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特許異議申立

2021-700301

アクリロニトリル共重合体バインダー及びリチウムイオン電池におけるその応用

審判番号
2021-700301
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2019-530528外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
登録番号
6758505
請求日
2021年03月23日
審決日
2022年01月13日
公報発行日
2022年05月27日
結論
訂正認容
当事者
審判長/審判官
分類
P1651.161-YAA(C08F) / P1651.536-YAA(C08F) / P1651.537-YAA(C08F)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法120条の8特許法135条
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第4項第1号、特許法第29条の2、特許法第120条の8、特許法第120条の5第2項、特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第4項、特許法第36条第6項
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第6758505号発明「アクリロニトリル共重合体バインダー及びリチウムイオン電池におけるその応用」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第6758505号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-13〕について訂正することを認める。 特許第6758505号の請求項7、11-13に係る特許に対する申立てを却下する。 特許第6758505号の請求項1-6、8-10に係る特許を維持する。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第6758505号(請求項の数13。以下、「本件特許」という。)は、平成28年12月9日を国際出願日(パリ条約に基づく優先権主張 外国庁受理平成28年8月17日、中国)とする特許出願(特願2019-530528号、以下「本願」という。)に係るものであって、令和2年9月3日に設定登録されたものである(特許掲載公報の発行日は、令和2年9月23日である。) その後、令和3年3月23日に、本件特許の全ての請求項である請求項1~13に係る特許に対して、特許異議申立人である安藤宏(以下、「申立人」という。)により、特許異議の申立てがされたものであり、審理対象外の請求項は存しない。 (1)特許異議申立以降の経緯 令和3年 3月23日 特許異議申立書 同年 7月 8日付け 取消理由通知書 同年10月 7日 訂正請求書、意見書(特許権者) 同年10月18日付け 通知書(申立人宛) 同年11月17日 意見書(申立人) (2)証拠方法 ア 申立人が、特許異議申立書に添付して提出した証拠方法は、以下のとおりである。 ・甲第1号証:国際公開第2017/195784号 ・甲第2号証:国際公開第2016/067633号 ・甲第3号証:特開2015-128069号公報 ・甲第4号証:国際公開第2014/185072号 第2 訂正の適否についての判断 令和3年10月7日にした訂正請求は、以下の訂正事項を含むものである。 (以下、「本件訂正」という。また、設定登録時の本件願書に添付した明細書及び特許請求の範囲を「本件特許明細書等」という。) 1 訂正の内容 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項7を削除する。 (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項11を削除する。 (3)訂正事項3 特許請求の範囲の請求項12を削除する。 (4)訂正事項4 特許請求の範囲の請求項13を削除する。 2 判断 (1)訂正事項1~4について ア 訂正の目的 訂正事項1~4による訂正は、それぞれ訂正前の請求項7,11、12、13を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるといえる。また、請求項を削除するものであるから、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内であるといえるし、実質上特許請求の範囲の拡張又は変更に当たらないことも明らかである。 (2)まとめ 以上のとおりであるから、訂正事項1~4による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる目的に適合し、また、同法同条第9項において準用する同法第126条第5及び6項の規定に適合するから、本件訂正を認める。 第3 本件発明 上記「第2 訂正の適否についての判断」のとおり、本件訂正は適法であるので、特許第6758505号の特許請求の範囲の記載は、訂正後の特許請求の範囲の請求項1~13のとおりのものである(以下、請求項1~13に記載された事項により特定される発明を「本件発明1」~「本件発明13」といい、まとめて「本件発明」ともいう。また、設定登録時の本件願書に添付した明細書を「本件明細書」という。)。 「【請求項1】 質量百分率で表す構成単位で、アクリロニトリル単位78~95%、アクリレート系単位1~10%、アクリルアミド系単位2~15%、及びアクリル酸塩系単位2~8%を含むことを特徴とするアクリロニトリル共重合体バインダー。 【請求項2】 質量百分率で表す単量体で、アクリロニトリル78~95%、アクリレート系1~10%、アクリルアミド系2~15%、及びアクリル酸塩系2~8%を共重合させることを特徴とする請求項1に記載のアクリロニトリル共重合体バインダー。 【請求項3】 前記アクリレート系単量体はCH2=CR1-COOR2であり、ここで、R1は-Hまたは-CH3であり、R2はアルキル基またはシクロアルキル基であり、 前記アクリルアミド系単量体はCH2=CR3CONHR4であり、ここで、R3は-Hまたは-CH3であり、R4は-H、アルキル、シクロアルキルまたはアリールであることを特徴とする請求項2に記載のアクリロニトリル共重合体バインダー。 【請求項4】 前記アクリレート系単量体は、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸tert-ブチル、アクリル酸n-アミル、アクリル酸イソアミル、アクリル酸n-ヘキシル、アクリル酸2-エチルヘキシル、イソオクチルアクリレート、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸イソプロピル、n-ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、tert-ブチルメタクリレート、n-アミルメタクリレート、イソアミルメタクリレート、n-ヘキシルメタクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレート、及びイソオクチルメタクリレートのうちの少なくとも1つであり、 前記アクリルアミド系単量体が、アクリルアミド、N-メタクリルアミド、N-エチルアクリルアミド、N-ブチルアクリルアミド、2-メチルアクリルアミドのうちの少なくとも1つであることを特徴とする請求項3に記載のアクリロニトリル共重合体バインダー。 【請求項5】 前記アクリル酸塩系単量体はCH2=CR5-COOMであり、ここで、R5は-Hまたは-CH3であり、MがLi+、Na+またはK+であることを特徴とする請求項2に記載のアクリロニトリル共重合体バインダー。 【請求項6】 前記アクリル酸塩系単量体は、アクリル酸リチウム、アクリル酸ナトリウム、メタクリル酸リチウム、メタクリル酸ナトリウムのうちの少なくとも1つであることを特徴とする請求項5に記載のアクリロニトリル共重合体バインダー。 【請求項7】 (削除) 【請求項8】 正極材料とバインダーとを備え、前記バインダーが請求項1~6のいずれかに記載のアクリロニトリル共重合体バインダーであることを特徴とするリチウムイオン電池用正極シート。 【請求項9】 前記バインダーの使用量が全固形分の0.5~5wt%を占めていることを特徴とする請求項8に記載のリチウムイオン電池用正極シート。 【請求項10】 前記バインダーの使用量が全固形分の1~3wt%を占めていることを特徴とする請求項9に記載のリチウムイオン電池用正極シート。 【請求項11】 (削除) 【請求項12】 (削除) 【請求項13】 (削除) 」 第4 特許異議申立理由及び取消理由の概要 1 取消理由通知の概要 当審が令和3年7月8日付けの取消理由通知で通知した取消理由の概要は、以下に示すとおりである。 (1)取消理由A(明確性) 本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1~13の記載は、同各項に記載された特許を受けようとする発明が、下記「第6 当審の判断」「1 取消理由について」「(1)取消理由A(明確性)について」「ア 取消理由A(明確性)の概要」に記載した点で明確とはいえないから、特許法第36条第6項第2号に適合するものでない。 よって、本件の請求項1~13に係る発明についての特許は、同法第36条第6項に規定する要件を満たさない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消されるべきものである。 (2)取消理由B(サポート要件) 本件訂正前の特許請求の範囲の請求項7、11~13の記載は、同各項に記載された特許を受けようとする発明が、下記「第6 当審の判断」「1 取消理由について」「(2)取消理由B(サポート要件)について」「ア 取消理由B(サポート要件)の概要」に記載した点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件に適合するものではない。 よって、本件訂正前の請求項7、11~13に係る発明の特許は、同法第36条第6項に規定する要件を満たさない特許出願に対してされたものであるから同法第113条第4号に該当し取り消されるべきものである。 (3)取消理由C(拡大先願) 本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1~10に係る発明は、本件特許の出願の日前の特許出願であり当該特許出願を優先権の基礎とする日本語特許出願であって、その出願後に国際公開がされた甲第1号証の日本語特許出願の優先権の基礎とする出願(特願2016-97260号)の国際出願日における国際出願の明細書、請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、本件特許の出願の発明者がその出願前の日本語特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、また本件特許の出願の時において、本件特許の出願人が上記日本語特許出願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものであるから(同法第184条の13参照)、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 2 特許異議申立理由の概要 申立人が特許異議申立書に記載した申立て理由の概要は、以下に示すとおりである。 (1)申立理由1(拡大先願) 本件訂正前の特許請求項の範囲の請求項1~10に係る発明は、甲第2~4号証に記載された周知・慣用技術を参酌すると、本件特許の出願の日前の日本語特許出願であって、その出願後に国際公開がされた甲第1号証の日本語特許出願(特願2016-97260号)の国際出願日における国際出願の明細書、請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、本件特許の出願の発明者がその出願前の日本語特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、また本件特許の出願の時において、本件特許の出願人が上記日本語特許出願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものであるから(同法第184条の13参照)、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。(上記取消理由Cと同旨である。) (2)申立理由2(実施可能要件) 本件明細書の発明の詳細な説明は、下記「第6 当審の判断」「2 特許異議申立書に記載された申立理由について」「(2)申立理由2(実施可能要件)及び申立理由3(サポート要件)について」「ア 申立理由2(実施可能要件)及び申立理由3(サポート要件)の概要」に記載した点で、当業者が本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1~13に係る発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえないから、本件訂正前の発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に適合するものではない。 よって、本件訂正前の請求項1~13に係る発明の特許は、同法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消されるべきものである。 (3)申立理由3(サポート要件) 本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1~13の記載は、同各項に記載された特許を受けようとする発明が、下記「第6 当審の判断」「2 特許異議申立書に記載された申立理由について」「(2)申立理由2(実施可能要件)及び申立理由3(サポート要件)について」「ア 申立理由2(実施可能要件)及び申立理由3(サポート要件)の概要」に記載した点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件に適合するものではない。 よって、本件訂正前の請求項1~13に係る発明の特許は、同法第36条第6項に規定する要件を満たさない特許出願に対してされたものであるから同法第113条第4号に該当し取り消されるべきものである。 第5 本件明細書及び各甲号証に記載された事項 1 本件明細書に記載された事項 本件明細書には、以下の事項が記載されている。 (本a)「【技術分野】 【0001】 本発明はリチウムイオン電池分野に関し、特にアクリロニトリル共重合体バインダー及びリチウムイオン電池におけるその応用に関する。 【背景技術】 【0002】 リチウムイオン電池は、エネルギー密度が高く、かつサイクル寿命が長いため、携帯用電子機器、電気自動車及びエネルギー貯蔵などの分野に広く使用されている。リチウムイオン電池は、主に、正極、負極、セパレータ、電解質、及びハウジングから構成され、その作用原理は、リチウムイオンを可逆的に電極活物質に吸蔵・放出させる酸化還元反応により、電気エネルギーを貯蔵・放出することである。リチウムイオン電池の正極及び負極は、正極活物質またはカーボン負極材料、電極バインダー、導電剤、及び分散媒などを混合してスラリーを調製し、対応する集電箔に塗布し、そして乾燥、圧延、切断、及びその他の加工工程を行って作製される。 【0003】 電池の充放電過程において、リチウムイオンによる、活物質粒子の内部における貯蔵・放出という電気化学反応は、通常、活物質粒子の体積変化を引き起こす。電極内の様々な材料粒子と集電体との間のリンクとしての電極バインダーは、この変化に対し完全に耐性を維持する能力を持たなければならず、それには電極バインダーが作用電解質環境において、弛みなしに弾性を維持することが必要である。さもなければ、そのような変化は、電極コーティングの剥離またはコーティング材料中の粒子間における界面抵抗の増加を引き起こしやすく、電池の容量、レート、内部抵抗、安全性、及びサイクル寿命などに重大な影響を及ぼす。したがって、電極バインダーは、電極材料粒子同士の間、及び材料粒子と集電体との間の良好な接着を確実にし、かつ、この確実な接着を電極作製のプロセス及びリチウムイオン電池のライフサイクルを通して維持する必要がある。電解質の存在によって電極バインダーが膨張と収縮を繰り返す材料粒子の体積変化に耐え、良好な接着性を維持するためには、バインダーの構造設計を通して、電極バインダーによる電解質の吸収を厳密に制御する必要がある。電解質の適度な吸収は、一方ではバインダーを可塑化して弾力性を生じさせ、もう一方では電極バインダーが過度の可塑化により電解質を消費しその弾力性を失うことを防止するため、膨潤度を制御することができる。 【0004】 電極バインダーは、使用量が少ないながら、リチウムイオン電池の作製に欠くことのできない成分である。カーボンアノード材料及び銅集電体の水に対する安定性が優れているので、アノードバインダーのほとんどは、環境保護や作製工程、性能、コストなどの面では大きな利点を有する水性バインダーである。正極バインダーの場合、優れた特性を持つ複数種の正極活物質は水性スラリー中において強アルカリ性になり、正極集電体として用いられるアルミニウム箔は、酸にもアルカリにも耐性のない活発な両性金属材料であるため、アルミニウム箔に水性アルカリスラリーを塗布すると、集電体が激しく腐食されその機能を失う。したがって、正極バインダーは依然として従来のPVDF/NMP溶剤系バインダーが広く使用されている。 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0005】 PVDFバインダーは、フッ素含有材料であり、価格が高く、接着力が弱く、熱分解によってHF(フッ化水素)を放出する危険性がある。当業者は、様々な変性ポリアクリロニトリル(PAN)をバインダーのベース樹脂として、NMP溶剤を配合して、PAN/NMPタイプの新しい溶剤系バインダーを開発した。PANは、電解質との良好な親和性と電気化学的安定性を持つ高極性ポリマーであり、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)の代わりにPANを使用すると、電極活物質の極性及び結合強度を高め、材料コストを下げることができる。しかしながら、PANホモポリマーはガラス転移温度(Tg≒85℃)が高く、室温での柔軟性が不十分であり、高性能セルを作製するための工程要件を完全には満たすことができない。PANの柔軟性を向上させるために、当業者は、アクリレート系単量体とアクリロニトリル(AN)を共重合して常温での柔軟性を向上させることにより、セルを作製するための工程要件を満たしていた。しかしながら、アクリレート系単量体は電解質中の炭酸エステル系溶剤との極性及び溶解度のパラメータが近いので、電解質中のPANコポリマーバインダーの膨潤度が大きくなり、セル性能の低下を引き起こしていた。 【課題を解決するための手段】 【0006】 本発明は、上記のような問題に鑑みてなされたものであり、リチウムイオン電池用電極シート及びポリオレフィン系セパレーターの改質コーティングの調製に適しており、優れた柔軟性を有し、セル作製の工程要件を満たすことができることに加え、電解質中におけるその膨潤度が特定の範囲内に維持されており、充放電中に電極活物質がリチウムイオンの吸蔵・放出に伴って発生する体積の周期的変化に適応し、リチウムイオン電池のエネルギー密度とサイクル性能を向上させるアクリロニトリル共重合体バインダーを提供することを目的とする。 ・・・ 【0017】 本発明に係るアクリロニトリル共重合体バインダーは、室温で優れた柔軟性があり、それに、常温(25℃)及び高温(60℃)で適度な膨潤度を有する。25℃では、電解質中の膨潤度は10~20%に維持され、60℃では、電解質中の膨潤度は40~68%に維持される。 【0018】 本発明が解決しようとする2つ目の技術的課題は、開始剤の作用によって上記の各単量体を重合することによって実施される上記のアクリロニトリル共重合体バインダーを調製する方法を提供する。 ・・・ 【0025】 本発明が解決しようとする3つ目の技術的課題は、リチウムイオン電池の正極シート及び被覆セパレータにおける上記のアクリロニトリル共重合体バインダーの応用である。 【0026】 本発明が解決しようとする4つ目の技術的課題は、正極材料とバインダーとを備え、前記バインダーが上記のアクリロニトリル共重合体バインダーであり、バインダーの使用量が全固形分の0.5~5wt%であり、好ましくは、1~3wt%であるリチウムイオン電池用正極シートを提供する。 【0027】 本発明が解決しようとする5つ目の技術的課題は、ベースフィルム、フィラー、及びバインダーを備え、前記バインダーが上記のアクリロニトリル共重合体バインダーであり、バインダーの使用量が全固形分の1~40wt%であり、好ましくは、5~20wt%であるリチウムイオン電池用被覆セパレータを提供する。 【発明の効果】 【0028】 本発明のバインダーは、アクリロニトリル単量体をベースとして、アクリロニトリルにアクリレート系単量体、高極性アクリルアミド系単量体、またはアクリル酸塩系単量体を加えて共重合することにより、アクリロニトリルポリマー分子の強い接着力や分子間力を維持しながら、ポリマーフィルムに柔軟性、電解質親和性及び電解質における適切な膨潤性を付与し、リチウムイオン電池のエネルギー密度とサイクル性能を向上させる。本発明に係るアクリロニトリル共重合体バインダーで調製された被覆セパレータは優れた電池性能を有する。」 (本b)「【0030】 本発明が解決しようとする1つ目の技術的課題は、アクリロニトリル単量体をベースとして、アクリロニトリル単量体にアクリレート系単量体を導入することにより、アクリロニトリル重合体のガラス転移温度を低くすることができ、重合体の柔軟性を向上させることができ、また、アクリルアミドまたはその誘導体モノマーを導入し、電解質中のバインダーの膨潤度を10~68%にするアクリロニトリル共重合体バインダーを提供する。好ましくは、本発明に係るアクリロニトリル共重合体バインダーは、電解質での膨潤度が上記範囲内にあるアクリロニトリル共重合体である。 【0031】 本発明に係るアクリロニトリル共重合体バインダーは、電解質での膨潤度が10~68%である。電解液中のバインダーの膨潤度が68%を超えると、電極シート中の活物質粒子同士の間隔が大きすぎるために粒子間の電子遷移抵抗が大きくなり、電池の内部抵抗が大きくなって容量が小さくなる。また、電極シートが膨張してセルの厚みが増加し、充放電サイクル中に電極活物質が集電体から分離されやすくなるため、サイクル性能が低下する。電解液中のバインダーの膨潤度が10%未満であると、充放電時に電極活物質の体積の周期的変化を効果的に緩和することができないため、電極活物質コーティングが破損して電池の内部抵抗が大きくなり、電池のサイクル寿命が短くなる。電解液中のバインダーの膨潤度が10~68%であれば、電極活物質の体積変化を効果的に緩和することができるため、電極活物質コーティングの破損を軽減して電極の過度の膨潤を抑制し、電池の容量及びサイクル寿命を向上させることができる。 【0032】 本発明に係るアクリロニトリル共重合体バインダーの膨潤度は、それを電解質溶剤に浸漬したときの膨潤度であり、具体的には以下の試験方法で求められた値である。まず、バインダーのNMP溶液を特定の容器に流し込み、炙ることによりNMP溶媒を揮発させ、バインダーポリマーフィルムを作り出し、フィルムの厚みを100μmにし、50mm×50mmのフィルムシートに切断する。次に、24時間真空乾燥した後、計量し、完全に乾燥したフィルムシートをそれぞれ室温(25℃)の電解質溶剤に72時間、60℃の電解質溶剤に24時間浸漬してから取り出し、フィルムの表面に付着している電解質溶剤を拭き取った後、フィルムシートが吸収する電解質溶剤の重さを計測する。常温(25℃)または60℃の高温における電解質溶剤に浸漬する前後のフィルムシート重量の増加率(%)は、それぞれ、室温(25℃)または60℃でのバインダーの膨潤度である。」 (本c)「【0033】 具体的には、本発明に係るアクリロニトリル共重合体バインダーは、質量百分率で表す構成単位で、アクリロニトリル単位78~95%、アクリレート系単位1~10%、アクリルアミド系単位2~15%を含む。 【0034】 アクリロニトリル単位はアクリロニトリルから導入され、アクリレート系単位はアクリレート系単量体から導入され、アクリルアミド単位はアクリルアミド系単量体から導入されることが可能である。また、アクリル酸塩系単位のような他の単位を含んでもよい。 【0035】 本発明の一実施形態では、以下の質量百分率で表す単量体で、アクリロニトリル78~95%、アクリレート系1~10%、アクリルアミド系2~15%を共重合する。 【0036】 本発明の別の実施形態では、以下の質量百分率で表す単量体で、アクリロニトリル78~95%、アクリレート系1~10%、アクリルアミド系2~15%、アクリル酸塩系2~8%を共重合する。アクリル酸塩系単量体を添加すると、高温膨潤度をより低くすることができる。 【0037】 さらに、アクリレート系単量体は、CH2=CR1-COOR2で表される化合物単量体を含み、ここで、R1が-Hまたは-CH3であり、R2がアルキル基またはシクロアルキル基である。 【0038】 さらに、アクリレート系単量体は、、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸tert-ブチル、アクリル酸n-アミル、アクリル酸イソアミル、アクリル酸n-ヘキシル、アクリル酸2-エチルヘキシル、イソオクチルアクリレート、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸イソプロピル、n-ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、tert-ブチルメタクリレート、n-アミルメタクリレート、イソアミルメタクリレート、n-ヘキシルメタクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレート、イソオクチルメタクリレートのうちの少なくとも1つである。 【0039】 アクリルアミド系単量体は、CH2=CR3CONHR4で表される化合物単量体を含み、ここで、R3が-Hまたは-CH3であり、R4が-H、アルキル、シクロアルキルまたはアリールである。 【0040】 さらに、アクリルアミド系単量体は、アクリルアミド、N-メタクリルアミド、N-エチルアクリルアミド、N-ブチルアクリルアミド、2-メチルアクリルアミドのうちの少なくとも1つである。 【0041】 アクリル酸塩系単量体は、CH2=CR5-COOMで表される化合物単量体を含み、ここで、R5が-Hまたは-CH3であり、MがLi+、Na+またはK+である。 【0042】 さらに、アクリル酸塩系単量体は、アクリル酸リチウム、アクリル酸ナトリウム、メタクリル酸リチウム、メタクリル酸ナトリウムのうちの少なくとも1つである。一般的に、当量のアクリル系単量体と対応する水酸化物、炭酸塩または炭酸水素塩を直接加えることによって中和することも可能である。」 (本d)「【0043】 本発明において、選択された単量体組成物を重合しバインダーを調製する方法は特に限定されず、溶液重合法、懸濁重合法、塊状重合法、及び乳化重合法等のいずれの方法であってもよい。重合反応は水系媒体で行うことが好ましく、同時に重合反応の必要に応じて連鎖移動剤、乳化剤、及び分散剤等の助剤を加えてもよい。 【0044】 さらに、本発明に係るアクリロニトリル共重合体バインダーの調製方法は、具体的に以下の通りである。分散媒に好ましい単量体組成物及び必要に応じて加えられた助剤を加えた後、系内に重合反応を起こせる開始剤を加え、特定の温度条件で組成物の重合を起こす。 【0045】 前記重合反応の助剤は、主に、連鎖移動剤、乳化剤、及び分散剤であり、乳化重合によく用いられるアルコール系の連鎖移動剤、イオン性及び非イオン性乳化剤、及び高分子分散剤を含み、エタノール、メタノール、エタンチオール、及びドデカンチオールなどの連鎖移動剤、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ドデシルフェニルエーテルスルホン酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ドデシル硫酸ナトリウム、ラウリン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム塩、及びポリオキシエチレンソルビタンモノラウレートなどの乳化剤、及びゼラチン、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリビニルアルコール、及びカルボキシメチルセルロースナトリウムなどの水溶性高分子分散剤、が挙げられる。これらの助剤は、単独で使用または2種以上併用することができ、その添加量が単量体組成物の全重量に対し0.1~10%を占めている。 【0046】 開始剤は、水溶性開始剤または油溶性開始剤である。水溶性開始剤として、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過酸化水素、アゾビスイソブチルアミジン、及び、当該水溶性開始剤とNaHSO3やFeSO4とからなるレドックス開始系が挙げられる。油溶性開始剤として、有機過酸化物、及びアゾ化合物が挙げられる。開始剤の使用量は単量体の全重量に対し0.2~2.0%を占めている。 【0047】 さらに、本発明に係るアクリロニトリル共重合体バインダーの調製方法は以下の通りである。 ターポリマーバインダーの調製方法は以下の通りである。まず、分散媒に不活性ガスを取り入れて酸素を除去した後、アクリロニトリル、2つ目の単量体であるアクリレート系単量体、3つ目の単量体であるアクリルアミド系単量体、及び必要に応じて使用可能な助剤を攪拌しながら加える。不活性ガス雰囲気で40~80℃まで昇温し、温度が一定になった後、開始剤を加えて重合反応を2~24時間行い、ポリマー分散液を得る。最後に、沈殿、濾過、洗浄、乾燥、粉砕、及びふるい分けを行ってアクリロニトリル共重合体バインダーを得る。 【0048】 クアドリポリマーバインダーの調製方法は以下の通りである。まず、分散媒にアクリル酸塩系単量体を加え、攪拌・溶解した後、アクリロニトリル、2つ目の単量体であるアクリレート系単量体、3つ目の単量体であるアクリルアミド系単量体、及び必要に応じて使用可能な助剤を加える。不活性ガス雰囲気で40~80℃まで昇温し、温度が一定になった後、開始剤を加えて重合反応を2~24時間行い、ポリマー分散液を得る。最後に、沈殿、濾過、洗浄、乾燥、粉砕、及びふるい分けを行ってアクリロニトリル共重合体バインダーを得る。」 (本e)「【0049】 リチウムイオン電池の正極シート及び被覆セパレータにおける本発明の一態様に係るアクリロニトリル共重合体バインダーの応用は以下の通りである。 アクリロニトリル共重合体バインダーを使用し、バインダーの使用量が全固形分の0.5~5wt%を占めており、好ましくは、1~3wt%を占めているリチウムイオン電池用正極シートを提供する。 【0050】 一実施形態として、正極材料は、LiFePO4、LiCoO2、LiNiO2、Li(Nix Coy Mnz)O2及びLiMn2 O4のからなる群から少なくとも1つ選択される。 【0051】 アクリロニトリル共重合体バインダーを使用し、バインダーの使用量が全固形分の1~40wt%を占めており、好ましくは、5~20wt%を占めているリチウムイオン電池用被覆セパレータを提供する。 【0052】 一実施形態として、セパレータのベースフィルムはポリオレフィン微多孔膜、ポリマー織布セパレータまたはポリマー不織布セパレータであり、フィラーはナノスケールの無機セラミック粒子及びポリマー粉末材料の少なくとも一方である。」 (本f)「【実施例】 【0053】 本発明の一態様に係るアクリロニトリル共重合体バインダーは、業界の一般的な被覆セパレータ調製経路とリチウムイオン電池作製プロセスとに従って、被覆セパレータとリチウムイオン電池電極シートを作製し、アルミプラスチックフィルムフレキシブル包装電池に組み立て、そして電池性能について試験した。 【0054】 実施例1 本発明の新しいバインダーの調製 反応容器に900単位の蒸留水を加えて攪拌を行い、高純度窒素を1時間取り入れて酸素を除去した後、4単位のアクリル酸メチル、12単位のアクリルアミド、84単位のアクリロニトリルを加え、不活性ガス雰囲気で60℃に加熱し一定温度にした。そして、5単位の20%過硫酸アンモニウム開始剤溶液を加えて反応を起こし、4時間反応させた。濾過、乾燥、粉砕、及びふるい分けを行ってバインダーを得た。 【0055】 実施例2 本発明の新しいバインダーの調製 実施例1と基本的に同じであり、アクリルアミドの使用量を5単位に減らし、すなわちアクリル酸メチル、アクリルアミド、アクリロニトリルの使用量をそれぞれ4単位、5単位、91単位に調整した。 【0056】 実施例3 本発明の新しいバインダーの調製 反応容器に900単位の蒸留水を加えて撹拌を行い、4単位のリチウムメタクリレートを加え、pHを7~9に調整し、高純度窒素を1時間取り入れて酸素を除去した後、4単位のアクリル酸メチル、8単位のアクリルアミド、84単位のアクリロニトリルを加え、60℃に加熱し一定温度にした。そして、5単位の20%過硫酸アンモニウム開始剤溶液を加え反応を起こし、4時間反応させた。濾過、乾燥、粉砕、ふるい分けを行ってバインダーを得た。 【0057】 実施例4 本発明の新しいバインダーの調製 実施例3と基本的に同じであり、アクリルアミドとメタクリル酸の使用量をそれぞれ6単位と6単位に調整した。 【0058】 実施例5 本発明の新しいバインダーの調製 実施例1と基本的に同じであり、アクリル酸メチルを同じ重量部のアクリル酸ブチルに置き換えた。 【0059】 実施例6 本発明の新しいバインダーの調製 実施例4と基本的に同じであり、アクリル酸メチルを同じ重量部のアクリル酸ブチルに置き換えた。 【0060】 実施例7 本発明の新しいバインダーの調製 反応容器に890単位の蒸留水を加えて撹拌を行い、高純度窒素を1時間取り入れて酸素を除去した後、4単位のアクリル酸メチル、5単位のアクリルアミド、91単位のアクリロニトリル、10単位の無水エタノールを加え、不活性ガス雰囲気で60℃に加熱し一定温度にした。そして、5単位の20%過硫酸アンモニウム開始剤溶液を加え反応を起こし、4時間反応させた。濾過、乾燥、粉砕、ふるい分けを行ってバインダーを得た。 ・・・ 【0066】 試験例1 バインダー性能試験 1.1バインダーの柔軟性の測定 「GB / T 1731-93塗膜柔軟性試験方法」を参照し、各実施例及び比較例における試料の柔軟性を測定した。試料粉末を5%NMP溶液に入れ、PTFEプレートで炙り100±20μm厚みのキャストフィルムを得て、そしてQTX型塗膜弾性試験機を用いて試料の柔軟性を測定した。フィルムをシャフトロッド1からシャフトロッド7まで順番に押し付け、シャフトロッドを中心に180度曲げ、左右に各90度曲げ、2~3秒間曲げた。フィルムにテクスチャー、ひび、及び割れが発生していないことを4倍拡大鏡で確認した場合、通過する最小直径は、バインダーフィルムの柔軟性の指標である。そのうち、シャフトロッド1からシャフトロッド7までの半径または曲率半径はR1=7.5mm、R2=5mm、R3=2.5mm、R4=2mm、R5=1.5mm、R6=1mm、R7=0.5mmである。各群の試料を3回測定し、平均値を求め、試験結果を表1に示す。表1に示すように、本発明のバインダーはひびが発生する時のシャフトロッドの半径が1~1.5mmであり、本発明により調製されたバインダーは良好な柔軟性を有し、リチウムイオン電池に適用できることを示している。 【0067】 1.2バインダー膨潤性能試験 各実施例及び比較例のバインダーを400rpmで撹拌し、60℃でNMPに溶解させ、5%溶液に調製した。溶解後、100メッシュのスクリーンで濾過し、PTFEプレートで炙り100±20μm厚みのキャストフィルムを得た。 【0068】 バインダーのドライフィルムを電解質溶剤(エチレンカーボネートEC:ジエチルカーボネートDEC:ジメチルカーボネートDMC)に入れ、異なる温度の電解質溶剤におけるドライフィルムの膨潤度を試験し、膨潤度は、浸漬後の質量増加値とフィルム浸漬前の質量との比で表した。低温膨潤性は25℃で72時間保温することにより試験し、高温膨潤性は60℃で24時間保温することにより試験した。上記比較例及び実施例で調製したバインダーのドライフィルムの膨潤試験データを表1に示す。表1に示すように、本発明の一態様に係るバインダーは低温膨潤度が7.5~18.1%であり、高温膨潤度が41.1~67.8%であった。比較例のバインダーは低温膨潤度が41.7~208%であり、高温膨潤度が76.4~256%であった。MAまたはBAのようなアクリレート系単量体を直接加えて共重合すると、電解質溶剤中のバインダーフィルムの過度の膨潤、ひいては溶解も引き起こすことが分かった。この場合、バインダーが十分な接着能力を確保することは困難である。一方、MAまたはBAを加えると同時に、比較的高い極性のAM、アクリル酸塩単量体を加えて共重合すると、電解質溶剤でのバインダーフィルムの膨潤度は効果的に抑制され、電解質の溶解による侵食が減少し、接着能力と接着効果をより良好に維持することができた。 【表1】 [図:0001384090000001.jpg] 【0069】 実施例8 本発明のバインダーで作製した電極シートの剥離強度 まず、実施例6で調製したバインダーをNMPに溶解させた後、導電性カーボンとコバルト酸リチウムを加え、高速で12時間攪拌し、混合スラリーを得た。混合スラリーをバッテリーコーターでアルミ箔に塗布し、110℃で乾燥させた。乾燥した電極シートを圧延し、元の170μm厚みの電極シートを107μmに圧縮した。 【0070】 試験1において生産用PVDFバインダーを使用し、試験2において実施例6のバインダーを使用した。2種の電極シートに使用される正極材料は同じであり、作製工程も同じであった。試験1及び試験2では、それぞれ5組の並行試験を設計し、得られた電極シートの剥離強度の平均値を求めた。スラリーの配合率及び得られた電極シートの剥離強度(90°剥離強度)を表2に示す。表に示すように、本発明の一態様に係るバインダーは、PVDFバインダーの使用量の60%だけで同じ電極シートの剥離強度に達することができた。バインダーの割合の減少と活物質のコバルト酸リチウムの割合の増加は、電池容量の増加及びバインダーによるリチウムイオン電池の電気性能への影響の減少に好ましい効果をもたらした。 【表2】 [図:0001384090000002.jpg] 【0071】 実施例9 本発明のバインダーで作製したリチウムイオン電池の性能 実施例8で作製したコバルト酸リチウム/ PVDF電極、コバルト酸リチウム/ PAN電極を正極として、同じ水系バインダーで作製した同じ炭素電極を負極として、電池に組み立て性能比較試験を行った。作製プロセスは以下の通りであった。 【0072】 正極シート、負極シート及びセパレータを巻き付け・成形することでベアセルを得て、ベアセルをアルミ成型ケースに入れた後、真空ベーキング、電解質注入及び真空封止により角形セルにした。そして、電池テスターでフォーメーション、充放電、サイクル寿命などの性能テストを実施した。本実施例では、試験1と試験2においてそれぞれ30個の電池を作製し、試験1にはPVDFバインダーを使用し、試験2には実施例6のバインダーを使用した。異なるバインダーによって作製された正極シート、電池を組み立てる際に使用した負極シート、セパレータ、電解質及び使用量は同じであった。 【0073】 電池の基本パラメータを表3に示す。表3の各データは10個の電池の平均値である。 【0074】 電池のレート性能を表4に示す。表4の各データは10個の電池の平均値である。 【0075】 なお、電池の70℃で96h高温保存性能もテストし、その結果を表5に示す。表5の各データは10個の電池の平均値である。 【0076】 試験2の電池は、容量、内部抵抗、厚み、レート性能では試験1の電池よりも少し優れており、高温保存性能では試験1の電池より著しく優れていることが分かった。 【0077】 電池サイクル性能試験において、各試験に1つの電池を選択し、1.0C常温サイクル性能をテストした。各試験におけるサイクル数によるサイクル容量維持率の減衰を、図1に示す。2種の電池のサイクル厚み膨張比の比較を図2に示す。 【0078】 図1に示すように、1.0C常温サイクル性能試験において、サイクル数が400回以上になると、試験1の電池の容量維持率は、試験2の電池の容量維持率よりも著しく低くなり始める。図2に示すように、サイクル数が200以上になると、試験1の電池の厚み膨張比は、試験2の電池の厚み膨張比よりも著しく高くなり始める。容量維持率と厚み膨張比は、それぞれ電池寿命と安全性能を反映する。 【表3】 [図:0001384090000003.jpg] 【表4】 [図:0001384090000004.jpg] 【表5】 [図:0001384090000005.jpg] 」 2 各甲号証及び乙号証に記載された事項 (1)甲第1号証に記載された事項 甲第1号証には、以下の事項が記載されている。 (甲1a)「[請求項1] ニトリル基含有単量体単位を75.0モル%以上99.5モル%以下含む重合体を含有する複数のバインダー粒子よりなり、 前記複数のバインダー粒子の気孔含有率が60%以上である、電気化学素子電極用バインダー粒子集合体。 ・・・ [請求項5] 前記重合体が、酸性基含有単量体単位を0.3モル%以上8.0モル%以下含む、請求項1~4の何れかに記載の電気化学素子電極用バインダー粒子集合体。 [請求項6] 前記重合体が、塩基性基含有単量体単位を0.1モル%以上4.0モル%以下含む、請求項1~5の何れかに記載の電気化学素子電極用バインダー粒子集合体。 [請求項7] 前記重合体が、酸性基含有単量体単位および塩基性基含有単量体単位を含み、前記重合体中の前記酸性基含有単量体単位および前記塩基性基含有単量体単位の含有割合の合計が、0.8モル%以上10.0モル%以下である、請求項1~6の何れかに記載の電気化学素子電極用バインダー粒子集合体。 [請求項8] 前記重合体が、酸性基含有単量体単位および塩基性基含有単量体単位を含み、前記重合体中の前記酸性基含有単量体単位の含有割合に対する前記塩基性基含有単量体単位の含有割合の比が、モル基準で、0.1以上2.0以下である、請求項1~7の何れかに記載の電気化学素子電極用バインダー粒子集合体。 ・・・ [請求項10] 請求項1~9の何れかに記載の電気化学素子電極用バインダー粒子集合体の製造方法であって、 ニトリル基含有単量体単位を75.0モル%以上99.5モル%以下含む重合体および水を含有するバインダー粒子用スラリーを、噴霧乾燥する工程を含む、製造方法。 [請求項11] 請求項1~9の何れかに記載の電気化学素子電極用バインダー粒子集合体と、電極活物質と、溶媒とを混合してなる、電気化学素子電極用スラリー組成物。 [請求項12] 請求項1~9の何れかに記載の電気化学素子電極用バインダー粒子集合体と、電極活物質と、溶媒とを混合する工程を含む、電気化学素子電極用スラリー組成物の製造方法。 [請求項13] 請求項11に記載の電気化学素子電極用スラリー組成物を用いて形成した電極合材層を備える、電気化学素子用電極。 [請求項14] 請求項13に記載の電気化学素子用電極を備える、電気化学素子。」 (甲1b)「技術分野 [0001] 本発明は、電気化学素子電極用バインダー粒子集合体、電気化学素子電極用スラリー組成物およびそれらの製造方法、並びに、電気化学素子用電極および電気化学素子に関するものである。 ・・・ 発明が解決しようとする課題 [0006] しかしながら、上記従来の技術では、スラリー組成物を調製する際に、乾燥後の重合体が溶媒に溶解し難い。そのため、スラリー組成物中に凝集物が生じ易く、スラリー組成物の塗工性が損なわれるという問題があった。また、電気化学素子には、高電圧下で充放電を繰り返した場合であっても、高い放電容量を維持することが求められている。しかしながら、上記従来のスラリー組成物を用いて形成した電極を備える電気化学素子を、高電圧下において繰り返し充放電させると、放電容量が大幅に低下してしまうという問題があった。すなわち、上記従来の技術には、スラリー組成物の集電体上への塗工性を確保すると共に、電気化学素子に優れた高電圧サイクル特性を発揮させるという点において、改善の余地があった。 [0007] そこで、本発明は、上述した改善点を有利に解決する手段を提供することを目的とする。 ・・・ [0021] 本発明によれば、溶媒への溶解性に優れ、また、スラリー組成物の塗工性および電気化学素子の高電圧サイクル特性を高めることも可能な、電気化学素子電極用バインダー粒子集合体が得られる。 また、本発明によれば、塗工性に優れ、また、電気化学素子に優れた高電圧サイクル特性を発揮させる電極合材層を形成可能な電気化学素子電極用スラリー組成物が得られる。 更に、本発明によれば、電気化学素子に優れた高電圧サイクル特性を発揮させる電気化学素子用電極が得られる。 そして、本発明によれば、優れた高電圧サイクル特性を有する電気化学素子が得られる。」 (甲1c)「[0027]<<重合体の組成>> 重合体は、少なくとも、ニトリル基含有単量体単位を含み、そして、少なくとも1種のその他の単量体単位を含む。重合体に含まれるニトリル基含有単量体単位以外の単量体単位としては、特に限定されないが、酸性基含有単量体単位、塩基性基含有単量体単位、単官能エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体単位、共役ジエン単量体単位、および芳香族ビニル単量体単位が挙げられる。 そして、重合体は、その他の単量体単位として、酸性基含有単量体単位および塩基性基含有単量体単位の少なくとも一方を含むことが好ましく、酸性基含有単量体単位および塩基性基含有単量体単位の双方を含むことがより好ましい。酸性基含有単量体単位および塩基性基含有単量体単位の少なくとも一方を含む重合体は、酸性基および/または塩基性基(特には酸性基)を介して電極活物質と良好に相互作用する。そのため、電極のピール強度を高めることができ、また、電気化学素子の高電圧サイクル特性を一層向上させることができる。加えて、酸性基含有単量体単位および塩基性基含有単量体単位の双方を含む重合体は、上述のように電極活物質と良好に相互作用する一方、重合体を構成するポリマー鎖間では、酸性基と塩基性基がイオン結合などにより相互作用することでポリマー強度が向上する。そのため、重合体は、高電圧条件で繰り返し充放電を行った場合であっても、その接着性を安定して保持することができる。したがって、酸性基含有単量体単位および塩基性基含有単量体単位の双方を含む重合体を用いれば、電極のピール強度を更に高めると共に、電気化学素子の高電圧サイクル特性をより一層向上させることができる。 また、重合体は、その他の単量体単位として、単官能エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体単位を含むことが好ましい。単官能エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体単位を含む重合体は、電極に柔軟性を付与することができる。 [0028][ニトリル基含有単量体単位] ニトリル基含有単量体単位を形成し得るニトリル基含有単量体としては、α,β-エチレン性不飽和ニトリル単量体が挙げられる。具体的には、α,β-エチレン性不飽和ニトリル単量体としては、ニトリル基を有するα,β-エチレン性不飽和化合物であれば特に限定されないが、例えば、アクリロニトリル;α-クロロアクリロニトリル、α-ブロモアクリロニトリルなどのα-ハロゲノアクリロニトリル;メタクリロニトリル、α-エチルアクリロニトリルなどのα-アルキルアクリロニトリル;などが挙げられる。これらの中でも、ニトリル基含有単量体としては、アクリロニトリルおよびメタクリロニトリルが好ましい。 これらは、単独で、または、2種以上を組み合わせて用いることができる。 [0029] そして、重合体が含有するニトリル基含有単量体単位の割合は、重合体の全繰り返し単位を100モル%とした場合、75.0モル%以上99.5モル%以下であることが必要であり、80.0モル%以上であることが好ましく、85.0モル%以上であることがより好ましく、87.0モル%以上であることが更に好ましく、90.0モル%以上であることが特に好ましく、92.85モル%であることが最も好ましく、99.0モル%以下であることが好ましく、98.0モル%以下であることがより好ましい。重合体中のニトリル基含有単量体単位の含有割合が上記上限値を上回ると、電極の柔軟性が損なわれる。そのため充放電の繰り返しに伴う電極活物質の膨張・収縮等により電極が割れ易くなる。一方、重合体中のニトリル基含有単量体単位の含有割合が上記下限値を下回ると、重合体の耐酸化性が低下し、また重合体が電極活物質を良好に被覆することができない。加えて、バインダー粒子集合体の流動性が低下する。すなわち、重合体中のニトリル基含有単量体単位の含有割合が上記範囲内であれば、バインダー粒子集合体のハンドリング性を高めることができる。また、耐酸化性に優れる重合体により電極活物質を良好に被覆すると共に電極の柔軟性も確保されるため、電気化学素子の高電圧サイクル特性を向上させることができる。そして、電気化学素子の内部抵抗を低減することもできる。 [0030][その他の単量体単位] ―酸性基含有単量体単位― 酸性基含有単量体単位を形成し得る酸性基含有単量体としては、例えば、カルボン酸基含有単量体、スルホン酸基含有単量体、およびリン酸基含有単量体が挙げられる。酸性基含有単量体としてこれらの単量体を用いれば、電極のピール強度を高めることができる。また、電気化学素子の高電圧サイクル特性を更に向上させることができる。なお、酸性基含有単量体は、ナトリウム塩やリチウム塩などの塩の形態であってもよい。 [0031] そして、カルボン酸基含有単量体としては、モノカルボン酸およびその誘導体や、ジカルボン酸およびその酸無水物並びにそれらの誘導体などが挙げられる。 モノカルボン酸としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸などが挙げられる。 モノカルボン酸誘導体としては、2-エチルアクリル酸、イソクロトン酸、α-アセトキシアクリル酸、β-trans-アリールオキシアクリル酸、α-クロロ-β-E-メトキシアクリル酸などが挙げられる。 ジカルボン酸としては、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸などが挙げられる。 ジカルボン酸誘導体としては、メチルマレイン酸、ジメチルマレイン酸、フェニルマレイン酸、クロロマレイン酸、ジクロロマレイン酸、フルオロマレイン酸や、マレイン酸ノニル、マレイン酸デシル、マレイン酸ドデシル、マレイン酸オクタデシル、マレイン酸フルオロアルキルなどのマレイン酸モノエステルが挙げられる。 ジカルボン酸の酸無水物としては、無水マレイン酸、アクリル酸無水物、メチル無水マレイン酸、ジメチル無水マレイン酸などが挙げられる。 また、カルボン酸基含有単量体としては、加水分解によりカルボキシル基を生成する酸無水物も使用できる。 ・・・ [0035] そして、重合体が含有する酸性基含有単量体単位の割合は、重合体の全繰り返し単位を100モル%とした場合、0.3モル%以上であることが好ましく、0.5モル%以上であることがより好ましく、1.0モル%以上であることが更に好ましく、1.2モル%以上であることが特に好ましく、8.0モル%以下であることが好ましく、6.0モル%以下であることがより好ましく、5.0モル%以下であることが更に好ましく、3.0モル%以下であることが特に好ましい。重合体中の酸性基含有単量体単位の含有割合が上記上限値以下であれば、ニトリル基含有単量体単位の含有割合が十分に確保された重合体が電極活物質を良好に被覆することができ、また上記下限値以上であれば、電極のピール強度を向上させることができる。そのため、重合体中の酸性基含有単量体単位の含有割合が上記範囲内であれば、電気化学素子の高電圧サイクル特性を更に向上させることができる。 [0036]―塩基性基含有単量体単位― 塩基性基含有単量体単位を形成し得る塩基性基含有単量体としては、例えば、アミノ基含有単量体、アミド基含有単量体などの窒素含有官能基を有する単量体(但し、上述したニトリル基含有単量体を除く。)が挙げられる。塩基性基含有単量体としてこれらの単量体を用いれば、電極のピール強度を高めることができる。また、電気化学素子の高電圧サイクル特性を更に向上させることができる。なお、塩基性基含有単量体は、塩化物イオン等を含む塩の形態であってもよい。 [0037] そして、アミノ基含有単量体としては、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、アミノエチルビニルエーテル、ジメチルアミノエチルビニルエーテルなどが挙げられる。なお、本発明において、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレートおよび/またはメタクリレートを意味する。 [0038] また、アミド基含有単量体としては、N-ビニルアセトアミド、(メタ)アクリルアミド、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、ジメチル(メタ)アクリルアミド、ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、N-メトキシメチル(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミドなどが挙げられる。 [0039] これらの中でも、電極のピール強度を向上させる観点からは、塩基性基含有単量体としては、ジメチルアミノエチルメタクリレート、ジエチルアミノメタクリレート、アクリルアミドが好ましい。 また、塩基性基含有単量体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。 [0040] そして、重合体が含有する塩基性基含有単量体単位の割合は、重合体の全繰り返し単位を100モル%とした場合、0.1モル%以上であることが好ましく、0.3モル%以上であることがより好ましく、4.0モル%以下であることが好ましく、3.0モル%以下であることがより好ましく、2.0モル%以下であることが更に好ましく、1.0モル%以下であることが特に好ましい。重合体中の塩基性基含有単量体単位の含有割合が上記上限値以下であれば、ニトリル基含有単量体単位の含有割合が十分に確保された重合体が電極活物質を良好に被覆することができる。また、重合体中の塩基性基含有単量体単位の含有割合が上記下限値以上であれば、電極のピール強度を向上させることができる。特に、重合体が酸性基含有単量体単位および塩基性基含有単量体単位の双方を含む場合は、重合体を構成するポリマー鎖同士が、塩基性と酸性基を介して良好に相互作用して、電極のピール強度を更に向上させることができる。そのため、重合体中の塩基性基含有単量体単位の含有割合が上記範囲内であれば、電気化学素子の高電圧サイクル特性を更に向上させることができる。 ・・・ [0043]―単官能エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体単位― 単官能エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体単位を形成し得る単官能エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体は、エチレン性不飽和結合を分子中に1つ有するモノカルボン酸エステルであり、当該単量体としては、例えば、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n-プロピルアクリレート、イソプロピルアクリレート、n-ブチルアクリレート、t-ブチルアクリレート、ペンチルアクリレート、ヘキシルアクリレート、ヘプチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレートなどのオクチルアクリレート、ノニルアクリレート、デシルアクリレート、ラウリルアクリレート、n-テトラデシルアクリレート、ステアリルアクリレート等のアクリル酸アルキルエステル;メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、n-プロピルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、n-ブチルメタクリレート、t-ブチルメタクリレート、ペンチルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、ヘプチルメタクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレートなどのオクチルメタクリレート、ノニルメタクリレート、デシルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、n-テトラデシルメタクリレート、ステアリルメタクリレート等のメタクリル酸アルキルエステル;などが挙げられる。 これらの中でも、重合体の調製時の反応性および重合安定性を確保しつつ、電極に柔軟性を付与する観点から、n-ブチルアクリレートが好ましい。また、単官能エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。 [0044] そして、重合体が含有する単官能エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体単位の割合は、重合体の全繰り返し単位を100モル%とした場合、0.2モル%以上であることが好ましく、1.0モル%以上であることがより好ましく、20.0モル%以下であることが好ましく、15.0モル%以下であることがより好ましく、10.0モル%以下であることが更に好ましく、5.0モル%以下であることが特に好ましい。重合体中の単官能エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体単位の含有割合が上記上限値以下であれば、重合体が電解液中で過度に膨潤することもなく、重合体が電極活物質を良好に被覆することができる。一方、重合体中の単官能エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体単位の含有割合が上記下限値以上であれば、電極の柔軟性が向上し、例えば、充放電の繰り返しに伴い電極活物質が膨張・収縮した場合であっても、電極の割れを抑制することができる。従って、重合体中の単官能エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体単位の含有割合が上記範囲内であれば、電極のピール強度が確保される。」 (甲1d)「実施例 [0091] 以下、本発明について実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、以下の説明において、量を表す「%」、「部」および「ppm」は、特に断らない限り、質量基準である。 ・・・ [0093](実施例1) <重合体の調製(乳化重合)> メカニカルスターラーおよびコンデンサを装着した反応器Aに、窒素雰囲気下、イオン交換水85部、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.2部を入れた後、撹拌しながら55℃に加熱し、水溶性の重合開始剤である過硫酸カリウム0.3部を5.0%水溶液として反応器Aに添加した。次いで、メカニカルスターラーを装着した上記とは別の容器Bに、窒素雰囲気下、ニトリル基含有単量体としてアクリロニトリル94.0部(97.10モル%)、酸性基含有単量体としてメタクリル酸2.0部(1.27モル%)、塩基性基含有単量体としてジメチルアミノエチルメタクリレート1.0部(0.35モル%)、および単官能エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体としてn-ブチルアクリレート3.0部(1.28モル%)、並びに、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.6部、ターシャリードデシルメルカプタン0.035部、ポリオキシエチレンラウリルエーテル0.4部、およびイオン交換水80部を添加し、これを攪拌乳化させて単量体混合液を調製した。そして、この単量体混合液を攪拌乳化させた状態にて、5時間かけて一定の速度で反応器Aに添加し、重合転化率が95%になるまで反応させ、重合体の水分散液(バインダー粒子用スラリー)を得た。 <バインダー粒子集合体の調製> 上述のようにして得られた重合体の水分散液を、噴霧乾燥機(大川原化工機社製)を用いて、アトマイザー:回転円盤方式(直径:65mm)、回転数:13,000rpm、熱風温度:150℃の条件で噴霧乾燥を行い、バインダー粒子集合体を調製した。得られたバインダー粒子集合体の気孔含有率、粒子径(D10径、D50径、D90径)、水分含有率、および流動性を評価した。結果を表1に示す。また、得られたバインダー粒子集合体の光学顕微鏡写真を図1に示す。この光学顕微鏡写真には、1マスが50μm×50μmである格子状の補助線が追加されている。 <正極用スラリー組成物の調製> 正極活物質としてのリチウム含有コバルト酸化物(LiCoO2)95.0部と、導電材としてのアセチレンブラック(電気化学工業社製、デンカブラック粉状品)3.0部と、上述のようにして得られたバインダー粒子集合体2.0部とをプラネタリーミキサー(プライミックス社製)に投入し、攪拌羽根の回転数5rpmで10分間乾式混合して、乾式混合物を得た。得られた乾式混合物に適量のNMPを加え、攪拌羽根の回転数60rpmで20分間混練した。そして、得られた混合物に更に適量のNMPを加え、正極用スラリー組成物を調製した。なお混合物に添加したNMPの量は、得られる正極用スラリー組成物の温度25℃における粘度(B型粘度計(東機産業株式会社製、「TVB-10」)を用い、60rpmで測定した値)が約4000mPa・sとなるように調整した。 そして、得られた正極用スラリー組成物の塗工性を評価した。結果を表1に示す。 <正極の作製> 集電体として、厚さ15μmのアルミ箔を準備した。上述のようにして調製した正極用スラリー組成物を、アルミ箔の一方の面に、乾燥後の塗布量が20mg/cm2になるように塗布した。そして、アルミ箔上の塗膜を60℃で20分、120℃で20分間乾燥後、120℃で2時間加熱処理した。同様の操作をアルミ箔のもう一方の面についても行い、正極原反を得た。この正極原反をロールプレスで圧延し、密度が3.7g/cm3の正極合材層を集電体の両面に備えるシート状正極を作製した。このシート状正極を4.8cm×50cmの長方形に切り出し、正極とした。 ・・・ [0094](実施例2~4,8~10) 重合体の調製時に表1に記載の単量体組成を採用した以外は、実施例1と同様にして、重合体の水分散液、バインダー粒子集合体、正極用スラリー組成物、正極、負極、およびリチウムイオン二次電池を作製した。そして、実施例1と同様にして各種評価を行った。結果を表1に示す。」 ・・・ [0104] なお、表1中 「AN」は、アクリロニトリル単位を示し、 ・・・ 「MAA」は、メタクリル酸単位を示し、 ・・・ 「AAm」は、アクリルアミド単位を示し、 「BA」は、n-ブチルアクリレート単位を示し、 ・・・を示す。 [0105] [表1] [図:0001384090000006.jpg] 」 (2)甲第2号証に記載された事項 甲第2号証には、以下の事項が記載されている。 (甲2a)「請求の範囲 [請求項1] 負極活物質および水溶性重合体を含み、 前記負極活物質は、シリコン系負極活物質を含み、前記シリコン系負極活物質が前記負極活物質中に占める割合が30質量%以上であり、 前記水溶性重合体は、 エチレン性不飽和カルボン酸およびその塩の少なくとも一方よりなるエチレン性不飽和カルボン酸化合物(A)と、 20℃における水100gに対する溶解度が7g以上であるエチレン性不飽和結合を有する共重合可能な化合物(B)と、 を含む単量体組成物を重合して得られ、 前記単量体組成物は、全単量体中の前記エチレン性不飽和カルボン酸化合物(A)の割合が20.0質量%以上79.5質量%以下であり、全単量体中の前記化合物(B)の割合が20.0質量%以上79.5質量%以下であり、 前記水溶性重合体の電解液膨潤度が120%未満であり、 そして、前記シリコン系負極活物質100質量部当たり、前記水溶性重合体を3質量部以上500質量部未満含む、リチウムイオン二次電池負極用ペースト組成物。」 (甲2b)「[0025][単量体組成物] 本発明のリチウムイオン二次電池負極用ペースト組成物に用いられる水溶性重合体は、以下に詳細に説明する単量体組成物を重合して得られるものである。そして、通常、この水溶性重合体は、単量体組成物中に含まれていた単量体に由来する構造単位を当該単量体組成物中の各単量体の存在比率と同様の比率で含有している。 そして、水溶性重合体の調製に用いる単量体組成物は、例えば、単量体と、重合開始剤などの添加剤と、重合溶媒とを含有する。そして、単量体組成物は、単量体として、エチレン性不飽和カルボン酸化合物(A)および化合物(B)を所定の割合で含有する。具体的には、単量体組成物は、単量体組成物中の全単量体の量を100質量%とした際に、20.0質量%以上79.5質量%以下のエチレン性不飽和カルボン酸化合物(A)と、20.0質量%以上79.5質量%以下の化合物(B)とを含有する。即ち、水溶性重合体は、エチレン不飽和カルボン酸化合物(A)由来の構造単位を20.0質量%以上79.5質量%以下含み、化合物(B)由来の構造単位を20.0質量%以上79.5質量%以下含む。 なお、単量体組成物は、任意に、エチレン性不飽和カルボン酸化合物(A)および化合物(B)と共重合可能である化合物、具体的には、多官能化合物(C)、エチレン性不飽和スルホン酸およびその塩、並びにエチレン性不飽和リン酸およびその塩からなる群から選択される少なくとも一種よりなる化合物(D)、更にこれらを除いたその他の化合物を単量体として含有していてもよい。 [0026]-エチレン性不飽和カルボン酸化合物(A)- エチレン性不飽和カルボン酸化合物(A)としては、エチレン性不飽和カルボン酸およびその塩の少なくとも一方を用いることができる。そして、エチレン性不飽和カルボン酸としては、エチレン性不飽和モノカルボン酸およびその誘導体、エチレン性不飽和ジカルボン酸およびその酸無水物並びにそれらの誘導体などが挙げられる。また、エチレン性不飽和カルボン酸塩としては、エチレン性不飽和カルボン酸のナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩などが挙げられる。 なお、エチレン性不飽和カルボン酸およびその塩は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。 [0027] ここで、エチレン性不飽和モノカルボン酸の例としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸などが挙げられる。そして、エチレン性不飽和モノカルボン酸の誘導体の例としては、2-エチルアクリル酸、イソクロトン酸、α-アセトキシアクリル酸、β-trans-アリールオキシアクリル酸、α-クロロ-β-E-メトキシアクリル酸、β-ジアミノアクリル酸などが挙げられる。 また、エチレン性不飽和ジカルボン酸の例としては、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸などが挙げられる。そして、エチレン性不飽和ジカルボン酸の酸無水物の例としては、無水マレイン酸、ジアクリル酸無水物、メチル無水マレイン酸、ジメチル無水マレイン酸などが挙げられる。さらに、エチレン性不飽和ジカルボン酸の誘導体の例としては、メチルマレイン酸、ジメチルマレイン酸、フェニルマレイン酸、クロロマレイン酸、ジクロロマレイン酸、フルオロマレイン酸、などが挙げられる。 [0028] なお、エチレン性不飽和カルボン酸化合物(A)としては、エチレン性不飽和カルボン酸塩、好ましくはエチレン性不飽和カルボン酸のリチウム塩を用いることができる。エチレン性不飽和カルボン酸塩を使用すれば、得られる水溶性重合体の水溶性を高めることができるので、重合溶媒として水を使用して水溶性重合体を調製する際に、単量体組成物中の単量体濃度を高濃度としても、水溶性重合体の析出による重合の不均質な進行を防止することができる。従って、高単量体濃度の単量体組成物を使用して生産性を高めつつ、重合を均一に進行させることができる。また、エチレン性不飽和カルボン酸のリチウム塩を使用すれば、得られる水溶性重合体中にカルボン酸リチウム塩基(-COOLi)が導入され、スラリー組成物の安定性が向上する。そして負極合材層と集電体の密着性およびリチウムイオン二次電池の保存安定性が高まり、またリチウムイオン二次電池のサイクル特性が更に向上するとともに内部抵抗を低減することができる。 また、リチウムイオン二次電池の負極の膨らみを抑制してサイクル特性を更に向上させ、加えて内部抵抗を低減する観点からは、エチレン性不飽和カルボン酸化合物としては、アクリル酸、メタクリル酸またはそれらの塩を用いることが好ましく、アクリル酸またはアクリル酸塩を用いることが更に好ましい。」 (甲2c)「[0045]-添加剤- 水溶性重合体の調製に用いる単量体組成物に配合する添加剤としては、過硫酸カリウム等の重合開始剤や、テトラメチルエチレンジアミン等の重合促進剤などの重合反応に使用し得る既知の添加剤が挙げられる。 また、単量体組成物には、単量体としてのエチレン性不飽和カルボン酸、エチレン性不飽和スルホン酸、およびエチレン性不飽和リン酸を、重合前に中和して塩に変換すべく、塩基性化合物を添加剤として添加することが好ましい。単量体を重合前に中和して塩とすることで、重合の安定性を確保することができ、また、重合後に中和する工程を省略し、製造工程全体の簡略化が図れるからである。 ここで、単量体として、エチレン性不飽和カルボン酸、エチレン性不飽和スルホン酸、およびエチレン性不飽和リン酸の少なくとも何れかを含む単量体組成物を使用した場合には、上記中和を行なう際に、塩基性化合物として塩基性のリチウム化合物を使用することが好ましい。塩基性のリチウム化合物を使用すれば、単量体組成物中に含まれる単量体のカルボキシル基、スルホン酸基およびリン酸塩基が、それぞれカルボン酸リチウム塩基(-COOLi)、スルホン酸リチウム塩基(-SO3Li)およびリン酸リチウム塩基(-PO4Li2、-PO4LiH)となり、重合後に得られる水溶性重合体を含むスラリー組成物のチクソ性および安定性が更に向上すると共に、リチウムイオン二次電池の内部抵抗が低減され、加えてサイクル特性および保存安定性が向上するからである。なお、塩基性のリチウム化合物としては、炭酸リチウム(Li2CO3)や水酸化リチウム(LiOH)を用いることができ、水酸化リチウムを用いることが好ましい。」 (甲2d)「[0091]<水溶性重合体の水溶液の調製> [製造例1] セプタム付き1Lフラスコに、イオン交換水720gを投入して、温度40℃に加熱し、流量100mL/分の窒素ガスでフラスコ内を置換した。次に、イオン交換水10gと、エチレン性不飽和カルボン酸化合物(A)としてのアクリル酸9.5g(25.0%)と、化合物(B)としてのアクリルアミド28.5g(75.0%)とを混合して、シリンジでフラスコ内に注入した。その後、重合開始剤としての過硫酸カリウムの2.5%水溶液8.0gをシリンジでフラスコ内に追加した。更に、その15分後に、重合促進剤としてのテトラメチルエチレンジアミンの2.0%水溶液40gをシリンジで追加した。4時間後、重合開始剤としての過硫酸カリウムの2.5%水溶液4.0gをフラスコ内に追加し、更に重合促進剤としてのテトラメチルエチレンジアミンの2.0%水溶液20gを追加して、温度を60℃に昇温し、重合反応を進めた。3時間後、フラスコを空気中に開放して重合反応を停止させ、生成物を温度80℃で脱臭し、残留モノマーを除去した。 その後、水酸化リチウムの10%水溶液を用いて生成物のpHを8に調整して、水溶性重合体を含む水溶液を得た。そして、水溶性重合体の電解液膨潤度を測定した。」 (3)甲第3号証に記載された事項 甲第3号証には、以下の事項が記載されている。 (甲3a)「【特許請求の範囲】 【請求項1】 ニトリル基含有単量体由来の構造単位と、酸性官能基含有単量体由来の構造単位と、式(I)で表される単量体由来の構造単位及び/又は式(II)で表される単量体由来の構造単位とからなる共重合体と、 前記酸性官能基を中和可能な塩基性化合物と、 を含有する、バインダ樹脂組成物。 【化1】 [図:0001384090000007.jpg] (式中、R1はH又はCH3;R2はH又は炭素数1~12のアルキル基、又はフェニル基;nは1~50の整数である。) 【化2】 [図:0001384090000008.jpg] (式中、R3はH又はCH3;R4は炭素数4~100のアルキル基である。) 【請求項2】 前記共重合体において、前記ニトリル基含有単量体由来の構造単位1モルに対して、前記酸性官能基含有単量体由来の構造単位の含有量が0.1~1.5モルであり、前記式(I)及び/又は式(II)で表される単量体由来の構造単位の合計の含有量が0.001~1.5モルである、請求項1に記載のバインダ樹脂組成物。 【請求項3】 前記塩基性化合物は、アルカリ金属及びアルカリ土類金属の水酸化物、アルカリ金属及びアルカリ土類金属の炭酸塩、アンモニア、炭素数1~50のアミン類、炭素数5~20のピリジン類及び炭素数2~20のアゾール類からなる群から選ばれる一種の化合物を含有する、請求項1又は2に記載のバインダ樹脂組成物。 【請求項4】 エネルギーデバイス用電極の製造過程で使用される合剤スラリーに配合するためのものである、請求項1~3のいずれか一項に記載のバインダ樹脂組成物。 【請求項5】 集電体と、 請求項4に記載のバインダ樹脂組成物と活物質の混合物からなり、前記集電体の少なくとも一方の面に設けられた合剤層と、 を備える、エネルギーデバイス用電極。 【請求項6】 請求項5に記載のエネルギーデバイス用電極を備える、エネルギーデバイス。 【請求項7】 請求項5に記載のエネルギーデバイス用電極を備える、リチウムイオン二次電池。」 (甲3b)「【0028】 (酸性官能基含有単量体) 酸性官能基含有単量体としては、特に制限はないが、一般にエチレン性不飽和二重結合と、酸性官能基(即ち、カルボキシル基、スルホ基、ホスホ基等)とを有する化合物であり、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、クロトン酸、イタコン酸、シトラコン酸、ビニル安息香酸のようなカルボキシル基含有単量体、ビニルベンゼンスルホン酸のようなスルホ基含有単量体、アッシドホスホキシエチルメタクリレート(ユニケミカル(株)製、商品名:Phosmer M)、アッシドホスホキシポリオキシエチレングリコールモノメタクリレート(ユニケミカル(株)製、商品名:Phosmer PE)、3-クロロ-2-アッシドホスホキシプロピルメタクリレート(ユニケミカル(株)製、商品名:Phosmer CL)、アッシドホスホキシポリオキシプロピレングリコールモノメタクリレート(ユニケミカル(株)製、商品名:Phosmer PP)のようなホスホ基含有単量体などが挙げられ、更に式(III)及び式(IV)で表される単量体が挙げられる。酸性官能基含有単量体は、一種を単独で又は二種類以上組み合わせて用いられる。」 (甲3c)「【実施例】 【0070】 以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらによって制限されるものではない。 【0071】 (合成例1) 攪拌機、温度計、冷却管、送液ポンプを装着した0.5リットルの4つ口フラスコ内に、水275g、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(和光純薬社製)の15%水溶液5.81gを加え、アスピレーターで20mmHgに減圧後、窒素で常圧に戻す操作を3回繰り返した。フラスコ内を窒素雰囲気に保ち、攪拌しながらオイルバスで60℃に加熱後、過硫酸アンモニウム0.14gを水5gに溶解してフラスコに加えた。過硫酸アンモニウムを加えた直後から、ニトリル基含有単量体のアクリロニトリル(和光純薬社製)17.25g、酸性官能基含有単量体のアクリル酸(和光純薬社製)12.25g(アクリロニトリル1モルに対して0.523モルの割合)、及び式(I)で表される単量体のメチルトリエチレングリコールアクリレート(Aldrich社製)1.09g(アクリロニトリル1モルに対して0.0154モルの割合)の混合物を送液ポンプで2時間掛けて滴下した。4時間攪拌を継続後80℃に昇温し、更に2時間攪拌を継続して樹脂組成物水分散液を得た。 ・・・ 【0074】 (実施例1) 0.2リットルフラスコに合成例1の水分散液50gを水50gで希釈し、塩基性化合物のトリエチルアミン(和光純薬社製)2.57g(重合物中に含まれる酸性官能基と当量)を加えて室温で攪拌すると、粘調な懸濁溶液が得られた。得られた懸濁溶液をアルミパンに約1ml量り取り、160℃に加熱したホットプレート上で15分間乾燥させ、残渣重量から不揮発分を算出したところ6.16%であった。残りの懸濁溶液に水を加えて不揮発分が6%になるように調製し、本発明のバインダ樹脂組成物含有水溶液を得た。 【0075】 (実施例2~14) 樹脂組成物水分散液の種類、塩基性化合物の組成を表1に示したものに変えた以外は全て実施例1に示した方法で行った。実施例1~14の組成をまとめて表1に示す。 【0076】 【表1】 [図:0001384090000009.jpg] 」 (4)甲第4号証に記載された事項 甲第4号証には、以下の事項が記載されている。 (甲4a)「請求の範囲 [請求項1] 結着材と、有機分散媒とを含み、 前記結着材の重量平均分子量が100,000~2,000,000であり、 前記結着材が、酸性基を有するエチレン性不飽和単量体単位を10~35質量%含有し、 前記酸性基に対し、0.6~1.5当量のリチウムを含む、リチウムイオン二次電池正極用結着材組成物。 [請求項2] 請求項1に記載のリチウムイオン二次電池正極用結着材組成物と、正極活物質と、導電材とを含む、リチウムイオン二次電池正極用スラリー組成物。 [請求項3] B型粘度計で測定したTI値(60rpmでの粘度に対する6rpmでの粘度の比)が1~4である、請求項2に記載のリチウムイオン二次電池正極用スラリー組成物。 [請求項4] 前記結着材が、(メタ)アクリレート単量体単位を50~85質量%含有する、請求項2または3に記載のリチウムイオン二次電池正極用スラリー組成物。 [請求項5] 前記酸性基が、カルボン酸基およびスルホン酸基の少なくとも一方を含む、請求項2~4の何れかに記載のリチウムイオン二次電池正極用スラリー組成物。 ・・・」 (甲4b)「[0026] また、結着材として使用する重合体において、酸性基を有するエチレン性不飽和単量体単位の含有割合は、10質量%以上35質量%以下である必要があり、15質量%以上であることが好ましく、30質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることが更に好ましい。酸性基を有するエチレン性不飽和単量体単位の含有割合が10質量%未満の場合および35質量%超の場合には、リチウムイオン二次電池正極用結着材組成物を用いて調製したリチウムイオン二次電池正極用スラリー組成物に凝集物が発生し、リチウムイオン二次電池正極用スラリー組成物の分散性が低下する。 なお、上記重合体が有する酸性基の一部または全部は、通常、後述するリチウムと塩を形成している。 [0027] ここで、上記酸性基を有するエチレン性不飽和単量体単位を形成し得る単量体は、例えば、カルボン酸基、スルホン酸基、リン酸基、マレイミド基などの酸性基を有するエチレン性不飽和単量体であれば特に限定されない。 [0028] 具体的には、酸性基としてカルボン酸基を有するエチレン性不飽和単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸などの不飽和モノカルボン酸;マレイン酸、フマル酸、イタコン酸などのエチレン性不飽和ジカルボン酸;マレイン酸モノメチル、イタコン酸モノエチルなどのエチレン性不飽和多価カルボン酸の部分エステル化物などが挙げられる。」 (甲4c)「[0045] そして、上述した重合体は、通常、水系媒体中に分散した分散液の状態で製造される。具体的には、重合体は、上述した各単量体を所望の比率で配合してなる単量体組成物を水中で重合することにより、重合体の水分散液として得られる。そして、水分散液の状態で得られる重合体は、後に「(リチウムイオン二次電池正極用スラリー組成物の製造方法)」の項において詳細に説明するように、例えば、後述するリチウム化合物を水分散液に所定量添加し、pHを調整した後、水を有機分散媒で置換してリチウムイオン二次電池正極用結着材組成物としてから、リチウムイオン二次電池正極用スラリー組成物の調製に用いられる。」 (甲4d)「実施例 [0082] 以下、本発明について実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、以下の説明において、量を表す「%」及び「部」は、特に断らない限り、質量基準である。 ・・・ [0084](実施例1) <リチウムイオン二次電池正極用結着材組成物の調製> 撹拌機付きのオートクレーブに、イオン交換水164質量部、(メタ)アクリレート単量体として2-エチルヘキシルアクリレート(2EHA)68質量部、カルボン酸基を有するエチレン性不飽和単量体としてメタクリル酸(MAA)16質量部、スルホン酸基を有するエチレン性不飽和単量体として2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸(AMPS)1質量部、α,β-不飽和ニトリル単量体としてアクリロニトリル(AN)15質量部、重合開始剤として過硫酸カリウム0.3部、乳化剤としてラウリル硫酸ナトリウム1.6部、分子量調整剤としてt-ドデシルメルカプタン0.05部を入れ、十分に撹拌した後、70℃で3時間、80℃で2時間加温して重合を行い、酸性基含有アクリル重合体の水分散液(pH:3.5)を得た。なお、固形分濃度から求めた重合転化率は96%であった。 次に、このpHが3.5の酸性基含有アクリル重合体の水分散体100部(固形分換算)に、当該水分散体における酸性基に対するリチウム量が0.9当量となるように、4%水酸化リチウム水溶液を固形分換算で1.6部加え、pHを8.5とした。その後、N-メチルピロリドン500部を加え、減圧下で水および残留モノマーをすべて蒸発させると共にN-メチルピロリドンを81部蒸発させて、酸性基含有アクリル重合体のN-メチルピロリドン溶液(濃度:8質量%)よりなるリチウムイオン二次電池正極用結着材組成物Aを得た。」 第6 当審の判断 上記「第2 訂正の適否についての判断」及び「第3 特許請求の範囲の記載」で示したとおり、請求項7、11~13は、本件訂正によりその内容が全て削除されているので、各項に係る特許に対する特許異議の申立ては、その対象を欠くものとなり、不適法なものであるから、特許法第120条の8で準用する同法第135条の規定により、請求項7、11~13についての申立てを却下する。 当審は、当審が通知した取消理由A~C及び申立人がした申立理由1~3によっては、いずれも、本件発明1~6、8~10に係る特許を取り消すことはできないと判断する。 その理由は以下のとおりである。 なお、取消理由Cと申立理由1は同じ趣旨であるので、以下「1 取消理由について」「(3)取消理由C(拡大先願)について」において、併せて検討する。 1 取消理由について (1)取消理由A(明確性)について ア 取消理由A(明確性)の概要 取消理由A(明確性)の概要は、以下のとおりである。 (a)本件訂正前の請求項1の「・・・アクリロニトリル共重合体バインダー」の記載について、「バインダー」とは一般的に、結合材や結着剤を意味するところ、請求項1の「バインダー」とは「アクリロニトリル共重合体」そのものを意味しているのか、あるいは、他の添加成分をも含む組成物を意味しているのか、不明確である。 (b)本件訂正前の請求項1と請求項2の記載を比較すると、両者とも「アクリロニトリル共重合体バインダー」に係る発明であるところ、請求項1では、「・・・を共重合させることを特徴とする」との記載がないのに対し、請求項2では、「・・・を含む」との記載がなく、両者で表現ぶりが異なっている。そうすると、請求項1の「・・・アクリロニトリル共重合体バインダー」とは、請求項2と同様に「・・・アクリロニトリル78~95%、アクリレート系1~10%、アクリルアミド系2~15%、及びアクリル酸塩系2~8%を共重合」させた「共重合体」のみを意図しているのか、あるいは、この共重合体に加えて、例えば、「・・・アクリロニトリル78~95%、アクリレート系1~10%、アクリルアミド系2~15%、及びアクリル酸塩系2~8%」の単量体を含む態様を意図しているのか、明らかでない。 イ 判断 (ア)上記ア(a)の点について 上記ア(a)の点について、特許権者は、令和3年10月7日付け意見書において、「本件特許発明1の「バインダー」とは、取消理由通知でご指摘いただいた通り、「バインダー」という用途を備えた「アクリロニトリル共重合体」そのものを意味しております」と説明した。よって、請求項1の「・・・アクリロニトリル共重合体バインダー」とは、その文言どおり、他の添加成分をも含む組成物ではなく、「アクリロニトリル共重合体」そのものを意味していることが当業者に理解でき、特許権者の説明もそれに沿ったものであるから、請求項1の記載は明確である。 (イ)上記ア(b)の点について 上記ア(b)の点について、特許権者は、令和3年10月7日付け意見書において、「請求項1に係るアクリロニトリル共重合体は、単量体(モノマー)に由来する構成単位およびその含有割 合を特定しております。一方、請求項2に係るアクリロニトリル共重合体は、共重合を得るための単量体(モノマー)と、その仕込み率を特定しています。即ち、請求項1で特定するアクリロニトリル共重合体が、請求項2で特定する単量体の重合によって得られたものであることを特定しています」と説明した。よって、請求項1の「アクリロニトリル共重合体」は、その文言どおり、共重合体に加えて「・・・アクリロニトリル78~95%、アクリレート系1~10%、アクリルアミド系2~15%、及びアクリル酸塩系2~8%」の単量体を含む態様を意図しているのではなく、「アクリロニトリル単位78~95%、アクリレート系単位1~10%、アクリルアミド系単位2~15%、及びアクリル酸塩系単位2~8%」を構成単位とする「アクリロニトリル共重合体」そのものであることが当業者に理解でき、特許権者の説明もそれに沿ったものであるから、請求項1の記載は明確である。 ウ 小括 以上のとおり、取消理由Aは、理由がない。 (1)取消理由B(サポート要件)について ア 取消理由B(サポート要件)の概要 取消理由B(サポート要件)の概要は、以下のとおりである。 訂正前の本件発明7、11~13は、アクリロニトリル共重合体バインダーを、「リチウムイオン電池用被覆セパレータ」である又は「リチウムイオン電池用被覆セパレータ」に使用することを発明特定事項としている。 本件明細書をみると、「リチウムイオン電池用被覆セパレータ」については、本件明細書の段落【0027】、【0051】~【0052】の一般的な課題や利用の記載にとどまり、「リチウムイオン電池用被覆セパレータ」が有する具体的な技術課題や本件発明のアクリロニトリル共重合体バインダーが、当該技術課題を解決できることを、当業者が理解するに足りる具体例や評価結果などが、本件明細書に記載されているとはいえない。 したがって、本件明細書には、「リチウムイオン電池用被覆セパレータ」については、「正極バインダー」に比べて、具体的な技術課題や、本件発明のアクリロニトリル共重合体バインダーが当該技術課題を解決できることが十分に記載されていない。 イ 判断 本件訂正により、「リチウムイオン電池用被覆セパレータ」である又は「リチウムイオン電池用被覆セパレータ」に使用することを発明特定事項としている、訂正前の本件発明7、11~13は削除されたので、取消理由Bは、当を得ないものといえる。 ウ 小括 以上のとおり、取消理由Bも、理由がない。 (3)取消理由C(拡大先願)について 上述したとおり、取消理由C-1(拡大先願)と申立理由1(拡大先願)は同じ趣旨であるので、併せて、以下に検討する。 ア 甲第1号証に記載された発明 甲第1号証の上記摘記(甲1d)の実施例9に着目すると、 「ニトリル基含有単量体単位としてアクリロニトリル96.69モル%、 酸性基含有単量体単位としてメタクリル酸1.27モル%、 塩基性基含有単量体単位としてアクリルアミド0.77モル%、および 単官能エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体単位としてn-ブチルアクリレート1.27モル%、 並びに、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.6部、ターシャリードデシルメルカプタン0.035部、ポリオキシエチレンラウリルエーテル0.4部、およびイオン交換水80部を添加し、これを攪拌乳化させて単量体混合液を調製した。そして、この単量体混合液を攪拌乳化させた状態にて、5時間かけて一定の速度で反応器Aに添加し、重合転化率が95%になるまで反応させた、重合体」の発明が記載されており、段落[0094]の「・・・重合体の水分散液(バインダー粒子用スラリー)」との記載、「上述のようにして得られた重合体の水分散液を、噴霧乾燥機(大川原化工機社製)を用いて、アトマイザー:回転円盤方式(直径:65mm)、回転数:13,000rpm、熱風温度:150℃の条件で噴霧乾燥を行い、バインダー粒子集合体を調製した」との記載からみて、「重合体」は「バインダー」という用途を備えているといえる。 また、「アクリロニトリル96.69モル%」、「メタクリル酸1.27モル%」、「アクリルアミド0.77モル%」、「n-ブチルアクリレート1.27モル%」について、 「アクリロニトリル」、「メタクリル酸」、「アクリルアミド」、「n-ブチルアクリレート」の分子量をそれぞれ「53.06」、「86.09」、「71.08」、「128.17」として、「質量%」に換算すると、 アクリロニトリル 53.06(g/mol)×0.9669(mol)=51.03(g) メタクリル酸 86.09(g/mol)×0.0127(mol)= 1.09(g) アクリルアミド 71.08(g/mol)×0.0077(mol)= 0.55(g) n-ブチルアクリレート128.17(g/mol)×0.0127(mol)= 1.63(g) であり、合計は、51.03(g)+1.09(g)+0.55(g)+1.63(g)=54.3(g)であり、 アクリロニトリル 51.03(g)/54.3(g)×100=93.9(質量%) メタクリル酸 1.09(g)/54.3(g)×100= 2.00(質量%) アクリルアミド 0.55(g)/54.3(g)×100= 1.01(質量%) n-ブチルアクリレート1.63(g)/54.3(g)×100=3.00(質量%) となるから、 甲第1号証には、 「ニトリル基含有単量体単位としてアクリロニトリル93.9質量%、 酸性基含有単量体単位としてメタクリル酸2.00質量%、 塩基性基含有単量体単位としてアクリルアミド1.01質量%、および 単官能エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体単位としてn-ブチルアクリレート3.00質量%、 並びに、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.6部、ターシャリードデシルメルカプタン0.035部、ポリオキシエチレンラウリルエーテル0.4部、およびイオン交換水80部を添加し、これを攪拌乳化させて単量体混合液を調製した。そして、この単量体混合液を攪拌乳化させた状態にて、5時間かけて一定の速度で反応器Aに添加し、重合転化率が95%になるまで反応させた、重合体バインダー」の発明(以下「甲1発明1」という。)が記載されているといえる。 イ 本件発明1について (ア)対比 本件発明1と甲1発明1とを対比すると、 甲1発明1の「重合体」は、「アクリロニトリル」、「メタクリル酸」、「アクリルアミド」および「n-ブチルアクリレート」であるモノマーを、「・・・直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.6部、ターシャリードデシルメルカプタン0.035部、ポリオキシエチレンラウリルエーテル0.4部、およびイオン交換水80部を添加し、これを攪拌乳化させて単量体混合液を調製した。そして、この単量体混合液を攪拌乳化させた状態にて、5時間かけて一定の速度で反応器Aに添加し、重合転化率が95%になるまで反応」させる重合反応により、「共重合体」になっているといえるから、本件発明1と同様に、「共重合体」であるといえる。 甲1発明1の「ニトリル基含有単量体単位として」の「アクリロニトリル」は、本件発明1の「アクリロニトリル単位」に相当する。 また、甲1発明1は、「ニトリル基含有単量体単位として」の「アクリロニトリル」を「93.9質量%」含むものであるから、本件発明1の「質量百分率で表す構成単位で、アクリロニトリル単位78~95%」の範囲内で含むものといえる。 甲1発明1の「単官能エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体単位」としての「n-ブチルアクリレート」は、本件明細書の請求項4及び段落【0038】の記載からみて、本件発明1の「アクリレート系単位」に相当するといえる。 甲1発明1は、「単官能エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体単位」としての「n-ブチルアクリレート」を「3.00質量%」含むものであるから、本件発明1の「質量百分率で表す構成単位で」「アクリレート系単位1~10%」の範囲に含まれるものである。 甲1発明1の「塩基性基含有単量体単位として」の「アクリルアミド」は、本件明細書の段落【0014】の記載からみて、本件発明1の「アクリルアミド系単位」に相当する。 甲1発明1の「酸性基含有単量体単位として」の「メタクリル酸」は、本件の請求項5~6の記載及び本件明細書の段落【0041】~【0042】の記載からみて、本件発明1の「アクリル酸塩系単位」と、「アクリル酸系」である限りにおいて、一致する。 また、甲1発明1は、「酸性基含有単量体単位として」の「メタクリル酸」を「2.00質量%」含むものであるから、本件発明1の「質量百分率で表す構成単位で」「2~8%」の範囲に含まれるものである。 そうすると、本件発明1と甲1発明1とは、 「質量百分率で表す構成単位で、アクリロニトリル単位78~95%、アクリレート系単位1~10%、アクリルアミド系単位、及びアクリル酸系単位2~8%を含むことを特徴とするアクリロニトリル共重合体バインダー」 である点で一致し、以下の点で相違する。 相違点1:「アクリロニトリル共重合体バインダー」の「アクリルアミド系単位」の含有量について、本件発明1は質量百分率で表す構成単位で」「2~15%」であるのに対し、甲1発明1では、「1.01質量%」である点。 相違点2:「アクリロニトリル共重合体バインダー」の「アクリル酸系」について、本件発明1では、「アクリル酸塩系」と「塩」となっているのに対し、甲1発明1では、「アクリル酸系」である「メタクリル酸」であり「塩」とはなっていない点。 (イ)判断 相違点1について、検討する。 下記「2 特許異議申立書に記載された申立理由について」「(1)申立理由2(実施可能要件)及び申立理由3(サポート要件)について」「ウ 申立理由3(サポート要件)の判断」「(イ)判断」において述べるとおり、本件発明1は、「リチウムイオン電池用電極シート・・・の調製に適しており、優れた柔軟性を有し、セル作製の工程要件を満たすことができることに加え、電解質中におけるその膨潤度が特定の範囲内に維持されており、充放電中に電極活物質がリチウムイオンの吸蔵・放出に伴って発生する体積の周期的変化に適応し、リチウムイオン電池のエネルギー密度とサイクル性能を向上させるアクリロニトリル共重合体バインダーを提供すること」を課題とするものであり、本件明細書の(本f)には、本件発明1において特定される各構成単位を満たす「アクリロニトリル共重合体バインダー」が本件発明の上記課題を解決できることが記載されている。 甲第1号証の(甲1a)及び(甲1b)の段落[0005]~[0007]には、「電気化学素子電極用バインダー粒子集合体」「スラリー組成物の集電体上への塗工性を確保すると共に、電気化学素子に優れた高電圧サイクル特性を発揮させる」ことを課題として、「ニトリル基含有単量体単位を75.0モル%以上99.5モル%以下含む重合体を含有する複数のバインダー粒子よりなり、前記複数のバインダー粒子の気孔含有率が60%以上である、電気化学素子電極用バインダー粒子集合体」とすること、「前記重合体が、酸性基含有単量体単位および塩基性基含有単量体単位を含み、前記重合体中の前記酸性基含有単量体単位および前記塩基性基含有単量体単位の含有割合の合計が、0.8モル%以上10.0モル%以下である」こと等が記載されている。 以上のとおり、本件発明1と甲第1号証に記載された発明は、解決しようとする課題や課題の解決手段が異なるものである。 また、甲第1号証の(甲1c)の段落[0036]~[0039]をみると、「アクリルアミド」は、「塩基性基含有単量体単位」の選択肢の一つとして使用されているに過ぎず、(甲1d)の表1の各実施例においても、実施例9以外の実施例1~8、10の組成物の塩基性基含有単量体単位は、全てジメチルアミノエチルメタアクリレートが使用されている。 さらに、(甲1c)には、「電気化学素子電極用バインダー粒子集合体」を構成する重合体のより具体的な構成単位について記載されており、「アクリロニトリル」等の「ニトリル基含有単量体単位」について「75.0モル%以上99.5モル%以下」を含むものとすること、「メタクリル酸」等の「酸性基含有単量体単位」について「0.3モル%以上「8.0モル%以下」を含むものとすること、「アクリルアミド」等の「塩基性基含有単量体単位」について「0.1モル%以上」「4.0モル%以下」を含むものとすること、「n-ブチルアクリレート」等の「単官能エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体単位」について「0.2モル%以上」「20.0モル%以下」を含むものとすることが開示されている。 しかしながら、当該記載からは、上位概念である「ニトリル基含有単量体単位」、「酸性基含有単量体単位」、「塩基性基含有単量体単位」、「塩基性基含有単量体単位」の含有可能な範囲が理解されるに止まり、かかる範囲が、それらに含まれる下位概念の単位の好ましい範囲に対応するとは必ずしもいえないし、当該記載が、特に、「アクリルアミド」の含有量を「1.01質量%」から「2~15%」に増量すべきことを示唆するものとはいえないし、アクリルアミドの増量が行えたとしても、その場合には、「アクリロニトリル」、「メタクリル酸」、「n-ブチルアクリレート」の含有量が変更されることになるから、本件発明1のそれぞれに対応する「78~95%」、「2~8%」、「1~10%」を満たさなくなることが想定される。 そうすると、甲1発明1において、アクリルアミドを「1.01質量%」から「2~15%」に増量することが、甲1に記載されているに同然であるとは認められないし、本件発明1と甲1発明1は、解決しようとする課題や課題の解決手段が異なるから、上記の増量が、課題解決のための具体化手段における微差に相当するとも認められない。 したがって、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明と同一であるとはいえない。 (ウ)令和3年11月17日付け意見書における申立人の主張 令和3年11月17日付け意見書において、申立人は、上記相違点1について、「・・・取消理由通知書の認定は、本件発明1が特定の4成分を特定の含有比率で含有することも考慮したものである。・・・特許権者は、アクリルアミド単位を増加させる場合について、メタクリル酸を減少させると本件発明1の範囲外となる旨説明しているが、甲第1号証の開示の範囲内での調整はこれに限ったものではない。本件発明1の範囲内でアクリルアミド単位を増加させることが実質的に開示されていることは、取消理由通知書で述べられているとおりである」と主張している。 しかしながら、上記(イ)でも述べたとおり、甲第1号証には、例えば、「塩基性基含有単量体単位」については0.1モル%以上4.0モル%以下を含むものとすることまでは記載されているといえるものの、甲1発明1において、「アクリルアミド」を「1.01質量%」から「2~15%」に増量することの記載や示唆はなく、また、本件発明1と甲1発明1は、解決しようとする課題や課題の解決手段が異なり、上記の増量が課題解決のための具体化手段における微差に相当するともいえないから、相違点1は、本件発明1と甲1発明1を区別する実質的な相違点である。 したがって、申立人の当該主張を採用することはできない。 (エ)小括 以上のとおり、本件発明1は、相違点2について検討するまでもなく、甲第1号証に記載された発明と同一であるとはいえない。 ウ 本件発明2~6、8~10について 本件発明2~6、8~10は、本件発明1を直接的又は間接的に引用して限定した発明であるから、本件発明2~6、8~10は、上記イ(イ)で示した理由と同じ理由により、甲第1号証に記載された発明と同一であるとはいえない。 エ 取消理由C(拡大先願)についてのまとめ 以上のとおりであるから、取消理由C(拡大先願)及び申立理由1(拡大先願)によって、本件発明1~6、8~10に係る特許を取り消すことはできない。 2 特許異議申立書に記載された申立理由について 申立理由1(拡大先願)については、上記「1 取消理由について」において検討されたので、以下、申立理由2(実施可能要件)及び申立理由3(サポート要件)について検討を行う。 (1)申立理由2(実施可能要件)及び申立理由3(サポート要件)について ア 申立理由2(実施可能要件)及び申立理由3(サポート要件)の概要 申立理由2(実施可能要件)及び申立理由3(サポート要件)の概要は、以下のとおりである。 本件発明1~2には、「アクリレート系単位」又は「アクリレート系」、「アクリルアミド系単位」又は「アクリルアミド系」、「アクリル酸塩系単位」又は「アクリル酸塩系」と記載されており、これらの記載は膨大な数の化合物を包含するものである。一方、本件明細書の実施例で裏付けられているのは、特定の化合物の組み合わせであり、その含有量も限定的であり、本件発明の実施例となるのは、本件明細書の段落【0068】の【表1】の実施例3、4、6のみである。 したがって、本件明細書の記載は、本件特許発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものではなく、本件明細書の発明の詳細な説明に本件特許発明が記載されているとはいえない。 イ 申立理由2(実施可能要件)の判断 (ア)特許法第36条第4項第1号について 特許法第36条第4項は、「前項第三号の発明の詳細な説明の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。」と規定され、その第1号において、「経済産業省令で定めるところにより、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易にその実施をすることができる程度に、明確かつ十分に記載したものであること。」と規定している。 特許法第36条第4項第1号は、発明の詳細な説明のいわゆる実施可能要件を規定したものであって、物の発明では、その物を作り、かつ、その物を使用する具体的な記載が発明の詳細な説明にあるか、そのような記載が無い場合には、明細書及び図面の記載及び出願時の技術常識に基づき、当業者が過度の試行錯誤や複雑高度な実験等を行う必要なく、その物を作り、その物を使用することができる程度にその発明が記載されていなければならないと解される。 以下、この観点に立って検討する。 (イ)判断 本件発明1~2の「アクリロニトリル共重合体バインダー」について、本件明細書の(本c)には、「アクリレート系単位」又は「アクリレート系」、「アクリルアミド系単位」又は「アクリルアミド系」、「アクリル酸塩系単位」又は「アクリル酸塩系」のそれぞれに該当する具体的な化合物が記載され、また、「アクリロニトリル」を含むそれぞれの構成単位の含有量も具体的に記載されている。また、(本d)には、「アクリロニトリル共重合体」の重合方法・条件について具体的に記載れ、(本e)には「リチウムイオン電池の正極シート」における応用について記載されている。さらに、(本f)の実施例では、実施例3、4、6として、本件発明1~2に相当する具体的な「アクリロニトリル共重合体バインダー」が製造され、さらに、実施例6の「アクリロニトリル共重合体バインダー」について「試験2」として「電極シート」に適用して性能評価を行った例も示されている。 そうすると、本件明細書の発明の詳細な説明には、実施例3、4、6に限らず本件発明の「アクリロニトリル共重合体バインダー」及びこれを用いた「リチウムイオン電池用正極シート」について、当業者が過度の試行錯誤や複雑高度な実験等を行う必要なく、その物を作り、その物を使用することができる程度に記載されているといえる。 したがって、申立理由2(実施可能要件)は、理由がない。 ウ 申立理由3(サポート要件)の判断 (ア)特許法第36条第6項第1号について 特許法第36条第6項は、「第二項の特許請求の範囲の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。」と規定し、その第1号において「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。」と規定している。同号は、明細書のいわゆるサポート要件を規定したものであって、特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。 以下、この観点から検討する。 (イ)判断 A 本件発明の課題について 本件発明の課題は、本件明細書の(本a)の段落【0006】の記載からみて、「リチウムイオン電池用電極シート及びポリオレフィン系セパレーターの改質コーティングの調製に適しており、優れた柔軟性を有し、セル作製の工程要件を満たすことができることに加え、電解質中におけるその膨潤度が特定の範囲内に維持されており、充放電中に電極活物質がリチウムイオンの吸蔵・放出に伴って発生する体積の周期的変化に適応し、リチウムイオン電池のエネルギー密度とサイクル性能を向上させるアクリロニトリル共重合体バインダーを提供すること」であるといえる。さらに、(本a)の段落【0018】の記載からみて「開始剤の作用によって上記の各単量体を重合することによって実施される上記のアクリロニトリル共重合体バインダーを調製する方法を提供する」こと、段落【0025】の記載からみて「リチウムイオン電池の正極シート」「における上記のアクリロニトリル共重合体バインダーの応用」であるといえる。 B 判断 上記「イ 申立理由2(実施可能要件)の判断」「(イ)判断」でも述べたように、本件明細書の(本f)の実施例には、実施例3、4、6として、本件発明1~2に相当する具体的な「アクリロニトリル共重合体バインダー」が製造され、さらに、実施例6の「アクリロニトリル共重合体バインダー」について「試験2」として「電極シート」に適用して性能評価を行った例も示されており、本件発明の上記課題が解決できることが確認されている。 また、本件明細書の(本c)の段落【0039】~【0040】には「アクリルアミド系単位」について記載され、「アクリルアミド、N-メタクリルアミド、N-エチルアクリルアミド、N-ブチルアクリルアミド、2-メチルアクリルアミドのうちの少なくとも1つである」こと、段落【0041】~【0042】には「アクリル酸塩系単位」について記載され、「アクリル酸リチウム、アクリル酸ナトリウム、メタクリル酸リチウム、メタクリル酸ナトリウムのうちの少なくとも1つである」ことが記載されており、「アクリルアミド系単位」及び「アクリル酸塩系単位」ともそれほど多くの選択肢はなく、これらの選択肢の範囲であれば、上記実施例3、4、6と同様に本件発明の課題を解決できることを当業者であれば理解できるといえる。「アクリレート系単位」については、段落【0037】~【0038】に多くの選択肢が記載されているものの、いずれも「アクリレート系単量体」としてはよく知られたものであり特異なものがあるとはいえない。また、本件発明1~2の「アクリロニトリル共重合体バインダー」を構成するそれぞれの構成単位の含有量の範囲は、「アクリロニトリル単位78~95%、アクリレート系単位1~10%、アクリルアミド系単位2~15%、及びアクリル酸塩系単位2~8%」とそれほど大きな幅はないので、本件発明1~2の発明特定事項を満たす「アクリロニトリル共重合体バインダー」は、当業者であれば、本件発明の上記課題を解決できると認識できる範囲であるといえる。 そして、申立人は、本件発明の範囲の「アクリロニトリル共重合体バインダー」であっても、本件発明の上記課題を解決できないものがあることを、客観的な証拠を示して、論じていない。 本件発明1~2を直接的又は間接的に引用する本件発明3~6、8~10についても同様である。 そうすると、申立理由3(サポート要件)も理由がない。 ウ 申立理由2(実施可能要件)及び申立理由3(サポート要件)のまとめ 以上のとおり、申立理由2及び申立理由3とも、理由がない。 第6 むすび 特許第6758505号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-13〕について訂正することを認める。 請求項7、11-13に係る特許に対する申立は、特許法第120条の8で準用する同法第135条の規定により却下する。 当審が通知した取消理由および申立人がした申立理由によっては、本件発明1-6、8-10に係る特許を取り消すことはできない。 また、ほかに本件発明1-6、8-10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2021-700301

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