特許異議申立
2019-700747
焼結軸受の製造方法
- 審判番号
- 2019-700747
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2017-052667
- 登録番号
- 特許第6487957号(P6487957)
- 請求日
- 2019年09月19日
- 審決日
- 2020年06月19日
- 公報発行日
- 2020年09月25日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】NTN株式会社
- 【権利者代理人】城村 邦彦
- 【権利者代理人】熊野 剛
- 【異議申立人】玉井 伸幸
- 審判長/審判官
- 審判長 大町 真義
- 審判官 井上 信
- 審判官 内田 博之
- 分類
- P1651.121-YAA(F16C) / P1651.537-YAA(F16C) / P1651.851-YAA(F16C) / P1651.853-YAA(F16C)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第2項、特許法第120条の5第9項、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第4項、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第2号、特許法第2条第3項第1号、特許法第126条第6項、特許法第126条第5項、特許法第126条第4項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第6487957号発明「焼結軸受の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第6487957号の明細書及び特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~2〕について訂正することを認める。
特許第6487957号の請求項1~2に係る特許を維持する。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
特許第6487957号の請求項1~2に係る特許についての出願は、平成24年7月26日に出願された特願2012-165844号の一部を平成29年3月17日に新たな特許出願として出願され、平成31年3月1日にその特許権の設定登録がされ、平成31年3月20日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許について、特許異議申立人玉井伸幸(以下「特許異議申立人」という。)により、請求項1~2に係る特許に対する特許異議の申立てがされた。
本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和1年 9月19日 :特許異議申立人による特許異議の申立て
令和1年12月18日付け:取消理由通知書
令和2年 3月 6日 :特許権者による訂正請求書及び意見書の提出
なお、特許異議申立人に対して、令和2年3月23日付けで、特許権者により訂正の請求があった旨を通知し、期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが、期間内に意見書は提出されなかった。
第2 訂正の適否
1 訂正の内容
令和2年3月6日の訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、以下の(1)~(4)のとおりである(下線部は訂正箇所を示す。)。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、
「黒鉛粉と金属粉とを含む原料粉を成形および焼結して得られた、回転を支持し若しくは直線運動を支持する焼結軸受において、
原料粉として、銅粉、錫、および黒鉛粉を主成分とする混合粉末が用いられ、
黒鉛粉として、鱗状黒鉛粉を造粒した造粒粉が用いられ、かつ軸受面における遊離黒鉛の割合を面積比で25%~80%とし、
原料粉における前記造粒粉の配合割合を3重量%~15重量%とし、
前記造粒粉の平均粒径が60μm~500μmであり、
潤滑油を含浸させずに使用されることを特徴とする焼結軸受。」
と記載されているのを、
「黒鉛粉と金属粉とを含む原料粉を成形および焼結し、その後、サイジングを行って得られた、回転を支持し若しくは直線運動を支持する焼結軸受の製造方法において、
原料粉として、銅粉、錫、および黒鉛粉を主成分とする混合粉末が用いられ、
黒鉛粉として、鱗状黒鉛粉を造粒した造粒粉が用いられ、かつ軸受面における遊離黒鉛の割合を面積比で28%よりも大きく、80%以下とし、
前記造粒のためのバインダは、前記鱗状黒鉛粉に対して5重量%~15重量%の量とし、
原料粉における前記造粒粉の配合割合を3重量%~15重量%とし、
前記造粒粉の平均粒径が60μm~500μmであり、
潤滑油を含浸させずに使用されることを特徴とする焼結軸受の製造方法。」
に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項2も同様に訂正する)。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2に、「焼結軸受。」と記載されているのを、「焼結軸受の製造方法。」に訂正する。
(3)訂正事項3
願書に添付した明細書の【発明の名称】に、「焼結軸受」と記載されているのを、「焼結軸受の製造方法」に訂正する。
(4)訂正事項4
願書に添付した明細書の段落【0001】に、「焼結軸受」と記載されているのを、「焼結軸受の製造方法」に訂正する。
2 一群の請求項
訂正前の請求項1~2について、請求項2は請求項1を引用しているものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。したがって、訂正前の請求項1~2に対応する訂正後の請求項1~2は、特許法120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
よって、本件訂正は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項ごとに請求されている。
3 訂正の要件
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的の適否
(ア)訂正事項1は、訂正前の請求項1における「原料粉を成形および焼結して得られた」を、「原料粉を成形および焼結し、その後、サイジングを行って得られた」として、成形および焼結した後の処理を特定して限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(イ)訂正事項1は、訂正前の請求項1における「鱗状黒鉛粉を造粒した造粒粉」に関して、「前記造粒のためのバインダは、前記鱗状黒鉛粉に対して5重量%~15重量%の量」とすることを特定して限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(ウ)訂正事項1は、訂正前の請求項1における、軸受面における遊離黒鉛の割合を面積比で「25%~80%」と記載されているのを、「28%よりも大きく、80%以下」として、上記面積比の数値範囲を狭めるものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、願書に添付した明細書の段落【0038】~【0044】の記載との関係で不合理を生じている記載を改めるものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
(エ)訂正事項1は、訂正前の請求項1が「焼結軸受」という物の発明であるにもかかわらず、その物の製造方法が記載されているために不明瞭となっていたものを、「焼結軸受の製造方法」とすることにより、不明瞭な記載を改めるものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
(オ)したがって、訂正事項1の各訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第3号に掲げる事項を目的とするものである。
イ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(ア)訂正事項1は、上記アのとおり、訂正前の請求項1が、「黒鉛粉と金属粉とを含む原料粉を成形および焼結して得られ」、「原料粉として、銅粉、錫、および黒鉛粉を主成分とする混合粉末が用いられ、黒鉛粉として、鱗状黒鉛粉を造粒した造粒粉が用いられ、原料粉における前記造粒粉の配合割合を3重量%~15重量%とし、前記造粒粉の平均粒径が60μm~500μm」とする製造条件により得られた、「軸受面における遊離黒鉛の割合を面積比で25%~80%」という特性を有する「焼結軸受」の発明であったものを、
「黒鉛粉と金属粉とを含む原料粉を成形および焼結し、その後、サイジングを行って得られ」、「原料粉として、銅粉、錫、および黒鉛粉を主成分とする混合粉末が用いられ、黒鉛粉として、鱗状黒鉛粉を造粒した造粒粉が用いられ、前記造粒のためのバインダは、前記鱗状黒鉛粉に対して5重量%~15重量%の量とし、原料粉における前記造粒粉の配合割合を3重量%~15重量%とし、前記造粒粉の平均粒径が60μm~500μm」とする製造条件により、「軸受面における遊離黒鉛の割合を面積比で28%よりも大きく、80%以下」という特性を有する「焼結軸受」の「製造方法」の発明とするものである。
すなわち、訂正事項1は、訂正前の請求項1に特定されていた製造方法の製造条件や、当該製造方法により得られた物の特性を、より狭い範囲に限定するとともに、「物の発明」から「物を生産する方法の発明」へと、発明のカテゴリーを変更するものである。
(イ)ところで、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第6項において、訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものであってはならない旨を規定しているのは、訂正前の特許請求の範囲には含まれないこととされた発明が、訂正後の特許請求の範囲に含まれることとなる、言い換えれば、訂正前の発明の「実施」に該当しないとされた行為が、訂正後の発明の「実施」に該当する行為となる場合、第三者にとって不測の不利益が生じるおそれがあるためである。
ここで、特許法第2条第3項第1号に規定された「物の発明」及び第3号に規定された「物を生産する方法の発明」の実施について比較すると、「物の発明」の実施(第1号)とは、「その物の生産、使用、譲渡等、輸出若しくは輸入又は譲渡等の申出をする行為」であり、「物を生産する方法」の実施(第3号)とは、「その方法の使用をする行為」(第2号)のほか、その方法により生産した「物の使用、譲渡等、輸出若しくは輸入又は譲渡等の申出をする行為」であり、「物を生産する方法」の実施における「その方法の使用をする行為」とは、「その方法の使用により生産される物の生産をする行為」と解されることから、「物の発明」の実施における「その物の生産」をする行為に相当し、「物の発明」の実施と「物を生産する方法の発明」の実施において、その実施行為の各態様については、全て対応するものである。
(ウ)これを踏まえ、訂正前の請求項1に係る発明と訂正後の請求項1に係る発明において、それぞれの発明の「実施」に該当する行為の異同により、訂正後の請求項1に係る発明の「実施」に該当する行為が、訂正前の請求項1に係る発明の「実施」に該当する行為を、実質上拡張し、又は変更するものであるか否かについて検討する。
訂正前の請求項1に係る発明の「実施」には、訂正前の請求項1に特定されている製造条件により製造され、かつ、当該請求項に特定されている特性を有する「焼結軸受」についてだけでなく、当該製造条件により製造され、かつ、当該請求項に特定されている特性を有する「焼結軸受」と同一の構造を有する「焼結軸受」についても含まれる。それに対し、訂正後の請求項1に係る発明の「実施」には、訂正前の請求項1に特定されていた製造条件より狭い範囲に限定された、訂正後の請求項1に特定されている製造条件により製造され、かつ、訂正前の請求項1に特定されていた特性より狭い範囲に限定された特性を有する「焼結軸受」についてだけが含まれるものである。
よって、訂正後の請求項1に係る発明の「実施」に該当する行為は、訂正前の請求項1に係る発明の「実施」に該当する行為に全て含まれるので、第三者にとって不測の不利益が生じるおそれはなく、訂正事項1は、訂正前の請求項1に係る発明の「実施」に該当する行為を実質上拡張し、又は変更するものとはいえない。
(エ)したがって、訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。
ウ 新規事項の有無
(ア)願書に添付した明細書の段落【0032】には、原料粉を成形および焼結した後、「サイジングを施すこと」が記載されている。
(イ)願書に添付した明細書の段落【0025】には、造粒のためのバインダの量は、「黒鉛微粉に対して5重量%~15重量%」とすることが記載されている。
(ウ)願書に添付した明細書の段落【0038】には、従来品の軸受面における黒鉛の面積比は「28%」であることが記載されている。
よって、訂正前の請求項1に記載されていた、軸受面における遊離黒鉛の割合の面積比での数値範囲「25%~80%」のうち、最小値を変更して、「28%よりも大きく、80%以下」とする訂正後の数値範囲は、訂正前の数値範囲内のものであり、訂正後の数値範囲の最小値を特定する数値「28%」は、願書に添付した明細書に記載されている。
そうすると、訂正後の数値範囲は、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内のものである。
(エ)願書に添付した明細書の段落【0021】~【0032】には、焼結軸受の製造方法が記載されている。
(オ)したがって、訂正事項1の各訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。
(2)訂正事項2について
ア 訂正の目的の適否
訂正事項2は、訂正前の請求項2が「焼結軸受」という物の発明であるにもかかわらず、訂正前の請求項2が引用する訂正前の請求項1に、その物の製造方法が記載されているために不明瞭となっていたものを、「焼結軸受の製造方法」とすることにより、不明瞭な記載を改めるものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
イ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項2は、上記(1)イと同様の理由により、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。
ウ 新規事項の有無
願書に添付した明細書の段落【0021】~【0032】には、焼結軸受の製造方法が記載されている。
したがって、訂正事項2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。
(3)訂正事項3及び4について
ア 訂正の目的の適否
訂正事項3及び4は、上記訂正事項1及び2に係る訂正に伴い特許請求の範囲の記載と明細書の記載との整合を図るための訂正であるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
イ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項3及び4は、上記訂正事項1及び2と同様に、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項において準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。
ウ 新規事項の有無
訂正事項3及び4は、上記訂正事項1及び2と同様に、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項において準用する特許法第126条第5項の規定に適合するものである。
エ 明細書の訂正と関係する請求項
訂正事項3及び4は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、これは一群の請求項1~2に関係する訂正である。
したがって、訂正事項3及び4は、特許法第120条の5第9項において準用する特許法第126条第4項の規定に適合するものである。
4 小括
上記3のとおり、訂正事項1~4に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第4項ないし第6項の規定に適合する。
なお、本件特許異議の申立てにおいては、訂正前のすべての請求項に対して特許異議の申立てがされているため、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。
したがって、明細書及び特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~2〕について訂正することを認める。
第3 訂正後の本件発明
上記第2のとおり本件訂正は認められるから、本件特許の請求項1~2に係る発明(以下「本件発明1」~「本件発明2」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「【請求項1】
黒鉛粉と金属粉とを含む原料粉を成形および焼結し、その後、サイジングを行って得られた、回転を支持し若しくは直線運動を支持する焼結軸受の製造方法において、
原料粉として、銅粉、錫、および黒鉛粉を主成分とする混合粉末が用いられ、
黒鉛粉として、鱗状黒鉛粉を造粒した造粒粉が用いられ、かつ軸受面における遊離黒鉛の割合を面積比で28%よりも大きく、80%以下とし、
前記造粒のためのバインダは、前記鱗状黒鉛粉に対して5重量%~15重量%の量とし、
原料粉における前記造粒粉の配合割合を3重量%~15重量%とし、
前記造粒粉の平均粒径が60μm~500μmであり、
潤滑油を含浸させずに使用されることを特徴とする焼結軸受の製造方法。
【請求項2】
前記造粒粉の見かけ密度を、1.0g/cm3以下とした請求項1に記載の焼結軸受の製造方法。」
第4 取消理由通知に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
訂正前の請求項1~2に係る特許に対して、当審が令和1年12月18日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
(1)(進歩性)本件特許の請求項1~2に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1~2に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。
(2)(サポート要件)本件特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。
(3)(明確性)本件特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。
<引用文献等>
甲第1号証:特開2006-207783号公報
甲第2号証:特公平6-21140号公報
甲第3号証:特開2002-187924号公報
甲第4号証:特開2003-48935号公報
甲第5号証:社団法人日本トライボロジー学会固体潤滑研究会編、「新版 固体潤滑ハンドブック」、第1版、株式会社養賢堂、2010年3月2日、p17-18
甲第6号証:特開平11-117044号公報
甲第8号証:特開昭57-63653号公報
甲第9号証:特開昭57-73149号公報
甲第10号証:特開昭57-123951号公報
2 甲号証の記載
(1)甲第1号証
取消理由通知において引用した甲第1号証には、図面とともに次の事項が記載されている(下線は当審が付した。)。
ア「【0007】
この発明によれば、EGRバルブのバルブステムの軸部と摺接する焼結摺動層が、C:1.5(mass%)以上7.0(mass%)以下、残部が主にNi-Cu-Sn系合金からなる組成とされる。焼結摺動層は、Cの残部が、Ni-Cu-Sn系合金とされており、Cの添加によって低下した焼結摺動層の強度を、Snを添加することによって、向上させることができる。また、焼結摺動層は、Ni-Cu-Sn系合金にCが固溶せず、CがNi-Cu-Sn系合金から遊離した状態とされ、Ni-Cu-Sn系合金の金属結合によって高い強度が確保される。また、Cとして黒鉛を用いると、遊離黒鉛の粒界にSnが析出して焼結摺動層のNi-Cu-Sn系合金の表面がSnリッチとなり高い耐食性が確保できる。
また、回転摺動用としては、正逆回転でのCの堆積を避けるため、C:1.5(mass%)以上3.0(mass%)以下が好適とされ、軸線方向摺動用としては、バルブステムの軸部の往復動でCの介在を確保するため、C:3.0(mass%)以上7.0(mass%)以下が特に好適である。」
イ「【0033】
次に、以上のように構成された粉末成形装置20により、圧粉体を形成する方法について説明する。・・・
次に、図3に示すように、第1下パンチ23aを後退移動させ、第1空間31を形成した後に、図4に示すように、第1シューボックス29aを前進移動させ、第1空間31の上方に到達したときに、このシューボックス29aにより第1空間31に第1粉末33を充填する(図9に示すB)。この際、第2空間32に充填された第2粉末34の上面にも第1粉末33が堆積される。
【0034】
ここで、第1粉末は、黒鉛:1.5(mass%)以上7.0(mass%)以下、二硫化モリブデンMoS2:1.5(mass%)以上7.0(mass%)以下、残部がNi-Cu-Sn系合金:約86.0(mass%)以上97.0(mass%)以下と不可避不純物とからなる組成とされる。ここで、黒鉛は、粉末を圧粉する際により安定した成形性を確保するため、約数μmの天然又は人造黒鉛を材料として約50μm~200μmに造粒したものが好ましい。
【0035】
その後、図5に示すように、仕切り筒22を後退移動させた後に(図9に示すC)、図6に示すように、上パンチ26を前進移動し、このパンチ26の下面と、第1、第2下パンチ23a、23bおよび仕切り筒22の上面とにより第1、第2粉末33、34を前記軸線方向に圧縮する。この際、上パンチ26をその前進端位置に到達させた状態で、第1、第2下パンチ23a、23b、および仕切り筒22をダイ21に対して漸次前進移動させ、第1、第2粉末33、34をさらに圧縮する(図9に示すD)。以上により、内周面側および軸方向における一方の端面(図示の例では上面)10eが第1粉末33により一体的に形成され、外周面側が第2粉末34により形成された圧粉体35を形成する。
【0036】
そして、・・・、圧粉体35を前記空間31、32から取り出す(図9に示すE)。
次に、この圧粉体35を焼結することにより、図1に示す摺動部材10が形成される。・・・
【0037】
以上説明したように、本実施形態による摺動部材10によれば、焼結摺動層10aが、黒鉛:1.5(mass%)以上7.0(mass%)以下、MoS2:1.5(mass%)以上7.0(mass%)以下、残部がNi-Cu-Sn系合金から構成されており、Ni-Cu-Sn系合金が、約86.0(mass%)以上であることから、EGRバルブ140のバルブステム142が往復及び回転運動することによって発生する力に対して十分な機械的強度が確保され、Cと固体潤滑剤の自己潤滑性に基づいて、バルブステム142が往復及び回転運動する際の摺動抵抗を小さく維持することができるため、非常に高い潤滑性が確保される。したがって、EGRバルブ140のバルブステム142の回転摺動や軸線方向摺動のいずれに対しても安定した潤滑性が確保される。・・・」
ウ「【0043】
次に、この発明の第2の実施形態について説明する。
図10は、本発明に係る第2の実施形態を示す図であって、摺動部材をEGRバルブ140のバルブステム142の軸受(摺動部材)15に用いる場合について説明する。
第2の実施の形態の軸受15は、内周面15c側を構成する焼結摺動層15aと、外周面側を構成する焼結金属層15bとを備えており、焼結金属層15bは内周面15を構成する孔と同軸の大径外周面15dと、小径外周面15eとを備えた二段円筒形とされている。
【0044】
また、軸受15は、焼結摺動層15aが、黒鉛:1.5(mass%)以上7.0(mass%)以下、残部が主にNi-Cu-Sn系合金から構成され、Ni:12~40(mass%)、Sn:5~18.5(mass%)、残部がCuの組成とされている。
また、EGRバルブ用としては、バルブステムの軸部が往復動する際にCの介在を確保するために、黒鉛:3.0(mass%)以上7.0(mass%)以下が特に好適である。
【0045】
また、焼結金属層15bは、気孔率が12%より大きく35%以下に構成され、焼結摺動層10aと互いに焼結結合されている。
また、摺動部材15には潤滑油を含油させていない。
また、Ni-Cu-Sn系合金の粒径は、黒鉛の粒界に安定して保持されるように平均粒径約40μmとすることが好ましい。他の事項については、第1の実施の形態と同様である。」
エ「【0049】
第2の実施の形態において、黒鉛はNi-Cu-Sn系合金に固溶されずに、焼結摺動層15aは遊離した遊離黒鉛とNi-Cu-Sn系合金から構成され、Ni-Cu-Sn系合金の金属結合によって高い強度が確保される。また、遊離黒鉛の粒界にSnが析出して焼結摺動層のNi-Cu-Sn系合金の表面がSnリッチとなり高い耐食性が確保できる。
その結果、高い潤滑性と、耐食性を共に備えることができる。」
したがって、これらの記載を総合すれば、甲第1号証には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「第1粉末33を第1空間31に充填し、その後、第1粉末33を圧縮することによって圧粉体35を成形し、圧粉体35を焼結させて得られた、回転摺動用又は軸線方向摺動用の軸受15の製造方法において、
第1粉末33は、黒鉛:1.5~7.0重量%、残部が主にNi-Cu-Sn系合金から構成され、Ni:12~40重量%、Sn:5~18.5重量%、残部がCuの組成とされており、
黒鉛として、天然又は人造黒鉛を材料として造粒した黒鉛が用いられ、
軸受15の焼結摺動層15aは、遊離した遊離黒鉛を有し、
前記造粒した黒鉛は約50μm~200μmであり、
軸受15には潤滑油を含油させていない、軸受15の製造方法。」
(2)甲第2号証
取消理由通知において引用した甲第2号証(特に、第3欄第9~24行、及び第6欄第45行~第9欄第13行を参照。)には、軸受けなどの成形材料である、黒鉛・フェノール樹脂粒状物の製造方法に関して、実施例1、2、5、及び7として、鱗片状黒鉛とフェノール樹脂とを混合して造粒し、粒子径状の大きさが60μm~500μmとしたものが記載されている。
(3)甲第3号証
取消理由通知において引用した甲第3号証(特に、段落【0001】、【0023】~【0030】、及び【0034】~【0037】を参照。)には、軸受けなどの成形材料である、カーボン・フェノール樹脂成形材料の製造方法に関して、実施例1~6として、鱗片状黒鉛粉末とフェノール樹脂とを混合して造粒し、粒度が150μm~300μmのものが少なくとも77.3%以上としたものが記載されている。
(4)甲第4号証
取消理由通知において引用した甲第4号証(特に、段落【0001】、【0035】~【0043】、【0045】、及び【0049】~【0052】を参照。)には、軸受けなどの成形材料である、カーボン・フェノール樹脂成形材料の製造方法に関して、実施例1~4として、鱗片状黒鉛とフェノール樹脂とを混合して造粒し、粒度が150μm~300μmのものが少なくとも72.5%以上としたものが記載されている。
(5)甲第5号証
取消理由通知において引用した甲第5号証(第17頁下から第5行~最下行及び「表1.7 黒鉛の種類」、並びに第18頁第1~10行を参照。)には、黒鉛は人造黒鉛と天然黒鉛に分類され、更にこの天然黒鉛は、外観が鱗状で薄い形状の「鱗片状黒鉛」(Flake graphite)、外観が塊状の「鱗状黒鉛」(Veingraphite or plumbago)、及び土状または土塊状の「土状黒鉛」(Amorphous graphite)の3種類に分類されることが記載されている。
(6)甲第6号証
取消理由通知において引用した甲第6号証(特に、段落【0004】~【0007】を参照。)には、初期なじみ性のすぐれた遊離黒鉛析出型鉄系焼結材料製軸受に関して、析出遊離黒鉛を5面積%~35面積%とすることが記載されている。
(7)甲第8号証
取消理由通知において引用した甲第8号証(特に、第1頁右下欄第3~5行、及び第3頁右上欄第15行~同頁左下欄第5行を参照。)には、耐摩耗性黄銅合金に関して、摺動面積に対する黒鉛粒子露出面積を15%~50%とすることが記載されている。
(8)甲第9号証
取消理由通知において引用した甲第9号証(特に、第1頁右下欄第6~8行、及び第3頁左下欄第2~12行を参照。)には、耐摩耗性黄銅合金に関して、摺動面積に対する黒鉛粒子露出面積を15%~50%とすることが記載されている。
(9)甲第10号証
取消理由通知において引用した甲第10号証(特に、第1頁左下欄第9~12行、及び第2頁左上欄第13~17行を参照。)には、黒鉛及び鉛分散アルミニウム合金に関して、摺動面積に対する黒鉛粒子露出面積比を15%~50%とすることが記載されている。
第5 当審の判断
1 特許法第29条第2項について
(1)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明における「第1粉末33」は、本件発明1の「原料粉」に、以下同様に、「回転摺動用又は軸線方向摺動用の軸受15」は「回転を支持し若しくは直線運動を支持する焼結軸受」に、「造粒した黒鉛」は「造粒粉」に、「軸受15には潤滑油を含油させていない」ことは「潤滑油を含浸させずに使用される」ことに、それぞれ相当する。
そうすると、両者の一致点及び相違点は、次のとおりである。
<一致点>
「原料粉を成形および焼結して得られた、回転を支持し若しくは直線運動を支持する焼結軸受の製造方法において、
潤滑油を含浸させずに使用される焼結軸受の製造方法。」
<相違点1>
原料粉に関して、本件発明1では、原料粉は、「黒鉛粉と金属粉とを含む」もので、「銅粉、錫、および黒鉛粉を主成分とする混合粉末」であるのに対して、
甲1発明では、第1粉末は、混合粉末であるか否かは明らかでないものの、黒鉛と金属を含むもので、黒鉛:1.5~7.0重量%、残部が主にNi-Cu-Sn系合金から構成され、Ni:12~40重量%、Sn:5~18.5重量%、残部がCuの組成である粉末である点。
<相違点2>
本件発明1では、原料粉を成形および焼結した後、「サイジングを行」うのに対し、
甲1発明では、そのようなことが特定されていない点。
<相違点3>
原料粉における黒鉛に関して、本件発明1では、「黒鉛粉として、鱗状黒鉛粉を造粒した造粒粉」が用いられ、「原料粉における前記造粒粉の配合割合を3重量%~15重量%」とし、「造粒粉の平均粒径が60μm~500μm」であるのに対して、
甲1発明では、第1粉末における黒鉛として天然又は人造黒鉛を材料として造粒した黒鉛が用いられ、第1粉末における造粒した黒鉛の割合は1.5~7.0重量%であり、造粒した黒鉛は約50μm~200μmである点。
<相違点4>
軸受面における遊離黒鉛の割合に関して、本件発明1では、「面積比で28%よりも大きく、80%以下」であるのに対して、
甲1発明では、軸受面における遊離黒鉛の割合は明らかでない点。
<相違点5>
本件発明1では、「前記造粒のためのバインダは、前記鱗状黒鉛粉に対して5重量%~15重量%の量」とするのに対し、
甲1発明では、黒鉛を造粒する際のバインダの量は明らかでない点。
イ 判断
事案に鑑みて先に相違点5について検討する。
甲第2~4号証には、上記第4の2(2)~(4)のとおり、軸受けの成形材料である、黒鉛・フェノール樹脂粒状物の製造において、鱗片状黒鉛とフェノール樹脂とを混合して造粒し、粒径を60μm~500μmまたは150μm~300μmとすることが開示されている。しかしながら、甲第2~4号証には、この成形材料をバインダの焼成を伴う「焼結」で使用することは記載されておらず、焼結後の無定形炭素の量が少なくなるように、造粒のためのバインダを鱗状黒鉛粉に対して5重量%~15重量%の量とすることも記載されていない。
また、甲第6及び8~10号証には、上記第4の2(6)~(9)のとおり、摺動面積に対する黒鉛粒子露出面積を5%~35%または15%~50%とすることが開示されているものの、造粒した黒鉛粉に関する記載はなく、造粒のためのバインダの量に関する記載もない。
一方、本件発明1は、相違点5に係る構成により、焼結後に、軸受面に現れる無定形炭素を少なくして、軸受面に柔らかい黒鉛組織を多量に存在させることを可能にし、軸受面の潤滑性を向上させることができるとともに、サイジングによる寸法矯正を意義あるものとし、寸法や軸受性能のばらつきを小さくすることができるという効果を発揮し得るものと認められる(下記「2 特許法第36条第6項第1号について」を参照。)ところ、これを当業者が予測し得たとは認められない。
したがって、本件発明1は、相違点1~4を検討するまでもなく、当業者であっても甲1発明及び甲第2~6、8~10号証に記載された技術的事項に基いて容易に発明をすることができたものとはいえない。
(2)本件発明2について
本件発明2も、本件発明1と同一の構成を備えるものであるから、本件発明1と同じ理由により、当業者であっても甲1発明及び甲第2~6、8~10号証に記載された技術的事項に基いて容易に発明をすることができたものとはいえない。
2 特許法第36条第6項第1号について
本件特許明細書の段落【0004】~【0016】には、ドライ軸受において、軸受面の潤滑性を向上させることや、量産時でも偏析による軸受性能や寸法精度のばらつきを抑制することが課題として記載されており、本件発明1~2には、「黒鉛粉として、鱗状黒鉛粉を造粒した造粒粉が用いられ」、「造粒のためのバインダは、鱗状黒鉛粉に対して5重量%~15重量%の量」と、バインダの量を少なくすることが、他の発明特定事項とともに特定されている。
そして、本件特許明細書の記載に接した当業者であれば、技術常識から、黒鉛の造粒の際に、黒鉛微粉に対して加えられるバインダとしての樹脂(例えば、本件特許明細書の段落【0025】に記載された「フェノール樹脂」)は、焼結時に焼成されて炭化し、非晶質の無定形炭素(炭)に変化するが(例えば、特開2010-105891号公報の段落【0009】を参照。)、この無定形炭素は、黒鉛のような結晶構造を持たず、他部材との摺動時に層状に剥離することはないため、焼成後に無定形炭素が軸受面に多量に存在すると、たとえ黒鉛量が増量されていても潤滑性の向上効果を達成することはできないこと、また、バインダの焼成で生じる無定形炭素は黒鉛に比べて硬質となるため、軸受面に多量の無定形炭素が存在すると、焼結後にサイジングを行っても無定形炭素が塑性変形しづらいため、精度の良い軸受面を得ることができないことが認識でき、バインダ量を少なくした造粒黒鉛粉を使用することで、焼結後に、軸受面に現れる無定形炭素を少なくして、軸受面に柔らかい黒鉛組織を多量に存在させることを可能にし、軸受面の潤滑性を向上させることができるとともに、サイジングによる寸法矯正を意義あるものとし、寸法や軸受性能のばらつきを小さくすることができることは、容易に理解することができると認められる。
なお、本件発明1~2には、軸受面における遊離黒鉛の割合を面積比で「28%よりも大きく、80%以下」とすることが特定されており、本件特許明細書の段落【0037】~【0044】に記載の、上記面積比が28%の「従来品」は、本件発明1~2から除かれている。
したがって、本件発明1~2は、発明の詳細な説明において、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えているとはいえない。
3 特許法第36条第6項第2号について
本件発明1~2は、製造方法に係る発明であるから、「物の発明に係る請求項にその物の製造方法が記載されている場合」には該当せず、特許を受けようとする発明が不明確であるとはいえない。
第6 むすび
以上のとおり、取消理由通知書に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、請求項1~2に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1~2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2019-700747