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特許異議申立

2020-700151

低アルコールビールテイスト飲料の製造方法

審判番号
2020-700151
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2014-006332外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
請求日
2020年03月04日
審決日
2020年11月16日
公報発行日
2021年02月26日
結論
訂正認容
当事者
審判長/審判官
分類
P1651.113-YAA(C12C) / P1651.121-YAA(C12C)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第120条の5第2項、特許法第29条第2項、特許法第29条第1項第3号、特許法第36条
データ出所
審決公報(SGML)

事件の表示

特許第6571913号発明「低アルコールビールテイスト飲料の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

【結 論】
特許第6571913号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-2〕、〔3-4〕について訂正することを認める。
特許第6571913号の請求項1~4に係る特許を維持する。

理由

目次 ▾ 23項目
【理 由】

第1 手続の経緯

折りたたみ中(クリックで表示)

特許第6571913号の請求項1~4に係る特許についての出願は、平成26年1月17日を出願日として特許出願がされ、令和1年8月16日にその特許権の設定登録がされ、同年9月4日にその特許公報が発行されたものである。本件特許異議申立の経緯は次のとおりである。

令和2年 3月 4日  :中川 賢治(以下「異議申立人」という。)

による特許異議の申立て

同年 6月 1日付け:取消理由通知

同年 8月 3日  :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出

同年 9月18日  :異議申立人による意見書の提出

第2 訂正の適否

1 訂正請求の趣旨及び訂正の内容

特許権者が令和2年8月3日付け訂正請求書により請求する訂正(以下、「本件訂正」という。)は、本件特許の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付した訂正明細書、訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~4について訂正することを求めるものである。

その請求の内容は、請求項1~2からなる一群の請求項に係る訂正及び請求項3~4からなる一群の請求項に係る訂正であって、以下の訂正事項1~4のとおりのものである。

(1)訂正事項1

訂正前の請求項1に「α-グルコシダーゼを発酵前液量に対して0.001w/v%以上0.4w/v%以下で添加」と記載されているのを、「α-グルコシダーゼを発酵前液量に対して0.001w/v%以上0.1w/v%以下で添加」に訂正し、請求項1の記載を引用する請求項2も同様に訂正する(当審注:訂正箇所に下線を伏した。本項目において以下同様。)。

(2)訂正事項2

訂正前の明細書【0008】に「 前記課題は、以下の手段により解決することができる。

(1)仕込工程において、α-グルコシダーゼを発酵前液量に対して0.001w/v%以上0.4w/v%以下で添加する工程を含み、最終製品のエキス分が1.0w/v%以上10.0w/v%以下であり、かつ真性発酵度が44.2%以上70%以下である低アルコールビールテイスト飲料の製造方法において、製造工程のいずれかの時点で、ホップ及び/又はホップエキスを用いて、最終製品のエキス分(w/v%)に対する苦味価(BU)が、1.0以上11.0以下になるように調整することを特徴とするアルコール濃度が4v/v%以下である低アルコールビールテイスト飲料の製造方法。

(2)前記最終製品のエキス分が3.8~6.3w/v%である(1)に記載の低アルコールビールテイスト飲料の製造方法。」と記載されているのを、「 前記課題は、以下の手段により解決することができる。

(1)仕込工程において、α-グルコシダーゼを発酵前液量に対して0.001w/v%以上0.1w/v%以下で添加する工程を含み、最終製品のエキス分が1.0w/v%以上10.0w/v%以下であり、かつ真性発酵度が44.2%以上70%以下である低アルコールビールテイスト飲料の製造方法において、製造工程のいずれかの時点で、ホップ及び/又はホップエキスを用いて、最終製品のエキス分(w/v%)に対する苦味価(BU)が、1.0以上11.0以下になるように調整することを特徴とするアルコール濃度が4v/v%以下である低アルコールビールテイスト飲料の製造方法。

(2)前記最終製品のエキス分が3.8~6.3w/v%である(1)に記載の低アルコールビールテイスト飲料の製造方法。」に訂正する。

(3)訂正事項3

訂正前の請求項3「α-グルコシダーゼを発酵前液量に対して0.001w/v%以上0.4w/v%以下で添加」と記載されているのを、「α-グルコシダーゼを発酵前液量に対して0.001w/v%以上0.1w/v%以下で添加」に訂正し、請求項3の記載を引用する請求項4も同様に訂正する。

(4)訂正事項4

訂正前の明細書【0008】に「 前記課題は、以下の手段により解決することができる。・・・

(3)仕込工程において、α-グルコシダーゼを発酵前液量に対して0.001w/v%以上0.4w/v%以下で添加する工程を含み、最終製品のエキス分が1.0w/v%以上10.0w/v%以下であり、真性発酵度が44.2%以上70%以下であり、アルコール濃度が4v/v%以下である低アルコールビールテイスト飲料のドリンカビリティ向上方法であって、製造工程のいずれかの時点で、ホップ及び/又はホップエキスを用いて、最終製品のエキス分(w/v%)に対する苦味価(BU)が、1.0以上11.0以下になるように調整することを特徴とする低アルコールビールテイスト飲料のドリンカビリティ向上方法。

(4)前記最終製品のエキス分が3.8~6.3w/v%である(3)に記載の低アルコールビールテイスト飲料のドリンカビリティ向上方法。」と記載されているのを、「 前記課題は、以下の手段により解決することができる。・・・

(3)仕込工程において、α-グルコシダーゼを発酵前液量に対して0.001w/v%以上0.1w/v%以下で添加する工程を含み、最終製品のエキス分が1.0w/v%以上10.0w/v%以下であり、真性発酵度が44.2%以上70%以下であり、アルコール濃度が4v/v%以下である低アルコールビールテイスト飲料のドリンカビリティ向上方法であって、製造工程のいずれかの時点で、ホップ及び/又はホップエキスを用いて、最終製品のエキス分(w/v%)に対する苦味価(BU)が、1.0以上11.0以下になるように調整することを特徴とする低アルコールビールテイスト飲料のドリンカビリティ向上方法。

(4)前記最終製品のエキス分が3.8~6.3w/v%である(3)に記載の低アルコールビールテイスト飲料のドリンカビリティ向上方法。」に訂正する。

2 訂正目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否

(1)訂正事項1について

ア 訂正目的の適否について

訂正前の請求項1ではα-グルコシダーゼの添加量を発酵前液量に対して「0.001w/v%以上0.4w/v%以下」の範囲とするものであったのに対して、訂正事項1は当該範囲の上限値を0.1w/v%と限定し、当該範囲を「0.001w/v%以上0.1w/v%以下」の範囲に減縮するものであるから、当該訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的としたものといえる。請求項1を引用する請求項2の訂正についても同様である。

イ 新規事項の有無について

訂正前の発明の詳細な説明【0038】には「 α-グルコシダーゼの添加量は、発酵前の発酵前液中の発酵性糖質の量を考慮して決定すればよいが、例えば、発酵前液量に対して0.001w/v%以上0.4w/v%以下としてもよく、0.005w/v%以上0.1w/v%以下であることが好ましい。」と記載され、添加量の範囲の上限を0.1w/v%とすることが記載されていたところ、訂正事項1は当該記載に基いて添加量の範囲を限定し、減縮するものであるから、願書に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものである。請求項1を引用する請求項2の訂正についても同様である。

ウ 実質上特許請求の範囲の拡張・変更の存否について

上記アにおいて検討したとおり、訂正事項1はα-グルコシダーゼの添加量の範囲を減縮するものであって、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、特許請求の範囲を実質上拡張し、又は変更するものではない。請求項1を引用する請求項2の訂正についても同様である。

エ まとめ

したがって、訂正事項1に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

(2)訂正事項2について

ア 訂正目的の適否について

訂正事項2は、訂正前の本件特許明細書の【0008】に記載されていた、訂正前の請求項1に対応する事項を、訂正事項1の訂正に伴って、同様に訂正するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的としたものであるといえる。

イ 新規事項の有無及び実質上特許請求の範囲の拡張・変更の存否について

上記(1)イ、ウにおいて検討したのと同様に、願書に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであり、特許請求の範囲を実質上拡張し、又は変更するものではない。

ウ まとめ

したがって、訂正事項2に係る発明は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

(3)訂正事項3について

ア 訂正目的の適否について

訂正前の請求項3ではα-グルコシダーゼの添加量を発酵前液量に対して「0.001w/v%以上0.4w/v%以下」の範囲とするものであったのに対して、訂正事項3は当該範囲の上限値を0.1w/v%と限定し、当該範囲を「0.001w/v%以上0.1w/v%以下」の範囲に減縮するものであるから、当該訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的としたものといえる。請求項3を引用する請求項4の訂正についても同様である。

イ 新規事項の有無について

訂正前の発明の詳細な説明【0038】には「 α-グルコシダーゼの添加量は、発酵前の発酵前液中の発酵性糖質の量を考慮して決定すればよいが、例えば、発酵前液量に対して0.001w/v%以上0.4w/v%以下としてもよく、0.005w/v%以上0.1w/v%以下であることが好ましい。」と記載され、添加量の範囲の上限を0.1w/v%とすることが記載されていたところ、訂正事項3は当該記載に基いて添加量の範囲を限定し、減縮するものであるから、願書に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものである。請求項3を引用する請求項4の訂正についても同様である。

ウ 実質上特許請求の範囲の拡張・変更の存否について

上記アにおいて検討したとおり、訂正事項3はα-グルコシダーゼの添加量の範囲を減縮するものであって、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、特許請求の範囲を実質上拡張し、又は変更するものではない。請求項3を引用する請求項4の訂正についても同様である。

エ まとめ

したがって、訂正事項3に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

(4)訂正事項4について

ア 訂正目的の適否について

訂正事項4は、訂正前の本件特許明細書の【0008】に記載されていた、訂正前の請求項3に対応する事項を、訂正事項3の訂正に伴って、同様に訂正するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的としたものであるといえる。

イ 新規事項の有無及び実質上特許請求の範囲の拡張・変更の存否について

上記(3)イ、ウにおいて検討したのと同様に、願書に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであり、特許請求の範囲を実質上拡張し、又は変更するものではない。

ウ まとめ

したがって、訂正事項4に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

3 一群の請求項について

訂正事項1に係る訂正前の請求項1~2について、請求項2は請求項1を引用しているものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものであるから、訂正事項1は、一群の請求項[1-2]に対して請求されたものである。

訂正事項2に係る訂正は、願書に添付した明細書を訂正するものであるが、一群の請求項である請求項[1-2]に関係する訂正である。

訂正事項3に係る訂正前の請求項3~4について、請求項4は請求項3を、引用しているものであって、訂正事項3によって記載が訂正される請求項3に連動して訂正されるものであるから、訂正事項3は、一群の請求項[3-4]に対して請求されたものである。

訂正事項4に係る訂正は、願書に添付した明細書を訂正するものであるが、一群の請求項である請求項[3-4]に関係する訂正である。

4 小括

以上のとおりであるから、訂正事項1~4に係る本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

したがって、明細書、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書、訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1-2]、[3-4]について訂正することを認める。

第3 本件発明

上述の第2のとおり、本件訂正は認められるので、本件訂正により訂正された請求項1~4に係る発明は、訂正特許請求の範囲の請求項1~4に記載された事項により特定される次のとおりのものである(以下、請求項1~4に係る発明をそれぞれ、「本件発明1」~「本件発明4」といい、まとめて「本件発明」ともいう。)。

「【請求項1】
仕込工程において、α-グルコシダーゼを発酵前液量に対して0.001w/v% 以上0.1w/v%以下で添加する工程を含み、
最終製品のエキス分が1.0w/v%以上10.0w/v%以下であり、かつ真性発酵度が44.2%以上70%以下である低アルコールビールテイスト飲料の製造方法において、
製造工程のいずれかの時点で、ホップ及び/又はホップエキスを用いて、最終製品のエキス分(w/v%)に対する苦味価(BU)が、1.0以上11.0以下になるように調整すること
続きを表示(全14行)
を特徴とするアルコール濃度が4v/v%以下である低アルコールビールテイスト飲料の製造方法。
【請求項2】
前記最終製品のエキス分が3.8~6.3w/v%である請求項1に記載の低アルコールビールテイスト飲料の製造方法。
【請求項3】
仕込工程において、α-グルコシダーゼを発酵前液量に対して0.001w /v%以上0.1w/v%以下で添加する工程を含み、
最終製品のエキス分が1.0w/v%以上10.0w/v%以下であり、真性発酵度が44.2%以上70%以下であり、アルコール濃度が4v/v%以下である低アルコールビールテイスト飲料のドリンカビリティ向上方法であって、
製造工程のいずれかの時点で、ホップ及び/又はホップエキスを用いて、最終製品のエキス分(w/v%)に対する苦味価(BU)が、1.0以上11.0以下になるように調整すること
を特徴とする低アルコールビールテイスト飲料のドリンカビリティ向上方法。
【請求項4】
前記最終製品のエキス分が3.8~6.3w/v%である請求項3に記載の低アルコールビールテイスト飲料のドリンカビリティ向上方法。」

第4 異議申立人が申立てた理由及び主張の概要

1 異議申立人の申立理由及びの概要及び証拠

異議申立人は、令和2年3月4日付け異議申立書において甲第1号証~甲第7号証を提出して以下の理由を申立てている。

(1)甲第1号証を主引例とする新規性及び進歩性欠如について

訂正前の請求項1に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、訂正前の請求項1~4に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び本件特許の出願時の技術常識に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるから、本件特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

(2)甲第4号証を主引例とする進歩性欠如について

訂正前の請求項1~4に係る発明は、甲第4号証に記載された発明に、甲第1号証~甲第3号証の記載及び甲第5号証~甲第7号証の記載並びに本件特許の出願時の技術常識に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるから、本件特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

2 異議申立人の意見書における主張の概要及び証拠

異議申立人は、令和2年9月18日付け意見書において甲第8号証~甲第9号証をさらに提出して以下のとおり主張している。

(1)甲第1号証を主引例とする進歩性欠如について

本件訂正後の請求項1~4に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び本件特許の出願時の技術常識に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるから、本件特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

(2)サポート要件及び実施可能要件について

特許権者は、令和2年8月3日付け意見書において、本件発明の効果は「ドリンカビリティの向上」であるが、これは引用文献に記載されている「コク」、「口当たり」、「風味」といった香味に関する文言とは明確な相関関係が存在するものではなく、引用文献に記載されている効果とは異なる有利な効果であって、進歩性が肯定される旨主張している。

しかしながら、本件発明の効果が引用文献に記載されている効果とは異なる有利な効果であるとするならば、当該効果は、「最終製品のエキス分が1.0w/v%以上10.0w/v%以下」、「真性発酵度が44.2%以上70%以下」「アルコール濃度が4v/v%以下」、「ホップ及び/又はホップエキス由来の成分を含有し」、かつ「エキス分(w/v%)に対する苦味価(BU)が、1.0以上11.0以下」という技術的事項以外のその他の技術的事項の寄与により初めて達成される効果であると考えられるが、本件明細書には当該その他の技術的事項が十分に開示されておらず、本件明細書の記載に基づいて本件発明を当業者が実施することができない。

よって、本件発明1~4は、特許法第36条の規定により、特許を受けることができないものであるから、本件特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

3 異議申立人の提出した証拠

甲第1号証:特表2004-508037号公報
甲第2号証:月刊BIOINDUSTRY,株式会社シーエムシー出版,1

997年,第14巻,第3号,第55頁

甲第3号証:財団法人日本醸造協会編、醸造物の成分、財団法人日本醸造協

会、平成11年12月10日発行、第181~186頁

甲第4号証:特開平5-68529号公報
甲第5号証:生物工学会誌、2002年、第80巻第10号、第488頁
甲第6号証:渡淳二監修 サッポロビール価値創造フロンティア研究所編、

ビールの科学 麦とホップが生み出すおいしさの秘密、第1刷

、株式会社講談社発行、2009年3月20日、第78~79

、85~91頁

甲第7号証:薄葉 久,「ビールの多様化」,日本醸造協会誌,1988年

,第83巻、第8号,第517~519頁

甲第8号証:特開平5-68528号公報
甲第9号証:特開2002-199873号公報

第5 取消理由通知に記載した取消理由について

1 取消理由通知の概要

当審が令和2年6月1日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、以下のとおりである。

(1)取消理由1(新規性)

訂正前の請求項1、3に係る発明は、下記刊行物1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、本件特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

(2)取消理由2(進歩性)

訂正前の請求項1~4に係る発明は、下記刊行物1に記載された発明及び下記刊行物3~6に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるから、本件特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

記

刊行物1:特表2004-508037号公報

(異議申立人が提出した甲第1号証)

刊行物2:月刊BIOINDUSTRY,株式会社シーエムシー出版,

1997年,第14巻,第3号,第55頁

(同甲第2号証)

刊行物3:財団法人日本醸造協会編、醸造物の成分、財団法人日本醸造協会

、平成11年12月10日発行、第181~186頁

(同甲第3号証)

刊行物4:特開平5-068529号公報(同第4号証)
刊行物5:渡淳二監修 サッポロビール価値創造フロンティア研究所編、ビ

ールの科学 麦とホップが生み出すおいしさの秘密、第1刷、株

式会社講談社発行、2009年3月20日、第78~79、85

~91頁

(同第6号証)

刊行物6:薄葉 久,「ビールの多様化」,日本醸造協会誌,1988年,

第83巻、第8号,第517~519頁

(同第7号証)

刊行物7:Journal of the Institute of Brewing, 1971,77(2),181-226
刊行物8:Journal of the Institute of Brewing, 1967,73(6),525-527
刊行物9:吉田重厚,「第1章 ビールの一般成分」,日本醸造協会誌,1

976年,第71巻,第7号,第505-510頁

刊行物7~9は、当審において職権により引用した技術常識を示すための文献である。

2 取消理由についての当審の判断

(1)刊行物1~9の記載事項

折りたたみ中(クリックで表示)

ア 刊行物1には以下の記載がある。

(刊1a)「【請求項1】

食物繊維の含有量が増加した発酵生成物を製造する醸造方法であって、麦芽を製造した後、選定された過程で溶解性食物繊維の付加的な成分を生成する工程を有することを特徴とする発酵生成物の醸造方法。

【請求項2】

請求項1記載の醸造方法において、溶解性食物繊維の付加量が少なくとも0.3g/100mlであることを特徴とする発酵生成物の醸造方法。

・・・

【請求項5】

請求項1~4のいずれか1項に記載の醸造方法において、溶解性食物繊維は、醸造過程中に酵素的に合成されたものであることを特徴とする発酵生成物の醸造方法。

・・・

【請求項9】

請求項5~8のいずれか1項に記載の醸造方法において、酵素は、麦汁を調製する最中に添加されることを特徴とする発酵生成物の醸造方法。

・・・

【請求項11】

請求項1~10のいずれか1項に記載の醸造方法において、大麦麦芽と副原料を含む麦芽汁を調製し、この麦芽汁を糖化して麦汁とし、麦汁を沸騰させ、麦汁をイーストで発酵させてビールを得る工程が含まれることを特徴とする発酵生成物の醸造方法。

【請求項12】

請求項11記載の醸造方法において、発酵を行う前に、ホップで香り付けを行うことを特徴とする発酵生成物の醸造方法。

・・・

【0001】

技術分野

本発明は、食物繊維の含有量が増加した発酵生成物の製造方法と、溶解性食物繊維の含有量が増加した製品に関する。」

(刊1b)「【0006】

アルコール成分の含有量を同量としながら、消化性糖質成分の量が少なく、そのために高カロリー成分の残留量が少なく、しかも消費者に受け入れられるビール等の発酵生成物を製造することは、困難である。発酵生成物から消化性の糖質を単に除去したのみでは、受け入れ難い味となり、こくや口当たりが不足したビールとなるので、消費者に受け入れてもらえなくなる。そのような点において、消費者に受け入れられる製品の製造方法が提供されれば、有用となる。」

(刊1c)「【0045】

本発明は、主に、溶解性食物繊維を多量に含有する製品を製造する醸造工程に関する。この繊維は、好ましくは、醸造過程中に消化性糖質から酵素的に合成されたものである。この過程を経ることにより、溶解性食物繊維の添加量が0.3g/100ml、好ましくは0.5mg/100ml、好ましくは0.7g/100mlを超える製品を得ることができる。溶解性食物繊維の量が少なくなると、特に減少した消化性糖質成分と結合すると、製品の風味が増すので望ましい。」

(刊1d)「【0047】

本発明は、消化性糖質の含有量が少なく、このために低カロリーであるとともに、受け入れられる風味特性を有する低カロリー製品となるような、溶解性食物繊維の含有量が増加した発酵生成物をも含む。受け入れられる風味特性を得るために、低カロリー製品は、後述するように、食事上の理由から、およそ0.5g/100mlを超える溶解性食物繊維を含有することが好ましく、およそ2.5g/100mlを超える溶解性食物繊維を含有することがより好ましい。低カロリー製品に含まれる消化性糖質は、4.0g/100ml未満であることが好ましく、2.0g/100ml未満であることがより好ましい。」

(刊1e)「【0055】

上記したように、溶解性食物繊維の必要量は文献によって異なる。しかしながら、これは、溶解性食物繊維の増加が利点をもたらし、重合度が少なくとも4であるIMOが1日につきおよそ2~2.5gであるという観点を支持するものである。実際、連邦規制の合衆国法典では、溶解性食物繊維を1日当たり6g摂取すべきであると奨励されている。溶解性食物繊維の含有量が2.5g/100mlである製品を提供することは、溶解性食物繊維を含有する製品の摂取量が過剰となることなく溶解性食物繊維の摂取量を増加させることになる。このことを達成し得る下限値は0.3g/100mlであるが、ビールのような飲料では、製品の摂取量は少ない方が好ましい。」

(刊1f)「【0059】

特に好適な実施の形態は、過程中でD-グルコシルトランスフェラーゼ(EC2.4.1.24)を使用して、麦汁中に存在するか、あるいは増加した適切なマルトースおよび/またはマルトオリゴ糖基質から、重合度(DP)の大きなイソマルトオリゴ糖(IMO)を合成することである。」

(刊1g)「【0060】

本明細書で開示された酵素的変換は、消化性糖質を低減すると同時に、溶解性食物繊維の含有量を増加させるという利点がある。すなわち、本発明に係る製造方法は、消化性の麦汁糖質から溶解性食物繊維を生成することに利用することができる。しかしながら、表1に列挙された酵素は典型的なものではあるが、これに限定されるものではなく、醸造過程中の所望の段階で、ある種の基質を添加することもできる。この添加された基質は、添加された基質を所望の溶解性食物繊維に変換可能な酵素の基質を与える。」

(刊1h)「【0072】

非消化性イソマルトオリゴ糖等の溶解性食物繊維は、カロリーを高めることなくビールの香り、こく、口当たりを向上させ、したがって、低カロリーでありながら、消化性糖質の量が低減するとともに溶解性食物繊維の量が増加して、満足いく風味のビールを生産するための機構を供することができる。この繊維は、通常、発酵生成物中に存在するが、その量は僅かである。したがって、消化性糖質を単に除去したのみでは、低カロリービールにおいて、満足のいく風味とならないので、風味が受け入れられる程度となるまで、生成物中の溶解性食物繊維の含有量を増加させる必要がある。これは、最終製品において、非消化性糖質(すなわち、溶解性食物繊維)の量は、およそ0.3g/100ml~およそ0.5g/100ml必要であるが、消費者に受け入れられ、かつ上記した食事療法的な理由から、2.5g/100mlを超えることが好ましい。」

(刊1i)「【0098】

実験例3 麦汁とD-グルコシルトランスフェラーゼとの酵素的反応

実験例1で生成したマルトース量が最大の麦汁13.7リットルを、pH5.0に調整して、パイロットプラントの容器内で60℃に加温し、実験の最後までこの温度を保持した。この麦汁に対し、D-グルコシルトランスフェラーゼ酵素(ゲネンコルインターナショナル社のトランスグルコシダーズL-500)を41.75g添加した。0、2、4時間毎に、10mlのサンプル液を取り分けた。即座に0℃に冷却して保持し、高速液体クロマトグラフィ(HPLC)で分析した。HPLCの解析方法については、実験例2と同様である。この解析結果は、以下の通りである。」

(刊1j)「【0109】

実験例5 溶解性食物繊維を含有するビールを生成するための発酵

実験例3から得られた反応麦汁の体積を13.7リットルから40リットルに増加し、沸点に上昇させた。20分後にホップを添加して15EBUとし、麦汁を合計で90分沸騰させた。これを渦巻浴に移し、11℃に冷却して、醸造用水で希釈して糖分量が15.6g/100mlの麦汁を得た。これに対して醸造用イーストを加え、発酵が完全となるまで12日間、13℃で発酵させた。イーストを加える前の麦汁と、イーストを加えてから後の2~3日毎の麦汁とからサンプルを取り分け、上記した方法でHPLCによる解析を行った。結果を表8に示す。

【0110】

【表8】

【0111】

表8のデータから、発酵可能な糖質が予測通りにアルコールとCO2に変換され、一方、IMO(イソマルトース、パノースおよびデキストラン-3-グルコース)はほとんどイーストによって変換されず、このために溶解性食物繊維を充分に含有するビールが生成されたことが諒解される。最終製品であるビールにおけるIMOの相対量を、下記の表9に示す(発酵が終了した際の最終製品であるビールのアルコール分が、3.85体積%から4.51体積%に上昇していることに留意されたい)。

【0112】

【表9】

【0113】

このビールを熟成し、濾過した後、通常の方法で充填した。このビールの解析結果を、標準的な市販ビールと対比して表10に示す。

【0114】

【表10】

【0115】

着目すべき相違点の1つは、発酵不可能なIMOが存在することにより、OE、REおよびAE等の糖分がより多量であることである。

【0116】

このビールにつき、修練したテスターによる目隠しテストを行ったところ、糖質の量がより多いにも関わらず、甘さやこくの向上は認められなかった。

【0117】

溶解性食物繊維の源としてのIMOを充分に含有するとともに、受け入れられ、かつ風味が匹敵するビールが生産された。」

イ 刊行物2には以下の記載がある。

(刊2a)「α-グルコシダーゼは,マルトースやオリゴ糖の非還元性末端のα-1,4-グルコシド結合を切ってグルコースを生成する酵素である。この酵素の特徴としては,加水分解と同時に転移反応を示してオリゴ糖を生成するため,以前はトランスグルコシダーゼとも呼ばれた。また,マルトースによく作用するのでマルターゼとも言われている。」(第55頁左欄第2~8行)

ウ 刊行物3には以下の記載がある。

(刊3a)「(1)エキス

ビール醸造においては,エキスという呼称で以下のような値が管理指標として用いられている。

イ 外観エキス (Apparent Extract)

ロ 真正エキス (Real Extract)

ハ 原麦汁エキス (Original Extract or Original Gravity)」(第184頁左欄第15~20行)

(刊3b)「

」(第185頁上部)

(刊3c)「発酵度は基本的には,原麦汁エキスとビールに残存するエキスとの差(即ち,発酵に消費されたエキス量)が原麦汁エキスに占める割合をもって表される。(次式)

(式1-2)

V:(外観・真正)発酵度(%)

Vend:最終発酵度(%)

P:原麦汁エキス(w/w%:°P)

Eend:最終(外観・真正)エキス(w/w%)

E:(外観・真正)エキス(w/w%)」(第185頁表下左欄第25行~同下から3行)

エ 刊行物4には以下の記載がある。

(刊4a)「【請求項1】 ビール製造における仕込工程において、α-グルコシダーゼを添加することを特徴とする低アルコールビールの製造方法。

【請求項2】 麦芽使用率66.7~100%である請求項1記載の製造方法。」

(刊4b)「【0007】

【課題を解決するための手段】本発明者は、上記課題を解決した低アルコールビールを経済的かつ効率的に製造する方法を開発すべく研究を重ねた結果、ビールの製造工程、特に仕込工程でα-グルコシダーゼを用いれば、麦汁中の発酵性糖類を非発酵性糖類に転換することができ、アルコール生成量を抑制できることを見出し、本発明を完成した。」

(刊4c)「【0009】本発明において低アルコールビールとは、アルコール含量が1.0~4.0%の範囲にあるものをいう。本発明の低アルコールビールは、通常のビール製造における仕込工程においてα-グルコシダーゼを添加することにより得られる。」

(刊4d)「【0011】このように、発酵前の仕込工程にα-グルコシダーゼを添加することにより、麦汁中の発酵性糖類は非発酵性糖類に転換される。具体的には、グルコース,フラクトース,シュークロース,マルトース,マルトトリオースなどはコージビオース,ニゲロース,イソマルトース,エルロース,パノース,イソマルトトリオースなどに転換される。そのため、これら非発酵性糖類は発酵には利用されず、アルコール生成量を抑制することができる上、低アルコールビールの短所である淡白さ,旨味不足,コク不足等を解消し、普通のビール(アルコール濃度4.5~5.0%)と同様の旨味,コクを付与することができる。

【0012】α-グルコシダーゼの添加量は、発酵前の麦汁中の発酵性糖類の濃度を考慮して決定すればよいが、通常は1キロリットルあたり300ml(1億ユニット)、好ましくは360ml(1億2千万ユニット)程度が適当である。また、α-グルコシダーゼの添加量によって製品のアルコール濃度を変えることができるので、目的に応じて添加量を決定してもよいが、この場合も1キロリットルあたり240ml(8千万ユニット)は添加する必要がある。α-グルコシダーゼは、発酵前の麦汁中に一度に加えてもよく、数回に分けて加えてもよい。」

(刊4e)「【0015】

【実施例】次に、本発明を実施例により説明する。

実施例1

パイロットスケールの醸造設備(約500リットル容)を用い、10.88%の原麦汁エキスに仕込工程でα-グルコシダーゼを150ml(約5千万ユニット)を添加して、常法により低アルコールビールを製造した。一方、対照として、α-グルコシダーゼを添加することなく常法により低アルコールビールを製造した。両者の分析結果を表1に示す。

【0016】

【表1】

表1

対照品    本発明品

────────────────────────────

原麦汁エキス(%)    10.9    10.9

真性エキス(%)      3.2     6.3

真性発酵度(%)     70.4    42.0

アルコール(V/V%)   5.0     3.0

pH            4.4     4.6

────────────────────────────

【0017】実施例2

実施例1において、原麦汁エキス9.5%のものを使用したこと以外は実施例1と同様にして低アルコールビールを製造した。結果を表2に示す。

【0018】

【表2】

表2

対照品    本発明品

────────────────────────────

真性エキス(%)      3.1     5.9

真性発酵度(%)     67.4    37.9

アルコール(V/V%)   4.1     2.4

pH            4.8     4.8

────────────────────────────

【0019】実施例3

小型試験糖化装置(約500リットル容)を用い、11.0%の原麦汁エキスに仕込工程でα-グルコシダーゼを0.3ml(約10万ユニット)を添加して、常法により低アルコールビールを製造した。一方、対照として、α-グルコシダーゼを添加することなく常法により低アルコールビールを製造した。両者の分析結果を表3に示す。

【0020】

【表3】

表3

対照品    本発明品

────────────────────────────

原麦汁エキス(%)    11.0    11.0

真性エキス(%)      3.2     6.8

真性発酵度(%)     70.9    38.2

アルコール(V/V%)   4.9     2.7

pH            4.7     4.6

────────────────────────────」

オ 刊行物5には以下の記載がある。

(刊5a)「ビールにおけるホップの第一義的な目的は、苦味の付与にあります。・・・一般的には麦芽使用量が多いコクのあるビールにはホップは多めに使い、比較的淡泊な味のビールにはホップは抑えて使います。コクのあるビールでホップを抑えて使うと、味の締まりに欠け、キレが劣った飲みにくいものになります。比較的淡泊な味のビールにホップを多く使うと、苦味の浮いたバランスに欠けるビールになってしまうことがあります。」(第78頁第9行~第79頁第1行)

カ 刊行物6には以下の図が示されている。

(刊6a)「

・・・

」

キ 刊行物7には以下の記載がある(訳文にて示す。)。

(刊7a)「酸性にしたビールをイソオクタンで抽出し、抽出物の275nmにおける光学密度を決定する。結果はEuropean Bitterness Units(EBU)で表す。・・・

計算-European Bitterness Units(EBU)=50×光学密度」(第217頁右欄下から5行目~最終行、第218頁左欄第29~30行)

ク 刊行物8には以下の記載がある(訳文にて示す。)。

(刊8a)「Klopper法又はBrenner, Vigilante & Owades法によって、以下の計算が推薦された:-

E.B.C Bitterness Units=275mμにおける吸光度を50倍したもの

新しい方法が与える結果は、従前の異なる方法が与える結果を踏まえたものであるため、異なる計算方法による従前の結果からの変化はわずかであろう。

統一のためにE.B.C Bitterness Unitsの変更は1968年1月1日から適用される。」(第525頁要約第4~11行)

(刊8b)「1960年代以降European Brewery Conventionの分析委員会はビールの苦味を測定する方法の違いにより得られる結果の齟齬について懸念し、結果として一般的に採用されている2タイプの方法を用いて比較分析を行ってきた。どちらの方法も酸性化したビールから関連化合物を抽出したイソオクタン抽出物に基づくものであるが、Rigby & Bethune II法ではこの抽出物を酸性メタノールで洗浄して非イソフムロン化合物を除去するのに対し、Moltke-Meilgaard法(関連するKlopper法及びBrenner法)ではイソフムロン物質及び非イソフムロン物質を含有するイソオクタン抽出物について直接275mμにおける紫外吸収を測定する。

これらの方法がE.B.C.分析委員会により研究されている時期に、American Society of Brewing Chemistsにおいても同様の研究が進行していた。1962年から1964年まで、当該2協会の間で議論が行われ、結果として、共同で以下の結論が得られた:(a)Rigby & Bethune II法による計算式が慎重に確立され、ビール中のイソフムロン類の真の含有量を最も正確で簡便に測定する方法であることが認められる;(b)一方Moltke-Meilgaard法(及び関連法)は素晴らしい方法であるが、著者らにより与えられた計算式(及びKlopper法及びBrenner, Vigilante & Owades法で採用されたもの)はイソフムロン類の含有量が低い場合には低すぎる値を、イソフムロン類の含有量が高い場合には高すぎる値を与える。

これらの議論の結果として、両方の協会によって得られた慎重に決定された値から、両方法がイソフムロンのみを測定している場合にビールの苦味に対して同じ結果が得られるように換算表が確立された。

これらの単位は欧州ではInternational Bitterness Unitsと呼ばれ、アメリカではIsohumulone Bitterness Unitsと呼ばれることになった。」(第525頁左欄第1行~右欄第11行)

(刊8c)「また、委員会のこれらの議論において、第二の方法のアプローチが検討された。ここでは苦味価の計算方法として提案された様々な方法が一緒に比較された。それらは:-

(1)オリジナルのMoltke-Meilgaard 計算式-

イソフムロン類の含有量(p.p.m)=28.6×E275mμ-5.9

(2)Howard & Martinの計算式-

苦味=43.36×275mμにおける光学密度+0.8

(3)従前のI.B.U相関表

表Iには吸光度の値にして0.5間隔でこれらの異なる相関の結果を示した。

この表は、高い範囲から低い範囲にわたって、E.B.C. Unitsは、提案された他の方法における極端な値の間の値となることを示している。そのためこれらは現在使用されているどの計算結果からも大きく変わらない値を与える。

・・・

これらの議論及びこの計算はAmerican Society of Brewing Chemistsからも賛成されたものであり、この値が世界基準として採用されることが望まれる。

そのため、この論文は以下のとおり推薦する:-

1968年1月1日から、ビールの苦味は、Analytica-E.B.Cに掲載された表から得られるMoltke-Meilgaard方法により測定されたものではなく、以下の計算式から計算された値とし、この方法で計算された苦味価を“E.B.C. Bitterness Units”という。

E.B.C Bitterness Units=25×E275mμ

Klopper、又はBrenner, Vigilante & Owadesのバージョンを用いる場合には25は50に置換されることは当然である。」(第527頁左欄第15行~右欄本文最終行)

ケ 刊行物9には以下の記載がある。

(刊9a)「これ等の内,エキスは,真正(真性)エキス(Real Extract)ともいい,いわゆる不揮発性固形物のことであるが,実際には,アルコール蒸留残液に,純水を加えて原重量に戻したものの比重(20°/20℃)から,修正PLATO表によって求めた,同比重の蔗糖水溶液の蔗糖w/w%を以って,近似値としている。」(第506頁左欄第3~8行)

(刊9b)「苦味質の定量法には,標準法と簡便法の2つがある。前者は,RIGBY-BETHUNE II法と呼ばれ,酸性化したビールのイソオクタン抽出液を,酸性メタノールで洗滌することによって,ホップ成分の劣化生成物による,バックグラウンド吸収を除き,アルカリ性下,255mμでの吸収を測定して,回帰式から,イソフムロンppm(又は,Isohumulone Bitterness Units, I.B.U.)として算出するものである。一方,簡便法は,原法が改変されて,現在,EBC国際法として採用されている方法で,標準法から,酸性メタノールによる洗滌を省き,イソオクタン抽出液をそのまま,275mμで吸収測定し,EBC苦味価(EBC Bitterness Units, EBU)として表わすものである。RIGBY-BETHUNE II法は,向流分配法によって精密に測定されたビール中のイソα酸含有量とよく一致するが,実際の味感との相関は,むしろ,EBC国際法の方が良いといわれている。」(第507頁左欄下から3行~右欄第13行)

(2)刊行物1に記載された発明

摘示(刊1i)及び(刊1j)からみて、刊行物1には実験例5に係る発明として、「麦汁13.7リットルにD-グルコシルトランスフェラーゼ酵素(ゲネンコルインターナショナル社のトランスグルコシダーズL-500)を41.75g添加して60℃に加温し、反応させた反応麦汁にホップを添加して沸騰させた麦汁に醸造用イーストを加え、発酵、熟成、濾過して苦さ15EBU、元来の糖分12.5°Plato、実際の糖分6.81重量%、アルコール3.81体積%であるビールを製造する方法」が記載されている(以下、「引用発明1」という。)。

(3)対比・判断

(3-1)本件発明1について

ア 対比

本件発明1と引用発明1とを対比する。

引用発明1の「D-グルコシルトランスフェラーゼ酵素(ゲネンコルインターナショナル社のトランスグルコシダーズL-500)」は、摘示(刊2a)を参照すると本件発明1の「α-グルコシダーゼ」に相当するといえる。

引用発明1の「麦汁13.7リットルにD-グルコシルトランスフェラーゼ酵素を41.75g添加して」は、D-グルコシルトランスフェラーゼを醸造用イーストを加えて発酵させる前に添加しているから、本件発明1の「仕込み工程において、α-グルコシダーゼを・・・添加する工程を含み」に相当する。

引用発明1の「実際の糖分」は、刊行物1に対応する国際出願である国際公開第2002/020712号のTable 10の該当箇所に「Real Extract」と記載されており、摘示(刊3a)及び摘示(刊9a)の記載からも明らかなとおり、「真性エキス」の誤訳であると理解できる。一方、本件明細書の【0015】には「最終製品のエキス分(「真性エキス」とも呼ばれる)」と記載されているから、引用発明1の「実際の糖分」は本件発明1の「最終製品のエキス分」に相当する。

引用発明1の「実際の糖分6.81重量%」は、「重量%」がw/v%のことであるから、本件発明1の「最終製品のエキス分が1.0w/v%以上10.0w/v%以下であり」に相当する。

引用発明1の「元来の糖分」は、刊行物1に対応する国際出願である国際公開第2002/020712号のTable 10の該当箇所に「Original Extract」と記載されており、摘示(刊3a)から「原麦汁エキス」の誤訳であると認められる。

引用発明1の「元来の糖分12.5°Plato、実際の糖分6.81重量%」は、摘示(刊3c)の式から真性発酵度(12.5-6.81)/12.5×100=45.52%と計算されるから、本件発明1の「真性発酵度が44.2%以上70%以下である」に相当する。

引用発明1の「反応麦汁にホップを添加して」は、本件発明1の「製造工程のいずれかの時点でホップ及び/又はホップエキスを用いて」に相当する。

引用発明1の「アルコール3.81体積%であるビール」は、「体積%」がv/v%のことであり、本件発明1の「アルコール濃度が4v/v%以下である低アルコールビールテイスト飲料」に相当する。

以上のことから、本件発明1と引用発明1は、「仕込工程において、α-グルコシダーゼを添加する工程を含み、

最終製品のエキス分が1.0w/v%以上10.0w/v%以下であり、かつ真性発酵度が44.2%以上70%以下である低アルコールビールテイスト飲料の製造方法において、

製造工程のいずれかの時点で、ホップ及び/又はホップエキスを用いること、

を特徴とするアルコール濃度が4v/v%以下である低アルコールビールテイスト飲料の製造方法。」である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点1-1>

本件発明1はα-グルコシダーゼの添加量が「発酵前液量に対して0.001w/v%以上0.1w/v%以下」であるのに対し、引用発明1は「麦汁13.7リットルに41.75g添加」した点(以下、「相違点1-1」という。)

<相違点1-2>

本件発明1は「最終製品のエキス分(w/v%)に対する苦味価(BU)が、1.0以上11.0以下になるように調整する」ものであるのに対し、引用発明1は得られたビールが「苦さ15EBU」のものである点(以下、「相違点1-2」という。)で相違する。

イ 相違点についての判断

事案に鑑み、まず相違点1-1について検討する。

引用発明1の「麦汁13.7リットルにD-グルコシルトランスフェラーゼ酵素を41.75g添加して」という記載から、D-グルコシルトランスフェラーゼの添加割合は41.75/(13.7×10)=0.305w/v%であると計算されるから、引用発明1のα-グルコシダーゼの添加量は、本件発明1の「発酵前液量に対して0.001w/v%以上0.1w/v%以下」の範囲外である。

ここで、引用発明1の課題は、特に摘示(刊1a)及び(刊1b)の記載からみて、消化性糖質の含有量が少なく、低カロリーであるが、消費者に受け入れられる風味特性を有する発酵生成物を得るために、溶解性食物繊維の含有量が増加した発酵生成物を提供することであり、摘示(刊1c)(刊1f)~(刊1h)の記載からみて、当該課題はα-グルコシダーゼ等の酵素を用いて酵素的に溶解性食物繊維の含有量を増加させることにより達成されるものと理解される。

そして、具体的には、摘示(刊1j)の表8に示されるように、α-グルコシダーゼの添加量を発酵前液量に対して0.305w/v%とすることにより、引用発明1における溶解性食物繊維(イソマルトース、パノース、デキストラン-3-グルコース)の含有量は3.0g/100ml以上となっている。

そうすると、引用発明1の主目的は溶解性食物繊維の含有量の増加であるから、そのために必要なα-グルコシダーゼの添加量を0.1w/v%以下まで減らすことは動機付けられない。

一方、摘示(刊1a)の請求項2、(刊1c)~(刊1e)には「溶解性食物繊維の付加量が少なくとも0.3g/100ml」であればよいことが記載されているものの、摘示(刊1f)及び(刊2a)に記載されているように、α-グルコシダーゼは、マルトースやオリゴ糖の非還元性末端のα-1,4-グルコシド結合を加水分解してグルコースを生成すると同時に、転移反応を示してオリゴ糖を生成する酵素であり、ビールの製造においては、これにより生成したグルコースは酵母により発酵されてアルコールとなるが、オリゴ糖は非発酵性の糖質ではないため、エキスとして残存し、ビールに香り、こく、口当たり等を付与する成分となるものである。

そうすると、引用発明1において、α-グルコシダーゼの添加量を減らすと、それに伴って、グルコース及び非発酵性糖質の量が変化し、それによって、得られるビールのアルコール濃度、エキス分、真正発酵度、エキス分に対する苦味価も変化することになる。

そして、引用発明1において、最終製品のエキス分、真正発酵度、最終製品におけるエキス分に対する苦味価、アルコール濃度を維持したままで、α-グルコシダーゼの添加量を減らすことは、刊行物1の記載をみても、刊行物2~9の記載をみても、動機付けられない。

ウ 小活

以上のとおりであるから、相違点1-2について検討するまでもなく、本件発明1は、引用発明1又は引用発明1及び刊行物1~9に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでない。

(3-2)本件発明2~4について

本件発明2~4は、いずれも上記(3-1)アにおいて検討した相違点1-1を含むものであり、相違点1-1については、上記(3-1)イにおいて検討したとおりであるから、本件発明2~4は、いずれも引用発明1及び刊行物1~9に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでない。

(4)当審の判断のまとめ

以上のとおりであるから、本件発明1~4に係る特許につき、当審が通知した取消理由は解消しており、当該理由によって本件発明1~4に係る特許は取り消すことはできない。

第6 取消理由通知で採用しなかった異議申立人の申立理由についての当審の判断

1 甲第4号証の記載

異議申立人の提出した甲第4号証は、取消理由通知で引用した刊行物4であり、刊行物4には、前記第5の2(1)に示した摘示(刊4a)~(刊4e)の記載がある。

2 甲第4号証に記載された発明

摘示(刊4a)(刊4e)の記載からみて、甲4号証には「仕込工程において、α-グルコシダーゼを添加することを特徴とする真性エキスが6.3%、真性発酵度が42.0%、アルコール濃度が3.0%の低アルコールビールの製造方法」(以下、「甲4-1発明」という。)、「仕込工程において、α-グルコシダーゼを添加することを特徴とする真性エキスが5.9%、真性発酵度が37.9%、アルコール濃度が2.4%の低アルコールビールの製造方法」(以下、「甲4-2発明」という、)、「仕込工程において、α-グルコシダーゼを添加することを特徴とする真性エキスが6.8%、真性発酵度が38.2%、アルコール濃度が2.7%の低アルコールビールの製造方法」(以下、「甲4-3発明」という。)(以下、「甲4-1発明」~「甲4-3発明」をまとめて「甲4発明」と呼ぶこともある。)が記載されていると認める。

本件発明1と甲4-1発明~4-3発明のそれぞれとを対比すると、両者は「仕込み工程において、α-グルコシダーゼを添加する工程を含み、最終製品のエキス分が1.0w/v%以上10.0w/v%以下であり、アルコール濃度が4v/v%以下である低アルコールビールテイスト飲料の製造方法。」である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点4-1>

本件発明1はα-グルコシダーゼの添加量が「発酵前液量に対して0.001w/v%以上0.1w/v%以下」であるのに対し、甲4-1発明~甲4-3発明では添加量が不明である点(以下、「相違点4-1」という。)

<相違点4-2>

本件発明1は低アルコールビールテイスト飲料の「真性発酵度が44.2%以上70%以下」であるのに対して、甲4-1発明~甲4-3発明ではそれぞれ42.0%、37.9%又は38.2%である点(以下、「相違点4-2」という。)

<相違点4-3>

本件発明1は「製造工程のいずれかの時点で、ホップ及び/又はホップエキスを用いて、最終製品のエキス分(w/v%)に対する苦味価(BU)が、1.0以上11.0以下になるように調整する」のに対し、甲4-1発明~甲4-3発明ではそのような工程を有することが特定されていない点(以下、「相違点4-3」という。)

3 申立理由についての当審の判断

(1)相違点4-2について

真性発酵度は前記第5の2(1)に示した摘示(刊3c)によれば、原麦汁エキスに対する、原麦汁エキスと真性エキスの差分の割合、すなわち実際に発酵によって消費されたエキスの割合を意味していると解される。

そして、摘示(刊4b)~(刊4d)によれば、甲4発明は、α-グルコシダーゼを添加することにより、麦汁中の発酵性糖類が非発酵性糖類に転換され、それにより低アルコール化したビールを得ることを目的とした発明であるから、甲4発明に接した当業者が、甲第4号証の記載から、及び/又は、甲第1号証~甲第3号証及び甲第5号証~甲第7号証の記載をみたとしても、あえて発酵によって消費されるエキスの量を増加させ、真性発酵度を44.2%以上70%以下とすることは容易に想到しえることではない。

(2)相違点4-3について

本件発明1では仕込み工程においてα-グルコシダーゼを添加すると突出した甘みが付与されるところ、ホップ及び/又はホップエキスを用いて、最終製品のエキス分に対する苦味価を1.0以上11.0以下になるように調整することにより、コク味や香味といった風味の調和をとること意図した発明であると解されるころ、甲第4号証にも、甲第1号証~甲第3号証及び甲第5号証~甲第7号証にも、α-グルコシダーゼの添加により突出した甘みが付与されること、ホップ及び/又はホップエキスを用いて、最終製品のエキス分に対する苦味価を1.0以上11.0以下になるように調整すること、それによりコク味や香味といった風味の調和をとることは記載されていないから、甲4発明においてエキス分に対する苦味価を1.0以上11.0以下になるように調整することは当業者といえども容易に想到しえることではない。

よって、相違点4-1について検討するまでもなく、本件発明1は、甲4発明又は甲第4号証及び第1号証~甲第3号証及び甲第5号証~甲第7号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでない。

(3)当審の判断のまとめ

以上のとおりであるから、本件発明1~4に係る特許につき、上記異議申立人の申立理由には理由がないから、当該理由によって本件発明1~4に係る特許は取り消すことはできない。

第7 異議申立人の意見書における主張についての当審の判断

1 甲第1号証を主引例とする進歩性欠如について

異議申立人は、甲第1号証を主引例とする進歩性欠如について、甲第8号証及び甲第9号証の記載から、α-グルコシダーゼの添加量を本願特定の範囲とすることに技術的困難性がないことを主張しているが、甲第1号証に記載された発明とは前提の異なる文献に記載された添加量の範囲に基づく主張を採用することはできない。

2 サポート要件及び実施可能要件について

異議申立人は、特許権者が本件発明の効果である「ドリンカビリティの向上」が甲第1号証(取消理由通知で引用された刊行物1)に記載されている効果とは異なる有利な効果であると主張していることに依拠して、本件発明がサポート要件違反及び実施可能要件違反であることを主張している。

しかしながら、進歩性についての判断と、サポート要件、実施可能要件についての判断は枠組みが異なるものである。

そして、本件特許明細書の【0044】~【0053】には、「仕込工程において、α-グルコシダーゼを発酵前液量に対して0.001w/v% 以上0.1w/v%以下で添加する工程」を含む方法で製造され、「最終製品のエキス分が1.0w/v%以上10.0w/v%以下であり、かつ真性発酵度が44.2%以上70%以下である」「アルコール濃度が4v/v%以下である」低アルコールビールテイスト飲料について、「製造工程のいずれかの時点で、ホップ及び/又はホップエキスを用いて、最終製品のエキス分(w/v%)に対する苦味価(BU)が、1.0以上11.0以下になるように調整すること」によって、充分なコク味を付与しつつ、優れた香味を有し、かつドリンカビリティに優れた低アルコールビールテイスト飲料を得た具体例が開示されている。

したがって、本件発明1~4は、本件特許明細書に記載されたものでないということはできないし、また、本件特許明細書は、本件発明1~4を当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていないということもできない。

3 当審の判断のまとめ

以上のとおりであるから、本件発明1~4に係る特許につき、異議申立人の意見書における主張はいずれも採用することができない。

第8 むすび

以上のとおり、当該訂正後の本件の請求項1~4に係る特許は、特許異議申立の理由及び当審が通知した取消理由によっては取り消すことはできない。また、他に本件の請求項1~4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。

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2020-700151

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