特許異議申立
2019-700260
立体造形用樹脂粉末、立体造形物の製造装置、及び立体造形物の製造方法
- 審判番号
- 2019-700260
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2017-138268
- 登録番号
- 特許第6402810号(P6402810)
- 請求日
- 2019年04月05日
- 審決日
- 2020年06月19日
- 公報発行日
- 2020年09月25日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】株式会社リコー
- 【権利者代理人】廣田 浩一
- 【異議申立人】東レ 株式会社
- 【異議申立人代理人】伴 俊光
- 【異議申立人代理人】細田 浩一
- 【異議申立人】エボニック デグサ ゲーエムベーハー
- 【異議申立人代理人】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
- 【異議申立人代理人】バーナード 正子
- 審判長/審判官
- 審判長 加藤 友也
- 審判官 渕野 留香
- 審判官 植前 充司
- 分類
- P1651.113-YAA(B29C) / P1651.121-YAA(B29C)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第120条の5第5項、特許法第120条の5第2項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第6402810号発明「立体造形用樹脂粉末、立体造形物の製造装置、及び立体造形物の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第6402810号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~13〕について訂正することを認める。
特許第6402810号の請求項1~13に係る特許を維持する。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
特許第6402810号(以下、「本件特許」という。)に係る出願(特願2017-138268号)は、平成28年7月22日提出の特願2016-144862号、平成29年3月14日提出の特願2017-49036号及び平成29年6月6日提出の特願2017-111488号を優先基礎出願とする優先権主張を伴って、特許権者である株式会社リコ-によりされた、平成29年7月14日を出願日とする特許出願であり、平成30年9月21日に特許権の設定登録(請求項の数13)がされ、同年10月10日に特許掲載公報が発行された。
その後、平成31年4月5日に、請求項1~13に係る特許に対し、特許異議申立人 東レ株式会社(以下、「申立人A」という。)により特許異議の申立てがされ、また、同年同月10日に、請求項1~13に係る特許に対し、特許異議申立人 エボニック デグサ ゲーエムベーハー(以下、「申立人B」という。)により特許異議の申立てがされた。
令和1年7月10日付けで取消理由が通知され、同年9月13日に特許権者から意見書及び訂正請求書が提出された。その訂正の請求に対して、同年9月27日付けで申立人に対して特許法第120条の5第5項の規定に基づく通知を行ったところ、同年10月30日に申立人Aから意見書が提出されたが、申立人Bからは何らの応答もなされなかった。
令和2年1月27日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、同年3月19日付けで特許権者から意見書及び訂正請求書が提出された。
なお、令和2年3月19日付けで特許権者により提出された訂正請求書による訂正の請求(2回目の訂正請求)は、令和1年9月13日に提出された訂正請求書による特許請求の範囲についての訂正(1回目の訂正請求)に、さらに、(Cd1-Cd2)を1回目の「≧7%」から、「7%以上11%以下」とし、また、(Cx1-Cx2)を、「≧9%」から「9%以上11%以下」として、それぞれの上限を限定する訂正をするものであって、1回目の訂正の請求後に、申立人A及びBに対して意見書の提出の機会を与えていることから、特許法120条の5第5項ただし書所定の特別の事情があると認め、申立人らに対し、同法同条同項所定の意見書を提出する機会を与えていない(審判便覧67-05.5 4.(1)参照。)。
また、1回目の訂正請求は取り下げられたものとみなす。
第2 訂正の適否についての判断
1.請求の趣旨
令和2年3月19日付けで特許権者により提出された訂正請求書によりなされた訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)は、「特許第6402810号の明細書及び特許請求の範囲を、本請求書に添付した訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1乃至13について訂正することを求める」ことを請求の趣旨とするものである。
2.訂正の内容
本件訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、以下のとおりである。なお、訂正箇所を分かりやすく対比するために、当審において下線を付与した。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「体積平均粒径/個数平均粒径が2.50以下」と記載されているのを、「体積平均粒径/個数平均粒径が2.00以下」に、また、「(Tmf1-Tmf2)≧3℃」と記載されているのを「(Tmf1―Tmf2)≧5.2℃」に、「(Cd1-Cd2)≧3%」と記載されているのを「(Cd1-Cd2)が7%以上22%以下」に、「(Cx1-Cx2)≧3%」と記載されているのを「(Cx1-Cx2)が9%以上11%以下」に、それぞれ、訂正する。
(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2~13も同様に訂正する。)
(2)訂正事項2
明細書の【0007】に、「体積平均粒径/個数平均粒径が2.50」と記載されているのを、「体積平均粒径/個数平均粒径が2.00以下」に訂正し、また、「(Tmf1-Tmf2)≧3℃」と記載されているのを「(Tmf1-Tmf2)≧5.2℃」に、「(Cd1-Cd2)≧3%」と記載されているのを「(Cd1-Cd2)が7%以上22%以下」に、「(Cx1-Cx2)≧3%」と記載されているのを「(Cx1-Cx2)が9%以上11%以下」に、それぞれ、訂正する。
(3)訂正事項3
明細書の【0010】に、「体積平均粒径/個数平均粒径が2.50」と記載されているのを、「体積平均粒径/個数平均粒径が2.00以下」に訂正し、また、「(Tmf1-Tmf2)≧3℃となり、(Tmf1-Tmf2)≧5℃が好ましく」と記載されているのを「(Tmfl-Tmf2)≧5.2℃となり」に、「(Cd1-Cd2)≧3%となり、(Cd1-Cd2)≧5%が好ましく、(Cd1-Cd2)≧10%がより好ましい。」と記載されているのを「(Cd1-Cd2)が7%以上22%以下となる。」に、「(Cx1-Cx2)≧3%となり、(Cx1-Cx2)≧5%が好ましく、(Cx1-Cx2)≧10%がより好ましい。」と記載されているのを「(Cx1-Cx2)が9%以上11%以下となる。」に、それぞれ、訂正する。
(4)訂正事項4
明細書の【0024】に、「2.50以下であり、2.00以下が好ましく」と記載されているのを、「2.00以下であり」に訂正する。
(5)一群の請求項について
本件訂正は、特許設定登録時(訂正前)の請求項1~13を訂正するものであるところ、本件訂正前の請求項2~13は、訂正請求の対象である請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する関係にあるから、訂正前の請求項1~13は一群の請求項であって、本件訂正は、一群の請求項〔1~13〕について請求されたものである。
なお、本件訂正の請求は、訂正事項2~4として、願書に添付した明細書の訂正を含むものであるところ、本件訂正の請求は、該明細書の訂正に係る請求項の全てについて行われている。
3.訂正の目的の適否、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内か否か及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、請求項1に特定される立体造形用樹脂粉末の「体積平均粒径/個数平均粒径」を「2.50以下」から、より狭い範囲である「2.00以下」に訂正し、また、「(1)」における「(Tmf1-Tmf2)≧3℃」をより狭い範囲である「(Tmf1-Tmf2)≧5.2℃」の範囲に、「(2)」における「(Cd1-Cd2)≧3%」をより狭い範囲である「(Cd1-Cd2)が7%以上22%以下」に、さらに、「(3)」における「(Cx1-Cx2)≧3%」をより狭い範囲である「(Cx1-Cx2)が9%以上11%以下」に、それぞれ訂正するものであるから、訂正事項1は特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項1は、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、単に「本件特許明細書等」ともいう。)の【0024】、【0010】並びに【0117】の【表1】の実施例1、2、4及び6の記載に基づく訂正であるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものである。
さらに、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(訂正後の請求項1を直接的又は間接的に引用する請求項2~13についての訂正も同様である。)
(2)訂正事項2~4について
訂正事項2~4は、訂正後の請求項1との対応関係を明瞭にするために、明細書の記載を訂正後の請求項1の記載に整合させる訂正である。また、訂正事項2及び3の中、体積平均粒径/個数平均粒径が2.50」と記載されているのを、「体積平均粒径/個数平均粒径が2.00以下」に訂正する点に関しては、本件特許明細書等の【0007】及び【0010】に、「体積平均粒径/個数平均粒径が2.50」と記載されていたのが、「体積平均粒径/個数平均粒径が2.50以下」の誤記であることは、当該段落の記載が本件特許明細書等の特許請求の範囲の請求項1に対応する記載であることや、本件特許明細書等の【0024】に、「前記粉末の体積平均粒径/個数平均粒径(Mv/Mn)は、造形精度向上やリコート性向上の点から、2.50以下であり」と記載されていたことから当業者に明らかであることから、上記の誤記をあわせて訂正するものである。
すなわち、訂正事項2及び3は、明瞭でない記載の釈明及び誤記の訂正を目的とするものであるし、訂正事項4は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
そして、上記の本件特許明細書等の記載及び上記(1)で訂正事項1について指摘した本件特許明細書等の記載によれば、訂正事項2~4は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(3)小括
以上のとおり、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第2号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、本件特許の明細書及び特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~13〕について訂正することを認める。
第3 本件発明
前記第2で述べたとおり、本件訂正は認められるので、本件特許の請求項1~13に係る発明は、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1~13に記載された事項により特定される次のとおりのものである。(以下、請求項番号に対応して、それぞれ「本件発明1」等といい、本件発明1~13をまとめて「本件発明」ともいう。)
「【請求項1】
50%累積体積粒径が5μm以上100μm以下であり、かつ体積平均粒径/個数平均粒径が2.00以下であり、
下記(1)~(3)から選択される少なくとも1種を満たすことを特徴とする立体造形用樹脂粉末。
(1)示差走査熱量測定において、ISO 3146に準拠して、10℃/minにて、融点より30℃高い温度まで昇温したときの吸熱ピークの融解開始温度をTmf1とし、その後、10℃/minにて、-30℃以下まで降温し、さらに、10℃/minにて、融点より30℃高い温度まで昇温したときの吸熱ピークの融解開始温度をTmf2としたときに、Tmf1>Tmf2となり、かつ(Tmf1-Tmf2)≧5.2℃となる。なお、前記吸熱ピークの融解開始温度は、融点での吸熱が終了した後に、熱量の一定となった所から低温側へx軸に対して平行な直線を引き、前記直線から-15mW下がった時点での温度である。
(2)示差走査熱量測定において、ISO 3146に準拠して、10℃/minにて、融点より30℃高い温度まで昇温したときの吸熱ピークのエネルギー量から求められる結晶化度をCd1とし、その後、10℃/minにて、-30℃以下まで降温し、さらに、10℃/minにて、融点より30℃高い温度まで昇温したときの吸熱ピークのエネルギー量から求められる結晶化度をCd2としたときに、Cd1>Cd2となり、かつ(Cd1-Cd2)が7%以上22%以下となる。
(3)X線回折測定により得られる結晶化度をCx1とし、窒素雰囲気下10℃/minにて、融点より30℃高い温度まで昇温し、その後、10℃/minにて、-30℃以下まで降温し、さらに、10℃/minにて、融点より30℃高い温度まで昇温したときのX線回折測定により得られる結晶化度をCx2としたときに、Cx1>Cx2となり、かつ(Cx1-Cx2)が9%以上11%以下となる。
【請求項2】
前記50%累積体積粒径が、20μm以上70μm以下である請求項1に記載の立体造形用樹脂粉末。
【請求項3】
ISO 3146に準拠して測定したときの融点が、100℃以上である請求項1から2のいずれかに記載の立体造形用樹脂粉末。
【請求項4】
前記体積平均粒径/個数平均粒径が、1.50以下である請求項1から3のいずれかに記載の立体造形用樹脂粉末。
【請求項5】
ポリオレフィン、ポリアミド、ポリエステル、ポリアリールケトン、ポリフェニレンスルフィド、液晶ポリマー、ポリアセタール、ポリイミド、及びフッ素樹脂から選択される少なくとも1種を含む請求項1から4のいずれかに記載の立体造形用樹脂粉末。
【請求項6】
前記ポリアミドが、ポリアミド410、ポリアミド4T、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミドMXD6、ポリアミド610、ポリアミド612、ポリアミド6T、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド9T、ポリアミド10T、及びアラミドから選択される少なくとも1種である請求項5に記載の立体造形用樹指粉末。
【請求項7】
前記ポリエステルが、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、及びポリ乳酸から選択される少なくとも1種である請求項5かも6のいずれかに記載の立体造形用樹脂粉末。
【請求項8】
前記ポリアリールケトンが、ポリェーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトン、及びポリエーテルケトンケトンから選択される少なくとも1種である請求項5から7のいずれかに記載の立体造形用樹脂粉粉末。
【請求項9】
平均円形度が、0.5μm以上200μm以下の粒径の範囲において、0.83以上である請求項1から8のいずれかに記載の立体造形用樹脂粉末。
【請求項10】
強化剤をさらに含む請求項1から9のいずれかに記載の立体造形用樹脂粉末。
【請求項11】
難燃剤をさらに含む請求項1から10のいずれかに記載の立体造形用樹脂粉末。
【請求項12】
請求項1から11のいずれかに記載の立体造形用樹脂粉末が貯蔵されている供給槽と、
前記立体造形用樹脂粉末を含む層を形成する層形成手段と、
前記層の選択された領域内の樹脂粉末同士を接着させ粉末接着手段と、を有することを特徴とする立体造形物の製造装置。
【請求項13】
請求項1から11のいずれかに記載の立体造形用樹脂粉末を含む層を形成する成膜工程と、
前記成膜された膜に電磁照射し、溶融させた後に冷却後硬化する硬化工程と、を繰り返すことを特徴とする立体造形物の製造方法。」
第4 申立人A及びBが特許異議申立書で主張する特許異議の申立ての理由の概要
訂正前(特許の設定登録時)の請求項1~13に係る特許に対して、申立人A及びBが申立てていた申立理由の概要は、それぞれ、以下のとおりである。
1.申立人Aが特許異議申立書(以下、「申立書」という。)に記載した特許異議の申立ての理由の概要
訂正前の請求項1~13に係る特許に対し、申立人Aが申立てていた特許異議の申立ての理由は、概略、請求項1~13に係る発明についての特願2016-144862号及び特願2017-49036号に基づく優先権主張の効果は認められず、これらの請求項に係る発明についての本件特許は、次の(1)~(4)のとおりの申立理由により、取り消されるべきものであるというものである。また、申立人は、証拠方法として、下記(5)の甲第1号証~甲第5号証(以下、各甲号証の数字を付して「甲1A」等という。)を提出した。
(1)申立理由A1(甲1Aに基づく新規性)
本件特許の請求項1~3、5、10、12及び13に係る発明は、甲1Aに記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、本件特許の上記請求項に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
(2)申立理由A2(甲2Aに基づく新規性)
本件特許の請求項1~6、9、12及び13に係る発明は、甲2Aに記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、本件特許の上記請求項に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
(3)申立理由A3(甲1Aを主引用文献とする進歩性)
本件特許の請求項1、3、5、10、12及び13に係る発明は、甲1Aに記載された発明から、あるいは、甲1Aに記載された発明と甲2A又は/及び甲4Aに記載の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるし、本件特許の請求項2に係る発明は、甲1Aに記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものであるし、本件特許の請求項7及び8に係る発明は、甲1Aに記載された発明から、あるいは、甲1Aに記載された発明と甲2A又は/及び甲4Aに記載の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許の請求項1~3、5、7、8、10、12及び13に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。よって、本件特許の請求項1~3、5、7、8、10、12及び13に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
(4)申立理由A4(甲2Aを主引用文献とする進歩性)
本件特許の請求項1、3、5、10、12及び13に係る発明は、甲2Aに記載された発明から、あるいは、甲2Aに記載された発明と甲1A又は/及び甲4Aに記載の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるし、本件特許の請求項2、4及び9に係る発明は、甲2Aに記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものであるし、本件特許の請求項6及び11に係る発明は、甲2Aに記載された発明、あるいは、甲2Aに記載された発明及び甲4Aに記載の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるし、本件特許の請求項7及び8に係る発明は、甲2Aに記載された発明から、あるいは、甲2Aに記載された発明と甲1A又は/及び甲4Aに記載の技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許の請求項1~13に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。よって、本件特許の請求項1~13に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
(5)証拠方法
・甲1A:特開2017-43654号公報(公開日:平成29年3月2日)
・甲2A:国際公開第2016/104140号
・甲3A:実験証明書(東レ株式会社 ケミカルプロセス技術部 プロセス開発第2室長 竹田多完により、2019年3月25日に作成されたもの。)
甲3Aの実験内容に関して、添付書類として以下の資料が添付されている。
ア 図1(図1-1および図1-2):サンプルAおよびサンプルBの50%累積体積粒径、体積平均粒径、個数平均粒径の測定チャート
イ 図2(図2-1および図2-2):サンプルAおよびサンプルBの示差走査熱量測定による融解開始温度と結晶化度の測定チャート
ウ PPSの屈折率に関する根拠資料(Journal of Polymer Science:Part B:Polymer Physics,Vol.31,p1951~1963(1993))およびその部分翻訳
エ ポリアミド12の屈折率に関する根拠資料(分析化学(1983)32巻4号p258~263)
オ PPSの完全結晶融解熱量に関する根拠資料(Polymer Engineering and Science, January 1989,vol.29,No.2,p140~150)およびその部分翻訳
カ ポリアミド12の完全結晶融解熱量に関する根拠資料(NSTI-nanotech2004,vol.3,p280~283)およびその部分翻訳とポリアミド12(PA12)の完全結晶融解熱量であることの説明
・甲4A:特表2015-500375号公報
・甲5A:実験証明書(東レ株式会社 ケミカルプロセス技術部 プロセス開発第2室長 北村哲により、2019年10月25日に作成されたもの。)
甲5Aの実験内容に関して、添付書類として以下の資料が添付されている。
ア 図1:サンプルの50%累積体積粒径、体積平均粒径、個数平均粒径の測定チャート
イ 図2:サンプルの示差走査熱量測定による結晶化度の測定チャート
ウ 図3:サンプルのX線回折による結晶化度の測定チャート
エ ポリアミド12の屈折率に関する根拠資料(分析化学(1983)32巻4号p258~263)
オ ポリアミド12の完全結晶融解熱量に関する根拠資料(NSTI-nanotech2004,vol.3,p280~283)およびその部分翻訳とポリアミド12(PA12)の完全結晶融解熱量であることの説明
(なお、甲5Aは、令和1年10月30日提出の意見書に添付して提出されたものである。)
2.申立人Bが申立書に記載した特許異議の申立ての理由の概要
本件訂正前の請求項1~13に係る特許に対し、申立人Bが申立てていた特許異議の申立ての理由は、概略、これらの請求項に係る発明についての本件特許は、次の(1)~(2)のとおりの申立理由により、取り消されるべきものであるというものである。また、申立人は、証拠方法として、下記(3)の甲第1号証~甲第7号証(以下、各甲号証の数字を付して「甲1B」等という。)を提出した。
(1)申立理由B1(甲1Bに基づく新規性)
本件特許の請求項1~6及び13に係る発明は、甲1Bに記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、本件特許の上記請求項に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
(2)申立理由B2(甲2Bに基づく進歩性)
本件特許の請求項1~13に係る発明は、甲2Bに記載された発明と、甲3Bまたは甲4Bに記載された事項と周知技術(甲5B)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許の請求項1~13に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。よって、本件特許の請求項1~13に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
(3)証拠方法
・甲1B:特開平11-216779号公報
・甲2B:国際公開第2016/084928号
・甲3B:特表2015-500375号公報
・甲4B:特開2006-321711号公報
・甲5B:化学大辞典編集委員会編、「化学大辞典 8」(縮刷版第39刷)、共立出版株式会社、2006年9月15日、p.731~733
・甲6B:実験報告書(エヴォニック リソース エフィシエンシー有限会社 ハイパフォーマンスポリマーズのクララ ヴァイス博士/C.T.クリスチャン ブリンクメラーにより作成された 製品名VESTOSINT(登録商標)1115 nf についての2019年3月6日付けの試験データ)
・甲7B:デグッサ-ヒュルス株式会社による「VESTOSINT 1115 nf」の製品情報(2000年10月)
第5 取消理由(決定の予告)の概要
本件訂正前の請求項1~13(令和1年9月13日提出の訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1~13)に係る特許に対して、当審合議体が令和2年1月27日付けで特許権者に通知した取消理由(決定の予告)の概要は、次のとおりである。
1.取消理由A(甲4Aに基づく新規性)
本件特許の請求項1~9、12及び13に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である甲4Aに記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1~9、12及び13に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
2.取消理由B(甲4Aを主引用文献とする進歩性)
本件特許の請求項10及び11に係る発明は、下記の本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物である甲4Aに記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項10及び11に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
第6.取消理由(決定の予告)に対する判断
1.甲4Aの記載事項及び甲4Aに記載された発明
(1)甲4Aの記載事項
甲4Aには以下の記載がある。なお、下線は合議体が付した。
「【0001】
本開示は、一般に、粉末に基づく付加製造に関し、特に、付加製造用の前処理された材料を用いた熱に誘導される焼結または溶融のための方法およびシステムに関する。
【0002】
粉末に基づく付加製造の商業的に使用される方法の1つは、選択的レーザー焼結(「SLS」)処理である。この方法は、3次元物体の固体で自由形状の製造に有用である。SLS処理の場合、実施可能な材料としては、ポリマー(たとえば、ナイロン型材料)が挙げられる。にもかかわらず、より広い範囲のこのような材料が望まれている。」
「【0004】
図1は、全体的に100で示されている例示的実施形態のSLSシステムの概略斜視図である。図2は、システム100の概略切り欠き斜視図である。システム100は、粉末材料を処理することによって物体を形成する。図1に示されるように、システム100は、少なくとも1つの部品台102と、部品台102の上面106にエネルギーを誘導するためのエネルギー誘導機構104(たとえば、CO2レーザー)と、カートリッジ110から部品台102上に未融合粉末の平滑な層を分布させるための供給機構108(たとえば、ローラー、ブレード、またはその他のスプレッダー)と、システム100の動作を自動制御するためのコンピュータ112とを含む。明確にするため、図1は、コンピュータ112とシステム100の他の構成要素との間の種々の接続は示していない。次に、コンピュータ112は、人間の使用者(図1中には示していない)からの指示に応答して動作する。
【0005】
例示的実施形態において、部品台102は、酸素が制御されたキャビネットまたはチャンバーの中に配置され、システム100は、部品台102上の粉末を好適な温度に維持する(たとえば、ヒーターを使用)。上面106上の粉末の第1の層中では、コンピュータ112からの信号に応答して:(a)エネルギー誘導機構104によってエネルギーが誘導されて、図2に示されるような断面領域204中の粉末に当てられ;(b)このように誘導されたエネルギーによって、断面領域204の温度が、断面領域204中の粉末202を軟化させ互いに融合させるのに十分な温度まで上昇し、それによって図2に示されるように融合した粉末206となり;(c)同じ方法で、システム100は、1つ以上の他の断面領域中の粉末を選択的に融合させて、物体の第1の層を形成するように運転可能であり、これはコンピュータ112によって指定される。一例では、このような融合は、粉末粒子の外面を軟化させることによって(たとえば、それらを部分的に溶融させることによって)実現され、それによってそれらが互いに融合(または「固着」)し、それらが完全に溶融するかどうかは無関係である。
【0006】
システム100によって物体の第1の層が形成された後、システム100によって:(a)指定の層厚さだけ部品台102が下降し;(b)さらなる指定の層厚さだけ粉末供給のカートリッジ110が上昇し;(c)供給機構108により、カートリッジ110からの粉末の第2の層が、粉末の第1の層の上になめらかに分散し(たとえば広げられ);(d)1つ以上の断面領域中で粉末が選択的に融合して、物体の第2の層が(粉末の第2の層中に)形成され、物体の第2の層が物体の第1の層と融合する。同じ方法で、システム100はこのプロセスを繰り返して、物体の全体の形状が形成されるまで、物体の連続した層が(粉末の連続した層中に)形成される。したがって、システム100は、付加層デジタル製造技術としてレーザー焼結を行い、システム100によって:(a)水平面上に、粉末の複数の層を広げ、これが集まって図2に示されるように粉末208の床を形成し;(b)エネルギー誘導機構104(たとえば、赤外レーザービームまたは電子ビーム)を使用して、それらの層中の断面領域を選択的に融合(たとえば焼結)させることが、繰り返し行われる。」
「【0017】
SLS処理の場合、EOS PA 2201が好適な二重融点材料の1つである。この材料はドイツのEOS Gmbhから入手可能である。また、米国の企業の3D SYSTEMS,Incは、「DURAFORM PA」の製品名の材料を供給している。この材料は少なくとも2つの結晶状態を有する。たとえば、このような材料は先に溶融させていない場合、このような材料のDSCによって:(a)その溶融温度(「第1の溶融ピーク」または「Tm1」)が通常約186℃であり;(b)冷却すると、約145℃で再結晶することが示される。比較として、このような材料をあらかじめ溶融させた場合、このような材料のDSCによって、その溶融温度(「第2の溶融ピーク」または「Tm2」)が約178℃まで低下し、その第2の溶融ピーク開始温度(「Tmo(2)」が約172℃まで低下したことが示される。
【0018】
従来のSLS材料およびそれらの溶融挙動の例を以下の表に示す。
【0019】
・・・上記表に示される温度測定値は、ASTM D3418-03(Standard Test Method for Transition Temperatures and Enthalpies of Fusion and Crystallization of Polymers by Differential Scanning Calorimetry)に準拠しTA Instruments TA Q10 DSC装置を用いて得られた。Tm、Trc、開始点、および溶融エンタルピー(ΔHm)を測定するために、標準的なアルミニウムパンを使用し、加熱および冷却を以下のように行った:(1)40℃で平衡させ、(2)10℃/分で215℃まで上昇させ、(3)5分間等温で維持し、(4)-10℃/分で50℃まで低下させ、(5)1分間等温で維持し、次に(6)10℃/分で250℃まで上昇させる。」
「【0028】
第1の例として、窒素雰囲気下の密閉容器中、システム500によって、ARKEMA ORGASOL 2003材料であるARKEMA ORGASOL lot 265のサンプル(「ORGASOL 2003サンプル」)材料の前処理を行った。ARKEMA ORGASOL 2003材料は、仏国のARKEMA Corporationより入手可能なナイロン12粉末である。SLS処理の場合、ARKEMA ORGASOL 2003材料は、特に、より一般的に使用される材料(たとえば、EOS PA 2201、EOS PA 2200、3D SYSTEMS Duraform PA)と比較すると、比較的使用が困難である。市販のSLS粉末は大きな比率で、EOS PA 2201、EOS PA 2200、および3D SYSTEMS Duraform PA材料をベースポリマー成分として含む。」
「【図1】
【図2】
」
(2)甲4Aに記載された発明
上記(1)で指摘した甲4Aの記載事項、特に【0002】、【0018】及び【0028】によれば、甲4Aには、以下の発明が記載されているといえる。
「選択的レーザー焼結(SLS)処理による3次元固体物体の製造に使用するためのナイロン12粉末であるARKEMA ORGASOL 2003材料。」(以下、「甲4A粉末発明」という。)
2.本件発明1と甲4A粉末発明との対比
本件発明1と甲4A粉末発明とを対比する。
甲4A粉末発明の「ナイロン12粉末であるARKEMA ORGASOL 2003材料」は、本件発明1の「樹脂粉末」に相当するし、甲4A粉末発明の当該材料が「選択的レーザー焼結(SLS)処理による3次元固体物体の製造に使用するため」のものであることは、本件発明1の粉末が「立体造形用」であることに相当する。
そうすると、本件発明1と甲4A粉末発明とは、下記の点で一致し、下記の点で一応相違する。
<一致点>
立体造形用樹脂粉末。
<相違点1>
立体造形用樹脂粉末の粒径について、本件発明1では「50%累積体積粒径が5μm以上100μm以下」と特定されているのに対し、甲4A粉末発明では粒径が不明である点。
<相違点2>
立体造形用樹脂粉末の粒度分布について、本件発明1では「体積平均粒径/個数平均粒径が2.00以下」と特定されているのに対し、甲4A粉末発明では粒度分布が不明である点。
<相違点3>
立体造形用樹脂粉末について、本件発明1では「下記(1)~(3)から選択される少なくとも1種を満たす」ものであるとして、
「(1)示差走査熱量測定において、ISO 3146に準拠して、10℃/minにて、融点より30℃高い温度まで昇温したときの吸熱ピークの融解開始温度をTmf1とし、その後、10℃/minにて、-30℃以下まで降温し、さらに、10℃/minにて、融点より30℃高い温度まで昇温したときの吸熱ピークの融解開始温度をTmf2としたときに、Tmf1>Tmf2となり、かつ(Tmf1-Tmf2)≧5.2℃となる。なお、前記吸熱ピークの融解開始温度は、融点での吸熱が終了した後に、熱量の一定となった所から低温側へx軸に対して平行な直線を引き、前記直線から-15mW下がった時点での温度である。
(2)示差走査熱量測定において、ISO 3146に準拠して、10℃/minにて、融点より30℃高い温度まで昇温したときの吸熱ピークのエネルギー量から求められる結晶化度をCd1とし、その後、10℃/minにて、-30℃以下まで降温し、さらに、10℃/minにて、融点より30℃高い温度まで昇温したときの吸熱ピークのエネルギー量から求められる結晶化度をCd2としたときに、Cd1>Cd2となり、かつ(Cd1-Cd2)が7%以上22%以下となる。
(3)X線回折測定により得られる結晶化度をCx1とし、窒素雰囲気下10℃/minにて、融点より30℃高い温度まで昇温し、その後、10℃/minにて、-30℃以下まで降温し、さらに、10℃/minにて、融点より30℃高い温度まで昇温したときのX線回折測定により得られる結晶化度をCx2としたときに、Cx1>Cx2となり、かつ(Cx1-Cx2)が9%以上11%以下となる。」
と特定されているのに対し、甲4A粉末発明では、かかる特定はされていない点。
(以下、上記(1)~(3)の条件をそれぞれ、「条件(1)」~「条件(3)」という。)
3.取消理由Aについて
(1)本件発明1について
本件発明1と甲4A粉末発明には上記2.に記載のとおりの相違点1~3がある。
そして、事案に鑑み相違点3から検討すると、相違点3に関して申立人Aが提出した実験証明書(甲5A)によれば、甲4A粉末発明の「ナイロン12粉末であるARKEMA ORGASOL 2003材料」は、Cd1が46%でCd2が21%、つまり、Cd1-Cd2=25%であるから、本件発明1の条件(2)(22%以下)を満たさないし、また、Cx1が60.64%でCx2が42.79%、つまり、Cx1-Cx2=17.85%であるから、本件発明1の条件(3)(11%以下)も満たさない。
また、甲4Aの【0018】には、「ARKEMA ORGASOL 2003」の第1融解ピークTm1が182℃で、第2融解ピークTm2が178℃であることが記載されており、この差は、4℃である。そして、融解ピークの測定条件は、【0019】によれば、本件発明1で特定される条件(1)の示差走査熱量測定方法とは厳密には一致しないものの、少なくとも第1回目と第2回目の吸熱ピークの溶融開始温度である点では一致しており、測定条件によりその値は大きくは変わらないと解されるから、甲4A粉末発明の「ナイロン12粉末であるARKEMA ORGASOL 2003材料」は、本件発明1の条件(1)(≧5.2℃)を満たさない蓋然性が高い。
そうすると、本件発明1は、少なくとも相違点3で甲4A粉末発明と実質的に相違するから、他の相違点について検討するまでもなく、甲4Aに記載された発明であるということはできない。
(2)本件発明2~9、12、13について
本件発明2~9、12、13は、請求項1を直接あるいは間接的に引用する請求項に係る発明である。
そうすると、本件発明2~9、12、13は、上記(1)で説示したとおり、少なくとも相違点3で甲4A粉末発明と実質的に相違している。
よって、本件発明2~9、12、13についても、甲4Aに記載された発明であるということはできない。
4.取消理由Bについて
本件発明10及び11は、請求項1を直接あるいは間接的に引用する請求項に係る発明であって、本件発明10及び11と甲4A粉末発明とは、上記3.(1)で説示したとおり、少なくとも相違点3で相違している。
そして、甲4Aには、当業者が、甲4A粉末発明の「ARKEMA ORGASOL 2003材料」を、条件(1)~(3)を満たすものとする動機となる記載はないし、申立人A及びBが提出した他のすべての証拠を参酌しても同様である。
よって、当業者は、甲4A粉末発明の「ARKEMA ORGASOL 2003材料」を、条件(1)~(3)を満たすものとすることを動機付けられるとはいえない。
一方、請求項1を引用する本件発明10及び11の立体造形用樹脂粉末は、条件(1)~(3)を備えることで、精度の点で優れるのみならず、立体造形に用いた粉末を供給床中に戻して造形する作業を10回分繰り返して得られた立体造形物について、反りが発生せず、機械強度の低下率が初期値と比較して30%以内という、優れた「リサイクル性」が達成できるものであるし、更に、粉末が強化剤を含む本件発明10及び難燃剤を含む本件発明11の粉末では、これに加えて、優れた難燃性、優れたオレンジピール性も達成できるものである(本件特許明細書の【0008】、【0114】、【0115】、【0118】の表2の実施例1~8の欄の記載、【0131】の表3の実施例9~17の欄の記載、【0144】、及び、【0145】の表4の実施例18~23の欄の記載参照。)。
そして、本件発明10及び11により奏される上記リサイクル性等の優れた効果は、甲4Aを含め、申立人A及びBが提出した他のいずれの証拠からも示唆されない効果である。
よって、本件発明10及び11について、甲4A粉末発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。
5.小括
以上のとおりであるから、本件発明1~9、12及び13についての取消理由A、及び、本件発明10~11についての取消理由Bには理由がなく、取消理由A及びBによって本件発明1~13に係る特許を取り消すことはできない。
第7 取消理由(決定の予告)に採用しなかった申立人Aによる申立理由について
1.本件特許の優先権主張の効果の有効性について
本件特許に係る出願は、特願2016-144862号(平成28年7月22日提出)、特願2017-49036号(平成29年3月14日提出)及び特願2017-111488号(平成29年6月6日提出)を優先基礎出願とする優先権主張を伴ってなされた特許出願であるところ、申立人Aは、申立書において、特許設定登録時の請求項1及びこれを直接あるいは間接的に引用する本件発明2~13に関し、請求項1に特定される発明特定事項のうち、「体積平均粒径/個数平均粒径が2.50以下」、「(Tmf1-Tmf2)≧3℃」、「(Cd1-Cd2)≧3%」、及び「(Cx1-Cx2)≧3%」との技術的事項は、本件特許に係る出願の優先権の基礎とされる特願2016-144862号及び特願2017-49036号には、記載されていない事項であり、上記の技術的事項は、特願2017-111488号において初めて記載された事項であるから、請求項1~13については、特願2017-111488号に基づく優先権主張の効果は認められるが、特願2016-144862号及び特願2017-49036号に基づく優先権主張の効果は認められない旨主張していた。
しかしながら、本件訂正後の請求項1~13は、上記第3に記載したとおりのものであるところ、本件発明1及び請求項1を直接あるいは間接的に引用する本件発明2~13に関し、請求項1に特定される発明特定事項である、「50%累積体積粒径が5μm以上100μm以下であり、かつ体積平均粒径/個数平均粒径が2.00以下」との技術的事項は、本件特許に係る出願の優先権の基礎とされる特願2016-144862号(平成28年7月22日提出)の【0024】に「前記粉末の50%累積体積粒径としては、・・・5μm以上100μm以下が好ましく、20μm以上70μm以下がより好ましく、20μm以上50μm以下が特に好ましい。また、前記粉末の体積平均粒径/個数平均粒径(Mv/Mn)は、造形精度向上やリコート性向上の点から、2.50以下であり、2.00以下が好ましく、・・・。」と記載されていた。
また、「(Tmf1-Tmf2)≧5.2℃」、「(Cd1-Cd2)が7%以上22%以下」、及び「(Cx1-Cx2)が9%以上11%以下」との技術的事項については、特願2016-144862号の請求項1の「Tmf1>Tmf2」、「Cd1>Cd2」、「Cx1>Cx2」との記載、【0022】の「結晶性が制御されることにより・・・前記DSCでの吸熱ピークの開始温度が高温側にシフトする。そのため、樹脂の吸熱温度が明確になり、レーザー中心部においてのみ溶解するシャープメルトの融点の開始温度から、吸熱終了ピーク温度までの幅が細かいことにおり、より制御された状態で所望の溶融条件を達成することができる。」との記載、【0023】の「前記シャープメルト性から、レーザー周辺部の樹脂間の溶解に伴う焼結が減ることにより、寸法安定性が高まることに加え、ロスが発生しにくくなりリサイクル性を向上できる。さらには樹脂自身の結晶化度が高いことにより、樹脂の吸水性が抑制でき、水分による造形時の気泡等が出なくなるため、寸法安定性が高くなる。
さらに、造形中は保温により加温する際、加水分解し樹脂の劣化につながるが、前述した樹脂の吸水率も抑制できるからリサイクル性の低下も抑制できる。」との記載がされていたし、特願2016-144862号の明細書等には、前記「(1)」におけるTmf1とTmf2の差、「(2)」におけるCd1とCd2との差、「(3)」におけるCx1とCx2との差がより大きい方が好ましいことが開示されていた。その上、【表1】の実施例6に、Tmf1が112.5℃でTmf2が107.3℃(つまり、Tmf1-Tmf2が5.2℃)、Cd1が30%でCd2が23%、(つまり、Cd1-Cd2が7%)の具体例が、実施例4に、Cd1が56%でCd2が34、つまり、Cd1-Cd2が22%の具体例が、実施例1に、Cx1が39%でCx2が30、つまり、Cx1-Cx2が9%の具体例が、実施例2に、Cx41%でCx2が30、つまり、Cx1-Cx2が11%の具体例が記載されていた。
これらの点を総合的に勘案すれば、「(Tmf1-Tmf2)≧5.2℃」、「(Cd1-Cd2)が7%以上22%以下」、及び「(Cx1-Cx2)が9%以上11%以下」との技術的事項は、特願2016-144862号の明細書等に記載されていたといえる。
以上のとおり、本件訂正後の請求項1-13に記載の技術的事項は、本件特許に係る出願の優先権の基礎とされる特願2016-144862号(平成28年7月22日提出)に記載されていた事項であるといえるから、本件発明1-13については、特願2016-144862号に基づく優先権主張の効果が認められる。
2.申立理由A1(甲1Aに基づく新規性)及び申立理由A3(甲1Aを主引用文献とする進歩性)について
申立理由A1及びA3は、本件発明1~13について、特願2016-144862号及び特願2017-49036号に基づく優先権主張の効果が認められないことを前提とするものである。しかしながら、上記1.で記載したとおり、少なくとも、特願2016-144862号に基づく優先権主張の効果は認められるから、本件特許の優先日は特願2016-144862号の提出日である平成28年7月22日となる。
そうすると、それより後の平成29年3月2日に出願公開された甲1Aは、特許法第29条第1項第3号所定の刊行物にはあたらない。
よって、申立理由A1及びA3には理由がなく、申立理由A1及びA3によって本件発明1~13に係る特許を取り消すことはできない。。
3.申立理由A2(甲2Aに基づく新規性)及び申立理由A4(甲2Aを主引用文献とする進歩性)について
(1)甲2Aに記載された発明
甲2Aの、比較例3([0136])の記載及び比較例3で参照される実施例1の記載([0129])によれば、甲2Aには、比較例3に、以下のポリアミド12微粒子が記載されているといえるところ、甲2Aの[0007]に記載のとおり、ポリアミド12樹脂粉末は、従来から粉末床溶融結合式積層造形法による造形用材料として一般的に用いられており、比較例3に記載のポリアミド微粒子のようにカーボンブラックを含有しない比較例3のポリアミド12微粒子であっても、カーボンブラックの含有に起因する帯電防止性の機能は発揮されない(甲2Aの[0138])としても、粉末床溶融結合式積層造形法による造形用材料として使用可能であることは、当業者に明らかであるから、甲2Aの[0007]、[0129]、[0136]、[0138]の記載を参酌しつつ、比較例3(及び比較例3で参照される実施例1)の記載を中心にまとめると、甲2Aには、以下のポリアミド12微粒子の発明が開示されているといえる。
「以下の<ポリアミド12微粒子の製造方法>により得られた、数平均粒子径Dnが18μm、粒子径分布指数PDIが1.3、真球度Smが97%の、白色の、粉末床溶融結合式積層造形法による造形用材料として使用するためのポリアミド12微粒子。
<ポリアミド12微粒子の製造方法>
1Lの耐圧ガラスオートクレーブ(耐圧硝子工業株式会社製、ハイパーグラスターTEM-V1000N)に、ポリアミド12(アルケマ株式会社製、‘リルサミド(登録商標)’AESNO TL)10質量部、ポリマー(B)としてポリビニルアルコール(日本合成化学工業株式会社製、G型‘ゴーセノール(登録商標)’GM-14、重量平均分子量29,000)7質量部、有機溶媒(C)としてN-メチル-2-ピロリドン83質量部を入れ、攪拌羽としてヘリカルリボン翼を用いて回転数200rpmで攪拌しながら180℃まで約30分かけて昇温した後、180℃で保持したまま回転数350rpmで2時間攪拌を行った。続いて、350rpmで攪拌しながら、貧溶媒(D)として100質量部のイオン交換水を、送液ポンプを経由して、0.83質量部/分のスピードで滴下し、懸濁液を得た。得られた懸濁液を減圧濾過で固液分離し、イオン交換水100質量部で洗浄し、濾別した固形物を、80℃で真空乾燥することで、ポリアミド微粒子粉体を得た。」(以下、「甲2A微粒子発明」という。)
(2)申立理由A2について
ア 本件発明1について
本件発明1と甲2A微粒子発明とを対比する。
・甲2A微粒子発明の「粉末床溶融結合式積層造形法による造形用材料として使用するためのポリアミド12微粒子」は、本件発明1の「立体造形用樹脂粉末」に相当するといえる。
・甲2A微粒子発明の「粒子径分布指数PDI」と本件発明1の「体積平均粒径/個数平均粒径」は、「粒度分布」の指標である限りにおいて一致している。
そうすると、本件発明1と甲2A微粒子発明とは、下記の点で一致し、下記の点で一応相違する。
<一致点>
「所定の粒径と所定の粒度分布を有する立体造形用樹脂粉末。」
<相違点4>
立体造形用樹脂粉末の所定の粒径について、本件発明1では「50%累積体積粒径が5μm以上100μm以下」と特定されているのに対し、甲2A微粒子発明では「数平均粒子径Dnが18μm」と特定されている点。
<相違点5>
立体造形用樹脂粉末の所定の粒度分布について、本件発明1では「体積平均粒径/個数平均粒径が2.00以下」と特定されているのに対し、甲2A微粒子発明では「粒子径分布指数PDIが1.3」と特定されている点。
<相違点6>
立体造形用樹脂粉末について、本件発明1では、「(1)~(3)から選択される少なくとも1種を満たすこと」が特定されているのに対し、甲2A微粒子発明ではかかる特定はされていない点。
以下、事案に鑑み相違点6から検討する。
申立人Aが提出した実験証明書(甲3A)によれば、甲2Aの比較例3で得られた微粒子(すなわち、甲2A微粒子発明の微粒子)は、Tmf1が167.80℃でTmf2が164.61℃、つまり、Tmf1-Tmf2)=3.19℃であるから、本件発明1の条件(1)(≧5.2℃)を満たさないし、Cd1が33%でCd2が28%、つまり、Cd1-Cd2=5%(≧3%)であるから、本件発明1の条件(2)(7%以上)を満たさない。
また、甲2A微粒子発明の微粒子が、本件発明1の条件(1)を満たすことを示す証拠は提出されていないし、それが優先日当時の技術常識であったことをうかがわせる事情は見受けられない。
そうすると、本件発明1は、少なくとも相違点6で甲2A微粒子発明と相違するから、他の相違点について検討するまでもなく、甲2Aに記載された発明であるということはできない。
イ 本件発明2~6、9、12及び13について
本件発明2~6、9、12及び13は、請求項1を直接あるいは間接的に引用する請求項に係る発明である。
そうすると、本件発明2~6、9、12及び13は、上記アで説示したとおり、少なくとも相違点6で甲2A微粒子発明と相違している。
したがって、本件発明2~6、9、12及び13についても、甲2Aに記載された発明であるということはできない。
ウ よって、申立理由A2には理由がない。
(3)申立理由A4について
ア 本件発明1について
本件発明1と甲2A微粒子発明には、上記(2)アに記載のとおりの相違点4~6がある。
そして、事案に鑑み相違点6から検討するに、甲2Aには、当業者が、甲2A微粒子発明を、相違点6に係る構成である本件発明1の条件(1)~(3)を満たすものとする動機となる記載はないし、また、甲1A、甲4Aを含め、申立人A及びBが提出した他のすべての証拠を参酌しても同様である。更に、立体造形用樹脂粉末を上記条件(1)~(3)を満たすものとすることが、優先日当時の技術常識であったともいえない。
そうすると、当業者は、甲2A微粒子発明のポリアミド12微粒子を、上記条件(1)~(3)を満たすものとすることを動機付けられるとはいえない。
一方、本件発明1の立体造形用樹脂粉末は、上記第6 4.で説示したとおり、条件(1)~(3)を備えることで、精度の点で優れるのみならず、立体造形に用いた粉末を供給床中に戻して造形する作業を10回分繰り返して得られた立体造形物について、反りが発生せず、機械強度の低下率が初期値と比較して30%以内の「リサイクル性」を有するという優れた効果が奏される(本件特許明細書の【0008】、【0114】、【0115】、【0118】の表2の実施例1~8の欄の記載、【0131】の表3の実施例9~17の欄の記載、【0144】、及び、【0145】の表4の実施例18~23の欄の記載参照。)。
そして、上記本件発明1により奏される効果、特に、造形作業を10回分繰り返しリサイクルした場合に奏される、優れた「リサイクル性」の効果は、甲2A、甲4Aを含め、申立人A及びBが提出した他のいずれの証拠からも示唆されない効果である。
そうすると、他の相違点を検討するまでもなく、本件発明1について、甲2A微粒子発明、及び、甲1A又は/及び甲4Aに記載の技術的事項、更には、申立人が提出した他の各甲号証に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。
(なお、甲1Aについては、2.で述べたとおり、特許法第29条第1項第3号所定の刊行物にはあたらない。)
イ 本件発明2~13について
本件発明2~11は、請求項1を直接あるいは間接的に引用する請求項に係る発明であるし、本件発明12は、本件発明1の粉末が貯蔵されている供給槽を有することが必須の立体造形物の製造装置に関する発明であり、また、本件発明13は、本件発明1の粉末を含む層を形成する成膜工程が必須の立体造形物の製造方法に関する発明であるから、本件発明2~13は、甲1B発明と、少なくとも、上記(2)アに記載の相違点4~6で相違している。
そして、相違点6についての判断は、上記(3)アで説示したとおりであるから、本件発明2~13について、甲2A微粒子発明、及び、甲1A又は/及び甲4Aに記載の技術的事項、更には、申立人が提出した他の甲号証に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。
ウ よって、申立理由A4には理由がない
(4)小括
以上のとおり、本件発明1~9、12及び13についての申立理由A2、及び、本件発明1~13についての申立理由A4には理由がなく、申立理由A2及びA4によって本件発明1~13に係る特許を取り消すことはできない。
第8 取消理由(決定の予告)に採用しなかった申立人Bによる申立理由について
1.申立理由B1(甲1Bに基づく新規性)について
(1)甲1Bに記載された発明
甲1Bの請求項1及び【0017】によれば、甲1Bには、以下の発明が記載されているといえる。
「粉末状材料の選択的レーザー焼結により成形体を製造するための、平均粒径が50~150μmであるポリアミド12粉末状材料であって、次のパラメータを有する粉末材料。
融解温度185~189℃
融解エンタルピー112±17J/g
凝固温度138~143℃」(以下、「甲1B発明」という。)
(2)本件発明1について
本件発明1と甲1B発明とを対比すると、両者は、「立体造形用樹脂粉末。」である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点7>
本件発明1では、粉末の平均粒径について、「50%累積体積粒径が5μm以上100μm以下」と特定されているが、甲1B発明では、「50~150μm」と特定されており、その測定法も不明である点。
<相違点8>
本件発明1では、粉末の粒径について、「体積平均粒径/個数平均粒径が2.00以下」と特定されているが、甲1B発明では、かかる特定はない点。
<相違点9>
本件発明1では、粉末について、「(1)~(3)から選択される少なくとも1種を満たす」と特定されているが、甲1B発明では、かかる特定はない点。
そして、相違点7~9は実質的な相違点であるから、本件発明1について甲1B発明であるということはできない。
なお、申立人Bは、申立書において、相違点7に関しては、重複一致しているし、相違点8に関しては、粒径から見て一致する蓋然性高いし、相違点9に関しては、甲6Bによれば、甲1B発明のパラメータを満たすPA12であるVESROSIND1115粉末が条件(1)を満たすから、本件発明1は、実質的に甲1Bに記載された発明である旨主張する。
しかしながら、まず、相違点7に関しては、平均粒径には、体積平均粒径、個数平均粒径等複数の測定法が知られており、それらの値は必ずしも一致するものではないから、数値範囲が重複していることのみをもってただちに、一致しているとすることはできない。
また、相違点8に関しては、粒径が50~150μmであれば「体積平均粒径/個数平均粒径が2.50以下」となることが本件の優先日当時の技術常識であったとはいえないから、申立人Bの主張には根拠がない。
さらに、相違点9に関し、申立人Bは、甲6Bに基づいて、甲1B発明の粉末材料は条件(1)を満たすと主張するが、甲6Bに記載の粉末が甲1B粉末材料と同じ粉末であるとする根拠がない(このことは、甲6Bの粉末の冷却時のTkp(凝固温度)は144.6℃であり、甲1B発明の粉末材料の有する特性(138~143℃)を満たしていないことからも理解できる。)から、甲6Bを参酌しても、甲1B発明の粒子が条件(1)を満たすとはいえない。
よって、申立人Bの主張は採用できない。
(3)本件発明2~6及び13について
本件発明2~6は、請求項1を直接あるいは間接的に引用する請求項に係るものであるし、本件発明13は、本件発明1の粉末を含む層を形成する成膜工程が必須の立体造形物の製造方法に関する発明であるから、本件発明2~6及び13は甲1B発明と、少なくとも、上記(2)で記載した相違点7~9で相違している。
そして、相違点7~9は、上記(2)で記載したとおり実質的な相違点であるから、本件発明2~6及び13についても、甲1B発明であるということはできない。
(4)以上のとおりであるから、申立理由B1には理由がない。
2.申立理由B2(甲2Bに基づく進歩性)について
(1)甲2Bに記載された発明
甲2Bの[0021]、[0078]及び[0085]の熱可塑性粒子1についての記載によれば、甲2Bには、以下の発明が記載されているといえる。
「体積基準の平均粒子径をDv(μm)、粉末の個数基準の平均粒子径をDn(μm)としたときに、Dv/Dnが1.00以上10.0以下である、積層造形法に用いられる熱可塑性粒子粉末であって、粉末に含まれる熱可塑性粒子は、体積基準の平均粒子径が20μm以上80μm以下であり、水溶性有機材料と非水溶性有機材料とを含有するものである熱可塑性粒子粉末。」(以下、「甲2B発明」という。)
(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲2B発明とを対比すると、甲2B発明の「体積基準の平均粒子径」は、本件発明1の「50%累積体積粒径」に相当するし、甲2B発明の粒子径「20μm以上80μm以下」は、本件発明1の「5μm以上100μm以下」に含まれる。
また、甲2B発明の「Dv/Dn」は「体積平均粒径/個数平均粒径」に相当するから、本件発明1と甲2B発明の「体積平均粒径/個数平均粒径」は、「1.00以上2.00以下」の範囲で重複一致している。
そうすると、本件発明1と甲2B発明とは、「50%累積体積粒径が5μm以上100μm以下であり、かつ体積平均粒径/個数平均粒径が2.00以下である立体造形用樹脂粉末。」である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点10>
本件発明1では、粉末について、「(1)~(3)から選択される少なくとも1種を満たす」と特定されているが、甲2B発明では、かかる特定はない点。
イ 相違点10についての判断
甲2Bには、当業者が、甲2B発明を相違点10に係る構成である本件発明1の条件(1)~(3)を満たすものとすることを動機付ける記載はないし、甲3B~甲5Bを含め、申立人A及びBが提出したいずれの証拠を参酌しても同様である。また、立体造形用樹脂粉末を上記条件(1)~(3)を満たすものとすることが、優先日当時の技術常識であったとはいえない。
そうすると、当業者は、甲2B発明の熱可塑性粒子粉末を、上記条件(1)~(3)を満たすものとすることを動機付けられるとはいえない。
一方、本件発明1の立体造形用樹脂粉末は、上記第6 4.で説示したとおり、条件(1)~(3)を備えることで、精度の点で優れるのみならず、立体造形に用いた粉末を供給床中に戻して造形する作業を10回分繰り返して得られた立体造形物について、反りが発生せず、機械強度の低下率が初期値と比較して30%以内の「リサイクル性」を有するという優れた効果が奏されるものであり、本件発明1により奏される「リサイクル性」の効果は、甲2B~甲5Bを含め、申立人A及びBが提出した他のいずれの証拠からも示唆されない効果である。
よって、本件発明1について甲2B発明、甲2B発明、甲3Bまたは甲4Bに記載された事項と周知技術(甲5B)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。
なお、申立書において、申立人Bは、甲5Bに示されるように、立体造形用樹脂を熱処理することにより、その物性に影響を与えることは、本件の優先日当時の周知・慣用の技術であるところ、甲3Bの【0018】等には、レーザー焼結用の熱可塑性ポリマー粉末の溶融温度(Tm)、再結晶温度(Trc)または溶融エンタルピー(ΔHm)を変化させるために、10℃/分で熱処理すること、熱処理後の熱可塑性ポリマー粉末の溶融温度(第2の溶融ピークまたはTm2)は、熱処理前の溶融温度(第1の溶融ピークまたはTm1)よりも低いこと、つまり本件発明1による「Tmf1>Tmf2」が記載されているし、甲3Bには、さらに、粉末の性質が粉末の要求挙動に依存し、粉末が溶融する温度(Tm)と、粉末が再結晶する温度(Trc)との間に、比較的大きな正の差がある場合には、レーザー焼結により形成された物体のゆがみまたは変形が起こりにくいことが記載されているから、甲2Bに記載の立体造形用樹脂粉末を熱処理して、その物性を適宜変更して条件(1)を満足するものとすることは極めて容易である旨主張する。
しかしながら、甲3Bは、上記第6で指摘した甲4Aと同じ文献であり、甲4Aには、上記第6 1.(1)で摘記したとおりの記載があるが、上記第6 3.で説示したとおり上記条件(1)~(3)について記載されているとはいえない。一方、上述のとおり、条件(1)~(3)を満たす本件発明1は、条件(1)~(3)を備えることで、精度の点で優れるのみならず、立体造形に用いた粉末を供給床中に戻して造形する作業を10回分繰り返して得られた立体造形物について、反りが発生せず、機械強度の低下率が初期値と比較して30%以内の「リサイクル性」を有するという、甲2B、甲3Bを含め、申立人A及びBが提出した他のいずれの証拠からも示唆されない効果が奏される。
また、甲2B発明は、積層造形プロセスにおける積層後に水を含む液体と接触させることで除去可能なサポート粉末の水溶性有機材料が、熱で軟化しやすい問題があったのを解決して、非水溶性材料と併用することで積層造形プロセスにおける温度制御を容易にできる造形材料とした点に特徴を有するものであって(甲2Bの[0010]、[0039]-[0041])、かかる特徴を有する造形材料粉末を、水等で除去可能なサポート粉末の使用を前提としていない甲3Bの造形材料に関する技術と組み合わせる動機がないから、かかる点でも、請求人の主張は妥当性を欠く。
さらに、甲5Bには、ポリアミド繊維が熱処理によりセットできることが本件特許の優先日当時の技術常識であったことが記載されるのみである。
以上のとおりであるから、本件発明1について、甲2B発明、甲3Bまたは甲4Bに記載された事項と周知技術(甲5B)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。申立人A及びBが提出した他の証拠を参酌しても同様である。
(3)本件発明2~13について
本件発明2~11は、請求項1を直接あるいは間接的に引用する請求項に係る発明であるし、本件発明12は、本件発明1の粉末が貯蔵されている供給槽を有することが必須の立体造形物の製造装置に関する発明であり、また、本件発明13は、本件発明1の粉末を含む層を形成する成膜工程が必須の立体造形物の製造方法に関する発明であるから、本件発明2~13は、甲2B発明と、少なくとも、上記(2)アに記載の相違点10で相違している。
そして、相違点10についての判断は、上記(2)イで説示したとおりであるから、本件発明2~13について、甲2B発明、甲3Bまたは甲4Bに記載された事項と周知技術(甲5B)に基づいて、更には、申立人が提出した他の甲号証に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。
(4)よって、申立理由B2には理由がない。
3.小括
以上のとおり、本件発明1~6及び13についての申立理由B1、及び、本件発明1~13についての申立理由B2には理由がなく、申立理由B1及びB2によって本件発明1~13に係る特許を取り消すことはできない。
第9 むすび
以上のとおり、請求項1~13に係る特許は、取消理由通知書(決定の予告)に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、取り消すことはできない。
また、他にこれらの請求項に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2019-700260