特許無効審判
2022-800038
デクスメデトミジンを用いて小児患者を治療する方法
- 審判番号
- 2022-800038
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 無効審判(無効の審決)
- 出願番号
- 特願2017-189989
- 登録番号
- 6640164
- 請求日
- 2022年04月28日
- 審決日
- 2024年06月14日
- 公報発行日
- 2024年10月25日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【請求人】ニプロ 株式会社
- 【請求人代理人】豊岡 静男
- 【請求人代理人】原 裕子
- 【参加人】サンド株式会社
- 【参加人代理人】松葉 栄治
- 【被請求人】ホスピーラ インコーポレイテッド
- 【被請求人代理人】四本 能尚
- 【被請求人代理人】佐藤 眞紀
- 【被請求人代理人】龍田 美幸
- 【被請求人代理人】池田 理愛
- 審判長/審判官
- 審判長 原田 隆興
- 審判官 藤原 浩子
- 審判官 渕野 留香
- 分類
- P1113.113-YAA(A61K) / P1113.121-YAA(A61K) / P1113.537-YAA(A61K)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法123条1項2号特許法123条1項4号特許法135条特許法169条2項民事訴訟法61条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第134条の2第9項、特許法第29条第2項、特許法第44条第1項、特許法第134条の2第6項、特許法第134条の2第1項、特許法第36条第6項第2号、特許法第29条第1項第3号、特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第1項、特許法第135条、特許法第169条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
上記当事者間の特許第6640164号発明「デクスメデトミジンを用いて小児患者を治療する方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。
結論
結 論
特許第6640164号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1、2、4~16〕、3、〔17~23〕、〔24~30〕について訂正することを認める。
特許第6640164号の請求項1及び3に係る発明についての特許を維持する。
特許第6640164号の請求項2及び4~30に係る発明についての本件審判の請求を却下する。
審判費用は、請求人及び参加人の負担とする。
理由
理 由
第1 請求の趣旨
特許第6640164号の特許請求の範囲の請求項1~30に記載された発明についての特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求める。
第2 手続の経緯
特許第6640164号(以下「本件特許」という。)に係る出願(特願2017-189989号)は、平成29年9月29日にされた特許法第44条第1項の規定による特許出願であって、2012年(平成24年)9月27日(パリ条約による優先権主張 2011年10月14日、2012年1月4日、2012年5月14日 いずれも(US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする特願2014-535738号の一部を、新たな出願としたものであり、令和2年1月7日に特許権の設定登録(請求項の数30)がされたものである。
これに対して、令和4年4月28日に、請求人であるニプロ株式会社により特許無効審判請求がされた。以後の主な手続の経緯は次のとおりである。
令和4年 4月28日 審判請求書の提出
同年10月 6日 訂正請求書及び答弁書の提出
同年12月 6日付け 審理事項通知書
令和5年 1月19日 口頭審理陳述要領書の提出(請求人)
同年 1月19日 口頭審理陳述要領書の提出(被請求人)
同年 2月 9日 口頭審理
同年 2月16日 上申書の提出(被請求人)
同年 3月22日 上申書の提出(被請求人)
同年 3月22日 上申書の提出(請求人)
同年 4月25日 上申書の提出(被請求人)
同年 4月25日 上申書の提出(請求人)
同年 6月26日 参加申請書の提出(サンド株式会社)
同年 9月 7日付け 審決の予告
同年 9月22日付け 参加許否の決定
(サンド株式会社の参加を許可する旨。)
同年12月 7日 訂正請求書の提出
令和6年 1月23日 弁駁書の提出(サンド株式会社(参加人))
なお、令和4年10月6日にされた訂正の請求は、特許法第134条の2第6項の規定により、取り下げられたものとみなす。
第3 訂正請求について
1 訂正の内容
令和5年12月7日提出の訂正請求書における訂正請求の趣旨は、「特許第6640164号の特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~30について訂正することを求める。」というものであり、当該訂正請求による訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、一群の請求項ごとに次のとおり訂正するものである。
なお、下線部は訂正箇所である。また、上記訂正請求書に添付された特許請求の範囲の記載は、全て全角表記であるが、以下において(後記「第4」を除く)、デクスメデトミジンの用量、投与時間、患者の年齢についての数字と単位は、半角表記に統一して記載する。
(1)一群の請求項1~16についての訂正
ア 訂正事項1
訂正前の特許請求の範囲の請求項1において、
「小児患者における鎮静又は鎮痛のための医薬組成物であって、
前記医薬組成物がデクスメデトミジンを含み、
前記医薬組成物が、鎮静又は鎮痛が必要な小児患者の鎮静又は鎮痛方法に用いられ、
前記方法が、前記小児患者にデクスメデトミジンを投与することを含み、
前記デクスメデトミジンを約0.005~約0.25μg/kg/時間の濃度で投与し、
前記小児患者が約17歳以下であり、かつ
前記デクスメデトミジンを約36時間未満の時間にわたって持続注入として投与することを特徴とする、医薬組成物。」と記載されているのを、
「小児患者における鎮静のための医薬組成物であって、
前記医薬組成物がデクスメデトミジンを含み、
前記医薬組成物が、鎮静が必要な、集中治療環境で、人工呼吸器が装着された小児患者の鎮静方法に用いられ、
前記方法が、前記小児患者にデクスメデトミジンを投与することを含み、
前記デクスメデトミジンを単独で0.2μg/kg/時間の濃度で投与し、
前記デクスメデトミジンの投与前に初回負荷量をさらに含み、
前記負荷量が0.2μg/kgであり、
前記小児患者が約17歳以下であり、
前記小児患者の在胎期間が36週間以上44週間未満の範囲であり、かつ
前記デクスメデトミジンを約36時間未満の時間にわたって持続注入として投与することを特徴とする、医薬組成物。」に訂正する。
イ 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2及び4~16を削除する。
ウ 訂正事項3
訂正前の特許請求の範囲の請求項3において、
「前記小児患者の在胎期間が約7カ月~約11カ月の範囲である、請求項1に記載の医薬組成物。」と記載されているのを
「小児患者における鎮静のための医薬組成物であって、
前記医薬組成物がデクスメデトミジンを含み、
前記医薬組成物が、鎮静が必要な、集中治療環境で、人工呼吸器が装着された小児患者の鎮静方法に用いられ、
前記方法が、前記小児患者にデクスメデトミジンを投与することを含み、
前記デクスメデトミジンを単独で0.2μg/kg/時間の濃度で投与し、
前記デクスメデトミジンの投与前に初回負荷量をさらに含み、
前記負荷量が0.2μg/kgであり、
前記小児患者が新生児であり、
前記小児患者の在胎期間が36週間以上44週間未満の範囲であり、かつ
前記デクスメデトミジンを約36時間未満の時間にわたって持続注入として投与することを特徴とする、医薬組成物。」に訂正する。
(2)一群の請求項17~23についての訂正(以下「訂正事項4」という。)
特許請求の範囲の請求項17~23を削除する。
(3)一群の請求項24~30についての訂正(以下「訂正事項5」という。)
特許請求の範囲の請求項24~30を削除する。
2 訂正の適否についての判断
(1)訂正事項1について
ア 訂正事項1の目的
訂正事項1を、以下のとおりの訂正事項1-1~1-4に分けて検討する。
・訂正事項1-1について
訂正事項1-1は、訂正前の請求項1における「鎮静又は鎮痛のための医薬組成物」及び「鎮静又は鎮痛が必要な小児患者の鎮静又は鎮痛方法」を、訂正後の請求項1において「鎮静のための医薬組成物」及び「鎮静が必要な、集中治療環境で、人工呼吸器が装着された小児患者の鎮静方法」に、それぞれ限定するものである。
・訂正事項1-2について
訂正事項1-2は、訂正前の請求項1における「デクスメデトミジンを約0.005~約0.25μg/kg/時間の濃度で投与し」を、訂正後の請求項1において「デクスメデトミジンを単独で0.2μg/kg/時間の濃度で投与し」に限定するものである。
・訂正事項1-3について
訂正事項1-3は、訂正前の請求項1において「前記デクスメデトミジンの投与前に初回負荷量をさらに含み、前記負荷量が0.2μg/kgであり」という負荷量についての特定を追加するものである。
・訂正事項1-4について
訂正事項1-4は、訂正前の請求項1における「前記小児患者が約17歳以下であり」を、「前記小児患者が約17歳以下であり、前記小児患者の在胎期間が36週間以上44週間未満の範囲であり」に限定するものである。
したがって、訂正事項1-1~1-4からなる訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 特許請求の範囲の拡張又は変更の存否
訂正事項1-1~1-4からなる訂正事項1は、上記アのとおり、特許請求の範囲を減縮するだけのものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではない。
ウ 新規事項の有無
(ア)訂正事項1-1について
願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)の実施例1においては、鎮静のために、デクスメデトミジンを、「集中治療環境で」「最初に挿管され、人工呼吸器が装着された」新生児に投与しているから(【0022】6行及び14~16行)、訂正事項1-1の「鎮静のための医薬組成物」及び「鎮静が必要な、集中治療環境で、人工呼吸器が装着された小児患者の鎮静方法」は、本件明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件明細書等」という。)に記載されており、新規事項を追加するものではない。
(イ)訂正事項1-2について
訂正事項1-2の「デクスメデトミジンを単独で0.2μg/kg/時間の濃度で投与し」とは、「0.2μg/kg/時間の濃度」でデクスメデトミジンを持続注入する際に、他の薬剤と併用しながらではなくデクスメデトミジンのみを(すなわち、デクスメデトミジンを単独で)持続注入することを意味する記載であると解される。
本件明細書には、「特定の実施形態では、デクスメデトミジンを持続的静脈内用量として小児患者に約0.01μg/kg/時間、…又は約0.2μg/kg/時間、…、又は約2.5μg/kg/時間の濃度で投与する。」(【0016】)と記載されているから、デクスメデトミジンを「約0.2μg/kg/時間」の持続的静脈内量で投与する際に、他の薬剤と併用することなくデクスメデトミジンのみ(すなわち、デクスメデトミジンを単独で)持続注入することが記載されている。
そして、実施例1においても、「デクスメデトミジンの10分又は20分の負荷量注入後に、最短6時間かつ手術後24時間までデクスメデトミジンの持続固定維持量注入を投与」(【0024】)しており、その持続注入速度は「0.2μg/kg/時間」(【0023】表1の用量レベル3)であるから、「0.2μg/kg/時間の濃度」でデクスメデトミジンを持続注入する際に、他の薬剤と併用しながらではなくデクスメデトミジンのみを(すなわち、デクスメデトミジンを単独で)持続注入している。
したがって、訂正事項1-2の「デクスメデトミジンを単独で0.2μg/kg/時間の濃度で投与し」は、本件明細書等に記載されており、新事事項を追加するものではない。
(ウ)訂正事項1-3について
本件明細書には、「負荷量として投与した後に維持量を投与するとき、負荷量は約0μg/kg~約5μg/kg、…又は約0μg/kg~約0.4μg/kgの用量であり得る。…特定の実施形態では、負荷量は約0.01μg/kg…又は約0.2μg/kg、…又は約2.5μg/kgである。」(【0017】)と記載され、実施例1においても、「デクスメデトミジンの10分又は20分の負荷量注入後に、最短6時間かつ手術後24時間までデクスメデトミジンの持続固定維持量注入を投与」(【0024】)しており、その負荷量は「0.2μg/kg」(【0023】表1の用量レベル3)である。
したがって、訂正事項1-3の「前記デクスメデトミジンの投与前に初回負荷量をさらに含み、前記負荷量が0.2μg/kgであり」は、本件明細書等に記載されており、新規事項を追加するものではない。
(エ)訂正事項1-4について
本件明細書の実施例1における齢群IIの小児患者は、「≧36週間~≦44週間の在胎期間」の満期「新生児」の患者であり(【0022】、【0023】表1の齢群II)、この在胎期間は「36週間以上44週間未満」を包含している。
したがって、訂正事項1-4の「前記小児患者が約17歳以下であり、前記小児患者の在胎期間が36週間以上44週間未満の範囲であり」は、本件明細書等に記載されており、新規事項を追加するものではない。
エ 上記ア~ウによれば、訂正事項1-1~1-4からなる訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものではなく、また、新規事項を追加するものではない。
(2)訂正事項3について
訂正事項3は、訂正後の請求項3を、請求項1を引用しない独立形式に改めるものである。
また、訂正事項3は、訂正後の請求項1と同様に、訂正前の請求項1を引用する請求項3における「鎮静又は鎮痛のための医薬組成物」、「鎮静又は鎮痛が必要な小児患者の鎮静又は鎮痛方法」、「デクスメデトミジンを約0.005~約0.25μg/kg/時間の濃度で投与し」と特定されているのを、訂正後の請求項3において、「鎮静のための医薬組成物」、「鎮静が必要な、集中治療環境で、人工呼吸器が装着された小児患者の鎮静方法」、「デクスメデトミジンを単独で0.2μg/kg/時間の濃度で投与し、前記デクスメデトミジンの投与前に初回負荷量をさらに含み、前記負荷量が0.2μg/kgであり」に限定するものである。
さらに、訂正前の請求項3における「約17歳以下」「在胎期間が約7カ月~約11カ月の範囲」を、訂正後の請求項3において「新生児」「在胎期間が36週以上44週未満の範囲」と限定するものである。
そうすると、上記(1)に説示したものと同様の理由により、訂正事項3は、引用形式の解消及び特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではなく、また、新規事項を追加するものではない。
(3)訂正事項2、4、5について
訂正事項2、4、5は、それぞれ、訂正前の請求項2及び4~16、訂正前の請求項17~23、訂正前の請求項24~30を削除するものであるから、当該訂正事項2、4、5は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではなく、また、新規事項を追加するものではない。
(4)別の訂正単位とする求めについて
訂正後の請求項3については、当該請求項についての訂正が認められる場合には、一群の請求項の他の請求項とは別の訂正単位とすることを求めている。
(5)参加人の主張について
ア 参加人は、本件明細書における訂正事項1の用量のデクスメデトミジンを投与する試験としては、実施例1の用量レベル3の試験のみが開示されているところ、そこではほとんどの小児患者がデクスメデトミジン以外の薬剤(以下の(i)及び(ii))の投与を受けているから、当該試験は「デクスメデトミジンを単独で」投与した試験ではなく、その他、本件明細書には、「集中治療環境で、人工呼吸器が装着された小児患者」に対して、訂正事項1の用量で「デクスメデトミジンを単独で」投与した場合の鎮静効果を裏付ける記載はなく、また、当業者の技術常識を参酌しても、訂正事項1の用量でデクスメデトミジンを単独投与した場合の鎮静効果は明らかではないから、訂正事項1は、本件明細書等に記載されたものではなく、訂正事項1に係る本件訂正は、新規事項を追加するものである旨を主張する(弁駁書4~13頁、27~28頁)。
(i) 「術後外科対象の比率が高い」「最初に挿管され、人工呼吸器が装着された」新生児に対して、デクスメデトミジンの投与に先立ち受けていると考えられる「何らかの鎮静薬・鎮痛薬」
(ii)鎮静用のための救出ミタゾラム及び鎮痛用救出薬(以下、併せて「救出薬」という。)
参加人が主張する上記2種の薬剤は、いずれも、上記(1)ウ(イ)に説示した「0.2μg/kg/時間の濃度」でデクスメデトミジンを持続注入する際に、併用しながら投与される薬剤ではない。
また、上記(i)のように、デクスメデトミジンの投与に先立ち、手術や挿管のために何らかの鎮静剤・鎮痛薬を投与しており、その薬剤の影響が、デクスメデトミジンを投与する際にも存在していたとしても、そのような薬剤の影響がある場合を、「デクスメデトミジンを単独で0.2μg/kg/時間の濃度で投与し」との記載が排除しているとは解されない。
さらに、上記(ii)の救出薬は、最初からデクスメデトミジンと組み合わせて使用することが意図されたものではなく、患者の状態に応じて、「総N-PASSスコア>3又は臨床判断によって適応があれば救出のために」(【0030】)、臨時に用いられるものであるから、患者の状態に応じて救出のために用いられる救出薬の使用までも、「デクスメデトミジンを単独で0.2μg/kg/時間の濃度で投与し」との記載が排除しているとは解されない。
したがって、参加人の訂正事項1についての解釈は誤りであり、参加人の上記主張は採用できない。
イ 参加人は、 (i)被請求人は、「単独で」の文言がなかった前回の訂正請求による請求項についてさえ、「訂正発明1においては、救出薬を投与しないのに対して…」などを主張していたこと、及び、(ii)本件明細書は、デクスメデトミジンと併用投与される他の薬剤の量(具体的には救出薬の量)を減らすことがデクスメデトミジンの効果であることを繰り返し強調していることなどから、「デクスメデトミジンを単独で」投与することを明示する訂正事項1は、デクスメデトミジン以外の他の薬剤が投与される場合を除外する趣旨であると解される旨も主張する(弁駁書6頁、9~10頁)。
しかしながら、前回の訂正請求による請求項1について被請求人が主張したこと、及び、本件明細書において「デクスメデトミジンの投与は救出薬(…)の必要性を低減する」(【0004】)ことが記載されていることを根拠として、訂正事項1は、患者の状態に応じて臨時に用いられる救出薬を一切投与しないものであると限定解釈することはできない。
したがって、参加人の上記主張は採用できない。
ウ 参加人は、本件出願時、人工呼吸器が装着された小児患者の鎮静の処置においてデクスメデトミジンの鎮静作用は強くないことが知られており、デクスメデトミジン単独による鎮静は不十分で、他の鎮静薬や麻薬の併用が必要であるとされていた(丙1、丙2)との技術常識を参酌すると、訂正事項1の用量で「デクスメデトミジンを単独で」投与した場合の鎮静効果を把握することはできないから、訂正事項1に係る本件訂正は、新規事項を追加するものである旨を主張する(弁駁書11~13頁)。
しかしながら、参加人の上記主張は、訂正事項1が、患者の状態に応じて臨時に使用される救出薬を投与しないものであることを前提とするものであるが、その前提において誤りがあることは上記ア及びイに説示したとおりである。
したがって、参加人の上記主張は採用できない。
なお、全ての請求項に対して無効審判が請求されているので、訂正事項1~5に関し、特許法第134条の2第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定される要件(独立特許要件)は適用されない。
3 訂正請求についてのむすび
以上のとおり、本件訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであって、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項に規定する要件に適合するものである。
よって、本件訂正は、訂正の要件を全て満たすものであるから、これを認める。
第4 訂正発明
上記第3のとおり、本件訂正は認められたので、本件特許の請求項1及び3に係る発明は、本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1及び3に記載された事項により特定される、次のとおりのものである(以下、請求項の番号に従い「訂正発明1」及び「訂正発明3」といい、まとめて「訂正発明」ということがある。)。
「【請求項1】
小児患者における鎮静のための医薬組成物であって、
前記医薬組成物がデクスメデトミジンを含み、
前記医薬組成物が、鎮静が必要な、集中治療環境で、人工呼吸器が装着された小児患者の鎮静方法に用いられ、
前記方法が、前記小児患者にデクスメデトミジンを投与することを含み、
前記デクスメデトミジンを単独で0.2μg/kg/時間の濃度で投与し、
前記デクスメデトミジンの投与前に初回負荷量をさらに含み、
前記負荷量が0.2μg/kgであり、
前記小児患者が約17歳以下であり、
前記小児患者の在胎期間が36週間以上44週間未満の範囲であり、かつ
前記デクスメデトミジンを約36時間未満の時間にわたって持続注入として投与することを特徴とする、医薬組成物。」
「【請求項3】
小児患者における鎮静のための医薬組成物であって、
前記医薬組成物がデクスメデトミジンを含み、
前記医薬組成物が、鎮静が必要な、集中治療環境で、人工呼吸器が装着された小児患者の鎮静方法に用いられ、
前記方法が、前記小児患者にデクスメデトミジンを投与することを含み、
前記デクスメデトミジンを単独で0.2μg/kg/時間の濃度で投与し、
前記デクスメデトミジンの投与前に初回負荷量をさらに含み、
前記負荷量が0.2μg/kgであり、
前記小児患者が新生児であり、
前記小児患者の在胎期間が36週間以上44週間未満の範囲であり、かつ
前記デクスメデトミジンを約36時間未満の時間にわたって持続注入として投与することを特徴とする、医薬組成物。」
第5 当事者の主張及び証拠方法
1 請求人の主張及び証拠方法
上記第1のとおり、請求人は、本件特許の特許請求の範囲の請求項1~30に記載された発明についての特許を無効とすることを求めていたが、上記第3及び第4のとおり、本件訂正が認められ、特許請求の範囲は請求項1及び3のみとなったところ、訂正された請求項1及び3についての無効理由は次のとおりであり、証拠方法として甲第1号証~甲第18号証(以下「甲1」などという。)を提出している。
なお、審判請求書に記載された無効理由4(特許法第36条第6項第2号違反)は、口頭審理において取り下げられた(口頭審理調書参照)。
[無効理由1](新規性欠如)
訂正された請求項1及び3に係る発明は、甲1に記載された発明又は甲2に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、その特許は、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。
なお、以下の第6では、無効理由1(甲1を主引用例とする新規性)と無効理由1(甲2を主引用例とする新規性)に分けて検討する。
[無効理由2](進歩性欠如)
訂正された請求項1及び3に係る発明は、甲1に記載された発明又は甲2に記載された発明に公知技術ないし周知技術を適用することにより当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その特許は、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。
なお、以下の第6では、無効理由2(甲1を主引用例とする進歩性)と無効理由2(甲2を主引用例とする進歩性)に分けて検討する。
[無効理由3](サポート要件違反)
訂正された請求項1及び3に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されていないから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、その特許は、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。
・甲1:Pediatr.Crit.Care Med.,2006,Vol.7,No.2,pp.126~131
・甲2:Journal of Hospital Medicine,Mar/Apr 2008,Vol.3,No.2,pp.142~147
・甲3:Journal of Cardiothoracic and Vascular Anesthesia,(February)2008,Vol.22,No.1,pp.147~151
・甲4:The Annals of Pharmacotherapy,2009 October,Vol.43,pp.1707~1713
・甲5:Pediatr.Crit.Care Med.,2007,Vol.8,No.2,pp.115~131
・甲6:薬剤学,2005,第65巻第5号,pp.289~296
<以上、審判請求書に添付>
・甲2の2:甲2の全文訳
・甲4の2:甲4の全文訳
・甲5の2:甲5の全文訳
・甲7:「手術中における輸液・輸血療法」,2014年11月(当審注:優先日後)
(https://www.med.kindai.ac.jp/transfusion/2014.11rennkei-kouenn-syudyutuyueki.pdf)
・甲8:「発達神経毒性研究-現状と課題-」,住友化学2002-I,2002,pp.51~59
・甲9:「1.臨床薬物動態の基礎知識 第16回臨床薬理学講習会 2009年12月6日(日)横浜」,臨床薬理(Jpn.J.Clin.Pharmacol.Ther.),July 2010,Vol.41,No.4,pp.155~158
・甲10:「臨床研究の作り方」,2021年4月1日(当審注:優先日後),(http://www.jaccro.com/wp/wp-content/uploads/media/activities/howto/08_howto.pdf)
<以上、口頭審理陳述要領書に添付>
・甲11:口頭審理において用いた説明資料
<以上、令和5年2月16日に証拠説明書(3)とともに提出>
・甲12:日本臨床麻酔学会誌,2010,Vol.30,No.2,pp.216~223
・甲13:日本臨床救急医学会誌,2013(当審注:優先日後),Vol.16,pp.625~631
・甲14:月刊ナーシング,2012年6月(当審注:優先日後),Vol.32,No.7,pp.92~97
<以上、令和5年3月22日提出の上申書に添付>
・甲15:(1)プレセデックス静注液 200μg「ファイザー」,(2)プレセデックス静注液 200μg「マルイシ」,(3)プレセデックス静注液 200μg/50mLシリンジ「ファイザー」,(4)プレセデックス静注液 200μg/50mLシリンジ「マルイシ」に関する「審議結果報告書」,平成30年11月20日(当審注:優先日後),医薬・生活衛生局医薬品審査管理課 (当審注:上記(1)~(4)は、原文の○の中に数字(1~4)を表す。)
(https://www.pmda.go.jp/drugs/2018/P20181129002/671450000_21600AMY00007_A100_1.pdf)
・甲16:プレセデックス静注液 200μg「ファイザー」1) ,プレセデックス静注液 200μg/50ml シリンジ「ファイザー」1) ,プレセデックス静注液 200μg「マルイシ」2) ,プレセデックス静注液 200μg/50ml シリンジ「マルイシ」2) に関する資料,2018年(当審注:優先日後),「2.7.2臨床薬理試験」pp.1,2,7~8,「2.7.3臨床的有効性」pp.1,2,15,「2.7.6個々の試験のまとめ」pp.1,130~147
(https://www.pmda.go.jp/drugs/2018/P20181129002/index.html)
・甲17:CLINICAL REVIEW,2012年12月14日(当審注:優先日後),pp.1~3,78~90
(米国FDAにおけるデクスメデトミジンの承認申請審査に関する資料)
(https://fda.report/media/86341/N21-038S022-S021-Dexmedetomidine-Clinical-BPCA.pdf)
・甲18:日臨麻会誌,2008,Vol.28,No.3,pp.399~410
<以上、令和5年4月25日提出の上申書に添付>
2 参加人の主張及び証拠方法
参加人が提出した弁駁書によれば、本件訂正は、新規事項を追加するものであり、特許法第134条の2第9項において準用する同法第126条第5項の規定に違反しており認められるべきではなく、そして、本件訂正前の特許は、審判請求書記載の各無効理由によって無効とすべきものである旨、及び、本件訂正が認められると仮定しても、本件訂正後の請求項1及び3に係る特許は、少なくとも無効理由3(サポート要件違反)によって、無効とすべきものであり、その他の無効理由に関しては、請求人の主張を援用する旨を、参加人は主張し、証拠方法として丙第1号証~丙第5号証(以下「丙1」などという。)を提出している。
・丙1:「臨床小児麻酔ハンドブック 改訂第2版」,株式会社診断と治療社,2008年2月25日,p.23~24
・丙2:「救急・救急治療」,株式会社総合社,2010年,Vol.22,No.3・4,p.403~410
・丙3:「やってはいけない!人工呼吸管理50 第2版」,株式会社日本看護協会出版会,2008年10月20日(第2版第1刷),p.172~176
・丙4:「CURCULATION Up-to-Date」,株式会社メディカ出版,2009年,Vol.4,No.6,p.(719)79~(728)88
・丙5:「最近の新薬 2005 薬事日報版2005年版」,株式会社薬事日報社,2005年,「11 中枢神経系用薬 塩酸デクスメデトミジン」の項のp.1~8
3 被請求人の主張及び証拠方法
被請求人は、「本件無効審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする」との審決を求め、証拠方法として乙第1号証~乙第12号証(以下「乙1」などという。)を提出するとともに、請求人が主張する無効理由はいずれも存在しない旨を主張する。
・乙1:甲2の部分訳
<以上、答弁書に添付>
・乙2:Newborn and infant hearing screening,2010年
(https://www.who.int/publications/i/item/9789241599496)
・乙3:母子健康法(◆昭和40年08月18日法律第141号),1965年
・乙4:Pediatric Cardiology,2011年9月10日(online),Vol.32,pp.1075~1087
・乙5:Pediatric Drugs,2008,Vol.10,No.1,pp.49~69
・乙6:Intensive Care Medicine,2011年2月10日,Vol.37,pp.686~690
・乙7:Pediatric Critical Care Medicine,2006,Vol.7,No.2,pp.186~187
<以上、口頭審理陳述要領書に添付>
・乙8: 口頭審理における被請求人のプレゼンテーション資料
<以上、令和5年2月16日提出の上申書に添付>
・乙9:「e-ヘルスネット」のウェブページの「モルヒネ」の項目,2023年3月20日印刷(当審注:優先日後),
(https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/heart/yk-063.html)
・乙10:モルヒネ塩酸塩注射液10mg「第一三共」 モルヒネ塩酸塩注射液50mg「第一三共」の添付文書,2020年2月改訂(当審注:優先日後),
・乙11:プレセデックス(R)静注液200μg「ファイザー」 プレセデックス(R)静注液200μg/50mLシリンジ「ファイザー」の添付文書,2023年2月改訂(当審注:優先日後。上記(R)は、○の中にRである。以下、同様。)
・乙12:日刊薬業,2022年10月17日付け記事 (当審注:優先日後),
(japanweb.pfizer.com/nikkan/print.cgi?file=/nikkan/article/20221017/all.html)(当審注:現時点ではこのサイトにアクセスできない。)
<以上、令和5年3月22日提出の上申書に添付>
第6 当審の判断
1 主な証拠の記載事項
以下に、主な証拠の記載事項及びそれらの記載事項から認定できる事項を示す(原文が外国語の場合は、その訳文を示す。下線は当審による。)。
(1)甲1(Pediatr.Crit.Care Med.,2006,Vol.7,No.2,pp.126~131)
ア 甲1の記載事項
甲1には、以下の事項が記載されている。
(甲1ア)
「心臓及び胸部手術後の小児におけるデクスメデトミジンの使用*
…
目的:本報告では、先天性の心疾患及び胸部疾患手術後の、自発呼吸を行うか又は人工呼吸器をつけた患者へのデクスメデトミジンの使用について報告する。
研究デザイン:後ろ向き研究。
環境:大学病院、小児心臓集中治療室。
患者:胸部手術後にデクスメデトミジンを投与された自然呼吸患者33名及び人工呼吸中の患者5名。
介入:なし。
測定方法と主たる結果:年齢8±1.1歳、体重29±3.8kgの38名の患者を対象とした。そのうち7名(18%)は1歳未満であった。デクスメデトミジンは第一選択の鎮静及び鎮痛剤として使用され、点滴量を漸増してもその効果が不十分であると認められた場合は、救出薬が投与された。初回のデクスメデトミジンの点滴量は0.32±0.15μg/kg/時間であり、その後は0.3±0.05μg/kg/時間(範囲0.1~0.75μg/kg/時間)で点滴を行った。1歳未満の患者に必要なデクスメデトミジン点滴量は、年長児と比較して多い傾向があり、0.4±0.13 対 0.29±0.17 μg/kg/時間 (p = .06(原文ママ。以下同様))であった。期待した鎮静と鎮痛は、それぞれ、デクスメデトミジン投与期間の93%、及び83%で達成された。集中治療室での鎮静スケール(スコア0~3)及び2つの疼痛スケール(数値的視覚アナログスケール、及び表情、下肢、活動性、啼泣、安静度スケール、スコア0~10)によると、平均の鎮静スコアは1.3±0.6 (穏やかな鎮静)であり、平均の疼痛スコアは1.5±0.9(軽度の痛み)であった。最も頻繁に投与された救出薬は、フェンタニル、モルヒネ、及びミダゾラムであった。全体として、49回の鎮静剤/鎮痛剤の救出薬投与が行われた。1歳未満の患者は年長者に比べてより多くの救出薬ボーラス投与を必要とし、その回数はそれぞれ22回(3.19±0.8)と27回(0.8±0.2、p= .003)であった。デクスメデトミジンの注入期間中は、収縮期血圧と拡張期血圧に有意な変化はなかった。6人の患者(15%)に低血圧が記録された。そのうち3名では、低血圧はデクスメデトミジンの注入量を減少させることで解消され、残りの3名は投与を中断することで解消された。心拍数は低下する傾向が見られたが、これは臨床的に有意ではなかった。1名の患者では、低血圧を伴わないかなりの徐脈が観察されたが、この症状はデクスメデトミジンの投与を中止した後、すぐに回復した。動脈血ガスや呼吸数に有意な変化は認められなかった。死亡例はなく、集中治療室の総在室時間は19±2時間であった。
結論:デクスメデトミジンは、先天性心疾患及び胸部手術後の、自発呼吸の患者又は人工呼吸器を装着した患者のどちらにおいても、忍容性が高く、有効な薬剤であることが示唆された。(Pediatr Grit Care Med 2006; 7:126~131)
キーワード: 心臓外科、心臓集中治療室、鎮静、小児、人工呼吸器、デクスメデトミジン 」(126頁表題、「Objective」~「KEY WORD」)
(甲1イ)
「デクスメデトミジンは、鎮静及び鎮痛の作用を有する新しい選択的α2-アゴニストであり、成人の重傷患者における短期使用用(24時間以内)として米国食品医薬品局(FDA)の承認を受けている。第I-III相臨床試験において、呼吸抑制を回避しながら、患者の血行動態の安定を維持し、静脈麻酔薬及び経口麻酔薬の術中必要量を減少させることが示されている(1~5)。現在のところ、先天性の心疾患及び胸部疾患術後の、人工呼吸器を付けていない乳児及び小児へのデクスメデトミジンの使用についての報告は行われていなかった。この研究では、心臓手術後のデクスメデトミジンの使用に関する我々の経験を述べる。
素材と材料
この後ろ向きのケースシリーズ研究は、ピッツバーグ大学/ピッツバーグ
小児病院のInstitutional Review Boardの承認を得ている。…
2003年7月から2004年9月にかけて、心臓手術後に心臓疾患集中治療室(CICU)に収容されてデクスメデトミジンが投与された38名の継続患者のカルテの再調査を行った。標準的な患者の人口統計学的情報を収集し、Risk Adjustment for Congenital Heart Surgery-1に従って、実施した手術を分類した(6)。Risk Adjustment for Congenital Heart Surgery-1の分類に含まれない手術は、個別に分類した。データは、デクスメデトミジンの投与量と投与時間、並びに従来の鎮静剤及び鎮痛剤の必要ボーラス投与量(救出薬量)に関して分析された。以下はその例である。当院では、副作用を回避しつつ最適な鎮静・鎮痛を提供するために、デクスメデトミジンの投与と救出薬の使用は、次のスキームで習慣化して実施している。デクスメデトミジンはいずれの患者に対しても0.2~0.75μg/kg/時間の用量で点滴注入された。いずれの患者にも負荷投与は行わなかった。正確な初期投与量は、医師の判断と手術室から戻ったときの患者の鎮静レベルに基づいて決定された。点滴開始後、鎮静と痛みの尺度に基づき鎮静及び/又は鎮痛が不十分と考えられた場合は、デクスメデトミジンの投与量を0.1~0.2μg/kg/時間ずつ増加させた。
漸増から20~30分後にも鎮静が不十分な場合は、救出薬を投与し、デクスメデトミジンの注入を最大0.75μg/kg/時間までさらに増量した。救出薬はまた、合併症(例えば、自己抜管、重篤な高血圧等)を防ぐために即時の鎮静が必要と判断される場合にも投与された。救出薬はミダゾラム、ロラゼパム、フォンタニル、モルヒネ、ヒドロモルホン、抱水クロラールを含む。
心肺機能-収縮期血圧、拡張期血圧、平均血圧、心拍数、及び呼吸数-を1時間間隔で記録した。高血圧又は低血圧は、ベースライン値から20~30%の変化、及び/又は、血圧がそれぞれ年齢の95%及び5%より上又は下になった場合と定義された。強心剤と全身性血管拡張薬の必要性が記録された。
PaO2、PaCO2及び動脈pHは臨床的な指示により1~4時間ごとに記録された。
すべての患者についてCICU入室時及び24時間以内に胸部レントゲン写真を撮影した。
鎮静及び鎮痛の程度を毎時、ICU鎮静スケール(表1)及び2つの0~10の痛みスコアスケール、すなわちFLACC(表情、下肢、活動性、啼泣、安静度)とNVAS(数値的視覚アナログスケール)に基づいて行った(7、8)。スコア0は痛みが無いことを示し、1~3は痛みが弱く、4~7は中程度の痛みがあり、8~10は痛みが強いことを示している。目標とする鎮静及び鎮痛レベルは、それぞれ0~2、0~3である。
表1.鎮静スケール
[図:0001414615000001.jpg]
統計解析のため、以下の連続変数は平均値±S.D、95%の信頼区間で報告した:呼吸数、心拍数及び血圧。これらの結果は、以下の5つの年齢群において示された。グループ1:1か月~2歳、グループ2:2歳~5歳、グループ3:5歳~10歳、グループ4:10歳~13歳、グループ5:13歳超。カテゴリー変数は頻度及びパーセントで報告した。デクスメデトミジンの投与量と投与期間は、平均値±S.Dとして報告した。対応のないスチューデントのt検定を用いて、1歳未満の小児とそれ以上の小児間で、デクスメデトミジン量と救出鎮静薬ボーラス投与量の差を比較した。p<.05を有意とした。」(126頁左欄下から7行~127頁中欄17行)
(甲1ウ)
「結果
患者のベースライン特性及び人口統計を表2に示す、また、実施した手術の詳細については表3(当審注:摘記省略)に示す。38人のうち7人(18%)の患者は1歳未満であった。全ての患者に対し、CICU収容から4時間以内に点滴が開始された。デクスメデトミジン投与前に33名の患者は自発呼吸を行っており、5名は既に人工呼吸器を付けていた。
表2.患者の特徴
[図:0001414615000002.jpg]
RACHS、先天性心疾患外科的重症度スコア
a5人は心臓移植、2人は肺剥皮術
用量. 初回のデクスメデトミジン投与量は0.32±0.15μg/kg/時間(0.1~0.5 μg/kg/時間の範囲)であり、その後残りの期間は平均0.3±0.05μg/kg/時間(0.1~0.75μg/kg/時間の範囲)で点滴を行った。デクスメデトミジン点滴時間は14.7±5.5時間であった(3~26時間の範囲)。
鎮静/鎮痛. デクスメデトミジンの点滴注入を受けた93%の期間で軽度から中等度の鎮静が得られ、平均鎮静スコアは1.3±0.6であった。デクスメデトミジンの点滴注入を受けた83%の期間で、痛みなし~軽度の痛みが報告され、平均疼痛スコアは1.5±0.9であった。…
救出薬は合計で49回投与された。これは患者1人当たり平均1.3±0.26回のボーラス投与となった。フェンタニル(41%)、モルヒネ(34%)、ミダゾラム(10%)が最も多く使用された救出薬であった。ヒドロモルホン、ロラゼパム、及び抱水クロラールはそれぞれ1回(4.5%)使用されただけであった。デクスメデトミジンは、ベンゾジアゼピン系薬剤やオピエートと相加的に作用するため、救出薬のボーラス投与量は通常の必要量より少なくなった:フェンタニル0.3μg/kg、モルヒネ0.025mg/kg、ミダゾラム0.05mg/kg、ロラゼパム0.05mg/kg、ヒドロモルホン0.02mg/kg、抱水クロラール15mg/kg。救出薬ボーラス投与の内29回(60%)はデクスメデトミジンの点滴注入を開始してから5時間以内に投与された。
表4に、1歳未満の患者と1歳以上の患者で、デクスメデトミジンの投与量と救出薬のボーラス投与の必要量を比較した結果を示す。同程度の鎮静と鎮痛が両群で観察された。しかし、1歳未満の患者においては、救出薬の必要性が高くなり、デクスメデトミジンの必要な点滴量も多くなる傾向があった。
表4.鎮静及び鎮痛スコアを基準とした1歳未満とそれ以上の年齢の患者群の比較
[図:0001414615000003.jpg]
」(127頁中欄18行~128頁左欄6行)
(甲1エ)
「 心血管系への影響 . …
…
一過性の低血圧は6人(15%)に認められ、1患者につき1回の低血圧発作が発生した。3名の患者に低血圧がみられたが、デクスメデトミジンの投与量を減らすことで解決した。残りの3名の患者においては、デクスメデトミジンの注入を停止した後に血圧が正常値に戻った。後者3名のうち2名は大動脈の修復を行った後の高血圧のリバウンドを懸念して、高血圧抑制剤(ニトロプルシドナトリウム、エスモロール)を併用した治療を行っていた。」(128頁左欄7行~中欄4行)
(甲1オ)
「考察
本試験は、デクスメデトミジンを先天性心臓手術、胸部手術、心臓手術及び移植手術を受けた患者に使用した初の小児試験である。この研究は小規模なものだが、デクスメデトミジンは、有効で安全な鎮静・鎮痛剤であることが証明された。呼吸抑制障害が比較的少ないため(1-5)、我々は主として自発呼吸の患者に対し、手術後と心肺バイパス手術後の期間にデクスメデトミジンを使用している。人工呼吸器を必要とする患者には、抜管前にデクスメデトミジン投与を開始し、抜管後の期間においても継続している。
デクスメデトミジンは、高選択的なα-アドレナリン受容体アゴニストであり、α2-受容体に対する親和性は、このファミリーのプロトタイプであるクロニジンの8倍である。また、クロニジンよりも作用時間が短いため、静脈注射による迅速な漸増が可能である(9,10)。α2-アドレナリン受容体は、全身に分布しており、その中には、末梢神経、中枢神経系、及び血管平滑筋も含まれる。デクスメデトミジンの作用機序は、中枢神経系にあるこれらの受容体のシナプス後活性化であり、特に、脳幹の三叉神経節からのアドレナリンのアウトプットを減少させ、それに続いてγ-アミノ酪酸を含む抑制性神経伝達物質の活性を増大させる。その結果、生理的な睡眠、鎮静、及び抗不安に似た状態をもたらすが(11-13)、この薬のアドレナリン遮断効果のために、鎮痛効果だけでなく、低血圧や徐脈も引き起こす。オピオイドによる鎮痛作用の増強効果と同様に、鎮痛効果は、脊髄後角のα2 -アドレナリン受容体の活性化とサブスタンスPの調整によって、もたらされる(14,15)。デクスメデトミジンの急速な注入は末梢血中のα2-受容体を活性化させるおそれがあり、結果として、一過性の、そしてある程度予測不可能な、高血圧(16)と著しい反射性徐脈を引き起こす可能性がある。これは我々の患者集団においてデクスメデトミジンの負荷量を使用しなかった理由の1つである、つまり、急性期の全身血圧の上昇は一時的に心拍出量の減少を引き起こす可能性があり(16-18)、心肺バイパス術直後の期間は、そのような事態に耐えられない可能性があるためである。とはいえ、今後の研究では、このような患者群におけるデクスメデトミジンのボーラス投与の安全性を検証する必要がある。
…
Tobiasらの研究(32)と比較すると、デクスメデトミジンは、現在の推奨用量範囲では、1歳未満の患者にはあまり有効でないことがわかった。達成された鎮静と鎮痛のレベルは1歳以上の患者と同様であったが、このグループの患者は、1歳以上の患者と比較して、デクスメデトミジン投与量(0.49対0.3μg/kg/時間)とレスキュー投与量(3.19±0.8対0.8±0.2)においてより高い平均値を必要とした。この所見は、デクスメデトミジンの血中濃度が不十分であること、分布容積が大きいこと、あるいはおそらくこの年齢では、心肺バイパス後の薬剤の薬物動態の変化がより大きいこと、に関連しているのではないかと推測される。もうひとつの可能性のある説明としては、現在利用可能な鎮静尺度が幼児又は小児におけるα2-アドレナリン受容体刺激による鎮静を評価するために設計されていない、ということがいえる。デクスメデトミジンによる鎮静は、他の従来の薬剤による鎮静とは大きく異なる。定性的には、自然な睡眠に類似した鎮静反応を誘発し、特にNREM睡眠に似ている。患者は臨床的に効果的な鎮静を経験しながらも、容易に、そして他にはないほどスムーズに覚醒することができ、これは他のどの鎮静剤でも観察されない効果である。この状態は「覚醒可能な鎮静」と呼ばれている(33、34)。現在利用可能な小児及び成人の鎮静尺度は、睡眠の深さ又は意識の喪失を推定するために設計されており、落ち着きや安楽状態の程度を測定するものではない。
本研究の制約.
1.本研究は無作為化比較試験ではなく、後ろ向き研究であった。
2.本研究は安全性及び又は有効性に関する正確な仮説を導くために、比較的小さい患者集団を対象とした試験であった。
…
結論
我々の研究は、先天性心疾患及び胸部疾患術後の、人工呼吸器を付けた小児及び自発呼吸を行っている小児の双方に対し、デクスメデトミジンは忍容性が高く有効であることを示している。現在では、術後初期に抜管される小児の数が増えているので、デクスメデトミジンは、心臓集中医療医にとって、心臓手術後に抜管されたICU内の重症患者に対し、血行動態及び呼吸状態を損なうことなく最適な鎮痛と鎮静を行うための有益な手段となりうる。しかし、本薬剤の有効性と安全性を実証するためには、まず、より大規模な前向き・無作為小児試験が必要である。」(128頁右欄下から18行~130頁右欄40行)
イ 甲1発明
上記アの記載事項によれば、甲1は、「心臓及び胸部手術後の小児におけるデクスメデトミジンの使用」と題された、先天性の心疾患及び胸部疾患手術後の、自発呼吸を行うか又は人工呼吸器をつけた患者へのデクスメデトミジンの使用について報告した文献である(摘記甲1ア)。
甲1には、1歳未満の患者7名を含む、年齢8±1.1歳の患者を対象として、デクスメデトミジンを第一選択の鎮静及び鎮静剤として使用し(摘記甲1ア)、正確な初期投与を、医師の判断と手術室から戻ったときの患者の鎮静レベルに基づいて決定したこと、その点滴量は、初回は0.32±0.15μg/kg/時間、その後は0.3±0.05μg/kg/時間(範囲0.1~0.75μg/kg/時間)としたところ、14.7±5.5時間(3~26時間の範囲)の点滴時間であったこと(摘記甲1イ、甲1ウ)、点滴量を漸増しても鎮静効果が不十分であると認められた場合は、救出薬が投与されたこと(摘記甲1イ)、及び、いずれの患者にも負荷投与は行わなかったこと(摘記甲1イ)が記載されている。
また、甲1には、「集中治療室での鎮静スケール(…)及び2つの疼痛スケール(…)によると、」(摘記甲1ア)との記載によれば、患者は、集中治療室において鎮静レベルを測定されていると解される。
さらに、甲1には、上記の試験の結果、デクスメデトミジンは、有効で安全な鎮静・鎮痛剤であることが証明されたことが記載されている(摘記甲1オ、甲1ア)。
そうすると、甲1には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「先天性の心疾患及び胸部疾患手術後の、集中治療室で、自発呼吸を行うか又は人工呼吸器をつけた、年齢8±1.1歳の小児患者(1歳未満の患者を含む)の鎮静及び鎮痛のための、デクスメデトミジンを含む、点滴液であって、
初回のデクスメデトミジンの点滴量は0.32±0.15μg/kg/時間(0.1~0.5μg/kg/時間の範囲)、その後は、0.3±0.05μg/kg/時間(0.1~0.75μg/kg/時間の範囲)であり、デクスメデトミジン点滴時間は14.7±5.5時間(3~26時間の範囲)であり、負荷投与は行わない、点滴液。」
(2)甲2(Journal of Hospital Medicine,Mar/Apr 2008,Vol.3,No.2,pp.142-147)
ア 甲2の記載事項
甲2には、以下の事項が記載されている。
(甲2ア)
「集中治療室で治療を受けている小児における鎮静のためのデクスメデトミジンの使用」(表題)
「背景:デクスメデトミジンは入院中の小児に有用な鎮静剤である可能性があるが、その安全性、投与量、有効性に関するデータはほとんど発表されていない。
目的:入院中の小児の鎮静剤としてデクスメデトミジンを使用した経験を報告する。
デザイン:後ろ向き研究
設定:大学付属の小児病院の小児ICU。
患者:2003年12月から2005年10月までに鎮静剤としてデクスメデトミジンを投与された全小児のカルテのデータを後ろ向きに調査した。
介入:なし
結果:60名の小児(平均年齢1.5歳,範囲0.1~17.2歳)に対し、74回のデクスメデトミジン投与を行った。ICU収容の一般的な症状適用は,呼吸困難/不全患者(53%)、矯正後期心臓手術後管理期間患者(19%)、及びその他の術後患者(18%)であった。53%の症例において、続行中の鎮静が不十分であると判断された場合にデクスメデトミジンが追加され、41%の症例では,他の鎮静剤から離脱又は中断させつつ、抜管への橋渡しとしてデクスメデトミジンが使用された。全児童において、十分な鎮静を維持するための投与量の中央値は、1時間当たり0.7μg/kg/時(範囲0.2~2.5μg/kg/時)、中央値は23時間(範囲3~451時間)であった。ほとんどの小児(80%)は鎮静による副作用を経験せず、低血圧(9%)、高血圧(8%)、徐脈(3%)が最も一般的な有害事象であった。副作用を経験した93%の小児では、副作用は治療することなく、あるいは点滴を差し控えることで解決した。
結論:ICUに入院した小児のこのコホートには、デクスメデトミジンは効果的で、副作用はほとんどないように見受けられた。デクスメデトミジンには、入院中の小児の鎮静において、果たすべき潜在的に有益な役割があるであろう。
キーワード:小児、鎮静、デクスメデトミジン 」(142頁要約)
(甲2イ)
「入院している小児には、一般的に鎮静剤を投与する1-6。適切な鎮静レベルは、興奮を抑え、侵襲的治療に耐え、侵襲的装置が外れるのを防ぐために必要である1-6。年齢や発達の程度は鎮静剤の有効度合いに大きく影響を与える1-3。ベンゾジアゼピンやオピオイドなどの一般的に使用される薬剤は、小児も十分に鎮静させることができるが、適切な鎮静レベル又は一定の鎮静レベルに達するように漸増させることは困難である。ベンゾジアゼピン系やオピオイド系などの一般的に使用される薬剤は、小児を十分に鎮静させることができるが、適切な鎮静レベル又は一定の鎮静レベルに達するように滴定することは難しい。自然呼吸する小児の鎮静は、鎮静によって重大かつ多様な呼吸抑制が生じ、人工呼吸が必要となるため、さらに困難な課題である1-3。
デクスメデトミジン (Precedex; Hospira Inc., Lake Forest, IL) は中枢作用型のα2-アドレナリン受容体アゴニストで、持続点滴で投与した場合、呼吸抑制がほとんどなく、至適レベルの鎮静を提供する6-9。デクスメデトミジンは、米国食品医薬品局(FDA)により、ICU治療室での重篤な成人患者に対する短期間の鎮静剤として承認されている4-7。小児救急医療におけるデクスメデトミジンの有用性が期待されているにもかかわらず、小児におけるデクスメデトミジンの使用については、数件の症例が発表されているのみであり5,10-20、また、24時間を超えての小児への使用を検討したレビューは発表されていない。デクスメデトミジンの単回投与時の消失半減期は3時間であるが、小児における持続点滴停止後の作用時間も不明である21。
成人におけるデクスメデトミジン使用の副作用として、血圧低下や徐脈が報告されているが、小児における長期間の点滴投与の安全性は報告されていない。
本研究では、小児ICUに入院している小児に、鎮静のためにデクスメデトミジンを使用した経験について記述している。デクスメデトミジンは、さまざまな適応で、24時間を超える期間、適応外投与された。我々の目的は、この集団におけるデクスメデトミジンの有効性と合併症のプロファイルを後ろ向きに評価することであった。」(142頁下から13行~143左欄25行)
(甲2ウ)
「素材と材料
本研究はConnecticut Children's Medical CenterのInstitutional Review Boardにより承認され、後ろ向き研究であるためインフォームドコンセントの基準は免除された。
デクスメデトミジンは2003年12月に研究施設のPharmacy and Therapeutics Committeeにより処方箋に追加された。処方は小児集中治療室(ICU)に限定された。2003年12月から2005年10月までに鎮静目的でデクスメデトミジンを投与されたすべての小児の医療記録を後ろ向きに調査した。品質向上のため、管理されている薬局の記録から患者を特定した。カルテの抽出は治験責任医師2名(C.L.C.とD.K.)が行った。また、データ抽出中に2回、研究責任者(C.C.)により、均一性の監査が行われた。全例において、デクスメデトミジンは初回負荷量なしで投与された。病院での経過、投与された薬剤、デクスメデトミジンの投与量と期間、デクスメデトミジン使用に伴う合併症に関するデータが収集された。レビュー期間中、デクスメデトミジンを投与された患者について、血行動態変数(心拍数、収縮期血圧、拡張期血圧)が少なくとも1時間ごとに記録された。有害事象は、デクスメデトミジンの点滴中に発生したものと定義された。これらの事象は、関連する有害事象を記載した既報7,9,14を検討した上で決定され、血行動態パラメータ異常(低血圧、高血圧、頻脈、徐脈)及び呼吸器系パラメータ(徐呼吸、頻呼吸)が含まれた。年齢に応じた正常範囲の5%又は95%より低い値又は高い値を異常値とした。小児死亡リスク(PRISM)IIIスコアを用いてICU入室時の重症度を定量化した22。デクスメデトミジンの有効量は、患者が最も長い期間投与を受けた量と定義された。
研究施設での鎮静レジメン
研究施設では、自然呼吸又は機械的人工呼吸を行った小児に対する典型的な初期治療法としては、中時間作用型のオピオイドとベンゾジアゼピン系鎮静剤、例えばモルヒネとロラゼパム、を併用するのが一般的である。研究期間中、鎮静スコアは定期的には評価されなかったが、看護師と主治医は、快適さを維持し、興奮を抑え、受けた治療に耐えられるような、鎮静レベルを目標としていた。研究施設では、これらの薬物は当初は必要に応じて投与される。患者が追加の鎮静を必要とする場合は、興奮の緩和のために必要に応じて2時間から4時間ごとの投与を予定される。それでもなお追加の鎮静が必要な場合は、オピオイドをフェンタニルの持続点滴に変更し、予定されたロラゼパムとともに投与し、望ましい鎮静レベルに達するように漸増させる。より深い鎮静が必要な患者には、バルビツール酸塩、ケタミン、抱水クロラールなどの薬剤が追加される。」(143頁左欄26行~右欄下から14行)
(甲2エ)
「結果
研究期間中、デクスメデトミジンを小児60名(年齢中央値1.5歳、範囲0.1~17.2歳)に74回投与した。ほとんどの患者が男児で(57%)、53%が白人、23%がヒスパニック系、16%がアフリカ系アメリカ人、及び8%が「その他」とされた。PRISM IIIスコアの中央値は10(0~17)であった。慢性疾患のプロファイル及び入院の適応症を表1に示す。
我々は、デクスメデトミジンが3つの主要な適応症、すなわち(1)主治医が不十分と判断した進行中の鎮静を補う添加剤として、(2)その他の鎮静剤からの離脱を促進するために,抜管に先立ち、そして(3)自然呼吸をしている非挿管児に呼吸を抑制することなく点滴可能な(titratable)鎮静レベルを与えるために投与されたことを明らかにした。小児にはデクスメデトミジン使用の適応症が1つ超ある可能性があった。
36例(49%)において,デクスメデトミジンは24時間以上投与された。全小児において適切な鎮静を維持するために必要な有効量の中央値は0.7μg/kg/時間(範囲0.2~2.5μg/kg/時間)であり、治療時間の中央値は23時間(範囲3~451時間,図1及び図2)であった。24時間以内のデクスメデトミジンの投与を受けた小児の有効量(中央値0.5μg/kg/時間、範囲0.2~2.5μg/kg/時間)は、24時間以上の投与を受けた小児の有効量(中央値1μg/kg/時間、範囲0.3~2μg/kg/時間)に比べ、有意に低い値を示した(P=.006)。
点滴の継続期間に基づく患者の層別と結果の比較を表2に示す。
53%の症例(39例)では、デクスメデトミジンは、不十分であると判断された進行中の鎮静を補うのに使用された。これらの患者では、有効量の中央値は1時間につき0.9μg/kg(範囲:0.25~2μg/kg/時)、治療期間の中央値は66時間(範囲6~451時間)であった。デクスメデトミジンを進行中の鎮静を補うために使用したこの患者群では、主治医がデクスメデトミジンを無効であると考えて中止したのは4例であった。この患者のサブセット(4例)では、最大量の中央値は1時間につき1.5μg/kg(範囲:0.8~1.5μg/kg/時)、点滴時間の中央値は62時間(範囲:10~98時間)であった。
41%の症例(n=30)において,その他の鎮静剤からの離脱を促進するために,抜管に先立ちデクスメデトミジンが使用された。これらの患者において,有効量の中央値は0.5μg/kg/時間(範囲0.2~2.5μg/kg/時間)であり,治療時間の中央値は14時間(範囲3~53時間)であった。デクストメデトミジン投与前後の鎮静剤使用を比較したところ,フェンタニルの点滴使用(43%対17%;P=.009)、及び予定されたロラゼパム(30%対10%;P=.02)において有意な減少が示された。点滴中止後の抜管時間までの中央値は0.6時間であった。7例では、デクスメデトミジンは抜管後に中央値で19時間(範囲:0.8~243.5時間)継続された。
26%の症例(19例)では、デクスメデトミジン開始時に小児は抜管されて自然呼吸をしていた。挿管されている小児に比べ、抜管されて自然呼吸をしている小児は有意に年長(P=.02)であり、PRISM IIIスコアで定量化したところ入院時の急性疾患のレベルが高かった(P=.049)。性別及び人種に有意差はなかった(表3)。デクスメデトミジンの有効量、最大量、及び使用期間の中央値は、挿管されている小児と挿管されていない小児との間に差はなかった(表3、図2)。
ほとんどの症例(74%)で、小児が鎮静を必要としなくなったためにデクスメデトミジンは中止された。デクスメデトミジンを中止したその他の適応症は鎮静レベルが不十分(7%)、より長い鎮静期間が必要(16%)、及び副作用への対応(3%)であった。
デクスメデトミジンの点滴中、ほとんどの小児(80%)で副作用は発現しなかった。最も高い頻度で確認された副作用は低血圧(全症例の9%)、高血圧(全症例の8%)、及び徐脈(全症例の3%)であった。1つ超の合併症が発現した小児は1例のみであった(徐脈及び高血圧)。少なくとも1つの副作用がみられた93%の小児(15例中14例)において、処置をやめる(9例)、又はデクスメデトミジン投与を中断するか減量する(5例)ことにより、副作用は解消した。1例が低血圧のため輸液をボーラス投与された。副作用の発生頻度では、治療の適応症、ICU入室の適応症、及び慢性疾患に基づく差はなかった。心疾患がある、又は心臓の根治的手術を受けている小児でも副作用の発生頻度に増加はなかった(26%対18%;P=.51)。副作用の発生頻度に治療期間延長による増加はなかった(表2)。合併症が発現した小児としなかった小児を比較したところ、デクスメデトミジンの最大量(0.6±0.2対0.8±0.4μg/kg/分;P=.1)及び有効量(毎分0.6±0.2対0.8±0.4μg/kg;P=.1)に差はみられなかった。合併症が発現した小児では、合併症発生時に投与されていたデクスメデトミジンの平均用量は1分につき0.7±0.3μg/kgであった。合併症発生時に投与されていたデクスメデトミジンの用量で比較すると、合併症の種類に基づいた用量の差はなかった。しかし、徐脈がみられた患者では他の合併症が発現した患者よりも用量がやや多かった(0.9±0.4対0.6±0.3μg/kg/分;P=.89)が、これは統計的に有意ではなかった。」(144頁左欄6行~145頁右欄末行)
(甲2オ)
「表2
デクスメデトミジンの持続時間の比較
[図:0001414615000004.jpg]
*P<.05.
データは頻度(%)又は中央値と範囲で表される。
表3
挿管された小児と未挿管の小児との比較
[図:0001414615000005.jpg]
*P<.05.
データは頻度(%)又は中央値と範囲で表される。」(145頁のTABLE 2、TABLE 3)
(甲2カ)
「考察
デクスメデトミジンには点滴可能な短時間作用型鎮静剤として、入院中の小児で有用な役割を果たす可能性があるかもしれない。しかし、小児での用量、有効性、及び安全性についてはデータがほとんどない。入院する小児の数は比較的少なく、小児の大規模な治験を実施するのは困難であるため、薬剤の適応外使用は小児ではよくあることである。現場の臨床医は、治療の安全性、用量、及び考えられる期間について有用な情報を提供するために本レビューのような小規模ケースシリーズに頼っている。本研究はICUの場で実施された。しかし、データは他の入院している小児に外挿できる可能性がある。
数名の著者らが、短期間又は処置への鎮静に関する小児でのデクスメデトミジンの有効性について述べてきた5,10-16。Berkenboschらによる前向き研究12では、48例の小児が非侵襲的処置に対する鎮静のために、デクスメデトミジン点滴を1時間につき0.5~1μg/kgで投与されていた。Chrysostomouらによる後ろ向きレビュー14では、38例の小児が心臓又は胸部の手術に続いてデクスメデトミジン点滴を1時間につき0.1~0.75μg/kgで投与されていた。
Tobiasらによる前向き研究5では、機械的人工呼吸を受けている小児が、1時間につき0.25~0.5μg/kgの用量で最長で24時間投与されていた。デクスメデトミジンはこれら全ての小児のケースシリーズで有効な鎮静剤であった。
我々の小児コホートでは、デクスメデトミジンは24時間を超えるのが許容された期間で投与された場合に有効であり、副作用がほとんどないようであった。この薬剤のプロファイルにより、デクスメデトミジンは機械的人工呼吸から患者を離脱する間の十分な鎮静を維持するのに特に有望なのである。
ベンゾジアゼピン系薬剤やオピオイドとは異なり、デクスメデトミジンは呼吸抑制を生じることが少ないため、より長時間作用型の鎮静剤を同時に減量しながら機械的人工呼吸からの離脱が可能になる。デクスメデトミジンはまた、自然呼吸をする小児において進行中の鎮静を補う添加剤として有用かもしれない。この薬理学的プロファイルにより本薬剤は小児ICUの場で魅力的な鎮静剤となっている。本コホートでは、副作用が発現した小児は少数のみであり、治療期間の延長に関わる副作用はなかった。これらほぼ全ての副作用は自然に、あるいは点滴の差し控え又は減量によって回復した。
成人を対象にした過去のケースシリーズ及び小児を対象にした過去の症例報告から、デクスメデトミジンは24時間を超えて安全に使用される可能性があることが示唆されている4,8,9,17-18。Shehabiら及びDastaらによる研究8-9では、合計で66例の成人がデクスメデトミジンを期間の中央値でそれぞれ72時間(範囲35~168時間)及び54時間(範囲25~124時間)で投与された。
これらの研究では、副作用の件数は治療期間に基づいて増加しなかった。小児集団では、Hammerらが小児1例で気管再建後4日間の鎮静を報告し18、Finkelらは小児2例で心臓移植後のオピオイド離脱を容易にするためのデクスメデトミジンの長期使用を述べた17。これらの小児症例報告では合併症の報告はなかった。
本報告は、24時間を超えるデクスメデトミジンの使用を述べる初めての小児対象のケースシリーズである。より大規模な成人対象の研究では、低血圧及び徐脈がデクスメデトミジンの使用で最もよくみられた副作用であった7。Dastaらによる成人136例のレビューでは、23%に低血圧が、4%に徐脈が発現した9。Chrysostomouらは、心臓手術後にICUに入室した成人33例の15%に低血圧が発現したことを明らかにした14。これらの患者で徐脈になった患者はいなかった14。この発生率は我々のレビューで明らかになった発生率と同様である。
今回の後ろ向きレビューには制限がいくつかあった。残念ながら、当施設では研究期間中、鎮静スコアはルーチンには使用されず、鎮静の滴定の公式なガイドラインも整っていなかった。これらの測定値があれば我々は有効性をよりうまく定量化できたであろう。さらに、後ろ向きに収集したこれらのデータでは、デクスメデトミジン点滴に伴う副作用が正確に把握されていなかったかもしれない。検討した集団は比較的小規模であった。一定のサブグループ(例えば、心臓)で副作用の発生率に増加はなかったが、安全性を確実に実証するには、本レビューの小児の人数は十分ではなかった。
ICUに入院した小児のこのコホートにおいて、デクスメデトミジンは比較的長期間投与した場合に有効な鎮静剤であり、副作用もほとんどないように思われた。デクスメデトミジンは、この薬理学的プロファイルにより、病院の場で魅力的な薬剤になる可能性がある。小児集団におけるデクスメデトミジンの使用をじっくりと検討するには前向き研究が必要である。」(146頁左欄1行~右欄末行)
イ 甲2発明
上記アの記載事項によれば、甲2は、「集中治療室で治療を受けている患者における鎮静のためのデクスメデトミジンの使用」と題された、ICUに入院中の小児の鎮静剤としてのデクスメデトミジンの使用について報告した文献である(摘記甲2ア)。
甲2には、全例において、デクスメデトミジンは初回負荷量なしで投与されたこと(摘記甲2ウ)、及び、デクスメデトミジンを小児60名(年齢中央値1.5歳、範囲0.1~17.2歳)に74回投与した結果が記載されており、デクスメデトミジンが3つの主要な適応症、すなわち(1)主治医が不十分と判断した進行中の鎮静を補う添加剤として、(2)その他の鎮静剤からの離脱を促進するために、抜管に先立ち、そして(3)自然呼吸をしている非挿管児に呼吸を抑制することなく滴定可能なレベルの鎮静を与えるために投与されたことを明らかにしたことが記載されている(摘記甲2エ)。
また、表2には、デクスメデトミジンの持続時間の比較(24時間以下(n=38)と24時間超(n=36)が記載され、このうち、デクスメデトミジンの持続時間が24時間以下であった38名の患者について、中央値0.9歳(0.1~17.2歳の範囲)の小児であり、デクスメデトミジンを中央値0.5μg/kg/時間(0.2~2.5μg/kg/時間の範囲)の濃度で、中央値12時間(3~24時間の範囲)にわたって持続的に投与したことが記載されている(摘記甲2エ、甲2オ)。
表3には、挿管された小児と未挿管の小児との比較の結果が示され、41%の症例(n=30)において、その他の鎮静剤からの離脱を促進するために(摘記甲2オ、抜管に先立ちデクスメデトミジンが投与され、26%の症例(19例)では、デクスメデトミジン開始時には小児は抜管されて自然呼吸をしていたことが記載されていることから(摘記甲2エ)、表2のデクスメデトミジンの持続時間が24時間以下であった38名の患者は、挿管又は未挿管の患者であるといえる。
さらに、甲2には、「デクスメデトミジンには点滴可能な短時間作用鎮静剤として」と記載されていることから(摘記甲2カ)、甲2においてデクスメデトミジンは、点滴液として調製されたものと解される。
そして、甲2には、今回の後ろ向きレビューには、鎮静スコアはルーチンには使用されない等のいくつかの制限があり、検討した集団は比較的小規模であり安全性を確実に実証するには、本レビューの小児の人数は十分ではなかったものの、「ICUに入院した小児のこのコホートにおいて、デクスメデトミジンは比較的長期間投与した場合に有効な鎮静剤であり、副作用もほとんどないように思われた。デクスメデトミジンは、この薬理学的プロファイルにより、病院の場で魅力的な薬剤になる可能性がある。」と記載されている(摘記甲2カ)。
したがって、甲2の表2に記載された、ICUに入院した、挿管又は未挿管の、中央値0.9歳(0.1~17.2歳の範囲)の小児に対して、初回負荷量なしで、デクスメデトミジンを中央値0.5μg/kg/時間(0.2~2.5μg/kg/時間の範囲)の濃度で、中央値12時間(3~24時間の範囲)にわたって持続的に投与した場合においても、デクスメデトミジンは有効な鎮静剤であったことが記載されているといえる。
そうすると、甲2には、次の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。
「挿管又は未挿管の、中央値0.9歳(0.1~17.2歳の範囲)の小児の集中治療室(ICU)における鎮静のための、デクスメデトミジンを含む、点滴液であって、
初回負荷量なしで、デクスメデトミジンを中央値0.5μg/kg/時間(0.2~2.5μg/kg/時間の範囲)の濃度で、中央値12時間(3~24時間の範囲)にわたって持続的に投与する、点滴液。」
(3)デクスメデトミジンの投与方法(甲9、甲18、甲3~甲5)について
ア 甲9、甲18、甲3~甲5の記載事項
本件優先日当時のデクスメデトミジンの投与方法について記載した甲9、甲18、甲3~5には、以下の項が記載されている。
(ア)甲9(「1.臨床薬物動態の基礎知識 第16回臨床薬理学講習会 2009年12月6日(日)横浜」,臨床薬理(Jpn. J. Clin. Pharmacol. Ther.),July 2010,Vol.41,No.4,pp.155~158)
(甲9ア)
「1.臨床薬物動態の基礎知識」(表題)
「繰り返し投与時の投与量(D),投与間隔(τ)と薬物血中濃度の関係をFig.4に示す.薬物の半減期ごとに投与を繰り返す場合、Fig.4(a)のごとく,薬物血中濃度は4~5回目の投与で定常状態に達し,その濃度は1回あたりの投与量に比例する.…初回投与時から速やかに定常状態時の血中濃度を得るためには、維持投与量の2倍を初回負荷量とし、以後1半減期ごとに維持量を投与すればよい(Fig.4(d)).」(156頁左欄下から2行~右欄下から8行)
(イ)甲18 (日臨麻会誌,2008,Vol.28,No.3,pp.399~410)
(甲18ア)
「デクスメデトミジン
-不都合の原因と対処法を理解し,利点のみを再度引き出す- 」(表題)
(甲18イ)
「[要旨]デクスメデトミジンの特徴は,「呼吸に及ぼす影響はほとんどなく,鎮痛作用も有した鎮静薬」,「呼べばすぐ起きるが刺激がないと眠っている」である.これは理想的な鎮静薬にほかならない.しかし実際に投与してみると血圧変動や効果の個体差があまりに大きく,「使いづらい鎮静薬」との印象をもたれがちである.しかし,これらはデクスメデトミジンの薬理学的特徴を理解し薬物動態学的アプローチによる解析を行うことで,その原因の推測・対処が容易となる.本稿では,デクスメデトミジン投与による不都合の原因と対処法を呈示し,理想的特徴のみを利用する手法を解説する.
キーワード:デクスメデトミジン,薬物動態シミュレーション,予測血中濃度」(399頁「要旨」)
(甲18ウ)
「2.投与開始法
初期負荷投与に伴う,急激な血圧変動を予防するために,初期負荷投与時間を延長したり,初期負荷投与を行わない投与法が提案されている13).これらの手法は,フェンタニルを用いた全身麻酔後の鎮静・鎮痛には有効な症例が多い.しかし,効果が不十分となる状態を引き起こす可能性も有し,特に鎮痛薬が投与されていない患者の投与初期に頻度が高くなる.すなわち救急・集中治療領域では,遭遇頻度が高い.図7に投与開始法別予測血中濃度の推移を示した.初期負荷投与を行うことで,血中濃度は速やかに集中治療領域で必要と考えられる0.7ng/mL3)に到達するが,持続投与からの開始では,有効血中濃度に到達するのに,2時間以上も時間を要することになる.特に0.4μg/kg/hの投与速度では,血中濃度の上昇にさらに時間を要し,5時間を超えても血中濃度は0.7ng/mLに到達しないことが理解できる.加えて侵襲的処置を行う場合に必要となる予測血中濃度は,これらよりも高い濃度が必要14)~16)と報告されており,救急・集中治療領域では,より鎮静不十分患者に遭遇する可能性が高いことが理解できる.」(403頁左欄3行~右欄7行)
(甲18エ)
「
[図:0001414615000006.jpg]
」(404頁図7)
(ウ)甲3(Journal of Cardiothoracic and Vascular Anesthesia, (February) 2008,Vol.22,No.1,pp.147~151)
(甲3ア)
「Pro:デクスメデトミジンは心臓手術を受ける乳児又は小児に使用されるべきである」(表題)
(甲3イ)
「デクスメデトミジンは、重症の乳児や小児に対して、人工呼吸器やオピオイドへの依存による悪影響を軽減しつつ、効果的な鎮痛、鎮静、抗不安の効果を与えるために、麻酔専門医及び集中治療医に使用されることが増えてきている。その有益な生理学的作用と限定的な副作用プロファイルを考慮すると、デクスメデトミジンには、先天性心疾患を持つ乳児及び小児の周術期医療において、様々な適用が見込まれる。」(147頁左欄14~22行)
(甲3ウ)
「
[図:0001414615000007.jpg]
」(150頁Table 1.)
(甲3エ)
「著者らのデクスメデトミジン使用経験
著者らは、心臓手術の周術期を通じて、小児のケアにおいてデクスメデトミジンを安全に使用してきた。著者らは、非疼痛性の処置(心臓MRIやCTスキャン等)及び侵襲的処置(心臓カテーテル検査)にデクスメデトミジンを使用した経験を有しており、筆者らの経験は発表データと同様のものであった。著者らの現在の投与量ガイドラインを表1に示す。心臓手術では、挿管と適切なバスキュラーアクセス後、皮膚切開前に0.5μg/kg/時間の点滴を開始するのが一般的である。デクスメデトミジンの注入は、通常、手術中(バイパス手術や集中治療室への搬送を含む)維持される。集中治療室では、臨床シナリオに応じて、抜管まで安全に投与を継続することも、抜管前に投与を停止することも可能である。鎮静の増強が必要な集中治療室患者には、0.5μg/kgのボーラスを10分かけて投与した後、0.3~0.5μg/kg/時間から維持投与を開始することが、大部分の小児に有効であることが分かっている。さらに鎮静効果が必要な場合は、ゆっくりとしたボーラスを繰り返すか、及び/又は0.2~0.3μg/kg/時間ずつ維持投与量を増加すれば、通常十分である3。現在、FDAは24時間以上の投与を承認していないが、小児における長期間投与(24時間以上)の報告がいくつかある。Walkerら36は、鎮静が困難な先天性疾患を有する小児患者におけるデクスメデトミジンの鎮静を後ろ向きに研究した。平均治療期間は11日で、その範囲は2~50日であった。投与速度は0.1~2μg/kg/時間であった。また、十分な鎮静効果を得るためには、投与量を徐々に増やしていく必要があることを示唆する事例情報もある37。」(150頁左欄1行~下から9行)
(甲3オ)
「ほとんどの副作用(心拍数の低下と低血圧…)は、初回負荷量を減らすかなくすか、初回負荷量の投与をより長い時間をかけて行うか、又は低い維持点滴速度で投与を開始することで回避できる。」(150頁右欄12行~151頁左欄1行)
(エ)甲4(Journal of Cardiothoracic and Vascular Anesthesia, (February) 2008,Vol.22,No.1,pp.147~151)
(甲4ア)
「症例報告
在胎期間24週の新生児における鎮静のためのデクスメデトミジン使用の成功例」(表題)
(甲4イ)
「デクスメデトミジンは、中枢作用型のα2-アドレナリンアゴニストで、重症成人における短期間の鎮静剤として承認されている。デクスメデトミジンは、小児への使用はFDA(米国食品医薬品局)により承認されていないが、小児への適用に関する発表には、人工呼吸器を装着された集中治療患者の鎮静、心臓外科手術後の鎮静、生まれたての患者の補助的な鎮痛及び鎮静、処置時の鎮静、オピオイド離脱の治療、麻酔に関連する震えとせん妄の予防、周期性嘔吐症候群の治療などが含まれる1-12。
非常に早産である新生児に対するデクスメデトミジンの使用に関する論文は見つからなかった。デクスメデトミジンは、呼吸及び消化器機能への悪影響が少なく、神経保護作用が期待でき、麻薬やベンゾジアゼピンへの曝露を最小限に抑えられるため、早産児において従来の鎮静薬や鎮痛薬に勝る潜在的利点を有している1,13-15 。我々は、デクスメデトミジンが有効であった、鎮静と疼痛をコントロールできない早期新生児について報告する。」(1707頁左欄1~29行)
(甲4ウ)
「症例要約:高頻度振動式人工呼吸を使用している生後9日、24週の在胎期間の男性新生児は、高用量の麻薬とベンゾジアゼピン系薬剤に抵抗性を示す重度の興奮状態に陥った。この乳児の呼吸の安定には十分な鎮静が必要であったため、標準的な薬剤の増量に対して反応が不十分であった数日後にデクスメデトミジンを投与した。」(1707頁要約3~8行)
(甲4エ)
「0.5μg/kgの静脈負荷用量での10分間のデクスメデトミジン投与に続き、0.25μg/kg/時間の維持投与が行われた。」(1708頁右欄8~10行)
(甲4オ)
「我々の患者である出生時体重が非常に低い早産児において、デクスメデトミジンは鎮静及び鎮痛に有効であった。デクスメデトミジンの投与が開始されると、患者の痛みと鎮静のスコアは著しく改善し、追加の投薬治療の必要性を大きく減少させた。」(1710頁左欄3行~8行)
「我々の文献検討によると、デクスメデトミジン投与に伴う低血圧は用量依存的であり、通常は点滴速度を減少させることにより消滅するか改善すると見受けられる。」(1711頁左欄下から14~11行)
(オ)甲5(Pediatr. Crit. Care Med. ,2007, Vol.8, No.2, pp.115~131)
(甲5ア)
「特性レビュー記事
デクスメデトミジン:小児救命救急及び小児麻酔科での適用」(表題)
(甲5イ)
「目的:デクスメデトミジンの末梢器官における作用について全般的で記述的な説明を提供し、乳児及び小児での使用に関する文献の根拠に基づくレビューを提供することデータソース:デクスメデトミジンに関する文献のコンピュータによる書誌情報検索」(115頁左上欄1~2段落)
(甲5ウ)
「現在、食品医薬品局(FDA)が承認したデクスメデトミジンの唯一の適応症は、最初に挿管されて人工呼吸を受けており、集中治療室(ICU)に入室している成人患者への短期鎮静(24時間未満)の提供である(11)。デクスメデトミジンは脂質やプロピレングリコールを追加せずに水溶液で使用でき、静脈投与後の疼痛を伴わない。活性代謝物も毒性代謝物もない。その良好な生理的作用と、今日までに報告された副作用のプロファイルが限定的であることが併せて考慮され、本薬剤は小児集団で使用されることが増えている。本論文ではデクスメデトミジンの基礎的な薬理、末梢器官への作用、及び副作用プロファイルと、乳児及び小児における様々な臨床シナリオでの使用に関する文献からの報告をレビューする。
薬物動態
健康な成人ボランティアでは、デクスメデトミジンの薬物動態プロファイルには急速な分布相(分布半減期が6分)、2時間の消失半減期、118Lの定常状態の分布容積があった(12)。最長で24時間の持続静脈注入で送達される0.2~0.7μg/kg/時間の用量範囲では、薬物動態が線形である。…
…
小児集団でのデクスメデトミジンの薬物動態に関するデータは、最近の原稿1件と抄録2件で発表されている(16-18)。Petrozら(16)は年齢が2歳から12歳の小児36例を、デクスメデトミジンを2、4、又は6μg/kg/時間(0.33、0.6、及び1μg/kg)で10分間注入の投与に無作為に割り付けた。彼らは2分画モデルを用いて、小児でのデクスメデトミジンの薬物動態は成人と同様であり、用量依存的な薬物動態を示さず、タンパク質結合が92.6%、体重で調整した総体クリアランスが13mL/kg/分、末梢分画の分布容積が1.0L/kg、終末相消失半減期が1.8時間であったと報告した。Rodarteら(17)は心臓の処置(9例)又は頭蓋顔面の処置(1例)を受けた後の小児10例(0.3~7.9歳)に、用量範囲が0.2から0.7μg/kg/時間で8~24時間の持続注入を行った。彼らは2分画モデルを用い、分布容積が1.53±0.37L/kg、クリアランスが0.57±0.14L/kg//時間(約9.5mL/kg/分)、及び終末相消失半減期が2.65±0.88時間であったと報告した。彼らは小児でのデクスメデトミジンの薬物動態は予想可能であり、成人で報告された結果と一致することがデータから示されたと述べた。小児での最終薬物動態研究では、先天性心疾患手術後の年齢が1から24か月の乳児が対象にされた(18)。著者らはクリアランスの中央値が27.2mL/kg/分、末梢の分布容積が2.5L/kg、終末相消失半減期が83分であったと報告した。彼らは成人や年長の小児よりも乳児はデクスメデトミジンを早く排出するようであると結論付けた。」(116頁左欄6行~中欄8行、117頁左欄31行~中欄11行)
(甲5エ)
「小児ICUにおける鎮静(人工呼吸及び自発換気)
…
1件の後ろ向き症例シリーズ及び2件の症例報告では、人工呼吸中の鎮静に対するデクスメデトミジンの使用について詳しく述べられた(表2)(84-86)。これらのうち最初の報告では、長期化する鎮静レジメン中の耐性の発現及び離脱の予防を目的として鎮静レジメンを順番に変える中で使用したデクスメデトミジンの概要が述べられた(84)。2番目は、小児での人工呼吸中の鎮静に対する24時間を超えるデクスメデトミジン注入の投与の報告のみに留まっている(85)。これらの報告のうち最後の報告では、心臓移植後の状態で呼吸不全に対して人工呼吸が必要な12歳児において、抜管前のフェンタニル/ミダゾラム鎮静から移行するためのデクスメデトミジンの使用について詳細が述べられている(86)。
ICUに収容された小児への使用可能性について,Chrysostomousら(87)は心臓及び胸部手術術後の平均年齢8±1歳の38名の小児に対するデクスメデトミジンの点滴症例を後ろ向きに検討した。7名(18%は1歳未満であり、33名(87%)は抜管して自発呼吸をしていた。術後、負荷投与を行わずにデクスメデトミジンを0.1~0.5μg/kg/時間(0.32±0.15μg/kg/時間)で投与した。その後、0.1~0.75μg/kg/時間(0.3±0.05μg/kg/時間)で3~26時間、投与を続けた。…6名(15%)において一時的な低血圧症が認められたが、3名はデクスメデトミジンの点滴量を減らすことで、3名は点滴を中止することで改善した。
(当審注:参照文献87は、甲1である。)
表2 小児集中治療室における鎮静のためのデクスメデトミジン
[図:0001414615000008.jpg]
」(122頁右欄25行~123頁右欄3行、123頁Table 1.)
(甲5オ)
「処置に対する鎮静(非侵襲的処置)
非侵襲的処置に対する鎮静へのデクスメデトミジンの報告を表3にまとめる。…
Korogluら(89)は80例の小児(1~7歳)をMRI中のデクスメデトミジン又はミダゾラムに無作為に割り付けた。デクスメデトミジンは負荷投与を1μg/kgで10分間に続いて0.5μg/kg/時間の注入として投与されたのに対し、ミダゾラムは負荷投与を0.2mg/kgに続いて6μg/kg/時間が注入として投与された。ミダゾラムと比較してデクスメデトミジンの方が鎮静の質は高く、レスキュー鎮静の必要度は低かった(40例のうち8例対40例のうち32例)。」(123頁右欄4行~末行)
(甲5カ)
「要約
デクスメデトミジン(プレセデックス)は、クロニジンと生理学的類似性を共有するα2-アドレナリンアゴニストである。現在、最初に挿管されて人工呼吸を受けている成人ICU患者における最長で24時間の持続注入についてFDAにより承認されている。現在までに、小児での使用についてはFDAが承認した適応症はないが、医学界からの奨励が続いており、製造会社は小児集団内での様々な臨床シナリオに対してFDAの承認を求めることが望まれている(123)。
…
…現在まで、文献では約800例の小児患者での使用報告がある。鎮静及び抗不安の性質が良好であることと、血行動態機能及び呼吸機能への作用が限定的であることが併せて考慮され、人工呼吸中の鎮静、処置に対する鎮静、離脱の治療、及び覚醒時興奮の予防といった様々な臨床シナリオで小児集団におけるデクスメデトミジンの使用に関心が高まっている(表7)。」(127頁右欄下から13行~128頁右欄17行)
イ 上記アの記載事項によれば、本件優先日当時、臨床薬物動態として、繰り返し投与時の投与量、投与間隔と薬物血中濃度の関係が知られており(摘記甲9ア)、デクスメデトミジンは、重症成人における短期間の鎮静剤としてFDAにより承認されているところ(摘記甲4イ、甲5カ)、デクスメデトミジンを投与するに当たり、初期負荷投与を行う方法は、血中濃度は速やかに集中治療領域で必要と考えられる濃度に到達するが、急激な血圧変動があり、その急激な血圧変動を予防するために、初期負荷投与を行わず、初期負荷投与時間を延長したり、初期負荷投与を行わずに持続投与から開始する方法が提案されており、この持続投与から開始する方法では、有効血中濃度に到達するのに時間を要することになり、集中治療領域などでは、鎮静不十分患者に遭遇する可能性が高いとされていた(摘記甲18ウ、甲18エ)。
そして、成人以外の乳児又は小児における鎮静剤としても、デクスメデトミジンを使用した事例を報告する論文やレビュー(甲3~甲5)が複数発表され、成人における場合と同様に、負荷投与を行う方法と、負荷投与を行わない方法とが、いずれも報告されていた(摘記甲3ウ、甲3エ、甲4ウ、甲4エ、甲5エ)。
したがって、本件優先日当時、デクスメデトミジンを鎮静のために投与するに当たり、負荷投与を行う方法と負荷投与を行わない方法とは、それぞれ得られる作用が異なる方法として、当業者に理解されており、両方法によるデクスメデトミジンの鎮静効果は直ちには同一視できないことが技術常識であり、小児の個別の状態に応じて、副作用(急激な血圧変動等)や主作用(鎮静作用)の両方を考慮して、医療者が適切と判断した方法を採用していたものといえる。
2 無効理由3(サポート要件違反)について
事案に鑑み、無効理由3から判断する。
(1)本件明細書の記載事項
本件明細書には、以下の事項が記載されている。
「【背景技術】
【0002】
3. 発明の背景
鎮静作用は、小児患者の生理的幸福のためのみならず、患者の安全と介護者の安全のためにも集中治療室(ICU)内における小児患者の治療の重要な要素である。
ベンゾジアゼピン及びオピオイド、例えばフェンタニル又はモルヒネは、小児集中治療室(PICU)内で鎮静及び鎮痛状態をもたらすために頻繁に投与される。プロポフォールは、循環不全を含め、重篤な生命を危うくする代謝変調を子供に引き起こすことが分かっており、小児集団では継続的な集中治療の鎮静に適応とされない。(…)。ベンゾジアゼピン及びオピオイドを長期投与すると、耐性及び身体依存が発現することがある。ミダゾラム鎮静が下位の鎮静及び奇異な興奮と交互になる過鎮静を引き起こす小児患者もいる。(…)。
新生児及び乳幼児期の動物モデルにおけるγ-アミノ酪酸(GABA)作動薬からのアポトーシス及び神経発生異常の最近の報告はベンゾジアゼピンで新生児及び乳幼児を鎮静することの懸念を強調している。(…)。オピオイドの併用投与は呼吸抑制作用のため小児患者への対応をさらに複雑にする。従って、小児患者の安全かつ有効な鎮静及び鎮痛について未だ対処されていない相当な要求がある。
デクスメデトミジン(Precedex(登録商標))は、鎮静、鎮痛、及び抗不安効果のある高度に選択的なα2アドレナリン作動薬である。デクスメデトミジンは現在、集中治療環境において最初に挿管され、人工呼吸器を装着された成人患者の鎮静のためFDAによって認可されており、手術又は診断手順中にモニターされる麻酔治療の構成要素として、挿管されていない成人患者の鎮静のためにも認可されている。デクスメデトミジンは、呼吸ドライブにはほとんど影響を与えないので、挿管されていないICU患者における持続注入として投与するために米国で認可されている唯一の鎮静薬である。
ICU内で成人患者に対してデクスメデトミジンを用いた鎮静は広く研究されている。オピオイド又はベンゾジアゼピンと併用すると、多くの場合デクスメデトミジンは他の薬剤の用量を減らすことができ、呼吸抑制のリスクを軽減する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
4. 発明の概要
本発明は、鎮静又は鎮痛が必要な小児患者の鎮静又は鎮痛方法において、患者にデクスメデトミジンを投与することを含む方法であって、神経損傷の発生率を低減するのに有効な量でデクスメデトミジンを投与する方法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0004】
一実施形態では、デクスメデトミジンを約0.01~約2.5μg/kg/時間の濃度で投与し、小児は約17歳以下であり、デクスメデトミジンを約36時間未満の時間にわたって持続注入として投与し、かつ神経損傷の発生率を低減するのに有効な量でデクスメデトミジンを投与する。
特定の実施形態では、小児患者は早期新生児である。一実施形態では、小児患者の在胎期間は約7カ月~約11カ月の範囲である。
ある一定の実施形態では、デクスメデトミジンの投与前、投与中、又は投与後に小児患者に挿管する。一実施形態では、小児患者は重病である。
特定の実施形態では、デクスメデトミジンを非経口投与する。ある一定の実施形態では、デクスメデトミジンを静脈内注入によって投与する。
特定の実施形態では、神経損傷は細胞変性又は神経アポトーシス(neuroapoptosis)である。一実施形態では、神経損傷は、層I及び層IIから成る群より選択される皮質ラミナ層内で起こる。
ある一定の実施形態では、デクスメデトミジンを手術前に投与する。特定の実施形態では、デクスメデトミジンを手術後に投与する。具体的な実施形態では、デクスメデトミジンを心肺バイパス術後に投与する。一実施形態では、小児患者は、約12~約17歳及び約2歳以下から成る群より選択される齢を有する。
特定の実施形態では、デクスメデトミジンの投与は救出薬(rescue medication)の必要性を低減する。一実施形態では、救出薬は鎮静薬である。具体的な実施形態では、救出薬は鎮痛薬である。
ある一定の実施形態では、デクスメデトミジンの投与は維持量(maintenance dose)の前に初回負荷量(first loading dose)をさらに含み、この負荷量は約0~約0.4μg/kgの範囲である。一実施形態では、初回負荷量を投与しない。」
「【0007】
6.1 定義
…
本発明によれば、本明細書で使用する用語「デクスメデトミジン」は、遊離塩基又は医薬的に許容できる塩としての、メデトミジンの実質的に純粋な光学活性の右旋性立体異性体を意味する。…他の非限定実施形態では、デクスメデトミジンは下記式Iに示す構造を含む。
【0008】
【化1】
[図:0001414615000009.jpg]
式I
…
【0010】
本明細書では、用語「集中治療室」又は「ICU」は集中治療を提供するいずれの環境をも意味する。
本明細書では、用語「在胎期間」は、最終月経の初日から経過した時間として計算される。妊娠が生殖介助術を用いて達成された場合、在胎期間は上記で計算される在胎期間に2週間加えることによって計算される。
本明細書では、用語「小児患者」は17歳以下のヒト患者を意味する。ある一定の非限定実施形態では、患者は16歳以下、又は15歳以下、…、又は1カ月以下である。特定の実施形態では、小児患者は、約12~17歳である。一実施形態では、小児患者は約12~約17歳及び約2歳以下から成る群より選択される齢を有する。一実施形態では、小児患者はデクスメデトミジンの投与直前に子宮から出た。
ある一定の実施形態では、「小児患者」は早期新生児である。本明細書では、用語「早期新生児」は最終月経の開始から37週間前に生まれる子供を意味する。妊娠が生殖介助術を用いて達成された場合、上記で計算される在胎期間に2週間加えることによって計算されれば子供は早期新生児である。
ある一定の実施形態では、小児患者は約20週間~約44週間、又は約20週間~約40週間、…又は約20週間~約24週間の在胎期間を有する。ある一定の実施形態では、小児患者は約36週間~約44週間、…又は約36週間~約38週間の在胎期間を有する。
本明細書では、用語「神経損傷」は、種々のタイプの神経認知、心理認知、及び/又は神経運動若しくは運動障害、或いはその組合せを意味し、これについては以下にさらに詳細に論じる。」
「【0013】
6.3 患者集団 本開示主題は小児患者にデクスメデトミジンを投与することを含む。ある一定の実施形態では、小児患者に挿管する。デクスメデトミジンの投与前、投与中、又は投与後に小児患者に挿管することができる。経鼻、気管内、直接経口喉頭鏡検査又は光ファイバー経路によって、或いは気管切開術によって小児患者に挿管することができる。
…
一実施形態では、患者は手術を受けたことがある。患者はデクスメデトミジンの投与前、投与中、及び/又は投与後に手術を受けてよい。ある一定の実施形態では、デクスメデトミジンを手術前に投与する。一実施形態では、神経損傷の発生率を低減する目的で手術前にデクスメデトミジンを投与する。いくつかの実施形態では、デクスメデトミジンを手術前と手術中に投与する。特定の実施形態では、デクスメデトミジンを手術の前後に投与する。ある一定の実施形態では、デクスメデトミジンを手術中と手術後に投与する。
特定の実施形態では、デクスメデトミジンを手術前、手術中、及び手術後に投与する。」
「【0015】
6.4 治療方法
…
【0016】
ある一定の実施形態では、デクスメデトミジンを持続的静脈内用量として小児患者に約0.005μg/kg/時間~約50μg/kg/時間、又は約0.005μg/kg/時間~約25μg/kg/時間、又は約0.005μg/kg/時間~約15μg/kg/時間、又は約0.005μg/kg/時間~約5μg/kg/時間、又は約0.005μg/kg/時間~約2μg/kg/時間、又は約0.005μg/kg/時間~約1.5μg/kg/時間、又は約0.005μg/kg/時間~約1μg/kg/時間、又は約0.005μg/kg/時間~約0.5μg/kg/時間、又は約0.005μg/kg/時間~約0.25μg/kg/時間の濃度で投与する。
…特定の実施形態では、デクスメデトミジンを持続的静脈内用量として小児患者に約0.01μg/kg/時間、又は約0.025μg/kg/時間、又は約0.05μg/kg/時間、又は約0.1μg/kg/時間、又は約0.2μg/kg/時間、又は約0.25μg/kg/時間、又は約0.3μg/kg/時間、又は約0.4μg/kg/時間、又は約0.5μg/kg/時間、又は約0.6μg/kg/時間、又は約0.7μg/kg/時間、又は約0.75μg/kg/時間、又は約0.8μg/kg/時間、又は約0.9μg/kg/時間、又は約1.0μg/kg/時間、又は約1.1μg/kg/時間、又は約1.2μg/kg/時間、又は約1.3μg/kg/時間、又は約1.4μg/kg/時間、又は約1.5μg/kg/時間、又は約1.6μg/kg/時間、又は約1.7μg/kg/時間、又は約1.8μg/kg/時間、又は約1.9μg/kg/時間、又は約2.0μg/kg/時間、又は約2.1μg/kg/時間、又は約2.2μg/kg/時間、又は約2.3μg/kg/時間、又は約2.4μg/kg/時間、又は約2.5μg/kg/時間の濃度で投与する。ある一定の実施形態では、デクスメデトミジンを持続的静脈内用量として約3.0μg/kg/時間、又は約3.5μg/kg/時間、又は約4.0μg/kg/時間、又は約4.5μg/kg/時間、又は約4.0μg/kg/時間、又は約4.5μg/kg/時間、又は約5.0μg/kg/時間、又は約5.5μg/kg/時間, 約6.0μg/kg/時間、又は約6.5μg/kg/時間、又は約7.0μg/kg/時間、又は約7.5μg/kg/時間, 約8.0μg/kg/時間、又は約8.5μg/kg/時間、又は約9.0μg/kg/時間、又は約9.5μg/kg/時間、又は約10μg/kg/時間、又は約11μg/kg/時間、又は約12μg/kg/時間、又は約13μg/kg/時間、又は約14μg/kg/時間、又は約15μg/kg/時間、又は約16μg/kg/時間、又は約17μg/kg/時間、又は約18μg/kg/時間、又は約19μg/kg/時間、又は約20μg/kg/時間、又は約21μg/kg/時間、又は約22μg/kg/時間、又は約23μg/kg/時間、又は約24μg/kg/時間、又は約25μg/kg/時間、又は約27.5μg/kg/時間、又は約30μg/kg/時間、又は約32.5μg/kg/時間、又は約35μg/kg/時間、又は約40μg/kg/時間、又は約45μg/kg/時間、又は約50μg/kg/時間の濃度で投与する。
特定の実施形態では、デクスメデトミジンを持続的静脈内用量として約1~約10分、又は約1~約20分、又は約1~約30分、又は約1~約2時間、又は約1~約3時間、又は約1~約4時間、又は約1~約5時間、又は約1~約6時間、又は約1~約7時間、又は約1~約8時間、又は約1~約9時間、又は約1~約10時間、又は約1~約11時間、又は約1~約12時間、又は約1~約13時間、又は約1~約14時間、又は約1~約15時間、又は約1~約16時間、又は約1~約17時間、又は約1~約18時間、又は約1~約19時間、又は約1~約20時間、又は約1~約21時間、又は約1~約22時間、又は約1~約23時間、又は約1~約24時間にわたって投与する。好ましい非限定実施形態では、デクスメデトミジンを約6~約24時間にわたって投与する。…
【0017】
ある一定の非限定実施形態では、デクスメデトミジンの投与は、2回目の維持量前に投与される初回負荷量を含む。負荷量として投与した後に維持量を投与するとき、負荷量は約0μg/kg~約5μg/kg、又は約0.005μg/kg~約4.5μg/kg、又は約0.005μg/kg~約3μg/kg、又は約0.005μg/kg~約2.5μg/kg、又は約0.005μg/kg~約2μg/kg、又は約0.005μg/kg~約1.5μg/kg、又は約0.005μg/kg~約1μg/kg、又は約0.005μg/kg~約0.5μg/kg、又は約0.005μg/kg~約0.25μg/kg、又は約0μg/kg~約0.4μg/kgの用量であり得る。…
…特定の実施形態では、負荷量を投与しない。
負荷量を約1~約5分、又は約1~約10分、又は約1~約15分、又は約1~約20分、又は約1~約25分、又は約1~約30分、又は約1~約45分、又は約1~約60分にわたって投与することができる。負荷量の後に、一回の持続用量について上述した時間にわたって維持量を投与することができる。好ましい非限定実施形態では、負荷量を約10~約20分にわたって投与する。特定の実施形態では、負荷量を約5分、又は約7.5分、又は約10分、又は約12.5分、又は約15分、又は約20分、又は約25分、又は約30分、又は約35分、又は約40分,約45分、又は約50分、又は約55分、又は約60分にわたって投与する。
ある一定の非限定実施形態では、一回の持続的な負荷量又は維持量として投与するとき、デクスメデトミジンを約1時間~約7日、又は約1時間~約4日、又は約1時間~約48時間、又は約1時間~約36時間、又は約1時間~約24時間、又は約1時間~約12時間にわたって投与する。特定の非実施形態としては、デクスメデトミジンを持続注入として約72時間未満、…、又は約36時間未満、…約30分未満の間投与する。
【0018】
ある一定の非限定実施形態では、本方法は、必要とされる救出薬の量を減らす。一実施形態では、救出薬は非デクスメデトミジン鎮静薬である。…
ある一定の実施形態では、救出薬は鎮痛薬である。…」
「【0022】
7. 実施例
…
実施例1:新生児におけるデクスメデトミジン研究
当初30名の患者の研究
集中治療環境で最短6時間の鎮静を必要とした≧28週間~≦44週間の在胎期間の新生児についてデクスメデトミジンの30対象非盲検多施設安全性、効力及び薬物動態研究を行なった。本研究は、新生児集中治療室(NICU)、心臓集中治療室(CICU)、又はPICUにおいて負荷量後に最短6時間かつ24時間まで持続注入として投与された≧28週間~≦44週間の在胎期間の新生児における3つの異なる用量レベルのデクスメデトミジンの効力、薬物動態、及び安全性を調査した。最終月経の初日から登録日までの経過時間として在胎期間(週間)を計算した。妊娠が生殖介助術を用いて達成された場合、上記計算値に2週間を加えて在胎期間を計算した。
本研究のために選択した患者は、最初に挿管され、人工呼吸器が装着された、≧28週間~<36週間の在胎期間で生まれた早期新生児及び≧36週間~≦44週間の在胎期間で生まれた満期新生児であった。前者を群Iに割り当て、後者を群IIに割り当てた。対象の体重は登録時に1000g超えであった。
この集団では新生児の心血管系は、デクスメデトミジンの使用が悪影響を与え得る特徴を有する。年長児、子供、及び成人と異なり、新生児の心筋は、代謝要求に応じて収縮性を増して心拍出量を増やすことができない。代わりに、新生児は心拍出量を増やすために自分のHRに非常に依存する。結果として、デクスメデトミジンの既知効果である徐脈作用が新生児の心拍出量を減らし得る。このため、この集団の研究用に選択した用量は、年長の小児患者の鎮静用に典型的に用いられる用量より意図的に少なくした。より少ない用量は、徐脈という有害作用を軽減すると予想されたが、デクスメデトミジンの高い脂質溶解度及び潜在的に高い脳脊髄液濃度のため、この集団の血液脳関門の未熟さがデクスメデトミジンの鎮静特性を促進する可能性があり;従って、この齢群の人工呼吸器装着対象に何らかの鎮静を及ぼすためには、10又は20分にわたる0.05μg/kgの負荷量後に0.05μg/kg/時間の維持量という最低用量を予想した。最高用量、0.2μg/kgの負荷量後に0.2μg/kg/時間は、徐脈作用を引き起こさないと予想した。
各対象は、10分又は20分にわたってデクスメデトミジンの負荷量を受けた後、最短6時間であるが24時間未満の間にデクスメデトミジンの適切な持続注入維持量を受けた。各対象に投与した用量レベルを下表1に示す。対象を用量レベルに順次割り当てた。
【0023】
表1. 各齢群の用量レベル
[図:0001414615000010.jpg]
【0024】
投与したデクスメデトミジンはHospira,Inc.製のPrecedex(登録商標)デクスメデトミジンHCl注射薬であった。デクスメデトミジン塩酸塩(HCl)注射薬(100μg/mL、ベース)は、注入調査現場にHospiraにより供給された。研究薬は現場薬局によって調製(希釈)された。デクスメデトミジンの負荷量を水中0.9%の塩化ナトリウム又はブドウ糖5%で下記濃度の1つに希釈した:4μg/mL溶液、2μg/mL溶液、1μg/mL溶液、又は0.5μg/mL溶液。制御注入装置を用いてデクスメデトミジンを注入した。正確な注入を保証するため、デクスメデトミジンを肺動脈に直接投与しなかった。
2段階注入としてデクスメデトミジンを投与した。デクスメデトミジンの10分又は20分の負荷量注入後に、最短6時間かつ手術後24時間までデクスメデトミジンの持続固定維持量注入を投与した。デクスメデトミジンの負荷量用と同じ濃度で維持注入用のデクスメデトミジンを希釈した。負荷注入でも維持注入でもIVカテーテルの挿入部位にデクスメデトミジンを投与して薬物を流さないようにした。デクスメデトミジン用に指定されたIVラインを介してデクスメデトミジンを投与した。
デクスメデトミジン開始前の最も最近測定した対象の体重を用いて鎮静薬投与量を計算した。デクスメデトミジン持続時間は最大24時間に及ぶので、日毎の体重変動のために投与量を調整する必要はなかった。
デクスメデトミジンへの曝露を胎在期間別に表2(負荷量)、表3(維持量)、及び表4(全用量/時間;曝露時間<6時間、<12時間、<24時間、>0~<6時間、≧6~<12時間、≧12~<24時間、及び≧24時間)に要約する。デクスメデトミジンへの曝露中央値を下表2~4に要約する。データの変動性のため中央値データを選択した。デクスメデトミジン曝露中央値は齢群II、用量レベル3で最高であった。齢群Iでは、2名の対象がそれぞれ>0~<6時間、≧6~<12時間、及び≧12~<24時間持続する注入を受けた。齢群IIでは、対象の過半数(n=17、70.8%)が≧6~<12時間持続する注入を受け、持続時間中央値は6時間あまり(370分)であった。用量レベル3の対象は、中央値が360.0~365.0分(約6時間)の齢群IIの他の2つのコホートに比べて中央値が961.5分(16時間)で齢群IIにおける最長維持注入を受けた。全ての対象は、最短6時間の維持注入を受ける治療を完了した。
【0025】
表2. デクスメデトミジン曝露の負荷量中央値
[図:0001414615000011.jpg]
a齢群I=≧28~<36週間の在胎期間;齢群II=≧36~≦44週間。
b単位は負荷量についてはμg/kg、維持投与(持続注入)についてはμg/kg/時間。
【0026】
表3. デクスメデトミジン曝露の維持量中央値
[図:0001414615000012.jpg]
a齢群I=≧28~<36週間の在胎期間;齢群II=≧36~≦44週間。
b単位は負荷量についてはμg/kg、維持投与(持続注入)についてはμg/kg/h時間。
【0027】
表4. デクスメデトミジン曝露の総用量中央値
[図:0001414615000013.jpg]
a齢群I=≧28~<36週間の在胎期間;齢群II=≧36~≦44週間。
b単位は負荷量についてはμg/kg、維持投与(持続注入)についてはμg/kg/時間。
【0028】
齢群Iの対象は、持続時間中央値10分で総負荷量中央値0.07μg及び1407.5分(23.5時間)にわたって総維持量中央値1.30μgを受けた。齢群IIの対象は、10分にわたって総負荷量中央値0.18~0.70μg及び360~961.5分(6~16時間)にわたって総維持量中央値1.08~12.20μgを受けた。
新生児の鎮静及び疼痛/興奮を評価するために開発された新生児の疼痛、興奮、及び鎮静スケール(Neonatal Pain, Agitation, and Sedation Scale)(N-PASS)を用いて鎮静頻度を評価することによって効力評価を行なった。N-PASSには、新生児の鎮静レベル、疼痛、及び興奮を評価するための5つの基準が含まれる。指標は以下の通りである:1)泣き/易刺激性、2)行動/状態、3)顔の表情、4)四肢/緊張、及び5)生命徴候(すなわち、HR、RR、SBP、DBP、及びSpO2)。できる限り、同一の研究者又は被指名人が、表5に示す活動スケジュールに従ってN-PASSスコアを得た。
全てのN-PASS評価と共に奇異反応(著しく興奮状態)の存在の評価をモニターした。興奮状態はプロトコル定義され、泣き/易刺激性又は行動/状態評価基準のどちらかがスコア2に値するときに生じた。5つの評価基準のそれぞれについて、対象に1つの数値、すなわち、-2、-1、0、+1、又は+2を与えることになる。対象は、負の鎮静側に何らかの基準スコアを有し、かつ正の疼痛/興奮側に他の基準を有することがあり得るが、単一の基準については鎮静又は疼痛側の両方ではなくどちらかでスコアを得ることになる。対象の在胎期間が<30週間の場合、疼痛スコアに1を加えた。
【0029】
表5. N-PASS-新生児の疼痛、興奮及び鎮静スケール
[図:0001414615000014.jpg]
【0030】
総N-PASSスコア>3又は臨床判断によって適応があれば救出のためにモルヒネ又はフェンタニル及び/又はミダゾラムを与えることができる。対象から抜管中又はその後、デクスメデトミジン注入を継続することができるが、デクスメデトミジンの最小持続時間は6時間であり、注入の最大持続時間は24時間であった。効力の尺度には、デクスメデトミジン注入中の鎮静又は鎮痛用の救出薬の使用を含めた(頻度及び使用量)。
N-PASS鎮静/疼痛スケールの結果に基づいたデクスメデトミジン投与中に、必要に応じて鎮静(ミダゾラム)及び疼痛(フェンタニル又はモルヒネ)のために救出薬を投与した。N-PASS総スコア>3のときに救出療法の必要が示され、鎮静救出薬又は鎮痛救出薬の選択は研究者の自由裁量に委ねられた。救出療法のいずれのボーラス投与でも、下記順序の事象が起こった:救出薬の投与前かつミダゾラムの投与後5分以内にN-PASSスコアを得た。鎮静用救出薬はミダゾラムであり、疼痛用救出薬はフェンタニル又はモルヒネのどちらかであった。ミダゾラムは小児科用の標識に基づいて1用量当たり0.05~0.15mg/kgの推奨用量で投与した。疼痛用の救出フェンタニルは0.5~2μg/kgのボーラス又は1~2μg/kg/時間の持続注入で投与した。フェンタニルの持続注入のためには、持続注入の開始直前にN-PASSを記録した。救出モルヒネは0.025~0.1mg/kgのボーラス又は0.01~0.02mg/kg/時間の持続注入として投与した。モルヒネの持続注入のためには、持続注入の開始直前にN-PASSを記録した。
デクスメデトミジンの負荷量及び維持注入量について要約統計を下表5Aに示す。
【0031】
表5A. 用量関連データの要約統計
[図:0001414615000015.jpg]
【0032】
安全性尺度には有害事象の収集(有害事象)、心拍数(1分当たりの拍動のHR[bpm])、収縮期血圧(ミリメートル水銀のSBP[mmHg])、拡張期血圧(ミリメートル水銀のDBP[mmHg])、平均動脈圧(ミリメートル水銀のMAP[mmHg])、パルスオキシメトリによる酸素飽和度(百分率のSpO2)、及び呼吸数(呼吸/分のRR[呼吸/分])又は人工呼吸器の設定、検査結果、及び心電図(ECG)モニタリングを含めた。
…
デクスメデトミジンは、重病で、最初に挿管され、人工呼吸器を装着された≧28~<36週間の早産児を鎮静するのに有効であった。齢群Iの対象はデクスメデトミジン注入中は鎮静用の救出ミダゾラムを受けなかった。この治験で用いた0.2μμg/kg/時間(当審注:原文ママ)までの用量では、デクスメデトミジンは満期新生児を鎮静するのに適度に有効であった。齢群IIでは、全部で4名の対象(16.7%)がデクスメデトミジン注入中に鎮静のために救出ミダゾラム(平均用量0.22mg/kg)を受けた。
齢群Iのほとんどの早産児は、デクスメデトミジン注入中に疼痛のための追加薬を必要としなかった。齢群Iの1名の対象(16.7%)は、試験注入中に鎮痛用の救出薬を受けた。対照的に、齢群IIの満期新生児の多く(58.3%)は試験注入中に鎮痛用の救出薬を受けた。齢群II、特に用量レベル3で鎮痛要求が増加したのは、おそらく術後外科対象の比率が高いことを反映している。
総N-PASSスコア>3では全ての用量レベルは短時間しか費やさず、ほとんどの対象が十分に鎮静されたことを示唆しており、疼痛/興奮の徴候は現れなかった。一般的に、生命徴候のベースラインからの平均的変化の傾向は臨床的に意味がなかった。
【0033】
≦28~<36週間の在胎期間の早産児は、より高い用量調整曝露という結果になる満期新生児より低いクリアランスを有するようであった。これらのパラメータについて齢群I(≧28~<36週間の在胎期間)では1つの用量レベル(0.05μg/kg)、齢群II(≧36~≦44週間の在胎期間)では全部で3つの用量レベル(0.05μg/kg、0.1μg/kg、及び0.2μg/kg)で十分に評価された。より若い対象は、より高い用量調整曝露という結果になる年長の対象(齢群IIの0.05μg/kgの用量レベルで0.61L/時間/kg)より低いクリアランス(齢群Iの0.05μg/kgで0.41L/時間/kg)を有するようであった。この知見は、より若い対象では0.1μg/kg及び0.2μg/kgの用量レベルで薬物動態データを入手できていないので解釈が困難である。
薬物動態解析の結果は、定常状態で体重調整した分布容積(Vssw)及び見かけの終末相半減期(t1/2)は用量レベルと齢群を通じて似ていることを示唆している。さらに、齢上の対象(齢群II)内ではデクスメデトミジン曝露は用量に比例するようであった。より若い対象(齢群I)内では用量比例性を評価できなかった。この知見は、より若い対象では0.1μg/kg及び0.2μg/kgで薬物動態データを入手できていないので解釈が困難である。この齢群の満期新生児(4名の対象が鎮静用のミダゾラムを必要とし、14名の対象が鎮痛用の救出薬を必要とした)に比べて低いクリアランスと高い濃度は、早産児で観察されるより高い効力と一致する(どの対象も鎮静用の救出ミダゾラムを必要とせず、1名の対象が鎮痛用の救出薬を必要とした)。Vssw及びt1/2は、用量レベルと齢群を通じて似ていた。
【0034】
デクスメデトミジンは両齢群及び全ての用量で安全かつ耐容性良好であった。観察された有害作用プロファイルは重病の高リスク小児集団及び術後外科患者の典型である。齢群Iの2名の対象(33.3%)及び齢群IIの15名の対象(62.5%)が、治療下で発現した有害作用を経験した。齢群I、用量レベル1では1名の対象しか治療下で発現した有害作用を報告しなかった。齢群IIで1名の対象以外により報告された事象は、低カリウム血症、血中カリウム低下、怒り、無気肺、及び胸水であった。これらの事象は術後直視下心臓手術患者ではさらに一般的であり、予想された。
プレセデックス(Precedex)曝露対象でカプラン・マイヤー推定値を用いて抜管に成功するまでの時間を調査した。このセクションの結果は、病歴因子の高い変動性のため臨床的に意味がないので、さらに考察しなかった。
治療下で発現したほとんどの有害作用は治療と無関係であると判断され、本研究では2名の対象(齢群II)だけが治療に関係があると判断された治療下で発現した有害作用を経験した。治療下で発現した重度な有害作用は報告されなかった。各齢群の2名の対象が治療下で発現した中程度の有害作用を経験し、全ての他の対象は治療下で発現した軽度の有害作用を経験した。治療下で発現した死に至る重度の有害作用、治療下で発現したその他の重度の有害作用、及び治療下で発現したデクスメデトミジン中断につながる有害作用は存在しなかった。デクスメデトミジン中断につながる用量規制毒性(持続的徐脈作用、持続的低血圧、又は呼吸抑制作用)は存在しなかった。
一般に、検査パラメータ、生命徴候、理学的検査、又はECGについてはベースラインからの平均的変化は臨床的に有意でなかった。デクスメデトミジンは、重病の最初に挿管され、人工呼吸器を装着された早産児を鎮静するのに有効であった。齢群Iの対象は、研究注入中に鎮静のために救出ミダゾラムを受けなかった。この試験で用いた0.2μg/kg/時間までの用量で、デクスメデトミジンは満期新生児を鎮静する際に適度に有効であった。齢群Iのほとんどの早産児はデクスメデトミジン注入中に疼痛のために追加薬を必要としなかった。対照的に、齢群IIの満期新生児の多く(58.3%)は研究注入中に鎮痛のための救出薬を受けた。齢群II、特に用量レベル3の鎮痛要求の増加は、おそらく術後外科対象の率が高いことを反映している。早産児は、より高い用量調整曝露及びより大きい効力という結果になる満期新生児より低い血漿クリアランスを有するようであった。治療下に発現した副作用のために試験を中断した対象はいなかった。デクスメデトミジンは、両齢群及び全ての用量で安全かつ耐容性良好であった。観察された有害作用プロファイルは、研究した重病の高リスク小児集団の典型である。
【0035】
追加の6名の患者コホート
当初の30名の患者で研究を開始した後、追加の6名の患者を登録して研究を完了した(以後「追加コホート」)。追加のコホートについて行なった研究の研究プロトコルは上述したとおりである。追加の6名の患者は、最短6時間の集中治療環境内で鎮静を必要とした≧28週間~<36週間の在胎期間の新生児であった。これらの6名の患者は用量レベル2であり、0.1μg/kgの負荷量及び0.1μg/kgの維持量を受けた。この研究でデクスメデトミジンを受けた全部で36名の患者について各齢群の用量レベルを下表6に示す。
【0036】
表6. 各齢群の用量レベル
[図:0001414615000016.jpg]
【0037】
追加コホートの6名の対象の平均在胎期間は32.5週間であった。3名が男性で3名が女性であった。平均体重は1.71kgであり、平均身長は42.75cmであった。挿管の理由は、5名の対象は呼吸器疾患であり、1名の対象は敗血症であった。
追加コホートの6名の全対象は、この研究に入る前に前療法を受けていた;これらの最も一般的な療法は抗感染薬、栄養製品、及びミダゾラム又はフェンタニルであった。6名の全対象は併用療法を受けた:これらの最も一般的な療法は抗感染薬及び栄養製品であった。6名の全対象は、デクスメデトミジン注入後に種々多様の療法を受けた。
追加コホートの6名のどの対象もデクスメデトミジン注入中に救出ミダゾラム又はモルヒネを必要としなかった。1名の対象(16.7%)だけがデクスメデトミジン注入中に鎮痛用の救出薬を必要とし、20μg(0.98μg/kg)のフェンタニルを投与された。この対象のデクスメデトミジン注入の持続時間は6.5時間であった。この対象は、サイロ留置の手術を必要とする腹壁破裂のみならず、挿管を要する呼吸促迫症候群の病歴を有し、両方とも検診時に進行中であった。3未満の総N-PASSスコアを有するために救出鎮痛薬を必要とした対象は唯一の対象であり、この対象は浸潤I.V.のため0.25時間を有した。
研究補遺のコホート(齢群I、用量レベル2)で負荷量及び維持量後のデクスメデトミジンの血漿薬物動態パラメータの幾何平均を下表7に示す。
【0038】
表7. 追加コホート患者の幾何平均血漿薬物動態パラメータ
[図:0001414615000017.jpg]
【0039】
追加コホートで評価した2名の対象のDEXの体重調整クリアランス(CLw)は齢群I、用量レベル1で評価した1名の対象と同様であり、この場合もやはり齢群II対象で観察された値より低かった。クリアランスの差異と一致して、追加コホート(n=2)で評価したゼロ~無限大の濃度-時間曲線下の用量調整面積、AUC(0-無限大)は、齢群IIについて全ての用量レベルにわたって(n=12)計算した値より4.6倍高かった(2102.55対461.04(pg/mL)時間)。同様に、定常状態濃度(Css)は、追加コホートの方が齢群IIの同用量レベルより高かった(369.67対170.53pg/mL)。しかしながら、最大濃度(Cmax)は実際に追加コホートの方が齢群IIの同用量レベルに対して低く、それぞれ107.22対122.43pg/mLであった。定常状態で体重調整した分布容積(Vssw)は、齢群IIの同用量レベルに比べて追加コホートの方がわずかに大きく(3.79対2.85L/kg)、見かけの終末消失半減期(t1/2)はそれぞれ8.32対4.77時間で、追加コホートの方が長かった。
デクスメデトミジンは、追加コホートを含めた両齢群及び全ての用量で安全かつ耐容性良好であった。追加コホートで観察された有害作用プロファイルは、重病の高リスク小児集団の典型である。
早期新生児からの限られた情報は、デクスメデトミジンの薬物動態に及ぼす齢の影響の解釈を困難にする。しかしながら、当初の30名の患者群の齢群I及び追加コホートで試験した2つの用量レベル(0.05及び0.1μg/kg)に基づいて、早期新生児(n=3)では満期新生児(n=12)よりクリアランスが低いようであり、4.4~4.6倍大きい総曝露(AUC)をもたらした。この知見は満期新生児に比べて齢群I、用量レベル1及び2の早期新生児の高いCssとも一致する。
早期新生児の低いクリアランス及び高い濃度は、満期新生児(4名の対象が鎮静用の救出ミダゾラムを必要とし、14名の対象が鎮痛用の救出薬を必要とした)に比べて両用量レベルの早産児で観察された大きい効力(どの対象も鎮静用の救出ミダゾラムを必要とせず、2名の対象が鎮痛用の救出薬を必要とした)と一致する。
Cmax及びAUC(0-最後)は、齢群II集団の同用量レベルに比べて追加コホートの方が低いようだった。これらの値は以下のとおりだった:Cmaxはそれぞれ107.22対122.43pg/mL及びAUC(0-最後)はそれぞれ708.09対813.26(pg/mL)。早期新生児の追加コホートでは低いクリアランス、高い濃度、及び大きい効力が観察され、当初の30名の患者集団の満期新生児に比べて他の早期死新生児コホートで観察されたことと一致した。
追加コホート及び当初の30名の患者集団データにおける齢群Iのほとんどの早期新生児は、デクスメデトミジン注入中に疼痛のための追加薬を必要としなかった。齢群Iの各用量レベルで1名の対象(13.7%)が研究注入中に鎮痛用の救出薬を受けた。対照的に、当初の30名の患者集団では、齢群IIの満期新生児の多く(58.3%)が研究注入中に鎮痛用の救出薬を受けた。齢群II、特に用量レベル3での高い鎮痛薬要求は、おそらく術後外科対象の比率が高いことを反映している。追加コホート及び当初の30名の患者集団データの対象は、総N-PASSスコア>3で短時間を費やしており、ほとんどの対象が十分に鎮静され、疼痛/興奮の徴候が現れていないことを示している。一般的に、追加コホート及び暫定解析データにおける生命徴候のベースラインからの変化の傾向は臨床的に意味がなかった。
デクスメデトミジンへの曝露中央値を下表8に要約する。データの変動性のため中央値データを選択した。齢群I、用量レベル2の対象は、暫定解析からの齢群I、用量レベル1に比べて低い総維持量中央値及びデクスメデトミジン曝露持続時間中央値を有した:具体的には、375.0分(6.25時間)対1407.5分(23.5時間)の持続時間中央値でそれぞれ1.14μg対1.30μgであった。齢群I、用量レベル2の対象は、同用量レベルの暫定解析からの齢群IIと比較して低い総維持量中央値を有したが、デクスメデトミジン曝露持続時間中央値は同様であった:具体的には、375.0分(6.25時間)対365.0分(6.1時間)の持続時間中央値でそれぞれ1.14μg対1.87μgであった。6名うち5名の対象が≧6~<12時間持続する注入を受け、1.26μgの総用量中央値及び380分(6.3時間)の持続時間中央値であり、1名の対象は≧12~<24時間持続する注入を受け、4.06μgの総用量中央値及び1285.0分(21.4時間)の持続時間中央値であった。全ての対象は、最短6時間の維持注入を受ける治療を完了した。
【0040】
表8. 用量及びデクスメデトミジン曝露持続時間の中央値
[図:0001414615000018.jpg]
【0041】
ほとんどの血液学的検査の対象間には変動性がった。一般に、いずれの血液学的変量、化学的変量、又は尿検査変量についても系統的変化の証拠は見出されなかった。治療下で発現した検査結果に属する有害事象は、低アルブミン血症(n=3)及びそれぞれ1名の対象で起こった下記事象であった:高ビリルビン血症、非抱合型血中ビリルビンの増加、低蛋白血症、低カルシウム血症、血尿、及び高血糖。これらの検査パラメータの全てはデクスメデトミジンに関係がないと判断された。これらはこの早期新生児集団の典型である。
理学的検査データを収集した。検診及びデクスメデトミジン投与後の最もよく見られる異常な所見は肺/呼吸器系にあった。検診で、又はデクスメデトミジン投与中、若しくは投与後に異常な臨床的に有意な心電図結果はなかった。総流体インプットは49.1~162.6mLに及び、総流体アウトプットは30~224mLに及んだ。一般に、追加コホートの検査パラメータ、生命徴候、理学的検査、又は心電図結果についてベースラインからの変化は臨床的に意味がなかった。
追加コホートの全6名の対象が、治療下で発現した有害事象を経験した。
これらを下表9に示す。治療下で発現した18の有害事象のうち、低アルブミン血症(n=3)のみが1名より多くの対象で報告された。治療下で発現した有害事象のほとんどが治療に関係がないと判断された。デクスメデトミジンに関係すると判断された治療下で発現した有害事象は軽度なものだけだった。1名の対象は、治療に関係すると判断された治療下で発現した2つの有害事象を経験した。1名の対象は、治療下で発現した3つの重度の有害事象を経験し;2名の対象は、治療下で発現した1つの中程度の有害事象をそれぞれ経験した。これらの重度又は中程度の事象はどれもデクスメデトミジンに関係がないと判断された。全ての他の事象は軽度であった。治療下で発現した死に至る重篤な有害事象は存在せず、1名の対象は治療下で発現した3つの重篤な有害作用を経験し、治療下で発現した有害事象の結果、デクスメデトミジンを中断した対象はいなかった。デクスメデトミジン中断につながる用量規制毒性(持続性徐脈作用、持続性低血圧、又は呼吸抑制作用)は治療下で発現しなかった。
【0042】
表9. 器官別大分類及び基本語による治療下で発現した有害事象の要約
[図:0001414615000019.jpg]
【0043】
群I-レベル1及び2の平均在胎期間は30.3週間及び32.5週間であり、群II-レベル1~3の平均在胎期間は38.7週間であった。ほとんどの患者で十分レベルの鎮静が見られ、群IIの4名の患者(17%)にだけミダゾラム(0.22±0.26mg/kg)で救出鎮静が与えらた。群Iの2名(17%)の患者、及び群IIの11名(46%)の患者にフェンタニルで救出鎮痛が与えられた。さらに群IIの4名(21%)の患者は救出モルヒネを受けた。群I、レベル1及び2では、それぞれデクスメデトミジンクリアランス(CLw)が0.41及び0.29L/時間/kgであり、最大血漿中濃度(Cmax)が102及び107pg/mLであり、分布容積(Vssw)が2.7及び3.8L/kgであり、消失t1/2が3及び8時間であった。群2、レベル1、2及び3では、それぞれCLwが0.61、0.64及び0.73L/時間/kgであり、Cmaxが78、122、325pg/mLであり、Vsswが1.4、2.8及び2L/kgであり、t1/2が3、5及び3時間であった。群Iでは群IIより4.5倍長い総曝露(AUC)と共に低いCLwが観察された。観察された安全性プロファイルは重病の高リスク小児患者集団及び術後外科患者の典型であった。群Iの8名(67%)の患者及び群IIの15名(62%)の患者で有害事象が報告されたが、2名(8%)の患者でのみこれらの有害事象がデクスメデトミジンに関係があると判断された。いずれの患者もデクスメデトミジンに関係がある重篤な有害事象又はデクスメデトミジンの中断が必要な有害事象を持たなかった。
この研究の全体的な効力についての結論は、追加コホートによる更新の影響を受けなかった。デクスメデトミジンは、追加コホート及び当初の30名の患者集団において重病の最初に挿管され、人工呼吸器を装着された、≧28~<36週の早産児を鎮静する際に有効であった。齢群I、用量レベル1又は2の当初の30名の患者集団又は追加コホートの対象は、デクスメデトミジン注入中に鎮静用の救出ミダゾラムを受けなかった。当初の30名の患者集団では、この試験で用いた0.2μg/kg/時間までの用量で、デクスメデトミジンは満期新生児を鎮静する際に有効であった。齢群IIでは、全部で4名の対象(16.7%)がデクスメデトミジン注入中に鎮静用の救出ミダゾラム(平均用量0.22mg/kg)を受けた。
追加コホート及び暫定解析データの齢群Iのほとんどの早期新生児はデクスメデトミジン注入中に疼痛のための救出追加薬を必要としなかった。齢群Iの各用量レベルの1名の対象(16.7%)は研究注入中に鎮痛用の救出薬を受けた。対照的に、暫定解析において、齢群IIの満期新生児の多く(58.3%)が研究注入中に鎮痛用の救出薬を受けた。齢群II、特に用量レベル3の鎮痛要求増加は、おそらく術後外科対象の比率が高いことを反映している。
追加コホート及び暫定解析データの対象は、総N-PASSスコア>3で短時間を費やしており、ほとんどの対象が十分に鎮静され、疼痛/興奮の徴候が現れていないことを示している。
早期新生児の追加コホートでは、暫定解析の満期新生児に比べて低いクリアランス、高い濃度、及び大きい効力が観察され、これは暫定解析の他の早期新生児コホートで観察されたことと一致した。
齢群I、用量レベル2の追加コホートの対象は、暫定解析の齢群I、用量レベル1に比べて低い総維持量及びデクスメデトミジン曝露持続時間の中央値を有した。この追加コホートの対象は、同用量レベルの齢群IIに比べても低い総維持量中央値を有したが、デクスメデトミジン曝露持続時間は同様であった。」
「【0044】
実施例2:小児集中治療室対象のデクスメデトミジン研究
小児集中治療室環境で最初に挿管され、人工呼吸器を装着された小児対象についてデクスメデトミジンの175名の対象のランダム化二重盲検用量制御多施設研究を行なった。本研究は4つの異なる用量レベルのデクスメデトミジンの効力、薬物動態、及び安全性を検討した。対象は1カ月~17歳未満の齢であった。早産で生まれた新生児については、在胎期間に基づいて実際の出生齢の3カ月まで齢を補正した。…
【0045】
表10. デクスメデトミジンの用量
[図:0001414615000020.jpg]
…
【0063】
…
本研究は、デクスメデトミジンがCPBによる主要心臓手術及び非心臓手術後の重病の最初に挿管された乳児及び子供を鎮静する際に臨床的に有効であったことを実証する。齢と無関係に、有意でない(p=0.2751)用量反応効果が観察され、高用量デクスメデトミジン群では低用量デクスメデトミジン群(44.6%)より多くの対象(54.3%)が、目標とする鎮静を維持するために救出ミダゾラムを必要としなかった。高用量デクスメデトミジンは心臓手術対象(s/p CPB)に最も有効であり、低用量デクスメデトミジンより高用量デクスメデトミジンを受けた両齢群の多くの対象がミダゾラム鎮静救出を必要としなかった(p=0.0974、差異=22.73%)。高用量のデクスメデトミジンを受けた全ての齢群及び診断群は、低用量デクスメデトミジン群の85.5~99.0%の時間に比べて87.8~99.2%の時間、目標UMSS範囲(1~3)内にあった;差異は統計的に有意でなかった。」
「【0064】
実施例3:小児患者におけるデクスメデトミジンの薬物動態
本研究は、小児対象に静脈内(IV)負荷量後に持続IV注入として投与されるデクスメデトミジンの薬物動態及び薬力学的プロファイルを特徴づける。
集中治療環境下で鎮静を必要とし、かつ最短6時間を要するが、24時間の持続IV鎮静を超えないと予測された最初に挿管され、人工呼吸器を装着された小児対象についてデクスメデトミジンの56対象非盲検多施設漸増用量研究を行なった。本研究は、デクスメデトミジンの薬物動態及び薬力学を調査した。対象は少なくとも2歳かつ17歳未満であった。
対象を2つの齢群に分けた。群Iは少なくとも2歳かつ6歳未満の子供から成り、群IIは少なくとも6歳かつ17歳未満の子供から成った。各群内には4つの漸増用量レベルがあった(表17)。…
【0065】
表17. 研究デザイン
[図:0001414615000021.jpg]
…
【0067】
…
10分間の負荷量注入及び直後の最小6時間~最大24時間の持続固定維持量を含む2段階IV注入として、4つの漸増用量レベルでデクスメデトミジンを投与した。各用量増加は以前の用量の耐容性によって決まった。対象がデクスメデトミジン維持注入を完了した後、注入後手順を開始し、24時間継続した。
一次評価は用量レベル別の各齢群のデクスメデトミジン薬物動態パラメータの推定であり、これにはAUC(血漿中濃度-時間曲線下面積)、Cmax(観測最大血漿中濃度)、Css(定常状態濃度)、CL(血漿クリアランス)、Vss(定常状態分布容積)及びt1/2(終末半減期)が含まれた。
安全性モニタリングには、治療下で発現した有害事象(TEAE)(重症度、研究薬との関連性)、生命徴候、臨床検査結果及び心電図(ECG)及び理学的検査所見が含まれた。
全ての他の鎮静薬及び鎮痛薬の中止後にデクスメデトミジン注入を開始し、対象は2、3、又は4のラムゼイ鎮静スケール(RSS)に達した。RSSは、麻酔深度を数値化するのに用いられる臨床誘導スケールであり、1カ月~18歳の齢の範囲の子供に使用されている。RSSを下表19に示す。研究薬投与中に鎮静(RSS)及び鎮痛(顔、脚、活動、泣き声、及び機嫌(Face, Legs, Activity, Cry, and Consolability)[FLACC])スケールの結果に基づいて鎮静及び鎮痛の必要に応じてそれぞれ救出薬(ミダゾラム又はフェンタニル)を投与した。デクスメデトミジン注入の中断後は、標準治療によってさらなる鎮静及び鎮痛を与えた。
【0068】
表19. ラムゼイ鎮静スケール
[図:0001414615000022.jpg]
【0069】
まずRSS、次にRSSの完了直後にリッチモンド興奮・鎮静スケール(Richmond Agitation Sedation Scale)(RASS)を用いて鎮静レベルを評価した。RASSはICU環境下で成人の麻酔深度を数値化するために使用かつ検証されていたが、乳幼児及び子供では検証されていなかった。この研究でRASSを使用する目的は、2歳~17歳未満の子供のRASSの適合性を評価することであった。RASSスケールを下表20に示す。
【0070】
表20. リッチモンド興奮・鎮静スケール(RASS)
[図:0001414615000023.jpg]
【0071】
RSS及びRASSスコア並びに臨床判断に基づいて、対象が完全に鎮静されない場合はIVミダゾラムで追加の救出鎮静を施した。6カ月~5歳の対象では、ミダゾラム用量は0.05~0.1mg/kgであった。6~12歳の対象では、ミダゾラム用量は0.025~0.05mg/kgであった。12歳を超える対象には1mg/kgのミダゾラムを投与した。
…
【0075】
モデル非依存的方法を利用して薬物動態の解析を行った。主要評価は完全評価可能集団についてのデクスメデトミジン薬物動態の評価であった。本明細書では、「完全評価可能集団」は、少なくとも5時間のデクスメデトミジン注入を受けた小児対象を意味する。本明細書では、用語「安全性集団」は、いずれかの量のデクスメデトミジンを受けた小児対象を意味する。
…
さらに、鎮静のための最初の救出薬までの時間及び良好な抜管までの時間をカプラン・マイヤー(Kaplan-Meier)法で評価した。良好な抜管について治療群比較並びに/或いはデクスメデトミジンのみを受けた対象及びデクスメデトミジンとミダゾラム又はフェンタニルの併用投与を受けた対象をログランク(log-rank)及びウィルコクソン(Wilcoxon)検定で評価した。
…
【0080】
表25に示すように、完全評価可能集団における鎮静及び鎮痛のための最初の救出薬までの時間は、用量レベル2及び3治療群(2.2及び2.5時間)では、同様の時間間隔で用量レベルを増やすにつれて最初の救出薬までの時間中央値がより長いが、用量レベル1治療群では最初の救出薬までの時間が短かく(1.0時間)、用量レベル4治療群では長い(7.8時間)ことを反映する傾向を実証した。表26に示すように、この傾向は統計的に有意でなかった(P=0.2391ログランク(Log-Rank))。効果が単調的でないこと以外は、匹敵する傾向が安全性集団で観察された。用量レベル2治療群では救出薬までの時間(2.5時間)は用量レベル3治療群(2.4時間)よりわずかに長かった。
【0081】
表25. 鎮静及び鎮痛用の救出薬の初回投与までの時間(時間)の要約
[図:0001414615000024.jpg]
略語:CD=持続量;DEX=デクスメデトミジン;LD=負荷量;MAX=最大;ミダゾラム=ミダゾラム;Min=最小
注記:用量レベル1-Dex LD=0.25/CD=0.2μg/kg/時間
用量レベル2-Dex LD=0.50/CD=0.4μg/kg/時間
用量レベル3-Dex LD=1.00/CD=0.7μg/kg/時間
用量レベル4-Dex LD=1.00/CD=2.00μg/kg/時間
a 各用量レベル内で、挿管されながら治療期間中に鎮静のためにいずれかの量の救出薬を用いたか否かに関わらず対象の総数に基づいて記述統計値を計算した。
b 指定検定のProc NPAR1WAYから得たP値。
c 治療群間の差異についてのログランク及びウィルコクソン検定から得たP値(層用量レベルでPROC LIFETESTを用いて)。
d CI 下限のみ。上限なし
【0082】
…
【0085】
デクスメデトミジンの負荷量及び維持注入量の要約統計を下表27Aに示す。
表27A. 用量関連データの要約統計
[図:0001414615000025.jpg]
…
【0090】
齢に関する血漿クリアランス、齢に関する体重及び体重調整クリアランスをそれぞれ図2~4に示す。2歳患者の体重調整クリアランスは約1L/時間/kgであり、成人で観察される近似値になるまで加齢に伴って減少した(0.6L/kg/時間)。
薬物動態解析は、用量レベル1、2、3、及び4治療群とAUC及びCmaxとの間の用量比例性及び直線関係を実証した。冪乗適合モデルを用いて生成したAUC0-∞、AUC0-t、Cmax、及びCssの予測平均曲線をそれぞれ図6~9に示す。用量が増えるにつれて、比例してAUC及びCmaxは増加した(図1及び表29)。
デクスメデトミジンのAUC0-∞及びAUC0-tは、用量レベル1、2、3、及び4治療群間で正の直線性を呈した。デクスメデトミジンのCmaxは、用量レベル1、2、及び3治療群間で正の直線性を呈し、用量レベル4治療群ではわずかな減少を示した。…
…
【0094】
…
用量レベル4治療群のCPB術を受けた対象で観察されたわずかに高いSBPを除き、研究したデクスメデトミジンの4つの用量レベルはこの研究で一般的に耐容性良好であり、デクスメデトミジンの安全性プロファイルでは用量レベル間で臨床的に意味のある差異は観察されなかった。」
「【0096】
実施例4:出生前カニクイザル脳内におけるデクスメデトミジンの作用
妊娠中のサルにデクスメデトミジンを投与することによって出生前カニクイザル脳内におけるデクスメデトミジンの神経アポトーシス作用の可能性を決定するために本研究を行なった。この研究の全体的な目的は、イソフルラン又はケタミンとは異なる作用機序を有する麻酔薬であるデクスメデトミジンが出生前カニクイザル脳内で神経アポトーシスを引き起こさないことを実証することであった。…
【0100】
…デクスメデトミジンを受けた動物では、3μg/kg×10分+3μg/kg/時間又は30μg/kg×30分+3μg/kg/時間のどちらかの後に神経アポトーシスは存在しないか又は最小であった。病変は、低用量動物で重症度が低く、用量反応を暗示しており、重症度はケタミン治療動物より明らかにずっと低かった。これらの所見は、デクスメデトミジンが有意な神経アポトーシスを伴わないことを示唆している。特に、これらの所見はデクスメデトミジンが低用量では有意な神経アポトーシスを伴わないことを示唆している。」
「【0101】
実施例5:1ヶ月~24カ月の齢の小児患者におけるデクスメデトミジンの薬物動態
本研究は、静脈内(IV)負荷量後に持続IV注入として小児対象に投与されるデクスメデトミジンの薬物動態及び薬力学的プロファイルを特徴づける。…
…
【0103】
表35:患者間の用量漸増
[図:0001414615000026.jpg]
」
「【0132】
実施例6:小児患者のデクスメデトミジンの統合薬物動態データ
実施例1の研究、実施例3の研究、及び実施例5の研究の薬物動態データを統合した。」
「【0172】
実施例7:12ヶ月~24カ月の齢の小児患者におけるデクスメデトミジンの薬物動態
12ヶ月~<24カ月の齢の対象についてデクスメデトミジンの5対象ランダム化非盲検単一施設研究を行なった。研究の母集団は、最小6時間、24時間未満集中治療環境内で鎮静を必要とした、最初に挿管され人工呼吸器を装着された小児対象から成った。
対象を2つの用量レベルの1つにランダム化した:用量レベル1は0.7μg/kgの負荷量直後の0.5μg/kg/時間の維持注入から成り;用量レベル2は1μg/kgの負荷量直後の0.75μg/kg/時間の維持注入から成った。…
用量レベルの概要を下表54に示す。
【0173】
表54. 用量レベル
[図:0001414615000027.jpg]
…
【0188】
…
デクスメデトミジンは両用量レベルで安全かつ良好な耐容性を示した。この試験で用いたデクスメデトミジンの維持注入量、0.5μg/kg/時間(用量レベル1)及び0.75μg/kg/時間(用量レベル2)は、対象を鎮静して快適な状態を保つ際に適度に有効であった。」
「【0189】
実施例8:小児患者におけるデクスメデトミジンの統合薬物動態データ
実施例6で述べたように、小児対象におけるデクスメデトミジン母集団薬物動態評価を完了した。実施例6は、実施例1、3及び5で述べた集団を混ぜ合わせる。各研究に登録された齢は、1カ月~<24カ月(実施例5)、2年~<17年(実施例3)及び≧28週間の在胎期間~<1カ月(実施例1)であった。
この研究では、実施例6で述べたモデリングに追加の11名の対象を含めた。追加の対象には、実施例1の追加コホートの第2用量レベル(0.1μg/kgの負荷量/0.1μg/kg/時間の維持量)で治療した≧28週間の在胎期間~<36週間の在胎期間の6名の新生児対象;並びに実施例7で述べたように、12カ月~<24カ月の齢群の5名の対象を含めた。実施例6で上述したようにモデルパラメータを決定した。…Linuxオペレーティングシステムを備えたIntelクラスターで非線形混合効果モデリング(NONMEM(登録商標))コンピュータプログラム、バージョン6.0、レベル2.0を用いて母集団薬物動態モデリングを行なった。
…
【0200】
…
当初の解析と、追加の11名の対象を含めた更新解析とからの薬物動態モデルパラメータにはほとんど差異はなかった。最終モデルは、28週間GA~<17年の小児対象におけるデクスメデトミジンの薬物動態を完全に特徴づける。両解析からの全ての齢群についての結果は、95%信頼区間が点推定値の60%~140%内に完全に含まれることを示す。」
(2)特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できる範囲のものであるか否か、また、発明の詳細な説明に記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
以下、この観点に立って、本件特許の特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かについて検討する。
(3)訂正発明1及び3の課題について
本件明細書には、小児集中治療室内での鎮静及び鎮痛状態をもたらすために薬剤を使用すると、例えば、プロポフォールを使用すると重篤な生命を危うくする代謝変調を引き起こす等の事象があったことから、小児患者の安全かつ有効な鎮静及び鎮痛において未だ対処されていない相当な要求があり、デクスメデトミジンが、集中治療環境における成人患者の鎮静のためにFDAによって許可されていたこと(【0002】)、及び、「本発明」は、鎮静又は鎮痛が必要な小児患者の鎮静又は鎮痛方法において、患者にデクスメデトミジンを投与することを含む方法であって、神経損傷の発生率を低減するのに有効な量でデクスメデトミジンを投与する方法に関するものであること(【0003】)が記載されている。
上記記載に加え、請求項1及び請求項3の記載を考慮すると、訂正発明1及び3の課題は、「集中治療環境で、人工呼吸器が装着された、在胎期間が36週以上44週未満の範囲である約17歳以下の小児患者(訂正発明3においては新生児)における鎮静のために、安全かつ有効な量でデクスメデトミジンを投与する医薬組成物を提供すること」であると認められる。
(4)訂正発明1のサポート要件についての判断
ア 訂正発明1は、集中治療環境で、人工呼吸器が装着された、在胎期間が36週以上44週未満の範囲である約17歳以下の小児患者に、「デクスメデトミジンを単独で0.2μg/kg/時間の濃度で投与し、前記デクスメデトミジンの投与前に初回負荷量をさらに含み、前記負荷量が0.2μg/kgであり、」「前記デクスメデトミジンを約36時間未満の時間にわたって持続注入として投与する」、鎮静のための医薬組成物である。
初回負荷量もデクスメデトミジンを投与することは明らかであるから、上記の投与を時系列に記載しなおすと、デクスメデトミジンの初回負荷量0.2μg/kgを投与し、その後、デクスメデトミジンを単独で0.2μg/kg/時間の濃度で、約36時間未満の時間にわたって持続注入として投与することとなる。
そして、訂正発明1の小児患者は、新生児(生後28日間(乙2))、1歳未満の乳児、1歳以上約17歳以下の小児が含まれることから、訂正発明1が当該発明の課題を解決できるというためには、本件出願時の技術常識に照らし、本件明細書の発明の詳細な説明の記載により、集中治療環境で、人工呼吸器が装着された、在胎期間が36週以上44週未満の範囲である、新生児、1歳未満の乳児及び1歳以上約17歳以下の小児のいずれに対しても、デクスメデトミジンの初回負荷量0.2μg/kgを投与し、その後、デクスメデトミジンを単独で0.2μg/kg/時間の濃度で、約36時間未満の時間にわたって持続注入として投与することで、安全に鎮静を行うことができることを当業者が認識できることが必要である。
イ 本件明細書において、患者にデクスメデトミジンを投与した結果が示された実施例1~3、5、7における患者の年齢と投与方法の概要は、以下に示すものであり、いずれの実施例も、集中治療環境下で人工呼吸器の装着を必要とした患者を対象とし、負荷量を10分又は20分、維持量を24時間未満の時間で投与したものである。
実施例1:早期新生児(齢群I)又は満期新生児(齢群II)
(当初の30名及び追加コホート6名)
用量レベル1 負荷量 0.05μg/kg 維持量 0.05μg/kg/時間
用量レベル2 負荷量 0.1μg/kg 維持量 0.1μg/kg/時間
用量レベル3 負荷量 0.2μg/kg 維持量 0.2μg/kg/時間
※用量レベル3は齢群IIの6名。
実施例2:1か月~24か月未満(群1)又は24か月~17歳未満(群2)
(計175名)
低用量 負荷量0.2μg/kg 維持量0.025~0.5μg/kg/時間
負荷量0.3μg/kg 維持量0.05~0.5μg/kg/時間
高用量 負荷量0.5μg/kg 維持量0.1~0.7μg/kg/時間
負荷量0.6μg/kg 維持量0.2~1.4μg/kg/時間
実施例3:2歳以上6歳未満(齢群I)又は6歳以上17歳未満(齢群II)
(計56名)
用量レベル1 負荷量0.25μg/kg 維持量0.2μg/kg/時間
用量レベル2 負荷量0.50μg/kg 維持量0.4μg/kg/時間
用量レベル3 負荷量1.00μg/kg 維持量0.7μg/kg/時間
用量レベル4 負荷量1.00μg/kg 維持量2.0μg/kg/時間
実施例5::1か月~24か月(計12名)
用量レベル1 負荷量0.35μg/kg 維持量0.25μg/kg/時間
用量レベル2 負荷量0.7 μg/kg 維持量0.5 μg/kg/時間
用量レベル3 負荷量1.0 μg/kg 維持量0.75μg/kg/時間
実施例7:12か月~24か月未満(計5名)
用量レベル1 負荷量0.7μg/kg 維持量0.5μg/kg/時間
用量レベル2 負荷量 1 μg/kg 維持量0.75μg/kg/時間
なお、実施例4は、出生前カニクイザル脳内におけるデクスメデトミジンの作用を検討したものであり、実施例6及び8は、実施例1、3、5の薬物動態データを統合したものであるから、上記には掲載しなかった。
ウ(ア)そこで、訂正発明1と同じ「負荷量 0.2μg/kg、維持量 0.2μg/kg/時間」を投与している実施例1(用量レベル3)についてみると、齢群IIの満期新生児(在胎期間36週以上44週未満)8名に対しては、用量レベル3である、負荷量0.2μg/kgを10分又は20分かけて投与し、維持量0.2μg/kg/時間を961.5分(中央値)かけて投与したことが記載されている(【0024】最終段落、【0025】表2の齢群IIの用量レベル3の総負荷量の持続時間、【0026】表3の齢群IIの用量レベル3の総維持量の持続時間、【0031】表5Aの負荷注入持続時間の最右欄)。
さらに、実施例1の患者全体については、必要に応じて鎮静(ミダゾラム)及び疼痛(フェンタニル又はモルヒネ)のために救出薬を投与し、デクスメデトミジンの効力を、新生児の疼痛、興奮及び鎮静スケール(N-PASS)を用いて評価したところ、「追加コホートを含めた両齢群及び全ての用量で安全かつ耐容性良好」であり(【0039】の2段落目)、齢群IIの満期新生児(24名)は、4名の対象(16.7%)が鎮静用の救出ミダゾラムを必要とし、14名の対象(58.3%)が鎮痛用の救出薬を必要としたものの、「追加コホート及び当初の30名の患者集団の対象は、総N-PASSスコア>3で短時間を費やしており、ほとんどの対象が十分に鎮静され、疼痛/興奮の徴候が現れていないことを示している」ことが記載されている(【0039】の5段落目)。
そうすると、実施例1には、満期新生児(在胎期間36週以上44週未満)に対して、デクスメデトミジンを、負荷量0.2μg/kgを10分又は20分かけて投与した後に、維持量0.2μg/kg/時間の濃度で24時間未満の時間にわたって投与した場合に、安全に鎮静が達成できたことが記載されている。
(イ)次に、実施例1と同じ「維持量0.2μg/kg/時間」を投与しているものの、実施例1より若干多い「負荷量0.25μg/kg」を投与している実施例3(用量レベル1:【0065】表17)についてみると、2歳以上6歳未満(齢群I)又は6歳以上17歳未満(齢群II)に対し、負荷量0.25μg/kgを10分かけて投与し、維持量0.2μg/kg/時間を6.000時間(中央値;【0085】表27A)かけて投与している。また、実施例3の患者全体については、鎮静(ラムゼイ鎮静スケールRSS及びリッチモンド興奮・鎮静スケールRASS)及び鎮痛(疼痛スケールFLACC)の結果に基づいて必要に応じて救出薬(ミダゾラム又はフェンタニル)を投与し、鎮静のための最初の救出薬までの時間及び良好な抜管までの時間などの、デクスメデトミジンの薬物動態を評価したところ(【0067】【0069】【0071】【0075】)、用量レベル4における特定の場合以外は、「研究したデクスメデトミジンの4つの用量レベルはこの研究で一般的に耐容性良好」(【0094】)であったことが記載されている。
そうすると、実施例3には、2歳以上17歳未満の小児に対して、デクスメデトミジンを、負荷量0.25μg/kgを10分かけて投与した後に、維持量0.2μg/kg/時間の濃度で24時間未満の時間にわたって投与した場合に、安全に鎮静が達成できたことが記載されている。
(ウ)満期新生児についての実施例1と、2歳以上17歳未満の小児についての実施例3とは、維持量が同じで負荷量も近似した数値であることを考慮すると、実施例1の負荷量0.2μg/kgと維持量0.2μg/kg/時間を用いた場合には、実施例1の新生児だけでなく、実施例3の2歳以上17歳未満の小児においても、24時間未満を含む「36時間未満」の時間にわたってデクスメデトミジンを持続注入して投与して、安全に鎮静が達成できることを当業者であれば認識できる。
また、実施例1及び3においては、上記の維持量0.2μg/kg/時間は、デクスメデトミジンを他の薬剤と併用しつつ持続投与しているわけではないから、デクスメデトミジンを単独で0.2μg/kg/時間の濃度で投与したものといえる。
(エ)さらに、本件明細書には、負荷量を「約1~約60分にわたって投与する」ことが記載され(【0017】)、実施例1及び3における10分又は20分を含む数値範囲が記載されているところ、本件出願時、負荷投与とは、例えば、「初期負荷投与を行うことで,血中濃度は速やかに集中治療領域で必要と考えられる0.7ng/mLに到達する」(摘記甲18ウ)と記載されているように、薬剤の血中濃度を速やかに治療に必要な濃度とするために行うものであることは技術常識であるから、デクスメデトミジンの負荷量0.2μg/kgを投与する時間は、患者の状態に応じて、血中濃度を治療に必要な濃度となるように、当業者が選択し得るものと解される。
そうすると、負荷量0.2μg/kgを投与する時間が、実施例1及び3における10分又は20分であることが特定されていることが、安全に鎮静を達成するために必須の事項であるとまではいえない。
(オ)したがって、本件出願時の技術常識に照らし、本件明細書の発明の詳細な説明の記載から、集中治療環境で、人工呼吸器が装着された、在胎期間36週間以上44週間未満の、新生児を含む約17歳以下の小児に対して、デクスメデトミジンを、初回負荷量0.2μg/kgを投与し、その後、デクスメデトミジンを単独で維持量0.2μg/kg/時間の濃度で36時間未満の時間にわたって持続注入として投与し、訂正発明1の構成とすることで、安全に鎮静を行うことができることを当業者が認識できる。
エ 以上によれば、本件出願時の技術常識に照らし、本件明細書の発明の詳細な説明の記載により、訂正発明1は、当業者が当該発明の課題を解決できることを認識できる範囲内のものである。
(5)訂正発明3のサポート要件についての判断
訂正発明1における小児患者を「新生児」に特定した訂正発明3についても、上記(4)に説示した訂正発明1と同様の理由により、本件出願時の技術常識に照らし、本件明細書の発明の詳細な説明の記載により、訂正発明3は、当業者が当該発明の課題を解決できることを認識できる範囲内のものである。
(6)請求人及び参加人の主張について
ア 請求人は、審判請求書において、訂正前の請求項1に係る発明について、負荷投与を構成要件として含まないこと、及び、約0.005~約0.25μg/kg/時間という広い数値範囲で投与量が特定されていることを理由として、サポート要件を満たさず、訂正前の請求項1を引用する請求項3に係る発明についても同様である旨を主張しているものの、初回負荷量を構成要件として含み、かつ、投与量が初回負荷量0.2μg/kg、持続注入が0.2μg/kg/時間の濃度であると特定された、訂正後の訂正発明1及び3については、弁駁書を提出しておらず、改めてサポート要件違反についての主張はしていない。
そして、訂正発明1及び3は、初回負荷量を構成要件として含み、かつ、投与量が、初回負荷量0.2μg/kg、持続注入0.2μg/kg/時間の濃度と特定されている以上、審判請求書において請求人が主張するサポート要件違反の無効理由3は採用できないものであることは明らかである。
イ 参加人は、弁駁書において、訂正発明1及び3の用量でデクスメデトミジンを投与した試験においては、初回負荷量は10分又は20分にわたり投与されているのみであり、その他の投与時間にわたって0.2μg/kgの初回負荷量を投与した後に0.2μg/kg/時間の濃度で投与した場合の結果は開示されておらず、また、甲18に記載されるように、初回負荷量の投与時間によって血中濃度の推移が異なり、薬剤の鎮静効果にも影響するという技術常識に照らしても、上記の10分又は20分と異なる投与時間にわたって当該負荷量を投与した場合のデクスメデトミジンの鎮静効果や安全性を推測することはできないから、訂正発明1及び3は、サポート要件を充足しないものである旨を主張する(17~28頁)。
しかしながら、参加人が主張するように、初回負荷量の投与時間によって血中濃度の推移が異なり、薬剤の鎮静効果にも影響するものではあるが、上記(4)ウ(エ)に説示したように、デクスメデトミジンの負荷量0.2μg/kgを投与する時間は、患者の状態に応じて、デクスメデトミジンの血中濃度が治療に必要な濃度となるように、当業者が選択し得るものと解されるから、訂正発明1及び3において、初回負荷量0.2μg/kgを投与する時間が特定されていないことをもって、訂正発明1及び3は、サポート要件を充足しないとはいえない。
したがって、参加人の上記主張は、採用できない。
ウ 参加人は、上記第3の2(5)に示したものと同様の理由により、訂正発明1及び3は、「鎮静用のための救出ミタゾラム及び鎮痛用救出薬」を使用する場合を含まないものであるところ、実施例1においては、これらの救出薬を使用しているから、訂正発明1及び3はサポート要件を満たさない旨を主張する。
しかしながら、第3の2(5)に説示したとおり、救出薬は、最初からデクスメデトミジンと組み合わせて使用することが意図されたものではなく、患者の状態に応じて、臨時に、救出のために用いられるものであるから、訂正発明1及び3において、救出薬の使用までも、排除しているとはいえない。
そして、本件明細書の実施例1では、齢群IIの満期新生児(24名)は、4名の対象(16.7%)が鎮静用の救出ミダゾラムを必要とし、14名の対象(58.3%)が鎮痛用の救出薬を必要としたものの、「追加コホート及び当初の30名の患者集団の対象は、総N-PASSスコア>3で短時間を費やしており、ほとんどの対象が十分に鎮静され、疼痛/興奮の徴候が現れていないことを示している」ことが記載されており(【0039】【0032】)、鎮静用の救出ミダゾラムと鎮痛用の救出薬を投与した齢群IIの満期新生児が重複していない場合が、いずれの救出薬も投与されていない齢群IIの満期新生児の最少人数となるので、計算すると、齢群IIの満期新生児6名(24-4-14=6)はいずれの救出薬も投与されていない最少人数となる。
この6名が、用量1~3のいずれを投与された満期新生児であるかは不明であるものの、用量3の「負荷量0.2μg/kg、維持量0.2μg/kg」は、用量1~3の中で最も用量が多くて鎮静作用が強く、救出薬は他の用量より必要ないと考えられるので、救出薬が投与されていない6名の患者の中には、「負荷量0.2μg/kg、維持量0.2μg/kg」を投与された患者も一定数存在すると理解できる。
そうすると、満期新生児(在胎期間36週以上44週未満)に対して、デクスメデトミジンを、負荷量0.2μg/kgに加え、維持量0.2μg/kg/時間の濃度で24時間未満の時間にわたって投与した場合に、救出薬を使用することなく、安全に鎮静が達成できた満期新生児が存在することを当業者が理解できる。
したがって、仮に、訂正発明1及び3に、救出薬を使用する場合は含まれないとしても、訂正発明1及び3では、鎮静が達成できず、サポート要件を満たしていないという参加人の主張は、採用できない。
(7)小括
以上によれば、訂正発明1及び3は、サポート要件を満たしており、無効理由3は理由がない。
3 無効理由1及び2(甲1を主引用例とする新規性及び進歩性欠如)について
以下において、無効理由1及び2(甲1を主引用例とする新規性及び進歩性欠如)をまとめて判断する。
(1)訂正発明1について
ア 対比
訂正発明1と上記1(1)イに説示した甲1発明とを対比する(対比・判断において訂正発明1の改行は省略する。以下同様。)。
甲1発明の「先天性の心疾患及び胸部疾患手術後の、集中治療室で、自発呼吸を行うか又は人工呼吸器をつけた、年齢8±1.1歳の小児患者(1歳未満の患者を含む)の鎮静及び鎮痛のための、デクスメデトミジンを含む、点滴液」は、訂正発明1の「小児患者における鎮静のための医薬組成物であって、前記医薬組成物がデクスメデトミジンを含み、前記医薬組成物が、鎮静が必要な、集中治療環境下で、」「小児患者の鎮静方法に用いられ、前記方法が、前記小児患者にデクスメデトミジンを投与することを含み、」「前記小児患者が約17歳以下」である「医薬組成物」に相当する。
また、甲1発明の「点滴時間は14.7±5.5時間(3~26時間の範囲)」は、訂正発明1の「約36時間未満の時間にわたって持続注入として投与する」に相当する。
そうすると、訂正発明1と甲1発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
<一致点>
「小児患者における鎮静のための医薬組成物であって、
前記医薬組成物がデクスメデトミジンを含み、
前記医薬組成物が、鎮静が必要な、集中治療環境下で、小児患者の鎮静方法に用いられ、
前記方法が、前記小児患者にデクスメデトミジンを投与することを含み、
前記小児患者が約17歳以下であり、
前記デクスメデトミジンを約36時間未満の時間にわたって持続注入として投与することを特徴とする、医薬組成物。」
<相違点1>
訂正発明1においては、「デクスメデトミジンを単独で0.2μg/kg/時間の濃度で投与し、前記デクスメデトミジンの投与前に初回負荷量をさらに含み、前記負荷量が0.2μg/kg」であり、負荷投与を行うものであるのに対し、甲1発明においては、「初回のデクスメデトミジンの点滴量は0.32±0.15μg/kg/時間(0.1~0.5μg/kg/時間の範囲)、その後は、0.3±0.05μg/kg/時間(0.1~0.75μg/kg/時間の範囲)であり、負荷投与は行わない」ものである点。
<相違点2>
訂正発明1においては、小児患者の「在胎期間が36週間以上44週間未満の範囲」であるのに対し、甲1発明においては、在胎期間は不明である点。
<相違点3>
訂正発明1においては、「人工呼吸器が装着された」小児患者であるのに対し、甲1発明においては、「自発呼吸を行うか又は人工呼吸器をつけた」小児患者である点。
イ 新規性について
相違点1についてみると、初回負荷量を含み、負荷投与を行う訂正発明1と、負荷投与を行わない甲1発明とは、実質的に相違しているから、その他の相違点について検討するまでもなく、訂正発明1は、甲1に記載された発明ではない。
ウ 進歩性について
まず、相違点1について検討する。
本件優先日当時、デクスメデトミジンを鎮静のために投与するに当たり、負荷投与を行う方法と負荷投与を行わない方法とは、それぞれ得られる作用が異なる方法として、当業者に理解されており、両方法によるデクスメデトミジンの鎮静効果は直ちには同一視できないことが技術常識であり、小児の個別の状態に応じて、副作用(急激な血圧変動等)や主作用(鎮静作用)の両方を考慮して、医療者が適切と判断した方法を採用していたものと認められる(上記1(3)イ)。
そして、初期負荷投与(初回負荷投与)に伴う、急激な血圧変動を予防するために、初期負荷投与時間を延長したり、初期負荷投与を行わない方法が提案されており(摘記甲18ウ)、この初期負荷投与を行わない方法によるものが甲1発明である。
そうすると、医療者が適切と判断し、負荷投与を行わずに鎮静することとした甲1発明において、敢えて初回負荷投与を行う動機付けがあるとはいえず、甲1発明において、「初回負荷量」を「0.2μg/kg」とすることを、当業者が容易に想到することができたとはいえない。
甲2~甲5の記載を考慮しても、同様である。
したがって、相違点1の初回負荷量(負荷投与)以外の観点(デクスメデトミジンの単独投与濃度)、及び、相違点2、3について検討するまでもなく、訂正発明1は、甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(2)訂正発明3について
ア 対比
訂正発明3は、訂正発明1において小児患者を「新生児」に特定した発明である。
上記(1)アを踏まえると、訂正発明3と甲1発明との一致点は上記(1)アに説示したものであり、両発明は、上記(1)アに説示した相違点1~3において相違し、さらに、次の相違点4において相違する。
<相違点4>
訂正発明3においては、小児患者が「新生児」であるのに対し、甲1発明においては、「年齢8±1.1歳の小児患者(1歳未満の患者を含む)」である点。
イ 新規性について
上記(1)イに説示したとおり、訂正発明3と甲1発明との相違点1は、実質的な相違点であるから、その他の相違点について検討するまでもなく、訂正発明3は、甲1に記載された発明ではない。
ウ 進歩性について
上記(1)ウに説示したものと同様の理由により、甲1発明において相違点1に係る訂正発明3の構成を備えるものとすることを、当業者が容易に想到することができたとはいえない。
甲2~甲5の記載、特に、甲4には、高頻度振動式人工呼吸を使用している生後9日、在胎期間24週の新生児(早産時)に対して、デクスメデトミジンを、0.5μg/kgの静脈負荷用量での10分間の投与に続き、0.25μg/kg/時間の維持投与を行ったところ、鎮静及び鎮痛に有効であったことが記載されていること(摘記甲4ア~甲4オ)を考慮しても、同様である。
したがって、相違点1の初回負荷量(負荷投与)以外の観点(デクスメデトミジンの単独投与濃度)、及び、相違点2~4について検討するまでもなく、訂正発明3は、甲1に記載された発明に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)請求人及び参加人の主張について
請求人は、審判請求書及び口頭審理陳述要領書において、本件訂正前の初回負荷量を含むことが特定されていない請求項1及び3に係る発明は、甲1に記載された発明であり、また、甲1に記載された発明、又は甲1に記載された発明に甲4に記載の公知技術を適用することにより、当業者が容易になし得た発明である旨を主張するが、初回負荷量を含む訂正発明1及び3については、弁駁書を提出しておらず、改めて新規性及び進歩性違反についての主張はしていない。
また、参加人は、弁駁書においては、無効理由1(新規性欠如)及び無効理由2(進歩性欠如)については、具体的な主張はしていない。
そして、上記(1)及び(2)において説示したとおり、請求人及び参加人の主張を検討しても、初回負荷量0.2μg/kgを含む訂正発明1及び3は、甲1に記載された発明に対して、新規性及び進歩性を有するものである。
(4)小括
以上によれば、訂正発明1及び3は、甲1に記載された発明ではないから、訂正発明1及び3についての特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものではない。
また、訂正発明1及び3は、甲1に記載された発明に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、訂正発明1及び3についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。
したがって、無効理由1(甲1を主引用例とする新規性欠如)及び無効理由2(甲1を主引用例とする進歩性欠如)は、理由がない。
4 無効理由1及び2(甲2を主引用例とする新規性及び進歩性欠如)について
以下において、無効理由1及び2(甲2を主引用例とする新規性及び進歩性欠如)をまとめて判断する。
(1)訂正発明1について
ア 対比
訂正発明1と上記1(2)イに説示した甲2発明とを対比する。
甲2発明の「中央値0.9歳(0.1~17.2歳の範囲)の小児の集中治療室(ICU)における鎮静のための、デクスメデトミジンを含む、点滴液」は、訂正発明1の「小児患者における鎮静のための医薬組成物であって、前記医薬組成物がデクスメデトミジンを含み、前記医薬組成物が、鎮静が必要な、集中治療環境で、」「小児患者の鎮静方法に用いられ、前記方法が、前記小児患者にデクスメデトミジンを投与することを含み、」「前記小児患者が約17歳以下」である「医薬組成物」に相当する。
また、甲2発明の「中央値12時間(3~24時間の範囲)にわたって持続的に投与する」は、訂正発明1の「約36時間未満の時間にわたって持続注入として投与する」に相当する。
そうすると、訂正発明1と甲2発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
<一致点>
「小児患者における鎮静のための医薬組成物であって、
前記医薬組成物がデクスメデトミジンを含み、
前記医薬組成物が、鎮静が必要な、集中治療環境で、小児患者の鎮静方法に用いられ、
前記方法が、前記小児患者にデクスメデトミジンを投与することを含み、
前記小児患者が約17歳以下であり、
前記デクスメデトミジンを約36時間未満の時間にわたって持続注入として投与することを特徴とする、医薬組成物。」
<相違点1’>
訂正発明1においては、「デクスメデトミジンを単独で0.2μg/kg/時間の濃度で投与し、前記デクスメデトミジンの投与前に初回負荷量をさらに含み、前記負荷量が0.2μg/kg」であるのに対し、甲2発明においては、「初回負荷量なしで、デクスメデトミジンを中央値0.5μg/kg/時間(0.2~2.5μg/kg/時間の範囲)の濃度」で投与するものである点。
<相違点2’>
訂正発明1においては、小児患者の「在胎期間が36週間以上44週間未満の範囲」であるのに対し、甲2発明においては、在胎期間は不明である点。
<相違点3’>
訂正発明1においては、「人工呼吸器が装着された」小児患者であるのに対し、甲2発明においては、「挿管又は未挿管の」小児である点。
イ 新規性について
相違点1’についてみると、初回負荷量を含む訂正発明1と、初回負荷量なしの甲2発明とは、実質的に相違しているから、その他の相違点について検討するまでもなく、訂正発明1は、甲2に記載された発明ではない。
ウ 進歩性について
まず、相違点1’について検討する。
甲1発明と同様に、初期負荷投与を行わない(初回負荷量なしの)方法によるもの(上記1(3)イ)が甲2発明である。
そうすると、医者が適切と判断し、初回負荷量なしで鎮静することとした甲2発明において、敢えて初回負荷投与を行う動機付けがあるとはいえず、甲2発明において、「初回負荷量」を「0.2μg/kg」とすることを、当業者が容易に想到することができたとはいえない。
甲1、甲3~甲5の記載を考慮しても同様である。
したがって、相違点1’の初回負荷量(負荷投与)以外の観点(デクスメデトミジンの単独投与濃度)、及び、相違点2’、3’について検討するまでもなく、訂正発明1は、甲2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(2)訂正発明3について
ア 対比
訂正発明3は、訂正発明1において小児患者を「新生児」に特定した発明である。
上記(1)アを踏まえると、訂正発明3と甲2発明との一致点は上記(1)アに説示したものであり、両発明は、上記(1)アに説示した相違点1’~3’において相違し、さらに、次の相違点4’において相違する。
<相違点4’>
訂正発明3においては、小児患者が「新生児」であるのに対し、甲2発明においては、「中央値0.9歳(0.1~17.2歳の範囲)」の小児である点。
イ 新規性について
上記(1)イに説示したとおり、訂正発明3と甲2発明との相違点1’は、実質的な相違点であるから、その他の相違点について検討するまでもなく、訂正発明3は、甲2に記載された発明ではない。
ウ 進歩性について
上記(1)ウに説示したとおり、甲2発明において、敢えて、初回負荷量を設定し、負荷投与を行う動機付けがあるとはいえず、甲2発明において、「初回負荷量」を「0.2μg/kg」とすることを、当業者が容易に想到することができたとはいえない。
甲1、甲3~5の記載、特に、甲4の記載(摘記甲4ア~甲4オ)を考慮しても、同様である。
したがって、初回負荷量以外の相違点1’、及び、相違点2’~4’について検討するまでもなく、訂正発明3は、甲2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3)請求人及び参加人の主張について
無効理由1(甲2を主引用例とする新規性欠如)及び無効理由2(甲2を主引用例とする進歩性欠如)についても、請求人及び参加人は、上記3(3)のとおり、訂正発明1及び3については、具体的な主張をしていない。
したがって、請求人及び参加人の主張を検討しても、上記(1)及び(2)において説示したとおり、初回負荷量0.2μg/kgを含む訂正発明1及び3は、甲2に記載された発明に対して、新規性及び進歩性を有するものである。
(4)小括
以上によれば、無効理由1(甲2を主引用例とする新規性欠如)及び無効理由2(甲2を主引用例とする進歩性欠如)は、理由がない。
第7 まとめ
以上のとおり、無効理由1(新規性欠如)、無効理由2(進歩性欠如)及び無効理由3(サポート要件違反)は、いずれも理由がなく、請求項1及び3に係る発明についての特許は、同法第123条第1項第2号又は第4号に該当せず、無効とすべきものではない。
請求項2及び4~30は、訂正により存在しないこととなったため、請求項2及び4~30に係る発明についての特許を無効とする請求は、不適法な請求であってその補正をすることができないものとなったから、特許法第135条の規定により却下する。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定において準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人及び参加人の負担とする。
よって、結論のとおり審決する。
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2022-800038