審決検索MVP
← 検索一覧に戻る
特許異議申立

2019-700987

粉末組成物、該粉末組成物の製造方法及び飲料

審判番号
2019-700987
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2015-524089外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
請求日
2019年12月04日
審決日
2020年09月28日
公報発行日
2021年01月29日
結論
訂正認容
当事者
審判長/審判官
分類
P1651.537-YAA(A23L) / P1651.536-YAA(A23L)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第9項、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第5項、特許法第36条第6項、特許法第36条第4項第1号
データ出所
審決公報(SGML)

事件の表示

特許第6523954号発明「粉末組成物、該粉末組成物の製造方法及び飲料」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

【結 論】
特許第6523954号の明細書を訂正請求書に添付された訂正明細書のとおり、訂正することを認める。
特許第6523954号の請求項1ないし9に係る特許を維持する。

理由

目次 ▾ 19項目
【理 由】

第1 手続の経緯

折りたたみ中(クリックで表示)

特許第6523954号の請求項1ないし9に係る特許についての出願は、2014年6月25日(優先権主張 2013年6月26日 日本国)を国際出願日とするものであって、令和1年5月10日に特許権の設定登録がされ、同年6月5日にその特許公報が発行され、その後、同年12月4日に、特許異議申立人 神谷 高伸(以下「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、令和2年2月3日付けで当審から取消理由が通知され、同年4月6日に訂正請求書及び意見書が提出され、同年5月25日付けで当審から特許法120条の5第5項に基づく通知書が出され、特許異議申立人から令和2年7月6日付けで意見書が提出されたものである。

第2 訂正の適否についての判断

令和2年4月6日に提出された訂正請求書を「本件訂正請求書」といい、本件訂正請求書による訂正の請求を「本件訂正請求」といい、本件訂正請求による訂正を「本件訂正」という。

1 訂正の内容

本件訂正の内容は以下の訂正事項1~6のとおりである。

(1)訂正事項1

訂正前の明細書の【0091】の「ショ糖脂肪酸エステル(ショ糖ステアリン酸エステル「リョートー(登録商標)シュガーエステルS-770」三菱化学フーズ社製、HLB11」との記載を訂正後に「ショ糖脂肪酸エステル(ショ糖ステアリン酸エステル「リョートー(登録商標)シュガーエステルS-770」三菱化学フーズ社製、HLB7」とする。

(2)訂正事項2

訂正前の明細書の【0092】の「(ショ糖脂肪酸エステル(ショ糖ステアリン酸エステル「リョートー(登録商標)シュガーエステルS-770」三菱化学フーズ社製、HLB11)」との記載を訂正後に「(ショ糖脂肪酸エステル(ショ糖ステアリン酸エステル「リョートー(登録商標)シュガーエステルS-770」三菱化学フーズ社製、HLB7)」とする。

(3)訂正事項3

訂正前の明細書の【0095】の「ショ糖脂肪酸エステル(ショ糖ステアリン酸エステル「リョートー(登録商標)シュガーエステルS-770」三菱化学フーズ社製、HLB11」との記載を訂正後に「ショ糖脂肪酸エステル(ショ糖ステアリン酸エステル「リョートー(登録商標)シュガーエステルS-770」三菱化学フーズ社製、HLB7」とする。

そして、訂正事項1~3は、いずれも、訂正請求書において、請求項1~8に係る明細書の訂正であるとしている。

(4)訂正事項4、5、6

訂正事項4、5、6は、それぞれ、訂正前の明細書の【0091】、【0092】、【0095】を、訂正事項1、2、3のとおりに訂正するもので、請求項9に係る明細書の訂正であるとしている。

なお、訂正前の請求項1~8について、請求項2~8は請求項1を直接的又は間接的に引用しているものであって、上記のとおり、訂正事項1~3は、いずれも、請求項1~8に関する明細書の訂正であるから、請求項1~8は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。

また、上記のとおり、訂正事項4~6は、いずれも、請求項9に関する明細書の訂正であるから、請求項9は、特許法第120条の5第4項に規定する請求項である。

2 判断

(1)訂正事項1について

ア 目的の適否について

(ア)「明瞭でない記載の釈明」を目的とした訂正が認められる前提

訂正が、明瞭でない記載の釈明を目的としたものとして認められるには、明細書自体の不明瞭な記載等の記載上の不備について本来の意味を明らかにするものであることが必要である。

(イ)判断

そこで、上記のことを前提として、訂正前の明細書の【0091】の「ショ糖脂肪酸エステル(ショ糖ステアリン酸エステル「リョートー(登録商標)シュガーエステルS-770」三菱化学フーズ社製、HLB11」(下線は当審にて追加。以下同様。)との記載の「HLB」の値を、訂正後に「HLB7」に訂正する訂正事項1について、以下に検討する。

(ウ)本件明細書に示された、ショ糖脂肪酸エステルの具体例である「ショ糖ステアリン酸エステル「リョートー(登録商標)シュガーエステルS-・・・70」三菱化学フーズ社製」に関しては、【0060】の実施例1における「ショ糖脂肪酸エステル(ショ糖ステアリン酸エステル「リョートー(登録商標)シュガーエステルS-570」三菱化学フーズ社製、HLB5)」との記載、【0063】の実施例3における「ショ糖脂肪酸エステル(ショ糖ステアリン酸エステル「リョートー(登録商標)シュガーエステルS-570」三菱化学フーズ社製、HLB5)」との記載、【0073】の実施例4の[試験例3]における「ショ糖脂肪酸エステル(ショ糖ステアリン酸エステル「リョートー(登録商標)シュガーエステルS-570」三菱化学フーズ社製、HLB5)」との記載、【0082】の実施例4の[試験例5]における「ショ糖脂肪酸エステル(ショ糖ステアリン酸エステル「リョートー(登録商標)シュガーエステルS-570」三菱化学フーズ社製、HLB5)」との記載、【0084】の実施例6における「ショ糖脂肪酸エステル(ショ糖ステアリン酸エステル「リョートー(登録商標)シュガーエステルS-1170」三菱化学フーズ社製、HLB11)」との記載、【0095】の実施例13における「ショ糖脂肪酸エステル(ショ糖ステアリン酸エステル「リョートー(登録商標)シュガーエステルS-370」三菱化学フーズ社製、HLB3)」との記載にあるように、「S-・・・70」の「・・・」に相当する数字が、HLBの値を表していることが理解できる。

(エ)しかしながら、訂正事項1に係る訂正前の「ショ糖脂肪酸エステル(ショ糖ステアリン酸エステル「リョートー(登録商標)シュガーエステルS-770」三菱化学フーズ社製、HLB11」との記載については、「S-・・・70」の「・・・」に相当する数字が、HLBの値を表しておらず、他の多くのショ糖ステアリン酸エステルの表記と整合しておらず、不明瞭であるといえる。

(オ)そして、商標名が正確に記載されていることは、【0097】の実施例14における「ショ糖脂肪酸エステル(ショ糖パルミチン酸エステル「リョートー(登録商標)シュガーエステルP-1570」三菱化学フーズ社製)」との記載や【0086】の実施例8における「ショ糖ラウリル酸エステル(「リョートー(登録商標)シュガーエステルL-195」三菱化学フーズ社製、HLB1)」との他の記載及び上記多数の記載から理解できる。

さらに、特許権者の提出した乙第1号証から、リョートー(登録商標)シュガーエステルの種類と内容に関して、S-370、S-570、S-770、S-1170、P-1570、L-195が、それぞれ、HLBの値で3、5、7、11、15、1を有していること、数字の最初の一桁又は二桁がHLBの値を示していることが理解できる。

(カ)したがって、上記訂正前の不明瞭な記載を訂正後に「ショ糖脂肪酸エステル(ショ糖ステアリン酸エステル「リョートー(登録商標)シュガーエステルS-770」三菱化学フーズ社製、HLB7」との記載に訂正し、商標名とHLBの値を整合させることは、不明瞭な記載を本来の記載に訂正するものであるといえ、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

イ 新規事項について

本件訂正の訂正事項1に係る訂正は、正しい商標名のショ糖脂肪酸エステル(ショ糖ステアリン酸エステル「リョートー(登録商標)シュガーエステルS-770」三菱化学フーズ社製のHLBの値を類推できる本来の値である商標と整合した「7」に訂正したものにすぎず、新たな技術的事項の導入をするものとはいえない。

訂正事項1は、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載された事項の範囲内で行われるものであり、特許法第120条の5第9項において準用する同法126条第5項の規定に適合するものである。

ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであるか否かについて

また、上記訂正は、明細書の記載を本来の記載に訂正したものであって、かつ発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

よって、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項において準用する同法126条第6項の規定に適合するものである。

エ 訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、特許法第120条の5第9項において準用する同法126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

(2)訂正事項2、3について

ア 前記1(2)(3)のとおり、訂正事項2、3の訂正の内容は、【0091】に対する訂正事項1と同じ内容を、それぞれ、【0092】、【0095】に対して行うものである。

イ したがって、訂正事項2、3は、上記(1)で検討したのと同様に、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

また、訂正事項2,3は、上記(1)で検討したのと同様に、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載された事項の範囲内で行われるものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

ウ 訂正事項2及び3は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、特許法第120条の5第9項において準用する同法126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

(3)訂正事項4、5、6について

ア 訂正事項4、5、6は、いずれも、請求項1~8に関する訂正事項1、2、3と分けて請求項9に関する明細書の訂正であることを明示したものにすぎず、訂正の内容は、それぞれ、訂正事項1、2、3と同じである。

イ 訂正事項4~6は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、特許法第120条の5第9項において準用する同法126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

3 訂正請求についてのまとめ

以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において読み替えて準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

よって、訂正明細書のとおり、訂正することを認める。

第3 特許請求の範囲の記載

本件訂正により特許請求の範囲の記載は訂正されておらず、登録時の特許請求の範囲の請求項1~8、9に係る発明(以下、それぞれ「本件特許発明1」~「本件特許発明8」、「本件特許発明9」という。まとめて、「本件特許発明」ということもある。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1~8、9に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

「【請求項1】
脂溶性物質、澱粉加水分解物及び低分子界面活性剤を含有する粉末組成物であって、
前記脂溶性物質の含有量が10質量%以上49.95質量%以下であり、カゼインナトリウムの含有量が1.0質量%以下であり、ポークエキス及び乳清タンパク質を含有せず、
前記澱粉加水分解物が、ゲル浸透クロマトグラフィーで分子量分布を測定した際の総ピーク面積に対する分子量8500以上18500以下の範囲のピーク面積の割合が15%以下であり、前記脂溶性物質と前記澱粉加水分解物の含有量の比率(質量比)が脂溶性物質:澱粉加水分解物=1:1~1:4の範囲であり、粉末組成物中の前記低分子界面活性剤の含有量が0.1質量%以上10質量%以下であり、前記脂溶性物質が植物性油脂及び/又はその加工油脂であり、前記低分子界面活性剤がリゾレシチン、モノグリセリン有機酸脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、及びポリソルベートからなる群から選ばれる少なくとも1つであることを特徴とする粉末組成物。
続きを表示(全25行)
【請求項2】
前記低分子界面活性剤の含有量が1.0質量%以上である請求項1に記載の粉末組成物。
【請求項3】
前記澱粉加水分解物の重量平均分子量が9000以下である、請求項1または2に記載の粉末組成物。
【請求項4】
前記澱粉加水分解物の重量平均分子量が50000以上である、請求項1または2に記載の粉末組成物。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の粉末組成物を含有する、飲料。
【請求項6】
さらに、乳成分を含有する、請求項5に記載の飲料。
【請求項7】
さらに、静菌性乳化剤を含有する請求項5または6に記載の飲料。
【請求項8】
コーヒーまたは紅茶飲料である、請求項5~7のいずれか一項に記載の飲料。
【請求項9】
脂溶性物質、澱粉加水分解物及び低分子界面活性剤を含有する粉末組成物の製造方法であって、
前記粉末組成物は前記脂溶性物質の含有量が10質量%以上49.95質量%以下であり、カゼインナトリウムの含有量が1.0質量%以下であり、ポークエキス及び乳清タンパク質を含有せず、
前記澱粉加水分解物として、ゲル浸透クロマトグラフィーで分子量分布を測定した際の総ピーク面積に対する、分子量8500以上18500以下の範囲のピーク面積の割合が15%以下であり、前記脂溶性物質と前記澱粉加水分解物の含有量の比率(質量比)が脂溶性物質:澱粉加水分解物=1:1~1:4の範囲であり、粉末組成物中の前記低分子界面活性剤の含有量が0.1質量%以上10質量%以下であり、前記脂溶性物質が植物性油脂及び/又はその加工油脂であり、前記低分子界面活性剤がリゾレシチン、モノグリセリン有機酸脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、及びポリソルベートからなる群から選ばれる少なくとも1つである澱粉加水分解物を用い、
前記澱粉加水分解物、脂溶性物質、低分子界面活性剤及び水を混合して混合液を調製し、
前記混合液を乳化して乳化液を得た後、
前記乳化液を噴霧乾燥または凍結乾燥することを特徴とする、粉末組成物の製造方法。」

第4 取消理由及び特許異議申立理由

1 特許異議申立人が申し立てた理由

(1)サポート要件

異議理由1-1:本件特許発明1~9は、「低分子界面活性剤」として、「低分子界面活性剤がリゾレシチン、モノグリセリン有機酸脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、及びポリソルベートからなる群から選ばれる少なくとも1つである」と記載されているのに対して、甲第1号証~甲第4号証からみて、低分子界面活性剤の種類によって水への溶解性や乳化安定性に差があり、HLB値も目安にすぎないし、高HLBのものと低HLBのものとでは乳化安定性が異なるところ、発明の詳細な説明においては、ショ糖脂肪酸エステルの実験データしか開示されておらず、ショ糖脂肪酸エステル以外の低分子界面活性剤を使用した態様まで本件特許発明1~9は本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されたものではない。

異議理由1-2:本件特許発明1~9は、「澱粉加水分解物が、ゲル浸透クロマトグラフィーで分子量分布を測定した際の総ピーク面積に対する分子量8500以上18500以下の範囲のピーク面積の割合が15%以下であ」る場合と、澱粉加水分解物が、ゲル浸透クロマトグラフィーで分子量分布を測定した際の総ピーク面積に対する分子量8500以上18500以下の範囲のピーク面積の割合が15%超の場合(甲第5号証~甲第7号証から澱粉加水分解物Bのパインデックス#100が、平均分子量8500であり、15%超の場合に該当すると主張)が同等の効果を奏されていることが記載されているので、「15%以下」の場合に実施例と同等の効果が得られると理解できず、本件特許発明1~9は本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されたものではない。

(2)実施可能要件

異議理由2-1:本件特許発明に関して、「低分子界面活性剤」は、「低分子界面活性剤がリゾレシチン、モノグリセリン有機酸脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、及びポリソルベートからなる群から選ばれる少なくとも1つである」のに対して、下記甲第1号証~甲第4号証からみて、低分子界面活性剤の種類によって水への溶解性や乳化安定性に差があり、HLB値も目安にすぎないし、高HLBのものと低HLBのものとでは乳化安定性が異なるところ、発明の詳細な説明においては、ショ糖脂肪酸エステルの実験データしか開示されておらず、本願の発明の詳細な説明の記載は、ショ糖脂肪酸エステル以外の低分子界面活性剤を使用した態様まで本件特許発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものではない。

異議理由2-2:本件特許発明に関して、「澱粉加水分解物が、ゲル浸透クロマトグラフィーで分子量分布を測定した際の総ピーク面積に対する分子量8500以上18500以下の範囲のピーク面積の割合が15%以下であ」る場合と、澱粉加水分解物が、ゲル浸透クロマトグラフィーで分子量分布を測定した際の総ピーク面積に対する分子量8500以上18500以下の範囲のピーク面積の割合が15%超の場合(下記甲第5号証~甲第7号証から澱粉加水分解物Bのパインデックス#100が、平均分子量8500であり、15%超の場合に該当すると主張)が同等の効果を奏されていることが記載されているので、「15%以下」の場合に実施例と同等の効果が得られると理解できず、本願の発明の詳細な説明の記載は、本件特許発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものではない。

2 当審が通知した取消理由

理由:訂正前の請求項1~9に係る特許は、「低分子界面活性剤」として、「低分子界面活性剤がリゾレシチン、モノグリセリン有機酸脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、及びポリソルベートからなる群から選ばれる少なくとも1つである」と記載されているのに対して、発明の詳細な説明に実質的な裏付けをもって記載されているのは、HLBが5あるいは11のショ糖脂肪酸エステルを単独又は実質的な主成分として用いた場合だけであると考えられるから、その特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に適合するものではなく、請求項1~9に係る特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

記

甲第1号証:戸田 義郎 外2名編、「食品用乳化剤-基礎と応用-」、株式会社光琳、平成9年4月1日、26~33、51~57頁
甲第2号証:日高 徹、「食品用乳化剤 第2版」、株式会社幸書房、1991年3月1日、36~47頁
甲第3号証:山下 聖一 編、「食品乳化剤と乳化技術」、渡辺 隆夫、“基礎編 第1章 食品用乳化剤の基礎”、工業技術会株式会社・有限会社研修社、1995年7月20日、1~14頁
甲第4号証:日高 徹 外2名編、「食品用乳化剤と乳化技術」、衛生技術会、渡辺 隆夫、“第4章 ショ糖脂肪酸エステル”、昭和54年12月30日、112~137頁
甲第5号証:特許第4506072号公報
甲第6号証:「糖化製品の一覧表」、松谷化学工業株式会社
甲第7号証:「パインデックス-澱粉分解物-概要と基礎資料」、松谷化学工業株式会社糖化製造部、1~14頁

第5 当審の判断

取消理由通知に記載した取消理由について

理由(特許法第36条第6項第1号)について

(1)本願発明に関する特許法第36条第6項第1号の判断の前提

特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。

(2)本件特許発明の課題

【0002】【0004】【0005】の【背景技術】の記載及び【0007】~【0008】の【発明が解決しようとする課題】の記載及び明細書全体の記載からみて、本件特許発明1~4の課題は、汎用的な粉末化基材を用いて、噴霧乾燥法に適し、長期間の乳化安定性に優れた飲料を提供可能な、粉末油脂組成物を提供することにあり、本件特許発明5~8の課題は、該粉末油脂組成物を含有する飲料の提供にあり、本件特許発明9の課題は、上記粉末油脂組成物の製造方法を提供することにあると認める。

(3)特許請求の範囲の記載

請求項1には、前記第2のとおり、「脂溶性物質、澱粉加水分解物及び低分子界面活性剤を含有する粉末組成物」について、「脂溶性物質の含有量が10質量%以上49.95質量%以下であ」ること、「カゼインナトリウムの含有量が1.0質量%以下であり、ポークエキス及び乳清タンパク質を含有」しないこと、「澱粉加水分解物が、ゲル浸透クロマトグラフィーで分子量分布を測定した際の総ピーク面積に対する分子量8500以上18500以下の範囲のピーク面積の割合が15%以下であ」ること、「前記脂溶性物質と前記澱粉加水分解物の含有量の比率(質量比)が脂溶性物質:澱粉加水分解物=1:1~1:4の範囲であ」ること、「粉末組成物中の前記低分子界面活性剤の含有量が0.1質量%以上10質量%以下であ」ること、「脂溶性物質が植物性油脂及び/又はその加工油脂であ」ること、「低分子界面活性剤がリゾレシチン、モノグリセリン有機酸脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、及びポリソルベートからなる群から選ばれる少なくとも1つであること」を特定した物の発明が記載されている。

また、請求項2は、請求項1において、「低分子界面活性剤の含有量が1.0質量%以上である」こと、請求項3は、請求項1~2において、「澱粉加水分解物の重量平均分子量が9000以下である」こと、請求項4は、請求項1~2において、「澱粉加水分解物の重量平均分子量が50000以上である」ことが、それぞれ、特定された粉末組成物の発明が記載されている。

さらに、請求項5には、請求項1~4の粉末組成物を含有する飲料が、請求項6には、請求項5において、「さらに、乳成分を含有する」ことが、請求項7には、請求項5~6において、「さらに静菌性乳化剤を含有する」ことが、請求項8には、請求項5~7において、「コーヒーまたは紅茶飲料である」ことが、それぞれ特定された飲料の発明が記載されている。

そして、請求項9には、「脂溶性物質、澱粉加水分解物及び低分子界面活性剤を含有する粉末組成物の製造方法」について、「脂溶性物質の含有量が10質量%以上49.95質量%以下であ」ること、「カゼインナトリウムの含有量が1.0質量%以下であり、ポークエキス及び乳清タンパク質を含有」しないこと、「澱粉加水分解物が、ゲル浸透クロマトグラフィーで分子量分布を測定した際の総ピーク面積に対する分子量8500以上18500以下の範囲のピーク面積の割合が15%以下であ」ること、「前記脂溶性物質と前記澱粉加水分解物の含有量の比率(質量比)が脂溶性物質:澱粉加水分解物=1:1~1:4の範囲であ」ること、「粉末組成物中の前記低分子界面活性剤の含有量が0.1質量%以上10質量%以下であ」ること、「脂溶性物質が植物性油脂及び/又はその加工油脂であ」ること、「低分子界面活性剤がリゾレシチン、モノグリセリン有機酸脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、及びポリソルベートからなる群から選ばれる少なくとも1つである澱粉加水分解物を用い」ること、「前記澱粉加水分解物、脂溶性物質、低分子界面活性剤及び水を混合して混合液を調製」すること、「前記混合液を乳化して乳化液を得た後、前記乳化液を噴霧乾燥または凍結乾燥すること」を特定した製造方法の発明が記載されている。

(4)発明の詳細な説明の記載

ア 一方、発明の詳細な説明には、特許請求の範囲の実質的繰り返し記載を除くと、脂溶性物質については、【0014】~【0017】に、澱粉加水分解物については、【0018】~【0024】に記載があり、【0019】には、「【0019】本発明で用いる澱粉加水分解物は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)で分子量分布を測定した際の総ピーク面積に対する、分子量8500以上18500以下の範囲のピーク面積の割合(以下、単に「ピーク面積割合」と称す場合がある。)が、15%以下であることを特徴とする。このピーク面積の割合は、通常15%以下であり、中でも10%以下が好ましく、9%以下がより好ましく、7%以下がさらに好ましく、5%以下が特に好ましい。ピーク面積割合が上限以下であることにより、低分子界面活性剤との相互作用の影響が少なく、全体の乳化安定性が良好となる。ピーク面積割合は小さいほど好ましく、その下限については特に制限はない。」と記載され、【0021】には、澱粉加水分解物の製造方法として、「【0021】ピーク面積割合が15%以下である澱粉加水分解物は、例えば、逆浸透膜やナノろ過膜、限外ろ過膜、精密ろ過膜などを用いた膜分離や、シリカゲルやイオン交換樹脂を充填したカラムによる分画処理、α-アミラーゼやβ-アミラーゼ、グルコアミラーゼ等の澱粉分解酵素による低分子化処理等を併用することにより、澱粉加水分解物を分別精製して分子量8500以上18500以下の成分を除去することにより製造することができる。また、ピーク面積割合が15%以下である澱粉加水分解物として、松谷化学工業社製「パインデックス#3」、「パインデックス#100」、日本食品化工社製「フジオリゴG67」、三和澱粉工業社製「サンデック#30」「サンデック#70」「サンデック#150」「サンデック#180」「サンデック#250」「サンデック#300」などが市販されており、これらを用いることができる。」との記載がある。

そして、「低分子界面活性剤」については、【0025】~【0031】に記載があり、分子構造、分子量について好ましい範囲として「【0025】・・・低分子界面活性剤とは、分子構造内に親水性部分と親油性部分をもち、両親媒性で界面活性を持つ物質であり、分子量が5000以下の物質であることが好ましい。低分子界面活性剤にはタンパク質や多糖類、合成ポリマーなどの高分子は含まれない。【0026】本発明で用いる低分子界面活性剤は、粉体、固体、液体、ペーストなど、いずれの形態でもよいが、水に溶解することが好ましい。また、低分子界面活性剤の分子量は3000以下がより好ましく、2000以下が最も好ましい。低分子界面活性剤の分子量が小さいほど、重量あたりのモル数が大きく、より乳化安定性に寄与する分子数が増えるため、好ましい。低分子界面活性剤の分子量の下限としては特に制限はないが、分子構造内に親水性部分と親油性部分を含むために通常その分子量は200以上である。」と記載され、好ましい低分子界面活性剤の種類とHLBの範囲、親水性の低分子界面活性剤と疎水性の低分子界面活性剤の併用について、「【0028】低分子界面活性剤としては、中でも、飲食品に使用可能な食品用乳化剤が好ましく、食品用乳化剤の中でも、飲食可能な安全性が確認されているもので、かつ水に溶解するものが好ましい。【0029】食品用乳化剤としては、例えば、レシチンおよびリゾレシチン、モノグリセリン有機酸脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリソルベート、プロピレングリコール脂肪酸エステル、サポニンが挙げられ、中でも、水への溶解性が高いことから、リゾレシチン、モノグリセリン有機酸脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリソルベートが好ましく、ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステルがさらに好ましく、ショ糖脂肪酸エステルが最も好ましい。【0030】ショ糖脂肪酸エステルとしては、水中油型エマルションの乳化を安定化するという観点からHLBが5以上のものが好ましく、7以上がより好ましく、また18以下のものが好ましく、11以下のものがより好ましい。また、油滴界面に効率よく吸着し、界面膜を強化するという観点からショ糖脂肪酸エステルの脂肪酸の炭素数は12以上が好ましく、14以上がより好ましく、20以下が好ましく、18以下がより好ましい。【0031】また、低分子界面活性剤として、脂溶性物質の物性、相状態を制御可能な、比較的疎水性の低分子界面活性剤を、水に溶解する親水性の低分子界面活性剤とともに、併用することが好ましい。疎水性の低分子界面活性剤としては、中でも、飲食品に使用可能な食品用乳化剤が好ましく、食品用乳化剤の中でも、飲食可能な安全性が確認されているもので、かつ脂溶性物質に分散、溶解するものが好ましい。そのような疎水性の食品用乳化剤としては、例えば、レシチン、モノグリセリン有機酸脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステルが挙げられ、中でも、脂溶性物質への作用が大きいことから、モノグリセリン有機酸脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステルが好ましく、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、がさらに好ましく、ショ糖脂肪酸エステルが最も好ましい。ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステルとしては、脂溶性物質の物性、相状態を効果的に制御するという観点からHLBが5以下のものが好ましく、4以下がより好ましく、また0以上のものが好ましく、1以上のものがより好ましく、2~3が最も好ましい。また、脂溶性物質の相状態、すなわち結晶状態を安定化するという観点からショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステルの脂肪酸の炭素数は12以上が好ましく、16以上がより好ましく、18以上が最も好ましい。」との記載がある。

イ そして、具体的記載としては、保存時の経時的な層分離の度合いによる乳化安定性の評価や、保存後のエマルションの平均粒子径増加率の評価のために粉末組成物を製造した実施例1では、ショ糖脂肪酸エステル(ショ糖ステアリン酸エステル「リョートー(登録商標)シュガーエステルS-570」三菱化学フーズ社製、HLB5)が用いられており、実施例2~4でも「リョートー(登録商標)シュガーエステルS-570」三菱化学フーズ社製、HLB5)が用いられている。

また、カゼインナトリウムの添加量の影響を確認する試験例5でも、「リョートー(登録商標)シュガーエステルS-570」三菱化学フーズ社製、HLB5)が用いられている。

さらに、実施例6では、ショ糖脂肪酸エステル(ショ糖ステアリン酸エステル「リョートー(登録商標)シュガーエステルS-770」三菱化学フーズ社製、HLB7)が1.25質量%用いられ、実施例7~10には、ショ糖脂肪酸エステル(ショ糖ステアリン酸エステル「リョートー(登録商標)シュガーエステルS-770」三菱化学フーズ社製、HLB7)が1.25質量%用いられることを前提に、モノグリセリン脂肪酸エステルを0.1質量%、ショ糖ラウリン酸エステル(「リョートー(登録商標)シュガーエステルL-195」三菱化学フーズ社製、HLB1)を0.1質量%、ショ糖ステアリン酸エステル(「リョートー(登録商標)シュガーエステルS-370」、HLB3)を0.1質量%、ポリグリセリンベヘニン酸エステル(「リョートー(登録商標)ポリグリエステルB-100D」三菱化学フーズ社製、HLB3)を0.1質量%、それぞれ加えた例が記載されている。

また、実施例11では、ショ糖脂肪酸エステル(ショ糖ステアリン酸エステル「リョートー(登録商標)シュガーエステルS-770」三菱化学フーズ社製、HLB7)1.25質量%、実施例12及び実施例13では、実施例11において、ショ糖脂肪酸エステル(ショ糖ステアリン酸エステル「リョートー(登録商標)シュガーエステルS-370」三菱化学フーズ社製、HLB3)0.08質量%を分散した硬化ヤシ油を用いること、実施例14では、実施例1において、ショ糖脂肪酸エステル(ショ糖パルミチン酸エステル「リョートー(登録商標)シュガーエステルP-1570」三菱化学フーズ社製)0.03質量%を混合することが記載されている。

(5)対比・判断

ア 本件特許の出願時の技術常識であるといえる、特許異議申立人の提出した甲第1号証:戸田 義郎 外2名編、「食品用乳化剤-基礎と応用-」、株式会社光琳、平成9年4月1日、26~33、51~57頁には、モノグリセド誘導体(有機酸モノグリセリド)に関して、28頁~31頁に、有機酸モノグリセリドは、各化合物によって、化学的性質、溶解性、界面化学的性質が異なることが記載され、31頁~33頁に、有機酸モノグリセリドの食品への作用、効果が各化合物によって異なることが記載されている。

また、51頁~57頁に、ショ糖エステルが親水性から疎水性まで巾広い界面活性剤であること、ショ糖エステルの溶解性は、HLBによって水への溶解性が異なり、いずれも油脂には溶解し難いことが記載されている。

イ また、本件特許の出願時の技術常識であるといえる、異議申立人の提出した甲第2号証:日高 徹、「食品用乳化剤 第2版」、株式会社幸書房、1991年3月1日、36~47頁には、モノグリセリド誘導体に関して、37頁~43頁に、モノグリセリド有機酸エステルには、酢酸モノグリセリド、乳酸モノグリセリド、クエン酸モノグリセリド、コハク酸モノグリセリド、ジアセチル酒石酸モノグリセリドがあり、それぞれ化合物自体の色や状態、水やアルコール、油脂に対する溶解性、分散性に相違のあることが記載されており、44頁~46頁に、ポリグリセリン脂肪酸エステルが、グリセリンの重合度、脂肪酸の種類、エステル化の度合により、非常に多くの種類があり、溶解度も異なる旨記載されている。

ウ さらに、本件特許の出願時の技術常識であるといえる、異議申立人の提出した甲第3号証:山下 聖一 編「食品乳化剤と乳化技術」、渡辺 隆夫、“基礎編 第1章 食品用乳化剤の基礎”、工業技術会株式会社・有限会社研修社、1995年7月20日、1~14頁には、乳化剤(界面活性剤)に関して、8~9頁に、乳化剤の種類として、ショ糖脂肪酸エステルであっても脂肪酸の種類、エステル化度、の違いによりその性質が大きく異なること、ポリグリセリン脂肪酸エステルもグリセリンの重合度、脂肪酸の種類、エステル化度の違いで性質が異なること、モノグリセリドも脂肪酸の違い等により種類が多いことが記載され、HLBの値が乳化剤の親水性と親油性のバランスを示す数値の目安といえるものの、乳化剤の種類、特に親水基の構造や、脂肪酸組成が異なると、その作用・効果が大変異なる場合が多く、一つの尺度で作用・効果を推定することは困難であることが記載されている。

エ そして、本件特許の出願時の技術常識であるといえる、異議申立人の提出した甲第4号証:日高 徹 外2名編、「食品用乳化剤と乳化技術」、衛生技術会、渡辺 隆夫、“第4章 ショ糖脂肪酸エステル”、昭和54年12月30日、112~137頁には、ショ糖脂肪酸エステルに関して、125~126頁に、ショ糖エステルのHLB値は、性質の目安にはなるが絶対的なものではなく、脂肪酸の種類によっても同じ性質ではないこと、油脂含量の多さや乳化の型によっても乳化の作用が異なり適切な乳化剤が異なることが記載されている。

オ 確かに、上記ア~エに記載されるように、モノグリセリド有機酸エステルやショ糖脂肪酸エステルは、化合物によって、その乳化の作用が異なること、モノグリセリド有機酸エステルが有機酸の種類により化合物自体の色や状態、水やアルコール、油脂に対する溶解性、分散性に相違のあること、ショ糖脂肪酸エステルが脂肪酸の種類、エステル化度の違いで、ポリグリセリン脂肪酸エステルがグリセリンの重合度、脂肪酸の種類、エステル化度の違いで性質が異なること、HLBの値が乳化剤の親水性と親油性のバランスを示す数値の目安といえるものの、乳化剤の種類、特に親水基の構造や、脂肪酸組成が異なると、その作用・効果が大変異なる場合が多く、一つの尺度で作用・効果を推定することは困難であることは窺える。

カ しかしながら、本件特許発明は、カゼインナトリウムを一定以下とし、ポークエキス及び乳清タンパク質を含有しないことを前提にした脂溶性物質、澱粉加水分解物及び低分子界面活性剤を含有する粉末組成物において、前記脂溶性物質の含有量、前記脂溶性物質と前記澱粉加水分解物の含有量の比率(質量比)、粉末組成物中の前記低分子界面活性剤の含有量、前記脂溶性物質、前記低分子界面活性剤の種類を限定した上で、「前記澱粉加水分解物が、ゲル浸透クロマトグラフィーで分子量分布を測定した際の総ピーク面積に対する分子量8500以上18500以下の範囲のピーク面積の割合が15%以下である」ということを技術思想とする発明であり、上記のとおり、低分子界面活性剤の種類によって、水や油脂に対する溶解性、分散性、乳化の作用が異なるとしても、本件明細書【0019】に、ゲル浸透クロマトグラフィーで分子量分布を測定した際の総ピーク面積に対する分子量8500以上18500以下の範囲のピーク面積の割合が15%以下であることにより、低分子界面活性剤との相互作用の影響が少なく、全体の乳化安定性が良好になるという技術的意義の記載があること、【0025】~【0031】の低分子界面活性剤についての分子構造、分子量について好ましい範囲、好ましい低分子界面活性剤の種類とHLBの範囲、親水性の低分子界面活性剤と疎水性の低分子界面活性剤の併用、ショ糖脂肪酸エステルの場合の好ましいHLBの範囲の記載があることから、当業者であれば、低分子界面活性剤に依存して程度は異なっても、一定程度、汎用的な粉末化基材を用いて、噴霧乾燥法に適し、長期間の乳化安定性に優れた飲料を提供可能な、粉末油脂組成物を提供し、本件特許発明1の課題を解決できると認識できるといえる。

キ また、本件明細書には、実施例において、ショ糖ステアリン酸エステルのHLBが、5、7、11のものを用いた例や、併用の例とはいえ、HLBが1のショ糖ラウリン酸エステル、HLB3のショ糖ステアリン酸エステル、ポリグリセリンベヘニン酸エステル、ショ糖パルミチン酸エステル「リョートー(登録商標)シュガーエステルP-1570」(商標名からHLBが15と推定される)があり、いずれも優れた乳化安定性を得ているのであるから、化合物によって、HLBの値が絶対的なものではないにしても、さまざまな水への溶解性をもった低分子界面活性剤を併用手段も含めて検討すれば当業者であれば本件特許発明1の課題を解決できると認識できるともいえる。

ク さらに、甲第4号証125頁左欄では、HLB値に関して、本件特許発明1の低分子界面活性剤に挙げられる、グリセリン脂肪酸エステルやショ糖脂肪酸エステル等が同一のHLB値であれば同一の性質を示すわけではないことを述べているにすぎず、一つの尺度や目安として使用できることも同時に記載され、そのことを前提としているといえる。

また、甲第4号証125頁右欄では、乳化作用に関して、ショ糖エステルの乳化力は他の界面活性剤に比較して特に優れているとはいえないことが指摘されているのであるから、ショ糖脂肪酸エステルを中心とした具体例によって優れた乳化安定性が得られたことを示すことによって、技術常識として知られた他の低分子界面活性剤においても、一定程度、汎用的な粉末化基材を用いて、噴霧乾燥法に適し、長期間の乳化安定性に優れた飲料を提供可能な、粉末油脂組成物を提供でき、当業者であれば本件特許発明1の課題を解決できると認識できるともいえる。

ケ 本件特許発明2~9に関して、上記(3)に記載したとおり、本件特許発明1の特定事項に対して、さらに、本件特許発明2~4では、「低分子界面活性剤の含有量が1.0質量%以上である」こと、「澱粉加水分解物の重量平均分子量が9000以下である」こと、「澱粉加水分解物の重量平均分子量が50000以上である」ことが、それぞれ、特定された粉末組成物の発明が記載され、本件特許発明5~8では、「請求項1~4の粉末組成物を含有する」飲料が、「さらに、乳成分を含有する」ことが、「さらに静菌性乳化剤を含有する」ことが、「コーヒーまたは紅茶飲料である」ことが、それぞれ、特定された飲料の発明が記載され、本件特許発明9では、本件特許発明1を粉末組成物の製造方法として記載し、さらに「前記澱粉加水分解物、脂溶性物質、低分子界面活性剤及び水を混合して混合液を調製」すること、「前記混合液を乳化して乳化液を得た後、前記乳化液を噴霧乾燥または凍結乾燥すること」を特定している。

上記特定事項は、【0036】【0024】【0046】~【0055】【0041】~【0045】に関連する記載があるから、当業者であれば本件特許発明1で検討したのと同様に、本件特許発明の課題が解決できていると認識できる。

(6)取消理由に関する判断のまとめ

したがって、請求項1~9に係る特許を受けようとする発明は、発明の詳細な説明に記載されたものといえ、取消理由は解消している。

取消理由で採用しなかった特許異議申立理由についての検討

1 サポート要件について

(1)特許異議申立人は、異議申立書19~20頁において、前記異議理由1-2に記載したように、本件特許発明1~9は、「澱粉加水分解物が、ゲル浸透クロマトグラフィーで分子量分布を測定した際の総ピーク面積に対する分子量8500以上18500以下の範囲のピーク面積の割合が15%以下であ」る場合と、澱粉加水分解物が、ゲル浸透クロマトグラフィーで分子量分布を測定した際の総ピーク面積に対する分子量8500以上18500以下の範囲のピーク面積の割合が15%超の場合(甲第5号証~甲第7号証から澱粉加水分解物Bのパインデックス#100が、平均分子量8500であり、15%超の場合に該当すると主張)が同等の効果を奏されていることが記載されているので、上記澱粉加水分解物が、ゲル浸透クロマトグラフィーで分子量分布を測定した際の総ピーク面積に対する分子量8500以上18500以下の範囲のピーク面積の割合が15%以下である構成は効果を奏するのに必要な構成ではなく、重量平均分子量が多様なものが包含される上記特定が「15%以下」の場合であれば実施例と同等の効果が得られると理解できず、本件特許発明1~9は本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されたものではない旨主張している。

しかしながら、甲第5号証からパインデックス#100の平均分子量が8500であるとしても、甲第6号証、甲第7号証は、公知資料であるとは認められないし、同一商標のものが同じ分子量分布を持っているとは限らないため、特許異議申立人の主張は、前提において失当である。

そして、少なくとも本件明細書において使用したパインデックス#100は、ピーク面積割合が13.3%であったことが【表1】に明記されているのであるから当業者はそのように理解するといえるし、そのような分布に調整したとも理解できる。

また、平均分子量が8500である場合に、澱粉加水分解物の分子量8500以上18500以下の範囲のピーク面積の割合が15%以下であるとは考えにくいという主張は推測にすぎず、その範囲外に2つのピークを有するなどピーク面積の割合が15%以下になることは十分に可能性があることである。

さらに、本件明細書において、ピーク面積割合が15%以下である澱粉加水分解物A、B、満たさない澱粉加水分解物Cを用いた実施例の結果から乳化安定性の結果に差があることが示されているのであるから、ピーク面積割合が15%以下であれば当業者が本件特許発明の課題が解決できると認識でき、サポート要件を欠如しているということはできない。

(2)したがって、本願の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号の要件を満たすものである。

2 実施可能要件について

(1)特許異議申立人は、異議申立書15~18頁において、前記異議理由2-1に記載したように、本件特許発明に関して、「低分子界面活性剤」は、「低分子界面活性剤がリゾレシチン、モノグリセリン有機酸脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、及びポリソルベートからなる群から選ばれる少なくとも1つである」のに対して、甲第1号証~甲第4号証からみて、低分子界面活性剤の種類によって水への溶解性や乳化安定性に差があり、HLB値も目安にすぎないし、高HLBのものと低HLBのものとでは乳化安定性が異なるところ、発明の詳細な説明においては、ショ糖脂肪酸エステルの実験データしか開示されておらず、本願の発明の詳細な説明の記載は、ショ糖脂肪酸エステル以外の低分子界面活性剤を使用した態様まで本件特許発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものではない旨主張している。

前記取消理由に関する判断において述べたように甲第1~4号証に記載されるように、低分子界面活性剤の種類によってその乳化の作用が異なり、HLBの値が乳化剤の親水性と親油性のバランスを示す数値の目安といえるものの、一つの尺度で作用・効果を推定することは困難であることは窺えるものの、本件特許発明の技術思想、低分子界面活性剤の種類によって、水や油脂に対する溶解性、分散性、乳化の作用が異なるとしても、本件明細書【0019】に、ゲル浸透クロマトグラフィーで分子量分布を測定した際の総ピーク面積に対する分子量8500以上18500以下の範囲のピーク面積の割合が15%以下であることにより、低分子界面活性剤との相互作用の影響が少なく、全体の乳化安定性が良好になるという技術的意義の記載があること、【0025】~【0031】の低分子界面活性剤についての分子構造、分子量について好ましい範囲、好ましい低分子界面活性剤の種類とHLBの範囲、親水性の低分子界面活性剤と疎水性の低分子界面活性剤の併用、ショ糖脂肪酸エステルの場合の好ましいHLBの範囲の記載があることから本件特許発明を過度な試行錯誤なく当業者が実施できるといえる。

そして、本件明細書には、実施例において、ショ糖ステアリン酸エステルのHLBが、5、7、11のものを用いた例や、併用の例とはいえ、HLBが1のショ糖ラウリン酸エステル、HLB3のショ糖ステアリン酸エステル、ポリグリセリンベヘニン酸エステル、ショ糖パルミチン酸エステル「リョートー(登録商標)シュガーエステルP-1570」(商標名からHLBが15と推定される)があり、いずれも優れた乳化安定性を得ているのであるから、化合物によって、HLBの値が絶対的なものではないにしても、さまざまな水への溶解性をもった低分子界面活性剤を併用手段も含めて検討すれば、本件特許発明を過度な試行錯誤なく当業者が実施できるといえる。

さらに、甲第4号証125頁左欄では、HLB値に関して、本件特許発明1の低分子界面活性剤に挙げられる、グリセリン脂肪酸エステルやショ糖脂肪酸エステル等が同一のHLB値であれば同一の性質を示すわけではないことを述べているにすぎず、一つの尺度や目安として使用できることも同時に記載され、そのことを前提としているといえる。

また、甲第4号証125頁右欄では、乳化作用に関して、ショ糖エステルの乳化力は他の界面活性剤に比較して特に優れているとはいえないことが指摘されているのであるから、ショ糖脂肪酸エステルを中心とした具体例によって優れた乳化安定性が得られたことを示すことによって、技術常識として知られた他の低分子界面活性剤においても、本件特許発明の乳化安定性に優れた粉末油脂組成物を製造し、使用できるともいえる。

(2)特許異議申立人は、異議申立書19~20頁において、前記異議理由2-2に記載したように、本件特許発明1~9は、「澱粉加水分解物が、ゲル浸透クロマトグラフィーで分子量分布を測定した際の総ピーク面積に対する分子量8500以上18500以下の範囲のピーク面積の割合が15%以下であ」る場合と、澱粉加水分解物が、ゲル浸透クロマトグラフィーで分子量分布を測定した際の総ピーク面積に対する分子量8500以上18500以下の範囲のピーク面積の割合が15%超の場合(甲第5号証~甲第7号証から澱粉加水分解物Bのパインデックス#100が、平均分子量8500であり、15%超の場合に該当すると主張)が同等の効果を奏されていることが記載されているので、上記澱粉加水分解物が、ゲル浸透クロマトグラフィーで分子量分布を測定した際の総ピーク面積に対する分子量8500以上18500以下の範囲のピーク面積の割合が15%以下である構成は効果を奏するのに必要な構成ではなく、重量平均分子量が多様なものが包含される上記特定が「15%以下」の場合であれば実施例と同等の効果が得られると理解できず、本願の発明の詳細な説明の記載は、本件特許発明を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものではない旨主張している。

しかしながら、上記1で検討のとおり、上記甲第5号証からパインデックス#100の平均分子量が8500であるとしても、甲第6号証、甲第7号証は、公知資料であるとは認められないし、同一商標のものが同じ分子量分布を持っているとは限らず、本件明細書において使用したパインデックス#100は、ピーク面積割合が13.3%であったことが【表1】に明記されているのであるから当業者はそのように理解するといえる。また、そのような分布に調整したとも理解できる。

また、平均分子量が8500である場合に、澱粉加水分解物の分子量8500以上18500以下の範囲のピーク面積の割合が15%以下であるとは考えにくいという主張は推測にすぎず、その範囲外に2つのピークを有するなどピーク面積の割合が15%以下になることは十分に可能性があることである。

さらに、本件明細書において、ピーク面積割合が15%以下である澱粉加水分解物A、B、満たさない澱粉加水分解物Cを用いた実施例の結果から乳化安定性の結果に差があることが示されているのであるから、当業者が本件特許発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載しているといえ、本願の発明の詳細な説明の記載が、実施可能要件を欠如しているということはできない。

(3)したがって、本願の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号の要件を満たすものである。

特許異議申立人の意見書における主張について

特許異議申立人は、サポート要件に関して、意見書4~5頁において、本件特許発明における課題が解決されるか否かは、低分子界面活性剤と澱粉分解物との相互作用の大きさに依存し、低分子界面活性剤の種類に影響を受けるので、本件明細書の実施例のHLB5,7,11のショ糖脂肪酸エステルを単独又は主成分と同程度に水への溶解性が高い低分子界面活性剤を使用する必要がある旨主張している。

しかしながら、低分子界面活性剤の種類によって低分子界面活性剤と澱粉分解物との相互作用に一定の差異があるとしても、サポート要件の判断においては、本件特許発明が一定程度課題を解決すれば良いのであって、特許請求の範囲で例示された低分子界面活性剤同士が同程度の水への溶解性や同程度の乳化安定性を有していなければならないわけではない。

上述のとおり、本件明細書には、発明特定事項の技術的意義の記載、低分子界面活性剤についての分子構造、分子量についての好ましい範囲、好ましい低分子界面活性剤の種類とHLBの範囲、親水性の低分子界面活性剤と疎水性の低分子界面活性剤の併用、ショ糖脂肪酸エステルの場合の好ましいHLBの範囲の記載があり、実施例においては、ショ糖ステアリン酸エステルのHLBが、5,7,11のものを用いた例や、併用の例とはいえ、HLBが1のショ糖ラウリン酸エステル、HLB3のショ糖ステアリン酸エステル、ポリグリセリンベヘニン酸エステル、ショ糖パルミチン酸エステル(商標名からHLBが15と推定される)があり、いずれの実施例でも優れた乳化安定性を得ていることが示されている。

したがって、本件特許明細書の記載や前述の甲第4号証の技術常識を考慮すれば、課題を解決できると認識できるといえ、上記特許異議申立人の主張は採用できない。

第6 むすび

したがって、請求項1~9に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、取り消すことができない。

また、他に請求項1~9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。

審決本文(J-PlatPat)

J-PlatPatの審決検索トップを開きます。番号入力で「審判番号」を選び、下の番号を貼り付けて検索してください。

J-PlatPat 審決検索を開く
2019-700987

番号・当事者・条文・審決分類・商標の称呼が一致(または近い)審決を機械的に集めた候補です。判断内容は各審決の本文でご確認ください。

同じ当事者の審決38件(三菱ケミカルフーズ株式会社、神谷 高伸)
  • 2025-700387異議申立 / 2025-07-29 / 維持活性エネルギー線硬化型樹脂組成物および硬化被膜付き基材
    同じ当事者: 神谷 高伸
  • 2025-700040異議申立 / 2025-04-08 / 維持メタノール燃料船
    同じ当事者: 神谷 高伸
  • 2024-700852異議申立 / 2025-03-13 / 請求成立(取消)複層塗膜、複層塗膜の形成方法、および複層塗膜を形成するための塗料セット
    同じ当事者: 神谷 高伸
  • 2022-700968異議申立 / 2024-04-10 / 訂正認容選挙投票用紙及びその製造方法
    同じ当事者: 神谷 高伸
  • 2022-700781異議申立 / 2024-04-02 / 維持ヒト機能性角膜内皮細胞およびその応用
    同じ当事者: 神谷 高伸
同じ論点・分野の審決(審決分類)764件(536・A23L、537・A23L)
  • 2026-700149異議申立 / 2026-06-29 / 維持野菜含有調味料、及び野菜含有調味料の製造方法
    共通の審決分類: 536・A23L、537・A23L
  • 2025-700714異議申立 / 2026-05-25 / 請求成立(取消)
    共通の審決分類: 536・A23L、537・A23L
  • 2024-700938異議申立 / 2026-05-08 / 訂正認容果汁含有飲料
    共通の審決分類: 536・A23L、537・A23L
  • 2025-700697異議申立 / 2026-04-06 / 訂正認容調味組成物
    共通の審決分類: 536・A23L、537・A23L
  • 2025-700276異議申立 / 2026-01-30 / 維持造粒物及び造粒物の製造方法
    共通の審決分類: 536・A23L、537・A23L

メモ・タグ(非公開)

あなただけに表示されます。審決本文の公開範囲は変わりません。

メモとタグは Pro の機能です。ログイン/Proでメモを保存