特許異議申立
2017-700971
焼結軸受およびその製造方法
- 審判番号
- 2017-700971
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2012-165844
- 登録番号
- 特許第6114512号(P6114512)
- 請求日
- 2017年10月11日
- 審決日
- 2018年06月29日
- 公報発行日
- 2018年10月26日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】NTN株式会社
- 【権利者代理人】城村 邦彦
- 【権利者代理人】熊野 剛
- 【異議申立人】一條 淳
- 審判長/審判官
- 審判長 中村 達之
- 審判官 内田 博之
- 審判官 小関 峰夫
- 分類
- P1651.121-YAA(F16C) / P1651.537-YAA(F16C) / P1651.851-YAA(F16C) / P1651.113-YAA(F16C)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第2号、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第2項第1号、特許法第29条、特許法第29条第1項第3号
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第6114512号発明「焼結軸受およびその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第6114512号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-3〕〔4-8〕について訂正することを認める。
特許第6114512号の請求項1ないし5、7及び8に係る特許を維持する。
特許第6114512号の請求項6についての特許異議申立を却下する。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
特許第6114512号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし8に係る特許についての出願は、平成24年7月26日に特許出願され、平成29年3月24日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、平成29年10月11日に特許異議申立人一條淳(以下、「異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、平成30年1月23日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成30年3月26日に意見書の提出及び訂正の請求があり、その訂正の請求に対して異議申立人から平成30年5月11日付けで意見書が提出されたものである。
第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
平成30年3月26日の訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)による訂正の内容は以下のとおりである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に
「軸受面における遊離黒鉛の割合を面積比で25%~80%とし、当該遊離黒鉛が、鱗状の黒鉛微粉を造粒してなり、かつ原料粉における配合割合を3重量%~15重量%とした造粒黒鉛粉を焼結することで形成されていることを特徴とする焼結軸受。」
とあるのを
「軸受面における遊離黒鉛の割合を面積比で25%~80%とし、当該遊離黒鉛が、鱗状の黒鉛微粉を造粒してなり、かつ原料粉における配合割合を3重量%~15重量%とした造粒黒鉛粉を焼結することで形成され、
前記造粒黒鉛粉の見かけ密度が、1.0g/cm3以下であり、
原料粉の軸方向圧縮で成形されており、
サイジングが施されていることを特徴とする焼結軸受。」
に訂正する。
(請求項1を引用する請求項2及び3についても同様に訂正する。なお、下線は特許権者が付したものである。(2)、(4)及び(5)の下線も同様。)
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項4に
「前記黒鉛粉として鱗状の黒鉛微粉を造粒してなる造粒黒鉛粉を用い、原料粉に、当該原料粉における割合が3重量%~15重量%となるように造粒黒鉛粉を配合し、
前記原料粉の成形後に焼結することで、軸受面に面積比で25%~80%の遊離黒鉛を形成することを特徴とする焼結軸受の製造方法。」
とあるのを
「前記黒鉛粉として鱗状の黒鉛微粉を造粒してなる造粒黒鉛粉を用い、原料粉に、当該原料粉における割合が3重量%~15重量%となるように造粒黒鉛粉を配合し、前記造粒黒鉛粉の見かけ密度が、1.0g/cm3以下であり、
前記原料粉を軸方向に圧縮することにより成形し、
前記原料粉の成形後に焼結することで、軸受面に面積比で25%~80%の遊離黒鉛を形成し、
前記焼結後にサイジングを施すことを特徴とする焼結軸受の製造方法。」
に訂正する。
(請求項4を引用する請求項5、7及び8についても同様に訂正する。)
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項6を削除する。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項7に
「焼結後に潤滑油を含浸させない請求項4~6の何れか1項に記載の焼結軸受の製造方法。」
とあるのを
「焼結後に潤滑油を含浸させない請求項4または5に記載の焼結軸受の製造方法。」
に訂正する。
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項8に
「焼結後に潤滑油を含浸させる請求項4~6の何れか1項に記載の焼結軸受の製造方法。」
とあるのを
「焼結後に潤滑油を含浸させる請求項4または5に記載の焼結軸受の製造方法。」
に訂正する。
2 訂正の目的の適否、一群の請求項、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
上記訂正事項1は、訂正前の特許請求の範囲の請求項1の「焼結軸受」の「造粒黒鉛粉」に関して「見かけ密度が、1.0g/cm3以下」であった旨を限定するとともに、「焼結軸受」に関して「原料粉の軸方向圧縮で成形されており、サイジングが施されている」状態であることを限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的としたものといえる。
そして、訂正前の特許請求の範囲の請求項6に「前記造粒黒鉛粉の見かけ密度を、1.0g/cm3以下とした」と記載され、明細書の発明の詳細な説明に「黒鉛の造粒粉の見かけ密度は、1.0g/cm3以下とするのが望ましい。」(段落【0014】)、「上下パンチ3c,3dを接近させて原料粉体を圧縮すると、原料粉末が、コア3aの外周面、ダイ3bの内周面、上パンチ3cの端面、および下パンチ3dの端面からなる成形面によって成形され、焼結軸受1に対応した形状(本実施形態では円筒状)の圧粉体4が得られる。」(段落【0027】)及び、「この焼結体にサイジングを施すことにより、図1に示す焼結軸受1が完成する。」(段落【0032】)と記載され、図2に、金型による圧粉体の軸方向圧縮での成形工程を示す断面図が記載されている。
したがって、上記訂正事項1は、願書に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内において、「造粒黒鉛粉」及び「焼結軸受」を限定したものといえるから、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
そして、訂正前の請求項2及び3は、訂正前の請求項1を直接引用するものであり、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。したがって、請求項1ないし3は、一群の請求項である。
よって、訂正事項1は、一群の請求項に対して請求されたものである。
上記訂正事項2は、訂正前の特許請求の範囲の請求項4の「焼結軸受の製造方法」に用いる「造粒黒鉛粉」に関して「見かけ密度が、1.0g/cm3以下」であるものに限定するとともに、「前記原料粉を軸方向に圧縮することにより成形し、」「前記焼結後にサイジングを施す」ことを限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的としたものといえる。
そして、訂正前の特許請求の範囲の請求項6に「前記造粒黒鉛粉の見かけ密度を、1.0g/cm3以下とした」と記載され、明細書の発明の詳細な説明に「黒鉛の造粒粉の見かけ密度は、1.0g/cm3以下とするのが望ましい。」(段落【0014】)、「上下パンチ3c,3dを接近させて原料粉体を圧縮すると、原料粉末が、コア3aの外周面、ダイ3bの内周面、上パンチ3cの端面、および下パンチ3dの端面からなる成形面によって成形され、焼結軸受1に対応した形状(本実施形態では円筒状)の圧粉体4が得られる。」(段落【0027】)及び、「この焼結体にサイジングを施すことにより、図1に示す焼結軸受1が完成する。」(段落【0032】)と記載され、図2に、金型による圧粉体の軸方向圧縮での成形工程を示す断面図が記載されている。
したがって、上記訂正事項2は、願書に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内において、「造粒黒鉛粉」及び「焼結軸受の製造方法」を限定したものといえるから、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
上記訂正事項3は、特許請求の範囲の請求項6を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的としたものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
上記訂正事項4及び5は、上記訂正事項3による請求項6の削除に伴い、訂正前の請求項7及び8が引用していた請求項から請求項6を削除したものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的としたものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
そして、訂正前の請求項5ないし8は、訂正前の請求項4を直接又は間接的に引用するものであり、訂正事項2によって記載が訂正される請求項4に連動して訂正されるものである。したがって、請求項4ないし8は、一群の請求項である。
よって、訂正事項2ないし5は、一群の請求項に対して請求されたものである。
また、訂正前の全請求項である請求項1ないし8に対して異議申立人から特許異議の申立てがされているので、「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正事項1ないし5に関して、特許独立要件は課されない。
3 小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1-3〕〔4-8〕について訂正することを認める。
第3 特許異議の申立てについて
1 本件発明
本件訂正請求により訂正された訂正請求項1ないし5、7及び8に係る発明(以下「本件発明1」ないし「本件発明5」、「本件発明7」及び「本件発明8」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1ないし5、7及び8に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
黒鉛粉と金属粉とを含む原料粉を成形および焼結して得られた焼結軸受において、
軸受面における遊離黒鉛の割合を面積比で25%~80%とし、当該遊離黒鉛が、鱗状の黒鉛微粉を造粒してなり、かつ原料粉における配合割合を3重量%~15重量%とした造粒黒鉛粉を焼結することで形成され、
前記造粒黒鉛粉の見かけ密度が、1.0g/cm3以下であり、
原料粉の軸方向圧縮で成形されており、
サイジングが施されていることを特徴とする焼結軸受。
【請求項2】
潤滑油を含浸させていない請求項1記載の焼結軸受。
【請求項3】
潤滑油を含浸させた請求項1記載の焼結軸受。
【請求項4】
黒鉛粉と金属粉とを含む原料粉を型で成形し、その後焼結して得られる焼結軸受の製造
方法であって、
前記黒鉛粉として鱗状の黒鉛微粉を造粒してなる造粒黒鉛粉を用い、原料粉に、当該原料粉における割合が3重量%~15重量%となるように造粒黒鉛粉を配合し、前記造粒黒鉛粉の見かけ密度が、1.0g/cm3以下であり、
前記原料粉を軸方向に圧縮することにより成形し、
前記原料粉の成形後に焼結することで、軸受面に面積比で25%~80%の遊離黒鉛を形成し、
前記焼結後にサイジングを施すことを特徴とする焼結軸受の製造方法。
【請求項5】
前記造粒黒鉛粉の平均粒径を、60μm~500μmとした請求項4に記載の焼結軸受の製造方法。
【請求項6】
(削除)
【請求項7】
焼結後に潤滑油を含浸させない請求項4または5に記載の焼結軸受の製造方法。
【請求項8】
焼結後に潤滑油を含浸させる請求項4または5に記載の焼結軸受の製造方法。」
2 取消理由の概要
訂正前の請求項1ないし5、7及び8に係る特許に対して平成30年1月23日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
本件特許の請求項1ないし5、7及び8に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物又は電気通信回線を通じて公衆が利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。
記
甲第1号証:特開平2-38540号公報
甲第2号証:特開2005-47760号公報
甲第3号証:特開2008-63663号公報
甲第4号証:「一般黒鉛粉末」、GRAPHITE POWDER[黒鉛粉末カタログ] 、日本黒鉛工業株式会社、2002年12月発行
3 甲第1号証ないし甲第5号証
(1)甲第1号証及び甲1発明
甲第1号証には、以下の事項が記載されている。(なお、下線は当審で付した。以下同様。)
ア「(1)固体潤滑剤に結合剤を添加して造粒して凝集粒子を作成し、該凝集粒子を金属粉末に添加して加圧成形し焼結することを特徴とする無給脂摺動材の製造方法。」(特許請求の範囲)
イ「(従来の技術)
従来のこの種の技術は例えば円筒状の軸受を製造する場合第3図(a)に示す様な円柱状の空隙を有する金型101とコア102の間に金属粉末、例えばCu90Wt%、Sn10Wt%からなる粉末103に固体潤滑剤として例えば黒鉛104を添加して、上パンチ105、下パンチ106により加圧して第3図(b)に示す様に成形した後、焼結している。」(第1ページ左欄第15行~右欄第3行)
ウ「以下、本発明の第1実施例について説明する。黒鉛粉に2Wt%水ガラスを添加して攪拌して粒径0.5~1.0mmに造粒した黒鉛4を、電解銅粉90Wt%、アトマイズSn粉10Wt%からなる金属粉末3に50vol%添加し、第1図に示す様な金型1の中心にマンドレル2を挿入し外側をラバー型5で包囲した型の中に充填し、冷間静水圧加圧法で3000kg/cm2加圧し、成形を行う。次に、アンモニア分解ガス雰囲気の焼結炉に入れて780℃で1時間焼結を行う。以上の様な本発明の方法で製造した摺動材と従来の方法で製造した摺動材の摺動面の50倍の顕微鏡組織写真で示すと第2図(a)は本発明の方法で製造したものを示し、第2図(b)は従来の方法で製造したものを示し、本発明の方法で製造したものは、大きな黒鉛(写真中黒色の部分)を金属粒子が包囲した顕微鏡組織となっているのに対して従来の方法で製造したものは、金属粒子は黒鉛により分断されている。従って、本発明の方法で製造した摺動材は強度が高いのに対して従来の方法で製造した摺動材は強度が低い結果となる。」(第2ページ左上欄第7行~右上欄第7行)
)
エ「造粒黒鉛
・天然黒鉛に2Wt%水ガラスを添加して造粒し、粒径0.05mm以下、0.05~1.0mm、1.0mm以上の3種類に篩分けする。
これらの粉末を第1表の成分に混合した粉末をV型混合機で混合する。」(第2ページ右上欄第16行~左下欄第2行)
オ 第1表(第2ページ左下欄)の、供試材No.1の成分は、鉄粉末Bal、天然黒鉛粉末添加量2.0%、0.05mm以下の造粒黒鉛添加量5%である旨が記載され、供試材No.2の成分は、鉄粉末Bal、天然黒鉛粉末添加量2.0%、0.05mm以下の造粒黒鉛添加量10%である旨が記載されている。
カ「径0.05mm以下の造粒黒鉛を使用した供試材は摩擦係数が高く、摩耗量も多い。
又、径1.0mm以上の造粒黒鉛を使用した供試材は摩擦係数は低いが摩耗量が多い。造粒黒鉛の添加量5%では摩擦係数が大きく、又50%を越えると摩耗量が多くなる。
次に、黒鉛の造粒にフェノール樹脂を使用して第2実施例と同じ条件で供試料の顕微鏡写真を第6図(a),(b)に、黒鉛の造粒に水ガラスを使用した供試料の顕微鏡写真を第7図(a),(b)に示す。」(第3ぺージ右上欄第1行~第11行)
キ 上記記載事項オから、供試材No.1により焼結軸受を作成する場合、原料粉における造粒黒鉛の配合割合は5%であり、供試材No.2により焼結軸受を作成する場合、原料粉における造粒黒鉛の配合割合は10%であると認められる。
ク 上記記載事項ウの「第1図に示す様な金型1の中心にマンドレル2を挿入し外側をラバー型5で包囲した型の中に充填し、冷間静水圧加圧法で3000kg/cm2加圧し、成形を行う。」との記載から、供試材No.1、2、6、7により焼結軸受を作成する場合、原料粉の径方向圧縮で成形されるものと認められる。
したがって、上記記載事項及び認定事項を総合し、本件発明1及び本件発明4の記載ぶりに則って整理すると、甲第1号証には、次の発明(以下、「甲1発明1」及び「甲1発明2」という。)が記載されていると認められる。
[甲1発明1]
「造粒黒鉛4と鉄粉末とを含む原料粉を成形および焼結して得られた軸受において、
軸受の摺動面における固体潤滑剤としての黒鉛が、天然黒鉛に2Wt%水ガラスを添加して造粒してなり、かつ原料粉における配合割合が5%又は10%とした造粒黒鉛4を焼結することで形成され、
原料粉の径方向圧縮で成形されている軸受。」
[甲1発明2]
「造粒黒鉛4と鉄粉末とを含む原料粉を金型1で成形し、その後焼結して得られる軸受の製造方法であって、
前記造粒黒鉛4として天然黒鉛を造粒してなる造粒黒鉛4を用い、原料粉に、当該原料粉における割合が5%又は10%となるように造粒黒鉛4を配合し、
前記原料粉を径方向に圧縮するこにより成形し、
前記原料粉の成形後に焼結することで、軸受の摺動面に固体潤滑剤としての黒鉛を形成する軸受の製造方法。」
(2)甲第2号証
甲第2号証には、以下の事項が記載されている。
ア「【0002】
粉末冶金材料への黒鉛添加手段として銅被覆黒鉛が知られている。この銅被覆黒鉛は、銅被覆層が当該材料のマトリックス成分と焼結することで、黒鉛単独に比べて高い強度が得られる利点があり、軸受材料を中心に使用されている。
一般に、焼結軸受材料に潤滑助剤の目的で添加する黒鉛には、鱗片状の天然黒鉛が多く使用されるが、鱗片状であるその形状に起因して見掛密度が低く、嵩があるために、マトリックス成分粉末との混合において分散性が悪く偏析が生じやすいという問題がある。
特に、マトリックス成分粉末がアトマイズ粉による球状粉末のように高見掛密度である場合、銅被覆黒鉛との見掛密度の差が大きいために分散性がより悪化する。」
イ「【0005】
本発明者らは、上記問題点を解決するために、原料粉末及び被覆に使用するめっき液の条件を種々検討した結果、ニカワの添加が著しい見掛密度及びタップ密度を改善できるとの知見を得た。
本発明はこの知見に基づいて、
(1)見掛密度:0.75~0.95g/cm3、タップ密度:1.1~1.3g/cm3であることを特徴とする銅被覆黒鉛粉末(省略)」
ウ「【0014】
と
表1の実施例1~5に示すように、ニカワを0.5~5.0g/L添加したものについては、見掛密度が0.78~0.95g/cm3となり、またタップ密度も1.19~1.28g/cm3となり、ニカワの添加量の増加と共に、上昇した。また、上記分散性については、偏析がなく、いずれも良好である結果が得られた。(省略)」
(2)甲第3号証
甲第3号証には、以下の事項が記載されている。
ア「【請求項1】
Cu合金相を母相として、2.0~35重量%のAlと、25重量%以下のCuと、0.05~1.5重量%のCと、5~40重量%のCoと、5~40重量%のNiと、0.05~5.0重量%のSi、Mn、Ni、Cr、Mo、V、Ti、P、Co、Snの一種以上を含有するFe合金相が、5~50重量%分散されてなる焼結組織からなることを特徴とする銅系焼結摺動材料。
【請求項2】
前記Cu合金相において、Al、Sn、Tiの一種以上を含有し、Cu-Al状態図中に記載されるβ相および/またはその変態相を含んでいる請求項1に記載の銅系焼結摺動材料。
【請求項3】
前記銅系焼結摺動材料中に分散するFe合金相が、マルテンサイト、ベイナイト、粒状セメンタイトの一種以上の組織からなっている請求項1または2に記載の銅系焼結摺動材料。
【請求項4】
気孔率が3~30体積%に調整され、各気孔に潤滑油が含浸されている請求項1~3のいずれかに記載の銅系焼結摺動材料。
【請求項5】
黒鉛、MoS2、WS2、MnS、CaF2等の固体潤滑剤および/またはMo、W等の金属粒子、酸化物、炭化物、窒化物等のセラミックス、超硬、サーメット、高速度鋼粉末等の炭化物、窒化物を含有する硬質分散材、さらにはFeCo、NiAl、TiAl、NiSi、NiTi等の金属間化合物の一種以上が含有されている請求項1~4のいずれかに記載の銅系焼結摺動材料。
【請求項6】
少なくとも2~9重量%の造粒された黒鉛が分散され、さらに0.1~5重量%のMoS2、WS2、MnSが分散されている請求項5に記載の銅系焼結摺動材料。」
イ「【0058】
また、気孔中に含油する潤滑油の粘性は、使用条件によって種々変えることができる(例えばISO粘度等級100~1500)が、例えば作業機ブッシュのような高面圧、低摺動特性で使用する場合にはより高粘度な潤滑油を含浸することが好ましく、また耐熱性の高い合成潤滑油やそれと2~10質量%のワックス類を溶融させたもの等を含油しても良い。」
ウ「【0061】
なお、固体潤滑剤である黒鉛を鉄系焼結摺動材料中に分散させた場合には、0.06~1mmの粒径が主体となる黒鉛に対して、前述の45μm以下の微細な鉄系粉末を用いて黒鉛粒子を取り囲むことが好ましい。また、固体潤滑剤となる黒鉛は造粒等の手段で粒状に調整されることが好ましい。」
エ「【0065】
前記第5発明においては、少なくとも2~9質量%の造粒された黒鉛が分散され、さらに0.1~5質量%のMoS2、WS2、MnSが分散されているのが良い(第6発明)。」
オ「【0143】
溶浸後の鉄系焼結材料の寸法変化率と気孔率が表9に示されているが、いずれの場合も顕著な膨張を示し、気孔率は焼結体強度の観点からは十分密度の高いものが得られることがわかる。特に、先の実施例5と同様の方法で固体潤滑用の造粒黒鉛を添加した材料にとっては好ましい摺動材料になることは明らかである。」
(4)甲第4号証
甲第4号証には、以下の事項が記載されている。
ア「(1)鱗状黒鉛粉末
潤滑性・成形性・導電性に優れる鱗粉黒鉛を、各種用途に応じて粒度別にシリーズ化し、豊富なラインアップを取り揃えております。
CPシリーズ
粉末冶金・鉛芯・小型ブラシ・電池用導電材等に適した粒度を持つシリーズで、粗粒分が少なく潤滑性・成形性に優れています。
CBシリーズ
ブラシ・ブレーキパッド・粉末冶金・軸受け等の用途に適した粒度を持つシリーズで、潤滑性・導電性に優れています。 」(一般黒鉛粉末の項目の筆頭ページ)
イ CBシリーズの表の、製品名CB-100の見掛密度の欄には0.36g/cm3 と記載され、製品名CB-150の見掛密度の欄には0.28g/cm3 と記載されている。
(5)甲第5号証及び甲5発明
特許異議申立書に記載された甲第5号証(特開平11-117044号公報)には、以下の事項が記載されている。
ア「【請求項1】 重量%で、
C:1~3%、 S:0.05~1%、
B:0.05~1%、 Cu:0.5~4%、
Mn:0.4~2%、
を含有し、残りがFeと不可避不純物からなる組成、並びに実質的にパーライト相、ベーナイト相、およびマルテンサイト相のうちの少なくともいずれかからなる主体相と、析出遊離黒鉛と、フェライト相と、気孔からなる組織を有し、これらの割合が、光学顕微鏡による組織観察で、
析出遊離黒鉛:5~35面積%、
フェライト相:3~20面積%、
気孔:2~15面積%、
主体相:残り、
を満足する遊離黒鉛析出型鉄系焼結材料で構成したことを特徴とする初期なじみ性のすぐれた遊離黒鉛析出型鉄系焼結材料製軸受。」
イ「【0004】
【課題を解決するための手段】そこで、本発明者等は、上述のような観点から、高荷重高速摩擦条件下でもすぐれた初期なじみ性を示す軸受を開発すべく、特に強度と耐摩耗性のすぐれた上記の従来黒鉛析出材料に着目し、研究を行なった結果、予め所定のS含有量としたアトマイズドFe-S合金粉末に、所定量の銅粉、さらに必要に応じてNi粉末および/またはMo粉末を配合し、混合した後、これを拡散焼鈍炉で所定温度に所定時間保持して、前記Fe-S合金粉末の表面に銅粉、さらに必要に応じてNi粉末および/またはMo粉末が均等に分散分布した状態で、前記表面部に部分拡散付着した部分拡散合金化粉末とし、これに所定量のB源としての六方晶窒化硼素(以下、hBNで示す)粉末、および所定量の黒鉛粉末とFe-Mn合金粉末を配合し、潤滑剤として0.75%のステアリン酸亜鉛を添加して混合して混合粉末とし、この混合粉末を用いて加圧成形した圧粉体を、還元性雰囲気中、相対的に高い焼結温度である1100~1250℃の範囲内の所定温度に加熱して、前記部分拡散合金化粉末に黒鉛粉末を十分に固溶させ、さらにFe-Mn合金粉末および銅粉、必要に応じてNi粉末および/またはMo粉末も固溶させ、この状態から望ましくは40℃/min.以下の冷却速度で冷却する焼結を施すことにより軸受を製造すると、前記BおよびSが、前記焼結温度で固溶した黒鉛を冷却時に遊離黒鉛として析出するのを著しく促進するように作用し、一方MnはCuとの共存においてフェライト相の形成を促進し、Cuはそのまま固溶して強度の向上にも寄与し、さらに必要に応じて含有されるNiおよびMoもそれぞれ固溶して靭性および強度を向上させることから、製造された軸受は、実質的にパーライト相、ベーナイト相、およびマルテンサイト相のうちの少なくともいずれかからなる主体相と、析出遊離黒鉛と、フェライト相と、気孔からなる組織を有する黒鉛析出材料で構成されるようになり、この結果基本的に前記主体相と析出遊離黒鉛によって高強度とすぐれた耐摩耗性が確保され、また特に前記フェライト相によってすぐれた初期なじみ性が確保されることから、高荷重高速摩擦条件下でもすぐれた軸受性能を長期に亘って発揮するという研究結果を得たのである。」
ウ【表1】(段落【0015】)の種別本発明軸受3において、配合組成「C」の欄に「3」(重量%)と記載され、組織の「析出遊離黒鉛」の欄に「35」(面積%)と記載されている。そして、記載事項アの「光学顕微鏡による組織観察で、析出遊離黒鉛:5~35面積%」との記載から、軸受面における析出遊離黒鉛の割合は面積比で35%であると認められる。
したがって、上記記載事項及び認定事項を総合し、本件発明1及び本件発明4の記載ぶりに則って整理すると、甲第5号証には、次の発明(以下、「甲5発明1」及び「甲5発明2」という。)が記載されていると認められる。
[甲5発明1]
「黒鉛粉末と部分拡散合金化粉末とを含む混合粉末を成形及び焼結して得られた鉄系焼結材料製軸受において、
軸受面における析出遊離黒鉛の割合を面積比で35%とした鉄系焼結材料製軸受。」
[甲5発明2]
「黒鉛粉末と部分拡散合金化粉末とを含む混合粉末を加圧成形し、その後焼結して得られる鉄系焼結材料製軸受の製造方法であって、
前記混合粉末の加圧成形後に焼結することで、軸受面に面積比で35%の析出遊離黒鉛を形成した鉄系焼結材料製軸受の製造方法。」
4 判断
(1)取消理由通知に記載した取消理由(特許法第29条第2項)について
ア 本件発明1
本件発明1と甲1発明1とを対比すると、甲1発明1の「造粒黒鉛4」は、本件発明1の「黒鉛粉」及び「造粒黒鉛粉」に相当し、以下同様に、「鉄粉末」は「金属粉」に、「焼結して得られた軸受」は「焼結して得られた焼結軸受」に、「軸受の摺動面における固体潤滑剤としての黒鉛」は「軸受面における遊離黒鉛」に、「天然黒鉛」は「黒鉛微粉」に、それぞれ相当する。
したがって、本件発明1と甲1発明1とは、
「黒鉛粉と金属粉とを含む原料粉を成形および焼結して得られた焼結軸受において、
軸受面における遊離黒鉛が、造粒黒鉛粉を焼結することで形成されている焼結軸受。」の点で一致し、以下の相違点1ないし5で相違する。
[相違点1]
本件発明1は「軸受面における遊離黒鉛の割合を面積比で25%~80%とし」ているのに対し、甲1発明1は、軸受の摺動面における固体潤滑剤としての黒鉛の面積比は不明である点。
[相違点2]
本件発明1は「遊離黒鉛が、鱗状の黒鉛微粉を造粒してなり、かつ原料粉における配合割合を3重量%~15重量%とした造粒黒鉛粉を焼結することで形成され」るのに対し、甲1発明1は、「固体潤滑剤としての黒鉛が、天然黒鉛に2Wt%水ガラスを添加して造粒してなり、かつ原料粉における配合割合が5%又は10%とした造粒黒鉛4を焼結することで形成され」る点。
[相違点3]
本件発明1は「前記造粒黒鉛粉の見かけ密度が、1.0g/cm3以下」であるのに対し、甲1発明1の造粒黒鉛4の見かけ密度は不明である点。
[相違点4]
本件発明1は「軸方向圧縮で成形されて」いるのに対し、甲1発明は「径方向圧縮で成形されて」いる点。
[相違点5]
本件発明1は「サイジングが施されている」のに対し、甲1発明はサイジングが施されていない点。
なお、甲第1号証の第2図(a)には、黒色で示された黒鉛の面積率が、異議申立人の特許異議申立書の第8ページ末行に記載のとおり「約62%」のものが記載されているが、この第2図(a)は、「粒径0.5~1.0mmに造粒した黒鉛4を、電解銅粉90Wt%、アトマイズSn粉10Wt%からなる金属粉末3に50vol%添加」したものであって、供試材No.1、2のいずれかのものではないので、ここでは相違点1のとおり認定した。
また、甲第1号証の第1表の「天然黒鉛粉末添加量%」の欄は、重量%の数値であるか体積%の数値であるかが不明であるから、ここでは相違点2のとおり認定した。
事案に鑑み、相違点3について検討する。
甲第2号証の記載からは、鱗粉状の天然黒鉛に銅をめっきした同被膜黒鉛粉末の見掛密度が0.75~0.95g/cm3であることが理解でき、甲第4号証の記載からは、軸受けの用途に適したCBシリーズの鱗状黒鉛粉末の見掛密度が0.36g/cm3及び0.28g/cm3であることが理解できる。
また、異議申立人による平成30年5月11日付け意見書に添付された参考資料1(特開昭51-50925号公報)には、黒鉛粉末とタールピッチの混合物を黒鉛化し粉砕造粒した造粒黒鉛の見掛比重が0.26である実施例6(第7ページ右上欄第18行~左下欄第13行)等が記載されており、参考資料2(特開2007-242282号公報)には、天然黒鉛を攪拌混合により造粒した造粒黒鉛のかさ密度が0.96g/cm3 より小さいものが表3(段落【0029】~【0032】)に記載されており、参考資料3(特開2003-128405号公報)には、天然黒鉛粉末を造粒した造粒黒鉛の嵩密度が0.67ないし0.72であるものが表1(段落【0043】~【0066】及び【0073】)の実施例に記載されている。
しかしながら、甲1発明1における黒鉛が水ガラスを添加して造粒してなるものであるのに対して、甲第2号証、甲第4号証及び参考資料1ないし3の記載は、いずれも水ガラスを添加して造粒した造粒黒鉛の見かけ密度を示すものではない。
また、甲第1号証、甲第3号証、参考資料4(「焼結機械部品-その設計と製造-」、327~328ページ及び341~342ページ、日本粉末冶金工業会編著、昭和62年10月20日 第1版第1刷発行)、参考資料5(特開2003-328060号公報)のいずれにも、水ガラスを添加して造粒した造粒黒鉛の見かけ密度についての記載はない。
そして、見かけ密度が1.0g/cm3以下の造粒黒鉛粉を焼結軸受の固体潤滑剤とすることは、甲第1~4号証及び参考資料1~5のいずれにも記載ないし示唆されていない。
そうすると、甲1発明1の「天然黒鉛に2Wt%水ガラスを添加して造粒」した「造粒黒鉛4」の見かけ密度を「1.0g/cm3以下」とすることは、甲第1~4号証及び参考資料1~5に記載された事項に基づいて当業者が容易になし得たとはいえない。
また、特許異議申立書の「鱗状黒鉛粉末を造粒してもその見かけ密度は大きく変動することはないから、造粒した鱗状黒鉛粉末の見かけ密度が1.0g/cm3以下となるのは、当然のことである。」との主張は、技術的な裏付けがなく、採用できない。
したがって、相違点1、2、4及び5について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明1並びに甲第1~4号証及び参考資料1~5に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
イ 本件発明2及び3
本件発明2及び3は、本件発明1の全ての発明特定事項を含み、さらに限定を加えた発明であるので、上記アで示した理由と同様の理由により、甲1発明1並びに甲第1~4号証及び参考資料1~5に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ウ 本件発明4
本件発明4と甲1発明2とを対比すると、少なくとも本件発明4は「前記造粒黒鉛粉の見かけ密度が、1.0g/cm3以下であり、」という構成を有しているのに対して、甲1発明2はこのような構成を備えていない点で(以下、「相違点6」という。)で相違する。
そして、当該相違点6は上記アで検討した相違点3と同様の内容である。
したがって、上記アで示した理由と同様の理由により、本件発明4は、甲1発明2並びに甲第1~4号証及び参考資料1~5に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
エ 本件発明5、7及び8
本件発明5、7及び8は、本件発明4の全ての発明特定事項を含み、さらに限定を加えた発明であるので、上記ウで示した理由と同様の理由により、甲1発明2並びに甲第1~4号証及び参考資料1~5に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(2)取消理由通知において採用しなかった特許異議の申し立ての理由について
ア 特許法第29条1項3号
異議申立人は、特許異議申立書において、訂正前の請求項1ないし8に係る発明は、甲第1号証に記載された発明又は甲第5号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである旨主張している。(第17ページ第11ないし14行、第23ページ第5ないし8行等参照。)
(ア)本件発明1
本件発明1と甲1発明1とを対比すると、上記(1)アのとおり、少なくとも上記相違点3で相違する。
そして、焼結軸受の技術分野において、造粒黒鉛粉の見かけ密度を1.0g/cm3以下とすることが技術常識とは認められないから、上記相違点3は実質的なものと認められる。
したがって、本件発明1は、甲1発明1と同一ではない。
また、本件発明1と甲5発明1とを対比すると、少なくとも本件発明1は「前記造粒黒鉛粉の見かけ密度が、1.0g/cm3以下」という構成を有しているのに対して、甲5発明1はこのような構成を備えていない点(以下、「相違点7」という。)で相違する。
そして、焼結軸受の技術分野において、造粒黒鉛粉の見かけ密度を1.0g/cm3以下とすることが技術常識とは認められないから、上記相違点7は実質的なものと認められる。
したがって、本件発明1は、甲5発明1と同一ではない。
(イ)本件発明2及び3
本件発明2及び3は、本件発明1の全ての発明特定事項を含み、さらに限定を加えた発明であるので、上記(ア)で示した理由と同様の理由により、本件発明2及び3は甲1発明1と同一ではなく、また甲5発明と同一ではない。
(ウ)本件発明4
本件発明4と甲1発明2とを対比すると、上記(1)ウのとおり、少なくとも上記相違点6で相違する。
そして、焼結軸受の技術分野において、造粒黒鉛粉の見かけ密度を1.0g/cm3以下とすることが技術常識とは認められないから、上記相違点6は実質的なものと認められる。
したがって、本件発明4は、甲1発明2と同一ではない。
また、本件発明4と甲5発明2とを対比すると、少なくとも本件発明4は「前記造粒黒鉛粉の見かけ密度が、1.0g/cm3以下であり、」という構成を有しているのに対して、甲5発明2はこのような構成を備えていない点(以下、「相違点8」という。)で相違する。
そして、焼結軸受の技術分野において、造粒黒鉛粉の見かけ密度を1.0g/cm3以下とすることが技術常識とは認められないから、上記相違点8は実質的なものと認められる。
したがって、本件発明4は、甲5発明2と同一ではない。
(エ)本件発明5、7及び8
本件発明5、7及び8は、本件発明4の全ての発明特定事項を含み、さらに限定を加えた発明であるので、上記(ウ)で示した理由と同様の理由により、本件発明5、7及び8は甲1発明2と同一ではなく、また甲5発明2と同一でない。
(オ)小括
したがって、本件発明1ないし5、7及び8は、甲第1号証に記載された発明と同一ではなく、甲第5号証に記載された発明と同一ではない。
イ 特許法第29条第2項
異議申立人は、特許異議申立書において、訂正前の請求項1ないし8に係る発明は、甲第5号証に記載された発明及び甲第1ないし4号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきである旨主張している。(第22ページ第7行ないし第24ページ第2行参照。)
(ア)本件発明1
本件発明1と甲5発明1とを対比すると、上記ア(ア)のとおり、少なくとも上記相違点7で相違する。
そして、この相違点7は、上記(1)アで検討した相違点3と同じ内容であり、甲第1~4号証及び参考資料1~5には、相違点7に係る本件発明1の構成は記載ないし示唆されてはいないと認められる。
そうすると、甲5発明1の「黒鉛粉末」を「造粒黒鉛粉」とし、「前記造粒黒鉛粉の見かけ密度が、1.0g/cm3以下」とすることは、当業者といえども甲第1~4号証及び参考資料1~5に記載された事項に基いては、容易になし得たとはいえない。
したがって、本件発明1は、甲5発明1並びに甲第1~4号証及び参考資料1~5に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(イ)本件発明2及び3
本件発明2及び3は、本件発明1の全ての発明特定事項を含み、さらに限定を加えた発明であるので、上記(ア)で示した理由と同様の理由により、甲5発明1並びに甲第1~4号証及び参考資料1~5に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(ウ)本件発明4
本件発明4と甲5発明2とを対比すると、上記ア(ウ)のとおり、少なくとも上記相違点8で相違する。
そして、この相違点8は、上記(1)ウで検討した相違点6と同じ内容であり、甲第1~4号証及び参考資料1~5には、相違点8に係る本件発明4の構成は記載ないし示唆されてはいないと認められる。
そうすると、甲5発明5の「黒鉛粉末」を「造粒黒鉛粉」とし、「前記造粒黒鉛粉の見かけ密度が、1.0g/cm3以下」とすることは、当業者といえども甲第1~4号証及び参考資料1~5に記載された事項に基いては、容易になし得たとはいえない。
したがって、本件発明4は、甲5発明2並びに甲第1~4号証及び参考資料1~5に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(エ)本件発明5、7及び8
本件発明5、7及び8は、本件発明4の全ての発明特定事項を含み、さらに限定を加えた発明であるので、上記(ウ)で示した理由と同様の理由により、甲5発明2並びに甲第1~4号証及び参考資料1~5に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(オ)小括
したがって、本件発明1ないし5、7及び8は、甲第5号証に記載された発明並びに甲第1~4号証及び参考資料1~5に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ウ 特許法第36条第6項第2号
(ア)異議申立人は、特許異議申立書において、本件発明1ないし3は、焼結軸受という物の発明であるにもかかわらず、特許請求の範囲の請求項1には「黒鉛粉と金属粉とを含む原料粉を成形および焼結して得られた」、「造粒黒鉛粉を焼結することで形成され」と記載され、請求項2には「潤滑油を含浸させていない」と記載され、請求項3には「潤滑油を含浸させた」と記載され、これらの記載は製造方法により限定する記載であって、特許を受けようとする発明が明確ではないので、特許法第36条第6項第2号に適合しないので、その発明に係る特許は取り消すべきである旨主張している。(第24ページ第9行ないし第17行参照。)
しかしながら、請求項1の「黒鉛粉と金属粉とを含む原料粉を成形および焼結して得られた」、「造粒黒鉛粉を焼結することで形成され」との記載、請求項2の「潤滑油を含浸させていない」との記載及び請求項3の「潤滑油を含浸させた」との記載は、いずれも物の状態を限定する記載であり、特許を受けようとする発明は明確であるから、特許法第36条第6項第2号の要件を満たしている。
(イ)異議申立人は、特許異議申立書において、特許請求の範囲の請求項1及び4には「鱗状」と記載され、このような一般的な用語では、どのような形状を示しているのか不明であり、「鱗状」に関し発明の詳細な説明にも何ら記載がなされておらず、特許を受けようとする発明が明確ではないので、特許法第36条第6項第2号に適合しないので、その発明に係る特許は取り消すべきである旨主張している。(第24ページ第18行ないし第21行参照。)
しかしながら、甲第4号証にも「鱗状黒鉛粉末」「鱗状黒鉛」と記載されているように、当該技術分野において「鱗状」という用語は普通に使われる用語であり、当業者にとって「鱗状」という用語の意味は明確であるから、請求項1及び4の「鱗状の黒鉛微粉」という記載の「鱗状」の意味も明確であり、特許を受けようとする発明は明確であるから、特許法第36条第6項第2号の要件を満たしている。
エ 特許法第36条第6項第1号
異議申立人は、特許異議申立書において、
「本件特許の請求項1及び4では、「当該遊離黒鉛が、・・・原料粉における配合割合を3重量%~15重量%」となっているが、本件の図3~図8では、本発明品および従来品とも黒鉛の配合割合が全く記載されていない。
本件特許の請求項1では、黒鉛量および黒鉛面積比が範囲で示されているにもかかわらず、図3~8ではそれらに関する記載はないので、このような測定結果がどのような黒鉛の配合割合の時に生じるのかは全く不明である。 したがって、本件の特許請求の範囲に記載された発明が発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえないものである。」とし、特許法第36条第6項第1号に適合しないので、その発明に係る特許は取り消すべきである旨主張している。(第24ページ第22行ないし第25ページ第4行参照。)
しかしながら、原料粉における配合割合に関して、明細書の発明の詳細な説明には
「[配合比]
上記各粉末を公知の混合機で均一に混合することで原料粉が得られる。原料粉に対する黒鉛粉の配合割合は3重量%~15重量%とする(望ましくは5重量%~12重量%)。」(段落【0026】)
と記載されており、請求項1及び4の「当該遊離黒鉛が、・・・原料粉における配合割合を3重量%~15重量%」は、発明の詳細な説明に記載したものといえるから、特許法第36条第6項第1号の要件を満たしている。
第4 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1ないし5、7及び8に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1ないし5、7及び8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、本件の請求項6は本件訂正請求による訂正により削除されたため、請求項6についての特許異議申立を却下する。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2017-700971