-250:ポリオキシプロピレングリセリルエーテル(三洋化成工業(株)製、ニューポールGP-250)PE-62:ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール(三洋化成工業(株)製、ニューポールPE-62)」
イ 甲1発明
甲1の実施例として記載されたインク組成物は、【0031】、【0123】~【0130】等の記載から、顔料及び自己分散性ポリマー微粒子を含むものである。
そうしてみると、上記アの記載によると、甲1には、インク組成物及び反応液1を用いたインクジェット画像記録方法として、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。なお、「インク」を「インク組成物」に、「媒体」を「記録媒体」に、「反応液」を「反応液1」に、それぞれ、用語を統一して記載した。
「 記録媒体としてA4サイズの特菱アートを用いて、インク組成物及び反応液1を用いて、画像を描画したインクジェット画像記録方法であって、反応液付与工程の後、1秒以降にインク打滴が開始されるようにしたものであり、反応液付与工程として、記録媒体へのインク描画の直前に反応液1を、塗布バーを用いて1.7g/m2になる様に記録媒体表面に塗設し、次いで反応液1が付与された記録媒体を、風速15m/s、記録媒体の表面温度が60℃となるように記録媒体記録面背面から接触型平面ヒーターで加熱し、送風領域450mm(乾燥時間0.7秒)で乾燥し、続きを表示(全12行)インク打滴工程として、反応液1が付与された記録媒体上に、顔料及び自己分散性ポリマー微粒子を含むインク組成物を付与し、インク組成物が付与された記録媒体を乾燥し、次いで加熱定着処理を実施し、記録媒体上に画像が形成された試料を作製した、インクジェット画像記録方法。ここで、反応液1は、以下の材料を混合して調製した。マレイン酸 ・・・ 5gアニオン性界面活性剤A(10%) ・・・ 0.01gジエチレングリコールモノエチルエーテル ・・・20gイオン交換水 ・・・全体で100gとなるように添加」
(3)甲2の記載及び甲2発明
ア 甲2の記載
甲2には、次の記載がある。なお、当合議体が発明の認定等に用いた箇所に下線を付した。
(ア)「【請求項1】カチオン性化合物を含有する前処理液を被記録媒体の被記録面に付着させる前処理工程と、インクジェット記録用インクを前記被記録媒体の前記被記録面に記録して記録物を得る記録工程と、を含み、前記インクジェット記録用インクは、顔料と、ガラス転移温度が40℃以下である高分子物質と、を含有し、前記顔料の含有量に対する前記ガラス転移温度が40℃以下である高分子物質の含有量の質量比が0.10以上であり、かつ、前記顔料の含有量に対する該インクに含まれる全ての高分子物質の含有量の質量比が1.0以下であり、前記被記録媒体は被記録面に多価金属化合物を有する、記録物の製造方法。」
(イ)「【技術分野】【0001】本発明は、記録物の製造方法及び脱墨パルプの製造方法に関する。・・・省略・・・続きを表示(全66行)【0010】そこで、本発明は、インクの脱墨性及びノズルの目詰まり安定性に優れた、記録物の製造方法を提供することを目的の一つとする。【0011】また、本発明は、上記製造方法により得られた記録物から脱墨パルプを製造する方法を提供することを目的の一つとする。【課題を解決するための手段】【0012】本発明者らは上記課題を解決するため鋭意検討した。その結果、カチオン性化合物を含有する前処理液を、多価金属化合物を有する被記録媒体の被記録面に付着させる前処理工程と、所定の組成を有するインクジェット記録用インクを、当該被記録面に記録して記録物を得る記録工程と、を含む記録物の製造方法により、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成した。・・・省略・・・【0020】[インクジェット記録用インク]本発明の一実施形態は、後述する記録物の製造方法において用いられ、かつ、脱墨パルプの製造装置及び製造方法によって脱墨される対象となる、インクジェット記録用インクに係る。当該インクジェット記録用インクは、顔料とガラス転移温度(Tg)が40℃以下である高分子物質とを含有し、かつ、当該顔料の含有量に対する当該Tgが40℃以下である高分子物質の含有量の質量比が0.10以上であり、かつ、当該顔料の含有量に対する当該インクに含まれる全ての高分子物質の含有量の質量比が1.0以下である。【0021】以下、本実施形態のインクジェット記録用インク(以下、単に「インク」ともいう。)の組成を説明する。【0022】〔顔料〕本実施形態のインクジェット記録用インクは、以下の理由により、顔料を含むものである。・・・省略・・・【0024】インクジェット顔料としては、無機顔料及び有機顔料のいずれも使用することができる。中でも、当該顔料は、C.I.ピグメントブラック7及びカラー顔料のうち少なくとも一方であることが好ましい。・・・省略・・・【0035】また、上記のC.I.ピグメントブラック7やカラー顔料を含む顔料は、自己分散及びポリマー分散のうち少なくともいずれかによって分散可能としたものが好ましい。以下、それぞれ「自己分散型」及び「ポリマー分散型」という。・・・省略・・・【0086】[記録物の製造方法]本発明の一実施形態は、記録物の製造方法に係る。当該製造方法は、カチオン性化合物を含有する前処理液を被記録媒体の被記録面に付着させる前処理工程と、上記実施形態のインクジェット記録用インクを当該被記録媒体の被記録面に記録して記録物を得る記録工程と、を含むものである。以下、これらの各工程を中心として詳細に説明する。【0087】〔1.被記録媒体〕被記録媒体はその被記録面に多価金属化合物を有する。より詳しく言えば、被記録媒体は、その被記録面の少なくとも一部に多価金属化合物を含む。当該多価金属化合物は、不透明度、白色度、及び被記録面の状態などを調整する目的で添加される填料、並びに顔料の凝集剤として作用する。そして、このような被記録媒体を用いることにより、脱墨性が良好なものとなる。・・・省略・・・【0091】上記の多価金属化合物はカチオン性金属化合物である。多価金属化合物の種類としては、以下に制限されないが、例えば、チタン化合物、クロム化合物、銅化合物、コバルト化合物、ストロンチウム化合物、バリウム化合物、鉄化合物、アルミニウム化合物、カルシウム化合物、及びマグネシウム化合物、並びにこれらの塩(多価金属塩)が挙げられる。これらの中でも、顔料の凝集が優れることから紙の白色度を向上させることができるため、アルミニウム化合物、カルシウム化合物、及びマグネシウム化合物からなる群より選択される一種以上が好ましく、カルシウム化合物及びマグネシウム化合物のうち少なくともいずれかがより好ましく、カルシウム化合物がさらに好ましい。・・・省略・・・【0093】また、上記の被記録媒体の材料としては、上述の多価金属化合物に加え、パルプが挙げられる。上記のパルプとしては、特に限定されることなく、公知のパルプを用いることができる。このようなパルプとして、例えば、化学パルプ及び機械パルプ等の木材パルプ、綿、木綿、アマ、麻、黄麻、マニラ麻、及びラミー等を原料とするパルプ、わらパルプ、エスパルトパルプ、バガスパルプ、竹パルプ、及びケナフパルプ等の茎稈パルプ、並びに靭皮パルプ等が挙げられる。・・・省略・・・【0098】〔2.前処理工程〕前処理工程は、後述する記録工程の前に行われるものであり、カチオン性化合物を含有する前処理液を上記被記録媒体の被記録面に付着させるものである。本実施形態の製造方法は、当該前処理工程により前処理物を得る。【0099】(2-1.前処理液)前処理液は、少なくともカチオン性化合物を含有する。当該カチオン性化合物としては、水中で正に帯電する化合物であれば特に制限されないが、例えば、多価金属化合物及びカチオン性ポリマーが挙げられる。このうち、多価金属化合物の具体例については、上述したものが使用可能なため、ここでの説明を省略する。・・・省略・・・【0106】(2-2.前処理工程の条件)前処理工程において、前処理液を被記録媒体の被記録面に付着させる方法は、従来公知のものが使用可能であり、特に制限されないが、被記録媒体上に(被記録面に)前処理液を、均一に所望の量を付着させることができるため、インクジェット法であることが好ましい。・・・省略・・・【0108】また、前処理の際の被記録媒体の温度は、カールやコックリングの発生を防止できるため、20~60℃が好ましく、30~50℃がより好ましい。このようにして、前処理物を作製することができる。【0109】〔3.記録工程〕記録工程は、前処理液により前処理された被記録媒体の被記録面に、上記実施形態のインクジェット記録用インクを記録して記録物を得るものである。【0110】記録工程を行うタイミングは、特に限定されず、上述の前処理工程の後であればよい。記録工程を行うタイミングは、被記録媒体に付着した前処理液に含まれる水分が完全に蒸発する前であると好ましい。このようなタイミングとすることにより、前処理液に含まれるカチオン性化合物と、インクに含まれる樹脂又は顔料と、の凝集による粗大化が速やかに起こるため、脱墨に好適な記録物を得ることができる。【0111】また、上記の好ましいタイミングの中でも、被記録媒体に付着した前処理液に含まれる水分の蒸発量が、前処理液に含まれる全水分量に対して10~90質量%の状態で記録工程を行うことがより好ましく、当該蒸発量が20~50質量%の状態で記録工程を行うことがさらに好ましい。これにより、脱墨性に優れるだけでなく、被記録媒体上でのインクの滲みも抑制することができる。なお、前処理液に含まれる水分の蒸発量は、予め測定しておけばよい。【0112】本実施形態の製造方法において、記録中(記録時)の上記被記録媒体及び当該記録後の上記記録物のうち少なくともいずれかにおける温度は、40℃以上であることが好ましい。より具体的に言えば、上述のとおり上記実施形態のインクに含まれる高分子物質のうち少なくとも一種のTgが40℃以下であるため、記録時以後の任意の時点における被記録媒体及び記録物のうち少なくともいずれかの温度(以下、単に「記録時以後の温度」という。)が、当該高分子物質のTg以上であると好ましい。・・・省略・・・【0114】なお、記録物を40℃以上とするのは、記録時以後であればどの時点であってもよく、この場合、記録物の画質に影響を与えることなく脱墨性が良好なものとなる。また、記録時以後の温度を40℃以上とする手段は、加熱その他の公知の手段があり得る。」
(ウ)「【実施例】【0185】以下、本実施の形態を実施例によってさらに具体的に説明するが、本実施の形態はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、以下では、ポリマー分散型の顔料に用いられるポリマーを「顔料分散用ポリマー」と称する。続きを表示(全104行)【0186】[前処理液調製用の使用材料]〔カチオン性化合物〕・酢酸カルシウム・乳酸カルシウム・ポリアリルアミン〔界面活性剤〕・オルフィンE1010(日信化学工業社製商品名、アセチレンジオールのエチレンオキサイド(10モル)付加物、表1では「E1010」と示す。)〔水溶性有機溶剤〕・グリセリン〔防黴剤・防腐剤〕・プロキセルXL2(1,2-ベンズイソチアゾリン-3-オン、アビシア社製商品名)〔水〕・イオン交換水【0187】[前処理液1~3の調製]下記表1に示す各材料を攪拌混合して、下記表1に示す組成(単位:質量%)の前処理液1~3を調製した。【0188】【表1】[図:0001387490000004.jpg]【0189】[インク調製用の使用材料]〔顔料〕・Monarch 880(Cabot社商品名、C.I.ピグメントブラック7、表では「M-880」と示す。)〔界面活性剤〕・オルフィンE1010(日信化学工業社製商品名、アセチレンジオールのエチレンオキサイド(10モル)付加物、表では「E1010」と示す。)・サーフィノール104PG50(日信化学工業社製商品名、テトラメチルデシンジオール/プロピレングリコール=50/50、表では「104PG50」と示す。)〔pH調整剤〕・トリエタノールアミン(表では「TEA」と示す。)〔水溶性有機溶剤〕・テトラエチレングリコールモノブチルエーテル(表では「TeEGmBE」と示す。)・トリエチレングリコールモノブチルエーテル(表では「TEGmBE」と示す。)・1,2-ヘキサンジオール(表では「1,2-HD」と示す。)・グリセリン・トリエチレングリコール(表では「TEG」と示す。)・トリメチロールプロパン(表では「TMP」と示す。)・2-ピロリドン(表では「2-Py」と示す。)〔防黴剤、防腐剤〕・エチレンジアミン四酢酸の二ナトリウム塩(表では「EDTA2Na塩」と示す。)・1,2-ベンゾイソチアゾロン-3-オン(表では「BIT」と示す。)〔防錆剤〕・ベンゾトリアゾール(表では「BTA」と示す。)【0190】〔高分子粒子〕(1.高分子粒子C)以下の方法により高分子粒子Cを作製した。反応容器に滴下装置、温度計、水冷式還流コンデンサー、攪拌機を備え、イオン交換水100質量部を入れ、攪拌しながら窒素雰囲気70℃で、重合開始剤の過流酸カリウムを0.2質量部添加しておき、イオン交換水7質量部に、ラウリル硫酸ナトリウム1.5質量部、t-ドデシルメルカプタン0.5質量部、スチレン60質量部、メタクリル酸9質量部、アクリル酸メチル10質量部、アクリル酸エチル7質量部、アクリル酸ブチル14質量部を入れたモノマー溶液を、70℃で攪拌しながら添加して重合反応させた後、水酸化ナトリウムで中和しpH8~8.5にして0.3μmのフィルターでろ過した高分子粒子水分散液を作製して高分子粒子Cとした。この高分子粒子水分散液の一部を取り乾燥させた後、示差走査型熱量計(EXSTAR6000DSC〔商品名〕、セイコー電子社製)によりTgを測定したところ60℃であった。日立製作所社製L7100システムのゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて、溶剤をテトラヒドロフラン(THF)として測定したときの重量平均分子量(スチレン換算)は29,000であった。また、滴定法による酸価は34mgKOH/gであった。【0191】(2.高分子粒子E)以下の方法により高分子粒子Eを作製した。反応容器に滴下装置、温度計、水冷式還流コンデンサー、攪拌機を備え、イオン交換水100質量部を入れ、攪拌しながら窒素雰囲気70℃で、重合開始剤の過流酸カリウムを0.2質量部添加しておき、イオン交換水7質量部に、ラウリル硫酸ナトリウム1.5質量部、t-ドデシルメルカプタン0.5質量部、スチレン40質量部、アクリル酸8質量部、アクリル酸エチル27質量部、アクリル酸ブチル25質量部を入れたモノマー溶液を、70℃で攪拌しながら添加して重合反応させた後、水酸化ナトリウムで中和しpH8~8.5にして0.3μmのフィルターでろ過した高分子粒子水分散液を作製して高分子粒子Eとした。この高分子粒子水分散液の一部を取り乾燥させた後、示差走査型熱量計(EXSTAR6000DSC〔商品名〕、セイコー電子社製)によりTgを測定したところ20℃であった。日立製作所社製L7100システムのゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて、溶剤をテトラヒドロフラン(THF)として測定したときの重量平均分子量(スチレン換算)は31,000であった。また、滴定法による酸価は32mgKOH/gであった。【0192】(3.高分子粒子F)以下の方法により高分子粒子Fを作製した。反応容器に滴下装置、温度計、水冷式還流コンデンサー、攪拌機を備え、イオン交換水100質量部を入れ、攪拌しながら窒素雰囲気70℃で、重合開始剤の過流酸カリウムを0.2質量部添加しておき、イオン交換水7質量部に、ラウリル硫酸ナトリウム1.5質量部、t-ドデシルメルカプタン0.5質量部、スチレン8質量部、メタクリル酸9質量部、エチルアクリレート3質量部、ブチルアクリレート20質量部、アクリル酸ラウリル50質量部を入れたモノマー溶液を、70℃で攪拌しながら添加して重合反応させた後、水酸化ナトリウムで中和しpH8~8.5にして0.3μmのフィルターでろ過した高分子粒子水分散液を作製して高分子粒子Fとした。この高分子粒子水分散液の一部を取り乾燥させた後、示差走査型熱量計(EXSTAR6000DSC〔商品名〕、セイコー電子社製)によりTgを測定したところ、-20℃であった。日立製作所社製L7100システムのゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて、溶剤をテトラヒドロフラン(THF)として測定したときの重量平均分子量(スチレン換算)は35,000であった。また、滴定法による酸価は34mgKOH/gであった。【0193】(4.高分子粒子G)以下の方法により高分子粒子Gを作製した。反応容器に滴下装置、温度計、水冷式還流コンデンサー、攪拌機を備え、イオン交換水100質量部を入れ、攪拌しながら窒素雰囲気70℃で、重合開始剤の過流酸カリウムを0.2質量部添加しておき、イオン交換水7質量部に、ラウリル硫酸ナトリウム1.5質量部、t-ドデシルメルカプタン0.5質量部、スチレン8質量部、アクリル酸8質量部、アクリル酸ブチル25質量部、アクリル酸ラウリル59質量部を入れたモノマー溶液を、70℃で攪拌しながら添加して重合反応させた後、水酸化ナトリウムで中和しpH8~8.5にして0.3μmのフィルターでろ過した高分子粒子水分散液を作製して高分子粒子Gとした。この高分子粒子水分散液の一部を取り乾燥させた後、示差走査型熱量計(EXSTAR6000DSC〔商品名〕、セイコー電子社製)によりTgを測定したところ、-40℃であった。日立製作所社製L7100システムのゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて、溶剤をテトラヒドロフラン(THF)として測定したときの重量平均分子量(スチレン換算)は32,000であった。また、滴定法による酸価は32mgKOH/gであった。【0194】(5.顔料分散用ポリマー溶液1)顔料分散用ポリマー溶液1の作製を行った。攪拌機、温度計、還流管、及び滴下ロートを備えた反応容器を窒素置換した後、ベンジルアクリレート75質量部、アクリル酸2質量部、t-ドデシルメルカプタン0.3質量部を入れて70℃に加熱し、別に用意したベンジルアクリレート150質量部、アクリル酸15質量部、ブチルアクリレート5質量部、t-ドデシルメルカプタン1質量部、メチルエチルケトン20質量部、及び過硫酸ナトリウム1質量部を滴下ロートに入れて4時間かけて反応容器に滴下しながら分散ポリマーを重合反応させた。次に、反応容器にメチルエチルケトンを添加して40%濃度の顔料分散用ポリマー溶液1を作製した。当該ポリマー溶液1の一部を取り乾燥させた後、示差走査型熱量計(EXSTAR6000DSC〔商品名〕、セイコー電子社製)によりTgを測定したところ40℃であった。【0195】(6.顔料分散用ポリマー溶液2)顔料分散用ポリマー溶液2の作製を行った。ポリマー溶液1の作製と同様に、攪拌機、温度計、還流管、及び滴下ロートを備えた反応容器を窒素置換した後、ベンジルアクリレート75質量部、アクリル酸2質量部、t-ドデシルメルカプタン0.3質量部を入れて70℃に加熱し、別に用意したブチルアクリレート155質量部、アクリル酸15質量部、t-ドデシルメルカプタン1質量部、メチルエチルケトン20質量部、及び過硫酸ナトリウム1質量部を滴下ロートに入れて4時間かけて反応容器に滴下しながら分散ポリマーを重合反応させた。次に、反応容器にメチルエチルケトンを添加して40%濃度の顔料分散用ポリマー溶液1を作製した。当該ポリマー溶液2の一部を取り乾燥させた後、上記の示差走査型熱量計によりTgを測定したところ-5℃であった。【0196】ここで、上記高分子粒子C,E,F,及びGのモノマー組成を下記表2に纏める。なお、表2中、Stはスチレン、AAはアクリル酸、MAAはメタクリル酸、MAはアクリル酸メチル、EAはアクリル酸エチル、BAはアクリル酸ブチル、LAはアクリル酸ラウリルをそれぞれ表す。【0197】【表2】[図:0001387490000005.jpg]【0198】[実施例1~9,14,15,17及び比較例1~3]〔1.インクジェット記録用インクの調製〕下記表3に示す各材料を攪拌混合して、下記表3に示す組成(単位:質量%)のインクジェット記録用インクを調製した。実施例1~9,14,15,17及び比較例1~3では、特開平8-3498号公報と同様の方法で酸化処理を行ったMonarch880を、インク中に分散させた。なお、各インクに含まれる顔料の体積平均粒子径は、表4に示すようにいずれも100nmであった。【0199】〔2.前処理物の作製(前処理工程の実施)〕被記録媒体として、比較例2を除き、上質紙(王子製紙社(Oji Paper Company, Limited)製のOKプリンス上質紙、米坪64g/m2T目A4版)を用いた。また、表面積に占める多価金属化合物の面積が「0%」である比較例2は、被記録媒体としてろ紙(ADVANTEC製定性濾紙No.1、110φ)を用いたものである。【0200】セイコーエプソン社(Seiko Epson Corporation)製のインクジェットプリンター(PX-B500)を用いたインクジェット法により、上質紙の表面積に占める多価金属化合物の面積が下記表5に示す値である上質紙、又はろ紙の上に、下記表5に示す各前処理液を吐出し付着させた。この前処理は、Dutyを表5に示す値とし(表5中の「前処理Duty」)、前処理時の被記録媒体の温度を35℃とした。さらに、前処理液を被記録媒体に付着させた後に、25℃で1分この前処理液を乾燥させた。このようにして前処理物を得た。【0201】ここで、上記「多価金属化合物の面積」は、元々紙に存在するカルシウム化合物(多価金属化合物の一種)を、EDX分析装置(EMAX-W、堀場製作所)を搭載した走査型電子顕微鏡(S-4700〔製品名〕、日立製作所社製)で測定して求めた。また、「Duty」とは、下式で算出される値である。Duty(%)=実記録ドット数/(縦解像度×横解像度)×100(上記式中、「実記録ドット数」は単位面積当たりの実記録ドット数であり、「縦解像度」及び「横解像度」はそれぞれ単位面積当たりの解像度である。)【0202】〔3.記録物の作製(記録工程の実施)〕上記のインクジェットプリンター(PX-B500)を用いたインクジェット法により、上記で作製した各前処理物の上に、下記表5に示す各インクを記録した。この記録は、Dutyを下記表5に示す値とし(表5中の「インクDuty」)、記録温度を25℃とした。このようにして記録物(印刷パルプ)を得た。・・・省略・・・【0211】【表3】[図:0001387490000006.jpg]【0212】【表4】[図:0001387490000007.jpg]【0213】【表5】[図:0001387490000008.jpg]【0214】ここで、表4中、「顔料の含有量に対する高分子物質の含有量の質量比」とは、具体的には、顔料の含有量を分母とし、インクに含まれる全ての高分子物質を分子としたときの質量比ということができる。また、「顔料の含有量に対する高分子物質の含有量の質量比」とは、具体的には、顔料の含有量を分母とし、いずれもTg40℃以下である高分子物質、即ちTg40℃以下の高分子粒子及びTg40℃以下の顔料分散用ポリマーを合わせた高分子物質の含有量を分子としたときの質量比ということができる。【0215】また、表5中の「メディア」は、「媒体の表面積に占める多価金属化合物の面積(%)」を意味する。表5中の「前処理Duty」は、上述のとおり、前処理液工程においてプリンターのヘッドから前処理液を吐出し付着させたときのDutyを意味する。表5中の「インクDuty」は、上述のとおり、記録工程(記録物の作製)においてプリンターのヘッドからインクを吐出し付着させたときのDutyを意味する。」
イ 甲2発明
甲2の実施例1として記載されたインク1は、【0211】の【表3】により、ブラック顔料及び高分子粒子を含むものである。また、甲2の反応液1は、【0188】の【表1】に記載されたとおりである。
そうしてみると、上記アの記載によると、甲2には、インク1及び前処理液1を用いた実施例1の記録物の作製方法として、次の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。
なお、「上質紙」を「被記録媒体」に、「前処理液」を「前処理液1」に、それぞれ、用語を統一した。
「 インクジェット法により、被記録媒体の上に、前処理液1を吐出し付着させ、前処理時の被記録媒体の温度を35℃とし、さらに、前処理液1を被記録媒体に付着させた後に、25℃で1分この前処理液1を乾燥させ、このようにして前処理物を得、インクジェット法により、上記で作製した前処理物の上に、ブラック顔料及び高分子粒子を含むインク1を記録し、記録温度を25℃とし、このようにして記録物を得る作製方法。ここで、前処理液1は、酢酸カルシウム10質量%、界面活性剤1質量%、水溶性有機溶剤30質量%、防黴剤・防腐剤0.02質量%、水残部である。」
(4)甲1発明を主引用例とした場合
ア 本件特許発明1
(ア)対比
本件特許発明1と甲1発明とを対比する。
a 着色インク組成物について
甲1発明の「インク組成物」は、「顔料分散液及び自己分散性ポリマー微粒子を含む」。
上記組成からみて、甲1発明の「顔料」、「自己分散性ポリマー粒子」及び「インク組成物」は、それぞれ、本件特許発明1の「色材」、「樹脂」及び「着色インク組成物」に相当する。また、甲1発明の「インク組成物」は、本件特許発明1の「着色インク組成物」の「色材及び樹脂を含む」との要件を満たす。
b 凝集剤、反応液について
甲1発明の「反応液1」は、「マレイン酸」「5g」、「アニオン性界面活性剤A(10%)」「0.01g」、「ジエチレングリコールモノエチルエーテル」「20g」、「イオン交換水」「全体で100gとなるように添加」したものである。
技術常識から、甲1発明の「マレイン酸」は、本件特許発明1の「凝集剤」に相当し、「インク組成物」の成分を凝集させることができるといえる。(当合議体注:このことは、甲1の【0013】の記載からも確認できる。)。
また、上記組成からみて、甲1発明の「反応液1」は、本件特許発明1の「反応液」に相当する。また、甲1発明の「反応液1」は、本件特許発明1の「反応液」の「着色インク組成物の成分を凝集させることができる凝集剤を含む」との要件を満たす。
さらに、上記組成から、甲1発明の「反応液1」の水の含有量は、74.09質量%(100-(5+0.01+20))である。そうしてみると、甲1発明の「反応液1」は、本件特許発明1の「反応液」の「水の含有量が、反応液の総質量に対して40~80質量%であり」との要件を満たす。
c 記録媒体について
甲1発明の「記録媒体」は、本件特許発明の「被記録媒体」に相当する。
d 反応液付着工程について
甲1発明は、「記録媒体としてA4サイズの特菱アートを用いて、インク組成物及び反応液1を用いて、画像を描画したインクジェット画像記録方法であって」、「記録媒体へのインク描画の直前に反応液1を、塗布バーを用いて1.7g/m2になる様に記録媒体表面に塗設」する工程を具備する。
上記工程からみて、甲1発明の「記録媒体へのインク描画の直前に反応液1を、塗布バーを用いて1.7g/m2になる様に記録媒体表面に塗設」する工程は、「反応液1」を「記録媒体」へ付与させて記録領域を形成するといえる。ここで、本件特許発明1においては、「反応液」を「記録媒体」へ「付着する」工程において形成される領域を「記録領域S1」としている。
そうしてみると、甲1発明の「記録媒体へのインク描画の直前に反応液1を、塗布バーを用いて1.7g/m2になる様に記録媒体表面に塗設」は、本件特許発明1の「反応液付着工程」に相当する。また、甲1発明の「記録媒体へのインク描画の直前に反応液1を、塗布バーを用いて1.7g/m2になる様に記録媒体表面に塗設」する工程は、本件特許発明1の「反応液付着工程」と、「着色インク組成物の成分を凝集させることができる凝集剤を含む反応液を、被記録媒体へ」「付着させて、記録領域S1を形成する」との点で共通する。
e 反応液を乾燥する工程について
甲1発明は、「反応液1が付与された記録媒体を、風速15m/s、記録媒体の表面温度が60℃となるように記録媒体記録面背面から接触型平面ヒーターで加熱し、送風領域450mm(乾燥時間0.7秒)で乾燥」する工程を具備する。
上記工程からみて、甲1発明は、「反応液1が付与された記録媒体」を加熱して「反応液1」を「乾燥」するといえる。
そうしてみると、甲1発明の「反応液1が付与された記録媒体を」「加熱し」「乾燥」する工程は、本件特許発明1の「前記被記録媒体を加熱して前記付着させた反応液を乾燥する工程」に相当する。
f 着色インク組成物付着工程について
甲1発明は、「反応液1が付与された記録媒体上に、顔料及び自己分散性ポリマー微粒子を含むインク組成物を付与」する工程を具備する。
上記工程からみて、甲1発明の「反応液1が付与された記録媒体上に、顔料及び自己分散性ポリマー微粒子を含むインク組成物を付与」する工程は、「反応液1が付与された記録媒体」のある位置に対して「顔料及び自己分散性ポリマー粒子を含むインク組成物」を記録領域へ付与させて、新たに記録領域を形成するといえる。ここで、本件特許発明1においては、「着色インク組成物付着工程」において「着色インク」を「記録領域S1」へ「付着する」工程において形成される領域を「記録領域S2」としている。
そうしてみると、甲1発明の「反応液1が付与された記録媒体上に、顔料及び自己分散性ポリマー微粒子を含むインク組成物を付与」する工程は、本件特許発明1の「着色インク組成物付着工程」に相当する。また、甲1発明の「反応液1が付与された記録媒体上に、顔料及び自己分散性ポリマー微粒子を含むインク組成物を付与」する工程は、本件特許発明1の「着色インク組成物付着工程」と、「前記被記録媒体のある位置」「に対して、色材及び樹脂を含む前記着色インク組成物を前記記録領域S1へ付着させて、記録領域S2を形成する」点で共通する。
g 記録方法について
上記a~fを総合すると、甲1発明の「インクジェット画像記録方法」は、本件特許発明1の「記録方法」に相当する。
(イ)一致点・相違点
a 一致点
上記(ア)の対比からみて、本件特許発明1と甲1発明は、次の点で一致する。
「 着色インク組成物の成分を凝集させることができる凝集剤を含む反応液を、被記録媒体へ、付着させて、記録領域S1を形成する反応液付着工程と、前記被記録媒体を加熱して前記付着させた反応液を乾燥する工程と、前記被記録媒体のある位置に対して、色材及び樹脂を含む前記着色インク組成物を前記記録領域S1へ付着させて、記録領域S2を形成する着色インク組成物付着工程と、を有し、前記反応液が、水の含有量が、反応液の総質量に対して40~80質量%である、記録方法。」
(イ)相違点
上記アの対比からみて、本件特許発明1と引用発明は、次の点で相違する。
(相違点1)
「反応液付着工程」が、本件特許発明1は、「反応液を」「被記録媒体へ」「凝集剤の付着量100~1000nmol/inch2で」「付着させ」るのに対して、甲1発明は、「反応液1」を「記録媒体」へ付着させる凝集剤の付着量は、明らかでない点。
(相違点2)
「インク組成物付着工程」が、本件特許発明1は、「前記被記録媒体のある位置への前記反応液の付着の終了から、その位置に対して前記着色インクの付着を開始するまでを30秒以内とし」ているのに対して、甲1発明の「インク組成物打滴工程」は、「反応液付与工程の後、1秒以降にインク打滴が開始されるようにした」ことにとどまり、30秒以内かどうかが明らかでない点。
(相違点3)
「インク組成物付着工程」において、本件特許発明1は、「前記乾燥する工程により乾燥させた前記記録領域S1上の前記反応液の揮発成分残存率が、30~50質量%である状態で、色材及び樹脂を含む前記着色インク組成物を前記記録領域S1へ付着させて、前記記録領域S2を形成し、前記揮発成分残存率は、下記式で算出したものであり、揮発成分残存率%=100-((Af-A)/(Af-Ae))×100(Afは被記録媒体へ付与する反応液の合計の付与量、Aeは反応液を付与した被記録媒体を60℃で10分乾燥させた場合の被記録媒体の反応液の残留物量、Aは着色インク組成物付着直前の被記録媒体の反応液の総質量。)」であるのに対して、甲1発明の「インク組成物打滴工程」において、「反応液1」の揮発成分残存率は不明であり、このように特定されていない点。
(相違点4)
「前記乾燥させる工程」が、本件特許発明1は、「前記被記録媒体の記録領域の温度が45℃以下であ」るのに対して、甲1発明の「反応液1が付与された記録媒体を乾燥」する工程は、「記録媒体の表面温度が60℃となる」点。
(相違点5)
「凝集剤」が、本件特許発明1は、「多価金属塩を含」むのに対して、甲1発明は、凝集剤は「マレイン酸」である点。
(相違点6)
「前記記録体」が、本件特許発明1は、「低吸収性記録体又は非吸収性記録媒体である」のに対して、甲1発明の「記録媒体」は、「A4サイズの特菱アート」である点。
(ウ)判断
事案に鑑み、上記相違点1~5について検討する。
a 相違点1、5について
本件特許発明1は、本件特許明細書の【0013】に「被記録媒体に付着させる凝集剤の付着量が多いほど、得られる記録物から発生する臭気が増大し、記録物の耐久性が低下する問題がある。そのため、凝集剤付着量は得られる記録物に凝集性が良好となる最小量に近いことが好ましい。しかしながら、凝集剤の付着量を単に減少させるだけでは凝集性の向上と、臭気及び記録物耐久性と、のトレードオフの課題を解決することは困難である。」という課題を認識したうえで、「多価金属塩を含む反応液を用いることにより、凝集剤効果がより優れる傾向にある。」(【0021】)ことから、凝集剤として多価金属塩を選択し、その最適な付着量を、決定したものである。他方、甲1の【0017】に「本発明における反応液は、インク組成物を凝集させる成分として有機酸を含むが、インク組成物を凝集できる他の凝集剤を更に含んでもよい。他の凝集剤としては、多価金属塩およびポリアリルアミン等を挙げることができる。」と記載されるように、甲1発明では、あくまで有機酸を必須の成分として含むことを前提としたうえで、凝集剤として、多価金属塩を更に含み得ることが開示されるにとどまるものであって、凝集性の向上と、臭気及び記録物耐久性のトレードオフの観点から、多価金属塩を選択し、その含有量を最適化しようとする技術思想を読み取ることはできない。
ここで、マレイン酸の分子量を116として計算すると、甲1発明のマレイン酸の付着量は、1.7g/mol×(5/100質量%)/116×0.02542=473nmol/inch2となり、1000nmol/inch2に満たない。しかしながら、上述したように、甲1においては、凝集剤として有機酸を必須の成分とすることを前提とした上で、実施例においては、いずれも有機酸を単体で用いた例が示されているのであるから、凝集剤の付着量を増加させるのであればまず有機酸を増加させると考えるのが自然である。実際、甲1の実施例として記載されたもののうちで、マレイン酸の含有率を増加させた10%の例をみても、甲1発明のマレイン酸の付着量は、1.7g/mol×(10/100質量%)/116×0.02542=946nmol/inch2となって、上記相違点1に係る凝集剤の付着量の上限の1000nmol/inch2に近い値となる。そして、上述したように、甲1の上記【0017】や実施例の記載に接した当業者は、凝集剤の付着量を増加するのであれば有機酸を増加するものであるから、甲1発明において、凝集剤として、有機酸に加えてさらに多価金属塩を含む構成とし、且つ、その含有量を1000nmol/inch2以下とすることは、当業者であっても容易に至るものではない。
したがって、当業者であっても、甲1発明に基づいて相違点1に係る本件特許発明1の構成とすることは、容易に想到し得たということができない。
b 相違点2、4について
確かに、甲1の【0115】には、「本発明におけるインク打滴工程は、反応液付与工程の後、0.1秒以降10秒以内に開始されることが好ましい。」と記載されている。しかしながら、当該記載に続けて「これにより高速に画像を記録することができる。」と記載されるように、あくまで「高速に画像を記録すること」を目的とするものであって、かつ、同【0115】に「『反応液付与工程の後、0.1秒以上10秒以内に開始』とは、反応液の付与・乾燥終了から、最初のインク滴が記録媒体上に着滴するまでの時間0.1秒以上10秒以内であることを意味する。」と記載されていることからみて、甲1において反応液を付与して乾燥した後に0.1秒以上10秒以内にインク打滴を開始するものであって、乾燥終了前に、インクを付与することを意味するものとはいえない。しかも、甲1発明は、「反応液1が付与された記録媒体を乾燥」する工程は、「記録媒体の表面温度が60℃となる」ものである。そうしてみると、同【0115】に高速化の観点から0.1以上10秒以内とすることが記載されているといえども、甲1発明において、反応液が付与された記録媒体を、記録媒体の表面温度が60℃を45℃以下と変更した上で、インク付与工程を、乾燥終了したか否かが不明の、反応液付与後30秒以内とすることは、当業者であっても容易に至るものではない。
したがって、当業者であっても、甲1発明に基づいて相違点2、4に係る本件特許発明1の構成とすることは、容易に想到し得たということができない。
c 相違点3について
相違点3に係る本件特許発明1の技術的意義は、【0040】に記載されるとおり、着色インク組成物の付着工程における、記録領域S1上の反応液の揮発成分残存率を所定の範囲、特に30質量%以上とすることにより、「凝集性がより向上する傾向にあり、また記録時間の短縮や、被記録媒体を加熱し乾燥させることが不要となる点」にある。
これに対して、甲2の【0111】には、「被記録媒体に付着した前処理液に含まれる水分の蒸発量が、前処理液に含まれる全水分量に対して10~90質量%の状態で記録工程を行うことが好ましく」、取消理由に引用された甲3の【0039】には、「本発明では、凝集処理層の含水率を56%とし、上限で規定したが、好ましい下限としては、32質量%である。」、取消理由に引用された甲6の【0119】には、「記録媒体上の前処理液が湿潤している状態で行われることが好ましい。・・・前処理液が湿潤している状態とは、記録媒体に付着させた際の前処理液に含まれる液媒体を100質量%とした場合に、30質量%以上(好ましくは30質量%以上80質量%以下、より好ましくは40質量%以上70質量%以下)の液媒体が残存していることをいう。」と、それぞれ記載されており、上記相違点3に係る揮発成分残存率を所定質量%以上とすることは、先の出願前、当業者に広く知られた事項であったといえる。
しかしながら、甲1の【0109】には「また、本発明においては、反応液を記録媒体上に付与した後、インク組成物が付与されるまでの間に、記録媒体上の反応液を加熱乾燥する加熱乾燥工程が更に設けられる。インク打滴工程前に予め反応液を加熱乾燥させることにより、にじみ防止などインク着色性が良好になり、色濃度及び色相の良好な可視画像を記録できる。」、【0110】には「加熱乾燥は、ヒーター等の公知の加熱手段やドライヤー等の送風を利用した送風手段、あるいはこれらを組み合わせた手段により行える。加熱方法としては、例えば、記録媒体の反応液の付与面と反対側からヒーター等で熱を与える方法や、記録媒体の反応液の付与面に温風又は熱風をあてる方法、赤外線ヒーターを用いた加熱法などが挙げられ、これらの複数を組み合わせて加熱してもよい。」と記載され、更に、【0115】には、「反応液付与工程の後、0.1秒以上10秒以内に開始」とは、反応液の付与・乾燥終了から、最初のインク滴が記録媒体上に着滴するまでの時間が0.1秒以上10秒以内であることを意味する。」と記載されているように、甲1発明は、むしろ加熱して反応液を乾燥後にインクを打滴しようとするものあるから、揮発性部分を積極的に残存させるという技術思想は窺えない。そうしてみると、先の出願前、揮発成分を残存させることが広く知られた事項であるといえども、甲1発明に、揮発成分を残存させ、その残存率を上記相違点3に係る数値範囲内とすることは、当業者であっても容易に至るものではない。
したがって、当業者であっても、甲1発明及び甲2、3、6に記載された事項に基づいて相違点3に係る本件特許発明1の構成とすることは、容易に想到し得たということができない。
e 取消しの理由に引用された、甲5及び甲7にも、甲1発明に上記相違点1~5に係る本件特許発明1の構成を適用することを窺わせる記載はない。
f そして、本件特許発明1は、これらの点により、凝集性及び印字耐久性が良好で、記録物臭気が少ない記録物を得ることができるという格別な効果を奏するものである。
したがって、当業者であっても、甲1発明及び甲2~7に記載された事項に基づいて、上記相違点1~5に係る本件特許発明1の構成とすることが容易に想到し得たということができない。
(エ)本件特許発明1についてのまとめ
以上のことから、その余の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、当業者であっても、甲1に記載された発明及び甲2~7に記載された事項に基づいて容易に発明をすることができたということができない。
イ 本件特許発明2~14
本件特許発明2~14は、本件特許発明1の構成を全て具備するものであるから、本件特許発明2~14も、本件特許発明1と同じ理由により、当業者であっても、甲1に記載された発明及び甲2~7に記載された事項に基づいて容易に発明をすることができたということができない。
(5)甲2を主引例とした場合
ア 本件特許発明1
(ア)対比
本件特許発明1と甲2発明とを対比する。
「 インクジェット法により、被記録媒体の上に、前処理液1を吐出し付着させ、前処理時の被記録媒体の温度を35℃とし、さらに、前処理液1を被記録媒体に付着させた後に、25℃で1分この前処理液1を乾燥させ、このようにして前処理物を得、インクジェット法により、上記で作製した前処理物の上に、ブラック顔料及び高分子粒子を含むインク1を記録し、記録温度を25℃とし、このようにして記録物を得る作製方法。ここで、前処理液1は、酢酸カルシウム10質量%、界面活性剤1質量%、水溶性有機溶剤30質量%、防黴剤・防腐剤0.02質量%、水残部である。」
a 着色インク組成物について
甲2発明の「インク1」は、「ブラック顔料及び高分子粒子を含む」。
上記組成からみて、甲2発明の「ブラック顔料」、「高分子粒子」及び「インク1」は、本件特許発明1の「色材」、「樹脂」及び「着色インク組成物」に相当する。また、甲2発明の「インク1」は、本件特許発明1の「着色インク組成物」の「色材及び樹脂を含む」との要件を満たす。
b 凝集剤、反応液、多価金属塩について
甲2発明の「前処理液1」は、「酢酸カルシウム10質量%、界面活性剤1質量%、水溶性有機溶剤30質量%、防黴剤・防腐剤0.02質量%、水残部である」。
技術常識から、甲2発明の「酢酸カルシウム」は、本件特許発明1の「凝集剤」及び「多価金属塩」に相当し、「インク組成物」の成分を凝集させることができるといえる。(当合議体注:このことは、甲2の【0086】、【0091】の記載からも確認できる。)。
上記組成からみて、甲2発明の「前処理液1」は、本件特許発明1の「反応液」に相当する。また、甲2発明の「前処理液1」は、本件特許発明1の「反応液」の「着色インク組成物の成分を凝集させることができる凝集剤を含む」との要件を満たす。また、甲2発明は、本件を特許発明1の「前記凝集剤が、多価金属塩を含み」との要件を満たす。
さらに、上記組成から、甲2発明の「前処理液1」の水の含有量は、58.98質量%(100-(10+1+30+0.02))である。そうしてみると、甲2発明の「前処理液1」は、本件特許発明1の「反応液」の「水の含有量が、反応液の総質量に対して40~80質量%であり」との要件を満たす。
c 被記録媒体について
甲2発明は、「インクジェット法により、被記録媒体の上に、前処理液1を吐出し付着させ」る工程を具備する。
上記工程からみて、甲2発明の「被記録媒体」は、その文言どおり、本件特許発明1の「被記録媒体」に相当する。
d 反応液付着工程について
上記cの工程からみて、甲2発明の「インクジェット法により、被記録媒体の上に、前処理液1を吐出し付着させ」る工程は、「前処理液1」を「被記録媒体」へ付着させて記録領域を形成するといえる。ここで、本件特許発明1においては、「反応液」を「記録媒体」へ「付着する」工程において形成される領域を「記録領域S1」としている。
そうしてみると、甲2発明の「インクジェット法により、被記録媒体の上に、前処理液1を吐出し付着させ」る工程は、本件特許発明1の「反応液付着工程」に相当する。また、甲2発明の「インクジェット法により、被記録媒体の上に、前処理液1を吐出し付着させ」る工程は、本件特許発明1の「反応液付着工程」の「着色インク組成物の成分を凝集させることができる凝集剤を含む反応液を、被記録媒体へ」「付着させて、記録領域S1を形成する」との点で共通する。
e 反応液を乾燥する工程について
甲2発明は、「前処理液1を被記録媒体に付着させた後に、25℃で1分この前処理液1を乾燥させ」る工程を具備する。
上記工程からみて、甲2発明の「前処理液1を乾燥させ」る工程は、本件特許発明1の「反応液を乾燥する工程」に相当する。
f 着色インク組成物付着工程について
甲2発明は、「インクジェット法により、上記で作製した前処理物の上に、ブラック顔料及び高分子粒子を含むインク1を記録」する工程を具備する。
上記eの工程及び上記工程からみて、甲2発明の「インクジェット法により、上記で作製した前処理物の上に、ブラック顔料及び高分子粒子を含むインク1を記録」する工程は、「前処理液1」が付与された「被記録媒体」のある位置に対して「ブラック顔料及び高分子粒子を含むインク1」を記録領域へ付与させて、新たに記録領域を形成するといえる。ここで、本件特許発明1においては、「着色インク組成物付着工程」において「着色インク」を「記録領域S1」へ「付着する」工程において形成される領域を「記録領域S2」としている。
そうしてみると、甲2発明の「インクジェット法により、上記で作製した前処理物の上に、ブラック顔料及び高分子粒子を含むインク1を記録」する工程は、本件特許発明1の「着色インク組成物付着工程」に相当する。また、甲2発明の「インクジェット法により、上記で作製した前処理物の上に、ブラック顔料及び高分子粒子を含むインク1を記録」する工程は、本件特許発明1の「着色インク組成物付着工程」と、「前記被記録媒体のある位置」「に対して、色材及び樹脂を含む前記着色インク組成物を前記記録領域S1へ付着させて、記録領域S2を形成する」点で共通する。
g 記録方法について
上記a~fを総合すると、甲2発明の「記録物を得る作製方法」は、本件特許発明1の「記録方法」に相当する。
(イ)一致点・相違点
a 一致点
上記(ア)の対比からみて、本件特許発明1と甲2発明は、次の点で一致する。
「 着色インク組成物の成分を凝集させることができる凝集剤を含む反応液を、被記録媒体へ、付着させて、記録領域S1を形成する反応液付着工程と、前記被記録媒体を加熱して前記付着させた反応液を乾燥する工程と、前記被記録媒体のある位置に対して、色材及び樹脂を含む前記着色インク組成物を前記記録領域S1へ付着させて、記録領域S2を形成する着色インク組成物付着工程と、を有し、前記被記録媒体の記録領域の温度が45℃以下であり、前記反応液が、水の含有量が、反応液の総質量に対して40~80質量%であり、前記凝集剤が、多価金属塩を含む、記録方法。」
(イ)相違点
上記アの対比からみて、本件特許発明1と甲2発明は、次の点で相違する。
(相違点1)
「反応液付着工程」が、本件特許発明1は、「反応液を」「被記録媒体へ」「凝集剤の付着量100~1000nmol/inch2で」「付着させ」るのに対して、甲2発明は、「前処理1を被記録媒体に付着させ」る凝集剤の付着量は、明らかでない点。
(相違点2)
「反応液を乾燥する工程」が、本件特許発明1は、「前記被記録媒体を加熱して」いるのに対して、甲2発明は、「被記録媒体」を加熱しているかどうかは明らかでない点。
(相違点3)
「インク組成物付着工程」が、本件特許発明1は、「前記被記録媒体のある位置への前記反応液の付着の終了から、その位置に対して前記着色インクの付着を開始するまでを30秒以内とし」ているのに対して、甲2発明は、「前処理液を被記録媒体に付着させた後に」「1分この前処理液を乾燥させ」る点。
(相違点4)
「インク組成物付着工程」において、本件特許発明1は、「前記乾燥する工程により乾燥させた前記記録領域S1上の前記反応液の揮発成分残存率が、30~50質量%である状態で、色材及び樹脂を含む前記着色インク組成物を前記記録領域S1へ付着させて、前記記録領域S2を形成し、前記揮発成分残存率は、下記式で算出したものであり、揮発成分残存率%=100-((Af-A)/(Af-Ae))×100(Afは被記録媒体へ付与する反応液の合計の付与量、Aeは反応液を付与した被記録媒体を60℃で10分乾燥させた場合の被記録媒体の反応液の残留物量、Aは着色インク組成物付着直前の被記録媒体の反応液の総質量。)」であるのに対して、甲2発明の「前処理物の上に、インク1を記録し、記録温度を25℃と」する工程において、揮発成分残存率は不明であり、このように特定されていない点。
(相違点5)
「前記記録体」が、本件特許発明1は、「低吸収性記録体又は非吸収性記録媒体である」のに対して、甲2発明の「被記録媒体」は、この点が明らかでない点。
(ウ)判断
事案に鑑み、上記相違点1~3について検討する。
a 相違点1について
相違点1に係る構成の技術的意義は、本件特許明細書の【0013】に「被記録媒体に付着させる凝集剤の付着量が多いほど、得られる記録物から発生する臭気が増大し、記録物の耐久性が低下する問題がある。そのため、凝集剤付着量は得られる記録物に凝集性が良好となる最小量に近いことが好ましい。しかしながら、凝集剤の付着量を単に減少させるだけでは凝集性の向上と、臭気及び記録物耐久性と、のトレードオフの課題を解決することは困難である。例えば、被記録媒体が吸収性被記録媒体又は低吸収性被記録媒体である場合には、反応液付着後の保持時間が長い場合、反応液が被記録媒体内部へ浸透することで、予定していた反応液の効果を得ることができない場合がある。一方で、反応液の付着量を増大させれば、このような問題は生じにくくなるものの、得られる記録物から発生する臭気が増大し、記録物の耐久性が低下するという問題が発生する。」という課題の認識のもと、【0018】に「凝集剤の付着量が、1500nmol/inch2以下であることにより、印字耐久性が良好で、記録物臭気が少ない記録物を得ることができる。」、【0021】に「多価金属塩を含む反応液を用いることにより、凝集剤効果がより優れる傾向にある。」と記載されているように、印字耐久性が良好で、記録物臭気が少ない記録物を得る点にあり、その最適な付着量は、凝集剤の凝集性、被記録媒体への浸透度によっても当然に異なるものである。
確かに、甲1には、凝集剤としてマレイン酸を用いた場合の付着量を473nmol/inch2とすること、甲5の「非吸収性被記録媒体又は低吸収性被記録媒体上に反応液を付与する」ことを前提とする甲5の【0097】には、「凝集剤の被記録媒体への付着量は、0.5×10-4~15×10-4nmol/inch2(50~1500nmol/inch2)が好まし」いこと、が記載されている。しかしながら、そもそも、甲2には、凝集剤の種類とその凝集性、被記録媒体への浸透度を考慮して付着量を決定することが課題として認識されていない。そうしてみると、甲2発明において、使用する凝集剤や、記録媒体、反応液付与後の乾燥工程について異なる甲1、あるいは甲5に記載される付与量を採用して、上記相違点1に係る構成とすることは、当業者であっても容易に至るものではない。
したがって、当業者であっても、甲2発明及び甲1、5に記載された事項に基づいて相違点1に係る本件特許発明1の構成とすることは、容易に想到し得たということができない。
b 相違点2~3について
甲2において、【0108】には、「前処理の際の被記録媒体の温度は、カールやコックリングの発生を防止できるため、20~60℃が好ましく、30~50℃がより好ましい。このようにして、前処理物を作成することができる。」と記載され、【0110】には、「記録工程を行うタイミングは、特に限定されず、上述の前処理工程の後であればよい。記録工程を行うタイミングは、被記録媒体に付着した前処理液に含まれる水分が完全に蒸発する前であると好ましい。このようなタイミングとすることにより、前処理液に含まれるカチオン性化合物と、インクに含まれる樹脂又は顔料と、の凝集による粗大化がすみやかに起こるため、脱墨に好適な記録物を得ることができる。」、【0111】には、「また、上記の好ましいタイミングの中でも、被記録体に付着した前処理液含まれる水分の蒸発量が、前処理液に含まれる全水分量に対して10~90質量%の状態で記録工程を行うことがより好ましく、当該蒸発量が20~50質量%の状態で記録工程を行うことがさらに好ましい。これにより、脱墨性に優れるだけでなく、被記録媒体上でのインクの滲みも抑制することができる。」と記載されている。上記記載を参酌すると、甲2発明は、「被記録体に付着した前処理液含まれる水分の蒸発量が、前処理液に含まれる全水分量に対して10~90質量%の状態」とし、脱墨性を向上させるべく、「前処理液を被記録媒体に付着させた後に、25℃で1分この前処理液を乾燥させ」るものである。
ここで、甲1において、【0115】には、「ここで「反応液付与工程の後、0.1秒以上10秒以内に開始」とは、反応液の付与・乾燥終了から、最初のインク滴が記録媒体上に着滴するまでの時間0.1秒以上10秒以内である」と記載され、【0137】には、「記録媒体の表面温度は60℃となるように記録媒体記録面背面から接触型平面ヒーターで加熱した」と記載されている。また、甲4の【0139】には、「着弾した固定液を第2乾燥器により25℃、5m/secの冷風を15秒間あてて乾燥させた。」と記載されている。しかしながら、甲1には、【0109】、【0110】に示されるように、インク着色性や、色濃度や色相を向上させるため、むしろ積極的に乾燥させることを目的としているものであり、甲4には、【0007】に示されるように、インクの浸透を抑制して紙のカールを抑えることを目的としている。
そうしてみると、目的、乾燥温度や乾燥時間の異なる甲1及び甲4に記載された事項を甲2発明の「前処理液を被記録媒体に付着させた後に」「前処理液を乾燥させ」る工程に採用する動機付けがあるとはいえない。また、甲2発明の「前処理液を被記録媒体に付着させた後に」「前処理液を乾燥させ」る工程に甲1及び甲4に記載された事項を適用すると、前処理液の蒸発量も変化してしまうことになり、上記相違点2~3に係る構成とすることは、当業者であっても容易に至るものではない。
したがって、当業者であっても、甲2発明及び甲1、4に記載された事項に基づいて相違点2~3に係る本件特許発明1の構成とすることは、容易に想到し得たということができない。
c 取消しの理由に引用された、甲3、6~7にも、甲2発明に上記相違点1~3に係る本件特許発明1の構成を適用することを窺わせる記載はない。
d したがって、当業者であっても、甲2発明及び甲1、3~7に記載された事項に基づいて、上記相違点1~3に係る本件特許発明1の構成とすることが容易に想到し得たということができない。
(エ)本件特許発明1についてのまとめ
以上のことから、その余の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、当業者であっても、甲2に記載された発明及び甲1、3~7に記載された事項に基づいて容易に発明をすることができたということができない。
イ 本件特許発明2~14
本件特許発明2~14は、本件特許発明1の構成を全て具備するものであるから、本件特許発明2~14も、本件特許発明1と同じ理由により、当業者であっても、甲2に記載された発明及び甲1、3~7に記載された事項に基づいて容易に発明をすることができたということができない。
(6)小括
本件特許発明1~14は、当業者であっても、甲1又は2に記載された発明及び甲1~7に記載された事項に基づいて容易に発明をすることができたということができない。
2 特許権者に通知した取消しの理由2(サポート要件)について
本件特許発明1は、着色インク組成物付着工程を、「前記乾燥する工程により乾燥させた前記記録領域S1上の前記反応液の揮発成分残存率が、30~50質量%である状態」で行うことを発明特定事項として含むものであり、ここで「揮発成分残存率」は、「揮発成分残存率%=100-((Af-A)/(Af-Ae))×100(Afは被記録媒体へ付与する反応液の合計の付与量、Aeは反応液を付与した被記録媒体を60℃で10分乾燥させた場合の被記録媒体の反応液の残留物量、Aは着色インク組成物付着直前の被記録媒体の反応液の総質量。)」と定義されている。
他方、本件特許の解決すべき課題は、発明の詳細な説明の【0004】~【0006】に示されるように、従来技術においては、「凝集性の向上と、臭気及び記録物耐久性と、のトレードオフの課題解決としては完全ではない。そのため、反応液の塗布量を少ないものとしつつも、凝集性の向上効果をより発揮させるような記録方法が求められている。」ことに鑑み、【0007】に記載のとおり、「凝集性及び印字耐久性が良好で、記録物臭気が少ない記録物を得ることができる記録方法を提供すること」にあると認められる。
そして、発明の詳細な説明には、まず、【0040】に、「着色インク組成物付着工程においては、記録領域S1上の反応液の揮発成分残存率が、付着前の反応液に含まれる揮発成分の総質量100質量%に対して、30質量%以上である状態で、色材及び樹脂を含む着色インク組成物を記録領域S1へ付着させて、記録領域S2を形成することが好ましい。揮発成分残存率は、付着前の反応液に含まれる揮発成分の総量に対して、好ましくは30質量%以上であり・・・上限は100質量%以下である。」と記載され、続けて、「揮発成分残存率が30質量%以上であることにより、凝集性がより向上する傾向にあり、また記録時間の短縮や、被記録媒体を加熱し反応液を乾燥させることが不要となる点で有利である」と記載されている。
また、実施例として、【0091】には、「実施例11以外の実施例及び比較例では揮発成分残存率はいずれも90%以上であった。また、実施例11では揮発成分残存率は約50%であった。」と記載され、【0085】の【表2】によると、実施例11について「凝集性(ベタ画質品質)」が「○:パターンの内部もムラなし」という結果が示されている。
そして、上記【0040】の、揮発成分残存率が、30質量%以上であることが凝集性の観点から好ましいとの記載、及び、【0085】、【0091】の50質量%の場合の凝集性が「○」と評価されている結果を併せ考慮すると、当業者であれば、揮発成分残存率が30質量%以上50質量%以下の場合には、上記凝集性についての課題を解決できると認識し得る。
そうすると、着色インク組成物付着工程を、「前記乾燥する工程により乾燥させた前記記録領域S1上の前記反応液の揮発成分残存率が、30~50質量%である状態」で行うことを発明特定事項として含む本件特許発明1は、発明の詳細な説明において、課題を解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものとはいえない。
本件特許発明2~14についても、同様である。
したがって、本件特許発明1~14は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものではない。
3 特許権者に通知した取消しの理由3(明確性要件)について
本件特許発明1の「揮発成分残存率」についての上記記載は、上記2に示したとおりである。そして、上記第2「2」(1)「イ」で示したとおり、本件特許発明1の「揮発成分残存率」は、明確である。
本件特許発明2~14についても、同様である。
したがって、本件発明1~14に係る発明は、明確である。
第6 特許異議申立人の主張
1 特許異議申立人の主張の概要
(1)特許異議申立書の概要
特許異議申立人は、「本件特許発明1は、甲1発明、甲2、甲3、甲4及び甲6に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」(以下「主張1」という。)、「本件特許発明1は、甲2発明、甲1、甲3、甲5及び甲6に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」(以下「主張2」という。)、「揮発成分残存率が「30~50質量%」であるという範囲全体についてまで、本件特許発明の課題を解決したと当業者は推認することはできない。」(以下「主張3」という。)、「Ae自体が不明確であり、その結果、「揮発性残存率」は不明確な記載である。」(以下「主張4」という。)と主張している。
(2)意見書(特許異議申立人)の概要
特許異議申立人は、「【0087】に記載された「60℃で10分」の乾燥条件は・・・【0088】の「着色インク組成物付着前(被記録媒体が着色インク組成物用ヘッドと対抗する位置に搬送されてきた時点)の記録領域S1における反応液の揮発成分の揮発成分残存率(乾燥率)」との記載と整合していない。」(以下「主張5」という。)、「【0040】に記載の「揮発成分残存率」と【0089】で定義される揮発成分残存率%とは、同一のものと認めることはできず、そのように換えるような技術常識も存在しない。」(以下「主張6」という。)、「本件特許の実施例は実施例11の1点のみなので、あくまで揮発成分残存率の定義として【0089】の数式を請求項に導入するのであれば、請求項1における「揮発成分残存率が30~50質量%である状態で」は「揮発成分残存率が50質量%である状態で」でないと明細書の記載の範囲を超えるのは明らかである。」(以下「主張7」という。)と主張している。
2 特許異議申立人の主張について
上記主張1及び2については上記第5「1」において、上記主張3については上記第5「2」において、上記主張4については上記第5「3」において、上記主張5及び6については上記第2「2」(1)において、上記主張7については上記第5「2」において、述べたとおりであり、いずれの主張も認めることができない。
第7 むすび
本件特許1~14は、取消理由通知書に記載した取消しの理由及び特許異議申立書に記載された特許異議の申立ての理由によっては、取り消すことができない。
また、他に本件特許1~14を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2021-700702