特許無効審判
2017-800003
イソブチルGABAまたはその誘導体を含有する鎮痛剤
- 審判番号
- 2017-800003
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 無効審判(無効の審決)
- 出願番号
- 特願1998-507062
- 登録番号
- 3693258
- 請求日
- 2017年01月16日
- 審決日
- 2020年07月14日
- 公報発行日
- 2023年01月27日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】沢井製薬 株式会社
- 【請求人代理人】松葉 栄治
- 【参加人】日新製薬 株式会社
- 【参加人代理人】佐藤 俊彦
- 【参加人代理人】鈴木 一寿
- 【参加人代理人】大串 寿人
- 【参加人】サンド 株式会社
- 【参加人代理人】箱田 篤
- 【参加人代理人】山崎 一夫
- 【参加人代理人】服部 博信
- 【参加人代理人】志村 将
- 【参加人代理人】小林 真知
- 【参加人】日本ケミファ 株式会社
- 【参加人代理人】橋本 諭志
- 【参加人】テバ・ホールディングス合同会社
- 【参加人代理人】実広 信哉
- 【参加人】大原薬品工業 株式会社
- 【参加人代理人】謝 卓峰
- 【参加人代理人】元山 忠行
- 【参加人】ダイト株式会社
- 【参加人代理人】草間 攻
- 【参加人】日医工株式会社
- 【参加人代理人】大谷 嘉一
- 【参加人】ニプロ株式会社
- 【参加人代理人】森本 敏明
- 【参加人】共和薬品工業株式会社
- 【参加人代理人】田中 康子
- 【参加人】小林化工株式会社
- 【参加人代理人】飯田 秀郷
- 【参加人代理人】森山 航洋
- 【参加人代理人】清水 紘武
- 【参加人】日本ジェネリック株式会社
- 【参加人代理人】特許業務法人眞久特許事務所
- 【参加人】東和薬品株式会社
- 【参加人代理人】小谷 悦司
- 【参加人代理人】小谷 昌崇
- 【参加人代理人】宇佐美 綾
- 【参加人】Me ファルマ株式会社
- 【参加人代理人】永井 浩之
- 【参加人代理人】中村 行孝
- 【参加人代理人】反町 洋
- 【参加人代理人】柏 延之
- 【参加人代理人】砂山 麗
- 【参加人】辰巳化学株式会社
- 【参加人代理人】草間 攻
- 【参加人】株式会社フェルゼンファーマ
- 【参加人代理人】草間 攻
- 【被請求人】ワーナー-ランバート カンパニー リミテッド ライアビリティー カンパニー
- 【被請求人代理人】小野 新次郎
- 【被請求人代理人】泉谷 玲子
- 【被請求人代理人】飯村 敏明
- 【被請求人代理人】森下 梓
- 【被請求人代理人】四本 能尚
- 【被請求人代理人】宮澤 純子
- 【被請求人代理人】佐藤 眞紀
- 【被請求人代理人】龍田 美幸
- 審判長/審判官
- 審判長 滝口 尚良
- 審判官 穴吹 智子
- 審判官 井上 典之
- 分類
- P1123.536-ZDB(A61K) / P1123.537-ZDB(A61K)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法36条4項特許法36条6項1号特許法123条1項4号特許法169条2項民事訴訟法61条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第4項、特許法第134条の2第1項、特許法第36条第6項第1号、特許法第134条の2第9項、特許法第2条第3項第1号、特許法第169条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
上記当事者間の特許第3693258号発明「イソブチルGABAまたはその誘導体を含有する鎮痛剤」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。
結論
結 論
特許第3693258号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項3、4について訂正することを認める。
特許第3693258号の請求項1ないし2に係る発明についての特許を無効とする。
特許第3693258号の請求項3ないし4に係る発明についての本件審判の請求は、成り立たない。
審判費用は、その4分の2を請求人の負担とし、4分の2を被請求人の負担とする。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本件特許第3693258号の特許請求の範囲の請求項1~4に係る発明についての出願(以下、「本件特許出願」という。)は、1997年 7月16日(優先権主張1996年 7月24日、米国)を国際出願日として、特願平10-507062号として出願され、平成17年 7月 1日に特許権の設定登録がなされた。
これに対して、請求人 沢井製薬株式会社は、平成29年 1月16日付け審判請求書によって、上記請求項1~4に係る発明の特許を無効にすることについて、本件特許無効審判を請求した。
以後の手続きの経緯は次のとおりである。
平成29年 4月25日付け 参加申請書(日新製薬株式会社) 同年 4月27日付け 答弁書(被請求人)
同年 5月23日付け 意見書(被請求人)
同年 5月30日付け 審尋
同年 6月10日差出 回答書(参加申請人(日新製薬株式会社)) 同年 6月14日付け 参加許否の決定(日新製薬株式会社の参加申請の許可)
同年 8月29日付け 審理事項通知書(当審)
同年 9月 7日付け 参加申請書(サンド株式会社)
同年 10月12日付け 参加許否の決定(サンド株式会社の参加申請の許可)
同年 同月同日付け 審理事項通知書
同年 10月19日付け 口頭審理陳述要領書(請求人)
同年 10月19日付け 口頭審理陳述要領書(参加人(サンド株式会社))
同年 10月20日差出 口頭審理陳述要領書(参加人(日新製薬株式会社))
同年 10月27日差出 上申書(参加人(日新製薬株式会社)) 同年 11月16日付け 口頭審理陳述要領書(被請求人)
同年 11月30日 口頭審理
同年 12月12日付け 参加申請書(日本ケミファ株式会社)
平成30年 1月19日付け 参加申請書(テバ・ホールディングス株式会社 )
同年 2月20日付け 参加許否の決定(日本ケミファ株式会社の参加申請の許可)
同年 3月 7日付け 参加申請書(大原薬品工業株式会社) 同年 3月27日付け 参加許否の決定(テバ・ホールディングス株式会社の参加申請の許可)
同年 4月 4日付け 参加申請書(ダイト株式会社)
同年 4月 4日差出 参加申請書(日医工株式会社)
同年 5月 8日付け 参加許否の決定(大原薬品工業株式会社の参加申請の許可)
同年 6月 4日付け 参加申請書(ニプロ株式会社)
同年 6月 6日付け 参加申請書(共和薬品工業株式会社) 同年 9月 6日付け 参加申請書(小林化工株式会社)
同年 9月20日付け 参加申請書(日本ジェネリック株式会社) 同年 10月 2日付け 参加許否の決定(ダイト株式会社の参加申請の許可)
同年 同月同日付け 参加許否の決定(日医工株式会社の参加申請の許可)
平成31年 1月11日付け 参加許否の決定(ニプロ株式会社の参加申請の許可)
同年 同月同日付け 参加許否の決定(共和薬品工業株式会社の参加申請の許可)
同年 同月同日付け 参加許否の決定(小林化工株式会社の参加申請の許可)
同年 同月同日付け 参加許否の決定(日本ジェネリック株式会社の参加申請の許可)
同年 2月28日付け 審決の予告
同年 3月15日付け 参加申請書(東和薬品株式会社)
同年 3月18日付け 参加申請書(Me ファルマ株式会社)
同年 4月 5日付け 参加申請書(辰巳化学株式会社)
同年 同月同日付け 参加申請書(株式会社フェルゼンファーマ)
同年 4月15日付け 期間延長請求書(被請求人)
同年 4月22日付け 通知書(訂正請求の期間についての期間延長)
令和 1年 6月 5日付け 参加許否の決定(東和薬品株式会社の参加申請の許可)
同年 6月 7日付け 参加許否の決定(Me ファルマ株式会社の参加申請の許可)
同年 同月同日付け 参加許否の決定(辰巳化学株式会社の参加申請の許可)
同年 同月同日付け 参加許否の決定(株式会社フェルゼンファーマの参加申請の許可)
同年 7月 1日付け 訂正請求書(被請求人)
同年 同月同日付け 上申書(被請求人)
同年 7月5日付け 手続補正指令書(方式)
令和 1年 8月 7日付け 手続補正書(方式)(訂正請求書)(被請求人)
令和 1年 9月18日付け 弁駁指令
令和 1年10月18日付け 弁駁書(請求人)
同年 同月同日付け 弁駁書(参加人(テバ・ホールディングス合同会社))
同年 同月同日付け 弁駁書(参加人(サンド株式会社))
同年 11月21日付け 答弁指令
同年 12月 5日付け 期間延長請求書(被請求人)
同年 12月13日付け 通知書(答弁期間についての期間延長)
令和 2年 2月13日付け 答弁書(被請求人)
令和 2年 3月23日付け 物件提出書(参加人(共和薬品工業株式会社))
令和 2年 3月30日付け 手続続行通知書
以下では、請求人側参加人 日新製薬株式会社を「参加人1」、同参加人 サンド株式会社を「参加人2」、同参加人 日本ケミファ株式会社を「参加人3」、同参加人 テバ・ホールディングス株式会社を「参加人4」、同参加人 大原薬品工業株式会社を「参加人5」、同参加人 ダイト株式会社を「参加人6」、同参加人 日医工株式会社を「参加人7」、同参加人 ニプロ株式会社を「参加人8」、同参加人 共和薬品工業株式会社を「参加人9」、同参加人 小林化株式会社を「参加人10」、同参加人 日本ジェネリック株式会社を「参加人11」、同参加人 東和薬品株式会社を「参加人12」、同参加人 Me ファルマ株式会社を「参加人13」、同参加人 辰巳化学株式会社を「参加人14」、同参加人 小林化工株式会社フェルゼンファーマを「参加人15」という。
第2 訂正請求について
1 訂正請求の趣旨
令和1年8月7日付け手続補正書(方式)により補正された同年7月1日付け訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)は、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~4について訂正することを求めるものである。具体的な訂正事項は以下のとおりである。
2 訂正の内容
本件訂正の内容は、以下の(1)~(4)のとおりである。
(1)訂正事項1
訂正前の特許請求の範囲の請求項1において、「痛み」とあるのを、「、痛覚過敏又は接触異痛の痛み」と訂正する。
(2)訂正事項2
訂正前の特許請求の範囲の請求項2に「化合物が、式IにおいてR3およびR2はいずれも水素であり、R1は-(CH2)0-2-iC4H9である化合物の(R)、(S)、または(R,S)異性体である」とあるのを、「式I
[図:0001392413000001.jpg]
(式中、R3およびR2はいずれも水素であり、R1は-(CH2)0-2-iC4H9である)の化合物の(R)、(S)、または(R,S)異性体を含有する、」(訂正事項2-1)に、
また、
訂正前の特許請求の範囲の請求項2に「請求項1記載の」とあるのを、「神経障害又は繊維筋痛症による、痛覚過敏又は接触異痛の痛みの処置における」(訂正事項2-2)に
訂正する。
(3)訂正事項3
訂正前の特許請求の範囲の請求項3に「化合物が、(S)-3-(アミノメチル)-5-メチルヘキサン酸または3-アミノメチル-5-メチルヘキサン酸である」とあるのを、「(S)-3-(アミノメチル)-5-メチルヘキサン酸または3-アミノメチル-5-メチルヘキサン酸を含有する、」(訂正事項3-1)に、
また、
訂正前の特許請求の範囲の請求項3に「請求項1記載の」とあるのを、「炎症を原因とする痛み、又は手術を原因とする痛みの処置における」(訂正事項3-2)に
訂正する。
(4)訂正事項4
訂正前の特許請求の範囲の請求項4に「請求項1記載の」とあるのを、「式I
[図:0001392413000002.jpg]
(式中、R1は炭素原子1~6個の直鎖状または分枝状アルキルであり、R2は水素またはメチルであり、R3は水素、メチルまたはカルボキシルである)の化合物またはその医薬的に許容される塩、ジアステレオマー、もしくはエナンチオマーを含有する、」(訂正事項4-1)に訂正した上で請求項の最初に記載し、
また、
同訂正前の特許請求の範囲の請求項4に「痛みが炎症性疼痛、神経障害による痛み、癌による痛み、術後疼痛、幻想肢痛、火傷痛、痛風の痛み、骨関節炎の痛み、三叉神経痛の痛み、急性ヘルペスおよびヘルペス後の痛み、カウザルギーの痛み、特発性の痛み、または線維筋痛症である」とあるのを、「炎症性疼痛による痛覚過敏の痛み、又は術後疼痛による痛覚過敏若しくは接触異痛の痛みの処置における」(訂正事項4-2)に
訂正する。
3 訂正の適否
事案に鑑み、まず、訂正事項2について検討し、順次、訂正事項1、3,4について検討する。
(1)訂正事項2について
訂正事項2に係る訂正は、請求項2において、
式Iの構造式を追加し(訂正事項2-1)、
「請求項1記載の鎮痛剤」、すなわち「痛みの処置における鎮痛剤」を、「神経障害又は繊維筋痛症による、痛覚過敏又は接触異痛の痛みの処置における鎮痛剤」(訂正事項2-2)に訂正するとともに、
請求項1との引用関係を解消し、独立形式に改めることを求めるものである。
ア 特許第36983258号の設定登録時の明細書(以下、「本件特許明細書」という。)及び図面には、上記訂正事項2-2に係る「神経障害又は線維筋痛症による、痛覚過敏又は接触異痛の痛みの処置における」鎮痛作用に関連して以下の記載がある。
(ア)「本発明は、痛みの治療において鎮痛/抗痛覚過敏作用を発揮する化合物としてのグルタミン酸およびγ-アミノ酪酸(GABA)の類縁体の使用である。」(特許公報p2 4、5行)
(イ)「本発明は、以下の式Iの化合物の、痛みの処置とくに慢性の疼痛性障害の処置における使用方法である。このような障害にはそれらに限定されるものではないが炎症性疼痛、術後疼痛、転移癌に伴う骨関節炎の痛み、三叉神経痛、急性疱疹性および治療後神経痛、糖尿病性神経障害、カウザルギー、上腕神経叢捻除、後頭部神経痛、反射交感神経ジストロフィー、線維筋痛症、痛風、幻想肢痛、火傷痛ならびに他の形態の神経痛、神経障害および特発性疼痛症候群が包含される。
化合物は式I
[図:0001392413000003.jpg]
(式中、R1は炭素原子1~6個の直鎖状または分枝状アルキル、フェニルまたは炭素原子3~6個のシクロアルキルであり、R2は水素またはメチルであり、R3は水素、メチルまたはカルボキシルである)
の化合物またはその医薬的に許容される塩である。
式Iの化合物のジアステレオマーおよびエナンチオマーも本発明に包含される。
本発明の好ましい化合物は式Iにおいて、R3およびR2は水素であり、R1は-(CH2)0-2-iC4H9の化合物の(R)、(S)、または(R,S)異性体である。
本発明のさらに好ましい化合物は(S)-3-(アミノメチル)-5-メチルヘキサン酸および3-アミノメチル-5-メチルヘキサン酸である。」(特許公報p2 14行~33行)
(ウ)「CI-1008[(S)-3-(アミノメチル)-5-メチルへキサン酸]」(特許公報p2 35行~36行)
(エ)「本発明は、上記式Iの化合物の上に掲げた痛みの処置における鎮痛剤としての使用方法である。痛みにはとくに炎症性疼痛、神経障害の痛み、癌の痛み、術後疼痛、および原因不明の痛みである特発性疼痛たとえば幻想肢痛が包含される。神経障害性の痛みは末梢知覚神経の傷害または感染によって起こる。これには以下に限定されるものではないが、末梢神経の外傷、ヘルペスウイルス感染、糖尿病、カウザルギー、神経叢捻除、神経腫、四肢切断、および血管炎からの痛みが包含される。神経障害性の痛みはまた、慢性アルコール症、ヒト免疫不全ウイルス感染、甲状腺機能低下症、尿毒症またはビタミン欠乏からの神経障害によっても起こる。神経障害性の痛みには、神経傷害によって起こる痛みに限らず、たとえば糖尿病による痛みも包含される。」(特許公報p3 45行~p4 3行)
(オ)「本発明によって製造される医薬化合物は、広範の様々な剤形に調製し、経口的または非経口的経路のいずれかによって投与することができる。たとえば、これらの医薬組成物は固体または液体の不活性な医薬的に許容される担体中に製造することができる。固体の形態の製剤には、粉末剤、錠剤、分散性顆粒剤、カプセル剤、カシェ剤および坐剤が包含される。他の固体および液体の形態の製剤も、本技術分野において既知の方法に従って製造され、適当な製剤として経口的経路で、または液体製剤として非経口的経路、たとえば静脈内、筋肉内、または皮下注射により投与することができる。
単位用量製剤中の活性化合物の量は、平均体重70kgの患者に基づいて1日1mg~約300mg/kgで変動または調整することができる。1日用量の範囲は約1mg~約50mg/kgとすることが好ましい。しかしながら、投与量は、患者の要求、処置される状態の重症度、および使用される化合物に依存する。特定の状況における適正な投与量の決定は当業者の技術の範囲内にある。」(特許公報p5 35行~46行)
(カ)「ラットホルマリン足蹠試験におけるギャバペンチン、CI-1008、および3-アミノメチル-5-メチル-ヘキサン酸の効果
雄性Sprague-Dawleyラット(70~90g)を試験前に少なくとも15分間パースペックスの観察チャンバー(24cm×24cm×24cm)に馴化させた。ホルマリン誘発後肢リッキングおよびバイティングを5%ホルマリン溶液(等張性食塩溶液中5%ホルムアルデヒド)50μlの左後肢の足蹠表面への皮下注射によって開始させた。ホルマリンの注射直後から、注射した後肢のリッキング/バイティングを60分間5分毎に評価した。結果はリッキング/バイティングを合わせた平均時間として初期相(0~10分)および後期相(10~45分)について示す。
ギャバペンチン(10~300mg/kg)またはCI-1008(1~100mg/kg)のホルマリン投与1時間前の皮下投与は、ホルマリン応答の後期相におけるリッキング/バイティング行動を、それぞれ最小有効用量(MED)30および10mg/kgで用量依存性にブロックした(図1)。しかしながら、いずれの化合物も試験した用量では初期相には影響しなかった。3-アミノメチル-5-メチル-ヘキサン酸の同様の投与は100mg/kgで後期相の中等度のブロックを生じたのみであった。
ギャバペンチンおよびCI-1008のカラゲニン誘発痛覚過敏に対する効果
試験日にラット(雄性Sprague-Dawley70~90g)に2~3のベースライン測定を行ったのち、2%カラゲニン100μlを右後肢の足蹠表面に皮下注射した。痛覚過敏のピークの発症後、動物に試験薬物を投与した。機械的および熱的痛覚過敏に対する試験には別個の動物群を使用した。
A.機械的痛覚過敏
侵害受容圧閾値を、ラット足蹠加圧試験により鎮痛計(Ugo Basile)を用いて測定した。足蹠への傷害を防止するため、250gのカットオフ点を使用した。カラゲニンの足蹠内注射は注射後3~5時間の間侵害受容圧閾値を低下させ、痛覚過敏の誘発を示した。モルヒネ(3mg/kg、皮下)は痛覚過敏の完全なブロックを生じた(図2)。ギャバペンチン(3~300mg/kg、皮下)およびCI-1008(1~100mg/kg、皮下)は用量依存性に痛覚過敏に拮抗し、MEDはそれぞれ10および3mg/kgであった(図2)。
B.熱痛覚過敏
ベースライン足蹠回避潜時(PWL)を各ラットについてHargreavesモデルを用いて測定した。上述のようにカラゲニンを注射した。カラゲニン投与2時間後に、動物を熱痛覚過敏について試験した。ギャバペンチン(10~100mg/kg)またはCI-1008(1~30mg/kg)は、カラゲニン投与後2.5時間に皮下に投与し、PWLをカラゲニン投与3および4時間後に再評価した。カラゲニンは注射後2、3および4時間に足蹠回避潜時の有意な低下を誘発し、熱痛覚過敏の誘発を示した(図3)。ギャバペンチンおよびCI-1008は用量依存性に痛覚過敏に拮抗し、MEDは30および3mg/kgを示した(図3)。
これらのデータはギャバペンチンおよびCI-1008が炎症性疼痛の処置に有効であることを示す。」(特許公報p5 47行~p6 32行)
(キ)「Bennett G.J.のアッセイはヒトに認められるのと類似の疼痛感覚の障害を生じるラットにおける末梢性単発神経障害の動物モデルを提供する(Pain, 1988;33: 87-107)。
Kim S.H.らのアッセイは、ラットにおける分節脊椎神経の結紮によって生じる末梢神経障害の一つの実験モデルを提供する(Pain, 1990;50: 355-363)。」(特許公報p6 33~36行)
(ク)「術後疼痛のラットモデルも報告されている(Brennanら、1996)。それには、後肢足蹠面の皮膚、筋膜および筋肉の切開が包含される。これは数日間続く再現可能かつ定量可能な機械的痛覚過敏の誘発を招く。このモデルはヒトの術後疼痛状態にある種の類似性を示す。本研究においては、本発明者らは術後疼痛のこのモデルでギャバペンチンおよびS-(+)-3-イソブチルギャバの活性を調べ、モルヒネの場合と比較した。
方法
Bantin and Kingmen(Hull, U.K.)から入手した雄性Sprague-Dawleyラット(250~300g)をすべての実験に使用した。手術の前に動物は6匹の群として飼育ケージに入れ、12時間明暗サイクル(07時00分に点灯)下に置いて飼料および水は自由に与えた。動物は手術後、同じ条件下に、空気を含んだセルロースから構成される“Aqua-sorb”床(Beta Medical and Scientific, Sale, U.K.)上に対で収容した。すべての実験は薬物処置に盲検とした観察者により行われた。
手術
動物は2%イソフルオランおよび1.4O2/NO2混合物で麻酔し、鼻円錐により手術中を通じて麻酔下に維持した。右後肢足蹠表面を50%エタノールで準備して踵の端から0.5cmに開始し足指の方向に皮膚および筋膜を通して1-cm縦に切開した。足蹠の筋肉は鉗子によって持ち上げ縦に切開した。傷口を編んだ絹の縫合糸によりFST-02の針を用いて2個所で閉じた。傷口の部位はテラマイシンスプレーおよびオーロマイシン末で被覆した。手術後、すべての動物において感染の徴候は認められず、創傷は24時間後には良好に治癒した。縫合糸は48時間後に抜糸した。
熱痛覚過敏の評価
熱痛覚過敏はラット足蹠試験(Ugo Basile, Italy)を用い、Hargreavesらの方法(1988)の改良法に従い評価した。ラットは上方に傾斜したガラステーブル上3個の個々のパースペックスの箱からなる装置に順化させた。テーブルの下に可動性放射熱源を置き、後肢足蹠に焦点を合わせ足蹠回避潜時(PWL)を記録した。組織の傷害を回避するため、自動カットオフ点を22.5秒に設定した。各動物の両後肢について2~3回PWLを測定し、その平均を左右後肢のベースラインとした。装置は約10秒のPWLが得られるように検量した。PWL(秒)は上述のプロトコールに従い術後2、24、48および72時間に再評価した。
接触異痛の評価
接触異痛はシーメンス・ワインシュタイン・フォン・フライの毛(Stoelting, Illinois, USA)を用いて測定した。動物は、針金の網の底のケージに収容して、足蹠に接触できるようにした。動物は実験の開始前に、この環境に順化させた。接触異痛試験は動物の後肢の足蹠表面に、順次力を増大させて(0.7、1.2、1.5、2、3.6、5.5、8.5、11.8、15.1、および29g)フライの毛で触れ、後肢の回避が誘発されるまで試験した。フライの毛はそれぞれ6秒間または反応が起こるまで後肢に適用した。回避反応が確立されたならば、後肢を次に下降するフライの毛で試験を始めて反応が起こらなくなるまで再試験した。したがって、後肢を上げて反応が誘発される最高の力29gがカットオフ点となった。各動物を、この様式で両後肢について試験した。反応が誘発されるのに必要な最低の力量を回避閾値としてグラムで記録した。化合物を手術前に投与する場合には、接触痛覚過敏、接触異痛および熱痛覚過敏に対する薬物効果の試験に同一の動物を使用し、各動物について熱痛覚過敏試験の1時間後に接触異痛の試験を行った。術後にS-(+)-3-イソブチルギャバを投与する場合には、接触異痛および熱痛覚過敏の検査に別個の群の動物を使用した。
統計
熱痛覚過敏試験で得られたデータは一元(分散分析)ANOVAに付し、ついでDunnett's t-検定を実施した。フライの毛で得られた接触異痛の結果は個別のMann Whitney t-検定に付した。
結果
ラット足蹠筋肉の切開は熱痛覚過敏および接触異痛を生じた。いずれの侵害受容反応も手術後1時間以内にピークに達し、3日間維持された。実験期間中、動物はすべて良好な健康状態を維持した。
手術前に投与したギャバペンチン、S-(+)-3-イソブチルギャバおよびモルヒネの熱痛覚過敏に対する効果
手術1時間前におけるギャバペンチンの単回用量投与(3~30mg/kg、皮下)は、用量依存性に熱痛覚過敏の発生を遮断し、MEDは30mg/kgであった(図4b)。最大用量のギャバペンチン30mg/kgは痛覚過敏の反応を24時間防止した(図4b)。S-(+)-3-イソブチルギャバを同様に投与した場合も用量依存性(3~30mg/kg、皮下)に熱痛覚過敏の発生が遮断され、MEDは30mg/kgであった(図4c)。30mg/kg用量のS-(+)-3-イソブチルギャバは3日まで有効であった(図4c)。手術0.5時間前のモルヒネの投与は、用量依存性(1~6mg/kg、皮下)は熱痛覚過敏の発生に拮抗し、MEDは1mg/kgであった(図4a)。この作用は24時間維持された(図4a)。
手術前に投与したギャバペンチン、S-(+)-3-イソブチルギャバおよびモルヒネの接触異痛に対する効果
接触異痛の発生に対する薬物の効果は上述の熱痛覚過敏に用いたのと同じ動物で測定した。熱痛覚過敏試験と接触異痛試験の間には1時間の間隔を置いた。ギャバペンチンは、用量依存性に接触異痛の発生を防止し、MEDは10mg/kgであった。ギャバペンチン10および30mg/kgの用量はそれぞれ25および49時間有効であった(図5b)。S-(+)-3-イソブチルギャバも同様に用量依存性(3~30mg/kg)に接触異痛の発生を遮断し、MEDは10mg/kgであった(図5c)。この侵害受容応答の遮断は30mg/kg用量のS-(+)-3-イソブチルギャバにより3日間維持された(図5c)。これに反して、モルヒネ(1~6mg/kg)は、6mg/kgの最大用量で術後3時間、接触異痛の発生を防止したのみであった(図5a)。
手術1時間後に投与したS-(+)-3-イソブチルギャバの接触異痛および熱痛覚過敏に対する効果
接触異痛および熱痛覚過敏はすべての動物で1時間以内にピークに達し、以後5~6時間維持された。30mg/kgのS-(+)-3-イソブチルギャバの手術1時間後における皮下投与は接触異痛および熱痛覚過敏の維持を3~4時間ブロックした。この時間後に、侵害受容の両応答はいずれも対照レベルに復し、これは抗熱痛覚過敏および抗接触異痛作用の消失を示す(図6)。
ギャバペンチンおよびS-(+)-3-イソブチルギャバは、すべての実験で試験された最大用量まで、対側後肢の熱痛覚過敏試験または接触異痛評点におけるPWLに影響しなかった。これに反して、モルヒネ(6mg/kg、皮下)は熱痛覚過敏試験おける対側後肢のPWLを増大させた(データは示していない)。
ここに掲げた結果はラット足蹠筋肉の切開は少なくとも3時間続く熱痛覚過敏および接触異痛を誘発することを示している。本試験の主要な所見は、ギャバペンチンおよびS-(+)-3-イソブチルギャバがいずれの侵害受容反応の遮断に対しても等しく有効なことである。これに反し、モルヒネは接触異痛よりも熱痛覚過敏に有効であることが見出された。さらに、S-(+)-3-イソブチルギャバは接触異痛および熱痛覚過敏の誘発および維持を完全に遮断した。」(特許公報p6 37行~p8 23行)
イ 摘示(イ)、(エ)には、本件特許明細書記載の発明が、式Iの化合物を線維筋痛症や神経障害等の痛みの処置における鎮痛剤としての使用方法に係る発明であるとの記載がある。そして、摘示(イ)によれば、請求項2記載の化合物は、上記式Iの好ましい化合物とされている。そうすると、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、請求項2記載の化合物を線維筋痛症や神経障害等の痛みの処置における鎮痛剤として使用する方法について一般的な記載がなされているといえる。しかし、同化合物を神経障害又は線維筋痛症による痛覚過敏又は接触異痛の痛みの処置における鎮痛剤として使用することについて明示の記載はない。
本件特許明細書には、末梢神経障害の2つの動物モデルについての説明があるものの(摘示(キ))、請求項2記載の化合物や、該化合物を含む式Iの化合物について、上記モデル試験を行った等、神経障害又は繊維筋痛症による、痛覚過敏又は接触異痛の痛みの処置において鎮痛作用を有し、鎮痛剤としての効果を奏したことを具体的に確認した試験結果はおろか、上記試験において有効であるとの一般的な記載もない。
また、摘示(カ)の記載によれば、本件特許明細書には、請求項2記載の化合物に該当するCI-1008及び3-アミノメチル-5-メチル-ヘキサン酸を用いたラットホルマリン足蹠試験結果、並びに、CI-1008を用いたラットカラゲニン誘発機械的痛覚過敏及び熱痛覚過敏に対する試験結果が記載され、摘示(ク)の記載によれば、請求項2記載の化合物に該当するS-(+)-3-イソブチルギャバを用いたラット術後疼痛モデルにおける熱痛覚過敏及び接触異痛に対する試験結果が記載されている。なお、摘示(ウ)の記載によれば、上記CI-1008は、(S)-3-(アミノメチル)-5-メチルヘキサン酸なる名称の化合物であり、その名称から把握される化学構造からみて、上記S-(+)-3-イソブチルギャバと同じものであると認められる。
しかし、上記試験結果は、いずれも神経障害又は線維筋痛症による痛みの処置に請求項2記載の化合物を使用した試験に関するものではないから、上記試験結果から直ちに、請求項2記載の化合物が、神経障害又は線維筋痛症による、痛覚過敏又は接触異痛の痛みの処置に有効であることが本件特許明細書に記載されているとはいえない。
そこで、上記した具体的な試験及び試験結果、並びに本件特許出願時の技術常識についてさらに進んで検討し、請求項2記載の化合物が、神経障害又は線維筋痛症による、痛覚過敏又は接触異痛の痛みの処置に有効であることが本件特許明細書の記載及び技術常識から記載されているに等しいといえるか否かについて検討する。
(ア)ラットホルマリン足蹠試験について
(ア)-1 本件特許明細書及び図面の記載について
本件特許明細書には、ラットの足蹠表面へのホルマリン皮下投与1時間前の、CI-1008(10~100mg/kg)又は3-アミノメチル-5-メチル-ヘキサン酸(100mg/kg)の皮下投与が、ホルマリン応答の後期相(10~45分)における注射した後肢のリッキング/バイティング行動をブロックしたことが記載されており(摘示(カ))、また、上記ホルマリン足蹠試験と下記(イ)ラットカラゲニン誘発機械的痛覚過敏及び熱痛覚過敏に対する試験のデータが、CI-1008が炎症性疼痛の処置に有効であることを示していることについて明示的に記載がある。
一方、本件特許明細書に、上記試験において処置された痛みが、痛覚過敏又は接触異痛の痛みであるとか、神経障害又は線維筋痛症による痛みであるとの記載も、上記試験のデータが、上記痛覚過敏又は接触異痛の痛みや、神経障害又は線維筋痛症による痛みの治療に有効であることを示しているとか、予測できるといった記載もないし、また、請求項2記載の化合物を含む式Iの化合物が、痛みの処置においてその作用・効果を発揮する特性やメカニズムが存在するとの記載も示唆もない。
したがって、上記試験のデータから、明示的な記載のある炎症性疼痛以外の痛みについての反応を予測可能であることが、本件特許明細書に記載されていると認めることはできない。
さらに、痛覚過敏が、通常又は増加した閾値における増加した応答(後記摘示事項2A)又は痛覚閾値の低下(後記摘示事項乙41A)を意味する用語として用いられていることに照らせば、ある化合物について、その疼痛閾値と関連づけることなく、痛覚過敏の痛みに対する効果を論ずることはできないといえる。これに対して、本件特許明細書には、ホルマリン後期相におけるリッキング/バイティング行動をブロックしたことが確認されているものの、痛覚閾値に関する記載はなく、また、痛覚過敏との関係においてその鎮痛効果を評価したとの記載もない。したがって、本件特許出願時の技術常識を参酌しても、本件特許明細書に、ホルマリン足蹠試験における痛覚過敏の痛みに対する試験結果が記載されていると認めることはできない。
(ア)-2 ホルマリン足蹠試験に関する技術常識について
乙第3、4、18~20、22~28、41号証には、後記の第5 2において摘示したとおりの記載がある。
乙第4、20、23~25号証の記載によれば、ホルマリン足蹠試験が、短期の痛みである初期相と長期の痛みである後期相の二相性の行動反応を引き起こすこと(後記摘示事項乙4A、B、乙20A、23A、24A)や、化学物質誘発性の持続性疼痛の有用なモデルであること(後記摘示事項乙23B、乙25A)は、本件特許出願時の技術常識であったといえる。
また、ホルマリン足蹠試験の後期相については、たとえば、ホルマリンによる求心性集中砲火によって誘発されるNMDA介在性の中枢性活性が、長期間の痛みの状態における侵害受容とその調節の変化の一つの基礎となっている可能性があると思われる(後記摘示事項乙23A)との記載、ホルマリン応答の初期相の間に生じた神経作用が中枢神経系の機能の変化(すなわち、中枢性感作)を引き起こし、それが次いで後期相の間の処理に影響することをもたらしうることが示唆される(後記摘示事項乙24A)との記載、末梢組織における炎症反応と脊髄後角の機能的変化の組み合わせに依存するように思われる(後記摘示事項乙22A)との記載、さらには、後角ニューロンが感作(中枢性感作)した結果か、炎症に誘発された一次求心性侵害受容器の活性化の結果か、又はそれらの組み合わせのいずれかであるとの仮説が立てられてきた(後記摘示事項乙25B)との記載がある。
それら記載によれば、ホルマリン足蹠試験の後期相における反応と中枢性感作との関係は仮説又は推論の域にとどまるものと理解されるのであって、本件特許出願時、ホルマリン足蹠試験の後期相における反応が、中枢性感作等の痛みの処置における何らかの特性やメカニズムに基づくものであるとか、それらを反映した結果であり、それら特性やメカニズムの関与を証明するための確立された試験であるとの技術常識が存在していたと認めることはできない。また、ホルマリン足蹠試験が、末梢及び中枢神経の過敏の痛み全般についての試験であるとの技術常識が存在していたともいえない。
ホルマリン足蹠試験の後期相については、さらに、L-グルタミン酸又はサブスタンスPを用いて処理されたラットにおいてホルマリン侵害行為の増加(痛覚過敏)がみられるとされている(後記摘示事項乙28A)。本件特許明細書記載のホルマリン足蹠試験は、上記L-グルタミン酸又はサブスタンスPを使用するものではないから、本件特許明細書記載のホルマリン足蹠試験の後期相における試験結果が痛覚過敏の痛みの処置に関するものであると直ちにいえないものの、後記摘示事項乙27Aの記載、さらに、後記摘示事項12C(表3-3)に、「脊髄調節システム:ラットにおけるくも膜下注射の作用」とのタイトルの下、痛覚過敏という実験的疼痛状態を示す動物モデルとして、第2相ホルマリンが記載されていることに照らせば、ホルマリン足蹠試験の後期相において痛覚過敏がみられると理解することができる。
しかし、同表には、第2相ホルマリン、すなわちホルマリン応答の後期相とは別に神経損傷-痛覚過敏という実験的疼痛状態を示す動物モデルとして、ベネットモデルが記載されており、同表からは、上記二つの実験的疼痛状態の動物モデルにおける各種薬剤に対する反応性は同じではないことが読み取れる。また、後記摘示事項12B(表3-2)には、「侵害プロセシング及び関連動物モデル」とのタイトルの下、第2相ホルマリン試験、すなわちホルマリン足蹠試験の後期相は、長期のC線維インプットが神経組織における促進状態、促進反応をもたらす動物モデルであり、ヒトにおける二次知覚過敏、術後、外傷に対応するものであると記載されており、他方、ベネットモデルは、急性Aーδ/C線維インプットが痛覚過敏をもたらす動物モデルであると記載されており、両モデルは神経組織における作用点において異なるものである。これら記載によれば、本件特許出願時において、痛覚過敏には、少なくとも、ホルマリン第2相や関節炎によるものと神経損傷によるものとの複数のものがあるとの技術常識が存在していたといえる。そうすると、たとえ、ホルマリン足蹠試験の後期相における試験結果が痛覚過敏の痛みを示しているといえたとしても、それとは神経組織における作用点や薬剤に対する反応性が異なる疼痛状態であるとして区別して記載されている、神経損傷による痛覚過敏の痛みに対する作用についても、ホルマリン足蹠試験の後期相において確認されたと同様の結果が得られるということはできない。そして、上記神経損傷が本件請求項2の神経障害に該当することは、神経障害性の痛みの意味するところから明らかである(必要であれば、後記摘示事項6Aの痛みのタイプ 神経障害性の項参照)。
また、乙第19号証の記載をみても、神経障害性疼痛症候群における痛覚過敏がホルマリン応答の後期相に類似していることが観察されて、NMDA受容体によって介在されるワインドアップ現象の現れである可能性について論じられていた段階にあったことが理解されるにとどまり(後記摘示事項乙19A)、神経障害性疼痛の痛覚過敏とホルマリン足蹠試験の後期相における反応とが相互に関連するとの技術常識が、本件特許出願時に存在していたと認めることはできない。
次に、線維筋痛症について検討するに、線維筋痛症は、心因性疼痛であるとか(後記摘示事項14A)、痛覚過敏を伴う慢性疼痛症候群であるとされており(後記摘示事項乙3A)、本件特許出願時、その病因等について解明がされていたものとは認められない。仮に、心因性疼痛であると理解するならば、炎症性疼痛とは異なるから、線維筋痛症において、請求項2記載の化合物が、ホルマリン足蹠試験の後期相において確認されたと当然に同様の痛覚過敏に対する結果が得られ、同様の効果を奏するとはいえない。また、仮に、痛覚過敏を伴う慢性疼痛症候群であると理解するとしても、痛覚過敏に対する作用には、少なくとも、各種薬剤のホルマリン足蹠試験の後期相における痛覚過敏に対する作用と神経損傷による痛覚過敏に対する作用とが存在すること、それら痛覚過敏に対する作用は互いに同じであるといえないことは、上記神経障害による痛覚過敏の痛みの検討において説示のとおりである。そして、線維筋痛症における痛覚過敏に対する作用がいかなるものであるかについての証拠は見当たらず、上記のいずれかと同じであるか否かさえ不明である。
また、甲各号証、乙各号証のいずれの証拠をみても、ホルマリン足蹠試験が、線維筋痛症の動物モデル試験として本件特許出願時に知られていたとの証拠はない。
そうすると、単に痛覚過敏を伴う点でホルマリン足蹠試験と共通するからといって、線維筋痛症において、請求項2記載の化合物が、ホルマリン足蹠試験の後期相において確認されたと当然に同様の痛覚過敏に対する結果が得られ、同様の効果を奏するとはいえない。
(ア)-3
以上によれば、本件特許出願時の技術常識を参酌しても、本件特許明細書に、3-アミノメチル-5-メチル-ヘキサン酸及びCI-1008が、ホルマリン足蹠試験の後期相の中等度のブロックを生じたことが記載されていることをもって、請求項2記載の化合物に該当する上記化合物が、神経障害又は線維筋痛症による、痛覚過敏又は接触異痛の痛みの処置に鎮痛剤として有効であることが記載されているに等しいと当業者が理解するということはできない。
(ア)-4 被請求人の主張について
i 被請求人は、
(a)ホルマリン試験の後期相が中枢性感作を反映したものであることは本件特許出願時の技術常識であり、(b)ホルマリン試験は、その端緒の原因によらず、中枢性感作や中枢性感作という神経の機能異常によって生ずる痛覚過敏、接触異痛等の持続性の痛みに対する薬剤の効果を確認する試験として本件特許出願時に広く用いられていたものである。そうすると、ホルマリン足蹠試験においてその効果が確認された薬剤であれば、痛覚過敏及び接触異痛に対して効果を奏することを当業者は理解するといえる、(c)神経障害性疼痛及び線維筋痛症は、神経の機能異常に基づく疼痛であるから、痛覚過敏、接触異痛に対する効果を確認すれば、神経障害性疼痛及び線維筋痛症に対する効果が確認できるといえる、(d)そして、本件特許明細書には、ホルマリン足蹠試験によって引き起こされた後期相において請求項2記載の化合物が鎮痛効果を有したことが記載されているのであるから、該試験に関する記載及び上記技術常識によれば、当業者は、請求項2記載の化合物が神経障害及び線維筋痛症による、痛覚過敏又は接触異痛の痛みに有効であることが記載されているといえる、
と主張する(令和1年7月1日付け上申書p17 下から10行~p27 5行、p40 下から6行~p43 下から4行)。
被請求人の上記主張は、式Iの化合物の痛みの処置における作用・効果に、中枢性感作というメカニズムが関与しているとの前提に立つものである。
しかし、本件特許明細書には、請求項2記載の化合物を含む式Iの化合物が、中枢性感作等の、痛みの処置においてその作用・効果を発揮する共通の特性やメカニズムが存在することに関して記載も示唆もないことは、前記(ア)-1で説示のとおりである。
また、ホルマリン足蹠試験の後期相における反応が、中枢性感作等の痛みの処置における何らかの特性やメカニズムに基づくものであるとか、それらを反映した結果であり、それら特性やメカニズムの関与を証明するための確立された試験であるとの技術常識が存在していたと認めることはできないことも前記(ア)-2で説示のとおりである。そうすると、本件特許明細書記載のホルマリン試験の後期相において確認された結果が、中枢性感作によって生ずる痛覚過敏、接触異痛を伴うすべての痛みにおいても同様にもたらされるものということはできない。
以上によれば、上記(a)~(c)の主張は採用しえない。そして、それら主張を前提とする上記(d)の主張もまた採用しえない。
ii 被請求人は、ケタミンが、虚血性疼痛や術後疼痛(乙第29号証)、癌性疼痛(乙第30号証)、幻肢痛(乙第31号証)、末梢性神経障害性疼痛患者と中枢性神経障害性疼痛患者の痛覚過敏及び接触異痛(乙第19号証)、帯状疱疹後神経痛患者の接触異痛(乙第32号証)、線維筋痛症の痛覚過敏(乙第3号証)に効果を奏することが各号証の記載から理解され、また、ケタミンが中枢性感作を阻害する物質である(乙第23号証)ことから、痛覚過敏及び接触異痛の直接の原因となる中枢性感作を阻害することができる物質であれば、その端緒の原因にかかわらず痛覚過敏及び接触異痛を治療できることは本件特許出願時に既に知られていたと主張する(令和1年7月1日付け上申書p27 6行~p32 1行)。
しかし、ケタミンについて上記知見が知られているからといって、該知見を、ケタミンと全く異なる化学構造を有する請求項2記載の化合物を含む物質全般にまで一般化しうるに足るような本件特許出願時の技術常識はみあたらず、上記被請求人の主張は採用できない。
(イ)ラットカラゲニン誘発機械的痛覚過敏及び熱痛覚過敏に対する試験について
(イ)-1 本件特許明細書の記載について
ラット足蹠へのカラゲニン皮下注射による痛覚過敏のピークの発症後、試験薬物としてCI-1008をラットに投与したところ、機械的痛覚過敏及び熱痛覚過敏ともに用量依存性に痛覚過敏に拮抗したことが記載されている(摘示(カ))。
そして、本件特許明細書には、上記カラゲニン誘発機械的痛覚過敏及び熱痛覚過敏に対する試験と前記(ア)ラットホルマリン足蹠試験におけるデータが、CI-1008が炎症性疼痛の処置に有効であることを示していることについて明示的に記載がある(摘示(カ))。
しかし、本件特許明細書には、上記試験において処置された痛みが、神経障害又は線維筋痛症による、痛覚過敏又は接触異痛の痛みであるとの記載や、上記試験のデータが、上記神経障害又は線維筋痛症による、痛覚過敏又は接触異痛の痛みの治療に有効であることを示しているとか、予測できるといった記載はなく、また、それら炎症性疼痛以外の痛みについての反応を予測可能とするような共通するメカニズム等が存在するとの記載も示唆もない。
(イ)-2 ラットカラゲニン誘発機械的痛覚過敏及び熱痛覚過敏に対する試験及び神経障害又は線維筋痛症に関する技術常識について
甲第2号証及び甲第6号証の記載によれば、神経障害とは、神経の機能障害又は病理学的変化をいい(後記摘示事項2B),また、神経障害性疼痛とは、神経系における一次性の損傷又は機能障害によって開始される又は引き起こされる痛み(後記摘示事項2B)又は末梢又は中枢の痛みの経路に対する損傷に起因する痛み(後記摘示事項6A)をいう。
カラゲニン試験に関連して、たとえば、乙第21号証には、カラゲニンによって誘発された炎症によってもたらされた動物の足回避潜時変化が、侵害受容閾値低下に対応したことが記載されているから(後記摘示事項乙21A)、同号証には、カラゲニン誘発炎症における閾値低下、すなわち痛覚過敏(必要であれば、後記摘示事項乙41A参照)について記載されているといえる。そして、乙第33号証には、カラゲニン誘発炎症は、皮膚の痛覚過敏のモデルとして適合されていることが(後記摘示事項乙33A)、また、乙第34号証には、カラゲニン誘発炎症は、炎症/痛覚過敏のモデルを作製するために用いられることが(後記摘示事項乙34A)記載されており、上記刊行物の記載によれば、本件特許出願時、カラゲニン試験は、カラゲニンに誘発された炎症についての痛覚過敏のモデルとして使用されていたものであることが理解される。
ところで、痛覚過敏には、少なくとも、ホルマリン第2相や関節炎と神経損傷-痛覚過敏と複数存在するとの技術常識が存在していたといえることは、前記(ア)-2で説示のとおりである。
そして、上記の他の甲各号証、乙各号証のいずれの証拠をみても、カラゲニン誘発機械的痛覚過敏及び熱痛覚過敏試験において痛覚過敏の痛みに対する効果が認められた物質は、本件請求項2の神経障害による痛覚過敏に該当する、神経損傷-痛覚過敏の痛みに対しても効果を有するとか、痛覚過敏の痛み全般に効果を有するとの技術常識が本件特許出願時に存在していたと認めることはできない。
また、甲各号証、乙各号証のいずれの証拠をみても、カラゲニン誘発機械的痛覚過敏及び熱痛覚過敏に対する試験が、線維筋痛症の動物モデル試験として本件特許出願時に知られていたとの証拠はなく、線維筋痛症は、単に痛覚過敏を伴う点においてのみカラゲニン誘発機械的痛覚過敏及び熱痛覚過敏に対する試験と共通するにすぎないから、請求項2記載の化合物が、カラギニン誘発機械的痛覚過敏及び熱痛覚過敏に対し効果を有したことが確認されているからといって、神経障害又は線維筋痛症による、痛覚過敏においても当然に同様の効果を奏するとはいえない。
(イ)-3
したがって、本件特許出願時の技術常識を参酌しても、本件特許明細書に、CI-1008がカラゲニン誘発機械的痛覚過敏及び熱痛覚過敏に拮抗したことが記載されていることをもって、請求項2記載の化合物に該当する上記化合物が神経障害又は線維筋痛症による、痛覚過敏又は接触異痛の痛みの処置に鎮痛剤として有効であることが記載されているに等しいと当業者が理解するということはできない。
(ウ)ラット術後疼痛モデルにおける熱痛覚過敏及び接触異痛に対する試験について
(ウ)-1 本件特許明細書の記載について
ラット足蹠筋肉切開の手術前のS-(+)-3-イソブチルギャバの皮下投与が、用量依存性に熱痛覚過敏及び接触異痛の発生を遮断したこと、並びに、上記手術後のS-(+)-3-イソブチルギャバの皮下投与が、熱痛覚過敏及び接触異痛の維持を遮断したことが記載されている(摘示(ク))。
しかし、本件特許明細書には、上記試験において処置された痛みが、神経障害又は線維筋痛症による、痛覚過敏又は接触異痛の痛みであるとの記載はないし、また、上記痛みの治療に有効であることを示しているとか、予測できるといった記載はない。
(ウ)-2 ラット術後疼痛モデルにおける熱痛覚過敏及び接触異痛に対する試験及び神経障害又は線維筋痛症に関する技術常識について
神経障害及び神経障害性疼痛については、前記(イ)-1で説示のとおりであり、また、本件特許出願時の技術常識は、前記(ア)-2、(イ)-2で説示のとおりである。
そして、上記の他の甲各号証、乙各号証のいずれの証拠をみても、術後疼痛モデルにおける熱痛覚過敏及び接触異痛に対する試験において痛覚過敏の痛みに対する効果が認められた物質は、本件請求項2の神経障害による痛覚過敏に該当する、神経損傷-痛覚過敏の痛みに対しても効果を有するとか、痛覚過敏の痛み全般に効果を有するとの技術常識が本件特許出願時に存在していたと認めることはできない。
また、甲各号証、乙各号証のいずれの証拠も、術後疼痛モデルにおける熱痛覚過敏及び接触異痛に対する試験が、線維筋痛症の動物モデル試験として本件特許出願時に知られていたことを示すものではなく、線維筋痛症は、単に痛覚過敏を伴う点においてのみ術後疼痛モデルにおける熱痛覚過敏及び接触異痛に対する試験と共通するにすぎないから、請求項2記載の化合物が、術後疼痛モデルにおける熱痛覚過敏及び接触異痛に対し効果を有したことが確認されているからといって、当然に同様の効果を奏するとはいえない。
(ウ)-3
したがって、本件特許出願時の技術常識を参酌しても、本件特許明細書に、CI-1008がラット術後疼痛モデルにおける熱痛覚過敏及び接触異痛の発生及び維持を遮断したことが記載されていることをもって、請求項2記載の化合物に該当する上記化合物が、神経障害又は線維筋痛症による、痛覚過敏又は接触異痛の痛みの処置に鎮痛剤として有効であることが記載されているに等しいと当業者が理解するということはできない。
(エ)
以上によれば、訂正事項2は、
式I
[図:0001392413000004.jpg]
(式I中、R3およびR2はいずれも水素であり、R1は-(CH2)0-2-iC4H9である)の化合物の(R)、(S)、または(R,S)異性体を含有する痛みの処置における鎮痛剤について、その痛みを、神経障害又は線維筋痛症による、痛覚過敏又は接触異痛の痛み、と特定することによって、本件特許明細書又は図面の明示的に記載された事項であるとも、本件特許明細書又は図面の記載から自明な事項であるとも認めることができない痛みに個別化するものであり、該訂正事項に係る訂正は、本件特許明細書の全ての記載を総合しても導き出すことができない技術的事項を含むものであるから、訂正事項2に係る訂正は、本件特許明細書又は図面に記載した事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものであると認める。
ウ したがって、訂正事項2-2に係る訂正は、本件特許明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであるとはいえない。
よって、訂正事項2に係る訂正は、特許法第134条の2第9項で準用する同法126条5項の規定に適合しないから、請求項2に係る訂正は認められない。
(2)訂正事項1について
訂正前の請求項1~4は、請求項2~4が、請求項1の記載を引用する関係にあるから、本件訂正は、一群の請求項1~4について請求されている。
また、請求人は、訂正後の請求項2~4(訂正事項2~4)に係る訂正について、当該請求項についての訂正が認められるときは、他の請求項とは別の訂正単位として扱われることを求めている。
しかし、前記(1)で説示のとおり、訂正後の請求項2(訂正事項2)に係る訂正は認められないから、訂正後の請求項2についての別の訂正単位とする求めも認められず、対応する訂正前の請求項2と共に一群の請求項を構成する訂正前の請求項1について求める訂正(訂正事項1)は一体的に認められない。
(3)訂正事項3について
ア 訂正事項3に係る訂正は、請求項3において、
「化合物が、・・・である」とあるのを「・・・を含有する」(訂正事項3-1)に訂正し、
「請求項1記載の鎮痛剤」、すなわち「痛みの処置における鎮痛剤」を「炎症を原因とする痛み、又は手術を原因とする痛みの処置における鎮痛剤」(訂正事項3-2)に訂正するとともに、
請求項1との引用関係を解消し、独立形式に改める(訂正事項3-3)ことを求めるものである。
イ 訂正事項3-1及び訂正事項3-3は、請求項3について請求項1との引用関係の解消を目的とするものであり、また、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
ウ 「痛み」には、炎症によるもの(必要であれば、後記摘示事項5A)や、術後疼痛といわれる手術によるもの(必要であれば、後記摘示事項3Cの「術後疼痛」の項)等が存在することは本件特許出願時における技術常識であったと認められる。したがって、訂正事項3-2は、訂正前の痛みを限定することを求めるものである。
そして、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、前記(1)イ(ア)-1、(イ)-1で説示のとおり、ラットホルマリン足蹠試験におけるCI-1008、すなわちS-3-(アミノメチル)-5-メチルヘキサン酸(前記(1)イ)及び3-アミノメチル-5-メチル-ヘキサン酸の鎮痛効果と、ラットカラゲニン誘発機械的痛覚過敏及び熱痛覚過敏に対する試験におけるCI-1008の鎮痛効果が記載されている。さらに、上記試験のデータは、CI-1008が炎症性疼痛の処置に有効であることを示す、との記載もある(前記(1)アの摘示(カ)、(ク))。そして、ホルマリン、カラゲニンがいずれも起炎剤であることは本件特許出願時における周知の事項である。また、前記(1)イ(ウ)-1で説示のとおり、本件特許明細書には、ラット術後疼痛モデルにおける熱痛覚過敏及び接触異痛に対する試験におけるCI-1008の鎮痛効果が記載されている(前記(1)アの摘示(ク))。
したがって、訂正事項3-2に係る訂正は、本件特許明細書の記載の範囲内においてするものである。
エ よって、この訂正は、特許請求の範囲の減縮及び引用関係の解消を目的とするものであるし、また、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないから、特許法第134条の2第1項ただし書第1号又は第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同法同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項に規定する要件に適合する。
オ 参加人4の主張について
参加人4は、令和1年10月18日付け弁駁書p96において、訂正事項3は新規事項を追加する訂正であるとして、概略以下の(ア)のとおり主張する。
(ア)「炎症を原因とする侵害受容性の痛覚過敏の痛み」(すなわち、侵害受容性疼痛である炎症性疼痛)、及び「手術を原因とする侵害受容性の痛覚過敏若しくは接触異痛の痛み」(すなわち、侵害受容性疼痛である急性術後疼痛)については、本件明細書に記載した事項の範囲内の訂正といえるが、それ以外の痛み、すなわち、「侵害受容性の痛覚過敏・接触異痛の痛み(侵害受容性疼痛)を除く、痛覚過敏又は接触異痛の痛み」)を含む、「炎症を原因とする痛み、又は手術を原因とする痛み」については、本件特許明細書に記載した事項の範囲内であるとはいえない。
(イ)前記(ア)の主張は、つまるところ、訂正後の請求項3に係る発明は「炎症を原因とする侵害受容性の痛覚過敏の痛み」及び「手術を原因とする侵害受容性の痛覚過敏もしくは接触異痛の痛み」以外の痛みを含むものであり、該痛みについては、本件特許明細書に記載した事項の範囲内であるとはいえない、というものである。
しかし、炎症を原因とする痛みも(後記摘示事項5A)、手術を原因とする痛みも(後記摘示事項6A)、本件特許出願時、侵害受容性疼痛として広く認識されている痛みである。そして、訂正後の請求項3に係る発明は、炎症を原因とする痛み、又は手術を原因とする痛みの処置を対象とする鎮痛剤に係る発明であるから、訂正後の請求項3に「侵害受容性疼痛」に関する規定がなくとも、訂正後の請求項3に係る発明に侵害受容性疼痛以外の概念が含まれる余地はないといえる。
そして、本件特許明細書の発明の詳細な説明に、請求項3記載の化合物であるCI-1008が、炎症性疼痛又は術後疼痛の処置に対して効果を有したことが記載されていることは、前記ウで説示のとおりである。
よって、参加人4の上記主張は採用しえない。
(4)訂正事項4について
ア 訂正事項4に係る訂正は、請求項4において、「請求項1記載の」とあるのを、式Iの構造式及び該式中の定義を追加した記載に訂正した上で請求項の最初に記載し(訂正事項4-1)、
「痛みが炎症性疼痛、神経障害による痛み、癌による痛み、術後疼痛、幻想肢痛、火傷痛、痛風の痛み、骨関節炎の痛み、三叉神経痛の痛み、急性ヘルペスおよびヘルペス後の痛み、カウザルギーの痛み、特発性の痛み、または線維筋痛症である」とあるのを、「炎症性疼痛による痛覚過敏の痛み、又は術後疼痛による痛覚過敏若しくは接触異痛の痛みの処置における」(訂正事項4-2)に訂正し、
請求項1との引用関係を解消し、独立形式に改める(訂正事項4-3)ことを求めるものである。
イ 訂正事項4-1及び訂正事項4-3は、請求項4について請求項1との引用関係の解消を目的とするものであり、また、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
ウ 訂正事項4-2による訂正後の請求項4は、「炎症性疼痛による・・・痛み」、「術後疼痛による・・・の痛み」(下線は当審で付した。)との発明特定事項を含むものである。炎症性疼痛又は術後疼痛も共に「痛み」を表す用語であるから、文言それ自体からはその意味するところが不明である。
しかし、前記(1)アの摘示(カ)、(ク)の記載によれば、本件特許明細書には、起炎剤(ホルマリン、カラゲニン)の皮下注射によって痛みが誘発されること、及び、皮膚、筋膜及び筋肉の切開を含む手術によって痛みが誘発されることが記載されており、本件特許明細書中、炎症性疼痛は炎症を原因とする痛みの、術後疼痛は手術を原因とする痛みの意で用いられていると理解される。また、痛覚過敏、接触異痛が、炎症性疼痛又は術後疼痛においてみられる痛みであることは、上記摘示(カ)、(ク)の記載から明らかである。そして、上記理解は、平成31年7月1日付け上申書の「第3 2 訂正発明3及び4について」の項における、鎮痛剤の処置対象である痛みを、「「炎症を原因とする痛み(炎症性疼痛)」及び「手術を原因とする痛み(術後疼痛)」に限定した。」との被請求人の説明や、同上申書の第10 1(2)エ 訂正発明4、の項における、鎮痛剤の処置対象となる痛みの端緒の原因(被請求人は、「端緒の原因」なる用語を「疼痛の生ずる当初の原因」の意で用いている)が、炎症性疼痛及び手術疼痛(当合議体注:「手術疼痛」は「術後疼痛」の誤記と認める)に限定されているとともに、痛みが痛覚過敏及び接触異痛に限定されている。」との説明とも一致する。
そうすると、上記訂正事項4-2の「炎症性疼痛」、「術後疼痛」はともに、痛みの種類ではなく、痛みの原因である「炎症」、「手術」を表すことを意図したものと理解するのが自然である。したがって、上記訂正事項4-2の記載には誤記があることが明らかであり、また、「炎症性疼痛による・・・痛み」、「術後疼痛による・・・の痛み」は、各々、「炎症を原因とする・・・痛み」、「手術を原因とする・・・痛み」の誤りであることもまた明らかである。
そこで、誤記を上記のとおり読み替えて、以下、訂正事項4-2について検討する。
エ 訂正事項4-2に係る訂正は、「痛み」について、訂正前の「炎症性疼痛、神経障害による痛み、癌による痛み、術後疼痛、幻想肢痛、火傷痛、痛風の痛み、骨関節炎の痛み、三叉神経痛の痛み、急性ヘルペスおよびヘルペス後の痛み、カウザルギーの痛み、特発性の痛み、または線維筋痛症である」とあるのを「炎症性疼痛による痛覚過敏の痛み、又は術後疼痛による痛覚過敏若しくは接触異痛の痛み」と訂正することを求めるものである。
訂正前の請求項4には、痛みについて、炎症性疼痛、術後疼痛が記載されており、また、本件特許明細書には、炎症性疼痛におけるカラゲニン誘発痛覚過敏に対するCI-1008の効果、並びに術後疼痛における痛覚過敏及び接触異痛に対するCI-1008の効果が記載されており(前記(1)アの摘示(カ)、(ク))、また、該化合物は、炎症性疼痛、術後疼痛の痛みの処置において使用する式Iの化合物において好ましい化合物として記載されているものである(前記(1)アの摘示(イ))。
したがって、上記訂正事項4-2は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、また、本件特許明細書の記載の範囲内においてするものである。
オ よって、この訂正は、特許請求の範囲の減縮及び引用関係の解消を目的とするものであるし、また、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないから、特許法第134条の2第1項ただし書第1号又は第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同法同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項に規定する要件に適合する。
カ 参加人4の主張について
参加人4は、令和1年10月18日付け弁駁書p96~98において、訂正事項4は新規事項を追加する訂正であるとして、概略以下の(ア)のとおり主張する。
(ア)本件発明4の「炎症性疼痛による・・・痛み」、「術後疼痛による・・・痛み」は、各々、「炎症性疼痛を原因とする・・・痛み」、「術後疼痛を原因とする・・・痛み」を意味する。しかし、本件特許明細書には、鎮痛剤の処置対象となる痛みとして、炎症性疼痛や術後疼痛が記載されているにすぎず、上記痛みについての記載はないし、明細書の記載に基づいて導き出せる構成でもない。そもそも、本件発明4は、被請求人がいうところの「端緒の原因」である「炎症」と、「痛み」の種類である「炎症性疼痛」が痛覚過敏に対して、原因というカテゴリーに位置づけられ、また、同じく「端緒の原因」である「手術」と、「痛み」の種類である「術後疼痛」が痛覚過敏や接触異痛に対して、原因というカテゴリーに位置づけられることを発明特定事項とするものであり、論理的に破綻している。
(イ)訂正後の請求項4に係る発明の「炎症性疼痛による・・・痛み」、「術後疼痛による・・・痛み」は、各々、「炎症性疼痛を原因とする・・・痛み」、「術後疼痛を原因とする・・・痛み」を意味する、との前記(ア)の主張の前提は妥当でなく、本件発明4の上記記載は、各々、「炎症を原因とする・・・痛み」、「手術を原因とする・・・痛み」であることは、前記ウで説示のとおりである。そして、訂正後の請求項4記載の化合物が、上記「炎症を原因とする・・・痛み」、「手術を原因とする・・・痛み」に対して鎮痛効果を有することが本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されていることは前記エで説示のとおりである。
よって、参加人4の上記主張は採用しえない。
(5)総括
以上のとおり、本件訂正請求による請求項3、4に係る本件訂正を認める。また、同請求項1~2に係る本件訂正は認められない。
第3 本件発明
本件特許第3693258号の特許請求の範囲の請求項1~4に係る発明(以下、総称して、「本件発明」又は、各々の請求項を区別して「本件発明1」~「本件発明4」という。)は次のとおりのものであり、そのうち、本件発明1~2は、設定登録時の本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項1~2に記載された事項により特定されるものである、また、本件発明3、4は、訂正後の特許請求の範囲の請求項3、4に記載された事項により特定されるものである。
「【請求項1】式I
[図:0001392413000005.jpg]
(式中、R1は炭素原子1~6個の直鎖状または分枝状アルキルであり、R2は水素またはメチルであり、R3は水素、メチルまたはカルボキシルである)の化合物またはその医薬的に許容される塩、ジアステレオマー、もしくはエナンチオマーを含有する痛みの処置における鎮痛剤。
【請求項2】化合物が、式IにおいてR3およびR2はいずれも水素であり、R1は-(CH2)0-2-iC4H9である化合物の(R)、(S)、または(R,S)異性体である請求項1記載の鎮痛剤。
【請求項3】(S)-3-(アミノメチル)-5-メチルヘキサン酸または3-アミノメチル-5-メチルヘキサン酸を含有する、炎症を原因とする痛み、又は手術を原因とする痛みの処置における鎮痛剤。
【請求項4】式I
[図:0001392413000006.jpg]
(式中、R1は炭素原子1~6個の直鎖状または分枝状アルキルであり、R2は水素またはメチルであり、R3は水素、メチルまたはカルボキシルである)の化合物またはその医薬的に許容される塩、ジアステレオマー、もしくはエナンチオマーを含有する、炎症性疼痛による痛覚過敏の痛み、又は術後疼痛による痛覚過敏若しくは接触異痛の痛みの処置における鎮痛剤。」
第4 当事者の主張及び提出した証拠方法
1 請求人側の主張及び提出した証拠方法
(1)請求人の主張及び提出した証拠方法
請求人は、「特許第3693258号発明の特許請求の範囲の請求項1~4に記載された発明についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする」との審決を求め、以下の無効理由1、2により無効とされるべきであると主張し、証拠方法として、甲第1~23号証を提出している。
無効理由1(実施可能要件違反)
発明の詳細な説明は、本件発明1~4を、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載していないから、本件特許は、平成14年法律第24号による改正前の特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。よって、本件特許は、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきものである。
無効理由2(サポート要件違反)
本件発明1~4は、発明の詳細な説明に記載したものでなく、出願時の技術常識に照らしても、請求項に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえないから、本件特許は、平成14年法律第24号による改正前の特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。よって、本件特許は、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきものである。
(証拠方法)
甲第1号証:特許第3693258号公報(本件特許公報)
甲第2号証:Harold Merskeyら編、「CLASSIFICATION OF CHRONIC PAIN」(Second Edition)、IASP PRESS、1994年発行、p. 208-213
甲第3号証:後藤稠ら編、「最新医学大辞典」(第2版)、医歯薬出版、1997年7月20日(2版2刷)発行、p. 231, 311, 645, 766, 825, 1569、なお、2版1刷は1996年3月31日発行
甲第4号証:内野治人編著、「病態生理よりみた内科学」(第3版)、金芳堂、1996年8月1日発行、p. 651-660
甲第5号証:坪川孝志ら編、「最新脳神経外科学」、朝倉書店、1996年5月25日発行、p. 197-203
甲第6号証:David Borsookら編、「The Massachusetts General Hospital Handbook of Pain Management」、Little, Brown and Company、1996年発行、p. 32-34, 219-235
甲第7号証:矢田賢三ら編、「標準脳神経外科学」(第7版)、医学書院、1996年3月15日発行、p. 348-352
甲第8号証:柏崎禎夫編、「運動器の痛み―診かた・治しかた―」、医薬ジャーナル社、1995年10月10日発行、p. 136-137
甲第9号証:水野美邦編、「神経内科 Quick Reference」(第2版)、文光堂、1995年12月25日発行、p. 195-200
甲第10号証:Pain, Vol. 50, p. 355-363, 1992
甲第11号証:十時忠秀ら編、「ペインクリニック療法の実際―痛みをもつ患者への集学的アプローチ―」、南江堂、1996年8月1日発行、p. 15-26
甲第12号証:Steven D. Waldmanら編、「Interventional Pain Management」、W.B. Saunders Company、1996年発行、p. 19-32
甲第13号証:金澤康徳ら監訳、「ジョスリン糖尿病学」、医学書院MYW、1995年10月1日発行、p. 783-784
甲第14号証:高久史麿監修、「図説病態内科講座第18巻 症状・症候-1」、メジカルビュー社、1996年4月10日発行、p. 244-246
甲第15号証:宮崎東洋著、「ペインクリニック入門―ペインクリニシャンを目指して―」、真興交易医書出版部、1996年7月20日発行、p. 59-61, 148-151
甲第16号証:福田英臣ら編、「続医薬品の開発第2巻 病態動物モデル」、廣川書店、1993年8月15日発行、p. 129-133
(以上、審判請求書に添付。)
甲第17号証:山本享ら編、「痛みの臨床」、メヂカルフレンド社、1981年7月31日発行、p. 218-225
甲第18号証:Brain Nursing, Vol. 10, No. 10, p. 833-838, 1994
甲第19号証:川原千恵美編著、「脳神経外科看護のポイント220」、メディカ出版、1996年8月15日発行、p. 171-175
甲第20号証:medicina, Vol. 26, No. 13, p. 2580-2581, 1989
甲第21号証:Annals of the Rheumatic Diseases, Vol. 55, No. 8, p. 497-501, August1996
(以上、平成29年10月19日付け口頭審理陳述要領書に添付。)
甲第22号証:齋藤洋ら編、「医薬品の開発 第9巻 医薬品の探索〔I〕」、廣川書店、1990年9月10日発行、p. 106-108
甲第23号証:一般社団法人日本ペインクリニック学会神経障害性疼痛薬物療法ガイドライン改訂版作成ワーキンググループ編、「神経障害性疼痛 薬物療法ガイドライン」(改訂第2版)、真興交易医書出版部、2016年6月30日発行、p. 84-85
(以上、令和1年10月18日付け弁駁書に添付。)
(2)参加人1の主張、及び、提出した証拠方法
参加人1は、平成29年10月26日付け上申書で訂正した平成29年10月19日付け口頭審理陳述要領書により、本件特許に上記無効理由1、2が存在する旨を主張し、証拠方法として、丙第1~6号証を提出し、その後、令和1年10月18日付け弁駁書を提出した。
(証拠方法)
丙第1号証:戸部満壽夫ら編著、「実験医学のめざす 外挿 実験動物からヒトへ 第8章「動物の行動変化からみた向精神薬の作用とヒトへの外挿」」、清至書院、1984年9月20日発行、p. 155-186
丙第2号証:Prog. Neuro-Psychoparmacology & Biol. Psychiat., Vol. 10, p. 677-690, 1986
丙第3号証:社団法人 日本薬理学会編、「実験薬理学 実践行動薬理学」(第1版)、金芳堂、2010年3月1日発行、p. 3-10
丙第4号証:国際公開第2010/070971号
丙第5号証:Pain, Vol. 158, No.1, p. 17-29, 2017
丙第6号証:加藤忠史著、「動物に「うつ」はあるのか「心の病」がなくなる日」、PHP研究所、2012年6月1日発行、p. 42-61, 150-157、奥付
(以上、平成29年10月19日付け口頭審理陳述要領書に添付。)
(3)参加人2の主張、及び、提出した証拠方法
参加人2は、平成29年10月19日付け口頭審理陳述要領書により、本件特許に上記無効理由1、2が存在する旨を主張し、その後、令和1年10月18日付け弁駁書を提出した。
(4)参加人4の主張、及び、提出した証拠方法
参加人4は、令和1年10月18日付け弁駁書により、本件特許に上記無効理由1、2が存在する旨を主張し、証拠方法として、丙四第1~23号証を提出している。
(証拠方法)
丙四第1号証:ステッドマン医学大辞典編集委員会編、ステッドマン医学大辞典 第3版[縮刷版]第3刷、809頁、メジカルビュー社、平成5年(1993年)6月30日発行
丙四第2号証:昭医会誌,56(2), 125-132 花川 一郎、久光 正 平成8年(1996年4月28日(丙四第2号証の1 昭医会誌,56, 2,巻号一覧による)
丙四第3号証:日薬理誌, 127,151-155(2006)
丙四第4号証:日本緩和医療薬学雑誌, 4,53-64(2011)
丙四第5号証:「リリカ」審査報告書 平成22年2月9日 独立行政法人医薬品医療機器総合機構
丙四第6号証:Pain 64 493-501 (1996 Mar.(丙四6の1 Pain 64 (1996) 493-501の書誌情報による))
丙四第7号証:メルクマニュアル第16版 日本語版第1版、1320-1321頁、1356-1369頁、(有)メディカルブックサービス、1995年5月1日第3刷発行
丙四第8号証:甲第2号証のp.212下から7-6行の抄訳
丙四第9号証:甲第6号証のp.220-222, 表13-1,13-1(続き)の抄訳
丙四第10号証:甲第12号証のp.26右欄7-11行,p.26右欄224-32行の抄訳
丙四第11号証:乙第3号証のp.360サマリー1-3行,p.364左欄下から12-9行、p.364右欄14-20行の抄訳
丙四第12号証:乙第5号証のp.305左欄下から5行-右欄9行, p.305右欄の図1の説明の抄訳
丙四第13号証:乙第16号証のp.298右欄13-18行の抄訳
丙四第14号証:乙第17号証のp.169右欄下から20-12行, p.173右欄下から32-20行の抄訳
丙四第15号証:乙第18号証のp.580左欄35-44行, p.588右欄下から23-1行の抄訳
丙四第16号証:乙第20号証のp.16220-33行, p.173 21-27行の抄訳
丙四第17号証:乙第23号証のp.224左欄下から9行-右欄2行の抄訳
丙四第18号証:乙第24号証のp.3665の表題の抄訳
丙四第19号証:乙第25号証のp.45左欄1-11行の抄訳
丙四第20号証:乙第26号証のp.3672左欄下から17-10行の抄訳
丙四第21号証:乙第27号証のp.291右欄下から4行-p.292左欄1行の抄訳
丙四第22号証:乙第28号証の左欄下から21-9行の抄訳
丙四第23号証:乙第38号証のp.1513要約1-5行, p.1514左欄下から36-20行, p.1519右欄下から12-7行の抄訳
(以上、令和1年10月18日付け弁駁書に添付。)
なお、参加人3、5、6、7、8、9、10、11~15は、無効理由について、特段の主張はしていない。また、上記のうち、甲第23号証、丙第4~6号証、丙四第3~5号証は本件特許出願後に頒布された刊行物である。
2 被請求人の主張、及び、提出した証拠方法
被請求人が提出した答弁書によれば、被請求人は、「本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする」との審決を求め、その理由として、本件特許には、上記無効理由は存在しない点を主張し、証拠方法として、乙第1号証~乙第53号証を提出している。
(証拠方法)
乙第1号証:リリカ(プレガバリン)添付文書、2017年2月改訂(第10版)
乙第2号証:宮崎東洋著、「ペインクリニック入門-ペインクリニシャンを目指して-」、真興交易(株)医書出版部、1996年7月20日発行、p.34-37
乙第3号証:Scand J Rheumatol 1995; 24: 360-365
乙第4号証:Neuro Report 6, 2301-2304 (1995)
乙第5号証:Pain 83 (1999) 303-311
乙第6号証:十時忠秀ら編、「ペインクリニック療法の実際-痛みをもつ患者への集学的アプローチ-」、南江堂、1996年8月1日発行、p.292-293,p.313-315
乙第7号証:柏崎禎夫編、「運動器の痛み-診かた・治しかた-」、医薬ジャーナル社、1995年10月10日発行、p.135
(以上、平成29年4月27日付け答弁書に添付。)
乙第8号証:特許第1854491号(特公平5-64123号)
乙第9号証:ティーエスワン(テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム配合)添付文書、2017年7月改訂(第30版)
乙第10号証:特許第1853588号(特公平5-66956号)
乙第11号証:アクトス(ピオグリタゾン塩酸塩)添付文書、2017年6月改訂(第31版)
乙第12号証:日本食品科学工学会誌2007年第54巻539-545頁
乙第13号証:特許第2578475号
乙第14号証:アリセプト(ドネペジル塩酸塩)添付文書、2017年5月改訂(第28版)
乙第15号証:審査ハンドブック付属書B第3章医薬発明 1~4頁、30~37頁
(以上、平成29年11月16日付け口頭審理陳述要領書に添付。)
乙第16号証:Pain 44 (1991) 293-299
乙第17号証:Journal of Neurophysiology 72(1), 169-179 (1994)
乙第18号証:Brain 117(1994) 579-591
乙第19号証:Pain 56 (1994) 51-57
乙第20号証:Pain 4 (1977) 161-174
乙第21号証:Pain 32 (1988) 77-88
乙第22号証:Pain Review Article 51 (1992) 5-17
乙第23号証:Brain Research 518 (1990) 218-226
乙第24号証:The Journal of Neuroscience 12(9), 3665-3670 (1992)
乙第25号証:Neuroscience Letters 208 (1996.04.12) 45-48
乙第26号証:The Journal of Neuroscience 12(9), 3671-3675 (1992)
乙第27号証:Pain 54 (1993) 291-300
乙第28号証:European Journal of Neuroscience 6 (1994) 1328-1334
乙第29号証:Pain 36 (1989) 37-41
乙第30号証:CanadianJournal of Anaesthesia 37(3), 385-392 (1990)
乙第31号証:Pain 54 (1993) 227-230
乙第32号証:Pain 61 (1995) 221-228
乙第33号証:European Journalof Pharmacology 194 (1991) 135-143
乙第34号証:Pain 50 (1992) 345-354
乙第35号証:J. Physiol. 297 (1979) 207-216
乙第36号証:Pain 63 (1995) 163-172
乙第37号証:Orthopaedic Nursing 15(2), 33-36 (March/April,1996)
乙第38号証:British Journal of Pharmacology 121 (1997) 1513-1522
乙第39号証:宮崎東洋著、「ペインクリニック入門―ペインクリニシャンを目指して―」、真興交易(株)医書出版部、1996年7月20日発行、p. 34-49
乙第40号証:「18年度の国内医療用薬市場、2年ぶり前年割れ IQVIAまとめ(日刊)」,日刊薬業,株式会社じぼう,2019年5月22日
http://japanweb.pfizer.com/nikkan/print.cgi?file=/nikkan/article/cut/20190522/7.html
(以上、令和1年7月1日付け上申書に添付。)
乙第41号証:齊藤洋ら編、「医薬品の開発9巻 医薬品の探索〔I〕、廣川書店、平成2年9月10日発行、p. 99
乙第42号証:Medical Hypotheses 44 (1995) 369-378
乙第43号証:花岡一雄編、「術後痛―改訂第2版―」、克誠堂出版株式会社、2006年11月1日発行、p. 115-116,128,225-236
乙第44号証:DECLARATION OF DR. MARTIN KOLTZENBURG 2020年2月10日作成
乙第45号証:DECLARATION OF PROFESSOR DANIEL J. CLAUW 2020年2月10日作成
乙第46号証:DECLARATION OF DR. Anthony Dickenson 2020年2月10日作成
乙第47号証:Brain Research 715 (1996.04.09) 61-62
乙第48号証:「帯状疱疹(慶応技術大学病院医療。健康情報サイト)」、慶応技術大学病院
http://kompas.hosp.keio.ac.jp/contents/000331.html
乙第49号証:明治国際医療大学誌、12 (2015) 11-21
乙第50号証:J. Physiol. 448(1992) 448, 766-780
乙第51号証:厚生労働行政推進調査事業費補助金慢性の痛み政策研究事業「慢性の痛み診療・教育の基盤となるシステム構築に関する研究」研究班監修、「慢性疼痛治療ガイドライン」、p. 3-4, 32-33, 55-56、真興交易(株)医書出版部、2018年3月26日発行
乙第52号証:「メルクマニュアル第16版 日本語版第1版」、p. 5-6、(有)メディカルブックサービス、1996年3月10日
乙第53号証:一般社団法人 日本ペインクリニック学会 神経障害性疼痛薬物療法ガイドライン改訂版作成ワーキンググループ編、「神経障害性疼痛薬物療法ガイドライン改訂第2版」、p. 52、2016年6月30日 第2版第1刷発行
(以上、令和2年2月13日付け答弁書に添付。)
なお、上記のうち、乙第5、9、11,12,14、38、40、43、48、49、51、53号証は本件特許出願後に頒布された刊行物である。
第5 証拠の記載事項
1 甲号証の記載事項
甲第2号証ないし甲第9号証、甲第11号証ないし甲第15号証、甲第18号証、甲第19号証には、以下の記載がある。なお、原文が外国語で記載されているものについては、邦訳を示す。
甲第2号証
(摘示事項2A)
210頁7行目~8行目
痛み 実際の組織損傷や潜在的な組織損傷に伴う、あるいはそのような損傷 の際の言葉として表現される、不快な感覚かつ感情体験。
(摘示事項2B)
210頁下から23行~213頁4行
異痛症 通常痛みを引き起こさない刺激による痛み。・・・
・・・
痛覚過敏 通常痛みをもたらす刺激に対する増加した反応。
注記:痛覚過敏は、閾値を超えた刺激に対する増加した痛みを反 映する。・・・痛覚過敏という用語は、より適切には、通常の閾 値又は例えば神経障害を患う患者における増加した閾値で、増加 した応答を有する症例に対して用いられる。
知覚過敏 特殊感覚を除く、刺激に対する増加した感受性。・・・知覚過敏 は、異痛症と痛覚過敏の両者を含む。・・・
・・・
神経障害性疼痛 原発性/一次性損傷又は機能異常により開始又は引き起こ された痛み。・・・
神経障害 神経の機能障害又は病理学的変化:一つの神経におけるものは、 単一神経障害;いくつかの神経におけるものは、複数神経障害; びまん性及び両性の場合は、多発性神経障害。・・・
・・・
甲第3号証
(摘示事項3A)
231頁左欄下から2行~中欄14行
カウザルギー causalgia 《灼熱痛,疼痛性熱感;burning pain,thermalgia》主として外傷性の末梢神経の損傷後にみられる,自律神経症状を伴った灼熱性の疼痛を訴える疾患である.損傷を受けた神経の支配領域を中心に焼けつくような痛みと同部の血管拡張または血管収縮を示し,発汗過多や減少を呈することもある.また同部の皮膚は痛覚過敏や鈍麻などの知覚異常もみられる.原因としては,損傷部位において遠心性の交感神経線維と求心性の知覚線維の間に“artifitial Synaps”が形成され,血管運動神経と知覚神経が正のフィードバックをもつためと考えられている.治療は交感神経節切除または交感神経節のブロックが有効である.
(摘示事項3B)
645頁左欄下から4行~中欄6行
三叉神経痛 trigeminalneuralgia《顔面痛,疼痛〔性〕チック,フォザーギル神経痛;prosopalgia,Ftic douloureux,Fothergill* neuralgia》 John F. (1712- 1780,医師,英).顔面に激痛を起こす神経痛。特発性(真性)のものと症候性のものがある.特発性三叉神経痛は,神経痛の代表であり,発作的な激痛が数~数十秒続き,緩解時は無症状である.痛みの性質は電気が走るような激痛である.
(摘示事項3C)
766頁中欄下から14行~下から2行
術後疼痛 postoperative pain 切開創の痛み,あるいは内臓痛や術中体位の影響による関節・筋・腰痛などが総合されてその原因となる.術後1~2日まで特に痛みが激しいが,抜糸まで続くものである.術後疼痛は,創部の乏血により治癒を遅らせ,痛みによる呼吸の抑制で肺合併症をきたしやすい.治療は,一般に麻薬性鎮痛薬,ペンタゾシンやブプレノルフィンなど非麻薬性鎮痛薬,解熱性鎮痛薬が投与される.トランキライザーの併用も有効である.硬膜外ブロックや硬膜外モルヒネ投与は極めて有効な疼痛処置である.
(摘示事項3D)
825頁中欄17行~25行
心因性疼痛 psychogenic pain 精密検査を行っても,原因となるような器質的病変ないし病態生理的機序が見出されないにもかかわらず訴えられる疼痛,またある程度関連する器質的病変が存在する場合でも,その身体的所見から期待されるものを上回る強さで訴えられる疼痛などで,背景に心理的要因が関与していると考えられるものをいう.
(摘示事項3E)
1569頁右欄17行~20行
ヘルペス後神経痛 postherpetic neuralgia 帯状疱疹を起こす水痘・帯状疱疹ウイルスが脊髄後根神経節やそれに対応する神経節を侵し,疱疹が治癒した後も数ヵ月また何年にもわたって起こる疼痛.好発部位は三叉神経第1枝の領域で,そのほか肋間神経にも起こる.疼痛は痒いような,刺すような,焼けつくようななどと表現される。比較的年齢の高い人に多く,種々の治療も奏功しないことが多い.
甲第4号証
(摘示事項4A)
652頁2行~5行
このような病的な痛みは,しばしば慢性疼痛となる.これらの慢性疼痛は極めて多彩な特徴を持ち,その基礎となる病態生理に著しい差異があることを示す。これらを大別すると,侵害受容性(nociceptive),神経障害性(neuropathic),心因性(psycogenic)の3つの異なった疼痛機序が考えられる(図6-27).
(摘示事項4B)
653頁右欄10行~13行
第3の機序による疼痛は心因性のもので,特発性疼痛ともよばれる。この痛みは,器質性病変を伴うものと伴わないものとがある.この種の痛みを特徴付けるのは困難で,診断には器質的要因と心理的要因とがどの程度疼痛経験に寄与しているかを識別する必要があり,問題はしばしば複雑となる.
甲第5号証
(摘示事項5A)
199頁右欄1行~200頁右欄13行
b.病的痛みの発症機序
病的な痛みを発症機序よりみると,炎症や組織損傷による痛覚レセプターを異常に刺激することにより,痛覚求心系を激しく興奮させる侵害受容性疼痛(nociceptive pain),神経痛などに認められる痛覚求心系,特に末梢神経での圧迫や絞扼によって発生する神経性疼痛(neurogenic pain)がある.さらにそのほかに痛覚求心系が末梢神経で遮断された後に発生する末梢神経除神経性疼痛(peripheral deafferentation pain)と痛覚求心系が中枢神経内で遮断される中枢神経除神経性疼痛(central deafferentation pain)に分類される.
(1)侵害受容性疼痛
組織損傷による機械的な侵害レセプターへの過剰刺激や炎症による内因性発痛物質や発痛増強物質がレセプターを刺激することにより発生する痛みが侵害受容性疼痛である.この侵害レセプターの過剰な興奮が,痛覚求心系を興奮させて,情動反応を伴う痛みとなる.したがって,刺激となる組織障害に対処し,抗炎症療法を施行し,それらが効果をみる前には,モルフィンなどの鎮痛薬で対処することが可能である.
(2)神経性疼痛
神経性疼痛は,末梢神経に対する圧迫や絞扼によって発生するもので,脱髄や虚血のために異常知覚が発生したり,細系線維と太系線維との間でエファプス伝達(ephatictransmission)が発生したり,細径線維に過剰興奮を惹起させたりして,脊髄後角へ有害刺激の信号を大量に送り込み,脊髄視床路を介して,激しい痛みとして認識されるわけである.
その代表的な疾患は特発性三叉神経痛(ticdouloureux),椎間板ヘルニアによる疼痛などがあげられる.三叉神経や脊髄後根が中枢神経系へ入る部分では,髄鞘がミエリン鞘から,グリア細胞性の鞘に移行する部分にあたり,この部分での絞扼や圧迫は簡単に脱髄に陥り,線維間の短絡伝達(ephaticconduction)を誘発し、触刺激などの非侵害性刺激によっても,Aδ・C線維が興奮し,中枢神経内での生理的痛覚系を異常興奮させて,激しい痛みとして感じられることになる.
(3)除神経性疼痛
末梢神経から大脳皮質知覚野までの新脊髄視床路―視床皮質路が病変や障害によって遮断されると,その遮断された神経経路に一致する末梢部での痛覚障害が発生する.遮断発生後一定の期間を経ると,その痛覚障害部を中心に激しい痛みが発生する.それを除神経性疼痛といい,その遮断部が末梢神経にあるとき,末梢性除神経性疼痛といい,中枢神経内で遮断されている場合,中枢性除神経性疼痛という.・・・
除神経性疼痛では生理的痛覚求心路が遮断されたのち,数か月,年余の経過を経て,痛覚障害が発生している部位を中心に激しい自発痛を訴え,非侵害性刺激である軽い触刺激を加えるとその自発痛が誘発され,激化するもので,モルフィン系薬物にはまったく反応しない特徴がある.この疼痛の発生機序に関して,視床痛を中心に、丸付き数字1 障害された視床後腹外・内側核の細胞,線維の2次的な病変に求める説,丸付き数字2 主痛覚路が障害されることで,側副性の痛覚路が興奮するとする説,丸付き数字3 大脳皮質からの抑制系が障害されるとする説に大別されるが(表5.26),今日なお実証されていない点が多い.
(摘示事項5B)
201左欄2行~12行
a)末梢性除神経性疼痛
末梢神経傷害後の変性・再生の過程で,・・・,脊髄後角内の第1層,第4・5層での後角ニューロンが激しい過興奮に陥り,この第5層の過興奮は除神経性疼痛の発生源となっている.この過興奮が痛覚抑制系の入力を凌駕し,加えて脊髄視床路を過剰に活動させ,大脳知覚領に投射されて頑痛として認知されることになる.
(摘示事項5C)
201頁左欄13行~202頁右欄13行
b)中枢性除神経性疼痛
・・・,障害部位を含め,脊髄視床路-視床皮質路で障害部位より上位のシナプスで,激しい過興奮状態にあるニューロンを認める.・・・.最近,過興奮の認められる痛覚求心路では,興奮性アミノ酸を伝達物質とするNMDAレセプターが著しく増加し(図5.46),その拮抗薬であるMK-801の投与で,過興奮を60%以上,用量依存的に抑制できることが判明した.・・・.これらの事実より,痛覚求心路が障害されるとその障害部で,変性,グリアの増生,ついで障害神経細胞よりの発芽,シナプスの形成,NMDAレセプターを有する新しいシナプスの増加など,不適応な神経可塑性が発現し,そのために,障害部位での過放電とそれより上位の痛覚求心系を異常興奮させて除神経性疼痛を発生せしめるものと考えられる.
(摘示事項5D)
202頁右欄15行~203頁左欄24行
まとめ 感覚としての痛みは,自由終末のレセプターにより,Aδ・C繊維を経て,後角第1層,第4・5層の新脊髄視床路ニューロンにシナプス結合し,対側の脊髄前側索を上行し,視床路腹側核に終わり,次に視床-皮質路にシナプス結合して,大脳知覚領に終わる痛覚求心系を中心に認知される.・・・.
病的痛みは,過剰刺激性疼痛・・・と,もう一つは除神経性疼痛として,痛覚求心路が障害遮断され,・・・,障害部より上部での痛覚求心系を異常に興奮させて痛みを発生するものとがある.
(摘示事項5E)
203頁左欄下から4行~最終行
生理的な感覚としての痛覚系が,病的疼痛の発生にどのように関与して,病的疼痛を発生させるかを知らなくては,病的疼痛のみを除去する治療計画を立てることは困難であるといえよう。
甲第6号証
(摘示事項6A)
32頁下から7行~34頁22行
痛みのタイプ(定義)
侵害受容性―侵害受容器の活性化によって発生する痛み。侵害受容器は、中枢神経系を除くすべての組織に存在する。痛みは、皮膚や内臓の求心性神経線維の化学的、熱的又は機械的な活性化の程度と臨床的に比例し、急性又は慢性である(体性痛、癌性疼痛、術後疼痛)。
神経障害性―末梢又は中枢の痛みの経路に対する損傷に起因する痛み。進行中の疾病がなくても痛みが持続する(例えば、糖尿病性神経障害)。
カウザルギー、反射交感神経ジストロフィー、又は交感神経依存性疼痛―末梢神経損傷に起因し、アロディニア、痛覚過敏、灼熱感及び血管運動性変化、そして発汗を含む交感神経系の機能亢進の証拠をしばしば伴う。
求心路遮断性―中枢神経系の痛みの経路(末梢又は中枢の)に対する求心性入力が喪失する結果生じる慢性疼痛(例えば、神経捻除や脊髄損傷)。
神経痛―神経分布における神経障害や刺激に伴う電撃痛(例えば、三叉神経痛)。
神経根障害―神経根の圧迫や分断により生じる痛み(例えば、椎間板疾患)。
中枢性―通常、脊髄視床皮質経路を含む中枢神経系での障害により生じる痛み(例えば、視床梗塞)。
心因性―神経系の解剖学的分布と一致しない痛み。しばしば、十分な検索を行っても、痛みを説明する器質的障害を認めない。
(摘示事項6B)
219頁1行~7行
神経障害性疼痛は、数多くの病因、提案されている病態生理、そして臨床症状を伴う、最も治療困難で複雑な疼痛症候群の1つである。それは、形態の変化を伴うことなく日常生活に支障を生じる可能性があり、患者と医師の双方に我慢と忍耐を要求する。神経障害性疼痛とは、疼痛伝達系の一部に対する、末梢又は中枢、あるいはこの両者の神経損傷により生じる症状である。
(摘示事項6C)
219頁下から18行~225頁15行
神経障害性疼痛の生物学的基礎
なぜ切断されたり引き抜かれた知覚神経が疼痛を生むのか? 何がわずかな侵害刺激に対する大きな疼痛反応を引き起こし、あるいは中枢の脊髄疼痛伝達路に対する外科的処置が患者に無痛を生じ得ない理由は何か? これらや他の当惑させる臨床観察は、疼痛に携わる開業医にとって大きな問題となっている。過去数年の間に神経障害性疼痛の動物モデルが開発され、本症候群に対する神経生理学的理解の進歩が治療方針の改善に役立っている。これらのモデルは一般に、侵害受容、修飾、あるいは伝達の異常徴候を示す。
エファプスによる混線
痛覚伝達に関するエファプスモデルは、動物を用いて詳細に研究されており、遠心性線維と求心性線維の人工的な結合と表現される。この現象は神経腫で存在する場合があり、交感神経依存性疼痛の病態に関与している可能性がある。表13-1参照。
受容体数又はアドレナリン受容体の変化
疼痛の発生や交感神経依存性疼痛に関連していると考えられている別のモデルは、受容体数の変化である。受傷後、再生している侵害受容器では、遠心性交感神経から放出されるノルアドレナリンに対する感受性が増加している。この増加した感受性は、損傷された末梢求心性線維におけるアドレナリン受容体のアップレギュレーションのためであろう。他の例としては、神経障害性疼痛のモデルの後角でのオピオイド受容体数の変化があり、慢性の神経障害性疼痛で見られる、オピオイドに対する相対的な不応性の説明となり得る。
神経接続の変化
神経の可塑性という概念が、末梢神経損傷が中枢の疼痛伝達にどう関係するかを理解する助けとなる。このモデルでは、侵害受容求心性線維の慢性的な活性化や求心路遮断、あるいは、侵害受容一次求心性線維がさまざまな程度の求心路遮断を受けている同側伝導路のような別の求心性線維源によって、中枢の疼痛伝達神経細胞が活性化される。
最近の証拠は、神経損傷後、脊髄後角において新たな神経接続が生じることを明らかにした。通常の状態では、皮膚を軽く触っても痛くない(Aβ線維の正常な活性化)。神経損傷後では、第1層と第2層に側副路を送る新しい接続がAβ線維(通常では、第IV層でシナプスを形成する)により形成される。これらの新しい神経接続の結果、軽い触覚が、通常なら疼痛伝達に関与している二次ニューロンと接続することになる。
神経線維のタイプの喪失
有痛性神経障害の機序に対する別の仮説として、神経線維のタイプの喪失が考えられている。
異所性インパルス
侵害受容情報を伝達する末梢線維は、通常の状態では不活性であり、疼痛刺激によってのみ活性化する。しかし、末梢神経損傷により異常な電気的活動が生じる。このような神経興奮は、求心性侵害受容入力の持続的又は変化する活動による、定常的及び間欠的な激しい疼痛の臨床症状を生じ得る。異常活動は、中枢性疼痛症候群の患者においても示されている。例えば、中枢性(及び末梢性)疼痛症候群の患者の視床では異常な電気的活動が生じている。
交感神経-求心性線維結合
通常の状態では、交感神経系は一次求心性ニューロンに対して何ら影響を及ぼさない。しかし、神経損傷後、交感神経系は、主としてノルアドレナリン作動性の機構を介して、求心性ニューロンに影響を与える。損傷部位やその末梢側、又は後根神経節(DRG)において、交感神経ニューロンと一次求心性ニューロンが結合する可能性がある。神経損傷後の末梢において、これらの系の結合が示されている。交感神経系の刺激は、α1受容体を介して一次求心性ニューロンを活性化させる。さらに、末梢知覚神経の受傷後、DRGのニューロンの周りでノルアドレナリン作動性神経終末が増加する。このDRGにおけるノルアドレナリン作動性軸索の発芽は、損傷を受けた投射ニューロンの周囲に生じる。また、対側のDRGにおいても新しいノルアドレナリン作動性の発芽が生じ、これは、交感神経依存性疼痛(SMP)が時間とともに増悪して、この疾患のための外科手術(交感神経切除術)が成功しない理由の1つの説明になり得るかも知れない。
(摘示事項6D)
227頁下から5行~228頁9行
病態生理
糖尿病性神経障害の病態生理は、主として細い神経線維の軸索変成と分節的な脱髄である。神経線維の分布が径の太い方向に変化するこのパターンは、アミロイド神経障害やFabry病でも見られる特徴である。他の有痛性神経障害では、障害される神経線維の分布が異なっており、神経線維の選択的な喪失が疼痛を生じる唯一の理由と考えるのは合理的でない。むしろ、軸索変性や、太い有髄線維と細い脱髄線維における自発発射、高血糖、そしておそらく微小循環障害や虚血の組み合わせが、この疼痛症候群に関与している。
(摘示事項6E)
228頁25行~27行
アセトアミノフェンや非ステロイド性抗炎症薬など、軽度の体性痛に用いられる標準的鎮痛薬は、糖尿病性神経障害に対してほとんど治療効果がない。
(摘示事項6F)
230頁29行~40行
患者のほぼ全てに幻肢感が生じるが、幻肢痛は切断者の約30~90%に生じる。通常、締め付けられるような、あるいは押しつぶされるような痛みと表現されることが多いが、電撃様の痛みと表現されることもあり、喪失肢に感じられる。強さは、軽度から忍耐の限界を超えるまでさまざまである。切断から1年後、患者の40%で幻肢痛がなくなる。末梢の求心路遮断が、究極的には脊髄やより高位の中枢神経系中枢(例えば、視床)の自発的発火を促進することが重要な要因のようであるが、病態生理学は複雑で十分には解明されていない。
(摘示事項6G)
232頁11行~20行
帯状疱疹後神経痛
帯状疱疹後神経痛の定義はさまざまである。多くの場合、急性帯状疱疹に伴う知覚過敏や痛覚過敏が、病変が治癒した後でも数週間持続するため、我々は、急性帯状疱疹の病変が完全に治癒した後1ヵ月以上疼痛が持続するものを帯状疱疹後神経痛と考えている。
帯状疱疹後神経痛での痛みは、脊髄後角での求心路遮断及び過敏性の結果であると考えられている。
(摘示事項6H)
233頁1行~19行
後角に対する損傷
腕神経叢の引き抜き損傷
腕神経叢に対する引き抜き損傷は、患者の約80%がオートバイ事故に起因しているため、『オートバイ疼痛症候群』といえるかもしれない。その病態生理は、求心性線維の機械的引き抜きという、後根進入部における求心路遮断損傷である。これは、通常、上腕が外転位で過伸展されて生じる。引き抜き損傷は、通常、ミエログラフィー又はMRIにより診断される。
腕神経叢引き抜き損傷では、強度の灼熱感、重圧感あるいは発作性の刺すような痛みが、単独又は混在して存在する。引き抜きの場合、大部分の患者に疼痛がある。高齢者ほど疼痛は強い。また、多くの患者は、通常麻痺した弱い腕となる。疼痛は、損傷レベルでの後角における、求心路遮断された細胞の異常かつ自発性の発火のためと考えられている。疼痛伝達路のより高いレベルにも異常発火が二次的に伝播することがある。
(摘示事項6I)
233頁下から8行~下から6行
脊髄損傷患者では幻肢痛が多く生じ、肢切断の患者よりも治療が困難である。
甲第7号証
(摘示事項7A)
351頁右欄3行~10行
カウザルギー(causalgia,灼熱痛):正中神経,坐骨神経の中枢側,腕神経叢の下神経幹が不完全損傷を受けたときに起こる。疼痛は,障害神経支配領域の灼熱感を伴う発作性のもので,交感神経節後線維と,感覚神経線維の電気的短絡が原因と考えられている。疼痛は,受傷後数週以内に始まる。精神的興奮や,驚愕で誘発され,睡眠中は軽減する。ふつう,数か月で自然緩解する。
甲第8号証
(摘示事項8A)
136頁下から13行~下から4行
IV.幻肢痛
これは一般には特別な疼痛として扱われるが,運動器の心因性疼痛に入れられるもので,心因性という面から見れば最も純粋なものである。診断は切断されて目に見えない四肢が痛むので,特別な診断法を要しない。
人は,吐き気,痛みはその人の訴えによってあることを確認する。幻肢は感覚的に存在する(絵まで描ける)が,見ることもさわることもできない。ここに感覚の中で,ある,ない,の混乱が生じ,疼痛のもととなるばかりでなく,治療が困難になると考えている。この治療は幻肢を消す努力は無駄のように思われ,幻肢をはっきりして,それから治療に入るのがよいようであり,筆者らは幻肢を自由に動かせるようにする方法(自動訓練法)を考案したが他にも色々な方法があるので文献を挙げておく。ただまだ完成されたものはない。
甲第9号証
(摘示事項9A)
198頁11行~22行
4.三叉神経痛
・・・.従来多くの三叉神経痛の原因は不明といわれてきたが,近年動脈硬化により蛇行した脳底動脈やその枝が三叉神経根を圧迫しているためという説が有力となってきた.治療はcarbamazepine(テグレトール),diphenylhydantoin(アレビアチン),三環性抗うつ薬などの内服薬が有効であり,それでも効果が得られない場合には三叉神経ブロックや三叉神経から硬化した動脈を遊離させる手術が行われる.
(摘示事項9B)
198頁23行~32行
5.帯状疱疹後神経痛 post-herpetic neuralgia
帯状疱疹は後根神経節や脳神経節に潜在的に存在している帯状疱疹ウイルスが活動的になることが原因である.・・・治療として,三環系抗うつ薬や神経ブロックが施行される.
(摘示事項9C)
198頁33行~199頁8行
6.神経根痛 radicular pain
神経根や脊髄内で後角が障害された際にみられるもので,・・・椎間板ヘルニア,変形性脊椎症に対する治療は,まず鎮痛薬投与,安静,牽引などを行い,無効な場合に外科的治療を考える.
(摘示事項9D)
199頁9行~23行
7.視床痛 thalamic pain
痛みの特徴 視床が障害された後,しばらくたってから対側の半身に起こる不快な痛みをいう.視床の梗塞や出血などの血管障害の後に起こることが多いが,腫瘍や術後に起こることもある.痛みは視床の障害直後ではなく,通常,数週から数ヵ月後から起こり始め,その後年余にわたって続く.痛みの内容は,ナイフで切られるような,刺されるような,焼けつくような,締めつけられるような,はぎとられるような,などに表現され,個人差が大きく,同時に不快なしびれ感を伴う.自発的な痛みはあることもないこともあるが,特徴的なことは障害部位に対する外部からの刺激で誘発されることで,時には爆発的な情動反応を伴う.刺激の強さと痛みの程度とは一定の関係がなく,軽く触るといった軽い刺激でも強い痛みが誘発される.
発現機序 視床痛の発現機序としては視床内の神経線維や細胞の閾値が低下し,わずかな刺激で発火するためと考えられている.治療は三環系抗うつ薬やphenothiazineが有効であるが,完全には治りにくい.モルフィンは無効である.
治療 なお,視床以外の中枢神経の病変でも痛みが起こることがあり,中枢性疼痛central painと呼ばれる。脊髄から脳幹,大脳白質,大脳皮質のどの部位の病変でも起こるが,視床痛に比べるとまれである.
(摘示事項9E)
199頁下から9行~下から5行
8.カウザルジア causalgia
痛みの特徴 末梢神経の外傷後にみられる痛みをいう。・・・・・
発現機序 カウザルジアは交感神経ブロックで症状がおさまることから,その発現機序に交感神経が関与していることが考えられており,反射性交感神経性ジストロフィー reflex sympathetic dystrophyとも呼ばれる,末梢神経の不完全な切断端において,感覚線維と交感神経とがシナプスを形成するためという説が有力である.治療は交感神経ブロックを行う。cordotomyやthalamotomyは通常無効である.
(摘示事項9F)
199頁下から4行~200頁7行)
9.心因性疼痛 psychogenic pain
痛みの特徴 中枢神経系に器質的病変がなく,直接末梢からの侵害刺激がないにもかかわらず存在する痛みで,通常慢性疼痛の形をとるものをいう.痛む部位は通常限局性であるが解剖学的な神経支配領域に一致せず,精神的な影響を受けやすい.痛みのほかに心因性と思われる筋力低下,痛覚過敏,自律神経症状を伴うことがある.・・・心因性疼痛の多くは転換ヒステリーであり,その他は心気症,うつ病,分裂病,性格異常の部分症状と考えられている。治療は精神安定薬,抗うつ薬の投与や精神療法が行われるが,一般になかなか治りにくい.
(摘示事項9G)
200頁8行~最終行
10.治療
上述の各項目毎に治療についても簡単に触れたが,以下疼痛の対症療法についてまとめる.
A.末梢において痛みを減らすもの
a.プロスタグランジンなどの化学物質の抑制
アスピリン,インドメサシン,ステロイド剤,その他の非ステロイド性抗炎症薬
b.侵害受容器を活性化する伝達物質に拮抗するもの
セロトニン拮抗薬:ergotsmine,methysergide
βアドレナリン遮断薬,抗ヒスタミン薬
B.侵害刺激の伝達を末梢にて抑制するもの
a.神経ブロック(プロカイン,アルコール,フェノール),b.経皮的電気刺激,c.針治療,d.抗てんかん薬,e.神経切断
C. エンドルフィン受容器を直接刺激するもの
モルフィン,meperidine
D.中枢における痛覚路の遮断
cordotomy,commissural,myelotomy,thalamotomy
E.その他
精神安定薬,抗うつ薬,下垂体破壊,frontallobotomy,cingulotomy
甲第11号証
(摘示事項11A)
15頁2行~下から6行
末梢組織・末梢神経に起因する痛みには次の2種類がある.まず第1は,組織の損傷や炎症により産生される種々の化学的メディエーターによって,皮膚や関節・内臓などに分布している知覚神経終末が刺激されることによって起きるものである(inflammatory pain).この場合には神経自体は傷害されていない.第2に,末梢神経自体の損傷により起こる痛みがある(neuropathic pain).神経外傷や四肢の切断に伴う幻肢痛(phantom pain)や外科手術後の求心路遮断痛(deafferentation pain)などである.neuromaの形成やephapticな伝導に基づく,神経の異常興奮が痛みの原因であると考えられている.幻肢痛の場合には中枢性の機序も関与していると思われる.前者の痛みは,原因となる損傷や炎症が改善すれば自然に治まるので,臨床上それほど問題にはならない.ペインクリニックの治療の対象となるのは,主として後者の痛みであろうと思われる.
外からの刺激による神経興奮のマーカーとして,細胞性癌遺伝子c-fosが最近注目を集めている.痛みなどの感覚刺激により,脊髄後角ニューロンがFos蛋白を発現することが,1987年Huntらにより明らかにされて以来,種々の疼痛刺激による後角でのFos発現が報告されている.
(摘示事項11B)
第16頁6~31行
A 組織の損傷・炎症による痛み
1 痛みの発症機序
まず,第1の痛みの発症機序についてみてみよう(総説3,4)参照)。組織の損傷により組織や血漿中のカリクレインが活性化され,キニノゲンからブラジキニン(BK)が産生される.BKはもっともよく知られた発痛物質である。・・・BKはDAGからのアラキドン酸の生成も増加させる.これらは,炎症の急性期に知覚神経終末の痛覚受容器の興奮を引き起こす.さらに,組織の炎症が長引くと,正常では発現していないB1-レセプターが誘導されてくる。・・・炎症が長引くことによるこのようなBK系のリガンドとレセプターの変化がhyperalgesiaの基盤となっていると考えられる.
BKはまた,他の細胞や交感神経終末からPGE2やPGI2などのプロスタノイドを放出させ,マクロファージからはIL-1やTNF-αなどのサイトカインを放出させる.・・・TNF-αや,IL-1β,IL-6,IL-8などのサイトカインも,プロスタノイドの産生を刺激し,交感神経終末を興奮させることにより,炎症時のhyperalgesiaの形成に関与している.
(摘示事項11C)
18頁9行~14行
末梢組織の損傷や炎症で知覚神経終末が刺激されたとき,まずこれらのニューロンにどのような時間経過でc-fosが発現するのだろうか.ホルマリンをラットの足底に注入したときの痛みの発現は,疼痛回避行動の解析からearly phase(10分以内)とlate phase(刺激後15~45分)の2相性を示すことはよく知られている.前者はホルマリンそのものが痛覚受容器を刺激することによる痛みで,後者は二次的に起こる炎症性の痛みであると考えられており,両者ともに後角でのFos発現に関与している.
(摘示事項11D)
21頁17行~22頁12行
B 末梢神経の損傷に伴う痛み
1 後根神経節における変化とその意義
第2の痛みの原因として末梢神経自体の損傷を挙げたが,この場合には後根神経節(DRG)レベルでも種々の遺伝子発現の変化が観察される(創設参照).・・・組織の損傷・炎症による疼痛の場合には,DRGにおいてSPやCGRPの産生が増加するが,IEGsの発現は報告されていない.axotomyの場合は10時間後よりc-jun陽性のDRG細胞が認められるようになり,1~10日でピークに達し60~70%のDRG細胞が陽性を示す.ガラニン陽性細胞は24時間後より認められ,2~10日後で40~50%のDRG細胞が陽性を示す.・・・末梢神経切断に伴うこのような変化の意義は,神経が切断あるいは障害されるというような異常な事態(extremecondition)において,危機管理の役割を担ったペプチド(VIP,ガラニンなど)が、平常時に働くペプチド(SP,CGRP)にとってかわるということではないだろうか.・・・最近一部の大型細胞においては,末梢神経切断によりSPの産生が増加することを見出した.これらの大型細胞の多くは後索を経て後索核に投射するが,坐骨神経切断時には,後索核においてSPを放出し,そこでのFos発現に関与しているらしい。後索-内側毛帯系は本来触覚や深部知覚の伝導路であるが,神経損傷時のこのような可塑的変化は,異常知覚やアロディニアの原因となっているのではないかと考えられる.
(摘示事項11E)
22頁13行~23頁11行
2 後角における遺伝子発現
・・・。同じchronic painといっても,組織の炎症による痛み(inflammatorypain)と神経損傷による痛み(neuropathic pain)ではFos発現のパターンは異なるようである.
(摘示事項11F)
23頁12行~23行
3 カウザルギーと交感神経系の関与
・・・.正常の知覚神経は,交感神経刺激やノルアドレナリン(NA)に反応しないが,障害された知覚神経は,交感神経刺激や血中のNAに反応して興奮するようになる.そしてその興奮は,α2ブロッカーであるyohimbineにより抑制されることから,α2レセプターを介するものであると思われる.このような実験結果は,カウザルギーの痛みに交感神経系が関与していることを強く示唆するとともに,臨床的に交感神経ブロックが効果を示すこととよく一致する.末梢神経の部分的切除や糸による結紮により,ヒトの末梢神経損傷によるneuropathic painのモデル動物が作製されており,それぞれのモデル動物において交感神経ブロックを行うことによりその症状が軽減することが示されている.
甲第12号証
(摘示事項12A)
26頁左欄5行~右欄35行
侵害受容前臨床動物モデル
・・・
・ホルマリン試験:少量の希釈刺激剤(ホルマリン)が、後肢に皮下注射され、注射された肢の引っ込めの数がカウントされる;応答には急性相(第1期)と促進相(第2相)の2つの相がある(図3-6参照)。
・・・
・脊髄ストリキニーネ:グリシンアンタゴニスト ストリキニーネの少量くも膜下注射は、軽い接触が強い痛み行動を引き起こす状態をもたらす。
・・・
・外科的神経障害のチャングモデル:L5及びL6神経の結紮が、勢いよい後肢引っ込めを引き起こす閾値を評価することにより測定される接触異痛をもたらす。閾値はフォンフライ毛で測定される。
・外科的神経障害のベネットモデル:坐骨神経は4つの結紮で緩やかに圧迫され、動物は、引っ込めの減少された潜伏時間からも明らかなように熱痛覚過敏の状態を起こす。
・外科的神経傷害のシャーモデル:V字形切り込み近位の坐骨神経の半分がきつく結紮される(図3-10参照)。
(摘示事項12B)
第27頁 表3-2
表3-2 侵害プロセシング及び関連動物モデル
[図:0001392413000007.jpg]
(摘示事項12C)
第27頁 表3-3
表3-3 脊髄調節システム:ラットにおけるくも膜下注射の作用
[図:0001392413000008.jpg]
甲第13号証
(摘示事項13A)
783頁右欄下から15行~下から6行
・有痛性糖尿病神経障害のメカニズム
痛みは最も患者を悩まし,管理することが難しい糖尿病神経障害の症状の1つで,・・・糖尿病性神経障害の疼痛に関する病態生理学的な基礎は確立されていない。
(摘示事項13B)
784頁左欄15行~20行
・・・。痛みの有無によって,無髄神経の病理所見の程度や,急性の軸索変性の程度に違いはなかったが,軸索の半径に比べて不均衡なほど大きなシュワン細胞を持った繊維は,全く有痛性の神経障害の患者にのみ認められた。これは,軸索の萎縮が痛みの発生に何らかの役割を果たしている可能性を示唆する。
(摘示事項13C)
784頁左欄28行~30行
・・・AsburyとFieldsは,糖尿病神経障害の疼痛が,細い無髄と有髄の軸索の再生芽によるものではないかと提唱した。
甲第14号証
(摘示事項14A)
246頁左欄下から2行~右欄2行
線維筋痛症は,痛覚中枢の機能的異常により痛みが増幅されて感じられる心因性疼痛であり,性格,不安,ストレス,不眠などが症状の誘発や増幅に関与していると考えられている。
甲第15号証
(摘示事項15A)
61頁10行~17行
b.瀰漫性筋・筋膜性疼痛症候群(diffuse myofascial pai syndrome)
全身のあちこちに3ヶ月以上持続する境界不鮮明な深部痛であり,・・・各種検査においても,炎症性変化や筋肉損傷を疑わせるような所見は皆無であり,病理学的検査より,原発性繊維筋肉痛(primaryfibromyalgia)ともいう。
甲第18号証
(摘示事項18A)
12頁左欄17行~23行
したがって,侵害受容性疼痛は,1)受容器を過剰刺激している原因疾患を治療すれば消褪させることができるし,また,2)「痛み」の抑制系を興奮させるモルフィン系薬物投与にもよく反応し,3)受容器での過剰興奮が原因であるから,それを伝達するAδC線維に対する神経ブロック両法も効果を発揮する.
(摘示事項18B)
12頁右欄13行~17行
したがって,末梢神経性疼痛は,1)この末梢障害を除去する方法と,2)「痛み」の抑制系を興奮させるモルフィン系薬物の投与が効果的であり,3)神経障害部より上位での神経ブロックが治療法となっている.
(摘示事項18C)
13頁右欄5行~10行
また,除神経性疼痛は,受容器や末梢神経活動とは全く関係がないので,消炎鎮痛剤や抑制系を興奮させるモルフィン類の投与さらには神経ブロック法は全く効果がなく,むしろ過剰放電を抑制する作用のある抗痙攣剤,興奮性アミノ酸受容体を抑える抗うつ剤が有効となる.
甲第19号証
(摘示事項19A)
172頁10行~15行
過剰刺激性疼痛は,末梢の侵害性の刺激によって興奮した神経活動が痛み求心系を上行することが原因で,癌の痛み,傷の痛みなどがこれにあたる。一般にモルフィネが有効な疼痛である.
一方,除神経性疼痛は痛みの求心路が障害された結果,損傷部よりも上位に存在する痛覚伝道路での異常興奮が出現することが原因とされ,モルフィネは一般に無効である(図1).
(摘示事項19B)
174頁15行~20行
モルフィンの無効な疼痛,特に除神経性疼痛の治療としては,刺激電極の慢性植え込みによる刺激療法が選択されている.これは,知覚求心路の損傷後に出現する細胞の異常活動を電気刺激によって抑制するのが除痛の発現機序と考えられている.幻肢痛,断端痛には視床中継核の刺激が有効で,かなりの確率で治療効果が期待できる,視床痛には大脳皮質運動領野刺激が選択されているが,無効例も少なくない.
2 乙号証の記載事項
乙第2号証ないし乙第4号証、乙第18号証ないし乙第20号証、乙第22号証ないし乙第28号証、乙第38号証、乙第41号証には、以下の記載がある。なお、原文が外国語で記載されているものについては、邦訳を示す。
乙第2号証
(摘示事項乙2A)
34頁4行~35頁15行
3.痛みの診断に必要な用語
・・・
Allodynia:正常な皮膚に対する非侵害刺激であるにもかかわらず,痛みが生じる現象
・・・
Causalgia:神経損傷後に生じる持続性灼熱痛またはその症候群で,血管運動,発汗運動などの異常を伴い,異栄養症を伴う.
Central pain:中枢神経系の病変に伴う痛みで,病変と反対側に見られる(中枢痛,脳卒中後痛ともいう).
Dysesthesia:自発性に生じる不快な異常感覚,またはそれを感じる状態(感覚異常,知覚不全).
Hyperalgesia:侵害刺激に対する感受性増強(痛覚過敏).
・・・
Hyperpathia:侵害刺激を繰り返したときにみられる痛みの増強や刺激を中止しても持続する痛み,またはその状態(痛覚過敏).
・・・
Neuropathy:単一または複数の神経の機能障害または病理学的変化(神経障害).
・・・
(摘示事項乙2B)
35頁16行~36頁17行
B.ニューロパシックペイン
・・・
神経組織に対する様々な刺激によって起こる痛みを神経原性疼痛(neuropathic pain)と呼び,ニューロパシックペインをその構成要素であると考えるならば,neuropathic painは神経因性疼痛または神経障害(損傷)性疼痛と呼んでもよいのではないかと思われる.ニューロパシックペインは疾病によるものであれ,外傷によるものであれ,神経の障害の結果生じる痛みを意味していることは明確であり,日常診療でその治療に難渋することの多い痛みの代表である.
1.一般的臨床症状
ニューロパシックペインは,いろいろな原因によって神経障害が生じた結果起こる痛みの症候群であり,神経損傷の程度などにより様々な臨床像を呈する.
したがって,示す臨床症状は常にすべてニューロパシックペインに共通するものではないが,アロディニアなどに代表される痛覚,知覚異常など,ある程度共通する特徴的な臨床症状を呈することは間違いのないところである(表3-1).
[図:0001392413000009.jpg]
乙第3号証
(摘示事項乙3A)
360頁左欄1行~8行
線維筋痛症は、慢性的な全身性の筋肉痛、数カ所における圧痛覚過敏(圧痛点)、筋硬直、睡眠障害および疲労からなる。米国リウマチ学会(AmericanCollege of Rheumatology:ACR)から提案されている線維筋痛症(FM)の分類基準は、FMを、痛覚過敏を伴う慢性疼痛症候群と定義している。
(摘示事項乙3B)
364頁左欄14~26行
痛覚過敏は、侵害受容器が組織損傷のある領域内で感作されることを意味する一次痛覚過敏であってもよく、組織損傷のない領域から惹起されることを意味する二次痛覚過敏であってもよい。
Torebjork等は、マイクロ神経記録法(microneurography)の技術を用いて、実験的に誘導した皮膚の熱に対する一次痛覚過敏が、一次侵害受容ニューロンの感作によるものであることを示した。彼らはまた、動的接触に対する二次痛覚過敏が、脊髄の後角にある侵害受容ニューロンの興奮性の増加を反映する中枢性感作によるものであることを示した。
乙第4号証
(摘示事項乙4A)
2301頁左欄Introduction1行~11行
ホルマリン試験は、動物における侵害刺激のモデルとして使用されてきている。ホルマリンの皮下注射は、ラット、猫、マウス及び霊長類で観察される二相性の侵害応答を引き起こす。早期の激しい応答は、初めの5分内に起こる。応答はその後10~15分間弱まり、注射から20~60分後にかけて遅い穏やかな応答がみられる。early phaseとlate phaseにおける侵害受容と脊髄の処理の機序は異なると考えられる。
(摘示事項乙4B)
2302頁右欄7行~13行
ホルマリンの皮下注射は、行動性の応答と脊髄後角における神経細胞の発火とによって特徴づけられる二相性の侵害応答を引き起こす。酢酸、カラゲニンやセロトニンなどの他の侵害剤の注射によって誘導される応答は二相性ではないから、この応答はホルマリンに特有のものであるようだ。
(摘示事項乙4C)
2302頁右欄30行~2303頁左欄4行
更に、タンパク質キナーゼCの阻害がlate phaseの応答を減少させるが、early phaseの応答は減少させないことが証明されていることから、痛覚過敏の主要な機序がlate phaseの応答の一因でもあるかもしれない。
乙第18号証
(摘示事項乙18A)
579頁 タイトル
侵害受容器によって調節された中枢性感作は急性の化学物質性疼痛及び慢性の神経障害性疼痛において機械的過敏症を引き起こす。
(摘示事項乙18B)
579頁 概要 1行~4行
ブラシ誘発性の痛み(機械的接触異痛、動的機械的痛覚過敏)は、神経障害性及び炎症性の疼痛状態の顕著な特徴である。ここで、我々は、機械的痛覚過敏の構成要素を誘導し維持する神経機構を調べた。
(摘示事項乙18C)
第580頁左欄21行~24行
ブラシ誘発性の痛みは、中枢性感作の結果として最もうまく説明される一方、一次求心性神経の異常な興奮性が神経障害性疼痛の状態に関与していることも明らかである。
(摘示事項乙18D)
第580頁左欄35行~44行
神経痛において接触により誘発される疼痛の症状は、実験的な障害を起こした後、特に、カプサイシンのような侵害受容器特異的な化学的刺激物を投与した後の正常な個体の皮膚において発現する、なでる刺激に対する機械的痛覚過敏と共通した多くの特徴があることが認められている・・・。これは、慢性神経痛におけるブラシ誘発性の疼痛と、急性の実験的疼痛とにおける神経メカニズムが全く同じはないとしても、極めて似ていることを示しうる。
乙第19号証
(摘示事項乙19A)
56頁左欄26~35行
動物の神経障害性疼痛モデルにおいて示唆されるように、痛覚過敏はNMDA受容体によって介在される「ワインドアップ現象」の現れである可能性がある(Yamamoto and Yaksh 1992)。この点で神経障害性疼痛症候群における痛覚過敏は、ホルマリン誘発性の痛みの第2相(Haley et al. 1990)及び虚血中の痛覚過敏(Sher and Mitchell 1990)に類似する。これらは全て、NMDA受容体介在性の中枢性促進による脊髄でのワインドアップ現象によって生じると思われる。
乙第20号証
(摘示事項乙20A)
173頁 1行~32行
ホルマリン試験には、他の鎮痛試験と同様に、いくつかの欠点がある。主な困難は、痛みを引き起こす刺激が組織を損傷することである。・・・ラットでは、腫れは数週間続き小さな水疱ができる。・・・ラットに適用される試験のもう一つの特徴は、注射後最初の30分で観察される変動である。疼痛評価曲線の低下の理由は不明である。おそらく2種類の痛みが生ずる:感覚受容体に対するホルマリンの直接的な作用によって引き起こされる短期の痛みと、それに続く炎症によるより長期の持続的な痛み。・・・痛みの閾値の測定は含まれないが、比較的長期間持続する痛み刺激に対する行動反応を定量化する。したがって、この試験は、実際の病気の状態で見られる痛みに似ている。
乙第21号証
(摘示事項乙21A)
77頁 サマリー 1~7行
拘束されていない動物における熱刺激に対する皮膚痛覚過敏を測定する方法が記載されている。・・・カラゲニンに誘発された炎症は、食塩水で処置した足と比較して有意に短い足回避潜時をもたらし、そしてこれらの潜時変化は熱侵害受容閾値の低下に対応した。熱的方法及びRandall-Selittoの機械的方法の両方が、用量関連痛覚過敏及びモルヒネ又はインドメタシンのいずれかによる痛覚過敏の遮断を検出した。
乙第22号証
(摘示事項乙22A)
5頁 サマリー 1行~9行
主にラットとマウスで使用されている侵害受容のホルマリン試験は、障害を受けた組織によって発生する中程度の継続的な痛みを伴う。・・・ホルマリンの応答は初期相と後期相を示す。初期相は末梢刺激によるC-線維活性化によって引き起こされるように思われるが、後期相は末梢組織における炎症反応と脊髄後角の機能的変化の組み合わせに依存するように思われる。これらの機能的変化は、初期相段階のC線維の集中砲火によって開始されるようである。
乙第23号証
(摘示事項乙23A)
218頁 要約
後角深層の多種感覚受容(収束)の侵害受容ニューロンである後肢末梢受容野へのホルマリンの皮下注射は、この細胞の持続的活性化(1時間)のために使用された。この化学的侵害刺激は、発火の最初のピークを生み出し、これら10分間持続して、その後に長く続く活性の第2ピークが発生しこれは50分間観測された。・・・非競合的なNMDA受容体チャネル阻害剤であるケタミンとMK801は発火の第二相中に静脈内投与された。ケタミン(1ー8mg/kg)は、ホルマリンへのニューロン反応に短期間ではあるが顕著で投与量依存的な阻害を生じさせた(n=11)。MK801(0.5-1mg/kg)はこの反応の第二相の間に細胞発火の持続した阻害という結果をもたらした(n=11)。・・・それゆえ、ホルマリンによって生成される求心性集中砲火が比較的に短いタイムスパンでNMDA介在性の中枢性活性を誘発し、この誘発された活性が長期間の痛みの状態における侵害受容とその調節の変化の一つの基礎となっている可能性があると思われる。
(摘示事項乙23B)
218頁 はじめに 左欄1行~右欄1行
急性あるいは短期間に続く状態と比較して、持続したあるいは慢性的な痛みに関連する多くの問題の一つは、長く持続する痛みのある種の形態を緩和する難しさにあり、これは特に、神経損傷に関連する形態についてである。一般的には、これらの問題は傷害による他の結果に加えて、末梢及び中枢神経の過敏によって生じうる。動物についての様々な研究は、末梢の侵害受容線維の感作が発生しうることを明らかに示し、さらに最近では、マイナー入力に対する後角の侵害受容的システムの応答を顕著に促進する、急速に誘発された中枢性過敏についての証拠が蓄積している。このようなメカニズムは、痛みを増幅し、持続する痛みの状態の問題の一因となる可能性がある。
ホルマリンの皮下注射は、短期相の活性を生みだすことが示されてきており、その後、侵害受容の長期相が発生し、これはいくつかの種における行動学的研究によって評価されており、持続した侵害刺激の有用なモデルであると考えられる。
乙第24号証
(摘示事項乙24A)
3665頁右欄1行~16行
我々は以前、損傷に誘発される中枢性感作の行動モデルとして、ホルマリン試験を用いた。希釈されたホルマリンのラット後肢への皮下投与は最初の5分に起きる先の激しい反応、及び、注射後20~60分まで発現する後の中程度の反応を含む二相性の侵害刺激反応を引き起こす。・・・ホルマリン応答の初期相の間に生じた神経作用が中枢神経系の機能の変化(すなわち、中枢性感作)を引き起こし、それが次いで後期相の間の処理に影響すること、をもたらしうることを示唆する。
乙第25号証
(摘示事項乙25A)
45頁 要約 1行~2行
ホルマリン試験は広く用いられる化学物質誘発性の持続性疼痛の行動モデルであるが、一次求心性侵害受容器のホルマリンへの反応についてはあまり知られていない。
(摘示事項乙25B)
45頁左欄12行~21行
ホルマリン誘発性の行動の第一相は・・・、第二相は、第一相の間の一次求心性インプットの初期の集中砲火により後角ニューロンが感作(中枢性感作)した結果か、炎症に誘発された一次求心性侵害受容器の活性化の結果か、またはその両方の組み合わせであるとの仮説が立てられてきた。ホルマリンに対する行動反応の第二相への末梢性侵害受容作用の寄与については、議論のあるところである。
(摘示事項乙25C)
45頁右欄12行~15行
総合すれば、これらのデータは、一次求心性作用が、第二相の侵害受容行動の発現に必要とされること、及び中枢性感作が第二相の単独の根拠ではないことを示唆している。
乙第26号証
(摘示事項乙26A)
3671頁 要約 左欄1行~26行
ラットにおける組織損傷に対する応答である中枢性感作及び持続性侵害受容への細胞内カルシウムの貢献が、後肢へのホルマリンの皮下注射の後に調べられた。・・・この結果は、ホルマリン損傷により誘発された組織損傷後の中枢性感作及び持続性侵害受容は、主にNMDA受容体作動性(比較的程度は低いが電位依存性の)カルシウムチャネルを介したカルシウム流入に依存することを示す。
乙第27号証
(摘示事項乙27A)
291頁 要約 12行~16行
これらの研究は脊髄性NO合成の調節が継続する求心性集中砲火により誘導される求心性活動の促進された処理(ホルマリンの第2相)を減少させ得ることを示す。この痛覚過敏要素は、脊髄のNMDA受容体の活性化によって開始されたようであり、それはNO生成を介して求心性インプットの観察された増強された処理及び続く疼痛行動の関連する痛覚過敏要素に導く。
乙第28号証
(摘示事項乙28A)
1328頁 要約 12行~最終行
L-グルタミン酸又はサブスタンスPを用いて処理されたラットにおけるホルマリン侵害行為の増加(痛覚過敏)は、・・・。この結果は、ホルマリン損傷により誘発された組織損傷後の中枢性感作及び持続性侵害受容、並びにL-グルタミン酸及びサブスタンスPにより引き起こされたホルマリン試験における痛覚過敏は、細胞内メッセンジャーである一酸化窒素、アラキドン酸及びプロテインカイネースCに依存することを示す。
乙第33号証
(摘示軸乙33A)
135頁 はじめに 左欄1~8行
カラゲニン誘発炎症は、・・・非ステロイド抗炎症薬のスクリーニングのために広く使われるようになっている・・・。最近、皮膚の痛覚過敏のモデルとして適合されている・・・。
乙第34号証
(摘示事項乙34A)
345頁 はじめに 左欄1~5行
カラゲニン誘発炎症は、・・・によって最初に説明された、そして、今日、カラゲニンの足底内注入は、片側のみの炎症/痛覚過敏のモデルを作成するために、実験的に広く用いられている。
乙第38号証
(摘示事項乙38A)
1513頁 要約 6-9行
2.ラットホルマリン試験において、S)-(+)-3-イソブチルギャバ(1-100mg Kg-1)及び・・・は、それぞれ10及び・・・mgKg-1の最低効能用量(MED)で、用量依存的に侵害受容応答の後期相を防いだ。
(摘示事項乙38B)
1520頁左欄7-10行
本結果は、3-イソブチルギャバの(S)-(+)-アイソマーが、カラゲニン及びホルマリンによって誘発された痛覚過敏モデルにおいて、ギャバペンチンと同様の対痛覚過敏性を見せることを示している。
乙第41号証
(摘示事項乙41A)
99頁5行~20行
6)持続性の痛み(痛覚過敏)を指標にする法法
動物を用いて持続的な痛みに有効な薬物を検定するためには、動物の局所に起炎剤を適用し、その炎症部位に生ずる自発痛に伴う仮性疼痛反応や、その部位での疼痛閾値の低下(疼痛過敏)を指標として用いる。・・・
起炎剤としてはさまざまな薬物が用いられる。希釈ホルマリンをラットの
足蹠に皮下注射したのちに見られる応答のうち、再現性と定量性に優れる注射部位をなめる反応(リッキング反応)頻度の時間経過は、注射直後の急性反応期と、15分後より再び増加しはじめて1時間程度持続する遅延反応期から成る二峰性を示す。これらはそれぞれ急性痛と持続痛を反映していると考えられており、それぞれの痛みに対する作用を同時に評価する鎮痛効力検定法として用いることができる。・・・アジュバント注射により多発性関節炎を起こした動物での痛覚閾値の低下(痛覚過敏)を指標にする方法などが工夫されている。・・・
第6 無効理由の論旨
請求項3、4に係る本件訂正が認められること、本件発明3、4は、訂正後の特許請求の範囲の請求項3、4に記載された事項により特定されるものであることは、各々、前記第2、第3で説示のとおりである。
ところで、本件発明3、4に対しては、参加人4を除き、請求人及び参加人は、無効理由1、2について特段意見を述べていないので、以下においては、無効審判請求時の無効理由を主張しているものとして検討し、参加人4の主張について後記第7 1(2)エ及び2において別途検討した。
1 無効理由1(実施可能要件違反)について
本件発明1~4に係る無効理由1の論旨は、概略、以下の(1)~(4)のとおりのものである。
(1)本件特許の請求項1~4に係る発明は、
式I
[図:0001392413000010.jpg]
(式中、R1は炭素原子1~6個の直鎖状または分枝状アルキルであり、R2は水素またはメチルであり、R3は水素、メチルまたはカルボキシルである)の化合物またはその医薬的に許容される塩、ジアステレオマー、もしくはエナンチオマー(以下「本件化合物」という。)を含有する、痛みの処置における鎮痛剤、
式IにおいてR3およびR2はいずれも水素であり、R1は-(CH2)0-2-iC4H9である化合物の(R)、(S)、または(R,S)異性体である化合物を含有する、痛みの処置における鎮痛剤、
(S)-3-(アミノメチル)-5-メチルヘキサン酸または3-アミノメチル-5-メチルヘキサン酸である化合物を含有する、痛みの処置における鎮痛剤、
又は、
式Iの化合物を含有する、炎症性疼痛、神経障害による痛み、癌による痛み、術後疼痛、幻想肢痛、火傷痛、痛風の痛み、骨関節炎の痛み、三叉神経痛の痛み、急性ヘルペスおよびヘルペス後の痛み、カウザルギーの痛み、特発性の痛み、または線維筋痛症の痛みの処置における鎮痛剤、のいずれかに係る発明である。
本件特許明細書の発明の詳細な説明には、「本発明は、以下の式Iの化合物の、痛みの処置とくに慢性の疼痛性障害の処置における使用方法である」(2頁14行目~15行目)と記載されているところ、「このような障害にはそれらに限定されるものではないが炎症性疼痛、術後疼痛、転移癌に伴う骨関節炎の痛み、三叉神経痛、急性疱疹性および治療後神経痛、糖尿病性神経障害、カウザルギー、上腕神経叢捻除、後頭部神経痛、反射交感神経ジストロフィー、線維筋痛症、痛風、幻想肢痛、火傷痛ならびに他の形態の神経痛、神経障害および特発性疼痛症候群が包含される」とされている(2頁15行目~19行目)。よって、上記痛みは、本件発明が対象とする痛みに含まれるものである。
一方、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、ラット足蹠ホルマリン試験(図1)とカラゲニン誘発痛覚過敏試験(図2及び図3)という2つの炎症性疼痛モデル、並びに、ラット後肢足蹠面の皮膚、筋膜及び筋肉を切開することによって作成される術後疼痛モデル(図4~図6)についてのみ、本件化合物の一部(具体的には、ラット足蹠ホルマリン試験について、ギャバペンチン、CI-1008、及び3-アミノメチル-5-メチル-ヘキサン酸。カラゲニン誘発痛覚過敏試験について、ギャバペンチン及びCI-1008。術後疼痛モデルについて、ギャバペンチン及びS-(+)-3-イソブチルギャバ。)を投与した場合の実験結果が開示されているにすぎず、その他の種類の痛み、特に神経障害性疼痛及び特発性疼痛の処置における鎮痛剤としての本件化合物の効果を裏付ける薬理試験結果等は記載されていない。
(2)本件特許出願時、以下の技術常識が存在していた。
国際疼痛学会(IASP)によれば、痛み(pain)とは、実際の組織損傷や潜在的な組織損傷に伴う、あるいはそのような損傷の際の言葉として表現される、不快な感覚かつ感情体験)と定義されている(摘示事項2A)。
そして、各種の痛みは、その基礎となる病態生理に著しい差異があり、それに応じて、侵害受容性疼痛、神経障害性疼痛、及び心因性疼痛の3つに大別される(摘示事項4A)。
侵害受容性疼痛には、術後疼痛(切開創の痛み、あるいは内臓痛や術中体位の影響による関節・筋・腰痛などが総合されて原因となるものをいう。摘示事項3C)の他、炎症による疼痛(炎症性疼痛)が該当する(摘示事項5A)。
神経障害性疼痛(neuropathic pain)とは、「疼痛伝達系の一部に対する、末梢又は中枢、あるいはこの両者の神経損傷により生じる症状」である(摘示事項6B)。神経障害性疼痛の分類法はいくつか存在するが、たとえば、求心路遮断性、交感神経依存性、及び末梢性に大別できる(甲第4号証652頁の図6-27)。なお、求心路遮断性の疼痛(求心路遮断痛)は、除神経性疼痛とも呼ばれる(摘示事項5A)。
また、心因性疼痛(psychogenicpain)とは、「精密検査を行っても,原因となるような器質的病変ないし病態生理的機序が見出されないにもかかわらず訴えられる疼痛,またある程度関連する器質的病変が存在する場合でも,その身体的所見から期待されるものを上回る強さで訴えられる疼痛などで,背景に心理的要因が関与していると考えられるもの」であり(摘示事項3D)、また、原因不明の痛みという意味で「特発性疼痛」とも呼ばれる(摘示事項4B)。
そして、神経障害性疼痛のうち、求心路遮断性の疼痛には、上腕神経叢捻除(腕神経叢引き抜き損傷)による痛み、ヘルペス後神経痛(帯状疱疹後神経痛)、幻肢痛、視床痛が、交感神経依存性の疼痛には、カウザルギー(causalgia)と反射交感神経ジストロフィー(reflex sympathetic dystrophy;RSD)が、末梢性の疼痛には、三叉神経痛、線維筋痛症がある。
(3)上記のとおり、本件特許出願時、各種の痛みはその基礎となる病態生理に著しい差異があることが知られていたから、技術常識を参酌しても、一般に、特定の疼痛モデルに対する実験結果から、他の種類の疼痛に対する効果を予測することはできない。
また、本件発明が対象とする、上腕神経叢捻除(腕神経叢引き抜き損傷)、ヘルペス後神経痛(帯状疱疹後神経痛)、幻想肢痛(幻肢痛)、視床痛、カウザルギー及び反射交感神経ジストロフィー、三叉神経痛、糖尿病性神経障害による痛み、原因不明の疼痛である特発性疼痛症候群(特発性疼痛)、及び線維筋痛症による痛みについて個別に見ても、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、本件発明が対象とする、上腕神経叢捻除(腕神経叢引き抜き損傷)、ヘルペス後神経痛(帯状疱疹後神経痛)、幻想肢痛(幻肢痛)、視床痛、カウザルギー及び反射交感神経ジストロフィー、三叉神経痛、糖尿病性神経障害による痛み、原因不明の疼痛である特発性疼痛症候群(特発性疼痛)、及び線維筋痛症による痛みについて、臨床試験はもちろん、当該痛みに関する動物モデルを用いた実験についても、何ら開示していない。また、上記痛みの原因は、不明であるか、本件特許明細書に記載されているラット足蹠ホルマリン試験及びカラゲニン誘発痛覚過敏試験という炎症性疼痛モデルの結果や、ラット後肢足蹠面の皮膚、筋膜及び筋肉を切開することによって作成された術後疼痛モデルの結果から、その痛みに対する効果を確認することができるものではない。
(4)したがって、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載からは、当業者の技術常識を参酌しても、痛みのうち、少なくとも神経障害性疼痛(そこには、少なくとも上腕神経叢捻除による痛み、ヘルペス後の痛み、幻想肢痛、視床痛、カウザルギー、反射交感神経ジストロフィー、三叉神経痛、及び糖尿病性神経障害による痛みが含まれる。)、並びに特発性疼痛(そこには、少なくとも線維筋痛症が含まれる。)について、本件化合物が鎮痛剤としての効果を有することは明らかでない。
よって、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、本件発明1~4を、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものではない。
2 無効理由2(サポート要件違反)について
本件発明1~4に係る無効理由2の論旨は、概略、以下の(1)~(2)のとおりのものである。
(1)本件特許の特許請求の範囲の請求項1~4には、本件化合物又はそのうちの特定の化合物を含有する痛みの処置(請求項4に係る発明に関しては、「炎症性疼痛、神経障害による痛み、癌による痛み、術後疼痛、幻想肢痛、火傷痛、痛風の痛み、骨関節炎の痛み、三叉神経痛の痛み、急性ヘルペスおよびヘルペス後の痛み、カウザルギーの痛み、特発性の痛み、または線維筋痛症」の各痛みの処置)における鎮痛剤の発明が記載されている。
(2)ところが、本件発明に係る明細書の発明の詳細な説明には、いずれも炎症性疼痛モデルであるラット足蹠ホルマリン試験及びカラゲニン誘発痛覚過敏試験、並びに、ラット後肢足蹠面の皮膚、筋膜及び筋肉を切開することによって作成される術後疼痛モデルについてのみ、本件化合物を使用した結果が記載されており、その他の種類の痛み、特に神経障害性疼痛及び特発性疼痛の処置における鎮痛剤としての本件化合物の効果を裏付ける薬理試験結果等は記載されておらず、また、出願時の技術常識を考慮しても、これらの痛みの処置における本件化合物の鎮痛剤としての効果は明らかでない。
したがって、本件発明1~4は、発明の詳細な説明に記載したものでなく、出願時の技術常識に照らしても、請求項に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。
第7 当合議体の判断
当合議体は、本件発明3、4の特許についての無効理由1及び2は理由がない、本件発明1~2の特許は、無効理由1及び2によって無効にすべきものである、と判断する。その理由は、以下のとおりである。
1 無効理由1(実施可能要件違反)について
(1)特許法第36条第4項に規定する要件について
ア 平成14年法律第24号による改正前の特許法第36条第4項の規定によれば、発明の詳細な説明は,通商産業省令で定めるところにより、その発明の属する技術分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に、記載しなければならない、との要件、いわゆる実施可能要件に適合するものでなければならない。そして、該実施可能要件における「実施」には、物の発明の場合、特許法第2条第3項第1号に規定する「その物の使用をする行為」が含まれる。
そうすると、発明の詳細な説明の記載が、物の発明について、実施可能要件を満たすためには、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその物の使用をすることができる程度のものである必要がある。
イ ここで、上記物の発明が、ある物質の未知の属性に基づき当該物質の新たな医薬用途を提供しようとする物の発明(いわゆる医薬用途発明)である場合について検討する。
医薬の技術分野においては、現在でも、物質の名称や化学構造だけからその未知の医薬用途を予測することは困難であり、何らかの薬理試験結果によらなければその物質の新たな医薬用途を認識することができない、という事情が存在する。
したがって、医薬の技術分野における上記事情に鑑みれば、発明の詳細な説明の記載が、医薬用途発明を使用することができる程度のものであるといえるためには、薬理試験結果によらずとも、その未知の医薬用途を予測することができる物質を用いているなどの特段の事情でもない限り、発明の詳細な説明に、当該物質が実際にその医薬用途の対象疾患に対して治療効果を有することを当業者が認識することができるに足る薬理試験結果を記載する必要がある。
ウ 本件発明は、第3で説示したとおりの鎮痛剤の発明であり、特許請求の範囲に記載される化合物(以下、総称して、「本件化合物」、又は、各々請求項を区別して、「請求項1記載の化合物」~「請求項4記載の化合物」という。)の、未知の属性に基づき、当該化合物の新たな
「痛みの処置における鎮痛」
という請求項1、2に記載の医薬用途や、該痛みの具体例といえる、
「炎症を原因とする痛み、又は手術を原因とする痛みの処置における鎮痛」
という請求項3に記載の医薬用途、
及び
「炎症性疼痛による痛覚過敏の痛み、又は術後疼痛による痛覚過敏若しくは接触異痛の痛みの処置における鎮痛」
という請求項4に記載の医薬用途
を提供しようとする物の発明(いわゆる医薬用途発明)である。
ところで、請求項1記載の化合物である式Iの化合物が鎮痛剤として使用される痛みについて、本件特許明細書の発明の詳細な説明に、「炎症性疼痛、術後疼痛、転移癌に伴う骨関節炎の痛み、三叉神経痛、急性疱疹性および治療後神経痛、糖尿病性神経障害、カウザルギー、上腕神経叢捻除、後頭部神経痛、反射交感神経ジストロフィー、線維筋痛症、痛風、幻想肢痛、火傷痛ならびに他の形態の神経痛、神経障害および特発性疼痛症候群」が包含されると記載されていることに照らせば(前記第2 3(1)の摘示(イ))、上記請求項1に記載の医薬用途には、上記痛みの処置における鎮痛を含むものである。
そして、本件化合物に、薬理試験結果によらずとも、その未知の医薬用途を予測することができる物質であるといった、特段の事情は見いだせないから、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載が、本件発明を使用することができる程度のものであるといえるためには、本件特許明細書の発明の詳細な説明に、本件発明1にあっては、請求項1記載の化合物が、少なくとも上記明細書の発明の詳細な説明に記載の各痛みの処置における鎮痛効果を、本件発明2にあっては、請求項2記載の化合物が少なくとも上記明細書の発明の詳細な説明に記載されている各痛みの処置における鎮痛効果を、そして、本件発明3及び4にあっては、各々、請求項3、4記載の化合物が、請求項3、4に記載の痛みの処置における鎮痛効果を有することを、当業者が認識することができるに足る薬理試験結果を記載する必要がある。
エ そこで進んで、上記薬理試験結果の記載について検討するに、当該薬理試験が、医薬用途発明における医薬用途の対象疾患を有する患者に対して行った臨床試験であり、当該疾患に対する治療効果が認められる試験結果が得られたというのであれば、当業者は、当該医薬用途発明が実際にその医薬用途の対象疾患に対して治療効果を有することを認識することができる。
また、当該薬理試験が、動物実験や試験管内実験といった非臨床試験であっても、当業者が技術常識を踏まえてその結果を見ると、医薬用途発明における医薬用途の対象疾患に対する治療効果があると認識することができる試験であれば足りる。ここで、上記技術常識は、発明の詳細な説明の記載が実施可能要件を満たすか否かを検討すべき特許出願の出願時のものである。
オ 以上のア~エの説示に照らして、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載について、本件特許出願時の技術常識を踏まえて、以下、検討する。
(2)検討
ア 本件特許明細書の発明の詳細な説明には、本件発明の鎮痛剤が上記痛みに対する治療効果を有することについて、前記第2 3(1)アに摘示したとおり、摘示(ア)~(ク)の記載がある。
イ 摘示(オ)の記載によれば、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、本件発明の鎮痛剤の有効量、投与方法、製剤化のための事項が記載されている。加えて、摘示(カ)の記載によれば、本件化合物に該当するCI-1008及び3-アミノメチル-5-メチル-ヘキサン酸を用いたラットホルマリン足蹠試験結果、並びに、CI-1008を用いたラットカラゲニン痛覚過敏に対する試験結果が記載され、摘示(ク)の記載によれば、本件化合物に該当するS-(+)-3-イソブチルギャバを用いたラット足蹠筋肉切開により生じた熱痛覚過敏及び接触異痛に対する試験結果が記載されている。なお、摘示(ウ)の記載によれば、上記CI-1008は、(S)-3-(アミノメチル)-5-メチルヘキサン酸なる名称の化合物であり、その名称から把握される化学構造からみて、上記S-(+)-3-イソブチルギャバと同じものであると認められる。
そして、その他の記載事項をあわせみるに、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、上記薬理試験結果に基づき、本件化合物が、特許請求の範囲に記載されている各痛みや摘示(イ)をはじめとする種々の種類の痛みの治療に有効であることを当業者に認識させようとするものであるといえる。
ウ そこで、当業者が本件特許出願時の技術常識を踏まえて上記薬理試験結果を見ると、本件化合物に特許請求の範囲や摘示(イ)に記載されている各痛みに対する治療効果があると認識することができるか否か検討する。
事案に鑑み、まず、請求項3に記載の痛みに対する治療効果について、次に請求項4に記載の痛みに対する治療効果について検討する。
(ア)本件発明3について
(ア)-1 摘示(カ)の記載によれば、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、ラットホルマリン足蹠試験において、CI-1008がホルマリン応答の後期相におけるリッキング/バイティング行動をブロックし、3-(アミノメチル)-5-メチルヘキサン酸は中程度ブロックしたこと、及び、CI-1008が、カラゲニンにより誘発されたラットの機械的痛覚過敏、及び、熱痛覚過敏に拮抗したことが記載されている。CI-1008は、請求項3に記載の化合物に相当する(S)-3-(アミノメチル)-5-メチルヘキサン酸である(前記イ参照)。本件特許明細書の発明の詳細な説明には、上記試験のデータが、(S)-3-(アミノメチル)-5-メチルヘキサン酸が炎症性疼痛の処置に有効であることを示すことについて明示的記載もある(摘示(カ)のB欄の末尾)。ところで、ホルマリンやカラゲニンを動物に注射することにより炎症をおこさせることは本件特許出願時の周知技術であるから、上記炎症性疼痛とは、炎症を原因とする痛みであると言い換えることができる。
そうすると、上記薬理試験結果の記載を見た当業者ならば、請求項3に記載の化合物が、炎症性疼痛、すなわち、炎症を原因とする痛みの処置における鎮痛効果を有することを認識することができるといえる。
(ア)-2 また、摘示(ク)の記載によれば、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、術後疼痛ラットモデル試験において、ラットの後肢足蹠面の皮膚、筋膜及び筋肉を切開することにより生じた、熱痛覚過敏及び接触異痛に対し、手術前のS-(+)-イソブチルギャバの単回用量投与、及び、手術後のS-(+)-イソブチルギャバの単回用量投与のいずれもが有効であることを確認したことが記載されている。
上記試験におけるラットの後肢足蹠面の皮膚、筋膜及び筋肉切開は、術後に痛覚過敏及び接触異痛という痛みを生じさせる手技であるから、手術に相当するものであり、上記痛みの原因であるといえる。
そうすると、上記薬理試験結果の記載を見た当業者ならば、請求項3に記載の化合物が、手術を原因とする痛みの処置における鎮痛効果を有することを認識することができるといえる。
(ア)-3 以上によれば、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、請求項3に記載の化合物が、請求項3に記載の、炎症を原因とする痛み、又は手術を原因とする痛みの処置、において鎮痛効果を有することを当業者が認識できるように記載されていると認めることができる。
(イ)本件発明4について
(イ)-1 請求項4の、「炎症性疼痛による・・・痛み」、「術後疼痛による・・・の痛み」は、各々、「炎症を原因とする・・・痛み」若しくは「炎症性疼痛における・・・痛み」、「手術を原因とする・・・痛み」若しくは術後疼痛における・・・の痛み」の誤りであることは前記第2 3(4)イで説示のとおりである。
そこで、以下、誤記を上記のとおり読み替えて検討する。
(イ)-2 摘示(カ)の記載によれば、起炎剤であるカラゲニンが誘発した機械的痛覚過敏及び熱痛覚過敏の痛みに関する試験において、CI-1008が、鎮痛効果を有することを確認したことが記載されており、上記記載に接した当業者であれば、CI-1008が炎症を原因とする痛覚過敏の痛みに対して鎮痛効果を有することを理解するといえる。
(イ)-3 また、摘示(ク)の薬理試験結果の記載を見た当業者ならば、CI-1008が、手術を原因とする痛みの処置における鎮痛効果を有することを認識することができるといえることは上記説示のとおりである。上記薬理試験においては術後疼痛ラットモデルを用いて試験を行っており、手術を原因とする痛みは、術後疼痛と言い換えることができるし、上記薬理試験において鎮痛効果が確認された痛みは、痛覚過敏及び接触異痛の痛みである。そして、摘示(ク)の冒頭にも記載されているように、術後疼痛ラットモデルが、ヒトの術後疼痛状態にある種の類似性を示すことに照らせば、上記薬理試験結果によって、手術を原因とする痛覚過敏及び接触異痛の痛みに対する効果を確認することができるといえる。
(イ)-4 ところで、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、式Iの化合物は、CI-1008と共通の基本骨格を有し、CI-1008をその好ましい化合物として包含するものであること、また、そのいずれの化合物も、炎症性疼痛、術後疼痛の処置において使用しうることが記載されている(摘示(イ))。
そうすると、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載から、CI-1008と共通の基本骨格を有する請求項4記載の化合物である式Iの化合物が、CI-1008について具体的に確認されたと同じ痛みに対する限りにおいて、同様の鎮痛効果を有することを当業者は理解するといえ、請求項4に記載の、炎症性疼痛による痛覚過敏の痛み、又は術後疼痛による痛覚過敏若しくは接触異痛の痛みの処置における鎮痛効果を有することを認識することができるといえる。
(イ)-5 以上によれば、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、請求項4に記載の式1の化合物が、請求項4に記載の、炎症性疼痛による痛覚過敏の痛み、又は術後疼痛による痛覚過敏若しくは接触異痛の痛みの処置、において鎮痛効果を有することを当業者が認識できるように記載されていると認めることができる。
エ 参加人4の主張について
(ア)参加人4は、令和1年10月18日付け弁駁書p105~107において、本件発明3、4は実施可能要件を充足しないとして、概略以下のa及びbのとおり主張する。
a 炎症を原因とする侵害受容性の痛覚過敏の痛み」(すなわち、侵害受容性疼痛である炎症性疼痛)、及び「手術を原因とする侵害受容性の痛覚過敏若しくは接触異痛の痛み」(すなわち、侵害受容性疼痛である急性術後疼痛)に関しては、本件特許明細書の実施例に記載されているが、本件優先日当時の技術常識を考慮しても、これら以外の「痛み」(すなわち、「侵害受容性の痛覚過敏・接触異痛の痛み(侵害受容性疼痛)を除く、痛覚過敏又は接触異痛の痛み」)を含む、「炎症を原因とする痛み、又は手術を原因とする痛み」について、当業者がどのように実施して、その効果を確認すればよい等が不明である。
よって、本件発明3は実施可能要件を充足しない。
b 本件発明4の「炎症性疼痛による・・・痛み」、「術後疼痛による・・・の痛み」は、各々、「炎症性特痛を原因とする・・・痛み」、「術後疼痛を原因とする痛み」と解されることは明らかであるところ、本件発明4は、被請求人がいうところの「端緒の原因」である「炎症」と、「痛み」の種類である「炎症性疼痛」が痛覚過敏に対して、原因というカテゴリーに位置づけられ、また、同じく「端緒の原因」である「手術」と、「痛み」の種類である「術後疼痛」が痛覚過敏や接触異痛に対して、原因というカテゴリーに位置づけられることを発明特定事項とするものであり、論理的に破綻している。
本件特許明細書の実施例に基づけば、「炎症を原因とする侵害受容性の痛覚過敏の痛み」(すなわち、侵害受容性疼痛である炎症性疼痛)、及び「手術を原因とする侵害受容性の痛覚過敏若しくは接触異痛の痛み」(すなわち、侵害受容性疼痛である急性術後疼痛)について、当業者は本件化合物の効果を確認できるが、上記のとおり論理的に破綻している、本件化合物が「炎症性疼痛による痛覚過敏の痛み」(特に、炎症を原因とする侵害受容性の痛覚過敏の痛みを除く「炎症性疼痛を原因とする痛覚過敏の痛み」)や「術後疼痛による痛覚過敏若しくは接触異痛の痛み」(特に、手術を原因とする侵害受容性の痛覚過敏若しくは接触異痛の痛みを除く「術後疼痛を原因とする痛覚過敏若しくは接触異痛の痛み」)についてどのような効果を示すか不明であり、また、かかる効果を確認する方法さえ開示されていない。
よって、本件発明4は実施可能要件を充足しない。
(イ)そこで上記主張について検討する。
aについて
参加人4の上記主張aは、要するに、本件発明3は、侵害受容性疼痛以外の概念を含み、かつ、その部分について本件特許明細書に記載がないから、実施可能要件を満たさない、というものである。
しかし、訂正後の請求項3に「侵害受容性疼痛」に関する規定がなくとも、本件発明3に侵害受容性疼痛以外の概念が含まれる余地はないといえることは、前記第2 3(3)オ(イ)において既に説示のとおりである。
したがって、侵害受容性疼痛以外の概念を含むことを前提とする参加人4の上記主張aは、その前提に誤りがあり、採用しえない。
bについて
本件発明4の「炎症性疼痛による・・・痛み」、「術後疼痛による・・・痛み」は、各々、「炎症性特痛を原因とする・・・痛み」、「術後疼痛を原因とする・・・痛み」を意味する、との上記主張bの前提は妥当でなく、本件発明4の上記記載は、各々、「炎症を原因とする・・・痛み」、「手術を原因とする・・・痛み」であることは、前記第2(4)ウで説示のとおりである。そして、請求項4記載の化合物が、上記「炎症を原因とする・・・痛み」、「手術を原因とする・・・痛み」に対して鎮痛効果を有することを当業者が認識できるように本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されていることは、前記第2(4)エで説示のとおりである。
よって、参加人4の上記主張bも採用しえない。
オ 次に、請求項1、2に記載の痛みに対する治療効果について検討する。
(ア)請求項1には、痛みとの記載があるにとどまり、該痛みに関して具体的な記載はなされていない。一方、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、式Iの化合物をその処置に用いる痛みに関連して、「炎症性疼痛、術後疼痛、転移癌に伴う骨関節炎の痛み、三叉神経痛、急性疱疹性および治療後神経痛、糖尿病性神経障害、カウザルギー、上腕神経叢捻除、後頭部神経痛、反射交感神経ジストロフィー、線維筋痛症、痛風、幻想肢痛、火傷痛ならびに他の形態の神経痛、神経障害および特発性疼痛症候群」が包含される、と記載されているから(摘示(イ))、請求項1の痛みは、具体例として、少なくとも、上記本件特許明細書の発明の詳細な説明に具体的に記載されている各痛みを包含するものであるといえる。そこで、以下においては、請求項1に包含される上記本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されている各痛みに対する治療効果について検討する。
まず、上記本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されている各痛みについては、その原因や病態生理はさまざまで、治療法も異なることが、例えば、甲第3~5、7~9、14、18及び19号証に記載されている(摘示事項3A~3E、4A、4B、5A~5E、7A、8A、9A~9G、14A、18A~18C、19A、19B)。そして、甲第3号証は、著名な医学辞典であるから、当業者の技術常識を認定する基礎として適切なものである(なお、甲第3号証の奥付のページの記載によれば、甲第3号証の書籍は、その第2版第2刷として1997年7月20日に発行されたものであるが、その第2版第1刷は、本件特許出願前の1996年3月31日に発行されたものであり、通常、同じ版であれば内容は変わらないから、甲第3号証は、本件特許出願時の当業者の技術常識を認定する基礎として適切なものである。)。また、甲第4、5、7~9、14、18及び19号証は、本件特許出願前に頒布された書籍であって、その書籍名からみて、医学の教科書又は臨床医療者の知見といえる書籍であると推認され、それら書籍の記載事項は、当業者の誰もが習得又は知得しているべきものであるから、当業者の技術常識を認定する基礎として適切なものである。
そうすると、痛みには、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されている各痛みを含む種々の種類のものがあり、その原因や病態生理もさまざまであることは、本件特許出願時の技術常識であったものと認められる。また、痛みの種類や原因によって治療法が異なり、鎮痛剤であればあらゆる種類の痛みに有効であるというわけではないことも、本件特許出願時の技術常識であったものと認められる。
(イ)そして、上記各甲号証及び各乙号証の記載を見ても、ラットホルマリン足蹠試験、ラットカラゲニン誘発痛覚過敏に対する試験、または、ラット足蹠筋肉切開により生じた熱痛覚過敏及び接触異痛に対する試験という3種の薬理試験において上記のような結果が得られれば、上記「炎症性疼痛」及び「術後疼痛」以外の本件特許明細書に記載されている各痛みの治療に有効であるという、本件特許出願時の技術常識は見いだせない。
(ウ)請求項2記載の化合物は、請求項1記載の化合物である式Iの化合物に包含されるものであり、該化合物を用いる痛みの処置についても、前記(ア)と同様に判断される。
(エ)したがって、当業者は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載の上記3種の薬理試験結果の記載に接しても、本件発明1、2に係る鎮痛剤が、「炎症性疼痛」及び「術後疼痛」以外の本件特許明細書に記載されている各痛みの処置における鎮痛効果を有することを認識することができない。
カ 被請求人の主張について
(ア)被請求人は、平成29年4月27日付け答弁書p5 11行~p8 6行、同p9 10行~p11下から5行及び令和1年7月1日付け上申書p17下から10行~p27 5行において、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載の上記3種の薬理試験について、以下のa及びbの主張をしている。
a ラットホルマリン足蹠試験について
1)乙第4、20、22~28号証によれば、ホルマリン疼痛モデルのlate phaseは、脊髄後角における神経細胞の発火および痛覚過敏に関連した、疼痛モデルとして認識されていた。
2)甲第6号証によれば、神経障害性疼痛である上腕神経叢捻除、ヘルペス後神経痛(帯状疱疹後神経痛)および幻想肢痛において、脊髄後角における神経細胞の異常発火や過敏性が報告されている。
3)乙第2、3号証によれば、痛覚過敏のような痛覚・知覚異常は、神経障害性疼痛や線維筋痛症に共通する痛みである。
4)以上から、当業者は、ホルマリン疼痛モデルに対する効果から、本件化合物が神経障害性疼痛や線維筋痛症に効果を有することを予測することができる。
b ラットカラゲニン誘発痛覚過敏に対する試験、及び、ラット足蹠筋肉切開により生じた熱痛覚過敏及び接触異痛に対する試験について
1)本件特許明細書の発明の詳細な説明には、カラゲニン疼痛モデルは、痛覚・知覚異常の症状である、機械的痛覚過敏および熱痛覚過敏を呈する実験動物モデルであると記載されている。
2)本件特許明細書の発明の詳細な説明には、術後疼痛モデルは、痛覚・知覚異常の症状である、熱痛覚過敏および接触異痛を呈する実験動物モデルであると記載されている。
3)乙第2、3号証によれば、痛覚過敏のような痛覚・知覚異常は、神経障害性疼痛や線維筋痛症に共通する痛みである。
4)よって、当業者は、カラゲニン疼痛モデルに対する効果や術後疼痛モデルに対する効果から、本件化合物が神経障害性疼痛や線維筋痛症に効果を有することを予測することができる。
(イ)そこで上記主張について検討する。
a ラットホルマリン足蹠試験について
まず第一に、ホルマリン疼痛モデルのlate phaseは、脊髄後角における神経細胞の発火および痛覚過敏に関連した疼痛モデルとして認識されていた、という技術常識が本件特許出願時に存在していたことを証する証拠として、被請求人は、乙第4号証、乙第22~25号証、乙第28号証を提示する。
乙第4号証には、ホルマリン試験について、「動物における侵害刺激のモデルとして使用されてきている。」(摘示事項乙4A)ことが記載されており、一方、late phaseと痛覚過敏の関連については、「痛覚過敏の主要な機序がlate phaseの一因でもあるかもしれない。」(摘示事項乙4C)という推測が記載されているにすぎない。そうすると、乙第4号証の記載内容が技術常識の根拠であるという前提に立ったとしても、ホルマリン疼痛モデルのlate phaseは脊髄後角における神経細胞の発火および痛覚過敏に関連した、疼痛モデルとして認識されていた、という技術常識が本件特許出願時に存在していたとはいえない。
また、乙第22~25号証、乙第28号証には、前記第2 3(1)イ(ア)-2で説示したとおりの記載があり、それら記載によれば、ホルマリン足蹠試験の後期相における反応と中枢性感作との関係は未だ仮説又は推論の域にとどまるものと理解されるのであって、本件特許出願時、ホルマリン足蹠試験の後期相における反応が、中枢性感作等の痛みの処置における何らかの特性やメカニズムに基づくものであるとか、それらを反映した結果であり、それら特性やメカニズムの関与を証明するための確立された試験であるとの技術常識が存在していたと認めることはできず、また、ホルマリン足蹠試験が、末梢及び中枢神経の過敏の痛み全般についての試験であるとの技術常識が存在していたともいえないことは、前記第2 3(1)イ(ア)-2で説示したとおりである。
以上によれば、本件特許出願時、上記1)のような認識が存在していたとはいえず、たとえ、上記2)、3)で主張するように、それら痛みに痛覚過敏がみられるとしても、本件特許明細書の発明の詳細な説明に、3-アミノメチル-5-メチル-ヘキサン酸及びCI-1008が、ホルマリン足蹠試験の後期相の中等度のブロックを生じたことが記載されていることをもって、請求項1又は2記載の化合物に該当する上記化合物が、神経障害性疼痛や線線維筋痛症の痛みの処置における鎮痛剤として有効であることが記載されているに等しいと当業者が理解するということはできない。
また、仮に、上記1)のような認識が本件特許出願時に存在していたとしても、その一方で、オの項で説示したとおり、痛みの種類によって治療法が異なり、鎮痛剤であればあらゆる種類の痛みに有効であるというわけではないという技術常識も本件特許出願時に存在していたのであるから、痛みというものに、脊髄後角における神経細胞の発火や痛覚過敏を呈するという共通点があったとしても、痛みの種類や原因によって薬の効き方に差が出るであろうと当業者は認識していたものと認められる。そうすると、3-アミノメチル-5-メチル-ヘキサン酸及びCI-1008を用いたラットホルマリン足蹠試験の結果に基づき、ホルマリンがその誘発原因であるとはいえない神経障害性疼痛や線維筋痛症にも効果を有することを、当業者が予測することができたとはいえない。
b ラットカラゲニン誘発痛覚過敏に対する試験、及び、ラット足蹠筋肉切開により生じた熱痛覚過敏及び接触異痛に対する試験について
前記オの項で説示したとおり、痛みの種類によって治療法が異なり、鎮痛剤であればあらゆる種類の痛みに有効であるというわけではないという技術常識が本件特許出願時存在していたのであるから、痛みというものに、痛覚・知覚異常の症状である、機械的痛覚過敏および熱痛覚過敏や、熱痛覚過敏および接触異痛を呈するという共通点があったとしても、痛みの種類や原因によって薬の効き方に差が出るであろうと当業者は認識していたものと認められる。そうすると、CI-1008を用いたラットカラゲニン誘発痛覚過敏に対する試験やラット足蹠筋肉切開により生じた熱痛覚過敏及び接触異痛に対する試験の結果に基づき、カラゲニンや足蹠筋肉の切開創がその誘発原因であるとはいえない神経障害性疼痛や線維筋痛症にも効果を有することを、当業者が予測することができたとはいえない。
(ウ)ほかにも、被請求人は、本件特許明細書の発明の詳細な説明を見た当業者が上記「炎症性疼痛」及び「術後疼痛」以外の、訂正前の請求項4に記載の各痛み、すなわち、摘示(イ)又は(エ)に記載の各痛みの治療に本件化合物が有効であると認識することができる理由として、以下のa~dの主張をしているので、各々、検討する。
a 「本件特許の発明の詳細な説明は、他の動物モデルとして、Bennett G.J.の末梢性単発神経障害の動物モデル(Pain,1988;33:87-107)およびKim S.H.らの末梢神経障害の動物モデル(Pain,1990(1992の誤記);50:355-363)を例示している(甲第1号証6頁33~36行)。当業者は、これらの動物モデルを用いても、本件化合物の効果を確認することができる。」(平成29年4月27日付け答弁書p8 8行~13行)について
本件特許明細書の発明の詳細な説明には、請求項1又は2記載の化合物を当該神経障害の動物モデルで評価した試験の結果は記載されていない。そして、上記3種の試験の結果に加え、神経障害の動物モデルが存在することが本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されていても、当業者は、本件化合物が上記「炎症性疼痛」及び「術後疼痛」以外の、摘示(イ)又は(エ)に記載の各痛みの治療に有効であると認識することはできない。被請求人の主張は独自の見解に基づくものであって採用できない。
b 「乙第5号証・・・は、本件化合物の一つであるプレガバリンが、上記の両動物モデルで生ずる接触異痛(allodynia)に対して効果があったことを報告している(乙第5号証・・・)。」(平成29年4月27日付け答弁書p8 14行~17行)について
乙第5号証に記載の試験結果は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に試験方法のほかに何らの記載もなく、また、本件特許の出願時の技術常識に属する事項であったともいえないものであり、そのようなものが、本件特許出願の後に提出されることによって、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項に規定する要件を満たす、とすることは、いわゆる先願主義を採用する我が国の特許制度の趣旨に照らし許されないというべきである。
c 「請求人は、特発性疼痛は、原因不明の心因性疼痛なのであり、炎症によるものとは考えられていない、また、特発性疼痛は、各種の精神障害によって生じるものであり、ラット後肢足蹠面の皮膚、筋膜および筋肉の切開によるものではないのだから、本件疼痛モデルでは効果を確認できないなどと主張する・・・。
心因性疼痛に該当するとも考えられる幻想肢痛は、上記で説明したように、神経障害性疼痛に共通する症状を呈し、本件疼痛モデルによって効果を予測できるものである。
心因性疼痛に該当するとも考えられる線維筋痛症も、下記で説明するように、神経障害性疼痛に共通する痛覚過敏を呈し、本件疼痛モデルによって、効果を予測できるものである。
また、心因性疼痛と診断され、カウザルギー様の疼痛を発症した例が報告されている・・・。カウザルギーも上記で説明したように、神経障害性疼痛に共通する症状を呈し、本件疼痛モデルによって、効果を予測できるものである。
よって、当業者は、本件特許の発明の詳細な説明の記載から、本件化合物が特発性疼痛について効果を奏することを予測できる。」(平成29年4月27日付け答弁書p15 5行~p16 1行)について
幻想肢痛や線維筋痛症が心因性疼痛に該当すると考えられるとしても、また、心因性疼痛と診断され、カウザルギー様の疼痛を発症した例が報告されているとしても、あらゆる特発性疼痛が神経障害性疼痛に共通する症状を呈するといえる理由にはならないし、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載の上記3種の試験によって特発性疼痛に対する効果を予測できるものであるといえる理由にもならない。被請求人の主張はその論旨が不明であり、被請求人独自の見解に基づくものであって採用できない。
d 「また、動物モデルは、疼痛の端緒の原因によって分類し、端緒の原因が同一でなければ効果を確認することはできないと考えるべきではない。「神経障害による痛み」(神経障害性疼痛)について既に説明したとおり、これは・・・痛覚過敏や接触異痛の原因となる、「神経の機能異常」を原因とする痛みとして理解されるものである(上記「第8」)。したがって、神経の機能異常や、それに基づく痛覚過敏や接触異痛といった症状を反映したものであれば、神経障害性疼痛の動物モデル試験として認識される。・・・当業者は、端緒の原因に基づいた動物モデル試験により効果を確かめずとも、症状やその直接の原因を反映した試験により効果を確かめることができれば、神経の機能異常により生ずる痛覚過敏や接触異痛について効果を奏することを理解したものであることに疑いがない。・・・痛覚過敏や接触異痛の発生のメカニズムや、その症状を適切に反映した動物モデル試験であるホルマリン試験、カラゲニン試験及び術後疼痛試験についても、神経障害性疼痛の動物モデル試験として適切であるということになる。・・・「特発性の痛み」や「線維筋痛症」についても、これによって生ずる痛みが痛覚過敏や接触異痛である以上、これらの痛みを適切に反映した動物モデル試験であるホルマリン試験や、痛覚過敏及び接触異痛の症状を適切に反映したカラゲニン試験及び術後疼痛試験によって評価することは可能であり、このことは、本件優先日当時における技術常識であった。」(令和1年7月1日付け上申書p65 4行~p67 21行)について
しかし、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されているホルマリン試験に関して、本件特許出願時、特に、その後期相が、中枢性感作等の痛みの処置における何らかの特性やメカニズムに基づくものであるとか、それらを反映した結果であり、それら特性やメカニズムの関与を証明するための確立された試験であるとか、末梢及び中枢神経の過敏の痛み全般についての試験であるといった技術常識が存在していたといえないこと、また、該試験の後期相における反応と神経障害性疼痛の痛覚過敏とが相互に関連するとの技術常識が存在していたと認めることはできないことは、既に前記第2 3(1)イ(ア)-2で説示のとおりである。
同カラゲニン試験、術後疼痛試験に関して、それら各試験において痛覚過敏若しくは接触異痛の痛みに対する効果が認められた物質は、本件請求項2の神経障害による痛覚過敏に該当する、神経損傷-痛覚過敏の痛みに対しても効果を有するとか、痛覚過敏の痛み全般に効果を有するとの技術常識が本件特許出願時に存在していたと認めることはできないことも、既に、前記第2 3(1)イ(イ)-2、(ウ)-2で説示のとおりである。
そうすると、本件特許明細書記載の上記三種の試験は、本件特許出願時の技術常識を参酌しても、被請求人が主張するような、神経の機能異常や、それに基づく痛覚過敏や接触異痛といった症状やその直接の原因を反映した試験であるといえるものではない。
また、線維筋痛症に関する被請求人の上記主張は、つまるところ、上記三種の試験は、線維筋痛症による痛覚過敏若しくは接触異痛の痛みを反映した動物モデル試験であるから、それら試験によって線維筋痛症による痛みの処置の効果を評価できるというものである。
しかし、痛覚過敏に対する作用は複数存在すること、線維筋痛症における痛覚過敏に対する作用が少なくとも上記三種のいずれかと同じであるか否か不明であることから、線維筋痛症が痛覚過敏を伴う点で上記三種の試験と共通するからといって、線維筋痛症において上記三種の試験の痛覚過敏や接触異痛に対するのと当然に同様の効果を奏するといえないことは、前記第2 3(1)イ(ア)-2、(イ)-2、(ウ)-2で説示のとおりであるから、被請求人の上記主張は、その前提において誤りがある。
そして、上記三種の試験が、神経障害又は線維筋痛症の動物モデル試験として本件特許出願時に知られていたとの証拠はないことも前記第2 3(1)イ(ア)-2、(イ)-2、(ウ)-2で説示のとおりである。
したがって、被請求人の上記主張は採用できない。
そもそも、本件発明1、2は、「痛みの処置における鎮痛剤」に係る発明であり、本件発明1、2における痛みは、痛覚過敏又は接触異痛の痛みに限られておらず、上記以外の種々の痛みを包含するものであり、その中には
必ずしも痛覚過敏を伴うものではない心因性疼痛(摘示事項9F)などが含まれていることは明らかであるから、ホルマリン試験やカラゲニン試験が痛覚過敏の痛みを適切に反映した動物モデル試験であるとの被請求人の上記主張がたとえ事実であったとしても、痛覚過敏を伴わない痛みの治療に有効であると認識し得るとはいえないから、被請求人の上記主張は採用しえない。
(エ)被請求人は、本件特許出願時における技術常識について、専門家の陳述書を提出して、痛覚過敏や接触異痛は、中枢性感作によって生ずること、本件特許明細書記載の三種の試験は、痛覚過敏や接触異痛に対する薬剤の効果を確かめる試験として周知であったなどと主張するので、以下a~cの専門家の陳述内容を検討する。
a 乙第44号証において、Koltzenburgは、強い持続性疼痛タイプを誘発するマスタードオイルによる急性局所刺激が神経障害性疼痛を患う患者における症状と区別できない痛覚過敏や接触異痛を生ずることを乙第18号証において実証したから、それらは共通のメカニズムである中枢性感作を共有する、と述べている。
しかし、上記陳述はマスタードオイル試験に基づくものであり、また、マスタードオイル刺激によって得られた結果を急性化学物質誘発性の痛み全般にまで拡張しうるといえるものでもないから、上記記載は本件特許明細書記載のホルマリン試験についてなんら技術常識を与えるものではない。そして、本件特許明細書に、中枢性感作はもちろん、痛みの処置においてその作用・効果を発揮する特性やメカニズムが存在するとの記載も示唆もないことは、既に前記第2 3(1)イ(ア)-1及び(ア)-2において説示のとおりである。また、乙第18号証の記載をみても、慢性神経痛と、マスタードオイル試験に基づく急性疼痛における神経メカニズムが極めて似ていることを示しうる、として共通のメカニズムについてはあくまで推測の記載があるにすぎない(摘示事項乙18D)。
よって、Koltzenburgの陳述によっては、本件においてした技術常識についての上記判断は左右されない。
b 乙第45号証において、Clauwは、優先日当時、中枢性感作の予防は、痛覚過敏(ワインドアップ様疼痛)及び異痛の両方を実質的に排除することが知られており、これは、端緒の要因にかかわらず、同じ中枢性感作メカニズムが上記両タイプの疼痛メカニズムにおいて作用していることが技術常識であったことを示す、と述べ、その根拠として乙第32号証の要約の記載をあげている。
しかし、乙第32号証の上記箇所には、帯状疱疹後神経痛を有する患者におけるケタミンの連続皮下投与が、誘発痛(接触異痛及びワインドアップ要疼痛)の軽減をもたらしたことが記載されているにすぎず、該特定の試験結果に関する記載をもって、疼痛がいかなる原因によるものであるかにかかわらず、中枢性感作によって痛覚過敏や接触異痛を生ずるという技術常識が本件特許出願時に存在していたということはできない。
また、Clauwは、乙第16号証の要約の14~16行の記載をあげて、疼痛については、優先日よりかなり以前から、疾患又は疼痛の原因による認識から中枢神経系に焦点を当てた認識へと考え方の変化があったと陳述している。
しかし、乙第16号証の該当箇所には、中枢性感作が、ヒトの傷害後の疼痛過敏状態に寄与する可能性が高いため、これらのデータ(合議体注:NMDAアンタゴニストであるMK-801及びD-CPPの投与により、マスタードオイル事前処置により誘発された中枢性反射促進を治療前のレベルに戻ったとの試験結果が得られたことをいう)は、先制鎮痛及び確立された疼痛状態の治療に対するNMDAアンタゴニストの潜在的な役割に関係していることが記載されているにすぎず、該記載をもって、疼痛がいかなる原因であるかにかかわらず、中枢性感作によって痛覚過敏や接触異痛を生ずることが本件特許出願時の技術常識であったということはできない。
よって、Clauwの陳述によっては、本件においてした技術常識についての上記判断は左右されない。上記判断は左右されない。
c 乙第46号証において、Dickensonは、優先日当時、ホルマリンモデルの後期相は、中枢性感作のモデルとして広く受け入れられていたとか、中枢性メカニズムによるものであると陳述し、その根拠として、乙第22号証の要約、乙第23号証の要約、乙第24号証の要約の記載をあげる。しかし、それら乙号証の各記載箇所は、摘示事項乙22A、乙23A、乙24Aであって、それら記載からは、ホルマリン足蹠試験の後期相における反応と中枢性感作との関係は未だ仮説又は推論の域にとどまるものと理解されることは、前記第2 3(1)イ(ア)-2において説示のとおりであり、上記陳述は採用しえない。
また、痛覚過敏のモデルとしてカラゲニン誘導炎症モデルを評価したと陳述し、その根拠として乙第34号証のp345 はじめに の第1段落の記載をあげる。しかし、上記記載事項は、カラゲニン炎症モデルが痛覚過敏のモデルであることを示すにすぎず、カラゲニン誘発痛覚過敏試験において痛覚過敏の痛みに対する効果が認められた物質であればすべからく神経損傷-痛覚過敏の痛みをはじめとする痛覚過敏の痛み全般に効果を有するといえるとの技術常識を示すものではない。
さらに、術後疼痛のラットモデルは中枢性感作を含む疼痛状態のモデルと考えられたと陳述し、その根拠として丙四第6号証の要約の記載をあげる。しかし、上記記載事項も、術後疼痛に二次痛覚過敏がみられることを示すにすぎず、術後疼痛モデルにおいて痛覚過敏が認められればすべからく神経損傷-痛覚過敏の痛みをはじめとする痛覚過敏の痛み全般に効果を有するといえるとの技術常識を示すものではない。
よって、Dickensonの陳述によっては、本件においてした技術常識についての上記判断は左右されない。
(オ)さらに、被請求人は、以下のa~bの主張をしているので、各々、検討する。
a 「本件特許は、医薬品として承認されている疼痛治療薬である、リリカ(乙第1号証)を保護する特許である。リリカの適応症は、神経障害性疼痛および線維筋痛症に伴う疼痛である(乙第1号証)。」(平成29年11月16日付け口頭審理陳述要領書p5 12行~15行)、
まず、本件特許出願の後に明らかになった効果や本件特許出願の後に販売されている事実によって、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項に規定する要件を満たす、とすることは、いわゆる先願主義を採用する我が国の特許制度の趣旨に照らし許されないというべきである。したがって、乙第1号証の記載を参酌することはできない。
b 他の病気においても、治療の目的となる病気の特徴的症状を呈する動物モデルにおける症状の改善により、化合物の効果が予測されることから、特許が取得されており、そして、最終的に医薬品として承認もされている。以下にいくつか例を示す。
(A)腫瘍(癌)
特許第1854491号(・・・(乙第8号証))は、請求項1において、抗腫瘍活性増強剤をクレームするが、効果を確認した動物モデルは、ザルコーマ(肉腫)をマウスの背部に移植したモデルのみで、特許となったものである・・・。この特許は、医薬品として承認されている抗癌剤である、ティーエスワン(乙第9号証・・・)を保護していた特許である。ティーエスワンの適応症は、胃癌、結腸・直腸癌、頭頸部癌、非小細胞肺癌、手術不能または再発乳癌、膵癌、胆道癌である(乙第9号証)。
腫瘍は、腫瘍ごとに、発生部位、発生機序、性質等に違いがあるが、腫瘍の増殖という症状を呈する動物モデルが作製され、腫瘍の増殖を抑制することを確認することにより、特許が成立している。
(B)糖尿病
特許第1853588号(・・・(乙第10号証))は、請求項2において、糖尿病治療剤をクレームするが、血糖に対する効果を確認したモデル動物は、KKAyマウスのみであり、このマウスで化合物の血糖低下の効果を確認し、特許となったものである・・・。この特許は、医薬品として承認されているアクトス(乙第11号証・・・)を保護していた特許である。アクトスの適応症は、2型糖尿病である(乙第11号証)。
KKAyマウスは、糖尿病を自然発症するKKマウスに肥満遺伝子Ayが導入されたマウスで、早期から肥満・高血糖を発現するものである(乙第12号証・・・)。ヒトの糖尿病の原因は、食事、運動等の生活習慣や遺伝等、様々であるが、Ay遺伝子の導入を原因とするものではないし、必ずしも早期に発病するわけでもなく、また、肥満を伴わない糖尿病患者も多いが、高血糖の症状は共通するものである。この特徴的症状を呈するKKAyマウスで、化合物の血糖低下の効果を確認することにより、特許が成立している。
(C)認知症
特許第2578475号(乙第13号証)は、請求項3において、各種老人性痴呆症治療・予防剤、請求項4において、アルツハイマー型老年痴呆に対する治療・予防剤をクレームするが、効果を確認したモデル動物は、スコポラミンを投与したラットのみであり、このラットの受動回避学習障害に対する化合物の効果を確認し、特許となったものである・・・。この特許は、医薬品として承認されているアリセプト(乙第14号証・・・)を保護していた特許である。アリセプトの適応症は、アルツハイマー型認知症およびレビー小体型認知症における認知症症状の進行抑制である(乙第14号証)。
・・・スコポラミン(化合物)を投与するという、ヒトの認知症の原因ではない方法によって生じる、学習障害の症状を呈する動物モデルで、化合物の効果を確認することにより、特許が成立している。
これらの例からも明らかなように、病態生理ではなく、治療の目的となる病気の特徴的な症状を呈するモデル動物を作製し、その動物モデルで化合物の効果を確認することは、当業者が通常行うことであり、それらに基づいて、特許が取得されている。
(D)腫瘍(癌)
審査ハンドブックにおいても、症状に基づき動物モデルが作製され、症状が改善されることにより、医薬の効果が確認され、特許が取得されることが、記載されている。・・・
腫瘍は、腫瘍ごとに、発生部位、発生機序、性質等に違いがあるが、腫瘍の増殖という症状に基づき動物モデルが作製され、腫瘍の増殖を抑制することを確認することにより、実施可能要件およびサポート要件を満たすことが、審査ハンドブックからも裏付けられる。」(平成29年11月16日付け口頭審理陳述要領書p5下から8行~p8 14行)について
特許性の判断は、事件ごとに、事案に応じて行われるものであり、事案を異にする他の事件の判断によって、本件に対する判断は左右されない。
(3)小括
以上のとおり、本件発明3、4については、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、当該発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載していると認められるから、本件発明3、4に係る特許を無効理由1によって無効にすることはできない。
本件発明1、2については、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、当該発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえないから、本件発明1、2に係る特許は無効理由1によって無効とすべきものである。
2 無効理由2(サポート要件違反)について
特許請求の範囲の記載が、平成14年法律第24号による改正前の特許法第36条第6項第1号に規定する要件、いわゆるサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載からみて、本件発明が解決しようとする課題は、本件特許請求の範囲に記載の各痛み及び本件特許明細書記載の各痛みを含む痛みの処置をすることができる鎮痛剤を提供することであると認められる。
しかし、1の項で説示したように、本件特許明細書の発明の詳細な説明に、請求項1、2に記載の化合物が、本件請求項3、4に記載の各痛みや上記「炎症性疼痛」及び「術後疼痛」の処置における鎮痛効果を有することは記載されていると認められる。一方、上記以外の、本件特許明細書記載の各痛みの処置における鎮痛効果を有することは本件特許明細書に記載されておらず、また、本件特許出願時の技術常識を参酌しても、本件請求項1、2に記載の化合物が、上記以外の、本件特許明細書記載の各痛みの処置における鎮痛効果を有することを当業者が認識し得ないのであるから、本件特許明細書の発明の詳細な説明に接した当業者が、本件請求項1、2に係る発明により上記課題を解決できると認識できるとはいえない。
以上のとおり、本件発明3、4は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された発明であるから、本件発明3、4に係る特許を無効理由2によって無効にすることはできない。
本件発明1、2は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された発明であるとは認められないから、本件発明1、2に係る特許は無効理由2によって無効とすべきものである。
参加人4は、訂正後の請求項3、4に係る発明はサポート要件を充足しないと主張し、その理由として、本件発明3、4が鎮痛効果を奏することが本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されているとの被請求人の主張が、実施可能要件についてと同じである点及び該実施可能要件についての主張が失当である点をあげる。
しかし、本件特許明細書の発明の詳細な説明に、本件請求項3、4記載の化合物が、本件請求項3、4に記載の各痛みの処置における鎮痛効果を有することを当業者が認識することができるように記載されており、本件発明3、4がサポート要件を満足すると認められることは上記説示のとおりである。
よって、参加人4の主張は採用できない。
第8 むすび
本件訂正請求による請求項3、4に係る本件訂正を認める。また、同請求項1~2に係る本件訂正は認められない。
本件請求項1~2に係る発明の特許は、平成14年法律第24号による改正前の特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、また、同法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものである。
したがって、本件請求項1~2に係る発明についての特許は、同法第123条第1項第4号に該当し、無効理由1及び2によって無効とすべきものである。
また、本件訂正後の請求項3、4に係る発明についての特許は、無効理由1、2によって無効にすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、
審判費用は、その4分の2を請求人及びその参加人の負担とし、4分の2を被請求人の負担とすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2017-800003