2021-700549
複合構造体およびその製造方法
- 審判番号
- 2021-700549
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2019-561203外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 登録番号
- 6819798
- 請求日
- 2021年06月04日
- 審決日
- 2022年01月04日
- 公報発行日
- 2022年03月25日
- 結論
- 維持
- 分類
- P1651.113-Y (B32B) / P1651.121-Y (B32B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
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結論
理由
目次 ▾ 10項目
第1 手続の経緯
特許第6819798号の請求項1~11に係る特許についての出願は、平成31年4月4日(優先権主張 平成30年4月10日)を国際出願日とする出願であって、令和3年1月6日にその特許権の設定登録がされ、令和3年1月27日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、令和3年6月4日に特許異議申立人渡辺陽子(以下「申立人」という。)により、本件特許異議の申立てがされた。
第2 本件発明
特許第6819798号の請求項1~11に係る発明(以下「本件発明1」等という。)は、それぞれ、本件特許の特許請求の範囲の請求項1~11に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】表面粗化した金属部材とポリアリーレンスルフィド樹脂を含むポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を溶融成形してなる成形品からなる樹脂部材とが接合してなる複合構造体であって、前記表面粗化した金属部材表面の任意の5点を、共焦点顕微鏡を用いてISO 25178に準拠して測定した時に界面の展開面積比(Sdr)が数平均値(百分率)で5〔%〕以上の範囲であること、ポリアリーレンスルフィド樹脂の溶融粘度(高化式フローテスターを用い、300℃、荷重:1.96×106Pa、L/D=10(mm)/1(mm)にて、6分間保持した後に測定した溶融粘度)が15〔Pa・s〕以上から500〔Pa・s〕以下の範囲であることを特徴とする複合構造体。続きを表示(全31行)【請求項2】前記ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物が、ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)100質量部に対して、充填剤(B)を1質量部以上から150質量部以下の範囲で配合し溶融混練してなる、請求項1記載の複合構造体。【請求項3】前記ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物が、ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)100質量部に対して、エラストマー(C)を1質量部以上から100質量部以下の範囲で配合し溶融混練してなる、請求項1又は2記載の複合構造体。【請求項4】請求項1記載の複合構造体に用いられる樹脂部材であって、当該樹脂部材が、ポリアリーレンスルフィド樹脂を含むポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を溶融成形してなる成形品からなることを特徴とする、樹脂部材。【請求項5】請求項4記載の樹脂部材に用いられるポリアリーレンスルフィド樹脂組成物であって、当該樹脂部材が、ポリアリーレンスルフィド樹脂を含むポリアリーレンスルフィド樹脂組成物であることを特徴とする、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物。【請求項6】表面粗化した金属部材とポリアリーレンスルフィド樹脂を含むポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を溶融成形してなる成形品からなる樹脂部材とが接合してなる複合構造体の製造方法であって、前記金属部材表面にポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を溶融成形することにより接合する工程(α)、または、金属部材表面と、前記成形品とを接合する工程(β)、を有すること、表面粗化した金属の任意の5点を、共焦点顕微鏡を用いてISO 25178に準拠して測定した時に、界面の展開面積比(Sdr)が数平均値(百分率)で5〔%〕以上の範囲であること、ポリアリーレンスルフィド樹脂の溶融粘度(高化式フローテスターを用い、300℃、荷重:1.96×106Pa、L/D=10(mm)/1(mm)にて、6分間保持した後に測定した溶融粘度)が15〔Pa・s〕以上から500〔Pa・s〕以下の範囲の範囲であることを特徴とする複合構造体の製造方法。【請求項7】金属部材を表面粗化する工程を含み、表面粗化前の該金属部材表面の任意の5点における、界面の展開面積比(Sdr)の数平均値(Sdr0)に対する、前記表面粗化した金属部材表面の任意の5点における、界面の展開面積比(Sdr)の数平均値(Sdr1)の比率(Sdr1/Sdr0)が7以上の範囲であることを特徴とする請求項6記載の製造方法。【請求項8】前記ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物が、ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)100質量部に対して、充填剤(B)を1質量部以上から200質量部以下の範囲で配合し溶融混練してなる、請求項6又は7のいずれか一項記載の複合構造体の製造方法。【請求項9】前記ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物が、ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)100質量部に対して、エラストマー(C)を0.01質量部以上から30質量部以下の範囲で配合し溶融混練してなる、請求項6~8のいずれか一項記載の複合構造体の製造方法。【請求項10】請求項4に記載の樹脂部材の製造方法であって、ポリアリーレンスルフィド樹脂を含むポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を溶融成形して、成形品からなる樹脂部材を得る工程を有することを特徴とする、樹脂部材の製造方法。【請求項11】請求項5に記載のポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法であって、ポリアリーレンスルフィド樹脂を必須成分として溶融混練する工程を有することを特徴とする、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法。」
第3 申立理由の概要
申立人は、以下に示す甲第1~9号証(以下「甲1」等という。)を提出し、請求項1~11に係る特許は、以下の理由により、取り消されるべきものである旨を主張する。
1 申立理由1(新規性)
本件発明1~11は、甲1に記載された発明である。
よって、本件発明1~11は、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであり、その特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
2 申立理由2(進歩性)
本件発明1~11は、甲1~9に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
よって、本件発明1~11は、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであり、その特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
[引用文献等一覧]
第4 当審の判断
1 甲1の記載事項、及び甲1に記載された発明
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(1)甲1には、次の事項が記載されている。
「【請求項1】インサート金属部材と、樹脂組成物からなり、前記インサート金属部材上にインサート成形された樹脂部材と、を備え、前記インサート金属部材の、前記樹脂部材と接する表面の少なくとも一部は、物理的処理及び/又は化学的処理を施されている金属樹脂複合成形体であって、前記樹脂組成物は、(A)ポリアリーレンサルファイド樹脂100質量部と、(B)非繊維状であり、平均粒子径が30μm以下であり、かつ、球状シリカ及びガラスビーズからなる群より選択される無機充填材10~250質量部と、(C)エポキシ基含有オレフィン系共重合体3~55質量部と、を含み、前記樹脂組成物中のエポキシ基含有量は0.01~0.80質量%である金属樹脂複合成形体。」
「【背景技術】【0002】金属や合金等から構成されるインサート金属部材と、熱可塑性樹脂組成物から構成される樹脂部材とが一体化されてなる金属樹脂複合成形体は、従来から、インパネ周りのコンソールボックス等の自動車の内装部材やエンジン周り部品や、インテリア部品、デジタルカメラや携帯電話等の電子機器のインターフェース接続部、電源端子部等の外界と接触する部品に用いられている。」
「【発明が解決しようとする課題】・・・【0007】本発明の目的は、インサート金属部材と樹脂部材との接合強度が強く、表面の外観が良好であり、酸やアルカリ等に対する耐薬品性に優れる金属樹脂複合成形体及びその製造方法を提供することにある。」
「【0025】物理的処理及び化学的処理は、特に限定されず、公知の物理的処理及び化学的処理を用いることができる。物理的処理により、インサート金属部材の表面は粗面化され、粗面化領域に形成された孔に、樹脂部材を構成する樹脂組成物が入り込むことでアンカー効果が生じ、インサート金属部材と樹脂部材との界面における密着性が向上しやすくなる。一方、化学的処理により、インサート金属部材とインサート成形される樹脂部材との間に、共有結合、水素結合、又は分子間力等の化学的接着効果が付与されるため、インサート金属部材と樹脂部材との界面における密着性が向上しやすくなる。化学的処理は、インサート金属部材の表面の粗面化を伴うものであってもよく、この場合には、物理的処理と同様のアンカー効果が生じて、インサート金属部材と樹脂部材との界面における密着性が更に向上しやすくなる。」
「【0029】(A)ポリアリーレンサルファイド樹脂は、インサート金属部材と樹脂部材とのより良い密着性が得られるため、310℃で測定した、剪断速度1216/秒での溶融粘度が8~300Pa・sであることが好ましく、10~200Pa・sであることが特に好ましい。」
「【0033】(B)成分の無機充填材の含有量は、(A)ポリアリーレンサルファイド樹脂100質量部に対し、通常、10~250質量部であり、好ましくは20~200質量部である。上記含有量が10質量部未満であると、材料の剛性及び寸法精度が不足しやすい。上記含有量が250質量部を超えると、流動性が悪化しやすく、金属との十分な接合強度が得られない場合がある。」
「【0044】(C)エポキシ基含有オレフィン系共重合体の含有量は、(A)ポリアリーレンサルファイド樹脂100質量部に対し、通常、3~55質量部であり、好ましくは3~30質量部である。上記含有量が3質量部未満であると、インサート金属部材と樹脂部材との間の接合強度が十分に得られない場合がある。なお、インサート金属部材と樹脂部材との密着性には、これら部材間の線膨張差が影響している。(C)エポキシ基含有オレフィン系共重合体が応力緩和を実現することで、ひずみが小さくなり、上記接合強度が改善すると考えられる。応力緩和には、靭性が効いており、靭性は、引張伸びで評価できる。エラストマーとして機能する(C)エポキシ基含有オレフィン系共重合体の含有量が少ないと、引張伸びが小さく、十分な応力緩和効果が得られないと考えられる。また、応力緩和は、耐衝撃性の改善にも寄与する。一方、上記含有量が55質量部を超えると、(C)エポキシ基含有オレフィン系共重合体と(A)ポリアリーレンサルファイド樹脂との反応による粘度上昇が大きくなりやすいため、流動性が悪化しやすく、インサート金属部材と樹脂部材との間の接合強度が十分に得られない場合がある。上記含有量が3~30質量部であると、耐硫酸性の観点からも好ましく、より優れた金属樹脂複合成形体を得やすい。」
「【0060】[溶融粘度]東洋精機(株)製キャピログラフを用い、キャピラリーとして1mmφ×20mmL/フラットダイを使用し、バレル温度310℃、剪断速度1216/秒での溶融粘度を測定した。」
(2)上記(1)に摘記した事項から、甲1には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている。
「インサート金属部材と、樹脂組成物からなり、前記インサート金属部材上にインサート成形された樹脂部材と、を備え、前記インサート金属部材の、前記樹脂部材と接する表面の少なくとも一部は、物理的処理及び/又は化学的処理を施されている金属樹脂複合成形体であって、前記樹脂組成物は、(A)ポリアリーレンサルファイド樹脂100質量部と、(B)非繊維状であり、平均粒子径が30μm以下であり、かつ、球状シリカ及びガラスビーズからなる群より選択される無機充填材10~250質量部と、(C)エポキシ基含有オレフィン系共重合体3~55質量部と、を含み、前記樹脂組成物中のエポキシ基含有量は0.01~0.80質量%である金属樹脂複合成形体であって、(A)ポリアリーレンサルファイド樹脂は、インサート金属部材と樹脂部材とのより良い密着性が得られるため、東洋精機(株)製キャピログラフを用い、キャピラリーとして1mmφ×20mmL/フラットダイを使用し、バレル温度310℃、剪断速度1216/秒で測定した溶融粘度が8~300Pa・sであることが好ましく、10~200Pa・sである金属樹脂複合成形体。」
2 本件発明1について
(1)対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「インサート金属部材」は本件発明1の「金属部材」に相当し、以下同様に、「樹脂部材」は「樹脂部材」に、「金属樹脂複合成形体」は「複合構造体」に相当する。
甲1発明の「前記インサート金属部材の、前記樹脂部材と接する表面の少なくとも一部は、物理的処理及び/又は化学的処理を施されている」ことは、本件発明1の「金属部材」が「表面粗化した」ものであることに相当する。
甲1発明の「樹脂組成物」は、「(A)ポリアリーレンサルファイド樹脂100質量部」を含むので、本件発明1の「ポリアリーレンスルフィド樹脂を含むポリアリーレンスルフィド樹脂組成物」に相当する。
甲1発明の「インサート金属部材と、樹脂組成物からなり、前記インサート金属部材上にインサート成形された」ことは、本件発明1の「金属部材」と「ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を溶融成形してなる成形品からなる樹脂部材とが接合してなる」ことに相当する。
そうすると、本件発明1と甲1発明とは、次の点で一致し、かつ、相違する。
[一致点]
「表面粗化した金属部材とポリアリーレンスルフィド樹脂を含むポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を溶融成形してなる成形品からなる樹脂部材とが接合してなる複合構造体。」
[相違点1]
本件発明1は「表面粗化した金属部材表面の任意の5点を、共焦点顕微鏡を用いてISO 25178に準拠して測定した時に界面の展開面積比(Sdr)が数平均値(百分率)で5〔%〕以上の範囲である」のに対して、甲1発明はその点が不明である点。
[相違点2]
本件発明1は「ポリアリーレンスルフィド樹脂の溶融粘度(高化式フローテスターを用い、300℃、荷重:1.96×106Pa、L/D=10(mm)/1(mm)にて、6分間保持した後に測定した溶融粘度)が15〔Pa・s〕以上から500〔Pa・s〕以下の範囲である」のに対して、甲1発明は「(A)ポリアリーレンサルファイド樹脂は、インサート金属部材と樹脂部材とのより良い密着性が得られるため、東洋精機(株)製キャピログラフを用い、キャピラリーとして1mmφ×20mmL/フラットダイを使用し、バレル温度310℃、剪断速度1216/秒で測定した溶融粘度が8~300Pa・sであることが好ましく、10~200Pa・sである」点。
(2)判断
ア 新規性について
事案に鑑み、相違点2について検討する。
甲1発明のポリアリーレンサルファイド樹脂の溶融粘度が、本件発明1の溶融粘度の測定方法と同じもので行った場合に、本件発明1と同じになるとは必ずしもいえず、同じであることを示す証拠も提出されていない。
そうすると、相違点2は実質的な相違点であるから、相違点1について検討するまでもなく、本件発明1は甲1発明ではない。
イ 進歩性について
さらに、相違点2について検討する。
甲1発明の課題は、「インサート金属部材と樹脂部材との接合強度が強く、表面の外観が良好であり、酸やアルカリ等に対する耐薬品性に優れる金属樹脂複合成形体」(上記第4の1(1)【0007】)を提供することである。
一方、本件発明1が解決しようとする課題は、「金属部材とポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の成形品からなる樹脂部材とが接合してなり、より接合強度および耐ヒートサイクル性に優れる複合構造体」(本件特許の明細書【0007】)を提供することであり、本件特許の明細書【0044】を参照すると、当該課題は、本件発明1の「ポリアリーレンスルフィド樹脂の溶融粘度(高化式フローテスターを用い、300℃、荷重:1.96×106Pa、L/D=10(mm)/1(mm)にて、6分間保持した後に測定した溶融粘度)が15〔Pa・s〕以上から500〔Pa・s〕以下の範囲であること」により、解決するものである。
すなわち、本件発明1は「接合強度」に加えて「耐ヒートサイクル性」が要求されるものであるのに対して、甲1発明は「耐ヒートサイクル性」は要求されるものではない。
そうすると、甲1発明において、「耐ヒートサイクル性」が優れたものとするため、「ポリアリーレンスルフィド樹脂の溶融粘度(高化式フローテスターを用い、300℃、荷重:1.96×106Pa、L/D=10(mm)/1(mm)にて、6分間保持した後に測定した溶融粘度)が15〔Pa・s〕以上から500〔Pa・s〕以下の範囲」とする構成を採用する動機付けはない。
また、相違点2に係る本件発明1の構成とすることについては、甲1~9に記載されておらず、また、本件特許の出願前において周知技術であるともいえない。
したがって、甲1発明において、相違点2に係る本件発明1の構成とすることを、当業者が容易に想到し得たとはいえない。
よって、相違点1を検討するまでもなく、本件発明1は、当業者が甲1発明に基いて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
3 本件発明2~11について
本件発明2~11は、本件発明1の発明特定事項をすべて含み、さらに限定を加えるものであるから、上記2(2)アで検討したのと同じ理由により、本件発明2~11は甲1に記載された発明ではなく、また、上記2(2)イで検討したのと同じ理由により、本件発明2~11は、当業者が甲1に記載された発明に基いて容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
第5 むすび
以上のとおり、申立人の主張する特許異議申立理由によっては、本件特許の請求項1~11に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1~11に係る特許を取り消すべき理由は発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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