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特許異議申立

2021-700428

熱収縮性フィルム、それを用いた成形品、熱収縮性ラベル、及び容器

審判番号
2021-700428
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2020-039926
登録番号
特許第6780794号(P6780794)
請求日
2021年05月04日
審決日
2021年09月30日
公報発行日
2021年11月26日
結論
維持
当事者
  • 【権利者】三菱ケミカル株式会社
  • 【権利者代理人】西藤 征彦
  • 【権利者代理人】井▲崎▼ 愛佳
  • 【権利者代理人】西藤 優子
  • 【権利者代理人】寺尾 茂泰
  • 【異議申立人】早川 いづみ
  • 【異議申立人】藤下 万実
審判長/審判官
  • 審判長 久保 克彦
  • 審判官 井上 茂夫
  • 審判官 村山 達也
分類
P1651.113-Y (B32B) / P1651.121-Y (B32B) / P1651.536-Y (B32B) / P1651.537-Y (B32B)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第113条第2号、特許法第36条第4項第1号、特許法第113条第4号、特許法第36条第6項第1号、特許法第2条第3項第1号
データ出所
審決公報(SGML)

事件の表示

特許第6780794号発明「熱収縮性フィルム、それを用いた成形品、熱収縮性ラベル、及び容器」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

【結 論】 特許第6780794号の請求項1ないし11に係る特許を維持する。

理由

【理 由】 第1 手続の経緯 特許第6780794号(以下「本件特許」という。)の請求項1~11に係る特許についての出願は、令和2年3月9日を出願日とする出願であって、令和2年10月19日にその特許権の設定登録(特許掲載公報発行:令和2年11月4日)がされ、その後、その特許について、令和3年5月4日に特許異議申立人早川いづみ(以下「申立人1」という。)により、令和3年5月6日(受付日)に特許異議申立人藤下万実(以下「申立人2」という。)により、特許異議の申立てがされ、令和3年8月13日に申立人2より上申書が提出されたものである。 第2 本件特許発明 本件特許の請求項1~11に係る発明(以下「本件発明1」等という。本件発明1~11を、まとめて「本件発明」ともいう。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1~11に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。 「【請求項1】 熱可塑性樹脂を主成分として含む層の少なくとも一方の面に帯電防止剤を含有する層を配した熱収縮性フィルムであって、以下a)~d)を満たす熱収縮性フィルム。 a)帯電防止剤を含有する層の表面抵抗率が、温度23℃、相対湿度30%雰囲気下で5.0×1011(Ω/sq)以下、かつ温度23℃、相対湿度50%雰囲気下で1.0×1011(Ω/sq)以下 b)一方の表面と他方の表面のJIS K7125に準拠して測定した静摩擦係数が、温度23℃、相対湿度50%雰囲気下で0.20以上0.50以下 c)80℃の温水中に10秒間浸漬したときの主収縮方向の収縮率が20%以上 d)JIS K7136に準拠して測定したヘイズ値が7%以下 【請求項2】 前記帯電防止剤が、帯電防止剤の総量を100質量%としたとき、帯電防止剤総量に対しカチオン系帯電防止剤および、アニオン系帯電防止剤の少なくとも一方が35質量%以上である、請求項1記載の熱収縮性フィルム。 【請求項3】 前記帯電防止剤を含有する層が、コーティング層である請求項1または2記載の熱収縮性フィルム。 【請求項4】 前記コーティング層の帯電防止剤の有効成分の塗布量が、0.0012g/m2以上0.015g/m2以下である、請求項3記載の熱収縮性フィルム。 【請求項5】 前記帯電防止剤を含有する層のJIS L1094に準拠して測定した帯電圧半減期が、温度23℃、相対湿度50%雰囲気下で5秒以下である、請求項1~4のいずれか一項に記載の熱収縮性フィルム。 【請求項6】 前記熱可塑性樹脂が、芳香族ポリエステル系樹脂またはポリ乳酸系樹脂である請求項1~5のいずれか一項に記載の熱収縮性フィルム。 【請求項7】 前記芳香族ポリエステル系樹脂が、共重合ポリエステル樹脂であり、共重合成分としてテレフタル酸とエチレングリコールとを含み、さらに1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、1,3-プロパンジオール、およびイソフタル酸からなる群から選ばれる少なくとも一種を含む、請求項6記載の熱収縮性フィルム。 【請求項8】 前記ポリ乳酸系樹脂が、D-乳酸とL-乳酸との共重合体からなり、D-乳酸とL-乳酸のD/L比が、D/L=1/99~10/90、または、90/10~99/1である、請求項6記載の熱収縮性フィルム。 【請求項9】 請求項1~8のいずれか一項に記載の熱収縮フィルムを基材として用いた成形品。 【請求項10】 請求項1~8のいずれか一項に記載の熱収縮性フィルムを基材として用いた熱収縮性ラベル。 【請求項11】 請求項9に記載の成形品または請求項10に記載の熱収縮性ラベルを装着した容器。」 第3 申立理由の概要 1 申立人1は、次の甲第1号証~甲第6号証(以下「甲1-1」~「甲1-6」という。)を提出して、以下の理由1-1~理由1-4を申立てている。 甲1-1:特許第4717596号公報 甲1-2:特開2007-197526号公報 甲1-3:国際公開第2005/092957号 甲1-4:特開2004-137356号公報 甲1-5:特開2002-12687号公報 甲1-6:特開2018-21148号公報 (1)理由1-1(新規性)、理由1-2(進歩性) ア 本件発明1~7、9~11は、甲1-1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当するものであり、あるいは、本件発明1~11は、甲1-1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反するものであり、本件発明1~11に係る特許は、特許法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。 イ 本件発明1~7、9~11は、甲1-2に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当するものであり、あるいは、本件発明1~11は、甲1-2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反するものであり、本件発明1~11に係る特許は、特許法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。 ウ 本件発明1、3、4、6、7、9~11は、甲1-3に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当するものであり、あるいは、本件発明1~11は、甲1-3に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反するものであり、本件発明1~11に係る特許は、特許法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。 (2)理由1-3(実施可能要件) 本件特許の発明の詳細な説明には、限られた所定の界面活性剤の実施例のみ記載されており、本件特許の実施例に記載されている実施の形態以外の部分を実施することができない。よって、本件特許の発明の詳細な説明は、本件発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていないから、特許法第36条第4項第1号の規定に違反するものであり、本件発明に係る特許は、特許法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。 (3)理由1-4(サポート要件) 本件発明の解決しようとする課題は、限られた所定の界面活性剤でのみ解決できると解されるところ、本件発明には、発明の課題を解決するための手段が反映されておらず、本件発明は発明の詳細な説明に記載された範囲を超えるものであって、特許法第36条第6項第1号の規定に違反するものであり、本件発明に係る特許は、特許法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。 2 申立人2は、次の甲第1号証~甲第7号証(以下「甲2-1」~「甲2-7」という。)を提出して、以下の理由2-1~理由2-4を申立てている。 甲2-1:特開2005-335368号公報 甲2-2:特開2009-160776号公報 甲2-3:熱収縮性フィルムの帯電防止剤を含有する層における、相対湿度に対する表面固有抵抗(表面抵抗率)を示すグラフ 甲2-4:特開2004-137356号公報 甲2-5:「JIS規格詳細表示 JIS6714」、[online]、2017年、日本産業標準調査会、[2021年4月21日検索]、インターネット<URL:https://www.jisc.go.jp/app/jis/general/GnrDisuseJISStandardList?toGnrJISStandardDetailDisuseStandardList> 甲2-6:「軟包装印刷の日新シール工業株式会社 主な製品」、[online]、2013年、日新シール工業株式会社、[2021年4月26日検索]、インターネット<URL:http://www.nissinseal.co.jp/works/product.html> 甲2-7:特開2007-197527号公報 (1) 理由2-1(新規性)、理由2-2(進歩性) ア 本件発明1、3、5~11は、甲2-1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当するものであり、あるいは、本件発明1、3、5~11は、甲2-1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反するものであり、本件発明1、3、5~11に係る特許は、特許法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。 イ 本件発明1~11は、甲2-2に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当するものであり、あるいは、本件発明1~11は、甲2-2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反するものであり、本件発明1~11に係る特許は、特許法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。 (2)理由2-3(実施可能要件) 本件特許の発明の詳細な説明には、実施例以外において、どのようにして本件発明を実施できるか、ほとんど記載されていないから、過度の試行錯誤を要するものである。よって、本件特許の発明の詳細な説明は、本件発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されておらず、特許法第36条第4項第1号の規定に違反するものであり、本件発明に係る特許は、特許法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。 (3)理由2-4(サポート要件) 本件発明1には、単に「熱可塑性樹脂」及び「帯電防止剤」とのみ特定されているところ、本件特許の発明の詳細な説明の実施例には、3種類の熱可塑性樹脂、2種類の帯電防止剤が記載されるのみであり、実施例の記載から本件発明まで拡張又は一般化できず、または、本件発明には、発明の課題を解決するための手段が反映されていないから、本件発明は発明の詳細な説明に記載された範囲を超えるものであって、特許法第36条第6項第1号の規定に違反するものであり、本件発明に係る特許は、特許法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。 第4 当審の判断 1 新規性・進歩性に係る申立理由について (1)甲1-1を主引用例とする理由 ア 甲1-1には、実施例8の熱収縮性フィルムに基づく、次の「甲1-1発明」が記載されている。 「ポリエステルの混合樹脂組成物樹脂からなる表面層の上に、東邦化学工業(株)製の「アンステックスC200X」(カチオン系界面活性剤、界面活性剤濃度50%)を0.006g/m2で含有する耐熱層を形成した、熱収縮性フィルムであって、 80℃の温水バスに10秒間浸漬したときのフィルムの主収縮方向(TD) の熱収縮率が38.7%、 JIS K7105に準拠してフィルム厚み50μmでのフィルムのヘーズ値が4.8%である、熱収縮性フィルム。」 イ 本件発明1と甲1-1発明を対比すると、甲1-1発明の「ポリエステルの混合樹脂組成物樹脂からなる表面層」は、本件発明1の「熱可塑性樹脂を主成分として含む層」に相当し、甲1-1発明の「東邦化学工業(株)製の「アンステックスC200X」(カチオン系界面活性剤、界面活性剤濃度50%)を0.006g/m2で含有する耐熱層」と本件発明1の「帯電防止剤を含有する層」とは、「界面活性剤を含有する層」という限りで一致する。 そうすると、本件発明1と甲1-1発明とは、 「熱可塑性樹脂を主成分として含む層の少なくとも一方の面に界面活性剤を含有する層を配し、 c)80℃の温水中に10秒間浸漬したときの主収縮方向の収縮率が20%以上である、熱収縮性フィルム。」で一致し、以下の点で相違する。 《相違点A-1》 「界面活性剤を含有する層」に関して、本件発明1が「帯電防止剤を含有する層」であり、「a)帯電防止剤を含有する層の表面抵抗率が、温度23℃、相対湿度30%雰囲気下で5.0×1011(Ω/sq)以下、かつ温度23℃、相対湿度50%雰囲気下で1.0×1011(Ω/sq)以下」であるのに対し、甲1-1発明は、「東邦化学工業(株)製の「アンステックスC200X」(カチオン系界面活性剤、界面活性剤濃度50%)を0.006g/m2で含有する耐熱層」である点。 《相違点A-2》 本件発明1が「b)一方の表面と他方の表面のJIS K7125に準拠して測定した静摩擦係数が、温度23℃、相対湿度50%雰囲気下で0.20以上0.50以下」であるのに対し、甲1-1発明は、静摩擦係数について特定されていない点。 《相違点A-3》 本件発明1が「d)JIS K7136に準拠して測定したヘイズ値が7%以下」であるのに対し、甲1-1発明は「JIS K7105に準拠してフィルム厚み50μmでのフィルムのヘーズ値が4.8%」である点。 ウ まず、上記相違点A-1について検討する (ア)甲1-1には、甲1-1発明の「耐熱層」について、「本発明のフィルムは、さらに耐熱性を付与するための層(以下「耐熱層」という。)を表面層(S層)上に形成することができる。耐熱層を構成する原料としては、例えば各種の界面活性剤が挙げられる。・・・・本発明者は、界面活性剤につき鋭意検討した結果、界面活性剤(特にカチオン系界面活性剤又は両性界面活性剤)を表面層(S層)上に積層させることにより、フィルムの耐熱性が向上することを見出した。このような耐熱層を表面層(S層)上に形成することにより、例えば、加温販売用のPETボトルを加温器で加熱した際に、PETボトルに装着されたフィルムが加熱板に融着すること、並びにPETボトルに装着されたフィルム同士が融着するのを有効に防止できる。」(【0069】)と記載されており、甲1-1発明の「東邦化学工業(株)製の「アンステックスC200X」(カチオン系界面活性剤、界面活性剤濃度50%)を0.006g/m2で含有する耐熱層」を、フィルムが融着することを防ぐ耐熱層として用いることが記載されているが、帯電防止層として機能させることは記載されていない。 また、甲1-1発明の「東邦化学工業(株)製の「アンステックスC200X」(カチオン系界面活性剤、界面活性剤濃度50%)を0.006g/m2で含有する耐熱層」を設けた熱収縮性フィルムが、「温度23℃、相対湿度30%雰囲気下で5.0×1011(Ω/sq)以下、かつ温度23℃、相対湿度50%雰囲気下で1.0×1011(Ω/sq)以下」の表面抵抗率の「帯電防止剤を含有する層」として機能することを示す証拠も他に提出されていない。 (イ)申立人1は、「東邦化学工業(株)製の「アンステックスC200X」(カチオン系界面活性剤、界面活性剤濃度50%)を0.006g/m2」は、本件明細書の実施例の「帯電防止剤a」と同じであり、その塗布量も本件発明4で特定される「前記コーティング層の帯電防止剤の有効成分の塗布量が、0.0012g/m2以上0.015g/m2以下」の範囲内であるから、甲1-1発明の表面抵抗率は、本件発明1の「温度23℃、相対湿度30%雰囲気下で5.0×1011(Ω/sq)以下、かつ温度23℃、相対湿度50%雰囲気下で1.0×1011(Ω/sq)以下」の範囲内である旨主張する(申立人1の特許異議申立書49~50頁)。 しかし、熱収縮性フィルムの表面抵抗率は、塗布された帯電防止剤の種類、塗布量だけではなく、熱処理条件や、下層の基材の電気特性等により決まるから、甲1-1発明の「東邦化学工業(株)製の「アンステックスC200X」(カチオン系界面活性剤、界面活性剤濃度50%)を0.006g/m2で含有する耐熱層」が、本件発明1の表面抵抗率を備えるとは必ずしもいえない。 (ウ)よって、上記相違点A-1は実質的な相違点であり、本件発明1の上記相違点A-1に係る構成は、甲1-1発明に基いて、当業者が容易に想到し得たものでもない。 エ 上記相違点A-2について、申立人1は、甲1-1発明の「東邦化学工業(株)製の「アンステックスC200X」(カチオン系界面活性剤、界面活性剤濃度50%)を0.006g/m2で含有する耐熱層」は、本件明細書の実施例の「帯電防止剤a」と同じであり、その塗布量も本件発明4で特定される「前記コーティング層の帯電防止剤の有効成分の塗布量が、0.0012g/m2以上0.015g/m2以下」の範囲内であるから、甲1-1発明の静摩擦係数は、本件発明1の「一方の表面と他方の表面のJIS K7125に準拠して測定した静摩擦係数が、温度23℃、相対湿度50%雰囲気下で0.20以上0.50以下」の範囲内である旨主張する(申立人1の特許異議申立書49~50頁)。 しかし、熱収縮性フィルムの静摩擦係数は、塗布された帯電防止剤の種類、塗布量だけではなく、下層の基材の表面粗さ等も影響するものといえるから、甲1-1発明の静摩擦係数は、「一方の表面と他方の表面のJIS K7125に準拠して測定した静摩擦係数が、温度23℃、相対湿度50%雰囲気下で0.20以上0.50以下」の範囲内になるとは必ずしもいえない。 よって、上記相違点A-2は実質的な相違点であり、本件発明1の上記相違点A-2に係る構成は、甲1-1発明に基いて、当業者が容易に想到し得たものでもない。 オ 以上より、上記相違点A-3について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1-1発明ではなく、また、甲1-1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 カ さらに、本件発明2~7、9~11は、本件発明1の発明特定事項を全て備えるものであるところ、本件発明1は、甲1-1発明ではなく、また、甲1-1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもないから、本件発明2~7、9~11は、甲1-1発明ではなく、また、本件発明2~11は、甲1-1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 (2)甲1-2を主引用例とする理由 ア 甲1-2には、実施例1の熱収縮性ポリエステル系フィルムに基づく、次の「甲1-2発明」が記載されている。 「ポリエステル系フィルムの片面に、アニオン系界面活性剤を含む塗布層を形成した熱収縮性ポリエステル系フィルムであって、 80℃に加熱した水槽に10秒間浸漬したときのフィルムの主収縮方向の収縮率が32%、 JIS K7105に準拠して測定したヘーズが6.9%、 フィルムの少なくとも片面の表面固有抵抗値が温度23℃、相対湿度30%雰囲気下で3.1×1011(Ω/□)、温度23℃、相対湿度65%雰囲気下で2.6×109(Ω/□)、 フィルムの少なくとも片面同士のJIS K-7125法に準じて測定した動摩擦係数が、温度23℃、相対湿度65%雰囲気下で0.28である、熱収縮性ポリエステル系フィルム。」 イ 本件発明1と甲1-2発明を対比すると、甲1-2発明の「ポリエステル系フィルム」は、本件発明1の「熱可塑性樹脂を主成分として含む層」に相当し、甲1-2発明の「アニオン系界面活性剤を含む塗布層」と本件発明1の「帯電防止剤を含有する層」とは、「界面活性剤を含有する層」という限りで一致する。 そうすると、本件発明1と甲1-2発明とは、 「熱可塑性樹脂を主成分として含む層の少なくとも一方の面に界面活性剤を含有する層を配し、 c)80℃の温水中に10秒間浸漬したときの主収縮方向の収縮率が20%以上である、熱収縮性フィルム。」で一致し、以下の点で相違する。 《相違点B-1》 「界面活性剤を含有する層」に関して、本件発明1が「帯電防止剤を含有する層」であり、「a)帯電防止剤を含有する層の表面抵抗率が、温度23℃、相対湿度30%雰囲気下で5.0×1011(Ω/sq)以下、かつ温度23℃、相対湿度50%雰囲気下で1.0×1011(Ω/sq)以下」であるのに対し、甲1-2発明は、「アニオン系界面活性剤を含む塗布層」であり、「フィルムの少なくとも片面の表面固有抵抗値が温度23℃、相対湿度30%雰囲気下で3.1×1011(Ω/□)、温度23℃、相対湿度65%雰囲気下で2.6×109(Ω/□)」である点。 《相違点B-2》 本件発明1が「b)一方の表面と他方の表面のJIS K7125に準拠して測定した静摩擦係数が、温度23℃、相対湿度50%雰囲気下で0.20以上0.50以下」であるのに対し、甲1-2発明は、「フィルムの少なくとも片面同士のJIS K-7125法に準じて測定した動摩擦係数が、温度23℃、相対湿度65%雰囲気下で0.28」であり、静摩擦係数については特定されていない点。 《相違点B-3》 本件発明1が「d)JIS K7136に準拠して測定したヘイズ値が7%以下」であるのに対し、甲1-2発明は「JIS K7105に準拠して測定したヘーズが6.9%」である点。 ウ まず、上記相違点B-1について検討する (ア)表面抵抗値が「温度23℃、相対湿度30%雰囲気下で3.1×1011(Ω/□)、温度23℃、相対湿度65%雰囲気下で2.6×109(Ω/□)」である甲1-2発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムについて、相対湿度50%雰囲気下で測定した場合に、表面抵抗値が「1.0×1011(Ω/sq)以下」になるとは限らず、その範囲内になることを示す証拠も他に提出されていない。 (イ)申立人1は、温度23℃、相対湿度50%雰囲気下での表面抵抗率は、温度23℃、相対湿度30%雰囲気下の値と、温度23℃、相対湿度65%雰囲気下の値の、中間の値となるはずであり、甲1-2発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムの、温度23℃、相対湿度50%雰囲気下での表面抵抗率は、1.0×1011(Ω/sq)以下である蓋然性が高い旨主張する(申立人1の特許異議申立書52頁)。 しかし、甲1-2発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムの、温度23℃相対湿度65%雰囲気下の表面抵抗率は2.6×109(Ω/□)、相対湿度30%雰囲気下の表面抵抗率は3.1×1011(Ω/□)であるが、相対湿度50%雰囲気下での表面抵抗率が、それらの中間の値になるとは限らないし、1.0×1011(Ω/sq)以下になることを示す証拠は提出されていない。 よって、上記相違点B-1は実質的な相違点であり、本件発明1の上記相違点B-1に係る構成は、甲1-2発明に基いて、当業者が容易に想到し得たものでもない。 エ 次に、上記相違点B-2について検討する。 (ア)動摩擦係数が「温度23℃、相対湿度65%雰囲気下で0.28」の甲1-2発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムについて、温度23℃、相対湿度50%雰囲気下で測定した場合に、静摩擦係数が「0.20以上0.50以下」になるとは限らず、その範囲内になることを示す証拠も他に提出されていない。 (イ)申立人1は、甲1-3の実施例1記載の熱収縮性ポリエステル系フィルムは、温度23℃、相対湿度65%雰囲気下で測定した動摩擦係数の値が0.20、温度23℃、相対湿度50%雰囲気下で測定した動摩擦係数の値が0.23であり、両者の差が0.03であること、また、甲1-4の実施例1~7記載の熱収縮性帯電防止ポリエステルフィルムについて、(静摩擦係数)と(動摩擦係数)の差は、0.01~0.03の範囲内であることから、甲1-2発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムの相対湿度50%雰囲気下の静摩擦係数を測定した場合には、「0.20以上0.50以下」の範囲内となる蓋然性が高い旨主張する(申立人1の特許異議申立書53頁)。 しかし、相対湿度が50%と65%の差、静摩擦係数と動摩擦係数の差が、申立人1が主張するような範囲内に収まる理由はないから、相対湿度65%雰囲気下での動摩擦係数が「0.28」である甲1-2発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムについて、相対湿度50%雰囲気下の静摩擦係数が、「0.20以上0.50以下」の範囲内となるとは必ずしもいえない。 (ウ)よって、上記相違点B-2は実質的な相違点であり、本件発明1の上記相違点B-2に係る構成は、甲1-2発明に基いて、当業者が容易に想到し得たものでもない。 オ 以上より、上記相違点B-3について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1-2発明ではなく、また、甲1-2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 カ さらに、本件発明2~7、9~11は、本件発明1の発明特定事項を全て備えるものであるところ、本件発明1は、甲1-2発明ではなく、また、甲1-2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもないから、本件発明2~7、9~11は、甲1-2発明ではなく、また、本件発明2~11は、甲1-2発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 (3)甲1-3を主引用例とする理由 ア 甲1-3には、実施例1の熱収縮性ポリエステル系フィルムに基づく、次の「甲1-3発明」が記載されている。 「ポリエステル系フィルムの片面に、アミノ酸系両性界面活性剤よりなる帯電防止剤を含む塗布層を形成した熱収縮性ポリエステル系フィルムであって、 85℃に加熱した水槽に10秒間浸漬したときのフィルムの主収縮方向の収縮率が61%、 フィルムの表面固有抵抗値が温度23℃、相対湿度30%雰囲気下で3.1×1011(Ω/□)、温度23℃、相対湿度65%雰囲気下で4.4×109(Ω/□)、 フィルムのコート面同士のJIS K-7125に準拠して測定した動摩擦係数が、温度23℃、相対湿度65%雰囲気下で0.20、温度23℃、相対湿度50%雰囲気下で0.23、 ヘーズが5.5%である、熱収縮性ポリエステル系フィルム。」 イ 本件発明1と甲1-3発明を対比すると、甲1-3発明の「ポリエステル系フィルム」は、本件発明1の「熱可塑性樹脂を主成分として含む層」に相当し、甲1-3発明の「アミノ酸系両性界面活性剤よりなる帯電防止剤を含む塗布層」は、本件発明1の「帯電防止剤を含有する層」に相当する。 そうすると、本件発明1と甲1-3発明とは、 「熱可塑性樹脂を主成分として含む層の少なくとも一方の面に帯電防止剤を含有する層を配した、熱収縮性フィルム。」で一致し、以下の点で相違する。 《相違点C-1》 本件発明1が、「a)帯電防止剤を含有する層の表面抵抗率が、温度23℃、相対湿度30%雰囲気下で5.0×1011(Ω/sq)以下、かつ温度23℃、相対湿度50%雰囲気下で1.0×1011(Ω/sq)以下」であるのに対し、甲1-3発明は、「フィルムの少なくとも片面の表面固有抵抗値が温度23℃、相対湿度30%雰囲気下で3.1×1011(Ω/□)、温度23℃、相対湿度65%雰囲気下で2.6×109(Ω/□)」である点。 《相違点C-2》 本件発明1が「b)一方の表面と他方の表面のJIS K7125に準拠して測定した静摩擦係数が、温度23℃、相対湿度50%雰囲気下で0.20以上0.50以下」であるのに対し、甲1-3発明は「フィルムのコート面同士のJIS K-7125に準拠して測定した動摩擦係数が、温度23℃、相対湿度65%雰囲気下で0.20、温度23℃、相対湿度50%雰囲気下で0.23」である点。 《相違点C-3》 本件発明1が「c)80℃の温水中に10秒間浸漬したときの主収縮方向の収縮率が20%以上」であるのに対し、甲1-3発明は「85℃に加熱した水槽に10秒間浸漬したときのフィルムの主収縮方向の収縮率が61%」である点。 《相違点C-4》 本件発明1が「d)JIS K7136に準拠して測定したヘイズ値が7%以下」であるのに対し、甲1-3発明は「JIS K7105に準拠して測定したヘーズが6.9%」である点。 ウ まず、上記相違点C-1について検討する (ア)表面抵抗値が「温度23℃、相対湿度30%雰囲気下で3.1×1011(Ω/□)、温度23℃、相対湿度65%雰囲気下で2.6×109(Ω/□)」である甲1-3発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムについて、相対湿度50%雰囲気下で測定した場合に、表面抵抗値が「1.0×1011(Ω/sq)以下」になるとは限らず、その範囲内になることを示す証拠も他に提出されていない。 (イ)申立人1は、温度23℃、相対湿度50%雰囲気下での表面抵抗率は、温度23℃、相対湿度30%雰囲気下の値と、温度23℃、相対湿度65%雰囲気下の値の、中間の値となるはずであり、甲1-3発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムの、温度23℃、相対湿度50%雰囲気下での表面抵抗率は、1.0×1011(Ω/sq)以下である蓋然性が高い旨主張する(申立人1の特許異議申立書55~56頁)。 しかし、甲1-3発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムの、温度23℃、相対湿度65%雰囲気下の表面抵抗率は4.4×109(Ω/□)、相対湿度30%雰囲気下の表面抵抗率は3.1×1011(Ω/□)であるが、相対湿度50%雰囲気下での表面抵抗率が、それらの中間の値になるとは限らないし、1.0×1011(Ω/sq)以下になることを示す証拠は提出されていない。 (ウ)よって、上記相違点C-1は実質的な相違点であり、本件発明1の上記相違点C-1に係る構成は、甲1-3発明に基いて、当業者が容易に想到し得たものでもない。 エ 次に、上記相違点C-2について検討する。 (ア)動摩擦係数が「温度23℃、相対湿度50%雰囲気下で0.23」の甲1-3発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムについて、同じ温度23℃、相対湿度50%雰囲気下で静摩擦係数を測定した場合に、静摩擦係数が、「0.20以上0.50以下」になるとは必ずしもいえず、その範囲内になることを示す証拠も他に提出されていない。 (イ)申立人1は、本件特許の実施例及び比較例を参酌すると、帯電防止剤の種類に関わらず、帯電防止層が塗布量0.001~0.020(g/m2)で塗布された熱収縮性フィルムにおける、温度23℃、相対湿度50%雰囲気下での静摩擦係数の値は0.18~0.35の範囲内であり、甲1-3発明の塗布層の塗布量は、0.004(g/m2)であることからすれば、甲1-3発明の温度23℃、相対湿度50%雰囲気下での静摩擦係数の値が、「0.20以上0.50以下」の範囲内である蓋然性が高い旨主張する(申立人1の特許異議申立書56~57頁)。 しかし、静摩擦係数の値は、帯電防止剤の種類や塗布量のみで決まるのではなく、基材の表面粗さ等も影響することは明らかであるから、本件特許の実施例及び比較例のものと、甲1-3発明のものとで、帯電防止剤の種類や塗布量が近似しているからといって、温度23℃、相対湿度50%雰囲気下での静摩擦係数の値まで、「0.20以上0.50以下」の範囲内になるとは必ずしもいえない。 (ウ)よって、上記相違点C-2は実質的な相違点であり、本件発明1の上記相違点C-2に係る構成は、甲1-3発明に基いて、当業者が容易に想到し得たものでもない。 オ 以上より、上記相違点C-3、C-4について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1-3発明ではなく、また、甲1-3発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 カ さらに、本件発明3、4、6~11は、本件発明1の発明特定事項を全て備えるものであるところ、本件発明1は、甲1-3発明ではなく、また、甲1-3発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもないから、本件発明3、4、6、7、9~11は、甲1-3発明ではなく、また、本件発明3、4、6~11は、甲1-3発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 (4)甲2-1を主引用例とする理由 ア 甲2-1には、実施例1の熱収縮性ポリエステル系フィルムに基づく、次の「甲2-1発明」が記載されている。 「テレフタル酸100モル%とネオペンチルグリコール30モル%とエチレングリコール70モル%とからなるポリエステルを主成分として含む層の片面に、帯電防止剤であるアミノ酸系両性界面活性剤を含有する塗布層を配した、熱収縮性ポリエステル系フィルムであって、 帯電防止剤を含有する層の表面抵抗率が、温度23℃、相対湿度30%雰囲気下で2.1×1011(Ω/sq)、かつ、温度23℃、相対湿度65%雰囲気下で4.4×109(Ω/sq)、 フィルムのコート面同士のJIS K7125に準拠して測定した動摩擦係数が、温度23℃、相対湿度50%雰囲気下で0.22、 85℃の温水中に10秒間浸漬したときの主収縮方向の収縮率が61%、 JIS K6714に準拠して測定したヘイズ値が5.3%である、熱収縮性ポリエステル系フィルム。」 イ 本件発明1と甲2-1発明を対比すると、甲2-1発明の「ポリエステルを主成分として含む層」は、本件発明1の「熱可塑性樹脂を主成分として含む層」に相当し、甲2-1発明の「帯電防止剤であるアミノ酸系両性界面活性剤を含有する塗布層」は、本件発明1の「帯電防止剤を含有する層」に相当する。 そうすると、本件発明1と甲2-1発明とは、 「熱可塑性樹脂を主成分として含む層の少なくとも一方の面に帯電防止剤を含有する層を配した、熱収縮性フィルム。」で一致し、以下の点で相違する。 《相違点D-1》 本件発明1が、「a)帯電防止剤を含有する層の表面抵抗率が、温度23℃、相対湿度30%雰囲気下で5.0×1011(Ω/sq)以下、かつ温度23℃、相対湿度50%雰囲気下で1.0×1011(Ω/sq)以下」であるのに対し、甲2-1発明は、「温度23℃、相対湿度30%雰囲気下で2.1×1011(Ω/sq)、かつ、温度23℃、相対湿度65%雰囲気下で4.4×109(Ω/sq)」である点。 《相違点D-2》 本件発明1が「b)一方の表面と他方の表面のJIS K7125に準拠して測定した静摩擦係数が、温度23℃、相対湿度50%雰囲気下で0.20以上0.50以下」であるのに対し、甲2-1発明は「フィルムのコート面同士のJIS K7125に準拠して測定した動摩擦係数が、温度23℃、相対湿度50%雰囲気下で0.22」である点。 《相違点D-3》 本件発明1が「c)80℃の温水中に10秒間浸漬したときの主収縮方向の収縮率が20%以上」であるのに対し、甲2-1発明は「85℃の温水中に10秒間浸漬したときの主収縮方向の収縮率が61%」である点。 《相違点D-4》 本件発明1が「d)JIS K7136に準拠して測定したヘイズ値が7%以下」であるのに対し、甲2-1発明は「JIS K6714に準拠して測定したヘイズ値が5.3%」である点。 ウ まず、上記相違点D-1について検討する (ア)表面抵抗値が、「温度23℃、相対湿度30%雰囲気下で2.1×1011(Ω/sq)、かつ、温度23℃、相対湿度65%雰囲気下で4.4×109(Ω/sq)」である甲2-1発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムについて、相対湿度50%雰囲気下で測定した場合に、表面抵抗値が「1.0×1011(Ω/sq)以下」になるとは限らず、その範囲内になることを示す証拠も他に提出されていない。 (イ)申立人2は、本件発明1の相対湿度50%雰囲気下の値と相対湿度30%雰囲気下の値との関係と、甲2-1発明の相対湿度65%雰囲気下の値と相対湿度30%雰囲気下の値との関係を整理したグラフ(甲2-3)から、甲2-1発明の相対湿度50%雰囲気下の表面抵抗率は、1.0×1011(Ω/sq)以下である旨主張する(申立人2の特許異議申立書27頁)。 しかし、甲2-1発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムと本件発明1の熱収縮性フィルムとは全く別物であるから、本件発明1の相対湿度50%雰囲気下の値と相対湿度30%雰囲気下の値との関係に基づき、甲2-1発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムの相対湿度50%雰囲気下の表面抵抗率を予測することはできず、温度23℃、相対湿度50%雰囲気下での表面抵抗率が1.0×1011(Ω/sq)以下になるとは、必ずしもいえるものではない。 (ウ)よって、上記相違点D-1は実質的な相違点であり、本件発明1の上記相違点D-1に係る構成は、甲2-1発明に基いて、当業者が容易に想到し得たものでもない。 エ 次に、上記相違点D-2について検討する。 (ア)動摩擦係数が「温度23℃、相対湿度50%雰囲気下で0.22」の甲2-1発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムについて、同じ温度23℃、相対湿度50%雰囲気下で静摩擦係数を測定した場合に、静摩擦係数が、「0.20以上0.50以下」になるとは必ずしもいえず、その範囲内になることを示す証拠も他に提出されていない。 (イ)申立人2は、甲2-4の実施例1~7と比較例1~4で製造した熱収縮性フィルムは、全て、本件発明1と同じ、熱可塑性樹脂を主成分として含む層の少なくとも一方の面に、帯電防止剤を含有する層を配したものであるところ、甲2-4の表2に示されるように、静摩擦係数は動摩擦係数より少し大きくなる傾向があり、甲2-1発明の温度23℃相対湿度50%雰囲気下の静摩擦係数は、甲2-4の表2からみて、甲2-1発明の動摩擦係数である0.22より少し大きいが、0.5は超えない旨主張する(申立人2の特許異議申立書28頁)。 しかし、甲2-1発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムと甲2-4の熱収縮性帯電防止ポリエステルフィルムとは全く別物であるから、静摩擦係数と動摩擦係数の差の傾向について、甲2-4の熱収縮性帯電防止ポリエステルフィルムでの傾向が、甲2-1発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムに当てはまるとする理由はなく、甲2-1発明の、温度23℃、相対湿度50%雰囲気下での静摩擦係数の値が「0.20以上0.50以下」の範囲内になるとは必ずしもいえない。 (ウ)よって、上記相違点D-2は実質的な相違点であり、本件発明1の上記相違点D-2に係る構成は、甲2-1発明に基いて、当業者が容易に想到し得たものでもない。 オ 以上より、上記相違点D-3、D-4について検討するまでもなく、本件発明1は、甲2-1発明ではなく、また、甲2-1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 カ さらに、本件発明3、5~11は、本件発明1の発明特定事項を全て備えるものであるところ、本件発明1は、甲2-1発明ではなく、また、甲2-1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもないから、本件発明3、5~11は、甲2-1発明ではなく、また、本件発明3、5~11は、甲2-1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 (5)甲2-2を主引用例とする理由 ア 甲2-2には、実施例1の熱収縮性ポリエステル系フィルムに基づく、次の「甲2-2発明」が記載されている。 「テレフタル酸とエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,4-ブタンジオールの共重合ポリエステルを主成分として含む層の表面に、ドデシルスルホネートであるアニオン系帯電防止剤を含有する層を、帯電防止剤量0.004g/m2で配した、熱収縮性ポリエステル系フィルムであって、 帯電防止剤を含有する層の表面抵抗率が、温度23℃、相対湿度65%雰囲気下で9(logΩ)、 80℃の温水中に10秒間浸漬したときの主収縮方向の収縮率が22.0%、 JIS K7136に準拠して測定したヘイズ値が5.6%である、熱収縮性ポリエステル系フィルム。」 イ 本件発明1と甲2-2発明を対比すると、甲2-2発明の「共重合ポリエステルを主成分として含む層」は、本件発明1の「熱可塑性樹脂を主成分として含む層」に相当し、甲2-2発明の「ドデシルスルホネートであるアニオン系帯電防止剤を含有する層」は、本件発明1の「帯電防止剤を含有する層」に相当する。 そうすると、本件発明1と甲2-2発明とは、 「熱可塑性樹脂を主成分として含む層の少なくとも一方の面に帯電防止剤を含有する層を配し、80℃の温水中に10秒間浸漬したときの主収縮方向の収縮率が20%以上、JIS K7136に準拠して測定したヘイズ値が7%以下である、熱収縮性フィルム。」で一致し、以下の点で相違する。 《相違点E-1》 本件発明1が、「a)帯電防止剤を含有する層の表面抵抗率が、温度23℃、相対湿度30%雰囲気下で5.0×1011(Ω/sq)以下、かつ温度23℃、相対湿度50%雰囲気下で1.0×1011(Ω/sq)以下」であるのに対し、甲2-2発明は、「温度23℃、相対湿度65%雰囲気下で9(logΩ)」である点。 《相違点E-2》 本件発明1が「b)一方の表面と他方の表面のJIS K7125に準拠して測定した静摩擦係数が、温度23℃、相対湿度50%雰囲気下で0.20以上0.50以下」であるのに対し、甲2-2発明は静摩擦係数について特定されていない点。 ウ 上記相違点E-1及び相違点E-2について検討する。 申立人2は、これらの相違点について、「甲2発明は、本件特許明細書実施例と、類似の原料を用いて類似の製法で、熱収縮性フィルムを製造している。従って、甲2発明は、本件特許明細書実施例と同様の表面抵抗率と静摩擦係数を有する蓋然性が高い。従って、相違点5,6は実質的な相違点ではない。」旨主張する(申立人2の特許異議申立書32頁)。 しかし、本件発明1の熱収縮性フィルムと甲2-2発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムとで、フィルムの原料、製法は同じではないから、帯電防止剤を含有する層の表面抵抗率と静摩擦係数が、必ずしも同様の値になるとはいえない。また、甲2-2発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムの表面抵抗率と静摩擦係数が、本件発明1のものと同様の値となることを示唆する証拠も他に提出されていない。 よって、上記相違点E-1及び相違点E-2は実質的な相違点であり、本件発明1の上記相違点E-1及び相違点E-2に係る構成は、甲2-2発明に基いて、当業者が容易に想到し得たものでもない。 エ 以上より、本件発明1は、甲2-2発明ではなく、また、甲2-2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 オ さらに、本件発明2~11は、本件発明1の発明特定事項を全て備えるものであるところ、本件発明1は、甲2-2発明ではなく、また、甲2-2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもないから、本件発明2~11は、甲2-2発明ではなく、また、本件発明2~11は、甲2-2発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 2 記載不備に係る申立理由について (1)実施可能要件に係る申立理由 ア 明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであることを要するものである(特許法第36条第4項第1号)。本件発明は、「熱収縮性フィルム」という物の発明であるところ、物の発明における発明の「実施」とは、その物の生産、使用等をする行為をいうから(特許法第2条第3項第1号)、物の発明について実施をすることができるとは、その物を生産することができ、かつ、その物を使用することができることであると解される。 したがって、当業者が、本件特許の発明の詳細な説明の記載及び出願当時の技術常識に基づいて、本件発明に係る「熱収縮性フィルム」を生産し、使用することができるのであれば、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たすものといえる。 イ 本件特許の発明の詳細な説明を参照すると、熱収縮性フィルムを生産するための熱可塑性樹脂層及び帯電防止層の材料が例示され、実施例1~5で、実際に熱収縮性フィルムを生産して、要求品質を満たして使用できることが示されているから、本件特許の発明の詳細な説明は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしている。 ウ 申立人1は、「発明の詳細な説明からは、限られた所定の界面活性剤でのみ本件発明の構成要件を全て満足できることは明らかであり、本件特許の実施礼に記載されている実施の形態以外の部分を実施することができない」 旨(理由1-3)、申立人2は、「当業者は、発明の詳細な説明の実施例以外において、どのようにして本件発明を実施できるかわからず、過度の試行錯誤を要するものである」旨(理由2-3)、それぞれ主張する。 しかし、当業者であれば、発明の詳細な説明の記載を参考にして、実施例以外の態様でも、本件発明の「熱収縮性フィルム」を生産し、使用することができるものといえるから、上記理由1-3及び理由2-3には、理由がない。 (2)サポート要件に係る申立理由 ア 特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定される要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。 イ そこで、本件明細書の発明の詳細な説明を参照すると、「透明性、光沢性、特に低湿度環境下においても帯電防止性に優れ、印刷加工性に優れた熱収縮性フィルムを提供すること」(段落【0009】)の本件発明が解決しようとする課題に対して、発明の詳細な説明には、以下の記載がある。 「【0081】 <表面抵抗率> 本発明のフィルムの帯電防止剤を含有する層の表面抵抗率は、温度23℃、相対湿度30%雰囲気下で、5.0×1011(Ω/sq)以下であり、好ましくは4.7×1011(Ω/sq)以下、より好ましくは4.5×1011(Ω/sq)以下である。温度23℃、相対湿度30%雰囲気下での表面抵抗率が上記数値以下であれば、帯電防止性能が充分となり、印刷加工性が向上する。 【0082】 また、本発明のフィルムの帯電防止剤を含有する層の表面抵抗率は、温度23℃、相対湿度50%雰囲気下で、1.0×1011(Ω/sq)以下であり、好ましくは8.0×1010(Ω/sq)以下であり、より好ましくは5.0×1010(Ω/sq)以下である。温度23℃、相対湿度50%雰囲気下での表面抵抗率が上記数値以下であれば、帯電防止性能が充分となり、印刷加工性が向上する。 【0083】 <静摩擦係数> 本発明のフィルムは、フィルムの一方の表面と他方の表面との静摩擦係数が、JIS K7125に準拠して、温度23℃、相対湿度50%雰囲気下で、0.20以上であり、好ましくは0.22以上であり、特に好ましくは0.23以上であり、0.50以下であり、好ましくは0.45以下であり、特に好ましくは0.40以下である。静摩擦係数が上記数値以上であれば、フィルムロールとしたときに巻きずれが起こりにくくなる傾向があり、静摩擦係数が上記数値以下であれば、フィルムロールとしたときにシワや凹凸が入り難く、フィルムロールを繰り出しやすくなり作業性が向上する。 【0084】 <熱収縮率> 本発明のフィルムは、80℃の温水中に10秒間浸漬したときの主収縮方向の熱収縮率が20%以上である。収縮率の下限値は25%以上であることが好ましく、30%以上がより好ましい。上限値としては特に制限はされないが、一般的には70%以下であることが好ましく、65%以下がより好ましく、60%以下がさらに好ましい。80℃の主収縮方向の熱収縮率が20%未満であると、フィルムを熱収縮させた際に、容器の首部や天面において熱収縮が不充分となることがある。・・・・ 【0085】 <ヘイズ値> 本発明のフィルムの透明性はJIS K7136に準拠して測定されたヘイズ値により評価され、ヘイズ値は7%以下である。好ましくは6.5%以下、特に好ましくは6%以下である。ヘイズ値が上記数値以下であれば、良好な透明性を得られ、美麗な印刷等が可能となる。」 ウ これらの記載から、本件発明が、発明の詳細な説明の記載により当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえるから、本件発明は、発明の詳細な説明に記載された発明である。 エ 申立人1は、「本件発明の解決しようとする課題は、限られた所定の界面活性剤でのみ解決できると解されるところ、本件発明には、発明の課題を解決するための手段が反映されていない」旨(理由1-4)、申立人2は、「発明の詳細な説明の実施例には、熱可塑性樹脂が3種類、帯電防止剤が2種類の場合のみ記載されており、実施例の記載から本件発明まで拡張又は一般化できず、または、本件発明には、発明の課題を解決するための手段が反映されていない」旨(理由2-4)、それぞれ主張する。 しかし、本件発明は、当業者であれば、発明の詳細な説明の記載から、発明の課題を解決できると認識できる範囲のものといえるから、上記理由1-4及び理由2-4には、理由がない。 3 むすび 以上のとおり、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件発明1~11に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件発明1~11に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2021-700428

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