特許異議申立
2019-700892
偏光ガラス板の製造方法
- 審判番号
- 2019-700892
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2014-162493
- 登録番号
- 特許第6519119号(P6519119)
- 請求日
- 2019年11月08日
- 審決日
- 2021年01月08日
- 公報発行日
- 2021年06月25日
- 結論
- 請求成立(取消)
- 当事者
- 【権利者】日本電気硝子株式会社
- 【権利者代理人】城村 邦彦
- 【権利者代理人】熊野 剛
- 【権利者代理人】友廣 真一
- 【異議申立人】杉山 賢哉
- 【異議申立人代理人】石川 徹
- 審判長/審判官
- 審判長 樋口 信宏
- 審判官 関根 洋之
- 審判官 河原 正
- 分類
- P1651.113-ZDA(G02B) / P1651.121-ZDA(G02B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第2項、特許法第29条、特許法第120条の5第7項、特許法第113条
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第6519119号発明「偏光ガラス板の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第6519119号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~2〕、〔3~7〕について訂正することを認める。
特許第6519119号の請求項1及び2に係る特許を取り消す。
同請求項3ないし7に係る特許を維持する。
理由
【理 由】
第1 特許異議の申立ての経緯
特許第6519119号(以下「本件特許」という。)の請求項1~7に係る特許についての出願は、平成26年8月8日に特許出願され、令和元年5月10日にその特許権の設定登録がされ、令和元年5月29日に特許掲載公報が発行された。
本件特許について、令和元年11月8日に特許異議申立人杉山賢哉(以下「特許異議申立人」という。)から全請求項に対して特許異議の申立てがされた。その後の手続等の経緯の概要は、以下のとおりである。
令和2年 1月22日付け:取消理由通知書
令和2年 3月17日付け:意見書(特許権者)
令和2年 3月17日付け:訂正請求書
令和2年 4月23日付け:意見書(特許異議申立人)
令和2年 7月10日付け:取消理由通知書(決定の予告)
令和2年 9月16日付け:意見書(特許権者)
令和2年 9月16日付け:訂正請求書(この訂正請求書による訂正の
請求を、以下「本件訂正請求」という。)
令和2年11月26日付け:意見書(特許異議申立人)
なお、令和2年3月17日付け訂正請求書による訂正の請求は、特許法120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。
第2 本件訂正請求について
1 訂正の趣旨及び訂正の内容
(1)訂正の趣旨
本件訂正請求の趣旨は、特許第6519119号の特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~7について訂正することを求める、というものである。
(2)訂正の内容
本件訂正請求において特許権者が求める訂正の内容は、以下のとおりである。なお、下線は当合議体が付したものであり、訂正箇所を示す。
ア 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「L1/W1≧1.0 ・・・(1)」と記載されているのを、「1.5≦L1/W1≦1.65 ・・・(1)」に訂正する(請求項1の記載を引用して記載された、請求項2についても、同様に訂正する。)。
イ 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項3に「0.5≦L2/W1≦0.71 ・・・(2)」と記載されているのを、「0.5≦L2/W1≦0.56 ・・・(2)」に訂正する(請求項3の記載を引用して記載された、請求項4~7についても、同様に訂正する。)。
ウ 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項5に「請求項1~4のいずれか一項」と記載されているのを、「請求項3又は4」に訂正する(請求項5の記載を引用して記載された、請求項6及び7についても、同様に訂正する。)。
エ 訂正事項4
特許請求の範囲の請求項6に「請求項1~5のいずれか一項」と記載されているのを、「請求項3~5のいずれか一項」に訂正する(請求項6の記載を引用して記載された、請求項7についても、同様に訂正する。)。
オ 訂正事項5
特許請求の範囲の請求項7に「請求項1~6のいずれか一項」と記載されているのを、「請求項3~6のいずれか一項」に訂正する。
(3)本件訂正請求は、一群の請求項〔1~7〕に対して請求されたものである。
また、特許権者から、請求項3~7についての訂正が認められるときは、請求項3~7は請求項1~2と別の訂正単位とする求めがあった。
2 訂正の適否
(1)訂正事項1について
訂正事項1による訂正は、特許請求の範囲の請求項1に記載された「L1/W1≧1.0 ・・・(1)」を「1.5≦L1/W1≦1.65 ・・・(1)」と限定する、訂正である。また、この訂正は、本件特許の願書に添付した明細書の【0037】及び【0057】(【表1】実施例1)の記載に基づくものである。
したがって、訂正事項1による訂正は、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる事項(特許請求の範囲の減縮)を目的とする訂正に該当する。
また、訂正事項1による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
請求項2についてみても、同じである。
(2)訂正事項2について
訂正事項2による訂正は、許請求の範囲の請求項3に記載された「0.5≦L2/W1≦0.71 ・・・(2)」を「0.5≦L2/W1≦0.56 ・・・(2)」と限定する、訂正である。また、この訂正は、本件特許の願書に添付した明細書の【0057】(【表1】実施例1)の記載に基づくものである。
したがって、訂正事項2による訂正は、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる事項(特許請求の範囲の減縮)を目的とする訂正に該当する。
また、訂正事項2による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
請求項4~7についてみても、同じである。
(3)訂正事項3について
訂正事項3による訂正は、特許請求の範囲の請求項5に記載された「請求項1~4のいずれか一項」を「請求項3又は4」として、請求項1及び2の記載を引用する請求項5の記載を、請求項1及び2の記載を引用しないものとする、訂正である。
したがって、訂正事項3による訂正は、特許法120条の5第2項ただし書4号に掲げる事項(引用関係の解消)を目的とする訂正に該当する。
また、訂正事項3による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
請求項6~7についてみても、同じである。
(4)訂正事項4について
訂正事項4による訂正は、特許請求の範囲の請求項6に記載された「請求項1~5のいずれか一項」を「請求項3~5のいずれか一項」として、請求項1及び2の記載を引用する請求項6の記載を、請求項1及び2の記載を引用しないものとする、訂正である。
したがって、訂正事項4による訂正は、特許法120条の5第2項ただし書4号に掲げる事項(引用関係の解消)を目的とする訂正に該当する。
また、訂正事項4による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
請求項7についてみても、同じである。
(5)訂正事項5について
訂正事項5による訂正は、特許請求の範囲の請求項7に記載された「請求項1~6のいずれか一項」を「請求項3~6のいずれか一項」として、請求項1及び2の記載を引用する請求項7の記載を、請求項1及び2の記載を引用しないものとする、訂正である。
したがって、訂正事項5による訂正は、特許法120条の5第2項ただし書4号に掲げる事項(引用関係の解消)を目的とする訂正に該当する。
また、訂正事項5による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(6)小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正(訂正事項1~5による訂正)は、特許法120条の5第2項ただし書、同法同条9項において準用する同法126条5項及び6項の規定に適合する。また、特許権者から別の訂正単位とする求めがあったところ、訂正後の一群の請求項は、〔1~2〕、〔3~7〕である。
よって、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~2〕、〔3~7〕について訂正することを認める。
第3 本件特許発明
前記「第2」のとおり、本件訂正請求による訂正は認められた。
したがって、本件特許の請求項1~7に係る発明(以下、それぞれ、「本件特許発明1」~「本件特許発明7」という。)は、本件訂正請求による訂正後の特許請求の範囲の請求項1~7に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「【請求項1】
ガラスマトリクス中に延伸金属粒子が配向して分散されてなる偏光ガラス板を製造するための方法であって、
ハロゲン化金属粒子を含有する所定幅W0を有するガラスプリフォーム板を加熱しながら延伸成形することにより、ガラスマトリクス中に延伸ハロゲン化金属粒子が配向して分散されてなり、且つ、前記所定幅W0の0.2倍以下の幅を有するガラス部材を得る延伸成形工程、及び、
前記ガラス部材に還元処理を施すことにより、前記延伸ハロゲン化金属粒子を還元して偏光ガラス板を得る還元工程、
を含み、
前記ガラスプリフォーム板の延伸成形工程において、延伸成形中の前記ガラスプリフォーム板の形状が下記式(1)の関係を満たすように、加熱しながら延伸成形することを特徴とする偏光ガラス板の製造方法。
1.5≦L1/W1≦1.65 ・・・(1)
L1=前記ガラスプリフォーム板の幅が、元の幅W0の0.8倍に変形した部分から0.2倍に変形した部分の間の長さ
W1=W0×0.5
【請求項2】
前記式(1)におけるL1の値が60mm以上であることを特徴とする請求項1に記載の偏光ガラス板の製造方法。
【請求項3】
ガラスマトリクス中に延伸金属粒子が配向して分散されてなる偏光ガラス板を製造するための方法であって、
ハロゲン化金属粒子を含有する所定幅W0を有するガラスプリフォーム板を加熱しながら延伸成形することにより、ガラスマトリクス中に延伸ハロゲン化金属粒子が配向して分散されてなり、且つ、前記所定幅W0の0.5倍以下の幅を有するガラス部材を得る延伸成形工程、及び、
前記ガラス部材に還元処理を施すことにより、前記延伸ハロゲン化金属粒子を還元して偏光ガラス板を得る還元工程、
を含み、
前記ガラスプリフォーム板の延伸成形工程において、延伸成形中の前記ガラスプリフォーム板の形状が下記式(2)の関係を満たすように、加熱しながら延伸成形することを特徴とする偏光ガラス板の製造方法。
0.5≦L2/W1≦0.56 ・・・(2)
L2=前記ガラスプリフォーム板の幅が、元の幅W0の0.8倍に変形した部分から0.5倍に変形した部分の間の長さ
W1=W0×0.5
【請求項4】
前記式(2)におけるL2の値が30mm以上であることを特徴とする請求項3に記載の偏光ガラス板の製造方法。
【請求項5】
前記ガラスプリフォーム板の幅W0が100mm以上であることを特徴とする請求項3又は4に記載の偏光ガラス板の製造方法。
【請求項6】
延伸成形中の前記ガラスプリフォーム板の幅が、元の幅W0の0.8倍に変形した部分から0.2倍に変形した部分の間において、前記ガラスプリフォーム板の粘度が107~1011dPa・sの範囲内となるように加熱することを特徴とする請求項3~5のいずれか一項に記載の偏光ガラス板の製造方法。
【請求項7】
前記金属が銀または銅であることを特徴とする請求項3~6のいずれか一項に記載の偏光ガラス板の製造方法。」
第4 取消しの理由の概要
令和2年7月10日付け取消理由通知書(決定の予告)により特許権者に通知した取消しの理由は、概略、本件特許の請求項1、2及び5~7に係る発明(本件訂正請求による訂正前のもの)は、本件特許出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である、特開2006-221166号公報(甲第2号証)に記載された発明及び周知技術に基づいて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1、2及び5~7に係る特許は、特許法29条の規定に違反してされたものである、というものである。
第5 当合議体の判断
1 本件特許発明1及び2について
(1)引用文献の記載・引用発明
ア 甲第2号証の記載
取消しの理由で引用された甲第2号証(特開2006-221166号公報)には、次の事項が記載されている。なお、下線は当合議体が付した。
(ア)「【請求項1】
均一な方向に配向して分散した延伸金属粒子を含む偏光ガラスの製造方法であって、
ハロゲン化金属粒子を内部に析出させた短冊形状のガラス母材を準備する母材準備工程と、
前記ガラス母材の周囲に配したヒータで前記ガラス母材を加熱しながら、前記ヒータよりも前記ガラス母材の長手方向の外側に設けられた引張手段で前記ガラス母材を長手方向に引っ張ることにより、前記ガラス母材と前記ハロゲン化金属粒子とを延伸する延伸工程と、
前記延伸工程で延伸された前記ガラス母材に含まれる前記ハロゲン化金属粒子を還元処理する工程と
を備え、
前記延伸工程において、前記ガラス母材が延伸する延伸部の外形が、前記ガラス母材の長手方向に対して5°から20°の傾斜角度をなして収縮するように前記ヒータの出力を制御する偏光ガラスの製造方法。」
(イ)「【技術分野】
【0001】
本発明は、偏光ガラス、及び偏光ガラスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
偏光ガラスは、光通信用途として、近赤外領域における偏波依存型の光アイソレータに用いられる。光アイソレータは2枚の偏光ガラスの間に磁性ガーネット膜を挟んで構成されている。光アイソレータは、光源であるレーザーダイオード(LD)から入射する光を透過し、LDに戻る光を遮断する。
【0003】
偏光ガラスは、延伸された金属粒子が一定の方向に配向した状態で分散している。延伸された金属粒子は、長径方向と短径方向とで分光吸収係数が大きく異なる性質(二色性)を有する。偏光ガラスの消光比は、この延伸金属粒子の二色性によって実現される。一般に、長径の軸を偏光軸と呼ぶ。光アイソレータは、2枚の偏光ガラスの偏光軸を45°の角度差で精度よく配置することによって高い遮断性能を実現する。2枚の偏光ガラスの交差角度が45°からずれるほど、光アイソレータの遮断性能が低下する。遮断性能が低下すると、LDに戻る光を完全に遮断することができないので、LDの発振が不安定になるという問題を生じる。
【0004】
光アイソレータにおいて2枚の偏光ガラスの偏光軸がなす角度を45°で精度よく確保するために、偏光ガラスには、偏光軸の向きが面内で均一であることが求められる。すなわち、偏光ガラスに分散している延伸金属粒子の配向方向のばらつきを低減することが要求される。
【0005】
従来、偏光ガラスは短冊状に成形されたガラス母材であるプリフォームを延伸して延伸ガラスを作製した後に、当該延伸ガラスを所定の厚さに研磨加工していた。研磨後の延伸ガラスの厚さは通常0.5mm以下であるため、高精度な研磨加工が要求される。このため、偏光ガラスはコストダウンが困難であるという課題があった。
・・・(中略)・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、従来の、プリフォームに所定の温度分布をつけて延伸する技術では、偏光軸の方向のばらつきが十分に低減できないという課題があった。また、延伸前に予めプリフォームを研磨しても、プリフォームが延伸時に反った場合には延伸ガラスの平面度が低下してしまうという課題があった。また、従来は偏光ガラスの消光比の面内のばらつきを低減する技術が知られていないという課題があった。また、偏光軸のばらつきを十分に低減する具体的な製造方法は知られていなかった。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明の第1の形態においては、均一な方向に配向して分散した延伸金属粒子を含む偏光ガラスの製造方法は、ハロゲン化金属粒子を内部に析出させた短冊形状のガラス母材を準備する母材準備工程と、ガラス母材の周囲に配したヒータでガラス母材を加熱しながら、ヒータよりもガラス母材の長手方向の外側に設けられた引張手段でガラス母材を長手方向に引っ張ることにより、ガラス母材とハロゲン化金属粒子とを延伸する延伸工程と、延伸工程で延伸された延伸ガラスに含まれるハロゲン化金属粒子を還元処理する工程とを備え、延伸工程において、ガラス母材が延伸する延伸部の外形が、前記ガラス母材の長手方向に対して5°から20°の傾斜角度をなして収縮するようにヒータの出力を制御する。
【0011】
このような製造方法によれば、延伸工程において、ハロゲン化金属粒子がガラス母材の幅方向に関してほぼ均一な応力で引き延ばされ、かつガラス母材の長手方向に均一に配向する。これにより、消光比の面内分布が少なく、偏光軸の向きが均一な偏光ガラスを製造できる。さらに、延伸部の幅方向に関する粘度差が小さい状態でガラス母材を延伸するので、延伸後の平面度の高い偏光ガラス製品を製造できる。
【0012】
上記の製造方法において、ヒータは、ガラス母材の延伸部における短冊形状の正面から、延伸部の幅方向の中心付近を加熱するメインヒータと、延伸部における短冊形状の側方から、延伸部の側面を加熱するサイドヒータとを有し、延伸工程において、ガラス母材の短冊形状の幅方向の中心の温度が幅方向の外側の温度と同等以下になるように、メインヒータ及びサイドヒータの出力を制御してもよい。この場合、サイドヒータの出力は、前記メインヒータの出力よりも大きいことが好ましい。これにより、延伸部におけるガラス母材の幅方向に関する温度分布を容易に制御することができ、長手方向への引っ張り応力を延伸部の幅方向に関して均一に揃えることができる。
【0013】
上記の製造方法は、延伸工程において、ガラス母材の温度がガラス母材の歪点温度以上且つ軟化点温度以下となるように、ヒータの出力を制御してもよい。このようなヒータ制御により、ガラス母材及びハロゲン化金属粒子をスムーズに延伸することができる。
【0014】
上記の製造方法は、延伸工程において、引張手段は、200kg/cm2以上500kg/cm2以下の応力であって、短冊形状の幅方向に関して均一な応力でガラス母材を引っ張ってもよい。これにより、近赤外領域の波長に対する消光比が高い偏光ガラスが得られる。」
(ウ)「【発明を実施するための最良の形態】
・・・(中略)・・・
【0018】
本実施形態にかかる偏光ガラスの製造方法は、少なくとも母材準備工程、延伸工程、及び還元工程を備える。母材準備工程では、ハロゲン化金属粒子を内部に析出させたガラス母材を準備する。延伸工程では、ヒータでガラス母材を加熱しながらガラス母材とハロゲン化金属粒子とを延伸する。還元工程では、延伸工程で延伸された延伸ガラスに含まれるハロゲン化金属粒子を還元処理することにより、延伸された金属粒子が均一な方向に配向して分散した偏光ガラスを得る。
【0019】
母材準備工程は、例えばUSP4479819号公報に開示された技術を利用して製造できる。すなわち、母材準備工程は、ガラス溶融工程及び熱処理工程を含む。ガラス溶融工程は、金属とそのハロゲン化物とを含有するガラスを溶融する。本実施形態では、金属として銀を、銀のハロゲン化物として塩化物、臭化物、及びヨウ化物の少なくとも一つを用いる。ガラスの組成は例えばUSP4190451号に開示された組成の中から選択できる。なお、金属として銅を、銅とのハロゲン化物としてCuClを用いてもよい。
【0020】
熱処理工程は、溶融ガラスを加熱処理して、ハロゲン化金属粒子を析出させる。析出するハロゲン化金属粒子は、AgCl、AgBr、及びAgAglであり、その粒径(粒子の直径)は約20nm~500nmである。熱処理工程はさらに、結晶核を生成する核生成過程と、結晶核が粒成長する粒成長過程の二つの過程を含む。核生成速度と粒成長速度は処理温度によって異なる。核生成は、ガラスの転移点温度より高く軟化点温度より低い温度域のうち、核生成速度が比較的速い温度で少なくとも1時間処理する。一方、粒成長はガラスの軟化点温度より高く、軟化点温度+70℃未満の温度域のうち、粒成長速度が比較的速い温度で少なくとも2時間処理する。この熱処理によって析出するハロゲン化金属粒子はAgCl及びAgBrである。また、析出粒子の粒径は20nm~200nmであり、好ましくは100nm以下である。
【0021】
析出粒子の粒径や量を間接的に知る値としてhaze(曇度)を用いる。熱処理はガラスのhazeが2%~35%になるように調整する。hazeが高い場合、析出粒子の粒径が大きいことを示す。析出粒子の粒径が大きい場合、延伸工程において、ハロゲン化金属粒子をより小さい応力で所望のアスペクト比に引き延ばすことができる。従って、ガラス母材及び延伸ガラスの破断を防ぐことができる。一方で、析出粒子の粒径が大きい場合消光比が小さくなりやすく、また挿入損失の増加を引き起こしやすい。従って、hazeは2%から35%、特に好ましくは5%~20%の範囲に管理する。熱処理後のガラスは、所定の短冊形状にプリフォーム加工する。プリフォーム形状は、例えば幅70mm、長さ215mm、厚さ2mmである。なお、金属として銅を、銅とのハロゲン化物としてCuClを用いる場合にも熱処理内容は同様である。
【0022】
図1は、本実施形態の延伸工程を行う延伸装置100の構成を示す。また、図2は、ハロゲン化金属粒子22が延伸される様子を示す概念図である。延伸装置100は、電気炉6と、電気炉6の内部に設けられたガラス支持具5と、同じく電気炉6の内部に設けられた各種ヒータ10、12、14、16、及び20と、プリフォーム1の長手方向に関して上記の各種ヒータより下方に設けられた引張手段40とを備える。
【0023】
延伸工程では、プリフォーム1をガラス支持具5に固定し、プリフォーム1の周囲に配した各種ヒータでプリフォーム1を加熱しながら、引張手段40でプリフォーム1を長手方向に引っ張る。本実施形態では、ガラス支持具5で短冊形状に加工されたプリフォーム1の長手方向の一端を上方から固定し、ヒータの下方に設けられた引張手段40でプリフォーム1の他端を下方に引っ張る。以下、図1の位置関係を用いて本実施形態を説明する。しかしながら、プリフォーム1を延伸する方向は下方向には限られない。例えば、ガラス支持具5でプリフォーム1の下端を固定し、ヒータよりも上方に設けた引張手段40でプリフォーム1の上側を上方に引っ張ってもよい。
【0024】
プリフォーム1の加熱は、該プリフォーム1の周囲に設けた各種ヒータ10、12、14、16、及び20で行う。ヒータは、プリフォーム1の幅方向の収縮が生じる延伸部3における短冊形状の正面から、延伸部3の幅方向の中心付近を加熱するメインヒータ10と、延伸部3における短冊形状の側方から、延伸部3の側面を加熱するサイドヒータ20と、メインヒータ10の上方に所定の間隔で配されるサブヒータ12、14、及び16を有する。
【0025】
メインヒータ10と、サブヒータ12、14、及び16は、プリフォーム1よりやや幅が広い。複数のヒータ10、12、14、16、及び20の出力は、それぞれ独立して制御される。これにより、プリフォーム1は延伸に適した温度分布で加熱される。すなわち、プリフォーム1の延伸が良好に行われ、かつ該プリフォーム1の延伸によるハロゲン化金属粒子の延伸が良好に行われる温度分布に加熱される。サブヒータ12、14、及び16は、延伸部3の上方を段階的に加熱する。
【0026】
プリフォーム1の粘度が1×109ポイズから1×1014ポイズとなる温度に加熱した状態で、プリフォーム1に200Kg/cm2~500Kg/cm2の応力を加えることにより、ハロゲン化金属粒子(AgCl、AgBr)が2:1~100:1のアスペクト比に延伸された延伸ガラス7を生成する。より好ましくは、プリフォーム1の粘度は1×1010ポイズ~1×1012ポイズの範囲で管理する。さらにプリフォーム1に加える応力は、プリフォーム1の幅方向に関してほぼ均一に加える。また、プリフォーム1に加えるベクトル成分は、プリフォーム1の延伸方向、即ちプリフォーム1の長手方向にほぼ平行になるようにする。応力の大きさは、300Kg/cm2~450Kg/cm2が特に好ましい。
【0027】
上記の延伸工程において、プリフォーム1の温度がプリフォーム1のガラス転移点以上且つ軟化点温度以下となるように、各種ヒータ10、12、14、16、及び20の出力を制御する。更に、プリフォーム1の短冊形状の幅方向の中心の温度が外側の温度と同等以下になるように、メインヒータ10及びサイドヒータ20の出力を制御する。本実施形態では、プリフォーム1が延伸する延伸部3の外形が、プリフォーム1の長手方向に対して所定の傾斜角度をなして収縮するように、各ヒータの出力を制御する。例えば、延伸部3の外形が、プリフォーム1の長手方向に対して5°から20°の傾斜角度をなして収縮するように、メインヒータ10、サイドヒータ20、及びサブヒータ12、14、16の出力を制御する。サイドヒータ20の出力は、メインヒータ10の出力よりも大きいことが好ましい。延伸部3の傾斜角度が上記の条件を満足している場合、延伸部3の幅方向における両端部は中心部よりも強く加熱される。これにより、メインヒータ10及びサイドヒータ20よりも下方で延伸部3が徐々に冷やされる場合に、冷やされやすい両端部と冷やされにくい中心部の粘度差が小さい状態でガラス及びハロゲン化金属粒子22が延伸される。さらに冷却が進み、ガラス転移点以下の温度においてガラスの延伸が行われなくなった時点でハロゲン化金属粒子22の延伸も終わる。尚、図2において、プリフォーム1に対するハロゲン化金属粒子22の大きさは実際よりも大きく示している。
【0028】
以上のような延伸工程によれば、ハロゲン化金属粒子22がプリフォーム1の幅方向に関してほぼ均一な応力で引き延ばされ、かつプリフォーム1の長手方向に均一に配向する。さらに、延伸部の幅方向に関する粘度差が小さい状態でガラス母材を延伸するので、延伸後の平面度の高い偏光ガラス製品を製造できる。なお、延伸工程において、プリフォーム1の幅方向に関する温度分布は均一であってもよい。
【0029】
次に、延伸工程で得られた延伸ガラス7の残留歪みを除去する。即ち、ガラスの歪点温度以上、転移点温度以下の温度で延伸ガラス7へのアニール処理を行う。転移点温度より高い、例えば徐冷点温度でアニールを行うと、延伸したハロゲン化金属粒子22が再球状化する可能性があるので好ましくない。
【0030】
還元工程では、水素ガス雰囲気でハロゲン化金属粒子22の一部または全部を金属粒子にする。還元温度が高いほど水素がガラス内部に深く拡散していくため処理時間を短くできる。しかし、上述のアニール処理と同様に、転移点温度より高いと、ハロゲン化金属粒子22が再球状化する可能性がある。また、還元温度が十分に高くない場合、還元処理の時間が長くなるので経済的でない。そのため、還元温度はガラスの歪点温度より高く、転移点温度より低い温度で行う。還元工程が終了すると偏光ガラスが得られる。
【0031】
本実施形態によれば、消光比の面内分布が少なく、偏光軸の向きが均一な偏光ガラスを製造できる。例えば、ガラス母材から生成した延伸ガラスの延伸方向に対する延伸金属粒子の配向方向の傾き、すなわち偏光軸の傾きは、延伸ガラスの少なくとも11mm×11mmの範囲において、0.5°以下である。
また、本実施形態で得られる偏光ガラスの少なくとも長さ11mm×幅11mmの範囲における消光比のばらつきは、10dB以下である。
また、本実施形態で得られる偏光ガラスの厚さのばらつきは、短冊形状の幅方向に関して0.03mm以下である。
また、本実施形態で得られる偏光ガラスの消光比は、少なくとも300nmの波長帯域において50dB以上である。
【実施例1】
【0032】
重量%で、Li2O:1.8wt%、Na2O:5.5wt%、K2O:5.7wt%、B2O3:18.2wt%、Al2O3:6.2wt%、SiO2:56.3wt%、Ag:0.24wt%、Cl:0.16wt%、Br:0.16wt%、CuO:0.01wt%、ZrO2:5.0wt%、TiO2:2.3wt%を有するガラス原料を白金るつぼに入れて約1350℃でプリメルトを行った。プリメルトで得られたガラスをキャンディ大に砕いてカレットとして、再び白金るつぼに入れて約1450℃で本メルトを行い、グラファイトの型に流し込んで成型し、徐冷炉に入れてアニールを行った後取り出し母材ガラスとした。
【0033】
次に母材ガラスを、610℃で1時間核生成させた後、740℃で4時間粒成長の条件で熱処理を行った。析出したハロゲン化銀粒子AgCl,AgBrの平均粒径は60nmであった。また、このガラスの一部を2mm厚にしてhazeを測定したところ約10%であった。そして、熱処理した母材ガラスを70×250×2mm(幅×長さ×厚さ)の実験用プリフォームに成形した後に延伸工程を行う。
【0034】
延伸工程では、ガラスの粘度が約1×1010~1×1011ポイズとなるようにプリフォームを加熱して、引張応力が350Kg/cm2の大きさでプリフォームの幅方向でほぼ均一になるようにプリフォームを延伸し、延伸ガラスを作製した。この間、プリフォームの延伸部の外形が、延伸ガラスの長手方向に対して約11°の傾斜角度をなして収縮するようにメインヒータ10、サイドヒータ20、及びサブヒータ12、14、16の出力を制御した。この時プリフォームの送り速度は2.0mm/分、延伸ガラスの引取り速度は35mm/分であった。
【0035】
この結果、延伸したハロゲン化銀粒子のアスペクト比は20:1であり、得られた延伸ガラスは幅17mmであった。また厚さは延伸ガラスの中央部分と両端部分とで、それぞれ0.495mm,0.499mmであり、ばらつきは0.01mm以下であった。
【0036】
次に、延伸ガラスを水素ガス雰囲気に置き、470℃、4時間で還元処理を行った。還元後、消光比を測定したところ、16mm×16mmの領域において55±2dBであった。さらに偏光軸の傾きを延伸ガラス幅17mmの中央から±8mmで360°の角度で調べたところ、図3に示すように、全ての方角で0.4°(±0.20°)以下であった。なお、図中、横軸は延伸ガラスの幅方向の位置を示し、0は幅方向の中心を示す。また縦軸は、延伸ガラスの幅方向の中心における偏光軸を基準(傾き0°)とした場合の、幅方向の各点における偏光軸の傾きを示す。以下、図4-6についても同様である。」
(エ)「【図1】
」
(オ)「【図2】
」
イ 引用発明
前記(ア)~(オ)によると、甲第2号証には、請求項1に係る発明として、次の発明が記載されていると認められる(以下「引用発明」という。)。
「均一な方向に配向して分散した延伸金属粒子を含む偏光ガラスの製造方法であって、
ハロゲン化金属粒子を内部に析出させた短冊形状のガラス母材を準備する母材準備工程と、
前記ガラス母材の周囲に配したヒータで前記ガラス母材を加熱しながら、前記ヒータよりも前記ガラス母材の長手方向の外側に設けられた引張手段で前記ガラス母材を長手方向に引っ張ることにより、前記ガラス母材と前記ハロゲン化金属粒子とを延伸する延伸工程と、
前記延伸工程で延伸された前記ガラス母材に含まれる前記ハロゲン化金属粒子を還元処理する工程と
を備え、
前記延伸工程において、前記ガラス母材が延伸する延伸部の外形が、前記ガラス母材の長手方向に対して5°から20°の傾斜角度をなして収縮するように前記ヒータの出力を制御する偏光ガラスの製造方法。」
ウ 甲第3号証の記載
取消しの理由で周知技術を示す文献として引用された甲第3号証(国際公開第2011/122500号)には、次の事項が記載されている。
(ア)「[0001] 本発明は光アイソレータ,液晶表示素子等に使用される偏光子を製造する方法に関する。」
(イ)「[0039]〔実施例1〕
<母材ガラスの製造>
重量%でSiO2:49.8,B2O3:21.3,Al2O3:6.9,ZrO2:8.5,Li2O:5.0,Na2O:5.0,K2O:4.2,Ag:0.43,Cl:0.30,Br:0.13の組成からなる母材ガラスを作製した(表1において組成Aとして表す)。すなわち,それぞれの組成を与えるように混合した原料を2000ccの白金坩堝にて1450℃で溶解した後,鋳型に流し込み,ガラス転移点以下まで一旦冷却し,母材ガラスブロックを得た。作製したガラスのガラス転移点は503℃,荷重軟化点は557℃(TMAで測定),屈折率ndは1.527であった。
[0040] この母材ガラスブロックを720℃に保持した電気炉中で4時間熱処理を行い,熱処理済母材ガラスブロックを作製した。この熱処理済母材ガラスは,ハロゲン化銀結晶の析出によって白色に濁っていた。
[0041] また,熱処理済母材ガラスについて,析出したハロゲン化銀結晶の粒径の計測を行った。計測の手順は次のとおりである。すなわち,熱処理済母材ガラスを破断して平滑面を得た。得られた平滑面を5重量%HF水溶液で15秒間エッチングした。析出粒子部分が選択的に溶解してできる球形の孔を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察して行った。このときの平均粒子径(個数平均粒子径)は130nmであった。熱処理済母材ガラスを幅100mm×厚さ4mm×長さ800mmの板状に加工し,プリフォームを得た。
[0042]<延伸>
このプリフォームを,粘度が約108dPa・sとなる620℃まで加熱し,挿入速度4mm/分,引出速度20mm/分で延伸した。このときの引張荷重は64kgfであった。延伸後の断面は幅約50mm×厚さ約1.6mmであった。
次に,挿入方向と引出方向を逆にして,600℃まで加熱し,挿入速度4mm/min,引出速度20mm/minで2段階目の延伸を行った。このときの引張荷重は39kgfであった。延伸後の断面は幅約23mm×厚さ約0.7mmであった。
[0043]<還元処理>
延伸したガラスを長さ方向10mmに切断し,0.2mm厚に精密研磨し,水素還元処理を施した。還元処理は,大気圧下で100%水素ガスを流量10ml/分でフローしながら480℃で4時間行った。」
エ 甲第4号証の記載
取消しの理由で周知技術を示す文献として引用された甲第4号証(特開2008-299329号公報)には、次の事項が記載されている。
(ア)「【技術分野】
【0001】
本発明は、偏光ガラスの製造方法に係り、さらに詳しくは、面内の偏光軸ずれを小さく製造できる方法に関する。本発明の製造方法によって製造された偏光ガラスは、光通信などに利用される小型光アイソレータ、液晶・電気光学結晶・ファラデーローテータなどの組み合わせからなる光スイッチや電気磁気センサ等の偏光子として用いられる。」
(イ)「【0033】
本発明では、プリフォームとなるガラスを、粘度が1×107~1×1011ポアズに相当する温度となるよう加熱し延伸する。1×107ポアズ以下の粘度では、ガラスが軟らかくなり過ぎて、延伸に必要な張力がかけられず、偏光ガラスを作製した場合、実用上必要となる消光比が得られない。また1×1011ポアズ以上の粘度では、ガラスが硬くなりすぎて、延伸する際に延伸したガラスの破損が頻繁に発生する。」
(ウ)「【実施例】
【0048】
以下、実施例と比較例について述べる。
《実施例1》
(1)プリフォームの作成
重量%で、SiO259.9%、AlF32%、Al2O36.8%、B2O320%、Na2O9.7%、NaCl1%、CuCl0.5%、SnO0.1%からなる組成のガラスを、5リットルの白金ルツボにて1410℃で溶解した後、鋳型に流し込み470℃で除冷し、ガラスブロックを作製した。このガラスブロックから適当な大きさに切り出し、700℃にて6時間熱処理し、前記ガラスブロック中に平均粒径約100nmの塩化銅粒子を含むガラスを得た。このガラスを加工して、80×250×3.5mmtの面の両側を光学的に研磨した板状のガラスプリフォームを得た。
【0049】
(2)延伸工程
上記のプリフォームを図3に示す線引き装置で加熱延伸した。プリフォーム21を送り装置22に取り付け、前記プリフォーム21の下端部が、加熱炉23のほぼ中央にくるように位置をセットした。図示しない温度制御装置により加熱炉23内の温度を710℃まで昇温した。プリフォーム21の下端には、針金が巻きつけてあり、加熱炉23の温度が安定した後、前記針金に荷重をかけ、ガラスの伸長を開始し、引っ張り装置24のローラ部に伸長したガラスが達した後、針金の荷重をはずした。
【0050】
延伸してシート状になったガラスを引っ張り装置24である駆動ローラに挟み、加熱炉23内の温度を690℃に再設定した。温度が安定した後、プリフォーム送り装置22によりプリフォーム21を6mm/分で送り、同時にローラにより張力をかけて、引き取り速度は160mm/分で連続的にシート状ガラスを引っ張った。得られたガラスシート形状は、およそ幅15.5mm、厚さ0.68mmで、引っ張り応力は25.5MPaだった。次にガラスシートを長さ100mmに切断したとき、1mm以上湾曲しているシートは、50枚中0枚であった。
【0051】
(3)還元
得られたガラスシートを0.2mmtに研磨して、このガラスを1気圧の水素ガス雰囲気中で、425℃で8時間熱処理して、ガラス表面の塩化銅微粒子を金属銅に還元処理した。還元層厚は、片面約40μmだった。次に、図4(a)に示すように、11mm角の正方形に延伸方向に平行に切断して偏光ガラス1を作製した。
【0052】
(4)偏光軸測定
得られた偏光ガラス1面内の中心点aの偏光軸の角度(直線偏光が最も共鳴吸収されて消光する角度)を基準として、中心点aから延伸方向に平行に3.5mm離れた点b、cと、中心点aから延伸方向に垂直に3.5mm離れた点d、eと、点b、cから延伸方向に垂直に3.5mm離れた点f、g、h、i の、一辺が7mmの正方形の周辺8点における消光比と偏光軸ずれ(各点での偏光軸角度とaの偏光軸角度との差)を測定した結果を表1に示す。また、上記方法で作製した偏光ガラスを任意に50枚選んで偏光軸ずれを調べ、各点における偏光軸ずれの絶対値の最大値を表2に示す。
【0053】
《実施例2》
(1)プリフォームの作成
実施例1と同じ組成でガラスを溶融してガラスブロックを作製し、同様の熱処理を行い、塩化銅粒子を含むガラスを得た。このガラスを加工して、110×250×3.5mmtの面の両側を光学的に研磨した板状のガラスプリフォームを得た。
【0054】
(2)延伸工程
実施例1と同様の方法で、上記プリフォームを線引きした。但し、送り速度は8mm/分で、引き取り速度は240mm/分に設定した。得られたガラスシート形状は、およそ幅20mm厚さ0.64mmで、引っ張り応力は23.5MPaだった。次にガラスシートを長さ100mmに切断したとき、1mm以上湾曲しているシートは、50枚中0枚であった。
【0055】
(3)還元
得られたガラスシートを0.2mmtに研磨して、このガラスを1気圧の水素ガス雰囲気中で、435℃で5時間熱処理して、ガラス表面の塩化銅微粒子を金属銅に還元処理した。次に、図4(b)に示すように、11mm角の正方形に延伸方向に45度傾けて切断して偏光ガラス1を作製した。
【0056】
(4)偏光軸測定
得られた偏光ガラス1面内の中心点jの偏光軸の角度を基準として、jから延伸方向に45度傾けた角度に3.5mm離れた点k、l、m、nと、この4点を一辺7mmの正方形の各辺の中点とする正方形の4角の点o、p、q、rの8点における消光比と偏光軸ずれを測定した結果を表1に示す。また、上記方法で作製した任意50枚の偏光ガラスの偏光軸ずれを調べ、各点における偏光軸ずれの絶対値の最大値を表2に示す。
【0057】
《実施例3》
実施例1と同様に、サイズ80×250×7mmtのプリフォームを作製し、加熱延伸を行った。プリフォームの送り速度は10mm/分で、引き取り速度を260mm/分にして線引きした。得られたガラスシート形状は、およそ幅16mm、厚さ1.7mmで、引っ張り応力は24.5MPaだった。ガラスシートを長さ100mmに切断したとき、1mm以上湾曲しているシートは、50枚中0枚であった。
【0058】
得られたガラスシートを実施例1と同様に研磨、還元し、11mm角の正方形に延伸方向に平行に切断して偏光ガラスを作製した。実施例1と同様に消光比と偏光軸ずれを測定した結果を表1に示す。また、上記方法で作製した偏光ガラスを任意に50枚選び偏光軸ずれを調べ、各点における偏光軸ずれの絶対値の最大値を表2に示す。」
(2)本件特許発明1について
ア 対比
本件特許発明1と引用発明とを対比する。
(ア)ガラスプリフォーム板
引用発明の「偏光ガラスの製造方法」は、前記(1)イで述べた工程を具備する。
この工程からみて、引用発明の「短冊形状のガラス母材」は、当業者において「プリフォーム」と呼ばれる、ガラスの部材である(当合議体注:甲第2号証の【0005】、【0021】及び【0023】の記載からも確認できる事項である。)。
また、引用発明の「ガラス母材」は、「ハロゲン化金属粒子を内部に析出させた短冊形状の」ものである。
上記の形状からみて、引用発明の「ガラス母材」は、所定幅を有し、板状であるといえる。さらに、上記の組成からみて、引用発明の「ガラス母材」は、ハロゲン化金属粒子を含有するといえる。
そうすると、引用発明の「ガラス母材」は、本件特許発明1の「ハロゲン化金属粒子を含有する所定幅W0を有する」とされる、「ガラスプリフォーム板」に相当する。
(イ)延伸成形工程
引用発明の「偏光ガラスの製造方法」は、「前記ガラス母材の周囲に配したヒータで前記ガラス母材を加熱しながら、前記ヒータよりも前記ガラス母材の長手方向の外側に設けられた引張手段で前記ガラス母材を長手方向に引っ張ることにより、前記ガラス母材と前記ハロゲン化金属粒子とを延伸する延伸工程」を具備する。
上記の工程からみて、引用発明の「延伸工程」は、ガラス母材及びハロゲン化金属粒子を加熱しながら延伸、成形することによりガラス部材を得る延伸成形工程である。また、上記の工程により、ガラス母材中のハロゲン化金属粒子が延伸され、ガラスマトリクス中に配向した状態で分散されることは、技術的にみて明らかである。
したがって、引用発明の「延伸工程」は、本件特許発明1の「延伸成形工程」に相当する。そして、引用発明の「延伸工程」は、本件特許発明1の「延伸成形工程」における、「ハロゲン化金属粒子を含有する所定幅W0を有するガラスプリフォーム板を加熱しながら延伸成形することにより、ガラスマトリクス中に延伸ハロゲン化金属粒子が配向して分散されてな」る「ガラス部材を得る」という要件を満たしている。また、引用発明の(延伸後の)「ガラス母材」は、本件特許発明1の「ガラス部材」に相当する。
(ウ)還元工程
引用発明の「偏光ガラスの製造方法」は、「前記延伸工程で延伸された前記ガラス母材に含まれる前記ハロゲン化金属粒子を還元処理する工程」を具備する。
上記の工程は、その文言が意味するものであるところ、この工程により得られる引用発明の「偏光ガラス」が板状のものであることは、自明である。
そうすると、引用発明の「還元処理する工程」は、本件特許発明1の「還元工程」に相当する。そして、引用発明の「還元処理する工程」は、本件特許発明1の「還元工程」における、「前記ガラス部材に還元処理を施すことにより、前記延伸ハロゲン化金属粒子を還元して偏光ガラス板を得る」という要件を満たしている。
(エ)偏光ガラス板を製造するための方法
以上(ア)~(ウ)の対比結果並びに引用発明及び本件特許発明1の全体構成からみて、引用発明の「偏光ガラスの製造方法」は、本件特許発明1の「偏光ガラス板の製造方法」に相当する。また、引用発明の「偏光ガラスの製造方法」は、本件特許発明1の「ガラスマトリクス中に延伸金属粒子が配向して分散されてなる偏光ガラス板を製造するための方法であって、」「延伸成形工程、及び」「還元工程、を含む」「偏光ガラス板の製造方法」という要件を満たしている。
イ 一致点
上記アによると、本件特許発明1と引用発明は次の点で一致する。
「ガラスマトリクス中に延伸金属粒子が配向して分散されてなる偏光ガラス板を製造するための方法であって、
ハロゲン化金属粒子を含有する所定幅W0を有するガラスプリフォーム板を加熱しながら延伸成形することにより、ガラスマトリクス中に延伸ハロゲン化金属粒子が配向して分散されてなるガラス部材を得る延伸成形工程、及び、
前記ガラス部材に還元処理を施すことにより、前記延伸ハロゲン化金属粒子を還元して偏光ガラス板を得る還元工程、
を含む、偏光ガラス板の製造方法。」
ウ 相違点
他方、本件特許発明1と引用発明は次の点で相違する。
(相違点1)
「延伸成形工程」が、本件特許発明1は、「前記所定幅W0の0.2倍以下の幅を有するガラス部材を得」て、「延伸成形中の前記ガラスプリフォーム板の形状が」、「式(1)」「の関係を満たすように、加熱しながら延伸成形する」のに対し、引用発明は、そのような構成を有するのかが明らかでない点。
(当合議体注:式(1)は、以下のとおりである。
1.5≦L1/W1≦1.65 ・・・(1)
L1=前記ガラスプリフォーム板の幅が、元の幅W0の0.8倍に変形した部分から0.2倍に変形した部分の間の長さ
W1=W0×0.5)
エ 判断
相違点1について検討する。
「ハロゲン化金属粒子を含有するガラスプリフォームを延伸して偏光ガラスを製造する方法において、ガラスプリフォームの延伸後の幅を延伸前の幅の0.2倍以下とすること」は、本件特許出願前に周知の技術である(例えば、甲第4号証の【0048】~【0058】を参照のこと。以下「周知技術1」という。)。
また,ガラス母材(プリフォーム)の延伸前の幅に対する延伸後の幅の比率をどの程度とするかは、用意できるガラス母材(プリフォーム)の幅や目的とする偏光ガラスの幅,延伸倍率などに応じて当業者が適宜決定すべき事項であることを考慮すると、引用発明において周知技術1を採用することは、当業者における通常の創意工夫の範囲内の事項である。
なお、引用発明は、甲第2号証に記載された実施例に係る発明ではなく,また,実施例のものに限定解釈すべき特段の事情もないから、前記比率を0.24倍以下とすることを阻害する要因は見いだせない。
そして、引用発明において周知技術1を採用したものの延伸工程においては、「ガラス母材の長手方向に対」する「延伸部の外形」の「傾斜角度」が20°である場合に、L1/W1=1.65(L1=ガラス母材の幅が、元の幅W0の0.8倍に変形した部分から0.2倍に変形した部分の間の長さ、W1=W0×0.5)となり、本件特許発明1の式(1)の要件を、その上限値(1.65)において満たすことになる。
そうすると、引用発明において周知技術1を採用したもので、「ガラス母材の長手方向に対」する「延伸部の外形」の「傾斜角度」が20°であるものは、相違点1に係る本件特許発明1の構成を具備するものになるといえる。
オ 小括
したがって、本件特許発明1は、甲第2号証に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである
(3)本件特許発明2について
ア 対比
本件特許発明2と引用発明とを対比すると、両者は、相違点1に加え、次の相違点2で相違し、その余の構成においては一致する。
(相違点2)
本件特許発明2は、「式(1)におけるL1の値が60mm」であるのに対し、引用発明は、そのような構成を有するのかが明らかでない点。
イ 判断
(ア)相違点1については、前述したとおりである。
(イ)相違点2について検討する。
ハロゲン化金属粒子を含有するガラスプリフォームを延伸して偏光ガラスを製造する方法において、ガラスプリフォームの延伸前の幅を100mm以上とすることは、本件特許出願前に周知の技術である(例えば、甲第3号証の[0041]、甲第4号証の【0053】を参照のこと。以下「周知技術2」という。)。
ガラス母材(プリフォーム)の延伸前の幅は、目的とする偏光ガラスの幅に応じて当業者が適宜決定すべき事項であるところ、引用発明において周知技術1を採用したもので、「ガラス母材の長手方向に対」する「延伸部の外形」の「傾斜角度」が20°であるものにおいて、周知技術2を採用することは、当業者における通常の創意工夫の範囲内の事項である。
そして、周知技術2を採用した場合、ガラス母材の幅が、元の幅の0.8倍に変形した部分から0.2倍に変形した部分の間の長さ(L1に相当する)は、60mm以上であり、相違点2に係る本件特許発明2の構成を具備するものになるといえる。
ウ 小括
したがって、本件特許発明2は、甲第2号証に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである
2 本件特許発明3ないし7について
(1)本件特許発明3について
ア 対比・一致点・相違点
前記1(2)アと同様にして、本件特許発明3と引用発明とを対比すると、両者は、次の点で一致し、また、次の相違点3で相違する。
(一致点)
「ガラスマトリクス中に延伸金属粒子が配向して分散されてなる偏光ガラス板を製造するための方法であって、
ハロゲン化金属粒子を含有する所定幅W0を有するガラスプリフォーム板を加熱しながら延伸成形することにより、ガラスマトリクス中に延伸ハロゲン化金属粒子が配向して分散されてなるガラス部材を得る延伸成形工程、及び、
前記ガラス部材に還元処理を施すことにより、前記延伸ハロゲン化金属粒子を還元して偏光ガラス板を得る還元工程、
を含む、偏光ガラス板の製造方法。」
(相違点3)
「延伸成形工程」が、本件特許発明3は、「前記所定幅W0の0.5倍以下の幅を有するガラス部材を得」て、「延伸成形中の前記ガラスプリフォーム板の形状が」、「式(2)」「の関係を満たすように、加熱しながら延伸成形する」のに対し、引用発明は、そのような構成を有するのかが明らかでない点。
(当合議体注:式(2)は、以下のとおりである。
0.5≦L2/W1≦0.56 ・・・(2)
L2=前記ガラスプリフォーム板の幅が、元の幅W0の0.8倍に変形した部分から0.5倍に変形した部分の間の長さ
W1=W0×0.5
イ 判断
相違点3について検討する。
相違点3に係る本件特許発明3の構成(特に、「延伸成形中の前記ガラスプリフォーム板の形状が」、「式(2)」「0.5≦L2/W1≦0.56」「の関係を満たすように、加熱しながら延伸成形する」こと)は、甲第2号証に記載されていない。また、同構成が公知又は周知であることを示す他の証拠も発見しない。さらに、引用発明において、同構成を採用する動機付けも見い出せない。そして、本件特許発明3は、同構成を有することにより、本件特許明細書の【0020】に記載された「偏光軸のずれが小さい偏光ガラス板を容易に製造することが可能となる」という効果を奏するものである。
そうすると、引用発明において同構成を採用することは、当業者が容易になし得たことであるとはいえない。
ウ 小括
したがって、本件特許発明3は、甲第2号証に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(2)本件特許発明4ないし7について
本件特許の特許請求の範囲の請求項4ないし7は、いずれも、請求項3を直接又は間接的に引用するものであって、本件特許発明4ないし7は、本件特許発明3の構成を全て具備し、これに限定を加えたものに該当する。そうすると、前記(1)のとおり、本件特許発明3が、甲第2号証に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない以上、本件特許発明4ないし7も、甲第2号証に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
第6 むすび
本件特許発明1及び2は、いずれも、本件特許出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である甲第2号証(特開2006-221166号公報)に記載された発明及び周知技術に基づいて、本件特許出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1及び2に係る特許は、いずれも、特許法29条の規定に違反してされたものである。
したがって、請求項1及び2に係る特許は、いずれも、特許法113条2号に該当し、取り消されるべきものである。
また、請求項3ないし7に係る特許は、いずれも、特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては取り消すことはできない。さらに、他に請求項3ないし7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2019-700892