特許異議申立
2021-700029
カーボンブラックを含有する熱伝導性ポリマー組成物
- 審判番号
- 2021-700029
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2018-539833
- 登録番号
- 6721692
- 請求日
- 2021年01月14日
- 審決日
- 2022年10月21日
- 公報発行日
- 2023年01月27日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】キャボット コーポレイション
- 【権利者代理人】青木 篤
- 【権利者代理人】三橋 真二
- 【権利者代理人】鶴田 準一
- 【権利者代理人】南山 知広
- 【権利者代理人】渡辺 陽一
- 【権利者代理人】胡田 尚則
- 【権利者代理人】木村 健治
- 【異議申立人】実川 栄一郎
- 審判長/審判官
- 審判長 杉江 渉
- 審判官 近野 光知
- 審判官 橋本 栄和
- 分類
- P1652.113-YAA(C08L) / P1652.121-YAA(C08L) / P1652.537-YAA(C08L)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条、特許法第113条第4号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6721692号発明「カーボンブラックを含有する熱伝導性ポリマー組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第6721692号の明細書を訂正請求書に添付された訂正明細書のとおり訂正することを認める。
特許第6721692号の請求項1、2、4~19に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
(1)特許異議の申立ての経緯
特許第6721692号(請求項の数19。以下、「本件特許」という。)は 、平成29年1月25日(優先権主張:平成28年2月1日(US)米国)を国際出願日とする出願(特願2018-539833号)に係るものであって、令和2年6月22日に設定登録されたものである(特許掲載公報の発行日は、令和2年7月15日である。)。
その後、令和3年1月14日に、本件特許の請求項1、2、4~19に係る特許に対して、特許異議申立人である実川栄一郎(以下、「申立人」という。)により、特許異議の申立てがされたものである。
特許異議の申立て以降の手続の経緯は以下のとおりである。
令和3年 4月26日付け 取消理由通知書
同年 8月 5日 意見書・訂正請求書(特許権者)
同年 9月 3日 訂正請求書の手続補正書(特許権者)
同年 9月21日付け 通知書(申立人あて)
同年10月28日 意見書(申立人)
令和4年 3月24日 応対記録
同年 3月30日付け 取消理由通知書(決定の予告)
同年 5月20日 意見書(特許権者)
(2)証拠方法
ア 申立人が提出した証拠方法は、以下のとおりである。
(ア)特許異議申立書に添付した証拠
・甲第1号証 国際公開第2005/087863号
・甲第2号証 国際公開第2014/205210号
・甲第2-1号証 特表2016-526257号公報
・甲第3号証 特開2006-321564号公報
・甲第4号証 特開2005-60581号公報
・甲第5号証 国際公開第2019/031460号
・甲第6号証 特開2018-8828号公報
・甲第7号証 「デンカブラック○R(原文では○の中にR)」の製品情報
・甲第8号証 「炭素」、炭素材料学会発行 No.247(2011年)第75~79頁
・甲第9号証 米国特許公開第2014/0171575号明細書
・甲第10号証 国際公開第2014/205215号
・甲第10-1号証 特表2016-526759号公報
・甲第11号証 特表2007-505975号公報
・甲第12号証 米国特許公開第2010/0170889号明細書、及び、その抄訳文
(イ)令和3年10月28日に提出した意見書に添付した証拠
・甲第13号証 橋爪 斌(外1名)編、「化学・英和用語集(第3版)」、(株)化学同人 2002年11月30日発行、第372、458頁
(以下、「甲第1号証」~「甲第13号証」を「甲1」~「甲13」という。
イ 特許権者が提出した証拠方法は以下のとおりである。
(ア)令和3年8月5日に提出した意見書に添付した証拠
乙第1号証 T. Gruber et al., Raman studies of heat-treated carbon blacks, Carbon, vol.32, no.7, p.1377-1382, 1994、及び、その部分翻訳
(イ)令和4年5月20日に提出した意見書に添付した証拠
乙1(前記(ア)と同じもの)及びその部分翻訳
乙第2号証 Brigitte Wopenka et al., Structual characterization of kerogens to granulite-facie graphite: Application of Roman microprobe spectroscopy, American Mineralogist, vol.78, p.533-557, 1993、及び部分翻訳
乙第3号証 H. Busemann et al., Scanning micro-Raman spectroscopy on carbon-rich residues of primiteve chondrites: A tool for chondrite classification and stardust analysis, Lunar and Planetary Science XXXVI, 2005、及び部分翻訳
乙第4号証 サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社、IRとラマン分光法におけるカーブフィッティング:線形の基礎理論と応用、2007年、<https://files.yamato-net.co.jp/product/ft-ir/ftir_app11.pdf>、2022年4月28日(印刷日)
乙第5号証 株式会社堀場製作所、Derivation of physical parameters from Raman spectra of hard carbon films,
<https://static.horiba.com/fileadmin/Horiba/Application/Materials/Material_Research/Graphene/Derivation_of_Physical_Parameters_from_Raman_Spectra_of_Hard_Carbon_Films.pdf>、
2022年4月28日(印刷日)、及び部分翻訳
(以下、「乙第1号証」~「乙第5号証」を、順に「乙1」等という。)
第2 訂正の適否についての判断
特許権者は、令和3年8月5日に訂正請求書を提出し、令和3年9月3日に訂正請求書を補正する手続補正書を提出し、その手続補正は認められるところ、本件特許の明細書を訂正請求書に添付した訂正明細書のとおり訂正後の請求項1~19について訂正することを求めた(以下「本件訂正」という。また、本件設定登録時の願書に添付した明細書及び特許請求の範囲を「本件明細書等」という。)。
1 訂正の内容
(1)訂正事項1
訂正前の明細書の段落【0021】に「比結晶化度は、25超、30超、35超、37超、40超、42超、又は50超であることができる。同一又は異なる例では、65未満、60未満、55未満、50未満、45未満、42未満、40未満、38未満、35未満、32未満、又は27未満の比結晶化度を示すことができる。」とあるのを、「比結晶化度は、25%超、30%超、35%超、37%超、40%超、42%超、又は50%超であることができる。同一又は異なる例では、65%未満、60%未満、55%未満、50%未満、45%未満、42%未満、40%未満、38%未満、35%未満、32%未満、又は27%未満の比結晶化度を示すことができる。」に訂正する。
(2)訂正事項2
訂正前の明細書の段落【0064】の表2に「結晶化度%」とあるのを「比結晶化度%」に訂正する。
(3)一群の請求項及び明細書の訂正と関係する請求項について
請求項2~11及び19はそれぞれ請求項1を直接的又は間接的に引用するものであって、請求項1の記載が訂正されるとそれに連動して訂正される関係にあるものであるから、請求項〔1~11及び19〕は一群の請求項である。
また、請求項13~18はそれぞれ請求項12を直接的又は間接的に引用するものであって、請求項12が訂正されるとそれに連動して訂正される関係にあるものであるから、請求項〔12~18〕は一群の請求項である。
そして、明細書の訂正である訂正事項1及び2は、前記明細書の訂正に係る請求項を含む一群の請求項の全てについて請求されたものであるから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第4項の規定に適合するものである。
2 判断
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的
訂正事項1による訂正は、訂正前の【0021】に「比結晶化度」の値に単位が記載されていなかったものを、値の単位を「%」と明示する訂正である。この訂正は、値の単位が明らかでなかったものを明らかとする訂正であるから、明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正である。
イ 新規事項の追加及び実質上の特許請求の範囲の拡張・変更
本件明細書等の【0005】には、比結晶化度の値の単位が「%」と記載されているから、訂正事項1による訂正は本件明細書等の記載した事項の範囲内であるといえ、また、実質上特許請求の範囲の拡張又は変更に当たらないことは明らかである。
(2)訂正事項2について
ア 訂正の目的
訂正事項2による訂正は、訂正前の【0064】の表2に「結晶化度%」とあるのを「比結晶化度%」とする訂正である。この訂正事項2に関して本件明細書等の【0057】には、実施例において「比結晶化度」を決定した旨の記載がされているから、【0064】の表2の「結晶化度%」は、実施例において製造されたカーボンブラックの物性を記載した項目であることは推測できるが、用いている用語が「結晶化度」と「比結晶化度」というように異なっているため、両者が同じ技術的意味を示す用語であって明確であったとまではいえないものである。
そうすると、訂正事項2による訂正は、表2の「結晶化度%」という記載が、段落【0057】に記載した「比結晶化度」を意味するものであるか否かが明確でなかったものを、「比結晶化度」と訂正することで明確としたものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正である。
イ 新規事項の追加及び実質上の特許請求の範囲の拡張・変更
本件明細書等の【0057】には、実施例において、「比結晶化度」を決定した旨の記載がされているから、訂正事項2による訂正は本件明細書等の記載した事項の範囲内であるといえ、また、実質上特許請求の範囲の拡張又は変更に当たらないことは明らかである。
ウ 独立特許要件について
本件訂正は、本件明細書に対する明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正であるから、前記訂正事項に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する独立特許要件は課されない。
(3)訂正の適否のまとめ
以上のとおりであるから、訂正事項1及び2は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる目的に適合し、また、同法同条第9項において準用する同法第126条第5及び6項の規定に適合するから、本件訂正を認める。
第3 特許請求の範囲の記載
特許第6721692号の特許請求の範囲の請求項1~19には、以下の事項が記載されている(以下、請求項1~19に係る発明を、「本件発明1」~「本件発明19」といい、まとめて「本件発明」ともいう。また、本件訂正後の明細書を「本件明細書」という。)
「【請求項1】
ポリマーマトリックスと、
前記ポリマーマトリックス中に12~28wt%の濃度で分散した部分結晶化カーボンブラックとを含み、前記カーボンブラックが、120cm3/100g超かつ200cm3/100g未満のOAN構造と、8mJ/m2未満の表面エネルギーと、65%未満の比結晶化度と、28Å以上のラマン微結晶平面寸法(La)とを有する、複合ポリマー組成物。
【請求項2】
前記複合ポリマー組成物がプラスチック組成物である、請求項1に記載の複合ポリマー組成物。
【請求項3】
前記カーボンブラックが、700℃超かつ1800℃未満の温度でファーネスブラックを熱処理することによって形成されている、請求項1に記載の複合ポリマー組成物。
【請求項4】
前記ポリマーマトリックスがコポリマー又はターポリマーを含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の複合ポリマー組成物。
【請求項5】
前記ポリマーマトリックスが、ポリオレフィン、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリアミド、及び/又はポリアミンを含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の複合ポリマー組成物。
【請求項6】
30W/mK超の熱伝導率を有する非炭素質粒子をさらに含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の複合ポリマー組成物。
【請求項7】
前記非炭素質粒子が、BN、MgO、ZnO及びAl2O3から選択される、請求項6に記載の複合ポリマー組成物。
【請求項8】
前記非炭素質粒子がBNを含み、部分結晶化カーボンブラック:BNの容量比が1:1~1:10の範囲である、請求項7に記載の複合ポリマー組成物。
【請求項9】
前記複合ポリマー組成物の熱伝導率が、前記ポリマーマトリックスの熱伝導率より少なくとも1.6倍大きい、請求項1~8のいずれか1項に記載の複合ポリマー組成物。
【請求項10】
前記部分結晶化カーボンブラックが、未処理のカーボンブラックに対して、前記複合ポリマー組成物の熱伝導率を少なくとも10%改善している、請求項1~9のいずれか1項に記載の複合ポリマー組成物。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか1項に記載の複合ポリマー組成物を含むマスターバッチ。
【請求項12】
ポリマー化可能なモノマー又はオリゴマーを含むポリマー前駆体と、
前記モノマー又はオリゴマー中に12~28wt%の濃度で分散した部分結晶化カーボンブラックとを含み、前記カーボンブラックが、120cm3/100g超かつ200cm3/100g未満のOAN構造と、8mJ/m2未満の表面エネルギーと、65%未満の比結晶化度と、28Å以上のラマン微結晶平面寸法(La)とを有する、ポリマー前駆体組成物。
【請求項13】
前記前駆体が、ポリオレフィン、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリアミド、及び/又はポリアミンの前駆体を含む、請求項12に記載のポリマー前駆体組成物。
【請求項14】
30W/mK超の熱伝導率を有する非炭素質粒子をさらに含む、請求項12又は13に記載のポリマー前駆体組成物。
【請求項15】
前記非炭素質粒子が、BN、MgO、ZnO及びAl2O3から選択される、請求項14に記載のポリマー前駆体組成物。
【請求項16】
前記非炭素質粒子がBNを含み、部分結晶化カーボンブラック:BNの容量比が1:1~1:10の範囲である、請求項15に記載のポリマー前駆体組成物。
【請求項17】
ポリマー化した場合に、ポリマー化したポリマー前駆体組成物の熱伝導率が、前記ポリマー前駆体のポリマー化物の熱伝導率より少なくとも1.6倍大きい、請求項12~16のいずれか1項に記載のポリマー前駆体組成物。
【請求項18】
前記部分結晶化カーボンブラックが、未処理のカーボンブラックに対して、前記ポリマー前駆体組成物のポリマー化物の熱伝導率を少なくとも10%改善している、請求項12~16のいずれか1項に記載のポリマー前駆体組成物。
【請求項19】
請求項1~10のいずれか1項に記載の複合ポリマー組成物を含む製品であって、ワイヤ及びケーブル外被、3D印刷製品、自動車部品、並びにLEDケーシング及び固定治具から選択される、製品。」
第4 特許異議申立書に記載した申立理由及び当審が通知した取消理由
1 特許異議申立書に記載した申立理由
(1)申立理由1(甲1を主引用文献とする新規性)
請求項1、2、4、5及び9に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明である甲1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、前記請求項に係る特許は、同法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
(2)申立理由2(甲1を主引用文献とする進歩性)
請求項1、2、4、5及び9に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明である甲1に記載された発明、及び、甲2又は甲10に記載された事項に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、前記請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(3)申立理由3(甲9を主引用文献とする進歩性)
請求項1、6~8に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明である甲9に記載された発明、及び、甲2又は甲10に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、前記請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(4)申立理由4(甲11を主引用文献とする進歩性)
請求項1、11、19に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明である甲11に記載された発明、及び、甲2又は甲10に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、前記請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(5)申立理由5(甲12を主引用文献とする進歩性)
請求項12~17に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明である甲12に記載された発明、及び、甲2又は甲10に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、前記請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
よって、請求項1~12に係る発明の特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである。
(6)申立理由6(サポート要件)
特許請求の範囲の請求項1、2,4~19の記載は、同各項に記載された特許を受けようとする発明が、下記の点で、本件訂正前の明細の発明の詳細な説明に記載したものでないから、特許法第36条第6項第1号に適合するものではない。
よって、前記請求項に記載された発明に係る特許は、同法第36条第6項に規定する要件を満たさない特許出願に対してされたものである。
記
本件明細書【0007】の記載をみると、熱処理前のベースカーボンブラックは、本件発明において提供されるべき熱伝導率の利益を提供しないにもかかわらず、表2の結晶化度が33%のベースカーボンブラックCB1は、本件発明1及び12の「65%未満の比結晶化度」であるから、本件発明1及び12は、本件発明において提供されるべき熱伝導率の利益を提供し得ないカーボンブラックを包含している。
(7)申立理由7(明確性要件)
特許請求の範囲の請求項1、2,4~19の記載は、同各項に記載された特許を受けようとする発明が、下記の点で明確でないから、特許法第36条第6項第2号に適合するものでない。
よって、前記請求項に記載された発明に係る特許は、同法第36条第6項に規定する要件を満たさない特許出願に対してされたものである。
記
ア 請求項1及び12の「65%未満の比結晶化度」に関して、本件訂正前の明細書の【0018】には、「結晶化度の一つの測定は、ラマン微結晶平面寸法である。…経験的アプローチを使用して、X線回折(XRD)により測定されるLa及びG/Dバンド比は高く相関しており、回帰分析により経験的関係:La=43.5×(Gバンド領域/Dバンド領域)が与えられ…より高いLaは、より規則的な結晶構造に対応する」と記載され、同【0021】には、「ラマン分光法により測定される結晶化度はまた、粒子の比結晶化度を使用して表すことができ…65未満…の比結晶化度を示すことができる」と記載されているが、「結晶化度」と「比結晶化度」との関係について記載がないから、前記「65%未満の比結晶化度」が何を意味するのか不明である。
また、同【0021】の「65未満」との記載は%表示でないから、請求項1及び12の「65%未満の比結晶化度」との関係も不明である。
イ 請求項10の「前記部分結晶化カーボンブラックが、未処理のカーボンブラックに対して、前記複合ポリマー組成物の熱伝導率を少なくとも10%改善している」との記載に関して、請求項10が直接的または間接的に引用する請求項1には、前記「部分結晶化カーボンブラック」が熱処理により形成されたことの記載はなく、請求項10における前記「未処理」の意味が不明であり、さらに前記「未処理のカーボンブラック」がどのようなカーボンブラックであるのかが不明であるから、前記「複合ポリマー組成物の熱伝導率を少なくとも10%改善している」との記載における「改善」の程度が特定できず、請求項10の記載を不明確にしている。請求項10と同内容の記載がある請求項18についても同様の理由がある。
(以下、前記ア及びイを、それぞれ「申立理由7(ア)」及び「申立理由7(イ)」という。)
したがって、本件訂正前の請求項1、2、4~19に係る発明の特許は、特許法第113条第4号に該当し取り消されるべきものである。
2 当審が通知した取消理由
(1)令和3年4月26日付け取消理由通知で通知した理由
取消理由1(明確性要件)
特許請求の範囲の請求項1、2,4~19の記載は、同各項に記載された特許を受けようとする発明が、下記の点で発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえないから、特許法第36条第6項第1号に適合するものではない。
記
ア 請求項1及び12に記載の「カーボンブラックが・・・65%未満の比結晶化度・・・を有する」について、本件訂正前の明細書の記載をみても、その測定方法が明らかであるとはいえず、また、実施例における「結晶化度」の値が「比結晶化度」を意味するのかも明らかであるとはいえず、さらに、「比結晶化度」の測定方法が技術常識であるともいえないので、請求項1及び12に係る発明は明確であるとはいえない。また、請求項1又は12を引用する請求項2、4~19も明確であるとはいえない。
イ 請求項10に記載の「前記部分結晶化カーボンブラックが、未処理のカーボンブラックに対して、前記複合ポリマー組成物の熱伝導率を少なくとも10%改善している」について、請求項10が引用する請求項1の記載からみて、請求項1に記載の部分結晶化カーボンブラックは、請求項1に記載の4つの物性を有していればどんな部分結晶化カーボンブラックも含まれ、何らかの処理をした後のカーボンブラックに限定されるものであるとはいえないから、請求項10の前記「未処理のカーボンブラック」とは、どのようなカーボンブラックを意味しているのか明確であるとはいえない。
(以下、前記ア及びイを、それぞれ「取消理由1(ア)」及び「取消理由1(イ)」という。)
(2)令和4年3月30日付け取消理由通知(決定の予告)で通知した理由
この取消理由(明確性)は、取消理由1(ア)と同旨である。
第5 当審の判断
1 取消理由1(ア)(明確性要件)
申立理由7(ア)は、取消理由1(ア)、及び令和4年3月30日付け取消理由通知(決定の予告)で通知した取消理由と同旨なので、併せて検討する。
(1)本件明細書に記載した事項
本件明細書には、次の記載がある。
「【技術分野】
【0001】
本開示は、ポリマー組成物、特に、改善した熱伝導性及び機械特性を示すプラスチックに関する。
【背景技術】
【0002】
改善された伝熱から利益を得ることができるポリマー系は、電子、機械、自動車、航空宇宙、及び工業的用途を含む様々な分野で使用される。例えば、導電性ポリマーは、ケーブルのコアから熱を消散するためにワイヤ及びケーブル外被において使用することができる。熱伝導性ポリマーはまた、効率的な伝熱を要求する用途で典型的に使用される低熱伝導性ポリマー又は金属のような材料と置き換えることができる。
【発明の概要】
【0003】
1つの態様において、複合ポリマー組成物が提供され、その複合ポリマー組成物が、ポリマーマトリックスと、ポリマーマトリックス中に12~28wt%の濃度で分散した部分結晶化カーボンブラックとを含み、カーボンブラックは、120cm3/100g超かつ200cm3/100g未満のOAN構造と、8mJ/m2未満の表面エネルギーと、65%未満の比結晶化度と、28Å以上のラマン微結晶平面寸法(La)とを有する。部分結晶化カーボンブラックは、700℃超かつ1800℃未満の温度でファーネスブラックを熱処理することで得ることができる。…」
「【0005】
別の態様において、複合ポリマー組成物又はポリマー前駆体組成物は、…カーボンブラックは、35%以上、40%以上、45%以上、50%以上、55%以上又は60%以上の比結晶化度を有することができる。…複合ポリマー組成物又はポリマー前駆体組成物は、ワイヤ及びケーブル外被、3D印刷製品、自動車部品、並びにLEDケーシング及び固定冶具のような製品を作るために使用することができる。…部分結晶化カーボンブラックは、ベースカーボンブラックのラマン微結晶平面寸法(La)を5Å超、10Å超、15Å超、又は20Å超増加することによって作ることができる。」
「【0016】
部分結晶化カーボンブラックは、粒子を完全に結晶化させることなく、(例えば、炉、熱、ラ、プラズマ又はアセチレン分解プロセスで作られる)ベース(未処理)カーボンブラックの結晶化度を増加させることで形成することができる。…ある実施形態において、ベースカーボンブラックは、ベースカーボンブラックの制御された熱処理により部分的に結晶化される。カーボンブラックは、それがカーボンブラック粒子の形態、表面エネルギー、及び結晶化度を変える二次(一次粒子の製造後)熱処理にさらされる場合に、「熱処理又は熱加工される」、又は「熱的に処理又は加工される」。カーボンブラック粒子の結晶化はまた、一次粒子の形状を変えることができ、例えば、実質的に球状から、より(しかし必ずしも完全でない)多面体形状に変えることができる。
【0017】
部分結晶化カーボンブラックは、容易に利用可能なベースカーボンブラックから形成することができる。用いることができる適切なベースカーボンブラックとしては、VULCAN(登録商標)XC72、VULCAN(登録商標)XC72R、及びVULCAN(登録商標)XC500のカーボンブラック、並びに、キャボットコーポレーションから全て利用可能なRegal(登録商標)、Black Pearls(登録商標)、Spheron(登録商標)、CSX(商標)、Vulcan(登録商標)及びSterling(登録商標)の名の下で販売される他のカーボンブラックが挙げられる。…」
【0018】
結晶化度の1つの測定は、ラマン微結晶平面寸法である。La(結晶平面寸法)のラマン測定は、Gruberらの「Raman Studies of Heat-Treated Carbon Blacks,”Carbon Vol.32(7),pp.1377 1382,1994」に基づき、これは参照することにより本明細書に組み込まれる。カーボンのラマンスペクトルは、それぞれ「D」バンド及び「G」バンドとして示される約1340cm-1及び1580cm-1での2つの主要な「共鳴」バンドを含む。一般的に、Dバンドは不規則sp2カーボンに起因し、Gバンドは黒鉛又は「規則」sp2カーボンに起因すると考えられる。経験的なアプローチを使用して、X線回折(XRD)により測定されるLa及びG/Dバンド比は高く相関しており、回帰分析により経験的関係:La=43.5×(Gバンド領域/Dバンド領域)が与えられ、Laはオングストロームで計算される。したがって、より高いLa値は、より規則的な結晶構造に対応する。結晶化度はまた、X線回折(XRD)により測定することができる。」
「【0021】
幾つかの実施形態において、部分結晶化カーボンブラックは、…ラマン分光法により測定される結晶化度はまた、粒子の比結晶化度を使用して表すことができ、幾つかの場合において、比結晶化度は、25%超、30%超、35%超、37%超、40%超、42%超、又は50%超であることができる。同一又は異なる例では、65%未満、60%未満、55%未満、50%未満、45%未満、42%未満、40%未満、38%未満、35%未満、32%未満、又は27%未満の比結晶化度を示すことができる。」
「【0031】
特定のある例において、部分結晶化カーボンブラックは、…28.4~34.6Å、例えば、29.0Å、29.5Å、30.0Å、30.5Å、31.0Å、31.5Å、32.0Å、32.5Å、33.0Å、33.5Å又は34.0Åのラマン結晶度(La);並びに、…を有する。」
「【0034】
利用するポリマー系、特定の最終用途、混合技術、発生した粘度、最終製品の所望の特性、及び他の事項に適した任意の量でカーボンブラックを提供することができる。部分結晶化カーボンブラックは、全体濃度中で、約12~約28wt%、好ましくは15~25wt%、例えば、12~20wt%、15~23wt%、又は17~28wt%の一般的な範囲内で、系中に存在することができる。日常の実験により決定する場合、他の充填レベルを使用することができる。充填レベルが極めて高いと、得られるポリマー組成物が物品を形成するには極めて高い粘度になり、充填レベルが低いと、十分な熱伝導率が提供されない。…
【0035】
本明細書で説明する部分結晶化カーボンブラックは、同一のポリマー系において、対応するベースカーボンブラックと比べた場合、改善した熱伝導率、並びに改善したレオロジーを提供することができる。例えば、ポリマー前駆体中での部分結晶化カーボンブラックの使用は、粘度の増加なく高い充填量を可能とし、又は代替的に、同様の充填量及びより低い粘度を可能とすることができる。例えば12~28wt%の濃度でポリマー系中において使用される場合、21Å未満のラマン微結晶化度(La)を示す対応するベースカーボンブラックと比較すると、部分結晶化カーボンブラックは、対応するベースブラックに比べて熱伝導率を5%超、10%超、15%超又は20%超改善することができる。同一の濃度において、バージンポリマーに対して1.6倍超、例えば、バージンポリマーに対して1.7~3倍、又は2~4倍、熱伝導率を改善することができる。同一の濃度において、ポリマー前駆体のメルトフローインデックス(MFI)を、50%超、100%超又は150%超改善することができる。熱伝導率及び粘度のこれらの改善は、独立して又は連動して得ることができる。例えば、1対1対応でベースカーボンブラックを部分結晶化カーボンブラックに置換すると、改善した粘度及び改善した熱伝導率の両方を示すポリマー組成物を提供することができる。…」
「【実施例】
【0057】
例1:粘度
ポリマー前駆体中で部分結晶化カーボンブラックを使用するレオロジー効果を評価するために、複数のポリマー前駆体の試料を、ベースカーボンブラック及び部分結晶化カーボンブラックの両方を使用して調製した。これらは、高密度ポリエチレン(HDPE)、ポリスチレン(PS)、ポリカーボネート(PC)及びポリアミド-6(PA)を含んでいた。カーボンブラックのそれぞれを表1に特定した。カーボンブラックが表2において特定されるラマンLaを得るまで、表中に示される温度で不活性雰囲気においてカーボンブラックを熱処理した。カーボンブラックのそれぞれについて分析した特性を表2に示した。「NA」という文字は、値が測定されなかったことを意味し、「ND」は、値が検出限界未満であったことを意味する。ASTM D1510に従ってヨウ素価を決定し、ASTM D6556に従ってBET表面積を決定し、ASTM 2414に従ってOAN構造を決定し、表面エネルギー(SE)、ラマン結晶度(La)及び比結晶化度を、上述した方法に従って決定した。ポリマー複合体のメルトフローインデックスを、ISO1133に従って、示した荷重及び温度で測定した。
【0058】
HDPE樹脂は、LyondellBasell製のLupolen(商標)4261A IM樹脂であり、190℃の温度及び2.16kgの荷重で15g/10分間のMFIを示す。複合HDPE試料についてのメルト・フロー・インデックス(MFI)を、190℃及び21.6kgで10分間測定した。1.664Lのバッチ式バンバリー混合機を使用して、以下の条件の下においてカーボンブラックを混合した。
チャンバー冷却温度:40℃
ロータ冷却温度:40℃
混合時間ポストフラックス:90秒間
ラム圧力:4.2bars
ロータ速度:180RPM
…
【0063】
【表1】
[図:0001393047000001.jpg]
【0064】
【表2】
[図:0001393047000002.jpg]
【0065】
【表3】
[図:0001393047000003.jpg]
・・・
【0066】
例2:熱伝導率の測定
部分結晶化カーボンブラックを含有する複合ポリマーの熱伝導率(TC)を評価するために、一連のHDPE複合体試料を、25℃においてNETZSCH(登録商標)LFA467光フラッシュ装置を使用して試験した。試料は、ベースカーボンブラックと、部分結晶化カーボンブラックとの両方を含んでおり、複合ポリマーを表1において上で説明したように製造した。熱伝導率の測定のための試験試料を、電気加熱プレスを使用して押出して、2.54cmのディスクを作った。型は316ステンレス鋼プレートで作られ、4つの1インチ穴と、316ステンレス鋼のカバープレートとを備えていた。各試料の1gを測って各円形の穴中に配置した。KEVLAR(登録商標)パラアラミドシートを各型の頂部及び底部上に配置した。プレスを365°Fに設定し、型を5分間加温するためにプレス上に配置し、次いで、閉鎖して、5分間23psiに加圧した。プレスを開けることで圧力を解放し、熱型を取り除き、10分間水冷プレス上に配置した。
【0067】
測定のための試料サイズは、25mm直径、約1mm厚の円形ディスクであった。キャリパー測定ツールを使用して3つの厚さの値の平均を取ることで、標本の厚さを測定した。試料を薄層のグラファイトスプレー潤滑剤でコーティングして、測定前に乾燥させた。試料を試料ホルダー中に設置して、25℃で4分間平衡化した。平衡化時間の後、各試料を、キセノンランプから生じる高強度かつ短時間の放射エネルギーでパルス化した。パルスのエネルギーを標本の前面で吸収し、IR検出器によって標本の後面上の温度上昇を測定した。測定した試料の厚さと、最小値に達するために温度について要求される時間とから、熱拡散率値を計算した。事前に決定した比熱テーブル(Pyroceram9XX)で標準的な参照材料を測定して、実験値を計算するためのProteus62 LFA分析ソフトウェアを使用することで、各試料の比熱を計算した。熱伝導率は以下の式1.0:k=ρ*cp*α(式中、kは熱伝導率(W/mK)、ρは試料の密度(g/m3)、cpは試料の比熱容量(J/g/K)、αは試料の熱拡散率(m2/秒))を使用して計算した。
【0068】
熱伝導率の結果を表4及び図1~5に示した。図1は、VULCAN XC500タイプのカーボンブラック(CB1)と、2つのその部分結晶化誘導体CB2及びCB13とにより与えられた相対的な熱伝導率を示す棒グラフである。CB2についての結果は、ベースカーボンブラックより有意に高い熱伝導率を示している。CB2より高温で熱処理した試料CB13についての結果は、ベースカーボンブラックCB1と同一の熱伝導率を示している。この劣化した熱伝導率は、CB13は95ÅのラマンLa及び68の比結晶化度を有するようにカーボンブラックを過剰に結晶化したことによる、低下した粒子分散の結果であると考えられる。
【0069】
図2は、VULCAN XC72タイプのカーボンブラック(CB3)と、3つのその部分結晶化誘導体とにより与えられた相対的な熱伝導率を示す棒グラフである。部分結晶化誘導体CB4、CB14及びCB15のそれぞれは、ベースカーボンブラックより有意に高い熱伝導率を示した。これらの3つの部分結晶化カーボンブラックは、それぞれ39.5Å、39.5Å及び41.6ÅのラマンLa測定値を有していたことに注目すべきである。
…
【0074】
上述したように、部分結晶化カーボンブラックはまた、ポリマー前駆体のレオロジーに悪影響を与えることなく、ベースカーボンブラックより高い充填量であることができる。これらのより高い充填量は、より高い熱伝導率と組み合わさって、レオロジー特性の損失なく、有意により高い熱伝導率を有するポリマー複合体を提供することができる。代替的に、(ベースカーボンブラックに比べ)より低いカーボンブラック充填量を、ポリマー複合体の熱伝導率の損失なく使用することができる。
【0075】
【表4】
[図:0001393047000004.jpg]
」
(2)特許法第36条第6項第2号(明確性要件)の判断手法
特許法36条第6項第2号は、特許請求の範囲の記載に関して、特許を受けようとする発明が明確でなければならない旨規定する。この趣旨は、特許請求の範囲に記載された発明が明確でない場合には、特許の付与された発明の技術的範囲が不明確となり、第三者に不測の不利益を及ぼすことがあり得るため、これを防止することにあるものと解される。そして、特許を受けようとする発明が明確であるか否かは、特許請求の範囲の記載のみならず、本件明細書及び図面とを考慮し、本件出願時の技術常識にも照らして、特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断すべきものである。
以下、この観点に立って判断する。
(3)本件発明1及び12について
第2で述べたとおり、本件訂正により、明細書の【0021】の「比結晶化度」の各値は%表示に訂正され、表2の「結晶化度%」は「比結晶化度%」に訂正された。
ア まず、本件明細書には、「28.4~34.6Å…のラマン結晶度(La)」(【0031】)、「21Å未満のラマン微結晶化度(La)」(【0035】)、「ラマン結晶度(La)」(【0057】)などの記載があり、「比結晶化度」に似た用語として「ラマン(微)結晶(化)度」が記載されているが、「La」の単位はÅであるのに対して、「比結晶化度」の単位は%であるから、「比結晶化度」は、「La」とは別に定義されるといえる。
イ そこで、「比結晶化度」について本件明細書の記載をみてみると、本件明細書の【0057】には、「ポリマー前駆体中で部分結晶化カーボンブラックを使用するレオロジー効果を評価するために、…カーボンブラックが表2において特定されるラマンLaを得るまで、表中に示される温度で不活性雰囲気においてカーボンブラックを熱処理した。カーボンブラックのそれぞれについて分析した特性を表2に示した。…ASTM D1510に従ってヨウ素価を決定し…BET表面積を決定し…OAN構造を決定し、表面エネルギー(SE)、ラマン結晶度(La)及び比結晶化度を、上述の方法に従って決定した。」と記載され、前記の各特性の具体的な測定方法が示されている。また、その測定結果として、表2には、各試料のLaと「比結晶化度」が記載されており、全試料のLaと「比結晶化度」の値を比べると、Laが大きくなるにつれて「比結晶化度」も大きくなるという一応の関係を読み取ることができるから、Laと「比結晶化度」の間には正の相関関係があると解される。
一方、カーボンブラックの結晶化度とLaの間にも正の相関関係があることは、本件明細書の「より高いLa値は、より規則的な結晶構造に対応する」(【0018】)、「部分結晶化カーボンブラックは、ベースカーボンブラックのラマン微結晶平面寸法(La)を5Å超…増加することによって作ることができる」(【0005】)等の記載から、本件明細書に示されているといえる。
これらのことから、本件明細書においては、本件発明1及び12の「比結晶化度」は、カーボンブラックが結晶化された程度を表しているものと解される。
ウ そして、「比結晶化度」の単位は%(百分率)であり、これは基準値に対する結晶領域の占める割合であるから、部分結晶化カーボンブラックにおいて、その結晶領域が占める割合を表すには、部分結晶化カーボンブラックの組織全体、すなわち結晶領域及び非結晶領域の合計に占める結晶領域の割合を表した値とするのが自然であると解される。
エ さらに、本件明細書には、「カーボンのラマンスペクトルは、それぞれ「D」バンド及び「G」バンドとして示される約1340cm-1及び1580cm-1での2つの主要な「共鳴」バンドを含む。一般的に、Dバンドは不規則sp2カーボンに起因し、Gバンドは黒鉛又は「規則」sp2カーボンに起因すると考えられる」(【0018】)と記載され、前記Gバンド及びDバンドの技術的意味とその測定方法が示されており、前記Gバンド及びDバンドをそれぞれ「Ig」及び「Id」とすると、「比結晶化度」は次の式で表されると解される。
「比結晶化度」=Ig/(Ig+Id)×100 (%) …(1)
そして、前記ラマンスペクトルを基に、前記Gバンド及びDバンドを得て、前記式(1)により「比結晶化度」を決定することができるから、本件明細書の記載により、「比結晶化度」の測定方法は明らかであるといえる。
オ また、本件明細書の【0018】には、「経験的なアプローチとして、X線回折(XRD)により測定されるLa及びG/Dバンド比は高く相関しており、回帰分析により経験的関係:La=43.5(Gバンド領域/Dバンド領域)が与えられ、Laはオングストロームで計算される。」と記載されており、La=43.5(Ig/Id)(以下「式(2)」という)が示されている。
そして、式(1)の右辺に式(2)を代入すると、
「比結晶化度」=La/(43.5+La)×100 …(1)’
となり、Laが大きくなるにつれて、「比結晶化度」が1に近づくように大きくなる、すなわち結晶化が進むことを示しており、このことは、本件明細書の上記「より高いLa値は、より規則的な結晶構造に対応する」(【0018】)との記載と一応整合すると解される。
カ したがって、本件発明1及び12における「比結晶化度」の記載は、本件明細書の記載、及び本件出願時の技術常識を参酌すると、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとはいえない。
キ 申立人の意見について
申立人は、令和3年10月28日提出の意見書において、「比結晶化度」なる用語は、本件特許出願に対応する国際出願の外国語明細書に記載の「percent crystallinity」の訳語であり、技術常識(甲13)を考慮すれば、結晶化度を百分率で表したものを意味する「百分率結晶化度」或いは「パーセント結晶化度」が適切であるが、「比(比の)」に対応する英語は、「specific」であり(甲13を参照)、頭文字に「比」が付く技術用語は、物質及び材料の形状や大きさに依存しない固有(単位重量当たり及び単位体積当たりなど)の物性値を意味する用語(比表面積、比抵抗、比導電率など)や、ある物質及び材料の物性値と基準物質の物性値との比を意味する用語(比重など)があり、「比結晶化度」は、その文言及びこれに関連する上記のような技術常識からして、少なくとも2つの解釈が可能であるから、その技術的意味を一義的に理解することができない旨を主張する(前記意見書の2頁17行~3頁)。
前記イ及びウで述べたとおり、本件明細書においては、本件発明1又は12の「比結晶化度」は、部分結晶化カーボンブラックの組織全体に占める結晶領域の割合を表した値であり、これは、申立人が述べる「結晶化度を百分率で表したもの」との解釈と整合するものである。
そして、前記エ及びオで述べたとおり、本件明細書の記載に基づき、「比結晶化度」は前記式(1)で表される値であると解されるものであり、本件発明1又は12においては、「比」という頭文字の解釈は、申立人が述べる前記2つの解釈に当てはまるものではない。
そうすると、申立人の前記主張を採用することはできない。
また、申立人は、前記意見書において、仮に、比結晶化度を式(1)によって算出するにしても、本件発明の「部分結晶化カーボンブラック」は、1800℃以下の熱処理温度(本件明細書の【0020】)からみて、乙1のFig.1中のB及びCのラインに近いと推察され、2つのピーク面積Ig及びIdには重畳する領域が存在し、ラマンスペクトルからピーク面積Ig及びIdを分離して特定する計算方法を決定する必要があるが、そのような計算方法は具体的に開示されていないから、「比結晶化度」の計算方法が明確であるとはいえない旨を主張する。
しかしながら、「IRとラマン分光法におけるカーブフィッティング:線形の基礎理論と応用」と題された乙4は、最終頁に「C○2007 Thermo Fisher Scientific Inc.」(当審注:○は丸付き文字を表す)と記載され、2007年に作成されたと推認されるものである。そして、乙4には、スペクトル線形の形状に関して、「ピークプロファイルはすべての個々の要素の和であるため、ピークの面積は濃度の良い指標となります。…ピーク面積は分子の合計数が一定であれば変化しません。カーブフィッティングにより、正確なピーク面積を使用することが可能となり、キャリブレーションの直線性を向上させることができます。」(2頁左欄25~32行)と記載され、カーブフィッティングによって正確なピーク面積を求めることができることが示されており、また、「カーブフィテッィングには三つのステップがあります。(1)プロファイル(ピーク関数とベースラインの処理)の選択、(2)パラメーター(ピーク幅、高さ、位置)の選択、(3)残余の最小化です。」と記載され、カーブフィッティングの手順が具体的に説明されている。また、乙5には、カーボンフィルムのラマンスペクトルをカーブフィッティングする方法について記載されている(1頁1行~3頁下11行)。
乙4及び乙5に記載されるように、ラマンスペクトルをカーブフィッティングして、各ピーク面積を決定する方法及び装置は、本件特許の優先日時点の技術常識であったと解され、ラマンスペクトルからピーク面積Ig及びIdを分離して特定する計算方法は、本件明細書に記載されていなくとも、当業者にとって明らかであり、「比結晶化度」の計算方法は明確であるといえる。
そうすると、申立人の上記主張を採用することはできない。
(3)本件発明2、4~11、13~19について
本件発明1及び12を直接的又は間接的に引用する本件発明2、4~19にも不明確な記載は見当たらない。
上記(2)で本件発明1及び12について述べたのと同じ理由により、本件発明2、4~11、13~19は明確である。
(4)まとめ
以上のとおりであるから、本件発明1、2、4~19は明確であり、申立理由7(ア)、取消理由1(ア)及び令和4年3月30日付け取消理由通知(決定の予告)で通知した取消理由によっては、本件発明1、2、4~19に係る特許を取り消すことはできない。
2 取消理由1(イ)(明確性要件)
申立理由7(イ)は、取消理由1(イ)と同旨なので、併せて検討する。
(1)本件発明10及び18について
本件発明10及び18の「未処理のカーボンブラック」及び「熱伝導率が少なくとも10%改善している」について検討する。
ア 本件発明10及び18の「未処理のカーボンブラック」と「部分結晶化カーボンブラック」の関係について
請求項10には、「前記部分結晶化カーボンブラックが、未処理のカーボンブラックに対して、前記複合ポリマー組成物の熱伝導率を少なくとも10%改善している」と記載され、「未処理のカーボンブラック」と「部分結晶化カーボンブラック」とは、カーボンブラックとそれを処理して部分的に結晶化したものという関係があり、互いに対をなすものであると解される。
イ 本件発明10及び18の「未処理のカーボンブラック」及び「部分結晶化カーボンブラック」の意味について
本件明細書には、「部分結晶化カーボンブラックは、700℃超かつ1800℃未満の温度でファーネスブラックを熱処理することで得ることができる」(【0003】)、「ある実施形態において、ベースカーボンブラックは、ベースカーボンブラックの制御された熱処理により部分的に結晶化される」(【0016】)、「カーボンブラックのそれぞれを表1に特定した。…カーボンブラックが表2において特定されるラマンLaを得るまで、表中に示される温度で不活性雰囲気においてカーボンブラックを熱処理した」(【0057】)と記載され、表2には、市販品のベースカーボンブラックの種類と、それを熱処理して部分結晶化カーボンブラックを得るための温度が記載され、部分結晶化カーボンブラックは、未処理のカーボンブラックを熱処理することにより得られることが示されている。
また、特許権者は、令和3年8月5日提出の意見書において、本件発明の「部分結晶化カーボンブラック」に関して、本件明細書の【0016】の記載を例示し、「明細書の上記記載からも「部分結晶化カーボンブラック」が「熱処理することにより形成されたカーボンブラック」であることは明らかである」と述べている。
これらのことから、本件発明10及び18の「部分結晶化カーボンブラック」は、市販品など容易に入手可能なカーボンブラックである「未処理のカーボンブラック」を熱処理するなどして、その結晶比率を高めたものを意味すると解される。
そのような解釈に基づくと、本件発明10及び18の「未処理のカーボンブラック」は、「部分結晶化カーボンブラック」となる前のカーボンブラックを意味すると解される。
ウ 「熱伝導率を少なくとも10%改善している」について
本件明細書には、「本明細書で説明する部分結晶化カーボンブラックは、同一のポリマー系において、対応するベースカーボンブラックと比べた場合、改善した熱伝導率、並びに改善したレオロジーを提供することができる」(【0035】)と記載され、熱伝導率の比較は、同一のポリマー系で行うことが示されており、部分結晶化カーボンブラックの配合により熱伝導率が改善するのであるから、その配合割合も同一とすべきことは当業者に明らかであるといえる。
そして、本件明細書の「例2:熱伝導率の測定」では、HDPE複合体の熱伝導率を、本件発明の「部分結晶化カーボンブラック」の具体例であるCB2及びCB4を用いて測定したことが記載されており(当審注:表4の「HDPEの濃度(wt%)」は、【0034】及び表3などの記載から、部分結晶化カーボンブラックの濃度の誤記であると解した。)、HDPE複合体の熱伝導率は、CB2を用いた場合(0.51W/mK)とCB1を用いた場合(0.45W/mK)とで10%以上改善し、また、CB4を少なく用いた場合(0.48W/mK)とCB3を用いた場合(0.38W/mK)とで10%以上改善したことが具体的に示されている。
そうすると、本件発明10及び18は、「未処理のカーボンブラック」を用いる場合と、前記イで述べた熱処理などした「部分結晶化カーボンブラック」を用いる場合とで、他の条件を同じにしたときに、本件発明10の「複合ポリマー組成物」又は本件発明12の「ポリマー前駆体のポリマー化物」の「熱伝導率を少なくとも10%改善している」ことを意味することは明らかである。
したがって、本件発明10及び18は明確である。
(2)本件発明11及び19について
本件発明10を引用する本件発明11及び19も、上記(1)で本件発明10について述べたのと同じ理由により、明確である。
(3)まとめ
以上のとおりであるから、本件発明10、11、18及び19は明確であり、申立理由7(イ)及び取消理由1(イ)によっては、本件発明10、11、18及び19に係る特許を取り消すことはできない。
3 申立理由1及び2(甲1を引用文献とする新規性及び進歩性)
(1)甲号証に記載された事項
ア 甲1に記載された事項及び甲1に記載された発明
甲1には、次の事項が記載されている。
「[0106](製造例1):PP-1
(i)チーグラー触媒の製造
充分に窒素置換した内容積が10Lの反応器に、脱水及び脱酸素したn-ヘプタン4000mlを導入し、次いでMgCl2を8モル、Ti(O-n-C4H9)4を16モル導入し、95℃で 2時間反応させた。反応終了後、40℃に温度を下げ、次いでメチルヒドロポリシ口 キサン(20センチストークスのもの)を960ml導入し、3時間反応させた。生成した固体成分をn-ヘプタンで洗浄した。次いで、充分に窒素置換した内容積が10Lの反応器に、上記と同様に精製したn-ヘプタンを1000ml導入し、上記で合成した固体成分をMg原子換算で4.8モル導入した。次いでn-500mlにSiCl48モルを混合して 30℃で30分間かけてフラスコへ導入し、70℃で3時間反応させた。反応終了後、n-ヘプタンで洗浄した。次いでn-ヘプタン500mlにフタル酸クロライド0.48モルを混合して、70℃で30分間かけてフラスコへ導入し、90℃で1時間反応させた。反応終了後、n-ヘプタンで洗浄した。次いで、 SiCl4200mlを導入して80℃で6時間反応させた。反応終了後、n-ヘプタンで充分に洗浄し固体成分を得た。この成分のチタン含量は1.3重量%であった。
[0107] 次いで、充分に窒素置換したフラスコに、上記と同様に精製したn-ヘプタンを1000ml導入し、上記で合成した固体成分を100g導入し、(t-C4H9)Si(CH3)(OCH3)224ml、Al(C2H5)334gを30℃で2時間接触させた。接触終了後、 n-ヘプタンで充分に洗浄し、塩化マグネシウムを主体とする固体触媒成分を得た。この成分のチタン含量は1.1重量%であった。
[0108] (ii)プロピレン系?脂の製造
上記で得た固体触媒成分及びトリエチルアルミニウムを使用し、第1重合工程として 反応部容積280Lを有する流動床式気相反応器を用い、重合温度85℃、プロピレン分圧22kg/cm2の条件下、プロピレン単独重合を連続的に行った。この時、固体触媒成分は1.8g/hrの速度で、またトリエチルアルミニウムを5.5g/hrの速度で連続的に供給した。第1重合工程より抜き出されるパウダーを25kg/hrで連続的に第2重合工程として用いる反応部容積280Lを有する流動床式気相反応器に送り、プロピレンとエチレンの共重合を連続的に行った。第2重合工程から連続的に27kg/hrのポリマーを抜き出した。各重合工程での水素濃度は、1槽目でH2/プロピレン=0.045モル比、2槽目でH2/(エチレン+プロピレン)=0.01モル比にコントロールすることにより分子量を制御した。ゴム状エチレン・プロピレン共重合体部のエチレン組成は、第2重合工程でのプロピレンとエチレンのガス組成をプロピレン/エチレン=1/1モル比にコントロールすることによりエチレン・プロピレンブロック共重合体を得た。1段重合槽から抜き出したプロピレン単独重合体のアイソタクチックペンタッド分率は、0.986、MFRは142g/10分、2段目重合槽から抜き出したエチレン・プロピレンブロック共重合体のMFRは65g/10分、共重合体部分のエチレン含量は52重量%、共重合体成分の含有量は8重量%であった。
[0109](製造例2):PP-2
第1重合工程の水素量を、H2/プロピレンモル比で0.048、第2重合工程の水素量を、 H2/プロピレンモル比で0.015に変更した以外は、製造例1と同様にしてエチレン・プロピレンブロック共重合体を得た。」
[0116](実施例1~17及び比較例1~11)
表5及び表7に示した配合割合によりプロピレン系樹脂、カーボンブラック、エチレン系エラストマー及びタルクを配合し、その100重量部に対してフェノール系酸化防止剤(チバスペシャルティケミカルズ社製:イルガノックス1010)0.1重量部、リン系酸化防止剤(チバスペシャルティケミカルズ社製:イルガフォス168)0.05重量部、及びステアリン酸カルシウム0.3重量部とともに混合した後、同方向回転2軸押出機(日本製鋼所社製:ΤΕΧ30α)を用いて、スクリュー回転数300rpm、押出レート15kg/hrで溶融混練し、ペレット状のプロピレン系樹脂組成物を得た。」
「[0123][表1]
[図:0001393047000005.jpg]
[0124][表2]
[図:0001393047000006.jpg]
「[0129][表7]
[図:0001393047000007.jpg]
」
甲1には、表1に示される構造及び特性を有するプロピレン系樹脂(PP-2)を製造したこと([0106]~[0109])、比較例11として、前記プロピレン系樹脂(PP-2)及び表2に示される特性を有するカーボンブラック(デンカブラック粒状)を用いて、前記プロピレン系樹脂(PP-2)85wt%とカーボンブラック(デンカブラック粒状)15wt%の比率で配合し、その100重量部に対してフェノール系酸化防止剤(イルガノックス1010)0.1重量部、リン系酸化防止剤(イルガフォス168)0.05重量部、及びステアリン酸カルシウム0.3重量部とともに混合した後、同方向回転2軸押出機を用いて、スクリュー回転数300rpm、押出レート15kg/hrで溶融混練し、ペレット状のプロピレン系樹脂組成物を得たこと([0116])、前記カーボンブラック(デンカブラック粒状)は、DBP吸収量164cm3/100g、窒素吸着比表面積72m2/g、結晶子サイズLc35Å、平均粒径36nm、結晶子サイズLc35Åであること(表2)がそれぞれ記載されている。
そうすると、甲1には、比較例11に着目して、次の発明が記載されているといえる。
「プロピレン系樹脂(PP-2)85wt%、カーボンブラック(デンカブラック粒状)15wt%の比率で配合し、その100重量部に対してフェノール系酸化防止剤(イルガノックス1010)0.1重量部、リン系酸化防止剤(イルガフォス168)0.05重量部、及びステアリン酸カルシウム0.3重量部とともに混合した後、同方向回転2軸押出機を用いて、スクリュー回転数300rpm、押出レート15kg/hrで溶融混練し、ペレット状のプロピレン系樹脂組成物であって、
前記カーボンブラック(デンカブラック粒状)は、DBP吸収量164cm3/100g、窒素吸着比表面積72m2/g、結晶子サイズLc35Å、平均粒径36nm、結晶子サイズLc35Åである、前記プロピレン系樹脂組成物。」(以下、「甲1発明」という。)
イ 甲2に記載された事項
甲2(記載箇所は、甲2-1の段落番号で示す。)には、次の記載がある。
「【0024】
ここに開示されるのは、導電性カーボンブラックを含む正極配合物であり、導電性カーボンブラックは、特定の性質を与えることによってリチウムイオン電池の電力性能に有益な影響を与えることができる。1つの態様では、リチウムイオン系の電気活性材料および100~300mL/100gの範囲のOANを有するカーボンブラックを含む正極配合物が提供される。カーボンブラックは、凝集体に融合した一次粒子からなり、それがカーボンブラックの最少の単位である。カーボンブラックの構造(オイル吸収によって測定される、「OAN」)は、その凝集体中の一次粒子の数に概ね相関する。高いOAN(高構造)カーボンブラックは、パーコレーションに必要とされるより低い臨界体積分率のために、低い充填量で、向上した電気伝導性を提供することができる。1つの態様では、カーボンブラックは、100~250mL/100gの範囲のOAN、または100~200mL/100gの範囲のOANを有している。OANは、ASTM-D2414に従って測定することができる。
【0025】
1つの態様では、カーボンブラックは、ラマン分光法で測定される、少なくとも30Åの結晶子サイズ(La)を有しており、ここでLaは、43.5×(Gバンドの面積/Dバンドの面積)として規定される。結晶子サイズは、黒鉛化の程度の指標を与えることができ、より大きなLa値は、黒鉛化のより高い程度に相関する。Laのラマン測定は、Gruberら、"Raman studies of heat-treated carbon blacks"、Carbon、Vol. 32 (7)、p.13、77-1382、1994に基づいており、これを参照することによって本明細書の内容とする。炭素のラマンスペクトルは、約1340cm-1および1580cm-1に、2つの主要な「共鳴」バンドを含んでおり、それぞれ「D」バンドおよび「G」バンドと表される。通常は、Dバンドは、不規則的(disordered)sp2炭素に帰属され、そしてGバンドは、黒鉛状炭素もしくは「規則的(ordered)」sp2炭素に帰属される。経験的な取り組みを用いると、G/Dバンドの比およびX線回折(XRD)によって測定されたLaは高度に相関し、そして回帰分析で、下記の経験的な関係が与えられる。
La=43.5×(Gバンドの面積/Dバンドの面積)
式中、Laは、オングストロームで計算される。従って、より高いLa値は、より規則的な結晶構造に相当する。他の態様では、カーボンブラックは、少なくとも35Å、少なくとも40Å、少なくとも45Å、または少なくとも50Åの結晶子サイズを有している。
【0026】
1つの態様では、より高い%の結晶化度(DおよびGバンドの比として、ラマン測定から得られる)もまた、より高い黒鉛化の程度を示すことができる。1つの態様では、カーボンブラックは、ラマン分光法で測定された、少なくとも40%の%結晶化度(ID/IG)を有している。」
「【0039】
1つの態様では、正極配合物は、バインダーを更に含む。例示的なバインダー材料としては、フッ素化ポリマー、例えばポリ(ビニルジフルオロエチレン)(PVDF)、ポリ(ビニルジフルオロエチレン)-コ-ヘキサフルオロプロピレン(PVDF-HFP)、ポリ(テトラフルオロエチレン)(PTFE)、ポリイミド、水溶性バインダー、例えばポリ(エチレン)オキシド、ポリビニルアルコール(PVA)、セルロース、カルボキシメチルセルロース(CMC)、デンプン、ヒドロキシプロピルセルロース、再生セルロース、ポリビニルピロリドン(PVP)ならびにそれらの共重合体および混合物が挙げられるが、それらには限定されない。他の可能性のあるバインダーとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン-ジエン三元共重合体(EPDM)、スルホン化EPDM、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)およびフッ素ゴムならびにそれらの共重合体および混合物が挙げられる。」
「【実施例】
【0054】
例1
この例では、基礎となるカーボンブラックの直接抵抗加熱処理による高度に黒鉛化されたカーボンブラックの調製が記載されている。カーボンブラック試料は、連続モードで運転された電熱式の流動床反応器中で処理された。カーボンブラックは、30分間~4時間の範囲の目標とする反応器滞留時間を得ることを基準として定められた速度で、この反応器から供給および排出された。窒素ガスが、分配器を通して、カーボンブラックを流動化するように導入された。直接抵抗加熱は、中心の電極と円筒形の反応器壁との間の円環中のカーボンブラック床を通して直流を通すことによって適用された。反応器温度は、電力入力を調整することによって、1200~2000℃の目標範囲に設定された。カーボンブラック試料AおよびBは、窒素の不活性雰囲気下での、それぞれ約1400℃および2000℃での、基礎となるカーボンブラックの直接抵抗熱処理によって得た。下記の表1に、結果として得た粉末の物理的特徴をまとめた。
【0055】
【表1】
[図:0001393047000008.jpg]
」
「【0057】
表1から、熱処理が、カーボンブラックの表面の性質およびその全体の結晶化度(bulk crystallinity)に影響を与えていることを理解することができる。表面エネルギー値は(表1のSEP値)は、動的水分収着(DWS)測定から得られたが、主として、カーボンブラックの表面上の酸素の量を示している。SEP値は、処理されていない基礎となるカーボンブラックの17mJ/m2から、試料Aの、1400℃での熱処理後の検出限界未満まで増加した。」
「【0066】
黒鉛化されたカーボンブラックは、次いでリチウムイオン電池工業において標準的な導電性添加剤として現在用いられている商業的に入手可能なカーボンブラック、すなわち、Super P(商標)導電性カーボンブラック(TIMCAL Graphite and Carbon)、Denka acetylene black(DENKA)、および高表面積Ketjenblack(商標)EC300導電性カーボンブラック(AkzoNobel)と比較した。それぞれのブラックの、図2におけるのと同じ条件の下での周期的ボルタンモグラムの比較が、図3に示されている。
【0067】
図3から分かるように、全ての競合するカーボンブラック品種の製品は、約3.3Vで、酸化電流の開始を生じさせ、これは典型的なリチウムイオン電池正極の動作の十分に範囲内である。競合するカーボンブラック品種の酸化電流は、おそらくは、炭素の酸化および電解質分解の重ね合わせからもたらされる。全体の電位範囲において、競合する品種の酸化電流は、本発明の黒鉛化されたカーボンブラックの酸化電流を有意に超過している。商業的品種のカーボンブラックについての物理的性質のまとめが表2に示されている。
【0068】
【表2】
[図:0001393047000009.jpg]
」
ウ 甲3に記載された事項
甲3には、次の記載がある。
「【0039】
実施例13
ポリカーボネート樹脂(L-1250帝人化成社製)80重量部とカーボンブラック(デンカブラック粒状電気化学工業社製DBP吸油量165ml/100g揮発分0.6%)20重量部をφ45mmベント式二軸押出機を用いて混練し、ストランドカット法によりペレット化し樹脂組成物を得た。得られた樹脂からφ40mm押出機(L/D=26)を用いて全体の肉厚が300μmの単層熱可塑性樹脂シートを得た。得られた熱可塑性樹脂シートを角度を30度とした斜面上に貼り付け、熱可塑性樹脂シート表面にイオン化エアーを吹きつけ電荷を除去した。イオン化エアーを用いてIC(NEC社製V810)の電荷を除去した後、これを滑り落とし、23℃、50%環境下で滑り落ちた後のICの電荷量をファラデーゲージで測定したところ0.08ナノクーロンであった。」
エ 甲4に記載された事項
甲4には、次の記載がある。
「【0029】
表1で用いたクロロプレンゴム(S-40V)は、電気化学工業株式会社製クロロロロプレンゴムである。
・・・
表1で用いたアセチレンブラックは、電気化学工業株式会社製デンカブラック粒状品(LC=3.5nm、DBP吸油量160ml/100g)」
オ 甲5に記載された事項
本件特許の優先日(2016年2月1日)後に公開された甲5には、次の記載がある。
「[0042]〔カーボンブラックA(成分(ア))〕
デンカ株式会社製、デンカブラックFX-35〔非圧縮下DBP吸油量:267(mL/100g)、BET比表面積:133(m2/g)〕
[0043]〔カーボンブラックB(成分(ア))〕
デンカ株式会社製、デンカブラックHS-100〔非圧縮下DBP吸油量:177(mL/100g)、BET比表面積:39(m2/g)〕
[0044]〔カーボンブラックC(成分(ア))〕
デンカ株式会社製、デンカブラックAB粉状品〔非圧縮下DBP吸油量:228(mL/100g)、BET比表面積:68(m2/g)〕」
カ 甲6に記載された事項
本件特許の優先日(2016年2月1日)後に公開された甲6には、次の記載がある。
「【0030】
比較例1
市販のカーボンブラック(電気化学工業社製「デンカブラック粉状」)を用いて電極スラリー及び正極を作製し、評価した。評価結果を表1と2に示す。
・・・
【表1】
[図:0001393047000010.jpg]
」
キ 甲7に記載された事項
甲7には、次の記載がある。
「
[図:0001393047000011.jpg]
[図:0001393047000012.jpg]
[図:0001393047000013.jpg]
」
ク 甲8に記載された事項
甲8には、次の記載がある。
「
[図:0001393047000014.jpg]
[図:0001393047000015.jpg]
[図:0001393047000016.jpg]
」(75頁右欄14行~76頁左欄1行)
「
[図:0001393047000017.jpg]
[図:0001393047000018.jpg]
」(77頁左欄下7行~同右欄2行)
ケ 甲10に記載された事項
甲10(記載箇所は、甲10-1の段落番号で示す。)には、次の記載がある。
「【請求項3】
1μm≦D50≦5μmの粒子径分布を有する第1のリチウムイオン系電気活性材料;
5μm≦D50≦15μmの粒子径分布を有する第2のリチウムイオン系電気活性材料;および、
130~700m2/gの範囲のBET表面積を有するカーボンブラック、
を含んでなる正極配合物。」
「【0057】
1つの態様では、カーボンブラックは、オイル吸着数(OAN)によって規定される構造を有しており、これは、より高い程度の黒鉛化によるより少ない数の欠陥を示している。OANは、ASTM-D2414に従って定めることができる。1つの態様では、カーボンブラックは、250mL/100g未満のOAN、例えば50~250mL/100g、100~250mL/100g、または100~200mL/100gの範囲のOANを有している。
【0058】
1つの態様では、黒鉛化のより高い程度は、より低い表面エネルギー値によって示されることができ、それは典型的には、カーボンブラック表面上の酸素の量、そして従って、その疎水性の指標である。表面エネルギーは、動的水収着によって測定することができる。1つの態様では、カーボンブラックは、10mJ/m2以下、例えば、9mJ/m2以下、7mJ/m2以下、6mJ/m2以下、5mJ/m2以下、3mJ/m2以下、または1mJ/m2以下の表面エネルギー(SE)を有している。
【0059】
1つの態様では、カーボンブラックは、ラマン分光法で測定される、少なくとも25Åの結晶子サイズ(La)を有しており、ここでLaは、43.5×(Gバンドの面積/Dバンドの面積)として規定される。結晶子サイズは、黒鉛化の程度の指標を与えることができ、より大きなLa値は、黒鉛化のより高い程度に相関する。Laのラマン測定は、Gruberら、"Raman studies of heat-treated carbon blacks"、Carbon、Vol. 32 (7)、p.1377-1382、1994に基づいており、これを参照することによって本明細書の内容とする。炭素のラマンスペクトルは、約1340cm-1および1580cm-1に、2つの主要な「共鳴」バンドを含んでおり、それぞれ「D」バンドおよび「G」バンドと表される。通常は、Dバンドは、不規則的(disordered)sp2炭素に帰属され、そしてGバンドは、黒鉛状炭素もしくは「規則的(ordered)」sp2炭素に帰属される。経験的な取り組みを用いると、G/Dバンドの比と、X線回折(XRD)によって測定されたLaとは高度に相関し、そして回帰分析で、下記の経験的な関係が与えられる。
La=43.5×(Gバンドの面積/Dバンドの面積)
式中、Laは、オングストロームで計算される。従って、より高いLa値は、より規則的な結晶構造に相当する。
【0060】
他の態様では、カーボンブラックは、少なくとも30Å、少なくとも35Å、少なくとも40Å、少なくとも45Å、または少なくとも50Åの結晶子サイズを有している。
【0061】
1つの態様では、より高い%の結晶化度(DおよびGバンドの比として、ラマン測定から得られる)もまた、より高い黒鉛化の程度を示すことができる。1つの態様では、カーボンブラックは、ラマン分光法で測定された、少なくとも35%の%結晶化度(ID/IG)、例えば、少なくとも38%、もしくは少なくとも40%の結晶化度を有している。」
「【0074】
1つの態様では、正極配合物は、バインダーを更に含む。例示的なバインダー材料としては、フッ素化ポリマー、例えばポリ(ビニルジフルオロエチレン)(PVDF)、ポリ(ビニルジフルオロエチレン)-コ-ヘキサフルオロプロピレン(PVDF-HFP)、ポリ(テトラフルオロエチレン)(PTFE)、ポリイミド、水溶性バインダー、例えばポリ(エチレン)オキシド、ポリビニルアルコール(PVA)、セルロース、カルボキシメチルセルロース(CMC)、デンプン、ヒドロキシプロピルセルロース、再生セルロース、ポリビニルピロリドン(PVP)ならびにそれらの共重合体および混合物が挙げられるが、それらには限定されない。他の可能性のあるバインダーとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン-ジエン三元共重合体(EPDM)、スルホン化EPDM、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)およびフッ素ゴムならびにそれらの共重合体および混合物が挙げられる。」
(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明を対比する。
甲1発明の「プロピレン系樹脂(PP-2)」は、「プロピレン系樹脂組成物」において、カーボンブラック(デンカブラック粒状)のバインダーとなってマトリックス形成するものであるから、本件発明1の「ポリマーマトリックス」に相当する。
甲1発明の「カーボンブラック(デンカブラック粒状)」は、本件発明1の「カーボンブラック」に相当し、その配合量は約15wt%であるから、本件発明1の「12~28wt%の濃度で分散した」を充足する。また、甲1発明の「カーボンブラック(デンカブラック粒状)」における「DBP吸収量164cm3/100g」は、本件発明1の「120cm3/100g超かつ200cm3/100g未満のOAN構造」を充足すると解される。
甲1発明の「プロピレン系樹脂組成物」は、本件発明1の「複合ポリマー組成物」に相当する。
そうすると、本件発明1と甲1発明とは、
「ポリマーマトリックスと、
前記ポリマーマトリックス中に12~28wt%の濃度で分散したカーボンブラックとを含み、前記カーボンブラックが、120cm3/100g超かつ200cm3/100g未満のOAN構造を有する、複合ポリマー組成物。」の点で一致し、次の点で相違する。
相違点1:カーボンブラックが、本件発明1は、「部分結晶化カーボンブラック」であり、「8mJ/m2未満の表面エネルギーと、65%未満の比結晶化度と、28Å以上のラマン微結晶平面寸法(La)とを有する」のに対して、甲1発明は、前記特性を有する「部分結晶化カーボンブラック」であるかが不明である点
イ 検討
相違点1について検討する。
甲1には、甲1発明の「カーボンブラック(デンカブラック粒状)」の各種特性値が記載されているが(表2)、これが、本件発明1の「8mJ/m2未満の表面エネルギーと、65%未満の比結晶化度と、28Å以上のラマン微結晶平面寸法(La)とを有する」ものであることは記載も示唆もされておらず、甲1の記載からは、本件発明1の「部分結晶化カーボンブラック」であるとはいえない。
また、甲2には、リチウムイオン電池工業において標準的な導電性添加剤として用いられ、商業的に入手可能なカーボンブラックである「Denka acetylene black(DENKA)」(以下、「Denka Black」という。)は、218ml/100gのOAN、1.8mJ/m2のSEP(「表面エネルギー値」の意。甲2-1の【0057】を参照)、33.5ÅのLaラマン値、24%の結晶化度(「ID/IG」により算出。同【0026】を参照)を有することが記載されている(表2)。
ここで、甲2に記載の「Denka Black」の「24%の結晶化度」はID/IGで求められる値であるのに対して、本件発明1の「比結晶化度」は、前記1(3)で検討したとおり、IG/(ID+IG)により求められる値であり、甲2に記載の「24%の結晶化度」を数式にしたID/IG×100=24%を基に、本件発明1の「比結晶化度」を算出すると約80%となり、本件発明1の「65%未満の比結晶化度」を満たさない。
そうすると、仮に、甲1発明の「カーボンブラック(デンカブラック粒状)」と、甲2に記載の「Denka Black」が同一の商品であるとしても、甲1発明の「カーボンブラック(デンカブラック粒状)」は、本件発明1の「8mJ/m2未満の表面エネルギーと、65%未満の比結晶化度と、28Å以上のラマン微結晶平面寸法(La)とを有する」ことを満たさないことになる。また、「デンカブラック」に関する甲3~甲8の記載や、他の甲9~甲13の記載を見ても、甲1発明の「カーボンブラック(デンカブラック粒状)」が、本件発明1の「8mJ/m2未満の表面エネルギーと、65%未満の比結晶化度と、28Å以上のラマン微結晶平面寸法(La)とを有する」を満たすことが裏付けられるとはいえない。
したがって、相違点1は実質的な相違点であり、本件発明1は甲1に記載された発明ではない。
次に、申立理由2(進歩性)について検討する。
甲2には、窒素の不活性雰囲気下で、約1400℃での、基礎となるカーボンブラックの直接抵抗熱処理によって得られた試料Aであって、135ml/100gのOAN、0mJ/m2のSEP、38ÅのLaラマン値、46%の結晶化度を有するカーボンブラックが記載されている(表1)。そして、上述したとおり、甲2の「結晶化度」はID/IGで求められる値であり、前記「46%の結晶化度」を基に、「比結晶化度」を算出すると約68.5%となり、本件発明1の「65%未満の比結晶化度」を満たさない。
仮に、甲2に、本件発明1の「8mJ/m2未満の表面エネルギーと、65%未満の比結晶化度と、28Å以上のラマン微結晶平面寸法(La)とを有する」を満たすカーボンブラックが記載されていても、甲1発明は、甲1に記載された優れた効果を確認するための比較例(比較例11)にすぎず、甲2~甲8の記載に基づいて、甲1発明の「カーボンブラック(デンカブラック粉末)」を、他のカーボンブラックに置き換えることが動機づけられるとはいえない。
したがって、本件発明1は、甲1発明及び甲2~甲8の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでない。
甲10には、130~700m2/gの範囲のBET表面積を有するカーボンブラックを含むリチウムイオン電池の正極配合物が記載され(請求項3)、前記カーボンブラックとして、50~250ml/100gのOAN、10mJ/m2以下の表面エネルギー、少なくとも25Åの結晶子サイズLa、又は、少なくとも35%の%結晶化度(ID/IG)の各態様が記載されているにとどまり(【0057】~【0061】)、本件発明1の「120cm3/100g超かつ200cm3/100g未満のOAN構造と、8mJ/m2未満の表面エネルギーと、65%未満の比結晶化度と、28Å以上のラマン微結晶平面寸法(La)とを有する」カーボンブラックの具体例は記載されていない。
また、本件発明1の「比結晶化度」は、前記1(3)で検討したとおり、IG/(ID+IG)により求められる値であり、甲10に記載の「%結晶化度(ID/IG)」とは定義が異なるから、甲10には、本件発明1の「65%未満の比結晶化度」を満たすカーボンブラックが記載されているとはいえない。
したがって、本件発明1は、甲1発明及び甲10に記載の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ウ 申立人の主張について
申立人は、カーボンブラックにさまざまな用途があり、導電性材料としてカーボンブラックを含有する甲1に記載の樹脂組成物と、リチウムイオン電池用である甲2及び甲10に記載のカーボンブラックは、技術分野が共通するし、甲2及び甲10に記載のカーボンブラックは、樹脂成分であるバインダーに分散して導電性を発揮することが期待されるから、甲1に記載された発明に、甲2又は甲10に記載されたカーボンブラックを採用して、本件発明1に想到することは容易であると主張する(申立書25頁17行~26頁4行、31頁7~18行)。
しかしながら、甲1に記載された発明の技術分野は、プロピレン系樹脂組成物及びその成形体であり([0001])、具体的には、ICトレー、電磁波シールド等の用途に用いられるものであって([0100][0101])、甲1には、リチウムイオン電池の正極配合剤の用途は記載も示唆もない一方、甲2及び甲10に記載のカーボンブラックはリチウムイオン電池用であり、甲1に記載の発明と甲2及び甲10に記載の発明は、互いに技術分野が異なる。
また、甲1に記載された発明は、プロピレン系樹脂にカーボンブラックを添加したときに流動性が低下し又は分散性が悪いという従来技術の欠点を解消し、導電性と成形加工性に優れたプロピレン系樹脂組成物を提供することを課題とするものであり、甲2に記載されたカーボンブラックは、リチウムイオン電池の正極配合剤に用いる場合に、低い充填量で、向上した電気伝導性を提供するものであり(甲2-1の【0024】)、両者は課題が異なる。
さらに、甲2及び甲10には、正極配合剤のバインダー(樹脂)として、一般的なPVDF等のフッ素化ポリマー以外の、「他の可能性のあるバインダー」としてポリプロピレンが例示されているが(甲2-1の【0039】、甲10-1の【0074】)、甲2及び甲10に記載のカーボンブラックをポリプロピレンに添加した場合に、優れた流動性や分散性を示し、導電性と成形加工性に優れることは何ら記載されていない。
エ 小括
したがって、本件発明1は、甲1に記載された発明でないし、また、甲1に記載された発明、並びに甲2~甲8及び甲10の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(3)本件発明2、4、5及び9について
本件発明2、4、5及び9は、本件発明1を直接的または間接的に引用するものであり、前記(2)で本件発明1について述べたのと同じ理由により、甲1に記載された発明でないし、また、甲1に記載された発明及び甲2~8及び甲10に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(4)まとめ
以上のとおりであるから、本件発明1、2、4~9及び11に係る特許は、申立理由1及び2によっては取り消すことはできない。
4 申立理由3(甲9を引用文献とする進歩性)
(1)甲9に記載された事項及び甲9に記載された発明
甲9には、次の記載(当審訳)がある。
「請求項15 20~80wt%の熱可塑性または熱硬化性ポリマー、10~70wt%の金属水酸化物、および、0.5~10wt%の重合体チャー形成剤を含む熱伝導性組成物であり、ここで、前記熱伝導性組成物は、少なくとも0.5W/mKの面直方向の熱伝導率を有し、UL-94試験基準どおりに試験されたときに、1.5mm以下の厚さで少なくともV-0の難燃性を有し、前記wt%は熱伝導性組成物の全重量を基にしたものである、前記熱伝導性組成物。
請求項16 さらに5~60wt%のフィラー又は補強剤、または少なくとも一つからなる組み合わせを含む、請求項15の熱伝導性組成物。
請求項17 前記フィラーまたは補強剤は、50W/mK以上の熱伝導率を有し、AN、Al4C3、Al2O3、BN、AlON、MgSiN2、SiC、Si3N4、黒鉛、膨張黒鉛、グラフェン、炭素繊維、または前記補強剤の少なくとも一つからなるものであるか、10~30W/mKの熱伝導率を有し…請求項16の熱伝導性組成物。」
「[0028] 一実施形態では、熱伝導性組成物は、低熱伝導性を有する追加のフィラーおよび補強材を任意に含む。言い換えれば、低熱伝導性で電気的に絶縁性のフィラーを熱伝導性組成物に添加することができる。低熱伝導性で電気的に絶縁性のフィラーは、10~30W/mKの固有熱伝導率を有し、一実施形態では、105Ω・cm以上の電気抵抗率を有する。低熱伝導性フィラーの例として、ZnS(硫化亜鉛)、CaO(酸化カルシウム)、MgO(酸化マグネシウム)、ZnO(酸化亜鉛)、またはTiO2(酸化チタン)など、または前記低熱伝導性で電気的に絶縁性のフィラーの少なくとも一つからなる組み合わせである。」
「[0030] 一実施形態では、1つ以上の高熱伝導性で導電性のフィラーを使用することができる。高熱伝導性で導電性のフィラーは、50W/mK以上の固有熱伝導率を有し、一実施形態では、1Ω・cm以下の電気抵抗を有する。高熱伝導性で導電性のフィラーの例としては、黒鉛、膨張黒鉛、グラフェン、炭素繊維、カーボンナノチューブ(CNT)または黒鉛化カーボンブラック、またはそれらのようなもの、または前記高熱伝導性で導電性のフィラーの少なくとも一つからなる組み合わせである。」
甲9には、前記「50W/mK以上の熱伝導率を有」する前記「フィラー」として、「黒鉛、膨張黒鉛、グラフェン、炭素繊維、カーボンナノチューブ(CNT)または黒鉛化カーボンブラック」が例示されており([0030])、「黒鉛化カーボンブラック」は、前記「黒鉛、膨張黒鉛、グラフェン、炭素繊維」(請求項17)と同列に扱われるフィラーであるといえる。
そうすると、甲9には、請求項15~17及び[0030]に着目して、次の発明が記載されているといえる。
「20~80wt%の熱可塑性または熱硬化性ポリマー、10~70wt%の金属水酸化物、および、0.5~10wt%の重合体チャー形成剤、5~60wt%のフィラーまたは補強剤であって、50W/mK以上の熱伝導率を有する黒鉛化カーボンブラックを含む熱伝導性組成物であり、ここで、熱伝導性組成物は、少なくとも0.5W/mKの面直方向の熱伝導率を有し、UL-94試験基準どおりに試験されたときに、1.5mm以下の厚さで少なくともV-0の難燃性を有し、前記wt%は熱伝導性組成物の全重量を基にしたものである、前記熱伝導性組成物。」(以下、「甲9発明」という。)
(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲9発明を対比する。
甲9発明の「熱可塑性または熱硬化性ポリマー」は、前記フィラーまたは補強剤等のバインダーとなってマトリックスを形成するものであるから、本件発明1の「ポリマーマトリックス」に相当する。
甲9発明の「黒鉛化カーボンブラック」は、黒鉛化して結晶化したものであるといえるから、本件発明1の「部分結晶化カーボンブラック」と、結晶化カーボンブラックである限りにおいて一致する。また、甲9発明の「黒鉛化カーボンブラック」は、前記「熱可塑性または熱硬化性ポリマー」中に分散していることは明らかである。
甲9発明の「熱伝導性樹脂組成物」は、本件発明1の「複合ポリマー組成物」に相当する。
そうすると、本件発明1と甲9発明とは、「ポリマーマトリックスと、前記ポリマーマトリックス中に分散したカーボンブラックとを含む、複合ポリマー組成物。」の点で一致し、次の点で相違する。
相違点9a:結晶化カーボンブラックが、本件発明1は、「12~28wt%の濃度」であるのに対して、甲9発明は、「5~60wt%のフィラーまたは補強剤」である点
相違点9b:結晶化カーボンブラックが、本件発明1は、「部分結晶化カーボンブラック」であり、「前記カーボンブラックが、120cm3/100g超かつ200cm3/100g未満のOAN構造と、8mJ/m2未満の表面エネルギーと、65%未満の比結晶化度と、28Å以上のラマン微結晶平面寸法(La)とを有する」のに対して、甲9発明は、164cm3/100gのDBP吸収量を有するものの、前記特性を有する「部分結晶化カーボンブラック」であるか不明である点
イ 検討
事案に鑑みて、相違点9bから検討する。
相違点9bは、「前記カーボンブラックが、120cm3/100g超かつ200cm3/100g未満のOAN構造と、8mJ/m2未満の表面エネルギーと、65%未満の比結晶化度と、28Å以上のラマン微結晶平面寸法(La)とを有する」ことに関するものであり、前記3(2)イで検討したとおり、甲2及び甲10には、本件発明1の「65%未満の比結晶化度」を有するカーボンブラックが記載されていないから、甲9発明に甲2又は甲10に記載された事項を適用したとしても、少なくとも「65%未満の比結晶化度」を有することは、当業者が容易に想到し得たことではない。
ウ 小括
したがって、本件発明1は、相違点9bの「120cm3/100g超かつ200cm3/100g未満のOAN構造」、「8mJ/m2未満の表面エネルギー」、「28Å以上のラマン微結晶平面寸法(La)」や、相違点9aについて検討するまでもなく、甲9に記載された発明、並びに甲2及び甲10の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(3)本件発明6~8について
本件発明6~8は、本件発明1を直接的または間接的に引用するものであり、上記(2)で本件発明1について述べたのと同じ理由により、本件発明6~8は、甲9に記載された発明並びに甲2及び甲10に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(4)まとめ
以上のとおりであるから、本件発明1、6~8に係る特許は、申立理由3によっては取り消すことはできない。
5 申立理由4(甲11を引用文献とする進歩性)
(1)甲11に記載された事項及び甲11に記載された発明
甲11には、次の事項が記載されている。
「【0045】
熱で改質された本発明のカーボンブラックの様々な用途を説明する前に、図1を参照して、電気加熱式流動床炉について説明する。本発明の方法は、前記炉を通過させることによって行われ、カーボンブラックは熱で改質され、様々な用途において独特の品質がもたらされる。」
「【0062】
カーボンブラックの熱処理工程では、性能特性を改良するために、800~3000℃の範囲内で熱処理される。下記の各用途において、熱処理工程の後、ファーネスカーボンブラックは、粒径が7~100nmであり、油吸収量が約50~300ml/100gである。サーマルブラックは、粒径250~500nmであり、油吸収量が50ml/100gより少ない。各場合とも、上述した連続加熱炉工程でカーボンブラックの熱処理を行なうと、硫黄は実質的に除去され、カーボンブラックが黒鉛化され、カーボンブラックの耐酸化性は向上する。様々な用途において、これら変質した特性の利点は、テーブル1「熱改質によって付与されたカーボンブラック特性のマトリックス及び種々の用途にもたらす効果」に記載されており、その詳細は次のとおりである。」
「【0067】
次に、テーブル4「コロイド特性」について説明する。テーブル4は、異なる3種類のカーボンブラックの比較を示しており、それらブラックは、CDX-975U(半導体化合物に使用されるファーネスカーボンブラック)、アセチレンブラック、及び前記熱処理法に基づいて約2000℃で熱処理されたCDX-975Uである。異なる3種類のカーボンブラックの様々な特性を比較すると、熱処理されたブラックは、ヨウ素価(mg/g)が98.8、NSA(m2/g)は71.9、DBPA(ml/100g)は156.8、イオン含有量は0.01%、pHは10.6、含水率は0.0である。テーブル4において、熱処理されたカーボンブラックとアセチレンブラックを比べると、コロイド特性は非常に似ているが、熱処理されたカーボンブラックは、広範な形態を提供することができるので、用途がより広く、より望ましい。」
「【0070】
テーブル7は、アセチレンブラックと、熱処理されたCDX-975Uの2種類のカーボンブラックを含むポリエチレンについて、体積抵抗率と加工性の関係を示している。テーブル7は、対数体積抵抗率(オームcm)に対するメルトフロー(gm/10min)のグラフであり、熱処理されたカーボンブラックは、他のカーボンブラックよりも体積抵抗率(オームcm)が非常に低いことを示している。」
甲11の【0070】には、アセチレンブラックを含むポリエチレンと、熱処理されたCDX-975Uのカーボンブラックを含むポリエチレンとの2種類のカーボンブラックを含むポリエチレンが記載されており、前記CDX-975Uは、同【0067】の記載から、半導体化合物に使用されるファーネスカーボンブラックである。
そうすると、甲11には、【0067】及び【0070】の記載に着目して、以下の発明が記載されているといえる。
「熱処理されたCDX-975U(半導体化合物に使用されるファーネスカーボンブラック)を含むポリエチレン。」(以下、「甲11発明」という。)
(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲11発明を対比する。
甲11発明の「熱処理」は、電気加熱式流動床炉を通過させることによって行われ、カーボンブラックは熱で改質されるものであり(甲11の【0045】)、熱処理工程の後、ファーネスカーボンブラックは、粒径が7~100nmであり、油吸収量が約50~300ml/100gである(同【0062】)。そして、前記炉を通過させる熱処理は連続加熱炉工程であり、連続加熱炉工程でカーボンブラックの熱処理を行なうと、カーボンブラックが黒鉛化される(同【0062】)。
このことから、甲11発明の「熱処理されたCDX-975U(半導体化合物に使用されるファーネスカーボンブラック)」は黒鉛化されたものであるから、本件発明1の「部分結晶化カーボンブラック」と、少なくとも一部が結晶化したカーボンブラックである点で一致するといえる。そして、甲11発明の前記「油吸収量」は、本件発明1の「OAN構造」に相当し、両者は、50~300ml/100gの範囲内のOAN構造を有する限りにおいて一致するといえる。
また、甲11発明は、カーボンブラックを含むポリエチレンであるから、本件発明1の「複合ポリマー組成物」に相当する。
そうすると、本件発明1と甲11発明とは、「ポリマーマトリックスと、前記ポリマーマトリックス中に分散した、少なくとも一部が黒鉛化されたカーボンブラックとを含み、前記カーボンブラックが、50~300ml/100gの範囲内のOAN構造を有する、複合ポリマー組成物。」の点で一致し、次の点で相違する。
相違点11a:カーボンブラックの濃度が、本件発明1は「ポリマーマトリックス中に12~28wt%の濃度」であるのに対して、甲11発明は不明である点
相違点11b:カーボンブラックが、本件発明1は、「120cm3/100g超かつ200cm3/100g未満のOAN構造と、8mJ/m2未満の表面エネルギーと、65%未満の比結晶化度と、28Å以上のラマン微結晶平面寸法(La)とを有する」「部分結晶化カーボンブラック」であるのに対して、甲11発明は、50~300ml/100gの油吸収量を有する、少なくとも一部が結晶化されたカーボンブラックであり、「8mJ/m2未満の表面エネルギーと、65%未満の比結晶化度と、28Å以上のラマン微結晶平面寸法(La)とを有する」「部分結晶化カーボンブラック」であるかが不明である点
イ 検討
事案に鑑みて、まず相違点11bを検討する。
相違点11bは、「前記カーボンブラックが、120cm3/100g超かつ200cm3/100g未満のOAN構造と、8mJ/m2未満の表面エネルギーと、65%未満の比結晶化度と、28Å以上のラマン微結晶平面寸法(La)とを有する」ことに関するものであり、前記3(2)イで検討したとおり、甲2及び甲10には、本件発明1の「65%未満の比結晶化度」を有するカーボンブラックが記載されていないから、甲11発明に甲2又は甲10に記載された事項を適用したとしても、少なくとも「65%未満の比結晶化度」を有することは、当業者が容易に想到し得たことではない。
ウ 小括
したがって、本件発明1は、相違点11bの「120cm3/100g超かつ200cm3/100g未満のOAN構造」、「8mJ/m2未満の表面エネルギー」、「28Å以上のラマン微結晶平面寸法(La)」や、相違点11aについて検討するまでもなく、甲11に記載された発明、並びに甲2及び甲10の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(3)本件発明11及び19について
本件発明11及び19は、本件発明1を直接的または間接的に引用するものであり、上記(2)で本件発明1について述べたのと同じ理由により、本件発明11及び19は、甲11に記載された発明並びに甲2及び甲10に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(4)まとめ
以上のとおりであるから、本件発明1、11及び19に係る特許は、申立理由4によっては取り消すことはできない。
6 申立理由5(甲12を引用文献とする進歩性)
(1)甲12に記載された事項及び甲12に記載された発明
甲12には、次の事項が記載されている(当審訳)。
「1.表面と裏面があり、加熱層と接触層からなる平面要素であって、
前記加熱層は、実質的に加熱可能な自己接着剤からなり、前記自己接着剤は電流が流れると発熱する導体として形成されており、
前記接触層は、少なくとも実質的に二次元に広がる接触要素であり、前記接触要素は切り欠き部によって切り欠かれており、前記接触層は第1側面と第2側面があり、第1側面を介して前記加熱層と接触して電気的に導通しており、前記接触層の第2側面は前記平面要素の表面を形成しており、前記接触要素にある切り欠き部は、前記接触要素の厚み方向の通路が形成され、少なくとも前記第2側面の領域に接着剤がない形で存在する、前記平面要素。
・・・
10.前記実質的に加熱可能な自己接着剤は、少なくとも1種の導電性充填剤を含む、請求項1に記載の平面要素。
11.前記導電性充填剤は、黒鉛、カーボンナノチューブ及びカーボンブラックからなる群から選ばれる、前記請求項10に記載の平面要素。」(請求の範囲の請求項1、10及び11)
「[0076] 導電性自己接着剤を得るために、導電性充填剤は、重合前および/または重合中に自己接着剤のモノマーに混合することができ、および/または重合の終了後にのみポリマーと組み合わせることができる。好ましくは、導電性充填剤は、重合後に、自己接着剤のベースポリマーの溶融物に添加される。」
そうすると、甲12には、[0076]の記載に着目して、次の発明が記載されているといえる。
「重合前および/または重合中に自己接着剤のモノマーに、導電性充填剤を混合した導電性自己接着剤。」(以下、「甲12発明」という。)
(2)本件発明12について
ア 対比
本件発明12と甲12発明を対比する。
甲12発明の「モノマー」は、「重合前および/または重合中」であり、重合の終了後にポリマーとなるものであるから、本件発明12の「ポリマー化可能なモノマー又はオリゴマー」に相当する。また、甲12発明の「導電性自己接着剤」は、重合の終了後にポリマーとなるモノマーを含むものであるから、本件発明12の「ポリマー前駆体組成物」に相当する。
甲12発明の「導電性充填剤」は、本件発明12の「部分結晶化カーボンブラック」は、導電性充填剤である限りにおいて、甲12発明の「導電性充填剤」と一致する。
そうすると、本件発明12と甲12発明とは、「ポリマー化可能なモノマー又はオリゴマーを含むポリマー前駆体と、導電性充填剤とを含む、ポリマー前駆体組成物。」の点で一致し、次の点で相違する。
相違点12a:導電性充填剤が、本件発明12では、「部分結晶化カーボンブラック」であり、「前記カーボンブラックが、120cm3/100g超かつ200cm3/100g未満のOAN構造と、8mJ/m2未満の表面エネルギーと、65%未満の比結晶化度と、28Å以上のラマン微結晶平面寸法(La)とを有する」のに対して、甲12発明は、そのような「部分結晶化カーボンブラック」であるか不明である点
相違点12b:導電性充填剤の配合割合が、本件発明12では、「前記モノマー又はオリゴマー中に12~28wt%の濃度で分散した部分結晶化カーボンブラックとを含」むのに対して、甲12発明は、その配合割合が不明である点
イ 検討
相違点12aについて検討する。
甲12には、甲12発明の「導電性自己接着剤」が、甲12の請求項1に係る平板要素における接着剤として用いられ、前記平板要素が結合基板と接着されること,及び、甲12発明の「導電性充填剤」は、「黒鉛、カーボンナノチューブ及びカーボンブラックからなる群から選ばれる」(請求項11)ことが記載されるにとどまる。
そうすると、甲12発明において、甲2又は甲10に記載の部分結晶化カーボンブラックを採用することが動機づけられるとはいえず、また、仮に採用したとしても、本件発明12の「比結晶化度」は、・・・で算出されるものであり、甲2又は甲10の部分結晶化カーボンブラックは、本件発明12の「65%未満の比結晶化度」を充足するとはいえない。
したがって、本件発明12は、甲12に記載された発明、並びに甲2及び甲10に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
ウ 小括
したがって、本件発明1は、相違点12bについて検討するまでもなく、甲12に記載された発明、並びに甲2及び甲10の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
(3)本件発明13~17について
本件発明13~17は、本件発明12を直接的または間接的に引用するものであり、上記(2)で本件発明12について述べたのと同じ理由により、本件発明13~17は、甲12に記載された発明、並びに甲2及び甲10に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(4)まとめ
以上のとおりであるから、本件発明12~17に係る特許は、申立理由5によっては取り消すことはできない。
7 申立理由6(サポート要件)
(1)特許法第36条第6項第1号(サポート要件)の判断手法
特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。以下、この観点に立って判断する。
(2)本件発明の課題
本件発明1、2、4~19は、第3で示したとおりのものであり、その概略は、所定の物性を有する「部分結晶化カーボンブラック」を含む「複合ポリマー組成物」又は「ポリマー前駆体組成物」である。
一方、本件明細書には、「本開示は、ポリマー組成物、特に、改善した熱伝導性及び機械特性を示すプラスチックに関する。」(本件明細書の【0001】)、及び、「熱伝導性ポリマーはまた、効率的な伝熱を要求する用途で典型的に使用される低熱伝導性ポリマー又は金属のような材料と置き換えることができる。」(同【0002】)と記載され、改善した熱伝導性を示す熱伝導性ポリマーを求められており、本件特許出願により、改善した熱伝導性を示すプラスチックを提供することが示されているといえる。
そして、本件明細書には、「…部分結晶化カーボンブラックとを含むポリマー系が提供される。部分的に結晶化した(部分的に黒鉛化した)カーボンブラックは、…低結晶形態のカーボンブラックに比べ、改善した伝熱能力を提供することができる。」(同【0007】)と記載され、部分結晶化カーボンブラックを含むポリマー系は、改善した熱伝導性を有することが示されている。
これらの記載から、本件発明が解決しようとする課題は、改善した熱伝導性を示すプラスチックを得るための、所定の「部分結晶化カーボンブラック」を含む「複合ポリマー組成物」又は「ポリマー前駆体組成物」を提供すること、であると解される。
(3)本件発明1及び12について
本件明細書には、「本明細書で説明する部分結晶化カーボンブラックは、同一のポリマー系において、対応するベースカーボンブラックと比べた場合、改善した熱伝導率、並びに改善したレオロジーを提供することができる。」(【0035】)と記載され、また、実施例には、本件発明1及び12の発明特定事項を満たす「部分結晶化カーボンブラック」の具体例であるCB2及びCB4を含むHDPE複合体は、本件発明1及び12の発明特定事項を満たさないCB1及びCB3を含むHDPE複合体と比べて、高い熱伝導率を有する複合ポリマーであることを具体的に確認することができる。
そうすると、発明の詳細な説明には、本件発明1及び12の発明特定事項を満たす「部分結晶化カーボンブラック」を用いることにより、前記課題を解決できることを当業者が認識できるように記載されているといえる。
(4)本件発明2、4~11、13~19について
本件発明2,4~11、13~19は、本件発明1又は12を直接的または間接的に引用するものであり、本件発明1及び12について前記(3)で述べたのと同じ理由により、発明の詳細な説明には、本件発明2、4~11、13~19が前記課題を解決できることを当業者が認識できるように記載されているといえる。
(5)小括
したがって、本件明細書の発明の詳細な説明には、本件発明1、2、4~19が前記課題を解決できることを当業者が認識できるように記載されており、本件発明1、2、4~19は、発明の詳細な説明に記載したものであるといえる。
(6)申立人の主張について
申立人は、本件訂正前の本件明細書【0007】の記載から、熱処理前のベースカーボンブラックは前記課題を解決しないと解されるが、結晶化度が33%のベースカーボンブラックCB1は、本件発明1及び12の「65%未満の比結晶化度」であるから、本件発明1及び12は、本件発明において提供されるべき熱伝導率の利益を提供し得ないカーボンブラックを包含する旨を主張する(第4 1(6)を参照)。
しかしながら、前記CB1は本件発明1及び12の発明特定事項を満たさないカーボンブラックであるから、CB1を含む「複合ポリマー組成物」又は「ポリマー前駆体組成物」は、本件発明ではない。
したがって、申立人の上記主張は当を得たものではなく、採用することはできない。
第6 むすび
以上のとおりであるから、請求項1、2、4~19に係る特許は、特許異議申立書に記載した申立理由及び当審が通知した取消理由によっては、取り消すことができない。
また、他に請求項1、2、4~19に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2021-700029