特許無効審判
2020-800025
イズロン酸-2-スルファターゼのCNS送達のための方法および組成物
- 審判番号
- 2020-800025
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 無効審判(無効の審決)
- 出願番号
- 特願2017-194348
- 登録番号
- 6522072
- 請求日
- 2020年03月06日
- 審決日
- 2021年11月05日
- 公報発行日
- 2023年08月25日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】グリーン クロス コーポレイション
- 【請求人代理人】山本 修
- 【請求人代理人】運 敬太
- 【請求人代理人】國枝 由紀子
- 【被請求人】シャイアー ヒューマン ジェネティック セラピーズ インコーポレイテッド
- 【被請求人代理人】高島 一
- 【被請求人代理人】鎌田 光宣
- 【被請求人代理人】當麻 博文
- 【被請求人代理人】戸崎 富哉
- 審判長/審判官
- 審判長 岡崎 美穂
- 審判官 齋藤 恵
- 審判官 森井 隆信
- 分類
- P1113.113-YAA(A61K) / P1113.121-YAA(A61K) / P1113.536-YAA(A61K) / P1113.537-YAA(A61K) / P1113.4 -YAA(A61K)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第134条の2第9項、特許法第134条の2第1項、特許法第29条、特許法第134条の2第3項、特許法第36条第6項第2号、特許法第36条第4項、特許法第36条第6項、特許法第29条第1項第3号、特許法第123条第1項第2号、特許法第29条第2項、特許法第39条第2項、特許法第169条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
上記当事者間の特許第6522072号発明「イズロン酸-2-スルファターゼのCNS送達のための方法および組成物」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。
結論
結 論
特許第6522072号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~12〕について訂正することを認める。
特許第6522072号の請求項1~12についての審判請求は成り立たない。
審判費用は請求人の負担とする。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本件の特許は、平成23年6月25日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2011年2月11日、2010年7月1日、2010年9月29日、2011年1月24日、2010年6月25日、2011年6月9日、2011年4月15日 いずれもアメリカ合衆国)を国際出願日とする特願2013-516845号の一部を、平成27年12月17日に新たな出願としたものである特願2015-246244号の一部を、平成29年10月4日に新たな出願としたものである特願2017-194348号について、令和1年5月10日に特許第6522072号として特許権の設定登録がされたものである(以下、「本件特許」という。)。令和2年3月6日に請求人グリーン クロス コーポレイションにより、本件特許の請求項1~12に記載された発明についての特許を無効とすることを求める無効審判が請求された。手続の経緯及び提出された書面は、概略、以下のとおりである。
令和2年 3月 6日 審判請求書、甲第1~11号証
令和2年 5月 1日付け 手続補正書(審判請求書)
令和2年10月 6日付け 答弁書、訂正請求書、乙第1~12号証
令和2年 1月13日付け 審理事項通知書
令和3年 3月 2日付け 口頭審理陳述要領書(請求人)、甲第12~21号証、口頭審理陳述要領書(被請求人)、乙第13~14号証
令和3年 3月29日付け 上申書(請求人)、甲第22号証
令和3年 3月29日 口頭審理
令和3年 4月 5日付け 上申書(請求人)
令和3年 4月27日付け 上申書(被請求人)、乙第15~25号証
令和3年 5月25日付け 上申書(請求人)、甲第23~24号証
第2 訂正請求について
1 訂正請求の趣旨及び訂正の内容
被請求人は、令和2年10月6日付け訂正請求書により、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~12について訂正することを求めた(以下、令和2年10月6日付け訂正請求及び訂正特許請求の範囲を、それぞれ「本件訂正」、「本件訂正特許請求の範囲」ともいう。)
本件訂正の内容は以下のとおりである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「前記安定製剤は、少なくとも5mg/mlの濃度のイズロン酸-2-スルファターゼ(I2S)タンパク質を含み、」とあるのを、「前記安定製剤は、5mg/ml~100mg/mlの濃度のイズロン酸-2-スルファターゼ(I2S)タンパク質を含み、」に訂正する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項3の(i)に「任意に:」とあるのを削除する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3の(iii)に「末梢標的組織への前記I2Sタンパク質の全身的送達をさらに生じさせ、任意に、前記末梢標的組織は、肝臓、腎臓および/または心臓から選択される、」とあるのを、「肝臓、腎臓および心臓から選択される末梢標的組織への前記I2Sタンパク質の全身的送達をさらに生じさせる、」に訂正する。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項3の(v)に「脳標的組織、脊髄ニューロンおよび/または末梢標的組織内のGAG蓄積を減少させ、任意に、前記GAG蓄積は、対照と比較して、少なくとも20%、40%、50%、60%、80%、90%、1倍、1.5倍、または2倍まで低減される、ならびに/または、」とあるのを、「脳標的組織、脊髄ニューロンおよび/または末梢標的組織内のGAG蓄積を減少させる、」に訂正する。
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項3の(vi)に「ニューロンの空胞化を減少させ、任意に、前記ニューロンがプルキンエ細胞を含む、」とあるのを、「ニューロンの空胞化を減少させる、」に訂正する。
(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項4に「I2S酵素活性の増加を生じさせ、任意に:
(i)前記I2S酵素活性が、対照と比較して、少なくとも1倍、2倍、3倍、4倍、5倍、6倍、7倍、8倍、9倍または10倍まで増加される、および/または、
(ii)前記I2S酵素活性の増加が、少なくとも10nmol/時・mg、20nmol/時・mg、40nmol/時・mg、50nmol/時・mg、60nmol/時・mg、70nmol/時・mg、80nmol/時・mg、90nmol/時・mg、100nmol/時・mg、150nmol/時・mg、200nmol/時・mg、250nmol/時・mg、300nmol/時・mg、350nmol/時・mg、400nmol/時・mg、450nmol/時・mg、500nmol/時・mg、550nmol/時・mgまたは600nmol/時・mgである、あるいは、
(iii)前記I2S酵素活性が、腰部で増加され、任意に、前記腰部において増加した前記I2S酵素活性は、少なくとも2000nmol/時・mg、3000nmol/時・mg、4000nmol/時・mg、5000nmol/時・mg、6000nmol/時・mg、7000nmol/時・mg、8000nmol/時・mg、9000nmol/時・mg、または10,000nmol/時・mgである、」とあるのを、「I2S酵素活性の増加を生じさせる、」に訂正する。
(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項5の(i)に「静脈内投与と併せて用いられ、任意に、前記静脈内投与は、1か月に1回以下の頻度であるか、または、2ヶ月に1回以下の頻度である、」とあるのを「静脈内投与と併せて用いられる、」に訂正する。
(8)訂正事項8
特許請求の範囲の請求項6に「10mg/ml以上の濃度のイズロン酸-2-スルファターゼ(I2S)タンパク質と、」とあるのを、「10mg/ml~100mg/mlの濃度のイズロン酸-2-スルファターゼ(I2S)タンパク質と、」に訂正する。
(9)訂正事項9
特許請求の範囲の請求項7に「30mg/ml、50mg/ml、100mg/ml、200mg/ml、250mg/ml、および300mg/mlから選択される濃度で、」とあるのを、「30mg/ml、50mg/ml、および100mg/mlから選択される濃度で、」に訂正する。
(10)訂正事項10
特許請求の範囲の請求項9に「前記塩がNaClであり、任意に、前記NaClは、0~300mMの範囲の濃度として、任意に、137~154mMの範囲の濃度で、任意に154mMの濃度で存在する、」とあるのを、「前記塩がNaClである、」に訂正する。
(11)訂正事項11
特許請求の範囲の請求項10に「前記ポリソルベート界面活性剤が、ポリソルベート20、ポリソルベート40、ポリソルベート60、ポリソルベート80およびこれらの組み合わせからなる群から選択され、任意に、前記ポリソルベート界面活性剤は、ポリソルベート20であり、かつ、0~0.02%の範囲の濃度で、任意に、0.005%の濃度で存在する、」とあるのを、「ポリソルベート20である、」に訂正する。
(12)訂正事項12
特許請求の範囲の請求項11に「(i)前記製剤が液体製剤である、または
(ii)前記製剤が凍結乾燥粉末として製剤化される、」とあるのを、「前記製剤が液体製剤である、」に訂正する。
(13)訂正事項13
特許請求の範囲の請求項12に「請求項1~11のいずれか一項に記載の安定製剤の単回投与形態を含む容器であって、任意に:
(i)前記容器が、アンプル、バイアル、カートリッジ、レザバー、lyo-ject、または前充填した注射器から選択され、任意に、前記容器は、前充填された注射器であり、かつ、ベイクドシリコーン被覆膜を有するホウケイ酸ガラス注射器、噴霧されたシリコーンを有するホウケイ酸ガラス注射器、またはシリコーンを含有しないプラスチック樹脂注射器から任意に選択される、あるいは
(ii)前記安定製剤が、5.0mL未満の容量、任意に、3.0mL未満の容量で存在する、
容器。」とあるのを、「請求項1~11のいずれか一項に記載の安定製剤の単回投与形態を含む容器。」に訂正する。
2 訂正の適否
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的
訂正事項1は、特許請求の範囲の請求項7及び本件特許明細書の【0013】の「いくつかの実施形態では、I2Sタンパク質は、およそ1~300mg/mlの範囲の濃度(例えば、・・・1~100mg/ml、1~50mg/ml)で存在する。いくつかの実施形態では、I2Sタンパク質は、・・・5mg/ml、・・・100mg/ml、・・・または300mg/mlから選択される濃度でまたはその濃度までで存在する。」との記載に基づき、訂正前の請求項1に記載のイズロン酸-2-スルファターゼ(I2S)タンパク質の濃度を「少なくとも5mg/ml」から「5mg/ml~100mg/ml」に限定するものであるから、特許法第134条の2第1項ただし書き第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 新規事項について
前記アのとおり、訂正事項1は、本件特許明細書中の発明の詳細な説明及び特許請求の範囲に基づいて導き出される構成であるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものである。
ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないかどうかについての判断
前記アのとおり、訂正事項1は、訂正前の請求項1に記載のイズロン酸-2-スルファターゼ(I2S)タンパク質の濃度を、「少なくとも5mg/ml」から「5mg/ml~100mg/ml」に限定するものであり、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。
(2)訂正事項2について
ア 訂正の目的
訂正事項2は、訂正前の請求項3の(i)における「任意に:」との記載を削除することにより、特許請求の範囲を減縮するものであるから、特許法第134条の2第1項ただし書き第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである
イ 新規事項について
前記アのとおり、訂正事項2は、訂正前の請求項3の(i)の「任意に:」との記載を削除することにより、特許請求の範囲を減縮する訂正であるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものである。
ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないかどうかの判断について
前記アのとおり、訂正事項2は、訂正前の請求項3の(i)の「任意に:」との記載を削除することにより、特許請求の範囲を減縮する訂正であり、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。
(3)訂正事項3について
ア 訂正の目的
訂正事項3は、訂正前の請求項3の(iii)における「任意に、」との記載を削除することにより、特許請求の範囲を減縮する一方で、かかる訂正後の請求項に存在することとなる、「末梢標的組織への前記I2Sタンパク質の全身的送達をさらに生じさせ、前記末梢標的組織は、肝臓、腎臓および/または心臓から選択される、」との記載を「肝臓、腎臓および心臓から選択される末梢標的組織への前記I2Sタンパク質の全身的送達をさらに生じさせる、」と明瞭にする訂正であるから、特許法第134条の2第1項ただし書き第1号又は第3号に規定する特許請求の範囲の減縮又は明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
イ 新規事項について
前記アのとおり、訂正事項3は、訂正前の請求項3の(iii)における「任意に、」との記載を削除することにより、特許請求の範囲を減縮する一方で、請求項の記載を明瞭にする訂正であり、その内容は、【0024】に記載された事項に対応するものである。そうすると、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であるから、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものである。
ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないかどうかの判断について
前記アのとおり、訂正事項3は、特許請求の範囲を減縮する一方で、請求項の記載を明瞭にする訂正であり、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。
(4)訂正事項4について
ア 訂正の目的
訂正事項4は、訂正前の請求項3の(v)の「任意に、前記GAG蓄積は、対照と比較して、少なくとも20%、40%、50%、60%、80%、90%、1倍、1.5倍、または2倍まで低減される、」との任意付加的事項を削除する訂正であるから、特許法第134条の2第1項ただし書き第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 新規事項について
前記アのとおり、訂正事項4は、任意付加的事項を削除するもので、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものである。
ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないかどうかの判断について
上記アのとおり訂正事項4は、訂正前の請求項3の(v)の任意付加的事項を削除する訂正であり、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。
(5)訂正事項5について
ア 訂正の目的
訂正事項5は、訂正前の請求項3の(vi)の「任意に、前記ニューロンがプルキンエ細胞を含む、」との任意付加的事項を削除する訂正であるから、特許法第134条の2第1項ただし書き第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 新規事項について
前記アのとおり、訂正事項5は、任意付加的事項を削除するもので、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものである。
ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないかどうかの判断について
前記アのとおり、訂正事項5は、訂正前の請求項3の(vi)の任意付加的事項を削除する訂正であり、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。
(6)訂正事項6について
ア 訂正の目的
訂正事項6は、訂正前の請求項4の「任意に:
(i)前記I2S酵素活性が、対照と比較して、少なくとも1倍、2倍、3倍、4倍、5倍、6倍、7倍、8倍、9倍または10倍まで増加される、および/または、
(ii)前記I2S酵素活性の増加が、少なくとも10nmol/時・mg、20nmol/時・mg、40nmol/時・mg、50nmol/時・mg、60nmol/時・mg、70nmol/時・mg、80nmol/時・mg、90nmol/時・mg、100nmol/時・mg、150nmol/時・mg、200nmol/時・mg、250nmol/時・mg、300nmol/時・mg、350nmol/時・mg、400nmol/時・mg、450nmol/時・mg、500nmol/時・mg、550nmol/時・mgまたは600nmol/時・mgである、あるいは、
(iii)前記I2S酵素活性が、腰部で増加され、任意に、前記腰部において増加した前記I2S酵素活性は、少なくとも2000nmol/時・mg、3000nmol/時・mg、4000nmol/時・mg、5000nmol/時・mg、6000nmol/時・mg、7000nmol/時・mg、8000nmol/時・mg、9000nmol/時・mg、または10,000nmol/時・mgである、」との任意付加的事項を削除する訂正であるから、特許法第134条の2第1項ただし書き第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 新規事項について
前記アのとおり、訂正事項6は、任意付加的事項を削除するもので、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第134条の2第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。
ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないかどうかの判断について
前記アのとおり、訂正事項6は、訂正前の請求項4の任意付加的事項を削除する訂正であり、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。
(7)訂正事項7について
ア 訂正の目的
訂正事項7は、訂正前の請求項5の(i)の「任意に、前記静脈内投与は、1か月に1回以下の頻度であるか、または、2ヶ月に1回以下の頻度である、」との任意付加的事項を削除する訂正であるから、特許法第134条の2第1項ただし書き第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 新規事項について
前記アのとおり、訂正事項7は、任意付加的事項を削除する訂正で、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものである。
ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないかどうかの判断について
前記アのとおり、訂正事項7は、訂正前の請求項5の(i)の任意付加的事項を削除する訂正であり、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。
(8)訂正事項8について
ア 訂正の目的
訂正事項8は、特許請求の範囲の請求項7及び本件特許明細書の段落[0013]の「いくつかの実施形態では、I2Sタンパク質は、およそ1~300mg/mlの範囲の濃度(例えば、・・・(略)・・・1~100mg/ml、1~50mg/ml)で存在する。いくつかの実施形態では、I2Sタンパク質は、・・・(略)・・・10mg/ml、・・・(略)・・・100mg/ml、・・・(略)・・・または300mg/mlから選択される濃度でまたはその濃度までで存在する。」との記載に基づき、訂正前の請求項6に記載のイズロン酸-2-スルファターゼ(I2S)タンパク質の濃度を「10mg/ml以上」から「10mg/ml~100mg/ml」に限定するものであるから、特許法第134条の2第1項ただし書き第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 新規事項について
前記アのとおり、訂正事項8は、本件特許明細書中の発明の詳細な説明及び特許請求の範囲に基づいて導き出される構成であるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものである。
ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないかどうかの判断について
前記アのとおり、訂正事項8は、訂正前の請求項6に記載のイズロン酸-2-スルファターゼ(I2S)タンパク質の濃度を、「10mg/ml以上」から「10mg/ml~100mg/ml」に限定するものであり、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。
(9)訂正事項9について
ア 訂正の目的
訂正事項9は、上記訂正事項1及び訂正事項8に伴い、イズロン酸-2-スルファターゼの濃度の上限値を整合させるため、特許請求の範囲の請求項7に記載の「30mg/ml、50mg/ml、100mg/ml、200mg/ml、250mg/ml、および300mg/mlから選択される濃度」との択一的記載の要素の中から、「200mg/ml、250mg/ml、および300mg/ml」との一部の要素を削除し、「30mg/ml、50mg/ml、および100mg/mlから選択される濃度」とするものであるから、特許法第134条の2第1項ただし書き第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 新規事項について
前記アのとおり、訂正事項9は、訂正前の請求項7に記載の択一的記載の一部の要素を削除する訂正で、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものである。
ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないかどうかの判断について
前記アのとおり、訂正事項9は、訂正前の請求項7に記載の択一的記載の一部の要素を削除する訂正であり、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。
(10)訂正事項10について
ア 訂正の目的
訂正事項10は、訂正前の請求項9の「任意に、前記NaClは、0~300mMの範囲の濃度として、任意に、137~154mMの範囲の濃度で、任意に154mMの濃度で存在する、」との任意付加的事項を削除する訂正であるから、特許法第134条の2第1項ただし書き第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 新規事項について
前記アのとおり、訂正事項10は、訂正前の請求項9の任意付加的事項を削除する訂正で、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものである。
ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないかどうかの判断について
前記アのとおり、訂正事項10は、訂正前の請求項9の任意付加的事項を削除する訂正であり、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。
(11)訂正事項11について
ア 訂正の目的
訂正事項11は、訂正前の特許請求の範囲の請求項10に記載の「ポリソルベート20、ポリソルベート40、ポリソルベート60、ポリソルベート80およびこれらの組み合わせからなる群」との択一的記載の要素の中から、ポリソルベート20以外の要素を削除し、また、該請求項の「任意に、前記ポリソルベート界面活性剤は、ポリソルベート20であり、かつ、0~0.02%の範囲の濃度で、任意に、0.005%の濃度で存在する、」との任意付加的事項を削除する訂正であるから、特許法第134条の2第1項ただし書き第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 新規事項について
前記アのとおり、訂正事項11は、訂正前の請求項10に記載の択一的記載の一部の要素及び任意付加的事項を削除する訂正で、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものである。
ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないかどうかの判断について
前記アのとおり、訂正事項11は、訂正前の請求項10に記載の択一的記載の一部の要素及び任意付加的事項を削除する訂正であり、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。
(12)訂正事項12について
ア 訂正の目的
訂正事項12は、訂正前の特許請求の範囲の請求項11に記載の「(i)前記製剤が液体製剤である、または(ii)前記製剤が凍結乾燥粉末として製剤化される」との択一的記載の要素の中から、「(ii)前記製剤が凍結乾燥粉末として製剤化される」との要素を削除するものであるから、特許法第134条の2第1項ただし書き第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 新規事項について
前記アのとおり、訂正事項12は、訂正前の請求項11に記載の択一的記載の一部の要素を削除する訂正で、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものである。
ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないかどうかの判断について
前記アのとおり、訂正事項12は、訂正前の請求項11に記載の択一的記載の一部の要素を削除する訂正であり、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。
(13)訂正事項13について
ア 訂正の目的
訂正事項13は、訂正前の請求項12の「任意に:
(i)前記容器が、アンプル、バイアル、カートリッジ、レザバー、lyo-ject、または前充填した注射器から選択され、任意に、前記容器は、前充填された注射器であり、かつ、ベイクドシリコーン被覆膜を有するホウケイ酸ガラス注射器、噴霧されたシリコーンを有するホウケイ酸ガラス注射器、またはシリコーンを含有しないプラスチック樹脂注射器から任意に選択される、あるいは
(ii)前記安定製剤が、5.0mL未満の容量、任意に、3.0mL未満の容量で存在する、」との任意付加的事項を削除する訂正であるから、特許法第134条の2第1項ただし書き第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 新規事項について
前記アのとおり、訂正事項13は、訂正前の請求項12の任意付加的事項を削除する訂正で、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものである。
ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないかどうかの判断について
前記アのとおり、訂正事項13は、訂正前の請求項12の任意付加的事項を削除する訂正であり、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。
(14)一群の請求項について
請求項1~5、7、8、11及び12は、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。また、請求項6~12は、訂正事項8によって記載が訂正される請求項6に連動して訂正されるものである。
したがって、訂正前の請求項1~12に対応する訂正後の請求項1~12は、特許法第134条の2第3項に規定する一群の請求項である。
3 小括
以上のとおり、本件訂正は、適法なものであるから、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~12について訂正することを認める。
第3 本件特許の発明
上記のとおり、本件訂正が認められるから、本件特許の発明は、以下に示す本件訂正特許請求の範囲のとおりのものと認められる(以下、請求項の番号によって、訂正前の請求項を「請求項1」、本件訂正後の請求項を「訂正請求項1」などといい、訂正後の請求項1に記載された発明を「訂正発明1」などという。また、訂正後の発明をまとめて「訂正発明」などということがある。)。
【請求項1】
ハンター症候群を治療するための安定製剤であって、前記製剤は対象に脳室内投与されることを特徴とし、前記安定製剤は、5mg/ml~100mg/mlの濃度のイズロン酸-2-スルファターゼ(I2S)タンパク質を含み、かつ、50mM以下の濃度のリン酸塩を含み、前記製剤が5.5~7.0のpHを有することをさらに特徴とする、安定製剤。
【請求項2】
(i)塩、または、(ii)ポリソルベート界面活性剤をさらに含む、請求項1に記載の安定製剤。
【請求項3】
請求項1~2のいずれか一項に記載の安定製剤であって、
(i)前記製剤の前記脳室内投与が、標的脳組織への前記I2Sタンパク質の送達を生じさせ、
(a)前記脳標的組織が、白質および/または灰白質内のニューロンを含む、かつ/または、
(b)前記I2Sタンパク質が、ニューロン、グリア細胞、血管周囲細胞および/または髄膜細胞に送達される、
(ii)前記I2Sタンパク質が、脊髄内のニューロンにさらに送達される、
(iii)前記製剤の前記脳室内投与が、肝臓、腎臓および心臓から選択される末梢標的組織への前記I2Sタンパク質の全身的送達をさらに生じさせる、
(iv)前記製剤の前記脳室内投与が、脳標的組織、脊髄ニューロンおよび/または末梢標的組織内のリソソーム局在化を生じさせる、
(v)前記製剤の前記脳室内投与が、脳標的組織、脊髄ニューロンおよび/または末梢標的組織内のGAG蓄積を減少させる、ならびに/または、
(vi)前記製剤の前記脳室内投与が、ニューロンの空胞化を減少させる、
安定製剤。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の安定製剤であって、前記製剤の前記脳室内投与が、脳標的組織、脊髄ニューロンおよび/または末梢標的組織内のI2S酵素活性の増加を生じさせる、安定製剤。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の安定製剤であって、
(i)前記脳室内投与が、静脈内投与と併せて用いられる、あるいは、
(ii)前記脳室内投与が、静脈内投与の不在下で用いられる、ならびに/あるいは、
(iii)前記脳室内投与が、2週間に1回、1ヶ月に1回、または、2ヶ月に1回実施される、ならびに/あるいは、
(iv)前記脳室内投与が、併用の免疫抑制療法の不在下で用いられる、
安定製剤。
【請求項6】
10mg/ml~100mg/mlの濃度のイズロン酸-2-スルファターゼ(I2S)タンパク質と、塩と、ポリソルベート界面活性剤とを含む、脳室内投与のための安定製剤であって、前記製剤は、5.5~7.0のpHを有し、かつ、50mM以下の濃度のリン酸塩を含む、安定製剤。
【請求項7】
前記I2Sタンパク質が、30mg/ml、50mg/ml、および100mg/mlから選択される濃度で、または、その濃度までで存在する、請求項1~6のいずれか一項に記載の安定製剤。
【請求項8】
前記I2Sタンパク質が、配列番号1のアミノ酸配列を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の安定製剤。
【請求項9】
請求項6~8のいずれか一項に記載の安定製剤であって、前記塩がNaClである、安定製剤。
【請求項10】
請求項6~9のいずれか一項に記載の安定製剤であって、前記ポリソルベート界面活性剤が、ポリソルベート20である、安定製剤。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項に記載の安定製剤であって、前記製剤が液体製剤である、安定製剤。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか一項に記載の安定製剤の単回投与形態を含む容器。
第4 請求人の主張
請求人は、本件特許の特許請求の範囲の請求項1~12に記載された発明についての特許を無効とする、請求費用は被請求人の負担とする、との審決を求めた。請求人は、無効理由として、以下の無効理由1~6を主張し、主張を裏付ける証拠として、甲第1~24号証を提出した(本件特許の登録時の特許請求の範囲に記載された発明を請求項の番号によって、「本件特許発明1」などといい、本件特許の明細書を「本件特許明細書」あるいは、単に「明細書」ともいう。)。
無効理由1(明確性):本件特許発明1~12は、特許法第36条第6項第2号に規定された要件を満たしておらず、本件特許発明1~12についての特許は、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。
無効理由2(実施可能要件):本件特許明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件特許発明1~12を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものではなく、特許法第36条第4項1号に規定された要件を満たしていない。したがって、本件特許発明1~12についての特許は同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。
無効理由3(サポート要件):本件特許明細書の記載および本件特許出願時の技術常識を参酌しても、本件特許発明1~12の全範囲にわたって、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとは言えず、特許法第36条第6項1号に規定された要件を満たしていない。したがって、本件特許発明1~12についての特許は、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。
無効理由4(新規性):本件特許発明1~3、5~7、9及び11は、甲第2号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当する。したがって、本件特許発明1~3、5~7、9及び11についての特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。
無効理由5(進歩性):本件特許発明1~12についての特許は、以下のa.~b.に示す理由で、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。したがって、本件特許発明1~12についての特許は、同許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。
a.本件特許発明1~12は、甲第2号証、又は甲第2号証及び甲第3~10号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
b.本件特許発明1~12は、甲第3号証及び甲第2、4~10号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
無効理由6(39条2項):本件特許発明1は、本件特許出願と同日に出願された出願の特許(甲第11号証)の請求項13に係る発明と実質的に同一であり、特許法第39条第2項に規定された要件を満たしていないから、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。
甲第1号証:特許第6522072号公報
甲第2号証:特表第2009-525963号公報
甲第3号証:米国特許出願公開第2005/0048047号公報
甲第4号証:The FASEB Journal, Vol.21, No.10, 2007, pages 2520-2527
甲第5号証:Molecular Genetics and Metabolism, Vol. 99, No. 2, 2010, pages 132-141
甲第6号証:FORMULATIONS FOCUS, Issue No.19, 2010, pages 16-20
甲第7号証:Drug Delivery: Principles and Applications, John Wiley & Sons, Inc., March 11, 2005, pages 321-339
甲第8号証:エラプレース点滴静注液6mg 医薬品インタビューフォーム(2016年7月 改訂第7版、発売年月日:2007年10月17日)
甲第9号証:特表2009-532394号公報
甲第10号証:日本薬局方 生理食塩液「マイラン」添付文書(2015年12月改訂 第12版 販売名変更、販売開始1994年7月)
甲第11号証:特許第6466538号公報
甲第12号証:OndrugDelivery,Issue No#19 May 1st, 2010のウェブサイト:https://www.ondrugdelivery.com/magazines/injectable-drug-delivery-2010-formulations-focus/
のソースコード(2021年2月22日取得)
甲第13号証:ソク・ヨンテ氏(LINE Plus Corporation社:KSパート所属)の陳述書
甲第14号証:優先権証明書(US61/358,857:2010年6月25日出願)
甲第15号証:優先権証明書(US61/360,786:2010年7月1日出願)
甲第16号証:Journal of Pharmacy & Pharmaceutical Sciences, Vol.6(2), 2003, pages 252-273
甲第17号証:Recent Patents on Drug Delivery & Formulation, Vol. 3, 2009, pages 71-89
甲第18号証:本件特許明細書の配列番号1のアミノ酸配列と、甲8に記載されたアミノ酸配列の配列比較表
甲第19号証:Biochimica et Biophysica Acta, Vol. 1588, 2002, pages 203-209
甲第20号証:Elliotts B Solutionデータシート改訂10版(2015年)
甲第21号証:Googleエンジンでのinjectable drug delivery formulationの検索結果のスクリーンショット(出力日2021年3月1日)
甲第22号証:Guidance for Industry: Estimating the Maximum Safe Starting Dose in Initial Clinical Trials for Therapeutics in Adult Healthy Volunteers
(2005年7月)
甲第23号証:「ONdrugDelivery」のウェブサイト(www.ondrugdelivery.com)のInternet Archive Wayback Machine上の2011年3月17日付データベースのスクリーンショット(出力日2021年5月18日)
甲第24号証:ウェブサイトClinical Trail Govの臨床試験NCT00920647の情報(2009年6月15日掲載)
第5 被請求人の主張
被請求人は、本件審判請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする、との審決を求め、上記請求人の主張する無効理由は、いずれも理由がないと主張し、主張を裏付ける証拠として、乙第1~25号証を提出した。
乙第1号証:Ann Barbierの132宣誓書(2013年7月16日)
乙第2号証:Sigma Sodium Citrate Product Sheet(2003年9月)
乙第3号証:Meikle PJ et al., Prevalence of Lysosomal Storage Disorders. JAMA. 1999;281(3):249-254
乙第4号証:Pardridge et al., Fluids and Barriers of the CNS 2011 8:7
乙第5号証:Kakkis et al., Molecular Genetics and Metabolism, 2004, 83:163-174
乙第6号証:Cook, A.M. et al., The Journal of Human Pharmacology and Drug Therapy, 2009, 29: 832-845
乙第7号証:Shire et al., JOURNAL OF PHARMACEUTICAL SCIENCES, 2004, VOL.93, NO.6, 1390-1402
乙第8号証:Wang, W. and C. J. Roberts, eds. Aggregation of Therapeutic Proteins. Hoboken, NJ: John Wiley & Sons, 2010
乙第9号証:Maggio, J Exc. Food Chem, 2010, 1(2): 40-49
乙第10号証:Won et al., International Journal of Pharmaceutics,1998, 167, 25-36
乙第11号証:Calias P. et al., PLoS One, 2012, Volume 7, Issue 1, e30341
乙第12号証:Guy Furness Statement(2014年7月)
乙第13号証:国際公開2007/084737号公報
乙第14号証:Kakkis et al., Molecular Genetics and Metabolism, 2004, 83:163-174
乙第15号証:Tim Tregubov教授の宣誓書(2021年3月24日)
乙第16号証:Tim Tregubov教授の宣誓書(乙第17号証)のAPPENDIX Bの抄訳文
乙第17号証:Tim Tregubov教授の宣誓書(乙第17号証)のAPPENDIX Cの全文訳
乙第18号証:Tim Tregubov教授の宣誓書(乙第17号証)のAPPENDIX Dの全文訳
乙第19号証:Tim Tregubov教授の宣誓書(乙第17号証)のAPPENDIX Gの抄訳文
乙第20号証:ウェブサイトhttps://jquery.org/history/(出力日2021年4月21日)
乙第21号証:ウェブサイトhttps://codex.wordpress.org/WordPress_Versions(出力日2021年4月21日)
乙第22号証:甲第6号証のPDFファイルのプロパティ(出力日2021年4月21日)
乙第23号証:優先権証明書:US61/360,786(2010年7月1日出願)
乙第24号証:Kakkis et al., Molecular Genetics and Metabolism, 2004, 83:163-174
乙第25号証:Shire et al.,JOURNAL OF PHARMACEUTICAL SCIENCES, 2004, VOL.93, NO. 6, 1390-1402
第6 証拠の記載
両当事者の提出した証拠には以下の記載がある。(以下、証拠について、甲号証及び乙号証の番号によって、「甲1」「乙1」などと言う。)
1 甲号証の記載
(1)甲1の記載
(甲1ア)
【0003】
酵素補充療法(ERT)は、対象への天然または組換え的に得られるタンパク質および/または酵素の全身投与を伴う。認可療法は、典型的には、対象に静脈内投与され、一般的には、根元的酵素欠乏の身体症候を処置するのに有効である。中枢神経系(CNS)の細胞および組織中への静脈内投与タンパク質および/または酵素の限定的分布の結果として、静脈内投与タンパク質および/または酵素は血液-脳関門(BBB)を適切に横断しないため、CNS病因を有する疾患の処置は特に挑戦的であった。
・・・
【0009】
したがって、脳に治療薬を有効に送達する必要性が依然として大いに存在する。更に特定的には、リソソーム蓄積障害の処置のために中枢神経系に活性作用物質をより有効に送達することが大いに必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、中枢神経系(CNS)への治療薬の直接送達のための有効且つ低侵襲性のアプローチを提供する。本発明は、一部は、酵素が種々の表面を横断して有効に且つ広範に拡散して、深部脳領域を含めて脳を横断する種々の領域に浸透するよう、リソソーム蓄積症のための補充酵素(例えば、イズロン酸-2-スルファターゼ(I2S))が高濃度(例えば、約3mg/mg以上、4mg/ml、5mg/ml、10mg/ml以上)での治療を必要とする対象の脳脊髄液(CSF)中に直接的に導入され得る、という予期せぬ発見に基づいている。更に意外なことに、単なる生理食塩水または緩衝液ベースの製剤を用いて、そして対象において実質的副作用、例えば重篤な免疫応答を誘導することなく、このような高タンパク質濃度送達が達成され得る、ということを本発明人等は実証した。したがって、本発明は、CNS構成成分を有する種々の疾患および障害、特にリソソーム蓄積症の治療のための直接CNS送達のための非常に効率的な、臨床的に望ましい、且つ患者に優しいアプローチを提供する。本発明は、CNSターゲッティングおよび酵素補充療法の分野における有意の進歩を示す。
【0011】
以下に詳細に説明されるように、本発明者は、イズロン酸-2-スルファターゼ(I2S)タンパク質の有効な髄腔内腔内(IT)投与のための安定製剤を成功裏に開発した。しかしながら、本明細書に記載される様々な安定製剤は、種々の他のリソソーム酵素を含める治療薬のCNS送達のために概ね好適であることが考えられる。事実、本発明による安定製剤は、限定されるものではないが、実質内投与、脳内投与、脳室内(ICV)投与、髄腔内腔内(例えば、IT-腰椎、IT-大槽)投与およびCNSおよび/またはCSFへの直接的または間接的な注入のための任意の他の技術および経路が挙げられる種々の技術および経路を介してCNS送達のために用いられ得る。
(甲1イ)
【0074】
典型的には、ヒトI2Sは、前駆体形として生成される。ヒトI2Sの前駆体形は、シグナルペプチド(完全長前駆体のアミノ酸残基1~25)と、プロペプチド(完全長前駆体のアミノ酸残基26~33)と、42kDa鎖(完全長前駆体の残基34~455)および14kDa鎖(完全長前駆体の残基446~550)へと更に処理され得る鎖(完全長前駆体の残基34~550)とを含有する。典型的には、この前駆体形は、完全長前駆体または完全長I2Sタンパク質とも呼ばれ、これは550個のアミノ酸を含有する。ヒトI2Sタンパク質の典型的野生型または天然型の、除去されたシグナルペプチドおよび完全長前駆体(配列番号2)を有する成熟型のアミノ酸配列(配列番号1)が表1に示されている。
・・・
[図:0001399781000001.jpg]
【0091】
本発明の前に、伝統的非緩衝化等張生理食塩水およびエリオットのB溶液(人工CSF)が、典型的には髄腔内腔内送達のために用いられた。エリオットのB溶液に対するCSFの組成を表す比較は、以下の表3に含まれている。表3に示されているように、エリオットB溶液の濃度は、CSFの濃度と密接に類似している。しかしながら、エリオットのB溶液は、極度に低い緩衝剤濃度を含有し、したがって、特に長期間に亘って(例えば、貯蔵状態の間)、治療薬(例えばタンパク質)を安定化するために必要とされる適切な緩衝能力を提供し得ない。更に、エリオットのB溶液は、いくつかの治療薬、特にタンパク質または酵素を送達するよう意図された製剤と非相溶性であり得るある種の塩を含有する。例えば、エリオットのB溶液中に存在するカルシム塩は、タンパク質沈降を媒介し、それにより製剤の安定性を低減し得る。
[図:0001399781000002.jpg]
【0092】
したがって、いくつかの実施形態では、本発明による髄腔内腔内送達に適した製剤は、合成または人工CSFではない。
・・・
【0098】
多数の治療薬、特に本発明のタンパク質および酵素は、本発明の薬学的組成物中でそれらの溶解性および安定性を保持するために、制御されたpHおよび特定の賦形剤を要する。以下の表4は、本発明のタンパク質治療薬の溶解性および安定性を保持するために重要であるとみなされるタンパク質製剤の典型的例示的態様を特定する。
(甲1ウ)
【0123】
CNS送達
【0124】
本明細書で記載された種々の安定な製剤は、治療薬剤のCNS送達に概ね好適であると考えられる。本発明による安定製剤は、限定されるものではないが、実質内投与、脳内投与、脳室内(ICV)投与、髄腔内腔内(例えば、IT-腰椎、IT-大槽)投与が挙げられる種々の技術および経路を介して、ならびにCNSおよび/またはCSFに直接的または間接的に注入するための任意の他の技術および経路を介してCNS送達のために用いられ得る。
【0125】
いくつかの実施形態では、補充酵素は、本明細書に記載された製剤中でCNSに送達される。いくつかの実施形態では、補充酵素は、治療を必要とする被験者の脳脊髄液(CSF)中に投与することによって、CNSに送達される。いくつかの実施形態では、髄腔内腔内投与は、所望の補充酵素(例えば、I2Sタンパク質)をCSF中に送達するために用いられる。本明細書で使用するとき、髄腔内腔内投与(髄腔内腔内注射とも呼ばれる)とは、脊椎管(脊髄を囲む髄腔内腔内空隙)への注射を指す。限定されないが、穿頭孔若しくは大槽穿刺または腰椎穿刺などを経ての外側脳室注射が挙げられる種々の技術が用いられてもよい。・・・
【0126】
本発明によると、酵素は、脊髄周辺の任意の領域で注入され得る。いくつかの実施形態では、酵素は、腰部または大槽に注入されるか、または脳室空間に脳室内注入される。本明細書で使用するとき、用語「腰部」または「腰部領域」とは、第3と第4腰椎(背下部)との間の領域を指し、より包括的には、脊椎のL2-S1領域を指す。典型的には、腰部または腰部領域を介しての髄腔内注入もまた、「腰椎IT送達」または「腰椎IT投与」と呼ばれる。用語「大槽」とは、頭蓋骨と脊椎の先端部分との間の開口部を介する小脳周囲および下部の空間を指す。典型的には、大槽を介しての髄腔内腔内注射はまた、「大槽送達」とも呼ばれる。用語「脳室」とは、脊髄中心管と連続的である脳内の空隙を指す。典型的には、脳室空隙を介しての注入は、脳室内(ICV)送達と呼ばれる。
(甲1エ)
【0164】
いくつかの実施形態では、本発明の方法および組成物は、リソソーム蓄積障害の神経学的および体細胞性後遺症または症候群の両方を処置するために有用である。例えば、本発明のいくつかの実施形態は、CNSまたは神経学的後遺症ならびにリソソーム蓄積症の症状発現の処置のために、対象のCNSに1つ以上の治療薬を送達する(例えば、髄腔内腔内、静脈内または槽内に)組成物および方法に関するが、一方、そのリソソーム蓄積症の全身性または体細胞性症状発現も処置するためでもある。例えば、本発明のいくつかの組成物は、対象に髄腔内腔内投与され、それにより、対象のCNSに1つ以上の治療薬を送達して、神経学的後遺症を処置し、それと対になって、全身循環の細胞および組織(例えば、心臓、肺、肝臓、腎臓またははリンパ節の細胞および組織)の両方にこのような治療薬を送達するために1つ以上の治療薬を静脈内投与し、それにより体細胞性後遺症を処置する。例えば、リソソーム蓄積症(例えばハンター症候群)を有するか、そうでなければ影響を及ぼされる対象は、1つ以上の治療薬(例えば、イズロン酸-2-スルファターゼ)を含む薬学的組成物を、神経学的後遺症を処置するために、少なくとも週1回、2週間に1回、月1回、2ヶ月に1回またはそれ以上、髄腔内腔内投与され得るが、一方、異なる治療薬は、当該疾患の全身性または体細胞性症状発現を処置するために、より高頻度ベースで(例えば、1日1回、隔日に1回、週3回または週1回)、対象に静脈内投与され得る。
【0165】
ハンター症候群、またはムコ多糖症II(MPS II)は、酵素イズロン酸-2-スルファターゼ(I2S)の不全に起因するX連鎖遺伝性代謝異常である。I2Sは、リソソームに局在化し、グリコサミノグリカン(GAGs)へパリン-および硫酸ダルマタンの異化作用で重要な役割を果たす。酵素の不在下では、これら物質が細胞内に蓄積し、最終的には充血を引き起こし、細胞死および組織破壊に続く。酵素の広範囲な発現のために、MPS II患者では、複数の細胞型および器官系が冒される。
・・・
【0167】
本発明の組成物および方法は、ハンター症候群に冒されたまたは罹患し易い個体を効果的に治療するために用いられ得る。本明細書で使用されるような用語「治療する」または「治療」は、疾患に関連する1つ以上の症状の軽減、疾患の1つ以上の症状の発症の抑制または遅延、および/または疾患の1つ以上の症状の重症度または頻度の緩和を指す。
(甲1オ)
【0194】
実施例1:生体分布
本試験の主な目的は、髄腔内腔内-腰椎経路によって、組換え体ヒトI2Sが成体MPS IIマウスの脳に送達されることができるかどうかを判定することである。
[図:0001399781000003.jpg]
材料および方法
・・・
イズルスルファーゼ
【0196】
22mLのI2S(組換え体ヒトイズルスルファーゼ)を、2Lのリン酸塩緩衝生理食塩水の4つの変化に対して透析した。次いでI2Sを、Vivaspinカラムによって濃縮し、最終容積1mLのPBS中に再懸濁し、続いて0.2μmのフィルターを用いて濾過滅菌した。最終濃度は、51mg/mLであった。
・・・
結果
【0206】
脳においては、免疫組織化学(IHC)染色で判定されたように、I2Sはビヒクル対照動物で認められなかった。対照的に、I2S注入動物においては、髄膜細胞、大脳および小脳のニューロンは、I2Sについて陽性に染色された。染色シグナルは、3用量投与された動物でより強かった(図1)。
【0207】
ビヒクル処置IKOマウスの脳組織では、細胞空胞化、すなわちリソソーム蓄積疾患の組織病理学的特徴が、野生型動物と比較して脳全体で認められた。I2S処置IKOマウスでは、未処置マウスと比較して、表面大脳皮質、尾状核、視床、小脳から白質までの細胞空胞化の広範囲の減少が存在した(図2)。野生型動物と比較した場合、異常に高いリソソーム活性が、リソソーム活性および疾患状態の指標であるリソソーム結合膜タンパク質-1(LAMP-1)染色によって、ビヒクル処置IKOマウスの小グリア細胞、髄膜細胞および血管周囲細胞で認められた。I2S髄腔内腔内処置マウスは、LAMP-1免疫染色で著しい減少を有した。この減少は、LAMP-1陽性細胞の数およびより明るい染色での低下によって特徴付けられる。この減少は、I2Sの2用量および3用量処置動物の双方で、表面大脳皮質、尾状核、視床、小脳から白質に至る脳全体で認められた(図3)。種々の脳領域のLAMP-1免疫染色の形態計測学的分析は、評価された脳の全ての領域でLAMP-1免疫染色陽性染色における著しい減少があることを確認した(図4)。
【0208】
ビヒクル処置IKOマウスの電子顕微鏡観察は、アモルファスな顆粒蓄積物質を含有する腫大した空胞および板状でゼブラ小体様構造を有する封入体を明らかにした。超微細構造レベルでのリソソーム蓄積のこれら典型的な病理特徴は、I2Sの髄腔内腔内-腰椎注射マウスでは、減少された(図5)。
【0209】
肝臓では、ビヒクル処置動物においては、I2Sの陽性染色はなかった。I2S髄腔内腔内注射マウスにおいては、大量の注射されたI2Sのが、シヌソイド細胞で明確に見出され(図6)、これは髄腔内腔内空隙に注射されたI2Sが、CSFと共に循環し、次いでクモ膜顆粒を経て循環系に吸収されたことを示している。
【0210】
ビヒクル処置IKOマウスの肝臓組織では、H&E染色によって立証された重症の細胞空胞化および異常に高いリソソーム活性ならびに強いLAMP-1免疫染色が、WTマウスと比較して確認された。肝臓における細胞内空胞化およびLAMP-1免疫染色の著しい減少が、I2Sでの髄腔内処置後に確認された。H&E染色は、細胞質内空胞化は、正常な肝臓細胞構造に近い状態で、ほぼ完全に消失した(図7)。
【0211】
IKOマウスでは、髄腔内腔内-腰椎経路によって組換え体ヒトI2Sが脳に送達され、注射されたI2Sは、脳の種々の領域において広範囲の組織病理学的改善を生じさせる。
・注射されたI2Sは、髄膜細胞および脳のニューロンで検出された。
・光学顕微鏡および電子顕微鏡レベルの双方での脳全体の細胞空胞化の減少。
・脳全体のLAMP-1リソソームマーカーの減少。
・髄腔内腔内注射されたI2Sは、末梢循環に入り、肝臓の形態学的および組織学的マーカーを改善した。
実施例2:毒性
【0212】
本実施例は、カニクイザルにおける月単位のボーラス髄腔内腔内腰椎投与を介するイズルスルファーゼに関連する臨床的徴候を示す。これを達成するために、以下の表に示されるように、14匹の雄カニクイザルを5種の処置群に無作為割付した。
[図:0001399781000004.jpg]
【0213】
全ての群の動物は、腰部脊椎のレベルで月単位のインターバルでITにて3回投与された。・・・
・・・
【0216】
結論として、月単位の間隔での150mgまでの用量でのイズルスルファーゼのIT投与は、副作用を有さなかった。したがって、無影響量(NOAEL)は150mgであると解釈され、これは本試験でテストされた最高投与量である。イズルスルファーゼ投与は、CNSにおけるイズルスルファーゼ活性の用量依存型増加に関連し、全身のI2Sレベルならびに肝臓、腎臓、および心臓における活性をもたらした。
・・・
【0227】
脳イズルスルファーゼ染色は、150mgの群で確認された最高の染色強度で、3mg群の1匹の動物を除けば、全ての処置動物で陽性であった(図16、17、18および19)。3mg群では、髄膜細胞および髄膜細胞の下の数個のグリア細胞のみが陽性であり、注射されたイズルスルファーゼは、ニューロンでは検出されなかった。より高い用量群(30、100および150mg)では、髄膜細胞、グリア細胞および血管周囲細胞に加えて、脳内ニューロンの大規模な集団がイズルスルファーゼ染色について陽性であった。イズルスルファーゼ免疫染色は、髄膜近くの表面での層I内のニューロンから白質に隣接したより深い層IV内のニューロンに至る脳内ニューロンにおいて、注射されたイズルスルファーゼの広範囲な分布を明らかにした(図20、21および22)。ニューロンの顕著な染色はまた、150mg投与群についても観察された(図23)。全ての動物(30~150mgの投与群)では、ニューロンのイズルスルファーゼ染色で顕著な違いは、脳の前頭部、中頭部、および後頭部の間では認められなかった。
【0228】
イズルスルファーゼ染色は、腰部で最高の染色強度を伴い、全ての動物の脊髄において陽性であった(図24および25)。イズルスルファーゼ免疫染色もまた、用量依存型であった。ニューロン、髄膜細胞、グリア細胞、血管周囲細胞および神経線維を取り囲むエピ/ペリ/神経内膜(結合細胞)は、150mg群ではイズルスルファーゼ染色について強く陽性であった。
【0229】
肝臓では、イズルスルファーゼについての陽性染色は、全ての動物のシヌソイド細胞(Kupffer細胞および内皮細胞)で認められた。しかしながら、イズルスルファーゼは3mg処置群については肝細胞内で検出されず(図28)、一方肝細胞における陽性イズルスルファーゼ染色は、150mg処置群での最大の染色強度を伴い、より高い投与群で見出された(図29、30および31)。
【0230】
3mg処置群からの動物では、イズルスルファーゼについて陽性染色は存在しなかった。これとは対照的に、間細胞は、陽性細胞数および染色強度に関して、150mg群で著しい染色を伴い、30、100および150mg群においてイズルスルファーゼについて陽性に染色された(図33、34および35)。
腎臓
【0231】
注射されたイズルスルファーゼは、3mg投与群からの動物では、ほとんどまたは全く検出されなかった(図36)。しかしながら、陽性イズルスルファーゼ染色が、30および100mg群において糸球体細胞および間細胞で認められた。150mg群では、イズルスルファーゼ免疫染色は、糸球体細胞および肝細胞の顕著な染色に加えて、近位細管細胞のイズルスルファーゼ染色を更に明白にした(図39)。
考察
【0232】
体重、餌消費、理学的検査所見および神経学的検査所見に及ぼす供試物質に関連する臨床的徴候または影響はなかった。・・・
【0233】
イズルスルファーゼ投与は、種々の脳領域、ならびに脳幹および脊髄におけるイズルスルファーゼ活性での用量依存型増加に関連した。脊髄内の染色強度の最高レベルは、腰部であり、ここはイズルスルファーゼのIT投与が生じた場所である。イズルスルファーゼIT投与はまた、肝臓、腎臓、および心臓における用量依存型染色強度で全身的曝露をもたらした。・・・
【0234】
毎月の間隔で送達される150mgまでの用量でのイズルスルファーゼのIT投与は、副作用を有さなかった。したがって、無影響量(NOAEL)は、本実施例で最高投与量である150mgであると解釈された。イズルスルファーゼ投与は、CNSにおけるイズルスルファーゼの用量依存型増加に関連し、肝臓、腎臓、および心臓において全身的レベルをもたらした。
(甲1カ)
【0245】
・・・
実施例4:製剤
【0246】
本実施例は、第I/II相臨床試験のためのイズルスルファーゼ-IT薬剤物質の製剤および医薬品製剤を確立するために実施された製剤開発試験を概説する。
【0247】
CNS送達用に好適な賦形剤の制限のために、イズルスルファーゼの髄腔内腔内送達についての製剤開発のための取り組みは、全身的送達のためのI2S製剤と等価な安定性も維持すると同時に、リン酸塩およびポリソルベート20レベルを低減することに焦点が当てられた。
【0248】
リン酸塩およびポリソルベートレベルの影響を検討するために、3種の重要なスクリーニングストレス試験が行われた。これら試験とは、凍結融解、振盪ストレス、および熱ストレスが挙げられる。この結果は、生理食塩水製剤が、低タンパク質濃度(2mg/mL)で凍結融解ストレスに対してより安定であることを示した。高タンパク質濃度(100mg/mL)では、凍結融解ストレスは、生理食塩水含有製剤およびリン酸塩含有製剤の双方で不安定性の問題は発生しなかった。振盪ストレス試験は、0.005%ポリソルベート20が振盪関連ストレスに対してタンパク質を保護することを確認した。熱安定性試験は、生理食塩水製剤がリン酸塩を含有する製剤に比べてより安定であることを立証した。更に、生理食塩水製剤のpHは、2~8℃で24カ月間、6.0で維持されることができた。タンパク質に結合された残留リン酸塩の量、ならびにタンパク質濃度の増加が、最終製剤におけるpH安定性に関与することが認められた。
・・・
pH
【0271】
表20は、全ての製剤のpHが、2~8℃で24ヶ月間、ベースラインに匹敵するpHのままでいたことを示している。生理食塩水製剤については、緩衝液が存在しないが、pHは、24ヶ月間、6.0で一定に維持された。
・・・
酵素活性
【0272】
参照標準と比較すると、2~8℃で24ヶ月後に、全ての製剤についての比活性は、アッセイ間の偏差内で同等であり、これは、イズルスルファーゼが、24ヶ月間、生理食塩水製剤中で安定のままでとどまることを示唆している(表21)。
[図:0001399781000005.jpg]
【0273】
生理食塩水製剤の調製における最終的UF/DF工程は、137mMのNaCl、20mMリン酸ナトリウムからのタンパク質を150mMのNaClへと透析濾過するために用いられた。透析濾過サイクル数が最終生成物中の残留リン酸塩濃度にどのように影響を及ぼすかを検討するために、研究室スケールでの試験が、製剤原料(2mg/mLのイズルスルファーゼ、137mMのNaCl、20mMのリン酸ナトリウム、pH6.0)を用いて行われた。製剤原料を先ず初めに、50mg/mLのイズルスルファーゼに濃縮し、次いで150mMの生理食塩水中に透析濾過した。サンプルを、7X、10X、および15X透析濾過工程で採取し、リン酸塩含量についてICPによって試験した。試験結果は、表22に概説されている。示されるように、生理食塩水透析濾過溶液は、いずれのリン酸塩も含有しない。7XDF後に、タンパク質は約0.22mMのリン酸塩を含有し、これは、理論的に計算された値よりも高かった。10XDF後に、通過液が約0.07mMのリン酸塩であったが、タンパク質保持物質は約0.16mMのリン酸塩を含有し、このことは、リン酸塩がタンパク質に結合していることを示唆した。15XDF後には、リン酸塩レベルは約0.07mMに下降した。
【0274】
この試験からの結果は、約0.2mMのリン酸塩残基が、製剤原料中に残留していることを示し、これは、生理食塩水製剤が6.0のpHを維持していることに寄与していると思われる。
【表22】
[図:0001399781000006.jpg]
製剤pHの維持に及ぼすタンパク質濃度の影響
【0275】
リン酸塩含量分析から、タンパク質へのリン酸塩の結合が明白となった。したがって、高濃度のタンパク質がより多くのリン酸塩に結合し得ることが予期され、このことがpHをより良好に維持する可能性がある。この仮説を検討するために、生理食塩水溶液中のタンパク質を異なるレベルに濃縮し、異なる処理条件後の溶液のpHをテストした。この結果が、表23に概説されている。
【0276】
表示されるように、溶液の最初のpHが、タンパク質濃度に依存して約6.0に維持された。しかし、周囲温度に24時間露出後または3回の凍結融解サイクル後に、0.1mg/mLまたはそれ未満のタンパク質を含有する溶液のpHは、6.0周辺で一定のpHを維持しなかった。1mg/mLまたはそれ以上のタンパク質濃度では、溶液のpHは、6.0周辺で維持された。このことは、タンパク質濃度が、生理食塩水溶液のpHを維持する上での制御因子であることを確証した。
[図:0001399781000007.jpg]
【0277】
この試験からの結果は、生理食塩水製剤(50mg/mLのイズルスルファーゼ、0.005%のポリソルベート、150mMのNaCl、pH6.0)中のイズルスルファーゼが、2~8℃で保存される場合、少なくとも24ヶ月安定であることを立証した。この製剤は、リン酸塩含有製剤に比べてより安定であると思われる。0.005%のポリソルベート20の選択は、タンパク質を振盪ストレスに対して保護するために十分であった。更に、この試験は、生理食塩水製剤のpHが、2~8℃で24ヶ月間、6.0で安定に維持され得ることも示し、これは最終製剤における残留リン酸塩および高タンパク質濃度に部分的に起因するものである。
(甲1キ)
実施例5:生体分布
【0278】
髄腔内腔内投与がCNSの組織へのI2Sを送達する有効な方法であることが成功裏に立証されたので、IT投与されたI2Sが脳の深部組織への分布が可能であるかどうか、ならびにIT投与されたI2Sの細胞局在化があるかどうかを決定するために、追加的試験が行われた。組換え体ヒトイズロン酸-2-スルファターゼ(I2S)製剤を、6.0のpHで、154mMのNaCl、0.005%のポリソルベート20のビヒクル中で調製かつ製剤化した。
【0279】
非ヒト霊長類に、I2Sの3mg、30mg、または100mgのいずれかを月単位で、移植した髄腔内腔内ポートによって、6ヶ月間継続して投与した。・・・
【0280】
6ヶ月間の非ヒト霊長類へのI2Sの繰り返し毎月投与は、テストされた最高用量で良好に忍容され、いずれの重大な有害毒性学的事象に関連しなかった。I2Sの第6回目および最終用量の投与後24時間に、対象の非ヒト霊長類を致死させて、このようなヒト以外の霊長類のCNS組織を検査した。
【0281】
免疫組織化学法(IHC)によって判定されたように、CNSの細胞および組織全体にI2Sの広範な細胞堆積があった。I2Sタンパク質は、大脳皮質から脳室白質までの堆積勾配を伴い、IHCによって脳の全ての組織で検出された。灰白質では、I2Sは、全ての群において、用量依存型の様式で、大脳、小脳、脳幹、および脊髄のニューロンで検出された。高投与量群の表面灰白質では、大多数の脳ニューロンが、表面皮質でのI2S染色について陽性であった(図40A)。I2Sは、視床(図40B)、海馬(図40C)、尾状核(図40D)および脊髄(図40E)内のニューロンでも検出された。髄膜細胞および血管周囲細胞もまた、I2S染色について陽性であった(図40F)。
【0282】
図41および42に示されるように、対象の非ヒト霊長類のCNSの組織への、特に灰白質、視床および大脳皮質へのIT投与されたI2Sの分布が認められる。更には、図42および43は、IT投与されたI2Sが、用量依存型様式で、被験者のヒト以外の霊長類の示されたCNS組織で蓄積することを図示している。共局在化染色はまた、I2SのIT投与が、ニューロンおよび希突起グリア細胞の双方と結合することを明らかにした。IT投与されたI2Sはまた、図44によって実証されたように、対象のヒト以外の霊長類の大脳全体に分布かつ局在化する。特に、図45は、フィラメント染色によって示されたように、対象の非ヒト霊長類へのIT投与後のI2Sのニューロンによる取り込みおよび軸索結合を図示している。また特に興味深いのは、本試験はI2Sがニューロン細胞に対して選択的であることを示していることであり、このようなニューロン細胞は、脳の深部組織への髄腔内腔内投与されたI2Sの分布を促進し、軸索構造と結合するように見え、これはI2Sの順行性軸索輸送を示唆している。
・・・
【0284】
以下の表26に示されるように、124I標識化I2Sを試験動物に投与し、PETスキャン結果が図62、図63に示されている。
[図:0001399781000008.jpg]
【0285】
本試験はまた、IT投与後の対象の非ヒト霊長類の脳室近くの白質脳組織におけるIT投与されたI2Sの細胞特定も立証した。白質内のI2S染色密度は、灰白質よりも概ね低いが、I2Sは希突起グリア細胞内で検出された(図46)。特に、図46は、白質脳組織におけるI2Sの細胞特定を示していて、I2Sがミエリンと結合するようには見えないことを更に立証している。
【0286】
IT投与されたI2Sの脳組織の深部への分布を立証したことに加えて、本試験はまた、標的の細胞内小器官へのI2Sの局在化、重要なことは、ハンター症候群などのリソソーム蓄積疾患において影響を受ける細胞内小器官であるリソソームへのI2Sの局在化を確認したことである。特に、I2Sは、リソソーム内に局在化され、軸索内でも検出された。図46は、対象の非ヒト霊長類の希突起グリア細胞のリソソーム内のIT投与されたI2Sの局在化を示していて、したがって、IT投与されたI2Sは、脳の組織の深部に分布することが可能であり、ならびに細胞内局在化が可能であることを確認した。
【0287】
送達されたI2Sが生物学的活性を保持しているかどうかを明らかにするために、脳におけるI2Sのレベルを、比活性アッセイを用いて測定した。最後の投与後24時間の3mgのIT群の脳における活性は、装置対照およびビヒクル対照動物での基底レベルと明らかな差はなかった。30mgおよび100mgのIT投与動物の脳における酵素活性は、死体解剖時(投与後24時間)ではベースライン以上であった。
・・・
【0288】
・・・
実施例6:IT送達対ICV送達
【0289】
前述の実施例で観察されたI2S分布が、単回ITまたはICV用量が投与された健常なビーグル犬でも再現された。雄ビーグル犬を、コンピューター作成番号を用いて、2つの群(1群(ICV)、N=3;2群(IT)、N=4)に無作為割付した。全てのビーグル犬は、腰椎でのクモ膜下腔内または左側脳室内(投与用)ならびに大槽内(サンプリング用)に移植されたカテーテルを有した。全てのカテーテルは、皮下チタンアクセスポートに終結した。追加の犬が、非投与の外科的対照として用いられた。
【0290】
I2Sの単回ボーラス1mL注射(20mMリン酸ナトリウム、pH6.0;137mM塩化ナトリウム;0.02%ポリソルベート-20中30mg/mL)がITまたはICVで投与され、続いて、リン酸塩緩衝生理食塩水(PBS;pH7.2)で0.3mL流された。臨床的徴候を監視し、投与後24時間で致死させた。ELISA、I2S酵素活性およびIHCによって決定されるような定量的I2S分析用に脳および脊髄組織サンプルを採取し、試験群間で比較した。
【0291】
IHCによって決定されたように、I2Sは、ITおよびICV群の双方の灰白質全体に広く分布した。大脳皮質では、図47(AおよびB)によって示されるように、ITおよびICV群の双方で、ニューロンは、表面の分子層から深部の内層までの6つのニューロンでI2Sについて陽性であった。ITおよびICV群の大脳皮質では、図47(CおよびD)で示されるように、I2Sは、プルキンエ細胞を含むニューロンで検出された。ITおよびICV群の双方において、図47(EおよびF)に示されるように、海馬内のニューロンの大集団が、I2Sに陽性であった。I2S陽性ニューロンはまた、図47(GおよびH)で示されるように、両群において、視床および尾状核でも確認された。
【0292】
したがって、本試験は、脳の深部細胞および組織分布するためのIT投与された酵素の能力を確認し、ならびにハンター症候群などのリソソーム蓄積疾患に関連するCNS症状発現の治療のためのIT投与されたI2Sなどの酵素の利用を裏付ける。
(甲1ク)
実施例7:イズロン酸-2-スルファターゼ欠損動物モデル
【0293】
IT投与されたI2Sが、脳の組織の深部への分布が可能であることならびにI2Sの細胞内局在化が立証されたので、IT投与されたI2Sの治療的有効性を判定するために、更なる試験が行われた。IT投与されたI2Sの疾患の進行を変更するための能力を試験するために、ハンター症候群の遺伝子的に処理されたイズロン酸-2-スルファターゼノックアウト(IKO)マウスモデルを開発した。このI2Sノックアウトマウスモデルは、組織および器官においてグルコサミノグリカン(GAG)の蓄積を生じさせるI2S遺伝子座の標的破壊を用いて開発された。IKOマウスモデルは、特徴的顔貌および骨格異常が挙げられるヒトで見られるハンター症候群の多くの身体的特徴を呈する。更に、IKOマウスモデルは、尿および体全体の組織におけるグルコサミノグリカン(GAG)の上昇したレベル、ならびに組織病理学的に観察された広範囲の細胞空胞化を示す。
【0294】
本試験において、市販のI2S(Elaprase(登録商標))を濃縮し、リン酸塩緩衝生理食塩水(PBS)中に再懸濁させた。8~12週齢の雄IKOマウスの6つの群を、I2S(10μl;26mg/ml)で処置した。AおよびB群(N=3)には、それぞれI2Sの260μg用量を3回(1、8、および15日目に)および260μg用量を2回(1および8日目に)髄腔内腔内投与した。D群もまた、1、8、および15日目で、260μgの3回の髄腔内腔内投与で処置した。C群およびE群(N=3)は未処置対照群であり、F群(N=3)は、未処置の野生型対照であった。対照マウスには、I2Sを含まないビヒクルを投与した。最後の注射後1時間でマウスを致死させて、続いて免疫組織化学法(IHC)および組織病理学的分析用に組織調製を行った。
【0295】
3回目の注射後に、ビヒクル処置マウスに比べてI2S処置マウスで、表面大脳皮質、尾状核、視床および小脳における細胞内空胞化の広範囲の減少があった。細胞内空胞化における減少はまた、IT処置後に白質において確認された。IKOマウスの脳組織へのI2Sの分布は、IT投与後に明白であった。
【0296】
IKOマウスにおけるI2Sの3週間のIT投与もまた、光学顕微鏡および電子顕微鏡レベルの双方で、CNS細胞内空胞化での著しい減少を示した。I2SのIT投与後の細胞内空胞化の減少は、未処置IKOマウスに対して明確であって、これは、IT投与されたI2Sが疾患の進行を変更することが可能であることを示唆している。図48に示されるように、細胞空胞化の減少は、I2SのIT投与後にIKOマウスの脳梁および円蓋で顕著であった。図49は、処置されたIKOマウスの大脳皮質組織における、リソソーム疾患の病理学的生物マーカーであるリソソーム結合膜タンパク質1(LAMP1)の存在の著しい減少を示している。
【0297】
更には、電子顕微鏡は、灰質内のニューロンでの蓄積封入体および白質内の希突起グリア細胞での空胞化の存在の減少を立証した。特に、IKOマウスのIT投与されたI2Sは、特定のリソソーム蓄積疾患の特徴である柵状ラメラ体(ゼブラ小体)の減少を立証した。特に、図5は、未処置IKOマウスに対するI2Sを投与されたIKOマウスのニューロン内の特徴的ゼブラ小体の減少を示している電子顕微鏡走査を表している。同様に、図5は、脳梁内の希突起グリア細胞の電子顕微鏡走査を示す。
【0298】
加えて、IKOマウスへのI2SのIT投与はまた、表面大脳皮質、尾状核、視床、小脳および白質において、リソソーム活性および病状の指標である、リソソーム疾患病理学的生物マーカーのリソソーム結合膜タンパク質1(LAMP1)免疫染色での顕著な減少も示した。図49Aに示されるように、LAMP1免疫染色での顕著な減少は、図49Bに示される未処置のIKO対照マウスの表面大脳皮質組織に対して、処置されたIKOマウスの表面大脳皮質組織で明白であって、これは病変での改善を反映している。
【0299】
図20は、脳組織のμm2領域で測定されたLAMP-1の濃度を図示しかつ比較する。種々の脳領域のLAMP-1免疫染色の形態計測学的分析は、評価された脳の領域におけるLAMP-1陽性染色での著しい減少があることを確認した。図4に示されるように、評価された脳組織のそれぞれの領域(皮質、尾状核および被殻(CP)、視床(TH)、小脳(CBL)および白質(WM))で、LAMP-1陽性領域は、未処置IKO対照マウスに対して処置IKOマウスで減少され、野生型マウスのLAMP-1陽性領域に近づいた。特に注目すべきことは、分析された脳組織の各領域におけるLAMP-陽性領域は、継続された処置時間で更に減少された。
【0300】
異常に高いリソソーム活性の減少は、脳の全ての領域での劇的な形態的改善に相関した。これら結果は、IT投与されたI2Sが、遺伝子的に処理されたIKOマウスモデルにおいて、リソソーム蓄積疾患の進行を変更させることが可-
であることを裏付け、ならびにハンター症候群などのリソソーム蓄積疾患に関連するCNS症状発現を治療するためのIT投与されたI2Sなどの酵素の能力を更に裏付けた。
(甲1ケ)
[図:0001399781000009.jpg]
(甲1コ)図62
[図:0001399781000010.jpg]
(2)甲2の記載
(甲2ア)
【請求項38】 酵素の欠乏により引き起こされるリソソーム蓄積症にかかっている患者を治療する方法であって、前記酵素を脳への脳室内輸送によって患者に投与することを含む方法。
・・・
【請求項43】
リソソーム蓄積症がムコ多糖症II型であり、前記酵素がイズロン酸-2-スルファターゼである、請求項38~40のいずれか一項記載の方法。
(甲2イ)
【0001】
本発明は、リソソーム蓄積症の領域に関する。特に、酵素補充療法によるこれらの病気の治療および/または予防に関連する。
【0002】
(発明の要約)
リソソーム蓄積症(LSD)として知られている代謝性疾患のグループは、40種類以上の遺伝子疾患を含み、それらの多くは多様なリソソーム加水分解酵素における遺伝子欠損に関する。代表的なリソソーム蓄積症および関連する欠損酵素が表2に記載される。
(表1)
リソソーム蓄積症 欠損酵素
・・・
ハンター症候群 イズロン酸-2-スルファターゼ
・・・
【0005】
本発明によると、上記表1で特定される病気のごときリソソーム蓄積症、例えば、ニーマン-ピック病A型またはB型は、前記病気の病因として欠乏する酵素の脳への脳室内輸送を用いて治療および/または予防される。投与は、ゆっくり行われることにより最大の効果を達成することができる。効果は血液脳関門の両側で見られ、これは、脳および/または内臓に影響を与えるリソソーム蓄積症に対する有用な送達手段とされる。それゆえに、第1の態様では、本発明は、酵素の欠乏により引き起こされるリソソーム蓄積症の患者を治療または予防する方法であって、前記方法は、酵素を脳への脳室内輸送を通して患者に投与することを含む方法を提供する。関連の態様では、本発明は、患者の酵素の欠乏により引き起こされるリソソーム蓄積症の患者の治療または予防のための医薬品の製造のための酵素の使用であって、前記治療または予防が酵素の脳への脳室内投与を含む、酵素の使用を提供する。酵素の欠乏は、例えば、酵素の発現における欠乏、あるいはインビボにおいて酵素の活性レベルの減少(例、不活性な酵素)またはクリアランス/分解の速度の上昇をもたらす酵素の変異により引き起こされてもよい。欠乏は酵素基質の蓄積を引き起こし、酵素の投与は脳の基質レベルの減少をもたらしうる。リソソーム蓄積症は、上記表1で同定される病気のいずれかであってもよい。酵素は、リソソーム加水分解酵素であってもよい。
・・・
【0038】
ASMまたは他のリソソーム加水分解酵素は、十分なレベルのリソソーム加水分解活性により特徴付けられる条件に治療、例えば、阻害、軽減、予防、または改善するのに有用な医薬組成物に組み込まれうる。医薬組成物は、リソソーム加水分解欠乏を患っている対象または前記欠乏を発生するリスクのある人に投与される。この組成物は、医薬上許容されるキャリア中に、治療量または予防量のASMまたは他のリソソーム加水分解酵素を含むべきである。医薬キャリアは、ポリペプチドを患者に輸送するのに適する、適合性無毒化物質のいずれかでありうる。滅菌された水、アルコール、脂肪、ワックスがキャリアとして用いられてもよい。医薬上許容されるアジュバンド、緩衝剤、分散剤、およびそれらの類似物はまた、医薬上許容される組成物に組み込まれてもよい。これらのキャリアは、脳室内注射または注入あるいは他の方法による投与に適するいずれかの形態(その形態はまた、静脈内または髄腔内投与に適合させることも可能である)で、ASMまたは他のリソソーム加水分解酵素と結合されうる。適するキャリアは、例えば、生理食塩水、静菌水、Cremophor EL(登録商標)(ニュージャージー州、パーシッパニーのBASF)またはリン酸緩衝食塩水(PBS)、他の食塩水、デキストロース溶液、グリセロール溶液、水ならびに石油、動物、植物、または合成由来の油(ピーナッツ油、大豆油、鉱油、またはゴマ油)と一緒に作製されたもののごとく油乳剤を含む。人工的なCSFはキャリアとして用いることができる。このキャリアは、好ましくは無菌であり、発熱物質を含まない。医薬組成物中のASMまたは他のリソソーム加水分解酵素の濃度は、広範囲、すなわち、総組成物の少なくとも約0.01重量%から0.1重量%、約1重量%、20重量%以上に変動することができる。
(甲2ウ)
【0054】
・・・
【実施例1】
【0055】
(動物モデル)
ニーマン-ピック病(NPD)はリソソーム蓄積症であり、酸スフィンゴミエリナーゼ(ASM;スフィンゴミエリンコリンリン酸加水分解酵素、EC3.1.3.12)の遺伝子欠乏により特徴付けられる遺伝性神経代謝疾患である。機能的なASMタンパク質の欠如は、脳全域にわたる神経とグリアのリソソーム内のスフィンゴミエリン基質の蓄積を生じる。このことが核周辺の膨張した多数のリソソームの形成を招き、それらがNPDA型の特徴および主な細胞の表現型である。膨張したリソソームの存在は、正常な細胞の機能の喪失および進行性の神経変性と関連し、小児期の初期に罹患した個体の死を招く(The Metabolic and Molecular Bases of Inherited Diseases, eds. Scriver et al., McGraw-Hill, New York, 2001, pp. 3589-3610)。第2の細胞の表現型(例えば、さらなる代謝異常)はまた、この病気に付随し、リソソーム区画におけるコレステロールの著しく高いレベルの蓄積である。スフィンゴミエリンはコレステロールに対して強い結合性を示し、その結果、ASMKOマウスとヒト患者のリソソームにおいて大量のコレステロールの隔離が生じる(Leventhal et al. (2001) J. Biol. Chem., 276:44976-44983; Slotte (1997) Subcell. Biochem., 28:277-293; and Viana et al. (1990) J. Med. Genet., 27:499-504)。NPDの詳細な考察は、the Online Metabolic Molecular Bases of Inherited Diseases, Part 16, Chapter 144 (2007)で見出されうる。【実施例2】【0056】 (ASMKOマウスにおけるrhASMの連続的な脳室内注入)
目的:組み換えヒトASM(rhASM)の脳室内注入がASMKOマウス脳における蓄積病変(すなわち、スフィンゴミエリンおよびコレステロール蓄積)においてどのような効果を示すかを調べるため。【0057】方法:生後12~13週齢のASMKOマウスに留置ガイドカニューレを定位固定して移植した。14週齢のマウスにポンプに繋がれた(ガイドカニューレ内に適合した)注入深針を用いて250mgのhASM(n=5)を4日連続(合計1mgが投与された)24時間(~0.01mg/h)にわたり注入した。凍結乾燥されたhASMを注入前に人工脳脊髄液(aCSF)中に溶解させた。マウスを注入3日後に解剖した。解剖するマウスにユサゾール(euthasol)(>150mg/kg)を過剰摂取させ、次いでPBSまたは4%パラホルムアルデヒドで環流した。脳、肝臓、肺および脾臓を取り除き、スフィンゴミエリン(SPM)レベルを解析した。脳組織をSPM解析前に5つの領域に分けた(S1=脳の前部、S5=脳の後部;図1を参照)。(表2)
[図:0001399781000011.jpg]
【0058】
結果の要約:連続4日間24時間あたり250mg(合計1mg)のhASMの脳室内注入は、ASMKO脳を通してhASM染色およびフィリピン(すなわち、コレステロール蓄積)クリアランスを生じた。生化学的解析は、hASMの脳室内注入が脳を通じてSPMレベルの全身的な減少を導くことを示した。SPMレベルは、野生型(WT)のレベルが減少した。SPMの有意な減少を肝臓と脾臓でも観察した(減少傾向は肺でも見られた)。
【実施例3】
【0059】 (ASMKOマウスにおけるhASMの脳室内輸送II)
目的:6時間にわたる注入期間における最も低い有効な用量を調べるため。
【0060】
生後12~13週齢のASMKOマウスに留置ガイドカニューレを定位固定して移植した。14週齢のマウスに以下の用量のhASMのうちの1つで6時間にわたり注入した。10mg/kg(0.250mg;n=12)、3mg/kg(0.075mg;n=7)、1mg/kg(0.025mg;n=7)、0.3mg/kg(0.0075mg;n=7)、またはaCSF(人工脳脊髄液;n=7)。各用量レベルからの2匹のマウスを6時間注入後に迅速に4%パラホルムアルデヒドで還流して脳内における酵素の分布を測定した(これらから血液を採取して血清hASMレベルを調べた)。各群からの残りのマウスを注入1週間後に解剖した。これらのマウスに由来する脳、肝臓、肺の組織を研究05-0208にあるようにSPMレベルについて解析した。(表3)
[図:0001399781000012.jpg]
【0061】
結果の要約:6時間にわたる脳室内hASMは、用量にかかわらず脳を通してSPMレベルの有意な減少を生じた。用量>0.025mgで処理されたマウス脳のSPMレベルは、野生型レベルまで減少した。内蔵器官のSPMレベルはまた、用量依存的な様式で有意に減少した(野生型レベルまでではない)。この知見を裏付けることとして、hASMタンパク質はまた、hASMタンパク質を注入されたASMKOマウスの血清中で検出された。組織学的な解析は、hASMタンパク質が、hASMの脳室内投与後に脳を通して(S1からS5まで)広く分布することを示した。
(3)甲3の記載
甲3は外国語で記載されているので、訳文で示す。
(甲3ア)
特許請求の範囲
1.哺乳動物においてリソソーム蓄積症を治療するための方法であって、前記リソソーム蓄積症において欠損している酵素を含む医薬組成物を、前記リソソーム蓄積症の症状を改善するために有効な量で前記哺乳動物の中枢神経系に髄腔内投与するステップを含む方法。
・・・
21.前記髄腔内投与が、前記医薬組成物を脳室内へ導入するステップを含む、請求項1に記載の方法。
(甲3イ)
[0011]
そこで、当分野において、酵素補充療法の有効な投与を通してリソソーム蓄積嘩害を効果的に治療する方法を開発する必要がある。より詳細には、リソソーム蓄積障害を治療するために脳および中枢神経系へより効率的に活性物質を送達できる化合物および組成物のより効果的な投与方法に対する必要が存在する。・・・
[0013]
したがって、本発明の1つの態様では、リソソーム蓄積症を治療する方法であって、リソソーム蓄積症において欠損もしくは欠乏しているタンパク質を含む医薬組成物を提供するステップと、被験者の脳脊髄液内に前記医薬組成物を送達するステップと、を含み、それにより哺乳動物被験者において治療作用を提供するレベルで前記タンパク質が送達される方法が提供される。より詳細には、前記方法は一般に、哺乳動物被験者において治療作用を提供するレベルで前記被験者の脳組織へ前記タンパク質を送達するステップを含む。より詳細には、脳脊髄液への送達は、髄控内注射によって達成される。・・・
[0015]
一部の実施形態は補充される酵素としてイズロニダーゼを使用するが、本発明の方法は異なる酵素の投与を必要とする他の疾患の治療的介入のために使用できることを理解されたい。例えば、本発明はさらにまた、βーグルクロニダーゼ(MPS VII)、イズロン酸スルファターゼ(MPS II)、α-N-アセチルグルコサミニダーゼ(MPS IIIB)、アリールスルファターゼA(MLD)、グルコセレブロシダーゼ、βーグルコシダーゼもしくはアセチルガラクトサミン4-スルファターゼのクモ膜下投与もまた意図している。・・・
[0021]
所定の代表的実施形態では、前記医薬組成物は、哺乳動物では少なくとも約0.01mg/15cc(CSF)から約5.0mg/15cc(CSF)の用量のヒトα-L-イズロニダーゼを含み、その欠損症に罹患している被験者へ週1回投与される。好ましくは、前記医薬組成物は、哺乳動物では約1mg/15cc(CSF)の用量のヒトα-L-イズロニダーゼを含み、その欠損症に罹患している被験者へ週1回投与される。典型的な医薬組成物は、100mMリン酸ナトリウム、150mM NaClおよび0.001%ポリソルベート80を含む緩衝液中に0.58mg/mLのイズロニダーゼを含む緩衝液中で調製される。
[0022]
本発明の方法において使用するための医薬組成物は、さらにまた例えばヒトアルブミンなどの他の成分を含有していてよい。特定の実施形態では、本組成物は少なくとも約1mg/mLの濃度でヒトアルブミンを含有する。本組成物は、例えば約10~50mMの濃度でリン酸ナトリウム緩衝液を含む緩衝液中などのように、緩衝液の形状であってよい。
(甲3ウ)
[0088]
組換えタンパク質および他の治療薬などの物質の投与中は、被験者は、これらの物質に対する免疫応答を開始する可能性があり、これにより、結合して治療活性を抑制するだけでなく急性もしくは慢性免疫学的応答を誘発する抗体が産生されることが見出されている。この問題は、タンパク質が複雑な抗原であり、そして多くの場合に、該被験者が免疫学的に該抗原投与を受けていないために、タンパク質である治療薬にとって最も重要である。そこで、本発明の所定の態様では、治療酵素を摂取している被験者を酵素補充療法に対して寛容化させることが有用かもしれない。この状況では、酵素補充療法は、寛容化レジメンとの併用療法として被験者に投与することができる。
(甲3エ)
[0094]
本明細書で使用する用語「髄腔内投与」は、穿頭孔または大槽穿刺もしくば腰椎穿刺などを通しての側脳室内注射を含む技術(・・・)によって被験者の脳脊髄液内へ医薬組成物を直接送達することを含むことを意図する。・・・上記で言及した部位のいずれかへの本発明による医薬組成物の投与は、組成物の直接注射によって、または注入ポンプの使用によって達成できる。注射のためには本発明の組成物は溶液中で、好ましくはハンクス液、リンガー液もしくはリン酸緩衝液などの生理的に適合する緩衝液中で調製することができる。・・・
(甲3オ)
[0099]
本発明の方法において使用される医薬調製物は、リソソーム蓄積疾患の酵素補充療法に使用するための治療有効量の酵素を含有する。・・・治療有効量は、治療的に有益な作用が組成物の毒性もしくは有害な作用を上回る量でもある。イズロニダーゼの治療有効濃度についての非限定的範囲は、0.001/.lg(酵素)/mLから約150μg(酵素)/mLである。用量値は軽減すべき状態の重症度に伴って変化させてもよいことを留意されたい。いずれか特定の被験者については、特定投与レジメンは個々の必要および酵素補充療法を投与するもしくは投与を監督する人の専門的判断によって経時的に調整すべきであること、そして本明細書に記載の用量範囲は代表例に過ぎず、本発明の範囲もしくは実践を限定することは意図されていないことを理解されたい。
(甲3カ)
[0132]
・・・
実施例2
脳室内注射を介して投与された酵素は血液脳関門を透過し、脳組織中で検出される。
[0133]
リソソーム蓄積障害を有する被験者の脳内におけるリソソーム蓄積誘発性損傷部位への酵素の直接的投与は、現時点では困難であることが証明されている。これらの疾患を治療するために必要とされる大きな酵素複合体は、典型的には血液脳関門を透過することができない。脳-CSF界面を越えてこれらの酵素を引き入れるために有効な方法を決定するために、リソソーム蓄積障害であるMPS Iのラットおよびイヌモデルにおいて2種の酵素投与経路について試験した。
[0134]
酵素を脳室内投与するために、定位固定誘導を用いて、5~10μLの組換えヒトイズロニダーゼ(rhIDU)もしくはコントロールタンパク質のどちらかをラットの側脳室へ注射した。注射24時間後に動物を致死させ、脳切片を入手した。
[0135]
脳切片は、抗イズロニダーゼ抗体を用いて共焦点顕微鏡を使用してrhIDUの存在について分析した。免疫組織化学的分析は、注射された酵素が脳ニューロンに取り込まれたこと、そしてさらにイズロニダーゼがニューロン細胞内のリソソームへ局在することを証明した。抗IDU染色は、この酵素が数ミリメートルにわたり脳組織を透過することを示しているが、酵素勾配は減少しており、これは注射部位から遠くへ離れるほど、脳内で検出される酵素が少なくなることを意味している。染色は、さらにこの酵素の半減期がおよそ7日間であることも示した。
[0136]
脳切片は、rhIDU活性についても分析された。
(4)甲4の記載
甲4は外国語で記載されているので、訳文で示す。
(甲4ア)2520頁左欄要約
要約 グロボイド細胞白質ジストロフィー(GLD)、別名クラッベ病、は深刻な神経変性障害である。これはガラクトセレブロシダーゼ(GALC)遺伝子の機能喪失型突然変異により生じる常染色体劣性形質として遺伝する。以前の研究で筆者らはGLDのtwitcherマウスモデルの末梢組織に組換え酵素GALCを一日おきに注入すると初期臨床表現型が実質的に改善されることを示した。末梢組織に投与後、脳内に活性酵素が検出はされたものの、投与された酵素の大半は末梢部に局在していた。クラッベ病に中枢神経系(CNS)が実質的に関与していることに鑑み、筆者らは組換え酵素をCNSに直接単回投与すると(これは臨床的に可能であると思われるが)何らかの実質的改善がみられるかどうかを確かめたいと考えた。GALCの脳室内(icv)投与後、GALC基質であるサイコシンが有意に(16.5%だけ)減少することが認められた。サイコシンの異常な蓄積はクラッベ病に観察されるCNS病理に決定的な役割を果たすとみられる。さらに、組換えGALCは脳室周囲領域だけでなく注射部位から離れた大脳皮質や小脳のような場所においてもみられた。もっとも重要なのは、生後20日目に組換え酵素GALCを単回icv投与された動物は最長51日間生存したことであり、これは対照twitcherマウスが通常、生後40日と42日間しか生存しないことに比べると有利な点である。以上の結果は、組換え酵素GALCを単回icv投与しただけでも有意な臨床効果が得られる可能性があることを示し、CNSの有意な関与を伴うその他のリソソーム蓄積障害に対しても同様なメリットがあることを示唆する。
(甲4イ)2521頁左欄27~37行
アフィニティ精製抗-GALCポリクローナル抗体CL1475と組換えマウスGALCタンパクを(19)記載の方法で調製した。GALC注入液30μgに対し、組換えGALC溶液(10mg/ml)のストックを保存用緩衝液(マンニトール、170mM;クエン酸ナトリウム、50mM;Tween80、100mg/L)中で調製し単回使用アリコートに分配し、-80°Cにて保存した。抗GALCモノクローナル抗体(CL134)を組換えヒトGALCタンパクに対して産生させ、メイヨー・クリニック抗体中央研究所(Mayo Clinic Antibody Core Facility)の協力を得ながら調製した。CL13.1からのタンパク-A精製免疫グロブリンを使って脳の切片の免疫蛍光染色を行った。
(甲4ウ)2521頁左欄47行~右欄4行
GALCタンパクまたはビヒクル単体を麻酔下のtwitcherマウスに総量3μlでicv投与した。マウスはイソフルラン(アボット・ラボ、North Chicago, IL, USA)吸入により麻酔し、定位装置(Stoelting Co., Wood Dale, IL, USA)に置いて位置決めし、その後、切開部位を適切に調整した。まず、小さく切開し、次に頭蓋骨を露出させ、清浄にし、歯科用ドリル又はドレメルロータリーツールを使って小さな窄頭孔をあけた。シリンジポンプ(Harvard Apparatus, Holliston, MA, USA)で注入速度を0.5μl/分に制御しながらGALCタンパク、またはビヒクル、を27ゲージの針付きのハミルトン注射器(Reno, NV, USA)を使って右側脳室に注入した。座標として尾側からブレグマ方向に1mm、外側から矢状縫合方向に1.3mm、深さ2mmを用いた。
(甲4エ)2525頁左欄13行~18行
これまでの研究により、細胞外に分泌されたGALCはマンノース-6-ホスフェート受容体依存性及び非依存性経路を通して取り込まれることがわかっている(26、27)。内在化されると、この酵素はリソソーム内でタンパク分解をうけ活性形になると考えられている(28)。
(5)甲5の記載
甲5は外国語で記載されているので、訳文で示す。
(甲5ア)132頁要約
これまでに組換えヒトN-アセチルガラクトサミン-4-スルファターゼ(rhASB)による静脈内酵素補充療法(IV ERT)を生後3か月以降毎週受けてきたMPS-VI猫はすべて循環抗rhASB抗体を産生してきた。この事実に鑑み、短期の寛容化レジメンを使って免疫寛容を誘導する可能性を試験した。生後4か月から始めて、MPS-VI猫(n=5)と未罹患猫(n=2)に対してシクロスポリンとアザチオプリンを22日間にわたって投与し、さらに0.1mg/kg rhASBによるIV ERTを毎週行った。4週間の休止期間後、これらの猫に対して0.1mg/kg rhASBによるIV ERTを生後11か月または17ヵ月になるまで毎週行った。4匹の未罹患猫(n=4)にはIV ERTだけを行った。健康状態、成長度、及びセロコンバージョンを定期的にモニタリングした。5匹のMPS-VI猫のうち4匹はrhASBに対して良好な耐容性を示し、その根拠は抗体力価が無視できるか程度か低い値であること、または過敏性反応が見られないことである。MPS-VI猫のうち1匹は一部のIV処置において抗体力価が上昇し、過敏性反応が見られた。寛容化レジメンを受けた2匹の未罹患猫は血清反応陰性のままであったが、このレジメンを受けなかった未罹患猫のうちセロコンバージョンが見られたのは半数のみであった。シクロスポリンとアザチオプリンの短期投与が原因で発生した副作用はわずかであった。rhASBの髄腔内注射を毎週行っても2匹のMPS-VI猫はやはり良好な耐容性を示し、その結果、脳脊髄液内のオリゴ糖断片は少なく硬膜内の空胞形成も少なかった。以上のデータはMPS-VI猫を短期の寛容化レジメンで処置することによりrhASBに対する比較的高いレベルの免疫寛容を誘導することができ、最終的には髄腔内療法を使うことにより硬膜内のリソソーム蓄積の除去が可能となることを示す。
(甲5イ)133頁右欄 Materials and methodsのEnzyme preparation
酵素調製
IV ERTとIT INJそれぞれに用いるrhASBはBioMarin Pharmaceuticals Inc.から提供された。本酵素の詳しい調製に関しては以前に記述されている[12]。rhASBの調製とIT INJそれぞれに用いたビヒクル溶液は10mMリン酸ナトリウム、150mM塩化ナトリウム及び0.025%ポリソルベート80(Tween 80)を含んでいた。すべてのrhASBとビヒクルの調製物はpH5.8であった。rhASBの調製物の濃度はIV ERTの場合は1mg/ml、IT INJの場合は5mg/mlであった。IT INJの前に、1倍量のrhASB(または等量のビヒクル)を2倍量のエリオットB溶液(QOL Medical LLC, Seattle, WA 98021, USA)で毎回希釈した。
(6)甲7の記載
甲7は外国語で記載されているので、訳文で示す。
(甲7ア)325頁1行~10行 Buffersの項
アメリカ薬局方(USP)収載の生理的緩衝剤リストからそれぞれの至適pH範囲に基づいて選択する必要がある。これらの緩衝剤とそのpH範囲の一部を示すと以下の通り:
リン酸塩類 6.2-8.2
コハク酸塩 3.2-6.6
クエン酸塩 2.0-6.2
トリス 7.1-9.1
最も頻繁に使われる緩衝剤濃度は10、15又は20mmの範囲にする必要がある。緩衝剤濃度が増加するに従い注射時の痛みが増大する。
(7)甲8の記載
(甲8ア)1頁 I . 概要に関する項目
I . 概要に関する項目
1 . 開発の経緯
エラプレース[一般名:イデュルスルファーゼ(遺伝子組換え)]は、米国 Trans Karyotic Therapies, Inc.(現 Shire Human Genetic Therapies, Inc.)によりムコ多糖症II型に対する治療薬として開発された、ヒトイズロン酸スルファターゼ(I2S)をヒト細胞により遺伝子組換え技術を応用して生産したイデュルスルファーゼ製剤である。2003年9月に米国において大規模な臨床試験が実施され、その有効性と安全性が確認されたため、2006年7月24日に米国食品医薬品局(FDA)で、また2007年1月8日には欧州医薬品庁(EMEA)でそれぞれ承認された。本邦においては、2006年12月に希少疾病用医薬品に指定され、患者数が非常に少ないこと、またムコ多糖症II型は生命を脅かす疾患であり可及的速やかな保険適応が望まれることから、米国で実施された4例の日本人患者を含めた臨床試験データを基に製造販売承認申請を行い、2007年10月に承認を取得した
(甲8イ)1頁 2.製品の治療学的・製剤学的特性
2.製品の治療学的・製剤学的特性
1.本剤は、ヒトI2Sの遺伝子組換え製剤であり、日本で初めて承認されたムコ多糖症II型に対する酵素補充療法製剤である。
2.本剤は週1回1~3時間の点滴静注により、欠損しているI2Sを補充し、リソソーム内に蓄積したグリコサミノグリカン(GAG)を分解する。
(甲8ウ)1頁
[図:0001399781000013.jpg]
[図:0001399781000014.jpg]
(甲8エ)9頁 2.用法及び用量
2.用法及び用量
通常、イデュルスルファーゼ(遺伝子組換え)として、1回体重1kgあたり0.5mgを週1回点滴静脈内注射する。
■用法・用量に関連する使用上の注意
(1)希釈方法:患者の体重あたりで計算した必要量を取り、日局生理食塩水100mLで希釈する。
(8)甲9の記載
(甲9ア)
【請求項1】
a) 興味のあるポリペプチドを含む組成物を遠心分離及び/又はろ過し、
b) 工程a)から得られたそれぞれ上清又は残留物を濃縮する
ことを含む、興味のあるポリペプチドを含む組成物を濃縮する方法。
(甲9イ)
【0007】
さらに別の態様において、本発明は、500~300mg/mlのPBGDの組成物を皮下注射することを含む、哺乳動物の急性間欠性ポルフィリン症を治療する方法に関する。
さらに別の態様において、本発明は、50~300mg/mlのアリールスルファターゼAの組成物を皮下注射することを含む、哺乳動物の異染性白質ジストロフィーを治療する方法に関する。
さらに別の態様において、本発明は、50~300mg/mlのリゾソーマルアルファ-マンノシダーゼの組成物を皮下注射することを含む、哺乳動物のリゾソーム貯蔵障害アルファ-マンノシドーシスを治療する方法に関する。
さらに別の態様において、本発明は、50~300mg/mlのガラクトシルセレブロシダーゼの組成物を皮下注射することを含む、哺乳動物のクラッベ病を治療する方法に関する。
(9)甲10の記載
(甲10ア)
[図:0001399781000015.jpg]
[図:0001399781000016.jpg]
(10)甲20の記載
(甲20ア)1頁 エリオットのB溶液とCSFの電解質組成とpHの比較表
[図:0001399781000017.jpg]
2 乙号証の記載
(1)乙5(乙24)の記載
乙5は、外国語で記載されているので、訳文で示す。なお、乙5と乙24は同じ文献である。
(乙5ア)172頁左欄8~34行
rhIDUを投与したMPS Iイヌ2頭と正常なイヌ1頭の血清(最大202U/μL)とCSF(最大82.0U/μL)の両方から、rhIDUに対する中程度の抗体が検出された(表5)。これらの3匹の動物はすべて、試験に参加する数ヶ月前にrhIDUの静脈内投与を受けていた。のこりの治療を受けた動物では、rhIDUに対する低レベルの抗体が血清中に検出され(試験終了時に3.61-40.9U/μL)、CSFではより低レベルの抗体が検出された(1.39-2.28U/μL)。治療を受けたイヌでは、CSFの白血球がわずかに増加していた。IT rhIDUで治療したすべてのイヌ(正常及びMPS I)において、脊髄の髄膜、脊髄硬膜の領域および脳の周辺に、Bリンパ球、形質細胞、およびその他のリンパ球の様々な蓄積が見られた(図5f)。これらの硬膜浸潤は、典型的には脊髄神経根の周辺で最も強く、より重症の症例では隣接する硬膜外脂肪や結合組織にまで及んでいた。このような症例では、中程度の局所硬膜外リンパ球性動脈炎も見られた。未治療の動物では、ビヒクルを投与された1匹の正常なイヌを除いて、髄膜炎や炎症は見られなかった。rhIDUを投与した2匹の正常なイヌは、軽度の髄膜炎を発症した。CNSの炎症反応の程度はイヌによって異なり、用量に関係するようであった。免疫反応による明らかな影響は見られず、イヌは元気で活動的であった。
(乙5イ)173頁左欄6~24行
髄腔内投与経路は、麻酔薬や化学療法等、薬物については新規の概念ではないが、酵素や他のタンパク質については広く試験されていない。酵素の髄腔内投与は、いくつかの課題をもたらす。タンパク質産物はいずれも、慢性抗体形成又は炎症反応のいずれかの形態で免疫反応のリスクを抱える。予想通り、IT rhIDUで治療されたイヌにおいて免疫反応が起こった。α-L-イズロニダーゼに対する抗体は、この研究に入る前に静脈内酵素に暴露されていた3匹のイヌの、血清及びCSFで発見された。リンパ形質細胞浸潤以外は、この免疫応答の明らかな臨床的副作用はなかった。ヒトにおいては、静脈内rhIDUに対する免疫応答は、イヌモデルで観察されたものよりも低く、安全性や有効性に対して有意な影響を及ぼしていない。抗体価はヒトにおいては低く、一般に注入を続けると時間の経過と共に低下した[35]。
(2)乙7(乙25)の記載
乙7は、外国語で記載されているので、訳文で示す。なお、乙7と乙25は同じ文献である。
(乙7ア)1393頁右欄3~29行
凝集は、一方で二分子衝突を必要とし、高濃度依存性は、高濃度タンパク質製剤の主要な分解経路であると予想される。濃度と凝集体形成の関係は、凝集体のサイズと会合のメカニズムに依存する。12,17タンパク質凝集は、共有結合性(例えば、ジスルフィド結合)または非共有結合性(可逆的または非可逆的)の会合をもたらす可能性がある。非共有結合性の会合による不可逆的な凝集は、一般に、タンパク質の天然のコンフォメーションを変化させる熱的、機械的、または化学的プロセスによって露出された疎水性領域を介して生じる。19タンパク質案フォールディングのステップが律速である場合、タンパク質凝集のキネティクスは、予想される高次濃度依存性ではなく、疑似1次動作19を示すことがよくある。濃度と凝集体形成の関係における凝集メカニズムの重要性のさらなる説明は、気液界面との相互作用から生じるタンパク質凝集の逆濃度依存性によって示される。
タンパク質の凝集は、免疫原性のために、タンパク質の活性、薬物動態、及び安全性に影響を与えるかも知れない。
(3)乙8の記載
乙8は、外国語で記載されているので、訳文で示す。
(乙8ア)155頁22~31行
4.4.5.2 高濃度で増強されたタンパク質凝集 ほとんどの場合、タンパク質間の会合の機会が高まるため、タンパク質凝集はタンパク質濃度の増加とともに増加する。34,36,106タンパク質は、凝集プロセスを開始するための最初の核を形成するために、臨界濃度を必要とする可能性もある。72平均場格子モデル(mean field lattice model)は、タンパク質が十分に高い濃度で凝集/沈殿することを予測する。10より最近の研究では、生体外における広範囲の非構造ポリペプチドの凝集率が、5桁を超えるタンパク質濃度と相関係数0.92で正の相関があることが分かった。
(4)乙9の記載
乙9は、外国語で記載されているので、訳文で示す。
(乙9ア)41頁右欄1~27行
タンパク質凝集は、生物学的製剤の工程収率及び効能に悪影響を与える可能性もあるため、製薬会社にとって大きな問題となっている。さらに、FDA及びその他の規制当局による凝集イベントの規制監督は、近年大幅に増加している。したがって、バイオ製薬会社はそれらを理解する努力を増やしている。特に懸念されるのは望ましくない免疫原性の誘導であり、これは広く認められている凝集の続発症である(5)。「ネイティブ」な四次の非共有相互作用の変化によって、又は新しいミスマッチの相互作用の人工的な作成によって生じる凝集現象は、(凝集した)ペプチド治療に対する宿主免疫原性応答の動員を頻繁に誘導する。そのような免疫原性応答は、ペプチドの治療効果の低下をもたらす可能性がある。例として、インターフェロンベータに対する中和抗体(6)は、脳MRIスキャンで測定されるように、より高い再発率とより多くの疾患活動性をもたらす(7)。さらなる例として、生命を脅かす抗体反応である「赤芽球癆」が一部の患者で見られたエリスロポエチン(EPO)が挙げられる(8)。
第7 無効理由についての判断
1 無効理由1(明確性)について
(1)請求人の主張の要点
無効理由1について、請求人は以下の点を主張している。
ア 請求項1には、「イズロン酸-2-スルファターゼ(I2S)タンパク質」の濃度の上限値の記載がない。「脳室内投与」する場合における酵素濃度には、本来、上限値が存在するはずである。よって、請求項1の記載は、発明が不明確である。請求項1に従属する請求項2~5及び7~12も同様である。
イ 請求項1には、「50mMまでのリン酸塩を含み」と規定されている。しかしながら、請求項1には「リン酸塩」の濃度の下限値の記載がなく、文言的にはリン酸塩濃度が0mMの場合も包含する。しかしながら、本件特許明細書の発明の詳細な説明を踏まえると、本件特許発明の薬学的組成物において、pHやイオン強度を安定に維持し、脳室内投与するためのリン酸塩濃度には、適切な下限値が存在するはずである。
よって、請求項1に記載された発明は不明確である。請求項1に従属する請求項2~5及び7~12に記載された発明も同様である。
ウ 請求項3は、「または」の文言によって、複数の発明が一つの請求項に記載されており、請求項3に記載された発明の範囲が不明確である。また、請求項3は、「任意の」という文言に伴って任意付加的事項を含む点でも、発明の範囲が不明確である。請求項3に記載された発明の範囲が不明確である。請求項3に従属する請求項4~5および7~12も同様である。
エ 請求項4には、「(i)前記I2S酵素活性が、対照と比較して、少なくとも1倍、2倍、・・・または10倍まで増加される」「(ii)前記I2S酵素活性の増加が、少なくとも10nmol/時・mg、20nmol/時・mg、・・・または600nmol/時・mgである」「(iii)前記I2S酵素活性が、腰部で増加され、任意に、前記腰部において増加した前記I2S酵素活性は、少なくとも2000nmol/時・mg、3000nmol/時・mg、・・・または10、000nmol/時・mgである」と規定され、「または」の文言によって、複数の発明が一つの請求項に記載されており、それにより発明の範囲が不明確となっている。
また、請求項4の記載は、「任意に」という文言に伴って任意付加的事項を含む点でも、発明の範囲を不明確にするものである。
よって、請求項4の記載は不明確である。請求項4に従属する請求項5及び7~12も同様である。
オ 請求項5には、「(i)前記脳室内投与が、静脈内投与と併せて用いられ、任意に、前記静脈内投与は、1か月に1回以下の頻度であるか、または、2ヶ月に1回以下の頻度である」「(iii)前記脳室内投与が、2週間に1回、1ヶ月に1回、または、2ヶ月に1回実施される」と規定され、「または」の文言によって、複数の発明が一つの請求項に記載されており、それにより発明の範囲が不明確となっている。
また、請求湖5の記載は、「任意に」という文言に伴って任意付加的事項を含む点でも、発明の範囲を不明確にするものである。
よって、請求項5の記載は不明確である。請求項5に従属する本請求項7~12も同様である。
カ 請求項7には、「前記I2Sタンパク質が、30mg/ml、50mg/ml、100mg/ml、200mg/ml、250mg/ml、および300mg/mlから選択される濃度で、または、その濃度までで存在する」と規定され、「~から選択される濃度」や「または」の文言によって、複数の発明が一つの請求項に記載されており、発明の範囲が不明確である。請求項7に従属する請求項8~12も同様である。
キ 請求項9には、「請求項6~8のいずれか一項に記載の安定製剤であって、前記塩がNaClであり、任意に、前記NaClは、0~300mMの範囲の濃度として、任意に、137~154mMの範囲の濃度で、任意に154mMの濃度で存在する、安定製剤。」と規定され、「任意に」という文言に伴って任意付加的事項を含む点で、発明の範囲が不明確である。請求項9に従属する請求項10~12も同様である。
ク 請求項10には、「請求項6~9のいずれか一項に記載の安定製剤であって、前記ポリソルベート界面活性剤が、ポリソルベート20、ポリソルベート40、ポリソルベート60、ポリソルベート80およびこれらの組み合わせからなる群から選択され、任意に、前記ポリソルベート界面活性剤は、ポリソルベート20であり、かつ、0~0.02%の範囲の濃度で、任意に、0.005%の濃度で存在する、安定製剤。」と規定され、「任意に」という文言に伴って任意付加的事項を含む点で、発明の範囲が不明確である。請求項10に従属する請求項11~12も同様である。
ケ 請求項12には、「請求項1~11のいずれか一項に記載の安定製剤の単回投与形態を含む容器であって、任意に:(i)前記容器が、アンプル、バイアル、カートリッジ、レザバー、lyo-ject、または前充填した注射器から選択され、任意に、前記容器は、前充填された注射器であり、かつ、ベイクドシリコーン被覆膜を有するホウケイ酸ガラス注射器、噴霧されたシリコーンを有するホウケイ酸ガラス注射器、またはシリコーンを含有しないプラスチック樹脂注射器から任意に選択される、あるいは(ii)前記安定製剤が、5.0mL未満の容量、任意に、3.0mL未満の容量で存在する、容器。」
と規定され、「または」の文言によって、複数の発明が一つの請求項に記載されており、それにより発明の範囲が不明確となっている。
また、請求項12は、「任意に」という文言に伴って任意付加的事項を含む点でも、発明の範囲が不明確である。
コ 請求項3では、「(i)・・・、(ii)・・・、(iii)・・・、(iv)・・・、(v)・・・、ならびに/または、(vi)・・・」と規定され、「ならびに/または」の文言によって、複数の発明を一つの請求項に記載されており、発明の範囲が不明確となっている。また、請求項4、5、11および12も同様の記載形式で規定されている。
よって、請求項3~5および11~12の記載は不明確である。
(2)無効理由1についての判断
ア (1)アについて
請求人の上記(1)アの主張は、請求項1~5及び7~12にイズロン酸-2-スルファターゼ(I2S)タンパク質の濃度について上限の記載がないことを問題とするものであったところ、本件訂正により、訂正請求項1には、イズロン酸-2-スルファターゼ(I2S)タンパク質の濃度について、「5mg/ml~100mg/mlのイズロン酸-2-スルファターゼ(I2S)タンパク質」と記載されることとなった。そして、訂正請求項2~5及び7~12は、訂正請求項1を直接または間接的に引用してさらに特定する形式で記載されているから、これら訂正請求項に記載された発明における補充酵素の濃度は、訂正請求項1の範囲内であって、100mg/mlが上限となることは明らかである。したがって、訂正請求項1~5及び7~12には、上記(1)アの不備はない。
イ (1)イについて
請求人の上記(1)イの主張は、訂正請求項1~5及び7~12にリン酸塩の濃度の下限値が記載されていないことを問題とするものである。
しかし、訂正請求項1の記載から、訂正発明1の医薬組成物にリン酸が含まれ、その濃度が50mMまでであることが明確であり、濃度の下限がないことによって発明が不明確になるものでもない。
請求人が、発明の詳細な説明の記載から適切なリン酸塩の濃度があるはずであると主張している点は、むしろサポート要件に関わる内容であり、明確性とは別の問題である。
したがって、訂正請求項1~5及び7~12には、上記(1)イの不備はない。
ウ (1)ウについて
請求人の上記(1)ウの主張は、訂正請求項3に「または」の文言が記載されていることを問題とするものである。
しかし、訂正請求項3の「請求項1~2のいずれか一項に記載の安定製剤であって、
(i)前記製剤の前記脳室内投与が、標的脳組織への前記I2Sタンパク質の送達を生じさせ、
(a)前記脳標的組織が、白質および/または灰白質内のニューロンを含む、かつ/または、
(b)前記I2Sタンパク質が、ニューロン、グリア細胞、血管周囲細胞および/または髄膜細胞に送達される、
(ii)前記I2Sタンパク質が、脊髄内のニューロンにさらに送達される、
(iii)前記製剤の前記脳室内投与が、肝臓、腎臓および心臓から選択される末梢標的組織への前記I2Sタンパク質の全身的送達をさらに生じさせる、
(iv)前記製剤の前記脳室内投与が、脳標的組織、脊髄ニューロンおよび/または末梢標的組織内のリソソーム局在化を生じさせる、
(v)前記製剤の前記脳室内投与が、脳標的組織、脊髄ニューロンおよび/または末梢標的組織内のGAG蓄積を減少させる、ならびに/または、
(vi)前記製剤の前記脳室内投与が、ニューロンの空胞化を減少させる、
安定製剤。」との記載から、訂正請求項1及びその従属請求項2に記載されたいずれかの発明の範囲内で、上記(i)~(vi)に挙げられた作用のいずれかを生じるものに特定したことが明確であり、訂正発明3が、訂正請求項1及び訂正請求項2に記載されたいずれかの発明と同様に、ひとつのまとまりのある発明であることは明確である。
訂正請求項3に従属する訂正請求項4~5及び7~12も同様である。
したがって、訂正請求項3~5及び7~12に、上記(1)ウの不備はない。
エ (1)エについて
請求人の上記(1)エの主張は、請求項4に「または」、「任意に」という記載がある点を問題とするものであった。
訂正請求項4における「または」という記載は、訂正請求項1~3のいずれか一項に記載の安定製剤について、その前記脳室内投与が、脳標的組織、脊髄ニューロン、末梢標的組織内のいずれかにおけるI2S酵素活性の増加を生じさせるものであることを、選択肢によって特定したものであるから、訂正発明4が、訂正請求項1~3に記載されたいずれかの発明と同様に、一ののまとまりのある発明であることは明確である。
また、本件訂正により、訂正請求項4は、「任意に」との文言を含まないものとなった。
したがって、訂正請求項4並びに訂正請求項4を引用する訂正請求項2~5及び7~12に、上記(1)エの不備はない。
オ (1)オについて
請求人の主張は、請求項5に「または」、「任意に」という文言が記載されていることを問題とするものである。
しかしながら、訂正請求項5の「請求項1~4のいずれか一項に記載の安定製剤であって、
(i)前記脳室内投与が、静脈内投与と併せて用いられる、あるいは、
(ii)前記脳室内投与が、静脈内投与の不在下で用いられる、ならびに/あるいは、
(iii)前記脳室内投与が、2週間に1回、1ヶ月に1回、または、2ヶ月に1回実施される、ならびに/あるいは、
(iv)前記脳室内投与が、併用の免疫抑制療法の不在下で用いられる、
安定製剤。」との記載から、訂正請求項1~4に記載されたいずれかの発明の範囲内において、その投与の形態を(i)~(iv)に挙げられた選択肢から選ばれるものに特定したことが明確であり、訂正発明5が、訂正発明1~4のいずれかと同様に、ひとつのまとまりのある発明であることは明確である。
したがって、訂正請求項5及び訂正請求項5を引用する訂正請求項7~12に、上記(1)オの不備はない。
カ (1)カについて
請求人の主張は、請求項7に、「~から選択される濃度」、「または」という文言が記載されていることを問題とするものである。
訂正請求項7の「前記I2Sタンパク質が、30mg/ml、50mg/ml、および100mg/mlから選択される濃度で、または、その濃度までで存在する、請求項1~6のいずれか一項に記載の安定製剤。」との記載から、訂正請求項1~6に記載されたいずれかの発明の範囲内において、製剤中のI2Sタンパク質の濃度が、30mg/ml、50mg/ml、および100mg/mlから選択される濃度であるか、あるいは、30mg/ml、50mg/ml、および100mg/mlから選択される濃度のいずれかであるものに特定したことが明確であり、訂正発明7が、訂正発明1~6のいずれかと同様に、ひとつのまとまりのある発明であることは明確である。
したがって、訂正請求項7及び訂正請求項7を引用する訂正請求項8~12に、上記(1)カの不備はない。
キ (1)キについて
請求人の主張は、請求項9に「任意に」という文言が記載されていることを問題とするものである。
本件訂正により、訂正請求項9は「任意に」という文言を含まなくなった。
したがって、訂正請求項9及び訂正請求項9を引用する訂正請求項10~12に、上記(1)キの不備はない。
ク (1)クについて
請求人の主張は、請求項10に「任意に」という文言が記載されていることを問題とするものである。
本件訂正により、訂正請求項10は「任意に」という文言を含まなくなった。
したがって、訂正請求項10及び訂正請求項10を引用する訂正請求項11~12に、上記(1)クの不備はない。
ケ (1)ケについて
請求人の主張は、請求項12に「または」、「任意に」という文言が記載されていることを問題とするものである。
本件訂正により、訂正請求項12は、「または」、「任意に」という文言を含まないものとなった。
したがって、訂正請求項12には、上記(1)ケの不備はない。
コ (1)コについて
請求人の主張は、請求項3~5、11~12に「ならびに/または」という文言が記載されていることを問題とするものである。
本件訂正後の請求項3の(i)~(vi)で記載した選択肢は、それぞれI2Sタンパク質の送達部位ならびに該部位に送達されたI2Sタンパク質により発揮される効果を特定したものであり、これらの選択肢を含む請求項3からは、一の発明が把握される。また、本件訂正後の請求項4~5および12についても、上記エ、オ及びケのとおりである。そして、本件訂正後の請求項11は、「ならびに/または」という文言を含まないものとなった。
したがって、訂正請求項3~5、11~12に、上記(1)コの不備はない。
(3)小括
以上より、訂正請求項1~12についての特許は、無効理由1によって無効とされるべきものでない。
2 無効理由2(実施可能要件)について
(1)実施可能要件について
訂正発明1~12は、いずれも物の発明である。
物の発明についての実施は、その物の製造、使用を含むことから、発明の詳細な説明の記載が実施可能要件を満たすためには、発明の詳細な説明の記載から、当業者がその発明の物を製造することができるとともに、その物を使用することができる程度の記載が必要である。そこで、実施可能要件について、以下、その観点から検討する。
(2)訂正発明1について
ア 訂正発明1
訂正発明1は、「ハンター症候群を治療するための安定製剤であって、前記製剤は対象に脳室内投与されることを特徴とし、前記安定製剤は、5mg/ml~100mg/mlの濃度のイズロン酸-2-スルファターゼ(I2S)タンパク質を含み、かつ、50mM以下の濃度のリン酸塩を含み、前記製剤が5.5~7.0のpHを有することをさらに特徴とする、安定製剤。」である。
そこで、発明の詳細な説明の記載から、当業者が5mg/ml~100mg/mlの濃度のイズロン酸-2-スルファターゼ(I2S)タンパク質を含み、かつ、50mM以下の濃度のリン酸塩を含み、前記製剤が5.5~7.0のpHを有するハンター症候群を治療するために対象に脳室内投与される安定製剤を製造することができ、当該安定製剤を使用することができるといえるかを検討する。
イ 明細書の記載内容
(ア)製剤化に関する記載
本件明細書の【0091】には、従来、CSFに近い組成を有するエリオットのB溶液(人工CSF)が、典型的には髄腔内腔内送達のために用いられていたが、エリオットのB溶液は、緩衝剤濃度極度に低いために、長期間に亘ってタンパク質を安定化するために必要とされる適切な緩衝能力を提供し得ず、また、エリオットのB溶液中に存在するカルシム塩は、タンパク質沈降を媒介し、それにより製剤の安定性を低減し得るものであることが記載されている。
実施例4の【0246】~【0248】には、イズルスルファーゼの髄腔内腔内送達についての製剤開発のため、全身的送達のためのI2S製剤と等価な安定性も維持すると同時に、リン酸塩およびポリソルベート20レベルを低減することに焦点を当て、凍結融解、振盪ストレス、および熱ストレスに対する試験を行った結果、生理食塩水製剤が、低タンパク質濃度(2mg/ml)で凍結融解ストレスに対してより安定であり、高タンパク質濃度(100mg/ml)では、凍結融解ストレスは、生理食塩水含有製剤およびリン酸塩含有製剤の双方で不安定性の問題は発生しなかったこと、振盪ストレス試験は、0.005%ポリソルベート20が振盪関連ストレスに対してタンパク質を保護すること、生理食塩水製剤のpHは、2~8℃で24カ月間、6.0で維持されることを確認したことが記載され、また、タンパク質に結合された残留リン酸塩の量、ならびにタンパク質濃度の増加が、最終製剤におけるpH安定性に関与することが認められたとの記載がある。
また、【0273】には、製剤原料のイズルスルファーゼを50mg/mlに濃縮し、次いで150mMの生理食塩水中に透析濾過したところ、10XDF後において、通過液が約0.07mMのリン酸塩であったが、タンパク質保持物質は約0.16mMのリン酸塩を含有し、リン酸塩がタンパク質に結合して約0.2mMのリン酸塩残基が、製剤原料中に残留していることを示し、これが生理食塩水製剤が6.0のpHを維持していることに寄与していると思われることが記載されている。
(イ)脳室内(ICV)投与の実施例
明細書には、補充酵素を含む製剤のICV投与が行われた以下の実施例が記載されている。
(i)明細書の実施例5には、124I標識化I2SをICV経路、IT-L経路、IV経路によって試験動物に投与し、PETスキャンを実施した結果が図62に示されている(【0284】、図62)。
(ii)明細書の実施例6には、ビーグル犬にI2Sの単回ボーラス1mL注射(20mMリン酸ナトリウム、pH6.0;137mM塩化ナトリウム;0.02%ポリソルベート-20中30mg/mL)がITまたはICVで投与し、投与後24時間で致死させ、脳および脊髄組織について、ELISA、I2S酵素活性およびIHCによって定量的I2S分布を試験群間で比較したことが記載されている(【0289】~【0290】)。
明細書には、実施例6の結果について、I2Sは、ITおよびICV群の双方の灰白質全体に広く分布し、IHCでは、大脳皮質では、図47(AおよびB)に示されるように、ITおよびICV群の双方で、ニューロンは、表面の分子層から深部の内層までの6つのニューロンでI2Sについて陽性であり、ITおよびICV群の大脳皮質では、図47(CおよびD)で示されるように、I2Sは、プルキンエ細胞を含むニューロンで検出され、ITおよびICV群の双方において、図47(EおよびF)に示されるように、海馬内のニューロンの大集団が、I2Sに陽性であり、I2S陽性ニューロンはまた、図47(GおよびH)で示されるように、両群において、視床および尾状核でも確認されたことが記載されている(【0291】~【0292】)。
(ウ)髄腔内(IT)投与の実施例の記載
明細書には、補充酵素を含む製剤のIT投与が行われた以下の実施例が記載されている。
(i)実施例1には、髄腔内腔内-腰椎経路によって、組換え体ヒトI2Sが成体MPS IIマウス(IKOマウス)の脳に送達されることができるかどうかを判定するための試験を行ったことが記載されている(【0196】)。実施例1において試験に使用した組換え体ヒトI2Sは、リン酸塩緩衝生理食塩水に対して透析し、濃縮・再懸濁後に濾過滅菌したもので、最終濃度は、51mg/mlであったことが記載されている(【0196】)。この試験により、IKOマウスでは、髄腔内腔内-腰椎経路によって組換え体ヒトI2Sが脳に送達され、注射されたI2Sは、髄膜細胞および脳のニューロンで検出、光学顕微鏡および電子顕微鏡レベルの双方での脳全体の細胞空胞化の減少、注射されたI2Sは、脳の種々の領域において広範囲の組織病理学的改善、脳全体のLAMP-1リソソームマーカーの減少、髄腔内腔内注射されたI2Sは、末梢循環に入り、肝臓の形態学的および組織学的マーカーの改善を生じさせることを示す結果が得られたことが記載されている(【0206】~【0211】)。
(ii)実施例2には、154mM NaCl、0.005%ポリソルベート20、pH5.3~6.1中に、I2Sタンパク質を3mg/ml、30mg/ml、100mg/mlまたは150mg/mlの濃度で含む製剤をカニクイザルにIT投与した試験が記載され(【0212】~【0220】)、このI2S製剤の投与により、臨床的徴候の発生率は最小であったこと(【0222】)、髄膜近くの表面での層Iから白質に隣接したより深い層IV内のニューロンに至る脳内ニューロンにおいて、注射されたI2Sの広範囲な分布が明らかにされたことが記載され(【0227】)、毎月の間隔で送達される150mgまでの用量でのイズルスルファーゼのIT投与は、副作用を示さず、CNSのほか、肝臓、腎臓および心臓においても全身的レベルをもたらしたことが記載されている(【0234】)。
(iii)実施例5には、組換え体ヒトイズロン酸-2-スルファターゼ(I2S)製剤を、6.0のpHで、154mMのNaCl、0.005%のポリソルベート20のビヒクル中で調製かつ製剤化し、非ヒト霊長類に、I2Sの3mg、30mg、または100mgのいずれかを月単位で、移植した髄腔内腔内ポートによって、6ヶ月間継続して投与したことが記載されている(【0278】~【0279】)。
実施例5において、IT投与されたI2Sは脳室近くの白質脳組織の希突起グリア細胞内で検出され、リソソームへ局在化が確認されたことから、脳の組織の深部に分布することが可能であり、ならびに細胞内局在化が可能であることを確認したとの記載がある(【0285】~【0286】、図46)。
また、送達されたI2Sが生物学的活性を保持しているかどうかを明らかにするために、脳におけるI2Sのレベルを、比活性アッセイを用いて測定したところ、30mgおよび100mgのIT投与動物の脳における酵素活性は、死体解剖時(投与後24時間)ではベースライン以上であったことが記載されている(【0287】)。
(iv)実施例7には、ハンター症候群の動物モデルとして、イズロン酸-2-スルファターゼノックアウト(IKO)マウスモデルを市販のI2S(Elaprase(登録商標))を濃縮し、リン酸塩緩衝生理食塩水(PBS)中に再懸濁させたI2S濃度26mg/mlの製剤でI2Sの260μg用量を髄腔内投与で処置したところ、3回目の注射後に、ビヒクル処置マウスに比べてI2S処置マウスで、表面大脳皮質、尾状核、視床および小脳における細胞内空胞化の広範囲の減少が白質で確認されたことが記載されている(【0293】~【0295】)。
ウ 訂正発明1の医薬組成物の効果について
上記を踏まえ、訂正発明1の医薬組成物の効果につき、検討する。
(ア)I2Sによる治療効果について
I2Sを有効成分とする医薬品は、ムコ多糖症II型の治療薬として、本願特許の出願日前である2006年7月24日に米国食品医薬品局(FDA)で、また2007年1月8日には欧州医薬品庁(EMEA)で承認され、日本では、2007年10月に承認されており(甲8ア)、I2Sがムコ多糖症II型、すなわち、ハンター症候群を治療することのできる生理活性を有するものであることは、本件特許の出願日において、当業者に周知の事項であると認められる。
そして、上記イ(ウ)のとおり、本件特許明細書の実施例1には、ハンター症候群のモデル動物であるMPS IIマウス(IKOマウス)に対して、リン酸塩緩衝生理食塩水に対して透析し、濃縮・再懸濁後に濾過滅菌した51mg/mlの濃度のI2Sを髄腔内腔内-腰椎経路で投与すると、脳全体の細胞空胞化の減少、脳の種々の領域において広範囲の組織病理学的改善、脳全体のLAMP-1リソソームマーカーの減少、肝臓の形態学的および組織学的マーカーを改善が観察されたことが示され、実施例7にも、IT投与による脳脊髄液へのI2Sの注入によって、IKOマウスの表面大脳皮質、尾状核、視床および小脳における細胞内空胞化の減少が確認されたことが示されている。
そうすると、当業者は、本件特許明細書の記載から、I2Sを脳脊髄液へ注入することにより、脳組織や肝臓において、ハンター症候群に対して治療効果を発揮できることを理解するといえる。
(イ)IS2の分布と深部組織への浸透について
上記イ(イ)及び(ウ)のとおり、実施例2、実施例5及び実施例6では、I2S製剤のICV投与及びIT投与のいずれによっても、I2Sが深部脳組織に浸透し、ニューロンで検出されることが示されている。
また、上記イ(ウ)のとおり、実施例5において、IT投与により、脳におけるI2Sのレベルを、比活性アッセイを用いて測定したところ、投与後24時間の30mgおよび100mgのIT投与動物の脳における酵素活性は、ベースライン以上であったことが記載されている。
(ウ)製剤の安定性について
上記イ(ウ)のとおり、本件特許明細書の実施例4においては、高タンパク質濃度では、凍結融解ストレスは、生理食塩水含有製剤およびリン酸塩含有製剤の双方で不安定性の問題は発生しなかったことが示されている。タンパク質に結合された残留リン酸塩の量、ならびにタンパク質濃度の増加が、最終製剤におけるpH安定性に関与することが示され、タンパク質に結合して製剤原料中に残留するリン酸塩が生理食塩水製剤が6.0のpHを維持していることに寄与していると思われることが記載されている。また、0.005%ポリソルベート20は、振盪関連ストレスに対してタンパク質を保護することが記載されている。浸透関連ストレスは、液体状態で製剤を保存運搬する場合にのみ問題となるものであるところ、訂正請求項1を引用して限定する訂正請求項11に凍結乾燥製剤の態様が記載されるように、訂正発明1の製剤は、必ずしも液体製剤として提供されるものでないことからすると、脳室内等や髄腔内投与により脳脊髄液を介して補充酵素を送達させる製剤に、リン酸塩やポリソルベート20を敢えて添加しない場合であっても、脳脊髄液への注入に適する安定な製剤が得られることが理解できる。
エ 臨床試験に関する宣誓書について
ハンター症候群患者へのイデュルスルファーゼ(I2S)のIT投与の臨床試験に関する宣誓書(乙1)には、I2S製剤のIT投与により、重篤な有害事象は認められず、またCSFでのGAGレベルの減少がみられ、中等度の罹患患者では、認知障害に対する臨床的有効性の有望な結果が観察されたことが記載されている。明細書において、訂正発明1の組成物のICV投与がIT投与と同等の補充酵素の分布をもたらしたことを踏まえると、乙1の臨床試験の結果からも、ヒトの治療に実際にICV投与を行った場合に治療効果を示すであろうと推認することができる。
オ 小括
以上のとおり、明細書の記載から、当業者は、I2Sがハンター症候群に対して治療効果を示す酵素であると理解するとともに、脳脊髄液への注入に適する安定な製剤を製造することができ、リソソーム酵素の脳室内投与が、リソソーム蓄積症に対する治療効果を示すこと、脳室内投与及び髄腔内投与がいずれも、製剤中へのリン酸塩やポリソルベート20の添加の有無を問わず脳の深部組織に治療標的の濃度でリソソーム酵素を送達可能であることを理解するといえる。
そうすると、明細書の記載から、当業者は、訂正発明1の医薬組成物が、安定な製剤であり、ハンター症候群の対象に脳室内投与することで治療効果が得られるものであることを理解するといえる。
よって、発明の詳細な説明の記載は、訂正発明1について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものである。
(3)訂正発明2~12について
以下のように、発明の詳細な説明の記載は、訂正発明2~12について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分な記載がある。
訂正発明2は、「(i)塩、または、(ii)ポリソルベート界面活性剤をさらに含む、請求項1に記載の安定製剤。」であるところ、上記(2)イ(ア)のとおり、本件明細書の実施例1などには、塩化ナトリウムやポリソルベート80を含む製剤が記載されている。
訂正発明3は、「請求項1~2のいずれか一項に記載の安定製剤であって、
(i)前記製剤の前記脳室内投与が、標的脳組織への前記I2Sタンパク質の送達を生じさせ、
(a)前記脳標的組織が、白質および/または灰白質内のニューロンを含む、かつ/または、
(b)前記I2Sタンパク質が、ニューロン、グリア細胞、血管周囲細胞および/または髄膜細胞に送達される、
(ii)前記I2Sタンパク質が、脊髄内のニューロンにさらに送達される、
(iii)前記製剤の前記脳室内投与が、肝臓、腎臓および心臓から選択される末梢標的組織への前記I2Sタンパク質の全身的送達をさらに生じさせる、
(iv)前記製剤の前記脳室内投与が、脳標的組織、脊髄ニューロンおよび/または末梢標的組織内のリソソーム局在化を生じさせる、
(v)前記製剤の前記脳室内投与が、脳標的組織、脊髄ニューロンおよび/または末梢標的組織内のGAG蓄積を減少させる、ならびに/または、
(vi)前記製剤の前記脳室内投与が、ニューロンの空胞化を減少させる、
安定製剤。」
あるところ、上記(2)ウのとおり、実施例において、これらの効果が得られることが確認されて記載されている。
訂正発明4は、「請求項1~3のいずれか一項に記載の安定製剤であって、前記製剤の前記脳室内投与が、脳標的組織、脊髄ニューロンおよび/または末梢標的組織内のI2S酵素活性の増加を生じさせる、安定製剤。」であるところ、本件特許明細書において、訂正発明の製剤のICV投与により、脳組織や末梢標的組織である肝臓へのI2Sの到達が示されていることは、上記(2)ウ(ア)のとおりであり、脳脊髄液を介して送達されたI2Sが送達部位で酵素活性を有することが示されていることは、上記(2)ウ(イ)のとおりである。
訂正発明5は、「請求項1~4のいずれか一項に記載の安定製剤であって、
(i)前記脳室内投与が、静脈内投与と併せて用いられる、あるいは、
(ii)前記脳室内投与が、静脈内投与の不在下で用いられる、ならびに/あるいは、
(iii)前記脳室内投与が、2週間に1回、1ヶ月に1回、または、2ヶ月に1回実施される、ならびに/あるいは、
(iv)前記脳室内投与が、併用の免疫抑制療法の不在下で用いられる、安定製剤。」であるところ、I2Sは、本件特許出願の前に、週1回の静脈注射用の製剤として承認され実用化されていたものであり(甲8ア及び甲8イ)、当業者は静脈注射と脳室内投与を併用することが可能であると理解でき、本件特許明細書の【0164】にも、脳室内投与と静脈注射の併用、採用可能な投与間隔について説明する記載がある。
訂正発明6は、「10mg/ml~100mg/mlの濃度のイズロン酸-2-スルファターゼ(I2S)タンパク質と、塩と、ポリソルベート界面活性剤とを含む、脳室内投与のための安定製剤であって、前記製剤は、5.5~7.0のpHを有し、かつ、50mM以下の濃度のリン酸塩を含む、安定製剤。」であるところ、本件特許明細書には、上記(2)イ(ア)のとおり、実施例1などに、塩化ナトリウムやポリソルベート20を含む製剤が記載されており、上記(2)イ(イ)及び(ウ)のとおり、当該範囲内の組成を有する製剤を投与した実施例が記載されている。
訂正発明7は、I2Sタンパク質が、30mg/ml、50mg/ml、および100mg/mlから選択される濃度で、または、その濃度までで存在するとの特定を有するものであるところ、上記(2)イ(ア)のとおり、本件特許明細書には、I2Sを100mg/mlの濃度で含有する製剤の例が記載され、上記(2)イ(イ)及び(ウ)のとおりI2Sを訂正発明7の範囲内の濃度で含有する製剤を投与した実施例が記載されている。
訂正発明8は、I2Sタンパク質が、配列番号1のアミノ酸配列を含むとの特定が付されたものであるが、I2Sタンパク質が、配列番号1のアミノ酸配列を有するものであることは、本件特許明細書の【0074】に記載されている。
訂正発明9は、「請求項6~8のいずれか一項に記載の安定製剤であって、前記塩がNaClである、安定製剤。」、訂正発明10は、「請求項6~9のいずれか一項に記載の安定製剤であって、前記ポリソルベート界面活性剤が、ポリソルベート20である、安定製剤。」、訂正発明11は、「請求項1~10のいずれか一項に記載の安定製剤であって、前記製剤が液体製剤である、安定製剤。」、訂正発明12は、「請求項1~11のいずれか一項に記載の安定製剤の単回投与形態を含む容器。」であるところ、本件特許明細書には、塩化ナトリウムとポリソルベート20をともに含む液体の製剤を用いた試験が記載されており(【0289】~【0290】)、液体の医薬組成物を単回投与形態で容器に収容することも当業者にはよく知られた手段である。
(4)まとめ
以上より、訂正発明1~12についての特許は、無効理由2によって無効とされるべきものでない。
3 無効理由3(サポート要件)について
訂正後の特許請求の範囲の記載及び明細書【0002】~【0008】の記載から見て、訂正発明の課題は、グリコサミノグリカンの蓄積によりCNS障害を生じるリソソーム蓄積障害に対して、血液能関門及び脳表面でのバリアの存在などの障害物を克服し、脳に治療薬を有効に送達させることであると認められる。
上記2で検討したとおり、発明の詳細な説明の記載から、当業者は、訂正発明1~12が、いずれも、脳室内投与により、補充酵素を脳深部組織に有効に送達させ、脳リソソーム蓄積障害を治療することができるものであると理解できる。したがって、訂正発明1~12は、発明の詳細な説明の記載から、上記の発明の課題を解決可能であると当業者が認識可能な範囲内のものであるから、発明の詳細な説明に記載したものである。
よって、訂正発明1~12についての特許は、無効理由3によって無効とされるべきものでない。
4 無効理由4(新規性)について
(1)訂正発明1について
ア 甲2に記載された発明
甲2は、リソソーム蓄積症の酵素補充療法に関する特許文献であり(【0001】)、請求項38には、「酵素の欠乏により引き起こされるリソソーム蓄積症にかかっている患者を治療する方法であって、前記酵素を脳への脳室内輸送によって患者に投与することを含む方法」が記載されている。また、請求項43は、請求項38を引用する形式で記載され、「リソソーム蓄積症がムコ多糖症II型であり、前記酵素がイズロン酸-2-スルファターゼである、請求項38~40のいずれか一項記載の方法。」と記載されている。
甲2の【0038】には、脳室内投与する組成物について、適する医薬キャリアとして、例えば、生理食塩水、静菌水、Cremophor(登録商標)、リン酸緩衝食塩水(PBS)、他の食塩水、デキストロース溶液、グリセロール溶液、水、ならびに石油、動物、植物、または合成油と一緒に作製された油乳剤を含むこと、また、医薬組成物中のリソソーム加水分解酵素の濃度が、約0.001重量%から20重量%以上に変動し得ることが記載されている。
甲2のこれらの記載から、甲2には以下の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されているといえる。
(甲2発明)
「酵素の欠乏により引き起こされるリソソーム蓄積症にかかっている患者を治療するための方法に用いるための組成物であって、リソソーム蓄積症がムコ多糖症II型であり、前記酵素がイズロン酸-2-スルファターゼであり、該方法が、前記酵素を脳への脳室内輸送によって患者に投与することを含むものであり、該組成物は、適する医薬キャリアとして、例えば、生理食塩水、静菌水、Cremophor(登録商標)、リン酸緩衝食塩水(PBS)、他の食塩水、デキストロース溶液、グリセロール溶液、水、ならびに石油、動物、植物、または合成油と一緒に作製された油乳剤を含み、リソソーム加水分解酵素の濃度が、約0.001重量%から20重量%以上に変動し得る組成物。」
イ 対比
ムコ多糖症II型は、イズロン酸-2-スルファターゼが欠乏することによる疾患であるところ、これはハンター症候群とも呼ばれる疾患であるから(甲2【0002】)、訂正発明1と甲2発明との一致点及び相違点は以下のとおりと認められる。
(一致点)
ハンター症候群を治療するための製剤であって、前記製剤は対象に脳室内投与されることを特徴とし、前記製剤は、イズロン酸-2-スルファターゼ(I2S)タンパク質を含む製剤。
(相違点)
訂正発明1は、イズロン酸-2-スルファターゼ(I2S)タンパク質を5mg/ml~100mg/mlの濃度で含むとともに、50mMまでのリン酸塩を含み、かつ該組成物が、5.5~7.0のpHを有する安定製剤であることを特徴とするのに対し、甲2発明は、イズロン酸-2-スルファターゼ(I2S)タンパク質を5mg/ml~100mg/mlの濃度で含むこと、50mMまでのリン酸塩を含み、該組成物が、5.5~7.0のpHを有する安定製剤であることのいずれも特定されていない点。
ウ 判断
上記イのとおり、訂正発明1と甲2発明の間には相違点がある。
エ 請求人の主張に対して
請求人は、甲2の【0038】や実施例の記載から、補充酵素を5mg/ml~100mg/mlの濃度で含む組成物が認定できる旨を主張する。
しかしながら、以下のとおり、請求人の主張は妥当なものではない。
甲2の実施例2(【0056】~【0058】)には、ASMKOマウスへの組み換えヒトASM(rhASM)の連続的注入実験が記載され、凍結乾燥されたrhASMを人工脳脊髄液(aCSF)中に溶解させ、0.250mgのhASMを4日連続で脳室内にカニューレで注入し、合計1mgのhASMを注入した結果、hASMの脳室内注入が脳を通じてSPMレベルの全身的な減少を示したことが記載されている。この実施例2には、脳室内投与されたhASMの量は記載されていても、組成物中のhASMの濃度も組成物の投与液量も記載されていない。なお、甲2の【0056】には250mgとの記載もあるが、実施例2についての表2の記載は「.250mg」であり、甲2に対応する国際公開公報である乙15の対応する記載も「0.250mg」であることからすると、甲2の記載は【0056】翻訳の際に誤記(誤訳)が生じたものと認められ、甲2の実施例2における補充酵素の投与量は、0.250mgであることが理解できる。
また、甲2の実施例3には、6時間かけて人工脳脊髄液(aCSF)中に溶解させたhASMが脳室内投与され、その投与量が0.250mg、0.075mg、0.025mg、0.0075mgであったことが記載されているが、溶液中のhASMの濃度も投与液量も記載されていない。
脳室内投与される医薬組成物中の補充酵素の濃度について、甲2には、他にも、具体的に特定した記載はなく、【0038】において広範な濃度範囲が例示的に記載されるにとどまる。このような甲2の記載から、特定の濃度の補充酵素を含む医薬組成物の発明が記載されているということはできない。
オ 小括
以上より、訂正発明1は、甲2に記載された発明でない。
(2)訂正発明6について
訂正発明6と上記(1)アの甲2発明を対比する。
(一致点)
イズロン酸-2-スルファターゼ(I2S)タンパク質を含む、脳室内投与のための製剤。
(相違点)
訂正発明6は、イズロン酸-2-スルファターゼ(I2S)タンパク質を5mg/ml~100mg/mlの濃度で含むとともに、50mMまでのリン酸塩を含み、かつ該組成物が、5.5~7.0のpHを有することを特徴とする安定製剤であるのに対し、甲2発明は、イズロン酸-2-スルファターゼ(I2S)タンパク質を5mg/ml~100mg/mlの濃度で含むこと、50mMまでのリン酸塩を含み、該組成物が、5.5~7.0のpHを有する安定製剤であることのいずれも特定されていない点。
訂正発明6と甲2発明との相違点は、上記(1)イの訂正発明1と甲2発明の相違点と同じものであり、上記(1)ウ~オのとおり、当該相違点に係る構成を備える発明が甲2に記載されているとはいえない。
したがって、訂正発明6は、甲2に記載された発明でない。
(3)訂正発明2~3、5、7、9及び11について
訂正発明2~3、5、7、9及び11は、訂正発明1又は6をさらに限定して特定した発明であるから、甲2発明との間に上記(1)イ又は(2)イにおける相違点と同様の相違点があることは明らかである。
したがって、訂正発明2~3、5、7、9及び11も、甲2に記載された発明でない。
(4)まとめ
以上より、訂正発明1~3、5~7、9及び11についての特許は、無効理由4によって無効とされるべきものでない。
5 無効理由5(進歩性)について
(1)はじめに
ア 甲6の先行技術文献としての適格性についての両当事者主張
請求人が、無効理由5の副引用例として、甲6に基づく主張をしていることに対し、請求人は、甲6が公衆に利用可能となった日が、優先基礎出願の出願日より後であり、優先権主張の利益が認められるから、甲6は先行技術文献としての適格性がない旨を主張しており、両当事者で争いがある。
そこで、進歩性の判断に先立って、まず、この点について以下で検討する。
イ 甲6が公衆に利用可能となった日
甲6の最初の2頁は、INJECTABLE DRUG DELIVERY: FORMULATIONS FOCUS Issue No #19 May 1st, 2010のウェブサイト
(URL:https://www.ondrugdelivery.com/magazines/injectable-drug-delivery-2010-formulations-focus/)
のプリントアウトであり、3頁以降は、上記ウェブサイトに表示されているpdfダウンロード用のリンク
(URL:https://www.ondrugdelivery.com/wp-content/uploads/2018/11/May2010.pdf)
からダウンロードされたpdfファイルのプリントアウトであると認められる。(甲6最初の頁、請求人口頭審理陳述要領書16頁19行~23行)
甲6のpdfファイルに対応する部分は、INJECTABLE DRUG DELIVERY:FORMULATIONS FOCUSと題する総説集である。甲6のうち、発行日に関する情報が読み取れるのは、ダウンロード元のウェブサイトに記載された「Issue No #19 May 1st, 2010」(甲6の最初の頁)の部分のみであり、この表示からは、甲6は2010年5月1日に発行されたものと解される。
しかしながら、甲6の32頁(当該号の30頁と印字されている頁)には、参考文献5として、2010年5月24日にアクセスされたウェブページが記載され、参考文献11として、2010年5月26日にアクセスされたウェブページが記載されている(なお、甲6の上記記載からみて、被請求人の提出した令和3年4月27日付け上申書4頁12行~15行の「10の文献は、2010年5月26日にインターネットを通じて利用可能となった文献であることが明記されている。」との記載について、文献の番号「10」は、「11」の誤記であると認められる。)。このように、甲6のpdf部分には、2010年5月1日よりも後に入手された情報に関する記載があることからすると、甲6の最初の頁(ウェブサイトの画面)に2010年5月1日との表示があっても、甲6のpdfファイルが、2010年5月1日に公衆に利用可能であったとただちにいうことはできない。
また、甲6が含まれるONdrugDeliveryマガジンの発行及び編集担当者である オーナー フレデリック ファーネス出版のガイ ファーネスへの照会結果である乙12には、ONdrugDeliveryのウェブサイトでは、甲6である「注射可能なドラッグイデリバリー2010:製剤フォーカス」号は、雑誌の各号に番号をつけて日付を付ける正式なシステムを導入する前に発行されたため、公開時期をオンラインで明確に確認できないこと、2010年5月号として掲載されているが、この号の植字、編集、校正について議論する2010年6月30日の電子メールがあること、出版可能な発行物の入手可能性に関する電子メールが2010年7月2日に送受信されていること、この号のpdfのプロファイルには、2010年7月2日の午前9:10に作成され、同日の午前10:51に変更されたことが確認でき、この号が2010年7月2日より前には入手可能でなかったことが説明されている(乙12の本文3段落~5段落)。さらに、甲6のpdfファイルのプロパティを表示した乙22からも、作成日と更新日が2010年7月2日であることが認められる。
これらの甲6のpdfファイルの内容が公衆に利用可能となった日に関する証拠の内容を総合すると、甲6は2010年7月2日になってから公衆に利用可能となったと認められる。
ウ 優先権主張の利益について
上記イのとおり、甲6が2010年7月2日になってから公衆に利用可能となったものであると認められるのに対し、これより前の優先基礎出願は、2010年6月25日の米国特許出願第61/358,857号(基礎出願1、甲14)と2010年7月1日の米国特許出願第61/360,786号(基礎出願2、甲15)である。
基礎出願2の明細書である甲15の9頁5~22行には、「本発明は、CNS投与用の治療剤を製剤化するための医薬組成物や溶液の緩衝液濃度やpHのわずかな変化が、投与される溶液やそこに含まれる治療剤の忍容性やin vivoの安全性に劇的な影響を与えるという発見に基づいている。本発明の医薬組成物及び製剤は、高濃度の治療剤(例えば、タンパク質又は酵素)を可溶化することができ、そのような治療剤をCNS成分及び/又は病因に送達するのに適している。本発明の組成物は、それを必要とする対象のCNSに投与された場合(例えば、髄腔内に投与された場合)、安定性が改善され、忍容性が改善されることをさらに特徴とする。」と記載され、本発明が、CNS投与のための製剤の緩衝剤濃度及びpHの小さな変化が、忍容性及びin vivoの安全性に劇的な影響を与えるという発見に基づくものであり、本発明の製剤は、治療用酵素を高濃度で製剤化することが可能であることの記載がある。また、甲15の12頁の1~15行の「発明の医薬組成物は、治療薬を脳室内でCNSに送達する(すなわち、脳室に直接投与する)ために使用することもできる。脳室内への投与は、Ommayaリザーバー又は他の同様のアクセスポートを介して容易に行うことができ、これらのアクセスポートは、脳室内に直接配置されたリードカテーテルとともに、被験者の頭頂部の頭皮と骨膜との間のポケットに移植され得る。また、小脳髄液槽(cisterna magna)も考えられており、これは、小型のネズミでの髄液内又は脳室内投与と比較して物流が容易であることから、例えば動物種で使用することができる。」との記載及び18頁26行~19頁4行の「発明の医薬組成物、製剤、及び関連する方法は、様々な治療剤を対象者のCNSに送達し(例えば、髄腔内、脳室内、又は脳槽内)、関連する疾患の治療に有用である。本発明の医薬組成物は、リソソーム記憶障害を患っている被験者にタンパク質及び酵素を送達する(例えば、酵素置換療法)ために特に有用である。」と記載されるように、甲15には、当該医薬組成物は、髄腔内のほか、脳室内への直接投与により送達することができるものであることが記載されている。そして、投与されたリソソーム酵素は、甲15の図2に示されるように、脳深部組織の一つである尾状核(caudate nucleus)の神経細胞に分布することが示されている。甲15の図1に示されるように、ICV注射は脳室空間に直接注射するのに対し、IT注射は脊髄に注射する。たとえば、甲2の【0034】にも記載されるように、脳脊髄液(CSF)が脳室を満たし、脳と脊髄を取り囲んでおり、ICVとITでは、異なる注入部位を介して同じCSFに注入されることは、基礎出願2の出願時において周知の事項であったことも考慮すると、甲15の上記記載に接した当業者は、甲15に記載されている処方がITとICVの両方に適用されると理解する。
甲15には、医薬組成物のタンパク質の濃度として、「少なくとも50mg/ml、・・・、少なくとも30mg/ml、・・・、少なくとも10mg/ml少なくとも5mg/ml」という記載があり(甲15の23頁7~14行)、医薬組成物のpH及びリン酸塩濃度が「低pH及び低リン酸塩濃度」であることが記載され(甲15の5頁1~3行)、「約10mM未満、約20mM未満又は約30mM未満のリン酸塩」の実施態様の記載がある(甲15の5頁5~8行)。また、甲15には、CNS送達に適した製剤を実現するために必要な組成とpHの関係についても記載され、実施例3では、動物実験に基づいて、「リン酸塩濃度が低く、pHが5.5~7.0の製剤は、良好な忍容性を示した」と記載され、5mMのリン酸ナトリウム、145mMの塩化ナトリウム、0.005%のポリソルベート20を含むpH7.0のビヒクルが特に溶解性及び安定性に優れ、このビヒクルによってタンパク質14mgを1.0mL中に含む製剤を調製して4回の髄腔内投与を行ったところ、臨床上有害な兆候は見られなかったことが記載され、図5に示すように、「CNS-Tolerated Formulation」の処方設計空間が定義されたと結論づけるとともに、CNSへのタンパク医薬の送達のためには、医薬組成物が適切な溶解性、忍容性、安定性のバランスがとれたものとする必要であると記載している(甲15の27頁6行~28頁3行、図5、図6)。
ICV注射とIT注射は、両方とも脳脊髄液に治療用酵素を直接注入する投与方法であり、基礎出願1、2の第5頁及び請求項41及び84には、治療用酵素として、イズロン酸-2-スルファターゼ(I2S)が記載され、請求項49及び54に疾患としてハンター症候群についても記載されていることから、基礎出願1、2の明細書には、ハンター症候群のための治療用酵素のであるイズロン酸-2-スルファターゼ(I2S)のICV注射とIT注射の両方を対象とする記載があると認められる。
これらの基礎出願2の明細書の記載全体から、訂正発明が、当該明細書に記載されているといえるから、本件特許出願は、基礎出願2に基づく優先権主張の利益を享受することができる。したがって、甲6は、本件特許出願に対する特許法第29条の先行技術文献とはならない。
そこで、以下の無効理由5a、5bの判断において、甲6は除外して検討する。
(2)無効理由5aについて
無効理由5aは、請求人が請求項1~12について主張した、甲2を主引用例とする進歩性欠如の無効理由である。
ア 訂正発明1について
(ア)甲2発明
上記4(1)アで認定した甲2発明を再掲する。
(甲2発明)
「酵素の欠乏により引き起こされるリソソーム蓄積症にかかっている患者を治療するための方法に用いるための組成物であって、該方法が、前記酵素を脳への脳室内輸送によって患者に投与することからなり、前記リソソーム蓄積症がムコ多糖症II型であり、前記酵素がものである、組成物であって、適する医薬キャリアとして、例えば、生理食塩水、静菌水、Cremophor(登録商標)、リン酸緩衝食塩水(PBS)、他の食塩水、デキストロース溶液、グリセロール溶液、水、ならびに石油、動物、植物、または合成油と一緒に作製された油乳剤を含み、リソソーム加水分解酵素の濃度が、約0.001重量%から20重量%以上に変動し得る組成物。」
(イ)対比
上記4(1)イで認定した訂正発明1と甲2発明の一致点及び相違点を再掲する。
(一致点)
ハンター症候群を治療するための製剤であって、前記製剤は対象に脳室内投与されることを特徴とし、前記製剤は、イズロン酸-2-スルファターゼ(I2S)タンパク質を含む製剤。
(相違点)
訂正発明1は、イズロン酸-2-スルファターゼ(I2S)タンパク質を5mg/ml~100mg/mlの濃度で含むとともに、50mMまでのリン酸塩を含み、かつ該組成物が、5.5~7.0のpHを有する安定製剤であることを特徴とするのに対し、甲2発明は、イズロン酸-2-スルファターゼ(I2S)タンパク質を5mg/ml~100mg/mlの濃度で含むこと、50mMまでのリン酸塩を含み、該組成物が、5.5~7.0のpHを有する安定製剤であることのいずれも特定されていない点。
(ウ)判断
(i)相違点に関する甲2の記載について
甲2発明の組成物は、適する医薬キャリアとして、リン酸塩を含む緩衝液であるリン酸緩衝食塩水(PBS)を使用可能なものであるが、そのpHについて、甲2には記載されていない。また、甲7には、医薬品製剤に用いる緩衝液は、米国薬局方に挙げられたものから選択されるべきであるとして、そのうちのいくつかの緩衝液が示されているが、甲7に記載されているリン酸緩衝液のpHは6.2~8.2であるから、技術常識を考慮しても、ただちに甲2発明の組成物をpH5.5~7.0とすることに到達するとはいえない。
さらに、甲2の記載全体を検討しても、以下のとおり、甲2発明の脳室内投与のための組成物を、補充酵素を5mg/ml~100mg/mlの濃度で含むこと、50mMまでのリン酸塩を含み、該組成物が、5.5~7.0のpHを有するとすることは、当業者が容易に想到し得たということはできない。
上記4(1)エのとおり、甲2の請求項38の実施の態様として、実施例2(【0056】~【0058】)には、ASMKOマウスへの組み換えヒトASM(rhASM)の連続的注入実験が記載され、凍結乾燥されたrhASMを人工脳脊髄液(aCSF)中に溶解させ、0.250mgのhASMを4日連続で脳室内にカニューレで注入し、合計1mgのhASMを注入した結果、hASMの脳室内注入が脳を通じてSPMレベルの全身的な減少を示したことが記載されていると認められる。
甲2の実施例2で用いられた人工脳脊髄液(aCSF)に関し、甲20には、代表的な人工脳脊髄液であるエリオットのB溶液が、10mL中にリン酸塩である二リン酸ナトリウム7水和物2mgを含み、リン酸の濃度が1.5mEq/Lであり、pH6.0~7.5であることが記載されている。リン酸は3価の酸であるから、エリオットのB溶液のリン酸塩の濃度は、0.5mMであり、50mMまでの範囲内にあると認められる。これを考慮すると、甲2の実施例2の人工脳脊髄液(aCSF)が、代表的なエリオットのB溶液とした場合に請求項38の具体的な実施の態様として、0.5mMのリン酸塩を含む組成物が想定されるということはできる。しかし、そのpHは、訂正発明1とのpH値は一部重複するものの、その範囲としてpH7をこえ7.5までの範囲も含むものであって、訂正発明1におけるpH5.5~7.0とは相違する。
上記4(1)エのとおり、甲2の実施例2にも、別の実施例である実施例3にも、溶液中のhASMの濃度や投与液量の記載がなく、甲2の記載は、脳室内投与される医薬組成物中の補充酵素の濃度について、【0038】において広範な濃度範囲が例示的に記載されるにとどまるものである。
また、リソソーム酵素をはじめとするタンパク質を含む医薬組成物の投与により免疫原性の問題が生じ得ることは技術常識である(乙5(乙24)172頁左欄8~34行及び173頁左欄6~24行)。タンパク質は高濃度では凝集する傾向があること、及び、凝集タンパク質は免疫原性が高まることは、本件特許出願の優先日における技術常識であると認められる(乙7(乙25)の1393頁右欄3~29行、乙8の155頁22~31行、乙9の41頁右欄1~26行)。そして、本件特許明細書に記載の実施例1によれば、I2Sについては、タンパク質に結合された残留リン酸塩の量、ならびにタンパク質濃度の増加が、最終製剤におけるpH安定性に関与することが示され、タンパク質に結合して製剤原料中に残留するリン酸塩が生理食塩水製剤のpHの維持に寄与し、製剤を安定に保つという技術的意義を有するものであると認められるところ、甲2には、I2Sを含む脳室内投与のための医薬組成物について、免疫原性の問題を回避することのできる製剤に関する記載もない。
したがって、組成物中の酵素濃度を甲2に示される広範な濃度範囲のうち、5mg/ml~100mgとすること、及び、50mMまでのリン酸塩を含み、該組成物が、5.5~7.0のpHを有する安定製剤とすることを、当業者が容易に想到し得るとはいえない。
(ii)相違点に関する他の証拠の記載について
また、以下のとおり、甲3~5、7~10のいずれの記載によっても、甲2発明について、イズロン酸-2-スルファターゼ(I2S)タンパク質を5mg/ml~100mg/mlの濃度で含むとともに、50mMまでのリン酸塩を含み、該組成物が、5.5~7.0のpHを有する安定製剤であるという相違点に係る構成を備えるものに変更することが、当業者が容易になし得たことであるとはいえない。
甲3には、「典型的な医薬組成物は100mMリン酸ナトリウム、150mMNaClおよび0.001%ポリソルベート80を含む緩衝液中に0.58/mLのイズロニダーゼを含む緩衝液中で調製される」([0021])、「本組成物は、例えば約10~50mMの濃度でリン酸ナトリウムを含む緩衝液中などのように、緩衝液の形状であってもよい。」([0022])との記載があるが、甲3には、具体的なpHの範囲については記載されておらず、医薬組成物中の補充酵素の濃度としては、訂正発明1における5mg/mL~100mg/mLよりもはるかに低濃度である0.58/mLが例示されるのみである。
甲4には、ガラクトシルセレブロシダーゼ(GALC)10mg/ml、マンニトール170mM、クエン酸ナトリウム50mM、およびTween80 100mg/mLの組成を有する脳室内投与するための組成物が記載されているが(2521頁左欄27~37行)、当該組成物は、I2S、リン酸塩を含むものではなく、甲2発明の組成物を5mg/ml~100mg/mlの濃度の該補充酵素と、50mMまでのリン酸塩を含み、pH5.5~7.0とすることについて、何ら示唆を与えるものではない。
甲5には、rhASBを5mg/mlの濃度で含むrhASB調製物をエリオット社のB溶液で1:2の比率で希釈して髄腔内注射に用いたことが記載され(133頁右欄 Materials and methodsのEnzyme preparation)、脳脊髄液中へ投与する製剤である髄腔内注射用の組成物中のrhASB濃度を、5mg/mlから、その1/3の濃度に低下させたことが理解できる。そうすると、甲5の記載は、補充酵素の濃度を5mg/ml以上とすることに対する示唆を与えるものであるとはいえない。また、甲21によれば、エリオット社のB溶液は、pH6.0~7.5であるから、甲5の記載は、訂正発明1のpH範囲であるpH5.5~7.0に保つことに対する示唆を与えるものでもない。
甲7は、タンパク質の製剤化に関する総説であり、甲2発明の組成物のpHを訂正発明1における5.5~7.0とすることに対する示唆を与えるものでないことは、既に上記で検討したとおりである(甲7の324頁)。
甲8は、日本で販売されているエラプレース点滴静注液の医薬品インタビューフォームである。、当該医薬品は、1バイアル3ml中にイデュルスルファーゼを6.0mg含むものであるから、脳室内投与とは異なる静脈注射用の製剤であって、そのタンパク質濃度は、2.0mg/mlであり、5mg/mlに満たず、注射に際しては、患者の体重あたりで計算した必要量を取り、生理食塩水100mLで希釈するとされることからすると、注射される医薬組成物中の補充酵素の濃度は、5mg/ml~100mg/mlの濃度範囲をはるかに下回る。したがって、甲8の記載は、甲3発明を5mg/ml~100mg/mlの濃度の該補充酵素と、50mMまでのリン酸塩を含み、かつ該組成物が、5.5~7.0のpHを有するものとすることに対する示唆を与えるものではない。
甲9は、ポリペプチドの濃縮技術に関する特許文献であり(請求項1)、【0007】には、リソソーム酵素であるアリールスルファターゼやガラクトシルセレブロシダーゼなどを50~300mg/mlで含む医薬組成物に関する記載があるが、これは皮下注射のためのもので、甲9には、脳室内投与のための医薬組成物については何ら記載されていない。したがって、甲9は、甲2発明の脳室内投与のための医薬組成物に何らかの変更を加えることに対する示唆を与えるものではない。
甲10は、静脈注射や皮下注射に使われる生理食塩水「マイラン」の添付文書であり、補充酵素を含まない製剤に関するものであるから(甲10の1~2頁)、甲2発明の脳室内投与のための医薬組成物に何らかの変更を加えることに対する示唆を与えるものではない。
(iii)請求人の主張について
請求人は、また、令和3年5月25日付け上申書において、以下の主張をしている。「甲2の実施例2には、マウス投与量として10mg/kgと記載されており、FDAガイドライン(甲第23号証)によれば、マウス投与量を12.3で除することでヒト投与量に換算できる。そうすると、マウス投与量10mg/kgはヒト投与量0.8mg/kgと換算でき、60kg成人の場合の投与量は48mgとなる。さらに、甲6には、ヒトへの脳室内投与における投与堆積(審決注:原文のまま)は3mL以下に制限されることが記載されている。よって、仮に甲2の実施例に記載のマウス投与量をヒト投与量に換算し、3mLで投与しようとすると、組成物の酵素濃度は16mg/mLとなる。この点からも、甲2発明の組成物の酵素濃度を訂正発明の範囲に調整することは、当業者にとって適宜選択し得た事項にすぎない。」(令和3年5月25日付け上申書18頁6行~15行)
請求人の上記主張は、甲6の記載を根拠にヒトへの脳室内投与における投与堆積は3mL以下に制限されることを前提とするが、上記5(1)のとおり、甲6は、本件特許出願に対する特許法第29条の先行技術文献とはならないので、請求人の主張は前提を欠いている。また、仮に、ヒトへの脳室内投与における投与体積は3mL以下に制限されることが、本件特許出願の優先日における技術常識であり、甲43に記載の換算式によって、甲2の実施例に記載のマウス投与量をヒト投与量に換算した補充酵素を3mLで投与する場合の酵素濃度が16mg/mLとなるとしても、上記(i)のとおり、訂正発明1は、50mMまでのリン酸塩濃度とpH5.5~7.0の製剤は、中枢神経を囲む脳脊髄液への投与において、良好な忍容性を示すという技術的意義を有するものであると認められるところ、上記(i)および(ii)のとおりであるから、甲3~10の記載によっても、甲2発明の医薬組成物を、5mg/ml~100mg/mlの補充酵素を含み、50mMまでのリン酸塩を含む脳室内投与のための医薬組成物のpHをpH5.5~7.0とすることは、当業者が容易になし得たとはいえない。
また、請求人は、甲25に、10、30、又は100mgのイデュルスルファーゼを髄腔内投与する臨床試験についての記載があることを根拠に、高濃度の補充酵素を髄腔内投与する臨床試験プロトコルが本件特許出願の優先日前に当業者に知られていたから、これを踏まえ、甲5及び甲6に記載された事項を参照して、甲2~甲3のいずれかに記載の発明の組成物の酵素濃度やリン酸塩濃度、pHを訂正発明の範囲に調整することは、当業者にとって適宜選択できる事項にすぎず、容易想到であった旨を主張する(令和3年5月25日付け請求人上申書16頁2~15行)。
しかしながら、甲25には、補充酵素の濃度は明らかにされていないし、また、仮に、請求人の主張するとおり、甲25の臨床試験で使用された製剤が高濃度の補充酵素を含む髄腔内投与のための製剤であるとしても、当該製剤が含む添加剤や、製剤のpHは不明である。甲5には、rhASBを5mg/mlの濃度で含むrhASB調製物をエリオット社のB溶液で1:2の比率で希釈して髄腔内注射に用いたことが記載されており、甲20によれば、エリオット社のB溶液は、pH6.0~7.5であるから、甲5の記載は、訂正発明1のpH範囲であるpH5.5~7.0に保つことに対する示唆を与えるものでもない。また、甲6は、上記(1)のとおり、本件特許の先行技術文献とはならないものである。
そして、本件特許明細書に記載の実施例1によれば、I2Sについては、タンパク質に結合された残留リン酸塩の量、ならびにタンパク質濃度の増加が、最終製剤におけるpH安定性に関与することが示され、タンパク質に結合して製剤原料中に残留するリン酸塩が生理食塩水製剤のpHの維持に寄与し、製剤を安定に保つという技術的意義を有するものであると認められるところ、甲2発明のI2Sを含む脳室内投与のための医薬組成物について、タンパク質を高濃度に含み安定化された製剤を免疫原性の問題を回避することのできる製剤に関する記載もない。
(エ)小括
以上のとおり、甲2、3~5、7~10のいずれも、甲2発明の組成物として、訂正発明1に規定される、pH5.5~7.0であり、酵素濃度5mg/ml~100mg/ml及び50mMまでのリン酸塩を含むという、特定の液性と組成を備えるようにすることの動機付けを与えるものであるとはいえない。
したがって、訂正発明1は、甲2、又は甲2及び甲3~5、7~10に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでない。
イ 訂正発明6について
訂正発明6と上記4(1)アで認定した甲2発明を対比する。
(一致点)
イズロン酸-2-スルファターゼ(I2S)タンパク質を含む、脳室内投与のための製剤。
(相違点)
訂正発明6は、イズロン酸-2-スルファターゼ(I2S)タンパク質を5mg/ml~100mg/mlの濃度で含むとともに、50mMまでのリン酸塩を含み、かつ該組成物が、5.5~7.0のpHを有することを特徴とする安定製剤であるのに対し、甲2発明は、イズロン酸-2-スルファターゼ(I2S)タンパク質を5mg/ml~100mg/mlの濃度で含むこと、50mMまでのリン酸塩を含み、該組成物が、5.5~7.0のpHを有する安定製剤であることのいずれも特定されていない点。
訂正発明6と甲2発明との相違点は、上記ア(イ)の訂正発明1と甲2発明の相違点と同じものであり、上記ア(ウ)のとおり、当該相違点に関し、甲2、3~5、7~10のいずれも、甲2発明の組成物として、訂正発明1に規定される、pH5.5~7.0であり、酵素濃度5mg/ml~100mg/ml及び50mMまでのリン酸塩を含むという、特定の液性と組成を備えるようにすることの動機付けを与えるものであるとはいえない。
したがって、訂正発明6は、甲2、又は甲2及び甲3~5、7~10に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでない。
ウ 訂正発明2~5及び7~12について
訂正発明2~5及び7~12は、訂正発明1又は6をさらに限定して特定した発明である。そうすると、上記アのとおり、訂正発明1が甲2、又は甲2及び甲3~5、7~10に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでなく、上記イのとおり、訂正発明6が甲2、又は甲2及び甲3~5、7~10に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでないのであるから、訂正発明2~5及び7~12が甲2、又は甲2及び甲3~5、7~10に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでないことは明らかである。
エ まとめ
以上より、訂正発明1~12についての特許は、無効理由5aによって無効とされるべきものでない。
(3)無効理由5bについて
無効理由5bは、請求人が請求項1~13について主張した、甲3を主引用例とする進歩性欠如の無効理由である。
ア 訂正発明1について
(ア)甲3発明
甲3は、酵素補充療法によるリソソーム蓄積障害に対する治療において、中枢神経系へより効率的に活性物質を到達できる投与方法の提供を課題とし([0011])、リソソーム蓄積症を治療する方法であって、リソソーム蓄積症において欠損もしくは欠乏しているタンパク質を含む医薬組成物を、髄腔内投与によって脳脊髄液内に送達することを含む態様が記載されている([0013])。甲3における髄腔内投与とは、側脳室内注射を含む技術によって脳性気随液へ医薬組成物を直接送達することを含むことを意図するものであることが記載されている([0094])。
甲3のクレーム1には、哺乳動物においてリソソーム蓄積症を治療するための方法であって、前記リソソーム蓄積症において欠損している酵素を含む医薬組成物を、前記リソソーム蓄積症の症状を改善するために有効な量で前記哺乳動物の中枢神経系に髄腔内投与するステップを含む方法が記載され、クレーム21には、前記髄腔内投与が、前記医薬組成物を脳室内へ導入するステップを含む、クレーム1に記載の方法が記載されている。
甲3には、補充される酵素として、イズロニダーゼ、β-グルクロニダーゼ、イズロン酸スルファターゼ、α-N-アセチルグルコサミニダーゼ、アリールスルファターゼ、グルコセレブロシダーゼ、βーグルコシダーゼもしくはN-アセチルガラクトサミン4-スルファターゼが記載されている([0015])。
そして、実施例2には、リソソーム蓄積障害であるMPS Iのラットおよびイヌモデルに対して、ヒトイズロニダーゼを脳室内投与し、注射された酵素が脳ニューロンに取り込まれ、イズロニダーゼがニューロン細胞のリソソームへ局在することを証明した実験が記載され([0133]~[0135])、この記載は、クレーム21に記載された発明を裏付けるものであるといえる。
甲3の実施例2の記載から、甲3には以下の発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されているといえる。
(甲3発明)
「MPS Iのラットモデルに酵素を脳室内投与するための組換えヒトイズロニダーゼ(rhIDU)を含む組成物。」
(イ)対比
MPS Iのラットモデルは、ハンター症候群のモデルであり、また、イズロニダーゼ(rhIDU)は、イズロン酸-2-スルファターゼ(I2S)と同じものである(甲8ア)。上記(ア)のとおり、引用発明は、甲3のクレーム21を裏付ける実験において用いられた組成物であって、ハンター症候群に対するヒトイズロニダーゼ(rhIDU)の治療効果を得るための組成物に相当する。そうすると、訂正発明1と甲3発明との一致点及び相違点は以下のとおりと認められる。
(一致点)
ハンター症候群を治療するための製剤であって、前記製剤は対象に脳室内投与されることを特徴とし、前記製剤は、イズロン酸-2-スルファターゼ(I2S)タンパク質を含む製剤。
(相違点)
訂正発明1は、50mM以下の濃度のリン酸塩を含み、前記製剤が5.5~7.0のpHを有することをさらに特徴とする、安定製剤であるのに対し、甲3発明は、50mM以下の濃度のリン酸塩を含み、前記製剤が5.5~7.0のpHを有することをさらに特徴とする、安定製剤であるとは特定されていない点。
(ウ)判断
(i)相違点に関する甲3の記載について
甲3には、「典型的な医薬組成物は100mMリン酸ナトリウム、150mMNaClおよび0.001%ポリソルベート80を含む緩衝液中に0.58/mLのイズロニダーゼを含む緩衝液中で調製される」([0021])、「本組成物は、例えば約10~50mMの濃度でリン酸ナトリウムを含む緩衝液中などのように、緩衝液の形状であってもよい。」([0022])との記載がある。
このように、甲3には、補充酵素を含む医薬組成物がリン酸塩を含む緩衝液である実施態様に関する記載があるが、具体的なpHの範囲については記載されておらず、実施例で用いた組成物についても、緩衝液の成分やpHは記載されていない。また、甲3には、医薬組成物中の補充酵素の濃度としては、0.58/mLが例示されるのみである。
そして、甲3と同時期の2004年に発行された論文である乙5には、酵素の髄腔内投与は、タンパク質が抗体形成や炎症反応といった免疫応答のリスクを有することが記載されている(乙5(乙24)の172頁左欄8~34行)。また、タンパク質は高濃度では凝集する傾向があり、凝集タンパク質は免疫原性が高まることは、本件特許出願の優先日における技術常識であると認められる(乙7(乙25)の1393頁右欄3~29行、乙8の155頁22~31行、乙9の41頁右欄1~26行)。
甲3においても、「組換えタンパク質および他の治療薬などの物質の投与中は、被験者は、これらの物質に対する免疫応答を開始する可能性があり、これにより、結合して治療活性を抑制するだけでなく急性もしくは慢性免疫学的応答を誘発する抗体が産生されることが見出されている。この問題は、タンパク質が複雑な抗原であり、そして多くの場合に、該被験者が免疫学的に該抗原投与を受けていないために、タンパク質である治療薬にとって最も重要である。そこで、本発明の所定の態様では、治療酵素を摂取している被験者を酵素補充療法に対して寛容化させることが有用かもしれない。この状況では、酵素補充療法は、寛容化レジメンとの併用療法として被験者に投与することができる。」([0088])と記載され、補充酵素による免疫応答の問題を回避すべきことが記載されている。
このような技術常識と甲3の記載を踏まえると、脳室内投与に用いる医薬組成物の補充酵素の濃度を高濃度とすることを示唆する記載もない甲3において、[0021]に例示された0.58/mLから、敢えて免疫応答の危険が増す高濃度に変更することを当業者が考えるとはいえない。
したがって、甲3発明を、5mg/ml~100mg/mlの濃度の該補充酵素と、50mMまでのリン酸塩を含み、かつ該組成物が、5.5~7.0のpHを有するものとすることは、当業者が容易になし得たことであるとはいえない。
(ii)相違点に関する他の証拠の記載について
また、以下のとおり、甲2、4、5、7~10のいずれの記載によっても、甲3発明について、イズロン酸-2-スルファターゼ(I2S)タンパク質を5mg/ml~100mg/mlの濃度で含むとともに、50mMまでのリン酸塩を含み、該組成物が、5.5~7.0のpHを有する安定製剤であるという相違点に係る構成を備えるものとすることが、当業者が容易になし得たことであるとはいえない。
甲2の記載から、脳室内投与のための医薬組成物について、補充酵素を5mg/ml~100mg/mlの濃度で含むこと、50mMまでのリン酸塩を含み、該組成物が、5.5~7.0のpHを有するものとすることを当業者が容易に想到し得たということはできないことは、上記(3)ア(ウ)(i)のとおりである。
甲4には、ガラクトシルセレブロシダーゼ(GALC)10mg/ml、マンニトール170mM、クエン酸ナトリウム50mM、およびTween80 100mg/mLの組成を有する脳室内投与するための組成物が記載されているが、上記(2)ア(ウ)(i)のとおり、当業者は、甲4発明の50mMクエン酸ナトリウムを、50mMまでのリン酸塩に置き換えられるとは考えないから、甲4の記載によって、甲3発明の組成物を5mg/ml~100mg/mlの濃度の該補充酵素と、50mMまでのリン酸塩を含み、かつ該組成物が、5.5~7.0のpHを有するものとすることが容易想到であるとはいえない。
甲5には、rhASBを5mg/mlの濃度で含むrhASB調製物をエリオット社のB溶液で1:2の比率で希釈して髄腔内注射に用いたことが記載され、脳脊髄液中へ投与する製剤である髄腔内注射用の組成物中のrhASB濃度を、5mg/mlから、その1/3の濃度に低下させたことが理解できる。また、甲21によれば、エリオット社のB溶液はpH6.0~7.5であり、訂正発明1における医薬組成物のpH5.5~7.0とはpHの範囲が異なる。そうすると、甲5の記載は、甲3発明の組成物を、5mg/ml~100mg/mlの濃度の該補充酵素と、50mMまでのリン酸塩を含み、かつ該組成物が、5.5~7.0のpHを有するものとすることに対する示唆を与えるものであるとはいえない。
甲7は、タンパク質の製剤化に関する総説であり、一般的な緩衝液が記載されているだけであり(甲7の325頁)、甲3発明の組成物を5mg/ml~100mg/mlの濃度の該補充酵素と、50mMまでのリン酸塩を含み、かつ該組成物が、5.5~7.0のpHを有するものとすることに対する示唆を与えるものでない。
甲8は、日本で販売されているエラプレース点滴静注液の医薬品インタビューフォームである。当該医薬品は、1バイアル3ml中にイデユルスルファーゼを6.0mg含むものであるから、当該製剤は、脳室内投与とは異なる静脈注射用の製剤であって、そのタンパク質濃度は、2.0mg/mlであり、5mg/mlに満たず、注射に際しては、患者の体重あたりで計算した必要量を取り、生理食塩水100mLで希釈するとされることからすると、注射される医薬組成物中の補充酵素の濃度は、5mg/ml~100mg/mlの濃度範囲をはるかに下回る。したがって、甲8の記載は、甲3発明を5mg/ml~100mg/mlの濃度の該補充酵素と、50mMまでのリン酸塩を含み、かつ該組成物が、5.5~7.0のpHを有するものとすることに対する示唆を与えるものではない。
甲9は、ポリペプチドの濃縮技術に関する特許文献であり(請求項1)、【0007】には、リソソーム酵素であるアリールスルファターゼやガラクトシルセレブロシダーゼなどを50~300mg/mlで含む医薬組成物に関する記載がある。しかし、甲9に記載されている医薬組成物は皮下注射のためのものである。甲9には、脳室内投与のための医薬組成物については何ら記載されておらず、皮下注射では、皮下組織に薬剤が直接注射されるのに対し、脳室内注射では、緩衝能が低い脳脊髄液中に薬物が注入されるという相違があり、甲9の医薬組成物の濃度を甲3発明の脳室内投与のための医薬組成物にただちに適用できるとはいえない。
甲10は、静脈注射や皮下注射に使われる生理食塩水「マイラン」の添付文書であり、補充酵素を含まない製剤に関するものであるから(甲10の1~2頁)、甲3発明の脳室内投与のための医薬組成物に何らかの変更を加えることに対する示唆を与えるものではない。
(iii)請求人の主張について
上記(2)ア(ウ)(iii)のとおり、請求人は、甲25に、10、30、又は100mgのイデュルスルファーゼを髄腔内投与する臨床試験についての記載があることを根拠に、高濃度の補充酵素を髄腔内投与する臨床試験プロトコルが本件特許出願の優先日前に当業者に知られていたから、これを踏まえ、甲5及び甲6に記載された事項を参照して、甲2~甲3のいずれかに記載の発明の組成物の酵素濃度やリン酸塩濃度、pHを訂正発明の範囲に調整することは、当業者にとって適宜選択できる事項にすぎず、容易想到であった旨を主張するが、甲25の内容を参酌しても、請求人が主張するように、甲3に記載の発明の組成物の酵素濃度やリン酸塩濃度、pHを訂正発明1の範囲に調整することが、当業者にとって容易想到であったということはできない。
(エ)小括
以上のとおり、甲3、2、4、5、7~10のいずれも、甲3発明の組成物として、訂正発明1に規定される、pH5.5~7.0であり、酵素濃度5mg/ml~100mg/ml及び50mMまでのリン酸塩を含むという、特定の液性と組成を備えるようにすることの動機付けを与えるものであるとはいえない。
したがって、訂正発明1は、甲3及び甲2、4、5、7~10に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでない。
イ 訂正発明6について
訂正発明6と、上記ア(ア)の甲3発明を対比する。
(一致点)
イズロン酸-2-スルファターゼ(I2S)タンパク質を含む製剤。
(相違点)
訂正発明1は、50mM以下の濃度のリン酸塩を含み、前記製剤が5.5~7.0のpHを有することをさらに特徴とする、安定製剤であるのに対し、甲3発明は、50mM以下の濃度のリン酸塩を含み、前記製剤が5.5~7.0のpHを有することをさらに特徴とする、安定製剤であるとは特定されていない点。
訂正発明6と甲3発明との相違点は、上記ア(イ)の訂正発明1と甲3発明の相違点と同じものであり、上記ア(ウ)のとおり、当該相違点に関し、甲2、4、5、7~10のいずれも、甲2発明の組成物として、訂正発明1に規定される、pH5.5~7.0であり、酵素濃度5mg/ml~100mg/ml及び50mMまでのリン酸塩を含むという、特定の液性と組成を備えるようにすることの動機付けを与えるものであるとはいえない。
したがって、訂正発明6は、甲3及び甲2、4、5、7~10に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでない。
ウ 訂正発明2~5及び7~12について
訂正発明2~5及び7~12は、訂正発明1又は6をさらに限定して特定した発明である。そうすると、上記アのとおり、訂正発明1が甲3及び甲2、4、5、7~10に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでなく、上記イのとおり、訂正発明6が甲3及び甲2、4、5、7~10に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでないのであるから、訂正発明2~5及び7~12が甲3及び甲2、4、5、7~10に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものでないことは明らかである。
エ まとめ
以上より、訂正発明1~12についての特許は、無効理由5bによって無効とされるべきものでない。
6 無効理由6について
無効理由6は、本件特許と同日の優先日を有する特許である特許第6466538号(甲13)の請求項13と同一の発明であることを理由とするものである。
特許第6466538号に対して無効2020-800024が請求され、令和3年9月27日に「特許第6466538号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~13〕について訂正することを認める。 特許第6466538号の請求項1~8及び12に記載された発明についての審判請求は成り立たない。 特許第6466538号の請求項9~11及び13についての審判請求を却下する。 審判費用は、請求人の負担とする。」との審決がされ、同審決は令和3年10月7日に送達された。当該審決が認容した訂正は、請求項9~10及び13を削除する訂正を含むものであったところ、同審決中、同請求項の削除に係る訂正を認めた部分については、当該審判事件の請求人・被請求人とも取消訴訟を提起する原告適格を有しないというべきであるから、同審決の送達により,登録時の請求項9~10及び13を削除した部分は、形式的に確定した。(知的財産高等裁判所平成19年(行ケ)第10380号事件・平成20年11月27日判決、平成19年(行ケ)第10099号事件・平成19年7月23日決定、知的財産高等裁判所平成18年(行ケ)第10455号事件・平成20年2月12日判決参照)
したがって、訂正請求項1についての特許は、無効理由6によって無効とすることはできない。
第8 むすび
以上のとおり、本件訂正は適法であり、本件訂正後の請求項1~12に記載された発明の特許は、請求人が主張する無効理由1~6のいずれによっても無効とすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項において準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人の負担とする。
よって、結論のとおり、審決する。
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2020-800025