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特許異議申立

2020-700886

皮膜形成方法

審判番号
2020-700886
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2019-190200外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
請求日
2020年11月19日
審決日
2021年03月15日
公報発行日
2021年05月28日
結論
維持
当事者
審判長/審判官
分類
P1651.121-Y (C23C)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第2項
データ出所
審決公報(SGML)

事件の表示

特許第6695065号発明「皮膜形成方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

【結 論】
特許第6695065号の請求項1~9に係る特許を維持する。

理由

目次 ▾ 7項目
【理 由】

1 手続の経緯

特許第6695065号の請求項1~9に係る特許についての出願は、令和1年10月17日に出願され、令和2年4月23日にその特許権の設定登録がされ、同年5月20日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、同年11月19日受付(書留番号297/533)で特許異議申立人である金山愼一(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがなされた。

2 本件特許発明

特許第6695065号の請求項1~9の特許に係る発明(以下、それぞれ「本件特許発明1」~「本件特許発明9」といい、これらをまとめて「本件特許発明」ということがある。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1~9に記載された次のとおりのものである。

「【請求項1】
亜鉛粉または亜鉛合金粉とショット球とを部材の表面に衝突させることで、前記亜鉛粉または前記亜鉛合金粉が潰れ互いに接合し、前記部材の表面に亜鉛皮膜または亜鉛合金皮膜を形成する工程と、
前記亜鉛皮膜または前記亜鉛合金皮膜の表面にオルガノシロキサン、アルコキシシランオリゴマーまたはコロイダルシリカを含む溶液を塗布し乾燥させる第1工程と、
前記第1工程の後、前記亜鉛皮膜または前記亜鉛合金皮膜の表面にオルガノシロキサン、アルコキシシランオリゴマーまたはコロイダルシリカを含む溶液を塗布し乾燥させる第2工程と、
続きを表示(全24行)
を含む皮膜形成方法。
【請求項2】
前記第1工程は、前記亜鉛皮膜または前記亜鉛合金皮膜の表面にテトラアルコキシシランを加水分解しかつ縮重合されたアルコキシシランオリゴマーを含む有機溶液を塗布し乾燥させる工程、または、前記亜鉛皮膜または前記亜鉛合金皮膜の表面に水性コロイダルシリカとアルコールおよび水の混合溶媒とを含む水性溶液を塗布し乾燥させる工程を含み、
前記第2工程は、前記亜鉛皮膜または前記亜鉛合金皮膜の表面にテトラアルコキシシランを加水分解しかつ縮重合されたアルコキシシランオリゴマーを含む有機溶液を塗布し乾燥させる工程、または、前記亜鉛皮膜または前記亜鉛合金皮膜の表面に水性コロイダルシリカとアルコールおよび水の混合溶媒とを含む水性溶液を塗布し乾燥させる工程を含む請求項1に記載の皮膜形成方法。
【請求項3】
前記第1工程は、前記亜鉛皮膜または前記亜鉛合金皮膜の表面に水性コロイダルシリカとアルコールおよび水の混合溶媒とを含む水性溶液を塗布し乾燥させる工程を含み、
前記第2工程は、前記亜鉛皮膜または前記亜鉛合金皮膜の表面にテトラアルコキシシランを加水分解しかつ縮重合されたアルコキシシランオリゴマーを含む有機溶液を塗布し乾燥させる工程を含む請求項1に記載の皮膜形成方法。
【請求項4】
前記第1工程は、前記亜鉛皮膜または前記亜鉛合金皮膜の表面にテトラアルコキシシランを加水分解しかつ縮重合されたアルコキシシランオリゴマーを含む有機溶液を塗布し乾燥させる工程を含み、
前記第2工程は、前記亜鉛皮膜または前記亜鉛合金皮膜の表面に水性コロイダルシリカとアルコールおよび水の混合溶媒とを含む水性溶液を塗布し乾燥させる工程を含む請求項1に記載の皮膜形成方法。
【請求項5】
前記亜鉛粉または前記亜鉛合金粉は、亜鉛、マグネシウムおよびアルミニウムを含む請求項1から4のいずれか一項に記載の皮膜形成方法。
【請求項6】
前記亜鉛粉または前記亜鉛合金粉の平均粒径は150μm以下である請求項1から5のいずれか一項に記載の皮膜形成方法。
【請求項7】
前記部材は金属部材である請求項1から6のいずれか一項に記載の皮膜形成方法。
【請求項8】
前記部材の表面は、鉄または鉄合金である請求項1から6のいずれか一項に記載の皮膜形成方法。
【請求項9】
前記アルコキシシランオリゴマーの重量平均分子量は1000から10000である請求項2から4のいずれか一項に記載の皮膜形成方法。」

3 特許異議の申立ての理由(進歩性)の概要

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申立人は、主たる証拠として次の甲第1号証(以下、「甲1」という。)を、従たる証拠として次の甲第2号証~甲第5号証(以下、「甲2」~「甲5」という。)を提示し、本件特許発明1~9は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、請求項1~9に係る特許は同法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである旨を主張する。

甲1:特開平4-198491号公報
甲2:特開昭57-145985号公報
甲3:特開2005-264170号公報
甲4:特開2010-174367号公報
甲5:特開2006-225761号公報

4 当審の判断

当審は、以下に述べるとおり、特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由(進歩性)によっては、請求項1~9に係る特許を取り消すことはできないと判断した。

(1)甲第1~5の記載事項と引用発明

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ア 甲1の記載事項と引用発明

ア-1

甲1には、以下の記載がある。下線は当審による(以下同じ。)。

(ア)「1.鉄または鉄合金を核としてこの核の周囲に鉄亜鉛合金層を介して亜鉛または亜鉛合金を被覆してなる複層被覆粒子の集合体からなるブラスト材料を金属表面に投射して亜鉛または亜鉛合金の被覆皮膜を形成し;このように形成された表面を、水性シリカ懸濁液およびTi,Zr,Mg,Ba,Sr,W,Ni,Co,Sn,Mo,Mnの少くとも1種の金属イオンを含む水溶液と接触させることからなる金属表面処理方法。」(特許請求の範囲第1項)

(イ)「3.まずシリカ懸濁液で処理し、次に金属イオン溶液による処理を行う請求項1に記載の方法。」(特許請求の範囲第3項)

(ウ)「(産業上の利用分野)
この発明は金属表面の防蝕処理に関する。」(明細書第1頁右下欄第6~7行)
(エ)「(従来技術とその問題点)
従来の金属表面の防食処理として、亜鉛を溶融めっきまたは電気めっきしてからクロメート処理するという方法はよく知られている。またブラスト亜鉛めっき法も知られている。最近鉄または鉄合金の粒子を核として、その周囲に鉄亜鉛合金層を介して亜鉛または亜鉛合金層を被着してなる独立した複数粒子の集合体からなる改良されたブラスト材料を鉄または鉄合金表面に投射することからなる改良されたブラスト亜鉛被覆法が開発された(特公昭59-9312)。 この方法を本明細書では改良ブラスト亜鉛被覆法と呼ぶ。
この方法は、設備が低順で、エネルギー消費が少なく環境汚染要素が少ない画期的な方法であるが、この方法によって形成された亜鉛被覆は耐食性においてなお充分でなく、100mg/dm2の付着量で、塩水噴霧試験において、24時間以内に赤錆が発生する。これは、この方法によって形成された亜鉛被覆が鉄亜鉛合金であることによると考えられる。
一方金属の表面処理の面からみると亜鉛めっき、亜鉛合金めっきおよび改良ブラスト亜鉛被覆法による処理のみでは充分な耐食性が得られないというのが実状である。従ってこの被処理物を耐食性の用途で使用する場合には、後処理を施す必要がある。」(明細書第1頁右下欄第8行~第2頁左上欄第13行)

(オ)「接触処理は、浸漬、塗布、スプレー等に実施されているが浸漬が最も実際的である。」(明細書第3頁左上欄第18~19行)

(カ)「本発明の効果は、シリカが亜鉛被覆相に、そのボアを埋めて吸着し、金属イオンが該シリカと結合してアモルファス状皮膜を形成するためと推定されている。」(明細書第3頁右上欄第4~7行)

(キ)「試験には100×50×2.0mmの軟鋼テストパネルを用いた。このテストパネルをトリクロロエタンで蒸気脱脂したのち、特公昭59-9312号 明細書に記載されている改良プラスト亜鉛被覆法による処理を行い表面に亜鉛-鉄合金被覆を生成させた。このテストパネルに実施例および比較例の後処理を施した。」(明細書第3頁右上欄第12~18行)

(ク)「実施例1
脱イオン水100部に対して、シリカ0.5部を加えて、均一に攪拌して、この処理液中に改良ブラスト亜鉛被覆法により処理したテストパネルを30秒間浸漬した後、温風乾燥した。次に脱イオン水100部に対して、 K2ZrF6をZrイオンとして0.5部を加えて、均一に攪拌して、前記の被処理物を常温で60秒間浸漬した。その後温風乾燥した。 この試料について耐食試験を行った。結果を表1に示す。」(明細書第3頁左下欄第6~14行)
(ケ)「実施例2
実施例1のシリカ懸濁液を刷毛を用いて塗布したのち、温風乾燥した。次に実施例1のK2ZrF6含有液を刷毛を用いて塗布したのち、温風乾燥した。
この試料について耐食試験を行った。結果を表1に示す。」(明細書第3頁左下欄第16行~右下欄第1行)
(コ)「
」(第5頁右上欄)

ア-2

そして、上記(ア)~(コ)のうち、特に(ア)、(キ)~(ケ)の記載を参照しながら実施例2の内容に着目すると、甲1には、以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているといえる。

<引用発明>

「鉄または鉄合金を核としてこの核の周囲に鉄亜鉛合金層を介して亜鉛または亜鉛合金を被覆してなる複層被覆粒子の集合体からなるブラスト材料を軟鋼テストパネルの表面に投射して、亜鉛または亜鉛合金の被覆皮膜を形成し、そこへ水性シリカ懸濁液を塗布し乾燥させ、次に、Zr金属イオンを含むK2ZrF6水溶液を塗布し乾燥させることからなる金属表面処理方法。」

イ 甲2の記載事項

甲2には、以下の記載がある。

(ア)「1. 平均粒径80~2000μのショットまたはグリット90~10重量%に、平均粒径が該ショットまたはグリットよりも小さくかつ40~1500μの範囲の融点400℃以上の金属または合金の粉末10~90重量%を混合した後、金属表面にブラストすることを特徴とする金属表面に耐食性皮膜を形成する方法。」(特許請求の範囲第1項)

(イ)「3. 前記融点400℃以上の金属または合金が亜鉛、アルミニウム、マグネシウム、銅、亜鉛-アルミニウム合金、亜鉛-銅合金、亜鉛-アルミニウム―鋼合金および亜鉛-アルミニウム-マグネシウム合金から選ばれる前記特許請求の範囲第1項または第2項記載の金属表面に耐食性皮膜を形成する方法。」(特許請求の範囲第3項)

(ウ)「亜鉛、アルミニウム、マグネシウム、銅およびこれらの合金のごとく融点が400℃以上の金属または合金を用いて鉄鋼等の金属表面に厚みのある耐食性皮膜を効果的に形成する方法はいまだ得られていない。
本発明はかかる要求を満足すべくなされたもので、鉄鋼等の金属表面に融点400℃以上の金属および合金の厚みのある耐食性皮膜を形成する方法を提供することを目的とする。」(第2頁右上欄第10~18行)
(エ)「実施例1~11および比較例1~5
スチールショットと亜鉛粉末を第1表に示すごとくそれぞれ混合し、空気式ブラスト機(投射速度50m/sec)またはロータリ一式ブラスト機(投射速度70~80m/sec)を用いて鉄鋼表面にブラストし(以下、混合1段ブラストという)得られるメッキ皮膜の厚さおよび耐食性を測定した。耐食性はJIS Z 2371による5%塩化ナトリウム塩水噴霧試験で評価した。結果を第1表に示す。ただし、実施例5~7は亜鉛粉末に替えて亜鉛-アルミニウム-マグネシウム合金粉末を用いた。」(第3頁右下欄第3~13行)
(オ)「
」

ウ.甲3の記載事項

甲3には、以下の記載がある。

(ア)「【請求項1】
アルコキシシランを加水分解し、かつ縮重合させた重量平均分子量が1000~10000であるアルコキシシランオリゴマーのアルコール溶液を主成分とし、シリカ成分に換算したアルコキシシランオリゴマーのアルコール溶液中の濃度が8~25重量%であることを特徴とする亜鉛めっき製品用非クロム表面処理剤。」
(イ)「【請求項2】
アルコキシシランがテトラアルコキシシランである請求項1に記載の亜鉛めっき製品用非クロム表面処理剤。」
(ウ)「【0021】
本発明の亜鉛めっき製品用非クロム表面処理剤は、電気亜鉛めっき製品の上に被膜を形成するのに適している。
【0022】
また、本発明の亜鉛めっき製品用非クロム表面処理剤は、亜鉛めっきの代わりに亜鉛粉末を防錆顔料として含む非クロムジンクリッチペイントが塗付された製品の上に被膜を形成するのに適している。」
(エ)「【0034】
亜鉛めっきの種類には、電気亜鉛めっき、電気合金亜鉛めっき、溶融亜鉛めっき、溶融亜鉛合金めっき等がある。電気亜鉛めっきにも、めっき浴の種類がいくつもある。これら種々の亜鉛めっきが施された製品の表面にクロメート処理に代えて本発明の非クロム表面処理剤を塗布すればクロメート処理では得られない、優れた防錆性能を付与できる。」
(オ)「【0037】
また、鱗片状の亜鉛粉末又は鱗片状のアルミニウム粉末と鱗片状の亜鉛粉末の混合粉末を防錆顔料に用いた防錆塗料の塗膜上に塗布する表面処理剤としても同様に使用でき、白錆の発生を長時間抑制する防錆性能を付与できる。また、粒状の亜鉛粉末を顔料とするジンクリッチペイントの塗膜の表面に本発明の表面処理剤を塗布すると、赤錆の防止は勿論、白錆の発生を長時間抑制できる。」
(カ)「【0043】
(実施例1)
テトラエトキシシランをイソプロピルアルコールで希釈し、水と酸触媒(塩酸)を加えて加水分解し、縮重合させたシリカ成分の濃度が約20重量%であるアルコキシシランオリゴマー(重量平均分子量が2240、「アルコキシシランオリゴマー1」と呼ぶ。)のアルコール溶液を得た。このアルコキシシランオリゴマー1のアルコール溶液72重量部に対しエチルセロソルブ8重量部を混合して実施例1の表面処理剤(無色透明の液)を得た。この表面処理剤をシアン化亜鉛浴で約6μmの電気亜鉛めっきをしたM8六角ボルト(シアン化亜鉛浴使用、亜鉛めっき厚さ約6μm、全長約50mmの半ねじ、クロメート処理をする前の状態の白あげ品を気化防錆剤入りの容器中に保管)3本をこの表面処理剤中に浸し、取り出して余分な表面処理剤を遠心力で振り落とすディップアンドスピン法(回転半径約15cm、回転数400RPM)で表面処理剤を塗布し、乾燥後180℃で15分間焼き付けた。この表面処理した3本のボルトを、塩水噴霧試験機(JIS-Z2371に準拠)に入れて防錆性能を調べた。
【0044】
その結果、408時間後に3本のうちの2本のボルトに白錆の発生を認めた。その後引き続き塩水噴霧試験機に入れておいたが、2000時間経過後にも赤錆の発生は認められなかった。」

エ.甲4の記載事項

甲4には、以下の記載がある。

(ア)「【請求項1】
酸性側のpHで安定化されている水性コロイダルシリカと、水溶性有機酸のチタンキレート化合物と、水に可溶でアルカリ性を呈さないシランカップリング剤と、アルコール及び水の混合溶媒とを含む水性溶液であり、亜鉛表面を有する金属部材の表面に塗布してシリカ質皮膜を形成する処理剤として用いられることを特徴とする金属部材用非クロム水性防錆表面処理剤。」
(イ)「【発明の効果】
【0026】
本発明の表面処理剤は、非クロム防錆表面処理剤であり、この表面処理剤を亜鉛表面を有する金属部材に塗布して薄いシリカ質皮膜を形成すれば、塩水噴霧試験において白錆の発生を100時間以上防止する防錆性能を付与することが出来る。」
(ウ)「【実施例1】
【0061】
水性コロイダルシリカとしてコロイダルシリカA(スノーテックス-O)を50重量部用いた。コロイダルシリカAはシリカの粒子径が10~20nmであり、酸性側のpH(2~4)で安定化されている。
【0062】
シランカップリング剤としては、シランカップリング剤A(Z-6040)を20重量部用いた。有機酸のチタンキレート化合物としては、チタンキレート化合物溶液A(TC-300)を6重量部用いた。TC-300は、アンモニアで中和された概ね中性(pH約7)を示す乳酸チタンアンモニウム塩を42重量%と、IPA及び水を含む溶液である。さらに、イソプロピルアルコール10重量部を用いた。
【0063】
この実施例1の水性表面処理剤中には、水性コロイダルシリカとTC-300溶液に含まれる水を合わせて41.2重量部の水と、アルコールを20.4重量部含むので、混合溶媒中のアルコール成分の割合は約33.1重量%である。
【0064】
ジンケート浴(アルカリ浴とも言う)で厚さ約7μmの亜鉛めっきを施し、稀い硝酸の水溶液を使う活性化処理を行わないで乾かした(「白あげ」と言う)M8×45mmサイズの鋼製半ねじボルト4本を準備した。この4本のボルトを実施例1の表面処理剤の液中に浸して振動を与え、表面処理剤の液によく濡らした後、ボルトを液中から取り出してステンレス鋼製網の茶漉し器に入れ、ボルトを入れた茶漉し器を遠心分離機に納め、回転半径約15cm、回転数700RPMで遠心分離機を2秒間回転させ、ボルトの表面に付着している余分の液を振り飛ばした(ディップアンドスピン法)。この方法で表面処理剤を塗布したボルトを乾燥器に入れて100℃に昇温後、15分間保持し、冷却した。」

オ.甲5の記載事項

甲5には、以下の記載がある。

(ア)「【請求項1】
亜鉛表面を有する金属部材の表面に非クロム化成処理液で化成処理を施して化成処理膜を形成し、化成処理膜の表面に、アルコール溶媒又は水とアルコールとの混合溶媒中にシリカ成分又はシリカに変化する成分を含む非クロム表面処理剤溶液を塗布し、平均厚さが0.5~3μmのシリカ質皮膜を形成する亜鉛表面を有する金属部材の非クロム防錆処理方法。」
(イ)「【請求項5】
非クロム表面処理剤溶液が、水とアルコールとの混合溶媒中にシリカ成分としてコロイドシリカをシリカに換算して10~25重量%含む請求項2に記載の亜鉛表面を有する金属部材の非クロム防錆処理方法。」
(ウ)「【請求項6】
非クロム表面処理剤溶液が、アルコキシシランモノマーを加水分解して縮重合させたアルコキシシランオリゴマーを、シリカに変化する成分として、アルコール溶媒中にシリカに換算して10~25重量%含む請求項2に記載の亜鉛表面を有する金属部材の非クロム防錆処理方法。」
(エ)「【0064】
表面処理剤溶液の亜鉛表面を有する金属部材への塗布は、亜鉛めっきされたボルトやナットなどの小物ではディップアンドスピン法で行うのが好ましい。ディップアンドスピン法を適用できないときにはディップドレイン法、スプレー法、ロールコーター法など種々の方法を利用できる。ディップアンドスピン法で行う塗布はワンコートワンベークで防錆性能を充分向上させられる。しかし、2回繰り返す(2コート、2ベーク)ことによって表面処理剤の皮膜で亜鉛の全表面を覆うことができ、これにより金属部材個々の防錆性能のバラツキを少なくすることができる。」

(2)引用発明との対比・判断

ア.本件特許発明1について

(ア)対比

a.本件特許発明1(上記2)は、

「亜鉛粉または亜鉛合金粉とショット球とを部材の表面に衝突させることで、前記亜鉛粉または前記亜鉛合金粉が潰れ互いに接合し、前記部材の表面に亜鉛皮膜または亜鉛合金皮膜を形成する工程と、
前記亜鉛皮膜または前記亜鉛合金皮膜の表面にオルガノシロキサン、アルコキシシランオリゴマーまたはコロイダルシリカを含む溶液を塗布し乾燥させる第1工程と、
前記第1工程の後、前記亜鉛皮膜または前記亜鉛合金皮膜の表面にオルガノシロキサン、アルコキシシランオリゴマーまたはコロイダルシリカを含む溶液を塗布し乾燥させる第2工程と、
を含む皮膜形成方法。」

であるのに対し、引用発明(上記(1)ア-2)は、「鉄または鉄合金を核としてこの核の周囲に鉄亜鉛合金層を介して亜鉛または亜鉛合金を被覆してなる複層被覆粒子の集合体からなるブラスト材料を軟鋼テストパネルの表面に投射して、亜鉛または亜鉛合金の被覆皮膜を形成し、そこへ水性シリカ懸濁液を塗布し乾燥させ、次に、Zr金属イオンを含むK2ZrF6水溶液を塗布し乾燥させることからなる金属表面処理方法。」である。

b.本件特許発明1と引用発明とを対比すると、引用発明の「軟鋼テストパネル」及び「亜鉛または亜鉛合金の被覆皮膜」は、それぞれ本件特許発明1の「部材」及び「亜鉛皮膜または亜鉛合金皮膜」に相当する。

c.また、引用発明の「鉄または鉄合金を核としてこの核の周囲に鉄亜鉛合金層を介して亜鉛または亜鉛合金を被覆してなる複層被覆粒子の集合体からなるブラスト材料」を「表面に投射」する工程は、本件特許発明1の「亜鉛粉または亜鉛合金粉とショット球とを部材の表面に衝突させる」工程とは、衝突させる亜鉛または亜鉛合金を含む粉の態様が異なるものの、両者とも、部材の表面に「亜鉛または亜鉛合金」を形成する「ブラスト法」である点では共通している。

d.また、引用発明の「水性シリカ懸濁液」は、本件特許発明1のような「コロイダルシリカを含む溶液」とまで具体化されているものではないが、両者は「シリカを含む溶液」である点では共通している。

e.また、引用発明の「金属表面処理方法」は、軟鋼テストパネルの表面に亜鉛-鉄合金被覆を生成させ、水性シリカ懸濁液を塗布し乾燥させ、次に、Zr金属イオンを含むK2ZrF6水溶液を塗布し乾燥させる結果として、本件特許発明1のような「皮膜」が形成されるものであり、本件特許発明1の「皮膜形成方法」に相当する。

f.そうすると、本件特許発明1と引用発明とは、以下の一致点及び相違点を有する。

<一致点>

「ブラスト法を用いて部材の表面に亜鉛皮膜または亜鉛合金皮膜を形成する工程と、
前記亜鉛合金皮膜の表面にシリカを含む溶液を塗布し乾燥させる第1工程を含む皮膜形成方法。」

<相違点1>

本件特許発明1のブラスト法は、「亜鉛粉または亜鉛合金粉とショット球とを部材の表面に衝突させることで、前記亜鉛粉または前記亜鉛合金粉が潰れ互いに接合し、前記部材の表面に亜鉛皮膜または亜鉛合金皮膜を形成する」ものであるのに対し、引用発明のブラスト法は、「鉄または鉄合金を核としてこの核の周囲に鉄亜鉛合金層を介して亜鉛または亜鉛合金を被覆してなる複層被覆粒子の集合体」を部材の表面に衝突させるという、具体的内容が異なる方法である点。

<相違点2>

亜鉛合金皮膜の表面にシリカを含む溶液を塗布し乾燥させる第1工程について、本件特許発明1は「シリカ」として「コロイダルシリカ」を用いているのに対し、引用発明の「シリカ」は「コロイダルシリカ」とまでは特定されていない点。

<相違点3>

第1工程の後に行われる工程として、本件特許発明1は、「表面にオルガノシロキサン、アルコキシシランオリゴマーまたはコロイダルシリカを含む溶液を塗布し乾燥させる第2工程」を備えるのに対し、引用発明は、「Zr金属イオンを含むK2ZrF6水溶液を塗布し乾燥させる」という工程を備える点。

(イ)判断

上記相違点1について検討する。

a.引用発明は、上記(1)ア(エ)のように、従来の「改良ブラスト亜鉛被覆法」(特公昭59-9312号公報記載)について「この方法によって形成された亜鉛被覆は耐食性においてなお充分でなく、100mg/dm2の付着量で、塩水噴霧試験において、24時間以内に赤錆が発生する。これは、この方法によって形成された亜鉛被覆が鉄亜鉛合金であることによると考えられる。」との課題を踏まえ、「この被処理物を耐食性の用途で使用する場合には、後処理を施す必要がある。」との技術思想に基づき、耐食性向上のための適切な後処理として、「水性シリカ懸濁液を塗布し乾燥させ、次に、Zr金属イオンを含むK2ZrF6水溶液を塗布し乾燥させる」ことが、当該課題を解決する手段となっているものである。

b.そして、上記a.の引用発明の課題が生じるのは、亜鉛被覆が鉄亜鉛合金であることにより耐食性が十分でない(赤錆が発生しやすい)ことが原因であって、それは、「鉄または鉄合金の粒子を核として、その周囲に鉄亜鉛合金層を介して亜鉛または亜鉛合金層を被着してなる独立した複数粒子の集合体」(上記ア(エ))を部材の表面に衝突させる「改良ブラスト亜鉛被覆法」を用いることを前提とするものであると認められる。そうすると、引用発明における「改良ブラスト亜鉛被覆法」を、他のブラスト法に置換すると、そもそも引用発明の課題が生じるとは限らず、その場合には課題を解決する手段である後処理を行う必要がなくなることから、引用発明において、「改良ブラスト亜鉛被覆法」を置換することには阻害要因があるといえる。

c.ここで、甲2には、スチールショットと亜鉛粉末又は亜鉛-アルミニウム-マグネシウム合金粉末とを混合してブラストすること(上記(1)イ(エ)~(オ))で、鉄鋼等の金属表面に融点400℃以上の金属および合金の厚みのある耐食性皮膜を形成する技術(上記(1)イ(ウ))が開示されており、そのような甲2記載のブラストに関する技術自体、上記相違点1に係る本件特許発明1のブラスト法と同様のものとは認められる。

d.しかしながら、甲2の記載から、ブラストして形成される耐食性被膜について、耐食性が十分でない(赤錆が発生しやすい)という課題は把握されないので、引用発明が前提とする「改良ブラスト亜鉛被覆法」に起因する課題が、甲2に記載された発明のブラスト法でも同様に生じる課題と認識することはできないから、引用発明のブラスト法を、上記b.の阻害要因があっても、同様の課題を解決するために、甲2記載のブラスト法に置換することが動機付けられるともいえない。

e.そして、甲2に記載された事項を総合的に勘案しても、引用発明のブラスト法を甲2記載のブラスト法に置換する十分な動機があるともいえず、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)といえども、適宜なしえたこととはいえない。

f.また、申立人が異議申立書とともに提示したその他の証拠方法(甲3~甲5)を検討すると、

(a)甲3には、上記(1)ウのような、クロメート処理では得られない優れた防錆性能を付与できる亜鉛めっき製品用非クロム表面処理剤に関する記載がなされており、

(b)甲4には、上記(1)エのような、亜鉛表面を有する金属部材に塗布して薄いシリカ質皮膜を形成し、塩水噴霧試験において白錆の発生を100時間以上防止する防錆性能を付与することが出来る金属部材用非クロム水性防錆表面処理剤に関する記載がなされており、

(c)甲5には、上記(1)オのような、シリカ質皮膜を形成する亜鉛表面を有する金属部材の非クロム防錆処理方法に関する記載がなされているが、

これらいずれの証拠方法からも、当業者が引用発明のブラスト法と置換できるような上記相違点1に係るブラスト法は、何ら示唆されない。

g.なお、ここでは、主たる証拠として甲1を用いたうえで引用発明を認定し、本件特許発明1との対比・判断を行ったが、仮に、主たる証拠として甲2を用いた場合も、耐食性が十分でない(赤錆が発生しやすい)という課題は把握されないため、本件特許発明1のような「前記亜鉛皮膜または前記亜鉛合金皮膜の表面にオルガノシロキサン、アルコキシシランオリゴマーまたはコロイダルシリカを含む溶液を塗布し乾燥させる第1工程」と、「前記第1工程の後、前記亜鉛皮膜または前記亜鉛合金皮膜の表面にオルガノシロキサン、アルコキシシランオリゴマーまたはコロイダルシリカを含む溶液を塗布し乾燥させる第2工程」とを実現する動機がなく、判断の結論は変わらない。

(ウ)小括

以上のとおりであるから、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、申立人が主たる証拠として提示をした甲1に記載された発明と、従たる証拠として提示をした甲2~甲5に記載された事項とにより、当業者が容易になし得たものとはいえない。

イ.本件特許発明2~9について

本件特許発明2~9は、本件特許発明1を直接または間接的に引用し、本件特許発明1の構成要件全て含むものである。

したがって、本件特許発明2~9は、本件特許発明1と同様に、申立人が主たる証拠として提示をした甲1に記載された発明と、従たる証拠として提示をした甲2~甲5に記載された事項とにより、当業者が容易になし得たものとはいえない。

ウ.特許異議の申立ての理由(進歩性)についてのまとめ

以上、上記イ.のとおりであるから、進歩性に関する特許異議の申立ての理由を採用することはできない。

5 むすび

したがって、特許異議の申立てのいずれの理由及び証拠によっても、請求項1~9に係る特許を取り消すことはできない。

また、他に請求項1~9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。

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2020-700886

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