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特許異議申立

2020-700736

エポキシ樹脂、エポキシ樹脂組成物、硬化物、電気・電子回路用積層板及びエポキシ樹脂の製造方法

審判番号
2020-700736
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2015-210031
登録番号
6672699
請求日
2020年09月25日
審決日
2021年12月28日
公報発行日
2022年04月28日
結論
訂正認容
当事者
  • 【権利者】三菱ケミカル株式会社
  • 【権利者代理人】重野 剛
  • 【異議申立人】古川 興輝
審判長/審判官
  • 審判長 杉江 渉
  • 審判官 福井 悟
  • 審判官 橋本 栄和
分類
P1651.113-YAA(C08G) / P1651.121-YAA(C08G) / P1651.536-YAA(C08G) / P1651.537-YAA(C08G)
根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
特許法120条の8第1項特許法135条
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第36条第4項第1号、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第120条の8第1項、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第2項、特許法第2条
データ出所
審決公報(XML)

事件の表示

特許第6672699号発明「エポキシ樹脂、エポキシ樹脂組成物、硬化物、電気・電子回路用積層板及びエポキシ樹脂の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

結 論 特許第6672699号の特許請求の範囲を令和3年9月9日提出の訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-9〕、〔10-11〕について訂正することを認める。 特許第6672699号の請求項1、3~10に係る特許を維持する。 特許第6672699号の請求項2、11に係る特許に対する本件の異議申立てを却下する。

理由

理 由 理 由 第1 手続の経緯 特許第6672699号(請求項の数11。以下、「本件特許」という。)は、平成27年10月26日(優先権主張:平成26年10月29日)を出願日とする特許出願(特願2015-210031号)に係るものであって、令和2年3月9日に設定登録されたものである(特許掲載公報の発行日は、令和2年3月25日である。)。 その後、令和2年9月25日に、本件特許の請求項1~11に係る特許に対して、特許異議申立人である古川興輝(以下、「申立人」という。)により、特許異議の申立てがなされたものである。 よって、本件特許異議の申立て(以下、「申立て」という。)に係る審理においては、請求項1~11、すなわち、全請求項を審理対象とし、審理対象でない請求項は存しない。 それ以降の手続の経緯は以下のとおりである。 令和2年12月17日付け 取消理由通知書 令和3年 2月18日提出 訂正の請求及び意見書(特許権者)の提出 同年 3月11日付け 通知書(訂正請求があった旨の通知) 同年 4月19日提出 意見書(申立人)の提出 同年 6月30日付け 取消理由通知書(決定の予告) 同年 9月 9日提出 訂正の請求及び意見書(特許権者)の提出 同年 9月30日付け 通知書(訂正請求があった旨の通知) なお、令和3年9月9日に訂正請求されたことにより、令和3年2月18日にされた訂正請求は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなされた。 また、令和3年9月9日提出の訂正の請求及び意見書(特許権者)に対して申立人より意見書の提出はなされなかった。 第2 訂正の適否 1.訂正事項 令和3年9月9日提出の訂正請求書による訂正(以下、「本件訂正」という。)の請求は、明細書、特許請求の範囲を、上記訂正請求書に添付した訂正明細書、訂正特許請求の範囲のとおりに訂正することを求めるものであり、その内容は、以下のとおりのものである。下線は、訂正箇所を示す。 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1において、 「重量平均分子量が5,000~200,000、エポキシ当量が2,000~50,000g/当量」、 「R3の5モル%以上は炭素数1~10の脂肪族カルボニル基又は芳香族カルボニル基で、残りは水素原子であり、nは繰り返し数の平均値であり5以上500以下である。上記式(2)中、X1は直接結合であり、R4~R11は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~12のアルキル基、炭素数1~12のアルコキシ基、炭素数6~12のアリール基、炭素数1~12のアルケニル基、炭素数1~12のアルキニル基から任意に選ばれる基である。)」を、それぞれ、 「重量平均分子量が11,604~80,000、エポキシ当量が2,000~8,944g/当量」、 「R3の5モル%以上は炭素数1~10の脂肪族カルボニル基で、残りは水素原子であり、nは繰り返し数の平均値であり5以上500以下である。上記式(2)で表される化学構造は、下記式(4)である。) 【化2】 [図:0001383247000001.jpg] 」に訂正する。 (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項2を削除する。 (3)訂正事項3 特許請求の範囲の請求項3において、 「請求項1乃至2に記載のエポキシ樹脂」を、 「請求項1に記載のエポキシ樹脂」に訂正する。 (4)訂正事項4 特許請求の範囲の請求項10において、 「重量平均分子量が5,000~200,000、エポキシ当量が2,000~50,000g/当量」、 「R’3の5モル%以上は炭素数1~10の脂肪族カルボニル基又は芳香族カルボニル基で、残りは水素原子であり、nは繰り返し数の平均値であり5以上500以下である。上記式(2)’中、X’1は直接結合、炭素数1~13の2価の炭化水素基、-O-、-S-、-SO2-、-C(CF3)2-及び-CO-から選ばれる基であり、R’4~R’11は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~12のアルキル基、炭素数1~12のアルコキシ基、炭素数6~12のアリール基、炭素数1~12のアルケニル基、炭素数1~12のアルキニル基から任意に選ばれる基である。)」、 「(上記式(6)及び/又は(7)中、A’は上記式(2)’で表される化学構造を含み、R’3の5モル%以上は炭素数1~10の脂肪族カルボニル基又は芳香族カルボニル基で、残りは水素原子であり、mは繰り返し数の平均値であり0以上6以下である。)」を、 それぞれ、 「重量平均分子量が11,604~80,000、エポキシ当量が2,000~8,944g/当量」、 「R’3の5モル%以上は炭素数1~10の脂肪族カルボニル基で、残りは水素原子であり、nは繰り返し数の平均値であり5以上500以下である。上記式(2)’で表される化学構造は、下記式(8)である。)」、 「(上記式(6)及び/又は(7)中、A’は上記式(2)’で表される化学構造を含み、上記式(2)’で表される化学構造は、下記式(8)であり、R’3の5モル%以上は炭素数1~10の脂肪族カルボニル基で、残りは水素原子であり、mは繰り返し数の平均値であり0以上6以下である。) 【化5】 [図:0001383247000002.jpg] 」に訂正する。 (5)訂正事項5 特許請求の範囲の請求項11を削除する。 (6)訂正事項6 明細書の【0089】の【表1】中の「実施例1-11」の列を削除する。 (7)訂正事項7 明細書の【0092】の【表2】中の「実施例2-11」の列と「実施例1-11のエポキシ樹脂」の段を削除する。 2.一群の請求項について 訂正前の請求項2~9は、訂正前の請求項1を直接又は間接的に引用する関係にあり、訂正事項1によって記載が、訂正される訂正前の請求項1に連動して訂正されるから、訂正前の請求項1~9は、一群の請求項に該当するものである。 訂正前の請求項11は、訂正前の請求項10を直接的に引用する関係にあり、訂正事項4によって記載が、訂正される訂正前の請求項10に連動して訂正されるから、訂正前の請求項10~11は、一群の請求項に該当するものである。 よって、訂正事項1~3は、請求項〔1-9〕の一群の請求項、訂正事項4~5は、請求項〔10-11〕の一群の請求項についてなされたものといえるから、本件訂正は、請求項〔1-9〕、〔10-11〕の一群の請求項ごとに請求がなされたものである。 3.訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・ 変更の存否 (1)訂正事項1、4 訂正事項1、4は、訂正前の請求項1、10に記載されていた「重量平均分子量が5,000~200,000」を、明細書の【0089】の表-1の実施例1-1の重量平均分子量として記載されていた「11604」及び明細書の【0032】の「80、000以下が更に好ましい。」との記載に基づき「11,604~80,000」という狭い範囲に限定すること、及び、同請求項1、10に記載されていた「エポキシ当量が2,000~50,000g/当量」を、明細書の【0089】の表-1の実施例1-2のエポキシ当量として記載されていた「8944」の記載に基づき「2,000~8,944g/当量」という狭い範囲に限定することを含むものである。 また、訂正事項1、4は、訂正前の請求項1、10に記載されていた「R3」の選択肢である「脂肪族カルボニル基又は芳香族カルボニル基」を、「脂肪族カルボニル基」のみに限定すること、及び、同請求項1、10に記載されていた式(2)で表される化学構造、式(2’)で表される化学構造を、それぞれ、同請求項2に記載されていた式(4)であるもの、同請求項11に記載されていた式(8)であるものに限定することを含むものである。 そうすると、訂正事項1、4は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものともいえない。 (2)訂正事項2、5 訂正事項2、5は、訂正前の請求項2、11を単に削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものともいえない。 (3)訂正事項3 訂正事項3は、訂正事項2により、訂正前の請求項2が削除されたことに伴い、訂正前の請求項3が引用している請求項を単に削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものともいえない。 (4)訂正事項6、7 訂正事項6、7は、本件特許の明細書の実施例1-11の記載が、【0043】に記載されている「(エポキシ基):(エステル基)=1~1.2:1」についての説明と整合しないことから、本件特許の明細書の【0089】の【表1】及び【0092】の【表2】における実施例1-11に関する箇所を削除するものであり、明瞭でない記載の釈明を目的としたものである。 また、訂正事項6、7は、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものとはいえない。 なお、本件特許の明細書を訂正の対象とする訂正事項6、7は、訂正前の請求項1~11の全てと関係するものとして請求されたものである。 4.小括 以上のとおり、本件訂正請求による訂正事項1~5は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項(特許請求の範囲の減縮)を目的とし、同訂正事項6~7は、同法同条同項ただし書第3号に掲げる事項(明瞭でない記載の釈明)を目的とするものであり、かつ、いずれも同法同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合しているものである。 したがって、本件特許の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおりに訂正することを認める。 第3 訂正後の本件発明 本件訂正により訂正された請求項1~11に係る発明は、訂正特許請求の範囲の請求項1~11に記載された、以下の事項によって特定されるとおりのものである。下線は、訂正箇所を示す。 以下、本件訂正により訂正された請求項1~11に係る発明を、項番に従い、「本件発明1」~「本件発明11」といい、これらを総称して、「本件発明」ということがある。これに対し、本件訂正前の請求項1~11に係る発明を、「訂正前の本件発明1」~「訂正前の本件発明11」といい、これらを総称して、「訂正前の本件発明」ということがある。 また、本件訂正により訂正された本件特許の明細書を「本件明細書」という。 「【請求項1】 下記式(1)で表され、重量平均分子量が11,604~80,000、エポキシ当量が2,000~8,944g/当量、かつエポキシ当量が数平均分子量以下であるエポキシ樹脂。 【化1】 [図:0001383247000003.jpg] (上記式(1)中、Aは上記式(2)で表される化学構造を含み、R1及びR2は互いに異なっていてもよく、水素原子又は上記式(3)で表される化学構造であり、少なくともいずれか一方は上記式(3)で表される基である。R3の5モル%以上は炭素数1~10の脂肪族カルボニル基で、残りは水素原子であり、nは繰り返し数の平均値であり5以上500以下である。上記式(2)で表される化学構造は、下記式(4)である。) 【化2】 [図:0001383247000004.jpg] 【請求項2】 (削除) 【請求項3】 請求項1に記載のエポキシ樹脂と、硬化剤とからなるエポキシ樹脂組成物。 【請求項4】 前記エポキシ樹脂の固形分100重量部に対し、前記硬化剤を固形分で0.1~100重量部含む、請求項3に記載のエポキシ樹脂組成物。 【請求項5】 前記エポキシ樹脂と他のエポキシ樹脂を含み、当該エポキシ樹脂と当該他のエポキシ樹脂との固形分の重量比が、99/1~1/99である、請求項3又は4に記載のエポキシ樹脂組成物。 【請求項6】 前記エポキシ樹脂と他のエポキシ樹脂の固形分の合計100重量部に対し、前記硬化剤を固形分で0.1~100重量部含む、請求項5に記載のエポキシ樹脂組成物。 【請求項7】 前記硬化剤がフェノール系硬化剤、アミド系硬化剤、イミダゾール類及び活性エステル系硬化剤からなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項3乃至6のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂組成物。 【請求項8】 請求項3乃至7のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂組成物を硬化してなる硬化物。 【請求項9】 請求項3乃至7のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂組成物を用いてなる電気・電子回路用積層板。 【請求項10】 下記式(6)で表される2官能エポキシ樹脂と、下記式(7)で表される化合物とを反応させ、重量平均分子量が11,604~80,000、エポキシ当量が2,000~8,944g/当量、かつエポキシ当量が数平均分子量以下である下記式(1)’のエポキシ樹脂を得るエポキシ樹脂の製造方法。 【化3】 [図:0001383247000005.jpg] (上記式(1)’中、A’は上記式(2)’で表される化学構造を含み、R’1及びR’2は互いに異なっていてもよく、水素原子又は上記式(3)’で表される化学構造であり、少なくともいずれか一方は上記式(3)’で表される基である。R’3の5モル%以上は炭素数1~10の脂肪族カルボニル基で、残りは水素原子であり、nは繰り返し数の平均値であり5以上500以下である。上記式(2)’で表される化学構造は、下記式(8)である。) 【化4】 [図:0001383247000006.jpg] (上記式(6)及び/又は(7)中、A’は上記式(2)’で表される化学構造を含み、上記式(2)’で表される化学構造は、下記式(8)であり、R’3の5モル%以上は炭素数1~10の脂肪族カルボニル基で、残りは水素原子であり、mは繰り返し数の平均値であり0以上6以下である。) 【化5】 [図:0001383247000007.jpg] 【請求項11】 (削除) 」 第4 異議申立ての理由と当審が通知した取消理由 1.異議申立ての理由(以下、「申立理由」という。) (1)申立理由の概要 ア.申立理由1(甲1を主引例とする新規性の欠如) 訂正前の本件発明1~11は、甲1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、それらの発明に係る特許は同法第113条第2号の規定により取り消すべきものである。 イ.申立理由2(甲1を主引例とする進歩性の欠如) 訂正前の本件発明1~11は、甲1~5に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、それらの発明に係る特許は同法第113条第2号の規定により取り消すべきものである。 ウ.申立理由3(実施可能要件、サポート要件、明確性要件の違反) (ア)訂正前の本件発明1、10の「エポキシ当量が2,000~50,000g/当量、かつエポキシ当量が数平均分子量以下である」について、どのような制御を行えば、目的とするエポキシ当量、かつ数平均分子量以下のエポキシ樹脂を得ることができるか当業者は予測できない。 そうすると、訂正前の本件明細書及び訂正前の特許請求の範囲の請求項1~11は、特許法第36条第4項第1号、第6項第1号に規定する要件を満たしていない。 (イ)訂正前の本件明細書の【0032】、【0077】に記載されたGPC法によって測定される分子量は、標準ポリマー(ポリスチレン)の分子量であり、一般式(1)で表されるエポキシ樹脂の数平均分子量を示すものではないので、訂正前の本件発明1及び10の要件である「エポキシ当量が数平均分子量以下である」は明確ではなく、発明の詳細な説明に記載されたものでないとともに当業者が実施をすることができる程度に明細書に記載されていない。 そうすると、訂正前の本件明細書及び訂正前の特許請求の範囲の請求項1~11は、特許法第36条第4項第1号、第6項第1号、第2号に規定する要件を満たしていない。 (ウ)訂正前の本件明細書の実施例にはアシル化率の記載がないから、訂正前の本件発明1、10のアシル化率の要件を満足しているか否かが不明であり、訂正前の本件明細書及び訂正前の特許請求の範囲の請求項1~11は、特許法第36条第4項第1号、第6項第1号に規定する要件を満たしていない。 (エ)訂正前の特許請求の範囲の請求項1では「式(1)中、Aは式(2)で表される化学構造を含み」、同請求項10では「式(6)及び/又は(7)中、A’は式(2)’で表される化学構造を含み」と規定されているところ、実施例1-1~1~12は、全て、A又はA’として、式(2)又は式(2)’で表される化学構造を100モル%含む場合のみであり、式(2)又は式(2)’表される化学構造以外の構造が不明であるから、A又はA’として式(2)又は式(2)’で表される化学構造を100モル%含む場合以外まで内容を拡張できるとはいえない。 したがって、訂正前の本件明細書及び訂正前の特許請求の範囲の請求項1~11は、特許法第36条第4項第1号、第6項第1号、第2号に規定する要件を満たしていない。 以上のとおり、訂正前の本件発明1~11についての特許は、特許法第36条第4項第1号、第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。 (2)証拠方法 申立人が、特許異議申立書に添付した証拠方法(甲第1~5号証)は、以下のとおりである。 ・甲第1号証:特開平10-168287号公報 ・甲第2号証:特開2013-151672号公報 ・甲第3号証:特公昭46-021898号公報 ・甲第4号証:特開平08-333437号公報 ・甲第5号証:再公表特許WO2005/095517号 また、申立人が令和3年4月19日提出の意見書に添付した証拠は、以下のとおりである。 ・甲第6号証:特開2010-18679号公報 (以下、「甲第1号証」~「甲第6号証」を、それぞれ「甲1」~「甲6」という。) 一方、特許権者が令和3年2月18日提出の意見書に添付した証拠は、以下のとおりである。 ・乙第1号証:新保正樹編、「エポキシ樹脂ハンドブック」、 昭和62年、日刊工業新聞社、34~35頁 ・乙第2号証:エポキシ樹脂技術協会編、「総説 エポキシ樹脂 基礎編I」、2003年、エポキシ樹脂技術協会発行、 69~70頁 (以下、「乙第1号証」~「乙第2号証」を、それぞれ「乙1」~「乙2」という。) 2.取消理由通知書に記載した取消理由の概要 (1)令和2年12月17日付け取消理由通知書に記載した取消理由の概要 ア.取消理由1(甲1を主引例とする新規性、進歩性の欠如) 本件発明1、3~10は、甲1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであり、または、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到し得た発明であるから、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件発明1、3~10に係る特許は同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 イ.取消理由2(実施可能要件違反) 本件明細書には、エポキシ当量を数平均分子量以下とするための直接的な記載はなく、実施例1-1~1-12においても、特定の原料を特定の製造条件(成分の種類や量、反応温度等)で反応させることで「エポキシ当量が数平均分子量以下である」エポキシ樹脂が得られたことが示されるのみであり(実施例1-11は、2官能エポキシ樹脂とジエステル系化合物の使用量が、その配合当量比で(エポキシ基):(エステル基)=0.99:1であり、【0043】の「(エポキシ基):(エステル基)=1~1.2:1」の範囲から外れる)、本件明細書の一般的記載をみても、「式(1)で表されるエポキシ樹脂」の製造方法について、「エポキシ当量が数平均分子量以下である」とするための製造方法・製造条件は不明である。 また、実施例・比較例をみても、どのような製造条件であれば「エポキシ当量が数平均分子量以下である」エポキシ樹脂を製造できるのか判然としない。 そうすると、本件明細書をみても、「エポキシ当量が数平均分子量以下である」エポキシ樹脂を製造するための条件が明らかでないし、製造した全ての「エポキシ樹脂」について「エポキシ当量が数平均分子量以下である」か否かを評価するのは当業者に過度な試行錯誤を要求するものであると認められる。 したがって、訂正前の本件発明1~11について、本件明細書には、当業者が実施できるように明確かつ十分に記載されているとは認められず、本件発明1~11に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、取り消すべきものである。 (2)令和3年6月30日付け取消理由通知書(決定の予告)に記載した 取消理由の概要 ア.取消理由3(甲6を主引例とする新規性、進歩性の欠如) 令和3年2月18日提出の訂正請求(上記の第1で示したとおり、令和3年9月9日に訂正請求されたことにより取り下げられたものとみなされた。)の訂正請求の範囲の請求項1~8、10~11に係る発明は、甲6に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、また、上記発明は、甲6に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないから、上記発明に係る特許は同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 第5 当審の判断 訂正前の請求項2、11は、本件訂正により、その内容が削除され、本件特許異議の申立ての対象を欠くものとなっており、訂正前の請求項2、11に対する本件異議の申立ては不適法なものであり、その治癒ができないものであるから、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により、請求項2、11に係る特許に対する各申立ては却下すべきものである。 また、以下で述べるように、本件発明1、3~10に係る特許は、当審が通知した令和2年12月17日付け取消理由通知書に記載した取消理由1~2、令和3年6月30日付け取消理由通知書(決定の予告)に記載した取消理由3(以下、両方の取消理由通知書を総称して「取消理由通知書」という。)、申立人による申立理由1~3によっては、取り消すことができない、と判断する。以下に詳述する。 1.取消理由通知書に記載した取消理由の検討 事案に鑑み、取消理由2(実施可能要件違反)の検討を優先する。 (1)取消理由2(実施可能要件違反) ア.本件明細書の発明の詳細な説明に記載された事項 本件明細書の発明の詳細な説明には次のような記載がある。 本a.本件発明の課題及び効果 「【発明が解決しようとする課題】 【0007】 本発明の課題は、製膜性に優れたエポキシ樹脂を提供することである。また、これを含むエポキシ樹脂組成物が、耐薬品性(特に耐溶剤性)に優れた硬化物を提供することである。 本発明者らは、鋭意検討の結果、分子末端にエポキシ基を有する高分子型エステル化エポキシ樹脂を製造することに成功し、本エステル化エポキシ樹脂が製膜性に優れることを見出した。また本発明の高分子量エステル化エポキシ樹脂を用いた組成物からなる硬化物が、耐薬品性(特に耐溶剤性)に優れることを見出した。」 「【発明の効果】 【0017】 本発明によれば、製膜性に優れたエポキシ樹脂を提供することができる。また、このエポキシ樹脂を用いたエポキシ樹脂組成物で、耐薬品性(特に耐溶剤性)に優れた硬化物を提供することができる。このため、本発明のエポキシ樹脂及びエポキシ樹脂組成物は、接着剤、塗料、土木用建築材料、電気・電子部品の絶縁材料等、様々な分野に適用可能であり、特に電気・電子分野における絶縁注型、積層材料、封止材料等として有用である。本発明のエポキシ樹脂及びそれを含むエポキシ樹脂組成物は、多層プリント配線基板、キャパシタ等の電気・電子回路用積層板、フィルム状接着剤、液状接着剤等の接着剤、半導体封止材料、アンダーフィル材料、3D-LSI用インターチップフィル、絶縁シート、プリプレグ、放熱基板等に好適に用いることができる。」 本b.本件発明を実施するための形態 「【0032】 前記式(1)中、nは繰り返し数であり、平均値である。その値の範囲は製膜性の観点から5以上であり、また、樹脂の取り扱い性の観点から500以下である。製膜性を更に良好なものとする観点から好ましくは10以上であり、より好ましくは15以上であり、一方、樹脂の取り扱い性を更に良好なものとする観点から好ましくは200以下であり、より好ましくは100以下である。n数はゲルパーミエーションクロマトグラフィー法(GPC法)により得られた数平均分子量Mnより算出することができる。GPC法については具体例を後掲実施例において説明する。 … 【0034】 <エポキシ当量> 本発明のエポキシ樹脂のエポキシ当量は、2,000~50,000g/当量の範囲であり、かつエポキシ当量が数平均分子量以下である。エポキシ当量はエポキシ基当たりの分子量であるから、エポキシ当量が数平均分子量以下であることは、平均で一分子当たり一つ以上のエポキシ基が含まれていることを意味する。これにより、本発明のエポキシ樹脂はそれ自体が硬化反応に関与し、架橋構造に組み込まれることが可能である。 【0035】 <エポキシ樹脂の製造方法> 本発明のエポキシ樹脂は、例えば、下記式(4)で表される2官能エポキシ樹脂と、下記式(5)で表されるジエステル系化合物とを反応させて得られる。理論的には、公知の方法で合成されたフェノキシ樹脂(高分子量エポキシ樹脂)の二級水酸基を後工程でアシル化する方法でも合成可能と思われるが、実際にはアシル化の反応中に生成する塩化水素やカルボン酸によって末端のエポキシ基が消失してしまうため、本法を用いることが好ましい。 【0036】 【化7】 [図:0001383247000008.jpg] 【0037】 … 本発明のエポキシ樹脂の製造に用いられる2官能エポキシ樹脂は、前記式(4)で表されるエポキシ樹脂であり、例えば、下記式(6)で表されるビスフェノール系化合物を、公知の方法によってエピハロヒドリンと縮合させて得られるエポキシ樹脂等が挙げられる。 【0038】 【化8】 [図:0001383247000009.jpg] 【0039】 (上記式(6)におけるA’の定義は、前記式(4)及び/又は(5)と同様である。)また本発明のエポキシ樹脂の製造に用いられるジエステル化合物は、前記式(5)で表されるものであり、例えば、前記式(6)で表されるビスフェノール系化合物を、酸クロリドや酸無水物、あるいはカルボン酸等との縮合反応でアシル化して得られる。 前記式(4)及び/又は(5)中、A’は前記式(2)’で表される化学構造を含んでいてもよいし、含まなくともよいが、前記式(4)中のA’が式(2)’を含まない場合は、前記式(5)は前記式(2)’ で表される化学構造を必ず含むものである。一方、前記式(6)中、A’は前記式(2)’で表される化学構造を含んでいてもよいし、含まなくともよいが、前記式(5)中のA’が式(2)’を含まない場合は、前記式(6)は前記式(2)’ で表される化学構造を必ず含むものである。つまり、本発明のエポキシ樹脂には、前記式(2)’で表される化学構造が必ず含まれるものであり、これを満たす限り、前記式(2)’の化学構造が、2官能エポキシ樹脂及びジエステル系化合物のいずれに含まれるものであってもよく、またその化学構造の割合も制限されるものではない。 【0040】 しかし、エポキシ基との反応性を考慮すると、前記式(5)は前記式(2)’で表される構造を必ず含むことが好ましい。 前記式(2)’におけるR’4~R’11の定義と好ましいものは、それぞれ前記式(2)におけるR4~R11と同様のものである。また、前記式(2)’におけるX’1の定義と好ましいものは、それぞれ前記式(2)におけるX1と同様のものである。 【0041】 また、前記式(5)又は式(6)におけるA’として前記式(2)’の化学構造を含まない場合には、該A’には公知の任意の化学構造を導入することができる。 前記式(5)におけるmは繰り返し数の平均値であり、0以上6以下である。公知の方法で前記式(6)のビスフェノール化合物とエピクロロヒドリンを反応させると、mは0より大きくなるのが通常である。mを0とするためには、公知の方法で製造したエポキシ樹脂を蒸留・晶析等の手法で高度に精製するか、または前記式(6)のビスフェノール化合物をアリル化した後に、オレフィン部分を酸化することでエポキシ化する方法がある。これにより、本発明のエポキシ樹脂は二級水酸基を含まないものとなり、吸湿性・誘電特性を更に改良することができる。一方で、例えば金属に対する接着性を微調整する際に、適当なm数のエポキシ樹脂を用いることで、吸湿性を始めとする他の物性に大きな影響を及ぼさない範囲で、本発明のエポキシ樹脂中に敢えて適量の二級水酸基を存在させることができる。 【0042】 本発明のエポキシ樹脂の製造に用いる2官能エポキシ樹脂又はジエステル系化合物には、前記式(2)’で表される化学構造が、前記式(5)及び式(6)中のA’全体のモル数に対して1~100モル%含まれていることが好ましい。前記式(2)’で表される化学構造に起因する耐熱性を十分に発現させるという観点からは、より好ましくは前記式(2)’で表される化学構造が10モル%以上、更に好ましくは30モル%以上、特に好ましくは50モル%以上である。 【0043】 本発明のエポキシ樹脂の製造において、上記の2官能エポキシ樹脂とジエステル系化合物の使用量は、その配合当量比で、(エポキシ基):(エステル基)=1~1.2:1となるようにするのが好ましい。この当量比が上記範囲であると、分子末端にエポキシ基を有した状態での高分子量化を進行させやすくなるために好ましい。 また、ジエステル系化合物の一部を、前記式(6)で表されるビスフェノール化合物に置き換えることも可能である。これにより前述のように、本発明のエポキシ樹脂中に敢えて適量の二級水酸基を存在させることで物性の微調整ができる。」 本c.実施例 「【実施例】 … 【0076】 〔物性・特性の評価方法〕 以下の実施例及び比較例において、物性、特性の評価は以下の1)~5)に記載の方法で行った。 【0077】 1)重量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn) 東ソー(株)製「HLC-8320GPC装置」を使用し、以下の測定条件で、標準ポリスチレンとして、TSK Standard Polystyrene:F-128(Mw:1,090,000、Mn:1,030,000)、F-10(Mw:106,000、Mn:103,000)、F-4(Mw:43,000、Mn:42,700)、F-2(Mw:17,200、Mn:16,900)、A-5000(Mw:6,400、Mn:6,100)、A-250 0(Mw:2,800、Mn:2,700)、A-300(Mw:453、Mn:387)を使用した検量線を作成して、重量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)をポリスチレン換算値として測定した。 カラム:東ソー(株)製「TSKGEL SuperHM-H+H5000+H4000+H3000+H2000」 溶離液:テトラヒドロフラン 流速:0.5ml/min 検出:UV(波長254nm) 温度:40℃ 試料濃度:0.1重量% インジェクション量:10μl 【0078】 2)n数 前記式(1)におけるnの値は上記で求められた数平均分子量より算出した。 【0079】 3)エポキシ当量 JIS K 7236に準じて測定し、固形分換算値として表記した。 【0080】 4)製膜性 エポキシ樹脂、又はエポキシ樹脂組成物の溶液をセパレータ(シリコーン処理したポリエチレンテレフタレートフィルム、またはテフロン(登録商標)フィルム)にアプリケーターで塗布し、160℃で1.5時間、その後200℃で1.5時間乾燥させ、自立可能なフィルムが作製可能かどうか評価した。 ○:自立したフィルムが得られ、十分な可撓性がある △:可撓性は不十分でやや脆いが、フィルム形状を保つことができる ×:脆くてフィルム形状を保てない/フィルムにならない 【0081】 5)耐溶剤性 4)と同様の方法で、厚さ約50μmのエポキシ樹脂フィルムを得た。200mlのサンプル瓶にテトラヒドロフランを100g入れ、そこに得られたフィルムを4cm×4cmに切り出した試験片を浸し、室温で12時間以上放置し、様子を目視で確認した。また、フィルム形状を維持できたものについてはテトラヒドロフラン中から取り出し、100℃で2時間乾燥を行った後、重量を測定し、ゲル分率を算出した。 ○ : 分散せず、フィルム形状が維持できている △ : 分散は見られるものの、フィルム形状が維持できている × : フィルム形状が全く維持できず、分散してしまっている (ゲル分率)=[{(テトラヒドロフランつけ置き後、乾燥させた後の質量)-(処理前の試験片の質量)}/(処理前の試験片質量)]×100 【0082】 〔原料等〕 以下の実施例・比較例において用いた原料、触媒、溶媒及び溶剤は以下の通りである。 【0083】 [2官能エポキシ樹脂] (A-1):三菱化学(株)製 商品名「jER YX4000」(3,3’,5,5’-テトラメチル-4,4’-ビフェノールジグリシジルエーテル、エポキシ当量186g/当量) (A-2):三菱化学(株)製 商品名「jER 828US」(ビスフェノールA型エポキシ樹脂、エポキシ当量185g/当量) (A-3):三菱化学(株)製 商品名「jER 806H」(ビスフェノールF型エポキシ樹脂、エポキシ当量169g/当量) (A-4):三菱化学(株)製 商品名「jER YL6121H」(4,4’-ビフェノール型エポキシ樹脂と3,3’,5,5’-テトラメチル-4,4’-ビフェノール型エポキシ樹脂の1:1混合物、エポキシ当量171g/当量) (A-5):三菱化学(株)製 商品名「jER YX7760」(エポキシ当量237g/当量) (A-6):三菱化学(株)製 商品名「jER YX7710」(エポキシ当量240g/当量) 【0084】 [ジエステル系化合物] (B-1):ジアセトキシビフェニル (B-2):ジベンゾイルオキシビフェニル (B-3):2,2-ビス(4-アセトキシフェニル)プロパン (B-4):1,1-ビス(4-アセトキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン (B-5):9,9-ビス(4-アセトキシフェニル)フルオレン 【0085】 [ビスフェノール系化合物] (P-1):4,4’-(フルオレン-9,9-ジイル)ビス(2-メチルフェノール)(本州化学(株)製 製品名:BisOC-FL、水酸基当量:189g/当量) 【0086】 [触媒] (C-1):N,N’-ジメチルアミノピリジン (C-2):2-エチル-4(5)-メチルイミダゾール(製品名:EMI24、三菱化学(株)製)、50wt%シクロヘキサノン溶液 (C-3):テトラブチルアンモニウムブロミド、50重量%水溶液 【0087】 [溶媒・溶剤] (S-1):シクロヘキサノン (S-2):メチルエチルケトン(MEK) 【0088】 〔エポキシ樹脂の製造と評価:製膜性、溶剤溶解性〕 <実施例1-1~1-12、比較例1-1> 表-1に示した配合で2官能エポキシ樹脂、ジエステル系化合物、触媒および反応用の溶剤を撹拌機付き反応容器に入れ、窒素ガス雰囲気下で、表-1に記載した反応時間、反応温度で反応を行った。その後、希釈用の溶剤を加えて固形分濃度を調整した。得られた樹脂について分析を行った結果を表-1にあわせて示す。 【0089】 【表1】 [図:0001383247000010.jpg] 【0090】 <比較例1-2> 2官能エポキシ樹脂として三菱化学(株)製 商品名「jER YX4000」(3,3’,5,5’-テトラメチル-4,4’-ビフェノールジグリシジルエーテル、エポキシ当量186g/当量)を55.0g、ジエステル系化合物としてBPS-P(T)(ビスフェノールS、水酸基当量125g/当量)を36.2g、触媒として27質量%テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド水溶液を0.47g、および反応用の溶剤としてシクロヘキサノン74.6gを撹拌機付き反応容器に入れ、窒素ガス雰囲気下で5.5時間、145~155℃で反応を行った。その後、希釈用の溶剤としてシクロヘキサノン138.2gを加えて固形分濃度を30質量%に調整した。この高分子量エポキシ樹脂は数平均分子量12,500、重量平均分子量31,100であった。ここへ、60~80℃に温度を保ちつつ無水酢酸32.9gを加え、120℃に昇温して2時間反応させた。シクロヘキサノンを50g加え、過剰の無水酢酸と、アシル化によって生成した酢酸を留去することを3回繰り返し、最終的に留出液がほぼ中性であることを確認した上で固形分濃度を30質量%に調整した。1H-NMRで分析したところ、アシル化率は94.7%であった。一方、エポキシ当量は140,000g/当量を超えており、実質的にほとんどエポキシ基が残留していないことがわかった。 【0091】 〔エポキシ樹脂組成物/硬化物の製造と評価:耐薬品性(耐溶剤性)〕 <実施例2-1~2-12、比較例2-1> 実施例1-1~1-12で得られたエポキシ樹脂又は比較例1-2で得られた熱可塑性樹脂と、フェノールノボラック樹脂50重量%MEK溶液(群栄化学(株)製 商品名「PSM6200」)と、硬化促進剤として2-エチル-4(5)-メチルイミダゾール(三菱化学(株)製 商品名「EMI24」)の20重量%MEK溶液を、表-2に示した重量比(エポキシ基:水酸基=1:1となる比率)で混合して、エポキシ樹脂組成物を得た。これらについて、前述の手法に従って耐薬品性(特に耐溶剤性)を評価した。結果を表-2に示す。 【0092】 【表2】 [図:0001383247000011.jpg] 【0093】 表-1の結果より、実施例1-1~1-12のエポキシ樹脂は製膜性に優れることがわかる。また、実施例1-1~1-12のエポキシ樹脂はエポキシ当量が数平均分子量より小さく、平均で一分子中に一つ以上のエポキシ基が含まれていることがわかる。一方、比較例1-2は末端にエポキシ基がほとんど存在しない。 表-2の結果より、実施例2-1~2-12において、実施例1-1~1-12のエポキシ樹脂に硬化剤を配合して加熱・硬化した硬化物は耐薬品性(特に耐溶剤性)に優れることがわかる。また、ゲル成分が残存することから、エポキシ基がほとんど残存しない比較例1-2とは異なり、実施例1-1~1-12のエポキシ樹脂は硬化反応に関与することが明確である。 【0094】 以上の結果より、本発明のエポキシ樹脂は、比較例に比べて、製膜性に優れ、またこれを含むエポキシ樹脂組成物は、耐薬品性(特に耐溶剤性)等に優れた硬化物を与えることがわかる。」 イ.実施可能要件の考え方 発明の詳細な説明の記載が実施可能要件に適合するというためには、明細書の発明の詳細な説明に、当業者が、明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その発明を実施することができる程度に発明の構成等の記載があることを要する(平成30年(行ケ)第10043号知財高裁判決、令和元年(行ケ)第10173号知財高裁判決、令和2年(行ケ)第10033号知財高裁判決)。 また、物の発明の実施とは、その物の生産、使用等をする行為であるから(特許法2条3項1号)、物の発明について上記実施可能要件を充足するためには、明細書の発明の詳細な説明において、当業者が、明細書の発明の詳細な記載及び出願時の技術常識に基づき、過度の試行錯誤を要することなく、その物を生産し、かつ、使用することができる程度の記載があることを要する(平成27年(行ケ)第10249号等知財高裁判決)。 ウ.本件発明1、10の実施可能要件の検討 本件明細書の【0034】には、エポキシ当量とは、「エポキシ当量はエポキシ基当たりの分子量であるから、エポキシ当量が数平均分子量以下であることは、平均で一分子当たり一つ以上のエポキシ基が含まれていることを意味する。」とあり(本b)、【0035】によると、「本発明のエポキシ樹脂は、例えば、下記式(4)で表される2官能エポキシ樹脂と、下記式(5)で表されるジエステル系化合物とを反応させて得られる」ものであるところ(本b)、【0043】には、「配合当量比で、(エポキシ基):(エステル基)=1~1.2:1となるようにするのが好ましい。この当量比が上記範囲であると、分子末端にエポキシ基を有した状態での高分子量化を進行させやすくなるために好ましい。」と記載されている(本b)。 また、本件明細書の【表1】の実験結果をみると、実施例1-1~1-10、1-12においては、「モル比(エポキシ基/活性当量比)」、すなわち「配合当量比で、(エポキシ基):(エステル基)」が、「1~1.2:1」の範囲にある実施例1-2~1-10、1-12(1.06)又は実施例1-1(1.18)が、いずれも「エポキシ当量」がポリスチレン換算値により測定された「数平均分子量(Mn)」を下回っている(本cの【0088】~【0089】)。 これに対し、「モル比(エポキシ基/活性当量比)」、すなわち「配合当量比で、(エポキシ基):(エステル基)」が、「1~1.2:1」の範囲を外れる比較例1-1(0.84)は、「エポキシ当量」が「数平均分子量(Mn)」を大きく上回っている。 一方、本件特許の出願日当時の技術常識を示す乙2には、「エポキシ樹脂/ビスフェノールAの割合は、エポキシ基/フェノール性水酸基が当量比で1:1が基準であるが、1.03~1.1:1の範囲でエポキシ基過剰にして分子末端にエポキシ基を残した重合物を得る場合がある。」との記載があり、上記の本件明細書の【0043】の記載が、当業者における技術常識であったことが認められる。 以上の本件明細書の記載及び本件特許の出願日の技術常識を踏まえると、エポキシ基を有する化合物と、エポキシ基と反応する官能基(エステル基又はフェノール性水酸基)を有する化合物を反応させて重合物(エポキシ樹脂)を製造する際に、エポキシ基が過剰となる当量比で反応させた場合には、一般的には、分子末端にエポキシ基を有する重合物、すなわち、平均で一分子当たり一つ以上のエポキシ基が含まれる重合物が得られることが理解でき、その結果、当該重合物のエポキシ当量は数平均分子量以下になるものと解することができる。 そうすると、本件明細書の記載に接した当業者は、式(4)又は式(8)の化学構造を含むエポキシ樹脂の製造例及び製膜性を示す実施例1-1、1-2、1-5、1-9、1-12(本cの【0088】~【0089】、【表1】)、並びに、かかるエポキシ樹脂を、樹脂組成物/硬化物に適用した実施例2-1、2-2、2-5、2-9、2-12(本cの【0091】~【0094】)に基づき、本件発明1、10が対象としているエポキシ樹脂を製造でき、かかるエポキシ樹脂が、製膜性、耐薬品性に優れる樹脂組成物や硬化物に使用できることを理解し得るものと認められる。 したがって、本件明細書の発明の詳細な説明には、当業者が、本件特許の出願時の技術常識に基づき、過度の試行錯誤を要することなく、本件発明1、10及び本件発明1を直接又は間接的に引用する本件発明3~9を実施できる程度の記載があるといえる。 なお、申立人は、本件発明1、3~10については、実施可能要件違反の他にサポート要件違反の取消理由がある旨を主張する(第4の1(1)ウ(ア))。 しかし、本件発明1、3~10の発明特定事項を満たすエポキシ樹脂が、製膜性、耐薬品性に優れる樹脂組成物や硬化物を与えることは、本件明細書の【表1】及び【表2】からも明らかなので、本件発明1、3~10は、当業者が、本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び本件特許の出願日の技術常識に基づき、本件明細書の【0007】に記載された本件発明の課題を解決できると認識し得る範囲のものと認められる。 したがって、申立人の上記主張は、理由がない。 エ.小括 以上のとおり、本件発明1、10及び本件発明1を直接又は間接的に引用する本件発明3~9は実施可能要件を満たすものであるから、取消理由2(実施可能要件違反)は理由がない。 また、申立理由3(ア)は、取消理由2(実施可能要件違反)と同趣旨のものであるから、申立理由3(ア)についても理由がない。 (2)取消理由1(甲1を主引例とする新規性、進歩性の欠如) ア.甲1(特開平10-168287号公報)に記載された事項 甲1a 「【請求項1】 分子側鎖に炭素原子数が1~3であるアシル基を有するビスフェノール型エポキシ樹脂(A)と、溶解性パラメータが7.0~13.0の有機溶剤(B)を必須成分とすることを特徴とするエポキシ樹脂組成物。 … 【請求項5】 ビスフェノール型エポキシ樹脂(A)が、重量平均分子量が25000以上のものである請求項1記載の組成物。 … 【請求項8】 更に、硬化剤、硬化促進剤を含有する請求項1~7の何れか1つに記載の組成物。」 甲1b 「【0004】 【発明が解決しようとする課題】しかし、上記の高分子量のビスフェノール型エポキシ樹脂、特に難然性を有するハロゲン化ビスフェノール型エポキシ樹脂の場合は、溶剤溶解性並びに貯蔵安定性が著しく悪く、ワニスの調整及び作業性に劣り、例えば電気絶縁基板用途におけるガラスシートへの含侵性に劣るという課題を有していた。 【0005】本発明が解決しようとする課題は、ビスフェノール型エポキシ樹脂及び有機溶剤を含有する組成物において、相溶性並びに貯蔵安定性が著しく良好なエポキシ樹脂組成物を提供することにある。 【0006】 【課題を解決するための手段】本発明者等は、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、エポキシ樹脂中に炭素原子数1~3のアシル基を導入することにより上記課題を解決できることを見いだし本発明を完成するに至った。」 甲1c 「【0015】また、ハロゲン原子の有無に関わらず、エポキシ樹脂(A)として、重量平均分子量25000以上、特に25000~6000の場合には、溶解性改善効果は顕著なものとなる。」 「【0038】以上詳述した本発明のエポキシ樹脂組成物は、前述の通り、塗料及び電気絶縁基板等、とりわけ電気電子分野における電気積層板分野、例えば電子積層板用樹脂フィルム、ボンディングシート、ビルドアップ用絶縁樹脂、コーティング材、銅箔用の接着剤等において有用である。」 甲1d 「【0039】 【実施例】以下に本発明の実施例を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。 … 【0042】実施例1<高分子量型変性エポキシ樹脂の合成> 合成例1で得られたビスフェノールAのジアセチル化物100gとエポキシ当量188g/eqのビスフェノールA型エポキシ樹脂123gを1リットルの温度計、攪拌装置、コンデンサーを付けた4つ口フラスコに仕込み、窒素雰囲気下、 150℃で加熱溶解した。次いでテトラブチルアンモニウムブロマイドの50%水溶液を2.6g添加して150℃で10時間加熱攪拌し、10時間後に取り出し、変性エポキシ樹脂(a)223gを得た。得られたエポキシ樹脂のエポキシ当量は17000g/eq、重量平均分子量が50000であった。また、アシル基/2級水酸基=81/19であった。」 イ.甲1に記載された発明 甲1には、「分子側鎖に炭素原子数が1~3であるアシル基を有するビスフェノール型エポキシ樹脂(A)と、溶解性パラメータが7.0~13.0の有機溶剤(B)を必須成分とするエポキシ樹脂組成物」、「更に、硬化剤・・・を含有する請求項1~7の何れか1つに記載の組成物」が記載され(甲1a)、上記ビスフェノール型エポキシ樹脂(A)の具体例として、実施例1では 、「ビスフェノールAのジアセチル化物」と「エポキシ当量188g/eqのビスフェノールA型エポキシ樹脂」を反応させて得られる「変性エポキシ樹脂(a)(エポキシ当量:17000g/eq、重量平均分子量:50000、アシル基/2級水酸基=81/19)」が記載されている。 そうすると、甲1の特に実施例1の記載に着目すると、甲1には、以下の発明が記載されていると認められる。 「ビスフェノールAと無水酢酸を反応させて得られたビスフェノールAのジアセチル化物100gとエポキシ当量188g/eqのビスフェノールA型エポキシ樹脂123gを1リットルの温度計、攪拌装置、コンデンサーを付けた4つ口フラスコに仕込み、窒素雰囲気下、150℃で加熱溶解し、次いでテトラブチルアンモニウムブロマイドの50%水溶液を2.6g添加して150℃で10時間加熱攪拌し、10時間後に取り出した、変性エポキシ樹脂(a)(エポキシ当量:17000g/eq、重量平均分子量:50000、アシル基/2級水酸基=81/19)を得る方法」 (以下、「甲1発明A」という。) 「ビスフェノールAと無水酢酸を反応させて得られたビスフェノールAのジアセチル化物100gとエポキシ当量188g/eqのビスフェノールA型エポキシ樹脂123gを1リットルの温度計、攪拌装置、コンデンサーを付けた4つ口フラスコに仕込み、窒素雰囲気下、150℃で加熱溶解し、次いでテトラブチルアンモニウムブロマイドの50%水溶液を2.6g添加して150℃で10時間加熱攪拌し、10時間後に取り出して得られる変性エポキシ樹脂(a)(エポキシ当量:17000g/eq、重量平均分子量:50000、アシル基/2級水酸基=81/19)」 (以下、「甲1発明B」という。) ウ.本件発明1と甲1発明Bの対比、検討 本件発明1のエポキシ樹脂は、【0035】~【0037】(本b)によると、式(4)で表される2官能エポキシ樹脂と、式(5)で表されるジエステル系化合物とを反応させて得られるものであるところ、甲1発明Bの「変性エポキシ樹脂(a)」の原料である、「ビスフェノールAのジアセチル化物」は「ジエステル系化合物」、「ビスフェノールA型エポキシ樹脂」は「2官能エポキシ樹脂」に、それぞれ相当するから、本件発明1と甲1発明Bは、ジエステル系化合物と2官能エポキシ樹脂との反応で得られ、両末端に水素原子又はエポキシ基(本件発明1の(3)で表される構造)を有するもの、つまり、本件発明1の式(1)で表される化合物のうち、Aが2つのベンゼン環を有する二価の基であり、R1及びR2は互いに異なっていてもよく、水素原子又は上記式(3)で表される化学構造であり、少なくともいずれか一方は上記式(3)で表される基である限度において一致していると認められる。 甲1発明Bの「変性エポキシ樹脂(a)」は、アシル基/2級水酸基=81/19であるから、本件発明1の「R3の5モル%以上は炭素数1~10の脂肪族カルボニル基で、残りは水素原子」であるといえる。 甲1発明Bの「変性エポキシ樹脂(a)」の「重量平均分子量:50000」は、本件発明1の「重量平均分子量が11,604~80,000」と一致する。 甲1発明Bの「変性エポキシ樹脂(a)」は、重量平均分子量が50000のもので、その繰り返し単位中にビスフェノールA(分子量:約228g/mol)構造を含み、「繰り返し数の平均値」は「5以上500以下」になるといえるので、本件発明1の「nは繰り返し数の平均値であり5以上500以下である」と一致する。 そうすると、本件発明1と甲1発明Bは、 「下記式(1)で表され、重量平均分子量が11,604~80,000であるエポキシ樹脂。 [図:0001383247000012.jpg] [図:0001383247000013.jpg] (上記式(1)中、Aは2つのベンゼン環を有する二価の基である構造を含み、R1及びR2は互いに異なっていてもよく、水素原子又は上記式(3)で表される化学構造であり、少なくともいずれか一方は上記式(3)で表される基である。R3の5モル%以上は炭素数1~10の脂肪族カルボニル基で、残りは水素原子であり、nは繰り返し数の平均値であり5以上500以下である。)」で一致し、以下の点で相違している。 <相違点1> 本件発明1では、「Aは…式(2)で表される化学構造を含み」「式(2)で表される化学構造は、下記式(4)である」のに対して、 [図:0001383247000014.jpg] [図:0001383247000015.jpg] 甲1発明Bでは、Aに対応する化学構造が、「ビスフェノールA」より導き出される残基、すなわち、上記の式(2)で表される化学構造で示すとX1が炭素数3の2価の炭化水素基であり、R4~R11が水素原子である基である点 <相違点2> 本件発明1では、「エポキシ当量が2,000~8,944g/当量、かつエポキシ当量が数平均分子量以下である」のに対して、 甲1発明Bでは、「エポキシ当量:17000g/eq」であり、数平均分子量が不明である点 まず、上記の相違点1について検討する。 甲1の【0005】には、甲1発明Bが、解決しようとする課題が、「ビスフェノール型エポキシ樹脂及び有機溶剤を含有する組成物において、相溶性並びに貯蔵安定性が著しく良好なエポキシ樹脂組成物を提供することにある」ことが記載されており(本b)、甲1の特許請求の範囲等を見ても、「ビスフェノール型エポキシ樹脂」以外の化学構造を有するものの記載は甲1に存しないから、甲1発明Bの「変性エポキシ樹脂(a)」について、「ビスフェノールA」型より、本件発明1が対象とする「ビフェノール」型に置き換えることを、当業者が容易に動機づけられるとはいえない。 また、甲2~甲6を参照しても、甲1発明Bの「エポキシ樹脂」を、「ビスフェノールA」型より、「ビフェノール」型に置き換えることを記載乃至示唆するものは見当たらないから、上記の相違点1として挙げた本件発明1の発明特定事項は、当業者が容易に想到し得たものとは認められない。 したがって、相違点2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明Bに甲1~甲6に記載された事項を適用しても当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 エ.本件発明10と甲1発明Aの対比、検討 本件発明10と甲1発明Aとを上記ウでの検討を踏まえて対比すると、甲1発明Aの「変性エポキシ樹脂(a)」、「ビスフェノールAのジアセチル化物」、「ビスフェノールA型エポキシ樹脂」と、本件発明10の「式(1)’のエポキシ樹脂」、「式(7)で表される化合物」、「式(6)で表される2官能エポキシ樹脂」とは、本件発明1の場合と同様に、A’は2つのベンゼン環を有する二価の基であり、R’1及びR’2は互いに異なっていてもよく、水素原子又は式(3)’で表される化学構造であり、少なくともいずれか一方は上記式(3)’で表される基である。R’3の5モル%以上は炭素数1~10の脂肪族カルボニル基で、残りは水素原子であり、nは繰り返し数の平均値であり5以上500以下である。)である限りにおいて一致していると認められる。 そうすると、本件発明10と甲1発明Aは、 「下記式(6)で表される2官能エポキシ樹脂と、下記式(7)で表される化合物とを反応させ、重量平均分子量が11,604~80,000である下記式(1)’のエポキシ樹脂を得るエポキシ樹脂の製造方法。 【化3】 [図:0001383247000016.jpg] [図:0001383247000017.jpg] (上記式(1)’中、A’は2つのベンゼン環を有する二価の基であり、上記式(2)’で表される化学構造を含み、R’1及びR’2は互いに異なっていてもよく、水素原子又は上記式(3)’で表される化学構造であり、少なくともいずれか一方は上記式(3)’で表される基である。R’3の5モル%以上は炭素数1~10の脂肪族カルボニル基で、残りは水素原子であり、nは繰り返し数の平均値であり5以上500以下である。) 【化4】 [図:0001383247000018.jpg] (上記式(6)及び/又は(7)中、A’は上記式(2)’で表される化学構造を含み、R’3の5モル%以上は炭素数1~10の脂肪族カルボニル基で、残りは水素原子である。)」で一致し、以下の点で相違している。 <相違点3> 本件発明10では、「A’は…式(2)’で表される化学構造を含み」「式(2)’で表される化学構造は、下記式(8)である」のに対して、 [図:0001383247000019.jpg] [図:0001383247000020.jpg] 甲1発明Bでは、A’に対応する化学構造が、「ビスフェノールA」より導き出される残基、すなわち、上記の式(2)’で表される化学構造で示すとX’1が炭素数3の2価の炭化水素基であり、R’4~R’11が水素原子である基である点 <相違点4> 本件発明10では、「エポキシ当量が2,000~8,944g/当量、かつエポキシ当量が数平均分子量以下である」のに対して、 甲1発明Bでは、「エポキシ当量:17000g/eq」であり、数平均分子量は不明である点 <相違点5> 本件発明10では、式(6)において、「mは繰り返し数の平均値であり0以上6以下である」と規定しているのに対して、 甲1発明Bでは、「エポキシ当量188g/eqのビスフェノールA型エポキシ樹脂」における繰り返し数が不明である点 まず、上記の相違点3について検討するに、上記ウで検討したように、甲1には、甲1発明Aの「変性エポキシ樹脂(a)」について、「ビスフェノールA」型より、本件発明10が対象とする「ビフェノール」型に置き換えることを動機づける記載や示唆は見当たらないし、甲2~甲6を参照しても、甲1発明Aの「エポキシ樹脂」を、「ビスフェノールA」型より、「ビフェノール」型に置き換えることを記載乃至示唆するものは見当たらないから、上記の相違点3として挙げた本件発明10の発明特定事項は、当業者が容易に想到し得たものとは認められない。 したがって、相違点4、5について検討するまでもなく、本件発明10は、甲1発明Aに甲1~甲6に記載された事項を適用しても当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 オ.甲1を主引例とした新規性、進歩性の検討のまとめ 以上のとおり、本件発明1、10は、甲1発明B及び甲1発明A、すなわち甲1に記載された発明とはいえないし、甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 また、本件発明1を直接又は間接的に引用する本件発明3~9についても、本件発明1と同様の理由により、甲1に記載された発明とはいえないし、甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (3)取消理由3(甲6を主引例とする新規性、進歩性の欠如) ア.甲6(特開2010-18679号公報)に記載された事項 甲6a 「【請求項1】 液晶性ポリマーと熱硬化性樹脂との混合物であり、前記液晶性ポリマーからなる液晶性ポリマー相と前記熱硬化性樹脂からなる熱硬化性樹脂相とが相分離し、前記液晶性ポリマー相が連続相を形成していることを特徴とする絶縁組成物。 【請求項2】 前記熱硬化性樹脂が、エポキシ樹脂であることを特徴とする請求項1に記載の絶縁組成物。 … 【請求項9】 請求項1~8のいずれか一項に記載の絶縁組成物と、熱伝導性充填剤とを含有することを特徴とする絶縁シート。」 甲6b 「【0002】 近年、電子機器の高機能化・小型化・軽量化に伴い、電子部品の高密度化が進んでいる。これにより電子部品内での発熱量が著しく増大しており、部品の信頼性・寿命低下の一因となっている。このように電子機器における熱問題は極めて重要な課題であり、その対策に用いられる放熱材料には更なる熱伝導性向上が求められている。放熱材料のうち、特に電気絶縁性が求められる分野で用いられる樹脂材料の熱伝導性向上策としては、熱伝導性の高い無機セラミックス等のフィラーを添加する手法が一般的である。これらの方法では添加量の制限から十分な熱伝導性を得ることが難しく、樹脂自体の熱伝導性の向上が求められている。このような観点から、樹脂材料で高い熱伝導率を達成するという課題は極めて重要なことであり、単一系有機絶縁組成物で高熱伝導率を達成する方法として、メソゲン基を有する液晶性エポキシ樹脂等を重合することにより、熱伝導性を向上させた絶縁組成物が知られている … 【0004】 …本発明は、上記のような問題点を解決するためになされたものであり、成形時の取り扱いが比較的容易で且つ銅等の金属との密着性が高く、高い熱伝導率を有する絶縁組成物を提供することを目的としている。 … 【0006】 本発明によれば、成形時の取り扱いが比較的容易で且つ銅等の金属との密着性が高く、組成物内の液晶構造の規則性を連続的に保持できるために、電気絶縁性を有し、高い熱伝導率を有する絶縁組成物を得ることができる。」 甲6c 「【0007】 実施の形態1. 本発明の実施の形態1に係る絶縁組成物は、液晶性ポリマーと熱硬化性樹脂との混合物であって、液晶性ポリマーからなる液晶性ポリマー相と熱硬化性樹脂からなる熱硬化性樹脂相とが相分離し、液晶性ポリマー相が連続相を形成しているものである。言い換えれば、実施の形態1に係る絶縁組成物は、液晶性ポリマーが三次元的に連続した相に、熱硬化性樹脂が相分離した状態で存在しているものである。 【0008】 実施の形態1に用いられる熱硬化性樹脂としては、加熱すると三次元の網目状を形成するものであれば特に限定されないが、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、フラン樹脂、シリコーン樹脂、アリル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、熱硬化性ポリウレタン樹脂、熱硬化性ゴム等を挙げることができる。…上記した熱硬化性樹脂の中でも、絶縁性、接着性、加工性及び耐熱性が優れているという点で、エポキシ樹脂が好ましい。 【0009】 エポキシ樹脂としては、特に限定されるものではないが、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、脂環脂肪族エポキシ樹脂、グリシジルーアミノフェノール系エポキシ樹脂等を挙げることができる。これらは単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。 【0010】 エポキシ樹脂の硬化剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、無水ハイミック酸等の脂環式酸無水物、ドデセニル無水コハク酸等の脂肪族酸無水物、無水フタル酸、無水トリメリット酸等の芳香族酸無水物、ジシアンジアミド、アジピン酸ジヒドラジド等の有機ジヒドラジド、トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、ジメチルベンジルアミン、1,8-ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン、及びその誘導体、2-メチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール等のイミダゾール類を挙げることができる。これらは単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。 【0011】 実施の形態1に用いられる液晶性ポリマーは、その主鎖内或いは側鎖内に液晶骨格を含むものであり、液晶骨格としてはメソゲン基等の液晶性を示す官能基を指す。液晶骨格の具体例としては、安息香酸フェニル、ビフェニル、シアノビフェニル、ターフェニル、シアノターフェニル、フェニルベンゾエート、アゾベンゼン、ジアゾベンゼン、アゾメチン、アゾキシベンゼン、スチルベン、フェニルシクロヘキシル、ビフェニルシクロヘキシル、フェノキシフェニル、ベンジリデンアニリン、ベンジルベンゾエート、フェニルピリミジン、フェニルジオキサン、ベンゾイルアニリン、トラン及びこれらの誘導体が挙げられる。…なお、これら環状単位の末端は、例えば、シアノ基、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン基等の置換基を有していてもよい。例えば、ポリイミド、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール(PBO)、全芳香族ポリアミド等が挙げられる。 … 【0012】 上述した液晶性ポリマーの中でも、下記式(1)~(6): 【0013】 … [図:0001383247000021.jpg] … 【0015】 (式中、R1~R8は、同一であっても異なっていてもよく、水素原子、メチル基又は炭素数1~3のアルコキシ基であり、nは10~2,000の整数を表す)で示される重合体が好ましい。」 甲6d 「【0058】 [実施例1] ビフェニル型エポキシ樹脂とジアセトキシビフェニルとを重合して、下記式(24)の液晶性ポリマーを得た。 【0059】 【化9】 [図:0001383247000022.jpg] 【0060】 具体的には、ビフェニル型エポキシ樹脂とジアセトキシビフェニルとの重合は、ビフェニル型エポキシ樹脂のエポキシ基とジアセトキシビフェニルのアセトキシ基が1対1で反応するものとして化学当量を配合し、硬化触媒にベンジルジメチルアミン(BDMA)を用いて180℃で1時間重合して液晶性ポリマーを得た。このポリマーをテトラハイドロフランに溶解させ、ポリスチレンで校正したゲルパーミエーションクロマトグラフィーで分析した結果、数平均分子量は約40,000であった。 この液晶性ポリマー55.7gを100℃に加温したビスフェノールA型エポキシ樹脂「エピコート828」(ジャパンエポキシレジン(株)社製)100gに加え均一に混合した。更にこの樹脂混合物を150℃に加熱し、ジメチルジフェニルメタン硬化剤(DDM)30gを加え、テフロン(登録商標)コーティングしたガラス板に挟み、150℃にて4時間+180℃にて4時間硬化して硬化物を作製した。液晶性ポリマーの配合量は、全質量に対して30質量%になるようにした。 この硬化物の偏光顕微鏡観察、走査型電子顕微鏡(SEM)観察を行い、エポキシ樹脂と液晶性ポリマーに基づく連続相構造が形成され、液晶性ポリマーが配向していることを確認した。 … 【0062】 [実施例3]ビフェニル型エポキシ樹脂とジアセトキシビフェニルとを重合して、下記式(25)の液晶性ポリマーを得た。 【0063】 【化10】 [図:0001383247000023.jpg] 【0064】 具体的には、ビフェニル型エポキシ樹脂とジアセトキシビフェニルとの重合は、ビフェニル型エポキシ樹脂のエポキシ基に対するジアセトキシビフェニルのアセトキシ基が0.5となる組成比で配合し、硬化触媒にベンジルジメチルアミン(BDMA)を用いて180℃で4時間重合して液晶性ポリマーを得た。このポリマーをテトラハイドロフランに溶解させ、ポリスチレンで校正したゲルパーミエーションクロマトグラフィーで分析した結果、数平均分子量は約30,000であった。 この液晶性ポリマーを実施例1と同様に液晶性ポリマーの配合量が30質量%になるように、エポキシ樹脂及び硬化剤を加え、硬化物を作製した。実施例1と同様にして、硬化物構造の確認をしたところ、液晶性ポリマーの液晶性に基づく配向構造が形成されていることを確認した。 … 【0085】 [実施例10] 実施例1で得られた液晶性ポリマーをメチルエチルケトン(MEK)に溶解し、25質量%の溶液を調製した。溶剤除去後の液晶性ポリマーの配合量が30質量%になるように、25質量%溶液100gにビスフェノールA型エポキシ樹脂44.9g、ジメチルジフェニルメタン硬化剤(DDM)13.5gを加え均一に混合した。熱伝導性充填剤としての窒化ホウ素粒子(電気化学工業社製、グレードSGP平均粒径18μm)の含有量が50容量%となるように157.6g混合した後、さらメチルエチルケトン(MEK)166gを加えた塗工溶液をマルチコーターでPETフィルムに塗工乾燥し、厚み100μmの熱伝導シートを得た。」 イ.甲6に記載された発明 甲6の特に実施例3(【0062】~【0064】)に着目すると、甲6には、以下の発明が記載されていると認められる。 「数平均分子量が約30,000である、式(25)で表される液晶性ポリマー [図:0001383247000024.jpg] 」(以下、「甲6物発明」という。) 「ビフェニル型エポキシ樹脂とジアセトキシビフェニルを、ビフェニル型エポキシ樹脂のエポキシ基に対するジアセトキシビフェニルのアセトキシ基が0.5となる組成比で配合し、硬化触媒にベンジルジメチルアミン(BDMA)を用いて180℃で4時間重合させる、式(25)(化学式は略す。)で表される液晶性ポリマーの製造方法」(以下、「甲6方法発明」という。) ウ.本件発明1と甲6物発明の対比、検討 甲6物発明の式(25)で表される液晶性ポリマーは、本件発明1の式(I)で表されるエポキシ樹脂のうち、R1、R2が、共に式(3)で表される化学構造、Aが、無置換のビフェニル基であり、R3が炭素数2の脂肪族カルボニル基である場合のエポキシ樹脂に相当する。 本件発明1のエポキシ樹脂は、Aとして、式(4)の構造を有する、特定位置にテトラメチル化されたビフェニル基を有するから、甲6物発明とは、Aがビフェニル基である限りにおいて一致している。 甲6物発明の式(25)で表される液晶性ポリマーは、数平均分子量が約30,000であり、本件発明1の式(I)の括弧内の繰り返し単位を有するとして、nを計算すると約105(各元素の原子量を、H:1、C:12、O:16として、各構造単位の分子量を求め、nを算出した。)になるので、甲6物発明の上記液晶性ポリマーは、本件訂正発明1のnが「5以上500以下」を満たすものである。 そうすると、本件発明1と甲6物発明は、 「下記式(1)で表されるエポキシ樹脂。 【化1】 [図:0001383247000025.jpg] [図:0001383247000026.jpg] (上記式(1)中、Aはビフェニル基である構造を含み、R1及びR2は互いに異なっていてもよく、水素原子又は上記式(3)で表される化学構造であり、少なくともいずれか一方は上記式(3)で表される基である。R3の5モル%以上は炭素数1~10の脂肪族カルボニル基で、残りは水素原子であり、nは繰り返し数の平均値であり5以上500以下である。)」で一致し、以下の点で相違している。 <相違点6> 本件発明1では、「エポキシ樹脂」の「エポキシ当量が2,000~8,944g/当量、かつエポキシ当量が数平均分子量以下である」のに対して、甲6物発明では、「数平均分子量が約30,000」と特定されているだけで、エポキシ当量が不明である点 <相違点7> 本件発明1では、「エポキシ樹脂」の「重量平均分子量が11,604~80,000」であるのに対して、 甲6物発明では、「数平均分子量が約30,000」と特定されているだけで、重量平均分子量が不明である点 <相違点8> 本件発明1では、「Aは…式(2)で表される化学構造を含み」「式(2)で表される化学構造は、「下記式(4)である」のに対して、 [図:0001383247000027.jpg] 甲6物発明では、Aに対応する化学構造が、無置換の「ビフェニル基」である点 まず、相違点6、7について併せて検討する。 甲6には、上記の式(6)の化合物の繰り返し単位数nとして10~2、000が記載されているので、数平均分子量を変更することは、甲6でも想定されていると解することができる。 しかし、甲6には、エポキシ当量及び重量平均分子量に関する記載は全く存在しないし、エポキシ当量及び重量平均分子量は、繰り返し単位数や数平均分子量のみならず、分子量の分布や高分子化合物の構造等によっても左右されるものであるから、甲6において、繰り返し単位数nが変更できることが記載されているとしても、重量平均分子量及びエポキシ当量を一定の範囲に制御することが甲6で記載乃至示唆されているとはいえない。 また、本件明細書の【0007】によると、本件発明1が解決しようとする課題は、製膜性に優れ、硬化物にした場合に薬品性(特に耐溶剤性)に優れるエポキシ樹脂を提供することにあるところ(本a)、本件明細書の【表1】には、本件発明1の「エポキシ当量が2,000~8,944g/当量、かつエポキシ当量が数平均分子量以下である」という発明特定事項を満たすエポキシ樹脂が優れた製膜性を示すのに対し(実施例1-1、1-2、1-5、1-9、1-12(本cの【0088】~【0089】)、エポキシ当量が上記範囲を外れると共に、エポキシ当量が数平均分子量を上回るエポキシ樹脂は製膜性に劣ることが示されている(比較例1-1(本cの【0088】~【0089】))。 そうすると、甲6の記載に接した当業者が、本件発明1の上記課題と異なる、「成形時の取り扱いが比較的容易で且つ銅等の金属との密着性が高く、高い熱伝導率を有する絶縁組成物を提供すること」を発明の課題(甲6bの【0004】)としている甲6物発明において、重量平均分子量及びエポキシ当量について記載も示唆もない甲6の記載事項を適用しても、相違点6、7として挙げた本件発明1の発明特定事項を想到することはできないといえる。 また、甲1~5の記載事項を参照しても、甲6物発明に、相違点6、7として挙げた本件発明1の発明特定事項を採用することを当業者に動機付けるような記載や示唆は存在しない。 そうすると、本件発明1は、相違点8について検討するまでもなく、甲6物発明に甲1~甲6に記載された事項を適用しても当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 エ.本件発明10と甲6方法発明の対比、検討 本件発明10と甲6方法発明とを上記ウでの検討を踏まえて対比すると、甲6方法発明の式(25)で表される液晶性ポリマーは、本件発明10の式(I)’で表されるエポキシ樹脂のうち、R’1、R’2が、共に式(3)’で表される化学構造、A’が、無置換のビフェニル基であり、R’3が炭素数2の脂肪族カルボニル基である場合のエポキシ樹脂に相当する。 本件発明10は、Aとして、式(8)の構造を有する、特定位置にテトラメチル化されたビフェニル基を有するから、甲6方法発明とは、A’がビフェニル基である限りにおいて一致している。 甲6方法発明の「ジアセトキシビフェニル」は、本件発明10の式(7)で表される化合物のうち、R’3が炭素数2の脂肪族カルボニル基であるもの、甲6方法発明の「ビフェニル型エポキシ樹脂」は、本件発明10の「式(6)で表される2官能エポキシ樹脂」のうち、A’が、無置換のビフェニル基であるものに、それぞれ相当する。 そうすると、本件発明10と甲6方法発明は、 「下記式(6)で表される2官能エポキシ樹脂と、下記式(7)で表される化合物とを反応させる下記式(1)’のエポキシ樹脂を得るエポキシ樹脂の製造方法。 【化3】 [図:0001383247000028.jpg] (上記式(1)’中、A’はビフェニル基であり、R’1及びR’2は互いに異なっていてもよく、水素原子又は上記式(3)’で表される化学構造であり、少なくともいずれか一方は上記式(3)’で表される基である。R’3の5モル%以上は炭素数1~10の脂肪族カルボニル基で、残りは水素原子であり、nは繰り返し数の平均値であり5以上500以下である。) 【化4】 [図:0001383247000029.jpg] (上記式(6)及び/又は(7)中、A’はビフェニル基であり、R’3の5モル%以上は炭素数1~10の脂肪族カルボニル基で、残りは水素原子である。)」で一致し、以下の点で相違している。 <相違点9> 本件発明10では、「エポキシ樹脂」の「エポキシ当量が2,000~8,944g/当量、かつエポキシ当量が数平均分子量以下である」のに対して、 甲6方法発明では、「数平均分子量が約30,000」と特定されているだけで、エポキシ当量が不明である点 <相違点10> 本件発明10では、「エポキシ樹脂」の「重量平均分子量が11,604~80,000」であるのに対して、 甲6方法発明では、「数平均分子量が約30,000」と特定されているだけで、重量平均分子量が不明である点 <相違点11> 本件発明10では、「A’は…式(2)’で表される化学構造を含み」、「…式(2)’で表される化学構造は、下記式(8)」であるのに対して、 甲6方法発明では、A’に対応する化学構造が、無置換の「ビフェニル基」である点 <相違点12> 本件発明10では、式(6)において「mは繰り返し数の平均値であり0以上6以下である」と規定しているのに対して、甲6方法発明では、「エポキシ当量188g/eqのビスフェノールA型エポキシ樹脂」における繰り返し数が不明である点 相違点9、10について検討すると、上記ウで検討したように、甲6には、エポキシ当量及び重量平均分子量に関する記載が存しないから、甲6の記載に接した当業者が、本件発明10と技術課題が異なる甲6方法発明に、甲6の記載事項を適用しても、相違点9、10として挙げた本件発明10の発明特定事項に想到しない。 また、甲1~5の記載事項を参照しても、甲6方法発明に、相違点9、10として挙げた本件発明10の発明特定事項を採用することを当業者に動機付けるような記載や示唆を見いだすことはできない。 したがって、相違点11、12について検討するまでもなく、本件発明10は、甲6方法発明に甲1~甲6に記載された事項を適用しても当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 オ.甲6を主引例とした新規性、進歩性の検討のまとめ 以上のとおり、本件発明1、10は、甲6物発明及び甲6方法発明、すなわち甲6に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 また、本件発明1を直接又は間接的に引用する本件発明3~9についても、本件発明1と同様の理由により、甲6に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 (4)当審で通知した取消理由の検討のまとめ 以上のとおり、本件発明1、3~10に係る特許は、取消理由通知書に記載した取消理由1~3により取り消すことはできない。 2.取消理由通知書で採用しなかった申立理由の検討 申立理由1(甲1を主引例とする新規性の欠如)、申立理由2(甲1を主引例とする進歩性の欠如)は、取消理由通知書に記載した取消理由1(甲1を主引例とする新規性、進歩性の欠如)に対応するものである。 申立理由3(実施可能要件、サポート要件、明確性要件の違反)のうち理由(ア)は、取消理由通知書で通知した取消理由2(実施可能要件違反)に対応するものである。 そうすると、取消理由通知書で採用しなかった申立理由は、申立理由3(実施可能要件、サポート要件、明確性要件の違反)の理由(イ)~(エ)となる。 (1)申立理由3の理由(イ) 申立理由3の理由(イ)は、訂正前の本件明細書の【0032】、【0077】に記載されるGPC法によって測定される分子量は、標準ポリマー(ポリスチレン)の分子量であり、数平均分子量を示すものではないから、訂正前の本件発明1及び10の要件である「エポキシ当量が数平均分子量以下である」は明確ではなく、発明の詳細な説明に記載されたものでもない、というものである。 しかし、ポリスチレンを標準試料に用いて、GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)により高分子化合物の重量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)を測定することは、本件特許の出願日における慣用の方法であるし、本件発明1、10の発明特定事項にある「数平均分子量」及び「重量平均分子量」も、GPC法に基づく数値であることは、本件明細書の【0032】及び【0077】より明らかなので、本件発明1、10の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確なものであるとは認められない。 また、本件明細書の【表1】には、式(4)又は式(8)の化学構造を有し、「エポキシ当量が数平均分子量以下である」エポキシ樹脂が、実施例1-1、1-2、1-5、1-9、1-12(本cの【0088】~【0089】)として記載され、かかるエポキシ樹脂が、製膜性、耐薬品性に優れる樹脂組成物や硬化物に寄与することも【表1】及び【表2】において具体的に示されているから、申立人による、これらが「発明の詳細な説明に記載されたものでない」との指摘は当を得ないものである。 したがって、申立理由3の理由(イ)は、理由がない。 (2)申立理由3の理由(ウ) 申立理由3の(ウ)は、訂正前の本件明細書の実施例にはアシル化率の記載がないから、訂正前の本件発明1、10がアシル化率の要件を満足しているか否かが不明であり、訂正前の本件発明1~11は、実施可能要件及びサポート要件を満たしていない、というものである。 しかし、本件明細書の【0084】を見ても理解できるように、本件明細書の実施例では、アシル化率が100%のジエステル系化合物が原料として使用されているところ(本c)、甲1の実施例1では、アシル化率が100%のジアセチル化物とエポキシ樹脂を反応させると、アシル基/2級水酸基=81/19の変性エポキシ樹脂(a)が得られることが記載されており(甲1dの【0042】)、アシル化率が高い原料(ジアセトキシビフェニル)よりアシル化率が高いエポキシ樹脂が生成することは甲6の【0058】~【0064】からも理解できる(甲6d)。 そうすると、本件明細書の実施例にアシル化率の表示が無くても、アシル化率の高いジエステル系化合物を原料に用いて調製されている実施例1-1、1-2、1-5、1-9、1-12(本cの【0088】~【0089】)のエポキシ樹脂は、少なくとも、本件発明1、10が規定する「5モル%以上」というアシル化率を有しているものと推認できる。 そうすると、申立人の上記主張は理由がなく、本件発明1、10及び本件発明1を直接又は間接的に引用する本件発明3~9が、実施可能要件及びサポート要件に違反しているとはいえない。 (3)申立理由3の理由(エ) 申立理由3の(エ)は、訂正前の本件発明1~11の式中のA又はA’について、式(2)又は式(2)’で表される化学構造以外の構造が不明であり、実施例に記載された式(2)又は式(2)’で表される化学構造を100モル%含む場合以外まで内容を拡張できるとはいえない、というものである。 ここで、本件明細書の【0035】~【0036】には、 <エポキシ樹脂の製造方法>として、「本発明のエポキシ樹脂は、例えば、下記式(4)で表される2官能エポキシ樹脂と、下記式(5)で表されるジエステル系化合物とを反応させて得られる。… 【化7】 [図:0001383247000030.jpg] 」と記載され(本b)、【0039】には、「式(4)及び/又は(5)中、A’は前記式(2)’で表される化学構造を含んでいてもよいし、含まなくともよい」、「本発明のエポキシ樹脂には、前記式(2)’で表される化学構造が必ず含まれるものであり、これを満たす限り、前記式(2)’の化学構造が、2官能エポキシ樹脂及びジエステル系化合物のいずれに含まれるものであってもよく、またその化学構造の割合も制限されるものではない。」と記載されている(本b)。 また、本件明細書の【0082】~【0085】に記載されているモノマー原料を見ても、(A-1)と(A-4)の[2官能エポキシ樹脂」で、3,3’,5,5’-テトラメチル-4,4’-ビフェニル基を持つものが記載されているものの、(B-1)~(B-5)、(P-1)は当該基を有していないから(本c)、本件明細書の【0089】【表1】に記載されるエポキシ樹脂は、本件の請求項1に記載された「式(2)」すなわち「式(4)」で表される構造以外のモノマー原料に由来する構造をAとして含むこと、又は、A’が本件の請求項10に記載された「式(2)’」すなわち「式(8)」で表される構造以外のモノマー原料に由来する構造をA’として含むことが理解できる。 そうすると、式(2)で表される化学構造以外の構造がAに含まれ、又は式(2)’ で表される化学構造以外の構造がA’に含まれるとしても、本件の請求項1、10の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとは認められない。 また、本件明細書の【表1】には、実施例1-1、1-2、1-5、1-9、1-12(本cの【0088】~【0089】)として、式(4)又は式(8)で表される化学構造を含み、それ以外の化学構造をA又はA’として含むエポキシ樹脂が、製膜性、耐薬品性に優れる樹脂組成物や硬化物に寄与することが、【表1】及び【表2】において具体的に示されているから、本件発明1、10は、当業者が、本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び本件特許の出願日の技術常識に基づき、本件明細書の【0007】に記載された本件発明の課題を解決できると認識し得る範囲のものと認められる。 したがって、申立人の上記主張は理由がなく、本件発明1、10及び本件発明1を直接又は間接的に引用する本件発明3~9は、明確性要件、実施可能要件及びサポート要件を満たしているといえる。 第6 むすび 以上のとおり、本件訂正については、適法であるから、これを認める。 本件特許の請求項2、11に対する各特許異議の申立ては、不適法なものであるから、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により、却下すべきものである。 本件特許の請求項1、3~10に係る特許は、取消理由通知書に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては、取り消すことはできない。 また、他に本件特許の請求項1、3~10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。

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2020-700736

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