特許異議申立
2021-700779
熱収縮性フィルム、それを用いた成形品、熱収縮性ラベル、及び容器
- 審判番号
- 2021-700779
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2020-171436
- 登録番号
- 6828846
- 請求日
- 2021年08月06日
- 審決日
- 2022年06月07日
- 公報発行日
- 2022年09月30日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】三菱ケミカル株式会社
- 【権利者代理人】西藤 征彦
- 【権利者代理人】井▲崎▼ 愛佳
- 【権利者代理人】西藤 優子
- 【権利者代理人】寺尾 茂泰
- 【異議申立人】藤下 万実
- 【異議申立人】平居 博美
- 審判長/審判官
- 審判長 久保 克彦
- 審判官 塩治 雅也
- 審判官 井上 茂夫
- 分類
- P1651.113-YAA(B32B) / P1651.121-YAA(B32B) / P1651.536-YAA(B32B) / P1651.537-YAA(B32B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第113条第2号、特許法第29条第2項、特許法第36条第4項第1号、特許法第29条第1項第3号、特許法第113条第4号、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第5項、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第2項、特許法第39条第2項、特許法第2条第3項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6828846号発明「熱収縮性フィルム、それを用いた成形品、熱収縮性ラベル、及び容器」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第6828846号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔7-10、12-14〕について訂正することを認める。
特許第6828846号の請求項1ないし14に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第6828846号(以下「本件特許」という。)の請求項1~14に係る特許についての出願は、令和2年3月9日を出願日とする特願2020-39926の一部を、令和2年10月9日に、新たな特許出願としたものであって、令和3年1月25日にその特許権の設定登録(特許掲載公報発行:令和3年2月10日)がされた。
その後、令和3年8月6日に、特許異議申立人藤下万実(以下「申立人1」という。)及び特許異議申立人平居博美(以下「申立人2」という。)により、特許異議の申立てがされ、令和3年11月24日に申立人2により、上申書が提出され、令和4年1月28日付けで取消理由が通知され、令和4年4月1日に訂正請求書及び意見書が提出されたものである。
そして、下記第2の1のとおり、令和4年4月1日にされた訂正請求は、実質的に訂正が一部の請求項の削除のみであるので、特許法第120条の5第5項に定める特別な事情に該当し、申立人1及び申立人2に意見書の提出の機会は与えなかった。
第2 本件訂正
1 訂正の内容
令和4年4月1日提出の訂正請求書による訂正の請求(以下「本件訂正請求」といい、訂正自体を「本件訂正」という)は、特許第6828846号の特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項7~10、12~14について訂正することを求める、というものであって、その内容は以下のとおりである。なお、下線は訂正箇所を示す。
(1)訂正事項1
本件訂正前の請求項7の「帯電防止剤を含有する層の表面抵抗率が温度23℃、相対湿度30%雰囲気下で5.0×1011(Ω/sq)以下、かつ温度23℃、相対湿度50%雰囲気下で1.0×1011(Ω/sq)以下である、請求項2~6のいずれか一項に記載の熱収縮性フィルム。」と記載されているのを、「帯電防止剤を含有する層の表面抵抗率が温度23℃、相対湿度30%雰囲気下で5.0×1011(Ω/sq)以下、かつ温度23℃、相対湿度50%雰囲気下で1.0×1011(Ω/sq)以下である、請求項2、4~6のいずれか一項に記載の熱収縮性フィルム。」に訂正する。
請求項7を直接的又は間接的に引用する請求項8~10、12~14も同様に訂正する。
2 訂正要件の判断
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、本件訂正前は、請求項3を引用する請求項7を、本件訂正は、請求項3を引用しないものとするものであり、請求項の引用の組み合わせを減らす訂正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものに該当しない。
また、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。
(2)一群の請求項
本件訂正前の請求項7~10、12~14は、請求項7を直接的又は間接的に引用するものであり、請求項7の記載の訂正に連動して訂正されるものであるから、本件訂正は、特許法120条の5第4項に規定する一群の請求項に対して請求するものである。
(3)小括
以上のとおりであるから、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものに該当し、同条第4項、並びに、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
よって、特許請求の範囲を、本件訂正の訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり訂正することを認める。
第3 本件特許発明
本件特許の請求項1~14に係る発明(以下「本件発明1」等という。本件発明1~14を、まとめて「本件発明」ともいう。)は、それぞれ、その本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1~14に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「【請求項1】
熱可塑性樹脂を主成分として含む層の少なくとも一方の面に帯電防止剤を含有する層を配した熱収縮性フィルムであって、以下a)~d)を満たす熱収縮性フィルム。
a)帯電防止剤を含有する層のJIS L1094に準拠して測定した帯電圧半減期が、温度23℃、相対湿度50%雰囲気下で5秒以下
b)一方の表面と他方の表面のJIS K7125に準拠して測定した静摩擦係数が、温度23℃、相対湿度50%雰囲気下で0.20以上0.50以下
c)80℃の温水中に10秒間浸漬したときの主収縮方向の収縮率が20%以上
d)JIS K7136に準拠して測定したヘイズ値が7%以下
【請求項2】
前記熱可塑性樹脂を主成分として含む層の厚さが10μm以上である、請求項1に記載の熱収縮性フィルム。
【請求項3】
前記熱可塑性樹脂が芳香族ポリエステル系樹脂またはポリ乳酸系樹脂である、請求項1または2に記載の熱収縮性フィルム。
【請求項4】
前記芳香族ポリエステル系樹脂が共重合芳香族ポリエステル系樹脂である、請求項3に記載の熱収縮性フィルム。
【請求項5】
前記熱可塑性樹脂が共重合芳香族ポリエステル系樹脂であり、共重合成分におけるテレフタル酸の配合量が、ジカルボン酸成分の総量100モル%に対し、60モル%以上である請求項1または2に記載の熱収縮性フィルム。
【請求項6】
前記共重合芳香族ポリエステル系樹脂が、共重合成分として1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、1,3-プロパンジオール、およびイソフタル酸からなる群から選ばれる少なくとも一種を含む、請求項5に記載の熱収縮性フィルム。
【請求項7】
帯電防止剤を含有する層の表面抵抗率が温度23℃、相対湿度30%雰囲気下で5.0×1011(Ω/sq)以下、かつ温度23℃、相対湿度50%雰囲気下で1.0×1011(Ω/sq)以下である、請求項2、4~6のいずれか一項に記載の熱収縮性フィルム。
【請求項8】
前記帯電防止剤が、帯電防止剤の総量を100質量%としたとき、帯電防止剤総量に対しカチオン系帯電防止剤および、アニオン系帯電防止剤の少なくとも一方が35質量%以上である、請求項2~7のいずれか一項に記載の熱収縮性フィルム。
【請求項9】
前記帯電防止剤を含有する層が、コーティング層である請求項2~8のいずれか一項に記載の熱収縮性フィルム。
【請求項10】
前記コーティング層の帯電防止剤の有効成分の塗布量が、0.0012g/m2以上0.015g/m2以下である、請求項9記載の熱収縮性フィルム。
【請求項11】
前記熱可塑性樹脂がポリ乳酸系樹脂であり、重量(質量)平均分子量は、20,000以上である、請求項1~3のいずれか一項に記載の熱収縮性フィルム。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか一項に記載の熱収縮フィルムを基材として用いた成形品。
【請求項13】
請求項1~11のいずれか一項に記載の熱収縮性フィルムを基材として用いた熱収縮性ラベル。
【請求項14】
請求項12に記載の成形品または請求項13に記載の熱収縮性ラベルを装着した容器。」
第4 取消理由通知に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
訂正前の請求項7~10、12~14に係る特許に対して、当審が特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
(同日出願)本件特許の請求項7~10、12~14に係る発明は、同日出願された下記の出願に係る発明と同一と認められ、かつ、当該同日出願に係る発明は特許されており協議を行うことができないものであり、特許法第39条第2項の規定に違反して特許されたものであるから、当該特許は、特許法第113条第2号の規定により取り消すべきものである。
出願1:特願2020-39926号(特許第6780794号)(申立人1が提出した甲第8号証に係る出願)
2 当審の判断
取消理由の対象とされた、本件訂正前の請求項1を直接的に引用した請求項3を直接的に引用した請求項7、及び本件訂正前の請求項1を直接的に引用した請求項3を直接的に引用した請求項7を直接的又は間接的に引用した請求項8~10、12~14は、訂正事項1により削除された。よって、取消理由の対象とされた請求項は存在しないものとなった。
第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
1 申立理由の概要
(1)申立人1は、次の甲第1号証~甲第7号証、甲第9号証(以下「甲1-1」~「甲1-7」、「甲1-9」という。)を提出して、以下の理由1-1~理由1-4を申立てている。
甲1-1:特開2005-335368号公報
甲1-2:特開2009-160776号公報
甲1-3:熱収縮性フィルムの帯電防止剤を含有する層における、相対湿度に対する表面固有抵抗(表面抵抗率)の関係を示すグラフ
甲1-4:特開2004-137356号公報
甲1-5:「JIS規格詳細表示 JIS6714」、[online]、2017年、日本産業標準調査会、[2021年4月21日検索]、インターネット<URL:https://www.jisc.go.jp/app/jis/general/GnrDisuseJISStandardList?toGnrJISStandardDetailDisuseStandardList>
甲1-6:「軟包装印刷の日新シール工業株式会社 主な製品」、[online]、2013年、日新シール工業株式会社、[2021年4月26日検索]、インターネット<URL:http://www.nissinseal.co.jp/works/product.html>
甲1-7:特開2007-197527号公報
甲1-9:実験成績証明書
ア 理由1-1(新規性)、理由1-2(進歩性)
(ア)本件発明1~7、9、12~14は、甲1-1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当するものであり、あるいは、本件発明1~7、9、12~14は、甲1-1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反するものであり、本件発明1~7、9、12~14に係る特許は、特許法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。
(イ)本件発明1~10、12~14は、甲1-2に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当するものであり、あるいは、本件発明1~10、12~14は、甲1-2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反するものであり、本件発明1~10、12~14に係る特許は、特許法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。
イ 理由1-3(実施可能要件)
本件特許明細書の【発明を実施するための形態】において、所定の特性を有するための方法について具体的な記載はほとんどない。僅か、段落0087に「このような物性を有する本発明のフィルムは、例えば、コーティング層における帯電防止剤の有効成分の塗布量を0.0012g/m2以上0.015g/m2以下とし、さらに、熱可塑性樹脂層を製造する際に、延伸倍率を1.7倍以上7.0倍以下とすること等により得ることができる。」と記載されているのみであり、本件特許発明1には熱可塑性樹脂も帯電防止剤も全く具体的に特定されていない。当業者は、段落0087の「帯電防止剤の塗布量と延伸倍率」さえ満たせば、本件特許発明が得られるとは到底考えられないので、当業者は、本件特許明細書に記載の実施例以外において、どのようにして本件特許発明を実施できるのかわからず、過度の試行錯誤を要する。
よって、本件特許の発明の詳細な説明は、本件発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていないから、特許法第36条第4項第1号の規定に違反するものであり、本件発明に係る特許は、特許法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。
ウ 理由1-4(サポート要件)
本件特許明細書の実施例は、本件特許発明の課題を解決している。しかし、本件特許発明は、熱可塑性樹脂の種類、帯電防止剤の種類と塗布量、延伸倍率等の特定が無く、非常に広範囲である。一方、実施例で使用した熱可塑性樹脂は3種類であり、帯電防止剤は2種類に過ぎない。すなわち、実施例から本件特許発明まで拡張又は一般化できない、または、本件特許発明には、発明の課題を解決するための手段が反映されていない。
よって、特許法第36条第6項第1号の規定に違反するものであり、本件発明に係る特許は、特許法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。
(2)申立人2は、次の甲第1号証~甲第7号証(以下「甲2-1」~「甲2-7」という。)を提出して、以下の理由2-1~理由2-4を申立てている。
甲2-1:特許第4717596号公報
甲2-2:特開2009-160776号公報
甲2-3:国際公開第2005/092957号
甲2-4:特開2004-137356号公報
甲2-5:特開2002-155151号公報
甲2-6:特開2002-12687号公報
甲2-7:特開2018-21148号公報
ア 理由2-1(新規性)、理由2-2(進歩性)
(ア)本件発明1~10、12~14は、甲2-1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当するものであり、あるいは、本件発明1~14は、甲2-1に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反するものであり、本件発明1~14に係る特許は、特許法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。
(イ)本件発明1~10、12~14は、甲2-2に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当するものであり、あるいは、本件発明1~14、甲2-2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反するものであり、本件発明1~14に係る特許は、特許法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。
(ウ)本件発明1~14は、甲2-3に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反するものであり、本件発明1~14に係る特許は、特許法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。
(エ)本件発明1~14は、甲2-4に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反するものであり、本件発明1~14に係る特許は、特許法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。
(オ)本件発明1~14は、甲2-6に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反するものであり、本件発明1~14に係る特許は、特許法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。
イ 理由2-3(実施可能要件)
本件特許発明の実質的な達成手段は、界面活性剤の塗布量及び延伸倍率を所定の範囲とするものであり(段落0087)、かつ界面活性剤としてアニオン性界面活性剤を使用すれば達成可能であると思われるところ(段落0108の反対解釈)、甲3の比較例1は、アニオン界面活性剤(パラフィンスルホン酸ナトリウム)の塗布量が「0.002g/m2で延伸倍率が3.8倍であって、この達成手段を満足する。
しかしながら、甲3の比較例1は、熱収縮率62%を満たすものの、帯電圧半減期35%(50%の場合、さらに長時間化するものと考えられる)、ヘイズ測定不可という結果を示している(表1)。当業者が本件特許発明明細書の段落0071、0087を参照して、帯電防止剤の塗布量及び延伸倍率を所定範囲に調整しても、本件特許発明は、甲3の比較例1の結果になり得る態様を包含していることから、当業者は、本件特許発明をどのようにすれば実施できるのかが理解できず、実施可能要件を満たしていない。
よって、本件特許の発明の詳細な説明は、本件発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていないから、特許法第36条第4項第1号の規定に違反するものであり、本件発明に係る特許は、特許法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。
ウ 理由2-4(サポート要件)
本件特許発明の課題は、透明性、光沢性においても帯電防止性に優れ、印刷加工性に優れた熱収縮性フィルムを提供することであり(段落0008)、本件特許発明は、「熱可塑性樹脂を主成分として含む層の少なくとも一方の面に帯電防止剤を含有する層を配した熱収縮性フィルムであって、以下a)~d)を満たす熱収縮性フィルム。
a)帯電防止剤を含有する層のJIS L1094に準拠して測定した帯電圧半減期が、温度23℃、相対湿度50%雰囲気下で5秒以下
b)一方の表面と他方の表面のJIS K7125に準拠して測定した静摩擦係数が、温度23℃、相対湿度50%雰囲気下で0.20以上0.50以下
c)80℃の温水中に10秒間浸漬したときの主収縮方向の収縮率が20%以上
d)JIS K7136に準拠して測定したヘイズ値が7%以下」
であることを特定している。
しかし、帯電防止剤の塗布量、延伸倍率を所定範囲に調整することが少なくとも必要であり、さらには、帯電防止剤のアニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤として如何なるものを使用すればよいか、熱可塑性樹脂として如何なるものを使用すればよいか、明らかとなっていない。
よって、本件発明は発明の詳細な説明に記載された範囲を超えるものであって、特許法第36条第6項第1号の規定に違反するものであり、本件発明に係る特許は、特許法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。
2 申立理由についての判断
(1)理由1-1(新規性)、理由2-1(新規性)、理由1-2(進歩性)、理由2-2(進歩性)に係る申立理由について
ア 甲1-1を主引用例とする理由
(ア)甲1-1には、特に、実施例1の熱収縮性ポリエステル系フィルムに着目すると、次の「甲1-1発明」が記載されている。
(甲1-1発明)
「テレフタル酸100モル%とネオペンチルグリコール30モル%とエチレングリコール70モル%とからなるポリエステルを主成分として含む層の片面に帯電防止剤であるアミノ酸系両性界面活性剤を主成分とする塗布層を配した熱収縮性ポリエステル系フィルムであって、
JIS L-1094法に準拠して測定した帯電圧半減期が、温度23℃相対湿度65%雰囲気下で4秒、
フィルムのコート面同士のJIS K7125に準拠して測定した動摩擦係数が、温度23℃、相対湿度50%雰囲気下で0.22、
85℃の温水中に10秒間浸漬したときの主収縮方向の収縮率が61%、
JIS K6714に準拠して測定したヘイズ値が5.3%である、熱収縮性ポリエステル系フィルム。」
(イ)本件発明1と甲1-1発明を対比すると、甲1-1発明の「ポリエステルを主成分として含む層」は、本件発明1の「熱可塑性樹脂を主成分として含む層」に相当し、甲1-1発明の「帯電防止剤であるアミノ酸系両性界面活性剤を含有する塗布層」と本件発明1の「帯電防止剤を含有する層」に相当する。
そうすると、本件発明1と甲1-1発明とは、
「熱可塑性樹脂を主成分として含む層の少なくとも一方の面に帯電防止剤を含有する層を配した、熱収縮性フィルム。」で一致し、以下の点で相違する。
《相違点A-1》
本件発明1が「a)帯電防止剤を含有する層のJIS L1094に準拠して測定した帯電圧半減期が、温度23℃、相対湿度50%雰囲気下で5秒以下」であるのに対して、甲1-1発明は、「JIS L-1094法に準拠して測定した帯電圧半減期が、温度23℃相対湿度65%雰囲気下で4秒」である点。
《相違点A-2》
本件発明1が「b)一方の表面と他方の表面のJIS K7125に準拠して測定した静摩擦係数が、温度23℃、相対湿度50%雰囲気下で0.20以上0.50以下」であるのに対して、甲1-1発明は、「フィルムのコート面同士のJIS K7125に準拠して測定した動摩擦係数が、温度23℃、相対湿度50%雰囲気下で0.22」である点。
《相違点A-3》
本件発明1が「c)80℃の温水中に10秒間浸漬したときの主収縮方向の収縮率が20%以上」であるのに対して、甲1-1発明は、「85℃の温水中に10秒間浸漬したときの主収縮方向の収縮率が61%」である点。
《相違点A-4》
本件発明1が「d)JIS K7136に準拠して測定したヘイズ値が7%以下」であるのに対して、甲1-1発明は「JIS K6714に準拠して測定したヘイズ値が5.3%」である点。
(ウ)まず、相違点A-1について検討する。
帯電圧半減期が「温度23℃相対湿度65%雰囲気下で測定して、4秒」の甲1-1発明の熱収縮性フィルムについて、温度23℃相対湿度50%雰囲気下で帯電圧半減期を測定した場合に帯電圧半減期が、「5秒以下」になるとは必ずしもいえず、その範囲内になることを示す証拠も他に提出されていない。
申立人1は、本件発明の相対湿度50%雰囲気下の表面抵抗率と相対湿度30%雰囲気下の表面抵抗率との関係と、甲1-1に記載された熱収縮性ポリエステル系フィルムにおける、相対湿度65%雰囲気下の表面抵抗率と相対湿度30%雰囲気下の表面抵抗率との関係を整理したグラフ(甲1-3)から、甲1-1に記載された熱収縮性ポリエステル系フィルムの相対湿度50%雰囲気下の表面抵抗率は、1.0×1011(Ω/sq)以下である旨、本件特許明細書表1から、帯電圧半減期は、最初の表面抵抗率が高いと長くなり、表面抵抗率が温度23℃、相対湿度30%雰囲気下で5.0×1011(Ω/sq)以下、かつ温度23℃、相対湿度50%雰囲気下で1.0×1011(Ω/sq)以下である実施例1~5、比較例5では、全て帯電圧半減期は5秒以下であり、表面抵抗率が上記の値ではない比較例1~4は、全て帯電半減期は5秒を超えることから、甲1-1に記載された熱収縮性ポリエステル系フィルムの温度23℃相対湿度50%での表面抵抗率は本件特許発明と同様に低いので、帯電圧半減期も短いはずであり、帯電圧半減期が5秒以下の蓋然性が高い旨主張する(申立人1の特許異議申立書30-31ページ)。
しかし、甲1-1に記載された熱収縮性ポリエステル系フィルムと本件発明の熱収縮性フィルムとは同じフィルムではないから、本件特許の相対湿度50%雰囲気下の表面抵抗率と相対湿度30%雰囲気下の表面抵抗率との関係に基づき、甲1-1に記載された熱収縮性ポリエステル系フィルムの相対湿度50%雰囲気下の表面抵抗率を予測することはできず、湿度23℃、相対湿度50%雰囲気下での表面抵抗率が1.0×1011(Ω/sq)以下になるとは、必ずしもいえないから、上記申立人1の主張は採用できない。
また、甲1-1に記載された熱収縮性ポリエステル系フィルムの温度23℃相対湿度50%での表面抵抗率が本件発明の温度23℃相対湿度50%での表面抵抗率と同様に低いとしても、必ずしも帯電圧半減期も短いとはいえない。
よって、相違点A-1は実質的な相違点であり、本件発明1の相違点A-1に係る構成は、甲1-1発明に基いて、当業者が容易に想到し得たものでもない。
(エ)次に、相違点A-2について検討する。
動摩擦係数が「温度23℃、相対湿度50%雰囲気下で0.22」の甲1-1発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムについて、同じ温度23℃、相対湿度50%雰囲気下で静摩擦係数を測定した場合に静摩擦係数が、「0.20以上0.50以下」になるとは必ずしもいえず、その範囲内になることを示す証拠も他に提出されていない。
申立人1は、甲1-4の実施例1~7と比較例1~4で製造した熱収縮性フィルムは、全て、本件発明1と同じ、熱可塑性樹脂を主成分として含む層の少なくとも一方の面に、帯電防止剤を含有する層を配したものであるところ、甲1-4の表2に示されるように、静摩擦係数は動摩擦係数より少し大きくなる傾向があり、甲1-1発明の温度23℃相対湿度50%雰囲気下の静摩擦係数は、甲1-4の表2からみて、甲1-1発明の動摩擦係数である0.22より少し大きいが、0.5は超えない旨主張する(申立人1の特許異議申立書31ページ)。
しかし、甲1-1発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムと甲1-4の熱収縮性帯電防止ポリエステルフィルムとは同じフィルムではないから、静摩擦係数と動摩擦係数の差の傾向について、甲1-4の熱収縮性帯電防止ポリエステルフィルムでの傾向が、甲1-1発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムに当てはまるとする理由はなく、甲1-1発明の、温度23℃、相対湿度50%雰囲気下での静摩擦係数の値が「0.20以上0.50以下」の範囲内になるとは必ずしもいえない。
よって、相違点A-2は実質的な相違点であり、本件発明1の相違点A-2に係る構成は、甲1-1発明に基いて、当業者が容易に想到し得たものでもない。
(オ)以上より、相違点A-3、相違点A-4について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1-1発明ではなく、また、甲1-1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(カ)さらに、本件発明2~14は、本件発明1の発明特定事項を全て備えるものであるところ、本件発明1は、甲1-1発明ではなく、また、甲1-1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもないから、本件発明2~14は、甲1-1発明ではなく、また、本件発明2~14は、甲1-1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
イ 甲1-2、甲2-2を主引用例とする理由
(ア)甲1-2と甲2-2とは、同一文献であるから、併せて検討する。
甲1-2(甲2-2)には、特に実施例1の熱収縮ポリエステル系フィルムに着目すると、次の「甲1-2発明」が記載されている。
(甲1-2発明)
「テレフタル酸とエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,4-ブタンジオールの共重合ポリエステルを主成分として含む層の表面に、ドデシルスルホネートであるアニオン系帯電防止剤を含有する層を、帯電防止剤量0.004g/m2で配した、熱収縮性ポリエステル系フィルムであって、
80℃の温水中に10秒間浸漬したときの主収縮方向の収縮率が22.0%、
JIS K7136に準拠して測定したヘイズ値が5.6%である、熱収縮性ポリエステル系フィルム。」
(イ)本件発明1と甲1-2発明を対比すると、甲1-2発明の「テレフタル酸とエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,4-ブタンジオールの共重合ポリエステルを主成分として含む層」は、本件発明1の「熱可塑性樹脂を主成分として含む層」に相当し、甲1-2発明の「ドデシルスルホネートであるアニオン系帯電防止剤を含有する層」は、本件発明1の「帯電防止剤を含有する層」に相当する。
そうすると、本件発明1と甲1-2発明とは、
「熱可塑性樹脂を主成分として含む層の少なくとも一方の面に帯電防止剤を含有する層を配し、c)80℃の温水中に10秒間浸漬したときの主収縮方向の収縮率が20%以上、d)JIS K7136に準拠して測定したヘイズ値が7%以下である、熱収縮性フィルム。」で一致し、以下の点で相違する。
《相違点B-1》
本件発明1が、「a)帯電防止剤を含有する層のJIS L1094に準拠して測定した帯電圧半減期が、温度23℃、相対湿度50%雰囲気下で5秒以下」であるのに対し、甲1-2発明は、帯電圧半減期について特定されていない点。
《相違点B-2》
本件発明1が「b)一方の表面と他方の表面のJIS K7125に準拠して測定した静摩擦係数が、温度23℃、相対湿度50%雰囲気下で0.20以上0.50以下」であるのに対し、甲1-2発明は静摩擦係数について特定されていない点。
(ウ)相違点B-1、相違点B-2について検討する。
相違点B-1、相違点B-2について、申立人1は、「甲2発明は、本件特許明細書実施例と、類似の原料を用いて類似の製法で、熱収縮性フィルムを製造している。従って、甲2発明は、本件特許明細書実施例と同様の帯電圧半減期と静摩擦係数を有する蓋然性が高い。従って、相違点5、6は実質的な相違点ではない。」旨を主張し、申立人2は、「熱収縮性ポリエステル系フィルムにアニオン界面活性剤を塗布した層を形成する際、塗布量0.004g/m2とし、延伸倍率4.0倍としており、本件特許発明の製造方法(段落0087;帯電防止剤塗布量0.0012~0.015g/m2、延伸倍率1.7倍以上7.0倍以下)と同じであることから、要件(B)及び要件(C)は、実質的に開示されている(実施例1、2)。」旨を主張している。
しかし、本件発明1の熱収縮性フィルムと甲1-2発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムとで、フィルムの原料、製法は同じではないから、帯電防止剤を含有する層の帯電圧半減期と静摩擦係数が、必ずしも同様の値になるとはいえない。また、甲1-2発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムの帯電防止剤を含有する層の帯電圧半減期と静摩擦係数が、本件発明1のものと同様の値となることを示唆する証拠も他に提出されていない。
よって、相違点B-1、相違点B-2は実質的な相違点であり、本件発明1の相違点B-1、B-2に係る構成は、甲1-2発明に基いて、当業者が容易に想到し得たものでもないから、本件発明1は、甲1-2発明ではなく、また、甲1-2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(エ)さらに、本件発明2~14は、本件発明1の発明特定事項を全て備えるものであるところ、本件発明1は、甲1-2発明ではなく、また、甲1-2発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもないから、本件発明2~14は、甲1-2発明ではなく、また、本件発明2~14は、甲1-2発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
ウ 甲2-1を主引用例とする理由
(ア)甲2-1には、特に実施例8の熱収縮性フィルムに着目すると、次の「甲2-1発明」が記載されている。
(甲2-1発明)
「ポリエステルの混合樹脂組成物樹脂からなる表面層の上に、東邦化学工業(株)製の「アンステックスC200X」(カチオン系界面活性剤、界面活性剤濃度50%)を0.006g/m2で含有する耐熱層を形成した、熱収縮性フィルムであって、
80℃の温水バスに10秒間浸漬したときのフィルムの主収縮方向(TDD)の熱収縮率が38.7%、
JIS K7105に準拠してフィルム厚み50μmでのフィルムのヘーズ値が4.8%である、熱収縮性フィルム。」
(イ)本件発明1と甲2-1発明を対比すると、甲2-1発明の「ポリエステルの混合樹脂組成物樹脂からなる表面層」は、本件発明1の「熱可塑性樹脂を主成分として含む層」に相当する。
また、甲2-1の【0069】の「界面活性剤は、従来は帯電防止剤や静電気防止剤として用いられること、及び所定の樹脂と共に混合してフィルム表面にコート層を形成することにより帯電防止又は静電気防止の効果を付与し得ることについては、従来知られていた。」との記載から、甲2-1発明の「東邦化学工業(株)製の「アンステックスC200X」(カチオン系界面活性剤、界面活性濃度50%)を0.006g/m2で含有する耐熱層」は、帯電防止剤の機能を有するものといえるから、甲2-1発明の「東邦化学工業(株)製の「アンステックスC200X」(カチオン系界面活性剤、界面活性濃度50%)を0.006g/m2で含有する耐熱層」は、本件発明1の「帯電防止層を含有層」に相当する。
そうすると、本件発明1と甲2-1発明とは、
「熱可塑性樹脂を主成分として含む層の少なくとも一方の面に帯電防止剤を含有する層を配した熱収縮性フィルムであって、
c)80℃の温水中に10秒間浸漬したときの主収縮方向の収縮率が20%以上である、熱収縮性フィルム。」で一致し、以下の点で相違する。
《相違点C-1》
本件発明1が、「a)帯電防止剤を含有する層のJIS L1094に準拠して測定した帯電圧半減期が、温度23℃、相対湿度50%雰囲気下で5秒以下」であるのに対し、甲2-1発明は、帯電圧半減期について特定されていない点。
《相違点C-2》
本件発明1が「b)一方の表面と他方の表面のJIS K7125に準拠して測定した静摩擦係数が、温度23℃、相対湿度50%雰囲気下で0.20以上0.50以下」であるのに対し、甲2-1発明は、静摩擦係数について特定されていない点。
《相違点C-3》
本件発明1が「d)JIS K7136に準拠して測定したヘイズ値が7%以下」であるのに対し、甲2-1発明は「JIS K6714に準拠して測定したヘーズ値が4.8%」である点。
(ウ)まず、上記相違点C-1について検討する。
甲2-1発明の熱収縮性フィルムの「帯電防止剤を含有する層のJIS L1094に準拠して測定した帯電圧半減期が、温度23℃、相対湿度50%雰囲気下で5秒以下」になるとは限らず、その範囲内になることを示す証拠も他に提出されていない。
申立人2は、甲2-1では、熱収縮性積層フィルムにアニオン界面活性剤を塗布した層を形成する際、塗布量0.006g/m2又は0.0015g/m2とし、延伸倍率5.5倍としており、本件特許発明の製造方法(段落0087;帯電防止剤塗布量0.0012~0.015g/m2、延伸倍率1.7倍以上7.0倍以下)と同じであることから、要件(B)および(C)は実質的に開示されている旨を主張する(申立人2の特許異議申立書33ページ)。
また、申立人2は、熱履歴を考慮したとき、本件特許発明と甲2-1との間に実質的な違いは無く、下層の電気的特性についても、その影響は限定的であり、本件特許発明と甲2-1の下層はむしろ同一視でき、下層の違いが影響を与えることはないと判断されるべきである旨を主張する(申立人2の上申書3ページ)。
しかし、甲2-1発明の熱収縮性フィルムの帯電圧半減期は、塗布された帯電防止材の種類、塗布量だけでなく、熱処理条件や、下層の基材の電気特性、フィルム厚さ、帯電防止剤の厚さ、フィルムの表面性状等にも影響を受けるものといえるから、甲2-1発明の帯電圧半減期は、「帯電防止剤を含有する層のJIS L1094に準拠して測定した帯電圧半減期が、温度23℃、相対湿度50%雰囲気下で5秒以下」の範囲内になるとは必ずしもいえない。
よって、相違点C-1は実質的な相違点であり、本件発明1の相違点C-1に係る構成は、甲2-1発明に基いて、当業者が容易に想到し得たものでもない。
(エ)次に、上記相違点C-2について検討する。
甲2-1発明の熱収縮性フィルムについて、「一方の表面と他方の表面のJIS K7125に準拠して測定した静摩擦係数が、温度23℃、相対湿度50%雰囲気下で0.20以上0.50以下」になるとは必ずしもいえず、その範囲内になることを示す証拠も他に提出されていない。
申立人2は、甲2-1では、熱収縮性積層フィルムにアニオン界面活性剤を塗布した層を形成する際、塗布量0.006g/m2又は0.0015g/m2とし、延伸倍率5.5倍としており、本件特許発明の製造方法(段落0087;帯電防止剤塗布量0.0012~0.015g/m2、延伸倍率1.7倍以上7.0倍以下)と同じであることから、要件(B)および(C)は実質的に開示されている旨を主張する(申立人2の特許異議申立書33ページ)。
また、申立人2は、本件発明1のフィルム、特に静摩擦係数が測定されている実施例のフィルムは特段の鏡面化処理や粗面化処理がなされたものではなく、溶融押し出し延伸フィルムが有する通常の表面粗さのフィルムに、甲2-1発明(実施例8、9)と同じ帯電防止剤を同じ量塗布することによって達成されたものであり、甲2-1発明(実施例8、9)も特段の鏡面化処理や粗面化処理がなされておらず、微粒子も含有させていない点で本件発明1と同様の表面粗さを有するものと理解できるから、甲2-1発明のフィルムの静止摩擦係数は、本件発明1と同様であると理解されるべきであり、また、本件発明1において、静摩擦係数を所定値以下にしたのは、「フィルムロールとしたときにシワや凹凸が入り難く、フィルムロールを繰り出しやすくなり作業性が向上することを可能にするためであり(【0083】)、フィルムロールにしたときにシワや凹凸が入れば、その後、熱収縮させたときにより強いシワや凹凸になることは容易に推察でき、甲2-1発明のフィルムは、テンター設備にて延伸されたものであるから(実施例8、9)、延伸後は当然にロールに巻き取られ、このフィルムを熱収縮させても、収縮仕上がり性が◎であって、「収縮が十分でシワ、アバタ、格子目の歪が全く生じない」というものであるから(【0110】)、そもそも静止摩擦係数が高いときに生じ得る不具合がなく。甲2-1発明のフィルムも、問題が生じるような高い静止摩擦係数になっていない点で甲1発明と同様であり、この点から考えても静止摩擦係数は同等であると判断されるべきである旨を主張する(申立人2の上申書4-5ページ)。
しかし、甲2-1発明の熱収縮性フィルムの静摩擦係数は、塗布された帯電防止剤の種類、塗布量だけではなく、下層の基材の表面粗さや、熱収縮性フィルムの一方の表面と他方の表面の性状等にも影響を受けるものといえるから、甲2-1発明の静摩擦係数は、「一方の表面と他方の表面のJIS K7125に準拠して測定した静摩擦係数が、温度23℃、相対湿度50%雰囲気下で0.20以上0.50以下」の範囲内になるとは必ずしもいえない。
よって、相違点C-2は実質的な相違点であり、本件発明1の相違点C-2に係る構成は、甲2-1発明に基いて、当業者が容易に想到し得たものでもない。
(オ)以上より、相違点C-3について検討するまでもなく、本件発明1は、甲2-1発明ではなく、また、甲2-1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(カ)さらに、本件発明2~14は、本件発明1の発明特定事項を全て備えるものであるところ、本件発明1は、甲2-1発明ではなく、また、甲2-1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもないから、本件発明2~14は、甲2-1発明ではなく、また、本件発明2~14は、甲2-1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
エ 甲2-3を主引用例とする理由
(ア)甲2-3には、特に実施例1に着目すると、次の「甲2-3発明」が記載されている。
(甲2-3発明)
「ポリエステル系フィルムの片面に、アミノ酸系両性界面活性剤よりなる帯電防止剤を含む塗布層を形成した熱収縮性ポリエステル系フィルムであって、
帯電防止剤を含有する層のJIS L1094法に準拠して測定した帯電減衰率の半減時間が、温度23℃、65RH%雰囲気下で4秒、
フィルムのコート面同士のJIS K-7125に準拠して測定した動摩擦係数が、温度23℃、相対湿度65%雰囲気下で、0.20、温度23℃、相対湿度50%雰囲気下で0.23、
85℃に加熱した水槽に10秒間浸漬したときのフィルムの主収縮方向の収縮率が61%、
ヘーズが5.5%である、熱収縮性ポリエステル系フィルム。」
(イ)本件発明1と甲2-3発明とを対比すると、甲2-3発明のポリエステル系フィルムは、本件発明1の「熱可塑性樹脂を主成分として含む層」に相当し、甲2-3発明の「アミノ酸系両性界面活性剤よりなる帯電防止剤を含む塗布層」は、本件発明1の「帯電防止剤を含有する層」に相当する。
そうすると、本件発明1と甲2-3発明とは、
「熱可塑性樹脂を主成分として含む層の少なくとも一方の面に帯電防止剤を含有する層を配した、熱収縮性フィルム。」で一致し、以下の点で相違する。
《相違点D-1》
本件発明1が、「a)帯電防止剤を含有する層のJIS L1094に準拠して測定した帯電圧半減期が、温度23℃、相対湿度50%雰囲気下で5秒以下」であるのに対し、甲2-3発明は、「帯電防止剤を含有する層のJIS L1094法に準拠して測定した帯電減衰率の半減時間が、温度23℃、65RH%雰囲気下で4秒」である点。
《相違点D-2》
本件発明1が、「b)一方の表面と他方の表面のJIS K7125に準拠して測定した静摩擦係数が、温度23℃、相対湿度50%雰囲気下で0.20以上0.50以下」であるのに対し、甲2-3発明は、「フィルムのコート面同士のJIS K-7125に準拠して測定した動摩擦係数が、温度23℃、相対湿度65%雰囲気下で、0.20、温度23℃、相対湿度50%雰囲気下で0.23」である点。
《相違点D-3》
本件発明1が、「c)80℃の温水中に10秒間浸漬したときの主収縮方向の収縮率が20%以上」であるのに対し、甲2-3発明は、「85℃に加熱した水槽に10秒間浸漬したときのフィルムの主収縮方向の収縮率が61%」である点。
《相違点D-4》
本件発明が、「d)JIS K7136に準拠して測定したヘイズ値が7%以下」であるのに対し、甲2-3発明は、「JIS K6714に準拠して測定したヘイズ値が5.3%」である点。
ヘーズが5.5%である、
(ウ)まず、相違点D-1について検討する。
「JIS L1094法に準拠して測定した帯電減衰率の半減時間が、温度23℃、65RH%雰囲気下で4秒」である甲2-3発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムについて、温度23%、相対湿度50%雰囲気下で測定した場合に、「温度23℃、相対湿度50%雰囲気下で5秒以下」になるとは限らず、その範囲内になることを示す証拠も他に提出されていない。
申立人2は、熱収縮性ポリエステル系フィルムにアニオン界面活性剤を塗布した層を形成する際、塗布量0.0004g/m2とし、延伸倍率3.8倍としており、本件特許発明の製造方法(段落0087;帯電防止剤塗布量0.0012~0.015g/m2とし、延伸倍率1.7倍以上7.0倍以下)と同じであることから、要件(B)は実質的に開示されている旨を主張し、仮に甲2-3の実施例1において、23℃50%RHの帯電半減期が5秒以下になるとは言えない場合でも、甲2-3のポリエステルフィルムは印刷加工を施すものであり(段落0052)、印刷を施すポリエステルフィルムにおいて、印刷不良を防ぐためにRH50%での帯電圧半減期を小さくすることは甲2-5に記載されており、実際に、甲2-5は帯電圧半減期は10秒以下であり(請求項2、0019)、実施例1~8では帯電圧半減期は3~5秒となっているから、印刷を施すポリエステルフィルムにおいて50%RHでの帯電圧半減期を5秒以下にすることは、甲2-5の記載によって動機付けられ、当業者であれば要件(B)に容易に想到でき、RH50%の帯電圧半減期を5秒以下にすることで印刷工程でのロール巻き付き防止効果とすることは、甲2-5の印刷不良の防止と同質であって、予測可能な効果に過ぎない旨を主張する(申立人2の特許異議申立書41-42ページ)。
また、申立人2は、本件発明と甲2-3(特に実施例1)に係る発明とを対比した場合、甲2-3には電気的特性は記載されていないが、甲2-3の実施例1では界面活性剤がポリエステル系樹脂としての下地層に所定量塗布されており(0.004g/m2)、同様の熱履歴(実施例1では加熱温度80℃の延伸と、80℃での熱固定)を受けているから、帯電半減期は、本件発明1の範囲を満足している蓋然性が高いと主張する(申立人2の上申書7ページ)。
しかし、甲2-3発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムの帯電圧半減期は、塗布された帯電防止剤の種類、塗布量だけでなく、熱処理条件や、下層の基材の電気特性、フィルム厚さ、帯電防止剤の厚さ、フィルムの表面性状等にも影響を受けるものといえるから、甲2-3発明の帯電圧半減期は、「帯電防止剤を含有する層のJIS L1094に準拠して測定した帯電圧半減期が、温度23℃、相対湿度50%雰囲気下で5秒以下」の範囲内になるとは必ずしもいえない。
また、甲2-5に記載された帯電防止性易引裂き2軸延伸ポリエステルフイルムは、熱可塑性樹脂を主成分として含む層の少なくとも一方の面に帯電防止剤を含有する層を配したものではないから、a)帯電防止剤を含有する層のJIS L1094に準拠して測定した帯電圧半減期が、温度23℃、相対湿度50%雰囲気下で5秒以下であることを開示するものではない。
よって、相違点D-1は実質的な相違点であり、本件発明1の相違点D-1に係る構成は、甲2-3発明に基いて、当業者が容易に想到し得たものでもない。
(エ)次に、相違点D-2について検討する。
動摩擦係数が「温度23℃、相対湿度50%雰囲気下で0.23」の甲2-3発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムについて、同じ温度23℃、相対湿度50%雰囲気下で静摩擦係数を測定した場合に、静摩擦係数が、「0.20以上0.50以下」になるとは必ずしもいえず、その範囲内になることを示す証拠も他に提出されていない。
申立人2は、甲2-3は、要件(C)について、23℃RH50%動摩擦係数が0.23であうことを開示するが(実施例1、請求項7では0.24以下)、静摩擦係数が、動摩擦係数と同等以上となることは常識であり、当業者は、静摩擦係数を所定の範囲とすることができると主張する(申立人2の特許異議申立書42ページ)。
申立人2は、甲2-3には、動摩擦係数について記載されており、具体的には相対湿度50%のときの動摩擦係数を0.24以下にすることで「特に冬場等の低湿度雰囲気下においても優れた加工性能を付与することが可能である。特に、高速での印刷やチュービング加工を行う際に、活性不良によるシワの発生やキズ入りを防止する」ことを可能にしている([0037])、一方、本件発明1において相対湿度50%のときの静摩擦係数を0.20以上0.50以下にするのは、「フィルムロールとしたときにシワや凹凸が入り難く、フィルムロールを繰り出しやすくなり作業性が向上する」ことを目的としたものであり([0083])、その目的は同じであり、静摩擦係数は、常に動摩擦係数よりも高い関係があることは技術常識であり、動摩擦係数が大きいと、静摩擦係数も大きくなる関係があるから、動摩擦係数を小さくした甲2-3発明においては静摩擦係数よりも小さくなることは容易に推察され、甲2-3発明と同じ目的で静摩擦係数を小さくすることは当業者であれば容易に想到できる旨を主張する(申立人2の上申書7-8ページ)。
しかし、甲2-3発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムの静摩擦係数は、塗布された帯電防止剤の種類、塗布量だけではなく、下層の基材の表面粗さや、熱収縮性ポリエステル系フィルムの一方の表面と他方の表面の性状等にも影響を受けるものといえるから、甲2-3発明の静止摩擦係数は、「一方の表面と他方の表面のJIS K7125に準拠して測定した静摩擦係数が、温度23℃、相対湿度50%雰囲気下で0.20以上0.50以下」の範囲内になるとは必ずしもいえない。
よって、相違点D-2は実質的な相違点であり、本件発明1の相違点D-2に係る構成は、甲2-3発明に基いて、当業者が容易に想到し得たものでもない。
(オ)以上より、相違点D-3、相違点D-4について検討するまでもなく、本件発明1は、甲2-3発明ではなく、また、甲2-3発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(カ)さらに、本件発明2~14は、本件発明1の発明特定事項を全て備えるものであるところ、本件発明1は、甲2-3発明ではなく、また、甲2-3発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもないから、本件発明2~14は、甲2-3発明ではなく、また、本件発明2~14は、甲2-3発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
オ 甲2-4を主引用例とする理由
(ア)甲2-4には、特に実施例7に着目すると、次の「甲2-4発明」が記載されている。
(甲2-4発明)
「ポリエステル(P-1)と、ポリテトラメチレンテレフタレート(P-2)をwt%比で8080/20の割合でブレンドし、150℃で6時間乾燥した後、押出ホッパーに供給して溶融温度280~300℃で溶融し、単層ダイを用いて表面温度20℃の冷却ドラム上に押出して急冷し、厚さ160~240μmの未延伸フィルムを得、当該未延伸フィルムに塗料D(カチオン帯電防止剤;一方社油脂(株)製エレタットM-65と三洋化成工業(株)製サンノニックSS-90を固形分比で90:10となるように混合し、イオン交換水を加えて作製した3.0質量%水溶液)を塗工した後に予熱を行い、70℃において幅方向に4.0倍延伸、熱固定を行うことで得られた熱収縮性帯電防止ポリエステルフィルムであって、
JIS K7125に準拠し、フィルムの塗膜塗設面同士の静摩擦係数(μs)が、0.29、
80℃の温水中に10秒間さらした後の主収縮方向の熱収縮率が60%、
JIS K7105の測定法Aに準じて測定したヘーズが、6.3%である、熱収縮性帯電防止ポリエステルフィルム。」
(イ)本件発明1と甲2-4発明とを対比すると、甲2-4発明の「ポリエステル(P-1)と、ポリテトラメチレンテレフタレート(P-2)をwt%比で80/20の割合でブレンドし」た層は、本件発明1の「熱可塑性樹脂を主成分として含む層」に相当し、甲2-4発明の「塗料D(カチオン帯電防止剤;一方社油脂(株)製エレタットM-65と三洋化成工業(株)製サンノニックSS-90を固形分比で90:10となるように混合し、イオン交換水を加えて作製した3.0質量%水溶液)を塗工した」層は、本件発明1の「帯電防止剤を含有する層」に相当する。
そうすると、本件発明1と甲2-4発明とは、
「熱可塑性樹脂を主成分として含む層の少なくとも一方の面に帯電防止剤を含有する層を配した、熱収縮性フィルムであって、c)80℃の温水中に10秒間浸漬したときの主収縮方向の収縮率が20%以上である、熱収縮性フィルム。」で一致し、以下の点で相違する。
《相違点E-1》
本件発明1が、「a)帯電防止剤を含有する層のJIS L1094に準拠して測定した帯電圧半減期が、温度23℃、相対湿度50%雰囲気下で5秒以下」であるのに対して、甲2-4発明は、帯電圧半減期について特定されていない点。
《相違点E-2》
本件発明1が「b)一方の表面と他方の表面のJIS K7125に準拠して測定した静摩擦係数が、温度23℃、相対湿度50%雰囲気下で0.20以上0.50以下」であるのに対して、甲2-4発明は、「JIS K7125に準拠し、フィルムの塗膜塗設面同士の静摩擦係数(μs)が、0.29」である点。
《相違点E-3》
本件発明1が、「d)JIS K7136に準拠して測定したヘイズ値が7%以下」であるのに対して、甲2-4発明は、「JIS K7105の測定法Aに準じて測定したヘーズが、6.3%」である点。
(ウ)まず、相違点E-1について検討する。
甲2-4発明の熱収縮性帯電防止ポリエステルフィルムについて、帯電防止剤を含有する層のJIS L1094に準拠して測定した帯電圧半減期が、温度23℃、相対湿度50%雰囲気下で5秒以下になるとは限らず、その範囲内になることを示す証拠も他に提出されていない。
申立人2は、甲2-4は、要件(B)について、実施例7においてRH50%の帯電圧半減期を記載していないが、甲2-4のポリエステルフィルムは、印刷を施されるものであり(段落0020)、印刷を施すポリエステルフィルムにおいて、印刷不良を防ぐために、50%RHの帯電圧半減期を小さくすることは甲2-5に記載され、甲2-5は、帯電圧半減期は10秒以下であり(請求項2、0019)、実施例では帯電圧半減期は3~5秒となっているから、印刷を施すポリエステルフィルムにおいて50%RHでの帯電圧半減期を5秒以下にすることは、甲2-5の記載によって動機付けられ、当業者であれば、要件(B)を容易に想到でき、RH50%での帯電圧半減期を5秒以下にすることで印刷工程でのロール巻き付き防止効果とすることは、甲2-5の印刷不良の防止と同質であって、予測可能な効果に過ぎない旨を主張する(申立人2の特許異議申立書46ページ)。
しかし、甲2-4発明の熱収縮性帯電防止ポリエステルフィルムの帯電圧半減期は、塗布された帯電防止剤の種類、塗布量だけでなく、熱処理条件や、下層の基材の電気特性、フィルム厚さ、帯電防止剤の厚さ、フィルムの表面性状等にも影響を受けるものといえるから、甲2-4発明の帯電圧半減期は、「帯電防止剤を含有する層のJIS L1094に準拠して測定した帯電圧半減期が、温度23℃、相対湿度50%雰囲気下で5秒以下」の範囲内になるとは必ずしもいえない。
また、甲2-5に記載された帯電防止性易引裂き2軸延伸ポリエステルフイルムは、熱可塑性樹脂を主成分として含む層の少なくとも一方の面に帯電防止剤を含有する層を配したものではないから、a)帯電防止剤を含有する層のJIS L1094に準拠して測定した帯電圧半減期が、温度23℃、相対湿度50%雰囲気下で5秒以下であることを開示するものではない。
よって、相違点E-1は実質的な相違点であり、本件発明1の相違点E-1に係る構成は、甲2-4発明に基いて、当業者が容易に想到し得たものでもない。
(エ)次に、相違点E-2について検討する。
JIS K7125に準拠し、フィルムの塗膜塗設面同士の静摩擦係数(μs)が、0.29の甲2-4発明の熱収縮性帯電防止ポリエステルフィルムについて、温度23℃、相対湿度50%雰囲気下で静摩擦係数を測定した場合に、静摩擦係数が、「0.20以上0.50以下」になるとは必ずしもいえず、その範囲内になることを示す証拠も他に提出されていない。
申立人2は、甲2-4は、要件(C)として、静摩擦係数0.29を開示する(実施例7、表2、請求項4では0.40以下)と主張する(申立人2の特許異議申立書46ページ)。
しかし、甲2-4発明の熱収縮性帯電防止ポリエステルフィルムの静摩擦係数は、塗布された帯電防止剤の種類、塗布量だけではなく、下層の基材の表面粗さや、熱収縮性帯電防止ポリエステルフィルムの一方の表面と他方の表面の性状、温度や相対湿度等にも影響を受けるものといえるから、甲2-4発明の静摩擦係数が、温度23℃、相対湿度50%雰囲気下で0.20以上0.50以下」の範囲内になるとは必ずしもいえない。
よって、相違点E-2は実質的な相違点であり、本件発明1の相違点E-2に係る構成は、甲2-4発明に基いて、当業者が容易に想到し得たものでもない。
(オ)以上より、相違点E-3について検討するまでもなく、本件発明1は、甲2-4発明ではなく、また、甲2-4発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(カ)さらに、本件発明2~14は、本件発明1の発明特定事項を全て備えるものであるところ、本件発明1は、甲2-4発明ではなく、また、甲2-4発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもないから、本件発明2~14は、甲2-4発明ではなく、また、本件発明2~14は、甲2-4発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
カ 甲2-6を主引用例とする理由
(ア)甲2-6には、特に実施例8に着目すると、次の「甲2-6発明」が記載されている。
(甲2-6発明)
「L体/D体=99/1(モル比)、数平均分子量が95,000、MFRが5.0g/10分(210℃)のポリ乳酸系重合体を、コートハンガータイプのTダイを具備した50mmφ押出機を使用して、滞留時間を5分、Tダイ温度230℃で溶融押出し、25℃に温度制御されたキャストロール密着急冷し、厚さ210μmの未延伸シートを得、得られた未延伸シートを予熱ロール60℃、延伸ロール70℃で3.0倍に縦方向に延伸し、帯電防止剤として、ヤシ脂肪酸カリ石鹸(松本油脂製薬社製 アクチノール TY-1012)80質量%と、デカグリセリンモノラウレート(松本油脂製薬社製 ブリアンPE-L100)20質量%とからなる混合物を1質量%に希釈した水溶液を、マイヤーバーコートにより塗布した後、引き続いてテンター内において、80℃の延伸温度で横方向に3.5倍延伸した後、横方向の弛緩率を5%として150℃で熱処理を施し、厚さ20μmとして得た、逐次二軸延伸フィルムであって、
温度23℃、相対湿度50%の条件下でスタティックオネストメーターにより測定した帯電圧半減期が、1秒、
コート面対非コート面のJIS-K7125に準じて測定した動摩擦係数が0.42、
JIS-K7105に準じて測定したヘーズが5.0である、逐次二軸延伸フィルム。」
(イ)本件発明1と甲2-6発明とを対比すると、甲2-6発明の「ポリ乳酸系重合体」を延伸した層は、本件発明1の「熱可塑性樹脂を主成分として含む層」に相当し、甲2-6発明の「帯電防止剤として、ヤシ脂肪酸カリ石鹸(松本油脂製薬社製 アクチノール TY-1012)80質量%と、デカグリセリンモノラウレート(松本油脂製薬社製 ブリアンPE-L100)20質量%とからなる混合物を1質量%に希釈した水溶液を、マイヤーバーコートにより塗布した」層は、本件発明1の「帯電防止剤を含有する層」に相当する。
(ウ)そうすると、本件発明1と甲2-6発明とは、
「熱可塑性樹脂を主成分として含む層の少なくとも一方の面に帯電防止剤を含有する層を配したフィルムであって、
a)帯電防止剤を含有する層のJIS L1094に準拠して測定した帯電圧半減期が、温度23℃、相対湿度50%雰囲気下で5秒以下
d)JIS K7136に準拠して測定したヘイズ値が7%以下である、フィルム。」で一致し、以下の点で相違する。
《相違点F-1》
本件発明1が、「b)一方の表面と他方の表面のJIS K7125に準拠して測定した静摩擦係数が、温度23℃、相対湿度50%雰囲気下で0.20以上0.50以下」であるのに対して、甲2-6発明は、「コート面対非コート面のJIS-K7125に準じて測定した動摩擦係数が0.42」である点。
《相違点F-2》
本件発明1が、「c)80℃の温水中に10秒間浸漬したときの主収縮方向の収縮率が20%以上」である「熱収縮性フィルム」であるのに対して、甲2-6発明は、収縮率が特定されていない点。
(エ)まず、相違点F-1について検討する。
甲2-6発明のフィルムについて、「一方の表面と他方の表面のJIS K7125に準拠して測定した静摩擦係数が、温度23℃、相対湿度50%雰囲気下で0.20以上0.50以下」になるとは必ずしもいえず、その範囲内になることを示す証拠も他に提出されていない。
申立人2は、甲2-6は、要件(C)として、動摩擦係数が0.42であることを開示するが(実施例8)、静摩擦係数は、動摩擦係数と同数以上となることは常識であり、当業者であればかかる要件(C)の範囲を選択することはできる旨を主張する(申立人2の特許異議申立書50ページ)。
しかし、甲2-6発明のフィルムの静摩擦係数は、塗布された帯電防止剤の種類、塗布量だけではなく、下層の基材の表面粗さや、フィルムの一方の表面と他方の表面の性状等にも影響を受けるものといえるから、甲2-6発明の静摩擦係数は、「一方の表面と他方の表面のJIS K7125に準拠して測定した静摩擦係数が、温度23℃、装置湿度50%雰囲気下で0.2以上0.50以下」の範囲内になるとは必ずしもいえない。
よって、相違点F-1は、実質的な相違点であり、本件発明1の相違点F-1に係る構成は、甲2-6発明に基いて、当業者が容易に想到し得たものでもない。
(オ)次に、相違点F-2について検討する。
申立人2は、甲2-6は、フィルムが、熱収縮性(要件(A))であることを開示しておらず、甲2-6は、また、要件(D)として、80℃10秒の熱収縮率を開示していない、一方、甲2-7には、甲2-6のポリ乳酸がセルロースエステルとブレンドすることで各種特性を改善でき(段落0007)、その結果、特に収縮特性に優れたポリ乳酸熱収縮性フィルムとすることができることが記載されている(段落0010)から、甲2-7のポリ乳酸フィルムは、熱収縮性フィルムにすることが動機付けられているといえ、加えて、熱収縮性フィルムにする以上、熱収縮率を20%以上にすることは通常のことであり、甲2-7でも熱収縮率20~80%であることが記載されている(請求項2)から、甲2-6及び甲2-7から、要件(A)、(D)に容易に想到できる旨を主張している(申立人2の特許異議申立書50ページ)。
しかし、甲2-6には、フィルムを熱収縮性フィルムとすることについて記載も示唆もなく、甲2-7に記載された熱収縮フィルムは、熱可塑性樹脂を主成分とする層を含む層の少なくとも一方の面に帯電防止剤を含有する層を配したものではないから、甲2-6及び甲2-7を併せみても、熱可塑性樹脂を主成分とする層を含む層の少なくとも一方の面に帯電防止剤を含有する層を配した熱収縮フィルムであって、d)80℃の温水中に10秒間浸漬したときの主収縮方向の収縮率が20%以上であることを開示していない。
よって、相違点F-2は実質的な相違点であり、本件発明1の相違点F-2に係る構成は、甲2-6発明に基いて、登用者が容易に想到し得たものでもない。
(カ)以上より、本件発明1は、甲2-6発明ではなく、また、甲2-6発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(キ)さらに、本件発明2~14は、本件発明1の発明特定事項を全て備えるものであるところ、本件発明1は、甲2-6発明ではなく、また、甲2-6発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもないから、本件発明2~14は、甲2-6発明ではなく、また、本件発明2~14は、甲2-6発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(2)実施可能要件に係る申立理由
ア 明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであること要するものである(特許法第36条第4項第1号)。本件発明は、「熱収縮性フィルム、それを用いた成形品、熱収縮性ラベル、及び容器」という物の発明であるところ、物の発明における発明の「実施」とは、その物の生産、使用等をする行為をいうから(特許法第2条第3項第1号)、物の発明について実施をすることができるとは、その物を生産でき、かつ、その物を使用することができることであると解される。
したがって、当業者が、本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願当時の技術常識に基づいて、本件発明に係る熱収縮性フィルム、それを用いた成形品、熱収縮性ラベル、及び容器を生産し、使用することができるのであれば、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たすものといえる。
イ 本件特許の発明の詳細な説明【0088】~【0111】を参照すると、熱収縮性フィルム、それを用いた成形品、熱収縮性ラベル、及び容器を生産するための熱可塑性樹脂層及び帯電防止層の材料が例示され、実施例1~5で、実際に熱収縮性フィルムを生産して、要求品質を満たして使用できることが示されているから、本件特許の発明の詳細な説明は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしている。
ウ 申立人1は、「帯電防止剤の塗布量と延伸倍率さえ満たせば、本件特許発明が得られるとは到底考えられないので、当業者は、本件特許明細書に記載の実施例以外において、どのようにして本件特許発明を実施できるのかわからず、過度の試行錯誤を要する」旨(理由1-3)、申立人2は、「界面活性剤の塗布量及び延伸倍率を所定の範囲とし、かつアニオン性界面活性剤を使用しても、帯電圧半減期及びヘイズが本件特許発明の範囲外となる場合があることから、当業者は、本件特許発明をどのようにすれば実施できるのかが理解できず、実施可能要件を満たしていない」旨(理由2-3)、それぞれ主張する。
しかし、当業者であれば、発明の詳細な説明の記載を参考にして、実施例以外の態様でも、本件発明の「熱収縮性フィルム、それを用いた成形品、熱収縮性ラベル、及び容器」を生産し、使用することができるものといえるから、上記理由1-3及び理由2-3には、理由がない。
(3)サポート要件に係る申立理由
ア 特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定される要件に適合するか否かは、特許請求の範囲と発明の詳細な説明とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が発明の詳細な説明に記載された発明であって、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきである。
イ 本件明細書の発明の詳細な説明の記載によれば、本件発明が解決しようとする課題は、「透明性、光沢性、特に低湿度環境下においても帯電防止性に優れ、印刷加工性に優れた熱収縮性フィルムを提供すること」(【0008】)であるところ、さらに、発明の詳細な説明には、以下の記載がある。
「【0083】
<静摩擦係数>
本発明のフィルムは、フィルムの一方の表面と他方の表面との静摩擦係数が、JIS K7125に準拠して、温度23℃、相対湿度50%雰囲気下で、0.20以上であり、好ましくは0.22以上であり、特に好ましくは0.23以上であり、0.50以下であり、好ましくは0.45以下であり、特に好ましくは0.40以下である。静摩擦係数が上記数値以上であれば、フィルムロールとしたときに巻きずれが起こりにくくなる傾向があり、静摩擦係数が上記数値以下であれば、フィルムロールとしたときにシワや凹凸が入り難く、フィルムロールを繰り出しやすくなり作業性が向上する。
【0084】
<熱収縮率>
本発明のフィルムは、80℃の温水中に10秒間浸漬したときの主収縮方向の熱収縮率が20%以上である。収縮率の下限値は25%以上であることが好ましく、30%以上がより好ましい。上限値としては特に制限はされないが、一般的には70%以下であることが好ましく、65%以下がより好ましく、60%以下がさらに好ましい。80℃の主収縮方向の熱収縮率が20%未満であると、フィルムを熱収縮させた際に、容器の首部や天面において熱収縮が不充分となることがある。上記「主収縮方向」とは、熱をかけて収縮させたときの熱収縮率が高い方向、すなわち、縦方向と横方向のうちの延伸方向の大きい方向であり、通常、横方向(フィルムの引き取り方向と縦方向に直交する方向)方向である。また、ボトルに装着する場合には、例えば、その外周方向に相当する方向である。
【0085】
<ヘイズ値>
本発明のフィルムの透明性はJIS K7136に準拠して測定されたヘイズ値により評価され、ヘイズ値は7%以下である。好ましくは6.5%以下、特に好ましくは6%以下である。ヘイズ値が上記数値以下であれば、良好な透明性を得られ、美麗な印刷等が可能となる。
【0086】
また、本発明のフィルムは、さらに、下記の帯電圧半減期を満たすことが好ましい。
<帯電圧半減期>
本発明のフィルムの帯電防止剤を含有する層の帯電圧半減期が、JIS L1094に準じて、温度23℃、相対湿度50%雰囲気下で、5秒以下であることが好ましく、3.5秒以下であることがより好ましい。帯電半減期上記数値以下であると、特に印刷工程における、いわゆる印刷ヒゲの発生や印刷・チュービング工程でのロールへの巻き付きを防止できる傾向がある。」
ウ これらの記載から、「静摩擦係数が上記数値以上であれば、フィルムロールとしたときに巻きずれが起こりにくくなる傾向があり、静摩擦係数が上記数値以下であれば、フィルムロールとしたときにシワや凹凸が入り難く、フィルムロールを繰り出しやすくなり作業性が向上する」、「80℃の主収縮方向の熱収縮率が20%未満であると、フィルムを熱収縮させた際に、容器の首部や天面において熱収縮が不充分となる」、「ヘイズ値が上記数値以下であれば、良好な透明性を得られ、美麗な印刷等が可能となる」、「帯電半減期上記数値以下であると、特に印刷工程における、いわゆる印刷ヒゲの発生や印刷・チュービング工程でのロールへの巻き付きを防止できる傾向がある」ことが理解できる。
よって、本件発明が、発明の詳細な説明に記載された発明であり、その記載により当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲のものである。
エ 申立人1は、「本件特許発明は、熱可塑性樹脂の種類、帯電防止剤の種類と塗布量、延伸倍率等の特定が無く、非常に広範囲である。一方、実施例で使用した熱可塑性樹脂は3種類であり、帯電防止剤は2種類に過ぎない。すなわち、実施例から本件特許発明まで拡張又は一般化できない、または、本件特許発明には、発明の課題を解決するための手段が反映されていない」旨(理由1-4)、申立人2は、「帯電防止剤の塗布量、延伸倍率を所定範囲に調整することが少なくとも必要であり、さらには、帯電防止剤のアニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤として如何なるものを使用すればよいか、熱可塑性樹脂として如何なるものを使用すればよいか、明らかとなっていない」旨(理由2-4)、それぞれ主張する。
しかし、本件発明は、当業者であれば、発明の詳細な説明の記載から、発明の課題を解決できると認識できる範囲のものといえるから、上記理由1-4及び理由2-4には、理由がない。
第6 むすび
以上のとおり、取消理由、並びに、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1ないし14に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1ないし14に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2021-700779