特許異議申立
2021-700017
高炉セメント及び高炉セメントの製造方法
- 審判番号
- 2021-700017
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2019-139652
- 登録番号
- 6721093
- 請求日
- 2021年01月07日
- 審決日
- 2021年11月09日
- 公報発行日
- 2022年02月25日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】住友大阪セメント株式会社
- 【権利者代理人】大谷 保
- 【異議申立人】浜 俊彦
- 審判長/審判官
- 審判長 宮澤 尚之
- 審判官 関根 崇
- 審判官 金 公彦
- 分類
- P1651.113-YAA(C04B) / P1651.121-YAA(C04B) / P1651.536-YAA(C04B) / P1651.537-YAA(C04B)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第1項、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第36条第6項第2号、特許法第29条第2項、特許法第36条第4項第1号、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6721093号発明「高炉セメント及び高炉セメントの製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第6721093号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~4〕、5について訂正することを認める。
特許第6721093号の請求項1、3~5に係る特許を維持する。
特許第6721093号の請求項2に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本件特許第6721093号(以下、「本件特許」という。)に係る出願は、平成27年12月17日を出願日とする特願2015-246430号の一部を、令和 1年 7月30日に特願2019-139652号として新たな特許出願としたものであって、令和 2年 6月22日にその請求項1~5に係る発明について特許権の設定登録がされ、同年 7月 8日に特許掲載公報が発行され、その後、全請求項に係る特許に対して、令和 3年 1月 7日に特許異議申立人 浜 俊彦(以下、「申立人」という。)により甲第1号証を証拠方法として特許異議の申立てがされ、同年 4月27日付けで当審より取消理由が通知され、同年 7月 2日に特許権者より意見書の提出及び訂正の請求がされ、同年 8月16日に申立人より甲第2号証を添付して意見書が提出されたものである。
第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
訂正請求書における訂正請求(以下、「本件訂正請求」といい、本件訂正請求による訂正を「本件訂正」という。)は、次の訂正事項1~5からなる(下線部は訂正箇所を示す。)。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1について、「ブレーン比表面積が4000~7000cm2/gであり」との記載を、「ブレーン比表面積が4000~5500cm2/gであり」に訂正する(請求項1を引用する請求項2~4も同様に訂正する。)。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を削除する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3について、「請求項1又は2に記載の高炉セメント。」との記載を、「請求項1に記載の高炉セメント。」に訂正する。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4について、「請求項1~3に記載の高炉セメント。」との記載を、「請求項1又は3に記載の高炉セメント。」に訂正する。
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項5について、「原料スラグを、ブレーン比表面積4000~7000cm2/g」との記載を、「原料スラグを、ブレーン比表面積4000~5500cm2/g」に訂正する。
(6)一群の請求項について
訂正前の請求項1の記載を請求項2~4が引用する関係にあるから、訂正前の請求項1~4は一群の請求項であるところ、本件訂正事項1~4に係る特許請求の範囲の訂正は、特許法第120条の5第4項の規定に従い、この一群の請求項1~4を訂正の単位として請求されたものである。
2 訂正要件(訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否について)の判断
(1)訂正事項1及び5について
訂正事項1及び5は、それぞれ、本件訂正前の請求項1及び5において、ブレーン比表面積の上限値を「5500cm2/g」に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、ブレーン比表面積の上限値を「5500cm2/g」とすることは、本件特許に係る明細書の段落【0021】に記載されているから、訂正事項1及び5は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものである。
さらに、訂正事項1及び5は、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、また、当該訂正事項により、訂正前の特許請求の範囲には含まれないとされていた発明が訂正後の特許請求の範囲に含まれることとなるという事情は認められないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(2)訂正事項2について
訂正事項2は、本件訂正前の請求項2を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内においてされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(3)訂正事項3、4について
訂正事項3、4は、それぞれ、本件訂正前の請求項3、4における選択的引用請求項の一部を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(4)独立特許要件について
特許異議申立ては、本件訂正前の全ての請求項1~5についてされているので、訂正事項1~5に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
3 小括
したがって、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものに該当し、同法同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1~4〕、5について訂正することを認める。
第3 本件発明について
本件訂正請求が認められることは前記第2に記載のとおりであるので、本件訂正請求により訂正された請求項1、3~5に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」などといい、これらをまとめて「本件発明」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1、3~5に記載された事項により特定される次のとおりのものである(下線部は訂正箇所を示す。)。
「【請求項1】
ブレーン比表面積が4000~5500cm2/gであり、レーザー回折式粒度分布測定法によって測定された24μm篩残分が30体積%以下であり、かつ、10μm篩通過分が35体積%以下であるスラグ粉を含む、高炉セメント。
【請求項3】
前記スラグ粉が、レーザー回折式粒度分布測定法によって測定された45μm篩残分が5体%以下である、請求項1に記載の高炉セメント。
【請求項4】
前記スラグ粉が、レーザー回折式粒度分布測定法によって測定された90μm篩残分が0.5体積%以下である、請求項1又は3のいずれか1項に記載の高炉セメント。
【請求項5】
原料スラグを、ブレーン比表面積4000~5500cm2/g、且つレーザー回折式粒度分布測定法によって測定される24μm篩残分が30体積%以下であり、10μm篩通過分が35体積%以下となるように調製してスラグ粉を得る工程を含む、高炉セメントの製造方法。」
第4 取消理由について
1 令和 3年 4月27日付けの取消理由通知で通知した取消理由の概要
(1)取消理由1(新規性欠如)
本件訂正前の請求項1、3~5に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、本件訂正前の請求項1、3~5に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
(証拠方法)
甲第1号証: 佐川 孝広 他、「高炉セメントの水和物組成分析と空隙構造特性」、土木学会論文集E、2010年9月、Vol.66、No.3、P.311-324
(2)取消理由2(明確性要件違反)
本件訂正前の請求項2~4に係る発明の特許は、特許請求の範囲の請求項2の記載が不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
2 甲第1号証の記載事項及び甲第1号証に記載された発明について
(1)甲第1号証の記載事項
以下ア~ウの記載がある(下線は当審で付した)。
ア 「2.実験概要
(1)使用材料と水和試料の調製
本研究では、混合材を含まない普通セメント(N)および中庸熱(M)、低熱セメント(L)、ブレーン粉末度4000(BFS4000)および6000(BFS6000)のスラグを用いた。・・・
セメントペーストの配合は、各ポルトランドセメント単独の3種類およびそれぞれのポルトランドセメントにスラグ45%置換した高炉セメント6種類を用い、水結合材比を50%とした。」(第311頁右欄12行目~第312頁左欄1行目)
イ 「
[図:0001381664000001.jpg]
図-4 スラグの粒度分布測定値と反応層厚さ計算値」(第314頁左欄)
ウ 「図-4にレーザー回折式粒度分布測定装置により求めたスラグの粒度分布測定結果と、式(2)により求めたスラグ反応率と反応層厚さ計算値との関係についてそれぞれ示す。」(第314頁左欄3~6行目)
(2)甲第1号証に記載された発明
上記(1)ア~ウの記載を「ブレーン粉末度6000(BFS6000)のスラグ」を用いた「高炉セメント」に注目して整理すると、甲第1号証には、
「ブレーン粉末度が6000であり、レーザー回折式粒度分布測定により求めた粒度分布測定結果が以下の【図面】の破線で示されたグラフのとおりであるスラグを含む、高炉セメント。
【図面】
[図:0001381664000002.jpg]
」の発明(以下、「甲1発明1」という。)が記載されているといえる。
また、上記(1)ア~ウの記載を「ブレーン粉末度6000(BFS6000)のスラグ」を用いた「高炉セメントの製造方法」に注目して整理すると、甲第1号証には、
「ブレーン粉末度が6000であり、レーザー回折式粒度分布測定により求めた粒度分布測定結果が上記【図面】の破線で示されたグラフのとおりであるスラグを用いる、高炉セメントの製造方法。」
の発明(以下、「甲1発明2」という。)が記載されているといえる。
3 取消理由に対する当審の判断
(1)取消理由1(新規性欠如)について
ア 本件発明1
(ア)本件発明1と甲1発明1の対比
本件発明1と甲1発明1とを対比すると、両者は、「スラグ粉を含む、高炉セメント」の点で一致し、以下の点で相違している。
<相違点1>
本件発明1では、スラグ粉の「ブレーン比表面積が4000~5500cm2/g」であるのに対し、甲1発明1では、スラグ粉の「ブレーン粉末度が6000」である点。
<相違点2>
本件発明1では、スラグ粉の粒度分布に関し、「レーザー回折式粒度分布測定法によって測定された24μm篩残分が30体積%以下であり、かつ、10μm篩通過分が35体積%以下である」のに対して、甲1発明1では、レーザー回折式粒度分布測定により求めた粒度分布測定結果が上記【図面】の破線で示されたグラフのとおりであるものの、24μm篩残分及び10μm篩通過分が明らかでない点。
(イ)相違点に対する判断
事案に鑑み、まず、相違点2について検討する。
甲1発明1の「【図面】の破線で示されたグラフ」は、レーザー回折式粒度分布測定装置により求めたスラグの粒度分布測定結果であるところ、当該グラフにおいて、横軸の値が0.4μmの位置から開始して、横軸方向に0.3μm刻みの位置でそれぞれ縦軸の値を読み取り、52.3μmの位置まで合計174点の値を読み取り、読み取った縦軸の値を加算して「累積相対体積(%)」を算出すると、横軸が10μm及び23.8μmの位置における累積相対体積は、それぞれ、34%程度及び84%程度となり、甲1発明1のスラグ粉の10μm通過分及び23.8μm篩残分は、それぞれ、34%程度及び16%程度であるといえるから、甲1発明1のスラグ粉の粒度分布は、「レーザー回折式粒度分布測定法によって測定された24μm篩残分が30体積%以下であり、かつ、10μm篩通過分が35体積%以下である」ことを満たしているといえ、相違点2は実質的なものでない。
次に、相違点1について検討すると、甲1発明1のスラグの「ブレーン粉末度が6000」であることは、JIS規格(JIS A 6206)によれば、比表面積が5000cm2/g以上7000cm2/g未満であるといえるものの、4000~5500cm2/gであるといえないため、相違点1は実質的なものである。
したがって、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明(甲1発明1)であるといえない。
イ 本件発明3、4について
本件発明3、4は、本件発明1を直接的又は間接的に引用し、本件発明1の発明特定事項を更に限定するものであるから、上記アで検討したとおり、本件発明3、4は、甲第1号証に記載された発明(甲1発明1)であるといえない。
ウ 本件発明5について
(ア)本件発明5と甲1発明2の対比
甲1発明2の高炉スラグの製造方法において、スラグ粉を用いるためには、原料である高炉スラグから粉砕・分級といった公知の手段により調製してスラグ粉を得ることは明らかであるから、甲1発明2の「スラグ粉を用いる」ことは、本件発明5の「原料スラグを」「調製してスラグ粉を得る工程」に相当する。
したがって、本件発明5と甲1発明2とは、「原料スラグを調製してスラグ粉を得る工程を含む、高炉セメントの製造方法」の点で一致し、以下の点で相違している。
<相違点3>
本件発明5では、スラグ粉の「ブレーン比表面積が4000~5500cm2/g」となるように調製しているのに対し、甲1発明2では、「ブレーン粉末度が6000」のスラグ粉を用いている点。
<相違点4>
本件発明5では、スラグ粉の粒度分布に関し、「レーザー回折式粒度分布測定法によって測定された24μm篩残分が30体積%以下であり、かつ、10μm篩通過分が35体積%以下」となるように調製しているのに対し、甲1発明2では、レーザー回折式粒度分布測定により求めた粒度分布測定結果が上記【図面】の破線で示されたグラフのとおりであるスラグ粉を用いているものの、24μm篩残分及び10μm篩通過分が明らかでない点。
(イ)相違点に対する判断
相違点3及び4について検討すると、上記ア(イ)での検討と同様に、相違点4は実質的なものといえないものの、相違点3も実質的なものであるといえるから、本件発明5は、甲第1号証に記載された発明(甲1発明2)であるといえない。
(2)取消理由2(明確性要件違反)について
本件訂正請求により、記載不備を指摘した請求項2は削除された。
(3)小括
したがって、取消理由1、2に理由はない。
第5 取消理由で採用しなかった特許異議申立理由
1 特許異議申立理由の概要
申立人が主張する特許異議申立理由のうち、上記第4の1の取消理由において採用しなかった本件発明1、3~5に対する特許異議申立理由は、概略、以下のとおりである。
(1)申立理由1(進歩性欠如)
本件訂正前の請求項1、3~5に係る発明は、上記甲第1号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件訂正前の請求項1、3~5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(2)申立理由2(実施可能要件違反)
本件特許は、発明の詳細な説明の記載が後記3(1)の点で不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
2 申立理由1(進歩性欠如)に対する判断
(1)本件発明1について
本件発明1と甲1発明1とを対比すると、上記第4の3の(1)アで検討したとおり、相違点1で実質的に相違しているといえる。
そこで、相違点1について検討すると、甲第1号証には、上記【図面】の破線で示されたグラフのスラグ粉について、レーザー回折式粒度分布測定法によって測定された24μm篩残分が30体積%以下であり、かつ、10μm篩通過分が35体積%以下であることを満たしながら、そのブレーン比表面積を4000~5500cm2/gとすることについては記載も示唆もない。
また、甲第1号証には、上記【図面】の実線のグラフで示されたブレーン粉末度4000のスラグ粉を用いることは記載されているものの、上記【図面】の破線と実線のグラフでも示されるように、ブレーン粉末度が異なるスラグ粉は、その粒度分布は大きく異なることが通常である。
しかも、甲第1号証には、粒度分布を変更することなく、ブレーン比表面積を小さくすることについて記載されていないし、そのようなことが技術常識であるという証拠もないため、甲1発明において、レーザー回折式粒度分布測定法によって測定された24μm篩残分が30体積%以下であり、かつ、10μm篩通過分が35体積%以下であることを満たしながら、ブレーン比表面積を4000~5500cm2/gとすることの動機付けを見いだすこともできない。
よって、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明(甲1発明1)に基づき当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(2)本件発明3、4について
本件発明3、4は、本件発明1を直接的又は間接的に引用し、本件発明1の発明特定事項を更に限定するものであるから、上記(1)で検討したとおり、本件発明3、4は、甲第1号証に記載された発明(甲1発明1)に基づき当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(3)本件発明5について
本件発明5と甲1発明2とを対比すると、上記第4の3の(1)で検討したとおり、相違点3に係る本件発明5の発明特定事項は、容易想到な事項といえないから、本件発明5は、甲第1号証に記載された発明(甲1発明2)に基づき当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(4)申立人の主張の検討
申立人は、特許異議申立書の第10、11頁において、劣化した原料スラグを用いながらも劣化していない原料スラグと同等の性能を有するスラグ粉を提供しようと考える当業者であれば、原料スラグの劣化部分が多く含まれている部分の一部を取り除くことで、10μm篩通過分が35体積%以下となるように粒子径が小さい部分の含有量を小さくすることは、当業者が容易に想到し得た旨を主張する。
しかしながら、甲第1号証には、原料スラグが劣化した部分を有することや、原料スラグを粉砕すると劣化した部分が10μmの篩を通過するような小さな粒子径になることは記載も示唆されていない。
また、原料スラグの劣化部分が多く含まれている部分の一部を取り除くことで、レーザー回折式粒度分布測定法によって測定された24μm篩残分が30体積%以下であり、かつ、10μm篩通過分が35体積%以下であることを満たしながら、ブレーン比表面積を4000~5500cm2/gとなることを示す証拠もない。
よって、申立人の上記主張は採用できない。
3 申立理由2(実施可能要件違反)に対する判断
(1)申立理由2の具体的な理由
申立人の主張する具体的な理由は、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、所定の性状を有するスラグ粉をどのようにして得ることができるのかという点について、当業者が実施することができる程度に明確かつ十分なものではないというものである(特許異議申立書の第15~17頁)。
(2)当審の判断
本件特許明細書には、下記ア~エの記載がある。
ア 「【0027】[スラグ粉の製造方法]次に、本発明の高炉セメントに含まれるスラグ粉の製造方法を説明する。・・・例えば、原料スラグを試験用ボールミルで粉砕する場合、試験用ボールミル(株式会社セイワ技研製 直径508mm、長さ610mm、回転数:最大50rpm、容量100L)に用いる粉砕媒体としては、金属ボール等を使用することができる。粉砕媒体は、ボール径が7mm~15mmのもの好ましい。ボール径が7mm未満であると、粉砕能力が低下し、ボール径が15mmを超えると所望の粒度分布となるように粉砕できない場合がある。粉砕時間は、150~300分が好ましい。粉砕時間が150分未満であると、所望の粒度分布となるように粉砕できない場合があり、粉砕時間が300分を超えると、粉砕後のスラグ粉のブレーン比表面積が7000cm2/gを超える場合がある。」
イ 「【0028】レーザー回折式粒度分布測定法によって測定された10μm篩通過分が35体積%以下となるように、10μ篩通過分から微粉化されたスラグ粉を除く操作を行なうとともに、ブレーン比表面積を4000~7000cm2/gに調製してもよい。」
ウ 「【0037】[実施例1~5のスラグ粉の製造]実施例1において、初期において表2に示すig.loss量及び化学成分の値を有する原料スラグを用い、実施例2~5において、初期において表2に示すig.loss量及び化学成分の値を有し、保管中に表3に示すig.loss量となった各原料スラグを用いて、レーザー回折式粒度分布測定法によりレーザー回折式粒度分析計(日機装株式会社製、製品名:マイクロトラックMT-3300EX)を用いて測定した24μm篩残分が30体積%以下の表3に示す値となるように、粉砕媒体として直径9mmの金属ボールを用いて、試験用ボールミル(株式会社セイワ技研製、装置名:AXB-100)を用いて、150~240分かけて粉砕し、ブレーン比表面積が4000~7000cm2/gの表3に示す値となるように調製した、実施例1~5のスラグ粉を得た。」
エ 「【表3】
[図:0001381664000003.jpg]
」
上記ア~エの記載によれば、本件特許明細書には、原料スラグの粉砕条件の詳細と、該条件で処理したときに実際に本件発明に係る所定の性状を有するスラグ粉を製造できたことに加え、篩通過分と篩残分が所定範囲となるよう必要に応じて分級操作を行うことも記載されている。
そうすると、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件発明について当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているといえる。
4 小括
したがって、申立理由1、2に理由はない。
第6 令和 3年 8月16日提出の意見書において申立人が主張する新たな理由について
1 申立人の主張する新たな理由の概要
申立人の主張する理由は、下記甲第2号証の「図-3 粒度分布測定例」(第123頁)に示された粒度分布を有する「BS40」及び「BS60」のスラグ粉を使用したセメント及びその製造方法を甲第2号証に記載された発明と認定し、前記粒度分布は、本件発明1及び5の「レーザー回折式粒度分布測定法によって測定された24μm篩残分が30体積%以下であり、かつ、10μm篩通過分が35体積%以下である」との発明特定事項を満足するとしたうえで、本件発明1、5は、甲第2号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、その特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであるというものである。
(証拠方法)
甲第2号証:加藤 佳孝 他、セメントペーストの凝集構造がブリーディング現象に与える影響、土木学会論文集、1998年5月、Vol.39、No.592、P121-129
2 当審の判断
まず、甲第2号証の「図-3 粒度分布測定例」に示された粒度分布が、本件発明1及び5の「レーザー回折式粒度分布測定法によって測定された24μm篩残分が30体積%以下であり、かつ、10μm篩通過分が35体積%以下である」との発明特定事項を満足するかどうかについて検討する。
申立人は、意見書の第4~9頁において、甲第2号証の「図-3 粒度分布測定例」の「BS40」及び「BS60」で示されたグラフに対して、データを読み取って、異議申立書に示したのと同様の操作を行い、累積相対体積(%)に換算した結果、「BS40」の24μmの篩残分が約24.5%、10μmの篩通過分が約31.8%であり、「BS60」の24μmの篩残分が約22.9%、10μmの篩通過分が約34.8%であると主張している。
しかしながら、申立人が読み取ったデータは(意見書第6、8頁の表参照)は、粒子径に関して、異議申立書で行ったように等間隔で読み取ったものでなく、正しい累積相対体積(%)を示しているといえないから、「BS40」及び「BS60」の24μmの篩残分及び10μmの篩通過分が上記数値であるとはいえない。
また、「BS40」及び「BS60」の粒度分布が、本件発明1及び5の「レーザー回折式粒度分布測定法によって測定された24μm篩残分が30体積%以下であり、かつ、10μm篩通過分が35体積%以下である」との発明特定事項を満たしているという証拠もない。
したがって、本件発明1、5と甲第2号証に記載された発明2とは、少なくともスラグ粉の粒度分布が相違するから、その他の点を検討するまでもなく、本件発明1、5は、甲第2号証に記載された発明であるといえない。
3 小括
したがって、申立人の主張する新たな理由に理由はない。
第7 むすび
以上のとおりであるから、請求項1、3~5に係る特許は、特許異議申立書に記載された申立理由、及び、取消理由に記載した取消理由によっては、取り消すことができない。
また、他に請求項1、3~5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして、本件訂正請求により、請求項2は削除されたため、請求項2に係る特許についての特許異議の申立ては、その対象となる特許が存在しないものとなったから、特許法第120条の8第1項で準用する同法135条の規定により、その申立てを却下する。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2021-700017