審決検索MVP
← 検索一覧に戻る
特許異議申立

2021-700556

ゴルフクラブ用シャフト

審判番号
2021-700556
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2017-002987
登録番号
6798321
請求日
2021年06月08日
審決日
2022年07月01日
公報発行日
2023年11月24日
結論
請求成立(取消)
当事者
  • 【権利者】三菱ケミカル株式会社
  • 【異議申立人】伊阪 浩
審判長/審判官
  • 審判長 藤本 義仁
  • 審判官 清水 康司
  • 審判官 吉村 尚
分類
P1651.537-ZAA(A63B) / P1651.113-ZAA(A63B) / P1651.121-ZAA(A63B) / P1651.831-ZAA(A63B)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第36条、特許法第120条の5第2項、特許法第29条、特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第7項、特許法第126条
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第6798321号発明「ゴルフクラブ用シャフト」の特許異議申立事件について,次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第6798321号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項〔1-8〕について訂正することを認める。 特許第6798321号の請求項1,5,7に係る特許を取り消す。 特許第6798321号の請求項2ないし4,6,8に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第6798321号(請求項の数8。以下,「本件特許」という。)に係る出願は,平成29年1月12日に出願され,令和2年11月24日に特許権の設定登録がされ,同年12月9日に特許掲載公報が発行されたものである。 令和3年6月8日に特許異議申立人(以下,「申立人」という。)より請求項1ないし8に係る特許に対して本件特許異議の申立てがされ,同年9月14日付けで取消理由が通知され,同年11月12日受付で特許権者より訂正請求書及び意見書が提出され,同年12月28日に申立人より意見書が提出され,令和4年2月8日付けで取消理由通知(決定の予告)がされ,令和4年4月15日受付で特許権者より訂正請求書(特許法120条の5第7項の規定により,当該訂正請求書により訂正の請求がされたことによって,令和3年11月12日受付でされた訂正の請求は取り下げられたものとみなす。)及び意見書が提出された。 第2 訂正の適否 1 訂正の趣旨 令和4年4月15日受付の訂正請求書の請求の趣旨は,本件特許の明細書,特許請求の範囲を,訂正請求書に添付した訂正明細書,特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項1ないし8について訂正することを求める,というものである(以下,当該訂正請求による訂正を「本件訂正」という。)。 2 本件訂正の内容 本件訂正は,次の訂正事項からなる(下線は訂正箇所を表す。)。 (1)訂正事項1 請求項1に「複数の炭素繊維強化樹脂層で構成されるゴルフクラブ用シャフトであって,」及び「前記バイアス層の合計重量をB(g),シャフト全体に渡って位置するストレート層の合計重量をS(g)とした場合に,0.5≦B/(B+S)≦0.8を満たす,ゴルフクラブ用シャフト。」とあるのを,それぞれ「複数の炭素繊維強化樹脂層で構成される,ドライバー用ゴルフヘッドを装着する,ドライバー用ゴルフクラブ用シャフトであって,」及び「前記バイアス層と前記ストレート層の弾性率がともに,200GPa~900GPaの強化繊維から成る繊維強化樹脂層で構成され,シャフトのトルクをTq(°)とした場合に,1.6≦Tq≦4.0を満たし,前記バイアス層の合計重量をB(g),シャフト全体に渡って位置するストレート層の合計重量をS(g)とした場合に,0.5≦B/(B+S)≦0.8を満たし,前記細径側バイアス層の重量をA(g),前記バイアス層の合計重量をB(g)とした場合に,0.05≦A/B≦0.12を満たし,前記細径側バイアス層の重量をA(g),前記太径側バイアス層の重量をC(g)とした場合に,1.0≦A/C≦1.8を満たす,ドライバー用ゴルフクラブ用シャフト。」と訂正する。 (2)訂正事項2 請求項2ないし4,6,8を削除する。 (3)訂正事項3 本件明細書の【0007】に, 「本発明は,以下の構成を有する。 [1]複数の炭素繊維強化樹脂層で構成されるゴルフクラブ用シャフトであって,炭素繊維がシャフト軸方向に対して+30~+70°に配向された層と,-30~-70°に配向された層とをシャフト全長に渡って貼り合せて成るバイアス層と,炭素繊維がシャフト軸方向に配向され,シャフトの全長に渡って位置するストレート層と,炭素繊維がシャフト軸方向に対して+30~+70°に配向された層と,-30~-70°に配向された層とを貼り合せて成る細径側バイアス層と,さらに同様な太径側バイアス層を有しており, 前記バイアス層の合計重量をB(g),シャフト全体に渡って位置するストレート層の合計重量をS(g)とした場合に, 0.5≦B/(B+S)≦0.8 を満たすことを特徴とするゴルフクラブ用シャフト。 [2]炭素繊維がシャフト軸方向に対して+30~+70°に配向された層と,-30~-70°に配向された層とを貼り合せて成るバイアス層を少なくとも3層以上有する請求項1に記載のゴルフクラブ用シャフト。 [3]炭素繊維がシャフト軸方向に対して+30~+70°に配向された層と,-30~-70°に配向された層とを貼り合せて成るバイアス層,及び炭素繊維がシャフト軸方向に配向され,シャフトの全長に渡って位置するストレート層の弾性率がともに,200GPa~900GPaの強化繊維から成る繊維強化樹脂層で構成されることを特徴とする請求項1に記載のゴルフクラブ用シャフト。 [4]炭素繊維がシャフト軸方向に対して+30~+70°に配向された層と,-30~-70°に配向された層とを貼り合せて成る細径側バイアス層の重量をA(g),炭素繊維がシャフト軸方向に対して+30~+70°に配向された層と,-30~-70°に配向された層とを貼り合せて成るバイアス層の合計重量をB(g)とした場合に, 0.05≦A/B≦0.12 を満たすことを特徴とする請求項1に記載のゴルフクラブ用シャフト。 [5]炭素繊維がシャフト軸方向に対して+30~+70°に配向された層と,-30~-70°に配向された層とを貼り合せて成る太径側バイアス層の重量をC(g),炭素繊維がシャフト軸方向に対して+30~+70°に配向された層と,-30~-70°に配向された層とを貼り合せて成るバイアス層の合計重量をB(g)とした場合に, 0.03≦C/B≦0.10 を満たすことを特徴とする請求項1に記載のゴルフクラブ用シャフト。 [6]炭素繊維がシャフト軸方向に対して+30~+70°に配向された層と,-30~-70°に配向された層とを貼り合せて成る細径側バイアス層の重量をA(g),炭素繊維がシャフト軸方向に対して+30~+70°に配向された層と,-30~-70°に配向された層とを貼り合せて成る太径側バイアス層の重量をC(g)とした場合に, 1.0≦A/C≦1.8 を満たすことを特徴とする請求項1に記載のゴルフクラブ用シャフト。 [7]炭素繊維がシャフト軸方向に対して+30~+70°に配向された層と,-30~-70°に配向された層とを貼り合せて成る細径側バイアス層が,炭素繊維がシャフト軸方向に対して+30~+70°に配向された層と,-30~-70°に配向された層とをシャフト全長に渡って貼り合せて成るバイアス層の外側に積層構成されることを特徴とする請求項1に記載のゴルフクラブ用シャフト。 [8]複数の炭素繊維強化樹脂層から成るゴルフクラブ用シャフトであって,シャフトのトルクをTq(°)とした場合に, 1.6≦ Tq≦4.0 を満たすことを特徴とする請求項1に記載のゴルフクラブ用シャフト。」 とあるのを, 「本発明は,以下の構成を有する。 [1]複数の炭素繊維強化樹脂層で構成される,ドライバー用ゴルフヘッドを装着する,ドライバー用ゴルフクラブ用シャフトであって,炭素繊維がシャフト軸方向に対して+30~+70°に配向された層と,-30~-70°に配向された層とをシャフト全長に渡って貼り合せて成るバイアス層と,炭素繊維がシャフト軸方向に配向され,シャフトの全長に渡って位置するストレート層と,炭素繊維がシャフト軸方向に対して+30~+70°に配向された層と,-30~-70°に配向された層とを貼り合せて成る細径側バイアス層と,さらに同様な太径側バイアス層を有しており,前記バイアス層と前記ストレート層の弾性率がともに,200GPa~900GPaの強化繊維から成る繊維強化樹脂層で構成され,シャフトのトルクをTq(°)とした場合に,1.6≦Tq≦4.0を満たし,前記バイアス層の合計重量をB(g),シャフト全体に渡って位置するストレート層の合計重量をS(g)とした場合に,0.5≦B/(B+S)≦0.8を満たし,前記細径側バイアス層の重量をA(g),前記バイアス層の合計重量をB(g)とした場合に,0.05≦A/B≦0.12を満たし,前記細径側バイアス層の重量をA(g),前記太径側バイアス層の重量をC(g)とした場合に,1.0≦A/C≦1.8を満たす,ドライバー用ゴルフクラブ用シャフト。 [2]炭素繊維がシャフト軸方向に対して+30~+70°に配向された層と,-30~-70°に配向された層とを貼り合せて成る太径側バイアス層の重量をC(g),炭素繊維がシャフト軸方向に対して+30~+70°に配向された層と,-30~-70°に配向された層とを貼り合せて成るバイアス層の合計重量をB(g)とした場合に,0.03≦C/B≦0.10を満たすことを特徴とする請求項1に記載のゴルフクラブ用シャフト。 [3]炭素繊維がシャフト軸方向に対して+30~+70°に配向された層と,-30~-70°に配向された層とを貼り合せて成る細径側バイアス層が,炭素繊維がシャフト軸方向に対して+30~+70°に配向された層と,-30~-70°に配向された層とをシャフト全長に渡って貼り合せて成るバイアス層の外側に積層構成されることを特徴とする請求項1に記載のゴルフクラブ用シャフト。」と訂正する。 3 訂正要件について (1)訂正の目的について 訂正事項1は,訂正前にはどのようなゴルフヘッドを装着するものであるのかは任意であった請求項1,5,7に係るゴルフクラブ用シャフトを,「ドライバー用ゴルフヘッドを装着する,ドライバー用」のものに限定するとともに,訂正前には弾性率がいかなる値であるのかは任意であった請求項1,5,7に係る各バイアス層とストレート層を構成する繊維強化樹脂層の強化繊維について,「200GPa~900GPa」の範囲のものに限定し,訂正前にはいかなる値であるかは任意であった請求項1,5,7に係るゴルフクラブ用シャフトのトルクTqの値について,「1.6≦Tq≦4.0を満た」すものに限定し,訂正前にはいかなる値であるのかは任意であった細径側バイアス層の重量A(g)/バイアス層の合計重量B(g)の値について,「0.05≦A/B≦0.12を満た」すものに限定し,訂正前にはいかなる値であるのかは任意であった細径側バイアス層の重量A(g)/太径側バイアス層の重量C(g)の値について,「1.0≦A/C≦1.8を満たす」ものに限定する訂正であるから,特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 訂正事項2は,請求項2ないし4,6,8を削除する訂正であるから,特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 訂正事項3は,訂正事項1及び訂正事項2による訂正によって,不整合となる明細書の【0007】の記載を,訂正事項1及び訂正事項2による訂正後の特許請求の範囲の記載に整合させる訂正であるから,特許法120条の5第2項ただし書3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。 以上のとおり,訂正事項1ないし3は,特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる特許請求の範囲の減縮及び同ただし書き3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。 (2)新規事項の追加について 訂正事項1によって請求項1に付加されることとなる発明特定事項のうち,ゴルフクラブ用シャフトが,「ドライバー用ゴルフヘッドを装着する,ドライバー用」のものである点は,訂正前の明細書の【0028】の「実施例1のゴルフクラブ用シャフトに,市販のチタン製ドライバー用ゴルフクラブヘッド(体積460cm3,質量194g,ロフト角10.5°)をアクリル樹脂接着剤で細径端に取り付けた。」という記載から自明な事項である。 また,訂正事項1によって請求項1に付加されることとなる発明特定事項のうち,「前記バイアス層と前記ストレート層の弾性率がともに,200GPa~900GPaの強化繊維から成る繊維強化樹脂層で構成され」た点については,訂正前の請求項3に記載された事項である。 また,訂正事項1によって請求項1に付加されることとなる発明特定事項のうち,「シャフトのトルクをTq(°)とした場合に,1.6≦Tq≦4.0を満たす」点については,訂正前の請求項8に記載された事項である。 また,訂正事項1によって請求項1に付加されることとなる発明特定事項のうち,「前記細径側バイアス層の重量をA(g),前記バイアス層の合計重量をB(g)とした場合に,0.05≦A/B≦0.12を満た」す点については,訂正前の請求項4に記載された事項である。 また,訂正事項1によって請求項1に付加されることとなる発明特定事項のうち,「前記細径側バイアス層の重量をA(g),前記太径側バイアス層の重量をC(g)とした場合に,1.0≦A/C≦1.8を満たす」点については,訂正前の請求項6に記載された事項である。 したがって,訂正事項1は,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項との関係において,新たな技術的事項を導入するものではない。 訂正事項2は,請求項2ないし4,6,8を削除する訂正であるから,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項との関係において,新たな技術的事項を導入するものでないことは明らかである。 訂正事項3は,明細書の【0007】の記載を,訂正事項1及び訂正事項2による訂正後の特許請求の範囲の記載に整合させる訂正であるから,訂正事項1及び訂正事項2が,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項との関係において,新たな技術的事項を導入するものでない以上,訂正事項3も,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項との関係において,新たな技術的事項を導入するものでない。 以上のとおりであるから,訂正事項1ないし3は,特許法120条の5第9項において準用する同法126条5項の規定に適合する。 (3)特許請求の範囲の実質拡張・変更について 訂正事項1は,訂正前にはどのようなゴルフヘッドを装着するものであるのかは任意であった請求項1ないし7に係るゴルフクラブ用シャフトを,「ドライバー用ゴルフヘッドを装着する,ドライバー用」のものに限定するとともに,訂正前には弾性率がいかなる値であるのかは任意であった請求項1,5,7に係る各バイアス層とストレート層を構成する繊維強化樹脂層の強化繊維について,「200GPa~900GPa」の範囲のものに限定し,訂正前にはいかなる値であるかは任意であった請求項1,5,7に係るゴルフクラブ用シャフトのトルクTqの値について,「1.6≦Tq≦4.0を満た」すものに限定し,訂正前にはいかなる値であるのかは任意であった細径側バイアス層の重量A(g)/バイアス層の合計重量B(g)の値について,「0.05≦A/B≦0.12を満た」すものに限定し,訂正前にはいかなる値であるのかは任意であった細径側バイアス層の重量A(g)/太径側バイアス層の重量C(g)の値について,「1.0≦A/C≦1.8を満たす」ものに限定する訂正であるから,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでないことは明らかである。 訂正事項2は,請求項2ないし4,6,8を削除する訂正であるから,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでないことは明らかである。 訂正事項3は,明細書の【0007】の記載を,訂正事項1及び訂正事項2による訂正後の特許請求の範囲の記載に整合させる訂正であるから,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでないことは明らかである。 以上のとおりであるから,訂正事項1ないし3は,特許法120条の5第9項において準用する同法126条5項の規定に適合する。 (4)独立特許要件について 本件においては,訂正前の請求項1ないし8について特許異議の申立てがされているので,訂正前の請求項1ないし8に係る訂正事項に関して,特許法120条の5第9項で読み替えて準用する特許法126条7項の独立特許要件は課されない。 (5)訂正単位について 訂正前の請求項2ないし8は,本件訂正によって訂正される請求項1を直接又は間接的に引用する形式で記載された請求項であるから,請求項1ないし8は一群の請求項である。 4 訂正の適否のまとめ 前記3(1)ないし(3)のとおり,訂正事項1ないし3による訂正は,特許法120条の5第2項ただし書1号及び3号に掲げる事項を目的とするものであり,かつ,同条9項で準用する同法126条5項及び6項の規定に適合する。 したがって,本件特許の明細書,特許請求の範囲を,訂正請求書に添付された訂正明細書,特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項〔1ないし8〕について訂正することを認める。 第3 本件特許の請求項1ないし7に係る発明 前記第2 4で述べたとおり,本件訂正は認められるから,本件特許の請求項1,5,7に係る発明(請求項2ないし4,6,8は削除された。以下,本件訂正後の請求項1,5,7に係る発明をそれぞれ「本件訂正発明1」,「本件特許発明5」,「本件訂正発明7」といい,本件訂正発明1,5,7を総称して「本件訂正発明」という。)は,本件特許の特許請求の範囲の請求項1,5,7に記載された事項により特定されるとおりの次のものと認められる。 「【請求項1】 複数の炭素繊維強化樹脂層で構成される,ドライバー用ゴルフヘッドを装着する,ドライバー用ゴルフクラブ用シャフトであって,炭素繊維がシャフト軸方向に対して+30~+70°に配向された層と,-30~-70°に配向された層とをシャフト全長に渡って貼り合せて成るバイアス層と,炭素繊維がシャフト軸方向に配向され,シャフトの全長に渡って位置するストレート層と,炭素繊維がシャフト軸方向に対して+30~+70°に配向された層と,-30~-70°に配向された層とを貼り合せて成る細径側バイアス層と,さらに同様な太径側バイアス層を有しており,前記バイアス層と前記ストレート層の弾性率がともに,200GPa~900GPaの強化繊維から成る繊維強化樹脂層で構成され,シャフトのトルクをTq(°)とした場合に,1.6≦Tq≦4.0を満たし,前記バイアス層の合計重量をB(g),シャフト全体に渡って位置するストレート層の合計重量をS(g)とした場合に,0.5≦B/(B+S)≦0.8を満たし,前記細径側バイアス層の重量をA(g),前記バイアス層の合計重量をB(g)とした場合に,0.05≦A/B≦0.12を満たし,前記細径側バイアス層の重量をA(g),前記太径側バイアス層の重量をC(g)とした場合に,1.0≦A/C≦1.8を満たす,ドライバー用ゴルフクラブ用シャフト。 【請求項5】 炭素繊維がシャフト軸方向に対して+30~+70°に配向された層と,-30~-70°に配向された層とを貼り合せて成る太径側バイアス層の重量をC(g),炭素繊維がシャフト軸方向に対して+30~+70°に配向された層と,-30~-70°に配向された層とを貼り合せて成るバイアス層の合計重量をB(g)とした場合に, 0.03≦C/B≦0.10 を満たす,請求項1に記載のゴルフクラブ用シャフト。 【請求項7】 炭素繊維がシャフト軸方向に対して+30~+70°に配向された層と,-30~-70°に配向された層とを貼り合せて成る細径側バイアス層が,炭素繊維がシャフト軸方向に対して+30~+70°に配向された層と,-30~-70°に配向された層とをシャフト全長に渡って貼り合せて成るバイアス層の外側に積層構成される,請求項1に記載のゴルフクラブ用シャフト。」 第4 通知された取消理由について 1 通知された取消理由の概要 令和3年9月14日付けで通知された取消理由,及び令和4年2月8日付けで通知された取消理由は,概略,次のようなものである(取消理由中の請求項の番号は,本件訂正前の各請求項を指している。)。 取消理由1(サポート要件違反): 本件特許の請求項1ないし8に係る発明は,本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載により当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲のものとは認められず,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし発明の課題を解決できると認識できる範囲のものとも認められない。 したがって,本件特許の請求項1ないし8に係る発明は,発明の詳細な説明に記載したものでないから,その特許は,特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 取消理由2(明確性要件違反): 本件特許の請求項1ないし8に係る発明は,明確でないから,その特許は,特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 取消理由3(新規性・進歩性欠如): 本件特許の請求項1ないし4,7,8に係る発明は,本件特許に係る出願(以下,「本件特許出願」という。)の出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である甲1(特開2013-138753号公報)に記載された発明であり,特許法29条1項3号に該当するから,当該請求項1ないし4,7,8に係る特許は,特許法29条1項の規定に違反してされたものである。 又は,本件特許の請求項1ないし4,7,8に係る発明は,本件特許出願の出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が前記甲1に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであるから,当該請求項1ないし4,7,8に係る特許は,特許法29条2項の規定に違反してされたものである。 第5 判断 事案に鑑み,取消理由2(明確性要件違反),取消理由1(サポート要件違反),取消理由3(新規性・進歩性欠如)の順で検討する。 1 取消理由2(明確性要件違反)について (1) 令和3年9月14日付けで通知された取消理由(明確性要件違反)では,本件訂正前の請求項3に記載された「炭素繊維がシャフト軸方向に対して+30~+70°に配向された層と,-30~-70°に配向された層とを貼り合せて成るバイアス層,及び炭素繊維がシャフト軸方向に配向され,シャフトの全長に渡って位置するストレート層の弾性率がともに,200GPa~900GPaの強化繊維から成る繊維強化樹脂層で構成され」(本件訂正後の請求項1の「前記バイアス層と前記ストレート層の弾性率がともに,200GPa~900GPaの強化繊維から成る繊維強化樹脂層で構成され」に対応)なる発明特定事項における「バイアス層」,本件訂正前の請求項1(本件訂正後の請求項1)に記載された「前記バイアス層の合計重量をB(g),シャフト全体に渡って位置するストレート層の合計重量をS(g)とした場合に,0.5≦B/(B+S)≦0.8を満たし」なる発明特定事項における「前記バイアス層」,本件訂正前の請求項4に記載された「前記細径側バイアス層の重量をA(g),炭素繊維がシャフト軸方向に対して+30~+70°に配向された層と,-30~-70°に配向された層とを貼り合せて成るバイアス層の合計重量をB(g)とした場合に,0.05≦A/B≦0.12を満た」(本件訂正後の請求項1の「前記細径側バイアス層の重量をA(g),前記バイアス層の合計重量をB(g)とした場合に,0.05≦A/B≦0.12を満た」に対応)なる発明特定事項における「バイアス層」,及び本件訂正前の請求項5(本件訂正後の請求項5)に記載された「炭素繊維がシャフト軸方向に対して+30~+70°に配向された層と,-30~-70°に配向された層とを貼り合せて成るバイアス層」なる発明特定事項中の「バイアス層」は,いずれも,「炭素繊維がシャフト軸方向に対して+30~+70°に配向された層と,-30~-70°に配向された層とをシャフト全長に渡って貼り合せて成るバイアス層」(以下,便宜上「全長バイアス層」という。)と「炭素繊維がシャフト軸方向に対して+30~+70°に配向された層と,-30~-70°に配向された層とを貼り合せて成る細径側バイアス層」と「同様な太径側バイアス層」の3つの層の全てを指すのか,それとも,全長バイアス層のみを指すのか等が明確に特定できないとされた。 当該取消理由(明確性要件違反)に対して,特許権者は,令和3年11月11日付け意見書において,「前記バイアス層」は,全長バイアス層と細径側バイアス層と太径側バイアス層の全てを指しているとし,「前記バイアス層」が,全長バイアス層と細径側バイアス層と太径側バイアス層の全てを指しているとした場合,本件訂正後の明細書(以下,「本件訂正明細書」という。)に記載された実施例1では,B=41.38g,S=23.51g,A=3.17g,C=2.63gであるから,B/(B+S)=41.38/(41.38+23.51)=0.64,A/B=3.17/41.38=0.077,C/B=2.63/41.38=0.064であり,本件訂正明細書の【0035】の表4に示された実施例1の各値と一致すると釈明している。 特許権者の釈明におけるC/Bの値は「0.064」であるのに対し,本件訂正明細書の【0035】の表4に示された実施例1のA/Bは「0.07」であって,両者には多少のずれが存在するものの,特許権者の前記釈明によって,本件訂正後の請求項1に記載された「前記バイアス層」,及び請求項5に記載された「バイアス層」は,いずれも請求項1に記載された全長バイアス層,細径側バイアス層及び太径側バイアス層の全てを指していることが明らかになったものと認める。 (2) 令和4年2月8日付けで通知した取消理由(明確性要件違反)では,請求項2には,「バイアス層を少なくとも3層以上有する」なる発明特定事項が記載されているが,当該発明特定事項がどのようなことを指しているのか明確に理解することができないとされたが,本件訂正により請求項2は削除された。 したがって,当該取消理由は解消した。 (3) 前記(1)及び(2)で述べたとおりであるから,取消理由2によって,本件訂正発明1,5,7に係る特許を取り消すことはできない。 2 取消理由1(サポート要件違反)について 本件訂正明細書には, 「【0001】 本発明は,高い捩じり剛性を有し,ゴルファーの力量に左右されることなく,飛距離の安定性を有するとともに,左右への方向安定性にも優れた,繊維強化樹脂製のゴルフクラブ用シャフトに関する。 【背景技術】 【0002】 ゴルフの打球の飛距離は,ボールの初速,打ち出し角度,スピン量で決定することが知られている。ゴルフのスコアを良くするためには,飛距離の安定性はもちろんのこと,左右への方向安定性も非常に重要であり,よって,安定した飛距離と方向安定性を得るためには,これら3つの要素のバラツキを減少させることが必要となってくる。 ボールの初速,打ち出し角度,スピン量は,ゴルフヘッドの特性に依存するが,これら3つの要素の安定性については,ボールを打撃する瞬間のシャフトの動き(変形)が影響をする。特にゴルフクラブ用シャフト(以下,単にシャフトという場合もある。)の細径部の変形がこれらの要素に大きく影響し,この部分のシャフトの捩じり剛性を上げれば,シャフトの挙動を抑制することができるため,これらの要素を安定することが知られている(特許文献1)。 【0003】 しかしながら,単にゴルフクラブ用シャフトの細径部のシャフトの捩じり剛性を上げると,フィーリングが硬くなったり,ヘッドの返りが極端に悪くなったりするなどのデメリットがある。また,炭素繊維で強化された繊維強化樹脂製のシャフトにおいて,シャフトの捩じり剛性を上げるために弾性率の高い炭素繊維の使用量を多くし過ぎると,一般的に弾性率の高い炭素繊維は引張強度が低いため,シャフトの強度が低下し,シャフトの折損が生じ易くなる。さらにまた,この部分の捩じり剛性を高くし過ぎると,ヘッドのトゥダウンが抑制され過ぎて,ヘッドの中央より下部にボールがヒットし易くなり,打ち出し角度が低く,バックスピン量の多い弾道になるため,飛距離の損失につながり易い。 ・・・(中略)・・・ 【発明が解決しようとする課題】 【0005】 本発明は,かかる事情に鑑みてなされたもので,特に捩じり剛性が高いゴルフクラブシャフトにおいてもスイングの安定性が高く,プレーヤーのスイングスピード,力量に左右されることなく,飛距離の安定性と方向安定性の両方に優れた,捩じり剛性の高い(ロートルク)ゴルフクラブ用シャフトを提供することを目的としている。」と記載されている。 当該記載からみて,本件訂正発明が解決しようとする課題は,ゴルフにおいて,安定した飛距離と方向安定性を得るためには,ボールの初速,打ち出し角度,スピン量のバラツキを減少させることが必要であり,ゴルフクラブ用シャフトの細径部の捩じり剛性を上げれば,シャフトの挙動を抑制することができ,これらの要素を安定させることができるが,単に細径部の捩じり剛性を上げると,フィーリングが硬くなったり,ヘッドの返りが極端に悪くなったりするなどのデメリットがあり,また,繊維強化樹脂製のシャフトにおいて,シャフトの捻じり剛性を上げるために弾性率の高い炭素繊維の使用量を多くし過ぎると,一般的に弾性率の高い炭素繊維は引張強度が低いため,シャフトの強度が低下し,シャフトの折損が生じ易くなり,さらに,この部分の捩じり剛性を高くし過ぎると,ヘッドのトゥダウンが抑制されすぎて,ヘッドの中央より下部にボールがヒットし易くなり,打ち出し角度が低く,バックスピン量の多い弾道になるため,飛距離の損失につながり易いことであったと認められる。 これに対して,本件訂正明細書の【0007】等の記載や,本件訂正後の請求項1,5,7に記載された発明特定事項からみて,本件訂正発明は,前記課題を解決するための手段として,ドライバー用ゴルフクラブ用シャフトを対象として,専ら, (構成1)各バイアス層と全長ストレート層(本件訂正後の請求項1,5,7では「ストレート層」と表現されているが,後述する「細径側ストレート層」と明確に区別するために,便宜上,「全長ストレート層」という。)の弾性率がともに,200GPa~900GPaの強化繊維から成る繊維強化樹脂層で構成され, (構成2)シャフトのトルクをTq(°)とした場合に,1.6≦Tq≦4.0を満たし, (構成3)各バイアス層の合計重量をB(g),シャフト全体に渡って位置するストレート層の合計重量をS(g)とした場合に,0.5≦B/(B+S)≦0.8を満たし, (構成4)細径側バイアス層の重量をA(g),各バイアス層の合計重量をB(g)とした場合に,0.05≦A/B≦0.12を満たし, (構成5)細径側バイアス層の重量をA(g),太径側バイアス層の重量をC(g)とした場合に,1.0≦A/C≦1.8を満たす という構成を採用したものと理解される。 そして,本件訂正明細書には,前記課題を解決するための構成3に関して,【0014】に,「本発明のゴルフクラブ用シャフトは,シャフトに使用するバイアス層の合計重量をB(g),シャフト全体に渡って位置するストレート層の合計重量をS(g)とした場合に,0.5≦B/(B+S)≦0.8・・・(1)を満たすことが重要である。(1)は,技量が高いゴルファーやスイングスピードが速いゴルファーにも対応できるために必要なトルクTq(°)を生み出す要素を示している。つまり,(1)を満たさないゴルフクラブ用シャフトは,シャフトが捩じれすぎたり,または捩じれないがためにシャフトが折損してしまう原因につながる。」と記載され, 前記課題を解決するための構成1に関して,【0016】に,「本発明のゴルフクラブ用シャフトは,炭素繊維強化樹脂層を有するのが好適であり,この少なくとも一層に,弾性率が200GPa~900GPaの範囲である炭素繊維が使用されるのが好ましい。これによって,飛距離の安定性と方向安定性に優れたゴルフクラブ用シャフトを得ることができる。また,+30~+70°に配向された層と,-30~-70°に配向された層とを貼り合せて成るバイアス層の少なくとも一層に,このような炭素繊維強化樹脂層を有することで,より方向性が安定する傾向にある。この場合,バイアス層の全てが炭素繊維強化樹脂層から構成されるのがより好ましい。さらに,炭素繊維がシャフト軸方向に配向され,シャフトの全長に渡って位置するストレート層の少なくとも一層にこのような炭素繊維強化樹脂層を有することが好ましく,ここで使用される炭素繊維の弾性率は,200GPa~400GPaの範囲であることが好ましい。」と記載され, 前記課題を解決するための構成4に関して,【0017】に,「シャフトに使用する細径側バイアス層の重量をA(g),バイアス層の合計重量をB(g)とした場合に,0.05≦A/B≦0.12・・・(2)が好ましい範囲である。この範囲であると,技量が高いゴルファーやスイングスピードが速いゴルファーに必要なシャフトの捩じれ剛性値となるため好ましい範囲である。」と記載され, 前記課題を解決するための構成5に関して,【0019】に,「さらに,シャフトに使用する細径側バイアス層の重量をA(g),太径側バイアス層の重量をC(g)とした場合に,1.0≦A/C≦1.8・・・(4)の条件を満たすのが好ましい。この(4)の条件を満たすことによって,技量が高いゴルファーやスイングスピードが速いゴルファーにも対応できるために必要なシャフトの捩じれ剛性値を得ることができるとともに,スイング時におけるグリップ部の安定性が向上する傾向にある。」と記載され, 前記課題を解決するための構成2に関して,【0021】に,「本発明のゴルフクラブ用シャフトにおいては,トルク(Tq)が小さい程,方向安定性が優れる傾向にあるが,1.6°より大きくすることによって,シャフトに充分な強度を与えることができ,シャフトの折損を低減できる傾向にある。また,トルク(Tq)を4.0°以下とすることによって,ゴルファーの力量が飛距離の安定性や左右への方向安定性に与える影響を低減させることができ,これらの両立を達成できる傾向にある。」と記載されている。 しかしながら,前記各記載において,各構成によりなぜ各記載において説明された効果が得られるのか,その作用機序は説明されておらず,また,本件特許出願の出願時の技術常識を考慮しても,各構成によりなぜ各効果が得られるのかを当業者が理解することはできない。 そこで,各構成について技術的にみると,トルク(Tq)と捩じり剛性は,トルク(Tq)が小さいほど捩じり剛性は大きいという関係にあり,細径部のトルク(Tq)がシャフト全体のトルク(Tq)を上回ることはないと考えられるところ,前記課題を解決するための構成2は,シャフト全体のトルク(Tq)が1.6°以上4.0°以下という範囲にあることを規定するのみであって,当該シャフト全体のトルク(Tq)のうちどの程度の割合が,細径部の捩じれによるものかは構成2からは定まらないから,当該構成2は,細径部のトルク(Tq)については,4.0°を超えないこと,すなわち,前記課題において問題としている細径部の捩じり剛性が所定の値より大きいことを規定するに止まり,シャフト全体のトルク(Tq)4.0°のうちのほぼ全ての捩じれが,細径部以外の部分で生じ,細径部での捩じれが限りなく0に近いものを排除していないことは明らかである。そうすると,たとえ構成2を具備したとしても,細径部の捩じり剛性が高すぎて,フィーリングが硬くなったり,ヘッドの返りが極端に悪くなったりするなどのデメリットや,シャフトの強度が低下し,シャフトの折損が生じ易くなり,打ち出し角度が低く,バックスピン量の多い弾道になるため,飛距離の損失につながり易いといった発明の課題を解決することができないものを包含していると認められる。 また,技術的にみて,炭素繊維の引張弾性率は,樹脂の引張弾性率に比べて極めて大きく,かつ,炭素繊維強化樹脂層において,炭素繊維の配向方向に平行な断面における単位面積当たりの炭素繊維が占める割合と,当該配向方向と直交する断面における単位面積当たりの炭素繊維が占める割合とでは,炭素繊維の配向方向に平行な断面における割合のほうが極めて大きな値(炭素繊維のアスペクト比に応じて決まる値)となることから,炭素繊維強化樹脂層の炭素繊維の配向方向における引張弾性率は,当該配向方向と直交する方向における引張弾性率に比べて極めて大きいと考えられる。したがって,炭素繊維強化樹脂層で構成されるゴルフクラブ用シャフトの捩じり剛性は,専ら,全長バイアス層,細径部バイアス層及び太径部バイアス層の炭素繊維の配向方向における引張弾性率によって定まり,細径部の捩り剛性は,専ら,細径部に存在する全長バイアス層及び細径部バイアス層の炭素繊維の配向方向における引張弾性率によって定まるものと推察され,各バイアス層の炭素繊維の配向方向における引張弾性率は,炭素繊維の引張弾性率と炭素繊維の含有量(炭素繊維の目付量×バイアス層の面積)に大きく依存するものと推察される。ここで,前記課題を解決するための構成3ないし5によって,全長バイアス層,細径バイアス層,太径側バイアス層及び全長ストレート層の重量比が所定の範囲に定まり,前記課題を解決するための構成1は,全長バイアス層,細径バイアス層,太径側バイアス層及び全長ストレート層を構成する繊維強化樹脂層の炭素繊維の弾性率が所定の範囲にあることを特定しているものの,構成1,3ないし5によって,全長バイアス層,細径側バイアス層及び太径側バイアス層における炭素繊維の含有量(炭素繊維の目付量×各バイアス層の面積)は定まらないから,構成1,3ないし5によって,構成2により規定されたシャフト全体のトルク(Tq)のうちどの程度の割合が,細径部の捩れによるものかが定まることはないというべきである。 以上によれば,本件訂正明細書の発明の詳細な説明における構成1ないし5に関する前述した記載や本件特許出願の出願時の技術常識からは,本件訂正発明が発明の課題を解決できると当業者が認識できるということはできない。 また,本件訂正明細書の発明の詳細な説明の【0022】ないし【0037】,図2,図6ないし図8には,実施例1及び比較例1のドライバー用ゴルフクラブシャフトが記載され,飛距離の安定性及び方向安定性について,実施例1のドライバー用ゴルフクラブシャフトが比較例1のドライバー用ゴルフクラブシャフトよりも優れていることが示されている。当該実施例1のドライバー用ゴルフクラブシャフトは,図2に示されているように,2つの全長バイアス層,2つの細径側バイアス層,1つの太径側バイアス層,4つの全長ストレート層,及び2つの細径側に設けられたストレート層(以下,「細径側ストレート層」という。)から構成され,本件訂正明細書の【0032】の【表1】,【0033】の【表2】及び図2に示されているように,前記2つの全長バイアス層は,それぞれ,引張弾性率が455GPaで目付け量が69g/m2のプリプレグ1を,図2に示されたパターン1及びパターン3の形状及び表3に示されたサイズに切断したプリプレグにより形成され,前記2つの細径側バイアス層は,それぞれ,前記プリプレグ1及び引張弾性率が290GPaで目付け量が50g/m2のプリプレグ4を,図2に示されたパターン5及びパターン7の形状及び表3に示されたサイズに切断したプリプレグにより形成され,前記1つの太径側バイアス層は,引張弾性率が760GPaで目付け量が60g/m2のプリプレグ3を,図2に示されたパターン6の形状及び表3に示されたサイズに切断したプリプレグにより形成され,前記4つの全長ストレート層は,それぞれ,引張弾性率が325GPaで目付け量が75g/m2のプリプレグ2,引張弾性率が325GPaで目付け量が100g/m2のプリプレグ6,及び引張弾性率が325GPaで目付け量が125g/m2のプリプレグ7を,図2に示されたパターン2,パターン4,パターン9及びパターン10の形状及び表3に示されたサイズに切断したプリプレグにより形成され,前記2つの細径側ストレート層は,それぞれ,引張弾性率が240GPaで目付け量が125g/m2のプリプレグ5,及び引張弾性率が240GPaで目付け量が125g/m2のプリプレグ8を,図2に示されたパターン8及びパターン11の形状及び表3に示されたサイズに切断したプリプレグにより形成され,トルクTqが2.4°であり,B/(B+S)が0.6であり,A/Bが0.08であり,A/Cが1.2であるように構成されたものである。一方,比較例1のドライバー用ゴルフクラブシャフトは,図2及び表3に示されているように,実施例1と同じ形状及びサイズを有する,2つの全長バイアス層,2つの細径側バイアス層,1つの太径側バイアス層,4つの全長ストレート層及び2つの細径側ストレート層から構成され,本件訂正明細書の【0032】の【表1】,【0033】の【表2】及び図2に示されているように,前記2つの全長バイアス層は,いずれも,引張弾性率が290GPaで目付け量が75g/m2のプリプレグ9で形成され,前記2つの細径側バイアス層は,それぞれ,引張弾性率が395GPaで目付け量が6950g/m2のプリプレグ11及び前記プリプレグ4で形成され,前記1つの太径側バイアス層は,前記プリプレグ3で形成され,前記4つの全長ストレート層は,それぞれ,前記プリプレグ8及び引張弾性率が240GPaで目付け量が150g/m2のプリプレグ10で形成され,前記2つの細径側ストレート層は,いずれも,前記プリプレグ8で形成され,トルクTqが4.8°であり,B/(B+S)が0.4であり,A/Bが0.14であり,A/Cが1.2であるように構成されたものである。 これら実施例1及び比較例1についての本件訂正明細書の発明の詳細な説明の記載からは,実施例1や,実施例1において各バイアス層及び各ストレート層として用いられているものと同程度の炭素繊維の引張弾性率及び目付量を有する各プリプレグを用いて,実施例1における各バイアス層及び各ストレート層の形状及びサイズと同程度の形状及びサイズを有する各バイアス層及び各ストレート層を形成したドライバー用ゴルフクラブ用シャフトであれば,飛距離の安定性及び方向安定性が,実施例1と同程度のものとなり,前述した課題を解決できるものと当業者が認識できるものと認められる。 しかしながら,本件訂正発明が,前記課題を解決できると当業者が認識できるものばかりでなく,各バイアス層の目付量その他が実施例1とは大きく異なるものをも包含していることは明らかであるから,本件訂正明細書の発明の詳細な説明における実施例1及び比較例1に係る記載や本件特許出願の出願時の技術常識からは,本件訂正発明が,発明の課題を解決できると,当業者が認識できると認めることはできない。 以上のとおりであって,本件訂正発明が,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものでなく,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものでないから,本件訂正発明は,発明の詳細な説明に記載したものでない。 したがって,本件訂正発明に係る特許は,特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 3 取消理由3(新規性・進歩性欠如)について (1)引用例 ア 甲1の記載 甲1は,本件特許出願の出願前である平成25年7月18日に頒布された刊行物であるところ,当該甲1には次の記載がある。 (ア) 「【技術分野】 【0001】 本発明は,ゴルフクラブシャフトに関する。 【背景技術】 【0002】 いわゆるカーボンシャフトが広く普及している。このカーボンシャフトでは,通常,CFRP(炭素繊維強化プラスチック)が用いられる。・・・(中略)・・・ 【発明が解決しようとする課題】 【0006】 先端側バイアスプリプレグにおいて,引張弾性率が高く繊維目付量が多くされると,シャフト先端部における捻れ剛性が過大となりやすい。この場合,インパクト時の衝撃が大きくなり,打球感が悪くなりやすい。 【0007】 一方,ゴルフクラブにおいてはクラブバランス(スイングウェイト)が考慮される。適正なクラブバランスに調整されることで,振りやすくなることが知られている。クラブバランスは,ヘッド重量等により調整される。シャフト重心が後端寄りの場合,適正なクラブバランスを得るために,ヘッド重量が重くされる。しかし,過大なヘッド重量は,トウダウンを増加させうる。トウダウンにより,インパクトにおけるヘッドの位置又は姿勢が変動しうる。このトウダウンは,ナイスショットの確率を低下させうる。 【0008】 本発明の目的は,良好な打球感と先端寄りの重心位置とを達成することが可能なゴルフクラブシャフトの提供にある。 【課題を解決するための手段】 【0009】 本発明に係るゴルフクラブシャフトは,ストレート層と先端側部分バイアス層と後端側部分バイアス層とを有している。シャフト軸方向において,上記先端側部分バイアス層が存在する区域が区域Tとされ,シャフト軸方向において,上記後端側部分バイアス層が存在する区域が区域Bとされ,シャフト軸方向において,ヘッドのホーゼルに挿入されるシャフト区域が区域Hとされるとき,上記区域Tの一部が上記区域Hと重複してうる。このシャフトには,上記区域Tと上記区域Bとが重複する重複区域TBが存在している。上記重複区域TBの全体が,上記区域Hよりもシャフト後端側に位置している。上記重複区域TBの軸方向中心位置Pxが,シャフト軸方向中心位置Pcよりもシャフト先端側に位置する。 ・・・(中略)・・・ 【発明の効果】 【0018】 良好な打球感と先端寄りの重心位置とが達成されうる。」 (イ) 「【図面の簡単な説明】 【0019】 【図1】図1は,本発明の第一実施形態に係るシャフトを備えたゴルフクラブを示す。 【図2】図2は,第一実施形態に係るシャフトの展開図である。 ・・・(中略)・・・ 【図4】図4は,実施例3のシャフトの展開図である。」 (ウ) 「【0025】 図1は,本発明の第一実施形態に係るゴルフクラブシャフト6を備えたゴルフクラブ2を示す。ゴルフクラブ2は,ヘッド4と,シャフト6と,グリップ8と,フェラル10とを備えている。シャフト6の先端部に,ヘッド4が設けられている。シャフト6の後端部に,グリップ8が設けられている。なおヘッド4及びグリップ8は限定されない。ヘッド4として,ウッド型ゴルフクラブヘッド,ハイブリッド型ゴルフクラブヘッド,ユーティリティ型ゴルフクラブヘッド,アイアン型ゴルフクラブヘッド,パターヘッド等が例示される。本実施形態のヘッド4は,アイアン型ゴルフクラブヘッドである。・・・(中略)・・・ 【0027】 シャフト6は,いわゆるカーボンシャフトである。このシャフト6は,プリプレグシートを硬化させてなる。・・・(中略)・・・ 【0028】 プリプレグシートは,繊維と樹脂とを有している。この樹脂は,マトリクス樹脂とも称される。典型的には,この繊維は炭素繊維である。典型的には,このマトリクス樹脂は,熱硬化性樹脂である。 【0029】 シャフト6は,いわゆるシートワインディング製法により製造されている。プリプレグにおいて,マトリクス樹脂は,半硬化状態にある。シャフト6は,プリプレグシートが巻回され且つ硬化されてなる。この硬化とは,半硬化状態のマトリクス樹脂を硬化させることである。この硬化は,加熱により達成される。シャフト6の製造工程には,加熱工程が含まれる。この加熱工程により,プリプレグシートのマトリクス樹脂が硬化する。 【0030】 図2は,シャフト6を構成するプリプレグシートの展開図(シート構成図)である。シャフト6は,複数枚のシートにより構成されている。図2の実施形態では,シャフト6は,s1からs9までの9枚のシートにより構成されている。本願において,図2等で示される展開図は,巻回の順序を示している。展開図において上側に位置しているシートから順に巻回される。最初に巻回されるシートが第1シートs1である。次に,第2シートs2及び第3シートs3が巻回される。次に,第4シートs4及び第5シートs5が巻回される。次に,第6シートs6及び第7シートs7が巻回される。次に第8シートs8が巻回される。次に第9シートs9が巻回される。先に巻回されるシートほど内側に位置する。 【0031】 本願の展開図において,図面の左右方向は,シャフト軸方向と一致する。本願の展開図において,図面の右側はシャフトの先端(先端)側であり,図面の左側はシャフトの後端(バット)側である。 【0032】 本願の展開図は,各シートの巻き付け順序のみならず,各シートのシャフト軸方向における配置をも示している。例えば図2において,シートs1の先端はシャフト先端Tpに位置している。例えば図2において,シートs6の後端はシャフト後端Btに位置している。 【0033】 シャフト6は,ストレート層とバイアス層とを有する。本願の展開図には,各シートの配向角度Afが記載されている。「0°」と記載されているシートが,ストレート層を構成している。ストレート層用のシートは,本願においてストレートシートとも称される。 ・・・(中略)・・・ 【0035】 図2の実施形態において,ストレートシートは,シートs1,シートs8及びシートs9である。ストレート層は,シャフトの曲げ剛性及び曲げ強度との相関が高い。 ・・・(中略)・・・ 【0037】 シャフト6において,バイアス層を構成するシートは,シートs2,シートs3,シートs4,シートs5,シートs6及びシートs7である。図2には,シート毎に,上記角度Afが記載されている。角度Afにおけるプラス(+)及びマイナス(-)は,バイアスシートの繊維が互いに逆方向に傾斜していることを示している。本願において,バイアス層用のシートは,単にバイアスシートとも称される。 ・・・(中略)・・・ 【0042】 図2の実施形態では,全てのバイアスシートは,ペアで用いられる。好ましくは,バイアスシートペアを構成する2枚のバイアスシートは,巻回前に貼り合わされる。 【0043】 図2の実施形態では,3組のバイアスシートペアが用いられる。第一のバイアスシートペアs23は,シートs2とシートs3とからなる。第二のバイアスシートペアs45は,シートs4とシートs5とからなる。第三のバイアスシートペアs67は,シートs6とシートs7とからなる。本実施形態では,3組のバイアス層ペアの間に,バイアス層以外の層が介在していない。 ・・・(中略)・・・ 【0046】 本願において,シャフト軸方向の全体に配置される層が,全長層と称される。本願において,シャフト軸方向の全体に配置されるシートが,全長シートと称される。巻回された全長シートが,全長層を形成する。 【0047】 一方,本願において,シャフト軸方向において部分的に配置される層が,部分層と称される。本願において,シャフト軸方向において部分的に配置されるシートが,部分シートと称される。巻回された部分シートが,部分層を形成する。 【0048】 本願では,ストレート層である全長層が,全長ストレート層とも称される。図2の実施形態において,全長ストレート層は,層s8及び層s9である。本実施形態では,全ての全長ストレート層は,最も外側のバイアス層ペアよりも外側に位置する。 ・・・(中略)・・・ 【0050】 本願では,バイアス層である全長層が,全長バイアス層とも称される。図2の実施形態において,全長バイアス層は,層s2及び層s3である。 ・・・(中略)・・・ 【0053】 本願では,先端側部分層との文言が用いられる。先端側部分層は,部分層の一態様である。先端側部分層として,先端側部分ストレート層及び先端側部分バイアス層が例示される。図2の実施形態において,先端側部分ストレート層は,層s1である。図2の実施形態において,先端側部分バイアス層stは,層s4及び層s5である。 【0054】 本願では,後端側部分層との文言が用いられる。後端側部分層は,部分層の一態様である。後端側部分層として,後端側部分ストレート層及び後端側部分バイアス層が例示される。図2の実施形態において,後端側部分ストレート層は存在しない。図2の実施形態において,後端側部分バイアス層sbは,層s6及び層s7である。」 (エ) 「【0076】 図3は,図2における本願における各区間等を示している。本願では,以下の用語が定義される。 【0077】 [区域T] シャフト軸方向において,先端側部分バイアス層stが存在する区域が,本願において区域Tと称される。図3では,区域Tが符号T1で示されている。 ・・・(中略)・・・ 【0079】 [区域B] シャフト軸方向において,後端側部分バイアス層sbが存在する区域が,本願において区域Bと称される。図3では,区域Bが符号B1で示されている。 ・・・(中略)・・・ 【0084】 [重複区域TB] 上記区域Tと上記区域Bとが重複する軸方向区域が,重複区域TBである。図3では,この重複区域TBが符号TB1で示されている。重複区域TBは,後端側部分バイアス層sbの先端位置Pb2から,先端側部分バイアス層stの後端位置Pt2までの区域である。 ・・・(中略)・・・ 【0095】 上記実施形態では,上記重複区域TBの軸方向中心位置Pxが,シャフト軸方向中心位置Pcよりも先端側に位置している(図3参照)。 この構成により,シャフト重心Gがシャフト先端Tpに近づきやすい。換言すれば,この構成により,Lg/Lsが小さくなりやすい。よって,適正なスイングウェイトを維持しつつヘッドを軽量とすることができ,トウダウンを抑制することができる。トウダウンの抑制により,打球結果の安定性が向上しうる。即ち,トウダウンの抑制により,ミート率(ナイスショットの確率)が向上し,打球の方向安定性が向上する。更に,ミート率の向上により,飛距離が増加しうる。」 (オ) 「【0122】 [実施例1] 図2で示される積層構成を有するシャフトを作製した。シャフトの製造方法は前述の通りである。シャフト全長Lsは940mmとされた。用いられたプリプレグが下記の表1に示される。この実施例1の仕様が下記の表4に示される。重複長さL1は200mmとされた。このシャフトにヘッド及びグリップを装着した。ヘッドの番手はアプローチウェッジであり,ヘッド重量は298gであり,クラブバランスはD4とされた。この実施例1の評価結果が下記の表5に示される。 ・・・(中略)・・・ 【0124】 [実施例3] 図4は,実施例3の積層構成を示す。図4が示すように,この実施例3では,先端部分ストレートシートが2枚用いられた。重複長さL1は200mmとされた。この実施例3で用いられたプリプレグが下記の表3に示される。その他は実施例1と同様にして,実施例3に係るシャフト及びクラブを得た。この実施例3の仕様が下記の表4に示される。この実施例3の評価結果が下記の表5に示される。 ・・・(中略)・・・ 【0129】 表6は,各プリプレグの仕様を示す。 【0130】 【表1】 [図:0001403606000001.jpg] ・・・(中略)・・・ 【0132】 【表3】 [図:0001403606000002.jpg] 【0133】 【表4】 [図:0001403606000003.jpg] 【0134】 【表5】 [図:0001403606000004.jpg] 【0135】 【表6】 [図:0001403606000005.jpg] ・・・(中略)・・・ 【0138】 [トルク] シャフト先端Tpから40mmまでの部分を先端治具で回転不能に固定するとともに,シャフトの後端側に位置する軸方向長さ50mmの部分をトルク付与が可能な後端治具で把持した。そして,この後端治具に13.9kgf・cmのトルクTrを作用させた。このトルク作用位置でのシャフトの捻れ角(度)が,シャフトトルクとされた。後端治具と先端治具との間の軸方向長さは825mmとされた。先端治具又は後端治具の把持によってシャフトが変形する場合,シャフトの内部に芯材などを入れて測定を行った。この測定値が上記表4に示される。」 (カ) 「【図1】 [図:0001403606000006.jpg] 【図2】 [図:0001403606000007.jpg] ・・・(中略)・・・ 【図4】 [図:0001403606000008.jpg] 」 イ 甲1の記載から把握される発明 甲1の【0124】の「実施例3では,先端部分ストレートシートが2枚用いられた。重複長さL1は200mmとされた。この実施例3で用いられたプリプレグが下記の表3に示される。その他は実施例1と同様にして,実施例3に係るシャフト及びクラブを得た。」という記載から,実施例3のシャフトに装着されるヘッドの番手は,【0122】に記載された実施例1と同様に,アプローチウェッジであると理解され,【0130】の表1及び【0132】の表3と図2及び図4から,実施例3の第1シートs1から第7シートs7,第9シートs9及び第10シートs10は,図2の実施形態における第1シートs1から第7シートs7,第8シートs8及び第9シートs9と,それぞれ,配向角度Af,プリプレグ品種,サイズ及び巻回位置が同じプリプレグシートであり,実施例3の第8シートs8が,シャフト軸方向において先端側に部分的に配置される,配向角度Afが0°の先端側部分ストレート層を形成するプリプレグシートであることが看取され,【0132】の表3及び【0135】の表6から,実施例3で第1シートs1から第10シートs10として用いられた各プリプレグの品種及び各プリプレグ中の炭素繊維の引張弾性率が把握でき,【0133】の表4から,実施例3の重複区域TBの重複長さL1が200mm,シャフト全体におけるストレート層比率(wt%)が33%,シャフト重量が115g,トルクが1.7degであることを把握できるから,前記ア(ア)ないし(カ)で摘記した記載に照らせば,甲1には,実施例3のゴルフクラブシャフト6に対応する発明として,次の発明が記載されていると認められる。 「炭素繊維と樹脂とを有する第1シートs1から第10シートs10までの10枚のプリプレグシートが巻回され且つ硬化されてなり,装着されるヘッドの番手がアプローチウェッジである,ゴルフクラブシャフト6であって, 最初に巻回される第1シートs1は,炭素繊維の引張弾性率が10tonf/mm2の日本グラファイトファイバー社製プリプレグシートE1026A-14Nからなり,当該第1シートs1によって,シャフト軸方向において先端側に部分的に配置される,配向角度Afが0°の先端側部分ストレート層である層s1が形成され, 次に巻回される第2シートs2及び第3シートs3は,巻回前に張り合わせて構成されたバイアスシートペアであり,それぞれ炭素繊維の引張弾性率が24tonf/mm2の三菱レイヨン社製プリプレグシートTR350C-125Sからなり,当該第2シートs2及び第3シートs3によって,シャフト軸方向の全体に配置される,配向角度Afが-45°の全長バイアス層である層s2,及び,シャフト軸方向の全体に配置される,配向角度Afが45°の全長バイアス層である層s3が形成され, 次に巻回される第4シートs4及び第5シートs5は,巻回前に張り合わされて構成されたバイアスシートペアであり,それぞれ炭素繊維の引張弾性率が24tonf/mm2の三菱レイヨン社製プリプレグシートTR350C-100Sからなり,当該第4シートs4及び第5シートs5によって,シャフト軸方向において先端側に部分的に配置される,配向角度Afが-45°の先端側部分バイアス層である層s4,及び,シャフト軸方向において先端側に部分的に配置される,配向角度Afが45°の先端側部分バイアス層stである層s5が形成され, 次に巻回される第6シートs6及び第7シートs7は,巻回前に張り合わされて構成されたバイアスシートペアであり,それぞれ炭素繊維の引張弾性率が24tonf/mm2の三菱レイヨン社製プリプレグシートTR350C-150Sからなり,当該第6シートs6及び第7シートs7によって,シャフト軸方向において後端側に部分的に配置される,配向角度Afが-45°の後端側部分バイアス層である層s6,及び,シャフト軸方向において後端側に部分的に配置される,配向角度Afが45°の後端側部分バイアス層sbである層s7が形成され, 次に巻回される第8シートs8は,炭素繊維の引張弾性率が24tonf/mm2の三菱レイヨン社製プリプレグシートTR350C-100Sからなり,当該第8シートs8によって,シャフト軸方向において先端側に部分的に配置される,配向角度Afが0°の先端側部分ストレート層である層s8が形成され, 次に巻回される第9シートs9は,炭素繊維の引張弾性率が24tonf/mm2の三菱レイヨン社製プリプレグシートTR350C-125Sからなり,当該第9シートs9によって,シャフト軸方向の全体に配置される,配向角度Afが0°の全長ストレート層である層s9が形成され, 最後に巻回される第10シートs10は,炭素繊維の引張弾性率が24tonf/mm2の三菱レイヨン社製プリプレグシートTR350C-125Sからなり,当該第10シートs10によって,シャフト軸方向の全体に配置される,配向角度Afが0°の全長ストレート層である層s10が形成され, シャフト軸方向において先端側部分バイアス層stが存在する区域Tと,降誕側部分バイアス層sbが存在する区域Bとは,重複長さが200mmの重複区域TBで重複し,当該重複区域TBの軸方向中心位置Pxは,シャフト軸方向中心位置Pcよりも先端側に位置しており, シャフト全長Lsが940mmで,シャフト重量が115gであり, シャフト全体におけるストレート層比率が33wt%であり, シャフト先端Tpから40mmまでの部分を先端治具で回転不能に固定するとともに,シャフトの後端側に位置する軸方向長さ50mmの部分をトルク付与が可能な後端治具で把持し,この後端治具に13.9kgf・cmのトルクTrを作用させたときのトルク作用位置でのシャフトの捩れ角であるシャフトトルクが1.7degである, ゴルフクラブシャフト6。」(以下,「甲1発明」という。) (2)本件訂正発明1について ア 対比 (ア) 甲1発明の「層1ないし層10」,「ゴルフクラブシャフト6」,「層s2及び層s3」,「層s9,層s10」,「層s4及び層s5」及び「層s6及びs7」は,本件訂正発明1の「炭素繊維強化樹脂層」,「ゴルフクラブ用シャフト」,「バイアス層」,「ストレート層」,「細径側バイアス層」及び「太径側バイアス層」に,それぞれ対応する。 (イ) 甲1発明の「層1ないし層10」(本件訂正発明1の「炭素繊維強化樹脂層」に対応する。以下,「ア 対比」欄において,「」で囲まれた甲1発明の構成に続く()中の文言は,当該甲1発明の構成に対応する本件訂正発明1の発明特定事項を表す。)は,炭素繊維と樹脂とを有するプリプレグシートである日本グラファイトファイバー社製プリプレグシートE1026A-14N,三菱レイヨン社製プリプレグシートTR350C-125S,三菱レイヨン社製プリプレグシートTR350C-100S又は三菱レイヨン社製プリプレグシートTR350C-150Sが硬化されて形成された層であるから,それぞれを「炭素繊維強化樹脂層」ということができる。 したがって,本件訂正発明1と甲1発明は,「複数の炭素繊維強化樹脂層で構成される,ゴルフクラブ用シャフト」である点で共通する。 (ウ) 甲1発明の「層2及び層3」(バイアス層)は,それぞれ炭素繊維と樹脂とを有するプリプレグシートである三菱レイヨン社製プリプレグシートTR350C-125Sからなる第2シートs2及び第3シートs3を巻回前に張り合わせて構成したバイアスシートペアにより形成された,シャフト軸方向の全体に配置される,配向角度Afが-45°の全長バイアス層,及び,シャフト軸方向の全体に配置される,配向角度Afが45°の全長バイアス層であるから,本件訂正発明1の「炭素繊維がシャフト軸方向に対して+30~+70°に配向された層と,-30~-70°に配向された層とをシャフト全長に渡って貼り合せて成るバイアス層」に相当する。 (エ) 甲1発明の「層s9,層s10」(ストレート層)は,,それぞれ炭素繊維と樹脂とを有するプリプレグシートである三菱レイヨン社製プリプレグシートTR350C-125Sからなる第9シートs10,第10シートs10により形成された,シャフト軸方向の全体に配置される,配向角度Afが0°の全長ストレート層であるから,本件訂正発明1の「炭素繊維がシャフト軸方向に配向され,シャフトの全長に渡って位置するストレート層」に相当する。 (オ) 甲1発明の「層4及び層5」(細径側バイアス層)は,それぞれ炭素繊維と樹脂とを有するプリプレグシートである三菱レイヨン社製プリプレグシートTR350C-100Sからなる第4シートs4及び第5シートs5を巻回前に張り合わせて構成したバイアスシートペアにより形成された,シャフト軸方向において先端側に部分的に配置される,配向角度Afが-45°の先端側部分バイアス層,及び,シャフト軸方向において先端側に部分的に配置される,配向角度Afが45°の先端側部分バイアス層stであるから,本件訂正発明1の「炭素繊維がシャフト軸方向に対して+30~+70°に配向された層と,-30~-70°に配向された層とを貼り合せて成る細径側バイアス層」に相当する。 (カ) 甲1発明の「層6及び層7」(太径側バイアス層)は,それぞれ炭素繊維と樹脂とを有するプリプレグシートである三菱レイヨン社製プリプレグシートTR350C-150Sからなる第6シートs6及び第7シートs7を巻回前に張り合わせて構成したバイアスシートペアにより形成された,シャフト軸方向において降端側に部分的に配置される,配向角度Afが-45°の後端側部分バイアス層,及び,シャフト軸方向において後端側に部分的に配置される,配向角度Afが45°の先端側部分バイアス層stであって,「炭素繊維がシャフト軸方向に対して+30~+70°に配向された層と,-30~-70°に配向された層とを貼り合せて成る」点で,「層4及び層5」(細径側バイアス層)と同様であるから,本件訂正発明1の「同様な太径側バイアス層」に相当する。 (キ) 甲1発明の「層2及び層3」(バイアス層),「層s9,層s10」(ストレート層),「層4及び層5」(細径側バイアス層),「層6及び層7」(太径側バイアス層)は,炭素繊維の引張弾性率が24tonf/mm2のプリプレグシートからなるところ,24tonf/mm2をGPaに換算するとおよそ235であるから,甲1発明は,本件訂正発明1の「前記バイアス層と前記ストレート層の弾性率がともに,200GPa~900GPaの強化繊維から成る繊維強化樹脂層で構成され,」なる発明特定事項に相当する構成を具備している。 (ク) 甲1発明において,シャフトトルクとは,シャフト先端Tpから40mmまでの部分を先端治具で回転不能に固定するとともに,シャフトの後端側に位置する軸方向長さ50mmの部分をトルク付与が可能な後端治具で把持し,この後端治具に13.9kgf・cmのトルクTrを作用させたときのトルク作用位置でのシャフトの捩れ角を指すところ,13.9kgf・cmを換算するとおよそ1.36N・mになるから,甲1発明の「シャフトトルク」は,本件訂正明細書の【0021】に定義された本件訂正発明1の「シャフトのトルク」に相当すると認められる。 そして,甲1発明のシャフトトルクは1.7degであるから,甲1発明は,本件訂正発明1の「シャフトのトルクをTq(°)とした場合に,1.6≦Tq≦4.0を満たし,」との発明特定事項に相当する構成を具備している。 (ケ) 前記(ア)ないし(ク)に照らせば,本件訂正発明1と甲1発明は, 「複数の炭素繊維強化樹脂層で構成されるゴルフクラブ用シャフトであって,炭素繊維がシャフト軸方向に対して+30~+70°に配向された層と,-30~-70°に配向された層とをシャフト全長に渡って貼り合せて成るバイアス層と,炭素繊維がシャフト軸方向に配向され,シャフトの全長に渡って位置するストレート層と,炭素繊維がシャフト軸方向に対して+30~+70°に配向された層と,-30~-70°に配向された層とを貼り合せて成る細径側バイアス層と,さらに同様な太径側バイアス層を有しており,前記バイアス層と前記ストレート層の弾性率がともに,200GPa~900GPaの強化繊維から成る繊維強化樹脂層で構成され,シャフトのトルクをTq(°)とした場合に,1.6≦Tq≦4.0を満たす,ゴルフクラブ用シャフト。」 である点で一致し,次の点で相違する,又は一応相違する。 相違点1: 本件訂正発明1は,ドライバー用ゴルフヘッドを装着する,ドライバー用ゴルフクラブ用シャフトであるのに対して, 甲1発明は,装着されるヘッドの番手がアプローチウェッジである,ゴルフクラブシャフト6である点。 相違点2: バイアス層の合計重量をB(g),シャフト全体に渡って位置するストレート層の合計重量をS(g)とした場合に, 本件訂正発明1では,0.5≦B/(B+S)≦0.8を満たすのに対して, 甲1発明では,0.5≦B/(B+S)≦0.8を満たすのか否かが定かでない点。 相違点3: 細径側バイアス層の重量をA(g),バイアス層の合計重量をB(g)とした場合に, 本件訂正発明1では,0.05≦A/B≦0.12を満たすのに対して, 甲1発明では,0.05≦A/B≦0.12を満たすのか否かが定かでない点。 相違点4: 細径側バイアス層の重量をA(g),太径側バイアス層の重量をC(g)とした場合に, 本件訂正発明1では,1.0≦A/C≦1.8を満たすのに対して, 甲1発明では,1.0≦A/C≦1.8を満たすのか否かが定かでない点。 イ 相違点について (ア) 少なくとも相違点1は実質的な相違点であるところ,本件訂正発明1と甲1発明の間に相違点1が存在する以上,本件訂正発明1は,甲1発明ではない。 (イ) 事案に鑑み,相違点1ないし相違点4についてあわせて検討する。 甲1発明は,アプローチウェッジ用のゴルフクラブシャフトであるところ,甲1の【0025】には,「図1は,本発明の第一実施形態に係るゴルフクラブシャフト6を備えたゴルフクラブ2を示す。ゴルフクラブ2は,ヘッド4と,シャフト6と,グリップ8と,フェラル10とを備えている。・・・(中略)・・・なおヘッド4及びグリップ8は限定されない。ヘッド4として,ウッド型ゴルフクラブヘッド,ハイブリッド型ゴルフクラブヘッド,ユーティリティ型ゴルフクラブヘッド,アイアン型ゴルフクラブヘッド,パターヘッド等が例示される。」と記載されていることから,甲1発明のゴルフクラブシャフト6を,ドライバー用のゴルフクラブシャフトとして構成すること(甲1発明において,相違点1に係る本件訂正発明1の発明特定事項に相当する構成を採用すること)自体は,当業者が適宜なし得たことといえる。 しかしながら,異なる番手のヘッド用のゴルフクラブシャフトでは,適切なシャフト全長,シャフト重量等が異なることは,技術常識であるから,甲1発明を,ドライバー用のゴルフクラブシャフトとして構成する場合には,当然のことながら,各プリプレグシートのサイズやプリプレグ品種等を調整し,甲1発明が,ドライバー用のゴルフクラブシャフトとして適切なシャフト全長やシャフト重量等を有することとなるよう全体の設計を見直すことになる。 そうすると,仮に,アプローチウェッジ用のゴルフクラブシャフトである甲1発明が,相違点2ないし4に係る本件訂正発明1の発明特定事項に相当する構成を具備していると認められるとしても,甲1発明を,ドライバー用のゴルフクラブシャフトとして設計し直した場合には,もはや当該当該ライバー用ゴルフクラブシャフが,ト相違点2ないし4に係る本件訂正発明1の発明特定事項に相当する構成を具備しているのか否かは不明であるというほかない。 また,申立人が提出した他の証拠(甲2ないし甲5)を含め,ゴルフクラブシャフトにおいて,0.5≦B/(B+S)≦0.8,0.05≦A/B≦0.12及び1.0≦A/C≦1.8を満たすよう構成する技術が,本件特許出願の出願前に当業者に知られていたことを認めるに足る証拠は見当たらない。 そうすると,甲1発明において,相違点1ないし相違点4に係る本件訂正発明1の発明特定事項に相当する構成を全て採用することは,当業者といえども容易に想到し得たことではないというべきである。 したがって,本件訂正発明1は,甲1発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではない。 ウ 小括 以上のとおりであるから,本件訂正発明1は,甲1発明ではなく,かつ,甲1発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 (3)本件訂正発明5,7について 本件訂正後の請求項5,7は,請求項1の記載を引用する形式で記載されたものであって,本件訂正発明5,7は,本件訂正発明1の発明特定事項を全て具備し,これに限定を加えたものに該当するところ,前記(2)ウで述べたとおり,本件訂正発明1が,甲1発明ではなく,かつ,甲1発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものでない以上,本件訂正発明5,7も,甲1発明ではなく,かつ,甲1発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではない。 第6 取消理由通知で採用しなかった申立ての理由について 1 取消理由通知で採用しなかった申立ての理由の概要 申立人は,特許異議申立書において,概略,次の申立ての理由を主張している(申立理由中の請求項の番号は,本件訂正前の各請求項を指している。)。 申立理由1:本件特許の請求項1ないし3,7,8に係る発明は,甲1に記載された比較例1に係る発明(以下,「甲1比較例発明」という。)に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,それらの特許は,特許法29条2項の規定に違反してされたものである。 申立理由2:本件特許の請求項1に係る発明は,甲2(特許第5964535号公報)に記載された発明及び周知技術(周知例:甲3(特開平9-234256号公報),甲4(特開2003-180890号公報),甲5(特開2009-240429号公報))に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,その特許は,特許法29条2項の規定に違反してされたものである。 申立理由3:本件特許明細書の発明の詳細な説明には,数,種類,大きさの異なる細径側バイアス層及び太径側バイアス層が,記載されているのみであって,「細径側バイアス層と,さらに同様な太径側バイアス層」は記載も示唆もされていないから,本件特許の請求項1ないし8に係る発明は,発明の詳細な説明に記載したものでなく,それらの特許は,特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 申立理由4:本件特許の請求項1に記載された「同様な太径側バイアス層」とは,何と何が同様であるのか明確でなく,どの程度同様であるのか明確でないため,本件特許の請求項1ないし8に係る発明は明確でなく,それらの特許は,特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 申立理由5:本件特許の請求項6に記載された「る請求項1に記載の」は,当該記載中の「る」が何を意味しているのか不明確であるため,本件特許の請求項6に係る発明は明確でなく,その特許は,特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 2 判断 (1)申立理由1について 甲1の【0125】に「図5は,比較例1の積層構成を示す。図5が示すように,この比較例1の積層構成は,重複長さL1は0mmとされている他は,実施例1と同じである。」と記載されていることから,甲1の記載から把握される甲1比較例発明のゴルフクラブシャフトは,装着されるヘッドの番手がアプローチウェッジであると認められる。 また,甲1の図5から,甲1比較例発明のゴルフクラブシャフトが,先端側部分ストレート層を形成する第1シートs1と,全長バイアス層を形成する第2シートs2及び第3シートs3と,先端側部分バイアス層を形成する第4シートs4及び第5シートs5と,後端側部分バイアス層を形成する第6シートs6及び第7シートs7と,全長ストレート層を形成する第8シートs8と,全長ストレート層を形成する第9シートs9の9枚のプリプレグシートにより構成されるものであることが把握でき,【0130】の表1及び【0135】の表6から,甲1比較例発明の全長バイアス層,先端側部分バイアス層,後端側部分バイアス層及び全長ストレート層を形成する各プリプレグ中の炭素繊維の引張弾性力が24tonf/mm2であることを把握でき,【0133】の表4から,甲1比較例発明のトルクが1.7degであることが看取されるから,本件訂正発明1と甲1比較例発明を対比すると,両者は,前記第5 3(2)ア(ケ)で述べた相違点1ないし相違点4と同様の点で相違し,その余の点で一致する。 そして,前記第5 3(2)イ(イ)で述べたのと同様の理由で,申立理由1の対象とされた請求項のうちの請求項1,7に対応する本件訂正発明1,7は,甲1比較例発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではない。 したがって,申立理由1によって,本件訂正発明1,7に係る特許を取り消すことはできない。 (2)申立理由2について ア 引用例 (ア)甲2 a 甲2の記載 甲2は,本件特許出願の出願前である平成28年8月3日に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となったものであるところ,当該甲2には,次の記載がある。(下線部は,後述する甲2発明の構成に特に関連する箇所を示す。) (a) 「【技術分野】 【0001】 本発明は,ゴルフクラブシャフト及びこれを備えたゴルフクラブに関する。 【背景技術】 【0002】 従来,強化繊維に熱硬化性樹脂を含浸させた複数のプリプレグを熱硬化させてなるシャフト本体を有するゴルフクラブシャフトが知られている。 ・・・(中略)・・・ 【発明が解決しようとする課題】 【0006】 従来のゴルフクラブシャフトは,これらの繊維方向が異なるプリプレグを如何に組み合わせて,所望の性質を得るかに開発の重点が置かれていた。しかし,本発明者らの鋭意研究によると,上記従来のゴルフクラブシャフトは,全長0°層と全長90°層と全長45゜層がそれぞれ違う方向の剛性に影響するので,これら各層間の境目(界面)に剛性差が生じることが避けられず,これが,打球時のヘッドスピード,ボールスピード,打出し角度,バックスピン,最大高さ,飛距離等の各種パラメータがばらついてしまう原因になることが判明した。 【0007】 本発明は,以上の問題意識に基づいて完成されたものであり,シャフト本体の層間の剛性差を小さくして打球時の各種パラメータのばらつきを抑えることができるゴルフクラブシャフト及びこれを備えたゴルフクラブを得ることを目的とする。 【課題を解決するための手段】 【0008】 本発明者らは,鋭意研究の結果,シャフト本体の全長に亘る全長層として,従来のように,0゜層,90゜層及び45゜層を組み合わせて用いる代わりに,特定角度の対をなすバイアス層だけを用いれば,層間の剛性差が小さく,しかも,曲げ剛性,潰れ剛性及び捩り剛性をバランス良く最適設定することができるという着眼に基づいて本発明を完成した。 【0009】 本発明のゴルフクラブシャフトは,強化繊維に熱硬化性樹脂を含浸させた複数のプリプレグを熱硬化させてなるシャフト本体を有するゴルフクラブシャフトにおいて,前記シャフト本体の全長に亘る全長層として,繊維方向が前記シャフト本体の長手方向に対して±(25°±3°)をなす全長バイアスプリプレグ対のみが複数対設けられていることを特徴としている。 ・・・(中略)・・・ 【発明の効果】 【0019】 本発明によれば,シャフト本体の層間の剛性差を小さくして打球時の各種パラメータのばらつきを抑えることができるゴルフクラブシャフト及びこれを備えたゴルフクラブが得られる。」 (b) 「【図面の簡単な説明】 【0020】 ・・・(中略)・・・ 【図5】比較例1によるゴルフクラブシャフトの構成を示す図である。」 (c) 「【0058】 ≪比較例1≫ 図5は,比較例1によるゴルフクラブシャフト50を示している。このゴルフクラブシャフト50は,強化繊維(ここではカーボン繊維)に熱硬化性樹脂を含浸させた複数のプリプレグを熱硬化させてなるシャフト本体50Sを有している。より具体的に,シャフト本体50Sは,テーパ状のマンドレル(図示せず)に,内層(下層)から外層(上層)に向かって順に,プリプレグ50A~50Fを巻回して熱硬化させたものである。シャフト本体50Sの最内層(最下層)には,シャフト本体50Sの先端側(長手方向の一部)に位置して当該先端側に重量を付加する金属円筒(重量付加用筒状体)Mが設けられている(埋め込まれている)。 【0059】 内層側のプリプレグ50Aと外層側のプリプレグ50Fは,繊維方向がシャフト本体50Sの長手方向(シャフト長手方向)と略平行をなす部分0°プリプレグである。内層側の部分0°プリプレグ50Aは,シャフト本体50Sの先端補強層(シャフト長手方向の一部を構成する部分層)となり,外層側の部分0°プリプレグ50Fは,シャフト本体50Sの先端側の略半分を構成する部分層(シャフト長手方向の一部を構成する部分層)となる。 【0060】 プリプレグ50B~50Eは,シャフト本体50Sの全長に亘る全長層となる全長プリプレグである。プリプレグ50B~50Eは,マンドレル(図示せず)に巻回したときに同じ巻数になるように,大径側基端部から小径側先端部に向かって狭くなる台形状に形成されている。 【0061】 プリプレグ50B,50Cは,繊維方向がシャフト長手方向に対して±45°をなす一対の全長バイアスプリプレグである。プリプレグ50D,50Eは,繊維方向がシャフト長手方向と略平行をなす全長0°プリプレグである。 【0062】 金属円筒Mを含んだシャフト総重量(約87.5g)に占める一対の全長バイアスプリプレグ50B,50Cの重量(約54.7g)の割合は約62.4%である。金属円筒Mを含まないシャフト総重量(約81.5g)に占める一対の全長バイアスプリプレグ50B,50Cの重量(約54.7g)の割合は約67.1%である。」 (d) 「【図5】 [図:0001403606000009.jpg] 」 b 甲2の記載から把握される発明 甲2の図5(前記(ア)d)から,プリプレグ50Aないし50Fのシート重量(g)が,それぞれ1.68,27.33,27.33,8.08,15.79,1.27であることが看取されるから,前記a(a)ないし(d)に摘記した甲2の記載から,甲2には,比較例1として,次の発明が記載されていると認められる。 「内層から外層に向かって順に,カーボン繊維に熱硬化性樹脂を含浸させたプリプレグ50A~50Fを巻回して熱硬化させてなるシャフト本体50Sを有し,当該シャフト本体50Sの最内層に,前記シャフト本体50Sの先端側に位置して当該先端側に重量を付加する金属円筒Mが埋め込まれているゴルフクラブシャフト50であって, 前記プリプレグ50Aは,シート重量が1.68gで,繊維方向がシャフト長手方向と略平行をなす部分0°プリプレグであり, 前記プリプレグ50B,50Cは,シート重量がいずれも27.33gで,繊維方向がシャフト長手方向に対して±45°をなす一対の全長バイアスプリプレグであり, 前記プリプレグ50D,50Eは,シート重量がそれぞれ8.08g,15.79gで,繊維方向がシャフト長手方向と略平行をなす全長0°プリプレグであり, 前記プリプレグ50Fは,シート重量が1.27gで,繊維方向がシャフト長手方向と略平行をなす部分0°プリプレグである, ゴルフクラブシャフト。」(以下,「甲2発明」という。) (イ)周知の技術事項 a 甲3の記載 甲3は,本件特許出願の出願前である平成9年9月9日に頒布された刊行物であるところ,当該甲3には,次の記載がある。(下線部は,後述する「周知技術」の構成に特に関連する箇所を示す。) (a) 「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は,ショット時におけるボールの飛距離増大及び方向性向上を図ることができるゴルフクラブ用シャフトに関する。」 (b) 「【0019】 【実施例】本発明のFRP製ゴルフクラブ用シャフト(長さ1000mm)を製造した。この場合,図2に示すように,カーボン繊維を用いたプリプレグ4,6,8,30,40,50,60,70,10,12をこの順で(図中上から順に)マンドレル2に巻き付けた後,これらプリプレグを加熱硬化させた。なお,プリプレグ中に示した矢印は繊維配向方向を示す。 【0020】プリプレグ4,6,8,10,12,14はシャフトの静的諸元を得るための基本的な繊維強化材構成をなすものであり,プリプレグ30,40,50,60,70は上記基本的な繊維強化材構成に対して別個に付加する動的挙動調整層を構成する。プリプレグ30,40,50,60は,シャフト手元部分及び先端部分のねじり剛性分布を形成するためのもので,その繊維配向角はシャフト軸線に対して35~45度である。プリプレグ70は,シャフト中央部分の曲げ剛性分布を形成するためのもので,その繊維配向角度はシャフト軸方向に対して0度である。なお,プリプレグ70だけを巻くとシャフトがいわゆる中太りとなるが,本例のシャフトではその両側方にプリプレグ30,40,50,60を巻いているので,シャフトは滑らかなテーパ状となっている。 【0021】図3に本例のシャフトの外径分布,図4に本例のシャフトの部分計測法によるトルク値及び先端固定法によるトルク値,図5に本例のシャフトのEI値分布を示す。部分計測法は,前述した先端側固定により200mm間隔毎に測定する方法を用いた。先端固定法によるトルク値は,シャフトの最先端箇所をチャック等で回転しないように固定し,この固定箇所から手元方向に200,400,600,800,1000mm離れた箇所でそれぞれシャフトに一定の回転力を加え,その箇所のトルク値を測定した。この場合,シャフトに加える回転力は,時計回り方向への1ポンドの回転力とした。 【0022】本例のシャフトを用いてゴルフクラブを作製し,ボールを打撃してシャフトの性能を調べた。その結果,本例のシャフトは,スイングに影響を与えることなくアドレス時に構えた位置にクラブフェース面を正確に戻すことを容易にし,ボールの飛距離増大及び方向性向上を図ることができるものであった。」 (c) 「【0023】 【発明の効果】本発明のゴルフクラブ用シャフトによれば,シャフトの動的挙動を改善してシャフトの静的諸元を動的なスイング過程でより有効に機能させることが可能となり,そのためスイングに影響を与えることなくアドレス時に構えた位置にクラブフェース面を正確に戻すことを容易にして,ボールの飛距離増大及び方向性向上を図ることができるものである。」 (d) 「【図面の簡単な説明】 ・・・(中略)・・・ 【図2】本発明の一実施例に係るゴルフクラブ用シャフトの製造工程を示す図である。 ・・・(中略)・・・ 【図2】 [図:0001403606000010.jpg] 」 b 甲4の記載 甲4は,本件特許出願の出願前である平成15年7月2日に頒布された刊行物であるところ,当該甲4には,次の記載がある。(下線部は,後述する「周知技術」の構成に特に関連する箇所を示す。) (a) 「【0001】【発明の属する技術分野】本発明は,ゴルフクラブシャフトに関し,詳しくは,繊維強化樹脂からなる軽量ゴルフクラブシャフトの打撃時における振動減衰性,及びフィーリングを改良するものである。」 (b) 「【0034】以下,本発明のゴルフクラブシャフトの実施例,比較例について詳述する。下記の表1に示すように中間アングル補強層,TIP側及びBUTT側ストレート補強層の繊維強化プリプレグの各項目値,及びEI値,GI値を設定し,本発明の実施例及び比較例のゴルフクラブシャフトを作製した。いずれもシャフト長さは1170mm,シャフト重量は55gとした。 【0035】 【表1】 [図:0001403606000011.jpg] ・・・(中略)・・・ 【0037】(比較例1)中間アングル補強層の繊維強化プリプレグの繊維配向角度を15°,強化繊維の引張弾性率を24tonf/mm2とした。その他は実施例1と同様とした。 (比較例2)中間アングル補強層の繊維強化プリプレグを,シャフト全長の1/2の位置からシャフト全長の±4%の範囲内に配置した。TIP側及びBUTT側には,ストレート層ではなく,繊維配向角度が20°,強化繊維の引張弾性率が24tonf/mm2である補強層の繊維強化プリプレグを配置した。その他は実施例1と同様とした。 (比較例3)中間アングル補強層の繊維強化プリプレグの繊維配向角度を15°,強化繊維の引張弾性率を24tonf/mm2とした。TIP側及びBUTT側には,ストレート層ではなく,繊維配向角度が20°,強化繊維の引張弾性率が24tonf/mm2である補強層の繊維強化プリプレグを配置した。その他は実施例1と同様とした。」 (c) 「【0041】(GI(ねじれ剛性)の測定方法)丸棒のねじり剛性の算出式より,剛性GIp,ねじりモーメントMt,ねじり角φ,比ねじり角θとし,以下のようにして,ねじり剛性を表す式を導出した。 Ip=π/32(d24-d14) φ=32Mtl/πGd4→πGd4=32Mtl/φ θ=Mt/GIp =32Mt/πGd4 よって, GIp=(πGd4/32Mt)Mt =(32Mtl/32Mtφ)Mt =(1/φ)Mt GI=支点間距離(mm)×ねじりモーメント(kg・mm)/ねじれ角度(度) 具体的には,図4に示すように,チャック70とチャック71との距離を適宜調整し,エアチャック方式のチャック70,71にて,シャフト1の所定位置2箇所を1.5kgf/cm2の圧力でチャックしシャフトを固定した。シャフト1のBUTT側におもりをかけて,太径固定部に13.9kgf・cmのトルクを加え,シャフトをねじった時のねじれ角度を求め,ねじれ剛性値を算出した。 【0042】(トルクの測定方法)上記トルク(deg)は,図5に示すように,シャフトのヘッド側先端から40mmを固定し,ヘッド側先端から865mmの点に136.3N・cm(13.9kgf・cm)のトルクを加え,その時の捩れ角度を測定したものである。 【0043】(飛距離の評価)H/S(ヘッドスピード)40~45m/sのプレーヤー50人に試打してもらった。200ヤード以上の距離を飛んだ人が6割以上いる場合「◎」,200ヤード以上の距離を飛んだ人が4割以上6割未満の場合「O」,200ヤード以上の距離を飛んだ人が4割未満の場合「×」の評価とした。 【0044】(コントロール性の評価)ハンディキャップが5~20のゴルファー10名によりテストを行った。コントロール性が最も良いと感じたものを「◎」,コントロール性が良いと感じたものを「O」,コントロール性が悪いと感じたものを「×」として,上記4段階で評価し,最も多い評価を採用した。」 c 甲5の記載 甲5は,本件特許出願の出願前である平成21年10月22日に頒布された刊行物であるところ,当該甲5には,次の記載がある。(下線部は,後述する「周知技術」の構成に特に関連する箇所を示す。) (a) 「【技術分野】 【0001】 本発明は,強化繊維に合成樹脂を含浸した繊維強化プリプレグを巻回して形成したゴルフクラブシャフトに関する。」 (b) 「【0030】 本体層のバイアス層は,前部バイアス層と後部バイアス層とで形成してある。前部バイアス層は,芯金20の軸芯に対して強化繊維31を+35度から+55度の範囲の傾斜方向に配向させた第1プリプレグ30pと,強化繊維33を-35から-55度の範囲の傾斜方向に配向させた第2プリプレグ32pとを,先縁部30a,32aが幅方向すなわち芯金20の軸芯に対して直交する方向に,例えば10~20mmずらせた状態で重ね合わせた前部プリプレグを,前部テーパ部22および中間テーパ部26上に巻回して形成される。同様に,後部バイアス層は,芯金20の軸芯に対して強化繊維35を+35度から+55度の範囲の傾斜方向に配向させた第3プリプレグ34pと,強化繊維37を-35から-55度の範囲の傾斜方向に配向させた第4プリプレグ36pとを,先縁部34a,36aが幅方向に,例えば10~20mmずらせた状態で重ね合わせた後部プリプレグを,中間テーパ部26および後部テーパ部24上に巻回して形成してある。」 (c) 「【0052】 図4の配置例では,前部プリプレグ30p,32pは,前部テーパ部22から中間テーパ部26の一部に至る長さに形成され,後部プリプレグ34p,36pは,後部テーパ部24から中間テーパ部26の一部に至る長さに形成される。これらの前部および後部プリプレグ30p,32p,34p,36pは,巻き始め側から巻き終わり側の幅方向に沿って長さを次第に短く形成してある。このため,中間テーパ部26上では,長さ方向の一部においてのみ重なり,また,中間テーパ部26上に積層される層の数は巻回数の合計よりも少なくなる。この中間テーパ部26上に,前部プリプレグ30p,32pおよび後部プリプレグ34p,36pよりも軸方向長さが短く,かつ中間テーパ部26の軸方向長さよりも長い補助プリプレグ50p,52pを巻回してある。」 (d) 「【図面の簡単な説明】 【0075】 ・・・(中略)・・・ 【図4】プリプレグの他の配置例を示す説明図。 ・・・(中略)・・・ 【図4】 [図:0001403606000012.jpg] 」 d 甲3ないし甲5の記載から把握される周知の技術事項 前記a(a)ないし(d),前記b(a)ないし(c),前記c(a)ないし(d)で摘記した甲3ないし甲5の記載から,次の技術的事項が本件特許出願の出願前に周知であったと認められる。 「複数の炭素繊維強化樹脂層で構成されるゴルフクラブ用シャフトにおいて,細径側バイアス層と太径側バイアス層とを設ける技術。」(以下,「周知技術」という。) イ 判断 (ア)対比 本件訂正発明1と甲2発明を対比すると,甲2発明の「ゴルフクラブシャフト」,「カーボン繊維」,「『繊維方向がシャフト長手方向に対して±45°をなす一対の全長バイアスプリプレグ』である『プリプレグ50B,50C』」及び「『繊維方向がシャフト長手方向と略平行をなす全長0°プリプレグ』である『プリプレグ50D,50E』」が,本件訂正発明1の「ゴルフクラブ用シャフト」,「炭素繊維」,「炭素繊維がシャフト軸方向に対して+30~+70°に配向された層と,-30~-70°に配向された層とをシャフト全長に渡って貼り合せて成るバイアス層」及び「炭素繊維がシャフト軸方向に配向され,シャフトの全長に渡って位置するストレート層」にそれぞれ相当し,甲2発明における各プリプレグを熱硬化させてなる各層が,本件訂正発明1の「炭素繊維強化樹脂層」に相当するから,両者は, 「複数の炭素繊維強化樹脂層で構成されるゴルフクラブ用シャフトであって,炭素繊維がシャフト軸方向に対して+30~+70°に配向された層と,-30~-70°に配向された層とをシャフト全長に渡って貼り合せて成るバイアス層と,炭素繊維がシャフト軸方向に配向され,シャフトの全長に渡って位置するストレート層を有している,ゴルフクラブ用シャフト。」 である点で一致し,次の点で相違する。 相違点1: 本件訂正発明1は,ドライバー用ゴルフヘッドを装着する,ドライバー用ゴルフクラブ用シャフトであるのに対して, 甲2発明のゴルフクラブシャフトは,装着されるヘッドの番手が定かでない点。 相違点2: 本件訂正発明1は,炭素繊維がシャフト軸方向に対して+30~+70°に配向された層と,-30~-70°に配向された層とを貼り合せて成る細径側バイアス層と,さらに同様な太径側バイアス層とを有するのに対して, 甲2発明は,このような細径側バイアス層及び太径側バイアス層を有していない点。 相違点3: 本件訂正発明1では,バイアス層,細径側バイアス層及び太径側バイアス層とストレート層の弾性率がともに,200GPa~900GPaの強化繊維から成る繊維強化樹脂層で構成されているのに対して, 甲2発明では,全長バイアスプリプレグと全長0°プリプレグが含有するカーボン繊維の弾性率は特定されておらず,細径側バイアス層及び太径側バイアス層に相当する層は有していない点。 相違点4: シャフトのトルクをTq(°)とした場合に, 本件訂正発明は,1.6≦Tq≦4.0を満たすのに対して, 甲2発明では,Tqの値は特定されていない点。 相違点5: 細径側バイアス層の重量をA(g),バイアス層,細径側バイアス層及び太径側バイアス層の合計重量をB(g),太径側バイアス層の重量をC(g),シャフト全体に渡って位置するストレート層の合計重量をS(g)とした場合に, 本件訂正発明1は,0.5≦B/(B+S)≦0.8,0.05≦A/B≦0.12及び1.0≦A/C≦1.8をいずれも満たすのに対して, 甲2発明は,細径側バイアス層及び太径側バイアス層を有していないため,本件訂正発明1のような各不等式を満たすとはいえない点。 (イ)相違点5について 事案に鑑み,まず相違点5について検討する。 炭素繊維強化樹脂層として,バイアス層,細径側バイアス層,太径側バイアス層及びストレート層を有するゴルフクラブ用シャフトにおいて,細径側バイアス層の重量をA(g),バイアス層,細径側バイアス層及び太径側バイアス層の合計重量をB(g),太径側バイアス層の重量をC(g),シャフト全体に渡って位置するストレート層の合計重量をS(g)とした場合に,0.5≦B/(B+S)≦0.8,0.05≦A/B≦0.12及び1.0≦A/C≦1.8をいずれも満たすように,構成する技術が,本件特許出願の出願前に,当業者に知られていたことを示す証拠は,申立人が提出した甲1,甲3ないし甲5を含め,見当たらないから,たとえ,甲2発明に,前記ア(イ)dで認定した周知技術を適用し,細径側バイアス層と太径側バイアス層を設けることが,当業者が適宜なし得たことといえたとしても,相違点5に係る本件訂正発明1の発明特定事項に相当する構成を採用することが,容易に想到し得たことということはできない。 したがって,他の相違点について,検討するまでもなく,本件訂正発明1は,甲2発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものではない。 ウ 小括 以上のとおりであるから,申立理由2によって,本件訂正発明1に係る特許を取り消すことはできない。 (3)申立理由3及び申立理由4について ア 本件訂正後の請求項1には,「炭素繊維がシャフト軸方向に対して+30~+70°に配向された層と,-30~-70°に配向された層とを貼り合せて成る細径側バイアス層と,さらに同様な太径側バイアス層を有しており,」と記載されているところ,当該岸中の「さらに同様な太径側バイアス層」が,「炭素繊維がシャフト軸方向に対して+30~+70°に配向された層と,-30~-70°に配向された層とを貼り合せて成る細径側バイアス層」と同様な構成を有する太径側バイアス層を指していること,すなわち,「炭素繊維がシャフト軸方向に対して+30~+70°に配向された層と,-30~-70°に配向された層とを貼り合せて成る」太径側バイアス層を指していることは,文脈上明らかである。 したがって,本件訂正後の請求項1のさらに同様な太径側バイアス層」なる記載が,第三者が特許に係る発明の内容を把握することを困難にするものとはいえず,第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確なものとはいえないから,本件訂正発明1,5,7は明確である。 よって,申立理由4によって,本件訂正発明1,5,7に係る特許を取り消すことはできない。 イ 本件訂正明細書の発明の詳細な説明には,【0011】に「本発明の繊維強化プラスチック製ゴルフクラブ用シャフトは,管状体長手方向に対する強化繊維の巻角度が30~70°の範囲内で,正逆両方向であるバイアス層と,管状体長手方向に対する強化繊維の巻角度が-5°~+5°の範囲内であるストレート層から構成される繊維強化プラスチック製ゴルフクラブ用シャフトである。」と記載され,【0024】に「実施例1におけるパターン1,3,5,6,7の2枚のプリプレグは,マンドレル10の主軸に対する強化繊維の巻角度は45°で,正逆両方向であるバイアス層であり,」と記載され,図2から,パターン6がゴルフクラブ用シャフトの太径側に部分的に位置していること,すなわち太径側バイアス層であることが看取されるから,本件訂正明細書の発明の詳細な説明には,「炭素繊維がシャフト軸方向に対して+30~+70°に配向された層と,-30~-70°に配向された層とを貼り合せて成る太径側バイアス層」,すなわち「さらに同様な太径側バイアス層」が記載されている。 したがって,本件訂正発明1,5,7は,発明の詳細な説明に記載したものであるから,申立理由3によって,本件訂正発明1,5,7に係る特許を取り消すことはできない。 (4)申立理由5について 本件訂正によって,請求項6は削除された。 したがって,申立理由5については,申立ての対象が存在しないものとなった。 第7 むすび 前記第5 2のとおりであるから,本件訂正後の請求項1,5,7に係る特許は,特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 したがって,本件訂正後の請求項1,5,7に係る特許は,同法113条4号に該当し,取り消されるべきものである。 また,請求項2ないし4,6,8は,本件訂正によって削除された。これにより,申立人による請求項2ないし4,6,8に係る特許異議の申立ては,申立ての対象が存在しないものとなったため,同法120条の8第1項で準用する同法135条の規定により却下する。 よって,結論のとおり決定する。

審決本文(J-PlatPat)

J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。

J-PlatPat 審決検索を開く
2021-700556

番号・当事者・条文・審決分類・商標の称呼が一致(または近い)審決を機械的に集めた候補です。判断内容は各審決の本文でご確認ください。

同じ当事者の審決443件(三菱ケミカル株式会社、伊阪 浩)
  • 2026-700192異議申立 / 2026-05-26 / 維持レゾール型フェノール樹脂、接着剤、及びレゾール型フェノール樹脂の製造方法
    同じ当事者: 三菱ケミカル株式会社
  • 2025-700431異議申立 / 2026-05-20 / 訂正認容硬化膜及び積層体、並びにこれらの製造方法
    同じ当事者: 三菱ケミカル株式会社
  • 2025-700837異議申立 / 2026-05-18 / 維持シリカゾルの製造方法及びシリカゾル中の中間生成物の抑制方法
    同じ当事者: 三菱ケミカル株式会社
  • 2026-700139異議申立 / 2026-04-24 / 維持ポリエステルフィルム
    同じ当事者: 三菱ケミカル株式会社
  • 2024-701094異議申立 / 2026-04-17 / 訂正認容積層体の製造方法
    同じ当事者: 三菱ケミカル株式会社
同じ論点・分野の審決(審決分類)177件(113・A63B、121・A63B、537・A63B ほか)
  • 2022-701020異議申立 / 2024-10-11 / 訂正認容ゴルフボール
    共通の審決分類: 113・A63B、121・A63B、537・A63B
  • 2022-700401異議申立 / 2023-06-14 / 訂正認容ゴルフクラブヘッド、及びゴルフクラブヘッドの製造方法
    共通の審決分類: 113・A63B、121・A63B、537・A63B
  • 2021-700877異議申立 / 2023-05-16 / 維持野球ボール
    共通の審決分類: 113・A63B、121・A63B、537・A63B
  • 2021-700976異議申立 / 2022-12-07 / 請求成立(取消)マルチピースソリッドゴルフボール
    共通の審決分類: 113・A63B、121・A63B、537・A63B
  • 2021-700797異議申立 / 2022-06-03 / 維持剣道用足用サポータ
    共通の審決分類: 113・A63B、121・A63B、537・A63B

メモ・タグ(非公開)

あなただけに表示されます。審決本文の公開範囲は変わりません。

メモとタグは Pro の機能です。ログイン/Proでメモを保存