特許異議申立
2020-700827
ポリカーボネート樹脂組成物及び光学成形品
- 審判番号
- 2020-700827
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2017-523655
- 登録番号
- 6702615
- 請求日
- 2020年10月23日
- 審決日
- 2022年08月03日
- 公報発行日
- 2022年11月25日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】出光興産株式会社
- 【権利者代理人】大谷 保
- 【権利者代理人】佐々木 渉
- 【異議申立人】岡本 敏夫
- 審判長/審判官
- 審判長 杉江 渉
- 審判官 近野 光知
- 審判官 土橋 敬介
- 分類
- P1652.113-YAA(C08L) / P1652.121-YAA(C08L) / P1652.537-YAA(C08L)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第9項、特許法第126条第7項、特許法第120条の5第2項、特許法第113条第2号、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第1項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6702615号発明「ポリカーボネート樹脂組成物及び光学成形品」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第6702615号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、〔1-13〕について訂正することを認める。
特許第6702615号の請求項1~6、8~13に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本件特許(特許第6702615号)についての出願は、平成28年6月7日(優先権主張 平成27年6月8日、日本国)を国際出願日とする出願であって、令和2年5月11日にその特許権の設定登録がされたものである(特許掲載公報の発行は同年6月3日)。その後、令和2年10月23日に、本件特許の請求項1~6、8~13に係る特許に対して、特許異議申立人である岡本敏夫(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされた。
本件特許異議の申立てにおける手続の経緯は、次のとおりである。
令和3年 3月11日付け:取消理由通知書
同年 5月13日 :訂正請求書、意見書(特許権者)
同年 5月27日付け:通知書(申立人)
同年 6月21日 :意見書(申立人)
同年 9月30日付け:訂正拒絶理由通知書
同年11月 2日 :手続補正書、意見書(特許権者)
同年11月30日付け:取消理由通知書(決定の予告)
令和4年 1月 6日付け:応対記録
同年 1月27日 :訂正請求書、意見書(特許権者)
同年 4月13日付け:通知書(申立人)
なお、令和3年5月13日に提出された訂正請求書は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたとみなす。また、申立人に対して、令和4年4月13日付け通知書により、訂正請求があった旨の通知をしたが、申立人からの応答はなかった。
第2 訂正の請求について
1 訂正の内容
令和4年1月27日にした訂正(以下、「本件訂正」という。)の請求の趣旨は、本件特許の特許請求の範囲を訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~13について訂正することを求めるものであり、その訂正の内容は次の訂正事項1~5のとおりである(下線は訂正箇所を示し、当審が付与した。)。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、
「前記芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対して、前記リン系化合物(B)0.005質量部以上1質量部以下及び前記ポリカプロラクトンポリオール(C)0.005質量部以上5質量部以下を含有し、」とあるのを、
「前記芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対して、前記リン系化合物(B)0.005質量部以上1質量部以下及び前記ポリカプロラクトンポリオール(C)0.005質量部以上5質量部以下を含有し、
前記ポリカプロラクトンポリオール(C)が、分子量が500以上5,000以下である、ポリカプロラクトンジオール、ポリカプロラクトントリオール及びポリカプロラクトンテトラオールからなる群から選ばれる少なくとも1つであり、」に訂正する。請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2~13も同様に訂正する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項7を削除する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項8における「請求項2~7のいずれか1つに記載のポリカーボネート樹脂組成物。」という記載を「請求項2~6のいずれか1つに記載のポリカーボネート樹脂組成物。」に訂正する。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項9における「請求項1~8のいずれか1つに記載のポリカーボネート樹脂組成物。」という記載を「請求項1~6、8のいずれか1つに記載のポリカーボネート樹脂組成物。」に訂正する。
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項10における「請求項1~9のいずれか1つに記載のポリカーボネート樹脂組成物。」という記載を「請求項1~6、8、9のいずれか1つに記載のポリカーボネート樹脂組成物。」に訂正する。
(6)一群の請求項について
訂正前の請求項1~13について、請求項2~13は、請求項1を直接又は間接的に引用するものであり、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものであるから、訂正前の請求項1~13に対応する訂正後の請求項1~13は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
したがって、訂正事項1~5による本件訂正は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項に対して請求されたものである。
2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張又は変更の存否
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、請求項1における「ポリカプロラクトンポリオール(C)」の種類を、請求項7及び明細書の【0035】を基に特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(2)訂正事項2について
訂正事項2は、請求項7を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。そして、訂正事項2の訂正は、特許異議の申立てがされていない請求項7に係る訂正であり、訂正後の請求項7にかかる発明は、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項で規定する、いわゆる独立特許要件を満たすものでなければならないが、請求項7は削除され、独立特許要件の判断の対象となる請求項は存在しなくなったため、検討しない。
(3)訂正事項3~5について
訂正事項3~5は、請求項8~10において、引用する請求項の中から請求項7を削除するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
3 訂正の適否についての判断のまとめ
以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
したがって、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-13〕について訂正することを認める。
第3 訂正後の本件発明
第2で検討したとおり、本件訂正は認められるので、本件特許の請求項1~13に係る発明は、訂正された特許請求の範囲の請求項1~13に記載された事項により特定される以下のとおりのものである(以下、「本件発明1」~「本件発明13」という。また、願書に添付した明細書を「本件明細書」という。)。
「【請求項1】
芳香族ポリカーボネート樹脂(A)、アリール基を有するリン系化合物(B)及びポリカプロラクトンポリオール(C)を含有するポリカーボネート樹脂組成物であって、
前記芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対して、前記リン系化合物(B)0.005質量部以上1質量部以下及び前記ポリカプロラクトンポリオール(C)0.005質量部以上5質量部以下を含有し、
前記ポリカプロラクトンポリオール(C)が、分子量が500以上5,000以下である、ポリカプロラクトンジオール、ポリカプロラクトントリオール及びポリカプロラクトンテトラオールからなる群から選ばれる少なくとも1つであり、
前記リン系化合物(B)は、下記一般式(II)で表されるペンタエリスリトールジフォスファイト化合物であって、40℃、湿度90%の条件下で放置したときに1,500時間後に分解して発生するフェノール構造を有する化合物の量が、前記リン系化合物(B)に対して5質量%以下である化合物であり、
前記リン系化合物(B)は、窒素雰囲気下、示差熱-熱重量測定(TG-DTA)機を使って、重量を測定した場合に測定前の重量から2%の重量が減少する温度が340℃以上である化合物である、ポリカーボネート樹脂組成物。
【化1】
[図:0001390536000001.jpg]
(式中、Y1~Y4は炭素数6以上15以下の炭化水素基を示し、同一でも異なっていてもよい。)
【請求項2】
前記芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対して、下記式(1)で示すポリエーテル化合物(D)5質量部以下を更に含む、請求項1に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
RD3O-(RD1O)m(RD2O)n-RD4 (1)
(式中、RD1及びRD2は炭素数1以上のアルキレン基を示し、RD1とRD2とは同一でも異なっていてもよい。m+nは5以上300未満である。mが2以上の場合にRD1は、同一であっても異なっていてもよく、nが2以上の場合にRD2は、同一であっても異なっていてもよい。RD3及びRD4は水素原子、炭素数1以上30以下の炭化水素基、炭素数1以上30以下のアルカノイル基、炭素数2以上30以下のアルケノイル基又はグリシジル基を示し、RD3とRD4は同一でも異なっていてもよい。)
【請求項3】
前記芳香族ポリカーボネート樹脂(A)が、主鎖が下記一般式(I)で表される繰り返し単位を有するポリカーボネートである、請求項1又は2に記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【化2】
[図:0001390536000002.jpg]
(式中、RA1及びRA2は、炭素数1以上6以下のアルキル基又はアルコキシ基を示し、RA1とRA2とは同一でも異なっていてもよい。Xは単結合、炭素数1以上8以下のアルキレン基、炭素数2以上8以下のアルキリデン基、炭素数5以上15以下のシクロアルキレン基、炭素数5以上15以下のシクロアルキリデン基、-S-、-SO-、-SO2-、-O-又は-CO-を示し、a及びbは、それぞれ独立に0以上4以下の整数を示す。aが2以上の場合にはRA1は同一でも異なっていてもよく、bが2以上の場合にはRA2は同一でも異なっていてもよい。)
【請求項4】
前記式(II)におけるY1~Y4がそれぞれ独立に、無置換でも置換されていてもよいクミル基、無置換でも置換されていてもよいフェニル基、無置換でも置換されていてもよいナフチル基、又は無置換でも置換されていてもよいビフェニル基である、請求項1~3のいずれか1つに記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項5】
前記リン系化合物(B)が、下記一般式(II-1)で表されるペンタエリスリトールジフォスファイト化合物である、請求項1~4のいずれか1つに記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【化3】
[図:0001390536000003.jpg]
(式中、RB1~RB8はアルキル基又はアルケニル基を示し、同一であっても異なっていてもよい。RB1とRB2、RB3とRB4、RB5とRB6、RB7とRB8は、互いに結合して環を形成してもよい。RB9~RB12は水素原子又はアルキル基を示し、同一でも異なっていてもよい。m1~m4は0以上5以下の整数であり、同一でも異なっていてもよい。Z1~Z4は単結合又は炭素原子を示し、同一でも異なっていてもよい。Z1~Z4が単結合を示す場合、RB1~RB8は一般式(II-1)から除外される。)
【請求項6】
前記リン系化合物(B)が、ビス(2,4-ジクミルフェニル)ペンタエリスリトールジフォスファイトである、請求項1~5のいずれか1つに記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項7】
(削除)
【請求項8】
前記ポリエーテル化合物(D)が、式(1)中のRD1及びRD2が炭素数2以上5以下のアルキレン基であり、RD3及びRD4が水素原子であるポリエーテル化合物である、請求項2~6のいずれか1つに記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項9】
前記芳香族ポリカーボネート樹脂(A)の粘度平均分子量(Mv)が9,000以上50,000以下である、請求項1~6、8のいずれか1つに記載のポリカーボネート樹脂組成物。
【請求項10】
請求項1~6、8、9のいずれか1つに記載のポリカーボネート樹脂組成物を含む光学成形品。
【請求項11】
光学成形品が導光部材である、請求項10に記載の光学成形品。
【請求項12】
前記光学成形品が車両用導光部品である、請求項10又は11に記載の光学成形品。
【請求項13】
請求項12に記載の光学成形品を含むデイタイムランニングライト。」
第4 特許異議申立書に記載した申立ての理由及び当審が通知した取消理由について
1 特許異議申立書に記載した申立ての理由
本件特許の請求項1~6、8~12に係る特許は、下記(1)~(4)のとおり、特許法第113条第2号及び第4号に該当し、取り消されるべきものである。証拠方法として、 下記(5)の甲第1号証~甲第10号証(以下、「甲1」等という。)を提出する。
(1)申立理由1(新規性)
本件訂正前の請求項1、3~6、9~12に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明である甲1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、上記請求項に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。
(2)申立理由2(進歩性)
本件訂正前の請求項1~6、8~13に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明である甲1に記載された発明及び甲2に記載された事項に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、上記請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(3)申立理由3(進歩性)
本件訂正前の請求項1に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明である甲7に記載された発明及び甲2に記載された事項に基いて、本件特許出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、上記請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(4)申立理由4(サポート要件)
本件訂正前の請求項1~6、8~13に係る特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
記
「本件特許発明1~6および8~13について、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載されているとは言えない。これは、本件特許発明1~6および8~13については、ポリカプロラクトンポリオールの分子量について何ら規定されていないためである。」(申立書72頁13~16行)
(5)証拠方法
ア 特許異議申立書に添付した証拠方法
甲1 特開2007-131679号公報
甲2 特開2015-93912号公報
甲3 特開2020-94227号公報
甲4 春名徹編著、「高分子添加剤ハンドブック」、シーエムシー出版、第1版第2刷、40頁、2014年7月20日
甲5 DOVERPHOS○R(当審注:○は丸付き文字を表す。以下同様。)S-9228&DOVERPHOS○R S-9411、Dover Chemical Corporation、June 10,2011、及び抄訳文
甲6 国際公開第2013/088796号
甲7 特開2012-140472号公報
甲8 日油株式会社油化事業部、「油化製品総合カタログ」、2019年2月作成(改訂17版)
甲9 特開2020-90648号公報
甲10 特開2014-7049号公報
イ 申立人が令和3年6月21日提出の意見書に添付した証拠方法
参考資料1 DAICEL Corporation、「Technical News PLACCEL H1Pの各種樹脂との相溶性」と称される文書
参考資料2 DAICEL Corporation、「Technical News “ポリカーボネート用添加剤の紹介”-PLACCEL H1P、CEL2021P-」と称される文書
参考資料3 Perstorp社、製品概要
参考資料4 特開2013-139097号公報
2 当審が通知した取消理由
(1)令和3年11月30日付け取消理由通知書(決定の予告)で通知した取消理由
ア 取消理由1a(進歩性)
本件訂正前の請求項1~6、8~13に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明である甲1に記載された発明、並びに甲2、甲5、甲6及び引用文献Bに記載された事項に基いて、引用文献Aに記載された事項を参照して、本件特許出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、上記請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
引用文献A 株式会社ダイセルのウェブサイト“製品紹介 プラクセル H1P[PCL H1P]”,[online],[令和3年2月24日検索],インターネット,URL:https://www.daicel.com/yuuki/product/index.php?act=detail&page=1&id=54
引用文献B 三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社のウェブサイト“製品名:IUPILON(H-4000 自然色) 製品安全データシート”,[online],2011年1月31日,[令和3年2月24日検索],インターネット,URL:https://www.m-ep.co.jp/member/msds/pdf/iupilon/H-4000_na.pdf
イ 取消理由1b(進歩性)
本件訂正前の請求項1~6、8~13に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明である甲7に記載された発明、並びに甲2、甲4~6及び甲10に記載された事項に基いて、引用文献Cに記載された事項を参照して、本件特許出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、上記請求項に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
引用文献C “Capa○R For spearhead performance”と題された冊子,[online],p.23の“Capa○R Thermoplastic polyprolactones”欄,[令和3年2月24日検索],インターネット,URL:http://www.chemcam.it/Capa.pdf
ウ 取消理由2a(サポート要件)
本件訂正前の請求項1~6、8~13に係る特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
記
「ポリカプロラクトンポリオール(C)の分子量が、本件発明1の課題の解決に影響することが推察されるにもかかわらず、1000及び2000以外の分子量である「ポリカプロラクトンポリオール(C)」を用いた具体例は示されておらず、1000未満又は2000超の分子量である場合であっても、上記課題を解決することを確認することはできない。」
(2)令和3年3月11日付け取消理由通知書で通知した取消理由
ア 取消理由1c(進歩性)
取消理由1aと同旨。
イ 取消理由1d(進歩性)
取消理由1bと同旨
ウ 取消理由2b(サポート要件)
取消理由2aと同旨。
第5 当審の判断
1 取消理由1a(進歩性)について
取消理由1aは、令和3年3月11日付け取消理由通知書(決定の予告)で通知した取消理由1c(進歩性)及び申立理由2(進歩性)と同旨であるから、併せて検討する。また、申立理由1(新規性)は、取消理由1aと同じく、甲1を主引用文献とする理由であるから、併せて検討する。
(1)甲1に記載された事項及び甲1に記載された発明
ア 甲1に記載された事項
甲1には、請求項1~3(導光板)、【0009】(発明の課題)、【0012】(効果)、【0014】~【0034】(芳香族ポリカーボネート樹脂)、【0035】~【0038】(カプロラクトン系重合体)、【0039】~【0071】(リン系化合物)、【0092】~【0106】(実施例)に関する記載がある。
具体的には、甲1には、次の記載がある。
「【請求項1】
(A)芳香族ポリカーボネート樹脂に、(B)カプロラクトン系重合体を配合してなる芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を成形してなる導光板。
【請求項2】
(A)成分及び(B)成分の合計100重量部中、(A)成分が85~99.9重量部、(B)成分が0.1~15重量部含有することを特徴とする、請求項1に記載の導光板。
【請求項3】
(A)成分及び(B)成分の合計100重量部に対して、下記一般式(I)で表されるリン系化合物を0.001~0.3重量部含有してなる、請求項1又は2に記載の導光板。
【化1】
[図:0001390536000004.jpg]
(一般式(I)中、R’はアルキル基またはアリール基であり、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。)」
「【0012】
本発明の導光板は、従来の芳香族ポリカーボネート樹脂製導光板に比較し、高輝度性、高転写性で、かつ、色相、耐候性、機械的強度、耐熱性に優れているので、携帯電話、携帯端末、カメラ、時計、ノートパソコン、ディスプレイ、照明、信号、自動車のテールランプ、電磁調理器の火力表示など、幅広い用途での導光板として使用することが期待できる。」
「【0035】
(B)カプロラクトン系重合体
本発明に関わる(B)カプロラクトン系重合体は、重合体中にε-カプロラクトン由来の構成単位を、少なくとも70重量%以上、好ましくは75重量%以上、更に好ましくは80重量%以上含有する重合体又は共重合体である。ε-カプロラクトンと共重合するモノマーとしては、β-プロピオラクトン、ピバロラクトン、ブチロラクトンなどのラクトンモノマー、エチレンオキシド、1,2-プロピオンオキシド、1,3-プロピレンオキシド、テトラヒドロフラン等のアルキレンオキシド、スチレン、メチルメタクリレート、ブタジエン等の不飽和モノマー及びテレフタル酸ジメチル、ジフェニルカーボネート等のカップリング剤等が挙げられる。
…
【0037】
本発明で用いる(B)カプロラクトン系重合体の分子量は、GPCによるポリスチレン換算の数平均分子量で1000~100000が好ましい。数平均分子量が1000未満では耐熱性が不十分になりやすく、100000を超えると加工性や透明性が低下しやすい。透明性の点から、より好ましくは4000~50000、更に好ましくは8000~30000である。」
「【0045】
上記一般式(I)で表される亜リン酸エステルの好ましい具体例としては、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、ジノニルペンタエリスリトールジホスファイト、ビスノニルフェニルペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-エチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-イソプロピルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4-ジクミルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト等が挙げられる。」
「【実施例】
【0092】
以下に実施例を示し、本発明を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。以下の諸例で使用した原料および評価方法は表1の通りである。
【0093】
【表1】
[図:0001390536000005.jpg]
・・・
【0101】
実施例1~12及び比較例1~8
表2に示す割合で各原料をブレンドした後、スクリュー径40mmのベント付単軸押出機(田辺プラスチックス機械社製「VS-40」)により、シリンダー温度250℃で溶融混練し、ストランドカットによりペレットを作成した。さらに得られたペレットを120℃で5~7時間、熱風循環式乾燥機により乾燥した後、評価用導光板成形品を成形した。
【0102】
【表2】
[図:0001390536000006.jpg]
【0103】
【表3】
[図:0001390536000007.jpg]
」
イ 甲1に記載された発明
甲1には、請求項1及び2を引用する請求項3に係る導光板が記載されており、その成形に用いられる以下の芳香族ポリカーボネート樹脂組成物も記載されているといえる。
「(A)芳香族ポリカーボネート樹脂に、(B)カプロラクトン系重合体を配合してなる導光板用芳香族ポリカーボネート樹脂組成物であって、(A)成分及び(B)成分の合計100重量部中、(A)成分が85~99.9重量部、(B)成分が0.1~15重量部含有し、(A)成分及び(B)成分の合計100重量部に対して、下記一般式(I)で表されるリン系化合物を0.001~0.3重量部含有してなる、上記組成物。
【化1】
[図:0001390536000008.jpg]
(一般式(I)中、R’はアルキル基またはアリール基であり、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。)」
そして、甲1の実施例1には、上記組成物の具体例として、以下の発明が記載されている(【0092】~【0102】)。
「芳香族ポリカーボネート樹脂(ユーピロンH-4000F、粘度平均分子量16000)99重量部、カプロラクトン系重合体(プラクセルH1P、数平均分子量10000)1重量部、亜リン酸エステル(アデカスタブPEP-36、ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト)0.04重量部、ポリオルガノシロキサン(SH556、ポリメチルフェニルシロキサン(分岐タイプ)、動粘度20cSt)0.03重量部からなる導光板用芳香族ポリカーボネート樹脂組成物」(以下、「甲1発明1」という。)
「甲1発明1の導光板用芳香族ポリカーボネート樹脂組成物を成形した導光板」(以下、「甲1発明2」という。)
(2)甲2、甲5、甲6、甲10、引用文献A及び引用文献Bに記載された事項
ア 甲2に記載された事項
甲2には、次の記載がある。
「【0023】 本発明に使用されるリン系化合物(B)は、好ましくはフォスファイト構造を有するリン系化合物であり、より好ましくは下記一般式(II)で表されるペンタエリスリトールジフォスファイト化合物である。
【化5】
[図:0001390536000009.jpg]
式中、Y1~Y4は、それぞれ独立に炭素数6以上の炭化水素基を示し、好ましくはそれぞれ独立に置換又は無置換のクミル基、フェニル基、ナフチル基又はビフェニル基である。
【0024】
本発明に使用されるリン系化合物(B)は、更に好ましくは下記一般式(II-1)で表されるペンタエリスリトールジフォスファイト化合物である。
【化6】
[図:0001390536000010.jpg]
(式中、RB1~RB8は、それぞれ独立にアルキル基又はアルケニル基を示す。RB1とRB2、RB3とRB4、RB5とRB6、RB7とRB8は、互いに結合して環を形成してもよい。RB9~RB12は、それぞれ独立に水素原子又はアルキル基を示す。m1~m4は、それぞれ独立に0~5の整数である。Z1~Z4は、それぞれ独立に単結合又は炭素原子を示す。Z1~Z4が単結合を示す場合、RB1~RB8は一般式(II-1)から除外される。)
【0025】
上記一般式(II)又は(II-1)で表されるペンタエリスリトールジフォスファイト化合物は、三塩化リン及びペンタエリスリトールに塩素系溶剤を加えてペンタエリスリトールジクロロフォスファイトを得た後、芳香族系溶剤及び有機窒素含有塩基化合物の存在下で加熱混合することで得ることができる(例えば特開2004-018406号公報を参照)。
【0026】
上記一般式(II)又は(II-1)で表されるペンタエリスリトールジフォスファイト化合物の中でも、ポリカーボネート樹脂組成物に対して耐熱性及び耐加水分解性を良好に付与することができ、また入手容易であることから、下記式(II-2)で表されるビス(2,4-ジクミルフェニル)ペンタエリスリトールジフォスファイトが特に好適である。この化合物は市販品として入手可能であり、例えばDover Chemical社製の「Doverphos(登録商標) S-9228PC」を使用することができる。
【0027】
【化7】
[図:0001390536000011.jpg]
【0028】
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂におけるリン系化合物(B)の含有量は、幅広い温度域で成形しても成形時の劣化による光学特性の低下のないポリカーボネート樹脂組成物を得る観点から、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、0.005~1質量部であり、好ましくは0.01~0.8質量部、より好ましくは0.03~0.5質量部である。
【0029】
[成分(C):ポリオキシアルキレン構造を有するポリエーテル化合物(C)]
本発明のポリカーボネート樹脂組成物に含有されるポリオキシアルキレン構造を有するポリエーテル化合物(C)は、(RC1O)mで表されるポリオキシアルキレン構造及び(RC2O)nで表されるポリオキシアルキレン構造を有することが好ましい。ここで、RC1及びRC2は、それぞれ独立に炭素数1以上のアルキレン基を示す。m+nは5以上300未満であり、好ましくは10~200、より好ましくは20~100である。
【0030】
RC1及びRC2で示されるアルキレン基としては、例えば、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、プロピレン基、テトラメチレン基、ヘキサメチレン基等が挙げられ、炭素数1~5のアルキレン基が好ましい。 m個のRC1O基において、複数のRC1は互いに同一のアルキレン基でもよく、炭素数の異なるアルキレン基であってもよい。すなわち、(RC1O)mで表されるポリオキシアルキレン基は、ポリオキシエチレン基やポリオキシプロピレン基等の単一のオキシアルキレン単位を繰り返し単位として有するものに限定されず、オキシエチレン単位及びオキシプロピレン単位など炭素数の異なる複数のオキシアルキレン単位を繰り返し単位として有するものであってもよい。 また、RC2もRC1と同様であり、n個のRC2O基において、複数のRC2は互いに同一のアルキレン基でもよく、炭素数の異なるアルキレン基であってもよい。
【0031】
また、ポリエーテル化合物(C)は、下記一般式(III)で表される化合物(C-1)、多価アルコールのアルキレンオキサイド付加物及びそのエステル(C-2)、並びに環状ポリエーテル化合物(C-3)からなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
RC3O-(RC1O)m-A-(RC2O)n-RC4 (III)
(式中、RC1及びRC2は、それぞれ独立に炭素数1以上のアルキレン基を示す。m+nは5以上300未満である。RC3及びRC4は、それぞれ独立に水素原子、炭素数1~30の炭化水素基、炭素数1~30のアルカノイル基、炭素数2~30のアルケノイル基、又はグリシジル基を示す。Aは、単結合又は2価の有機基を示す。)」
「【0038】
従来技術として、ポリオキシアルキレングリコールを添加することで光透過率が向上することは、特許第4069364号公報等に開示されている。その技術内容で使用されるポリオキシアルキレングリコールは、炭素数が1~3のアルキル基からなるポリオキシアルキレングリコール、あるいはそれと特定脂肪族とからなる誘導体が用いられる。ポリオキシエチレングリコールやポリオキシプロピレングリコールは、炭素数が小さいアルキル基のポリオキシアルキレングリコールであるがゆえに、親水性ポリマーであり、ポリカーボネート樹脂との相溶性も高い。しかし、一方で耐熱性が低く、これを添加したポリカーボネート樹脂では、320℃を超える温度で成形すると、色相低下で輝度及び光線透過率の低下が起き、340℃を超える温度で成形すると、分解ガスによるシルバー発生で、導光材料として使用できなくなるという欠点がある。 本発明者らは、ポリエーテル化合物(C)を特定のリン系化合物(B)と併用することで、幅広い温度域で成形しても成形時の劣化による光学特性の低下のないポリカーボネート樹脂組成物を得ることができることを見出した。
…
【0040】
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂におけるポリエーテル化合物(C)の含有量は、幅広い温度域で成形しても成形時の劣化による光学特性の低下のないポリカーボネート樹脂組成物を得る観点から、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、0.005~5質量部であり、好ましくは0.05~2質量部、より好ましくは0.1~1質量部である。」
イ 甲5に記載された事項
甲5には、ビス(2,4-ジクミルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイトは、「Doverphos S-9228」の商品名で販売されており、変色及び熱劣化から守る熱安定性と加水分解安定性の優れた特性を有することが記載されている(“Doverphos○R S-9228 Clearly superior performance”の頁、“Doverphos○R S-9228 Properties & Characteristics”の頁、“Doverphos○R S-9228 Performance in Key Polymer Systems”の頁)。
ウ 甲6に記載された事項
甲6には、次の記載がある。
「[0046]
耐熱性と耐加水分解性の両要求特性を満足できる酸化防止剤を鋭意研究、探索した結果、本発明において用いられる前記一般式(I)で表される(B)成分が、ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジフォスファイト以上の耐熱性を有しながら、トリス・2,4-ジ-tert-ブチルフェニルフォスファイト相当の耐加水分解性があることを見出した。 上記一般式(I)で表されるジフォスファイト化合物のなかでも、耐熱性及び耐加水分解性を芳香族ポリカーボネート樹脂組成物に対し良好に付与することができ、また入手容易であることから、下記式(I-1)で表されるビス(2,4-ジクミルフェニル)ペンタエリスリトールジフォスファイト(市販品としては、例えば、Dover Chemical社製の商品名Doverphos S-9228PC)が特に好適である。
[0047]
[化9](当審注:式(I-1)は省略)」
エ 甲10に記載された事項
甲10には、次の記載がある。
「【0001】
本発明は、車両に搭載される灯具、および車両に搭載される灯具の灯室に収容される光学系ユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
この種の灯具としては、異なる目的で用いられる複数の光学系ユニットが灯室内に収容されたものが知られている。例えば特許文献1に記載の構成においては、車両前方の所定領域を照明するヘッドライトを構成する第1の光学系ユニットと、前方車両や歩行者等に自車の存在を知らしめるために用いられる、デイタイムランニングライトを構成する第2の光学系ユニットとが灯室内に収容されている。」
「【0026】
導光部材15は、ポリメチルメタクリレートやポリカーボネート等の樹脂からなる透明な部材である。図3に示すように、導光部材15は、車両の左右方向に延びる第1部分15aと、車両の前後方向に延びる第2部分15bとを有している。導光部材15の第1部分15aは、光軸Ax上において投射レンズ10の前方を横切るように配置され、図2に示すように、投射レンズ10の前面に形成された凹部10a内に収容されている。
…
【0028】
導光部材15は、内部反射を利用して入射した光を所定の方向へ出射する周知の構成を有している。第2LED13から出射された光は、導光部材15の端面15cに入射し、内部反射を受けて車両の外側へ向けて出射される。当該出射光が透光カバー2を通じて視認されることにより、導光部材15全体が発光して見える。発光する導光部材15は、クリアランスライトやデイタイムランニングライトの光源として用いられる。」
オ 引用文献Aに記載された事項
引用文献Aには、次の記載がある。
「プラクセルH1P[PCL H1P]
IUPACまたは一般名 ポリカプロラクトン
分子量 10000
組成式 -(-C6H10O2-)n-
・・・
水酸基価(KOH mg/g) 9~16
・・・」
カ 引用文献Bに記載された事項
引用文献Bには、「ユーピロンH-4000F」の化学名が、ポリ(4,4’-イソプロピリデン-ジフェニルカーボネート)であることが記載されている。
(3)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明1とを対比する。
甲1発明1の「亜リン酸エステル(アデカスタブPEP-36、ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト)」はフェニル基を有し、これは本件発明1の「アリール基」に相当するから、甲1発明1の「亜リン酸エステル」は、本件発明1の「アリール基を有するリン系化合物」であるといえる。そして、甲1発明1における亜リン酸エステルの含有量は、芳香族ポリカーボネート樹脂99重量部に対して0.04重量部であり、これは本件発明1の「芳香族ポリカーボネート樹脂100重量部に対して0.005質量部以上1重量部以下」の範囲内であるといえる。
甲1発明1における「カプロラクトン系重合体(プラクセルH1P、数平均分子量10000)」の水酸基価は9~16であり(引用文献A)、水酸基価は、「試料1gをアセチル化させたとき、水酸基と結合した酢酸を中和するのに必要とする水酸化カリウムのmg数」を表し、水酸化カリウムと試料の水酸基とは等しいモル数で反応するから、上記試料の1分子は、水酸基価に相当する水酸化カリウムmg数のモル数と同じ個数の水酸基を有していることになる。そして、上記水酸基価9~16を基に、甲1発明の「カプロラクトン系重合体(プラクセルH1P)」の1分子当たりの水酸基数を計算すると1.6~2.9個となり、1分子当たり2個以上の水酸基を有するものを包含するといえるから、甲1発明の「カプロラクトン系重合体(プラクセルH1P)」と本件発明1の「ポリカプロラクトンポリオール(C)」とは、ポリカプロラクトンポリオールである限りにおいて一致するといえる。そして、甲1発明1の「カプロラクトン系重合体(プラクセルH1P)」は芳香族ポリカーボネート樹脂99重量部に対して1重量部であり、これは本件発明1の「芳香族ポリカーボネート樹脂100重量部に対して0.005質量部以上5重量部以下」の範囲内であるといえる。
そうすると、本件発明1と甲1発明1とは、
「芳香族ポリカーボネート樹脂(A)、アリール基を有するリン系化合物(B)及びポリカプロラクトンポリオール(C)を含有するポリカーボネート樹脂組成物であって、 前記芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対して、前記リン系化合物(B)0.005質量部以上1質量部以下及び前記ポリカプロラクトンポリオール(C)0.005質量部以上5質量部以下を含有する、ポリカーボネート樹脂組成物。」の点で一致し、次の点で相違するといえる。
相違点1a(1):リン系化合物(B)が、本件発明1は「下記一般式(II)で表されるペンタエリスリトールジフォスファイト化合物であって、40℃、湿度90%の条件下で放置したときに1,500時間後に分解して発生するフェノール構造を有する化合物の量が、前記リン系化合物(B)に対して5質量%以下である化合物であり、
前記リン系化合物(B)は、窒素雰囲気下、示差熱-熱重量測定(TG-DTA)機を使って、重量を測定した場合に測定前の重量から2%の重量が減少する温度が340℃以上である化合物である、
【化1】
[図:0001390536000012.jpg]
(式中、Y1~Y4は炭素数6以上15以下の炭化水素基を示し、同一でも異なっていてもよい。)」であるのに対して、甲1発明1は「亜リン酸エステル(アデカスタブPEP-36、ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト)」であり、そのような特性を有するか明らかでない点
(以下、「40℃、湿度90%の条件下で放置したときに1,500時間後に分解して発生するフェノール構造を有する化合物の量が、前記リン系化合物(B)に対して5質量%以下である」特性を「耐加水分解特性」といい、「窒素雰囲気下、示差熱-熱重量測定(TG-DTA)機を使って、重量を測定した場合に測定前の重量から2%の重量が減少する温度が340℃以上である」特性を「耐熱特性」という。)
相違点1a(2):ポリカプロラクトンポリオールが、本件発明1では、「分子量が500以上5,000以下である、ポリカプロラクトンジオール、ポリカプロラクトントリオール及びポリカプロラクトンテトラオールからなる群から選ばれる少なくとも1つ」であるのに対して、甲1発明1では、「カプロラクトン系重合体(プラクセルH1P、数平均分子量10000)」である点
イ 相違点1a(2)の検討
事案に鑑みて、相違点1a(2)から検討する。
まず、本件発明1における「ポリカプロラクトンポリオール(C)」の「分子量」に関して、本件明細書には「分子量(数平均分子量)としては、500以上5,000以下」と記載されており(本件明細書の【0035】)、上記「分子量」が数平均分子量を意味すると解される。
一方、上述のように、甲1発明1における「プラクセルH1P」の数平均分子量は10000であり、本件発明1の「500以上5,000以下」の範囲外であるから、相違点1a(2)は実質的な相違点であるといえる。
そうすると、本件発明1は、甲1に記載された発明ではない。
また、甲1には、「(B)カプロラクトン系重合体の分子量は、GPCによるポリスチレン換算の数平均分子量で1000~100000が好ましい。…透明性の点から4000~50000、更に好ましくは8000~30000である」こと(【0037】)が記載されており、また、上述のように、甲1発明1では、数平均分子量で10000であるカプロラクトン系重合体が用いられている。このように、甲1には、カプロラクトン系重合体の数平均分子量が好ましくは1000~100000であることが記載されているものの、数平均分子量が8000以上のものが更に好ましいとされている。
そして、甲1発明1において、その用途が導光板であること、及び、その課題が輝度にも優れる導光板の提供であるところ、上記透明性は重要な物性であるから、8000未満の数平均分子量とすることが積極的に動機づけられるといえない。そして、甲1には、カプロラクトン系重合体の数平均分子量が「500以上5,000以下である、ポリカプロラクトンジオール、ポリカプロラクトントリオール及びポリカプロラクトンテトラオールからなる群から選ばれる少なくとも1つである」ものを、本件発明1の「芳香族ポリカーボネート(A)」と「リン系化合物(B)」と併用することにより、幅広い温度域で成形しても光学特性の低下がない、又は、自動車用途の厳しい環境条件で長期間使用しても黄変したり導光性能が低下したりすることがないこと(本件明細書の【0010】)は記載も示唆もされていないし、甲2、甲5、甲6、甲10及び引用文献Bにも記載されていない。
そうすると、甲1発明1において、「ポリカプロラクトンポリオール(C)が、分子量が500以上5,000以下である、ポリカプロラクトンジオール、ポリカプロラクトントリオール及びポリカプロラクトンテトラオールからなる群から選ばれる少なくとも1つ」であることは動機づけられず、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
ウ 本件発明1の効果について
本件発明1は、「幅広い温度域で成形しても成形時の劣化による光学特性の低下もなく、厳しい環境条件下で長期間使用しても黄変劣化が少ないポリカーボネート樹脂組成物、光学成形品の製造方法及び光学成形品を提供することができる」(本件明細書【0010】)という効果を奏するものであり、本件発明1の特定のリン系化合物(B)とポリカプロラクトンポリオール(C)とを併用することにより実現できるものである(同【0025】)。そして、実施例1~10において、280℃及び360℃のシリンダー温度設定で成形した平板試験片の高低温成形時の色調差が小さく、80℃、相対湿度95%に500時間保持した耐湿熱試験でも高い耐加水分解性能が示され、上記効果を具体的に確認することができる。
一方、甲1には、シリンダー温度290~320℃で射出成形した導光板は輝度に優れ、シリンダー温度310℃で成形した導光板は成形性及び転写性に優れることが記載されるにとどまり(実施例の【0092】~【0106】)、本件発明1の上記効果を推認することはできない。
そうすると、本件発明1の上記効果は、甲1の記載から当業者が予測し得ることができない優れたものであるといえる。
(4)本件発明2~6、8~13について
本件発明2~6、8~13は、本件発明1を直接又は間接的に引用するものであり、本件発明1について上記(3)で述べたのと同じ理由により、甲1に記載された発明、並びに、甲2、甲5、甲6、甲10及び引用文献Bに記載された事項に基づいて、引用文献Aに記載された事項を参照して、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(5)まとめ
したがって、本件発明1、3~6、9~12は、相違点1a(1)について検討するまでもなく、甲1に記載された発明ではないし、また、本件発明1~6、8~13は、甲1に記載された発明、並びに、甲2、甲5、甲6、甲10及び引用文献Bに記載された事項に基づいて、引用文献Aに記載された事項を参照しても、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
2 取消理由1b(進歩性)について
取消理由1bは、令和3年3月11日付け取消理由通知書で通知した取消理由1d(進歩性)及び申立理由3(進歩性)と同じく、甲7を主引用例とする進歩性に関するものであるから、併せて検討する。
(1)甲7に記載された事項及び甲7に記載された発明
ア 甲7に記載された事項
甲7には、請求項1及び7、【0004】(背景技術)、【0007】(発明が解決しようとする課題)、【0011】~【0015】(ポリカーボネート樹脂)、【0019】~【0020】(ポリカプロラクトン)、【0038】~【0049】(実施例)に関する記載がある。
具体的には、甲7には、次の記載がある。
「【請求項1】
ポリカーボネート樹脂(A)97~99.95重量%および重量平均分子量が1000~18000であるポリスチレン樹脂(B)0.05~3重量%からなる樹脂成分100重量部、およびポリカプロラクトン(C)0.05~5重量部および紫外線吸収剤(D)0~1重量部からなることを特徴とする光学用ポリカーボネート樹脂組成物。
…
【請求項4】
ポリカプロラクトン(C)の粘度平均分子量が、15000~60000であることを特徴とする請求項1に記載の光学用ポリカーボネート樹脂組成物。
…
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の光学用ポリカーボネート樹脂組成物を成形してなる導光板。」
「【0004】
導光板は、一般に熱可塑性樹脂の射出成形によって得られ、上記の凹凸パターンは、金型表面に形成された凹凸パターンの転写によって付与される。従来、導光板はポリメチルメタクリレート(PMMA)等の材料から成形されてきた。しかし、パーソナルコンピュータ、携帯電話、PDA等の機器内部で発生する熱が大きくなる傾向にあり、また機器の軽薄短小化に対応するために、使用される熱可塑性樹脂には耐熱性が高く、かつ機械的強度も高い樹脂が求められており、PMMAからポリカーボネート樹脂に置き換えられつつある。」
「【0007】
本発明は、ポリカーボネート樹脂本来の特性、すなわち耐熱性、機械的強度等を損なうことなく、光線透過率および流動性ならびに所望によっては耐候性に優れた光学用ポリカーボネート樹脂組成物を提供するものである。」
「【0019】
ポリカプロラクトン(C)の配合量は、0.05~5重量部である。ポリカプロラクトン(C)の配合量が0.05重量部未満であると光線透過率の向上が期待できない。また、当該組成比が5重量部をこえると光線透過率が低下するため好ましくない。好ましくは0.1~3重量部である。
【0020】
商業的に入手可能なポリカプロラクトン(C)としては、ソルベイ社製 CAPA6200、CAPA6500等があげられる。」
「【0037】
以下に本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はそれら実施例に制限されるものではない。尚、「部」、「%」はそれぞれ重量基準に基づく。
【実施例】
【0038】
表1および表2に示す配合成分、配合量に基づき、タンブラーを用いて各種配合成分を混合し40mm径の単軸押出機(田辺プラスチック社製)を用いて、シリンダー温度220℃にて溶融混練し、各種ペレットを得た。
使用した配合成分は、それぞれ次のとおりである。
1.ポリカーボネート樹脂:
ビスフェノールAと塩化カルボニルから合成されたポリカーボネート樹脂
住友ダウ社製SD1080(粘度平均分子量:15000)
(以下「PC」と略記する。)
2.ポリスチレン樹脂:
BASF社製 JONCRYL ADF-1300
(重量平均分子量:2800、以下「PS1」と略記する。)
Aldrich社製 ポリスチレン
(重量平均分子量:800、以下「PS2」と略記する。)
Aldrich社製 ポリスチレン
(重量平均分子量:20000、以下「PS3」と略記する。)
3.ポリカプロラクトン:
ソルベイ社製 CAPA6200 (粘度平均分子量:20000)
(以下「PCL1」と略記する。)
ソルベイ社製 CAPA6500 (粘度平均分子量:50000)
(以下「PCL2」と略記する。)
4.リン系酸化防止剤:
アデカ社製アデカスタブPEP-36
(以下「AO」と略記する。)
5.紫外線吸収剤:
クラリアントジャパンホスタビンB-CAP
(以下、「UVA」と略記する。)
【0039】
得られたペレットを用いて各種評価用試験片を作成し、評価に供した。結果を表1~3に示した。尚、それぞれの評価方法は以下のとおり。
…
【0044】
【表1】
[図:0001390536000013.jpg]
」
イ 甲7に記載された発明
甲7には、「ポリカーボネート樹脂(A)97~99.95重量%および重量平均分子量が1000~18000であるポリスチレン樹脂(B)0.05~3重量%からなる樹脂成分100重量部、およびポリカプロラクトン(C)0.05~5重量部および紫外線吸収剤(D)0~1重量部からなることを特徴とする光学用ポリカーボネート樹脂組成物」及び「光学用ポリカーボネート樹脂組成物を成形してなる導光板」が記載されている(請求項1及び請求項7)。
そして、甲7の実施例1には、上記光学用ポリカーボネート樹脂組成物の具体例として、以下の発明が記載されている(【0038】~【0044】)。
「ビスフェノールAと塩化カルボニルから合成されたポリカーボネート樹脂(SD1080、粘度平均分子量:15000)99.5部、ポリスチレン樹脂(JONCRYL ADF-1300、重量平均分子量:2800)0.5部、ポリカプロラクトン(CAPA6200、粘度平均分子量:20000)1部、リン系酸化防止剤(アデカスタブPEP-36)0.1部からなる光学用ポリカーボネート樹脂組成物」(以下、「甲7発明1」という。)
「甲7発明1を成形してなる導光板」(以下、「甲7発明2」という。)
(2)甲4及び引用文献Cに記載された事項
ア 甲4に記載された事項
甲4には、「アデカスタブPEP-36」の構造式(当審注:構造式は省略)が記載されている。
イ 引用文献Cに記載された事項
引用文献Cには、Capa○R6200の水酸基価(mg KOH/g)が6であることが記載されている。
(3)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲7発明1とを対比する。
甲7発明1の「リン系酸化防止剤(アデカスタブPEP-36)」は、甲4に示される構造を有するものであり、上記1(3)アで甲1発明1について述べたのと同様に、ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイトであってフェニル基を有するものであるから、甲7発明1の「リン系酸化防止剤」は、本件発明1の「アリール基を有するリン系化合物」であるといえる。そして、甲7発明1における「リン系酸化防止剤」の含有量は、芳香族ポリカーボネート樹脂99.5重量部に対して0.1重量部であり、これは本件発明1の「芳香族ポリカーボネート樹脂100重量部に対して0.005質量部以上1重量部以下」の範囲内であるといえる。
甲7発明1における「ポリカプロラクトン(CAPA6200、粘度平均分子量:20000)」の水酸基価は6であり(引用文献C)、水酸基価は、「試料1gをアセチル化させたとき、水酸基と結合した酢酸を中和するのに必要とする水酸化カリウムのmg数」を表し、水酸化カリウムと試料の水酸基とは等しいモル数で反応するから、上記試料の1分子は、水酸基価に相当する水酸化カリウムmg数のモル数と同じ個数の水酸基を有していることになる。そして、上記水酸基価6を基に、甲7発明1の「ポリカプロラクトン(CAPA6200)」の1分子当たりの水酸基数を計算すると2.1個となり、1分子当たり2個以上の水酸基を有するとポリオールであるといえるから、甲7発明1の「ポリカプロラクトン(CAPA6200)」は、本件発明1の「ポリカプロラクトンポリオール(C)」である「ポリカプロラクトンジオール」に相当する。そして、甲7発明1の「ポリカプロラクトン(CAPA6200)」の含有量は1重量部であり、これは本件発明1の「芳香族ポリカーボネート樹脂100重量部に対して0.005質量部以上5重量部以下」の範囲内であるといえる。
そして、本件明細書には、本件発明1における「ポリカプロラクトンポリオール(C)」の「分子量」に関して、「分子量(数平均分子量)」(本件明細書の【0035】)と記載されており、数平均分子量を意味することは明らかである。
そうすると、本件発明1と甲7発明1とは、
「芳香族ポリカーボネート樹脂(A)、アリール基を有するリン系化合物(B)及びポリカプロラクトンポリオール(C)を含有するポリカーボネート樹脂組成物であって、
前記芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対して、前記リン系化合物(B)0.005質量部以上1質量部以下及び前記ポリカプロラクトンポリオール(C)0.005質量部以上5質量部以下を含有し、
前記ポリカプロラクトンポリオール(C)が、ポリカプロラクトンジオール、ポリカプロラクトントリオール及びポリカプロラクトンテトラオールからなる群から選ばれる少なくとも1つである、ポリカーボネート樹脂組成物。」の点で一致し、
相違点2a(1):リン系化合物(B)が、本件発明1は「下記一般式(II)で表されるペンタエリスリトールジフォスファイト化合物であって、40℃、湿度90%の条件下で放置したときに1,500時間後に分解して発生するフェノール構造を有する化合物の量が、前記リン系化合物(B)に対して5質量%以下である化合物であり、 前記リン系化合物(B)は、窒素雰囲気下、示差熱-熱重量測定(TG-DTA)機を使って、重量を測定した場合に測定前の重量から2%の重量が減少する温度が340℃以上である化合物である、
【化1】
[図:0001390536000014.jpg]
(式中、Y1~Y4は炭素数6以上15以下の炭化水素基を示し、同一でも異なっていてもよい。)」であるのに対して、甲7発明1は「リン系酸化防止剤(アデカスタブPEP-36)」である点
相違点2a(2):ポリカプロラクトンポリオール(C)の分子量に関して、本件発明1は、数平均分子量が「500以上5,000以下である」のに対して、甲7発明1は、「粘度平均分子量」が「20000」である点
イ 相違点2a(2)の検討
事案に鑑みて、相違点2a(2)について検討する。
甲7発明1が解決しようとする課題は、甲7の【0007】によると、ポリカーボネート樹脂の本来の特性である耐熱性及び機械的強度等を損なうことなく、光線透過および流動性ならびに耐候性に優れた光学用ポリカーボネート樹脂組成物を提供することであると解される。
また、甲7には、ポリカプロラクトン(C)に関して、「ポリカプロラクトン(C)の粘度平均分子量が、15000~60000である」(請求項7)、「商業的に入手可能なポリカプロラクトン(C)としては、ソルベイ社製 CAPA6200、CAPA6500等があげられる。」(【0020】)及び、「ソルベイ社製 CAPA6200 (粘度平均分子量:20000)…ソルベイ社製 CAPA6500 (粘度平均分子量:50000)」(【0038】)と記載されており、ポリカプロラクトン(C)の数平均分子量が500~5000であるとはいえないし、甲2、甲4~甲6、甲10及び引用文献Cのいずれにも「ポリカプロラクトンの数平均分子量」を「500以上5,000以下」とすることを動機付ける記載はない。
そうすると、甲7発明1において、ポリカプロラクトンの数平均分子量を「500以上5000以下」とすることは動機づけられず、当業者が容易に想到し得たことであるとはいえない。
ウ 本件発明1の効果について
本件発明1は、「幅広い温度域で成形しても成形時の劣化による光学特性の低下もなく、厳しい環境条件下で長期間使用しても黄変劣化が少ないポリカーボネート樹脂組成物、光学成形品の製造方法及び光学成形品を提供することができる」(【0010】)という効果を奏するものであり、本件発明1の特定のリン系化合物(B)とポリカプロラクトンポリオール(C)とを併用することにより実現できるものである(【0025】)。そして、実施例1~10において、280℃及び360℃のシリンダー温度設定で成形した平板試験片の高低温成形時の色調差が小さく、80℃、相対湿度95%に500時間保持した耐湿熱試験でも高い耐加水分解性能が示され、上記効果を具体的に確認することができる。
一方、甲7には、甲7発明1の組成物は成形温度280℃で流動性に優れ、射出成形した導光板は透過率に優れることが記載されるにとどまり(実施例の【0038】~【0049】)、本件発明1の上記効果を推認することはできない。
そうすると、本件発明1の上記効果は、甲7の記載、並びに、甲2、甲4~甲6及び甲10の記載から、当業者が予測し得ることができない優れたものであるといえる。
(4)本件発明2~6、8~13について
本件発明2~6、8~13は、本件発明1を直接又は間接的に引用するものであり、本件発明1について上記(3)で述べたのと同じ理由により、甲7に記載された発明、並びに、甲2、甲4~甲6及び甲10に記載された事項に基づいて、引用文献Cに記載された事項を参照して、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(5)まとめ
したがって、本件発明1~6、8~13は、相違点2a(1)について検討するまでもなく、甲1に記載された発明、並びに、甲2、甲4~甲6及び甲10に記載された事項に基づいて、引用文献Cに記載された事項を参照して、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
3 取消理由2a(サポート要件)について
取消理由2aは、令和3年3月11日付け取消理由通知書で通知した取消理由2b(サポート要件)及び申立理由4(サポート要件)と同旨であるから、併せて検討する。
(1) 特許法第36条第6項第1号の判断について
特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。そこで、この点について、以下に検討する。
(2)本件明細書に記載された事項
本件明細書には、次の記載がある。
ア 「【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、幅広い温度域で成形しても成形時の劣化による光学特性の低下のないポリカーボネート樹脂組成物を提供することにある。
また、自動車用途の厳しい環境条件で長期間使用しても黄変したり、導光性能が低下したりすることが少ない導光部材が得られるポリカーボネート樹脂組成物を提供することにある。」
イ 「【0012】
導光部材の用途によっては薄肉化が要求されるケースがあり、340℃を超える温度、特に360℃を超える温度でポリカーボネート樹脂組成物を成形する場合がある。この観点からは、国際公開第2011/083635号の方法では不十分であり、更なる改良が求められている。
一方、自動車のヘッドランプやテールランプの外周等に付属され、Daytime Running Lights(あるいはDaytime Running Lamps)(略してDRL)と呼ばれる昼光ランプは、厚肉のレンズ構造の導光リングである。このような厚肉構造のDRLは、280℃前後の低温で成形されることが多い。その理由は、DRLが厚肉構造であるため、冷却時間を充分取らないと、製品面が引けたり、収縮したりして歪が出てしまうため、成形サイクルを長く取る必要がある。成形サイクルが長くて成形温度が高いと、成形機内に残留している溶融樹脂が焼けるため、できるだけ成形温度を低くして滞留焼けしないようにしなければいけない。更には、この焼けを抑えるため、成形機内の空気を窒素で置換しながら成形する窒素成形等も行いながら、焼けを防止している例も多い。このように、導光用途に使われるポリカーボネート樹脂は、幅広い温度域や長い滞留時間を要する成形であっても、黄変することなく成形可能な性能が求められる。
【0013】
また、DRLのように自動車用途で使われる光学用ポリカーボネート樹脂では、120℃で1000時間以上の耐熱オーブン試験等の厳しい環境試験が行われる。特許第4069364号公報,国際公開第2011/083635号、国際公開第2013/088796号に示されるようなポリエーテルポリオール類は、光学性能を上げる点では顕著な効果を示す一方、長期耐熱性が低く、120℃オーブン試験のような厳しい環境試験では著しく光学性能が低下してしまう欠点がある。これは、ポリエーテルポリオール類自体の耐熱性の問題であるため、その他の添加剤では耐熱性能の改善ができない。このため、自動車用の光学レンズに使えるポリカーボネート樹脂組成物は、ポリカーボネート自体の光学性能に頼るしかないが、輝度向上や青色相向上の要望は強い。」
ウ 「【0034】
[成分(C):ポリカプロラクトンポリオール]
ポリカプロラクトンポリオールは、例えば、多価アルコール類を開始剤とし、ラクトンモノマーを開環重合して得られる。
多価アルコールの具体例としては、例えば、エチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,5-ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、2-メチル-1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、1,12-オクタデカンジオール、グリセリン、トリメチロールプロパン、トリメチロールオクタン、ペンタエリスリトールなどが挙げられる。
ラクトンモノマーとしては、ε-カプロラクトン、α-メチル-ε-カプロラクトン、β-メチル-ε-カプロラクトン、γ-メチル-ε-カプロラクトン、β,δ-ジメチル-ε-カプロラクトン、3,3,5-トリメチル-ε-カプロラクトンなどのカプロラクトン類;δ-バレロラクトン、β-メチル-δ-バレロラクトンなどのポリバレロラクトン類;プロピオラクトン類;ブチロラクトン類;エナントラクトン;ドデカノラクトンなどが挙げられる。ラクトンモノマーの誘導体であってもよい。
【0035】
ポリカプロラクトンポリオール(C)としては、特開平11-228905号公報の段落[0016]に記載のものを例示できる。このポリカプロラクトンポリオールとしては、例えば、
【化8】
[図:0001390536000015.jpg]
(式中、m+nは4以上35以下の整数であり、RはC2H4、C2H4OC2H4、又はC(CH3)2(CH2)2である)
のような2官能ポリカプロラクトンジオール類、
【化9】
[図:0001390536000016.jpg]
(式中、l+m+nは3以上30以下の整数であり、RはCH2CHCH2、CH3C(CH2)3、又はCH3CH2C(CH2)3である)
のような3官能ポリカプロラクトントリオール類、及び4官能ポリカプロラクトンテトラオール等を使用することができる。ポリカプロラクトンポリオール(C)は、上記ポリカプロラクトンジオール、ポリカプロラクトントリオール及びポリカプロラクトンテトラオールからなる群から選ばれる少なくとも1つであることが好ましい。分子量(数平均分子量)としては、500以上5,000以下、好ましくは850以上4,000以下、より好ましくは1,000以上3,000以下の範囲である。分子量が500未満であると耐熱性が低く、高温成形時に対応できない。分子量が5,000を超えると固形化して容易に溶けず扱いづらい。分子量が10,000程度になると熱可塑性樹脂としてペレット化できるが、ポリカーボネートに分散しづらく、酸化防止剤(B)とも相溶性も悪く、色調が悪化する。
【0036】
ポリカプロラクトンポリオール(C)の具体例としては、市販品として、例えば、(株)ダイセル社製の商品名「プラクセル205」、「プラクセル208」、「プラクセル210」、「プラクセル210CP」、「プラクセル212」、「プラクセル220」、「プラクセル220CPB」(ポリカプロラクトンジオール)、「プラクセル305」、「プラクセル308」、「プラクセル312」、「プラクセル320」(ポリカプロラクトントリオール)、「プラクセル410」(ポリカプロラクトンテトラオール)などが挙げられる。ポリカプロラクトンポリオールとしてはポリカプロラクトンジオールが好ましい。
本発明の芳香族ポリカーボネート樹脂におけるポリカプロラクトンポリオール(C)の含有量は、芳香族ポリカーボネート樹脂(A)100質量部に対し、0.005質量部以上5質量部以下であり、好ましくは0.01質量部以上5質量部以下、より好ましくは0.02質量部以上3質量部以下、更に好ましくは0.03質量部以上2質量部以下、更により好ましくは0.1質量部以上2質量部以下、最も好ましくは0.3質量部以上1.5質量部以下である。」
エ 「【0057】
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、光線透過率及び輝度に優れ、高温での成形や長い成形サイクルにも耐え得る樹脂組成物であって、特に射出成形に適する。一方、低温成形適性も高いことから、射出成形以外の成形でも、光透過性に優れた成形品を得ることができ、光学成形品、特に導光部材として有用である。
本発明のポリカーボネート樹脂組成物は、上記した通り広い温度範囲で安定して成形することができ、好ましくは280℃以上360℃以下の温度で成形することにより光学成形品を得ることができる。
また、成形後の製品の耐湿性や耐熱性に優れるため、耐湿性や耐熱性が要求される用途に用いることができる。
光学成形品としては車両用導光部品を挙げることができ、特にDRLに使用される車両用導光部品として用いることができる。DRLは成形品の厚みが5mm以上であることがより好ましい。
導光板としては、特に制限はなく、数mm~数百μmの厚みの平板でもよく、レンズ効果を有する曲面板やプリズム転写板でもよい。成形法も特に限定されず、目的・用途に応じて適宜、形状や成形法を選定すればよい。」
オ 「【実施例】
【0058】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0059】
[粘度平均分子量(Mv)の測定]
ウベローデ型粘度計にて、20℃における塩化メチレン溶液(濃度単位:g/L)の粘度を測定し、これより極限粘度[η]を求めた後、次式にて算出した。
[η]=1.23×10-5Mv0.83
【0060】
[リン系化合物の示差熱-熱重量測定(TG-DTA)]
リン系化合物を10~15mg採取し、それをSII(株)社製の示差熱-熱重量測定機「TG/DTA7200型」を使用して、窒素雰囲気下で、20℃/分の昇温速度で550℃まで昇温した際の重量変化を各温度毎に測定し記録した。初期の重量を100%として、重量が2%減量した時の温度を見て、98%保持温度とした。
[リン系化合物の耐加水分解試験]
リン系化合物を40℃、湿度90%の条件下で1,500時間放置した。その後、分解して発生するフェノール構造を有する化合物の質量を(株)島津製作所製のガスクロマトグラフ装置「GC-2014」を用いて定量し、リン系化合物に対する割合を測定した。
【0061】
実施例及び比較例で使用した各成分は以下のとおりである。
<芳香族ポリカーボネート樹脂(A)>
(A1):「タフロン FN1500」(出光興産(株)製、ビスフェノールAポリカーボネート樹脂、粘度平均分子量(Mv)=14,500)
(A2):「タフロン FN1200」(出光興産(株)製、ビスフェノールAポリカーボネート樹脂、粘度平均分子量(Mv)=11,500)
【0062】
<リン系化合物(B)>
(B1):「Doverphos S-9228PC」(Dover Chemical社製、ビス(2,4-ジクミルフェニル)ペンタエリスリトールジフォスファイト、上記耐加水分解試験後にジクミルフェノールが0.15質量%生成した。)
(B2):「アデカスタブ PEP-36」((株)ADEKA製、ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジフォスファイト、上記耐加水分解試験後に2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノールが45質量%生成した。)
各リン系化合物についての上記した示差熱-熱重量測定(TG-DTA)及び耐加水分解試験の結果を下記の表3にまとめる。
【0063】
<ポリカプロラクトンポリオール(C)>
(C1):「プラクセル 210CP」((株)ダイセル製 ポリカプロラクトンジオール 分子量1000)
(C2):「プラクセル 220CPB」((株)ダイセル製 ポリカプロラクトンジオール 分子量2000)
(C3):「プラクセル H1P」((株)ダイセル製 高分子量ポリカプロラクトン(熱可塑性樹脂) 分子量10000)
【0064】
<ポリエーテル化合物(D)>
(D1):「ユニルーブ 50DE-25」(日油(株)製、ポリオキシエチレングリコール-ポリオキシプロピレングリコール 分子量1750)
<その他の添加剤>
「セロキサイド 2021P」((株)ダイセル製、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル-3’,4’-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート)
「KR-511」(信越化学工業(株)製、ポリオルガノシロキサン化合物)
【0065】
実施例1~10及び比較例1~9
各例において、表1及び2に示す量比で各成分を配合してポリカーボネート樹脂組成物を調製した。スクリュー径40mmのベント付単軸押出機(田辺プラスチックス機械(株)製「VS-40」)を使用して、シリンダー温度250℃でポリカーボネート樹脂組成物を溶融混練し、ストランドカットによりペレットを得た。得られたペレットを110℃で5時間乾燥した後、射出成形機(日精樹脂工業(株)製「ES1000」)を用いて、280℃及び360℃のシリンダー温度設定で、サイクル時間50秒で、50mm×80mm×厚さ5mmの平板試験片を成形した。
また、以下の通りに耐湿熱試験を行った。上記乾燥後のペレットを、射出成形機(東芝機械(株)製「EC40N」)を用いて、シリンダー温度350℃、サイクル時間30秒で、40mm×80mm×厚さ3mmの平板試験片を成形した。この平板試験片を温度85℃、相対湿度95%に設定したナガノサイエンス(株)製の型式名「LH33-12P」の恒温恒湿槽に500時間入れた。
さらに、上記乾燥後のペレットを、射出成形機(東芝機械(株)製「EC40N」)を用いて、シリンダー温度が350℃、金型温度が80℃、サイクル時間30秒で40mm×80mm×厚さ3mmの平板試験片を成形した。この平板試験片を、温度120℃に調整した、TABAI社製ギアーオーブン「GPS-222」内に1,000時間入れた。
上記で得られた試験片について、分光光度計((株)日立ハイテクノロジーズ製「U-4100」)を用い、C光源、2度視野の条件でYI値を測定した。結果を表1及び2に示す。なお、厚さ5mm試験片における合格基準は、280℃で成形した試験片のYI値(280℃成形)が1.10以下であり、かつ360℃で成形した試験片のYI値(360℃成形)が1.25以下である(表中、「プレートYI」値として示す)。また、280℃成形時と360℃成形時の色調差をΔYIで示す。
恒温恒湿試験槽を用いた耐湿熱試験後(500時間)のYIについては特に規定はないが、試験前後のΔYIは0.2(0.20)以下が要求される。ギアーオーブン耐熱試験機を用いた耐熱試験後(1,000時間)のYIについては特に規定はないが、試験前後のΔYIは0.5(0.50)以下であることが好ましい。
【0066】
【表1】
[図:0001390536000017.jpg]
【0067】
【表2】
[図:0001390536000018.jpg]
【0068】
【表3】
[図:0001390536000019.jpg]
【0069】
特定のリン系化合物(B)及びポリカプロラクトンポリオール(C)を含まない比較例1及び6では、低温成形では色調は良好であるが、高温成形で色調が悪く、低温成形と高温成形の色調差(ΔYI)が大きい。ポリカプロラクトンポリオール(C)を含まず、特定のリン系化合物(B)を含む比較例2では、高温成形での色調はまずまずであるが、低温成形での色調が不十分である。比較例3、4、7及び8では酸化防止剤として特定のリン系酸化防止剤を用いておらず、ポリカプロラクトンポリオールを含んでいるが、高温成形の色調が悪い。比較例5及び9は高分子量のポリカプロラクトンを含むが、高温成形時(360℃成形時)の色調はより悪い。比較例2を除き、耐湿熱試験後の色調低下が大きく、加水分解を起こしていた可能性が高い。
これに対し、分解温度が高く、耐加水分解試験後に発生するフェノール構造を有する化合物の量が5質量%以下のアリール基を有するリン系化合物(B)と、ポリカプロラクトンポリオール(C)を含む実施例1~10では、高低温成形時の色調差が小さい。また、更にポリエーテル化合物(D)を併用した実施例5及び6では、低温成形時(280℃成形時)の色調が改善した。耐湿熱試験でも高い耐加水分解性能を示した。」
(3)本件発明1の課題
発明の詳細な説明の記載によると、本件発明1の課題は、「幅広い温度域で成形しても成形時の劣化による光学特性の低下のないポリカーボネート樹脂組成物を提供すること」及び「自動車用途の厳しい環境条件で長期間使用しても黄変したり、導光性能が低下したりすることが少ない導光部材が得られるポリカーボネート樹脂組成物を提供すること」(【0007】)であると解される。
そして、上記「幅広い温度域」の高温側は、【0012】、【0057】及び【0065】の記載から、280℃以上360℃以下の温度が例示され、上記「厳しい環境条件」は、【0013】及び【0065】の記載から、120℃で1000時間以上の耐熱オーブン試験や、80℃、相対湿度95%で500時間の耐湿熱試験が例示されると解される。
(4)本件発明1について
本件発明1の「ポリカプロラクトンポリオール(C)」は、「分子量が500以上5,000以下である、ポリカプロラクトンジオール、ポリカプロラクトントリオール及びポリカプロラクトンテトラオールからなる群から選ばれる少なくとも1つ」である。
一方、発明の詳細な説明には、ポリカプロラクトンジオールである、分子量1000の「プラクセル 210CP」及び分子量2000の「プラクセル 220CPB」を用いた実施例1~10のポリカーボネート組成物が記載されており、これらは本件発明1の具体例である。そして、実施例1~10のポリカーボネート組成物は、280℃のシリンダー温度設定で射出成形した試験片のYI値が1.10未満であり、同じく360℃で射出成形した試験片のYI値が1.25未満であって、幅広い温度域で成形しても光学特性が劣化しないことを具体的に確認することができるし、また、実施例1~10のポリカーボネート組成物は、85℃、相対湿度95%に設定した恒温恒湿槽に500時間入れる試験前後の色調差ΔYIが0.20以下であり、実施例3、4、7~10のポリカーボネート組成物は、120℃に調整したキアーオーブン内に1000時間入れる試験前後のΔYIが0.50以下であって、厳しい環境条件下で長期間使用しても黄変したり導光特性が低下したりするものではないことを具体的に確認することができる。
そして、発明の詳細な説明には、「分子量(数平均分子量)として、500以上5,000以下…好ましくは1,000以上3,000以下の範囲である。分子量が500未満であると耐熱性が低く、高温成形時に対応できない。分子量が5,000を超えると固形化して容易に溶けず扱いづらい。」(【0035】)と記載されており、分子量が500以上5000以下であれば、高温成形ができ、溶融性がよいことが示されている。更に、発明の詳細な説明には、本件発明1の「ポリカプロラクトンポリオール」に関して、【化8】の2官能ポリカプロラクトンジオール、及び、【化9】の3官能ポリカプロラクトントリオールが例示され、その分子量を算出すると、上記2官能ポリカプロラクトンジオールの分子量(m+nは4以上35以下の整数)は518~4096であり、上記3官能ポリカプロラクトントリオールの分子量(l+m+nは3以上30以下の整数)は343~3554であると解される。そして、上述のとおり、分子量が500以上5000以下のものは、高温成形ができ、溶融性がよいものであるから、この範囲の分子量である2官能ポリカプロラクトンジオール及び3官能ポリカプロラクトントリオールを用いた本件発明1のポリカーボネート組成物は、上記課題を解決できることを当業者が認識できると解される。
そうすると、発明の詳細な説明は、本件発明1が上記課題を解決できることを当業者が認識できるように記載されていると解される。
(5)本件発明2~6、8~13について
本件発明2~6、8~13は、本件発明1を直接又は間接的に引用するものであり、上記(4)で本件発明1について述べたのと同じ理由により、発明の詳細な説明には、本件発明2~6、8~13が上記課題を解決することを当業者が認識することができるように記載されているといえる。
(6)小括
以上のとおりであるから、本件発明1~6、8~13は、発明の詳細な説明に記載したものである。
第6 まとめ
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した申立理由によっては、本件請求項1~6、8~13に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1~6、8~13に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。
J-PlatPat 審決検索を開く
2020-700827