特許異議申立
2020-700938
外用組成物
- 審判番号
- 2020-700938
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2015-073655
- 登録番号
- 6704676
- 請求日
- 2020年12月02日
- 審決日
- 2022年01月07日
- 公報発行日
- 2022年04月28日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】小林製薬株式会社
- 【権利者代理人】特許業務法人三枝国際特許事務所
- 【異議申立人】永 滋康
- 審判長/審判官
- 審判長 岡崎 美穂
- 審判官 井上 典之
- 審判官 齋藤 恵
- 分類
- P1651.113-YAA(A61K) / P1651.121-YAA(A61K) / P1651.537-YAA(A61K) / P1651.536-YAA(A61K)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第120条の5第2項、特許法第36条第4項第1号、特許法第120条の5第9項、特許法第36条第6項第2号、特許法第120条の5第4項、特許法第29条第1項、特許法第2条第3項第1号、特許法第2条第3項第2号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6704676号発明「外用組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第6704676号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔5、6〕について訂正することを認める。
特許第6704676号の請求項1ないし6に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第6704676号(以下「本件特許」という。)に係る特許出願(特願2015-073655号)は、平成27年3月31日に出願され、令和2年5月15日に特許権の設定の登録(請求項の数:6)がなされ、同年6月3日に特許掲載公報が発行された。
その後、本件特許に対して1件の特許異議の申立てがなされた(以下「本件特許異議申立事件」という。)。
本件特許異議申立事件の手続の概要は、次のとおりである。
令和 2年12月 2日 特許異議申立人 永 滋康(以下「申立人」
という。)による、本件特許の請求項1~
6に係る発明の特許に対する特許異議の申
立て
令和 3年 3月31日付け 取消理由通知(特許権者あて)
令和 3年 4月28日 意見書の提出(特許権者)
令和 3年 7月30日付け 取消理由通知(決定の予告)(特許権者
あて)
令和 3年 9月28日 訂正請求書及び意見書の提出(特許権者)
令和 3年10月14日 手続補正書(方式)の提出(特許権者)
(訂正請求書の「訂正に係る請求項の数」
の「6」を「2」に補正。)
令和 3年10月22日付け 訂正請求があった旨の通知(申立人あて)
なお、申立人は、令和3年10月22日付けの訂正請求があった旨の通知に対して、指定した期間内に何ら応答をしていない。
第2 訂正の適否
1 訂正の内容
令和3年9月28日提出の訂正請求書により特許権者が請求している訂正(以下「本件訂正」という。)は、本件特許の特許請求の範囲を、当該訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項5及び6について訂正しようとするものであって、その内容は、次の「訂正事項1」のとおりである(訂正箇所には当審が下線を付した。)。
また、本件訂正前の請求項5及び6において、請求項6は、請求項5の記載を引用する関係にあり、訂正事項1によって記載が訂正される請求項5に連動して訂正されるものであるから、本件訂正は、特許法120条の5第4項に規定する一群の請求項である請求項5及び6について請求されたものである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項5に、
「酸化鉄を含み、25℃で流動性を呈する外用組成物中に、ヘパリン類似物質を併存させることを特徴とする、外用組成物中の酸化鉄の分散安定化法。」
とあるのを、
「酸化鉄を含み、25℃で流動性を呈する外用組成物中に、ヘパリン類似物質を併存させることを特徴とする、外用組成物中の酸化鉄の分散安定化法
(但し、前記外用組成物は、以下の処方のファンデーションを除く
イ
70%マルチトール水溶液 5重量部
グリセリン 5重量部
1,3-ブチレングリコール 5重量部
メチルパラベン 0.2重量部
ブチルパラベン 0.1重量部
ロ
トリグリセリンジイソステアレート 5重量部
ハ
流動パラフィン 12重量部
軽質イソパラフィン 8重量部
マイクロクリスタリンワックス 4重量部
ネオペンチルグリコールジイソオクタネート 4重量部
ニ
水 26.5重量部
ヘパリン類似物質 0.1重量部
ホ
鉄ドープ二酸化チタン 10重量部
ジルコニウムドープ二酸化チタン 2重量部
酸化鉄 3重量部
タルク 5重量部
ヘ
水 5重量部
リパーゼ 0.1重量部
を含有する、乳化したファンデーション)。」
に訂正する。
請求項5の記載を引用する請求項6についても同様に訂正する。
2 訂正の適否の判断
(1)訂正の目的について
訂正事項1による訂正は、訂正前の請求項5の「外用組成物中の酸化鉄の分散安定化法」を、「外用組成物中の酸化鉄の分散安定化法(但し、前記外用組成物は、以下の処方のファンデーションを除く ・・・・)。」(当審注:「除く」とされた処方のファンデーションの組成の記載は、省略した。以下、同じ。)という、いわゆる「除くクレーム」とする訂正であって、請求項5に記載した事項の表現を残したままで、同項に係る発明に包含される一部の事項である、分散安定化される酸化鉄が含まれる外用組成物のうち、後記「第4」に概要を示す[取消理由1]において特許法第29条第1項第3号に該当するとされた引用文献1(甲第5号証)の【0022】に記載された実施例9の「ファンデーション」のみを、同項に記載した事項から除外することを明示した訂正であるから、同項に記載した事項を限定するものであり、特許請求の範囲を減縮するものである。
したがって、訂正事項1による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
(2)新規事項の追加の有無について
訂正事項1による訂正は、上記(1)で説示したとおり、いわゆる「除くクレーム」とする訂正であり、請求項5に記載した事項の表現を残したままで、同項に係る発明に包含される一部の事項である、分散安定化される酸化鉄が含まれる外用組成物のうち、上記引用文献1(甲第5号証)の【0022】に記載された実施例9の「ファンデーション」のみを、同項に記載した事項から除外することを明示した訂正であるから、当該特定の事項を除外することによって、訂正前の願書に添付した明細書又は特許請求の範囲のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項に何らかの変更を生じさせるものではなく、このようにして導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではない。
したがって、訂正事項1による訂正は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてしたものであり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
(3)特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
訂正事項1による訂正は、上記(1)で説示したとおり、いわゆる「除くクレーム」とする訂正であり、請求項5に記載された事項を限定するものであって、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものでないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでなく、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
(4)独立特許要件について
本件特許異議申立事件においては、訂正前の全ての請求項である請求項1~6に対し特許異議の申立てがされているから、訂正事項1による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるが、同法同条第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する要件(いわゆる「独立特許要件」)は課されない。
3 訂正の適否についてのまとめ
以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。また、本件訂正は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、同法同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
よって、本件特許の特許請求の範囲を、令和3年9月28日提出の訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔5、6〕について訂正することを認める。
第3 本件訂正後の本件特許に係る発明
上記「第2」のとおり、本件訂正は認められるので、本件訂正後の請求項1~6に係る発明は、令和3年9月28日提出の訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1~6に記載された事項により特定される、次のとおりのものである(以下、請求項の番号の順に「本件発明1」等といい、これらを総称して「本件発明」ということがある。なお、本件訂正による訂正箇所には、当審が下線を付した。)。
【請求項1】
ヘパリン類似物質及び酸化鉄を含み、常温で固体の油性成分を7~20重量%含む、25℃で流動性を呈する外用組成物
(但し、以下の処方のファンデーションを除く
イ
70%マルチトール水溶液 5重量部
グリセリン 5重量部
1,3-ブタンジオール 5重量部
メチルパラベン 0.2重量部
ブチルパラベン 0.1重量部
ロ
トリグリセリンジイソステアレート 5重量部
ハ
流動パラフィン 12重量部
軽質イソパラフィン 8重量部
マイクロクリスタリンワックス 4重量部
ネオペンチルグリコールジイソオクタネート 4重量部
ニ
水 42.5重量部
ヘパリン類似物質 0.1重量部
エルヒビン 0.1重量部
ホ
鉄ドープ二酸化チタン 10重量部
ジルコニウムドープ二酸化チタン 2重量部
酸化鉄 3重量部
タルク 5重量部)。
【請求項2】
ヘパリン類似物質及び酸化鉄を含み、前記ヘパリン類似物質と酸化鉄との配合比は、ヘパリン類似物質1重量部に対して、酸化鉄を0.001~15重量部配合するものであり、常温で固体の油性成分を7~20重量%含む、25℃で流動性を呈する外用組成物。
【請求項3】
前記ヘパリン類似物質の含有量が0.001~10重量%である請求項1又は2に記載の外用組成物。
【請求項4】
更に白色顔料を含む請求項1~3のいずれかに記載の外用組成物。
【請求項5】
酸化鉄を含み、25℃で流動性を呈する外用組成物中に、ヘパリン類似物質を併存させることを特徴とする、外用組成物中の酸化鉄の分散安定化法
(但し、前記外用組成物は、以下の処方のファンデーションを除く
イ
70%マルチトール水溶液 5重量部
グリセリン 5重量部
1,3-ブチレングリコール 5重量部
メチルパラベン 0.2重量部
ブチルパラベン 0.1重量部
ロ
トリグリセリンジイソステアレート 5重量部
ハ
流動パラフィン 12重量部
軽質イソパラフィン 8重量部
マイクロクリスタリンワックス 4重量部
ネオペンチルグリコールジイソオクタネート 4重量部
ニ
水 26.5重量部
ヘパリン類似物質 0.1重量部
ホ
鉄ドープ二酸化チタン 10重量部
ジルコニウムドープ二酸化チタン 2重量部
酸化鉄 3重量部
タルク 5重量部
ヘ
水 5重量部
リパーゼ 0.1重量部
を含有する、乳化したファンデーション)。
【請求項6】
更に常温で固体の油性成分を含む請求項5に記載の分散安定化法。
第4 当審が通知した取消理由の概要
本件訂正前の本件特許の請求項5及び6に係る発明の特許について、当審が令和3年7月30日付け取消理由通知書(決定の予告)で特許権者に通知した取消理由1及び2の概要は、次のとおりである。
なお、取消理由1は、当審が令和3年3月31日付け取消理由通知書で特許権者に通知した「取消理由1」と略同じであり、取消理由2は、後記「第6」1に概要を示す「申立理由3」の一部に対応するものである。
[取消理由1](甲5による新規性欠如)
本件特許の請求項5及び6に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明(以下の引用文献1(甲第5号証)に記載された発明)であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項5及び6に係る発明の特許は、同法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
・引用文献1:特開2001-19611号公報
(申立人が提出した甲第5号証)
[取消理由2](サポート要件違反)
本件特許の請求項5及び6に係る発明の特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
第5 取消理由についての当審の判断
1 取消理由1(甲5による新規性欠如)について
当審は、本件発明5及び6は、上記の引用文献1(甲第5号証。以下「甲5」という。)に記載された発明であるとはいえず、特許法第29条第1項第3号に該当するものであるとはいえないと判断する。その理由は、次のとおりである。
(1)甲5の記載事項及び甲5発明
ア 甲5の記載事項
本件特許の出願よりも前である平成13年1月23日に公開された甲5(特開2001-19611号公報)には、次の事項が記載されている。なお、下線は当審が付した。
・摘記甲5ア
「【請求項1】リパーゼと多価アルコールを含有することを特徴とする、皮膚外用組成物」
・摘記甲5イ
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、低刺激性で、安全性が高く敏感肌の人に好適な、化粧料などの皮膚外用組成物に関する。
・・・・
【0005】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、この様な状況下為されたものであり、安全性が高く、低刺激性で敏感肌の人たちに好適な、化粧料などの皮膚外用組成物を提供することを課題とする。
【0006】
【課題の解決手段】本発明者らは、この様な状況に鑑みて、敏感肌に好適な安全性が高く、低刺激性の皮膚外用組成物を求めて鋭意研究努力を重ねた結果、リパーゼの1種乃至は2種以上と多価アルコールの1種乃至は2種以上とを含有する皮膚外用組成物に於いて、この様な作用を見い出し、発明を完成させるに至った。以下、本発明について、実施の形態を中心に詳細に説明を加える。
【0007】
【発明の実施の形態】(1)本発明の皮膚外用組成物の必須成分であるリパーゼ
・・・・
【0008】(2)本発明の皮膚外用組成物の必須成分である多価アルコール
・・・・。ここで言う多価アルコールとしては、具体的には、・・・・、グリセリン、・・・・、1,3-ブチレンジオール、・・・・等が好ましく例示でき、・・・・。」
・摘記甲5ウ
「【0009】(3)本発明の皮膚外用組成物
本発明の皮膚外用組成物は、リパーゼの1種乃至は2種以上と多価アルコールが1種乃至は2種以上とを含有することを特徴とする。本発明で言う皮膚外用組成物とは、敏感肌用の化粧料などの総称を意味する。本発明の皮膚外用組成物は、敏感肌の人が安心して使用できるものである。低刺激性で、安全性が高いため敏感肌以外の通常の人が使用しても全く問題がない。又、本発明の皮膚外用組成物は、硫酸化トレハロースナトリウム、ヒアルロン酸ナトリウム、ヘパリン類似物質、ゴボウコンエキス、シラカバエキス、コウキエキス等の保湿性を有し、刺激抑制作用を有する成分を添加するのが好ましい。本発明の皮膚外用組成物は、上記必須成分以外に通常皮膚外用組成物で使用される任意成分を含有することが出来る。かかる任意成分として、例えば、ワセリンやマイクロクリスタリンワックス等のような炭化水素類、ホホバ油やゲイロウ等のようなエステル類、牛脂やオリーブ油等のトリグリセライド類、セタノールやオレイルアルコール等の高級アルコール、非イオン界面活性剤類、アニオン界面活性剤類、カチオン界面活性剤類、両性界面活性剤類、エタノール、カーボポール等の増粘剤類、防腐剤類、紫外線吸収剤類、抗酸化剤類、色素類、粉体類等が好ましく例示できる。これらの成分を常法に従って処理することにより、本発明の皮膚外用組成物を製造することが出来る。又、本発明の皮膚外用組成物の類別としては、化粧料であれば特段の限定はされず、化粧水、乳液、クリーム、パック等の基礎化粧料、ファンデーション、アンダーメークアップ、リップカラー、チークカラー、アイカラー等のメークアップ化粧料、シャンプーやリンス、洗顔料などの洗浄化粧料、ヘアクリーム、ヘアトニック等の頭髪用化粧料が例示できる。この中で最下層に適用される基礎化粧料が、本発明の化粧料として特に好ましい。」
・摘記甲5エ
「【0010】
【実施例】以下に実施例を挙げて本発明について更に詳細に説明を加えるが、本発明がこれら実施例のみに限定を受けないことは言うまでもない。
・・・・
【0022】<実施例9>下記に示す処方に従って、ファンデーションを作製した。即ち、イ、ロ、ハ、ニの成分をそれぞれ80℃に加熱し、イとロを良く混練りした後、ハを加えて希釈し、これにホを分散した後、80℃に温度調整し、これに撹拌しながらニを徐々に加えて乳化し、冷却撹拌して温度が30℃~40℃になったところでヘを加えさらに冷却撹拌してファンデーションを得た。このファンデーションは敏感肌の人が使用しても支障は無かった。
イ
70%マルチトール水溶液 5 重量部
グリセリン 5 重量部
1,3-ブチレングリコール 5 重量部
メチルパラベン 0.2重量部
ブチルパラベン 0.1重量部
ロ
トリグリセリンジイソステアレート 5 重量部
ハ
流動パラフィン 12 重量部
軽質イソパラフィン 8 重量部
マイクロクリスタリンワックス 4 重量部
ネオペンチルグリコールジイソオクタネート 4 重量部
ニ
水 26.5重量部
ヘパリン類似物質 0.1重量部
ホ
鉄ドープ二酸化チタン 10 重量部
ジルコニウムドープ二酸化チタン 2 重量部
酸化鉄 3 重量部
タルク 5 重量部
ヘ
水 5 重量部
リパーゼ 0.1重量部 」
イ 甲5に記載された発明
上記アに摘記した事項からみて、甲5には、低刺激性で安全性が高く敏感肌の人に好適な、リパーゼと多価アルコールを含有することを特徴とする、皮膚外用組成物の発明が記載されており(摘記甲5ア~摘記甲5イ)、当該皮膚外用組成物には、必須成分であるリパーゼ及び多価アルコールの他に、ヘパリン類似物質等の保湿性及び刺激抑制作用を有する成分を添加することが好ましく、任意成分として、マイクロクリスタリンワックス等の炭化水素類や、色素類、粉体類等が含有され得る旨が記載され(摘記甲5ウ)、その具体的な処方例の1つとして、実施例9の乳化したファンデーションが記載されている(摘記甲5エ)。
そうすると、甲5には、実施例9として、次の発明(以下「甲5発明」という。)が記載されていると認められる。
≪甲5発明≫
「イ
70%マルチトール水溶液 5 重量部
グリセリン 5 重量部
1,3-ブチレングリコール 5 重量部
メチルパラベン 0.2重量部
ブチルパラベン 0.1重量部
ロ
トリグリセリンジイソステアレート 5 重量部
ハ
流動パラフィン 12 重量部
軽質イソパラフィン 8 重量部
マイクロクリスタリンワックス 4 重量部
ネオペンチルグリコールジイソオクタネート 4 重量部
ニ
水 26.5重量部
ヘパリン類似物質 0.1重量部
ホ
鉄ドープ二酸化チタン 10 重量部
ジルコニウムドープ二酸化チタン 2 重量部
酸化鉄 3 重量部
タルク 5 重量部
ヘ
水 5 重量部
リパーゼ 0.1重量部
を含有する、乳化したファンデーション。 」
(2)本件発明5について
ア 対比
本件発明5と甲5発明を対比する。
甲5発明における、「ヘパリン類似物質」、「酸化鉄」及び「ファンデーション」は、本件発明5における、「ヘパリン類似物質」、「酸化鉄」及び「外用組成物」に、それぞれ相当する。
そして、甲5発明のファンデーションは、酸化鉄を含んでおり、ヘパリン類似物質も併存して含んでいるから、本件発明5とは、少なくとも酸化鉄を含む外用組成物中にヘパリン類似物質を併存させるものである点で共通している。
また、甲5発明のファンデーションは、本件発明5において、「(但し、前記外用組成物は、以下の処方のファンデーションを除く ・・・・)」として除かれたファンデーションに該当するものである。
そうすると、本件発明5と甲5発明との間には、次の一致点及び相違点があるものと認められる。
<一致点>
「酸化鉄を含む、外用組成物中に、ヘパリン類似物質を併存させる」ものであること。
<相違点5-5-1>
本件発明5は、外用組成物について、「(但し、前記外用組成物は、以下の処方のファンデーションを除く ・・・・)」として、甲5発明に該当するファンデーションを除くとしているのに対し、甲5発明は、本件発明5における外用組成物から除かれたファンデーションである点。
<相違点5-5-2>
本件発明5では、外用組成物が「25℃で流動性を呈する」とされているのに対し、甲5発明では、そのような特定が示されていない点。
<相違点5-5-3>
本件発明5は、「外用組成物中の酸化鉄の分散安定化法」という、方法の発明であるのに対し、甲5発明は、外用組成物に該当するファンデーションという、物の発明であって、「酸化鉄の分散安定化」は示されていない点。
イ 相違点についての判断
(ア)相違点5-5-1(除かれた処方のファンデーション)について
本件発明5の外用組成物中の酸化鉄の分散安定化法においては、本件訂正によって外用組成物から甲5発明に該当する処方のファンデーションを除くものとされ、本件発明5における外用組成物は甲5発明のファンデーションを包含するものではなくなったから、相違点5-5-1は実質的な相違点である。
ウ 小括
上記イ(ア)のとおり、相違点5-5-1は実質的な相違点であるから、相違点5-5-2及び相違点5-5-3について検討するまでもなく、本件発明5は、甲5に記載された発明であるとはいえず、特許法第29条第1項第3号に該当するものであるとはいえない。
(3)本件発明6について
本件発明6は、本件発明5の分散安定化法について、「更に常温で固体の油性成分を含む」ことを特定したものであり、本件発明5に包含されるものである。
そして、上記(2)で説示したとおり、本件発明5は、甲5に記載された発明であるとはいえないのであるから、本件発明5に包含され、これをさらに限定し特定した本件発明6も、甲5に記載された発明であるとはいえず、特許法第29条第1項第3号に該当するものであるとはいえない。
(4)取消理由1についてのまとめ
以上のとおり、本件発明5及び6は、甲5に記載された発明であるとはいえず、特許法第29条第1項第3号に該当するものであるとはいえない。
よって、本件特許の請求項5及び6に係る発明の特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものとはいえず、同法第113条第2号に該当するものでないから、取消理由1によって取り消すことはできない。
2 取消理由2(サポート要件違反)について
当審は、本件発明5及び6についての特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件(サポート要件)を満たしていないとはいえないものと判断する。その理由は、次のとおりである。
(1)サポート要件の検討の前提
特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件(いわゆる「サポート要件」)に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
そこで、この観点から、本件特許の請求項5及び6の記載がサポート要件を満たすか否か、以下、検討する。
(2)本件明細書の発明の詳細な説明の記載事項
本件特許の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)には、発明の詳細な説明として、本件発明に関係する次の事項が記載されている。なお、項目名の部分以外の下線は、当審が付したものである。
「【背景技術】
【0002】
・・・・。例えば、皮膚トラブルを隠したり、紫外線や外部からの刺激から肌を保護したり、肌の色や質感を変えて魅力的に整えたりする目的で、ファンデーション等の外用組成物に酸化鉄が配合されている。しかしながら、酸化鉄はそれら外用組成物中での分散性が悪く、分散させても短時間で凝集したり、沈降が生じたりする傾向にあり、酸化鉄を良好に分散させた状態で維持しておくことは容易ではない。
・・・・
【0004】
従って、外用組成物が流動性を呈する場合に、外用組成物中での酸化鉄を良好に分散させた状態で維持しておくことが非常に重要である。
・・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、酸化鉄を含有しながらも、酸化鉄の分散安定性が向上された外用組成物を提供することを目的とする。
【0007】
また、本発明は、酸化鉄を含む外用組成物において、酸化鉄の分散安定化法を提供することを目的とする。
・・・・
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねていたところ、酸化鉄を含む流動性を呈する外用組成物に対して、ヘパリン類似物質を組み合わせることによって、流動性を呈する外用組成物において酸化鉄の分散安定性を向上できることを見出した。
【0009】
また、本発明者らは、上記検討の過程で、ヘパリン類似物質に加えて、常温で固体の油性成分を配合すると、酸化鉄の着色性をより安定化させることができることも見出した。
・・・・
【発明の効果】
【0019】
本発明の外用組成物は、流動性を呈し、酸化鉄が含有されているにもかかわらず、ヘパリン類似物質が組み合わせて含有されているので、酸化鉄の分散安定性が向上している。本発明の流動性を呈する外用組成物は、酸化鉄やその他の成分の偏りを著しく低減でき、各成分の効果のばらつき等を効果的に解消することができる。
【0020】
また、本発明の外用組成物では、ヘパリン類似物質に加えて、マイクロクリスタリンワックス等の常温で固体の油性成分を配合すると、酸化鉄の分散安定性に加えて、酸化鉄の着色性をより安定化させることもできる。従って、外用組成物を皮膚に塗布したときの、その外観を改善することもできる。これらの効果は、外用組成物の品質の向上に繋がる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
(1)外用組成物
本発明の外用組成物は、25℃で流動性を呈し、ヘパリン類似物質及び酸化鉄を含む。
・・・・
【0023】
本発明の外用組成物には、水相のみからなる水性組成物、並びに水相と油相とを混合して得られる乳化組成物が含まれる。
【0024】
(1-1)流動性の定義
本発明の流動性を呈する外用組成物とは、液状から半固形状の組成物を示す。・・・・。
【0025】
前記液状とは、常温(15℃~25℃)で流動性が高く、粘度が低い状態を示す。・・・・。
【0026】
前記半固形状とは、常温(15℃~25℃)で流動性がややある状態を示す。・・・・。
【0027】
前記粘度は、1日間静置させたサンプルを、B型粘度計を用いて、25℃にて測定される。・・・・。
【0028】
本発明の流動性を呈する外用組成物が、液状である場合、常温での粘度が1mPa・s~20,000mPa・sであることが好ましい。
【0029】
本発明の流動性を呈する外用組成物が、半固形状である場合、常温での粘度が20,000mPa・s~2,000,000mPa・sであることが好ましい。
【0030】
(1-2)酸化鉄
本発明の外用組成物は酸化鉄を含む。酸化鉄は、本発明の外用組成物をコンシーラー様の医薬品やファンデーション等の化粧料として用いた場合に、皮膚に対して、発色に必要な着色剤として機能する。
【0031】
酸化鉄として、赤酸化鉄(三二酸化鉄、ベンガラ)、黄酸化鉄、黄色三二酸化鉄、黒酸化鉄等を用いることが好ましい。酸化鉄は、その用途に合わせて、1種単独で使用しても良く、2種以上を組み合わせて使用しても良い。
・・・・
【0033】
本発明の外用組成物中の酸化鉄の含有量(2種以上を併用する場合は合計量)は、併用するヘパリン類似物質の含有量や、白色顔料の種類や含有量等によって適宜選定することができ、0.01~8重量%程度が好ましく、0.1~5重量%程度がより好ましく、1~3重量%程度が更に好ましい。前記酸化鉄の含有量は、本発明の外用組成物が水性組成物又は水相と油相とを混合して得られる乳化組成物(クリーム等)である場合に適用できる。
・・・・
【0035】
(1-3)白色顔料
本発明の外用組成物は、前記酸化鉄に加えて、更に白色顔料を含むことが好ましい。白色顔料は、外用組成物をコンシーラー様の医薬品やファンデーション等の化粧料として用いた場合に、皮膚に対して前記酸化鉄による発色の調製剤として機能する。
【0036】
白色顔料として、着色顔料、体質顔料等が例示され、前記酸化鉄以外の金属酸化物、ベントナイト、マイカ(雲母)等が好ましい。金属酸化物として、酸化クロム、酸化亜鉛(亜鉛華)、酸化チタン、酸化アルミニウム、タルク、クラウンタルク、カオリン等を用いることが好ましい。・・・・。
・・・・
【0041】
(1-4)ヘパリン類似物質
・・・・
【0042】
ヘパリン類似物質は、本発明の外用組成物をコンシーラー様の医薬品やファンデーション等の化粧料として用いた場合に、皮膚の保湿作用や血行促進作用を有する。・・・・。
【0043】
本発明の外用組成物中のヘパリン類似物質の含有量は、併用する酸化鉄の種類や含有量等によって適宜選定することができ、0.0005~10重量%程度が好ましく、0.001~10重量%程度がより好ましい。
【0045】
本発明の外用組成物が水性組成物である場合、ヘパリン類似物質の含有量は通常0.001~5重量%程度が好ましく、0.01~5重量%程度がより好ましい。
【0046】
本発明の外用組成物が水相と油相とを混合して得られる乳化組成物(クリーム等)である場合、ヘパリン類似物質の含有量は通常0.05~2重量%程度が好ましく、0.1~1重量%程度がより好ましい。
【0047】
本発明の外用組成物中のヘパリン類似物質と酸化鉄(2種以上を併用する場合は合計量)との配合比は、ヘパリン類似物質1重量部に対して、酸化鉄を0.001~16000重量部程度配合することが好ましく、・・・・、酸化鉄を1~15重量部程度配合することが最も好ましい。
・・・・
【0051】
(1-5)水性成分
本発明の外用組成物は、水相のみからなる場合であっても良い。また、外用組成物を乳化組成物とする場合の水相とすることもの可能である。乳化組成物は、水相と油相から形成される。
【0052】
本発明の外用組成物は、水を含むことが好ましい。水の種類は、特に制限されない。・・・・。好ましくは精製水である。
・・・・
【0054】
本発明の外用組成物は、多価アルコールを含むことが好ましい。・・・・。多価アルコールとして、・・・・、1,3-ブチレングリコール、・・・・等を用いることがより好ましい。・・・・。
・・・・
【0056】
(1-6)油性成分
本発明の外用組成物は、常温(25℃)で液体の油性成分を含むことが好ましい。これにより、本発明の外用組成物は水相と油相とを混合して得られる乳化組成物となる。
【0057】
・・・・。常温で液状の油性成分として、ヘキシルデカノール、オクチルドデカノール、デシルテトラデカノール、オレイルアルコール、ラウリルアルコール等の液体アルコールを用いることが好ましい。・・・・。
・・・・
【0061】
本発明の外用組成物は、更に常温(25℃)で固体の油性成分を含むことが好ましい。これにより、本発明の外用組成物を乳化組成物とした場合に、酸化鉄や白色顔料等の分散性をより向上させることができ、着色性をより向上させることができる。・・・・。
【0062】
常温で固体の油性成分として、医薬品、医薬部外品、化粧品、飲食品等の分野において許容されるものであれば特に制限されない。・・・・。
【0063】
常温で固体の油性成分として、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、ベヘン酸等の脂肪酸、ミツロウ、カルバナロウ、ラノリン、ラノリンエステル、キャンデリラワックス等のロウ類、セトステアリルアルコール、ステアリルアルコール、セタノール(セチルアルコール)、ミリスチルアルコール、イソステアリルアルコール、ベヘニルアルコール、ラノリンアルコール等の固体アルコールを用いることが好ましい。・・・・。
【0064】
常温で固体の油性成分として、マイクロクリスタリンワックス、α?オレフィンオリゴマー、ゲル化炭化水素、セレシンワックス、固形パラフィン、ワセリン等の炭化水素油を用いることが好ましい。・・・・。
【0065】
常温で固体の油性成分は1種単独で使用しても良く、2種以上を組み合わせて使用しても良い。
【0066】
本発明の外用組成物中の常温で固体の油性成分の含有量は、0.5~30重量%程度が好ましく、1~20重量%程度がより好ましく、2~18重量%程度が更に好ましい。外用組成物中の常温で固体の油性成分がこの含有量で含まれることで、その乳化状態が安定化され、長期に亘り良好な乳化状態を維持することができる。また、外用組成物中の酸化鉄や白色顔料等の分散性をより向上させることができ、着色性をより向上させることができる。
・・・・
【0071】
(2)外用組成物の調製方法
本発明の外用組成物は、前述の通りヘパリン類似物質及び酸化鉄を混合し、25℃で流動性を呈するものであれば、当業界の通常の方法に従って製造することができる。
【0072】
外用組成物の調製方法で使用される酸化鉄、ヘパリン類似物質、常温で固体の油性成分、その他の任意の成分等の種類、含有量、配合比等については前述と同様に説明される。外用組成物の調製では、前記成分を混合し、50~90℃程度の温度になるように加熱した後、ホモジナイザー、ホモミキサー、攪拌機等の混合機を用いて所定条件で混合することが好ましい。これにより、水相のみからなる水性組成物を調製することができ、又は水相と油相とを混合して乳化することで乳化組成物を調製することができる。
【0073】
ここで、本発明の外用組成物は、25℃で流動性を呈し、液状から半固形状の組成物であれば、その粘度を特に制限するものではない。外用組成物が液状である場合、常温での粘度が1mPa・s~20,000mPa・sであることが好ましい。外用組成物が半固形状である場合、常温での粘度が20,000mPa・s~2,000,000mPa・sであることが好ましい。
【0074】
(3)外用組成物中の酸化鉄の分散安定化法
本発明の外用組成物中の酸化鉄の分散安定化法は、酸化鉄を含む外用組成物中に、ヘパリン類似物質を併存させることを特徴とする。
【0075】
前記分散安定化法では、前述の常温で固体の油性成分を更に含むことが好ましい。
・・・・
【0077】
外用組成物中の酸化鉄の分散安定化法は、前述の外用組成物の調製方法に沿って、行うことができる。・・・・。
【0078】
本発明の分散安定化方法によれば、後述する実施例に示すように、外用組成物中で、酸化鉄の分散安定性を向上できる。従って、本発明によれば、外用組成物における成分の偏りを著しく低減でき、効果のばらつきなどを効果的に解消することができ、また、その外観も改善できる。・・・・。更に乳化組成物とする場合の乳化状態(エマルジョン)を長期に亘って安定に維持することが可能になる。
・・・・
【実施例】
・・・・
【0084】
(1)水性組成物(実施例1~9、比較例1及び2)の調製
表1に記載する処方に従って、水性組成物を調製した。表1に記載する各配合成分(ヘパリン類似物質、酸化鉄等)を夫々秤量し、水中で80℃にて加熱して、混合した。その後、40℃以下に冷却して、水性組成物を調製した。
【0085】
(2)水(水性組成物)への分散安定性
乳化組成物を調整する際の、酸化鉄の水相(水性組成物)中での分散性を評価した。
【0086】
評価基準は、次の通りである。
◎:使用した酸化鉄が均一に水溶液に分散している。
○:使用した酸化鉄がほぼ水溶液に分散しているが、壁面に一部ムラが生じている。
△:使用した酸化鉄があまり水溶液に分散できず、暫くすると沈殿が生じ、上清の一部が透明になる。
×:使用した酸化鉄が水溶液に分散できず、暫くすると沈殿が生じ、上清が透明になる。
【0087】
(3)水性組成物の粘度
水性組成物の粘度は、1日間静置させたサンプルを、B型粘度計(東機産業株式会社製RB-85L粘度計)で、ローター番号M4のローターを用いて、25℃にて測定した。・・・・。
【0088】
(4)乳化組成物(実施例10~16、比較例3及び4)の調製
表2に記載する処方に従って、乳化組成物を調製した。
【0089】
水相:先ず、表2に記載する各配合成分(ヘパリン類似物質、酸化鉄等)を夫々秤量し、水中で80℃にて加熱して混合し、均一に溶解し、水性組成物を調製した。
【0090】
油相:次に、表2に記載する各配合成分(液体油、固体油等)を夫々秤量し、80℃にて加熱して混合し、均一に溶解し油性組成物を調製した。
【0091】
油性組成物と水性組成物とを混合し、攪拌しながら40℃以下に冷却して、乳化組成物を調製した。
・・・・
【0093】
(5)乳化組成物の着色性
乳化組成物の着色性(外観)を評価した。
【0094】
評価基準は、次の通りである。
◎:使用した酸化鉄の色と同じかほぼ同じ色となっている。
○:使用した酸化鉄の色と同じ系統の色となっている。
△:酸化鉄の色と違う色となっている。
×:酸化鉄の色と全く違う色となっている。
【0095】
(6)乳化組成物の使用感
乳化組成物の使用感を評価した。
【0096】
評価基準は、次の通りである。
◎:酸化鉄のざらざら感がなく、目的の範囲全面に均一に製剤を塗布できる。
○:酸化鉄のざらざら感がなく、目的の範囲のほぼ全面に製剤を塗布できる。
△:酸化鉄のざらざら感があり、目的の範囲を十分に塗布することができない。
×:酸化鉄のざらざら感があり、目的の範囲を全く塗布することができない。
【0097】
(7)乳化組成物の粘度
乳化組成物の粘度は、1日間静置させたサンプルを、B型粘度計(東機産業株式会社製RB-85L粘度計)で、ローター番号M4のローターを用いて、25℃にて測定した。・・・・。
【0098】
【表1】
[図:0001383262000001.jpg]
【0099】
【表2】
[図:0001383262000002.jpg]
【0100】
実施例1~9と比較例1及び2とを対比する。実施例1~9で表される通り、酸化鉄を含む流動性を呈する外用組成物(水性組成物)に、ヘパリン類似物質を添加することで、水性組成物中で酸化鉄の分散安定性が向上することが判明した。
【0101】
実施例10~16と比較例3及び4とを対比する。実施例10~16で表される通り、酸化鉄を含む流動性を呈する外用組成物(乳化組成物)において、ヘパリン類似物質を添加することで、乳化組成物中でも酸化鉄の分散安定性の向上と共に、酸化鉄による着色性も向上し、更に外用組成物の使用感も向上することが判明した。
【0102】
実施例13~16で表される通り、外用組成物に、ヘパリン類似物質に加えて、マイクロクリスタリンワックス等の常温で固体の油性成分を追加配合すると、酸化鉄の分散安定性に加えて、酸化鉄による着色性がより安定化することも判明した。
【0103】
この様に、本発明によれば、流動性を呈する外用組成物における酸化鉄等の成分の偏りを著しく低減でき、外用組成物に含まれる成分の効果のばらつき等を効果的に解消できる。また、本発明の外用組成物を皮膚に塗布したときの、その外観を改善することもできる。・・・・。」
(3)本件発明5及び6が解決しようとする課題
本件訂正後の本件特許の請求項5及び6の記載、並びに本件明細書(特に【0007】)の記載によれば、本件発明5及び6が解決しようとする課題は、いずれも共通して「酸化鉄を含む、25℃で流動性を呈する外用組成物において、酸化鉄の分散安定化法を提供すること」を含むものと認められる。
ここでいう「酸化鉄の分散安定化」について、本件明細書に明確な定義等は記載されていないが、本件明細書の【背景技術】欄の【0002】において、「酸化鉄はそれら外用組成物中での分散性が悪く、分散させても短時間で凝集したり、沈降が生じたりする傾向にあり、酸化鉄を良好に分散させた状態で維持しておくことは容易ではない。」と記載されており、同欄の【0004】には、「外用組成物が流動性を呈する場合に、外用組成物中での酸化鉄を良好に分散させた状態で維持しておくことが非常に重要である。」と記載されている。実際に、化粧料において無機顔料として配合される酸化鉄が分散性が悪く凝集しやすいことは、本願出願前の技術常識であったと認められる(要すれば、特許権者が令和3年9月28日に提出した意見書に添付の乙第7号証「特開2011-213800号公報」の【0002】~【0003】、及び、同乙第8号証「特開昭60-199806号公報」の1頁左下欄下から6~1行を参照。)。また、一般に「安定」とは「物事が落ち着いていて、激しい変化のないこと。」を意味を意味する(新村出編、『広辞苑』第五版、107頁の「安定」の項、株式会社岩波書店、1998年11月11日発行)。
そうすると、上記の「酸化鉄の分散安定化」とは、外用組成物中で酸化鉄を分散させた状態で維持して、短時間で酸化鉄が凝集したり沈降が生じたりする状態よりも優れた状態にすること、を意味するものであり、酸化鉄の凝集や沈殿が全く生じないまでの状態にすることではないと解される。
(4)課題を解決するための手段について
ア
本件訂正後の本件特許の請求項5及び6の記載によれば、本件発明5は、「酸化鉄を含み、25℃で流動性を呈する外用組成物中に、ヘパリン類似物質を併存させること」を、上記(3)の課題を解決するための手段として含むものであると認められ、本件発明6は、それに加え「更に常温で固体の油性成分を含む」ことも、当該課題を解決するための手段として含むものであると認められる。
以下、これらの課題を解決するための手段について、本件明細書の発明の詳細な説明の記載と対比して検討する。
イ
本件明細書の発明の詳細な説明には、【課題を解決するための手段】欄において、「酸化鉄を含む流動性を呈する外用組成物に対して、ヘパリン類似物質を組み合わせることによって、流動性を呈する外用組成物において酸化鉄の分散安定性を向上できる」(【0008】)と記載され、「ヘパリン類似物質に加えて、常温で固体の油性成分を配合すると、酸化鉄の着色性をより安定化させることができる」(【0009】)と記載されている。
また、【発明を実施するための形態】欄において、「(1)外用組成物」の項目に、「本発明の外用組成物は、25℃で流動性を呈し、ヘパリン類似物質及び酸化鉄を含む。」(【0021】)と記載され、「本発明の外用組成物には、水相のみからなる水性組成物、並びに水相と油相とを混合して得られる乳化組成物が含まれる。」(【0023】)と記載されている。
そして、同欄の「(1-5)水性成分」の項目に、「本発明の外用組成物は、水相のみからなる場合であっても良い。また、外用組成物を乳化組成物とする場合の水相とすることもの可能である。乳化組成物は、水相と油相から形成される。」(【0051】)と記載され、同欄の「(1-6)油性成分」の項目には、「本発明の外用組成物は、常温(25℃)で液体の油性成分を含むことが好ましい。これにより、本発明の外用組成物は水相と油相とを混合して得られる乳化組成物となる。」(【0056】)と記載され、「本発明の外用組成物は、更に常温(25℃)で固体の油性成分を含むことが好ましい。これにより、本発明の外用組成物を乳化組成物とした場合に、酸化鉄や白色顔料等の分散性をより向上させることができ、着色性をより向上させることができる。」(【0061】)と記載されている。
さらに、同欄の「(2)外用組成物の調製方法」の項目には、「本発明の外用組成物は、前述の通りヘパリン類似物質及び酸化鉄を混合し、25℃で流動性を呈するものであれば、当業界の通常の方法に従って製造することができる。」(【0071】)と記載され、同欄の「(3)外用組成物中の酸化鉄の分散安定化法」の項目には、「本発明の外用組成物中の酸化鉄の分散安定化法は、酸化鉄を含む外用組成物中に、ヘパリン類似物質を併存させることを特徴とする。」(【0074】)との記載、「前記分散安定化法では、前述の常温で固体の油性成分を更に含むことが好ましい。」(【0075】)との記載、及び、「外用組成物中の酸化鉄の分散安定化法は、前述の外用組成物の調製方法に沿って、行うことができる。」(【0077】)との記載がある。
これらの記載によれば、本件明細書の発明の詳細な説明には、上記アに示した本件発明5及び6における上記(3)の課題を解決するための手段に対応する事項が記載されているといえる。
そこで、当業者が当該手段によって上記(3)の課題を解決できると認識し得るか否かについて、以下、検討する。
(5)当業者が課題を解決できると認識し得る範囲について
ア 本件発明5について
(ア)本件発明5における外用組成物の態様
本件発明5において、外用組成物に含まれる酸化鉄の量及びヘパリン類似物質の量は特定されていないが、本件明細書の発明の詳細な説明には、酸化鉄の含有量は、「0.01~8重量%」程度が好ましく、「1~3重量%」程度が更に好ましい旨(【0033】)が記載され、ヘパリン類似物質の含有量は、通常「0.0005~10重量%」程度が好ましく、「0.001~10重量%」程度がより好ましい旨(【0043】)が記載されている。
また、上記(4)イにおいて示したように、本件明細書の発明の詳細な説明には、「本発明」の外用組成物には、水相のみからなる「水性組成物」の場合と、水相と油相を混合して得られる「乳化組成物」の場合があることが記載されている(【0023】、【0051】、【0056】)。
そうすると、本件発明5の分散安定化法における外用組成物については、その態様として、「水性組成物」である場合と、「乳化組成物」である場合があるものと認められる。
(イ)本件発明5と課題の解決との関係
本件明細書の発明の詳細な説明には、外用組成物が「水性組成物」である場合の具体例として実施例1~9が記載されており(【0084】~【0087】、【0098】【表1】)、外用組成物が「乳化組成物」である場合の具体例として実施例10~16が記載されている(【0088】~【0097】、【0099】【表2】)。
a.水性組成物の場合について
(i)
本件明細書の発明の詳細な説明には、水性組成物の分散安定性について、「実施例1~9と比較例1及び2とを対比する。実施例1~9で表される通り、酸化鉄を含む流動性を呈する外用組成物(水性組成物)に、ヘパリン類似物質を添加することで、水性組成物中で酸化鉄の分散安定性が向上することが判明した。」(【0100】)との説明が記載されているところ、当該分散安定性の向上を当業者が実際に認識できるか否か、以下、検討する。
(ii)
【表1】に記載された実施例1~9の水性組成物は、25℃で測定した粘度が「100 mPa・s」(実施例1)から「350,000 mPa・s」(実施例9)の範囲内にあるから、いずれも「(1-1)流動性の定義」(【0024】~【0029】)に示された常温で流動性を呈する外用組成物の好ましい粘度の範囲内のものである。また、3種の酸化鉄の合計含有量は、いずれの実施例でも「1.5重量%」であり、ヘパリン類似物質の含有量は、実施例1では「0.001重量%」、実施例2では「0.005重量%」、実施例3では「0.01重量%」、実施例4、7~9では「0.3重量%」、実施例5では「1重量%」、実施例6では「3重量%」であるから、いずれの実施例も、上記(ア)に示した酸化鉄及びヘパリン類似物質の好ましい含有量の範囲内であり、本件発明5における外用組成物の態様に包含されるものである。
そして、上記実施例1~9の水性組成物の「分散安定性」の評価結果をみると、実施例3~9では「◎」、すなわち「使用した酸化鉄が均一に水溶液に分散している。」であり、実施例2では「○」、すなわち「使用した酸化鉄がほぼ水溶液に分散しているが、壁面に一部ムラが生じている。」であったことが示されており、実施例1では「△」、すなわち「使用した酸化鉄があまり水溶液に分散できず、暫くすると沈殿が生じ、上清の一部が透明になる。」であったことが示されている(評価基準は、【0085】~【0086】を参照。)。
(iii)
これに対して、【表1】に記載された比較例1及び2の水性組成物では、25℃で測定した粘度が「100 mPa・s」(比較例1)と「800 mPa・s」(比較例2)であり、3種の酸化鉄の合計含有量は上記実施例1~9と同じく「1.5重量%」である一方で、ヘパリン類似物質を含まない(含有量が「0重量%」である)ところ、「分散安定性」の評価結果は、いずれも「×」、すなわち「使用した酸化鉄が水溶液に分散できず、暫くすると沈殿が生じ、上清が透明になる。」であったことが示されている。
(iv)
上記の【表1】に示された実施例1~9及び比較例1~2の水性組成物の分散安定性の評価結果によれば、「1.5重量%」の酸化鉄を含み、「0.001重量%」~「3重量%」の範囲の様々な量でヘパリン類似物質を併存して含む、本件発明5における外用組成物に包含される態様である実施例1~9の水性組成物は、「◎」評価から「△」評価まで分散安定性の程度に差はあるが、分散安定性が「×」評価であったヘパリン類似物質が併存していない比較例1及び2の水性組成物と比べれば、いずれも組成物中において酸化鉄の分散がより安定化していることを把握できるから、当業者は上記(3)で認定した本件発明5の課題を解決できると認識し得るといえる。
(v)
さらに、本件明細書の発明の詳細な説明には、「本発明」の外用組成物の含有成分について、「酸化鉄」の機能や種類、他の成分との関係を踏まえた含有量の説明(【0030】~【0034】)、「ヘパリン類似物質」の機能及び他の成分との関係を踏まえた含有量の説明(【0041】~【0050】)、併用し得る「白色顔料」の説明(【0035】~【0040】)、水相のみからなる水性組成物に含まれる多価アルコール等の「水性成分」の説明(【0051】~【0055】)、及び「本発明」の外用組成物に配合する「その他の成分」の説明(【0068】~【0070】)が詳細に記載されており、「本発明」の外用組成物の「調製方法」の説明(【0071】~【0073】)に続いて、「本発明」の外用組成物中の酸化鉄の「分散安定化法」の説明(【0074】~【0078】)も詳細に記載されている。
これらの記載を参照すれば、当業者は、本件発明5における外用組成物について、実施例1~9の水性組成物以外の成分組成を有する水性組成物も、同様に調製することができ、本件発明5の分散安定化法を使用できるといえるから、当業者は、上記(4)イで認定した本件発明5の解決手段により、上記(3)で認定した課題を解決できると認識し得るといえる。
b.乳化組成物の場合について
(i)
本件明細書の発明の詳細な説明には、乳化組成物の分散安定性及び着色性について、「実施例10~16と比較例3及び4とを対比する。実施例10~16で表される通り、酸化鉄を含む流動性を呈する外用組成物(乳化組成物)において、ヘパリン類似物質を添加することで、乳化組成物中でも酸化鉄の分散安定性の向上と共に、酸化鉄による着色性も向上し、更に外用組成物の使用感も向上することが判明した。」(【0101】)との説明が記載されているところ、当該分散安定性及び着色性等の向上を当業者が実際に認識できるか否か、以下、検討する。
(ii)
【表2】に記載された実施例10~16の乳化組成物は、25℃で測定した粘度が「3,000 mPa・s」(実施例10)から「1,500,000 mPa・s」(実施例16)の範囲内にあるから、いずれも「(1-1)流動性の定義」(【0024】~【0029】)に示された常温で流動性を呈する外用組成物の好ましい粘度の範囲内のものである。また、いずれの実施例も、ヘパリン類似物質の含有量が「0.3重量%」であり、3種の酸化鉄の合計含有量が「1.5重量%」であるから、上記(ア)に示した酸化鉄及びヘパリン類似物質の好ましい含有量の範囲内であり、本件発明5における外用組成物の態様に包含されるものである。
本件明細書の【0088】~【0091】の記載によれば、実施例10~16の乳化組成物は、水相として【表2】に記載する各配合成分(ヘパリン類似物質、酸化鉄等)から水性組成物を調製した後に、油相として【表2】に記載する各配合成分(液体油、固体油等)から油性組成物を調製し、当該水性組成物と当該油性組成物を混合して調製したとされており、その油相には、「固体油」として「常温で固体の油性成分」に該当する「セトステリルアルコール」及び「セタノール」(【0063】)が含まれ、実施例13~16の乳化組成物の油相には、「固体油」として、さらに「マイクロクリスタリンワックス」(【0064】)も含まれており、「常温で固体の油性成分」の合計含有量は、「3重量%」(実施例10及び11)、「6重量%」(実施例12)、「7重量%」(実施例13)、「9重量%」(実施例14)、「13重量%」(実施例15)、「16重量%」(実施例16)である。
ここで、【表2】を含めて、本件明細書の発明の詳細な説明には、実施例10~16の乳化組成物における酸化鉄の分散安定性を直接確認し評価した結果は示されていないが、実施例1~9の水性組成物に関し、「乳化組成物を調製する際の、酸化鉄の水相(水性組成物)中での分散性を評価した。」(【0085】)という記載があることから、上記a.(ii)で確認した実施例1~9の水性組成物における酸化鉄の分散安定性は、当該水性組成物を水相として乳化組成物を調製する際の前提となっていると認められる。
そして、実施例10の乳化組成物における水相の各成分の含有量は、実施例4の水性組成物の各成分の含有量と同じであり、実施例11~15の乳化組成物における水相の各成分の含有量は、実施例7の水性組成物の各成分の含有量と同じであり、実施例16の乳化組成物における水相の各成分の含有量は、実施例9の水性組成物の各成分の含有量と同じであることから、実施例10~16の乳化組成物における水相として調製された各水性組成物は、実施例4、7、9の水性組成物と同様に、酸化鉄の分散がより安定化されたものであったと認められる。
さらに、【表2】には、実施例10~16の乳化組成物の「着色性」及び「使用感」の評価結果が記載されており、「常温で固体の油性成分」の含有量が「7重量%」(実施例13)から「16重量%」(実施例16)の範囲にある、実施例13、14、15、16の乳化組成物では、着色性が「◎」、すなわち「使用した酸化鉄の色と同じかほぼ同じ色となっている。」であり、使用感も「◎」、すなわち「酸化鉄のざらざら感がなく、目的の範囲全面に均一に製剤を塗布できる。」であったことが示されており、「常温で固体の油性成分」の含有量が「6重量%」である実施例12では、着色性が「○」、すなわち「使用した酸化鉄の色と同じ系統の色となっている。」であり、使用感も「○」、すなわち「酸化鉄のざらざら感がなく、目的の範囲のほぼ全面に製剤を塗布できる。」であったことが示され、「常温で固体の油性成分」の含有量が「3重量%」である実施例10及び11では、着色性は「△」、すなわち「酸化鉄の色と違う色となっている。」であるか、「○」であり、使用感は「△」、すなわち「酸化鉄のざらざら感があり、目的の範囲を十分に塗布することができない。」であったことが示されている(評価基準は、【0093】~【0096】を参照。)。
(iii)
これに対して、【表2】に記載された比較例3及び4の乳化組成物では、水相がヘパリン類似物質を含んでおらず(含有量が「0重量%」)、水相の各成分の含有量は、比較例2の水性組成物の各成分の含有量と同じであることから、酸化鉄の分散安定性が劣るものであったと認められ、「固体油(常温で固体の油性成分)」の合計含有量は、「0重量%」(比較例3)及び「3重量%」(比較例4)であるところ、「着色性」の評価結果は、比較例3及び4ともに「×」、すなわち「酸化鉄の色と全く違う色となっている。」であり、「使用感」の評価結果は、比較例3は「×」、すなわち「酸化鉄のざらざら感があり、目的の範囲を全く塗布することができない。」であり、比較例4は「△」であったことが示されている。
(iv)
上記のとおりの実施例10~16及び比較例3~4の乳化組成物の分散安定性及び【表2】に示された着色性の評価結果によれば、「1.5重量%」の酸化鉄を含み、「0.3重量%」のヘパリン類似物質を併存して含み、「常温で固体の油性成分」を「3重量%」から「16重量%」の範囲で含む、本件発明5における外用組成物の態様に包含される、実施例10~16の乳化組成物は、ヘパリン類似物質が併存していない比較例3及び4の乳化組成物と比較すると、組成物中において酸化鉄の分散がより安定化しているものと認められ、また、実施例10~16の乳化組成物は、「◎」評価から「△」評価まで着色性の程度に差はあるが、着色性が「×」評価であった比較例3及び4の乳化組成物と比べれば、いずれも酸化鉄による着色性も向上していることを把握できる。そして、この着色性の向上は、酸化鉄の分散安定化が図られたことによるものと理解できる。したがって、当業者は実施例10~16の乳化組成物により上記(3)で認定した本件発明5の課題を解決できると認識し得るといえる。
(v)
さらに、本件明細書の発明の詳細な説明には、「本発明」の外用組成物について、上記a.(v)に示した事項に加え、水性組成物を水相として乳化組成物を調製する場合の油相に含まれる油性成分である、「常温で液体の油性成分」の説明(【0056】~【0060】)、及び「常温で固体の油性成分」の説明(【0061】~【0067】)も、詳細に記載されている。
これらの記載を参照すれば、当業者は実施例10~16の乳化組成物以外の成分組成を有する乳化組成物も、同様に調製することができ、本件発明5の分散安定化法を使用できるといえるから、当業者は、上記(4)イで認定した本件発明5の解決手段により、上記(3)で認定した課題を解決できると認識し得るといえる。
(ウ)小括
したがって、本件発明5は、発明の詳細な説明の記載により当業者がその課題を解決できると認識できる範囲のものであるから、本件特許の請求項5の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件に適合するものである。
イ 本件発明6について
(ア)本件発明6における外用組成物の態様
本件特許の請求項6の記載によれば、本件発明6は、本件発明5の特定事項を全て備え、「更に常温で固体の油性成分を含む」ことを特定するものであるところ、本件明細書には、「本発明の外用組成物は、更に常温(25℃)で固体の油性成分を含むことが好ましい。これにより、本発明の外用組成物を乳化組成物とした場合に、酸化鉄や白色顔料等の分散性をより向上させることができ、着色性をより向上させることができる。」(【0061】)と記載されていることから、本件発明6の分散安定化法における外用組成物の態様には「乳化組成物」があるものと認められる。
(イ)本件発明6と課題の解決との関係
上記ア(イ)に示したとおり、本件明細書の発明の詳細な説明には、外用組成物が「乳化組成物」である場合の具体例として実施例10~16が記載されており、上記ア(イ)b.(ii)で説示したように、当該実施例10~16の乳化組成物は、いずれも「常温で固体の油性成分」に該当する成分を含むものであり、本件発明6における外用組成物の態様に包含されるものである。
そして、上記ア(イ)b.(iii)~(iv)で説示したように、当該実施例10~16の乳化組成物は、ヘパリン類似物質が併存していない比較例3及び4の乳化組成物と比較すると、組成物中で酸化鉄の分散がより安定化していると認められ、その程度に差はあるものの、いずれも酸化鉄による着色性も向上していることを把握できるから、当業者は上記(3)で認定した本件発明6の課題を解決できると認識し得るといえる。
さらに、上記ア(イ)b.(v)の説示と同様の理由により、本件明細書の発明の詳細な説明の記載を参照すれば、当業者は実施例10~16の乳化組成物以外の成分組成を有する乳化組成物についても、同様に調製することができ、本件発明6の分散安定化法を使用できるといえるから、当業者は、上記(4)イで認定した本件発明6の解決手段により、上記(3)で認定した課題を解決できると認識し得るといえる。
(ウ)小括
したがって、本件発明6は、発明の詳細な説明の記載により当業者がその課題を解決できると認識できる範囲のものであるから、本件特許の請求項6の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件に適合するものである。
(6)申立人の主張について
取消理由2は、後記「第6」1に概要を示す「申立理由3」の一部に対応するものであり、申立人は、本件特許の請求項5又は6に係る発明の特許に対するサポート要件違反の申立理由と、本件特許の請求項1~4のいずれかに係る発明の特許に対するサポート要件違反の申立理由とを、まとめて主張しているところ、それらの主張について、以下、検討する。
ア 「実施例1は酸化鉄の分散安定性向上という作用効果を奏しない」
との主張について
(ア)
申立人の主張の概要は、次のとおりである。
本件明細書の発明の詳細な説明に、ヘパリン類似物質「0.001重量%」及び酸化鉄「1.5重量%」を含む外用組成物(水性組成物;実施例1)は、「使用した酸化鉄があまり水溶液に分散できず、暫くすると沈殿が生じ、上清の一部が透明になる」ことが記載されており(【0086】、【0098】)、酸化鉄の分散安定性を向上させるという作用効果を奏しないことが記載されている。
本件発明1、3~6は、ヘパリン類似物質「0.001重量%」及び酸化鉄「1.5重量%」を配合する外用組成物を、発明の範囲に含むが、発明の詳細な説明には、当該外用組成物において酸化鉄の分散安定性を向上させるという作用効果を奏することの裏付けが開示されていない。
(異議申立書43頁下から6行~44頁13行)
(イ)
申立人の上記主張に対する当審の判断は、次のとおりである。
上記(5)ア(イ)a.(ii)に示したとおり、実施例1の水性組成物は、ヘパリン類似物質の含有量が「0.001重量%」であり、酸化鉄の含有量が「1.5重量%」であるところ、「分散安定性」の評価結果は「△」、すなわち「使用した酸化鉄があまり水溶液に分散できず、暫くすると沈殿が生じ、上清の一部が透明になる。」であったことが示されている。
これに対し、 上記(5)ア(イ)a.(iii)に示したとおり、酸化鉄の含有量が「1.5重量%」であるが、ヘパリン類似物質を含まない比較例1及び2の水性組成物の「分散安定性」の評価結果は、いずれも「×」、すなわち「使用した酸化鉄が水溶液に分散できず、暫くすると沈殿が生じ、上清が透明になる。」であったことが示されている。
そうすると、上記(5)ア(イ)a.(iv)で説示したとおり、ヘパリン類似物質の含有量が「0.001重量%」である実施例1の水性組成物は、分散安定性が「○」評価や「◎」評価であった実施例2~9の水性組成物よりも若干劣るが、分散安定性が「×」評価であったヘパリン類似物質が併存していない比較例1及び2の水性組成物と比べれば、組成物中で酸化鉄の分散がより安定化していると把握できるから、酸化鉄の分散安定性を向上させるという作用効果を奏しないものであるとはいえない。
したがって、申立人の上記主張は誤りである。
イ 「発明の詳細な説明にはヘパリン類似物質のあらゆる配合割合の場合
の作用効果の裏付けがない」
との主張について
(ア)
申立人の主張の概要は、次のとおりである。
本件明細書の発明の詳細な説明に記載された具体例(【0084】以下)を検討すると、ヘパリン類似物質の配合割合が「0.001重量%」~「3重量%」である外用組成物しか開示されておらず、前述のとおり、ヘパリン類似物質の配合割合が「0.001重量%」の場合には、酸化鉄の分散安定性を向上させるという作用効果を奏しないのであるから、ヘパリン類似物質「0.001重量%」の場合も、酸化鉄の分散安定性向上の作用効果が得られることは裏付けられていない。
そうすると、発明の詳細な説明には、ヘパリン類似物質が「0.001重量%」以下の場合や「3重量%」よりも多い場合においてまで、酸化鉄の分散安定性向上の作用効果が得られることは裏付けられていない。
よって、本件発明1~6は、発明の詳細な説明に記載したものでない。
(異議申立書44頁14行~45頁6行)
(イ)
申立人の上記主張に対する当審の判断は、次のとおりである。
まず、上記ア(イ)において説示したとおり、ヘパリン類似物質の含有量が「0.001重量%」である実施例1の水性組成物は、ヘパリン類似物質が併存していない比較例1及び2の水性組成物と比較すると、組成物中で酸化鉄の分散がより安定化していることを把握できるから、ヘパリン類似物質の配合割合が「0.001重量%」の場合には、酸化鉄の分散安定性を向上させるという作用効果を奏しないとの申立人の主張は誤りである。
また、一般的に外用組成物において、各含有成分には、外用組成物の用途や性状、他の含有成分との関係等から、所期の機能や効果を発揮するために適切な含有量(含有割合)の範囲が存在するのが通常であり、極めて少量や極めて多量に配合した場合には、所期の機能や効果が十分に得られないことがあるのは明らかであるから、特許請求の範囲の記載において、ある成分を外用組成物が「含む」等とされている場合、当該成分についての発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識から把握し得る、当該成分が所期の機能や効果を発揮するために妥当な量(割合)が、当然に想定されていると解するべきである。
そして、上記(5)ア(ア)で説示したように、本件明細書の発明の詳細な説明には、外用組成物におけるヘパリン類似物質の含有量は、通常「0.0005~10重量%」程度が好ましく、「0.001~10重量%」程度がより好ましい旨(【0043】)が記載され、上記(5)ア(イ)a.(iv)で説示したように、「0.001重量%」~「3重量%」の範囲の様々な量でヘパリン類似物質を併存して含む実施例1~9の水性組成物は、ヘパリン類似物質が併存していない比較例1及び2の水性組成物と比較すると、その程度に差はあるが、いずれも組成物中で酸化鉄の分散がより安定化しているものと把握することができ、上記(5)ア(イ)b.(iv)で説示したように、「0.3重量%」のヘパリン類似物質を含む実施例10~16の乳化組成物は、ヘパリン類似物質が併存していない比較例3及び4の乳化組成物と比較すると、組成物中で酸化鉄の分散がより安定化しているものと認められる。さらに、酸化鉄の分散安定化に必要なヘパリン類似物質の含有量は、酸化鉄の量の多寡やその他の成分の配合によっても変動するものであり、ヘパリン類似物質の含有量が「0.001重量%」以下や「3重量%」超となると、酸化鉄が分散安定化されないというような技術常識が本願出願時に存在したとも認められない。
そうすると、発明の詳細な説明の記載から、少なくとも、より好ましいヘパリン類似物質の含有量とされている「0.001~10重量%」程度の範囲において、酸化鉄の分散安定性向上の作用効果が得られると、当業者は認識できるといえるから、特許請求の範囲において具体的な数値範囲が特定されていなくても、その記載が、発明の詳細な説明の記載により当業者が本件発明の課題を解決できると認識できる範囲を超えるものであるとはいえない。
したがって、申立人の上記主張は誤りである。
ウ 「発明の詳細な説明にはあらゆる常温で固体の油性成分を有する外用
組成物に関する作用効果の裏付けがない」
との主張について
(ア)
申立人の主張の概要は、次のとおりである。
本件発明1~4、6は、 ヘパリン類似物質に加えて、「常温で固体の油性成分」を配合すると、酸化鉄の着色性をより安定化させることができるというものである。
本件明細書の発明の詳細な説明に記載された具体例(【0084】以下)には、「常温で固体の油性成分」(セトステアリルアルコール及びセタノール(並びにマイクロクリスタリンワックス))を、「3~16重量%」配合することによって、酸化鉄の着色性をより安定化させるという作用効果を奏することの裏付けがある。
しかし、「常温で固体の油性成分」を「16重量%」よりも多く配合することによって、酸化鉄の着色性をより安定化させるという作用効果が得られることは開示されていない。
しかも、マイクロクリスタリンワックス、セトステアリルアルコール及びセタノール以外の「常温で固体の油性成分」を用いた場合にも、酸化鉄の着色性をより安定化させるという作用効果を奏することの裏付けがない。
(異議申立書45頁7行~46頁4行)
(イ)
申立人の上記主張に対する当審の判断は、次のとおりである。
上記イ(イ)でも説示したように、特許請求の範囲の記載において、ある成分を外用組成物が「含む」等とされている場合、当該成分についての発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識から把握し得る、当該成分が所期の機能や効果を発揮するために妥当な量(割合)が、当然に想定されていると解するべきである。
そして、本件明細書の発明の詳細な説明には、外用組成物における「常温で固体の油性成分」の含有量について、「0.5~30重量%程度が好ましく、1~20重量%程度がより好ましく、2~18重量%程度が更に好ましい。」(【0066】)と記載されている。
さらに、上記(5)ア(イ)b.(ii)~(iv)で説示したように、「1.5重量%」の酸化鉄を含み、「0.3重量%」のヘパリン類似物質を併存して含み、さらに「常温で固体の油性成分」(セトステアリルアルコール及びセタノール(並びにマイクロクリスタリンワックス))を「3重量%」~「16重量%」の様々な量で含有する、実施例10~16の乳化組成物が、ヘパリン類似物質が併存していない比較例3及び4の乳化組成物と比較すると、いずれも酸化鉄による着色性が向上していると把握することができる。そして、「常温で固体の油性成分」の含有量が「16重量%」を超えると、酸化鉄の着色性を向上できないというような技術常識が本願出願時に存在したとも認められない。
そうすると、発明の詳細な説明の記載から、「常温で固体の油性成分」の好ましい含有量とされる「0.5~30重量%」程度の範囲において、酸化鉄の着色性の向上の作用効果が得られると、当業者は認識できるといえるから、特許請求の範囲において具体的な数値範囲が特定されていなくても、本件発明1~4、6が、発明の詳細な説明の記載により当業者が本件発明の課題を解決できると認識できる範囲を超えるものであるとはいえない。
なお、本件明細書には、「常温で固体の油性成分として、医薬品、医薬部外品、化粧品、飲食品等の分野において許容されるものであれば特に制限されない。」(【0062】)と記載されているところ、これらの分野において許容される配合成分は、生体への安全性等の点から自ずと限られた範囲内のものであり、それらの成分について、常温(25℃)で固体であるか否か、油性であるあるか否か、といった物性を確認する程度のことは、当業者にとって過大な負担を伴うことではない。
さらに、本件明細書には、「常温で固体の油性成分として、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、ベヘン酸等の脂肪酸、ミツロウ、カルバナロウ、ラノリン、ラノリンエステル、キャンデリラワックス等のロウ類、セトステアリルアルコール、ステアリルアルコール、セタノール(セチルアルコール)、ミリスチルアルコール、イソステアリルアルコール、ベヘニルアルコール、ラノリンアルコール等の固体アルコールを用いることが好ましい。」(【0063】)と記載され、「常温で固体の油性成分として、マイクロクリスタリンワックス、α?オレフィンオリゴマー、ゲル化炭化水素、セレシンワックス、固形パラフィン、ワセリン等の炭化水素油を用いることが好ましい。」(【0064】)との記載もあり、「常温で固体の油性成分」として用いるのに好適な具体的な化合物が例示・列記されている。
これらの化合物は、その構造からみて、概ね類似した性質を有するものと推定できるから、外用組成物に添加した場合に、マイクロクリスタリンワックス、セトステアリルアルコール及びセタノールと同様に、酸化鉄の着色性の向上の作用効果を奏するものと予測し得るといえる。
したがって、申立人の上記主張は誤りである。
エ 「水性組成物及び乳化組成物以外の外用組成物一般に拡張一般化する
ことはできない」
との主張について
(ア)
申立人の主張の概要は、次のとおりである。
本件明細書の発明の詳細な説明には、「水性組成物」及び「乳化組成物」以外の酸化鉄を含む流動性を呈する外用組成物に対して、ヘパリン類似物質を組み合わせて使用する実施例は記載されておらず、そのような場合まで、酸化鉄の分散安定性向上の効果が得られることが裏付けられていない。
よって、本件発明1~6は、発明の詳細な説明に記載したものでない。
(異議申立書46頁5~17行)
(イ)
申立人の上記主張に対する当審の判断は、次のとおりである。
本件明細書の発明の詳細な説明には、本件発明における外用組成物として「水性組成物」及び「乳化組成物」以外の態様は明記されていないが、上記(5)ア(イ)にて詳述したとおり、本件明細書の発明の詳細な説明には、本件発明における外用組成物が、「水性組成物」及び「乳化組成物」の態様において、ヘパリン類似物質が併存することにより、酸化鉄の分散安定性を向上させ、「乳化組成物」の態様において、さらに常温で固体の油性成分を配合することにより、酸化鉄の着色性を安定化することが、具体的に裏付けられているから、特許請求の範囲において、外用組成物が「水性組成物」又は「乳化組成物」に特定されていなくても、本件発明が、発明の詳細な説明の記載により当業者が本件発明の課題を解決できると認識できる範囲を超えるものであるとはいえない。
したがって、申立人の上記主張は誤りである。
(7)取消理由2についてのまとめ
以上のとおり、本件特許の請求項5~6に係る発明の特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものとはいえず、同法第113条第4号に該当するものではないから、取消理由2によって取り消すことはできない。
第6 取消理由通知(決定の予告)で採用しなかった特許異議の申立ての
理由について
特許異議申立書の全体の記載からみて、申立人は、本件訂正前の請求項1~6に係る発明の特許を取り消すべき理由として、下記1に概要を示す申立理由1~5を申し立てたものと認められる。また、申立人は、証拠方法として、下記2に示す甲第1~5号証(以下、番号順に「甲1」等ということがある。)を提出した。
当審は、これら申立理由1~5のうち、申立理由3の一部について、本件訂正前の請求項5及び6に係る発明の特許を対象とする部分のみ、取消理由通知(決定の予告)において採用し、「取消理由2」として特許権者に通知したが、その余の申立理由は、いずれも取消理由として採用しなかった。
当審は、これら取消理由として採用しなかった申立理由によっても、本件特許の請求項1~6に係る発明の特許を取り消すことはできないものと判断する。その理由は、次のとおりである。
1 申立理由の概要
特許異議申立書の全体の記載からみて、申立人が申し立てた申立理由1~5の概要は、次のとおりのものと認められる。
[申立理由1](甲1を主引例とする進歩性欠如)
本件特許の請求項1~6に係る発明は、甲1に記載された発明及び甲2~甲3に記載された事項に基いて、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許の請求項1~6に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
[申立理由2](甲5を主引例とする進歩性欠如)
本件特許の請求項1に係る発明は、甲5に記載された発明に基いて、本件特許の請求項2~4に係る発明は、甲5に記載された発明及び甲2に記載された事項に基いて、本件特許の請求項5~6に係る発明は、甲5に記載された発明及び甲3に記載された事項に基いて、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許の請求項1~6に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
[申立理由3](サポート要件違反)
本件特許の請求項1~6に係る発明の特許は、次のア~エの点で、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
ア 実施例1は酸化鉄の分散安定性向上という作用効果を奏しない
イ 発明の詳細な説明にはヘパリン類似物質のあらゆる配合割合の場合
の作用効果の裏付けがない
ウ 発明の詳細な説明にはあらゆる常温で固体の油性成分を有する外用
組成物に関する作用効果の裏付けがない
エ 水性組成物及び乳化組成物以外の外用組成物一般に拡張一般化する
ことはできない
[申立理由4](実施可能要件違反)
本件特許の請求項1~6に係る発明の特許は、次のア~ウの点で、明細書の発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
ア 発明の詳細な説明にはヘパリン類似物質のあらゆる配合割合の場合
の作用効果の裏付けがない
イ 発明の詳細な説明にはあらゆる常温で固体の油性成分を有する外用
組成物に関する作用効果の裏付けがない
ウ 水性組成物及び乳化組成物以外の外用組成物一般を製造及び使用する
ためには過度の試行錯誤を要する
[申立理由5](明確性要件違反)
本件特許の請求項1~4、6に係る発明の特許は、「常温で固体の油性成分」との記載事項の外延が不明確であり、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
2 申立人が提出した証拠(証拠方法)
申立人は、特許異議申立書に添付して次の書証(甲第1~5号証)を提出した。
甲第1号証: 特開2012-36176号公報
甲第2号証: 『化粧品の有用性 -評価技術の進歩と将来展望-』,
2001年3月31日 第1刷発行,薬事日報社,
300~311頁
甲第3号証: 特表平10-506121号公報
甲第4号証: 『R85形 粘度計』,東機産業,
http://www.tokisangyo.co.jp/pdf/viscometer/R85.pdf
(出力日:令和2年8月14日)
甲第5号証: 特開2001-19611号公報
3 各甲号証の記載事項
甲1~甲4に記載された事項について、上記申立理由1~5の判断に必要な範囲で以下に摘記する。下線は表題の部分を除いて当審が付した。
なお、甲5については、上記「第5」1(1)アにおいて、申立理由1~5の判断に必要な記載事項を既に摘記している。
(1)甲1の記載事項
本件特許の出願よりも前である平成24年2月23日に発行された甲1(特開2012-36176号公報)には、次の事項が記載されている。
・摘記甲1ア
「【請求項1】
ビタミンA類及びヘパリン類似物質を含む、皮膚刺激性を抑えながら肌荒れを改善するための外用組成物。
・・・・
【請求項5】
ビタミンA類がパルミチン酸レチノールである、請求項1~4の何れかに記載の組成物。」
・摘記甲1イ
「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、肌荒れ改善効果に優れた外用組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は上記課題を解決するために研究を重ね、以下の知見を得た。
(i) ビタミンA類とヘパリン類似物質とを含む外用組成物が、荒れた肌に塗布した場合、効果的に荒れた肌を改善する。・・・・。
(ii) 荒れ肌にビタミンA類を含む外用組成物を塗布すると、ビタミンA類の濃度にもよるが、皮膚刺激性を有する場合がある。この外用組成物にヘパリン類似物質を配合すると、ビタミンA類による皮膚刺激性が効果的に軽減される。
・・・・
【発明の効果】
【0008】
本発明の外用組成物は、ビタミンA類と、ヘパリン類似物質とを共に配合していることにより、例えば乾皮症や角化症のような荒れ肌に対して、角層水分量の増大、経表皮水分喪失量の低減(バリア機能の改善)、肌のキメの正常化又は改善、皮膚所見(皮膚乾燥及び落屑の程度)の改善を導く。・・・・。」
・摘記甲1ウ
「【0017】
製剤
本発明の外用組成物は、ビタミンA類、及びヘパリン類似物質を、医薬品、医薬部外品、又は化粧品に通常使用される基剤又は担体、及び必要に応じて添加剤と共に混合して、医薬品、医薬部外品、又は化粧品用の外用組成物とすることができる。
【0018】
<形態>
医薬品用の外用組成物の形態は特に限定されず、例えば、液剤、懸濁剤、乳剤、クリーム剤、軟膏剤、ゲル剤、リニメント剤、ローション剤、又はパップ剤などが挙げられる。医薬用の外用組成物は、好ましくは、乳液、クリーム剤、軟膏剤、ゲル剤、より好ましくは、乳液、クリーム剤、さらにより好ましくは、乳液の形態で用いられる。・・・・。
医薬部外品又は化粧品用の外用組成物の形態は特に限定されず、例えば、化粧水、乳液、クリーム、美容液、日焼け止め用化粧料、パック、ハンドクリーム、ボディローション、ボディークリームのような基礎化粧料;洗顔料、メイク落とし、ボディーシャンプーのような洗浄用化粧料;ファンデーション、化粧下地、リップクリーム、口紅、チークカラーのようなメークアップ化粧料;入浴剤などが挙げられる。医薬部外品又は化粧品用の外用組成物は、好ましくは、乳液、クリーム、美容液、より好ましくは、乳液、クリーム、さらにより好ましくは、乳液の形態で用いられる。・・・・。」
・摘記甲1エ
「【0021】
<添加剤>
本発明の外用組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、医薬品、医薬部外品、又は化粧品に添加される公知の添加剤、例えば、酸化防止剤、界面活性剤、増粘剤、保存剤、pH調整剤、キレート剤、安定化剤、刺激軽減剤、防腐剤、着色剤、香料、パール光沢付与剤等を添加することができる。 ・・・・。」
・摘記甲1オ
「【0037】
粘度
本発明の外用組成物の粘度は、約10000~60000が好ましく、約20000~45000がより好ましい。かかる粘度は、B形粘度計 RB-80L、M-3ロータを用いて、3rpm、1分、25℃の条件下で測定したときの値である。・・・・。」
・摘記甲1カ
「【実施例】
【0040】
以下、本発明を実施例を挙げてより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(1)肌荒れ改善効果の評価
外用組成物の調製
表1に記載の処方に従って、実施例1の外用組成物を製造した。具体的には、パルミチン酸レチノール、濃グリセリン、1,3-ブチレングリコール、無水エタノール、パルミチン酸イソプロピル、ジメチルポリシロキサン、セタノール、ポリソルベート60、モノステアリン酸ソルビタン及びパラオキシ安息香酸エチルを約70℃まで加温溶解し、混合溶液Aを調製した。ヘパリン類似物質、カルボキシビニルポリマー、エデト酸ナトリウム水和物及び水を約70℃まで加温溶解し、混合溶液Bを調製した。混合溶液A及びBを均一に混合後、冷却し、さらにトリエタノールアミンを添加して、乳液状の外用組成物を得た。得られた組成物の粘度を、B形粘度計 RB-80L、M-3ロータを用いて、3rpm、1分、25℃の条件下で測定したところ、30000~35000Pa・sであった。
【0041】
【表1】
[図:0001383262000003.jpg]
」
・摘記甲1キ
「【0053】
・・・・
処方例
本発明の外用組成物の処方例を以下に示す。処方例中の数値の単位は「重量%」である。
・・・・
【0061】
実施例4(クリーム)
ヘパリン類似物質 0.3
ビタミンA油(パルミチン酸レチノール、100万IU/g) 0.5
グリチルリチン酸ジカリウム 0.05
月見草油 3
ライチ種子エキス 0.1
α-リポ酸 0.01
加水分解大豆タンパク 0.1
ブドウ種子エキス 0.00.5
チガヤ根エキス 0.001
アルテミアエキス 0.5
パラメトキシケイ皮酸2-エチルヘキシル 10
ジエチルアミノヒドロキシベンゾイル安息香酸ヘキシル 5
2,4,6-トリス[4-(2-エチルヘキシルオキシカルボニル)アニリノ]1,3,5-トリアジン 3
シリコーン被覆酸化亜鉛 5
シリコーン被覆酸化チタン 1
無機化合物被覆酸化亜鉛 0.05
グリセリン 5
1,3-ブチレングリコール 2
ラウリルPEG-9ポリジメチルシロキシエチルジメチコン 1
PEG-9ポリジメチルシロキシエチルジメチコン 1
トリ2-エチルヘキサン酸グリセリル 1.5
メチルポリシロキサン 3
デカメチルシクロペンタシロキサン 30
メチルシロキサン網状重合体 5
アクリル酸アルキル共重合体メチルポリシロキサンエステル 0.1
アクリル酸・メタクリル酸アルキル共重合体 0.05
マイカ 2
キレート剤 適量
ヒアルロン酸ナトリウム 0.05
酢酸トコフェロール 0.05
防腐剤(パラオキシ安息香酸プロピル、フェノキシエタノール) 適量
pH調整剤 適量
香料 適量
水 残部 」
(2)甲2の記載事項
本件特許の出願よりも前である2001年3月31日に発行された甲2(『化粧品の有用性 -評価技術の進歩と将来展望-』,2001年3月31日第1刷発行,薬事日報社,300~311頁)には、次の事項が記載されている。
・摘記甲2
「2-1.色演出
(1) メークアップにおける色演出技術
メークアップ化粧品の有用性を論じる場合,色の演出は非常に大きな要素を占める。・・・・。色材を肌や爪にのせることにより,明暗や色彩を調整し,色彩効果や立体感を付与することにより,顔造作をより魅力的に見せたり,健康感,躍動感,高品位感などの有用な印象演出を行うのであるから,メークアップ化粧品にとって色材は欠くことのできない素材といえる。通常のメークアップ化粧品に配合される色材は無機色材,有機色材,光輝性色材に大別でき,・・・・。
a) 無機色材
無機色材は多くの物が金属酸化物であり,さらに白色無機顔料と有色無機顔料に細分される。白色無機顔料は,白さ,明るさの演出,肌トラブルの隠蔽(・・・・)を主目的とするものであり,・・・・。表4-1に代表的な白色顔料の組成,屈折率,着色力,隠蔽力を示す。
有色無機顔料は酸化鉄に代表される。酸化鉄は,その酸化価数,含水量によって色調が異なり,ベンガラと称される赤酸化鉄はα型酸化第二鉄(α-Fe2O3),同じ酸化第二鉄でも含水酸化鉄(α-FeOOH)は黄色である。また,四三酸化鉄(Fe3O4)は磁性を帯びた黒色顔料となる。酸化鉄系顔料は,主にファンデーションなどのベースメーク化粧品に配合される。他の無機有色顔料としては,群青,紺青,マンガンバイオレットなどがあげられる。
・・・・
[図:0001383262000004.jpg]
」
(300頁左欄16行~同頁右欄26行、同頁「表4-1」)
(3)甲3の記載事項
本件特許の出願よりも前である平成10年6月16日に公表された甲3(特表平10-506121号公報)には、次の事項が記載されている。
・摘記甲3ア
「【特許請求の範囲】
1.複合粒状材料からなり、この複合粒状材料は、その粒子が診断に有効な実質的に水不溶性の金属酸化物結晶性材料と多価イオン性被覆剤とからなり、・・・・、かつ前記被覆剤が天然または合成構造型多糖、合成ポリアミノ酸、生理学的に許容される合成重合体およびこれらの誘導体から選択されることを特徴とする診断剤。
2.前記被覆剤が、ペクチン、ポリガラクツロン酸、グリコサミノグリカン、ヘパリン類、セルロースおよび海洋性多糖類から選択される天然または合成構造型多糖である請求項1に記載の診断剤。
・・・・
10.前記金属酸化物結晶が、超常磁性である請求項1~9の何れか1項に記載の診断剤。
11.前記超常磁性結晶が鉄酸化物結晶である請求項10に記載の診断剤。
14.請求項1に記載の診断剤の製造方法であって、
(i) 9を越えるpHで、診断に有効で実質的に水不溶性の金属酸化物の1~100nmの結晶と、被覆剤とを共沈させるか、または
(ii) 診断に有効で実質的に水不溶性の金属酸化物の1~100nmの結晶を被覆剤で被覆し、
これによって、・・・・、かつ該被覆剤が天然または合成構造型多糖およびその誘導体、合成ポリアミノ酸および生理学的に許容される合成重合体から選択される複合粒子を製造・・・・を特徴とする診断剤の製造方法。
15.ヒトまたはヒト以外の身体のコントラスト増強イメージを形成する方法であって、上記身体に対して、請求項1~13の何れか1項に記載の診断剤の懸濁物を投与し、該剤が分布する身体の少なくとも一部のイメージを形成することを特徴とするコントラスト増強イメージの形成方法。」
・摘記甲3イ
「【発明の詳細な説明】
コントラスト剤
本発明は、コントラスト剤、特にMR、X線、EITおよび磁気計測研究に使用される高分子電解質被覆金属酸化物コントラスト剤粒子、殊にこのような金属酸化物粒子が超常磁性作用を示すものに関する。」
(4頁1~10行)
・摘記甲3ウ
「超常磁性剤のMRコントラスト剤としての妥当性は、・・・・。それらの2つの主な使用法は、胃腸の調査のためには小腸投与により、また血液プール区画および/または細網内皮系およびその解剖学上の分布区域(例えば肝臓、脾臓、骨髄およびリンパ節等)の調査のためには非経口投与による。およそ30nm未満の直径を有する超微小酸化鉄粒子は、より大きな従来の酸化鉄粒子と比較した場合に、相対的に長い血管内半減期を有している。」
(5頁13~22行)
・摘記甲3エ
「・・・、非経口粒子処方のためには、適当なコントラスト能力および生体動力学そのものだけでは充分ではなく、幾らかの問題に遭遇した。即ち、例えば、臨床試験で試された従来の酸化鉄?デキストラン調剤は、コロイド安定性が低いことが示された。粒子は、使用直前に、再分散および/または希釈し、次いでろ過しなければならないし、かつ調剤は、インラインフィルタを介する低速注入で投与され、重大な毒性作用が回避されている。
粒子は、被覆することによって適当な安定性を与えることができる一方で、非経口粒状剤の粒子表面積は相当あり、我々は、従来完全に無害であると考えられていた被覆剤、例えば貯蔵型の多糖類、澱粉、デキストランおよびこれらの誘導体が、それ自身、心臓血管パラメータ、血小板喪失および血液凝固時間に、および補体系に有害な作用を有することを見出した。
しかしながら、我々は、これらの粒状剤に伴う問題点が、ある高分子電解質、例えば合成ポリアミノ酸、合成重合体および、特に、構造型多糖類などを、従来の被覆密度より低くして使用することで、回避または低減できることを発見した。」
(6頁2~16行)
・摘記甲3オ
「多価イオン性多糖類被覆剤として特に好ましいのは、天然および合成ヘパリン類多糖類、例えばヘパリン、コンドロイチン(例えばコンドロイチン-4-硫酸)、および海洋性多糖類アルギン酸塩、カラゲナンおよびキトサンなどである。」
(7頁7~9行)
・摘記甲3カ
「本発明に従って使用することができるが、特に好ましいのは、鉄酸化物超常磁性結晶、例えば式 (FeO)nFe2O3(式中nは0~1の範囲である)の化合物、典型的にはマグヘマイト(γ-Fe2O3)およびマグネタイト(Fe3O4)、さらにこれらの複合体である。」
(9頁4~7行)
・摘記甲3キ
「我々は、本発明の粒子が、従来の粒子と比較して、改善された安定性および毒性を有していることを発見した。本発明に従って使用されるこれら粒子は、例えば、工程1がアルカリ溶液からの金属酸化物結晶の沈澱であり、工程2が結晶を高分子電解質特性の重合体で被覆するという単純な二工程操作によって合成することができる。或いはこれら粒子は、金属酸化物結晶と高分子電解質被覆重合体との共沈によっても合成することができる。」
(11頁17~22行)
(4)甲4の記載事項
発行日・掲載日を確認できない甲4(『R85形 粘度計』,東機産業, http://www.tokisangyo.co.jp/pdf/viscometer/R85.pdf(出力日:令和2年8月14日))には、次の事項が記載されている。
・摘記甲4
「測定上限値表
RB-85形 粘度計
RB-85L
フルスケールトルク:67.37μN・m
測定範囲:10~2,000,000mPa・s
測定範囲:1~2,000,000mPa・s
(Lアダプタ使用の場合)
[図:0001383262000005.jpg]
」
(表紙から6頁目の上段)
4 申立理由2(甲5を主引例とした進歩性欠如)について
事案に鑑み、申立理由2から先に検討し、その後に申立理由1、3、4、5の順に検討する。
(1)甲5に記載された発明
甲5には、上記「第5」1(1)アに示した記載事項(摘記甲5ア~摘記甲5エ)が記載されており、以下に再掲する上記「第5」1(1)イで認定した「甲5発明」が記載されていると認められる。
≪甲5発明≫
「イ
70%マルチトール水溶液 5 重量部
グリセリン 5 重量部
1,3-ブチレングリコール 5 重量部
メチルパラベン 0.2重量部
ブチルパラベン 0.1重量部
ロ
トリグリセリンジイソステアレート 5 重量部
ハ
流動パラフィン 12 重量部
軽質イソパラフィン 8 重量部
マイクロクリスタリンワックス 4 重量部
ネオペンチルグリコールジイソオクタネート 4 重量部
ニ
水 26.5重量部
ヘパリン類似物質 0.1重量部
ホ
鉄ドープ二酸化チタン 10 重量部
ジルコニウムドープ二酸化チタン 2 重量部
酸化鉄 3 重量部
タルク 5 重量部
ヘ
水 5 重量部
リパーゼ 0.1重量部
を含有する、乳化したファンデーション。 」
(2)本件発明5について
事案に鑑み、本件発明5から先に検討し、次いで、本件発明6、1、2、3~4の順に検討する。
ア 対比
本件発明5と甲5発明の対比は、上記「第5」1(2)アに示したとおりであり、本件発明5と甲5発明との間には、次の一致点及び相違点があるものと認められる。
<一致点>
「酸化鉄を含む、外用組成物中に、ヘパリン類似物質を併存させる」ものであること。
<相違点5-5-1>
本件発明5は、外用組成物について、「(但し、前記外用組成物は、以下の処方のファンデーションを除く ・・・・)」として、甲5発明に該当するファンデーションを除くとしているのに対し、甲5発明は、本件発明5における外用組成物から除かれたファンデーションである点。
<相違点5-5-2>
本件発明5では、外用組成物が「25℃で流動性を呈する」とされているのに対し、甲5発明では、そのような特定が示されていない点。
<相違点5-5-3>
本件発明5は、「外用組成物中の酸化鉄の分散安定化法」という、方法の発明であるのに対し、甲5発明は、外用組成物に該当するファンデーションという、物の発明であって、「酸化鉄の分散安定化」は示されていない点。
イ 相違点についての判断
(ア)相違点5-5-1(除かれた処方のファンデーション)について
本件発明5の外用組成物中の酸化鉄の分散安定化法は、本件訂正によって当該外用組成物から甲5発明に該当する特定の処方のファンデーションのみをピンポイントで「除く」とするものである。
しかしながら、一般的に外用組成物において、製造容易性や原料の調達・コスト等の様々な観点から、添加成分の種類や配合割合等を若干変更するといったことは、当業者が通常行うことである。そして、甲5には、「本発明がこれら実施例のみに限定を受けないことは言うまでもない。」(摘記甲5エ)との記載もある。
そうすると、甲5に記載された、低刺激性で安全性が高く、敏感肌の人に好適な、リパーゼと多価アルコールを含有することを特徴とする、皮膚外用組成物(摘記甲5ア~摘記甲5イ)という技術思想の範囲内において、その一処方例である甲5発明のファンデーションについて、必須成分以外のいずれかの添加成分の種類や配合割合を若干変更し、結果として、本件発明5における外用組成物から「除く」とされた特定の処方のファンデーションとは処方が若干異なるファンデーションとすることは、当業者にとって特に困難なことではない。
(イ)相違点5-5-2(25℃での流動性)について
甲5には、甲5発明を認定する根拠とした実施例9のファンデーションを調製する工程の一部として、「・・・・乳化し、冷却撹拌して温度が30℃~40℃になったところでヘを加えさらに冷却撹拌してファンデーションを得た。」(摘記甲5エ)と記載されていることから、30℃~40℃の温度範囲で、製造途中の混合物が流動性を呈していたと推定し得るものの、その後さらに冷却撹拌して得られたファンデーションは、その状態が明示されておらず、25℃でも流動性を呈するか否かは不明である。
しかしながら、甲5発明のファンデーションの成分組成をみると、粉体を除いた1重量部を超える含有成分のうち、「マイクロクリスタリンワックス(4重量部)」は常温(25℃)で固体の油性成分に該当するものと認められる一方(本件明細書の【0061】及び【0064】を参照。)、「トリグリセリンジイソステアレート(5重量部)」及び「ネオペンチルグリコールジイソオクタネート(4重量部)」は常温(25℃)で液状の油脂と認められ(要すれば、特開2006-83093号公報の【0009】及び特開2005-154356号公報の【0011】を参照。)、「70%マルチトール水溶液(5重量部)」、「グリセリン(5重量部)」、「1,3-ブタンジオール(5重量部)」、「流動パラフィン(12重量部)」、「軽質イソパラフィン(8重量部)」及び「水(26.5重量部及び5重量部)」は、いずれも常温(25℃)で液体であることは明らかである。
これらの常温(25℃)で液体の成分の合計量(計75.5重量部)は、甲5発明のファンデーション全体(計100重量部)において大きな割合を占めているから、甲5発明のファンデーションは、25℃で流動性を呈するものである蓋然性が高い。(なお、本件発明5は、「25℃で流動性を呈する外用組成物」から甲5発明に該当する処方のファンデーションを「除く」とされているから、甲5発明のファンデーションも25℃で流動性を呈するものであることが前提となっていると解される。)
そうすると、上記(ア)で説示した、甲5発明のファンデーションについて、添加成分の種類や配合割合を若干変更したファンデーションも、同様に25℃で流動性を呈する場合があり得るといえる。
(ウ)相違点5-5-3(酸化鉄の分散安定化法)について
甲5発明のファンデーションは、摘記甲5エによれば、「イ」、「ロ」、「ハ」、「ニ」の成分を、それぞれ80℃に加熱し、「イ」と「ロ」を良く混練りした後、「ハ」を加えて希釈し、これに「酸化鉄」を含む「ホ」を分散した後、80℃に温度調整し、これに撹拌しながら「ヘパリン類似物質」を含む「ニ」を徐々に加え乳化するという工程を経て得られたものであり、上記(イ)で説示したように、25℃で流動性を呈する蓋然性が高いから、本件発明5における、「酸化鉄を含み、25℃で流動性を呈する外用組成物中に、ヘパリン類似物質を併存させることを特徴とする」という酸化鉄の分散安定化のための手段とされている条件を満たしている。
さらに、甲5発明のファンデーションの酸化鉄の含有量「3重量部」及びヘパリン類似物質の含有量「0.1重量部」は、本件明細書に、外用組成物が乳化組成物である場合における、酸化鉄の更に好ましい含有量として記載された「1~3重量%程度」(【0033】)、及びヘパリン類似物質のより好ましい含有量として記載された「0.1~1重量%程度」(【0046】)の範囲内のものである。
そうすると、甲5発明のファンデーション中において、含まれている酸化鉄は、併存するヘパリン類似物質によって、分散安定化されている可能性がないとはいえない。
しかしながら、甲5は、低刺激性で安全性が高く、敏感肌の人に好適な、リパーゼと多価アルコールを含有することを特徴とする、皮膚外用組成物について記載されたものであり(摘記甲5ア~摘記甲5イ)、その一処方例である甲5発明のファンデーションに含まれている「ヘパリン類似物質」及び「酸化鉄」は、甲5に記載された皮膚外用組成物の必須成分ではなく、追加的な有効成分及び任意成分に過ぎない(摘記甲5ウ)。
また、甲5には、25℃で流動性を呈する外用組成物において酸化鉄を分散安定化するという課題について何ら記載されていないうえ、当該課題をヘパリン類似物質の併存によって解決するという技術手段についても記載も示唆もされていない。
なお、甲3には、超常磁性結晶としての鉄酸化物結晶(マグネタイト)等を、ヘパリン等の多価イオン性多糖類被覆剤で被覆した、改善された安定性及び低毒性を有する、MR、X線、EIT及び磁気計測研究に使用される、コントラスト剤粒子からなる診断剤について記載されている(摘記甲3ア~摘記甲3キ)。しかし、甲3に記載の技術は、ファンデーション等のベースメーク化粧品に配合される有色無機顔料としての酸化鉄(摘記甲2)とは、適用分野が全く異なる関連性が低い技術であり、ヘパリン類似物質の併存によって25℃で流動性を呈する皮膚外用剤中の酸化鉄が分散安定化されることを何ら示唆するものではない。また、ヘパリン類似物質の併存によって25℃で流動性を呈する皮膚外用剤中の酸化鉄が分散安定化されるということが、本件特許の出願前の技術常識であったとも認められない。
そうすると、上記(ア)で説示したように、甲5発明のファンデーションについて、添加成分の種類や配合割合を若干変更することは、当業者が特に困難を伴わずになし得るとしても、甲5発明を外用組成物中の酸化鉄の分散安定化法という方法の発明とすることは、当業者が容易に想到し得ることであるとはいえない。
ウ 本件発明5の効果について
上記「第5」2(5)ア(イ)で詳述したとおり、本件明細書の発明の詳細な説明には、ヘパリン類似物質を併存させることにより、25℃で流動性を呈する外用組成物中の酸化鉄の分散安定性が向上するという、本件発明が奏する効果が、実施例として具体的に裏付けられて記載されており、このような本件発明の効果は、25℃で流動性を呈する外用組成物中の酸化鉄を分散安定化するという課題にも、当該課題をヘパリン類似物質を併存させることによって解決するという技術手段にも、何ら触れるところがない甲5及び甲3の記載からは、本件特許の出願時の技術常識を考慮したとしても、当業者が予測し得ない顕著なものである。
エ 小括
以上のとおりであるから、本件発明5は、甲5に記載された発明及び甲3に記載された事項に基いて、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(3)本件発明6について
本件発明6は、本件発明5の分散安定化法について、「更に常温で固体の油性成分を含む」ことを特定したものであり、本件発明5に包含されるものである。
そして、上記(2)で説示したとおり、本件発明5は、甲5に記載された発明及び甲3に記載された事項に基いて、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないのであるから、本件発明5に包含され、これをさらに限定して特定した本件発明6も、甲5に記載された発明及び甲3に記載された事項に基いて、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(4)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲5発明を対比する。
甲5発明における、「ヘパリン類似物質」、「酸化鉄」及び「ファンデーション」は、本件発明1における、「ヘパリン類似物質」、「酸化鉄」及び「外用組成物」に、それぞれ相当する。
また、甲5発明における「マイクロクリスタリンワックス」は、本件発明1における「常温で固体の油性成分」に相当し(本件明細書の【0061】及び【0064】を参照。)、甲5発明のファンデーションには、それ以外に「常温で固体の油性成分」に相当する成分は含まれていない(「トリグリセリンジイソステアレート」及び「ネオペンチルグリコールジイソオクタネート」が常温で液状の油脂であり、「70%マルチトール水溶液」、「グリセリン」、「1,3-ブタンジオール」、「流動パラフィン」及び「軽質イソパラフィン」が、いずれも常温で液体であることは、上記(2)イ(イ)を参照。)。
そして、本件発明1において、外用組成物から「除く」とされている処方のファンデーションは、「リパーゼ」ではなく「エルヒビン」を含むなど、甲5発明のファンデーションとは成分組成が異なるから、本件発明1の外用組成物から甲5発明のファンデーションは除かれていない。
そうすると、本件発明1と甲5発明との間には、次の一致点及び相違点があるものと認められる。
<一致点>
「ヘパリン類似物質及び酸化鉄を含み、常温で固体の油性成分を含む、外用組成物
(但し、以下の処方のファンデーションを除く
・・・・)。」
(当審注:「除く」とされた処方のファンデーションの組成の記載は、省略した。以下、同じ。)
<相違点1-5-1>
常温で固体の油性成分の含有量が、本件発明1では「7~20重量%」であるのに対し、甲5発明では「4重量部」である点。
<相違点1-5-2>
本件発明1では、外用組成物が「25℃で流動性を呈する」とされているのに対し、甲5発明では、そのような特定が示されていない点。
イ 相違点についての判断
(ア)相違点1-5-1(常温で固体の油性成分の含有量)について
甲5は、低刺激性で安全性が高く、敏感肌の人に好適な、リパーゼと多価アルコールを含有することを特徴とする、皮膚外用組成物について記載されたものであり(摘記甲5ア~摘記甲5イ)、その一処方例である甲5発明のファンデーションが含む「ヘパリン類似物質」、「酸化鉄」及び「マイクロクリスタリンワックス」は、甲5に記載された皮膚外用組成物における必須成分ではなく、追加的な有効成分及び任意成分に過ぎない(摘記甲5ウ)。
そして、甲5発明のファンデーションにおいて、他の成分組成は維持したままで、あえて「マイクロクリスタリンワックス」を含めた「常温で固体の油性成分」に該当する成分のみを増加させ又は追加して、その含有量を「4重量部」から「7~20重量%」という特定の範囲内のものに変更することを、当業者に動機付けるような根拠は見出せない。
したがって、甲5発明において、常温で固体の油性成分を「7~20重量%」含むものとすることは、当業者が容易に想到し得ることであるとはいえない。
(イ)相違点1-5-2(25℃での流動性)について
上記(2)イ(イ)で説示したとおり、甲5発明のファンデーションは、25℃で流動性を呈するものである蓋然性が高い。
したがって、相違点1-5-2は実質的な相違点ではない。
ウ 本件発明1の効果について
上記「第5」2(5)ア(イ)で詳述したとおり、本件明細書の発明の詳細な説明には、ヘパリン類似物質を併存させることにより、25℃で流動性を呈する外用組成物中の酸化鉄の分散安定性が向上するという、本件発明が奏する効果が、実施例として具体的に裏付けられて記載されており、特に、上記「第5」2(5)ア(イ)b.(iii)~(iv)で説示したように、常温で固体の油性成分を「7~20重量%」の範囲内で含む実施例13~16の乳化組成物は、酸化鉄による着色性についても、比較例3及び4の乳化組成物よりも大きく向上していることが認められるところ、このような本件発明1の効果は、25℃で流動性を呈する外用組成物中の酸化鉄を分散安定化するという課題にも、当該課題をヘパリン類似物質を併存させることによって解決するという技術手段にも、何ら触れるところがない甲5の記載からは、本願出願時の技術常識を考慮したとしても、当業者が予測し得ない顕著なものである。
エ 小括
以上のとおりであるから、本件発明1は、甲5に記載された発明に基いて、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(5)本件発明2について
ア 対比
本件特許の請求項2は、本件特許の請求項1の記載を引用しない独立した形式で記載されているが、本件発明2は、本件発明1に対し、外用組成物において、「ヘパリン類似物質と酸化鉄との配合比は、ヘパリン類似物質1重量部に対して、酸化鉄を0.001~15重量部配合する」との限定を追加するとともに、「(但し、以下の処方のファンデーションを除く・・・・)」との条件を付さないものとした関係にあると認められる。
そして、上記(4)アの本件発明1と甲5発明との対比を踏まえて、本件発明2と甲5発明とを対比すると、甲5発明のファンデーションは、「ヘパリン類似物質」を「0.1重量部」含有し、「酸化鉄」を「3重量部」含有しているから、「ヘパリン類似物質1重量部に対して、酸化鉄を30重量部配合する」ものであると認められ、そうすると、本件発明2と甲5発明との間には、次の一致点及び相違点があるものと認められる。
<一致点>
「ヘパリン類似物質及び酸化鉄を含み、常温で固体の油性成分を含む、外用組成物。」
<相違点2-5-1>
常温で固体の油性成分の含有量が、本件発明2では「7~20重量%」であるのに対し、甲5発明では「4重量部」である点。
<相違点2-5-2>
本件発明2では、外用組成物が「25℃で流動性を呈する」とされているのに対し、甲5発明では、そのような特定が示されていない点。
<相違点2-5-3>
ヘパリン類似物質と酸化鉄との配合比が、本件発明2では、「ヘパリン類似物質1重量部に対して、酸化鉄を0.001~15重量部」であるのに対し、甲5発明では、「ヘパリン類似物質1重量部に対して、酸化鉄を30重量部」である点。
イ 相違点についての判断
(ア)相違点2-5-1(常温で固体の油性成分の含有量)について
相違点2-5-1は、本件発明1と甲5発明との相違点1-5-1と同じであるところ、上記(4)イ(ア)で説示したように、甲5発明において、常温で固体の油性成分を「7~20重量%」含むものとすることは、当業者が容易に想到し得ることであるとはいえない。
(イ)相違点2-5-2(25℃での流動性)について
上記(2)イ(イ)で説示したとおり、甲5発明のファンデーションは、25℃で流動性を呈するものである蓋然性が高い。
したがって、相違点2-5-2は実質的な相違点ではない。
(ウ)相違点2-5-3(ヘパリン類似物質と酸化鉄の配合比)について
甲2には、「酸化鉄」が、ファンデーション等のベースメーク化粧品に配合される有色無機顔料を代表するものであり、これらの色材は、肌にのせることによって明暗や色彩を調整し色彩効果や立体感を付与する旨が記載されている(摘記甲2)。
しかしながら、そのようなベースメーク化粧品における酸化鉄の機能等についての技術常識を考慮しても、特定の成分組成を有する甲5発明のファンデーションにおいて、あえて「酸化鉄」の含有量を減少させ、及び/又は、「ヘパリン類似物質」の含有量を増加させ、ヘパリン類似物質に対する酸化鉄の配合比を半分以下とし、「ヘパリン類似物質1重量部に対して、酸化鉄を30重量部」から、「ヘパリン類似物質1重量部に対して、酸化鉄を0.001~15重量部」との特定の範囲に変更することを、当業者に動機付けるような根拠は見出せない。
ウ 本件発明2の効果について
上記(4)ウで説示したとおり、本件発明1の効果は、本件特許の出願時の技術常識を考慮したとしても、甲5の記載からは、当業者が予測し得ない顕著なものであるから、本件発明1に対し酸化鉄の配合比を特定した関係にある本件発明2の効果も、当業者が予測し得ない顕著なものである。
エ 小括
以上のとおりであるから、本件発明2は、甲5に記載された発明及び甲2に記載された事項に基いて、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(6)本件発明3~4について
本件発明3は、本件発明1又は2の外用組成物において、「ヘパリン類似物質の含有量が0.001~10重量%である」ことを特定したものであって、本件発明1又は2に包含されるものである。
また、本件発明4は、本件発明1~3のいずれかの外用組成物において、「更に白色顔料を含む」ことを特定したものであって、本件発明1又は2に包含されるものである。
そして、上記(4)で説示したとおり、本件発明1は、甲5に記載された発明に基いて、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえず、上記(5)で説示したとおり、本件発明2は、甲5に記載された発明及び甲2に記載された事項に基いて、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないのであるから、本件発明1又は2に包含され、これらをさらに限定して特定した本件発明3又は4も、甲5に記載された発明及び甲2に記載された事項に基いて、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(7)申立理由2についてのまとめ
以上のとおり、本件発明1は、甲5に記載された発明に基づいて、本件発明2~4は、甲5に記載された発明及び甲2に記載された事項に基いて、本件発明5~6は、甲5に記載された発明及び甲3に記載された事項に基いて、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
したがって、本件特許の請求項1~6に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものとはいえず、同法第113条第2号に該当するものでないから、申立理由2によって取り消すことはできない。
5 申立理由1(甲1を主引例とした進歩性欠如)について
(1)甲1に記載された発明
上記3(1)に摘記した甲1の記載事項からみて、甲1には、パルミチン酸レチノール等のビタミンA類及びヘパリン類似物を含む、皮膚刺激性を抑えながら肌荒れを改善するための外用組成物の発明が記載されており(摘記甲1ア)、当該外用組成物の形態の例として、クリームや日焼け止め用化粧料のような基礎化粧料が挙げられており(摘記甲1ウ)、その具体的な処方例の1つとして、実施例4のクリームが記載されている(摘記甲1キ)。
甲1には、外用組成物の粘度についての記載があるが(摘記甲1オ、摘記甲1カ。なお、摘記甲4も参照すると、摘記甲1カの「30000~35000Pa・s」という記載(【0040】)における単位「Pa・s」は、「mPa・s」の誤記であると推定される。)、実施例4のクリームの粘度について具体的な記載はない。
そうすると、甲1には、実施例4として、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
≪甲1発明≫
「以下の組成を有するクリーム(数値の単位は「重量%」である。)
ヘパリン類似物質 0.3
ビタミンA油(パルミチン酸レチノール、100万IU/g) 0.5
グリチルリチン酸ジカリウム 0.05
月見草油 3
ライチ種子エキス 0.1
α-リポ酸 0.01
加水分解大豆タンパク 0.1
ブドウ種子エキス 0.00.5
チガヤ根エキス 0.001
アルテミアエキス 0.5
パラメトキシケイ皮酸2-エチルヘキシル 10
ジエチルアミノヒドロキシベンゾイル安息香酸ヘキシル 5
2,4,6-トリス[4-(2-エチルヘキシルオキシカルボニル)アニリノ]1,3,5-トリアジン 3
シリコーン被覆酸化亜鉛 5
シリコーン被覆酸化チタン 1
無機化合物被覆酸化亜鉛 0.05
グリセリン 5
1,3-ブチレングリコール 2
ラウリルPEG-9ポリジメチルシロキシエチルジメチコン 1
PEG-9ポリジメチルシロキシエチルジメチコン 1
トリ2-エチルヘキサン酸グリセリル 1.5
メチルポリシロキサン 3
デカメチルシクロペンタシロキサン 30
メチルシロキサン網状重合体 5
アクリル酸アルキル共重合体メチルポリシロキサンエステル 0.1
アクリル酸・メタクリル酸アルキル共重合体 0.05
マイカ 2
キレート剤 適量
ヒアルロン酸ナトリウム 0.05
酢酸トコフェロール 0.05
防腐剤(パラオキシ安息香酸プロピル、フェノキシエタノール) 適量
pH調整剤 適量
香料 適量
水 残部 」
(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明を対比する。
甲1発明における「ヘパリン類似物質」及び「クリーム」は、本件発明1における「ヘパリン類似物質」及び「外用組成物」に相当する。
甲1発明のクリームの含有成分のうち、次の3つの成分:
「ビタミンA油(パルミチン酸レチノール、100万IU/g)」
「ジエチルアミノヒドロキシベンゾイル安息香酸ヘキシル」
「2,4,6-トリス[4-(2-エチルヘキシルオキシカルボニル)アニリノ]1,3,5-トリアジン」
は、本件発明1における「常温で固体の油性成分」に相当し、これら3成分の含有量の合計である「8.5重量%」(0.5重量%+5重量%+3重量%)は、本件発明1における「常温で固体の油性成分を7~20重量%含む」との条件を満たしている。また、甲1発明のクリームは、上記3成分の他には「常温で固体の油性成分」に相当する成分を含んでいないと認められる。
本件発明1において、外用組成物から「除く」とされている処方のファンデーションは、甲1発明のクリームとは成分組成が全く異なっているから、本件発明1の外用組成物から甲1発明のクリームは除かれていない。
そうすると、本件発明1と甲1発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
<一致点>
「ヘパリン類似物質を含み、常温で固体の油性成分を7~20重量%含む、外用組成物
(但し、以下の処方のファンデーションを除く
・・・・)。」
<相違点1-1-1>
本件発明1は「酸化鉄」を含むのに対し、甲1発明は「酸化鉄」を含んでいない点。
<相違点1-1-2>
本件発明1の外用組成物は「25℃で流動性を呈する」と特定されているのに対し、甲1発明のクリームは当該物性を有するか否か不明である点。
イ 相違点についての判断
(ア)相違点1-1-1(酸化鉄を含むこと)について
甲1には、外用組成物に添加できる「添加剤」の例の1つとして、「着色剤」が挙げられているが(摘記甲1エ)、その具体的な成分について説明はなく、「酸化鉄」については例示さえも全く記載されていないから、甲1の記載からは、当業者が、甲1発明のクリームについて、さらに「酸化鉄」を含むものとすることを動機付けられるとはいえない。
一方、甲2(摘記甲2)に記載されているように、「酸化鉄」がファンデーション等のベースメーク化粧品に配合される有色無機顔料を代表するものであり、これらの色材が、肌にのせることで明暗や色彩を調整し色彩効果や立体感を付与するものであることは、本件特許の出願前の技術常識であったと認められる。
しかしながら、甲1発明のクリームについて、その含有成分をみると、
「パラメトキシケイ皮酸2-エチルヘキシル」、
「ジエチルアミノヒドロキシベンゾイル安息香酸ヘキシル」、及び、
「2,4,6-トリス[4-(2-エチルヘキシルオキシカルボニル)アニリノ]1,3,5-トリアジン」
という、紫外線吸収剤に該当する成分が3つ含まれていることから、日焼け止めを意図した製剤であると認められ、また、
「シリコーン被覆酸化亜鉛」、
「シリコーン被覆酸化チタン」、及び、
「無機化合物被覆酸化亜鉛」
という、被覆された白色無機顔料(摘記甲2を参照)が含まれており、白色でない顔料や色素に該当する成分は含まれていない。
そうすると、そのような機能や色調を有するものとして既に完成している特定の成分組成を有する製剤である甲1発明のクリームに対し、「酸化鉄」がファンデーション等のベースメーク化粧品に配合される有色無機顔料の代表的なものであるからといって、当業者が、甲1に例示さえも何ら記載されていない「酸化鉄」を、あえて配合する動機付けは見出せない。
なお、上記4(2)イ(ウ)にて説示したように、甲3には、ファンデーション等のベースメーク化粧品に配合される有色無機顔料としての酸化鉄とは、適用分野が全く異なる関連性が低い技術が記載されており、ヘパリン類似物質の併存によって皮膚外用剤中の酸化鉄が分散安定化されることを何ら示唆するものではない。
また、ヘパリン類似物質の併存によって皮膚外用剤中の酸化鉄が分散安定化されるということが、本件特許の出願前の技術常識であったとも認められない。
したがって、甲1発明のクリームについて、これを「酸化鉄」を含むものとすることは、当業者が容易に想到し得ることであるとはいえない。
(イ)相違点についての判断のまとめ
上記(ア)にて説示したとおり、甲1発明において、本件発明1との間の相違点1-1-1に係る構成(酸化鉄を含むこと)を採用することは、当業者が容易に想到し得るとはいえないから、相違点1-1-2に係る構成(外用組成物が25℃で流動性を呈すること)について検討するまでもなく、本件発明1の特定事項は当業者が容易に想到し得るものではない。
ウ 本件発明1の効果について
上記「第5」2(5)ア(イ)で詳述したとおり、本件明細書の発明の詳細な説明には、ヘパリン類似物質を併存させることにより、25℃で流動性を呈する外用組成物中の酸化鉄の分散安定性が向上するという、本件発明が奏する効果が、実施例として具体的に裏付けられて記載されており、特に、上記「第5」2(5)ア(イ)b.(iii)~(iv)で説示したように、常温で固体の油性成分を「7~20重量%」の範囲内で含む実施例13~16の乳化組成物は、酸化鉄による着色性についても、比較例3及び4の乳化組成物よりも大きく向上していることが認められるところ、このような本件発明1の効果は、25℃で流動性を呈する外用組成物中の酸化鉄を分散安定化するという課題にも、当該課題をヘパリン類似物質を併存させるこによって解決するという技術手段にも、何ら触れるところがない甲1~甲3の記載からは、本件特許の出願時の技術常識を考慮したとしても、当業者が予測し得ない顕著なものである。
エ 小括
以上のとおりであるから、本件発明1は、甲1に記載された発明及び甲2~甲3に記載された事項に基いて、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(3)本件発明2について
ア 対比
本件発明2と甲1発明を対比する。
甲1発明における「ヘパリン類似物質」及び「クリーム」は、本件発明2における「ヘパリン類似物質」及び「外用組成物」に相当する。
上記(2)アの説示と同様の理由により、甲1発明は本件発明2における「常温で固体の油性成分を7~20重量%含む」との条件を満たしている。
そうすると、本件発明2と甲1発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
<一致点>
「ヘパリン類似物質を含み、常温で固体の油性成分を7~20重量%含む、外用組成物。」
<相違点2-1-1>
本件発明2は、「酸化鉄」を含み、ヘパリン類似物質と酸化鉄との配合比について、「ヘパリン類似物質1重量部に対して、酸化鉄を0.001~15重量部配合する」ものとしているのに対して、甲1発明は、「酸化鉄」を含まず、その配合比を特定していない点。
<相違点2-1-2>
本件発明2の外用組成物は「25℃で流動性を呈する」と特定されているのに対して、甲1発明のクリームは当該物性を有するか否か不明である点。
イ 相違点についての判断
(ア)相違点2-1-1(酸化鉄を特定の配合比で含むこと)について
上記(2)イ(ア)での説示と同様の理由により、甲1発明のクリームについて、これを「酸化鉄」を含むものとすることは、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。また、そのため、ヘパリン類似物質と酸化鉄との配合比について、「ヘパリン類似物質1重量部に対して、酸化鉄を0.001~15重量部配合する」ものとすることも、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
(イ)相違点についての判断のまとめ
上記(ア)にて説示したとおり、甲1発明において、本件発明2との間の相違点2-1-1に係る構成(酸化鉄を特定の配合比で含むこと)を採用することは、当業者が容易に想到し得たとはいえないから、相違点2-1-2(外用組成物が25℃で流動性を呈すること)について検討するまでもなく、本件発明2の特定事項は当業者が容易に想到し得たものではない。
ウ 本件発明2の効果について
上記(2)ウで説示したとおり、本件発明1の効果は、本件特許の出願時の技術常識を考慮したとしても、甲1~甲3の記載からは、当業者が予測し得ない顕著なものであるから、本件発明1に対し、さらに酸化鉄の配合比を特定した関係にある本件発明2の効果も、当業者が予測し得ない顕著なものである。
エ 小括
以上のとおりであるから、本件発明2は、甲1に記載された発明及び甲2~甲3に記載された事項に基いて、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(4)本件発明3~4について
本件発明3及び4と、本件発明1及び2との関係は、上記4(6)で説示したとおりである。
そして、上記(2)及び(3)で説示したとおり、本件発明1及び2は、甲1に記載された発明及び甲2~甲3に記載された事項に基いて、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないのであるから、本件発明1又は2に包含され、これらをさらに限定して特定した本件発明3又は4も、甲1に記載された発明及び甲2~甲3に記載された事項に基いて、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(5)本件発明5について
ア 対比
本件発明5と甲1発明を対比する。
甲1発明における「ヘパリン類似物質」及び「クリーム」は、本件発明5における「ヘパリン類似物質」及び「外用組成物」に相当する。
そして、甲1発明のクリームには、他の成分とともに、ヘパリン類似物質が併存して含まれているから、本件発明5とは、少なくとも外用組成物中にヘパリン類似物質を併存させるものである点で共通している。
また、本件発明5において、外用組成物から「除く」とされている処方のファンデーションは、甲1発明のクリームとは成分組成が全く異なっているから、本件発明5の外用組成物から甲1発明のクリームは除かれていない。
そうすると、本件発明5と甲1発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
<一致点>
「外用組成物中に、ヘパリン類似物質を併存させる」ものであること。
(但し、前記外用組成物は、以下の処方のファンデーションを除く
・・・・)
<相違点5-1-1>
本件発明5は、外用組成物中に「酸化鉄」を含むのに対し、甲1発明は、外用組成物中に「酸化鉄」を含んでいない点。
<相違点5-1-2>
本件発明5では、外用組成物が「25℃で流動性を呈する」とされているのに対し、甲1発明では、そのような特定が示されていない点。
<相違点5-1-3>
本件発明5は、「外用組成物中の酸化鉄の分散安定化法」という、方法の発明であるのに対し、甲1発明は、外用組成物に該当するクリームという、物の発明であって、「酸化鉄の分散安定化」は示されていない点。
イ 相違点についての判断
(ア)相違点5-1-1(外用組成物が酸化鉄を含むこと)について
上記(2)イ(ア)での説示と同様の理由により、甲1発明のクリームについて、これを「酸化鉄」を含むものとすることは、当業者が容易に想到し得ることであるとはいえない。
(イ)相違点5-1-3(酸化鉄の分散安定化法)について
甲1は、パルミチン酸レチノール等のビタミンA類及びヘパリン類似物を含む、皮膚刺激性を抑えながら肌荒れを改善するための外用組成物について記載されたものであり(摘記甲1ア)、25℃で流動性を呈する外用組成物において酸化鉄を分散安定化するという課題について何ら記載されていないうえ、当該課題をヘパリン類似物質の併存によって解決するという技術手段についても記載も示唆もされていない。
また、上記4(2)イ(ウ)で説示したとおり、甲3の記載事項は、ヘパリン類似物質の併存によって皮膚外用剤中の酸化鉄が分散安定化されることを何ら示唆するものではなく、ヘパリン類似物質の併存によって皮膚外用剤中の酸化鉄が分散安定化されるということが、本件特許の出願前の技術常識であったとも認められない。
そして、上記(ア)のとおり、甲1発明のクリームを、「酸化鉄」を含むものとすることは、当業者が容易に想到し得るとはいえないのであるから、甲1発明を、外用組成物中の酸化鉄の分散安定化法という方法の発明とすることは、当業者が容易に想到し得ることであるとはいえない。
(ウ)相違点についての判断のまとめ
上記(イ)で説示したとおり、甲1発明を、外用組成物中の酸化鉄の分散安定化法という方法の発明とすることは、当業者が容易に想到し得ることであるとはいえないのであるから、相違点5-1-2(外用組成物が25℃で流動性を呈すること)について検討をするまでもなく、本件発明5の特定事項は当業者が容易に想到し得るものではない。
ウ 本件発明5の効果について
上記「第5」2(5)ア(イ)にて詳述したとおり、本件明細書の発明の詳細な説明には、ヘパリン類似物質を併存させることにより、25℃で流動性を呈する外用組成物中の酸化鉄の分散安定性が向上するという、本件発明が奏する効果が、実施例として具体的に裏付けられて記載されており、このような本件発明の効果は、25℃で流動性を呈する外用組成物中の酸化鉄を分散安定化するという課題にも、当該課題をヘパリン類似物質を併存させるこによって解決するという技術手段にも、何ら触れるところがない甲1~甲3の記載からは、本件特許の出願時の技術常識を考慮したとしても、当業者が予測し得ない顕著なものである。
エ 小括
以上のとおりであるから、本件発明5は、甲1に記載された発明及び甲2~甲3に記載された事項に基いて、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(6)本件発明6について
本件発明6と、本件発明5との関係は、上記4(3)で説示したとおりである。
そして、上記(5)で説示したとおり、本件発明5は、甲1に記載された発明及び甲2~甲3に記載された事項に基いて、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないのであるから、本件発明5に包含され、これを特定した本件発明6も、甲1に記載された発明及び甲2~甲3に記載された事項に基いて、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(7)申立理由1についてのまとめ
以上のとおり、本件発明1~6は、甲1に記載された発明及び甲2~甲3に記載された事項に基いて、本件特許の出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
したがって、本件特許の請求項1~6に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものとはいえず、同法第113条第2号に該当するものでないから、申立理由1によって取り消すことはできない。
6 申立理由3(サポート要件違反)について
(1)請求項5~6について
本件特許の請求項5~6の記載のサポート要件の適合性については、上記「第5」2の取消理由2の判断において既に当審の判断を説示したとおりであり、本件特許の請求項5~6の記載は、発明の詳細な説明の記載により、当業者が本件発明5~6の課題を解決できると認識できる範囲のものでないとはいえないから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件に適合しないものとはいえない。
また、本件特許の請求項5~6の記載に対する申立理由3の次のア~エの点:
ア 実施例1は酸化鉄の分散安定性向上という作用効果を奏しない
イ 発明の詳細な説明にはヘパリン類似物質のあらゆる配合割合の場合
の作用効果の裏付けがない
ウ 発明の詳細な説明にはあらゆる常温で固体の油性成分を有する外用
組成物に関する作用効果の裏付けがない
エ 水性組成物及び乳化組成物以外の外用組成物一般に拡張一般化する
ことはできない
についても、上記「第5」2(6)において、いずれも誤りである旨の当審の判断を既に説示したとおりである。
(2)請求項1~4について
ア 本件発明1~4が解決しようとする課題
本件特許の請求項1~4の記載、及び本件明細書(特に【0006】)の記載によれば、本件発明1~4が解決しようとする課題は、いずれも共通して、「酸化鉄を含有しながらも、酸化鉄の分散安定性が向上された、25℃で流動性を呈する外用組成物を提供すること」を含むものと認められる。
ここでいう「酸化鉄の分散安定性が向上」について、本件明細書には明確な定義等は記載されていないが、化粧料において無機顔料として配合される酸化鉄が分散性が悪く凝集しやすいことは、本願出願前の技術常識であり、この問題について、本件明細書の【背景技術】欄の【0002】及び【0004】で説明されていることは、上記「第5」2(3)で説示したとおりである。また、一般に「安定」とは「物事が落ち着いていて、激しい変化のないこと。」を意味し、「向上」とは「上に向かって進むこと。前よりすぐれた状態に達すること。進歩。」を意味する(新村出編、『広辞苑』第五版、107頁の「安定」の項、899頁の「向上」の項、株式会社岩波書店、1998年11月11日発行)。
そうすると、上記の「酸化鉄の分散安定性が向上」とは、外用組成物中で酸化鉄が分散された状態で維持され、短時間で酸化鉄が凝集したり沈降が生じたりする状態よりも優れた状態になること、を意味するものであり、酸化鉄の凝集や沈殿が全く生じないまでの状態になることではないと解される。
イ 課題を解決するための手段について
(ア)
本件発明1~4は、本件特許の請求項1~4に記載された各特定事項を、上記アの課題を解決するための手段として含むものであると認められる。
以下、これらの課題を解決するための手段について、本件明細書の発明の詳細な説明の記載と対比して検討する。
(イ)
本件明細書の発明の詳細な説明には、上記「第5」2(4)イで認定した事項が記載されており、さらに次の事項が記載されている。
・好ましい「常温で固体の油性成分」として、「マイクロクリスタリンワックス」(【0064】)、「セトステアリルアルコール」及び「セタノール(セチルアルコール)」(【0063】)が挙げられること。
・外用組成物中の「常温で固体の油性成分」の含有量は、0.5~30重量%程度が好ましく、1~20重量%程度がより好ましく、2~18重量%程度が更に好ましいこと(【0066】)。
・外用組成物中のヘパリン類似物質と酸化鉄との配合比は、ヘパリン類似物質1重量部に対して、酸化鉄を、「0.001~16000重量部」程度配合することが好ましく、「0.02~5000重量部」程度配合することがより好ましく、「0.2~30重量部程度配合することが更に好ましく、「1~15重量部」程度配合することが最も好ましいこと(【0047】)。
・外用組成物は、酸化鉄に加えて、「更に白色顔料を含む」ことが好ましいこと(【0035】)。
これらの記載によれば、本件明細書の発明の詳細な説明には、上記(ア)に示した本件発明1~4における上記アの課題を解決するための手段に対応する事項が記載されているといえる。
そこで、当業者が、これらの手段によって、上記アの課題を解決できると認識し得るか否かについて、以下、検討する。
ウ 当業者が課題を解決できると認識し得る範囲について
【0099】【表2】に記載の実施例13~16の乳化組成物は、いずれも、25℃で測定した粘度が、「90,000 mPa・s」(実施例13)~「1,500,000 mPa・s」(実施例16)の範囲内にあるから、「(1-1)流動性の定義」に示された流動性を呈する外用組成物の好ましい粘度の範囲内のものであり、ヘパリン類似物質の含有量が「0.3重量%」であり、3種の酸化鉄の合計含有量が「1.5重量%」であるから、「ヘパリン類似物質1重量部に対して、酸化鉄を5重量部配合する」ものに該当する。
上記実施例13~16の乳化組成物は、油相に、固体油として、「常温で固体の油性成分」に該当する、「マイクロクリスタリンワックス」、「セトステリルアルコール」及び「セタノール」を含み、これらの合計含有量は、「7重量%」(実施例13)、「9重量%」(実施例14)、「13重量%」(実施例15)、「16重量%」(実施例16)である。
そして、上記実施例13~16の乳化組成物は、水相に、「白色顔料」に該当する「酸化チタン」、「クラウンタルク」及び「ベントナイト」(【0036】)を含むものである。
そうすると、上記実施例13~16の乳化組成物は、いずれも本件1~4の外用組成物の特定事項を全て満たしている。
そして、上記「第5」2(5)ア(イ)b.(iii)~(iv)で説示したように、上記実施例13~16の乳化組成物は、ヘパリン類似物質が併存していない比較例3及び4の乳化組成物と比較すると、組成物中で酸化鉄の分散がより安定化していると認められ、酸化鉄による着色性については、いずれも「◎」評価であって、着色性が「×」評価の比較例3及び4の乳化組成物よりも大きく向上していることを把握することができ、この着色性の向上は、酸化鉄の分散安定化が図られたことによるものと理解できるから、当業者は上記アで認定した本件発明1~4の課題を解決できると認識し得るといえる。
さらに、上記「第5」2(5)ア(イ)b.(v)の説示と同様の理由により、本件明細書の発明の詳細な説明の記載を参照すれば、当業者は実施例13~16の乳化組成物以外の成分組成を有する、本件発明1~4の条件を満たす乳化組成物についても、酸化鉄の分散安定性が向上された25℃で流動性を呈する外用組成物として、同様に調製し使用できるといえるから、当業者は、上記イ(イ)で認定した本件発明1~4の解決手段により、上記アで認定した課題を解決できると認識し得るといえる。
エ 小括
したがって、本件発明1~4は、発明の詳細な説明の記載により、当業者がその課題を解決できると認識できる範囲のものであるから、本件特許の請求項1~4の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件に適合するものである。
(3)申立人の主張について
本件特許の請求項1~4の記載について、申立人が主張する、次のア~エの点:
ア 実施例1は酸化鉄の分散安定性向上という作用効果を奏しない
イ 発明の詳細な説明にはヘパリン類似物質のあらゆる配合割合の場合
の作用効果の裏付けがない
ウ 発明の詳細な説明にはあらゆる常温で固体の油性成分を有する外用
組成物に関する作用効果の裏付けがない
エ 水性組成物及び乳化組成物以外の外用組成物一般に拡張一般化する
ことはできない
は、上記「第5」2(6)に示した、本件特許の請求項5~6の記載についての申立人の主張ア~エに、それぞれ対応する同旨のものであり、それらの主張については、上記「第5」2(6)において、いずれも誤りである旨の当審の判断を既に説示したとおりである。
(4)申立理由3についてのまとめ
以上のとおり、本件特許の請求項1~6に係る発明の特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものとはいえず、同法第113条第4号に該当するものでないから、申立理由3によって取り消すことはできない。
7 申立理由4(実施可能要件違反)について
(1)実施可能要件の検討の前提
特許法第36条第4項第1号は、明細書の発明の詳細な説明の記載が適合するものでなければならない要件として、「その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであること。」(いわゆる「実施可能要件」)を規定している。
この規定にいう「実施」とは、物の発明においては、その物の生産、使用等をする行為をいうものであるから(特許法第2条第3項第1号)、物の発明について実施可能要件を満たすためには、明細書の発明の詳細な説明の記載は、その記載及び本件特許の出願時の技術常識に基づいて、当業者が、その発明に係る物を、生産することができ、かつ、使用することができる程度のものでなければならない。
また、方法の発明においては、「実施」とは、その方法の使用をする行為をいうものであるから(特許法第2条第3項第2号)、方法の発明について実施可能要件を満たすためには、明細書の発明の詳細な説明の記載は、その記載及び本件特許の出願時の技術常識に基づいて、当業者が当該発明に係る方法の使用をすることができる程度のものでなければならない。
そこで、上記の観点から、本件明細書の発明の詳細な説明の記載が、本件発明1~6について実施可能要件を満たすか否か、以下、検討する。
(2)本件発明1~6の実施可能要件について
上記5及び上記「第5」2において詳述したとおり、当業者は、本件明細書の発明の詳細な説明の記載により、本件発明1~4の「酸化鉄を含有しながらも、酸化鉄の分散安定性が向上された、25℃で流動性を呈する外用組成物を提供すること」という課題、及び、本件発明5~6の「酸化鉄を含む、25℃で流動性を呈する外用組成物において、酸化鉄の分散安定化法を提供すること」という課題を、解決できると認識できるといえる。
したがって、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、その記載及び本件特許の出願時の技術常識に基づいて、当業者が、本件発明1~4に係る外用組成物を生産し使用することができ、また、本件発明5~6に係る分散安定化法を使用することができる程度に記載したものであるといえる。
(3)申立人の主張について
申立理由4について、申立人が主張する次のア~ウの点:
ア 発明の詳細な説明にはヘパリン類似物質のあらゆる配合割合の場合
の作用効果の裏付けがない
イ 発明の詳細な説明にはあらゆる常温で固体の油性成分を有する外用
組成物に関する作用効果の裏付けがない
ウ 水性組成物及び乳化組成物以外の外用組成物一般を製造及び使用する
ためには過度の試行錯誤を要する
(異議申立書46頁下から4行~49頁13行)
については、その内容からみて、申立理由3について申立人が主張する、次のイ~エの点:
イ 発明の詳細な説明にはヘパリン類似物質のあらゆる配合割合の場合
の作用効果の裏付けがない
ウ 発明の詳細な説明にはあらゆる常温で固体の油性成分を有する外用
組成物に関する作用効果の裏付けがない
エ 水性組成物及び乳化組成物以外の外用組成物一般に拡張一般化する
ことはできない
に、それぞれ対応する同旨のものと認められる。
そして、上記「第5」2(6)において、これらの主張がいずれも誤りである旨の当審の判断を既に説示したとおりである。
(4)申立理由4についてのまとめ
以上のとおり、本件特許の請求項1~6に係る発明の特許は、明細書の発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものとはいえず、同法第113条第4号に該当するものでないから、申立理由4によって取り消すことはできない。
8 申立理由5(明確性要件違反)について
(1)申立人の主張の概要
申立人は、本件特許の請求項1、2、6には、「常温で固体の油性成分」という事項が記載されているが、特許請求の範囲において「常温」の定義が明確でなく、「常温で固体の油性成分」は、極めて広範な概念であるから、どのようなものが含まれるのか否かが不明であり、その外延が不明確であるから、当該成分を発明特定事項とする本件発明1~4、6がどのようなものかを当業者は理解できず、本件特許の請求項1~4、6の記載は、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確である旨を主張している(特許異議申立書49頁下から1行~50頁10行)。
(2)当審の判断
ア 「常温」の定義
本件明細書の【0061】には、「本発明の外用組成物は、更に常温(25℃)で固体の油性成分を含むことが好ましい。」との記載があることから、特許請求の範囲において「常温」の定義が記載されていなくても、本件発明における「常温で固体の油性成分」の「常温」とは、「25℃」のことを意味するものであるということを、当業者は理解できるといえる。
イ 「常温で固体の油性成分」の機能等
本件明細書の【0061】には、上記アに示した事項に続けて、「これにより、本発明の外用組成物を乳化組成物とした場合に、酸化鉄や白色顔料等の分散性をより向上させることができ、着色性をより向上させることができる。」との記載があり、本件発明における「常温で固体の油性成分」の機能ないし技術的な役割が説明されているから、当業者は、当該記載も手がかりにして、「常温で固体の油性成分」として用い得る化合物の範囲を把握することができるといえる。
ウ 好適な「常温で固体の油性成分」の例示等
本件明細書には、「常温で固体の油性成分として、医薬品、医薬部外品、化粧品、飲食品等の分野において許容されるものであれば特に制限されない。」(【0062】)と記載されているところ、これらの分野において許容される配合成分は、生体への安全性等の点から自ずと限られた範囲内のものであるし、それらの成分について、常温(25℃)で固体であるか否か、油性であるか否か、といった物性を確認する程度のことは、当業者にとって過大な負担を伴うことではない。
さらに、本件明細書には、「常温で固体の油性成分として、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、ベヘン酸等の脂肪酸、ミツロウ、カルバナロウ、ラノリン、ラノリンエステル、キャンデリラワックス等のロウ類、セトステアリルアルコール、ステアリルアルコール、セタノール(セチルアルコール)、ミリスチルアルコール、イソステアリルアルコール、ベヘニルアルコール、ラノリンアルコール等の固体アルコールを用いることが好ましい。」(【0063】)と記載され、「常温で固体の油性成分として、マイクロクリスタリンワックス、α?オレフィンオリゴマー、ゲル化炭化水素、セレシンワックス、固形パラフィン、ワセリン等の炭化水素油を用いることが好ましい。」(【0064】)との記載もあり、「常温で固体の油性成分」として用いるのに好適な具体的な化合物が例示・列記されている。
エ 実施例における「常温で固体の油性成分」
本件明細書の【0099】【表2】に記載されている、本件発明1~6における外用組成物の具体例に該当する実施例10~16の乳化組成物には、「固体油」として、上記【0063】で好ましい「固体アルコール」として例示されている「セトステアリルアルコール」及び「セタノール(セチルアルコール)」が含まれており、実施例13~16の乳化組成物には、それらに加えて、上記【0064】で好ましい「炭化水素油」として例示されている「マイクロクリスタリンワックス」が含まれている。
そして、これら実施例10~16の乳化組成物は、上記「第5」2(5)ア(イ)で説示したように、酸化鉄の分散性が向上し、着色性が向上されたものであることを確認することができる。
オ 本件発明における「常温で固体の油性成分」の明確性
上記ア~エを総合すると、当業者は、本件発明1~4、6における「常温で固体の油性成分」について、「常温」とは「25℃」を意味することが理解でき、その機能等を実施例として実際に確認できた化合物を含めて、本件明細書において具体的に例示・列記された化合物を用い得ることが理解でき、それらの本件明細書の記載を参照し、それらを手がかりとして、例示・列記されている化合物の他にも、本件発明において「常温で固体の油性成分」として用い得る化合物の範囲を把握することができるといえる。
したがって、特許請求の範囲において「常温」の定義及び「常温で固体の油性成分」に該当する具体的な化合物が記載がされていなくても、本件特許の請求項1、2、6における「常温で固体の油性成分」との記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとはいえない。
(3)申立理由5についてのまとめ
以上のとおり、本件特許の請求項1~4、6に係る発明の特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものとはいえず、同法第113条第4号に該当するものでないから、申立理由5によって取り消すことはできない。
第7 むすび
以上のとおりであるから、本件特許についての訂正の請求は、適法なものであり、これを認める。そして、取消理由通知書(決定の予告)に記載した取消理由、及び/又は、申立人による特許異議の申立ての理由によっては、本件特許の請求項1~6に係る発明の特許を取り消すことはできない。
また、その他に本件特許の請求項1~6に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2020-700938