特許異議申立
2019-700193
誘導加熱調理器
- 審判番号
- 2019-700193
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2015-007365
- 登録番号
- 特許第6393626号(P6393626)
- 請求日
- 2019年03月11日
- 審決日
- 2020年03月04日
- 公報発行日
- 2020年07月31日
- 結論
- 請求成立(取消)
- 当事者
- 【権利者】日立グローバルライフソリューションズ株式会社
- 【権利者代理人】ポレール特許業務法人
- 【異議申立人】井澤 幹
- 【異議申立人】星野 裕司
- 審判長/審判官
- 審判長 松下 聡
- 審判官 紀本 孝
- 審判官 槙原 進
- 分類
- P1651.55 -ZAA(H05B) / P1651.851-ZAA(H05B) / P1651.853-ZAA(H05B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第17条の2第3項、特許法第113条、特許法第120条の5第2項、特許法第29条
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第6393626号発明「誘導加熱調理器」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第6393626号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1、2〕について訂正することを認める。
特許第6393626号の請求項1、2に係る特許を取り消す。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
特許第6393626号の請求項1、2に係る特許についての出願は、平成27年1月19日に出願され、平成30年8月31日にその特許権の設定登録がされ、平成30年9月19日に特許掲載公報が発行された。本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
平成31年 3月11日 特許異議申立人井澤幹(以下申立人Aという。)による請求項1、2に係る特許に対する特許異議の申立て
同年 3月18日 特許異議申立人星野裕司(以下申立人Bという。)による請求項1、2に係る特許に対する特許異議の申立て
令和 元年 6月19日 取消理由通知書
同年 8月 9日 訂正請求書及び意見書(特許権者)
同年 9月13日 意見書(申立人B)
同年 9月17日 意見書(申立人A)
同年12月12日 取消理由通知書(決定の予告)
令和 2年 2月14日 意見書(特許権者)
第2 訂正について
1 訂正の内容(下線は訂正箇所を示す。)
令和元年8月9日付け訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)は、本件特許の明細書、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正明細書、訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1及び2について訂正することを求めるものであり、具体的な訂正事項は以下のとおりである。
(1)訂正事項1
請求項1の「赤外線を透過する窓材」を「非結晶化ガラスまたは結晶化ガラスで構成され、可視光線および赤外線を透過する窓材」に訂正する。
(2)訂正事項2
明細書の段落【0007】の「赤外線を透過する窓材」を「非結晶化ガラスまたは結晶化ガラスで構成され、可視光線および赤外線を透過する窓材」に訂正する。
2 訂正の適否
訂正事項1は、訂正前の請求項1に記載された「赤外線を透過する窓材」について、非結晶化ガラスまたは結晶化ガラスで構成されること、及び、可視光線を透過することの限定を付加するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。また、請求項1を引用する請求項2についても、同様に特許請求の範囲を減縮するものである。
そして、本件明細書に、「光学フィルタ25の非結晶化ガラスの光学特性は一点破線で示すように、0.4~2.7μmの波長の光を80%以上透過し、3~4.0μmの波長の光を最大50%程度透過し、4.0μmよりも長い波長、及び、0.3μmよりも短い波長の光をほとんど透過しない。」(【0056】)、「光学フィルタ25に結晶化ガラスを用いた場合も同様に、光学フィルタ25を透過した可視光線を赤外線センサ19のレンズ70で遮光する」(【0060】)と記載されているから、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
訂正事項2は、訂正事項1に伴い明細書の記載を整合させる訂正であるから、明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正であり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
(3)小括
したがって、本件訂正は、特許法120条の5第2項ただし書1号及び3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条9項で準用する同法126条5項及び6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1、2〕について訂正することを認める。
第3 本件発明
本件特許の請求項1、2に係る発明(以下、各発明を「本件発明1」、「本件発明2」といい、これらを総称して「本件発明」という。)は、上記訂正された特許請求の範囲の請求項1、2に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
【請求項1】
調理鍋を上面に置くトッププレートと、
該トッププレートの下に設けられ、前記調理鍋を加熱するために誘導磁界を発生させる加熱コイルと、
該加熱コイルに電力を供給するインバータ手段と、
前記加熱コイルを冷却するための冷却風路に外気を導入するファンと、
前記鍋底より放射される赤外線を透過する前記トッププレートに設けた赤外線透過窓と、
前記トッププレートに設けた前記赤外線透過窓を透過した前記鍋底より放射される赤外線を検出する赤外線検出手段と、
前記加熱コイルの下に配置され、非結晶化ガラスまたは結晶化ガラスで構成され、可視光線および赤外線を透過する窓材を前記赤外線検出手段の前面に持つ第一のケースを設け、前記赤外線検出手段を前記第一のケースに内蔵
し、前記第一のケースを前記冷却風路に配置した構成であって、
前記赤外線検出手段に前記調理鍋からの赤外線を透過するレンズを、前記第一のケースに内蔵された前記赤外線検出手段を覆うように設けられた第二のケースに設け、前記レンズは前記トッププレートの前記赤外線透過窓より可視光線の透過率が低い光学特性としたことを特徴とする誘導加熱調理器。
【請求項2】
請求項1に記載の誘導加熱調理器において、前記第二のケースに備えられた前記レンズは、シリコンで成形されたことを特徴とする誘導加熱調理器。
第4 取消理由の概要
訂正前の請求項1、2に係る特許に対して、当審が令和元年12月12日付けで通知した取消理由(決定の予告)の概要は以下のとおりである。
(理由1:新規事項)平成30年6月5日付け手続補正書でした補正は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「当初明細書等」という。)に記載した事項の範囲内においてしたものでないから、請求項1、2に係る特許は、特許法17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してされたものである。
(理由2:進歩性)請求項1、2に係る発明は、引用文献1に記載された発明及び引用文献2~6に示される周知技術に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1、2に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものである。
<引用文献一覧>(以下、例えば甲第1号証を甲1のように略記する。)
引用文献1:特許5653546号公報(申立人Aの甲1、申立人Bの甲2)
引用文献2:実公昭59-34881号公報(申立人Aの甲2、申立人Bの甲3)
引用文献3:特開昭61-100959号公報(申立人Aの甲3)
引用文献4:特開昭61-108935号公報(申立人Aの甲4)
引用文献5:特開2010-251332号公報(申立人Aの甲5)
引用文献6:特開2009-295456号公報(乙1)
第5 取消理由についての判断
1 理由1(新規事項)について
請求項1には「前記第一のケースを前記冷却風路に配置した構成」と記載されているところ、当該技術的事項は、平成30年6月5日付け手続補正書でした補正により追加されたものである。そして、上記技術的事項は、請求項1を引用する請求項2にも実質的に追加されている。
しかし、当初明細書等には、「前記第一のケースを前記冷却風路に配置した構成」についての直接的な記載はない。
当初明細書等には、「冷却風」に関して、「本体1内に設けたファン(図示せず)により、本体1の背面に設けた吸気口(図示せず)から吸気した冷却風を本体1内に設けた制御基板(図示せず)や加熱コイル13等に流して冷却する。本体1の後部には、本体1内部を冷却した冷却風を排気する排気口5が設けられている。」(【0028】)との記載があり、「第一のケース」(赤外線センサケース)に関して、「鍋温度検出装置18は、赤外線センサ19と反射型フォトインタラプタ20が設けられている。赤外線センサ19と反射型フォトインタラプタ20は、赤外線センサ19の出力を増幅する増幅回路と反射型フォトインタラプタ20の出力を増幅する増幅回路を実装される電子回路基板22に配置される。赤外線センサ19と反射型フォトインタラプタ20と電子回路基板22は、全体をプラスチック部材の赤外線センサケース23内に収納される。この赤外線センサケース23には赤外線を透過させるためにケース窓24が開けられ、このケース窓24にはトッププレート2を構成する非結晶化ガラスの光学特性に類似した光学フィルタ25として嵌め込んである。光学フィルタ25の下には、赤外線センサ19と反射型フォトインタラプタ20が電子回路基板22上に実装されている。」(【0037】)との記載がある。ここで、「制御基板(図示せず)」(【0028】)と、「電子回路基板22」(【0037】)は別物であり、上記記載によっても、「冷却風路」と「第一のケース」の関係は不明である。
そうすると、「前記第一のケースを前記冷却風路に配置した構成」との技術的事項は、当初明細書等に記載されていない。
また、例えば、特開2010-251332号公報(申立人Aの甲5)には、「図29(b)に、鍋温度検出装置18の加熱コイル7下への他の設置実施例を示す。前述した図3,図4実施例では鍋温度検出装置18を、図29(a)に示すように加熱コイル7のコイル間隙7c直下の位置でコイル上面冷却風路15aの中に配置したが、実施例2では鍋温度検出装置18をコイル上面冷却風路15aの外に配置している。・・・そしてコイル冷却風の流れを阻害せずに、かつコイル冷却風が鍋温度検出装置18に当たらないようにしている。こうすることで、鍋温度検出装置18の調理時の冷却風(外気)による急激な温度変化を防止すると共に加熱コイル7の効率的な冷却を可能にしている。」(【0105】)と記載されており、鍋温度検出装置を冷却風路の中に配置する例と、冷却風路の外に配置する例が示されていることから、赤外線センサは、冷却風路の内外いずれに配置することも知られていたといえる。そうすると、上記「前記第一のケースを前記冷却風路に配置した構成」との技術的事項は、技術常識に照らして自明な事項であるともいえない。
特許権者は、当初明細書等の【0035】、【0037】、図2~図4から、加熱コイル13に設けられた隙間15にセンサ視野筒40が設けられ、その直下に鍋温度検出装置18の赤外線センサケース23(第一のケース)が設置されているので、第一のケースはコイル近傍を流れる冷却風にさらされる、すなわち、「第一のケースを前記冷却風路に配置した構成」になっていることがわかる、と主張する(令和元年8月9日付け意見書6ページ6~11行)。
しかし、加熱コイル直下に第一のケースが設置されていても、必ずしも、第一のケースが加熱コイルを冷却するための冷却風路に配置されているとはいえないから、上記主張は採用できない。この点に関し、例えば、特開2008-226573号公報(審査段階の平成29年11月27日付け拒絶理由通知書における引用文献1)に開示された誘導加熱調理器は、加熱コイル6の直下に赤外線センサ10を内蔵する金属ケース26が設置されているが、金属ケース26は加熱コイル6を冷却するための冷却風路Aに配置されているとはいえない。なお、上記拒絶理由通知書に対し、特許権者は、平成30年1月25日の意見書で、上記特開2008-226573号公報に開示の構成では、赤外線センサケースに向かう風の流れが形成されにくい点で本件発明と相違する旨を主張していた。
また、特許権者は、特開2010-251332号公報(申立人Aの甲5)からは、「赤外線センサは、冷却風路の内外いずれに配置することも知られていた」とはいえず、「そうすると、上記『前記第一のケースを前記冷却風路に配置した構成』との事項は、技術常識に照らして自明な事項であるともいえない」とはいえない旨を主張する(令和元年8月9日付け意見書6~8ページ)。
しかし、上記特許権者の主張は、「前記第一のケースを前記冷却風路に配置した構成」との技術的事項が、技術常識に照らして自明な事項であることを何ら立証するものではない。また、上述のとおり、特開2010-251332号公報には、「コイル冷却風が鍋温度検出装置18に当たらないようにしている。」と明記されているし、上記特開2008-226573号公報にも赤外線センサが冷却風路の外に配置された構成が開示されているから、「赤外線センサは、冷却風路の内外いずれに配置することも知られていた」ということができる。よって、上記特許権者の主張は採用できない。
さらに、特許権者は、当初明細書等の記載から理解されることとして、部品の配置や冷却風の流れを説明するとともに、乙2~乙10を提出して、内外コイル間の隙間を冷却風が上向きに流れ、その後、冷却風がトッププレートと加熱コイルの間を流れて加熱コイル上面を冷却することは技術常識である旨を主張し、鍋温度検出装置18の金属ケース26が冷却風路に配置されていることは当初明細書等の記載及び技術常識から理解される事項である旨を主張する(令和2年2月14日付け意見書7~12ページ)。
乙2:特公平7-11983号公報
乙3:特開2004-214217号公報
乙4:特開2004-362945号公報
乙5:特開2010-199000号公報
乙6:特開2011-14415号公報
乙7:特開2011-14417号公報
乙8:特開2011-243407号公報
乙9:特開2012-14835号公報
乙10:特開2014-75324号公報
しかし、特許権者が説明する冷却風の流れは、当初明細書等に記載されたものではなく、可能性の一つを説明するものにすぎない。また、内外コイル間の隙間を冷却風が上向きに流れることを示す文献が多数存在するとしても、内外コイル間に隙間があれば冷却風がその間を流れることが技術常識であるとまではいえない。さらに、上記乙4の「鍋の材質もしくは大きさに応じて加熱に用いる誘導加熱コイルを切替え可能とするため、複数個に分割された誘導加熱コイルに適用できる特許文献2に開示された冷却方式は、誘導加熱コイルを内周側と外周側に分割し、この内周側コイルと外周側コイルとの間の巻線中間部に形成した通気穴に冷却ファンから供給される冷却風を通気する構成とし、誘導加熱コイルの冷却性能を向上したものである」(【0010】)との記載によれば、コイルを分割するのは鍋の材質もしくは大きさに応じて加熱に用いる誘導加熱コイルを切替え可能とするためであり、必ずしも内外コイル間の隙間に冷却風を流すためではないと理解される。また、乙4には、内外コイル間の隙間に冷却風が流れない例も示されている(図7~図15、図18、図19等参照。)。よって、上記特許権者の主張は採用できない。
以上のとおり、請求項1及び請求項2に実質的に追加された、上記「前記第一のケースを前記冷却風路に配置した構成」との技術的事項は、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項というべきものであり、当該事項を導入した平成30年6月5日付けの補正は、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものではない。
したがって、請求項1、2に係る特許は、特許法17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してされたものであるから、特許法113条1号に該当し、取り消されるべきものである。
第6 むすび
以上のとおり、請求項1、2に係る特許は、特許法17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してされたものであるから、特許法113条1号に該当し、取り消されるべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
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