特許異議申立
2025-700621
塗膜剥離組成物及び塗膜の剥離方法
- 審判番号
- 2025-700621
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2023-008633
- 登録番号
- 7620036
- 請求日
- 2025年06月12日
- 審決日
- 2026年06月18日
- 公報発行日
- 2026年09月25日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】株式会社ネオス
- 【権利者代理人】弁理士法人三枝国際特許事務所
- 【異議申立人】伊藤 弘美
- 審判長/審判官
- 審判長 村守 宏文
- 審判官 井上 千弥子
- 審判官 山田 貴之
- 分類
- P1651.121-YAA(C09D) / P1651.537-YAA(C09D)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第29条第2項、特許法第120条の5第2項、特許法第36条第6項第2号、特許法第113条第2号、特許法第120条の5第4項、特許法第126条第6項、特許法第126条第5項、特許法第36条
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第7620036号発明「塗膜剥離組成物及び塗膜の剥離方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7620036号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~6〕について訂正することを認める。
特許第7620036号の請求項1~6に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
1 本件特許に係る出願は、平成30年2月13日(優先権主張 平成29年3月28日)を国際出願日とする特願2019-508716号の一部を令和5年1月24日に新たな特許出願としたものであって、令和7年1月14日に請求項1~6に係る特許の設定登録がされ、同年同月22日に特許掲載公報が発行されたところ、同年6月12日に特許異議申立人 伊藤 弘美(以下「申立人」という。)により全請求項に係る特許に対して特許異議の申立てがされたものである。
2 その後の手続は以下のとおりである。
令和7年 9月17日付け 当審において取消理由通知
同年11月19日 訂正請求書及び意見書の提出(特許権者)
同年12月11日付け 当審において訂正請求があった旨の通知
令和8年 1月14日 意見書の提出(申立人)
同年 3月 5日付け 当審において取消理由通知(決定の予告)
同年 5月 8日 意見書の提出(特許権者)
第2 訂正の適否
1 訂正内容
令和7年11月19日に提出された訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)は、次の訂正事項1からなる。(なお、下線は訂正箇所であり、当審合議体が付与した。)
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、
「但し、過酸化水素、尿素過酸化物、N-メチル-2-ピロリドン、アンモニア、及び分解してアンモニアを放出する物質を含むものを除く。」と記載されているのを、「但し、過酸化水素、尿素過酸化物、N-メチル-2-ピロリドン、アンモニア、炭酸アンモニウム、カルバミン酸アンモニウム、重炭酸アンモニウム及び酸性炭酸カルバミン酸アンモニウムからなる群より選択される少なくとも一種を含む塗膜剥離組成物を除く」と訂正する。(請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項2~6も同様に訂正する。)
2 一群の請求項について
訂正前の請求項1~6について、訂正前の請求項2~6はそれぞれ訂正前の請求項1を直接又は間接的に引用しているものであって、訂正事項1によって記載が訂正される訂正後の請求項1に連動して訂正されるものである。
したがって、訂正事項1は、特許法120条の5第4項に規定する一群の請求項についてなされたものである。
3 本件訂正についての検討
(1)訂正事項1
訂正事項1は、訂正前の請求項1の「分解してアンモニアを放出する物質を含むもの」との記載が、その記載により意図する具体的な物質の範囲が不明であり、「但し・・・を除く」の対象が不明瞭であったところ、その記載を、「炭酸アンモニウム、カルバミン酸アンモニウム、重炭酸アンモニウム及び酸性炭酸カルバミン酸アンモニウムからなる群より選択される少なくとも一種を含む塗膜剥離組成物」とすることにより、「分解してアンモニアを放出する物質」であることが明らかな具体的な化合物を含む組成物に限定し、「但し・・・を除く」の対象を明瞭にするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮及び同項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。また、訂正事項1は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、実質的な内容の変更を伴うものではないから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であって、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。
(2)独立特許要件についての判断
本件訂正においては、訂正前の請求項1~6の全てに対して特許異議の申立がされているので、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する第126条第7項の規定は課されない。
(3)小括
以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5、6項の規定に適合するものである。
4 訂正の適否についてのまとめ
したがって、本件特許の特許請求の範囲を令和7年11月19日提出の訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~6〕について訂正することを認める。
第3 本件訂正発明
前記第2のとおり、本件訂正の請求は認められたので、本件特許の請求項1~6に係る発明は、訂正特許請求の範囲の請求項1~6に記載された以下のとおりのものである(以下「本件訂正発明1」等といい、まとめて「本件訂正発明」ともいう。)。
「【請求項1】
pHが5~9の範囲にあり、水、ベンジルアルコール及び少なくとも1種のセルロース誘導体を含み、
ベンジルアルコールの含有量が全体量の45~80wt%であり、
ベンジルアルコールと水の質量比(ベンジルアルコールの質量:水の質量)が60:38. 4~4.8:1の範囲にあり、
セルロース誘導体の含有量が全体量の1~3.5wt%である、塗膜剥離組成物(但し、過酸化水素、尿素過酸化物、N-メチル-2-ピロリドン、アンモニア、炭酸アンモニウム、カルバミン酸アンモニウム、重炭酸アンモニウム及び酸性炭酸カルバミン酸アンモニウムからなる群より選択される少なくとも一種を含む塗膜剥離組成物を除く。)。
【請求項2】
セルロース誘導体がメチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ブチルセルロース及びプロピルセルロースからなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
セルロース誘導体の含有量が全体量1~3wt%である請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
室温での粘度が3,000~110,000mPasの範囲にある、請求項1~3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載の塗膜剥離組成物を塗膜に塗布し、塗膜を剥離することを特徴とする塗膜の剥離方法。
【請求項6】
前記塗膜がメラミン、アクリル、フタル酸、ラッカー、ウレタン又はエポキシ系の樹脂を含むことを特徴とする請求項5に記載の塗膜の剥離方法。」
第4 特許異議申立ての理由及び当審が通知した取消理由の概要
1 申立人が申し立てた理由の要旨は、次のとおりである。
(1)甲1号証を主引用例とする進歩性の欠如
本件特許の特許請求の範囲の請求項1~6に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2~6号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
(2)明確性要件違反
本件特許の特許請求の範囲の請求項1~6の記載は、「分解してアンモニアを放出する物質を含むもの」の特定するものが不明であるから、除こうとするものが不明りょうであり、特許を受けようとする発明が明確ではなく、特許法第36条6項第2号に規定する要件を満たしていないから、本件特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
2 当審において令和7年9月17日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
(1)理由1(甲第1号証を主引用例とする進歩性の欠如)
本件特許の特許請求の範囲の請求項1~3、5、6に係る発明は甲1に記載された発明、並びに甲1に記載された事項又は甲1~甲3に記載された事項、及び周知技術に基いて、本件特許の特許請求の範囲の請求項4に係る発明は甲1に記載された発明、並びに甲1、甲6に記載された事項又は甲1~甲3、甲6に記載された事項、及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
(2)理由2(明確性要件違反)
本件特許の特許請求の範囲の請求項1の「分解してアンモニアを放出する物質を含むもの」の意図するものが具体的に何の物質であるのか不明であるから、除こうとするものが不明りょうであり、本件特許の特許請求の範囲の請求項1~6についての特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号の規定により取り消すべきものである。
3 当審において令和8年3月5日付けで特許権者に通知した取消理由(決定の予告)の要旨は、次のとおりである。
(1)理由1(甲第1号証を主引用例とする進歩性の欠如)
本件特許の特許請求の範囲の請求項1~3、5、6に係る発明は甲1に記載された発明、並びに甲1~甲3に記載された事項、及び周知技術に基いて、本件特許の特許請求の範囲の請求項4に係る発明は甲1に記載された発明、並びに甲1~甲3、甲6に記載された事項、及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
第5 証拠方法等の一覧
1 特許異議申立書とともに申立人が提出した証拠等
甲第1号証:米国特許出願公開第2007/0244019号明細書
甲第2号証:特開平7-173492号公報 (周知技術を示す文献)
甲第3号証:特開平10-330660号公報 (周知技術を示す文献)
甲第4号証:特開2011-213621号公報 (周知技術を示す文献)
甲第5号証:特開2017-42617号公報 (周知技術を示す文献)
甲第6号証:特開平11-148032号公報
(以下、「甲第1号証」~「甲第6号証」を「甲1」~「甲6」ともいう。)
参考文献A:商品情報 塗料の種類 ポリエステル樹脂塗料,[online],大日本塗料株式会社,[取得日 2025年9月10日],取得先<https://www.dnt.co.jp/products/kind/4.html>
2 訂正請求書及び意見書とともに特許権者が提出した証拠等
乙第1号証:実験成績証明書
乙第2号証:実験成績証明書
乙第3号証:乙第1号証に記載の実施例11の塗膜剥離組成物の写真を拡大し、分層が生じている部分付近を赤枠で囲んだ図
乙第4号証:実験成績証明書
(以下、「乙第1号証」~「乙第4号証」を「乙1」~「乙4」ともいう。)
第6 当審における判断
1 文献等に記載された事項
以下、下線は合議体による。
(1)甲1
甲1には以下の事項が記載されている。なお、甲1は外国語によるものであるから、申立人による日本語訳にて記載する。
「[0002]本発明は、水性塗料剥離剤組成物を対象としている。」
「[0023]有用な塩基には、グループIA及びグループIBの水酸化物及び水酸化アンモニウムが含まれる。有用な塩には、有機塩及び無機塩の両方が含まれる。有用な有機塩としては、上記酸のグループIA、グループIB及びアンモニウム塩が含まれる。このような塩の好ましい例としては、酢酸ナトリウム(無水物と水和物の両方)が含まれる。」
「[0025]特定の態様において、特に塩が使用される場合、本発明の水性ベースの製剤のpHを調整することができる。これは、例えば、金属基材から塗料が除去される場合、中性又はアルカリ性の溶液は酸性溶液よりも金属腐食を引き起こさないため、有利である。1つ以上の好ましい実施形態において、本発明の水系溶液のpHは、室温で7.0以上、好ましくは7.5以上、さらに好ましくは8.0以上、最も好ましくは8.2~8.7の間で調整される。
[0026]組成物は、カップリング剤、安定剤、キレート剤、腐食防止剤、防腐剤、レオロジー修飾剤又はチキソトロピー剤、蒸発遅延剤、可溶化剤、乳化剤又は界面活性剤、及びそれらのいずれかの任意の組合せなどの他の補助剤を含んでもよい。
[0027]適切な界面活性剤又は可溶化剤-乳化剤には、イオン性および非イオン性界面活性剤が含まれるが、これらに限定されない。・・・好ましい界面活性剤は、ノニルフェノールポリエトキシレート、商品名Tergitol NP4(Dow Chemical; Midland, Mich.)で市販されている。
[0028]好適なレオロジー修飾剤は、限定されないが、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒュームドシリカ、沈降シリカ、沈降炭酸カルシウム、クレイまたは有機クレイ、ヒマシ油、ヒマシ油誘導体、及びそれらのいずれかの任意の組合せが含まれる。好ましいチキソトロピー剤は、ヒドロキシエチルセルロース、商品名Cellosize Hydroxyethyl Cellulose(Dow Chemical、Midland、Michigan)で市販されている。」
「[0031]本発明の組成物は、一般に、約5~85質量%の水、約5~85質量%の芳香族アルコール、および約0.05~30質量%の電解質を、全組成物の100質量%に基づいて含む。好ましくは、本発明の組成物は、約10~約80質量%の水、約8~約80質量%の芳香族アルコール、および約0.1~約27質量%の電解質を、全組成物の100質量%に基づいて含む。より好ましくは、本発明の組成物は、約12~約75質量%の水、約12~約75質量%の芳香族アルコール、および約0.2~約25質量%の電解質を、全組成物の100質量%に基づいて含む。さらに好ましくは、本発明の組成物は、約15~約75質量%の水、約15~約75質量%の芳香族アルコール、および約0.5~約23質量%の電解質を含む。1又はそれ以上の実施形態において、本発明の水性ベースの製剤の含水量の増加が改善された結果を提供することが予想外に見出されている。したがって、ある態様において、水性ベースの製剤は、約50質量%を超える水を含み、より好ましい水は約60質量%を超え、より好ましくは水の約65質量%を超え、さらに好ましくは約70~約80質量%を超える水である。」
「[0038]別の実施形態において、本発明の組成物は、ベンジルアルコール、ノニルフェノールポリエトキシレート、酢酸ナトリウム(三水和物)、ヒドロキシエチルセルロース、2,5-ジメルカプト-1,3,4-チアジアゾール二ナトリウム(30%水溶液)、及び水酸化ナトリウムを含む。好ましくは、この組成物は、約8~約80質量%のベンジルアルコール、約10~約90質量%の水、約0.01~約30質量%のノニルフェノールポリエトキシレート、約0.1~約25質量%の酢酸ナトリウム(三水和物)、約0.02~約5質量%のヒドロキシエチルセルロース、約0.02~約5質量%の2,5-ジメルカプト-1,3,4-チアジアゾール二ナトリウム(30%水溶液)を含む。より好ましくは、この組成物は、約15~約70質量%のベンジルアルコール、約15~約70質量%の水、約0.05~約27質量%のノニルフェノールポリエトキシレート、約0.5~約20質量%の酢酸ナトリウム(三水和物)、約0.05~約4質量%のヒドロキシエチルセルロース、約0.05~約4質量%の2,5-ジメルカプト-1,3,4-チアジアゾール二ナトリウム(30%水溶液)を含む。」
「[0042]本発明の塗料剥離剤配合物は、従来の塗料剥離剤が使用されている方法で使用することができる。例えば、本発明の塗料剥離剤は、ブラッシング、スプレー、又はローラー塗布によって塗布することができる。また、周囲条件下で基材に適用することもできる。1つの好ましい実施形態において、本発明の塗料剥離剤配合物が塗装された基体に適用され、次いで、本発明の配合物によって形成されるコーティングが被覆される。好ましくは、コーティングを覆うために使用される材料は、配合物内の成分の蒸発を防ぐであろう。1つの好ましい実施形態では、ポリエチレンフィルムが被膜に塗布される。
[0043]基材に塗布される配合物の量は、除去する塗料が浮き上がるまで濡れた表面を維持するのに十分な量であることが好ましい。これには通常、1つのアプリケーションが必要であるが、複数のアプリケーションが必要な場合もある。理想的には、コーティングは、約2~約300ミル、より好ましくは約4~約200ミル、より好ましくは約6~約100ミル、さらにより好ましくは約8ミル~約50ミルの厚さで塗布される。」
「実施例3
[0047]ベンジルアルコール(19.0g)、水道水(28.5g)、酢酸ナトリウム三水和物(Baker Chemicals、2.03g)、ノニルフェノールポリエトキシレート(Tergitol NP-4、0.07g)、2,5-ジメルカプト-1,3,4-チアジアゾール二ナトリウム(Vanchem NATD、30%水溶液、0.07g)、ヒドロキシエチルセルロース(Cellosize QP-100MH、0.35g)を加えて撹拌した。周囲条件下で3分間撹拌した後、調製物は粘性になり、軟質で無色から淡いクリーム色のチキソトロピーペーストとして現れた。この製品は、華氏72°において89分で金属パネルから白い塗料を取り除いた。この製品は、50分以内にコンクリート表面から塗料を取り除いた。」
(2)甲2
甲2には、以下の事項が記載されている。
「【0008】
【課題を解説するための手段】このような目的を達成するために、請求項1にかかる発明の組成物は、被着体表面に付着した付着物を溶解または膨潤可能な有機化合物と、水とを含み、かつ、水中油滴型分散状態になっていることを特徴としている。請求項2にかかる発明の組成物は、被着体表面に付着した有機系付着物を溶解または膨潤可能な有機化合物と、水と、界面活性剤とを含み、かつ、前記有機化合物が水中油滴型の分散状態になっていることを特徴としている。」
「【0013】有機化合物としては、有機系付着物を溶解または膨潤できるものであれば、特に限定されず、有機エステル化合物,有機炭化水素化合物,脂肪酸化合物,有機ケトン化合物,ハロゲン化炭化水素化合物,アルデヒド化合物,エーテル系化合物,複素環式化合物,アルコール化合物,有機窒素化合物,動物油,植物油およびそれらの誘導体からなる群から選択される少なくとも1種の化合物が挙げられる。また、これら有機化合物は、液体でなくても構わない。たとえば、固体のものであれば、他の有機溶媒で溶解させた状態で水と混合するようにしても構わない。」
「【0016】アルコール化合物としては、n-オクチルアルコール,n-デシルアルコール,ポリエチレングリコール,メチルセロソルブ,tert-アミルアルコール,フェノール,ベンジルアルコール,メチルベンジルアルコールなどが挙げられる。脂肪酸化合物としては、安息香酸,アルケニルコハク酸,ナフテン酸,オレイン酸,イソノナン酸などが挙げられる。」
「【0025】上記請求項6および請求項7の構成において、有機化合物としては、特に限定されないが、たとえば、N-メチル-2-ピロリドン,トリエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル等が挙げられる。なお、本発明において除去とは、剥離、洗浄、分散、分離、凝集等の各作用の一部又はこれらの組み合わせからなる作用により付着物を被着体から取り除くことを言う。
【0026】本発明の組成物で除去できる付着物は、例えば、鉄、ステンレス、非鉄金属、ガラス、プラスチック、布、タイル、コンクリート壁、木板、ゴム、紙などの各種被着体上に付着した、アルキッド樹脂(短油アルキッド、中油アルキッド、長油アルキッド、フェノール変性アルキッド、ビニル変性アルキッドなど)やアクリル樹脂、アクリルスチレン樹脂、アミノ樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリエステル樹脂などの各種樹脂類(これらの樹脂からなる接着剤や粘着剤を含む)や、各種オイル(石油系グリース、シリコングリース、防錆油・切削油・プレス油・焼入油・圧延油等の金属加工油剤、ワックスなど)、油性マジック・カラー印刷・ボールペン等の各種インク、コピーのトナー、ペイント・ペンキ・ラッカー等の各種塗料や鉛筆などが挙げられる。また、衣類上に付着した口紅、各種ソース(ウースター、ケチャップ、マヨネーズなど)、コーヒー、ココアなどの汚れを除去することもでき、床面などに付着したチューイングガムも除去できる。なお、被着体がプラスチックの場合には該被着体自体が本発明の組成物で侵されないような有機化合物を適宜選択する必要があるのは言うまでもない。」
「【0048】
組成物B-13(O/W型)
ベンジルアルコール ・・・ 50重量%
オレイン酸ブチルエステル硫酸化物ナトリウム塩 ・・・ 20重量%
ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル ・・・ 10重量%
水 ・・・ 20重量%
・・・」
(3)甲3
甲3には、以下の事項が記載されている。
「【0011】“850及び261号出願”及び“986号特許”を参照すれば、このようなエマルジョンを使用する塗料剥離剤処方物は、水、ベンジルアルコール{及び所望ならば、ぎ酸(その一部はベンジルアルコールの一部と反応してその場で若干のぎ酸ベンジル及びは追加の水を形成する)、或いは、これと同等の水、ベンジルアルコール、ぎ酸及びぎ酸ベンジルの混合物は同等の混合物から又は相当する等量のぎ酸ベンジル、水及び随意のベンジルアルコール又はぎ酸(それぞれモル過剰量のベンジルアルコール又はぎ酸を得たいと望む場合)から出発して形成することができる。}、アニソール、ワックス(要すれば)、約2重量%までの増粘剤(例えば、ヒドロキシプロピルセルロース又はメチルセルロース)、約15重量%までの、増粘剤の湿潤及び随意のワックスの溶解を促進させるための炭化水素溶媒(石油留分を含めて芳香族又は脂肪族)、約2重量%までの界面活性剤(例えば、キシレンスルホン酸ナトリウム又はオレイン酸ヒドロキシエチルイミダゾリンのようなイミダゾリン)、約15重量%までのアンモニア(アルカリ性側の処方物のため)又は水酸化ナトリウム(ぎ酸が存在する場合)、約5重量%までの腐蝕防止剤(例えば、2-メルカプトベンゾトリアゾール、ベンゾチアゾール又は珪酸ナトリウム)及び所望ならば少量(通常は0.1~0.3g/ガロン)の染料を一緒に混合することによって製造することができる。」
「【0013】
【表1】
[図:0001439200000001.jpg]
【0014】これらの処方物について、ポリウレタントップコート系(エポキシプライマー上のポリウレタントップコート)又はポリウレタントップコート/ポリウレタンプライマー系(ポリウレタンプライマー上のポリウレタントップコート)を塗布したアルミニウムパネル上での標準性能試験において比較剥離試験を行った。剥離試験は、アルミニウムから白色ポリウレタン塗料を除去する塗料剥離剤の有効性を評価するために使用される軍仕様書であるMIL-R-81294に従った。エポキシトップコート系(エポキシプライマー上のエポキシトップコート)については試験を行わなかったが、これまでの経験から、ポリウレタントップコート系についての結果はエポキシトップコート系についての結果と類似することが示された。これらの試験の結果を以下の表Iに記載する。データは、系のそれぞれについて24時間以内に剥離されたパネルの%を示す。」
(4)甲4
甲4には、以下の事項が記載されている。
「【0020】本発明に用いられる成分(c)のアルキル基をもつセルロース高分子は、成分(a)、(b)を良好に乳化させ、粘性を付与し、経時安定性を向上させ、みずみずしい使用感と保湿効果を組成物に与えることができる。例えばメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウムなどが挙げられ、特に経時安定性の観点からヒドロキメチルセルロースが好ましい。」
(5)甲5
甲5には、以下の事項が記載されている。
「【0104】
(乳化剤)
前記乳化剤は、公知のものでよく、特に限定されない。
好ましい乳化剤としては、例えば、ポリビニルアルコール(本明細書においては「PVA」と略記することがある)、カルボキシメチルセルロース(本明細書においては「CMC」と略記することがある)、エチルセルロース、メチルセルロース、カイゼン、アラビアゴム、ゼラチン、ロート油、ベンゼンスルホン酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のアルキルベンゼンスルホン酸塩、ポリオキシエチレン硫酸塩、エチレン-無水マレイン酸共重合体、スチレン-無水マレイン酸共重合体、イソブチレン-無水マレイン酸共重合体、ポリ(メタ)アクリル酸等が挙げられる。
なお、本明細書において、「(メタ)アクリル酸」とは、「アクリル酸」及び「メタクリル酸」の両方を包含する概念とする。」
(6)甲6
甲6には、以下の事項が記載されている。
「【0104】キサンタンガムは、単独かまたは他の増粘剤(例えば、セルロースエーテルおよびセルロースエステル;アルキルセルロース(例えば、メチルセルロース)およびヒドロキシアルキルセルロース(例えば、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース)などを含めて)と組み合わせるかいずれかで使用できる特に好ましい多糖類ガム増粘剤である。単独かまたは他の多糖類(例えば、キサンタンガム)と組み合わせるかいずれかで本発明で有用な市販のセルロースエーテルの例には、Hercules Inc.からNatrosol 250 ER、250 HB、250 HRなどの一般商品名称で入手できるヒドロキシエチルセルロースが包含される。メチルセルロース生成物は、種々の名称(例えば、Methocelなど)で市販されている。エチルセルロース生成物もまた、市販されている(例えば、Dow Chemical Co.のEthocelStandard 100)。」
「【0131】・・・
実施例IV
A部
ベンジルアルコール 19.45
ピロール 1.50
Fluorad FC-171 0.003
トリルトリアゾール 0.37
メルカプトベンゾトリアゾール 0.16
Methocell XUS 40443 0.23
Triton DF-20 0.32
B部
水 62.83
ケイ酸ナトリウム(E等級) 3.00
Natrosol 250 H4BR 0.37
キサンタンガム 0.28
Veegum T 0.05
グリセリン 2.16
Butoxyne 497 0.33 SACI 100A 0.35
染料 0.01
水酸化ナトリウム(50%) 0.25
アニソール 8.34
・・・
この塗料剥離剤組成物を調製する方法は、実施例IVの組成物の調製に関して、さらに詳細に例示する。第一の水性混合物(A部)は、ベンジルアルコール、ピロール、トリルトリアゾール、メルカプトベンゾトリアゾール、Fluorad FC-171、Methocel XUS 40443およびTriton DF-20を上に示した量で混合することにより調製し、透明で濃厚な溶液が形成される。別の水性溶液(B部)は、Natrosol 250 H4BR、Veegum Tおよびキサンタンガムを、上で示した量で、撹拌しながら、水に同時に添加して、共分散体を形成することによって調製される。約5分間混合した後、B部の残りの成分を、各成分の添加の間に、約5分間にわたって、撹拌しながら、個々に添加する。B部の全ての成分を水に分散したとき、A部の有機混合物を、次いで、よく撹拌しながら、B部の水性混合物に添加して、クリーム状の乳濁液を形成する。実施例IVの乳濁液は、約4,000~12,000センチポアズの間の粘度を有する。実施例IVと類似の調合物(ここで、Natrosol 250、Veegum Tおよびキサンタンガムを、水に個々に添加し配合した)を調製する場合、得られた組成物は、4,000~12,000センチポアズの範囲の粘度を有するものとして、特徴づけられる。」
「【0136】本発明の方法では、表面から除去する塗料は、この塗料のこの表面への付着を低減するのに充分な時間にわたって、この塗料剥離剤組成物と接触される。塗装表面を、この塗料剥離剤を含有する容器に浸漬することにより、接触を行うことができ、またはこの塗料剥離剤は、当該技術分野で公知のいずれかの方法(例えば、噴霧、はけ塗り、回転塗装など)により、この塗装表面に塗布できる。この塗料のこの表面への付着の減少は、一般に、この塗料が、その後、この表面から容易に除去できるように、この塗料をこの表面から泡立たせて押し上げることにより、示される。この塗料の剥離を行うのに必要な時間は、この塗料の性質、この塗装の期間、塗装する表面などを含めた種々の要因に依存して、変わる。本発明の塗料剥離剤組成物を用いて剥離できる塗料には、アルキド、アクリル、ポリウレタン、エポキシド、エポキシ/ウレタンなどが挙げられる。」
2 甲1に記載された発明
前記1(1)の[0002]、[0042]、[0047]実施例3の記載から、甲1には次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
(甲1発明)
「ベンジルアルコール(19.0g)、水道水(28.5g)、酢酸ナトリウム三水和物(2.03g)、ノニルフェノールポリエトキシレート(0.07g)、2,5-ジメルカプト-1,3,4-チアジアゾール二ナトリウム(30%水溶液、0.07g)、ヒドロキシエチルセルロース(0.35g)、からなる塗料剥離剤組成物」
3 取消理由1(甲1を主引用例とする進歩性の欠如)について(前記第4 2(1)、3(1)の取消理由及び前記第4 1(1)の特許異議申立ての理由に相当)
(1)本件訂正発明1
ア 対比
本件訂正発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「ベンジルアルコール」は、本件訂正発明1の「ベンジルアルコール」に相当する。
甲1発明の「水道水」は、本件訂正発明1の「水」に相当する。
甲1発明の「ヒドロキシエチルセルロース」は、本件訂正発明1の「少なくとも1種のセルロース誘導体」に相当する。
甲1発明の「塗料剥離剤組成物」は本件訂正発明1の「塗膜剥離組成物」に相当する。
また、甲1発明は過酸化水素、尿素過酸化物、N-メチル-2-ピロリドン、アンモニア、炭酸アンモニウム、カルバミン酸アンモニウム、重炭酸アンモニウム及び酸性炭酸カルバミン酸アンモニウムからなる群より選択される少なくとも一種を含む塗膜剥離組成物、のいずれも含んでいないから、本件訂正発明1の「但し、過酸化水素、尿素過酸化物、N-メチル-2-ピロリドン、アンモニア、炭酸アンモニウム、カルバミン酸アンモニウム、重炭酸アンモニウム及び酸性炭酸カルバミン酸アンモニウムからなる群より選択される少なくとも一種を含む塗膜剥離組成物を除く」を充足する。
甲1発明のベンジルアルコールの含有量を計算すると、100×19.0/(19.0+28.5+2.03+0.07+0.07+0.35)=38(質量%)であり、ベンジルアルコールと水の質量比は、19.0:28.5=40:60であり、ヒドロキシエチルセルロースの含有量を計算すると、100×0.35/(19.0+28.5+2.03+0.07+0.07+0.35)=0.7(質量%)であるから、甲1発明は、本件訂正発明1のベンジルアルコールの含有量、ベンジルアルコールと水の質量比、セルロース誘導体の含有量を充足しない。
そうすると、両者は、以下の点で一致し、以下の点で相違するものである。
<一致点>
「水、ベンジルアルコール及び少なくとも1種のセルロース誘導体を含む、塗膜剥離組成物(但し、過酸化水素、尿素過酸化物、N-メチル-2-ピロリドン、アンモニア、炭酸アンモニウム、カルバミン酸アンモニウム、重炭酸アンモニウム及び酸性炭酸カルバミン酸アンモニウムからなる群より選択される少なくとも一種を含む塗膜剥離組成物を除く。)。」
<相違点1>
本件訂正発明1は「pHが5~9」であるのに対して、甲1発明にはそのように特定されていない点。
<相違点2>
本件訂正発明1は「ベンジルアルコールの含有量が全体量の45~80wt%」であるのに対して、甲1発明は38wt%である点。
<相違点3>
本件訂正発明1は「ベンジルアルコールと水の質量比(ベンジルアルコールの質量:水の質量)」が「60:38.4~4.8:1」(約61:39~約82.8:17.2)であるのに対して、甲1発明は40:60である点。
<相違点4>
本件訂正発明1は「セルロース誘導体の含有量が全体量の1~3.5wt%」であるのに対して、甲1発明は0.7wt%である点。
イ 事案に鑑み、相違点3について検討する。
甲1発明は、ベンジルアルコールの含有量が38wt%、ベンジルアルコール:水の質量比が40:60であり、水の含有量が38/40×60=57(wt%)である。
甲1の[0038]には、「この組成物は、約8~80質量%のベンジルアルコール、約10~90質量%の水、・・・を含む」とベンジルアルコール及び水の含有量について広範な範囲が記載されているものの、[0031]には、「本発明の水性ベースの製剤の含水量の増加が改善された結果を提供することが予想外に見出されている。」と、高い含水量とすることの技術的意義を示しつつ、「ある態様において、水性ベースの製剤は、約50質量%を超える水を含み、より好ましい水は約60質量%を超え、より好ましくは水の約65質量%を超え、さらに好ましくは水の約70~約80質量%を超える水である。」と具体的な範囲が記載されている。
そうすると、甲1の記載全体に接した当業者が、甲1発明において、57wt%という比較的高い水の含有量を、改善された結果が期待される範囲外の50wt%以下まで敢えて低減し、ベンジルアルコールと水の質量比(ベンジルアルコールの質量:水の質量)を、「60:38.4~4.8:1」(約61:39~約82.8:17.2)の範囲にするように動機付けられるものではない。
また、甲2~6において、ベンジルアルコールと水の質量比を特定の範囲にすることは記載されていないし、甲1発明において、ベンジルアルコールと水の質量比を「60:38.4~4.8:1」の範囲にすることを動機づけるに足るその他記載も示唆も見当たらない。
ウ 効果について
乙1の実験成績証明書、及び、乙3の乙第1号証に記載の実施例11の塗膜剥離組成物の写真を拡大し、分層が生じている部分付近を赤枠で囲んだ図を参酌すると、40℃、24時間の条件において、実施例5、実施例11の乳化判定は「×」となっており、実施例5、実施例11は、かかる過酷な条件では乳化安定性に劣っているといえる。
この点、前記実施例5において、ヒドロキシエチルセルロースの含有量を1~3.5wt%程度とすることで、良好な乳化作用が発揮されることは、甲1の記載及び周知技術からある程度予測できたものといえる。
しかしながら、乙4の実験成績証明書には、前記実施例5において、セルロース誘導体1:信越化学工業株式会社製:メトローズSM-400の含有量を0.5gから2.0gとした場合においても、依然として乳化判定が「×」となることが示されている。
すなわち、セルロース誘導体の含有量を1~3.5wt%程度にするだけでなく、塗膜剥離組成物の組成を「pHが5~9の範囲にあり、水、ベンジルアルコール及び少なくとも1種のセルロース誘導体を含み、ベンジルアルコールの含有量が全体量の45~80wt%であり、ベンジルアルコールと水の質量比(ベンジルアルコールの質量:水の質量)が60:38.4~4.8:1の範囲にあり、セルロース誘導体の含有量が全体量の1~3.5wt%である」とした場合に、40℃、24時間の条件において、乳化判定が「○」となる乳化安定性に顕著に優れることが示されており、前記甲1~6の記載及び周知技術をもって、このような格別顕著な効果までを当業者が予測できたとはいえない。
エ 相違点3についての申立人の主張について
(ア)申立人の主張の概要
申立人は、令和8年1月14日提出の意見書において、「水とベンジルアルコールとが分離しないように乳化安定性と粘度を調整すべく、水とベンジルアルコールとの質量比を最適な範囲に制御することは、当業者が当然に検討し、成し得るものである。」(以下「主張1」という。)と主張している。
そこで、前記主張1について検討する。
(イ)主張1について
仮に主張1が技術常識であったとしても、前記イで記載したとおり、甲1の記載全体に接した当業者が、甲1発明において、57wt%という比較的高い水の含有量を、改善された結果が期待される範囲外の50wt%以下まで敢えて低減し、ベンジルアルコールと水の質量比を、「60:38.4~4.8:1」の範囲にするように動機付けられるものではない。
また、甲2~甲6において、ベンジルアルコールと水の質量比を特定の範囲にすることは記載されていないし、甲1発明において、ベンジルアルコールと水の質量比を「60:38.4~4.8:1」の範囲にすることを動機づけるに足るその他記載も示唆も見当たらない。
そして、塗膜剥離組成物の組成を「pHが5~9の範囲にあり、水、ベンジルアルコール及び少なくとも1種のセルロース誘導体を含み、ベンジルアルコールの含有量が全体量の45~80wt%であり、ベンジルアルコールと水の質量比(ベンジルアルコールの質量:水の質量)が60:38.4~4.8:1の範囲にあり、セルロース誘導体の含有量が全体量の1~3.5wt%である」とした場合に、40℃、24時間の条件において、乳化判定が「○」となる乳化安定性に顕著に優れることが示されており、前記甲1~6の記載及び周知技術をもって、このような格別顕著な効果までを当業者が予測できたとはいえない。
よって、主張1は採用できない。
オ 小括
そうすると、相違点1、2、4について検討するまでもなく、本件訂正発明1は、甲1に記載された発明、並びに甲1~甲6に記載された事項、及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
したがって、本件訂正発明1は、特許法第113条第2号に該当せず、取り消すべきものではない。
(2)本件訂正発明2~6
本件訂正発明2~6は、いずれも本件訂正発明1を全て包含し、それぞれ個別の技術事項を追加したものである。そうすると、本件訂正発明2~6は、前記(1)に示した理由と同様の理由により、甲1に記載された発明、並びに甲1~甲6に記載された事項、及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
したがって、本件訂正発明2~6は、特許法第113条第2号に該当せず、取り消すべきものではない。
4 取消理由2(明確性)について(前記第4 2(2)の取消理由及び前記第4 1(2)の特許異議申立ての理由に相当)
(1)本件訂正発明1
ア 本件訂正発明1は、訂正事項1のとおり、「但し、過酸化水素、尿素過酸化物、N-メチル-2-ピロリドン、アンモニア、及び分解してアンモニアを放出する物質を含むものを除く。」と記載されているのを、「但し、過酸化水素、尿素過酸化物、N-メチル-2-ピロリドン、アンモニア、炭酸アンモニウム、カルバミン酸アンモニウム、重炭酸アンモニウム及び酸性炭酸カルバミン酸アンモニウムからなる群より選択される少なくとも一種を含む塗膜剥離組成物を除く」と訂正されている。
そうすると、除こうとするものが具体的に何の物質であるのかは明確であり、特許法第36条第6項第2号に適合するものであるから、本件訂正発明1は、同法第113条第4号に該当せず、前記第4 1(2)の特許異議申立ての理由、前記第4 2(2)の取消理由によって取り消すべきものではない。
イ 申立人の主張について
(ア)申立人の主張の概略
申立人は、令和8年1月14日提出の意見書において、「組成物は、化合物と異なり、外縁が不明であるため「除く」部分が明確に把握できない。更に、除かれる塗膜剥離組成物を構成する成分として、過酸化水素、・・・及び酸性炭酸カルバミン酸アンモニウムからなる群より選択される少なくとも一種以外に、どのようなものを含むのか不明確であるため、「除く」部分が明確に把握できない。」(以下「主張2」という。)と主張している。
(イ)主張2について
本件訂正発明1の「但し、過酸化水素、尿素過酸化物、N-メチル-2-ピロリドン、アンモニア、炭酸アンモニウム、カルバミン酸アンモニウム、重炭酸アンモニウム及び酸性炭酸カルバミン酸アンモニウムからなる群より選択される少なくとも一種を含む塗膜剥離組成物を除く」という記載は、塗膜剥離組成物が「過酸化水素、・・・及び酸性炭酸カルバミン酸アンモニウムからなる群より選択される少なくとも一種を含」んだ場合には、他にいかなる物質を含んでいたとしても本件訂正発明1の特許請求の範囲から除かれると解されるため、「除く」部分は明確であり、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとはいえない。
よって、主張2は採用できない。
(エ)小括
そうすると、本件訂正発明1は、同法第113条第4号に該当せず、取り消すべきものではない。
(2)本件訂正発明2~6
前記(1)のとおり、本件訂正発明2~6は、同法第113条第4号に該当せず、取り消すべきものではない。
第7 むすび
前記第6のとおり、本件訂正発明に係る特許は、前記第4 1(1)、(2)の特許異議申立ての理由、前記第4 2(1)、(2)、3(1)の取消理由によっては、取り消すことができない。
また、他に本件訂正発明に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2025-700621