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特許異議申立

2023-700535

収縮ラベル用水性インキ組成物

審判番号
2023-700535
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2022-138413外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
登録番号
7177963
請求日
2023年05月24日
審決日
2024年03月19日
公報発行日
2024年06月28日
結論
訂正認容
当事者
審判長/審判官
分類
P1651.121-YAA(C09D) / P1651.536-YAA(C09D) / P1651.537-YAA(C09D)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第9項、特許法第29条第2項、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第4項、特許法第36条第4項第1号、特許法第126条第7項
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第7177963号発明「収縮ラベル用水性インキ組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論
特許第7177936号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-3〕について訂正することを認める。
特許第7177936号の請求項1-3に係る特許を維持する。

理由

目次 ▾ 22項目
理 由

第1 手続の経緯

折りたたみ中(クリックで表示)

本件特許に係る出願は、令和4年8月31日の出願であって、令和4年11月15日に特許権の設定登録(請求項の数3)がされ、同年同月24日に特許掲載公報が発行され、その後、令和5年5月24日に異議申立人 安藤 宏(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものであり、当審は、同年10月24日付けで取消理由を通知し、特許権者は、その指定期間内である同年12月8日に意見書の提出及び訂正の請求(以下「本件訂正請求」といい、その内容を「本件訂正」という。)を行い、特許権者から訂正請求があったことを、同年同月20日付けで特許異議申立人に通知し、特許異議申立人は、令和6年2月7日に意見書を提出したものである。

第2 本件訂正の適否についての判断

1 本件訂正の内容

本件訂正は、以下の訂正事項1からなる。下線は訂正箇所を示す。

(1)訂正事項1

特許請求の範囲の請求項1に

「コアシェル構造を有する自己架橋アクリル系エマルジョンを含み、
前記自己架橋アクリル系エマルジョンは、酸価が25~85mgKOH/gであり、ガラス転移温度が-15~50℃である、収縮ラベル用水性インキ組成物。」と記載されているのを、
「コアシェル構造を有する自己架橋アクリル系エマルジョンを含み、
前記自己架橋アクリル系エマルジョンは、酸価が25~85mgKOH/gであり、ガラス転移温度が-15~8℃である、収縮ラベル用水性インキ組成物。」に訂正する。(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2~3も同様に訂正する。)

2 訂正事項が全ての訂正要件に適合している事実の説明

(1)訂正事項1

ア 訂正の目的について

訂正前の請求項1に記載の特許発明は、

「コアシェル構造を有する自己架橋アクリル系エマルジョンを含み、
前記自己架橋アクリル系エマルジョンは、酸価が25~85mgKOH/gであり、ガラス転移温度が-15~50℃である、収縮ラベル用水性インキ組成物。」であることを特定している。

これに対し、訂正後の請求項1は、

「コアシェル構造を有する自己架橋アクリル系エマルジョンを含み、
前記自己架橋アクリル系エマルジョンは、酸価が25~85mgKOH/gであり、ガラス転移温度が-15~8℃である、収縮ラベル用水性インキ組成物。」との記載により、訂正後の請求項1に記載の発明において、「自己架橋アクリル系エマルジョンのガラス転移温度の範囲」を、「-15~50℃」から「-15~8℃」の狭い範囲に限定する訂正を行うものである。

したがって、当該訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものであるといえる。

イ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否

前記アから明らかなように、訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、または変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものであるといえる。

ウ 新規事項の有無

訂正事項1は、本件明細書および特許請求の範囲に基づいて導き出される構成である。

本件明細書には、次の記載がある。

「【0028】
本実施形態のアクリル系エマルジョンのガラス転移温度(Tg)は、-15℃以上であればよく、0℃以上であることが好ましい。また、アクリル系エマルジョンのTgは、50℃以下であればよく、35℃以下であることが好ましい。Tgが-15℃未満である場合、インキ組成物は、耐ブロッキング性が低下する。一方、Tgが50℃を超える場合、インキ組成物は、収縮後の密着性が低下する。なお、本実施形態において、Tgは、下記のWoodの式により求めた理論ガラス転移温度である。
Woodの式:1/Tg=W1/Tg1+W2/Tg2+W3/Tg3+・・・・・+Wx/Tgx
[式中、Tg1~Tgxはアクリル系エマルジョンを構成する単量体1、2、3・・・xのそれぞれの単独重合体のガラス転移温度、W1~Wxは単量体1、2、3・・・xのそれぞれの重合分率、Tgは理論ガラス転移温度を表す。ただし、Woodの式におけるガラス転移温度は絶対温度である。]」
「【0048】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明する。本発明は、これら実施例に何ら限定されない。なお、特に制限のない限り、「%」は「質量%」を意味し、「部」は「質量部」を意味する。」
「【0049】
使用した原料および調製方法を以下に示す。
<白色顔料分散体>
酸化チタンを75質量部、DISPERBYK-190を7質量部、イソブタノールを1質量部、および水17質量部の混合物をビーズミルで混練し白色顔料分散体を得た。
<藍色顔料分散体>
PB15:4(Pigment Blue 15:4)を45質量部、アルカリ可溶型顔料分散用水溶性樹脂(メタクリル酸/メタクリル酸メチル/ステアリルメタクリレート=15/75/10(質量比)、アンモニア中和、固形分28%)を11質量部、顔料分散剤(ソルスパース27000)を2質量部、イソブタノールを2質量部、および水40質量部の混合物をビーズミルで混練し藍色顔料分散体を得た。」
「【0050】
<アクリル系エマルジョンの調製>
以下の表1に記載の酸価およびTgとなるように、No.1のアクリル系エマルジョンを調製した。具体的には、アクリル酸、メタクリル酸メチル、スチレンで構成された共重合体をアンモニア水で溶解させた水溶液を高分子乳化剤として得た。次いで、コア部を形成するために、メタクリル酸メチル、2-エチルヘキシルアクリレート、ジアセトンアクリルアミドを添加し、常法により乳化重合した。その後、得られたアクリル系エマルジョン溶液に、アジピン酸ジヒドラジド(ADH)を1質量%添加することにより、No.1のアクリル系エマルジョン溶液を調製した。」

「【0051】

【表1】

[図:0001411294000001.jpg]

「【0052】
表1に記載の酸価およびTgとなるよう構成するラジカル重合性不飽和モノマーの種類と量を変更した以外は、上記と同様の方法により、No.2~No.17のアクリル系エマルジョンを調製した。なお、No.18~No.21のエマルジョンは、表1に記載の市販品である。」
「【0053】
<実施例1~17、比較例1~8>
表2に記載の処方(質量部)に従って、各色の顔料分散体と、表1に記載の各種エマルジョンおよび各成分および水を攪拌混合し、インキ組成物を調製した。」

「【0054】

【表2】

[図:0001411294000002.jpg]

すなわち、本件明細書の【0028】、および、実施例の開示に関する【0048】~【0054】(特に実施例13等(【0054】の表2を参照))によれば、ガラス転移温度の上限が8℃である自己架橋アクリル系エマルジョンを含む収縮ラベル用水性インキ組成物を把握し得るものであり、訂正事項1は、これらの記載に基づくものである。

よって、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものであるといえる。

エ 独立特許要件

本件においては、訂正前の請求項1~3について特許異議の申立てがされているので、訂正前の請求項1~3に記載の訂正事項1に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項の独立特許要件は課されない。

(2)一群の請求項について

訂正前の請求項1~3について、請求項2及び3は、請求項1を直接的または間接的に引用しているものであって、訂正事項1により記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。したがって、訂正前の請求項1~3に対応する訂正後の請求項1~3は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。よって、本件訂正は、一群の請求項である訂正前の請求項1~3についてされたものであるから、特許法120条の5第4項の規定に適合する。

3 小括

以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するから、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~3〕について訂正することを認める。

第3 本件特許発明

上記第2で述べたとおり、本件訂正は認められるので、本件特許の請求項1~3に係る発明は、令和5年12月8日提出の訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1~3に記載された事項により特定される次のとおりのもの(以下「本件特許発明1」~「本件特許発明3」、まとめて「本件特許発明」ともいう。)である。

「【請求項1】
コアシェル構造を有する自己架橋アクリル系エマルジョンを含み、
前記自己架橋アクリル系エマルジョンは、酸価が25~85mgKOH/gであり、ガラス転移温度が-15~8℃である、収縮ラベル用水性インキ組成物。
【請求項2】
さらに架橋剤を含む、請求項1記載の収縮ラベル用水性インキ組成物。
【請求項3】
フレキソ印刷用またはグラビア印刷用である、請求項1または2記載の収縮ラベル用水性インキ組成物。」

第4 取消理由通知に記載した取消理由について

令和5年10月24日付けで通知した取消理由の概要は、次の理由1である。

理由1(進歩性)本件特許の請求項1~3に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第1号証~甲第5号証に記載された発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、上記の請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

記

甲第1号証:特表2020-501935号公報
甲第2号証:特許第7081100号公報
甲第3号証:特開2015-30799号公報
甲第4号証:特開2014-205816号公報
甲第5号証:特開平8-113749号公報

第5 前記第4における理由1(進歩性)について

1 甲号証について

甲第1号証~甲第5号証は前記第4 理由1のとおり。

参考文献1:「製品安全データシート(MSDS),製品名;TEDA-L33,作成日;2007年10月14日
参考文献2:特開2016-41822号公報
参考文献3:「EXCENOL,旭硝子(AGC)社による商品名;エクセノールの製品カタログ,2014年11月1日,URL;https://www.age-chemicals.com/file.jsp?id=jp/ja/products/pdf/EXCENOL_POLYOLS_Ol.pdf

2 甲号証の記載について

(1)甲第1号証(以下、「甲1」という。)

1a「【請求項1】

ポリマー基材に印刷するためのプロセスであって、

a)i)少なくとも1つの自己架橋アクリルポリマー、

ii)少なくとも1つの合一剤、

iii)少なくとも1つのシリコーンエマルジョン、および

iv)水

を含み、前記自己架橋アクリルポリマーは0℃超のガラス転移温度を有する、インキまたはコーティング組成物を提供することと、

b)前記a)のインキまたはコーティング組成物をポリマー基材に塗布することと、

c)前記ポリマー基材上の前記インキまたはコーティング組成物を乾燥させることと

を含む、プロセス。

・・・

【請求項3】

前記ポリマー基材は収縮性ポリマー基材である、請求項1または2のいずれか一項に記載のプロセス。

・・・

【請求項12】

前記自己架橋アクリルポリマーの前記合一剤はアクリルエマルジョンである、請求項1~11のいずれか一項に記載のプロセス。

・・・

【請求項39】

前記インキまたはコーティング組成物はグラビアもしくはフレキソ印刷インキまたはコーティング組成物である、請求項1~34のいずれか一項に記載のプロセス。」

1b「【0036】

ポリマーが自己架橋し得る機構はいくつかある。1つの機構は、コア-シェルポリマーのような相分離ポリマーの使用による。シェルポリマーは親水性であり、一方、コアポリマーは疎水性である。親水性シェルは分散を維持し、一方、疎水性コアは架橋のための反応部位を提供する。

・・・

【0045】

アクリルポリマーのTgは自己架橋前のアクリルポリマーに関連している。より高いTgはアクリルポリマーの尚早なゲル化を防ぐ。典型的には、自己架橋アクリルポリマーは、0℃超のTgを有する。好ましくは、自己架橋アクリルポリマーは約20~70℃のTgを有してよい。例えば、自己架橋アクリルポリマーは、約20℃~約65℃;または約20℃~約60℃;または約20℃~約55℃;または約20℃~約50℃;または約20℃~約45℃;または約20℃~約40℃;または約20℃~約35℃;または約20℃~約30℃;または約20℃~約25℃;または約25℃~約70℃;または約25℃~約65℃;または約25℃~約60℃;または約25℃~約55℃;または約25℃~約50℃;または約25℃~約45℃;または約25℃~約40℃;または約25℃~約35℃;または約25℃~約30℃;または約30℃~約70℃;または約30℃~約65℃;または約30℃~約60℃;または約30℃~約55℃;または約30℃~約50℃;または約30℃~約45℃;または約30℃~約40℃;または約30℃~約35℃;または約35℃~約70℃;または約35℃~約65℃;または約35℃~約60℃;または約35℃~約55℃;または約35℃~約50℃;または約35℃~約45℃;または約35℃~約40℃;または約40℃~約70℃;または約40℃~約65℃;または約40℃~約60℃;または約40℃~約55℃;または約40℃~約50℃;または約40℃~約45℃;または約45℃~約70℃;または約45℃~約65℃;または約45℃~約60℃;または約45℃~約55℃;または約45℃~約50℃のTgを有してよい。有利には、自己架橋アクリルポリマーは約40℃~60℃のTgを有する。」

1c「【0069】

実施例

以下の例は、本発明の特定の態様を示すものであり、いかなる点においてもその範囲を限定するものではなく、そのように解釈されるべきではない。

【0070】

試験方法

印刷

印刷試料を、典型的にはグンゼ、Klockner、Pentaplastから入手可能な様々な収縮フィルム基材上にワイヤー巻きのKバー(9μm)を使用して作製した。使用された収縮フィルム基材は、PVC、ポリエステル、PET、グリコール変性ポリエステル、PETG、OPS、およびポリプロピレンであった。印刷物を環境条件(25℃、および50%相対湿度(RH))で乾燥させた。

【0071】

熱水試験

インキを収縮フィルム基材(寸法およそ縦300mm、幅150mm)に塗布し、フィルムが印刷方向に対して横方向に収縮することを確認した。印刷物を15分間、95℃に設定された水浴中に半分浸した。収縮した印刷物を水から取り除き、平らにし、紙布で乾燥させた。試験印刷物の接着性、耐引っ掻き性、および耐しわ性を評価した。

【0072】

テープ接着性試験

スコッチ610粘着テープを印刷試料に貼った。テープを、印刷物の表面に垂直な方向に、手動でゆっくりと引き、続いて速く引くことによって引き剥がした。テープは貼られた直後に引き剥がされた。各結果表にそれぞれ示すように、接着性を1~5、または1~10の段階で採点した。

【0073】

接着性を1~5の段階で採点した場合、スコアは以下の通りであった。

1=80%超のインキ剥離

2=60%~80%のインキ剥離

3=40%~60%のインキ剥離

4=10%~40%のインキ剥離

5=10%未満のインキ剥離

【0074】

接着性を1~10の段階で採点した場合、スコアは以下の通りであった。

1=90%以上のインキ剥離

2=80%のインキ剥離

3=70%のインキ剥離

4=60%のインキ剥離

5=50%のインキ剥離

6=40%のインキ剥離

7=30%のインキ剥離

8=20%のインキ剥離

9=10%のインキ剥離

10=インキ剥離なし

【0075】

耐引っ掻き性

印刷試料を、印刷面を上にして硬い表面上に置き、人差し指の爪の裏で表面を引っ掻いた。接着性試験において上で記載したような1~5の段階を使用して、インキ剥離のレベルについて印刷物を評価した。

【0076】

しわ試験

印刷試料を印刷物の両側で親指および人差し指で握り、およそ1インチ離して持ち、印刷試料を印刷された側が向かい合うように端部を反対方向へねじることによって、50サイクル激しく回転させ、印刷物の繰り返しの屈曲をシミュレートした。接着性試験において上で記載したような1~5の段階でインキ剥離のレベルおよび/または印刷面への損傷を評価した。

【0077】

カール試験

鋭利なナイフを使用して、印刷物に、各カットおよそ5cmの十字の切り込みを入れ、カールの量を評価した。カールを以下のように1~5の段階で評価した。

1=重度のカール

2=中程度~重度のカール

3=中程度のカール

4=軽度~中程度のカール

5=軽度のカール

【0078】

環境製品滴下試験

一滴の液体製品(グルコースまたはコーラ)を印刷面上に置き、24時間室温で放置した。その後、製品を湿った紙布で拭き取り、接着性試験において上で記載したような1~5の段階で印刷の損傷を評価した。

【0079】

30℃製品滴下試験

一滴の液体製品(グルコースまたはコーラ)を印刷面上に置いた。印刷物を30℃に設定したオーブン内に24時間置いた。その後、製品を湿った紙布で拭き取り、接着性試験において上で記載したような1~5の段階で印刷の損傷を評価した。

【0080】

製品浸漬試験

一切れの印刷試料を液体製品(グルコースまたはコーラ)の広口瓶中に24時間浸した。その後、印刷試料を広口瓶から取り出し、水洗により製品を除去した。テープ接着性について上で記載したような1~5の段階で、損傷について試料を評価した。

【0081】

ブロッキング

印刷試料を、表と表を合わせて(A-A)または表と裏を合わせて(A-B)Specacブロッキングテスターに置き、室温で10分間、10MPaの圧力を印加した。試料を目視検査してブロッキングが無いことを確認し、各結果表にそれぞれ示すように、1~5の段階、または1~10の段階で採点した。ブロッキングは、一方の基材から他方の基材へのインキの移りである。重度のブロッキングは、90%以上のインキが一方の基材から他方の基材へ移ったことを意味し、一方、軽度のブロッキングは、10%以下のインキが一方の基材から他方の基材へ移り、好ましくはインキが移らなかったことを意味する。

【0082】

1~5の段階で採点した場合、ブロッキングのスコアは以下の通りであった。

1=重度のブロッキング

2=中程度~重度のブロッキング

3=中程度のブロッキング

4=軽度~中程度のブロッキング

5=軽度のブロッキング

【0083】

1~10の段階で採点した場合、ブロッキングのスコアは以下の通りであった。

1=90%以上のインキ移り

2=80%のインキ移り

3=70%のインキ移り

4=60%のインキ移り

5=50%のインキ移り

6=40%のインキ移り

7=30%のインキ移り

8=20%のインキ移り

9=10%のインキ移り

10=インキ移りなし

【0084】

折り畳み試験

印刷試料を折り畳み、折り目を20秒間指の間で繰り返し擦った。接着性試験について上で記載したような1~5の段階で、印刷の損傷について折り畳まれた印刷物を評価した。

【0085】

耐湿摩擦性

印刷物を7日間空気乾燥した。Satra摩擦テスター(モデルSTM 461)を使用して、フェルトパッド(25mm OD)に指定の試薬(水、牛乳、ジュース、Saniglideライン潤滑剤、過酸化水素(H2O2))を染み込ませ、1.8kgの荷重で、印刷物の表面上で回転させた。結果はインキの完全な除去に必要な摩擦の数として報告され、より大きい数はより良好な耐摩擦性を示す。ライン潤滑剤および過酸化水素を試験する場合、液体を被印刷基材上に3分間置き、続いて上記のように摩擦試験を行った。

【0086】

耐冷却湿摩擦性

乾燥した印刷物を水の入ったバケツ中に入れ、16~24時間冷やした。その後、水を試験試薬としたSatra摩擦試験を使用して印刷物を試験した。

【0087】

湿潤湿摩擦試験

乾燥した印刷物を50℃および30%相対湿度で16~24時間保存した。その後、水を試薬としたSatra摩擦試験を使用して印刷物を試験した。

【0088】

手による湿摩擦試験

乾燥した印刷物を印刷物の両側で親指および人差し指で握り、およそ1インチ離して持ち、印刷された側を向かい合わせて、流水下で50サイクル激しく回転させ、印刷物の繰り返しの屈曲をシミュレートした。以下の通り、10の採点が優であり、1の採点が不可である1~10の段階で、インキ/ワニス剥離のレベルを評価した。

1=90%以上のインキ剥離

2=80%のインキ剥離

3=70%のインキ剥離

4=60%のインキ剥離

5=50%のインキ剥離

6=40%のインキ剥離

7=30%のインキ剥離

8=20%のインキ剥離

9=10%のインキ剥離

10=インキ剥離なし

【0089】

滑り試験Davenport摩擦係数

Davenport CoFテスターを使用して、ASTM D1894に従って静止および動摩擦係数(CoF)を評価した。

【0090】

インキおよび/オーバープリントワニスをPE/OPP/PET/PVCまたはOPSフィルム基材上へ印刷した。少なくとも縦約254cm、幅約8cmの印刷試料を作製した。1つの試料を粘着テープで試験台に貼り、平坦、滑らか、かつ引き延ばされずに保持されていることを確認した。別の試料を粘着テープでスレッドの裏面に貼り、印刷面に触れていないことを確認した。ひもをスレッドに取り付け、試験台上の印刷物の左側の端に穏やかにスレッドを置き、その結果スレッドは2つのL字型マークの間の中央に位置し、その前縁はマークの右側の縁に一致した。少しの緩みをひもに残した。機械を始動させ、スレッドを15cm/分の速度で試験台に沿って引いた。静止CoFを測定する場合、起動時に間違った測定値が登録されていないことを確認するためにデジタル表示を直ちにリセットした。表と表を合わせた(A-A)試料または表と裏を合わせた(A-B)試料でCoFを測定した。

【0091】

静止摩擦は、静止した物体を、それが動き始める点まで押しとどめる力である。従って、静止CoFは、比較的滑らかで、平坦な表面上で静止した物体の動きを制限する力に関連する。静止CoFは、デジタル表示の最終(最大)の測定値、または記録装置の追跡の初期で記録された最高の力として記録される。

【0092】

動摩擦は、表面上での物体の規則的な運動を押しとどめる力である。従って、動CoFは、試験台に沿ってスレッドが動き続けるために必要な平均の力である。CoFテスターからの測定値は、スレッドが動き続ける測定値の平均である(最高測定値と最低測定値を平均する、またはデジタル記録装置を使用する場合、追跡の平均を得る、のいずれか)。

【0093】

静止および動摩擦係数(CoF)は以下の通り計算される:

CoF=(グラム単位の力)/(グラム単位のスレッドの重量)

式中、感度がX1に設定された場合、グラム単位の力=測定値×10、または感度がX5に設定された場合、グラム単位の力=測定値×2。

【0094】

印刷適正(フレキソ印刷)

印刷適正を印刷物の製造で評価した。印刷物をベタ領域またはトーン領域のいずれかで欠陥について判断した。評価はグレースケールで行われ、10=優、および1=不可であった。商業的に許容されるとして合格した印刷物のみを本発明のプロセスに適合すると見なした。基材上に印刷されなかったインキ適用範囲の部分を評価した(インキが乗らないパーセント)。採点スケールは以下の通りであった。

1=不可-90%以上のインキが乗らない

2=80%のインキが乗らない

3=70%のインキが乗らない

4=60%のインキが乗らない

5=50%のインキが乗らない

6=10%以下のインキが乗らない-商業的に許容

7=商業的に許容-いくつかの欠陥があり得る

8=わずかな欠陥

9=ごくわずかな欠陥

10=優-欠陥なし

【0095】

洗浄性

洗浄性は、商業的なプレスでの印刷実行後の設備のインキをどの程度簡単に落とせるかの尺度である。洗浄性は印刷作業者によって評価され、許容されるか、または許容されないかのいずれかで採点される。通常の製造にいかなる過剰なダウンタイムももたらさないインキのみを許容と見なした。

【0096】

再溶解性

再溶解性は、プレス実行中にインキがインキ自身中にどの程度簡単に再溶解性のままであるかの尺度である。インキがインキ自身に十分再溶解性でない場合、プレス上に残留したインキの乾燥による印刷問題が生じる。過度の印刷問題をもたらさないよう十分に再溶解性であるインキのみを許容と見なした。

【0097】

例1および例2。水系白色インキおよび水系シアンインキ

水系白色インキ、例1、を本発明のプロセスで使用するために調製した。例1の配合を下の表1に示す。

【表1】

[図:0001411294000003.jpg]

Neocryl XK14アクリルエマルジョンは約50℃のTgを有する自己架橋アクリルエマルジョンである。

Neocryl A1125は0℃未満のMFFTを有する水系自己架橋アクリルコポリマーエマルジョンである。

Joncryl 8052は-35℃のTgを有するアクリルエマルジョンである。

Disperbyk 190はスチレンブロックコポリマー湿潤剤である。

Tego Foamexはポリエーテルシロキサンコポリマーエマルジョン消泡剤である。

Aquacer 531は水中の変性PEワックスエマルジョンである。

Surfynol AD01はジェミニ技術に基づく非イオン性界面活性剤である。

DC209Sは水中のシリコーンエマルジョンである。」

(2)甲第2号証(以下、「甲2」という。)

2a「【請求項1】

水、(メタ)アクリル酸および脂環式アルキル基含有エチレン性不飽和単量体を含むモノマー混合物のアルカリ可溶型共重合体(A)をシェルとし、ダイアセトンアクリルアミドおよびエチレン性不飽和単量体を含むモノマー混合物の共重合体(B)をコアとする、コアシェル型のエマルション、およびヒドラジド化合物(C)を含有し、かつ、下記条件<i>~<iii>を満足することを特徴とする水性インキ用樹脂分散液。

<i>前記アルカリ可溶型共重合体(A)が、酸価:50~150mgKOH/g

<ii>前記共重合体(B)におけるダイアセトンアクリルアミド由来の含有割合が、前記(A)と(B)の合計に対して2~12質量%

<iii>前記アルカリ可溶型共重合体(A)と前記共重合体(B)との質量比が、(A):(B)=20:80~60:40。

・・・

【請求項4】

請求項1~請求項3いずれか一項に記載の水性インキ用樹脂分散液を含むことを特徴とする水性インキ。」

2b「【0043】

以下、実施例及び比較例により、本発明を更に詳細に説明する。なお、実施例中「部」及び「%」は特に断らない限り質量基準による。

【0044】

<アルカリ可溶型共重合体(A)の製造例 A-1~A-14>

撹拌機、温度計、冷却機、窒素導入管を備えた4つ口セパラフラスに、溶媒としてのプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMAc)100部を仕込み、窒素雰囲気にした後、内温を145℃に設定した。次に、窒素ガスを導入しながら、表1、表2に示すモノマーの混合液100部と、重合開始剤としてジ-t-ブチルパーオキサイド(DTBP)4部とを、定量ポンプにて3時間かけて滴下した。滴下終了後、同じ温度で2時間保温させて共重合反応を進めた。得られた共重合液体を180℃まで昇温し、常圧蒸留を行った。流出する留分が少なくなったら、減圧蒸留にてPGMAcを留去させて、表1、表2記載のアルカリ可溶型共重合体A-1~A-14を得た。

【0045】

【表1】

[図:0001411294000004.jpg]

【0046】

【表2】

[図:0001411294000005.jpg]

【0047】

(表1、表2における略号の説明)

AA:アクリル酸 MAA:メタクリル酸 DAAM:ダイアセトンアクリルアミド
MMA:メタクリル酸メチル BA:アクリル酸ブチル
2EHA:アクリル酸2-エチルヘキシル CHA:アクリル酸シクロヘキシル
CHMA:メタクリル酸シクロヘキシル

【0048】

<水性インキ用樹脂分散液の製造例 実施例1~14、比較例1~8>

撹拌機、温度計、冷却機、窒素導入管を備えた4つ口セパラフラスに、表3~表6に示す種類と量のアルカリ可溶型共重合体(A)、及び中和のための塩基性化合物として25%アンモニア水を使用する共重合体(A)の酸価に対して当量となるように仕込み、80℃まで加熱して3時間保温して溶解し水溶液とした。その後、80℃を保ったまま窒素ガスを導入しながら、水性インキ用樹脂分散液の樹脂成分[共重合体(A)+共重合体(B)]全体のガラス転移温度が19~26℃の範囲内となるように表3~表6に示す種類と量のモノマー、及び10%過硫酸アンモニウム水溶液0.5部を定量ポンプにて3時間かけて滴下した。滴下終了から80℃にて更に2時間保温することで残存するモノマーを重合させた後、表3~表6に示す量のアジピン酸ジヒドラジドを添加し、60~70℃にて30分間撹拌して溶解させた。その後、25℃における水性インキ用樹脂分散液の粘度が1000mPa・s前後になるように適度の水を添加して冷却し、表3、表4記載の実施例1~12、ならびに表5、表6記載の比較例1~8の水性インキ用樹脂分散液を得た。なお、表中の不揮発分とは、水性インキ用樹脂分散液2gを乾燥器にて180℃で1時間乾燥させた際の、水性インキ用樹脂分散液に対する不揮発分の割合(%)を表す。

【0049】

<エマルション安定性>

水性インキ用樹脂分散液を40℃にて1ヶ月間保管した後のエマルションの粘度変化及び外観を目視で観測して安定性の評価を行った。

○:粘度変化30%以下、及び凝集物は生じない。

△:粘度変化30%~60%、もしくは一部凝集物が生じる。

×:粘度変化60%以上、もしくは凝集物が生じる。

【0050】

【表3】

[図:0001411294000006.jpg]

【0051】

【表4】

[図:0001411294000007.jpg]

」

(3)甲第3号証(以下、「甲3」という。)

3a「【請求項1】

エチレン性不飽和単量体(a)を重合してなる水溶性樹脂(A)の存在下、水性媒体中でエチレン性不飽和単量体(b)を重合してなる酸価50~90mgKOH/gのコアシェル型樹脂微粒子分散体(B)と、

界面活性剤(C)存在下、水性媒体中でエチレン性不飽和単量体(d)を重合してなる酸価0~30mgKOH/gの樹脂微粒子分散体(D)とを含有する事を特徴とする水性インキ用バインダー樹脂組成物。

・・・

【請求項5】

顔料分散樹脂(E)、顔料(F)水、親水性溶剤(G)及び請求項1~4いずれか記載の水性インキ用バインダー樹脂組成物を含有することを特徴とする水性インキ組成物。」

3b「【0036】

コアシェル型樹脂微粒子分散体(B)の酸価は50~90mgKOH/gの範囲である事が好ましい。酸価が60mgKOH/g未満であると造膜時に樹脂微粒子分散体(B)との相溶が阻害され、塗膜物性(基材密着性、耐水摩擦性)が悪化する。一方、酸価が90mgKOH/gを超えると、乾燥不良が発生し、残留成分も多くなるため、塗膜物性(基材密着性、耐水摩擦性、耐水ブロッキング性)が大幅に低下し、乾燥後の臭気も悪化する。

【0037】

コアシェル型樹脂微粒子分散体(B)のガラス転移温度(Tg)は-10~30℃の範囲である事が好ましい。ガラス温度が-10℃未満であると、塗膜強度が低下して塗膜物性(基材密着性、耐水摩擦性、耐ブロッキング性)が悪化する場合がある。一方でガラス転移温度が30℃を超えた場合にも、低温乾燥下における分子鎖の運動が阻害されるため、造膜時のコア成分とシェル成分の相溶が不十分となり、塗膜物性(基材密着性、耐水摩擦性)が悪化する場合がある。」

3c「【0083】

また、基材への密着性をさらに向上させる目的で、本発明の水性インキ組成物は、インキの保存安定性や樹脂同士の相溶性に悪影響を及ぼさない範囲で、カルボジイミド基などの反応性基を含有する架橋剤を併用する事もできる。市販の架橋剤としては、例えば、日清紡社製、カルボジライトE-02、E-03A、SV-02、V-02、V-02-L2、V-04等が挙げられる。」

3d「【0092】

以下に、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、以下の実施例は本発明の権利範囲を何ら制限するものではない。なお、実施例における「部」は「重量部」、「%」は「重量%」を表す。

【0093】

<水溶性樹脂(A)の製造>

[製造例1]

攪拌器、温度計、2つの滴下ロート、還流器を備えた別の反応容器に、メチルイソブチルケトン94.0部を仕込み、攪拌しながら、窒素還流下で温度100℃まで昇温した。次に、2つの滴下ロートにおいて、一方からは、スチレン55.0部、アクリル酸30.0部、ラウリルメタクリレート15.0部を3時間かけて滴下した。もう一方からは、ジメチル2,2‘-アゾビスイソブチレート10.0部をメチルイソブチルケトン12.0部に溶解させ、4時間かけてそれを滴下した。滴下完了後、更に10時間反応させた。冷却後、得られた水溶性樹脂(A)溶液に25%アンモニア水28.3部部を加えて中和した

。更にイオン交換水を加えて、加熱しながら溶剤置換をおこない、水溶性樹脂(A)の水溶液を得た。最後にイオン交換水により、水溶性樹脂(A)溶液の固形分を35.0%に調整した。水溶性樹脂(A)の酸価は212、重量平均分子量は12800であった。

【0094】

[製造例2~7]

表1に示す配合組成で、製造例1と同様の方法で水溶性樹脂(A)溶液を調製した。中和剤である25%アンモニア水は、水溶性樹脂(A)のカルボキシル基とアンモニアが等モルになるように添加した。さらに製造例1と同様の操作をおこない、固形分35%の水溶樹脂(A)水溶液を調製した。水溶性樹脂(A)については、酸価、重量平均分子量を評価した。

【0095】

[酸価]

樹脂1g中に含まれる酸性成分を中和するのに要する水酸化カリウムのミリグラム数。乾燥させた水溶性樹脂(A)について、JIS K2501に記載の方法に従い、水酸化カリウム・エタノール溶液で電位差滴定をおこない算出した。

【0096】

[重量平均分子量]

重量平均分子量は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)測定によるポリスチレン換算の値。乾燥させた水溶性樹脂(A)をテトラヒドロフランに溶解させ、0.1%の溶液を調製し、東ソー製HLC-8320-GPC(カラム番号M-0053 分子量測定範囲約2千~約400万)により重量平均分子量を測定した。

【0097】

【表1】

[図:0001411294000008.jpg]

(4)甲第4号証(以下、「甲4」という。)

4a「【請求項1】

水溶性樹脂(A)の存在下、水性媒体中でエチレン性不飽和単量体(B)を重合してなる水性インキ用コアシェル型樹脂微粒子分散体であって、下記の(1)~(4)であることを特徴とする水性インキ用コアシェル型樹脂微粒子分散体。

(1)水溶性樹脂(A)が、

芳香族エチレン性不飽和単量体(a-1)と

カルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体(a-2)とを含むエチレン性不飽和単量体(a)を重合してなる水溶性樹脂であり、

エチレン性不飽和単量体(a)100重量%中、

芳香族エチレン性不飽和単量体(a-1)を20~70重量%、

カルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体(a-2)を30~40重量%

含有する。

(2)エチレン性不飽和単量体(B)が、

芳香族エチレン性不飽和単量体(b-1)と、

一般式(1)からなるエチレン性不飽和単量体(b-2)とを必須成分とするエチレン性不飽和単量体であって、

エチレン性不飽和単量体(B)100重量%中、

芳香族エチレン性不飽和単量体(b-1)を15~40重量%、

エチレン性不飽和単量体(b-2)を60~85重量%

含有する。

(3)エチレン性不飽和単量体(B)の合計100重量部に対し、水溶性樹脂(A)の量が40~60重量部である。

(4)水性インキ用コアシェル型樹脂微粒子分散体の平均粒子径が45~90nm、ガラス転移温度が-10~30℃である。

一般式(1)

【化1】

[図:0001411294000009.jpg]

Rは炭素数1~4のアルキル基を示す。

・・・

【請求項4】

顔料(C)、顔料分散樹脂(D)、水、親水性溶剤(E)及び請求項1~3いずれか記載の水性インキ用コアシェル型樹脂微粒子分散体を含有することを特徴とする水性インキ組成物。」

4b「【0081】

また、基材への密着性をさらに向上させる目的で、本発明の水性インキ組成物は、インキの保存安定性や樹脂同士の相溶性に悪影響を及ぼさない範囲で、カルボジイミド基やケト基などの反応性基を含有する樹脂微粒子分散体を併用する事もできる。市販の反応性基含有樹脂微粒子分散体としては、例えば、日清紡社製、カルボジライトE-02、E-03A、SV-02、V-02、V-02-L2、V-04、BASF社製、アクロナールYJ2716D、YJ2720D、YJ2727DN、YJ2741D、YJ2746DS、DSM社製、NEOCRYLA-1127、A-1125、A-1120、A-1131等が挙げられる。」

4c「【0090】

以下に、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、以下の実施例は本発明の権利範囲を何ら制限するものではない。なお、実施例における「部」は「重量部」、「%」は「重量%」を表す。

【0091】

<水溶性樹脂(A)の製造>

[製造例1]

攪拌器、温度計、2つの滴下ロート、還流器を備えた別の反応容器に、メチルイソブチルケトン94.0部を仕込み、攪拌しながら、窒素還流下で温度100℃まで昇温した。次に、2つの滴下ロートにおいて、一方からは、スチレン55.0部、アクリル酸30.0部、ラウリルメタクリレート15.0部を3時間かけて滴下した。もう一方からは、ジメチル2,2‘-アゾビスイソブチレート6.0部をメチルイソブチルケトン12.0部に溶解させ、4時間かけてそれを滴下した。滴下完了後、更に10時間反応させて反応を完了した。冷却後、得られた水溶性樹脂(A)溶液に25%アンモニア水23.3部を加えて中和した。更にイオン交換水を加えて、加熱しながら溶剤置換をおこない、水溶性樹脂(A)の水溶液を得た。最後にイオン交換水により、水溶性樹脂(A)溶液の固形分を35.0%に調整した。水溶性樹脂(A)の酸価は220、重量平均分子量は12800であった。

[製造例2~11]

表1に示す配合組成で、製造例1と同様の方法で水溶性樹脂(A)溶液を調製した。中和剤である25%アンモニア水は、水溶性樹脂(A)のカルボキシル基とアンモニアが等モルになるように添加した。さらに製造例1と同様の操作をおこない、固形分35%の水溶樹脂(A)水溶液を調製した。水溶性樹脂(A)については、酸価ならびに重量平均分子量を評価した。

【0092】

[酸価]

樹脂1g中に含まれる酸性成分を中和するのに要する水酸化カリウム

のミリグラム数。乾燥させた水溶性樹脂(A)について、JIS K2501に記載の方法に従い、水酸化カリウム・エタノール溶液で電位差滴定をおこない算出した。

【0093】

[重量平均分子量]

重量平均分子量は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)測定によるポリスチレン換算の値。乾燥させた水溶性樹脂(A)をテトラヒドロフランに溶解させ、0.1%の溶液を調製し、東ソー製HLC-8320-GPC(カラム番号M-0053 分子量測定範囲約2千~約400万)により重量平均分子量を測定した。

【0094】

【表1】

[図:0001411294000010.jpg]

【0095】

<コアシェル型樹脂微粒子分散体の製造>

[実施例1]

攪拌器、温度計、2つの滴下ロート、還流器を備えた別の反応容器に、イオン交換水91.8部と製造例1で調製した水溶性樹脂(A)溶液114.3部仕込み、攪拌しながら、窒素還流下で温度80℃まで昇温した。次に、2つの滴下ロートにおいて、一方からは、スチレン20.0部、ベンジルメタクリレート18.0部、n-ブチルアクリレート62.0部を2時間かけて滴下した。もう一方からは、過硫酸アンモニウム20%水溶液5.0部を2時間かけて滴下した。滴下完了後、更に4時間反応させて樹脂微粒子分散体を得た。イオン交換水により、樹脂微粒子分散体の固形分を45%に調整した。得られた樹脂微粒子分散体の平均粒子径は84nm、重量平均分子量は470000、酸価は63、ガラス転移温度は2.0℃であった。樹脂微粒子分散体の酸価は、水溶性樹脂(A)の酸価と仕込み量から計算して算出した。ガラス転移温度(Tg)についてはエチレン性不飽和単量体の組成から、先述のFOXの式により算出した。樹脂微粒子分散体1kg当たりの合成時における凝集物の発生量は0.05gであった。

【0096】

[実施例2~15および比較例1~17]

表2、表3に示す配合組成で、実施例1と同様の方法でコアシェル型樹脂微粒子分散体を調製した。実施例10、12、13、14については、合成後、架橋剤のアジピン酸ジヒドラジドを、樹脂微粒子分散体中におけるケト基に対してヒドラジド基が等モルになるように添加した。樹脂微粒子分散体の固形分は全て45.0%に調整した。得られた樹脂微粒子分散体について、実施例1と同様の方法で酸価、ガラス転移温度(Tg)を算出し、平均粒子径、重量平均分子量、凝集物の有無について評価した。

【0097】

[平均粒子径]

樹脂微粒子分散体を500倍に水希釈し、該希釈液約5mlを動的光散乱測定法(測定装置はマイクロトラック(株)日機装製)により測定をおこなった。この時得られた体積粒子径分布データ(ヒストグラム)のピークを平均粒子径とした。

【0098】

[凝集物の有無]

樹脂微粒子分散体を180メッシュ(100μm)のろ布で濾過し、合成時に発生する樹脂微粒子分散体1kg当たりの凝集物量を測定した。評価基準は以下の通りである。

○:0.1g未満である

△:0.1g以上、0.5g未満である

×:0.5g以上である

【0099】

【表2】

[図:0001411294000011.jpg]

」

(5)甲第5号証(以下、「甲5」という。)

5a「【請求項1】 着色剤、水性樹脂エマルジョンおよび分子内に少なくとも2つ以上のヒドラジン残基を有するヒドラジン系架橋剤を必須成分とし、下記の条件IおよびIIを満足するプラスチックフィルム用水性印刷インキ組成物。

条件I 前記水性樹脂エマルジョンが、

a.ラジカル重合性二重結合を有するカルボン酸および/または 酸無水物 2~50重量%

b.ラジカル重合性二重結合を有するケトンおよび/またはアル デヒド化合物 0~ 5重量%

c.aおよびbを除くラジカル重合性二重結合を有する化合物

50~98重量%

からなるラジカル重合性単量体(A1)を共重合して得られるアルカリ可溶性樹脂を、アルカリ水溶液中に溶解させたアルカリ可溶性樹脂溶液中で、

d.ラジカル重合性二重結合を有するケトンおよび/またはアル デヒド化合物 0~30重量%

e.dを除くラジカル重合性二重結合を有する化合物

70~100重量%

からなるラジカル重合性単量体(A2)を乳化重合して得られ、かつ、

b成分とd成分の重量の和が、a~eの全単量体成分の重量の和に対して0.5~25%、

A1成分/A2成分の重量比率が20/80~80/20の範囲である。

条件II 水性印刷インキ組成物中に含まれるヒドラジン系架橋剤のヒドラジン残基の数と、前記b成分およびd成分に由来するケト基およびアルド基の合計数との比が0.1:1.0~3.0:1.0の範囲である。」

5b「【0088】[実施例]以下、実施例をあげて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。

【0089】なお、実施例等における部、および%は特にことわらない限り、重量部および重量%を表す。

【0090】<アルカリ可溶性樹脂A1の製造例>攪拌機、温度計、窒素ガス導入管、滴下ロートを備えた四つ口フラスコにプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PMAc)100部を仕込み、窒素ガスで置換した後145℃に加熱した。

【0091】次いで、窒素ガスを導入しながら、表1の配合によるモノマーおよびジ-t-ブチルパーオキサイドの混合物を3時間かけて滴下ロートから滴下した。滴下終了後、さらに同温度に保ちながら、2時間重合させて反応を完結させ、各共重合体のPMAc溶液を得た。

【0092】得られた共重合体溶液を180℃まで加熱し、常圧蒸留を行い、さらに190℃まで加熱して減圧蒸留下にPMAcを留去し、アルカリ水溶液中に溶解可能な固体共重合体1~20を得た。

【0093】

【表1】

[図:0001411294000012.jpg]

【0094】<水性樹脂エマルジョン製造例>攪拌機、温度計、窒素ガス導入管、滴下ロートを備えた四つ口フラスコに、それぞれ固体共重合体1~20の破砕物、および使用する固体共重合体の中和量の1.2倍のアンモニアを既に溶解させたアンモニア水を表2-1、2-2の配合に従って仕込み、80℃まで加熱して固体共重合体を溶解した後、窒素ガスを導入しながらA2の配合によるモノマーおよびジターシャリーブチルパーオキサイドの混合物を3時間かけて滴下した。滴下終了後、2時間重合させて反応を完結させ、さらに適量の水を添加して固形分40%の水性樹脂エマルジョンNo.(水性樹脂Em No.)1~31を得た。

【0095】

【表2】

[図:0001411294000013.jpg]

【0096】

【表3】

[図:0001411294000014.jpg]

」

3 甲1に記載された発明

甲1の【0100】には、例1の水系白色インキを熱水試験のために収縮フィルム上に印刷することが記載されているから、同【0097】の記載も参酌すれば、例1の水系白色インキとして「約50℃のTgを有する自己架橋アクリルエマルジョンであるNeocryl XK14 アクリルエマルジョン、0℃未満のMFFTを有する水系自己架橋アクリルコポリマーエマルジョンであるNeocryl A1125、-35℃のTgを有するアクリルエマルジョンであるJoncryl 8052、スチレンブロックコポリマー湿潤剤であるDisperbyk 190、ポリエーテルシロキサンコポリマーエマルジョン消泡剤であるTego Foamex、WR-0268殺生物剤、N-プロパノール、水中の変性PEワックスエマルジョンであるAquacer 531、ジェミニ技術に基づく非イオン性界面活性剤であるSurfynol AD01、尿素、モノプロピレングリコール、水中のシリコーンエマルジョンDC209S、水及び二酸化チタン顔料からなり、収縮フィルム上に印刷する、水系白色インキ。」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる(摘記1c参照)。

4 対比・判断

(1)本件特許発明1

ア 引用発明との対比

引用発明の「約50℃のTgを有する自己架橋アクリルエマルジョンであるNeocryl XK14 アクリルエマルジョン」及び「0℃未満のMFFTを有する水系自己架橋アクリルコポリマーエマルジョンであるNeocryl A1125」は、いずれも、本件特許発明1の「自己架橋アクリル系エマルジョン」に相当する。

引用発明の「収縮フィルム上に印刷する、水系白色インキ」は、本件特許発明1の「収縮ラベル用水性インキ組成物」に相当する。

そうすると、本件特許発明1と引用発明は「自己架橋アクリル系エマルジョンを含む、収縮ラベル用水性インキ組成物。」である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点>

自己架橋アクリル系エマルジョンが、本件特許発明1では、コアシェル構造を有し、酸価が25~85mgKOH/gであり、ガラス転移温度が-15~8℃であるのに対し、引用発明ではそのような特定がない点。

イ 相違点についての検討

<相違点>について

(ア)甲1には引用発明の水系白色インキの自己架橋アクリル系エマルジョンの自己架橋し得る機構の1つとしてコア-シェルポリマーの使用が記載されている(摘記1b参照)。

(イ)また、引用発明の水系白色インキは約50℃のTgを有する自己架橋アクリルエマルジョンであるNeocryl XK14 アクリルエマルジョンを含み、甲1には引用発明の水系白色インキにおいて自己架橋アクリル系エマルジョンのガラス転移温度は0℃越えのガラス転移温度を有することが記載されている(摘記1b参照)。

(ウ)そして、甲2には、甲2に記載の水性インキに含まれるアクリル系ポリマーからなるコアシェルエマルジョンにおいて、表3及び4のものの酸価を計算すると20.8~56.0mg/KOHとなり(下記参照)、ガラス転移温度は10~26℃であることが、記載されている(摘記2a、2b参照)。

[図:0001411294000015.jpg]

[図:0001411294000016.jpg]

(エ)また、甲3には、甲3に記載の水性インキ組成物に含まれる水性インキ用バインダー組成物のコアシェル型樹脂微粒子として酸価が50~90mg/KOHであり、ガラス転移温度は-10~30℃であることが、記載されている(摘記3a、3b参照)。

(オ)そして、甲4には、甲4に記載の水性インキ組成物のコアシェル型樹脂微粒子分散体のうち実施例10、12~14のものが自己架橋アクリル系エマルジョンであり(摘記4a、4c参照)、その酸価を計算すると、実施例10では70.3mg/KOH、実施例12では87.6、実施例13では67.1、実施例14では83.3となり(下表参照)、ガラス転移温度は、実施例10、12~14で、それぞれ、2℃、23℃、-1℃、-11℃である。

[図:0001411294000017.jpg]

(カ)また、甲5には、甲5に記載の水性印刷インキ組成物の水性エマルジョンにおいて、表2-1及び表2-2のものの酸価を計算すると、8~109mg/KOHとなり(下記参照)、ガラス転移温度は-32~43℃であることが、記載されている(摘記5a、5b参照)。

[図:0001411294000018.jpg]

[図:0001411294000019.jpg]

(キ)そうすると、甲1の前記(ア)の記載に基づいて、引用発明の収縮フィルム上に印刷する水系白色インキにおいて、自己架橋アクリルコポリマーエマルジョンとして自己架橋アクリル系エマルジョンの自己架橋し得る機構の1つであるコアシェル構造を有するものを採用すること及びガラス転移温度を0~8℃とすることまでは動機付けがあるといえるかもしれないが、甲2~甲5に記載の水性インキが収縮ラベル用であることは記載も示唆もされていない以上、水性インキの周知技術といえる(ウ)~(カ)の記載に基づいたとしても、引用発明の収縮フィルム上に印刷する水系白色インキにおいて、酸価を25~85mgKOH/g程度とし、かつ、ガラス転移温度を-15~8℃とする動機付けがあるとまではいえない。

ウ 本件特許発明1の効果について

本件特許明細書の実施例及び比較例からみて、酸価が25~85mgKOH/gであり、ガラス転移温度が-15~8℃である本件特許発明1のものは、酸価又はガラス転移温度がその範囲外のものと比較して、収縮後密着性、耐ブロッキング性、耐エッジ割れ性又は耐水摩擦性が優れているといえるから、本件特許発明1により奏される効果は、引用発明と比較して、当業者の予測を超える優れたものであるといえる。

エ 特許異議申立人の主張及び当審の判断について

(ア)特許異議申立人の主張

特許異議申立人は、令和6年2月7日提出の意見書において「(ア)通常の創作能力の発揮にすぎないこと

甲第1号証には、「インキおよびコーティング組成物は、収縮包装ラベルに使用されるフィルムのような、収縮性ポリマーフィルムヘの印刷に特に適する。...印刷されたインキおよびコーティング組成物は良好な接着性および抵抗特性を示す。」(【0019】)、「典型的には、自己架橋アクリルポリマーは、0℃超のTgを有する」(【0045】)ことが記載されている。

一方、フィルム用の水性インキに使用する自己架橋アクリルポリマーについて、甲第3号証にはガラス転移温度が-10℃~30℃であること(甲3の【0037】)が記載されている。また、甲第4号証の実施例10、13、14には、ガラス転移温度が2℃、-1℃、-11℃の自己架橋アクリルポリマーが記載されており、甲第5号証の表2-1、表2-2には、水性樹脂Em1~4、6~16、22,23、28~31として、ガラス転移温度が-7~7℃の範囲の自己架橋アクリルポリマーが記載されている。

そうすると、引用発明(甲第1号証記載の発明)において、良好な接着性および抵抗特性を得るために、これらの性質に関与するガラス転移温度について好適な温度範囲を選択することは、審査基準にいう「一定の課題を解決するための数値範囲の最適化又は好適化」であり、当業者の通常の創作能力の発揮にすぎない。

そして、甲第1号証には、「0℃超のTgを有する」と記載されており、また、上述のとおり、フィルム用の水性インキに使用する自己架橋アクリルポリマーのTgとして、通常、おおよそ-10℃~30℃程度のものが使われているのであるから、本件訂正発明1の「-15℃~8℃」といった範囲は、当業者が好適なTgを選択するに際して想定する範囲を超えるものではない。

(イ)効果について

特許権者は、意見書において、「ガラス転移温度が-15℃~8℃である」との構成を具備することにより、特に「収縮ラベル用」という特殊用途において要求される「収縮後密着性」に関する課題を解決できる旨主張し、その根拠としてガラス転移温度が8℃である実施例13は、収縮後密着性に関する評価がA評価であるのに対して、ガラス転移温度が40℃である実施例8は、収縮後密着性に関する評価がB評価であることを挙げている。

しかしながら、本件特許明細書の実施例4~6、12は、ガラス転移温度が0℃であり、訂正発明1の「ガラス転移温度が-15℃~8℃である」との構成を具備するものであるが、収縮後密着性に関する評価がB評価であり、特許権者自身が、「収縮ラベル用」という特殊用途において要求される「収縮後密着性」に関する課題を解決できないと評価する実施例8と同じB評価である。

したがって、「ガラス転移温度が-15℃~8℃である」との構成を具備することにより、特に「収縮ラベル用」という特殊用途において要求される「収縮後密着性」に関する課題を解決できる旨の特許権者の主張は失当である。」と主張する。

(イ)当審の判断

前記イで検討したとおり、水性インキの周知技術といえる(ウ)~(カ)の記載に基づいたとしても、引用発明の収縮フィルム上に印刷する水系白色インキにおいて、酸価を25~85mgKOH/g程度とし、かつ、ガラス転移温度を-15~8℃とする動機付けがあるとはいえない以上、酸価を25~85mgKOH/g程度とし、かつ、ガラス転移温度を-15~8℃とすることまで通常の創作能力の発揮にすぎないとはいえないし、効果についての前記ウで検討したとおり、酸価を25~85mgKOH/g程度とし、かつ、ガラス転移温度を-15~8℃とすることにより、本件特許発明1により奏される効果は、引用発明と比較して、当業者の予測を超える優れたものであるといえる。

よって、特許異議申立人の前記主張は採用できない。

エ 小括

したがって、本件特許発明1は、甲1に記載された発明及び甲2~甲5に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものではない。

(2)本件特許発明2及び3

本件特許発明2及び3は、本件特許発明1を引用してさらに限定するものであり、上記本件特許発明1と引用発明との<相違点>と同じ相違点を有するものであって、<相違点>については前記(1)イで検討したとおりであるから、本件特許発明2及び3は、甲1に記載された発明及び甲2~甲5に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものではない。

第6 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について

特許異議申立人の主張のうちは取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由は以下の理由2(実施可能要件)及び理由3(サポート要件)である。

1 理由2(実施可能要件)本件特許の請求項1~3に係る特許は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で特許法第36条第4項第1号に適合するものではないから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。

(ア)本件特許発明1

本件特許発明1は、「酸価が25~85mgKOH/gであ」ることを発明特定事項とするものである。

(イ)発明の詳細な説明の記載事項

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段落【0027】に、「なお、本実施形態において、酸価は、アクリル系エマルジョンを合成するために用いる単量体の組成に基づいて、アクリル系エマルジョン1gを中和するのに理論上要する水酸化カリウムのmg数を算術的に求めた理論酸価である。」との記載があり、「算術的に求めた理論酸価」であるから、酸価は、「固形酸価」のことであると解される。

一方、段落【0051】の表1には、比較例であるNo.18とNo.19では、それぞれ、Neocry1 A-1127とNeocry1 XK-12を用いており、段落【0054】の表2には、No.18とNo.19についてそれぞれ、酸価18,11と記載されている。

また、段落【0050】には、「<アクリル系エマルジョンの調製>

以下の表1に記載の酸価およびTgとなるように、No.1のアクリル系エマルジョンを調製した。具体的には、アクリル酸、メタクリル酸メチル、スチレンで構成された共重合体をアンモニア水で溶解させた水溶液を高分子乳化剤として得た。次いで、コア部を形成するために、メタクリル酸メチル、2ーエチルヘキシルアクリレート、ジアセトンアクリルアミドを添加し、常法により乳化重合した。その後、得られたアクリル系エマルジョン溶液に、アジピン酸ジヒドラジド(ADH)を1質量%添加することにより、No.1のアクリル系エマルジョン溶液を調製した。」と記載されている。

(ウ)実施可能要件を満たしていない理由

(ウ-1) 甲第6号証の「DSM製品ラインアップ楠本化成株式会社 2016年12 発行」の7ページに、Neocryl A-1127について、固形分44で酸価が18と記載されている。8ページに、Neocryl XK-12について、固形分45で酸価が11と記載されている。

ここで、甲第7号証の「NeoCrylA 1127_en_50016095 23152371 23488782.pdf」は、Neocryl A-1127のTDS(テクニカルデータシート)であり、Solids(固形分)43-45%が記載されている。また、甲第8号証の「NeoCryl XK 12_en_50008244 23376467 23489582」は、Neocryl XK-12のTDS(テクニカルデータシート)であり、Solids(固形分)44-46%が記載されている。

これらの記載事項について検討する。

甲第6号証は製品カタログであり、製品カタログは製品荷姿の性状値を記載するものであるから、Neocryl A-1127についての固形分44で酸価が18との記載から、固形分44%のエマルジョンでのNeocrylA-1127の溶液酸価が18であると解される。

そうすると、Neocryl A-1127の「固形酸価」は、溶液酸価が18で固形分が44%であることから、18/44%=40.9となる。

同様に、Neocryl XK-12についての固形分45で酸価が11との記載から、固形分 45%のエマルジョンでのNeocryl XK-12の溶液酸価が11であると解される。

そうすると、Neocryl XK-12 (No.19)の「固形酸価」は、溶液酸価が11で固形分が45%であることから、11/45%=24.4となる。

そうすると、本件特許明細書の段落【0051】の表1のNo.18とNo.19は、固形酸価がそれぞれ40.9、24.4であり、Neocryl A1127(No.18)を用いた比較例5且本件特許の請求項1の要件を満たすものとなる。また、Neocryl XK-12(No.19)を用いた比較例6も実質的に本件特許の請求項1の要件を満たすものとなる。

仮に、本件特許明細書の段落【0054】の表2の比較例5(エマルジョンNo.18)に記載の酸価が溶液酸価の値を記載しているとすると、これらを固形分酸価に換算すると、表2の記載からは、エマルジョンNo.18は、溶液酸価が18で固形分が35.2%であることから、18/35.2%=5l.lとなり、本件特許の請求項1の要件を満たすものとなる。

また、仮に、本件特許明細書の段落【0054】の表2の比較例6(エマルジョンNo.19)に記載の酸価が溶液酸価の値を記載しているとすると、これらを固形分酸価に換算すると、No.19は溶液酸価が11で固形分が34.4%であることから、11/34.4%=32.0となり、本件特許の請求項1の要件を満たすものとなる。

更に、他の実施例・比較例の酸価も溶液酸価を意味しているのか固形分酸価を意味しているのか不明であり、請求項1の要件を満たすか否かも不明である。

以上のとおりであり、そもそも、本件特許明細書の実施例及び比較例が矛盾を含んだものであり、このような実施例及び比較例をもって、本件特許発明が、25~85mgKOH/gといった酸価、かつ、-15~50℃といったガラス転移混度といった数値範囲を選択することにより奏する効果を認定することはできない。まして、本件特許発明が、当業者の予想を超える顕著な効果を奏するものであること裏付けるものであるとは到底認められない。

(ウ-2) ガラス転移温度と酸価が同じであるとしても多種多様な構成のアクリル樹脂が考えられるので、段落【0050】に記載されたアクリル系エマルジョンの全てについて、同様の評価結果が得られるとはいえない。

2 理由3(サポート要件)本件特許の請求項1~3に係る特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で特許法第36条第6項第1号に適合するものではないから、本件特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。

請求項の記載がサポート要件を満たすというためには、請求項に係る発明が、「発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載、技術常識により、当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のもの」でなくてはならない。

しかしながら、本件特許発明1は「収縮ラベル」として広範な収縮ラベルを含むものであるが、本件発明が課題を解決するものであることを示すために記載された実施例は、収縮ラベルが収縮性末処理ポリスチレンである実施例のみである。

このような本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載からは、本件特許発明が、「発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載、技術常識により、当業者が当該発明の課懸を解決できると認識できる範囲のもの」であるとはいえない。

また、本件特許発明1は「コアシェル構造を有する自己架橋アクリル系エマルジョン」は、架橋剤が配合され得るものであり、架橋剤としては特に限定されず広範な架橋剤が使用される(段落【0035】)ものであるが、本件発明が課題を解決するものであることを示すために記載された実施例は、架橋剤として、アジピン酸ジヒドラジド(ADH)を配合した実施例のみである。

このような本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載からは、本件特許発明が、「発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載、技術常識により、当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のもの」であるとはいえない。

第8 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由に対する当審の判断

1 前記第6 理由2(実施可能要件)について

酸価について、本件特許明細書の比較例と甲第6号証とは整合性があり、本件特許明細書の実施例及び比較例が何ら矛盾を含んでおらず、本件特許発明1~3を実施できることは明らかである。

また、本件特許明細書の実施例の記載から、【0050】に記載されたコアシェル構造を有する自己架橋アクリル系エマルジョンの全てについて収縮ラベル用水性インキ組成物を製造できることが理解できる。

そうすると、本件特許発明1~3は実施可能要件を満たさない発明であるとはいえない。

2 前記第6 理由3(サポート要件)について

本件特許発明の課題は、本件特許明細書の【0007】に記載のとおり、耐スクラッチ性、耐揉み性、耐ブロッキング性、耐水耐摩擦性に加え、収縮ラベル用に必要とされる熱収縮後のフィルムに対する密着性および耐エッジ割れ性にも優れる収縮ラベル用水性インキ組成物を提供することすることにある。

そして、本件特許明細書の実施例の記載からみて、収縮ラベルが収縮性末処理ポリスチレンであるものが前記課題を解決できることが理解でき、【0043】に挙げられる収縮性のプラスチックフィルムは収縮性末処理ポリスチレンと同じ特性を有することが明らかであり、収縮性末処理ポリスチレン以外の収縮ラベルも前記課題を解決できると推認できるし、特許異議申立人は収縮性末処理ポリスチレン以外の収縮ラベルが前記課題を解決できないことを実証しているわけでもない。

また、本件特許明細書の実施例の記載からみて、架橋剤を含まないものも前記課題を解決できることが理解できるから、架橋剤がアジピン酸ジヒドラジド(ADH)以外の架橋剤であるものも前記課題を解決できると推認できるし、特許異議申立人は架橋剤がアジピン酸ジヒドラジド(ADH)以外であるものが前記課題を解決できないことを実証しているわけでもない。

そうすると、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載からは、本件特許発明1~3が、「発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載、技術常識により、当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のもの」であるといえる。

第9 令和6年2月7日提出の意見書において主張する新たな特許異議申立理由について

理由4(サポート要件)本件特許の請求項1~3に係る特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で特許法第36条第6項第1号に適合するものではないから、本件特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。

特許権者は、「ガラス転移温度が-15℃~8℃である」との構成を具備することにより、特に「収縮ラベル用」という特殊用途において要求される「収縮後密着性」に関する課題を解決できる旨主張し、その根拠としてガラス転移温度が8℃の実施例13は、ガラス転移温度が40℃の実施例8に比べて「収縮後密着性」をより良好に解決できることを挙げている。

しかしながら、本件特許明細書の実施例4~6、12は、ガラス転移温度が0℃であり、訂正発明1の「ガラス転移温度が-15℃~8℃である」との構成を具備するものであるが、収縮後密着性に関する評価がB評価であり、「収縮ラベル用」という特殊用途において要求される「収縮後密着性」に関する課題を解決できないと評価する実施例8と同じB評価である。

そうすると、特許権者は、本件訂正発明1の実施例である実施例4~6、12は、「収縮ラベル用」という特殊用途において要求される「収縮後密着性」に関する課題を解決できないと、すなわち、本件訂正発明1はサポート要件を満たさないと、自ら述べていることとなる。

第10 前記第9の新たな特許異議申立理由に対する当審の判断

本件特許発明の課題は前記第9のとおりである。

そして、本件特許明細書の実施例4~6、12は、収縮後密着性に関する評価がB評価である以上、前記課題を解決できるといえる。

そうすると、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載からは、本件特許発明1~3が、「発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載、技術常識により、当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のもの」であるといえる。

第11 むすび

以上のとおりであるから、令和5年10月24日付けの取消理由通知、特許異議申立書に記載した特許異議申立理由及び令和6年2月7日提出の意見書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1~3に係る特許を取り消すことはできない。

また、他に本件請求項1~3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。

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2023-700535

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