特許異議申立
2021-700510
λ/4型電波吸収体
- 審判番号
- 2021-700510
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2020-504418外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 登録番号
- 6789437
- 請求日
- 2021年05月24日
- 審決日
- 2022年09月08日
- 公報発行日
- 2022年12月28日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】積水化学工業株式会社
- 【権利者代理人】小林 均
- 【権利者代理人】林 司
- 【異議申立人】松村 朋子
- 分類
- P1652.113-YAA(H05K) / P1652.121-YAA(H05K) / P1652.161-YAA(H05K)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第29条の2、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第4項、特許法第29条第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6789437号発明「λ/4型電波吸収体」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第6789437号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-10〕、11について訂正することを認める。
特許第6789437号の請求項1ないし5、8、11に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第6789437号の請求項1ないし11に係る特許についての出願は、令和1年9月25日(優先権主張 平成30年9月25日 日本国(JP))を国際出願日として出願され、令和2年11月5日にその特許権の設定登録がなされ、同年11月25日に特許掲載公報が発行された。その後、本件特許に対して特許異議の申立てがなされたものであり、以後の本件に係る手続の概要は以下のとおりである。
令和3年 5月24日 特許異議申立人 松村 朋子による請求項1な いし5、8、11に係る特許に対する特許異議 の申立て
令和3年 8月25日付け 取消理由通知
令和3年10月 5日 特許権者による訂正請求書・意見書の提出
令和3年11月12日 特許異議申立人による意見書の提出
令和3年12月 9日付け 取消理由通知(決定の予告)
令和4年 1月24日 特許権者による訂正請求書・意見書の提出
令和4年 5月17日付け 取消理由通知(決定の予告)
令和4年 7月 1日 特許権者による訂正請求書・意見書の提出
なお、令和4年7月7日付けで特許異議申立人に対して訂正請求があった旨の通知をし、意見書を提出する機会を与えたが提出されなかった。
また、先にした令和3年10月5日の訂正請求及び令和4年1月24日の訂正請求は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。
第2 訂正の適否
1.訂正の内容
令和4年7月1日の訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)は、特許第6789437号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付した訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1ないし11について訂正することを求めるものであり、その訂正の内容は、以下の訂正事項のとおりである(なお、下線は訂正箇所を示す。)。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1の
「式(1):-0.375x+1105<y <-0.375x+1140
(式中、xは抵抗被膜の抵抗値(Ω/□)、yは、y=支持体の厚み(μm)×(支持体比誘電率)0.5+誘電体層の厚み(μm)×(誘電体層の比誘電率)0.5を表す。yは971.65以上である。)」との記載を、
「式(1):-0.375x+1105<y <-0.375x+1140
(式中、xは抵抗被膜の抵抗値(Ω/□)、yは、y=支持体の厚み(μm)×(支持体比誘電率)0.5+誘電体層の厚み(μm)×(誘電体層の比誘電率)0.5を表す。yは998.20以上である。)」と訂正する。
請求項1の記載を引用する他の請求項も同様に訂正する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項11の
「式(1):-0.375x+1105<y <-0.375x+1140
(式中、xは抵抗被膜の抵抗値(Ω/□)、yは、y=支持体の厚み(μm)×(支持体比誘電率)0.5+誘電体層の厚み(μm)×(誘電体層の比誘電率)0.5を表す。yは971.65以上である。)」との記載を、
「式(1):-0.375x+1105<y <-0.375x+1140
(式中、xは抵抗被膜の抵抗値(Ω/□)、yは、y=支持体の厚み(μm)×(支持体比誘電率)0.5+誘電体層の厚み(μm)×(誘電体層の比誘電率)0.5を表す。yは998.20以上である。)」と訂正する。
(3)訂正事項3
明細書の段落【0089】の「(実施例1)」との記載を「(参考例1)」と訂正する。
(4)訂正事項4
明細書の段落【0091】の「(実施例2~9、比較例1~8)」との記載を「(実施例1~2、参考例2~7、比較例1~8)」と訂正し、「実施例1と同様にして」との記載を「参考例1と同様にして」と訂正する。
(5)訂正事項5
明細書の段落【0092】の「(実施例10)」との記載を「(実施例3)」と訂正し、「実施例1と同様にして」との記載を「参考例1と同様にして」と訂正し、「実施例10においては」との記載を「実施例3においては」と訂正する。
(6)訂正事項6
明細書の段落【0093】の「(実施例11~15)」との記載を「(実施例4、参考例8~11)」と訂正し、「実施例10と同様にして」との記載を「実施例3と同様にして」と訂正する。
(7)訂正事項7
明細書の段落【0094】の「(実施例16~20)」との記載を「(参考例12~16)」と訂正し、「実施例2と同様にして」との記載を「参考例2と同様にして」と訂正する。
(8)訂正事項8
明細書の段落【0095】の「(実施例21)」との記載を「(実施例5)」と訂正し、「実施例2と同様にして」との記載を「参考例2と同様にして」と訂正する。
(9)訂正事項9
明細書の段落【0100】の「実施例1~10の結果を表1に示し」との記載を「実施例1~3、参考例1~7の結果を表1に示し」と訂正し、「実施例11~15の結果を表3に示し」との記載を「実施例4、参考例8~11の結果を表3に示し」と訂正し、「実施例16~21の結果を実施例2の結果と共に表4に示す」との記載を「実施例5、参考例12~16の結果を参考例2の結果と共に表4に示す」と訂正する。
(10)訂正事項10
明細書の段落【0101】の【表1】の第1行(「実施例」の行)における「実施例」、「1」、「2」、「3」、「4」、「5」、「6」、「7」、「8」、「9」および「10」との記載を、それぞれ、「実施例/参考例」、「参考例1」、「参考例2」、「実施例1」、「参考例3」、「参考例4」、「参考例5」、「実施例2」、「参考例6」、「参考例7」および「実施例3」と訂正すると共に、第12行(「式1を満たすか否か」の行)における、第7列(「5」の列)、第10列(「8」の列)および第11列(「9」の列)の「〇」との記載を「×」と訂正する。
(11)訂正事項11
明細書の段落【0103】の【表3】の第1行(「実施例」の行)の「実施例」、「11」、「12」、「13」、「14」および「15」との記載を、それぞれ、「実施例/参考例」、「参考例8」、「参考例9」、「参考例10」、「実施例4」および「参考例11」と訂正すると共に、第12行(「式1を満たすか否か」の行)における第3列(「11」の列)の「〇」との記載を「×」と訂正する。
(12)訂正事項12
明細書の段落【0104】の【表4】の第1行(「実施例」の行)の「実施例」、「2」、「16」、「17」、「18」、「19」、「20」および「21」との記載を、それぞれ、「実施例/参考例」、「参考例2」、「参考例12」、「参考例13」、「参考例14」、「参考例15」、「参考例16」および「実施例5」と訂正する。
2.訂正の適否についての判断
(1)一群の請求項について
訂正前の請求項1ないし10について、請求項2ないし10は請求項1を引用しているものであって、訂正事項1によって訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。
したがって、訂正前の請求項1ないし10に対応する訂正後の請求項1ないし10は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
(2)訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
ア.訂正事項1について
訂正事項1は、請求項1に係る発明において、式(1)中の「y」の値〔支持体の厚み(μm)×(支持体比誘電率)0.5+誘電体層の厚み(μm)×(誘電体層の比誘電率)0.5〕の範囲について、下限値を「971.65」から「998.20」に訂正してより狭い範囲に限定するものである。
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
そして、「y」の値の範囲について、下限値を「998.20」に訂正することに関して、本件特許明細書の段落【0080】には「式(1)中のyの範囲は、特に制限されないが、好ましくは800以上1200以下、より好ましくは900以上1100以下、さらに好ましくは964以上1010以下である。」と記載され、段落【0101】の【表1】には実施例10としてyの値が「998.20」であるものが記載されている。
したがって、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
また、訂正事項1は上述のとおり、請求項1に係る発明において、「y」の値の範囲について、下限値を「971.65」から「998.20」に訂正してより狭い範囲に限定することによって特許請求の範囲を減縮するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
イ.訂正事項2について
訂正事項2は、請求項11に係る発明において、訂正事項1と同様に、式(1)中の「y」の値〔支持体の厚み(μm)×(支持体比誘電率)0.5+誘電体層の厚み(μm)×(誘電体層の比誘電率)0.5〕の範囲について、下限値を「971.65」から「998.20」に訂正してより狭い範囲に限定するものであり、訂正事項11は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
また、訂正事項2は、上記「ア.」に記載したとおり、訂正事項1と同様、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもなく、特許法120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
ウ.訂正事項3ないし12について
訂正事項3ないし12は、明細書中の実施例1ないし21の名称を訂正するとともに、さらに訂正事項10、11において明細書中の【表1】及び【表3】の「式1を満たすか否か」の行における評価を訂正するものである。
上記訂正のうちの訂正事項3ないし12における「実施例1ないし7、9ないし21」の名称の訂正は、上記訂正事項1及び2に係る訂正によってyの値の下限値が「971.65」から「998.20」に訂正されたことに伴い、実施例1、2、4ないし6、9、11ないし13、15ないし20におけるyの値が「998.20」未満であることから、これら「実施例」を「参考例」に訂正し、特許請求の範囲の記載と明細書の記載との整合を図るためのものであり、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものである。
また、上記訂正のうちの訂正事項4、9、10における「実施例8」の名称の訂正は、訂正前の実施例8のyの値が「1008.16」、抵抗皮膜の抵抗値xの値が「250.0Ω/□」であり、式(1)を満たさないものであることから、「参考例6」に訂正するものであり、特許法第120条の5第2項ただし書第2号に掲げる「誤記又は誤訳の訂正」を目的とするものであるとみることができる。
そして、上記訂正のうちの訂正事項10、11における明細書中の【表1】及び【表3】の「式1を満たすか否か」の行の評価の訂正は、訂正前の実施例5、実施例8、実施例9、実施例11については式(1)を満たしていないことから、「〇」との記載を「×」に改めるものであり、特許法第120条の5第2項ただし書第2号に掲げる「誤記又は誤訳の訂正」を目的とするものであるといえる。
そして、訂正事項3ないし12は上述のとおり、訂正事項1及び2による訂正に伴い、明瞭でない記載の釈明を目的として特許請求の範囲の記載と明細書の記載との整合を図り、また、誤記又は誤訳の訂正を目的とするものであって、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもなく、特許法120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
そして、明細書の訂正である訂正事項3ないし12に関係する一群の請求項の全て(請求項1ないし10、請求項11)が訂正請求の対象とされているから、訂正事項3ないし12は、特許法120条の5第9項で準用する同法第126条第4項の規定に適合する。
(3)独立特許要件について
訂正事項1及び2は「特許請求の範囲の減縮」を目的とし、訂正事項4、9ないし11は「誤記又は誤訳の訂正」を目的として含むものであるところ、請求項6、7、9、10については特許異議の申立てがなされていないことから、請求項6、7、9、10に係る訂正事項1、2、4、9ないし11に関しては、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件が課されることになる。
しかしながら、請求項6、7で特定する「前記抵抗被膜が、モリブデンを含有する」こと、及び請求項10で特定する「前記反射層の誘電体層側の表面における表面粗さ(Rz)が1μm以上10μm以下である」ことについては、特許異議申立人が提出した甲第1号証ないし甲第16号証のいずれにも記載も示唆もなく、他に証拠を発見しない。
また、請求項9で特定する「前記抵抗被膜の少なくとも一方の表面上に、さらにバリア層を有する」ことに関しては、特許異議申立人が提出した甲第1号証(国際公開第2018/163584号、特に段落[0127]~[0128]を参照)や甲第7号証(国際公開第2018/088492号、特に段落[0107]~[0108]を参照)には、「シート10」に係る電磁波吸収シートとして、請求項9でいう「バリア層」(なお、当該「バリア層」は「支持体」以外の層である。)に相当するといえる「保護層」を、厚みや比誘電率が不明な粘着層を付与した厚さ25μmのポリエチレンテレフタレートシートを張り合わせて構成してなるものが記載されている。しかし、そもそも「シート10」は、粘着層の厚みや比誘電率が不明であることから、請求項9が引用する請求項1で特定する「式(1)」及び「yは998.20以上」を満たすとはいえないものである。したがって、甲第1号証あるいは甲第7号証に記載された発明によって請求項9に係る発明の新規性や進歩性を否定することはできず、また、他に証拠を発見しない。
そして、請求項6、7、9、10に係る発明について、新規性や進歩性以外の独立特許要件違反となる理由も発見しない。
よって、請求項6、7、9、10に係る訂正事項1、2、4、9ないし11は、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の規定に適合するといえる。
3.訂正の適否についてのむすび
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号ないし第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第4項ないし第6項の規定に適合し、さらに、同条第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の規定にも適合する。
よって、明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~10〕、11について訂正することを認める。
第3 当審の判断
1.本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1ないし11に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」ないし「本件発明11」という。)は、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲の請求項1ないし11に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである(なお、下線は訂正された箇所を示す。)。
「【請求項1】
支持体、抵抗皮膜、誘電体層、及び反射層を有し、且つ下記式(1)を満たす、λ/4型電波吸収体。
式(1):-0.375x+1105<y <-0.375x+1140
(式中、xは抵抗被膜の抵抗値(Ω/□)、yは、y=支持体の厚み(μm)×(支持体比誘電率)0.5+誘電体層の厚み(μm)×(誘電体層の比誘電率)0.5を表す。yは998.20以上である。)
【請求項2】
前記抵抗被膜の抵抗値が200Ω/□以上500Ω/□以下である、請求項1記載のλ/4型電波吸収体。
【請求項3】
前記誘電体層の比誘電率が1以上10以下である、請求項1又は2に記載のλ/4型電波吸収体。
【請求項4】
前記支持体の厚みが15μm以上200μm以下である、請求項1~3いずれかに記載のλ/4型電波吸収体。
【請求項5】
前記支持体の比誘電率が1以上10以下である、請求項1~4いずれかに記載のλ/4型電波吸収体。
【請求項6】
前記抵抗被膜が、モリブデンを含有する、請求項1~5いずれかに記載のλ/4型電波吸収体。
【請求項7】
前記抵抗被膜が、さらにニッケル及びクロムを含有する、請求項6に記載のλ/4型電波吸収体。
【請求項8】
前記誘電体層が、粘着剤層を含む、請求項1~7いずれかに記載のλ/4型電波吸収体。
【請求項9】
前記抵抗被膜の少なくとも一方の表面上に、さらにバリア層を有する、請求項1~8いずれかに記載のλ/4型電波吸収体。
【請求項10】
前記反射層の誘電体層側の表面における表面粗さ(Rz)が1μm以上10μm以下である、請求項1~9いずれかに記載のλ/4型電波吸収体。
【請求項11】
支持体、抵抗皮膜及び誘電体層を有し、且つ下記式(1)を満たす、λ/4型電波吸収体用部材。[式(1):-0.375x+1105<y<-0.375x+1140(式 中、xは抵抗被膜の抵抗値(Ω/□)、yは、y=支持体の厚み(μm)×(支持体比誘電率)0.5+誘電体層の厚み(μm)×(誘電体層の比誘電率)0.5を表す。yは998.20以上である。)]」
なお、上記請求項1ないし11の記載中、「抵抗皮膜」と「抵抗被膜」の用語が混在しているが、同じものを意味するものと解することとする。
2.取消理由通知(決定の予告)等に記載した取消理由について
(1)取消理由の概要
令和4年5月17日付け取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由(引用例3に係る先願による理由B(拡大先願))、令和3年12月9日付け取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由(引用例2に係る先願による理由B(拡大先願))、及び令和3年8月25日付け取消理由通知に記載したその他の取消理由(理由A(新規性))の概要は、次のとおりである。
(1-1)令和4年5月17日付け取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由(引用例3に係る先願による理由B(拡大先願))
請求項1ないし5、11に係る発明は、その出願の日前の特許出願であって、その出願後に出願公開された下記の特許出願の願書に最初に添付された明細書又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、この出願の発明者がその出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないので、請求項1ないし5、11に係る特許は、特許法第29条の2の規定に違反してなされたものである。
記
引用例3に係る先願:特願2017-116296号(特開2019-4 004号公報参照)(甲第12号証)
(1-2)令和3年12月9日付け取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由(引用例2に係る先願による理由B(拡大先願))
請求項1ないし5、11に係る発明は、その出願の日前の特許出願であって、その出願後に出願公開された下記の特許出願の願書に最初に添付された明細書又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、この出願の発明者がその出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないので、請求項1ないし5、11に係る特許は、特許法第29条の2の規定に違反してなされたものである。
記
引用例2に係る先願:特願2017-116294号(特開2019-4 003号公報参照)(甲第10号証)
(1-3)令和3年8月25日付け取消理由通知に記載した上記(1-1)及び(1-2)以外の取消理由(理由A(新規性))
請求項1ないし3、5、11に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の引用例1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、請求項1ないし3、5、11に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してなされたものである。
記
引用例1:国際公開第2018/163584号(甲第1号証)
(2)引用例等の記載事項
(2-1)引用例1
取消理由通知において引用した引用例1(国際公開第2018/163584号、甲第1号証)には、「電磁波吸収シート」について、図面とともに以下の各記載がある(なお、下線は当審で付与した。)。
ア.「[0001] 本開示は、可撓性と透光性とを有し、数十ギガヘルツ(GHz)から数百ギガヘルツ(GHz)のいわゆるミリ波帯域以上の電磁波を吸収する電磁波吸収シートに関する。
背景技術
[0002] 電気回路などから外部へと放出される漏洩電磁波や、不所望に反射した電磁波の影響を回避するために、電磁波を吸収する電磁波吸収シートが用いられている。
[0003] 近年は、携帯電話などの移動体通信や無線LAN、料金自動収受システム(ETC)などで、数ギガヘルツ(GHz)の周波数帯域を持つセンチメートル波、さらには、30ギガヘルツから300ギガヘルツの周波数を有するミリ波帯、ミリ波帯域を超えた高い周波数帯域の電磁波として、1テラヘルツ(THz)の周波数を有する電磁波を利用する技術の研究も進んでいる。
[0004] このようなより高い周波数の電磁波を利用する技術トレンドに対応して、不要な電磁波を吸収する電磁波吸収体やユーザの利便性を向上したシート状の電磁波吸収体である電磁波吸収シートにおいても、ミリ波帯域からそれ以上の帯域の電磁波を吸収可能とするものへの要望は、より高くなることが考えられる。
[0005] このような電磁波吸収シートとして、誘電体層の一方の表面に抵抗皮膜を、他方の表面に電磁波を反射する電磁波遮蔽層とが形成され、反射波の位相を入射波に対して1/2波長分ずらすことで電磁波吸収シートへの入射波と反射波とが打ち消し合って電磁波を吸収する、いわゆる電磁波干渉型(λ/4型)の電磁波吸収シートが知られている。電磁波干渉型の電磁波吸収シートは、比重の大きな磁性体粒子によって磁気的に電磁波を吸収する電磁波吸収シートなどと比べて軽量であり、容易に製造することができるため低コスト化が可能という利点を有している。」
イ.「[0027](実施の形態)
まず、本実施形態にかかる電磁波吸収シートの全体構成について説明する。
[0028] 図1は、本実施形態にかかる電磁波吸収シートの構成を示す断面図である。
[0029] なお、図1は、本実施形態にかかる電磁波吸収シートの構成を理解しやすくするために記載された図であり、図中に示された部材の大きさや厚みについて現実に即して表されたものではない。
[0030] 本実施形態で例示する電磁波吸収シートは、抵抗皮膜1、誘電体層2、電磁波遮蔽層3が積層されて形成されている。なお、図1に示す電磁波吸収シートでは、電磁波遮蔽層3の背面側、すなわち、電磁波遮蔽層3において誘電体層2が配置されている側とは反対側の表面には、接着層4が積層形成されている。また、抵抗皮膜1の前面側、すなわち、抵抗皮膜1において誘電体層2が配置されている側とは反対側の表面には、保護層5が積層形成されている。
[0031] 本実施形態にかかる電磁波吸収シートは、誘電体層2に入射した電磁波11が、誘電体層2の背面側に配置されている電磁波遮蔽層3と誘電体層2との界面で反射されて、反射波12として再び外部へと放出される。このとき、誘電体層2の厚さdを、入射した電磁波の波長の1/4とする(d=λ/4)ことで、入射波11の位相11aと反射波12の位相12aとが打ち消し合って電磁波吸収シートに入射した電磁波を吸収する。
[0032] なお、d=λ/4となるのは、誘電体層2として空気(誘電率ε=1)が用いられる場合であり、誘電体層2に用いられる誘電体の誘電率がε r である場合には、d=1/(4√ε r )となって誘電体層2の厚さdを、1/(4√ε r )だけ薄くすることができる。誘電体層2を薄く形成することで、電磁波吸収シート全体の薄型化を実現でき、より可撓性に優れた電磁波吸収シートを実現することができる。
[0033] 誘電体層2の背面側に積層して形成される電磁波遮蔽層3は、誘電体層2との境界面である誘電体層2側の表面で、入射してきた電磁波を反射する層である。
[0034] 本実施形態にかかる、電磁波干渉型の電磁波吸収シートにおける電磁波吸収の原理から、電磁波遮蔽層3は電磁波を反射する反射層として機能することが必要である。また、電磁波遮蔽層として可撓性と透光性とを備えることが必要である。このような要求に対応できる電磁波遮蔽層3としては、導電性の繊維により構成された導電性メッシュや、極細線の金属などの導電性ワイヤーにより構成された導電性格子を用いることができる。
[0035] 抵抗皮膜1は、誘電体層2の前面側、すなわち誘電体層2の電磁波遮蔽層3が積層されている側とは反対の側の吸収される電磁波が入射する側に形成され、電磁波吸収シートと空気との間のインピーダンス整合を行う。」
ウ.「[0063][誘電体層]
本実施形態にかかる電磁波吸収シートの誘電体層2は、ポリフッ化ビニリデン、ポリエステル樹脂、ガラス、透明なシリコーンゴム、透明なOCA、OCRなどの誘電体で形成することができる。なお、誘電体層2は、1種の材料で1層の構成として形成することができ、また、同種、異種の材料を2層以上積層した構成とすることもできる。誘電体層2の形成には、塗布法やプレス成型法、押出成型法などを用いることができる。
[0064] 上述のように、本実施形態にかかる電磁波吸収シートは、電磁波吸収シートに入射した電磁波と電磁波遮蔽層で反射された反射波との位相を1/2波長ずらすことで、入射波と反射波とが打ち消し合って電磁波を吸収する電磁波干渉型(λ/4型)の電磁波吸収シートである。このため、誘電体層の厚さ(図1におけるd)は、吸収しようとする電磁波の波長に対応して定められる。
[0065] なお、dの値は、抵抗皮膜1と電磁波遮蔽層3との間が空間となっている場合、すなわち、誘電体層2が空気で形成されている場合は、d=λ/4が成り立つが、誘電体層2を誘電率ε r の材料で形成した場合には、d=λ/(4(√ε r ))となるため、誘電体層2を構成する材料として、材料自体が有する誘電率が大きなものを用いることで誘電体層2の厚さdの値を、1/√ε r 小さくすることができ、電磁波吸収シート全体の厚さを低減させることができる。本実施形態にかかる電磁波吸収シートは、可撓性を有するものであることから、電磁波吸収シートを構成する誘電体層2や電磁波吸収シート自体の厚さが小さいほど容易に湾曲させることができてより好ましい。また、本実施形態にかかる電磁波吸収シートが、後述する接着層4などを介して電磁波漏洩を防ぎたい部材に貼着して使用されることが多いことを考慮すると、電磁波吸収シートの厚みが薄く容易に貼着部分の形状に沿うこと、また、シートがより軽量化されていることが好ましい。」
エ.「[0081][実施例]
以下、本実施形態にかかる電磁波吸収シートを実際に作製して、各種の特性を測定した結果について説明する。
[0082] <抵抗皮膜の耐候性>
抵抗皮膜を作成する抵抗皮膜液の成分を異ならせて、以下2種類の電磁波吸収シートをそれぞれ5枚ずつ作成した。
[0083] (シート1)
以下の成分を添加、混合して抵抗皮膜液を調整した
(1)導電性高分子分散体 36.7部 ヘレウス社製導電性高分子(PEDOT-PSS)
:PH-100(製品名)
固形分濃度 1.2質量%
(2)PVDF分散液 5.6部 アルケマ社製:LATEX32(商品名)、
固形分濃度 20質量%、 溶媒 水
(3)水溶性ポリエステル水溶液 0.6部 互応化学工業社製:プラスコートZ561(商品名)
固形分濃度 25質量%
(4)有機溶媒(ジメチルスルホキシド) 9.9部 (5)水溶性溶媒(エタノール) 30.0部
(6)水 17.2部。
・・・・・(中 略)・・・・・
[0096] 図2から分かるように、抵抗皮膜の表面抵抗値が377Ω/sqと、空気中(真空)のインピーダンス値と一致して極めて良好なインピーダンス整合が取れているシート1では、76GHzの電磁波に対する減衰量が約42dBと極めて高くなっている。
・・・・・(中 略)・・・・・
[0099][電磁波遮蔽層]
次に、可撓性と透光性を有する電磁波遮蔽層について検討した。
[0100] 上述のシート1の製法に基づいて、抵抗値が377Ω/sqの抵抗皮膜を作製した。
[0101] いずれも、基材としての厚さ10μmのポリエチレンテレフタレート上に、抵抗皮膜液をバーコート法によって塗布し、その後150°で5分間加熱して製膜した。その後、基材のポリエチレンテレフタレートの抵抗皮膜層を塗布した側とは反対側の面に、誘電体層を、厚さ550μmの透明なシリコーンゴムを用いて形成した。
[0102] 電磁波遮蔽層を、第1の実施例であるシート7として、セーレン株式会社製の導電メッシュSu-4X-27035(商品名)を用いて形成した。また、第2の実施例であるシート8として、同じくセーレン株式会社製の導電性メッシュSu-4G-9027(商品名)を用いて形成した。」
上記「ア.」ないし「エ.」から以下のことがいえる。
・上記引用例1に記載の「電磁波吸収シート」は、上記「ア.」、「イ.」の記載よれば、誘電体層の一方の表面に抵抗皮膜を、他方の表面に電磁波を反射する電磁波遮蔽層とが積層されて形成された電磁波干渉型(λ/4型)の電磁波吸収シートに関するものである。
・上記「ウ.」の記載によれば、入射する電磁波の波長をλ、電磁波遮蔽層と抵抗皮膜との間の誘電体層を誘電率εrの材料で形成した場合、誘電体層の厚みdはd=λ/(4√εr)である。
・上記「エ.」の記載によれば、第1の実施例であるシート7では、抵抗皮膜は、厚さ10μmのポリエチレンテレフタレートからなる基材上に製膜され、抵抗値が377Ω/sqである。また、誘電体層は、基材の抵抗皮膜を塗布(製膜)した側とは反対側の面に、厚さ550μmの透明なシリコーンゴムを用いて形成されてなるものである。
以上のことから、特に「シート7」に係るものに着目し、上記記載事項を総合勘案すると、引用例1には、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されている。
「厚さ10μmのポリエチレンテレフタレートからなる基材と、
前記基材上に製膜された抵抗値が377Ω/sqの抵抗皮膜と、
前記基材の前記抵抗皮膜を製膜した側とは反対側の面に形成した厚さ550μmの透明なシリコーンゴムからなる誘電体層と、
前記誘電体層の前記基材側とは反対側の面に形成され、電磁波を反射する電磁波遮蔽層と、を有し、
入射する電磁波の波長をλ、前記電磁波遮蔽層と前記抵抗皮膜との間の誘電体層を誘電率εrの材料で形成した場合、前記誘電体層の厚みdはd=λ/(4√εr)である、電磁波干渉型(λ/4型)の電磁波吸収シート。」
(2-2)引用例2に係る先願明細書
令和3年12月9日付け取消理由通知(決定の予告)において引用した、本件出願の優先日前の他の特許出願であって、本件出願の優先日後に出願公開された先願(特開2017-116294号(特開2019-4003号公報参照)、甲第10号証)の願書に最初に添付した明細書及び図面(以下、「先願明細書2」という。)には、「電磁波吸収体」について、図面とともに以下の各記載がある(なお、下線は当審で付与した。)。
ア.「【0016】
図1に示す通り、電磁波吸収体1aは、第一層10と、導電層20とを備えている。第一層10は、誘電体層又は磁性体層である。導電層20は、第一層10の少なくとも片側に設けられており、導電機能層22を含んでいる
。・・・・・(以下、略)」
イ.「【0027】
図1に示す通り、電磁波吸収体1aは、例えば、抵抗層30をさらに備えている。抵抗層30は、第一層10の少なくとも片側に設けられている。この場合、第一層10は、誘電体層であり、かつ、抵抗層30と導電層20との間に配置されている。換言すると、電磁波吸収体1aはλ/4型電磁波吸収体である。」
ウ.「【0032】
抵抗層30は、例えば、抵抗機能層を支持する支持体をさらに含んでいてもよい。この場合、抵抗層30は、例えば、支持体上にスパッタリング又はコーティング(例えば、バーコーティング)等の成膜方法により抵抗機能層を形成することによって作製できる。この場合、支持体は、抵抗機能層の厚みを高精度に調節できる補助材としての役割も果たす。抵抗層30の支持体の材料は、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)及びポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボネート(PC)、ポリオレフィン、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、シクロオレフィンポリマー(COP)、ポリウレタン、ウレタンアクリル樹脂、二軸延伸ポリプロピレン(CPP)、又は塩化ビニリデン樹脂である。抵抗層30の支持体の材料は、導電層20の支持体の材料と同一の材料であってもよいし、異なる材料であってもよい。なかでも、良好な耐熱性と、寸法安定性と、コストとのバランスの観点から、抵抗層30の支持体の材料は望ましくはPETである。必要に応じて、抵抗層30において支持体は省略可能である。
【0033】
抵抗層30が支持体を含む場合、抵抗層30において、抵抗機能層が支持体よりも第一層10に近い位置に配置されていてもよいし、支持体が抵抗機能層よりも第一層10に近い位置に配置されていてもよい。」
エ.「【0046】
<実施例1>
ポリエステルからなるフィルム状の支持体(三菱化学ポリエステル社製、三菱ダイアホイル、厚み:38μm厚)に、シート抵抗が380Ω/□になるように30重量%のSnO2を含有するITOを用いてスパッタリングにより抵抗機能層を形成し、実施例1に係る抵抗層を作製した。実施例1に係る導電層として、アルミニウム蒸着フィルム(三井化学東セロ社製、製品名:CP WS20、基材:二軸延伸ポリプロピレン(CPP)フィルム、基材の厚み:20μm)を準備した。実施例1に係る導電層のアルミニウム蒸着膜に、実施例1に係る誘電体層である560μmの厚みにプレス成型したアクリル樹脂(クラレ社製、クラリティLA2330)を載せた。次に、アクリル樹脂(誘電体層)の上に、抵抗層の支持体によって形成された主面をアクリル樹脂に向けた状態で実施例1に係る抵抗層を重ねた。このようにして、実施例1に係る電磁波吸収体を得た。実施例1に係る電磁波吸収体における誘電体層の比誘電率は2.55であった。
・・・・・(中 略)・・・・・
【0049】
<実施例4>
実施例4に係る導電層として、25μmの厚みを有するPETの層、7μmの厚みを有するアルミニウム箔、及び9μmの厚みを有するPETの層がこの順で積層されているUACJ社製のアルミニウム箔付きPETフィルムを準備した。実施例1に係る導電層の代わりに、実施例4に係る導電層を用いた以外は、実施例1と同様にして、実施例4に係る電磁波吸収体を得た。実施例4に係る導電層の25μmの厚みを有するPETフィルムを実施例1に係る誘電体層に向けた状態で実施例4に係る導電層と実施例1に係る誘電体層とを重ねた。
【0050】
<実施例5>
EVA樹脂(三井デュポン社製、エバフレックスEV250、比誘電率:2.45)を120℃でプレス成型して、560μmの厚みを有する実施例5に係る誘電体層を得た。実施例1に係る誘電体層の代わりに実施例5に係る誘電体層を用いた以外は実施例4と同様にして、実施例5に係る電磁波吸収体を得た。
・・・・・(中 略)・・・・・
【0057】
<実施例12>
アイオノマー樹脂(三井・デュポン ポリケミカル社製、製品名:ハイミラン1855)をミキシングロールで混練した後、120℃でプレス成型し、565μmの厚みを有する実施例12に係る誘電体層を作製した。実施例12に係る誘電体層の比誘電率は、2.44であった。実施例1に係る誘電体層の代わりに実施例12に係る誘電体層を用いた以外は実施例4と同様にして、実施例12に係る電磁波吸収体を得た。」
オ.「【0073】
[図:0001391994000001.jpg]
」
カ.「
[図:0001391994000002.jpg]
」
上記「ア.」ないし「カ.」から以下のことがいえる。
・上記先願明細書2に記載の「電磁波吸収体」は、上記「ア.」ないし「ウ.」の記載、及び「カ.」(図1)によれば、支持体に抵抗機能層を形成してなる抵抗層、誘電体層、及び導電層を備えるλ/4型電磁波吸収体である。
・上記「エ.」、「オ.」(【表1】)の記載によれば、実施例5及び実施例12では、支持体として厚み38μmのポリエステルからなるもの(三菱化学ポリエステル社製、三菱ダイアホイル)が用いられ、当該支持体に抵抗機能層を形成してなる抵抗層のシート抵抗が380Ω/□であり、導電層として25μmの厚みを有するPETの層、7μmの厚みを有するアルミニウム箔、及び9μmの厚みを有するPETの層がこの順で積層されたアルミニウム箔付きPETフィルムからなるものが用いられている。
そして、誘電体層の上に、抵抗層の支持体によって形成された主面が向いた状態で抵抗層が重ねられてなり、実施例5では誘電体層として560μmの厚みを有するEVA樹脂(比誘電率:2.45)からなるものが用いられ、実施例12では565μmの厚みを有するアイオノマー樹脂(比誘電率:2.44)からなるものが用いられている。
ここで、上記「イ.」の記載、及び「カ.」(図1)によれば、誘電体層は、抵抗層と導電層の間に配置される。よって、導電層は、誘電体層の支持体側とは反対側の面に重ねられてなるものである。
以上のことから、特に「実施例5」に係るものに着目し、上記記載事項を総合勘案すると、上記先願明細書2には次の発明(以下、「先願発明2-1」という。)が記載されている。
「厚み38μmのポリエステルからなる支持体(三菱化学ポリエステル社製、三菱ダイアホイル)と、
前記支持体上に抵抗機能層を形成してなるシート抵抗が380Ω/□の抵抗層と、
前記抵抗層の前記支持体によって形成された主面が向いた状態で前記抵抗層が重ねられてなる560μmの厚みを有するEVA樹脂(比誘電率:2.45)からなる誘電体層と、
25μmの厚みを有するPETの層、7μmの厚みを有するアルミニウム箔、及び9μmの厚みを有するPETの層がこの順で積層されたアルミニウム箔付きPETフィルムからなり、前記誘電体層の前記支持体側とは反対側の面に25μmの厚みを有するPETの層を向けた状態で重ねられてなる導電層とを備える、λ/4型電磁波吸収体。」
また、特に「実施例12」に係るものに着目し、上記記載事項を総合勘案すると、上記先願明細書2には次の発明(以下、「先願発明2-2」という。)が記載されている。
「厚み38μmのポリエステルからなる支持体(三菱化学ポリエステル社製、三菱ダイアホイル)と、
前記支持体上に抵抗機能層を形成してなるシート抵抗が380Ω/□の抵抗層と、
前記抵抗層の前記支持体によって形成された主面が向いた状態で前記抵抗層が重ねられてなる565μmの厚みを有するアイオノマー樹脂(比誘電率:2.44)からなる誘電体層と、
25μmの厚みを有するPETの層、7μmの厚みを有するアルミニウム箔、及び9μmの厚みを有するPETの層がこの順で積層されたアルミニウム箔付きPETフィルムからなり、前記誘電体層の前記支持体側とは反対側の面に25μmの厚みを有するPETの層を向けた状態で重ねられてなる導電層とを備える、λ/4型電磁波吸収体。」
(2-3)引用例3に係る先願明細書
令和4年5月17日付け取消理由通知(決定の予告)において引用した、本件出願の優先日前の他の特許出願であって、本件出願の優先日後に出願公開された先願(特開2017-116296号(特開2019-4004号公報参照)、甲第12号証)の願書に最初に添付した明細書及び図面(以下、「先願明細書3」という。)には、「電磁波吸収体」について、図面とともに以下の各記載がある(なお、下線は当審で付与した。)。
ア.「【0014】
図1に示す通り、電磁波吸収体1は、誘電体層10と、抵抗層20と、導電層30とを備えている。抵抗層20は、誘電体層10の一方の主面に配置されている。抵抗層20は、誘電体層10の他方の主面に配置され、抵抗層20のシート抵抗より低いシート抵抗を有する。抵抗層20は、酸化スズ若しくは酸化チタンを主成分として含む層である、又は、酸化スズを40重量%以上含む酸化インジウムスズでできている層である。本明細書において、「主成分」とは、重量基準で最も多く含まれる成分を意味する。抵抗層20が酸化スズ又は酸化チタンを主成分として含む場合、典型的には、抵抗層20における酸化スズ又は酸化チタンの含有量が50重量%以上である。抵抗層20が上記のような材料でできた層であると、抵抗層20が良好な耐薬品性を有する。ひいては電磁波吸収体1が良好な耐薬品性を有する。
【0015】
電磁波吸収体1は、λ/4型電磁波吸収体である。λ/4型電磁波吸収体において、吸収対象とする波長(λO)の電磁波が入射すると、抵抗層20の表面での反射(表面反射)による電磁波と、導電層30における反射(裏面反射)による電磁波とが干渉するように設計される。なお、λ/4型電磁波吸収体においては、下記の式(1)に示す通り、誘電体層10の厚み(t)及び誘電体層10の比誘電率(εr)によって吸収対象の電磁波の波長(λO)が決定される。すなわち、誘電体層10の材料及び厚みを適宜調節することにより、吸収対象の波長の電磁波を設定できる。式(1)においてsqrt(εr)は、比誘電率(εr)の平方根を意味する。
λO=4t×sqrt(εr) 式(1)」
イ.「【0025】
図1に示す通り、抵抗層20は、例えば、誘電体層10に接している面と反対の面において高分子フィルム25に積層されている。高分子フィルム25は、抵抗層20の支持体として機能する。高分子フィルム25は、例えば上記の成膜法によって抵抗層20を製造する場合に、成膜時又はその後のアニール処理時の加熱に耐えうる耐熱性を有し、平滑な表面を提供する材料でできていることが望ましい。加えて、高分子フィルム25は、抵抗層20を覆うように配置されているので、高分子フィルム25が高い耐薬品性を有していれば、電磁波吸収体1も高い耐薬品性を有する。このため、高分子フィルム25の材料は、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)及びポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステル樹脂、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)等のアクリル樹脂、ポリカーボネート(PC)、シクロオレフィンポリマー(COP)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)等の芳香族ポリエーテルケトン、芳香族ポリアミド(アラミド)、又はポリイミドである。良好な耐薬品性と、寸法安定性と、コストとのバランスの観点から、抵抗層20の支持体の材料は望ましくはPETである。
【0026】
高分子フィルム25の厚みは、例えば10~150μmであり、望ましくは20~100μmであり、より望ましくは30~80μmの厚みを有する。これにより、高分子フィルム25の曲げ剛性が低く、かつ、高分子フィルム25に抵抗層20を形成する場合において皺の発生又は変形を抑制できる。」
ウ.「【0040】
次に、導電層30の一方の主面に、所定の厚みに成形された誘電体層10を形成する樹脂組成物を載せる。その後、誘電体層10を形成する樹脂組成物に、抵抗層20の一方の主面を重ねる。必要に応じて、樹脂組成物を硬化させる。これにより、電磁波吸収体1を製造できる。この方法によれば、誘電体層10の厚みの制御が容易であるので、吸収対象とする波長の電磁波を効果的に吸収できるように電磁波吸収体1を製造できる。また、抵抗層20および導電層30を別々に形成するので、電磁波吸収体1の製造に要する時間が短く、電磁波吸収体1の製造コストが低い。誘電体層10と導電層30又は抵抗層20とをくっつけるために接着剤又は粘着剤を用いてもよい。」
エ.「【0047】
<実施例1>
50μmの厚みを有するポリイミドフィルム(宇部興産社製、ユーピレックス)の上に、SnO2をターゲット材として用いて、RFマグネトロンスパッタ法(基板温度:室温)により、SnO2からなる膜を形成した。この膜を300℃で1時間加熱処理(アニール処理)して結晶化させた。このようにして、SnO2からなる実施例1に係る抵抗層を形成した。実施例1に係る抵抗層の厚み、シート抵抗、及び比抵抗を表1に示す。2.5の比誘電率を有するアクリル樹脂を560μmの厚みに押し出し成形して、実施例1に係る誘電体層を作製した。また、実施例1に係る導電層として0.002Ω/□のシート抵抗を有するアルミニウム箔を準備した。実施例1に係る誘電体層の一方の主面に薬品浸漬処理されていない実施例1に係る抵抗層が接触するように実施例1に係る抵抗層を貼り付けた。また、実施例1に係る誘電体層の他方の主面に実施例1に係る導電層を接触させて貼り付けた。このようにして、実施例1に係るサンプルAを作製した。」
オ.「【0049】
<実施例2>
50μmの厚みを有するポリイミドフィルム(宇部興産社製、ユーピレックス)の上に、SnF2粉末とSnO2粉末との混合物をターゲット材として用いて、RFマグネトロンスパッタ法(基板温度:200℃)により、フッ素ドープ酸化スズ(フッ素含有量:5原子%)でできた実施例2に係る抵抗層を形成した。実施例1に係る抵抗層の代わりに実施例2に係る抵抗層を用いた以外は、実施例1と同様にして、実施例2に係るサンプルA(薬品浸漬処理なし)及びサンプルB(薬品浸漬処理あり)を作製した。
【0050】
<実施例3>
50μmの厚みを有するポリイミドフィルム(宇部興産社製、ユーピレックス)の上に、Sn-Sb合金をターゲット材として用い、反応性ガスとして酸素ガスを用いて、反応性MF-ACマグネトロンスパッタ法(電源の周波数:200kHz、基板温度:200℃)により、アンチモンドープ酸化スズ(アンチモン含有量:4原子%)でできた実施例3に係る抵抗層を形成した。実施例1に係る抵抗層の代わりに実施例3に係る抵抗層を用いた以外は、実施例1と同様にして、実施例3に係るサンプルA(薬品浸漬処理なし)及びサンプルB(薬品浸漬処理あり)を作製した。
【0051】
<実施例4>
50μmの厚みを有するポリイミドフィルム(宇部興産社製、ユーピレックス)の上に、Nb含有TiO2をターゲット材に用いて、RFマグネトロンスパッタ法(基板温度:室温)により、ニオブドープ酸化チタン(ニオブ含有量:8原子%)でできた膜を形成した。この膜を350℃で1時間加熱処理(アニール処理)して結晶化させた。このようにして、実施例4に係る抵抗層を形成した。実施例1に係る抵抗層の代わりに実施例4に係る抵抗層を用いた以外は、実施例1と同様にして、実施例4に係るサンプルA(薬品浸漬処理なし)及びサンプルB(薬品浸漬処理あり)を作製した。」
カ.「【0061】
[図:0001391994000003.jpg]
」
キ.「
[図:0001391994000004.jpg]
」
上記「ア.」ないし「キ.」から以下のことがいえる。
・上記先願明細書3に記載の「電磁波吸収体」は、上記「ア.」、「イ.」の記載、及び「キ.」(図1)によれば、支持体として機能する高分子フィルム、抵抗層、誘電体層、及び導電層を備えるλ/4型電磁波吸収体である。
・上記「エ.」ないし「オ.」の記載、及び上記「カ.」(【表1】)によれば、実施例2ないし実施例4では、支持体(高分子フィルム)として50μmの厚みを有するポリイミドフィルム(宇部興産社製、ユーピレックス)からなるものが用いられ、誘電体層は一方の主面に抵抗層が接触するように貼り付けられ、560μmの厚み、2.5の比誘電率を有するアクリル樹脂からなるものが用いられ、導電層は誘電体層の他方の主面に接触して貼り付けられてなるアルミニウム箔が用いられている。
そして、抵抗層は、支持体上に形成され、実施例2ではシート抵抗が390Ω/□のものが用いられ、実施例3ではシート抵抗が405Ω/□のものが用いられ、実施例4ではシート抵抗が372Ω/□のものが用いられている。
以上のことから、特に「実施例2」に係るものに着目し、上記記載事項を総合勘案すると、上記先願明細書3には、次の発明(以下、「先願発明3-1」という。)が記載されている。
「50μmの厚みを有するポリイミドフィルム(宇部興産社製、ユーピレックス)からなる支持体と、
前記支持体上に形成されたシート抵抗が390Ω/□の抵抗層と、
一方の主面に前記抵抗層が接触するように貼り付けられてなる560μmの厚み、2.5の比誘電率を有するアクリル樹脂からなる誘電体層と、
前記誘電体層の他方の主面に接触して貼り付けられてなるアルミニウム箔とを備える、λ/4型電磁波吸収体。」
また、「実施例3」に係るものに着目し、上記記載事項を総合勘案すると、上記先願明細書3には、次の発明(以下、「先願発明3-2」という。)が記載されている。
「50μmの厚みを有するポリイミドフィルム(宇部興産社製、ユーピレックス)からなる支持体と、
前記支持体上に形成されたシート抵抗が405Ω/□の抵抗層と、
一方の主面に前記抵抗層が接触するように貼り付けられてなる560μmの厚み、2.5の比誘電率を有するアクリル樹脂からなる誘電体層と、
前記誘電体層の他方の主面に接触して貼り付けられてなるアルミニウム箔とを備える、λ/4型電磁波吸収体。」
さらに、「実施例4」に係るものに着目し、上記記載事項を総合勘案すると、上記先願明細書3には、次の発明(以下、「先願発明3-3」という。)が記載されている。
「50μmの厚みを有するポリイミドフィルム(宇部興産社製、ユーピレックス)からなる支持体と、
前記支持体上に形成されたシート抵抗が372Ω/□の抵抗層と、
一方の主面に前記抵抗層が接触するように貼り付けられてなる560μmの厚み、2.5の比誘電率を有するアクリル樹脂からなる誘電体層と、
前記誘電体層の他方の主面に接触して貼り付けられてなるアルミニウム箔とを備える、λ/4型電磁波吸収体。」
(3)取消理由についての当審の判断
(3-1)令和4年5月17日付け取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由(引用例3に係る先願による理由B(拡大先願))について
ア.本件発明1について
本件発明1と先願発明3-3とを対比する。
(a)λ/4型電波吸収体について
先願発明3-3における「支持体」、「抵抗層」、「誘電体層」、「アルミニウム箔」は、それぞれ本件発明1でいう「支持体」、「抵抗皮膜」、「誘電体層」、「反射層」に相当するといえる。
そして、先願発明3-3における「λ/4型電磁波吸収体」は、本件発明1でいう「λ/4型電波吸収体」に相当するものである。
したがって、本件発明1と先願発明3-3とは、「支持体、抵抗皮膜、誘電体層、及び反射層を有」する「λ/4型電波吸収体」である点で一致する。
(b)式(1)について
先願発明3-3における「支持体」のポリイミドフィルム(宇部興産社製、ユーピレックス)について、その比誘電率については先願明細書3には記載されていないが、「ユーピレックス」(「https://www.ube.com/upilex/jp/upilex_grade.html」参照)によれば3.5であると解される。
したがって、先願発明3-1における数値を式(1)に代入してみると、
-0.375x+1105=-0.375×372+1105=965.5
-0.375x+1140=-0.375×372+1140=1000.5
y=支持体の厚み(μm)×(支持体比誘電率)0.5+誘電体層の厚み(μm)×(誘電体層の比誘電率)0.5=50×3.50.5+560×2.50.5≒978.98であるから、式(1)は満たすものの、本件発明1で特定する「yは998.20以上」の条件(範囲)は満たさない。
よって上記(a)及び(b)によれば、本件発明1と先願発明3-3とは、
「支持体、抵抗皮膜、誘電体層、及び反射層を有し、且つ下記式(1)を満たす、λ/4型電波吸収体。
式(1):-0.375x+1105<y<-0.375x+1140
(式中、xは抵抗被膜の抵抗値(Ω/□)、yは、y=支持体の厚み(μm)×(支持体比誘電率)0.5+誘電体層の厚み(μm)×(誘電体層の比誘電率)0.5を表す。)」
である点で一致し、次の点で相違する。
[相違点]
yの値の範囲について、本件発明1では「998.20以上」であることを特定するのに対し、先願発明3-3では978.98である点。
ここで、令和3年8月25日付け取消理由通知において認定した先願発明3-1及び先願発明3-2については、令和4年5月17日付け取消理由通知(決定の予告)で採用していないが、以下に検討しておく。
まず、本件発明1と先願発明3-1と対比する。
先願発明3-1は、先願発明3-3の「抵抗層」について、シート抵抗が「372Ω/□」のものに代えて「390Ω/□」としたものであり、その他の構成は同じである。
そこで、先願発明3-1における数値を式(1)に代入してみると、
-0.375x+1105=-0.375×390+1105=958.75
-0.375x+1140=-0.375×390+1140=993.75
であり、yの値は先願発明3-3と同じy≒978.98であるから、式(1)は満たすものの、本件発明1で特定する「yは998.20以上」の条件(範囲)は満たさない。
よって、本件発明1と先願発明3-1とは、
「支持体、抵抗皮膜、誘電体層、及び反射層を有し、且つ下記式(1)を満たす、λ/4型電波吸収体。
式(1):-0.375x+1105<y<-0.375x+1140
(式中、xは抵抗被膜の抵抗値(Ω/□)、yは、y=支持体の厚み(μm)×(支持体比誘電率)0.5+誘電体層の厚み(μm)×(誘電体層の比誘電率)0.5を表す。)」
である点で一致し、次の点で相違する。
[相違点]
yの値の範囲について、本件発明1では「998.20以上」であることを特定するのに対し、先願発明3-1では978.98である点。
次に、本件発明1と先願発明3-2と対比する。
先願発明3-2は、先願発明3-3の「抵抗層」について、シート抵抗が「372Ω/□」のものに代えて「405Ω/□」としたものであり、その他の構成は同じである。
そこで、先願発明3-2における数値を式(1)に代入してみると、
-0.375x+1105=-0.375×405+1105=953.125
-0.375x+1140=-0.375×405+1140=988.125
であり、yの値は先願発明3-3と同じy≒978.98であるから、式(1)は満たすものの、本件発明1で特定する「yは998.20以上」の条件(範囲)は満たさない。
よって、本件発明1と先願発明3-2とは、
「支持体、抵抗皮膜、誘電体層、及び反射層を有し、且つ下記式(1)を満たす、λ/4型電波吸収体。
式(1):-0.375x+1105<y<-0.375x+1140
(式中、xは抵抗被膜の抵抗値(Ω/□)、yは、y=支持体の厚み(μm)×(支持体比誘電率)0.5+誘電体層の厚み(μm)×(誘電体層の比誘電率)0.5を表す。)」
である点で一致し、次の点で相違する。
[相違点]
yの値の範囲について、本件発明1では「998.20以上」であることを特定するのに対し、先願発明3-2では978.98である点。
以上のとおり、いずれも相違するところがあるから、本件発明1は、先願明細書3に記載された発明と同一であるとはいえない。
イ.本件発明2ないし5、8について
請求項2ないし5、8は請求項1を引用するものであり、少なくとも上記相違点に係る発明特定事項を備えるものであるから、本件発明1についての判断と同様に、本件発明2ないし5、8は、先願明細書3に記載された発明と同一であるとはいえない。
ウ.本件発明11について
本件発明11における「λ/4型電波吸収体用部材」は、本件発明1の「λ/4型電波吸収体」から反射層を有することの特定を省いたものに相当するといえる。
したがって、本件発明11と先願発明3-3、さらには先願発明3-1あるいは先願発明3-2とは、
「支持体、抵抗皮膜及び誘電体層を有し、且つ下記式(1)を満たす、λ/4型電波吸収体用部材。[式(1):-0.375x+1105<y<-0.375x+1140(式中、xは抵抗被膜の抵抗値(Ω/□)、yは、y=支持体の厚み(μm)×(支持体比誘電率)0.5+誘電体層の厚み(μm)×(誘電体層の比誘電率)0.5を表す。)]」
である点で一致し、次の点で相違する。
[相違点]
yの値の範囲について、本件発明11では「998.20以上」であることを特定するのに対し、先願発明3-1ないし先願発明3-3では978.98である点。
よって、いずれも相違するところがあるから、本件発明11は、先願明細書3に記載された発明と同一であるとはいえない。
(3-2)令和3年12月9日付け取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由(引用例2に係る先願による理由B(拡大先願))について
ア.本件発明1について
本件発明1と先願発明2-1とを対比する。
(ア)λ/4型電波吸収体について
先願発明2-1における「支持体」、「抵抗層」、「EVA樹脂からなる誘電体層」及び「25μmの厚みを有するPETの層」、「アルミニウム箔」が、それぞれ本件発明1でいう「支持体」、「抵抗皮膜」、「誘電体層」、「反射層」に相当するといえる。
そして、先願発明2-1における「λ/4型電磁波吸収体」は、本件発明1でいう「λ/4型電波吸収体」に相当するものである。
したがって、本件発明1と先願発明2-1とは、「支持体、抵抗皮膜、誘電体層、及び反射層を有」する「λ/4型電波吸収体」である点で一致する。
(イ)式(1)について
先願発明2-1における「支持体」(三菱化学ポリエステル社製、三菱ダイアホイル)のポリエステルはポリエチレンテレフタレート(PET)であるところ、その比誘電率の値、及び「25μmの厚みを有するPETの層」の比誘電率については先願明細書2には記載されていないが、本件特許に関する令和2年7月14日提出の意見書や例えば「比誘電率表」(「http://www.yei-jp.com/tech-infor/dielectric/dielectric.html」参照)によれば、2.9~3.0である。
したがって、先願発明2-1における各数値を式(1)に代入してみると、
-0.375x+1105=-0.375×380+1105=962.5
-0.375x+1140=-0.375×380+1140=997.5
y=支持体の厚み(μm)×(支持体比誘電率)0.5+誘電体層の厚み(μm)×(誘電体層の比誘電率)0.5=38×(2.9~3.0)0.5+560×2.450.5+25×(2.9~3.0)0.5≒983.82~985.66であるから、式(1)は満たすものの、本件発明1で特定する「yは998.20以上」の条件(範囲)は満たさない。
なお、先願発明2-1における導電層を構成する「9μmの厚みを有するPETの層」は、反射層として機能するアルミニウム箔の外側にある層であり、電磁波を吸収するために機能している層ではないから、yの値を計算するに際して考慮する必要のない層である。
よって上記(ア)及び(イ)によれば、本件発明1と先願発明2-1とは、
「支持体、抵抗皮膜、誘電体層、及び反射層を有し、且つ下記式(1)を満たす、λ/4型電波吸収体。
式(1):-0.375x+1105<y<-0.375x+1140
(式中、xは抵抗被膜の抵抗値(Ω/□)、yは、y=支持体の厚み(μm)×(支持体比誘電率)0.5+誘電体層の厚み(μm)×(誘電体層の比誘電率)0.5を表す。)」
である点で一致し、次の点で相違する。
[相違点]
yの値の範囲について、本件発明1では「998.20以上」であることを特定するのに対し、先願発明2-1では983.82~985.66である点。
次に、本件発明1と先願発明2-2と対比する。
先願発明2-2は、先願発明2-1の「誘電体層」について、「560μmの厚みを有するEVA樹脂(比誘電率:2.45)」に代えて「565μmの厚みを有するアイオノマー樹脂(比誘電率:2.44)」としたものであり、その他の構成は同じである。
そこで、先願発明2-2における数値を式(1)に代入してみると、
-0.375x+1105=-0.375×380+1105=962.5
-0.375x+1140=-0.375×380+1140=997..5
y=支持体の厚み(μm)×(支持体比誘電率)0.5+誘電体層の厚み(μm)×(誘電体層の比誘電率)0.5=38×(2.9~3.0)0.5+565×2.440.5+25×(2.9~3.0)0.5≒989.84~991.68であるから、式(1)は満たすものの、本件発明1で特定する「yは998.20以上」の条件(範囲)は満たさない。
よって、本件発明1と先願発明2-2とは、
「支持体、抵抗皮膜、誘電体層、及び反射層を有し、且つ下記式(1)を満たす、λ/4型電波吸収体。
式(1):-0.375x+1105<y<-0.375x+1140
(式中、xは抵抗被膜の抵抗値(Ω/□)、yは、y=支持体の厚み(μm)×(支持体比誘電率)0.5+誘電体層の厚み(μm)×(誘電体層の比誘電率)0.5を表す。)」
である点で一致し、次の点で相違する。
[相違点]
yの値の範囲について、本件発明1では「998.20以上」であることを特定するのに対し、先願発明2-2では989.84~991.68である点。
以上のとおり、いずれも相違するところがあるから、本件発明1は、先願明細書2に記載された発明と同一であるとはいえない。
イ.本件発明2ないし5、8について
請求項2ないし5、8は請求項1を引用するものであり、少なくとも上記相違点に係る発明特定事項を備えるものであるから、本件発明1についての判断と同様に、本件発明2ないし5、8は、先願明細書2に記載された発明と同一であるとはいえない。
ウ.本件発明11について
本件発明11における「λ/4型電波吸収体用部材」は、本件発明1の「λ/4型電波吸収体」から反射層を有することの特定を省いたものに相当するといえる。
したがって、本件発明11と先願発明2-1あるいは先願発明2-2とは、
「支持体、抵抗皮膜及び誘電体層を有し、且つ下記式(1)を満たす、λ/4型電波吸収体用部材。[式(1):-0.375x+1105<y<-0.375x+1140(式中、xは抵抗被膜の抵抗値(Ω/□)、yは、y=支持体の厚み(μm)×(支持体比誘電率)0.5+誘電体層の厚み(μm)×(誘電体層の比誘電率)0.5を表す。)]」
である点で一致し、次の点で相違する。
[相違点]
yの値の範囲について、本件発明11では「998.20以上」であることを特定するのに対し、先願発明2-1では983.82~985.66であり、先願発明2-2では989.84~991.68である点。
よって、いずれも相違するところがあるから、本件発明11は、先願明細書2に記載された発明と同一であるとはいえない。
(3-3)令和3年8月25日付け取消理由通知に記載した上記(1-1)及び(1-2)以外の取消理由(理由A(新規性))について
ア.本件発明1について
本件発明1と引用発明1とを対比する。
(ア)λ/4型電波吸収体について
引用発明1における「基材」は、抵抗皮膜を製膜するために使用され、当該抵抗皮膜を支持しているといえるものであることから、本件発明1でいう「支持体」に相当する。
また、引用発明1における「抵抗皮膜」、「誘電体層」、電磁波を反射する「電磁波遮蔽層」は、それぞれ本件発明1でいう「抵抗皮膜」、「誘電体層」、「反射層」に相当する。
そして、引用発明1における「電磁波干渉型(λ/4型)の電磁波吸収シート」は、本件発明1でいう「λ/4型電波吸収体」に相当するものである。なお、本件発明1では、「支持体」が抵抗皮膜と誘電体層との間に配置されてなる態様も含んでいる。
したがって、本件発明1と引用発明1とは、「支持体、抵抗皮膜、誘電体層、及び反射層を有」する「λ/4型電波吸収体」である点で一致する。
(イ)式(1)について
引用発明1における「基材」のポリエチレンテレフタレートの比誘電率について、引用例1には記載されていないが、本件特許に関する令和2年7月14日提出の意見書や例えば「比誘電率表」(「http://www.yei-jp.com/tech-infor/dielectric/dielectric.html」参照)によれば、2.9~3.0である。
同様に、引用発明1における「誘電体層」の透明なシリコーンゴムの比誘電率についても引用例1には記載されていないが、上記「比誘電率表」によれば、3.0~3.5である。ここで、引用発明1では、入射する電磁波の波長をλとし、電磁波遮蔽層と抵抗皮膜との間の誘電体層を誘電率εrの材料で形成した場合、その誘電体層の厚みdはd=λ/(4√εr)であるところ、引用例1の段落[0096]の記載、及び図2、図3によれば、シート7は76GHzにおいて最大の反射減衰量を示していることから、引用発明1は76GHzの電磁波を吸収するものであるといえ、76GHzの電磁波の波長λは3.95mmである。また、上記厚みdは、ポリエチレンテレフタレートからなる基材の厚さ10μmとシリコーンゴムからなる誘電体層の厚さ550μmとの和である560μmということになる。よって、ポリエチレンテレフタレートからなる基材とシリコーンゴムからなる誘電体層との積層物の見掛けの比誘電率εrは、εr={λ/(4d)}2={3.95/(4×0.560)}2≒3.1である。そして、基材のポリエチレンテレフタレートの厚みは10μm、比誘電率は上述のように2.9~3.0であり、シリコーンゴムからなる誘電体層の厚みは550μmであるから、シリコーンゴムからなる誘電体層の比誘電率をAとおくと、
(2.9~3.0)×10/560+A×550/560=3.1の式が成り立ち、A≒3.1ということになる。
したがって、引用発明1における数値を式(1)に代入してみると、
-0.375x+1105=-0.375×377+1105=963.625
-0.375x+1140=-0.375×377+1140=998.625
y=支持体の厚み(μm)×(支持体比誘電率)0.5+誘電体層の厚み(μm)×(誘電体層の比誘電率)0.5=10×(2.9~3.0)0.5+550×3.10.5≒985.40~985.70であるから、式(1)は満たすものの、本件発明1で特定する「yは998.20以上」の条件(範囲)は満たさない。
よって上記(ア)及び(イ)によれば、本件発明1と引用発明1とは、
「支持体、抵抗皮膜、誘電体層、及び反射層を有し、且つ下記式(1)を満たす、λ/4型電波吸収体。
式(1):-0.375x+1105<y<-0.375x+1140
(式中、xは抵抗被膜の抵抗値(Ω/□)、yは、y=支持体の厚み(μm)×(支持体比誘電率)0.5+誘電体層の厚み(μm)×(誘電体層の比誘電率)0.5を表す。)」
である点で一致し、次の点で相違する。
[相違点]
yの値の範囲について、本件発明1では「998.20以上」であることを特定するのに対し、引用発明1では985.40~985.70である点。
以上のとおり、相違するところがあるから、本件発明1は引用例1に記載された発明であるとはいえず、特許法第29条第1項第3号に該当しない。
イ.本件発明2、3、5について
請求項2、3、5は請求項1を引用するものであり、少なくとも上記相違点1及び2に係る発明特定事項を備えるものであるから、本件発明1についての判断と同様に、本件発明2、3、5は、引用例1に記載された発明であるとはいえず、特許法第29条第1項第3号に該当しない。
ウ.本件発明11について
本件発明11における「λ/4型電波吸収体用部材」は、本件発明1の「λ/4型電波吸収体」から反射層を有することの特定を省いたものに相当するといえる。
したがって、本件発明11と引用発明1とは、
「支持体、抵抗皮膜及び誘電体層を有し、且つ下記式(1)を満たす、λ/4型電波吸収体用部材。[式(1):-0.375x+1105<y<-0.375x+1140(式中、xは抵抗被膜の抵抗値(Ω/□)、yは、y=支持体の厚み(μm)×(支持体比誘電率)0.5+誘電体層の厚み(μm)×(誘電体層の比誘電率)0.5を表す。)]」
である点で一致し、次の点で相違する。
[相違点]
yの値の範囲について、本件発明11では「998.20以上」であることを特定するのに対し、引用発明1では985.40~985.70である点。
よって、相違するところがあるから、本件発明11は引用例1に記載された発明であるとはいえず、特許法第29条第1項第3号に該当しない。
3.取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
(1)申立理由の概要
取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由(理由2-1ないし2-4、理由3-2及び3-4)の概要は次のとおりである。
(1-1)理由2-1(進歩性)
請求項1ないし3、5、11に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の甲第1号証に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1ないし3、5、11に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。
記
甲第1号証:国際公開第2018/163584号
(1-2)理由2-2(進歩性)
請求項1ないし5、11に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の甲第2号証に記載された発明、及び甲第3,4号証に記載の技術事項に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1ないし5、11に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。
記
甲第2号証:特開2018-98367号公報
甲第3号証:電気学会論文誌C,「60GHz及び76GHz対応λ/4型ミリ波電波吸収体に関する検討」,124巻2号,p.335-340
甲第4号証:特開2017-114935号公報
(1-3)理由2-3(進歩性)
請求項1ないし5、8、11に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の甲第5号証に記載された発明、及び甲第6号証に記載の技術事項に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1ないし5、8、11に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。
記
甲第5号証:電気学会論文誌A,「94GHz帯における抵抗皮膜型ミリ波電波吸収体の実現」,117巻6号,p.632-637
甲第6号証:第21回EMC環境フォーラム配布資料
(1-4)理由2-4(進歩性)
請求項1ないし5、11に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の甲第7号証に記載された発明、及び甲第8,9号証に記載の技術事項に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1ないし5、11に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。
記
甲第7号証:国際公開第2018/088492号
甲第8号証:国際公開第2010/016238号
甲第9号証:電子情報通信学会「知識の森」,9群-1編-1章,「1-2-1 誘電性」(URL:https://www.ieice-hbkb.org/files/09/09gun_01hen_01.pdf#page=12)
(1-5)理由3-2(拡大先願)
請求項1ないし5、11に係る発明は、その出願の日前の特許出願であって、その出願後に出願公開された下記の特許出願の願書に最初に添付された明細書又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、この出願の発明者がその出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないので、請求項1ないし5、11に係る特許は、特許法第29条の2の規定に違反してなされたものである。
記
甲第11号証に係る先願:特願2017-116292号(特開2019-4002号公報参照)
(1-6)理由3-4(拡大先願)
請求項1ないし5、11に係る発明は、その出願の日前の特許出願であって、その出願後に出願公開された下記の特許出願の願書に最初に添付された明細書又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、この出願の発明者がその出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないので、請求項1ないし5、11に係る特許は、特許法第29条の2の規定に違反してなされたものである。
記
甲第13号証に係る先願:特願2017-116297号(特開2019-4005号公報参照)
(2)甲各号証の記載事項
(2-1)甲第1号証
甲第1号証の記載事項、及び甲第1号証に記載された発明は、上記「2.(2-1)」に記載したとおりである。
(2-2)甲第2号証
甲第2号証(特開2018-98367号公報)には、「電磁波吸収体」について、図面とともに以下の各記載がある(なお、下線は当審で付与した。)。
ア.「【0020】
本発明の電磁波吸収体は、磁性損失を利用する磁性電磁波吸収体、誘電損失を利用する誘電性電磁波吸収体、抵抗損失を利用する導電性電磁波吸収体およびλ/4型電磁波吸収体のいずれの方式の電磁波吸収体であってもよいが、とりわけ耐久性、軽量性、薄膜化が容易である点でλ/4型電磁波吸収体が好ましく、加工性に優れる点で磁性電磁波吸収体、誘電性電磁波吸収体が好ましい。
【0021】
上記λ/4型電磁波吸収体である本発明の電磁波吸収体としては、例えば、図1に示すように、抵抗層Aと、誘電体層Bと、導電層Cとをこの順で有し、上記抵抗層Aの外側と、導電層Cの外側に、それぞれ樹脂層D1,D2が設けられているものがあげられる。なお、図1において、各部分は模式的に示したものであり、実際の厚み、大きさ等とは異なっている(以下の図においても同じ)。また、抵抗層Aと、誘電体層Bと、導電層Cの構成で充分に効果を奏することができるため、樹脂層D1,D2は、任意に設けられた構成である。」
イ.「【0030】
上記導電層Cは、対象とする電磁波を電磁波吸収体の裏面近傍で反射させるために配置されるものであり、そのシート抵抗は、抵抗層Aのシート抵抗より充分に低く設定されている。・・・・・(以下、略)」
ウ.「【0031】
上記樹脂層D1,D2は、抵抗層Aまたは導電層Cをスパッタ等により形成する際の基板となるものであり、電磁波吸収体に形成された後に、抵抗層Aおよび導電層Cを外部からの衝撃等から保護する等の役割を果たすものである。・・・・・(以下、略)」
エ.「【0036】
このような電磁波吸収体(図1参照)は、例えば、つぎのようにして製造することができる。
【0037】
まず、図3(a)に示すように、フィルム状に成形された樹脂層D1の上(図では下)に抵抗層Aを形成する。また、フィルム状に成形された樹脂層D2の上に導電層Cを形成する。上記抵抗層Aおよび導電層Cは、スパッタ、蒸着等により形成することができる。なかでも、抵抗値や厚みを厳密に制御できる点から、いずれもスパッタを用いることが好ましい。
【0038】
つぎに、図3(b)に示すように、誘電体層Bを形成する樹脂組成物をシート状にプレス成形する。そして、上記誘電体層Bの一方の面に、樹脂層D1の上に形成された抵抗層Aを重ね、もう一方の面に、樹脂層D2の上に形成された導電層Cを重ねる。これにより、図1に示す、樹脂層D1、抵抗層A、誘電体層B、導電層C、樹脂層D2がこの順で積層された電磁波吸収体を得ることができる。
【0039】
これによれば、誘電体層Bの厚みの制御が容易であるため、対象とする波長(周波)の電磁波を効果的に吸収する電磁波吸収体とすることができる。また、抵抗層Aおよび導電層Cを別々に形成することができるため、電磁波吸収体の製造にかかる時間を短縮することができ、低コストで製造することができる。なお、樹脂層D1,D2を設けない場合には、例えば、誘電体層Bに、抵抗層Aおよび導電層Cの材料を、直接、スパッタ、蒸着等することにより電磁波吸収体を製造することができる。」
オ.「【0051】
<実施例1>
図1に示す電磁波吸収体を得る方法に準じ、三井デュポン社製EVA樹脂(エバフレックスEV250、比誘電率2.45)を120℃でプレス成形し、560μm厚シートに成形して誘電体層Bを作製した。この誘電体層Bの一方の面に、導電層Cとして表面抵抗が20Ω/□になるようにITOがスパッタ形成された38μm厚のPETフィルム(樹脂層D1)を、導電層Cを誘電体層Bに対峙するように貼り合せた。そして、上記誘電体層Bのもう一方の面に、抵抗層Aとして表面抵抗が380Ω/□になるようにITOがスパッタ形成された38μm厚のPETフィルム(樹脂層D2)を抵抗層Aが誘電体層Bに対峙するように貼り合せて、目的とする電磁波吸収体を得た。
【0052】
<実施例2>
図1に示す電磁波吸収体を得る方法に準じ、誘電体層Bを下記のように変更した以外は、実施例1と同様にして目的とする電磁波吸収体を得た。
(誘電体層B)
三井デュポン社製EVA樹脂(エバフレックスEV250)100重量部に、堺化学工業社製チタン酸バリウム(BT-01)を50重量部添加し、ミキシングロールで混練した後、120℃でプレス成形し、458μm厚シートに成形して誘電体層Bを作製した。この誘電体層Bの比誘電率は3.90であった。」
カ.「
[図:0001391994000005.jpg]
」
上記「ア.」ないし「カ.」から以下のことがいえる。
・上記甲第2号証に記載の「電磁波吸収体」は、上記「ア.」ないし「ウ.」の記載、及び上記「カ.」(図1)によれば、λ/4型電磁波吸収体であり、抵抗層と、誘電体層と、電磁波を反射するための導電層とをこの順で有し、抵抗層の外側に抵抗層を形成する際の基板となる樹脂層が設けられてなるものである。
・上記「オ.」の記載によれば、実施例2では、樹脂層として38μm厚のPETフィルムが用いられ、誘電体層としてEVA樹脂にチタン酸バリウムを添加し混錬した後にプレス成形して作製された458μm厚、比誘電率3.90のものが用いられている。そして、導電層を誘電体層に対峙するように貼り合わせ、誘電体層のもう一方の面に、抵抗層として表面抵抗が380Ω/□となるように形成されたPETフィルムを抵抗層が誘電体層に対峙するように貼り合わせてなるものである。
以上のことから、特に実施例2に係るものに着目し、上記記載事項を総合勘案すると、甲第2号証には、次の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されている。
「38μm厚のPETフィルムからなる基板と、
前記基板上に形成された表面抵抗が380Ω/□である抵抗層と、
EVA樹脂にチタン酸バリウムを添加し混錬した後にプレス成形して作製された458μm厚、比誘電率3.90の誘電体層と、
電磁波を反射するための導電層と、を有し、
前記導電層を前記誘電体層に対峙するように貼り合わせ、前記誘電体層のもう一方の面に、前記基板を前記抵抗層が前記誘電体層に対峙するように貼り合わせてなる、λ/4型電磁波吸収体。」
(2-3)甲第5号証
甲第5号証(電気学会論文誌A,「94GHz帯における抵抗皮膜型ミリ波電波吸収体の実現」,117巻6号,p.632-637)には、「94GHz帯における抵抗皮膜型ミリ波電波吸収体」について、図面とともに以下の各記載がある(なお、下線は当審で付与した。)。
ア.「2.設計法
<2・1>電波吸収体の構成および製造
<2・1・1>構 成 図1(a)に本解析に用いる電波吸収体の構成を示す。本抵抗皮膜型電波吸収体は、ポリエチレンテレフタレート(PET)でできた保護膜に蒸着した導電性の抵抗皮膜(Indium Tin Oxide;ITO),およびこの抵抗皮膜と裏打ちアルミ箔との間隔を一定に保つポリカーボネート(PC)製のスペーサから構成されている。(詳細な製造は<2・1・2>で述べる。)また、本構成においては裏打ちアルミ箔にその使用上の簡便性から、アルミ箔と接着層が一体形成された3層(Aluminium Foil, PET, Adhesion Layer)構成として商品化されているパナック工業(株)製のアルぺット(品名)を用いた。」(632頁右欄)
イ.「
[図:0001391994000006.jpg]
」
ウ.「<2・1・2>製 造 図2を用いて前述した構成の抵抗皮膜型電波吸収体の製造工程について説明する。この図に示すように、電波吸収体の製造は概略次のような手順でおこなった。
(1)幅450[mm]のベースフィルム(材質:ポリエチレンテレフタレート,厚さ:125[μm],複素比誘電率:εr=3.16-j0.03 at 2[GHz])の下層に厚さ数百Åの導電性フィルムITO(酸化インジウムすず)の抵抗皮膜を形成する。(2)一方の工程において、この抵抗皮膜と前述した裏打ちアルミ箔の間を一定間隔に保持するスペーサ(材質:ポリカーボネート,複素比誘電率:εr=2.70-j0.03 at 2[GHz])を製作する。(3)最後にベースフィルムとスペーサを厚さ50[μm]の粘着層(複素比誘電率:εr=2.81-j0.16 at 2[GHz])を用いて圧着し、かつ裏面に先に述べたパナック工業(株)製のアルぺット(品名)を用いて、アルミ箔を裏打ちすることにより電波吸収体を製作する。」(633頁右欄、なお、複素比誘電率を表す記号「εr」のεの上の「・」は省略した。以下、同様。)
エ.「
[図:0001391994000007.jpg]
」
オ.「3.測定
<3.1> 製作試料 ここでは以上の推定値をもとに電波吸収体の設計をおこなう。すなわち、94GHz帯においてポリカーボネートの複素比誘電率は、εr=(2.69±0.03)-j(0.13±0.02)であり、抵抗皮膜の面抵抗値は、10.4±3.6[%]大きくなることが、前章で確認できた。そこで、これらの値を使用して、先に示した分布定数回路を用いて試料表面における反射係数Γが零になるスペーサの厚さlと抵抗皮膜の面抵抗値Rを求めた。
この結果、設計周波数を94GHzと選択すると、スペーサの厚さ300[μm]および面抵抗値346[Ω□]において、最大の反射減衰量が達成できることがわかった。」(634頁左欄~右欄)
上記「ア.」ないし「オ.」から以下のことがいえる。
・上記甲第5号証に記載の「94GHz帯における抵抗皮膜型ミリ波電波吸収体」は、上記「ア.」、「ウ.」の記載、及び「イ.」(図1(a))によれば、ポリエチレンテレフタレート(PET)からなるベースフィルム(保護膜)と、ベースフィルム(保護膜)の下層に形成された抵抗皮膜と、粘着層と、ポリカーボネートからなるスペーサと、粘着層・PET・アルミニウム箔の3層構成のアルミ箔とをこの順に積層してなるものである。
・上記「ウ.」、「オ.」の記載、及び「イ.」(図1(a))、「エ.」(表1)によれば、94GHzにおいて最大の反射減衰量が達成できるのは、各層の厚さが、ベースフィルム(保護膜):125μm、抵抗皮膜とスペーサとの間の粘着層:50μm、スペーサ:300μm、3層構成のアルミ箔の粘着層:25μm、PET:12μmである。また、各層の比誘電率は、複素比誘電率の実部をとると(なお、特許異議申立書においても、yの値の算出に実部の値を使用している)、ベースフィルム(保護膜):3.16、抵抗皮膜とスペーサとの間の粘着層:2.81、スペーサ:2.69(94GHzにおける値とした)、3層構成のアルミ箔の粘着層:2.81(抵抗皮膜とスペーサとの間の粘着層と同じ値とした)、PET:3.16(ポリエチレンテレフタレート(PET)からなるベースフィルム(保護膜)と同じ値とした)であり、さらに、抵抗皮膜の面抵抗値:346Ω/□であると解することができる。
以上のことから、94GHzにおいて最大の反射減衰量が達成できる電波吸収体に着目し、上記記載事項を総合勘案すると、甲第5号証には、次の発明(以下、「甲5発明」という。)が記載されているといえる。
「厚さ125μm、比誘電率3.16のポリエチレンテレフタレート(PET)からなるベースフィルム(保護膜)と、
前記ベースフィルム(保護膜)の下層に形成された面抵抗値は346Ω/□の抵抗皮膜と、
厚さ50μm、比誘電率2.81の粘着層と、
厚さ300μm、比誘電率2.69のポリカーボネートからなるスペーサと、
粘着層(厚さ25μm、比誘電率2.81)・PET(厚さ12μm、比誘電率3.16)・アルミニウム箔の3層構成のアルミ箔と、をこの順に積層してなる、94GHz帯における抵抗皮膜型ミリ波電波吸収体。」
(2-4)甲第7号証
甲第7号証(国際公開第2018/088492号)には、「電磁波吸収シート」について、図面とともに以下の各記載がある(なお、下線は当審で付与した。)。
ア.「[0001] 本開示は、可撓性を有する電磁波吸収シートに関する。本開示にかかる電磁波吸収シートは、いわゆる電波干渉型の電磁波吸収シートであり、数十ギガヘルツ(GHz)から数百ギガヘルツ(GHz)のいわゆるミリ波帯域以上の電波を吸収するように設計することが可能である。
背景技術
[0002] 電気回路などから外部へと放出される漏洩電磁波や、不所望に反射した電磁波の影響を回避するために、電磁波を吸収する電磁波吸収シートが用いられている。
[0003] 近年は、携帯電話などの移動体通信や無線LAN、料金自動収受システム(ETC)などで、数ギガヘルツ(GHz)の周波数帯域を持つセンチメートル波、さらには、30ギガヘルツから300ギガヘルツの周波数を有するミリ波帯、ミリ波帯域を超えた高い周波数帯域の電磁波として、1テラヘルツ(THz)の周波数を有する電磁波を利用する技術の研究も進んでいる。
[0004] このようなより高い周波数の電磁波を利用する技術トレンドに対応して、不要な電磁波を吸収する電磁波吸収体やユーザの利便性を向上したシート状の電磁波吸収体である電磁波吸収シートにおいても、ミリ波帯域からそれ以上の帯域の電磁波を吸収可能とするものへの要望は、より高くなることが考えられる。
[0005] このような電磁波吸収シートとして、誘電体層の一方の表面に抵抗皮膜を、他方の表面に電磁波を反射する電磁波遮蔽層とが形成され、反射波の位相を入射波に対して1/2波長分ずらすことで電磁波吸収シートへの入射波と反射波とが打ち消し合って電磁波を吸収する、いわゆる電波干渉型(λ/4型)の電磁波吸収シートが知られている。電波干渉型の電磁波吸収シートは、比重の大きな磁性体粒子によって磁気的に電磁波を吸収する電磁波吸収シートなどと比べて軽量であり、容易に製造することができるため低コスト化が可能という利点を有している。」
イ.「[0026] (実施の形態)
まず、本実施形態にかかる電磁波吸収シートの全体構成について説明する。
[0027] 図1は、本実施形態にかかる電磁波吸収シートの構成を示す断面図である。
[0028] なお、図1は、本実施形態にかかる電磁波吸収シートの構成を理解しやすくするために記載された図であり、図中に示された部材の大きさや厚みについて現実に即して表されたものではない。
[0029] 本実施形態で例示する電磁波吸収シートは、抵抗皮膜1、誘電体層2、電磁波遮蔽層3が積層されて形成されている。なお、図1に示す電磁波吸収シートでは、電磁波遮蔽層3の背面側、すなわち、電磁波遮蔽層3において誘電体層2が配置されている側とは反対側の表面には、接着層4が積層形成されている。また、抵抗皮膜1の前面側、すなわち、抵抗皮膜1において誘電体層2が配置されている側とは反対側の表面には、保護層5が積層形成されている。
[0030] 本実施形態にかかる電磁波吸収シートは、誘電体層2に入射した電磁波11が、誘電体層2の背面側に配置されている電磁波遮蔽層3との界面で反射されて、反射波12として再び外部へと放出される。このとき、誘電体層2の厚さdを、入射した電磁波の波長の1/4とする(d=λ/4)ことで、入射波11の位相11aと反射波12の位相12aとが打ち消し合って電磁波吸収シートに入射した電磁波を吸収する。
[0031] なお、d=λ/4となるのは、誘電体層2として空気(誘電率ε=1)が用いられる場合であり、誘電体層2に用いられる誘電体の誘電率がεrである場合には、d=λ/(4(εr)1/2)となって誘電体層2の厚さdを(εr)-1/2だけ薄くすることができる。誘電体層2を薄く形成することで、電磁波吸収シート全体の薄型化を実現でき、より可撓性に優れた電磁波吸収シートを実現することができる。
[0032] 誘電体層2の背面側に積層して形成される電磁波遮蔽層3は、誘電体層2との境界面である誘電体層2側の表面で、入射してきた電波を反射する層である。
[0033] 本実施形態にかかる、電波干渉型の電磁波吸収シートにおける電磁波吸収の原理から、電磁波遮蔽層3は電磁波を反射する反射層として機能すれば良く、金属層として容易に実現可能である。しかし、本実施形態にかかる電磁波吸収シートは全体として可撓性を有するものであるため、電磁波遮蔽層3として可撓性を有しない厚さ(一例として数mm以上)の金属板を用いることは好ましくなく、金属箔や、樹脂などの非金属製材料の薄膜上に金属材料を蒸着して形成された金属薄膜を用いて電磁波遮蔽層3を実現することが好ましい。
[0034] 抵抗皮膜1は、誘電体層2の前面側、すなわち誘電体層2の電磁波遮蔽層3が積層されている側とは反対側の、吸収される電磁波が入射する側に形成され、電磁波吸収シートと空気との間のインピーダンス整合を行う。」
ウ.「[0063] [誘電体層]
本実施形態にかかる電磁波吸収シートの誘電体層2は、酸化チタン、ポリフッ化ビニリデン、ポリエステル樹脂、ガラス、シリコーンゴムなどの誘電体で形成することができる。なお、誘電体層2は、1種の材料で1層の構成として形成することができ、また、同種、異種の材料を2層以上積層した構成とすることもできる。誘電体層2の形成には、塗布法やプレス成型法、押出成型法などを用いることができる。
[0064] 上述のように、本実施形態にかかる電磁波吸収シートは、電磁波吸収シートに入射した電磁波と電磁波遮蔽層で反射された反射波との位相を1/2波長ずらすことで、入射波と反射波とが打ち消し合って電磁波を吸収する電波干渉型(λ/4型)の電磁波吸収シートである。このため、誘電体層の厚さ(図1におけるd)は、吸収しようとする電磁波の波長に対応して定められる。
[0065] なお、dの値は、抵抗皮膜1と電磁波遮蔽層3との間が空間となっている場合、すなわち、誘電体層2が空気で形成されている場合は、d=λ/4が成り立つが、誘電体層2を誘電率εrの材料で形成した場合には、d=1/4λ(εr)-1/2となるため、誘電体層2を構成する材料として、材料自体が有する誘電率が大きなものを用いることで誘電体層2の厚さdの値を、(εr)-1/2小さくすることができ、電磁波吸収シート全体の厚さも低減することができる。誘電率は、上限値を10程度としてより大きな値であることが好ましい。」
エ.「[0083] [実施例]
以下、本実施形態にかかる電磁波吸収シートを実際に作製して、各種の特性を測定した結果について説明する。
[0084] <抵抗皮膜の耐候性> 抵抗皮膜を作製する抵抗皮膜液の成分を異ならせて、以下2種類の電波吸収シートをそれぞれ5枚ずつ作製した。
[0085] (シート1)
以下の成分を添加、混合して抵抗皮膜液を調整した
(1)導電性高分子分散体 36.7部 ヘレウス社製導電性高分子(PEDOT-PSS):
PH-1000(製品名)、固形分濃度 1.2質量%
(2)PVDF分散液 5.6部 アルケマ社製:LATEX32(商品名)、
固形分濃度 20質量%、 溶媒 水
(3)水溶性ポリエステル水溶液 0.6部 互応化学工業社製:プラスコートZ561(商品名)
固形分濃度 25質量%
(4)有機溶媒(ジメチルスルホキシド) 9.9部
(5)水溶性溶媒(エタノール) 30.0部
(6)水 17.2部。
[0086] (シート2)
以下の成分を添加、混合して抵抗皮膜液を調整した
(1)導電性高分子分散体 33.7部 ヘレウス社製導電性高分子(PEDOT-PSS):
PH-1000(製品名)、固形分濃度 1.2質量%
(2)PVDF分散液 5.1部 アルケマ社製:LATEX32(商品名)、
固形分濃度 20質量%、 溶媒 水
(3)有機溶媒(ジメチルスルホキシド) 9.5部
(4)水溶性溶媒(ノルマルプロピルアルコール) 36.0部
(5)水 15.7部。
[0087] 抵抗皮膜は、基材としてのポリエチレンテレフタレート製シート(25μm厚)上に、上記それぞれの組成で作製した抵抗皮膜液を、バーコート法によって乾燥後の厚さが約120nmとなる量を塗布し、その後150℃で5分加熱し抵抗皮膜を成膜した。この場合の抵抗皮膜の表面抵抗は、いずれも377Ω/sqとなった。
[0088] 誘電体層として厚さ400μmのウレタンゴムを、電磁波遮蔽層として厚さ15μmのアルミニウム箔を用い、抵抗被膜、誘電体層、電磁波吸収層をこの順序で積層密着させて接着剤にて接着した。
・・・・・(中 略)・・・・・
[0098] 図2から分かるように、抵抗皮膜の表面抵抗値が377Ω/sqと、空気中(真空)のインピーダンス値と一致して極めて良好なインピーダンス整合が取れているシート1では、76GHzの電磁波に対する減衰量が約42dBと極めて高くなっている。」
上記「ア.」ないし「エ.」から以下のことがいえる。
・上記甲第7号証に記載の「電磁波吸収シート」は、上記「ア.」、「イ.」の記載よれば、誘電体層の一方の表面に抵抗皮膜を、他方の表面に電磁波を反射する電磁波遮蔽層とが積層されて形成された電磁波干渉型(λ/4型)の電磁波吸収シートに関するものである。
・上記「イ.」、「ウ.」の記載によれば、入射する電磁波の波長をλ、電磁波遮蔽層と抵抗皮膜との間の誘電体層を誘電率εrの材料で形成した場合、誘電体層の厚みdはd=λ/(4(εr)1/2)である。
・上記「エ.」の記載によれば、シート1あるいはシート2では、抵抗皮膜は、厚さ25μmのポリエチレンテレフタレート製シートからなる基材上に製膜され、表面抵抗が377Ω/sqである。また、誘電体層として厚さ400μmのウレタンゴム、電磁波遮蔽層としてアルミニウム箔を用い、抵抗皮膜、誘電体層、電磁波遮蔽層をこの順序で積層密着させて接着剤にて接着してなるものである。
以上のことから、特に「シート1」あるいは「シート2」に係るものに着目し、上記記載事項を総合勘案すると、甲第7号証には、次の発明(以下、「甲7発明」という。)が記載されている。
「厚さ25μmのポリエチレンテレフタレート製シートからなる基材上に製膜された表面抵抗が377Ω/sqである抵抗皮膜と、
厚さ400μmのウレタンゴムからなる誘電体層と、
電磁波を反射する電磁波遮蔽層としてのアルミニウム箔と、を有し、
前記抵抗皮膜、前記誘電体層、前記電磁波遮蔽層をこの順序で積層密着させて接着剤にて接着してなり、
入射する電磁波の波長をλ、前記電磁波遮蔽層と前記抵抗皮膜との間の誘電体層を誘電率εrの材料で形成した場合、その誘電体層の厚みdはd=λ/(4(εr)1/2)である、電磁波干渉型(λ/4型)の電磁波吸収シート。」
(2-5)甲第11号証
本件出願の優先日前の他の特許出願であって、本件出願の優先日後に出願公開された甲第11号証(特願2017-116292号(特開2019-4002号公報参照))に係る先願の願書に最初に添付した明細書又は図面(以下、「先願明細書11」という。)には、「電磁波吸収体」について、図面とともに以下の各記載がある(なお、下線は当審で付与した。)。
ア.「【0016】
図1に示す通り、電磁波吸収体1aは、第一層10と、導電層20とを備えている。第一層10は、誘電体層又は磁性体層である。導電層20は、第一層10の少なくとも片側に設けられている。・・・・・(以下、略)」
イ.「【0033】
図1に示す通り、電磁波吸収体1aは、例えば、抵抗層30をさらに備えている。抵抗層30は、第一層10の少なくとも片側に設けられている。この場合、第一層10は、誘電体層であり、かつ、抵抗層30と導電層20との間に配置されている。換言すると、電磁波吸収体1aはλ/4型電磁波吸収体である。」
ウ.「【0038】
抵抗層30は、例えば、抵抗機能層を支持する支持体をさらに含んでいてもよい。この場合、抵抗層30は、例えば、支持体上にスパッタリング又はコーティング(例えば、バーコーティング)等の成膜方法により抵抗機能層を形成することによって作製できる。この場合、支持体は、抵抗機能層の厚みを高精度に調節できる補助材としての役割も果たす。この場合、抵抗層30の支持体の材料は、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)及びポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボネート(PC)、ポリオレフィン、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、シクロオレフィンポリマー(COP)、ポリウレタン、ウレタンアクリル樹脂、二軸延伸ポリプロピレン(CPP)、又は塩化ビニリデン樹脂である。抵抗層30の支持体の材料は、導電層20の支持体の材料と同一の材料であってもよいし、異なる材料であってもよい。なかでも、良好な耐熱性と、寸法安定性と、コストとのバランスの観点から、抵抗層30の支持体の材料は望ましくはPETである。必要に応じて、抵抗層30において支持体は省略可能である。
【0039】
抵抗層30が支持体を含む場合、抵抗層30において、抵抗機能層が支持体よりも第一層10に近い位置に配置されていてもよいし、支持体が抵抗機能層よりも第一層10に近い位置に配置されていてもよい。」
エ.「【0052】
<実施例1>
ポリエステルからなるフィルム状の支持体(三菱化学ポリエステル社製、三菱ダイアホイル、厚み:38μm厚)に、シート抵抗が380Ω/□になるように30重量%のSnO2を含有するITOを用いてスパッタリングにより抵抗機能層を形成し、実施例1に係る抵抗層を作製した。また、実施例1に係る導電層として、25μmの厚みを有するPETの層、7μmの厚みを有するアルミニウム箔、及び9μmの厚みを有するPETの層がこの順で積層されているUACJ社製のアルミニウム箔付きPETフィルムを準備した。実施例1に係る導電層の25μmの厚みを有するPETの層に、実施例1に係る誘電体層である560μmの厚みにプレス成型したアクリル樹脂(クラレ社製、クラリティLA2330)を載せた。次に、アクリル樹脂(誘電体層)の上に、抵抗層の支持体によって形成された主面をアクリル樹脂に向けた状態で実施例1に係る抵抗層を重ねた。このようにして、実施例1に係る電磁波吸収体を得た。実施例1に係る電磁波吸収体における誘電体層の比誘電率は2.55であった。
・・・・・(中 略)・・・・・
【0054】
<実施例3>
EVA樹脂(三井デュポン社製、エバフレックスEV250、比誘電率:2.45)を120℃でプレス成型して、560μmの厚みを有する実施例3に係る誘電体層を得た。実施例1に係る誘電体層の代わりに実施例3に係る誘電体層を用いた以外は実施例1と同様にして、実施例3に係る電磁波吸収体を得た。
・・・・・(中 略)・・・・・
【0062】
<実施例11>
アイオノマー樹脂(三井・デュポンポリケミカル社製、製品名:ハイミラン1855)をミキシングロールで混練した後、120℃でプレス成型し、565μmの厚みを有する実施例11に係る誘電体層を作製した。実施例11に係る誘電体層の比誘電率は、2.44であった。実施例1に係る誘電体層の代わりに実施例11に係る誘電体層を用いた以外は実施例1と同様にして、実施例11に係る電磁波吸収体を得た。」
オ.「【0078】
[図:0001391994000008.jpg]
」
カ.「
[図:0001391994000009.jpg]
」
上記「ア.」ないし「カ.」から以下のことがいえる。
・上記先願明細書11に記載の「電波吸収体」は、上記「ア.」ないし「ウ.」の記載、及び「カ.」(図1)によれば、支持体に抵抗機能層を形成してなる抵抗層、誘電体層、及び導電層を備えるλ/4型電磁波吸収体である。
・上記「エ.」、「オ.」(【表1】)の記載によれば、実施例3及び実施例11では、支持体として厚み38μmのポリエステルからなるもの(三菱化学ポリエステル社製、三菱ダイアホイル)が用いられ、当該支持体に抵抗機能層を形成してなる抵抗層としてシート抵抗が380Ω/□のものが用いられ、導電層として25μmの厚みを有するPETの層、7μmの厚みを有するアルミニウム箔、及び9μmの厚みを有するPETの層がこの順で積層されたアルミニウム箔付きPETフィルムからなるものが用いられている。
そして、誘電体層の上に、抵抗層の支持体によって形成された主面が向いた状態で抵抗層が重ねられてなり、実施例3では誘電体層として560μmの厚みを有するEVA樹脂(比誘電率:2.45)からなるものが用いられ、実施例11では565μmの厚みを有するアイオノマー樹脂(比誘電率:2.44)からなるものが用いられている。
ここで、上記「イ.」の記載、及び「カ.」(図1)によれば、誘電体層は、抵抗層と導電層の間に配置される。よって、導電層は、誘電体層の支持体側とは反対側の面に重ねられてなるものである。
以上のことから、特に「実施例3」に係るものに着目し、上記記載事項を総合勘案すると、上記先願明細書11には次の発明(以下、「先願発明11-1」という。)が記載されている。
「厚み38μmのポリエステルからなる支持体(三菱化学ポリエステル社製、三菱ダイアホイル)と、
前記支持体上に抵抗機能層を形成してなるシート抵抗が380Ω/□の抵抗層と、
前記抵抗層の前記支持体によって形成された主面が向いた状態で前記抵抗層が重ねられてなる560μmの厚みを有するEVA樹脂(比誘電率:2.45)からなる誘電体層と、
25μmの厚みを有するPETの層、7μmの厚みを有するアルミニウム箔、及び9μmの厚みを有するPETの層がこの順で積層されたアルミニウム箔付きPETフィルムからなり、前記誘電体層の前記支持体側とは反対側の面に25μmの厚みを有するPETの層を向けた状態で重ねられてなる導電層とを備える、λ/4型電磁波吸収体。」
また、特に「実施列11」に係るものに着目し、上記記載事項を総合勘案すると、上記先願明細書11には次の発明(以下、「先願発明11-2」という。)が記載されている。
「厚み38μmのポリエステルからなる支持体(三菱化学ポリエステル社製、三菱ダイアホイル)と、
前記支持体上に抵抗機能層を形成してなるシート抵抗が380Ω/□の抵抗層と、
前記抵抗層の前記支持体によって形成された主面が向いた状態で前記抵抗層が重ねられてなる565μmの厚みを有するアイオノマー樹脂(比誘電率:2.44)からなる誘電体層と、
25μmの厚みを有するPETの層、7μmの厚みを有するアルミニウム箔、及び9μmの厚みを有するPETの層がこの順で積層されたアルミニウム箔付きPETフィルムからなり、前記誘電体層の前記支持体側とは反対側の面に25μmの厚みを有するPETの層を向けた状態で重ねられてなる導電層とを備える、λ/4型電磁波吸収体。」
(2-6)甲第13号証
本件出願の優先日前の他の特許出願であって、本件出願の優先日後に出願公開された甲第13号証(特願2017-116297号(特開2019-4005号公報参照))に係る先願の願書に最初に添付した明細書又は図面(以下、「先願明細書13」という。)には、「電磁波吸収体」について、図面とともに以下の各記載がある(なお、下線は当審で付与した。)。
ア.「【0014】
図1に示す通り、電磁波吸収体1は、誘電体層10と、抵抗層20と、導電層30とを備えている。抵抗層20は、誘電体層10の一方の主面に配置されている。導電層30は、誘電体層10の他方の主面に配置され、抵抗層20のシート抵抗より低いシート抵抗を有する。抵抗層20は、200~600Ω/□のシート抵抗を有する。電磁波吸収体1において、抵抗層20を5重量%のNaOH水溶液に5分間浸す浸漬処理を行った場合に、浸漬処理前の抵抗層20のシート抵抗と浸漬処理後の抵抗層20のシート抵抗との差の絶対値が100Ω/□未満である。これにより、抵抗層20がアルカリ性の洗剤等の薬品に触れても抵抗層20のシート抵抗が変化しにくく、電磁波吸収体1が薬品に触れた後でも所望の電磁波吸収特性を保つことができる。このように、抵抗層20が良好な耐薬品性を有し、ひいては電磁波吸収体1が良好な耐薬品性を有する。
【0015】
電磁波吸収体1は、λ/4型電磁波吸収体である。λ/4型電磁波吸収体において、吸収対象とする波長(λO)の電磁波が入射すると、抵抗層20の表面での反射(表面反射)による電磁波と、導電層30における反射(裏面反射)による電磁波とが干渉するように設計される。なお、λ/4型電磁波吸収体においては、下記の式(1)に示す通り、誘電体層10の厚み(t)及び誘電体層10の比誘電率(εr)によって吸収対象の電磁波の波長(λO)が決定される。すなわち、誘電体層10の材料及び厚みを適宜調節することにより、吸収対象の波長の電磁波を設定できる。式(1)においてsqrt(εr)は、比誘電率(εr)の平方根を意味する。
λO=4t×sqrt(εr)式(1)」
イ.「【0029】
図1に示す通り、抵抗層20は、例えば、誘電体層10に接している面と反対の面において高分子フィルム25に積層されている。高分子フィルム25は、抵抗層20の支持体として機能する。高分子フィルム25は、例えばスパッタリングによって抵抗層20を製造する場合に、成膜時又はその後のアニール処理時の加熱に耐えうる耐熱性を有し、平滑な表面を提供する材料でできていることが望ましい。加えて、高分子フィルム25は、抵抗層20を覆うように配置されているので、高分子フィルム25が高い耐薬品性を有していれば、電磁波吸収体1も高い耐薬品性を有する。このため、高分子フィルム25の材料は、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)及びポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステル樹脂、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)等のアクリル樹脂、ポリカーボネート(PC)、又はシクロオレフィンポリマー(COP)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)等の芳香族ポリエーテルケトン、芳香族ポリアミド(アラミド)、又はポリイミドである。良好な耐薬品性と、寸法安定性と、コストとのバランスの観点から、抵抗層20の支持体の材料は望ましくはPETである。
【0030】
高分子フィルム25の厚みは、例えば10~150μmであり、望ましくは20~100μmであり、より望ましくは30~80μmの厚みを有する。これにより、高分子フィルム25の曲げ剛性が低く、かつ、高分子フィルム25に抵抗層20を形成する場合において皺の発生又は変形を抑制できる。」
ウ.「【0044】
次に、導電層30の一方の主面に、所定の厚みに成形された誘電体層10を形成する樹脂組成物を載せる。その後、誘電体層10を形成する樹脂組成物に、抵抗層20の一方の主面を重ねる。必要に応じて、樹脂組成物を硬化させる。これにより、電磁波吸収体1を製造できる。この方法によれば、誘電体層10の厚みの制御が容易であるので、吸収対象とする波長の電磁波を効果的に吸収できるように電磁波吸収体1を製造できる。また、抵抗層20および導電層30を別々に形成するので、電磁波吸収体1の製造に要する時間が短く、電磁波吸収体1の製造コストが低い。なお、誘電体層10と導電層30又は抵抗層20とをくっつけるために接着剤又は粘着剤を用いてもよい。」
エ.「【0051】
<実施例1>
38μmの厚みを有するPETフィルム(三菱ケミカル社製、ダイアホイル)の上に、In2O3からなるターゲット材を用いて、DCマグネトロンスパッタ法により、非晶質のIn2O3からなる膜を形成し、その膜を大気中で150℃の温度で3時間加熱処理してIn2O3を結晶化させた。このようにして、実施例1に係る抵抗層を形成した。実施例1に係る抵抗層の厚み、シート抵抗、及び比抵抗を表1に示す。2.6の比誘電率を有するアクリル樹脂を560μmの厚みに押し出し成形して、実施例1に係る誘電体層を作製した。また、実施例1に係る導電層として、0.002Ω/□のシート抵抗を有するアルミニウム箔を準備した。実施例1に係る誘電体層の一方の主面に薬品浸漬処理されていない実施例1に係る抵抗層が接触するように実施例1に係る抵抗層を貼り付けた。また、実施例1に係る誘電体層の他方の主面に実施例1に係る導電層を接触させて貼り付けた。このようにして、実施例1に係るサンプルAを作製した。」
オ.「【0061】
<実施例11>
38μmの厚みを有するPETフィルム(三菱ケミカル社製、ダイアホイル)の上に、ITOをターゲット材として用い、DCマグネトロンスパッタリング法により、30重量%のSnO2を含む非晶質構造のITOでできた実施例11に係る抵抗層を形成した。実施例11に係る抵抗層の形成においてスパッタリング後の加熱処理は行わなかった。2.5の比誘電率を有するアクリル樹脂を560μmの厚みに押し出し成形して、実施例11に係る誘電体層を作製した。実施例1に係る抵抗層及び実施例1に係る誘電体層の代わりに、実施例11に係る抵抗層及び実施例11に係る誘電体層をそれぞれ用いた以外は実施例1と同様にして、実施例11に係るサンプルA(薬品浸漬処理なし)及びサンプルB(薬品浸漬処理あり)を作製した。
・・・・・(中 略)・・・・・
【0067】
<実施例17>
50μmの厚みを有するポリイミドフィルム(宇部興産社製、ダイアホイル)の上に、Nb含有TiO2をターゲット材に用いて、RFマグネトロンスパッタ法(基板温度:室温)により、ニオブドープ酸化チタン(ニオブ含有量:8原子%)でできた実施例17に係る抵抗層を形成した。実施例11に係る抵抗層の代わりに実施例17に係る抵抗層を用いた以外は、実施例11と同様にして、実施例17に係るサンプルA(薬品浸漬処理なし)及びサンプルB(薬品浸漬処理あり)を作製した。」
カ.「【0075】
[図:0001391994000010.jpg]
」
キ.「
[図:0001391994000011.jpg]
」
上記「ア.」ないし「キ.」から以下のことがいえる。
・上記先願明細書13に記載の「電磁波吸収体」は、上記「ア.」、「イ.」の記載、及び「キ.」(図1)によれば、支持体として機能する高分子フィルム、抵抗層、誘電体層、及び導電層を備えるλ/4型電磁波吸収体である。
・上記「エ.」ないし「オ.」の記載、及び「カ.」(【表1】)によれば、実施例17では、支持体(高分子フィルム)として50μmの厚みを有するポリイミドフィルム(宇部興産社製、ユーピレックス)からなるものが用いられ、誘電体層は一方の主面に抵抗層が接触するように貼り付けられ、560μmの厚み、2.5の比誘電率を有するアクリル樹脂からなるものが用いられ、導電層は誘電体層の他方の主面に接触して貼り付けられてなるアルミニウム箔が用いられている。そして、抵抗層は支持体上に形成され、実施例17ではシート抵抗が372Ω/□のものが用いられている。
以上のことから、特に「実施例17」に係るものに着目し、上記記載事項を総合勘案すると、上記先願明細書13には、次の発明(以下、「先願発明13」という。)が記載されている。
「50μmの厚みを有するポリイミドフィルム(宇部興産社製、ユーピレックス)からなる支持体と、
前記支持体上に形成されたシート抵抗が372Ω/□の抵抗層と、
一方の主面に前記抵抗層が接触するように貼り付けられてなる560μmの厚み、2.5の比誘電率を有するアクリル樹脂からなる誘電体層と、
前記誘電体層の他方の主面に接触して貼り付けられてなるアルミニウム箔とを備える、λ/4型電磁波吸収体。」
(3)申立理由についての当審の判断
(3-1)理由2-1(進歩性)
ア.本件発明1について
甲第1号証に記載された発明(以下、「甲1発明」という。)は、上記「2.(2-1)」に記載した引用発明1と同じである。
そして、本件発明1と甲1発明(引用発明1)とを対比すると、上記「2.(3-3)」に記載したとおり、以下の点で相違し、その余の点で一致する。
[相違点]
yの値の範囲について、本件発明1では「998.20以上」であることを特定するのに対し、甲1発明では985.40~985.70である点。
そこで、上記相違点について検討する。
そもそも甲第1号証には、支持体(基材)の比誘電率・厚み及び誘電体層の比誘電率・厚みと、好適な抵抗被膜の抵抗値範囲との関係に着目した記載も示唆もないことを踏まえると、甲1発明において、yの値を式(1)を満たすようにしたまま、さらに本件発明1で特定する「998.20以上」の条件(範囲)も満たすようにすること(この場合、yの値を「998.20≦y<998.625」の非常に狭い範囲に設定しなければならない。上記「2.(3-3)ア.(イ)」参照)まで当業者が容易になし得たということはできない。
よって、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
イ.本件発明2、3、5について
請求項2、3、5は請求項1を引用するものであり、少なくとも上記相違点に係る発明特定事項を備えるものであるから、本件発明1についての判断と同様に、本件発明2、3、5は、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ウ.本件発明11について
本件発明11における「λ/4型電波吸収体用部材」は、本件発明1の「λ/4型電波吸収体」から反射層を有することの特定を省いたものに相当し、本件発明11と甲1発明とは、以下の点で相違し、その余の点で一致する。
[相違点]
yの値の範囲について、本件発明1では「998.20以上」であることを特定するのに対し、甲1発明では985.40~985.70である点。
上記相違点は、上記「ア.本件発明1について」で検討した相違点と同じであるから、本件発明1についての判断と同様の理由により、本件発明11は、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3-2)理由2-2(進歩性)
ア.本件発明1について
本件発明1と甲2発明とを対比する。
(ア)λ/4型電波吸収体について
甲2発明における「基板」は、抵抗層を形成するために使用され、当該抵抗層を支持しているといえるものであることから、本件発明1でいう「支持体」に相当する。
また、甲2発明における「抵抗層」、「誘電体層」、電磁波を反射するための「導電層」は、それぞれ本件発明1でいう「抵抗皮膜」、「誘電体層」、「反射層」に相当する。
そして、甲2発明における「λ/4型電磁波吸収体」は、本件発明1でいう「λ/4型電波吸収体」に相当するものである。
よって、本件発明1と甲2発明とは、「支持体、抵抗皮膜、誘電体層、及び反射層を有」する「λ/4型電波吸収体」である点で一致する。
(イ)式(1)について
甲2発明における「基板」のPETフィルムの比誘電率について、甲第2号証には記載されていないが、本件特許に関する令和2年7月14日提出の意見書や例えば「比誘電率表」(「http://www.yei-jp.com/tech-infor/dielectric/dielectric.html」参照)によれば、2.9~3.0であるといえる。
したがって、甲2発明における数値を式(1)に代入してみると、
-0.375x+1105=-0.375×380+1105=962.5
-0.375x+1140=-0.375×380+1140=997.5
y=支持体の厚み(μm)×(支持体比誘電率)0.5+誘電体層の厚み(μm)×(誘電体層の比誘電率)0.5=38×(2.9~3.0)0.5+458×3.900.5≒969.19~970.30であるから、式(1)を満たすもののの、本件発明1で特定する「yは998.20以上」の条件(範囲)は満たさない。
よって上記(ア)及び(イ)によれば、本件発明1と甲2発明とは、
「支持体、抵抗皮膜、誘電体層、及び反射層を有し、且つ下記式(1)を満たす、λ/4型電波吸収体。
式(1):-0.375x+1105<y<-0.375x+1140
(式中、xは抵抗被膜の抵抗値(Ω/□)、y=支持体の厚み(μm)×(支持体比誘電率)0.5+誘電体層の厚み(μm)×(誘電体層の比誘電率)0.5を表す。)」
である点で一致し、次の点で相違する。
[相違点]
yの値の範囲について、本件発明1では「yは998.20以上」と特定するのに対し、甲2発明では969.19~970.30である点。
そこで、上記相違点について検討する。
そもそも甲第2号証には、支持体(基板)の比誘電率・厚み及び誘電体層の比誘電率・厚みと、好適な抵抗被膜の抵抗値範囲との関係に着目した記載も示唆もないことに加えて、甲2発明において抵抗被膜の抵抗値を変更せずにyの値を本件発明1で特定する「998.20以上」の条件(範囲)を満たすようにした場合には、式(1)を満たさなくなる。したがって、甲2発明において、yの値を式(1)を満たすようにしたまま、さらに本件発明1で特定する「998.20以上」の条件(範囲)も満たすようにすることは当業者が容易になし得たことではない。
なお、当該相違点に関して、特許異議申立人は特許異議申立書において、甲2発明において、誘電体層の厚みが僅か1μm大きく459μmであったと仮定した場合、yの値は972.27となり、本件発明1で特定する「yは971.65以上」の条件(範囲)を満たすことになるところ、甲第3号証及び甲第4号証の記載から、誘電体層の厚みが1μm以上20μm以下の範囲でばらつく可能性があることは当業者が容易に理解できることであることを踏まえると、本件発明1は、甲2発明から当業者が容易に発明できたものであると主張している。
しかしながら、本件発明1において、yの値は「998.20以上」に訂正されており、そして上述したとおり、甲2発明において、yの値を式(1)を満たすようにしたまま、さらに本件発明1で特定する「998.20以上」の条件(範囲)も満たすようにすることは当業者が容易になし得たことではない。
したがって、特許異議申立人の上記主張は採用できず、甲2発明において上記相違点に係る構成を導き出すことはできない。
よって、本件発明1は、甲第2号証に記載された発明、及び甲第3,4号証に記載の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
イ.本件発明2ないし5について
請求項2ないし5は請求項1を引用するものであり、少なくとも上記相違点に係る発明特定事項を備えるものであるから、本件発明1についての判断と同様に、本件発明2ないし5は、甲第2号証に記載された発明、及び甲第3,4号証に記載の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ウ.本件発明11について
本件発明11における「λ/4型電波吸収体用部材」は、本件発明1の「λ/4型電波吸収体」から反射層を有することの特定を省いたものに相当するといえる。
したがって、本件発明11と甲2発明とは、
「支持体、抵抗皮膜及び誘電体層を有し、且つ下記式(1)を満たす、λ/4型電波吸収体用部材。[式(1):-0.375x+1105<y<-0.375x+1140(式中、xは抵抗被膜の抵抗値(Ω/□)、y=支持体の厚み(μm)×(支持体比誘電率)0.5+誘電体層の厚み(μm)×(誘電体層の比誘電率)0.5を表す。)]」
である点で一致し、次の点で相違する。
[相違点]
yの値の範囲について、本件発明1では「yは998.20以上」と特定するのに対し、甲2発明では、yは969.19~970.30である点。
上記相違点は、上記「ア.本件発明1について」で検討した相違点と同じであるから、本件発明1についての判断と同様の理由により、本件発明11は、甲2発明、及び甲第3,4号証に記載の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3-3)理由2-3(進歩性)
ア.本件発明1について
本件発明1と甲5発明とを対比する。
(ア)λ/4型電波吸収体について
甲5発明における「ベースフィルム(保護膜)」は、抵抗皮膜を形成するために使用され、当該抵抗皮膜を支持しているといえるものであることから、本件発明1でいう「支持体」に相当する。
甲5発明における「抵抗皮膜」は、本件発明1でいう「抵抗皮膜」に相当する。
また、甲5発明における3層構成のアルミ箔のうちの「アルミニウム箔」は、電磁波を反射するものであることは明らかであり、本件発明1でいう「反射層」に相当する。
さらに、甲5発明における厚さ50μmの「粘着層」、「スペーサ」、3層構成のアルミ箔のうちの厚さ25μmの「粘着層」、及び「PET」の4層からなる積層体が、本件発明1でいう「誘電体層」に相当するとみることができる。
そして、甲5発明における「94GHz帯における抵抗皮膜型ミリ波電波吸収体」は、その構成からして、本件発明1でいう「λ/4型電波吸収体」に相当するものである。
よって、本件発明1と甲5発明とは、「支持体、抵抗皮膜、誘電体層、及び反射層を有」する「λ/4型電波吸収体」である点で一致する。
(イ)式(1)について
甲5発明における各数値を式(1)に代入してみると、
-0.375x+1105=-0.375×346+1105=975.25
-0.375x+1140=-0.375×346+1140=1010.25
y=支持体の厚み(μm)×(支持体比誘電率)0.5+誘電体層の厚み(μm)×(誘電体層の比誘電率)0.5=125×3.160.5+50×2.810.5+300×2.690.5+25×2.810.5+12×3.160.5≒861.30であるから、式(1)は満たさず、さらに、本件発明1で特定する「yは998.20以上」の条件(範囲)も満たさない。
よって上記(ア)及び(イ)によれば、本件発明1と甲5発明とは、
「支持体、抵抗皮膜、誘電体層、及び反射層を有する、λ/4型電波吸収体。」
である点で一致し、次の点で相違する。
[相違点]
本件発明1では「下記式(1)を満たす」ことを特定するのに対し、甲5発明では式(1)を満たさない点。
式(1):-0.375x+1105<y<-0.375x+1140
(式中、xは抵抗被膜の抵抗値(Ω/□)、yは、y=支持体の厚み(μm)×(支持体比誘電率)0.5+誘電体層の厚み(μm)×(誘電体層の比誘電率)0.5を表す。yは998.20以上である。)
そこで、上記相違点について検討する。
当該相違点に関して、特許異議申立人は特許異議申立書において、甲第6号証には、平面波と伝送線路上の信号波の伝搬の類似性から伝送線理論を用いて平面波の解析が行え、固有インピーダンスが異なった媒質を積層して構成された電波吸収体の伝送線路を4端子回路網として扱って反射係数の計算ができることが記載されており、かかる電波吸収体の伝送線路を4端子回路網として扱う方法に従って、甲5発明を基礎に、抵抗皮膜の抵抗値、保護膜(ベースフィルム)の厚み、PC(ポリカーボネートからなるスペーサ)の厚みを変化させたときの電波吸収量を容易に計算でき、甲5発明において、20dB以上の電波吸収量を狙って本件発明1の式(1)を満たすようにy値を調整することは、単なる数値範囲の最適化又は好適化に過ぎない旨主張している。
しかしながら、甲第5号証には保護膜(ベースフィルム)、PC(ポリカーボネートからなるスペーサ)、及び粘着層の虚数部を含む比誘電率が記載されており、甲第6号証に記載の方法に従って、抵抗皮膜の抵抗値、保護膜(ベースフィルム)の厚み、PC(ポリカーボネートからなるスペーサ)の厚みを変化させたときの電波吸収量を計算できるとしても、そもそも甲第5号証にも甲第6号証にも、支持体(ベースフィルム(保護膜))の比誘電率・厚み及び誘電体層の比誘電率・厚みと、好適な抵抗被膜の抵抗値範囲との関係に着目した記載も示唆もなく、甲5発明において、抵抗皮膜の抵抗値、保護膜(ベースフィルム)の厚み、PC(ポリカーボネートからなるスペーサ)の厚みを式(1)を満たすように変化させ、かつ本件発明1で特定する「yは998.20以上」の条件(範囲)も満たすようにすべき動機を見出すことはできない。
したがって、特許異議申立人の上記主張は採用できず、甲5発明において上記相違点に係る構成を導き出すことはできない。
よって、本件発明1は、甲第5号証に記載された発明、及び甲第6号証に記載の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
イ.本件発明2ないし5、8について
請求項2ないし5、8は請求項1を引用するものであり、少なくとも上記相違点に係る発明特定事項を備えるものであるから、本件発明1についての判断と同様に、本件発明2ないし5、8は、甲第5号証に記載された発明、及び甲第6号証に記載の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ウ.本件発明11について
本件発明11における「λ/4型電波吸収体用部材」は、本件発明1の「λ/4型電波吸収体」から反射層を有することの特定を省いたものに相当するといえる。
したがって、本件発明11と甲5発明とは、
「支持体、抵抗皮膜、誘電体層を有する、λ/4型電波吸収体用部材。」
である点で一致し、次の点で相違する。
[相違点]
本件発明11では「下記式(1)を満たす」ことを特定するのに対し、甲5発明では式(1)を満たさない点。
式(1):-0.375x+1105<y<-0.375x+1140
(式中、xは抵抗被膜の抵抗値(Ω/□)、yは、y=支持体の厚み(μm)×(支持体比誘電率)0.5+誘電体層の厚み(μm)×(誘電体層の比誘電率)0.5を表す。yは998.20以上である。)
上記相違点は、上記「ア.本件発明1について」で検討した相違点と同じであるから、本件発明1についての判断と同様の理由により、本件発明11は、甲第5号証に記載された発明、及び甲第6号証に記載の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3-4)理由2-4(進歩性)
ア.本件発明1について
本件発明1と甲7発明とを対比する。
(ア)λ/4型電波吸収体について
甲7発明における「基材」は、抵抗皮膜を製膜するために使用され、当該抵抗皮膜を支持しているといえるものであることから、本件発明1でいう「支持体」に相当する。
また、甲7発明における「抵抗皮膜」、「誘電体層」、電磁波を反射する「電磁波遮蔽層としてのアルミニウム箔」は、それぞれ本件発明1でいう「抵抗皮膜」、「誘電体層」、「反射層」に相当する。
そして、甲7発明における「電磁波干渉型(λ/4型)の電磁波吸収シート」は、本件発明1でいう「λ/4型電波吸収体」に相当するものである。
したがって、本件発明1と甲7発明とは、「支持体、抵抗皮膜、誘電体層、及び反射層を有」する「λ/4型電波吸収体」である点で一致する。
(イ)式(1)について
甲7発明における「基材」のポリエチレンテレフタレートの比誘電率について、甲第7号証には記載されていないが、本件特許に関する令和2年7月14日提出の意見書や例えば「比誘電率表」(「http://www.yei-jp.com/tech-infor/dielectric/dielectric.html」参照)によれば、2.9~3.0であるといえるものの、甲7発明における「誘電体層」であるウレタンゴムの比誘電率についても甲第7号証には記載されていない。さらに、甲7発明においては、抵抗皮膜、誘電体層及び電磁波遮蔽層をこの順序で積層密着させて接着剤にて接着してなるものであることから、抵抗皮膜と誘電体層との間や、誘電体層と電磁波遮蔽層との間には接着剤の層が存在するものと解されるが、甲第7号証にはその厚さや比誘電率について記載がなく不明である。してみると、yの値を算出することはできず、式(1)を満たすか否かは不明であり、「yは998.20以上」であるか否かも不明である。
したがって、本件発明1では「式(1)を満たす」とともに、「yは998.20以上」と特定するのに対し、甲7発明ではそのような特定がない点で相違する。
よって上記(ア)及び(イ)によれば、本件発明1と甲7発明とは、
「支持体、抵抗皮膜、誘電体層、及び反射層を有する、λ/4型電波吸収体。」
である点で一致し、次の点で相違する。
[相違点]
本件発明1では「下記式(1)を満たす」ことを特定するのに対し、甲7発明ではそのような特定がない点。
式(1):-0.375x+1105<y<-0.375x+1140
(式中、xは抵抗被膜の抵抗値(Ω/□)、yは、y=支持体の厚み(μm)×(支持体比誘電率)0.5+誘電体層の厚み(μm)×(誘電体層の比誘電率)0.5を表す。yは998.20以上である。)
そこで、上記相違点について検討すると、上述したように、甲第7号証には、甲7発明における「誘電体層」であるウレタンゴムの比誘電率については記載がなく、さらに、抵抗皮膜と誘電体層との間や、誘電体層と電磁波遮蔽層との間に存在すると解される接着剤の層の厚さや比誘電率についても記載がなく、yの値を算出することはできない。そして、そもそも甲第7号証には、支持体(基材)の比誘電率・厚み及び誘電体層の比誘電率・厚みと、好適な抵抗被膜の抵抗値範囲との関係に着目した記載も示唆もないことを踏まえると、甲7発明において、式(1)を満たし、さらに本件発明1で特定する「yは998.20以上」の条件(範囲)も満たすようにすることを当業者が容易になし得たということはできない。
なお、特許異議申立人は特許異議申立書において、甲第8号証には「1kHzにおける比誘電率が5.9であるポリウレタンゴムB」が記載され(図3を参照)、甲第9号証には「誘電体の誘電率には周波数依存性が観察され、高周波では誘電率が低下する可能性があること」が記載ないし示唆されている(図1・7を参照)ことを踏まえると、甲7発明において、誘電体層であるウレタンゴムとして甲第8号証に記載の「ポリウレタンゴムB」を選択することにより、式(1)が満たされる旨主張している。
しかしながら、そもそも甲7発明において、誘電体層であるウレタンゴムとして甲第8号証に記載の「ポリウレタンゴムB」をあえて選択すべき動機がないし、たとえ「ポリウレタンゴムB」を選択できたとしても、GHz帯域における正確な比誘電率が明らかでないことに加えて、上述したように抵抗皮膜と誘電体層との間や、誘電体層と電磁波遮蔽層との間に存在すると解される接着剤の層の厚さや比誘電率が不明である以上、yの値を算出することはできないことに変わりがなく、特許異議申立人の上記主張は採用できない。
よって、本件発明1は、甲第7号証に記載された発明、及び甲第8,9号証に記載の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
イ.本件発明2ないし5について
請求項2ないし5は請求項1を引用するものであり、少なくとも上記相違点2に係る発明特定事項を備えるものであるから、本件発明1についての判断と同様に、本件発明2ないし5は、甲第7号証に記載された発明、及び甲第8,9号証に記載の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ウ.本件発明11について
本件発明11における「λ/4型電波吸収体用部材」は、本件発明1の「λ/4型電波吸収体」から反射層を有することの特定を省いたものに相当するといえる。
したがって、本件発明11と甲7発明とは、
「支持体、抵抗皮膜及び誘電体層を有する、λ/4型電波吸収体用部材。」
である点で一致し、次の点で相違する。
[相違点]
本件発明11では「下記式(1)を満たす」ことを特定するのに対し、甲7発明ではそのような特定がない点。
式(1):-0.375x+1105<y<-0.375x+1140
(式中、xは抵抗被膜の抵抗値(Ω/□)、yは、y=支持体の厚み(μm)×(支持体比誘電率)0.5+誘電体層の厚み(μm)×(誘電体層の比誘電率)0.5を表す。yは998.20以上である。)
上記相違点は、上記「ア.本件発明1について」で検討した相違点と同じであるから、本件発明1についての判断と同様の理由により、本件発明11は、甲7発明、及び甲第8,9号証に記載の技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3-5)理由3-2(拡大先願)
ア.本件発明1について
先願発明11-1、先願発明11-2は、それぞれ上記「2.(2-2)」に記載した先願明細書2(甲第10号証に係る先願明細書)に記載された「先願発明2-1」、「先願発明2-2」と同じである。
そして、本件発明1と先願発明11-1あるいは先願発明11-2とは、上記「2.(3-2)」に記載したのと同様に、以下の点で相違し、その余の点で一致する。
[相違点]
yの値の範囲について、本件発明1では「998.20以上」であることを特定するのに対し、先願発明11-1では983.82~985.66であり、先願発明11-2では989.84~991.68である点。
以上のとおり、いずれも相違するところがあるから、本件発明1は、先願明細書11に記載された発明と同一であるとはいえない。
イ.本件発明2ないし5について
請求項2ないし5は請求項1を引用するものであり、少なくとも上記相違点に係る発明特定事項を備えるものであるから、本件発明1についての判断と同様に、本件発明2ないし5は、先願明細書11に記載された発明と同一であるとはいえない。
ウ.本件発明11について
本件発明11における「λ/4型電波吸収体用部材」は、本件発明1の「λ/4型電波吸収体」から反射層を有することの特定を省いたものに相当するといえる。
したがって、本件発明11と先願発明11-1あるいは先願発明11-2とは、以下の点で相違し、その余の点で一致する。
[相違点]
yの値の範囲について、本件発明11では「998.20以上」であることを特定するのに対し、先願発明11-1では983.82~985.66であり、先願発明11-2では989.84~991.68である点。
よって、いずれも相違するところがあるから、本件発明11は、先願明細書11に記載された発明と同一であるとはいえない。
(3-6)理由3-4(拡大先願)
ア.本件発明1について
先願発明13は、上記「2.(2-3)」に記載した先願明細書3(甲第12号証に係る先願明細書)に記載された「先願発明3-3」と同じである。
そして、本件発明1と先願発明13とは、上記「2.(3-1)」の「理由B(拡大先願)について」に記載したのと同様に、以下の点で相違し、その余の点で一致する。
[相違点]
yの値の範囲について、本件発明11では「998.20以上」であることを特定するのに対し、先願発明13では978.98である点。
以上のとおり、相違するところがあるから、本件発明1は、先願明細書13に記載された発明と同一であるとはいえない。
イ.本件発明2ないし5について
請求項2ないし5は請求項1を引用するものであり、少なくとも上記相違点に係る発明特定事項を備えるものであるから、本件発明1についての判断と同様に、本件発明2ないし5は、先願明細書13に記載された発明と同一であるとはいえない。
ウ.本件発明11について
本件発明11における「λ/4型電波吸収体用部材」は、本件発明1の「λ/4型電波吸収体」から反射層を有することの特定を省いたものに相当するといえる。
したがって、本件発明11と先願発明13とは、以下の点で相違し、その余の点で一致する。
[相違点]
yの値の範囲について、本件発明11では「998.20以上」であることを特定するのに対し、先願発明13では978.98である点。
よって、相違するところがあるから、本件発明11は、先願明細書13に記載された発明と同一であるとはいえない。
第4 むすび
以上のとおりであるから、本件発明1ないし5、8、11に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては取り消すことはできない。
また、他に本件発明1ないし5、8、11に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2021-700510