特許異議申立
2020-700660
外用組成物
- 審判番号
- 2020-700660
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2015-073601
- 登録番号
- 6664883
- 請求日
- 2020年09月03日
- 審決日
- 2023年03月20日
- 公報発行日
- 2023年06月30日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】小林製薬株式会社
- 【権利者代理人】弁理士法人三枝国際特許事務所
- 【異議申立人】永 滋康
- 審判長/審判官
- 審判長 岡崎 美穂
- 審判官 森井 隆信
- 審判官 齋藤 恵
- 分類
- P1651.113-YAA(A61K) / P1651.121-YAA(A61K) / P1651.537-YAA(A61K) / P1651.536-YAA(A61K)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法114条4項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第9項、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第120条の5第7項、特許法第70条、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第6号、特許法第114条第4項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6664883号発明「外用組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第6664883号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1、4、5について訂正することを認める。
特許第6664883号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第6664883号の請求項1~4に係る特許(以下「本件特許」という。)についての出願は、平成27年3月31日に特許出願したものであって、令和2年2月21日にその特許権の設定登録がされ(請求項の数:4)、同年3月13日に特許掲載公報が発行されたものである。
その後、本件特許に対して1件の特許異議の申立てがなされた(以下「本件特許異議申立事件」という。)。
本件特許異議申立事件の手続の概要は、次のとおりである。
令和2年 9月 3日 特許異議申立人 永 滋康(以下「申立人」
という。)による、本件特許の請求項1~4
に係る発明の特許に対する特許異議の申立て
令和3年 2月 1日付け 取消理由通知
同年 4月 6日 特許権者による意見書の提出(受付日:同年
4月7日)
同年 5月17日 刊行物等提出書の提出
同月31日付け 取消理由通知(決定の予告)
同年 8月 2日 特許権者による訂正請求書及び意見書の提出
(受付日:同年8月3日)
同年 9月28日差出 申立人による意見書の提出
令和4年 3月14日付け 取消理由通知(決定の予告)
同年 5月20日 特許権者による訂正請求書及び意見書の提出
(受付日:同年5月23日)
同年 7月 4日差出 申立人による意見書の提出
令和5年 3月10日 令和4年5月20日提出の訂正請求書につい
ての特許権者による手続補正書(方式)の提
出
なお、特許権者が令和3年8月2日提出の訂正請求書による訂正の請求は、その後に、令和4年5月20日提出の訂正請求書による訂正の請求がなされたので、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げたものとみなす。
第2 訂正の適否
1 訂正の内容
令和5年3月10日提出の手続補正書(方式)によって補正がなされた令和4年5月20日提出の訂正請求書により特許権者が請求している訂正(以下「本件訂正」という。)は、本件特許の特許請求の範囲を、当該訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1、4、5について訂正しようとするものであって、その内容は、次の訂正事項1~3のとおりである(下線は本件訂正による訂正箇所を示すものである。)。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、
「ヘパリン類似物質及び金属酸化物を含み」
とあるのを、
「ヘパリン類似物質、並びに
酸化鉄、酸化クロム、酸化亜鉛(但し、シリコーン被覆酸化亜鉛及び無機化合物被覆酸化亜鉛を除く)、酸化チタン(但し、シリコーン被覆酸化チタンを除く)、及び酸化アルミニウムからなる群から選ばれる少なくとも1種
を含み」
に訂正する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項4に、
「乳化組成物である請求項1~3のいずれかに記載の外用組成物。」
とあるのを、請求項2又は3のみを引用する形式にあらためて、
「乳化組成物である請求項2又は3に記載の外用組成物。」
に訂正する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項4に、
「乳化組成物である請求項1~3のいずれかに記載の外用組成物。」
とあるうち、請求項1を引用するものについて、請求項1の記載を書き下して独立形式にあらためる訂正をするとともに(以下「訂正事項3-1」という。)、
引用する訂正前の請求項1のうち
「金属酸化物」
の記載を、
「酸化鉄、酸化クロム、酸化亜鉛(但し、シリコーン被覆酸化亜鉛及び無機化合物被覆酸化亜鉛を除く)、酸化チタン(但し、シリコーン被覆酸化チタンを除く)、酸化アルミニウム、タルク、及びカオリンからなる群から選ばれる少なくとも1種」
に訂正して(以下「訂正事項3-2」という。)、
新たな請求項5とする。
2 訂正の適否の判断
本件特許異議申立事件においては、訂正前の全ての請求項である請求項1~4に対し特許異議の申立てがされているから、訂正事項1~3による訂正について、同法同条第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する要件(いわゆる「独立特許要件」)は課されない。
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的について
訂正事項1による訂正は、訂正前の請求項1の外用組成物に含まれる「金属酸化物」について、その種類を具体的に特定することでさらに限定するものであって、特許請求の範囲を減縮するものであり、また、訂正前の上記「金属酸化物」との記載について、これを明確にするものでもある。
したがって、訂正事項1による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするもの、及び、同ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。
イ 新規事項の追加の有無について
本件特許の願書に添付した明細書の段落【0033】には、外用組成物にヘパリン類似物質と共に含まれる白色の金属酸化物として、「酸化クロム、酸化亜鉛(亜鉛華)、酸化チタン、酸化アルミニウム、タルク、クラウンタルク、カオリン等を用いることが好ましい。」と記載されている。
また、上記酸化亜鉛のうちから「シリコーン被覆酸化亜鉛」及び「無機化合物被覆酸化亜鉛」を、酸化チタンの上記酸化チタンのうちから「シリコーン被覆酸化チタン」をそれぞれ除くという、いわゆる「除くクレーム」とすることは、訂正前の請求項1に記載した事項の表現を残したままで、同項に係る発明の包含される一部の事項について、後記「第4」に概要を示す令和3年2月1日付け取消理由において特許法第29条第1項第3号に該当するとされた「特開2012-36176号公報」(引用文献1、甲第1号証)に記載された外用組成物であるクリームに含まれる特定の物質のみを、同項に記載した事項から除外することを明示した訂正であると認められる。
そして、願書に添付した明細書において、「酸化亜鉛」として「シリコーン被覆酸化亜鉛」又は「無機化合物被覆酸化亜鉛」という特定の被覆物を含めて何らかで被覆されたものを用いることについての記載、「酸化チタン」として「シリコーン被覆酸化チタン」という特定の被覆物を含めて何らかで被覆されたものを用いることについての記載は特段ないところ、「酸化亜鉛」及び「酸化チタン」についてそのような特定の被覆物は含まれないことを「(但し、・・・を除く)」との記載により明示することによって、訂正前の願書に添付した明細書又は特許請求の範囲のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項に何らかの変更を生じさせるものではなく、このようにして導かれる技術的事項の関係において、新たな技術的事項を導入するものではない。
したがって、訂正事項1に係る訂正は、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
訂正事項1は、上記のとおり、「金属酸化物」の種類を特定してより限定するものであり、請求項1に記載された事項を限定するものであって、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
(2)訂正事項2について
ア 訂正の目的について
訂正事項2による訂正は、訂正前の請求項4における「請求項1~3のいずれかに記載の外用組成物」との記載のとおり、請求項1に記載の外用組成物をその範囲に含むものであったところ、これを含まないものとしてさらに限定するものであり、特許請求の範囲を減縮するものである。
したがって、訂正事項2による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
イ 新規事項の追加の有無について
請求項1に記載の外用組成物をその範囲に含まないものとする訂正事項2による訂正は、新たな技術的事項を導入するものではないから、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
請求項1に記載の外用組成物をその範囲に含まないものとする訂正事項2に係る訂正は、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
(3)訂正事項3について
ア 訂正の目的について
訂正事項3による訂正のうちの訂正事項3-1は、訂正前の請求項4が請求項1~3のいずれかに記載の外用組成物を引用するものであったところ、いずれの請求項も引用しない独立形式請求項へとあたらためるものである。
したがって、訂正事項3-1による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に掲げる他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることに該当する。
訂正事項3による訂正のうちの訂正事項3-2は、訂正前の請求項4が引用する訂正前の請求項1の外用組成物に含まれる「金属酸化物」について、その種類を具体的に特定することでさらに限定するものであって、特許請求の範囲を減縮するものであり、また、上記「金属酸化物」の記載を明確にするものでもある。
したがって、訂正事項3-2による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするもの、及び、同ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。
イ 新規事項の追加の有無について
本件特許の願書に添付した明細書の段落【0033】には、外用組成物にヘパリン類似物質と共に含まれる白色の金属酸化物として、「酸化クロム、酸化亜鉛(亜鉛華)、酸化チタン、酸化アルミニウム、タルク、クラウンタルク、カオリン等を用いることが好ましい。」と記載されている。
また、上記酸化亜鉛のうちから「シリコーン被覆酸化亜鉛」及び「無機化合物被覆酸化亜鉛」を、酸化チタンの上記酸化チタンのうちから「シリコーン被覆酸化チタン」をそれぞれ除くという、いわゆる「除くクレーム」とすることは、訂正前の請求項1に記載した事項の表現を残したままで、同項に係る発明の包含される一部の事項について、後記「第4」に概要を示す令和3年2月1日付け取消理由において特許法第29条第1項第3号に該当するとされた「特開2012-36176号公報」(引用文献1、甲第1号証)に記載された外用組成物であるクリームに含まれる特定の物質のみを、同項に記載した事項から除外することを明示した訂正であると認められる。
そして、願書に添付した明細書において、「酸化亜鉛」として「シリコーン被覆酸化亜鉛」又は「無機化合物被覆酸化亜鉛」という特定の被覆物を含めて何らかで被覆されたものを用いることについて、「酸化チタン」として「シリコーン被覆酸化チタン」という特定の被覆物を含めて何らかで被覆されたものを用いることについての記載は特段ないところ、「酸化亜鉛」及び「酸化チタン」にそのような特定の被覆物は含まれないことを「(但し、・・・を除く)」との記載により明示することによって、訂正前の願書に添付した明細書又は特許請求の範囲のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項に何らかの変更を生じさせるものではなく、このようにして導かれる技術的事項の関係において、新たな技術的事項を導入するものではない。
したがって、訂正事項3に係る訂正は、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項の規定に適合する。
ウ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
訂正事項3は、上記のとおり、「金属酸化物」の種類を特定してより限定するものであり、訂正前の請求項4が引用する訂正前の請求項1に記載された事項を限定するものであって、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第6項の規定に適合する。
3 訂正の請求に対する申立人の主張について
令和4年7月4日差出の意見書において、申立人は、他の請求項の記載を引用する訂正前の請求項4を独立形式請求項として、他の請求項の記載を引用しないものとする訂正後の請求項5においては、訂正前の請求項4が引用する訂正前の請求項1の外用組成物が含む「金属酸化物」として、「タルク」及び「カオリン」を具体的な化合物として含めて列挙しているが、「タルク」及び「カオリン」は、外用組成物の技術分野の当業者にとって「金属酸化物」とは別の化合物として把握されることが通常であり、「金属酸化物」に相当するものとして当業者に把握されないから、訂正後の請求項5に係る訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張する訂正に該当し、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第6項の規定に適合しない旨、主張する(令和4年7月4日差出の意見書1~2頁)。
しかしながら、特許の明細書で用いられている用語が常に学術用語であるとは限らず、その有する普通の意味で使用されているとも限らないため、特許発明の技術的範囲の解釈に当たり、特許請求の範囲の用語、文章を理解し、正しく技術的意義を把握するためには、明細書の発明の詳細な説明の記載等を検討せざるを得ないものであるから、特許請求の範囲の文言が一義的に明確なものであるか否かにかかわらず、願書に添付した明細書の発明の詳細な説明の記載及び図面を考慮して、特許請求の範囲に記載された用語の意義を解釈すべきものとするのが相当である。このことは、特許法第70条において、その第1項に、「特許発明の技術的範囲は、願書に添付した特許請求の範囲の記載に基づいて定めなければならない。」と規定され、そして、同条第2項に「前項の場合においては、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮して、特許請求の範囲に記載された用語の意義を解釈するものとする。」と規定されていることとも合致する。
そして、外用組成物に含まれる「金属酸化物」に関して、本件特許の願書に添付した明細書には段落【0033】において、「白色の金属酸化物として、酸化クロム、酸化亜鉛(亜鉛華)、酸化チタン、酸化アルミニウム、タルク、クラウンタルク、カオリン等を用いることが好ましい。」と記載されており、そして本件特許の願書に添付した明細書においてこれと矛盾するあるいは整合しない、「金属酸化物」についての他の記載は存在しないことから、外用組成物の技術分野の当業者とって「タルク」及び「カオリン」は「金属酸化物」とは別の化合物として通常把握されるものであったとしても、本件特許における「金属酸化物」には「タルク」及び「カオリン」も該当すると解釈すべきである。
よって、申立人の上記主張は採用できない。
4 訂正の適否についてのまとめ
以上のとおり、本件訂正における訂正事項1による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするもの、及び、同ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
また、本件訂正における訂正事項2による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、本件訂正における訂正事項3による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に掲げる他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするもの、同ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするもの、及び、同ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
また、本件訂正における訂正事項1~3はいずれも、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内のものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、同法同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
また、本件訂正前の請求項1及び4において、請求項4は、請求項1の記載を引用する関係にあって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものであるが、令和4年5月20日提出の訂正請求書において、「訂正後の請求項1、4及び5については、当該請求項についての訂正が認められる場合には、一群の請求項の他の請求項とは別途訂正することを求める。」という、請求項1、4、5に係る訂正事項について「別の訂正単位とする求め」がなされている(令和4年5月20日提出の訂正請求書11頁1~4行)。そして、上記のとおり訂正事項1~3は訂正要件を満たすものであるから、本件訂正前の請求項4についての訂正事項2及び3は訂正事項1の判断とは独立して、その訂正が認められる。
よって、本件特許の特許請求の範囲を、令和5年3月10日提出の手続補正書(方式)によって補正がなされた令和4年5月20日提出の訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1、4、5について訂正することを認める。
第3 本件訂正後の本件特許に係る発明
上記第2のとおり、本件訂正は認められるので、本件訂正後の請求項1~5に係る発明は、令和4年5月20日提出の訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1~5に記載された事項により特定される、次のとおりのものである(下線は本件訂正による訂正箇所を示すものである。)。
(以下、訂正前と訂正後のものと区別するために、訂正前の発明については請求項の番号の順に「本件発明1」等といい、また、これらをまとめて「本件発明」という場合があり、そして、訂正後の発明については、本件訂正において請求項2及び3についての訂正はなされていないものの、本件訂正による訂正後の請求項の番号の順に「本件訂正発明1」等といい、また、これらをまとめて「本件訂正発明」ということがある。)
【請求項1】
ヘパリン類似物質、並びに
酸化鉄、酸化クロム、酸化亜鉛(但し、シリコーン被覆酸化亜鉛及び無機化合物被覆酸化亜鉛を除く)、酸化チタン(但し、シリコーン被覆酸化チタンを除く)、及び酸化アルミニウムからなる群から選ばれる少なくとも1種
を含み、
B型粘度計を用いて、25℃で測定した際における粘度が20,000mPa・s~1,000,000mPa・sであり、
色相補正剤である外用組成物
(但し、以下の処方のファンデーションを除く
イ
70%マルチトール水溶液 5重量部
グリセリン 5重量部
1、3ーブチレングリコール 5重量部
メチルパラベン 0.2重量部
ブチルパラベン 0.1重量部
ロ
トリグリセリンジイソステアレート 5重量部
ハ
流動パラフィン 12重量部
軽質イソパラフィン 8重量部
マイクロクリスタリンワックス 4重量部
ネオペンチルグリコールジイソオクタネート 4重量部
ニ
水 26.5重量部
ヘパリン類似物質 0.1重量部
ホ
鉄ドープ二酸化チタン 10重量部
ジルコニウムドープ二酸化チタン 2重量部
酸化鉄 3重量部
タルク 5重量部
ヘ
水 5重量部
リパーゼ 0.1重量部)。
【請求項2】
ヘパリン類似物質及び金属酸化物を含み、
前記金属酸化物は酸化鉄及び酸化チタンを含み、前記ヘパリン類似物質1重量部に対して、前記金属酸化物は1.25~75重量部配合され、
B型粘度計を用いて、25℃で測定した際における粘度が20,000mPa・s~1,000,000mPa・sである外用組成物。
【請求項3】
色相補正剤である請求項2に記載の外用組成物。
【請求項4】
乳化組成物である請求項2又は3に記載の外用組成物。
【請求項5】
乳化組成物である外用組成物であって、
当該外用組成物は、
ヘパリン類似物質、並びに
酸化鉄、酸化クロム、酸化亜鉛(但し、シリコーン被覆酸化亜鉛及び無機化合物被覆酸化亜鉛を除く)、酸化チタン(但し、シリコーン被覆酸化チタンを除く)、酸化アルミニウム、タルク、及びカオリンからなる群から選ばれる少なくとも1種
を含み、
B型粘度計を用いて、25℃で測定した際における粘度が20,000mPa・s~1,000,000mPa・sであり、
色相補正剤である外用組成物
(但し、以下の処方のファンデーションを除く
イ
70%マルチトール水溶液 5重量部
グリセリン 5重量部
1、3ーブチレングリコール 5重量部
メチルパラベン 0.2重量部
ブチルパラベン 0.1重量部
ロ
トリグリセリンジイソステアレート 5重量部
ハ
流動パラフィン 12重量部
軽質イソパラフィン 8重量部
マイクロクリスタリンワックス 4重量部
ネオペンチルグリコールジイソオクタネート 4重量部
ニ
水 26.5重量部
ヘパリン類似物質 0.1重量部
ホ
鉄ドープ二酸化チタン 10重量部
ジルコニウムドープ二酸化チタン 2重量部
酸化鉄 3重量部
タルク 5重量部
ヘ
水 5重量部
リパーゼ 0.1重量部)。
第4 令和3年2月1日付け取消理由、同年5月31日付け取消理由(決定の予告)及び令和4年3月14日付け取消理由(決定の予告)の概要
1 令和3年2月1日付け取消理由の概要
訂正前の請求項1~4に係る特許に対して、当審が特許権者に令和3年2月1日付けで通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
「1.(新規性) 本件特許の下記の請求項に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。
2.(進歩性) 本件特許の下記の請求項に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。
3.(明確性)(※当審注:当該「明確性」との記載は、該当条文及び具体的な理由の記載に照らせば、「サポート要件」と記載されるべきところの誤記であることは明らかといえる。) 本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
<引用文献等一覧>
1.特開2012-36176号公報(甲第1号証)
2.武田克之 ほか2名監修、「化粧品の有用性 評価技術の進歩と将来展望」、株式会社薬事日報社、2001年3月31日、300~311頁(甲第2号証)
3.特開2008-44901号公報(甲第3号証)
4.「R85型 粘度計」カタログ、東機産業株式会社、<URL:http://www.tokisangyo.co.jp/pdf/viscometer/R85.pdf>(甲第4号証)」
(以下、上記の番号の順に「引用文献1」等という。)
2 令和3年5月31日付け取消理由(決定の予告)の概要
「当審は、令和3年2月1日付けで通知した取消理由のうち、理由1について、本件発明1及び本件発明4は、本件特許の出願前日本国内において頒布された刊行物1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものであると判断する。」
3 令和4年3月14日付け取消理由(決定の予告)の概要
本件特許の特許請求の範囲を、令和3年8月2日提出の訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1、4〕について訂正することを認め、そして、その訂正後の請求項1~4に係る特許に対して、当審が特許権者に令和4年3月14日付けで通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
「本件発明1及び本件発明4は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないから、本件発明1及び本件発明4に係る特許は、取り消すべきものである。」
第5 取消理由についての当審の判断
当審は、令和3年2月1日付け取消理由、同年5月31日付け取消理由(決定の予告)及び令和4年3月14日付け取消理由(決定の予告)は、いずれも理由がないと判断する。
1 令和4年3月14日付け取消理由(決定の予告)について
令和4年3月14日付け取消理由(決定の予告)は、令和3年8月2日提出の訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲に記載のとおりの請求項1~4に係る特許についてなされたものであるところ、上記第1においてなお書きにて記載したとおり、令和3年8月2日提出の訂正請求書による訂正の請求は、その後に、本件訂正(令和4年5月20日提出の訂正請求書による訂正)の請求がなされたので、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げたものとみなされるので、上記理由はその理由がない。
なお、上記第2に記載したとおり適法な訂正と認められる本件訂正によって訂正された、訂正前の請求項1に対応する訂正後の請求項1、及び、訂正前の請求項1を引用する訂正前の請求項4に対応する訂正後の請求項5のいずれにも、令和4年3月14日付け取消理由(決定の予告)において、訂正前の請求項1及び4についての特許が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないことの根拠となった特許請求の範囲における記載事項である、「クラウンタルク」及び「金属酸化物」の用語は、存在しない。
2 令和3年5月31日付け取消理由(決定の予告)について
(1)具体的な理由
本件発明1及び本件発明4は、刊行物1(甲第1号証:特開2012-36176号公報)(当審注:上記の「引用文献1」に相当する。)に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、本件発明1及び本件発明4に係る特許は、取り消すべきものである。
(2)引用文献1に記載された発明
ア 引用文献1の記載事項
引用文献1には以下の記載がある。
(1ア)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビタミンA類及びヘパリン類似物質を含む、皮膚刺激性を抑えながら肌荒れを改善するための外用組成物。」
(1イ)「【0001】
本発明は、乾皮症などの肌荒れを予防、治療、又は改善できる外用組成物に関する。・・・・・・・
【0003】
ヘパリン類似物質は、優れた保湿作用、抗炎症作用、血行促進作用などを有することから、外用剤の有効成分として広く用いられている。
特許文献2には、セラミドと、ヘパリン類似物質とを含有する皮膚外用剤が、皮膚の水分保持作用を向上させ、保湿効果を増強させることにより、水分保持機能または皮膚バリア機能を正常化し、水分乾燥肌を効果的に改善することが記載されている。
しかし、これらの文献には、ビタミンA類とヘパリン類似物質を配合した皮膚外用剤が、優れた肌荒れ改善効果を有することは記載されていない。
・・・・・・・
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、肌荒れ改善効果に優れた外用組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は上記課題を解決するために研究を重ね、以下の知見を得た。
(i) ビタミンA類とヘパリン類似物質とを含む外用組成物が、荒れた肌に塗布した場合、効果的に荒れた肌を改善する。また、その程度は、ビタミンA類、又はヘパリン類似物質を単独で含む外用組成物と比べて、格段に優れる。
(ii) 荒れ肌にビタミンA類を含む外用組成物を塗布すると、ビタミンA類の濃度にもよるが、皮膚刺激性を有する場合がある。この外用組成物にヘパリン類似物質を配合すると、ビタミンA類による皮膚刺激性が効果的に軽減される。
【0007】
・・・・・・・
【発明の効果】
【0008】
本発明の外用組成物は、ビタミンA類と、ヘパリン類似物質とを共に配合していることにより、例えば乾皮症や角化症のような荒れ肌に対して、角層水分量の増大、経表皮水分喪失量の低減(バリア機能の改善)、肌のキメの正常化又は改善、皮膚所見(皮膚乾燥及び落屑の程度)の改善を導く。さらに、かかる改善は、ビタミンA、ヘパリン類似物質をそれぞれ単独で含む組成物に比べて、格段に優れている。」
(1ウ)「【0018】
<形態>
医薬品用の外用組成物の形態は特に限定されず、例えば、液剤、懸濁剤、乳剤、クリーム剤、軟膏剤、ゲル剤、リニメント剤、ローション剤、又はパップ剤などが挙げられる。医薬用の外用組成物は、好ましくは、乳液、クリーム剤、軟膏剤、ゲル剤、より好ましくは、乳液、クリーム剤、さらにより好ましくは、乳液の形態で用いられる。かかる形態とすることにより、肌荒れ改善効果を十分に発揮することができる。これらの製剤は、第15改正日本薬局方製剤総則に記載の方法等に従い製造することができる。
医薬部外品又は化粧品用の外用組成物の形態は特に限定されず、例えば、化粧水、乳液、クリーム、美容液、日焼け止め用化粧料、パック、ハンドクリーム、ボディローション、ボディークリームのような基礎化粧料;洗顔料、メイク落とし、ボディーシャンプーのような洗浄用化粧料;ファンデーション、化粧下地、リップクリーム、口紅、チークカラーのようなメークアップ化粧料;入浴剤などが挙げられる。医薬部外品又は化粧品用の外用組成物は、好ましくは、乳液、クリーム、美容液、より好ましくは、乳液、クリーム、さらにより好ましくは、乳液の形態で用いられる。かかる形態とすることにより、肌荒れ改善効果を十分に発揮することができる。」
(1エ)「【0037】
粘度
本発明の外用組成物の粘度は、約10000~60000が好ましく、約20000~45000がより好ましい。かかる粘度は、B形粘度計 RB-80L、M-3ロータを用いて、3rpm、1分、25℃の条件下で測定したときの値である。上記粘度範囲であれば、肌荒れ改善効果を十分に発揮することができる。」
(1オ)「【実施例】
【0040】
以下、本発明を実施例を挙げてより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(1)肌荒れ改善効果の評価
外用組成物の調製
表1に記載の処方に従って、実施例1の外用組成物を製造した。具体的には、パルミチン酸レチノール、濃グリセリン、1,3-ブチレングリコール、無水エタノール、パルミチン酸イソプロピル、ジメチルポリシロキサン、セタノール、ポリソルベート60、モノステアリン酸ソルビタン及びパラオキシ安息香酸エチルを約70℃まで加温溶解し、混合溶液Aを調製した。ヘパリン類似物質、カルボキシビニルポリマー、エデト酸ナトリウム水和物及び水を約70℃まで加温溶解し、混合溶液Bを調製した。混合溶液A及びBを均一に混合後、冷却し、さらにトリエタノールアミンを添加して、乳液状の外用組成物を得た。得られた組成物の粘度を、B形粘度計 RB-80L、M-3ロータを用いて、3rpm、1分、25℃の条件下で測定したところ、30000~35000Pa・sであった。」
(1カ)「【0061】
実施例4(クリーム)
ヘパリン類似物質 0.3
ビタミンA油(パルミチン酸レチノール、100万IU/g) 0.5
グリチルリチン酸ジカリウム 0.05
月見草油 3
ライチ種子エキス 0.1
α-リポ酸 0.01
加水分解大豆タンパク 0.1
ブドウ種子エキス 0.00.5
チガヤ根エキス 0.001
アルテミアエキス 0.5
パラメトキシケイ皮酸2-エチルヘキシル 10
ジエチルアミノヒドロキシベンゾイル安息香酸ヘキシル 5
2,4,6-トリス[4-(2-エチルヘキシルオキシカルボ
ニル)アニリノ]1,3,5-トリアジン 3
シリコーン被覆酸化亜鉛 5
シリコーン被覆酸化チタン 1
無機化合物被覆酸化亜鉛 0.05
グリセリン 5
1,3-ブチレングリコール 2
ラウリルPEG-9ポリジメチルシロキシエチルジメチコン 1
PEG-9ポリジメチルシロキシエチルジメチコン 1
トリ2-エチルヘキサン酸グリセリル 1.5
メチルポリシロキサン 3
デカメチルシクロペンタシロキサン 30
メチルシロキサン網状重合体 5
アクリル酸アルキル共重合体メチルポリシロキサンエステル 0.1
アクリル酸・メタクリル酸アルキル共重合体 0.05
マイカ 2
キレート剤 適量
ヒアルロン酸ナトリウム 0.05
酢酸トコフェロール 0.05
防腐剤(パラオキシ安息香酸プロピル、フェノキシエタノール) 適量
pH調整剤 適量
香料 適量
水 残部」
イ 引用文献1に記載された発明
上記ア(1ア)~(1カ)、特に(1エ)及び(1カ)の記載からみて、引用文献1には、以下の発明が記載されているといえる。
「ヘパリン類似物質 0.3(重量%,以下同じ)及び
シリコーン被覆酸化亜鉛 5、
シリコーン被覆酸化チタン 1及び
無機化合物被覆酸化亜鉛 0.05を含み、
B形粘度計 RB-80L、M-3ロータを用いて、3rpm、1分、25℃の条件下で測定したときの粘度が10000~60000である、クリーム。」
(以下「引用発明1」という。)
ウ 本件訂正発明1についての対比・判断
(ア)対比
訂正前の請求項1に係る発明に対応するものである本件訂正発明1と、引用発明1とを対比する。
引用発明1の「ヘパリン類似物質」は、本件訂正発明1の「ヘパリン類似物質」に相当する。
引用発明1の「シリコーン被覆酸化亜鉛」、「シリコーン被覆酸化チタン」及び「無機化合物被覆酸化亜鉛」と、本件訂正発明1の酸化鉄、酸化クロム等は、いずれも「金属酸化物」である点で共通する。
引用発明1の「クリーム」は、本件訂正発明1の「外用組成物」に相当し、また、引用発明1のクリームには、本件訂正発明1が除いている所定の処方のファンデーションを含まないから、この点においても共通している。
そうする、本件訂正発明1と引用発明1は、
「ヘパリン類似物質及び金属酸化物を含む、外用組成物
(但し、以下の処方のファンデーションを除く
イ
70%マルチトール水溶液 5重量部
グリセリン 5重量部
1,3-ブチレングリコール 5重量部
メチルパラベン 0.2重量部
ブチルパラベン 0.1重量部
ロ
トリグリセリンジイソステアレート 5重量部
ハ
流動パラフィン 12重量部
軽質イソパラフィン 8重量部
マイクロクリスタリンワックス 4重量部
ネオペンチルグリコールジイソオクタネート 4重量部
二
水 26.5重量部
ヘパリン類似物質 0.1重量部
ホ
鉄ドープニ酸化チタン 10重量部
ジルコニウムドープニ酸化チタン 2重量部
酸化鉄 3重量部
タルク 5重量部
ヘ
水 5重量部
リパーゼ 0.1重量部)」
である点で一致し、以下の点で相違している。
<相違点>
相違点1: 本件訂正発明1は、「B型粘度計を用いて、25℃で測定した際における粘度が20,000mPa・s~1,000,000 mPa・s」であるのに対し、引用発明1は、「B形粘度計 RB-80L,M-3ロータを用いて、3rpm,1分,25℃の条件下で測定したときの粘度が10000~60000」である点
相違点2: 本件訂正発明1は、「色相補正剤」であるのに対し、引用発明1は、色相補正剤であるか否かが不明である点
相違点3: 金属酸化物について、本件訂正発明1は、「酸化鉄、酸化クロム、酸化亜鉛(但し、シリコーン被覆酸化亜鉛及び無機化合物被覆酸化亜鉛を除く)、酸化チタン(但し、シリコーン被覆酸化チタンを除く)、及び酸化アルミニウムからなる群から選ばれる少なくとも1種」であるのに対し、引用発明1は、「シリコーン被覆酸化亜鉛、シリコーン被覆酸化チタン、及び、無機化合物被覆酸化亜鉛」である点。
(イ)判断
上記のように、本件訂正発明1と引用発明1は相違点1~3の特に相違点3が存在するから、本件訂正発明1は引用文献1に記載された発明ではなく、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないという理由は、その理由がない。
エ 本件訂正発明5についての対比・判断
訂正前の請求項1を引用する訂正前の請求項4に係る発明に対応するものである本件訂正発明5は、本件訂正発明1の外用組成物が「乳化組成物」であることが特定され、かつ、本件訂正発明1の外用組成物においてヘパリン類似物質と共に含まれる酸化鉄、酸化クロム等の選択肢のうちに「タルク」及び「カオリン」も含むことが特定されているものである。そして、本件訂正発明5と引用発明1とを対比すると両者の間にも少なくとも上記ウ(ア)に記載した相違点1~3、特に相違点3が存在するから、本件訂正発明5は引用文献1に記載された発明ではなく、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないという理由は、その理由がない。
オ 小括
以上のとおり、新規性に関する取消理由はその理由がない。
3 令和3年2月1日付け取消理由について
(1)理由1(新規性)について
ア 具体的な理由
本件発明1、4は、引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、
特許を受けることができないものであり、同法第113条第2号に該当するから、これらの発明に係る特許は取り消すべきものである。
イ 引用文献1の記載事項及び引用文献1に記載された発明
引用文献1の記載事項及び当該文献に記載された発明である引用発明1は、上記2(2)ア及びイに記載したとおりである。
ウ 本件訂正発明1についての対比・判断
訂正前の請求項1に係る発明に対応するものである本件訂正発明1と、引用発明1とを対比すると、その一致点及び相違点は上記2(2)ウ(ア)に記載したのと同様であり、そして、両者の間には上記2(2)ウ(ア)に記載した相違点1~3、特に相違点3が存在するから、本件訂正発明1は引用文献1に記載された発明ではなく、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないという理由は、その理由がない。
エ 本件訂正発明5についての対比・判断
訂正前の請求項1を引用する訂正前の請求項4に係る発明に対応するものである本件訂正発明5と引用発明1とを対比すると、両者の間にも少なくとも上記2(2)ウ(ア)に記載した相違点1~3、特に相違点3が存在するから、本件訂正発明5は引用文献1に記載された発明ではなく、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないという理由は、その理由がない。
オ 小括
以上のとおり、新規性に関する取消理由の理由1はその理由がない。
(2)理由2(進歩性)について
ア 具体的な理由
本件発明1~4は、引用文献1に記載された発明及び引用文献2~4に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであり、いずれも同法第113条第2号に該当するから、これらの発明に係る特許は取り消すべきものである。
イ 引用文献1~4の記載事項
(ア)引用文献1の記載事項
引用文献1の記載事項は上記2(2)アに記載したとおりである。
(イ)引用文献2の記載事項
(2ア)「2-1. 色演出
(1) メークアップにおける色演出技術
メークアップ化粧品の有用性を論じる場合,色の演出は非常に大きな要素を占める。反対に色演出のない化粧品は,メークアップ化粧品ではないといえる。色材を肌や爪にのせることにより,明暗や色彩を調整し,色彩効果や立体感を付与することにより,顔造作をより魅力的に見せたり,健康感,躍動感,高品位感などの有用な印象演出を行うのであるから,メークアップ化粧品にとって色材は欠くことのできない素材といえる。通常のメークアップ化粧品に配合される色材は無機色材,有機色材,光輝性色材に大別でき,目的とする色演出効果によって単独もしくは組み合わせて使用される。
a) 無機色材
無機色材は多くの物が金属酸化物であり,さらに白色無機顔料と有色無機顔料に細分される。白色無機顔料は,白さ,明るさの演出,肌トラブルの隠蔽(2-4. トラブルカバーの項参照) を主目的とするものであり,可視光領域波長に特異的吸収がないこと,屈折率が展色剤に比べて十分大きいことが要求される。白色顔料で最も古いものは鉛白であり,13世紀には顔料として用いられていたことが知られている。その後,安全性のうえから白色顔料は亜鉛華,リトポンと進化し,現在の酸化チタンヘとたどりついている。表4-1に代表的な白色顔料の組成,屈折率,着色力,隠蔽力をしめす。
有色無機顔料は酸化鉄に代表される。酸化鉄は,その酸化価数,含水量によって色調が異なり,ベンガラと称される赤酸化鉄はα型酸化第二鉄(α-Fe2O3),同じ酸化第二鉄でも含水酸化物(α-FeOOH)は黄色である。また,四三酸化鉄(Fe3O4)は磁性を帯びた黒色顔料となる。酸化鉄系顔料は,主にファンデーションなどのベースメーク化粧品に配合される。他の無機有色顔料としては,群青,紺青,マンガンバイオレットなどがあげられる。」(300頁左欄16行~同頁右欄26行)
(2イ)「2-4. トラブルカバー(1) メークアップにおけるトラブルカバー技術
メークアップ化粧品の美的有用性のなかで,肌トラブルをカバーすることは,非常に重要な役割の一つである。肌トラブルとは,色黒,赤ら顔,くすみ,黄ぐすみ,くま,しみ,そばかす,あざ(太田母斑など含む)などの顔面に形成した色調的トラブルと,しわ,毛穴,ニキビ跡などの形態的トラブルに分けられる。
a) 色調的トラブル
色調的トラブルのうち軽度なものはファンデーションの塗布により,ほとんどを隠蔽することができる。これはファンデーションに通常配合されている酸化チタンなどの高屈折率粉体の隠蔽力に起因している。」(305頁左欄32行~同頁右欄9行)
(2ウ)「(2) トラブルカバー技術の研究事例
トラブルカバーの技術は大別して,a)メークアップのテクニックによるものと,b)粉体の光学的特性を利用するものに分けられ,技術的報告は非常に多い11~14)。
a) メークアップテクニックによる色調的トラブルの解消
中野15)は,スキントラブルの対処方法を,1)肌色補整料によるテクニック,2)カバーメーク料によるテクニック,3)ファンデーションタイプによるテクニックの3つに分け(図4-7),色調トラブルヘの肌色補整料の有用性を報告している。それによると,赤ら顔にはイエロー系の肌色補整料,黄ぐすみにはパープル系,くすみ,くまにはオレンジより明るく,かつ肌色に近いコーラル系,しみ,そばかすにはスポット的なカバー料やオレンジ,コーラル系の肌色補整料が有効としている。
b) 粉体光学特性を利用した色調的トラブルの解消
鈴木ら18)はくすみ肌と健康な肌の色差を比較し,くすみ肌では赤色と黄色のバランスが崩れていることに着目した(図4-8)。それらを改善するための手法として酸化チタンの粒径をコントロールし,化粧膜の色調的改善を行う方法を提案している(図4-9)。その時使用する酸化チタンの粒径は0.15μm程度の中間粒径が最も適している。」(305頁右欄32行~306頁左欄20行)
(ウ)引用文献3の記載事項
(3ア)「【請求項1】
水中油型メイクアップ化粧料において、内油相中に成分(A)部分架橋型オルガノポリシロキサン重合物、成分(B)粉体を含有し、外水相中に成分(C)粉体を含有し、且つ全水中油型メイクアップ化粧料中の成分(A)~(C)の配合量が、成分(A)1~10質量%、成分(B)5~30質量%、成分(C)1~15質量%であることを特徴とする水中油型メイクアップ化粧料。」(特許請求の範囲)
(3イ)「【0007】
・・・・・・・
【発明の効果】
【0008】
本発明の水中油型メイクアップ化粧料は、みずみずしく、なめらかな使用感を有し、自然な止まり感で隠蔽性のある均一な化粧膜を得られる化粧料である。」
(3ウ)「【0011】
本発明に用いられる成分(B)の粉体は、肌を隠蔽して均一な化粧膜を得る目的で配合されるものであり、一般に化粧料に使用されるものであればよく、球状、板状、針状等の形状、煙霧状、微粒子、顔料級等の粒子径、多孔質、無孔質等の粒子構造等いずれのものでもよい。また、組成分類も無機粉体類、光輝性粉体類、有機粉体類、色素粉体類、複合粉体類等を挙げることができる。具体的には、タルク、マイカ、カオリン、セリサイト、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、二酸化チタン、酸化亜鉛、ベンガラ、黄酸化鉄、黒酸化鉄、群青、コンジョウ、タール色素、天然色素、雲母チタン、酸化鉄雲母チタン、ナイロンパウダー、ポリエチレンパウダー、ポリスチレンパウダー、ポリメタクリル酸メチルパウダー等が挙げられ、これらの一種又は二種以上を適宜選択して用いることができ、未処理のまま用いても良く、通常公知の方法で表面処理されているものを用いても良い。表面処理の方法としては、例えば、ジメチルポリシロキサン、メチルハイドロジェンポリシロキサン、トリメチルメトキシケイ酸等のシリコーン化合物による処理、パーフルオロポリエーテルリン酸やパーフルオロアルキルリン酸、弗素変性シリコーン等の弗素化合物による処理、ラウリン酸亜鉛等の金属石鹸処理、N-長鎖アシルアミノ酸等のアミノ酸処理、高級脂肪酸、高級アルコール、エステル、ワックス等の油剤処理等が挙げられる。
なかでも、屈折率が高く、隠蔽性を得られやすいという観点から、二酸化チタンを好ましいものとすることができ、二酸化チタンは結晶型もアナターゼ型、ルチル型のいずれのものでもよいが、屈折率の高いルチル型の方がさらに好ましく、その粒径も0.2~0.4μmであると高い隠蔽性が得られるため好ましい。」
(3エ)「【0015】
本発明に用いられる成分(C)の粉体は、肌を隠蔽して均一な化粧膜を得る目的で含有されるものであり、成分(B)の粉体と同一であっても相違していてもよいものである。
本発明に用いられる成分(C)の粉体は、一般に化粧料に使用されるものであればいずれのものでもよく、成分(B)と同様の形状、粒子径、粒子構造等であり、組成分類も同様である。具体的な粉体も成分(B)と同様であり、隠蔽性を得られやすいという観点から、二酸化チタンを好ましいものとすることができる。」
(エ)引用文献4の記載事項
(4ア)「RB-85L
フルスケールトルク:67.37μN・m
測定範囲:10~2,000,000mPa・s
測定範囲:1~2,000,000mPa・s
(Lアダプタ使用の場合)」(6頁左欄上の「RB-85L」の箇所)
ウ 引用文献1に記載された発明
上記2(2)イに記載したとおり、引用文献1には以下の引用発明1が記載されているといえる。
「ヘパリン類似物質 0.3(重量%,以下同じ)及び
シリコーン被覆酸化亜鉛 5、
シリコーン被覆酸化チタン 1及び
無機化合物被覆酸化亜鉛 0.05を含み、
B形粘度計 RB-80L、M-3ロータを用いて、3rpm、1分、25℃の条件下で測定したときの粘度が10000~60000である、クリーム。」
エ 本件訂正発明1についての対比・判断
(ア)対比
訂正前の請求項1に係る発明に対応するものである本件訂正発明1と、引用発明1とを対比すると、その一致点及び相違点は上記2(2)ウ(ア)に記載したのと同様であるところ、そのうちの相違点について以下に再掲する。
<相違点>
相違点1: 本件訂正発明1は、「B型粘度計を用いて、25℃で測定した際における粘度が20,000mPa・s~1,000,000 mPa・s」であるのに対し、引用発明1は、「B形粘度計 RB-80L,M-3ロータを用いて、3rpm,1分,25℃の条件下で測定したときの粘度が10000~60000」である点
相違点2: 本件訂正発明1は、「色相補正剤」であるのに対し、引用発明1は、色相補正剤であるか否かが不明である点
相違点3: 金属酸化物について、本件訂正発明1は、「酸化鉄、酸化クロム、酸化亜鉛(但し、シリコーン被覆酸化亜鉛及び無機化合物被覆酸化亜鉛を除く)、酸化チタン(但し、シリコーン被覆酸化チタンを除く)、及び酸化アルミニウムからなる群から選ばれる少なくとも1種」であるのに対し、引用発明1は、「シリコーン被覆酸化亜鉛、シリコーン被覆酸化チタン、及び、無機化合物被覆酸化亜鉛」である点。
(イ)判断
上記相違点2及び3について検討する。
引用文献1の【0005】に、
「本発明は、肌荒れ改善効果に優れた外用組成物を提供することを課題とする。」
との記載があるとおり(摘記(1イ))、引用発明1は、「肌荒れ改善効果に優れた外用組成物を提供すること」を課題としている。
一方、本件訂正発明1における「色相補正」とは、本件特許の明細書(以下「本件明細書」という。)の【0075】~【0091】(特に、【0077】【表3】参照)に記載されるとおり、バイオスキンとの色相の違いを評価し、明度と赤みの色値変化で表現するものといえるところ、引用文献1の記載から、引用発明1がそのような「色相補正」も課題としていることを看取できる記載はない。
ここで、引用文献2には摘記(2ア)~(2ウ)のとおり、化粧料に酸化チタンや酸化鉄などの金属酸化物を配合することにより、「肌の明暗や色彩を調整」し、すなわち色相を補正し、赤ら顔などの色調的トラブルを隠蔽することが記載されており、また、引用文献3には摘記(3イ)~(3エ)のとおり、二酸化チタン、酸化亜鉛を配合することにより、明度と赤みが補正される結果、色相を補正することと同義と認められる、「肌を隠蔽すること」が記載されている。そうすると、引用文献2及び3には、化粧料に二酸化チタン、酸化亜鉛、酸化鉄などの金属酸化物を配合することにより、化粧料が塗布された部分が、肌の赤みや色素沈着により変化を受けた色相(明度と赤み)を補正するという技術的事項が記載されているといえる。
しかしながら、上記のとおり、引用文献1には、引用発明1の外用組成物であるクリームが色相補正、すなわち肌等に適用した際に色相を補正することを課題とするものであるとは認められない。そのため引用発明1のクリームに含まれている「シリコーン被覆酸化亜鉛」、「シリコーン被覆酸化チタン」及び「無機化合物被覆酸化亜鉛」が色相を補正する機能を備える(内在する)ものであり、そして、引用発明1のクリーム自体も色相補正剤としての機能を備えている(内在している)としても、色相を補正することを課題としない引用発明1のクリームについて、当業者が、そこに含まれる「シリコーン被覆酸化亜鉛、シリコーン被覆酸化チタン、及び、無機化合物被覆酸化亜鉛」を酸化鉄等に変更して、あるいは、それらを追加することで、色相補正剤を提供することの動機付けはないというべきである。
また、引用文献1には、引用発明1のクリームが色相補正剤になり得ることについての記載がないだけでなく、肌荒れ改善効果に優れた外用組成物の提供のために、引用発明1のクリームに含まれている「シリコーン被覆酸化亜鉛、シリコーン被覆酸化チタン、及び、無機化合物被覆酸化亜鉛」を、酸化鉄や、被覆されていない二酸化チタンや酸化亜鉛などに変更する又はそれらを追加することができることについての記載も認められない。
そうすると、「肌荒れ改善効果に優れた外用組成物を提供すること」を課題とする引用発明1においては、引用文献2や3に記載された事項である酸化鉄等を採用し得ないから、その他の相違点について検討するまでもなく、本件訂正発明1は、引用文献1に記載された発明及び引用文献2~4に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明できたものではなく、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないという理由は、その理由がない。
オ 本件訂正発明2についての対比・判断
(ア)対比
本件訂正発明2と引用発明1とを対比する。
引用発明1の「ヘパリン類似物質」は、本件訂正発明2の「ヘパリン類似物質」に相当する。
引用発明1の「シリコーン被覆酸化亜鉛」、「シリコーン被覆酸化チタン」及び「無機化合物被覆酸化亜鉛」は、本件訂正発明2の「金属酸化物」に相当する。
引用発明1の「クリーム」は、本件訂正発明2の「外用組成物」に相当する。
そうする、本件訂正発明2と引用発明1は、
「ヘパリン類似物質及び金属酸化物を含む、外用組成物」である点で一致し、以下の点で相違している。
<相違点>
相違点4: 本件訂正発明2は、「B型粘度計を用いて、25℃で測定した際における粘度が20,000mPa・s~1,000,000 mPa・s」であるのに対し、引用発明1は、「B形粘度計 RB-80L,M-3ロータを用いて、3rpm,1分,25℃の条件下で測定したときの粘度が10000~60000」である点
相違点5: 金属酸化物について、本件訂正発明2は、「酸化鉄及び酸化チタン」を含むことを特定しているのに対し、引用発明1は、「シリコーン被覆酸化亜鉛、シリコーン被覆酸化チタン、及び、無機化合物被覆酸化亜鉛」を含むものであって、酸化鉄や酸化チタンは含まない点
相違点6: へパリン類似物質に対する金属酸化物の配合量について、本件訂正発明2は、「ヘパリン類似物質1重量部に対して、前記金属酸化物は1.25~75重量部配合」することを特定しているのに対し、引用発明1は、「ヘパリン類似物質 0.3重量%」に対して、「シリコーン被覆酸化亜鉛 5重量%、シリコーン被覆酸化チタン 1重量%、及び、無機化合物被覆酸化亜鉛 0.05重量%」を配合している点
(イ)判断
上記相違点5及び6について検討する。
上記エ(イ)に記載したとおり、引用発明1は、「肌荒れ改善効果に優れた外用組成物を提供すること」を課題としている一方、引用文献1の記載から、引用発明1が「色相補正」も課題としていることを看取できる記載はない。
そして、上記エ(イ)に記載したとおり、引用文献2及び3には、化粧料に二酸化チタン、酸化亜鉛、酸化鉄などの金属酸化物を配合することにより、化粧料が塗布された部分が、肌の赤みや色素沈着により変化を受けた色相を補正するという技術的事項が記載されているが、引用発明1のクリームに含まれている「シリコーン被覆酸化亜鉛」、「シリコーン被覆酸化チタン」及び「無機化合物被覆酸化亜鉛」が色相を補正する機能を備える(内在している)ものであり、そして、引用発明1のクリーム自体も色相補正剤としての機能を備えている(内在している)としても、引用発明1のクリームは「肌荒れ改善効果に優れた外用組成物を提供すること」を課題とするものであって色相を補正することを課題とするものではないため、当業者が、そこに含まれる「シリコーン被覆酸化亜鉛、シリコーン被覆酸化チタン、及び、無機化合物被覆酸化亜鉛」を、引用文献2及び3に記載された技術的事項をふまえ、ヘパリン類似物質1重量部に対して1.25~75重量部なる特定の配合量にて、酸化亜鉛や酸化チタンに変更して、あるいは、それらを追加することの動機付けはないというべきである。
また、引用文献1には、肌荒れ改善効果に優れた外用組成物の提供のために、引用発明1のクリームに含まれている「シリコーン被覆酸化亜鉛、シリコーン被覆酸化チタン、及び、無機化合物被覆酸化亜鉛」を、ヘパリン類似物質1重量部に対して1.25~75重量部なる特定の配合量にて、酸化鉄や酸化チタンに変更する又はそれらを追加することができることについての記載も認められない。
そうすると、「肌荒れ改善効果に優れた外用組成物を提供すること」を課題とする引用発明1においては、ヘパリン類似物質1重量部に対して1.25~75重量部という特定の配合量で、引用文献2や3に記載された事項である酸化鉄や酸化チタンを採用し得ないから、その他の相違点について検討するまでもなく、本件訂正発明2は、引用文献1に記載された発明及び引用文献2~4に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明できたものではなく、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないという理由は、その理由がない。
カ 本件訂正発明3、4についての対比・判断
本件訂正発明3は、本件訂正発明2の外用組成物が「色相補正剤」であることを特定するものであり、本件訂正発明4は、本件訂正発明2又は3の外用組成物が「乳化組成物」であることを特定するものである。
そして、本件訂正発明3と引用発明1を対比した場合、及び、本件訂正発明4と引用発明1を対比した場合のいずれについても、相違点として上記オ(ア)に記載した相違点4~6の点があることになり、そして、このうちの相違点5及び6についての判断は、上記オ(イ)に記載したのと同様である。
そうすると、その他の相違点について検討するまでもなく、本件訂正発明3及び4についても、引用文献1に記載された発明及び引用文献2~4に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明できたものではなく、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないという理由は、その理由がない。
キ 本件訂正発明5についての対比・判断
(ア)対比
訂正前の請求項1を引用する訂正前の請求項4に係る発明に対応するものである本件訂正発明5は、本件訂正発明1の外用組成物が「乳化組成物」であることが特定され、かつ、本件訂正発明1の外用組成物においてヘパリン類似物質と共に含まれる酸化鉄、酸化クロム等の選択肢のうちに「タルク」及び「カオリン」も含むことが特定されているものである。
そして、本件訂正発明5と引用発明1とは、上記2(2)ウ(ア)に記載した点で一致することに加え、引用発明1の「クリーム」は、乳化組成物に含まれるものであることをふまえると、以下の点で相違する。
<相違点>
相違点7: 本件訂正発明5は、「B型粘度計を用いて、25℃で測定した際における粘度が20,000mPa・s~1,000,000 mPa・s」であるのに対し、引用発明1は、「B形粘度計 RB-80L,M-3ロータを用いて、3rpm,1分,25℃の条件下で測定したときの粘度が10000~60000」である点
相違点8: 本件訂正発明5は、「色相補正剤」であるのに対し、引用発明1は、色相補正剤であるか否かが不明である点
相違点9: 本件訂正発明5は、金属酸化物が、「酸化鉄、酸化クロム、酸化亜鉛(但し、シリコーン被覆酸化亜鉛及び無機化合物被覆酸化亜鉛を除く)、酸化チタン(但し、シリコーン被覆酸化チタンを除く)、酸化アルミニウム、タルク、及びカオリンからなる群から選ばれる少なくとも1種」であるのに対し、引用発明1は、金属酸化物が、「シリコーン被覆酸化亜鉛、シリコーン被覆酸化チタン、及び、無機化合物被覆酸化亜鉛」である点。
(イ)判断
上記相違点8及び9について検討すると、「肌荒れ改善効果に優れた外用組成物を提供すること」を課題とする引用発明1においては、引用文献2や3に記載された事項である酸化鉄等を採用し得ないことは上記エ(イ)に記載したとおりであり、また、引用文献2や3に記載された事項をふまえても、引用発明1において当業者がタルクやカオリンを採用することの動機付けがあるとも認められない。
そうすると、その他の相違点について検討するまでもなく、本件訂正発明5についても、引用文献1に記載された発明及び引用文献2~4に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明できたものではなく、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないという理由は、その理由がない。
ク 申立人の主張について
令和4年7月4日差出の意見書において、申立人は、ファンデーションに配合される亜鉛華(酸化亜鉛)、雲母チタン(酸化チタンを被覆したマイカ)等の金属顔料粉末は、必要に応じてシリコーン処理等の疎水化処理が施されるものであり、ファンデーションを肌上に塗布して色相を補正する技術分野において、金属顔料粉末にシリコーン処理を施すのか施さないのかは、当業者にとっては設計的事項にすぎず、また、本件明細書には「シリコーン被覆」及び「無機化合物被覆」を除外する記載はなく、進歩性が認められるほどの顕著な作用効果は示されていないから、シリコーン被覆亜鉛及び無機化合物被覆亜鉛を除き、シリコーン被覆酸化チタンを除く本件訂正発明1及び5は、刊行物1(甲第1号証)並びに令和3年9月28日差出の意見書と共に提出した参考資料2(特開平10-7525号公報)及び参考資料3(「化粧品講座(第VI講) メイクアップ化粧品の最近の動向」,色材,74(19),518-525(2001))に記載された技術的事項に基づき、特許法第29条第2項により特許を受けることができず、同法第113条第2号により取り消されるべきものである旨、主張する。
しかしながら、化粧料に含まれる金属顔料粉末についてシリコーン処理を施すことは一般的に行われていたとしても、色相を補正することを課題とするものではない引用発明1のクリームについて、当業者が、そこに含まれる「シリコーン被覆酸化亜鉛、シリコーン被覆酸化チタン、及び、無機化合物被覆酸化亜鉛」を、シリコーン被覆や無機化合物被覆ではないものに変更することで、色相補正剤を提供することの動機付けはないというべきである。
また、引用文献1には、引用発明1のクリームが色相補正剤になり得ることについての記載がないだけでなく、肌荒れ改善効果に優れた外用組成物の提供のために、引用発明1のクリームに含まれている「シリコーン被覆酸化亜鉛、シリコーン被覆酸化チタン、及び、無機化合物被覆酸化亜鉛」を、シリコーン被覆や無機化合物被覆ではないものに変更できることについての記載も認められない。
したがって、本件訂正発明1及び5については、引用発明1に加え、上記の参考資料2や3に記載された技術的事項を参酌したとしても、当業者が容易に発明できたものではない。
よって、申立人の上記主張は採用できない。
ケ 小括
以上のとおり、進歩性に関する取消理由の理由2はその理由がない。
(3)理由3(サポート要件)について
ア 具体的な理由
以下の点で、本件発明1~4はそのすべての範囲において、出願時の技術常識を参酌したとしても、本件発明1~4が解決しようとする課題を当業者が解決できると認識することができるとは認められない。
(ア)実施例以外の金属酸化物として、本件明細書の金属酸化物(【0027】~【0040】)には、多くの顔料が記載されているが、それらの金属酸化物を用いた場合や、実施例以外の粘度範囲の場合に、実施例に記載された組み合わせと、同様の効果を奏するのかは不明である。
(イ)本件発明1~4の外用組成物は、タルクを含むことを特定していないが、本件明細書の実施例においては、いずれもタルクが外用組成物中に含まれており、タルクを含まない場合においても同様の効果を奏するのかは不明である。
(ウ)本件明細書に乳化組成物以外の外用組成物に対して、ヘパリン類似物質と金属酸化物を組み合わせて使用し、外用組成物の粘度をある範囲に調整するという実施例は記載されていない。
イ 判断
(ア)本件明細書の記載について
本件訂正発明1~5が解決しようとする課題は、本件明細書【0001】~【0004】、【0006】、【0007】~【0015】、【0067】~【0094】の実施例などの記載から、ヘパリン類似物質を含む外用組成物に、金属酸化物を組み合わせ、さらに外用組成物の粘度を所定の範囲に調整することによって、ヘパリン類似物質による乾燥肌、肌の傷痕の症状を改善しながらも、肌の外観上の美しさを維持させる、色相補正剤として機能する外用組成物を提供することにあると認められる。
そして、本件明細書の発明の詳細な説明には、粘度(【0018】~【0022】)、ヘパリン類似物質(【0023】~【0026】)、酸化鉄、白色顔料等である金属酸化物(【0027】~【0040】)、外用組成物の調製方法(【0061】~【0062】)、及び実施例(【0068】~【0094】)が記載されている。特に実施例には、外用組成物の一態様であるファンデーション剤として使用される乳化組成物であって、ヘパリン類似物質0.3重量%、並びに、酸化鉄(黄酸化鉄1.40重量%、赤酸化鉄0.40重量%、黒酸化鉄0.20重量%)、及び、本件明細書【0033】において「白色の金属酸化物」に相当すると説明されている酸化チタンやタルク(酸化チタン8.0重量%、タルク2.0重量%)、を含み、粘度が「20,000mPa・s~1,000,000mPa・s」の範囲にある23,000mPa・s~966,000mPa・sのものについて、色相の補正等の効果が得られることが具体的に記載されている。
(イ)上記ア(ア)及び(イ)について
本件訂正発明1及び5には、本件明細書の実施例に記載された酸化鉄、酸化チタン及びタルクを含まず、酸化クロム、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、カオリンといったものを含む外用組成物も包含されるが、これらいずれも酸化チタンやタルクと同じ白色の金属酸化物として本件明細書【0033】に列挙されているものであり、さらに、ヘパリン類似物質を含む外用組成物において、酸化鉄、酸化チタンやタルクと同様に色相を補正する目的で使用することができる金属酸化物であることが本件明細書【0027】~【0040】に記載されていることに加え、例えば、特許権者が令和3年4月6日提出の意見書と共に提出した乳化型化粧料について記載する本件特許の出願日前に公知であった乙第6号証(特開2009-203188号公報)の【0014】における記載のとおり、酸化鉄(黄酸化鉄、黒酸化鉄)、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化アルミニウム、タルク、カオリンなどは化粧料に色調補正効果を持たせることができる成分として当業者に把握されていたものである。そうすると、実施例で用いられている金属酸化物(酸化鉄、酸化チタン、タルク)とそれ以外のもの(酸化クロム、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、カオリン)とが区別されるような事情は特段ないし、酸化クロム、酸化亜鉛、酸化アルミニウム又はカオリンを用いた場合やタルクを含まない場合について、実施例と同様又は類似の効果が奏されないとする技術的な根拠も見いだせない。
また、本件明細書の実施例において色相補正効果についての具体的な裏付けがある「23,000mPa・s~966,000mPa・s」という粘度の範囲は、本件訂正発明における粘度範囲「20,000mPa・s~1,000,000mPa・s」のうちにあるのみならず、その上限及び下限の値のいずれもが、金属酸化物を含んでいても色相の補正力がない比較例3~5のように殊更に乖離しているというものではなく、そして、「20,000mPa・s~1,000,000mPa・s」のうちの「23,000mPa・s~966,000mPa・s」でない粘度である場合には、直ちに実施例と同様又は類似の効果を奏しないものになると、当業者は認識することについての技術的な根拠は見いだせない。
(ウ)上記ア(ウ)について
本件明細書中には乳化組成物以外の外用組成物についての実施例はないものの、本件明細書【0041】において、外用組成物は水相のみからなる場合であっても良いことが記載されているとおり、本件明細書において、本件訂正発明の外用組成物が乳化組成物に限られることについての記載はない。
そして、本件明細書の実施例において具体的に示されている乳化組成物についての色相補正の効果が、乳化組成物以外のものとした場合には全く及ばないことを、当業者が理解し得る証拠や技術常識も見当たらない。
(エ)申立人の主張について
a 申立人は、サポート要件に関して、本件明細書の発明の詳細な説明には、請求項2の記載にある、ヘパリン類似物質1重量部に対して金属酸化物を1.25~75重量部配合する全ての場合に、ヘパリン類似物質による乾燥肌、肌の傷痕の症状を改善しながらも、肌の外観上の美しさを維持させる効果を奏することは開示されておらず、発明の詳細な説明は、出願時の技術常識を参酌して、ヘパリン類似物質1重量部に対して金属酸化物を1.25~75重量部配合する外用組成物一般において、ヘパリン類似物質と金属酸化物を組み合わせて使用し、外用組成物の粘度をある範囲に調整する場合には色相の補正等の効果が得られると、当業者において認識できる程度に、具体例を開示したものではなく、また、訂正後の請求項1及び5には、金属酸化物の配合比率に関する限定が一切ないから発明の詳細な説明に開示された数値範囲を超えていることは明らかであるから、本件訂正発明1~5は、発明の詳細な説明に記載したものではなく、特許法第36条第6項第1号(サポート要件)を満たさない、と主張する(令和4年7月5日差出の意見書4頁)。
確かに、本件明細書の実施例において色相補正等の効果を奏するものとして具体的に記載されている外用組成物は、ヘパリン類似物質0.3重量%に対して酸化鉄等の金属酸化物を12重量%、すなわちヘパリン類似物質1重量部に対して金属酸化物を40重量部配合したもののみではあるが、外用組成物に含まれるヘパリン類似物質及び金属酸化物の配合比を、請求項2に記載の上記の範囲のものとできることについての説明は、本件明細書【0038】~【0040】に記載されており、そして、酸化鉄や白色の金属酸化物は発色に必要な着色剤や発色の調製剤として機能するものであること(本件明細書【0029】~【0033】)をふまえれば、金属酸化物の種類に応じて請求項2に記載の上記の配合比の範囲で調製して、実施例と同様又は類似の効果を奏するものを提供できることを当業者であれば理解するものといえる。
また、訂正後の請求項1及び5には、金属酸化物の配合比率に関する限定が一切ないものの、これらの請求項に係る発明の外用組成物は、それらの請求項における記載のとおり「色相補正剤」であるから、当該外用組成物に含まれる金属組成物の配合比は、本件明細書の実施例や発明の詳細な説明の記載、出願時の技術常識をふまえて把握できる、外用組成物が「色相補正剤」として機能する範囲に当然にあると当業者は理解する。
さらに、一般的に外用組成物において、含有される各成分には、外用組成物の用途や性状、各成分同士の関係等から、所期の機能や効果の発揮に適切な含有量や含有割合の範囲が存在するのが通常であり、極めて少量又は多量に配合した場合には所期の機能や効果が十分に得られなくなる場合があることは技術常識であるから、特許請求の範囲の記載において、ある成分を外用組成物が「含む」等と記載されている場合、当該成分についての発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識から把握し得る、当該成分が所期の機能や効果発揮するための量や割合が、当然に想定されていると解すべきである。
そうすると、本件訂正発明1~5のうち、本件明細書の実施例に具体的に記載されていない範囲について、実施例と同様又は類似の効果を奏さないとする根拠はなく、また、申立人も具体的に根拠を述べるものではないから、申立人の上記理由は採用できない。
b 申立人は、サポート要件に関して、さらに、本件発明の外用組成物に含まれる酸化鉄等には、シリコーン被覆が施されたものも包含されるところ、本件明細書にはシリコーン被覆を施した金属酸化物は開示されておらず、発明の詳細な説明は、出願時の技術常識を参酌して、シリコーン被覆を施した金属酸化物を使用した外用組成物一般において、ヘパリン類似物質と金属酸化物を組み合わせて使用し、外用組成物の粘度をある範囲に調整する場合には色相の補正等の効果が得られると、当業者において認識できる程度に具体例を開示して記載したものでないから、特許法第36条第6項第1号(サポート要件)を満たさない、とも主張する(令和3年9月28日差出の意見書7~8頁)。
しかしながら、本件訂正発明1~5の外用組成物は、シリコーン被覆を施した金属酸化物を必須のものとして含有するものでは何らない。そして、酸化鉄等の金属酸化物についてシリコーン被覆を施したものも採用できるからといって、そのようなものを酸化鉄等に加えて必要に応じて適宜採用した外用組成物では、実施例と同様又は類似の効果を奏し得ないとする技術的な根拠はなく、また、申立人も具体的に根拠を述べるものではないから、申立人の上記理由は採用できない。
ウ 小括
以上のとおり、本件訂正発明1~5はいずれも、本件明細書における発明の詳細な説明の記載に加え、出願時の技術常識を参酌することで、本件訂正発明1~5が解決しようとする課題を当業者が解決できると認識することができるものであるから、サポート要件に関する取消理由の理由3はその理由がない。
第6 取消理由通知で採用しなかった異議申立理由ついての当審の判断
1 異議申立理由の概要
異議申立書に記載された異議申立理由は概略、以下のとおりである。
(1)特許法29条第1項第3号及び特許法29条第2項について(同法第113条第2号)
ア 本件発明1は、甲第1号証に開示された引用発明1と同一であり、新規性を欠くため、特許法29条第1項第3号により特許を受けることができず、また、相違点が存在する場合、甲第1号証に開示された引用発明1並びに甲第2号証及び甲第3号証に記載された技術的事項に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであり、進歩性を欠くため、特許法29条第2項により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は同法第113条第2号により取り消されるべきものである。
イ 本件発明2、3は、甲第1号証に開示された引用発明1並びに甲第2号証及び甲第3号証に記載された技術的事項に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであり、進歩性を欠くため、特許法29条第2項により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は同法第113条第2号により取り消されるべきものである。
ウ 本件発明4は、甲第1号証に開示された引用発明1と同一であり、新規性を欠くため、特許法29条第1項第3号により特許を受けることができず、また、相違点が存在する場合、甲第1号証に開示された引用発明1並びに甲第2号証及び甲第3号証に記載された技術的事項に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものであり、進歩性を欠くため、特許法29条第2項により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は同法第113条第2号により取り消されるべきものである。
(2)特許法36条第6項第1号について(同法第113条第4号)
本件発明1~4についての特許は、以下の点で特許請求の範囲の記載に不備があるため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号により取り消されるべきものである。
ア 実施例に記載された金属酸化物や粘度以外を用いた外用組成物一般のものを包含する本件発明1~4の範囲にまで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化することはできない。
イ 乳化組成物以外の外用組成物一般のものを包含する本件発明1~3の範囲にまで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化することはできない。
(3)特許法36条第4項第1号について(同法第113条第4号)
本件発明1~4についての特許は、以下の点で明細書の発明の詳細な説明の記載に不備があるため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号により取り消されるべきものである。
ア 実施例に記載された金属酸化物や粘度以外を用いた外用組成物一般を製造、使用するためには過度の試行錯誤を要するため、発明の詳細な説明には、本件発明1~4について当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていない。
イ 乳化組成物以外の外用組成物一般のものを製造、使用するためには過度の試行錯誤を要するため、発明の詳細な説明には、本件発明1~3について当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていない。
(4)特許法36条第6項第2号について(同法第113条第4号)
本件発明1~4についての特許は、「金属酸化物」の定義が技術的に明確でないため、「金属酸化物」にはタルクが含まれるのか否かが不明であり、「金属酸化物」の外延が不明確であるから、特許請求の範囲の記載に不備があるため、特許法第36条第6項第6号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号により取り消されるべきものである。
なお、申立人は、令和3年9月28日差出の意見書において、特許請求の範囲に記載された「色相補正」の記載が不明確であることを理由に、本件特許は、特許法第36条第6項第6号に違反してされたものであり、同法第113条第4号により取り消されるべきものである旨を主張しているが(令和3年9月28日差出の意見書1~2頁)、「色相補正」の記載についての当該理由は、異議申立書に記載されたものでなく、本件特許についての特許異議申立期間が経過する時又は取消理由の通知がある時のいずれか早い時までにした補正に該当するものでもないから、異議申立理由としてこれを採用しない。
(5)証拠方法
甲第1号証: 特開2012-36176号公報
甲第2号証: 武田克之 ほか2名監修、「化粧品の有用性 評価技術の進歩と将来展望」、株式会社薬事日報社、2001年3月31日、300~311頁
甲第3号証: 特開2008-44901号公報
甲第4号証: 「R85型 粘度計」カタログ、東機産業株式会社、<URL:http://www.tokisangyo.co.jp/pdf/viscometer/R85.pdf> (申立人による出力日:令和2年8月14日)
甲第5号証: 「タルク」に関する「日本化粧品技術者会」のホームページの記事、<URL:https://www.sccj-ifscc.com/library/glossary_detail/1029>(申立人による出力日:令和2年6月30日)
甲第6号証: 酸化鉄等の「色材原料」に関する「石けん百貨株式会社」のホームページの記事<URL:https://cosme-science.jp/3000cosmetics/3030cosme-materials/3050b.html>
(申立人による出力日:令和2年8月20日)
(いずれも異議申立書と共に提出。以下、上記の番号の順に「甲1」等という。)
2 取消理由通知で採用しなかった異議申立理由
上記1に記載した異議申立理由の理由(1)~(4)のうち、取消理由通知で採用しなかったものは、理由(3)ア及びイ、理由(4)である。
以下、これらの理由について検討する。
(1)理由(3)ア及びイについての判断
理由(3)ア及びイは、上記第5(3)において記載した理由とその判断を示したものと、関連するものである。
そして、上記第5(3)イ(ア)にも記載したとおり、本件明細書の発明の詳細な説明には、粘度(【0018】~【0022】)、ヘパリン類似物質(【0023】~【0026】)、酸化鉄、白色顔料等である金属酸化物(【0027】~【0040】)、外用組成物の調製方法(【0061】~【0062】)、及び実施例(【0068】~【0094】)が記載されている。特に実施例には、外用組成物の一態様であるファンデーション剤として使用される乳化組成物であって、ヘパリン類似物質0.3重量%、並びに、酸化鉄(黄酸化鉄1.40重量%、赤酸化鉄0.40重量%、黒酸化鉄0.20重量%)、及び、本件明細書【0033】において「白色の金属酸化物」に相当すると説明されている酸化チタンやタルク(酸化チタン8.0重量%、タルク2.0重量%)、を含み、粘度が「20,000mPa・s~1,000,000mPa・s」の範囲にある23,000mPa・s~966,000mPa・sのものについて、色相の補正等の効果が得られることが具体的に記載されている。
そうすると、本件明細書の実施例や発明の詳細な説明の記載をふまえ、本件訂正発明1~5の範囲で金属酸化物の種類やその配合量、配合比、外用組成物の粘度を適宜調整することで、さらなる具体例の開示がなくとも、実施例と同様又は類似の効果を奏する外用組成物を製造し、使用できることは、当業者であれば認識できるといえ、過度の試行錯誤を要するようなものではない。
よって、申立人の主張する理由(3)ア及びイは採用できない。
(2)理由(4)についての判断
申立人が甲5を示して説明するように、「タルク」は含水ケイ酸マグネシウムを主成分とするものであって、学術的には「金属酸化物」に分類されるものではないものの、特許の明細書で用いられている用語が常に学術用語であるとは限らず、その有する普通の意味で使用されているとも限らないため、特許発明の技術的範囲の解釈に当たり、特許請求の範囲の用語、文章を理解し、正しく技術的意義を把握するためには、明細書の発明の詳細な説明の記載等を検討せざるを得ないものであるから、特許請求の範囲の文言が一義的に明確なものであるか否かにかかわらず、願書に添付した明細書の発明の詳細な説明の記載及び図面を考慮して、特許請求の範囲に記載された用語の意義を解釈すべきものとするのが相当である。このことは、特許法第70条において、その第1項に、「特許発明の技術的範囲は、願書に添付した特許請求の範囲の記載に基づいて定めなければならない。」と規定され、そして、同条第2項に「前項の場合においては、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮して、特許請求の範囲に記載された用語の意義を解釈するものとする。」と規定されていることとも合致する。
そして、外用組成物に含まれる「金属酸化物」に関して、本件特許の願書に添付した明細書には段落【0033】において、「白色の金属酸化物として、酸化クロム、酸化亜鉛(亜鉛華)、酸化チタン、酸化アルミニウム、タルク、クラウンタルク、カオリン等を用いることが好ましい。」と記載されており、そして本件特許の願書に添付した明細書においてこれと矛盾するあるいは整合しない、「金属酸化物」についての他の記載は存在しないことから、本件特許においては「金属酸化物」には「タルク」も該当すると解釈すべきである。
申立人は甲5及び甲6を示して、「タルク」はマイカやカオリンと同様に、化粧品では体質顔料として広く使われているものであるが、酸化チタン等の遷移金属酸化物のように色相補正効果を奏するものではなく、「金属酸化物」の定義に「タルク」が含まれるとすると、「金属酸化物」が発色に必要な着色剤や発色の調製剤として機能するという本件明細書の記載と技術的に矛盾することになると主張するが、甲5及び甲6において「タルク」には色相を補正する効果が全くないとことが具体的に示されているわけではない。そして例えば、特許権者が令和3年4月6日提出の意見書と共に提出した乙第6号証(特開2009-203188号公報)の【0014】における記載のとおり、「タルク」も酸化鉄や酸化チタンなどと同様に化粧料に色調補正効果を持たせることができる成分として当業者に把握されていたものであるから、「金属酸化物」及び「タルク」についての本件明細書における記載は技術的に特段矛盾せず、そして、本件訂正発明1~5における「金属酸化物」には「タルク」も含まれることについて、特許請求の範囲に記載がないことが、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるというほどのものではない。
よって、申立人の主張する理由(4)は採用できない。
第7 むすび
以上のとおりであるから、本件特許についての訂正の請求は、適法なものであり、これを認める。そして、令和3年2月1日付け取消理由通知に記載した取消理由、同年5月31日付け取消理由(決定の予告)に記載した取消理由及び令和4年3月14日付け取消理由(決定の予告)に記載した取消理由、並びに、特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件の請求項1~5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件の請求項1~5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、特許法第114条第4項の規定により、請求項1~5に係る特許について、結論のとおり決定する。
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2020-700660