特許無効審判
2020-800076
運動障害治療剤
- 審判番号
- 2020-800076
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 無効審判(無効の審決)
- 出願番号
- 特願2003-563566
- 登録番号
- 4376630
- 請求日
- 2020年08月31日
- 審決日
- 2023年07月12日
- 公報発行日
- 2025年06月27日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】共和薬品工業 株式会社
- 【請求人代理人】速見 禎祥
- 【請求人代理人】溝内 伸治郎
- 【請求人代理人】多田 央子
- 【請求人代理人】神野 直美
- 【請求人】日医工 株式会社
- 【請求人代理人】速見 禎祥
- 【請求人代理人】溝内 伸治郎
- 【請求人代理人】多田 央子
- 【請求人代理人】神野 直美
- 【参加人】東和薬品 株式会社
- 【参加人代理人】牧野 知彦
- 【参加人代理人】平井 佑希
- 【参加人代理人】早坂 巧
- 【被請求人】協和キリン 株式会社
- 【被請求人代理人】南条 雅裕
- 【被請求人代理人】瀬田 あや子
- 【被請求人代理人】原 秀貢人
- 【被請求人代理人】三村 量一
- 【被請求人代理人】小佐々 奨
- 審判長/審判官
- 審判長 原田 隆興
- 審判官 渕野 留香
- 審判官 藤原 浩子
- 分類
- P1113.113-YAA(A61K) / P1113.121-YAA(A61K)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第134条の2第9項、特許法第126条第7項、特許法第134条の2第1項、特許法第169条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
上記当事者間の特許第4376630号発明「運動障害治療剤」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。
結論
結 論
特許第4376630号の特許請求の範囲を、令和4年3月3日付け訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり訂正することを認める。
特許第4376630号の請求項1に係る発明の特許についての無効審判請求は、成り立たない。
審判費用は、参加によって生じた費用を含めて請求人及び参加人の負担とする。
理由
理 由
[審 決 の 見 出 し]
この審決は、以下の見出しの構成を有している。
第1 手続の経緯
第2 訂正請求について
1 訂正請求の趣旨
2 訂正の内容
3 訂正の適否の判断
第3 本件訂正発明
第4 当事者の主張及び証拠方法
1 請求人の主張及び証拠方法
2 参加人の主張及び証拠方法
3 被請求人の主張及び証拠方法
第5 主な証拠の記載事項
1 甲号証の記載事項
2 丙号証の記載事項
3 乙号証の記載事項
第6 本件訂正発明について
1 本件特許明細書の記載
2 本件訂正発明の概要
第7 本件特許の優先日当時の技術常識等
1 パーキンソン病に関する、本件特許の優先日当時の技術常識
2 パーキンソン病におけるアデノシンA2A受容体の役割とA2A受容体アンタゴニストによる治療についての本件特許の優先日当時既知の知見
第8 無効理由1-2(甲2に基づく新規性欠如)及び無効理由2-3(甲2を主引例とする進歩性欠如)について
1 無効理由1-2(甲2に基づく新規性欠如)について
2 無効理由2-3(甲2を主引例とする進歩性欠如)について
第9 無効理由1-1(甲1に基づく新規性欠如)及び無効理由2-2(甲1を主引例とする進歩性欠如)について
1 無効理由1-1(甲1に基づく新規性欠如)について
2 無効理由2-2(甲1を主引例とする進歩性欠如)について
第10 無効理由2-4(甲4を主引例とする進歩性欠如)について
1 甲4に記載された発明
2 本件訂正発明と甲4発明との対比
3 相違点についての判断
4 効果について
5 請求人及び参加人の主張について
6 小括
第11 無効理由2-1(甲3を主引例とする進歩性欠如)について
1 甲3に記載された発明
2 本件訂正発明と甲3発明との対比
3 相違点についての判断
4 請求人及び参加人の主張について
5 小括
第12 むすび
[審 決 の 理 由]
第1 手続の経緯
本件特許第4376630号(以下「本件特許」という。)の特許請求の範囲の請求項1に係る発明についての出願は、2003年1月28日(パリ条約による優先権主張2002年1月28日、米国)を国際出願日として、特願2003-563566号として出願され、平成21年9月18日に特許権の設定登録がなされた。
そして、令和2年8月31日(差出日)に、共和薬品工業株式会社及び日医工株式会社(以下「請求人」という。)から、本件特許の特許権者である協和キリン株式会社(以下「被請求人」という。)に対し、本件特許の請求項1に係る発明の特許を無効にすることを求める旨の本件特許無効審判請求がされた。
当該審判請求及び以後の主な手続の経緯は次のとおりである。
なお、以下、請求人側参加人 東和薬品株式会社を「参加人」という。
また、以下において、証拠方法として当事者から提出された甲号証、乙号証、及び丙号証を、それぞれ、証拠番号を付して、「甲1」、「乙1」、「丙1」等として括弧書きで記載する。
令和2年 8月31日 審判請求書の差出(甲1~甲9)(請求人)
令和2年12月15日付け 手続中止通知書
令和3年12月 1日付け 審理再開通知書及び通知書(答弁指令)
令和4年 1月13日 参加申請書の提出(東和薬品株式会社(参加人))
令和4年 3月30日付け 参加許否の決定(東和薬品株式会社の参加を許可)
令和4年 3月 3日 答弁書及び訂正請求書の提出(乙1~乙21)(被請求人)
令和4年 3月30日付け 訂正請求書副本の送付通知(請求人及び参加人への弁駁指令)
令和4年 5月30日 弁駁書の提出(丙1~丙17)(参加人)
令和4年 5月30日 弁駁書の提出(甲2の2、甲2の3、甲10~甲48)(請求人)
令和4年 8月18日付け 審理事項通知書(当審)
令和4年10月 7日 証拠説明書の提出(丙18)
令和4年10月11日 上申書の提出(甲49)(請求人)
令和4年10月18日 上申書の差出(乙48の1~乙48の3)(被請求人)
令和4年11月 1日 口頭審理陳述要領書の提出(甲4の2、甲50~甲55)(請求人)
令和4年11月 1日 口頭審理陳述要領書の提出(参加人)
令和4年11月 1日 口頭審理陳述要領書の提出(被請求人)
令和4年11月 7日 証拠説明書(2)の差出(乙22~乙47)(被請求人)
令和4年11月11日 上申書の差出(被請求人)
令和4年11月12日 上申書の差出(令和4年11月10日付け)(乙48の4~乙57)(被請求人)
令和4年11月12日 上申書の差出(令和4年11月11日付け)(被請求人)
令和4年11月22日受付 口頭審理陳述要領書(2)の提出(甲41の2、甲56~甲58)(請求人)
令和4年11月22日 口頭審理
令和4年11月24日 上申書の提出(甲59)(請求人)
令和4年11月29日 上申書の提出(丙19)(参加人)
令和4年11月28日 上申書の提出(乙58)(被請求人)
令和4年12月 6日 上申書の提出(乙38の2)(被請求人)
令和4年12月 7日 上申書の差出(甲50の2、甲51の2)(請求人)
令和5年 1月11日 上申書の提出(甲28の2、甲60~甲63)(請求人)
令和5年 1月11日受付 上申書の提出(丙20~丙21)(参加人)
令和5年 1月12日 上申書(1)の差出(乙59~乙67)(被請求人)
令和5年 1月12日 上申書(2)の差出(被請求人)
なお、上記証拠番号の乙48の1~乙48の3及び甲50の1~甲55の2は、調書で当該証拠番号に読み替えられた。
また、本件特許について、本件無効審判事件に先行して無効審判が請求されており(無効2020-800034)、無効審判の請求は成り立たないとする審決が、知財高裁に出訴され(令和3年(行ケ)10157号及び令和3年(行ケ)10155号)、令和5年1月12日に請求棄却の判決言い渡しがされていることを付記する。
第2 訂正請求について
1 訂正請求の趣旨
令和4年3月3日提出の訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)は、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり訂正することを求めるものである。
2 訂正の内容
本件訂正の具体的な訂正事項は、以下の(1)~(3)のとおりである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1の「(E)-8-(3,4-ジメトキシスチリル)-1,3-ジエチル-7-メチルキサンチンを含有する」の直後に、「薬剤であって、」を挿入し、さらに、改行し、「前記薬剤は、パーキンソン病のヒト患者であって、L-ドーパ療法において、ウェアリング・オフ現象および/またはオン・オフ変動を示すに至った段階の患者を対象とし、」を挿入し、さらに改行する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1の「L-ドーパおよび/またはドーパミンアゴニスト療法におけるウェアリング・オフ現象および/またはオン・オフ変動のオフ時間を減少させる」における「および/またはドーパミンアゴニスト」を削除する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項1の「L-ドーパおよび/またはドーパミンアゴニスト療法におけるウェアリング・オフ現象および/またはオン・オフ変動のオフ時間を減少させる」の直前に「前記薬剤は、前記」を挿入し、直後に「ために前記患者に投与され、」を挿入し、さらに改行して、「前記薬剤は、前記L-ドーパ療法においてL-ドーパと併用して前記対象に投与される、」を挿入し、さらに改行して、「ことを特徴とする」を挿入する。
3 訂正の適否の判断
(1)訂正事項1について
ア 訂正事項1は、薬剤の適用対象患者を特定するものであり、訂正事項1による訂正後の請求項1に係る発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は、該訂正前の請求項1に係る発明のそれと同一である。
したがって、訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
イ そして、訂正事項1に関し、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件特許明細書等」という。)には、「本発明は、・・・L-ドーパ療法のその他の一般的な副作用を引き起こすL-ドーパとともにKW-6002を投与することによって、ヒトのパーキンソン病を治療する改良方法を提供する。」(【0125】の最後の文)(合議体注:「KW-6002」は、本件特許明細書等の【0121】~【0122】に記載のとおり、請求項1に記載の「(E)-8-(3,4-ジメトキシスチリル)-1,3-ジエチル-7-メチルキサンチン」であり、以下「KW-6002」とも記載する。)と記載され、また、訂正前の請求項1には、「L-ドーパ療法および/またはドーパミンアゴニスト」における「ウェアリング・オフ現象および/またはオン・オフ変動のオフ時間を減少させる」と記載されているところ、本件特許明細書等の【0009】には、パーキンソン病の症状が進行すると、ウェアリング・オフ現象やオン・オフ変動等の運動合併証が発症することが記載されている。
さらに、実施例1(【0147】~【0156】)には、KW-6002の、L-ドーパ関連の運動合併症によって悪化したパーキンソン病の治療としての安全性及び有効性を検討するための多施設試験研究を行った結果について記載されているところ、当該試験では、パーキンソン病の被験者は、来院中に治験担当医師によって判定される「オフ」時間の変化、及び、被験者の自宅での運動日誌によって判定される「オフ」時間の変化を主要な有効性指標として判定されていることから、実施例1の被験者が「パーキンソン病ヒト患者」であることは明らかであるし、また、実施例1の被験者は、「少なくとも1年間、L-ドーパ/カルビドパを服用しており」、「ウェアリング・オフ(wearing-off)をはじめとする運動合併症を起こしている」患者であるから、KW-6002の投与対象が、「L-ドーパ療法において、ウェアリング・オフ現象および/またはオン・オフ変動を示すに至った段階の患者」であることもまた明らかである。
以上の記載によれば、本件特許明細書等には、(E)-8-(3,4-ジメトキシスチリル)-1,3-ジエチル-7-メチルキサンチンを含有する薬剤の適用対象が、訂正事項1における「パーキンソン病のヒト患者」、「L-ドーパ療法において、ウェアリング・オフ現象および/またはオン・オフ変動を示すに至った段階の患者」であることが記載されていたといえる。
したがって、訂正事項1は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。
(2)訂正事項2について
訂正事項2は、請求項1における「L-ドーパおよび/またはドーパミンアゴニスト療法」のうち、「ドーパミンアゴニスト療法」を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
また、訂正事項2は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。
(3)訂正事項3について
訂正前の請求項1には、「L-ドーパ療法および/またはドーパミンアゴニスト」における「ウェアリング・オフ現象および/またはオン・オフ変動のオフ時間を減少させる薬剤」と記載されており、訂正前の請求項1の「薬剤」が、ウェアリング・オフ現象および/またはオン・オフ変動のオフ時間を減少させるために投与されるものであることが記載されているといえるから、訂正事項3は、該治療目的のために上記患者に投与されることを明示的に特定するものである。
そして、訂正前の請求項1の「薬剤」は、「L-ドーパおよび/またはドーパミンアゴニスト療法」における「ウェアリング・オフ現象および/またはオン・オフ変動のオフ時間を減少させる」ものであり、ここで、「L-ドーパおよび/またはドーパミンアゴニスト療法」とは、パーキンソン病の治療薬である「L-ドーパおよび/またはドーパミンアゴニスト」を患者に投与する治療法であるから、訂正事項3は、訂正前の請求項1の「薬剤」について、「前記L-ドーパ療法においてL-ドーパと併用して前記対象に投与される」態様に特定するものであり、訂正事項3による訂正後の請求項1に係る発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は、該訂正前の請求項1に係る発明のそれと同一である。
したがって、訂正事項3は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
また、訂正事項3は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。
(4)独立特許要件について
請求項1は特許無効審判が請求されている請求項であるから、上記訂正事項1~3に関して、特許法第134条の2第9項において読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件に関する規定は適用されない。
(5)小括
以上によれば、本件訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
よって、本件特許(つまり、特許第4376630号)の特許請求の範囲を、上記訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり訂正することを認める。
第3 本件訂正発明
上記第2のとおり、本件訂正は認められたので、本件訂正後の本件特許の特許請求の範囲の請求項1に係る発明は、令和4年3月3日提出の訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。なお、訂正後の請求項1に係る発明を、以下「本件訂正発明」という。
「【請求項1】
(E)-8-(3,4-ジメトキシスチリル)-1,3-ジエチル-7-メチルキサンチンを含有する薬剤であって、
前記薬剤は、パーキンソン病のヒト患者であって、L-ドーパ療法において、ウェアリング・オフ現象および/またはオン・オフ変動を示すに至った段階の患者を対象とし、
前記薬剤は、前記L-ドーパ療法におけるウェアリング・オフ現象および/またはオン・オフ変動のオフ時間を減少させるために前記患者に投与され、
前記薬剤は、前記L-ドーパ療法においてL-ドーパと併用して前記対象に投与される、
ことを特徴とする薬剤。」
第4 当事者の主張及び証拠方法
1 請求人の主張及び証拠方法
請求人が提出した審判請求書、弁駁書、口頭審理陳述要領書、口頭審理陳述要領書(2)及び令和5年1月11日提出の上申書によれば、請求人は、特許第4376630号発明の、令和4年3月3日提出の訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される発明、すなわち本件訂正発明についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、その理由として、本件訂正発明には、以下の無効理由が存在する旨を主張し、証拠方法として甲第1号証~甲第63号証(以下、上記第1で記載したとおり、証拠番号順に「甲1」~「甲63」という。)を提出した。
なお、以下の無効理由番号は、審理事項通知において、当審で付した番号である。
(1)新規性欠如
[無効理由1-1](甲1に基づく新規性欠如)
本件訂正発明は、甲1に記載された発明と同一の発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものである。
よって、本件訂正発明に係る特許は、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
[無効理由1-2](甲2に基づく新規性欠如)
本件訂正発明は、甲2に記載された発明と同一の発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものである。
よって、本件訂正発明に係る特許は、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
(2)進歩性欠如
[無効理由2-1](甲3を主引例とする進歩性欠如)
本件訂正発明は、甲3に記載された発明、甲1~甲8に記載された事項、及び本件特許の優先日前の技術常識に基いて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
よって、本件訂正発明に係る特許は、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
[無効理由2-2](甲1を主引例とする進歩性欠如)
本件訂正発明は、甲1に記載された発明、甲1~甲3及び甲5~甲8記載された事項、並びに本件特許の優先日前の技術常識に基いて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
よって、本件訂正発明に係る特許は、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
[無効理由2-3](甲2を主引例とする進歩性欠如)
本件訂正発明は、甲2に記載された発明、甲1~甲8に記載された事項、及び本件特許の優先日前の技術常識に基いて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
よって、本件訂正発明に係る特許は、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
[無効理由2-4](甲4を主引例とする進歩性欠如)
本件訂正発明は、甲4に記載された発明、甲1~甲9に記載された事項、及び本件特許の優先日前の技術常識に基いて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
よって、本件訂正発明に係る特許は、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
(証拠方法)
なお、本件特許の優先日後に公開された文献についてはその旨を記載した。
<審判請求書に添付>
・甲1:European Journal of Pharmacology,Vol.408,2000年,p.249~255
・甲2:Experimental Neurology,2000年,Vol.162,p.321~327
・甲3:NEUROLOGY,1999年,Vol.52,p.1916
・甲4:Psychopharmacology,1999年,Vol.147,p.90~95
・甲5:BRAIN NURSING,第9巻 春季増刊(通巻第102号)「パーキンソン病患者のケア・ポイント 病態生理・治療と看護事例」、1993年2月14日、株式会社メディカ出版、10~11頁
・甲6:Clinical and Experimental Pharmacology and Physiology,1999年,Vol.26,p.421~425
・甲7:Annals of Neurology,1998年,Vol.43,No.4,p.507~513
・甲8:「住友化学 2000-II」、平成12年11月30日、住友化学工業株式会社、52頁
・甲9:特表2000-513349号公報
<弁駁書に添付>
・甲2の2:甲2の全訳
・甲3の2:甲3の全訳
・甲10:BRAIN nursing 第9巻・春季増刊(通巻第102号)「パーキンソン病患者のケア・ポイント 病態生理・治療と看護事例」、1993年2月14日、5~13頁、46~54頁、78~90頁
・甲11(優先日後):「脳科学から見た統合失調症」 すまいるナビゲーターウェブサイト 大塚製薬株式会社 令和4年5月20日(閲覧日)
(URL:https://www.smilenavigator.jp/tougou/about/science/)
・甲12:Bioscience,Biotechnology,and Biochemistry,2001年,Vol.65,No.7,p.1447~1457
・甲13(優先日後):「ノウリアスト(イストラデフェリン)の作用機序:パーキンソン病治療薬」 薬に立つ薬の情報~専門薬学ウェブサイト 令和4年5月20日(閲覧日)(URL:https://kusuri-jouhou.com/medi/parkinson/a2a.html)
・甲14:近藤智善 外2名「パーキンソン病治療ハンドブック」、2001年5月15日、121~131頁(項目IV.)
・甲15:柳澤信夫(編)、小川紀雄(13)、野元正弘(14)、長谷川一子(17)、鷲見幸彦(18)「パーキンソン病-診断と治療-」(「13薬物治療の基本的な考え方」「14 パーキンソン病治療薬の種類と特徴」「17 L-DOPA長期使用の問題点と対策」「18 薬物治療のコツ」)2001年5月31日(第1版第2刷)、金原出版株式会社、115~138、155~165頁
・甲16:「パーキンソン病治療薬-アデノシンA2A受容体拮抗薬(KW-6002)など-」日本臨牀、2002年1月1日発行、60巻1号、112~116頁
・甲17:萬年徹(編)「図説内科診断治療講座15 パーキンソン症候群と類縁疾患」、1989年11月25日、株式会社メジカルビュー社、230~243頁
・甲18:協和発酵キリン株式会社「ノウリアスト錠 20mg」の「KW-6002 第2部(モジュール2):CTDの概要(サマリー)」の「2.5 臨床に関する概括評価」の4、5、12~13頁及び「2.6 非臨床試験の概要文及び概要表 2.6.2 薬理試験の概要文」の2~16頁
(URL:https://www.pmda.go.jp/drugs/2013/P201300035/index.html)(合議体注:正確な公知日は不明であり優先日前であることを示す事情もない。)
・甲19(優先日後):生体の科学、2002年12月、53巻6号、592~600頁
・甲20(優先日後):面接記録(特願2003-563566)及びその添付資料
・甲21:山本光利「患者と家族のためのパーキンソン病Q&A(改訂2版)」1997年6月30日、93~95頁
・甲22(優先日後):パーキンソン病治療ガイドライン作成小委員会「日本神経学会 治療ガイドライン パーキンソン病治療ガイドライン2002」平成14年5月、臨床神経学、42巻5号、430~436頁、484~494頁
・甲23:乙17の全訳
・甲24:知財高裁平成17年11月8日判決(平成17年(行ケ)第10389号)
・甲25:知財高裁平成28年3月24日判決(平成27年(行ケ)第10113号)
・甲26:神田知之「運動不全モデルにおけるアデノシンA2A受容体拮抗薬の行動薬理学的作用解析」と題する論文、1999年
・甲27:「二重盲検試験と非盲検試験とは」2016年、ドクターサロン、通巻710号、60巻5号、377~380頁
・甲28:Expert Opinion on Pharmacotherapy,2001年,Vol.2,No.4,p.557~572のオンライン版(なお、オンラインでの公表は2005年だが、記載内容は、2001年発行の文献の内容である(調書参照。)。)
・甲29(優先日後):Current Topics in Medicinal Chemistry,2002年,Vol.3,No.1,p.1349~1364のオンライン版(オンラインでの公表日2003年2月)
・甲30:Journal of Neurology,Neurosurgery and Psychiatry,1999年,Vol.66,No.4,p.436~441
・甲31:European Journal of Neurology,1998年,Vol.5,No.3,p.235~242
・甲32:Movement Disorders,1993年,Vol.8,No.4,p.463~465
・甲33:Journal of Neurology,Neurosurgery,and Psychiatry,1997年,Vol.63,No.4,p.421~428
・甲34:Archives of neurology,2001年9月,Vol.58,No.9,p.1385~1392
・甲35:Neurology,1998年,Vol.51, No.4,p.1057~1062
・甲36:Movement Disorders,1994年,Vol.9,No.1,p.40~47
・甲37(優先日後):ノウリアスト(R)錠20mg添付文書 2022年4月改訂(第1版) 協和キリン株式会社
(合議体注:上記上付きの(R)標記は、原文では○の中にRの上付き標記であるが、この審決では(R)と表記している。以下、この審決において同様。)
・甲38:「パネルディスカッション ParkinsonismとL-DOPA-治療上の問題点-」、臨床神経学、昭和51年、16巻12号、877~878頁
・甲39:神経研究の進歩、1985年4月、29巻2号、276~286頁
・甲40:「L-DOPA治療によるwearing-off 現象の発現機序とその対策」、最新医学、1997年7月、52巻7号、1587~1594頁
・甲41:(優先日後)Movement Disorders, 2002年2月,Vol.17,No.2,p.289~296(オンライン発行日21Feb2002)
・甲42:松田徳一郎(編集代表)「リーダーズ英和辞典 第2版」1999年5月第2版第3刷、(株)研究社、1615頁の「moderate」の項目)
・甲43:「新薬展望2001 抗パーキンソン病薬」、2001年1月、医薬ジャーナル、37巻増刊号、53~60頁
・甲44:Neuroscience Research,2001年,Vol.41,No.4,p.397~399
・甲45:Clinical and Experimental Pharmacology and Physiology,1999年,Vol.26,p.421~425
・甲46(優先日後):日本神経学会監修「パーキンソン病 診療ガイドライン2018」、2018年5月15日発行、(株)医学書院、110~129頁。
・甲47(優先日後):知的財産高等裁判所令和3年8月31日判決(令和2年(行ケ)第10004号)
・甲48:乙1の全訳
<令和4年10月11日提出の上申書に添付>
・甲49(優先日後):令和3年(行ケ)第10155号及び同10157号の原告共和ら技術説明資料
<令和4年11月1日提出の口頭審理陳述要領書に添付>
・甲4の2:甲4の全訳
・甲50:Journal of Pharmacy and Pharmacology,1994年,Vol.46,No.6,p.515~517)
・甲51:CNS Drugs,1998年,Vol.10,No.5,p.311~320
・甲52:「新薬展望2000」、医薬ジャーナル、2000年1月1日、36巻増刊号、39~44頁
・甲53:Acta Physiologica Scandinavica,1971年,Vol.82,S367,p.69~93
・甲54(優先日後):化学と生物、2002年2月25日、40巻2号、123~128頁
・甲55:Clin Neuropharmacol.,1999年,Vol.22,No.4,p.192~200
<令和4年11月22日受付の口頭審理陳述要領書(2)に添付>
・甲41の2:甲41の抄訳
・甲56(優先日後):ネオドパストン(R)配合錠L100、L250添付文書 2021年5月改訂(第18版、承継に伴う改訂)ノバルティスファーマ株式会社
・甲57:乙37の抄訳
・甲58:乙38の抄訳
<令和4年11月24日提出の上申書に添付>
・甲59(口頭審理における説明で使用したスライド資料)
<令和4年12月7日差出の上申書に添付>
・甲50の2:甲50の全訳
・甲51の2:甲51の全訳
<令和5年1月11日提出の上申書に添付>
・甲28の2:甲28の抄訳
・甲60:Neuroscience,1991年,Vol.42,No.3,p.697~706
・甲61:神谷大雄ら編集、「薬理学 第2版」、東京廣川書店、平成12年10日第2版第1刷、2~8頁
・甲62:乙5の抄訳
・甲63(優先日後):パーキンソン病診療ガイドライン作成委員会編集、「パーキンソン病診療ガイドライン2018」、医学書院、2018年5月15日第1版第1刷、25~76頁
2 参加人の主張及び証拠方法
弁駁書、口頭審理陳述要領書及び令和5年1月11日受付の上申書によれば、参加人は、本件特許に上記無効理由1-1、1-2、2-1、2-2、2-3及び2-4が存在する旨を主張し、証拠方法として、丙第1号証~丙第21号証(以下、上記第1で記載したとおり、証拠番号順に「丙1」~「丙21」という。)を提出した。
(証拠方法)
<弁駁書に添付>
・丙1:甲1の全訳
・丙2:甲2の全訳
・丙3:甲3の全訳
・丙4:乙1の全訳
・丙5:乙17の全訳
・丙6:甲7の抄訳
・丙7:Bioscience,Biotechnology,and Biochemistry,2001年,Vol.65,No.7,p.1447~1457
・丙8(優先日後):「ノウリアスト(イストラデフェリン)の作用機序:パーキンソン病治療薬」 役に立つ薬の情報~専門薬学ウェブサイト(令和4年1月27日印刷)
(URL:https://kusuri-jouhou.com/medi/parkinson/a2a.html)
・丙9:THE MERCK MANUAL of Diagnosis and Therapy(17th EDITION),1999年,p.1466~1471
・丙10:「南山堂 医学大辞典」18版1刷、1998年、1121頁「すり減り現象」
・丙11:(優先日後):ノウリアスト(R)錠20mg添付文書 2022年4月改訂(第1版) 協和キリン株式会社
・丙12(優先日後):ドパストン(R)カプセル250mg/ドパストン(R)散98.5% 添付文書 2020年1月改訂(第18版) 大原薬品工業株式会社
・丙13(優先日後):ノウリアスト(R)錠20mgインタビューフォーム 2022年4月改訂(第1版) 協和キリン株式会社
・丙14(優先日後):生体の科学、2002年12月15日、53巻6号、592~600頁
・丙15:第20回メディシナルケミストリーシンポジウム 第9回日本薬学会医薬化学部会年会講演要旨集2000年11月8日印刷発行、25~28頁
・丙16:「パーキンソン病治療薬-アデノシンA2A受容体拮抗薬(KW-6002)など-」、日本臨牀、2002年1月1日、60巻1号、112~116頁
・丙17(優先日後):Current Topics in Medicinal Chemistry,2003年2月,Vol.3,No.1,p.1349~1364のオンライン版
<令和4年10月7日付け証拠説明書に添付>
・丙18:令和3年(行ケ)第10157号原告東和薬品株式会社技術説明資料
<令和4年11月29日提出の上申書に添付>
・丙19:口頭審理における説明で使用したスライド資料
<令和5年1月11日受付の上申書に添付>
・丙20:特許第2613355号公報(平成9年5月28日発行)
・丙21(優先日後):協和キリン株式会社作成の「パーキンソン病の治療と薬を正しく理解するために」と題する資料、1~11頁(2020年3月)
3 被請求人の主張及び証拠方法
被請求人が提出した答弁書、口頭審理陳述要領書及び令和5年1月12日差出の上申書(1)、(2)によれば、被請求人は、「本件無効審判の請求は成り立たない」、「審判費用は請求人の負担とする」との審決を求め、その理由として、本件特許には上記無効理由1-1、1-2、2-1、2-2、2-3及び2-4は存在しない旨を主張し、証拠方法として、乙第1号証~乙第67号証(以下、上記第1で記載したとおり、証拠番号順に「乙1」~「乙67」という。)を提出した。
<答弁書に添付>
・乙1:Neurology,1999年,Vol.52,p.1673~1677
・乙2:Brain Research,1995年,Vol.701,p.13~18
・乙3:Neurology,2001年6月,Vol.56(Suppl 5)、S1~S88頁中S1~S13頁の抜粋
・乙4(優先日後):Movement Disorders,2013年,Vol.28,No.8,p.1138~1141
・乙5(優先日後):Parkinsonism and Related Disorders,2010年,Vol.16,p.16~20
・乙6:The Canadian Journal of Neurological Sciences,1992年,Vol.19,No.1(Supplement),p.108~112
・乙7(優先日後):知財高裁平成25年7月24日判決(平成24年(行ケ)第10206号)
・乙8(優先日後):最高裁令和元年8月27日判決(平成30年(行ヒ)第69号)
・乙9の1(優先日後):JAMA Neurology,2015年,Vol.72,No.12,p.1491~1500
・乙9の2(優先日後):ニュースサイトであるFIERCE BIOTECHのニュース記事 Merck Provides Update on Phase III Clinical Program for Preladenant, the Company's Investigational Parkinson's Disease Medicine, 2013年5月23日,Questex Media Group LLC(FIERCE BIOTECHの運営企業体)
(URL:https://www.fiercebiotech.com/biotech/merck-provides-update-on-phase-iii-clinical-program-for-preladenant-company-s)
・乙10(優先日後):冨山教授見解書,令和3年3月31日,弘前大学大学院 医学研究科脳神経内科学 冨山 誠彦 教授
・乙11(優先日後):黒川博士陳述書,令和3年3月24日,協和キリン株式会社 研究開発本部 中枢R&Dユニット 中枢神経研究所所長 黒川 昌子 博士
・乙12(優先日後):実験成績報告書,令和3年3月31日,協和キリン株式会社 研究開発本部 中枢R&Dユニット 中枢神経研究所主任研究員 内田 真一 博士
・乙13:「Roche Ends Kyowa Hakko Collaboration」と題する業界紙報告、1998年9月7日、マーケットレター出版社
・乙14:Naunyn-Schmiedeberg’s Arch Pharmacol,1999年,Vol.359,p.7~10
・乙15(優先日後):無効2020-800034号審決
・乙16(優先日後):無効2020-800034号における、令和3年4月21日付けの被請求人による上申書
・乙17: Clinical Neuropharmacology,2002年1月1日,Vol.25,No.1,p.25~31
・乙18:NEUROLOGY,1998年,Vol.50(Supplement 5)、S54~S59
・乙19(優先日後):コムタン(R)錠100mg添付文書 2018年8月改訂 ノバルティスファーマ株式会社
・乙20(優先日後): オンジェンティス(R)錠25mg添付文書、2020年8月改訂 小野薬品工業株式会社
・乙21(優先日後):エクフィナ(R)錠50mg添付文書、2020年12月改訂 エーザイ株式会社
<令和4年10月18日差出の上申書>
なお、以下の乙番号は、調書に記載のとおり、令和4年11月11日差出の上申書に添付された証拠説明書(3)により付された。
・乙48の1(優先日後):令和3年(行ケ)第10155号及び同第10157号における被告技術説明資料
・乙48の2(優先日後):令和3年(行ケ)第10155号及び同第10157号における被告第2準備書面
・乙48の3(優先日後):令和3年(行ケ)第10155号及び同第10157号における被告第3準備書面
<口頭審理陳述要領書に添付>
・乙22(優先日後):株式会社サン・フレア 品質保証本部 中島一夫博士による令和4年8月5日作成の見解書
・乙23(優先日後):Daniel Joseph Borash博士による令和4年(2022年)8月1日作成の見解書
・乙24(優先日後):令和3年(行ケ)第10157号における原告東和による令和4年(2022年)7月19日付けの準備書面(原告その2)
・乙25(優先日後):Dictionary.comのインターネットサイトの「potentiate」の項目(印刷日2021年1月10日)
・乙26(優先日後):Merriam-Webster,Incのインターネットサイトの「potentiate」の項目(検索日2021年1月10日)
・乙27-1(優先日後):SYNAPSE,2004年,Vol.51,p.140~150
・乙27-2:Movement Disorders,Vol.12,No.6,1997年,p.935~945
・乙27-3:Clinical Pharmacology & Therapeutics,1998年,Vol.64,No.4,p.402~411
・乙27-4(優先日後):Clinical Pharmacology & Therapeutics,2005年,Vol.77,No.1,p.54~62
・乙27-5(優先日後):Journal of Neurochemistry,2003,年Vol.86,p.1328~1337
・乙27-6(優先日後):International Review of Neurology,2010年,Vol.95,p.191~205
・乙28-1~乙28-4(優先日後):Google Scholarにおける検索結果(検索日、令和4年8月10日)
・乙28-1:「potentiate」の検索結果
・乙28-2:「potentiate the duration of action」の検索結果
・乙28-3:「increase」の検索結果
・乙28-4:「increase the duration of action」の検索結果
・乙29(優先日後):Oxford Learner’s Dictionaryのインターネットサイトにおける「relative to」の検索結果
(URL:https://www.oxfordlearnersdictionaries.com/definition/academic/relati)(検索日、令和4年8月6日)
・乙30(優先日後):特表2005-523898号公報(本件特許の国内公表公報)
・乙31(優先日後):本件特許の出願の審査段階の平成20年10月29日付けの手続補正書
・乙32(優先日後):Movement Disorders Clinical Practice,2015年,p.331~340(published online25 July 2015; DOI:10.1002/mdc3.12187)
・乙33:乙17の抄訳
・乙34:Science,2001年,Vol.293,p.1164~1166
・乙35:甲4の抄訳
・乙36-1~乙36-5(優先日後):「In conclusion」あるいは「conclude」についてインターネット上の各種英和辞書サイトで検索した結果(検索日2022年6月11日)
・乙36-1:Weblio英和辞書における「In conclusion」の検索結果
・乙36-2:Weblio英和辞書における「conclude」の検索結果
・乙36-3:Merriam-Webster dictionaryにおける「in conclusion」の検索結果
・乙36-4:Cambridge English Dictionaryにおける「in conclusion」の検索結果
・乙36-5:ロングマン現代英英辞典における「in conclusion」の意味の検索結果
・乙37:European Journal of Neuroscience,2000年,Vol.12,p.1096~1104
・乙38Neuroscience Letters,2000年,Vol.291,p.54~58
・乙39(優先日後):Journal of Neural Transmission ,2020年,Vol.127,p.1343~1358
・乙40(優先日後):国立国会図書館サイトでの検索結果である、「異常運動疾患アンケート調査集計結果」に関する書誌情報(検索令和3年)(copyright2012)
・乙41:「パーキンソン病におけるlevodopa長期治療に伴う特殊症状-多変量解析を用いた検討-」、臨床神経学、1997年、37巻6号、469~475頁
・乙42:神田知之「運動不全モデルにおけるアデノシンA2A受容体拮抗薬の行動薬理学的作用解析」と題する論文、1999年
・乙43(優先日後):米国テオフィリン臨床試験登録状況(U.S.National Library of MedicineのClinicalTrials.govのサイト(米国)でのテオフィリンの臨床試験登録についての検索結果(2022年11月1日検索))
・乙44(優先日後):欧州テオフィリン臨床試験登録状況(EU Clinical Trials Registerのサイト(欧州)でのテオフィリンの臨床試験登録についての検索結果(2022年11月1日検索))
・乙45(優先日後):Drugs,2013年,Vol.73,p.1405~1415
・乙46:J.Pharm.Pharmacol.,1994年,Vol.46,p.515~517
・乙47:CNS Drugs,1998年,Vol.10,No.5,p311~320
<令和4年11月12日差出(同年同月10日付け)の上申書に添付>
・乙48の4(優先日後):令和3年(行ケ)第10155号及び同第10157号における令和4年10月24日付けの被告第4準備書面
・乙48の5(優先日後):令和3年(行ケ)第10155号及び同第10157号における令和4年10月24日付けの被告第5準備書面
・乙48の6(優先日後):令和3年(行ケ)第10155号及び同第10157号における令和4年11月8日付けの被告第6準備書面
・乙49(優先日後):協和キリン株式会社研究開発本部 神田知之博士による令和4年10月11日作成の陳述書
・乙50(優先日後):「審査報告書・申請資料概要」と題する独立行政法人医薬品医療機器総合機構のホームページ」(URL:https://www.pmda.go.jp/review-services/drug-reviews/review-information/p-drugs/0020.html)令和4年10月23日印刷
・乙51(優先日後):「医薬品インタビュ-ホ-ム」と題するホームページ(URL:
https ://answers. ten-navi.com /dictionary/cat04/2667/)2022年10月23日印刷
・乙52(優先日後):協和発酵キリン株式会社「ノウリアスト錠 20 mg」と題する資料の「CTD2.6.3.1 薬理試験:一覧表」
(URL:https://www.pmda.go.jp/drugs/2013/P201300035/index.html)2022年10月23日印刷
・乙53(優先日後):「会社概要」と題する協和キリン株式会社のホームページ(URL:
https://www.kyowakirin.co.jp /about us/profile/index.html)2022年10月23日印刷
・乙54(優先日後):「ウェブサイトの公開日を調べる方法」と題するホームページ(URL:https://www.wikihow.jp/ウェブサイトの公開日を調べる)2022年10月24日印刷
・乙55(優先日後):Google検索サイトでの「ノウリアスト(イストラデフェリン)の作用機序」と題する検索結果、2022年10月24日印刷
・乙56:乙37の抄訳
・乙57:乙38の抄訳
<令和4年11月28日提出の上申書に添付>
・乙58(優先日後):口頭審理における説明で使用したスライド資料
<令和4年12月6日提出の上申書>
・乙38の2:乙38の全文訳
<令和5年1月12日差出の上申書(1)>
・乙59(優先日後):British Journal of Anaesthesia,2015年,Vol.115,No.3,p.337~339
・乙60:Brain Research,1993年,Vol.613,p.347~351
・乙61:Neuroscience,1991年,Vol.42,No.3,p.697~706
・乙62:Journal of Neurochemistry,1998年,Vol.70,No.3,p.1210~1216
・乙63(優先日後):Progress in Neurobiology,2007年,Vol.83,p.293~309
・乙64:TINS,2000年、Vol.23,No.10(Suppl.),S2~7
・乙65(優先日後):「日本発の非ドパミン系パーキンソン病治療薬:イストラデフィリン【従来にない,まったく新しい作用機序を示す非ドパミン作動性薬剤】」と題する記事、2016年12月20日、インターネットでのアクセス2023年1月5日
(URL:https://www.jmedj.co.jp/journal/paper/detail.php?id=5654)
・乙66-1:Annals of Neurology,1994年,Vol.36,No.1,p.27~31
・乙66-2:Can.J.Neurol.Sci.,1999年,Vol.26,Suppl.2-S13~S20
・乙66-3:Drugs,1998年,Vol.55,Suppl.1,p.1~9
・乙67:乙3の抄訳(優先日後)
第5 主な証拠の記載事項
当事者から提出された主な証拠の記載事項を以下に示す。外国語で記載された記載事項は、両当事者が提出した訳文を基礎として合議体が作成した日本語訳を記載する。なお、下線は当審が付したものである。また、読みやすくするために適宜、改行やスペースを加え、斜体文字や強化文字はシステム上表記できないため、通常表記としている。
さらに、以下の摘記においては、当事者から提出された訳文を基礎として作成しているため、証拠における「vehicle」が、証拠により「ビヒクル」「ベヒクル」「基剤」と訳が異なっている等、同じ外国語の単語が異なる訳となっている場合がある。
1 甲号証の記載事項
[甲1(European Journal of Pharmacology 408,2000年,p.249~255)に記載された事項]
・甲1a(タイトル及びAbstract)
「アデノシンA2A受容体アンタゴニストKF17837及びKW-6002は、片側パーキンソン病ラットにおけるドーパミン作動薬剤により誘導される回転を増強する
・・・
要約
アポモルヒネ又はL-ドーパ(L-3,4-ジヒドロキシフェニルアラニン)により誘導される回転運動に及ぼす新規のアデノシンA2A受容体アンタゴニストであるKF17837・・・及びKW-6002((E)-1,3-ジエチル-8-(3,4-ジメトキシスチリル)-7-メチル-3,7-ジヒドロ-1H-プリン-2,6-ジオン)の効果を、片側6-ヒドロキシドーパミン病変を有するラットにおいて検討した。KF17837及びKW-6002は共に、それ自体、回転運動を僅かに誘導した。しかしながらKF17837及びKW-6002は、アポモルヒネにより誘導される回転の総カウントを、それぞれ3mg/kg経口と10mg/kg経口の投与量、及び1mg/kg経口とそれより高い投与量で、有意に増加させた。KF17837及びKW-6002はまた、L-ドーパによって誘導される回転運動も、3mg/kg経口の投与量で強化した。更に、選択的アデノシンA2A受容体アゴニストであるCGS21680・・・の脳室内注射(10μg/20μl)は、アポモルヒネにより誘導される回転運動を部分的に防止し、この阻害は、KW-6002(1mg/kg経口)により元に戻った。
これらのアデノシンA2A受容体アンタゴニストによるアポモルヒネ誘導性の回転の総カウントの増加は、強度の増大よりも寧ろ、主として回転持続時間の延長によるものと思われる。これらの結果は、アデノシンA2A受容体アンタゴニストが、進行したパーキンソン病患者におけるドーパミン作動薬剤応答の持続時間の短縮を緩和するのに有用である可能性があることを示唆している。」
・甲1b(249頁左欄2~10行(左欄1段落)、同頁右欄2段落~250頁右欄1段落)
「1 緒言
パーキンソン病に対する現在の療法は、ドーパミン補充療法に基づいている。にもかかわらず、この療法の利益は、ジスキネジアやウェアリング・オフ変動の発生を含む長期合併症によって、しばしば損なわれる(Marsdenら、1982)。このため、非ドーパミン性受容体を標的とするメカニズムが、魅力的な代替アプローチであり、アデノシンA2A受容体アンタゴニストは、その様な新規の療法の候補である(Richardsonら、1997;Kuwanaら、1999)。
・・・
我々は最近、経口で活性なアデノシンA2A受容体アンタゴニストであるKF17837((E)-1,3-ジプロピル-8-(3,4-ジメトキシスチリル)-7-メチル-3,7-ジヒドロ-1H-プリン-2,6-ジオン))及びKW-6002((E)-1,3-ジエチル-8-(3,4-ジメトキシスチリル)-7-メチル-3,7-ジヒドロ-1H-プリン-2,6-ジオン)を開発した(Shiozakiら、1999a)。これらのアデノシンA2A受容体アンタゴニストは、薬物誘導性のカタレプシーモデル、及びMPTP(1-メチル-4-フェニル-1,2,3,6-テトラヒドロピリジン)又はレセルピンで誘導されるマウスパーキンソン病モデルの運動障害を緩和させる(shiozakiら、1999b)。より最近、我々は、KW-6002とドーパミンアゴニストとの組合せが、MPTP処置コモン・マーモセット(Callithrix jacchus)においてジスキネジアを悪化させることなしに相乗的な抗パーキンソン病活性を生ずることを報告した(Kandaら、1998a,b,2000)。
本研究において、我々は、内側前脳束の6-ヒドロキシドーパミン病変を有するラットにおける、アデノシンA2AアンタゴニストであるKF17837及びKW-6002の効果を調べた。というのも、このパーキンソン病動物モデルは、候補化合物の有効性を評価するための最も信頼性のあるものの一つだからである(Ungerstedtら、1970)。本研究は、ドーパミン受容体アゴニストであるアポモルヒネ又はL-ドーパ(L-3,4-ジヒドロキシフェニルアラニン)により誘導される回転運動を、KF17837又はKW-6002により変更することに焦点を置く。我々はまた、これらの化合物による回転運動の強化が、強度の増大によるものかあるいは回転持続時間の延長によるものか、についても調べた。」
・甲1c(250頁右欄6行、同頁右欄19行~251頁右欄2行、252頁左欄1~42行)
「2. 材料及び方法
・・・
2.2. 化合物
以下の化合物を使用した:(E)-1,3-ジプロピル-8-(3,4-ジメトキシスチリル)-7-メチル-3,7-ジヒドロ-1H-プリン-2,6-ジオン[KF17837・・・]、(E)-1,3-ジエチル-8-(3,4-ジメトキシスチリル)-7-メチル-3,7-ジヒドロ-1H-プリン-2,6-ジオン[KW-6002・・・]、2-[p-(2-カルボキシエチル)フェネチルアミノ]-5’-N-エチルカルボキサミドアデノシン塩酸塩(CGS21680・・・)、アポモルヒネ塩酸塩・・・、L-3,4-ジヒドロキシフェニルアラニン(L-ドーパ・・・)、・・・L-セリン-2-[(2,3,4-トリヒドロキシフェニル)メチル]ヒドラジド塩酸塩(ベンセラジド・・・)、デシプラミン塩酸塩(デシプラミン・・・)、6-ヒドロキシドーパミン臭化水素酸塩・・・。KF17837、KW-6002及びL-ドーパ(ベンセラジドと4:1の割合で投与)を、0.3%Tween 80又は0.3%カルボキシメチルセルロースナトリウムに懸濁した。CGS21680及びアポモルヒネを、生理食塩水に溶解した.デシプラミンを、蒸留水に溶解した。6-ヒドロキシドーパミン臭化水素酸塩を、L-アスコルビン酸を含む生理食塩水に溶解した・・・。KF17837、KW-6002及びL-ドーパを、5ml/kgの容量で、・・・脳室内投与した。アポモルヒネを、0.1mg/5mlで溶解し、5ml/kgの容量で皮下投与した。
2.3. 6-ヒドロキシドーパミン病変
ラット(220~260g)をペントバルビタールナトリウム(30mg/kg、腹腔内)で麻酔し定位固定枠・・・に配置した。6-ヒドロキシドーパミン(臭化水素酸6-ヒドロキシドーパミン、0.05%アスコルビン酸含有の生理食塩水2μL中8μg)を、左内側前脳束(A/P-2.5、l/M-1.8、及びV/D-8.9、ブレグマポイント及び頭蓋骨の表面から、Paxinos及びWatsonの図表、1986)に2分間かけて注射した(速度1μl/分)。ノルアドレナリン作動性ニューロンを保護するために、定位注射の30分前にラットに塩酸デシプラミン(25mg/kg腹腔内)を注射した。6-ヒドロキシドーパミン注射の少なくとも6日後に、病変を生じさせた動物にアポモルヒネを注射(0.1mg/kg皮下)し回転計(Ungerstedtら、1970)で回転運動を記録することにより試験した。
2.4. 回転挙動の評価
病変から2週間より後で、ラットを、アポモルヒネ(0.1mg/kg)に応答したそれらの対側回転(1回転は、360°のターンと定義した)に基づいてスクリーニングした。1時間の試験期間中に少なくとも300回の対側回転を示さなかったラットを、研究から除外した。挙動観察のため、ラットを半球状のボウル・・・に入れ、回転挙動を、自動回転計・・・により定量した。回転を、5分間隔で、2又は3時間の期間にわたって記録した。試験の日、ラットを計量し、試験ボウルに入れ、試験の前・・・順化させた。アポモルヒネ及びL-ドーパを、KF27837又はKW-6002による処置の30分後に投与した。実験と実験との間は少なくとも6日経過させた。プライミング効果の因子を除外するため、薬物(KF17837及びKW-6002)処置を、ランダムな順番の群内の全ての動物に対して投与し、各ラットはそれ自身の対照としての役割を果たした。応答の強度は、全ての5分区間における対側回転数により測定した。応答の持続時間は、回転率が結果としての平均値の半分に達した最初の5分区間と回転率が再び平均値の半分まで減少した最初の区間との間の時間により測定した。」
・甲1d(252頁右欄24行~末行及びTable1、250頁Fig.1.の(B)及び251頁Fig.2.の(D)~(G)並びに253頁左欄1~9行及びFig.3.)
「3. 結果
3.1. アデノシンA2A受容体アンタゴニストのアポモルヒネにより誘導される回転への影響
アポモルヒネ(0.1mg/kg、皮下)は、約60分間にわたって強い対側回転をもたらした。最大強度は5分間で50カウントを超え、総カウントは120分間で約500であった。対照的に、KF17837(1~10mg/kg)又はKW-6002(0.1~1mg/kg)の経口投与自体は回転運動を誘導しなかった。KW-6002のみ、高投与量(3mg/kg及び10mg/kg)で対側回転を生じたが、これらの効果は比較的弱く、KW-6002の投与後25分においてのみ統計的に有意であった。
投与量3mg/kg経口及び10mg/kg経口でのKF17837の、及び投与量1mg/kg経口及びこれより高いKW-6002の投与は、アポモルヒネにより誘導される対側回転の総カウント(120分間)を有意に増加させた(図1)。図2において、薬物処置の効果は、KF17837の1mg/kg経口以外の全ての投与量において統計学的に有意であった(パネルA;P=0.8621、2元配置分散分析による)。アポモルヒネと共にKF17837及びKW-6002を投与された動物は、アポモルヒネのみを投与された動物に比べて、アポモルヒネに対するより長い応答持続時間を有した(図2B~G)。KF17837及びKW-6002(両化合物共に3mg/kg経口)は、アポモルヒネに対する運動応答の持続時間を、それぞれ44%及び25%と最大に延長させた(表1)。
[図:0001422768000001.jpg]
」
「
[図:0001422768000002.jpg]
図1. 6-ヒドロキシドーパミン病変ラットにおけるアポモルヒネ(0.1mg/kg皮下注射)注射後の回転の総カウントに対する、KF17837(A)及びKW-6002(B)の効果。・・・KW-6002はアポモルヒネ注射の30分前に経口投与した。各柱及びバーは、アポモルヒネ注射後120分間の回転の総カウントの平均±標準誤差を表す。アポモルヒネのみの処置との差の有意性は、対応付けt-検定により評価した(n=8、*p<0.05)。」
「
[図:0001422768000003.jpg]
[図:0001422768000004.jpg]
図2. 6-ヒドロキシドーパミン病変ラットにおける、アポモルヒネ(0.1mg/kg皮下)誘導対側回転運動に対する・・・KW-6002の効果。横軸はアポモルヒネ注射後の時間(分)を示す。・・・KW-6002(0.3mg/kg(D)、1mg/kg(E)、3mg/kg(F)、10mg/kg(G)は、アポモルヒネの注射の30分前に経口投与された。各点は、各5分区間のカウントの平均±標準誤差を表す。対応する対照との有意差は、2元配置分散分析及びこれに続く対応付けt-検定により評価した(n=8、*P<0.05)。」
「3.2. KW-6002及び選択的アデノシンA2A受容体アゴニストCGS21680がアポモルヒネ誘導回転挙動に及ぼす組み合わせ効果
CGS21680(10μg/20μ1、脳室内投与)での前処置により、アポモルヒネにより誘導される対側回転が有意に減少した(図3)。このCGS21680の効果は、アデノシンA2A受容体アンタゴニストKW-6002(1mg/kg、経口投与)の同時投与により部分的に回復され得た(図3)。」
「
[図:0001422768000005.jpg]
」
・甲1e(253頁左欄下から6行~右欄5行及び同頁右欄Fig.4)
「3.3. アデノシンA2A受容体アンタゴニストがL-ドーパ誘導回転に及ぼす効果
KF17837(3mg/kg、経口投与)は、L-ドーパ(3~30mg/kg、経口投与)により誘導される回転挙動を強化する傾向があったが、その効果は10mg/kg経口のL-ドーパの場合にのみ統計的に有意であった(図4A)。
他方、KW-6002(3mg/kg経口)は、3mg/kg経口又は10mg/kg経口の投与量のL-ドーパにより誘導される回転の総カウントを有意に増加させたが、30mg/kg経口のL-ドーパにより誘導される回転運動には影響を及ぼさなかった(図4B)。
[図:0001422768000006.jpg]
図4. 6-ヒドロキシドーパミン病変ラットにおけるL-ドーパ投与後の回転の総カウントに対する、KF17837(A)及びKW-6002(B)の効果。KF17873又はKW-6002は、L-ドーパの投与の30分前に経口投与された。各柱及びバーは、それぞれ、L-ドーパ投与後150分間の回転の総カウントの平均±標準誤差を表す。L-ドーパのみの治療との有意差は、対応付けt-検定により評価した(n=8,*P<0.05)。
」
・甲1f(253頁右欄下から15行~254頁左欄下から20行、254頁左欄下から19行~右欄6行)
「4. 考察
KF17837及びKW-6002は、パーキンソン病の症状を防止するのに治療上有益な可能性のある新規の経口で活性なアデノシンA2A受容体アンタゴニストである(Richardsonら、1997;Kuwanaら、1999)。先に、これらのアデノシンA2A受容体アンタゴニストが、パーキンソン病のマウス及びサルモデルにおいて運動機能の顕著なかつ継続的な改善をもたらすことが示されていた(Kandaら、1998a,b,2000;Shiozakiら、1999a)。本研究では、我々はKF17837及びKW-6002が、6-ヒドロキシドーパミン病変ラットにおけるアポモルヒネ誘導性の回転に対し強化効果を有することを実証した。更には、これらのアデノシンA2A受容体アンタゴニストは、パーキンソン病の治療のための現在の標準薬、即ちL-ドーパによって誘導される回転運動を強化した。
本研究において、アデノシンA2A受容体アンタゴニストにより6-ヒドロキシドーパミンモデルにおいて発揮される同様の効果は、アデノシンA2A受容体拮抗特性を有する他の試薬を用いて報告されてきた。例えば、テオフィリン及びカフェインなどのメチルキサンチンは、ホスホジエステラーゼを阻害することに加えてアデノシン受容体に拮抗効果を有するが、黒質線条体ドーパミン系に片側病変を有するラットにおいて回転を誘導しかつドーパミン受容体アゴニストにより誘導される回転挙動を増強することが報告されてきた(Fuxe及びUngerstadt、1974;Garrett及びHolzman、1995;Jiangら、1993)。これらの効果が媒介される詳細なメカニズムは完全には理解されていないが、それは、少なくとも部分的に、アデノシンA2A受容体の封鎖によるものと考えられている。なぜなら、メチルキサンチンが媒介する回転が、選択的アデノシンA2A受容体アゴニストであるCGS21680によって拮抗されたからである。
より最近では、Pinnaら(1996)及びFenuら(1997)は、別の選択的アデノシンA2A受容体アンタゴニストであるSCH58261単独では運動非対称性を誘導しなかったものの、SCH58261の腹腔内投与もドーパミンD1受容体アゴニストSKF38393又はL-ドーパによって誘導された対側旋回挙動を増強したことを報告した。我々の実験でも同様に、アデノシンA2A受容体アンタゴニストであるKF17837及びKW-6002それら自体は顕著な旋回挙動を誘導しなかったことから、アデノシンA2A受容体単独の拮抗は半パーキンソンモデルでは旋回を生じないことが示唆された。片側病変を有する動物における回転挙動は、超感受性のシナプス後線条体ドーパミン受容体の刺激によるものである・・・(Ungerstedt、1971;Fuxe及びUngerstedt、1974)。したがって、ドーパミン作動系を直接標的としない化合物は線条体の不均衡を生じず、その結果、これらのモデルで回転を生じないという一つの説明が可能である。一方、アデノシンA2A受容体アンタゴニストがドーパミン作動薬剤による線条体不均衡を増大させる可能性もある。
アポモルヒネに対する応答の全体的強度は、ピーク効果の増加(アポモルヒネ治療後の5分の時点のみ)がみられたものの、KF17837及びKW-6002による大きな変化はなかった。したがって、我々は、アポモルヒネへの総回転応答に対する、これらのアデノシンA2A受容体アンタゴニストで観察された強化は、主として回転の持続時間に対する効果によるものであろうと考える。驚くべきことに、KF17837の回転の持続時間に対する効果は、KW-6002のそれよりも大きかった(3mg/kg経口投与で、KF17837は持続時間を44%、KW-6002は持続時間を25%、それぞれ延長した。表1)。我々は、KW-6002はKF17837よりも薬物誘導カタレプシーを阻害する作用が強いことを既に報告した(Shiozakiら、1999a)。その高い効力のため、KW-6002は持続時間を延長するだけでなく、強度も増強し(特にKW-6002の3mg/kg経口投与では明らかに観察された)、このことにより、回転持続時間に対する効果がある程度隠されている可能性がある。あるいは、KF17837及びKW-6002による持続時間の延長は、これらの化合物が評価された動物群におけるドーパミン作動性の除神経の程度の違いによるものであり得る。なぜなら、アポモルヒネにより誘導される回転持続時間それ自身は、KW-6002の評価に用いられた動物群においてより長かったからである(図2)。」
・甲1g(254頁右欄7~27行)
「最後に、本研究の知見は、パーキンソン病の対症療法のための重要な意味を有している可能性がある。最も初期のパーキンソン病患者は終日、L-ドーパから持続する一貫した利益を得る。しかしながら、パーキンソン病が進行するにつれ、利益の持続時間は短くなる(ウェアリング・オフと呼ばれる)。L-ドーパの抗パーキンソン病作用の持続時間の基調をなす短縮を、応答強度を増強することなしに選択的に元に戻すことのできる薬物は、かなりの価値を有するかも知れない。なぜなら、ピークドーズジスキネジアを誘導させるというリスクなしに、ウェアリング・オフ現象が消失するだろうからである(Papaら、1995)。したがって、KF17837及びKW-6002は、進行したパーキンソン病の治療において補助薬として有用である可能性がある。
結論として、本研究は、選択的なアデノシンA2A受容体アンタゴニストであるKF17837及びKW-6002は、パーキンソン病の実験モデルにおいて、アポモルヒネ及びL-ドーパの運動効果を増強することを示した。類似の効果がヒトにおいて起こるならば、これらのアデノシンA2A受容体アンタゴニストは、パーキンソン病の治療への新規な非ドーパミン作動性のアプローチを提供できよう。」
[甲2(Experimental Neurology,2000年,Vol.162,p.321~327)に記載された事項]
・甲2a(タイトル及び要約)
「L-ドーパ又は選択的D1若しくはD2ドーパミンアゴニストとアデノシンA2AアンタゴニストKW-6002との併用は、MPTP処置したサルにおいて抗パーキンソン活性を増強するがジスキネジアは増強させない
・・・
新規の選択的アデノシンA2A受容体アンタゴニストであるKW-6002は、MPTP処置パーキンソンマーモセットにおいて、ジスキネジアを引き起こすことなしに運動障害を改善する。本研究において我々は、KW-6002がL-ドーパ又は選択的D1若しくはD2ドーパミン受容体アゴニストとの組合せにおいて、MPTP処置コモンマーモセットにおける抗パーキンソン活性を増強するか否かを検討した。KW-6002と選択的ドーパミンD2受容体アゴニストであるキンピロール又はD1受容体アゴニストであるSKF80723との組合せは、運動障害の相加的改善をもたらした。KW-6002と低投与量のL-ドーパとの組合せ投与もまた、運動障害における相加的改善をもたらし、自発運動活性を増大させた。抗パーキンソン活性を増強させるKW-6002の能力は、D1アゴニストとの組合せによるよりも、L-ドーパと、またキンピロールとの組合せで一層顕著であった。しかしながら、KW-6002は、抗パーキンソン応答の増強をもたらすにもかかわらず、予めL-ドーパに暴露させることでジスキネジアを示すようにしておいたMPTP処置コモンマーモセットにおいて、L-ドーパ誘導性のジスキネジアを増悪させなかった。KW-6002のような選択的アデノシンA2A受容体アンタゴニストは、パーキンソン病治療において使用されるL-ドーパの投与量を低減させる一手段である可能性があり、そして単独療法として並びにドーパミン作動性薬物との組合せの双方において、当該疾患の治療のための新規のアプローチである可能性がある。」
・甲2b(321頁左欄下から5行目~322頁左欄30行目)
「パーキンソン病は、中脳のドーパミンニューロンの進行性変性を特徴とし、重度の尾状核被殻のドーパミン枯渇をもたらす(1,2)。パーキンソン病の現在の治療は、L-ドーパ若しくはドーパミンアゴニスト薬を用いたドーパミン補充療法が中心となっている。L-ドーパと末梢性脱炭酸酵素阻害剤との併用が、パーキンソン病の治療に最も効果的な手段である。しかしながら、ほとんどの患者は、5年以内に、応答変動を経験し、一般的にはジスキネジアの出現を伴う(3,4)。応答変動に対する治療は、現在のところ、均一の、かつ、制御された放出のL-ドーパと、おそらくカテコール-O-メチルトランスフェラーゼ(COMT)阻害剤の追加若しくは長時間作用型ドーパミンアゴニストの使用との組合せを伴う(5-8)。アマンタジンはNMDA受容体を阻害することにより有効かもしれないけれども、既存のジスキネジアを治療するためにできることはほとんどない(9)。その結果、パーキンソン病を治療するための代替手段として、基底核の神経経路上の非ドーパミン作動性の標的に注目が集まっている。このようなアプローチの一つは、尾状核被殻の線条体出力経路に選択的に局在するアデノシン受容体の活性を変化させることである。
アデノシン受容体は、A1、A2及びA3の三つの主要な型に大別され、アデノシンA2受容体は、さらに、A2A及びA2Bの二つのサブタイプに細分される(10-12)。アデノシンA2A受容体は、尾状核被殻、側坐核及び嗅結節に高度に局在化している(13,14)。尾状核被殻では、アデノシンA2A受容体は、GABA及びエンケファリンを含有する中型有棘神経細胞(これらは、線条体から淡蒼球への間接出力経路を形成しかつその表面にドーパミンD2受容体を有する)上に選択的に局在する(15)。
間接経路は、パーキンソン病の運動障害の発症やL-ドーパによって誘導されるジスキネジアの発生に関与する。実際に、A2A受容体の調節は、運動機能に深刻な影響を与え得る。例えば、マウス及びラットにおいて、アデノシンA2A受容体選択的アゴニストであるCGS21680を脳室内に注射すると、カタレプシーが生じる(16,17)。加えて、カフェイン及びテオフィリンなどの非特異的アデノシンアンタゴニストも運動活性を調節する(10)。例えば、片側6-OHDA損傷ラットに、選択的ドーパミンD1若しくはD2受容体アゴニスト(キンピロール若しくはSKF38393など)を投与することによって誘導される回転運動は、メチルキサンチン類での処置により増強される(18)。カフェインの線条体内投与はまた、正常ラット及び6-OHDA損傷ラットの両方で回転を誘導する(19)。このようなメチルキサンチン類の作用は、アデノシンA2A受容体によって少なくとも部分的に媒介される(19-21)。
最近まで、運動機能における効果を評価された選択的アデノシンA2A受容体アンタゴニストはなかった。最近我々は、選択的アデノシンA2A受容体アンタゴニストKF17837が、ドーパミンアンタゴニストであるハロペリドール又はアデノシンA2A受容体アゴニストCGS21680によりマウスに誘導されたカタレプシー(強硬症)を低減させることを報告し(17)、アデノシンA2A受容体機能の阻害がパーキンソン病において治療的利益をもたらす可能性について示唆した。実際、それに続いて我々は、MPTP処置マーモセットにおける運動障害をアデノシンA2A受容体アンタゴニストKW-6002が改善すること(22-24)、及び不随意運動を示すようにL-ドーパで予め準備しておいたMPTP処置霊長類において、KW-6002による継続治療がジスキネジアを惹起しないことを報告した(25)。KW-6002は、MPTP処置霊長類において11時間以上に亘って運動障害の長時間持続する改善をもたらした(25)。」
・甲2c(322頁左欄31~36行目)
「本研究では、我々は、KW-6002が、MPTP処置マーモセットに追加の抗パーキンソン活性をもたらすか否か、あるいはL-ドーパとの組合せ又はドーパミンD1若しくはD2受容体アゴニストとの組合せで投与した場合に既に確立されているジスキネジアを惹起するか否か、を検討した。」
・甲2d(322頁左欄37行~323頁左欄8行)
「 方法
MPTP処置
本研究は、英国内務省ライセンスPPL70/3563下の英国法的要件に準拠して実施された。・・・雌雄の、コモンマーモセット(Callithrix jacchus)を使用した。・・・動物を毎日2.0mg/lg皮下の投与量のMPTPで5日間処置した(26)。MPTP処置に続いて、動物を急性効果から6~8週間にわたって回復させた。MPTP処置の間及び引き続く週の間にわたって、動物に、それらが自活できるようになるまで、Mazuriマーモセットゼリー及び新鮮な果実のピューレを手で給餌した。行動試験に先立ち、MPTPへの曝露後6~8週から8カ月迄に、全ての動物が、基礎的自発運動活性(basal locomotor activity)の顕著な低下、より緩慢で協調に欠けた動き、身体の何らかの部位の異常な姿勢、並びに確認行動及び瞬目数の減少を示した。
ジスキネジアを誘導させるため、前報(27)に従って、動物をL-ドーパ(12.5mg/kg、経口)及びカルビドパ(12.5mg/kg経口、30分前)で21日間毎日2回処置した。
運動障害の評点
訓練された観察者が一方向ミラーを通して観察することにより、動物を連続的にモニターした。MPTP処置及び薬理学研究の間、前報(26)に報告した判定スケールを用いて動物の運動障害をスコア化した。
自発運動活性の測定
自発運動活性は、動物のホーム・ケージと同一であるが水平方向に向けた8個セットの赤外光セルを備えたステンレス鋼のグリッド・ドア・・・を備えた4個のアルミニウム・ケージ・・・において、同時に測定した。動物の動きによる光ビーム遮断回数を、Olivetti M290Sコンピュータを用いて記録した。・・・
行動観察
常同行動の有無、運動性刺激又は阻害の程度、首捻りの頻度、著しい震え又は毛づくろい、口部運動、又は他の運動失調につき、動物を観察した。ジスキネジアの存在は、半定量的スコアリングシステム(27)を用いてスコア付けした。異常運動は、古典的に定義された基準に従って記述した。即ち:舞踏病-速くランダムな振顫;アテトーゼ-くねくねした捻じれた四肢運動;ジストニア-異常な維持姿勢;常同行動-反復的で無目的又は半無目的運動。
薬剤
以下の薬剤を用いた。即ち:MPTP(塩酸1-メチル-4-フェニル-1、2、3、6-テトラヒドロピリジン;・・・)、KW-6002〔(E)-1、3-ジエチル-8-(3、4-ジメトキシスチリル)-7-メチル-3、7-ジヒドロ-1H-プリン-2、6-ジオン;・・・)、L-ドーパ(L-3、4-ジヒドロキシフェニルアラニン;・・・)、カルビドパ(Merck Sharp & Dohme)、Tween-80(ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート;・・・)、キンピロール(・・・)及びSKF80723(・・・)。MPTP、キンピロール、及びSKF80723を、滅菌した0.9%食塩水に溶解し、1mL/kg体重の最終用量で投与した。KW-6002を、0.3%Tween-80及び10%スクロース溶液に懸濁し、2.0mL/kg体重の最終用量で経口投与した。L-ドーパ及びカルビドパもまた、10%スクロース溶液に懸濁し、2.0mL/kg体重の最終用量で経口投与した。」
・甲2e(323頁左欄21行~最下行及びFIG.1.)
「 結果
KW-6002によりもたらされる抗パーキンソン病活性の持続
MPTP処置コモンマーモセットへのKW-6002の経口投与(10.0mg/kg)は、基剤(ビヒクル)を投与した動物での観察に比べて、自発運動活性を約2倍に増大させ(図1A)、かつ、運動障害を改善させた(図1B)。KW-6002のこれらの効果は、薬物投与の7.5時間後まで明らかであったが、KW-6002による治療の24及び48時間後の動物観察時には運動障害の明らかな回復は見られなかった(図1A及び1B)。
[図:0001422768000007.jpg]
図1. MPTP処置コモンマーモセットにおける自発運動活性及び運動障害に及ぼすKW-6002の効果。(A)6時間の合計自発運動活性。各データは平均合計自発運動活性カウント(±標準偏差;n=4)を示す。(B)6時間の総運動障害スコア。各カラムは平均総運動障害スコア(±標準偏差;n=4)を示す。*p<0.05対照(基剤(ビヒクル)処置群)との比較。」
・甲2f(323頁右欄1~29行目並びにFIG.2.及びFIG.3.)
「KW-6002とSKF80723との組合せによる効果
低用量のSKF80723(1.0mg/kg、腹腔内投与)を単独で投与すると、MPTPで処置したコモンマーモセットの自発運動活性の上昇が生じ、運動障害が少し回復した(図2A及び2B)。KW-6002(10.0mg/kg、経口投与、SKF80723の90分前)と低用量のSKF80723(1.0mg/kg、腹腔内投与)とを併用すると,自発運動活性及び運動障害の改善に対する有意な相加効果が生じた(図2A及び2B)。・・・
[図:0001422768000008.jpg]
図2. MPTP処置コモンマーモセットにおける自発運動活性及び運動障害に対するKW-6002及びSKF80723の組合せ投与の効果。(A)生理食塩水又はSKF80723の投与後6時間の合計自発運動活性。各データは平均合計自発運動活性カウントを示す(±標準誤差;n=4)。(B)生理食塩水又はSKF80723の投与後6時間の合計障害スコア。各カラムは平均合計障害スコアを表す(±標準誤差;n=4)。*p<0.05対照(基剤(ビヒクル)-生理食塩水処置群)との比較。
KW-6002とキンピロールの組合せの効果
低用量のキンピロール(0.06mg/kg,腹腔内投与)は自発運動活性及び運動障害の逆転の有意でない増加を生じた(図3A及び3B)。キンピロール(0.06mg/kg,腹腔内投与)とKW-6002(10mg/kg経口投与、キンピロールの前90分)との共投与は、自発運動活性及び運動障害への有意な追加効果を生じた(図3A及び3B)。・・・。
[図:0001422768000009.jpg]
図3. MPTP-処理コモンマーモセットにおける自発運動活性及び運動障害に与えるKW-6002とキンピロールの組合せの効果。(A)生理食塩水又はキンピロール投与後6時間の総自発運動活性。各データは平均総自発運動カウント(±標準偏差;n=4)を示す。(B)生理食塩水又はキンピロール投与後6時間の総運動障害スコア。各カラムは平均総運動障害スコア(±標準偏差;n=4)を示す。*P<0.05 対照(基剤(ビヒクル)-生理食塩水治療群)との比較。」
・甲2g(323頁右欄下から5行目~324頁右欄2行目及びFIG.4.)
「KW-6002とL-ドーパの組合せの効果
閾値投与量のL-ドーパ(2.5mg/kg)とカルビドパ(12.5mg/kg)の経口投与は、自発運動活性と運動障害の、有意ではない回復をもたらした(図4A及び4B)。対照的に,有効投与量のL-ドーパ(12.5mg/kg)とカルビドパ(12.5mg/kg)との経口投与は、有意な自発運動活性増大と運動障害の回復をもたらした(図4A及び4B)。KW-6002(10.0mg/kg、経口、L-ドーパの90分前)とL-ドーパ(2.5mg/kg、経口)との組合せ投与は、自発運動活性と運動障害に対して有意な相加的応答をもたらした。KW-6002の投与の24時間後にL-ドーパを投与したときは、L-ドーパの作用はこれを単独で投与した場合に比較して増強することが観察された。しかしながら、KW-6002の投与の48時間後においては、L-ドーパの投与は、そのベースライン効果と違わない効果をもたらした。L-ドーパ単独又はKW-6002との組合せは、常同行動やジスキネジアを誘発しなかった。
[図:0001422768000010.jpg]
図4. MPTP処置コモンマーモセットにおける自発運動活性及び運動障害に与えるKW-6002とL-ドーパの組合せの効果。(A)基剤(ビヒクル)又はL-ドーパの投与後、示された各時間から6時間の合計自発運動活性。各データは平均合計自発運動カウント(±標準偏差;n=4)を示す。(B)基剤(ビヒクル)又はL-ドーパの投与後示された各時間から6時間の総運動障害スコア。各データは平均合計運動障害スコア(±標準偏差;n=4)を表す。*P<0.05 対照(基剤―基剤(ビヒクル)処置群)との比較;+P<0.05 L-ドーパ対照(基剤(ビヒクル)-L-ドーパ、2.5mg/kg、治療群)との比較。」
・甲2h(324頁右欄3行目~325頁左欄3行目及びFIG.5.)
「ジスキネジアに対するKW-6002とL-ドーパの組合せの効果
L-ドーパ(12.5mg/kg、経口、2回/日)とカルビドパ(12.5mg/kg、経口、2回/日)との3週間の継続的投与はジスキネジアを誘導させ、それはL-ドーパの各投与後に再現された。閾値投与量(2.5mg/kg、経口)のL-ドーパの投与は、中等度のジスキネジアを誘導させた(図5)。KW-6002(10mg/kg/日)とL-ドーパ(2.5mg/kg)との5日間にわたる毎日の組合せ投与も、中等度のジスキネジアをもたらしたが、これはL-ドーパ単独によってもたらされるジスキネジアと異ならなかった。ジスキネジアの強度は、処置期間にわたって低下するように思われたが、この効果は、統計学的有意性には至らなかった。
[図:0001422768000011.jpg]
図5. ジスキネジアを起こすようにL-ドーパで処置されたジスキネジアに対するKW-6002とL-ドーパの5日間連日の組合せ投与の効果。動物は、ジスキネジアを誘導させるために、予め動物に、L-ドーパ(12.5mg/kg、経口、1日2回)及びカルビドパ(12.5mg/kg、経口、1日2回)を21日間にわたって継続投与した。各データは、4匹の動物についての最大ジスキネジアスコアの平均(±標準偏差)を示す。*P<0.05 対照(基剤―基剤(ビヒクル)処置群)との比較;♯P<0.05高投与量L-ドーパ(12.5mg/kg治療群)との比較。」
・甲2i(325頁右欄1行目~326頁右欄19行目)
「 考察
我々は以前に、MPTP処置したコモンマーモセットにおいて、L-ドーパによる事前治療で引き起こされるジスキネジアを惹起させることなしに、選択的アデノシンA2A受容体アンタゴニストKW-6002が抗パーキンソン効果をもたらすことを示している(25)。KW-6002により生成される抗パーキンソン活性に対し、アデノシンA1受容体アンタゴニストは効果がなく、アデノシンA2AアゴニストがKW-6002の抗パーキンソン作用を逆転させたことから、KW-6002による抗パーキンソン活性は、アデノシンA2A受容体遮断に起因している(29)。
アデノシンA2A受容体アンタゴニストが運動機能を変化させるメカニズムに大きな関心が寄せられている。線条体では、アデノシンA2A受容体は、D2受容体を有するGABA-/エンケファリン含有神経細胞上に選択的に局在し、淡蒼球外節へ投射する間接出力経路を構成する(15)。加えて、A2A受容体をコードするmRNAは、少なくとも25%の線条体コリン作動性介在神経細胞上に存在する(30,31)。in vitroでは、アデノシンA2A受容体アゴニストCGS21680は、線条体シナプトソームからのGABA放出を減少させ、かつ、これはアデノシンA2AアンタゴニストKF17837によって逆転された(32)。GABAシナプス伝達に対するアデノシンA2A受容体媒介阻害は、電気生理学的手法によって示されるように、線条体内で起こる(33)。したがって、アデノシンA2A受容体は線条体内でGABA及びAChの放出を調節し、そのようにして線条体からの間接的出力経路の活動に影響を与える(32,34)。このような作用は、パーキンソン病の運動機能障害の原因と考えられている、線条体の直接出力経路と間接出力経路との間の不均衡を回復させ得る。
以前にMPTP処置霊長類に有効であることが示されていた投与量のKW-6002の投与が、本研究において、期待された自発運動活性の増大及び運動障害の回復をもたらした。投与後最初の8時間の期間で薬物の効果が観察されたが、KW-6002の長い血漿中半減期(T1/2は約7時間、24時間後にCmax濃度の10~20%が残存、未発表データ)にもかかわらず、24時間若しくは48時間後に動物を検査しても、明らかな運動効果はなかった。先に示したように、KW-6002は、その自発運動活性に対する効果よりもより高度な様式で運動障害を回復させ、また、高用量のL-ドーパ及びドーパミンアゴニストとは異なり、多動性かつ定型的な動きを生じることは、その作用の特徴ではない。KW-6002をこれらの薬剤と組合せ投与した後に起こる上記の効果に関しては、重大な問いが残っている。
KW-6002と低用量のフルドーパミンD1受容体アゴニストSKF80723とを組合せ投与すると、それぞれの薬物を単独で投与したときの作用の明らかに相加的な初期効果が生じた。KW-6002の24時間若しくは48時間後に投与されたSKF80723の効果は、SKF80723単独により生じた効果よりも大きくなかったが、このことは、組合せ投与後に観察された初期の増加した効果が相加的な性質のものであるという考えを支持する。線条体において知られているアデノシンA2A受容体の局在によっても支持されるように(12)、これらの結果は、直接出力経路により開始される薬物作用にKW-6002が直接的には影響しないことを示唆する。
KW-6002は間接経路を介して線条体の出力を選択的に変化させるので、ドーパミンD2受容体アゴニストとのより大きな相互作用を期待し得るであろう。実際、KW-6002とドーパミンD2受容体アゴニストであるキンピロールとの組合せ投与は、最初に、運動障害に対して、どちらか一方の薬剤単独による効果よりも大きな効果を生じた。これは相加効果のようにも思われるであろうが、KW-6002の24時間後にキンピロールを投与すると、同様の増強効果が見られた。これは、KW-6002単独では自発運動活性や運動障害を変化させていない時に起こるので、明らかに相乗的な応答である。どのようにしてこのような効果が生じたのかは明らかではない。KW-6002は半減期が長いので、アデノシンA2A受容体に拮抗し続けているかもしれないが、それ自体はこの時点で抗パーキンソン作用をもたらしていないので、耐性を含む何らかの適応変化が起こったのかもしれない。しかしながら、それはありそうにないと思われる。なぜなら、我々は、以前に、KW-6002を毎日21日間にわたって繰り返し投与しても急性効力の損失は誘導されないことを示しているからである(25)。あるいは、KW-6002は24時間後にもまだアデノシンA2A受容体の遮断を維持し得るが、それ自身で運動反応を誘導するにはまだ不十分である可能性がある。さらに、KW-6002は、間接経路においてドーパミンD2受容体の活性化を増強することができる。このような効果は、パーキンソン病の治療に用いられるドーパミンD2受容体アゴニストの作用を増強するというKW-6002の大きな能力を示唆するであろう。
閾値投与量のL-ドーパとの組合せでKW-6002を投与したとき、キンピロールとの組合せで観察されたのと同様の挙動応答がもたらされた。最初、L-ドーパとKW-6002を一緒に投与したとき、相加的と見られる応答をもたらしたが、KW-6002の投与の24時間後においては、KW-6002それ自体は運動活性化をもたらしていなかったにもかかわらずL-ドーパの投与で挙動応答の増強がもたらされた。このことは、アデノシンA2A受容体の阻害を通じた線条体の間接出力経路の変調が、MPTP処置霊長類における運動障害を回復させる低投与量L-ドーパの能力を、有意に強化することを示している。L-ドーパの作用の増強を生じる根本的なメカニズムは未知のままであるが、それは、L-ドーパのドーパミンD2受容体介在抗パーキンソン病作用の役割を有意に強化する。」
・甲2j(326頁右欄20~39行目)
「重要なことに、ジスキネジアを呈するよう準備されたMPTP処置コモンマーモセットに、閾値投与量のL-ドーパと共にKW-6002を投与したとき、この薬剤の組合せによりもたらされる抗パーキンソン活性の増強にもかかわらず、観察される不随意運動の大きさは、L-ドーパのみでもたらされるものに比べて大きくなかった。このことは、パーキンソン病の治療において重要な意味を持つ、というのも抗パーキンソン活性の増強は、例えばCOMT阻害剤の使用で通常起こるように、ジスキネジアの増強を伴うからである(5-8)。・・・これらの知見が意味するのは、アデノシンA2A受容体に対する慢性的な拮抗作用は、ジスキネジアと関連するものである間接出力経路の変化を誘導せず、L-ドーパによって誘導された変化を正に逆転させる可能性があることである。」
・甲2k(326頁右欄40~最終行)
「結論として、アデノシンA2A受容体アンタゴニストは、単独療法としてのみならず、L-ドーパ及びドーパミンアゴニスト薬剤との組合せで、パーキンソン病の有用な療法である可能性がある。特に、「ウェアリング-オフ」及び「オン-オフ」応答変動を有する患者において、KW-6002のような化合物は、ジスキネジアを長引かせることなく、「オン時間」を増加させることができる可能性がある。」
[甲3(NEUROLOGY,1999,Vol.52,p.1916)に記載された事項]
・甲3a(タイトル)
「テオフィリンは進行期パーキンソン病患者において「オン」時間を増加させる」
・甲3b(1916頁左欄本文1行~右欄本文末行)
「L-ドーパはPDに対する最も有効な対症療法薬である。しかしその長期的な使用は障害を引き起こす運動副作用の発現をしばしば合併する。1これらは大脳基底核の出力経路における微調整された神経化学的平衡の変化によって生じる可能性がある。このため、L-ドーパと大脳基底核の出力経路を調節する薬剤とを併用する実験的な治療法が推奨される。2理想的な治療の標的がアデノシンA2A受容体であり、これは間接的線条体-淡蒼球経路のニューロンにドーパミンD2受容体と共局在化する。3この見解を裏付けるのは、ラットPDモデルにおいてアデノシンA2A受容体の遮断がドーパミン作動薬の抗PD効果を増強することを示した我々の試験である。我々は、これらのデータに刺激されて、PD患者においてアデノシンアンタゴニストであるテオフィリンの効果を試験することとなった。
方法。 全ての患者は、以前に定義されたように5、臨床的に明らかな特発性パーキンソン病(PD)を有すると診断され、初期PD(EPD;Hoehn&Yahrステージ≦2、かつ、いまだL-ドーパの投与無し)又はL-ドーパ誘導性の運動副作用を有する進行期PD(APD;Hoehn&Yahrステージ>2、かつ、L-ドーパ投与中)の何れかに分けられた;全てのAPD患者は、この試験の前少なくとも3ヶ月間、彼らの現在の抗PD薬剤投与計画の下で臨床的に安定であった。これらのPD患者の何れも、心臓、腎臓、肝臓、又は肺の疾患履歴がなく、授乳中ではなく、別の薬物の臨床試験に参加しておらず、また本試験前の90日以内に如何なる実験的抗PD薬も使用していなかった。ベースライン受診(受診1)の後、患者は1週間の負荷相(毎日増量、100mgbid(合議体注:1日2回)、6週間の一定状態相(600mg/日)、及び1週間のウォッシュアウト相(毎日減量、100mg bid)に付された。最後の受診は、テオフィリンが完全に停止された後1週間後であった。テオフィリンの経口投与量は目標とされる血清中濃度(44~111μmol/L)に調整した。この試験の倫理的許諾はColumbia大学(New York)及びBelgrade病院(Yugoslavia)の治験審査委員会から得た。患者全例から同意書を取得した。
結果。 L-ドーパ未投与のEPD患者11名中、10名が試験を完了した(試験時の平均年齢は51.4±11.3歳、平均罹病期間は1.0±0.5年);脱落者1名は追跡調査ができなかった。L-ドーパで治療され(764±170mg/日)、運動副作用(ウェアリング・オフ12名、突然の「オフ」8名、ピークドーズ・ジスキネジア9名、及び二相性ジスキネジア2名)を有する12名のAPD患者のうち9名が試験を完了した(平均年齢60.1±10.9歳かつ平均持続期間8.0±2.1年)。3名の脱落者のうち2名は追跡調査ができず、1名は試験から退いた。全ての患者において、テオフィリンはパーキンソン病の主観的改善と関連しており、何名かは振戦の増悪と関連していた。テオフィリンはまた、全体的な統一パーキンソン病評価スケール(UPDRS;~10%)、及びUPDRS運動スコア(項目19~31;~15%)を、非有意に改善する傾向をもたらした。何れのAPD患者においても、自己評価尺度による患者日誌の分析に証拠づけられるように、テオフィリンがジスキネジアの重症度を憎悪させることはなかった。対照的に、APD患者において、テオフィリンは「オン」時の持続時間の~30%の増加及び「オフ」時の持続時間の減少に関連づけられた(図)。
[図:0001422768000012.jpg]
図。L-ドーパ誘発性の運動合併症を有するPD患者における、試験中の午前7時から午後7時までの「オン」及び「オフ」(時間)(n=9)。*p<0.05受診1と受診6との対比、(Newman-Keuls post hoc検定;順位に基づく反復測定分散分析)
副作用はまれであり、かつ、穏やかであった(例、内側振戦、不眠症、性欲過剰、頭痛、動悸)。3名の患者において、血中濃度が目標範囲を下回ったため、テオフィリンの投与量を調節しなければならなかった。何れのAPD患者においても、我々はL-ドーパの投与量を調節しなかった。
考察。 本試験は、薬剤未投与の初期PD患者に対する単剤療法として、又は、L-ドーパ治療されたより進行したPD患者に対する補助療法として、テオフィリンにごくわずかな抗PD作用があることを示している。しかし、両患者群とも、症状に対する有益性は統計学的に有意ではなく、臨床的にも確固たるものではなかった。さらに、テオフィリンはL-ドーパの効果を増強しなかった。これはテオフィリンがドーパミンD2受容体アゴニストに対する相乗効果を有することを明らかにした6-OHDA損傷ラットにおける我々の試験とは対照的である。4
この試験の最も顕著な知見は、テオフィリンがAPD患者において「オン」相を有意に延長させた(及びその結果「オフ」相の持続を短縮させた)ことである。この効果はささいなものではなく、ジスキネジアの如何なる検出可能な悪化とも関連しない。投与量を増量することで「オン」相の持続時間を延長させ得る現在利用可能な抗PD療法は通常、ジスキネジアの重症度も高める可能性があることから、これは注目に値する特性である。
我々は、ここで報告した適度に有益な作用は、PDの治療におけるアデノシンアンタゴニストの価値を弱めるというよりむしろ裏付けるものであり、至適な抗PD作用を達成するためにどの化合物をどの投与量で用いるかを決定するための追加試験を必要とするものであると考えている。我々はまた、我々の研究が、アデノシン受容体の遮断がPD治療の重要な手段であるという原理についての強力な証拠であり、テオフィリンよりもより強力でより選択的な化合物が臨床試験に利用できるようになれば、それらを用いて試験すべきであるとも確信している。」
[甲4(Psychopharmacology,1999年,Vol.147,p.90~95)に記載された事項]
・甲4a(タイトル及びAbstract)
「アデノシンA2A受容体アンタゴニストKW-6002のレセルピン及びMPTPによる薬物誘導性カタレプシー並びに運動機能低下に対する作用について
・・・
要約
根拠:現在のパーキンソン病(PD)の治療はドーパミン補充療法に基づいているが、これはジスキネジアを含む長期的な合併症につながる。アデノシンA2A受容体は線条体に特に多く存在し、PDの治療における代替アプローチのターゲットになると思われる。
目的:本研究の目的は、種々のパーキンソン病モデルマウスにおける運動欠損の回復における新規な選択的アデノシンA2A受容体アンタゴニスト(E)-1,3-ジエチル-8-(3,4-ジメトキシスチリル)-7-メチル-3,7-ジヒドロ-1H-プリン-2,6-ジオン(KW-6002)の有効性及び効力を調べることである。
方法:我々は、選択的アデノシンA2A受容体アゴニスト2-[p-(2-カルボキシエチル)フェネチルアミノ]-5’-N-エチルカルボキシアミド-アデノシン(CGS21680)-誘導性、ハロペリドール-誘導性、又はレセルピン-誘導性カタレプシーモデルにおけるKW‐6002及びその他の参考薬剤の有効性及び効力を評価した。レセルピン又は1-メチル-4-フェニル-1,2,3,6-テトラヒドロピリジンヒドロクロリド(MPTP)誘導性の自発運動低下に及ぼすKW-6002の効果もまた調べられた。
結果:CGS21680誘導性及びレセルピン誘導性カタレプシーに対するKW-6002のED50(合議体注:50%有効量)はそれぞれ0.05mg/kg、経口、及び0.26mg/kg、経口であった。他のアデノシンアンタゴニストやドーパミンアゴニストのED50と比較すると、KW-6002はこれらのモデルで10倍以上の効力を示した。また、KW-6002はMPTP又はレセルピン処置による黒質ドーパミン神経機能障害で誘導される運動機能低下(最小有効量;0.16mg/kg)を改善した。KW-6002とL-ドーパ(50mg/kg、経口)の閾値下量の共投与は、ハロペリドール-誘導性及びレセルピン-誘導性カタレプシーに顕著な効果を発揮し、このことはアデノシンA2A受容体アンタゴニストKW-6002とドーパミン作動性薬剤との間に相乗作用がある可能性を示唆している。
結論:我々の知見によれば、KW-6002は、パーキンソン病の実験的モデルにおいて最も強い、そして経口で有効なアデノシンA2A受容体アンタゴニストであり、パーキンソン病の治療に新しい治療アプローチを提案する可能性がある。」
・甲4b(90頁右欄本文1段落~91頁左欄3段落)
「序文
パーキンソン病は主に、黒質ドーパミン作動性ニューロンの重度の変性によって引き起こされる錐体外路運動機能の障害であり、この疾患の現在の治療は、ドーパミン補充療法に基づいている。しかし、これは薬効の喪失やジスキネジアの発現など、長期にわたる合併症を引き起こす(Marsdenら、1982)。別のアプローチとして、大脳基底核の出力経路を調節するための選択的な部位として機能する非ドーパミン受容体を標的とすることが考えられる。
アデノシンA2A受容体は、いくつかの種において尾状核被殻、側坐核、嗅覚結節に特に多く存在する・・・。尾状核被殻において、アデノシンA2A受容体mRNAは、神経伝達物質としてGABA及びエンケファリンを含むγアミノ酪酸(GABA)作動性線条体淡蒼球状中型有棘ニューロンにおいて検出されている・・・。また、線条体コリン作動性神経終末にアデノシンA2A受容体が存在することを示す機能的証拠も存在する・・・。
大脳基底核におけるアデノシンA2A受容体の豊富さは、アデノシンA2A受容体の調節が運動機能に大きな影響を及ぼし得ることを示唆している。実際、アデノシンアゴニスト5'-N-エチルカルボキサミドアデノシン(NECA)の腹腔内注射やアデノシンA2A受容体アゴニストCGS21680の脳室内注射はマウスにおいてカタレプシーを誘導した・・・。さらに、Fenuら(1997)は、最近開発されたアデノシンA2A受容体選択的アンタゴニストSCH58261・・・の腹腔内注射により、ドーパミン作動性黒質線条体経路の片側6-ヒドロキシドーパミン欠損ラットにおいて、L-ドーパによる対側転向挙動が増加したことを報告した。これらの結果はアデノシンA2A受容体刺激が運動機能に対して負の効果を発揮し、アデノシンA2A受容体選択的アンタゴニストがパーキンソン病において観察される運動機能低下を改善し得ることを示唆する(Richardsonら、1997;Kuwanaら、1999)。
KF17837は当研究所で最近開発されたキサンチン誘導体であり、アデノシンA2A受容体選択的アゴニストCGS21680で標識されたラット線条体アデノシンA2A受容体を用いた結合試験において、アデノシンA2A受容体に対して高い親和性及び選択性を示した・・・。行動実験では、KF17837は、CGS21680によって誘導されるカタレプシーを用量依存的に抑制した。さらに、KF17837はハロペリドール及びレセルピンによって誘導されるカタレプシーを有意に抑制した。これらの抗カタレプシー作用は、それぞれ0.625~10mg/kg、経口と2.5~10mg/kg、経口の間で用量依存的であった(Kandaら、1994)。しかし、KF17837は経口投与後の効力が低かったため、パーキンソン病の実験モデルで更に評価するためには、より有効な化合物を開発する必要があった。
本研究では、もう一つの新規アデノシンA2A受容体選択的アンタゴニストであるKW-6002(Shimadaら、1997)の薬物誘導性カタレプシーにおける効力をまず最初に評価し、非選択的アデノシンアンタゴニストであるカフェインやテオフィリン、ドーパミン模倣薬の効力と比較した。次に、自発運動に対するKW-6002の効果を、レセルピン及びMPTP処置マウスで調査した。これらのマウスにおいて、ドーパミン枯渇又はシナプス前ドーパミン作動性ニューロンの変性は、パーキンソン病の病態を反映する運動機能低下の原因である(Colpaert、1987;Sundstromら、1994)。最後に、L-ドーパとの併用によるKW-6002の潜在的な相乗効果を検討した。」
・甲4c(91頁左欄下から14行~92頁左欄2段落)
「材料と方法
動物
雄ddYマウス・・・及び雄C57BL/6マウス・・・。実験プロトコールは協和発酵工業株式会社の動物倫理委員会の承認を受け、日本薬理学会の「動物実験指針」に従った。
化合物
以下の化合物を使用した。(E)-1,3-ジエトビル-8-(3,4-ジメトキシスチリル)-7-メチル-3,7-ジヒドロ-1H-プリン-2,6-ジオン[KW-6002・・・]、L-3,4-ジヒドロキシフェニルアラニン(L-ドーパ;・・・)、DL-セリン2-[(2,3,4-トリヒドロキシフェニル)メチル]ヒドラジド塩酸塩(ベンセラジド;・・・)、カフェイン(・・・)、テオフィリン(・・・)、ブロモクリプチンメタンスルホン酸(・・・)、2-[p-(2-カルボキシエチル)フェネチルリラミノ]-5'-N-エチルカルボキサミドアデノシン塩酸塩(CGS21680;・・・、ハロペリドール(・・・)、レセルピン(アポプロン注・・・)、1-メチル-4-フェニル-1,2,3,6-テトラヒドロピリジン塩酸塩(MPTP;・・・)である。KW-6002は0.3%Tween 80に懸濁させた。塩酸ベンセラジド、カフェイン、CGS21680及びMPTPは生理食塩水に溶解させた。ブロモクリプチンメタンスルホン酸塩を蒸留水に溶解した。レセルピン溶液は蒸留水で希釈した。L-ドーパ、テオフィリン及びハロペリドールは0.3%カルボキシメチルセルロースナトリウムに懸濁した。KW-6002、L-ドーパ(ベンセラジドと4:1の割合で共投与)、テオフィリン、カフェイン及びブロモクリプチンメタンスルホン酸を10ml/kgの容量で経口投与した。CGS21680を1mg/2mlで溶解し、HaleyとMcCormack(1957)の方法で20μlを脳室内に注射した。ハロペリドール及びMPTPは10ml/kgの量で腹部下四分位に腹腔内投与した。レセルピンは頸部背側に皮下投与(カタレプシー実験)、又は腹腔内投与(運動実験)し、その量は10ml/kgとした。
カタレプシーの誘導と測定
薬物誘導性カタレプシーは以下のように測定した。各マウスの前肢を・・・水平なバーに乗せ、カタレプシーの姿勢の持続時間を測定した。その後、マウスの後肢をバーに乗せ、持続時間を測定した。カタレプシー反応を以下のようにスコア化した。スコア0、カタレプシー姿勢の持続時間が前肢・後肢ともに5秒未満;スコア1、前肢のカタレプシー姿勢の持続時間が5~10秒、後肢のカタレプシー姿勢の持続時間が5秒未満、又は後肢のカタレプシー姿勢の持続時間が5~10秒、前肢のカタレプシー姿勢の持続時間が5秒未満;スコア2、前肢のカタレプシー姿勢が10秒以上、後肢のカタレプシー姿勢が5秒未満;スコア3、前肢と後肢の両方のカタレプシー姿勢が5~10秒持続、又は前肢のカタレプシー姿勢が5秒未満、後肢のカタレプシー姿勢が10秒以上持続;スコア4、前肢のカタレプシー姿勢が10秒以上、後肢のカタレプシー姿勢が5~10秒持続、あるいは前肢のカタレプシー姿勢が5~10秒、後肢のカタレプシー姿勢が10秒以上持続;スコア5、前肢と後肢のカタレプシー姿勢がともに10秒以上持続。
カタレプシーをスコアリングする30分前、2時間前、18時間前にそれぞれCGS21680(10μg/20μl、脳室内)、ハロペリドール(1mg/kg、腹腔内)及びレセルピン(5mg/kg、皮下)を投与した。
被験物質であるKW-6002、L-ドーパ(+ベンセラジド)、テオフィリン、カフェイン及びブロモクリプチンは、それぞれカタレプシースコアを測定する1時間前、1時間半前、1時間前及び6時間前に経口投与された。
運動活性
運動活性はプラスチックケージ内で単一無音電子カウンター・・・を用いて評価した。・・・
レセルピン誘導性運動機能低下に対するKW-6002の効果は、レセルピン(5mg/kg、腹腔内)投与の18~24時間後に測定された。各マウスにKW-6002を投与し、60分後に1匹ずつ・・・ケージに入れ、30分間の運動回数を測定した。
MPTP誘導性運動機能低下に対するKW-6002の効果を以下のように評価した。MPTPを1日1回(30mg/kg、腹腔内)、5日間連日投与した。MPTP誘導性運動機能低下に対するKW-6002の効果は、MPTP(30mg/kg、腹腔内)の最終投与から30分後に測定された。各マウスにKW-6002を投与し、30分後に1匹ずつ・・・ケージに入れ、30分間の運動回数を測定した。」
・甲4d(92頁左欄下から5行~93頁右欄3段落及びFig.1~Fig.3)
「結果
CGS21680誘導性カタレプシーに及ぼすアデノシン受容体アンタゴニストの効果
アデノシンA2A受容体アゴニストCGS21680(10μg)の脳室内注入は、鎮静、自発運動抑制、及び重度のカタレプシー反応(スコア5)を生じた。図1に示されるように、新規なアデノシンA2A受容体アンタゴニストKW-6002は、CGS21680誘導性カタレプシーを用量依存的に、0.05mg/kg経口のED50で、回復させた。非選択的アデノシンA2A受容体アンタゴニストであるテオフィリン及びカフェインのED50は、それぞれ4.75mg/kg、経口、7.76mg/kg、経口であった。
[図:0001422768000013.jpg]
図1. CGS20180(10μg/20μl、脳室内)により誘導されたマウスでのカタレプシーに及ぼすKW-6002(0.04~0.63mg/Kg)、テオフィリン(1.25~20mg/kg)、及びカフェイン(1.25~20mg/Kg)の効果。各カラムは平均カタレプシースコア±標準偏差(n=10)を示す。ベヒクル群(CGS21680単独)と比べて*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001
レセルピン誘導性カタレプシーに及ぼすアデノシン受容体A2A受容体アンタゴニストKW-6002及びドーパミン作動性薬剤の効果
レセルピンは、マウスに、カタレプシー、鎮静、及び眼瞼下垂を誘導した。KW-6002は、0.16mg/kg、経口を超える用量での治療でカタレプシーを減少した(ED50=0.26mg/kg、経口)(図2)。L-ドーパ(+ベンセラミド)及びブロモクリプチンは、それぞれ、100mg/kg、経口及び40mg/kg、経口までカタレプシー反応を回復させなかった。レセルピン誘導性カタレプシーを回復させるL-ドーパ及びブロモクリプチンのED50は、それぞれ、94.0mg/kg、経口及び37.6mg/kg、経口であった。
[図:0001422768000014.jpg]
図2. レセルピンにより誘導されたマウスでのカタレプシーに及ぼすKW-6002(0.04~0.63mg/kg)、L-ドーパ(25~400mg/kg)、及びブロモクリプチン(10~160mg/kg)の効果。各カラムは平均カタレプシースコア±標準偏差(n=10)を示す。ベヒクル群(レセルピン5mg/kg、皮下単独)と比べて*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001
アデノシンA2A受容体アンタゴニストKW-6002のレセルピン又はMPTP誘導性運動機能低下に対する効果
図3に示すように、レセルピン処置による運動量低下が生じ、新規アデノシンA2A受容体アンタゴニストKW-6002はレセルピン誘導性の運動量低下を用量依存的に回復させた。運動活性に対する最小有効量は0.63mg/kg、経口であり、KW-6002は2.5mg/kg、経口の投与で運動量カウントをビヒクル投与群の50%まで回復させた。
MPTP(30mg/kg/日、腹腔内)によるドーパミン作動性黒質経路の変性に起因する運動抑制は、5日間の反復投与後に発現した(図3)。アデノシンA2A受容体アンタゴニストKW-6002は、MPTPによる運動量低下を用量依存的に回復させた。運動活性に対する最小有効量は0.16mg/kg、経口であり、KW-6002は2.5mg/kg、経口の用量で運動量カウントが正常群のほぼ80%に達するまで回復させた(図3)。
[図:0001422768000015.jpg]
図3. レセルピン又はMPTPで前処置したマウスにおける自発運動活性に及ぼすKW-6002(mg/kg)の効果。データは、KW-6002の投与後30分間にわたり採られた総カウントを示す(平均±標準偏差、n=8/群)。*、**レセルピン又はMPTP-処置コントロールとのp<0.05、p<0.01での有意差。+++正常コントロールとのp<0.001での有意差。」
・甲4e(93頁右欄4段落及びFig.4)
「アデノシンA2A受容体アンタゴニストKW-6002とL-ドーパの併用効果
ハロペリドール-及びレセルピン-処置モデルにおけるL-ドーパの抗カタレプシー効果をKW-6002が増強するか否かを決定するために、閾値下量のL-ドーパ(50mg/kg、経口)が各量のKW-6002(ハロペリドール-誘導性カタレプシーには1.25μg/kg、経口-625μg/kg、経口、レセルピン-誘導性カタレプシーには40μg/kg、経口-625μg/kg、経口)と組み合わせられた。KW-6002単独では、5μg/kg、経口及び10μg/kg、経口の量で、有意な抗カタレプシー効果は発揮しなかったが、閾値下量のL-ドーパとの組合せはハロペリドール-誘導性カタレプシーに効果的であった(図4)。さらに、レセルピン-誘導性カタレプシーにおいて、KW-6002の80μg/kg、経口及び160μg/kg、経口は、KW-6002のこれらの量自体は明らかな抗カタレプシー効果を有しないにもかかわらず、L-ドーパの閾値下量との組合せで抗カタレプシー効果を生じた(図4)。したがって、KW-6002とL-ドーパ(50mg/kg、経口)との組合せは、それぞれの単独治療により生じるより有意に大きな抗カタレプシー効果を結果として生じた。
[図:0001422768000016.jpg]
図4. ハロペリドール又はレセルピンにより誘導されたマウスでのカタレプシーに及ぼす閾値下量のL-ドーパ(50mg/kg、経口)とKW-6002の組合せ効果。KW-6002の量(μg/kg)は図に示される。各カラムは平均カタレプシースコア±標準偏差(n=10)を示す。ベヒクル群と比べて*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001。L-ドーパ単独群と比べて+p<0.05、++p<0.01、+++p<0.001。」
・甲4f(93頁右欄下から12行、94頁左欄2段落~同頁右欄2段落及びTable 1)
「考察
・・・
KW-6002の薬物誘導性カタレプシーを回復させるED50値を、L-ドーパ、ブロモクリプチンなどのドーパミン作動性薬剤や選択的及び非選択的アデノシン受容体アンタゴニストを含む他の運動刺激剤と比較すると、表1に示すようになる。これらの研究で評価されたドーパミン作動性薬剤のうち、ブロモクリプチンが最も強力であった。非選択的アデノシン受容体アンタゴニストのテオフィリン及びカフェインのED50はKW-6002より2桁低く、アデノシンA2A受容体ではそれぞれ16μM及び27μMのKi値であった。KW-6002はこれらの薬剤よりも大きな効力を示し、この化合物のパーキンソン病治療における臨床的有用性を評価する価値があることが示唆された。
表1
マウスにおける薬物誘導性カタレプシーに対するKW-6002及び参考薬物の効力。ベンセラジドをL-ドーパ:ベンセラジド=4:1の比でL-ドーパと共に経口投与した。
[図:0001422768000017.jpg]
また、レセルピン誘導性及びMPTP誘導性の運動機能低下に対するKW-6002の効果も評価した。レセルピンの前処置による内因性脳内モノアミンの枯渇は、形態学的にパーキンソン病の症状に類似した無動症と筋硬直を生じる(Davisら、1979)。したがって、モノアミン欠乏げっ歯類は、パーキンソニズムの有用な薬理学的モデルとなり、抗パーキンソン病薬の評価に用いられてきた(Klockgether及びTurski、1990;Menzaghiら、1997)。・・・図3において、KW-6002も0.63mg/kg、経口の用量で自発運動抑制を有意に減弱させ、この実験系では少なくとも既存の抗パーキンソン病薬に匹敵する効果であることがわかった。
パーキンソン病の別のモデルは、MPTP処置によって作り出すことができる。C57BL/6マウス株は、MPTP処置後により、ドーパミン神経系の深刻な変性を示し、運動機能低下が見られるようになる(Heikkilaら、1984a、1984b;Sundstromら、1990)。この運動機能低下症状は、治療域が20~40mg/kg、腹腔内のL-ドーパにより用量依存的に回復することが報告されている(Fredrikssonら、1990)。我々の実験で採用した投与法(30mg/kg、腹腔内×5日)は、この投与法が少なくとも10日間、線条体ドーパミン含量を有意に減少させることが実証されていたために選択した(Heikkilaら、1984a、1984b)。図3に示すように、MPTPを5回反復投与(30mg/kg、1日1回腹腔内)すると、最後の注射の1時間後に重度の運動量低下(正常対照の10%以下)が生じた。L-ドーパ(+ベンセラジド)は40mg/kg、経口の用量と160mg/kg、経口の用量でこの運動低下を回復させ、この効果は有意(正常対照の58%)で、以前の報告(Fredrikssonら、1990)におけるL―ドーパの結果と同等であった。MPTPによる運動機能低下を回復させるKW-6002の最小有効量は0.16mg/kg、経口であり、これはL-ドーパの1000倍の効力であった。
さらに興味深いのは、アデノシンA2A受容体アンタゴニストKW-6002とL-ドーパの併用効果で、薬剤誘導カタレプシーなどの運動障害が回復することである(図4)。最近、我々はKW-6002単独投与がMPTP処置サルモデルにおいて抗パーキンソン効果を発揮することを報告した(Kandaら、1998)。しかし、パーキンソン病治療の現在のゴールドスタンダードである薬剤との併用療法で効果が増強される可能性については未解決のままであった。このような背景から、本研究は、KW-6002が、L-ドーパのようなドーパミン作動性薬剤との付加的治療に非常に大きな恩恵を生む可能性があることを示している。アデノシンA2A受容体アンタゴニストは、L-ドーパのようなドーパミン模倣性薬剤とは完全に異なる標的分子及びメカニズムを通して有効性を発揮するため、潜在的に、運動欠損を回復させるKW-6002とL-ドーパとの組合せ効果が生じる可能性がある。」
・甲4g(94頁右欄3段落)
「パーキンソン病においてアデノシン関連化合物を使用するというコンセプトは、非常に少数の報告によって示唆されている。非選択的アデノシン受容体アンタゴニストであるテオフィリンのオープントライアルでは、パーキンソン病患者にある程度の改善がみられた(Mally及びStone 1994、1998)。しかし、テオフィリンは非選択的アデノシン受容体アンタゴニストであるだけでなく、ホスホジエステラーゼやグアノシン受容体にも親和性を持っている。したがって、テオフィリンの作用部位はまだ確定していない。」
・甲4h(94頁右欄最下段落)
「結論として、本研究により、選択的アデノシンA2A受容体アンタゴニストKW-6002は、実験モデルにおいて経口投与で抗パーキンソン病効果を示すことが示唆された。この結果をヒトで示すことができれば、KW-6002はパーキンソン病の治療における新規の非ドーパミン作動性アプローチとなる可能性がある。」
[甲7(Annals of Neurology,1998年,Vol.43,No.4,p.507~513)に記載された事項]
・甲7a(要約)
「L-ドーパ療法によるパーキンソン病の治療は、薬効の喪失及びジスキネジアの発症を含む長期の合併症をもたらす。線条体中のアデノシンA2A受容体は、線条体淡蒼球系のGABA性出力ニューロンに選択的に局在しており、その様な問題を回避する可能性がある。新規アデノシンA2A受容体アンタゴニストであるKW-6002が、MPTP処置した霊長類における抗パーキンソン活性について検討された。KW-6002の経口投与は、MPTP処置コモンマーモセットにおける運動障害を用量依存的に回復させた。但しKW-6002は、全体的な自発運動活性を控えめにだけ増大させ、常同運動等のような異常運動は引き起こさなかった。運動障害を回復させるKW-6002の能力は、21日間にわたる毎日の反復投与で維持され、耐性は観察されなかった。KW-6002は、L-ドーパに予め曝露させることでジスキネジアを呈するよう準備しておいたMPTP処置霊長類において、ジスキネジアを殆ど又は全く誘発しなかった。これらの結果は、選択的アデノシンA2A受容体アンタゴニストが、運動亢進の発生やジスキネジアの誘発なしに障害を改善する、新しいクラスの抗パーキンソン病剤を代表することを示唆している。」
・甲7b(508頁右欄21~23行)
「 KW-6002[(E)-8-(2-3,4-ジメトキシフェニル)エチニル)-1,3-ジエチル-3,7-ジヒドロ-7-メチル-1H-プリン-2,6―ジオン)」
(合議体注:上記の化合物は、命名法は異なるが、本件訂正発明の「(E)-8-(3,4-ジメトキシスチリル)-1,3-ジエチル-7-メチルキサンチン」と同じ化合物である。)
・甲7c(508頁右欄下から9行~510頁左欄2行)
「結果
他には薬物に曝されていないMPTP処置マーモセットにおいて、KW-6002(0.5~100mg/kg)の経口投与は、長く継続する(10時間まで)自発運動活性を用量依存的に増大させた(図1)。KW-6002(10mg/kg 経口)は、ビヒクル処置による場合に比べて約2倍の自発運動活性をもたらした。より高い投与量のKW-6002では、更なる自発運動活性の増大は見られなかった。このKW-6002(10mg/kg)によってもたらされた自発運動活性の増大は、10~11時間まで持続した(図1)。」
・甲7d(509頁Fig1.、Fig2.)
「
[図:0001422768000018.jpg]
図1.MPTP処置コモンマーモセットにおける自発運動活性に対するKW-6002の効果。(A)自発運動に対するKW-6002(10mg/kg 経口)の効果の時間推移。各点は、1時間の平均自発運動カウント(±標準誤差、n=4)を表す。〇=ビヒクル処置群;●=KW-6002治療群。(B)自発運動活性に対するKW-6002(0.5~100mg/kg 経口)の効果の用量応答性。各データは、12匹の動物毎の平均自発運動カウントを表す(±標準誤差、n=4)。*p<0.05 対照(ビヒクル処置群)との比較。」
「 図2.MPTP処置コモンマーモセットにおける自発運動活性、並びに、無処置及びMPTP処置コモンマーモセットの基礎自発運動活性に対する、KW-6002又はL-ドーパの効果。(A)MPTP処置コモンマーモセットの自発運動活性に対するKW-6002(10mg/kg 経口)又はL-ドーパ(10mg/kg経口、ベンセラジド2.5mg/kg経口を追加)の、並びにビヒクル処置正常コモンマーモセットの、自発運動活性の時間推移。各点は1時間の平均自発運動活性(±標準誤差、n=4)を表す。〇=ビヒクル処置正常マーモセット;□=ビヒクル処置―MPTP病変マーモセット;●=L-ドーパ治療群;■=KW-6002治療群。(B)基剤、KW-6002又はL-ドーパを投与されたMPTP処置マーモセットの、又は基剤を投与された正常マーモセットの、合計自発運動活性。各データは、2時間の平均自発運動カウント(±標準誤差、n=4)を表す。#p<0.05 無処置動物(ビヒクル処置群)との比較。*p<0.05 MPTP処置対照群(基剤を投与されたMPTP処置マーモセット)との比較。
[図:0001422768000019.jpg]
」
[甲9(特表2000-513349号公報)に記載された事項]
・甲9a(4頁6~20行)
「L-DOPAは、パーキンソン病の治療に25年以上前にはじめに導入され、それ以来、症状の治療のための「ゴールド・スタンダード」となっている。にもかからず、L-DOPAは、主としてその長期間の運動性合併症の点で欠点を有する。数年の治療後、患者は投薬期間の終了時にL-DOPAの効果時間短縮(wearing off)効果を経験する;これらの単純な変動はついでより複雑なオン-オフ現象に発達する可能性があり、患者は「オン」(すなわち、パーキンソン症候が比較的ない)および「オフ」または「フローズン」の間を、しばしば迅速に一貫せずに往復する。加えて、長期間のL-DOPA治療は、ジスキネジーの出現を伴ない、これは疾患そのものと同じ程度に無力となり、しばしばL-DOPA用量を制限する。
これらのL-DOPAの不都合な作用を減じるための試みにおいて、ブロモクリプチン、ペルゴリドおよびリスリドなどのドーパミンアゴニストが、伝統的に補助治療として用いられている。これらの薬物は、L-DOPAよりも長い半減期を有し、そのためそのドーパミン様作用を長期化し、用量の効果時間短縮を取り除くことができる。」
[甲10(合議体注:甲5は甲10の一部に相当する。)(BRAIN nursing 第9巻・春季増刊(通巻第102号)「パーキンソン病患者のケア・ポイント 病態生理・治療と看護事例」1993年2月14日、5~13頁、46~54頁、78~90頁)に記載された事項]
・甲10a(5頁1行及び12~18行)
「 パーキンソン病とは何か
・・・
パーキンソン病には,いくつかの特徴的な徴候が共通にみられる.これらのなかで主なものは,(1)安静時振戦,(2)歯車様固縮,(3)動作の緩慢または無動,および(4)姿勢保持の4大徴候であり・・・.今日パーキンソン病とは,黒質緻密層ドパミン性神経細胞の変性と線条体ドパミン低下を主病変とする原因不明の変性疾患の一種であると定義することができる.」
(合議体注:上記において、原文の「○の中に数字1~4」を表記できないので、「(1)~(4)」と記載した。)
・甲10b(47頁下から4行~48頁1行、同頁下から10~9行)
「 MPTPパーキンソン病の分子生物学
パーキンソン病は遺伝素因と共に,神経毒や栄養などの環境因子で発症するとの見解が強い3~5).これは,1983年米国で,N-メチル-4-フェニル-1,2,3,6-テトラヒドロピリジン(MPTP)が,ヒト,サルを中心とする多種の動物でパーキンソン病を発症することが発見されたからである.
・・・
MPTPパーキンソン病はヒトとサルが最も起こしやすいが,マウス,イヌ,カエル,サカナなど広範囲な種族の動物で運動障害を起こす.」
・甲10c(78頁2~9行及び79頁の図)
「・・・パーキンソン病では黒質のメラニン含有細胞の変性,脱落に伴いドパミン産生が著しく低下する.その結果,ドパミン系とアセチルコリン系とのバランスがくずれ,アセチルコリン系が優位となる.一方,線条体のドパミン含量は80%程度の低下までは代償されるがそれ以上の低下になると,パーキンソン病として発症し,機能障害が進行する.したがって,線条体のドパミン系を賦活するかまたはアセチルコリン系を抑制することにより両者のバランスを回復させることが,パーキンソン病治療の基本となる.図に主なパーキンソン病治療薬の作用点をまとめた.
[図:0001422768000020.jpg]
」
・甲10d(80頁16行~82頁8行)
「現在のレボドパ療法は合剤によるものが主体であるが,ドパ脱炭酸酵素阻害剤の併用により脳内でのドパミン濃度が上昇しやすくなることから,中枢性の副作用,すなわち精神症状やジスキネジアなどは逆に出現しやすくなった.・・・。レボドパおよびその合剤の開発により,パーキンソン病患者の日常生活は著しく改善した.しかしレボドパ療法は補充療法であるため,治療開始後ほぼ一生にわたり投薬が必要となる。ADLの改善により罹患期間が延長し投薬期間が長期になるにつれ,次に述べるようなさまざまな問題点が出現してきた。
1.“wearing-off”現象
“wearing-off”現象とは薬効期間の短縮により,パーキンソン病症状の日内変動が出現する現象をいう.レボドパ治療初期には1日2回ないし3回の服薬により,24時間ほぼ安定した効果を得られるが,治療が長期にわたるにつれ,・・・血中レボドパ濃度の低下とともに症状が増悪するようになる.“wearing-off”現象の出現率は治療年数の経過とともに増加し,日本では欧米と比べるとやや頻度は低いが,4年後に30%,8年後には40%に出現するとされている.発生機序についてはレボドパ長期投与によるレボドパの吸収,代謝の変化や,パーキンソン病そのものの進行にる(注:原文のまま)ドパミンニューロンのドパミン保持能の低下などが考えられている.
対策としては,症状の変動とレポドパ血中濃度とがきわめて良く対応することから,血中濃度がなるべく一定になるようにレボドパの投与量,投与回数,投与時刻を変更することや,ブロモクリプチン・・・などのドパミンアゴニストの併用を考える.・・・
2.“on-off”現象
“on-off”現象はレボドパの服用時刻,血中濃度に関係のない,あたかも電気のスイッチを入れたり切ったりした時のような急激な症状の変化を示す現象である.・・・発生機序についてはレボドパ長期投与によるドパミン受容体の感受性の変化が推測されている.
対策としては,レボドパを徐々に減量して1~2週間休薬(・・・)したり,ドパミンアゴニストへの切り替えなどが試みられているが,いずれもあまり効果は高くない.・・・
3.不随意運動
レボドパによる不随意運動は,舞踏病様,パリスム様,ジストニア様等,さまざまなタイプのものがあり,・・・レボドパの過剰投与の場合は治療開始後早期でも出現しうるが,一般には投与期間が長くなってから出現することが多く,さらに治療量に達しないうちに不随意運動が出現することも稀でない.・・・
レボドパ服用後1~2時間後の血中濃度がピークに達した頃出現する(ピークドーズジスキネジア)ことが最も多いが,内服直後の血中濃度上昇期に出現し濃度の上昇とともにいったん消失するが下降期に再び出現する二相性ジスキネジアや,早期レボドパ濃度の最も低い時期に出現する早期ジスキネジアなどもある.
ジスキネジア出現時にはレボドパの一回投与量を減量し,血中濃度が上昇しすぎないようにコントロールし,他剤との併用を試みる.・・・しかしながらジスキネジア出現時は,症状が最も良く改善している時刻であることが多く,患者本人はジスキネジアをほとんど気にしていないことが多い.またジスキネジアを消失させるための治療によりむしろパーキンソン症状が増悪してしまう場合も比較的多い.」
[甲14(近藤智善 外2名「パーキンソン病治療ハンドブック」、2001年5月15日、121~131頁(項目IV.))に記載された事項]
・甲14a(121頁図3-19)
「
[図:0001422768000021.jpg]
」
・甲14b(123頁11行~20行、124頁下から10行~125頁12行)
「運動合併症(ウェアリングオフ現象およびジスキネジア)
L-DOPA反応性の運動合併症としてウェアリングオフ現象,ジスキネジア・・・があげられる.
ジスキネジアは抗パーキンソン病薬の治療に伴って出現する不随意運動の総称であり・・・,一方,薬剤の服薬時間に依存した症状変動をウェアリングオフ現象,薬剤の服薬時間とは無関係に突然生じる症状悪化や改善をon-off現象というが,on-off現象の方がより病気の進行した,線条体ドパミンニューロン終末変性が進行した状態で生じ,ドパミン受容体の感受性低下などドパミンシナプス以後の変化も伴っているとみられている.・・・
・・・
運動合併症が発現する主な中枢性の要因として,ドパミンニューロンの変性の進行があげられる。それによってドパミンニューロン終末へのL-DOPA取り込み能の低下(変動するL-DOPA濃度を緩衝する力の低下),ドパミン保持能の低下が生じると考えられる.さらにドパミンニューロン終末の変性に伴ってシナプス後部のドパミン受容体の惑受性が変化する.また末梢性の要因として作用時間の短い(L-DOPAのような)薬剤を1日何回か間欠的に投与することでドパミン受容体を間欠的に刺激することがあげられる・・・.またL-DOPAの長期治療下でウェアリングオフ現象やジスキネジアが出現しやすいパーキンソン病患者ではL-DOPA/DCI(合議体注:DCIは、ドーパ脱炭酸酵素阻害薬)服用後の血中ピーク濃度の上昇と半減期の短縮が生じているとの報告があり10),このことも末梢性要因として運動合併症の発現に寄与していると考えられる.これらの中枢性および末梢性要因によって運動合併症が発現する病態が大脳基底核の神経回路網に成立すると推定されている.
・・・L-DOPAの持続静注で血中L-DOPA濃度を一定化すると症状変動が消失する事実や,ドバミンアゴニストでも血中半減期の短いリスリドのような薬剤では間欠的に投与すると運動合併症が生じやすいこと,長時間作用性のドパミンアゴニストの使用がジスキネジアもウェアリングオフ現象もともに軽減させること,などから過剰でない安定したドパミン受容体の刺激が運動合併症発現抑制に役立つことが示唆される.」
・甲14c(125頁13行、同頁下から7~3行)
「L-DOPA の用法による対策
・・・
L-DOPAの1回用量を減らし服薬頻度を増加させる服用法はしばしば行われる方法である.この目的はL-DOPA高用量1回服用による高い血中濃度を避けることと,L-DOPA頻回服用によって血中濃度維持をはかることにある.これによって効果の短縮に伴った症状の落ち込み(ウェアリングオフ現象)は緩和され,ジスキネジアなど中枢性副作用のリスクを低くすることができる.」
・甲14d(128頁3~18行)
「ドパミンアゴニスト
昨今ウェアリングオフ現象やジスキネジアの発現が問題になるような,ある程度罹病期間が経過した患者では,すでにL-DOPA製剤とドパミンアゴニストの併用療法下にあると考えられる.
ウェアリングオフ現象のみが問題の患者では,単純にドパミンアゴニストを追加または増量することでon相での副作用の発現なくon相を延長させoff相の症状改善を得ることができる・・・.
ウェアリングオフ現象とジスキネジアの両者が発現する患者の場合や安全治療域が狭い患者の場合,単純にドパミンアゴニストを増量追加することはoff相の短縮,on相の延長には有用であるが,ジスキネジアの発現や増悪,あるいは幻覚など精神症状の発現を誘う可能性がある.したがってドパミンアゴニストを追加併用する場合にはL-DOPA製剤の減量をはかる必要がある.しかし減量したとDOPAの効果に対応するだけのドパミンアゴニストの追加がなければジスキネジアは軽減してもon相・off相のパーキンソニズムが悪化するのは当然といえる.すなわち運動合併症の生じた患者では,L-DOPAの効果を可能な限り控え目にし,長時間作用性のドパミンアゴニストの用量を高めに設定することが基本といえる12).」
[甲15(柳澤信夫(編)、小川紀雄(13)、野元正弘(14)、長谷川一子(17)、鷲見幸彦(18)「パーキンソン病-診断と治療-」(「13薬物治療の基本的な考え方」「14 パーキンソン病治療薬の種類と特徴」「17 L-DOPA長期使用の問題点と対策」「18 薬物治療のコツ」)2001年5月31日(第1版第2刷)、金原出版株式会社、115~138、155~165頁)に記載された事項]
・甲15a(121頁5~16行)
「5 長期治療に伴う問題症状と対策
・・・
PDの薬物治療は一般に10年以上継続される。慢性期に現れるwearing-off現象やジスキネジアなどの運動系の副作用は,線条体内のDA神経終末の変性が進行して高度になったために,末梢血中の濃度に依存した線条体内L-DOPA(およびDA)濃度の急激な上昇と下降を緩衝する保持能力が低下したためだと考えられている。
(1)症状の日内変動(wearing-off現象)
数年のL-DOPA使用後には必発といえる。これを克服するには,L-DOPAの1回の服用量を滅らした少量分割頻回投与・・・,作用時間の長いDAアゴニストの併用,L-DOPAの作用時間を延長させるB型モノアミン酸化酵素阻害薬(MAO-B阻害薬)の併用などによってL-DOPAの減量をはかる15),などの方法がある。」
(合議体注:上記において、原文の「●の中に白抜き数字1」を表記できないので、「(1)」と記載した。)
・甲15b(134頁20行、135頁9~16行)
「3 今後開発が期待される薬物
・・・
(4)Adenosine受容体拮抗薬
CaffeineはL-DOPAやdopamine受容体作用薬の作用を強めることが実験的に示されている26)38)。Caffeineはadenosine受容体に作用することからadenosineのパーキンソン病症状への関与が想定される。Adenosine受容体はA1からA4に分類されるが,このうちA2A受容体は線条体,側坐核,嗅結節に限局して存在しており,A2A受容体拮抗薬には抗パ-キンソン病作用が認められる39)。また,パーキンソン病モデル動物では線条体の細胞外アデノシンは増加しており,アデノシン受容体拮抗薬は抗パーキンソン病作用をもつことが期待される40)。」
(合議体注:上記において、原文の「●の中に白抜き数字4」を表記できないので、「(4)」と記載した。)
・甲15c(155頁13~末行及び表1、156頁8~15行及び表2、159頁11~17行及び図1)
「(1)長期L-DOPA治療に伴う変化
L-DOPA製剤を投与して数年を経ると次第に薬剤の有効時間が短縮してくる。これが最も早期にみられる長期L-DOPA投与症候群である。長期L-DOPA治療に伴う各症候の発症病理については,十分に解明されてはいない。現在,表1に示すような末梢性の薬物動態(特に吸収・代謝)の変化,中枢性要因として脳内ドパミン神経系の変性とグリアの変化などが想定されている。表1に示すような変化に基づき,薬物代謝上は急峻なL-DOPAの血液・脳関門の移行と,脳内でのバッファー効果のないL-DOPAからドパミンヘの速やかな変換とが長期L-DOPA投与症候群の発症機序として推定される。このような変化によって,薬物濃度の急峻な増減が生じ,これが臨床効果の変動をもたらすと考えられている。
[図:0001422768000022.jpg]
・・・
(2) 長期L-DOPA治療症候群とは
長期L-DOPA症候群とされる症状群を表2に示す。長期L-DOPA症候群については表2に示すようにカテゴリー別に述べる場合と,薬剤投与との関連で予測できる症候と予測できない症候に大別して論ずることがある。予測できる症候とは,薬剤服用に伴う薬剤の血中濃度との関連で論じることのできる症状群で,wearing-off現象,およびジスキネジアがこの群に分類される。薬剤服用との関連で予測できない症候とは運動症状ではon-off現象やno on現象,精神症状その他の症状群が含まれる。・・・
[図:0001422768000023.jpg]
・・・
(3) 薬剤動態により予測できる症状群への対処法(図1)
パーキンソン病治療の原則はいかに長くよい状態を維持するかにある。図1に現在,多くの医療機関でなされているパーキンソン病治療の原則を示す。パーキンソン病患者の病態をできるだけ長期にわたって良好に保つための方策として,L-DOPAの使用量をできるだけ抑え,早期よりドパミン受容体刺激薬を併用することが推奨されている。ここでは薬物濃度に関する問題と,ドパミン受容体刺激薬併用について述べることとする。
[図:0001422768000024.jpg]
」
(合議体注:上記において、原文の「■の中に白抜き数字1~3」を表記できないので、「(1)~(3)」と記載した。)
[甲17(萬年徹(編)「図説内科診断治療講座15 パーキンソン症候群と類縁疾患」、1989年11月25日、230~243頁)に記載された事項]
・甲17a(231頁左欄下から9行~右欄12行、20~22行及び図12)
「薬効持続時間減少
2つの型があり,それぞれ次のように対処する。
(1)病気の進行により症状が増強する場合;抗パーキンソン病薬を増量する。(2)抗パーキンソン病薬の長期投与により有効時間がしだいに短縮する場合(wearing-off現象);まず投薬の総量を変えずに投与回数を増す。さらに投与時間と個々の投与量を症例ごとに工夫する。睡眠をよくとり朝食後に服薬すると,午前中に最も症状が改善することが多い。その状態を目標にあとの投薬時間を工夫し量を決めるとよい。起床時すでに寡働が著しいときはただちに服薬する。服薬回数は最大6回までとする。
薬効不安定(on-off現象)
L-ドーパを長期間使用すると,服薬時間に関係なく電灯をつけたり消したりするように,症状の著しい増悪と改善とが突然切り換わってあらわれることがある。これをon-off現象という(図12)。この状態は血中L-ドーパ濃度の変動とよく対応することが知られており,対策はまずL-ドーパ1回投与量を減らし投与回数を増す。
・・・
ブロモクリプチン投与も重要である。ドパミンレセプター安定作用を有しており、on-off現象に対し理論的にも実際上も有効である。」
(合議体注:上記において、原文の「○の中に数字の1又は2」を表記できないため、「(1)又は(2)」と記載した。)
「
[図:0001422768000025.jpg]
」
・甲17b(234頁左欄下から9行、同頁右欄12~18行、235頁右欄3行~236頁左欄5行)
「 L-ドーパ長期治療の問題点
・・・
wearing-off現象
a.特徴
wearing-offとは消退するというような意味で,L-ドーパの効果が消えていくというほどの意味である。まったく効かなくなるのではなく,効いている時間が短くなり,次の服薬をするかなり前から動きが悪くなる。・・・
・・・
b.発症機序
ドパミンニューロンの変性が進んで,L-ドーパないしドパミンを長い間保持しておけなくなって起きると考えるのが自然である。しかし直接の証明はない。・・・L-ドーパの血中濃度の動揺も重要な因子で4),L-ドーパの点滴などで血中濃度を一定に保つと,wearing-off現象は改善する5)。」
・甲17c(237頁左欄5行~右欄8行)
「on-off現象
a.特徴
on-off現象は,服薬時間に関係なく症状が急激によくなったり悪くなったりする現象である。その切り替わりが電気のスイッチを入れたり切ったりするように,急激に変わるのでon-off現象とよばれる。offの時間は十数分から数時間である。onの時間帯には不随意運動を伴うことが少なくない。通常L-ドーパ開始後3年目以後にみられる。wearing-off現象は次のL-ドーパを飲んで,それが効いてくるまではよくならないのに対し,on-off現象のoffは自然にonに移行する。・・・
b.発生機序
wearing-off現象以上にわかっていない。しかし,点滴によりL-ドーパ血中濃度を一定に保つとみられなくなるので5),L-ドーパの脳への移行に動揺がみられることが大きな原因と思われるが,なぜL-ドーパ服用以前に症状の改善がみられるのかは,よくわかっていない。機序はともかく,根底には長期にわたるL-ドーパの過剰投与があり,それが原因とされている7)。
c.対策
wearing-off現象と違い,まずon-off現象が消えるまで徐々にL-ドーパを減量する。減量によりパーキンソニズムが強くなる場合は,L-ドーパ以外の抗パ-キンソン病薬で,まだ用いていないものを試す。」
[甲21(山本光利「患者と家族のためのパーキンソン病Q&A(改訂2版)」1997年6月30日、93~95頁)に記載された事項]
・甲21a(95頁1行~下から5行)
「39.症状が1日の中で変化します.防ぐ方法はありませんか?
L-ドパ*の長期治療によって生じてきた問題症状です.ウエアリング・オフ現象*(アップ・アンド・ダウン現象)とオン・オフ現象*の2種類の症状があります.
前者はL-ドパを服用したとき薬の効果が続く時間が短くなったために生じるものです.これは病気そのものが進行してきたことが最大の原因です。線条体のドパミン神経細胞の変性が進行し,服薬したL-ドパを保持できる時間が短くなってきたことが,最も関与していると考えられています.・・・
ウエアリング・オフ現象の対策としては,脳内のL-ドパの濃度をできるだけ一定にするために1日3回飲んでいたL-ドパの服薬回数を4~6回に増やすことや,ドパミン受容体刺激薬のブロモクリプチン(パーロデル),ペルゴリド(ペルマックス),タリペキソール(ドミン)を併用することがあります.1日何回に増やすかは患者さんの状態により違いますが,通常1日のL-ドパの合計量が増えることはなく,回数が増えれば1回の量は減ります・・・.
すでに症状に日内変動がある患者さんの多くはブロモクリプチン,ペルゴリドを飲んでいると思いますが,ブロモクリプチン,ペルゴリド,タリペキソールの作用時間はL-ドパよりも長いため,この症状の改善に効果があります.併用の場合にはL-ドパの量は減らす方が望ましいので主治医に相談してください(p85Q34参照).」
[甲26(神田知之「運動不全モデルにおけるアデノシンA2A受容体拮抗薬の行動薬理学的作用解析」と題する論文、1999年)に記載された事項]
・甲26a(20頁下から5行~21頁1行)
「MPTP処置霊長類はそのパーキンソニズムがヒト病態と良く似ており、また治療薬に対する反応や用量が相関することから、ヒトのパーキンソン病に極めて近い病態モデルであるとされている。MPTP処置コモンマーモセットにおいても同様で、ドーパミン作動薬で見られる副作用である嘔吐、dyskinesiaなどが認められ抗パーキンソン病薬の作用評価には有用な実験動物である53)。」
[甲43(「新薬展望2001 抗パーキンソン病薬」、2001年1月、医薬ジャーナル、37巻増刊号、53~60頁)に記載された事項]
・甲43a(53頁要約)
「パーキンソン病治療においては,薬物療法が主体である。中でもL-Dopaは,現在はもちろん,将来にわたっても治療の主体となる薬物である。
近年,L-Dopa長期治療剤において種々の問題が起こり,患者の日常生活動作(activity of daily life;ADL)の低下が問題となっている。すなわち,wearing off,on-off,精神症状,ジスキネジア・ジストニア等の不随意運動が起こってくることである。・・・。現在,ドパミン受容体刺激剤,モノアミン酸化酵素阻害剤,カテコール-O-メチル転移酵素阻害剤,アデノシンA2A受容体阻害剤の開発治験が行われている。
本稿では,L‐Dopa長期使用の問題点と上記薬剤の概説を行う。」
・甲43b(53頁右欄2~6行、54頁図1、及び55頁左欄12~16行)
「現在,パーキンソン病の治療の主体はL-Dopaを中心としたドパミン補充療法である(図1)。L-Dopaは,末梢でのドパミンへの変換を阻害する塩酸ベンセラジド,カルビドパの合剤が一般に使用されている。」
「
[図:0001422768000026.jpg]
」
「現在,パーキンソン病治療薬の課題となっているのは,L-Dopa長期療法によるwearing off,on-off,ジスキネジアなどの不随意運動,精神症状の克服や,神経細胞の保護作用薬剤の模索である。」
・甲43c(55頁左欄17行~右欄7行、56頁11~12行、57頁左欄7~27行目、及び図2)
「2.L-Dopa長期投与における問題点
1) wearing off現象とon-off現象
L-Dopa長期服用を行っていると,残念ながら薬効時間が短くなり(wearing off現象),さらにはスイッチを切ったように突然効果が切れてしまう(on-off現象)ようなことが目立ってくる。
2) ジスキネジアとジストニア
さらに脳内でのL-Dopa濃度のピークで出現する舞踏病様不随意運動が目立ったり(peak-dose dyskinesia),脳内L-Dopa濃度の上昇期及び下降期に2相性に出現するジストニアや舞踏病様不随意運動(biphasic dyskinesia)が出現する場合がある(図2)。」
「
[図:0001422768000027.jpg]
」
「・・・
4) 視床-大脳皮質におけるパーキンソン病の病態生理とその対策
・・・
いずれにしても線条体での長期にわたるドパミン濃度の不安定さ,D1,D2レセプターの感受性の変化により,線条体(被殻)からの出力系である淡蒼球外節,内節,視床下核が機能的アンバランスを生じ,結果的に視床-皮質回路が異常興奮しやすい状態になる。この状態により不随意運動が誘発されていることが考えられている。
対策としては,L-Dopaの少量頻回投与によって線条体での濃度変化を最小限にす
る。・・・
これらの知識を踏まえ,L-Dopa長期服用に伴う問題を最小限にとどめ長期的に安定した治療を継続するために,L-Dopaは必要最小限の至適量を考え,他剤を組み合わせる「低用量・多剤併用」を基本とすることである。」
・甲43d(57頁右欄下から15~7行、59頁左欄下から8~4行及び同頁右欄下から14~7行)
「4.ドパミンレセプター刺激剤
(ドパミンアゴニスト)
ドパミンアゴニストは,比較的作用時間が長く,パーキンソン症状に対する効果はL-Dopaのように切れ味が良いわけではない。しかしL-Dopaの長期投与に伴うwearing offやon-offなどの薬効不安定(fluctuation)やジスキネジア,ジストニア,精神症状などを抑制する効果が明確となった。」
「5.モノアミン酸化酵素B(MAO-B)阻害薬
モノアミン酸化酵素Bは,ドパミンをDOPACに代謝する酵素で,この酵素の阻害によってドパミン分解,神経終末への取り込み抑制によって,L-Dopa消費量を低下させる。」
「6.カテコールーO-メチル転移酵素
(COMT)阻害剤
カテコール-O-メチル転移酵素(COMT)は,カテコールアミンをメチル化する酵素で血中でL-Dopaを代謝して3-OMD12,中枢神経内では3MTに変換する。これらの阻害剤はL-Dopaの代謝を抑制することが期待される。臨床的には,wearing offの改善を目的としている。」
・甲43e(60頁左欄10~19行目及び59頁図7)
「7.アデノシンA2Aアンタゴニスト
(KW-6002,治験中)
特異的アデノシンA2A受容体拮抗作用を有するキサンチン誘導体である。協和発酵が開発を行っている。線条体出力ニューロンであるGABA作動性神経に存在し,パーキンソン病で活動亢進していることが明らかとなったアデノシンA2A受容体を阻害することによってL-Dopa長期治療によって生ずるジスキネジアを抑制することができる12)(図7)。
[図:0001422768000028.jpg]
」
(合議体注:上記におけるKW-6002の化学構造式には誤りがあり、正しくは、甲43の参考文献12(上記甲7)の508頁右欄21~23行のとおり、「(E)-8-[2-3,4-ジメトキシフェニル)エチニル)]-1,3-ジエチル-3,7-ジヒドロ-7-メチル-1H-プリン-2,6―ジオン」であり、これは、命名法は異なるが、本件訂正発明の「(E)-8-(3,4-ジメトキシスチリル)-1,3-ジエチル-7-メチルキサンチン」と同じ化合物である。)
[甲44(Neuroscience Research,2001年,Vol.41,No.4,p.397~399)に記載された事項]
・甲44a(Abstract)
「ゾニサミド(ZNS)は、一般に認容性の良好な抗けいれん薬であり、パーキンソン病(PD)に対して有益な効果を有する。・・・そこで、我々は、9名のPD患者について非盲検試験を行った。患者は抗PD薬に加えて、1日50-200mgのZNSを投与された。7名は、明らかに、症状、特にウェアリング・オフが軽減した。我々は、ZNSによるドーパミン合成の長期持続活性がパーキンソン病症状、特にウェアリング・オフを回復させると推測している。」
・甲44b(397頁左欄1~3行、同頁左欄19行~右欄3行及び同頁右欄9~14行)
「ゾニサミド(ZNS)はベンゾイソオキサゾール骨格を有する抗てんかん薬であり(Masudaら,1998)、長い半減期を有する(63h)(Itoら,1982)。・・・
・・・
進行期PDの9人の患者(男性7人、女性2人)が本試験に参加することに同意した。・・・患者は抗PD薬(レボドパ、DAアゴニスト、セレギリンなど)に加えて、1日1回又は2回、50-200mgのZNSを投与された。12週間のZNS投与後、患者の状態が、United Parkinson’s Disease Rating Scale(UPDRS)、Hoehn-Yahr stage、及び1日のオフ時間(患者日誌による測定)に基づき評価された。」
・甲44c(399頁Table2)
「
[図:0001422768000029.jpg]
」
(合議体注:「表2」は「パーキンソン症状に対するゾニサミドの効果」についての結果を記載しており、表2から、7人の患者において、右端の「オフ」時間が、12週間後に短くなっていることが理解できる。)
[甲50(Journal of Pharmacy and Pharmacology,1994年,Vol.46,No.6,p.515~517)に記載された事項]
・甲50a(515頁タイトル及びAbstract)
「テオフィリンのパーキンソン病症状に対する効果
要約 - アデノシンは、中枢神経系シナプス末端からのドーパミンの放出を抑制することが知られている。本オープン臨床試験は、したがって、アデノシン受容体アンタゴニストであるテオフィリンがパーキンソン病において価値があるか否かを決定するために行われた。15名のパーキンソン病患者に対し、テオフィリンの徐放性経口製剤(150mg day-1)を12週間まで投与したところ、1週間後の血清テオフィリン濃度は4.44mg L-1であった。これらの患者は、平均的には、客観的障害スコアに有意な改善がみられ、11名が主観的には中等度又は顕著に改善したと報告した。テオフィリンは、パーキンソン病患者の日常的治療に対して、有用な補助剤となる可能性が示唆された。」
・甲50b(515頁左欄の本文1~2段落)
「パーキンソン病は、黒質変性による線条体のドーパミン減少が主な病因とされている。それゆえ、線条体のドーパミン放出を調節することは、パーキンソン病の症状に影響を与える可能性がある。アデノシンA2受容体アゴニストは、自発運動活性を低下させることが知られており、最近では、これは線条体に存在するA2a受容体がドーパミンの放出を低下させるためであることが示唆されている(Barracoら 1993)。さらに、アデノシンA2a受容体は、シナプス後D2受容体に対するドーパミン作動性リガンドの親和性を低下させる(Ferreら 1991)。
上記の観察を考慮すると、キサンチンアンタゴニストであるテオフィリンでアデノシンA2a受容体を拮抗することにより、ドーパミン放出を増加させ、その結果パーキンソン病症状を改善するかもしれないことが仮定された。この仮説が短いオープン試験でテストされた。」
・甲50c(515頁右欄2~6段落及び516頁Table1.)
「パーキンソン病の特徴は、2つのスコアで評価された。そのうちの一つは、硬直と歩行能力の評価を含むgraded clinical rating scale(Mally 1992)であった。正常な機能を0点として、全障害は66点であった。もう一つの指標は、統一パーキンソン病評価尺度(UPDRS)であり、振戦や運動低下など、精神的、運動的、日常生活的な主観的活動に関する一連の評価に基づいている(Lang&Fahn 1989)。テオフィリン治療導入後の患者の主観的な意見を、悪化、変化なし、中等度改善、著明な改善のカテゴリーで求められた。
・・・
結果
2週間目までは、障害スコアの減少が認められた。その差は、ベースライン時の値と比較して有意であった。2週目以降は、さらなる変化は認められなかった(表1)。トータルスコアは有意に変化したが、硬直と歩行のサブスケールの減少は、有意にはいたらなかった(表1)。
最も効果が高かったのは、UPDRSによるトータルスコアであった(表1)。全てのサブスケールが有意に変化した。
・・・
表1.テオフィリン治療中の段階的評価スケールの変化(150mgday-1)
[図:0001422768000030.jpg]
値は、平均値±標準誤差で示されている。テオフィリン投与前(ベースライン)スコアからの統計的有意性は、*P<0.05、**P<0.01で示されている。」
[甲51(CNS Drugs,1998年,Vol.10,No.5,p.311~320)に記載された事項]
・甲51a(515頁タイトル及びAbstract)
「運動障害の治療におけるアデノシンA2A受容体アンタゴニストの可能性
要約
現在のパーキンソン病の薬物療法は、主にレボドパと直接作用型ドーパミン受容体アゴニストに基づいているが・・・満足のいくものではない。別の戦略として、ドーパミン作動系に拮抗する内因性経路の活性を下げることが考えられる。そのような経路のひとつにアデノシン経路がある。アデノシン受容体はCNS全体に存在するが、A2A受容体サブタイプは大脳基底核、特に内在性コリン作動性ニューロンとエンケファリンを含むγ-アミノ酪酸(GABA)線条体投射ニューロンに高度に局在している。A2A受容体のサブタイプは、線条体外領域に存在する可能性がある。これらの受容体のアゴニストは、神経細胞の興奮性を高め、神経伝達物質の放出を促進するが、ドーパミン受容体と相互作用してドーパミンの作用を抑制することもある。逆に、A2A受容体アンタゴニストは一般に、さまざまな実験パラダイムで自発運動行動を刺激し、内因性アゴニストであるプリンによるアデノシン受容体の活性化を防ぎ、それによってドーパミン受容体の活性化を促進することと一致する関連行動特性を示している。
非選択的アデノシンA2A受容体アンタゴニストのヒトでの予備試験は、この運動刺激活性がパーキンソン病に伴う運動低下及び振戦の減少にまで及ぶ可能性があることを示している。選択的A2A受容体アンタゴニストの開発が、最近幾つかの製薬会社により報告されており、それゆえ、パーキンソン病治療への新しい薬理学的アプローチの出現を予示すると思われる。」
・甲51b(314頁右欄6~11行)
「3. アデノシン受容体アンタゴニスト
Sattin及びRall,[43]による最初の実証から、テオフィリンやカフェイン(1,3,7-トリメチルキサンチン)のようなメチルキサンチンは、アデノシン受容体における競合的アンタゴニストとして認識されてきた。」
・甲51c(317頁左欄の項目4.1の1段落)
「4.1 パーキンソン病における試験
パーキンソン病におけるテオフィリンの効果に関する予備的な検討では、テオフィリン150mg/日の投与により、投与開始後2週間で運動低下と振戦の両方が減少することがわかった[88]。合計15人の患者が試験に参加し、運動低下と振戦の減少に加えて、Graded Clinical Rating Scale(段階的臨床評価尺度)とUnified Parkinson’s Disease Rating Scale(統一パーキンソン病評価尺度)の両方の障害合計点が著しく改善した[88]。これらの改善は、12週間の治療期間中、全て維持された。この論文の冒頭で述べたように、パーキンソン病患者では入力経路の変性により多くの受容体群が失われるか実質的に減少するが、内在ニューロンのA2A受容体は失われない[89]。線条体のA2A受容体が維持されていることが、キサンチン類が運動機能を刺激し続けることを可能にしているのだと考えられる。」
・甲51d(317頁左欄~右欄の項目5.)
「5. 結論
A2A受容体の線条体への選択的局在は、ドーパミン放出及び受容体機能を調節する能力と相まって、パーキンソン病に対する新しい薬理学的アプローチの可能性を提起している[93]。しかし、A2A受容体アンタゴニストの他の作用がこのアプローチを複雑にし得ることを心に留めておく必要がある。例えば、腹側線条体にA2A受容体が存在することは、A2A受容体アンタゴニストがそこでのD2受容体機能を増強することによって精神病症状を誘発する可能性があることを意味している。実際、A2A受容体のアゴニストは、抗精神病薬として価値があるかもしれないが[34,94]、もちろんパーキンソン病が並行して誘発されるかもしれないという逆の懸念も生じる。Nメチル-D-アスパラギン酸(NMDA)に対して選択的なグルタミン酸受容体の遮断がパーキンソン病の治療において有用な戦略であるという証拠があるが、最近の結果はA2A受容体の活性化がグルタミン酸受容体のNMDA感受性集団の活性化に伴うイオンチャンネルの開口を阻害できることを示している[95]。したがって、A2A受容体アンタゴニストの価値は依然として興味深いが、ヒトにおける大規模かつ長期の研究が行われるまで期待には慎重さが必要である。・・・A2A受容体アンタゴニストの生体内における有害作用の可能性はまだほとんど検討されていない。
最後に、本稿ではA2A受容体に焦点を当てたが、D1受容体はA1受容体によって調節されるという新しい見解もあり、受容体選択的薬剤の他の組合せが治療価値を持つことが証明されるかもしれないし、皮肉にも、選択的なものよりも非選択的なものの方がより有効であると証明されるかもしれないことに注意する必要がある。」
[甲52(「新薬展望2000」、2000年1月1日、医薬ジャーナル、36巻増刊号、39~44頁)に記載された事項]
・甲52a(39頁タイトル及び要約)
「抗パーキンソン病薬
パーキンソン病に対する治療薬として,新しいドパミン受容体刺激薬,モノアミン酸化酵素(・・・MAO-B)阻害薬,カテコール-0-メチル転移酵素(・・・COMT)阻害薬,アデノシンA2A受容体阻害薬を概説した。その中のいくつかは,既に治療に使用されるようになっている。パーキンソン病治療薬は現在でもL-ドパ製剤が主流であるが,長期投与によりwearing-off現象,on-off現象,ジスキネジア,精神症状出現等の問題点がある。上記薬剤によってこのような問題点が解決され,各患者の症状に合わせた治療の選択が拡大されることが期待されている。さらに,神経保護作用についても注目されている。」
・甲52b(39頁右欄5行及び41頁左欄2段落、43頁5行~末行)
「 2.ドパミンアゴニスト
・・・
2)プラミペキソール(Pramipexole,SND919)
(日本ベーリンガーインゲルハイム;治験中)
プラミペキソールは非麦角アルカロイド系のドパミンアゴニストで,・・・欧米での二重盲検比較試験では初期のパーキンソン病に対する単独療法で,・・・進行したパーキンソン病に対しても日常生活動作と運動障害の改善,off期の短縮,L-ドパの減量が認められた6)。・・・わが国では第III相臨床研究に入っている。
・・・
4.カテコール-0-メチル転移酵素阻害薬
・・・
1)トルカポン(Tolcapone,Ro40-7592)
(日本ロシュ;申請中)
トルカポンは,スイスのロシュ社によって開発されたCOMT阻害薬で・・・L-ドパの代謝を選択的かつ可逆的に阻害する。・・・L-ドパ/DCI(脱炭酸酵素阻害剤)治療下でのwearing-offにも効果を認めた。
・・・トルカポンは薬効の動揺を示すパーキンソン病患者で調子の良い時間を増加させる効果が分かっている。・・・
・・・
2)エンタカポン(Entacapone,OR-611)
(ノバルティス;わが国では未治験)
・・・わが国での治験はないが米国,欧州では治験が終了し,現在認可申請中である。Wearing-off現象を示すパーキンソン病患者で効果があると報告されている。」
・甲52c(43頁右欄1~13行)
「 5.アデノシンA2A受容体アンタゴニスト
(KW-6002)(共和発酵;治験中)
KW-6002(8,1,3-diethyl-3,7-dihydro-7-methyl-1H-purine-2,6-dione)は,アデノシンA2A受容体に特異的な拮抗作用を有するキサンチン誘導体である。・・・アデノシンA2AアンタゴニストはMPTP(パーキンソニズム発症神経毒)投与のサルにおいてジスキネジアを中心とした運動障害を有意に改善すると報告されている18)19)。欧米で第II相臨床試験が終了している。」
2 丙号証の記載事項
[丙7(Bioscience,Biotechnology,and Biochemistry,2001年,Vol.65,No.7,p.1447~1457)に記載された事項]
・丙7a(タイトル及び要約)
「総説
大脳基底核におけるアデノシンA2A受容体の生理的・病態生理的機能の新たな側面
現在、アデノシンA2A受容体の機能的役割に関心が高まっている。脳内での分布は大脳基底核に限定され、特に線条体に豊富であり、運動行動のコントロールで重大な役割を担っていると考えられている。実際に、新たに開発されたA2A受容体選択的アンタゴニストは運動機能に深い影響を及ぼし、数種の動物モデルで抗パーキンソン病活性を示す。・・・GABA作動性シナプス神経伝達は、シナプス前終末のA2A受容体を介してアデノシンにより制御されている。A2Aアンタゴニストによってこの調節機能を遮断すると、パーキンソン病状態における線条体のドーパミン枯渇により誘発された線条体-淡蒼球の異常な神経細胞活動が修復される可能性がある。A2A受容体アンタゴニストはパーキンソン病治療に新たな治療の可能性をもたらす。」
・丙7b(1448頁左欄23~33行、同頁右欄3~6行及び10行~最下行)
「1. A2A受容体アンタゴニストの生化学的及び薬理学的な特徴付け
1.1. 生化学的特性13-15,30)
最初のアデノシン受容体アンタゴニストは、A2A受容体に対して選択性がわずか、あるいは全くないカフェインやテオフィリンなどのキサンチンであった。その後に・・・KF17837などのA2A受容体に選択性があるアンタゴニストの開発に至った。
・・・
KW-6002にはKF17837と同様にA2A受容体への効力と選択性がある。・・・ラット前脳のA1受容体に比べてA2A受容体に68倍の選択性がある。・・・
1.2. 薬理学的特性-パーキンソン病の動物モデルにけるA2A受容体アンタゴニストの作用
線条体の重要な機能の一つが運動の協調であるため、多くの報告がA2受容体のアゴニスト及びアンタゴニストを用いて、自発運動活性及び行動におけるA2A受容体の役割に焦点を置いてきた32-35)。しかし、これらの初期の研究ではテオフィリンやカフェインのような非選択的アデノシン受容体アンタゴニストを使用していたので、運動反応へのA2A受容体の寄与を評価するのは困難であった。KF17837及びKW-6002を用いることで、種々の動物モデルでA2A受容体の遮断が運動反応にどのように影響を及ぼすかを観察することが可能になった。この結果、これらのA2Aアンタゴニストが数種類のげっ歯類の行動モデルで運動障害を改善した24-27)。特に、KW-6002はレセルピン処置マウスで自発運動活性の増加を誘発することができ、げっ歯類でハロペリドール誘発のカタレプシーを逆転させた25)。
6-ヒドロキシドーパミンを片側に注射すると、注射した側の黒質線条体のドーパミン作動性神経細胞を優先的に破壊する。黒質線条体経路の片側病変の発生後、ドーパミンアゴニストは反対側への活発な回転行動を生じさせる。このモデルは、抗パーキンソン病効果を評価するのに最も信頼のおけるげっ歯類のモデルの一つである。実際に、KW-6002は、ドーパミンアゴニスト又はL-ドーパにより生じた回転応答を増強することが判明した27)。
1-メチル-4-フェニル-1,2,3,6-テトラヒドロピリジン(MPTP)は、霊長類においてパーキンソン病発生を伴うドーパミン作動性の細胞死を生じる。この疾患モデルでは、ヒトにおける薬物作用の高度な予測が可能である。MPTP処置した霊長類にKW-6002を経口投与すると、運動障害を有意に逆転するのと連動して自発運動活性に中程度の増加をもたらす。この作用は常同症などの異常な運動や、悪心や嘔吐、その他の明らかな末梢性副作用は伴わなかった28,29)。全てのドーパミン作動性薬に応答してジスキネジアを呈するMPTP処置霊長類において、KW-6002が異常な不随意運動を誘発しなかったことは非常に興味深い。重要なことに、KW-6002を反復投与しても、その抗パーキンソン病作用に対する耐性は生じなかった。」
・丙7c(1449頁左欄1行~1451頁左欄の項目「2.」及びFig.1.、並びに、1452頁左欄下から15~13行及び同頁同欄下から3行~同頁右欄下から16行)
「2.大脳基底核及びA2A受容体の神経調節機能
2.1. 大脳基底核の機構の現在のモデル
大脳基底核は終脳に位置しており、いくつかの互いに連結した核、すなわち線条体、淡蒼球外節(GPe)、淡蒼球内節(Gpi)、黒質緻密部(SNc)、黒質網様部(SNr)及び視床下核(STN)で構成されている(図1)。
線条体は大脳基底核の主要な構成要素である。線条体神経細胞は大量のグルタミン酸作動性興奮性入力を受け取る(図1.皮質線条体経路)。線条体の主要な神経細胞集団の代表は中型有棘神経細胞であり、全線条体神経細胞のほぼ95%を占め、神経伝達物質の一つとしてガンマアミノ酪酸(GABA)を使用する。線条体細胞の残りの5%は、GABA作動性でコリン作動性介在神経細胞をはじめする無棘介在神経細胞で構成されている。中型有棘神経細胞は線条体において知られている唯一の投射神経細胞であり、その出力は、直接路と間接路の両方を介して、大脳基底核の主要な出力核すなわちGpi及びSNrへ向かう(図1)。線条体黒質の直接路の神経細胞はGABAに加えてサブスタンスP/ダイノルフィンを含有しており、線条体からGpi/SNrへ直接投射する。それらの神経細胞は直接的な抑制作用をGpi/SNrの神経細胞にもたらす。線条体-淡蒼球の間接路の線条体神経細胞は、GABAに加えてエンケファリンを含有しており、Gpe及びSTNでのシナプス結合を介して線条体をGpi/SNrに結合する。この結合の連鎖は次のようになっている(図1、図2-(a)も参照のこと)。(1)線条体からGpeへの抑制性のGABA作動性投射;(2)GpeからSTNへの抑制性のGABA作動性投射;(3)STNからGpi/SNrへの興奮性のグルタミン酸作動性投射。その結果、間接路の神経細胞を刺激すると、Gpeが抑制され、STNが脱抑制されてGpi/SNrが興奮する。こうして、直接路からの抑制性入力と間接路からの興奮性入力の相反する作用は、大脳基底核の出力活性に影響を及ぼす。Gpi及びSNrは視床核へ抑制性入力をもたらし、そして視床核は、運動をコントロールする皮質領域へ興奮性神経細胞を投射する(視床-皮質経路)。直接路の活性増加は運動促進と関連し、間接路の活性増加は運動抑制と関連する。
このシナプスネットワークヘのドーパミン作動性入力は、線条体へ投射するSNcの神経細胞から来る。パーキンソン病では、ドーパミン作動性神経細胞の変性がきっかけとなり、大脳基底核ネットワーク全体に影響が及ぶ機能的変化のカスケードが生じる。線条体のレベルでは、ドーパミンは直接路に沿った伝達を促進し、間接路に沿った伝達を抑制するようであり、どうやらこの二つの相反する作用は、線条体黒質神経細胞のドーパミンD1受容体及び線条体-淡蒼球の神経細胞のD2受容体にそれぞれ媒介されるようである。直接路と間接路の活性間の不均衡と、結果として生じるGpi/SNrの変化が、大脳基底核障害の運動低下及び運動充進という特徴を理由づけると考えられる。
さらに最近では、アデノシンが、線条体のA2A受容体を介して機能的応答に重要な役割を演じているようであると認識されている。重要なことに、A2A受容体は、間接的な線条体-淡蒼球経路の中型有棘神経細胞という亜集団に特異的に発現しているが、直接的な線条体黒質経路では発現していない17)。
[図:0001422768000031.jpg]
2.2. アデノシンはA2A受容体を介してGABA作動性回路を調節する
我々は、電気生理学的技術、細胞内記録、及びホールセルパッチクランプ記録を用いて、ラット線条体切片において、中型有棘投射神経細胞でのアデノシンA2A受容体が媒介する脱抑制の機序を発見した34)。A2A受容体が媒介する機序を同定するのに非常に有用な手段として、新たに開発されたA2A受容体選択的アンタゴニストKF17837と共に選択的アゴニストCGS21680を使用した。このようにして、線条体内の刺激により惹起した抑制性シナプス後電流(IPSCs)を、A2Aアンタゴニストにより選択的に阻害される様式で、A2Aアゴニストが抑制することを、我々は実証した。このことから、A2A受容体は、これらの線条体神経細胞に向けられるGABA作動性シナプス伝達の抑制に働くことが示される。さらに我々は、微小のIPSCs*を分析することにより、アデノシンによるGABA作動性シナプス伝達のこの抑制がシナプス前A2A受容体により媒介されるが、シナプス後A2A受容体によっては媒介されないことを示した38)。実際に、線条体シナプトソームでの実験では、CGS21680は(KF17837により遮断される形で)GABA放出を阻害しており、このことは、線条体神経終末にあるA2A受容体を介して、アデノシンによりGABA放出が抑制されることを示している67)。
以上の結果は、A2A受容体は、中型有棘投射神経細胞のGABA媒介性の阻害を弱めることにより、線条体の投射神経細胞の活性を制御していることを意味した。
線条体では、有棘投射神経細胞におけるGABA受容体へのGABA作動性の入力は、軸索側枝(分枝)及びGABA作動性介在神経細胞から来ている可能性がある40-42)。軸索側枝からのGABA放出は、有棘神経細胞間の相互抑制を生じさせて線条体内のフィードバック抑制回路を受け持っている可能性があるのに対し、介在神経細胞からのGABA作動性入力はフィードフォワードの抑制機序を受け持っているはずである。したがって、これらの線条体神経終末のA2A受容体をアデノシンが活性化すると**、これらの抑制機序の片方あるいは両方を弱めて、投射神経細胞活動の活性の増大をもたらす可能性がある。
我々は淡蒼球(GP)GABA作動性投射神経細胞で同様の電気生理学的方法を用いて、GP内において刺激により惹起されたIPSCsをCGS21680が(KF17837により遮断される形で)増加させ、その増加はシナプス前A2A受容体に起因するが、シナプス後A2A受容体には起因しないことを明らかにした。このことは、GPでは、アデノシンはA2A受容体を介してGABA作動性シナプス伝達をシナプス前性に増加することを示している39)。
淡蒼球のGABA作動性投射神経細胞は、線条体の投射神経細胞ならびにそれらの軸索側枝から大量のGABA作動性の入力を受け取る36)。・・・GPのA2A受容体は線条体の投射神経細胞の軸索終末に位置している可能性が最も高く、したがって、GPでA2A受容体が媒介するGABA作動性伝達の増加のほとんどは、線条体-淡蒼球の軸索終末で行われている可能性がある。
以上の知見から、大脳基底核におけるアデノシンの神経調節機能に対する新たな洞察が得られる。一つ目は、線条体の有棘投射神経細胞は、A2A受容体媒介性のコントロールを次の2つの異なるモードで受ける可能性があるということである。1)フィードバック/フィードフォワード機序による、GABA作動性の軸索終末の線条体A2A受容体を介したその神経細胞活動のコントロール。・・・A2A受容体が媒介するGABA作動性の有棘投射神経細胞の活性のコントロールが、線条体出力の最も強力な決定因子である可能性がある。2)軸索終末からGP投射神経細胞へのGABA放出のコントロール。これはGPのA2A受容体を介してGP神経細胞活動をより直接的にコントロールする可能性がある機序である。二つ目は、共に大脳基底核出力に影響を及ぼす非常に決定的ないくつかの働きをすると考えられている線条体及びGPにおいてアデノシンの調整作用が示されることは、注目すべきであるということである36,37,75)。
A2A受容体によるこれらの「二重制御」は最近、in vivo微小透析実験でも実証された48)。CGS21680をラット線条体に微量注入すると、淡蒼球でのGABA濃度が実際に増加した。線条体のA2A受容体活性化によるGABAのこの増加は、活動電位の終末への伝播を遮断するようにGPへ局所的に送達されたテトロドトキシンによって阻止された。さらに、CGS21680を淡蒼球内に注入すると、テトロドトキシンがあってもなくてもGPでのGABA値が増加した。
総合すると、A2A受容体は、線条体及びGPの両方において、GABA作動性の軸索終末で線条体-淡蒼球間接路を二つの異なるモードでコントロールしている可能性がある。線条体-GP系の解剖学的な収束すなわち「漏斗状」という観点から、A2A受容体によるこの二重制御の機序は、より効率的に作用するはずである(図1を参照)。アデノシンは、A2A受容体を介して線条体-淡蒼球のGABA作動性投射神経細胞に対する特異的な神経調節物質として、大脳基底核系のコントロールに大きく寄与している可能性がある。」
「4. 神経伝達物質及びその他の神経調節物質の作用に及ぼすアデノシンA2A受容体の影響
・・・
4.1. 線条体ドーパミン作動性の活性に及ぼす影響
ドーパミンD2受容体は線条体-淡蒼球の神経細胞でA2A受容体と共発現する。A2A-D2受容体の相互作用が細胞膜内及び細胞内の双方で示されている66,67)。したがって、A2A受容体の刺激はD2受容体へのドーパミンの親和性に影響を及ぼし、A2A/D2を共トランスフェクトした細胞でのD2受容体媒介のCa2+流入を相殺し、c-fos発現に対するD2受容体媒介性の持続的抑制を無効にする。数多くの他の研究から、アデノシンA2A受容体にはシグナル伝達、遺伝子発現、神経伝達物質放出、及び行動応答をはじめとする、D2受容体媒介性の作用に対し相反する作用があることが示された。そのため、A2A-D2の膜内の受容体-受容体相互作用及び細胞内シグナル伝達レベルでの下流の相互作用が、アデノシンアゴニスト及びアンタゴニストで観察された作用の多くの根底にある主な分子的機序と細胞的機序をもたらす可能性があることが提示されている66,67)。しかし、A2A受容体はD2受容体とは独立して作用できることを示すエビデンスが増えている。・・・最近、D2受容体ノックアウトマウス(D2R-/-)を用い、D2受容体の不存在下でのA2A受容体機能が実証された69,70)。D2R-/-マウスにはパーキンソン病との類似性がある自発運動の表現型があり、線条体の有棘投射神経細胞に発現する神経ペプチド遺伝子のレベルで有意な変化がみられる69)。D2R-/-マウスと野生型マウスでは、A2A受容体mRNA発現の分布や程度及び受容体の結合特性に差はなく、このことはD2受容体の欠如は、A2A受容体の特性に影響がないことを示している。A2A選択的アンタゴニストによりA2A受容体を遮断すると、それらの自発運動活性及び運動協調が再建され、線条体のエンケファリンの発現を正常マウスのレベルまで低下させる70)。以上の結果から、A2A及びD2受容体には、大脳基底核の神経細胞及び運動機能のコントロールに拮抗性ではあるが独立した活性があることが示される。」
・丙7d(1453頁右欄4行~1454頁左欄末行及び1453頁のFig.2)
「5. アデノシンA2A受容体とパーキンソン病
5.1. パーキンソン病の病態生理
パーキンソン病(PD)は年齢の関連する神経変性障害である。PDの主要な特徴は静止時振戦、固縮、運動緩慢(又は遅さ)、及び歩行障害である。パーキンソン病の主要な病態は、黒質緻密部(SNc)におけるドーパミン作動性神経細胞の変性であり、それは運動症状発現の原因とされている線条体ドーパミン量の顕著な減少をもたらす75)。このようなドーパミンの枯渇が、大脳基底核ネットワーク全体に影響を及ぼす機能的変化のカスケードのきっかけとなる。最も関連がある変化は回路の出力核GPe/SNrの活動亢進である(図2-(b))。このような活動亢進は直接的な線条体黒質経路と間接的な線条体-淡蒼球経路との不均衡に原因がある。パーキンソン病又は霊長類のMPTP処置のいずれでも、黒質線条体のドーパミン作動性経路の破壊に続いて、間接的な線条体-淡蒼球経路の活動変化が生じる。したがって、現在のモデルでは、線条体-淡蒼球の間接路における全体的な活動の増加が強調されている(図2-(b))37,76,77)。線条体におけるドーパミンの欠乏はGPeでの持続性の神経細胞活動の減少、STNの脱抑制、そしてGPe/SNrの過剰な駆動をもたらす。この結果として皮質運動野の促進作用が低下し、その後に無動や運動緩慢が発現する。
特に関連があるのは、MPTP処置されたサルの線条体の方が正常な対照サルよりもアデノシン(及びその代謝産物イノシン)の細胞外レベルが高いという知見である78)。
5.2. A2A受容体アンタゴニストの提案される作用機序
A2A受容体アンタゴニストは、線条体及びGPにおけるA2A受容体を介したGABA作動性神経伝達の二重のコントロールを遮断し、これは、黒質線条体のドーパミン作動性システムの脱神経により発現した間接路の過剰な活性化の抑制をもたらす。これにより、線条体-淡蒼球/線条体黒質の神経細胞の不均衡が正常な状態に移行し(図2-(c))、結果的に運動機能が回復する可能性がある。
実際に、黒質線条体経路の片側の病変に続いて、同側の線条体及びGPでは細胞外GABAの基礎レベルが増加した47)。KW-6002は、ドーパミンアゴニストが誘発した回転を増強するのと同じ用量範囲において27)、障害ラットのGPで細胞外GABA値の顕著かつ持続的な減少を生じた47)。6-ヒドロキシドーパミンによる破壊は、線条体のエンケファリンmRNA発現を増加させ(これは線条体-淡蒼球の神経細胞の活動亢進を示す)、A2A受容体アンタゴニストはエンケファリンmRNA発現の増加を逆転させる(Aoyamaら、未発表のデータ)。ドーパミンD2受容体選択的アンタゴニストのエチクロプリドには、エンケファリンのmRNA発現が増加するという点においてドーパミン欠乏と類似の作用、すなわちA2Aアンタゴニストにより逆転される作用がある24)。
これらの結果は、A2A受容体アンタゴニストについての以上の提案された抗パーキンソン病機序が、実際に線条体-淡蒼球の神経細胞において働いていることを示している。ACh放出に対するA2A受容体媒介性の刺激及び線条体-淡蒼球の神経細胞でのドーパミンD2受容体との相互作用がA2Aアンタゴニストの抗パーキンソン病機序に寄与しているかもしれないが、それらの寄与についてはさらなる研究がまだ残っている。」
「
[図:0001422768000032.jpg]
」
・丙7e(1454頁右欄1~29行)
「6. 結論における所見
アデノシンは、線条体-淡蒼球の間接路のA2A受容体に作用することにより、大脳基底核機能をコントロールし得る特異的な神経調節物質である。A2Aアンタゴニストにより線条体-淡蒼球の調節機能を遮断すると、抗パーキンソン病活性が生じる。
ドーパミン前駆物質L-ドーパを用いたドーパミン補充戦略は、パーキンソン病療法での主要な治療法であり、実質的に全ての患者に劇的な恩恵をもたらす。しかし、L-ドーパ療法には大きな限界があり、L-ドーパ治療は、5~10年後に圧倒的多数の患者で不随意運動やジスキネジアなどの一連の合併症が発生することと関連している。A2A受容体アンタゴニストはMPTP-霊長類モデルでジスキネジアを惹起することなく運動障害を逆転させる。A2A受容体アンタゴニストは作用機序がドーパミン作動薬とは全く異なっており、パーキンソン病治療に新たな治療の可能性をもたらす。このようなコンセプトにより、KW-6002は現在、特発性パーキンソン病に関する臨床試験中である。さらに、最近の研究の多くが運動合併症の原因となる機序の理解に焦点を置いているが、今後のA2A受容体の研究は、大脳基底核機能の生理機能及び病態生理と共にパーキンソン病を理解するための新たな鍵をもたらすはずである。」
[丙16(「パーキンソン病治療薬-アデノシンA2A受容体拮抗薬(KW-6002)など-」日本臨牀、2002年1月1日発行、60巻1号、112~116頁)に記載された事項]
・丙16a(112頁左欄1行~113頁右欄9行)
「パーキンソン病は,中脳黒質緻密層から線条体に投射するドーパミン作動性ニューロン細胞死に起因して起こり,線条体でのドーパミン含量が正常の20%以下になると臨床的に安静時振戦,歯車様固縮,無動,姿勢反射障害の四大症候を呈すると考えられている.病理学的には黒質の選択的神経細胞死とレビー小体の出現を特徴とし,理論的な原因療法は神経細胞死抑制であるが,このような治療法はいまだ存在しない.したがって,病気の進行は阻止できないものの,不足したドーパミンを補充するL-ドーパ製剤(レボドーパ)の対症療法が基本となる.
ところが,その長期間使用により,wearing-off現象,on-off現象といった効果の動揺,dyskinesiaなどの不随意運動,精神症状が出現し,十分な治療効果が得られぬケースが多く,長期的L-ドーパ製剤療法の最大の問題点となっている.こうした諸問題を克服するために開発されたのがドーパミン作動薬である.・・・
しかしながら,ドーパミン作動薬はL-ドーパ製剤に比べて,効果が弱いため,長期投与(3-5年)では病状進行に伴い,単独では十分な症状改善が得られず,L-ドーパ製剤を治療計画に加えねばならなくなる.こうしたドーパミン系を中心とした従来の治療法とは一線を画する治療法として有力視されているのが,アデノシンA2A受容体拮抗薬である.アデノシンA2A受容体拮抗薬は,パーキンソン病患者において機能不全に陥っている線条体ニューロンを,本来の健常なニューロンへと再構築する効果が期待されている.
本稿では,この新しいタイプの抗パーキンソン病薬として魅力的なアデノシンA2A受容体拮抗薬につき概説する.
I.アデノシンA2A受容体拮抗薬がなぜパーキンソン病治療で注目されたのか?
カフェインなどのメチルキサンチンはホスホジエステラーゼ活性を阻害し,細胞内cAMP濃度を増加させることが知られている.ドーパミンにもD1受容体を介して同様の効果が認められ,パーキンソン病でもカフェインのL-ドーパ製剤増強効果が期待されていた.実際に,6-OHDAで中脳黒質ドーパミンニューロンを傷害したラットではL-ドーパやドーパミン作動薬による治療増強効果が認められたが1),肝心なパーキンソン病患者には無効であった2).一方,テオフィリンの使用ではL-ドーパとの併用でパーキンソン病患者に著明な症状改善が認められた3).
カフェインとテオフィリンの両者はアデノシンA1とA2受容体4)拮抗薬であり,脳内アデノシンA2A受容体は線条体,側坐核,嗅結節5,6)に限局して分布している点から,アデノシンA2A受容体が線条体での運動機能制御に重要な役割を果たしていることが推測された.更に、中脳黒質緻密帯のドーパミンニューロン変性は線条体のアデノシンA2A受容体結合能に悪影響を及ぼすことなく,またパーキンソン病患者と健常者ではアデノシンA2A受容体総数に差は認められないことが報告されていた7).
以上の知見から、アデノシンA2A受容体拮抗薬がパーキンソン病治療薬として有用である可能性が示唆されたわけである.」
・丙16b(114頁左欄5行~右欄下から8行)
「III.アデノシンA2A受容体拮抗薬(KW-6002)9)
KF1783710)とKW-6002は協和発酵工業が創製した,アデノシンA2A受容体拮抗作用を有する新規化合物である.KF17837,KW-6002のラット線条体アデノシンA2AとA1受容体への結合は,それぞれの阻害定数(Ki)が1.0nM,62nMと2.2nM,150nMであり,両者ともA2A受容体に高親和性結合を示し,A2A受容体選択性はA1受容体よりもそれぞれ62,68倍勝っている.テオフィリンやカフェインなどの非選択的アデノシン受容体拮抗作用をもつ薬剤に比し,格段優れたA2A受容体選択性と親和性が得られている.KW-6002はKFI7837のジエチルアナログであるが,経口投与薬として90倍ほど優れているため,現段階では最も優れたアデノシンA2A受容体拮抗薬である.現在英国,日本において抗パーキンソン病薬として臨床開発中であるが,米国では既にパーキンソン病患者を対象としたフェーズII試験が先行している.
[In vivo characterization]
1.MPTPを投与されたサルでの検討
無動,寡動,屈曲姿勢,筋固縮,振戦などヒトパーキンソン病患者とほぼ同様の症状を呈すばかりでなく,L-ドーパ製剤に対する反応性や嘔気・L-ドーパ誘発性ジスキネジアなどの副作用の出現もパーキンソン病患者とほぼ同一で,抗パーキンソン薬の効果判定に最適なモデル動物と考えられている.このサルにKW-6002投与を行うと11),平均2倍程度の約10時間持続する投与濃度依存性な基礎運動量の回復(健常ザルの運動量程度まで)を認めた.ところが,L-ドーパやドーパミン作動薬投与後に認められる健常ザルの運動量をはるかに逸脱した過剰な運動量増加12)は引き起こすことはなく,KW-6002投与の効果は,いわゆるMPTPを投与前のサルの状態を回復させるものであった11).
運動機能の回復は,checking movement,improved posture,reaction to stimuli,alertness の各項目において認められ,注目すべきことは,不随意運動,行動異常や嘔気・嘔吐などの副作用出現を認めなかったことである11).更に,KW-6002投与によるこうした運動量回復は,脳内移行性に優れるアデノシン(APEC)の脳室内投与で阻害されるが,アデノシンA1受容体選択的拮抗薬(DPCPX)では影響を受けぬことから,アデノシンA2A受容体の選択的阻害でパーキンソン病症状の回復が図られることが明らかとなった13).
更に,長期加療にて問題となるL-ドーパ誘発性ジスキネジアもほぼ完全抑制されることが明らかとなった11).また,ドーパミン作動薬で報告されている反復投与での耐性の出現は認められず,KW-6002は慢性投与でも急性投与後に回復した運動量の維持が可能であった.少量のL-ドーパやドーパミンD2受容体アゴニストとの併用効果も確認され,パーキンソン病症状の回復への単独投与やL-ドーパ減量にも有用性が確認された11).
2.ドーパミンD2受容体ノックアウトマウスでの検討
パーキンソン病様の運動量の減少や協調運動の障害,カタプレキシー様行動が観察され,KW-6002投与により運動量回復と強調運動の改善が得られている.減少していた線条体エンケファリンmRNAの発現も正常レベルまで回復し,アデノシンA2A受容体の選択的阻害がパーキンソン病治療として有望であることが確認された.更に,アデノシンA2A受容体とドーパミンD2受容体の機能はお互いに拮抗的で,しかも独立して基底核の運動機能制御に当たっていることが証明された14).」
・丙16c(115頁右欄14行~末行)
「 おわりに
パーキンソン病の病態形成には,ドーパミン以外に,アデノシンA2A受容体を介したアデノシンが極めて密接にかかわっていることが明らかとなった.その選択的な拮抗薬は従来のドーパミン系薬物加療で問題となる副作用の発現や耐性の問題を克服し,そのうえ,パーキンソン病で傷害された線状体内のコリン作動性ニューロンやGABA作動性ニューロンのネットワークを健常なレベルまで修復し,また維持する機能をもつと考えられる.こうしたKW-6002で期待される効果が,実際に病状の進行を認めるパーキンソン病の患者においてどのように発揮されるか,またより長期的投与で本当にドーパミン系薬物でみられた問題点を克服できるかどうかなど,現在進行中のパーキンソン病患者を対象としたフェーズII試験の結果が待たれるところである.」
[丙20(特許第2613355号公報(平成9年5月28日発行))に記載された事項]
・丙20a(特許請求の範囲)
「【請求項1】 式(I)
[図:0001422768000033.jpg]
{式中、R1およびR2は同一または異なってメチルまたはエチルを表し、R3は同一または異なって水素、低級アルキル、低級アルケニルまたは低級アルキニルを表し、R4は
[図:0001422768000034.jpg]
[式中、Y1およびY2は同一または異なって水素、ハロゲンまたは低級アルキルを表し、Zは置換もしくは非置換のアリール、・・・を表し、X1およびX2は同一または異なってOまたはSを表す}で表されるキサンチン誘導体またはその薬理的に許容される塩を有効成分とするパーキンソン氏病治療剤。」
・丙20b(【0093】~【0094】)
「【0093】試験例3 マウスパーキンソン氏病モデルの自発運動量に対する作用
1-メチル-4-フェニル-1,2,3,6-テトラヒドロピリジン(MPTP)投与によって急性のパーキンソン症候群が発症することが知られており、これは、臨床症状(筋固縮・無動・振戦)、病理所見(黒質-線条体系ドパミン神経の変性・細胞死)共に自然発症のパーキンソン氏病と酷似していることが知られている[サイエンス(Science),219巻,979頁,1983年]。さらに、マウスにMPTPを投与することによって、ヒトと全く同じパーキンソン症候群が発症することも確認された[サイエンス(Science),224巻,1451頁,1984年]。
【0094】特に、C57BL/6マウスを用いたMPTP投与による実験的パーキンソン氏病モデルはヒトのパーキンソン氏病と酷似していることが知られており[ブレイン・リサーチ(Brain Res.)、528巻 181頁、1990年]、このマウスでは、線条体ドパミン含量が大きく低下している他、著名な自発運動の低下が見られる。
【0095】7週齢の雄性C57BL/6マウス・・・を1群8匹用いて実験を行った。・・・MPTP最終投与30分後に、試験化合物を含む懸濁液または試験化合物を含まない懸濁液[Tween80を添加した注射用蒸留水・・・;対照]をそれぞれ経口投与(マウス体重10g当り0.1ml)し、試験化合物投与30分後から30分間、マウスの自発運動量を・・・測定した。・・・効果の判定は、対照群と試験化合物投与群の値を比較することにより行った。・・・
【0096】結果を第5表に示した。
【0097】・・・
[図:0001422768000035.jpg]
【0098】・・・
[図:0001422768000036.jpg]
【0099】・・・
[図:0001422768000037.jpg]
・・・
【0106】試験結果によれば、従来よりパーキンソン氏病の治療薬として用いられているL-ドーパ(ドパミンのプロドラッグ)あるいはブロモクリプチン(ドパミンアゴニスト)は、それぞれ、300あるいは40mg/kgの経口投与によりMPTPによる自発運動量の低下を抑制した。これに対して、本発明化合物は、10mg/kgあるいはそれ以下の投与量で抑制作用を示した。
【0107】試験例4 ハロペリドール誘発カタレプシーに対する作用
パーキンソン氏病は、黒質-線条体系ドパミン神経の変性・細胞死に基く疾患である。ハロペリドール(ドパミンD1/D2拮抗薬)を投与すると、シナプス後D2受容体遮断によりカタレプシーが惹起される。このハロペリドール誘発カタレプシーは、薬物投与によってパーキンソン氏病を再現する古典的なモデルとして知られている[ヨーロピアン・ジャーナル・オブ・ファーマコロジー(Eur.J.Pharmacol.)、182巻、327頁、1990年]。
【0108】5週齢の雄性ddYマウス・・・を1群5匹用いて実験を行った。・・・ハロペリドール・・・を・・・マウス腹腔内に投与した。・・・ハロペリドール腹腔内投与1時間後に試験化合物を含む懸濁液または試験化合物を含まない懸濁液・・・をそれぞれ経口投与(マウス体重10g当り0.1ml)し、試験化合物投与1時間後に・・・カタレプシーを測定した。試験化合物は全て10mg/kg 経口投与し、また、対照薬はL-ドーパ100mg/kgおよびベンセラジド25mg/kg併用とし腹腔内投与した。・・・
【0109】
スコア カタレプシーの持続時間・・・
【0110】効果の判定は1群5匹のカタレプシースコアを合計し判定した(満点25点)。合計スコアが20点以下になった場合を作用ありと判定した。カタレプシー緩解反応動物数は、5例中のカタレプシースコアが4点以下となった例数を示した。カタレプシー緩解率は、対照群の合計スコアに対する試験化合物投与群の合計スコアの百分率として示した。また、試験化合物の50%有効投与量(ED50)を求める場合には、各用量群10匹を用いて、カタレプシースコアが3以下の個体を作用ありと判定した。各用量群のカタレプシー緩解作用匹数から50%有効投与量をprobit法により算出した。
【0111】結果を第6表に示した。
【0112】・・・
[図:0001422768000038.jpg]
・・・
【0114】試験例5 6-ヒドロキシドパミン(6-OHDA)誘発片側黒質-線条体ドパミン神経破壊ラットに及ぼす作用
齧歯類は、6-OHDAにより片側黒質-線条体を破壊すると破壊側の線条体のドパミン受容体の感受性が亢進し、これにドパミン作用増強物質の投与を行うと破壊側とは逆側に回転行動を起こす[アクタ・フィジオロジカ・スカンジナヴィア(Acta Physiol.Scand.)、367巻、69頁、1971年]。この動物モデルは、長い間パーキンソン氏病の優れた実験モデルとして位置づけられており、パーキンソン氏病治療薬の探索に用いられてきた[ニューロロジー・アンド・ニューロバイオロジー(Neurol.Neurobiol.)、33巻、1頁、1987年]。
【0115】雄性Sprague-Dawleyラット・・・。・・・ペントバルビタールナトリウム・・・麻酔・・・後、6-ヒドロキシドパミン臭化水素酸塩[6-hydroxydopamine(6-OHDA) hydrobromide・・・]8μgを内側前脳束に注入して片側黒質-線条体神経を破壊した。・・・。
【0116】・・・アポモルヒネ・・・を皮下投与し、投与後60分間に6-OHDA注入側とは逆方向に600回以上の回転行動を示す動物を選び出した。回転行動は、自動回転行動測定装置で計測を行い、180°回転した場合を1回と判定した。
【0117】試験化合物の懸濁液(0.3%CMC懸濁) 経口投与(1mg/kg)30分後に、アポモルヒネ0.1mg/kgを皮下投与し、5分毎150分間回転行動を観察した。・・・
【0118】結果を第7表に示した。
【0119】・・・
[図:0001422768000039.jpg]
」
・丙20c(【0127】)
「【0127】実施例2
(E)-8-(3,4-ジメトキシスチリル)-1,3-ジエチル-7-メチルキサンチン(化合物2)」
3 乙号証の記載事項
[乙1(Neurology,1999年,Vol.52,p.1673~1677)に記載された事項]
・乙1a(タイトル及びArticle abstract)
「新しい選択的アデノシンA2A受容体アンタゴニストのMPTP処置サルにおける抗パーキンソン作用
論文アブストラクト - 背景:L-3,4-ジヒドロキシフェニルアラニン(L-ドーパ)による長期治療は、パーキンソン病(PD)患者における運動系の副作用にしばしば関わっている。新たな治療法を探索したところ、アデノシンをはじめとする他の神経修飾物質の役割を研究するに至った。これまでに特徴付けられた4種類のアデノシン受容体のうち、A2Aサブタイプは、エンケファリンを含み、主にドーパミン(DA)D2受容体を有する線条体淡蒼球出力ニューロンに特徴的に存在する(間接経路)。DA除神経ラットにおける研究は、アデノシンA2A受容体の遮断がPDにおいて用いられるかもしれないことを示唆している。 目的:1-メチル-4-フェニル-1,2,3,6-テトラヒドロピリジン(MPTP)処置サルを対象に、新たな選択的アデノシンA2A受容体アンタゴニストであるKW-6002の抗パーキンソン作用を評価する。 方法:本研究では、あらかじめ薬物刺激されL-ドーパ誘発性ジスキネジアを呈している、MPTP曝露カニクイザル6匹を用いて、2種類の経口投与量(60及び90mg/kg)のKW-6002の単独投与又はL-ドーパ/ベンセラジド(50/12.5mg)との組合せ投与に曝露させることで、抗パーキンソン作用とジスキネテック効果の両方を評価した。 結果:KW-6002を単独投与することにより、L-ドーパ/ベンセラジドの有効性レベルに到達するほどの用量依存性抗パーキンソン応答が得られたが、これらの動物でジスキネジアを再現する可能性は低かった。組合せ投与の場合、KW-6002はジスキネテック応答に影響を及ぼすことなしに、L-ドーパ/ベンセラジドの運動活性に対する効果を増強した(最大30%)。 結論:アデノシンA2A受容体アンタゴニストは、独自の抗パーキンソン作用を示すが、ジスキネジアを誘発する傾向は低下している。そのため、PD治療で有用な薬剤であるかもしれない。」
・乙1b(1673頁右欄2段落~1674頁左欄3段落)
「 他のアデノシン受容体が脳内に広く分布するのに対し21、A2A受容体サブタイプは、ラット及びヒトにおいて、・・・実証されたように、線条体、側坐核、及び嗅結節に実質的に限定されている。線条体では、A2A受容体は、DA D2受容体を有したり27,28、エンケファリンを含有していたり29,30、淡蒼球外節(GPe)に投射していたりするのと同じ中型有棘神経細胞に共発現する(間接経路)。さらに、A2A結合部位は、6-ヒドロキシドーパミンに曝露したラット11及びモルモット26、そしてPDのヒトの線条体でも維持されている26。
上述のとおり、アデノシンアンタゴニストがパーキンソン病のラットモデルにおいてDAアゴニストの行動効果を誘発して増強することと、脳でA2A受容体が特徴的に分布していることから、選択的A2AアンタゴニストがPD治療に有用な可能性があることが示唆された。現在入手可能なA2A受容体に対する強力で選択的なアンタゴニストのうち31、KW-6002は新たに開発されたアデノシン受容体アンタゴニストであり、ラット線条体A2A受容体に対する親和性が・・・Al受容体に比べてA2A受容体に約68倍の選択性を示している32。本研究で我々は、1-メチル-4-フェニル-1,2,3,6-テトラヒドロピリジン(MPTP)に曝露したカニクイザルを対象に、PD症状を改善する可能性がある新たな治療法として、KW-6002の単独投与又はL-ドーパとの組合せ投与での効果を評価した。
方法 動物と薬剤 本研究においては、体重3~4kgの6匹のメスのカニクイザル(Macaca fascicularis)を・・・用いた。・・・
全ての動物は、まず、安定的にパーキンソン症状になるまで(すなわち、1月以上の間、5以上の変化のないディスアビリティ・スコア)、神経毒であるMPTP(用量あたり2~3mg)の皮下注射によって毎週処置された。・・・この目的の達成のための所用期間は1~44週で変動した。その後、数か月に渡ってL-ドーパ/ベンセラジドを用いた継続的な処置によってジスキネジアを誘発した。・・・」
・乙1c(1674頁右欄5段落~7段落及び最下段落1~2行、並びに、Figure 1.,2.)
結果 自発運動 単独投与されたL-ドーパ/ベンセラジド(50/12.5 mg)は、平均運動カウントによって示されるように、自発運動に対し刺激効果を生じさせ、それは平均基剤対照値に比べて有意に増加した(図1)。使用した投与量において、自発運動活性における効果はL-ドーパ/ベンセラジドの経口投与後45分で生じ、そして平均で90分持続した。
KW-6002は、ゼラチンカプセルに入れて60及び90mg/kgで単独投与したとき、自発運動に対し、L-ドーパ/ベンセラジドによってもたらされたのと近い程度の有意な刺激効果を生じた(図1参照)。60mg/kgでは、KW-6002の投与後60分で応答が現れ、そして約75分持続したが、これに対して、高用量の当該試験薬物では、KW-6002の投与後45分で応答が現れ、そして平均で90分持続した。
L-ドーパ/ベンセラジドと組合せ投与されたKW-6002は、60mg/kgにおいて、L-ドーパ/ベンセラジドの運動活性に対する作用をわずかに上昇(+10%)させた(図1参照)。しかしながら、90mg/kgにおいて、KW-6002は、L-ドーパ/ベンセラジドの自発運動活性に対する作用を有意に増強(+30%)させた(図1参照)。L-ドーパ/ベンセラジドの作用の持続時間と比べて、明確な増強は認められなかった。
障害及びジスキネジアの改善 ・・・
・・・
試験したKW-6002の2つの投与量ともパーキンソン症状を有意に改善した(図2上参照)。・・・
[図:0001422768000040.jpg]
図1.L-ドーパ、KW-6002、又は、両方の単回投与後の自発運動のカウント 各処置後6時間の間の各々記録された合計の運動のカウントは、全ての6匹の動物について平均された。値は、反復測定分散解析及びこれに続くフィッシャーの最小有意差確率検定によって、比較された。カウント±標準誤差、*p<0.05(対対照)、**p<0.01(対対照)、†p<0.05(対L-ドーパ)
[図:0001422768000041.jpg]
図2.L-ドーパ、KW-6002、又は、両方の単回投与後の抗パーキンソン応答(上)及びジスキネテック(運動障害)応答(下) 各処置についてピークの効果において各々記録されたパーキンソン(上)及びジスキネテック(運動障害)のスコアは、全ての6匹の動物について平均された。値は、フリードマンのノンパラメトリック検定によって、比較された。スコアは±標準誤差によって表示されている。**p<0.01(対対照)」
・乙1d(1675頁左欄最下段落~1676頁左欄1段落)
「 考察 KW-6002の抗パーキンソン効果 今回の結果から、MPTP曝露カニクイザル霊長類において、選択的アデノシンA2A受容体アンタゴニスト(KW-6002)を経口投与すると、用量依存性の抗パーキンソン応答が生じ、かつL-ドーパが誘発した自発運動応答が増強されることが示されている。これらのデータは、パーキンソン病のげっ歯類モデルで実施された過去の研究と一致する12-16,33。興味深いことに、Kandaら34は、最近、別の霊長類種であるMPTP投与のコモンマーモセットを用いて、KW-6002を経口投与すると運動障害が用量依存的に逆転されたと報告した。KW-6002のパーキンソン病を逆転するこの能力は、21日間繰り返し毎日投与しても維持され、耐性はみられなかった。
KW-6002などのアデノシンA2A受容体アンタゴニストが、このような行動効果を仲介する正確な機序は依然として不明である。・・・実際に、ラット線条体膜においてアデノシンA2A受容体を刺激するとDA D2受容体の親和性が低下し35、DA脱神経は相互作用の増加をもたらす36。以上のデータはDA欠乏げっ歯類での行動試験で得られたデータ9,37と合わせると、アデノシン受容体アンタゴニストの自発運動活性への増強効果は、このA2A-D2相互作用により仲介されている可能性があることを示唆している。A2A受容体の活性化がアデニル酸シクラーゼを刺激するのに対して17、DA D2受容体の活性化はそれを阻害する38ことから、同一ニューロンでのアデノシンA2A受容体及びDAD2受容体の共発現も、二次メッセンジャーレベルでの相互作用を説明しうる。さらに、基底核において、アデノシンA2A受容体がアセチルコリン及びGABA仲介の神経伝達の両方を制御するという、神経化学研究からのエビデンスがある39-41。このような調節も随意運動の制御に関与している可能性がある。」
[乙2(Brain Research,1995年,Vol.701,p.13~18)に記載された事項]
・乙2a(13頁要約)
「大脳基底核におけるドーパミン受容系の変化は、パーキンソン病のレボドパ治療を困難にするウェアリング・オフ変動の発病の原因であると示唆されてきた。グルタミン酸作動性のメカニズムの関連する線条体遠心性経路機能の変化への関与を評価するために、我々は、片側パーキンソン病ラットに対するレボドパの継続的な投与が生じさせる運動応答の変化を、N-メチル-D-アスパラギン酸(NMDA)受容体の遮断が修正する能力について調べた。片側にのみ6-ドロキシドーパミンによって障害を負わせたラットは、3週間に渡って1日2回レボドパ/ベンセラジド(25/6.25mg/kg)を投与され、ウェアリング・オフ現象を伴うパーキンソン病患者に生じているのと同様の、レボドパへの運動応答の持続時間の累進的な短縮を示した。これらの動物に対する、MK-801(0.1mg/kg)の全身性の単回投与は、回転の持続時間の減少を完全に反転させた(P<0.01)。NMDAアンタゴニストの線条体内注射は、レボドパ反応の延長にさらに効果的であった(P<0.01)が、黒質内注射されたMK-801は、レボドパ誘発回転の持続時間に統計的に有意な変化を生じなかった。回転強度は、MK-801投与の全ての経路によって影響を受けなかった。これらの結果は、特に線条体でNMDA受容体を遮断できる薬剤が、進行性パーキンソン病患者の運動変動を改善するのに役立つ可能性があることを示唆している。」
・乙2b(13頁左欄4~16行)
「‘ウェアリング・オフ’型の変動は、多くの場合、最初に現れる運動合併症であり、レボドパへの応答の持続時間が累進的に短縮することを反映している。この短縮は、前シナプスにおけるドーパミン作動性の末端によって通常は提供されるドーパミンの貯蔵が失われることに起因すると、従前は考えられてきた[14,23]。しかしながら、最近の証拠は、ウェアリング・オフ現象の発病にとって、後シナプスにおけるメカニズムが最も重要な関与をすることを示唆している[5]。
パーキンソン病のラットに対する継続的なレボドパの投与はラットの運動応答の持続時間の顕著な減少をもたらし、これは、パーキンソン病患者における‘ウェアリング・オフ’現象に擬するものである[28]。」
[乙3(Neurology,2001年6月,Vol.56(Suppl 5)、S1~S88頁中S1~S13頁の抜粋)に記載された事項]
・乙3a(S10頁右欄35~52行)
「パーキンソン病(PD)の早期の間は、レボドパを単回投与した後の臨床応答は、レボドパの血漿中の半減期が約60~90分という比較的短い時間であるにもかかわらず、安定していて長期間(>4時間)続く134。実際、投与が失念されてもその利益はしばしば維持される(「持続時間の長い応答」)。PDが進行すると、患者はウェアリングオフ作用を経験し始め、レボドパ投与後の運動利益は持続時間が減少し、4時間未満しか続かない(「持続時間の短い応答」)。時間が経つと、レボドパの血漿中の薬物動態は疾患の過程を通して変化しないままであるが、レボドパの単回投与後の利益の持続時間はどんどん短くなり、血漿中の薬物半減期に近づく135-137。最終的に、患者は、「オン」期と「オフ」期の間の急で予測できない変動を経験し始めることもあり、これは「オン-オフ」現象として知られるものである。」
・乙3b(S13頁左欄7~35行)
「運動合併症の原因となっている要因がより明らかになりつつある160,170。軽度、中程度及び重度の疾患を有するPD患者のグループにおけるレボドパ注入後の運動応答の持続時間は、全てのグループが同程度の血漿レボドパ薬物動態を有するという事実にもかかわらず、疾患の重症度と逆の相関がある137,138。これらの知見は、進行期のPD患者における運動変動が、ドーパミン作動性末端の喪失によるレボドパ貯蔵能の低下と関係するという考えを生じさせた171。しかしながら、ドーパミン作動性末端内に貯蔵されないアポモルヒネの注入後に同様の知見が得られている172,173。これらの知見は「貯蔵仮説」によって説明することができない。さらに、レボドパを繰り返し投与して処置された6-OHDA-損傷の齧歯類においては、病変は安定していてレボドパ貯蔵能はおそらく変わっていないが、運動応答の持続時間の短縮が生じる174。これらの知見は、運動合併症の発症に対して後シナプス(postsynaptic)の構成要素が存在するという考えを支持する。運動合併症は、前シナプス(presynaptic)及び後シナプスの両方の事象が関係していて、これには、ドーパミン受容体の正常でない間欠的な刺激、下流ニューロンにおける遺伝子及びタンパク質の調節不全、及び、大脳基底核の出力ニューロンにおける発火パターンの変更が含まれることが現在明らかになっている(より詳細な議論についてはOlanow and Obeso170を参照)。」
[乙17(Clinical Neuropharmacology Vol.25, No.1,p.25~31)に記載された事項]
・乙17a(タイトル及びSummary)
「パーキンソン病に対するアデノシンA2Aアンタゴニストであるテオフィリンの二重盲検クロスオーバー、プラセボ対照試験
要約:実験動物においてアデノシンA2A受容体の遮断はレボドパの効果を増強することから、パーキンソン病(PD)に対する新規の非ドーパミン系薬物療法の標的となりうる可能性がある。非盲検試験の結果、非特異的アデノシンアンタゴニストであるテオフィリンが進行期PD患者におけるパーキンソン病症状を改善し、オン時間を増加することが示唆されている。二重盲検、クロスオーバー、プラセボ対照試験で、著者らはPD患者10名を対象とし、安定した血漿中テオフィリン濃度(投与15日後に10~20μg/mL)がレボドパの長期的な反応及び短期的な反応を調節する可能性について試験した。統一パーキンソン病評価スケールのジスキネジアを含む検討した全ての変数において、レボドパの効果持続時間はテオフィリンによって延長したものの、レボドパによってもたらされた最大の改善効果及びレボドパ効果の持続時間はプラセボと有意差はなかった。副次変数の「無動」のみが急性レボドパ試験(短期的な反応)の期間中にテオフィリンによってより長く有益な反応を示す統計学的な傾向がみられたものの、レボドパ中止(長期的な反応)中にテオフィリンによって振戦は悪化した。レボドパに追加投与した被験薬の亜急性過程で差は認められなかった。この探索的試験の期間中、テオフィリンの効果は、進行期PD患者において、レボドパの抗パーキンソン活性を明らかに増強させるほど、又は、オン時間を増加させるほど十分な強度ではなかった。」
・乙17b(25頁左欄2段落~26頁左欄2段落)
「メチルキサンチン(3)によって阻害されるA1及びA2A受容体サブタイプのみが、ほ乳類の中枢神経系に豊富に存在すると報告されており、A1受容体は神経伝達物質の放出を阻害し、A2受容体は運動制御に関連する数種の伝達物質系の放出を促進する(4)。
パーキンソン病(PD)において特に関心が持たれるアデノシンA2A受容体サブタイプ(5,6)は、ほ乳類の脳における分布が限定され、線条体に豊富に存在し、そこで線条体のγ-アミノ酪酸を放出する出力ニューロンのニューロン活動を調節する(7,8)。線条体のA2A受容体結合部位の集積はγ-アミノ酪酸及びエンケファリンの標的部位(すなわちGPe)内で認められるが、γ-アミノ酪酸ニューロン及びサブスタンスPニューロンのGPi及びSNr標的内には認められない(9)。サル成体及びヒト線条体のin situハイブリダイゼーション試験の結果、線条体ではアデノシンA2A受容体のメッセンジャーリボ核酸の発現が多く、ドーパミンD2受容体及びプレプロエンケファリンAのメッセンジャーリボ核酸と広く共局在化していることが明らかにされている(10)。
A2A受容体遮断の結果、ドーパミン神経系を除神経した実験動物の自発運動は顕著に刺激されたが(11-13)、A2A受容体を刺激すると運動性低下を誘発(14-16)し、これはD2受容体介在性神経伝達の直接的な低下を介した作用と推定される。また、著者らや他の研究者らが示しているように(17-20)、SCH58261又はKW-6002(12)などのA2A受容体アンタゴニストの前投与並びにメチルキサンチン類のカフェイン及びテオフィリンの前投与によって、MPTPを投与したマーモセットにおけるレボドパの抗パーキンソン病効果は増強され、6-ヒドロキシドーパミンによる片側除神経ラットでは、レボドパ及びドーパミン受容体作動薬アポモルフィン及びピリベジルによって発生した反対側回転が亢進する。このことから、アデノシンA2A受容体アンタゴニストはPDにおけるレボドパの効果を増強させるために有用である可能性が示唆された。
非盲検試験で、非特異的アデノシンA2A受容体アンタゴニストのテオフィリンによって、進行期PD患者においてパーキンソン病症状が改善し(21)、オン時間が増加することが明らかになった(22)。二重盲検、プラセボ対照試験のデータは未だない。広範囲の実験データ及びその他の適応に対する本薬の既知の臨床安全性データ(23)に基づき、我々は、進行期PD患者を対象に、レボドパへの長期的な反応(long-duration response:LDR)及び短期的な反応(short-duration response:SDR)に対する安定した血漿中テオフィリン濃度の効果について検討した。異なる時間経過を示すこれら2種類の反応はPDにおけるレボドパの2つの異なる治療効果を示している(24)。数分から数時間持続するSDRには本薬の単回投与後、血漿中レボドパ濃度及びおそらく線条体ドーパミン濃度の上昇及び低下が同時に認められる。LDRは反復投与中に発生し、レボドパを中止すると数日間にわたって減衰する(25)。ほかにも、追加薬としてのテオフィリンの14日間亜急性過程の効果も評価した。」
・乙17c(26頁左欄3段落~27頁右欄1段落及びFIG.1.)
「
材料と方法
患者
臨床的に特発性PDと診断された患者10名(女性3名、男性7名、平均年齢69±6歳、平均罹病期間7.4±5年、Hoehn-Yahr重症度分類の平均スコア2.4±0.4ポイント)が試験に参加した。病院の倫理委員会から試験の倫理審査による承認を得て、国際倫理規制に従って試験を行った(26)。患者には試験の目的及びリスクを詳細に説明し、その後、各患者から試験の同意書を得た。患者5名はレボドパの経口投与で安定した状態であり、残る5名には「ウェアリングオフ」現象及びジスキネジアが発現していた。しかし、複雑な運動症状の変動を示す患者はなかった。患者はいずれもレボドパの投与を2~7年間(平均6.9年間)受けており、試験参加前、少なくとも2ヶ月間、唯一の抗PD薬としてレボドパ(平均日用量、660±164.32mg)を継続して服用していた。臨床状態は統一パーキンソン病評価スケール(UPDRS)を用いて判定した(27)。全般的運動状態はUPDRS(UPDRS-III)の運動機能検査の項に基づき推定した。
[図:0001422768000042.jpg]
図1 適用した比較対照、二重盲検クロスオーバーデザインを示す図。LDR、長期的なレボドパ反応;SDR、短期的なレボドパ反応、PRE、プレテスト。
プロトコール
比較対照、二重盲検、クロスオーバーデザインで、患者には通常用量のレボドパ/カルビドパのほかに、プラセボ又はテオフィリン(持続性錠Theo-Dur、300mg)のいずれかを1日2回投与した(図1)。投与は各15日間の連続する2つの期間に行い、テオフィリンの血漿中濃度を10~20μg/mLの範囲に安定化させた。プラセボ及び被験薬は同一の外観であった。経口投与後の血漿中テオフィリン濃度は被験者間でばらつきが大きいと考え(28)、投与期間の最初の週を利用して、血清中薬物濃度をモニタリングし、個別に用量レジメンを調整した。治験実施計画の各群の試験第5日、患者は血漿中テオフィリン濃度の解析のため、午前8時に受診した。血漿は高速液体クロマトグラフィーを利用して定量するまで-20°Cで保存した(29)。安定した血漿中濃度(10~20μg/mL)に達するため治験実施計画書に規定した濃度より血漿中濃度が低い又は高い場合はテオフィリンの単回投与を中止し、追加の投与を行なった。患者には試験前に投与変更の可能性について通知した。用量は残りの治験実施計画に参加しない薬理学者がHendelesとWeinberger(28)が報告した手順に従って非盲検で調整し、プラセボ群及びテオフィリン群における患者の表示は遮蔽された。第8日に血漿中テオフィリン濃度を再評価(平均Cmin、11.9±1.5μg/mL)し、残りの期間では再調整した用量を継続した。
第1日、8日及び15日の薬剤服用(午前9時)の1時間後、患者の基礎的な運動機能状態を評価した。第14日、患者は著者らの薬理学研究部に入院した。この観察期間(第1日~15日)終了時、患者はテオフィリン又はプラセボではなくレボドパの4日間の休薬期間に入り、LDRを評価するとともに、レボドパ未投与のベースライン状態としてレボドパ試験によりSDRを評価した。いずれの期間でも、各投与期間の第15日の午後8時がレボドパの最終投与であった。臨床状態の悪化については毎日評価し、第16日のオフ状態の午前8時~9時の初回スコアを基に、LDRを推定した。この時点で被験者はレボドパの投与を中止して12時間経過していた。血栓塞栓事象を予防するためヘパリンの予防的用量を皮下投与した。レボドパ中止後4日目(試験第19日、レボドパ無投与の状態)の朝9時に、絶食状態の患者に250/100mgのレボドパ/カルビドパを単回経口投与して急性レボトパ試験を行い、1時間毎にUPDRS-IIIでSDRを評価した(試験前、+1時間~+6時間)。投与順序は無作為化し、初回投与期間終了時、クロスオーバー法で患者を別の投与群に移した。それぞれの投与は3週間の間隔をあけて行なった。安全性については、各通院時及び入院期間を通して、バイタルサインを測定し、有害事象に関する情報を収集して評価した。スクリーニング時及び各投与期間終了時に血液及び尿検体を採取して標準の血液検査及び血液生化学検査を行なった。血漿中テオフィリン濃度の管理状況を第15日及び19日にも測定し評価した。
解析
主要有効性評価基準は、UPDRS運動機能検査(UPDRS-III:項目18~31;最高56ポイント)のスコアであった。副次的有効性評価基準は、亜急性期間中の日常生活動作(UPDRS-II:項目5~17;最高52ポイント);UPDRS-III振戦サブスコア(項目20及び21;最高8ポイント)、硬直(項目22;最高4ポイント)及び無動(項目23~27;最高20ポイント)並びにジスキネジアのUPDRS-IVサブスコア(項目32~35;最高14ポイント)であった。データは平均値±SDで表示した。統計解析は「時間」及び「投与」の因子「間」を考慮し、二元配置反復測定分散分析を用いて行なった。特に解析は(i)レボドパに対するアジュバントとしての被験薬の亜急性効果を示す最初の3回の評価(第1日、8日及び15日)、(ii)被験薬のみの抗PD効果及びレボドパのLDRに対する被験薬の影響を示すレボドパ休薬期間中の4回の評価(第16日、17日、18日及び19日)並びに(III)レボドパ単回経口投与のSDRを調整する被験薬の影響を示す第19日の急性レボドパ試験における1時間毎に行なった7回の評価(試験前、+1時間~+6時間)で構成された。P<0.05(両側)を有意とみなした。」
・乙17d(27頁右欄2段落~28頁左欄1段落、FIG.2.及びTABLE1.)
「 結果
患者は全例、2回の試験投与期間を終了した。最初の15日間の有害事象は軽度かつ一過性で、頭痛(各投与群1名)、胃腸障害(テオフィリン群2名)、悪心(テオフィリン群1名)及び不眠(3名:プラセボ群2名、テオフィリン群1名)であった。患者全例とも休薬期間中は忍容性を示し、パーキンソン病の悪化(第16日~19日)に重大な有害事象は関連しなかった。試験のこの最後の期間中、両投与期間とも、テオフィリン群の患者1名は軽度の抑うつ状態(一時的な悲しみ)を経験し、2名(テオフィリン群1名、プラセボ群1名)は睡眠障害から無動及び硬直となり、別の2名では中等度の夜間痛(1名で腰痛、別の1名で「びまん性」)の愁訴があった。疼痛緩和のため、時折、夜間にパラセタモールを投与した以外に薬理学的介入は必要なかった。
検討したパーキンソン病の種々の変数に対するプラセボとテオフィリンの効果の比較を表1に示す。図2には19日間の投与期間中のプラセボ及びテオフィリンの主要有効性評価基準(UPDRS-III:項目18~31)の経時的変化を示す。
[図:0001422768000043.jpg]
図2 主要有効性評価基準の平均値(n=10)の時間的推移。2つの評価介入期間中に得られた運動機能検査(項目18~31)の統一パーキンソン病評価尺度(UPDRS)-IIIのスコア:プラセボ及び血漿中濃度10~20μg/mLのテオフィリン。LDR、長期的なレボドパ反応;SDR、短期的なレボドパ反応。分散分析後、時間の因子のみがLDR(F=5.95、df=3.27、p=0.003)及びSDR(F=6.02、df=6.54、p<0.001)について有意であった。
評価した全ての変数について、レボドパ休薬試験及びレボドパチャレンジテストにより有意な時間の影響が認められた。検討した3つの解析(亜急性経過、レボドパ休薬及びレボドパチャレンジテスト)のいずれにおいても、主要変数(運動機能検査及び日常生活動作)又は副次的変数に対してプラセボ群とテオフィリン群との間に投与(treatment)又は時間経過における投与(treatment-by-time)についての統計的差異は認められなかった。しかし、レボドパチャレンジテスト中、検討した全ての変数で、プラセボよりテオフィリンの方がレボドパの効果がより長いという一貫する数的なパターンが見られ、無動のサブスコアでは有意な傾向となった(表1を参照;投与と時間の交互作用、p=0.067)。レボドパ休薬期間中には振戦サブスコアに対する投与と時間の有意な交互作用(p=0.015;表1を参照)が認められ、テオフィリン単独投与で振戦がより悪化したことが示された。
[図:0001422768000044.jpg]
・乙17e(28頁左欄2段落~同頁右欄、30頁左欄)
「
考察
レボドパチャレンジテスト(短期的なレボドパ反応)
著者らの知る限り、本試験はPD患者においてレボドパの単回標準投与によって誘導される臨床的改善に対するA2Aアンタゴニストの効果を定量化する初めの試みである。テオフィリンによってより長い有益な反応に至る統計学的傾向がみられた無動症を除いて、レボドパによってもたらされる最大の改善効果及びレボドパ効果の持続期間は、プラセボと有意差はなかった。これは、ジスキネジアを含む検討した全ての変数で、テオフィリンによってレボドパの効果持続期間が一貫して数的に延長したという事実にもかかわらず、認められた。たとえば、レボドパ服用の6時間後、運動機能検査(UPDRS-III)の全般スコアはテオフィリン投与期間中になお41.1%の改善を示したが、プラセボ投与期間中では27.2%の改善であった。このテオフィリンによる数的に長い反応パターンはジスキネジアのより延長した高いスコアについても認められ、テオフィリン投与期間中の6時間後の悪化は22%であったのに対し、プラセボ投与期間中では17%の改善であった。過去の非盲検試験では、進行期PD患者9名において、テオフィリン600mg/日の長期投与(1週間の負荷投与期、6週間の定常状態期及び1週間の休薬期)がジスキネジアの重症度を悪化させることなくオン時間の有意な延長(約30%)と関連したことが明らかになった(22)。問題は、より大規模な集団で、テオフィリンによるレボドパ反応の延長を示すいくつかの差が有意となるのかどうかということである。MPTPを投与した霊長類を対象に選択的A2AアンタゴニストKW-6002(12)を用いた実験データ及びジスキネジアの悪化を示さなかった上述のテオフィリンを用いた非盲検試験(22)とは対照的に、著者らのデータによれば、この推定される効果はジスキネジア期間の顕著な延長の結果である可能性もある。総合して、最新の探索的データから、レボドパのSDRにおいて最大限誘導される改善増強に対してテオフィリンの予想される効果は、臨床的にさほど印象深いものではないことが示唆される。レボドパによる運動機能検査で最も改善した時点(UPDRS/TTI、+4時間)でも、テオフィリン群とプラセボ群との差は1.1%以下であった。
被験薬単剤(長期的なレボドパ反応)
著者らはレボドパの休薬期間中、テオフィリン群の患者においてUPDRSスコアの悪化は少ないと予測した。しかし、このような顕著なテオフィリンの「レスキュー的」な抗PD効果は認められなかった。実際、副次的変数の振戦について悪化を示す有意な投与と時間の交互作用がテオフィリンによって認められた。この作用が亜急性期間中もレボドパ試験期間中にも見られなかった事実は、レボドパの投与なしにテオフィリンを投与した場合のテオフィリンの「振戦」作用又はテオフィリンの振戦に対するレボドパの「予防的」作用に起因する可能性がある(30)。
亜急性過程
レボドパに被験薬を追加した15日間に、テオフィリンとプラセボとの間に有意差は認められなかった。メチルキサンチン類のカフェインを用いた過去の臨床試験でも、レボドパ又はドーパミン作動薬ブロモクリプチン(32)及びピリベジル(31)の抗PD作用の増強(31)を示すことはできなかった。テオフィリン150mg/日の非盲検試験では、PD患者15名において投与開始後2週間以内に運動機能低下及び振戦が減少したことが明らかにされたものの(21)、最近の6週間の非盲検試験では、テオフィリンの抗PD作用はほとんどなく、有意性もなく臨床的に安定した作用もなかった(22)。
最新の二重盲検試験の結果は、テオフィリンが長時間持続する反対側への回転運動をもたらし、6-ヒドロキシドーパミン損傷ラットにおいてレボドパによってもたらされる反対側への回転運動がテオフィリンの前投与によって亢進することを示した一貫する実験データとは対照的である(17)。耐性は、レボドパのLDRを試験するために著者らの治験実施計画でレボドパを休薬したとき、テオフィリンの有意な抗PD作用がなかったことの説明になるとも考えられる(33-35)。テオフィリン単独の反復投与により、回転運動は顕著に低下し、黒質線条体のドーパミン作動系に対するテオフィリンの刺激作用に機能耐性が発現したことが示唆される(33-35)。しかし、テオフィリンの運動活性化に対する耐性発現がテオフィリンをレボドパ又はブロモクリプチンと併用投与した動物モデルで認められないこともよく知られている(33-35)。このように、テオフィリンをレボドパと併用投与した本試験の亜急性期間やレボドパチャレンジテストにおける陰性結果は、耐性に関する安易な説明とはならない。
結論として、PDにおけるテオフィリンの有用性を示唆する豊富な実験データ及び過去の非臨床試験の結果にもかかわらず、著者らの探索的臨床試験実施計画によれば、テオフィリンはレボドパの抗PD作用を一貫して増大させなかった。本試験中に用いた用量がテオフィリンの抗PD効果をはっきりと明らかにするには過剰であったのか又は不十分であったのかについて未だ結論は出ていない。アデノシンA2A受容体のより強力かつ選択的なアンタゴニストを用いた臨床試験をさらに実施する必要がある。」
[乙18(NEUROLOGY,1998年,Vol.50(Supplement 5)、S54~S59)に記載された事項]
・乙18a(タイトル及びArticle abstructの1~3及び13~14行)
「トルカポンは、「ウェアリング・オフ」現象を生じているパーキンソン病患者における運動機能を改善する:二重盲検、プラセボ対照、多施設試験
文献要約 - 新しいカテコール-O-メチルトランスフェラーゼ阻害剤であるトルカポン100mgと200mg、1日3回(tid)について、無作為化、二重盲検並行群間試験で調べた。レボドパ治療で「ウェアリング・オフ」現象を経験していた202人のパーキンソン病患者を対象とした。・・・我々は、補助剤としてのトルカポンは、レボドパ治療を受けたパーキンソン病患者における「ウェアリング・オフ」現象の緩和に有望であると結論付ける。」
・乙18b(S57頁Figure.)
「
[図:0001422768000045.jpg]
(合議体注:左から、「オフ時間の変化(%)」「ベースライン」「時間(週)」
「
[図:0001422768000046.jpg]
」)
[乙34(Science,2001年,Vol.293,p.1164~1166)に記載された事項]
・乙34a(タイトル及び要約)
「期待とドーパミンの放出:パーキンソン病におけるプラセボ効果のメカニズム
プラセボがパーキンソン病(PD)など多くの病態を改善することは、古くから知られている。しかし、プラセボ効果の背後にある作用機序についてはほとんど知られていない。そこで、我々は、ポジトロン断層法で測定した内因性ドーパミンの[11C]ラクロプリド結合に対する競合性を利用して、プラセボに反応してPD患者の線条体で内因性ドーパミンが大幅に放出されることのin vivoでの証拠を提供する。我々の発見は、PDにおけるプラセボ効果は強力であり、それが損傷した黒質ドーパミン系の活性化を介していることを示す。」
・乙34b(1164頁左欄1~12行)
「何らかの治療を受けるという単純な行為(有効か否かを問わず)は、それ自体、利益を期待することにより、有効的である場合がある(1)。これがプラセボ効果であり、あらゆる治療介入の有効性を評価する際の潜在的な交絡因子である(2,3)。プラセボ対照試験は、まさにこのような効果をコントロールするためにデザインされた(4)。・・・パーキンソン病(PD)では、プラセボ効果は顕著であり得る(6、7)。」
・乙34c(1164頁左欄最下段落~同頁右欄2行及びTable1.)
「我々は、2つの条件下で、6人のPD患者(グループ1、プラセボグループ)の線条体RAC結合能を調べた(15)。:条件1、患者がいつプラセボ又は実薬(アポモルヒネ)を投与されているかを知らなかったプラセボ対照盲検試験(16)-すべての患者がプラセボと実薬の両方を投与された。;条件2、プラセボなしの同じ患者におけるオープン試験。
オープンベースラインの観察と比較して、患者がプラセボを投与された場合、線条体RAC結合能の有意な減少が見られた[尾状核では17%(範囲、8~25%);被殻では19%(範囲、8~28%);両側の対応のあるt検定の両方でP<0.005](表1)。このプラセボ誘発性のRAC結合能の変化は、被殻の後外側部分で最大であったが、各患者および各線条体サブ領域に存在していた(表1)。プラセボの反応の大きさは、治療用量のレボドパ(17)やアポモルヒネ(下記参照)(18)に匹敵するものであった。・・・
これらの結果は、線条体においてプラセボによる内因性ドーパミンの放出があることを示す(19)。ドーパミンの推定放出は、プラセボ効果を認識した患者の方そうでない患者よりもが大きかった(20)。これは、内因性ドーパミンとプラセボ効果の「用量依存」関係を示唆する。」
「
[図:0001422768000047.jpg]
(「表1.PD患者(グループ1)線条体RAC結合能(平均SD)は、オープンベースラインでスキャンされ、プラセボ投与後(n6)にスキャンされた。」
表中の上段「サイト、オープンベース、プラセボ、平均変化率(範囲)」
表中の下段のサイト欄の記載は、上から「尾状核頭部、皮殻、吻側、中間部、尾側」)」
[乙38(Neuroscience Letters,2000年,Vol.291,p.54~58)に記載された事項]
・乙38a(タイトル及びAbstract)
「パーキンソン病におけるアデノシンA2A受容体mRNAの発現
要約
ヒトアデノシンA2A受容体の発現が、健常被験者とパーキンソン病で死亡した患者から得られたヒトの死後脳組織における逆転写ポリメラーゼ連鎖反応により調べられた。アデノシンA2A受容体mRNAは、線条体(側坐核、尾状核、被核)及び線条体外(淡蒼球、黒質)脳領域で検出された。年齢がマッチしたコントロールと比べたとき、アデノシンA2A受容体mRNAレベルの有意な減少が前部及び後部の尾状核と前部背側の被核で見いだされ、一方、有意な増加がパーキンソン病の脳の黒質網様部で観察された。調べた他のどのような脳領域でも、アデノシンA2A受容体mRNAレベルの変化は見られなかった。本研究は、アデノシンA2A受容体mRNAの発現がパーキンソン病で死亡し、ドーパミン作動性薬物での治療を受けていた患者の大脳基底核で変化していることを示す。これらのデータでは、神経変性の影響か薬物治療による影響かを区別することはできないが、アデノシンA2A受容体は、ヒトの脳におけるドーパミン作動性システムによる制御を受けているように見受けられる。そえゆえ、アデノシンA2A受容体は、大脳基底核疾患の治療の標的となりうる。」
・乙38b(54頁左欄1行~55頁右欄1行)
「パーキンソン病は、脳幹の、特に黒質緻密部における、色素性核の進行性変性により特徴づけられる。それに続く黒質線条体のドーパミン作動性経路の喪失、及び結果としての線条体のドーパミンレベルの低下により、この病気の運動症状が生ずる。レボドパ(L-ドーパ)又はドーパミンアゴニストによる治療は、当初は有効であるが、長期治療後及び病気の進行に伴い、薬効が低下し(ウェアリング・オフ;オン・オフ現象)、身体を衰弱させるジスキネジアが出現しうる[11]。それゆえ、主に大脳基底核の出力核内にある非ドーパミン作動性の標的に基づいたパーキンソン病の代替治療法が、希求されている。
アデノシンA2A受容体は、・・・大脳基底核全体に広く発現する[5]。A2A受容体は、背側及び腹側線条体に最も高いレベルで発現し、淡蒼球外節に投射する、D2ドーパミン受容体(γ-アミノ酪酸(GABA)作動性中型有棘ニューロン)を発現するニューロン(すなわち‘間接’経路)に、顕著に共局在する。しかしながら、アデノシンA2A受容体は、黒質、扁桃体、海馬及び小脳を含む線条体外脳領域でも見つかる[2,12,14,17]。加えて、無棘線条体コリン作動性介在ニューロンの小集団は、アデノシンA2A受容体を発現する[10]。パーキンソン病のヒト脳における線条体外アデノシンA2A受容体の発現の状況は、知られていない。
アデノシンA2A受容体とドーパミンD2受容体は、cAMP形成に対して相反する効果を有し、またアデノシンA2A受容体アゴニストは、ドーパミンD2受容体のドーパミンに対する親和性を低下させもする。このように、線条体のアデノシンA2A受容体の活性化は、線条体のドーパミンD2受容体の活性化の効果に反するものである。すなわち、線条体淡蒼球系の(間接)経路のニューロン活性の増加は、最終的に運動を減少させることにつながる[3,4,18]。アデノシンA2A受容体はまた、線条体内の抑制性GABA作動性伝達を抑えることが示されている[13]。それゆえアデノシンA2A受容体活性の抑制は、パーキンソン病において有益であるはずであり、またこの見解は、アデノシンA2A受容体アンタゴニストが、MPTP処置の霊長類において、・・・ジスキネジアを誘発したりせずに、運動機能を回復することを示した研究によって、支持されている[6,8,9]。パーキンソン病のヒトの死後組織における放射性リガンド結合の先行研究は、線条体のアデノシンA2A受容体の密度が、ドーパミン作動性ニューロンの変性に伴って変化しないことを示した[12]。本研究の目的は、パーキンソン病で死を迎える患者からの線条体におけるアデノシンA2A受容体mRNAのレベルを、逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)によって調べ、それもまた変化しないのかどうかを測定することである。加えて、受容体mRNAレベルに関する情報を放射性リガンド結合データと組み合わせることで、受容体の発現及及び細胞部位の制御に関する推論をすることが可能となるため、線条体外脳領域におけるA2A受容体のmRNAレベルが調査された。
本研究は、特発性パーキンソン病で亡くなった16名の患者からの脳組織、及び既知の神経又は精神疾患のない、亡くなった9名の対照被験者からの脳組織について行われた。・・・各事例からの全ての脳領域から、組織が得られているわけではないことに注意。・・・平均(±標準誤差)罹患期間は、11.2±1.7年であった。」
・乙38c(57頁左欄3段落~同頁右欄3段落)
「本研究は、アデノシンA2A受容体mRNAの発現が線条体に限定されず、線条体外脳領域においても発現していることを確認した。この結果は、・・・mRNA分析手法と比較して、RT-PCRがより高感度であることを反映している・・・。・・・
通常の脳とパーキンソン病の脳の間で、アデノシンA2A受容体の発現に有意な差が観察され、すなわちアデノシンA2A受容体mRNAについて、一部の線条体領域においては減少し、かつ、黒質緻密部においては増加することが観察された。Martinez-Mirらは[12]、パーキンソン病において[3H]-CGS21680で標識された線条体のA2A受容体の密度に変化がないことを見いだした。mRNAはニューロンの細胞体、及び・・・においてのみ見いだされるため[16]、本研究で測定された線条体のアデノシンA2A受容体mRNAは、線条体淡蒼球系の遠心性ニューロンの末端に輸送されるであろうA2A受容体をコードしていたと思われる。したがって、・・・間接経路の線条体淡蒼球系ニューロンの末端領域、すなわち淡蒼球外節では、A2A受容体の密度が低下している可能性がある。・・・また線条体における受容体密度に変化がないことから[12]、線条体内のA2A受容体を発現する介在ニューロンにおいては、mRNAの変化は起こっていないことも示唆している。しかし、mRNAレベルの変化は受容体密度の変化に対応することが多い一方、必ずしもそうとは限らず、受容体密度に変化がなくmRNAレベルが変化するのは、例えば受容体のターンオーバー速度の変化を反映している可能性がある。
本研究で脳組織が使用されたパーキンソン病で死を迎える患者は全て、死亡時にドーパミン作動薬を投与されていた。このことがアデノシンA2A受容体発現における変化を引き起こしたこと、未治療患者からの脳ではそのような変化が不存在であり得ることが考えられる。治療を受けている病態と未治療の病態の間では、受容体の発現に脳内で差が生じることが知られている。このことの例証として、ドーパミンD2受容体は、未治療のパーキンソン病では一貫して上昇が見られるが、ドーパミン作動薬で治療された脳では正常に近い密度を有するということが、挙げられる[19]。
最近の研究は、アデノシンA2A受容体アンタゴニストKW6002がMPTP-処置のサルにおいて抗パーキンソン作用を示すが、ジスキネジアを示すように誘導(継続的L-ドーパ投与)されたMPTP処置のサルでは、ハイパーキネジアの発生が減少し、ジスキネジアが見られないことに関連すると示している[6,8,9]。薬剤未投与のMPTP処置のコモンマーモセットにおける、及びL-ドーパを継続的に投与されたパーキンソン病サルにおけるアデノシンA2A受容体mRNAレベルの分析は、健常サル脳と比較してアデノシンA2A受容体密度に違いは示されなかった[7]。このことは、本研究の知見とは一致しない。しかし、この不一致は、ヒトにおけるL-ドーパ治療の治療期間や用量に関係し得るし、又は、パーキンソン病のMPTP処置の霊長類モデルと死を迎える最終段階のパーキンソン病のヒト患者の脳において存在する変化の違いに関係し得る。実際、非常に高用量のL-ドーパを投与されたことにより不随意運動を示す健常サルにおいては、線条体のアデノシンA2A受容体mRNAが増大するのであり[7]、このことはアデノシンA2A受容体の発現がドーパミン作動性神経伝達の調整によって影響を受け得ることを示すものである。本研究で観察されたパーキンソン病脳における線条体のアデノシンA2A受容体の下方制御が、アデノシンA2A受容体アンタゴニストの効果を減少させるかどうかは、臨床的には未決定である。
まとめると、本研究はアデノシンA2A受容体がヒト脳の大脳基底核全体に広く分布していることを確認し、死亡時にドーパミン作動薬治療を受けていた、パーキンソン病で死を迎える患者の脳の個々の領域において、アデノシンA2A受容体mRNAの発現が変化することを示した。」
第6 本件訂正発明について
1 本件特許明細書の記載
本件特許明細書の発明の詳細な説明及び図面(以下「本件特許明細書」という。)には、以下の記載がある。
(1)本件訂正発明の背景技術及び課題を解決するための手段の記載
「【0003】
パーキンソン病および運動合併症
パーキンソン病(振戦麻痺)は、振戦ならびに歩行、運動および協調の困難を特徴とする脳の疾患である。この疾病は筋運動を支配する脳の一部の損傷と関連している。・・・
【0004】
・・・
黒質緻密部および腹側被蓋野のドーパミン作動性ニューロンは、それぞれ、運動の調節および認知において重大な役割を果たしている。数通りの証拠から、黒質中のドーパミン作動性細胞(すなわち、ドーパミン産生細胞)の変性がパーキンソン病の症状をもたらすことが示唆されている。黒質のその領域に集中しているドーパミン作動性細胞は、体内で最も速く加齢する細胞である。ドーパミン作動性細胞が崩壊すると、運動に対する制御が損なわれ、パーキンソン病が発症する。
【0005】
通常、パーキンソン病の最初の症状は、特に身体を静止しているときの肢の振戦(震えまたは振動)である。振戦は半身で始まることが多く、片側の手において頻繁に起きる。その他のよく起こる症状としては、例えばゆっくりとした動き(運動緩慢)、運動不能(アキネジア)、体肢の硬直、引きずり歩行、前かがみの姿勢等のその他の運動障害が挙げられる。パーキンソン病患者は表情が乏しくなり、静かな声で話すことが多い。この疾病は、鬱病、不安、人格変化、認知障害、痴呆、睡眠障害、言語障害または性的不全といった二次的な症状を引き起こすことがある。パーキンソン病の治療法は知られていない。治療はそれらの症状の制御を目的としている。薬物療法では主として神経伝達物質間の不均衡を制御することによってそれらの症状を制御する。ほとんどのパーキンソン病の初期患者は、ドーパミン補充療法による対症療法に対してよく応答するが、疾病が進行するにつれ能力障害が増加する。
【0006】
用いる薬剤、用量および投与間隔は、症例に応じて変わる。症状変化に合わせて、用いる薬剤の組み合わせを調節する必要があり得る。多くの薬剤は重大な副作用を引き起こすことがあるので、医療提供者によるモニタリングとフォローアップが重要である。
現在利用できるパーキンソン病用薬剤は、一般に、数年間は十分な対症制御をもたらすものの、多くの患者が、運動変動およびジスキネジアを発症し、これが臨床効果を鈍らせる。・・・これが起こると、ドーパミン作動性療法を増やすことはジスキネジアを悪化させる恐れがあり、ドーパミン作動性療法を減らすことは運動機能を悪化させ、オフ時間を増加させる恐れがある。この問題を踏まえて、非ドーパミン作動性神経伝達物質系の治療的処置の可能性が注目されることとなった。
【0007】
ほとんどのパーキンソン病の症状は、ドーパミンの不足から生じ、ほとんどの抗パーキンソン薬はドーパミンを元の状態に戻すかドーパミンの作用を模倣するものである。しかし、これらの薬剤はドーパミンを恒久的に元に戻すものではなく、ド-パミンの作用を正確に模倣するものでもない。黒質にドーパミン細胞がないことがパーキンソン病の主な特徴ではあるが、非ドーパミン神経細胞も喪失している。さらに、ドーパミン応答細胞は黒質だけでなく他の脳領域にも存在する。したがって、パーキンソン病において有効な薬剤は、これらの細胞を刺激することにより、例えば悪心、幻覚、錯乱等の副作用を引き起こし得る。 L-ドーパは1967年に報告され、以来最も有効な抗パーキンソン薬となっている。L一ドーパの有効性が最も高い症状としては、運動緩慢、硬直、静止時振戦、歩行困難および小書症が挙げられる。L-ドーパの有効性があまり望めない症状としては、姿勢不安定、動作時振戦および嚥下困難が挙げられる。L-ドーパは痴呆を悪化させる可能性がある。L-ドーパは、パーキンソン病において、強くかつ急速な治療上の効果をもたらすが、最終的には、例えばウェアリング・オフ現象、オン・オフ変動、ジスキネジア等の運動合併症をはじめとするドーパミンによって引き起こされる重篤で好ましくない反応が現れる。・・・運動合併症は、通常、一度発症すると、L-ドーパまたは他のドーパミン作動性薬剤による処置では制御不能である。
【0008】
パーキンソン病の初期にはL-ドーパを1日3回服用する。脳内でのピーク濃度は投与後1~2時間で生じる。薬剤の半減期は短い(0.5~1時間)が、脳内に残存しているドーパミン細胞がドーパミンを貯蔵し、数時間の間その活性を維持するには十分である。パーキンソン病が進行すると、より多くのドーパミン細胞が死滅し、残存する細胞ではその効果を維持するのに十分なドーパミンを貯蔵できなくなり、各投与量での作用持続時間が減少し、患者に対してより高用量なまたはより頻繁な投与が必要となる。2~5年後には、50~75%もの患者で、L-ドーパに対する反応、つまりオン/オフ期間に変動が起こる。変動に伴い、患者はジスキネジアを発症する。通常、ジスキネジアはL-ドーパのピーク作用時に生じるが、薬剤の効果が切れるときまたはストレスが多いときにもまた生じる場合がある。変動およびジスキネジアは患者の生活に深刻な影響を及ぼし得る。L-ドーパが連続投与されれば(静脈内ポンプによって)、オンノオフ作用はなくなり、ジスキネジアも減少する。しかし、L-ドーパを静脈内投与することはできない。
【0009】
L-ドーパを単独で服用すると、その一部がドーパーデカルボキシラーゼによって脳外でドーパミンに変換される。このように生じたドーパミンは脳に入ることができず、例えば悪心、嘔吐、食欲の喪失等の副作用を引き起こす。従って、L-ドーパはカルビドパまたはベンセラジド(benserazide)と組み合わせることが多い。カルビドパは脳外のドーパーデカルボキシラーゼをブロックすることにより、悪心、嘔吐および食欲の喪失を引き起こすことなく、より多くのL-ドーパが脳に入ることができるようにする。アタメット(Atamet)またはシネメット(Sinemet)はカルビドパとL-ドーパの両方を含有する錠剤である。カルビドパとの組み合わせでは、L一ドーパの半減期は1.2~2.3時間である。
その発見から30年、L-ドーパは依然としてパーキンソン病の最良の治療である。この疾病の初期段階では、患者は通常L-ドーパに対する良好な反応を享受するが、疾病が進行すると、L-ドーパはあまり有用でなくなる傾向がある。これはL-ドーパの効力の喪失によるものではなく、例えばエンド・オブ・ドーズ(end-of-dose)での悪化または「ウェアリング・オフ(wearing-off)」、「オン/オフ変動」、ジスキネジア等の運動応答における逆変動のような運動合併症の発症によるものである。オン/オフ変動とは、薬剤治療における効果(「オン」状態、患者にパーキンソン病の症状が比較的ない期間)が、突然、容認できないほどに失われ、パーキンソン状態(「オフ]状態)を発現することである。ウェアリング・オフ現象はL-ドーパが有効である期限の減少であり、「オフ」状態が徐々に再発することを特徴とし、「オン」状態が短くなる。ジスキネジアは、舞踏病(多動性の、目的のないダンスのような動き)とジストニア(持続性の、異常な筋収縮)に大別することができる。・・・治療期間が長くなるにつれ、ジスキネジアの頻度および重症度も増加する。神経保護に有用であると思われる薬剤のパーキンソン病における効果の可能性について影響を与えた研究-DATATOP試験-では、平均20.5ヶ月間L-ドーパの治療を受けた患者の20~30%でL-ドーパ誘発性ジスキネジアが観察された。最終的に、L-ドーパを受けた患者のほとんどがジスキネジアを経験し、患者の最大80%で、治療の5年以内にジスキネジアを発症した。・・・治療に関連したジスキネジアは、単にL-ドーパのみの問題ではなく、ドーパミン受容体アゴニストも同様にジスキネジアを誘発し得る。このように、共通の用語「L-ドーパ誘発性ジスキネジア」は、一般用語でドーパミン治療に関連したジスキネジアを記載するために用いられることもある。ほとんどのジスキネジアは、レボドパまたは他のドプパミン受容体アゴニストが、被殻中の過敏性ドーパミン受容体に対して十分である一定の脳内濃度であるときに生じる(ピーク・ドーズ・ジスキネジア(peak-dose-dyskinesia))。しかし、ジスキネジアはまた、ドーパミン濃度が低い際(オフ・ジストニア)、またはドーパミン濃度が増減する状態(二相性ジスキネジア)でも生じる。また、例えばミオクローヌス、アカシジア等の他の運動障害もL-ドーパ誘発性ジスキネジアの範疇の構成要素であり得る。」
「【0030】
アデノシンA2A受容体
アデノシンは、4種の主要な受容体サブタイプ、AI、A2A、A2B、A3(これらはその一次配列によって特性決定されている)を介して作用することがわかっている。・・・アデノシンA2受容体はさらに、A2A(高親和性)とA2B(低親和性)のサブタイプに分けられる。・・・AI、A2BおよびA3受容体が脳内に広範囲にわたって分布しているのに対し、A2A受容体は大脳基底核、とりわけ、尾状一被殼(caudate-putamen)(線条体)、側坐核および淡蒼球、ならびに嗅結節に高度に局在している。・・・大脳基底核は、終脳に局在し、いくつかの相互接続されている核:線条体、淡蒼球外節(GPe)、淡蒼球内節(GPi)、黒質緻密部(SNc)、黒質網様部(SNr)および視床下核(STN)からなる。大脳基底核は、運動行動を起こすための運動感覚(sensorimotor)、連合および辺縁系情報の統合に関与する皮質下回路(subcortical circuits)の重要な要素である。大脳基底核の主要構成要素は線条体であり、ここではGABA作動性の中型の有棘ニューロンが唯一の投射ニューロンであり、これは線条体ニューロン群の90%以上に相当する。
【0031】
中型の有棘ニューロンは、皮質および視床から膨大なグルタメート作動性入力を受け、それらのGABA作動性出力を大脳基底核の主要な出力核、つまりGPiおよびSNrに、「間接経路」で線条体-淡蒼球系の中型の有棘ニューロン・・・を介して、および「直接経路」で線条体-黒質系の中型の有棘ニューロン・・・を介して投射する。・・・中型の有棘ニューロンは、また線条体内GABA作動性、コリン作動性および黒質線条体ドーパミン作動性の調節入力を受ける。線条体黒質系の直接経路のニューロンは、GABAだけでなくサブスタンスP/ダイノルフィンも含有しており、線条体からGPi/SNrへと直接投射する。これらのニューロンは、GPi/SNrニューロンに対して直接的な阻害作用を与える。線条体淡蒼球系の間接経路の線条体ニューロンは、GABAだけでなくエンケファリンも含有しており、GPeおよびSTNでのシナプス結合を介して線条体とGPi/SNrとをつなぐ。これらのニューロンでは、A2A受容体が、ほぼ例外なく、間接経路の線条体と淡蒼球にある線条体-淡蒼球系の中型の有棘ニューロン・・・および線条体にあるアセチルコリンを含有する大型の無棘介在ニューロン・・・に局在し、GABA、アセチルコリンおよびグルタメートの神経伝達を調節することがわかってきた。・・・
【0032】
神経科学の近年の進歩は、A2A受容体に選択的な薬剤の開発とともに、アデノシンおよびアデノシンA2A受容体についての認識の拡大を促した。アデノシンA2A受容体アンタゴニストが数種類のパーキンソン病の動物モデル(例えば、MPTP処置したサル)の運動機能障害を改善するが、またドーパミン作動性薬剤とは異なるA2A受容体アンタゴニストの特徴も示すことを、行動研究は示している。・・・
【0033】
選択的アデノシンA2A受容体アンタゴニストであるKW-6002の抗パーキンソン病作用は、MPTP処置したマーモセットおよびカニクイザルを用いて研究されてきた。・・・MPTP処置マーモセットでは、KW-6002の経口投与により、用量依存的に自発運動の増加が誘発され、最大11時間まで持続した。・・・自発運動は正常動物で認められるレベルまで増加したが、L-ドーパでは運動亢進が誘発された。さらに、L-ドーパを前投与したMPTP処置マーモセットでは。21日間のKW-6002を用いた処置により、ジスキネジアがほとんどまたは全く誘発されなかったが、同じ条件下での、L-ドーパを用いた処置では、顕著なジスキネジアが誘発された。ジスキネジアを発症するように処置されたMPTP処置マーギセットに、KW―6002(20mg/kg)を閾値のL-ドーパとともに1日1回、5日間投与した場合、ジスキネジアを増加させることなく抗パーキンソン病活性が増強された。・・・KW-6002は、またさらにキナピロール(quinpirole)、ドーパミンD2受容体アゴニストの抗パーキンソン病作用を増強したが、SKF80723、ドーパミンD1受容体アゴニストの作用は増強しなかった。総合すれば、これらの研究結果は、アデノシンA2Aアンタゴニストが、パーキンソン病の初期の患者に単独療法として抗パーキンソン病効果をもたらす可能性があること、およびL-ドーパ治療を受けた運動合併症患者では、ジスキネジアを増加させることなく抗パーキンソン病作用を改善させる可能性があることを示唆している。
【0034】
アデノシンA2Aアンタゴニストが抗パーキンソン病作用を発揮するメカニズムは依然として十分には解明されていないが、現在、次のメカニズムが提唱されている。
霊長類のパーキンソン病またはMPTP処置のいずれにおいても、黒質-線条体ドーパミン作動性経路が破壊された後の最も関連のある変化は、線条体淡蒼球系の経路の活動亢進である。このような活動亢進の原因は、直接的な線条体黒質系の経路および間接的な線条体淡蒼球系の経路間の不均衡にあり、これがパーキンソン病状態を引き起こす。・・・。A2A受容体は、線条体黒質の中型の有棘ニューロンではなく、中型の有棘ニューロンのサブポピュレーション・・・である線条体淡蒼球系の中型の有棘ニューロンで特に発現されているということが知られている。
【0035】
線条体淡蒼球系の中型の有棘のGABA作動性投射ニューロンは、A2A受容体媒介性調節の主要な標的ニューロンの1つであるとわかっている。・・・そのため、線条体では、A2A受容体が線条体内のGABA作動性のフィードバック/フィードフォワード(feedback/feedforward)阻害のネットワークを通じて投射ニューロンの興奮性を制御し・・・、淡蒼球(GPe)では、A2A受容体の活性化によって神経末端からのGABA放出が促進され、視床下核(STN)へと投射するGPe投射ニューロンの興奮性を抑制している可能性がある・・・。A2A受容体アンタゴニストは、線条体淡蒼球系のこの二重調節メカニズムを選択的にブロックし、線条体淡蒼球系の中型の有棘のニューロンにおける過度の活性化の抑制をもたらす。このことによって、線条体淡蒼球系/線条体黒質系ニューロンの不均衡が正常な状態にシフトし、その結果、パーキンソン病状態における運動機能の回復がもたらされる可能性がある。・・・
【0036】
A2A受容体を媒介した作用メカニズムは、線条体淡蒼球系の中型の有棘ニューロンにあるA2A受容体とともに局在しているドーパミンD2受容体とは関係なく機能する可能性がある・・・これらの結果は、A2A受容体およびD2受容体が、大脳基底核での神経および運動機能の制御において、相反する活性ではあるが独立した活性を有していることを示唆している。・・・
【0037】
パーキンソン病のL-ドーパによる運動合併症におけるA2A受容体の生理学的機能および病態生理学的機能は、全く分かっていない。・・・
【0038】
・・・アデノシンA2A受容体の遮断効果を有する非ドーパミン作動性薬剤療法が、パーキンソン病を治療するための手段として提供される。さらに、代表的なドーパミン作動薬の副作用、つまり運動合併症を増加させる危険もしくは発症させる危険がほとんどまたは全くない、抗パーキンソン病作用を提供するアデノシンA2A受容体アンタゴニストが望ましい。
いくつかのキサンチン化合物は、アデノシンA2A受容体アンタゴニスト作用、抗パーキンソン病作用、抗鬱作用、神経変性に対する阻害活性等を示すことが知られている・・・。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0039】
本発明は、パーキンソン病患者に1種以上のA2A受容体アンタゴニストを投与することまたは併用投与することを特徴とするL-ドーパ療法の副作用を軽減または抑制する方法を提供する。このような治療は、例えばL-ドーパまたは他のドーパミン作動性薬剤で誘発される運動合併症を患っている患者を治療して、オフ時間を減少させるおよび/またはジヌキネジアを改善するのに有効であり得る。」
「【0121】
・・・本発明の方法に有用な好ましくアデノシンA2A受容体アンタゴニストは、(E)-8-(3,4-ジメトキシスチリル)-1,3-ジエチル-7-メチルキサンチン(次式(II))を含有する。
【0122】(合議体注:式(II)の記載は省略する。)
また本発明では、式IIはKW-6002と称される。」
(2)本件訂正発明の具体的な実施形態(実施例1)に関する記載
「【実施例1】
【0147】
アデノシンA2A受容体アンタゴニストであるKW-6002の、L-ドーパ関連の運動合併症によって悪化したパーキンソン病の治療としての安全性および有効性を、12週間の多施設試験研究・・・にて検討した。運動合併症を伴うPD(合議体注:「PD」はパーキンソン病)被験者を、無作為かつ盲目的に、3つのパラレル治療群・・・のうちの1つに振り分けた:プラセボ(n=29);KW-6002 最大20mg/日(n=26);KW-6002 最大40mg/日(n=28)。2つの主要な有効性指標を設定した:1)8時間の来院中に治験担当医師によって判定される「オフ」時間の変化、および2)被験者の自宅での運動日誌によって判定される「オフ」時間の変化。
【0148】
83人の登録被験者のうち65人が試験を完了した;中止脱落率は、治療群間において同様であった。KW-6002治療は、患者の覚醒時間中の「オフ」状態で過ごす割合の減少において、プラセボ治療よりも有意に効果的であった。自宅での日誌により評価した場合には、覚醒時間中のオフ状態で過ごす割合が、プラセボ群では2.2%増加したのと比較して、KW-6002に振り分けられた被験者では7.1%減少した(p=0.008)。プラセボ群よりもKW-6002群におけるオフ時間の減少が1.7時間多かった(p=0.004)。治験担当医師による8時間のオン/オフ判定の結果では、統計学的な有意性に達した(p=0.054)。KW-6002で治療された患者が過ごした「オフ」状態の時間は、プラセボ群の患者のものよりも0.51時間少なかった(p=0.061)。・・・
【0149】
方法
これは、運動合併症を伴うL-ドーパで治療されたPD患者における補助療法としてのKW-6002の安全性および有効性についての、12週間の、二重盲検の、プラセボ対照の、無作為の、パラレル群の多施設試験研究である。適格患者は、英国パーキンソン病協会(・・・(UKPDS))脳バンク診断基準・・・を満たし、少なくとも1年間、L-ドーパ/カルビドパを服用しており、1日当たり少なくとも4回、L-ドーパ/カルビドパを服用しており、かつエンド・オブ・ドーズ・・・でのウェアリング・オフ(wearing-off)をはじめとする運動合併症を起こしている患者とした。
インフォームド・コンセントを行った後、被験者は4~8週間のスクリーニングを受けた。訪問の4週前には、投薬の用量用法を一定にした。この訪問時に、被験者は自宅での日誌の全ての記入に関する指導を受けた。
【0150】
ベースライン時に、被験者は、8時間の院内・・・評価を受けた。この評価に先立ち、被験者はPD用薬を差し控え、午前零時から絶食をした。最初の評価の後、その日初回のPD用薬を投与し、その後の用量は、被験者の通常の投与間隔で投与した。評価は特別指導を受けた、有害事象(adverse events)および臨床検査の結果を知らされていない評価者(blinded rater)によって行われた。被験者には、無作為化を適格なものとするために、8時間の評価中、PD用薬の投与後に少なくとも90分のオフ時間を示すことが求められた。
【0151】
スクリーニングおよびベースラインの評価を無事終了した被験者を、KW-6002の2つの投与用量用法群または対応するプラセボのうちの1群に、1:1:1の比で無作為に振り分けた。KW-6002群に無作為に振り分けられた患者は、1週~4週の期間に5mg/日、5週~8週の期間に10mg/日および9週~12週の期間に20mg/日(5/10/20群)、または1週~4週の期間に10mg/日、5週~8週の期間に20mg/日および5週~9週の期間に40mg/日(10/20/40群)のいずれかで投与を受けた(図1)。試験薬は、毎日、被験者の通常の朝食とともに、1回量として服用した。
その後の評価は、2、4、6、8、10および12週目に行った。被験者は、各訪問の前の週中に自宅で3種類の日誌の全ての記入を行った。各訪問時に、有害事象を評価した。8時間の院内評価は、4、8および12週目に行った。臨床血液検査およびECGは、ベースライン時、4週、8週および12週目に行った。
試験遂行中、治験担当医師は、L-ドーパ関連の有害事象を改善するよう、L-ドーパの1日の全投与量を減らすことができた。L-ドーパ投与の間隔を変更することは、認められなかった。
【0152】
結果
83人の被験者を無作為に振り分けた。
試験群間では、人口統計的およびベースライン特性の顕著な差は見られなかった。
3治療群全ての被験者は、それらの試験薬をピル数に基づく99%を服薬した。試験中、いずれの治療群においてもまたは上記2つのKW-6002群を併せた群とプラセボ群とを比較しても、L-ドーパの平均1日投与量に有意な変化はなかった。
【0153】
自宅での日誌で評価した場合、上記2つのKW-6002群に無作為に振り分けられた被験者は、プラセボ群に無作為に振り分けられた被験者と比較して、オフ時間における有意な減少があった(図1)。覚醒時間中のオフ状態で過ごす割合が、プラセボ群では2.2%増加したのと比較して、KW-6002に振り分けられた被験者では7.1%減少した(p=0.008)。上記2つのKW-6002投与群はいずれも、プラセボ群と比較して、オフ時間の割合において有意な減少を示した。同様に、各KW-6002群と同様に上記2つのKW-6002群を併せた群では、オフ時間の合計時間において、有意な減少を示した。オフ時間において、プラセボ群での0.5時間増加したのと比較して、KW-6002に振り分けられた被験者では1.2時間減少した(p=0.004)(図1)。
【0154】
上記2つのKW-6002群を併せた群では、プラセボ群と比較して、オフ時間におけるより大きな減少傾向があることが、8時間の院内評価での医師によるオフ時間の判定で確認された。オフ時間が、プラセボ群では3.3%減少したのと比較して、KW-6002に振り分けられた被験者では10.0%の減少を示した(p=0.05)。同様に、オフ時間が、プラセボ群では0.3時間の減少したのと比較して、KW-6002に振り分けられた被験者では0.8時間の減少を示した(p=0.06)。高用量KW-6002群(10/20/40群)でのオフ時間の減少は有意なものであった(P=0.02)。・・・
【0155】
全般的な有害事象プロフィールでは、KW-6002で治療した被験者とプラセボで治療した被験者とで差がなかった。重篤な有害事象の全般的な発生は、試験群全体にわたり同様に分布した。総中止脱落数および有害事象による中止脱落数は、KW-6002群とプラセボ群間で同様であった。KW-6002群とプラセボ群間では、最大血圧または最小血圧、心拍数、呼吸数、体重、ECG、および尿検査もしくは血液化学検査の平均値における顕著な変化または差は認められず、臨床参照範囲内であった。
本試験では、ドーパミンアゴニスト(例えばプラミペキソール、ペルゴリド、ロピニロール、ブロモクリプチン)、COMT阻害剤(例えばエンタカポン、トルカポン)およびMAO阻害剤であるセレギリンとの種々の医薬の併用下で、KW-6002はオフ時間を有意に減少させ、かつ安全性および優れた忍容性を示した。
この試験での結果に基づき、アデノシンA2A受容体アンタゴニストであるKW-6002は、L-ドーパによる運動合併症を伴うパーキンソン病患者のオフ時間を安全にかつ有効に減少させることができる。
【0156】
本試験はまた、アデノシンA2A受容体アンタゴニストであるKW-6002が、L-ドーパとドーパミンアゴニストおよび/またはCOMT阻害剤および/またはMAO阻害剤との医薬の併用により治療したパーキンソン病患者におけるオフ時間を有意に減少させたことを示している。」
「
[図:0001422768000048.jpg]
」
2 本件訂正発明の概要
(1)本件訂正発明に係る特許請求の範囲の記載及び上記1(1)の記載によると、本件訂正発明の概要は、次のとおりであると認められる。
ア パーキンソン病は、振戦、歩行、運動及び協調の困難を特徴とする脳の疾患であり、黒質中のドーパミン作動性細胞の変性がその症状をもたらすことが示唆されている。ドーパミン作動性細胞が崩壊すると、運動に対する制御が損なわれ、パーキンソン病が発症する。ほとんどのパーキンソン病の症状は、ドーパミンの不足から生じるところ、L-ドーパは、パーキンソン病の最良の治療である。
イ しかし、パーキンソン病が進行し、L-ドーパ療法の開始から2~5年が経過すると、50~75%の患者において、オン/オフ期間(L-ドーパに対する反応)に変動が起こり、ウェアリング・オフ現象(L-ドーパが有効である期間が減少すること)、オン・オフ変動(オン状態(パーキンソン病の症状が比較的ない期間)が突然容認できないほどに失われ、オフ状態(パーキンソン状態)が発現すること)、ジスキネジア等の重篤で好ましくない反応が現れる。
ウ このような状況を踏まえ、本件訂正発明は、L-ドーパ療法においてウェアリング・オフ現象および/またはオン・オフ変動を示すに至った段階の患者を対象とし、L-ドーパと併用して選択的アデノシンA2A受容体アンタゴニストである(E)-8-(3,4-ジメトキシスチリル)-1,3-ジエチル-7-メチルキサンチン(すなわち、KW-6002)を含有する薬剤を投与することにより、L-ドーパ療法におけるウェアリング・オフ現象および/またはオン・オフ変動のオフ時間を減少させることができることに着目し、KW-6002を含有する薬剤をそのような用途(ウェアリング・オフ現象および/またはオン・オフ変動におけるオフ時間の減少)に用いる医薬の発明である。
(2)上記1(2)の記載によると、本件特許明細書には、実施例1として、二重盲検、プラセボ対照、無作為、パラレル群の多施設試験研究による臨床試験の結果、ウェアリング・オフをはじめとするL-ドーパ関連の運動合併症を伴うパーキンソン病患者に、L-ドーパとともに、KW-6002を4週間ごとに、3段階((5/10/20mg/日)又は(10/20/40mg/日)のいずれかの漸増的用量)を投与したKW-6002群の被験者では、プラセボ群の被験者と比較して、オフ時間における有意な減少があったこと(図1)が記載されている。
第7 本件特許の優先日当時の技術常識等
以下、この審決における合議体の判断においては、「アデノシンA2Aアンタゴニスト」等、本件特許明細書や当事者の提出した証拠において下付文字や上付文字で記載されているものについても、摘記部分を除き、全角の通常表記で記載した。
1 パーキンソン病に関する、本件特許の優先日当時の技術常識
本件特許の優先日当時の技術常識として、以下の(1)~(3)が認められる。証拠により「L-ドーパ」は「レボドパ」「L-DOPA」等、別名称で表記がされており、「ドーパミン」についても、「ドパミン」と表記されている証拠もあるが、以下では、「L-ドーパ」、「ドーパミン」で統一して記載した。
(1)パーキンソン病モデル動物について
(a) パーキンソン病のモデル動物に関し、以下の証拠には、それぞれ以下の(i)~(iii)のことが記載されている。
(i)MPTPで処置された動物であるモデル動物
・甲10:MPTP(N-メチル-4-フェニル-1,2,3,6-テトラヒドロピリジン)が、ヒト、サル等多種の動物でパーキンソン病を発症させること、ヒトとサルが最もMPTPパーキンソン病を起こしやすいが、MPTPは、マウス等を含め広範囲な種族の動物で運動障害を起こすこと(甲10b)
・甲26:MPTP処置霊長類はそのパーキンソニズムがヒト病態と良く似ており、ヒトのパーキンソン病に極めて近い病態モデルであるとされていること、MPTP処置コモンマーモセットにおいても同様で、ドーパミン作動薬で見られる副作用である嘔吐、dyskinesiaなどが認められ抗パーキンソン病薬の作用評価には有用な実験動物であること(甲26a)
・丙16:MPTPを投与されたサルは、ヒトパーキンソン病患者とほぼ同様の症状を呈し、また、L-ドーパ製剤に対する反応性やジスキネジアなどの副作用の出現も同患者とほぼ同一で、抗パーキンソン薬の効果判定に最適なモデル動物と考えられていること(丙16b)
・甲4:MPTP処置マウスにおけるドーパミン枯渇又はシナプス前ドーパミン作動性ニューロンの変性が、パーキンソン病の病態を反映する運動機能低下の原因であること(甲4bの最終段落)、MPTP処置マウスは、ドーパミン神経系の深刻な変性を示し、運動機能低下が見られるようになるパーキンソン病モデルであること(甲4f)
・丙20:MPTP投与により発症する急性のパーキンソン症候群は、臨床症状(筋固縮・無動・振戦)、病理所見(黒質-線条体系ドーパミン神経の変性・細胞死)共に自然発症のパーキンソン病と酷似していることが知られているところ、マウスにMPTPを投与することによって、ヒトと全く同じパーキンソン症候群が発症することが確認されており、特に、C57BL/6マウスを用いたMPTP投与による実験的パーキンソン病モデルはヒトのパーキンソン病と酷似していること(丙20bの【0093】及び【0094】)
(ii)6-ヒドロキシドーパミン病変を有するラット等のげっ歯類であるモデル動物
・丙20:齧歯類は、6-OHDA(6-ヒドロキシドーパミン)により片側黒質-線条体を破壊すると破壊側の線条体のドーパミン受容体の感受性が亢進し、これにドーパミン作用増強物質の投与を行うと破壊側とは逆側に回転行動を起こすことから、この動物モデルは、長い間パーキンソン病の優れた実験モデルとして位置づけられており、パーキンソン病治療薬の探索に用いられてきたこと(丙20bの【0114】)
・甲1:6-ヒドロキシドーパミン病変を有するラットは、候補化合物の有効性を評価するための最も信頼性のあるパーキンソン病動物モデルの一つであること(甲1b)
・丙7:6-ヒドロキシドーパミンを片側に注射しての片側の黒質線条体のドーパミン作動性神経細胞を優先的に破壊したモデルは、抗パーキンソン病効果を評価するのに最も信頼のおけるげっ歯類のモデルの一つであること(丙7bの1.2.)
(iii)レセルピン誘導性あるいはハロペリドール誘導性のカタレプシーを有するマウス等のげっ歯類モデル動物
・甲4:レセルピン処置マウスにおけるドーパミン枯渇又はシナプス前ドーパミン作動性ニューロンの変性が、パーキンソン病の病態を反映する運動機能低下の原因であること(甲4bの最終段落)、レセルピンの前処置による内因性脳内モノアミンの枯渇は、形態学的にパーキンソン病の症状に類似した無動症と筋硬直(合議体注:カタレプシーと同義)を生じ、モノアミン欠乏げっ歯類は、パーキンソニズムの有用な薬理学的モデルとなり、抗パーキンソン病薬の評価に用いられてきたこと(甲4f)
・丙20:ハロペリドール(D1/D2拮抗薬)を投与すると、シナプス後D2受容体遮断によりカタレプシーが惹起されるが、当該ハロペリドール誘導性のカタレプシーは、薬物投与によってパーキンソン病を再現する古典的なモデルとして知られていること(丙20bの【0107】)
(b) 以上の(i)~(iii)によれば、本件特許の優先日当時、MPTPで処置されたサル、コモンマーモセット、マウス、片側性の6-ヒドロキシドーパミン病変を有するラット等のげっ歯類、レセルピン誘導性あるいはハロペリドール誘導性のカタレプシーを有するマウス等のげっ歯類は、いずれも、パーキンソン病モデル動物として広く知られており、特に、MPTPで処置されサル及びコモンマーモセットは、ヒトのパーキンソン病に近い病態モデル動物であるとの技術常識が存在していた。
(2)パーキンソン病とL-ドーパ療法、長期L-ドーパ投与で出現する症状について
(a) パーキンソン病とL-ドーパ療法、長期L-ドーパ投与で出現する症状のモデル動物に関し、以下の証拠には、それぞれ以下のことが記載されている。
・甲10:パーキンソン病は、黒質緻密層ドーパミン性神経細胞の変性と線条体ドーパミン低下を主病変とする原因不明の変性疾患の一種であり、(1)安静時振戦、(2)歯車様固縮、(3)動作の緩慢又は無動、及び(4)姿勢保持が4大徴候であること(甲10a)、パーキンソン病治療の基本に、線条体のドーパミン系の賦活があり、L-ドーパ等によりドーパミンを補充するL-ドーパ療法を行うこと(甲10c)
L-ドーパ療法は補充療法であるため、治療開始後ほぼ一生にわたり投薬が必要であり、L-ドーパ治療の初期には安定した効果を得られるが、投薬期間が長期になるにつれウェアリング・オフ現象(“wearing-off”現象)やオン・オフ変動(“on-off”現象)、不随意運動といった様々な問題点が出現すること、ウェアリング・オフ現象とは、薬効期間の短縮により、パーキンソン病症状の日内変動が出現する現象をいい、L-ドーパ治療の初期には24時間安定した効果を得られるが、治療が長期にわたるにつれ血中L-ドーパ濃度の低下とともに症状が増悪するようになる現象で、発生機序についてはL-ドーパ長期投与によるL-ドーパの吸収、代謝の変化や、ドーパミンニューロンのドーパミン保持能の低下などが考えられていること、オン・オフ変動は、L-ドーパの服用時刻、血中濃度に関係がない、あたかも電灯のスイッチを入れたり切ったりした時のような急激な症状の変化を示す現象であり、発生機序についてはL-ドーパ長期投与によるドーパミン受容体の感受性の変化が推測されていること、ピークドーズジスキネジアは、L-ドーパ服用後の血中濃度がピークに達した頃に出現する不随意運動であること(いずれも、甲10d)
・甲14:L-ドーパ反応性の運動合併症としてウェアリング・オフ現象やジスキネジアがあげられること、ジスキネジアは抗パーキンソン病薬の治療に伴って出現する不随意運動の総称であること、ウェアリング・オフ現象は薬剤の服薬時間に依存した症状変動であり、また、オン・オフ変動(on-off現象)は、薬剤の服薬時間とは無関係に突然生じる症状悪化や改善であること(甲14b)
・甲15:パーキンソン病(PD)病の長期L-ドーパ治療により、次第に薬剤の有効時間が短縮してくる長期L-ドーパ投与症候群である、ウェアリング・オフ現象(wearing-off現象)、オン・オフ変動(on-off現象)、ジスキネジア等が生じてくるが、発症病理については、末梢性の薬物動態(特に吸収・代謝)の変化,中枢性要因として脳内ドーパミン神経系の変性とグリアの変化などが想定されているものの、十分に解明されてはいないこと、ウェアリング・オフ現象及びジスキネジアは薬剤の血中濃度との関連で論じることのできる症状群であるが、オン・オフ変動やノー・オン(no on)現象は、薬剤服用との関連で予測できない症候であること(甲15c)
・甲17:L-ドーパ長期治療により、ウェアリング・オフ現象(wearing-off現象)、オン・オフ変動(on-off現象)、ジスキネジア等が生じてくること(甲17aの図12)、ウェアリング・オフは、L-ドーパの効いている時間が短くなることであり(甲17b)、ドーパミンニューロンの変性が進んで,L-ドーパないしドーパミンを長い間保持しておけなくなって起きると考えるのが自然であるが、直接の証明はないこと(甲17b)、オン・オフ変動は、電灯のスイッチを入れたり切ったりするように服薬時間に関係なく急激に症状がよくなったり、悪くなったりする現象であり、その発生機序については、ウェアリング・オフ現象以上にわかっていないこと(甲17a、甲17c)
・丙7:パーキンソン病の主要な特徴は静止時振戦、固縮、運動緩慢(又は遅さ)、及び歩行障害であり、主要な病態は、黒質緻密部(SNc)におけるドーパミン作動性神経細胞の変性であり、それは運動症状発現の原因とされている線条体ドーパミン量の顕著な減少をもたらし、このようなドーパミンの枯渇が、大脳基底核ネットワーク全体に影響を及ぼす機能的変化のカスケードのきっかけとなること(丙7d)、ドーパミン前駆物質L-ドーパを用いたドーパミン補充戦略は、パーキンソン病療法での主要な治療法であり、実質的に全ての患者に劇的な恩恵をもたらすが、L-ドーパ療法は、5~10年後に圧倒的多数の患者で不随意運動やジスキネジアなどの一連の合併症の発生と関連していること(丙7e)
・丙16:パーキンソン病は、中脳黒質緻密層から線条体に投射するドーパミン作動性ニューロン細胞死に起因して起こり、臨床的に安静時振戦、歯車様固縮、無動、姿勢反射障害の四大症候を呈すると考えられており、病気の進行は阻止できないものの、不足したドーパミンを補充するL-ドーパ(レボドーパ)製剤による対症療法が基本となること、ところが、その長期間使用により、ウェアリング・オフ現象(wearing-off現象)、オン・オフ変動(on-off現象)といった効果の動揺、ジスキネジア(dyskinesia)などの不随意運動、精神症状が出現し、十分な治療効果が得られないケースが多く、長期的L-ドーパ製剤療法の最大の問題点となっていること(丙16aの1~2段落)
・甲43:現在、パーキンソン病治療の主体はL-ドーパを中心としたドーパミン補充療法であり、L-ドーパは、末梢でのドーパミンへの変換を阻害する塩酸ベンセラジド、カルビドパの合剤が一般に使用されていること(甲43b)、L-ドーパ長期治療剤では、薬効時間が短くなるウェアリング・オフ現象(wearing off)や、スイッチを切ったように突然効果が切れてしまうオン・オフ変動(on-off現象)、脳内のL-ドーパの有効血中濃度の範囲が狭くなり、超過或いは低いときにおきると考えられるジスキネジアが生じるといった種々の問題があること(甲43a、甲43c)
・乙2:ウェアリング・オフ型の変動は、L-ドーパ(レボドパ)ヘの応答の持続時間が累進的に短縮することの反映であり、この短縮は、従来、前シナプスにおけるドーパミン作動性の末端によって通常は提供されるドーパミンの貯蔵が失われることに起因すると考えられてきたが、最近の証拠は、ウェアリング・オフ現象の発病にとって、後シナプスにおけるメカニズムが最も重要な関与をすることを示唆していること(乙2b)
・乙3:パーキンソン病(PD)の早期の間は、L-ドーパ(レボドパ)を単回投与した後の臨床応答は、L-ドーパの血漿中の半減期が比較的短い時間であるにもかかわらず、安定していて長期間続く(持続時間の長い応答)が、PDが進行すると、患者はウェアリング・オフ作用を経験し始め、L-ドーパ投与後の運動利益は持続時間が減少し、4時間未満しか続かない(持続時間の短い応答)こと、最終的に、患者は、「オン」期と「オフ」期の間の急で予測できない変動を経験し始めることがあり、これは、オン・オフ変動(「オン-オフ」現象)として知られること(乙3a)
軽度、中程度、及び重度の疾患を有するPD患者グループにおいて、L-ドーパ注入後の運動応答の持続時間は、同程度の血漿レボドパ薬物動態にもかかわらず、疾患の重症度と逆の相関があることは、進行期のPD患者における運動変動がドーパミン作動性末端の喪失によるL-ドーパ貯蔵能の低下と関係するという「貯蔵仮説」を生じさせていたが、この仮説にあわない知見があることから、運動合併症の発症に対して後シナプスの構成要素が存在するという考えが支持されてきており、現在、運動合併症は、前シナプス及び後シナプスの両方の事象が関係していて、これにはドーパミン受容体の正常でない間欠的な刺激、下流ニューロンにおける遺伝子及びタンパク質の調節不全、並びに、大脳基底核の出力ニューロンにおける発火パターンの変更が含まれることが明らかになっていること(乙3b)
・乙38:パーキンソン病では、脳幹の、特に黒質緻密部核の進行性変性、それに続く黒質線条体のドーパミン作動性経路の喪失、及び結果としての線条体のドーパミンレベルの低下により運動症状が生じること、L-ドーパ(レボドパ)又はドーパミンアゴニストによる治療は、当初は有効であるが、長期治療後及び病気の進行に伴い、薬効が低下し(ウェアリング・オフ現象;オン・オフ変動(オン・オフ現象))、身体を衰弱させるジスキネジアが出現しうること(乙38b)
(b) 上記(a)によれば、本件特許の優先日当時、以下のことが技術常識であったといえる。
パーキンソン病は、黒質緻密層ドーパミン性神経細胞の変性と線条体ドーパミン低下を主病変とする原因不明の変性疾患の一種であり、(1)安静時振戦、(2)固縮、(3)動作の緩慢又は無動、及び(4)姿勢保持(姿勢反射障害)が4大徴候である。そして、パーキンソン病の治療は、ドーパミン前駆物質であるL-ドーパを投与してドーパミンを補充するL-ドーパ療法等のドーパミン補充対症療法が基本となり、初期には安定した抗パーキンソン病の治療効果(薬効)が得られるが、L-ドーパの長期間の使用により、ウェアリング・オフ現象、オン・オフ変動、ジスキネジア等が出現し、十分な治療効果が得られないことが多く、長期的なL-ドーパ療法の問題点となっていたことは、本件特許の優先日当時の技術常識であった。
ウェアリング・オフ現象は、長期的なL-ドーパ療法において、L-ドーパによる薬効時間が短くなり、パーキンソン病症状の日内変動が出現する現象であり、また、オン・オフ変動とは、L-ドーパの服用時刻や血中濃度に関係なく、あたかも電灯のスイッチを入れたり切ったりしたときのような急激な症状の変化を示す現象であり、さらに、ジスキネジアは、脳内のL-ドーパの有効血中濃度の範囲が狭くなり、超過或いは低いときにおきると考えられている不随意運動であり、いずれも、長期のL-ドーパ療法により生じるものではあるが、それぞれに症状や日内変動の挙動も異なる別の病態であることは、本件特許の優先日当時の技術常識であった。
これらの病態の発生機序に関し、ウェアリング・オフ現象の発生機序としては、L-ドーパの長期投与によりドーパミンニューロンの変性が進み、L-ドーパやドーパミンを長時間保持しておけなくなること等の要因が考えられていたが、直接の証明はなく、また、オン・オフ変動の発生機序としては、ドーパミン受容体の感受性の変化が推測されていたが、ウェアリング・オフ現象以上によく分かっていなかったこと、ウェアリング・オフ現象やオン・オフ変動については、L-ドーパの継続的な投与によって引き起こされる前シナプスや後シナプスにおける事象の関与が重要であることも指摘されていたこと、ウェアリング・オフ現象、オン・オフ変動、ジスキネジアの発症原因としては、末梢性の薬物動態(特に吸収・代謝)の変化、中枢性要因として脳内ドーパミン神経系の変性の他にグリアの変化なども想定されていたが十分に解明されてはいないことを踏まえると、L-ドーパ療法を長期に行うことにより生じるウェアリング・オフ現象やオン・オフ変動の重要な発生原因としては、ドーパミンニューロンの変性によるドーパミン保持能の低下やドーパミン受容体の感受性の低下、前シナプスや後シナプスにおける事象の関与等が推測されていたものの、これらの発生原因についての直接の証明はなく、十分には解明されていないことが、本件特許の優先日当時の技術常識であった。
(3)ウェアリング・オフ現象の改善について
(a)ウェアリング・オフ現象の改善に関し、以下の証拠には、それぞれ以下のことが記載されている。
・甲9:ブロモクリプチン、ペルゴリド等のL-ドーパより長い半減期を有するドーパミンアゴニストを補助治療としてL-ドーパと併用すれば、ドーパミン様作用を長期化することで、ウェアリング・オフ現象等の用量効果時間短縮を取り除けること(甲9a)
・甲10:ウェアリング・オフ現象では、症状の変動とL-ドーパ血中濃度とがきわめて良く対応することから,血中濃度がなるべく一定になるようにL-ドーパの投与量、投与回数、投与時刻を変更することや、ブロモクリプチンなどのドーパミンアゴニストの併用を考えること(甲10dの1.)
・甲14:長時間作用性のドーパミンアゴニストの使用やL-ドーパの頻回服用によって血中濃度維持を図るとウェアリング・オフ現象が軽減できること(甲14b~甲14d)
・甲15:L-ドーパの1回の服用量を滅らした少量分割頻回投与や作用時間の長いドーパミン(DA)アゴニストの併用、L-ドーパの作用時間を延長させるB型モノアミン酸化酵素阻害薬(MAO-B阻害薬)の併用によりウェアリング・オフ現象を克服できること(甲15a)
・甲17:L-ドーパの点滴などでL-ドーパの血中濃度を一定に保つとウェアリング・オフ現象は改善すること(甲17bのb.)
・甲21:脳内のL-ドーパの濃度をできるだけ一定に保つとウェアリング・オフ現象は改善すること、そのためにL-ドーパの服薬回数を増やしたり、L-ドーパの作用時間よりも長いブロモクリプチン等のドーパミン受容体刺激薬を併用すること(甲21a)
・甲43:パーキンソン病治療のためのL-ドーパ長期療法(長期投与)によるウェアリング・オフ現象、オン・オフ変動、ジスキネジア等の問題を最小限にとどめ長期的に安定した治療を継続するための手段として、L-ドーパについては必要最小限の至適量を考え、他剤を組み合わせる「低用量・多剤併用」を基本とすること(甲43cの4))、ドーパミンレセプター刺激剤であるドーパミンアゴニストは、比較的作用時間が長く、L-ドーパの長期投与に伴うウェアリング・オフ現象、オン・オフ変動、ジスキネジア等を抑制する効果が明確となったこと(甲43dの4.)、モノアミン酸化酵素B(MAO-B)阻害薬は、ドーパミンを代謝する酵素を阻害してドーパミン分解を抑制する等によりL-ドーパの消費量を低下させること(甲43dの5.)、カテコール-O-メチル転移酵素(COMT)阻害剤は、L-ドーパの代謝酵素であるCOMTを阻害し、L-ドーパの代謝を抑制することが期待され、臨床的には、ウェアリング・オフ現象の改善を目的としていること(甲43dの6.)
・甲44:ドーパミン合成の長期持続活性を有するゾニサミド(ZNS)がパーキンソン病患者のウェアリング・オフ現象を回復させたこと(甲44a~甲44c)
・甲52:ドーパミンアゴニストのプラミペキソールが、進行したパーキンソン病患者のオフ期を短縮したこと(甲52bの2.2))、カテコール-O-メチル転移酵素阻害薬であるトルカポンがL-ドーパ/DCI(脱炭酸酵素阻害剤)治療下でウェアリング・オフに効果を認めたこと(甲52bの4.1))
(b) 上記(a)によれば、本件特許の優先日当時、ドーパミン前駆物質であるL-ドーパ等を投与してドーパミンを補充するL-ドーパ療法を長期に行うことにより生じるウェアリング・オフ現象の対策として、(i)脳内のドーパミンの濃度が一定に維持できるようにするための手法、例えば、ドーパミンの前駆体であるL-ドーパの投与回数を増やしたり、L-ドーパの代謝酵素であるカテコール-O-メチル転移酵素(COMT)の阻害剤を併用してL-ドーパの代謝を抑制したり、ドーパミンの分解を抑制する等の作用を有し、L-ドーパの作用時間を延長させるモノアミン酸化酵素B阻害薬(MAO-B阻害薬)を併用したり、ドーパミン合成の長期持続活性を有する薬剤を併用したりといった手法を採用すること、及び、(ii)L-ドーパよりも作用時間が長く、ドーパミン様作用を長期化できるドーパミンアゴニストを併用する手法を採用することは、技術常識であった。
2 パーキンソン病におけるアデノシンA2A受容体の役割とA2A受容体アンタゴニストによる治療についての本件特許の優先日当時既知の知見
(a) パーキンソン病に対するアデノシンA2A受容体の役割とA2A受容体アンタゴニストによる治療に関し、以下の証拠には、それぞれ以下のことが記載されている。
・甲1:パーキンソン病に対する非ドーパミン性受容体を標的とするメカニズムが、魅力的な代替アプローチであり、アデノシンA2A受容体アンタゴニストは、その様な新規の療法の候補であるところ、アデノシンA2A受容体アンタゴニストであるKW-6002は、内側前脳束の6-ヒドロキシドーパミン病変を有するパーキンソン病モデルラットにいて、アポモルヒネやL-ドーパにより誘導される回転運動を強化し、また、MPTP又はレセルピンで誘導されるパーキンソン病モデルマウスの運動障害を緩和させ、ドーパミンアゴニストとの組合せでMPTP処置コモン・マーモセットに抗パーキンソン病活性を生じさせること(甲1b、甲1d~甲1f)、KW-6002がパーキンソン病の実験モデルにおいて、アポモルヒネ及びL-ドーパの運動効果を増強したことから、類似の効果がヒトでも起こるならば、KW-6002のようなアデノシンA2A受容体アンタゴニストは、パーキンソン病の治療への新規な非ドーパミン作動性のアプローチを提供できると考えられること(甲1g)
・甲2:L-ドーパ又は選択的D1若しくはD2ドーパミンアゴニストとアデノシンA2AアンタゴニストKW-6002との併用は、MPTP処置パーキンソン病モデルマーモセットにおいて自発運動活性を増大させ、運動障害を改善し、抗パーキンソン活性を増強するがジスキネジアは増強させないことから、KW-6002のような選択的アデノシンA2A受容体アンタゴニストは、単独療法及びL-ドーパ及びドーパミンアゴニスト薬剤のようなドーパミン作動性薬物との組合せの双方において、パーキンソン病治療のための有用な療法である可能性があること(甲2a、甲2e~甲2h、甲2k)、線条体では、アデノシンA2A受容体は、D2受容体を有するGABA-/エンケファリン含有神経細胞上に選択的に局在し、淡蒼球外節へ投射する間接出力経路を構成しており、アデノシンA2A受容体は線条体内でGABA及びACh(合議体注:アセチルコリン)の放出を調節し、線条体からの間接的出力経路の活動に影響を与え、パーキンソン病の運動機能障害の原因と考えられている線条体の直接出力経路と間接出力経路との間の不均衡を回復させ得ること(甲2i)、KW-6002が間接経路においてドーパミンD2受容体の活性化を増強することができる効果は、パーキンソン病の治療に用いられるドーパミンD2受容体アゴニストの作用を増強する能力を示唆すること(甲2i)
・甲3:薬剤未投与の初期PD(パーキンソン病)患者に対する単剤療法として、又はL-ドーパ治療されたより進行したPD患者に対する補助療法として、アデノシン拮抗薬であるテオフィリンには、統計学的に有意ではないがごくわずかに抗PD作用があること(甲3b考察1段落)
・甲4:アデノシンA2A受容体アンタゴニストであるKW-6002が、パーキンソン病モデルマウスにおいて、CGS21680、ハロペリドール又はレセルピンによる薬物誘導性カタレプシー並びに及びMPTPにより誘導される運動機能低下から回復させる作用を有しており、KW-6002は、ヒトでも示すことができれば、パーキンソン病の新しい治療アプローチとなる可能性があること(甲4a、甲4d、甲4f、甲4h)
・甲7:アデノシンA2A受容体アンタゴニストであるKW-6002が、MPTP処置パーキンソン病モデルコモンマーモセットにおいて、ジスキネジアを殆ど又は全く誘発することなく運動障害を用量依存的に回復させた結果から、選択的アデノシンA2A受容体アンタゴニストが、運動亢進の発生やジスキネジアの誘発なしに障害を改善する、新しいクラスの抗パーキンソン病剤となることが示唆されること(甲7a、甲7c、甲7d)
・甲43:現在、アデノシンA2A受容体阻害剤(アンタゴニスト)の開発治験が行われていること(甲43a)、特異的アデノシンA2A受容体アンタゴニストであるKW-6002が、パーキンソン病で活動亢進するアデノシンA2A受容体を阻害することによってL-ドーパ長期治療によって生ずるジスキネジアを抑制することができること(甲43e)
・甲50:アデノシンA2A受容体アンタゴニストであるテオフィリンのパーキンソン病についてのオープン臨床試験の結果、客観的障害スコアに有意な改善がみられ、主観的には中等度(moderate)又は顕著に改善したと報告されたことから、テオフィリンは、パーキンソン病患者の日常的治療に対して、有用な補助剤となる可能性が示唆されたこと(甲50a~甲50c)
・甲51:パーキンソン病の薬物療法の戦略として、ドーパミン作動系に拮抗する内因性経路の活性を下げることが考えられ、そのような経路の一つにアデノシン経路があること、アデノシンA2A受容体サブタイプは、特に内在性コリン作動性ニューロンとエンケファリンを含むγ-アミノ酪酸(GABA)線条体投射ニューロンに高度に局在しており、アデノシンA2A受容体アンタゴニストは、ドーパミン放出及び受容体機能を調節する能力と相まって、パーキンソン病に対する新しい薬理学的アプローチの可能性を提起していること、非選択的アデノシンA2A受容体アンタゴニストのヒトでの予備試験は、運動刺激活性がパーキンソン病に伴う運動低下及び振戦の減少にまで及ぶ可能性があることを示していること、選択的A2A受容体アンタゴニストの開発が、幾つかの製薬会社により報告されていること(いずれも、甲51a、甲51c、甲51d)
・甲52:パーキンソン病に対する治療薬として期待される特異的アデノシンA2AアンタゴニストであるKW-6002は、MPTP投与パーキンソン病モデルサルによりジスキネジアを中心とした運動障害を有意に改善することが報告されており、欧米では第II相臨床試験が終了していること(甲52a、甲52c)
・丙7:アデノシンA2A受容体は脳内分布は大脳基底核に限定され、特に線条体に豊富で、運動行動のコントロールで重大な役割を担っていると考えられているところ、KW-6002等のA2A受容体選択的アンタゴニストは運動機能に深い影響を及ぼし、数種の動物モデルで抗パーキンソン病活性を示したこと(丙7a)、ヒトにおける薬物作用の高度な予測が可能であるMPTP処置霊長類パーキンソン病モデル動物へのKW-6002の投与では、ジスキネジアを惹起することなく運動障害を有意に逆転させたことと(丙7b、丙7e)、A2A受容体アンタゴニストは、線条体及びGP(合議体注:淡蒼球)におけるA2A受容体を介したGABA作動性神経伝達の二重のコントロールを遮断し黒質線条体のドーパミン作動性システムの脱神経により発現した間接路の過剰な活性化の抑制をもたらすことにより、線条体-淡蒼球/線条体黒質の神経細胞の不均衡が正常な状態に移行し、結果的に運動機能が回復する可能性があること(丙7dの5.2.)、A2A受容体アンタゴニストは、パーキンソン病治療に新たな治療の可能性をもたらすものであり、このようなコンセプトにより、KW-6002は現在、特発性パーキンソン病に関する臨床試験中であること(丙7e)
・丙16:アデノシンA1及びA2受容体拮抗薬であるカフェイン及びテオフィリンによる抗パーキンソン効果に関し、カフェインには6-OHDA障害ラットモデルにおいてL-ドーパやドーパミン作動薬による治療増強効果が認められ、テオフィリンにはL-ドーパとの併用でパーキンソン病患者に症状改善が認められたこと(丙16a)、パーキンソン病の最適なモデルであるMPTP処置サルにおいて、投与濃度依存性な基礎運動量の回復(健常ザルの運動量程度まで)を認めた一方、L-ドーパ誘発性ジスキネジアもほぼ完全抑制されること、パーキンソン病症状の回復への単独投与やL-ドーパ減量にも有用性が確認されたこと(丙16bの2~4段落)、テオフィリンやカフェインなどの非選択的アデノシン受容体拮抗作用をもつ薬剤に比べ格段優れたアデノシンA2A受容体拮抗薬であるKW-6002について、英国及び日本において抗パーキンソン病薬として臨床開発中であるが、米国では既にパーキンソン病患者を対象としたフェーズII試験が先行していること(丙16bの1段落、丙16c)
・乙1:MPTP処置パーキンソン病モデルであり、L-ドーパ誘発性ジスキネジアを呈しているカニクイザルに、選択的アデノシンA2A受容体アンタゴニストであるKW-6002を単独投与又はL-ドーパ/ベンセラジドとの組合せ投与に曝露させることで、抗パーキンソン作用とジスキネテック効果の両方を評価したところ、KW-6002を単独投与することにより、L-ドーパ/ベンセラジドの有効性レベルに到達するほどの用量依存性抗パーキンソン応答が得られたが、ジスキネジアを再現する可能性は低かったこと、組合せ投与の場合、KW-6002はジスキネテック応答に影響を及ぼすことなしに、L-ドーパ/ベンセラジドの運動活性に対する効果を増強したことから、アデノシンA2A受容体アンタゴニストは、パーキンソン病の治療に有用な薬剤である可能性があること(乙1a、乙1c、乙1d)、A2A受容体サブタイプは、ヒトにおいて、線条体、側坐核、及び嗅結節に実質的に限定されており、線条体では、A2A受容体は、DA(ドーパミン)D2受容体を有し、エンケファリンを含有し、淡蒼球外節(GPe)に投射する同じ中型有棘神経細胞に共発現している(間接経路)こと(乙1b)、A2A結合部位は、パーキンソン病モデル動物であるラット、モルモットの線条体でも維持されているところ、アデノシンアンタゴニスはパーキンソン病のモデルラットにおいてDAアゴニストの行動効果を誘発して増強することから、選択的A2AアンタゴニストがPD治療に有用な可能性があることが示唆されたこと(乙1b)
(b) 上記(a)によれば、本件特許の優先日当時、従来のパーキンソン病の基本治療であるL-ドーパ製剤等によるドーパミン補充を中心とした療法とは異なるアプローチとして、ヒトにおいて、線条体、側坐核、及び嗅結節に実質的に限定して分布しており、特に線条体に豊富で運動行動のコントロールで重大な役割を担うと考えられているアデノシンA2A受容体に作用し、GABA作動性神経伝達の二重のコントロールを遮断し黒質線条体のドーパミン作動性システムの脱神経により発現した間接路の過剰な活性化を抑制することにより、線条体-淡蒼球/線条体黒質の神経細胞の不均衡を是正し、運動機能を回復させる可能性があるアデノシンA2A受容体アンタゴニストをパーキンソン病の治療薬とすることに注目が集まっていた。
また、オープン試験ではあるが、テオフィリン等の非選択的アデノシンA2A受容体アゴニストがヒトに対して抗パーキンソン作用を示したとの結果が得られていたこと、及び、当時の最も優れた選択的アデノシンA2A受容体アゴニストであったKW-6002について、MTPT処置霊長類を含めた各種パーキンソン病モデル動物で、ジスキネジアを誘発することなく、抗パーキンソン作用を発揮できることが確認されていたことを踏まえて、選択的アデノシンA2A受容体アゴニストであるKW-6002について、ヒトのパーキンソン病の治療薬として実際に使用する前提となる臨床試験が、日本、英国、米国において実施され、米国では、パーキンソン病患者を対象としたフェーズII試験も行われていたとおり、A2Aアンタゴニスト作用を有する薬物を実際にパーキンソン病の治療薬とするための臨床試験が、本件特許の優先時に既に行われていた。
第8 無効理由1-2(甲2に基づく新規性欠如)及び無効理由2-3(甲2を主引例とする進歩性欠如)について
事案に鑑み、無効理由1-2及び無効理由2-3について先に検討する。
1 無効理由1-2(甲2に基づく新規性欠如)について
(1)甲2に記載された技術的事項の内容
無効理由1-2及び2-3についての合議体の判断にあたり、前記第5の1の甲2の記載事項に基づいて、甲2に記載される内容の技術的な意味について順次検討する。
ア 甲2の記載事項の概要
(ア)タイトルの記載(甲2a)
甲2のタイトルの記載(甲2a)によると、甲2は、(i)L-ドーパとアデノシンA2AアンタゴニストKW-6002との併用は、MPTP処置をしたサルにおいて抗パーキンソン活性を増強すること(以下「(i)の効果」という。)、(ii)L-ドーパとKW-6002との併用は、MPTP処置をしたサルにおいてジスキネジアを増強させないこと(以下「(ii)の効果」という。)などを主題とするものであると解される(なお、甲2のタイトルには、L-ドーパに代えて選択的D1又はD2ドーパミンアゴニストとKW-6002との併用をした場合の効果を主題とする旨の記載もあるが、選択的D1又はD2ドーパミンアゴニストは、本件訂正発明の発明特定事項とされていないため、この点についての甲2の記載内容は、検討の必要がない。)。
(イ)要約の記載(甲2a)
a 甲2の要約には、(i)の効果に関し、「本研究において我々は、KW-6002がL-ドーパ・・・との組合せにおいて、MPTP処置コモン・マーモセットにおける抗パーキンソン活性を増強するか否かを検討した。」、「KW-6002と低投与量のL-ドーパとの組合せ投与もまた、運動障害における相加的改善をもたらし、自発運動活性を増大させた。」との記載がある。
b また、甲2の要約には、(ii)の効果に関し、「KW-6002は、抗パーキンソン応答の増強をもたらすにもかかわらず、あらかじめL-ドーパに暴露させることでジスキネジアを示すようにしておいたMPTP処置コモンマーモセットにおいて、L-ドーパ誘導性のジスキネジアを増悪させなかった。」との記載がある。
c そして、甲2の要約の末尾には、「KW-6002のような選択的アデノシンA2A受容体アンタゴニストは、パーキンソン病治療において使用されるL-ドーパの投与量を低減させる一手段である可能性があり、そして単独療法として並びにドーパミン作動性薬物との組合せの双方において、当該疾患の治療のための新規のアプローチである可能性がある。」との記載がある。
(ウ)試験結果
甲2には、次のとおり、図4試験のほか、その結果が図1に示された試験(以下「図1試験」という。)及びその結果が図5に示された試験(以下「図5試験」という。)が記載されている。
a 図1試験(「MPTP処置コモンマーモセットにおける自発運動活性及び運動障害に及ぼすKW-6002の効果」)(甲2e)
図1試験は、KW-6002によりもたらされる抗パーキンソン病活性の持続に関する試験(KW-6002の単独投与による抗パーキンソン病活性に関する試験)である。図1試験によると、KW-6002をMPTP処置コモンマーモセットに経口投与(10.0mg/kg)した場合、KW-6002の投与の7.5時間後までは、MPTP処置コモンマーモセットの自発運動活性の増大及び運動障害の改善が明らかであったが、投与の24時間後及び48時間後においては、運動障害の明らかな回復はみられなかった。
b 図4試験(「MPTP処置コモンマーモセットにおける自発運動活性及び運動障害に対するKW-6002とL-ドーパとの組合せの効果」)(甲2g)
図4試験は、KW-6002とL-ドーパとの組合せの効果に関する試験((i)の効果を確認するための試験)である。
図4試験によると、MPTP処置コモンマーモセットに対して、KW-6002(10.0mg/kg、経口)を、単独では抗パーキンソン病活性を示さない低投与量である「閾値量」のL-ドーパ(2.5mg/kg、経口、カルビドパ12.5mg/kgも併用)の投与の、90分前に組合せ投与した場合(これは、図4においては、KW-6002の投与の1.5時間後にL-ドーパを投与した結果として記載されている。)は、L-ドーパ(カルビドパ併用)の投与から6時間が経過した時点における自発運動活性及び運動障害に対して、閾値量のL-ドーパ(カルビドパ併用)による単独投与の場合と比較して有意な相加的応答がもたらされた。また、KW-6002の投与の24時間後にL-ドーパを投与した場合は、L-ドーパの作用は閾値量のL-ドーパ(カルビドパ併用)を単独で投与した場合に比較して増強された。そして、L-ドーパ(カルビドパ併用)の単独投与又はL-ドーパ(カルビドパ併用)とKW-6002との組合せは、常同行動やジスキネジアを誘発しなかった。
c 図5試験(「ジスキネジアを起こすようにL-ドーパで準備されたジスキネジアに対するKW-6002とL-ドーパの5日間連続の組合せの効果」)(甲2h)
図5試験は、ジスキネジアを起こすようにL-ドーパ(12.5mg/kg、経口、カルビドパ12.5mg/kgも併用)で処置されたMPTP処置コモンマーモセットにおけるKW-6002等の投与とジスキネジアの発生の関係に関する試験((ii)の効果を確認するための試験)である。図5試験においては、そのようなMPTP処置コモンマーモセットに対し、KW-6002(l0mg/kg/日)及びL-ドーパ(2.5mg/kg)を5日間にわたって毎日組合せ投与をした場合、L-ドーパを単独投与した場合にもたらされるのと同程度である中等度のジスキネジアが発生したとの結果が得られた。
(エ)考察の記載(甲2i~k)
a 甲2の考察には、(i)の効果に関し、上記(ウ)bの試験結果を踏まえ、「閾値投与量のL-ドーパとの組合せでKW-6002を投与したとき、キンピロールとの組合せで観察されたのと同様の挙動応答がもたらされた。最初、L-ドーパとKW-6002を一緒に投与したとき、相加的と見られる応答をもたらしたが、KW-6002の投与の24時間後においては、KW-6002それ自体は運動活性化をもたらしていなかったにもかかわらずL-ドーパの投与で挙動応答の増強がもたらされた。このことは、アデノシンA2A受容体の阻害を通じた線条体の間接出力経路の変調が、MPTP処置霊長類における運動障害を回復させる低投与量L-ドーパの能力を、有意に強化することを示している。」(甲2iの最終段落)との記載がされている。
b また、甲2の考察には、(ii)の効果に関し、上記(ウ)cの試験結果を踏まえ、「重要なことに、ジスキネジアを呈するよう準備されたMPTP処置コモンマーモセットに、閾値投与量のL-ドーパと共にKW-6002を投与したとき、この薬剤の組合せによりもたらされる抗パーキンソン活性の増強にもかかわらず、観察される不随意運動の大きさは、L-ドーパのみでもたらされるものに比べて大きくなかった。このことは、パーキンソン病の治療において重要な意味を持つ、というのも抗パーキンソン活性の増強は、例えばCOMT阻害剤の使用で通常起こるように、ジスキネジアの増強を伴うからである・・・。」(甲2j)との記載がされている。
c そして、甲2の考察の末尾には、「結論として、アデノシンA2A受容体アンタゴニストは、単独療法としてのみならず、L-ドーパ・・・との組合せで、パーキンソン病の有用な療法である可能性がある。特に、「ウェアリング-オフ」及び「オン-オフ」応答変動を有する患者において、KW-6002のような化合物は、ジスキネジアを長引かせることなしに「オン時間」を増加させることができる可能性がある。」との記載がされている(甲2k)。
イ 前記アによると、甲2には、次の技術的事項が記載されているものと認めるのが相当である。
(ア)MPTP処置コモンマーモセットに対してKW-6002を単独投与したところ、抗パーキンソン活性が投与から7.5時間後まで継続したとの結果(図1試験)が得られたことにより、KW-6002の単独療法は、パーキンソン病の治療のための新規のアプローチである可能性がある。
(イ)(i)の効果に関し、MPTP処置コモンマーモセットに対して、KW-6002(10.0mg/kg、経口)を、閾値量のL-ドーパ(2.5mg/kg、経口、カルビドパ12.5mg/kgも併用)の投与の、90分前に組合せ投与した場合、あるいは、閾値量のL-ドーパの投与の24時間前に組合せ投与した場合、L-ドーパの単独投与の場合と比較して、自発運動活性及び運動障害が改善したこと(図4試験)により、KW-6002は、単独では抗パーキンソン病活性を示さない低投与量(閾値量)のL-ドーパの能力を有意に強化することを示しており、アデノシンA2A受容体アンタゴニストは、L-ドーパとの組合せにより、パーキンソン病の有用な治療剤となる可能性がある。
(ウ)(ii)の効果に関し、抗パーキンソン活性の増強は、通常、ジスキネジアの増強を伴うところ、ジスキネジアを起こすようにL-ドーパで処置されたMPTP処置コモンマーモセットに対してKW-6002及びL-ドーパを組合せ投与した場合、L-ドーパを単独投与した場合に発生するジスキネジアと比較して、同程度であったとの結果(図5試験)が得られたことは、パーキンソン病の治療において重要な意味を持つ。
(2)甲2に記載された発明
甲2には、前記(1)ア(ウ)bに記載したとおり、自発運動活性と運動障害に対するKW-6002とL-ドーパとの組合せの効果に関し、図4試験の結果が記載されており、当該結果によれば、KW-6002(10.0mg/kg、経口)を、閾値量のL-ドーパ(2.5mg/kg、経口、カルビドパ12.5mg/kgも併用)の投与の、90分前あるいは24時間前に組合せ経口投与した場合、パーキンソン病モデル動物の自発運動活性と運動障害を改善する薬剤として有効であったことが理解できる。
そして、KW-6002は、「(E)-1,3-ジエチル-8-(3,4-ジメトキシスチリル)-7-メチル-3,7-ジヒドロ-1H-プリン-2,6-ジオン」(甲1a)であるから、甲2には、以下の発明が記載されていると認める。
「(E)-1,3-ジエチル-8-(3,4-ジメトキシスチリル)-7-メチル-3,7-ジヒドロ-1H-プリン-2,6-ジオン(KW-6002)を含有する薬剤であって、
MPTP処置コモンマーモセットに対して、閾値投与量のL-ドーパ(2.5mg/kg)及びカルビドパ(12.5mg/kg)が投与される90分前又は24時間前に、KW-6002(10.0mg/kg)が組合せ経口投与される、
自発運動活性と運動障害を改善する薬剤。」(以下「甲2発明」という。)
(3)本件訂正発明と甲2発明との対比
「3,7-ジヒドロ-1H-プリン-2,6-ジオン」は「キサンチン」ともいうから(必要であれば、J-GLOBAL「物質 キサンチン 日化辞番号:J2.371J(URL:https://jglobal.jst.go.jp/detail?JGLOBAL_ID=200907016155923672参照)、甲2発明の「(E)-1,3-ジエチル-8-(3,4-ジメトキシスチリル)-7-メチル-3,7-ジヒドロ-1H-プリン-2,6-ジオン(KW-6002)」(以下、単に「KW-6002」という。)は、本件訂正発明の「(E)-8-(3,4-ジメトキシスチリル)-1,3-ジエチル-7-メチルキサンチン」である。そうすると、甲2発明の「KW-6002を含有する」「薬剤」は、本件訂正発明の「(E)-8-(3,4-ジメトキシスチリル)-1,3-ジエチル-7-メチルキサンチンを含有する」「薬剤」に相当する。
また、本件特許の優先日当時、MPTPで処置されたコモンマーモセットはパーキンソン病モデル動物であることは技術常識であり(上記第7の1(1)(b))、甲2発明の「MPTP処置コモンマーモセット」は、パーキンソン病動物である限りにおいて、本件訂正発明の「パーキンソン病のヒト患者」と一致する。
そして、甲2発明の「L-ドーパ(2.5mg/kg)及びカルビドパ(12.5mg/kg)が投与される90分前又は24時間前に、KW-6002(10.0mg/kg)が組合せ経口投与される」は、本件訂正発明の「(E)-8-(3,4-ジメトキシスチリル)-1,3-ジエチル-7-メチルキサンチンを含有する薬剤」が、「L-ドーパと併用して」「対象に投与される」ことに相当する。
そうすると、本件訂正発明と甲2発明との一致点、相違点は以下のとおりである。
<一致点>
「(E)-8-(3,4-ジメトキシスチリル)-1,3-ジエチル-7-メチルキサンチンを含有する薬剤であって、
前記薬剤は、パーキンソン病動物を対象とし、
前記薬剤は、L-ドーパと併用して前記対象に投与される、薬剤。」
<相違点>
本件訂正発明は、「ヒト患者であって、L-ドーパ療法において、ウェアリング・オフ現象および/またはオン・オフ変動を示すに至った段階の患者」を対象とし、「前記薬剤は、前記L-ドーパ療法におけるウェアリング・オフ現象および/またはオン・オフ変動のオフ時間を減少させるために前記患者に投与され」、「前記L-ドーパ療法において」投与される薬剤であるのに対し、甲2発明は、「MPTP処置コモンマーモセット」を対象とする「自発運動活性と運動障害を改善する」薬剤である点。
(4)判断
MPTP処置コモンマーモセットと「パーキンソンのヒト患者」とは、明らかに別異の動物である。
また、第7の1(2)(b)に記載したとおり、ウェアリング・オフ現象及びオン・オフ変動が、L-ドーパを投与してドーパミンを補充するL-ドーパ療法を長期間行うことにより出現する状態であることは、本件特許の優先日当時の技術常識であるところ、甲2発明のMPTP処置コモンマーモセットは、KW-6002の投与前に長期間のL-ドーパ療法を受けていないから、甲2発明の薬剤が、L-ドーパ療法を長期間行うことにより出現する、本件訂正発明の「L-ドーパ療法において、ウェアリング・オフ現象および/またはオン・オフ変動を示すに至った段階」を「対象」とするものである点の発明特定事項を備えていないことは明らかである。
さらに、第7の1(2)(b)に記載したとおり、「L-ドーパ療法」は、ドーパミン前駆物質であるL-ドーパを投与してドーパミンを補充するドーパミン補充対症療法を基本としており、ドーパミン補充により、抗パーキンソン病の治療効果(薬効)が得られる用量での治療が前提となるといえるから、KW-6002と組み合わせて薬効を発揮しない閾値投与量のL-ドーパを投与する甲2発明は、本件訂正発明の「L-ドーパ療法」に相当するともいえず、甲2発明の薬剤は、「前記L-ドーパ療法におけるウェアリング・オフ現象および/またはオン・オフ変動のオフ時間を減少させるために」「L-ドーパ療法において」投与される薬剤である点の発明特定事項を備えているともいえない。
したがって、上記相違点において、本件訂正発明の対象と甲2発明の対象とは相違しているから、両発明は相違する。
(5)新規性に関する請求人及び参加人の主張について
ア 甲2記載の発明の認定についての請求人及び参加人の主張について
(ア)請求人の主張する甲2に記載の発明
請求人は、甲2記載の発明について明示的には記載していないものの、(i)甲2の結論の記載(甲2の326頁右欄40~最終行)のとおりの発明を認定するべきである旨を主張し(弁駁書6頁)、これに関し、口頭審理陳述要領書(以下「陳述要領書」という。)の21~22頁においては、結論に記載の発明は、甲2の緒言と図4試験記載から裏付けられる旨主張している。
<請求人が主張する甲2の結論に記載の発明>
「結論として、アデノシンA2A受容体アンタゴニストは、単独療法としてのみならず、L-ドーパ及びドーパミンアゴニスト薬剤との組合せで、パーキンソン病の有用な療法である可能性がある。特に、「ウェアリング-オフ」及び「オン-オフ」応答変動を有する患者において、KW-6002のような化合物は、ジスキネジアを長引かせることなく、「オン時間」を増加させることができる可能性がある。」
なお、上記の甲2の結論の記載は、第5の1で摘記した甲2の訳文の記載による。
(イ)参加人が主張する甲2に記載の発明
参加人は、陳述要領書8頁2(1)において、甲2記載の発明として、合議体が実験結果に基づいて認定する発明のみならず、弁駁書30頁14~17行で摘示したとおりの発明も認定されるべきである旨主張する。
そして、弁駁書29~30頁では、甲2では、アデノシンA2AアンタゴニストであるKW-6002は、単独療法(図1)で有意な抗パーキンソン効果を示しているのみならず、ドーパミン作動性の薬剤である、L-ドーパとの併用(図4)やドーパミンアゴニストであるSKF80723やキンピロールとの併用(図2、3)でも有意な抗パーキンソン効果を示していること、及び、2.5mg/kgのL-ドーパとの併用で有意な抗パーキンソン効果を示しているにもかかわらず(図4)、ジスキネジアを悪化させていないこと(図5)等から理解できる技術的事項を「結論」としてまとめて記載しているから、以下の発明が認定できる旨主張する。
<参加人が主張する甲2に記載の発明>
「KW-6002を含有する薬剤であって、
L-ドーパとの組合せで、『ウェアリング・オフ』及び『オン・オフ』応答変動を有する患者において、ジスキネジアを長引かせることなしに『オン時間』を増加させることができる可能性がある薬剤。」
(ウ)甲2記載の発明の認定等についての請求人及び参加人の主張について
a 請求人及び参加人が認定する甲2発明はともかく、合議体が認定した上記甲2発明は甲2の図4試験の結果の記載に基づくものであり、その認定に誤りはない。
b 念のため、上記(ア)及び(イ)の請求人及び参加人の主張について検討すると、甲2には、上記(1)で検討したとおりの技術的事項は記載されているが、甲2において、MPTP処置コモンマーモセットを用いてKW-6002の単独投与の効果を調べた試験(図1試験)、及びMPTP処置コモンマーモセットを用いてKW-6002及びL-ドーパの併用の効果を調べた試験(図4試験)のいずれも、MPTP処置コモンマーモセットは、長期間にわたってL-ドーパ療法を受けた動物ではなく、ウェアリング・オフ現象及び/又はオン・オフ変動を示すに至った動物でもない。
c また、第7の1(2)(b)に記載したとおり、「L-ドーパ療法」は、ドーパミン前駆物質であるL-ドーパを投与してドーパミンを補充するドーパミン補充対症療法を基本としており、ウェアリング・オフ現象等のL-ドーパの長期間の使用による問題が生じる場合であっても、L-ドーパは、例えば、一般に使用されている、末梢でのドーパミンへの変換を阻害するカルビドパ等の合剤を併用する場合を含め、少なくとも、L-ドーパによるドーパミン補充により、抗パーキンソン病の治療効果(薬効)が得られる濃度での治療が前提となるといえる。
そうすると、KW-6002と閾値量のL-ドーパの組合せ投与によるL-ドーパによる抗パーキンソン作用の増強の有無及び程度について調べる試験である図4試験は、有効量のL-ドーパの投与を前提とする「L-ドーパ療法」を再現した試験ですらない。
なお、本件訂正発明のKW-6002を含有する薬剤は、「L-ドーパ療法におけるウェアリング・オフ現象および/またはオン・オフ変動のオフ時間を減少させるために」、「L-ドーパ療法においてL-ドーパと併用して」対象に投与されるものであるところ、本件訂正発明における「L-ドーパ療法」に、甲2の図4に記載されるような閾値量のL-ドーパの併用の場合が含まれないことは、本件特許明細書の【0039】と【0040】に、「L-ドーパ療法」と「L-ドーパを減少して治療するための方法」が書き分けられ、実施例1に「L-ドーパで治療されたPD患者における補助療法としてのKW-6002の安全性および有効性についての・・・試験研究」(【0149】)と記載され、実施例2に、「アデノシンA2Aアンタゴニストの有効量と組み合わせることによって臨床上有効な量より少ないL-ドーパ(すなわち、L-ドーパ減量効果)でパーキンソン病患者を治療する」(【0159】)と記載されるように、実施例レベルでも「L-ドーパ療法」と「L-ドーパ減量療法」が書き分けられていることからも明らかであるし、そのことは、被請求人の陳述要領書の30~32頁の「6」において詳述されるとおりである。
また、乙1の記載(「KW-6002は、L-ドーパ/ベンセラジドの自発運動活性に対する作用を有意に増強(+30%)させた(図1参照)。L-ドーパ/ベンセラジドの作用の持続時間と比べて、明確な増強は認められなかった。」(乙1c)によると、本件特許の優先日当時、L-ドーパの作用の増強の有無及び程度とL-ドーパの作用の持続時間の長短とは区別されていたものと認められる。
d そうすると、甲2は、パーキンソン病のウェアリング・オフ現象及び/又はオン・オフ変動のオフ時間を減少させるための治療方法を見いだすために執筆された学術論文であるということはできないし、甲2の結論における、KW-6002のような化合物が、パーキンソン病のウェアリング・オフ現象及び/又はオン・オフ変動を有する患者において、ジスキネジアを長引かせることなく、「オン時間」を増加させることができる可能性がある旨の記載部分は、これを裏付ける試験結果等に基づいてされた実証的な記載であるということはできない。
したがって、請求人及び参加人がそれぞれに主張する上記の発明を甲2に記載された発明として認定することはできない。
イ 技術常識を考慮して甲2の図4試験の結果の記載を解釈すれば新規性が欠如する旨の請求人及び参加人の主張について
(ア)請求人の主張
請求人は、弁駁書の6~26頁(項目第3)において、甲2の図4試験の結果の記載の解釈にあたっては、L-ドーパとアデノシンA2A受容体アンタゴニスト(KW-6002)とは作用機序が異なるという甲2の前提となる技術常識を考慮して正しく理解する必要がある旨(項目2(7))を主張し、具体的に項目2(2)~(6)で、以下の(i)~(v)の主張をして、本件訂正発明は、甲2に記載された発明から新規性を欠如する旨主張する。
(i)L-ドーパとアデノシンA2A受容体アンタゴニスト(KW-6002)とは作用機序が異なり、L-ドーパの長期投与によりウェアリング・オフ現象やオン・オフ変動が生じたとしても、アデノシンA2A受容体アンタゴニストへの応答は変化しないと考えられていた(甲16、甲4)。そして、本件優先日当時、ウェアリング・オフ現象、オン・オフ変動の要因は、L-ドーパの吸収低下、半減期短縮、脳内移行低下といった末梢でのL-ドーパの動態の変化と、L-ドーパからドーパミンへの変化量低下、ドーパミンニューロンのドーパミン保持能低下、ドーパミンニューロンにおけるドーパミン受容体の感受性変化といった中枢でのドーパミンに関する変化、つまり、L-ドーパに対する生体の応答の変化と考えられており(甲14、甲10、甲15)、L-ドーパの長期投与によりL-ドーパの薬効が得られなくなるほどドーパミンニューロンが変化していても、作用機序が異なる薬剤であるKW-6002の薬効により、ウェアリング・オフ現象の改善が得られると理解できる。(項目2(2))
(ii)ウェアリング・オフ現象のオフ時間減少効果が生じる作用機序は、L-ドーパの作用時間の延長に限定されるものではなく、KW-6002のアデノシンA2A受容体拮抗作用によってもたらされてもよく、KW-6002が抗パーキンソン効果を発揮して、結果としてオフ時間を減少させれば、本件訂正発明にいう「オフ時間の減少」に該当する。(項目2(3))
(iii)そうすると、ウェアリング・オフ現象やオン・オフ変動を生じていないモデル動物を用いてもオフ時間減少効果を評価できる。(項目2(4))
(iv)本件優先日当時、L-ドーパ療法において、ウェアリング・オフ現象の改善のために、L-ドーパ投与量を低減し、オフ時間を減少させる薬剤と併用することはよく知られていた(甲14、甲15、甲21)し、本件訂正発明には閾値量のL-ドーパとの併用投与も含まれるから、甲2の図4試験でKW-6002を閾値量のL-ドーパと併用投与することで、抗パーキンソン病活性が認められたことに基づいて、KW-6002についての、ウェアリング・オフ現象のオフ時間減少という医薬用途を導き出せる。(項目2(5))
(v)L-ドーパと併用したKW-6002が長時間薬効を発揮して、その分パーキンソン病症状を示す時間が短くなれば、本件訂正発明の「オフ時間の減少」に該当する。図4試験から、KW-6002はL-ドーパの作用を24時間にわたって増強するから、ウェアリング・オフ現象において、L-ドーパの薬効が得られないオフ時間にも、KW-6002が抗パーキンソン病活性を発揮することは明らかであり、それはオフ時間の減少として現れる。そうすると、図4試験でL-ドーパの作用時間の延長を実証していないことは、KW-6002のオフ時間減少効果の実証を妨げない。(項目2(6))
(イ)参加人の主張
参加人は弁駁書の16~20頁において、以下の旨主張する。
(i)丙8の図を修正したとする図(これは、弁駁書7頁脚注の2にも記載のとおり、丙7の説明のための模式図として参加人が提出した丙8の図3をさらに修正した図である。)にも示されるように、KW-6002は、L-ドーパとは異なる作用機序によってアデノシンを抑制することでバランスを保ち、正常な運動機能を実現してパーキンソン病を治療するものであるし、L-ドーパと併用する場合にも抗パーキンソン効果が得られているから、ウェアリング・オフ現象が現れる段階に至った患者の場合にも、アデノシンA2A受容体を介した抗パーキンソン効果に影響がなく、オフ時間を減少させることができるであろうことは、当業者であれば当然に理解できる。(項目(2))
(ii)本件訂正発明では、L-ドーパの投与量や投与間隔は限定されておらず、L-ドーパの投与量に関わらず、KW-6002を併用することでオフ時間を減少させることができれば、それで本件訂正発明は新規性を欠くことになるところ、甲2の図4試験においては、KW-6002が、低用量(閾値量)のL-ドーパとの併用でも有意な効果を示すこと、L-ドーパとの併用効果が24時間にわたって継続することが示されているのであるから、図4試験こそ、KW-6002がウェアリング・オフのオフ時間を減少させることを端的に示しているといえる。(項目(3))
(ウ)請求人の主張及び参加人の主張について
a 請求人の上記主張(ア)(i)~(v)及び参加人の上記主張(イ)(i)、(ii)は、要するに、本件訂正発明には閾値量のL-ドーパとの併用投与も含まれるところ、ウェアリング・オフ現象、オン・オフ変動の要因は、L-ドーパに対する生体の応答の変化であるから、L-ドーパの長期投与によりL-ドーパの薬効が得られなくなるほど生体の応答が変化しても、L-ドーパとは作用機序が異なるアデノシンA2A受容体アンタゴニスト作用に基づく薬剤であるKW-6002が薬効を発揮して、その分パーキンソン病症状を示す時間が短くなれば、「オフ時間の減少」ができ、KW-6002を閾値量のL-ドーパと組合せ投与することにより抗パーキンソン病活性が認められた甲2の図4試験の結果から、KW-6002をウェアリング・オフ現象のオフ時間を減少するためのものとするという医薬用途を導き出せる、したがって、本件訂正発明は、甲2に記載された発明から新規性を欠如するというものである。
b しかしながら、まず、本件訂正発明に閾値量のL-ドーパとの併用投与が含まれるかについては、すでにア(ウ)で記載したとおり、単独では薬効を発揮しない閾値量のL-ドーパを使用する甲2の図4試験は、少なくとも本件訂正発明の「L-ドーパ療法」を再現した試験とはいえない。
c(i) 次に、甲2の図4試験の結果から、当業者が、L-ドーパとは作用点の異なるKW-6002の組合せ投与により、アデノシンA2A受容体アンタゴニストであるKW-6002により、長期のL-ドーパ療法により生じたウェアリング・オフ現象等のオフ時間を減少させるという医薬用途を導き出せるかについて検討する。
(ii) 第7の1(2)(b)に記載のとおり、L-ドーパ療法を長期に行うことにより生じるウェアリング・オフ現象やオン・オフ変動の重要な発生原因としては、ドーパミンニューロンの変性によるドーパミン保持能の低下やドーパミン受容体の感受性の低下、前シナプスや後シナプスにおける事象の関与等が推測されていたものの、これらの発生原因についての直接の証明はなく、十分には解明されていないことが本件特許の優先日当時の技術常識であったし、また、第7の1(3)(b)に記載のとおり、L-ドーパ療法を長期に行うことにより生じるウェアリング・オフ現象の対策としては、(i)脳内のドーパミンの濃度を一定に維持できるようにするための手法(L-ドーパの投与回数を増やす、L-ドーパの代謝酵素であるCOMT阻害剤を併用する、MAO-B阻害薬の併用、ドーパミン合成の長期持続活性を有する薬剤の併用)及び(ii)L-ドーパよりも作用時間が長く、ドーパミン様作用を長期化できるドーパミンアゴニストを併用する手法が知られていたが、これらはいずれも、ドーパミン補充療法としてのL-ドーパ療法を補完して、ドーパミン受容体を介する抗パーキンソン病効果を前提とするものであり、また、オン・オフ変動の対策として、L-ドーパの1回投与量を減らし投与回数を増やして血中L-ドーパ濃度を一定にする、ドーパミンレセプター安定作用を有するブロモクリプチンを投与するといった手法が既知であった(甲17a)が、本件特許の優先日当時、作用機序が異なる複数のパーキンソン病治療薬を併用しさえすれば、L-ドーパ療法におけるウェアリング・オフ現象やオン・オフ変動におけるオフ時間を減少できるといった技術常識が存在していたとはいえない。
(iii) そうすると、KW-6002のような、アデノシンA2A受容体アンタゴニスト作用に基づく薬剤の併用により、L-ドーパの場合とは作用機序が異なるアデノシンA2A受容体アンタゴニスト作用に基づく抗パーキンソン効果が発揮される場合に、当該抗パーキンソン効果により、長期のL-ドーパ療法により生じたウェアリング・オフ現象等のオフ時間を減少させることが可能であることが本件特許の優先日当時の当業者が自明に理解した事項であるとは解されないのであるから、
甲2の図4試験の結果から、当業者が、L-ドーパとは作用機序の異なるKW-6002の組合せ投与により、アデノシンA2A受容体アンタゴニストであるKW-6002により、長期のL-ドーパ療法により生じたウェアリング・オフ現象等のオフ時間を減少させるという医薬用途を導き出せるとはいえない。
d 以上のとおりであるから、本件訂正発明は甲2に記載された発明から新規性を欠如する旨の請求人及び参加人の上記(ア)及び(イ)の主張を採用することはできない。
ウ 動物モデルにおける試験結果からヒトに対する医薬用途発明が認定できる旨の主張について
(ア) 請求人は、弁駁書の26~27頁において、関連先行無効審判事件(無効2020-800034)の審決において、甲2(関連先行無効審判事件における甲1)に関し、以下のa~eの主張をしているので、念のため検討する。
a 動物モデルにおける効果が実証されているのみの場合に、ヒト患者に対する医薬の効果が実証されていないためにその刊行物に医薬用途が記載されていないとするならば、出願日前に臨床試験結果が公表されていない限り医薬用途発明は新規性があることになるが、現実の医薬開発では、動物モデルで薬効が確認された後に臨床試験に進むことを考慮すれば、動物モデルでの薬効はヒトでの薬効を示すといえ、ヒトでの臨床試験結果がない限り医薬用途発明の新規性を否定できないとするのは誤りである。
b 知財高裁の判決においても、医薬用途発明の構成要件としての用法用量が知られていたか否かは、動物モデルでの試験結果に基づき判断してよいことが述べられている。
c MPTP処置マーモセットなどの霊長類が、ヒトパーキンソン病の病態に極めて近い動物であることは、本件特許の優先日当時の技術常識であった。
d MPTP処理霊長類を用いてヒトパーキンソン病患者への応用を念頭においた甲2の図4試験が、L-ドーパにKW-6002を併用投与すると、24時間にわたり薬効を発揮してL-ドーパの抗パーキンソン病活性を補完することを示している以上、L-ドーパの投与によりウェアリング・オフ現象が生じているヒトパーキンソン病患者に、KW-6002を併用投与すれば、L-ドーパの抗パーキンソン病活性が補完されてオフ時間が減少することは明らかであり、当業者は当然このような理解をするからこそ、甲2は、その実験結果に基づき、KW-6002がウェアリング・オフ現象のオン時間を増加(オフ時間を減少)させるという結論を導いたものである。
e よって、引用文献に医薬用途発明が開示されているか否かを認定するに当たって、モデル動物がヒトパーキンソン病患者と別異の動物であることを根拠とするのは妥当ではなく、医薬用途を認定する範囲でこれを同一視することは何ら問題がない。
(イ) 上記(ア)で記載した請求人の主張について検討すると、MPTP処置マーモセットがヒトパーキンソン病の病態に近い動物モデルであることは、優先日当時の技術常識ではあったが(第7の1(1)(b)参照。)、本件訂正発明の薬剤は、L-ドーパ療法におけるウェアリング・オフ現象および/またはオン・オフ変動のオフ時間を減少させるために前記患者に投与されるものであるところ、甲2発明において試験に使用されているMPTP処置パーキンソン病モデルマーモセットが、L-ドーパ療法において、ウェアリング・オフ現象及び/又はオン・オフ変動を示すに至った段階の患者のモデル動物であるとの本件特許の優先日当時の技術常識があったとはいえない。加えて、上記ア(ウ)cで記載したとおり、甲2の図4試験は、有効量のL-ドーパの投与を前提とする「L-ドーパ療法」を再現した試験ですらないし、上記イ(ウ)cで記載したとおり、図4試験の結果から、KW-6002により、長期のL-ドーパ療法により生じたウェアリング・オフ現象等のオフ時間を減少させるという医薬用途を導き出せるともいえない。
したがって、請求人の上記(ア)の主張を採用することはできない。
(6)小括
以上のとおりであるから、本件訂正発明は、甲2に記載された発明ではなく、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえない。
よって、本件訂正発明に係る特許を、無効理由1-2によって無効とすることはできない。
2 無効理由2-3(甲2を主引例とする進歩性欠如)について
無効理由2-3は、上記第4の1(2)で記載したとおり、「本件訂正発明は、甲2に記載された発明、甲1~甲8に記載された事項、及び本件特許の優先日前の技術常識に基いて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。」という理由に基づくものである。
(1)甲2に記載された発明
甲2には、上記1(2)で記載したとおりの甲2発明が記載されていると認められる。
(2)本件訂正発明と甲2発明との対比
本件訂正発明と甲2発明との一致点、相違点は、上記1(3)で記載したとおりである。
(3)判断
ア 相違点について
(ア) 上記1(5)ア(ウ)において説示したとおり、甲2は、パーキンソン病のウェアリング・オフ現象及び/又はオン・オフ変動のオフ時間を減少させるための治療方法を見いだすために執筆された学術論文であるということはできないし、甲2の結論における、KW-6002のような化合物が、パーキンソン病のウェアリング・オフ現象及び/又はオン・オフ変動を有する患者において、ジスキネジアを長引かせることなく、「オン時間」を増加させることができる可能性がある旨の記載部分は、これを裏付ける試験結果等に基づいてされた実証的な記載であるということはできない。
(イ) また、MPTP処置コモンマーモセットは、ヒトのパーキンソン病に近い病態モデル動物ではあるが(第7の1(1)(b))、当該動物が、L-ドーパ療法において、ウェアリング・オフ現象及び/又はオン・オフ変動を示すに至った段階の患者のモデル動物であるとの本件特許の優先日当時の技術常識があるとはいえない。
(ウ) 甲2には、上記1(1)ア(ウ)に記載したとおり、図1試験の結果として、KW-6002をMPTP処置コモンマーモセットに経口投与(10.0mg/kg)した場合、KW-6002の投与の7.5時間後までは、MPTP処置コモンマーモセットの自発運動活性の増大及び運動障害の改善が明らかであったことが記載され、図4試験の結果として、同じ用量のKW-6002を、単独では抗パーキンソン病活性を示さない低投与量である「閾値量」のL-ドーパの投与の、90分前に組合せ投与した場合、L-ドーパ(カルビドパ併用)の投与から6時間が経過した時点における自発運動活性及び運動障害に対して、閾値量のL-ドーパ(カルビドパ併用)による単独投与の場合と比較して有意な相加的応答がもたらされ、また、KW-6002の投与の24時間後にL-ドーパを投与したときは、L-ドーパの作用は閾値量のL-ドーパ(カルビドパ併用)を単独で投与した場合に比較して増強されたことが示されており、KW-6002が単独で抗パーキンソン病効果を有する可能性、及び、「閾値量」のL-ドーパがKW-6002の作用を増強する可能性があることは示されているといえる。
しかしながら、上記1(5)イ(ウ)cで記載したとおり、L-ドーパ療法を長期に行うことにより生じるウェアリング・オフ現象やオン・オフ変動の重要な発生原因としては、ドーパミンニューロンの変性によるドーパミン保持能の低下やドーパミン受容体の感受性の低下、前シナプスや後シナプスにおける事象の関与等が推測されていたものの、これらの発生原因についての直接の証明はなく、十分には解明されていないことが本件特許の優先日当時の技術常識であったし、L-ドーパ療法を長期に行うことにより生じるウェアリング・オフ現象の対策として知られていた手法はいずれも、ドーパミン補充療法としてのL-ドーパ療法を補完して、ドーパミン受容体を介する抗パーキンソン病効果を前提とするものであり(第7の1(3)(b))、また、オン・オフ変動の対策としては、血中L-ドーパ濃度を一定にする、ドーパミンレセプター安定作用を有するブロモクリプチンを投与するといった手法は既知であった(甲17a)が、本件特許の優先日当時、作用機序が異なる複数のパーキンソン病治療薬を併用しさえすれば、L-ドーパ療法におけるウェアリング・オフ現象やオン・オフ変動のオフ時間を減少できるといった技術常識が存在していたとはいえない。
(エ) 加えて、以下に記載するとおり、甲1、甲3~8の技術的事項を参酌しても、これらの文献からは、動物実験レベルですら、本件特許の優先日当時、KW-6002に限らず、アデノシンA2A受容体アンタゴニストによってアデノシンA2A受容体を遮断することにより、ウェアリング・オフ現象やオン・オフ変動が改善できることが実証されていたとはいえない。
a 甲1には、後述の第9の1(4)イ(ア)で指摘するとおりの記載があり、甲1の著者は、KW-6002のような化合物が、パーキンソン病のウェアリング・オフ現象を有する患者において、ウェアリング・オフ現象のオフ時間を減少させる可能性があると認識していたことが理解できるが、後述の第9の1(4)イ(ウ)(エ)で説示するとおり、甲1にKW-6002によりパーキンソン病患者におけるウェアリング・オフ現象のオフ時間を減少させることが実証されているとはいえない。
b 甲3には、後述の第11の1で指摘することが記載されており、甲3には、アデノシン受容体アンタゴニストであるテオフィリンが、ウェアリング・オフ現象を有する進行期パーキンソン病の患者のオフ時間の持続を減少させる作用を有する旨の記載がされているが、第11の3(3)(4)で後述するとおり、当業者は、甲3に基づいて、KW-6002においても、進行期パーキンソン病のウェアリング・オフ現象におけるオフ時間を減少させることができることまでを合理的に推認できたとはいえない。
c 甲4には、後述の第10の1及び3(1)ア(ア)で指摘することが記載されており、KW-6002がパーキンソン病の治療における新規の非ドーパミン作動性アプローチとなる可能性があることが示されているが、甲4には、ウェアリング・オフ現象又はオン・オフ変動に関し、序文に、パーキンソン病の治療のためのドーパミン補充療法では、薬効の喪失などが引き起こされることが記載されるのみで、その他にウェアリング・オフ現象やオン・オフ変動についての記載はないから、甲4は、ウェアリング・オフ現象やオン・オフ変動のオフ時間の増減に関するKW―6002の作用を何ら開示し、又は示唆するものではない。
d 甲7には、MPTP処置コモンマーモセットに対するKW-6002(10mg/kg、経口)の投与により、自発運動活性の増大が10~11時間まで持続したこと、常同運動等のような異常運動は引き起こされなかったことが記載されているのみであり(第5の1の甲7の記載事項)、甲7は、ウェアリング・オフ現象やオン・オフ変動のオフ時間の増減に関するKW-6002の作用を何ら開示し、又は示唆するものではない。
e 甲8はコモンマーモセットについての説明が記載されているのみであり、甲6には、6-ヒドロキシドーパミン病変を有するラットにおいて、レボドパやテオフィリン等の抗パーキンソン病薬の薬理作用が確認されたことが記載されているのみ(甲6のSUMMARY、Fig.3、5)であるし、甲5(これは甲10の一部に相当する。)には、パーキンソン病におけるL-ドーパ療法によりウェアリング・オフ現象が生じること、その改善にドーパミンアゴニストの併用やL-ドーパの血中濃度を一定にする対策があること等について記載されている(第5の1の甲10の記載事項)が、これらの文献には、ウェアリング・オフ現象やオン・オフ変動のオフ時間の増減に関するKW―6002の作用を何ら開示し、又は示唆するものではない。
(オ) さらに、当事者により提出された本件特許の優先日当時に既知の他の証拠のいずれの文献からも、動物実験レベルですら、本件特許の優先日当時、KW-6002に限らず、アデノシンA2A受容体アンタゴニストによってアデノシンA2A受容体を遮断することにより、ウェアリング・オフ現象やオン・オフ変動が改善できることが実証されていたとはいえない。
(カ) 以上のとおり、(i)甲2の結論における、KW-6002のような化合物が、パーキンソン病のウェアリング・オフ現象及び/又はオン・オフ変動を有する患者において、ジスキネジアを長引かせることなく、「オン時間」を増加させることができる可能性がある旨の記載部分は、これを裏付ける試験結果等に基づいてされた実証的な記載であるということはできないし、(ii)本件特許の優先日当時、作用機序が異なる複数のパーキンソン病治療薬を併用しさえすれば、L-ドーパ療法におけるウェアリング・オフ現象やオン・オフ変動のオフ時間を減少できるといった技術常識が存在していたともいえない。また、(iii)当事者により提出された本件特許の優先日当時に既知のいずれの文献からも、動物実験レベルですら、本件特許の優先日当時、KW-6002に限らず、アデノシンA2A受容体アンタゴニストによってアデノシンA2A受容体を遮断することにより、ウェアリング・オフ現象やオン・オフ変動が改善できることが実証されていたとはいえない。
そうすると、本件特許の優先日当時の当業者は、当事者により提出された証拠に記載される本件特許の優先日当時既知の知見及び技術常識を参酌しても、甲2の記載から、甲2発明のKW-6002を含有する薬剤によりパーキンソン病の患者におけるウェアリング・オフ現象やオン・オフ変動のオフ時間を減少させることができること、すなわち、KW-6002を含む薬剤が、本件訂正発明の「L-ドーパ療法におけるウェアリング・オフ現象および/またはオン・オフ変動のオフ時間を減少させるために」使用できることを推認できたとはいえない。
したがって、本件特許の優先日当時の当業者は、甲1、3~8を含め、当事者により提出された証拠に記載される本件特許の優先日当時既知の知見及び技術常識を参酌しても、甲2の記載から、MPTP処置コモンマーモセットにおいて閾値投与量のL-ドーパ(カルビドパ併用)と組合せ投与されて自発運動活性と運動障害を改善する作用を有するKW-6002を含有する甲2発明の薬剤を、「L-ドーパ療法において、ウェアリング・オフ現象および/またはオン・オフ変動を示すに至った段階の患者」を対象とし、「前記薬剤は、前記L-ドーパ療法におけるウェアリング・オフ現象および/またはオン・オフ変動のオフ時間を減少させるために前記患者に投与され」、「前記L-ドーパ療法において」投与される薬剤として、相違点に係る本件訂正発明の医薬用途(用法)の構成を備えたものとすることに容易に想到し得たものと認めることはできない。
イ 効果について
上記第6で記載したとおり、本件特許明細書には、実施例1として、二重盲検、プラセボ対照、無作為、パラレル群の多施設試験研究による臨床試験の結果、ウェアリング・オフをはじめとするL-ドーパ関連の運動合併症を伴うパーキンソン病患者に、L-ドーパとともに、KW-6002を4週間ごとに、3段階((5/10/20mg/日)、又は(10/20/40mg/日)のいずれか漸増的用量)を投与したKW-6002群の被験者では、プラセボ群の被験者と比較して、オフ時間における有意な減少があったこと(図1)が記載されている。
そして、上記アで記載したとおり、当業者は、甲1~8を含め当事者により提出された証拠に示される本件特許の優先日当時既知の知見及び技術常識を参酌しても、甲2の記載から、甲2発明のKW-6002により、パーキンソン病患者においてウェアリング・オフ現象のオフ時間を減少させることができることを合理的に推認できたとはいえないのであるから、本件特許明細書に記載の上記効果は、甲1~8を含め、当事者により提出された本件特許の優先日前既知の証拠や技術常識を示すいずれの証拠からも予測し得なかった効果である。
(4)請求人及び参加人の主張について
ア 甲2の図4試験の結果から認定される発明についての請求人の主張について
請求人は、仮に、甲2の図4試験の結果の記載から発明を認定する場合には、以下の発明を認定するべきである旨主張する(陳述要領書の22~24頁)。
<請求人が主張する甲2の図4試験の結果から認定される発明>
「KW-6002を含有する薬剤であって、MPTP処置コモンマーモセットに対して、閾値投与量のL-ドーパ(2.5mg/kg)及びカルビドパ(12.5mg/kg)が投与される90分前又は24時間前に、KW-6002が組み合わせ投与され、KW-6002が24時間にわたり抗パーキンソン病活性を持続して、L-ドーパと併用された状態で自発運動活性と運動障害を改善する、薬剤。」(下線は、請求人による。)
そこで、検討すると、請求人が認定する上記発明はともかくとして、上記1(5)ア(ウ)aで記載したとおり、合議体が認定した甲2発明に誤りはない。
請求人の主張する上記発明について念のために検討する。
請求人の主張する発明は、「KW-6002が(単独で)24時間にわたり抗パーキンソン病活性を持続」すると解釈し得るところ、上記1(1)で説示したとおり、甲2の図4試験では、KW-6002を閾値量のL-ドーパ投与の24時間前に組合せ投与した場合にL-ドーパの単独投与の場合と比較して自発運動活性及び運動障害を改善することが示されている一方、図1試験では、「KW-6002による治療の24及び48時間後の動物観察時には運動障害の明らかな回復は見られなかった」(甲2e)と記載されているから、甲2から、「KW-6002が24時間にわたり抗パーキンソン病活性を持続して」との技術事項を導くことはできないから、甲2の記載から、請求人が主張する上記発明を認定することはできない。
イ 進歩性の判断についての請求人及び参加人の主張について
(ア) 請求人の主張
請求人は、弁駁書の40~51頁の項目「2」、特に、項目(1)(2)(4)(6)において、以下の旨主張する。
(i) 甲2図4試験で用いた動物が、ウェアリング・オフ現象を生じていないパーキンソン病モデル動物であり、ウェアリング・オフ現象を生じたヒトパーキンソン病患者である本件訂正発明と異なるとしても、L-ドーパとKW-6002のようなアデノシンA2A受容体アンタゴニスト化合物とは作用機序が異なっており、ウェアリング・オフ現象を生じていても生じていなくてもKW-6002の薬効・挙動は変わらないことが、本件優先日当時の種々の証拠から良く知られていたのであるから、当業者であれば、ウェアリング・オフ現象を生じていない動物モデルでの「オフ時間減少を示唆する効果」、しかも結論としてオフ時間減少の可能性が指摘されている効果を、ウェアリング・オフ現象が生じたヒト患者に適用してみようとすることは容易に動機付けられる。(項目(1)、(6))
(ii) 仮に、甲2の図4試験が甲2の結論を裏付けていないとしても、本件訂正発明の用途は甲2の結論部分に開示されているから、当該記載を目にした当業者であれば、甲2から本件訂正発明の構成を容易に想到できる。(項目(2))
(iii) 甲2を主引例とする進歩性欠如の無効理由において、問題となるのは、甲2の開示内容から、KW-6002をパーキンソン病のヒト患者に使用することが想到できるか否かであるが、この点は、甲2に「結論として、アデノシンA2A受容体アンタゴニストは・・・L-ドーパ及びドーパミンアゴニスト薬剤と組み合わせて、パーキンソン病の有用な療法である可能性がある。特に、『ウェアリング-オフ』及び『オン-オフ』反応変動を有する患者において、KW-6002のような化合物は、ジスキネジアを延長することなく、『オン時間』を増加させることができる可能性がある」との記載があるから、当業者は、KW-6002をパーキンソン病のヒト患者に使用することを極めて容易に想到できる。
また、本件優先日当時、KW-6002が米国でパーキンソン病患者を対象としたフェーズII試験が行われていることが知られていたから、甲2の結論の記載に従って、当業者は、KW-6002をパーキンソン病のヒト患者の臨床試験を実施することは当然可能と理解する。(項目(4))
(イ) 参加人の主張
参加人は、弁駁書の49~56頁の項目「第3」「1」、特に、51~54頁1段落において、以下の旨主張する。
(i) 甲2図1試験はKW-6002の単独投与であるが、本件訂正発明は併用されるL-ドーパの用量も、タイミングも、限定していないから、例えば1日のうちのL-ドーパの投与と投与の狭間のタイミングで生じるオフ時間に、KW-6002を単独投与することでパーキンソン病の症状を治療できるのであれば、その結果オフ時間は減少することは自明であり、その構成において本件訂正発明と異なるものではない。
(ii) 甲2図4試験の動物モデルがL-ドーパを継続投与されたモデルではない点は被請求人のいう条件1に関して述べたとおりであるし、本件訂正発明は併用されるL-ドーパの用量を限定していないのであるから、甲2図4試験で併用されるL-ドーパが閾値用量である点は、本件訂正発明と構成において異なるものではない。
また、(ii)の条件1に関し、弁駁書の16~18頁の項目(2)では、以下の主張をする。
(iii) ウェアリング・オフ現象の際に現れる「オフ」状態というのは、L-ドーパが効いていない、すなわちパーキンソン病の症状を示している状態のことであり、条件(合議体注:L-ドーパの計測的な投与によって進行期特有の病態が現れるようにした動物モデルを使用するという条件)を満たさない試験であっても、パーキンソン病に効くことが確認されれば、ウェアリング・オフ現象のオフ時間に生じるパーキンソン病の症状も治療できることは、当業者であれば当然に理解できる。
(ウ) 請求人の主張及び参加人の主張について
a 請求人及び参加人の上記主張は、要するに、
(i) 本件訂正発明には閾値量のL-ドーパとの併用投与も含まれているし、ウェアリング・オフ現象、オン・オフ変動が生じる状態も、L-ドーパとは作用機序が異なるアデノシンA2A受容体アンタゴニスト作用に基づく薬剤であるKW-6002が抗パーキンソン病効果を発揮することで「オフ時間の減少」ができる(すなわち、KW-6002をL-ドーパと併用することでウェアリング・オフ現象のオフ時間を減少することができる)ことは図4試験に裏付けられている、という、上記1(5)イ(ア)で記載した請求人の主張とほぼ同様の主張(請求人の上記主張(ア)(i)及び参加人の上記主張(イ)(i)~(iii))、及び、
(ii) 甲2の図4試験が甲2の結論を裏付けていないとしても、本件訂正発明の用途は甲2の結論部分に開示されているから、当該記載を目にした当業者であれば、甲2から本件訂正発明の構成を容易に想到できる(請求人の上記主張(ア)(ii)、(iii))、
というものである。
b そこで、検討すると、
(i) 上記(i)の主張に関し、まず、単独では薬効を発揮しない閾値量のL-ドーパを使用する甲2の図4試験は、少なくとも本件訂正発明の「L-ドーパ療法」を再現した試験とはいえないことは、上記1(5)イ(ウ)bで記載したとおりである。
また、L-ドーパ療法を長期に行うことにより生じるウェアリング・オフ現象やオン・オフ変動の重要な発生原因としては、十分には解明されていないことが本件特許の優先日当時の技術常識であったこと、ウェアリング・オフ現象の対策として知られていた手法は、ドーパミン補充療法としてのL-ドーパ療法を補完して、ドーパミン受容体を介する抗パーキンソン病効果を前提とするものであり、本件特許の優先日当時、作用機序が異なる複数のパーキンソン病治療薬を併用しさえすれば、L-ドーパ療法におけるウェアリング・オフ現象のオフ時間を減少できるといった技術常識が存在していたとはいえないことも、上記1(5)イ(ウ)cで記載したとおりであることを踏まえれば、KW-6002をL-ドーパと併用することでウェアリング・オフ現象のオフ時間を減少することが図4試験に裏付けられている旨の請求人及び参加人の主張は採用できない。
(ii) 上記(ii)の主張に関しては、上記2(3)アで記載したとおり、本件特許の優先日当時の当業者は、当事者により提出された証拠に記載される本件特許の優先日当時既知の知見及び技術常識を参酌しても、甲2の記載から、甲2発明のKW-6002を含有する薬剤によりパーキンソン病の患者におけるウェアリング・オフ現象やオン・オフ変動のオフ時間を減少させることができること、すなわち、KW-6002を含む薬剤が、本件訂正発明の「L-ドーパ療法におけるウェアリング・オフ現象および/またはオン・オフ変動のオフ時間を減少させるために」使用できることを推認できたとはいえないのであるし、上記2(3)イで記載したとおり、本件訂正発明の効果は、甲1~8を含め、当事者により提出された本件特許の優先日前既知の証拠や技術常識を示すいずれの証拠からも予測し得なかった効果なのであるから、甲2の結論部分に本件訂正発明の用途が開示されているとしても、そのことをもって、本件訂正発明が、本件特許の優先日当時既知の知見及び技術常識を参酌することで、甲2発明から当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
よって、上記(ii)の主張も採用できない。
(5)小括
以上のとおりであるから、本件訂正発明について、甲2に記載された発明、甲1~8に記載された事項、及び本件特許の優先日前の技術常識に基いて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできず、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるということはできない。
よって、本件訂正発明に係る特許を、無効理由2-3によって無効とすることはできない。
第9 無効理由1-1(甲1に基づく新規性欠如)及び無効理由2-2(甲1を主引例とする進歩性欠如)について
1 無効理由1-1(甲1に基づく新規性欠如)について
(1)甲1に記載された発明
甲1には、L-ドーパにより誘導される回転運動に及ぼす新規のアデノシンA2A受容体アンタゴニストであるKW-6002((E)-1,3-ジエチル-8-(3,4-ジメトキシスチリル)-7-メチル-3,7-ジヒドロ-1H-プリン-2,6-ジオン)の効果を、片側6-ヒドロキシドーパミン病変を有するラットにおいて検討したところ、L-ドーパによって誘導される回転運動を、3mg/kg経口の投与量で強化したこと(甲1aの要約)、より具体的には、病変後のラットを半球状の試験ボウルに入れ、L-ドーパを、KW-6002を、L-ドーパの投与の30分前に経口投与したところ、KW-6002(3mg/kg経口)は、3mg/kg経口又は10mg/kg経口の投与量のL-ドーパにより誘導される回転の総カウントを有意に増加させたこと(甲1dの2.4.並びに甲1eの3.3.及び図4(B))が記載されている。
また、甲1には、6-ヒドロキシドーパミン病変を有するラットが、候補化合物の有効性を評価するための最も信頼性のあるパーキンソン病動物モデルの一つであることが記載されている(甲1b)し、第7の1(1)(b)に記載したとおり、片側性の6-ヒドロキシドーパミン病変を有するラットがパーキンソン病モデル動物であることは本件特許の優先日当時の技術常識であった。
そうすると、甲1には、以下の発明が記載されていると認める。
「アデノシンA2A受容体アンタゴニストである(E)-1,3-ジエチル-8-(3,4-ジメトキシスチリル)-7-メチル-3,7-ジヒドロ-1H-プリン-2,6-ジオン(KW-6002)を含有する薬剤であって、
パーキンソン病のモデル動物である片側性の6-ヒドロキシドーパミン病変を有するラットにおいて、
L-ドーパの投与の30分前に経口3mg/kgで投与され、経口3mg/kg又は経口10mg/kgでのL-ドーパの投与により誘導される回転行動の総カウントを、有意に増加させる作用を有する、薬剤。」(以下「甲1発明」という。)
(2)本件訂正発明と甲1発明との対比
上記第8の1(3)で記載したとおり、「3,7-ジヒドロ-1H-プリン-2,6-ジオン」は「キサンチン」ともいわれるし、化合物の命名において、キサンチン上の置換基のどの位置から順に命名しても化合物としては同じであるから、甲1発明の「(E)-1,3-ジエチル-8-(3,4-ジメトキシスチリル)-7-メチル-3,7-ジヒドロ-1H-プリン-2,6-ジオン(KW-6002)」(以下、単に「KW-6002」という。)は、本件訂正発明の「(E)-8-(3,4-ジメトキシスチリル)-1,3-ジエチル-7-メチルキサンチン」に相当する。そうすると、甲1発明の「KW-6002を含有する」「薬剤」は、本件訂正発明の「(E)-8-(3,4-ジメトキシスチリル)-1,3-ジエチル-7-メチルキサンチンを含有する」「薬剤」に相当する。
また、甲1発明の「パーキンソン病のモデル動物である片側6-ヒドロキシドーパミン病変を有するラット」は、パーキンソン病動物である限りにおいて、本件訂正発明の「パーキンソン病のヒト患者」と一致する。
そして、甲1発明の「アデノシンA2A受容体アンタゴニストである(E)-1,3-ジエチル-8-(3,4-ジメトキシスチリル)-7-メチル-3,7-ジヒドロ-1H-プリンー2,6-ジオン(KW-6002)を含有する薬剤」が「L-ドーパの投与の30分前に経口3mg/kgで投与され」ことは、本件訂正発明の「(E)-8-(3,4-ジメトキシスチリル)-1,3-ジエチル-7-メチルキサンチンを含有する薬剤」が、「L-ドーパと併用して」「対象に投与される」ことに相当する。
そうすると、本件訂正発明と甲1発明との一致点、相違点は以下のとおりである。
<一致点>
「(E)-8-(3,4-ジメトキシスチリル)-1,3-ジエチル-7-メチルキサンチンを含有する薬剤であって、
前記薬剤は、パーキンソン病動物を対象とし、
前記薬剤は、L-ドーパと併用して前記対象に投与される、薬剤。」
<相違点>
本件訂正発明の薬剤は、「ヒト患者であって、L-ドーパ療法において、ウェアリング・オフ現象および/またはオン・オフ変動を示すに至った段階の患者」を対象とし、「前記L-ドーパ療法におけるウェアリング・オフ現象および/またはオン・オフ変動のオフ時間を減少させるために前記患者に投与され」、「前記L-ドーパ療法」において投与される薬剤であるのに対し、
甲1発明の薬剤は、「パーキンソン病のモデル動物である片側性の6-ヒドロキシドーパミン病変を有するラット」を対象とし、「L-ドーパの投与の30分前に経口3mg/kgで投与され、経口3mg/kg又は経口10mg/kgでのL-ドーパの投与により誘導される回転行動の総カウントを、有意に増加させる作用を有する」薬剤である点。
(3)判断
甲1発明の「パーキンソン病のモデル動物である片側性の6-ヒドロキシドーパミン病変を有するラット」と本件訂正発明の「パーキンソンのヒト患者」とは、明らかに別異の動物である。
また、上記第7の1(2)(b)に記載したとおり、ウェアリング・オフ現象及びオン・オフ変動が、L-ドーパを投与してドーパミンを補充するL-ドーパ療法を長期間行うことにより出現する状態であることは、本件特許の優先日当時の技術常識であるところ、甲1発明の「パーキンソン病のモデル動物である片側性の6-ヒドロキシドーパミン病変を有するラット」は、KW-6002の投与前に長期間のL-ドーパ療法を受けていないから、甲1発明の薬剤が、L-ドーパ療法を長期間行うことにより出現する、本件訂正発明の「L-ドーパ療法において、ウェアリング・オフ現象および/またはオン・オフ変動を示すに至った段階」を「対象」とするものである点の発明特定事項を備えていないことは明らかである。
したがって、上記相違点は、実質的な相違点である。
(4)請求人及び参加人の主張について
ア 甲1記載の発明の認定及び甲1の記載に基づく新規性欠如についての請求人及び参加人の主張
(ア) 請求人は、陳述要領書において、甲1に「最後に、本研究の知見は、パーキンソン病の対症療法のための重要な意味を有している可能性がある。最も初期のパーキンソン病患者は終日、L-ドーパから持続する一貫した利益を得る。しかしながら、パーキンソン病が進行するにつれ、利益の持続時間は短くなる(ウェアリング・オフと呼ばれる)。L-ドーパの抗パーキンソン病作用の持続時間の基調をなす短縮を、応答強度を増強することなしに選択的に元に戻すことのできる薬物は、かなりの価値を有するかも知れない。なぜなら、ピークドーズジスキネジアを誘導させるというリスクなしに、ウェアリング・オフ現象が消失するだろうからである(Papaら、1995)。したがって、KF17837及びKW-6002は、進行したパーキンソン病の治療において補助薬として有用である可能性がある。」(254頁右欄7~20行;合議体注:指摘箇所の適記は甲1gによった。)との記載があることを指摘し、また、「審判請求書21頁16行~22頁16行で述べた通り、この記載は、訂正発明の全構成要件を備える。」(すなわち、新規性がない)旨主張している(陳述要領書25~26頁)。
そして、審判請求書では「甲第1号証が示す実験データは、本件特許の発明者が認める通り、KW-6002がオフ時間を減少させることを導くのに十分な実験データなのである」と主張する(審判請求書21~22頁の「(4-1)甲第1号証に対する新規性の欠如」)。
(イ) 参加人は、甲1に記載の発明について、甲1の要約欄の10~13行(甲1aの最後の文)、249頁左欄2~10行の記載(甲1bの1段落)、254頁右欄9~20行(甲1gの1段落の2文目以降)及び図1試験~図4試験の結果の記載(甲1d~甲1e)等を指摘して、弁駁書44頁下から2行~45頁2行に記載したとおりの以下の発明を認定するべきである旨主張するとともに、本件訂正発明は、甲1に基づいて新規性を欠く旨主張する。(弁駁書39頁~49頁の「4」及び「5」並びに陳述要領書6頁)。
<参加人が主張する甲1に記載の発明>
「KW-6002を含有する薬剤であって、
L-ドーパとの組合せで、進行期パーキンソン病患者におけるL-ドーパの抗パーキンソン病効果の持続の根本的な減少を、ピークドーズ ジスキネジアを誘導するリスクなしに回復する可能性がある薬剤。」
イ 上記アの請求人及び参加人の主張について
請求人及び参加人が認定する甲1に記載の発明はともかくとして、合議体が認定した上記甲1発明は、甲1の図4(B)に示される結果等の記載に基づくものであり、その認定に誤りはない。
ここで、念のため、請求人及び参加人が主張するように、甲1に、KW-6002がパーキンソン病患者におけるウェアリング・オフ現象のオフ時間を減少させることが実証されており、本件訂正発明は甲1に基づいて新規性を否定され得るかについて検討する。
(ア) 甲1におけるウェアリング・オフ現象のオフ時間の改善に関する記載
甲1の要約には、アデノシンA2A受容体アンタゴニストであるKF17837及びKW-6002が、アポモルヒネにより誘導される回転の総カウントを有意に増加させたことが記載され、この増加が主として回転持続時間の延長によるものと思われること、これらの結果は、アデノシンA2A受容体アンタゴニストが、進行したパーキンソン病患者におけるドーパミン作動薬剤応答の持続時間の短縮を緩和するのに有用である可能性があることを示唆することが記載されている(甲1a)。
また、「緒言」として、パーキンソン病に対する現在の療法はドーパミン補充療法に基づいているが、この利益がジスキネジアやウェアリング・オフ変動の発生を含む長期合併症によって損なわれることから、非ドーパミン性受容体を標的とするメカニズムが、魅力的な代替アプローチであり、アデノシンA2A受容体アンタゴニストは、その様な新規の療法の候補であることが記載され(甲1bの1段落)、さらに、甲1の研究の知見が、パーキンソン病の対症療法のための重要な意味を有している可能性があること、パーキンソン病が進行するにつれて生じるL-ドーパの利益の持続時間の短縮(ウェアリング・オフ現象)を、応答強度を増強することなしに選択的に元に戻すことのできる薬物は、ピークドーズジスキネジアを誘発させるというリスクなしに、ウェアリング・オフ現象を消失するであろうから、かなりの価値があるかもしれないこと、したがって、KW-6002は、進行したパーキンソン病の治療において補助薬として有用である可能性があること(甲1g)が記載されている。
そうすると、甲1は、甲1の著者が、L-ドーパ療法において進行期のパーキンソン病患者に発生するウェアリング・オフ現象への対応をも念頭において行った研究であり、甲1の試験結果を受けて、著者は、KW-6002のような化合物が、パーキンソン病のウェアリング・オフ現象を有する患者において、ジスキネジアを長引かせることなく、ウェアリング・オフ現象を消失する(つまり、「オフ時間」を減少させる)可能性があると認識していたことは理解できる。
(イ) 甲1の図1~図4の試験について
a 図1(B)に示される「6-ヒドロキシドーパミン病変ラットにおけるアポモルヒネ(0.1mg/kg皮下注射)注射後の回転の総カウントに対する、・・・KW-6002(B)の効果」の試験(以下「図1試験」という。)の結果によれば、6-ヒドロキシドーパミン病変ラットへのアデノシンA2A受容体アンタゴニストであるKW-6002の経口投与は、30分後に注射投与されたドーパミン受容体アゴニストであるアポモルヒネにより誘導される回転の総カウントを増加させたことが確認された(甲1d)。
b 図2(D)~(G)に示される「6-ヒドロキシドーパミン病変ラットにおける、アポモルヒネ(0.1mg/kg皮下)誘導対側回転運動に対する・・・KW-6002の効果」の試験(以下「図2試験」という。)の結果によれば、6-ヒドロキシドーパミン病変ラットにおけるアポモルヒネの注射の30分前に経口投与されたKW-6002は、アポモルヒネにより誘導される回転運動の持続時間を延長したことが確認された。
そして、表1によれば、KW-6002は、アポモルヒネにより誘導される回転運動の持続時間を最大で25%延長した(甲1d)。
c 図3に示される「6-ヒドロキシドーパミン病変ラットにおいて、・・・KW-6002(1mg/kg、経口)が、アポモルヒネ(1mg/kg皮下注射)により誘発される回転挙動に及ぼす効果」の試験(以下「図3試験」という。)の結果によれば、6-ヒドロキシドーパミン病変ラットにおいて、アデノシンA2A受容体アゴニストであるCGS21680が事前投与されていた場合には、アポモルヒネにより誘導される回転数が減少する(図3の中央の棒グラフ)が、さらにアデノシンA2A受容体アンタゴニストであるKW-6002を加えると回転数が部分的に回復した(図3の右端の棒グラフ)(甲1d)。
d 図4に示される「6-ヒドロキシドーパミン病変ラットにおけるL-ドーパ投与後の回転の総カウントに対する、KF17837(A)及びKW-6002(B)の効果」の試験(以下「図4試験」という。)の結果によれば、6-ヒドロキシドーパミン病変ラットへの3mg/kg又は10mg/kgのL-ドーパ経口投与の30分前に投与されたKW-6002(3mg/kg、経口)は、L-ドーパにより誘導される回転の回転数を有意に増加させた(甲1e、甲1fの最終段落)。
(ウ) 甲1に、KW-6002によりパーキンソン病患者におけるウェアリング・オフ現象のオフ時間を減少させることが実証されているとはいえないこと
a 甲1には、図1試験~図4試験の結果として、上記(イ)に記載したことが示されている。しかしながら、図1試験~図4試験は、いずれも、長期間にわたってL-ドーパ療法を受け、ウェアリング・オフ現象を示すに至った段階の動物を用いた試験ではなく、上記試験結果は、L-ドーパ療法においてウェアリング・オフ現象を示すに至った段階の対象(動物)においてKW-6002が、運動持続時間の短縮を回復させる、すなわち、オフ時間を減少させることを直接的に示すものではなく、これらの試験結果から、甲1に、KW-6002によりパーキンソン病患者におけるウェアリング・オフ現象のオフ時間を減少させることが実証されているとはいえない。
b(a) 参加人は、弁駁書の41~48頁において、以下の旨を主張する。
(i-1) 甲1では、図1試験によって、アデノシンA2AアンタゴニストであるKF17837及びKW-6002が、ドーパミン作用性の薬剤(アポモルヒネ)の抗パーキンソン効果を増強することが確認され、それを受けて図2試験で、その増強作用が主にL-ドーパによる応答運動(抗パーキンソン病作用)の持続時間の延長によるものであることが確認され、さらに、そのことを前提として図4試験で、同様の増強効果がアポモルヒネ以外のドーパミン作動性の薬剤であるL-ドーパとの併用でも観察されることを検証しており、当業者である甲1の著者は、図2試験と図4試験の結果を合わせて考慮することで、KW-6002がL-ドーパとの併用においても持続時間の延長をもたらしていると理解している。
(i-2) そして、アポモルヒネとL-ドーパの性質の違いはあるとしても、それは、結局ドーパミン作動性の因果経路(丙8の図でいう右側の経路)における相違に過ぎず、これに対しKW-6002はそれとは異なる非ドーパミン作動性の因果経路(丙8の図でいう左側の経路)に作用する薬剤であるから、アポモルヒネとL-ドーパの性質の違いによって、KW-6002の作用が定性的に変化してしまうなどとは考えられない。
(b) また、参加人は、上記(i-2)の丙8の図に基づく主張に関し、弁駁書6~14頁第1の1において、大脳基底核からの出力シグナルの調節によるパーキンソン病治療に基づく以下の旨の主張をしている。
(ii-1) 丙8の図からも理解できるとおり、パーキンソン病の機序を理解する上で重要なのは、大脳基底核の中にある神経細胞(大脳皮質運動野へ向けた抑制性シグナルの出力装置として働く。)が、(アデノシンA2A受容体を介して)アデノシンによっては興奮して働き、ドーパミンによっては抑制されて働くということであり、正常な状態ではこれらはバランスされているが、パーキンソン病になると、ドーパミンが減少する結果、アデノシンによる興奮性のシグナルと、ドーパミンによる抑制性のシグナルのバランスが崩れ、アデノシンによる興奮性のシグナルが優勢になる。パーキンソン病の治療法は、大脳基底核からの出力シグナルの調節、つまり、(アデノシンA2A受容体を介した)アデノシンによる興奮性のシグナルと、ドーパミンによる抑制性のシグナルのバランスをとることであり、そのためには、L-ドーパ等のドーパミン系の薬剤により抑制性のシグナルを増強するか、アデノシンA2A受容体に対して拮抗作用を有する薬剤(アンタゴニスト)によりアデノシンA2A受容体を抑制することになる。ドーパミン補充療法とアデノシンA2Aアンタゴニスト療法は、別の機序により、パーキンソン病を治療するものである。
なお、丙8の図は、弁駁書7頁脚注の2にも記載のとおり、丙7の説明のために参加人が提出した図であり、参加人は、丙7の記載の理解が容易となるように、丙7に記載のパーキンソン病の機作の記載を簡易に表現するものとして丙8の模式図を示し、大脳基底核からの出力シグナルのバランス(興奮性シグナルと抑制しシグナルのバランス)として、簡易に説明している。この審決においても、理解を容易とするためにそのように簡易に記載しているが、その詳細については、丙7c、丙7dの記載及び第7の2(b)の記載を参照のこと。)
(ii-2) 「ウェアリング・オフ」現象の際に現れる「オフ」状態というのは、パーキンソン病の症状を示している状態のことであって、患者がパーキンソン病とは異なる別の症状を呈している状態ではなく、L-ドーパが効いていない状態である「ウェアリング・オフ現象」の結果生じる症状はパーキンソン病それ自体である。
したがって、「ウェアリング・オフ現象」のオフ時間を減少させるとは、パーキンソン病を発症している患者の症状を緩和すること以外のなにものでもなく、本件訂正発明の「L-ドーパ療法において、ウェアリング・オフ現象および/またはオン・オフ変動を示すに至った段階の患者」が示す「オフ時間」についても、パーキンソン病の症状を呈している時間であり、その「オフ時間を減少させるために前記患者に投与され」とは、パーキンソン病の症状を呈している患者に対して、(L-ドーパとは作用機序が異なる)別のパーキンソン病治療薬(KW-6002)を併用投与して、オフ時間におけるパーキンソン病の症状を抑える(オフ時間を減少させる)ということを意味している。
(ii-3)そして、そのような本件訂正発明は、甲1に開示されている発明そのものである。
c 上記bの参加人の主張について検討する。
(a) 参加人の主張(i-1)、(i-2)に関し、甲1には、KW-6002がL-ドーパとの併用においても持続時間の延長をもたらしていることを示す試験結果は記載されていないし、アポモルヒネとL-ドーパが、共にドーパミン受容体に作用して回転運動を誘導する薬剤であるとしても、両化合物の違いにかかわらず、アポモルヒネの場合に確認される現象が、L-ドーパの場合でも必ず確認されることが技術常識であるとまではいえないから、甲1の著者の理解はともかくとして、図2試験の結果を、L-ドーパとの併用の場合と同視することはできない。
(b) 仮に、参加人が(i-2)で主張するように、アポモルヒネとL-ドーパは、共に、ドーパミン作動性の因果経路(丙8の図でいう右側の経路)における相違に過ぎず、図2試験と図4試験の結果を合わせて考慮することで、KW-6002がL-ドーパとの併用の場合にもL-ドーパにより誘導される回転運動の持続時間の延長をもたらすと当業者が理解する場合であっても、以下に(c)~(e)で説示するとおり、当業者は、KW-6002によりパーキンソン病患者におけるウェアリング・オフ現象やオン・オフ変動のオフ時間を減少させることができることまでは理解できない。
(c) 上記bの参加人の主張(ii-1)~(ii-3)に関し、弁駁書6~14頁第1の1において参加人が主張するとおり、本件特許の優先日当時、パーキンソン病は、大脳基底核からの出力シグナルであるアデノシンによる興奮性のシグナルと、ドーパミンによる抑制性のシグナルのバランスが崩れた状態であり、両者のバランスをとることで、パーキンソン病が治療できるとの考えに基づき、アデノシンA2A受容体アンタゴニストをパーキンソン病の治療薬とすることに注目が集まっていた。
(d) しかしながら、L-ドーパ療法を長期に行うことにより生じるウェアリング・オフ現象やオン・オフ変動の発生原因としては、ドーパミンニューロンの変性によるドーパミン保持能の低下やドーパミン受容体の感受性の低下、前シナプスや後シナプスにおける事象の関与等が推測されていたものの、発生原因についての直接の証明はなく、十分には解明されていないことが、本件特許の優先日当時の技術常識であった(第7の1(2)(b))し、ウェアリング・オフ現象の改善対策については、(i)脳内のドーパミンの濃度が一定に維持できるようにするための手法、及び、(ii)L-ドーパよりも作用時間が長く、ドーパミン様作用を長期化できるドーパミンアゴニストを併用する手法を採用して行うことは技術常識であった(第7の1(3)(b)参照)が、これらの手法はいずれも、ドーパミン補充療法としてのL-ドーパ療法を補完して、ドーパミン受容体を介する抗パーキンソン病効果を前提とするものであり、また、オン・オフ変動の改善対策としては、血中L-ドーパ濃度を一定にする、ドーパミンレセプター安定作用を有するブロモクリプチンを投与するといった手法が既知であった(甲17a)が、本件特許の優先日当時、作用機序が異なる複数のパーキンソン病治療薬を併用しさえすれば、L-ドーパ療法におけるウェアリング・オフ現象やオン・オフ変動のオフ時間を減少できるといった技術常識が存在していたとはいえない。
(e) そして、L-ドーパとの併用の場合にも、KW-6002がアポモルヒネの場合と同様に、L-ドーパにより誘導される回転運動の持続時間の延長をもたらすと当業者が理解する場合であっても、甲1では、当該回転運動の持続がドーパミン受容体を介するL-ドーパの抗パーキンソン病作用によるものであることの確認はされておらず、当該甲1の図2試験で確認された持続時間の延長がどのようなメカニズムによって奏されたのかは不明なのであるから、当業者は、KW-6002の併用による回転運動の持続時間の延長が、上記(d)で記載したような、従来ウェアリング・オフ現象の改善やオン・オフ変動の改善のための対策として知られていたドーパミン受容体を介する作用によるものであると理解することはできない。かえって、参加人がアデノシンA2A受容体アンタゴニストによりパーキンソン病治療が行えることを説明した丙8の模式図に示される機作によれば、甲1の図2試験で確認された回転運動の持続時間の延長は、ドーパミン受容体を介する作用ではないと理解するともいえる。
そうすると、甲1の記載から、KW-6002がL-ドーパとの併用の場合にもL-ドーパにより誘導される回転運動の持続時間の延長をもたらすと当業者が理解する場合であっても、本件特許の優先日当時の技術常識を踏まえれば、KW-6002によりパーキンソン病の対象におけるウェアリング・オフ現象やオン・オフ変動のオフ時間を減少させることができることを当業者が理解できるとはいえない。
(エ) したがって、甲1に、KW-6002による、L-ドーパ療法を行うパーキンソン病患者におけるウェアリング・オフ現象のオフ時間の改善(オフ時間の減少)について裏付け(実証)がされているとはいえない。
(オ) 以上のとおり、甲1は、甲1の著者がL-ドーパ療法において進行期のパーキンソン病患者に発生するウェアリング・オフ現象への対応をも念頭において行った研究であり、甲1に、KW-6002のような化合物が、パーキンソン病のウェアリング・オフ現象を有する患者において、ジスキネジアを長引かせることなく、ウェアリング・オフ現象を消失する可能性がある旨の記載がされているとしても、甲1に、KW-6002がL-ドーパ療法を行うパーキンソン病の患者におけるウェアリング・オフ現象のオフ時間を減少できることが実証されているとはいえない。
よって、本件訂正発明について、甲1から新規性を否定し得るとはいえない。
ウ 付言
請求人は、弁駁書の26~27頁において、関連先行無効審判事件(無効2020-800034)の審決において、甲2に基づく新規性の判断に対する主張ではあるが、以下のaの主張をしており、甲1についても同様の議論が当てはまるので念のため検討する。
a 動物モデルにおける効果が実証されているのみの場合に、ヒト患者に対する医薬の効果が実証されていないためにその刊行物に医薬用途が記載されていないとするならば、出願日前に臨床試験結果が公表されていない限り医薬用途発明は新規性があることになるが、現実の医薬開発では、動物モデルで薬効が確認された後に臨床試験に進むことを考慮すれば、動物モデルでの薬効はヒトでの薬効を示すといえ、ヒトでの臨床試験結果がない限り医薬用途発明の新規性を否定できないとするのは誤りである。
知財高裁の判決においても、医薬用途発明の構成要件としての用法用量が知られていたか否かは、動物モデルでの試験結果に基づき判断してよいことが述べられている。
よって、引用文献に医薬用途発明が開示されているか否かを認定するに当たって、モデル動物がヒトパーキンソン病患者と別異の動物であることを根拠とするのは妥当ではなく、医薬用途を認定する範囲でこれを同一視することは何ら問題がない。
b aの主張について検討すると、動物モデルにおいてある薬効が実証されている場合に、当該薬効に基づく医薬用途が推認できる場合はあるが、動物モデルで薬効が得られれば、必ずヒトでも同様の薬効が奏されるとの技術常識があるとはいえないし、本件特許の優先日当時、パーキンソン病の治療薬に関し、甲1発明の動物モデルである、片側性の6-ヒドロキシドーパミン病変を有するパーキンソン病モデルラットにおいて特定の薬効が確認されれば、ヒト患者においても同様の薬効が必ず認められるとの技術常識が存在していたものと認めるに足りる証拠もない。
加えて、丙16に「パーキンソン病でもカフェインのL-ドーパ製剤増強効果が期待されていた.実際に,6-OHDA(合議体注:甲1の6-ヒドロキシドーパミンのこと)で中脳黒質ドーパミンニューロンを傷害したラットではL-ドーパやドーパミン作動薬による治療増強効果が認められたが1)肝心なパーキンソン病患者には無効であった2).一方,テオフィリンの使用ではL-ドーパとの併用でパーキンソン病患者に著明な症状改善が認められた3).」(丙16aのI.)との記載がみられるように、本件特許の優先日当時の当業者は、パーキンソン病の治療薬の開発の分野においては、ラットモデル動物において特定の薬効が確認されたとしても、必ずしもヒト患者においても同様の薬効が認められるとは限らないものと認識していたことがうかがわれる。
さらに、甲1発明において試験に使用されている「パーキンソン病のモデル動物である片側性の6-ヒドロキシドーパミン病変を有するラット」についても、L-ドーパ療法において、ウェアリング・オフ現象及び/又はオン・オフ変動を示すに至った段階の患者のモデル動物であるとの本件特許の優先日当時の技術常識があるとはいえないし、かえって、乙2に、「片側にのみ6-ドロキシドーパミンによって障害を負わせたラットは、3週間に渡って1日2回レボドパ/ベンセラジド(25/6.25mg/kg)を投与され、ウェアリング・オフ現象を伴うパーキンソン病患者に生じているのと同様の、レボドパへの運動応答の持続時間の累進的な短縮を示した。」と記載され、L-ドーパ(レボドパ)の長期投与によりウェアリング・オフ現象を伴うパーキンソン病患者に生じているのと同様のL-ドーパへの運動応答の持続時間の累進的な短縮を示すモデル動物を作成したことが記載されている。
エ したがって、本件訂正発明の対象と甲1発明の対象とが相違する点は、実質的な相違点であり、本件訂正発明と甲1発明は相違する。
(5)小括
以上のとおりであるから、本件訂正発明は、甲1に記載された発明ではなく、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるとはいえない。
よって、本件訂正発明に係る特許を、無効理由1-1によって無効とすることはできない。
2 無効理由2-2(甲1を主引例とする進歩性欠如)について
無効理由2-2は、上記第4の1(2)で記載したとおり、「本件訂正発明は、甲1に記載された発明、甲1~甲3及び甲5~甲8に記載された事項、並びに本件特許の優先日前の技術常識に基いて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。」という理由に基づくものである。
(1)甲1に記載された発明
甲1には、上記1(2)で記載したとおりの甲1発明が記載されていると認められる。
(2)本件訂正発明と甲1発明との対比
本件訂正発明と甲1発明との一致点、相違点は、上記1(2)で記載したとおりである。
(3)判断
ア 相違点についての判断
(ア) 上記1(4)イ(ア)に記載したとおり、甲1の記載から、甲1の著者は、甲1の試験結果を受けて、KW-6002のような化合物が、パーキンソン病のウェアリング・オフ現象を有する患者において、ジスキネジアを長引かせることなく、ウェアリング・オフ現象を消失する(つまり、「オフ時間」を減少させる)可能性があると認識していたことは理解できる。
しかしながら、上記1(4)イ(ウ)、(エ)に記載したとおり、本件特許の優先日当時の技術常識を踏まえた当業者は、甲1に、KW-6002によりパーキンソン病の対象におけるウェアリング・オフ現象のオフ時間を減少させることができることが実証されているとは認識できない。
また、上記1(4)イ(ウ)c(d)でも記載したとおり、L-ドーパ療法を長期に行うことにより生じるウェアリング・オフ現象やオン・オフ変動の重要な発生原因としては十分には解明されていないことが、本件特許の優先日当時の技術常識であった(第7の1(2)(b))し、ウェアリング・オフ現象の対策は、ドーパミン補充療法としてのL-ドーパ療法を補完して、ドーパミン受容体を介する抗パーキンソン病効果を前提とするものであり(第7の1(3)(b))、オン・オフ変動の対策は、血中L-ドーパ濃度を一定にする等は既知であったが(甲17a)、本件特許の優先日当時、作用機序が異なる複数のパーキンソン病治療薬を併用しさえすれば、L-ドーパ療法におけるウェアリング・オフ現象やオン・オフ変動のオフ時間を減少できるといった技術常識が存在していたとはいえない。加えて、上記第8、及び後述の第10及び第11での説示のとおり甲2、甲4及び甲3や、甲5~甲8を含め、当事者により提出された証拠のいずれからも、動物実験レベルですら、本件特許の優先日当時、KW-6002に限らず、アデノシンA2A受容体アンタゴニストによってアデノシンA2A受容体を遮断することにより、ウェアリング・オフ現象やオン・オフ変動が改善できることが実証されていたとはいえない。
(イ) そうすると、本件特許の優先日当時の当業者は、甲2~甲8を含め、当事者により提出された証拠のいずれからも、本件特許の優先日当時既知の知見及び技術常識を参酌しても、甲1の記載から、甲1発明のKW-6002を含有する薬剤によりパーキンソン病の患者におけるウェアリング・オフ現象やオン・オフ変動のオフ時間を減少させることができること、すなわち、KW-6002を含む薬剤が、本件訂正発明の「L-ドーパ療法におけるウェアリング・オフ現象やオン・オフ変動のオフ時間を減少させる」ために使用できることを推認できたとはいえないのであるから、甲1発明のKW-6002を含有する薬剤を、「L-ドーパ療法において、ウェアリング・オフ現象および/またはオン・オフ変動を示すに至った段階の患者」を対象とし、「前記薬剤は、前記L-ドーパ療法におけるウェアリング・オフ現象および/またはオン・オフ変動のオフ時間を減少させるために前記患者に投与され」、「前記L-ドーパ療法において」投与される薬剤として、相違点に係る本件訂正発明の構成を備えたものとすることを、容易に想到することができたとはいえない。
イ 効果について
上記第6で記載したとおり、本件特許明細書には、実施例1として、二重盲検、プラセボ対照、無作為、パラレル群の多施設試験研究による臨床試験の結果、ウェアリング・オフをはじめとするL-ドーパ関連の運動合併症を伴うパーキンソン病患者に、L-ドーパとともに、KW-6002を4週間ごとに、3段階((5/10/20mg/日)、又は(10/20/40mg/日)のいずれか漸増的用量)を投与したKW-6002群の被験者では、プラセボ群の被験者と比較して、オフ時間における有意な減少があったこと(図1)が記載されている。
そして、上記ア(イ)に記載したとおり、当業者は、甲1~8を含め当事者により提出された証拠に示される本件特許の優先日当時既知の知見及び技術常識を参酌しても、甲1の記載から、甲1発明のKW-6002を含有する薬剤によりパーキンソン病の患者におけるウェアリング・オフ現象のオフ時間を減少させることができることを推認できたとはいえないのであるから、本件特許明細書に記載の上記効果は、甲1~8を含め、当事者により提出された本件特許の優先日前既知の証拠や技術常識を示すいずれの証拠からも予測し得なかった効果である。
ウ 請求人及び参加人の主張について
(ア) 請求人の主張について
a 請求人は、弁駁書の52頁において、甲1が、本件訂正発明の医薬用途を実証していないとしても、本件訂正発明の全構成を備える記載があるにもかかわらず、試験結果により当該用途が裏付けられていない限り本件訂正発明に対する示唆すら与えないとすれば、新規性と進歩性の判断基準が同じになってしまい、特許法が29条1項とは別に同条2項を設けた意義が損なわれ不合理であるから、本件訂正発明は、本件訂正発明の全構成を記載している甲1から容易に想到できるものである旨主張する。
b しかしながら、上記1(4)イ(ウ)、(エ)で説示したとおり、本件特許の優先日当時の技術常識を踏まえても、当業者は、甲1の記載からは、KW-6002によりパーキンソン病の対象におけるウェアリング・オフ現象のオフ時間を減少させることができることが実証されているとは認識できないし、また、上記アに記載したとおり、当事者により提出された証拠のいずれからも、本件特許の優先日当時、KW-6002に限らず、アデノシンA2A受容体を遮断することにより、ウェアリング・オフ現象やオン・オフ変動が改善できることが実証されていたとはいえず、当業者は、甲1発明のKW-6002を含有する薬剤によりパーキンソン病の患者におけるウェアリング・オフ現象のオフ時間やオン・オフ変動を減少させることができ、ウェアリング・オフ現象やオン・オフ変動のオフ時間を減少させるために使用できることを推認できたとはいえないのであるから、甲1に、KW-6002のような化合物が、パーキンソン病患者におけるウェアリング・オフ現象のオフ時間を減少させる可能性がある旨の記載があるとしても、そのことに基づいて、本件訂正発明が甲1から容易に想到できるものであるとすることはできない。
(イ) 参加人の主張について
a 参加人は、弁駁書の14頁において、上記1(4)イ(ウ)b(b)の(ii-1)、(ii-2)に記載した弁駁書の6~14頁で主張した点を踏まえれば、本件訂正発明は甲1から進歩性を有しない旨を主張する。
b しかしながら、すでに上記1(4)イ(ウ)c(c)~(e)で説示したとおり、本件特許の優先日当時の技術常識を踏まえれば、KW-6002によりパーキンソン病の対象におけるウェアリング・オフ現象のオフ時間を減少させることができることを当業者が理解できるとはいえないのであるから、上記の参加人の主張を踏まえても、本件訂正発明が甲1から進歩性を有しないということはできない。
(4)小括
以上のとおりであるから、本件訂正発明について、甲1に記載された発明、甲1~甲3及び甲5~甲8に記載された事項、並びに本件特許の優先日前の技術常識に基いて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるということできず、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるということはできない。
よって、本件訂正発明に係る特許を、無効理由2-2によって無効とすることはできない。
第10 無効理由2-4(甲4を主引例とする進歩性欠如)について
無効理由2-4は、「本件訂正発明は、甲4に記載された発明、甲1~甲9に記載された事項、及び本件特許の優先日前の技術常識に基いて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものである」との進歩性欠如に基づくものである。
1 甲4に記載された発明
甲4には、ハロペリドール-誘導性、又はレセルピン-誘導性カタレプシーモデルであるパーキンソン病モデルマウスにおいて、選択的アデノシンA2A受容体アンタゴニスト(E)-1,3-ジエチル-8-(3,4-ジメトキシスチリル)-7-メチル-3,7-ジヒドロ-1H-プリン-2,6-ジオン(KW-6002)の有効性及び効力を評価したこと(甲4aの要約の目的及び方法の欄)が記載され、KW-6002は0.3%Tween 80に懸濁させて経口投与したこと(甲4cの化合物の項目)、KW-6002に、閾値下量のL-ドーパ(50mg/kg、経口)を、組み合わせて投与したところ、ハロペリドール-誘導性カタレプシーモデルマウスでは2.5~625μg/kg 経口用量で、レセルピン誘導性カタレプシーモデルマウスでは80~625μg/kg 経口用量で、ベヒクル群に比べ有意に大きな抗カタレプシー効果を生じたことが記載されている(甲4e本文及び図4)。
また、甲4には、パーキンソン病の別のモデル動物であるMPTP処置マウスにおいて、MPTPによる運動機能低下を回復させるKW-6002の経口での最小有効量が、L-ドーパの1000倍の効力であることが記載され(甲4fの後ろから2段落)、「さらに興味深いのは、アデノシンA2A受容体アンタゴニストKW-6002とL-ドーパの併用効果で、薬剤誘導カタレプシーなどの運動障害が回復することである(図4)。」(甲4fの最終段落)と記載されている。
そして、上記において、KW-6002を0.3%Tween 80に懸濁させたものは、KW-6002を含有する薬剤であるといえるから、甲4には、以下の発明が記載されていると認められる。
「選択的アデノシンA2A受容体アンタゴニストである(E)-1,3-ジエチル-8-(3,4-ジメトキシスチリル)-7-メチル-3,7-ジヒドロ-1H-プリン-2,6-ジオン(KW-6002)を含有する薬剤であって、
パーキンソン病のモデルマウスである、ハロペリドール誘導性又はレセルピン誘導性カタレプシーを有するマウスに投与され(ハロペリドール誘導性モデルマウス:2.5~625μg/kg 経口、又は、レセルピン誘導性モデルマウス:80~625μg/kg 経口)、
閾値以下の用量のL-ドーパ(50mg/kg 経口)と組み合わせて投与することで、ベヒクル群に比べて抗カタレプシー効果に有意差を生じる、パーキンソン病のモデルマウスの運動障害を改善する、薬剤。」(以下「甲4発明」という。)
2 本件訂正発明と甲4発明との対比
上記第8の1(3)で記載したとおり、「3,7-ジヒドロ-1H-プリン-2,6-ジオン」は「キサンチン」ともいわれるし、化合物の命名において、キサンチン上の置換基のどの位置から順に命名しても化合物としては同じであるから、甲4発明の「(E)-1,3-ジエチル-8-(3,4-ジメトキシスチリル)-7-メチル-3,7-ジヒドロ-1H-プリン-2,6-ジオン(KW-6002)」(以下、単に「KW-6002」という。)は、本件訂正発明の「(E)-8-(3,4-ジメトキシスチリル)-1,3-ジエチル-7-メチルキサンチン」に相当する。そうすると、甲4発明の「KW-6002を含有する」「薬剤」は、本件訂正発明の「(E)-8-(3,4-ジメトキシスチリル)-1,3-ジエチル-7-メチルキサンチンを含有する」「薬剤」に相当する。
また、甲4発明の「パーキンソン病のモデルマウスである、ハロペリドール誘導性又はレセルピン誘導性カタレプシーを有するマウス」は、パーキンソン病動物である限りにおいて、本件訂正発明の「パーキンソン病のヒト患者」と一致する。
そして、甲4発明の「選択的アデノシンA2A受容体アンタゴニストである(E)-1,3-ジエチル-8-(3,4-ジメトキシスチリル)-7-メチル-3,7-ジヒドロ-1H-プリン-2,6-ジオン(KW-6002)を含有する薬剤」が「閾値以下の用量のL-ドーパ(50mg/kg 経口)と組み合わせて投与」されることは、本件訂正発明の「(E)-8-(3,4-ジメトキシスチリル)-1,3-ジエチル-7-メチルキサンチンを含有する薬剤」が、「L-ドーパと併用して」「対象に投与される」ことに相当する。
そうすると、本件訂正発明と甲4発明との一致点、相違点は以下のとおりである。
<一致点>
(E)-8-(3,4-ジメトキシスチリル)-1,3-ジエチル-7-メチルキサンチンを含有する薬剤であって、
前記薬剤は、パーキンソン病動物を対象とし、
前記薬剤は、L-ドーパと併用して前記対象に投与される、薬剤。
なお、「(E)-8-(3,4-ジメトキシスチリル)-1,3-ジエチル-7-メチルキサンチン」も「KW-6002」である。
<相違点>
本件訂正発明は、「ヒト患者であって、L-ドーパ療法において、ウェアリング・オフ現象および/またはオン・オフ変動を示すに至った段階の患者」を対象とし、「前記薬剤は、前記L-ドーパ療法におけるウェアリング・オフ現象および/またはオン・オフ変動のオフ時間を減少させるために前記患者に投与され」、「前記L-ドーパ療法」において投与される薬剤であるのに対し、
甲4発明は、「パーキンソン病のモデルマウスである、ハロペリドール誘導性又はレセルピン誘発性カタレプシーを有するマウス」を対象とし、
「閾値以下の用量のL-ドーパ(50mg/kg 経口)と組み合わせて投与(ハロペリドール誘導性モデルマウス:2.5~625μg/kg 経口、又は、レセルピン誘導性モデルマウス:80~625μg/kg 経口)することで、ベヒクル群に比べて抗カタレプシー効果に有意差を生じる」、「パーキンソン病のモデルマウスにおける運動障害を改善するため」の薬剤である点。
3 相違点についての判断
(1)ア(ア) KW-6002の抗パーキンソン病用作用に関し、甲4には、甲4発明のKW-6002が、選択的アデノシンA2A受容体アゴニストである2-[p-(2-カルボキシエチル)フェネチルアミノ]-5’-N-エチルカルボキサミドアデノシン(CGS21680)誘導性、又はレセルピン誘導性のパーキンソン病のモデルマウスでのカタレプシーを、それぞれ、ED50が経口で0.05mg/kg、又は経口で0.26mg/kgで、逆転させる作用を有し(甲4aの要約の方法及び結果の項目)、これは、非選択的アデノシンA2AアンタゴニストであるテオフィリンのCGS21680誘導性カタレプシーを逆転させるED50(経口で4.75mg/kg)に比べて2桁低く、KW-6002のパーキンソン病治療における臨床的有用性を評価する価値があることが示唆されたことが記載されている(甲4fの表1及び表1の上の段落)。
また、甲4には、KW-6002が、1-メチル-4-フェニル-1,2,3,6-テトラヒドロピリジン塩酸塩(MPTP)誘導性のパーキンソン病のモデルマウスでの自発運動低下を、経口で0.63mg/kgで有意に自発運動抑制を減弱させており、既存の抗パーキンソン病薬に匹敵する効果であること、最小有効量が0.16mg/kgであり、これは、L-ドーパについての以前の報告(経口で160mg/kgで有意)より1000倍強力な改善作用であることも記載されている(甲4dの図3及び甲4fの表1の下の1~2段落目)。
(イ) さらに、上記第7の2の「パーキンソン病におけるアデノシンA2A受容体の役割とA2A受容体アゴニストによる治療についての本件特許の優先日当時既知の知見」において記載したとおり、本件特許の優先日当時、従来のパーキンソン病の基本治療であるL-ドーパ製剤等によるドーパミン補充を中心とした療法とは異なるアプローチとして、アデノシンA2A受容体アゴニストをパーキンソン病の治療薬とすることに注目が集まっており、オープン試験ではあるが、テオフィリン等の非選択的アデノシンA2A受容体アゴニストがヒトに対して抗パーキンソン作用を示したとの結果が得られていた。
(ウ) 丙16(甲16と同じ文献である)には、KW-6002が現段階で最も優れたアデノシンA2A受容体拮抗薬であること、現在英国、日本において抗パーキンソン病薬として臨床開発中であり、米国ではフェーズII試験が先行していることが記載されており(丙16b)、KW-6002は、ヒトのパーキンソン病の治療薬として実際に使用する前提となる臨床試験が進行中であった。
イ 甲7には、MPTP処置コモンマーモセットに対するKW-6002(10mg/kg、経口)の投与により、自発運動活性の増大が10~11時間まで持続したこと、常同運動等のような異常運動は引き起こされなかったことが記載されている(甲7a~d)。また、甲2の図4試験では、MPTP処置コモンマーモセットに対して、単独では抗パーキンソン病活性を示さない低投与量である「閾値量」のL-ドーパの投与を、KW-6002(10.0mg/kg、経口)の投与から24時間後に行った場合(これは、甲2の図1によれば単独では自発運動活性は奏されない時間)でも自発運動活性が増強されたことが記載されている(甲2e及び甲2g)。
ウ そうすると、当業者は、これらの本件特許の優先日当時既知の知見から、KW-6002がパーキンソン病のヒト患者に対しても抗パーキンソン病活性を有し、KW-6002によりパーキンソン病のヒト患者の治療を行える可能性を認識するといえる。
しかしながら、L-ドーパ療法を長期に行うことにより生じるウェアリング・オフ現象やオン・オフ変動の重要な発生原因としては、ドーパミンニューロンの変性によるドーパミン保持能の低下やドーパミン受容体の感受性の低下、前シナプスや後シナプスにおける事象の関与等が推測されていたものの、これらの発生原因についての直接の証明はなく、十分には解明されていないことが、本件特許の優先日当時の技術常識であり(第7の1(2)(b))、当時知られていたウェアリング・オフ現象の対策は、ドーパミン補充療法としてのL-ドーパ療法を補完して、ドーパミン受容体を介する抗パーキンソン病効果を前提とするものであり(第7の1(3)(b))、また、オン・オフ変動の対策としては、血中L-ドーパ濃度を一定にする、ドーパミンレセプター安定作用を有するブロモクリプチンを投与するといった手法は既知であった(甲17a)が、本件特許の優先日当時、作用機序が異なる複数のパーキンソン病治療薬を併用しさえすれば、L-ドーパ療法におけるウェアリング・オフ現象やオン・オフ変動のオフ時間を減少できるといった技術常識が存在していたとはいえない。
また、以下に(2)で記載するとおり、甲1~9を含め、当事者が提出した文献のいずれにも、動物実験レベルですら、本件特許の優先日当時、KW-6002に限らず、アデノシンA2A受容体アンタゴニストによってアデノシンA2A受容体を遮断することにより、ウェアリング・オフ現象やオン・オフ変動が改善できることは実証されていない。
(2)ア まず、甲4には、上記1及び3(1)ア(ア)で指摘した記載を含めた、KW-6002がパーキンソン病のモデル動物における運動機能低下を改善することを示す試験結果が図1~図4等に記載されており、KW-6002がパーキンソン病の治療に新しい治療アプローチを提案する可能性があること(甲4aの要約の結論の項目)、及び甲4で示された結果をヒトで示すことができれば、KW-6002はパーキンソン病の治療における新規の非ドーパミン作動性アプローチとなる可能性があること(甲4h)は記載されている。
しかしながら、甲4には、ウェアリング・オフ現象又はオン・オフ変動に関しては、序文に、パーキンソン病の治療のためのドーパミン補充療法では、薬効の喪失などが引き起こされることが記載(甲4bの1段落)されるのみで、その他にウェアリング・オフ現象やオン・オフ変動についての記載は全くないから、甲4は、ウェアリング・オフ現象やオン・オフ変動のオフ時間の増減に関するKW―6002の作用を何ら開示し、又は示唆するものではない。
イ KW-6002によるウェアリング・オフ現象やオン・オフ変動に関し、甲1には、上記第9の1(4)イ(ア)で指摘した記載があり、甲1の著者は、KW-6002のような化合物が、パーキンソン病のウェアリング・オフ現象を有する患者において、ウェアリング・オフ現象のオフ時間を減少させる可能性があると認識していたことが理解できる。また、甲2には、上記第8の1(1)ア(エ)cで指摘した記載があり、甲2には、結論として、KW-6002のような化合物が、パーキンソン病のウェアリング・オフ現象及び/又はオン・オフ変動を有する患者において、ジスキネジアを長引かせることなく、「オン時間」を増加させることができる可能性がある旨が記載されている。
しかしながら、上記第9の1(4)イ(ウ)(エ)で説示したとおり、甲1にKW-6002によりパーキンソン病患者におけるウェアリング・オフ現象のオフ時間を減少させることが実証されているとはいえないし、また、上記第8の1(5)ア(ウ)において説示したとおり、甲2について、パーキンソン病のウェアリング・オフ現象及び/又はオン・オフ変動のオフ時間を減少させるための治療方法を見いだすために執筆された学術論文ということはできないし、KW-6002のような化合物が、パーキンソン病のウェアリング・オフ現象及び/又はオン・オフ変動を有する患者において「オン時間」を増加させることができる可能性がある旨の上記記載部分は、これを裏付ける試験結果等に基づいてされた実証的な記載であるとはいえない。
さらに、甲3には、後述の第11の1で指摘することが記載されており、甲3には、アデノシン受容体アンタゴニストであるテオフィリンが、ウェアリング-オフを有する進行期パーキンソン病の患者のオフ時間の持続を減少させる作用を有する旨の記載がされているが、第11の3(3)(4)で後述するとおり、当業者は、甲3に基づいて、KW-6002においても、進行期パーキンソン病のウェアリング・オフ現象におけるオフ時間を減少させることができることまでを合理的に推認できたとはいえない。
ウ 加えて、甲8はコモンマーモセットについての説明が記載されているのみであり、甲6には、6-ヒドロキシドーパミン病変を有するラットにおいて、レボドパやテオフィリン等の抗パーキンソン病薬の薬理作用が確認されたことが記載されているのみ(甲6のSUMMARY、Fig.3、5)であるし、甲5(これは甲10の一部に相当する。)及び甲9には、パーキンソン病におけるL-ドーパ療法によりウェアリング・オフ現象が生じること、その改善にドーパミンアゴニストの併用やL-ドーパの血中濃度を一定にする対策があること等について記載されている(第5の1の甲9及び甲10の記載事項)が、これらの文献のいずれにもKW-6002等のアデノシンA2A受容体アンタゴニストによってアデノシンA2A受容体を遮断することにより、ウェアリング・オフ現象が改善できることは記載されていない。
エ そして、上述の甲1~9及び他の当事者により提出された証拠のいずれの公知文献からも、動物実験レベルですら、本件特許の優先日当時、KW-6002に限らず、アデノシンA2A受容体アンタゴニストによってアデノシンA2A受容体を遮断することにより、ウェアリング・オフ現象やオン・オフ変動が改善できることが実証されていたとはいえない。
(3)そうすると、当業者は、甲1~甲3、甲5~甲9を含め、当事者により提出された証拠のいずれからも、本件特許の優先日当時既知の知見及び技術常識を参酌して、甲4の記載から、甲4発明のKW-6002を含有する薬剤によりパーキンソン病の患者におけるウェアリング・オフ現象やオン・オフ変動のオフ時間を減少させることができること、すなわち、KW-6002を含む薬剤が、本件訂正発明の「L-ドーパ療法におけるウェアリング・オフ現象のオフ時間やオン・オフ変動を減少させる」ために使用できることを推認できたとはいえない。
したがって、甲4発明のKW-6002を含有する薬剤を、「L-ドーパ療法において、ウェアリング・オフ現象および/またはオン・オフ変動を示すに至った段階の患者」を対象とし、「前記薬剤は、前記L-ドーパ療法におけるウェアリング・オフ現象および/またはオン・オフ変動のオフ時間を減少させるために前記患者に投与され」、「前記L-ドーパ療法において」投与される薬剤として、相違点に係る本件訂正発明の構成を備えたものとすることを、当業者が容易に想到することができたとはいえない。
4 効果について
上記第6で記載したとおり、本件特許明細書には、実施例1として、二重盲検、プラセボ対照、無作為、パラレル群の多施設試験研究による臨床試験の結果、ウェアリング・オフをはじめとするL-ドーパ関連の運動合併症を伴うパーキンソン病患者に、L-ドーパとともに、KW-6002を4週間ごとに、3段階((5/10/20mg/日)、又は(10/20/40mg/日)のいずれか漸増的用量)を投与したKW-6002群の被験者では、プラセボ群の被験者と比較して、オフ時間における有意な減少があったこと(図1)が記載されている。
そして、上記3で記載したとおり、当業者は、甲1~3、5~9を含め当事者により提出された証拠に示される本件特許の優先日当時既知の知見及び技術常識を参酌しても、甲4の記載から、甲4発明のKW-6002により、パーキンソン病患者においてウェアリング・オフ現象のオフ時間を減少させることができることを合理的に推認できたとはいえないのであるから、本件特許明細書に記載の上記効果は、甲1~9を含め、当事者により提出された本件特許の優先日前既知の証拠や技術常識を示すいずれの証拠からも予測し得なかった効果である。
5 請求人及び参加人の主張について
ア 請求人の主張について
(ア) 請求人は、弁駁書の53~58頁の項目「4」において、KW-6002が極めて強い抗パーキンソン病活性を有すること、L-ドーパを補完する望ましい薬剤であること、長時間作用が持続することが良く知られており、一方、甲9、甲21などが示すとおり、ウェアリング・オフ現象が生じた場合に、長時間作用性の抗パーキンソン病薬をL-ドーパと併用すればオフ時間が減少することが良く知られていたから、甲4に開示されているKW-6002とL-ドーパの併用をウェアリング・オフ現象が生じた場合にも適用して、L-ドーパによる抗パーキンソン病活性が得られないオフ時間を、KW-6002の抗パーキンソン病活性で補って、オフ時間を減少させることは、容易に想到できるし、また、ウェアリング・オフ現象によりL-ドーパが作用を発揮できなくなるほどシナプスの状態が変化していても、異なる受容体であるアデノシンA2A受容体に作用するKW-6002が薬効を発揮してオフ時間を減少させることは明らかである旨を主張する。
(イ) しかしながら、甲9、甲21に示されるウェアリング・オフ現象の対策は、上記3(1)ウで指摘したドーパミン受容体を介する抗パーキンソン病効果を前提とするものであるし、上述のとおり、本件特許の優先日当時、作用機序が異なる複数のパーキンソン病治療薬を併用しさえすれば、L-ドーパ療法におけるウェアリング・オフ現象のオフ時間を減少できるといった技術常識が存在していたとはいえないから、ウェアリング・オフ現象によりL-ドーパが作用を発揮できなくなるほどシナプスの状態が変化していても、異なる受容体に作用するKW-6002が薬効を発揮してオフ時間を減少させることは明らかである旨の請求人の主張には根拠がない。
したがって、上記(ア)の請求人の主張は採用できない。
イ 参加人の主張について
(ア) 参加人は、弁駁書の56頁において、甲4の図4試験は、L-ドーパの投与直後又は投与後時間が経過することで、体内のL-ドーパの濃度が、単独投与ではオン状態を維持できない状態であっても、KW-6002との併用によって、有意な抗パーキンソン効果が得られ、その結果オン時間が増加する(オフ時間が減少する)ことができることを示している旨主張する。
(イ) そこで、検討すると、甲4には、図4として、ハロペリドール又はレセルピンにより誘導されたマウスでのカタレプシーに及ぼす閾値下量のL-ドーパ(50mg/kg、経口)とKW-6002の組合せ効果についての試験結果が記載され、「KW-6002単独では、5μg/kg、経口及び10μg/kg、経口の量で、有意な抗カタレプシー効果は発揮しなかったが、閾値下量のL-ドーパとの組合せはハロペリドール-誘導性カタレプシーに効果的であった(図4)。さらに、レセルピン-誘導性カタレプシーにおいて、KW-6002の80μg/kg、経口及び160μg/kg、経口は、KW-6002のこれらの量自体は明らかな抗カタレプシー効果を有しないにもかかわらず、L-ドーパの閾値下量との組合せで抗カタレプシー効果を生じた(図4)。」(甲4e)と記載されている。
しかしながら、図4試験の、ハロペリドール又はレセルピンにより誘導されたマウスは、長期間にわたってL-ドーパ療法を受けた動物ではなく、ウェアリング・オフ現象及び/又はオン・オフ変動を示すに至った動物ではないし、図4試験は、KW-6002と閾値量のL-ドーパの組合せがカタレプシーに及ぼす影響を確認した試験であり、有効量のL-ドーパの投与を前提とするL-ドーパ療法におけるL-ドーパの作用の持続時間の長短を調べる試験でもない。
また、甲4には、図4の試験結果を受けて、「本研究は、KW-6002が、L-ドーパのようなドーパミン作動性薬剤との付加的治療に非常に大きな恩恵を生む可能性があることを示している。アデノシンA2A受容体アンタゴニストは、L-ドーパのようなドーパミン模倣性薬剤とは完全に異なる標的分子及びメカニズムを通して有効性を発揮するため、潜在的に、運動欠損を回復させるKW-6002とL-ドーパとの組合せ効果が生じる可能性がある。」(甲4fの最後の段落)と記載され、ドーパミン模倣性薬剤とは完全に異なるメカニズムを通して有効性を発揮する旨考察されているが、当該記載がウェアリング・オフ現象の改善についての記載であるということはできないし、上記3(1)ウで説示したとおり、ウェアリング・オフ現象の重要な発生原因は十分に解明されておらず、その対策は、ドーパミン補充療法としてのL-ドーパ療法を補完して、ドーパミン受容体を介する抗パーキンソン病効果を前提とするものであることが、本件特許の優先日当時の技術常識であった。
さらに、図4に、(明らかな)抗カタレプシー効果を有しない量のKW-6002と閾値下量のL-ドーパの組合せにより抗カタレプシー効果が生じることが示されているとしても、本件特許の優先日当時、作用機序が異なる複数のパーキンソン病治療薬を併用しさえすれば、L-ドーパ療法におけるウェアリング・オフ現象のオフ時間を減少できるといった技術常識が存在していたとはいえないし、図4試験で確認された抗カタレプシー効果が、本件特許の優先日当時、ウェアリング・オフ現象の対策方法として知られていた、ドーパミン受容体を介するL-ドーパの抗パーキンソン病作用に基づくものであるかも不明である。
以上のとおりであるから、甲4の図4試験の結果に、KW-6002を併用することで、L-ドーパ療法を行うパーキンソン病患者におけるウェアリング・オフ現象のオフ時間が減少することが示されているということはできない。
したがって、上記(ア)の参加人の主張は採用できない。
6 小括
以上のとおりであるから、本件訂正発明について、甲4に記載された発明、甲1~甲9に記載された事項、及び本件特許の優先日前の技術常識に基いて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできず、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるということはできない。
よって、本件訂正発明に係る特許を、無効理由2-4によって無効とすることはできない。
第11 無効理由2-1(甲3を主引例とする進歩性欠如)について
無効理由2-1は、「本件訂正発明は、甲3に記載された発明、甲1~甲8に記載された事項、及び本件特許の優先日前の技術常識に基いて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものである」との進歩性欠如に基づくものである。
1 甲3に記載された発明
甲3には、パーキンソン病(PD)に対する最も有効な対症療法薬であるL-ドーパの長期の使用は運動副作用の発現をしばしば合併すること、ラットPDモデルにおいてアデノシンA2A受容体の遮断がドーパミン作動薬の抗PD効果を増強することを示した試験結果に刺激されて、PD患者においてアデノシンアンタゴニストであるテオフィリンの効果を試験したこと(甲3bの1段落)、PD患者は、ベースライン受診(受診1)の後、1週間の負荷相(毎日増量、100mgbid(合議体注:1日2回)、6週間の一定状態相(600mg/日)、及び1週間のウォッシュアウト相(毎日減量、100mg bid)に付され、最後の受診は、テオフィリンが完全に停止された後1週間後であったこと(甲3bの「方法」の項目)、L-ドーパで治療され(764±170mg/日)、L-ドーパ誘導性の運動副作用であるウェアリング・オフを有する進行期パーキンソン病(APD;Hoehn&Yahrステージ>2、かつ、L-ドーパ投与中)の患者であって、試験の前少なくとも3ヶ月間現在の抗PD薬剤投与計画の下で臨床的に安定であった患者へのテオフィリンの投与により、ジスキネジアの重症度を憎悪させることなく、「オン」時の持続時間を~30%増加させ、「オフ」時の持続時間を減少させることができたこと(甲3bの「方法」、「結果」及び「考察」の項目並びに甲3a)、何れのAPD患者においても、L-ドーパの投与量を調節しなかったこと(甲3b「結果」の項目の最後の文)が記載されている。
そうすると、甲3には、以下の発明が記載されていると認める。
「アデノシン受容体アンタゴニストであるテオフィリン(1週間の負荷相では、毎日増量、100mg1日2回、6週間の一定状態相では、600mg/日、1週間のウォッシュアウト相では、毎日減量、100mg1日2回)を含有する薬剤であって、
L-ドーパで治療され(764±170mg/日)、L-ドーパ誘導性運動副作用であるウェアリング-オフを有する進行期パーキンソン病(APD)の患者に投与され、
オン時間の持続を~30%増加させ、その結果、オフ時間の持続を減少させる作用を有する、薬剤。」(以下「甲3発明」という。)
2 本件訂正発明と甲3発明との対比
本件訂正発明の「(E)-8-(3,4-ジメトキシスチリル)-1,3-ジエチル-7-メチルキサンチン」、すなわち「KW-6002」、及びテオフィリンが、アデノシンA2A受容体アンタゴニストであることは、例えば甲4の92頁右欄1~6行(甲4d)の記載からも明らかなとおり、従来から既知であり、甲3発明の「アデノシン受容体アンタゴニストであるテオフィリン」と本件訂正発明の「KW-6002」とは、「アデノシンA2A受容体アンタゴニスト」である限りにおいて一致する。
甲3発明の「L-ドーパで治療され(764±170mg/日)、L-ドーパ誘導性運動副作用であるウェアリング-オフを有する進行期パーキンソン病(APD)患者」は、本件訂正発明の「パーキンソン病のヒト患者であって、L-ドーパ療法において、ウェアリング・オフ現象および/またはオン・オフ変動を示すに至った段階の患者」に相当するし、甲3発明の薬剤は、「L-ドーパで治療される」当該患者の「オン時間の持続を~30%増加させ、その結果、オフ時間の持続を減少させる作用を有する」ものであるから、本件訂正発明の「前記L-ドーパ療法におけるウェアリング・オフ現象および/またはオン・オフ変動のオフ時間を減少させるために前記患者に投与され、前記薬剤は、前記L-ドーパ療法においてL-ドーパと併用して前記対象に投与される」ものに相当する。
そうすると、本件訂正発明と甲3発明との一致点、相違点は以下のとおりである。
<一致点>
アデノシンA2A受容体アンタゴニストを含有する薬剤であって、
前記薬剤は、パーキンソン病のヒト患者であって、L-ドーパ療法において、ウェアリング・オフ現象および/またはオン・オフ変動を示すに至った段階の患者を対象とし、
前記薬剤は、前記L-ドーパ療法におけるウェアリング・オフ現象および/またはオン・オフ変動のオフ時間を減少させるために前記患者に投与され、
前記薬剤は、前記L-ドーパ療法においてL-ドーパと併用して前記対象に投与される、薬剤。
<相違点>
本件訂正発明では、アデノシンA2A受容体アンタゴニストが、「(E)-8-(3,4-ジメトキシスチリル)-1,3-ジエチル-7-メチルキサンチン」であるのに対し、甲3発明では、「テオフィリン」である点。
3 相違点についての判断
(1)ア 甲3には、甲3の試験における最も顕著な知見が、テオフィリンがAPD患者において「オン」相を有意に延長させ、その結果「オフ」相の持続を短縮させたことであることが記載され、この効果がジスキネジアの悪化と関連しないこと、投与量を増量することで「オン」相の持続時間を延長させ得る現在利用可能な抗PD療法は通常ジスキネジアの重症度を高める可能性があることから、ジスキネジアの悪化と関連せずに「オフ」相の持続を短縮させたことは、注目に値する特性であることが記載されている(甲3b「考察」の項目の2段落)。また、甲3には、甲3の研究が、アデノシン受容体の遮断がPD治療の重要な手段であるという原理についての強力な証拠であり、著者らは、テオフィリンよりもより強力でより選択的な化合物が臨床試験に利用できるようになれば、それらを用いて試験すべきであると確信していることが記載されている(甲3b「考察」の項目の3段落)。
そうすると、当業者は、甲3の記載から、甲3の著者が、L-ドーパで治療されているAPD患者に、テオフィリンよりもより強力でより選択的なアデノシン受容体遮断作用を有する化合物を適用することで、ウェアリング・オフ現象の「オン」相を延長させ、「オフ」相の持続を短縮させることができる可能性、つまり、ウェアリング・オフ現象のオフ時間を減少させることができる可能性があると認識していたことが理解できる。
イ また、アデノシンA2A受容体アンタゴニストKW-6002の、パーキンソン病モデルマウスにおける運動欠損の回復に対する有効性を調べた文献である甲4に、KW-6002が選択的アデノシンA2Aアンタゴニストであること、及び、KW-6002が、アデノシンA2A受容体アゴニストであるCGS21680誘導性カタレプシーパーキンソン病モデルマウスに対し、0.05mg/kgの経口ED50でカタレプシーを回復させた一方で、非選択的アデノシンA2A受容体アンタゴニストであるテオフィリンの経口ED50は4.75mg/kgであったことが記載されるとおり(甲4aの要約の記載及び甲4d)、当業者は、KW-6002が、選択的アデノシンA2Aアンタゴニストであり、動物モデルにおいて、テオフィリンよりもより強力な抗パーキンソン病活性を奏する薬剤であることを理解できる。
ウ さらに、第7の2の「パーキンソン病におけるアデノシンA2A受容体の役割とA2A受容体アゴニストによる治療についての本件特許の優先日当時既知の知見」において記載したとおり、丙16、甲43、甲52等の記載によれば、本件特許の優先日当時、従来のパーキンソン病の基本治療であるL-ドーパ製剤等によるドーパミン補充を中心とした療法とは異なるアプローチとして、アデノシンA2A受容体アゴニストをパーキンソン病の治療薬とすることに注目が集まっており、オープン試験ではあるが、テオフィリン等の非選択的アデノシンA2A受容体アゴニストがヒトに対して抗パーキンソン作用を示したとの結果が得られていたこと、及び、当時の最も優れた選択的アデノシンA2A受容体アゴニストであったKW-6002について、各種パーキンソン病モデル動物で、ジスキネジアを誘発することなく、抗パーキンソン作用を発揮できることが確認されていたことを踏まえて、KW-6002について、ヒトのパーキンソン病の治療薬として実際に使用する前提となる臨床試験が本件特許の優先日当時、進行中であった。
(2)そうすると、当業者は、(1)アで指摘した甲3の記載及び(1)イ、ウで記載した本件特許の優先日当時既知の知見から、甲3発明のテオフィリンに代えて、より強力でより選択的なアデノシン受容体遮断作用を有する選択的アデノシンA2Aアンタゴニストであって、テオフィリンより強力な抗パーキンソン病活性が臨床レベルで期待されているKW-6002を採用することは認識し得るといえる。
(3)一方で、以下で示す事情を踏まえると、当業者は、甲3発明のテオフィリンに代えて、アデノシンA2AアンタゴニストKW-6002を採用することで、実際に、APD患者におけるL-ドーパ誘導性運動副作用であるウェアリング・オフ現象あるいはオン・オフ変動におけるオン時間を延長させ、オフ時間を減少させることができることまでを合理的に推認できたとまではいえない。
ア 甲3の結果はプラセボ効果である可能性があること
(ア) 何らかの治療を受けるという行為により患者が治療効果を期待することで、その治療が実際に有効であるか否かにかかわらず、治療効果を及ぼす場合があることは、プラセボ効果として古くから知られているところ、特に、パーキンソン病ではプラセボ効果が強大であることが、従来から知られていた(乙34a~c)。また、例えば、ウェアリング・オフ現象の改善についても、乙18には、ウェアリング・オフ現象におけるオフ時間の改善効果を検証するための二重盲検・プラセボ対照による臨床試験において、偽薬(プラセボ薬)を投与された患者群においてさえ、26週間にわたって効果が継続しオフ時間が最高15%程度まで減少したことが示されている(乙18a~b)。
そうすると、パーキンソン病患者を対象としたプラセボ対照との比較もなく、患者が治療効果を期待する系での臨床試験における結果を記載する甲3の記載に接した当業者は、テオフィリンによりウェアリング・オフ現象におけるオフ時間が減少できたとの試験結果が、プラセボ効果である可能性について認識するといえる。
(イ) 加えて、甲3について、乙17には、「非盲検試験で、非特異的アデノシンA2A受容体アンタゴニストのテオフィリンによって、進行期PD患者において・・・オン時間が増加することが明らかになった(22:合議体注;乙17の参考文献22。以下同様。)。」(乙17bの4段落目、26頁左欄2段落)、「非盲検試験の結果、非特異的アデノシンアンタゴニストであるテオフィリンが進行期PD患者における・・・オン時間を増加することが示唆されている。」(乙17aの要約冒頭)と記載され、これを前提として、乙17において、「二重盲検、クロスオーバー、プラセボ対照試験で、・・・PD患者10名を対象とし、安定した血漿中テオフィリン濃度(投与15日後に10~20μg/mL)(合議体注:テオフィリンは約180g/molであるから、換算すると、これは、55~111μmol/Lとなり、甲3におけるテオフィリンの目標血清中濃度(44~111μmol/L)と同様である。)がレボドパの長期的な反応及び短期的な反応を調節する可能性について試験した」ところ、「統一パーキンソン病評価スケールの・・・検討した全ての変数において、レボドパの効果持続時間はテオフィリンによって延長したものの、レボドパによってもたらされた最大の改善効果及びレボドパ効果の持続時間はプラセボと有意差はなかった。・・・この探索的試験の期間中、テオフィリンの効果は、進行期PD患者において、レボドパの抗パーキンソン活性を明らかに増強させるほど、又は、オン時間を増加させるほど十分な強度ではなかった。」(乙17aの要約)旨が記載されている。そして、乙17では、乙17における試験結果と参考文献22(甲3)の結果を比較して、「過去の非盲検試験では、進行期PD患者9名において、テオフィリン・・・の長期投与・・・がジスキネジアの重症度を悪化させることなくオン時間の有意な延長(約30%)と関連したことが明らかになった(22)。・・・テオフィリンを用いた非盲検試験(22)とは対照的に、・・・この推定される効果はジスキネジア期間の顕著な延長の結果である可能性もある。」、「結論として、PDにおけるテオフィリンの有用性を示唆する豊富な実験データ及び過去の非臨床試験の結果にもかかわらず、著者らの探索的臨床試験実施計画によれば、テオフィリンはレボドパの抗PD作用を一貫して増大させなかった。」(乙17e)と記載されている。
そうすると、乙17は、「探索的な試験」であり、また、ウェアリング・オフ現象が発現していた患者は10名のうち半数の5名のみ(乙17c「患者」の項目)であり、「レボドパチャレンジテスト中、検討した全ての変数で、プラセボよりテオフィリンの方がレボドパの効果がより長いという一貫する数的なパターンが見られ、無動のサブスコアでは有意な傾向となった」(乙17d)ものではあるが、「テオフィリンはレボドパの抗PD作用を一貫して増大させなかった」(乙17e最終段落)との結果が示されており、当業者は、乙17の試験結果からも、甲3の結果が、プラセボ効果である可能性があることについて認識するといえる。
イ 甲3の試験は詳細が不明であり、また、一貫性のあるデータともいえないこと
(ア) 甲3の試験結果を記載する図のうち、ベースライン受診が受診1として表示されていることは理解できるが、甲3の他の記載を参酌しても、1週間の負荷相、6週間の一定状態相、1週間のウォッシュアウト相、最後の受診であるテオフィリン完全停止1週間後が、図の横軸のどの部分に該当するのかを明確には理解できず、甲3の試験はその詳細が不明なものである。
(イ) 乙17には、テオフィリンの非盲検試験を行った試験である参考文献21(これは、甲50である。)と甲3に相当する参考文献22について、「テオフィリン150mg/日の非盲検試験では、PD患者15名において投与開始後2週間以内に運動機能低下及び振戦が減少したことが明らかにされたものの(21)、最近の6週間の非盲検試験では、テオフィリンの抗PD作用はほとんどなく、有意性もなく臨床的に安定した作用もなかった(22)。」(乙17e「亜急性過程」の項目)と記載されており、同じテオフィリンを使用したPD患者に対する臨床試験において一貫しない結果となっていたことが本件特許の優先日前に知られていた。
ウ 甲3に示されるヒトAPD患者において「オフ」時間を減少させるテオフィリンの作用がアデノシンA2A受容体アンタゴニスト作用に基づく点は実証されていないこと
以下に示すとおり、テオフィリンは、非選択的アデノシン受容体アンタゴニストであり、アデノシンA2A受容体以外のアデノシン受容体にも作用するものであるし、また、ホスホジエステラーゼやグアノシン受容体にも親和性を持つことも知られている一方、甲3では、オフ時間の減少効果が、アデノシンA2A受容体アンタゴニスト作用に基づく点の実証はされていない。
(ア) パーキンソン病の実験的モデル動物を使用してアデノシンA2A受容体アンタゴニスト(KW-6002)によるパーキンソン病の新しい治療に向けての研究成果を記載する甲4には、「非選択的アデノシン受容体アンタゴニストであるテオフィリンのオープントライアルでは、パーキンソン病患者にある程度の改善がみられた・・・。しかし、テオフィリンは非選択的アデノシン受容体アンタゴニストであるだけでなく、ホスホジエステラーゼやグアノシン受容体にも親和性を持っている。したがって、テオフィリンの作用部位はまだ確定していない。」(甲4g)と記載されている。
(イ) テオフィリンが予備的な臨床試験の結果、パーキンソン病患者に対して改善したことを記載するとともに、選択的A2A受容体アンタゴニストのパーキンソン病治療に対する新しい薬理学的アプローチとしての可能性について言及する甲51(甲51c及び甲51a)には、「本稿ではA2A受容体に焦点を当てたが、D1受容体はA1受容体によって調節されるという新しい見解もあり、受容体選択的薬剤の他の組合せが治療価値を持つことが証明されるかもしれないし、皮肉にも、選択的なものよりも非選択的なものの方がより有効であると証明されるかもしれないことに注意する必要がある。」(甲51dの最終段落)と記載されている。(なお、甲51は乙47と同じ文献である。)
エ その上、第7の1(2)(b)に記載したとおり、L-ドーパ療法を長期に行うことにより生じるウェアリング・オフ現象やオン・オフ変動の重要な発生原因としては、ドーパミンニューロンの変性によるドーパミン保持能の低下やドーパミン受容体の感受性の低下、前シナプスや後シナプスにおける事象の関与等が推測されていたものの、これらの発生原因についての直接の証明はなく、十分には解明されていないことが、本件特許の優先日当時の技術常識であったし、同第7の1(3)(b)に記載のとおり、本件特許の優先日当時、ウェアリング・オフ現象の対策としては、(i)脳内のドーパミンの濃度が一定に維持できるようにするための手法、及び、(ii)L-ドーパよりも作用時間が長く、ドーパミン様作用を長期化できるドーパミンアゴニストを併用する手法を採用することは技術常識であったが、これらの手法はいずれも、ドーパミン補充療法としてのL-ドーパ療法を補完して、ドーパミン受容体を介する抗パーキンソン病効果を前提とするものであり、また、オン・オフ変動の対策としては、血中L-ドーパ濃度を一定にする、ドーパミンレセプター安定作用を有するブロモクリプチンを投与するといった手法は既知であった(甲17a)が、本件特許の優先日当時、作用機序が異なる複数のパーキンソン病治療薬を併用しさえすれば、L-ドーパ療法におけるウェアリング・オフ現象やオン・オフ変動のオフ時間を減少できるといった技術常識が存在していたとはいえない。
加えて、第8~10で説示した甲2、甲1及び甲4や、甲5~8を含め、当事者により提出された証拠のいずれからも、動物実験レベルですら、本件特許の優先日当時、アデノシンA2A受容体アンタゴニストによってアデノシンA2A受容体を遮断することにより、ウェアリング・オフ現象やオン・オフ変動が改善できることが実証されていたとはいえない。
(4)以上のとおり、パーキンソン病においては、プラセボ効果の影響が大きいこと、探索的な試験ではあるものの、甲3の臨床試験結果を受けて行われた二重盲検、クロスオーバー、プラセボ対照試験において、テオフィリンがレボドパの抗PD作用を一貫して増大させなかったことが乙17に示されているし、甲3の試験自体、その詳細が不明であり、また、テオフィリンを使用した非盲検試験において一貫しない結果となっており、また、テオフィリンは非選択的アデノシン受容体アンタゴニストであってアデノシンA2A受容体以外のアデノシン受容体作用もあるし、アデノシン受容体以外の他の受容体にも親和性を持つことも知られていた。
さらに、甲3では、テオフィリンによるオフ時間の減少効果がアデノシンA2A受容体アンタゴニスト作用に基づく点の確認はされていないし、L-ドーパ療法を長期に行うことにより生じるウェアリング・オフ現象等の重要な発生原因は十分には解明されていないことが、本件特許の優先日当時の技術常識であり、本件特許の優先日当時、アデノシンA2A受容体アンタゴニストによってアデノシンA2A受容体を遮断することにより、ウェアリング・オフ現象等が改善できることが実証されていたとはいえない。
これらを踏まえれば、当業者は、本件特許の優先日当時既知の知見及び技術常識を参酌しても、甲3の記載から、甲3発明においてテオフィリンに代えて、アデノシンA2AアンタゴニストであるKW-6002を採用することで、実際に、APD患者におけるウェアリング・オフ現象等のオフ時間を減少させることができること、すなわち、KW-6002が、本件訂正発明の「L-ドーパ療法におけるウェアリング・オフ現象のオフ時間を減少させる」ために使用できることを合理的に推認できたとはいえない。
(5)そうすると、上述のような本件特許の優先日当時既知の知見及び技術常識を踏まえた当業者は、甲3発明のテオフィリンに代えて、より強力でより選択的なアデノシン受容体遮断作用を有する選択的アデノシンA2Aアンタゴニストであって、テオフィリンより強力な抗パーキンソン病活性が臨床レベルで期待されているKW-6002を採用することを認識し得るとしても、KW-6002が、実際に、APD患者におけるウェアリング・オフ現象やオン・オフ変動におけるオン時間を延長させ、オフ時間を減少させることができることを合理的に推認できないのであるから、L-ドーパで治療されているAPD患者におけるウェアリング・オフ現象やオン・オフ変動のオフ時間を減少させるために、甲3発明において、テオフィリンに代えてKW-6002を採用し、KW-6002を、L-ドーパ療法においてL-ドーパと併用して患者に投与するものとし、甲3発明を、相違点に係る本件訂正発明の構成を備えたものとすることを、当業者が容易に想到することができたとはいえない。
(6)効果について
上記第6で記載したとおり、本件特許明細書には、実施例1として、二重盲検、プラセボ対照、無作為、パラレル群の多施設試験研究による臨床試験の結果、ウェアリング・オフをはじめとするL-ドーパ関連の運動合併症を伴うパーキンソン病患者に、L-ドーパとともに、KW-6002を4週間ごとに、3段階((5/10/20mg/日)、又は(10/20/40mg/日)のいずれか漸増的用量)を投与したKW-6002群の被験者では、プラセボ群の被験者と比較して、オフ時間における有意な減少があったこと(図1)が記載されている。
そして、上記(1)~(4)で詳述したとおり、当業者は、甲1~8を含め当事者により提出れた証拠に示される本件特許の優先日当時既知の知見及び技術常識を参酌しても、甲3の記載から、甲3発明のテオフィリンに代えて、アデノシンA2AアンタゴニストKW-6002を採用することで、実際に、APD患者におけるウェアリング・オフ現象のオフ時間を減少させることができることを合理的に推認できたとはいえないのであるから、本件特許明細書に記載の上記効果は、甲1~8を含め、当事者により提出された本件特許の優先日前既知の証拠や技術常識を示すいずれの証拠からも予測し得なかった効果である。
4 請求人及び参加人の主張について
(1)プラセボ効果について
ア 請求人は、弁駁書31~35頁(4)及び39頁(8)において、(i)オフ時間を減少させる薬としてテオフィリンを投薬することをオープンにした甲3の臨床試験の結果は、現実の臨床の場で得られる薬効を反映している、(ii)甲3の臨床試験が、テオフィリンのオフ時間減少効果を実証していることは、本件特許の優先日当時の当業者が認めていた(甲28、乙17)、(iii)、パーキンソン病治療薬のプラセボ効果の大きさは30%よりかなり小さいケースが多い(甲30~甲36)旨主張し、また、(iii)に関し、陳述要領書(2)の3~4頁1(2)において同様の主張をして、甲3の記載及び本件特許の優先日当時の知見を有する当業者は、甲3発明のテオフィリンに代えて、はるかに強力な抗パーキンソン病活性を有する薬剤であることが知られていた選択的アデノシンA2AアンタゴニストであるKW-6002を採用することを十分に動機づけられる旨主張している。
イ しかしながら、上記3(3)アで記載したとおり、パーキンソン病ではプラセボ効果が強大であることが従来から知られていたし、上記3(3)エ、(4)で記載したとおり、本件特許の優先日当時、L-ドーパ療法を長期に行うことにより生じるウェアリング・オフ現象等の重要な発生原因は十分には解明されていなかったことが技術常識であり、アデノシンA2A受容体を遮断することにより、ウェアリング・オフ現象等が改善できることが実証されていたともいえない等の事情が存在していた。そうすると、上記3(2)で記載したとおり、甲3の記載及び本件特許の優先日当時の知見から、当業者が、甲3発明のテオフィリンに代えて、KW-6002を採用することを認識し得るとしても、当業者は、上記3(4)で記載したとおり、甲3発明のテオフィリンに代えて、アデノシンA2AアンタゴニストであるKW-6002を採用することで、実際に、ウェアリング・オフ現象等におけるオン時間を延長させ、オフ時間を減少させることができることまでを合理的に推認できたとはいえないのであるから、甲3の記載及び本件特許の優先日当時の知見を有する当業者が、甲3発明のテオフィリンに代えて、KW-6002を採用することを十分に動機づけられるとはいえない。
よって、上記アの請求人の主張は採用できない。
(2)甲3のテオフィリンの効果がアデノシン受容体阻害作用によると理解できることについて
ア 請求人は、弁駁書35頁(5)において、甲3では、臨床試験の結果を受けて、テオフィリンに比べてより強力でより選択的なアデノシン受容体遮断薬を研究すべきことが記載されているから、当業者は、甲3に記載のテオフィリンの効果がアデノシンA2A受容体の阻害作用によると当然に理解できるし、甲4にも、選択的アデノシンA2A受容体アンタゴニストであるKW-6002の抗パーキンソン病活性を、非選択的アデノシンA2A受容体アンタゴニストであるテオフィリンの抗パーキンソン病活性と比較したことが記載されており(92頁左欄下から4行~右欄7行)、当業者は、テオフィリンの抗パーキンソン病活性がアデノシンA2A受容体の阻害作用によるものであることを認識していたことが分かるから、当業者は、甲3の結果が、アデノシンA2A受容体アンタゴニストとしてのテオフィリンがオフ時間を減少させることを示していると理解する旨主張する。そして、甲3に、より強力で選択的なアデノシンA2A受容体アンタゴニストをオフ時間減少のために研究すべきことが記載されているので、当業者は、オフ時間減少のために甲3発明のテオフィリンをKW-6002に置換することに、容易に想到できる旨主張する。
イ しかしながら、甲3の結果から、当業者が、アデノシンA2A受容体アンタゴニストとしてのテオフィリンがオフ時間を減少させる可能性を認識する場合であっても、上記3(4)で記載したとおり、上記3(3)に記載した事情を総合的に勘案するに、当業者は、甲3発明のテオフィリンに代えて、KW-6002を採用することで、実際に、ウェアリング・オフ現象等におけるオン時間を延長させ、オフ時間を減少させることができることまでを合理的に推認できたとはいえないのであるから、オフ時間減少のために甲3発明のテオフィリンをKW-6002に置換することを、当業者が容易に想到できたとはいえない。
よって、上記アの請求人の主張は採用できない。
(3)甲1及び甲2における示唆について
ア 請求人は、弁駁書38頁の(7)において、甲1や甲2も、アデノシンA2AアンタゴニストであるKW-6002にはオフ時間を減少させる可能性があることを明記しているのであるから、当業者は、甲1や甲2の記載により、なお一層、甲3発明のテオフィリンに代えてKW-6002を使用することを強く動機付けられる旨主張する。
イ(ア) まず甲1について検討すると、甲1の著者はL-ドーパ療法において進行期のパーキンソン病患者に発生するウェアリング・オフ現象への対応をも念頭において甲1の研究を行っており、甲1に、KW-6002のような化合物が、パーキンソン病のウェアリング・オフ現象を有する患者においてジスキネジアを長引かせることなく、ウェアリング・オフ現象を消失する可能性がある旨を記載(甲1g)しているが、すでに上記第9の1(4)イ(ウ)~(オ)において説示したとおり、甲1には、KW-6002がL-ドーパ療法を行うパーキンソン病の患者におけるウェアリング・オフ現象等のオフ時間を減少できることが実証されているとはいえない。
(イ) また、甲2については、すでに上記第8の1(5)ア(ウ)において説示したとおり、パーキンソン病のウェアリング・オフ現象及び/又はオン・オフ変動のオフ時間を減少させるための治療方法を見いだすために執筆された学術論文ということはできないし、また、甲2(甲2k)に、結論として、KW-6002のような化合物が、パーキンソン病のウェアリング・オフ現象及び/又はオン・オフ変動を有する患者において「オン時間」を増加(つまり、「オフ時間」を減少)させることができる可能性がある旨の記載があるとしても、当該記載は、これを裏付ける試験結果等に基づいてなされた実証的な記載であるということはできない。
(ウ) 以上のとおり、甲1及び甲2には、KW-6002のような化合物が、パーキンソン病のウェアリング・オフ現象等の「オフ時間」を減少させることができることが実証されておらず、甲1及び2の記載からは、当業者は、KW-6002が、実際に、パーキンソン病におけるウェアリング・オフ現象におけるオン時間を延長させ、オフ時間を減少させることができることを合理的に推認できないのであるから、甲1や甲2の記載により、当業者が、甲3発明のテオフィリンに代えてKW-6002を使用することを強く動機付けられるとはいえない。
(エ) よって、上記アの請求人の主張は採用できない。
(4)大脳基底核からの出力シグナルの調節によるパーキンソン病の治療について
ア 参加人は、弁駁書6~14頁第1の1及び62~67頁4(1)~(5)において、以下の旨を指摘して、本件訂正発明には進歩性がない旨主張する。
(i) 丙7を模式化した丙8の図からも理解できるとおり、パーキンソン病の機序を理解する上で重要なのは、大脳基底核の中にある神経細胞(大脳皮質運動野へ向けた抑制性シグナルの出力装置として働く。)が、(アデノシンA2A受容体を介して)アデノシンによっては興奮して働き、ドーパミンによっては抑制されて働くということであり、正常な状態ではこれらはバランスされているが、パーキンソン病になると、ドーパミンが減少する結果、アデノシンによる興奮性のシグナルと、ドーパミンによる抑制性のシグナルのバランスが崩れ、アデノシンによる興奮性のシグナルが優勢になる。パーキンソン病の治療法は、大脳基底核からの出力シグナルの調節、つまり、(アデノシンA2A受容体を介した)アデノシンによる興奮性のシグナルと、ドーパミンによる抑制性のシグナルのバランスをとることであり、そのためには、L-ドーパ等のドーパミン系の薬剤により抑制性のシグナルを増強するか、アデノシンA2A受容体に対して拮抗作用を有する薬剤(アンタゴニスト)によりアデノシンA2A受容体を抑制することになる。ドーパミン補充療法とアデノシンA2Aアンタゴニスト療法は、別の機序により、パーキンソン病を治療するものである。
(ii) 甲3に「L-ドーパはPDに対する最も有効な対症療法薬である。しかしその長期的な使用は障害を引き起こす運動副作用の発現をしばしば合併する。・・・これらは大脳基底核の出力経路における微調整された神経化学的平衡の変化によって生じる可能性がある。このため、L-ドーパと大脳基底核の出力経路を調節する薬剤とを併用する実験的な治療法が推奨される。・・・理想的な治療の標的がアデノシンA2A受容体であり・・・PD患者においてアデノシンアンタゴニストであるテオフィリンの効果を試験することとなった。」(合議体注:甲3bの1段落の記載)と記載されるとおり、甲3発明も大脳基底核からの出力シグナルを調節してパーキンソン病の治療を行うものであり、甲3では、L-ドーパを長期間にわたって使用することの問題点(L-ドーパの長期投与の結果生じるウェアリング・オフ等の応答変動)の解決を目的とし、パーキンソン病の症状が現れるメカニズム(アデノシンとドーパミンによって保たれる神経バランスの喪失)を理解した上で、アデノシンA2A受容体に対して拮抗作用を有する薬剤であるテオフィリンを用いて、当該目的を達成しようとするものである。
(iii) 「ウェアリング・オフ」現象の際に現れる「オフ」状態というのは、パーキンソン病の症状を示している状態のことであって、患者がパーキンソン病とは異なる別の症状を呈している状態ではなく、L-ドーパが効いていない状態である「ウェアリング・オフ現象」の結果生じる症状はパーキンソン病それ自体である。
したがって、「ウェアリング・オフ現象」のオフ時間を減少させるとは、パーキンソン病を発症している患者の症状を緩和すること以外のなにものでもなく、本件訂正発明の「L-ドーパ療法において、ウェアリング・オフ現象および/またはオン・オフ変動を示すに至った段階の患者」が示す「オフ時間」についても、パーキンソン病の症状を呈している時間であり、その「オフ時間を減少させるために前記患者に投与され」とは、パーキンソン病の症状を呈している患者に対して、(L-ドーパとは作用機序が異なる)別のパーキンソン病治療薬(KW-6002)を併用投与して、オフ時間におけるパーキンソン病の症状を抑える(オフ時間を減少させる)ということを意味している。
イ(ア) 上記アの主張(i)で参加人が主張するとおり、本件特許の優先日当時、パーキンソン病は、大脳基底核からの出力シグナルであるアデノシンによる興奮性のシグナルと、ドーパミンによる抑制性のシグナルのバランスが崩れた状態であり、両者のバランスをとることで、パーキンソン病が治療できるとの考えに基づき、アデノシンA2A受容体アンタゴニストをパーキンソン病の治療薬とすることに注目が集まっていた(主張(i)で、丙7に基づいて、参加人は、パーキンソン病の機作に関し、大脳基底核からの出力シグナルのバランスとして、簡易に表現しており、理解を容易とするために審決でもそのように記載しているが、その詳細については、丙7c、丙7dの記載及び第7の2(b)の記載も参照のこと。)
(イ) そして、上記アの主張(ii)で参加人が指摘する甲3の上記記載によれば、甲3の著者は、アデノシン受容体アゴニストとしてのテオフィリンによる、大脳基底核からの興奮性のシグナルの増強により大脳基底核からの出力シグナルのバランスを取ることで、「ウェアリング・オフ」現象における「オフ」時間が減少できると考えて試験を行ったことは理解できる。
(ウ) ここで、上記参加人のアの主張(iii)は、L-ドーパとは作用機序が異なる別のパーキンソン病治療薬(KW-6002)を併用投与すれば、ウェアリング・オフ現象における「オフ」時間が減少できることを前提とするものであると解されるところ、本件特許の優先日当時、ウェアリング・オフ現象の発生原因としては、ドーパミンニューロンの変性によるドーパミン保持能の低下やドーパミン受容体の感受性の低下、前シナプスや後シナプスにおける事象の関与等が推測されていたものの、発生原因についての直接の証明はなく、十分には解明されていないことが、本件特許の優先日当時の技術常識であり(第7の1(3)(b))、作用機序が異なる複数のパーキンソン病治療薬を併用しさえすれば、L-ドーパ療法におけるウェアリング・オフ現象のオフ時間を減少できるといった技術常識が本件特許の優先日当時に存在していたとはいえない。
(エ) かえって、ウェアリング・オフ現象の改善については、(i)脳内のドーパミンの濃度が一定に維持できるようにするための手法、及び、(ii)L-ドーパよりも作用時間が長く、ドーパミン様作用を長期化できるドーパミンアゴニストを併用する手法を採用して行うことが技術常識であり(第7の1(3)(b)参照)、これらの手法はいずれも、ドーパミン補充療法としてのL-ドーパ療法を補完して、ドーパミン受容体を介する抗パーキンソン病効果を前提とするものであったから、当業者は、L-ドーパ療法におけるウェアリング・オフ現象のオフ時間を減少させるためには、L-ドーパ療法においてL-ドーパと併用して投与する薬剤として、ドーパミン受容体を介する作用を有し、ドーパミン補充療法としてのL-ドーパ療法を補完するような薬剤を使用する必要があることを理解するといえる。
(オ) 加えて、上記3(3)エに記載したとおり、甲1、甲2、甲4~8を含め、当事者により提出された証拠のいずれからも、動物実験レベルですら、本件特許の優先日当時、アデノシンA2A受容体を遮断することにより、ウェアリング・オフ現象が改善できることが実証されていたとはいえない。
(カ) そうすると、かかる本件特許の優先日当時既知の知見及び技術常識を踏まえた当業者は、アデノシンA2A受容体アンタゴニストにより興奮性のシグナルを抑制して大脳基底核からの出力シグナルのバランスをとることで、パーキンソン病が治療できるとの考えに基づき、甲3発明のテオフィリンに代えて、より強力でより選択的なアデノシン受容体遮断作用を有するKW-6002を採用することを認識し得るとしても、KW-6002がそのアデノシンA2Aアンタゴニストとしての機能に基づき、実際に「L-ドーパ療法におけるウェアリング・オフ現象のオフ時間を減少」させることができることを合理的に推認することはできなかったのであるから、甲3発明において、ウェアリング・オフ現象のオフ時間を減少させるために、テオフィリンに代えて、KW-6002を採用することを容易に想到し得たとはいえない。
(キ) まして、甲3に、特発性パーキンソン病(PD)を有すると診断された初期PDの患者であって、薬剤未投与の患者に対する単剤療法としてのテオフィリンはごくわずかな抗PD作用があっただけで、パーキンソン症状に対する有益性は統計学的に有意ではなく、臨床的にも確固たるものではなかったことが示されていることからすれば、当業者は、甲3におけるオフ時間の減少効果を示したテオフィリンの作用が、アデノシン受容体遮断作用によるものではない可能性や、ヒトでは、アデノシン受容体遮断作用に基づくパーキンソン病治療は有効ではない可能性すら想定すると解されるのであるから、甲3発明において、ウェアリング・オフ現象のオフ時間を減少させるために、テオフィリンに代えてKW-6002を採用することを、当業者が容易に想到し得たとはいえない。
(ク) 以上のとおり、参加人の主張(i)~(iii)はいずれも採用できず、当業者が、甲3発明に基づいて、L-ドーパ療法におけるウェアリング・オフ現象のオフ時間を減少させるために、テオフィリンに代えて、選択的アデノシンA2A受容体アンタゴニストであるKW-6002を採用することを容易に想到し得たとはいえないことは上記3(5)で記載したとおりであるから、大脳基底核からの出力シグナルの調節によるパーキンソン病の治療の観点から本件訂正発明には進歩性がない旨の上記アの参加人の主張は採用できない。
(5)効果について
ア 請求人は、審判請求書の24~26頁において、(i)オフ時間が減少することは、甲1及び甲2に記載されているため、予測できる旨、及び、(ii)オフ時間の減少の長さについては、KW-6002が、パーキンソン病モデルにおいて、長時間にわたり、L-ドーパの抗パーキンソン病活性を補完できることが知られていたこと、具体的には、甲2では、パーキンソン病モデルコモンマーモセットにおいて、KW-6002が24時間にわたりL-ドーパの効力を補完して、抗パーキンソン病活性を発揮しているし、ウェアリング・オフ現象は日内変動(甲5(合議体注:この審決では甲5が甲10の一部であるため甲10を摘記しているが、請求人の指摘する箇所は甲10dの項目「1.」に相当する。))、すなわち、1日の覚醒時間内にオン・オフが繰り返される現象であるから、ウェアリング・オフ現象において、L-ドーパの薬効が得られないオフ時間にも、KW-6002が抗パーキンソン病活性を発揮することは明らかであり、それはオフ時間の減少として現れること、(iii)甲3には、テオフィリンが、L-ドーパで治療されているパーキンソン病患者において、ウェアリング・オフ現象のオフ時間の持続を30%まで現象したことが記載されていること、(iv)KW-6002は、テオフィリンより活性持続時間がはるかに長いことが知られていたこと、具体的には、甲6には、6-ヒドロキシドーパミン(6-OHDA)投与により作製されたパーキンソン病モデルラットに10mg/kgのテオフィリンを腹腔内投与した場合の薬効持続時間が60分間であったことが記載され、甲2には、MPTP投与により作製されたパーキンソン病モデルコモンマーモセットに10mg/kgのKW-6002を経口投与した場合の薬効持続時間が7.5時間であること、甲7には、11時間であることが記載され、かつ、ラットとコモンマーモセットはほぼ同サイズ(甲8)であるから、投与経路の違いはあるが、薬効持続時間は、テオフィリンが60分間、KW-6002が7.5~11時間であり、KW-6002の薬効持続時間がテオフィリンより桁違いに長いことが把握できることを指摘して、本件訂正発明のオフ時間の減少効果は格別顕著な効果ではない旨主張する。
イ(ア) 上記3(6)で記載したとおり、本件特許明細書には、KW-6002群の被験者では、プラセボ群の被験者と比較して、オフ時間における有意な減少があったことが記載されている。一方、すでに3(3)エで記載したとおり、本件特許の優先日当時、(L-ドーパ製剤等及びKW-6002のようなアデノシンA2A受容体アンタゴニストといった)作用機序が異なる複数のパーキンソン病治療薬を併用しさえすれば、L-ドーパ療法におけるウェアリング・オフ現象のオフ時間を減少できるといった技術常識が存在していたとはいえないし、甲1~甲8を含め、当事者により提出された証拠のいずれからも、動物実験レベルですら、本件特許の優先日当時、KW-6002のようなアデノシンA2A受容体アンタゴニストによってアデノシンA2A受容体を遮断することにより、ウェアリング・オフ現象やオン・オフ変動が改善できることが実証されていたとはいえない。
(イ) そうすると、KW-6002がL-ドーパ療法を行うパーキンソン病の患者におけるウェアリング・オフ現象のオフ時間を減少できるという本件訂正発明の効果は、甲1~8を含め、当事者により提出された本件特許の優先日前既知の証拠の証拠からは予測し得なかった効果であり、格別顕著な効果である。
(ウ) よって、上記アの請求人の主張は採用できない。
5 小括
以上のとおりであるから、本件訂正発明について、甲3に記載された発明、甲1~甲8に記載された事項、及び本件特許の優先日前の技術常識に基いて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできず、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるということはできない。
よって、本件訂正発明に係る特許を、無効理由2-1によって無効とすることはできない。
第12 むすび
以上のとおり、本件訂正は適法であり、本件訂正後の請求項1に係る特許は、請求人が主張する無効理由1-1、1-2、2-1、2-2、2-3及び2-4のいずれによっても無効とすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項において準用する民事訴訟法第61条の規定により、参加によって生じた費用を含めて、請求人及び参加人の負担とする。
よって、結論のとおり、審決する。
審決本文(J-PlatPat)
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2020-800076