特許異議申立
2020-700623
燃焼型害虫防除剤
- 審判番号
- 2020-700623
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2016-245181
- 登録番号
- 6651436
- 請求日
- 2020年08月19日
- 審決日
- 2022年03月25日
- 公報発行日
- 2022年06月24日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】アース製薬株式会社
- 【権利者代理人】深井 敏和
- 【異議申立人】中原 正治
- 審判長/審判官
- 審判長 村上 騎見高
- 審判官 吉岡 沙織
- 審判官 冨永 保
- 分類
- P1651.113-YAA(A01N) / P1651.121-YAA(A01N) / P1651.161-YAA(A01N) / P1651.537-YAA(A01N) / P1651.536-YAA(A01N)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第9項、特許法第29条の2、特許法第126条第6項、特許法第126条第5項、特許法第113条第2項、特許法第29条第2項、特許法第120条の5第5項、特許法第120条の5第7項、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第1項、特許法第36条第6項第1号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6651436号発明「燃焼型害虫防除剤」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第6651436号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~2〕について訂正することを認める。
特許第6651436号の請求項1~2に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第6651436号の請求項1~2に係る特許についての出願は、平成28年12月19日に出願され、令和2年1月24日にその特許権の設定登録がなされ、同年2月19日に特許掲載公報が発行された。その特許についての本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和2年 8月19日 : 特許異議申立人中原正治(以下、「申立人」という。)による特許異議の申立て
令和2年11月20日付け : 取消理由通知書
令和3年 2月26日 : 訂正請求書、意見書の提出(特許権者)
同年 4月30日付け : 訂正拒絶理由通知書
同年 7月 9日 : 意見書の提出(特許権者)
同年10月15日付け : 取消理由通知書(決定の予告)
同年12月13日 : 訂正請求書、意見書の提出(特許権者)
令和4年 1月31日付け : 特許法第120条の5第5項に基づく通知
同年 3月 2日 : 意見書の提出(申立人)
なお、令和3年2月26日にされた訂正の請求は、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。
第2 訂正の適否
1 請求の趣旨及び訂正の内容
(1)請求の趣旨
令和3年12月13日に特許権者が行った訂正請求に係る請求の趣旨は、「特許第6651436号の特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1および2について訂正することを求める。」というものである。
(2)訂正の内容
令和3年12月13日に特許権者が行った訂正請求に係る訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、以下の訂正事項1~2からなるものである。
[訂正事項1]
請求項1の「γ-ウンデカラクトン、α-イソメチルイオノンおよびウンデカナールからなる群より選択される少なくとも1種の香料成分」を「γ-ウンデカラクトンおよびウンデカナールからなる群より選択される少なくとも1種の香料成分、γ-ウンデカラクトンおよびウンデカナールからなる群より選択される少なくとも1種とα-イソメチルイオノンとからなる香料成分、または前記害虫防除成分1質量部に対して0.005~40質量部の割合のα-イソメチルイオノンからなる香料成分」に訂正する。
[訂正事項2]
請求項2の「前記香料成分が、前記害虫防除成分1質量部に対して0.005~40質量部の割合で含まれる請求項1に記載の燃焼型害虫防除剤」を「0.5~20mPaの蒸気圧(25℃)を有する害虫防除成分と、γ-ウンデカラクトンおよびウンデカナールからなる群より選択される少なくとも1種の香料成分、またはγ-ウンデカラクトンおよびウンデカナールからなる群より選択される少なくとも1種とα-イソメチルイオノンとからなる香料成分と、燃焼基材と、を含有し、前記香料成分が、前記害虫防除成分1質量部に対して0.005~40質量部の割合で含まれる燃焼型害虫防除剤」に訂正する。
(2)一群の請求項について
訂正前の請求項2は,請求項1を引用するものであり、上記訂正事項1によって訂正される請求項1に連動して訂正されるものであるから、訂正前の請求項1~2は、一群の請求項である。
したがって、本件訂正は、その一群の請求項ごとに請求がされたものである。
2 訂正の適否
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的について
訂正事項1は、訂正前の請求項1の「γ-ウンデカラクトン、α-イソメチルイオノンおよびウンデカナールからなる群より選択される少なくとも1種の香料成分」を、「γ-ウンデカラクトンおよびウンデカナールからなる群より選択される少なくとも1種の香料成分、γ-ウンデカラクトンおよびウンデカナールからなる群より選択される少なくとも1種とα-イソメチルイオノンとからなる香料成分、または前記害虫防除成分1質量部に対して0.005~40質量部の割合のα-イソメチルイオノンからなる香料成分」と限定することで、訂正前の請求項1を減縮しようとするものである。したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 実質上特許請求の範囲の拡張又は変更するものであるかについて
訂正事項1は、上記アで述べたとおり、訂正前の請求項1の発明特定事項を減縮するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではない。したがって、訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「本件特許明細書等」ともいう。)に記載した事項の範囲内の訂正であるかについて
訂正事項1の「γ-ウンデカラクトンおよびウンデカナールからなる群より選択される少なくとも1種の香料成分」、「γ-ウンデカラクトンおよびウンデカナールからなる群より選択される少なくとも1種とα-イソメチルイオノンとからなる香料成分」及び「α-イソメチルイオノンからなる香料成分」は、いずれも本件特許明細書等の請求項1の「γ-ウンデカラクトン、α-イソメチルイオノンおよびウンデカナールからなる群より選択される少なくとも1種の香料成分」に含まれることが自明な選択肢である。
そして、訂正事項1の「α-イソメチルイオノンからなる香料成分」についての「前記害虫防除成分1質量部に対して0.005~40質量部の割合の」との害虫防除剤成分に対する割合については、本件特許明細書等の段落0017に、「特定の香料成分は、特定の害虫防除成分に対して、好ましくは0.005~40質量部の割合で含まれる。」との記載があることから、特定の香料成分の一つである「α-イソメチルイオノンからなる香料成分」についても、害虫防除成分1質量部に対して0.005~40質量部の割合で含まれることは、本件特許明細書等の記載から導かれる事項である。
よって、訂正事項1は、本件特許明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであり、新規事項の追加に該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。
(2)訂正事項2について
ア 訂正の目的について
訂正事項2は、訂正前の請求項2が訂正前の請求項1を引用するものであったところを、請求項間の引用関係を解消し、請求項1を引用しないものとするための訂正であって、特許法第120条の5第2項ただし書き第4号に規定する「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とする訂正である。
また、訂正事項2は訂正前の請求項2が引用する請求項1の「γ-ウンデカラクトン、α-イソメチルイオノンおよびウンデカナールからなる群より選択される少なくとも1種の香料成分」を、「γ-ウンデカラクトン及びウンデカナールからなる群より選択される少なくとも1種の香料成分」または「γ-ウンデカラクトンおよびウンデカナールからなる群より選択される少なくとも1種とα-イソメチルイオノンとからなる香料成分」とすることで、実質的に、訂正前の請求項1の「γ-ウンデカラクトン、α-イソメチルイオノンおよびウンデカナールからなる群より選択される少なくとも1種の香料成分」との記載によって特定される選択肢の内「α-イソメチルイオノンからなる香料成分」を削除するものであるから、訂正前の請求項2を減縮しようとするものである。したがって、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定する特許請求の範囲の減縮も目的とするものである。
イ 実質上特許請求の範囲の拡張又は変更するものであるかについて
訂正事項2は、上記アで述べたとおり、請求項間の引用関係を解消し、請求項1を引用しないものとするものであり、かつ、訂正前の請求項2の発明特定事項を減縮するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではない。したがって、訂正事項2は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項に適合するものである。
ウ 本件特許明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であるかについて
訂正事項2は、上記アで述べたとおり、訂正前の請求項2に記載されていた香料成分のうち「α-イソメチルイオノンからなる香料成分」を削除したことで、訂正前の請求項2を減縮しようとするものである。したがって、訂正事項2は、本件特許明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであり、新規事項の追加に該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項に適合するものである。
(3)小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~2について訂正することを認める。
第3 訂正後の本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1~2に係る発明は、訂正特許請求の範囲の請求項1~2に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
0.5~20mPaの蒸気圧(25℃)を有する害虫防除成分と、
γ-ウンデカラクトンおよびウンデカナールからなる群より選択される少なくとも1種の香料成分、γ-ウンデカラクトンおよびウンデカナールからなる群より選択される少なくとも1種とα-イソメチルイオノンとからなる香料成分、または前記害虫防除成分1質量部に対して0.005~40質量部の割合のα-イソメチルイオノンからなる香料成分と、
燃焼基材と、
を含有することを特徴とする燃焼型害虫防除剤。
【請求項2】
0.5~20mPaの蒸気圧(25℃)を有する害虫防除成分と、
γ-ウンデカラクトンおよびウンデカナールからなる群より選択される少なくとも1種の香料成分、またはγ-ウンデカラクトンおよびウンデカナールからなる群より選択される少なくとも1種とα-イソメチルイオノンとからなる香料成分と、
燃焼基材と、
を含有し、
前記香料成分が、前記害虫防除成分1質量部に対して0.005~40質量部の割合で含まれる燃焼型害虫防除剤。」
(以下、それぞれ「本件発明1」等といい、まとめて「本件発明」ともいう。)
第4 取消理由通知に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
訂正前の請求項1~2に係る特許に対して、当審が令和3年10月15日付けで特許権者に通知した取消理由(決定の予告)の概要は、次のとおりである。
[取消理由1](新規性)請求項1に係る発明は、刊行物1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、特許法第113条第2項に該当するから、取り消されるべきものである。
[取消理由2](進歩性)請求項1~2に係る発明は、刊行物1ないし4に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、特許法第113条第2項に該当するから、取り消されるべきものである。
刊行物1:特開2014-148503号公報
(特許異議申立書で証拠として提出された「甲第1号証」。)
刊行物2:印藤元一著、「<増補改訂版>合成香料 化学と商品知識」、化学工業日報社、2005年3月22日増補改訂版発行、307~310頁
(特許異議申立書で証拠として提出された「甲第2号証」。)
刊行物3:荒井綜一、他3名編「最新 香料の事典」、株式会社朝倉書店、2000年5月10日初版第1刷発行、115頁
(特許異議申立書で証拠として提出された「甲第3号証」。)
刊行物4:特開2011-12056号公報
(特許異議申立書で証拠として提出された「甲第4号証」。)
2 刊行物の記載
(1)刊行物1の記載
記載(1a)
「【0002】
…(略)…
蚊取線香は、マッチ一本でどこでも手軽に使える便利さを有し、燃え尽きるまで一定の殺虫効果を保持するとともに煙を伴って有効成分の拡散力にも優れるので、科学の進歩した今日からみても非常に合理的な殺虫形態といえる。
【0003】
ところで、香り付きの蚊取線香はいくつか知られており、例えば、特開平10-167903号公報では、白檀エキスや伽羅エキス等の香料成分を配合して、燃焼時に松や杉等の木粉から発生する異臭や刺激臭をマスキングする試みが提案されている。しかしながら、木粉を多く使用する限り、たとえお香成分を配合したとしても不十分なマスキングに留まり、蚊取線香の長年の伝統が醸し出す、例えば「深みのある心地よい香り」を実現することは困難であった。
即ち、蚊取線香に相応しい香りを付与するにあたっては、加熱や煙を伴う蚊取線香独特の剤型に適合した香料成分を選択するとともに、線香基材との組合わせを徹底的に検討する必要があり、未だ有用な香り付き蚊取線香は創出されていないのが現状である。
…(略)…
【0005】
本発明は、蚊取線香にマッチした、有用な香り付き蚊取線香を提供することを目的とする。」(段落0002~0005)
記載(1b)
「【0008】
本発明の蚊取線香は、有効成分として殺虫効力と安全性の点からピレスロイド系殺虫成分を使用する。ピレスロイド系殺虫成分としては、ピレトリン、アレスリン、フラメトリン、プラレトリン、エムペントリン、テラレスリン、トランスフルトリン、メトフルトリン、プロフルトリン、4-メトキシメチル-2,3,5,6-テトラフルオロベンジル 2,2,3,3-テトラメチルシクロプロパンカルボキシラ-トなどがあげられるがこれらに限定されない。」(段落0008)
記載(1c)
「【0022】
実施例1に準じて、表1に示す各種の蚊取線香(着色剤、防黴剤及び水の配合は実施例1と同じ)を作製し、以下の項目について性能を評価した。結果を表2に示す。
…(略)…
【0023】
【表1】
[図:0001385121000001.jpg]
」(段落0022~0023)
(2)刊行物2の記載
記載(2a)
「メチルヨノン Methyl ionone
…(略)…
[図:0001385121000002.jpg]
シトラールとメチルエチルケトンからヨノンと同様にしてメチルヨノンが得られるが、天然にはまだ見いだされていない。メチルヨノンの化学構造を見ると、メチル基の位置、環内二重結合の位置の差違によって上図の6種の異性体があり、側鎖二重結合に関するcis、transの幾何異性体、さらにα-n-、γ-n-、α-iso-、γ-iso-の4異性体には不斉炭素原子(・印)が存在する。それぞれに光学異性体(d-、l-、dl-)があるので合計28種の異性体が存在することになる。光学異性体についてはまだ問題とされていない。
[図:0001385121000003.jpg]
」(307頁5行~308頁図)
記載(2b)
「上記異性体のうち工業的に製造使用されているものはα-n-、β-n-、α-iso-、β-iso-の4種であり、α-Isomethyl ionone(通称名:γ-Methyl ionone)を主体とするものが最も好まれている。」(308頁下から13行~下から12行)
記載(2c)
「純品は少なく一般的に混合体である。」(308頁下から12行~下から11行)
記載(2d)
「α-n-メチルヨノン
…(略)…
〔性状〕フルーティーで甘いオリス香のほとんど無色の液体。各種のグレードの製品がある。…(略)…“γ-メチルヨノン”とともに主力製品である。
…(略)…
β-n-メチルヨノン
…(略)…
〔性状〕β-ヨノン様ウッディ香のほとんど無色の液体。調合には重要でない。
…(略)…
α-イソメチルヨノン(γ-イソメチルヨノン)
…(略)…
〔性状〕最も優雅なスミレ香のほとんど無色の液体。化学的にはγ-構造ではないが通常γ-メチルヨノンと誤り称せられている。
…(略)…
β-イソメチルヨノン(δ-イソメチルヨノン)
…(略)…
γ-n-メチルヨノン
〔性状〕単品として供給されることはなく、メチルヨノン混合体に含有されている。…(略)…
γ-イソメチルヨノン
…(略)…」(308頁下から10行~309頁20行)
記載(2e)
「〔製法〕ヨノンと同様の方法で製造されるが、アセトンの代わりにメチルエチルケトンを用いる。
[図:0001385121000004.jpg]
…(略)…
〔実施例〕縮合反応○1(原文は○の中の1。)で得られるプソイド-n-メチルヨノン混合体を60%硫酸、触媒量のポリリン酸、トルエン存在下40~45℃で閉環させると生成するメチルヨノンの組成はα-n-体60%、α-イソ-体8%、γ-n-体10%、β-n-体22%、β-イソ-体1.5%となる。
縮合反応○2(原文は○の中の2。)で得られるプソイドイソメチルヨノン混合体を85%リン酸/トルエンで20~50℃で閉環すると、生成するメチルヨノンの組成はα-イソ-体44%、α-n-体29%、β-イソ-体2.5%、β-n-体6%、γ-n-体4.5%となる。
工業的には連続方式で閉環反応を行うと収率が向上する。各社は反応条件がそれぞれ多少異なるので、各社それぞれの組成の製品が供給されることになる。
〔用途〕ヨノンより優れた香調を有するためモダンブーケ、フローラルブーケ、オリエンタルタイプ調合香料に広く用いられる。ラズベリー、タバコのフレーバーに少量用いられる。最終製品での使用濃度は0.05~3.0ppm。
〔製造業者〕高砂香料工業、…(略)…、Bedoukian」(309頁21行~310頁18行)
(3)刊行物3の記載
記載(3a)
「メチルイオノン(Methyl Ionone)
[図:0001385121000005.jpg]
メチル基の位置、二重結合の位置により6種の異性体が存在。」(115頁最下段左から1列~3列)
記載(3b)
「α-n-体:フルーティで甘いオリス香のほとんど無色の液体。…(略)…α-イソ-体:最も優雅なスミレ香のほとんど無色の液体。…(略)…」(115頁最下段左から3列)
記載(3c)
「天然には見いだされていない。α-体が香気的に優れており、α-イソ-体が最も重要である。」(115頁最下段左から4列)
(4)刊行物4の記載
記載(4a)
「【請求項1】
殺虫成分として30℃における蒸気圧が2×10-4~1×10-2mmHgであるピレスロイド化合物から選ばれた1種又は2種以上の化合物を含有する処理薬剤を、
1時間以内で燻煙もしくは加熱蒸散させて、
空中に揮散する前記殺虫成分を含有する前記処理薬剤の粒子径を1μm以下とし、
5時間以上害虫防除可能な雰囲気とすることを特徴とする害虫防除方法。
…(略)…
【請求項3】
前記ピレスロイド化合物が、
メトフルトリン、プロフルトリン、トランスフルトリンから選ばれた1種又は2種以上の化合物であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の害虫防除方法。」(特許請求の範囲)
記載(4b)
「本発明は、これまで長時間の連続使用が基本と考えられてきた蚊取線香や加熱蒸散製材について、燻煙もしくは加熱時間を短縮しても殺虫効果が長時間持続し得る独創的な害虫防除方法を提供することを目的とする。」(段落0007)
3 理由1(新規性)及び理由2(進歩性)について
(1)刊行物1に記載された発明
刊行物1には、記載(1c)の表1の「本発明8」の蚊取線香より、
「トランスフルトリンを殺虫成分として0.1質量%と、
シトロネロール及びメチルヨノン等を香料成分として0.05質量%と、
線香基材と、
を含有する蚊取線香。」
の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されているといえる。
(2)当審の判断
ア 本件発明1について
(ア)対比
引用発明1における「殺虫成分」、「線香基材」及び「蚊取線香」は、本件特許発明1における「害虫防除成分」、「燃焼基材」、及び「燃焼型害虫防除剤」にそれぞれ相当する。
本件発明1と引用発明1とを対比すると、「害虫防除成分と、香料成分と、燃焼基材とを含有する燃焼型害虫防除剤」である点で一致し、以下の点で相違する。
相違点1-1:本件発明1は害虫防除成分が「0.5~20mPaの蒸気圧(25℃)を有する」ものと特定されるのに対して、引用発明1はトランスフルトリンである点。
相違点1-2:本件発明1は香料成分が「γ-ウンデカラクトンおよびウンデカナールからなる群より選択される少なくとも1種の香料成分、γ-ウンデカラクトンおよびウンデカナールからなる群より選択される少なくとも1種とα-イソメチルイオノンとからなる香料成分、または前記害虫防除成分1質量部に対して0.005~40質量部の割合のα-イソメチルイオノンからなる香料成分」であると特定されるのに対して、引用発明1は香料成分がシトロネロール及びメチルヨノン等0.05質量%である点。
(イ)判断(理由1(新規性)について)
a 相違点1-1について
上記相違点1-1について検討する。
トランスフルトリンの25℃における蒸気圧は、本願明細書段落0031によれば1.1mPaであるため、引用発明1は「0.5~20mPaの蒸気圧(25℃)を有する害虫防除成分」を含有すると認められる。したがって、上記相違点1-1は実質的な相違点ではない。
b 相違点1-2について
上記相違点1-2について検討する。
引用発明1の「メチルヨノン」は「メチルイオノン」と同義であり、記載(2a)及び(3a)によれば、α-n-体、α-イソ-体、β-n-体、β-イソ-体、γ-n-体、γ-イソ-体の6種の異性体を総称する用語である一方で、記載(2b)、(2c)及び(2e)によれば、メチルヨノンは工業的に製造される香料であって一般的に混合体であるから、「メチルヨノン」とはこれらの6種の異性体のうち複数種を含む混合体の製品を意味する場合もあると認められる。
そして、記載(2b)及び(3c)によれば、異性体のうち工業的に製造使用されているものはα-n-体、β-n-体、α-イソ-体、β-イソ-体の4種であること、並びに、α-体が香気的に優れており、さらに、α-イソ-体を主体とするものが最も好まれている若しくは最も重要であることが知られていたと認められる。
また、記載(2e)には、各社は反応条件がそれぞれ多少異なるので、各社それぞれの組成の製品が供給されているが、実施例の2通りの反応条件で得られた組成物のうち、α-イソ-体を主体とする反応条件で得られた組成物にα-イソ体が44%含まれているのはもちろん、α-n-体を主体とする反応条件で得られたものにもα-イソ-体が8%含有されていることが記載されている。
したがって、引用発明1において「メチルヨノン」として用いられる香料成分には、α-イソメチルイオノンを主体とする混合体の製品である可能性が高く、仮にそうではなかったとしてもα-n-メチルイオノンを主体とするものであってかつ一定量のα-イソメチルイオノンが含有されている混合体の製品であると認められる。
しかしながら、刊行物1には、メチルヨノン自体の含有量も、メチルヨノン中のα-イソメチルイオノンの割合も記載されていないことから、害虫防除成分であるトランスフルトリン1質量部に対するα-イソメチルイオノンの含有割合は不明である。
さらに、刊行物1には、γ-ウンデカラクトン及びウンデカナールを用いることの記載も示唆もない。
よって、上記相違点1-2は、実質的な相違点である。
c 小括
以上のことから、本件発明1は、刊行物1に記載された発明ではない。
(ウ)判断(理由2(進歩性)について)
a 相違点1-1について
相違点1-1は、上記(イ)で検討したとおり、実質的な相違点ではない。
b 相違点1-2について
相違点1-2について検討する。
(a)香料成分が「γ-ウンデカラクトンおよびウンデカナールからなる群より選択される少なくとも1種の香料成分、γ-ウンデカラクトンおよびウンデカナールからなる群より選択される少なくとも1種とα-イソメチルイオノンとからなる香料成分」である場合について
刊行物1には、γ-ウンデカラクトンやウンデカナールを用いることの記載も示唆もないから、引用発明1において、これらを用いる動機付けはない。
また、引用例2~4にも、引用発明1においてこれらを用いる動機付けとなる記載は見出せない。
たとえ、引用発明1において、γ-ウンデカラクトン及び/又はウンデカナールを用いることは当業者が容易になし得たことであったとしても、0.5~20mPaの蒸気圧(25℃)を有する害虫防除成分に対して、これらの香料成分を組み合わせて用いることにより、害虫防除成分の有効範囲と香料成分の芳香範囲とが連動するという効果は、当業者が予測し得た範囲のものではない。
(b)香料成分が「害虫防除成分1質量部に対して0.005~40質量部の割合のα-イソメチルイオノンからなる香料成分」である場合について
本件発明は、特許請求の範囲、明細書の全体の記載事項(特に、段落0005)及び出願時の技術常識からみて、「害虫防除成分の有効範囲と香料成分の芳香範囲とが連動し、使用者に香りを感じさせることによって、害虫防除効果の範囲を認識させることができる燃焼型害虫防除剤」の提供を解決しようとする課題とするものであると認められる。
一方、刊行物1は、特許請求の範囲、明細書の全体の記載事項(特に、記載(1a))及び出願時の技術常識からみて、蚊取線香にマッチした、有用な香り付き蚊取線香を提供することを課題とするものであり、刊行物1には、害虫防除成分の有効範囲と香料成分の芳香範囲とを連動させるという思想は、記載も示唆もない。
してみると、引用発明1において、害虫防除成分の有効範囲と香料成分の芳香範囲とを連動させるために、害虫防除成分に対して、香料成分としてα-イソメチルイオノンを組み合わせて用いるとともに、害虫防除成分とα-イソメチルイオノンの含有割合を特定することは、当業者が容易に想到し得たことではない。
c 小括
したがって、本件発明1は、刊行物1~4に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
イ 本件発明2について
(ア)対比
本件発明2と引用発明1とを対比すると、「害虫防除成分と、香料成分と、燃焼基材とを含有する燃焼型害虫防除剤」である点で一致し、以下の点で相違する。
相違点1-3:本件発明2は害虫防除成分が「0.5~20mPaの蒸気圧(25℃)を有する」ものと特定されるのに対して、引用発明1はトランスフルトリンである点。
相違点1-4:本件発明1は香料成分が「γ-ウンデカラクトンおよびウンデカナールからなる群より選択される少なくとも1種の香料成分、またはγ-ウンデカラクトンおよびウンデカナールからなる群より選択される少なくとも1種とα-イソメチルイオノンとからなる香料成分」であると特定されるのに対して、引用発明1は香料成分がシトロネロール及びメチルヨノン等0.05質量%である点。
(イ)判断(理由1(新規性)について)
a 相違点1-3について
上記相違点1-3について検討する。
トランスフルトリンの25℃における蒸気圧は、本願明細書段落0031によれば1.1mPaであるため、引用発明1は「0.5~20mPaの蒸気圧(25℃)を有する害虫防除成分」を含有すると認められる。したがって、上記相違点1-3は実質的な相違点ではない。
b 相違点1-4について
上記相違点1-4について検討する。
引用発明1は、γ―ウンデカラクトンやウンデカナールを用いていないことから、相違点1-4は実質的な相違点である。
c 小括
以上のとおり、本件発明2は、刊行物1に記載された発明ではない。
(ウ)判断(理由2(進歩性)について)
a 相違点1-3について
相違点1-3は、上記(イ)で検討したとおり、実質的な相違点ではない。
b 相違点1-4について
相違点1-4について検討する。
刊行物1には、γ-ウンデカラクトンやウンデカナールを用いることの記載も示唆もないから、引用発明1において、これらを用いる動機付けはない。
また、引用例2~4にも、引用発明1においてこれらを用いる動機付けとなる記載は見出せない。
たとえ、引用発明1において、γ-ウンデカラクトン及び/又はウンデカナールを用いることは当業者が容易になし得たことであったとしても、0.5~20mPaの蒸気圧(25℃)を有する害虫防除成分に対して、これらの香料成分を組み合わせて用いることにより、害虫防除成分の有効範囲と香料成分の芳香範囲とが連動するという効果は、当業者が予測し得た範囲のものではない。
c 小括
したがって、本件発明2は、刊行物1~4に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ウ 申立人の主張について
申立人は、令和4年3月2日提出の意見書3頁13~23行において、引用発明1の蚊取線香の発明において、害虫の忌避効果は実用的な一定の範囲で発揮されていると認められるし、引用発明1の香り付き蚊取線香を製造するにあたって当業者であれば所望の範囲に芳香効果が発揮されるよう香料成分の含有量を添加することは通常行うことであるから、蚊取線香から一定距離を離れた位置において忌避効果とα-イソメチルイオノンの芳香効果が得られたという「連動」の効果は、予測し得ない格別顕著なものであったとは認められない。」、「以上の理由から、本件特許発明の効果は、刊行物1に記載の発明に対し、予想外のものではない。よって、今回の訂正で、α-イソメチルイオノンの害虫防除成分に対する質量範囲が請求項1に追記されたとしても、本件特許発明の請求項1のうち、少なくともα-イソメチルイオノンを含む香料成分については、依然として、刊行物1~4に記載の発明により進歩性を有さず、取り消されるべきものである。」と主張している。
しかしながら、上記ア(ウ)で述べたとおり、刊行物1には、害虫防除成分の有効範囲と香料成分の芳香範囲とを連動させるという思想は、記載も示唆もないため、引用発明1において、害虫防除成分の有効範囲と香料成分の芳香範囲とを連動させるために、害虫防除成分として特定の蒸気圧を有するものを選択し、香料成分としてα-イソメチルイオノンを用い、害虫防除成分とα-イソメチルイオノンの含有割合を特定することは、当業者が容易に想到し得たことではないから、上記主張は採用できない。
エ まとめ
以上のとおり、本件発明1~2は、刊行物1に記載された発明ではなく、刊行物1~4に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもないから、本件発明1~2に係る特許は、上記取消理由1及び2によっては取り消すことはできない。
第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
(1)特許異議申立理由の概要
申立人は、異議申立書において、証拠方法として次の(2)に示す甲号証を提出して、以下の申立ての理由を主張している。
ア 訂正前の請求項1~2に係る発明は、甲第1ないし5号証に記載された発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、本件の請求項1及び2に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
イ 訂正前の請求項1に係る発明は、本件特許出願の日の前の特許出願であって、本件特許出願後に出願公開公報の発行がされた下記の、甲第6号証に係る特許出願(以下、「先願」という。)の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「先願明細書等」という。)に記載された発明と同一であり、しかも、本件特許の出願の発明者が先願に係る上記発明をした者と同一ではなく、また本件特許出願時において、その出願人が上記先願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定に違反してされたものである。
ウ 訂正前の請求項1~2に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものでないから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
エ この出願の発明の詳細な説明は、当業者が訂正前の請求項1~2に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものではないから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
オ 訂正前の請求項1に係る発明は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
(2)甲号証及びその記載
ア 甲第1号証ないし甲第4号証
甲第1号証(刊行物1)ないし甲第4号証(刊行物4)並びにそれらの記載については、上記第4 2に示したとおりである。
イ 甲第5号証
甲第5号証: 特願2016-245181号(特許第6651436号)の令和2年1月14日に作成された特許メモ
甲第5号証には、以下の記載がある。
記載(5a)
「引用文献1に記載された「メチルヨノン」とは、メチル化されたイオノンを総称する用語であり、本願請求項1に記載されたα-イソメチルイオノンそのものを意味するものではなく、α-イソメチルイオノンの上位概念に該当する用語である。」(1~3行)
記載(5b)
「そして、本願発明は、「0.5~20mPaの蒸気圧(25℃)を有する害虫防除成分と、γ-ウンデカラクトン、α-イソメチルイオノンおよびウンデカナールからなる群より選択される少なくとも1種の香料成分と、燃焼基材と、を含有することを特徴とする燃焼型害虫防除剤」を使用することにより、「害虫防除成分の有効範囲と香料成分の芳香範囲とが連動し、使用者に香りを感じさせることによって、害虫防除効果の範囲を認識させることができる」という顕著な効果を発揮する。」(8~13行)
ウ 甲第6号証について
甲第6号証:特開2017-122080号公報
甲第6号証には、以下の記載がある。
記載(6a)
「本発明の線香には、追加成分として、香料成分を含有する。本発明で使用する香料は、合成香料、天然香料、またはそれらを調合した調合香料を用いても良い。例えば、・・・(略)・・・」(段落0014)
記載(6b)
「α-イオノン、β-イオノン、α-メチルイオノン、α-イソメチルイオノン、β-メチルイオノン、β-イソメチルイオノン、γ-メチルイオノン、γ-イソメチルイオノン、・・・(略)・・・」(段落0015)
記載(6c)
「γ-C6~13ラクトン(例えば、γ-ノナラクトン、γ-デカラクトン等)、・・・(略)・・・ウンデカラクトンガンマ、・・・(略)・・・」(段落0019~0020)
記載(6d)
「蚊取り線香基材には、殺虫成分や共力剤などが含まれる。殺虫成分は特に限定されず、通常の蚊取り線香に含まれる殺虫成分が挙げられ、ピレスロイド系化合物、精油類(ゼラニウム油、ユーカリ油、シトロネラ油、蚊連草油など)などが挙げられる。
ピレスロイド系化合物としては、例えば、除蟲菊、除蟲菊から単離された天然ピレトリン、ピレトリン、アレスリン、プラレトリン、メトフルトリン、トランスフルトリン、レスメトリン、フラメトリン、エムペントリン、テラレスリン、フラルスリン、これらの化合物の異性体、誘導体、類縁体などが挙げられる、殺虫成分は単独で用いてもよく、2種以上を併合してもよい。」(段落0027)
記載(6e)
「このようにして得られた本発明の線香は、屋内および屋外のいずれでも使用することができる。本発明の線香は、燻煙させることにより、p-メンタン-3,8-ジオールが空間へ拡散される。すなわち、本発明は、線香を燻煙させることにより、p-メンタン-3,8-ジオールが空間への拡散方法を含む。
なお、本発明の拡散方法においては、電気式蚊取り器(マット方式と液体方式など)や芳香ロウソクなどを用いて、p-メンタン-3,8-ジオールが空間へ拡散させる方法も含まれる。」(段落0033)
記載(6f)
「【請求項1】
線香基材及びp-メンタン-3,8-ジオールを含有することを特徴とする線香。
【請求項2】
線香中にp-メンタン-3,8-ジオールが0.01~40質量%の割合で含まれる請求項1に記載の線香。
【請求項3】
追加成分として、香料成分をさらに加えてなることを特徴とする請求項1又は2に記載の線香。
【請求項4】
p-メンタン-3,8-ジオールを含有する線香又はお香を燻煙させることを特徴とするp-メンタン-3,8-ジオールの空間への拡散方法。」(特許請求の範囲)
記載(6g)
「本発明の線香に含まれる線香基材は特に限定されず、通常の線香に含まれる基材が挙げられる。線香基材には、例えば、支燃剤や結合剤などが含まれる。支燃剤としては、・・・(略)・・・除虫菊抽出粉末(カス粉)、ココナツ粉末などの植物乾燥粉末などが挙げられる。支燃剤は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。」(段落0009)
(3)進歩性について
上記第4で述べたとおり、本件発明1~2は、刊行物1~4に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
そして、本件に係る出願の特許メモである甲第5号証は、本件出願前に頒布されたものではなく、甲第5号証の記載を考慮したとしても、本件発明1が、本件出願前に、刊行物1~4に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって、理由アには理由がない。
(4)特許法第29条の2について
ア 先願
先願:特願2016-177978号(特開2017-122080号公報)
イ 先願明細書等の記載事項(対応する特開2017-122080号公報の記載に基づいて選定した。)
上記(2)ウの記載(6a)~記載(6g)
ウ 先願発明
先願明細書等には、線香基材及びp-メンタン-3,8-ジオールを含有する線香が記載されており、該線香は、追加で香料成分を含むことも記載されており(記載(6f))、該線香基材には、殺虫成分や支燃剤が含まれることが記載されている(記載(6d)、(6g))。
そうすると、先願明細書等には、
「殺虫成分及び支燃剤を含む線香基材、p-メンタン-3,8-ジオール及び香料成分を含有する線香。」の発明(以下、「先願発明」という。)が記載されているといえる。
エ 対比・判断
(ア)本件発明1について
a 対比
先願発明の「殺虫成分」、「支燃剤」、「線香」は、それぞれ、「害虫防除成分」、「燃焼基材」、「燃焼型害虫防除剤」に相当する。
本件発明1と先願発明を対比すると、「害虫防除成分と、香料成分と、燃焼基材と、を含有する燃焼型害虫防除剤。」である点で一致し、以下の点で相違する。
相違点6-1:本件発明1は、害虫防除成分が、0.5~20mPaの蒸気圧(25℃)を有し、香料成分が、「γ-ウンデカラクトンおよびウンデカナールからなる群より選択される少なくとも1種の香料成分、γ-ウンデカラクトンおよびウンデカナールからなる群より選択される少なくとも1種とα-イソメチルイオノンとからなる香料成分、または前記害虫防除成分1質量部に対して0.005~40質量部の割合のα-イソメチルイオノンからなる香料成分」に特定されているのに対して、先願発明は、害虫防除成分が0.5~20mPaの蒸気圧(25℃)を有するとの特定がなく、これらの香料成分を用いるとの特定がない点。
b 判断
上記相違点6-1について検討する。
先願明細書等には、殺虫成分として、ピレスロイド系化合物などが挙げられ、ピレスロイド系化合物として、0.5~20mPaの蒸気圧(25℃)を有するものであるメトフルトリン、トランスフルトリンと並列で、当該数値範囲外の蒸気圧(25℃)を有するものであるアレスリン、プラレトリンが挙げられている(記載(6d))。そして、香料成分の例として、複数の化合物が列記されており、その中には、α-イソメチルイオノン、γ-C6~13ラクトン、ウンデカラクトンガンマも含まれている(記載(6a)、(6b)、(6c))。しかしながら、先願明細書等には、0.5~20mPaの蒸気圧(25℃)を有するものである害虫防除成分とα-イソメチルイオノン又はγ-ウンデカラクトンの組み合わせが記載されているとはいえない。また、先願明細書等には、香料成分としてウンデカナールを用いることの記載もない。よって、上記相違点6-1は、実質的な相違点である。
したがって、本件発明1は、先願発明と同一であるとはいえない。
オ 小括
以上のとおり、本件発明1は、先願明細書等に記載された発明と同一ではなく、特許法第29条の2の規定に違反してされたものではない。
よって、理由イには理由がない。
(5)サポ-ト要件について
ア 本件特許発明の解決しようとする課題
本件発明は、特許請求の範囲、明細書の全体の記載事項(特に、段落0005)及び出願時の技術常識からみて、「害虫防除成分の有効範囲と香料成分の芳香範囲とが連動し、使用者に香りを感じさせることによって、害虫防除効果の範囲を認識させることができる燃焼型害虫防除剤」の提供を解決しようとする課題とするものであると認められる。
イ 判断
本件明細書には、香料成分としてα-イソメチルヨノンを含まないカモミ-ル系香料(ウンデカナール及びβ-イオノン、シス-3-ヘキセノールを主として含有する)を用いた実施例1~5及び比較例1~2を踏まえて、「表3に示すように、0.5~20mPaの蒸気圧(25℃)を有する害虫防除成分と特定の香料成分とを含む実施例1~5で得られた蚊取線香(燃焼型害虫防除剤)は、蚊取線香から9.0m離れた位置でも、優れた忌避効果および芳香効果を発揮していることがわかる。したがって、本発明の燃焼型害虫防除剤は、忌避効果を発揮する範囲と芳香を感じさせる範囲とが連動しており、使用者は芳香を感じることによって害虫防除効果の範囲を認識させることができる」(段落0044。下線は当審による。以下同じ。)と記載している。また、連動性の評価として、
「<連動性の評価>
A:連動性あり(忌避効果および芳香効果の両方が「A+」または「A」の場合)。
B:連動性不十分(忌避効果および芳香効果の少なくとも一方が「B」の場合)。
C:連動性なし(忌避効果および芳香効果の少なくとも一方が「C」の場合)。」(段落0041)と記載している。
これらの記載を考慮すると、本件発明の効果である「連動」とは、少なくとも蚊取線香から一定距離(例えば、9.0m程度)離れた位置までの範囲において忌避効果及び芳香効果の両方が発揮されている状態を意味すると認められる。
してみると、本件明細書では、実施例1~5により、0.5~20mPaの蒸気圧(25℃)を有する害虫防除成分であるメトフルトリン又はトランスフルトリンを用いた蚊取線香が、9.0m離れた位置で忌避効果があることが示されており、参考例1、5、8により、γ-ウンデカラクトン、ウンデカナール、α-イソメチルイオノンが、燃焼基材に含まれた検体に火を点けたところ、検体の風下9m先で芳香効果を確認することができたことが示されていることから、当業者は、本件発明にかかる特定の害虫防除成分と特定の香料成分を用いることにより、害虫防除成分の有効範囲と香料成分の芳香範囲とが連動し、使用者に香りを感じさせることによって、害虫防除効果の範囲を認識させることができる燃焼型害虫防除剤とすることができることを認識できる。
したがって、本件発明1~2は、発明の詳細な説明に記載されたものである。
ウ 申立人の主張について
申立人は、特許異議申立書の14頁1~8行において、本件発明の課題を解決するためには、特定の香料成分が、特定の害虫防除成分1質量部に対して、0.005~40質量部の割合で含まれることが、必須要件である旨主張している。
また、申立人は、特許異議申立書の14頁下から9行~15頁12行において、本件明細書において、本件発明の解決しようとする課題である連動性に関する実験データは、段落0037~0044の実施例に限られているが、当該実施例は、香料成分として、「カモミール系香料(ウンデカナールおよびβ-イオノン、シス-3-ヘキセノールを主として含有する)」との、その構成する成分の詳細や量比が不明であるものを用いていることから、本件発明にかかるγ-ウンデカラクトン、ウンデカナール、α-イソメチルイオノンのいずれについても、課題が解決できることが立証されておらず、具体的に実施された試験なしには、当業者といえども、当該課題が解決できると納得することができない旨主張している。
しかしながら、上記イで述べたとおり、本件発明の効果である「連動」とは、少なくとも蚊取線香から一定距離(例えば、9.0m程度)離れた位置までの範囲において忌避効果及び芳香効果の両方が発揮されている状態を意味し、実施例1~5及び参考例1、5、8により、本件発明にかかる特定の害虫防除成分及び特定の香料成分を用いれば、当該「連動」の課題が解決できることを当業者が認識できるものであり、特定の害虫防除成分と特定の香料成分の量比が、本件発明の課題の解決に欠くことのできない事項であるとする理由も見出せない。
よって、上記主張は採用できない。
エ 小括
よって、本件発明1~2は、発明の詳細な説明に記載されたものであるから、理由ウには理由がない。
(6)実施可能要件について
本件明細書には、段落0009~0015に、本件発明にかかる害虫防除成分、香料成分及び燃焼基材の説明がなされており、実施例1~5により、0.5~20mPaの蒸気圧(25℃)を有する害虫防除成分であるメトフルトリン又はトランスフルトリンを用いた蚊取線香が、9.0m離れた位置で忌避効果があることが示されており、参考例1、5、8により、γ-ウンデカラクトン、ウンデカナール、α-イソメチルイオノンが、燃焼基材に含まれた検体に火を点けたところ、検体の風下9m先で芳香効果を確認することができたことが示されている。
そして、段落0017に、好ましい害虫防除成分に対する香料成分の量比についても記載されていることから、害虫防除成分、香料成分、燃焼基材のそれぞれの量の調整は、当業者に過度な試行錯誤を要するものではない。
よって、この出願の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1~2を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものであるから、理由エには理由がない。
(7)明確性要件について
申立人は、特許異議申立書17頁8~13行において、訂正前の請求項1の「0.5~20mPaの蒸気圧(25℃)を有する害虫防除成分」との記載の「蒸気圧」は、測定する場所によって異なる値となるものであるから、訂正前の請求項1に係る発明は不明確である旨主張していることから、本件発明1の「0.5~20mPaの蒸気圧(25℃)を有する害虫防除成分」との記載が明確か否かについて検討する。
物質の特性を示す蒸気圧は、物質固有の値であって、物質の種類と温度が決まれば定まるものである。よって、本件発明1の「0.5~20mPaの蒸気圧(25℃)を有する害虫防除成分」との記載は明確である。また、そのほかに本件発明1が明確でないとする理由は見出せない。
したがって、本件発明1は明確であるから、理由オには理由がない。
第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知書に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1~2に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1~2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2020-700623