特許異議申立
2023-700873
水性フレキソ印刷インキ組成物
- 審判番号
- 2023-700873
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2018-230410
- 登録番号
- 7229744
- 請求日
- 2023年08月25日
- 審決日
- 2025年04月30日
- 公報発行日
- 2025年08月29日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】サカタインクス株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人お茶の水内外特許事務所
- 【権利者代理人】山田 泰之
- 【権利者代理人】長谷部 善太郎
- 【権利者代理人】飯沼 和人
- 【異議申立人】西村 裕之
- 審判長/審判官
- 審判長 瀬下 浩一
- 審判官 光本 美奈子
- 審判官 村守 宏文
- 分類
- P1651.121-YAA(C09D) / P1651.537-YAA(C09D)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法120条の8第1項特許法135条
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5、特許法第120条の5第9項、特許法第29条、特許法第126条第6項、特許法第126条第5項、特許法第120条の5第4項、特許法第126条第7項、特許法第120条の5第2項、特許法第36条、特許法第120条の8第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7229744号発明「水性フレキソ印刷インキ組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7229744号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~6〕について訂正することを認める。
特許第7229744の請求項1、3~6に係る特許を維持する。
特許第7229744の請求項2に係る特許についての特許異議申立てを却下する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本件特許に係る出願は、平成30年12月7日(優先権主張 平成29年12月15日)の出願であって、令和5年2月17日に特許権の設定登録(請求項の数6)がされ、同年同月28日に特許掲載公報が発行された。その後、令和5年8月25日に特許異議申立人である西村 裕之(以下「申立人」という。)により、請求項1~6に係る特許について特許異議の申立てがなされ、その後の経緯の概要は、以下のとおりである。
令和5年12月21日付け:取消理由通知書
令和6年 3月 6日 :訂正請求書及び意見書(特許権者)
同年 4月10日 :意見書(申立人)
同年 9月 4日付け:取消理由通知書(決定の予告)
同年11月 5日 :訂正請求書及び意見書(特許権者)
同年11月22日付け:通知書(申立人宛)
本通知書に対して、申立人からの応答はなかった。
なお、令和6年3月6日の訂正請求書による訂正は、同年11月5日の訂正請求書による訂正により、取り下げられたものとみなされる。
第2 訂正の適否
1 訂正の内容
令和6年3月6日の訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)は、当該訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~6について訂正することを求めるものであって、その内容は以下のとおりである。
(訂正事項1)
特許請求の範囲の請求項1に「顔料分散用樹脂」と記載されているのを、「アルカリ可溶型水溶性樹脂を含む顔料分散用樹脂」に訂正する。
(訂正事項2)
特許請求の範囲の請求項1に「酸価が80~350mgKOH/gのロジン系樹脂エマルジョン及び/又は酸価が80~350mgKOH/gのロジン系樹脂の揮発性塩基性化合物による中和物」と記載されているのを、「酸価が150~250mgKOH/gのロジン系樹脂エマルジョン及び/又は酸価が150~250mgKOH/gのロジン系樹脂の揮発性塩基性化合物による中和物」に訂正する。
(訂正事項3)
特許請求の範囲の請求項1に「含有する水性フレキソ印刷インキ組成物」と記載されているのを、「含有し、紙製食品用容器、又はその材料に印刷するための、水性フレキソ印刷インキ組成物」に訂正する。
(訂正事項4)
特許請求の範囲の請求項2を削除する。
(訂正事項5)
特許請求の範囲の請求項3に「請求項1又は2」と記載されているのを、「請求項1」に訂正する。
(訂正事項6)
特許請求の範囲の請求項4に「請求項1~3のいずれか」と記載されているのを、「請求項1又は3」に訂正する。
(訂正事項7)
特許請求の範囲の請求項5に「請求項1~4」と記載されているのを、「請求項1、3及び4」に訂正する。
(訂正事項8)
特許請求の範囲の請求項6に「請求項1~5」と記載されているのを、「請求項1、3、4及び5」に訂正する。
(訂正事項9)
特許請求の範囲の請求項6に「使用して、フレキソ印刷する」と記載されているのを、「使用して、紙製食品用容器、又はその材料にフレキソ印刷する」に訂正する。
訂正前の請求項1~6について、請求項2~6は請求項1を直接又は間接的に引用するものであり、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。
したがって、訂正前の請求項1~6に対応する訂正後の請求項1~6は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項であって、本件訂正は、一群の請求項ごとにされたものである。
2 訂正の適否の判断
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、訂正前の「顔料分散用樹脂」が「アルカリ可溶型水溶性樹脂を含む」ことを特定することで、特許請求の範囲を減縮しようとするものであるから、特許法第120条の5第項2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
また、訂正事項1は、「顔料分散用樹脂」の物質の構成を明らかにすることで限定したものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。
本件特許明細書段落【0008】には、「顔料分散用樹脂であるアルカリ可溶型水溶性樹脂としては、・・・特に制限なく使用できる。」と記載されているから、訂正事項1は、願書に添付した明細書、又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。
(2)訂正事項2について
訂正事項2は、訂正前の請求項1におけるロジン系樹脂エマルジョン及び/又はロジン系樹脂の酸価「80~350mgKOH/g」を「150~250mgKOH/g」に限定することで、特許請求の範囲を減縮しようとするものであるから、特許法第120条の5第項2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。
また、訂正事項2は、ロジン系樹脂エマルジョン及び/又はロジン系樹脂の酸価の数値範囲を限定したものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。
本件特許明細書段落【0012】の「水溶性ロジン系樹脂エマルジョンの中でも、好ましくは酸価が100~300mgKOH/gであり、・・・より好ましくは150~250mgKOH/gである」との記載、及び「水溶性ロジン系樹脂の中でも、好ましくは酸価が100~300mgKOH/gであり、・・・より好ましくは150~250mgKOH/gである」との記載から、訂正事項2は、願書に添付した明細書、又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。
(3)訂正事項3について
訂正事項3は、訂正前の請求項1における「水性フレキソ印刷インキ組成物」が「紙製容器、又はその材料に印刷するための」ものであることを特定することで、特許法第120条の5第項2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
また、本件明細書の段落【0016】には、「この水性フレキソ印刷インキ組成物を用いた印刷物の製造方法としては、紙や樹脂の表面への印刷、特に、段ボールカートン、紙コップ、紙皿等の紙製容器等の紙器、又は表面が樹脂層で被覆された紙製容器、又はそれらの材料に、上記水性フレキソ印刷インキ組成物を用いてフレキソ印刷機で印刷する方法が例示できる。」及び「このとき、被印刷物としては、表面にラミネートによる樹脂層を有する紙製容器、表面に樹脂コート層等の樹脂層を有する紙製容器、及び表面に樹脂層を有しない未コートの紙製容器の何れでも良い。」と記載されているから、訂正事項3は、願書に添付した明細書、又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてなされたものである。
(4)訂正事項4について
訂正事項4は、訂正前の請求項2を削除するものであるから、特許法第120条の5第項2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的するものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではなく、願書に添付した明細書、又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてなされたものである。
(5)訂正事項5~8について
訂正事項5は、訂正前の請求項3が請求項1又は2の記載を引用する記載であるところ、請求項2を引用しないものとしたものである。訂正事項6は、訂正前の請求項4が請求項1~3のいずれかの記載を引用する記載であるところ、請求項2の削除に伴い請求項2を引用しないものとしたものである。訂正事項7は、訂正前の請求項5が請求項1~4のいずれかの記載を引用する記載であるところ、請求項2の削除に伴い請求項2を引用しないものとしたものである。訂正事項8は、訂正前の請求項6が請求項1~5のいずれかの記載を引用する記載であるところ、訂正事項2の削除により請求項2を引用しないものとしたものである。
したがって、訂正事項5~8はいずれも特許法第120条の5第項2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではなく、願書に添付した明細書、又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてなされたものである。
(6)訂正事項9について
訂正事項9は、訂正前の請求項6における「水性フレキソ印刷インキ組成物を使用して、フレキソ印刷することを特徴とする印刷方法」が、「紙製容器、又はその材料にフレキソ印刷することを特徴とする印刷方法」であることを特定することで、特許法第120条の5第項2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
また、本件明細書の段落【0016】には、「この水性フレキソ印刷インキ組成物を用いた印刷物の製造方法としては、紙や樹脂の表面への印刷、特に、段ボールカートン、紙コップ、紙皿等の紙製容器等の紙器、又は表面が樹脂層で被覆された紙製容器、又はそれらの材料に、上記水性フレキソ印刷インキ組成物を用いてフレキソ印刷機で印刷する方法が例示できる。」及び「このとき、被印刷物としては、表面にラミネートによる樹脂層を有する紙製容器、表面に樹脂コート層等の樹脂層を有する紙製容器、及び表面に樹脂層を有しない未コートの紙製容器の何れでも良い。」と記載されているから、訂正事項9は、願書に添付した明細書、又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてなされたものである。
(7)独立特許要件
本件訂正においては、訂正前の全ての請求項である請求項1~6に対して特許異議の申立てがされているので、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の規定は課されない。
3 訂正についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は同第3号に掲げる特許請求の範囲の減縮または明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1~6〕について訂正することを認める。
第3 本件発明
上記第2のとおり、本件訂正が認められることから、本件特許の請求項1~6に係る発明は、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1~6に記載された以下のとおりのものと認める(以下、請求項の番号に従い、「本件発明1」などといい、まとめて「本件発明」という。また、本件特許の願書に添付された明細書を、「本件明細書」という。)。
【請求項1】
顔料、アルカリ可溶型水溶性樹脂を含む顔料分散用樹脂、酸価が150~250mgKOH/gのロジン系樹脂エマルジョン及び/又は酸価が150~250mg KOH/gのロジン系樹脂の揮発性塩基性化合物による中和物、ガラス転移温度が-30~60℃で酸価が30~80mgKOH/gのスチレン-アクリル系樹脂エマルジョン、水を含有する溶剤を含有し、
紙製食品用容器、又はその材料に印刷するための、水性フレキソ印刷インキ組成物。
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
顔料分散用樹脂が(エチレンオキサイド/プロピレンオキサイド)ブロックポリマーを含有する請求項1に記載の水性フレキソ印刷インキ組成物。
【請求項4】
カーボンニュートラル可能な原材料成分が水性フレキソ印刷インキ組成物中10質量%以上であり、且つロジン系樹脂とスチレン-アクリル系樹脂エマルジョンとの固形分比率が、1:0.8~1:3.5の範囲である請求項1又は3に記載の水性フレキソ印刷インキ組成物。
【請求項5】
平均粒子径が1~10μmのワックス樹脂微粒子分散体を含有する請求項1、3及び4のいずれかに記載の水性フレキソ印刷インキ組成物。
【請求項6】
請求項1、3、4及び5のいずれかに記載の水性フレキソ印刷インキ組成物を使用して、紙製食品用容器、又はその材料にフレキソ印刷することを特徴とする印刷方法。
第4 特許異議の申立ての概要、及び、証拠方法
申立人は、下記2の証拠方法により、下記1を申立ての理由とする特許異議の申立てをしている。以下、申立人の提示した甲第1号証~甲第13号証を「甲1」~「甲13」などともいう。
1 申立ての理由
(1)申立理由1(進歩性)
本件発明1~6は、甲1に記載された発明に周知技術(甲3、甲4、甲8、甲9)を適用することにより当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1~6に係る特許は、同法113条2号に該当する。
(2)申立理由2(進歩性)
本件発明1~6は、甲2に記載された発明に周知技術(甲3、甲4、甲8、甲9)を適用することにより当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1~6に係る特許は、同法113条2号に該当する。
(3)申立理由3(進歩性)
本件発明1~6は、甲3に記載された発明に周知技術(甲1、甲2、甲8、甲9)を適用することにより当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1~6に係る特許は、同法113条2号に該当する。
(4)申立理由4(サポート要件)
本件発明1~3、5及び6は、以下の理由から、本件発明の課題を解決できることを当業者が認識できるように本件明細書の発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように発明の詳細な説明に記載されていないので、本件特許は、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであるから、同法113条4号に該当する。
本件発明1の課題は、「カーボンニュートラル可能な原材料を多く使用した水性フレキソ印刷インキ組成物であっても、塗膜物性、再溶解性、耐結露性、耐ヘキサン性等の物性に優れるフレキソ印刷インキ組成物を提供すること」であるところ(段落【0004】)、本件発明1には、カーボンニュートラル可能な原材料成分の含有量は規定されていないこと、ロジン系樹脂成分が粘着性、接着性、耐水性等を向上させる成分であることに鑑みれば、ロジン系樹脂成分が添加剤程度のごくわずかな量で含まれている場合においても、実施例と同様の効果が奏されることを当業者は推認することができないこと、及び、ロジン系樹脂とスチレン-アクリル系樹脂エマルジョンとの比率が特定されていないから、本件発明1の全ての範囲においてその課題を解決できると推認できないことは明らかである。
2 証拠方法
甲第1号証:特開平5-271595号公報(甲1)
甲第1の1号証:特開2004-339388号公報(甲1の1)
甲第1の2号証:特開2017-106004号公報(甲1の2)
甲第1の3号証:特願2018-230411号の意見書、令和4年10月17日提出(甲1の3)
甲第1の4号証:BASFジャパン株式会社、ニュースリリース、平成18年7月3日、インターネット<https://www.chem-t.com/fax/images/tmp_file1_1151978057.pdf>(甲1の4)
甲第2号証:特許第2554765号公報(甲2)
甲第2の1号証:特開平3-506048号公報(甲2の1)
甲第2の2号証:特開2002-20666号公報(甲2の2)
甲第2の3号証:栢森聡、“無溶剤型アクリル系ポリマーを低コストで製造するUFO技術”、東亞合成研究年報、2000年、第3号、p42-45、インターネット<https://www.toagosei.co.jp/develop/theses/detail/pdf/no03_06.pdf>(甲2の3)
甲第2の4号証:商標出願公告昭53-16229号公報及び商標登録第1375153号登録原簿(甲2の4)
甲第2の5号証:商標登録第4794426号公報及び商標登録第4794426号登録原簿(甲2の5)
甲第3号証:特開2016-204521号公報(甲3)
甲第4号証:特開2016-180061号公報(甲4)
甲第5号証:特開平1-158084号公報(甲5)
甲第6号証:岩佐哲、“ロジンの市場および開発動向”、HARIMA Quarterly、2006年、No.89、p1-7、インターネット<https://www.harima.co.jp/images/uploads/20080425224426_ea7d26277156d53ec7d8aa67962e983b.pdf>(甲6)
甲第7号証:「この10年間の印刷の科学と技術と21世紀への展望 5.フレキソ印刷システム」、日本印刷学会誌、2008年、第45巻、第5号、p397-413(甲7)
甲第8号証:特開2005-154493号公報(甲8)
甲第9号証:特開2017-2222号公報(甲9)
甲第10号証:包装アーカイブス「紙複合容器(液体紙容器)」、日本包装学会誌、2010年、第19巻、第5号、399-404頁(甲10)
甲第11号証:PORULAR SCIENCE「紙の表面とインキとの相互作用」、表面科学、1983年、第4巻、第3号、173-176頁(甲11)
甲第12号証:印刷インキ基礎講座(第IX講)「フレキソインキ」、色材、1988年、第61巻、第4号、243-254頁(甲12)
甲第13号証:「印刷インキ/グラビア・フレキソ印刷用インキ 2.グラビア・フレキソインキの種類と用途」、日本印刷学会誌、2001年、第38巻、第4号、238-246頁(甲13)
また、当審において以下の文献を新たに引用した。
文献A:荒川工業株式会社ホームページ、「製品情報 マレイン酸樹脂[マルキード]、[online]、[令和5年12月5日検索]、インターネット<https://www.arakawachem.co.jp/jp/products/chemicals/03.html>
文献B:特開2013-23220号公報
第5 甲号証等の記載
甲1、甲1の1、甲2、甲2の1、甲2の2、甲2の3、甲3、甲6、甲8、甲13、文献A、及び、文献Bには、以下の事項が記載されている。
以下、下線は合議体による。
1 甲1
「【請求項1】 (a)酸価80~330(KOH mg/g)のロジン変性マレイン酸樹脂のアルカリ中和物および(b)水性バインダー樹脂を、重量比が(a)/(b)=2/98~20/80の範囲で含有することを特徴とするプラスチックフィルム用水性印刷インキ。」
「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、水性印刷インキに関する。さらに詳しくは、各種プラスチックフィルム基材に対して、印刷工程における濡れが良好で、すぐれた接着性、ラミネート加工適性を有する水性印刷インキに関する。
【0002】
【従来の技術】今日、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ナイロン等のプラスチックフィルムが各種の包装材料として多用されており、これらプラスチックフィルムへの印刷は、グラビアあるいはフレキソ印刷方式で行われている。従来、かかる用途に対しては、トルエン、酢酸エチル、イソプロピルアルコール等の有機溶剤を媒体とする溶剤インキが専っぱら用いられてきたが、近年、大気汚染、火災の危険性、作業衛生面等の配慮から、有機溶剤を使用しない水性インキに対する関心が高まりつつある。
【0003】浸透性の紙を被印刷体とする場合、水性インキの乾燥や基材への均一な濡れの問題は少なく、接着性を代表とする各種性能面の確保は比較的容易であり、実用化が進展して来ている。一方、非浸透性のプラスチックフィルムを被印刷体とする場合、水性インキの乾燥性に加えて基材への均一な濡れ及び接着性、更に各種のラミネート加工等の後加工に対する適用性などの諸問題が解決されておらず、実用化は極めて困難なものであった。
【0004】濡れに関しては、水を主たる溶媒とする水性インキは表面張力が高く、包装用に最も汎用的に用いられているコロナ放電処理を施したポリオレフィンフィルム(表面張力36~38dyne/cm)へは、印刷時に表面張力低下作用のあるアルコールを併用しても、十分な濡れは達し得ず、得られる印刷表面のはじきが著しく、均一で滑らかな印刷面を得ることは困難であった。濡れを向上する手段としては、表面張力を低下させる各種の添加剤の導入や使用するアルコール比率の増大が試みられているが、十分な効果を達し得ず、また、アルコール比率の増大は大気汚染上好ましくない。
【0005】また、プラスチックフィルムに印刷する業界においては、近年、小ロット化、品種の多様化が進み、これに対応するため、各種プラスチックフィルムに接着し、多様な用途に適合できるいわゆる汎用インキを用いて、作業効率、経済性の向上が図られており、水性インキといえども、各種基材へ接着させる技術が望まれている。
【0006】プラスチックフィルムへの接着性を向上させる試みとして、特開昭61-19676号公報には、スチレンアクリル系共重合体のアルカリ溶液と特定のガラス転移温度範囲にあるアクリル系エマルジョンを混合し、ロジンエステルを粘着付与剤として水性分散体の形態で添加することにより、各種プラスチック基材への接着性及びラミネート加工適性を付与する水性印刷インキが開示されている。
また、特開平3-7783号公報には、水性のアクリルコポリマー又はポリウレタン類からなるポリマーにロジン成分を含有する水分散体を含有してなる、水性インキ等に使用される組成物が開示されている。
【0007】しかしながら、ロジン等の水性分散体の添加では、各種フィルム基材に対する接着強度が向上したとしても、汎用的に用いられるコロナ放電処理を施されたポリオレフィンフィルムへの濡れは全く改善されておらず、平滑な印刷面が得られないという欠点があった。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】本発明者らは、かかる問題を解決すべく鋭意研究を行った結果、酸価80~330(KOH mg/g)のロジン変性マレイン酸樹脂をアルカリで中和し、水又は水/アルコール混合溶媒で均一に溶解された状態で、かつ、特定の配合比で印刷インキに含有させることにより、処理されたポリオレフィンへの接着性、ラミネート強度を向上すると同時に、印刷インキの表面張力を著しく低下させ、表面張力の低い処理されたポリオレフィンフィルムの濡れを向上させる作用をもつことを見い出し、本発明に至った。
【0009】
【課題を解決するための手段】すなわち、本発明は、(a)酸価80~330(KOH mg/g)のロジン変性マレイン酸樹脂のアルカリ中和物および(b)水性バインダー樹脂を、重量比が(a)/(b)=2/98~20/80の範囲で含有することを特徴とするプラスチックフィルム用水性印刷インキを提供する。」
「【0011】ロジン変性マレイン酸樹脂の酸価は80~330(KOH mg/g)の範囲のものが使用できるが、100~300(KOH mg/g) がより好ましい。酸価が80(KOH mg/g)未満の場合、そのアルカリ中和物の水溶性が不十分であり、低表面張力のプラスチック基材への濡れが不十分となる。また、酸価が 330(KOH mg/g)を越えると親水性が強すぎるため、得られるインキ皮膜の耐水性が著しく低下し、実用上問題となる。
【0012】ロジン変性マレイン酸樹脂の中和に用いるアルカリは、中和され水又は水/アルコールの混合溶剤で均一に溶解できるものであれば制限はなく、アンモニア、有機アミン、無機アルカリ等が挙げられるが、アンモニア又は揮発性有機アミンの使用がインキ組成物の乾燥皮膜の耐水性を保持する上で好ましい。
【0013】水性バインダー樹脂(b)は水溶性又は水分散性の樹脂で、例えば(メタ)アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマール酸、クロトン酸などの重合性不飽和カルボン酸又はそれらの無水物と、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピルなどの(メタ)アクリル酸エステル類、(メタ)アクリルアミド、アクリロニトリルなどの(メタ)アクリル酸以外の(メタ)アクリル系モノマー及び必要に応じてα-メチルスチレン、酢酸ビニルなどを乳化重合、溶液重合、塊状重合などの重合法により共重合させて得られるアクリル系樹脂、ポリウレタン樹脂、カルボキシル基及び又はスルホン酸金属塩基を含有するポリエステル樹脂、シェラック樹脂、ポリアミド樹脂及びそれらの変性物などで、ロジン変性マレイン酸樹脂と相溶し、安定な水性印刷インキを製造し得るものであればよく、単独又は混合して用いることができる。
【0014】水性印刷インキ中のロジン変性マレイン酸樹脂のアルカリ中和物(a)および水性バインダー樹脂(b)の重量比は、(a)/(b)=2/98~20/80の範囲であり、好ましくは(a)/(b)=5/95~15/85である。(a)/(b)= 2/98未満の場合、36dyne/cm程度の弱処理を施されたポリオレフィンフィルムに対して濡れが不十分で、均一で平滑な印刷面が形成できなくなると共に、接着性、ラミネート加工に供した場合のラミネート強度が不十分となる。(a)/(b)=20/80を越えると、36dyne/cm程度の弱処理を施されたポリオレフィンフィルムに対しても濡れ及び接着性は向上するものの、乾燥したインキ皮膜の凝集力が低下するためラミネート加工物のラミネート強度が弱く、更に乾燥皮膜の耐水性も低下し好ましくない。
【0015】印刷インキには、着色剤として一般の無機及び有機顔料が使用でき、例えば溶性及び不溶性アゾ系、フタロシアニン系、ナフトール系等の有機顔料、酸化チタン、カーボンブラック、弁柄、炭酸カルシウム、硫酸バリウム等の無機顔料が挙げられる。また、溶剤としては水が用いられるが、アルコール類、好ましくはエチルアルコール、イソプロピルアルコール、ノルマルプロピルアルコール等の低級アルコールを併用しても良い。その他、耐摩剤としてワックス類、消泡剤、分散剤等を使用しても良い。
【0016】印刷インキは、通常グラビア、フレキソ用印刷インキの製造時に使用されるアトライター、サンドミル、高速撹拌機等を使用して練肉し、所定の粘度になる様調整を行うことにより、製造される。得られた印刷インキは、印刷時に適正粘度になるまで水で希釈して、プラスチックフィルムに印刷される。なお、希釈剤として乾燥調整の目的で、必要に応じてアルコール類と水を混合して使用することができる。」
「【0017】
【実施例】以下、実施例により本発明を説明する。例中、部とは重量部を、%とは重量%をそれぞれ表わす。表1に示した組成の混合物 100部をボールミルで24時間混練し、水性印刷インキを調整した。原料の内容は表2に纏める。
【0018】
【表1】
[図:0001425705000001.jpg]
【0019】
【表2】
[図:0001425705000002.jpg]
」
「【0026】
【発明の効果】本発明により、各種プラスチックフィルムに対して濡れが良く、且つ接着性、ラミネート加工を施した場合のラミネート強度にすぐれた水性印刷インキを提供できるようになった。」
2 甲1の1
「【0047】
表中、タイペークR-820は石原産業製二酸化チタン顔料(Al,Si,Zn処理)、タイピュアR-902はデュポン製二酸化チタン顔料(Al,Si処理)、
SA-100は竹原化学工業製炭酸カルシウム、
サイリシア435は富士シリシア製シリカ、
ジョンクリル74Jはジョンソンポリマー製スチレン/アクリル系水性エマルジョン樹脂(固形分45%、Tg22℃、酸価51)、
ジョンクリル7100はジョンソンポリマー製スチレン/アクリル系水性エマルジョン樹脂(固形分48%、Tg-10℃、酸価51)、
ジョンクリル61Jはジョンソンポリマー製スチレン/アクリル系水溶性樹脂(アンモニア中和、固形分30.5%)、
ケミパールW-300は三井化学製ポリエチレンワックスディスパージョン(固形分40%)、
デモールPは花王製アニオン活性剤、である。」
3 甲2
「【請求項1】a) 1種又は2種以上のアクリルコポリマー類および/又は1種又は2種以上のポリウレタン類を含み、且つ10℃以下のガラス転移温度を有するポリマー成分;および
b) ロジン、不均化したロジン、水素化したロジン、強化ロジン、エステル化したロジン、フェノール樹脂変性ロジンおよびアクリル変性ロジンからなる群から選ばれたロジン成分を含むロジン又はロジン誘導体分散体;
を含む水性分散体を含有してなり;
該ロジン又はロジン誘導体分散体は、界面活性剤と、有機又は無機塩基により該ロジン成分の酸性度の一部を中和することにより形成された石鹸とを含み、
且つ実質上タンパク質成分を含まないものであり;さらに該ポリマー成分と該ロジン成分との比が75:25~30:70である水性インク組成物に使用するための組成物。
・・・
【請求項11】組成物の10重量%までの量のワックスエマルジョンを含有する請求項1ないし10のいずれか1項に記載の組成物。
・・・
【請求項15】請求項1ないし14のいずれか1項に記載の組成物を含有してなる、着色した又は着色していないインク。
・・・
【請求項21】インクの10~20重量%の量の顔料を含有する、請求項15ないし20のいずれか1項に記載のインク。」
「[産業上の利用分野]
本発明は、水性化学組成物に関するものであり、特にフレキソ印刷、グラビア印刷、また他の特殊印刷およびオーバープリントの工程に使用されるような水性インク類およびワニス類に関するものである。」(第2頁第3欄第45~49行)
「[課題を解決するための方法]
非常に望ましく且つ有用な範囲の特性をもつ改善された水性化学組成物は、有機ポリマー型水性組成物のためのエキステンダーとしてロジンおよび/又はロジンの誘導体類を使用することにより製造できることを、現在発見した。従って本発明は、比較的高価なこのような組成物に用いられる有機ポリマー類のかなりの割合を取り替えることによって、既知の溶剤型組成物の特性に比べて、より好ましく又は同様に改善し、有機溶剤の不利益な影響を実質上減少させ、且つ顕著にコストを減少させるが、いかなる性質の特性および標準を低下する原因をあたえることなく、有機フレキソ且つグラビア工程のような特殊用途のためのインク類として著しく有用である組成物を提供するものである。」(第2頁第4欄第27~40行)
「該組成物は通常、前述の2つの成分の各水性分散体、例えばそれぞれおよそ50重量%の固体含量から形成されるであろう。」(第3頁第5欄第5~7行)
「一般的に、本発明による水性組成物に使用される該ロジン成分は、ロジンおよびロジン誘導体のすべての型を包含することができる。
ロジンは、自然に松の木の含油樹脂に存在する固体樹脂質である。」(第3頁第5欄第11~15行)
「本発明の組成物は、好ましくは重量比で該組成物の10%までの量のワックスエマルジョンを有利に含有するのがよい。この方法におけるワックスエマルジョンの含有は、擦り傷抵抗のような特性を改善することができる。」(第3頁第6欄第21~24行)
「[作用]
本発明の該組成物は、フレキソ印刷工程の用途のためのインク類の配合物としての用途にとって適当であり好ましいものである。しかしまた他のインク類の配合物としての用途、例えばグラビア印刷工程では印刷方法および装置が全く異なり、フレキソ印刷とは全く異なる特質を持つインク類の使用を必要とするが、そのような異なるインクの配合にも適した組成物を提供することができる。 フレキソ印刷のインク類の配合物として使用するための適切な組成物は有利に、10℃より高くない、好ましくは0℃より高くない、さらに好ましくは-10℃より高くないガラス転移温度(Tg)を持つアクリルコポリマー類を包含する。代表的なコポリマー類は-20~10℃の範囲のTg値を持つ。」(第3頁第6欄第32~46行)
「本発明の該組成物は、また適切な有機又は無機顔料および水の含有により、ワニス類および印刷インク類の配合物として使用することができる。」(第4頁第7欄第21~23行)
「本発明の組成物の配合したインク類は、・・・例えば処理したまたは無処理のポリエチレン、ポリプロピレン、マイラー、且つグラフ用紙およびアート紙を含む様々な紙類を含んだ幅広い範囲で使用することができる。」(第4頁7欄下から6~最終行)
「以下の続く実施例において、量の数値は重量部で与えている。各組成物は、ポリマーエマルジョン類又は溶液を含有してなり、且つロジン又はロジン誘導体分散体をいずれも水性物で含有し、該組成物は、アミン、水および溶剤も含有する ことができる。該ポリマーエマルジョン類、溶液類およびロジン又はロジン誘導体の分散体はそれぞれ実質上50重量%の固体含量を持ち、且つそれぞれ2重量%以下および5重量%以下の界面活性剤含量を持つ。表-1では簡単にするために、実施例において商業的に入手できる成分類は文字どおりに示した;製品名が登録商標のものには*を記した。
[図:0001425705000003.jpg]
[図:0001425705000004.jpg]
[図:0001425705000005.jpg]
[図:0001425705000006.jpg]
[図:0001425705000007.jpg]
以下に記す以外は、本発明を説明する実施例1~108の上述の配合を作成し、それらをプラスチックシート類に適用することにより、得られたフィルムは、満足又はより良い結果であった。」(第4頁第8欄第26行~第6頁第11欄第49行)
4 甲2の1
「下記の表1に市販されているある種のアクリルポリマーエマルジョン(固体又はフレークであるJoncryl 67を除く)及びそれらの性質を記載する。商品名「Joncryl 」を有するアクリルポリマーは、S.C.Johnson and Sons,Inc., Racine, Wisconsin 43403;U.S.A.から入手でき、商品名Vancrylを有するアクリルポリマーはVantageから入手できる。
[図:0001425705000008.jpg]
」(第7頁右上欄第22行~左下欄第3行、表1)
5 甲2の2
「【0016】本発明の結合剤は、特に問わないが、アクリル酸、アクリル酸エステル類、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n-ブチル、アクリロニトリル、アクリルアミド、メタクリル酸、メタクリル酸エステル類、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリルアミド、メタクリロニトリル、およびこれらの誘導体を含む、アクリル酸又はメタクリル酸モノマーから誘導されるアクリル樹脂を含む。アクリル樹脂結合剤はまた、特に問わないが、スチレン、スチレン誘導体、ブタジエン、N-ビニルピロリドン、酢酸ビニル、およびこれらの誘導体を含む、ビニルモノマーのような他のモノマーを含んでもよい。好適なアクリル樹脂は、SCジョンソンポリマー(SC Johnson Polymer)から市販されているジョンクリル(Joncryl)(登録商標)樹脂のようなスチレンアクリル樹脂を含む。」
6 甲2の3
「
[図:0001425705000009.jpg]
」(第42頁左欄下から第8~5行)
7 甲3
「【請求項1】
顔料、顔料分散用樹脂、スチレン-アクリル系樹脂エマルジョン、レオロジーコントロール剤、水性媒体を含有する水性フレキソ印刷インキ組成物であって、水性フレキソ印刷インキ組成物中の顔料の含有量が5~60質量%であり、レオロジーコントロール剤が、重量平均分子量209万~200万のカルボキシルメチルセルロースであり、該カルボキシルメチルセルロースの水性フレキソ印刷インキ組成物中の含有量が0.01~2.0質量%であることを特徴とする水性フレキソ印刷インキ組成物。
【請求項2】
顔料分散用樹脂がアルカリ可溶型水溶性樹脂を含有することを特徴とする請求項1に記載の水性フレキソ印刷インキ組成物。
【請求項3】
顔料分散用樹脂が(エチレンオキサイド/プロピレンオキサイド)ブロックポリマーを含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の水性フレキソ印刷インキ組成物。」
「【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載の水性フレキソ印刷インキ組成物を使用して、フレキソ印刷することを特徴とする印刷方法。」
「【0002】
生活用品や産業資材等の段ボールを中心とした包装容器の印刷分野においては、水性フレキソ凸版印刷が行われているが、近年、内容物に対して高級なイメージ等を持たせるために高い美粧性が要求されるため、高精細でかつ高品質な印刷物が求められるようになっている。」
「【0007】
以下、本発明の水性フレキソ印刷インキ組成物について詳細に説明する。
(顔料) 本発明の水性フレキソ印刷インキ組成物に使用される顔料としては、従来から水性フレキソ印刷インキで使用されているものを使用できる。具体的には、無機顔料として、酸化チタン、ベンガラ、アンチモンレッド、カドミニウムイエロー、コバルトブルー、紺青、群青、カーボンブラック、黒鉛等の有色顔料を挙げることができる。また、有機顔料として、溶性アゾ顔料、不溶性アゾ顔料、アゾレーキ顔料、縮合アゾ顔料、銅フタロシアニン顔料、縮合多環顔料等を挙げることができる。上記顔料は、1種でも2種以上でも用いることができる。
上記顔料の水性フレキソ印刷インキ組成物中での含有量は5~60質量%であり、通常有機顔料の場合は、6~35質量%、無機顔料の場合は、30~60質量%である。
【0008】
(顔料分散用樹脂)
本発明の水性フレキソ印刷インキ組成物で使用する顔料分散用樹脂としては、アルカリ可溶型水溶性樹脂であり、さらに、(エチレンオキサイド/プロピレンオキサイド)ブロックポリマーを併用して使用することが好ましい。」
「【0024】
実施例1~11、比較例1及び2
(濃縮水性フレキソ印刷インキ組成物)
顔料(フタロシアニンブルー、C.I.ピグメントブルー15:3)、アルカリ可溶型水溶性樹脂(ジョンクリルHPD-671、ジョンソンポリマー社製、固形分25%)、ポリ(エチレンオキサイド/プロピレンオキサイド)ブロックポリマー(ポリ(EO/PO)ブロックポリマー、HLB値14、Mw16000)、ジブチルグリコール、水の混合物をビーズミルで混練後、スチレン-アク リル系樹脂エマルジョン(ジョンクリル7610、ジョンソンポリマー社製、固形分52%)、レオロジーコントロール剤(カルボキシルメチルセルロース)、会合型のレオロジーコントロール剤(SNシックナー 623N、固形分30%)、体質顔料(一次粒子径0.1μmの重炭酸カルシウムを75%含有しているスラリー)、シリカ(富士デビソン社製、平均粒子径5μm)、造膜エマルジョン(ジョンクリル390、ジョンソンポリマー社製、ガラス転移温度2℃、固形分46%)、消泡剤(SN デフォーマー 777 ♯C、サンノプコ社製)を表1の割合となるように加え混合して、実施例1~11、比較例1及び2の濃縮水性フレキソ印刷インキ組成物を得た。」
8 甲6
「
[図:0001425705000010.jpg]
」(第1頁第8~11行)
「
[図:0001425705000011.jpg]
」(第6頁第12~14行)
9 甲8
「【請求項1】
融点が110~130℃のポリエチレンワックス(A)を、長鎖脂肪族1級アルコールにエチレンオキシドを付加重合した分子量が700~2400の界面活性剤(B)の存在下に水中に分散してなる水性インキ用添加剤。」
「【請求項5】
ポリエチレンワックス(A)の分散粒子の平均粒子径が0.5~10μmである請求項1ないし4いずれか記載の添加剤。
・・・
【請求項7】
請求項1ないし6記載の水性インキ用添加剤を水性インキに添加してなる水性インキ。
・・・
【0012】
本発明の水性インキ用添加剤は良好な耐摩擦性を付与しつつ、光沢低下が少なく適度なスベリ性の水性インキを提供できるようになった。」
「【0021】
また、本発明において得られる水性インキ用添加剤はポリエチレンワックス(A)の分散粒子の平均粒子径が0.5~10μmであることが好ましく、2~3μmであることが更に好ましい。粒子径が小さいと光沢が良好となるが耐摩擦性が劣る傾向にあり、また極度に滑りにくくなる。反対に平均粒子径が大きくなると耐摩擦性が良好となるが光沢低下及び滑りすぎが生じる。ここでの平均粒子径はレーザー回折/散乱式粒度分布測定装置により測定したメジアン径である。」
10 甲13
「(2)水性型フレキソインキ
水性型フレキソインキは段ボール印刷をはじめとした紙への印刷を主体に汎用されている。
・・・
一般的にはカルボキシルをはじめとしたアニオン性基を有する樹脂は、アンモニアのような塩基性(アルカリ)中和剤で中和し、樹脂塩とすることで水溶化を助長することで、親水性基の量を必要最小限に抑え、乾燥後は中和剤が樹脂から離脱することで、耐水性の低下を抑制するような使用が通例である。」(30頁左欄下から2行~右欄下から3行)
11 文献A
「
[図:0001425705000012.jpg]
[図:0001425705000013.jpg]
[図:0001425705000014.jpg]
」
12 文献B
「【0021】
1.ワニスaの製造 スチレン/アクリル共重合体樹脂a(ジョンクリル74、BASF社製)82.6部、水15部、ワックス(PE系)2部、消泡剤0.4部を混合し、ワニスaを製造した。
2.鱗片状アルミニウム含有水性インキの製造
鱗片状アルミニウム、スチレン/アクリル共重合体樹脂b、ワニスaを表1に示す比率で混合し、A、B、C三種類の水性インキを得た。」
第6 取消理由及び取消理由(決定の予告)の概要
1 取消理由1(甲1を主引用例とする進歩性)(申立理由1に対応)
令和6年3月6日にされた訂正請求により訂正された本件訂正発明1~6は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1に記載された発明、並びに、甲1、甲3、甲8に記載された技術事項及び周知技術に基いて、本件特許出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1~6に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものであり、同法113条2号に該当する。
2 取消理由2(甲2を主引用例とする進歩性)(申立理由2に対応)
令和6年3月6日にされた訂正請求により訂正された本件訂正発明1~6は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲2に記載された発明、並びに、甲1~甲3、甲8に記載された技術事項及び周知技術に基いて、本件特許出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1~6に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものであり、同法113条2号に該当する。
第7 取消理由及び取消理由(決定の予告)についての当審における判断
1 取消理由1(甲1を主引用例とする進歩性)について
取消理由1は、申立理由1及び令和5年12月21日付け取消理由通知において通知された取消理由(甲1を主引用例とする場合について)に相当するものである。
(1)甲1に記載された発明
前記第5 1のとおり、甲1の段落【0001】には、「本発明は、水性印刷インキに関する」ものであることが記載されている。そして、同段落【0016】には、「得られた印刷インキは、印刷時に適正粘度になるまで水で希釈して、プラスチックフィルムに印刷される」と記載されている。また、甲1の段落【0017】~【0019】には、水性印刷インキの実施例1として、「顔料としてフタロシアニン系ブルー顔料(東洋インキ製造(株)製、LIONOL BLUE KLH)10重量部、水性樹脂としてスチレンアクリル系エマルジョン樹脂(固形分50%)(ジョンソンポリマー(株)製、ジョンクリル74J)70重量部、ロジン変性マレイン酸溶液としてロジン変性マレイン酸のアンモニア中和水溶液(酸価300KOHmg/g)(固形分30%)(荒川化学工業(株)製、マルキード33水溶液)10重量部、水9.5重量部、消泡剤としてシリコンオイル10%溶液(有効成分10%)(東芝シリコーン(株)製、TSF4460溶液)0.5重量部」の「組成の混合物 100部をボールミルで24時間混練し、水性印刷インキを調整した」ことが記載されている。
すると、甲1には次の発明(以下「甲1A発明」、「甲1B発明」という。)が記載されていると認められる。
(甲1A発明)
「顔料としてフタロシアニン系ブルー顔料(東洋インキ製造(株)製、LIONOL BLUE KLH)10重量部、水性樹脂としてスチレンアクリル系エマルジョン樹脂(固形分50%)(ジョンソンポリマー(株)製、ジョンクリル74J)70重量部、ロジン変性マレイン酸溶液としてロジン変性マレイン酸のアンモニア中和水溶液(酸価300KOHmg/g)(固形分30%)(荒川化学工業(株)製、マルキード33水溶液)10重量部、水9.5重量部、消泡剤としてシリコンオイル10%溶液(有効成分10%)(東芝シリコーン(株)製、TSF4460溶液)0.5重量部を混練して得られる水性印刷インキ。」
(甲1B発明)
「甲1A発明の印刷インキを印刷時に適正粘度となるまで水で希釈してプラスチックフィルムに印刷する印刷方法。」
(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1A発明を対比すると、甲1A発明の「顔料としてフタロシアニン系ブルー顔料」、「ロジン変性マレイン酸溶液としてロジン変性マレイン酸のアンモニア中和水溶液」及び「水」はそれぞれ、本件発明1の「顔料」、「ロジン系樹脂の揮発性塩基性化合物による中和物」及び「水を含有する溶剤」に相当する。
甲1A発明の「水性樹脂としてスチレンアクリル系エマルジョン樹脂(ジョンソンポリマー(株)製、ジョンクリル74J)」は、甲1の1の段落【0047】の「ジョンクリル74Jはジョンソンポリマー製スチレン/アクリル系水性エマルジョン樹脂(固形分45%、Tg22℃、酸価51)」との記載から、ガラス転移温度であるTgが「22℃」で酸価が「51」であるから、本件発明1の「スチレン-アクリル系樹脂エマルジョン」の「ガラス転移温度が-30~60℃で酸価が30~80mgKOH/g」に相当する。
そして、甲1A発明の「水性印刷インキ」と本件発明1の水性フレキソ印刷インキ組成物」は、「水性印刷インキ組成物」の点で共通する。
すると、本件発明1と甲1A発明の一致点及び相違点は、次のとおりである。
<一致点>
「顔料、ロジン系樹脂エマルジョン及び/又はロジン系樹脂の揮発性塩基性化合物による中和物、ガラス転移温度が-30~60℃で酸価が30~80mgKOH/gのスチレン-アクリル系樹脂エマルジョン、水を含有する溶剤を含有する水性印刷インキ組成物。」
<相違点1-1>
本件発明1は、水性印刷インキ組成物が「アルカリ可溶型水溶性樹脂を含む顔料分散用樹脂」を含有することを特定しているのに対し、甲1A発明は「顔料分散用樹脂」を含有することを特定していない点。
<相違点1-2>
本件発明1は、水性印刷インキ組成物が「紙製容器、又はその材料に印刷するための、水性フレキソ印刷インキ組成物」であるのに対し、甲1A発明ではその点が特定されていない点。
<相違点1-3>
本件発明1は、水性印刷インキ組成物が「酸価が150~250mgKOH/gのロジン系樹脂エマルジョン及び/又は酸価が150~250mgKOH/gのロジン系樹脂の揮発性塩基性化合物による中和物」を含有しているのに対し、甲1A発明では「ロジン変性マレイン酸溶液としてロジン変性マレイン酸のアンモニア中和水溶液(酸価300KOHmg/g)」を含有している点。
イ 検討
(ア)事案に鑑み、はじめに相違点1-3について検討する。
甲1は、プラスチックフィルム基材に対して、印刷工程における濡れが良好で、すぐれた接着性、ラミネート加工適性を有する水性印刷インキに関するものであり(【0001】)、プラスチックフィルム用水性印刷インキに「酸価80~330(KOH mg/g)のロジン変性マレイン酸樹脂のアルカリ中和物」を含有させること(請求項1等)で、プラスチック基材への濡れを改善したり、インキ皮膜の耐水性を上げたりすることが示唆されている(段落【0011】)。しかしながら、その中でも酸価が樹脂の酸価を「150~250mgKOH/g」の範囲であることが好ましい等の記載はなされておらず、実施例(表2)として、酸価が300mgKOH/g又は100mgKOH/gであるロジン変性マレイン酸溶液を用いた例が記載されているにすぎず、インキを紙製食品用容器への印刷に使用することや、耐ヘキサン性等に関する記載はなされていない。
そうしてみると、甲1の記載に接した当業者が、甲1A発明の「水性印刷インキ」のロジン変性マレイン酸樹脂の酸価を、上記実施例の数値の範囲外である「150~250mgKOH/g」という特定の範囲とすることを積極的に動機付けられたとはいえない。
また、甲3には、「顔料、顔料分散用樹脂、スチレン-アクリル系樹脂エマルジョン、レオロジーコントロール剤、水性媒体を含有する水性フレキソ印刷インキ組成物」が開示され(請求項1)、「本発明の水性フレキソ印刷インキ組成物で使用する顔料分散用樹脂としては、アルカリ可溶型水溶性樹脂であり、さらに、(エチレンオキサイド/プロピレンオキサイド)ブロックポリマーを併用して使用することが好ましい」と記載されている(段落【0008】)が、甲3も、「酸価が150~250mgKOH/gのロジン系樹脂エマルジョン及び/又は酸価が150~250mgKOH/gのロジン系樹脂の揮発性塩基性化合物による中和物」を含有させることを記載ないし示唆するものではない。甲8には「ポリエチレンワックスを界面活性剤の存在下に水中に分散してなる水性インキ用添加剤を、水性インキに加してなる水性インキ」が開示されているにとどまり、「酸価が150~250mgKOH/gのロジン系樹脂エマルジョン及び/又は酸価が150~250mgKOH/gのロジン系樹脂の揮発性塩基性化合物による中和物」を配合することをうかがわせる記載はない。
このように、甲3及び甲8も、甲1A発明の「水性印刷インキ」のロジン変性マレイン酸樹脂の酸価を「150~250mgKOH/g」とすることを記載ないし示唆するものではない。
(イ)効果について
本件発明1は、「紙製食品用容器、又はその材料に印刷するための」水性フレキソインキ組成物に係る発明であり、「酸価が150~250mgKOH/gのロジン系樹脂エマルジョン及び/又は酸価が150~250mgKOH/gのロジン系樹脂の揮発性塩基性化合物による中和物」を含むとの特定事項を満たす実施例3~6及び8~10では、酸価が100又は130である実施例1、2に比べて塗膜の耐ヘキサン性が高まり、酸価が300である実施例7に比べて塗膜の耐アルコール耐摩性(表2:○△評価、表3:○△評価)及び耐水耐摩性(表2:〇評価、表3:○△評価)が高まることが開示されている。
これらの効果は、「紙製食品用容器に印刷する」ために好適な物性(耐結露性や耐ヘキサン性を含む各種物性)について開示のない甲1、甲3及び甲8から予測しえたものとはいえない。
(ウ)小括
以上のとおりであるから、その余の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1に記載された発明、並びに、甲1、甲3、甲8に記載された技術事項及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3) 本件発明3~5について
本件発明3~5は、本件発明1の引用形式等で記載されるものであり、本件発明1にさらに特定事項を付加するものであるから、前記(2)と同様の理由から、本件発明3~5は、甲1に記載された発明、並びに、甲1、甲3及び甲8に記載された技術事項及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(4) 本件発明6について
ア 対比
本件発明6と甲1B発明を対比すると、甲1B発明の「印刷インキを印刷時に適正粘度となるまで水で希釈してプラスチックフィルムに印刷する印刷方法」は、本件発明6の「水性印刷インキ組成物を使用して、印刷することを特徴とする印刷方法」に相当する。
すると、本件発明6と甲1B発明は、上記<相違点1-1>及び<相違点1-3>の点に加え、以下の点で相違する。
<相違点1-2’>
本件発明6では、「水性フレキソ印刷インキ組成物を使用して、紙製容器、又はその材料にフレキソ印刷する」のに対し、甲1B発明ではその点が特定されていない点。
イ 検討
相違点1-3について前記(2)で検討したとおりの理由から、本件発明6は、甲1に記載された発明、並びに、甲1、甲3、甲8に記載された技術事項及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
2 取消理由2(甲2を主とする進歩性)について
取消理由2は、申立理由2及び令和5年12月21日付け取消理由通知において通知された取消理由(甲2を主引用例とする場合について)に相当するものである。
(1)甲2に記載された発明
前記第5 3のとおり、甲2の第2頁第3欄第46行には、「本発明は、水性化学組成物に関するもの」であることが記載され、同第4頁第7欄第21~23行には、「本発明の該組成物は、また適切な有機又は無機顔料および水の含有により、ワニス類および印刷インク類の配合物として使用することができる」ことが記載されている。そして、同第3頁第6欄第33~35行には、「本発明の該組成物は、フレキソ印刷工程の用途のためのインク類の配合物としての用途にとって適当であり好ましいものである」ことが記載されている。また、甲2の第4頁第8欄第26行~第6頁第11欄第49行には、印刷インク類の配合物の実施例74として、「ポリマーとしてアクリルバインダー(スペシャルティー・ケミカル提供、ジョンクリル74)9重量部、ロジンとしてロジン分散体(アルブライト・アンド・ウイルソン提供、インクタック103)3重量部、乾燥剤としてイソプロピルアルコール2重量部、ビヒクルとして水3重量部、有機顔料としてフタロシアニンブルー3重量部」を配合した組成物が記載されている。
すると、甲2には次の発明(以下「甲2A発明」、「甲2B発明」という。)が記載されているものと認められる。
(甲2A発明)
「ポリマーとしてアクリルバインダー(スペシャルティー・ケミカル提供、ジョンクリル74)9重量部、ロジンとしてロジン分散体(アルブライト・アンド・ウイルソン提供、インクタック103)3重量部、乾燥剤としてイソプロピルアルコール2重量部、ビヒクルとして水3重量部、有機顔料としてフタロシアニンブルー3重量部を配合した水性化学組成物であって、フレキソ印刷工程の用途のための印刷インク類の配合物として用いる水性化学組成物。」
(甲2B発明)
「甲2A発明の水性化学組成物を印刷インク類の配合物としてフレキソ印刷工程に用いる印刷方法。」
(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲2A発明を対比すると、甲2A発明の「有機顔料としてフタロシアニンブルー」、「ロジンとしてロジン分散体」、「ビヒクルとして水」はそれぞれ、本件発明1の「顔料」、「ロジン系樹脂エマルジョン」、「水を含有する溶剤」に相当する。
甲2A発明の「ポリマーとしてアクリルバインダー(スペシャルティー・ケミカル提供、ジョンクリル74)」について、甲2の1の表1(前記第5 4参照。)にはジョンクリル74が酸価50、ガラス転移温度-16℃のアクリルエマルジョンであることが記載されている。ここで、甲2の1の表1では「ジョンクリル74」の種類が「アクリルエマルジョン」と表記されているが、甲2の2(前記第5 5参照。)の段落【0016】には「SCジョンソンポリマー(SC Johnson Polymer)から市販されているジョンクリル(Joncryl)(登録商標)樹脂のようなスチレンアクリル樹脂」と記載されており、甲2の3(前記第5 6参照。)の第42頁2.1には「米国S.C.Johnson Polymer(以下SCJP社)は無溶剤型スチレン/アクリル系ポリマーの工業化に成功した。その製造技術をSGO(Solid Grade Oligomer)技術と名付け、商品群「Joncryl」として全世界へ販売している」と記載されていることから、商品群「ジョンクリル」はスチレン-アクリル系樹脂であるといえ、さらに、文献B(上記第5 15参照。)の段落【0021】には「スチレン/アクリル共重合体樹脂a(ジョンクリル74、BASF社製)」旨記載されていることから、ジョンクリル74はスチレン-アクリル系樹脂エマルジョンであるといえる。
そうすると、甲2A発明の「ポリマーとしてのアクリルバインダー(スペシャルティー・ケミカル提供、ジョンクリル74)」は、本件発明1の「ガラス転移温度が-30~60℃で酸価が30~80mgKOH/gのスチレン-アクリル系樹脂エマルジョン」に相当する。
そして、甲2A発明の「水性化学組成物」は、「フレキソ印刷工程の用途のための印刷インク類の配合物として用い」られることから、本件発明1の水性フレキソ印刷インキ組成物」に相当する。
すると、本件発明1と甲2A発明の一致点及び相違点は、次のとおりである。
<一致点>
「顔料、ロジン系樹脂エマルジョン及び/又はロジン系樹脂の揮発性塩基性化合物による中和物、ガラス転移温度が-30~60℃で酸価が30~80mgKOH/gのスチレン-アクリル系樹脂エマルジョン、水を含有する溶剤を含有する水性フレキソ印刷インキ組成物。」
<相違点2-1>
本件発明1は、水性フレキソ印刷インキ組成物が「アルカリ可溶型水溶性樹脂を含む顔料分散用樹脂」を含有しているのに対し、甲2A発明は「顔料分散用樹脂」を含有していない点。
<相違点2-2>
本件訂正発明1では、水性印刷インキ組成物が「紙製容器、又はその材料に印刷するための」ものであるのに対し、甲2A発明ではその点が特定されていない点。
<相違点2-3>
本件発明1では、ロジン系樹脂エマルジョンの「酸価が150~250mgKOH/g」であるのに対し、甲2A発明のロジン分散体の酸価が明示されていない点。
イ 検討
事案に鑑み、はじめに相違点2-3について検討する。
甲2A発明はロジン分散体の酸価を明示するものではないところ、甲1、甲3及び甲8はいずれも、「酸価が150~250mgKOH/gのロジン系樹脂エマルジョン及び/又は酸価が150~250mgKOH/gのロジン系樹脂の揮発性塩基性化合物による中和物」を配合することを記載ないし示唆するものではないこと、並びに、本件発明1の効果は、本件発明1の構成により奏される効果として当業者が予測しえたものとはいえないことは、前記1(1)で検討したとおりである。
したがって、本件発明1は、甲2に記載された発明、並びに、甲1~3、8に記載された技術事項及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3) 本件発明3~5について
本件発明3~5は、本件発明1の引用形式等で記載されるものであり、本件発明1にさらに特定事項を付加するものであるから、前記(2)と同様の理由から、本件発明3~5は、甲2に記載された発明、並びに、甲1~3、8に記載された技術事項及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(4) 本件発明6について
ア 対比
本件発明6と甲2B発明を対比すると、甲2B発明の「水性化学組成物を印刷インク類の配合物としてフレキソ印刷工程に用いる印刷方法」は、本件発明6の「水性フレキソ印刷インキ組成物を使用して、フレキソ印刷することを特徴とする印刷方法」に相当する。
すると、本件発明6と甲2B発明は、上記<相違点2-1>及び<相違点2-3>に加え、以下の点で相違する。
<相違点2-2’>
本件発明6では、「紙製容器、又はその材料にフレキソ印刷する」のに対し、甲2B発明ではその点が特定されていない点。
イ 検討
相違点2-3について前記(2)で検討したとおりの理由から、本件発明6は、甲2に記載された発明、並びに、甲1~3、8に記載された技術事項及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
第8 取消理由で採用しなかった申立理由について
1 申立理由3(甲3を主引用例とする進歩性)について
申立人は、甲3から以下の甲3発明を認定し、訂正前の請求項1~6に係る発明は、甲3発明及び周知技術から当業者が容易に発明をすることができたものである旨主張する。
<甲3発明>
顔料、アルカリ可溶型水溶性樹脂、ガラス転移温度が2℃で酸価が54mgKOH/gのスチレン-アクリル酸樹脂エマルジョン、水 を含有する水性フレキソ印刷インキ組成物。
本件発明1と甲3発明は、少なくとも以下の相違点3-1で相違するものである。
<相違点3-1>
本件発明1は、水性フレキソ印刷インキ組成物が「酸価が150~250mgKOH/gのロジン系樹脂エマルジョン及び/又は酸価が150~250mgKOH/gのロジン系樹脂の揮発性塩基性化合物による中和物」を含有しているのに対し、甲3発明は「酸価が54mgKOH/gのスチレン-アクリル酸樹脂エマルジョン」を含有している点。
前記第7で検討した甲1~3及び甲8を含め、いずれの証拠にも「酸価が150~250mgKOH/gのロジン系樹脂エマルジョン及び/又は酸価が150~250mgKOH/gのロジン系樹脂の揮発性塩基性化合物による中和物」とすることは、記載も示唆もされておらず、甲3に記載された発明において、スチレン-アクリル酸樹脂エマルジョンの酸価を150~250mgKOH/gとすることを、当業者が容易に想到し得たものとはいえない。
そして、本件発明1により奏される効果が、本件発明1の構成により奏される効果として、当業者が予測しえたものとはいえないことも、前記第7で検討したとおりである。
したがって、本件発明1は、甲3発明及び周知技術から当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。本件発明1の引用形式等で記載される本件発明3~6も、同様の理由から、甲3発明及び周知技術から当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
以上のとおりであるから、申立理由3は採用できない。
2 申立理由4(サポート要件違反)について
本件発明は、「紙製食品用容器への印刷を行う際には、紙製食品用容器が使用される環境、つまり、水や油が付着する環境では、上記の性質の他に耐結露性、耐ヘキサン性を必要とするが、その性質を備えた印刷インキ組成物は存在しなかった。」(段落【0002】)との背景の下、「カーボンニュートラル可能な原材料を多く使用した水性フレキソ印刷インキ組成物であっても、塗膜物性、再溶解性、耐結露性、耐ヘキサン性等の物性に優れる水性フレキソ印刷インキ組成物を提供すること」(段落【0004】)を解決しようとする課題とするものと認められる。
本件明細書には、「酸価が150~250mgKOH/gのロジン系樹脂エマルジョン及び/又は酸価が150~250mgKOH/gのロジン系樹脂の揮発性塩基性化合物による中和物」を含むとの特定事項を満たす実施例3~6及び8~10は、耐水耐摩性、耐摩性及び耐油耐性を有しており、酸価が100又は130である実施例1、2に比べて塗膜の耐ヘキサン性が高まり、酸価が300である実施例7に比べて塗膜の耐アルコール耐摩性(表2:○△評価、表3:○△評価)及び耐水耐摩性(表2:〇評価、表3:○△評価)が高まることが開示されており、これらの記載から、本件発明は、耐結露性や耐ヘキサン性等の物性を有するものであり、前記課題を解決するものであると認められる。
したがって、本件発明1及び3~6は、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できるものであるから、本件発明1及び3~6は、発明の詳細な説明に記載されたものである。
申立人は、本件発明1にカーボンニュートラル可能な原材料成分の含有量やロジン系樹脂成分の添加量や、ロジン系樹脂とスチレン-アクリル系樹脂エマルジョンとの比率が特定されていないから、本件発明1は前記課題を解決できると推認できない旨主張する。
しかしながら、本願出願日当時の技術常識を有する当業者であれば、前記実施例をも含む本件明細書の発明の詳細な説明の記載から、「アルカリ可溶型水溶性樹脂を含む顔料分散用樹脂」と「酸価が150~250mgKOH/gのロジン系樹脂エマルジョン及び/又は酸価が150~250mg KOH/gのロジン系樹脂の揮発性塩基性化合物による中和物、ガラス転移温度が-30~60℃で酸価が30~80mgKOH/gのスチレン-アクリル系樹脂エマルジョン、水を含有する溶剤」を含有する水性フレキソ印刷インキ組成物により、前記課題を解決できることを理解するものと認められる。
したがって、申立人の主張により、本件発明はサポート要件を満たさないということはできない。
第9 むすび
前記第7及び第8のとおり、本件特許の請求項1及び3~6に係る特許は、取消理由、取消理由(決定の予告)及び特許異議申立書に記載した申立ての理由によっては、取り消すことはできない。さらに、他に本件特許の請求項1及び3~6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして、本件訂正により請求項2は削除され、請求項2に係る特許異議の申立ては対象となる請求項が存在しないものとなったから、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2023-700873