特許異議申立
2023-700950
再生補強繊維の製造方法
- 審判番号
- 2023-700950
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2022-567565
- 登録番号
- 7240567
- 請求日
- 2023年09月12日
- 審決日
- 2025年06月24日
- 公報発行日
- 2025年09月26日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】株式会社ミライ化成
- 【権利者代理人】東田 潔
- 【権利者代理人】後藤 仁志
- 【異議申立人】豊通マテックス 株式会社
- 【異議申立人代理人】工藤 一郎
- 【異議申立人】実川 栄一郎
- 審判長/審判官
- 審判長 瀬下 浩一
- 審判官 村守 宏文
- 審判官 弘實 由美子
- 分類
- P1651.121-YAA(C08J) / P1651.537-YAA(C08J)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第36条、特許法第29条第2項、特許法第126条第5項、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第4項、特許法第126条第6項、特許法第126条第7項、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7240567号発明「再生補強繊維の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7240567号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~7〕について訂正することを認める。
特許第7240567号の請求項1、2、4~7に係る特許を維持する。
特許第7240567号の請求項3に係る発明についての特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
1 本件特許に係る出願は、2021年(令和3年)12月22日(優先権主張 令和2年12月23日(以下「本件優先日」という。))を国際出願日とする特許出願であって、令和5年3月7日に請求項1~7に係る特許の設定登録がされ、同年同月15日に特許掲載公報が発行されたところ、同年9月12日に特許異議申立人 豊通マテックス株式会社(以下「申立人A」という。)により、同年同月13日に特許異議申立人 実川栄一郎(以下「申立人B」という。)により、それぞれ全請求項に係る特許に対して特許異議の申立てがされたものである。
2 その後の手続きは以下のとおりである。
令和6年 1月31日付け 当審において取消理由通知
同年 3月27日 訂正請求(以下「最初の訂正」という。)及び意見書の提出(特許権者)
同年 4月 4日付け 当審において手続補正指令
同年 4月19日 手続補正書(訂正請求書の補正)の提出
同年 4月25日付け 当審において訂正請求があった旨の通知
同年 6月 5日 意見書の提出(申立人B)
同年10月22日付け 当審において取消理由通知(決定の予告)
同年12月26日 訂正請求(以下「本件訂正」いう。)及び意見書の提出(特許権者)
令和7年 2月 4日付け 当審において訂正請求があった旨の通知
同年 3月 3日付け 意見書(申立人B)の提出
なお、令和6年3月27日提出の訂正請求書による訂正の請求は、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。
第2 訂正の適否
1 訂正の内容
本件訂正の内容は、次のとおりである。当審が、訂正箇所に下線を付した。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「樹脂と補強繊維とを含む繊維強化樹脂材料を無機酸および水を含む酸性溶液により処理する第1の工程と、前記第1の工程後に前記補強繊維を含む前記繊維強化樹脂材料を酸化剤を含む処理液により処理し、前記繊維強化樹脂材料の前記樹脂の少なくとも一部を前記処理液に溶解させる第2の工程と、を有し、前記無機酸は、硫酸およびリン酸からなる群から選択される1種以上を含み、前記樹脂が、塩基性を有する化学構造を有する樹脂成分を含む、再生補強繊維の製造方法。」と記載されているのを「樹脂と補強繊維とを含む繊維強化樹脂材料を無機酸および水を含む酸性溶液により処理する第1の工程と、前記第1の工程後に前記補強繊維を含む前記繊維強化樹脂材料を酸化剤を含む処理液により処理し、前記繊維強化樹脂材料の前記樹脂の少なくとも一部を前記処理液に溶解させる第2の工程と、を有し、前記無機酸は、硫酸およびリン酸からなる群から選択される1種以上を含み、前記酸性溶液中における前記無機酸の濃度が、0.5mol/L以上であり、前記樹脂が、アミン硬化エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド、メラミン樹脂、アニリン樹脂およびウレア樹脂からなる群から選択される1種以上を含む、および/または、アミド結合、イミド結合、アゾ基、ジアゾ基、ウレア結合、ウレタン結合、ペプチド結合およびイソシアナート基からなる群から選択される1種以上の化学構造を有する樹脂成分を含む、再生補強繊維の製造方法。」に訂正する。(請求項1の記載を引用する請求項2、4~7も同様に訂正する。)
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項3を削除する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項4に「前記酸化剤は、酸化力を有する酸を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の再生補強繊維の製造方法。」と記載されているのを「前記酸化剤は、酸化力を有する酸を含む、請求項1または2に記載の再生補強繊維の製造方法。」に訂正する。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項6に「前記塩基性を有する化学構造を有する樹脂成分は、主鎖構造に前記塩基性を有する化学構造を有する、請求項1~5のいずれか一項に記載の再生補強繊維の製造方法。」と記載されているのを「前記化学構造を有する樹脂成分は、主鎖構造に前記化学構造を有する、請求項1、2、4および5のいずれか一項に記載の再生補強繊維の製造方法。」に訂正する。
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項7に「前記塩基性を有する化学構造は、1、2または3級アミド結合である、請求項1~6のいずれか一項に記載の再生補強繊維の製造方法。」と記載されているのを「前記化学構造は、2または3級アミド結合である、請求項1、2、4~6のいずれか一項に記載の再生補強繊維の製造方法。」に訂正する。
(6)一群の請求項について
訂正前の請求項1~7について、請求項2~7は直接または間接的に請求項1を引用しているものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。したがって、当該請求項1~7の記載は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
2 本件訂正の検討
(1)訂正事項1
ア 訂正の目的
訂正前の請求項1について、「無機酸」という発明特定事項をその下位概念である「前記酸性溶液中における前記無機酸の濃度が、0.5mol/L以上であ」るものに限定する訂正(以下「訂正事項1-1」という。)は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正である。
また、「前記樹脂が、塩基性を有する化学構造を有する樹脂成分を含む」という発明特定事項を「前記樹脂が、アミン硬化エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド、メラミン樹脂、アニリン樹脂およびウレア樹脂からなる群から選択される1種以上を含む、および/または、アミド結合、イミド結合、アゾ基、ジアゾ基、ウレア結合、ウレタン結合、ペプチド結合およびイソシアナート基からなる群から選択される1種以上の化学構造を有する樹脂成分を含む」とする訂正(以下「訂正事項1-2」という。)は、「塩基性を有する化学構造を有する樹脂成分を含む」樹脂を本件特許の願書に添付した明細書(以下「本件特許明細書」という。)において具体的に例示された樹脂の種類または樹脂に含まれる化学構造により特定するものであり、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正である。
イ 実質上の拡張・変更の有無
訂正前の請求項1の発明特定事項を概念的により下位の内容とする訂正(訂正事項1-1)や本件特許明細書において具体的に例示された内容とする訂正(訂正事項1-2)は、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
したがって、訂正事項1は特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。
ウ 新規事項の追加の有無
訂正事項1-1は、本件特許明細書の段落0030の「酸性溶液中に含まれる酸の濃度は特に限定されないが、例えば0.5mol/L以上、好ましくは1.0mol/L以上、より好ましくは3.5mol/L以上である。」なる記載等に基づくものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。
訂正事項1-2は、本件特許明細書の段落0017~0018等、特に0017の「樹脂成分が有する塩基性構造としては、特に限定されないがアミド結合、イミド結合、アゾ基、ジアゾ基、ウレア結合、ウレタン結合、ペプチド結合、イソシアナート基、アジ基等、もしくはそれらから派生、類似した化学構造等が挙げられ、塩基性構造を有する樹脂成分はこれらのうち1種または2種以上を含むことができる。」なる記載および段落0018の「また、塩基性構造を有する樹脂成分は、好ましくは、その主鎖構造に塩基性をもつ化学結合を含む。これにより、酸処理工程において、塩基性を有する化学構造と反応することをより一層膨潤させることができ、後述する酸化工程において、樹脂成分の分解およびこれに引き続く処理液への溶解を促進させることができる。このような塩基性構造を有する樹脂成分としては、アミン硬化エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド、メラミン樹脂、アニリン樹脂、ウレア樹脂等が挙げられ、樹脂は、これらのうち1種をまたは2種以上を樹脂成分として含むことができる。」なる記載に基づくものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。
したがって、訂正事項1は特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものである。
(2)訂正事項2
ア 訂正の目的
訂正事項2は、請求項3を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正である。
イ 実質上の拡張・変更の有無
訂正事項2は、請求項3を削除するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
したがって、訂正事項2は特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。
ウ 新規事項の追加の有無
訂正事項2は、請求項3を削除するものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。
したがって、訂正事項2は特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものである。
(3)訂正事項3
ア 訂正の目的
訂正事項3は、訂正前の請求項4が請求項1~3の記載を引用する記載であるところ、請求項3を引用しないものとする訂正である。そのため、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正である。
イ 実質上の拡張・変更の有無
訂正事項3は、引用する請求項の数を減少させるものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
したがって、訂正事項3は特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。
ウ 新規事項の追加の有無
訂正事項3は、引用する請求項の数を減少させるものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。
したがって、訂正事項3は特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものである。
(4)訂正事項4
ア 訂正の目的
訂正前の請求項6について、「前記塩基性を有する化学構造」を「前記化学構造」とする訂正(以下「訂正事項4-1」という。)は、前記訂正事項1-2においてした「明瞭でない記載の釈明」を目的とする訂正に伴い、実質的に「化学構造」を「アミド結合、イミド結合、アゾ基、ジアゾ基、ウレア結合、ウレタン結合、ペプチド結合およびイソシアナート基からなる群から選択される1種以上」に特定し、記載に整合性を持たせるために行うものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正である。
また、訂正前の請求項6について、請求項1~5の記載を引用する記載であるところ請求項3を引用しないものとする訂正(以下「訂正事項4-2」という。)は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正である。
イ 実質上の拡張・変更の有無
訂正事項4は、発明特定事項を本件特許明細書において具体的に例示された内容とし(訂正事項4-1)、さらに引用する請求項の数を減少させる訂正(訂正事項4-2)であるからカテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
したがって、訂正事項4は特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。
ウ 新規事項の追加の有無
訂正事項4-1は、実質的に「化学構造」を「アミド結合、イミド結合、アゾ基、ジアゾ基、ウレア結合、ウレタン結合、ペプチド結合およびイソシアナート基からなる群から選択される1種以上」とするものであり、本件特許明細書の段落0017の「樹脂成分が有する塩基性構造としては、特に限定されないがアミド結合、イミド結合、アゾ基、ジアゾ基、ウレア結合、ウレタン結合、ペプチド結合、イソシアナート基、アジ基等、もしくはそれらから派生、類似した化学構造等が挙げられ、塩基性構造を有する樹脂成分はこれらのうち1種または2種以上を含むことができる。」なる記載等に基づくものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。
また、訂正事項4-2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。
したがって、訂正事項4は特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。
(5)訂正事項5
ア 訂正の目的
訂正前の請求項7について、「前記塩基性を有する化学構造」を「前記化学構造」とする訂正(以下「訂正事項5-1」という。)は、前記訂正事項1-2においてした「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正に伴い、実質的に「化学構造」を「アミド結合、イミド結合、アゾ基、ジアゾ基、ウレア結合、ウレタン結合、ペプチド結合およびイソシアナート基からなる群から選択される1種以上」に特定し、記載に整合性を持たせるために行うものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正である。
また、訂正前の請求項7について、「1、2または3級アミド結合」を「2または3級アミド結合」とする訂正(以下「訂正事項5-2」という。)は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正である。
さらに、訂正前の請求項7について、請求項1~6の記載を引用する記載であるところ請求項3を引用しないものとする訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正である。
イ 実質上の拡張・変更の有無
訂正事項5は、発明特定事項を本件特許明細書において具体的に例示された内容とし(訂正事項5-1)、また概念的により下位の内容とし(訂正事項5-2)、さらに引用する請求項の数を減少させる訂正(訂正事項5-3)であるからカテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
したがって、訂正事項5は特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。
ウ 新規事項の追加の有無
訂正事項5-1は、実質的に「化学構造」を「アミド結合、イミド結合、アゾ基、ジアゾ基、ウレア結合、ウレタン結合、ペプチド結合およびイソシアナート基からなる群から選択される1種以上」に減縮するものであり、本件特許明細書の段落0017の「樹脂成分が有する塩基性構造としては、特に限定されないがアミド結合、イミド結合、アゾ基、ジアゾ基、ウレア結合、ウレタン結合、ペプチド結合、イソシアナート基、アジ基等、もしくはそれらから派生、類似した化学構造等が挙げられ、塩基性構造を有する樹脂成分はこれらのうち1種または2種以上を含むことができる。」なる記載等に基づくものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。
また、訂正事項5-2は、本件特許明細書の段落0017の「上述した中でも、本実施形態に係る方法は、塩基性構造として1、2または3級アミド結合を有する樹脂成分を膨潤、分解するのに好適に用いることができる。」なる記載等に基づくものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。
さらに、訂正事項5-3は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。
したがって、訂正事項5は特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。
(6)独立特許要件について
前記第1で述べたように、本件特許異議の申立ては、全請求項に係る特許に対して、すなわち、本件請求項1~7に係る特許のうち請求項1~7に係る特許に対してなされているので、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項に規定される独立特許要件が課される請求項はない。
3 本件訂正の適否についてのまとめ
以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる事項を目的とするものであり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5、6項の規定に適合するものである。
したがって、本件特許の特許請求の範囲を本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~7〕について訂正することを認める。
第3 本件訂正発明及び本件特許明細書の記載
1 本件訂正発明
前記第2のとおり、本件訂正請求は認められたので、本件特許の請求項1~7に係る発明は、その特許の特許請求の範囲の請求項1~7に記載された以下のとおりのものである(以下、請求項1~7に係る発明を、それぞれ「本件訂正発明1」~「本件訂正発明7」といい、まとめて「本件訂正発明」ともいう。)。
「【請求項1】
樹脂と補強繊維とを含む繊維強化樹脂材料を無機酸および水を含む酸性溶液により処理して前記樹脂を膨潤させる第1の工程と、
前記第1の工程後に前記補強繊維を含む前記繊維強化樹脂材料を酸化剤を含む処理液により処理し、前記繊維強化樹脂材料の前記樹脂の少なくとも一部を前記処理液に溶解させる第2の工程と、を有し、
前記無機酸は、硫酸およびリン酸からなる群から選択される1種以上を含み、
前記酸性溶液中における前記無機酸の濃度が、0.5mol/L以上であり、
前記樹脂が、アミン硬化エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド、メラミン樹脂、アニリン樹脂およびウレア樹脂からなる群から選択される1種以上を含む、および/または、アミド結合、イミド結合、アゾ基、ジアゾ基、ウレア結合、ウレタン結合、ペプチド結合およびイソシアナート基からなる群から選択される1種以上の化学構造を有する樹脂成分を含む、再生補強繊維の製造方法。
【請求項2】
前記無機酸に含まれる成分のうち最もモル濃度の大きい成分のpKaが、5.0以下である、請求項1に記載の再生補強繊維の製造方法。
【請求項3】(削除)
【請求項4】
前記酸化剤は、酸化力を有する酸を含む、請求項1または2に記載の再生補強繊維の製造方法。
【請求項5】
前記酸化力を有する酸は、硝酸、硫酸と硝酸との混酸、硝酸と塩酸との混酸(王水)および過酸化水素と硫酸との混合溶液からなる群から選択される1種以上を含む、請求項4に記載の再生補強繊維の製造方法。
【請求項6】
前記化学構造を有する樹脂成分は、主鎖構造に前記化学構造を有する、請求項1、2、4および5のいずれか一項に記載の再生補強繊維の製造方法。
【請求項7】
前記化学構造は、2または3級アミド結合である、請求項1、2、4~6のいずれか一項に記載の再生補強繊維の製造方法。」
2 本件特許明細書には次の記載がある。
「【0007】
しかしながら、従来の溶媒法においては、樹脂成分を除去する効率が十分に高くなく、例えば特許文献1、2に記載される方法においては、溶媒を含む処理液の浸透を考慮して繊維強化樹脂材料を数センチ程度のチップ状に細かく裁断した上で樹脂成分を除去している。このように繊維強化樹脂材料を細かく裁断してしまうと、繊維強化樹脂材料から回収される再生補強繊維の長さが必然的に短くなり、回収前の繊維強化樹脂材料中に含まれる補強繊維の性能を維持することが困難となるとともに、回収される補強繊維の用途が、限定されてしまう。一方で、溶媒法により樹脂成分を効率除去するためには、高温等の過酷な条件で長時間処理することが要求される。」
「【0009】
したがって、本発明の目的は、溶媒法でありながら塩基性を有する化学構造を有する樹脂成分を含む繊維強化樹脂材料について効率的に補強繊維を回収することのできる、再生補強繊維の製造方法を提供することにある。」
「【0016】
本実施形態において、繊維強化樹脂材料を構成する樹脂は、塩基性構造を有する樹脂成分を含む。塩基性構造を有する樹脂成分は、後述する酸処理工程において、酸性溶液中の水素イオン(プロトン)を配位させ、膨潤することができる。膨潤した塩基性構造を有する樹脂成分に対しては後述する酸化工程において酸化剤が十分に浸透することができ、この結果樹脂成分の処理液への溶解が促進される。
【0017】
樹脂成分が有する塩基性構造としては、特に限定されないがアミド結合、イミド結合、アゾ基、ジアゾ基、ウレア結合、ウレタン結合、ペプチド結合、イソシアナート基、アジ基等、もしくはそれらから派生、類似した化学構造等が挙げられ、塩基性構造を有する樹脂成分はこれらのうち1種または2種以上を含むことができる。上述した中でも、本実施形態に係る方法は、塩基性構造として1、2または3級アミド結合を有する樹脂成分を膨潤、分解するのに好適に用いることができる。
【0018】
また、塩基性構造を有する樹脂成分は、好ましくは、その主鎖構造に塩基性をもつ化学結合を含む。これにより、酸処理工程において、塩基性を有する化学構造と反応することをより一層膨潤させることができ、後述する酸化工程において、樹脂成分の分解およびこれに引き続く処理液への溶解を促進させることができる。このような塩基性構造を有する樹脂成分としては、アミン硬化エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド、メラミン樹脂、アニリン樹脂、ウレア樹脂等が挙げられ、樹脂は、これらのうち1種をまたは2種以上を樹脂成分として含むことができる。
【0019】
なお、塩基性構造を有する樹脂成分は、その側鎖に塩基性構造を含んでもよい。このような樹脂成分としては、後述する各種樹脂成分の側鎖に上述したような塩基性構造を有するものが挙げられる。」
「【0026】
2.2. 酸処理工程
本工程においては、準備した繊維強化樹脂材料を酸を含む酸性溶液により処理する。このように、繊維強化樹脂材料を酸を含む酸性溶液により処理することにより、塩基性構造を有する樹脂成分に酸性溶液中の水素イオンを配位させて塩を形成させ、この結果、塩基性構造を有する樹脂成分ひいては樹脂自体が膨潤する。これにより、後述する酸化工程において酸化剤が樹脂に浸透しやすくなり、酸化工程における樹脂の分解・溶出が促進される。
・・・
【0029】
また、酸に含まれる成分のうち最もモル濃度の大きい成分の酸解離定数pKaは、特に限定されないが、好ましくは5.0以下、より好ましくは1.5以下である。このように酸に含まれる成分のうち最もモル濃度の大きい成分のpKaが十分に小さいことにより、酸性溶液中に水素イオンが放出されやすくなり、この結果、効率よく樹脂成分を膨潤させることができる。なお、酸に含まれる成分のうち最もモル濃度の大きい成分が複数の酸解離定数を有する場合、1段目、すなわちより小さい酸解離定数が上記の値であることが好ましい。
【0030】
酸性溶液中に含まれる酸の濃度は特に限定されないが、例えば0.5mol/L以上、好ましくは1.0mol/L以上、より好ましくは3.5mol/L以上である。これにより、酸性溶液中に水素イオンが放出されやすくなり、この結果、効率よく樹脂成分を膨潤させることができる。なお、酸の濃度の上限は、酸性溶液として存在し得る限り限定されるものではなく、酸の種類によって異なる。
・・・
【0041】
酸性溶液による処理の時間は、特に限定されず、目的とする温度に達してから5分以上1200分以下、好ましくは10分以上120分以下である。
・・・
【0045】
2.3. 酸化工程
本工程においては、酸性溶液により膨潤した樹脂を含む繊維強化樹脂材料を酸化剤により処理して、繊維強化樹脂材料を酸化剤を含む処理液により処理し、繊維強化樹脂材料の樹脂の少なくとも一部を処理液に溶解させる。酸性溶液により膨潤した樹脂を含む繊維強化樹脂材料は、酸化剤が樹脂に浸透しやすくなり、この結果、本工程においては、酸化剤により樹脂が効率よく分解・溶出する。」
「【0069】
以上により、再生補強繊維を得ることができる。本実施形態に係る再生補強繊維の製造方法では、塩基性構造を有する樹脂成分を含む樹脂を含む繊維強化樹脂材料を酸性溶液により処理して、樹脂を膨潤させる。次いで、膨潤した樹脂を含む繊維強化樹脂材料を酸化剤を含む処理液により処理し、繊維強化樹脂材料の樹脂の少なくとも一部を処理液に溶解させる。酸性溶液により膨潤した樹脂を含む繊維強化樹脂材料は、酸化剤が樹脂に浸透しやすくなり、この結果、酸化剤により樹脂が効率よく分解し、処理液に溶出する。
【0070】
これにより、本実施形態によれば、溶媒法でありながら塩基性構造を有する樹脂成分を含む繊維強化樹脂材料について効率的に補強繊維を回収することができる。特に、本実施形態によれば、アミン硬化エポキシ樹脂等の従来除去が困難であった樹脂を用いた繊維強化樹脂材料からの補強繊維の回収が可能となる。さらには、本実施形態によれば、効率的な樹脂の除去が可能であることから、従来とは異なり、繊維強化樹脂材料を細かく裁断してから樹脂の溶解処理を行う必要がない。すなわち、比較的大きな繊維強化樹脂材料であっても、本実施形態に係る方法を採用することにより、樹脂を酸により膨潤させて酸化剤の樹脂への浸透を促進させることができ、均一かつ効率的な樹脂の除去が可能である。」
「【0073】
1.再生補強繊維の製造
(実施例1)
(i)準備工程
まず、試料としての炭素繊維強化樹脂材料を用意した。用いた炭素繊維樹脂材料は、長さ約30cm、幅5cm、厚さ約1mmのシートであった。また、炭素繊維強化樹脂材料を構成する樹脂は、アミン硬化エポキシ樹脂であった。
【0074】
(ii)酸処理工程
次に、炭素繊維強化樹脂材料を80℃に加熱しておいた40wt%(5.3mol/L)硫酸水溶液に1時間浸漬した。浸漬時において、硫酸水溶液の温度は80℃に維持した。
【0075】
(iii)酸化工程
次に、炭素繊維強化樹脂材料を80℃に加熱しておいた40wt%(8.0mol/L)硝酸水溶液に60分間浸漬した。浸漬時において、硝酸水溶液の温度は80℃に維持した。
【0076】
(iv)洗浄工程
次に、反応生成物をN-メチル-2-ピロリドンで洗浄し、その後20質量%炭酸水素ナトリウム水溶液で中和し、その後炭素繊維強化樹脂材料中の炭素繊維を回収して、実施例1に係る再生炭素繊維を得た。
【0077】
(実施例2)
洗浄工程において反応生成物を10質量%水酸化ナトリウム水溶液(2.8mol/L)で中和および洗浄した以外は、実施例1と同様にして、実施例2に係る再生炭素繊維を得た。
【0078】
(実施例3)
酸化工程を以下のようにして行った以外は、実施例1と同様にして、実施例3に係る再生炭素繊維を得た。
酸化工程では、過酸化水素と硫酸との混合溶液による処理を行った。具体的には、酸処理工程後の炭素繊維強化樹脂材料を80℃に加熱しておいた95wt%(18.0mol/L)硫酸水溶液に15分浸漬し、その後、硫酸の体積換算で10%に当たる35wt%(11.6mol/L)過酸化水素水溶液を、炭素繊維強化樹脂材料を浸漬している硫酸水溶液に対し、5分かけて滴下した。
【0079】
(実施例4)
洗浄工程において反応生成物を10質量%水酸化ナトリウム水溶液(2.8mol/L)で中和および洗浄した以外は、実施例3と同様にして、実施例4に係る再生炭素繊維を得た。
【0080】
(実施例5)
酸処理工程において40wt%(5.3mol/L)硫酸水溶液に代えて35wt%(11.3mol/L)塩酸水溶液を用いた以外は、実施例3と同様にして、実施例5に係る再生炭素繊維を得た。
【0081】
(実施例6)
酸処理工程において40wt%(5.3mol/L)硫酸水溶液に代えて35wt%(11.3mol/L)塩酸水溶液を用いた以外は、実施例4と同様にして、実施例6に係る再生炭素繊維を得た。
【0082】
(実施例7)
酸処理工程において40wt%(5.3mol/L)硫酸水溶液に代えて40wt%(5.1mol/L)りん酸水溶液を用いた以外は、実施例3と同様にして、実施例5に係る再生炭素繊維を得た。
【0083】
(実施例8)
酸処理工程において40wt%(5.3mol/L)硫酸水溶液に代えて40wt%(5.1mol/L)りん酸水溶液を用いた以外は、実施例4と同様にして、実施例6に係る再生炭素繊維を得た。
【0084】
(比較例1)
酸処理工程を省略し、酸化工程における炭素繊維強化樹脂材料の硫酸水溶液への浸漬時間を120分間とした以外は、実施例1と同様にして、比較例1に係る再生炭素繊維を得た。
(比較例2)
酸処理工程を省略し、酸化工程における炭素繊維強化樹脂材料の硫酸水溶液への浸漬時間を120分間とした以外は、実施例2と同様にして、比較例2に係る再生炭素繊維を得た。
【0085】
(比較例3)
酸処理工程を省略した以外は、実施例3と同様にして、比較例3に係る再生炭素繊維を得た。
(比較例4)
酸処理工程を省略した以外は、実施例4と同様にして、比較例4に係る再生炭素繊維を得た。
【0086】
2.再生補強繊維の評価
得られた実施例1~8および比較例1~4にかかる再生炭素繊維について、熱重量分析(TGA)により残存樹脂量を算出した。具体的には、まず、300ml/minの流量で窒素を流しながら10℃/minの昇温速度で実施例1~8および比較例1~4にかかる再生炭素繊維を加熱し、200℃から800℃までの間の再生炭素繊維の重量の減少分を測定した。次に、熱重量分析における炭素繊維自体の重量減少を考慮し、同条件下での新品炭素繊維の重量減少がないことを予め測定で確認した。なお、上記の残存樹脂量の測定は、3回行い、その平均値を実施例1~8および比較例1~4にかかる再生炭素繊維の残存樹脂量とした。なお、未処理の炭素繊維補強樹脂材料中の樹脂量は、31.2重量%である。結果を実験条件とともに表1に示す。
【0087】
【表1】
[図:0001426787000001.jpg]
【0088】
表1に示すように、実施例1~8においては炭素繊維強化樹脂材料から効率よく樹脂を除去できたことが確認できた。具体的には、実施例1に係る再生炭素繊維は比較例1に係る再生炭素繊維と比較して、実施例2に係る再生炭素繊維は比較例2に係る再生炭素繊維と比較して、実施例3、5、7に係る再生炭素繊維は比較例3に係る再生炭素繊維と比較して、実施例4、6、8に係る再生炭素繊維は比較例4に係る再生炭素繊維と比較して、優位に残存樹脂量が少なかった。これにより、酸処理工程を酸化処理と組み合わせることによって効率よく炭素繊維強化樹脂材料から塩基性を有する化学構造を有する樹脂成分を除去できることがわかる。
【0089】
実施例1に係る再生炭素繊維は比較例1に係る再生炭素繊維と比較して残存樹脂量に大きな差が見られた。洗浄工程における実施例1と比較例1とを比較すると、実施例1では反応生成物内部まで洗浄液が浸透していたのに対し、比較例1では1段目の洗浄工程後に反応生成物内部に未反応箇所(固い部分)が見られた。酸処理工程によって樹脂が膨潤することで酸化工程が内部まで均一に進行した効果であると考えられる。未反応箇所は2段目の洗浄工程後も残存しており、洗浄液の浸透性が良好でなかったと考えられる。
【0090】
また、実施例2と比較例2では実施例1と比較例1の比較ほど残存樹脂量に差は見られなかったが、酸処理工程・酸化処理工程共に酸性の水溶液を用いていたため、樹脂成分の中和反応が進行しやすかったことが要因として考えられる。
【0091】
さらに、今回試料として用いた炭素繊維強化樹脂材料は、比較的大きな寸法を有していたが、実施例1~8においては、十分に樹脂成分を除去することが可能であった。」
第4 特許異議申立ての理由及び当審において通知した取消理由の概要
1 申立人Aの申立ての理由の要旨は、次のとおりである。なお、甲A1、甲A2は、後記5のとおりである。
(1)甲A1を主引用例とする進歩性欠如
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1~7に係る発明(以下、それぞれ「本件特許発明1」~「本件特許発明7」という。)は、甲A1に記載された発明及び甲A2に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
(2)サポート要件違反
本件特許発明7は、樹脂が有する「塩基性を有する化学構造」が「1、2または3級アミド結合」であるが、本件特許明細書には、樹脂がアミン硬化エポキシ樹脂である実施例のみが記載され、その場合の効果のみが記載されており、一般にアミン硬化エポキシ樹脂は、その主鎖構造にアミド結合を有さないから、発明の詳細な説明に記載したものでなく、特許請求の範囲の記載が特許法第36条6項第1号に規定する要件を満たしていないから、本件特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
(3)明確性要件違反
本件特許発明7は、「塩基性を有する化学構造」が「1級アミド結合」である場合に、具体的にどのようなものであるのか当業者が理解できず、明確でないから、特許請求の範囲の記載が特許法第36条6項第2号に規定する要件を満たしていないから、本件特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
2 申立人Bの申立ての理由の要旨は、次のとおりである。なお、甲B1~甲B5は、後記5のとおりである。
(1)甲B1を主引用例とする進歩性欠如
本件特許発明1~7は、甲B1に記載された発明及び甲B2に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
(2)甲B3を主引用例とする進歩性欠如
本件特許発明1~7は、甲B3並びに甲B1、甲B2、甲B4及び甲B5に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
(3)サポート要件違反
本件特許発明1~7は、下記の点で発明の詳細な説明に記載したものではなく、特許請求の範囲の記載が特許法第36条6項第1号に規定する要件を満たしていないから、本件特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
ア 本件特許明細書には、「塩基性構造を有する樹脂成分は・・・酸処理工程において・・・膨潤することができ・・・膨潤した塩基性構造を有する樹脂成分に対しては・・・酸化工程において酸化剤が十分に浸透することができ・・・樹脂成分の処理液への溶解が促進される」(段落0016)と記載されているが、本件特許発明1の「酸性溶液により処理する第1工程」の「処理」には、10分程度の酸性溶液への浸漬等、樹脂成分を効率よく溶解することができる程度の膨潤に至らない処理も包含されており、補強繊維の効率的回収という課題を解決できない態様も包含されているから、本件特許発明1~7は、発明の詳細な説明に記載したものでない。
イ 本件特許明細書には、樹脂がアミン硬化エポキシ樹脂である実施例のみが記載され、その場合の効果のみが記載されており、それに対して、塩基性を有する化学構造として、「アミド結合、イミド結合、アゾ基、ジアゾ基、ウレア結合、ウレタン結合、ペプチド結合、イソシアナート基、アジ基等、もしくはそれらから派生、類似した化学構造等」(段落0017)を挙げているが、アミン硬化エポキシ樹脂にはこれらの化学構造は含まれておらず、樹脂がアミン硬化エポキシ樹脂である実施例の結果を、これらの化学構造を有する樹脂を樹脂成分とする本件特許発明1の範囲まで、拡張ないし一般化することはできないから、本件特許発明1~7は、発明の詳細な説明に記載したものでない。
また、本件特許明細書には、「塩基性構造を有する樹脂成分」として、「アミン硬化エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド、メラミン樹脂、アニリン樹脂、ウレア樹脂等」(段落0018)が挙げられているが、塩基性構造を有する化学構造が硬化剤として用いられたアミンに由来するものだとした場合、アミンはエポキシに対する硬化剤であり、エポキシ樹脂以外のアミン硬化剤を用いない樹脂において、アミン硬化剤を用いた樹脂と同様の酸性溶液による膨潤が生じることは本件特許明細書に記載はなく、アミン硬化樹脂以外の樹脂を樹脂成分とする本件特許発明1の範囲まで、拡張ないし一般化することはできないから、本件特許発明1~7は、発明の詳細な説明に記載したものでない。
ウ 本件特許明細書には、「従来法においては・・・繊維強化樹脂材料を数センチ程度のチップ状に細かく裁断した上で樹脂成分を除去している」ので「回収される再生補強繊維の長さが必然的に短くなり、回収前の繊維強化樹脂材料中に含まれる補強繊維の性能を維持することが困難になる」(段落0007)ことを課題として挙げているが、本件特許発明1の「第1の工程」における「繊維強化樹脂材料」から、チップ状に細かく裁断した繊維強化樹脂材料は除かれておらず、本件特許発明1には課題を解決できない態様も包含されているから、本件特許発明1~7は、発明の詳細な説明に記載したものでない。
エ 本件特許発明1の「第2の工程」においては「前記繊維強化樹脂材料の前記樹脂の少なくとも一部を前記処理液に溶解させる」としているが、その態様には、樹脂の大部分が処理液に溶解しない態様も含んでおり、溶解していない樹脂は別途除去する必要があり、本件特許発明1には補強繊維の効率的回収という課題を解決できない態様も包含されているから、本件特許発明1~7は、発明の詳細な説明に記載したものでない。
オ 本件特許明細書の実施例1~8においては、アミン硬化エポキシ樹脂を構成樹脂としているが、アミン硬化剤がエポキシ樹脂のエポキシ基と反応して生成する構造にはアミド結合が含まれないし、また、主鎖構造に塩基性構造を含むともいえず、アミン硬化樹脂以外の樹脂を樹脂成分とする本件特許発明6、7の範囲まで、拡張ないし一般化することはできないから、本件特許発明6、7は、発明の詳細な説明に記載したものでない。
(4)明確性要件違反
本件特許発明1は、「塩基性を有する化学構造」が、本件特許明細書の記載を参酌しても、どのような構造であるのか当業者にも理解できないから、本件特許発明1~7は明確でなく、特許請求の範囲の記載が特許法第36条6項第2号に規定する要件を満たしていないから、本件特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
3 当審において令和6年1月31日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
(1)明確性要件違反(取消理由1)
本件特許発明1~7は、下記の点で明確でなく、特許請求の範囲の記載が特許法第36条6項第2号に規定する要件を満たしていないから、本件特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
ア 本件特許発明1の「塩基性を有する化学構造」が、本件特許明細書の記載を参酌しても、どのような構造であるのか不明であり、仮に本件特許明細書の段落0017に列挙されたアミド結合等の構造については塩基性を有する化学構造であると理解したとしても、それ以外にどのような構造が含まれるのか不明であるから、本件特許発明1~7は明確でない。(前記2(4)に相当)
イ 本件特許発明6は、「樹脂成分」が「主鎖構造に前記塩基性を有する化学構造を有」し、本件特許発明6を引用形式で含む本件特許発明7は「前記塩基性を有する化学構造は、1、2または3級アミド結合を有する」ものの、1級アミド結合は側鎖あるいは主鎖末端にしか存在できず、主鎖構造の一部を構成することは不可能であるから、本件特許発明6を引用形式で含む本件特許発明7は明確でない。(前記1(3)に相当)
(2)サポート要件違反(取消理由2)
本件特許発明1~7は、本件特許明細書に本件発明の課題が解決し得ると当業者が認識できるように記載されているのは、実施例に記載されたアミン硬化エポキシ樹脂を樹脂成分とする場合に限られており、本件出願時の技術常識を考慮しても、当業者が前記発明の課題が解決できると認識できる範囲を超えているから、発明の詳細な説明に記載したものではなく、特許請求の範囲の記載が特許法第36条6項第1号に規定する要件を満たしていないから、本件特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。(前記1(2)及び前記2(3)イ、オに相当)
(3)甲A1を主引用例とする進歩性欠如(取消理由3の1)
本件特許発明1~6は、甲A1に記載された発明並びに甲A1に記載された事項及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。(前記1(1)に相当)
(4)甲B1を主引用例とする進歩性欠如(取消理由3の2)
本件特許発明1~6は、甲B1に記載された発明並びに甲B1、甲B2に記載された事項及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。(前記2(1)に相当)
4 当審において令和6年10月22日付けで特許権者に通知した取消理由(決定の予告)の要旨は、次のとおりである。
(1)甲B1を主引用例とする進歩性欠如(取消理由1)
最初の訂正後の請求項1、2、4~7に係る発明は、甲B1に記載された発明並びに甲B1、甲B2、甲B4及び甲B5に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。(前記2(1)及び前記3(4)に相当)
(2)サポート要件違反(取消理由2)
最初の訂正後の請求項1、2、4~7に係る発明は、本件特許明細書に本件発明の課題が解決し得ると当業者が認識できるように記載されているのは、樹脂がアミン硬化エポキシ樹脂である実施例の態様に限られており、本件出願時の技術常識を考慮しても、当業者が前記発明の課題が解決できると認識できる範囲を超えているから、発明の詳細な説明に記載したものではなく、特許請求の範囲の記載が特許法第36条6項第1号に規定する要件を満たしていないから、本件特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。(前記1(2)、前記2(3)イ、オ及び前記3(2)に相当)
5 証拠方法等の一覧
(1)特許異議申立書とともに申立人A及び申立人Bが提出した証拠
甲A1 特開2017-104847号公報(申立人Aが提出した甲第1号証)
甲A2 特表2016-522843号公報(申立人Aが提出した甲第2号証)
甲B1 中国特許出願公開第102391543号明細書(申立人Bが提出した甲第1号証)
甲B2 久保内昌敏、「エポキシ樹脂の化学構造と酸・アルカリ環境下での腐食・劣化特性」、日本接着学会誌、平成22年11月1日、Vol.46、No.11、p.423-428(申立人Bが提出した甲第2号証)
甲B3 特開2019-136932号公報(申立人Bが提出した甲第3号証)
甲B4 久保内昌敏(外4名)、「リサイクルを目的としたアミン硬化エポキシ樹脂の硝酸による分解」、材料(J. Soc. Mat. Sci., Japan)、平成12年5月15日、Vol.49、No.5、p.488-493(申立人Bが提出した甲第4号証)
甲B5 梅田勇(外3名)、「エポキシ樹脂の硝酸分解リサイクルにおける酸添加の効果」、化学工学会第75年会講演集、p.298(申立人Bが提出した甲第5号証)
(2)特許権者が意見書とともに提出した証拠
乙1 笛木和雄、「酸と塩基(2)水溶液における酸・塩基」、電気化学、昭和42年、第35巻、382~389頁(特許権者が提出した乙第1号証)
乙2 岩倉義男、「ウレタン化反応」、高分子、昭和39年、第13巻、425~430頁(特許権者が提出した乙第2号証)
乙3 実験成績証明書(特許権者が提出した乙第3号証)
(3)申立人Bが意見書とともに提出した証拠
参1 ユニチカ社樹脂事業部ホームページ、製品紹介、ナイロン樹脂、ユニチカナイロン6、環境特性、[令和6年6月3日出力]、<URL:(https://www.unitika.co.jp/plastics/products/nylon/uni-nylon6/un6-0304.html>(申立人Bが提出した参考資料1)
(4)当審において新たに引用した文献
文献A 久保内昌敏(外4名)、「酸水溶液中におけるエポキシFRPの化学的劣化とファイバー/マトリックスの分離」、熱硬化性樹脂講演討論会講演要旨集、1994年、44th、p.33-36
第5 当審において通知した取消理由についての判断
1 刊行物の記載事項
(1)甲A1
甲A1には、次のとおり記載されている。
「【0006】
本発明は、強化繊維の絡み現象を防止し且つ強化繊維のリサイクルを容易にするために強化部品から強化繊維を回収する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための本発明に係る強化繊維回収方法は、強化繊維が巻き取られ且つ樹脂に含浸された強化部品から樹脂を分離しながら強化繊維を繰り出すアンワインディング(unwinding)段階と;繰り出された強化繊維をサイジング液に通過させて強化繊維にサイジング液をコートするサイジング段階と;サイジング液がコートされた強化繊維をマンドレルに巻き取るワインディング(winding)段階と;を含んでなる。
【0008】
アンワインディング段階は、膨潤液に強化部品を浸漬することにより、強化部品の樹脂を膨潤させる膨潤段階と;強化部品から強化繊維を繰り出しながら溶解液に通過させ、強化繊維に含浸された樹脂を溶解させる溶解段階と;樹脂が溶解した強化繊維を中間ワインダーを介して巻き取る中間ワインディング段階と;を含んでもよい。
【0009】
膨潤液は弱酸であってもよい。
【0010】
溶解液は過酸化水素水及びイオン化液体から構成されてもよい。」
「【0018】
以下、添付図面を参照して本発明の好適な実施例について説明する。
【0019】
本発明に係る強化繊維回収方法は、強化繊維が巻き取られ且つ樹脂に含浸された強化部品1から樹脂を分離しながら強化繊維を繰り出すアンワインディング(unwinding)段階(S100)と;繰り出された強化繊維をサイジング液30に通過させて強化繊維にサイジング液30をコートするサイジング段階(S200)と;サイジング液30がコートされた強化繊維をマンドレル500に巻き取るワインディング(winding)段階(S300)と;を含んでなる。」
「【0023】
まず、フィラメントワインディング法によって強化繊維が巻き取られ且つエポキシ樹脂などの樹脂に含浸された強化部品1から樹脂を分離し、強化繊維を繰り出すアンワインディング段階(S100)が先行しなければならない。
【0024】
強化部品1から強化繊維を繰り出すことが重要な段階であるため、アンワインディング段階(S100)は、好ましくはさらに膨潤液10に強化部品1を浸漬することにより、強化部品1の樹脂を膨潤させる膨潤段階(S110)、強化部品1から強化繊維を繰り出しながら溶解液20に通過させ、強化繊維に含浸された樹脂を溶解させる溶解段階(S120)、及び樹脂が溶解した強化繊維を中間ワインダー300を介して巻き取る中間ワインディング段階(S130)に区分できる。
【0025】
膨潤段階(S110)では、強化部品1の強化繊維に含浸されている樹脂を膨潤させて強化繊維を繰り出すための準備段階である。従来は、樹脂を膨潤させるために硝酸などの強酸が用いられるため、回収された強化繊維が絡み合う問題があった。
【0026】
このため、硝酸などの強酸の代わりにPH2.0~4.0の弱酸を用いて強化部品1を浸漬させることにより樹脂を膨潤させると同時に、強化繊維の絡み現象を防止することができるという効果がある。弱酸は酢酸やギ酸などがあり、膨潤液10は酢酸及びギ酸の中から選ばれたいずれか1種を含む。
【0027】
次に、樹脂が膨潤した強化部品1を溶解液20に浸漬して樹脂を溶解する溶解段階(S120)が行われる。これは、樹脂を溶解によって分離して強化繊維を回収することにより、リサイクルを容易にするためである。また、溶解段階(S120)では、樹脂が溶解した強化繊維を繰り出す作業が行われる。この際、樹脂を溶解させる溶解液20は、過酸化水素水(H2O2)及びイオン化液体を含むが、過酸化水素水は樹脂を溶解させる主要役割を果たし、イオン化液体は溶解作業が円滑に行われるようにする役割を果たす。」
(2)甲B1
甲B1には、次のとおり記載されている。なお、摘記事項の後に合議体による抄訳を付した。
「
[図:0001426787000002.jpg]
」
(1.炭素繊維強化エポキシ樹脂複合材料の再生方法であって、方法の具体的な工程が以下である:
ステップ(1)分解が必要な炭素繊維強化エポキシ樹脂複合材料を体積5cm3以下のブロック状に切断し、切断後の複合材料を酸液を備えた還流装置に入れ、酸液の沸点温度で5~30分間加熱した後、複合材料を取り出し、まず工業用アセトンで洗浄し、次いで脱イオン水で洗浄し、これを3~5回繰り返した後、80~120℃の真空乾燥炉に12~24時間入れ、加工複合材料を得る;
ステップ(2)被処理複合材料を密閉反応釜に入れ、有機溶剤と酸化剤を加え、被処理複合材料100g当たり有機溶剤50~2000mLを加え、被処理複合材料酸化剤100g当たり有機溶剤50~2000gを加える;
ステップ(3)密閉した反応釜を50~300℃で10~120分間加熱した後、常温まで自然冷却して一次生成物を得る;
ステップ(4)一次生成物中の固形物を工業用アセトンで3~5回洗浄し、工業用アセトン溶液に入れ、12~72時間浸漬し、取り出して乾燥させ、回収炭素繊維を得、一次生成物中の液体生成物を減圧蒸留し、フェノールとその誘導体を得る。
2.工程(1)に記載の酸溶液が、ギ酸、酢酸、アクリル酸、安息香酸、サリチル酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、乳酸、塩酸、ヒドロキシコハク酸、2,3-ジヒドロキシコハク酸、2,3-ジヒドロキシグルタル酸の1種である:酸溶液1リットル当たり、切断された複合材料を500~1000g添加することを特徴とする請求項1に記載の炭素繊維強化エポキシ樹脂複合材料の再生方法。)(請求項1、2)
「
[図:0001426787000003.jpg]
」
(ステップ(2)に記載の酸化剤が、次亜塩素酸ナトリウム、過硫酸、過酸化水素、過マンガン酸カリウム、ヨウ素水、硫酸、硝酸、過塩素酸、過ヨウ素酸、シュウ酸、塩酸の1種であることを特徴とする請求項1に記載の炭素繊維強化エポキシ樹脂複合材料の再生方法。)(請求項4)
「
[図:0001426787000004.jpg]
」
(本発明は、高分子技術分野に属し、廃棄熱硬化性樹脂複合材料を回収する方法に関し、特に、繊維強化エポキシ樹脂複合材料を回収する方法に関する。)([0001])
「
[図:0001426787000005.jpg]
・・・
[図:0001426787000006.jpg]
」
(現在国内で繊維強化熱硬化性樹脂のリサイクルにもいくつかの技術的発明がある。
特許CN03132542.4には、硝酸を酸化分解剤としてエポキシ複合材料を回収する方法が開示されている。この方法は、表面洗浄に欠陥のない繊維を得ることができるが、使用する硝酸は強酸性酸であり、作業安全率が低く、反応設備に対する耐食性要求が高く、アミン類硬化のエポキシ樹脂複合材料にしか適用できないことが開示されている。
・・・
本発明の目的は、温和な条件で繊維強化エポキシ樹脂複合材料を効率的に回収する方法を提供することである。)([0004]~[0005])
「
[図:0001426787000007.jpg]
」
(本方法は具体的には以下の工程を含む:
ステップ(1)分解が必要な炭素繊維強化エポキシ樹脂複合材料を体積5cm3以下のブロック状に切断し、切断後の複合材料を酸液を備えた還流装置に入れ、酸液の沸点温度で5~30分間加熱した後、複合材料を取り出し、まず工業用アセトンで洗浄し、次いで脱イオン水で洗浄し、これを3~5回繰り返した後、80~120℃の真空乾燥炉に12~24時間入れ、加工複合材料を得る;
酸液は、pHが7未満の酸性溶液または溶媒であり、具体的には、ギ酸、酢酸、アクリル酸、安息香酸、サリチル酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、乳酸、塩酸、ヒドロキシコハク酸、2,3-ジヒドロキシコハク酸、2,3-ジヒドロキシグルタル酸のうちの1種である;
それぞれの酸液に500~1000gの切断後の複合材料を添加する;
ステップ(2)被処理複合材料を密閉反応釜に入れ、有機溶剤と酸化剤を加え、被処理複合材料100g当たり有機溶剤50~2000mLを加え、被処理複合材料酸化剤100g当たり有機溶剤50~2000gを加える;
前記有機溶媒は、N,N-ジメチルホルムアルデヒド、N,N-ジメチルアセトアミド、アセトン、酢酸エチル、テトラヒドロフラン、メチルエチルケトン、ジメチルスルホキシド、1-メチル-2-ピリドン、ピリジン、1,2-ジオキサンのいずれかである。
前記酸化剤は、次亜塩素酸ナトリウム、過硫酸、過酸化水素、過マンガン酸カリウム、ヨウ素水、硫酸、硝酸、過塩素酸、過ヨウ素酸、シュウ酸、塩酸のいずれかである。
ステップ(3)密閉した反応釜を50~300℃で10~120分間加熱した後、常温まで自然冷却して一次生成物を得る;)([0007])
「
[図:0001426787000008.jpg]
」
(実施例4:
分解が必要な炭素繊維強化エポキシ樹脂複合材料を体積5cm3以下のブロック状に切断し、1.00kgの切断後の炭素繊維/エポキシ樹脂複合材料を1.0L10%塩酸を備えた加熱還流装置に入れ、沸騰後20分間加熱した後、まず工業用アセトンで洗浄し、次いで脱イオン水で洗浄し、これを4回繰り返した後、100℃の真空乾燥炉に18時間入れ、被処理複合材料を密閉ステンレス反応釜に入れ、被処理複合材料100g当たり25%の過塩素酸溶液1.2kg及び0.30Lのアセトンを加え、100℃で90分間加熱した後、常温まで自然冷却して一次生成物を得る。一次生成物中の固形物を工業用アセトンで3回洗浄し、工業用アセトン溶液に入れ、12時間浸漬し、乾燥させ、炭素繊維を得、一次生成物中の液体生成物を減圧蒸留し、フェノールとその誘導体を得た。)([0015])
(3)甲B2
甲B2には、次のとおり記載されている。
「
[図:0001426787000009.jpg]
[図:0001426787000010.jpg]
」(3.3 アミン硬化エポキシ樹脂の劣化)
(4)甲B4
甲B4には、次のとおり記載されている。
「
[図:0001426787000011.jpg]
[図:0001426787000012.jpg]
[図:0001426787000013.jpg]
」(1 緒言、2 実験方法)
(5)甲B5
甲B5には、次のとおり記載されている。
「
[図:0001426787000014.jpg]
[図:0001426787000015.jpg]
」(2.実験方法、3.結果及び考察)
(6)文献A
文献Aには、次のとおり記載されている。
「
[図:0001426787000016.jpg]
」
「
[図:0001426787000017.jpg]
」
「
[図:0001426787000018.jpg]
[図:0001426787000019.jpg]
[図:0001426787000020.jpg]
」
「
[図:0001426787000021.jpg]
[図:0001426787000022.jpg]
」
「
[図:0001426787000023.jpg]
[図:0001426787000024.jpg]
」
「
[図:0001426787000025.jpg]
」
2 刊行物に記載された発明
(1)甲A1に記載された発明
甲A1(前記第5 1参照)の段落0007には、「本発明に係る強化繊維回収方法は、強化繊維が巻き取られ且つ樹脂に含浸された強化部品から樹脂を分離しながら強化繊維を繰り出すアンワインディング(unwinding)段階と;繰り出された強化繊維をサイジング液に通過させて強化繊維にサイジング液をコートするサイジング段階と;サイジング液がコートされた強化繊維をマンドレルに巻き取るワインディング(winding)段階と;を含んでなる。」ことが記載され、段落0008には、「アンワインディング段階は、膨潤液に強化部品を浸漬することにより、強化部品の樹脂を膨潤させる膨潤段階と;強化部品から強化繊維を繰り出しながら溶解液に通過させ、強化繊維に含浸された樹脂を溶解させる溶解段階と;樹脂が溶解した強化繊維を中間ワインダーを介して巻き取る中間ワインディング段階と;を含んでもよい。」ことが記載されている。
そして、甲A1の強化繊維回収方法の好適な実施例として、段落0025、0026には、上記膨潤段階では、「PH2.0~4.0の弱酸を用いて強化部品1を浸漬させることにより樹脂を膨潤させる」こと、「弱酸は酢酸やギ酸など」があることが記載され、段落0027には、上記溶解段階では、「溶解液20に浸漬して樹脂を溶解する」こと、「樹脂を溶解させる溶解液20は、過酸化水素水(H2O2)及びイオン化液体を含む」こと、「過酸化水素水は樹脂を溶解させる主要役割を果たし」ていることが記載されている。また、段落0023には、強化部品1として「エポキシ樹脂などの樹脂に含浸された強化部品1」が記載されている。
そうすると、甲A1の実施例を中心として、甲A1から次の発明(以下「甲A1発明」という。)が認定できる。
<甲A1発明>
「強化繊維回収方法は、強化繊維が巻き取られ且つ樹脂に含浸された強化部品から樹脂を分離しながら強化繊維を繰り出すアンワインディング(unwinding)段階と;繰り出された強化繊維をサイジング液に通過させて強化繊維にサイジング液をコートするサイジング段階と;サイジング液がコートされた強化繊維をマンドレルに巻き取るワインディング(winding)段階と;を含んでなる強化繊維回収方法であって、
前記アンワインディング段階は、膨潤液に強化部品を浸漬することにより、強化部品の樹脂を膨潤させる膨潤段階と;強化部品から強化繊維を繰り出しながら溶解液に通過させ、強化繊維に含浸された樹脂を溶解させる溶解段階と;樹脂が溶解した強化繊維を中間ワインダーを介して巻き取る中間ワインディング段階とを含み、
前記強化部品は、エポキシ樹脂に強化繊維を含浸させた強化部品であり、
前記膨潤液は、酢酸やギ酸などのpH2~4の弱酸であり、
前記溶解液は、樹脂を溶解させる主要役割を果たしている過酸化水素水及びイオン化液体を含む、
強化繊維回収方法」
(2)甲B1に記載された発明
甲B1の実施例4を中心として、甲B1から次の発明(以下「甲B1発明」という。)が認定できる。
<甲B1発明>
「分解が必要な炭素繊維強化エポキシ樹脂複合材料を体積5cm3以下のブロック状に切断し、1.00kgの切断後の炭素繊維/エポキシ樹脂複合材料を1.0L10%塩酸を備えた加熱還流装置に入れ、沸騰後20分間加熱した後、まず工業用アセトンで洗浄し、次いで脱イオン水で洗浄し、これを4回繰り返した後、100℃の真空乾燥炉に18時間入れ、被処理複合材料を密閉ステンレス反応釜に入れ、被処理複合材料100g当たり25%の過塩素酸溶液1.2kg及び0.30Lのアセトンを加え、100℃で90分間加熱した後、常温まで自然冷却して一次生成物を得る。一次生成物中の固形物を工業用アセトンで3回洗浄し、工業用アセトン溶液に入れ、12時間浸漬し、乾燥させ、炭素繊維を得る、炭素繊維強化エポキシ樹脂複合材料の再生方法」
3 甲A1を主引用例とした進歩性欠如(前記第4 3(3)参照)
(1)本件訂正発明1について
ア 対比
甲A1発明の「膨潤液」は、「酢酸やギ酸などのPH2~4の弱酸」であり、当該膨潤液が水を含有していることは明らかであることから、本件訂正発明1の「酸および水を含む酸性溶液」に相当する。また、甲A1発明の「エポキシ樹脂に強化繊維を含浸させた強化物品」は、本件訂正発明1の「樹脂と補強繊維とを含む繊維強化樹脂材料」に相当する。そして、甲A1発明の「膨潤液に強化部品を浸漬することにより、強化部品の樹脂を膨潤させる膨潤段階」は、本件訂正発明1の「樹脂と補強繊維とを含む繊維強化樹脂材料を酸および水を含む酸性溶液により処理する第1の工程」に相当する。
甲A1発明の「溶解液」は「過酸化水素水」を含み、当該過酸化水素水は「樹脂を溶解させる主要な役割を果たしている」、すなわち、酸化剤の役割を果たしているといえることから、甲A1発明の「過酸化水素水を含む溶解液」は、本件訂正発明1の「酸化剤を含む処理液」に相当する。そして、甲A1発明の「強化部品から強化繊維を繰り出しながら溶解液に通過させ、強化繊維に含浸された樹脂を溶解させる溶解段階」は、膨潤段階の後に行われる段階であることから、本件訂正発明1の「前記第1の工程後に前記補強繊維を含む前記繊維強化樹脂材料を酸化剤を含む処理液により処理し、前記繊維強化樹脂材料の前記樹脂の少なくとも一部を前記処理液に溶解させる第2の工程」に相当する。
また、甲A1発明の「強化繊維回収方法」は本件訂正発明1の「再生補強繊維の製造方法」に相当する。
すると、本件訂正発明1と甲A1発明の一致点及び相違点は、次のとおりである。
<一致点>
「樹脂と補強繊維とを含む繊維強化樹脂材料を酸および水を含む酸性溶液により処理する第1の工程と、
前記第1の工程後に前記補強繊維を含む前記繊維強化樹脂材料を酸化剤を含む処理液により処理し、前記繊維強化樹脂材料の前記樹脂の少なくとも一部を前記処理液に溶解させる第2の工程と、
を有する再生補強繊維の製造方法。」
<相違点1-1>
本件訂正発明1では、繊維強化樹脂材料に含まれる樹脂が「アミン硬化エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド、メラミン樹脂、アニリン樹脂およびウレア樹脂からなる群から選択される1種以上を含む、および/または、アミド結合、イミド結合、アゾ基、ジアゾ基、ウレア結合、ウレタン結合、ペプチド結合およびイソシアナート基からなる群から選択される1種以上の化学構造を有する樹脂成分を含む」のに対して、甲A1発明では、エポキシ樹脂である点
<相違点1-2>
本件訂正発明1では、酸性溶液に含まれる酸が、「硫酸およびリン酸からなる群から選択される1種以上の無機酸」であり、「前記酸性溶液中における前記無機酸の濃度が、0.5mol/L以上」であるのに対して、甲A1発明では、酢酸やギ酸などのpH2~4の弱酸である点
イ 相違点についての検討
(ア)前記相違点1-1について検討する。
甲A1には、甲A1発明のエポキシ樹脂としてアミン硬化エポキシ樹脂を用いることは明示的に示唆されていないものの、エポキシ樹脂の硬化剤としてアミン硬化剤は代表的なものであり、アミン硬化エポキシ樹脂を繊維強化プラスチックのマトリックスとして使用することも、例えば甲B4(1 緒言、2 実験方法)及び文献A(1.緒言、2.試験方法、4.FRPの硝酸水溶液環境における劣化とファイバー/マトリックス分離の可能性)に記載されているように周知である。特に文献Aには、FRPの廃棄、リサイクルのため、MDA硬化エポキシ樹脂をマトリックスとするFRPを、硝酸水溶液に浸せきした場合に、マトリックスである樹脂が分解しガラス繊維が残ったこと(4.FRPの硝酸水溶液環境における劣化とファイバー/マトリックス分離の可能性)も記載されている。そうすると、当業者が甲A1発明を実施するに際し、繊維強化エポキシ樹脂複合材料として、アミン硬化エポキシ樹脂マトリックスのものを採用することは適宜になし得たといえる。
(イ)次に、前記相違点1-2について検討する。
甲A1には、「従来は、樹脂を膨潤させるために硝酸などの強酸が用いられるため、回収された強化繊維が絡み合う問題があった」(段落0025)、「硝酸などの強酸の代わりにPH2~4の弱酸を用いて強化部品1を浸潤させることにより樹脂を膨潤させると同時に、強化繊維の絡み減少を防止することができるという効果がある」(段落0026)と記載されていることからすると、甲A1発明の膨潤液に用いる酸として、硫酸のような強酸を採用することが動機付けられるとはいえない。
一方、リン酸は代表的な弱酸であるし、酢酸、ギ酸のように甲A1における例示はないものの、甲A1発明の膨潤液に用いる酸として採用することについて明示的に除外はされていない。しかしながら、令和6年3月27日提出の意見書において特許権者が主張するように、「常温において、リン酸の0.5mol/Lの水溶液のpHは、およそ1.2」、「0.1mol/Lの水溶液のpHはおよそ1.6」であることからすると、仮に甲A1発明の膨潤液に用いる酸としてリン酸を採用したとしても、その膨潤液中の濃度を、pHが2.0未満となる蓋然性が高い「0.5mol/L以上」に調整することが動機付けられるとはいえない。
(ウ)そうすると、甲A1発明において、膨潤液として用いる酸として、「酢酸やギ酸」にかえて、「硫酸およびリン酸からなる群から選択される1種以上の無機酸」を採用することを、当業者が容易に想到できたとはいえない。
ウ 小括
したがって、本件訂正発明1は、甲A1発明並びに甲A1に記載された事項及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(2)本件訂正発明2、4~7について
本件訂正発明2、4~7は、本件訂正発明1を包含し、さらに特定事項を追加したものであるから、前記(1)で検討したのと同様の理由により、甲A1発明並びに甲A1に記載された事項及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
4 甲B1を主引用例とした進歩性欠如(前記第4 3(4)及び第4 4(1)参照)
(1)本件訂正発明1について
ア 対比
本件訂正発明1と甲B1発明を対比すると、甲B1発明の「1.0L10%塩酸」は、甲B1の請求項2に記載された「酸溶液」であり、水を含有していることは明らかであることから、本件訂正発明1の「無機酸および水を含む酸性溶液」に相当し、甲B1発明の「25%の過塩素酸溶液」は、甲B1の請求項4に記載された「酸化剤」であることから、本件訂正発明1の「酸化剤を含む処理液」に相当する。また、甲B1発明の「炭素繊維強化エポキシ樹脂複合材料」、「切断後の炭素繊維/エポキシ樹脂複合材料」は、本件訂正発明1の「樹脂と補強繊維とを含む繊維強化樹脂材料」に相当する。
そして、甲B1発明の「1.00kgの切断後の炭素繊維/エポキシ樹脂複合材料を1.0L10%塩酸を備えた加熱還流装置に入れ、沸騰後20分間加熱した後」、「被処理複合材料を密閉ステンレス反応釜に入れ、被処理複合材料100g当たり25%の過塩素酸溶液1.2kg及び0.30Lのアセトンを加え、100℃で90分間加熱した後、常温まで自然冷却して一次生成物を得る」はそれぞれ、本件訂正発明1の「樹脂と補強繊維とを含む繊維強化樹脂材料を無機酸および水を含む酸性溶液により処理する第1の工程」と、「前記補強繊維を含む前記繊維強化樹脂材料を酸化剤を含む処理液により処理し、前記繊維強化樹脂材料の前記樹脂の少なくとも一部を前記処理液に溶解させる第2の工程」に相当する。ここで、本件訂正発明1の「第1の工程後に」なる発明特定事項について、第1の工程と第2の工程の間に他の工程を含みうるものであるから、甲B1発明の「まず工業用アセトンで洗浄し、次いで脱イオン水で洗浄し、これを4回繰り返した後、100℃の真空乾燥炉に18時間入れ」る工程は、本件訂正発明1の「第1の工程と、前記第1の工程後に」の工程に含みうるものである。また、甲B1発明の「炭素繊維強化エポキシ樹脂複合材料の再生方法」は本件訂正発明1の「再生補強繊維の製造方法」に相当する。
すると、本件訂正発明1と甲B1発明の一致点及び相違点は、次のとおりである。
<一致点>
「樹脂と補強繊維とを含む繊維強化樹脂材料を無機酸および水を含む酸性溶液により処理する第1の工程と、
前記第1の工程後に前記補強繊維を含む前記繊維強化樹脂材料を酸化剤を含む処理液により処理し、前記繊維強化樹脂材料の前記樹脂の少なくとも一部を前記処理液に溶解させる第2の工程と、
を有する再生補強繊維の製造方法。」
<相違点2-1>
本件訂正発明1では、繊維強化樹脂材料に含まれる樹脂が「アミン硬化エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド、メラミン樹脂、アニリン樹脂およびウレア樹脂からなる群から選択される1種以上を含む、および/または、アミド結合、イミド結合、アゾ基、ジアゾ基、ウレア結合、ウレタン結合、ペプチド結合、イソシアナート基およびアジ基からなる群れから選択される1種以上の化学構造を有する樹脂成分を含む」ものであるのに対して、甲B1発明では、エポキシ樹脂である点
<相違点2-2>
本件訂正発明1では、酸性溶液に含まれる無機酸が、「硫酸およびリン酸からなる群から選択される1種以上の無機酸」であり、その「酸性溶液中における濃度が、0.5mol/L以上」であるのに対して、甲B1発明では、10%塩酸である点
イ 相違点についての検討
(ア)前記相違点2-1について検討する。
甲B1には、甲B1発明のエポキシ樹脂としてアミン硬化エポキシ樹脂を用いることは明示的に示唆されていないものの、エポキシ樹脂の硬化剤としてアミン硬化剤は代表的なものであり、アミン硬化エポキシ樹脂を繊維強化プラスチックのマトリックスとして使用することも、例えば甲B4(1 緒言、2 実験方法)及び文献A(1.緒言、2.試験方法、4.FRPの硝酸水溶液環境における劣化とファイバー/マトリックス分離の可能性)に記載されているように周知であり、特に文献Aには、FRPの廃棄、リサイクルのため、MDA硬化エポキシ樹脂をマトリックスとするFRPを、硝酸水溶液に浸せきした場合に、マトリックスである樹脂が分解しガラス繊維が残ったこと(4.FRPの硝酸水溶液環境における劣化とファイバー/マトリックス分離の可能性)も記載されている。そうすると、当業者が甲B1発明を実施するに際し、繊維強化エポキシ樹脂複合材料として、アミン硬化エポキシ樹脂マトリックスのものを採用することは適宜になし得たといえる。
(イ)次に、前記相違点2-2について検討する。
甲B1には、酸溶液として種々のpH7未満の酸性溶液を用いることができる旨記載し、多数の酸が列挙されているものの(段落0007)、具体的に列挙されているのは、甲B1発明で使用される塩酸を除くと、酢酸等の有機酸だけであって、硫酸、リン酸等の無機酸を用いることが直ちに動機づけられるものではない。
甲B2には、アミン硬化エポキシ樹脂の酸性環境下における劣化について、硝酸の酸性環境下では湿潤重量の大きな減少が見られ、表面反応型の劣化が生じるのに対して、硫酸環境下ではアミン硬化エポキシ樹脂の湿潤重量が増加すること、塩酸、リン酸、酢酸の酸性環境下でも同様であり、この重量増加では、酸がアミンと塩を形成していき、直接分解反応には至らずに浸入のみが進行し、樹脂の全面侵入型の劣化が進行すると考えられることが記載されている(3.3 アミン硬化エポキシ樹脂の劣化)。また、文献Aには、酸性水溶液環境下(80℃、2mol/l)のMDA(アミン系硬化剤メンタンジアミン)硬化エポキシ樹脂の腐食挙動について、硝酸環境下では樹脂の溶解により湿潤重量は急激に減少し、曲げ強度保持率も急激に低下するのに対して、硫酸、塩酸、酢酸の環境下では浸漬時間の平方根に対して直線的に湿潤重量が増加し、リン酸では加速的に増加しており、溶液の拡散挙動がみられること、浸せき後すぐに曲げ強度保持率が低下しており、アミン塩の形成などが劣化反応であることが記載されている(3.1 種々の酸性水溶液環境下におけるMDA硬化エポキシ樹脂の腐食挙動、3.2 MDA硬化エポキシ樹脂の酸環境下における腐食機構)。そうすると、アミン硬化エポキシ樹脂は、硝酸の酸性環境下において、溶解による重量減少が進み、表面反応型の劣化が生じるのに対して、硫酸、塩酸、リン酸、酢酸の酸性環境下においては、いずれも酸がアミンと塩を形成しながらアミン硬化エポキシ樹脂に侵入することで重量増加が進み、全面侵入型の劣化が生じるものと理解できる。
しかしながら、甲B1を参酌しても、甲B1発明における10%塩酸によるエポキシ樹脂の処理が、いかなる作用や効果が生じるものであるのかについて明らかにされていないし、甲B1発明のエポキシ樹脂はアミン硬化エポキシ樹脂と特定されるものではないところ、前記甲B2の記載のように、塩酸がアミンと塩を形成しながら樹脂に侵入し、全面侵入型の劣化を生じさせる作用や効果を奏するものであると直ちに理解できるものではない。加えて、甲B1発明は、炭素繊維強化エポキシ樹脂複合材料を10%塩酸によるエポキシ樹脂の処理工程及びその後の処理工程により、エポキシ樹脂を除去し、炭素繊維を得る再生方法であるところ、前記甲B2の記載のように、樹脂の重量増加を伴う処理は、樹脂の除去、すなわち、樹脂の減少に逆行するものでもあり、甲B1発明への適用においての阻害要因であるともいえる。
そうすると、甲B1発明の塩酸によるエポキシ樹脂の処理工程において、当該処理工程と同様の作用や効果を奏するものか明らかでなく、むしろ阻害要因であるともいえる甲B2の記載事項に基づいて、塩酸にかえて硫酸やリン酸を採用することを、当業者が容易に想到できたとはいえない。
ウ 小括
したがって、本件訂正発明1は、甲B1発明並びに甲B1、甲B2に記載された事項及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(2)本件訂正発明2、4~7について
本件訂正発明2、4~7は、本件訂正発明1を包含し、さらに特定事項を追加したものであるから、前記(1)で検討したのと同様の理由により、甲B1発明並びに甲B1、甲B2に記載された事項及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)特許異議申立人の主張について
ア 申立人Bは、令和7年3月3日提出の意見書において、概略次のように主張している。
「特許権者は、酸液によりアミン硬化エポキシ樹脂が膨潤するメカニズムを把握することは不可能であるから、甲B1発明と甲B2発明を結びつけることは適切ではない、と主張するが、そもそも、酸液による樹脂の膨潤が補強繊維の回収が効率的に行えるメカニズムであるとすること自体、本件特許明細書及びその後に提示された証拠から明らかではなく、根拠を欠く主張であると言わざるをえない。従って、訂正後の請求項1に記載の発明は、甲B1及び甲B2に記載の発明に基づいて当業者が容易に想到できた発明であるから、取り消されるべきである。」
イ しかしながら、前記(1)イで示したとおり、甲B1の記載事項により硫酸やリン酸を用いることが直ちに動機づけられるものではないし、甲B2の記載事項は、甲B1発明の酸溶液による処理と同様の作用や効果を奏するものか明らかでなく、むしろ阻害要因が存在するともいえるところ、当該甲B2の記載事項に基づいて、塩酸にかえて硫酸やリン酸を採用することを、当業者が容易に想到できたといえない。
ウ したがって、前記申立人Bの主張は採用できない。
5 樹脂の種類及び化学構造に着目したサポート要件違反(前記第4 3(2)及び第4 4(2)参照)
(1)サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
(2)当審における判断
ア 本件訂正発明の課題
本件訂正発明の課題は、本件特許明細書の段落0009の記載からみて、「溶媒法でありながら塩基性を有する化学構造を有する樹脂成分を含む繊維強化樹脂材料について効率的に補強繊維を回収することのできる、再生補強繊維の製造方法を提供すること」であると認める。
イ 樹脂の種類及び化学構造について
本件訂正発明1は、樹脂が、「アミン硬化エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド、メラミン樹脂、アニリン樹脂およびウレア樹脂からなる群から選択される1種以上を含む」および/または「アミド結合、イミド結合、アゾ基、ジアゾ基、ウレア結合、ウレタン結合、ペプチド結合およびイソシアナート基からなる群から選択される1種以上の化学構造を含む」と特定されており、本件特許明細書の段落0017には、本件訂正発明1の樹脂が選択できる樹脂成分の化学構造、段落0018には、本件訂正発明1の樹脂が選択できる樹脂の種類がそれぞれ記載されている。
そして、段落0072~0091には、アミノ硬化エポキシ樹脂で構成された炭素繊維強化樹脂材料を用い、硫酸水溶液、塩酸水溶液またはリン酸水溶液による酸処理工程を、硝酸水溶液または過酸化水素と硫酸との混合液による酸化工程に組み合わせた態様(実施例1~8)において、酸化工程のみの態様(比較例1~4)と比べて、再生炭素繊維の残存樹脂量を優位に少なくできることが、データによる裏付けをもって記載されており、そうすると、本件訂正発明1は、樹脂が「アミノ硬化エポキシ樹脂」である態様において、前記課題を解決できるものと推認できる。
そこで、本件訂正発明1の樹脂がアミノ硬化エポキシ樹脂以外である態様について、前記課題を解決できるように記載されているかについて、さらに検討する。
本件特許明細書の段落0016には、「塩基性構造を有する樹脂成分は、後述する酸処理工程において、酸性溶液中の水素イオン(プロトン)を配位させ、膨潤することができる」、「膨潤した塩基性構造を有する樹脂成分に対しては後述する酸化工程において酸化剤が十分に浸透することができ、この結果樹脂成分の処理液への溶解が促進される」と記載されており、当該記載からすると、本件訂正発明1の樹脂が選択できる樹脂成分の化学構造、本件訂正発明1が選択できる樹脂が有する構造は、共通して、「ブレンステッド・ローリーの定義」に基づく塩基性構造、具体的には、水等の求核剤から水素イオン(プロトン)が配位する化学構造をなすものと理解できるし、また、酸処理工程において、当該化学構造に酸性溶液中の水素イオン(プロトン)が配位することで樹脂が膨潤し、その結果、酸化工程において酸化剤が十分に浸透し、樹脂成分の処理液への溶解が促進されるものと推認できる。そして、特許権者は、令和6年12月26日提出の意見書に添付された乙3の実験成績証明書において、(2)炭素繊維補強ナイロン6樹脂材料、(3)炭素繊維補強ポリエーテルイミド樹脂材料、(4)炭素繊維補強アミン硬化エポキシ樹脂材料のいずれもが、硫酸水溶液により膨潤したことを写真画像により示している。
そうすると、本件訂正発明1の樹脂がアミン硬化エポキシ樹脂以外である態様においても、アミン硬化エポキシ樹脂である態様と同様、前記課題が解決できるものと推認できる。本件訂正発明2、4~7は、本件訂正発明1を包含し、さらに特定事項を追加したものであって、同様に前記課題が解決できるものと推認できる。
(3)申立人の主張について
ア 申立人Bは、令和7年3月3日提出の意見書において、概略次のように主張している。
「アミン硬化エポキシ樹脂以外の樹脂を含む繊維強化樹脂材料の溶媒法による再利用方法において、同様の状況と課題があるとの説明は本件特許明細書にはない。さらに、本件特許明細書には樹脂がアミン硬化エポキシ樹脂以外の場合については、実施例の記載もなく、樹脂が膨潤することにより補強繊維の回収が効率的に行えること、即ち課題が解決されることを具体的に確認することもできない。」「ナイロン6は、10%硫酸やりん酸に溶解するので、酸液による処理のみで、本件特許発明の第2の工程を要さずとも、繊維の回収は可能であると考えられる。即ち、樹脂がナイロン6の場合、アミン硬化エポキシ樹脂を含む繊維強化樹脂材料の溶媒法による再利用方法における課題は、そもそも存在しない。」「同様にイソシアナート基を有する樹脂についても水と反応してイソシアナート基は分解してカルバミン酸を経由して二酸化炭素とアミノ基が生じ、樹脂側に残ったアミノ基は樹脂を可溶化する。」「従って、訂正後の特許請求の範囲に記載の発明は、依然として課題が解決できることが示されておらずサポート要件違反であるから、取り消されるべきである。」
イ しかしながら、前記(2)イで示したとおり、本件訂正発明1の樹脂が選択できる樹脂成分の化学構造、本件訂正発明1が選択できる樹脂が有する構造は、共通して、水等の求核剤から水素イオン(プロトン)が配位する化学構造をなし、酸処理工程において、当該化学構造に酸性溶液中の水素イオン(プロトン)が配位することで樹脂が膨潤し、その結果、酸化工程において酸化剤が十分に浸透し、樹脂成分の処理液への溶解が促進されるものと推認できるし、乙3の実験成績証明書において、実際に、(2)炭素繊維補強ナイロン6樹脂材料、(3)炭素繊維補強ポリエーテルイミド樹脂材料、(4)炭素繊維補強アミン硬化エポキシ樹脂材料のいずれもが、硫酸水溶液により膨潤したことも示されており、そうすると、本件訂正発明1の樹脂がアミン硬化エポキシ樹脂以外である態様においても、アミン硬化エポキシ樹脂である態様と同様、前記課題が解決できるものと推認できる。
ウ そうすると、前記申立人Bの主張は採用できない。
(4)小括
したがって、本件特許発明1、2、4~7は、発明の詳細な説明に記載された発明である。
6 樹脂の構造に着目した明確性要件違反(前記第4 3(2)参照)
本件訂正発明1は、樹脂が、本件特許明細書の段落0018に記載された樹脂の種類から選択される1種以上を含むか、段落0017に記載された化学構造から選択される1種以上を有する樹脂成分を含むものに限定されたので、明確である。また、本件訂正発明7は、化学構造が2または3級アミドに限定されたので、明確である。本件訂正発明2、4~6についても、不明確なところは見当たらない。
したがって、本件特許発明1、2、4~7は、明確である。
第6 当審において採用しなかった特許異議申立ての理由について
1 甲B3を主引用例とする進歩性欠如(前記第4 2(2)参照)
甲B3には、炭素繊維複合材料(CFC)を酸水溶液に浸漬し、CFCの樹脂分の少なくとも一部を溶出して略繊維状物を得ること(段落0019)、実施例1のサンプルNo.3として、6Mに希釈した濃硝酸と4Mに希釈した硫酸を120:40の割合で混合した混酸100質量部に対し、硬化プリプレグ(炭素繊維/エポキシ樹脂=60/40)を30部加え、120時間を加熱浸漬するとエポキシ樹脂の大部分が溶解した、繊維状の炭素繊維が得られたこと(段落0055、0056の表1-1)が記載されている。
そして、申立人Bは、令和5年9月13日提出の特許異議申立書において、「甲3のサンプルNo.3においては、酸性水溶液として硝酸と硫酸の混合物を用いているが、これを硫酸に浸漬し、次いで硝酸に浸漬して繊維状の炭素繊維を得ることは、甲2及び甲4において、硝酸のみでもエポキシ樹脂の分解が進むことが知られていること、及び甲5において、硝酸と硫酸の混合物を用いることで硝酸の樹脂に対する酸化力を増強できることが知られていること、当業者には容易にできることである」と主張している(合議体注:前記甲2、甲4及び甲5は、それぞれ甲B2、甲B4及び甲B5に相当する。)。
そこで検討すると、甲B3には、酸溶解工程として、サンプルNo.1の硝酸のみを用いた態様とサンプルNo.2及びNo.3の硝酸と硫酸との混酸を用いた態様が示され、「濃硝酸は酸化力を高めるため、硫酸と任意の割合で混合した混酸でもよい」(段落0055)と記載されているものの、当該記載によって、混酸による処理を、硫酸、硝酸それぞれによる2段階の処理に置き換えることが示唆されるものではない。申立人Bが提示した甲B2、甲B4及び甲B5の記載についても同様であり、混酸による処理を各酸それぞれによる2段階の処理に置き換えることが当業者の技術常識であったとも認められない。
したがって、甲B3を主引用例とする進歩性欠如の申立ての理由は採用できない。
2 第1の工程の処理条件に着目したサポート要件違反(前記第4 2(3)ア参照)
本件特許明細書には、「繊維強化樹脂材料を酸を含む酸性溶液により処理することにより、塩基性構造を有する樹脂成分に酸性溶液中の水素イオンを配位させて塩を形成させ、この結果、塩基性構造を有する樹脂成分ひいては樹脂自体が膨潤する」、「酸性溶液による処理時間は、特に限定されず、目的とする温度に達してから5分以上1200分以下、好ましくは10分以上120分以下である」(段落0041)と記載されており、実施例では、「炭素繊維強化樹脂材料を80℃に加熱しておいた40wt%(5.3mol/L)硫酸水溶液に1時間浸漬した」(段落0074)ことが記載されていることを踏まえると、第1の工程において、樹脂が膨潤するまでの適切な処理時間に調整すべきことは明らかであるから、本件訂正発明1に、繊維強化樹脂材料を酸性溶液により処理する第1の工程について、繊維強化樹脂材料を膨潤させるまで処理することが規定されていないことをもって、本件訂正発明1はサポート要件を満たさないとはいえない。
したがって、第1の工程の処理条件に着目したサポート要件違反の申立ての理由は採用できない。
3 第1の工程の繊維強化樹脂材料の条件に着目したサポート要件違反(前記第4 2(3)ウ、エ参照)
本件特許明細書には、「従来法においては・・・繊維強化樹脂材料を数センチ程度のチップ状に細かく裁断した上で樹脂成分を除去している」ので「回収される再生補強繊維の長さが必然的に短くなり、回収前の繊維強化樹脂材料中に含まれる補強繊維の性能を維持することが困難になる」(段落0007)と記載されているものの、本件訂正発明の目的は、前記第5 5(2)アで示したとおりであって、「効率的に補強繊維を回収すること」が主要な課題であって、再生補強繊維の長さを維持することが必須の課題であるとまではいえないから、本件特許発明1の「第1の工程」における「繊維強化樹脂材料」から、チップ状に細かく裁断した繊維強化樹脂材料は除かれていないことをもって、本件訂正発明1はサポート要件を満たしていないとはいえない。
したがって、第1の工程の繊維強化樹脂材料の条件に着目したサポート要件違反の申立ての理由は採用できない。
4 第2の工程の溶解条件に着目したサポート要件違反(前記第4 2(3)オ参照)
本件特許明細書には、「酸性溶液により膨潤した樹脂を含む繊維強化樹脂材料は、酸化剤が樹脂に浸透しやすくなり、この結果、本工程においては、酸化剤により樹脂が効率よく分解・溶出する」(段落0045)と記載されていることから、第1の工程と第2の工程を有する本件訂正発明1は、本件訂正発明1の「効率的に補強繊維を回収する」という課題を解決できるものといえる。
ここで、申立人Bは、令和7年3月3日提出の意見書において、本件訂正発明1の第2の工程が「繊維強化樹脂材料の前記樹脂の一部を前記処理液に溶解させる」態様においては、洗浄工程を経なければ、補強繊維の効率的回収という課題は解決できないと主張しているものの、本件訂正発明1は、洗浄工程を排除するものではないし、第2の工程において樹脂のどの程度除去するかにかかわらず、本件訂正発明1が前記課題を解決できることは前記のとおりである。
したがって、第2の工程の溶解条件に着目したサポート要件違反の申立ての理由は採用できない。
第7 むすび
前記第5及び第6のとおり、本件特許の請求項1、2、4~7に係る特許は、取消理由及び特許異議申立書に記載した申立ての理由によっては、取り消すことはできない。さらに、他に本件特許の請求項1、2、4~7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして、本件訂正により請求項3は削除され、請求項3に係る特許に対する特許異議の申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
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2023-700950