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特許無効審判

2021-800025

フルベストラント製剤

審判番号
2021-800025
法域
特許
審判種別
無効審判(無効の審決)
出願番号
特願2001-551480
登録番号
3713237
請求日
2021年03月31日
審決日
2023年07月07日
公報発行日
2025年03月28日
結論
請求不成立
当事者
  • 【請求人】サンド 株式会社
  • 【請求人代理人】山崎 一夫
  • 【請求人代理人】服部 博信
  • 【請求人代理人】星野 貴光
  • 【請求人代理人】志村 将
  • 【請求人代理人】小林 真知
  • 【被請求人】アストラゼネカ アクチボラグ
  • 【被請求人代理人】寺地 拓己
  • 【被請求人代理人】中濱 明子
  • 【被請求人代理人】末吉 剛
  • 【被請求人代理人】高橋 聖史
  • 【被請求人代理人】吉野 海希
審判長/審判官
  • 審判長 原田 隆興
  • 審判官 藤原 浩子
  • 審判官 田中 耕一郎
分類
P1113.113-ZDA(A61K) / P1113.121-ZDA(A61K) / P1113.536-ZDA(A61K) / P1113.537-ZDA(A61K)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法169条2項民事訴訟法64条
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第184条の19、特許法第29条第2項、特許法第134条の2第9項、特許法第134条の2第1項、特許法第29条第1項第3号、特許法第36条第4項、特許法第36条第6項第1号、特許法第169条第2項
データ出所
審決公報(XML)

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上記当事者間の特許第3713237号発明「フルベストラント製剤」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。

結論

結 論 特許第3713237号の明細書及び特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~28〕、29、30、31、32、33、34について訂正することを認める。 特許第3713237号の請求項1~17に係る発明についての特許を無効とする。 特許第3713237号の請求項18~34に係る発明についての審判請求は、成り立たない。 審判費用は、その34分の17(2分の1)を請求人の負担とし、34分の17(2分の1)を被請求人の負担とする。

理由

理 由 第1 手続の経緯 特許第3713237号(以下「本件特許」という。)に係る特許出願(特願2001-551480号)は、2001年(平成13年)1月8日(パリ条約による優先権主張 2000年1月10日、2000年4月12日、いずれも(GB)英国)を国際出願日とする特許出願であって、平成17年8月26日に特許権の設定登録(請求項数28)がされたものである。 これに対して、令和3年3月31日に、請求人サンド株式会社により特許無効審判請求がされた。以後の主な手続の経緯は次のとおりである。 令和3年 3月31日 審判請求書の提出 同年 9月 3日 訂正請求書及び答弁書の提出 同年 9月24日 参加申請書の提出 同年12月 2日付け 参加許否の決定(サンファーマ株式会社 が請求人側に参加することを許可) 令和4年 1月17日 弁駁書(以下「第1回弁駁書」という。) の提出(請求人) 同年 1月17日 弁駁書の提出(参加人) 同年 4月 6日付け 審理事項通知書 同年 5月 2日 口頭審理陳述要領書の提出(請求人) 同年 5月 2日 口頭審理陳述要領書の提出(参加人) 同年 5月 2日 口頭審理陳述要領書の提出(被請求人) 同年 5月10日 上申書の提出(被請求人) 同年 5月23日 口頭審理 同年 6月27日 上申書(以下「第2回上申書」という。) の提出(被請求人) 同年 7月19日 上申書の提出(請求人) 同年 7月19日 参加取下書の提出(サンファーマ株式会社) 同年 9月13日付け 審決の予告 同年12月23日 訂正請求書及び上申書(以下「第3回上申書」 という。)の提出(被請求人) 令和5年 1月16日付け 手続補正指令 同年 1月31日 手続補正書(方式)の提出(被請求人) 同年 3月20日 弁駁書(以下「第2回弁駁書」という。) の提出(請求人) なお、令和3年9月3日にされた訂正の請求は、取り下げられたものとみなす。 第2 訂正請求について 1 訂正の内容 令和5年1月31日提出の手続補正書(方式)により補正された、令和4年12月23日提出の訂正請求書による訂正の請求の趣旨は、「特許第3713237号の明細書及び特許請求の範囲を、本件請求書に添付した訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1ないし34について訂正することを求める。」というものであり、当該訂正の請求による訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、次のとおりである(当審注:下線部は訂正箇所である。)。 2 訂正事項 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に、構成要件を付加することで、「筋肉内注射によりヒトに投与するための医薬製剤であって、少なくとも45mg/mlのフルベストラント、製剤の容積当たり30重量%以下の医薬的に許容できるアルコール類、製剤の容積当たり少なくとも1重量%の安息香酸ベンジル、および少なくとも45mg/mlのフルベストラントの製剤を調製するのに十分な量のヒマシ油を含む、筋肉内注射に適する医薬製剤。」に訂正する。 (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項15に、構成要件を付加することで、「筋肉内注射によりヒトに投与するための医薬製剤であって、少なくとも45mg/mlのフルベストラント、製剤の容積当たり15~25重量%の医薬的に許容できるアルコール類、製剤の容積当たり10~25重量%の安息香酸ベンジル、および少なくとも45mg/mlのフルベストラントの製剤を調製するのに十分な量のヒマシ油を含む、筋肉内注射に適する医薬製剤。」に訂正する。 (3)訂正事項3 特許請求の範囲の請求項16に、構成要件を付加することで、「筋肉内注射によりヒトに投与するための医薬製剤であって、少なくとも45mg/mlのフルベストラント、製剤の容積当たり17~23重量%の医薬的に許容できるアルコール類、製剤の容積当たり12~18重量%の安息香酸ベンジル、および少なくとも45mg/mlのフルベストラントの製剤を調製するのに十分な量のヒマシ油を含む、筋肉内注射に適する医薬製剤。」に訂正する。 (4)訂正事項4 ア 訂正事項4-1 特許請求の範囲の請求項17に「請求項1~16のいずれか1項に記載の医薬製剤。」とあるうち、請求項16を引用するものを独立形式請求項とし、更に構成要件を付加することで、「筋肉内注射によりヒトに投与するための医薬製剤であって、少なくとも45mg/mlのフルベストラント、製剤の容積当たり17~23重量%の医薬的に許容できるアルコール類、製剤の容積当たり12~18重量%の安息香酸ベンジル、を含み、医薬的に許容できるアルコール類がエタノールとベンジルアルコールの混合物であり、製剤の容積当たり10重量%のエタノール、製剤の容積当たり10重量%のベンジルアルコール、製剤の容積当たり15重量%の安息香酸ベンジル、および少なくとも45mg/mlのフルベストラントの製剤を調製するのに十分な量のヒマシ油を含み、筋肉内注射に適する医薬製剤。」に訂正し、新たに請求項29とする。 イ 訂正事項4-2 特許請求の範囲の請求項17に「請求項1~16のいずれか1項に記載の医薬製剤。」と記載されているのを、「請求項1~15のいずれか1項に記載の医薬製剤。」に訂正する。 (5)訂正事項5 特許請求の範囲の請求項18に、構成要件を付加することで、「筋肉内注射によりヒトに投与するための医薬製剤であって、少なくとも45mg/mlのフルベストラント、製剤の容積当たり15~25重量%の医薬的に許容できるアルコール類、製剤の容積当たり10~25重量%の、ヒマシ油中の安息香酸ベンジル、および少なくとも45mg/mlのフルベストラントの製剤を調製するのに十分な量のヒマシ油を含み、医薬的に許容できるアルコール類がエタノールおよびベンジルアルコールの混合物であり、エタノールおよびベンジルアルコールが製剤の容積当たりほぼ等しい重量%で存在する、筋肉内注射に適する医薬製剤。」に訂正する。 (6)訂正事項6 特許請求の範囲の請求項19に、構成要件を付加することで、「フルベストラント、製剤の容積当たり17~23重量%の医薬的に許容できるアルコール類、製剤の容積当たり12~18重量%の、ヒマシ油中の安息香酸ベンジル、および少なくとも45mg/mlのフルベストラントの製剤を調製するのに十分な量のヒマシ油を含み、医薬的に許容できるアルコール類がエタノールおよびベンジルアルコールの混合物であり、エタノールおよびベンジルアルコールが製剤の容積当たりほぼ等しい重量%で存在する、筋肉内注射に適する、請求項18に記載の医薬製剤。」に訂正する。 (7)訂正事項7 特許請求の範囲の請求項20に、構成要件を付加することで、「製剤の容積当たり18~22重量%の医薬的に許容できるアルコール類、製剤の容積当たり14~16重量%の安息香酸ベンジルを含み、医薬的に許容できるアルコール類がエタノールおよびベンジルアルコールの混合物である、請求項18または19に記載の医薬製剤。」に訂正する。 (8)訂正事項8 特許請求の範囲の請求項21に、構成要件を付加することで、「製剤の容積当たり19~21重量%の医薬的に許容できるアルコール類、製剤の容積当たり14~16重量%の安息香酸ベンジルを含み、エタノールおよびベンジルアルコールが製剤の容積当たりほぼ等しい重量%で存在する、請求項20記載の医薬製剤。」に訂正する。 (9)訂正事項9 特許請求の範囲の請求項22に、「請求項1~21のいずれか1項に記載の医薬製剤。」と記載されているのを、「請求項21に記載の医薬製剤。」に訂正する。 (10)訂正事項10 ア 訂正事項10-1 特許請求の範囲の請求項23に「請求項1~22のいずれか1項に記載の医薬製剤。」とあるうち、引用する請求項17のうち請求項16を引用するものを独立形式請求項とし、構成要件を付加することで、「筋肉内注射によりヒトに投与するための医薬製剤であって、少なくとも45mg/mlのフルベストラント、製剤の容積当たり17~23重量%の医薬的に許容できるアルコール類、製剤の容積当たり12~18重量%の安息香酸ベンジル、を含み、医薬的に許容できるアルコール類がエタノールとベンジルアルコールの混合物であり、製剤の容積当たり10重量%のエタノール、製剤の容積当たり10重量%のベンジルアルコール、製剤の容積当たり15重量%の安息香酸ベンジル、および少なくとも45mg/mlのフルベストラントの製剤を調製するのに十分な量のヒマシ油を含み、製剤中のフルベストラントの全量が250mg以上であり、かつ製剤の全容積が6ml以下である、筋肉内注射に適する徐放性製剤である、医薬製剤。」に訂正し、新たに請求項30とする。 イ 訂正事項10-2 特許請求の範囲の請求項23に「請求項1~22のいずれか1項に記載の医薬製剤。」と記載されているのを、「請求項21または22に記載の医薬製剤。」に訂正する。 (11)訂正事項11 特許請求の範囲の請求項24に「請求項23に記載の医薬製剤。」とあるうち、引用する請求項23のうち請求項16を引用する請求項17を引用するものを独立形式請求項とし、構成要件を付加することで、「筋肉内注射によりヒトに投与するための医薬製剤であって、少なくとも45mg/mlのフルベストラント、製剤の容積当たり17~23重量%の医薬的に許容できるアルコール類、製剤の容積当たり12~18重量%の安息香酸ベンジル、を含み、医薬的に許容できるアルコール類がエタノールとベンジルアルコールの混合物であり、製剤の容積当たり10重量%のエタノール、製剤の容積当たり10重量%のベンジルアルコール、製剤の容積当たり15重量%の安息香酸ベンジル、および少なくとも45mg/mlのフルベストラントの製剤を調製するのに十分な量のヒマシ油を含み、製剤中のフルベストラントの全量が250mgであり、かつ製剤の全容積が5~5.25mlである、筋肉内注射に適する徐放性製剤である、医薬製剤。」に訂正し、新たに請求項31とする。 (12)訂正事項12 特許請求の範囲の請求項25に「請求項1~24のいずれか1項に記載の医薬製剤。」と記載されているのを、「請求項1~16および18~24のいずれか1項に記載の医薬製剤。」に訂正する。 (13)訂正事項13 ア 訂正事項13-1 特許請求の範囲の請求項26に「請求項1~25のいずれか1項に記載の筋肉内注射に適する医薬製剤。」とあるうち、引用する請求項17のうち請求項16を引用するものを独立形式請求項とし、構成要件を付加することで、「筋肉内注射によりヒトに投与するための医薬製剤であって、少なくとも45mg/mlのフルベストラント、製剤の容積当たり17~23重量%の医薬的に許容できるアルコール類、製剤の容積当たり12~18重量%の安息香酸ベンジル、を含み、医薬的に許容できるアルコール類がエタノールとベンジルアルコールの混合物であり、製剤の容積当たり10重量%のエタノール、製剤の容積当たり10重量%のベンジルアルコール、製剤の容積当たり15重量%の安息香酸ベンジル、および少なくとも45mg/mlのフルベストラントの製剤を調製するのに十分な量のヒマシ油を含み、乳癌の治療において使用するための、筋肉内注射に適する徐放性製剤である、医薬製剤。」に訂正し、新たに請求項32とする。 イ 訂正事項13-2 特許請求の範囲の請求項26に「医療に使用するための、請求項1~25のいずれか1項に記載の筋肉内注射に適する医薬製剤。」と記載されているのを、「乳癌の治療において使用するための徐放性製剤である、請求項21または25に記載の筋肉内注射に適する医薬製剤。」に訂正する。 (14)訂正事項14 ア 訂正事項14-1 特許請求の範囲の請求項27に「請求項1~26のいずれか1項に記載の医薬製剤の調製におけるフルベストラントの使用。」とあるうち、引用する請求項17のうち請求項16を引用するものを独立形式請求項とし、構成要件を付加することで、「乳癌の治療において使用するための医薬製剤の調製におけるフルベストラントの使用であって、医薬製剤が、筋肉内注射によりヒトに投与するための医薬製剤であって、少なくとも45mg/mlのフルベストラント、製剤の容積当たり17~23重量%の医薬的に許容できるアルコール類、製剤の容積当たり12~18重量%の安息香酸ベンジル、を含み、医薬的に許容できるアルコール類がエタノールとベンジルアルコールの混合物であり、医薬製剤が製剤の容積当たり10重量%のエタノール、製剤の容積当たり10重量%のベンジルアルコール、製剤の容積当たり15重量%の安息香酸ベンジル、および少なくとも45mg/mlのフルベストラントの製剤を調製するのに十分な量のヒマシ油を含み、筋肉内注射に適する医薬製剤である、前記使用。」に訂正し、新たに請求項33とする。 イ 訂正事項14-2 特許請求の範囲の請求項27に「良性または悪性の胸部疾患または生殖路疾患の処置のための請求項1~26のいずれか1項に記載の医薬製剤の調製におけるフルベストラントの使用。」と記載されているのを、「乳癌の治療において使用するための、請求項21または25に記載の医薬製剤の調製におけるフルベストラントの使用。」に訂正する。 (15)訂正事項15 特許請求の範囲の請求項28に「請求項25に記載の医薬製剤を含有する注射器またはバイアル。」とあるうち、引用する請求項25のうち請求項16を引用する請求項17を引用するものを独立形式請求項とし、構成要件を付加することで、「医薬製剤を含有する注射器またはバイアルであって、医薬製剤が、筋肉内注射によりヒトに投与するための医薬製剤であって、少なくとも45mg/mlのフルベストラント、製剤の容積当たり17~23重量%の医薬的に許容できるアルコール類、製剤の容積当たり12~18重量%の安息香酸ベンジル、を含み、医薬的に許容できるアルコール類がエタノールとベンジルアルコールの混合物であり、医薬製剤が製剤の容積当たり10重量%のエタノール、製剤の容積当たり10重量%のベンジルアルコール、製剤の容積当たり15重量%の安息香酸ベンジル、および少なくとも45mg/mlのフルベストラントの製剤を調製するのに十分な量のヒマシ油を含み、筋肉内注射に適する医薬製剤である、前記注射器またはバイアル。」に訂正し、新たに請求項34とする。 (16)訂正事項16 明細書の【0051】に「ゴマ油で容積調整された;」と記載されているのを、「上記の油で容積調製された;」に訂正する。 (17)別の訂正単位とする求め 訂正事項1~15は、一群の請求項である訂正前の請求項1~28について請求するものであるところ、訂正後の請求項1~28、並びに独立項である請求項29、請求項30、請求項31、請求項32、請求項33、及び請求項34のそれぞれについては、当該請求項についての訂正が認められる場合には、それぞれを、一群の請求項の他の請求項とは別の訂正単位とすることを求めている。 2 訂正の適否についての判断 (1)訂正事項1~3について 訂正事項1~3は、訂正前の請求項1、15及び16のそれぞれにおいて、「筋肉内注射によりヒトに投与するための医薬製剤であって、少なくとも45mg/mlの」との構成要件を付加する訂正であり、具体的には、「筋肉内注射に適する医薬製剤」に、「筋肉内注射によりヒトに投与するための医薬製剤であって、」との限定を付加し、かつ、「フルベストラント」の含有量を「少なくとも45mg/ml」と限定するものあり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 訂正事項1~3について、願書に添付した明細書【0054】には、「本発明の他の態様は、良性または悪性の胸部疾患または生殖路疾患の処置方法、好ましくは乳癌の処置方法であって、その処置を必要とするヒトに、少なくとも45mg/mlのフルベストラント;製剤の容積当たり35重量%以下(好ましくは30重量%以下、理想的には25重量%以下)の医薬的に許容できるアルコール類、製剤の容積当たり少なくとも1重量%(好ましくは少なくとも5重量%、理想的には少なくとも10重量%)の、リシノレエートビヒクルに混和性の医薬的に許容できる非水性エステル系溶剤を含むリシノレエートビヒクルベースの徐放性医薬製剤を筋肉内投与することによる方法である。」との記載がある。また、ヒトへの筋肉内注射について、【0024】にも、「本発明の他の態様は、フルベストラントを含み、ヒトへの筋肉内注射に適し、・・・医薬製剤である」。との記載がある。さらに、フルベストラントの濃度が45mg /mlであることについて、【0026】、【0029】及び【0053】にも記載がある。 したがって、訂正事項1~3は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものである。 (2)訂正事項4について ア 訂正事項4-1について 訂正事項4-1のうち、訂正前の請求項17が請求項1~16の記載を引用する記載であるところ、請求項16を引用するものについて請求項間の引用関係を解消して、独立形式請求項へ改める訂正(訂正事項4-1-1)は、「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、また、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものである。 訂正事項4-1のうち、「筋肉内注射によりヒトに投与するための医薬製剤であって、少なくとも45mg/mlの」との構成要件を付加する訂正(訂正事項4-1-2)は、訂正事項1~3と同様の理由により、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、また、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものである。 訂正事項4-1のうち、「エタノール」、「ベンジルアルコール」及び「安息香酸ベンジル」の含有量を、それぞれ「製剤の容積当たり10重量%のエタノール」、「製剤の容積当たり10重量%のベンジルアルコール」及び「製剤の容積当たり15重量%の安息香酸ベンジル」と限定する訂正(訂正事項4-1-3)は、【0060】の「たとえば下記のものを含有する製剤を調整するために各量の成分を添加する: 10%w/vのベンジルアルコール 10%w/vのエタノール 15%w/vの安息香酸ベンジル」との記載、及び、【0032】、【0033】、【0036】の記載に基づいて、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、また、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものである。 イ 訂正事項4-2について 訂正事項4-2は、訂正前の請求項17における「請求項1~16のいずれか1項に記載」を「請求項1~15のいずれか1項に記載」と訂正し、引用する請求項の数を減少させるものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、また、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものである。 (3)訂正事項5について 訂正事項5のうち、「筋肉内注射によりヒトに投与するための医薬製剤であって、少なくとも45mg/mlの」との構成要件を訂正前の請求項18において付加する訂正(訂正事項5-1)は、訂正事項1~3と同様の理由により、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、また、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものである。 訂正事項5のうち「医薬的に許容できるアルコール類がエタノールおよびベンジルアルコールの混合物であり、エタノールおよびベンジルアルコールが製剤の容積当たりほぼ等しい重量%で存在する」との構成要件を付加する訂正(訂正事項5-2)は、【0032】の「非経口投与に好ましい医薬的に許容できるアルコールはエタノール、ベンジルアルコール、またはエタノールとベンジルアルコール両方の混合物であり、好ましくはエタノールとベンジルアルコールが製剤中に同一w/v 量で存在する。」との記載に基づいて、「アルコール類」の成分の種類と含有量を限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、また、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものである。 (4)訂正事項6について 訂正事項6の「医薬的に許容できるアルコール類がエタノールおよびベンジルアルコールの混合物であり、エタノールおよびベンジルアルコールが製剤の容積当たりほぼ等しい重量%で存在する」との構成要件を訂正前の請求項19において付加する訂正は、訂正事項5-2と同様の理由により、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、また、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものである。 (5)訂正事項7について 訂正事項7の「製剤の容積当たり18~22重量%の医薬的に許容できるアルコール類、製剤の容積当たり14~16重量%の安息香酸ベンジルを含み、」との構成要件を訂正前の請求項20において付加する訂正は、【0031】の「前記製剤中に存在する医薬的に許容できるアルコール類の好ましい範囲は上記の最小値または最大値から選択され、少なくとも…18-22%w/v、そして理想的には19-21%w/vである。」、【0033】の「非経口投与に好ましい医薬的に許容できる非水性エステル系溶剤は、安息香酸ベンジル…またはその任意の混合物から選択される。」及び【0036】の「前記製剤中に存在する医薬的に許容できる非水性エステル系溶剤の好ましい範囲は上記の最小値または最大値から選択され、…理想的には14-16w/vである。」との記載に基づいて、「アルコール類」及び「安息香酸ベンジル」の含有量を限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、また、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものである。 (6)訂正事項8について 訂正事項8の「製剤の容積当たり19~21重量%の医薬的に許容できるアルコール類、製剤の容積当たり14~16重量%の安息香酸ベンジルを含み、」との構成要件を訂正前の請求項21において付加する訂正は、上記(5)に示した【0031】、【0033】及び【0036】の記載に基づいて、「アルコール類」及び「安息香酸ベンジル」の含有量を限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、また、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものである。 (7)訂正事項9について 訂正事項9は、訂正前の請求項22における「請求項1~21のいずれか1項に記載」を「請求項21のいずれか1項に記載」と訂正し、引用する請求項の数を減少させるものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、また、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものである。 (8)訂正事項10について ア 訂正事項10-1について 訂正事項10-1のうち、訂正前の請求項23が請求項1~22の記載を引用する記載であるところ、引用する請求項17のうち請求項16を引用するものについて、請求項間の引用関係を解消して、独立形式請求項である新たな請求項30へ改める訂正(訂正事項10-1-1)は、「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、また、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものである。 訂正事項10-1のうち、訂正前の請求項23における、引用する請求項17のうち請求項16を引用するものにおいて、「筋肉内注射によりヒトに投与するための医薬製剤であって、少なくとも45mg/mlの」(訂正事項10-1-2)及び「製剤の容積当たり10重量%のエタノール、製剤の容積当たり10重量%のベンジルアルコール、製剤の容積当たり15重量%の安息香酸ベンジル」(訂正事項10-1-3)との構成要件を付加する訂正は、上記訂正事項4-1と同様の理由により、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、また、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものである。 訂正事項10-1のうち、訂正前の請求項23における、引用する請求項17のうち請求項16を引用するものにおいて、「徐放性製剤である」との構成要件を付加する訂正(訂正事項10-1-4)は、【0001】の「本発明は、化合物7α-[9-(4,4,5,5,5-ペンタフルオロペンチルスルフィニル)ノニル]エストラ-1,3,5(10)-トリエン-3,17β-ジオールを含有する、注射による投与に適する新規な徐放性(sustained release)医薬製剤に関する。」、【0053】の「したがって本発明の他の態様として、…筋肉内注射に適する徐放性医薬製剤を提供する。」、及び、【0054】の「本発明の他の態様は、…徐放性医薬製剤を筋肉内投与することによる方法である。」との記載に基づいて、「医薬製剤」を「徐放性製剤」に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、また、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものである。 イ 訂正事項10-2について 訂正事項10-2は、訂正前の請求項23における「請求項1~22のいずれか1項に記載」を「請求項21または22のいずれか1項に記載」と訂正し、引用する請求項の数を減少させるものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、また、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものである。 (9)訂正事項11について 訂正事項11のうち、訂正前の請求項24が請求項23の記載を引用する記載であるところ、引用する請求項23のうち請求項16を引用する請求項17を引用するものについて請求項間の引用関係を解消して、独立形式請求項である新たな請求項31へ改める訂正(訂正事項11-1)は、「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とする訂正であって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、また、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものである。 訂正事項11のうち、「筋肉内注射によりヒトに投与するための医薬製剤であって、少なくとも45mg/mlの」(訂正事項11-2)、「製剤の容積当たり10重量%のエタノール、製剤の容積当たり10重量%のベンジルアルコール、製剤の容積当たり15重量%の安息香酸ベンジル」(訂正事項11-3)、及び、「徐放性製剤である」(訂正事項11-4)との構成要件を付加する訂正は、上記訂正事項4-1及び訂正事項10-1-4と同様の理由により、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、また、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものである。 (10)訂正事項12について 訂正事項12は、訂正前の請求項25における「請求項1~24のいずれか1項に記載」を「請求項1~16および18~24のいずれか1項に記載」と訂正し、引用する請求項の数を減少させるものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、また、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものである。 (11)訂正事項13について ア 訂正事項13-1について 訂正事項13-1のうち、訂正前の請求項26が請求項1~25の記載を引用する記載であるところ、引用する請求項17のうち請求項16を引用するものについて請求項間の引用関係を解消して、独立形式請求項へ改める訂正(訂正事項13-1-1)は、「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とする訂正であって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、また、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものである。 訂正事項13-1のうち、「筋肉内注射によりヒトに投与するための医薬製剤であって、少なくとも45mg/mlの」(訂正事項13-1-2)、及び、「製剤の容積当たり10重量%のエタノール、製剤の容積当たり10重量%のベンジルアルコール、製剤の容積当たり15重量%の安息香酸ベンジル」(訂正事項13-1-3)、「徐放性製剤である」(訂正事項13-1-4)との構成要件を付加する訂正は、上記訂正事項4-1及び訂正事項10-1-4と同様の理由により、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、また、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものである。 訂正事項13-1のうち、「医療に使用するための」との記載を「乳癌の治療において使用するための」とする訂正(訂正事項13-1-5)は、乳癌の治療のための使用について、【0054】の「…本発明の他の態様は、良性または悪性の胸部疾患または生殖路疾患の処置方法、好ましくは乳癌の処置方法・・・である。」との記載に基づいて、用途を限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、また、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものである。 イ 訂正事項13-2について 訂正事項13-2のうち、「医療に使用するための」との記載を「乳癌の治療において使用するための徐放性製剤である」とする訂正(訂正事項13-2-1)は、上記訂正事項13-1-5及び訂正事項10-1-4と同様の理由により、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、また、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものである。 訂正事項13-2のうち、「請求項1~25のいずれか1項に記載」との記載を「請求項21または25に記載」とする訂正(訂正事項13-2-2)は、引用する請求項の数を減少させるものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、また、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものである。 (12)訂正事項14について ア 訂正事項14-1について 訂正事項14-1のうち、訂正前の請求項27が請求項1~26の記載を引用する記載であるところ、引用する請求項17のうち請求項16を引用するものについて請求項間の引用関係を解消して、独立形式請求項へ改める訂正(訂正事項14-1-1)は、「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、また、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものである。 訂正事項14-1のうち、「筋肉内注射によりヒトに投与するための医薬製剤であって、少なくとも45mg/mlの」(訂正事項14-1-2)、「製剤の容積当たり10重量%のエタノール、製剤の容積当たり10重量%のベンジルアルコール、製剤の容積当たり15重量%の安息香酸ベンジル」(訂正事項14-1-3)との構成要件を付加する訂正は、上記訂正事項4-1と同様の理由により、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、また、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものである。 訂正事項14-1のうち、「良性または悪性の胸部疾患または生殖路疾患の処置のための」との記載を「乳癌の治療において使用するための」とする訂正(訂正事項14-1-4)は、上記訂正事項13-1-5と同様の理由により、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、また、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものである。 イ 訂正事項14-2について 訂正事項14-2のうち、「良性または悪性の胸部疾患または生殖路疾患の処置のための」との記載を「乳癌の治療において使用するための」とする訂正(訂正事項14-2-1)は、上記訂正事項13-1-5と同様の理由により、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、また、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものである。 訂正事項14-2のうち、「請求項1~26のいずれか1項に記載」を「請求項21または25に記載」とする訂正(訂正事項14-2-2)は、引用する請求項の数を減少させるものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、また、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものである。 (13)訂正事項15について 訂正事項15のうち、訂正前の請求項28が請求項25の記載を引用する記載であるところ、引用する請求項25のうち請求項16を引用する請求項17を引用するものについて請求項間の引用関係を解消して、独立形式請求項へ改める訂正(訂正事項15-1)は、「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、また、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものである。 訂正事項15のうち、「筋肉内注射によりヒトに投与するための医薬製剤であって、少なくとも45mg/mlの」との構成要件を付加する訂正(訂正事項15-2)は、上記訂正事項1~3と同様の理由により、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、また、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものである。 (14)訂正事項16について 訂正事項16は、願書に添付した明細書の【0051】の表の製剤の脚注aで記載されている「ゴマ油で容積調整された;」を、特許法第184条の19で読み替える、同法第184条の4第1項の国際出願日における国際出願の明細書、請求の範囲又は図面(以下「国際出願の明細書等」という。)の明細書の14頁のTable4下表の脚注aの「made to volume with stated oil」の正しい日本語訳である「上記の油で容積調製された;」に誤訳訂正するものである。 したがって、訂正事項16は、誤記又は誤訳の訂正を目的とするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、また、国際出願の明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである(特許法第184条の19参照)。 (15)独立特許要件について 全ての請求項に対して特許無効審判が請求されているので、特許法第134条の2第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定される要件(独立特許要件)は課されない。 3 まとめ 以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号、第2号又は第4号に掲げる事項を目的とするものであって、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項に規定する要件に適合するものである。 よって、本件特許の明細書及び特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~28〕、29、30、31、32、33、34について訂正することを認める。 第3 訂正発明 上記第2のとおり、本件訂正が認められたので、本件特許の請求項1~34に係る発明は、本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1~34に記載された事項により特定される、次のとおりのものである(以下、請求項の番号に従い、「訂正発明1」~「訂正発明34」といい、まとめて「訂正各発明」ということもある。)。 「【請求項1】 筋肉内注射によりヒトに投与するための医薬製剤であって、少なくとも45mg/mlのフルベストラント、製剤の容積当たり30重量%以下の医薬的に許容できるアルコール類、製剤の容積当たり少なくとも1重量%の安息香酸ベンジル、および少なくとも45mg/mlのフルベストラントの製剤を調製するのに十分な量のヒマシ油を含む、筋肉内注射に適する医薬製剤。 【請求項2】 25%w/v以下の医薬的に許容できるアルコール類を含有する、請求項1に記載の医薬製剤。 【請求項3】 20%w/v以下の医薬的に許容できるアルコール類を含有する、請求項1に記載の医薬製剤。 【請求項4】 15~25%w/vの医薬的に許容できるアルコール類を含有する、請求項1に記載の医薬製剤。 【請求項5】 17~23%w/vの医薬的に許容できるアルコール類を含有する、請求項1に記載の医薬製剤。 【請求項6】 60%w/v以下の安息香酸ベンジルを含有する、請求項1~5のいずれか1項に記載の医薬製剤。 【請求項7】 50%w/v以下の安息香酸ベンジルを含有する、請求項6に記載の医薬剤。 【請求項8】 45%w/v以下の安息香酸ベンジルを含有する、請求項6に記載の医薬製剤。 【請求項9】 40%w/v以下の安息香酸ベンジルを含有する、請求項6に記載の医薬製剤。 【請求項10】 35%w/v以下の安息香酸ベンジルを含有する、請求項6に記載の医薬製剤。 【請求項11】 30%w/v以下の安息香酸ベンジルを含有する、請求項6に記載の医薬剤。 【請求項12】 25%w/v以下の安息香酸ベンジルを含有する、請求項6に記載の医薬製剤。 【請求項13】 10~25%w/vの安息香酸ベンジルを含有する、請求項6に記載の医薬製剤。 【請求項14】 12~18%w/vの安息香酸ベンジルを含有する、請求項6に記載の医薬製剤。 【請求項15】 筋肉内注射によりヒトに投与するための医薬製剤であって、少なくとも45mg/mlのフルベストラント、製剤の容積当たり15~25重量%の医薬的に許容できるアルコール類、製剤の容積当たり10~25重量%の安息香酸ベンジル、および少なくとも45mg/mlのフルベストラントの製剤を調製するのに十分な量のヒマシ油を含む、筋肉内注射に適する医薬製剤。 【請求項16】 筋肉内注射によりヒトに投与するための医薬製剤であって、少なくとも45mg/mlのフルベストラント、製剤の容積当たり17~23重量%の医薬的に許容できるアルコール類、製剤の容積当たり12~18重量%の安息香酸ベンジル、および少なくとも45mg/mlのフルベストラントの製剤を調製するのに十分な量のヒマシ油を含む、筋肉内注射に適する医薬製剤。 【請求項17】 医薬的に許容できるアルコール類がエタノールとベンジルアルコールの混合物である、請求項1~15のいずれか1項に記載の医薬製剤。 【請求項18】 筋肉内注射によりヒトに投与するための医薬製剤であって、少なくとも45mg/mlのフルベストラント、製剤の容積当たり15~25重量%の医薬的に許容できるアルコール類、製剤の容積当たり10~25重量%の、ヒマシ油中の安息香酸ベンジル、および少なくとも45mg/mlのフルベストラントの製剤を調製するのに十分な量のヒマシ油を含み、医薬的に許容できるアルコール類がエタノールおよびベンジルアルコールの混合物であり、エタノールおよびベンジルアルコールが製剤の容積当たりほぼ等しい重量%で存在する、筋肉内注射に適する医薬製剤。 【請求項19】 フルベストラント、製剤の容積当たり17~23重量%の医薬的に許容できるアルコール類、製剤の容積当たり12~18重量%の、ヒマシ油中の安息香酸ベンジル、および少なくとも45mg/mlのフルベストラントの製剤を調製するのに十分な量のヒマシ油を含み、医薬的に許容できるアルコール類がエタノールおよびベンジルアルコールの混合物であり、エタノールおよびベンジルアルコールが製剤の容積当たりほぼ等しい重量%で存在する、筋肉内注射に適する、請求項18に記載の医薬製剤。 【請求項20】 製剤の容積当たり18~22重量%の医薬的に許容できるアルコール類、製剤の容積当たり14~16重量%の安息香酸ベンジルを含み、医薬的に許容できるアルコール類がエタノールおよびベンジルアルコールの混合物である、請求項18または19に記載の医薬製剤。 【請求項21】 製剤の容積当たり19~21重量%の医薬的に許容できるアルコール類、製剤の容積当たり14~16重量%の安息香酸ベンジルを含み、エタノールおよびベンジルアルコールが製剤の容積当たりほぼ等しい重量%で存在する、請求項20記載の医薬製剤。 【請求項22】 製剤の全容積が6ml以下であり、かつフルベストラント濃度が少なくとも45mg/mlである、請求項21に記載の医薬製剤。 【請求項23】 製剤中のフルベストラントの全量が250mg以上であり、かつ製剤の全容積が6ml以下である、請求項21または22に記載の医薬製剤。 【請求項24】 製剤中のフルベストラントの全量が250mgであり、かつ製剤の全容積が5~5.25mlである、請求項23に記載の医薬製剤。 【請求項25】 医薬的に許容できるアルコール類が製剤の容積当たり10重量%のエタノール、製剤の容積当たり10重量%のベンジルアルコールの混合物であり、製剤が製剤の容積当たり15重量%の安息香酸ベンジルを含有する、請求項1~16および18~24のいずれか1項に記載の医薬製剤。 【請求項26】 乳癌の治療において使用するための徐放性製剤である、請求項21または25に記載の筋肉内注射に適する医薬製剤。 【請求項27】 乳癌の治療において使用するための、請求項21または25に記載の医薬製剤の調製におけるフルベストラントの使用。 【請求項28】 請求項25に記載の医薬製剤を含有する注射器またはバイアル。 【請求項29】 筋肉内注射によりヒトに投与するための医薬製剤であって、少なくとも45mg/mlのフルベストラント、製剤の容積当たり17~23重量%の医薬的に許容できるアルコール類、製剤の容積当たり12~18重量%の安息香酸ベンジル、を含み、医薬的に許容できるアルコール類がエタノールとベンジルアルコールの混合物であり、製剤の容積当たり10重量%のエタノール、製剤の容積当たり10重量%のベンジルアルコール、製剤の容積当たり15重量%の安息香酸ベンジル、および少なくとも45mg/mlのフルベストラントの製剤を調製するのに十分な量のヒマシ油を含み、筋肉内注射に適する医薬製剤。 【請求項30】 筋肉内注射によりヒトに投与するための医薬製剤であって、少なくとも45mg/mlのフルベストラント、製剤の容積当たり17~23重量%の医薬的に許容できるアルコール類、製剤の容積当たり12~18重量%の安息香酸ベンジル、を含み、医薬的に許容できるアルコール類がエタノールとベンジルアルコールの混合物であり、製剤の容積当たり10重量%のエタノール、製剤の容積当たり10重量%のベンジルアルコール、製剤の容積当たり15重量%の安息香酸ベンジル、および少なくとも45mg/mlのフルベストラントの製剤を調製するのに十分な量のヒマシ油を含み、製剤中のフルベストラントの全量が250mg以上であり、かつ製剤の全容積が6ml以下である、筋肉内注射に適する徐放性製剤である、医薬製剤。 【請求項31】 筋肉内注射によりヒトに投与するための医薬製剤であって、少なくとも45mg/mlのフルベストラント、製剤の容積当たり17~23重量%の医薬的に許容できるアルコール類、製剤の容積当たり12~18重量%の安息香酸ベンジル、を含み、医薬的に許容できるアルコール類がエタノールとベンジルアルコールの混合物であり、製剤の容積当たり10重量%のエタノール、製剤の容積当たり10重量%のベンジルアルコール、製剤の容積当たり15重量%の安息香酸ベンジル、および少なくとも45mg/mlのフルベストラントの製剤を調製するのに十分な量のヒマシ油を含み、製剤中のフルベストラントの全量が250mgであり、かつ製剤の全容積が5~5.25mlである、筋肉内注射に適する徐放性製剤である、医薬製剤。 【請求項32】 筋肉内注射によりヒトに投与するための医薬製剤であって、少なくとも45mg/mlのフルベストラント、製剤の容積当たり17~23重量%の医薬的に許容できるアルコール類、製剤の容積当たり12~18重量%の安息香酸ベンジル、を含み、医薬的に許容できるアルコール類がエタノールとベンジルアルコールの混合物であり、製剤の容積当たり10重量%のエタノール、製剤の容積当たり10重量%のベンジルアルコール、製剤の容積当たり15重量%の安息香酸ベンジル、および少なくとも45mg/mlのフルベストラントの製剤を調製するのに十分な量のヒマシ油を含み、乳癌の治療において使用するための、筋肉内注射に適する徐放性製剤である、医薬製剤。 【請求項33】 乳癌の治療において使用するための医薬製剤の調製におけるフルベストラントの使用であって、医薬製剤が、筋肉内注射によりヒトに投与するための医薬製剤であって、少なくとも45mg/mlのフルベストラント、製剤の容積当たり17~23重量%の医薬的に許容できるアルコール類、製剤の容積当たり12~18重量%の安息香酸ベンジル、を含み、医薬的に許容できるアルコール類がエタノールとベンジルアルコールの混合物であり、医薬製剤が製剤の容積当たり10重量%のエタノール、製剤の容積当たり10重量%のベンジルアルコール、製剤の容積当たり15重量%の安息香酸ベンジル、および少なくとも45mg/mlのフルベストラントの製剤を調製するのに十分な量のヒマシ油を含み、筋肉内注射に適する医薬製剤である、前記使用。 【請求項34】 医薬製剤を含有する注射器またはバイアルであって、医薬製剤が、筋肉内注射によりヒトに投与するための医薬製剤であって、少なくとも45mg/mlのフルベストラント、製剤の容積当たり17~23重量%の医薬的に許容できるアルコール類、製剤の容積当たり12~18重量%の安息香酸ベンジル、を含み、医薬的に許容できるアルコール類がエタノールとベンジルアルコールの混合物であり、医薬製剤が製剤の容積当たり10重量%のエタノール、製剤の容積当たり10重量%のベンジルアルコール、製剤の容積当たり15重量%の安息香酸ベンジル、および少なくとも45mg/mlのフルベストラントの製剤を調製するのに十分な量のヒマシ油を含み、筋肉内注射に適する医薬製剤である、前記注射器またはバイアル。」 第4 当事者の主張及び証拠方法 1 請求人の主張及び証拠方法 請求人は、「特許第3713237号の特許請求の範囲の請求項1~28に記載された発明についての特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする」との審決を求め、証拠方法として甲第1号証~甲第30号証(枝番号を含む。以下「甲1」などという。)を提出するとともに、以下の無効理由1~5を主張する(以下においては、設定登録時の請求項の番号の後に、()内に対応する訂正された請求項の番号を示す。)。 [無効理由1](甲1に基づく新規性欠如) 請求項1~22、25~28(訂正された請求項1~22、25~29、32~34)に係る発明は、甲1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであり、その特許は、同法第123条第1項第2号に該当し無効とすべきである。 [無効理由2](甲1に基づく進歩性欠如) 請求項1~28(訂正された請求項1~34)に係る発明は、甲1に記載された発明に基づき、甲2~甲9(必要であれば更に甲10、甲11、甲12及び/又は甲13)に記載された事項、並びに本件特許の優先日当時における技術常識を考慮して、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は、同法第123条第1項第2号に該当し無効とすべきである。 [無効理由3](甲4に基づく進歩性欠如) 請求項1~28(訂正された請求項1~34)に係る発明は、甲4に記載された発明に基づき、甲9及び甲10に記載された事項を考慮して、又は甲1、甲9及び甲10に記載された事項を考慮して、また加えて必要であれば甲2、甲3、甲5~甲8、甲11、甲12及び/又は甲13に記載された事項、並びに本件特許の優先日当時における技術常識を考慮して、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は、同法第123条第1項第2号に該当し無効とすべきである。 [無効理由4](実施可能要件違反) 本件特許の明細書における発明の詳細な説明の記載は、請求項1~24、26~28(訂正された請求項1~24、26~34)に係る発明について、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしておらず、その特許は、同法第123条第1項第4号に該当し無効とすべきである。 (当審注:審判請求書には、無効理由4の条文は「第36条第4項第1号」と記載されているが、本件特許の出願日に適用される平成14年改正前特許法の「第36条第4項」と読み替えた。) [無効理由5](サポート要件違反) 本件特許の特許請求の範囲の記載は、請求項1~28(訂正された請求項1~34)に係る発明について、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、その特許は、同法第123条第1項第4号に該当し無効とすべきである。 [証拠方法] ・甲1:Clinical Cancer Research, 1998, Vol.4,pp.697-711 ・甲2:欧州特許出願公開第0346014号明細書 ・甲2の2:特開平2-42024号公報(甲2の対応日本公報) ・甲3:Endocrine Therapy of Breast Cancer VI, 1994,pp.55-60 ・甲4:British Journal of Cancer, 1996,Vol.74, pp.300-308 ・甲5:“74 Breast cancer clinical trials with Faslodex-A new class of antioestrogen”,European Journal of Cancer, 1998,Volume 34,Supplement 5, Page S19 ・甲5の2:Table of Contents page: European Journal of Cancer, https://www.ejcancer.com/issue/S0959-8049(00)X0052-4 ・甲6:The Lancet, 1995, Vol.345, pp.29-30 ・甲7:European Journal of Cancer, 1996, Vol.32A, No.4,pp.576-588 ・甲8:Journal of the National Cancer Institute, 1998, Vol.90, No.20,pp.1552-1558 ・甲9:Journal of Pharmaceutical Sciences, 1964, Vol.53, No.8, pp.891-895 ・甲10:Journal of the Parenteral Drug Association, 1980, Vol.34, No.6, pp.452-462 ・甲11:Propaedeutische Arzneiformenlehre, Einfuhrung in die Arzneiformenherstellung in der Apotheke,1993, Page 21 (当審注:「Propaedeutische」の「ae」は「a」の「ウムラウト」を示す。) ・甲12:「医療用医薬品添加物の記載について」,昭和63年10月1日,各都道府県衛生主管部(局)長あて厚生省薬務局安全・監視指導課長連名通知,薬監第七三号 ・甲13:LASA GOOD PRACTICE GUIDELINES,Administration of Substances (Rat, Mouse, Guinea Pig, Rabbit), 1998, Series 1/ Issue 1, pp.2-4 ・甲14:日内分泌会誌(Folia endocrinol.),1987,Vol.63,No.11,pp.1351-1363 ・甲15:国際公開第98/18449号 ・甲15の2:特開平10-147529号公報(甲15の対応日本公報) ・甲16:CANCER RESEARCH,1993,Vol.53, pp.2168-2177 ・甲17:Cancer of the Breast, 4th edition, 1995, pp.540-542 ・甲18:「医療用医薬品添加物の記載について」,昭和63年10月1日,各都道府県知事あて厚生薬務局長通知,薬発第853号 <以上、審判請求書に添付> ・甲19:医薬品インタビューフォーム「フェソロデックス(R)筋注250mg」,2020年5月(第10版),アストラゼネカ株式会社 ・甲20:安息香酸ベンジル(医薬品製造用)CAS 120-51-4 |101806,https://www.merckmillipore.com/JP/ja/product/Benzyl-benzoate,MDA_CHEM-101806 ・甲21:「安全データシート ベンジル=ベンゾアート(Benzyl benzoate)作成日2009年3月30日改訂日,職場のあんぜんサイト:化学物質:GHSモデル SDS情報 ,https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen/gmsds/120-51-4.html ・甲21の2:職場のあんぜんサイト:化学物質:GHSモデル SDS情報, https://anzeninfo.mhlw.go.jp/anzen_pg/GHS_MSD_FND.aspx <以上、第1回弁駁書に添付> ・甲22:Die Pharmaindustrie,2003,p.97 ・甲23:Martindale:The Extra Pharmacopoeia,27th Edition,1977,pp.331,332,1235,1400,1401,1409,1529,1536 <以上、口頭審理陳述要領書に添付> ・甲24:第2部 CTDの概要 一般名:フルベストラント 2.6.2 薬理試験の概要文 フェソロデックス(R),2011,アストラゼネカ株式会社,pp.1,2,22 ・甲24の2:医療用医薬品 検索結果|独立行政法人 医薬品医療機器総合機構,印刷日2022年7月18日,https://www/pmda.go.jp/PmadaSearch/iyakuSearch, ・甲25:フェソロデックス筋注250mgに関する審査報告書,2011年8月15日,独立行政法人 医薬品医療機器総合機構 ・甲26:第2部 CTDの概要 一般名:フルベストラント 2.6.4 薬物動態試験の概要文 フェソロデックス(R),2011,アストラゼネカ株式会社,pp.1,2,5,13,14 ・甲27:特表平11-513047号公報 ・甲28:Use of nonaqueous solvents to prepare injection solutions,UDC,615.456.2.014.24,1973,pp.724-733 ・甲29:米国特許第4212863号明細書 ・甲30:特開昭61-94号公報 <以上、上申書に添付> ・甲31:国際公開第01/51056号 ・甲32:「廣川薬科学大辞典 第2版」,1990年6月25日,pp.112-113,758 ・甲33:特許・実用新案審査ハンドブック,2015年9月特許庁,附属書B第3章 ・甲34:平成24年(行ケ)10419号判決 ・甲35:「新しい製剤学」,廣川書店,1993年9月10日,pp.343-351 ・甲36:「3-Intraqmuscular Drug Administration」,Techniques in the Behavioral and Neural Sciences,1994,Vol.12, pp.23‐34 ・甲36の2:Techniques in the Behavioral and Neural Sciences, https://www.sciencedirect.com/bookseries/techniques-in-the-behavioral-and-neural-sciences/vol/12/suppl/C,2023年3月20日(印刷日)(甲36の作成者がV.Claassenであること) <以上、第2回弁駁書に添付> なお、上記における「(R)」は、上付きの○の中にRである。以下、同様。 2 被請求人の主張及び証拠方法 被請求人は、「本件無効審判の請求は成り立たない,審判費用は請求人の負担とする」との審決を求め、証拠方法として乙第1号証~乙第22号証(以下「乙1」などという。)を提出するとともに、請求人が主張する無効理由はいずれも存在しない旨を主張する。 [証拠方法] ・乙1:乳癌の臨床,1996年3月,第11巻,第1号,pp.1-12 ・乙2:外科治療,1999年,Vol.81,No.6,pp.702-707 ・乙3:薬局,2008年3月増刊号,Vol.59, No.4, pp.1468-1474 ・乙4:泉雄勝著,「乳癌用語メモ -キーワードとその解説-」,株式会社篠原出版新社,1998年12月25日発行,p.84 ・乙5:Sandra McLeskey 博士の宣誓書,2014年10月1日 ・乙6:安全データシート「塩化ベンゼトニウム」,2021年4月8日改訂,富士フイルム和光純薬株式会社 ・乙7:安全データシート「p-ヒドロキシ安息香酸n-ブチル」,2020年11月9日改訂,昭和化学株式会社 ・乙8:安全データシート「安息香酸ベンジル」,2020年5月19日改訂,富士フイルム和光純薬株式会社 ・乙9:International Journal of Pharmaceutics,2016,Vol.505,pp.52-60 ・乙10:特許・実用新案審査基準 第III部第2章第3節新規性・進歩性の審査の進め方,2020年12月,p.3 ・乙11:Paul Gellert氏の宣誓書,2021年8月30日 ・乙12:フェソロデックス(R)筋注250mg(フルベストラント注射剤)の添付文書,2020年5月改訂(第8版),製造販売元 アストラゼネカ株式会社 ・乙13:Muscle Fibre, Sem by Steve Gschmeissner,SCIENCEphotoGALLERY,Uploaded May 6th 2013 https://sciencephotogallery.com/featured/2-muscle-fibre-sem-steve-gschmeissner.html ・乙14:「Hormones reveal the secret life of fat cells」,Chemical and Engineering,2018,Vol.96,Issue 40 https://cen.acs.org/biological-chemistry/biochemistry/Hormones-reveal-secret-life-fat/96/i40 <以上、答弁書に添付> ・乙15:医薬品添加物辞典2000,2002年3月25日第2刷,株式会社薬事日報社,「「医薬品添加物辞典2000」改訂版発行にあたって」と題する頁及び目次(7)-(23)の頁 ・乙16:岩波 理化学辞典第4版,1987年10月12日第4版第1刷,株式会社岩波書店,p.44の「アルコール」の項 <以上、口頭審理陳述要領書に添付> ・乙17:Clinical Cancer Research,1998,Vol.4, pp.697-711 ・乙18:THE RANDOM HOUSE DICTIONARY OF THE ENGLISH LANGUAGE Second Edition,1987,p.600の「drug」の項 ・乙19:Cancer Research,1989,Vol.49, pp.4090-4093 ・乙20:Proc. Natl. Acad. Sci. USA,1996,Vol.93, pp.12626-12630 ・乙21:Paul Gellert氏の宣誓書(2),2022年6月15日 <以上、第2回上申書に添付> ・乙22:特表2004-534093号公報 <以上、第3回上申書に添付> 第5 主な証拠の記載事項 以下に、主な証拠の記載事項を示す。 なお、外国語の文献は訳文を示し、当審により下線を付した。証拠の本文中における参照文献があることを示す数字は、省略した部分がある。また、本件特許の特許請求の範囲の記載に合わせて、「癌」と漢字で表記する。 1 甲1(Clinical Cancer Research, 1998, Vol.4,pp.697-711) (1)甲1には、以下の事項が記載されている。 (甲1ア) 「タモキシフェン抵抗性(tamoxifen-resistant)線維芽細胞増殖因子をトランスフェクトしたMCF-7細胞は、抗エストロゲン薬であるICI 182,780及び2種のアロマターゼ阻害剤に対して、インビボで交差耐性を示す」(表題) (甲1イ) 「要約 抗エストロゲン薬であるタモキシフェンは、エストロゲン受容体(ER)陽性乳癌の治療の中心であるが、タモキシフェン反応性腫瘍の治療の成功後、しばしばタモキシフェン抵抗性の獲得が起きる。次いで、患者の30-40%のみが二次ホルモン療法に良好な反応を示す。この反応の欠如は、タモキシフェンに存在する少量のエストロゲン活性に対してER経路を敏感にする、又はER経路を完全にバイパスするタモキシフェン抵抗性のメカニズムによって説明されるかもしれない。タモキシフェン抵抗性の1つの可能性のあるメカニズムを解明するために、我々は、線維芽細胞増殖因子(FGF)をトランスフェクトしたMCF-7乳癌細胞を注入された卵巣切除担癌マウスを、ICI 182,780、又は2種のアロマターゼ阻害剤、4-0HA若しくはレトロゾールのうちの1種で処置した。これらの治療は、卵巣切除ヌードマウスにおいてFGFをトランスフェクトしたMCF-7細胞により産生された腫瘍のエストロゲン非依存性増殖を遅らせず転移も防がなかった。FGFをトランスフェクトした細胞はICI 182,780に対するインビトロでの反応を低下させており、これはトランスフェクトされたFGFのオートクリン活性が腫瘍増殖の増殖刺激としてエストロゲンに取って代わっている可能性があることを示唆している。 FGFトランスフェクタントにおけるERレベルはダウンレギュレートされておらず、エストロゲン誘発遺伝子の転写産物の基礎レベル、又はFGF発現細胞におけるエストロゲン応答エレメント(ERE)ルシフェラーゼレポーターコンストラクトのER媒介性転写の基礎レベルは、親細胞よりも高くなかった。このことは、ホルモン応答の変化が、ERのダウンレギュレーションやFGFが媒介するERの活性化によるものでないことを暗示している。これらの研究は、エストロゲン非依存性が、ER経路から独立したFGFシグナル伝達経路を通して達成される可能性があることを示している。もしそうであれば、作動しているメカニズムに向けた治療法が治療的応答を生じるか、又は第2の抗エストロゲン治療に対する応答を可能にするかもしれない。」(697頁「ABSTRACT」) (甲1ウ) 「従来の治療法は臨床上の乳癌において通常治癒的ではないため、タモキシフェンによって以前に増殖阻害された乳房腫瘍が不応性になるタモキシフェン抵抗性の進展が、重要な治療上のジレンマを表す。しかしながら、タモキシフェン抵抗性の進展は必ずしもER3陰性表現型への進行と関連しているわけではない。臨床上のタモキシフェン抵抗性の多くの症例では、ER発現は保持され得(1-4)、タモキシフェン抵抗性はタモキシフェン/ER複合体の活性の変化によることが暗示されている。そのような症例におけるタモキシフェン抵抗性は、3つの可能性のあるメカニズムから生じる可能性があり、現在の知識によれば、それらは代替ホルモン療法による治療の成功を妨げないであろう。第1には、ERの変化が生じ、タモキシフェンに対する抑制的応答が減少又は消失し、タモキシフェンの部分アゴニスト作用のみが残り優位になるという可能性がある(5-8)。第2には、無傷なERの設定で発生するタモキシフェン抵抗性が、腫瘍内タモキシフェン代謝の変化の結果であり、より多くのエストロゲン様代謝物を局所的に生成するという可能性がある(7, 9-11)。第3には、利用可能なタモキシフェンが、ERに関連しない抗エストロゲン結合部位の増加により引き離されてしまうという可能性がある(12)。言及したとおり、これら3つの例の各々において、タモキシフェンとは異なるホルモン療法の代替は臨床的な応答をもたらし得る。この報告において用いた2つのそのような代替療法は、タモキシフェンの部分アゴニスト活性を持たないICI 182,780等のステロイド性抗エストロゲン薬と、全ての組織による内因性エストロゲン産生を阻害し、ERからそのリガンドを奪うアロマターゼ阻害剤である。 上記タモキシフェン抵抗性のメカニズムからは代替ホルモン療法による治療が可能なはずであるが、少数のタモキシフェン抵抗性患者に関する早期の結果では、ICI 182,780又はアロマターゼ阻害剤での次の療法に対して良好な反応を示す患者は約30-40%のみであったことが示された(13-20)。これらのデータは タモキシフェン抵抗性に関する別のメカニズムを暗示している。腫瘍細胞によるオートクリン増殖因子又は増殖因子受容体の構成的産生が、ER経路が関与し得る又は関与しないかもしれないタモキシフェン抵抗性のメカニズムとして提案されている。この仮説を支持する証拠が、増殖因子又は増殖因子受容体がエストロゲン依存性乳癌細胞株で過剰発現している、このレポートで使用されているもの等の腫瘍モデルにおけるエストロゲン非依存性増殖の獲得から得られる (21-26)。また、c-erbB2を過剰発現している腫瘍の治療におけるタモキシフェンの有効性の低下を示す最近の臨床データ(27)は、臨床上のタモキシフェン抵抗性における増殖因子シグナル伝達が果たす役割を支持している。ERB-B経路等、増殖因子シグナル伝達経路にはERシグナル伝達経路と相互作用することが示されているものがあるため(25, 28-32)、増殖因子シグナル伝達の増加は、上記タモキシフェン自体の部分アゴニスト活性又はそのエストロゲン様代謝物により生成される、以前は無効な量であったエストロゲン性刺激に対して細胞が敏感になる可能性があるメカニズムであり得る。そのような相互作用が示されている場合には、増殖因子とER経路は協調的に作用する可能性があり(25)、最終転帰をいずれかの経路の薬理学的な操作に影響を受けやすくし、セカンドラインのホルモン療法が効果を発揮する可能性があることを暗示する。しかしながら、オートクリン又はイントラクリン増殖因子シグナル伝達の増加は、腫瘍細胞におけるERを介した増殖刺激の必要性を回避し、又は内皮細胞又は免疫細胞等の腫瘍の間質成分に影響を与え(33-36)、腫瘍の増殖を助長する方法で腫瘍環境を変化させるかもしれない。どちらの場合にも、代替のホルモン療法は効果的でないかもしれない。」(697頁右欄15行~698頁左欄34行) (甲1エ) 「Drugs.ICI 182,780は、Zeneca Pharmaceuticals (Macclesfield,England) のDr. Alan Wake1ingにより親切にも提供され、媒体0.1ml中5mgの投与量で、週1回、皮下投与した。図1に示される実験について、最初に粉末のdrugを100%エタノールに溶解し、温めたラッカセイ油(Eastman Kodak,Rochester, NY)中に加え、50mg/mlの最終濃度とした。図1、B及びCに示される実験に関し、10%のエタノール、15%の安息香酸ベンジル、10%のベンジルアルコールの、ヒマシ油で容量を調整した媒体中で50 mg/mlに予備製剤化したdrugが、B.M.Vose(Zeneca Pharmaceuticals)により提供された。」(698頁右欄33~43行) (甲1オ) 「卵巣切除された又はタモキシフェンで治療されたヌードマウスにおけるFGFをトランスフェクトした細胞の増殖が、卵巣切除ヌードマウスに依然として存在する少量のエストロゲンに対する過敏性の増加によるものであるという仮説を検証するために、我々は、純粋な抗エストロゲン薬であるICI 182,780と、2種のアロマターゼ阻害剤、4-0HA及びレトロゾールの、これらのFGFをトランスフェクトした細胞株によりもたらされるエストロゲン非依存性腫瘍増殖に対する阻害能を試験した。」(700頁右欄37~45行) (甲1カ) 「ICI 182,780、4-0HA、及びレトロゾールは、上記実験において効果を有しなかったため、我々は、これらの化合物を上記の実験で使用したのと同じ投与量で2週間無傷の雌マウスに再現的に注射し、子宮内膜に対する内因性エストロゲンの効果を防ぐ活性を観察した。ICI 182,780、4-0HA、及びレトロゾールのいずれかを注射したマウスから採取した子宮は、対照マウスからの子宮の重量未満となり、子宮内膜の腺構造の完全な欠如を示した(データは示していない)。したがって、これらの化合物は、我々の実験において腫瘍の増殖に影響を与えなかったが、活性を保持していた。」(701頁右欄21行~702頁左欄6行) (甲1キ) 「この報告で、ICI 182,780によっても、2種のアロマターゼ阻害剤のいずれによっても、FGFをトランスフェクトしたMCF-7細胞のエストロゲン非依存性のインビボ増殖は影響を受けないことを我々は示した。この治療の失敗は、エストロゲン誘発性、タモキシフェン誘発性、又はFGF誘発性の、ヌードマウスに残存している免疫能力の減少には起因し得ない。全てのエストロゲン活性を排除するための薬理学的戦略にもかかわらずエストロゲン非依存性増殖が持続したことは、そのような増殖を促進するFGFトランスフェクションの作用は、トランスフェクトされたFGFの直接の作用によるという仮説を支持する。」(706頁右欄7~16行) (甲1ク) 「このように、FGF受容体を介したシグナル伝達は、ER陽性の乳房腫瘍のかなりの割合で機能していそうである。したがって、この報告で説明されているモデルは、抗エストロゲンによる治療に不応性である腫瘍増殖の多くの臨床例に関連しているかもしれない。二次ホルモン療法に反応するであろうタモキシフェン抵抗性乳房腫瘍を模倣する可能性のある上記モデルのいくつかとは対照的に、FGF受容体を介したシグナル伝達が自律的な増殖を駆動している腫瘍は、タモキシフェンだけでなく代替ホルモン療法にも不応性であろうと我々は予測する。」(708頁右欄49~58行) (甲1ケ) 「謝辞 B. M. Voseは、製剤化されたICI 182,780を提供した。」 (709頁「ACKNOWLEDGMENTS」) 「参照文献 … 13. Howell, A., DeFriend, D., Robertson, J., Blamey, R., and Walton, P. Response to a specific antioestrogen (ICI 182780) in tamoxifen-resistant breast cancer. Lancet, 345: 29-30, 1995. 14. Rowel 1, A., Downey. S. and Anderson. E. New endocrine therapies for breast cancer. Eur. J. Cancer, 32A: 576-588, 1996. … 19. Howell, A., DeFriend, D. J., Robertson, J. F. R., Blamey, R. W., Anderson, L., Anderson, E., Sutcliffe, F. A., and Walton, P. Pharmacokinetics, pharmacological and anti-tumour effects of the specific antioestrogen ICI 182780 in women with advanced breast cancer. Br. J. Cancer, 74: 300-308, 1996.」(709頁「REFERENCES」) (2)上記(1)の記載(特に、甲1ウ~オ)によれば、甲1には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる(なお、便宜のため構成要件をA~Eに分説する。)。 「A ICI 182,780を含む、 B 10%のエタノール、10%のベンジルアルコール、及び C 15%安息香酸ベンジルの、 D ヒマシ油で容量を調整した媒体中、ICI 182,780が50mg/mlとなるように予備製剤化した、 E 線維芽細胞成長因子(FGF)をトランスフェクトした乳癌細胞(MCF-7細胞)を注入された卵巣切除担癌マウスに対し皮下投与される、タモキシフェン抵抗性の乳癌の機序としてFGFオートクリン活性を検証するための試験用組成物。」 2 甲4(British Journal of Cancer, 1996,Vol.74, pp.300-308) (1)甲4には、以下の事項が記載されている。 (甲4ア) 「我々は、タモキシフェン抵抗性進行性乳癌患者19人における、特定のステロイド性抗エストロゲンICI 182780の薬物動態、薬埋学的及び抗腫瘍効果を評価した。その薬剤を月1回の持続性筋肉内注射として投与した。ICI 182780のピークレベルは投与後8~9日の中央値で生じ、その後減少したが、28日目においても計画された治療的闕値を超えていた。…タモキシフェンでの進行後、25月の期間中央値で、ICI 182780に対して13人(69%)の患者が反応した(7人は部分奏効を示し、6人は「変化なし」の反応を示した)。したがって、月1回の持続性注射によって記載されている薬物レベルで与えられるICI 182780は、肝臓にも脳にも生殖管にも明らかな悪影饗を及ぼさない、活性なセカンドライン抗エストロゲンであり、進行性乳癌患者における更なる評価を保証する。」(300頁「Summary」) (甲4イ) 「腫瘍に対するエストロゲンの増殖効果のより完全な抑制をもたらす新しいクラスの特定の抗エストロゲンが開発されている。エストラジオール分子の7a位における長い側鎖の置換が、タモキシフェン等のトリフェニルエチレン誘導体よりも抗エストロゲンとしてより活性に見える化合物を生成した(…)。プロトタイプの特定の抗エストロゲン、ICI 164384の構造を、より高い有効性とERに対する親和性のため臨床評価のために選択された化合物ICI 182780 {7a-[9(4,4,5,5,ペンタフルオロペンチル-スルフィニル)ノニル]エストラ-1,3,5(10)-トリエン-3,17β-ジオール}の構造とともに図1に示す(…)。」(300頁左欄16~28行) 「 [図:0001419527000001.jpg] 図1 …ICI 182780の構造… 」(301頁「図1」) (甲4ウ) 「ここで報告された研究の目的は、進行性乳癌患者における特定の抗エストロゲンICI 182780の長期的な有効性と毒性を評価すること、及び用いた長時間作用型製剤の薬物動態を評価することであった。タモキシフェン抵抗性乳癌細胞株は、インビトロで(…)、又はヌードマウスにおける異種移植片として インビボ(…)のいずれかで増殖する際、特定の抗エストロゲンに対する過敏性を保持していると示されていたため、ICI 182780の効果をタモキシフェン抵抗性乳癌の閉経後の患者のグループで評価した。… 我々は、この研究で用いられた用量レベルである程度の薬物蓄積が起こったが、ICI 182780の投与は、以前にタモキシフェンで治療された女性における高い奏効率と長い奏効期間とともに、予想よりも低い副作用(ほてりや膣の問題等) の発生率と関連していたことを報告する。この研究の初期の臨床結果の予備報告は公開されている(…)。」(300頁右欄下から6行~301頁左欄19行) (甲4エ) 「ICI 182780を、ヒマシ油をベースとする媒体中に含まれる長時問作用型製剤として、1か月に1回筋肉内注射(5ml)により臀部に投与した。薬剤の安全性の評価のために、最初の4人の患者は、1月目にlOOmgで始め、lOOmg用量での局所又は全身性の薬剤毒性がないことを確認後、2か月目以降から250mg筋肉内投与に増加させるICI 182780の漸増用量を受けた。患者5~19は、始めから1か月に1回の250mg筋肉内投与を受けた。」(301頁右欄6~14行) (甲4オ) 「薬物動態 ICI 182780の血清中濃度を、250mgの用量レベルで治療を開始した11人の患者における治療の1月目の間、及びICI 182780での治療を続けた15人の患者における6月目の間測定した。大多数の患者において、測定されたCmaxは、薬物投与開始後8日又は9 日に達せられた。…lOOmgと250mgの両方の投与後、ICI 182780徐放性製剤からの薬物の連続放出が、1か月の投与間隔を通じて示された。ICI 182780の血清中濃度プロファイルを図2に示す。ICI 182780の月1回の250mg用量の1月目と6月目の比較は、複数回投与後に薬物への平均曝露がわずかに増加したことを示した。」(302頁左欄11行~右欄4行) 「 [図:0001419527000002.jpg] 図2 治療の1月目及び6月目の間におけるICI 182780の平均血清濃度。-(当審注:実線),エントリーにおけるプロファイル:…(当審注:破線),6月目におけるプロファイル。」(303頁左欄) (甲4カ) 「この試験で使用したICI 182780の長時間作用型製剤は、比較的大きな容量(5ml)で投与されたにもかかわらず、局所的に注射部位において良好な忍容性を示した。」(303頁右欄下から12~9行) (2)上記(1)の記載によれば、甲4には、次の発明(以下「甲4発明」という。)が記載されていると認められる(なお、便宜のため構成要件をA、D、Eに分説する。なお、甲4の「ICI 182780」は、一般名からして、本件特許の明細書及び甲1等の「ICI 182,780」と同じ化合物を示すので、以下「ICI 182,780」と表記することとする。)。 「A 250mgのICI 182,780を、 D ヒマシ油ベースの媒体に含有させた製剤として、月に1回5ml(50mg/ml)で、 E 患者に筋肉内注射するための、タモキシフェン抵抗性進行性乳癌治療用医薬製剤であって、 1か月の投与間隔を通じてフルベストラントの連続的な放出を示し、かつ投与部位において良好な認容性を示す、製剤。」 3 ICI 182,780とその溶剤に関する主な甲号証の記載事項 (1)甲2(欧州特許出願公開第0346014号明細書) 「前更年期又は後更年期障害の選択的エストロゲン療法で、同時に、連続して又は別個に使用するための、エストロゲンと純粋抗エストロゲンを含む、治療用組成物。」(請求項1) 「純粋抗エストロゲンは、抗エストロゲン活性を有し、エストロゲン活性を有しない化合物である。このことは、ラットにおいて、エストラジオールベンゾエー卜を投与することにより起こる未成熟なメスのラットの子宮重量の増加に拮抗する前記化合物の作用で証明することができる。」(2頁42~44行) 「有利に、本発明の薬剤的組成物の水性懸濁液又は油性の溶液又は懸濁液の皮下又は筋肉内注射剤は、注射位置での活性成分の遅効を示し、この注射部位から活性成分は、長時間にわたり、この連続放出を行うために浸出することができる。」(5頁26~29行) 「例3 使用した純粋抗エストロゲンは7α- [9 -(4, 4, 5, 5,5-ペンタフルオロペンチルスルフィニル)ノニル]エストラ-1,3,5 (10)-トリエン-3,17β-ジオールであった。 一連の選択された各投与量のこの化合物をヒマシ油とベンジルアルコールとの混合物に溶かし、5四の成熟ラットのグループに筋肉内注射により投与した。この調製剤はテスト化合物5Omg、ベンジルアルコール4O0mg及び溶液を1mlの容量にするのに十分な量のヒマシ油を含有していた。各々の場合で、第1の投与の2週間後に第2の投与を行った。」(9頁35~42行) (2)甲3(Endocrine Therapy of Breast Cancer VI,1994, pp.55-60) 「ICI 182,780の様々な油ベースの製剤を皮下 (s.c.又は筋肉内,i.m.)投与したラットにおける実験的研究は、単回注射後の抗エストロゲン活性が長期間にわたり持続し得ることを示した。そのような油性持続性製剤の治療的有用性の可能性は、ヒト乳房腫瘍を移植したヌードマウスにおける単回s. c.注射後の持続した抗腫瘍活性により実証された。」(58頁左欄下から6行~右欄5行) 「1番目の研究は、…。2番目の研究は、初期の乳癌患者において、…。各研究において、患者は手術の前に7日間ICI 182, 780の筋肉内注射を毎日受けて、」(58頁右欄下から2行~59頁左欄10行) (3)甲5(European Journal of Cancer,1998,Volume 34,Supplement 5,Page S19) 「Faslodexを用いた乳癌臨床試験一新しいクラスの抗エストロゲン薬 … 目的:新規なステロイド性「純粋」(非アゴニスト)抗エストロゲン薬である 「Faslodex」(ICI 182,780)の第3相臨床開発について説明すること。Faslodexは類のない薬理学的特性を有し、有効な抗腫瘍活性を含む作用を有する一方で子宮における部分アゴニスト活性を有しない。 方法:タモキシフェン抵抗性進行性乳癌(ABC)の閉経後女性(n=19)における第2相臨床試験において、25か月の反応期間中央値で69%の女性が「Faslodex」治療の利益(部分奏効又は6か月を超える疾患安定)を示した。現在進行中の第3相プログラムでは2つの大きなランダム化試験が含まれ、それぞれ、以前のホルモン治療が効かなかったABCの閉経後女性において、毎日1mgの「Fasodex」と「Arimidex」(アナストロゾール)の有効性(無増悪期間、奏効率、死亡までの期間)及び安全性を比較するものである。Faslodexは1か月に1回の筋肉内注射として与えられるものである。各試験は600人の患者を募集する。ABCの閉経後女性における一次治療として、「Faslodex」とタモキシフェンの有効性及び安全性を比較する多国籍ランダム化二重盲検試験が近い将来開始される。 結論:Faslodexは第2相試験において良好な活性を示した。現在行われている臨床プログラムは、この新しい純粋な抗エストロゲン薬のABCのホルモン治療における役割を明確にするだろう。これらの試験の現在の状況を発表する。 「Faslodex」及び「Arimidex」はZeneca Ltd所有の商標である。」(S19の「74」) (4)甲6(The Lancet,1995,Vol.345,pp.29-30) 「我々は、動物試験においてアゴニスト活性を示さない新しい特異的な抗エストロゲン薬(IC1 182780)で19人のタモキシフェン抵抗性進行性乳癌患者を治療した。…ICI 182780は、進行性及び初期の乳癌治療のための有望な新しい薬剤であると思われる。」(29頁「Abstract」) 「ICI 182780を、ヒマシ油ベースの媒体中の長期間作用型製剤として1か月に1回筋肉内注射により臀部に投与した。薬剤の安全性の評価のために、最初の4人の患者は、1月目に100mgで始め、100mg用量での局所又は全身性の薬剤毒性がないことを確認後、2か月目以降から250mgに増加させるICI 182780の漸増用量を受けた。患者5~19は、始めから1月に250mgを受けた。」(29頁右欄22~29行) 「ICI 182780は、比較的大きな5mlという容量で投与されたにもかかわらず、注射部位において良好な忍容性を示した。」(30頁左欄22~24行) 「霊長類において、及び女性での短期間の試験にて、ICI 182780は、この試験で見られたものと同様の血清濃度において子宮内膜の増殖を抑制した。長期間の試験において、ICI 182780の同様の阻害効果が示されたとすれば、このことは、タモキシフェンでは増殖及び子宮内膜癌と関連することが知られているため、特異的な抗エストロゲン薬の更なる治療的利点であろう。」(30頁右欄7~14行) (5)甲7(European Journal of Cancer, 1996, Vol.32A, No.4, pp.576-588) 「現在の内分泌療法は旧来の療法に対する改良であると我々は考えるかもしれないが、相当な改良の余地が残っている。このレビューの目的は、臨床試験中であるが、まだ市販されていない(又は市販されないかもしれない)より新しい内分泌療法の有効性、毒性及び一般的な健康面を検討することである。臨床試験の最も活発な三つの分野は、新しいアロマターゼ阻害剤及び抗プロゲスチンとともに、新しい抗エストロゲン薬である。」(576頁右欄15~22行) 「 [図:0001419527000003.jpg] ICI 182,780 図2.ステロイド系特異的「純粋」抗エストロゲン薬IC1 182,780の構造」(577頁「図2」) 「この新しい世代の抗エストロゲン薬は、前臨床研究においてほとんど又は全くアゴニスト活性を示さないため、「純粋な」又は特異的な抗エストロゲン薬として説明されている。前臨床データに加え、臨床データは、ステロイド系抗エストロゲン薬ICI 182,780についてのみ利用可能であり、これらは表9及び10に要約される[26, 54-63]。 ICI 182,780は、エストラジオールと同じ親和性でERに結合する[26]。ICI 182,780は、インビトロで[26]及びヌードマウスに移植された[54]ヒト乳房腫瘍細胞株に対して試験された場合、タモキシフェンよりも優れている。ICI 182,780は、タモキシフェン抵抗性細胞株においてインビトロで[56-58]及びヌードマウスに移植された場合、活性でもある(表9)。制限されたデータが臨床研究(表10)から利用可能であるが、ICI 182,780は、腫瘍切除前の1週間投与された場合、腫瘍増殖を抑制し、ER濃度を有意に減少させる[11]。ICI 182,780は、女性における及びインビトロでのタモキシフェン抵抗性転移性ヒト腫瘍に対して活性がある[60-62]。ヌードマウスモデルから予測されるとおり、ICI 182,780投与は特に長期問の腫瘍抑制をもたらすと思われる。」(580頁右欄40~59行) 「このように、事前の研究において、ICI 182, 780は高度に活性であり、毒性もアゴニスト活性もほとんどないものと思われ、前臨床データは臨床的な効果を予測していると思われる。」(581頁左欄下から3~1行) (6)甲8 (Journal of the National Cancer Institute, 1998, Vol.90, No.20,pp.1552-1558) 「…結果:無胸腺マウスにおけるタモキシフェンで刺激された又はタモキシフェン未治療のいずれかの子宮内膜腫瘍の増殖に対するタモキシフェン及び卜レミフェンの効果は実質的に異ならなかった。…結論:…ICI 182,780は、エストロゲンの存在下と非存在下の両方で、タモキシフェンで刺激された子宮内膜癌を抑制した。これは、この薬物が、もしタモキシフェンの後に使用されたとしても、子宮内膜に対し安全であり得ること、及び 子宮内膜癌の発生率増加をもたらさない可能性があることを示唆する。実際、 ICI 182,780が、早期子宮内膜癌のアジュバント剤として有用であることが証明される可能性さえある。」(1552頁「abstract」) 「臨床的には、ICI 182,780は、低い経口有効性のため、持続性筋肉内注射により与えられなければならない。ICI 182,780は、ヨーロッパにおける臨床上、タモキシフェンの効かない進行性乳癌においてほぼ70%の高い奏効率という有望な結果を示しており(13)、大規模ランダム化国際臨床試験が進行中である。」(1553頁左欄3~6行) 「胸腺欠損マウス …ICI 182,780をエタノール中に溶解し、ラッカセイ油中で(N2下でのエタノールの蒸発後)50mg/mLの最終濃度に投与した。ICI 182,780を、毎週、動物当たり5mgの用量(0.1mLラッカセイ油)で皮下注射した。」(1553頁左欄下から10行~右欄17行) (7)上記(1)~(6)の各文献の記載、あるいは、それらに加えて上記2(1)の甲4の記載によれば、本件特許の優先日当時又は出願時において、以下の事項が周知技術又は技術常識となっていた。 (i)「ICI 182,780」は、7α- [9- (4, 4, 5, 5,5-ペンタフルオロペンチルスルフィニル)ノニル]エストラ-1,3,5 (10)-トリエン-3,17β-ジオールであり、以下の構造を有すること(甲4、甲7) [図:0001419527000004.jpg] (ii) 「ICI 182,780」は、エストロゲン活性を有しない、純粋な抗エストロゲン活性を有する化合物で、乳癌等に対して抗腫瘍活性を有するものであり、ヒマシ油とベンジルアルコールとの混合物やラッカセイ油等の、油をベースとする溶剤に溶解されて、皮下注射や筋肉内注射により投与されること(甲2~甲8) 4 甲9及び甲10の記載事項 (1)甲9(Journal of Pharmaceutical Sciences, 1964, Vol.53, No.8, pp.891-895) 「ステロイドホルモンは、油性溶液として高い濃度で非経口的に投与することができる。この形態において、それらは長時間の作用を示し、必要とされる注射の数を減らす。溶液中におけるホルモンのますます増大する濃度に関する要望に適応するため、他の油混和性溶剤と組み合せたヒマシ油が見いだされ要求を満たしてきた。ヒトにおける臨床試験だけでなく動物試験の結果とともにいくつかの製剤の開発が、意図した目的のためのこの油の受容性を証明する。」 (891頁「Abstract」) 「活性の延長は、一般的に、本体(活性本体)の脂質性デポー中での貯蔵と関係していた。」(892頁左欄6~8行) 「しかしながら、従来の油に溶解し得るのは比較的少量のホルモンのみであるという点で依然として制限要因があった。油の溶解力を増大させるために、相溶性でかつ非刺激性の共溶剤を加える必要があった。そのような添加は、安息香酸ベンジル、ベンジルアルコール、乳酸エチル、オレイン酸エチル等からなった。」(892頁左欄15~22行) 「1回投与当たりのホルモン濃度の増大の要望は、より高い溶解力それ自体を有する受容可能な油の探索を助長した。1954年にBoschann(8)は、ヒマシ油-乳酸エチル媒体中の17-ヒドロキシプロゲステロンカプロエートが良好な忍容性であったことを観測した。また、西ドイツの臨床医からの個人的な通信では、ヒマシ油-安息香酸ベンジル媒体を含有するProluton-Depot(当審注:17-ヒドロキシプロゲステロンカプロエート)に対して良好な忍容性が報告された。それ以来、他のホルモンは、ヒマシ油中だけでなく、リシノール酸エステル中の溶液として使用されてきた。したがって、ステロイドホルモンの非経ロ投与のための媒体としてのヒマシ油の適格性の調査に取り組んだ。」(892頁右欄3~17行) 「ヒマシ油中でのステロイドのより良い溶解性にもかかわらず、治療的投与計画に必要とされるますます高まる濃度を溶解するために他の共溶剤が必要であった。 しばしばこれらの物質は追加の利点を提供した。例えば、ヒマシ油へのベンジルアルコール又は安息香酸ベンジルの添加はより低いより好ましい粘度をもたらし、注射をより容易にさせた。」(893頁右欄下から2行~894頁左欄6行) 「 [図:0001419527000005.jpg] [図:0001419527000006.jpg] [図:0001419527000007.jpg] 」(894頁「表5」「表6」) 「エストロゲン療法での使用に加えてエストラジオールバレレートは癌の治療にも有用であることが判明しており、その目的のためには高用量が必要であった。濃度(当審注:エストラジオールバレレートの濃度)を10mg/mlから40mg/mlまで増加させ、再び、媒体中ヒマシ油を含有する製剤は、ゴマ油を含有する同様の調製剤よりも刺激が少ないことを証明した。物理的及び化学的に両方の油溶液は安定であった。受容できる事前のデータに基づいて、表6に挙げられたもの等の製剤を調製しテストした。ヒトにおける受容性を臨床医により確認し、文献(22,23)及び症例報告4で説明した。」 (894頁 右欄下から2行~895頁左欄9行) (2)甲10(Journal of the Parenteral Drug Association, 1980, Vol.34, No.6, pp.452-462) 「製剤中における推定される機能に従って添加剤を分類した。濃度は全て%(W/V)に基づき計算された。」(452頁右欄7~10行) 「 [図:0001419527000008.jpg] [図:0001419527000009.jpg] 」(453頁表1) 「 [図:0001419527000010.jpg] 」(454頁表1続き) 「 [図:0001419527000011.jpg] 」(457頁表1続き) 第6 当審の判断 1 本件明細書及び図面の記載事項 本件訂正により訂正された明細書(以下「本件明細書」という。)及び図面には、以下の事項が記載されている(なお、当審により下線を付した。)。 【発明の詳細な説明】 【0001】 本発明は、化合物7α-[9-(4,4,5,5,5-ペンタフルオロペンチルスルフィニル)ノニル]エストラ-1,3,5(10)-トリエン-3,17β-ジオールを含有する、注射による投与に適する新規な徐放性(sustained release)医薬製剤に関する。より具体的には本発明は、少なくとも1種類のアルコール、およびリシノレエートビヒクルに混和しうる少なくとも1種類の非水性エステル系溶剤をさらに含むリシノレエートビヒクル中の溶液として化合物7α-[9-(4,4,5,5,5-ペンタフルオロペンチルスルフィニル)ノニル]エストラ-1,3,5(10)-トリエン-3,17β-ジオールを含有する、注射による投与に適する製剤に関する。 【0002】 エストロゲン枯渇(oestrogen deprivation)は多くの良性および悪性の胸部疾患または生殖路疾患を治療するための基本である。これは、閉経前の女性の場合は外科的手段、放射線療法または内科的手段で卵巣の機能を排除することにより、閉経後の女性の場合はアロマターゼ阻害薬の使用により行われる。 … 【0004】 非ステロイド系抗エストロゲン薬がアゴニスト性を示す可能性があるため、正常な転写ホルモン応答を活性化してエストロゲンを発現することなしにERに高い親和性で結合する新規化合物の探索が進められた。そのような分子は”純粋な”抗エストロゲン薬であり、タモキシフェン様のリガンドとは明らかに区別され、エストロゲンがもつ作動作用(…)を完全に排除できる。そのような化合物はエストロゲン受容体ダウンレギュレーター(E.R.D.)と呼ばれる。新規な純粋な抗エストロゲン薬の設計および試験についての原理が、Bowler et al 1989, Wakeling 1990a, 1990b, 1990c. Wakeling and Bowler 1987, 1988 に記載されている。 【0005】 7α位にアルキルスルフィニル側鎖をもつステロイド系のエストラジオール類似体(analogues)は、エストロゲン活性のない最初の化合物例となった(Bowler et al 1989)。これらのうち7α-[9-(4,4,5,5,5-ペンタフルオロペンチルスルフィニル)ノニル]エストラ-1,3,5(10)-トリエン-3,17β-ジオールを、その純粋なエストロゲンアンタゴニスト活性、および入手できる他の抗エストロゲン薬より有意に高い抗エストロゲン力価に基づいて、集中的研究のために選択した。7α-[9-(4,4,5,5,5-ペンタフルオロペンチルスルフィニル)ノニル]エストラ-1,3,5(10)-トリエン-3,17β-ジオールについてのインビトロ所見および初期の臨床試験から、エストロゲン依存性適応症、たとえば乳癌および特定の良性婦人科症状に対する療法薬としての薬物の開発に関心が向けられた。 【0006】 7α-[9-(4,4,5,5,5-ペンタフルオロペンチルスルフィニル)ノニル]エストラ-1,3,5(10)-トリエン-3,17β-ジオール、すなわちICI 182,780には国際的な非商標名フルベストラント(fulvestrant)が当てられた。以下、これを用いる。フルベストラントという場合、その医薬的に許容できる塩類ならびにそのいずれかの可能な任意の溶媒和物を含める。 【0007】 フルベストラントはエストラジオールと類似の親和性でERに結合し、エストラジオールがインビトロでヒト乳癌細胞に及ぼす成長刺激作用を完全に遮断する;フルベストラントはこの観点においてタモキシフェンより有効かつ効果的である。フルベストラントはラット、マウスおよびサルにおいてエストラジオールの子宮作動活性を完全に遮断し、かつタモキシフェンの子宮作動活性も遮断する。 【0008】 フルベストラントは臨床的に使用されているタモキシフェンまたはトレミフェン(toremifene)のような抗エストロゲン薬に特徴的なエストロゲン様刺激活性をもたないので、腫瘍退縮がより迅速、完全、または長時間持続性である;処置に対する耐性の発生率や発生速度がより低い;および腫瘍侵襲性が低下するといった特徴をもつ改良された療法活性を提供できる。 【0009】無傷の成体ラットにおいて、フルベストラントは骨密度に不都合な影響を及ぼさない、または性腺刺激ホルモンの分泌を高めない用量で、最大の子宮退縮をもたらす。ヒトの場合も同様であれば、これらの所見は臨床的にきわめて重要であろう。骨密度低下は子宮内膜症のエストロゲン排除処置期間を制限する。フルベストラントは視床下部ERを遮断しない。エストロゲン排除は顔面潮紅その他の閉経症状をも引き起こし、または増悪させるが、フルベストラントは血液-脳関門を越えないので、このような作用を引き起こさない。 【0010】 EPA-0 138 504には、特定のステロイド誘導体が有効な抗エストロゲン薬であると開示されている。その開示内容には、それらのステロイド誘導体の製造に関する情報が含まれる。特に実施例35に化合物7α-[9-(4,4,5,5,5-ペンタフルオロペンチルスルフィニル)ノニル]エストラ-1,3,5(10)-トリエン-3,17β-ジオールが開示され、その化合物はクレーム4に具体的に挙げられている。その発明の化合物を、その発明のステロイド誘導体および医薬的に許容できる希釈剤またはキャリヤーからなる医薬組成物の形で用いるために提供できることも開示されている。そこには組成物が経口または非経口投与に適する形であってもよいと述べられている。 【0011】 フルベストラントには、ステロイドを基本とする他の化合物と同様にこれらの化合物の配合を困難にするある物理的特性がある。フルベストラントは、他のステロイド系化合物と比較しても特に親油性の分子であり、それの水溶性は約10ng/mlときわめて低い(この低さの測定を水単独中の溶質で行うことはできないので、これは水/溶剤混合物中の溶質から推定したものである)。 【0012】 現在、多数の徐放性注射用ステロイド製剤が市販されている。一般にこれらの製剤は油を溶剤として用い、さらに添加剤(excipients)が存在してもよい。下記の表1に、市販されているいくつかの徐放性注射用製剤を記載する。 【013】 下記の表1の製剤においては、多種多様な油が化合物の可溶化に用いられ、さらに安息香酸ベンジル、ベンジルアルコールおよびエタノールなどの添加剤が用いられている。ステロイド系有効成分の可溶化に必要な油の容積は小さい。1~8週間の持続放出(extendedrelease)が達成される。 【0014】 【表1】 [図:0001419527000012.jpg] 【0015】 [図:0001419527000013.jpg] 【0016】 USP5,183,814、例3にはフルベストラントの注射用油性製剤が記載されており、これは50mgのフルベストラント、400mgのベンジルアルコール、および溶液を1mlの容積にするのに十分なヒマシ油を含む。US5,183,814に記載される商業的規模での製剤製造は、高いアルコール濃度のため複雑となるであろう。したがって、フルベストラント製剤のアルコール濃度を低下させ、一方では製剤からフルベストラントが沈殿するのを防ぐという必要がある。 【0017】 表2に、多種多様な溶剤中におけるフルベストラントの溶解度を示す。 【0018】 【表2】 [図:0001419527000014.jpg] 【0019】 これから分かるように、フルベストラントは試験した他のいずれの油よりヒマシ油中において有意に溶解度が高い。ステロイド系化合物に対するヒマシ油の溶媒和能がより大きいことは知られており、これはヒマシ油中に存在するトリグリセリドに含まれる脂肪酸の主成分であるリシノール酸のヒドロキシ基の数が高いことに起因する(Riffkin et.al. J. Pharm. Sci., (1964), 53, 891参照)。 【0020】 しかし本発明者らは、最良の油性溶剤であるヒマシ油を用いた場合ですら、フルベストラントを油性溶剤のみに溶解して低容積の注射で患者に投与するのに十分な高濃度を達成しかつ療法的に有意の放出速度を達成するのは不可能であることを見出した。療法的に有意の放出速度を達成するために必要なフルベストラント量は、少なくとも10mlの大きさの製剤容積を必要とするであろう。このため、ヒトの療法に十分な有意量を投与するには、医師が著しく大きな容積の製剤を投与しなければならない。 【0021】 現在、指針では5mlより多い液体を1回の注射で筋肉内に注射しないよう推奨している。1カ月の長時間作用型フルベストラントデポ製剤に必要な薬理活性用量は約250mgである。したがってヒマシ油のみに溶解する場合、フルベストラントは少なくとも10mlのヒマシ油中において投与する必要がある。 【0022】 それにフルベストラントが易溶性であり、かつヒマシ油と混和性である有機溶剤、たとえばアルコール類の添加を採用できる。高濃度のアルコール類を添加すると、ヒマシ油製剤中50mg/mlより高いフルベストラント濃度を達成でき、これにより5mlより少ない注射容積が得られる-下記の表3参照。本発明者らは、意外にもヒマシ油およびアルコール類に混和性である非水性エステル系溶剤の導入により予想外に容易にフルベストラントを少なくとも50mg/mlの濃度に可溶化できることを見出した-下記の表3参照。非水性エステル系溶剤中におけるフルベストラントの溶解度-前記の表2参照-はアルコール中におけるフルベストラントの溶解度より有意に低いので、この知見は予想外である。非水性エステル系溶剤中におけるフルベストラントの溶解度は、ヒマシ油中におけるフルベストラントの溶解度よりも低い。 【0023】 したがって本発明の1態様として、フルベストラント(好ましくはフルベストラントは3~10%w/v、4~9%w/v、4~8%w/v、4~7%w/v、4~6%w/v、最も好ましくは約5%w/vで存在する)を、リシノレエートビヒクル(ricinoleate vehicle)、医薬的に許容できる非水性エステル系溶剤、および医薬的に許容できるアルコール類中に含み、筋肉内投与に適し、少なくとも2週間は治療上有意の血漿フルベストラント濃度を達成する医薬製剤を提供する。 【0024】 本発明の他の態様は、フルベストラントを含み、ヒトへの筋肉内注射に適し、注射後少なくとも2週間は治療上有意の血漿フルベストラント濃度を達成する医薬製剤である。 【0025】 本発明の他の態様には、フルベストラント、製剤の容積(volume)当たり30重量%以下の医薬的に許容できるアルコール類、製剤の容積当たり少なくとも1重量%の、リシノレエートビヒクルに混和性の医薬的に許容できる非水性エステル系溶剤、および注射後少なくとも2週間は治療上有意の血漿フルベストラント濃度を達成しうる製剤を調製するのに十分な量のリシノレエートビヒクルを含む、筋肉内注射に適する医薬製剤が含まれる。 【0026】 本発明の他の態様には、フルベストラント;製剤の容積当たり35重量%以下(好ましくは30重量%以下、理想的には25重量%以下)の医薬的に許容できるアルコール類、製剤の容積当たり少なくとも1重量%(好ましくは少なくとも5重量%、理想的には少なくとも10重量%)の、リシノレエートビヒクルに混和性の医薬的に許容できる非水性エステル系溶剤、および少なくとも45mg/mlのフルベストラントの製剤を調製するのに十分な量のリシノレエートビヒクルを含む、筋肉内注射に適する医薬製剤が含まれる。 【0027】 誤解を避けるために、製剤の成分について製剤の容積に対する重量%(%w/v)という用語を用いる場合、製剤の単位容積内にその成分がある重量%で存在することを意味する。たとえば製剤の容積当たり1重量%では、容積100mlの製剤中にその成分が1g含有される。さらに下記の具体例を示す。 【0028】 【表3】 [図:0001419527000015.jpg] 【0029】 本発明の好ましい医薬製剤は前記のとおりである:1.製剤の全容積は6ml以下であり、かつフルベストラントの濃度は少なくとも45mg/mlである;2.フルベストラントの全量は250mg以上であり、かつ製剤の全容積は6ml以下である;3.フルベストラントの全量は250mgであり、かつ製剤の全容積は5~5.25mlである。 【0030】 医師または介護者が必要量を投与できるために、製剤は過剰の製剤を含むことができると理解される。したがって、5mlの投与量が必要な場合、最高0.25ml、好ましくは最高0.15mlの過剰量が製剤中に存在してもよいと理解される。一般に製剤は、本明細書に記載する製剤の1回量を入れたバイアルまたは充填済み注射器、好ましくは充填済み注射器として提供され、これらはさらに本明細書の他の態様である。 【0031】 前記製剤中に存在する医薬的に許容できるアルコール類の好ましい濃度は、少なくとも3%w/v、少なくとも5%w/v、少なくとも7%w/v、少なくとも10%w/v、少なくとも11%w/v、少なくとも12%w/v、少なくとも13%w/v、少なくとも14%w/v、少なくとも15%w/v、そして好ましくは少なくとも16%w/vである。前記製剤中に存在する医薬的に許容できるアルコール類の好ましい最大濃度は、28%w/v以下、22%w/v以下、または20%w/v以下である。前記製剤中に存在する医薬的に許容できるアルコール類の好ましい範囲は上記の最小値または最大値から選択され、少なくとも3~35%w/v、4~35%w/v、5~35%w/v、5~32%w/v、7~32%w/v、10~30%w/v、12~28%w/v、15~25%w/v、17~23%w/v、18~22%w/v、そして理想的には19~21%w/vである。 【0032】 医薬的に許容できるアルコール類は1種類のアルコールまたは2種類以上のアルコールの混合物、好ましくは2種類のアルコールの混合物からなる。非経口投与に好ましい医薬的に許容できるアルコールはエタノール、ベンジルアルコール、またはエタノールとベンジルアルコール両方の混合物であり、好ましくはエタノールとベンジルアルコールが製剤中に同一w/v量で存在する。好ましくは前記製剤中のアルコールは10%w/vのエタノールおよび10w/vのベンジルアルコールを含有する。 【0033】 医薬的に許容できる非水性エステル系溶剤(non-aqueous ester solvent)は、医薬的に許容できる非水性エステル系溶剤1種類、または2種類以上の混合物、好ましくは1種類のみからなる。非経口投与に好ましい医薬的に許容できる非水性エステル系溶剤は、安息香酸ベンジル、オレイン酸エチル、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、またはその任意の混合物から選択される。 【0034】 リシノレエートビヒクルは、好ましくは製剤の容積当たり少なくとも30%w/v、理想的には製剤の容積当たり少なくとも40%w/vまたは少なくとも50w/vの割合で製剤中に存在する。 【0035】 医薬的に許容できるアルコール類が薬局方の基準(たとえば米国、英国および日本薬局方に記載のもの)を満たす品質のものであり、したがって少量の水および場合により他の有機溶剤を含有することは当業者に理解されるであろう。たとえば米国薬局方のエタノールは、15.56℃で測定して94.9容積%以上、96.0容積%以下のエタノールを含有する。米国薬局方の脱水アルコールは、15.56℃で測定して99.5容積%以上のエタノールを含有する。 【0036】 前記製剤中に存在する医薬的に許容できる非水性エステル系溶剤の好ましい濃度は、少なくとも5%w/v、少なくとも8%w/v、少なくとも10%w/v、少なくとも11%w/v、少なくとも12%w/v、少なくとも13%w/v、少なくとも15%w/v、少なくとも16%w/v、少なくとも17%w/v、少なくとも18%w/v、少なくとも19%w/v、そして少なくとも20%w/vである。医薬的に許容できる非水性エステル系溶剤の好ましい最大濃度は、60%w/v以下、50%w/v以下、45%w/v以下、40%w/v以下、35%w/v以下、30%w/v以下、そして25%w/v以下である。好ましい濃度は15%w/vである。前記製剤中に存在する医薬的に許容できる非水性エステル系溶剤の好ましい範囲は上記の最小値または最大値から選択され、好ましくは5~60w/v、7~55w/v、8~50w/v、10~50w/v、10~45w/v、10~40w/v、10~35w/v、10~30w/v、10~25w/v、12~25w/v、12~22w/v、12~20w/v、12~18w/v、13~17w/v、そして理想的には14~16w/vである。好ましくはエステル系溶剤は安息香酸ベンジルであり、最も好ましくは約15%w/vである。 【0037】 医薬的に許容できる非水性エステル系溶剤が薬局方の基準(たとえば米国、英国および日本薬局方に記載のもの)を満たす品質のものであることは当業者に理解されるであろう。 【0038】 本発明の製剤中の医薬的に許容できるアルコール類と医薬的に許容できる非水性エステル系溶剤の好ましい組合わせを下記に示す: 【0039】 【表4】 [図:0001419527000016.jpg] 【0040】 リシノレエートビヒクルという用語の使用は、その組成の一部としてある割合(少なくとも20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%または95%w/v)のリシノール酸のトリグリセリドを含む油を意味する。リシノレエートビヒクルは合成油であってもよく、あるいは理想的には前記の薬局方基準のヒマシ油が好都合である。 【0041】 本発明者らは予想外に、本発明の前記製剤が筋肉内注射後、長期間にわたって十分なフルベストラントを放出することを見出した。この知見は下記の理由からみて確かに予想外である:1.本発明者らは予め水性懸濁液剤の形の筋肉内フルベストラント注射試験を行った。注射部位における著しい局所組織刺激性および低い放出プロフィル(release profile)が認められた。組織刺激/炎症は固体粒子の形のフルベストラントの存在によるものであると考えられる。放出プロフィルは注射部位の炎症/刺激の程度により測定され、変動性で制御が困難であると思われた。フルベストラント放出速度も臨床的に有意であるのに十分なほど高くなかった;2.C14標識ベンジルアルコールを用いた試験の所見は、それが注射部位から速やかに散逸し、投与後24時間以内に身体から排除されることを示す。 【0042】 エタノールは注射部位から少なくとも速やかに(直ちにではなくとも)散逸すると予想されるであろう。安息香酸ベンジルがヒトの肝臓でグリシンとの 抱合により代謝されて馬尿酸を形成し、尿中へ排出されることは既知である-Martindale: The Extra Pharmacopoeia 第32版,p.1103。したがって安息香酸ベンジルを用いた場合、それが長い放出期間全体にわたって注射部位に存在するとは思われない。 【0043】 本発明者らは、追加の可溶化添加剤(solubilising excipients)、すなわちアルコール類および医薬的に許容できる非水性エステル系溶剤が製剤の注射後、製剤ビヒクルおよび注射部位から直ちに排除されるにもかかわらず、本発明の製剤によればなお治療上有意なフルベストラント濃度を長期間にわたって達成できることを見出した。 【0044】”治療上有意濃度(therapeutically significant levels)”という用語を用いる場合、少なくとも2.5ng/ml、理想的には3ng/ml、少なくとも8.5ng/ml、最高12ng/mlの血漿フルベストラント濃度が患者において達成されることを意味する。好ましくは血漿濃度は15ng/ml未満であるべきである。 【0045】”持続放出(extended release)”という用語を用いる場合、少なくとも2週間、少なくとも3週間、そして好ましくは少なくとも4週間のフルベストラント連続放出が達成されることを意味する。好ましい態様においては、36日間の持続放出が達成される。好ましくはフルベストラントの持続放出は少なくとも2~5週間、より好ましくは下記の期間(週)、すなわち2.5~5、2.5~4、3~4、3.5~4(週間)、最も好ましくは少なくとも約4週間である。 【0046】 担当医が筋肉内注射を分割量として投与したい場合、たとえば5mlの製剤を2.5mlの2回の注射に分けて逐次投与したい場合があることは理解されるであろう。これは本発明の他の態様である。 【0047】 フルベストラントを油性液剤に単に可溶化することは、良好な放出プロフィル、または注射後に薬物が注射部位に沈殿しないことを予測させるものではない。 表3に、アルコール類であるエタノールおよびベンジルアルコールをさらに含有し、安息香酸ベンジルを含有する、または含有しないヒマシ油ビヒクル中のフルベストラント溶解度を示す。これらの結果から、フルベストラントは安息香酸ベンジル中における溶解度がアルコール類またはヒマシ油における溶解度より低いにもかかわらず、安息香酸ベンジルがヒマシ油中のフルベストラント溶解度にプラスの作用を及ぼすことが明らかに示される。 【0048】 【表5】 [図:0001419527000017.jpg] 【0049】 下記の表4は、同量のアルコール類と安息香酸ベンジルを含有し、ただし油を変更した一連の油性製剤中におけるフルベストラントの溶解度を示す。これらのデータにはアルコール類を除いた後のフルベストラントの溶解度も示す。 【0050】 【表6】 [図:0001419527000018.jpg] 【0051】 [図:0001419527000019.jpg] 【0052】 上記製剤をインビボウサギ試験に用いて、フルベストラントの沈殿および放出プロフィルを測定した。図1は表4の第2部(the second part)からの4種類の製剤のインビボ放出プロフィル(release profile in vivo)を示し、固定油成分がフルベストラント血漿プロフィルに及ぼす影響をウサギへの筋肉内投与後5日間にわたって示す(データを50mg/3kgに正規化;平均を示す;1時点(timepoint)当たりの動物数=8;溶剤抽出後、lc-ms/ms検出により血漿試料をフルベストラント含量についてアッセイ)。これから分かるように、ヒマシ油製剤は特に均一な放出プロフィルを示し、注射部位におけるフルベストラントの沈殿の証拠はなかった。 【図1】表4の第2部からの3種類の製剤のインビボ放出プロフィルを示す。 … [図:0001419527000020.jpg] 【0059】 本発明の他の態様は、前記と同様であるがフルベストラントの代わりにSHー646を用いるものである。調製例(Formulation Example)フルベストラントをアルコールおよびベンジルアルコールと混合し、完全に溶解するまで撹拌する。安息香酸ベンジルを添加し、溶液をヒマシ油で最終重量にし、撹拌する(便宜上、w/v比を用いることにより容積ではなく重量を使用)。バルク溶液に窒素を成層する。孔径0.2μmのフィルター1つまたは2つを用いる濾過により溶液を殺菌する。発熱物質を除去した洗浄済みの無菌一次容器(たとえばバイアルまたは充填注射器)に殺菌された濾液を無菌条件下で充填する際、無菌濾液を窒素成層下に維持する。投与容積の取出しを容易にするために、一次パックに過剰量(overage)を含める。一次パックに無菌窒素を成層した後、無菌的にシールする。 【0060】 下記のプロセス流れ図も参照されたい:製剤の各成分の量を前記に例示した製剤必要量明細に従って選択する。たとえば下記のものを含有する製剤を調製するために各量の成分を添加する: 10%w/vのベンジルアルコール 10%w/vのエタノール 15%w/vの安息香酸ベンジル 各5mlの最終製剤につき250mgのフルベストラント 残部のヒマシ油 【0061】 【表7】 250mgのフルベストラント残部のヒマシ油 [図:0001419527000021.jpg] 2 無効理由4(実施可能要件違反:訂正発明1~24及び26~34)に ついて 事案に鑑み、無効理由4、5、1、2、3の順に判断する。 (1)実施可能要件の判断基準について 明細書の発明の詳細な説明の記載が実施可能要件に適合するというためには、その記載及び出願時の技術常識に基づいて、当業者が過度の試行錯誤を要することなく、その発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていることを要する。 (2)訂正発明1について ア 訂正発明1は、「筋肉内注射によりヒトに投与するための医薬製剤」という用途が特定され、「少なくとも45mg/mlのフルベストラント、製剤の容積当たり30重量%以下の医薬的に許容できるアルコール類、製剤の容積当たり少なくとも1重量%の安息香酸ベンジル、および少なくとも45mg/mlのフルベストラントの製剤を調製するのに十分な量のヒマシ油を含む」という組成の溶剤を有するものである。 したがって、「製剤の容積当たり30重量%以下の医薬的に許容できるアルコール類」、「製剤の容積当たり少なくとも1重量%の安息香酸ベンジル」、「十分な量のヒマシ油」という組成の溶剤とすることにより、少なくとも45mg/mlのフルベストラントを含む製剤であり、かつ、筋肉内注射によりヒトに投与することができる医薬製剤を、当業者が過度の試行錯誤を要することなく製造し使用できるかについて、以下検討する(なお、訂正各発明及び本件明細書の記載に関して「重量%」又は「%」と表記する場合は、全て「製剤の容積当たり」の重量%であり、発明特定事項を記載する場合に「製剤の容積当たり」と「少なくとも45mg/mlのフルベストラントの製剤を調製するのに」を省略する場合がある。)。 イ(ア)本件明細書の発明の詳細な説明には、フルベストラントは、インビトロ所見及び初期の臨床試験から、乳癌及び特定の良性婦人科症状に対する療法薬としての薬物の開発に関心が向けられていたこと(【0005】)等が記載されている。 (イ)本件明細書の発明の詳細な説明には、最良の油性溶剤である「ヒマシ油」を用いた場合ですら、フルベストラントについて十分な高濃度を達成しかつ療法的に有意の放出速度を達成することは不可能であるところ(【0020】【0021】)、フルベストラントが易溶性であり、かつヒマシ油と混和性である「アルコール類」を添加すると、50mg/mlより高いフルベストラント濃度を達成できること(【0022】)、さらに、フルベストラントの溶解度がヒマシ油とアルコール類よりも低い「非水性エステル系溶剤」を導入すると、予想外に容易にフルベストラントを少なくとも50mg/mlの濃度に可溶化できることを見いだしたこと(【0022】)が記載されている。 また、非経口的に好ましい医薬的に許容できるアルコールとして、「エタノール、ベンジルアルコール、またはエタノールとベンジルアルコール両方の混合物であり、好ましくはエタノールとベンジルアルコールが製剤中に同一w/v量で存在する。好ましくは前記製剤中のアルコールは10%w/vのエタノールおよび10w/vのベンジルアルコールを含有する。」(【0032】)ことが記載されている。 さらに、非水性エステル系溶剤について、「好ましくは5-60w/v、…理想的には14-16w/vである。好ましくはエステル系溶剤は安息香酸ベンジルであり、最も好ましくは約15%w/vである。」(【0036】)と記載されている。 (ウ)本件明細書の「表3(安息香酸ベンジルが25℃のヒマシ油中におけるフルベストラント溶解度に及ぼす影響)」(【0048】)には、訂正発明1において特定された「30重量%以下の医薬的に許容できるアルコール類、少なくとも1重量%の安息香酸ベンジル、十分な量のヒマシ油」を満たす溶剤組成におけるフルベストラントの溶解度について抜粋すると、以下のとおり記載されている。 [図:0001419527000022.jpg] また、「表4(アルコール類を含有する油性製剤および含有しない油性製剤中におけるフルベストラントの溶解度の比較)」(【0050】)には、「エタノール[96%](10%)、ベンジルアルコール(10%)および安息香酸ベンジル(15%)を含み、上記の油(当審注:ヒマシ油)で容積調整」した完全ビヒクル製剤の25℃でのフルベストラントの溶解度は、「81.2mg/ml」であることが記載されている。 (エ)本件明細書の【0051】の表、【0052】及び図1には、「フルベストラント(5%)、エタノール[96%](10%)、ベンジルアルコール(10%)及び安息香酸ベンジル(15%)を含み、上記の油(当審注:ヒマシ油)で容積調整」した製剤(以下「製剤F1」という。フルベストラント濃度は50mg/mlである。)は、ウサギに筋肉内注射した場合に、注射部位におけるフルベストラント沈殿の証拠はなく(【0051】【0052】)、また、製剤F1のヒマシ油をMiglyol 812-Nとした「製剤F2」及びゴマ油/ヒマシ油とした「製剤F3」よりも筋肉内注射直後に血漿濃度が急激に上昇することなく均一に変化し、徐放性製剤としての性質を有することが示されている(図1)。 ウ 上記イ(ア)によれば、フルベストラントは、ヒトに投与して、乳癌等の治療に用いられる医薬の有効成分であることを、当業者は理解することができる。 上記イ(エ)によれば、「製剤F1」は、フルベストラント濃度が50mg/ml(「少なくとも45mg/ml」に相当)であって、本件明細書において、実際にウサギに筋肉内注射して、注射部位における沈殿の有無やフルベストラントの血漿濃度の変化を測定することにより、筋肉内注射により投与するための医薬製剤として使用できることが確認された唯一の製剤であり、かつ、「製剤F1」をウサギに筋肉内注射すると徐放性を有していることも確認されている。 そうすると、本件明細書の発明の詳細な説明によれば、「製剤F1」に対応する「エタノール10重量%、ベンジルアルコール10重量%、安息香酸ベンジル15重量%、十分な量のヒマシ油」である組成の溶剤とすることにより、少なくとも45mg/mlのフルベストラントを含み、筋肉内注射によりヒトに投与し、乳癌の治療に用いるための徐放性の医薬製剤を、当業者が過度な試行錯誤を要することなく製造し使用できることを、当業者は理解することができる。 エ 他方、上記イ(イ)によれば、本件明細書には、訂正発明1の「30重量%以下の医薬的に許容できるアルコール類」として、エタノール、ベンジルアルコール、及び、エタノールとベンジルアルコールの混合物のみが挙げられ、その他の使用可能なアルコール類は例示されていないし、エタノールやベンジルアルコール以外にどのような「医薬的に許容できるアルコール類」を使用すればよいのかも記載されていない。 上記イ(ウ)によれば、実際にフルベストラントの溶解度を調べているのは、エタノールとベンジルアルコールの混合物にとどまり、エタノール単独、ベンジルアルコール単独を用いた場合に、フルベストラント溶解度が45mg/mlを達成できるかどうかすら、確認されていないし、ましてや、その他の使用可能なアルコール類を用いた場合についても確認されていない。 また、表3には、「30重量%以下のアルコール類、少なくとも1重量%の安息香酸ベンジル、十分な量のヒマシ油」という組成の溶剤であっても、エタノール5重量%、ベンジルアルコール5重量%及び安息香酸ベンジル15重量%、ヒマシ油100重量%になる量の場合にはフルベストラント溶解度が36mg/mlであり、少なくとも45mg/mlのフルベストラントを含む製剤を調製できないことが示されている。 さらに、表3及び表4では、安息香酸ベンジルは15重量%の濃度のみが用いられており、安息香酸ベンジルを「1重量%以上」の範囲で変化させた場合に、どのような溶解度の変化が生じるのかについては、記載も示唆もない。 そして、本件明細書には、訂正発明1において特定された「30重量%以下の医薬的に許容できるアルコール類、少なくとも1重量%の安息香酸ベンジル、十分な量のヒマシ油」という組成の溶剤を用いる場合に、表3及び表4に記載された組成の溶剤以外に、どのようなアルコール類を用い、各溶剤の含有量をどの範囲に設定すれば、少なくとも45mg/mlのフルベストラントを含む製剤を調製することができるかについて、具体的な指針が記載されていない。 これらの事項を総合すると、本件明細書において、実際にウサギに筋肉内注射して、注射部位における沈殿の有無やフルベストラントの血漿濃度の変化を測定し、筋肉内注射により投与するための医薬製剤として使用できることを確認しているのは、「製剤F1」のみであり、アルコール類の種類と、アルコール類と安息香酸ベンジルの含有量とが、筋肉内注射した場合の沈殿や徐放性にどの程度影響するのかを、当業者が本件明細書の記載から理解することはできない。 特に、本件明細書には、フルベストラントの溶解度が低い安息香酸ベンジルを導入したことによりフルベストラントが高濃度含有できることは予想外である旨が記載されていることから(【0022】)、安息香酸ベンジルの含有量によりどの程度フルベストラントの濃度が変化するか、当業者は理解することはできない。 オ また、本件特許の出願時において、医薬的に許容できるアルコール類、安息香酸ベンジル及びヒマシ油を含む混合溶剤におけるフルベストラントの溶解性について、どのようなアルコール類を使用できるか、また、各溶剤の含有量をどの程度とすればフルベストラントの溶解性が向上するかについて、何らかの技術常識があったともいえない。 カ そうすると、本件特許の出願時の技術常識に照らし、本件明細書の発明の詳細な説明の記載により、医薬的に許容できるアルコール類の種類も各溶剤の含有量もが「製剤F1」と大きく異なる組成の溶剤を含む訂正発明1に係る医薬製剤を製造し使用するためには、当業者が過度の試行錯誤を要するといえる。 キ したがって、訂正発明1に係る本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、実施可能要件を満たしていない。 (3)訂正発明2~14、17について ア 訂正発明2~14は、訂正発明1においてアルコール類及び/又は安息香酸ベンジルの含有量を特定したものであり、訂正発明17は、訂正発明1~14において、アルコール類の種類を「エタノールとベンジルアルコールの混合物」に特定したものである。 イ 訂正発明2~14、17は、依然として、少なくとも45mg/mlのフルベストラントを含み、筋肉内注射により投与できる医薬製剤を調製できることが示された「製剤F1」とは、アルコール類の種類も各溶剤の含有量も大きく異なる組成の溶剤を含むことから、上記(2)に説示した訂正発明1と同様の理由により、訂正発明2~14、17に係る医薬製剤を製造し使用するためには、当業者が過度の試行錯誤を要するといえる。 ウ したがって、訂正発明2~14、17に係る本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、実施可能要件を満たしていない。 (4)訂正発明15、16について ア 訂正発明15、16は、独立請求項であり、訂正発明1と同様に、「筋肉内注射によりヒトに投与するための医薬製剤」という用途が特定され、「少なくとも45mg/mlのフルベストラント」を含むことが特定された医薬製剤である。 訂正発明15における溶剤は、「15~25重量%の医薬的に許容できるアルコール類、10~25重量%の安息香酸ベンジル、十分な量のヒマシ油」であり、訂正発明16における溶剤は、「17~23重量%の医薬的に許容できるアルコール類、12~18重量%の安息香酸ベンジル、十分な量のヒマシ油」である。 イ 訂正発明15、16における溶剤は、いずれもアルコール類の種類が特定されていないため、本件明細書において、少なくとも45mg/mlのフルベストラントを含み、筋肉内注射により投与できる医薬製剤を調製できることが示された「製剤F1」とは、アルコール類の種類が異なる溶剤を含むことから、上記(2)に説示した訂正発明1と同様の理由により、訂正発明15、16に係る医薬製剤を製造し使用するためには、当業者が過度の試行錯誤を要するといえる。 ウ したがって、訂正発明15、16に係る本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、実施可能要件を満たしていない。 (5)訂正発明28について ア 訂正発明28は、訂正発明25に係る医薬製剤を含有する「注射器またはバイアル」であるところ、訂正発明25に係る医薬製剤は、訂正発明1~16及び18~24のいずれかにおいて溶剤を「10重量%のエタノール、10重量%のベンジルアルコール、15重量%の安息香酸ベンジル、十分な量のヒマシ油」に特定したものであって、この組成の溶剤は、「製剤F1」に対応するものであるから、上記(2)ウの説示を踏まえると、訂正発明25に係る医薬製剤は、当業者が過度の試行錯誤を要することなく製造し使用することができたものである。 イ そうすると、訂正発明25に係る医薬製剤を含有する訂正発明28に係る「注射器またはバイアル」も、当業者が過度の試行錯誤を要することなく製造し使用することができたものである。 ウ したがって、訂正発明28に係る本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、実施可能要件を満たしている。 (6)訂正発明29~34について ア 訂正発明29~34は、それぞれ独立請求項である「筋肉内注射によりヒトに投与するための医薬製剤」、当該医薬製剤の「調製におけるフルベストラントの使用」、当該医薬製剤を含有する「注射器またはバイアル」の発明であり、さらに、訂正発明30、31においては製剤中のフルベストラントの全量と製剤の容積(後記ウ参照)が、訂正発明30~32においては「徐放性製剤」であることが、訂正発明32及び33においては「乳癌の治療において使用するための」医薬製剤であることが特定されている。 イ 訂正発明29~34は、いずれも訂正発明28と同様に、「10重量%のエタノール、10重量%のベンジルアルコール、15重量%の安息香酸ベンジル、十分な量のヒマシ油」という「製剤F1」に対応する組成の溶剤を有するものであり、この組成の溶剤は、上記(2)ウに説示したとおり、少なくとも45mg/mlのフルベストラントを含み、筋肉内注射によりヒトに投与し、乳癌の治療用いるための徐放性の医薬製剤とできることを、当業者が理解できるものである。 ウ 訂正発明30においては「製剤中のフルベストラントの全量が250mg以上であり、かつ製剤の容積が6ml以下である」ことが、訂正発明31においては「製剤中のフルベストラントの全量が250mgであり、かつ製剤の容積が5~5.25mlである」ことが、特定されている。 上記(2)ウに説示した「製剤F1」は、フルベストラント(5%)の濃度、すなわち50mg/mlの濃度であるから、フルベストラントを250mg含む製剤の容積は5mlとなる。 そうすると、訂正発明30、31において特定された、「フルベストラントの全量が250mg以上であり、かつ製剤の容積が6ml以下」、又は、「フルベストラントの全量が250mgであり、かつ製剤の容積が5~5.25ml」である製剤を製造することは十分可能であることを、当業者が理解できる。 エ このように、上記(2)ウの説示を踏まえると、訂正発明29~34は、当業者が過度の試行錯誤を要することなく製造し使用することができたものである。 オ したがって、訂正発明29~34に係る本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、実施可能要件を満たしている。 (7)訂正発明18~21について ア 訂正発明18は、独立請求項であり、訂正発明1と同様に、「筋肉内注射によりヒトに投与するための医薬製剤」という用途が特定され、「少なくとも45mg/mlのフルベストラント」を含むことが特定された医薬製剤である。 訂正発明18における溶剤は、15~25重量%のエタノール及びベンジルアルコールの混合物であるアルコール類、10~25重量%の安息香酸ベンジル、十分な量のヒマシ油であり、かつ、エタノールとベンジルアルコールがほぼ等しい重量%で存在するものである。 訂正発明19~21は、訂正発明18における溶剤を、より狭い範囲に特定したものである。 イ 訂正発明18~21における溶剤は、「製剤F1」の溶剤と、アルコール類の種類が同じであり、各溶剤の含有量が近似するものであるから、上記(2)ウの説示を踏まえると、訂正発明18~21に係る医薬製剤は、当業者が過度の試行錯誤を要することなく製造し使用することができたものである。 ウ したがって、訂正発明18~21に係る本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、実施可能要件を満たしている。 (8)訂正発明22~24、26、27について ア 訂正発明22~24は、訂正発明21において、それぞれ「製剤の全容積が6ml以下」であること、「製剤中のフルベストラントの全量が250mg以上であり、かつ製剤の容積が6ml以下である」こと、「製剤中のフルベストラントの全量が250mgであり、かつ製剤の全容積が5~5.25mlである」ことが、更に特定されたものであり、これらの特定事項は、訂正発明30、31における特定事項と同じものである。 イ 訂正発明26は、訂正発明21又は25において「乳癌の治療において使用するための徐放性製剤」であることを特定したものであり、また、訂正発明27は、訂正発明21又は25において「乳癌の治療において使用するための」ものであることが特定された医薬製剤の調製におけるフルベストラントの使用の発明である。 ウ そうすると、上記(5)~(7)に説示したものと同様に上記(2)ウの説示を踏まえると、訂正発明22~24、26、27は、当業者が過度の試行錯誤を要することなく製造し使用することができたものである。 エ したがって、訂正発明22~24、26、27に係る本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、実施可能要件を満たしている。 (9)被請求人の主張について ア 被請求人は、本件明細書には、ヒマシ油、安息香酸ベンジル、ベンジルアルコールの各溶剤に対するフルベストラントの溶解度(【0019】)、及び、長時間作用型フルベストラントデポ製剤において、フルベストラントが易溶性であり、かつヒマシ油と混和性である溶剤として、医薬的に許容できるアルコール類の添加が採用できること(【0022】)が記載され、安息香酸ベンジルを導入することによりフルベストラントを高濃度で可溶化できることが確認され、具体的には、エタノール[96%](10%)、ベンジルアルコール(10%)及び安息香酸ベンジル(15%)を含みヒマシ油で容積調整したヒマシ油ベースの完全ビヒクルにおいて、フルベストラントの溶解度が81.2mg/ml(25℃)であることが表4に開示されているから、当業者は、これらの記載より、一定量のアルコールの添加によりフルベストラントの溶解度を45mg/ml以上とでき、当業者は添加量を適宜調整して、訂正各発明を実施することができる旨を主張する(答弁書62~65頁)。 確かに、表4(【0050】)における、エタノール[96%](10%)、ベンジルアルコール(10%)及び安息香酸ベンジル(15%)を含みヒマシ油で容積調整したヒマシ油ベースである、特定組成の完全ビヒクルにおいては、フルベストラントの溶解度が81.2mg/ml(25℃)となっている。 しかしながら、本件明細書の表3(【0048】)によれば、エタノール5重量%、ベンジルアルコール5重量%、安息香酸ベンジル15重量%、残部ヒマシ油という溶剤組成は、フルベストラントの溶解度が36mg/mlであり、訂正発明1の範囲内の組成であっても、フルベストラントの溶解度が45mg/mlとならないことが記載されている(上記(2)イ(ウ)参照)。 被請求人は、上記表3の「25℃」におけるフルベストラントの溶解度との記載は誤記であり、実際には「4℃」にて測定したものであって、改めて25℃で測定したデータを乙11として提示するが、この乙11においても、上記組成のフルベストラントの溶解度は43.3mg/mlであり、45mg/mlには達しない。 そして、上記(2)に説示するとおり、本件明細書において、少なくとも45mg/mlのフルベストラントを含み、筋肉内注射により投与できる医薬製剤であることを確認しているのは「製剤F1」という、「フルベストラント(5%)、エタノール[96%](10%)、ベンジルアルコール(10%)および安息香酸ベンジル(15%)を含み、上記の油(当審注:ヒマシ油)で容積調整された」製剤のみであり、これ以外には、どのようなアルコール類とするか、各成分の比率をどのように調整すればよいかの指針について、本件明細書に記載されていないし、本件特許の出願時の技術常識もない。 そうすると、「製剤F1」又はそれと近似した組成の製剤以外のものを含む訂正発明1~17は、実施可能要件を満たすとはいえない。 したがって、被請求人の上記主張は採用できない。 イ 被請求人は、医薬品添加物辞典に収載されたアルコールは35種類であり、このうち注射剤として実績があるのは、エタノール、キシリトール、グリセリン、D-ソルビトール、プロピレングリコール、ベンジルアルコール、D-マンニトールの合計7種類であるから、当業者は、上記アルコール類について、例えば1日1種類のアルコール類について乙11に沿って実験を行いフルベストラントの溶解度を測定すれば、35種類であれば要する全期間は35日、7種類であれば7日で測定でき、その中から、フルベストラントの溶解度が十分に高い成分を選択することができ、並行して、保存試験及び薬物動態試験を行うことができるから、過度な試行錯誤なしに、「医薬的に許容可能なアルコール類」を選択して訂正発明1を実施することができる旨を主張する(口頭審理陳述要領書13~15頁)。 しかしながら、上記のような実験を行うこと自体が、当業者における過度な試行錯誤であるといえる。 したがって、被請求人の上記主張は採用できない。 (10)請求人の主張について ア 請求人は、訂正発明32及び33には「乳癌の治療において使用するための」との発明特定事項を新たに導入しているが、抗エストロゲン活性に基づきエストロゲンによる腫瘍増殖を抑制するフルベストラントは、エストロゲン非依存性の乳癌等には効果が見込めず、フルベストラントがあらゆる乳癌の治療に対して有効であるとは認識できないから、訂正発明32及び33を、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載しているとはいえない旨を主張する(第1回弁駁書27~28頁)。 しかしながら、本件明細書には、フルベストラントは、抗エストロゲン薬であり、エストロゲン依存性適応症である乳癌に対する療法薬としての開発に関心が向けられている旨が記載されており(【0004】【0005】)、フルベストラントがエストロゲン非依存性の乳癌を対象とすることは何ら記載されていないから、訂正発明32及び33における「乳癌」は、エストロゲン依存性の乳癌を意図していることは、当業者には明らかであるといえる。 したがって、訂正発明32及び33においてエストロゲン依存性の乳癌であることが特定されていないからといって、実施可能要件に違反するということはできず、請求人の上記主張は採用できない。 イ 請求人は、甲1に記載の組成物は医薬ではない、あるいは医薬としての使用を想起できないとみなされるのであれば、当該組成物と同一の組成を有する訂正発明1等に係る医薬においても必然的に医薬とは認識できないことになる旨を主張する(第1回弁駁書27~28頁、口頭審理陳述要領書18頁)。 しかしながら、訂正各発明は、フルベストラントを筋肉内注射するに当たり、フルベストラントを45mg/ml以上含有し、かつ、注射部位に沈殿が生じない、徐放性の製剤となる溶剤組成を特定した点に特徴を有する医薬製剤に係る発明であり、仮に、甲1に記載の組成物は医薬ではない、あるいは医薬としての使用を想起できないとみなされるとしても、それは、訂正各発明の前記特徴を有する医薬製剤に係る発明であることとは何ら関係のないことである。 したがって、請求人の上記主張は採用できない。 ウ 請求人は、請求項の「少なくとも45mg/mlのフルベストラントの製剤を調製するのに十分な量のヒマシ油」の構成要件は、どのようなヒマシ油濃度を意味するのかについて開示がないから、実施可能要件を満たしていない旨を主張する(第2回弁駁書29頁)。 しかしながら、訂正発明18等における溶剤組成において、エタノール、ベンジルアルコール、安息香酸ベンジル以外が、基本的にヒマシ油であると理解できることから、自ずとヒマシ油の量(濃度)は特定されるものと解される。 したがって、請求人の上記主張は採用できない。 (11)小括 以上によれば、訂正発明18~24、26~34は、実施可能要件を満たしており、訂正発明1~17は、実施可能要件を満たしていない。 したがって、訂正発明1~17についての無効理由4は、理由がある。 3 無効理由5(サポート要件違反:訂正発明1~34)について (1)サポート要件の判断基準 特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。 (2)訂正各発明の課題について 特許請求の範囲の記載及び本件明細書の【0001】~【0021】の従来技術の記載によれば、訂正各発明の課題は、「少なくとも45mg/mlのフルベストラントを含有し、筋肉内注射によりヒトに投与するための徐放性医薬製剤を提供する」ことであると認められる。 (3)訂正各発明の課題が解決できる範囲について ア 上記2の説示を踏まえると、本件明細書において、「少なくとも45mg/mlのフルベストラントを含有し、筋肉内注射によりヒトに投与するための徐放性医薬製剤を提供する」という課題を解決できることが具体的に確認されているのは、【0051】【0052】及び図1において、ウサギに筋肉内注射した際に、注射部位に沈殿が生じず、徐放性を有することが確認された、フルベストラント(5%)、エタノール[96%](10%)、ベンジルアルコール(10%)及び安息香酸ベンジル(15%)を含み、ヒマシ油で容積調整された「製剤F1」のみである。 イ 本件明細書には、アルコール類としてエタノールとベンジルアルコール以外に使用できるものは記載されていないし、表3によれば、エタノールの含有量が5重量%変化しても、フルベストラントの溶解度が36mg/mlと54mg/mlのように大きく変化することが示されている。 また、フルベストラントの溶解度がアルコールとヒマシ油よりも低い安息香酸ベンジルが、予想外にもヒマシ油中のフルベストラントの溶解度にプラスの作用を及ぼすことが示されているものの(【0022】【0047】【0048】)、表3及び表4において安息香酸ベンジルの含有量は15重量%で固定されており、安息香酸ベンジルベンジルの含有量を変化させた場合にフルベストラントの溶解度がどのように変化するのかについて指針となる記載もない。 さらに、本件明細書には、製剤F1におけるヒマシ油を、Miglyol812-N又はゴマ油/ヒマシ油に変更すると、注射部位に沈殿が生じ、徐放性に劣ることが示されているものの、アルコール類の種類やアルコール類と安息香酸ベンジルの含有量が変化した場合に、注射部位における沈殿と徐放性がどのように変化するのかは明らかではない。 ウ 他方、本件特許の出願時において、アルコール類、安息香酸ベンジル、及び、ヒマシ油を溶剤とするフルベストラント製剤において、アルコール類の種類や各溶剤の含有量が、フルベストラントの溶解性、注射部位における沈殿、徐放性においてどのように影響するかについて、何らかの技術常識があったともいえない。 エ そうすると、本件特許の出願時の技術常識に照らし、本件明細書の発明の詳細な説明の記載により、「少なくとも45mg/mlのフルベストラントを含有し、筋肉内注射によりヒトに投与するための徐放性医薬製剤を提供する」という課題を解決できると当業者が認識することができるのは、製剤F1又はそれと近似した組成の製剤のみであるといえる。 (4)訂正発明1~17について 訂正発明1は、「30重量%以下の医薬的に許容できるアルコール類、少なくとも1重量%の安息香酸ベンジル、十分な量のヒマシ油」という溶剤組成を有するものであり、上記(3)に説示した、当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲(製剤F1と同じか又はそれに近似する製剤)を超えている。 訂正発明2~17についても、同様の理由により、当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲を超えている。 したがって、訂正発明1~17は、本件特許の出願時の技術常識に照らし、本件明細書の発明の詳細な説明の記載により、当該発明の課題を解決できることを当業者が認識できる範囲のものではなく、サポート要件を満たしていない。 (5)訂正発明18~34について 訂正発明18~34は、エタノール、ベンジルアルコール、安息香酸ベンジル及びヒマシ油を含む溶剤組成を有するものであり、溶剤の種類及び各溶剤の含有量も含め、上記(3)に説示のとおり、当該発明の課題を解決できると当業者が認識できる「製剤F1」と、同じか又はそれに近似する溶剤組成を有するものである。 そうすると、訂正発明18~34は、本件特許の出願時の技術常識に照らし、本件明細書の発明の詳細な説明の記載により、当該発明の課題を解決できることを当業者が認識できる範囲のものであり、サポート要件を満たす。 (6)被請求人の主張について 被請求人は、訂正各発明は、本件出願時に存在したフルベストラント製剤と比較して、より優れた持続放出性と認容性を有する筋肉内注射用の医薬製剤を提供することを課題としており、この前提に立てば、本件明細書の【0053】及び図1に示す訂正発明1の良好な放出プロファイル及び投与の認容性が訂正各発明の課題解決の手段となり得ることを当業者は認識できる旨を主張する(答弁書68頁)。 しかしながら、当業者であれば、本件明細書の【0053】及び図1に示された製剤F1の放出プロファイル及び注射部位の沈殿の有無は、アルコール類の種類や各溶剤の含有量によって影響を受けるものと理解するのが自然であり、これは、被請求人自身も、製剤F1では、注射部位に沈殿が生じず、放出プロファイルが均一で適切であったという結果は、完全ビヒクルの溶解度、アルコールなしビヒクルの溶解度及びヒマシ油の溶解度のみから予測できるものではなく、アルコール及び安息香酸ベンジルの寄与を無視することができない旨を主張していることと矛盾しない(第2回上申書9~10頁の4(1))。 したがって、被請求人の上記主張は採用できない。 (7)請求人の主張について ア 請求人は、訂正各発明の課題は、「フルベストラントを、リシノレエートビヒクル、医薬的に許容できる非水性エステル系溶剤、及び医薬的に許容できるアルコール類中に含み、筋肉内投与に適し、少なくとも2週間は治療上の有意の血漿フルベストラント濃度を達成する医薬製剤を提供する」ことであるところ、図1において血漿フルベストラント濃度を筋肉内投与後5日間測定しただけでは、必ずしも2週間以上治療上有意の血漿フルベストラント濃度を達成できるとは限らないから、訂正各発明は、「少なくとも2週間は治療上の有意の血漿フルベストラント濃度を達成する医薬製剤を提供する」という課題を解決できるとは認識できない旨を主張する(審判請求書99~101頁、口頭審理陳述要領書18~20頁)。 しかしながら、上記(2)に説示したとおり、訂正各発明の課題を「少なくとも45mg/mlのフルベストラントを含有し、筋肉内注射によりヒトに投与するための徐放性医薬製剤を提供する」ことであると合議体が認定したことに、誤りはない。 本件明細書には、「本発明の1態様として、…筋肉内投与に適し、少なくとも2週間は治療上有意の血漿フルベストラント濃度を達成する医薬製剤を提供する。」(【0023】)、「本発明の他の態様は、…ヒトへの筋肉内投与に適し、少なくとも2週間は治療上有意の血漿フルベストラント濃度を達成する医薬製剤である。」(【0024】)などと記載されているものの、これらは、発明の「態様」として記載されているのであって、訂正各発明の課題が、「少なくとも2週間治療上有意の血漿フルベストラント濃度を達成する」という具体的な数値を伴ったものであることを示す記載であるとは解釈できない。 請求人は、本件明細書の【0023】【0024】に対応する、国際出願明細書の原文では、「as a feature of the invention」のように、発明の「特徴」と記載されているから、上記のように、発明の「態様」として記載されていることを理由とする合議体の判断は誤りである旨を主張する(第2回弁駁書7頁)。 しかし、本件明細書における「態様」を「特徴」と読み替えたとしても、必ず達成すべき課題として、「少なくとも2週間」という具体的な数値を伴った課題であると限定解釈しなければならない事情があるとまではいえないから、当該課題を限定解釈することは相当ではない。 したがって、上記課題を前提とする請求人の上記主張は、採用できない。 イ 請求人は、被請求人が主張する「本件出願日当時に存在したフルベストラント製剤と比較して、より優れた持続放出性と認容性を有する筋肉内注射用の医薬製剤を提供すること」を課題としても、少なくとも、本件出願日の時点で、少なくとも甲1、2、4、6、8に記載のものが知られているため、少なくともこれらのもの、特には月1回の投与で用いられている甲4、甲6に記載の製剤と比較して「より優れた持続放出性」が示されていなければならないが、そのように当業者が理解できる根拠はなく、また、本件明細書に記載のない用語である「認容性」についても同様である旨を主張する(第1回弁駁書29~30頁、口頭審理陳述要領書20~21頁、第2回弁駁書5頁)。 しかしながら、本件明細書に記載の課題とは、上記(2)に説示したとおり、「少なくとも45mg/mlのフルベストラントを含有し、筋肉内注射によりヒトに投与するための徐放性医薬製剤を提供する」ことであり、フルベストラントの濃度と関係なく、従来技術よりも優れた持続放出性と認容性を有する筋肉内注射用の医薬製剤を提供することではない。 したがって、甲4、甲6などに記載の製剤と比較して「より優れた持続放出性」が示されていなければならない旨の請求人の上記主張は、採用できない。 ウ 請求人は、本件明細書の表3の測定温度は25℃ではなく4℃であったことを示すために被請求人が提出した乙11に添付の表は、本件明細書の表3と、複数箇所においてフルベストラントの溶解度の数値が異なり信憑性がないから、当業者にしてみれば、本件明細書に記載の他の実験データや試験結果等についても信頼できるものであるのかどうか懸念が生じかねない旨を主張する(第1回弁駁書29頁17~21行)。 しかしながら、乙11に添付の表の上記の点を考慮しても、本件明細書に記載された「製剤F1」についての実験結果の信用性を疑わせるほどであるといえず、上記のサポート要件の判断に影響しない。 したがって、請求人の上記主張は採用できない。 (8)小括 以上によれば、訂正発明18~34は、サポート要件を満たしており、訂正発明1~17はサポート要件を満たしていない。 したがって、訂正発明1~17についての無効理由5は、理由がある。 4 無効理由1(甲1に基づく新規性欠如:訂正発明1~22、25~29、32~34)について (1)訂正発明1について ア 対比 甲1発明は、上記第5の1(2)において認定したように、以下のとおりの発明である。 「A ICI 182,780を含む、 B 10%のエタノール、10%のベンジルアルコール、及び C 15%安息香酸ベンジルの、 D ヒマシ油で容量を調整した媒体中、ICI 182,780が50mg/mlとなるように予備製剤化した、 E 線維芽細胞成長因子(FGF)をトランスフェクトした乳癌細胞(MCF-7細胞)を注入された卵巣切除担癌マウスに対し皮下投与される、タモキシフェン抵抗性の乳癌の機序としてFGFオートクリン活性を検証するための試験用組成物。」 訂正発明1と甲1発明とを対比する。 甲1発明の「ICI 182,780」は、7α- [9- (4, 4, 5, 5,5-ペンタフルオロペンチルスルフィニル)ノニル]エストラ-1,3,5 (10)-トリエン-3,17β-ジオールであることは当業界における技術常識(上記第5の3(7))であり、訂正発明1の「フルベストラント」は、7α- [9 -(4, 4, 5, 5,5-ペンタフルオロペンチルスルフィニル)ノニル]エストラ-1,3,5 (10)-トリエン-3,17β-ジオールであると本件明細書【0006】に記載されていることから、甲1発明の「ICI 182,780」は、訂正発明1の「フルベストラント」に相当する。 甲1発明は、「ICI 182,780が50mg/mlとなるように予備製剤化」された「組成物」であるから、訂正発明1の「少なくとも45mg/mlのフルベストラント」を含む「製剤」に相当する。 そうすると、両発明の一致点及び相違点は、次のとおりである。 <一致点> 「少なくとも45mg/mlのフルベストラント、製剤の容積当たり30重量%以下の医薬的に許できるアルコール類、製剤の容積当たり少なくとも1重量%の安息香酸ベンジル、および少なくとも45mg/mlのフルベストラントの製剤を調製するのに十分な量のヒマシ油を含む、製剤。」 <相違点1> 訂正発明1は、「筋肉内注射によりヒトに投与するための医薬製剤であって、」「筋肉内注射に適する医薬製剤」であるのに対し、甲1発明は、「線維芽細胞成長因子(FGF)をトランスフェクトした乳癌細胞(MCF-7細胞)を注入された卵巣切除担癌マウスに対し皮下投与される、タモキシフェン抵抗性の乳癌の機序としてFGFオートクリン活性を検証するための試験用」組成物である点。 イ 判断 甲1は、乳癌の治療にタモキシフェンを長期使用した場合に生じる、タモキシフェン抵抗性のメカニズムを調べるために、線維芽細胞増殖因子(FGF)オートクリン活性(FGF自己分泌活性)によって上記抵抗性が生じるとの仮説を証明するための試験を行った結果を報告する論文である。 甲1には、「Drugs.ICI 182,780は、Zeneca Pharmaceuticals (Macclesfield,England) のDr. Alan Wake1ingにより親切にも提供され、媒体0.1ml中5mgの投与量で、週1回、皮下投与した。図1に示される実験について、最初に粉末のdrugを100%エタノールに溶解し、温めたラッカセイ油(Eastman Kodak,Rochester, NY)中に加え、50mg/mlの最終濃度とした。図1、B及びCに示される実験に関し、10%のエタノール、15%の安息香酸ベンジル、10%のベンジルアルコールの、ヒマシ油で容量を調整した媒体中で50 mg/mlに予備製剤化したdrugが、B.M.Vose(Zeneca Pharmaceuticals)により提供された。」(甲1エ)と記載され、ICI 182,780は、「エタノールとラッカセイ油との混合溶剤に溶解させて50mg/mlの最終濃度とした」ものと、「10%のエタノール、15%の安息香酸ベンジル、10%のベンジルアルコールの、ヒマシ油で容量を調整した媒体中で50 mg/mlに予備製剤化したdrug」という2つの組成物としたことが記載されている。 このうち、「10%のエタノール、15%の安息香酸ベンジル、10%のベンジルアルコールの、ヒマシ油で容量を調整した媒体中で50 mg/mlに予備製剤化したdrug」は、図1のB及びCに示される実験において、週1回マウスに皮下投与されて用いられているところ、2種のアロマターゼ阻害剤(4-OHA、レトロゾール)とともに用いられており、当該試験の結果として、全てのエストロゲン活性を排除するための薬理学的戦略である、ステロイド性抗エストロゲン薬であるICI 182,780と2種のアロマターゼ阻害剤(4-OHA、レトロゾール)のいずれによっても、FGFをトランスフェクトしたMCF-7細胞のエストロゲン非依存性の上記マウスにおけるインビボ増殖は影響を受けず、増殖が持続したことから、当該増殖は、トランスフェクトされたFGFの直接の作用によるという仮説を支持する旨が記載されている(甲1キ)。 上記の記載によれば、甲1における、ICI 182,780を「10%のエタノール、15%の安息香酸ベンジル、10%のベンジルアルコールの、ヒマシ油で容量を調整した媒体中で50 mg/mlに予備製剤化したdrug」は、ICI 182,780が有する抗エストロゲン活性を利用した「エストロゲン活性を排除するための薬理学的戦略」のツール(手段)として使用されたものであって、マウスにおける乳癌細胞(MCF-7)の増殖を抑制させてマウスにおける腫瘍の治療又は予防を行うために使用されたものではないし、腫瘍の治療又は予防を行うためにヒトへ筋肉内投与することを前提としたものとも解されない。 そうすると、上記「予備製剤化したdrug」である甲1発明に係る試験用組成物は、腫瘍の治療又は予防を行うためにヒトへ筋肉内投与することを前提とした組成物であるとは認められないから、上記相違点1は、実質的な相違点であるといわざるを得ない。 したがって、訂正発明1は、甲1に記載された発明ではない。 (2)訂正発明2~22、25~29、32~34について 訂正発明2~14は、訂正発明1において、アルコール類と安息香酸ベンジルの含有量を更に特定するものであるから、訂正発明2~14と甲1発明とは、少なくとも相違点1において相違する。 また、独立請求項である訂正発明15、16、18、29、32~34は、訂正発明1と同様に、「筋肉内注射によりヒトに投与するための医薬製剤」であり、「筋肉内注射に適する医薬製剤」という発明特定事項を有し、また、訂正発明17、19~22、25~28は、訂正発明1、15、16又は18において、更に成分の含有量、アルコール類の種類、用途等を特定するものであるから、訂正発明15~22、25~29、32~34と甲1発明とは、少なくとも相違点1において相違する。 したがって、上記(1)に説示したとおり、相違点1は実質な相違点であるから、訂正発明1~22、25~29、32~34は、甲1に記載された発明ではない。 (3)請求人の主張について ア 請求人は、甲1は、ICI 182,780(フルベストラント)を含む組成物全体を「医薬」(原文は「drug」)と称し、かつ、フルベストラント、エタノール、ベンジルアルコール、安息香酸ベンジル、及びヒマシ油を含む組成物を、予備製剤化した「医薬」(原文は「drug」)と明示し、また、フルベストラントは抗エストロゲン活性に基づき乳癌等の治療において有用であることが技術常識であったところ、甲1では、フルベストラントを含む組成物を担癌マウスに投与して、腫瘍の増殖に対するフルベストラントの抗エストロゲン活性に基づく抑制効果を試験しているのであるから、「医薬製剤」に関する訂正各発明との対比において、甲1発明は「医薬組成物」と認定されるべきものである旨を主張する(口頭審理陳述要領書3~6頁)。 しかしながら、「医薬」とは、「治療・予防に用いる薬品」を意味するところ(広辞苑第五版,1998年11月11日 株式会社岩波書店発行,p.190)、甲1発明に係る組成物の甲1に記載された具体的用途は、上記(1)イに説示したとおり、甲1の図1(B,C)に示された試験において、ICI 182,780が有する抗エストロゲン活性を利用した「エストロゲン活性を排除するための薬理学的戦略」のツール(手段)として使用されたものであって、マウスにおける乳癌細胞(MCF-7)の増殖を抑制させてマウスにおける腫瘍の治療又は予防を行うために使用されたものではないし、腫瘍の治療又は予防を行うためにヒトへ筋肉投与することを前提としたものとも解されない。 甲1の図1に示された試験において、ICI 182,780は、その抗エストロゲン活性を利用し、エストロゲン受容体の活性化を防ぐために用いられているものではあるが、それが直ちに治療又は予防を目的とするものである「医薬組成物」として用いられていることを意味するとはいえない。 請求人は、当業者が広辞苑より優先して参照する、専門的な辞典である甲32(薬科学大事典)には、「医薬品(英 drug、medicine)」と記載されているから、甲1の「drug」を「医薬」と認定しない点は明らかに誤りであるとも主張する(第2回弁駁書12頁)。 しかしながら、請求人が主張するように、「dug」を「医薬品」と訳す場合があるとしても、上記のように、甲1におけるICI 182,780が、腫瘍の治療又は予防を行うために使用されたものと解されない以上、訂正各発明と対比するための甲1発明を、「医薬」として認定するのは適切ではない。 したがって、請求人の上記主張は採用できない。 イ 請求人は、本件明細書において、USP5,183,814(甲2に対応)の例3の製剤を「商業的規模での製剤」すなわち「ヒトに投与するための医薬製剤」と見なしており(【0016)】、本件明細書において、フルベストラントを含む組成物による治療効果などを確認せず、当該組成物を医薬と見なしているのであるから、甲1に記載のフルベストラントを含む組成物を「医薬」と解しないことは、このような被請求人(当業者)の理解と矛盾することとなる旨を主張する(口頭審理陳述要領書5~6頁)。 しかしながら、USP5,183,814(甲2に対応)の特許請求の範囲には、「エストロゲンと抗エストロゲンよりなる治療用組成物」と明記されており、本件明細書におけるフルベストラントを含む組成物は、ヒトの治療用に用いるためのものを意図していることは明らかである。 他方、甲1に記載されたフルベストラントを含む組成物は、そのまま治療又は予防を目的として使用されているものではない。 そうすると、甲2の製剤及び本件明細書の組成物を医薬と見なすにもかかわらず、甲1に記載のフルベストラントを含む組成物を「医薬」と解しないことは、何ら矛盾を生じるものではない。 したがって、請求人の上記主張は採用できない。 ウ 請求人は、甲1カに記載されるように、甲1に記載のフルベストラントを含む組成物は、フルベストラントが抗エストロゲン活性を有することから乳癌等の治療に有用であり、医薬組成物である旨を主張する(第1回弁駁書5~6頁)。 しかしながら、甲1カにおいて、ICI 182,780(フルベストラント)をマウスに投与して子宮内膜に対する抗エストロゲン活性を保持していたことを確認したことは、ICI 182,780が有効な抗エストロゲン活性を保持している化合物であったこと示して、甲1の図1に示された実験が有効な実験であったことを確認するためのものであって、ICI 182,780が有する抗エストロゲン活性を利用して、治療又は予防を行ったものではない。 請求人は、一貫して、甲1に記載された組成物には、抗エストロゲン活性を有し乳癌等の治療に有効な成分として知られるICI 182,780が含まれており、当該組成物をマウスに投与して、その抗エストロゲン活性を発揮させているのであるから、当該組成物は「医薬組成物」である旨を主張するが、上記のように、甲1におけるICI 182,780が、腫瘍の治療又は予防を行うために使用されたものと解されない以上、訂正各発明と対比するための甲1発明を、「医薬」として認定するのは適切ではない。 したがって、甲1カの記載に基づいて、図1の実験に使用されたICI 182,780を含む組成物が、治療又は予防を目的とした組成物である「医薬組成物」であるということはできず、請求人の上記主張は採用できない。 エ 請求人は、甲4には、ヒマシ油中で甲1と同じフルベストラントの濃度を含むものであり、十分な溶解性、筋肉内投与で良好な徐放性、忍容性を達成しているのに対し、ベンジルアルコール、エタノール、安息香酸ベンジルを用いることで、フルベストラントの溶解性や筋肉内注射による徐放性、忍容性が損なわれることを示す技術常識等はないのであるから、甲1においても、甲36で示されるような沈殿が生じているとはいえず、良好な溶解性、徐放性、忍容性を達成するであろうと予測できる旨を主張する(第2回弁駁書22~23頁)。 しかしながら、本件明細書の【0051】の表及び図1に示されるように、フルベストラントの溶剤組成が変われば、筋肉内注射した場合の沈殿の有無や徐放性の程度が異なるものであるから、何らの実験を行うことなく、甲1発明が、筋肉内注射した場合に沈殿が生じず、徐放性に優れており、筋肉内注射によりヒトに投与するために適していることを理解し、訂正発明1に想到することを、当業者が容易になし得たということはできない。 したがって、請求人の上記主張は採用できない。 (4)小括 以上によれば、訂正発明1~22、25~29、32~34は、甲1に記載された発明ではないから、無効理由1は、理由がない 5 無効理由2(甲1に基づく進歩性欠如:訂正発明1~34)について (1)訂正発明1について ア 訂正発明1と甲1発明とは、上記4(1)アのとおり、相違点1において相違する。そこで、甲1発明において、相違点1に係る訂正発明1の構成を採用することを当業者が容易に想到することができたかについて、検討する。 イ 訂正発明1の技術的特徴 訂正発明1は、低容積の注射で患者に投与するのに十分な高濃度を達成し、かつ療法的に有意の放出速度を達成し、沈殿を防ぐ、筋肉内注射によりヒトに投与するためのフルベストラント医薬製剤に関するものであり(【0041】~【0047】)、フルベストラント(7α-[9-(4,4,5,5,5-ペンタフルオロペンチルスルフィニル)ノニル]エストラ-1,3,5(10)-トリエン-3,17β-ジオール)は、ステロイド系のエストラジオール類似体である(【0005】【0006】)。 本件明細書には、従来、水溶性が極めて低いフルベストラントは、ベンジルアルコールを含むヒマシ油ベースの溶剤を用いた注射用油性製剤として用いられていたところ、意外にもヒマシ油及びアルコール類に混和性である安息香酸ベンジルを導入することにより、フルベストラントを少なくとも50mg/mlの濃度に可溶化できることを見いだしたものであり、実施例において、エタノール、ベンジルアルコール及びヒマシ油からなる溶剤に、安息香酸ベンジルを加えると、フルベストラントの溶解度が向上したことが記載され(【0048】表3)、また、フルベストラント5%、エタノール10%、ベンジルアルコール10%、安息香酸ベンジル15%を含む、ヒマシ油ベースの製剤は、Miglyol812-Nベース又はゴマ油/ヒマシ油ベースの製剤と異なり、インビボウサギ試験において、徐放性の製剤であり(図1)、かつ、注射部位において51日間沈殿の証拠はなかったことが記載されている(【0051】)。 したがって、訂正発明1は、フルベストラントを、エタノールやベンジルアルコールといった医薬的に許容できるアルコール類、及び、安息香酸ベンジルを含むヒマシ油ベースの製剤とすることにより、筋肉内注射部位において沈殿がなく、徐放性の製剤となるという効果を奏することから、当該製剤を、「筋肉内注射によりヒトに投与するための医薬製剤であって」「筋肉内注射に適する医薬製剤」とできる、というものである。 ウ 甲1は、乳癌の治療にタモキシフェンを長期使用した場合に生じる、タモキシフェン抵抗性のメカニズムを調べるために、線維芽細胞増殖因子(FGF)オートクリン活性(FGF自己分泌活性)によって上記抵抗性が生じるとの仮説を証明するための試験を行った結果を報告する論文であって、甲1発明に係る組成物を、治療を目的として筋肉内注射する医薬組成物として使用することについての記載は全くないし、そのように使用した場合の、注射部位の沈殿の有無や徐放性等について参考となる記載も示唆もない。 また、甲1には、甲1発明に係る組成物と並列に、エタノールとラッカセイ油を溶剤としたICI 182,780を含む組成物が記載されており(甲1エ)、これらの2種の組成物のうち、特に甲1発明に係る組成物に着目する根拠はない。 そうすると、甲1の記載に接した当業者が、甲1に記載された2種の組成物のうち、甲1発明に係る組成物が、注射部位に沈殿がなく徐放性を有することを予測し得たとはいえず、「筋肉内注射によりヒトに投与するための医薬製剤であって」「筋肉内注射に適する医薬製剤」とできることを容易に想到することができたともいえない。 エ また、甲1発明におけるICI 182,780は、エストロゲン活性を有しない、純粋な抗エストロゲン活性を有する化合物で、乳癌等に対して抗腫瘍活性を有するものであること、ヒマシ油とベンジルアルコールとの混合物やラッカセイ油等の、油をベースとする溶剤に溶解されて、皮下注射や筋肉内注射により投与されることが周知技術又は技術常識であった(上記第5の3(7):甲2~甲8)。 さらに、甲9には、ICI 182,780 についての言及はないものの、(i)ステロイドホルモンは油性溶液中で高い濃度で非経口的に投与し長時間の作用を示すが、このような作用の延長は、活性成分の脂質性デポー中での貯蔵と関係があること、(ii)ステロイドの植物油へのヒマシ油と安息香酸ベンジルを媒体として含有する17-ヒドロキシプロゲステロンカプロエート製剤が良好な認容性を示したこと、及び、(iii)ヒマシ油への、共溶剤であるベンジルアルコール又は安息香酸ベンジルの添加が、より低い好ましい粘度をもたらし注射をより容易にさせたことが記載されていた(上記第5の4(1))。 これらの周知技術又は技術常識、及び、甲9の記載事項を踏まえた当業者が、甲1発明に係る組成物について、その有効成分とその溶剤組成からみて、ヒトに筋肉内注射できる可能性について想定したとしても、甲1発明である「エタノール、ベンジルアルコール、安息香酸ベンジルを含むヒマシ油ベース」の溶剤組成を有する製剤が、注射部位の沈殿がなく、徐放性を有する効果を奏することまでは、当業者が予測することができたとはいえず、「筋肉内注射によりヒトに投与するための医薬製剤であり、」「筋肉内注射に適する医薬製剤」とできることを当業者が容易に想到し得たということもできない。 オ さらに、甲10、甲11、甲12、甲13には、注射剤において、エタノール、ベンジルアルコール、安息香酸ベンジル、ヒマシ油などの成分が「%(w/v)」で記載され、医療用医薬品添加物の分量の記載については「一管(○○ml)中、添加物として○○○を△△△mg含有する」(甲12)などと記載されていること、及び、甲13には、小さな実験動物種においては筋肉内注射は困難であり得ることが記載されているものの、これらを考慮しても、上記エの判断には影響しない。 カ したがって、甲1発明を相違点1に係る訂正発明1の構成を有するものとすることを当業者が容易に想到することができたとはいえないから、訂正発明1は、甲1に記載された発明に基づき、甲2~甲9(必要であれば更に甲10、甲11、甲12及び/又は甲13)に記載された事項、並びに、周知技術又は技術常識を考慮して、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (2)訂正発明2~34について 訂正発明2~34は、訂正発明1と同様に、相違点1に係る訂正発明1の構成を有する、又は、相違点1を更に特定した発明特定事項を有するから、訂正発明2~34と甲1発明とは、少なくとも相違点1において相違する。 したがって、上記(1)に説示したとおり、甲1発明を相違点1に係る訂正発明1の構成を有するものとすることを当業者が容易に想到することができたとはいえない以上、訂正発明2~34も、甲1に記載された発明に基づき、甲2~甲9(必要であれば更に甲10、甲11、甲12及び/又は甲13)に記載された事項、並びに、周知技術又は技術常識を考慮して、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (3)請求人の主張について 甲4において、甲1に記載のフルベストラントを含む組成物と同じく、ヒマシ油中に同じ濃度でフルベストラントを含む医薬製剤をヒトに5ml(フルベストラントとして250mg)の量で投与したことが記載され、甲4~甲8には、フルベストラントの有用性に関し、ヒトにおける臨床研究の内容に言及するものであり、特に甲8には、フルベストラントは臨床では持続性筋肉内注射により投与されなければならないとさえ記載されているから、甲1に記載のフルベストラントを含む組成物をヒトに筋肉内注射により投与するものとすることは、当業者が容易に想到することができたものである旨を主張する(審判請求書72~75頁、第1回弁駁書9~11頁) また、徐放性やデポ製剤としての効果に関しては、 (i)ヒマシ油を媒体としてフルベストラントを含む製剤を2週間や1か月の投与間隔でラットやヒトに筋肉内注射により投与したこと(甲2、甲4~甲6)、 (ii)筋肉内注射及び皮下投与がフルベストラントの長期間にわたる活性の持続をもたらし得ること(甲3)、 (iii)ステロイドホルモンは油性溶液中で高い濃度で非経口的に投与でき長時間の作用を示し、ステロイドホルモンの媒体としてヒマシ油中に安息香酸ベンジルやベンジルアルコールを添加すること(甲9)、 が、それぞれ各甲号証に記載されていることから、訂正発明1の組成物をヒトにおいて筋肉内注射により投与した場合に、1か月程度の持続した作用をもたらすことデポ製剤として使用できることは、当業者の予測を超える効果ではなく、顕著なものではない旨を、 認容性の効果に関しては、 (iv)投与部位における良好な認容性(甲4、甲6) (v)ヒマシ油と安息香酸ベンジルを媒体として含有する製品が良好な認容性を示したこと(甲9)、 が、それぞれ各甲号証に記載されていることから、訂正発明1の組成物をヒトにおいて筋肉内注射により投与した場合に、投与部位における良好な認容性がもたらされることは当業者の予測を超える、顕著なものではない旨を、主張する(第1回弁駁書20~22頁)。 しかしながら、請求人が指摘する甲2~甲9には、フルベストラントをヒマシ油などの溶剤に溶解させた組成物について、筋肉内投与した場合の沈殿の有無や徐放性の程度について、具体的に確認した結果が記載されているわけではないし、まして、甲1に記載された「エタノール、ベンジルアルコール、安息香酸ベンジル、ヒマシ油」という4成分の混合溶剤にフルベストラントを溶解させた組成物について、筋肉内投与した場合の沈殿の有無や徐放性の程度がどのようなものとなるかについて当業者が予測できたとする具体的な根拠はない。 したがって、請求人の上記主張を検討しても、甲1に記載された4成分の混合溶剤にフルベストラントを溶解させた組成物が、本件明細書に記載されるように、筋肉内注射をした場合に、沈殿が生じず徐放性を有するものとなり、ヒトの筋肉内注射に適したものとなることを当業者が予測することができたとまではいえないから、甲1に記載された上記組成物をヒトに筋肉内注射により投与するものとすることは当業者が容易に想到することができた旨の請求人の上記主張は採用できない。 (4)小括 以上によれば、訂正発明1~34は、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、無効理由2は、理由がない。 6 無効理由3(甲4に基づく進歩性欠如:訂正発明1~34)について (1)訂正発明1について ア 対比 甲4発明は、上記第5の2(2)において認定したように、以下のとおりの発明である。 「A 250mgのICI 182,780を、 D ヒマシ油ベースの媒体に含有させた製剤として、月に1回5ml(50mg/ml)で、 E 患者に筋肉内注射するための、タモキシフェン抵抗性進行性乳癌治療用医薬製剤であって、 1か月の投与間隔を通じてフルベストラントの連続的な放出を示し、かつ投与部位において良好な認容性を示す、製剤。」 上記4(1)アの対比を踏まえると、訂正発明1と甲4発明との一致点及び相違点は次のとおりである。 <一致点> 「筋肉内注射によりヒトに投与するための医薬製剤であって、少なくとも45mg/mlのフルベストラント、および少なくとも45mg/mlのフルベストラントの製剤を調製するのに十分な量のヒマシ油を含む、筋肉内注射に適する医薬製剤。」 <相違点2> 訂正発明1は、「製剤の容積当たり30重量%以下の医薬的に許容できるアルコール類、製剤の容積当たり少なくとも1重量%の安息香酸ベンジル」を含むのに対し、甲4発明は、そのような特定がない点。 イ 判断 (ア)甲10には、エタノール、ベンジルアルコール、安息香酸ベンジル及びヒマシ油が、それぞれ、非経口製剤用の医薬品添加物として使用されることが記載され、エタノールを0.61~49.0%w/v、ベンジルアルコールを0.5~10.0%w/v、安息香酸ベンジルを20.0~40.0%w/vを、それぞれ含み得ることが記載されている(表1:ベンジルアルコール(453頁)、エチルアルコール(454頁)、安息香酸ベンジル(457頁)。 また、甲9には、ステロイドホルモンは油性溶液中で高い濃度で非経口的に投与することができ、この形態において長時間の作用を示すこと(891頁「Abstract」)、及び、ヒマシ油へのベンジルアルコール又は安息香酸ベンジルの添加がより低い好ましい粘度をもたらし注射をより容易にさせたことが記載され(893頁右欄下から2行~894頁左欄6行)、表5と表6(894頁)には、2種のステロイドホルモンを、ヒマシ油又はゴマ油ベースの溶剤に溶解させて、ウサギ外側広筋へ注射した場合の反応を調べた結果が記載されている。 ヒマシ油をベースとした.溶剤について、表5には、17-ヒドロキシプロゲステロンカプロエート250mg/mlの溶剤として、「ヒマシ油58%、安息香酸ベンジル40%、ベンジルアルコール2%」を用いた場合は、動物筋肉損傷サイズが691mmで、「注射、23.2%反応、拒絶された」ことが、また、「ヒマシ油52%、安息香酸ベンジル46%、ベンジルアルコール2%」を用いた場合は、筋肉損傷サイズが633mmで、「注射、1.3%反応、受け入れられた」ことが、また、表6には、エストラジオールバレレートの評価として、「ヒマシ油58%,安息香酸ベンジル40%、ベンジルアルコール2%」を溶剤として用いた場合には、動物筋肉損傷サイズが250mmで、「注射、2.67%反応(全て軽度)、受け入れられた」ことが記載され、一部「拒絶された」との結果が得られているものの、「媒体中ヒマシ油を含有する製剤は、ゴマ油を含有する同様の製剤よりも刺激が少ないことを証明した」と記載されている。 さらに、甲1には、甲4発明と同じ濃度のICI 182,780を含む、「10%のエタノール、10%のベンジルアルコール、15%の安息香酸ベンジル」を含むヒマシ油をベースとする組成物が記載されている(上記4の「甲1発明」参照)。 (イ)しかしながら、甲9には、特定の2種のステロイドホルモンを有効成分とした実験により、ゴマ油よりも、ヒマシ油を含有する製剤の方が筋肉注射した場合の刺激が少ないことが記載されているものの(894頁右欄下から2行~895頁左欄9行)、甲9には、同じ、「ヒマシ油、安息香酸ベンジル、ベンジルアルコール2%」を含む溶剤であっても、安息香酸ベンジルが40%と46%のわずかな違いで、注射した場合の結果が「受け入れられた」か「拒絶された」かが異なっていることから(894頁表5)、甲10に記載されるとおり、エタノール、ベンジルアルコール、安息香酸ベンジル及びヒマシ油が、それぞれ非経口製剤用の医薬品添加物として周知であったとしても、ヒマシ油、安息香酸ベンジル、ベンジルアルコールを含む注射剤であるからといって、その組成比によらず、筋肉注射した場合に認容性があるかは不明であるし、甲9の試験結果が、同じステロイド骨格を有する化合物ではあるが、具体的な構造が異なるフルベストラントにおいても当てはまるかは、当業者においても自明とはいえない。 そうすると、甲1において、甲4発明と同じ濃度のICI 182,780を含む、「10%のエタノール、10%のベンジルアルコール、15%の安息香酸ベンジル」を含むヒマシ油をベースとする組成物が記載されていたとしても、それが直ちに、甲1に記載された溶剤組成を用いれば、ヒトに筋肉注射した際に許容可能であり、1か月の投与間隔を通じてフルベストラントの連続的な放出が維持されたままとなるかは、当業者が予測することができたとはいえない。 したがって、甲4発明において、ヒマシ油に加えて、エタノール、ベンジルアルコール、安息香酸ベンジルを用いて甲1に記載された組成物と同じ組成とし、相違点2に係る訂正発明1の構成を有するものとする動機付けがあったとはいえない。 (ウ)甲2、3、5~8、11、12、13に記載された事項を検討しても、上記の判断には影響しない。 (エ)したがって、訂正発明1は、甲4に記載された発明に基づき、甲9及び甲10に記載された事項を考慮して、又は甲1、甲9及び甲10に記載された事項を考慮して、また加えて必要であれば甲2、甲3、甲5~甲8、甲11、甲12及び/又は甲13に記載された事項、並びに、周知技術又は技術常識を考慮して、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (2)訂正発明2~34について 訂正発明2~34は、訂正発明1と同様に、相違点2に係る訂正発明1の構成を有する、又は、相違点2を更に特定した発明特定事項を有するから、訂正発明2~34と甲4発明とは、少なくとも相違点2において相違する。 したがって、上記(1)に説示したとおり、甲4発明を相違点2に係る訂正発明1の構成を有するものとすることを当業者が容易に想到することができたとはいえない以上、訂正発明2~34も、甲4に記載された発明に基づき、甲9及び甲10に記載された事項を考慮して、又は甲1、甲9及び甲10に記載された事項を考慮して、また加えて必要であれば甲2、甲3、甲5~甲8、甲11、甲12及び/又は甲13に記載された事項、並びに、周知技術又は技術常識を考慮して、当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (3)請求人の主張について 請求人は、甲1に記載のフルベストラントを含む組成物に配合されている各媒体成分は、甲9、甲10、甲23に記載されるとおり、非経口製剤用の医薬品添加物として知られ、ヒトにおいて筋肉内注射により投与され得るものであることが知られていたのであるから、甲4発明において、甲1に記載のフルベストラントを含む組成物の製剤組成を参酌する動機付けがある旨を主張する(口頭審理陳述要領書15~17頁)。 しかしながら、甲1に記載のフルベストラントを含む組成物が、筋肉内注射した場合の許容性や徐放性がどのようなものとなるかが、甲9、甲10、甲23、あるいは甲2、甲8等のその他の甲号証を検討しても、当業者が予測できない以上、甲4発明において、溶剤を、ヒマシ油の1成分から、甲1に記載された4成分へと変更する動機付けがあったとはいえない。 したがって、請求人の上記主張は採用できない。 (4)小括 以上によれば、訂正発明1~34は、甲4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、無効理由3は、理由がない。 第7 まとめ 以上のとおりであるから、本件訂正後の請求項1~17についての特許は、無効理由4(実施可能要件違反)及び無効理由5(サポート要件違反)により、無効とすべきものである。 本件訂正後の請求項18~34についての特許は、請求人が主張する無効理由1~5及び証拠方法によっては、無効とすることはできない。 審判に関する費用については、特許法第169条第2項において準用する民事訴訟法第64条の規定により、その34分の17(2分の1)を請求人の負担とし、34分の17(2分の1)を被請求人の負担とする。 よって、結論のとおり審決する。

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2021-800025

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