特許異議申立
2021-700541
コロナウイルス不活化剤
- 審判番号
- 2021-700541
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2020-540368
- 登録番号
- 6795720
- 請求日
- 2021年06月02日
- 審決日
- 2023年06月15日
- 公報発行日
- 2023年09月29日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】花王株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人アルガ特許事務所
- 【権利者】学校法人北里研究所
- 【権利者代理人】弁理士法人アルガ特許事務所
- 【異議申立人】森田 弘潤
- 審判長/審判官
- 審判長 前田 佳与子
- 審判官 渕野 留香
- 審判官 原田 隆興
- 分類
- P1651.113-YAA(A61K) / P1651.121-YAA(A61K) / P1651.537-YAA(A61K)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第113条第2号、特許法第29条第1項第3号、特許法第113条第4号、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第36条第6項第2号、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6795720号発明「コロナウイルス不活化剤」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
結論
特許第6795720号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~3〕、4について訂正することを認める。
特許第6795720号の請求項1、2、4に係る特許を維持する。
特許第6795720号の請求項3に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第6795720号(以下「本件特許」という。)は、令和2年7月17日を国際出願日とする出願(特願2020-540368号、優先権主張 令和2年7月8日(JP)日本国)であって、令和2年11月16日にその特許権の設定登録(請求項の数4)がされ、同年12月2日に特許掲載公報が発行された。
その後、令和3年6月2日に、本件請求項1~4に係る特許に対し、特許異議申立人 森田弘潤(以下「申立人」という。)により、特許異議の申立てがなされた。
以降の手続の経緯の概要は次のとおりである。
令和3年 8月18日付け 取消理由通知
同年 10月25日 意見書・訂正請求書の提出(特許権者)
令和4年 1月 4日 意見書の提出(申立人)
同年 3月31日付け 取消理由通知(決定の予告)
同年 6月 2日 意見書・訂正請求書の提出(特許権者)
同年 7月20日 意見書の提出(申立人)
同年 10月18日付け 取消理由通知(決定の予告)
同年 12月14日 意見書・訂正請求書の提出(特許権者)
令和5年 2月 3日 意見書の提出(申立人)
第2 訂正の適否についての判断
1 請求の趣旨及び訂正の内容
(1)請求の趣旨
令和4年12月14日提出の訂正請求書により特許権者が行った訂正請求は、「特許第6795720号の特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~3、4について訂正することを求める」ことを請求の趣旨とするものである。
そして、上記訂正請求による訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、以下のとおりである(下線は訂正箇所を示す。)。
なお、令和3年10月25日提出の訂正請求書及び令和4年3月31日提出の訂正請求書により特許権者が行った訂正請求は、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。
(2)訂正の内容
訂正請求書の訂正事項を以下のア~ウの3つにまとめて記載する。
ア 訂正事項1(訂正請求書の7.(1)2)ア~ウ)
特許請求の範囲の請求項1に「直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩」と記載されているのを、「直鎖アルキル基の炭素数の分布が10~13である直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩からなる直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩」に訂正するとともに(訂正事項1a)、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩の濃度(X)について、「12.5ppm以上」と記載されているのを、「25.0ppm以上100ppm以下」に訂正する(訂正事項1b)。
また、「前記ポリオキシエチレンアルキルエーテルの濃度(Y)が4.0ppm以上」と記載されているのを「前記ポリオキシエチレンアルキルエーテルの濃度(Y)が6.25ppm以上100ppm以下」に訂正する(訂正事項1c)。
また、請求項1を引用する請求項2も同様に訂正することになる。
イ 訂正事項2(訂正請求書の7.(1)2)エ)
特許請求の範囲の請求項3を削除する。
ウ 訂正事項3(訂正請求書の7.(2)2)ア~ウ)
特許請求の範囲の請求項4に「直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩」と記載されているのを、「直鎖アルキル基の炭素数の分布が10~13である直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩からなる直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩」に訂正するとともに(訂正事項3a)、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩の濃度(X)について、「12.5ppm以上」と記載されているのを、「25.0ppm以上100ppm以下」に訂正する(訂正事項3b)。
また、「前記ポリオキシエチレンアルキルエーテルの濃度(Y)が4.0ppm以上」と記載されているのを「前記ポリオキシエチレンアルキルエーテルの濃度(Y)が6.25ppm以上100ppm以下」に訂正する(訂正事項3c)。
なお、本件訂正は、訂正前の請求項1~4についてのものであるところ、訂正前の請求項2及び3は、訂正前の請求項1を直接又は間接的に引用するものであるから、訂正前の請求項1~3は、一群の請求項である。
そして、訂正事項1及び2は、一群の請求項1~3に対するものである。
2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
ア 訂正事項1は、訂正前の請求項1のSARSコロナウイルス-2不活化剤における直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩について、「直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩」を「直鎖アルキル基の炭素数の分布が10~13である直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩からなる」ものに限定するとともに(訂正事項1a)、「直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩」の濃度(X)を「12.5ppm以上」から「25.0ppm以上100ppm以下」(訂正事項1b)に、ポリオキシエチレンアルキルエーテルの濃度(Y)を「4.0ppm以上」から「6.25ppm以上100ppm以下」(訂正事項1c)に限定するものであるから、訂正事項1は、「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正であるし、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
イ 訂正事項1aについての新規事項の有無について
(ア) 訂正事項1aに関し、本件特許の願書に添付した明細書(以下「本件特許明細書」という。)の【0010】には、「本発明において、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩は特に限定されるものではないが、SARS-CoV-2不活化の観点から、直鎖アルキル基の炭素数は、好ましくは8~18であって、より好ましくは9~16、さらに好ましくは9~15である。」「直鎖アルキル基の炭素数に分布があってもよい。」と記載されている。また、【0027】には、実施例の試験に「直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム:ネオペレックスG-25、花王(株)製、アルキル分布(C10-13)」を用いたことが記載されており、実施例においては、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩として、直鎖アルキル基の炭素数の分布が10~13である直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウムからなるものを使用している。(下線は、当審が付した。以下この取消理由通知中で同様である。)
(イ) したがって、上記訂正事項1aは、新たな技術的事項を導入するものではなく、訂正事項1aは、本件特許の願書に添付した明細書に記載された事項の範囲内の訂正である。
(ウ) なお、申立人は、令和5年2月3日提出の意見書の3(1)~(3)において、訂正事項1a(及び訂正事項3a)に関し、(i)「直鎖アルキル基の炭素数の分布が10~13である直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩からなる直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩」なる規定が、仮に、直鎖アルキル基の炭素数が10~13以外の直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩を含む態様も含まれるとするなら、(X)として規定されていたパラメータの技術的意義が異なることになり、実質上特許請求の範囲を変更するものに該当するし、(ii)上記の訂正事項1a(及び3a)の規定は、直鎖アルキル基の炭素数が10~13以外の直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩を含むとも、含まないとも解釈できる点で、不明確であるから、本件訂正により明確性要件違反の取消理由が生じることになる旨主張する。
しかしながら、「直鎖アルキル基の炭素数の分布が10~13である直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩からなる直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩」との規定を、文字通り解釈すれば、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩は、「直鎖アルキル基の炭素数の分布が10~13」からなるものであり、炭素数が10~13以外の直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩は含まれないと明確に理解できるから、申立人の上記主張(i)及び(ii)は採用できない。
また、上記の理解は、被請求人が令和4年12月14日に提出した訂正請求書の7.(1)3)イ(ア)c(及び同(2)3)イ(ア)cにおいて、訂正内容が実施例の試験で使用されている、アルキル基の炭素数の分布が10~13である直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩である商品に基づくことを説明していることとも整合する。
ウ 訂正事項1b及び訂正事項1cについての新規事項の有無について
訂正事項1b及び1cに関し、本件特許明細書の【0014】には、「直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩の濃度(X)は、SARS-CoV-2不活化の観点から、・・・より好ましくは25.0ppm以上・・・であり、また、コストや不活化対象へのダメージの観点から、・・・100ppm以下であるのがさらに好ましい。」と記載され、また、訂正事項1cに関し、同【0014】には、「ポリオキシエチレンアルキルエーテルの濃度(Y)は、SARS-CoV-2不活化の観点から、4.00ppm以上であって、・・・また、コストや不活化対象へのダメージの観点から、・・・l00ppm以下であるのがよりさらに好ましい。」と記載され、【0029】の【表1】には、ポリオキシエチレンアルキルエーテルの濃度(Y)が「6.25ppm」である実施例(実施例1及び7)が記載されている。
したがって、訂正事項1b及び1cは、本件特許明細書に記載された事項の範囲内の訂正である。
(2)訂正事項2について
訂正事項2は、訂正前の請求項を削除するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正である。
そして、訂正事項2は、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(3)訂正事項3について
ア 訂正事項3は、訂正前の請求項4のSARSコロナウイルス-2感染症の予防剤における直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩について、「直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩」を「直鎖アルキル基の炭素数の分布が10~13である直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩からなる」ものに限定するとともに(訂正事項3a)、「直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩」の濃度(X)を「12.5ppm以上」から「25.0ppm以上100ppm以下」(訂正事項3b)に、ポリオキシエチレンアルキルエーテルの濃度(Y)を「4.0ppm以上」から「6.25ppm以上100ppm以下」(訂正事項3c)に限定するものであるから、訂正事項3は、「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正であるし、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
イ また、上記(1)イで指摘した本件特許明細書の記載及び本件特許の出願時の技術常識を踏まえれば、上記(1)イで記載したと同様の理由によって、訂正事項3aは、新たな技術的事項を導入するものではなく、訂正事項3aは、本件特許明細書に記載された事項の範囲内の訂正である。
ウ さらに、上記(1)ウで指摘した本件特許明細書の記載によれば、訂正事項3b及び3cは、本件特許明細書に記載された事項の範囲内の訂正である。
(4)独立特許要件について
特許異議申立ては、訂正前の全ての請求項1~4についてされているので、訂正事項1~3に関して、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
3 まとめ
以上のとおりであるから、請求項1~4についての本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり訂正後の請求項〔1~3〕、4について訂正することを認める。
第3 本件発明
上記第2で述べたとおり、本件訂正を認めるので、本件特許の請求項1~2、4に係る発明は、令和4年6月2日提出の訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1~2、4に記載された事項により特定される次のとおりのものである。なお、請求項3は、本件訂正により削除された。
(以下、請求項の項番に応じて「本件発明1」等といい、本件発明1、2及び4をあわせて「本件発明」ということがある。)
「【請求項1】
直鎖アルキル基の炭素数の分布が10~13である直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩からなる直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩、並びに、アルキル基の炭素数が12でエチレンオキサイド付加モル数が7であるポリオキシエチレンアルキルエーテル及びアルキル基の炭素数が12でエチレンオキサイド付加モル数が8であるポリオキシエチレンアルキルエーテルから選ばれる少なくとも1種のポリオキシエチレンアルキルエーテルを有効成分とするSARSコロナウイルス-2不活化剤であって、
前記直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩の濃度(X)が25.0ppm以上100ppm以下、
前記ポリオキシエチレンアルキルエーテルの濃度(Y)が6.25ppm以上100ppm以下であり、且つ次式(1)を満たすSARSコロナウイルス-2不活化剤。
Y≧5000×X-1.5 (1)
【請求項2】
前記直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩の濃度(X)と前記ポリオキシエチレンアルキルエーテルの濃度(Y)が次式(1a)を満たす請求項1記載のSARSコロナウイルス-2不活化剤。
Y≧6500×X-1.5 (1a)
【請求項3】
(削除)
【請求項4】
直鎖アルキル基の炭素数の分布が10~13である直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩からなる直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩、並びに、アルキル基の炭素数が12でエチレンオキサイド付加モル数が7であるポリオキシエチレンアルキルエーテル及びアルキル基の炭素数が12でエチレンオキサイド付加モル数が8であるポリオキシエチレンアルキルエーテルから選ばれる少なくとも1種のポリオキシエチレンアルキルエーテルを有効成分とするSARSコロナウイルス-2感染症の予防剤であって、
前記直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩の濃度(X)が25.0ppm以上100ppm以下、
前記ポリオキシエチレンアルキルエーテルの濃度(Y)が6.25ppm以上100ppm以下であり、且つ次式(1)を満たすSARSコロナウイルス-2感染症の予防剤。
Y≧5000×X-1.5 (1)」
以下、「直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩」を「LAS」、「直鎖アルキル基の炭素数の分布が10~13である直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩からなる直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩」を「所定のLAS」、「ポリオキシエチレンアルキルエーテル」を「AE」、「アルキル基の炭素数が12でエチレンオキサイド付加モル数が7であるポリオキシエチレンアルキルエーテル及びアルキル基の炭素数が12でエチレンオキサイド付加モル数が8であるポリオキシエチレンアルキルエーテルから選ばれる少なくとも1種のポリオキシエチレンアルキルエーテル」を「所定のAE」、所定のAEのうち、エチレンオキサイド付加モル数が7のものを「EO7のAE」、エチレンオキサイド付加モル数が8であるものを「EO8のAE」と略して記載する場合がある。
第4 特許異議申立書に記載された申立理由及び取消理由通知書(決定の予告)に記載した取消理由の概要
1 特許異議申立書に記載された申立理由
申立人は、特許異議申立書(以下「申立書」という。)において、特許権の設定登録時の請求項1~4に係る特許を取り消すべき理由として、概略以下の申立理由1~5を主張している。また、証拠方法として、甲第1号証-1~甲第21号証(以下に甲1-1~甲21として記載)を提出した。さらに、令和4年1月4日提出の意見書に添付して、甲第22号証~甲第23号証(以下に甲22~23として記載)を提出した。
<申立理由1(サポート要件違反)>
請求項1~4についての本件特許は、下記の理由で、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当し取り消されるべきものである。
(1)請求項1~4で規定されるLAS及びAEの濃度の数値限定並びに式(I)及び(Ia)で規定される関係式とする点が、請求項1~4に係る発明が解決しようとする課題の解決に対しどのような技術的意味を有するかが不明であるから、請求項1~4に係る発明はサポート要件を満足しない。(申立書の項目(4-3-2))
(2)甲16~18に記載のとおり、新型コロナウイルスの残存時間は、ウイルスが付着した素材により異なるところ、請求項1~4に記載のSARSコロナウイルス-2不活化剤あるいはSARSコロナウイルス-2感染症の予防剤に不活化剤ないし感染症の予防剤により、ありとあらゆる適用対象、剤形、適用方法、適用時間においてまで、請求項1~4に係る発明が解決しようとする課題を解決できるとは認識できない。(申立書の項目(4-3-3))
<申立理由2(甲1を主引例とする新規性及び進歩性欠如)>
請求項1~4に係る発明は、甲1-2及び甲1-3を参酌するに、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明である、甲1-1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
また、請求項1~4に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明である、甲1-1に記載された発明及び甲1-1~甲1-3の記載、並びに他の公知文献に記載の事項から、本件特許の優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(当業者)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
よって、請求項1~4に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
(以下、新規性違反の申立理由を「申立理由2-1」、進歩性の申立理由を「申立理由2-2」という。)
<申立理由3(甲2を主引例とする新規性及び進歩性欠如)>
請求項1~4に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明である、甲2に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
また、請求項1~4に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明である、甲2に記載された発明及び他の公知文献に記載の事項から、本件特許の優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
よって、請求項1~4に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
(以下、新規性違反の申立理由を「申立理由3-1」、進歩性の申立理由を「申立理由3-2」という。)
<申立理由4(甲3を主引例とする進歩性欠如)>
請求項1~4に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明である、甲3に記載された発明及び他の公知文献に記載の事項から、本件特許の優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
よって、請求項1~4に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
<申立理由5(甲4を主引例とする進歩性欠如)>
請求項1~4に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明である、甲4に記載された発明及び他の公知文献に記載の事項から、本件特許の優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
よって、請求項1~4に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
<証拠方法>
・甲1-1:2020年4月17日付け北里研究所・北里大学プレスリリース「医薬部外品および雑貨の新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)不活化効果について」
(https://www.kitasato-u.ac.jp/jp/albums/abm.php?f=abm00026588.pdf&n=20200417_%E3%83%97%E3%83%AC%E3%82%B9%E3%83%AA%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%82%B9_%E5%8C%BB%E8%96%AC%E9%83%A8%E5%A4%96%E5%93%81%E3%81%8A%E3%82%88%E3%81%B3%E9%9B%91%E8%B2%A8%E3%81%AE%E6%96%B0%E5%9E%8B%E3%82%B3%E3%83%AD%E3%83%8A%E3%82%A6%E3%82%A4%E3%83%AB%E3%82%B9%EF%BC%88SARS-CoV-2%EF%BC%89%E4%B8%8D%E6%B4%KBB%E5%8C%96%E5%8A%B9%E6%9E%9C%E3%81%AB%E3%81%A4%E3%81%84%E3%81%A6.pdf)
・甲1-2:アタック高浸透リセットパワーの製品情報
(https://www.kao.com/jp/attack/atk_reset_00.html)(インターネットアーカイブ(https://archive.org/)が保存する2019年4月1日時点のウェブサイトの印刷画面及びウェブキャプチャ)
(https://web.archive.org/web/20190401034026/https:/www.kao.com/jp/attack/atk_reset_00.html)
・甲1-3:アタック高浸透リセットパワーの製品情報
(https://www.kao com/jp/attack/atk_jeset_00 html)(インターネットアーカイブ(https://archive.org/)が保存する2020年5月31日時点のウェブサイトの印刷画面及びウェブキャプチャ)
(https://web.archive.org/web/20200531143306/https://www.kao.com/jp/attack/atk_reset_00.html)
・甲2:特開平8-176590号公報
・甲3:皆川基ら編「洗剤・洗浄百科事典(新装版)」、2011年3月10日、(株)朝倉書店、p576~589
・甲4:独立行政法人 製品評価技術基盤機構(NITE)[オンライン]、令和2年6月26日、7月7日(一部の資料の差し替え)公表、「新型コロナウイルスに対する消毒方法の有効性評価について最終報告をとりまとめました。~物品への消毒に活用できます~」(https://www.nite.go.jp/information/osirase20200626.html)
・甲5:花王株式会社の安全性要約書(2016年5月1日発行)(https://chemical,kao.com/content/dam/sites/kao/chemica1-kao-com/jpja/pdf/technology/saicm/artic1e_05/SafetySummary_jpa_LAS.pdf)
・甲6:日本界面活性剤工業会のホームページ(Copyright2014年)
(https://jp-surfactant.jp/surfactant/nature/index.html)
・甲7:[ノート]実践女子大学 生活科学部紀要第54号、2017年、p57~60
(https://jissen.repo.nil.ac.jp/?action=repository_action_common_download&item_id=1749&item_no=1&attribute_id=22&fi1e_no=1)
・甲8:「界面活性剤とは[4]:界面活性剤の種類(ver.1.00,2004.12.13)」
(http://www.detergent.jp/kaisetsu/surf04.pdf)
・甲9:ライオン株式会社による平成18年9月20日付けの特許ビジネス市発表資料
(https://www.inpit.go.jp/blob/katsuyo/pdf/business/t1-2.pdf)
・甲10:三洋化成ニュース、2017年夏、No.503「洗浄力と生分解性を両立した衣料用洗剤基剤」
(https://www.sanyo-chemical.co.jp/magazine/archives/128l)
・甲11:「界面活性剤の選択方法と利用技術」、2007年12月26日、初版第1刷発行、サイエンス&テクノロジー株式会社、127頁
・甲12:「花王に続け!新型コロナウイルス対策に界面活性剤の消毒法効果検証が開始。今のうちに洗剤の界面活性剤を確認」(更新日に関し、1頁目の「
[図:0001401583000001.jpg]
」によれば、2020年5月23日に更新されたものと解される。)
(https://wporep.com/1ifehack/covid-disinfection/)
・甲13:niteホームページ「新型コロナウイルスに有効な界面活性剤が含まれている製品リスト」(最終更新日は2021年5月12日である。甲14の公知日の立証のための資料。)
(https://www.nite.go.jp/information/osirasedetergentlist.html)
・甲14:niteホームページ(直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキルグリコシド、アルキルアミンオキシド、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、塩化ジアルキルジメチルアンモニウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、純石けん分(脂肪酸カリウム)、純石けん分(脂肪酸ナトリウム)のいずれかを含む製品例)
(https://www.nite.go.jp/data/000111982.pdf)(甲13における2020年7月2日版のPDF資料)
・甲15:家庭用品品質表示法 雑貨工業品品質表示規程別表第二(二十七合成洗剤、洗濯用又は台所用の石けん及び住宅用又は家具用の洗浄剤) (消費者庁)(印刷日2021年6月2日)
(https://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/househo1d_goods/Iaw/law_07/item027.html)
・甲16:「新型コロナ感染症:ウイルスはどれくらい長く物質上にいるのか~残存率低下の条件とは」(2020年4月14日の記事)
(https://news.yahoo.co.jp/byline/ishidamasahiko/20200414-00173146/)
・甲17:「Hazard lab 防災と災害情報のニュースメディア コロナウイルスの寿命「ドアノブや机で最長9日間」独研究」(2020年2月11日)(http://www.daiichi-s.net/wb/data.html)
・甲18:「服に付いた新型コロナウイルスの生存期間は?適切な洗濯の方法とは」(2020年5月7日)(https://forbesjapan.com/articles/detai1/34294)
・甲19:水生生物に対する界面活性剤および衣料洗剤の毒性評価、全国公害研会誌,1995,Vo1.20,No.3,p138~143
(http://www.spiral-office.co.jp/food/img/2017matsunochikara/1995senzai.pdf)
・甲20:特開2010-270045号公報
・甲21:The Effect of ’’Peaking’’ the Ethylene Oxide Distribution on the Performance of Alcohol Ethoxylates and Ether Sulfates,The Journal of the American Oil Chemists’ Society(JAOCS),1990,Vol.67,No.9,p599-604)(抄訳付き)
・甲22:特開2017-186389号公報
・甲23:花王株式会社ホームページにおける「ネオペレックスG-25」の説明
(https://chemical.kao.com/ja/products/B0002536_?region=jp)
令和3年8月18日付け取消理由通知において、技術常識を示すものとして職権探知により提示したもの(取消理由B(甲1を主引例とする進歩性)の引用文献)
・引用文献1:消費者庁ホームページ「雑貨工業品品質表示規程(改正日・施行日:平成25年6月11日/経過措置:平成25年11月30日まで)」
https://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/household_goods/law/old/law_07_20170330.html#4
2 取消理由通知(1回目の決定の予告)の概要
令和3年10月25日提出の訂正請求書により訂正された特許請求の範囲の請求項1~2、4に係る発明に対して、当審が令和4年3月31日付けで特許権者に通知した取消理由通知(1回目の決定の予告)の概要は、以下のとおりである。
<取消理由E(サポート要件違反)>
請求項1、2及び4についての本件特許は、以下の理由により、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものである。よって、本件特許は、特許法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
当業者は、本件特許の出願時の技術常識を参酌しても、発明の詳細な説明から、LASの濃度(X)及びAEの濃度(Y)の濃度範囲が特定され、かつ、式(1)又は式(Ia)に記載の一定の関係式を満たす請求項1~2及び4のそれぞれに係る発明の薬剤により、本件発明1、2及び4のそれぞれが解決しようとする課題が解決できることを理解できない。
3 取消理由通知(2回目の決定の予告)の概要
本件訂正前の請求項1~2、4に係る発明(令和4年6月2日提出の訂正請求書により訂正された特許請求の範囲)に対して、当審が令和4年10月18日付けで特許権者に通知した取消理由通知(2回目の決定の予告)の概要は、以下のとおりである。
<取消理由F(明確性要件違反)>
請求項1、2及び4についての本件特許は、特許請求の範囲の記載が以下の(1)及び(2)の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものである。よって、本件特許は、特許法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
請求項1、請求項1を引用する請求項2及び請求項4に係る発明に関し、請求項1及び4には、「直鎖アルキル基の炭素数が10~13の直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩を主成分とする直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩」なる記載がある。
(1)「直鎖アルキル基の炭素数が10~13の直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩を主成分とする」という記載が、(i)「直鎖アルキル基の炭素数が10~13の直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩」の4種全ての混合物が「主成分」として含まれるという意味であるのか、それとも、(ii)「直鎖アルキル基の炭素数が10~13の直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩」4種のうちのいずれか1種(例えば、炭素数が12の直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩)を「主成分」とするという意味であるのか、そのいずれであるのかが明確ではない。
(2)「主成分」なる記載の意味内容が明確ではない。
したがって、請求項1、2及び4に係る発明は明確ではない。
なお、取消理由通知(2回目の決定の予告)においては、発明が明確でないことから、取消理由通知(1回目の決定の予告)における取消理由E(サポート要件違反)についての判断を留保した。
また、当審による令和3年8月18日付けの取消理由通知において、取消理由A(サポート要件違反)、取消理由B(甲1-1を主引例とする進歩性欠如)、取消理由C(甲2を主引例とする進歩性欠如)及び甲4を主引例とする進歩性欠如(取消理由D)を通知したが、取消理由Aは申立理由1(1)に相当し、取消理由Bは申立理由2-2に相当し、取消理由Cは申立理由3-2に相当する。
第5 取消理由通知(1回目及び2回目の決定の予告)についての当審の判断
1 取消理由E(1回目の決定の予告におけるサポート要件違反)について
(1)サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件(サポート要件)に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも、当業者が出願時の技術常識等に照らして当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
(2)本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載
本件特許明細書の発明の詳細な説明(以下「発明の詳細な説明」という。)には、以下の記載がある。
「【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、SARSコロナウイルス-2不活化剤に関する。
【背景技術】
・・・
【0003】
SARS-CoV-2の感染拡大に対応し、ウイルスの付着のおそれがある手や指、衣類、各種器具・部材を洗浄・消毒してウイルス不活性化により感染を予防するため、エタノールや界面活性剤、次亜塩素酸水等の消毒物資のSARS-CoV-2に対する有効性評価が実施されている。界面活性剤については、独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)における検証試験の結果、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム(0.1%以上)・・・ポリオキシエチレンアルキルエーテル(0.2%以上)・・・の計9種類にSARS-CoV-2不活化効果が認められたことが報告されている(非特許文献1)。前記括弧内の数値は各界面活性剤の最小有効濃度である。」
「【発明の概要】
【0005】
本発明は、以下の1)~3)に係るものである。
1)直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩、並びに、アルキル基の炭素数が12でエチレンオキサイド付加モル数が7であるポリオキシエチレンアルキルエーテル及びアルキル基の炭素数が12でエチレンオキサイド付加モル数が8であるポリオキシエチレンアルキルエーテルから選ばれる少なくとも1種のポリオキシエチレンアルキルエーテルを有効成分とするSARSコロナウイルス-2不活化剤であって、
前記直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩の濃度(X)が12.5ppm以上、前記ポリオキシエチレンアルキルエーテルの濃度(Y)が4.0ppm以上であり、且つ次式(1)を満たすSARSコロナウイルス-2不活化剤。
Y≧5000×X-1.5 (1)
2)直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩、並びに、アルキル基の炭素数が12でエチレンオキサイド付加モル数が7であるポリオキシエチレンアルキルエーテル及びアルキル基の炭素数が12でエチレンオキサイド付加モル数が8であるポリオキシエチレンアルキルエーテルから選ばれる少なくとも1種のポリオキシエチレンアルキルエーテルを有効成分とするSARSコロナウイルス-2感染症の予防剤であって、
前記直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩の濃度(X)が12.5ppm以上、前記ポリオキシエチレンアルキルエーテルの濃度(Y)が4.0ppm以上であり、且つ次式(1)を満たすSARSコロナウイルス-2感染症の予防剤。
Y≧5000×X-1.5 (1)
3)直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩、並びに、アルキル基の炭素数が12でエチレンオキサイド付加モル数が7であるポリオキシエチレンアルキルエーテル及びアルキル基の炭素数が12でエチレンオキサイド付加モル数が8であるポリオキシエチレンアルキルエーテルから選ばれる少なくとも1種のポリオキシエチレンアルキルエーテルをSARSコロナウイルス-2の汚染が懸念される対象に接触させることを含むSARSコロナウイルス-2の不活化方法であって、
前記直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩の濃度(X)が12.5ppm以上、
前記ポリオキシエチレンアルキルエーテルの濃度(Y)が4.0ppm以上であり、且つ次式(1)を満たす、不活化方法。
Y≧5000×X-1.5 (1)」
「【発明の詳細な説明】
【0006】
本発明は、優れたSARS-CoV-2不活化効果を示すSARS-CoV-2不活化剤を提供することに関する。
【0007】
従来の検証試験では、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウムについては0.1%以上、ポリオキシエチレンアルキルエーテルについては0.2%以上の濃度でそれぞれSARS-CoV-2の不活化効果が認められていたが、本発明者は、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウムとポリオキシエチレンアルキルエーテルとを一定の濃度関係で併用することによって、より低濃度でSARS-CoV-2不活化効果を示すことを見出した。
【0008】
本発明によれば、界面活性剤の低濃度での使用においてもSARS-CoV-2の不活化が可能で、SARS-CoV-2感染の拡大を防止又は低減することができる。
【0009】
本発明では、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩と、アルキル基の炭素数が12でエチレンオキサイド付加モル数が7であるポリオキシエチレンアルキルエーテル及びアルキル基の炭素数が12でエチレンオキサイド付加モル数が8であるポリオキシエチレンアルキルエーテルから選ばれる少なくとも1種のポリオキシエチレンアルキルエーテルとをSARSコロナウイルス-2不活化のための有効成分として併用する。以下、本明細書においては「アルキル基の炭素数が12でエチレンオキサイド付加モル数が7であるポリオキシエチレンアルキルエーテル及びアルキル基の炭素数が12でエチレンオキサイド付加モル数が8であるポリオキシエチレンアルキルエーテルから選ばれる少なくとも1種のポリオキシエチレンアルキルエーテル」を単に「ポリオキシエチレンアルキルエーテル」と記載することがある。
【0010】
本発明において、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩は特に限定されるものではないが、SARS-CoV-2不活化の観点から、直鎖アルキル基の炭素数は、好ましくは8~18であって、より好ましくは9~16、さらに好ましくは9~15である。
直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩の塩を形成する対イオンは、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニア、アルカノールアミン等が挙げられる。好ましくはアルカリ金属であり、より好ましくはナトリウムである。直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩は単独で用いてもよく、また複数を組み合わせて用いてもよい。
直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩は、市販品として入手可能であり、高純度に精製されていても、直鎖アルキル基の炭素数に分布があってもよい。また、常法により化学合成してもよい。
【0011】
本発明において、ポリオキシエチレンアルキルエーテルは、アルキル基の炭素数が12でエチレンオキサイド付加モル数が7であるポリオキシエチレンアルキルエーテル及びアルキル基の炭素数が12でエチレンオキサイド付加モル数が8であるポリオキシエチレンアルキルエーテルのいずれか一方又は両方を用いる。ポリオキシエチレンアルキルエーテルは、市販品として入手可能であり、高純度に精製されていても、エチレンオキサイド付加モル数に分布があるものを用いてもよい。また、常法により化学合成してもよい。
【0012】
本発明では、SARS-CoV-2不活化の観点から、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩の濃度(X(ppm))と、ポリオキシエチレンアルキルエーテルの濃度(Y(ppm))とが、次式(1)を満たす。
Y≧5000×X-1.5 (1)
【0013】
また、前記XとYは、SARS-CoV-2不活化の観点から、次式(1a)、更には次式(1b)を満たすことが好ましい。
Y≧6500×X-1.5 (la)
Y≧8000×X-1.5 (lb)
【0014】
ここで、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩の濃度(X)は12.5ppm以上であり、ポリオキシエチレンアルキルエーテルの濃度(Y)は4.0ppm以上である。
直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩の濃度(X)は、SARS-CoV-2不活化の観点から、12.5ppm以上であって、好ましくは20.0ppm以上、より好ましくは25.0ppm以上、さらに好ましくは50.0ppm以上であり、また、コストや不活化対象へのダメージの観点から、300ppm以下であるのが好ましく、200ppm以下であるのがより好ましく、100ppm以下であるのがさらに好ましい。
また、ポリオキシエチレンアルキルエーテルの濃度(Y)は、SARS-CoV-2不活化の観点から、4.0ppm以上であって、好ましくは10.0ppm以上、より好ましくは25ppm以上であり、また、コストや不活化対象へのダメージの観点から、300ppm以下であるのが好ましく、250ppm以下であるのがより好ましく、200ppm以下であるのがさらに好ましく、150ppm以下であるのがさらに好ましく、100ppm以下であるのがよりさらに好ましい。
なお、本明細書における界面活性剤の定量は、JIS K 3362:2008家庭用合成洗剤試験方法におけるアニオン界面活性剤、非イオン界面活性剤の定性及び定量に従うものとする。
【0015】
後記実施例に示すように、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウムと、アルキル基の炭素数が12でエチレンオキサイド付加モル数が7であるポリオキシエチレンアルキルエーテル又はアルキル基の炭素数が12でエチレンオキサイド付加モル数が8であるポリオキシエチレンアルキルエーテルとを一定の濃度関係で併用すると、当該界面活性剤濃度が低濃度であっても抗SARS-CoV-2検証試験においてSARS-CoV-2不活化効果が認められる。
本明細書において、SARS-CoV-2は、急性呼吸器疾患(COVID-19)の原因となる、SARS関連コロナウイルスである。・・・」
「【実施例】
【0025】
実施例1
[抗SARS-CoV-2検証試験]
抗SARS-CoV-2検証試験の概要は以下のとおりである。
(材料)
SARS-CoV-2:JPN/TY/WK-521
細胞:Vero E6/TMPRSS2 (JCRB1819)
培地:・・・
FBS:・・・
・・・
【0026】
(プロトコル)
1.Vero E6/TMPRSS2を96well plateに100%コンフルエントとなるようにまく
2.オートクレーブした水道水で界面活性剤を希釈し評価液を調整
3.評価液27μLとSARS-CoV-2液3μL(約10万ウイルス相当)
を混合
4.室温10分反応
5.2%FBS培地 270μLを添加し反応停止
6.5.の溶液20μLを180μLの2%FBS培地へと事前に培地交換したVero E6/TMPRSS2の96plateに添加・混合
7.37℃/5%CO2下で1時間感染
8.2%FBS DMEM 200μLで2回Wash
9.37℃/5%CO2下で3日間培養
10.ウイルス性細胞変性効果とRT-qPCRによりSARS-CoV-2不活化を判断
IX73(オリンパス社)を用いた顕微鏡観察でウイルスによる細胞変性効果が認められず、かつ、または培養上清のRT-qPCRでウイルスゲノムが検出できなかった場合にSARS-CoV-2を不活化したと判断した。RT-qPCRではCt(Threshold Cycle)値が30未満となった場合にウイルスが増殖したと判断した。
【0027】
[評価液]
・直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム:ネオペレックスG-25、花王(株)製、アルキル分布(C10-13)
・ポリオキシエチレン(7E.O.)ラウリルエーテル:BL-7SY、日光ケミカルズ(株)製、純度98%
・ポリオキシエチレン(8E.O.)ラウリルエーテル:Octaethylene Glycol Monododecyl Ether、O0139、東京化成工業(株)製、純度97%
【0028】
[試験結果]
結果を表1に示す。SARS-CoV-2不活化が認められたものは「〇」、SARS-CoV-2不活化が認められなかったものは「×」とした。
【0029】
【表1】
[図:0001401583000002.jpg]
【0030】
上記表1のとおり、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウムとポリオキシエチレンアルキルエーテルとを一定の濃度関係で併用することでSARS-CoV-2不活化効果が確認された。」
(3)本件発明が解決しようとする課題について
上記(2)の発明の詳細な説明の【0003】の背景技術の記載、及び、本件発明についての【0006】~【0008】の記載、特に、【0006】の「本発明は、優れたSARS-CoV-2不活化効果を示すSARS-CoV-2不活化剤を提供することに関する。」なる記載、及び、特許請求の範囲の記載によれば、本件発明1~2が解決しようとする課題は、「優れたSARSコロナウイルス-2不活化剤を提供すること」であり、また、本件発明4が解決しようとする課題は、「優れたSARSコロナウイルス-2感染症の予防剤を提供すること」であると認められる。(以下「本件発明1、2及び4が解決しようとする課題」を、単に、「本件発明の課題」という。)
ここで、本件発明1、2及び4が、出願時の技術常識等に照らして、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであって、発明の詳細な説明に記載された発明であるかといえるかについて検討する。
(4)本件発明1~2、4についてのサポート要件違反についての判断
ア 本件発明1~2の課題の解決手段に関し、発明の詳細な説明には、発明の概要として、本件発明が、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩(つまり、LAS)、並びに、アルキル基の炭素数が12でエチレンオキサイド付加モル数が7であるポリオキシエチレンアルキルエーテル及びアルキル基の炭素数が12でエチレンオキサイド付加モル数が8であるポリオキシエチレンアルキルエーテルから選ばれる少なくとも1種のポリオキシエチレンアルキルエーテル(つまり、「所定のAE」)を有効成分とするSARSコロナウイルス-2不活化剤であって、LASの濃度(X)が12.5ppm以上、所定のAEの濃度(Y)が4.0ppm以上であり、且つ式(1)を満たす、SARSコロナウイルス-2不活化剤及びSARSコロナウイルス-2感染症の予防剤であることが記載され(【0005】)、また、SARS-CoV-2不活化の観点から、式(1a)を満たすことが好ましいこと(【0013】)、LASの濃度(X)は、SARS-CoV-2不活化の観点から25.0ppm以上がより好ましく、コストや不活化対象へのダメージの観点から100ppm以下がより好ましいこと(【0014】)、所定のAEの濃度(Y)は、SARS-CoV-2不活化の観点から、4.0ppm以上であり、コストや不活化対象へのダメージの観点から100ppm以下がより好ましいこと(同上【0014】)が記載されている。
さらに、実施例1、7には、EO7の所定のAEあるいはEO8の所定のAEの濃度(Y)を6.25ppmとした実施例が記載されている。
イ また、発明の詳細な説明には、「後記実施例に示すように、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウムと、アルキル基の炭素数が12でエチレンオキサイド付加モル数が7であるポリオキシエチレンアルキルエーテル又はアルキル基の炭素数が12でエチレンオキサイド付加モル数が8であるポリオキシエチレンアルキルエーテルとを一定の濃度関係で併用すると、当該界面活性剤濃度が低濃度であっても抗SARS-CoV-2検証試験においてSARS-CoV-2不活化 効果が認められる。」(【0015】)と記載され、界面活性剤であるLASと所定のAEが一定の濃度関係を満たすことで、低濃度であっても抗SARS-CoV-2検証試験においてSARS-CoV-2不活化効果が認められることが記載されている。
ウ さらに、発明の詳細な説明の実施例には、LASとして、「ネオペレックスG-25(商品名、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム:花王社製、アルキル分布(C10-13)」を使用し、EO7のAEとして、純度98%のポリオキシエチレン(7E.O.)ラウリルエーテル、EO8のAEとして、純度97%のポリオキシエチレン(8E.O.)ラウリルエーテル(【0027】)を使用した評価液を用いた場合の実験結果が記載され、表1に示される結果から、以下の(ア)~(ウ)が読み取れる。
ここで、実施例で使用された「ネオペレックスG-25(商品名、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム:花王社製、アルキル分布(C10-13)」(【0027】)は、発明の詳細な説明の「直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩は、市販品として入手可能であり、・・・直鎖アルキル基の炭素数に分布があってもよい。」(【0011】)なる記載、及び、花王(株)製の「ネオペレックスG-25」に関しての、特開2017-186389号公報(甲22)の「ネオペレックスG-25(商品名、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム:花王社製)」(【0086】)なる記載によれば、直鎖アルキル基の炭素数の分布が10~13であるアルキルベンゼンスルホン酸ナトリウムからなる直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウムであり、本件発明1、2及び4の所定のLASに相当するものと認められる。(下線は、当審が付した。以下同様。)
(ア) 実施例1、4と比較例4、あるいは、実施例7、11と比較例7の比較から、(X)が100ppmの場合の式(1)の(Y)の下限値5ppmを満たす6.25ppm(実施例1、7)、あるいは、式(1a)の下限値6.5ppmを満たす12.5ppm(実施例4、11)では、SARS-CoV-2不活化効果が奏されるが、下限値を下回る3.13ppm(比較例4、7)では効果が奏されない。
(イ) 実施例3、6と比較例6、あるいは、実施例9、13と比較例9の比較から、(X)が25ppmの場合の式(1)の(Y)の下限値40ppmを満たす50ppm(実施例3、9)、及び、(X)が25ppmの場合の式(1a)の下限値52ppmを満たす75ppm(実施例6、13)では、SARS-CoV-2不活化効果が奏されるが、下限値を下回る25ppm(比較例6、9)では効果が奏されない。
(ウ) 実施例5と比較例5の比較から、(X)が50ppmの場合の式(1)の(Y)の下限値14ppm及び式(1a)の下限値18ppmを満たす25ppmでは、SARS-CoV-2不活化効果が奏されるが、下限値を下回る6.25ppmでは効果が奏されない。
エ 上記の発明の詳細な説明の記載、特に、実施例の表1の実験結果の記載によれば、本件発明1、2及び4における「所定のLAS」である「直鎖アルキル基の炭素数の分布が10~13である直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩からなる直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩」に相当する「ネオペレックスG-25」と本件発明1、2及び4における「所定のAE」に相当する「純度98%のポリオキシエチレン(7E.O.)ラウリルエーテル」、「純度97%のポリオキシエチレン(8E.O.)ラウリルエーテル」を有効成分とする薬剤(評価液)であって、所定のLASの濃度(X)と所定のAEの濃度(Y)が、(i)本件発明1、2、4で特定される濃度範囲であり、かつ、(ii-1)(X)と(Y)が本件発明1、4で特定される一定の濃度関係(式(1))あるいは(ii-2)本件発明2で特定される一定の濃度関係(式(1a))を満たすものである場合には、本件発明1、2、4で特定されるような低濃度の、所定のLAS及び所定のAEの併用によって、SARS-CoV-2不活化効果が奏され、SARSコロナウイルス-2感染症の予防にも資することが理解できる。
したがって、発明の詳細な説明の記載から、当業者は、本件発明1、2により、「優れたSARSコロナウイルス-2不活化剤を提供する」という本件発明1、2が解決しようとする課題を解決できることを認識できるといえるし、また、本件発明4により、「優れたSARSコロナウイルス-2感染症の予防剤を提供する」という本件発明4が解決しようとする課題を解決できることを認識できるといえる。
そうすると、本件発明1、2及び4について、サポート要件に違反するということはできない。
よって、取消理由Eには理由がない。
2 取消理由F(2回目の決定の予告における明確性違反)について
取消理由Fは、第4の3(1)(2)に記載したとおりである。
そして、本件訂正後の特許請求の範囲(請求項1、2及び4)は、上記第3で記載したとおりであり、本件訂正後の本件発明では、「主成分」という記載はなくなっている。
そうすると、本件訂正後の本件発明が「主成分」という記載に起因する取消理由Fを有しないことは明らかである。
よって、取消理由Fには、理由がない。
第6 取消理由通知(1回目及び2回目の決定の予告)において採用しなかった特許異議申立理由についての当審の判断
1 申立理由1(2)(サポート要件違反)について
ア 申立人は、申立理由1(2)に関し、上記第4の1に記載したとおり、ありとあらゆる適用対象、剤形、適用方法、適用時間においてまで、本件発明により、本件発明の課題を解決できるとは認識できない旨を主張するので、検討する(申立書の44~50頁の項目(4-3-3))。
イ まず、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載事項及び本件発明の課題は、上記第5の1(3)に記載したとおりである。
そして、甲16~18に記載のとおり、新型コロナウイルスの残存時間は、ウイルスが付着した素材により異なるが、上記第5の1で記載したとおり、本件特許明細書には、所定のLASと所定のAEの併用組成物を所定のLASの濃度(X)及び所定のAEの濃度(Y)を含み、かつ、(X)と(Y)が式(1)あるいは式(1a)に記載の濃度関係を満たす薬剤により、SARSコロナウイルス-2(つまり、新型コロナウイルス)が不活化できることを示す実験結果が示されており、不活化はウイルスと薬剤の接触による効果であるから、ウイルスが付着した対象物の素材に関わらず、一定時間接触させることでウイルスの不活化が可能と認められる。
また、本件発明の薬剤の有効成分である所定のLAS及び所定のAEに、単独でのコロナ不活化作用があることは技術常識であり(甲4)、具体的な剤形や適用方法の違い、適用時間の違いにより不活化の程度に差が生じる場合でも、発明の詳細な説明に記載の具体的な実験結果やその他の一般記載、本件特許の出願時の技術常識から、当業者は、本件発明の薬剤により、ARSコロナウイルス-2の不活化及びSARSコロナウイルス-2感染症の予防ができることを認識できるといえ、本件発明により本件発明の課題を解決できることを理解できるといえる。
よって、上記アの申立人の主張は採用できず、申立理由1(2)には理由がない。
2 申立理由2-1及び申立理由2-2(甲1を主引例とする新規性及び進歩性欠如)について
(1)甲1-1の記載及び甲1発明
ア 甲1-1の記載
甲1-1には、以下の記載がある。(なお、下線は当審が付した。この取消理由通知中において同様である。)
・摘記1a(p1のタイトル及び冒頭の段落)
「医薬部外品および雑貨の新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)不活化効果について
北里大学大村智記念研究所 ウイルス感染制御学研究室I 片山和彦教授らの研究グループは、市場に流通している医薬部外品・雑貨のうち、主にエタノール、界面活性剤成分を含有し、新型コロナウイルスの消毒効果が期待できる市販製品を対象に、新型コロナウイルス不活化効果を有する可能性について、試験管内でのウイルス不活化評価を実施したのでその結果を報告する。」
・摘記1b(p2の「研究結果」)
「研究結果
各製品サンプルについては、製品のパッケージ裏面に書かれている使い方を参考にし、希釈が必要な場合には水道水を用いた。
・・・
・接触時間:10分(製品裏面の使い方から、洗濯、器具の洗浄を想定)
[図:0001401583000003.jpg]
」
イ 甲1発明
甲1-1の記載、特に、「新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)不活化効果」(摘記1a)に関し、「アタック高浸透リセットパワー(3.5g/L)」に「不活化効果」が「あり」であったとの試験結果(摘記1b)によれば、甲1-1には、次の発明が記載されているものと認められる。
「アタック高浸透リセットパワー(3.5g/L)からなる、接触時間10分間で洗浄に使用した場合に、新型コロナウイルスSARS-CoV-2の不活化に有効である、界面活性剤成分を含む製品。」
(以下「甲1発明」という。)
(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
(ア) 甲1-2に記載される2019年4月9日時点での「アタック高浸透リセットパワー」製品及び、甲1-3に記載される2020年5月31日時点での「アタック高浸透リセットパワー」製品における製品情報(品名、用途、液性、成分、香り、使用量目安等)が一致していることから、2020年4月17日に公表された甲1-1に記載されている上記甲1発明の「アタック高浸透リセットパワー」は、甲1-2及び甲1-3に記載の「アタック高浸透リセットパワー」と同一の成分組成を有していると解される。
そして、甲1-2及び甲1-3の、「用途・液性・成分・使用量・使用上の注意など」の項目の「成分」の欄に、「界面活性剤[23%、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム]、水軟化剤(アルミノけい酸塩)、アルカリ剤(炭酸塩)、工程剤(硫酸塩)、漂白剤、分散剤、柔軟剤、蛍光増白剤、酵素」と、記載されていることからすると、2020年4月17日に公表された甲1-1に記載されている上記甲1発明の製品は、成分中に「界面活性剤を合計で23重量%含み、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウムを含む」製品であることが理解できる。
(イ) ここで、本件特許の優先日当時の技術常識を示す「雑貨工業品品質表示規程(改正日・施行日:平成25年6月11日/経過措置:平成25年11月30日まで)(引用文献1)の別表第二(第二条関係)四「合成洗剤、洗濯用又は台所用の石けん及び住宅用又は家具用の洗浄剤」の項目の(二)ロによれば、前記洗浄剤に含有される界面活性剤のうちその含有率が三パーセント以上のものについては、その種類の名称を示す用語を付記することとなっている。
そして、同ニによれば、表示すべき界面活性剤の種類の名称又は系別の数が二以上あるときは、その種類又は系別に属する界面活性剤の含有率が大きいものから順次列記することとされているから、甲1発明の製品における洗浄成分である界面活性剤は含有率が大きいものから順に、「ポリオキシエチレンアルキルエーテル、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム」であり、それらは、製品中に、それぞれ、少なくとも3重量%以上含まれていることが理解できる。
ここで、甲1発明の製品は、洗濯洗剤として3.5gを1L中に溶かして使用されるから、これは1L中に、それぞれ、少なくとも3重量(%)×3500ppm=105ppmのポリオキシエチレンアルキルエーテル及び直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウムが含まれることになる。また、甲1発明の製品の界面活性剤のうち、一番含有率が大きいポリオキシエチレンアルキルエーテルは、界面活性剤中に最低でも3重量%含まれる直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウムの含有率を除外すると、最大でも、23-3=20重量%未満であり、また、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウムは2番目に多い含有率であるから、最大でも11.5重量%未満である。
そして、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウムが最低限の105ppm(=X)である場合、Yは最低でも5000/1076=4.6ppm以上となり、一方、最高量の11.5重量%の場合には、11.5(%)×3500ppm=402.5ppm未満(=X)の直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウムが含まれることになるが、この場合は(Y)は最低でも5000/(402.5×20.1)であり、1ppm未満となる。
(ウ) そうすると、本件発明1と甲1発明との一致点及び相違点は以下のとおりである。
<一致点>
直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩(LAS)、及び、ポリオキシエチレンアルキルエーテル(AE)を有効成分とするSARSコロナウイルス-2不活化剤であって、
前記直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩の濃度(X)が12.5ppm以上、前記ポリオキシエチレンアルキルエーテルの濃度(Y)が4.0ppm以上であり、且つ次式(1)を満たすSARSコロナウイルス-2不活化剤。
Y≧5000×X-1.5 (1)
<相違点>
・相違点1
本件発明1においては、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩(LAS)について、「直鎖アルキル基の分布が炭素数が10~13である直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩からなる直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩」(所定のLAS)であり、「前記直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩の濃度(X)が25.0ppm以上100ppm以下」と特定されているのに対し、甲1発明では、所定のLASとする点の特定はないし、LASの濃度(X)が少なくとも105ppmである点。
・相違点2
本件発明1においては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル(AE)が「アルキル基の炭素数が12でエチレンオキサイド付加モル数が7であるポリオキシエチレンアルキルエーテル及びアルキル基の炭素数が12でエチレンオキサイド付加モル数が8であるポリオキシエチレンアルキルエーテルから選ばれる少なくとも1種のポリオキシエチレンアルキルエーテル」(所定のAE)であることが特定され、また、「前記ポリオキシエチレンアルキルエーテルの濃度(Y)が6.25ppm以上100ppm以下」と特定されているのに対し、甲1発明においては所定のAEとする点の特定はないし、AEの濃度(Y)濃度が少なくとも105ppmである点。
・相違点3
本件発明1においては、SARSコロナウイルスー2不活化剤が「式(1)」(当審注:式(1)の記載は省略する。)を満たすことが特定されているのに対し、甲1発明にはかかる特定がない点。
イ 新規性についての判断
上記相違点1~3のうち、少なくとも上記相違点1及び2が実質的な相違点であることは明らかであるから、少なくとも相違点1及び2で甲1発明と相違する本件発明1について、甲1発明(甲1-1に記載された発明)であるということはできない。
ウ 進歩性についての判断
(ア) 相違点1及び2に関し、本件発明1の薬剤中のLASは、直鎖アルキル基の炭素数の分布が10~13である直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩からなる所定のLASであり、その濃度は、「100ppm以下」である。一方、洗濯用の洗剤に含まれるLASとして、本件発明1で特定される直鎖アルキル基の炭素数が10~13の範囲のいずれかであるLASを含むものは一般的(甲5,19)であるし、また、本件発明1の所定のLASに相当する商品である「ネオペレックスG-25」(花王株式会社の商品)は既知であり(甲22)、AEとして本件発明1で特定される所定のAEは、「NRE」として知られるものである(甲9,3,21)。
しかしながら、甲1発明では、LAS及びAEは少なくとも105ppm含まれており、甲1には、これらの上限を100ppm以下とする点の記載はないし、甲1発明は製品として確立しているのであるから、本件発明1において、LAS及びAEとして所定のLAS及び所定のAEを採用し、両者の濃度を「100ppm以下」とすることが当業者に動機づけられるとはいえない。また、申立人が提出した本件特許の優先日前に公知の他のいずれの証拠を参酌しても、甲1発明において、LAS及びAEとして所定のLAS及び所定のAEを採用した上で、さらに、両者の濃度を「100ppm以下」とすることが動機づけられるとはいえない。
そうすると、当業者は、申立人が提出したいずれの公知の証拠からも、甲1発明を、相違点1及び2に係る本件発明1の構成を備えたものとすることを容易に想到し得たとはいえない。
(イ) また、本件発明1の効果に関し、上記第5の1で指摘した本件特許明細書の記載によれば、所定のLASの濃度(X)が25.0ppm以上100ppm以下、所定のAEの濃度(Y)が6.25ppm以上100ppm以下であり、かつ、式(1)の関係式を満たす本件発明1の薬剤により、SARSコロナウイルス-2不活化効果が奏されることが理解できる。
一方、甲1発明の製品の界面活性剤成分は最大23重量%であり、1L中の使用濃度から、最大、0.23×3500ppm=805ppmであって、この濃度は、甲4から理解できるLASあるいはAE単独での新型コロナウイルス(SARSコロナウイルス-2)に対する有効濃度よりも低いし、甲19から、環境保護の観点から甲1発明の界面活性剤を減らすことが望ましいとしても、甲1発明の製品は、想定し得る最低レベルでもLASを105ppm、AEを105ppm含むものであり、実際の製品では代表的にはLASやAEである界面活性剤成分が合計で23重量%含まれることを勘案すれば、これよりもかなり高濃度である蓋然性が高い。
そして、甲1を含め、申立人が提出したいずれの公知文献を参酌しても、甲1発明の製品におけるLAS及びAEの濃度の上限を共に100ppm以下という低濃度にした場合であっても、新型コロナウイルス(SARSコロナウイルス-2)の不活化ができるかは不明であるから、本件発明1の効果は、申立人が提出したいずれの公知文献からも当業者が予測できない効果である。
(ウ) そうすると、相違点3について検討するまでもなく、少なくとも相違点1及び2で甲1発明と相違する本件発明1について、甲1発明及び申立人が提出した証拠から当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。
(3)本件発明2について
本件発明2は、請求項1を引用する発明であり、本件発明1の式(1)の範囲をさらに限定した発明に相当する。
そうすると、上記(2)で検討したとおり、本件発明1について、甲1発明であるということはできないし、また、甲1発明及び申立人が提出した証拠から当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできないのであるから、本件発明2についても、上記(2)で記載したと同様の理由によって、甲1発明であるということはできないし、また、甲1発明及び申立人が提出した証拠から当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。
(4)本件発明4について
本件発明4は、薬剤の用途が「SARSコロナウイルス-2感染症の予防剤」である点を除いて、本件発明1の「SARSコロナウイルス-2不活化剤」と同じ構成を有する発明に相当する。
そして、甲1発明の製品は「消毒効果が期待できる」(摘記1a)ものであり、消毒が感染症の予防のために行われることは当業者に自明であるから、本件発明4と甲1発明とを対比すると、本件発明4で特定されている「SARSコロナウイルス-2感染症の予防剤」である点は、甲1発明との対比において相違点とはならず、両発明の相違点は、上記(2)ア(ウ)で記載した相違点1~3と同様である。
そうすると、上記(2)イで記載したと同様の理由により、少なくとも相違点1及び2で甲1発明と相違する本件発明4について、甲1発明であるということはできないし、また、上記(2)ウで記載したと同様の理由により、相違点3について検討するまでもなく、少なくとも相違点1及び2で甲1発明と相違する本件発明4について、甲1発明及び申立人が提出した証拠から当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。
(5)小括
以上のとおりであるから、申立理由2-1及び申立理由2-2には理由がない。
3 申立理由3-1及び申立理由3-2(甲2を主引例とする新規性及び進歩性欠如)について
(1)甲2の記載及び甲2発明
ア 甲2の記載
甲2には、以下の記載がある。なお、以下において、摘記は全角文字に統一して記載した。
・摘記2a(特許請求の範囲)
「【請求項1】 次の成分(a)、(b)、(c)及び(d)を含有し、0.1重量%水溶液のpHが9.0を超える非イオン性界面活性剤を主成分とする粉末浄剤組成物。
(a) アルキル基の平均炭素数が10~20で、エチレンオキサイド平均付加モル数が5~15のポリオキシエチレンアルキルエーテル 12~35重量%
(b) (a)成分1g当りの脂肪分解活性が0.1~500LU/gである脂肪分解酵素
(c) アニオン界面活性剤 1.0 ~7.0重量%
(d) アルカリ剤 5~35重量%
【請求項2】 (c)アニオン界面活性剤がアルキルベンゼンスルホン酸塩である請求項記載の粉末洗浄剤組成物。」
・摘記2b(発明の詳細な説明)
「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は皮脂汚れに対して効果的な脂肪分解酵素を含有する非イオン界面活性剤を主成分とする衣料用洗浄剤組成物に関する。」
「【0007】本発明はリパーゼ配合洗剤の最も効果的な配合として、非イオン界面活性剤を主基剤とし、アニオン界面活性剤の配合量を制限することを提案するものであり、これにより脂肪成分の汚れに対する洗浄力が顕著に向上した衣料用洗浄剤組成物が得られる。」
・摘記2c(実施例)
「【0023】(I)皮脂汚れ汚染布(人工汚染布)の作製
・・・
【0024】(II)洗浄条件、洗浄方法及び評価方法
4°DH硬水に表1に記載の配合組成からなる洗剤を溶解し、0.0833%洗剤溶液1リットルを調製する。皮脂汚れ汚染布5枚を洗剤水溶液に添加し、30℃、1時間静置後、洗剤水溶液と人工汚染布をそのまま、・・・10分間攪拌洗浄する。・・・
【0025】・・・洗浄率(%)を算出した。
・・・
【0027】表1には5枚の汚染布についての平均値を示した。なお、洗浄前の0.1 重量%洗剤水溶液のpHは何れも10.6であった。
【0028】
【表1】
[図:0001401583000004.jpg]
【0029】注)
(1) リパーゼA:LIPOLASE100T(登録商標、ノボ社製)、比活性150LU/g
(2) リパーゼB:LIPOMAX(登録商標、ギスト社製)、比活性1700LU/g
(3) リパーゼC:LUMAFAST2000G(登録商標、ジェネンコア社製)、比活性80LU/g
上記リパーゼの比活性は、いずれも前述の方法により測定した値である。
(4) 非イオン界面活性剤:ポリオキシエチレンドデシルエーテル(エチレンキサイド平均付加モル数=8、アルキル鎖長=12)
(5) アニオン界面活性剤:直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、C12~C16
(6) 石鹸:炭素数12~14、中和度100%
(7) ゼオライト:A型合成ゼオライト(平均粒径5μm)
(8) 吸油担体:TIXOLEX 25(登録商標、韓仏化学(株)製)
(9) ポリエチレングリコール:平均分子量8000
(10)ポリアクリル酸ナトリウム:平均分子量13000
(11)蛍光増白剤:「チノパールCBS」と「チノパールDMS-X,P,E(共に登録商標、チバガイギー社製)の1/1(重量比)混合物
(III)結果
表1の如く、本発明で規定する割合にて各成分を配合することにより、皮脂汚れ効果的に洗浄、除去できることがわかる。」
イ 甲2発明
上記(1)の甲2の記載、特に、特許請求の範囲に記載の発明の具体的な態様を記載する実施例(摘記2c)には、本発明品6として、【表1】の本発明品6の欄に記載の組成からなる衣料用粉末洗浄剤組成物が記載されており、また、当該組成物は、【0024】に記載されているように、0.0833重量%の濃度となるように水に溶解されて衣料の洗濯に使用されることから、甲2には、衣料の洗濯に使用する水溶液(洗濯液)として、本発明品6の衣料用粉末洗浄剤組成物が水に0.0833重量%の濃度となるように溶解された衣料用の洗浄剤水溶液である、以下の発明が記載されていると認められる。
「下記の衣料用粉末洗浄剤組成物が、0.0833重量%の濃度となるように水に溶解されてなる、衣料用の洗浄剤水溶液。
(a) 非イオン性界面活性剤である、アルキル鎖長が12で、エチレンオキサイド平均付加モル数が8のポリオキシエチレンアルキルエーテルを15重量%
(b)(a)成分1g当りの脂肪分解活性が150LU/gである脂肪分解酵素であるリパーゼAを2重量%
(c)アニオン界面活性剤である、直鎖C12~C16アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウムを5重量%
(d)アルカリ剤である炭酸ナトリウムを25重量%
(e)その他の成分として、石けんを0.6重量%、ゼオライトを10重量%、吸油担体を7重量%、ポリエチレングリコールを1重量%、ポリアクリル酸ナトリウムを2重量%、蛍光漂白剤を0.3重量%、香料を0.2重量%、硫酸ナトリウムをバランス量で、
組成物の総計が100重量%である、
0.1重量%水溶液のpHが10.6である衣料用粉末洗浄剤組成物。」
(以下「甲2発明」という。また、以下、上記「非イオン性界面活性剤である、アルキル鎖長が12で、エチレンオキサイド平均付加モル数が8のポリオキシエチレンアルキルエーテル」を「(a)成分」、「アニオン界面活性剤である、直鎖C12~C16アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム」を「(c)成分」ともいう。)
(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲2発明とを対比する。
(ア) 本件発明1のSARSコロナ-2の不活化剤は複数の成分を含むことから、「組成物」であるといえる。
(イ) 甲2発明の(a)成分及び(c)成分は、それぞれ、本件発明1の「直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩」(つまり、LAS)及び「アルキル基の炭素数が12でエチレンオキサイド付加モル数が7であるポリオキシエチレンアルキルエーテル及びアルキル基の炭素数が12でエチレンオキサイド付加モル数が8であるポリオキシエチレンアルキルエーテルから選ばれる少なくとも1種のポリオキシエチレンアルキルエーテル」(つまり、本件発明1の所定のAE)に相当する。
(ウ) 甲2発明の水溶液は、(a)成分が15重量%(つまり、15万ppm)、(c)成分が5重量%(つまり、5万ppm)含まれる衣料用粉末洗浄剤組成物が0.0833重量%の濃度となるように水に溶解されて使用されるから、これは、衣料用の洗浄剤水溶液中に、LASが5万ppm×0.0833重量%=41.5ppm((X)の濃度)、本件発明1のAEが15万ppm×0.0833重量%=124.5ppm((Y)の濃度)含有されることに相当し、このLASの濃度(X)は、本件発明1において「直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩の濃度(X)が25.0ppm以上100ppm以下」であることに相当する。
また、式1におけるYの下限値を41.5ppmのXの値から計算すると、5000×1/x√x=5000/(41.5×6.44)=18.7ppmであり、一方、甲2発明では衣料用の洗浄剤水溶液中に、本件発明1のAEが124.5ppm含まれるから、甲2発明の衣料用洗浄剤水溶液における(a)成分及び(c)成分の濃度は、本件発明1の式(1)の条件を満たすことになる。
(エ) そうすると、本件発明1と甲2発明との一致点及び相違点は以下のとおりである。
<一致点>
直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩(LAS)、並びに、アルキル基の炭素数が12でエチレンオキサイド付加モル数が7であるポリオキシエチレンアルキルエーテル及びアルキル基の炭素数が12でエチレンオキサイド付加モル数が8であるポリオキシエチレンアルキルエーテルから選ばれる少なくとも1種のポリオキシエチレンアルキルエーテル(所定のAE)を含有する組成物であって、
前記直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩の濃度(X)が25.0ppm以上100ppm以下であり、且つ次式(1)を満たす組成物。
Y≧5000×X-1.5 (1)
<相違点>
・相違点1
本件発明1においては、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩(LAS)が、「直鎖アルキル基の分布が炭素数が10~13である直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩からなる直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩塩」(所定のLAS)であるのに対し、甲2発明では、「直鎖C12~C16アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム」である点
・相違点2
本件発明1においては、所定のAEの濃度である濃度(Y)が「6.25ppm以上100ppm以下」と特定されているのに対し、換算によると、甲2発明においては124.5ppmである点。
・相違点3
本件発明1においては、組成物が「SARSコロナウイルス-2不活化剤」であって、LAS及び本件発明1の所定のAEは、その「有効成分」であると特定されているのに対し、甲2発明においては、「衣料用洗浄剤水溶液」であって、SARSコロナウイルス-2不活化剤ではないし、(a)成分及び(c)成分について、当該不活化剤の有効成分であることは特定されていない点。
イ 新規性についての判断
上記相違点1~3が実質的な相違点であることは明らかであるから、本件発明1について、甲2発明(甲2に記載された発明)であるということはできない。
ウ 進歩性についての判断
(ア) まず、相違点1及び2について検討する。
本件発明1の薬剤中のLASは、直鎖アルキル基の炭素数の分布が10~13である直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩からなる所定のLASであるが、上記2(2)ウ(ア)で記載したとおり、所定のLASに相当する商品である「ネオペレックスG-25」(花王株式会社の商品)は既知である(甲22)。
しかしながら、申立人が提出した、本件特許の優先日前に公知の他のいずれの証拠を参酌しても、甲2発明において、甲2の(c)成分のLASを所定のLASとした上で、さらに、(a)所定のAEに相当する(a)成分のAEの濃度を「6.25ppm以上100ppm以下」の濃度範囲とすることまでを当業者が容易に想到し得たとはいえない。
そうすると、当業者は、申立人が提出したいずれの公知の証拠からも、甲2発明を、相違点1及び2に係る本件発明1の構成を備えたものとすることを容易に想到し得たとはいえない。
(イ) また、本件発明1の効果に関し、上記第5の1で指摘した本件特許明細書の記載によれば、所定のLASの濃度(X)が25.0ppm以上100ppm以下、所定のAEの濃度(Y)が6.25ppm以上100ppm以下であり、かつ、式(1)の関係式を満たす本件発明1の薬剤により、SARSコロナウイルス-2不活化効果が奏されることが理解できる。
一方、甲2発明は、衣料用洗浄剤水溶液であって、甲2には、甲2発明の水溶液をSARSコロナウイルス-2不活化剤の用途に使用することを示唆する記載はないし、甲4や甲1によれば、LASやEAが一定の濃度で存在する場合に、SARSコロナウイルス-2不活化効果を奏することは理解できるが、上記2(2)ウ(イ)で記載したとおり、LAS及びAE両者の上限が共に100ppm以下という低濃度しか含まれない場合であってもSARSコロナウイルス-2)の不活化ができるかは不明であって、本件発明1により奏されるSARSコロナウイルス-2不活化効果は、申立人が提出したいずれの公知文献からも当業者が予測できない効果である。
(ウ) そうすると、相違点3について検討するまでもなく、本件発明1について、甲2発明及び申立人が提出した証拠から当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。
(3)本件発明2について
本件発明2は、請求項1を引用する発明であり、本件発明1の式(1)の範囲をさらに限定した発明に相当する。
そうすると、上記(2)で検討したとおり、本件発明1について、甲2発明であるということはできないし、また、甲2発明及び申立人が提出した証拠から当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできないのであるから、本件発明2についても、上記(2)で記載したと同様の理由によって、甲2発明であるということはできないし、また、甲2発明及び申立人が提出した証拠から当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。
(4)本件発明4について
本件発明4は、薬剤の用途が「SARSコロナウイルス-2感染症の予防剤」である点を除いて、本件発明1の「SARSコロナウイルス-2不活化剤」と同じ構成を有する発明に相当する。
そして、本件発明4と甲2発明とを対比すると、本件発明4の薬剤の用途が本件発明1で特定されていた「SARSコロナウイルス-2不活化剤」ではなく「SARSコロナウイルス-2感染症の予防剤」である点を除けば、上記(2)ア(エ)で本件発明1との対比において記載したと同様の一致点を有しており、また、相違点も上記(2)ア(エ)で記載した相違点1~3と同様である。
そして、上記(2)イで記載したと同様の理由により、本件発明4について、甲2発明であるということはできないし、また、上記(2)ウで記載したと同様の理由により、本件発明4について、甲2発明及び申立人が提出した証拠から当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。
(5)小括
以上のとおりであるから、申立理由3-1及び申立理由3-2には理由がない。
4 申立理由4(甲3を主引例とする進歩性欠如)について
(1)甲3の記載及び甲3発明
ア 甲3には、以下の記載がある。
・摘記3a(577頁中程の項目18.1、584頁中程の項目18.1.4、587頁3段落~588頁2段落及び図18.16~図18.18)
「18.1. 食器具類の洗浄
・・・
18.1.4 最近のマイルド系界面活性剤の特徴
・・・
[図:0001401583000005.jpg]
[図:0001401583000006.jpg]
[図:0001401583000007.jpg]
[図:0001401583000008.jpg]
[図:0001401583000009.jpg]
」
(なお、摘記中の下線部分は申立人が甲3に付したものの一部である。)
イ 甲3発明
上記アの甲3の記載、特に、甲3の図18.17中に記載の液体洗剤処方及び図18.16におけるNRE(これは、甲3の586頁1段落のとおり、ポリオキシエチレンアルキルエーテル(EO)分布をシャープ化したもの)のエチレンオキシド(EO)付加モル分布についての図中の説明の記載によれば、甲3には、次の発明が記載されているものと認められる。
ここで、図18.17中に記載のLASは、579頁3段落に記載のとおり、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩である。
「NREである、エチレンオキサイドの平均付加モル数が6.5であるポリオキシエチレンアルキルエーテル(AE)を20重量%
アルキル基の炭素数が11である直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩(LAS)を5重量%
4級イミダゾリウムを3重量%を含む液体洗剤。」
(以下「甲3発明」という。)
(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲3発明とを対比すると、甲3発明の液体洗剤も本件発明1の薬剤も組成物であるといえるから、本件発明1と甲3発明との一致点及び相違点は以下のとおりである。
<一致点>
直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩(LAS)、及び、ポリオキシエチレンアルキルエーテル(AE)を含む組成物。
<相違点>
・相違点1
本件発明1においては、LASが「直鎖アルキル基の分布が炭素数が10~13である直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩からなる直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩」(所定のLAS)であり、その濃度(X)が「25.0ppm以上100ppm以下」であり、また、AEが「アルキル基の炭素数が12でエチレンオキサイド付加モル数が7であるポリオキシエチレンアルキルエーテル及びアルキル基の炭素数が12でエチレンオキサイド付加モル数が8であるポリオキシエチレンアルキルエーテルから選ばれる少なくとも1種のポリオキシエチレンアルキルエーテル」(所定のAE)であり、その濃度(Y)が「6.25ppm以上100ppm以下」であるのに対し、甲3発明では、LASは「アルキル基の炭素数が11である直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩(LAS)」であり、その濃度は「5重量%」、すなわち、5万ppmであり、また、AEは「NREである、エチレンオキサイドの平均付加モル数が6.5であるポリオキシエチレンアルキルエーテル(AE)」であり、その濃度は「20重量%」、すなわち、20万ppmである点。
・相違点2
本件発明1においては、LASとAEの濃度が、「式(1)」(当審注:式(1)の記載は省略する。)を満たすことが特定されているのに対し、甲3発明にはかかる特定がない点。
・相違点3
本件発明1においては、組成物が「SARSコロナウイルス-2不活化剤」であって、LAS及びAEは、その「有効成分」であると特定されているのに対し、甲3発明においては、「液体洗剤」であって、SARSコロナウイルス-2不活化剤ではないし、LAS及びAEについて当該不活化剤の有効成分であることは特定されていない点。
イ 進歩性についての判断
(ア) 相違点1に関し、甲3には、台所用の液体洗浄剤として炭素数12~14、EO付加モル数7~8のNER(すなわち、所定のAE)が最適である旨の記載はある(588頁1段落(摘記3a))が、LASとして所定のLASを使用する点の記載はないし、LAS及びAEの濃度を本件発明1の程度とすることを動機付ける記載もない。
また、申立人が提出した本件特許の優先日前に公知のいずれの証拠を参酌しても、甲3発明において、甲3発明のLASを所定のLASとし、AEを所定のAEとした上で、さらに、所定のLAS及び所定のAEの濃度を本件発明1で特定される濃度範囲とすることまでを当業者が容易に想到し得たとはいえない。
そうすると、当業者は、申立人が提出したいずれの公知の証拠からも、甲3発明を、相違点1に係る本件発明1の構成を備えたものとすることを容易に想到し得たとはいえない。
(イ) また、本件発明1の効果に関し、上記第5の1で指摘した本件特許明細書の記載によれば、所定のLAS、所定のAEを所定の濃度(X)(Y)で含み、かつ、式(1)の関係式を満たす本件発明1の薬剤により、SARSコロナウイルス-2不活化効果が奏されることが理解できる。
一方、甲3発明は、(食器具類の洗浄用の)液体洗剤であり、甲3には、甲3発明の水溶液をSARSコロナウイルス-2不活化剤の用途に使用することを示唆する記載はないし、甲4や甲1によれば、LASやEAが一定の濃度で存在する場合に、SARSコロナウイルス-2不活化効果を奏することは理解できるが、上記2(2)ウ(イ)で記載したとおり、LAS及びAE両者の上限が共に100ppm以下という低濃度しか含まれない場合であってもSARSコロナウイルス-2の不活化ができるかは不明であって、本件発明1により奏されるSARSコロナウイルス-2不活化効果は、申立人が提出したいずれの公知文献からも当業者が予測できない効果である。
(ウ) そうすると、相違点2及び3について検討するまでもなく、本件発明1について、甲3発明及び申立人が提出した証拠から当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。
(3)本件発明2について
本件発明2は、請求項1を引用する発明であり、本件発明1の式(1)の範囲をさらに限定した発明に相当する。
そうすると、上記(2)で検討したとおり、本件発明1について、甲3発明及び申立人が提出した証拠から当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできないのであるから、本件発明2についても、上記(2)で記載したと同様の理由によって、甲3発明及び申立人が提出した証拠から当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。
(4)本件発明4について
本件発明4は、薬剤の用途が「SARSコロナウイルス-2感染症の予防剤」である点を除いて、本件発明1の「SARSコロナウイルス-2不活化剤」と同じ構成を有する発明に相当する。
そして、本件発明4と甲3発明とを対比すると、本件発明4の薬剤の用途が本件発明1で特定されていた「SARSコロナウイルス-2不活化剤」ではなく「SARSコロナウイルス-2感染症の予防剤」である点を除けば、上記(2)アで本件発明1との対比において記載したと同様の一致点を有しており、また、相違点も上記(2)アで記載した相違点1~3と同様である。
そして、上記(2)イで記載したと同様の理由により、本件発明4について、甲3発明及び申立人が提出した証拠から当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。
(5)小括
以上のとおりであるから、申立理由4には理由がない。
5 申立理由5(甲4を主引例とする進歩性欠如)について
(1) 引用文献4の記載及び甲4に記載された発明
ア 甲4の記載
NITE(独立行政法人 製品評価技術基盤機構)のホームページである甲4には、以下の記載がある。
・摘記4a(「報道発表資料」の欄)
「発表日:令和2年6月26日(金)
タイトル:新型コロナウイルスに対する消毒方法の有効性評価について最終報告をとりまとめました。
~物品への消毒に活用できます~
発表者名:独立行政法人製品評価技術基盤機構 消毒手法タスクフォース
資料の概要:NITE(ナイト)[独立行政法人 製品評価技術基盤機構・・・]は、第5回「新型コロナウイルスに対する代替消毒方法の有効性評価に関する検討委員会」を6月25日に開催し、新型コロナウイルスを用いた候補物資の有効性評価結果の最終報告をとりまとめました。
今まで公表済みの結果に加え、新たに2種の界面活性剤、及び一定の濃度以上の次亜塩素酸水が、新型コロナウイルスの消毒に対して有効であることが確認されました。
1.独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)は、経済産業省の要請を受け、新型コロナウイルスの感染拡大に対応し、家庭や職場におけるアルコール以外の消毒方法の選択肢を増やすため、上記検討委員会を4月に設置し、消毒方法の有効性評価を進めてきました。
2.昨日6月25日、最終回となる第5回検討委員会を開催し、国立感染症研究所、学校法人北里研究所、国立大学法人帯広畜産大学、国立大学法人鳥取大学及び一般財団法人日本繊維製品品質技術センターと共同で進めていた新型コロナウイルスを用いた検証試験結果について審議を行い、最終的な報告をとりまとめました。結果の概要は、以下のとおりです。(・・・)
(1)界面活性剤は次の9種を有効と判断しました。
・直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム(0.1%以上)
・アルキルグリコシド(0.1%以上)
・アルキルアミンオキシド(0.05%以上)
・塩化ベンザルコニウム(0.05%以上)
・塩化ベンゼトニウム(0.05%以上)
・塩化ジアルキルジメチルアンモニウム(0.01%以上)
・ポリオキシエチレンアルキルエーテル(0.2%以上)
・純石けん分(脂肪酸カリウム(0.24%以上)
・純石けん分(脂肪酸ナトリウム(0.22%以上))
・・・
3.今回の検証結果のとりまとめにより、新型コロナウイルス対策のための家庭や職場における消毒方法の選択肢がさらに広がることを期待いたします。
なお、有効とされた界面活性剤を含む洗剤等は、NITEホームページで「効果が確認された界面活性剤を含む洗剤等のリスト」(※1)として公表しており、今回の追加を踏まえた情報に更新しました。
また、家庭用洗剤を使って身近なものを消毒する際の動画(※2)を作成し、公開しました。
※1 https://www.nite.go.jp/information/osirasedetergentlist.html」
イ 甲4発明
上記アの記載、特に、甲4の2.(1)に記載される新型コロナウイルスの消毒に使用される界面活性剤のリストの記載(摘記4a)によれば、甲4には、以下の発明が記載されていると認められる。
「ポリオキシエチレンアルキルエーテル0.2%又は直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.1%からなる新型コロナウイルスの消毒剤。」(以下「甲4発明」という。)
(2)本件発明1について
ア 対比
(ア) 甲4発明の「新型コロナウイルス」は、本件発明1の「SARSコロナウイルス-2」に相当する。
(イ) 甲4発明の「新型コロナウイルスの消毒剤」は、新型コロナウイルスの毒性を消すものであるから、これは本件発明1の「SARSコロナウイルス-2不活化剤」に相当するといえるし、甲4発明のAE及びLASは、その「有効成分」であるといえる。
(ウ) そうすると、本件発明1と甲4発明との一致点及び相違点は以下のとおりである。
<一致点>
直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩又はポリオキシエチレンアルキルエーテルである界面活性剤を有効成分とするSARSコロナウイルス-2不活化剤。
<相違点>
・相違点1
SARSコロナウイルス-2不活化剤の有効成分である界面活性剤が、本件発明1では、「直鎖アルキル基の分布が炭素数が10~13である直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩からなる直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩」(所定のLAS)及び「アルキル基の炭素数が12でエチレンオキサイド付加モル数が7であるポリオキシエチレンアルキルエーテル及びアルキル基の炭素数が12でエチレンオキサイド付加モル数が8であるポリオキシエチレンアルキルエーテルから選ばれる少なくとも1種のポリオキシエチレンアルキルエーテル」(所定のAE)であり、所定のLASの濃度(X)が「25.0ppm以上100ppm以下」、所定のAEの濃度(Y)が「6.25ppm以上100ppm以下」であるのに対し、甲4発明では、界面活性剤がLAS又はエチレンオキサイドの平均付加モル数が6.5であるAEであり、また、LASの濃度は「5重量%」、すなわち、5万ppm、AEの濃度は「20重量%」、すなわち、20万ppmである点。
・相違点2
本件発明1においては、LASとAEの濃度が、「式(1)」(当審注:式(1)の記載は省略する。)を満たすことが特定されているのに対し、甲4発明にはかかる特定がない点。
イ 進歩性についての判断
(ア) 相違点1に関し、甲4には、LASを所定のLASとし、AEを所定のAEとして、それらの濃度を本件発明1の程度とすることを動機付ける記載はない。そして、所定のLASに相当するものは「ネオペレックスG-25」(花王株式会社の商品)として既知であり(甲22)、また、所定のAEは、「NRE」として知られるものである(甲9,3,21)が、申立人が提出した本件特許の優先日前に公知のいずれの証拠を参酌しても、甲4発明のLASとして、所定のLASを採用し、これを所定のAEと併用し、かつ、両者の濃度を本件発明1で特定される濃度のものとすることを動機づける記載はない。
そうすると、当業者は、申立人が提出したいずれの公知の証拠からも、甲4発明を、相違点1に係る本件発明1の構成を備えたものとすることを容易に想到し得たとはいえない。
(イ) また、本件発明1の効果に関し、上記第5の1で指摘した本件特許明細書の記載によれば、所定のLAS、所定のAEを所定の濃度(X)(Y)で含み、かつ、式(1)の関係式を満たす本件発明1の薬剤により、SARSコロナウイルス-2不活化効果が奏されることが理解できる。
一方、甲4や甲1によれば、LASやEAが一定の濃度で存在する場合に、SARSコロナウイルス-2不活化効果を奏することは理解できるが、上記2(2)ウ(イ)で記載したとおり、LAS及びAE両者の上限が共に100ppm以下という低濃度しか含まれない場合であってもSARSコロナウイルス-2の不活化ができるかは不明であって、本件発明1により奏されるSARSコロナウイルス-2不活化効果は、申立人が提出したいずれの公知文献からも当業者が予測できない効果である。
(ウ) そうすると、相違点2について検討するまでもなく、少なくとも相違点1で甲4発明と相違する本件発明1について、甲4発明及び申立人が提出した証拠から当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。
(3)本件発明2について
本件発明2は、請求項1を引用する発明であり、本件発明1の式(1)の範囲をさらに限定した発明に相当する。
そうすると、上記(2)で検討したとおり、本件発明1について、甲4発明及び申立人が提出した証拠から当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできないのであるから、本件発明2についても、上記(2)で記載したと同様の理由によって、甲4発明及び申立人が提出した証拠から当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。
(4)本件発明4について
本件発明4は、薬剤の用途が「SARSコロナウイルス-2感染症の予防剤」である点を除いて、本件発明1の「SARSコロナウイルス-2不活化剤」と同じ構成を有する発明に相当する。
そして、本件発明4と甲4発明とを対比すると、甲4の消毒剤が、SARSコロナウイルス-2感染症の予防のためのものであることは当業者に自明であるから、本件発明4で特定される薬剤の用途は本件発明4との相違点とはならず、両発明の相違点は、上記(2)アで記載した相違点1~3と同様である。
そして、上記(2)イで記載したと同様の理由により、本件発明4について、甲4発明及び申立人が提出した証拠から当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。
(5)小括
以上のとおりであるから、申立理由5には理由がない。
6 第6のまとめ
以上のとおり、申立理由1(2)には理由がなく、請求項1、2及び4についての本件特許について、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであるということはできないし、また、申立理由2~5には理由がなく、請求項1、2及び4に係る本件特許について、本件発明1、2及び4が特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないもの、あるいは、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるということもできない。
第7 むすび
以上のとおりであるから、令和4年3月31日付け取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由、令和4年10月18日付け取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件訂正後の請求項1、2及び4についての特許を取り消すことはできない。
また、他に本件訂正後の請求項1、2及び4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、請求項3に係る特許は、上記のとおり、本件訂正により削除された。これにより、特許異議申立人による特許異議の申立てについて、請求項3に係る申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2021-700541