2021-700316
浄油器フィルター
- 審判番号
- 2021-700316
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2016-114422外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2021年03月29日
- 審決日
- 2021年08月03日
- 公報発行日
- 2021年09月24日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】ユニチカ株式会社
- 【異議申立人】後藤 奈美
- 【異議申立人】ヤマトヨ産業 株式会社
- 分類
- P1651.112-Y (B01J) / P1651.121-Y (B01J) / P1651.536-Y (B01J) / P1651.537-Y (B01J)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第1項第2号、特許法第36条第6項、特許法第29条第1項、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
結論
理由
目次 ▾ 15項目
第1 手続の経緯
折りたたみ中(クリックで表示)
特許第6769597号(以下、「本件特許」という。)に係る出願は、平成28年6月8日に出願され、令和2年9月28日に特許権の設定登録がされ、同年10月14日に特許掲載公報が発行され、その後、全請求項に係る特許に対して、令和3年3月29日に特許異議申立人後藤奈美(以下、「申立人後藤」という。)により特許異議の申立てがされ、請求項1~3に係る特許に対して同年4月13日に、特許異議申立人ヤマトヨ産業株式会社(以下、「申立人ヤマトヨ」という。)により特許異議の申立てがされたものである。
第2 本件発明
本件特許の請求項1~11に係る発明(以下、「本件発明1」~「本件発明11」といい、まとめて「本件発明」という。)は、それぞれ、本件特許の特許請求の範囲の請求項1~11に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項1】活性炭を含む、浄油器フィルターであって、前記活性炭が、全細孔容積に対するメソ孔容積の割合が14~90%である、調理に使用した食用油脂を浄化するために用いられる浄油器フィルター。【請求項2】続きを表示(全28行)前記全細孔容積に対するメソ孔容積の割合が20~90%である、請求項1に記載の浄油器フィルター。【請求項3】前記活性炭の比表面積が700~3500m2/gである、請求項1または2に記載の浄油器フィルター。【請求項4】前記活性炭が繊維状活性炭である、請求項1~3のいずれか1項に記載の浄油器フィルター。【請求項5】前記繊維状活性炭が不織布形態である、請求項4に記載の浄油器フィルター。【請求項6】前記不織布が、融点もしくは軟化点、または熱分解温度が200℃以下のバインダー成分を含まない、請求項5に記載の浄油器フィルター。【請求項7】前記不織布が、前記繊維状活性炭を含む繊維状活性炭層と、前記繊維状活性炭層の両面側に配置され、融点もしくは軟化点、または熱分解温度が200℃以下の繊維及び繊維状活性炭以外の他の繊維を含む支持層と、を含む、請求項5又は6に記載の浄油器フィルター。【請求項8】前記不織布が補強繊維を含み、前記不織布の両面に繊維を含むカバー体が設けられている、請求項5または6に記載の浄油器フィルター。【請求項9】前記活性炭を包囲するカバー体を含み、前記カバー体が、上流側に配置される蓋部と、下流側に配置される受け部とを含む、請求項1~7のいずれか1項に記載の浄油器フィルター。【請求項10】前記蓋部が、下記測定方法で測定した通気性(圧力損失50Pa時における風上風速)が0.3~5.0m/secである、請求項9に記載の浄油器フィルター。(測定方法)アクリル樹脂製の内径100mm、長さ2mの管の長さ方向中央部に該管と同じ内径になるようカバー層を隙間なく取り付けることができる治具を備えた風洞実験設備にて、該管の一方の端部から該管を通して空気を引き込むことでカバー層前後の差圧(ΔP)が50Pa時の風上側(該管の他方の端部)の風速(m/sec)を測定する。なお、差圧計は株式会社山本電気製作所製のマノスターゲージWO81形を用い、また風速計はKANOMAX社製のアネモマスターライトを用いて測定する。【請求項11】前記活性炭の見掛け密度が0.01~0.3g/cm3である、請求項1~10のいずれか1項に記載の浄油器フィルター。」
第3 申立理由の概要
申立人後藤は、以下の甲第1-1号証~甲第1-20号証を提出し、本件発明1~11は、以下の理由により、取り消すべきものである旨を主張し、申立人ヤマトヨは、以下の甲第2-1号証~甲第2-7号証を提出し、本件発明1~3は、以下の理由により、取り消すべきものである旨を主張する。
1 申立理由1(新規性欠如)
本件発明1~3は、その出願前に日本国内において公然実施をされた発明であるから、本件特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
(証拠方法)
なお、「甲第2-2号証の1」と「甲第2-2号証の2」を併せて「甲第2-2号証」という。
2 申立理由2(進歩性欠如)
本件発明1~11は、甲第1-1号証に記載された発明、甲第1-2号証~甲第1-20号証に記載された技術的事項及び公然実施発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(証拠方法)
なお、甲第1-20号証は、公然実施発明の認定のための証拠である。
3 申立理由3(実施可能要件違反)
本件発明1は「活性炭が、全細孔容積に対するメソ孔容積の割合が14~90%である」こと、本件発明2は「前記全細孔容積に対するメソ孔容積の割合が20~90%である」ことを発明特定事項とするところ、全細孔容積に対するメソ孔容積の割合が80%を超える活性炭を製造することは現状困難であるにもかかわらず、本件明細書の発明の詳細な説明には、全細孔容積に対するメソ孔容積の割合が80%を超える活性炭を製造する方法が明確かつ十分に開示されていないため、実施可能要件を満たさない。
よって、本件特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(証拠方法)
4 申立理由4(実施可能要件違反、明確性要件違反)
本件明細書の発明の詳細な説明には、「相対圧力P/P0」の最大値について記載されておらず、本件発明1及び2で特定される「全細孔容積に対するメソ孔容積の割合」は、該「相対圧力P/P0」の最大値により変動するものであるから、本件発明1及び2は、本件明細書の発明の詳細な説明に当業者がその実施ができる程度に明確かつ十分に記載されていない。
また、本件明細書において、「全細孔容積」を測定するために必要な「相対圧力P/P0」の最大値が記載されておらず、本件特許の出願時における技術常識を考慮しても、本件発明1及び2における「全細孔容積」をどのような条件で測定するか明らかでないため、本件発明1及び2は明確でない。
よって、本件特許は、特許法第36条第4項第1号及び同法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(証拠方法)
5 申立理由5(サポート要件違反)
(1)メソ孔容積の割合について
本件発明1は「活性炭が、全細孔容積に対するメソ孔容積の割合が14~90%である」こと、本件発明2は「前記全細孔容積に対するメソ孔容積の割合が20~90%である」こと、を発明特定事項とするが、発明の詳細な説明に記載された実施例には、メソ孔容積の割合が14~47%の範囲のものしか記載されておらず、本件発明1及び2は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載されたものではない。
よって、本件特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
(2)活性炭の比表面積について
本件発明3は「活性炭の比表面積が700~3500m2/gである」ことを発明特定事項とするが、発明の詳細な説明に記載された実施例には、活性炭の比表面積が1050~2000m2/gの範囲のものしか記載されておらず、本件発明3は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載されたものではない。
よって、本件特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
第4 当審の判断
1 申立理由1(新規性欠如)について
特許法第29条第1項第2号にいう「公然実施をされた発明」とは、その内容が公然知られる状況又は公然知られるおそれのある状況で実施をされた発明をいうとされ、また、「公然」とは、不特定又は多数の人が認識することのできる状態をいうとされており、現実に不特定又は多数人が認識したことを要しないし、きわめて少数の者が知っている場合であってもこれらの者が秘密を保つ義務を有しない者である場合は公然ということを妨げないと解される。すなわち、「公然」の範疇には、発明の実施品の内容を開示した直接の相手方は特定少数人であっても、伝播して間接に不特定多数人が認識できるようになる場合も含まれ得るということであるが、不特定多数人の認識できることが「公然」を基礎づけるのである以上、そのような伝播可能性は、具体的であることが必要であって、その内容が実際に不特定又は多数人に伝播するであろうことを積極的に推認させるような具体的事情があることを要すると解すべきである。
しかるに、甲第2-7号証は、ロットNo.D1205の油っくりん用フィルター4PKという製品が、2012年4月5日に製造されたであろうことを示すにとどまり、当該製品の製造者が、契約上も信義則上も、当該製品について秘密保持義務を負うものではないことを立証するものではない。また、同製造者が、当該製品中の活性炭についても知り得る状態にあったことを立証するものでもない。そうである以上、甲第2-7号証の記載内容に基づいて、上記製造日において、当該製品中の活性炭の内容が実際に不特定又は多数人に伝播するであろうことを積極的に推認させるような具体的事情を認めることはできない。この点は、甲第2-1号証、甲第2-2号証の1及び甲第2-2号証の2をみても変わりはない。
したがって、甲第2-1、2-2、2-7号証に記載されたロットNo.D1205のフィルターを、特許法第29条第1項第2号にいう「公然実施をされた発明」ということはできない。
したがって、本件発明1~3は、その出願前に日本国内において公然実施をされた発明とはいえないので、上記申立理由1は理由がない。
2 申立理由2(進歩性欠如)について
(1)甲各号証の記載事項等
折りたたみ中(クリックで表示)
ア 甲第1-1号証の記載事項
甲第1-1号証には、以下(ア)~(ウ)の記載事項がある(当審注:下線は当審が付与した。また、「…」は記載の省略を表す。以下、同様である。)。
(ア)「【0001】【産業上の利用分野】本発明は、使用中又は使用済の食用油に増加した劣化あるいは変性物質を除去する濾過材及びそれを使用した食用油再生方法に関するもので、特に食品工場やレストランで毎日発生する揚油を濾過するのに使用できる濾過材及びそれを用いる食用油再生方法に関するものである。【0002】【従来の技術】使用中又は使用済の食用油には、種物(揚げるのに使用した食物等)の影響や、加熱されることにより、酸化、加水分解、重合等の化学変化により着色や悪臭、酸化物質、酸性物質、重合物等の食品として好ましからぬ物質が生成する。悪臭の原因となるものや酸化物質は、酸化劣化により生じたカルボニル基を有する低分子物質、酸性物質の原因となるものは酸化劣化により生じたカルボン酸にまで酸化された低分子物質が主成分であり、重合物は、不飽和結合が酸化され、ハイドロパーオキサイドを生じ、ハイドロパーオキサイドの分解によるフリーラジカルにより他の不飽和結合とのラジカル機構による重合によって生じるものが主成分であり、食用油の粘度を上昇させる。…【0005】濾材の比表面積、細孔容積及び細孔径の特性値が、劣化食用油の吸着濾過に適した値を有し、優れた食用油再生性能を示すものに活性アルミナやシリカゲルが挙げられるが、これ等は高度に化学処理された製品で経済的でない。また活性アルミナは、食品添加物として認可されていないという欠点を有する。また、煩雑な手段を避けるために、吸着材自身を用いて濾材に加工し、その濾材により劣化食用油を吸着濾過する方法も提案されている。吸着材としては、活性炭、活性アルミナ、活性白土、ゼオライトやシリカゲル等が良く知られている。これ等多孔質吸着材の比表面積、細孔容積、細孔径と食用油の劣化あるいは変質物質の吸着との関係を調べる中で、上記の物性特性値が吸着に大きく関係していることが判明した。比表面積、細孔容積、平均細孔径の値を第2表に示す。」
(イ)「【0006】【表2】」
(ウ)「【0007】植物油脂の脂肪酸は前記第1表に示したとおりほとんどが炭素数18からなる脂肪酸のトリグリセリドであり、これ等の分子の大きさはほぼ同じ大きさと考えられる。種物の影響や加熱による重合、加水分解や酸化分解によって、新鮮な食用油には含まれていなかった重合物や低分子化した悪臭成分、酸化物、酸性物の分子が多く発生する。これらの生成分子はトリグリセリドの分子サイズと明らかにことなり、これら分子サイズの異なる分子の存在が前記多孔質吸着材の物性特性値と劣化あるいは変質物質の吸着に深く関係すると考えられる。第2表に示すように、活性炭やゼオライト、乾燥用のシリカゲルは一般に細孔径が小さく、分布はおおよそ数Åから40Åで、この範囲の細孔径ではトリグリセリドの分子サイズより大きい分子サイズと考えられる重合物や着色物質の吸着除去効果は小さく、一方、細孔径がおおよそ50Å以上の範囲に分布しているシリカゲル、活性アルミナ及び活性白土等に吸着除去効果があり、なおかつその細孔容積が大きい程より吸着除去効果が大きいことが判明した。なお、参考のため、第2表には各濾材により濾過した劣化食用油の色度および酸価値が併記してある。」
イ 甲第1-1号証に記載された発明
前記ア(ア)~(ウ)の記載から、甲第1-1号証には、
「細孔径の分布がおおよそ数Åから40Åである活性炭を含む、使用中又は使用済の食用油の濾材。」
の発明(以下、「甲1-1発明」という。)が記載されていると認められる。
ウ 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と甲1-1発明とを対比する。
甲1-1発明における「使用中又は使用済の食用油の濾材」は、本件発明1の「浄油器フィルター」に相当する。
そうすると、両者は、「活性炭を含む、浄油器フィルター」の点で一致し、少なくとも以下の点で相違する。
・相違点1
本件発明1は、「活性炭が、全細孔容積に対するメソ孔容積の割合が14~90%である」と特定しているのに対し、甲1-1発明は、そのような特定をしていない点。
(イ)相違点1についての検討
本件明細書の【0008】によれば、本件発明における「メソ孔」は、直径2~50nmのもの、すなわち直径が20~500Åのものである。
これに対して、甲1-1発明は、使用中又は使用済の食用油の濾材として活性炭を含むものであり、上記ア(ウ)には、活性炭の細孔径の分布についての一応の記載があるものの、活性炭の細孔径の分布が一般的に数Åから40Åであると述べるにとどまるため、活性炭のメソ孔の吸着能を主眼に置くものとはいいがたい。本件発明1は、メソ孔容積の割合が高い特殊な活性炭を採用することで、汚濁した油の浄化性能の向上をはかったものであるが、甲第1-1号証には、そのようなメソ孔割合が高い活性炭を用いることによる作用・効果についての記載も示唆もない。そうしてみると、甲1-1発明において、活性炭のメソ孔容積の割合を特定の範囲に設定する動機付けは存在しないのであって、このような進歩性についての判断は、その他の証拠に記載された事項に左右されるものでもない。
したがって、本件発明1は、甲第1-1号証に記載された発明、甲第1-2号証~甲第1-20号証に記載された技術的事項及び公然実施発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
(ウ)申立人の主張
申立人後藤は、メソ孔が一定以上形成された活性炭が油脂の浄化に用いられることは公知であって、浄化フィルターにこれら活性炭を用いることは当然考え得ることから、本件発明1は甲第1-1号証~甲第1-6号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができた旨主張する(特許異議申立書3(4)第3の1.を参照)。
しかしながら、メソ孔が一定以上形成された活性炭が油脂の浄化に用いられることが公知であったとしても、上記の動機付けを認めるに足りる証拠はなく、また、調理に使用した食用油脂の浄化用途に適した活性炭と、その他の油脂の浄化用途に適した活性炭とにおいて、両者が同様の物性で同様の浄化性能を発揮するとの証拠はないのであるから、申立人後藤の当該主張は採用できない。
また、申立人後藤は、甲第1-20号証を証拠として、本件発明1は、公然実施された発明に基づき、当業者が容易に発明をすることができた旨主張する。
しかしながら、第甲1-20号証には、申立人後藤が「本件特許の優先日以前より現在において継続して販売されている活性炭を吸着剤とする油こしフィルター(全4社分)」(特許異議申立書第6頁を参照。)と主張する製品の写真と全細孔容積に対するメソ孔の割合等が示されているものの、当該製品が「本件特許の優先日以前より現在において継続して販売されている」ことを示す証拠とは認められず、その他の証拠をみても、当該製品が「公然実施」された公知日を認める具体的な証拠はない。
したがって、該主張はその前提を欠くものである。
エ 本件発明2~11について
本件発明2~11は、本件発明1を引用するものであって、
本件発明1の発明特定事項を全て含むものであるから、前記ウに示した理由と同様の理由により、甲第1-1号証に記載された発明、甲第1-2号証~甲第1-20号証に記載された技術的事項及び公然実施発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
3 申立理由3(実施可能要件違反)について
(1)実施可能要件に関する判断
ア 本件発明1及び2の浄油器フィルターは、活性炭の全細孔容積に対するメソ孔容積の割合により特定されるものである。そして、本件発明1及び2において、発明を実施することができるとは、本件発明1及び2において特定される活性炭を製造することができるということであるから、以下、当業者が、明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、本件発明1及び2における活性炭を製造することができるか否かを検討する。
イ 所定のメソ孔容積の割合を有する活性炭の製造方法について、本件明細書の【0018】には、「上記のような、全細孔容積に対するメソ孔容積の割合が14~90%である活性炭を得る方法としては、例えば、Mg、Mn、Fe、Y、Pt、Gdの少なくとも1種の金属成分を0.01~5重量%含有する活性炭前駆体を不融化処理、炭化処理、賦活処理を行う方法が挙げられる。該方法によれば、含有させる金属成分の種類を変化させることと、賦活の温度、時間等を調整することによって、メソ孔の直径を制御することができ、結果全細孔容積に対するメソ孔容積の割合を制御することが可能となる」と記載されており、Mg、Mn、Fe、Y、Pt、Gd等の金属成分を含有する活性炭前駆体を不溶化処理、炭化処理、賦活処理する際、金属成分の種類、賦活の温度時間等を調整することで、メソ孔の直径を制御し、もって全細孔容積に対するメソ孔容積の割合を所定の値に調整できることが理解できる。してみれば、これらの記載を参照すれば、当業者において、適宜、諸条件を調整することで、本件発明1及び2の活性炭を製造することができると認められる。
また、本件明細書の【0047】には、本件発明1の活性炭の具体例として、サンプル1~サンプル4の商品名が示されており、【0051】には、そのサンプル1~サンプル4の全細孔容積に対するメソ孔容積の割合が、本件発明1又は2で特定される所定範囲であることが記載されている。これらの記載から、本件発明1及び2の活性炭を含む活性炭が実際に製造されていることが理解できる。
ウ さらには、当業者であれば、上記イに記載した製造方法に関する一般的な記載に照らしながら、サンプル1~サンプル4以外の、本件発明1及び2で特定されたメソ孔容積の割合に調整された活性炭を、適宜製造することができると解するのが相当である。
よって、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に適合するものと認められる。
(2)申立人の主張
申立人後藤は、メソ孔が最も発達しやすい木質の塩化亜鉛賦活活性炭においても全細孔容積に対するメソ孔の比率の限度が80%程度であり、全細孔容積に対するメソ孔容積の割合が80%を超える活性炭を製造することが困難であることを根拠として、実施可能要件違反を主張している(特許異議申立書3(4)第3の3.を参照)。
しかしながら、申立人後藤が証拠とする甲第1-5号証は、全細孔容積に対するメソ孔容積の割合が80%を超える活性炭を製造することの困難性を示すものではなく、その他に全細孔容積に対するメソ孔容積の割合が80%を超える活性炭を製造することの困難性を示す客観的な証拠もないのであるから、当該主張はその前提を欠くものである。
4 申立理由4(実施可能要件違反、明確性要件違反)について
(1)実施可能要件に関する判断
前記3(1)で述べたとおり、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に適合するものと認められる。
(2)明確性要件に関する判断
ア 本件発明1は、「活性炭が、全細孔容積に対するメソ孔容積の割合が14~90%である」こと、本件発明2は、「前記全細孔容積に対するメソ孔容積の割合が20~90%である」ことを発明特定事項とするものである。
ここで、本件明細書には、以下の記載がある。
「【0015】本発明において、活性炭の細孔分布は、それぞれ、77.4Kにおいて窒素吸着等温線に基づいて算出されるものであり、具体的には次のようにして窒素吸着等温線が作成される。活性炭を77.4K(窒素の沸点)に冷却し、窒素ガスを導入して容量法により窒素ガスの吸着量V[ml/g]を測定する。このとき、導入する窒素ガスの圧力P[mmHg]を徐々に上げ、窒素ガスの飽和蒸気圧P0[mmHg]で除した値を相対圧力P/P0として、各相対圧力に対する吸着量をプロットすることにより窒素吸着等温線が作成される。窒素ガスの吸着量は、市販の自動ガス吸着量測定装置(例えば、商品名「AUTOSORB-6」(QUANTACHROME製)や商品名「BELSORP-mini」(日本ベル社製)等)を用いて実施できる。本発明では、窒素吸着等温線に基づき、公知の解析方法に従って細孔分布を求めることができる。この解析は、上記装置に付属する解析プログラム等のような公知の手段を用いることができる。【0016】本発明において、活性炭のメソ孔容積Vmesoは、上記の細孔分布に基づきBJH法で計算し、ミクロ孔容積Vmicroは上記の細孔分布に基づきt-plot法で計算する。BJH法は公知の方法であり、具体的には、「J.Amer.Chem.Soc.,73,373(1951))」に開示された方法が採用される。【0017】 また、本発明において、活性炭の全細孔容積Vtotalは、上記の窒素ガスの吸着量の測定結果における窒素の最大吸着量から計算することができる。活性炭の全細孔容積に対するメソ孔容積の割合Rmesoは下記式(1)により算出する。Rmeso=Vmeso/Vtotal×100(%) ・・・(1)」
イ 上記アに示した【0017】の記載によれば、「全細孔容積」は、窒素ガスの最大吸着量から計算することができ、同【0015】の記載によれば、窒素ガスの吸着量の測定は、市販の自動ガス吸着測定装置を用いて測定できることが記載されている。
また、同【0015】、【0016】の記載によれば、「メソ孔容積」は、窒素ガスの相対圧力に対する窒素ガスの吸着量をプロットした窒素吸着等温線を作成し、当該窒素吸着等温線に基づき公知の解析方法に従って細孔分布を求め、当該細孔分布に基づきBJH法で計算することで求めることができると理解できる。
さらに、「全細孔容積に対するメソ孔容積の割合」は、同【0017】に記載されるように、「メソ孔容積」を「全細孔容積」で除して100を乗じることで求められるものである理解できる。
してみれば、本件発明1及び2の「全細孔容積に対するメソ孔容積の割合」を明確に把握できるというべきである。
よって、申立人ヤマトヨが主張する特許法第36条第6項第2項に係る申立理由に理由はない。
(3)申立人の主張
申立人ヤマトヨは、「相対圧力P/P0」の最大値が記載されていないことを根拠に、実施可能要件及び明確性要件違反である旨主張する(特許異議申立書3(4)エを参照)。
確かに、本件明細書の発明の詳細な説明には、「相対圧力P/P0」の最大値の具体的な値は記載されていない。しかしながら、本件明細書の発明の詳細な説明に「相対圧力P/P0」の最大値の具体的な値が記載されていなくとも、当業者であれば、精度の高い窒素吸着等温線を作成するため、相対圧力の最大値を理論的な上限値である1あるいはその近傍の値に設定するものと認識できる。
また、本件明細書【0015】の記載をみると、窒素ガスの吸着量を測定するための装置として、商品名「AUTOSORB-6」(QUANTACHROME製)、表品名「BELSORP-mini」(日本ベル社製)が例示されており、当業者であれば、これら例示された装置の性能や仕様、さらには出願当時における細孔分析に関する技術常識に基づき、本件発明1及び2における「相対圧力P/P0」の最大値の程度を理解することができるというべきであり、本件発明1及び2の技術的範囲が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとはいえない。
5 申立理由5(サポート要件違反)について
(1)サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明に記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
(2)サポート要件に関する判断
ア 発明の課題について
本件明細書の発明の詳細な説明の【0006】、【0007】の記載によれば、本件発明1~3に対応する発明の解決しようとする課題は、「使用済、あるいは使用途上にある汚濁した油の浄化性能に優れた、浄油器フィルターを提供すること」であるといえる。
イ 発明の詳細な説明の記載について
本件明細書の発明の詳細な説明の【0009】の「一方、本発明者等が鋭意検討したところ、浄油器フィルターに用いる活性炭として、特許文献1や2の実施例で用いられている市販される通常の活性炭よりも、全細孔容積に対するメソ孔容積の割合が高い特殊な活性炭を採用することにより、汚濁した油の浄化性能に優れた浄油器フィルターを得られることを知得した」との記載や、同【0014】の「本発明の浄油器フィルターは、全細孔容積に対するメソ孔容積の割合が14~90%である活性炭を含む。これにより、使用済、あるいは使用途上にある汚濁した油の浄化性能に優れたものとすることができる。前記全細孔容積に対するメソ孔容積の割合は、汚濁した油の浄化性能をより一層優れたものとする観点から、20~90%が好ましく、25~70%がより好ましく、40~60%が特に好ましい」との記載から、全細孔容積に対するメソ孔容積の割合が高いものであれば、本件発明の課題である汚濁した油の浄化性能に優れたものとすることができると、当業者であれば認識できるといえる。
また、同【0051】、【表1】には、全細孔容積に対するメソ孔容積の割合が本件発明1~3の範囲内であるサンプル1~4が、優れた浄化性能を示し、特に、全細孔容積に対するメソ孔容積の割合が40%以上であるサンプル1が特に優れた浄化性能を示している。
さらに、同【0020】の「本発明において、活性炭の比表面積(窒素を被吸着物質として用いたBET法(1点法)により測定される値)としては、好ましくは700~3500m2/g程度、より好ましくは1000~3500m2/g程度、さらに好ましくは1200~3500m2/g程度が挙げられる。中でも、活性炭が繊維状活性炭の場合の該活性炭の比表面積は、1000~2500m2/g程度が好ましく、1200~2000m2/g程度がより好ましい。また、活性炭が粒状活性炭の場合の該活性炭の比表面積は、1000~3500m2/g程度が好ましく、2500~3500m2/g程度がより好ましい。活性炭の全細孔容積Vtotalとしては0.30~2.00ml/g程度、好ましくは0.50~2.00ml/g程度、より好ましくは1.00~2.00ml/g程度が挙げられる。メソ孔容積Vmesoとしては、0.1~0.8ml/g程度、好ましくは0.2~0.8ml/g程度、より好ましくは0.45~0.55ml/g程度が挙げられる」との記載から、活性炭の比表面積が所定の範囲である場合が好ましい旨記載されており、本件発明3で特定される比表面積の範囲であれば、本件発明の課題である汚濁した油の浄化性能に優れたものとすることができると、当業者であれば認識できるといえる。
ウ 以上のとおりであるから、本件明細書の発明の詳細な説明の記載から、本件発明1~3の解決しようとする課題である、使用済、あるいは使用途上にある汚濁した油の浄化性能に優れた、浄油器フィルターを提供するには、活性炭の全細孔容積に対するメソ孔容積の割合及び比表面積を本件発明1~3の範囲内であれば良いと当業者であれば認識することができるといえ、それらが特定されている本件発明1~3は、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえるから、本件発明1~3は、本件明細書の発明の詳細な説明に記載されたものであるというべきである。
したがって、申立人が主張する特許法第36条第6項第1項に係る申立理由に理由はない。
(3)申立人の主張
申立人後藤は、本件特許の特許請求の範囲の請求項1~3に記載される全細孔容積に対するメソ孔容積の割合及び比表面積の範囲が、実施例の開示に照らして限定的であるから、サポート要件違反である旨主張する(特許異議申立書3(4)第3の2.参照)。
しかしながら、サポート要件に関する判断は、前記(1)の判断基準に従って判断すべきであるところ、申立人後藤の前記の主張は、この判断基準に沿ったものではないから、前記申立人後藤の主張は、前記(2)の判断を左右するものではない。
さらに、申立人後藤の具体的な主張について、念のため検討しても、本件明細書の詳細な説明の【0014】、【表1】、【0052】の記載から、全細孔容積に対するメソ孔容積の割合が高い活性炭が高い浄化性能を発揮していることがみてとれるから、サンプル1~4に対応する実施例以外であっても、本件発明1~3の範囲内であれば、当業者が本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。
以上のとおりであるから、サポート要件違反についての申立人後藤の主張は、採用することができない。
第5 むすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1~11に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1~11に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
2021-700316