特許異議申立
2019-700255
立体造形用樹脂粉末、立体造形物の製造装置、及び立体造形物の製造方法
- 審判番号
- 2019-700255
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2017-138273
- 登録番号
- 特許第6399165号(P6399165)
- 請求日
- 2019年04月03日
- 審決日
- 2019年12月04日
- 公報発行日
- 2020年03月27日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】株式会社リコー
- 【権利者代理人】廣田 浩一
- 【異議申立人】エボニック デグサ ゲーエムベーハー
- 【異議申立人代理人】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
- 【異議申立人代理人】バーナード 正子
- 審判長/審判官
- 審判長 加藤 友也
- 審判官 渕野 留香
- 審判官 植前 充司
- 分類
- P1651.113-YAA(B29C) / P1651.121-YAA(B29C) / P1651.161-YAA(B29C) / P1651.537-YAA(B29C)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法36条6項1号
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第36条第6項第1号、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第29条の2、特許法第120条の5第2項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第6399165号発明「立体造形用樹脂粉末、立体造形物の製造装置、及び立体造形物の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第6399165号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-18〕について、訂正することを認める。
特許第6399165号の請求項1ないし18に係る特許を維持する。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
特許第6399165号(以下、「本件特許」という。)の請求項1~18に係る特許についての出願は、平成29年7月14日(優先日 平成28年7月22日、平成29年3月14日、平成29年6月6日)の出願であって、平成30年9月14日にその特許権の設定登録がされ、同年10月3日に特許掲載公報が発行されたものである。
その後、その特許に対し、平成31年4月3日に特許異議申立人 エボニック デグサ ゲーエムベーハー(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、令和1年6月12日付けで取消理由が通知され、同年8月13日に特許権者 株式会社リコーより意見書の提出及び訂正の請求(以下、当該訂正の請求を「本件訂正請求」という。)がなされ、その訂正の請求に対して、同年10月16日に特許異議申立人から意見書の提出がなされたものである。
第2 訂正の許否についての判断
1 訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は、以下のとおりである。(下線は、訂正箇所について合議体が付したものである。)
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に
「柱体の粒子を含み、
前記柱体の粒子の底面における直径又は長辺に対する高さの比が、0.5倍以上2倍以下であり、
50%累積体積粒径が5μm以上200μm以下であり、かつ体積平均粒径/個数平均粒径が2.00以下であることを特徴とする立体造形用樹脂粉末。」
とあるのを、
「柱体の粒子(ただし、柱体の周側面に前記柱体を覆う管状層を有してなる二重構造のものを除く。)を含み、
前記柱体の粒子の底面における直径又は長辺に対する高さの比が、0.5倍以上2倍以下であり、
50%累積体積粒径が5μm以上200μm以下であり、かつ体積平均粒径/個数平均粒径が2.00以下であり、
平均円形度が、0.5μm以上200μm以下の粒径の範囲において、0.83以上であることを特徴とする立体造形用樹脂粉末。」
に訂正する。
併せて、訂正前の請求項1を引用する請求項2ないし18についても、その引用部分について同様に訂正する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項13に
「平均円形度が、0.5μm以上200μm以下の粒径の範囲において、0.83以上である請求項1から12のいずれかに記載の立体造形用樹脂粉末。」
とあるのを、
「平均円形度が、0.5μm以上200μm以下の粒径の範囲において、0.85~0.89である請求項1から12のいずれかに記載の立体造形用樹脂粉末。」
に訂正する。
併せて、訂正前の請求項13を引用する請求項14ないし18についても、その引用部分について同様に訂正する。
(3)訂正事項3
明細書の段落【0007】に「2.00以下である。」と記載されているのを、「2.00以下であり、平均円形度が、0.5μm以上200μm以下の粒径の範囲において、0.83以上である。」に訂正する。
(4)訂正事項4
明細書の段落【0010】に、「2.00以下であり、更に」と記載されているのを、「2.00以下であり、平均円形度が、0.5μm以上200μm以下の粒径の範囲において、0.83以上であり、更に」に訂正する。
(5)訂正事項5
明細書の段落【0026】に、「0.7以上0.98以下が好ましく、」と記載されているのを、「0.83以上であり、」に訂正する。
(6)訂正事項6
明細書の段落【0053】を削除する。
(7)訂正事項7
明細書の段落【0092】から【0098】、【0104】、【0109】から【0120】、【0122】、【0124】から【0127】、【0129】から【0132】、【0135】、【0137】から【0145】、【0147】、【0149】から【0153】にそれぞれ「実施例」と記載されているのを、「参考例」に訂正する。
(8)訂正事項8
明細書の段落【0128】を削除する。
(9)訂正事項9
明細書の段落【0137】の【表4】において「比較例8」の欄を削除する。
なお、本件訂正請求における請求項1、13に係る訂正は、一群の請求項〔1~18〕に対して請求されたものである。また、本件訂正請求における明細書に係る訂正は、一群の請求項〔1~18〕について請求されたものである。
2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
ア 請求項1に係る訂正のうち、
「柱体の粒子を含み、」
を
「柱体の粒子(ただし、柱体の周側面に前記柱体を覆う管状層を有してなる二重構造のものを除く。)を含み、」
に変更する訂正事項は、柱体の粒子のうち、「柱体の周側面に前記柱体を覆う管状層を有してなる二重構造のもの」を除くことを特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、柱体の粒子のうち、「柱体の周側面に前記柱体を覆う管状層を有してなる二重構造のもの」を除くことにより、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項に対し、何ら新たな技術的事項を取り込むものではないから、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないと認められる。
イ 請求項1に係る訂正のうち、
「体積平均粒径/個数平均粒径が2.00以下であることを特徴とする立体造形用樹脂粉末」
を
「体積平均粒径/個数平均粒径が2.00以下であり、平均円形度が、0.5μm以上200μm以下の粒径の範囲において、0.83以上であることを特徴とする立体造形用樹脂粉末」
に変更する訂正事項は、立体造形用樹脂粉末について、さらに、「平均円形度が、0.5μm以上200μm以下の粒径の範囲において、0.83以上である」ことを特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、明細書の段落【0026】の、「前記立体造形用樹脂粉末の平均円形度としては、0.5μm以上200μm以下の粒径の範囲において、0.7以上0.98以下が好ましく、0.83以上0.98以下がより好ましい。」との記載から、請求項1に係る当該訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないと認められる。
ウ 請求項1の記載を引用する請求項2乃至18も同様である。
(2)訂正事項2について
請求項13を
「平均円形度が、0.5μm以上200μm以下の粒径の範囲において、0.83以上である請求項1から12のいずれかに記載の立体造形用樹脂粉末。」
とあるのを、
「平均円形度が、0.5μm以上200μm以下の粒径の範囲において、0.85~0.89である請求項1から12のいずれかに記載の立体造形用樹脂粉末。」
にする訂正は、立体造形用樹脂粉末の0.5μm以上200μm以下の粒径の範囲における平均円形度を、「0.83以上」から「0.85~0.89」にするものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、明細書の段落【0146】の【表5】、
との記載から、請求項1に係る当該訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないと認められる。
そして、請求項13の記載を引用する請求項14乃至18も同様である。
(3)訂正事項3、4、5、7について
段落【0007】、【0010】、【0026】、【0092】から【0098】、【0104】、【0109】から【0120】、【0122】、【0124】から【0127】、【0129】から【0132】、【0135】、【0137】から【0145】、【0147】、【0149】から【0153】の訂正は、上記(1)、(2)の特許請求の範囲の訂正に伴い明細書の記載を特許請求の範囲に整合させるためのものである。そうすると、段落【0007】、【0010】、【0026】、【0092】から【0098】、【0104】、【0109】から【0120】、【0122】、【0124】から【0127】、【0129】から【0132】、【0135】、【0137】から【0145】、【0147】、【0149】から【0153】の訂正は、明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正である。そして、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことも明らかである。
(4)訂正事項6、8、9について
段落【0053】及び【0128】を削除する訂正、並びに、【0137】の【表4】から比較例4の欄を削除する訂正は、立体造形用樹脂粉末に任意で添加できるファイバーフィラーについての記載及び比較例4を削除するものであり、明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正である。そして、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことも明らかである。
(5)小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、本件特許の明細書、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書、訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~18〕について訂正することを認める。
第3 本件発明
請求項1~18に係る発明(以下「本件発明1」~「本件発明18」という。)は、訂正請求書に添付された、訂正特許請求の範囲の請求項1~18に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
柱体の粒子(ただし、柱体の周側面に前記柱体を覆う管状層を有してなる二重構造のものを除く。)を含み、
前記柱体の粒子の底面における直径又は長辺に対する高さの比が、0.5倍以上2倍以下であり、
50%累積体積粒径が5μm以上200μm以下であり、かつ体積平均粒径/個数平均粒径が2.00以下であり、
平均円形度が、0.5μm以上200μm以下の粒径の範囲において、0.83以上であることを特徴とする立体造形用樹脂粉末。
【請求項2】
前記粒子が略円柱体であり、前記略円柱体の底面における直径が5μm以上200μm以下であり、かつ高さが5μm以上200μm以下であるか、又は
前記粒子が直方体であり、前記直方体の底面における各辺が5μm以上200μm以下であり、かつ高さが5μm以上200μm以下である請求項1に記載の立体造形用樹脂粉末。
【請求項3】
体積平均粒径/個数平均粒径(Mv/Mn)が、1.30以下である請求項1から2のいずれかに記載の立体造形用樹脂粉末。
【請求項4】
比重が、0.8g/mL以上である請求項1から3のいずれかに記載の立体造形用樹脂粉末。
【請求項5】
前記底面における直径又は長辺に対する高さの比が、0.7倍以上2倍以下である請求項1から4のいずれかに記載の立体造形用樹脂粉末。
【請求項6】
ISO 3146に準拠して測定したときの融点が、100℃以上である請求項1から5のいずれかに記載の立体造形用樹脂粉末。
【請求項7】
下記(1)~(3)から選択される少なくとも1種を満たす請求項1から6のいずれかに記載の立体造形用樹脂粉末。
(1)示差走査熱量測定において、ISO 3146に準拠して、10℃/minにて、融点より30℃高い温度まで昇温したときの吸熱ピークの融解開始温度をTmf1とし、その後、10℃/minにて、-30℃以下まで降温し、さらに、10℃/minにて、融点より30℃高い温度まで昇温したときの吸熱ピークの融解開始温度をTmf2としたときに、Tmf1>Tmf2となり、かつ(Tmf1-Tmf2)≧3℃となる。なお、前記吸熱ピークの融解開始温度は、融点での吸熱が終了した後に、熱量の一定となった所から低温側へx軸に対して平行な直線を引き、前記直線から-15mW下がった時点での温度である。
(2)示差走査熱量測定において、ISO 3146に準拠して、10℃/minにて、融点より30℃高い温度まで昇温したときの吸熱ピークのエネルギー量から求められる結晶化度をCd1とし、その後、10℃/minにて、-30℃以下まで降温し、さらに、10℃/minにて、融点より30℃高い温度まで昇温したときの吸熱ピークのエネルギー量から求められる結晶化度をCd2としたときに、Cd1>Cd2となり、かつ(Cd1-Cd2)≧3%となる。
(3)X線回折測定により得られる結晶化度をCx1とし、窒素雰囲気下10℃/minにて、融点より30℃高い温度まで昇温し、その後、10℃/minにて、-30℃以下まで降温し、さらに、10℃/minにて、融点より30℃高い温度まで昇温したときのX線回折測定により得られる結晶化度をCx2としたときに、Cx1>Cx2となり、かつ(Cx1-Cx2)≧3%となる。
【請求項8】
前記50%累積体積粒径が、20μm以上70μm以下である請求項1から7のいずれかに記載の立体造形用樹脂粉末。
【請求項9】
ポリオレフィン、ポリアミド、ポリエステル、ポリアリールケトン、ポリフェニレンスルフィド、液晶ポリマー、ポリアセタール、ポリイミド、及びフッ素樹脂から選択される少なくとも1種を含む請求項1から8のいずれかに記載の立体造形用樹脂粉末。
【請求項10】
前記ポリアミドが、ポリアミド410、ポリアミド4T、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミドMXD6、ポリアミド610、ポリアミド612、ポリアミド6T、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド9T、ポリアミド10T、及びアラミドから選択される少なくとも1種である請求項9に記載の立体造形用樹脂粉末。
【請求項11】
前記ポリエステルが、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、及びポリ乳酸から選択される少なくとも1種である請求項9から10のいずれかに記載の立体造形用樹脂粉末。
【請求項12】
前記ポリアリールケトンが、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトン、及びポリエーテルケトンケトンから選択される少なくとも1種である請求項9から11のいずれかに記載の立体造形用樹脂粉末。
【請求項13】
平均円形度が、0.5μm以上200μm以下の粒径の範囲において、0.85~0.89である請求項1から12のいずれかに記載の立体造形用樹脂粉末。
【請求項14】
強化剤をさらに含む請求項1から13のいずれかに記載の立体造形用樹脂粉末。
【請求項15】
難燃剤をさらに含む請求項1から14のいずれかに記載の立体造形用樹脂粉末。
【請求項16】
前記柱体の粒子の含有量が、30質量%以上である請求項1から15のいずれかに記載の立体造形用樹脂粉末。
【請求項17】
請求項1から16のいずれかに記載の立体造形用樹脂粉末が貯蔵されている供給槽と、
前記立体造形用樹脂粉末を含む層を形成する層形成手段と、
前記層の選択された領域内の樹脂粉末同士を接着させる粉末接着手段と、を有することを特徴とする立体造形物の製造装置。
【請求項18】
請求項1から16のいずれかに記載の立体造形用樹脂粉末を含む層を形成する成膜工程と、
前記成膜された膜に電磁照射し、溶融させた後に冷却後硬化する硬化工程とを繰り返すことを特徴とする立体造形物の製造方法。」
第4 特許異議申立人が主張する特許異議申立理由について
特許異議申立人が特許異議申立書において、訂正前の請求項1~18に係る特許に対して申し立てた特許異議申立理由の要旨は、次のとおりである。
理由1(新規性) 本件特許の訂正前の請求項1~6、8~12、14、15、17、18に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
理由2(進歩性) 本件特許の請求項1~18に係る特許は、甲第1号証に記載された発明、甲第2号証~甲第4号証および甲第6号証に記載された技術的事項に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
・甲第1号証:国際公開第2013/138204号
・甲第2号証:特表2015-500375号公報
・甲第3号証:国際公開第2016/084928号
・甲第4号証:特開2006-321711号公報
・甲第6号証:化学大辞典編集委員会編、「化学大辞典 8」
(縮刷版第39刷)、共立出版株式会社、2006年
9月15日、p.731~733
理由3(拡大先願) 本件特許の請求項1~6、8~12、14~16に係る特許は、甲第5号証に係る出願の出願当初の明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であって、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
・甲第5号証:特願2017-565308号
(特表2018-523718号公報)
理由4(サポート要件) 本件特許の請求項1~18についての特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
そして、理由4の具体的理由の概略は次のとおりである。
実施例で具体的に効果が確認されているもの以外の部分について、明細書の発明の詳細な説明を見ても、発明の課題を解決することを当業者が認識できる程度に記載がされていないから、本件特許の請求項1~18に係る発明は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないというものである。
第5 取消理由通知に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
訂正前の請求項1~18に係る特許に対して、当審が令和1年6月12日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。(なお、異議申立理由はいずれも、取消理由に包含されている。)
理由1(新規性) 本件特許の訂正前の請求項1~6、8~12、14~18に係る発明は、引用文献1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
理由2(進歩性) 本件特許の請求項1~18に係る特許は、引用文献1に記載された発明及び引用文献2~5に記載された技術的事項に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
・引用文献1:国際公開第2013/138204号 (甲第1号証)
・引用文献2:特表2015-500375号公報 (甲第2号証)
・引用文献3:国際公開第2016/084928号 (甲第3号証)
・引用文献4:特開2006-321711号公報 (甲第4号証)
・引用文献5:化学大辞典編集委員会編、「化学大辞典 8」
(縮刷版第39刷)、共立出版株式会社、2006年
9月15日、p.731~733 (甲第6号証)
理由3(拡大先願) 本件特許の請求項1~6、8~12、14~16に係る特許は、先願6に係る出願の出願当初の明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であって、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないから、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
・先願6:特願2017-565308号
(特表2018-523718号公報) (甲第5号証)
理由4(サポート要件) 本件特許の請求項1~18についての特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
そして、その具体的理由は概略次のとおり。
本件特許発明により解決すべき課題は、明細書全体の記載からみるに、明細書の段落【0006】に記載されているように、「リサイクル性に優れ、粒子をより密に詰めることができ、得られる立体造形物の引張強度を向上するとともに、オレンジピール性を良好にし、複雑かつ精細な立体造形物を簡便かつ効率よく製造することができる立体造形用樹脂粉末を提供すること」である。
この課題を解決するための発明として、請求項1には、柱体の粒子を含む立体造形用樹脂粉末において、「柱体の粒子の底面における直径又は長辺に対する高さの比が、0.5倍以上2倍以下」であり、「50%累積体積粒径が5μm以上200μm以下」であり、かつ「体積平均粒径/個数平均粒径が2.00以下である」ことが特定されている。
これらの特定事項に関し、明細書の段落【0013】には、
「<粒子>
前記粒子の形状としては、柱体であり、前記柱体の粒子の底面における直径又は長辺に対する高さの比が、0.5倍以上2倍以下であり、0.7倍以上2倍以下が好ましく、0.8倍以上1.5倍以下がより好ましい。」、
段落【0041】には、
「前記立体造形用樹脂粉末の50%累積体積粒径としては、5μm以上200μm以下であり、寸法安定性の点から、20μm以上70μm以下が好ましく、20μm以上50μm以下がより好ましい。また、前記粉末の体積平均粒径/個数平均粒径(Mv/Mn)は、造形精度向上の観点で、2.00以下であり、1.50以下が好ましく、1.30以下がより好ましく、1.20以下が特に好ましい。なお、前記50%累積体積粒径や前記Mv/Mnは、例えば、粒度分布測定装置(マイクロトラック・ベル株式会社製、microtrac MT3300EXII)を用いて測定することができる。」、
との記載があるものの、実施例において具体的に効果が確認されているのは、「柱体の粒子の底面における直径又は長辺に対する高さの比」が、0.75~1であり、「50%累積体積粒径」が12μm~68μmであり、かつ「体積平均粒径/個数平均粒径」が1.11~1.28と、極めて限られた範囲のものにすぎない。さらに、比較例8については、請求項1の特定事項を全て満たすにもかかわらず、表面粗さが大きくなり、オレンジピール性の評価が「×」とされている。
以上の記載から見るに、段落【0013】、【0041】他の記載はあるものの、明細書全体を通じてみても、請求項1の特定事項を満たす場合であっても、実施例で具体的に効果が確認されている条件から外れる部分が、課題を解決する範囲に入るものなのか、当業者にとって不明であるといわざるを得ない。
してみると、本件特許の請求項1~18に係る発明のうち、実施例で具体的にあげられている条件を満たすもの以外の部分については、発明の詳細な説明には、当業者が課題を解決できると認識できる程度に記載されているものとはいえないから、本願の請求項1~18に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものではない。
2 取消理由についての検討
上記の取消理由について順次検討する。
(1)理由1(新規性)、理由2(進歩性)について
ア 引用文献1の記載事項及び引用文献1に記載された発明について
引用文献1には次の事項が記載されている。(当審仮訳をあわせて示す。)
「Claims
[1] A consumable micro-pellet for use in a powder-based additive manufacturing system, the consumable micro-pellet characterized by a core portion extending along a longitudinal length of the consumable micro-pellet, the core portion compositionally comprising a first thermoplastic material and a shell portion extending along the longitudinal length of the consumable micro-pellet and at least partially encasing the core portion, the shell portion compositionally comprising a second thermoplastic material that is different from the first thermoplastic material, characterized by the consumable micro-pellet having an average cross-sectional diameter ranging from 10 microns to 250 microns, an average ratio between the length of the micro-pellet and the diameter of the micro-pellet that ranging from 1 :2 to 3: 1 , and further characterized by the consumable micro-pellet being configured to be melted and used to form a plurality of solidified layers of a three-dimensional object, the layers at least partially retaining cross-sectional profiles corresponding to the core portion and the shell portion of the consumable micro-pellets.
[2] A consumable micro-pellet of one of the preceding claims further characterized by the first thermoplastic material being a first semi-crystalline polymeric material selected from a group of semi-crystalline polymers consisting of polyamides, polyethylenes, including low-density polyethylene, medium-density polyethylene and high density polyethylene, polypropylenes, including isotactic polypropylenes, syndiotactic polypropylenes, branched and linear variations thereof.polyetheretherketones, olyoxymethylene acetals, polytetrafluo- roethylenes, polypheneylene sulfides, polybutylene terephthalates, copolymers thereof, and combinations thereof and the second thermoplastic material characterized by being a second semi-crystalline polymeric material selected from the same group of semi-crystalline polymers.
[3] A consumable micro-pellet of one of the preceding claims further characterized by the first thermoplastic material being a first polvamide material selected from a group of polyamide polymers consisting of aliphatic nylon polyamides, such as nylon 6, nylon 6-6, nylon 6-10, nylon 6-12, nylon 10, nylon 10-10, nylon 11, nylon 12, copolymers thereof and combinations thereof, and the second thermoplastic material characterized by being a second polyamide material polymeric material selected from the same group of polyamide polymers.
[4] A consumable micro-pellet of one of the preceding claims further characterized by at least one of the thermoplastic materials having one or more additives, modifiers or common plastic reinforcement materials incorporated to modify the mechanical, electrical, magnetic, thermodynamic, processing, aesthetic or bio- compatibility properties of the base polymers.」
([請求項1] 粉末系付加製造システムにおいて使用するための消耗性マイクロペレットであって、前記消耗性マイクロペレットは、コア部分が、前記消耗性マイクロペレットの長軸方向に沿って延在し、ここで、前記コア部分は、第一の熱可塑性材料を組成的に含んでおり、かつシェル部分が、前記消耗性マイクロペレットの長軸方向に沿って延在し、かつ少なくとも部分的に前記コア部分を包み、ここで、前記シェル部分は、第一の熱可塑性材料とは異なる第二の熱可塑性材料を組成的に含んでいることを特徴とし、前記消耗性マイクロペレットが、10ミクロン~250ミクロンの範囲の平均断面直径を有し、前記マイクロペレットの長さと前記マイクロペレットの直径との平均比が、1:2~3:1の範囲であることを特徴とし、かつ前記消耗性マイクロペレットが、三次元物体の複数の凝固した層を形成するために溶融及び使用されるように構成され、前記層が、前記消耗性マイクロペレットのコア部分及びシェル部分に対応する断面プロファイルを少なくとも部分的に保持することをさらに特徴とする、消耗性マイクロペレット。
[請求項2] 第一の熱可塑性材料が、ポリアミド、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン及び高密度ポリエチレンを含めたポリエチレン、アイソタクチックポリプロピレン、シンジオタクチックポリプロピレン、それらの分岐及び線状変形物を含めたポリプロピレン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリオキシメチレンアセタール、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフェニレンスルフィド、ポリブチレンテレフタレート、それらのコポリマー、及びそれらの組合せからなる半結晶性ポリマーの群から選択される第一の半結晶性ポリマー系材料であり、かつ第二の熱可塑性材料が、半結晶性ポリマーの同じ群から選択される第二の半結晶性ポリマー材料であることをさらに特徴とする、請求項1に記載の消耗性マイクロペレット。
[請求項3] 第一の熱可塑性材料が、脂肪族ナイロンポリアミド、例えばナイロン6、ナイロン6-6、ナイロン6-10、ナイロン6-12、ナイロン10、ナイロン10-10、ナイロン11、ナイロン12、それらのコポリマー及びそれらの組合せからなるポリアミドポリマーの群から選択される第一のポリアミド材料であり、かつ第二の熱可塑性材料が、ポリアミドポリマーの同じ群から選択される第二のポリアミド材料のポリマー系材料であることをさらに特徴とする、請求項1及び2のいずれか1項に記載の消耗性マイクロペレット。
[請求項4] 少なくとも1つの前記熱可塑性材料が、ベースポリマーの機械的特性、電気的特性、磁気的特性、熱力学的特性、加工特性、審美的特性又は生体適合性を変化させるために配合される1つ以上の添加剤、変性剤又は通常のプラスチック強化材料を有していることをさらに特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項に記載の消耗性マイクロペレット。」
「Technical Field
[1] The present disclosure is directed to materials for use in additive manufacturing processes. In particular, the present disclosure is directed to materials for use in powder-based additive manufacturing processes.
Background Art
[2] Additive Manufacturing consists of several processes that produce solid three dimensional (3D) objects from a computer model by building up the object in a layer- by-layer manner. Powder-based Additive Manufacturing processes use powders as the consumable materials, where the powders are deposited and then modified. For example, a layer of powder may be deposited and then modified by selected exposure to electromagnetic radiation, or selected deposition of liquid, which may be followed by exposure to electromagnetic radiation, or electron beam.
[3] One example of a powder-based additive manufacturing process is the selective laser sintering process. 」
(技術分野
[1] 本開示は、付加製造法において使用するための材料に関する。特に、本開示は、粉末系付加製造法において使用するための材料に関する。
背景技術
[2] 付加製造は、物体を層状に形成することにより、コンピューターモデルから固体の立体的な(3D)物体を製造する複数のプロセスからなる。粉末系付加製造法は、消耗性材料として粉末を使用し、その際、粉末は堆積され、次いで変性される。たとえば1つの粉末層を堆積させ、次いで電磁線に選択的に暴露することによって変性することができるか、または液体を選択的に堆積させ、次いで電磁線又は電子線に暴露することができる。
[3] 粉末系付加製造法の一例は、選択的レーザー焼結法である。 」
「[4] The powder is deposited in thin layers, in the range of approximately 0.05 to 0.30 millimeters deep, uniformly across a piston. After a given layer has been fused, the piston is lowered and a new layer of powder is added on top of the just completed layer. 」
([4] 粉末は、厚さ約0.05~0.30ミリメータの範囲の薄い層としてピストン上に均一に堆積される。所定の層が溶融されたのち、ピストンが降下し、完成したばかりの層の上に新たな粉末層が供給される。)
「[11] The step of converting feed materials 10 and 12 into fiber 14 include the sub-steps of spinning (i.e., extruding and solidifying the polymers), and optionally, drawing fiber 14, which consists of stretching fiber 14 to orient the polymeric molecular structure. 」
([11] 供給材料10および12を繊維に変える工程は、紡糸(つまりポリマーを押し出し、固化させる)、および場合により、繊維14を伸ばしてポリマー分子構造を配向させる繊維14の延伸というサブステップを含む。)
「[13] Suitable average diameters for fiber 14, referred to as diameter 20, range from about 10 microns to about 250 microns. 」
([13] 適切な繊維14の適切な平均粒径は、直径20と呼ばれるが、これは約10ミクロンから約250ミクロンである。)
「[17] After fiber 14 is formed, micro-pellets 22 may then be formed from fiber 14 with a size-reducing process. In one embodiment, fiber may be size reduced by cutting fiber 14 to lengths, as illustrated by cut lines 24 along fiber 14, creating substantially- cylindrical shaped micro-pellets 22, each having a ratio between the length of the micro-pellet 22 (referred to as length 26) and the diameter of the micro-pellet 22 (same as diameter 20). Examples of suitable ratios between length 26 and diameter 20 range from about 1 :2 to about 3: 1. 」
([17] 繊維14が形成された後、次いで繊維14から、サイズを低減する工程によりマイクロペレット22が形成される。1実施形態では、繊維のサイズは、繊維14に沿った切断線24に示されるように繊維14の長さを切断し、実質的に円柱形のマイクロペレット22を作成し、マイクロペレットはそれぞれがマイクロペレット22の長さ(長さ26とよぶ)とマイクロペレット22の直径(直径20に等しい)の間で一定の比率を有する。長さ26と直径20との間の適切な比率は、約1:2~約3:1の範囲である。)
「 Advantageous Effects
[22] Another aspect of this invention is better control of the size and size distribution of the resulting micro-pellets 22. By selecting appropriate combinations of fiber diameter 20 and cutting aspect ratio as defined above, the resulting size of micro-pellets 22 can be closely controlled. The quality and mechanical properties of 3D objects created by using polymers in powder-based additive manufacturing processes have been shown to be dependent on the size and size distribution of the powders used in the process. This invention allows for good customization and control of both the size of the resulting micro-pellets 22 and their size distribution. In one embodiment, a single modal size distribution is used. In another embodiment, a bi-modal or higher size distribution is used. 」
(有利な効果
[22] 本発明の他の形態は、生じるマイクロペレット22のサイズ及びサイズ分布のより良好な制御である。上記で定義されたような繊維直径20および切断アスペクト比の適切な組み合わせを選択することにより、マイクロペレット22の生じるサイズを綿密に制御することができる。ポリマーを粉末付加製造法において使用することにより生成される3D物体の品質および機械的特性は、前記方法において使用される粉末のサイズおよびサイズ分布に依存していることを示している。本発明は、生じるマイクロペレット22のサイズおよびそれらのサイズ分布の両方ともの良好なカスタマイズおよび制御を可能にする。一実施形態では、単峰性のサイズ分布が使用される。他の実施形態では、二峰性またはより多峰性のサイズ分布が使用される。)
「[24] Examples of suitable semi-crystalline base polymers for use in each of the core and shell materials include polyamides, polyethylenes, polypropylenes, polyetheretherketones, polyoxymethylene acetals, polytetrafluoroethylenes, polypheneylene sulfides, polybutylene terephthalates, copolymers thereof, and combinations thereof. Suitable polyamides include aliphatic nylon polyamides, such as nylon 6, nylon 6-6, nylon 6-10, nylon 6-12, nylon 10, nylon 10-10, nylon 1 1, nylon 12, and combinations thereof. 」
([24] コアおよびシェル材料のそれぞれにおける使用に適した半結晶性ベースポリマーの例は、ポリアミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリオキシメチレンアセタール、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフェニレンスルフィド、ポリブチレンテレフタレート、それらのコポリマー、およびそれらの組み合わせを包含する。適したポリアミドは、脂肪族ナイロンポリアミド、例えばナイロン6、ナイロン6-6、ナイロン6-10、ナイロン6-12、ナイロン10、ナイロン10-10、ナイロン11、ナイロン12、およびそれらの組み合わせを包含する。)
「[26] Examples of suitable additives and modifiers include coloration inhibitors, lubricants, nucleating agents, viscosity thickeners, antioxidants, antistatic agents, bio- degradative agents, biocompatibility agents, bio-preservatives, colorants, fragrances, and stabilizers against hydrolysis, thermal degradation or UV degradation, mineral fillers, glass or carbon fibers, lubricants to improve wear and friction, plasticizers, fire retardants, electrically conductive materials, and other polymers to toughen or otherwise affect the base polymer.」
([26] 適した添加剤および変性剤の例は、着色防止剤、滑剤、造核剤、増粘剤、酸化防止剤、耐電防止剤、生分解剤、生体適合剤、バイオプリザバティブ、着色剤、香料、および加水分解、熱分解またはUV分解に対する安定剤、鉱物質充填剤、ガラスまたは炭素繊維、摩耗および摩擦を改善する滑剤、可塑剤、難燃剤、電気伝導性材料、およびベースポリマーを強化するか、さもなければ作用を及ぼすその他のポリマーを包含する。)
「
」
これらの記載から見て、引用文献1には以下の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認める。
「コア・シェル構造を有する円柱状の消耗性マイクロペレットであって、
前記円柱状の消耗性マイクロペレットの長さと前記マイクロペレットの直径との平均比が、1:2~3:1の範囲であり、
10ミクロン~250ミクロンの範囲の平均断面直径を有する、三次元物体の複数の凝固した層を形成するために溶融及び使用される消耗性マイクロペレット。」
イ 本件特許の請求項1~18に係る発明と引用発明との対比・判断
(ア) 本件発明1と引用発明との対比・判断
本件発明1と引用発明とを対比する。
引用発明の「コア・シェル構造を有する円柱状の消耗性マイクロペレット」は、本件発明1の「柱体の粒子」に相当する。また、引用発明の「消耗性マイクロペレット」は、「三次元物体の複数の凝固した層を形成するために溶融及び使用される」ものであるから、本件発明1の「立体造形用樹脂粉末」であるといえる。
したがって、両者は、
「柱体の粒子を含む、立体造形用樹脂粉末。」
の点で一致し、以下の点で相違している。
・相違点1
本件発明1の立体造形用樹脂粉末は、「柱体の粒子(ただし、柱体の周側面に前記柱体を覆う管状層を有してなる二重構造のものを除く。)」であるのに対し、引用発明は、「コア・シェル構造を有する」ものである点。
・相違点2
本件発明1の立体造形用樹脂粉末は、「前記柱体の粒子の底面における直径または長辺に対する高さの比が、0.5倍以上2倍以下であり、50%累積体積粒径が5μm以上200μm以下であり、かつ体積平均粒径/個数平均粒径が2.00以下であり、平均円形度が、0.5μm以上200μm以下の粒径の範囲において、0.83以上である」のに対し、引用発明の消耗性マイクロペレットは、「前記円柱状の消耗性マイクロペレットの長さと前記マイクロペレットの直径との平均比が、1:2~3:1の範囲であり、10ミクロン~250ミクロンの範囲の平均断面直径を有する」ものである点。
以下、相違点について検討する。
先ず、相違点1について検討するに、引用文献1は、請求項1にも記載されているように、マイクロペレットをコア・シェル構造とすることを指向するものであるから、引用発明を出発点として、「コア・シェル構造」ではないものとすることには、阻害要因がある。
してみれば、相違点2については検討するまでもなく、本件発明1は、引用発明、つまり、引用文献1に記載された発明ではなく、また、引用文献1に記載された発明及び引用文献2~5に記載された技術事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(イ) 本件発明2~18について
本件発明2~18はいずれも、直接又は間接的に請求項1を引用する発明であり、本件発明1の特定事項を全て有するものである。
そして、上記(ア)のとおり、本件発明1は、引用文献1に記載された発明ではなく、また、引用文献1に記載された発明及び引用文献2~5に記載された技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明1の特定事項を全て含む発明である、本件発明2~6、8~12、14~18もまた、引用文献1に記載された発明ではなく、さらに、本件発明1の特定事項を全て含む発明である、本件発明1~18もまた、引用文献1に記載された発明及び引用文献2~5に記載された技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(3) 理由3(拡大先願)について
ア 先願6の記載事項及び先願6に記載された発明について
先願6の出願当初の明細書、特許請求の範囲および図面には、次の記載がある。
「【請求項1】
単体構造を有する複数のポリマー系粒子を含む消耗性ポリマー系粉末混合物であって、前記複数のポリマー系粒子の少なくとも約80%が略円筒形状を有する、消耗性ポリマー系粉末混合物。
【請求項2】
複数のポリマー系粒子を含む消耗性ポリマー系粉末混合物であって、前記複数のポリマー系粒子の少なくとも約80%が略円筒形状を有し、前記複数のポリマー系粒子が約1.2以下の粒子長分布スパン(PLDS)を有し、前記PLDSが(L80-L20)/L50に等しい、消耗性ポリマー系粉末混合物。
【請求項3】
少なくとも1つの横断面が、約100ミクロン以下の最大幅を有する、請求項1及び2のいずれか1項に記載の消耗性ポリマー系粉末混合物。
【請求項4】
前記複数のポリマー系粒子の少なくとも約80%が、前記ポリマー系粒子の基部上に切断アーチファクトを含む、請求項1及び2のいずれか1項に記載の消耗性ポリマー系粉末混合物。
【請求項5】
前記複数のポリマー系粒子の少なくとも大部分が、均一な組成を有する、請求項1及び2のいずれか1項に記載の消耗性ポリマー系粉末混合物。
【請求項6】
前記複数のポリマー系粒子の少なくとも大部分が、約250ミクロン以下の長さを有する、請求項1及び2のいずれか1項に記載の消耗性ポリマー系粉末混合物。
【請求項7】
前記複数のポリマー系粒子が、約225ミクロン以下の平均長を有する、請求項1及び2のいずれか1項に記載の消耗性ポリマー系粉末混合物。」
「【技術分野】
【0001】
本開示は、消耗性粉末を製造するための方法及びシステムに関し、より詳しくは、選択的レーザー焼結(SLS)、高速焼結、及び選択的阻害焼結などの添加剤製造システムのための消耗性粉末に関する。」
「【0020】
特定の実施形態によれば、提供されるポリマー供給原料としては、半結晶性ベースポリマー(semi-crystalline based polymer)、例えばポリアミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリオキシメチレンアセタール、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフェニレンスルフィド、ポリブチレンテレフタレート、それらのブロックコポリマーまたはそれらの組み合わせを含むことができる。なおさらに他の実施形態によれば、提供されるポリマー供給原料としては、脂肪族ナイロンポリアミド、ナイロン6、ナイロン6-6、ナイロン6-10、ナイロン6-12、ナイロン10、ナイロン10-10、ナイロン11、ナイロン12、それらのブロックコポリマーまたはそれらの組み合わせを含むことができる。さらに別の実施形態によれば、提供されるポリマー供給原料は、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレンまたはそれらの組み合わせを含むことができる。
【0021】
特定の実施形態によれば、提供されるポリマー供給原料は、半結晶性ベースポリマー、例えばポリアミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリオキシメチレンアセタール、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフェニレンスルフィド、ポリブチレンテレフタレート、それらのブロックコポリマーまたはそれらの組み合わせからなり得る。なおさらに他の実施形態によれば、提供されるポリマー供給原料は、脂肪族ナイロンポリアミド、ナイロン6、ナイロン6-6、ナイロン6-10、ナイロン6-12、ナイロン10、ナイロン10-10、ナイロン11、ナイロン12、それらのブロックコポリマーまたはそれらの組み合わせからなり得る。さらに別の実施形態によれば、提供されるポリマー供給原料は、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、それらのブロックコポリマーまたはそれらの組み合わせからなり得る。
【0022】
さらに他の実施形態によれば、提供されるポリマー供給原料は、非晶質材料系ポリマー、例えばポリ(メチルメタクリレート)、ポリスチレン、アクリロニトリルブタジエンスチレン、ポリ乳酸、ポリベンズイミダゾール、ポリカーボネート、ポリスルホン、非晶質ポリアミド、それらのブロックコポリマーまたはそれらの組み合わせを含むことができる。
【0023】
さらに他の実施形態によれば、提供されるポリマー供給原料は、非晶質材料系ポリマー、例えばポリ(メチルメタクリレート)、ポリスチレン、アクリロニトリルブタジエンスチレン、ポリ乳酸、ポリベンズイミダゾール、ポリカーボネート、ポリスルホン、非晶質ポリアミド、それらのブロックコポリマーまたはそれらの組み合わせから成り得る。」
「【0027】
次にステップ150を参照すると、集合ポリマー系トウから消耗性粉末混合物を形成することは、集合ポリマー系トウを連続的に切断して複数のポリマー系粒子を作り出すことを含むことができる。集合ポリマー系トウが切断されると、それは複数のポリマー系繊維であり、その繊維は、一緒に集合されてポリマー系ヤーン、ポリマー系トウ及び最終的には集合ポリマー系トウを形成し、そして切断後に分離して複数のポリマー系粒子を作り出すことが理解されよう。
【0028】
集合ポリマー系トウは、例えば、1つ以上のブレードによって切断することができる。特定の実施形態では、ブレードはギロチンとして作用することができ、集合ポリマー系トウは、集合ポリマー系トウの長さに対してほぼ垂直に切断される。他の実施形態では、集合ポリマー系トウは、任意の他の有用な方法によって切断することができる。例えば、集合ポリマー系トウは、レーザー、ウォータージェット、エアジェット、またはそれらの任意の組み合わせによって切断することができる。」
「【0039】
さらに別の実施形態によれば、ポリマー系粒子は、略円筒形状を有することができる。円筒形状は、任意の三次元切断柱体、例えば、直角柱または斜めに切断された円柱であり得ることが理解されよう。円筒形状は、任意の2次元形状基部を有し得ることがさらに理解されよう。例えば、円筒形状の基部は、多角形、円形、楕円形または三角形であり得る。」
「【0045】
さらに他の実施形態によれば、ポリマー系粒子の少なくとも大部分は、特定の最大長を有すると記載することができる。例えば、ポリマー系粒子の大部分の最大長は約250ミクロン以下、例えば約240ミクロン以下、約230ミクロン以下、約220ミクロン以下、約210ミクロン以下、約200ミクロン以下、約190ミクロン以下、約180ミクロン以下、約170ミクロン以下、約160ミクロン以下または約150ミクロン以下でさえもあり得る。なおさらに他の実施形態によれば、ポリマー系粒子の大部分の最大長は、少なくとも約30ミクロン、例えば少なくとも約40ミクロンまたは少なくとも約50ミクロンでさえもあり得る。ポリマー系粒子の大部分の最大長は、上記の最小値と最大値のいずれかの間の任意の値であり得ることが理解されよう。ポリマー系粒子の大部分の最大長は、上記の最小値と最大値のいずれかの間の範囲内であり得ることがさらに理解されよう。」
「【0051】
さらに他の実施形態によれば、ポリマー系粒子の少なくとも大部分は、特定の長さ対幅の比L/Wを有すると記載することができ、Lはポリマー系粒子の最大長であり、Wはポリマー系粒子の最大幅である。例えば、ポリマー系粒子の大部分の長さ対幅の比L/Wは、少なくとも約0.5、例えば少なくとも約0.8、少なくとも約1.0、少なくとも約1.3または少なくとも約1.5でさえもあり得る。なおさらに他の実施形態によれば、ポリマー系粒子の大部分の長さ対幅の比L/Wは、約3以下、例えば約2.8以下、約2.5以下、約2.3以下または約2.0以下でさえもあり得る。ポリマー系粒子の大部分の長さ対幅の比L/Wは、上記の最小値と最大値のいずれかの間の任意の値であり得ることが理解されよう。ポリマー系粒子の大部分の長さ対幅の比L/Wは、上記の最小値と最大値のいずれかの間の範囲内であり得ることがさらに理解されよう。」
「【0075】
なおさらに他の実施形態によれば、湿式加工は、複数のポリマー系粒子に追加の添加剤を導入して、粉末の加工特性、熱、UVまたは他のタイプのポリマー分解を遅延させ、粉末の光学特性を変化させ、耐火性の向上を導入し、または粉末の電気的特性または他の測定可能な特性を変化させることをさらに含むことができる。」
「【0155】
実施例1
第1のサンプルの消耗性ポリマー粉末S1を、本明細書に記載の実施形態に従って形成した。以下の表1に要約してあるように、切断長、直径及びアスペクト比(L/W)を含む粉末サイズ特性を測定した。
」
「
」
これらの記載から見て、先願6の出願当初の明細書、特許請求の範囲および図面には、以下の発明(以下「先願発明」という。)が記載されていると認める。
「単体構造を有する複数のポリマー系粒子を含む消耗性ポリマー系粉末混合物であって、
前記複数のポリマー系粒子の少なくとも約80%が略円筒形状を有し、
前記ポリマー系粒子の大部分の長さ対幅の比L/Wは、少なくとも約0.5以上約3以下であり、
少なくとも1つの横断面が、約100ミクロン以下の最大幅を有し、
前記複数のポリマー系粒子の少なくとも大部分が、約250ミクロン以下の長さを有する、
消耗性ポリマー系粉末混合物。」
イ 本件発明1~6、8~12、14~16と先願発明との対比・判断
(ア) 本件発明1と先願発明との対比・判断
本件発明1と先願発明とを対比する。
先願発明の「単体構造を有する」「略円筒形状」の「ポリマー系粒子」は、本件発明1の「柱体の粒子(ただし、柱体の周側面に前記柱体を覆う管状層を有してなる二重構造のものを除く。)」に相当する。また、先願発明の「消耗性ポリマー系粉末混合物」は、「選択的レーザー焼結(SLS)、高速焼結、及び選択的阻害焼結などの添加剤製造システム」のためのもの(段落【0001】)であるから、立体造形用途に用いられることは明らかである。してみれば、先願発明の「消耗性ポリマー系粉末混合物」は、本件発明1の「立体造形用樹脂粉末」であるといえる。
そこで、本件発明1と先願発明とを対比すると、両者は、
「柱状の粒子(ただし、柱体の周側面に前記柱体を覆う管状層を有してなる二重構造のものを除く。)を含む、立体造形用樹脂粉末」
の点で一致し、以下の点で相違している。
・相違点3
本件発明1の立体造形用樹脂粉末は、「前記柱体の粒子の底面における直径または長辺に対する高さの比が、0.5倍以上2倍以下であり、50%累積体積粒径が5μm以上200μm以下であり、かつ体積平均粒径/個数平均粒径が2.00以下であり、平均円形度が、0.5μm以上200μm以下の粒径の範囲において、0.83以上である」のに対し、先願発明の消耗性ポリマー系粉末混合物は、「前記ポリマー系粒子の大部分の長さ対幅の比L/Wは、少なくとも約0.5以上約3以下であり、少なくとも1つの横断面が、約100ミクロン以下の最大幅を有し、前記複数のポリマー系粒子の少なくとも大部分が、約250ミクロン以下の長さを有する」ものであって、平均円形度については特定されない点。
以下、相違点3について検討する。
本件発明1の、「平均円形度が、0.5μm以上200μm以下の粒径の範囲において、0.83以上である」との点について、実施例22~28(段落【0139】~【0146】)をみるに、球形化処理を行うことにより平均円形度0.83以上のものを得ているのに対し、先願6の出願当初の明細書、特許請求の範囲又は図面には、球形化処理を施すことについては記載も示唆もされていない。
してみれば、先願6の出願当初の明細書、特許請求の範囲又は図面の具体的な製造方法に関する記載も参酌しても、先願発明のポリマー系粒子の平均円形度が0.83以上であると推認することはできないから、本件発明と先願発明は同一ではない。
(イ) 本件発明2~6、8~12、14~16について
本件発明2~6、8~12、14~16はいずれも、直接又は間接的に請求項1を引用する発明であり、本件発明1の特定事項を全て有するものである。
そして、上記(ア)のとおり、本件発明1は、先願発明と同一ではないから、本件発明2~6、8~12、14~16もまた、先願発明と同一ではない。
(4) 理由4(サポート要件)について
本件発明1において特定されている各条件については、段落【0013】に「柱体の粒子の底面における直径又は長辺に対する高さの比」、段落【0021】に「50%累積体積粒径」、段落【0026】に「平均円形度」についてそれぞれ記載されており、さらに、段落【0041】に具体的な粒度分布測定装置をあげた上で、本件発明1の特定事項を満たす実施例及びその効果の検討結果も示されている。
なお、訂正により、「平均円形度」が特定された結果、比較例8は本件発明1の特定事項を満たさないものとなったことにより、比較例8の存在を根拠とする理由も解消されている。
したがって、本件発明1~18に関して、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号の要件を満たすものといえる。
(5) 特許異議申立人の令和1年10月16日提出の意見書(以下、「意見書」という。)における主張について
特許異議申立人は意見書において、甲第1号証の部分訳を提出するとともに、本件発明1~18に対して、概略次の主張をしているが、いずれも以下のとおり採用することができない。
・主張1
甲第1号証に明示的に「平均円形度が0.83以上」であることが記載されていないとしても、甲第1号証に記載されているマイクロペレットが、本件発明1に係る立体造形用樹脂粉末と同等の平均円形度を有している蓋然性は極めて高いことをあげつつ、本件発明1~18は、甲第1号証に記載されている発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである旨主張する。
しかしながら、「第5 2(1)イ(ア)」で検討したとおり、本件発明1~18と甲第1号証に記載された発明(引用発明)は相違点1の点で相違し、かつ、甲第1号証に記載された発明はマイクロペレットをコア・シェル構造とすることに阻害要因があるのであるから、当該主張については検討するまでもなく、本件発明1~18は、甲第1号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
・主張2
甲第5号証には、粉末粒子の平均円形度が0.83以上であることは明示的に記載されていないものの、甲第5号証に記載の粉末は、本件発明1による立体造形用樹脂粉末と同等の寸法およびアスペクト比を有していることから、平均円形度も0.83以上であると解され、本件特許発明と甲第5号証に記載されている発明との間に相違点はないとし、本件発明1~18は、甲第5号証に記載されている発明と同一である旨主張する。
しかしながら、「第5 2(3)イ(ア)」で検討したとおり、本件発明の、「平均円形度が、0.5μm以上200μm以下の粒径の範囲において、0.83以上である」との点について、球形化処理を行うことにより所定の平均円形度とするものであり、甲第5号証(先願6)には、球形化処理を施すことについては記載も示唆もされていない。
してみれば、当該主張は採用できない。
・主張3
訂正後の実施例22~28では、粒子の直径もしくは縦が40~80μm、高さが40~80μmであるものが記載されているのみであって、0.5μm以上40μm未満および80μm超200μm以下の粒子であっても同様の効果を奏するのか否かが不明であること、参考例を参酌すると、「0.83以上」という平均円形度に臨界的意義があるとは解することができないことなどを根拠とし、本件発明1~18に関して、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号の要件を満たしていない旨主張する。
しかしながら、「第5 2(4)」で検討したとおり、実施例以外においても、明細書の発明の詳細な説明中において説明がなされており、さらに、本件発明1の特定事項を満たす実施例及びその効果の検討結果も示されていることから、本件発明1~18に関して、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号の要件を満たすものである。
してみれば、当該主張も採用できない。
第6 結論
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1~18に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1~18に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2019-700255