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特許異議申立

2019-700419

立体造形用粉末材料、及び立体造形用セット、並びに、立体造形物の製造方法及び製造装置

審判番号
2019-700419
法域
特許
審判種別
異議申立(異議の決定)
出願番号
特願2014-256069
登録番号
特許第6428241号(P6428241)
請求日
2019年05月23日
審決日
2020年02月25日
公報発行日
2020年05月29日
結論
訂正認容
当事者
  • 【権利者】株式会社リコー
  • 【権利者代理人】廣田 浩一
  • 【異議申立人】エボニック デグサ ゲーエムベーハー
  • 【異議申立人代理人】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
  • 【異議申立人代理人】篠 良一
審判長/審判官
  • 審判長 加藤 友也
  • 審判官 渕野 留香
  • 審判官 大島 祥吾
分類
P1651.113-YAA(B29C) / P1651.121-YAA(B29C) / P1651.536-YAA(B29C) / P1651.537-YAA(B29C)
条文(本文から自動抽出・参考)
特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第113条第2号、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第5項、特許法第120条の5第4項、特許法第120条の5第2項、特許法第36条第4項第1号、特許法第120条の8第1項
データ出所
審決公報(SGML)

事件の表示

特許第6428241号発明「立体造形用粉末材料、及び立体造形用セット、並びに、立体造形物の製造方法及び製造装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。

結論

【結 論】 特許第6428241号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~11〕について訂正することを認める。 特許第6428241号の請求項1、2及び5~11に係る特許を維持する。 特許第6428241号の請求項3及び4に係る特許についての本件特許異議の申立てを却下する。

理由

【理 由】 第1 手続の経緯及び本件発明 特許第6428241号(以下「本件特許」という。)に係る出願は、平成26年12月18日を出願日とする特許出願に係るものであって、平成30年11月9日に特許権の設定登録(請求項の数11)がされ、同年11月28日に特許掲載公報が発行された。 その後、特許異議申立人 エボニック デグサ ゲーエムベーハー(以下、「申立人」という。)により、令和1年5月24日付け(受理日は令和1年5月27日)で、請求項1~11に係る本件特許について、特許異議申立書が提出された。 令和1年7月31日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である同年10月3日に、特許権者から意見書及び訂正請求書の提出があった。 令和1年10月30日付けで申立人に対して特許法第120条の5第5項の規定に基づく通知を行ったものの、申立人から何らの応答はなされなかった。 第2 訂正の適否についての判断 1.請求の趣旨 令和1年10月3日に特許権者が行った訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)は、「特許第6428241号の明細書及び特許請求の範囲を、本訂正請求書に添付した訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1乃至11について訂正することを求める」ことを請求の趣旨とするものである。 2.訂正の内容 本件訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、以下のとおりである。なお、訂正箇所を分かりやすく対比するために、当審において下線を付与した。 (1)訂正事項1 請求項1に 「前記樹脂として、下記一般式1で示される官能基を有する樹脂を含む」と記載されているのを、「前記樹脂が、ダイアセトンアクリルアミド変性ポリビニルアルコール又はダイアセトンアクリルアミドーアクリル共重合体であり、前記樹脂の平均重合度が300~2000である」に訂正し、請求項1に「[一般式1]・・・いずれかを表す。」と記載されているのを削除する。 請求項1の記載を引用する請求項2、5~11も同様に訂正する。 (2)訂正事項2 請求項2に、「前記一般式1で示される官能基を有する水溶性樹脂」と記載されているのを、「水溶性樹脂」に訂正する。 請求項2の記載を引用する請求項5~11も同様に訂正する。 (3)訂正事項3 請求項3を削除する。 (4)訂正事項4 請求項4を削除する。 (5)訂正事項5 請求項5に、「請求項1から4」と記載されているのを、「請求項1から2」に訂正する。 (6)訂正事項6 請求項6に、「請求項1から5」と記載されているのを、「請求項1、2及び5」に訂正する。 (7)訂正事項7 請求項7に、「下記一般式1で示される官能基」と記載されているのを、「ダイアセトンアクリルアミド基」に訂正し、「[一般式1]・・・いずれかを表す。」と記載されているのを削除する。 請求項7を引用する請求項8も同様に訂正する。 (8)訂正事項8 請求項8に、「前記一般式1で示される官能基を有する水溶性樹脂」と記載されているのを、「水溶性樹脂」に訂正する。 (9)訂正事項9 請求項9に、「請求項1から5」と記載されているのを、「請求項1、2及び5」に訂正する。 請求項9の記載を引用する請求項10も同様に訂正する。 (10)訂正事項10 請求項11に、「請求項1から5」と記載されているのを、「請求項1、2及び5」に訂正する。 (11)訂正事項11 明細書の【0006】に、「前記樹脂として、下記一般式1で示される官能基を有する樹脂」と記載されているのを、「前記樹脂として、ダイアセトンアクリルアミド変性ポリビニルアルコール又はダイアセトンアクリルアミド-アクリル共重合体」に訂正し、「[一般式1]・・・いずれかを表す。」を削除する。 (12)訂正事項12 明細書の【0010】に、「前記一般式1で示される官能基を有する樹脂であり、前記一般式1で示される官能基を有する樹脂が好ましく、前記一般式1で示される官能基を有するポリビニルアルコール(PVA)がより好ましく、ダイアセトンアクリルアミド変性ポリビニルアルコールが特に好ましい」と記載されているのを、「前記ダイアセトンアクリルアミド変性ポリビニルアルコール又はダイアセトンアクリルアミド-アクリル共重合体である」に訂正する。 (13)訂正事項13 明細書の【0016】に、「下記一般式1で示される官能基を有する樹脂」と記載されているのを、「ダイアセトンアクリルアミド変性ポリビニルアルコール又はダイアセトンアクリルアミド-アクリル共重合体」に訂正し、「「一般式1]・・・であることが好ましい。」を削除する。 (14)訂正事項14 明細書の【0017】に、「前記一般式1で示される官能基を有する樹脂」と記載されているのを、「前記ダイアセトンアクリルアミド変性ポリビニルアルコール又はダイアセトンアクリルアミド-アクリル共重合体」に訂正する。 (15)訂正事項15 明細書の【0018】に、「前記一般式1で示される官能基を有する樹脂」と記載されているのを、「前記ダイアセトンアクリルアミド変性ポリビニルアルコール又はダイアセトンアクリルアミド-アクリル共重合体」に訂正する。 (16)訂正事項16 明細書の【0019】に、「前記一般式1で示される官能基を有する樹脂」と記載されているのを、「前記ダイアセトンアクリルアミド変性ポリビニルアルコール又はダイアセトンアクリルアミド-アクリル共重合体」に訂正し、「例えば、前記一般式1で示される官能基を有するモノマー」と記載されているのを、「例えばジアセトンアクリルアミド」に訂正する。 (17)訂正事項17 明細書の【0020】に、「前記一般式1で示される官能基を有するモノマーとしては、例えば、ジアセトンアクリルアミド、ジアセトンメタクリルアミド、ジアセトンアクリレート、ジアセトンメタクリレートなどが挙げられる。これらの中でも、立体造形物の強度向上効果が大きい点から、ジアセトンアクリルアミドが好ましい。」と記載されているのを、「立体造形物の強度向上効果が大きい点から、前記ジアセトンアクリルアミドは好ましい。」に訂正する。 (18)訂正事項18 明細書の【0021】に、「前記樹脂としては、前記一般式1で示される官能基を有する水溶性樹脂が好ましく、前記一般式1で示される官能基を有するポリビニルアルコールがより好ましく、ダイアセトンアクリルアミド変性ポリビニルアルコールが特に好ましい。」と記載されているのを、「前記樹脂としては、ダイアセトンアクリルアミド変性ポリビニルアルコールが特に好ましい。」に訂正する。 (19)一群の請求項について 本件訂正前の請求項2~11は、訂正請求の対象である請求項1の記載を引用する関係にあるから、訂正前の請求項1~11は特許法第120条の5第4項に規定される一群の請求項である。そして、訂正事項1~10は、訂正前の一群の請求項1~11に対するものである。また、明細書の訂正に係る訂正事項11~18は、訂正事項1~10に対応するものであるから、同様に訂正前の一群の請求項1~11に対するものである。 よって、本件訂正請求は、一群の請求項〔1~11〕に対して請求されたものである。 3.訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 (1)訂正事項1、2及び8について 訂正事項1は、「一般式1で示される官能基を有する樹脂」を「ダイアセトンアクリルアミド変性ポリビニルアルコール又はダイアセトンアクリルアミドーアクリル共重合体であり、前記樹脂の平均重合度が300~2000」のものに限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 また、訂正事項2は、請求項1を引用する請求項2において、「前記一般式1で示される官能基を有する水溶性樹脂」と記載されているのを、「水溶性樹脂」に訂正することで、実質的に訂正後の請求項1に記載されている特定の樹脂に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 さらに、訂正事項8は、請求項1を直接あるいは間接的に引用する請求項1、2、5を引用する請求項6、7をさらに引用する請求項8において、請求項1等で「前記一般式1で示される官能基を有する水溶性樹脂」を「ダイアセトンアクリルアミド変性ポリビニルアルコール又はダイアセトンアクリルアミドーアクリル共重合体であり、前記樹脂の平均重合度が300~2000」の樹脂に限定したことことを受けて同様に「水溶性樹脂」に訂正することで、実質的に訂正後の請求項1等に記載されている特定の樹脂に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、訂正事項1、2及び8は、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、単に「本件特許明細書等」ともいう。)の【0018】、【0020】~【0023】、【0096】の表1及び表2の実施例1~20に基づく訂正であるから、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内のものであるし、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 訂正後の請求項1を直接あるいは間接的に引用する請求項2、5~11についての訂正、訂正後の請求項2を直接あるいは間接的に引用する請求項5~11についての訂正も同様である。 (2)訂正事項3及び4による訂正について 訂正事項3は、請求項3を削除するものであるし、訂正事項4は、請求項4を削除するものであるから、これらはいずれも特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 また、これらの訂正は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 (3)訂正事項5、6、9及び10による訂正について 訂正事項5、6、9及び10は、いずれも、訂正事項3及び4による訂正によって訂正前の請求項3及び4が削除されたことに伴い、引用請求項を、請求項3及び4を含まないようにする訂正であるから、これらは、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであるし、また、これらは特許請求の範囲の減縮を目的とするものにも該当する。そして、訂正事項5、6、9及び10による訂正は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 (4)訂正事項7による訂正について 訂正事項7は、「下記一般式1で示される官能基」を「ダイアセトンアクリルアミド基」に限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 また、訂正事項7は、本件特許明細書等の【0021】に基づく訂正であるから、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内のものであるし、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 訂正後の請求項7を引用する請求項8についての訂正も同様である。 (5)訂正事項11~18による訂正について 訂正事項11~18は、上記訂正事項1~10に係る訂正に伴い、明細書の【0006】、【0010】、【0016】~【0021】の記載を、訂正後の請求項1~11の記載に整合させる訂正であるので、いずれも、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 また、訂正事項11~18については、本件特許明細書等の【0018】、【0020】~【0023】、【0096】の表1及び表2の実施例1~20に記載されていた事項であるから、訂正事項11~18は、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 (6)まとめ 以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、本件特許の明細書及び特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~11〕について訂正することを認める。 第3 本件発明 上記第2で述べたとおり、本件訂正は認められるので、本件特許の請求項1~11に係る発明は、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1~11に記載された事項により特定される以下のとおりのものである(以下、請求項の数字に合わせて、請求項1、2、5~11に係る発明を「本件発明1」、「本件発明2」、「本件発明5」~「本件発明11」とい、これらを併せて「本件発明」という。)。 「【請求項1】 基材粒子を樹脂で被覆した立体造形用粉末材料において、 前記樹脂が、ダイアセトンアクリルアミド変性ポリビニルアルコール又はダイアセトンアクリルアミド-アクリル共重合体であり、前記樹脂の平均重合度が300~2000であることを特徴とする立体造形用粉末材料。 【請求項2】 前記樹脂が、水溶性樹脂である請求項1に記載の立体造形用粉末材料。 【請求項3】 (削除) 【請求項4】 (削除) 【請求項5】 前記樹脂の平均重合度が、500~1,700である請求項1から2のいずれかに記載の立体造形用粉末材料。 【請求項6】 請求項1、2及び5のいずれかに記載の立体造形用粉末材料と、基材粒子を被覆する樹脂を溶解可能な溶媒を含む溶解液と、を有することを特徴とする立体造形用セット。 【請求項7】 前記溶解液が、ダイアセトンアクリルアミド基と架橋反応する化合物を含有する請求項6に記載の立体造形用セット。 【請求項8】 前記樹脂が、水溶性樹脂であり、前記溶媒として水を含む、請求項6から7のいずれかに記載の立体造形用セット。 【請求項9】 請求項1、2及び5のいずれかに記載の立体造形用粉末材料を使用し、支持体上に立体造形用粉末材料層を形成する粉末材料層形成工程と、 前記立体造形用粉末材料層の所定領域に、前記樹脂を溶解する溶媒を含む溶解液を付与して該領域を硬化させる粉末材料層硬化工程と、 を少なくとも繰り返すことで立体造形物を製造することを特徴とする立体造形物の製造方法。 【請求項10】 前記付与が、インクジェット吐出方式により行われる請求項9に記載の立体造形物の製造方法。 【請求項11】 支持体上に、請求項1、2及び5のいずれかに記載の立体造形用粉末材料の層を形成する粉末材料層形成手段と、 前記立体造形用粉末材料層の所定領域を硬化させるために、前記樹脂を溶解する溶媒を含む溶解液を付与する溶解液付与手段と、 を有することを特徴とする立体造形物の製造装置。」 第4 特許異議の申立ての理由及び取消理由の概要 1.特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由 本件特許時の請求項1~11に係る発明に対して、申立人が申立てていた特許異議の申立ての理由は、概略、これらの請求項に係る発明についての本件特許は、次の(1)~(6)のとおりの申立理由により、取り消されるべきものであるというものである。また、申立人は、特許異議申立書(以下、単に「申立書」という。)に添付して、証拠方法として、下記(7)の甲第1号証~甲第4号証(以下、「甲1」等という。)を提出した。 (1)申立理由1(甲1に基づく新規性) 本件特許の請求項1~4に係る発明は、甲1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、本件特許の上記請求項に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 (2)申立理由2(甲1を主引用文献とする進歩性) 本件特許の請求項1~4に係る発明は、甲1に記載された発明に基づいて、また、請求項5に係る発明は、甲1に記載された発明及び甲2に記載の事項に基づいて、請求項6に係る発明は、甲1に記載された発明及び周知技術(甲3、甲4)に基づいて、請求項7~8に係る発明は、甲1に記載された発明並びに甲3及び甲4に記載された事項に基づいて、請求項9~11に係る発明は、甲1に記載された発明及び周知技術(甲3、甲4)に基づいて、それぞれ、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許の請求項1~11に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。 よって、本件特許の請求項1~11に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 (3)申立理由3(甲2に基づく新規性) 本件特許の請求項1~5に係る発明は、甲2に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、本件特許の上記請求項に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 (4)申立理由4(甲2を主引用文献とする進歩性) 本件特許の請求項1~5に係る発明は、甲2に記載された発明に基づいて、また、請求項6に係る発明は、甲2に記載された発明及び周知技術(甲3、甲4)に基づいて、請求項7~8に係る発明は、甲2に記載された発明並びに甲3及び甲4に記載された事項に基づいて、請求項9~11に係る発明は、甲2に記載された発明及び周知技術(甲3、甲4)に基づいて、それぞれ、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許の請求項1~11に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。 よって、本件特許の請求項1~11に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。 (5)申立理由5(サポート要件) 請求項1~11に係る本件特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。 (6)申立理由6(実施可能要件) 請求項1~11に係る本件特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。 (7)証拠方法 ・甲1:特表2010-523801号公報 ・甲2:特開2012-251092号公報 ・甲3:特開2004-330743号公報 ・甲4:特開2010-228316号公報 2.取消理由 当審合議体が令和1年7月31日付けで通知した取消理由は、概略、以下のとおりである。 <取消理由>(サポート要件) 請求項1~11に係る本件特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである 第5 当審合議体の判断 上記第4 2.の取消理由は、申立人が主張する申立理由5と同旨であるから、取消理由は、特許異議の申立ての理由に包含される。したがって、以下の当審合議体の判断では、特許異議の申立ての理由についての判断を記載する。なお、本件訂正により請求項3及び4は削除された。 1.申立理由1(甲1に基づく新規性)及び申立理由2(甲1を主引用文献とする進歩性)について (1)甲1の記載事項及び甲1に記載された発明 ア 甲1には、以下の記載がある。(なお、下線は当審が付した。以下同様である。) 「【請求項1】 a)アニオンが式(I) 【化1】 PFnRx6-n(-)     (I) (式中、n=1から6の整数であり、 Rx=置換もしくは非置換のC1-6-アルキルまたは置換もしくは非置換のアリールもしくはヘテロアリール) により定義されるフルオロホスフェートである、スルホニウム塩からなる群から選択される少なくとも1つのカチオン性光開始剤(A);および b)(A)とは異なる少なくとも1つのカチオン性光開始剤(B) を含み、(B)に対する(A)の重量比が0.1よりも大きいことを特徴とする、光開始剤組成物。 ・・・ 【請求項16】 請求項1-15の少なくともいずれかに記載の光開始剤組成物を含む光硬化型組成物。 【請求項17】 カチオン硬化型成分を含むことを特徴とする、請求項16に記載の光硬化型組成物。 ・・・ 【請求項20】 ラジカル硬化型成分を更に含むことを特徴とする、請求項16-19の少なくともいずれかに記載の光硬化型組成物。 ・・・ 【請求項27】 (a’)請求項16-25の少なくともいずれかに記載の光硬化型組成物の液滴を基材上の標的とされた位置に塗布する段階; (b’)液滴を電磁的放射に露光して、露光領域中の液滴を硬化する段階; (c’)段階(a’)および(b’)を充分な回数繰り返して、三次元物品を作る段階 を含んでなる、インクジェット印刷により三次元物品を製造するための方法。 【請求項28】 基材が紙、テキスタイル、タイル、印刷版、壁紙、プラスチック、粉末、ペーストまたは液体または液体である既に部分硬化した樹脂である反応性樹脂からなる群から選択されることを特徴とする、請求項27に記載の方法。」 (なお、請求項1において式(I)の右端の上付き文字の「(-)」は、原文では○の中に「-」が記載されているが、この決定中では表記できないため、「(-)」と表記した。以下、同様である。 「【発明が解決しようとする課題】 【0014】 本発明は、異なる熱安定性の少なくとも2種のカチオン性光開始剤を輻射線硬化型組成物中に含む光開始剤組成物に関する。これは、液体組成物の熱安定性と硬化樹脂の機械的性能の有利な折衷を提供する。 【0015】 本発明の目的は、先行技術に開示されている光硬化型組成物に付随する問題を克服する光開始剤組成物を提供することである。本発明による光開始剤組成物は、安定剤を必要とせずに光硬化型組成物の熱安定性を改善する。更には、液体樹脂の反応性または最終部品の性能を失わずに粘度安定化が達成される。このように、本発明の光開始剤組成物は、反応性と熱安定性の有利な折衷案を実証する光硬化型組成物を提供する。」 「【0226】 あるいは、本発明の光硬化型組成物を粉末上に堆積することが可能である。粉末を基材の上に薄層として塗布し、光硬化型組成物を所望の場所で所望のパターンで粉末上にインクジェット堆積し得る。次に、光硬化型組成物を電磁的な放射に露光することにより、このパターンを硬化し得る。次に、粉末の更なる層を第1の層の頂部上に配置し、この工程を繰り返して、三次元物品を作る。三次元物品を作った後いかなる粉末も除去し得る。液体光硬化型組成物が進入しなかった粉末を除去した後、三次元物品に対して最終加熱および/または放射硬化を加える。この光硬化型組成物は、好ましくは粉末と完全に一体化されて、元の粉末粒子の間に実質的にボイドが残らず、高強度の部品を特にもたらす。」 イ 請求項1を引用する請求項16を引用する請求項17を引用する請求項20を引用する請求項27を引用する請求項28、及び、明細書の【0226】の記載を整理すると、特に、請求項27のインクジェット印刷により三次元物品を製造するための方法に使用される基材として請求項28に粉末が記載されていることから、甲1には、三次元物品を製造するための基材として、次のとおりの発明が記載されていると認められる。 「以下のインクジェット印刷による三次元物品の製造方法に使用される基材粉末。 インクジェット印刷による三次元物品の製造方法が、 (a)基材の上に基材である粉末を薄層として塗布する段階、 (b)光硬化型組成物を所望のパターンとなるように粉末層の標的とされた位置にインクジェット印刷により塗布する段階、 (c)下記の光硬化型組成物を電磁的な放射に露光することにより、このパターンを硬化する段階、 (a)~(c)段階を繰り返して、三次元物品を作る段階 を含み、 光硬化型組成物が、 a)アニオンが式(I) PFnRx6-n(-)     (I) (式中、n=1から6の整数であり、 Rx=置換もしくは非置換のC1-6-アルキルまたは置換もしくは非置換のアリールもしくはヘテロアリール)により定義されるフルオロホスフェートである、スルホニウム塩からなる群から選択される少なくとも1つのカチオン性光開始剤(A);および b)(A)とは異なる少なくとも1つのカチオン性光開始剤(B) を含み、(B)に対する(A)の重量比が0.1よりも大きい光開始剤組成物を含む光硬化型組成物であって、カチオン硬化型成分を含み、更に、ラジカル硬化型成分を含む光硬化型組成物である。」 (以下「甲1粉末発明」という。) 「三次元物品を製造するための基材である粉末を使用して、インクジェット印刷により三次元物品を製造するための方法であって、 (a)基材である粉末を薄層として塗布する段階、 (b)光硬化型組成物を所望のパターンとなるように粉末層の標的とされた位置にインクジェット印刷により塗布する段階、 (c)下記の光硬化型組成物を電磁的な放射に露光することにより、このパターンを硬化する段階、 (a)~(c)段階を繰り返して、三次元物品を作る段階 を含む、三次元物品を製造する方法。 光硬化型組成物が、 a)アニオンが式(I) PFnRx6-n(-)     (I) (式中、n=1から6の整数であり、 Rx=置換もしくは非置換のC1-6-アルキルまたは置換もしくは非置換のアリールもしくはヘテロアリール)により定義されるフルオロホスフェートである、スルホニウム塩からなる群から選択される少なくとも1つのカチオン性光開始剤(A);および b)(A)とは異なる少なくとも1つのカチオン性光開始剤(B) を含み、(B)に対する(A)の重量比が0.1よりも大きい光開始剤組成物を含む光硬化型組成物であって、 カチオン硬化型成分を含み、更に、ラジカル硬化型成分を含む光硬化型組成物である。」 (以下「甲1製法発明」という。) ウ さらに、請求項27の製造方法を実施するための装置として、以下の構成を備えた装置の発明が開示されているといえる。 「基材である粉末を使用して、インクジェット印刷により三次元物品を製造するための装置であって、 粉末である基材の薄層を塗布する手段、 光硬化型組成物を所望のパターンとなるように粉末層の標的とされた位置にインクジェット印刷により塗布する手段、 光硬化型組成物を電磁的な放射に露光することにより、このパターンを硬化する手段、 を有する三次元物品の製造装置。」(以下「甲1装置発明」という。) (2)本件発明1について ア 対比 本件発明1と甲1粉末発明とを対比する。 甲1粉末発明の「インクジェット印刷による三次元物品の製造方法に使用される基材粉末」は、本件発明1の「立体造形用粉末材料」に相当する。 そうすると、本件発明1と甲1粉末発明とは、以下の点で一致し、以下の相違点1で相違する。 <一致点> 立体造形用粉末材料。 <相違点1> 立体造形用粉末材料が、本件発明1では、「基材粒子をダイアセトンアクリルアミド変性ポリビニルアルコール又はダイアセトンアクリルアミド-アクリル共重合体であり、前記樹脂の平均重合度が300~2000である樹脂で被覆した」ものであるのに対し、甲1粉末発明では、基材粉末そのものであり、当該粉末を樹脂で被覆していない点。 イ 新規性について 上述のとおり、本件発明1と甲1粉末発明とは、上記相違点1で相違しており、また、上記相違点1は実質的な相違点であるから、本件発明1は、甲1粉末発明、つまり、甲1に記載された発明であるということはできない。 ウ 進歩性について 相違点1について検討する。 甲1全体の記載をみても、甲1粉末発明の基剤粉末を樹脂で被覆したものとする点の記載はない。 そして、申立人が提出した甲2には、後述の2.(1)で指摘するとおりの記載がある。 また、甲4には、 「【請求項1】 下記(i)~(v)の工程を含むことを特徴とする、表面層を有する三次元造形物の製造方法。 (i)支持体上に粉末材料を所定の厚さを有する層に形成する層形成工程、 (ii)造形対象物を平行な断面で切断した断面形状になるように前記層における粉末材料を結合剤により結合させる結合工程、 (iii)(i)及び(ii)の工程を順次繰り返すことによって三次元造形物を作製する作製工程、 (iv)作製された三次元造形物の表面を、(1)エチレン性不飽和化合物、及び、(2)光重合開始剤、を含有する光硬化性組成物により被覆する被覆工程、及び、(v)被覆した光硬化性組成物を光硬化する硬化工程」 と記載されている。 しかしながら、甲2及び甲4には、三次元造形に使用される粉末を、樹脂で被覆することは記載されていない。 一方、甲3には、以下の記載があり、三次元造形の製造に使用される粉末材料であって、粉末材料粒子の表面を、「樹脂」に相当する接着剤粒子で被覆する形態のものが記載されている。 「【請求項1】 支持体上に接着剤粒子を含む粉末材料を所定の厚さを有する層に形成する工程、および、造形対象物を平行な断面で切断した断面形状になるように粉末材料層を結合剤により結合させる工程を順次繰り返す工程を含む三次元造形物の製造方法において、前記接着剤が結合剤に可溶であり、油溶性染料と疎水性ポリマーを含む着色微粒子水分散物を含有する結合剤を使用することを特徴とする三次元造形物の製造方法。」 「【0030】 接着剤粒子は、1種類を単独使用しても、2種以上を混合使用しても良い。また、接着剤は粉末材料と複合粒子となっていてもよい。複合粒子の一形態としては、粉末材料粒子の表面を接着剤が被覆する形態がある。」 しかしながら、甲1は、インクジェット印刷により三次元物品を製造するための方法に用いられる光硬化性組成物の改良に係る発明に関するものであり、光硬化性組成物を、異なる熱安定性の少なくとも2種のカチオン性光開始剤を輻射線硬化型組成物中に含むものとすることで、光硬化樹脂の機械的性能を失うことなく、光硬化型組成物の熱安定性が改善される点に特徴を有するものである(上記(1)アの【0014】及び【0015】)。 そうすると、甲3に、三次元物品を製造するための粉末材料として、接着剤(樹脂)で被覆した粉末材料を使用したものが記載されているとしても、当該粉末材料は、これに当該接着剤を溶解させることができる結合材を所定の形状となるように付与して三次元物品を製造する技術に関するものであるから、この技術を、インクジェット印刷により所定の光硬化性組成物を付与することで基剤粉末を結合して三次元物品を製造する技術に関する甲1粉末発明の基剤粉末に適用することを、当業者が動機付けられるとはいえない。 以上のとおり、甲1の他の記載及び甲2~4の記載を参酌しても、甲1粉末発明において、三次元物品の製造に用いられる基材粉末に変えて、樹脂で被覆した構造のものを採用することが当業者にとって容易であったとはいえない。 また、甲2には、成形体の製造に使用されるビニルアルコール系重合体が記載され、共重合可能な他のモノマーとしてジアセトンアクリルアミドがあること(後述の2.(1)アの【0010】~【0011】参照。)、重合度のさらに好ましい範囲が700~3000の範囲であることも記載されている(同【0017】)が、後述のとおり、当該樹脂は、立体造形用粉末材料として使用されるものではないし、甲2には、ビニルアルコール系重合体と共重合可能な他のモノマーとして、ジアセトンアクリルアミド以外のモノマーが数多く列記されており、また、好ましい例がエチレンービニルアルコールであるとされている(同【0012】)。 そうすると、当業者は、甲2を参酌したとしても、立体造形用粉末に使用される材料である甲1粉末発明の粉末基材を、本件発明1で特定されるようなジアセトンアクリルアミドを共重合したポリビニルアルコールであって、所定の重合度を有するものとすることを動機付けられるとはいえないし、まして、粉末基材の被覆する樹脂としてかかる材料を採用することを動機付けられるともいえない。 すなわち、当業者は、甲1~4の記載を参酌しても、甲1粉末発明を、相違点1に係る構成を備えたものとすることを動機付けられるとはいえない。 一方、本件発明1においては、本件発明1で特定される特定の樹脂で被覆された立体造形用粉末材料であることにより、薄層に載置させた前記立体造形用粉末材料に対し、溶解液を付与することで基材粒子を被覆する樹脂が溶解し、基材粒子同士が接着し、当該粉末材料層が硬化するという簡易な方法の繰り返しにより 複雑な立体(三次元(3D))形状を維持するのに充分な強度を有する立体造形物を製造できる(【0007】、【0045】)という効果が奏される。 そして、この効果はいずれの証拠からも予測できない効果である。 よって、本件発明1は、甲1に記載された発明及び甲1~4に記載の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (3)本件発明2、5~8について 本件発明2及び5は、請求項1を引用する請求項に係るものであって、本件発明2及び5は、甲1粉末発明と、少なくとも上記相違点1の点で相違している。 そして、甲1粉末発明と少なくとも上記相違点1で相違する本件発明2も、上記(2)イで記載したと同様の理由によって、甲1に記載された発明であるということはできない。 また、甲1粉末発明と少なくとも上記相違点1で相違する本件発明2及び5は、上記(2)ウで記載したと同様の理由によって、甲1に記載された発明及び甲1~4に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 さらに、本件発明6~8は、請求項1、2及び5のいずれかに記載の立体造形用粉末材料を含有する立体造形用セットであり、本件発明1の発明特定事項を全て含んでいる。 そして、本件発明6~8は、甲1粉末発明と、少なくとも上記相違点1の点で相違している。 そうすると、甲1粉末発明と少なくとも上記相違点1で相違する本件発明6~8も、上記(2)ウで記載したと同様の理由によって、甲1に記載された発明及び甲1~4に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (4)本件発明9について ア 対比 上記(2)アにおける本件発明1と甲1粉末発明との対比を踏まえて、本件発明4と甲1製法発明とを対比する。 (ア)甲1製法発明において、粉末を薄層として塗布する場合に、塗布が何らかの支持体上で行われることは自明であるから、甲1製法発明の「(a)基材である粉末を薄層として塗布する段階」は、本件発明9の「支持体上に立体造形用粉末材料層を形成する粉末材料層形成工程」に相当する。 (イ)甲1製法発明の「(c)下記の光硬化型組成物を電磁的な放射に露光することにより、このパターンを硬化する段階」は、本件発明9の「立体造形用粉末材料層の所定領域を硬化させる粉末材料層硬化工程」に相当する。 (ウ)甲1製法発明の「(a)~(c)段階を繰り返して、三次元物品を作る段階」は、本件発明9の「繰り返すことで立体造形物を製造すること」に相当する。 そうすると、本件発明9と甲1製法発明とは、以下の点で一致し、以下の相違点で相違する。 <一致点> 立体造形用粉末材料を使用し、支持体上に立体造形用粉末材料層を形成する粉末材料層形成工程と、 前記立体造形用粉末材料層の所定領域を硬化させる粉末材料層硬化工程と、 を少なくとも繰り返すことで立体造形物を製造する立体造形物の製造方法。 <相違点2> 立体造形用粉末材料が、本件発明9では、「基材粒子をダイアセトンアクリルアミド変性ポリビニルアルコール又はダイアセトンアクリルアミド-アクリル共重合体であり、前記樹脂の平均重合度が300~2000である樹脂で被覆した」ものであるのに対し、甲1製法発明では、基材粉末そのものであり、当該粉末を樹脂で被覆していない点。 <相違点3> 立体造形用粉末材料層の所定領域の硬化工程が、本件発明9では、「樹脂を溶解する溶媒を含む溶解液を付与して該領域を硬化させる」ことで行われるのに対して、甲1製法発明では「(b)光硬化型組成物を所望のパターンとなるように粉末層の標的とされた位置にインクジェット印刷により塗布する段階」、及び「(c)光硬化型組成物を電磁的な放射に露光することにより、このパターンを硬化する段階」により行われる点。 イ 進歩性について 相違点2は、上記(2)アで記載した相違点1と同じであり、上記(2)ウで記載したとおりの理由によって、甲1~甲4を参酌しても、甲1製法発明において、基材粉末を、本件発明1の相違点2に係る構成を備えたものにすることを当業者が容易になし得たとはいえない。 また、相違点3については、上記(2)ウで説示したとおり、甲1は、インクジェット印刷により三次元物品を製造するための方法に用いられる光硬化性組成物の改良に係る発明に関するものであるから、所定の造形物とするために行われる「光硬化型組成物を所望のパターンとなるように粉末層の標的とされた位置にインクジェット印刷により塗布する段階」に変えて、「樹脂を溶解する溶媒を含む溶解液を付与して該領域を硬化させる」ものとすることを当業者は動機付けられない。甲2~4の記載を参酌しても同様である。 そうすると、甲1製法発明において、立体造形用粉末材料層の所定領域の硬化工程を、「樹脂を溶解する溶媒を含む溶解液を付与して該領域を硬化させる」ものとして、相違点3に係る本件発明9の構成を備えたものとすることは当業者が容易になし得たこととはいえない。 一方、本件発明9では、上記(2)ウで記載したとおり、申立人が提出したいずれの証拠からも予測できない効果を奏する。 よって、本件発明9は、甲1に記載された発明及び甲1~4に記載の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (5)本件発明10について 本件発明10は、請求項9を引用する請求項に係るものであって、本件発明10は、甲1製法発明と、少なくとも上記相違点2及び3の点で相違している。 そして、本件発明10も、上記(4)イで記載したと同様の理由によって、甲1に記載された発明及び甲1~4に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (6)本件発明11について ア 対比 上記(2)アにおける本件発明1と甲1粉末発明との対比、及び、上記(4)アにおける本件発明9と甲1製法発明との対比を踏まえて、本件発明11と甲1装置発明とを対比すると、本件発明11と甲1装置発明とは、以下の点で一致し、以下の相違点で相違する。 <一致点> 支持体上に、立体造形用粉末材料の層を形成する粉末材料層形成手段と、 前記立体造形用粉末材料層の所定領域を硬化させるための手段と、 を有する立体造形物の製造装置。 <相違点4> 立体造形用粉末材料が、本件発明11では、「基材粒子をダイアセトンアクリルアミド変性ポリビニルアルコール又はダイアセトンアクリルアミド-アクリル共重合体であり、前記樹脂の平均重合度が300~2000である樹脂で被覆した」ものであるのに対し、甲1装置発明では、基材粉末そのものであり、当該粉末を樹脂で被覆していない点。 <相違点5> 立体造形用粉末材料層の所定領域の硬化手段が、本件発明11では、「樹脂を溶解する溶媒を含む溶解液を付与する溶解液付与手段」であるのに対して、甲1装置発明では「光硬化型組成物を所望のパターンとなるように粉末層の標的とされた位置にインクジェット印刷により塗布する手段」、及び「光硬化型組成物を電磁的な放射に露光することにより、このパターンを硬化する手段」である点。 イ 進歩性について 相違点4は、上記(2)アで記載した相違点1と同じであり、上記(2)ウで記載したとおりの理由によって、当業者は、甲1~甲4を参酌しても、甲1装置発明において、基材粉末を、本件発明1の相違点4に係る構成を備えたものにすることを容易になし得たとはいえない。 また、相違点5は、上記(4)アに記載した相違点3と対応するものであり、上記(4)イで説示したとおり、インクジェット印刷により三次元物品を製造するための方法に用いられる光硬化性組成物の改良に係る発明に関する甲1装置発明において、所定の造形物とするための効果手段である「光硬化型組成物を所望のパターンとなるように粉末層の標的とされた位置にインクジェット印刷により塗布する手段」を、「樹脂を溶解する溶媒を含む溶解液を付与する溶解液付与手段」に変更することを当業者は動機付けられない。 そうすると、甲1装置発明を、相違点5に係る本件発明11の構成を備えたものとすることは当業者が容易になし得たこととはいえない。 一方、本件発明11の装置を使用して三次元物品を製造することにより、上記(2)ウで記載したとおり、申立人が提出したいずれの証拠からも予測できない効果が奏される。 よって、本件発明11は、甲1に記載された発明及び甲1~4に記載の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 2.申立理由3(甲2に基づく新規性)及び申立理由4(甲2を主引用文献とする進歩性)について (1)甲2の記載事項及び甲2に記載された発明 ア 甲2には、以下の記載がある。 「【請求項1】 ビニルアルコール系重合体(A)、および、コアとシェルとがそれぞれ互いに異なる高分子から構成されるコア-シェル型構造を有する多分岐性高分子(B)を含む、ビニルアルコール系重合体組成物。」 「【0010】 本発明において使用されるビニルアルコール系重合体(A)は、ビニルアルコール単位を繰り返し単位に有する重合体である限り、その構造に特に制限はなく、例えば、酢酸ビニルに代表されるビニルエステルを重合して得られるビニルエステル系重合体を酸性物質またはアルカリ性物質の存在下にけん化して得られる重合体などが挙げられる。 【0011】 上記のビニルエステル系重合体は、ビニルエステルの単独重合体であってもよいが、ビニルエステルとそれ以外の他のモノマーとが共重合した共重合体であってもよい。当該他のモノマーとしては、例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテン、イソブチレン等の炭素数2~20のオレフィン;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n-ブチルビニルエーテル、イソプロピルビニルエーテル、n-ブチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、t-ブチルビニルエーテル、ドデシルビニルエーテル、ステアリルビニルエーテル等のビニルエーテル;アクリルアミド、メタクリルアミド、N-メチルアクリルアミド、N-メチルメタクリルアミド、N-エチルアクリルアミド、N-エチルメタクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、N,N-ジメチルメタクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、ジアセトンメタクリルアミド、N-メチロールアクリルアミド、N-メチロールメタクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド類;塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン等のハロゲン化ビニルなどが挙げられ、ビニルエステル系重合体はこれらの他のモノマーの1種または2種以上に由来する構成単位を含むことができる。ビニルエステル系重合体を構成する全構成単位に対する上記他のモノマーに由来する構成単位の割合は、当該他のモノマーの種類にもよるが、60モル%以下であることが好ましく、50モル%以下であることがより好ましく、25モル%以下、さらには15モル%以下であってもよい。 【0012】 ビニルアルコール系重合体(A)の好ましい例としては、エチレン-ビニルアルコール共重合体が挙げられる。エチレン-ビニルアルコール共重合体はエチレン単位とビニルアルコール単位を主たる繰り返し単位とする重合体であり、上記のビニルエステル系重合体を得る際に他のモノマーとしてエチレンを用いることにより製造することができる。」 「【0017】 ビニルアルコール系重合体(A)の重合度は、得られるビニルアルコール系重合体組成物の用途などにもよるが、その耐久性などの観点から、JIS K6726-1994に規定されるポリビニルアルコール試験方法に準じて測定される平均重合度として、好ましくは200~8000の範囲内であり、より好ましくは500~5000の範囲内であり、さらに好ましくは700~3000の範囲内である。」 「【0025】 本発明のビニルアルコール系重合体組成物は、それを成形してなる成形体の形態で各種用途に使用することができる。ビニルアルコール系重合体組成物の成形方法に特に制限はなく、使用されるビニルアルコール系重合体(A)の種類などに応じて適宜選択することができるが、例えば、押出成形、射出成形等の溶融成形法や、キャスト成形などを採用することができる。成形体の形状に特に制限はなく、例えば、フィルム、シート、板、ベルト、チューブ、各種立体形状などの他、各種成形品を製造するためのペレット、フレーク、粉末などの形態にすることもできる。」 イ 上記記載、特に、請求項1及び【0025】によれば、甲2には、以下の発明が記載されているといえる。 「ビニルアルコール系重合体(A)、および、コアとシェルとがそれぞれ互いに異なる高分子から構成されるコア-シェル型構造を有する多分岐性高分子(B)を含むビニルアルコール系重合体組成物からなる、成形品を製造するための粉末材料。」 (以下「甲2粉末発明」という。) 「甲2粉末発明の粉末材料を用いて、成形品を製造する方法。」(以下「甲2製法発明」という。) ウ また、成形品の製造には何らかの製造装置が使用されること、また、当該製造装置が材料である粉末の供給手段を備えることは当業者に自明であるから、甲2には、以下の発明も実質的に開示されているといえる。 「甲2粉末発明の粉末材料供給手段を有する、成形品製造装置」(以下「甲2装置発明」という。) (2)本件発明1について ア 対比 本件発明1と甲2粉末発明とを対比する。 甲2粉末発明の「ビニルアルコール系重合体(A)、および、コアとシェルとがそれぞれ互いに異なる高分子から構成されるコア-シェル型構造を有する多分岐性高分子(B)を含むビニルアルコール系重合体組成物からなる粉末材料」は、本件発明1の「粉末材料」に相当するし、甲2粉末発明の粉末材料は「成形品を製造するため」のものであるから、これは、本件発明1の「造形用」といえる。 なお、本件発明で特定される「立体造形用」とは、本件特許明細書の【0002】に「従来の成形型を利用した造形物の作製方法に代わり、近年、オンデマンドで、更に複雑で微細な立体造形物が作製可能な三次元(3D)プリンターを使用した積層造形方法が提案されている。特に、金属や無機化合物で構成される立体造形物の場合には粉末積層方法が用いられる。」と記載されているとおり、三次元プリンターを使用した積層造形方法に用いられる粉末材料」を意図するものと認められ、押出成形や射出成形技術で製造される成形品の製造原料は、立体形状ではあっても、本件発明の「立体造形用」にはあたらないと認められる。 そうすると、本件発明1と甲2粉末発明とは、以下の点で一致し、以下の相違点で相違する。 <一致点> 造形用の粉末材料。 <相違点6> 造形用の粉末材料が、本件発明1では「立体造形用」であるのに対して、甲2粉末発明の粉末材料は立体形状の成形品を製造するためのものであるが、立体造形用とは特定されていない点。 <相違点7> 造形用の粉末材料が、本件発明1では、「基材粒子をダイアセトンアクリルアミド変性ポリビニルアルコール又はダイアセトンアクリルアミド-アクリル共重合体であり、前記樹脂の平均重合度が300~2000である樹脂で被覆した」ものであるのに対し、甲2粉末発明では、粉末は樹脂で被覆されていない点。 イ 新規性について 上述のとおり、本件発明1と甲2粉末発明とは、上記相違点6及び7で相違しており、また、上記相違点6及び7は実質的な相違点であるから、本件発明1は、甲2粉末発明、つまり、甲2に記載された発明であるということはできない。 ウ 進歩性について 相違点について検討する。 事案に鑑み相違点6及び7を併せて検討する。 甲2には、粉末を樹脂で被覆することも、被覆樹脂として、本件発明1で特定される特定の樹脂を採用することも記載されていない。上記1.(2)ウで記載したとおり、甲2~4のうち、甲3には、三次元造形の製造に使用される粉末材料であって、「樹脂」に相当する接着剤粒子が被覆されている形態のものも記載されているが、当該樹脂として、本件発明1で特定される特定の樹脂を採用することは記載されていない。そして、甲2には、上記1.(2)ウで記載したとおり、成形体の製造に使用されるビニルアルコール系重合体として、ジアセトンアクリルアミドを共重合したものも言及されており(上記(1)アの【0010】~【0011】)、重合度のさらに好ましい範囲が700~3000の範囲であることも記載されている(同【0017】)が、これは、甲3に記載されるような立体造形による三次元造形物の製造方法に用いられる樹脂についてのものではないし、ましてや、立体造形における基材粉末を被覆する樹脂についてのものでもない。その上、甲2には、ビニルアルコール系重合体と共重合可能な他のモノマーとして、ジアセトンアクリルアミド以外のモノマーが数多く列記されており、また、好ましい例がエチレンービニルアルコールであるとされている(同【0012】)。 そうすると、甲2及び甲3を参酌した当業者であっても、甲2粉末発明の粉末材料を、立体造形用のものとし、さらに、その表面を本件発明1で特定される樹脂で被覆したものとすることを動機付けられるとはいえない。 すなわち、当業者は、甲1~4の記載を参酌しても、甲2粉末発明を、相違点6及び7に係る本件発明1の構成を備えたものとすることを動機付けられるとはいえない。 一方、本件発明1においては、本件発明1で特定される特定の樹脂で被覆された立体造形用粉末材料であることにより、上記1.(2)ウで記載したとおり、薄層に載置させた前記立体造形用粉末材料に対し、溶解液を付与することで基材粒子を被覆する樹脂が溶解し、基材粒子同士が接着し、当該粉末材料層が硬化するという簡易な方法の繰り返しにより複雑な立体(三次元(3D))形状を維持するのに充分な強度を有する立体造形物を製造できる(【0007】、【0045】)といういずれの証拠からも予測できない効果が奏される。 よって、本件発明1は、甲2に記載された発明及び甲1~4に記載の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 エ 申立人は、コア-シェル型構造を有する多分岐性高分子(B)は、本件特許の「基材粒子」に相当し、ビニルアルコール系重合体(A)は、本件特許の「樹脂」に相当し、成形体を得るための粉末は、本件特許の「立体造形用粉末材料」に相当すると主張する(申立書の17頁)。 しかしながら、甲2の【0006】から明らかなとおり、(B)は可塑剤であり、(A)中により均一に分散することが望ましいことは明らかであって、その添加量も請求項7に記載のように(A)100に対して、せいぜい10質量部までであり、(B)が粉末基材を構成し得る形態であるかも不明である。(なお、実施例では、溶媒に溶解した(A)に(B)を添加して組成物から溶媒を飛ばしてフィルムを製造している。) そして、仮に、組成物中において、(A)により(B)が被覆された粉体形状となっていると解した場合であっても上述のとおり、甲2の【0011】には、共重合成分として種々のコモノマーが記載されているのであり、本件発明1で特定される樹脂を選択する動機付けがあるとまではいえないし、ましてや、可塑剤である(B)を甲3に示されるような立体造形における三次元造形物の主体をなす粉末材料として採用することを当業者が想定することはありえない。 したがって、申立人の主張は採用できない。 (3)本件発明2、5~8について 本件発明2及び5は、請求項1を引用する請求項に係るものであって、本件発明2及び5は、甲2粉末発明と、少なくとも上記相違点6及び7の点で相違している。 そして、本件発明2~5も、上記(2)イで記載したと同様の理由によって、甲2に記載された発明であるということはできないし、また、上記(2)ウで記載したと同様の理由によって、甲2に記載された発明及び甲1~4に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。 さらに、本件発明6~8は、請求項1、2及び5のいずれかに記載の立体造形用粉末材料を含有する立体造形用セットであり、本件発明1の発明特定事項を全て含んでいる。 そして、本件発明6~8は、甲2粉末発明と、少なくとも上記相違点6及び7の点で相違している。 そうすると、本件発明6~8も、上記(2)ウで記載したと同様の理由によって、甲2に記載された発明及び甲1~4に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 (4)本件発明9について ア 対比 上記(2)アにおける本件発明1と甲2粉末発明との対比を踏まえて、本件発明9と甲2製法発明とを対比すると、本件発明9と甲2製法発明とは、以下の点で一致し、以下の相違点で相違する。 <一致点> 造形用の粉末材料を使用する造形物の製造方法。 <相違点8> 造形用の粉末材料が、本件発明9では「立体造形用」であるのに対して、甲2製法発明の粉末材料は立体形状の成形品を製造するためのものであるが、立体造形用とは特定されていない点。 <相違点9> 造形用の粉末材料が、本件発明9では、「基材粒子をダイアセトンアクリルアミド変性ポリビニルアルコール又はダイアセトンアクリルアミド-アクリル共重合体であり、前記樹脂の平均重合度が300~2000である樹脂で被覆した」ものであるのに対し、甲2製法発明では、粉末材料は樹脂で被覆されていない点。 <相違点10> 造形物の製造方法について、本件発明9では、「立体造形用粉末材料を使用し、支持体上に立体造形用粉末材料層を形成する粉末材料層形成工程と、前記立体造形用粉末材料層の所定領域を硬化させる粉末材料層硬化工程と、を少なくとも繰り返す」という特定の工程を有することが特定されているのに対して、甲2製法発明では「立体形状の成形品を製造する」と特定されるのみで、製造方法を上記特定の製造工程を有するものとすることは特定されていない点。 イ 進歩性について 相違点8、9は、上記(2)アで記載した相違点6、7と同じであり、上記(2)ウで記載したとおりの理由によって、当業者は、甲1~甲4を参酌しても、甲2製法発明において、粉末を、本件発明9の相違点8及び9に係る構成を備えたものにすることを容易に動機付けられるとはいえない。 一方、本件発明9では、上記(2)ウで記載したとおり、申立人が提出したいずれの証拠からも予測できない効果を奏する。 そうすると、相違点10について検討するまでもなく、本件発明9は、甲2に記載された発明及び甲1~4に記載の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (5)本件発明10について 本件発明10は、請求項9を引用する請求項に係るものであって、本件発明9は、甲2製法発明と、少なくとも上記相違点8~10の点で相違している。 したがって、本件発明10も、上記(4)イで記載したと同様の理由によって、甲2に記載された発明及び甲1~4に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (6)本件発明11について ア 対比 上記(2)アにおける本件発明1と甲1粉末発明との対比、及び、上記(4)アにおける本件発明9と甲2製法発明との対比を踏まえて、本件発明11と甲2装置発明とを対比すると、両者は、少なくとも、造形用粉末材料を使用する製造装置であるといえるから、以下の点で一致し、以下の相違点で相違する。 <一致点> 造形用粉末材料を使用する造形物の製造装置。 <相違点11> 造形物の製造装置が、本件発明11では「立体造形用」であるのに対して、甲2装置発明は立体造形用とは特定されていない点。 <相違点12> 造形物の製造装置に使用される造形用粉末材料が、本件発明11では「基材粒子をダイアセトンアクリルアミド変性ポリビニルアルコール又はダイアセトンアクリルアミド-アクリル共重合体であり、前記樹脂の平均重合度が300~2000である樹脂で被覆した粉末材料」であるのに対して、甲2装置発明では、粉末材料であって、上記樹脂で被覆した粉末材料ではない点。 <相違点13> 造形物の製造装置が、本件発明11では、「支持体上に造形用粉末材料の層を形成する粉末材料層形成手段」と、「前記造形用粉末材料層の所定領域を硬化させるために、前記樹脂を溶解する溶媒を含む溶解液を付与する溶解液付与手段」とを有するものであるのに対し、甲1装置発明の装置はかかる手段を有するものではない点。 イ 進歩性について 相違点11、12は、上記(2)アで記載した相違点6、7にそれぞれ対応するものであり、相違点11及び12については、上記(2)ウで記載したと同様の理由によって、当業者は、甲1~甲4を参酌しても、甲2装置発明において、基材粉末を、本件発明11の相違点11及び12に係る構成を備えたものにすることを動機付けられるとはいえない。 一方、本件発明11の、請求項1に特定される特定の樹脂で被覆された立体造形用粉末材料を使用し、請求項11で特定される立体造形物製造装置を使用することで、簡易な製造方法により複雑な立体(三次元)形状を維持するのに充分な強度を有する立体造形物を製造できる(【0007】、【0045】)といういずれの証拠からも予測できない効果が奏される。 よって、相違点13について検討するまでもなく、本件発明11は、甲2に記載された発明及び甲1~4に記載の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 3.申立理由5(サポート要件)について (1)サポート要件の判断基準 特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。 そこで、検討する。 (2)本件発明が解決しようとする課題について 本件発明が解決しようとする課題に関し、本件特許明細書の【0003】には、背景技術として、「水溶解性の低い樹脂で被覆した粉末粒子を立体造形用粉末材料として用い、含水率45%以下の溶解液を使用することが提案されており・・・、前記樹脂の一例としてポリビニルアルコール(PVA)が開示されている。また、基材粒子を樹脂で被覆した立体造形用粉末材料と、被覆した樹脂を溶解し固着させる溶解液とを使用することが提案されており・・・、前記樹脂としてポリスチレン、前記溶解液としてリモネンが開示されている。」と記載され、また、【0004】には、「しかしながら、前記提案の技術は、・・・複雑な形状の立体造形物を維持するのに充分な強度が得られていない。」と、【0005】には、「本発明は、複雑な立体(三次元(3D))形状を維持するのに充分な強度を有する立体造形物を製造できる立体造形用粉末材料を提供することを目的とする。」と記載されている。 そして、これらの本件特許明細書の記載によれば、本件発明は、従来既知の、PVA樹脂やスチレン樹脂で被覆した立体造形用粉末材料を使用した場合には、複雑な形状の立体造形物を維持するのに充分な強度が得られていなかった問題を解決するものであり、本件発明が解決しようとする課題は、「複雑な立体(三次元(3D))形状を維持するのに充分な強度を有する立体造形物を製造できる立体造形用粉末材料(本件発明1、2、5)、立体造形用セット(本件発明6~8)、立体造形物の製造方法(本件発明9~10)及び立体造形物の製造装置(本件発明11)を提供すること」であると認められる。(以下、本件発明1~11が解決しようとする課題をまとめて、「本件発明の課題」という。) (3)サポート要件についての検討 ア 本件発明1、2、5~11について 本件発明1、2、5~11は、上記第3の請求項1、2、5~11に記載のとおりであり、本件発明1、2及び5は、「ダイアセトンアクリルアミド変性ポリビニルアルコール又はダイアセトンアクリルアミド-アクリル共重合体」であって「平均重合度が300~2000」である樹脂で基材粒子を被覆した立体造形用粉末材料に関するものである。 また、本件発明6~8は、本件発明1の立体造形用粉末材料と基材粒子を被覆する樹脂を溶解可能な溶媒を含む溶解液とを有する立体造形用セットに関するものであり、本件発明9~10は、本件発明1の立体造形用粉末材料を使用し、支持体上に立体造形用粉末材料層を形成する粉末材料層形成工程と、前記立体造形用粉末材料層の所定領域に、前記樹脂を溶解する溶媒を含む溶解液を付与して該領域を硬化させる粉末材料層硬化工程と、を少なくとも繰り返すことで立体造形物を製造する立体造形物の製造方法に関するものであり、本件発明11は、支持体上に、本件発明1の立体造形用粉末材料の層を形成する粉末材料層形成手段と、前記立体造形用粉末材料層の所定領域を硬化させるために、前記樹脂を溶解する溶媒を含む溶解液を付与する溶解液付与手段と、を有する立体造形物の製造装置に関するものである。 そこで、本件発明1、2、5~11が、本件特許明細書の記載により本件発明の課題を解決できるといえるかについて検討する。 本件発明の課題解決手段に関し、本件特許明細書の発明の詳細な説明(【0062】~【0098】の実施例、特に【0096】の表1及び表2並びに【0018】)には、立体造形用粉末材料として、基材粒子を被覆する樹脂として、平均重合度300~2000のダイアセトンアクリルアミド変性ポリビニルアルコール(実施例1~9及び12~20)、あるいは、ダイアセトンアクリルアミド-アクリル共重合体(実施例10~11)であるものを使用し、本件発明11に特定される装置を使用して、本件発明9で特定される製造方法に従い、基材粒子を被覆する樹脂を溶解可能な溶媒を含む溶解液を付与して立体造形用粉末材料層を硬化させることで得られた立体造形物が、被覆樹脂が無変性のPVA(ポリビニルアルコール)である場合よりも曲げ応力(強度)の点で優れることが示されている。 そうすると、当該記載から、当業者は、基材粒子を被覆する樹脂が、平均重合度300~2000のダイアセトンアクリルアミド変性ポリビニルアルコール、あるいは、平均重合度300~2000のダイアセトンアクリルアミド-アクリル共重合体である場合には、本件発明の課題が解決できることを理解できる。 以上のとおり、本件発明1、2、5~11は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるので、特許請求の範囲の記載は、サポート要件を満足するといえる。 イ よって、申立理由5には理由がない。 4.申立理由6(実施可能要件)について 訂正により、本件発明1等において立体造形に使用される粉末材料が、基材粒子をダイアセトンアクリルアミド変性ポリビニルアルコール又はダイアセトンアクリルアミド-アクリル共重合体であり、平均重合度が300~2000である樹脂で被覆してなるものであることが明らかとなった。 そして、本件特許明細書の発明の詳細な説明(【0062】~【0098】の実施例、特に【0096】の表1及び表2並びに【0018】)には、立体造形用粉末材料として、基材粒子を被覆する樹脂が、市販品である、平均重合度300~2000のダイアセトンアクリルアミド変性ポリビニルアルコール(実施例1~9及び12~20)、あるいは、ダイアセトンアクリルアミド-アクリル共重合体(実施例10~11)であるものを使用し、本件発明11に特定される構成を備えた、【0056】~【0058】及び図1に記載の粉末積層造形装置を使用して、本件発明9で特定される製造方法に従って、基材粒子を被覆する樹脂を溶解可能な溶媒を含む溶解液を付与して立体造形用粉末材料層を硬化させることにより、立体造形物を製造したことが記載されているし、当該製造方法で製造された立体造形物が使用可能であることは当業者に自明である。 そうすると、当業者は、発明の詳細な説明の記載に基づいて、本件発明1、2、5~11を、過度の試行錯誤を要することなく実施することができるといえる。 よって、発明の詳細な説明の記載は実施可能要件を満足する。 第6 むすび 以上のとおり、取消理由通知書に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては、本件特許の請求項1、2、5~11に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件特許の請求項1、2、5~11に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 さらに、本件訂正により本件特許の請求項3及び4が削除された結果、請求項3及び4に係る特許についての本件特許異議の申立ては対象を欠くこととなったため、特許法120条の8第1項において準用する同法135条の規定により、請求項3及び4に係る特許についての本件特許異議の申立ては却下する。 よって、結論のとおり決定する。

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2019-700419

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