特許異議申立
2022-701020
ゴルフボール
- 審判番号
- 2022-701020
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2017-254451
- 登録番号
- 7055632
- 請求日
- 2022年10月17日
- 審決日
- 2024年10月11日
- 公報発行日
- 2025年01月31日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】ブリヂストンスポーツ株式会社
- 【権利者代理人】奥山 尚一
- 【権利者代理人】中村 綾子
- 【権利者代理人】森本 聡二
- 【異議申立人】平川 弘子
- 審判長/審判官
- 審判長 殿川 雅也
- 審判官 道祖土 新吾
- 審判官 門 良成
- 分類
- P1651.113-YAA(A63B) / P1651.121-YAA(A63B) / P1651.536-YAA(A63B) / P1651.537-YAA(A63B)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の8第1項、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第5項、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第4項、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7055632号発明「ゴルフボール」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7055632号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1~6]について訂正することを認める。
特許第7055632号の請求項1~5に係る特許を維持する。
特許第7055632号の請求項6に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第7055632号の請求項1~6に係る特許についての出願は、平成29年12月28日に出願され、令和4年4月8日にその特許権の設定登録がされ、同年同月18日に特許掲載公報が発行された。
その後、その特許について、同年10月17日に特許異議申立人 平川弘子(以下「特許異議申立人」という。)により請求項1~6に対して特許異議の申立てがされ、同年12月27日付けで取消理由が通知され、令和5年3月6日に特許権者より訂正請求がされるとともに意見書が提出され、同年5月9日付けで訂正拒絶理由が通知され、同年6月8日に手続補正書及び意見書が提出され、同年7月5日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、同年8月23日に特許権者より訂正請求がされるとともに意見書が提出され、同年10月24日に特許異議申立人より意見書が提出され、令和6年2月14日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、同年4月17日に特許権者より訂正請求(以下「本件訂正請求」といい、また、本件訂正請求によりなされる訂正を、以下「本件訂正」という。)がされるとともに意見書が提出され、同年4月24日付けで特許法第120条の5第5項に基づく訂正請求があった旨の通知(以下「通知書」という。)を特許異議申立人に対して行ったところ、特許異議申立人から応答はなかった。
なお、令和5年3月6日にされた訂正請求及び令和5年8月23日にされた訂正請求は、特許法第120条の5第7項の規定により、取下げられたものとみなす。
第2 本件訂正請求による訂正の適否
1 訂正請求の趣旨
本件訂正請求による本件訂正は、同日に提出された訂正請求書の記載からみて、その請求の趣旨を「特許第7055632号の明細書、特許請求の範囲を本訂正請求書に添付した訂正明細書、訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~6について訂正することを求める。」とするものである。
また、本件特許の願書に添付された明細書、特許請求の範囲及び図面(特許掲載公報に記載されたものであって、本件訂正請求による訂正前のもの)について言及する際には、以下において、それぞれ、「本件特許明細書」、「本件特許請求の範囲」、「本件特許図面」といい、これらをまとめて「本件特許明細書等」という。
2 訂正の内容
本件訂正の内容は以下のとおりである(下線は当審で付した。以下同様。)。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「-130μN以下の表面力を有する材料から形成されている塗膜層」と記載されているのを、「-180μNまたは-140μNから-130μNの表面力を有する材料から形成されている塗膜層」に訂正する。
請求項1の記載を引用する訂正後の請求項2~5も同様に訂正する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に「前記塗膜層を形成する材料が、ポリオールとポリイソシアネートとからなるウレタン塗料を含有し、前記ポリオールが、前記塗膜層が-140μNから-130μNの表面力を有する材料から形成されている場合、ポリエステルポリオールであり、前記塗膜層が-180μNの表面力を有する材料から形成されている場合、ポリカーボネートポリオールであり、前記塗膜層を形成する材料が、前記ポリオールがポリエステルポリオールの場合、フルオロポリマー化合物を、前記塗膜層を形成する材料中の樹脂成分100質量部に対して、0.5質量部以下で含有するか、又はフルオロポリマー化合物を含有せず、前記ポリオールがポリカーボネートポリオールの場合、フルオロポリマー化合物を含有せず、」との記載を加える訂正をする。
請求項1の記載を引用する訂正後の請求項2~5も同様に訂正する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項1に記載の「φ30mm×厚さ5mmの寸法の樹脂板の全面に厚さ15μmの塗膜層を形成したもの又は」を削除する訂正をする。
請求項1の記載を引用する請求項2~5も同様に訂正する。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項2に「前記塗膜層を形成する材料が、フルオロポリマー化合物を、前記塗膜層を形成する材料中の樹脂成分100質量部に対して、1.0質量部以下で含有する」と記載されているのを、「前記塗膜層を形成する材料が、前記フルオロポリマー化合物を、前記塗膜層を形成する材料中の樹脂成分100質量部に対して、0.5質量部以下で含有するとともに、前記ポリエステルポリオールとして、重量平均分子量(Mw)が異なるポリエステルポリオール(A)とポリエステルポリオール(B)との組み合わせを含有し、前記ポリエステルポリオール(A)のMwが28,000であり、前記ポリエステルポリオール(B)のMwが1,000である」に訂正する。
請求項2の記載を引用する請求項3~5も同様に訂正する。
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項3に「前記カバーが、ショアDで60以下の硬度を有する材料で形成されている請求項1又は2に記載のゴルフボール」と記載されているのを、「前記カバーが、前記ポリオールがポリエステルポリオールの場合、ショアDで41~47の硬度を有する材料で形成されており、前記ポリオールがポリカーボネートポリオールの場合、ショアDで41の硬度を有する材料で形成されている請求項1に記載のゴルフボール」に訂正する。
請求項3の記載を引用する請求項4及び5も同様に訂正する。
(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項4に「前記塗膜層を形成する材料が、70%以上の弾性回復率を有する請求項1~3のいずれか一項に記載のゴルフボール」と記載されているのを、「前記塗膜層を形成する材料が、前記ポリオールがポリエステルポリオールの場合、70%から80%の弾性回復率を有し、前記ポリオールがポリカーボネートポリオールの場合、80%の弾性回復率を有する請求項1又は3に記載のゴルフボール。」に訂正する
請求項4の記載を引用する請求項5も同様に訂正する。
(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項6を削除する。
(8)訂正事項8
明細書の段落【0055】に「実施例7を除き」と記載されているのを、「実施例6を除き」に訂正する。
3 訂正の適否について当審の判断
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的について
訂正事項1は、請求項1の「ゴルフボール」における発明特定事項である「塗膜層」について、当該「塗膜層」を形成する材料の「表面力」の数値範囲を「-180μNまたは-140μNから-130μN」に限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないこと
上記アのとおり、訂正事項1は、「塗膜層」について減縮する訂正であって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「明細書等」という。)に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項1について、明細書等には、段落【0051】に
「【表1】
[図:0001418184000001.jpg]
」
と、記載されているから、当該訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内でするものであって、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。
(2)訂正事項2について
ア 訂正の目的について
訂正事項2は、請求項1の「ゴルフボール」における発明特定事項である「塗膜層」について、当該「塗膜層」を形成する材料を特定するとともに、前記「材料」のうちの「フルオロポリマー化合物」について、その含有量を特定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないこと
上記アのとおり、訂正事項2は、「塗膜層」について減縮する訂正であって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。
ウ 明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項2について、明細書等には、
「【0034】
このような表面力および弾性回復率を有する材料としては、例えば、主剤であるポリオールと硬化剤であるポリイソシアネートとからなるウレタン塗料や、ゴム系塗料などの塗料樹脂を主成分として使用することができる。また、塗膜層30を形成する材料には、上記の主成分の他に、添加剤として、シリコーンワックス等の低表面エネルギー組成物を含有してもよい。各成分について、以下に説明する。
【0035】
ポリオールとしては、これに限定されないが、ポリカーボネートポリオールや、ポリエステルポリオールを用いることが好ましく、2種類のポリエステルポリオール、すなわち、ポリエステルポリオール(A)とポリエステルポリオール(B)とを用いてもよい。これらの2種類のポリエステルポリオールを用いる場合は、重量平均分子量(Mw)が異なるものであり、(A)成分の重量平均分子量(Mw)が20,000~30,000であり、且つ、(B)成分の重量平均分子量(Mw)が800~1,500であることが好適である。(A)成分の重量平均分子量(Mw)は22,000~29,000がより好ましく、23,000~28,000が更に好ましい。(B)成分の重量平均分子量(Mw)は900~1,200がより好ましく、1,000~1,100が更に好ましい。
【0036】
ポリエステルポリオールは、ポリオールと多塩基酸との重縮合により得られる。このポリオールとしては、例えば、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ヘキシレングリコール、ジメチロールヘプタン、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のジオール類、トリオール、テトラオール、脂環構造を有するポリオールが挙げられる。多塩基酸としては、例えば、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ダイマー酸等の脂肪族ジカルボン酸、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸等の脂肪族不飽和ジカルボン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸等の芳香族多価カルボン酸、テトラヒドロフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、エンドメチレンテトラヒドロフタル酸等の脂環構造を有するジカルボン酸、トリス-2-カルボキシエチルイソシアヌレートが挙げられる。特に、(A)成分のポリエステルポリオールとしては、樹脂骨格に環状構造が導入されたポリエステルポリオールを採用することができ、例えば、シクロヘキサンジメタノール等の脂環構造を有するポリオールと多塩基酸との重縮合、或いは、脂環構造を有するポリオールとジオール類又はトリオールと多塩基酸との重縮合により得られるポリエステルポリオールが挙げられる。一方、(B)成分のポリエステルポリオールとしては、多分岐構造を有するポリエステルポリオールを採用することができ、例えば、東ソー社製の「NIPPOLAN 800」等の枝分かれ構造を有するポリエステルポリオールが挙げられる。
【0037】
また、上述したようなポリエステルポリオールを用いた場合、主剤全体の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは13,000~23,000であり、より好ましくは15,000~22,000である。また、主剤全体の数平均分子量(Mn)は、好ましくは1,100~2,000であり、より好ましくは1,300~1,850である。これらの平均分子量(Mw及びMn)が上記範囲を逸脱すると、塗膜の耐摩耗性が低下するおそれがある。なお、重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)は、示差屈折率計検出によるゲルパーミェーションクロマトグラフィー(以下、GPCと略称する)測定による測定値(ポリスチレン換算値)である。2種類のポリエステルポリオールを用いた場合も主剤全体のMwとMnは上述した範囲である。
【0038】
上記2種類のポリエステルポリオール(A)、(B)成分の配合量は、特に限定されないが、(A)成分の配合量は、溶剤も含む主剤全量に対して20~30質量%であり、(B)成分の配合量が主剤全量に対して2~18質量%であることが好ましい。」
「【0044】
主成分に加えて任意に添加剤として材料に含有することができる低表面エネルギー組成物としては、これに限定されないが、例えば、変性または機能化されたシリコーン及びシロキサンポリマー、並びにフルオロポリマー化合物などがある。シリコーン及びシロキサンポリマーとしては、これに限定されないが、ポリジメチルシロキサン、ポリメチルフェニルシロキサン、ポリエチルフェニルシロキサン、ポリメチルシクロヘキシルシロキサン、ポリメチルブチルシロキサン、ポ メチルエチルシロキサン、ポリブチルフェニルシロキサン、ポリジフェニルシロキサン、ポリメチルヘキシルシロキサン、及びカルボニル末端シロキサンがある。また、フルオロポリマー化合物としては、これに限定されないが、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)がある。変性または機能化としては、ポリシロキサン骨格の側鎖又は末端に有機基を導入したもの、ポリシロキサンと、アクリル系重合体、ポリエーテル、またはポリカプロラクトン等とを共重合したポリシロキサンブロック共重合体もしくはポリシロキサングラフト共重合体、または、これらポリシロキサンブロック共重合体もしくはポリシロキサングラフト共重合体の側鎖又は末端に有機基を導入したものなどを挙げることができる。ポリシロキサン骨格、ポリシロキサンブロック、または側鎖としてのポリシロキサンは、直鎖状であることが好ましい。有機基としては、例えば、ヒドロキシ基、アミノ基、エポキシ基、メルカプト基、カルビノール基などを挙げることができる。このような低表面エネルギー組成物としては、例えば、市販されているシリコーンワックス等を用いることができる。
【0045】
低表面エネルギー組成物は、任意の成分であって、例えば、主成分としてウレタン塗料を用いる場合、主剤に添加して使用することが好ましい。低表面エネルギー組成物は、有機溶剤が揮発、除去されて形成された塗膜層30内に残存し、塗膜層30の表面力を高める方向に影響を与えることから、低表面エネルギー組成物を添加する場合は、塗膜層30を構成する樹脂成分100質量部に対して、1質量部以下が好ましく、0.5質量部以下がより好ましく、0.1質量部以下が更に好ましい。」
及び上記段落【0051】「【表1】」の実施例1~7のとおり記載されているから、当該訂正事項2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内でするものであって、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。
(3)訂正事項3について
ア 訂正の目的について
訂正事項3は、請求項1の「ゴルフボール」における発明特定事項である「表面力測定装置で測定」する「サンプル」となる選択肢の一つを削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないこと
上記アのとおり、訂正事項3は、「表面力測定装置」で測定される「サンプル」となる選択肢の一つを削除するものであって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。
ウ 明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項3は、「表面力測定装置」で測定される「サンプル」となる選択肢の一つを削除するものであって、明細書等に記載した事項の範囲内においてする訂正である。
よって、訂正事項3は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものである。
(4)訂正事項4について
ア 訂正の目的について
訂正事項4は、請求項2の「ゴルフボール」における発明特定事項である「塗膜層」を形成する材料が含有する「ポリオール」が、「ポリエステルポリオール」である場合において、当該「ポリエステルポリオール」が異なる種類の「ポリエステルポリオール」の組み合わせを含有すること、及びそれぞれの重量平均分子量(Mw)を特定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないこと
上記アのとおり、訂正事項4は、「塗膜層」を形成する材料及びその重量平均分子量(Mw)について減縮する訂正であって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。
ウ 明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項4について、明細書等には、
「【0052】
表1中の主剤のポリオールAとしては、以下の方法によって合成したポリエステルポリオールを用いた。環流冷却管、滴下漏斗、ガス導入管及び温度計を備えた反応装置に、トリメチロールプロパン140質量部、エチレングリコール95質量部、アジピン酸157質量部、1,4-シクロヘキサンジメタノール58質量部を仕込み、撹拌しながら200~240℃まで昇温させ、5時間加熱(反応)させた。その後、酸価4、水酸基価170、重量平均分子量(Mw)28,000のポリエステルポリオールを得た。
【0053】
表1中の主剤のポリオールBとしては、東ソー社製の飽和脂肪族ポリエステルポリオールである商品名NIPPOLAN800(重量平均分子量(Mw)1,000、固形分100%)を用いた。そして、表1中の配合割合となるように、上記合成したポリオールA及びポリオールBを、有機溶剤として酢酸ブチルで溶解して主剤を調製した。」
及び上記段落【0051】「【表1】」の実施例1~5及び7のとおり記載されているから、当該訂正事項4は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内でするものであって、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。
(5)訂正事項5について
ア 訂正の目的について
訂正事項5は、請求項3の「ゴルフボール」における発明特定事項である「カバー」を形成する材料の「硬度」の数値範囲を限定したものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないこと
上記アのとおり、訂正事項5は、「カバー」について減縮する訂正であって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。
ウ 明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項5について、明細書等には、
「【0026】
カバー20の硬度は、これに限定されないが、上限として、ショアDにて、約60以下が好ましく、約55以下がより好ましく、約50以下が更に好ましい。また、カバー20の硬度は、下限として、ショアDにて、約35以上が好ましく、約40以上がより好ましい。カバー20の硬度は、カバー層の樹脂材料を厚さ2mmのシート状に成形し、2週間以上放置し、その後、ショアD硬度として、ASTM D2240-95規格に準拠して計測する。」
「【0057】
カバーの配合として、表1中のAの配合は、DICBayerPolymer社製の商標パンデックス、MDI-PTMGタイプ熱可塑性ポリウレタンである商品名T-8290を100質量部、ポリエチレンワックス(三洋化成社製の商品名サンワックス161P)を1.0重量部、イソシアネート化合物として4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネートを6.3重量部、酸化チタン(石原産業社製のタイペークR-550)を3.3重量部とした。材料硬度はショアDで41であった。
【0058】
カバーの配合として、表1中のBの配合は、DICBayerPolymer社製の商標パンデックス、MDI-PTMGタイプ熱可塑性ポリウレタンである商品名T-8290を75重量部、同商品名T-8283を25重量部、東レ・デュポン株式会社製の熱可塑性ポリエーテルエステルエラストマーである商品名ハイトレル4001を11重量部、酸化チタン(石原産業社製のタイペークR-550)を3.9重量部、ポリエチレンワックス(三洋化成社製の商品名サンワックス161P)を1.2重量部、イソシアネート化合物として4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネートを7.5重量部とした。材料硬度はショアDで47であった。」
と記載されているから、当該訂正事項5は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内でするものであって、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。
(6)訂正事項6について
ア 訂正の目的について
訂正事項6は、請求項1の「ゴルフボール」における発明特定事項である「塗膜層」の「弾性回復率」の数値範囲を限定したものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないこと
上記アのとおり、訂正事項6は、「塗膜層」の「弾性回復率」について減縮する訂正であって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。
ウ 明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項6について、明細書等には、上記段落【0051】に塗膜層の弾性回復率について記載されているから、当該訂正事項6は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内でするものであって、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。
(7)訂正事項7について
ア 訂正の目的について
訂正事項7は、請求項6を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないこと
上記アのとおり、訂正事項7は、請求項6を削除するものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。
ウ 明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項7は、請求項6を削除するものであるから、明細書等に記載した事項の範囲内においてする訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものである。
(7)訂正事項8について
ア 訂正の目的について
本件特許明細書の段落【0054】に「表1中の主剤のポリオールCは、ポリカーボネートポリオールであり、硬化剤のイソシアネートと組み合わされたウレタン系塗料であるカシュー社製の商品名タフテックスを用いた。」と記載され、段落【0051】の【表1】には「実施例6」のみこのポリオールCが配合されている。
また、段落【0052】、【0053】にはポリエステルポリオールを用いたポリオールA及びポリオールBについて記載されており、これらはポリオールCとは異なる。
そして、訂正前の段落【0055】には「表1中の硬化剤のイソシアネートとしては、実施例7を除き、旭化成社製の商品名デュラネートTPA-100(NCO含有量23.1%、不揮発分100%)のヘキサメチレンジイソシアネート(HMDI)のヌレート体(イソシアヌレート体)を用いた。」と記載されているが、実施例1~5及び7の硬化剤はイソシアネートと有機溶剤との配合比が42:58であるのに対し、実施例6の硬化剤のイソシアネートと有機溶剤との配合比が54:46であることから、実施例6のイソシアネートが、実施例1~5及び7のイソシアネートと異なることは明らかである。
すなわち、訂正前の明細書の段落【0055】に「実施例7を除き」と記載されているのは、「実施例6を除き」の誤記であることは明らかである。
よって、訂正事項8は、特許法第120条の5第2項ただし書第2号に掲げる「誤記の訂正」を目的とするものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないこと
上記アのとおり、訂正事項8は、誤記を訂正したものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。
ウ 明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であること
上記アのとおり、明細書等の段落【0054】には、実施例6においては、「カシュー社製の商品名タフテックス」が含有する「イソシアネート」が、「硬化剤」となることが記載されていると解されるから、当該記載と整合させる訂正事項7は、明細書等に記載した事項の範囲内においてする訂正である。
よって、訂正事項8は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものである。
エ 明細書の訂正と関係する請求項についての説明
明細書の段落【0055】には、訂正前の請求項1~6に対応する訂正後の請求項1~5に対応する実施例について記載されている。
よって、訂正事項8は、一群の請求項1~6に関係する訂正である。
(8)特許出願の際に独立して特許を受けることができることについて
本件特許についての特許異議の申立て事件では、訂正前の請求項1~6について特許異議の申立ての対象とされているから、本件訂正における訂正前の請求項1~6に係る訂正事項1~8に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
(9)一群の請求項について
訂正前の請求項1~6について、請求項2~6はそれぞれ請求項1を直接的又は間接的に引用するものであって、訂正事項1~3によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。
したがって、訂正前の請求項1~6に対応する訂正後の請求項1~6は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
4 まとめ
以上のとおり、令和6年4月17日に特許権者が行った本件訂正は、訂正事項1~8に関して、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、及び第2号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項1~6について訂正を認める。
第3 本件特許
上記第2で検討したとおり、訂正前の請求項1~6に係る訂正を認めることができるから、請求項1~6に係る特許についての発明は本件訂正請求により訂正された特許請求の範囲の請求項1~6に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。(以下、それぞれ「本件訂正特許発明1」~「本件訂正特許発明6」といい、総称して「本件訂正特許発明」という。)
「【請求項1】
コアと、前記コアの外側に設けられ、ディンプルが形成されているカバーと、前記カバーの外側に設けられ、-180μNまたは-140μNから-130μNの表面力を有する材料から形成されている塗膜層とを備えるゴルフボールであって、
前記塗膜層を形成する材料が、ポリオールとポリイソシアネートとからなるウレタン塗料を含有し、
前記ポリオールが、前記塗膜層が-140μNから-130μNの表面力を有する材料から形成されている場合、ポリエステルポリオールであり、前記塗膜層が-180μNの表面力を有する材料から形成されている場合、ポリカーボネートポリオールであり、
前記塗膜層を形成する材料が、前記ポリオールがポリエステルポリオールの場合、フルオロポリマー化合物を、前記塗膜層を形成する材料中の樹脂成分100質量部に対して、0.5質量部以下で含有するか、又はフルオロポリマー化合物を含有せず、前記ポリオールがポリカーボネートポリオールの場合、フルオロポリマー化合物を含有せず、
前記表面力が、エリオニクス社製の商品名ESF-5000Plusの表面力測定装置で測定され、サンプルは、塗膜層が形成されたゴルフボールのディンプル間の陸部を使用し、プローブとしては、材質がCr/PDMS/φ1mmBK7の構成φ1mmガラス球上にPDMSを原料とするシリコーンゴムを塗布、更にECRスパッタリングによってCrを約3nm成膜したものであり、前記プローブの先端曲率半径:478μmのものを使用し、測定の条件は、以下の通りである、ゴルフボール。
・ばね定数:75.755N/m
・荷重ステップ:1μN/20ms
・接触判定閾値:20nm/s(PZT上昇速度200nm/s)
・測定点数:X3点×Y3点
・測定間隔:200μm
【請求項2】
前記塗膜層を形成する材料が、前記フルオロポリマー化合物を、前記塗膜層を形成する材料中の樹脂成分100質量部に対して、0.5質量部以下で含有するとともに、前記ポリエステルポリオールとして、重量平均分子量(Mw)が異なるポリエステルポリオール(A)とポリエステルポリオール(B)との組み合わせを含有し、前記ポリエステルポリオール(A)のMwが28,000であり、前記ポリエステルポリオール(B)のMwが1,000である請求項1に記載のゴルフボール。
【請求項3】
前記カバーが、前記ポリオールがポリエステルポリオールの場合、ショアDで41~47の硬度を有する材料で形成されており、前記ポリオールがポリカーボネートポリオールの場合、ショアDで41の硬度を有する材料で形成されている請求項1に記載のゴルフボール。
【請求項4】
前記塗膜層を形成する材料が、前記ポリオールがポリエステルポリオールの場合、70%から80%の弾性回復率を有し、前記ポリオールがポリカーボネートポリオールの場合、80%の弾性回復率を有する請求項1又は3に記載のゴルフボール。
【請求項5】
前記塗膜層の厚さが7μm以上である請求項1~4のいずれか一項に記載のゴルフボール。
【請求項6】(削除)」
第4 令和6年2月14日付けの取消理由通知(決定の予告)の概要
令和6年2月14日付け取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由は、概略、以下の理由を含むものである。
取消理由(サポート要件):本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
記
令和5年8月23日の訂正請求によりなされた訂正により、特許請求の範囲の請求項1~6に係る発明は、下記の課題解決手段を超える範囲を含んでいるから、発明の詳細な説明に記載したものでない。
[本件特許発明が解決しようとする課題及び課題解決手段]
本件特許発明が解決しようとする課題は、「アプローチショットにおいて優れたスピン性能を発揮することができるゴルフボールを提供する」ことである。
そして、明細書に記載された実施例及び比較例によれば、
ア コアと、前記コアの外側に設けられ、ディンプルが形成されているカバーと、前記カバーの外側に設けられ、-140μN以上-130μN以下の表面力を有する材料から形成されている塗膜層とを備えるゴルフボールであって、
前記塗膜層を形成する材料が、ポリオールとポリイソシアネートとからなるウレタン塗料を含有し、
前記ポリオールが、ポリエステルポリオールであり、
前記塗膜層を形成する材料が、フルオロポリマー化合物を、前記塗膜層を形成する材料中の樹脂成分100質量部に対して、0.5質量部以下で含有するか、又はフルオロポリマー化合物を含有せず、
前記表面力が、エリオニクス社製の商品名ESF-5000Plusの表面力測定装置で測定され、サンプルは、塗膜層が形成されたゴルフボールのディンプル間の陸部を使用し、プローブとしては、材質がCr/PDMS/φ1mmBK7の構成φ1mmガラス球上にPDMSを原料とするシリコーンゴムを塗布、更にECRスパッタリングによってCrを約3nm成膜したものであり、前記プローブの先端曲率半径:478μmのものを使用し、測定の条件は、以下の通りである、ゴルフボール。
・ばね定数:75.755N/m
・荷重ステップ:1μN/20ms
・接触判定閾値:20nm/s(PZT上昇速度200nm/s)
・測定点数:X3点×Y3点
・測定間隔:200μm
(実施例1~5、7)
イ コアと、前記コアの外側に設けられ、ディンプルが形成されているカバーと、前記カバーの外側に設けられ、-180μNの表面力を有する材料から形成されている塗膜層とを備えるゴルフボールであって、
前記塗膜層を形成する材料が、ポリオールとポリイソシアネートとからなるウレタン塗料を含有し、
前記ポリオールが、ポリカーボネートポリオールであり、
前記塗膜層を形成する材料が、フルオロポリマー化合物を、前記フルオロポリマー化合物を含有せず、
前記表面力が、エリオニクス社製の商品名ESF-5000Plusの表面力測定装置で測定され、サンプルは、塗膜層が形成されたゴルフボールのディンプル間の陸部を使用し、プローブとしては、材質がCr/PDMS/φ1mmBK7の構成φ1mmガラス球上にPDMSを原料とするシリコーンゴムを塗布、更にECRスパッタリングによってCrを約3nm成膜したものであり、前記プローブの先端曲率半径:478μmのものを使用し、測定の条件は、以下の通りである、ゴルフボール。
・ばね定数:75.755N/m
・荷重ステップ:1μN/20ms
・接触判定閾値:20nm/s(PZT上昇速度200nm/s)
・測定点数:X3点×Y3点
・測定間隔:200μm
(実施例6)
の場合は、スピン量(rpm)が5000rpm以上となり「○」と評価されていることから、上記ア及びイが本件特許発明の課題を解決するための手段であると認める。
第5 取消理由についての当審の判断
本件訂正(訂正事項1~7)により、本件訂正後の請求項1~6は、上記第3で記載したとおりのものとなった。すなわち、本件訂正後の請求項1~5には、上記第4で認定された課題解決手段が全て反映されることとなった。請求項6は削除された。
してみると、本件訂正特許発明1~5は、発明の詳細な説明に記載したものでないとはいえない。
したがって、本件訂正発明1~5は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たさないとはいえないから、取消理由により、本件特許請求の範囲の請求項1~5に係る特許を取り消すことはできない。
第6 令和6年2月14日付け取消理由(決定の予告)において採用しなかった特許異議申立理由の概要
1 申立理由1(第36条第4項第1号、実施可能要件)
(1)塗膜層の組成について(以下「申立理由1-1」という。)
特許異議申立人は令和4年10月17日にされた特許異議の申立において、以下のとおり主張している。
「 本件特許発明1は、「コアと、前記コアの外側に設けられ、ディンプルが形成されているカバーと、前記カバーの外側に設けられ、-130μN以下の表面カを有する材料から形成されている塗膜層とを備えるゴルフボール」である旨規定されており、あらゆる種類の塗膜を包含するところ、本件発明の詳細な説明の実施例には、特定のポリオールA~Cと、ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート体からなる塗膜が開示されているに過ぎない。
本件特許発明1は、塗膜層の組成を特定していないから、前記実施例の塗料からなる塗膜層以外の塗膜層について、本件発明の詳細な説明は、当業者が容易に実施できるように明確かつ十分に記載されたものであるとは言えない。従って、本件特許発明1は、特許法第36条第4項第1号の規定を満足しない出願に対してなされたものである。本件特許発明1に従属する本件特許請求項2~6に係る発明についても、同様である。」
(2)表面力を作り分ける点について(以下「申立理由1-2」という。)
特許異議申立人は令和4年10月17日にされた特許異議の申立において、以下のとおり主張している。
「 本件発明の詳細な説明段落0051の表1には、実施例3に対して、シリコーンワックスが4質量部~8質量部配合された比較例1、2が記載されているが、シリコーンワックスが配合されていない塗膜について、表面力が-130μNを超える比較例は記載されていない。そうすると、本件発明の詳細な説明には、シリコーンワックスが配合されていない材料について、表面力が-130μN以下になる場合と、表面力が-130μN超になる場合とをどのようにして作り分けるのかが不明である。」
(3)主剤と硬化剤の配合比について(以下「申立理由1-3」という。)
特許異議申立人は令和4年10月17日にされた特許異議の申立において、以下のとおり主張している。
「 本件発明の詳細な説明の段落0054には、「表1中の主剤のポリオールCは、ポリカーボネートポリオールであり、硬化剤のイソシアネートと組み合わされたウレタン系塗料であるカシュー社製の商品名タフテックスを用いた。主剤と硬化剤は5:1で混合した」ことが記載されている。しかしながら、この記載からは、本件発明の実施例6で使用されている塗料について、丸1(当審注:丸囲い数字を「丸数字」と表記する。以下同様。)ポリオールCがポリカーボネートポリオール自体であり、硬化剤を組み合わせた塗料として、市販品のウレタン系塗料であるカシュー社製の商品名タフテックスを用いたのか、或いは、丸2ポリオールC自体として、ウレタン系塗料であるカシュー社製の商品名タフテックスを用いて、さらに硬化剤を配合して塗料としたのか明確でない。さらに、主剤と硬化剤は5:1で混合したとあるが、表1中の配合比率は5:1ではない。
また、段落0055には、「表1中の硬化剤のイソシアネートとしては、実施例7を除き、旭化成社製の商品名デュラネートTPA-100(NCO含有量23.1%、不揮発分100%)のヘキサメチレンジイソシアネート(HMDI)のヌレート体(イソシアヌレート体)を用いた」ことが記載されているが、実施例6の塗料として、主剤と硬化剤のイソシアネートとが組み合わされたウレタン系塗料であるカシュー社製の商品名タフテックスを使用している(丸1の場合)のであれば、タフテックスの硬化剤として使用されているイソシアネートが、デュラネートTPA-100であるかどうか不明である。
従って、本件発明の実施例6に関する発明の詳細な記載は、当業者が実施できるように明確かつ十分に記載されたものではない。」
2 申立理由2(第36条第6項第1号、サポート要件)
(1)フルオロポリマーの添加量について(以下「申立理由2」という。)
特許異議申立人は令和4年10月17日にされた特許異議の申立において、以下のとおり主張している。
「 「表面力」は、接触した2つの物質表面を引き離すために必要な力であり、密着性などを定量的に表す公知および公用の指標である旨主張している。
しかしながら、本件明細書の段落0051の表1には、シリコーンワックスの添加量を過剰にすることによって、表面力が大きくなることが記載されているが、本件明細書には、「低表面エネルギー組成物」が塗膜の「表面力」に影響する作用機序は記載されていない。にもかかわらず、シリコーンワックスの添加により表面力が大きくなるという実験結果を、低表面エネルギー組成物全体にまで拡張し、さらには低表面エネルギー組成物の一種であるフルオロポリマー化合物にまで適用することはできず、ましてやその添加量の上限を1.0質量部と設定することはできるものではない。例えば、実施例1、2では、シリコーンワックスを0.5部添加することにより、表面力が-130μNになっているが、フルオロポリマー化合物を0.5部添加することにより、シリコーンワックスを用いた場合と同様の効果が得られるとまで拡張することは本願出願時の技術常識を参酌しても認められない。従って、本件特許発明1は、発明の詳細な説明に記載したものとは言えない。」
3 申立理由3(第36条第6項第2号、明確性要件)
(1)表面力の特定について(以下「申立理由3-1」という。)
特許異議申立人は令和4年10月17日にされた特許異議の申立において、以下の主張をしている。
「本件特許発明1は、「-130μN以下の表面力を有する材料から形成されている塗膜層とを備えるゴルフボール」と規定している一方で、表面力の測定については、「前記表面力が、エリオニクス社製の商品名ESF-5000Plusの表面力測定装置で測定され、サンプルは、φ30mm×厚さ5mmの寸法の樹脂板の全面に厚さ15μmの塗膜層を形成したもの又は塗膜層が形成されたゴルフボールのディンプル間の陸部を使用し」と規定し、塗膜層の表面力を測定している。
すなわち、請求項1で規定する「-130μN以下の表面力を有する」ものが塗膜層を形成する材料についての規定であるのか、塗膜層自体の規定であるのかが明確でない。塗膜を形成する材料としては、ポリオール、イソシアネート、シリコーンワックス、有機溶剤などが挙げられるが(段落0051の表1)、有機溶媒は揮発するから、塗膜層と塗膜を形成する材料は同一ではない。
従って、本件特許発明1は、明確ではなく、本件特許発明1は、特許法36条第6項第2号の規定を満足しない出願に対してなされたものである。」
4 申立理由4(第29条第1項第3項、新規性)、申立理由5(第29条第2項、進歩性)
(1)主な証拠方法
甲第1号証:特表2014-524335号公報
甲第2号証:特開2011-217820号公報
甲第3号証:特開2016-93386号公報
甲第4号証:特開2017-42280号公報
甲第10号証:特開平1-141677号広報
以下、甲第1号証、甲第2号証、甲第3号証、甲第4号証及び甲第10号証を、それぞれ「甲1」、「甲2」、「甲3」、「甲4」及び「甲10」という。
(2)甲1を主引用発明とした理由について(以下、新規性について「申立理由4-1」、進歩性について「申立理由5-1」という。)。
特許異議申立人の令和4年10月17日にされた特許異議の申立における主張は、概略、本件特許発明1、2、4~6は甲1に記載された発明(以下「甲1発明」という。)から新規性及び進歩性を有せず、本件特許発明3は甲1発明から進歩性を有しない、というものである。
(3)甲2を主引用発明とした理由について(以下、新規性について「申立理由4-2」、進歩性について「申立理由5-2」という。)。
特許異議申立人の令和4年10月17日にされた特許異議の申立における主張は、概略、本件特許発明1、3~6は甲2に記載された発明(以下「甲2発明」という。)から新規性及び進歩性を有せず、本件特許発明3は甲2発明から進歩性を有しない、というものである。
(4)甲3を主引用発明とした理由について(以下、新規性について「申立理由4-3」、進歩性について「申立理由5-3」という。)。
特許異議申立人の令和4年10月17日にされた特許異議の申立における主張は、概略、本件特許発明1、3~6は甲3に記載された発明(以下「甲3発明」という。)から新規性及び進歩性を有せず、本件特許発明3は甲3発明から進歩性を有しない、というものである。
(5)甲4を主引用発明とした理由について(以下、新規性について「申立理由4-4」、進歩性について「申立理由5-4」という。)。
特許異議申立人の令和4年10月17日にされた特許異議の申立における主張は、概略、本件特許発明1、3~6は甲4に記載された発明(以下「甲4発明」という。)から新規性及び進歩性を有せず、本件特許発明3は甲4発明から進歩性を有しない、というものである。
(6)甲10を主引用発明とした理由について(以下、新規性について「申立理由4-5」、進歩性について「申立理由5-5」という。)。
特許異議申立人の令和5年10月24日の意見書における追加の主張は、概略、本件特許発明1は甲10に記載された発明(以下「甲10発明」という。)から新規性及び進歩性を有しない、というものである。
(7)甲1~4、10の記載事項について
ア 甲1
甲1には、下記の事項が記載されている。
(ア)「【請求項1】
ASTM D3363スケールにおいて約HB未満の硬度を有する軟質外部表面コーティングを含んでなるゴルフボール。」
(イ)「【0029】
便宜上、本発明の対象は、4ピースボールに関するものとして詳細に記載される。4ピースボールは、4層の異なる層を有し、それぞれ連続した層が、直前の層を実質的に完全に取り囲んでいる。しかし、本明細書に記載され、主張される軟質表面コーティングは、軟質表面コーティングが適切なゴルフボール、または実際に、他のいずれの対象にも適用することができることを当業者は認識する。したがって、1ピースボール、2ピースボールおよび3ピースボールは、本発明の実施形態の軟質表面層で適切にカバーすることができる。同様に、軟質表面層は、5ピースボール、6ピースボールまたは多層を有する種々のゴルフボールに適用することができる。
【0030】
図1は、ゴルフボールの外部表面上に軟質表面コーティングを有する4ピースゴルフボールの中央断面を例示する。ゴルフボール100は、中心または内側コア層101、内側コア層101を実質的に完全に取り囲むか、包囲するか、または包含する外側コア層102、外側コア層102を実質的に完全に取り囲むか、包囲するか、または包含する内側カバー層103、内側カバー層103を実質的に完全に取り囲むか、包囲するか、または包含する外側カバー層104、および外側カバー層104を取り囲むか、包囲するか、または包含する軟質表面コーティング105を含んでなる。」
(ウ)「【0037】
一実施形態において、ポリウレタン軟質外部表面コーティングは、2種の構成要素の組み合わせによって形成される。第1の構成要素はポリオール反応体および溶媒を含んでなり、そして第2の構成要素はイソシアネート化合物を含んでなる。いずれの構成要素も、触媒、溶媒および他の反応体と添加剤を含有することができる。
【0038】
ポリオール反応体は、典型的に少なくとも約500のヒドロキシル当量を有する。ポリオール反応体は、少なくとも2つのヒドロキシル、典型的に末端ヒドロキシル部分を有する。ポリオール反応体の例には、ポリオキシエチレングリコール(PEG 1000以上)、ポリオキシプロヒ°レングリコール(PPG 1000以上)およびポリオキシテトラメチレングリコール(PTMG)、ポリエステルポリオール、ラクトンをベースとするポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ならびにアクリルポリオールなどの少なくとも約500のヒドロキシル当量を有するポリエーテルポリオールが含まれる。2種類以上のポリオールを組み合わせて使用されてもよい。
【0039】
より典型的な実施形態において、直鎖ポリオールが使用される。特定の実施形態において、少なくとも約500のヒドロキシル当量を有する直鎖ポリエステルポリオールが使用される。特定の適切なポリオールは、Desmophen(登録商標)1652という約1060の当量を有する直鎖ポリエステルポリオールである。Desmophen(登録商標)1652は溶剤を含まないが、溶媒中のポリオールも適切に使用される。例えば、Desmophen(登録商標)670A-80は、500のヒドロキシル当量を有するポリエステルであり、酢酸ブチル溶媒中の高固形分(約80%)溶液として利用可能である。Desmophen(登録商標)製品はBayerから調達可能である。本明細書に示されるガイダンスによって、当業者は適切なポリオール反応体を特定することが可能である。
【0040】
イソシアネート反応体は、典型的に少なくとも約100のNCO当量を有する。イソシアネート反応体は、少なくとも2つのNCO部分を有する。適切なイソシアネート反応体の例には、脂肪族ジイソシアネートおよびビウレット、トリマー、芳香族ポリイソシアネート、ならびにナフテン系または脂環式ポリイソシアネートが含まれる。2種以上のジイソシアネートを組み合わせて使用してもよい。ナフテン系または脂環式ジイソシアネートの例は、イソホロンジイソシアネート(IPDI)である。芳香族ジイソシアネートの実例は、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)である。典型的に、直鎖脂肪族ジイソシアネートが使用される。脂肪族ジイソシアネートの実例は、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)である。特に、低粘度の溶剤を含まない、約179のNCO当量を有する脂肪族ポリイソシアネートは、溶媒を含まないTolonate(登録商標)HDB-LVとしてPerstorp Coatingsから調達可能である。この製品は、HDIビウレットをベースとする。本明細書に示されるガイダンスによって、当業者は適切なイソシアネート反応体を特定することが可能である。」
(エ)「【0064】
実施例1
以下の通り、ポリオール化合物、溶媒および触媒を含んでなる構成要素A、ならびにイソシアネートを含んでなる構成要素Bを混合し、そして典型的なコーティング作業に従ってゴルフボールの表面に適用する。
【0065】
【表1】
[図:0001418184000002.jpg]
【0066】
構成要素Aを構成要素Bと混合し、次いで、混合物をゴルフボールの表面上に典型的なコーティング作業によって適用する。150°F(約66℃)で30分間、コーティングを硬化させ、溶媒を蒸発させる。ゴルフボールを冷却し、次いで包装する。
【0067】
実施例1のゴルフボールが軟質高エネルギーの表面を有することで、ゴルフボールが高ロフトクラブで打たれる時に、実質的にドライバーショットの特性および特徴に悪影響を及ぼすことなく、ゴルフボールにスピンを与える機会がもたらされる。
【0068】
ゴルフボールのコーティングは、鉛筆硬度試験においてHB未満、そしてSward・Rocker硬度試験において約40未満の表面硬度を有する。
【0069】
実施例2
以下の通り、ポリオール化合物、溶媒および触媒を含んでなる構成要素A、ならびにイソシアネートを含んでなる構成要素Bを混合し、そして典型的なコーティング作業に従ってゴルフボールの表面に適用する。
【0070】
【表2】
[図:0001418184000003.jpg]
【0071】
構成要素Aを構成要素Bと混合し、次いで、混合物をゴルフボールの表面上に典型的なコーティング作業によって適用する。150°F(約66℃)で30分間、コーティングを硬化させ、溶媒を蒸発させる。ゴルフボールを冷却し、次いで包装する。
【0072】
実施例2のゴルフボールは軟質低エネルギー表面を有し、ゴルフボールが打たれる時に、泥を引きつけず、凝集する傾向があることによって製造を中断させることなく、高ロフトクラブで打たれる時に、スピンを与えることを低下することなく、ゴルフボールにスピンを与える機会がもたらされる。またこのゴルフボールは、低ロフトクラブで打たれる時にも、実質的にドライバーショットの特性および特徴に悪影響を及ぼすことなく、良好に機能する。
【0073】
ゴルフボールのコーティングは、鉛筆硬度試験においてHB未満、Sward・Rocker硬度試験において約40未満の表面硬度を有する。またゴルフボール上のコーティングは、約40ダイン/cm未満の表面エネルギーを有する。」
(オ)【図1】「
[図:0001418184000004.jpg]
」
以上(ア)~(オ)より、甲1には、【表2】に記載された実施例2として、以下の発明(甲1発明)が記載されているものと認められる。
「内側コア層、内側コア層を実質的に完全に取り囲むか、包囲するか、または包含する外側コア層、外側コア層を実質的に完全に取り囲むか、包囲するか、または包含する内側カバー層、内側カバー層を実質的に完全に取り囲むか、包囲するか、または包含する外側カバー層、および外側カバー層を取り囲むか、包囲するか、または包含するポリウレタン軟質表面コーティングを含んでゴルフボールであって、前記ポリウレタン軟質表面コーティングは低エネルギー組成物としてBYK-370を有する一方でフルオロポリマー化合物を有せず、直鎖ポリエステルポリオールであるDesmophen1652を含有する構成要素Aと脂肪族ポリイソシアネートを含有する構成要素Bとを配合した塗料から形成されているゴルフボール。」
イ 甲2
甲2には、以下の事項が記載されている。
(ア)「【請求項1】
ゴルフボール本体とゴルフボール本体表面に設けられた塗膜とを有するゴルフボールであって、
前記塗膜は、マルテンス硬度が2.0mgf/μm2以下であり、10%モジュラスに対する50%モジュラスの比(50%モジュラス/10%モジュラス)が1.6以上であることを特徴とするゴルフボール。
【請求項2】
前記塗膜を構成する基材樹脂が、ポリオール成分とポリイソシアネート成分とを反応させてなるポリウレタンであり、前記ポリイソシアネート成分が、ヘキサメチレンジイソシアネートのビュレット変性体を含有する請求項1に記載のゴルフボール。」
(イ)「【0020】
アクリルポリオールは、分子内に複数のヒドロキシル基を有するアクリル樹脂またはアクリルポリマーであり、例えば、水酸基を有する(メタ)アクリル系単量体と水酸基を有さない(メタ)アクリル系単量体とを共重合して得られる。
・・・(中略)・・・
【0026】
前記ポリオール成分の具体例としては、例えば、和薬ペイント社製121B、日本ポリウレタン工業社製ニッポラン800、ニッポラン1100、DIC社製バーノックD6-627、バーノックD8-436、バーノックD8-973、バーノック11-408、住化バイエルウレタン社製デモスフェン650MPA、デモスフェン670、デモスフェン1150、デモスフェンA160X、ハリマ化成社製ハリアクロン2000、ハリアクロン8500H,神東塗料社製ポリン#950、ポリン#860などを挙げることができる。」
(ウ)「【0038】
本発明のゴルフボールの塗膜は、ポリオール成分とポリイソシアネート成分とを含有する塗料から形成されることが好ましい。前記塗料としては、いわゆる二液硬化型塗料を例示することができる。前記塗料としては、水を主たる分散媒とする水系塗料、有機溶剤を分散媒とする溶剤系塗料のいずれであってもよい。溶剤系塗料の場合、好ましい溶剤としては、トルエン、イソプロピルアルコール、キシレン、メチルエチルケトン、メチルエチルイソブチルケトン、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチルベンゼン、プロピレングリコールモノメチルエーテル、イソブチルアルコール、酢酸エチルなどを挙げることができる。」
(エ)「【0045】
本発明のゴルフボールは、コアと前記コアを被覆するカバーとを有するゴルフボールであることが好ましい。この場合、前記カバーの硬度は、ショアD硬度で、61以下が好ましく、55以下がより好ましく、45以下がさらに好ましく、40以下が特に好ましい。カバーの硬度がショアD硬度で61以下であれば、ウェット条件およびラフ条件のスピン量が一層高くなるからである。前記カバー硬度の下限は、特に限定されないが、ショアD硬度で、20が好ましく、25がより好ましく、30がさらに好ましい。カバー硬度は、カバーを形成するカバー用組成物をシート状に成形して測定したスラブ硬度である。」
(オ)「【0049】
カバーを被覆してゴルフボール本体を作製する際には、通常、表面にディンプルと呼ばれるくぼみが形成される。カバーに形成されるディンプルの総数は、200個以上500個以下が好ましい。ディンプルの総数が200個未満では、ディンプルの効果が得られにくい。また、ディンプルの総数が500個を超えると、個々のディンプルのサイズが小さくなり、ディンプルの効果が得られにくい。形成されるディンプルの形状(平面視形状)は、特に限定されるものではなく、円形;略三角形、略四角形、略五角形、略六角形などの多角形;その他不定形状;を単独で使用してもよいし、2種以上を組合せて使用してもよい。また、カバーが成形されたゴルフボール本体は、金型から取り出し、必要に応じて、バリ取り、洗浄、サンドブラストなどの表面処理を行うことが好ましい。また、所望により、マークを形成することもできる。」
(カ)「【実施例】
【0055】
以下、本発明を実施例によって詳細に説明するが、本発明は、下記実施例によって限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲の変更、実施の態様は、いずれも本発明の範囲内に含まれる。
・・・(中略)・・・
【0061】
[ゴルフボールの作製]
(1)センターの作製
表1に示す配合のセンター用ゴム組成物を混練し、半球状キャビティを有する上下金型内で170℃、20分間加熱プレスすることにより直径39.3mmの球状センターを得た。
【0062】
【表1】
[図:0001418184000005.jpg]
ポリブタジエンゴム:JSR(株)製、「BR730(ハイシスポリブタジエン)」アクリル酸亜鉛:日本蒸留製、「ZNDA-90S」酸化亜鉛:東邦亜鉛製、「銀嶺R」硫酸バリウム:堺化学社製、「硫酸バリウムBD」ジフェニルジスルフィド:住友精化製ジクミルパーオキサイド:日本油脂製、「パークミル(登録商標)D」
【0063】
(2)中間層用組成物およびカバー用組成物の調製
表2、表3に示した配合の材料を、二軸混練型押出機によりミキシングして、ペレット状の中間層用組成物およびカバー用組成物を調製した。押出条件は、スクリュー径45mm、スクリュー回転数200rpm、スクリューL/D=35であり、配合物は、押出機のダイの位置で200~260℃に加熱された。
【0064】
【表2】
[図:0001418184000006.jpg]
サーリン8945:デュポン社製のナトリウムイオン中和エチレン-メタクリル酸共重合体アイオノマー樹脂
ハイミランAM7329:三井デュポンポリケミカル社製、亜鉛イオン中和エチレン-メタクリル酸共重合体アイオノマー樹脂
【0065】
【表3】
[図:0001418184000007.jpg]
エラストランXNY85A:BASFジャパン社製、熱可塑性ポリウレタンエラストマー、ショアD硬度:32
【0066】
(3)球状コアの作製
上記で得た中間層用組成物を、前述のようにして得たセンター上に直接射出成形することにより、前記センターを被覆する中間層を形成して、球状コアを作製した。成形用上下型は、半球状キャビティを有し、ピンプル付で、ピンプルの一部が進退可能なホールドピンを兼ねている。中間層成形時には、上記ホールドピンを突き出し、センターを投入後ホールドさせ、80トンの圧力で型締めした金型に260℃に加熱した中間層用組成物を0.3秒で注入し、30秒間冷却して型開きして球状コアを取り出した。
【0067】
(4)ハーフシェルの成形
ハーフシェルの圧縮成形は、得られたペレット状のカバー用組成物をハーフシェル成形用金型の下型の凹部ごとに1つずつ投入し、加圧してハーフシェルを成形した。圧縮成形は、成形温度170℃、成形時間5分、成形圧力2.94MPaの条件で行った。
【0068】
(5)カバーの成形
(3)で得られたコアを(4)で得られた2枚のハーフシェルで同心円状に被覆して、圧縮成形によりカバーを成形した。圧縮成形は、成形温度145℃、成形時間2分、成形圧力9.8MPaの条件で行った。
【0069】
(6)塗料の調製
表4、表5に示したポリオール成分とポリイソシアネート成分と、必要に応じてフィラーを配合して塗料を調製した。
【0070】
(7)塗膜の形成
(5)で得られたゴルフボール本体の表面をサンドブラスト処理して、マーキングを施した後、スプレーガンで塗料を塗布し、40℃のオーブンで24時間塗料を乾燥させ、直径42.7mm、質量45.3gのゴルフボールを得た。ゴルフボールNo.1~No.12およびNo.17~No.20については、塗料を2回重ね塗りして、膜厚が18μmの塗膜を形成した。ゴルフボールNo.13~No.16については、1回塗りで膜厚が9μmの塗膜を形成した。塗装は、図1に示した回転体にゴルフボール本体を載置し、回転体を300rpmで回転させ、ゴルフボール本体からエアーガンを吹き付け距離(7cm)だけ離間させて上下方向に移動させながら行った。重ね塗りの各回のインターバルを1.0秒とした。エアーガンの吹付条件は、吹付エアー圧;0.15MPa、圧送タンクエアー圧;0.10MPa、1回の塗布時間;1秒、雰囲気温度;20℃~27℃、雰囲気湿度;65%以下の条件で塗装とした。
得られたゴルフボールのスピン性能について評価した結果を併せて表4、表5に示した。
【0071】
【表4】
[図:0001418184000008.jpg]
【0072】
【表5】
[図:0001418184000009.jpg]
【0073】
表4、表5で用いた原料は、以下の通りである。
ポリオール成分1:神東塗料社製ポリン#950(水酸基価128mgKOH/g)
ポリオール成分2:神東塗料社製ポリン#860(水酸基価171mgKOH/g)
ポリイソシアネート成分1:旭化成ケミカルズ社製デュラネートTKA-100:ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート変性体
ポリイソシアネート成分2:旭化成ケミカルズ社製デュラネート21S-75E:ヘキサメチレンジイソシアネートのビュレット変性体
ポリイソシアネート成分3:デグサ社製VESTANAT T1890:イソホロンジイソシアネートのイソシアヌレート体
【0074】
表4、及び、表5から、マルテンス硬度が2.0mgf/μm2以下であり、10%モジュラスに対する50%モジュラスの比(50%モジュラス/10%モジュラス)が1.6以上である塗膜を有するゴルフボールNo.1~16は、いずれもウエットスピン保持率が70%以上、ラフスピン保持率が50%以上と高いことが分かる。フィラーとして硫酸バリウムを使用したゴルフボールNo.9~No.12では、透明度の高い塗膜が得られた。ゴルフボールNo.8、及び、No.12は、フィラーの含有率が高いために、外観が少し低下した。また、ゴルフボールNo.2、3、7、11と、ゴルフボールNo.13~16は、塗膜の膜厚が相違する。2回塗りしてなる膜厚18μmの塗膜を有するゴルフボールNo.2、3、7、11の方がスピン保持率がより良好であることが分かる。」
以上(ア)~(カ)より、甲2には、以下の発明(甲2発明)が記載されているものと認められる。
「 ゴルフボール本体とゴルフボール本体表面に設けられた塗膜とを有するゴルフボールであって、コアと前記コアを被覆するカバーとを有し、カバーを被覆してゴルフボール本体を作製する際に、表面にディンプルと呼ばれるくぼみが形成され、前記塗膜を構成する基材樹脂が、ポリオール成分とポリイソシアネート成分とを反応させてなるポリウレタンからなり、ポリオールとして、神東塗料社製ポリン#950及び/又は神東塗料社製ポリン#860が用いられているゴルフボール。」
ウ 甲3
甲3には、以下の事項が記載されている。
(ア)「【請求項1】
ゴルフボール本体と前記ゴルフボール本体表面に設けられた塗膜とを有するゴルフボールであって、
前記塗膜は、シクロデキストリンと前記シクロデキストリンの環状構造を串刺し状に包接する直鎖状分子と、この直鎖状分子の両末端に配置され、前記シクロデキストリンの脱離を防止する封鎖基とを有するポリロタキサンであり、当該シクロデキストリンの水酸基の少なくとも一部が、-O-C3H6-O-基を介して、カプロラクトン鎖によって変性されたポリロタキサンを含有する主剤と、ポリイソシアネートを含有する硬化剤とからなる硬化型塗料組成物から形成されたものであることを特徴とするゴルフボール。
【請求項2】
前記直鎖状分子がポリエチレングリコールであり、前記封鎖基がアダマンタン基である請求項1に記載のゴルフボール。」
(イ)「【0060】
図1は、本発明の一実施形態に係るゴルフボール2が示された一部切り欠き断面図である。ゴルフボール2は、球状コア104と、球状コア104を被覆する中間層106と、前記中間層106を被覆するカバー112とを有する。このカバー112の表面には、多数のディンプル114が形成されている。このゴルフボールの表面のうち、ディンプル114以外の部分は、ランド116である。このゴルフボールは、カバーの外側にペイント層およびマーク層を備えているが、これらの層の図示は省略されている。」
(ウ)「【0104】
[スリーピースゴルフボールの作製]
(1)球状コアの作製
表1に示す配合のコア用ゴム組成物を混練し、半球状キャビティを有する上下金型内で170℃、20分間加熱プレスすることにより直径39.7mmの球状コアを得た。
【0105】
【表1】
[図:0001418184000010.jpg]
ポリブタジエンゴム:JSR(株)製、「BR730(ハイシスポリブタジエン)」アクリル酸亜鉛:日本蒸留工業社製ZN-DA90S(10%ステアリン酸亜鉛コーティング)酸化亜鉛:東邦亜鉛製、「銀嶺R」硫酸バリウム:堺化学社製、「硫酸バリウムBD」ジフェニルジスルフィド:住友精化製ジクミルパーオキサイド:日本油脂製、「パークミル(登録商標)D」
【0106】
(2)中間層用組成物およびカバー用組成物の調製
表2、表3に示した配合の材料を、二軸混練型押出機によりミキシングして、ペレット状の中間層用組成物およびカバー用組成物を調製した。押出条件は、スクリュー径45mm、スクリュー回転数200rpm、スクリューL/D=35であり、配合物は、押出機のダイの位置で200~260℃に加熱された。
【0107】
【表2】
[図:0001418184000011.jpg]
ハイミラン7337:三井デュポンポリケミカル社製、亜鉛イオン中和エチレン-メタクリル酸共重合体アイオノマー樹脂
ハイミランAM7329:三井デュポンポリケミカル社製、ナトリウムイオン中和エチレン-メタクリル酸共重合体アイオノマー樹脂
【0108】
【表3】
[図:0001418184000012.jpg]
エラストランXNY85A:BASFジャパン社製、熱可塑性ポリウレタンエラストマー、ショアD硬度:32
【0109】
(3)中間層の作製
上記で得た中間層用組成物を、前述のようにして得た球状コア上に直接射出成形することにより、中間層を形成した。成形用上下型は、半球状キャビティと、球状コアを支持する進退可能なホールドピンとを有している。中間層成形時には、上記ホールドピンを突き出し、球状コアを投入後ホールドさせ、80トンの圧力で型締めした金型に260℃に加熱した中間層用組成物を0.3秒で注入し、30秒間冷却して中間層(厚み1mm)を成形した。
【0110】
(4)ハーフシェルの成形
ハーフシェルの圧縮成形は、得られたペレット状のカバー用組成物をハーフシェル成形用金型の下型の凹部ごとに1つずつ投入し、加圧してハーフシェルを成形した。圧縮成形は、成形温度170℃、成形時間5分、成形圧力2.94MPaの条件で行った。
【0111】
(5)カバーの成形
(3)で得られた中間層を被覆した球形体を(4)で得られた2枚のハーフシェルで同心円状に被覆して、圧縮成形によりカバー(厚み0.5mm)を成形した。圧縮成形は、成形温度145℃、成形時間2分、成形圧力9.8MPaの条件で行った。
【0112】
(6)塗料の調製
表4に示した材料を配合して塗料組成物を調製した。前記で得られたゴルフボール本体の表面をサンドブラスト処理して、マーキングを施した後、スプレーガンで塗料を塗布し、40℃のオーブンで24時間塗料を乾燥させ、直径42.7mm、質量45.3gのゴルフボールを得た。塗膜の厚さは、20μm~40μmとした。塗装は、図8に示した回転体にゴルフボール本体を載置し、回転体を300rpmで回転させ、ゴルフボール本体からエアーガンを吹き付け距離(7cm)だけ離間させて上下方向に移動させながら行った。重ね塗りの各回のインターバルを1.0秒とした。エアーガンの吹付条件は、吹付エアー圧;0.15MPa、圧送タンクエアー圧;0.10MPa、1回の塗布時間;1秒、雰囲気温度;20℃~27℃、雰囲気湿度;65%以下の条件で塗装とした。得られたゴルフボールのスピン性能について評価した結果を併せて表4に示した。
【0113】
【表4】
[図:0001418184000013.jpg]
【0114】
表4で用いた原料は、以下の通りである。
主剤
ポリロタキサン:アドバンスト・ソフトマテリアル社製、「セルム(登録商標)スーパーポリマー SH3400P(シクロデキストリンの水酸基の少なくとも一部が、-O-C3H6-O-基を介して、カプロラクトン鎖によって変性されたポリロタキサン、直鎖状分子:ポリエチレングリコール、封鎖基:アダマンタン基、直鎖状分子の分子量:35,000、水酸基価:72mgKOH/g、全体分子量:重量平均分子量700,000)」
ポリカプロラクトンポリオール:ダイセル社製Placel 308
塩化ビニル・酢酸ビニル共重合体の変性物:日信化学工業社製、ソルバインAL(ヒドロキシル変性塩化ビニル・酢酸ビニル共重合体)
変性シリコーン:Gelest社製、DBL-C31
溶剤:キシレン/メチルエチルケトン=70/30(質量比)の混合溶剤
ポリン#950:神東塗料社製、水酸基価128mgKOH/g、ポリオール成分(トリメチロールプロパン、ポリオキシテトラメチレングリコール)と、ポリイソシアネート成分(イソホロンジイソシアネート)とからなるウレタンポリオール
【0115】
硬化剤
ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート変性体:旭化成ケミカルズ社製デュ
ラネートTKA-100(NCO含有率:21.7%)
ヘキサメチレンジイソシアネートのビュレット変性体:旭化成ケミカルズ社製デュラネート21S-75E(NCO含有率:15.5%)
イソホロンジイソシアネートのイソシアヌレート変性体:デグサ社製VESTANAT T1890(NCO含有率:12.0%)
溶剤:メチルエチルケトン」
上記(ア)~(ウ)より、甲3には、以下の発明(甲3発明)が記載されているものと認められる。
「ゴルフボール本体と前記ゴルフボール本体表面に設けられた塗膜とを有するゴルフボールであって、前記ゴルフボール2は、球状コア104と、球状コア104を被覆する中間層106と、前記中間層106を被覆するカバー112とを有し、前記カバー112の表面には、多数のディンプル114が形成されており、前記ゴルフボール本体表面に設けられた塗膜は、シクロデキストリンと前記シクロデキストリンの環状構造を串刺し状に包接する直鎖状分子と、この直鎖状分子の両末端に配置され、前記シクロデキストリンの脱離を防止する封鎖基とを有するポリロタキサンであり、当該シクロデキストリンの水酸基の少なくとも一部が、-O-C3H6-O-基を介して、カプロラクトン鎖によって変性されたポリロタキサンを含有する主剤と、ポリイソシアネートを含有する硬化剤とからなる硬化型塗料組成物から形成されたものであり、前記直鎖状分子がポリエチレングリコールであるゴルフボール。」
エ 甲4
甲4には、以下の事項が記載されている。
(ア)「【請求項1】
ゴルフボール本体と前記ゴルフボール本体表面に設けられた塗膜とを有するゴルフボールであって、
前記塗膜が2層以上の多層構造を有し、
塗膜の最内層の10%モジュラス(Min)と、塗膜の最外層の10%モジュラス(Mout)との差(Min-Mout)が、25kgf/cm2以上であることを特徴とするゴルフボール。
・・・(中略)・・・
【請求項5】
前記塗膜を構成する基材樹脂が、ポリウレタンである請求項1~4のいずれか一項に記載のゴルフボール。」
(イ)「【0023】
(ポリウレタン塗料)
前記塗膜は、ポリオール組成物とポリイソシアネート組成物とを含有する塗料から形成されることが好ましい。前記塗料としては、ポリオールを主剤とし、ポリイソシアネートを硬化剤とするいわゆる二液硬化型ウレタン塗料を例示することができる。
【0024】
(ポリオール組成物)
前記ポリオール組成物は、ポリオール化合物を含有する。前記ポリオール化合物としては、分子中に水酸基を2つ以上有する化合物が挙げられる。前記ポリオール化合物としては、分子の末端に水酸基を有する化合物、分子の末端以外に水酸基を有する化合物が挙げられる。前記ポリオール化合物は、単独で、あるいは、2種以上を混合して使用しても良い。
【0025】
前記分子の末端に水酸基を有する化合物としては、分子量が500未満の低分子量ポリオールや数平均分子量が500以上の高分子量ポリオールを挙げることができる。前記低分子量ポリオールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6-ヘキサンジオールなどのジオール;グリセリン、トリメチロールプロパン、ヘキサントリオールなどのトリオールが挙げられる。前記高分子量のポリオールとしては、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカプロラクトンポリオール、ポリカーボネートポリオール、ウレタンポリオール、アクリルポリオールなどが挙げられる。前記ポリエーテルポリオールとしては、ポリオキシエチレングリコール(PEG)、ポリオキシプロピレングリコール(PPG)、ポリオキシテトラメチレングリコール(PTMG)などが挙げられる。前記ポリエステルポリオールとしては、ポリエチレンアジペート(PEA)、ポリブチレンアジペート(PBA)、ポリヘキサメチレンアジペート(PHMA)などが挙げられる。前記ポリカプロラクトンポリオールとしては、ポリ-ε-カプロラクトン(PCL)などが挙げられる。前記ポリカーボネートポリオールとしては、ポリヘキサメチレンカーボネートなどが挙げられる。
【0026】
前記ウレタンポリオールとは、分子内にウレタン結合を複数有し、一分子中に水酸基を2以上有する化合物である。ウレタンポリオールとしては、例えば、第一ポリオール成分と第一ポリイソシアネート成分とを、第一ポリオール成分の水酸基が第一ポリイソシアネート成分のイソシアネート基に対して過剰になるような条件で反応させて得られるウレタンプレポリマーを挙げることができる。
【0027】
前記ウレタンポリオールの第一ポリオール成分としては、ポリエーテルジオール、ポリエステルジオール、ポリカプロラクトンジオール、ポリカーボネートジオールなどが挙げられ、ポリエーテルジオールが好ましい。前記ポリエーテルジオールとしては、例えば、ポリオキシエチレングリコール、ポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシテトラメチレングリコールなどが挙げられ、これらの中でもポリオキシテトラメチレングリコールが好ましい。
【0028】
前記ポリエーテルジオールの数平均分子量は、600以上が好ましく、より好ましくは650以上、さらに好ましくは700以上であり、3000以下が好ましく、より好ましくは2500以下、さらに好ましくは2000以下である。ポリエーテルジオールの数平均分子量が600以上であれば、塗膜における架橋点間の距離が長くなり、塗膜が柔らかくなるため、スピン性能が向上する。前記数平均分子量が3000以下であれば、塗膜における架橋点間の距離が長くなりすぎず、塗膜の耐汚染性が良好となる。なお、ポリオール成分の数平均分子量は、例えば、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)により、標準物質としてポリスチレン、溶離液としてテトラヒドロフラン、カラムとして有機溶媒系GPC用カラム(例えば、昭和電工社製「Shodex(登録商標) KFシリーズ」など)を用いて測定すればよい。
【0029】
前記第一ポリオール成分には分子量が500未満の低分子量ポリオールを含有してもよい。前記低分子量ポリオールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6-ヘキサンジオールなどのジオール;グリセリン、トリメチロールプロパン、ヘキサントリオールなどのトリオールが挙げられる。前記低分子量ポリオールは、単独で、あるいは、2種以上を混合して使用しても良い。
【0030】
前記ウレタンポリオールは、第一ポリオール成分として、トリオール成分とジオール成分とを含有するものが好ましい。前記トリオール成分としては、トリメチロールプロパンが好ましい。前記トリオール成分とジオール成分の混合比率(トリオール成分/ジオール成分)は、質量比で、0.2以上が好ましく、0.5以上がより好ましく、6.0以下が好ましく、5.0以下がより好ましい。」
(ウ)「【0074】
図1は、本発明の一実施形態に係るゴルフボール20が示された一部切り欠き断面図である。ゴルフボール20は、球状コア21と、球状コア21を被覆するカバー22と、このカバー22の表面に設けられた塗膜23を有する。前記塗膜23は、内層23aと外層23bから構成されている。前記カバー22の表面には、多数のディンプル24が形成されている。このカバー22の表面のうち、ディンプル24以外の部分は、ランド25である。」
(エ)「【0122】
1.センターの作製
表1に示す配合のセンター用ゴム組成物を混練し、半球状キャビティを有する上下金型内で170℃、20分間加熱プレスすることにより直径39.8mmの球状センターを得た。
【0123】
【表1】
[図:0001418184000014.jpg]
ポリブタジエンゴム:JSR(株)製、「BR730(ハイシスポリブタジエン)」アクリル酸亜鉛:日本蒸溜工業社製、「ZN-DA90S」酸化亜鉛:東邦亜鉛社製、「銀嶺R」硫酸バリウム:堺化学社製、「硫酸バリウムBD」ジフェニルジスルフィド:住友精化社製ジクミルパーオキサイド:日油社製、「パークミル(登録商標)D」
【0124】
2.中間層用組成物およびカバー用組成物の調製
表2、表3に示した配合の材料を、二軸混練型押出機によりミキシングして、ペレット状の中間層用組成物およびカバー用組成物を調製した。押出条件は、スクリュー径45mm、スクリュー回転数200rpm、スクリューL/D=35であり、配合物は、押出機のダイの位置で200~260℃に加熱された。
【0125】
【表2】
[図:0001418184000015.jpg]
サーリン8945:デュポン社製、ナトリウムイオン中和エチレン-メタクリル酸共重合体アイオノマー樹脂ハイミランAM7329:三井・デュポン・ポリケミカル社製、亜鉛イオン中和エチレン-メタクリル酸共重合体アイオノマー樹脂
【0126】
【表3】
[図:0001418184000016.jpg]
エラストランXNY83A:BASFジャパン社製、熱可塑性ポリウレタンエラストマー
【0127】
3.球状コアの作製
上記で得た中間層用組成物を、前述のようにして得たセンター上に直接射出成形することにより、前記センターを被覆する中間層(厚さ:1.0mm)を形成して、球状コアを作製した。成形用上下型は、半球状キャビティと、球状コアを支持する進退可能なホールドピンとを有している。中間層成形時には、上記ホールドピンを突き出し、センターを投入後ホールドさせ、80トンの圧力で型締めした金型に260℃に加熱した中間層用組成物を0.3秒で注入し、30秒間冷却して型開きして球状コアを取り出した。
【0128】
4.ハーフシェルの成形
ハーフシェルの圧縮成形は、得られたペレット状のカバー用組成物をハーフシェル成形用金型の下型の凹部ごとに1つずつ投入し、加圧してハーフシェルを成形した。圧縮成形は、成形温度170℃、成形時間5分、成形圧力2.94MPaの条件で行った。
【0129】
5.カバーの成形
上記で得た球状コアを2枚のハーフシェルで同心円状に被覆して、圧縮成形によりカバー(厚さ:0.5mm)を成形した。圧縮成形は、成形温度145℃、成形時間2分、成形圧力9.8MPaの条件で行った。
【0130】
6.ポリオール組成物の調製
6-1.ポリオール組成物No.1(ウレタンポリオール)
第一ポリオール成分として、ポリテトラメチレンエーテルグリコール(PTMG、数平均分子量650)、トリメチロールプロパン(TMP)を溶剤(トルエン、メチルエチルケトン)に溶解した。なお、モル比(PTMG:TMP)は1.8:1.0とした。ここに、触媒としてジブチル錫ジラウレートを主剤全体に対して0.1質量%となるように添加した。このポリオール溶液を80℃に保持しながら第一ポリイソシアネート成分としてのイソホロンジイソシアネート(IPDI)を滴下混合した。なお、ポリイソシアネート成分のNCO基とポリオール成分のOH基のモル比(NCO/OH)は0.6とした。滴下後は、イソシアネートがなくなるまで攪拌を続け、その後常温で冷却し、ウレタンポリオール(固形分:30質量%)を調製した。得られたポリオール組成物No.1のPTMG含有率は67質量%、固形分の水酸基価は67.4mgKOH/g、ウレタンポリオールの重量平均分子量は4867であった。
【0131】
6-2.ポリオール組成物No.2(ウレタンポリオール)
第一ポリオール成分として、ポリテトラメチレンエーテルグリコール(PTMG、数平均分子量1000)、トリメチロールプロパン(TMP)を溶剤(トルエン、メチルエチルケトン)に溶解した。なお、モル比(PTMG:TMP)は1.8:1.0とした。ここに、触媒としてジブチル錫ジラウレートを主剤全体に対して0.1質量%となるように添加した。このポリオール溶液を80℃に保持しながら第一ポリイソシアネート成分としてのイソホロンジイソシアネート(IPDI)を滴下混合した。なお、ポリイソシアネート成分のNCO基とポリオール成分のOH基のモル比(NCO/OH)は0.6とした。滴下後は、イソシアネートがなくなるまで攪拌を続け、その後常温で冷却し、ウレタンポリオール(固形分:30質量%)を調製した。得られたポリオール組成物No.2のPTMG含有率は76質量%、固形分の水酸基価は49.5mgKOH/g、ウレタンポリオールの重量平均分子量は6624であった。
【0132】
6-3.ポリオール組成物No.3(ポリロタキサン組成物)
ポリロタキサン(アドバンスト・ソフトマテリアル社製、「セルム(登録商標)スーパーポリマー SH3400P(シクロデキストリンの水酸基の少なくとも一部が、-O-C3H6-O-基を介して、カプロラクトン鎖によって変性されたポリロタキサン、直鎖状分子:ポリエチレングリコール、封鎖基:アダマンタン基、直鎖状分子の分子量:35,000、水酸基価:72mgKOH/g、全体分子量:重量平均分子量700,000)」)50質量部、ポリカプロラクトンポリオール(ダイセル社製、「Placcel(登録商標) 308」、水酸基価:190~200mgKOH/g)28質量部、塩化ビニル・酢酸ビニル・ビニルアルコール共重合体(日信化学工業社製、「ソルバイン(登録商標)AL」、水酸基価:63.4mgKOH/g)22質量部、変性シリコーン(Gelest社製、DBL-C31)0.1質量部、ジブチル錫ジラウレート0.01質量部、溶剤(キシレン/メチルエチルケトン=70/30(質量比)の混合溶剤)100質量部を混合し、ポリオール組成物No.3を調製した。
【0133】
7.ポリイソシアネート組成物の調製
7-1.ポリイソシアネート組成物No.1
ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート変性体(旭化成ケミカルズ社製、デュラネート(登録商標)TKA-100(NCO含有率:21.7質量%))30質量部、ヘキサメチレンジイソシアネートのビュレット変性体(旭化成ケミカルズ社製、デュラネート21S-75E(NCO含有率:15.5質量%))30質量部、イソホロンジイソシアネートのイソシアヌレート変性体(BAYER社製、デスモジュール(登録商標) Z 4470(NCO含有率:11.9質量%))40質量部を混合した。ここに、溶媒として、メチルエチルケトン、酢酸n-ブチル、トルエンの混合溶媒を追加し、ポリイソシアネート成分の濃度が60質量%になるように調整した。
【0134】
7-2.ポリイソシアネート組成物No.2
ヘキサメチレンジイソシアネートのビュレット変性体(旭化成ケミカルズ社製、デュラネート21S-75E(NCO含有率:15.5質量%))100質量部と、メチルエチルケトン100質量部を混合した。
【0135】
8.塗料
塗料の配合を表4に示した。
【0136】
【表4】
[図:0001418184000017.jpg]
【0137】
9.塗膜の形成
上記で得たゴルフボール本体の表面をサンドブラスト処理して、マーキングを施した後、スプレーガンで塗料を塗布し、40℃のオーブンで24時間塗料を乾燥させ、質量45.3gのゴルフボールを得た。塗装は、3本のプロングを備えた回転体にゴルフボール本体を載置し、回転体を300rpmで回転させ、ゴルフボール本体からエアーガンを吹き付け距離(7cm)だけ離間させて上下方向に移動させながら行った。エアーガンの吹付条件は、吹付エアー圧;0.15MPa、圧送タンクエアー圧;0.10MPa、1回の塗布時間;1秒、雰囲気温度;20℃~27℃、雰囲気湿度;65%以下の条件で塗装とした。なお、ゴルフボール本体に吹き付けた内層用塗料が完全に乾燥した後、外層用塗料の吹き付けを行った。得られたゴルフボールの評価結果を表5に示した。
【0138】
【表5】
[図:0001418184000018.jpg]
【0139】
ゴルフボールNo.B~E,H~Jは、塗膜の最内層の10%モジュラス(Min)と、塗膜の最外層の10%モジュラス(Mout)との差(Min-Mout)が、25kgf/cm2以上である。これらのゴルフボールNo.B~E,H~Jは、ドライ条件におけるスピン量が高く、かつ、ウェット条件におけるスピン量も高い。これらの中でも、塗膜の最外層の10%モジュラス(Mout)が、50kgf/cm2以下であるゴルフボールNo.H~Jは、打球感も優れている。ゴルフボールNo.A,F,G,Kは、差(Min-Mout)が、25kgf/cm2未満の場合である。これらのゴルフボールNo.A,F,G,Kは、ドライ条件でのスピン量は高いものの、ウェット条件でのスピン量が低い。」
以上(ア)~(エ)より、甲4には、以下の発明(甲4発明)が記載されているものと認められる。
「ゴルフボール20であって、球状コア21と、球状コア21を被覆するカバー22と、このカバー22の表面に設けられた塗膜23を有し、前記塗膜23は、ポリオール組成物とポリイソシアネート組成物とを含有する塗料から形成され、前記塗料として、ポリオールを主剤とし、ポリイソシアネートを硬化剤とするいわゆる二液硬化型ウレタン塗料を用い、前記カバー22の表面には、多数のディンプル24が形成されている、ゴルフボール。」
オ 甲10
甲10は、以下の事項が記載されている。
(ア)「2.特許請求の範囲
1.(i)一般式
[図:0001418184000019.jpg]
(式中、R′およびR″は同一または異なった脂肪族アルキレン基を示し、nは2~15の整数を示す。)
で示されるポリカーボネートジオールを必須成分とする水酸基価20~300のポリオールからなる主剤成分と
(ii)非黄変性ポリイソシアネートからなる硬化剤成分
とを前記硬化剤成分のイソシアネート基対主剤成分の水酸基の当量比NCO/OHが0.6~1.6/1.0になるように配合したゴルフボール用塗料組成物。
2.前記ポリカーボネートジオールの一般式中のR′及びR″が1,4-ブチレン基または1,6-ヘキシレン基である特許請求の範囲第1項記載のゴルフボール用塗料組成物。」
(イ)「(実施例)
以下本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。なお、実施例中「部」、「%」は重量基準である。
[ポリカーボネートジオールAの調製]
加熱用マントル、撹拌機、温度計、充填蒸留カラム及び供給ロートを備えた四ツ口フラスコに1,6―ヘキサンジオール1000部2とエチレンカーボネート400部を仕込み、120mmHgの減圧下で加熱し蒸留した。次いでエチレンカーボネート700部を追加し、漸次段階的に加熱と減圧操作を繰返し最終的に220℃、3部mmHgの減圧下で蒸留を行ない、水酸基価66、平均分子量1700のポリカーボネートジオール(以下ポリカーボネートジオールAという)を凋製した。
[ポリカーボネートジオールBの調製]
上記同様のフラスコに1,4-ブタンジオール495部、ジフェニルカーボネート1070部及び水酸化ナトリウム1部を仕込み、100℃、10mmHgの減圧下で蒸留を行なった。次いで3時間後120℃、1mmHgの減圧下で1時間反応を行ない、水酸基価90、平均分子量1200のポリカーボネートジオール(以下ポリカーボネートジオールBという)を調製した。
実施例1
ポリカーボネートジオールB100部、硬化促進剤(ジブチル錫ジラウレート1%酢酸ブチル溶液)5部をキシレン100部及び酢酸ブチル86部からなる混合溶剤に溶解し、主剤成分とした。塗装直前に主剤成分と硬化剤成分であるトリメチロールプロパン変性イソホロンジイソシアネート(25%酢酸ブチル溶液)193部を混合し、塗料を調製した。
実施例2~5
実施例1と同様にして第1表に示す配合成分からなる主剤成分と硬化剤成分を混合し、塗料を調製した。(なお表中の数値は「部」である。)
[図:0001418184000020.jpg]
実験例
鉄板(ダル軟鋼板0.8mm厚)に大日本塗料(株)のエポニックス#3100を、その上に第1表の塗料をスプレーで塗布し、それぞれ40℃、24時間乾燥した後、塗膜の耐摩耗性、耐擦傷性および可撓性を評価した。結果を第2表の1~3に示す。
次に、アイオノマーカバーの8種のツーピースゴルフボールに大日本塗料(株)からエポニックス#3100として市販のエポキシエナメルをペイント膜厚6~10μmとなるようにスプレー塗装した。更に1種を除いてウレタンエナメル(大日本塗料(株)から市販のVトップ白)を同様に塗装した。残りの1種のゴルフボールに実施例2で得られたエナメル塗料を塗装した。実施例2で塗装したゴルフボールはそのまま塗装外観、耐候性、耐衝撃性の評価およびラウンドテストを行なった。結果を第2表に示す。その他のゴルフボールは各実施例および比較例で得られたクリヤー塗料を塗装して、同様の評価を行なった。結果を第2表の4~7に示す。
・・・(中略)・・・
[図:0001418184000021.jpg]
」(4頁左上欄15行~5項左下欄1行)
上記(ア)、(イ)より、甲10には、以下の発明(甲10発明)が記載されているものと認められる。
「ポリカーボネートジオールを必須成分としたポリオールからなる主剤成分と、非黄変性ポリイソシアネートからなる硬化剤成分とを配合したゴルフボール用塗料組成物を、ツーピースゴルフボールに塗装したゴルフボール。」
第7 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由についての当審の判断
1 申立理由1について
(1)本件訂正請求により、特許請求の範囲の請求項6は、削除された。これにより、申立理由1について、請求項6に係る申立ては、申立ての対象が存在しなくなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
(2)申立理由1-1について
申立理由1-1について検討するに、特許異議申立人の主張は概略、塗膜層の材料組成が特定されておらず、実施例以外の塗膜層については当業者が容易に実施できないことを指摘するものと認められる。しかし本件訂正により、本件訂正発明の塗膜層の材料は本件特許明細書等の実施例に記載されたものに特定されることとなったから、特許異議申立人の主張は採用できない。
(3)申立理由1-2について
申立理由1-2は概略、表面力につき、「-130μN以下になる場合と、表面力が-130μN超になる場合とをどのようにして作り分けるのか」不明であることを指摘するものである。
しかし、本件訂正特許発明1では表面力は「-180μNまたは-140μNから-130μN」と特定されているので、-130μNを超える範囲については、当業者がそのような塗膜層を製造することができるように記載されている必要はない。一方、明細書等の段落【0051】~【0056】には、表面力が-180μNまたは-140μNから-130μNとなる塗膜層を製造するための材料や製法について具体的に記載されており、当業者が、表面力が-180μNまたは-140μNから-130μNとなる塗膜層を製造することができるように記載されているものと認められる。
したがって、特許異議申立人の主張は採用できない。
(4)申立理由1-3について
申立理由1-3は概略、実施例6の配合比率の矛盾を指摘するものと認められる。しかし、本件訂正(訂正事項8)により、明細書等の段落【0055】の「実施例7」は「実施例6」へと変更されたことから、特許異議申立人が主張する矛盾は解消したものと認められる。
したがって、特許異議申立人の主張は採用できない。
(5)令和5年10月24日に提出された意見書による特許異議申立人の主張について
ア 特許異議申立人の主張
特許異議申立人は、以下の点を主張している。
「特許権者は、意見書第7頁15行~16行において、「『-180μN~130μNの表面力を有する材料』自体は、訂正後の明細書の実施例6において記載するように、公知、公用の材料です。」と主張している。
しかしながら、特許権者の上記主張は、以下の点で失当である。
第一に、特許権者は、実施例6で使用したカシュー社製商品名タフテックスが公知・公用の材料であるとしているが、カシュー株式社の下記ウエブサイトで確認すると、スポーツ・レジャー用の塗料として、ストロンエースという商品は確認できるが、タフテックスという商品は確認されないし、ポリウレタン塗料であることや、ポリカーボネートを使用していることなどの記載もない。
https://www.cashew.co.jp/products/sports.html
従って、カシュー社製商品タフテックスが、本件特許出願当初に公知公用であること、かつ、カシュー社製商品タフテックスが、ポリカーボネートポリオールを使用したウレタン系塗料であることが公知公用であることは、証拠(書証)に基づいて主張・立証すべきことである。そして、証拠(書証)に基づかない主張は、採用されるべきではない。
第二に、実施例6で示されているのは、表面力が-180μNという材料の1点のみであって、表面力が-180μN~-130μNの範囲の材料が公知・公用になっている訳ではない。」
イ 当審の判断
上記特許異議申立人の主張について検討するに、「世界のウェブアーカイブ|Cashew社ホームページ」、[online]、平成29年7月16日、[令和6年8月16日検索]、インターネット<URL:https://web.archive.org/web/20170716032604/https://www.cashew.co.jp/products/joho.html>をみると、カシュー株式会社の平成29年7月16日時点でのホームページには、「名称:ストロンエース タフテックススエードシリーズ、特徴:2液ポリウレタン系 良触感塗料」との材料が記載されていることから、実施例6で使用されているカシュー社製商品名タフテックスは、本件特許出願日である平成29年12月28日より前に入手可能となっていたものと認められる。また、本件訂正後の請求項1は、ポリオールとしてポリカーボネートポリオール(タフテックス)が使用された場合の表面力は-180μNに限定されている。
したがって、特許異議申立人の主張は採用できない。
(6)小括
したがって、申立理由1によって、本件訂正特許発明1~5を取り消すことができない。
2 申立理由2について
(1)本件訂正請求により、特許請求の範囲の請求項6は、削除された。これにより、申立理由2について、請求項6に係る申立ては、申立ての対象が存在しなくなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
(2)申立理由2について
申立理由2について検討するに、明細書等の段落【0044】には、低表面エネルギー組成物として「シリコーンワックス」と「フルオロポリマー化合物」が併記されており、段落【0045】には、その添加量として、「0.5質量部以下がより好ましく」と記載されている。そして、明細書等の段落【0051】には、実施例1、2として「シリコーンワックス」を0.5質量部添加した場合に表面力が-130μNとなるものが記載されている。出願時の技術常識を考慮すれば、「フルオロポリマー化合物」を用いた場合にも同様の傾向を示すものと認められる。
したがって、特許異議申立人の主張は採用できない。
(3)小括
したがって、申立理由2によって、本件訂正特許発明1~5を取り消すことができない。
3 申立理由3について
(1)本件訂正請求により、特許請求の範囲の請求項6は、削除された。これにより、申立理由3について、請求項6に係る申立ては、申立ての対象が存在しなくなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
(2)申立理由3-1について
本件訂正により、請求項1における表面の測定は「前記表面力が、エリオニクス社製の商品名ESF-5000Plusの表面力測定装置で測定され、サンプルは、塗膜層が形成されたゴルフボールのディンプル間の陸部を使用し」と訂正されたから、特許異議申立人が不明確であると主張する記載は訂正後の請求項1には存在しないこととなった。
したがって、特許異議申立人の主張は採用できない。
(3)小括
したがって、申立理由3によって、本件訂正特許発明1~5を取り消すことができない。
4 申立理由4、5について
(1)本件訂正請求により、特許請求の範囲の請求項6は、削除された。これにより、申立理由4、5について、請求項6に係る申立ては、申立ての対象が存在しなくなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
(2)申立理由4-1、5-1について
ア 甲1発明と本件訂正特許発明1との対比
甲1発明の「内側コア」と「外側コア」とを合わせたものは本件訂正特許発明1の「コア」に相当する。また、甲1発明の「内側カバー」と「外側カバー」とを合わせたものは本件訂正特許発明1の「カバー」に相当する。また、甲1発明の「ポリウレタン軟質外部表面コーティング」は本件訂正特許発明1の「塗膜層」に相当する。
そして、上記第6の4(7)アのとおり、甲1発明は「フルオロポリマー化合物を有」しない。そうすると、本件訂正特許発明1と甲1発明とは、少なくとも下記の点で一致し、少なくとも下記の点で相違している。
<一致点>
「コアと、前記コアの外側に設けられるカバーと、前記カバーの外側に設けられている塗膜層とを備えるゴルフボールであって、前記塗膜層を形成する材料が、ポリオールとポリイソシアネートとからなるウレタン塗料を含有し、前記ポリオールはポリエステルポリオールであり、塗膜層にフルオロポリマー化合物を含有しない」点。
<相違点>
本件訂正特許発明1の塗膜層は、「ポリオール」が「ポリエステルポリオール」の場合には「-140μNから-130μNの表面力を有する」のに対し、甲1発明の「ポリウレタン軟質表面コーティング」の表面力は不明である点。
イ 相違点に対する判断
甲1発明におけるポリウレタン軟質表面コーティングの表面力が「-140μNから-130μNの表面力を有する」ことの蓋然性が高いといえる根拠はみあたらず、また表面力を「-140μNから-130μN」とすることが技術常識であるともいえない。さらにいえば、そのように表面力を調整する動機もみあたらない。
してみれば、本件訂正特許発明1は甲1発明と同一ではなく、また、甲1発明に基づいて当業者が容易になし得たものとも認められない。本件訂正特許発明2~5についても同様である。
なお、特許異議申立人は令和5年10月24日提出の意見書において「甲第1号証の軟質外部表面コーティングの表面力は、-180μN~-130μNである蓋然性が高い。」と主張している。
しかし、本件訂正により、本件訂正特許発明1における表面力は、ポリオールがポリエステルポリオールの場合に「-140μNから-130μN」へとより狭い範囲へと限定された。また、本件訂正特許発明で使用されるポリエステルポリオールは、明細書等の段落【0052】、【0053】に記載された特定の方法によって製造されたものであり、甲1で使用されるポリオールと同一または類似のものと認めるに足る根拠が見当たらない。してみれば、甲1の軟質外部表面コーティングの表面力が-140μNから130μNである蓋然性が高いとまではいえない。
(3)申立理由4-2、5-2について
ア 甲2発明と本件訂正発明1との対比
甲2発明の「コア」、「カバー」及び「ディンプル」は本件訂正特許発明1の「コア」、「カバー」及び「ディンプル」に相当する。また、甲2発明はフルオロポリマー化合物を利用するものでない。
そして、甲2発明の「塗膜」は本件訂正特許発明1の「塗膜層」に相当するところ、本件訂正特許発明1と甲2発明とは、少なくとも下記の点で一致し、少なくとも下記の点で相違している。
<一致点>
「コアと、前記コアの外側に設けられ、ディンプルが形成されているカバーと、前記カバーの外側に設けられている塗膜層とを備えるゴルフボールであって、前記塗膜層を形成する材料が、ポリオールとポリイソシアネートとからなるウレタン塗料を含有し、フルオロポリマー化合物を含有しない」点。
<相違点>
本件訂正特許発明1の塗膜層が「-180μNまたは-140μNから-130μNの表面力を有する」のに対し、甲2発明の「塗膜」の表面力は不明である点。
イ 相違点に対する判断
甲2発明における塗膜の表面力が「-180μNまたは-140μNから-130μNの表面力を有する」ことの蓋然性が高いといえる根拠はみあたらず、表面力を「-180μNまたは-140μNから-130μN」とすることが技術常識であるともいえない。さらにいえば、そのように表面力を調整する動機もみあたらない。
してみれば、本件訂正特許発明1は甲2発明と同一ではなく、また、甲2発明に基づいて当業者が容易になし得たものとも認められない。本件訂正特許発明2~5についても同様である。
(4)申立理由4-3、5-3について
ア 甲3発明と本件訂正発明1との対比
甲3発明の「球状コア104」、「カバー112」及び「ディンプル114」は、本件訂正特許発明の「コア」、「カバー」及び「ディンプル」に相当する。また、甲3発明はフルオロポリマー化合物を利用するものでない。
そして、甲3発明の「塗膜」は本件訂正特許発明1の「塗膜層」に相当するところ、本件訂正特許発明1と甲3発明とは、少なくとも下記の点で一致し、少なくとも下記の点で相違している。
<一致点>
「コアと、前記コアの外側に設けられ、ディンプルが形成されているカバーと、前記カバーの外側に設けられている塗膜層とを備えるゴルフボールであって、前記塗膜層を形成する材料が、ポリオールとポリイソシアネートとからなるウレタン塗料を含有し、フルオロポリマー化合物を含有しない」点。
<相違点>
本件訂正特許発明1の塗膜層が「-180μNまたは-140μNから-130μNの表面力を有する」のに対し、甲3発明の「塗膜」の表面力は不明である点。
イ 相違点に対する判断
甲3発明における塗膜の表面力が「-180μNまたは-140μNから-130μNの表面力を有する」ことの蓋然性が高いといえる根拠はみあたらず、また表面力を「-180μNまたは-140μNから-130μN」とすることが技術常識であるともいえない。さらにいえば、そのように表面力を調整する動機もみあたらない。
してみれば、本件訂正特許発明1は、甲3発明と同一ではなく、また、甲3発明に基づいて当業者が容易になし得たものとも認められない。本件訂正特許発明2~5についても同様である。
(5)申立理由4-4、5-4について
ア 甲4発明と本件訂正発明1との対比
甲4発明の「球状コア21」、「カバー22」及び「ディンプル24」は、本件訂正特許発明の「コア」、「カバー」及び「ディンプル」に相当する。また、甲4発明はフルオロポリマー化合物を利用するものでない。
そして、甲4発明の「塗膜」は本件訂正特許発明1の「塗膜層」に相当するところ、本件訂正特許発明1と甲4発明とは、少なくとも下記の点で一致し、少なくとも下記の点で相違している。
<一致点>
「コアと、前記コアの外側に設けられ、ディンプルが形成されているカバーと、前記カバーの外側に設けられている塗膜層とを備えるゴルフボールであって、前記塗膜層を形成する材料が、ポリオールとポリイソシアネートとからなるウレタン塗料を含有し、フルオロポリマー化合物を含有しない」点。
<相違点>
本件訂正特許発明1の塗膜層が「-180μNまたは-140μNから-130μNの表面力を有する」のに対し、甲4発明の「塗膜」の表面力は不明である点。
イ 相違点に対する判断
甲4発明における塗膜の表面力が「-180μNまたは-140μNから-130μNの表面力を有する」ことの蓋然性が高いといえる根拠はみあたらず、また表面力を「-180μNまたは-140μNから-130μN」とすることが技術常識であるともいえない。さらにいえば、そのように表面力を調整する動機もみあたらない。
してみれば、本件訂正特許発明1は、甲4発明と同一ではなく、また、甲4発明に基づいて当業者が容易になし得たものとも認められない。本件訂正特許発明2~5についても同様である。
(6)申立理由4-5、5-5について
ア 甲10発明と本件訂正発明1との対比
甲10発明はツーピースボールであるから、本件訂正特許発明の「コア」及び「カバー」に相当する構造を有するものと認められる。また、甲10発明はフルオロポリマー化合物を利用するものでない。
そして、甲10発明において「塗装」された「ゴルフボール用塗料組成物」は本件訂正特許発明1の「塗膜層」に相当する。また、甲10発明の「ポリカーボネートジオール」、「非黄変性ポリイソシアネート」は本件訂正発明1の「ポリカーボネートポリオール」、「ポリイソシアネート」に相当する。また、「ポリカーボネートジオールを必須成分としたポリオールからなる主剤成分と、非黄変性ポリイソシアネートからなる硬化剤成分とを前配合したゴルフボール用塗料組成物」は、本件訂正特許発明1の「ウレタン塗料」に相当することは技術常識から明らかであるといえる。
してみれば、本件訂正特許発明1と甲10発明とは、少なくとも下記の点で一致し、少なくとも下記の点で相違している。
<一致点>
「コアと、前記コアの外側に設けられるカバーと、前記カバーの外側に設けられている塗膜層とを備えるゴルフボールであって、前記塗膜層を形成する材料が、ポリオールとポリイソシアネートとからなるウレタン塗料を含有し、前記ポリオールはポリカーボネートポリオールであり、塗膜層にフルオロポリマー化合物を含有しない」点。
<相違点>
本件訂正特許発明1の塗膜層は、「ポリオール」が「ポリカーボネートポリオール」の場合には「-180μNの表面力を有する」のに対し、甲10発明の「塗装」された「ゴルフボール用塗料組成物」の表面力は不明である点。
イ 相違点に対する判断
甲10発明における塗膜の表面力が「-180μNの表面力を有する」ことの蓋然性が高いといえる根拠はみあたらず、また表面力を「-180μN」とすることが技術常識であるともいえない。さらにいえば、そのように表面力を調整する動機もみあたらない。
してみれば、本件訂正特許発明1は、甲10発明と同一ではなく、また、甲10発明に基づいて当業者が容易になし得たものとも認められない。本件訂正特許発明2~5についても同様である。
なお、特許異議申立人は令和5年10月24日提出の意見書において「本件特許発明1のウレタン塗料と甲10のゴルフボール用塗料組成物は、ポリカーボネートポリオールとポリイソシアネートとを含有する点で共通することから、甲10のゴルフボール用塗料組成物から形成した塗膜層の表面力は、-180μNから-130μNである蓋然性が高い」と主張している。
しかし、本件訂正により、本件訂正特許発明1における表面力は、ポリオールがポリカーボネートの場合に「-180μN」(1点)へとより狭い範囲へと限定された。また、本件訂正特許発明1で使用されるポリカーボネートポリオールが、甲10で使用されるポリカーボネートポリオールと同一または類似のものと認めるに足る根拠が見当たらない。してみれば、甲10のゴルフボール用塗料組成物から形成した塗膜層の表面力が-180μNである蓋然性が高いとまではいえない。
(7)小括
したがって、申立理由4、5によって、本件訂正特許発明1~5を取り消すことができない。
第8 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1~5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1~5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、請求項6は、本件訂正請求により削除された。これにより、特許異議申立人による特許異議申立てについて、請求項6に係る申立ては、申立ての対象が存在しなくなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
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2022-701020