特許異議申立
2020-700505
衝撃吸収粘着シート
- 審判番号
- 2020-700505
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2015-560431
- 登録番号
- 6632379
- 請求日
- 2020年07月21日
- 審決日
- 2022年03月04日
- 公報発行日
- 2022年07月29日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】積水化学工業株式会社
- 【権利者代理人】田口 昌浩
- 【権利者代理人】虎山 滋郎
- 【権利者代理人】特許業務法人 安富国際特許事務所
- 【異議申立人】森 秀晴
- 【異議申立人】杉山 弘子
- 審判長/審判官
- 審判長 加藤 友也
- 審判官 大島 祥吾
- 審判官 細井 龍史
- 分類
- P1651.113-YAA(C08J) / P1651.121-YAA(C08J) / P1651.537-YAA(C08J)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第2項、特許法第36条第6項第2号、特許法第29条第1項第3号
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特許第6632379号発明「衝撃吸収粘着シート」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第6632379号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1-10]について訂正することを認める。
特許第6632379号の請求項1ないし10に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
特許第6632379号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし10に係る特許についての出願は、2015(平成27)年12月3日(優先権主張 平成26年12月10日 平成27年4月15日)を国際出願日とする特願2015-560431号に係る出願であって、令和1年12月20日にその特許権の設定登録(請求項の数10)がされ、令和2年1月22日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、同年7月21日に特許異議申立人 森 秀晴(以下、「異議申立人1」という。)及び特許異議申立人 杉山 弘子(以下、「異議申立人2」という。)によりそれぞれ特許異議の申立て(対象請求項:請求項1ないし10)がされた。
当審において、令和2年10月30日付けで取消理由が通知され、同年12月24日に特許権者 積水化学工業株式会社(以下、「特許権者」という。)から意見書が提出され、当審から、令和3年3月5日付けで異議申立人1及び2に対して審尋がされ、同年3月24日に異議申立人1から回答書が提出され、同年同月25日に異議申立人2から回答書が提出された。
そこで、当審から、令和3年6月18日付けで取消理由<決定の予告>が通知され、同年8月18日に特許権者から訂正請求書(当該訂正請求書による訂正の請求を「本件訂正請求」という。)と共に意見書が提出され、同年8月27日付けで異議申立人1及び2に対して訂正請求があった旨の通知がされ、同年9月30日に異議申立人1及び2から、それぞれ意見書が提出され、当審から、同年11月5日付けで再度取消理由<決定の予告>が通知され、同年12月28日に特許権者から意見書が提出されたものである。
第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は、以下の訂正事項1のとおりである。ここで、訂正事項1は、訂正前の請求項1~10の一群の請求項に係る訂正である。なお、下線は、訂正箇所に合議体が付したものである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「基材と、少なくとも1層の粘着剤層とを有する衝撃吸収粘着シートであって、」と記載されているのを、「基材と、前記基材の両面に粘着剤層とを有する衝撃吸収粘着シートであって、」に訂正する。
請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項2~10も同様に訂正する。
2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1に係る請求項1の訂正について
ア 訂正事項1に係る請求項1の訂正は、訂正前の請求項1の「少なくとも1層の粘着剤層とを有する」との発明特定事項に関し、「前記基材の両面に粘着剤層とを有する」ものに限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 訂正事項1に係る請求項1の訂正は、願書に添付した明細書の段落【0006】、【0033】、【0046】~【0054】、【0078】及び段落【0079】~【0068】の記載からみて、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(2)訂正事項1に係る請求項2~10の訂正について
訂正事項1に係る請求項2~10の訂正についても上記(1)と同様である。
3 むすび
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1-10]について訂正することを認める。
第3 本件特許発明
上記第2のとおり、本件訂正請求による訂正は認められるので、本件特許の請求項1ないし10に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」のようにいい、これらを総称して「本件特許発明」という場合がある。)は、それぞれ、令和3年8月18日提出の訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし10に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
基材と、前記基材の両面に粘着剤層とを有する衝撃吸収粘着シートであって、前記基材は、23℃における周波数1.0×104~1.0×106.5Hzでの損失正接tanδの最大値が0.84以上である衝撃吸収層を少なくとも1層以上有することを特徴とする衝撃吸収粘着シート。
【請求項2】
基材は、高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、ポリプロピレン又は熱可塑性エラストマーを含有する層を有することを特徴とする請求項1記載の衝撃吸収粘着シート。
【請求項3】
25%圧縮強度が2000kPa以下であることを特徴とする請求項1又は2記載の衝撃吸収粘着シート。
【請求項4】
衝撃吸収層は、23℃における周波数1.0×104~1.0×106.5Hzでの損失正接tanδの最大値が1.31以上であることを特徴とする請求項1、2又は3記載の衝撃吸収粘着シート。
【請求項5】
衝撃吸収層は、エラストマーを含有することを特徴とする請求項1、2、3又は4記載の衝撃吸収粘着シート。
【請求項6】
エラストマーは、スチレン系エラストマー、オレフィン系エラストマー、アクリル系エラストマー又はウレタン系エラストマーであることを特徴とする請求項5記載の衝撃吸収粘着シート。
【請求項7】
基材の厚みが、50~400μmであることを特徴とする請求項1、2、3、4、5又は6記載の衝撃吸収粘着シート。
【請求項8】
携帯電子機器において前面板を接着固定するために用いられることを特徴とする請求項1、2、3、4、5、6又は7記載の撃吸収粘着シート。
【請求項9】
携帯電子機器において背面板を接着固定するために用いられることを特徴とする請求項1、2、3、4、5、6又は7記載の衝撃吸収粘着シート。
【請求項10】
携帯電子機器においてバックライトユニットを接着固定するために用いられることを特徴とする請求項1、2、3、4、5、6又は7記載の衝撃吸収粘着シート。」
第4 特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要
1 異議申立人1が提出した特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要
令和2年7月21日に異議申立人1が提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書1」という。)に記載した申立ての理由の概要は次のとおりである。
(1)申立理由1-1(甲第1号証に基づく進歩性)
本件特許の請求項1ないし10に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明に基づいて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の上記請求項に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
(2)申立理由1-2(サポート要件)
本件特許の請求項2、5、7ないし10に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
ア 本件特許発明2は、基材の含有する層として挙げた材料のうち、低密度ポリエチレン(LDPE)以外の材料まで本件特許発明を一般化できない。
イ 本件特許発明5は、スチレン系エラストマー、アクリル系エラストマー、ウレタン系エラストマー以外のエラストマーにまで本件特許発明を一般化できない。
ウ 本件特許発明7は、本件明細書の発明の詳細な説明にサポートされている厚みの範囲を超えた不当に広い範囲である。
エ 本件特許発明8~10は、本件明細書の発明の詳細な説明中に該当する各用途で用いた場合の検証が十分なされておらず、発明の詳細な説明に記載された範囲を超えている。
(3)申立理由1-3(明確性要件)
本件特許の請求項2及び5に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
ア 本件特許発明2の熱可塑性エラストマーと本件特許発明5のエラストマーの関係が不明である。
(4)証拠方法
甲第1号証:特開2002-188061号公報
甲第2号証:「スチレン系熱可塑性樹脂エラストマーの応用」,日本ゴム協会誌,2013年,第86巻,第10号,p.309-314
甲第3号証:特開2013-194187号公報
甲第4号証:特開2007-292249号公報
甲第5号証:特開2006-111756号公報
甲第6号証:国際公開第2014/192460号
甲第7号証:特開2014-209537号公報
甲第8号証:特開2014-214205号公報
甲第9号証:特開2002-178469号公報
甲第10号証:特開平5-310878号公報
甲第11号証:技術資料1 損失正接についての説明(インターネット資料#1)
甲第12号証:技術資料2 損失正接についての説明(インターネット資料#2)
甲第13号証:技術資料3 損失正接についての説明(インターネット資料#3)
甲第14号証:技術資料4 粘弾性測定に関する説明
甲第15号証:特開2015-208734号公報
甲第16号証:KURARITYTM ※株式会社クラレのアクリル系熱可塑性エラストマーに関するカタログ
なお、甲第6号証については、「再公表特許第WO2014/192460号」とされ、特許異議申立書1に添付されている証拠も再公表であるが、当該再公表の公報発行日は本件特許に係る優先日より後の平成29年2月23日であることから、同じ内容で同優先日より前に国際公開されていることが明らかな「国際公開第2014/192460号」を甲第6号証とした。その他の表記は、おおむね特許異議申立書1の記載に従った。以下、順に「甲1-1」ないし「甲1-16」という。
2 異議申立人2が提出した特許異議申立書に記載した申立ての理由の概要
令和2年7月21日に異議申立人2が提出した特許異議申立書(以下、「特許異議申立書2」という。)に記載した申立ての理由の概要は次のとおりである。
(1)申立理由2-1(甲第1号証に基づく進歩性)
本件特許の請求項1、2及び4ないし10に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の文献等に記載された発明に基づいて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の上記請求項に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
(2)申立理由2-2(サポート要件)
本件特許の請求項1ないし6及び8ないし10に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。
ア 厚みの規定がない本件特許発明1は、本件特許の課題が解決できることを当業者が認識できる範囲を超えており、サポート要件を満たしていない。本件特許発明2ないし6及び8ないし10も同様である。
(3)証拠方法
甲第1号証:特開2013-194187号公報
甲第2号証:特開2002-188061号公報
以下、順に「甲2-1」ないし「甲2-2」という。
第5 当審の取消理由<決定の予告>の概要
令和3年11月5日付けで通知した取消理由<決定の予告>(以下、「取消理由<決定の予告>」という。)の概要は、次のとおりである。
1 取消理由1及び2(甲1-1を主引用文献とする新規性・進歩性)
本件特許の請求項1、4ないし7に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1-1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものである(取消理由1)か、又は、本件特許の請求項1ないし10に係る発明は、甲1-1に記載された発明に基づいて、その優先日前当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである(取消理由2)から、本件特許の上記請求項に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。
第6 取消理由<決定の予告>についての当審の判断
当審は、以下に述べるように、上記取消理由1及び2には理由がないと判断する。
1 主な証拠に記載された事項等
(1)甲1-1に記載された事項及び甲1-1発明
ア 甲1-1に記載された事項
甲1-1には、「耐衝撃性に優れる両面粘着シート」に関して、おおむね次の事項が記載されている。なお、下線は当審で付したものである。
・「【請求項1】 電子機器の部品を固定する両面粘着シートであって、該両面粘着シートの少なくとも片面の粘着剤層が、電子機器を落下した時に発生する最大固有振動数以上の振動数帯に損失正接の極大値を持ち、かつ該損失正接の極大値が1以上であることを特徴とする両面粘着シート。
【請求項2】 前記粘着剤層の損失正接の極大値が、103Hz以上の振動数帯にあることを特徴とする請求項1に記載の両面粘着シート。
【請求項3】 前記電子機器が携帯電話機である請求項1または2のいずれかに記載の両面粘着シート。」
・「【0003】
【発明が解決しようとする課題】本発明の課題とするところは、両面粘着シートで部品を固定した電子機器が落下したときに、その衝撃によって部品が脱落しにくい、耐衝撃性に優れる両面粘着シートを提供するものである。」
・「【0007】本発明の両面粘着シートは、支持体を使用してもしなくてもよい。支持体としては、特に限定はなく公知慣用の支持体を使用することができる。具体的には、例えば不織布、布、紙等の多孔質支持体、ポリエステルフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム等のプラスチックフィルム等が挙げられる。フィルム支持体の場合は、粘着剤層との投錨性を向上させるために、表面コロナ処理やアンカーコート処理してもよい。支持体の厚さは、従来から一般に使用されている4~200μmのものを使用することができるが、10~100μmのものがより好ましい。」
・「【0014】本発明の両面粘着シートを使用して部品を固定するのに適している電子機器の具体例としては、携帯電話機、携帯型パーソナルコンピューター、携帯型情報端末機器(PDA)等が挙げられる。電子機器の表示パネル、たとえば携帯電話機の液晶表示パネル、の縁取りや本体への固定等に使用する場合は、該両面粘着シートによる隠蔽部の遮光性を高めるために、両面粘着シートの全光線透過率を20%以下とするのが好ましい。」
・「【0015】
【実施例】以下に実施例により具体的に説明する。特に限定しない限り、「部」は「質量部」、「%」は「質量%」を表すものとする。
【0016】〔実施例〕
<粘着剤溶液(1)の調製>攪拌機、還流冷却器、温度計、滴下漏斗及び窒素ガス導入口を備えた反応容器にブチルアクリレート30部、2エチルヘキシルアクリレート67.9部、アクリル酸2部、βーヒドロキシエチルアクリレート0.1部、重合開始剤として2,2’-アゾビスイソブチロニトリル0.2部とを酢酸エチル100部に溶解し、80℃で8時間重合して、質量平均分子量70万のアクリル共重合体溶液を得た。酢酸エチルを加えて、不揮発分40%の粘着剤溶液(1)とした。
【0017】<両面粘着シート(1)の調製>上記粘着剤溶液(1)100部にイソシアネート系架橋剤(日本ポリウレタン社製「コロネートL-45」;固形分45%)を1部添加して15分間攪拌後、表面を離型剤処理した厚さ75μmのポリエステルフィルム上に乾燥後の厚さが70μmになるように塗工して、80℃で3分間乾燥した。得られた粘着シートを、坪量14g/m2、厚さ50μmの三木特種製紙製不織布「ミキロン805」の両面に転写し、ロールで40N/cm2の圧力でラミネートし、その後40℃で2日間熟成し両面粘着シート(1)を得た。」
・「【0021】(2)粘着剤層の損失正接の測定実施例および比較例の両面粘着シートをそれぞれ重ね合わせて厚さ5mmとし、40℃で2日間熟成して試験片とした。レオメトリックス社製粘弾性試験機「アレス2kSTD」に直径7.9mmのパラレルプレートを装着して試験片を挟み込み、25℃下で振動数10-2Hz~80Hzまでの損失正接を測定した。次に、10℃、0℃、-10℃、-20℃下で同様に測定を行った結果を、「アレス2kSTD」に付属しているソフトウェアを使用して温度-速度換算し、10-2Hzから106Hz域の損失正接のマスターカーブを得た。このマスターカーブから損失正接の極大値の振動数を読みとった。」
・「【0024】
【表1】
[図:0001386085000001.jpg]
」
イ 甲1-1発明
甲1-1には、上記アの記載から、実施例として記載されている両面粘着シート(1)として、次の発明(以下、「甲1-1発明」という。)が記載されていると認める。
「両面粘着シートの両面の粘着剤層が、電子機器を落下した時に発生する最大固有振動数以上の振動数帯に損失正接の極大値を持ち、かつ該損失正接の極大値が1以上である両面粘着シートであって、該粘着剤層は、攪拌機、還流冷却器、温度計、滴下漏斗及び窒素ガス導入口を備えた反応容器にブチルアクリレート30部、2エチルヘキシルアクリレート67.9部、アクリル酸2部、βーヒドロキシエチルアクリレート0.1部、重合開始剤として2,2’-アゾビスイソブチロニトリル0.2部とを酢酸エチル100部に溶解し、80℃で8時間重合して、質量平均分子量70万のアクリル共重合体溶液を得、酢酸エチルを加えて、不揮発分40%の粘着剤溶液(1)とし、当該粘着剤溶液(1)100部にイソシアネート系架橋剤(日本ポリウレタン社製「コロネートL-45」;固形分45%)を1部添加して15分間攪拌後、表面を離型剤処理した厚さ75μmのポリエステルフィルム上に乾燥後の厚さが70μmになるように塗工して、80℃で3分間乾燥し、得られた粘着シートを、坪量14g/m2、厚さ50μmの三木特種製紙製不織布「ミキロン805」の両面に転写し、ロールで40N/cm2の圧力でラミネートし、その後40℃で2日間熟成し、得られるものであり、該粘着剤層の損失正接の極大値振動数が2×105で、極大値が1.4である、両面粘着シート(1)。」
2 本件特許発明1について
本件特許発明1と甲1-1発明とを対比する。
甲1-1発明における、粘着シートを、坪量14g/m2、厚さ50μmの三木特種製紙製不織布「ミキロン805」の両面に転写し、ロールで40N/cm2の圧力でラミネートし、その後40℃で2日間熟成し、得られた「両面粘着シート(1)」のミキロン805が存在する層部分が、本件特許発明1の「基材」及び「衝撃吸収層」に相当する。
そして、当該「粘着シートを、坪量14g/m2、厚さ50μmの三木特種製紙製不織布「ミキロン805」の両面に転写し、ロールで40N/cm2の圧力でラミネートし、その後40℃で2日間熟成し、得られた」「両面粘着シート(1)」の不織布であるミキロン805が存在しない上下の粘着シートを構成する樹脂成分のみが存在する層部分が、本件特許発明1の「基材の両面」に存在する「粘着剤層」に相当する。(下記参考図を参照のこと)
<参考図> 本件特許発明1
「粘着剤層」
「基材」
「粘着剤層」
甲1-1発明
粘着剤 「粘着剤層」に相当
ミキロン **************** 「基材」に相当
805 ****************
粘着剤 「粘着剤層」に相当
そうすると、本件特許発明1と甲1-1発明とは、
「基材と、前記基材の両面に粘着剤層とを有する衝撃吸収粘着シート。」
である点で一致し、以下の点で一応相違する。
<相違点>
基材及び衝撃吸収層に相当する甲1-1発明のミキロン805が存在する層部分(ミキロン805に粘着シートが含浸している不織布部分)に関して、本件特許発明1は、「23℃における周波数1.0×104~1.0×106.5Hzでの損失正接tanδの最大値が0.84以上である」と特定するのに対して、甲1-1発明は、この点を特定しない点
以下、相違点ついて検討する。
甲1-1においては、粘着剤層の損失正接tanδが測定されており、その極大値振動数が2×105でその極大値は1.4であって、甲1-1においての粘着剤層の測定方法が「両面粘着シートをそれぞれ重ね合わせて厚さ5mmとし、40℃で2日間熟成して試験片とした。レオメトリックス社製粘弾性試験機「アレス2kSTD」に直径7.9mmのパラレルプレートを装着して試験片を挟み込み、25℃下で振動数10-2Hz~80Hzまでの損失正接を測定した。」(段落【0021】)とされている。
ここで、損失正接の測定方法としては、引張モードの測定方法とせん断モードの測定方法があり、引張モードの測定方法とせん断モードの測定方法は、下記のとおり、測定試料を変形させる際の方向が異なり、引張方向で変形させるのが引張モードであり、せん断方向で変形させるのがせん断モードである。
[図:0001386085000002.jpg]
測定試料が均一な材質、すなわち均一な硬さの材質で構成されているもの、例えば粘着剤層のみからなるものであれば、引張方向もせん断方向も同程度の弾性挙動となることから損失正接tanδは同じ値となる。これに対して、下図のような異なる硬さの材料の積層体の場合、不織布の両面に粘着剤層を有する積層体の損失正接tanδを測定する場合は、引張方向とせん断方向で弾性挙動が異なることとなる。
[図:0001386085000003.jpg]
すなわち、測定する弾性挙動について、引張モードでは積層体の硬い層である不織布の影響が支配的となるが、せん断モードでは積層体の軟らかい層である粘着剤層の影響が支配的となる。
そうすると、測定する材料が異なる硬さの材料の積層体の場合は、損失正接tanδの値は、測定方法によって異なる値となる。
ここで、甲1-1においての粘着剤層の測定方法が上述のとおりであることから、当該測定方法は、上記のせん断モードでの測定といえ、粘着剤層の影響が支配的となることから、粘着剤層の損失正接tanδが測定されてはいても、その値は、甲1-1発明のミキロン805が存在する層部分(ミキロン805に粘着シートが含浸している不織布部分)の損失正接tanδとは異なる値となる。
以上のことから、甲1-1において、上記のような測定方法で測定した粘着剤層の損失正接tanδが、その極大値振動数が2×105でその極大値は1.4であるからといって、本件特許発明1における「基材」に相当する甲1-1発明の「両面粘着シート(1)」のミキロン805が存在する層部分の損失正接tanδが同じ値であるとはいえない。
よって、相違点は実質上の相違点であるから、本件特許発明1は、甲1-1発明であるとはいえない。
次に、進歩性について検討する。
甲1-1においては、粘着剤層についての損失正接は測定しているが、本件特許発明1における基材に相当する部分の損失正接について言及ないし示唆する記載はない。
そうすると、甲1-1発明において、その基材に相当する部分に着目して、その損失正接を調整して相違点に係る発明特定事項とすることは、当業者においても容易に想到し得たものではない。
以上のとおりであるから、本件特許発明1は、甲1-1発明でないし、甲1-1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
3 異議申立人の主張について
異議申立人1は、令和3年9月30日提出の意見書において、令和3年8月18日付けの特許権者の意見書における主張についての反論を主張していて、当審は、当該主張は妥当と認め、同年11月5日に2度目の取消理由<決定の予告>を通知しているが、当該主張が妥当でなかったことは上記検討のとおりである。
異議申立人2は、令和3年9月30日提出の意見書において、令和3年8月18日付けの特許権者の訂正請求により新たに請求項1に追加された事項についての主張を行っており、当審は当該主張を妥当と認め、同年11月5日に2度目の取消理由<決定の予告>を通知しているが、当該主張が妥当でなかったことは上述のとおりである。
4 本件特許発明2ないし10について
本件特許発明2ないし10は、請求項1を直接又は間接的に引用する発明であり、本件特許発明1の特定事項を全て有するものである。
そして、上記2のとおり、本件特許発明1は、甲1-1発明であるとはいえないし、甲1-1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもないから、本件特許発明1の特定事項を全て含む発明である本件特許発明4ないし7は、同様に甲1-1発明であるとはいえないし、本件特許発明2ないし10は、甲1-1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
5 まとめ
したがって、取消理由<決定の予告>で通知した取消理由には、理由がない。
第7 取消理由<決定の予告>に採用しなかった特許異議申立書に記載された申立理由について
取消理由<決定の予告>において採用しなかった申立理由は、申立理由1-2(サポート要件)、申立理由1-3(明確性要件)、申立理由2-1(甲2-1に基づく進歩性)及び申立理由2-2(サポート要件)であるので、以下、検討する。
1 申立理由1-2及び申立理由2-2(サポート要件)について
(1)サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が発明が解決しようとする課題(以下、「発明の課題」という。)を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。
(2)特許請求の範囲の記載
本件特許の特許請求の範囲の記載は、上記第3のとおりである。
(3)発明の詳細な説明の記載
本件特許の発明の詳細な説明には、以下の記載がある。
・「【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、携帯電子機器を構成する部品を機器本体に接着固定する粘着シートの基材として好適に用いられる、耐衝撃性に優れた衝撃吸収シートを提供することを目的とする。また、本発明は、該衝撃吸収シートを有する衝撃吸収粘着シート、前面板固定用衝撃吸収両面粘着シート、背面板固定用衝撃吸収両面粘着シート、及び、バックライトユニット固定用衝撃吸収両面粘着シートを提供することを目的とする。」
・「【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、23℃における周波数1.0×104~1.0×106.5Hzでの損失正接tanδの最大値が0.84以上である衝撃吸収層を少なくとも1層以上有する衝撃吸収シートである。」
・「【0008】
特許文献3に記載のような発泡体を基材とする粘着シートにおいて、発泡体の耐衝撃性を向上させる方法としては、例えば、発泡体の発泡倍率を下げ、密度を上げる方法が挙げられる。しかしながら、ある程度の値以下に発泡倍率を下げることは技術上困難であるうえ、過度に発泡倍率を下げると非発泡体に近づき、柔軟性が損なわれ、耐衝撃性が低下する。このため、特許文献3に記載のような従来の発泡体を基材とする粘着シートでは、狭幅化(例えば、幅1.0mm以下)が進んだ粘着テープにおいて優れた耐衝撃性を達成することは困難である。
本発明者は、粘着シートの基材として好適に用いられる衝撃吸収シートを、23℃における特定の周波数での損失正接tanδの最大値を特定値以上に調整した衝撃吸収層を有するものとすることにより、衝撃吸収シートに落下等の衝撃が加わった場合であっても衝撃によるエネルギーが熱として又は変形により効果的に発散され、剥がれが抑制されることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
本発明の衝撃吸収シートは、23℃における周波数1.0×104~1.0×106.5Hzでの損失正接tanδの最大値が0.84以上である衝撃吸収層を少なくとも1層以上有する。
本発明の衝撃吸収シートを、上記衝撃吸収層を有するものとすることにより、衝撃吸収シートに落下等の衝撃が加わった場合であっても衝撃によるエネルギーが熱として又は変形により効果的に発散され、剥がれが抑制される。・・・」
・「【0011】
なお、23℃における周波数1.0×104~1.0×106.5Hzでの損失正接tanδの最大値は、動的粘弾性測定装置(例えば、ユービーエム社製のRheogel-E4000)を使用し衝撃吸収層の弾性率を測定し、マスターカーブを合成することで判断することができる。このとき、必ずしも損失正接tanδの「極大値」が周波数1.0×104~1.0×106.5Hzの範囲内に存在する必要はない。ただし、「極大値」が周波数1.0×104~1.0×106.5Hzの範囲内に存在することで、23℃よりも高温又は低温で衝撃吸収シートに衝撃が加わった場合であっても衝撃吸収シートが安定的に衝撃を吸収しやすくなる。
ここで周波数1.0×104~1.0×106.5Hzとは、衝撃吸収シートに対して、数十センチメートルから1メートル数十センチメートルの高さから物体を自由落下させたとき、衝撃吸収シートが数マイクロメートルから数十マイクロメートル変位するときの周波数を想定した周波数(即ち、携帯電子機器に落下等の衝撃が加わった場合を想定した周波数)である。
【0012】
上記損失正接tanδの最大値を上記範囲に調整するには、後述する範囲内で上記衝撃吸収層の組成を調整すればよいが、なかでも、上記衝撃吸収層がエラストマーを含有することが好ましい。
【0013】
上記衝撃吸収層は特に限定されず、架橋ポリオレフィン発泡体等の発泡体であってもよいが、上記損失正接tanδの最大値を上記範囲に調整するためには、エラストマー等を含有する非発泡体が好ましい。・・・」
・「【0029】
本発明の衝撃吸収シートの厚みは特に限定されないが、50~400μmが好ましい。厚みが50μm未満であると、衝撃吸収シートは、強度が低下し、強い衝撃が加わった場合に破壊することがある。厚みが400μmを超えると、近年の粘着シートの薄型化のニーズに応えることが困難になることがある。
【0030】
なお、本発明の衝撃吸収シートは、上記衝撃吸収層を少なくとも1層以上有していれば、上記衝撃吸収層に加えて他の層を有していてもよい。・・・
【0031】
本発明の衝撃吸収シートの製造方法は特に限定されず、例えば、上記衝撃吸収層の材料を溶解させた溶液を離型フィルムに塗布して乾燥させ、上記衝撃吸収層を形成する方法等が挙げられる。また、本発明の衝撃吸収シートが上記衝撃吸収層に加えて他の層を有する場合には、例えば、各層の材料を共押出して多層構造シートを得る方法等が挙げられる。
【0032】
本発明の衝撃吸収シートの用途は特に限定されないが、携帯電子機器を構成する部品を機器本体に接着固定する粘着シートの基材や、車載部品を接着固定する粘着シートの基材として用いられることが好ましい。上記携帯電子機器は、従来のリジッドな携帯電子機器に限定されず、ウエラブル端末、ベンダブル(曲がる)端末等のより過酷な条件に晒される携帯電子機器であってもよい。・・・
【0033】
本発明の衝撃吸収シートと、少なくとも1層の粘着剤層とを有する衝撃吸収粘着シートもまた、本発明の1つである。・・・」
・「【0043】
上記粘着剤層の厚みは特に限定されないが、粘着剤層の厚み(片面の粘着剤層の厚み)が10~150μmであることが好ましい。厚みが10μm未満であると、上記粘着剤層は、耐衝撃性が低下することがある。厚みが150μmを超えると、上記粘着剤層は、リワーク性又は再剥離性が損なわれることがある。
【0044】
本発明の衝撃吸収粘着シートは、総厚みが100~400μmであることが好ましい。総厚みが100μm未満であると、衝撃吸収粘着シートの耐衝撃性が低下することがある。総厚みが400μmを超えると、衝撃吸収粘着シートは、携帯電子機器を構成する部品を機器本体に接着固定する用途に適さないことがある。」
・「【0046】
本発明の衝撃吸収粘着シートの製造方法として、例えば、以下のような方法が挙げられる。
まず、アクリル共重合体、粘着付与樹脂、必要に応じて架橋剤等に溶剤を加えて粘着剤aの溶液を作製して、この粘着剤aの溶液を基材である衝撃吸収シートの表面に塗布し、溶液中の溶剤を完全に乾燥除去して粘着剤層aを形成する。次に、形成された粘着剤層aの上に離型フィルムをその離型処理面が粘着剤層aに対向した状態に重ね合わせる。
次いで、上記離型フィルムとは別の離型フィルムを用意し、この離型フィルムの離型処理面に粘着剤bの溶液を塗布し、溶液中の溶剤を完全に乾燥除去することにより、離型フィルムの表面に粘着剤層bが形成された積層フィルムを作製する。得られた積層フィルムを粘着剤層aが形成された衝撃吸収シートの裏面に、粘着剤層bが衝撃吸収シートの裏面に対向した状態に重ね合わせて積層体を作製する。そして、上記積層体をゴムローラ等によって加圧することによって、衝撃吸収シートの両面に粘着剤層を有し、かつ、粘着剤層の表面が離型フィルムで覆われた衝撃吸収粘着シートを得ることができる。」
・「【発明の効果】
【0055】
本発明によれば、携帯電子機器を構成する部品を機器本体に接着固定する粘着シートの基材として好適に用いられる、耐衝撃性に優れた衝撃吸収シートを提供することができる。また、本発明によれば、該衝撃吸収シートを有する衝撃吸収粘着シート、前面板固定用衝撃吸収両面粘着シート、背面板固定用衝撃吸収両面粘着シート、及び、バックライトユニット固定用衝撃吸収両面粘着シートを提供することができる。」
・「【発明を実施するための形態】
・・・
【0058】
(粘着剤Aの調製)
温度計、攪拌機、冷却管を備えた反応器にブチルアクリレート79.9重量部、エチルアクリレート5重量部、2-エチルヘキシルアクリレート12重量部、アクリル酸3重量部、2-ヒドロキシエチルアクリレート0.1重量部、及び、酢酸エチル82重量部を加え、窒素置換した後、反応器を加熱して還流を開始した。続いて、上記反応器内に、重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル0.15重量部を添加した。77℃、5時間還流させて、アクリル共重合体(a)の溶液を得た。得られたアクリル共重合体(a)について、カラムとしてWater社製「2690 Separations Model」を用いてGPC法により重量平均分子量を測定したところ、65万であった。
得られたアクリル共重合体(a)の溶液に含まれるアクリル共重合体(a)の固形分100重量部に対して、重合ロジンエステル10重量部、テルペンフェノール16重量部、水添ロジンエステル10重量部、酢酸エチル100重量部を添加し、更に、アクリル重合体(a)の固形分100重量部に対してイソシアネート系架橋剤(日本ポリウレタン社製 商品名「コロネートL45」)6.2重量部を添加し、攪拌して、粘着剤Aを得た。
【0059】
(実施例1)
(1)衝撃吸収シートの製造
スチレン-エチレン-ブチレン-スチレン(SEBS)ブロックコポリマー(JSR社製のダイナロン「8905P」)150gをトルエン250gの入ったビーカーに入れ、1時間攪拌し充分に溶解させた。その溶液を、シリコン離型処理が施された厚み75μmの離型PETフィルムにアプリケーターを用いて塗布し、110℃で4分間溶剤を乾燥させ、厚み150μmの非発泡の衝撃吸収層を形成し、衝撃吸収シートを得た。
衝撃吸収シートを5mm×30mm幅にカットし、動的粘弾性測定装置(ユービーエム社製のRheogel-E4000)に30mmの長辺側をチャック間隔15mmでチャックし、昇温速度を5℃/minとして-60℃~100℃の範囲で引張粘弾性率を測定し、基準温度23℃でマスターカーブを合成することにより23℃における周波数1.0×104~1.0×106.5Hzでの損失正接tanδの最大値を算出したところ、1.4であった。また、損失正接tanδが極大値をとるときの周波数は、1.0×104.17Hzであった。
【0060】
(2)両面粘着シートの製造
シリコン離型処理が施された厚み75μmの離型PETフィルムに粘着剤Aをアプリケーターを用いて塗布し110℃で3分間乾燥し、厚み50μmの粘着剤層を形成した。この粘着剤層を上記で得られた衝撃吸収シートにシリコンローラーを用いて貼り合わせ、片面粘着シートを得た。なお、上記衝撃吸収シートには、予めコロナ処理装置(春日電気株式会社製の「CT-0212」)を用いて270W、18m/minの条件で両面にコロナ処理を施した。
同様の要領で、衝撃吸収シートの反対の表面の離型PETフィルムを剥がし、上記と同じ粘着剤層を貼り合わせた。その後40℃で48時間養生を行った。これにより、両面を離型PETフィルムで覆われた総厚み250μmの両面粘着シートを得た。
【0061】
(実施例2~12)
表5及び表6に記載されたとおり衝撃吸収層の材料、衝撃吸収層の厚み、衝撃吸収層の損失正接tanδの最大値、及び、粘着剤層の厚みを変更したこと以外は実施例1と同様にして、両面粘着シートを得た。
・・・
【0062】
(実施例13)
表6に記載されたとおり衝撃吸収層の材料、衝撃吸収層の厚み、衝撃吸収層の損失正接tanδの最大値、及び、粘着剤層の厚みを変更したこと以外は実施例1と同様にして、両面粘着シートを得た。
なお、衝撃吸収層の材料を溶解させた溶液を離型フィルムに塗布し乾燥させて衝撃吸収層を形成する代わりに、下記のシート材料を入手し衝撃吸収層に使用した。
・ウレタン系エラストマー(シーダム社製の「DUS614」)
【0063】
(実施例14)
表6に記載されたとおり衝撃吸収層の材料、衝撃吸収層の厚み、衝撃吸収層の損失正接tanδの最大値、及び、粘着剤層の厚みを変更したこと以外は実施例1と同様にして、両面粘着シートを得た。
なお、衝撃吸収層の材料を溶解させた溶液を離型フィルムに塗布し乾燥させて衝撃吸収層を形成する代わりに、SEBSブロックコポリマー(JSR社製のダイナロン「8600」)の両面にポリエチレン(PE)(住友化学工業社製の「スミカセンF218-0」)を共押出して得た3層構造シート(厚み150μm)を衝撃吸収シートに使用した。3層構造シートの断面の各層の厚み割合をVHX-500(キーエンス社製)を用いて測定したところ、PE:SEBS(ダイナロン「8600」):PE=20:110:20であった。
【0064】
(比較例1~4)
表7に記載されたとおり衝撃吸収層の材料、衝撃吸収層の厚み、衝撃吸収層の損失正接tanδの最大値、及び、粘着剤層の厚みを変更したこと以外は実施例1と同様にして、両面粘着シートを得た。
なお、衝撃吸収層の材料を溶解させた溶液を離型フィルムに塗布し乾燥させて衝撃吸収層を形成する代わりに、下記のシート材料を入手し衝撃吸収層に使用した。
・ウレタン系エラストマー(シーダム社製の「DUS213」)
・ウレタン系エラストマー(シーダム社製の「DUS203」)
・PEフォーム(積水化学工業社製のポリオレフィン発泡体「XLH-05002」)
・PETフィルム(東レ社製のルミラー「S10」)
【0065】
(比較例5~8)
表7に記載されたとおり衝撃吸収層の材料、衝撃吸収層の厚み、衝撃吸収層の損失正接tanδの最大値、及び、粘着剤層の厚みを変更したこと以外は実施例1と同様にして、両面粘着シートを得た。
なお、下記に示す衝撃吸収層の材料を使用した。
・SEBSブロックコポリマー(旭化成社製のタフテック「H1041」)
・SBBSブロックコポリマー(旭化成社製のタフテック「P1083」)
・SBBSブロックコポリマー(旭化成社製のタフテック「P2000」)
・アクリル系エラストマー(クラレ社製のクラリティ「2250」)
【0066】
(比較例9)
表7に記載されたとおり衝撃吸収層の材料、衝撃吸収層の厚み、衝撃吸収層の損失正接tanδの最大値、及び、粘着剤層の厚みを変更したこと以外は実施例1と同様にして、両面粘着シートを得た。
なお、下記に示すようにして衝撃吸収層を形成した。
上記(粘着剤Aの調製)で得られたアクリル共重合体(a)の固形分100重量部に対し、重合ロジンエステル(荒川化学工業社製「D-160」)13.5重量部、テルペンフェノール(ヤスハラケミカル社製「G-150」)18重量部、水添ロジンエステル(荒川化学工業社製「エステルガムH」)13.5重量部、更に、アクリル重合体(a)の固形分100重量部に対してイソシアネート系架橋剤(日本ポリウレタン社製 商品名「コロネートL45」)7.9重量部を添加し、攪拌して得られた溶液を、シリコン離型処理が施された厚み75μmの離型PETフィルム(ニッパ社製、品番V2)にアプリケーターを用いて塗布し、110℃で4分間溶剤を乾燥させた後、48時間40℃で養生し、厚み200μmの衝撃吸収層としてのアクリル系粘着シートを得た。
・・・
【0074】
<評価>
実施例、比較例で得られた両面粘着シートについて下記の評価を行った。評価結果を表5~7に示す。
【0075】
(1)落下衝撃試験
<試験装置の作製>
図4に、実施例、比較例で得られた両面粘着シート(衝撃吸収粘着シート)の落下衝撃試験の模式図を示す。得られた両面粘着シートを外径が幅46mm、長さ61mm、内径が幅44mm、長さ59mmに打ち抜き、幅1mmの枠状の試験片を作製した。次いで、図4(a)に示すように、中央部分に幅38mm、長さ50mmの四角い穴のあいた厚さ2mmのポリカーボネート板43に対して離型紙を剥がした試験片41を四角い穴がほぼ中央に位置するように貼り付けた後、試験片41の上面から幅55mm、長さ65mm、厚さ1mmのポリカーボネート板42を試験片41がほぼ中央に位置するように貼り付け、試験装置を組み立てた。
その後、試験装置の上面に位置するポリカーボネート板側から5kgfの圧力を10秒間加えて上下に位置するポリカーボネート板と試験片とを圧着し、常温で24時間放置した。
【0076】
<耐落下衝撃性の判定>
図4(b)に示すように、作製した試験装置を裏返して支持台に固定し、四角い穴を通過する大きさの300gの重さの鉄球44を四角い穴を通過するように落とした。鉄球を落とす高さを徐々に高くしていき、鉄球の落下により加わった衝撃により試験片とポリカーボネート板が剥がれた時の鉄球を落した高さを計測した。結果が120cm以上であった場合の判定を◎、80cm以上120cm未満であった場合の判定を○、80cm未満であった場合の判定を×とした。
【0077】
(2)25%圧縮強度の測定
得られた両面粘着シートを15mm×15mmにカットし、約5mmになるまで重ねて積層体サンプルを得た。積層体サンプルの厚みを測定した後、1mm厚のPC板で挟み、島津製作所社製「オートグラフ AGS-X」で10mm/minの速度で圧縮した。元の厚みの25%に圧縮されたときの応力を求め、面積で割り圧縮強度を算出した。
・・・
【0078】
[図:0001386085000004.jpg]
【0079】
[図:0001386085000005.jpg]
【0080】
[図:0001386085000006.jpg]
」
(4)サポート要件についての判断
本件特許の発明の詳細な説明の段落【0006】の記載によると、発明の課題は、「耐衝撃性に優れた衝撃吸収シートを提供すること」ことである。
この点について、本件特許の発明の詳細な説明の記載、特に段落【0007】~【0009】、【0011】~【0013】、【0029】~【0033】、【0043】、【0044】、【0046】、【0055】及び実施例と比較例に関する【0058】~【0080】の記載から、「衝撃吸収粘着シート」であって、「基材は、23℃における周波数1.0×104~1.0×106.5Hzでの損失正接tanδの最大値が0.84以上である衝撃吸収層を少なくとも1層以上有する」ものであれば、当業者は、<耐落下衝撃性の判定>結果に優れ、25%圧縮強度においても優れたものとなる、すなわち、「耐衝撃性に優れた衝撃吸収シートを提供する」との発明の課題を解決するものと認識できる。
そして、本件特許発明1ないし10はいずれも、「衝撃吸収粘着シート」であって、「基材は、23℃における周波数1.0×104~1.0×106.5Hzでの損失正接tanδの最大値が0.84以上である衝撃吸収層を少なくとも1層以上有する」との特定事項を有するものである。
してみれば、本件特許発明1ないし10は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。
(5)異議申立人らの主張の検討
異議申立人1は、上記第4 1(2)アないしエの主張をするが、主張ア及びイについては、上記(4)のとおり、本件特許発明は、当業者が発明の課題を解決すると理解できるものであるから、当該主張は失当であり、採用できない。
厚みに関する主張ウについては、本件特許発明が「衝撃吸収粘着シート」である以上は、所定の厚みを有していると当業者は理解するから、申立人1の主張は失当であり、採用できない。
用途に関する主張エについては、サポート要件の判断において、提示された各用途においての検証が求められるものではないから、当該主張も失当であり、採用できない。
異議申立人2は、上記第4 2(2)アの主張をするが、申立人1の主張エと同様であり、採用できない。
(6)まとめ
よって、申立理由1-2及び申立理由2-2は理由がない。
2 申立理由1-3(明確性)について
本件特許の請求項2における「熱可塑性エラストマー」は、基材が当該「熱可塑性エラストマー」を含有することを特定するものであり、一方、本件特許の請求項5における「エラストマー」は、「衝撃吸収層」が「エラストマー」を含有していることを特定しているものであるから、それぞれの記載自体明確である。
異議申立人1は、本件特許の請求項2の「熱可塑性エラストマー」と本件特許の請求項5の「エラストマー」の異同が不明である旨主張するが、それぞれの文言自体異なり、特定する対象も異なるものであるし、重複する記載があることで明確でなくなるものでもないから、当該主張は失当であり、採用できない。
よって、申立理由1-3は理由がない。
3 申立理由2-1(甲2-1に基づく進歩性)について
(1)甲2-1に記載された発明
甲2-1の特許請求の範囲、段落【0001】、【0004】~【0006】、【0008】~【0013】、【0015】、【0019】、【0026】、【0028】~【0033】及び表1の記載から、実施例11として記載されているウエハ貼着用粘着シートとして、以下の発明(以下、「甲2-1発明」という。)が記載されていると認める。
<甲2-1発明>
「中間層をスチレン-水添イソプレン-スチレンブロック共重合体(SEPS)(クラレ社製、商品名「セプトンKF-2104」)30μmとし、その両側にホモプロピレン(PP)(宇部興産社製、商品名「J-105G」)100質量部に対し、スチレン-水添イソプレン-スチレンブロック共重合体(SEPS)(KURARAY社製、商品名「セプトンKF-2104」)30質量部からなる樹脂組成物層各35μmとした3層構成の厚さ100μmの基材樹脂フィルムを約200℃でフィルム押し出し成形して得た基材樹脂フィルムの一方の表面に、アクリル系ベースポリマー(2-エチルヘキシルアクリレート、メチルアクリレート、2-ヒドロキシエチルアクリレートからなる共重合体、重量平均分子量20万、ガラス転移点=-35℃)100質量部にポリイソシアネート化合物(日本ポリウレタン社製、商品名コロネートL)を3質量部を混合して得た粘着剤を厚さ10μmに塗工して、粘着剤層を形成したウエハ貼着用粘着シートであって、該粘着シートを幅5mmに加工した試験片を用いて、動的粘弾性測定装置により測定した温度23℃で周波数10~100Hzにおける損失係数の最小値が0.15であるウエハ貼着用粘着シート。」
(2)本件特許発明1と甲2-1発明との対比・判断
本件特許発明1と甲2-1発明とを対比する。
甲2-1発明における「基材樹脂フィルム」、「スチレン-水添イソプレン-スチレンブロック共重合体(SEPS)(クラレ社製、商品名「セプトンKF-2104」)」が共押出された基材樹脂フィルムの中間層が、それぞれ、本件特許発明1の「基材」、「衝撃吸収層」に相当し、甲2-1発明は、本件特許発明1の「該基材は衝撃吸収層を少なくとも1層有する」を満たす。
そして、甲2-1発明における「アクリル系ベースポリマー(2-エチルヘキシルアクリレート、メチルアクリレート、2-ヒドロキシエチルアクリレートからなる共重合体、重量平均分子量20万、ガラス転移点=-35℃)100質量部にポリイソシアネート化合物(日本ポリウレタン社製、商品名コロネートL)を3質量部を混合して得た粘着剤を厚さ10μmに塗工し」た「粘着剤層」が、本件特許発明1の「粘着剤層」に相当する。
そうすると、本件特許発明1と甲2-1発明とは、
「基材と、前記基材に粘着剤層とを有する衝撃吸収粘着シートであって、
該基材は衝撃吸収層を少なくとも1層有する
衝撃吸収粘着シート。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点2-1>
「衝撃吸収層」に関して、本件特許発明1は、「23℃における周波数1.0×104~1.0×106.5Hzでの損失正接tanδの最大値が0.84以上である」と特定するのに対して、甲2-1発明は、この点を特定しない点
<相違点2-2>
「粘着剤層」に関し、本件特許発明1は、「基材の両面に」有すると特定するのに対し、甲2-1発明は、基材の「一方の表面」に有するものである点
相違点2-1について検討する。
甲2-1には、甲2-1発明における「衝撃吸収層」である基材樹脂フィルムの中間層の「23℃における周波数1.0×104~1.0×106.5Hzでの損失正接tanδの最大値」については、記載されておらず、当該損失正接の最大値について着目することを示唆する記載もない。
そして、異議申立人2は、甲2-1発明における基材樹脂フィルムの中間層が、23℃における周波数1.0×104~1.0×106.5Hzでの損失正接tanδの最大値が0.84以上であることを示す証拠を示していない。
また、異議申立人らが提示したいずれの証拠にも、「衝撃吸収層」が「23℃における周波数1.0×104~1.0×106.5Hzでの損失正接tanδの最大値が0.84以上である」ものは示されていない。なお、甲2-2(甲1-1に同じ)は、粘着剤層の損失正接が記載されているのであって、基材を構成する衝撃吸収層の損失正接でないことは、上記第6 2において検討したとおりである。
そうすると、甲2-1発明において、「衝撃吸収層」である基材樹脂フィルムの中間層について、その損失正接を調整して相違点2-1に係る発明特定事項とすることは、当業者においても容易に想到し得たものではない。
以上のとおりであるから、相違点2-2を検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲2-1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(3)異議申立人2の主張の検討
異議申立人2は、特許異議申立書2において、上記相違点1-2に関し、甲2-2から容易である旨主張しているが、甲2-2(上記第6において検討した甲1-1と同じ文献である)には、粘着剤層の損失正接が記載されているだけであって、甲2-1発明には、当該甲2-2における粘着剤層に対応する粘着剤層についても記載があることから、甲2-2に記載の粘着剤層の損失正接の数値を、甲2-1発明の粘着剤層と異なる基材の中間層に適用する動機はなく、当該主張は採用できない。
(4)本件特許発明2ないし10について
本件特許発明2ないし10は、請求項1を直接又は間接的に引用する発明であり、本件特許発明1の特定事項を全て有するものである。
そして、上記(2)のとおり、本件特許発明1は、甲2-1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもないから、本件特許発明1の特定事項を全て含む発明である本件特許発明2ないし10は、甲2-1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
(5)まとめ
よって、申立理由2-1は理由がない。
第8 むすび
上記のとおりであるから、取消理由<決定の予告>に記載した取消理由、及び、特許異議申立書1に記載した特許異議申立理由及び特許異議申立書2に記載した特許異議申立理由によっては、本件特許の請求項1ないし10に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1ないし10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2020-700505