特許拒絶査定不服審判
2019-010765
フラーレン誘導体、及びn型半導体材料
- 審判番号
- 2019-010765
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2017-117205外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2019年08月13日
- 審決日
- 2020年09月01日
- 公報発行日
- 2020年12月25日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】ダイキン工業株式会社
- 【請求人代理人】特許業務法人三枝国際特許事務所
- 【請求人】国立大学法人大阪大学
- 【請求人代理人】特許業務法人三枝国際特許事務所
- 分類
- P18 .121-WZ (H01L)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特願2017-117205「フラーレン誘導体、及びn型半導体材料」拒絶査定不服審判事件〔平成29年12月21日出願公開、特開2017-224820〕について、次のとおり審決する。
結論
【結 論】
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
本願は、2014年(平成26年)5月16日(優先権主張 平成25年5月16日、平成25年9月2日)を国際出願日とする特願2015-517150号(以下「原出願」という。)の一部を平成29年6月14日に新たな特許出願をしたものであって、その手続の概要は、以下のとおりである。
平成30年 7月17日付け:拒絶理由の通知
平成30年11月22日 :意見書、手続補正書の提出
令和 元年 5月 8日付け:拒絶査定
令和 元年 8月13日 :審判請求書、手続補正書の提出
令和 2年 3月27日付け:拒絶理由の通知
令和 2年 6月30日 :意見書、手続補正書の提出
第2 本願発明
本願の請求項1ないし10に係る発明は、令和2年6月30日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし10に記載された事項により特定されるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。
「【請求項1】
後記で定義される純度が99.3%以上である、
式(1):
[式中、環Aは、C60フラーレンを表し;
R1は、炭素数1~8のアルキル基を表し;及び
Arは、フェニル基を表す。]
で表されるフラーレン誘導体からなるn型半導体材料。
前記純度は、炭素についての元素分析の分析値と理論値との差の絶対値、水素についての元素分析の分析値と理論値との差の絶対値、及び窒素についての元素分析の分析値と理論値との差の絶対値のうちの最大のものをDmax(%)としたときに、次式:
純度(%)=100-Dmax(%)
で定義される。」
第3 拒絶の理由
令和2年3月27日付けで当審が通知した拒絶の理由の概要は、次のとおりである。
[理由1](進歩性)本件出願の下記の請求項に係る発明は、原出願の最先の優先日前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、原出願の最先の優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
記
●理由1(進歩性)について
・請求項 1-10
・引用文献等 1-8
<引用文献等一覧>
引用文献1.特開2012-89538号公報
引用文献2.特開平9-74216号公報(周知技術を示す文献)
引用文献3.特開2011-236109号公報(周知技術を示す文献)
引用文献4.特開2008-280323号公報(周知技術を示す文献)
引用文献5.特開2012-162506号公報(周知技術を示す文献)
引用文献6.特開2013-16669号公報(周知技術を示す文献)
引用文献7.特開2013-69663号公報(周知技術を示す文献)
引用文献8.特表2011-502363号公報(周知技術を示す文献)
第4 引用文献について
1 引用文献1の記載
引用文献1には、以下の事項が記載されている(下線は、当審で付した。)。
(1)「【0009】
本発明は、上記した従来技術の現状に鑑みてなされてものであり、その主な目的は、有機薄膜太陽電池の光変換素子用のn型半導体として優れた性能を有する材料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記した目的を達成すべく鋭意研究を重ねてきた。そして、5員環構造を有するフラーレン誘導体は、グリシン誘導体とアルデヒド誘導体の組合せにより一工程で得ることができ、これら2つの原料の組合せの選択肢が多いことから、構造上の多様性面で優れているという点に着目し、各種の誘導体について有機薄膜太陽電池用n型半導体材料としての性能に関して検討を重ねてきた。その結果、ピロリジン骨格を有するC60フラーレン誘導体の内で、特に、窒素原子に直接結合したアリール基を有する化合物は、その他のフラーレン誘導体と比較して、非常に高い変換効率を有するという従来全く知られていない事実を見出すに至った。本発明は、かかる知見に基づいて鋭意研究を重ねた結果、完成されたものである。」
(2)「【0017】
n型半導体材料
本発明の有機薄膜太陽電池用n型半導体材料は、下記一般式(1)で表されるフラーレン誘導体からなるものである。」
(3)「【0043】
上記方法によって得られる一般式(1)で表されるフラーレン誘導体は、必要に応じて、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製後に、HPLCで更に精製することができる。この際、シリカゲルカラムクロマトグラフィーの展開溶媒としては、ヘキサン-クロロホルム、ヘキサン-トルエン、ヘキサン-二硫化炭素などを用いることができ、HPLCの展開溶媒としては、クロロホルム、トルエンなどを用いることができる。」
(4)「【0065】
光変換層については、一般式(1)で表されるフラーレン誘導体をn型半導体として用いることが必要である。p型半導体については、公知の有機p型半導体材料を用いることができる。例えば、ポリ-3-ヘキシルチオフェン、ポリ-p-フェニレンビニレン、ポリ-アルコキシ-p-フェニレンビニレン、ポリ-9,9-ジアルキルフルオレンなどが好ましいが、特に、有機薄膜太陽電池用p型半導体として優れた性能を有するポリ-3-ヘキシルチオフェン(P3HT)を用いてバルクヘテロジャンクション構造の光変換層を形成することによって、高い変換効率を有する有機薄膜太陽電池を得ることができる。このような高い変換効率を示す理由については、上記一般式(1)で表されるフラーレン誘導体は、P3HTと良好な親和性を有すると共に、適度な自己凝集性を有するために、P3HTと混合してバルクヘテロジャンクション構造の光変換層を形成する際に、適切な層分離構造を有するバルクヘテロジャンクション構造の光変換層が形成され、これにより電子移動度が向上することが要因の一つと考えられる。
【発明の効果】
【0066】
本発明のn型半導体材料の有効成分である一般式(1)表されるフラーレン誘導体は、各種の有機溶媒に対して良好な溶解性を示す化合物であり、塗布法による光変換層の形成が可能であり、形成される光変換層は大面積化も容易である。
【0067】
また、該フラーレン誘導体は、p型半導体材料との相溶性が良好であって、且つ適度な自己凝集性を有する化合物である。このため、該フラーレン誘導体をn型半導体材料としてバルクジャンクション構造の光変換層を形成することによって、高い変換効率を有する有機薄膜太陽電池を得ることができる。」
(5)「【0070】
以下、本発明のn型半導体材料の有効成分であるフラーレン誘導体の合成例及び性能試験例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。」
(6)「【0076】
合成例2(化合物2の合成)
【0077】
【0078】
ヘプタナール (28.5mg, 0.25mmol), N-フェニルグリシン (76mg, 0.5mmol), 及びC60フラーレン (175mg, 0.25mmol) を、トルエン100ml中で110℃で24時間撹拌した。冷却後、溶媒を溜去し、反応物をカラムクロマトグラフィー(SiO2, n-ヘキサン:トルエン=10:1)により分離し、化合物2(163mg, 70.6%)を得た後、さらに分取GPC(クロロホルム)で精製した。
1H-NMR (CDCl3)δ: 0.88 (3H, t, J=6.9Hz), 1.25-1.40 (4H, m), 1.40-1.60 (2H, m), 1.72-1.86 (2H, m), 2.40-2.52 (1H, m), 2.58-2.70 (1H, m), 5.09 (1H, d, J=10.5Hz), 5.39 (1H, d, J=10.5Hz), 5.66 (1H, d-d, J=7.8, 5.0Hz), 7.00 (1H, d-d, J=7.3, 7.3Hz), 7.30 (2H, d, J=7.3Hz), 7.45 (2H, d-d, J=7.3, 7.3Hz)。」
(7)「【0126】
性能試験例
上記合成例及び参考例で得た各フラーレン誘導体をn型半導体材料として用いて、下記の方法で太陽電池を作製し、各フラーレン誘導体の機能を評価した。」
2 引用発明
したがって、引用文献1には、以下の発明が記載されている(以下「引用発明」という。)。
「
上記化合物2で表されるフラーレン誘導体からなる有機薄膜太陽電池用n型半導体材料。」
第5 対比
1 本願発明と引用発明を対比する。
(1)引用発明の「『フラーレン誘導体からなる』『n型半導体材料』」は、本願発明の「フラーレン誘導体からなるn型半導体材料」に、相当する。
(2)引用発明の化合物2で表されるフラーレン誘導体は、本願発明の式(1)【化1】の、[式中、環Aは、C60フラーレンを表し;R1は、炭素数6のアルキル基を表し;及びArは、フェニル基を表す。]で表されるフラーレン誘導体に、相当する。
2 そうすると、本願発明と引用発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
【一致点】
「式(1):
[式中、環Aは、C60フラーレンを表し;
R1は、炭素数6のアルキル基を表し;及び
Arは、フェニル基を表す。]
で表されるフラーレン誘導体からなるn型半導体材料。」
【相違点】
フラーレン誘導体について、本願発明では「炭素についての元素分析の分析値と理論値との差の絶対値、水素についての元素分析の分析値と理論値との差の絶対値、及び窒素についての元素分析の分析値と理論値との差の絶対値のうちの最大のものをDmax(%)としたときに、次式:
純度(%)=100-Dmax(%)
で定義される」「純度が99.3%以上である」のに対して、引用発明では純度は明記されていない点。
第6 判断
1 相違点に対する判断
(1)引用文献1の【0009】には「有機薄膜太陽電池の光変換素子用のn型半導体として優れた性能を有する材料を提供すること」、引用文献1の【0010】には「その他のフラーレン誘導体と比較して、非常に高い変換効率を有する」と記載されている。
また、引用文献1の【0043】には「フラーレン誘導体は、必要に応じて、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製後に、HPLCで更に精製することができる。」と、複数の精製方法を用いて、フラーレン誘導体をより高純度とすることも示唆されている。
(2)有機太陽電池用途のフラーレン誘導体の精製にHPLC、シリカゲルカラムクロマトグラフィー、再結晶、昇華精製等の手法を用い高純度とすることは、周知技術(必要であれば、引用文献2(特に、【0001】、【0024】参照。)、引用文献3(特に、【0006】参照。)、引用文献4(特に、【0102】、【0125】参照。)、引用文献5(特に、【0087】、【0105】参照。)を参照されたい。)である。
また、有機太陽電池において、フラーレン誘導体をより高純度とし、より高い変換効率とすることは、一般的に知られている(必要であれば、引用文献2(特に、【0015】参照。)、引用文献3(特に、【0004】、【0006】、【0020】参照。)を参照されたい。)。
(3)ところで、有機太陽電池に関する技術において、フラーレン誘導体をHPLCの純度評価法以外で評価し、99.3%以上の範囲を満たす純度のフラーレン誘導体を用いることは、周知技術(必要であれば、引用文献2(特に、【0024】「質量分析計で確認したC60の純度は99.9%以上であった。」等参照。)、引用文献3(特に、請求項9、請求項10、【0016】、【0019】「フラーレン精製物を昇温したときに発生するガス濃度を質量分析計で測定し、少なくとも99.99%以上の高純度の有機半導体材料。不純物ガスとして(CO、CO2、H2O、N2)も挙げられている。」、又は【0006】「フラーレンC60が、二次イオン質量分析(Secondary Ion Mass Spectropy:SIMS)を用いた測定により純度がセブン・ナイン(99.99999%)以上である」等参照。)を参照されたい。)である。
ここで、当該引用文献2【0024】及び引用文献3【0006】には、質量分析によるフラーレン誘導体の純度がそれぞれ99.9%及び99.99999%以上のものが記載されており、この純度は、本願発明で定義された純度99.3%を満たすものと考えられる。
(4)そうすると、引用文献1は純度について明記されていないものの、引用発明においても、より高い変換効率のものにするためにフラーレン誘導体の純度を高めようとすることは、当業者が通常行うことにすぎず、引用発明に上記周知技術を適用して、相違点に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
また、仮に、引用文献2及び引用文献3の純度が、本願発明で特定された純度の値を満たさないとしても、それより高純度とすることにより、より高い変換効率が得られることは上記(2)で認定した技術常識に照らしてたやすく想起されるというべきであるから、精製を繰り返すことにより、本願発明で特定された純度の値を満たすような構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
(5)以上のとおりであるから、引用発明に上記周知技術を適用して、相違点に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
(6)効果について
そして、相違点を総合的に勘案しても、本願発明の奏する作用効果は、引用発明及び周知技術の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。
(7)したがって、本願発明は、引用文献1に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
2 本願発明は、「n型半導体材料」に係る物の発明であるから、所定の分析方法を特定しても、その分析方法を使用した物に限定して解することはできない。そこで、以下、仮に、本願発明が、n型半導体材料を製造した後に、その純度を元素分析を行うことで分析する工程を含めた製造方法に係る発明であるとして、検討する(なお、上記1で検討したように、「物」の発明である本願発明については、引用発明に上記周知技術を適用することにより、当業者が容易に想到し得たものである。)。
(1)有機太陽電池用途のフラーレン誘導体の元素分析を行い、その構造を確認することは、周知技術(必要であれば、引用文献4(特に、【0103】、【0125】参照。)、引用文献5(特に、【0087】、【0105】参照。)を参照されたい。)であり、各元素の元素分析の分析値と理論値との差を求めることは、物質構造を確認するために、通常行っていることにすぎない。そして、その差が小さいほど(それを純度と称するか否かはさておき)、その品質が高いことは明らかである
(2)そうすると、上記1のとおり得られたn型半導体材料に対して、上記(1)で認定した元素分析の分析方法で分析を行い、各元素の元素分析の分析値と理論値との差を求め、当該差の絶対値で最大のものが、99.3%以上のものを用いるようになすことは、当業者が適宜なし得たことである。
そして、各元素の「元素分析の分析値と理論値との差の絶対値のうち最大のもの」を「純度」と定義するかどうかは、当業者が適宜決めることにすぎない。
(3)以上のとおりであるから、引用発明に上記周知技術を適用して、相違点に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
(4)効果については、上記1(6)と同様である。
(5)したがって、本願発明を製造方法の発明であるとして解したとしても、本願発明は、引用文献1に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
第7 審判請求人の主張について
審判請求人は、令和2年6月30日付けの意見書において、「本発明の優れた効果として、本発明に係る、フラーレン誘導体からなるn型半導体材料によれば、極めて高度で完全なHPLC精製を行ったフラーレン誘導体、つまり、HPLC純度100%のフラーレン誘導体からなるn型半導体材料を用いた場合に比べてもなお、より高い性能の太陽電池を作成することが可能となります。単に、(通常の)純度が高いフラーレン誘導体を用いるだけでは、このように優れた太陽電池は得られません。これを以下の試験例Aにより、お示しします。なお、当該試験例では、出願後の補正により本願の特許請求の範囲の範囲外となっている本願明細書の製造例1(化合物1)を用いています。しかし、これを用いた試験により、本願の特許請求の範囲の範囲内の化合物につきましても、同様の結果が得られることが合理的に推測されます。」旨主張している。
しかしながら、有機太陽電池に関する技術において、フラーレン誘導体をHPLCの純度評価法以外でも評価することは、上記第6で検討したとおりである。
以上のとおりであるから、審判請求人の主張を採用することはできない。
第8 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び周知技術に基いて、原出願の最先の優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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