特許拒絶査定不服審判
2021-009801
ブルトン型チロシンキナーゼ阻害剤の結晶形態
- 審判番号
- 2021-009801
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2019-163455外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2021年07月21日
- 審決日
- 2023年03月10日
- 公報発行日
- 2023年08月25日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】ファーマサイクリックス エルエルシー
- 【請求人代理人】清原 義博
- 【請求人代理人】清原 直己
- 分類
- P18 .121-Z (C07D)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第29条
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2019-163455「ブルトン型チロシンキナーゼ阻害剤の結晶形態」拒絶査定不服審判事件〔令和 2年 1月30日出願公開、特開2020- 15744〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
この出願は、2013年(平成25年)6月3日(パリ条約による優先権外国庁受理 2012年6月4日、米国(US))を国際出願日とする特願2015-516091号の一部を平成29年10月26日に特願2017-207591号として新たな特許出願とし、さらにその一部を令和元年9月6日に新たな特許出願としたものであって、同年10月4日に手続補正書が提出され、令和2年9月11日付けで拒絶理由が通知され、令和3年2月15日に意見書及び手続補正書が提出され、同年3月19日付けで拒絶査定され、同年7月21日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出され、同年9月9日に手続補正書(方式)が提出されたものである。
第2 本願発明について
この出願の特許請求の範囲の記載は、令和3年7月21日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1~32に記載されたとおりであるところ、その請求項6に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりである。
「 【請求項6】
1-((R)-3-(4-アミノ-3-(4-フェノキシフェニル)-1H-ピラゾロ[3,4-d]ピリミジン-1-イル)ピペリジン-1-イル)プロプ-2-エン-1-オンの結晶形であって、該結晶形は、7.0±0.1°2-シータ、14.0±0.1°2-シータ、15.7±0.1°2-シータ、18.2±0.1°2-シータ、19.1±0.1°2-シータ、19.5±0.1°2-シータ、20.3±0.1°2-シータ、22.1±0.1°2-シータ、及び22.9±0.1°2-シータに特徴的なピークを伴うXRPDパターンを有する、結晶形。」
第3 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由となった令和2年9月11日付けで通知した拒絶理由の理由1は、概略、以下のとおりである。
この出願の請求項1~25、29~32に係る発明は、本願の優先権主張の日(以下「本願優先日」という。)前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である下記の引用文献1に記載された発明及び本願優先日時点の技術常識に基いて、本願優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、というものである。
1 特表2010-504324号公報
2 平山令明編、有機化合物結晶作製ハンドブック -原理とノウハウ-、丸善株式会社、2008年 7月25日、p.57~84
3 PHARM STAGE、2007年、6、p.20~25
4 特表2010-535232号公報
引用文献2~4は、本願優先日時点の技術常識を示す文献である。
令和2年9月11日付けで通知した拒絶理由の対象となった令和元年10月4日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲に記載された請求項6に係る発明、及び、上記拒絶査定の対象となった令和3年2月15日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲に記載された請求項6に係る発明は、ともに本願発明に対応している。
第4 当審の判断
当審合議体は、上記原査定の拒絶の理由1のとおり、本願発明は、本願優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である下記の引用文献1に記載された発明及び本願優先日時点の技術常識に基いて、本願優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないと考える。
理由は、以下のとおりである。
引用文献1:特表2010-504324号公報
引用文献2:平山令明編、有機化合物結晶作製ハンドブック -原理とノウハウ-、丸善株式会社、2008年 7月25日、p.57~84
引用文献3:PHARM STAGE、Vol.6、No.10、2007年、p.20~25
引用文献4:岡野定舗編著、新・薬剤学総論 改訂第3版、株式会社南江堂、1987年4月10日、p.26,111,256,257
引用文献5:C. G. WERMUTH編、長瀬博監訳、最新 創薬化学 下巻、株式会社テクノミック、1999年9月25日、p.452~453
引用文献6:社団法人日本化学会編、化学便覧 応用化学編 第6版、丸善株式会社、2003年1月30日、p.178
引用文献7:松岡正邦監修、結晶多形の基礎と応用 普及版、株式会社シーエムシー出版、2010年10月22日、p.105
引用文献8:浅原照三 外4名編、溶剤ハンドブック、株式会社講談社、1985年9月1日、p.47~51
なお、引用文献2~8は、本願優先日時点の技術常識を示すためのものである。
1 引用文献及びその記載事項
(1)引用文献1:(原査定で引用された引用文献1)
原査定で引用された本願優先日前に頒布された引用文献1には、次の記載がある。
(1a)「【技術分野】
・・・
【0002】
本明細書に記載されているのは、チロシンキナーゼの活性を阻害するための化合物、そのような化合物の製造方法、そのような化合物を含む医薬組成物および薬物、並びにそれらの化合物および組成物の使用方法である。
【背景技術】
【0003】
Tecファミリー非受容体型チロシンキナーゼのメンバーである、ブルートンチロシンキナーゼ(Btk)は、Tリンパ球およびナチュラルキラー細胞を除く、ありとあらゆる造血細胞において発現している重要なシグナル酵素である。Btkは、B細胞のシグナル経路において、細胞表面のB細胞受容体(BCR)の刺激と下流の細胞内の反応とを結び付ける、重要な役割を果たしている。
・・・
【0005】
(発明の概要)
本明細書に記載されているのは、ブルートンチロシンキナーゼ(Btk)の阻害剤である。・・・さらに記載されているのは、Btkの不可逆的な阻害剤を含む医薬製剤である。
・・・
【0007】
一つの形態において、本明細書で提供されているのは式(D)の化合物である。式(D)を以下に示す:
【化1】
[図:0001399818000001.jpg]
[式中、
Laは、CH2、O、NH、またはSであり;
Arは、置換もしくは無置換アリール、または、置換もしくは無置換ヘテロアリールであり;
Yは、アルキル、ヘテロアルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール、およびヘテロアリールから選択される適宜置換された基であり;
Zは、C(=O)、OC(=O)、NHC(=O)、C(=S)、S(=O)x、OS(=O)x、NHS(=O)xであり、その中でxは1または2であり;
R7およびR8は独立して、H、無置換C1-C4アルキル、置換C1-C4アルキル、無置換C1-C4ヘテロアルキル、置換C1-C4ヘテロアルキル、無置換C3-C6シクロアルキル、置換C3-C6シクロアルキル、無置換C2-C6ヘテロシクロアルキル、および置換C2-C6ヘテロシクロアルキルから選択され;あるいは、
R7およびR8は、一緒になって結合を形成し;
R6は、H、置換もしくは無置換C1-C4アルキル、置換もしくは無置換C1-C4ヘテロアルキル、C1-C6アルコキシアルキル、C1-C8アルキルアミノアルキル、置換もしくは無置換C3-C6シクロアルキル、置換もしくは無置換アリール、置換もしくは無置換C2-C8ヘテロシクロアルキル、置換もしくは無置換ヘテロアリール、C1-C4アルキル(アリール)、C1-C4アルキル(ヘテロアリール)、C1-C4アルキル(C3-C8シクロアルキル)、またはC1-C4アルキル(C2-C8ヘテロシクロアルキル)である]
によって表される構造を有する化合物、並びに、その医薬的に活性な代謝物、または医薬的に許容される溶媒和物、医薬的に許容される塩、または医薬的に許容されるプロドラッグ。
【0008】
いずれの、および全ての態様において、置換基は示した選択肢の部分集合の中から選択することができる。例えばある態様において、LaはCH2、OまたはNHである。別の態様において、LaはOまたはNHである。さらに別の態様において、LaはOである。
【0009】
ある態様において、Arは置換もしくは無置換アリールである。別の態様において、Arは6員アリールである。さらに別の態様において、Arはフェニルである。
【0010】
ある態様において、Xは2である。別の態様において、ZはC(=O)、OC(=O)、NHC(=O)、S(=O)x、OS(=O)x、またはNHS(=O)xである。さらに別の態様において、ZはC(=O)、NHC(=O)、またはS(=O)2である。
【0011】
ある態様において、R7およびR8は独立して、H、無置換C1-C4アルキル、置換C1-C4アルキル、無置換C1-C4ヘテロアルキル、および置換C1-C4ヘテロアルキルから選択され;あるいは、R7およびR8は一緒になって結合を形成する。別の態様において、R7およびR8のそれぞれはHであり;あるいは、R7およびR8は一緒になって結合を形成する。
【0012】
ある態様において、R6はH、置換もしくは無置換C1-C4アルキル、置換もしくは無置換C1-C4ヘテロアルキル、C1-C6アルコキシアルキル、C1-C8アルキルアミノアルキル、置換もしくは無置換アリール、置換もしくは無置換ヘテロアリール、C1-C4アルキル(アリール)、C1-C4アルキル(ヘテロアリール)、C1-C4アルキル(C3-C8シクロアルキル)、またはC1-C4アルキル(C2-C8ヘテロシクロアルキル)である。別の態様において、R6はH、置換もしくは無置換C1-C4アルキル、置換もしくは無置換C1-C4ヘテロアルキル、C1-C6アルコキシアルキル、C1-C2アルキル-N(C1-C3アルキル)2、C1-C4アルキル(アリール)、C1-C4アルキル(ヘテロアリール)、C1-C4アルキル(C3-C8シクロアルキル)、またはC1-C4アルキル(C2-C8ヘテロシクロアルキル)である。別の態様において、R6はH、置換もしくは無置換C1-C4アルキル、-CH2-O-(C1-C3アルキル)、-CH2-N(C1-C3アルキル)2、C1-C4アルキル(フェニル)、またはC1-C4アルキル(5または6員ヘテロアリール)。別の態様において、R6はH、置換もしくは無置換C1-C4アルキル、-CH2-O-(C1-C3アルキル)、-CH2-(C1-C6アルキルアミノ)、C1-C4アルキル(フェニル)、またはC1-C4アルキル(5または6員ヘテロアリール)。また別の態様において、R6はH、置換もしくは無置換C1-C4アルキル、-CH2-O-(C1-C3アルキル)、-CH2-N(C1-C3アルキル)2、C1-C4アルキル(フェニル)、またはC1-C4アルキル(N原子を1つまたは2つ含む、5または6員ヘテロアリール)、またはC1-C4アルキル(N原子を1つまたは2つ含む、5または6員ヘテロシクロアルキル)。
【0013】
ある態様において、Yはアルキル、ヘテロアルキル、シクロアルキル、およびヘテロシクロアルキルから選択される適宜置換された基である。別の態様において、YはC1-C6アルキル、C1-C6ヘテロアルキル、4、5、6、もしくは7員シクロアルキル、および4、5、6、もしくは7員ヘテロシクロアルキルから選択される適宜置換された基である。別の態様において、YはC1-C6アルキル、C1-C6ヘテロアルキル、5もしくは6員シクロアルキル、およびN原子を1つまたは2つ含む5もしくは6員ヘテロシクロアルキルから選択される適宜置換された基である。別の態様において、Yは5もしくは6員シクロアルキル、またはN原子を1つまたは2つ含む5もしくは6員ヘテロシクロアルキルである。さらに別の態様において、Yは4、5、6、もしくは7員シクロアルキル環であるか;またはYは4、5、6、もしくは7員ヘテロシクロアルキル環である。
【0014】
様々な置換基の記号についての上で記載されているいずれの基の組み合わせについてもここでは意図されている。本明細書で提供されている化合物の置換基および置換パターンは、当該技術分野の通常の技術の一つを選択して、化学的に安定で、周知の手法により合成できる化合物、並びに本明細書で示された化合物を提供できると理解されている。
【0015】
ある形態において、本明細書で提供されているのは、
1-(3-(4-アミノ-3-(4-フェノキシフェニル)-1H-ピラゾロ[3,4-d]ピリミジン-1-イル)ピペリジン-1-イル)プロパ-2-エン-1-オン(化合物4);
(E)-1-(3-(4-アミノ-3-(4-フェノキシフェニル)-1H-ピラゾロ[3,4-d]ピリミジン-1-イル)ピペリジン-1-イル)ブタ-2-エン-1-オン(化合物5);
1-(3-(4-アミノ-3-(4-フェノキシフェニル)-1H-ピラゾロ[3,4-d]ピリミジン-1-イル)ピペリジン-1-イル)スルホニルエテン(化合物6);
1-(3-(4-アミノ-3-(4-フェノキシフェニル)-1H-ピラゾロ[3,4-d]ピリミジン-1-イル)ピペリジン-1-イル)プロパ-2-イン-1-オン(化合物8);
1-(4-(4-アミノ-3-(4-フェノキシフェニル)-1H-ピラゾロ[3,4-d]ピリミジン-1-イル)ピペリジン-1-イル)プロパ-2-エン-1-オン(化合物9);
N-((1s,4s)-4-(4-アミノ-3-(4-フェノキシフェニル)-1H-ピラゾロ[3,4-d]ピリミジン-1-イル)シクロヘキシル)アクリルアミド(化合物10);
1-((R)-3-(4-アミノ-3-(4-フェノキシフェニル)-1H-ピラゾロ[3,4-d]ピリミジン-1-イル)ピロリジン-1-イル)プロパ-2-エン-1-オン(化合物11);
1-((S)-3-(4-アミノ-3-(4-フェノキシフェニル)-1H-ピラゾロ[3,4-d]ピリミジン-1-イル)ピロリジン-1-イル)プロパ-2-エン-1-オン(化合物12);
1-((R)-3-(4-アミノ-3-(4-フェノキシフェニル)-1H-ピラゾロ[3,4-d]ピリミジン-1-イル)ピペリジン-1-イル)プロパ-2-エン-1-オン(化合物13);
1-((S)-3-(4-アミノ-3-(4-フェノキシフェニル)-1H-ピラゾロ[3,4-d]ピリミジン-1-イル)ピペリジン-1-イル)プロパ-2-エン-1-オン(化合物14);および、
(E)-1-(3-(4-アミノ-3-(4-フェノキシフェニル)-1H-ピラゾロ[3,4-d]ピリミジン-1-イル)ピペリジン-1-イル)-4-(ジメチルアミノ)ブタ-2-エン-1-オン(化合物15)
の中から選択される化合物である。
【0016】
さらなる形態において、本明細書のいずれかの少なくとも一つの治療上の有効量の化合物を含む医薬的組成物、または医薬的に許容される塩、医薬的に活性な代謝物、医薬的に許容されるプロドラッグ、もしくは医薬的に許容される溶媒和物が提供されている。ある特定の態様において、本明細書で提供される組成物にはさらに医薬的に許容される希釈剤、賦形剤および/または結合剤が含まれる。
・・・
【0023】
別の態様において本明細書で提供される化合物は、チロシンキナーゼ活性の阻害のための薬物の製剤に用いられる。また別の態様において本明細書で提供されている化合物は、ブルートンチロシンキナーゼ(Btk)活性の阻害のための薬物の製剤に用いられる。」
(1b)「【0229】
本明細書に記載されている方法および製剤には、N-オキシド、結晶形(多形体としても知られている)、または本明細書に記載されている化合物の医薬的に許容される塩、並びにそれらの化合物で同じ種類の活性を有する活性代謝物の使用が含まれる。ある状況において、化合物は互変異性体として存在し得る。全ての互変異性体は、本明細書で示されている化合物の範囲内で含まれている。加えて、本明細書に記載されている化合物は、非溶媒和物の中、並びに医薬的に許容される溶媒である水、エタノール、などを加えた溶媒和物の形で存在することができる。本明細書で示されている化合物の溶媒和物の形も、本明細書で開示するために、また検討されている。」
(1c)「【0242】
本明細書に記載されている化合物は、多様な形であり得て、以下に限定されないが、非晶形、製粉された形およびナノ微粒子形が含まれる。加えて、本明細書に記載されている化合物には、結晶形が含まれ、これは多形体としても知られている。多形体には、化合物の同じ組成物成分を有する異なる結晶充填構造が含まれる。多形体は通常、異なるX線回折図形、赤外線スペクトル、融点、密度、硬度、結晶形、光学的および電気的性質、安定性、並びに溶解度を有する。多様な要因、例えば再結晶化溶媒、結晶化率、および保管温度が、単結晶形が占めることを引き起こし得る。
【0243】
医薬的に許容される塩、多形体および/または溶媒和物のスクリーニングおよび特徴付けは、様々な技術を用いて達成され得て、それらにはこれらに限定されないが、熱解析、X線回折、分光法、蒸気吸着、および顕微鏡使用が含まれる。熱解析方法は、熱化学分解または熱力学的プロセスを扱い、多形転移が含まれるがこれに限定されることはなく、そしてそのような方法は、多形層同士の関係を分析する、重量損失を決定する、ガラス転移温度を見つける、または賦形剤適合性研究のために用いられる。そのような方法には、これらに限定されないが、示差走査熱量測定(DSC)、変調示差走査熱量測定(MDCS)、熱重量分析(TGA)、並びに熱重量および赤外分析(Thermogravi-metric and Infrared analysis)(TG/IR)が含まれる。X線回折方法には、これらに限定されないが、単結晶、および粉末回折計、およびシンクロトロン放射源が含まれる。用いられている多様な分光技術には、これらに限定されないが、ラマン、FTIR、UVIS、およびNMR(液体および固体状態)が含まれる。多様な顕微鏡使用技術には、これらに限定されないが、偏光顕微鏡、エネルギー分散型X線分析(EDX)とともに用いる走査型電子顕微鏡(SEM)、EDX(気体または水蒸気雰囲気の中)とともに用いる環境制御型走査電子顕微鏡、IR顕微鏡、およびラマン顕微鏡が含まれる。
【0244】
明細書を通して、それらの基および置換基は、安定な部分および化合物を提供するために当業者によって選ばれ得る。」
(1d)「【0389】実施例1:化合物の合成
4-アミノ-3-(4-フェノキシフェニル)-1H-ピラゾロ[3,4-d]ピリミジン(中間体2)の製造
国際特許出願国際公開第WO01/019829号に開示されているように、4-アミノ-3-(4-フェノキシフェニル)-1H-ピラゾロ[3,4-d]ピリミジン(中間体2)は製造される。簡潔に、4-フェノキシ安息香酸(48g)を、塩化チオニル(100ml)に加え、そして穏やかに還流させながら1時間加熱する。塩化チオニルは蒸留を用いて除去し、残った油状物はトルエンに溶かし、揮発性物質は80℃/20mbarで除去する。生じた酸塩化物は、トルエン(200ml)およびテトラヒドロフラン(35ml)に溶解する。マロノニトリル(14.8g)を加え、トルエン(150ml)に溶かしたジイソプロピルエチルエチルアミン(57.9g)を加えながら、溶液を-10℃で攪拌し、温度を0℃以下に維持する。0℃のまま1時間した後、混合物を20℃で一晩攪拌する。アミン塩酸塩は、ろ過を用いて移し、そのろ過液は減圧下で蒸発する。その残基は、酢酸エチルに取り込まれ、硫酸1.25Mで、次に食塩水で洗浄し、そしてナトリウム硫酸塩を用いて乾燥する。溶媒の蒸発で半固体の残基が得られ、それはわずかな酢酸エチル処理により、1,1-ジシアノ-2-ヒドロキシ-2-(4-フェノキシフェニル)エテン(4.1g)を白色固形物(融点は160から162℃)として得られる。蒸発のろ過液は、56.5g(96%)の1,1-ジシアノ-2-ヒドロキシ-2-(4-フェノキシフェニル)エテンを灰褐色固形物として得られ、それはその後に用いる上で十分に純粋である。
【0390】
1,1-ジシアノ-2-ヒドロキシ-2-(4-フェノキシフェニル)エテン(56.5g)のアセトニトリル(780ml)およびメタノール(85ml)溶液を、窒素のもとで0℃で攪拌し、一方でジイソプロピルエチルアミン(52.5ml)を、続いて2Mのトリメチルシリルジアゾメタン(150ml)のTHF溶液を加える。反応は2日かけて20℃で攪拌し、次にのシリカ(2g)を加える(クロマトグラフィーのために)。その赤褐色溶液を減圧下で蒸発し、その残基を酢酸エチルに溶解し、水で、次いで食塩水で十分に洗浄し、乾燥および蒸発する。その残基を、不溶性の油からデカントし、ジエチルエーテル(3x250ml)で抽出する。エーテル抽出物の蒸発で、1,1-ジシアノ-2-メトキシ-2-(4-フェノキシフェニル)エテン(22.5g)が薄い橙色固形物として得られる。不溶性の油状物をフラッシュクロマトグラフィーによって精製し、15.0gの赤橙色が得られる。
【0391】
1,1-ジシアノ-2-メトキシ-2-(4-フェノキシフェニル)エテン(22.5g)、および1,1-ジシアノ-2-メトキシ-2-(4-フェノキシフェニル)エテンの油状物(15g)は、ヒドラジン水和物(18ml)のエタノール(25ml)溶液によって処理し、スチームバスで1時間加熱する。エタノール(15ml)を加え、続いて水(10ml)を加える。その沈殿固形物を回収し、エタノール:水(4:1)を用いて洗浄し、続いて空気中で乾燥し、3-アミノ-4-シアノ-5-(4-フェノキシフェニル)ピラゾールが薄い橙色固体として得られる。
【0392】
3-アミノ-4-シアノ-5-(4-フェノキシフェニル)ピラゾール(29.5g)を、ホルムアミド(300ml)で懸濁し、窒素下、4時間180℃で加熱する。その反応混合物を、30℃まで冷却し、水(300ml)を加える。その固形物を回収し、水を用いて、次にメタノールを用いて十分に洗浄し、そして空気中で乾燥し、4-アミノ-3-(4-フェノキシフェニル)-1H-ピラゾロ[3,4-d]ピリミジンが得られる。
【0393】
実施例1a:1-(3-(4-アミノ-3-(4-フェノキシフェニル)-1H-ピラゾロ[3,4-d]ピリミジン-1-イル)ピペリジン-1-イル)プロパ-2-エン-1-オン(化合物4)の合成
反応式1
【化22】
[図:0001399818000002.jpg]
化合物4の合成;a)重合体に結合したトリフェニルホスフィン(TPP)、ジアゾジカルボン酸ジイソプロピル(DIAD)、テトラヒドロフラン(THF);b)HCl/ジオキサン;次いで塩化アクリロイル、トリエチルアミン(TEA)。
本明細書に記載されている化合物は、反応式1で述べた手順に従って合成する。反応式1で示されている、反応条件の詳細な、実例となる実施例は、1-(3-(4-アミノ-3-(4-フェノキシフェニル)-1H-ピラゾロ[3,4-d]ピリミジン-1-イル)ピペリジン-1-イル)プロパ-2-エン-1-オン(化合物4)の合成のために記載されている。
【0394】
4-アミノ-3-(4-フェノキシフェニル)-1H-ピラゾロ[3,4-d]ピリミジン(101mg)、および重合体に結合したトリフェニルホスフィン(TPP)(ポリマーラブ(polymerlab))(330mg)を、テトラヒドロフラン(THF)(5ml)と一緒に混合した。3-ヒドロキシピペリジン-1-カルボン酸tert-ブチル(200mg;2.0当量)を混合物に加え、続いてジアゾジカルボン酸ジイソプロピル(0.099ml)を加えた。その反応混合物を、室温で一晩攪拌した。その反応混合物をフィルター処理して残基を取り除き、反応混合物を濃縮し、そしてフラッシュクロマトグラフィー(ペンタン/酢酸エチル=1/1)によって精製して、中間体3(55mg)を得た。
【0395】
中間体3(48.3mg)をジオキサンの中で、の4NHCl(1ml)により1時間処理して、次に濃縮乾固した。その残基をジクロロメタンに溶解して、トリエチルアミン(0.042ml)を加え、続いて塩化アクリル(0.010ml)を加えた。その反応を2時間して、とめた。反応混合物を5%重量含水クエン酸で、次いで食塩水で洗浄した。有機層をMgSO4で乾燥し、濃縮した。フラッシュクロマトグラフィー(CH2Cl2/MeOH=25/1による)で、化合物4(22mg)を白色固形物として得た。MS(M+1): 441.2; 1H-NMR (400MHz): 8.26, s, 1H; 7.65, m, 2H; 7.42, m, 2H; 7.1-7.2, m, 5H; 6.7-6.9, m, 1H; 6.1, m, 1H; 5.5-5.7, m, 1H; 4.7, m, 1H; 4.54, m, 0.5H; 4.2, m, 1H; 4.1, m, 0.5H; 3.7, m, 0.5H; 3.2, m, 1H; 3.0, m, 0.5H; 2.3, m, 1H; 2.1, m, 1H; 1.9, m, 1H; 1.6, m, 1H.
【0396】
実施例1b:1-((R)-3-(4-アミノ-3-(4-フェノキシフェニル)-1H
-ピラゾロ[3,4-d]ピリミジン-1-イル)ピペリジン-1-イル)プロパ-2-エン-1-オン(化合物13)の合成
【化23】
[図:0001399818000003.jpg]
化合物13の合成は、実施例1aで記載されているのと類似した手順により達成した。EM (calc.): 440.2; MS (ESI) m/e (M+1H)+: 441.1, (M-1H)-: 439.2.」
(1e)「【0404】
実施例2:インビトロのBtk阻害活性
本明細書で開示されている化合物のBtkのIC50は、下記に記載されていようにBCR誘導性のカルシウム流出を、無細胞キナーゼアッセイ、および細胞機能アッセイの両方を用いて測定した。
【0405】
Btkキナーゼ活性は時間分解蛍光共鳴エネルギー転移(TR-FRET)方法論を用いて測定した。測定は、96ウェルのアッセイプレートを用いて、反応体積50μlについて行った。キナーゼ酵素、阻害剤、ATP(キナーゼのKmで)、および1μMのペプチド基質(ビオチン-AVLESEEELYSSARQ-NH2)を、Tris(20mM)、NaCl(50mM)、MgCl2(キナーゼに依存して、5から25mM)、MnCl2(0から10mM)、DTT(1mM)、EDTA(0.1mM)、0.01%のウシ血清アルブミン、0.005%のツウィーン-20、および10%のDMSOから構成される反応緩衝液の中で、1時間ほどpH7.4でインキュベートした。その反応を、1.2当量のEDTA(二価陽イオンと比べて)の1xランス緩衝液(Lance buffer)(25μl)(パーキンエルマー)を加えて、クエンチした。ストレプトアビジン-APC(パーキンエルマー)、およびEuで標識されたp-Tyr100抗体(パーキンエルマー)の1xランス緩衝液(Lance buffer)を体積で25μl加えて、それぞれの最終濃度を100nM、および2.5nMとし、そしてその混合物を1時間培養することが可能となった。330nmの励起波長(λEx)、並びに615および665nmの検出波長(λEm)で、マルチモードプレートリーダーを用いて、TR-FRETシグナルを測定した。665nmおよび615nmの蛍光の割合により、活性を決定した。それぞれ化合物に関して、化合物の多様な濃度で酵素活性を測定した。負の制御反応を阻害剤のない6つの複製で行い、そして2つの酵素のない対照を蛍光ベースラインレベル決定するために用いた。阻害定数であるKi(app)は、プログラムバッチ(program Batch)Kiを用いて得た(Kuzmic et al. (2000), Anal. Biochem. 286:45-50)。IC50は、次の方程式によって得た。
【0406】
IC50={Ki(app)/(1+[ATP]/KmATP)}+[E]total/2
【0407】
全てのキナーゼにおいて、[ATP]=KmATP、[Btk]total=0.5nM、および[Lck]total=6nM
【0408】
製造者の使用説明書に従って、フレックスステーション(FlexStation)II384蛍光イメージングプレートリーダー(モレキュラーデバイシス(Molecular Devices))を用いて、カルシウム流出蛍光アッセイを行った。簡潔に、10%FBS(インビトロジェン)を追加したRPM1培地で活発に成長するラモス細胞(ATCC)を洗浄して、約100μlあたり5×105細胞が、96ウェルプレートの一つのウェルの低血清培地に、再プレートした。アッセイする化合物をDMSOに溶解して、次いで低血清培地で希釈して、最終濃度が0から10μMの範囲内(希釈係数が0.3)にあるようにした。次に、希釈した化合物をそれぞれのウェル(最終DMSO濃度は0.01%だった)に加えて、そしてCO25%のインキュベーターに1時間、37度でインキュベートした。後に、100μlのカルシウム感受性色素(カルシウム3アッセイキットにより、モレキュラーデバイシス(Molecular Devices))を、それぞれのウェルに加え、さらに1時間インキュベートした。その化合物で処理された細胞をゴートアンチヒューマン(goat anti-human)IgM抗体(80μg/ml;ジャクソンイミューノリサーチ(Jackson ImmunoResearch))で刺激して、フレックスステーション(FlexStation)II384で、λEx=485nm、およびλEm=538nmを用いて200秒、読まれた。相対蛍光ユニット(RFU)、およびIC50を、内蔵ソフトマックスプログラム(SoftMax program)(モレキュラーデバイシス(Molecular Devices))で記録し、分析した。
表2:代表的な化合物のアッセイデータ
【化31】
[図:0001399818000004.jpg]
【表2-1】
[図:0001399818000005.jpg]
【表2-2】
[図:0001399818000006.jpg]
【0409】
これらの化合物による、Btkの不可逆的な阻害を、二つの証拠が示した。一つ目は、組換え型Btkを化合物で前処理した後では、その活性を、阻害剤のない培地で繰り返し洗浄しても回復しなかった(例えば、J. B. Smaill, et al., J. Med. Chem. 1999, 42, 1803を参照)。二つ目は、質量分析により、大きな質量スペクトルピークを観測し、それは化合物4とBtkの1:1共有結合複合体の分子量に対応していた(化合物4:440Da、組換え型Btkキナーゼドメイン:33,487Da;複合体:予想値33、927Da、観測値33、927Da)。
【0410】
これらの化合物は、Btkキナーゼ活性の高度で強力な阻害剤であり、インビトロのキナーゼ活性はIC50がサブナノモルから1桁のナノモル範囲にある。(ラモス細胞)カルシウム流束アッセイにおけるこれらのIC50は、3から92nMにわたる。
【0411】
注目すべきは、マイケル受容体の3種類、アクリルアミド、ビニルスルホンアミド、およびプロパギルアミドがBtkと強い相互作用を示したことを発見したことである。トランス向きのメチル基をビニル基に加えることで、化合物5で示されるように効力が減少し、それは化合物4よりも28倍、強力性が劣った。これはおそらく、より多くの置換オレフィンの求電子性の減少に関連する。三級アミン基を有する化合物15は、化合物5と比較していくらか効力を取り戻したものの、それでもそれは化合物13と比べて効力の低下を受けた。化合物10は化合物9よりも約6倍強力な効果があり、それはおそらく求電子試薬剤の配向の違いに起因している。最後にR立体配置は、二組のエナンチオマー(化合物11対化合物12、および化合物13対化合物14)による、わずかに望まれる、絶対的な立体化学配置として決定した。」
(2)引用文献2:平山令明編著、有機化合物結晶作製ハンドブック-原理とノウハウ-、平成20年7月25日)丸善株式会社、p.58~84
原査定で引用された本願優先日前に頒布された刊行物である引用文献3には、次の記載がある。
(2a)「医薬品結晶化法
4.1 はじめに
医薬品の大半は化学合成あるいは天然物由来の有機化合物であり,それらは製造の最終工程で晶析により結晶性粉末として調製されることが多い.
結晶は晶析条件に依存してさまざまな構造,形状,大きさ,凝集状態などを示すが,それら固体物性あるいは粉体物性は,医薬品の生物学的有効性,安定性,製剤化などに重要な影響を与える.
・・・
結晶多形の密度や融点,格子エネルギ-などは異なり,結果として熱や温度,光といったストレスに対する結晶の物理的あるいは化学的な安定性に相違が生じる.このような理由から保存条件によっては準安定形から安定形への結晶転移が生じ,医薬品の生物学的有効性が変わることもあり得る.したがって,安定性の観点からは,一般に常温で安定な結晶形が選択されることが多い.」(57頁1行~58頁1行)
(2b)「4.2 結晶多形(polymorph)
4.2.1 結晶多形の検索
複数の結晶相が存在する結晶多形は,医薬品においてもしばしば認められる現象である.しかし,結晶構造と晶析条件との相関はいまだ解明されておらず,結晶多形の有無は試行錯誤を繰り返しつつ求めざるを得ないのが現状である.したがって,偶然に見いだされる場合も少なくないが,結晶多形の検索に重要な影響を与えると思われる各因子を適宜組み合わせ,比較的簡便な方法で検索しているいくつかの報告もある4,5).
表4.1はその例の一つで,抗高血圧剤あるいは利尿剤として広く用いられているFurosemide(フロセミド)[図4.1(a)]での析出条件と,各結晶形の析出挙動をまとめたものである4).医薬品における結晶多形の制御は溶媒の選択によってなされることが多いが,ここでも水を含めて18種類の溶媒が検討に用いられた.これら溶媒に対して,さまざまな冷却法や溶媒の蒸発法を組み合わせることにより温度や過飽和度の異なる条件を発生させた.その結果,従来はI形とII形の2種の多形についてだけ報告されていたが,新たに多形1種(III形)と,N,N-ジメチルホルムアミドおよび1,4-ジオキサンを含有した2種の溶媒和物(IV形およびV形)が見いだされた.表4.1(1)の加温溶解し徐冷する方法においてはメタノールやエタノールのような低沸点の溶媒からI形が,ブタノールなどのより高沸点の溶媒からII形が析出する傾向がみられた.(3)の有機溶媒に加温溶解し水を添加する方法でも,また(4)のN,N-ジメチルホルムアミドに加温溶解し他の溶媒を添加する方法においても,同様の傾向がみられた.」(59頁1行~60頁最終行)
(2c)「
[図:0001399818000007.jpg]
[図:0001399818000008.jpg]
」(59~60頁表4.1)
(2d)「4.5 医薬品の結晶化例
4.5.1 一般的な結晶化条件
医薬品を開発するうえで,初期段階においては種々の条件下における結晶多形の検索を行い,製剤化検討の結果なども考慮して開発の基本形となる結晶形を選択する.その後,工業化に向けたスケールアップの検討を行い,工場での生産が安定に行えるように準備する必要がある.したがって,開発初期段階における結晶多形の有無などを含めた結晶状態の検討は,医薬品の開発を効率的に進めるうえで非常に重要である.ここでは,医薬品を結晶化する一般的な条件を示し,さらに医薬品の結晶化の実例を記述する.
一般に使用される晶析溶媒としては,水,メタノール,エタノール,1-プロパノール,2-プロパノール,・・・,酢酸エチル,アセトン,・・・,トルエン,・・・ジメチルホルムアミドなどである.
結晶化はおよそ以下のような方法を用いる.
(1)試料を水浴上で加温した溶媒に加え,飽和溶液を調製する.熱時炉過し,残留試料を除いた後,室温付近まで徐々に冷却する.
(2)試料を水浴上で加温した溶媒に加え,飽和溶液を調製する.熱時炉過し,残留試料を除いた後,氷などにより急冷する.
(3)試料を適当な溶媒に溶かした液に,試料が溶けにくい溶媒を滴下する.
(4)試料を適当な溶媒に溶かした液をエバポレータなどを用いて脱溶媒する.
・・・」(78頁14行~79頁6行)
(3)引用文献3: PHARM STAGE、Vol.6、No.10、2007年、p.20~25
原査定で引用された本願優先日前に頒布された刊行物である引用文献3には、次の記載がある。
(3a)「同一の医薬品化合物であってもその固体状態,すなわち原薬のForm毎にその物理化学的性質は異なる。・・・
個々のFormは,異なる溶解性,吸収性,化学的安定性,吸湿性,融点,製造適性等の物理化学的性質を有し,これらの性質は最終的に製剤の安全性,有効性及び品質を左右する1)。・・・一方,構成分子が同一であっても多くの場合,結晶多形が存在し,熱安定的準安定形は最安定形へ転移する性質を有する。」(20頁左欄2行~下から2行)
(3b)「3 原薬Formスクリーニング及び選択
・・・
Formスクリーニングの目的は,原薬Formの候補となり得るFormを見出すこと,すなわち非溶媒和結晶の熱力学的最安定形と,通常の温湿度環境で物理的に安定に存在しうる水和結晶を,Free体,各塩及びCocrystalについて見出すことにある。」(21頁左欄9~21行)
(3c)「3.1 結晶化法と結晶化溶媒
Form及び結晶多形スクリーニングで主に用いられる結晶法には,冷却法,貧溶媒法(Precipitation),蒸発法,スラリーコンバージョン法(溶媒媒介転移法)がある。」(22頁左欄10~17行)
(3d)「3.2 熱力学的最安定形の決定
Formスクリーニング及び結晶多形スクリーニングで最も重要な項目の一つは,最安定系の決定である。結晶多形が存在する場合には,個々のFormの固体状態をキャラクタリゼーションすることに加え,二次分析の検討項目として,それらの熱力学的関係を明らかにし,室温における最安定形を決定する必要がある。」(22頁右欄13~19行)
(4)引用文献4:岡野定舗編著、新・薬剤学総論(改訂第3版)、株式会社南江堂、1987年4月10日、p.26,111,256,257
本願優先日前に頒布された刊行物である上記「引用文献4」には、次の記載がある。
(4a)「1.2.3 化学構造と溶解性
・・・
ix.結晶多形では準安定形(低融点)のものの方が安定形(高融点)のものより溶けやすい(例.インドメタシン).*
x.同種薬品で無晶性のものは結晶より溶けやすい(例.novobiocin)**.」(26頁10~27行)
(4b)「多形polymorphism:同一化合物が異なる結晶構造,結晶形をもつ現象を多形という.多形の結晶はX線回折像,融点,屈折率,溶解度などが異なる.多くの化合物は多形で,医薬品でも,アスピリン,インドメタシン,カカオ脂,グリセリド,脂肪酸,スルホンアミド類,セファロリジン,バルビタール類,chloramphenicol palmitate,ステロイドホルモン(プレドニゾロン,エストロンなど),リボフラビンなど多くのものについて結晶多形が報告されている.3) プロゲステロンには5種の結晶形が知られている.
結晶多形によって溶解度が異なる事実は製剤学的に重要で,多くの場合,結晶の溶解度(または溶解速度)は消化管吸収を律速するが,溶解度の大きい方が吸収が速い.多形のうち安定性の低い結晶(準安定形meta-stable form)の方が安定形stable formより融点が低く,溶解度も大きい.Ostwaldによれば,溶液から結晶が析出するさいには,準安定形の方がさきに結晶化する(逐次転移の法則law of successive transformation).結晶形の移行は,再結溶媒,結晶化の速さ(冷却温度)および保存の温度条件,粉砕などによって起きる.たとえばアスピリンを95%エタノールから再結したものと,n-ヘキサンから再結したものは結晶形が異なるが,後者の方がはるかに速やかに水に溶解する.」(111頁3~18行)
(4c)「c)結晶形crystal form
すでに述べたように,多くの薬物は結晶多形* を示し,多形のうち準安定形の方が安定形より溶解度が大きい.
Chloramphenicol palmitateの結晶には少なくともA,B2種の多形があり,B型の方が易溶性である.懸濁液を経口投与するとき,B型のCmax はA型の7倍であることが報告されている.5) また,インドメタシンには3種の結晶多形があるが,このうちα,γ両型が実用される.坐剤にした場合,α型の溶出性はγ型の約2倍とすぐれており・・・血中濃度もα型の坐剤の方が高い・・・.
結晶多形のうち,溶解度の大きい準安定形は安定形より熱力学的に不安定で,時間がたつにつれて前者は後者に転移する.したがって準安定形の薬物を用いて製剤をつくる場合は,そのバイオアベイラビリティが保存中に低下することに留意する必要がある.
薬物の無晶形のものは溶解時に結晶の格子エネルギーに打ち勝つ必要がないので,結晶性のものに比べて溶解しやすい.インスリン-亜鉛錯体には結晶性のものと無晶性のものがあるが,後者の方が吸収が速やかである・・・.」(256頁下から3行~257頁下から8行)
(5)引用文献5: C. G. WERMUTH編、長瀬博監訳、最新 創薬化学 下巻、株式会社テクノミック、1999年9月25日、p.452~453
本願優先日前に頒布された刊行物である上記「引用文献5」には、次の記載がある。
(5a)「IV.メソモルフィック結晶(mesomorphic crystalline)〔訳註5〕 の取扱い□
ある種の物質は結晶となるときに複数の結晶状態をとりうることが知られている.その結晶状態に決定する要因には,結晶化溶媒の物性,結晶化するときの温度,不純物の有無などがある.このような性質を結晶多形または単に多形(polymorphism)という.可能な結晶状態のなかには準安定な結晶がある.準安定状態(metastable state)の結晶はより安定な状態に変化して異なる物理化学性質を示すことになる.この変化は2つのタイプに分けられる.可逆的転移である互変(enantiotropy)と不可逆的転移の単変(monotropy)である.前者は文字どおり多形のそれぞれの状態が相互変換可能な場合である.後者は,熱力学的に不安定な状態からより安定な状態へ変化する現象であり,一般的にはこの種の転移が多い.ある薬物が異なる結晶形を示すときに,それぞれの結晶形を識別する方法には,融点測定,溶解度測定,示差走査熱量測定,熱重量分析,赤外分光,X線回折,走査電子顕微鏡による形態観察などがある.
一般論として,準安定状態の物質には安定状態に比べてその溶解度および溶解速度が大きいという特徴がある.極端な場合,両状態の溶解度の差が4倍以上にもなることがあるが21,22,通常よく観察されるのは溶解度が50~100%程度上昇する現象である23.一例としてここではリボフラビン(riboflavin)を挙げる.この薬物には3種の多形があり,その溶解度はそれぞれ60mg/L,810mg/L,1200mg/Lと大きな開きがみられる24.また,準安定状態の結晶を溶媒と接触できるようにしておくと,この結晶は最も安定な状態に徐々に変化し,これに伴って溶解度が低下することがある.たとえば,ノボビオシン(novobiocin)は酸性のアモルファス固体(無定形または非晶質固体)であるが,溶解度の非常に低い結晶に変化しやすい25.このためにノボビオシンを懸濁液として投与することは困難である.薬物を噴霧乾燥(spray drying)によって溶解度の高いアモルファス固体とすることがある.この場合,純粋な薬物を噴霧しても良いが,実際には均質な分散薬物を得るために添加剤を加えることが多い26.
ある結晶状態が他の状態に変化する現象すなわち転移は,工業的な製造プロセスにおいても起こりうる.たとえば,クロロキン二リン酸(chloroquine diphosphate)の一水和物の結晶を高温で保存しておくと無水物となることがある.この脱水反応は薬物を粉砕する際にも起こりやすい.さらにクロロキン二リン酸無水物を湿度の高い状態で保存していると他の水和物に転移することもある.また,薬物の原末を圧縮する際にも結晶形の変化が起こりうる27.クロラムフェニコール(chloramphenicol)のステアリン酸塩の場合は,A結晶(form A)をコロイドシリカ(colloidal silica)の存在下で粉砕するとB結晶(form B)に変化することが知られている28.以上の事例から明らかなことではあるが,固体の薬物を製造する場合は,プロセスを標準化するのと同時に,品質管理の一環として固体薬物の結晶状態に関するより精密な検査を行うことが特に重要であることをここで強調しておきたい.」(452頁下から12行~453頁20行)
(6)引用文献6:社団法人日本化学会編、化学便覧 応用化学編 第6版、丸善株式会社、2003年1月30日)、p.178
本願優先日前に頒布された刊行物である上記「引用文献6」には、次の記載がある。
(6a)「4.3.3 晶析
a.晶析とその役割
晶析は,目的の特性を有する結晶を,再現性よく,確実に製造する技術である.晶析は,化学物質の製造全般に広く用いられており,分離精製のみならず,機能性固体(結晶)の生産という観点からも重要である.たとえば,糖・アミノ酸などの食品の製造,記録媒体としてのα-鉄(α-Fe)・マグへマイト(γ-Fe2O3)などの電子材料の製造,ナノ粒子の製造,さらにその90%が結晶である医薬品(原薬)とその中間体の製造などであり,いずれも結晶特性の制御が高度に要求されている.
1998年の調査(化学工学会晶析技術特別研究会)によれば,わが国で行われている晶析は,80%が溶液からの晶析である.また,75%が回分法で行われている.次に融液からの晶析が多く,大規模の精製晶析についても優れた技術,たとえばKCP法(呉羽テクノエンジ)が開発されている.
b.結晶特性
おもな結晶特性は,晶癖・粒径・粒径分布・純度・多形・結晶化度である.これらの特性が異なれば,溶解度・溶解速度・安定性・比容・操作性(ろ過性(注:ろ過の「ろ」は原文ではさんずいに戸であるが、ひらがなで記す。以下も同じ。)・粉じん爆発性・打錠性・計量性)などが異なり,医薬品ではとくにバイオアベイラビリティ(生物学的利用率)が異なることから,結晶特性の制御は非常に重要である.
(i) 晶癖 ・・・
(ii) 粒径・粒径分布・・・
(iii) 純度 結晶への不純物の取込みについては,二つのメカニズムがある.母液の結晶への取込み,あるいは結晶表面への付着によるものと,結晶構造への組込みによるものである.前者は,結晶成長の粗さ,凝集などによって引き起こされるものであり,晶析速度の調整,洗浄などで解決する可能性がある.後者は,溶媒の変更,多形の選択など根本的な変更が必要である.結晶溶媒(結晶構造に組み込まれた溶媒)も不純物と見なすことができる.
(iv) 多形 化合物は同じで,結晶構造が異なるものである.結晶溶媒の有無で溶媒和結晶は擬多形とよばれている.多形結晶は,外観のみでは判断できない.粉末あるいは単結晶X線回折・赤外吸収(IR)・示差走査熱量測定(DSC)などで同定する必要がある.多形は,溶媒の種類・温度・冷却速度・過飽和度・かくはん速度・不純物などに影響を受ける.溶媒によって異なる多形が析出する場合が多く,重要な溶媒については混合溶媒も含めて,どのような結晶が析出するか,点検することが必要である.溶媒を選択することによって,目的の結晶多形が唯一選択的に得られる場合と,いったん析出した結晶多形(準安定結晶)が経時的に他の多形(安定結晶)に転移する,いわゆる溶媒媒介転移が起こる場合がある.溶媒媒介転移が起こるのは,準安定結晶と安定結晶の溶解度が異なるためである.どの多形が析出するかはオストワルドの段階則(Ostwald's step rule;状態の移行は,エネルギー的にもっとも近い状態を経由して順次に進行するという法則)に従うとされており,通常,溶解度が大きいほうの結晶が先に析出する.しかし,オストワルドの段階則に従わない場合もあり,多形を制御するためには,平衡論(オストワルドの段階則)のみではなく,速度論的な検討を行う必要がある.
c.晶析操作
晶析操作としては,冷却晶析,濃縮晶析,反応晶析,貧溶媒晶析が多い.・・・」(178頁左欄5行~右欄下から7行)
(7)引用文献7 松岡正邦監修、結晶多形の基礎と応用 普及版、株式会社シーエムシー出版、2010年10月22日、p.105
本願優先日前に頒布された刊行物である上記「引用文献7」には、次の記載がある。
(7a)「1 医薬品研究開発における結晶多形スクリーニングの重要性
同一化合物であっても,それぞれの結晶多形の間で溶解性,物理化学的安定性は異なる1)。医薬品の吸収性に影響する溶解性,貯法・使用期限に影響する物理化学的安定性は重要な物性であり,最終的に医薬品の有効性,安全性をも左右する。
結晶多形は,溶解性,物理化学的安定性が異なるばかりでなく,多形間で準安定形は再安定形へ転移する。・・・結晶多形スクリーニングを適切に実施し,存在し得る結晶多形を見出し,熱力学的に安定な結晶形を明らかにしなければならない。」(105頁8~17行)
(8)引用文献8:浅原照三 外4名編、溶剤ハンドブック、株式会社講談社、1985年9月1日、p.47~51
本願優先日前に頒布された刊行物である「引用文献8」には、以下の記載がある。
(8a)「3.2 再結晶
再結晶の目的達成には,その技術的操作法とともに適当な溶媒の使用が重要な要素となる.この適合した溶媒選びはもちろん少量の予備実験においてなされるわけであるが,なるべく早く最適の溶媒を見つけるにはいくつかのルール,または経験則がある.
3.2.1 溶媒の選び方
・・・
3.2.2 溶媒選択上の注意
・・・
3.2.3 再結晶溶媒の種類と特徴
再結晶溶媒として普通使用されるものを表3.3と表3.4にあげる.表3.3は最も一般的に使用される溶媒で,これらのもので成功しない場合に表3.4にあげられている少し特殊なものの使用が推奨される.なお表3.3の溶媒名においては,厳密な順序ではないが,上部から下部に向かって非極性溶媒→極性溶媒になるように配列されている.表3.5(p.51)は 普遍的に用いられる混合溶媒である。
・・・
[図:0001399818000009.jpg]
[図:0001399818000010.jpg]
[図:0001399818000011.jpg]
」
(47頁右欄20行~51頁左欄上の表)
2 引用文献1に記載された発明について
引用文献1は、摘記(1a)によれば、癌等の治療に用いられるブルートンチロシンキナーゼ阻害剤に関する文献であり、摘記(1d)及び摘記(1e)から、引用文献1には、1-((R)-3-(4-アミノ-3-(4-フェノキシフェニル)-1H-ピラゾロ[3,4-d]ピリミジン-1-イル)ピペリジン-1-イル)プロパ-2-エン-1-オン(化合物13)が具体的な製造法や阻害活性(薬理活性)などを伴って記載され、具体的には、化合物13の合成は、実施例1aで記載されているのと類似した手順により達成され、その同定データとして、MS (ESI) m/e (M+1H)+: 441.1, (M-1H)-: 439.2が記載されるとともに、Btkキナーゼ活性について IC50<0.5nM ラモス細胞を用いたカルシウム流出蛍光アッセイによるIC50 10nMの活性を測定した結果が記載されていることが認められる。
そうすると、引用文献1には、 「1-((R)-3-(4-アミノ-3-(4-フェノキシフェニル)-1H-ピラゾロ[3,4-d]ピリミジン-1-イル)ピペリジン-1-イル)プロパ-2-エン-1-オン(化合物13)」 の発明(以下「引用発明」といい、その化合物を「引用化合物」という。)が記載されているということができる。
3 対比・判断
(1)対比
本願発明と引用発明とを対比する。
引用化合物である「1-((R)-3-(4-アミノ-3-(4-フェノキシフェニル)-1H-ピラゾロ[3,4-d]ピリミジン-1-イル)ピペリジン-1-イル)プロパ-2-エン-1-オン(化合物13)」とは、本願発明の「1-((R)-3-(4-アミノ-3-(4-フェノキシフェニル)-1H-ピラゾロ[3,4-d]ピリミジン-1-イル)ピペリジン-1-イル)プロプ-2-エン-1-オン」であるから、本願発明と引用発明とは、
「1-((R)-3-(4-アミノ-3-(4-フェノキシフェニル)-1H-ピラゾロ[3,4-d]ピリミジン-1-イル)ピペリジン-1-イル)プロプ-2-エン-1-オン」に関する発明である点で一致し、以下の点で相違する。
相違点:
本願発明においては、1-((R)-3-(4-アミノ-3-(4-フェノキシフェニル)-1H-ピラゾロ[3,4-d]ピリミジン-1-イル)ピペリジン-1-イル)プロプ-2-エン-1-オンが、「結晶形であって、該結晶形は、7.0±0.1°2-シータ、14.0±0.1°2-シータ、15.7±0.1°2-シータ、18.2±0.1°2-シータ、19.1±0.1°2-シータ、19.5±0.1°2-シータ、20.3±0.1°2-シータ、22.1±0.1°2-シータ、及び22.9±0.1°2-シータに特徴的なピークを伴うXRPDパターンを有する、結晶形。」と特定されているのに対し、引用発明においてそのように特定されていない点。
(2)相違点についての判断
なお、下記相違点の判断において、本願発明の結晶形は、本願明細書の【0453】の記載等を参照すると「形態C」の結晶形のことを指しているものと解されるから、記載を省略するため、「結晶形態C」、「形態C」などと称する場合もある。
ア 本願優先日における医薬化合物の結晶に関する技術常識について
本願優先日当時、一般に、医薬化合物については、安定性、純度、扱いやすさ等の観点において結晶性の物質が優れているとの技術常識があったと認められる(摘記(2a)、摘記(3a)、摘記(3b)、摘記(3d)、摘記(6a)、摘記(7a))。 また、医薬化合物として結晶の多形体が、結晶化の条件により得られる結晶が異なることによって存在することから(摘記(2a)、摘記(4a)~(4c)、摘記(5a)、摘記(6a))、医薬化合物が結晶で得られる条件を検討したり、結晶多形体を調べたりすることは、当業者がごく普通に行うことであり(摘記(2c)、摘記(2d)、摘記(3b)、摘記(7a))、結晶を同定する方法として、粉末X線回折があるとの技術常識があったものと認められる(摘記(1c)、摘記(5a)、摘記(6a))。
そして、結晶を得る方法に関し、摘記(2d)、摘記(8a)に記載されるとおり、一般に使用される晶析溶媒は、水、メタノール、エタノールなどであり、摘記(2b)~(2d)、摘記(3c)、摘記(6a)に見られるように、晶析方法としては、化合物を結晶析出溶媒に温度を上げて溶解し冷却によって析出させる冷却法がよく用いられるとの技術常識が本願優先日にあったものと認められる。
イ 相違点の容易想到性について
(ア)引用文献1の引用化合物は、医薬化合物であり、また、引用文献1には、結晶の多形体の存在も少なくとも示唆されているといえる(摘記(1b)、摘記(1c))。
また、上記アの本願優先日時点の技術常識に照らすと、引用文献1に接した当業者には、医薬化合物である引用化合物について、結晶で得られる条件を検討したり、結晶多形を調べたりすることについては強い動機付けがあったものと認められる。
そして、引用化合物の結晶を得るにあたり、当業者は、上記アに記載されたような、結晶を得るためのによく用いられる手法を試すことにより、一般に使用される晶析溶媒であるメタノールを用い、よく用いられる晶析方法である冷却法による結晶化を行って、粉末X線回折によって結晶を同定し、安定性に優れた結晶を選ぶことは、当業者が通常行うことであると認められる。
(イ)上記の本願発明の形態Cの結晶を得るための結晶製造方法及び粉末X線回折による同定に関し、本願明細書の具体的記載に基づき確認してみると以下のとおりである。
a 本願明細書には、形態Cの結晶の製造方法として、【0268】に、「【0268】
幾つかの実施形態において、形態Cはメタノールと水の混合物から得られた。幾つかの実施形態において、形態Cはメタノールから得られた。」と記載され、【0439】に、メタノールから得られた実施例として、「【0439】
<形態C:>
清潔な丸底フラスコ中、2.0グラムの化合物1を、25mlのメタノール中で懸濁し、50℃に加熱した。溶解した化合物1の暖かい溶液を濾過し、清潔な丸底フラスコに入れた。綺麗にした溶液を、磁気撹拌で室温にまで冷却した。溶液はゆっくりとスラリーになり、それを14時間撹拌した。固形物を濾過し、5mLのメタノールで洗浄し、20時間フィルター上で乾燥し、その後8時間、真空オーブン中で50℃で乾燥した。1.4グラムの形態Cを得た(融点=~132℃)。」と記載されている。
b 本願明細書の【0439】に記載された結晶化のための溶媒は、最も一般的に使用される溶媒であるメタノールである(摘記(8a))。
また、その結晶析出の方法も、摘記(2b)、摘記(3c)、摘記(6a)にいずれも最初に記載されるように基本的な手法である、化合物を結晶析出溶媒に温度を上げて溶解し冷却によって析出させる冷却法であるといえる。
c 結晶形態Cを「7.0±0.1°2-シータ、14.0±0.1°2-シータ、15.7±0.1°2-シータ、18.2±0.1°2-シータ、19.1±0.1°2-シータ、19.5±0.1°2-シータ、20.3±0.1°2-シータ、22.1±0.1°2-シータ、及び22.9±0.1°2-シータに特徴的なピークを伴うXRPDパターンを有する」と特定していることについては、本願発明の結晶形は、当業者であればまず試してみる結晶製造方法によって得られた結晶を、結晶の同定方法として周知慣用の方法として採用されている粉末X線回折スペクトル分析を行った結果を提示したものにすぎないから(摘記(1c)【0243】、摘記(5a)、摘記(6a))、上記の得られたXRPDパターンの2-シータピークを特定することは、引用文献1の記載及び技術常識から、当業者が容易になし得たことにすぎない。
(ウ)そうすると、当業者は、通常なし得る試行錯誤の範囲で、引用化合物について、結晶探索を行い、結晶形態Cを得ることができたものと認められる。
ウ 以上によれば、引用発明において、引用化合物の結晶を得ることを試み、その際に結晶化条件を検討したり、得られた結晶について分析することにより、相違点に係る本願発明の構成を備えたものとすることは、当業者が容易に想到し得ることである。
エ 本願発明の効果について
本願明細書には、本願発明である形態Cの結晶形について、【0454】に1週間後の加温又多湿状態での安定性の効果について、定性的な記載があるが、結晶自体が基本的に安定性が高い固体であることは技術常識であり(摘記(2a)、摘記(3a)、摘記(3b)、摘記(3d)、摘記(5a)、摘記(7a))、形態A及び形態Bの結晶との比較においても差がない旨の記載だけであるとともに(【0450】【0452】)、仮に何らかの差があったとしても、多形体間でそれらの特性に相違があることは技術常識である(摘記(1c)、摘記(3a)、摘記(3b)、摘記(3d))ことも考慮すると、本願発明の効果が当業者の予測を超える顕著な効果であるとはいえない。
また、本願明細書においては、【0495】に、HPLC分析によって、高純度である旨の記載があるが、結晶化によって高純度のものが得られることは精製技術として技術常識であり、結晶化によって純粋な結晶が得られたからといって当業者の予測を超える顕著な効果であるとはいえない。
4 審判請求人の主張の検討
(1)令和3年2月15日に提出された意見書、及び審判請求書における効果の主張について
ア 審判請求人は、上記意見書13頁34~44行及び審判請求書の手続補正書(方式)14頁9~13行において、本願発明の結晶形(結晶形態C)の優れた貯蔵安定性について、結晶度及びXRPDパターンが、45℃/75%RH又は25℃/97%RHでの1週間貯蔵後の影響を受けなかったことを指摘し、他の結晶形と比較して予想外な顕著な効果を有する旨主張している。
イ しかしながら、本願発明は、医薬化合物の結晶多形体の発明であり、結晶形態Cの結晶度及びXRPDパターンが、45℃/75%RH又は25℃/97%RHでの1週間貯蔵後の影響を受けなかったという貯蔵安定性の効果は、単に影響を受けなかったということが簡単な結論として記載されているだけで貯蔵安定性の効果の量的な効果の裏付けをもった内容は記載されてない上に、結晶化によって、そもそも医薬化合物が固体として安定化することは通常のことであり、結晶の多形体間で安定性に差があることも技術常識であることを考慮すると、上記本願発明の結晶形態Cの貯蔵安定化の効果は、当業者の予測を超える顕著な効果とはいえず、上記審判請求人の主張を採用することはできない。
(2)審判請求書における結晶化条件に関する主張について
ア 審判請求人は、審判請求書の手続補正書(方式)13頁29行~14頁9行において、引用文献1には、白色固形物が得られたことが記載されているだけで、結晶形態Cが得られたことの教示や示唆がないことや本願明細書には、結晶形ごとの結晶化条件を記載していることを指摘し、引用文献1~3は、必要な結晶化条件を教示又は示唆していない旨主張している。
イ しかしながら、上記主張は、引用文献1~3に本願発明が記載も示唆もない旨の主張をしているだけであり、引用文献1にも結晶の多形体の存在は少なくとも示唆されている上に、医薬化合物については、安定性、純度、扱いやすさ等の観点において結晶性の物質が優れていることから、その物質を結晶化することについては強い動機付けがあり、医薬化合物が結晶で得られる条件を検討したり、結晶多形体を調べたりすることは、当業者がごく普通に行うことであることは、上述のとおりである。
そして、本願発明の結晶形態Cの多形体は、当業者が、引用発明から前記強い動機付けに基づき、通常の結晶の製造方法によって得たものであり、得られた結晶多形体の特性を、結晶の周知慣用の分析手法で得た結果を提示したものにすぎず、容易になし得る技術的事項であることも上述のとおりである。
よって、審判請求人の上記主張は採用できない。
(3)したがって、上記審判請求人の主張はいずれも採用できない。
5 まとめ
以上のとおり、本願発明は、引用文献1に記載された発明、引用文献1に記載された技術的事項及び本願優先日時点の技術常識に基いて、本願優先日前に当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
第5 むすび
請求項6に係る発明は、引用文献1に記載された発明に基いて、本願優先日前に当業者が容易に発明することができたものであるから、その余の請求項について検討するまでもなく、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、結論のとおり審決する。
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2021-009801