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特許異議申立

2020-700952

水性フレキソ印刷インキ組成物

審判番号
2020-700952
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2016-081385外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
登録番号
6703885
請求日
2020年12月03日
審決日
2022年03月23日
公報発行日
2022年06月24日
結論
訂正認容
当事者
審判長/審判官
分類
P1651.537-YAA(C09D)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第120条の5第7項、特許法第126条第7項、特許法第29条第2項
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第6703885号発明「水性フレキソ印刷インキ組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論
特許第6703885号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~9〕について訂正することを認める。
特許第6703885号の請求項1~9に係る特許を維持する。

理由

目次 ▾ 10項目
理 由

第1 手続の経緯

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特許第6703885号の請求項1~9に係る特許についての出願は、平成28年4月14日になされたものであって、令和2年5月13日にその特許権の設定登録がなされ、同年6月3日にその特許掲載公報が発行されたものである。

その後、その特許についての異議申立ての経緯は、以下のとおりである。

令和2年12月3日 特許異議申立人である巻木理恵子による特許異

議の申立て

令和3年3月24日付け 取消理由通知

同年5月24日 訂正請求書及び意見書の提出(特許権者)

同年6月2日付け 訂正請求があった旨の通知

同年7月5日 意見書の提出(特許異議申立人)

同年9月22日付け 取消理由通知(決定の予告)

同年11月26日 訂正請求書及び意見書の提出(特許権者)

同年12月8日付け 訂正請求があった旨の通知

なお、令和3年5月24日に提出された訂正請求書による訂正の請求は、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。

また、同年12月8日付けで、訂正請求があった旨の通知をしたが、これに対して、特許異議申立人は、意見書を提出しなかった。

第2 本件訂正について

1 訂正の内容

令和3年11月26日に提出された訂正請求書による訂正の請求は、一群の請求項を形成する請求項1~9に対して請求されたものであって、その「請求の趣旨」は、「特許第6703885号の特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~9について訂正することを求める。」というものである。また、本件訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、以下の訂正事項1~8からなるものである。

訂正事項1

特許請求の範囲の請求項1に「シェル部及び/又はコア部中」とあるのを、「前記シェル部のみ、又は、前記シェル部及び前記コア部中」に訂正し(以下、「訂正事項1-1」ともいう。)、

「炭素数4~24の脂肪族アルキル基を有する(メタ)アクリレートに由来する構成単位を含有する」とあるのを、「炭素数4~24の脂肪族アルキル基を有する(メタ)アクリレートに由来する構成単位を含有し、シェル部を構成する全モノマー中に疎水基として炭素数4~24の脂肪族アルキル基を有する(メタ)アクリレートに由来する構成単位を11~49質量%含有する」に訂正(以下、「訂正事項1-2」ともいう。)、

する。

また、請求項1の記載を直接または間接的に引用する請求項2~9も同様に訂正する。

訂正事項2

特許請求の範囲の請求項2に「水性フレキソ印刷インキ組成物」とあるのを、「前記水性フレキソ印刷インキ組成物」に訂正し(以下、「訂正事項2-1」ともいう。)、

「コア部」とあるのを、「前記コア部」に訂正し(以下、「訂正事項2-2」ともいう。)、

「シェル部」とあるのを、「前記シェル部」に訂正し(以下、「訂正事項2-3」ともいう。)、

「シェル部及び/又はコア部中」とあるのを、「前記シェル部のみ、又は、前記シェル部及び前記コア部中」(以下、「訂正事項2-4」ともいう。)、

に訂正する。

また、請求項2の記載を直接または間接的に引用する請求項3~9も同様に訂正する。

訂正事項3

特許請求の範囲の請求項3に「シェル部及び/又はコア部中」とあるのを、「前記シェル部のみ、又は、前記シェル部及び前記コア部中」に訂正する。

請求項3の記載を直接または間接的に引用する請求項4~9も同様に訂正する。

訂正事項4

特許請求の範囲の請求項4に「シェル部」とあるのを、「前記シェル部」に訂正し(以下、「訂正事項4-1」ともいう。)、

「コア部」とあるのを、「前記コア部」(以下、「訂正事項4-2」ともいう。)

に訂正する。

また、請求項4の記載を直接または間接的に引用する請求項5~9も同様に訂正する。

訂正事項5

特許請求の範囲の請求項5に「顔料分散用樹脂」とあるのを、「前記顔料分散用樹脂」に訂正する。

また、請求項5の記載を直接または間接的に引用する請求項6~9も同様に訂正する。

訂正事項6

特許請求の範囲の請求項6に「顔料分散用樹脂」とあるのを、「前記顔料分散用樹脂」に訂正する。

また、請求項6の記載を直接または間接的に引用する請求項7~9も同様に訂正する。

訂正事項7

特許請求の範囲の請求項8に「レオロジーコントロール剤」とあるのを、「前記レオロジーコントロール剤」に訂正し(以下、「訂正事項7-1」ともいう。)、

「請求項1~7のいずれか」とあるのを、「請求項7」(以下、「訂正事項7-2」ともいう。)

に訂正する。

また、請求項8の記載を引用する請求項9も同様に訂正する。

訂正事項8

特許請求の範囲の請求項9に「会合型レオロジーコントロール剤」とあるのを、「前記会合型レオロジーコントロール剤」に訂正し(以下、「訂正事項8-1」ともいう。)、

「高分子型」とあるのを、「前記高分子型」に訂正し(以下、「訂正事項8-2」ともいう。)、

「請求項1~8のいずれか」とあるのを、「請求項8」(以下、「訂正事項8-3」ともいう。)

に訂正する。

2 訂正の適否

(1) 訂正事項1について

訂正事項1-1は、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1の「シェル部及び/又はコア部中」における「シェル部及び/又はコア部」が具体的には「シェル部のみ」、「コア部のみ」、及び、「シェル部及びコア部」の3つの選択肢のいずれかを意味する事項であるところ、その選択肢の1つである「コア部のみ」を削除して「シェル部のみ、又は、シェル部及びコア部中」に限定するものである。

したがって、訂正事項1-1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

また、訂正事項1-1は、要するに選択肢の1つを削除して限定するものであるから、願書に添付した明細書及び特許請求の範囲に記載された事項の範囲内においてするものであり、かつ、実質的に特許請求の範囲を拡張・変更するものでもないから、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5、6項の規定に適合する。

訂正事項1-2は、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1の「コアシェル構造を有するスチレン-アクリル系樹脂エマルジョン」のシェル部を構成するモノマーについて、さらに、「シェル部を構成する全モノマー中に疎水基として炭素数4~24の脂肪族アルキル基を有する(メタ)アクリレートに由来する構成単位を11~49質量%含有する」ものに限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

また、願書に添付した明細書の段落【0008】には「シェル部は、シェル部100質量部中に疎水基として炭素数4~24の脂肪族アルキル基を有する(メタ)アクリレートに由来する構成単位を10~50質量部含有し」と記載されており、さらに、シェル部を構成する全モノマー中炭素数4~24の脂肪族アルキル基を有する(メタ)アクリレートに由来する構成単位を11質量%含有している具体例(段落【0028】の【表1】のスチレン-アクリル系樹脂エマルジョン(1))、及び、49質量%含有している具体例(段落【0028】の【表1】のスチレン-アクリル系樹脂エマルジョン(5))が記載されているから、訂正事項1-2は、願書に添付した明細書及び特許請求の範囲に記載された事項の範囲内においてするものであり、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

また、訂正事項1-2は、「コアシェル構造を有するスチレン-アクリル系樹脂エマルジョン」のシェル部を構成するモノマーについて限定するものであるから、実質的に特許請求の範囲を拡張・変更するものでもない。したがって、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

(2) 訂正事項2について

訂正事項2-1~2-3は、それぞれ、請求項2の「水性フレキソ印刷インキ組成物」、「コア部」、及び、「シェル部」という記載について、請求項2が引用する請求項1にも同じ記載があるものの、両者が同じものを意味していることが必ずしも明瞭ではなかったので、同じものを意味していることを明示するため、「前記」という記載を加入するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

また、訂正事項2-1~2-3は、「前記」という記載を加入して同じものを意味していることを明示するだけの訂正であるから、願書に添付した明細書及び特許請求の範囲に記載された事項の範囲内においてするものであって、実質的に特許請求の範囲を拡張・変更するものでもないことは明らかであり、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5、6項の規定に適合する。

また、訂正事項2-4は、請求項2の「シェル部及び/又はコア部中」という記載について、訂正事項1-1と同様の訂正をすること、及び、請求項2が引用する請求項1にも同じ記載があるものの、両者が同じものを意味していることが必ずしも明瞭ではなかったので、同じものを意味していることを明示するため、「前記」という記載を加入することを目的とするものである。

そうすると、訂正事項2-4は、訂正事項1-1、及び、訂正事項2-1~2-3と同様に、特許法第120条の5第2項ただし書第1、3号に規定する、特許請求の範囲の減縮、及び、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5、6項の規定にも適合する。

(3) 訂正事項3、4について

訂正事項3は、実質的に、訂正事項2-4と同じものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1、3号に規定する、特許請求の範囲の減縮、及び、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5、6項の規定にも適合する。

また、訂正事項4-1、4-2は、それぞれ、訂正事項2-2、2-1と同じものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5、6項の規定にも適合する。

(4) 訂正事項5、6について

訂正事項5、6は、いずれも、請求項5または6の「顔料分散用樹脂」という記載について、これらの請求項が引用するこれらの請求項よりも前の請求項にも同じ記載があるものの、両者が同じものを意味していることが必ずしも明瞭ではなかったので、同じものを意味していることを明示するため、「前記」という記載を加入するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

また、訂正事項5、6は、いずれも、「前記」という記載を加入して同じものを意味していることを明示するだけの訂正であるから、願書に添付した明細書及び特許請求の範囲に記載された事項の範囲内においてするものであって、実質的に特許請求の範囲を拡張・変更するものでもないことは明らかであり、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5、6項の規定に適合する。

(5) 訂正事項7について

訂正事項7-1は、請求項8の「レオロジーコントロール剤」という記載について、請求項8が引用する請求項7にも同じ記載があるものの、両者が同じものを意味していることが必ずしも明瞭ではなかったので、同じものを意味していることを明示するため、「前記」という記載を加入するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

また、訂正事項7-1は、「前記」という記載を加入して同じものを意味していることを明示するだけの訂正であるから、願書に添付した明細書及び特許請求の範囲に記載された事項の範囲内においてするものであって、実質的に特許請求の範囲を拡張・変更するものでもないことは明らかであり、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5、6項の規定に適合する。

訂正事項7-2は、請求項8の「レオロジーコントロール剤が、会合型のレオロジーコントロール剤及び重量平均分子量が10万~300万の高分子型のレオロジーコントロール剤とからなるものである請求項1~7のいずれかに記載の水性フレキソ印刷インキ組成物」という記載における「請求項1~7のいずれか」を、「請求項7」に変更するものであるから、引用する請求項を一部削除するものであり、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

また、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5、6項の規定にも適合する。

(6) 訂正事項8について

訂正事項8-1、8-2は、それぞれ、請求項9の「会合型レオロジーコントロール剤」、「高分子型」という記載について、請求項9が引用する請求項8にも同じ記載があるものの、両者が同じものを意味していることが必ずしも明瞭ではなかったので、同じものを意味していることを明示するため、「前記」という記載を加入するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

また、訂正事項8-1、8-2は、「前記」という記載を加入して同じものを意味していることを明示するだけの訂正であるから、願書に添付した明細書及び特許請求の範囲に記載された事項の範囲内においてするものであって、実質的に特許請求の範囲を拡張・変更するものでもないことは明らかであり、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5、6項の規定に適合する。

また、訂正事項8-3は、請求項9の「会合型のレオロジーコントロール剤が、ウレタン会合型及び/又はアルカリ膨潤会合型のレオロジーコントロール剤であり、高分子型のレオロジーコントロール剤が、アルカリ可溶型のポリマー及び/又はポリエチレングリコールのレオロジーコントロール剤である請求項1~8のいずれかに記載の水性フレキソ印刷インキ組成物。」という記載における「請求項1~8のいずれか」を、「請求項8」に変更するものであるから、引用する請求項を一部削除するものであり、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

また、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5、6項の規定にも適合する。

(7) 独立特許要件について

本件特許異議申立においては、本件訂正前の全ての請求項1~9に対して特許異議の申立てがなされているので、訂正事項1~8によるいずれの訂正についても、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。

(8) 小括

以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項第1、3号に掲げる事項を目的とするものであり、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5、6項の規定に適合するものである。

したがって、本件特許の特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~9〕について訂正することを認める。

第3 本件訂正発明

上記第2のとおり、本件訂正請求は認められたので、本件特許の特許請求の範囲の請求項1~9に係る発明(以下、それぞれその請求項の番号により「本件訂正発明1」などといい、まとめて、「本件訂正発明」ともいう。)は、その特許請求の範囲の請求項1~9に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。

「【請求項1】
顔料、顔料分散用樹脂、コアシェル構造を有するスチレン-アクリル系樹脂エマルジョン、消泡剤、水性溶剤を含有する溶剤を含有する水性フレキソ印刷インキ組成物であって、
コア部とシェル部の質量比率はシェル部:コア部=10:90~50:50であり、
シェル部のみ、又は、シェル部及びコア部中に疎水基として炭素数4~24の脂肪族アルキル基を有する(メタ)アクリレートに由来する構成単位を含有し、シェル部を構成する全モノマー中に疎水基として炭素数4~24の脂肪族アルキル基を有する(メタ)アクリレートに由来する構成単位を11~49質量%含有する水性フレキソ印刷インキ組成物(ただしコア部がスチレンとブチルアクリレートのコポリマーであり、かつシェル部がスチレンとアクリル酸とアルファメチルスチレンのコポリマーである場合を除く)。
続きを表示(全22行)
【請求項2】
顔料、顔料分散用樹脂、コアシェル構造を有するスチレン-アクリル系樹脂エマルジョン、消泡剤、水性溶剤を含有する溶剤を含有する前記水性フレキソ印刷インキ組成物であって、
前記コア部と前記シェル部の質量比率はシェル部:コア部=10:90~30:70であり、
前記シェル部のみ、又は、前記シェル部及び前記コア部中に疎水基として炭素数4~6の脂肪族アルキル基を有する(メタ)アクリレートに由来する構成単位を含有する請求項1に記載の水性フレキソ印刷インキ組成物。
【請求項3】
前記シェル部のみ、又は、前記シェル部及び前記コア部中にブチル(メタ)アクリレートに由来する構成単位を含有する請求項1又は2に記載の水性フレキソ印刷インキ組成物。
【請求項4】
前記シェル部は、シェル部100質量部中にブチルアクリレート由来の構成単位を20~50質量部含有し、理論酸価は100~200であり、前記コア部は、コア部100質量部中にスチレン系モノマー由来の構成単位を70質量部以上有する、請求項1~3のいずれかに記載の水性フレキソ印刷インキ組成物。
【請求項5】
前記顔料分散用樹脂がアルカリ可溶型水溶性樹脂を含有する請求項1~4のいずれかに記載の水性フレキソ印刷インキ組成物。
【請求項6】
前記顔料分散用樹脂が(エチレンオキサイド/プロピレンオキサイド)ブロックポリマーを含有する請求項1~5のいずれかに記載の水性フレキソ印刷インキ組成物。
【請求項7】
レオロジーコントロール剤を含有する請求項1~6のいずれかに記載の水性フレキソ印刷インキ組成物。
【請求項8】
前記レオロジーコントロール剤が、会合型のレオロジーコントロール剤及び重量平均分子量が10万~300万の高分子型のレオロジーコントロール剤とからなるものである請求項7に記載の水性フレキソ印刷インキ組成物。
【請求項9】
前記会合型のレオロジーコントロール剤が、ウレタン会合型及び/又はアルカリ膨潤会合型のレオロジーコントロール剤であり、前記高分子型のレオロジーコントロール剤が、アルカリ可溶型のポリマー及び/又はポリエチレングリコールのレオロジーコントロール剤である請求項8に記載の水性フレキソ印刷インキ組成物。」

第4 取消理由の概要

当審が令和3年9月22日付けの取消理由通知(決定の予告)で通知した取消理由及びその概要は、下記のとおりである。

<取消理由>

取消理由2

本件特許の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないから、本件特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。

<取消理由2の概要>

取消理由2―1

取消理由2―1は、令和3年5月24日に提出された訂正請求書による訂正の請求がされた結果、新たに通知することが必要になったものであり、要するに、請求項1には「シェル部のみ、又は、シェル部及びコア部中に疎水基として炭素数4~24の脂肪族アルキル基を有する(メタ)アクリレートに由来する構成単位を含有し」、及び、「シェル部を構成する全モノマー中炭素数4~24の脂肪族アルキル基を有する(メタ)アクリレートに由来する構成単位を11~49質量%含有する」と記載されており、これらの記載には、共通して「炭素数4~24の脂肪族アルキル基を有する(メタ)アクリレートに由来する構成単位」という記載が含まれているが、前者の記載における「炭素数4~24の・・構成単位」(以下、「前者の構成単位」という。)は、「疎水基として」含有しているものに限定されているのに対し、後者の記載におけるそれ(以下、「後者の構成単位」という。)はそのような限定がないので、両者が異なる構成単位を意味しているという解釈と、表現が一致しているので同じ物を意味しているという解釈の2通りが可能であり、いずれであるのかを区別することができないから、請求項1の記載は明確ではない、というものである。

取消理由2―2

取消理由2―2は、令和3年5月24日に提出された訂正請求書による訂正の請求がされた結果、新たに通知することが必要になったものであり、要するに、請求項1の「シェル部のみ、又は、シェル部及びコア部中に疎水基として炭素数4~24の脂肪族アルキル基を有する(メタ)アクリレートに由来する構成単位を含有し」、「炭素数4~24の脂肪族アルキル基を有する(メタ)アクリレートに由来する構成単位を含有し、シェル部を構成する全モノマー中炭素数4~24の脂肪族アルキル基を有する(メタ)アクリレートに由来する構成単位を11~49質量%含有する」について、前者は、疎水基として炭素数4~24の脂肪族アルキル基を有する(メタ)アクリレートに由来する構成単位に関する事項であり、後者は、疎水基として含有されているものに限定されない(あらゆる)炭素数4~24の脂肪族アルキル基を有する(メタ)アクリレートに由来する構成単位に関する事項であることを勘案すると、請求項1に係る発明は、結局、疎水基として炭素数4~24の脂肪族アルキル基を有する(メタ)アクリレートに由来する構成単位をシェル部のみに11~49質量%の割合で含有するものに特定されており、したがって、コア部中(コア部中のみである場合を含む)に含まれている態様を包含しないと認められる。

一方、請求項2の「シェル部及び/又はコア部中に疎水基として炭素数4~6の脂肪族アルキル基を有する(メタ)アクリレートに由来する構成単位を含有する」は、コア部中(あるいはシェル部中等)に疎水基として炭素数4~6の脂肪族アルキル基を有する(メタ)アクリレートに由来する構成単位が含まれている態様が含まれていることを意味する事項である。

そうすると、請求項2には、請求項1の記載と矛盾する記載が含まれているため、請求項2の記載は明確ではない、というものである。

また、請求項3の「シェル部及び/又はコア部中にブチル(メタ)アクリレートに由来する構成単位を含有する請求項1又は2に記載の水性フレキソ印刷インキ組成物」という記載についても、同様の理由により明確ではない、というものである。

取消理由2―3

「水性フレキソ印刷インキ組成物」(請求項2)という記載は、これよりも前の請求項(請求項1)にも全く同じ記載があるため、両者の関係が不明である。

「コア部とシェル部の質量比率」(請求項2)、「コア部(及び)」(請求項2~4)、「(又は)シェル部」(請求項2~4)、「顔料分散用樹脂」(請求項5、6)、「レオロジーコントロール剤」(請求項8)、「会合型のレオロジーコントロール剤」(請求項9)についても同様である。

取消理由2―4

請求項8には、「レオロジーコントロール剤が・・とからなるものである請求項1~7のいずれかに記載の水性フレキソ印刷インキ組成物」と記載されているが、請求項1~6には「レオロジーコントロール剤」が記載されていないので、請求項1~6のいずれかを引用する場合の発明が、どのような発明を意図しているのか明確ではない。

取消理由2―5

請求項9には、「会合型のレオロジーコントロール剤が・・である請求項1~8のいずれかに記載の水性フレキソ印刷インキ組成物」と記載されているが、請求項1~7には「会合型のレオロジーコントロール剤」が記載されていないので、請求項1~7のいずれかを引用する場合の発明が、どのような発明を意図しているのか明確ではない。

第5 当審の判断

1 取消理由通知(決定の予告)で通知した取消理由について

(1) 取消理由2-1について

本件訂正により、前者の構成単位と後者の構成単位の表記が、「疎水基として」という限定を備える点も含めて完全に一致するものとなったから、取消理由2-1はもはや存在せず、解消した。

(2) 取消理由2-2について

本件訂正により、請求項1の記載が訂正された結果、請求項1に係る発明が、疎水基として炭素数4~24の脂肪族アルキル基を有する(メタ)アクリレートに由来する構成単位をシェル部のみに11~49質量%の割合で含有するものに特定されていると解せるものではなくなったので、請求項1と請求項2あるいは請求項1と請求項3の記載は矛盾しないものとなったから、取消理由2-2はもはや存在せず、解消した。

(3) 取消理由2-3について

本件訂正により、複数の請求項に全く同じ記載がある場合には、後の請求項における記載の直前に「前記」と記載して、両者が同じものを意味することが明示されたから、取消理由2-3はもはや存在せず、解消した。

(4) 取消理由2-4、2-5について

本件訂正により、引用する請求項が一部削除された結果、どのような発明を意図しているのか明確ではない場合が削除されたから、取消理由2-4、2-5はもはや存在せず、解消した。

2 取消理由通知(決定の予告)で採用しなかった特許異議申立の理由について

(1) 取消理由通知(決定の予告)で採用しなかった特許異議申立の理由の概要

取消理由通知(決定の予告)で採用しなかった特許異議申立の理由は、以下の取消理由A、Bである。

取消理由A

取消理由Aは、要するに、本件特許の特許請求の範囲の請求項1~9に係る発明は、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである、というものである。

また、取消理由Aは、証拠として以下の刊行物等(主たる証拠は、甲1、または、2、従たる証拠として甲3~11)を引用するものである。

<刊行物>

甲1:特許第5811835号公報(特許異議申立人が提出した甲第1号証)
甲2:特開2016-27104号公報(特許異議申立人が提出した甲第2号証)
甲3:特開2014-205816号公報(特許異議申立人が提出した甲第3号証)
甲4:特開2015-30799号公報(特許異議申立人が提出した甲第4号証)
甲5:特開2015-30800号公報(特許異議申立人が提出した甲第5号証)
甲6:「フレキソ印刷総覧」、監修:香田裕誌、株式会社加工技術研究会、202,203,210~213頁、2000年11月9日発行(特許異議申立人が提出した甲第6号証)
甲7:特開2011-144334号公報(特許異議申立人が提出した甲第7号証)
甲8:特開2009-154397号公報(特許異議申立人が提出した甲第8号証)
甲9:特開2008-94032公報(特許異議申立人が提出した甲第9号証)
甲10:特許第4999358号公報(特許異議申立人が提出した甲第10号証)
甲11:「印刷インキ入門」、相原次郎著、印刷学会出版部、110,111,114~117頁、昭和63年7月20日(初版第2刷)(特許異議申立人が提出した甲第11号証)

取消理由B

取消理由Bは、要するに、本件特許の明細書において、シェル部及び/又はコア部中の炭素数4~24の脂肪族アルキル基を有する(メタ)アクリレートに由来する構成単位により、優れた消泡性が得られるなどの課題を解決できることが裏付けられているのは、コア部が、コア部100質量部中にスチレン系モノマーに由来する構成単位を70質量部又は80質量部以上含有し、かつ、シェル部が、シェル部100質量部中に疎水基として炭素数4~24の脂肪族アルキル基を有する(メタ)アクリレートに由来する構成単位を10~50質量部含有するコアシェル構造を有するスチレン-アクリル系樹脂エマルジョンを用いた場合のみであるのに対して、特許請求の範囲の記載は、上記範囲に限定されていないので、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、本件特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである、というものである。

(2) 取消理由Aについて

ア 刊行物等に記載されている事項

(ア) 甲1(特許第5811835号公報)に記載されている事項

甲1には、以下の事項が記載されている。

「【請求項1】
顔料分散体とワニス組成物とを混合することにより得られる印刷インキ組成物。
ただし、下記(1)~(4)を特徴とする。
(1)印刷インキ組成物全量中、顔料分散体が25~70重量%、ワニス組成物が30~75重量%である。
続きを表示(全11行)
(2)顔料分散体は、顔料、酸価150~220であるアルカリ可溶型スチレン‐アクリル樹脂(A)、ノニオン性活性剤、水および溶剤からなる。
(3)ワニス組成物は、酸価140~330であるアルカリ可溶型スチレン-アクリル樹脂(B)、酸価10~120であるスチレン-アクリルエマルジョン(C)、酸価200~250であるスチレンーアクリル酸?マレイン酸エマルジョン(D)、水および溶剤からなる。
(4)ワニス組成物全量中、樹脂(B)の固形分が1~45重量%、エマルジョン(C)の固形分が1~45重量%である。
【請求項2】
顔料分散体の表面張力とワニス組成物の表面張力との差の絶対値が、10mN/m(25℃)以下であることを特徴とする請求項1記載の印刷インキ組成物。
【請求項3】
顔料分散体とワニス組成物を印刷インキの調色充填装置を用いて混合してなることを特徴とする請求項1または2記載の印刷インキ組成物。」
「【0021】
また、ワニス組成物を構成する2種類の樹脂の平均酸価の算出においては、酸価10~120であるスチレン-アクリルマルジョン(C)はコア/シェル型の構造を有するエマルジョンであることから、シェル層の酸価(AV3(s)とする)と当該エマルジョンに占めるシェル層の割合(固形重量比、Rとする)が重要である。これは酸価が樹脂の水溶液中での形態、安定性を決める大きな要因であるためである。コア/シェル型エマルジョンの場合、実質上はシェル層の酸価に支配される。」
「【0031】
前記、酸価150~220であるアルカリ可溶型スチレン-アクリル樹脂(A)、酸価140~330であるアルカリ可溶型スチレンーアクリル樹脂(B)、酸価10~120であるスチレン-アクリルエマルジョン(C)および酸価200~250であるスチレン-アクリル酸-マレイン酸エマルジョン(D)に使用されるビニルモノマーとしては、ラジカル重合性ビニル結合を有するカルボン酸類、(メタ)アクリル酸アルキルエステル類、ラジカル重合性ビニル結合を有するジカルボン酸ジエステル類、(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル類、(メタ)アクリルアミド類、スチレン系ビニルモノマー類、含窒素複素環を有するビニルモノマー類、アミノ基を有するビニルモノマー、ラジカル重合性ビニル結合を有するエーテル化合物が使用できる。
【0032】
より具体的には、ラジカル重合性ビニル結合を有するカルボン酸類としては、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、イタコン酸等が上げられる。(メタ)アクリル酸アルキルエステル類としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸-2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリル等が挙げられる。
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【0033】
ラジカル重合性ビニル結合を有するジカルボン酸ジエステル類としては、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、無水イタコン酸、シトラコン酸、無水シトラコン酸等の酸成分とメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ヘキサノール、オクタノール、デカノール、ウンデカノール、ペプタデカノール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノオクチエルエーテル、プロピレングリコールコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノヘキシルエーテル、プロピレングリコールモノオクチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキオクチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル等の水酸基含有成分とを反応させて得られるものが挙げられる。
【0034】
(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル類としては、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシペンチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。(メタ)アクリルアミド類としては、(メタ)アクリルアミド、N-メチル(メタ)アクリルアミド、N-エチル(メタ)アクリルアミド、N-プロピル(メタ)アクリルアミド、N-ブチル(メタ)アクリルアミド、N-ヘキシル(メタ)アクリルアミド、N-オクチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジブチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジヘキシル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジオクチル(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。
スチレン系ビニルモノマー類としてはスチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン等が挙げられる。
【0035】
含窒素複素環を有するビニルモノマー類としては、ビニルピロリドン類、ビニルピリジン類、ビニルイミダゾール類、ビニルカルバゾール類、ビニルキノリン類、ビニルピペリジン類などが挙げられる。アミノ基を有するビニルモノマーとしては、N-エチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N-プロピルアミノエチル(メタ)アクリレート、N-ブチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、N,N-ジエチルアミノブチル(メタ)アクリレート、N,N-ジメチルアミノブチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。ラジカル重合性ビニル結合を有するエーテル化合物としては、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、プロピルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、ヘキシルビニルエーテル、オクチルビニルエーテル等が挙げられる。」
「【0047】
本発明の印刷インキ組成物には、一般に、水性インキで使用できる無機あるいは、有機体質顔料が使用できる。
各種添加剤としては、レベリング剤、消泡剤、再溶解性向上剤、レオロジーコントロール剤等が挙げられる。」
「【0058】
(顔料分散体の製造例1)
フタロシアニン系青顔料 45.0%
アルカリ可溶型スチレン-アクリル樹脂(A1) 10.0%
続きを表示(全47行)
ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロック重合物(ノニオン性活性剤(a))(分子量8350、総分子中のエチレンオキシド付加%80%) 2.0%
2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオール(ノニオン性活性剤(b)) 1.0%
シリコーン消泡剤 0.1%
脱イオン水 41.9%
合計 100.0%
を配合、攪拌混合後、サンドミルにて、粒度がグラインドゲージで10μm以下になるまで分散し、ザーンカップ#4-20秒/25℃の水性顔料分散体(I)を得た。
【0059】
得られた水性顔料分散体Iは、40℃30日間貯蔵した後、25℃に戻し状態を確認したところ分離、沈殿無く、粘度はザーンカップ#4-21秒であった。
【0060】
(顔料分散体の製造例2~6)
表4の配合に従い、顔料分散体の製造例1と同様の方法により顔料分散体(II)~(VI)を得た。
【0061】
【表4】
[図:0001385132000001.jpg]
【0062】
(ワニス組成物の製造例1)
アルカリ可溶型スチレン-アクリル樹脂(B2) 50.0%
スチレン-アクリルエマルジョン(C1) 30.0%
ポリエチレンワックス 4.0%
脱イオン水 16.0%
合計 100.0%
を配合、ディスパーにて、攪拌することにより、ワニス組成物iを得た。
【0063】
得られたワニス組成物を40℃30日間貯蔵した後、25℃に戻し状態を確認したところ、分離沈殿はなく、粘度はザーンカップ#4-19秒であった。
【0064】
(ワニス組成物の製造例2~17)
表5の配合に従い、ワニス組成物の製造例1と同様の方法によりワニス組成物(ii)~(xvii)を得た。
【0065】
【表5】
[図:0001385132000002.jpg]
【0066】
(実施例1)
以下、本発明における印刷インキ組成物の製造法を説明する。
ワニス組成物(ii)75.0部の中に、顔料分散体(I)25.0部を添加し、ディスパーにより攪拌し、印刷インキ組成物(1)を得た。得られた印刷インキ組成物はピグメントショックなく、粘度はザーンカップ#4-16秒であった。これを印刷したものの光沢、発色および重ね刷り適性は非常に良好であった。これを40℃にて30日間貯蔵した後、25℃に戻し状態を確認したところ、分離沈殿はなく、粘度はザーンカップ#4-19秒であり、貯蔵安定性も良好であった。
(実施例2~28)
表6、7の配合に従い、実施例1と同様の方法で、印刷インキ組成物(2)~(28)を得た。
【0067】
【表6】
[図:0001385132000003.jpg]
【0068】
【表7】
[図:0001385132000004.jpg]
」

(イ) 甲2に記載されている事項

甲2には、以下の事項が記載されている。

「【請求項1】
顔料、顔料分散用樹脂、スチレン-アクリル系樹脂エマルジョン、レオロジーコントロール剤、水を含有する溶剤を含有する水性フレキソ印刷インキ組成物であって、水性フレキソ印刷インキ組成物中の顔料の顔料濃度が5~60質量%であり、レオロジーコントロール剤が、会合型のレオロジーコントロール剤及び重量平均分子量が10万~300万の高分子型のレオロジーコントロール剤とからなるものであることを特徴とする水性フレキソ印刷インキ組成物。
【請求項2】
顔料分散用樹脂がアルカリ可溶型水溶性樹脂を含有することを特徴とする請求項1記載の水性フレキソ印刷インキ組成物。
続きを表示(全17行)
【請求項3】
顔料分散用樹脂が(エチレンオキサイド/プロピレンオキサイド)ブロックポリマーを含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の水性フレキソ印刷インキ組成物。
【請求項4】
会合型のレオロジーコントロール剤が、ウレタン会合型及び/又はアルカリ膨潤会合型のレオロジーコントロール剤であり、高分子型のレオロジーコントロール剤が、アルカリ可溶型のポリマー及び/又はポリエチレングリコールのレオロジーコントロール剤であることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の水性フレキソ印刷インキ組成物。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載の水性フレキソ印刷インキ組成物は、下記ア~ウをア/イ=100/0~20/80、(ア+イ)/ウ=100/0~60/40の割合となるように混合して得られるもので、水性フレキソ印刷インキ組成物中にレオロジーコントロール剤として、会合型のレオロジーコントロール剤及び重量平均分子量が10万~300万の高分子型のレオロジーコントロール剤を含有することを特徴とする水性フレキソ印刷インキ組成物。
ア.顔料、顔料分散用樹脂、レオロジーコントロール剤として会合型のレオロジーコントロール剤及び/又は重量平均分子量が10万~300万の高分子型のレオロジーコントロール剤、水を含有する溶剤からなる顔料濃度が15~60質量%である高顔料濃度水性フレキソ印刷インキ組成物。
イ.スチレン-アクリル系樹脂エマルジョン、レオロジーコントロール剤として会合型のレオロジーコントロール剤及び/又は重量平均分子量が10万~300万の高分子型のレオロジーコントロール剤、水を含有するワニス組成物。
ウ.希釈溶剤。
【請求項6】
ワニス組成物が、体質顔料、無機系微粒子及び粘着性樹脂から選ばれる少なくとも1種の添加剤を更に含有することを特徴とする請求項5に記載の水性フレキソ印刷インキ組成物。
【請求項7】
請求項1~6のいずれかに記載の水性フレキソ印刷インキ組成物を使用して、フレキソ印刷することを特徴とする印刷方法」
「【0001】
本発明は、フレキソ印刷用インキ組成物及びそれを用いたフレキソ印刷方法に関する。より詳しくは、濃度及び光沢が高く、貯蔵安定性に優れる水性フレキソ印刷インキ組成物であり、ディスペンシングシステムによる水性フレキソ印刷インキ組成物作成時にピグメントショックを発生せず、且つ水性フレキソ印刷インキ組成物を水希釈して印刷するときに水希釈率を高くしても粘度低下がなく、濃度低下も少ない水性フレキソ印刷インキ組成
物に関する。」
「【0012】
(スチレン-アクリル系樹脂エマルジョン)
本発明の水性フレキソ印刷インキ組成物で使用するスチレン-アクリル系樹脂エマルジョンとしては、公知の方法で製造される酸価10~100mgKOH/gのスチレン-アクリル系樹脂エマルジョンが使用できる。このようなスチレン-アクリル系樹脂エマルジョンのうち、水溶性アクリル系樹脂を高分子乳化剤として用いて、スチレン系モノマー、必要に応じて(メタ)アクリル酸のアルキルエステルを共重合して得られる常温で造膜するものが好適に使用できる。
スチレン-アクリル系樹脂エマルジョンの使用量は、水性フレキソ印刷インキ組成物中に、固形分で5~40質量部である。」
「【0016】
(添加剤)
本発明の水性フレキソ印刷インキ組成物には、必要に応じて各種添加剤を使用することができる。
具体的には、乾燥性を向上させるために、炭酸カルシウム、カオリン、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、クレー、タルク等の体質顔料、防滑性を付与するために無機系微粒子及び粘着性樹脂(アクリル樹脂、酢酸ビニル樹脂)、レベリング性を向上させるためにレベリング剤、消泡性を付与するために消泡剤、再溶解性を付与するために苛性ソーダ等の塩基性化合物、塗膜耐性を付与するためにワックス、造膜エマルジョン等の各種添加剤を挙げることができる。
続きを表示(全50行)
【0017】
(造膜エマルジョン)
本発明の水性フレキソ印刷インキ組成物において添加することができる造膜エマルジョンとしては、ガラス転移温度が10℃以下で造膜する樹脂エマルジョンが好ましい。このような樹脂エマルジョンとしては、アクリル系樹脂エマルジョン、水溶性スチレン-アクリル系樹脂エマルジョン、水溶性スチレン-マレイン酸系樹脂エマルジョン、水溶性スチレン-アクリル-マレイン酸樹脂系樹脂エマルジョンが挙げられ、中でも、水溶性アクリル系樹脂を高分子乳化剤として用いて、スチレン系モノマー、(メタ)アクリル酸のアルキルエステル等を共重合して得られたものが好適に使用できる。
【0018】
次に、本発明の水性フレキソ印刷インキ組成物及び印刷物の製造方法について説明する。
本発明の水性フレキソ印刷インキ組成物を従来法で製造する方法としては、顔料と、顔料分散用樹脂と、スチレン-アクリル系樹脂エマルジョンと、レオロジーコントロール剤と、水を含有する溶剤とを混合した後、各種練肉機、例えば、ビーズミル、パールミル、サンドミル、ボールミル、アトライター、ロールミル等を利用して練肉し、さらに、所定の材料の残り、及び必要に応じて添加剤を混合する。
次いで、印刷時に希釈が必要な場合は、さらに水を含有する溶剤を加え水性フレキソ印
刷インキ組成物を得る。この水性フレキソ印刷インキ組成物を用いた印刷物の製造方法としては、段ボールやカートン等の紙器に、上記水性フレキソ印刷インキ組成物を用いてフレキソ印刷機で印刷する方法が例示できる。
【0019】
次に、印刷インキの調色充填装置(ディスペンシングシステム)を用いて水性フレキソ印刷インキ組成物を得る方法及び印刷物の製造方法について説明する。
(ア.顔料濃度が15~60質量%である高顔料濃度水性フレキソ印刷インキ組成物)
顔料、顔料分散用樹脂としてアルカリ可溶型水溶性樹脂、レオロジーコントロール剤として会合型のレオロジーコントロール剤及び/又は重量平均分子量が10万~300万の高分子型のレオロジーコントロール剤、水を含有する溶剤、必要に応じてスチレン-アクリル系樹脂エマルジョン、顔料分散用樹脂として(エチレンオキサイド/プロピレンオキサイド)ブロックポリマーを混合した後、各種練肉機、例えば、ビーズミル、パールミル、サンドミル、ボールミル、アトライター、ロールミル等を使用して練肉し、さらに、所定の材料の残り及び必要に応じて添加剤を混合し、顔料濃度が15~60質量%である高顔料濃度水性フレキソ印刷インキ組成物を得る。
中でも高顔料濃度水性フレキソ印刷インキ組成物中には、スチレン-アクリル系樹脂エマルジョン、顔料分散用樹脂として(エチレンオキサイド/プロピレンオキサイド)ブロックポリマーを必須成分として含有させることが好ましい。
また、高顔料濃度水性フレキソ印刷インキ組成物中の会合型のレオロジーコントロール剤、重量平均分子量が10万~300万の高分子型のレオロジーコントロール剤は、固形分で各々、0質量部以上1質量部以下である(但し、会合型のレオロジーコントロール剤、重量平均分子量が10万~300万の高分子型のレオロジーコントロール剤の少なくとも一方は、高顔料濃度水性フレキソ印刷インキ組成物中に含まれている。ただし、いずれか一方のレオロジーコントロール剤が含有されないときには、そのレオロジーコントロール剤は下記のワニス組成物中に含有される必要がある)。
【0020】
(イ.ワニス組成物)
スチレン-アクリル系樹脂エマルジョン、レオロジーコントロール剤として会合型のレオロジーコントロール剤及び/又は重量平均分子量が10万~300万の高分子型のレオロジーコントロール剤、水を含有する溶剤、及び必要に応じて顔料分散用樹脂及び各種添加剤を混合した後、撹拌装置で撹拌しワニス組成物を得る。ワニス組成物には、顔料分散用樹脂としてアルカリ可溶型水溶性樹脂を必須成分として含有させることが好ましい。
また、ワニス組成物中の会合型のレオロジーコントロール剤、重量平均分子量が10万~300万の高分子型のレオロジーコントロール剤は、固形分で各々、0質量部以上1質量部以下である(但し、会合型のレオロジーコントロール剤、重量平均分子量が10万~300万の高分子型のレオロジーコントロール剤の少なくとも一方は、ワニス組成物中に含まれている)。
さらに、各種添加剤は、要求される性能を付与するため、乾燥性を向上させる炭酸カルシウム、カオリン、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、クレー、タルク等の体質顔料、防滑性を付与する無機系微粒子及び粘着性樹脂(アクリル樹脂、酢酸ビニル樹脂)、レベリング性を向上させるレベリング剤、消泡性を付与する消泡剤、再溶解性を付与する苛性ソーダ等の塩基性化合物、塗膜耐性を付与するワックス等を含有させることができる。
(ウ.希釈溶剤)
希釈溶剤としては、水だけでもよいが、水温和性溶剤を必要に応じて混合させたものを使用することもできる。
【0021】
上記ア.高顔料濃度水性フレキソ印刷インキ組成物、上記イ.ワニス組成物及び上記ウ.希釈溶剤を調色充填装置(ディスペンシングシステム)を用いて、予めコンピュータに記憶された配合比:ア~ウをア/イ=100/0~20/80、(ア+イ)/ウ=100/0~60/40の割合となるように混合し、本発明の水性フレキソ印刷インキ組成物を
得る。
尚、水性フレキソ印刷インキ組成物は、レオロジーコントロール剤として、会合型のレオロジーコントロール剤及び重量平均分子量が10万~300万の高分子型のレオロジーコントロール剤の両方を含有するように配合する。
得られた水性フレキソ印刷インキ組成物を用いて、段ボールやカートン等の紙器に、上記フレキソ印刷インキ組成物を用いてフレキソ印刷機で印刷する。
尚、上記調色充填装置(ディスペンシングシステム)は、16~20色分のインキタンクとその各々に接続したポンプと注入用ノズル、計量器、撹拌機、及びコンピュータが装備されており、予め、コンピュータに記憶された配合比で、インキの生産、調色作業が可能である。
【実施例】
【0022】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「%」は「質量%」を意味し、「部」は「質量部」を意味するものである。また、表中の各材料の分量の数字についても「質量部」である。
【0023】
(高顔料濃度水性フレキソ印刷インキ組成物(A)~(F))
顔料(フタロシアニンブルー、C.I.ピグメントブルー15:3)、アルカリ可溶型水溶性樹脂(ジョンクリルHPD-671、ジョンソンポリマー社製、固形分25%)、ポリ(エチレンオキサイド/プロピレンオキサイド)ブロックポリマー(ポリ(EO/PO)ブロックポリマー、HLB値14、Mw16000)、ジブチルグリコール、水の混合物をビーズミルで混練後、スチレン-アクリル系樹脂エマルジョン(ジョンクリル7610、ジョンソンポリマー社製、固形分52%)、会合型のレオロジーコントロール剤(SNシックナー 623N、固形分30%)、高分子型のレオロジーコントロール剤(チクゾールK502、固形分21%)、消泡剤(SN デフォーマー 777 #C、サンノプコ社製)を表1の割合となるように加え混合して、高顔料濃度水性フレキソ印刷インキ組成物(A)~(F)を得た。
【0024】
【表1】
[図:0001385132000005.jpg]
【0025】
(ワニス組成物(A)~(I))
アルカリ可溶型水溶性樹脂(ジョンクリルHPD-671、ジョンソンポリマー社製、固形分25%)、スチレン-アクリル系樹脂エマルジョン(ジョンクリル7610、ジョンソンポリマー社製、固形分52%)、会合型のレオロジーコントロール剤(SNシックナー 623N、固形分30%)、高分子型のレオロジーコントロール剤(チクゾールK
502、固形分21%)、ポリ(エチレンオキサイド/プロピレンオキサイド)ブロックポリマー(ポリ(EO/PO)ブロックポリマー、HLB値14、Mw16000)、体質顔料(一次粒子径0.1μmの重炭酸カルシウムを75%含有しているスラリー)、シリカ(富士デビソン(株)社製、平均粒子径5μm)、造膜エマルジョン(ジョンクリル390、ジョンソンポリマー社製、ガラス転移温度2℃、固形分46%)、水を表2の割合となるように加え混合して、ワニス組成物(A)~(I)を得た。
【0026】
【表2】
[図:0001385132000006.jpg]
【0027】
(実施例1~6、比較例1~3のフレキソ印刷用インキ組成物)
高顔料濃度水性フレキソ印刷インキ組成物(A)~(F)とワニス組成物(A)~(I)と水を表3の割合となるように配合して、実施例1~6、比較例1~3のフレキソ印刷用インキ組成物を調製した。」

イ 甲1に基づく取消理由Aについて

(ア) 甲1に記載された発明

甲1には、請求項1の記載に基づき、以下の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。

「 顔料分散体とワニス組成物とを混合することにより得られる印刷インキ組成物。
ただし、下記(1)~(4)を特徴とする。
(1)印刷インキ組成物全量中、顔料分散体が25~70重量%、ワニス組成物が30~75重量%である。
(2)顔料分散体は、顔料、酸価150~220であるアルカリ可溶型スチレン‐アクリル樹脂(A)、ノニオン性活性剤、水および溶剤からなる。
(3)ワニス組成物は、酸価140~330であるアルカリ可溶型スチレン-アクリル樹脂(B)、酸価10~120であるスチレン-アクリルエマルジョン(C)、酸価200~250であるスチレンーアクリル酸?マレイン酸エマルジョン(D)、水および溶剤からなる。
(4)ワニス組成物全量中、樹脂(B)の固形分が1~45重量%、エマルジョン(C)の固形分が1~45重量%である。」

(イ) 本件訂正発明1について

a 本件訂正発明1と甲1発明の対比

甲1発明の「顔料」は、本件訂正発明1の「顔料」に相当する。

本件訂正発明1の「顔料分散用樹脂」について、本件特許の願書に添付した明細書の発明の詳細な説明(以下、「発明の詳細な説明」という。)の段落【0015】、【0016】には、「本発明の水性フレキソ印刷インキ組成物で使用する顔料分散用樹脂としては、アルカリ可溶型水溶性樹脂であり・・アルカリ可溶型水溶性樹脂としては、通常の水性フレキソ印刷インキ組成物で使用される不飽和二重結合を有するモノマーを重合させて得られる樹脂や、官能基同士の反応によって得られる樹脂などであればとくに制限なく使用できる。具体的には、アクリル酸あるいはメタクリル酸とそのアルキルエステル、あるいはスチレン等を主なモノマー成分として共重合した水溶性アクリル系樹脂、水溶性スチレン-アクリル系樹脂、水溶性スチレン-マレイン酸系樹脂、水溶性スチレン-アクリル-マレイン酸系樹脂、水溶性ポリウレタン系樹脂、水溶性ポリエステル系樹脂などの各種バインダー樹脂が好適な例として例示できる。」と記載されている。

そうすると、甲1発明の「酸価150~220であるアルカリ可溶型スチレン-アクリル樹脂(A)」は、本件訂正発明1の「顔料分散用樹脂」に相当する。

甲1明の「水および溶剤」は、本件訂正発明1の「水性溶剤を含有する溶剤」に相当する。

甲1発明の「酸価10~120であるスチレン-アクリルエマルジョン(C)」について、甲1の段落【0021】には、「酸価10~120であるスチレン-アクリルマルジョン(C)はコア/シェル型の構造を有するエマルジョンである」と記載されているから、甲1発明の「酸価10~120であるスチレン-アクリルエマルジョン(C)」は、本件訂正発明1の「コアシェル構造を有するスチレン-アクリル系樹脂エマルジョン」に相当する。

甲1発明の「印刷インキ組成物」がフレキソ印刷に用いることを想定しているものであることは明らかである(例えば、甲1の段落【0001】)から、甲1発明の「印刷インキ組成物」は、本件訂正発明1の「水性フレキソ印刷インキ組成物」に相当する。

そうすると、本件訂正発明1と甲1発明の一致点、相違点は、以下のとおりである。

<一致点>

「顔料、顔料分散用樹脂、コアシェル構造を有するスチレン-アクリル系樹脂エマルジョン、水性溶剤を含有する溶剤を含有する水性フレキソ印刷インキ組成物」

<相違点1>

本件訂正発明1は、「消泡剤」を含むことが特定されているのに対し、甲1発明は、そのような特定を備えていない点

<相違点2>

コアシェル構造を有するスチレン-アクリル系樹脂エマルジョンについて、本件訂正発明1は、「コア部とシェル部の質量比率はシェル部:コア部=10:90~50:50であり」と特定されているのに対し、甲1発明は、そのような特定を備えていない点

<相違点3>

コアシェル構造を有するスチレン-アクリル系樹脂エマルジョンについて、本件訂正発明1は、「シェル部のみ、又は、シェル部及びコア部中に疎水基として炭素数4~24の脂肪族アルキル基を有する(メタ)アクリレートに由来する構成単位を含有し、シェル部を構成する全モノマー中に疎水基として炭素数4~24の脂肪族アルキル基を有する(メタ)アクリレートに由来する構成単位を11~49質量%含有する」と特定されているのに対し、甲1発明は、そのような特定を備えていない点

<相違点4>

コアシェル構造を有するスチレン-アクリル系樹脂エマルジョンについて、本件訂正発明1は、「ただしコア部がスチレンとブチルアクリレートのコポリマーであり、かつシェル部がスチレンとアクリル酸とアルファメチルスチレンのコポリマーである場合を除く」と特定されているのに対し、甲1発明は、そのような特定を備えていない点

b 検討

事案に鑑み、まず、相違点3について検討する。

甲1には、甲1発明の「酸価10~120であるスチレン-アクリルエマルジョン(C)」に使用されるビニルモノマーについて、以下の記載がある。

「前記、酸価150~220であるアルカリ可溶型スチレン-アクリル樹脂(A)、酸価140~330であるアルカリ可溶型スチレン-アクリル樹脂(B)、酸価10~120であるスチレン-アクリルエマルジョン(C)および酸価200~250であるスチレン-アクリル酸-マレイン酸エマルジョン(D)に使用されるビニルモノマーとしては、ラジカル重合性ビニル結合を有するカルボン酸類、(メタ)アクリル酸アルキルエステル類、ラジカル重合性ビニル結合を有するジカルボン酸ジエステル類、(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル類、(メタ)アクリルアミド類、スチレン系ビニルモノマー類、含窒素複素環を有するビニルモノマー類、アミノ基を有するビニルモノマー、ラジカル重合性ビニル結合を有するエーテル化合物が使用できる。」(【0031】)

また、ラジカル重合性ビニル結合を有するカルボン酸類などのビニルモノマーのそれぞれについて、具体例が多数記載されており(【0032】~【0035】)、例えば、(メタ)アクリル酸アルキルエステル類については、「(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸-2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリル等が挙げられる。」と記載されている。

以上によれば、これらのビニルモノマーは、酸価150~220であるアルカリ可溶型スチレン-アクリル樹脂(A)、酸価140~330であるアルカリ可溶型スチレン-アクリル樹脂(B)、酸価10~120であるスチレン-アクリルエマルジョン(C)および酸価200~250であるスチレン-アクリル酸-マレイン酸エマルジョン(D)のいずれにも使用できるビニルモノマーであるとして、特段区別されることなく単に例示されているものである。また、特に、酸価10~120であるスチレン-アクリルエマルジョン(C)に注目し、かつ、そのコア部とシェル部を区別しつつ、その好ましいビニルモノマーの種類や含有割合に関して説明している具体的な記載は一切ない。

また、甲1発明の「酸価10~120であるスチレン-アクリルエマルジョン(C)」の具体例は、「スチレン190部、アクリル酸20部、αメチルスチレン65部」を重合した後「アンモニア水」でアクリル酸のカルボキシル基を中和して得た重合体からなるシェル層と「スチレン655部、ブチルアクリレート65部」を重合して得た重合体からなるコアからなるもの等(段落【0055】~【0056】)であって、要するに、スチレン、アクリル酸、及び、αメチルスチレンを重合して得た重合体からなるシェル層とスチレン、及び、ブチルアクリレートを重合して得た重合体からなるコアからなるものに限られている。

したがって、甲1に接した当業者は、甲1発明の「酸価10~120であるスチレン-アクリルエマルジョン(C)」に含まれているビニルモノマーの種類について、特に好ましいものがあるとの記載や示唆がないことから、いずれかのビニルモノマーに限定すること、特に、シェル部に含まれるビニルモノマーの種類や含有割合を限定することを動機づけられることはないと認められる。また、仮に、いずれかのビニルモノマーに限定することを動機付けられた場合には、まず、その具体例の記載に基づいて、スチレン、アクリル酸、及び、αメチルスチレンを重合して得た重合体からなるシェル層とスチレン、ブチルアクリレートを重合して得た重合体からなるコアからなるものとすることが好ましいと理解するといえる。そうすると、仮に、甲2~11のいずれかに相違点3に係る事項を満足するものが記載されているとしても、それだけでは、直ちにこれを選択するように動機づけられるとはいえない。また、甲2~11のいずれにも、当業者が甲1発明において、相違点3に係る事項を満足するものとすることを動機づけるような記載ないし示唆は見出せない。

したがって、当業者といえども、甲1発明において、相違点3に係る「シェル部のみ、又は、シェル部及びコア部中に疎水基として炭素数4~24の脂肪族アルキル基を有する(メタ)アクリレートに由来する構成単位を含有し、シェル部を構成する全モノマー中に疎水基として炭素数4~24の脂肪族アルキル基を有する(メタ)アクリレートに由来する構成単位を11~49質量%含有する」と特定することを容易になし得たとはいえないと認められる。

c 効果について

本件訂正発明1は、相違点1~4に係る事項を全て備えるものであることによって、発明の詳細な説明に、「本発明に沿った例である実施例1~17によれば、粘度特性、経時安定性に優れ、かつ消泡剤の添加量が少ないにも関わらず消泡性に優れ、ミスチングがなく、耐性、乾燥性に優れ、おおむね滑り角度が30℃程度またはそれ以上という優れたインキ被膜を得た。」(段落【0044】)と記載されているとおりの効果を奏するものである。

d 本件訂正発明1についてのまとめ

したがって、本件訂正発明1は、甲1~11に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(ウ) 本件訂正発明2~9について

本件訂正発明2~9は、本件訂正発明1を直接又は間接的に引用しさらに限定した発明に該当するものであるところ、上記(イ)dのとおり、本件訂正発明1は、甲1~11に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないものである。

そうすると、本件訂正発明2~9も、本件訂正発明1と同様の理由により、甲1~11に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないものである。

ウ 甲2に基づく取消理由1について

(ア) 甲2に記載された発明

甲2(請求項1)には、以下の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。

「顔料、顔料分散用樹脂、スチレン-アクリル系樹脂エマルジョン、レオロジーコントロール剤、水を含有する溶剤を含有する水性フレキソ印刷インキ組成物であって、水性フレキソ印刷インキ組成物中の顔料の顔料濃度が5~60質量%であり、レオロジーコントロール剤が、会合型のレオロジーコントロール剤及び重量平均分子量が10万~300万の高分子型のレオロジーコントロール剤とからなるものであることを特徴とする水性フレキソ印刷インキ組成物。」

(イ) 本件訂正発明1について

a 本件訂正発明1と甲2発明の対比

甲2発明の「顔料」、「顔料分散用樹脂」、「水を含有する溶剤」、「水性フレキソ印刷インキ組成物」は、それぞれ、本件訂正発明1の「顔料」、「顔料分散用樹脂」、「水性溶剤を含有する溶剤」、「水性フレキソ印刷インキ組成物」に相当する。

甲2発明の「スチレン-アクリル系樹脂エマルジョン」について、甲2の段落【0012】には、「本発明の水性フレキソ印刷インキ組成物で使用するスチレン-アクリル系樹脂エマルジョンとしては、公知の方法で製造される酸価10~100mgKOH/gのスチレン-アクリル系樹脂エマルジョンが使用できる。このようなスチレン-アクリル系樹脂エマルジョンのうち、水溶性アクリル系樹脂を高分子乳化剤として用いて、スチレン系モノマー、必要に応じて(メタ)アクリル酸のアルキルエステルを共重合して得られる常温で造膜するものが好適に使用できる。」と記載されており、水溶性アクリル系樹脂を高分子乳化剤として用いて、スチレン系モノマー、必要に応じて(メタ)アクリル酸のアルキルエステルを共重合すると、スチレン系モノマー、必要に応じて(メタ)アクリル酸のアルキルエステルの共重合体がコアで、水溶性アクリル系樹脂がシェルのスチレン-アクリル系樹脂エマルジョンが得られるから、甲2発明の「スチレン-アクリル系樹脂エマルジョン」は、本件訂正発明1の「コアシェル構造を有するスチレン-アクリル系樹脂エマルジョン」に相当する。

そうすると、本件訂正発明1と甲2発明の一致点、相違点は、以下のとおりである。

<一致点>

「顔料、顔料分散用樹脂、コアシェル構造を有するスチレン-アクリル系樹脂エマルジョン、水性溶剤を含有する溶剤を含有する水性フレキソ印刷インキ組成物」

<相違点5>

本件訂正発明1は、「消泡剤」を含むことが特定されているのに対し、甲2発明は、そのような特定を備えていない点

<相違点6>

コアシェル構造を有するスチレン-アクリル系樹脂エマルジョンについて、本件訂正発明1は、「コア部とシェル部の質量比率はシェル部:コア部=10:90~50:50であり」と特定されているのに対し、甲2発明は、そのような特定を備えていない点

<相違点7>

コアシェル構造を有するスチレン-アクリル系樹脂エマルジョンについて、本件訂正発明1は、「シェル部のみ、又は、シェル部及びコア部中に疎水基として炭素数4~24の脂肪族アルキル基を有する(メタ)アクリレートに由来する構成単位を含有し、シェル部を構成する全モノマー中に疎水基として炭素数4~24の脂肪族アルキル基を有する(メタ)アクリレートに由来する構成単位を11~49質量%含有する」と特定されているのに対し、甲2発明は、そのような特定を備えていない点

<相違点8>

コアシェル構造を有するスチレン-アクリル系樹脂エマルジョンについて、本件訂正発明1は、「ただしコア部がスチレンとブチルアクリレートのコポリマーであり、かつシェル部がスチレンとアクリル酸とアルファメチルスチレンのコポリマーである場合を除く」と特定されているのに対し、甲2発明は、そのような特定を備えていない点

b 検討

事案に鑑みまず相違点7について検討する。

甲2には、甲2発明の「スチレン-アクリル系樹脂エマルジョン」について、以下の記載がある。

「(スチレン-アクリル系樹脂エマルジョン)
本発明の水性フレキソ印刷インキ組成物で使用するスチレン-アクリル系樹脂エマルジョンとしては、公知の方法で製造される酸価10~100mgKOH/gのスチレン-アクリル系樹脂エマルジョンが使用できる。このようなスチレン-アクリル系樹脂エマルジョンのうち、水溶性アクリル系樹脂を高分子乳化剤として用いて、スチレン系モノマー、必要に応じて(メタ)アクリル酸のアルキルエステルを共重合して得られる常温で造膜するものが好適に使用できる。」(【0012】)

そうすると、甲2には、甲2発明の「スチレン-アクリル系樹脂エマルジョン」の製造について、水溶性アクリル系樹脂を高分子乳化剤として用いて、スチレン系モノマー、必要に応じて(メタ)アクリル酸のアルキルエステルを共重合して得られる常温で造膜するものが好適に使用できると説明されているだけで、コア部とシェル部を区別しつつ、コア部及びシェル部に含まれる構成単位について、それぞれその好ましい種類や含有割合に関する具体的な説明等は一切記載されていない。

また、甲2発明の「スチレン-アクリル系樹脂エマルジョン」の具体例は、「ジョンクリル7610、ジョンソンポリマー社製、固形分52%」(段落【0023】、【0025】、【0027】)という市販品である。

したがって、甲2に接した当業者は、甲2発明の「スチレン-アクリル系樹脂エマルジョン」について、コア部とシェル部に含まれる構成単位を、それぞれ好ましい種類や含有割合に限定すること、特に、シェル部に含まれるビニルモノマーの種類や含有割合を限定することを動機づけられることはないと認められる。

また、仮に、いずれかのビニルモノマーに限定することを動機付けられた場合には、まず、その具体例の記載に基づいて、「水溶性アクリル系樹脂を高分子乳化剤として用いて、スチレン系モノマー、必要に応じて(メタ)アクリル酸のアルキルエステルを共重合して得られる常温で造膜するもの」か、その具体例の記載に基づいて、「ジョンクリル7610、ジョンソンポリマー社製、固形分52%」が好ましいと理解するといえる。そうすると、仮に、甲2~11のいずれかに相違点3に係る事項を満足するものが記載されているとしても、それだけでは、直ちにこれを選択するように動機づけられるとはいえない。また、甲2~11のいずれにも、当業者が甲1発明において、相違点3に係る事項を満足するものとすることを動機づけるような記載ないし示唆は見出せない。

したがって、当業者といえども、甲2発明において、相違点7に係る「シェル部のみ、又は、シェル部及びコア部中に疎水基として炭素数4~24の脂肪族アルキル基を有する(メタ)アクリレートに由来する構成単位を含有し、シェル部を構成する全モノマー中に疎水基として炭素数4~24の脂肪族アルキル基を有する(メタ)アクリレートに由来する構成単位を11~49質量%含有する」と特定することを容易になし得たとはいえないと認められる。

c 効果について

本件訂正発明1は、相違点5~8に係る事項を全て備えるものであることによって、発明の詳細な説明に、「本発明に沿った例である実施例1~17によれば、粘度特性、経時安定性に優れ、かつ消泡剤の添加量が少ないにも関わらず消泡性に優れ、ミスチングがなく、耐性、乾燥性に優れ、おおむね滑り角度が30℃程度またはそれ以上という優れたインキ被膜を得た。」(段落【0044】)と記載されているとおりの効果を奏するものである。

d 本件訂正発明1についてのまとめ

したがって、本件訂正発明1は、甲1~11に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(ウ) 本件訂正発明2~9について

本件訂正発明2~9は、本件訂正発明1を直接又は間接的に引用しさらに限定した発明に該当するものであるところ、上記(2)のとおり、本件訂正発明1は、甲1~11に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないものである。

そうすると、本件訂正発明2~9も、本件訂正発明1と同様の理由により、甲1~11に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないものである。

エ 取消理由Aについてのまとめ

以上のとおりであるから、本件の請求項1~9に係る特許は、いずれも、理由Aにより取り消すべきものである、とはいえない。

(3) 取消理由Bについて

特許異議申立人は、要するに、課題を解決できることが裏付けられているのは、コア部が、コア部100質量部中にスチレン系モノマーに由来する構成単位を70質量部又は80質量部以上含有し、かつ、シェル部が、シェル部100質量部中に疎水基として炭素数4~24の脂肪族アルキル基を有する(メタ)アクリレートに由来する構成単位を10~50質量部含有するコアシェル構造を有するスチレン-アクリル系樹脂エマルジョンを用いた場合のみであると主張するが、本件訂正発明は、上記第3のとおりであって、「シェル部が、シェル部100質量部中に疎水基として炭素数4~24の脂肪族アルキル基を有する(メタ)アクリレートに由来する構成単位を10~50質量部含有する」を満足する。

また、単に実施例による裏付けがなされていないというだけでは、「コア部が、コア部100質量部中にスチレン系モノマーに由来する構成単位を70質量部又は80質量部以上含有」しない態様について、課題を解決することができないものであるとまではいえない。

そうすると、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、本件特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである、とはいえない。

第6 むすび

以上のとおり、本件特許の請求項1~9に係る発明の特許は、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由のいずれによっても、取り消すべきものとすることはできない。また、他に本件請求項1~9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。

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2020-700952

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