特許拒絶査定不服審判
2025-006291
Al配線材
- 審判番号
- 2025-006291
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2021-550614
- 請求日
- 2025年04月24日
- 審決日
- 2025年12月24日
- 公報発行日
- 2026年03月27日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】日鉄マイクロメタル株式会社
- 【請求人代理人】弁理士法人酒井国際特許事務所
- 【請求人】日鉄ケミカル&マテリアル株式会社
- 【請求人代理人】弁理士法人酒井国際特許事務所
- 審判長/審判官
- 審判長 松永 稔
- 審判官 緑川 隆
- 審判官 今井 聖和
- 分類
- P18 .561-Z (H01L) / P18 .121-Z (H01L)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第17条の2第3項、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
事件の表示
特願2021-550614「Al配線材」拒絶査定不服審判事件〔令和 3年 4月 8日国際公開、WO2021/065551〕について、次のとおり審決する。
結論
結 論
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本願は、2020年(令和2年)9月17日(優先権主張 2019年10月1日)を国際出願日とする出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
令和6年 8月23日付け:拒絶理由通知書
同年10月23日 :意見書、手続補正書の提出
令和7年 1月24日付け:拒絶査定(以下「原査定」という。)
同年 4月24日 :審判請求書、手続補正書の提出
第2 令和7年4月24日にされた手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
令和7年4月24日にされた手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1 本件補正について
(1) 本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1の記載は、次のとおり補正された。(下線は、補正箇所である。)
「【請求項1】
少なくともSc、Zr及びNiを含有し、Scの含有量をx1[重量%]、Zrの含有量をx2[重量%]、及びNiの含有量をx3[重量ppm]としたとき、
0.01≦x1≦0.5、
0.01≦x2≦0.3、及び
25≦x3≦500
を満たし、残部はAlを含み、
引張強度が50MPa以上130MPa以下である、Al配線材。」
(2) 本件補正前の特許請求の範囲の記載
本件補正前の、令和6年10月23日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。
「【請求項1】
少なくともSc、Zr及びNiを含有し、Scの含有量をx1[重量%]、Zrの含有量をx2[重量%]、及びNiの含有量をx3[重量ppm]としたとき、
0.01≦x1≦0.5、
0.01≦x2≦0.3、及び
10≦x3≦500
を満たし、残部はAlを含む、Al配線材。」
2 補正の適否
(1) 補正事項
本件補正による請求項1についての補正は、以下の補正事項を含むものである。
ア 補正事項ア
「Niの含有量」である「x3」の数値範囲の下限値について、補正前は「10」であったものを、「25」と限定する(以下、補正事項アという。)。
イ 補正事項イ
「Al配線材」について、「引張強度が50MPa以上130MPa以下」であると限定する(以下、補正事項イという。)。
(2) 新規事項について
ア 当初明細書等に記載された事項
本願の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面とみなされる国際出願日における明細書、特許請求の範囲、図面(以下、これらを総称して「当初明細書等」という。)には、本件補正に関連する記載として、以下の記載がある(下線は合議体による。以下同様である。)。
「【0025】
優れた耐食性を実現すると共に、高温環境下における結晶粒の粗大化を抑制しAl配線材の強度を維持する観点から、Al配線材中のNiの含有量、すなわちx3は、好ましくは10重量ppm以上、より好ましくは15重量ppm以上、20重量ppm以上、25重量ppm以上又は30重量ppm以上である。
・・・
【0039】
以下、Alボンディングワイヤの製造に即してさらに説明する。
加工終了後であって、上記溶体化熱処理を実施した場合はその後の段階で、ワイヤ軟質化のための調質熱処理を行う。加工途中で調質熱処理を付加しても良い。調質熱処理によって、ワイヤの結晶組織を、加工組織から再結晶組織に変化させる。これにより、結晶組織が再結晶組織となるため、ワイヤの軟質化を実現することができる。調質熱処理の温度条件としては、例えば、送線速度一定で炉内温度のみを変更して調質したワイヤの引張強度を確認し、該引張強度が60~140MPaの範囲となるように熱処理温度を決定すればよい。熱処理温度は、例えば、580~640℃の範囲としてよい。好適な一実施形態において、調質熱処理の時間は30秒間以下(より好ましくは25秒間以下又は20秒間以下)である。斯かる短時間の調質熱処理を行うことにより、先述の第3、第4実施形態のようにSc含有量が比較的高い場合であっても、金属間化合物の析出なしに結晶組織を再結晶組織に変化させることができる。
・・・
【0044】
本発明のAl配線材は、Sc、Zr及び含有する場合にはNi等を上記特定量にて含有すると共に、固溶強化と配線材製造過程の熱処理による組織制御の働きによって、適度な強度を呈する。例えば、本発明のAl配線材は、50~130MPaの破断強度を呈し得る。Al配線材の破断強度は、後述の[機械的特性の測定]に記載の方法により測定することができる。」
「【実施例】
【0054】
純度5N(99.999重量%以上)のアルミニウムと、純度99.9重量%以上のSc、Zr、Niを原料として溶融し、表1に示す組成のAlインゴットを得た。該インゴットを押し出し加工、スエージング加工した後、580℃で2時間の熱処理を施し、さらに伸線加工を行った。線径が1mmの段階で、580℃、1時間の溶体化熱処理を行い、急冷(水冷)した。その後、最終線径を200μmとしてダイス伸線加工を行い、伸線加工終了後に15秒間の熱処理時間において引張強度が120MPaとなるように調質熱処理を行い、Al配線材を得た。
・・・
【0058】
[機械的特性の測定]
Al配線材の破断強度は、Instron製引張試験機を用いて、標点間距離100mm、引張速度10mm/分、ロードセル定格荷重1kNの条件で引っ張り、測定した。測定は5回実施し、その平均値をそのサンプルの破断強度として採用した。」
「【0064】
製造条件、製造結果を表1に示す。表1において、添加元素の含有量が本発明の範囲から外れる数値に下線を付している。
【0065】
【表1】
[図:0001432954000001.jpg]
」
イ 補正事項イが新規事項を導入するものであることについて
(ア) 補正事項イは、「引張強度が50MPa以上130MPa以下」であると限定するものであるから、「引張強度」の下限値を「50MPa」とするものである。
(イ) ここで、補正事項イの「引張強度」に関し、当初明細書等には、上記アの【0039】に、「引張強度が60~140MPaの範囲となるように熱処理温度を決定すればよい」との記載、【0054】に、「引張強度」が「120MPaとなるように調質熱処理を行」うとの記載のみがある。
そして、上記記載によると、「引張強度」の下限値が「60MPa」であることは認識できるものの、下限値を「60MPa」よりも小さな「50MPa」とする記載はないし、下限値を「50MPa」とすることが、当初明細書等の記載から当業者にとって自明であるとはいえない。
一方、上記アの【0044】に、「引張強度」とは異なるパラメータである「破断強度」が「50~130MPa」であることが記載され、【0065】の【表1】に、「破断強度」の製造結果が記載されているものの、これらの記載から「引張強度」の下限値を「50MPa」とすることが、当業者にとって自明であるともいえない。
そうすると、「引張強度」の下限値を「60MPa」よりも小さな「50MPa」とすることは、当初明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項といえる。
(ウ) 以上のとおりであるから、本件補正は、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものではなく、当初明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものである。
ウ 審判請求書における主張について
請求人は、審判請求書の「(2)補正の根拠の明示」において、「請求項1において、本願出願当初の明細書の段落[0025]、[0039]等の記載に基づき、Niの含有量の下限値を10質量ppmから25質量ppmに減縮し、Al配線材の引張強度を限定する補正を行いました。
上記補正は、本願の出願当初の明細書等に記載された事項の範囲内で行われたものであり、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たすものです。」と主張する。
しかしながら、請求人は、引張強度に係る事項を付加する補正の根拠については、何ら主張していないので、請求人の上記主張は採用できない。
3 補正却下の決定についてのむすび
よって、本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。
よって、上記補正の却下の決定の結論のとおり決定する。
第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は、上記第2のとおり却下されたので、本願の請求項1~8に係る発明は、令和6年10月23日にされた手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1~8に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、その請求項1に記載された事項により特定される、上記「第2[理由]1(2)」に記載のとおりのものである。
2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由の概略は、以下の理由を含むものである。
理由2(進歩性)本願発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
引用文献1:特開2014-047417号公報
引用文献3:特表2016-511529号公報
3 引用文献の記載及び引用発明
(1) 引用文献1
ア 引用文献1の記載
本件特許出願前(優先日前)に公開された引用文献1には、以下の事項が記載されている。(下線は当審で付した。以下同様。)
「【技術分野】
【0001】
本発明は、高温環境下で使用される半導体素子上の電極と外部電極とをアルミニウム合金細線を用いて接合するアルミニウム合金配線材料に関するもので、特に、航空機、電気自動車及び船舶等の高温環境下で使用される半導体装置における高純度のアルミニウム(Al)から時効析出するAl3Sc粒子による効果を応用したアルミニウム合金ボンディングワイヤに関するものである。
・・・
【0008】
上記課題を解決するため、本発明者らはスカンジウム(Sc)がアルミニウム(Al)に固溶した状態から時効析出させなければ強度の向上にほとんど寄与しないことを利用すること着想した。
すなわち、スカンジウム(Sc)を所定量含有するアルミニウム(Al)合金配線材料を中間熱処理により微細Sc析出物を全て強制的に固溶させる溶体化処理を行った後、所望の線径まで伸線し、調質熱処理をScが微細析出しない温度・条件で行うことにより、Scによる時効硬化を抑制することができることを確認した。
この状態において、アルミニウム合金配線材料は柔らかく、塑性変形しやすいため、所望の線径に冷間伸線加工をした上記組成のアルミニウム合金細線は、純アルミニウム合金細線と同様にアルミパッドへ超音波ボンディングして所定の回路に配線することができる。
また、スカンジウム(Sc)に加えて、ジルコニウム(Zr)を一定量添加することにより、同様の効果を得ることができることが確認された。ジルコニウム(Zr)添加は、アルミニウム(Al)合金配線材料においてスカンジウム(Sc)と同様の作用を発揮するとともに、時効硬化の温度履歴に対する時間的な安定性を向上する効果がある。
【0009】
このように溶体化処理したアルミニウム合金細線を配線後に時効熱処理をすると、前述の特許文献1および2に記載されているとおり、アルミニウム(Al)マトリックスから析出したAl3Sc粒子によって機械的強度が増加する。しかも、Al3Sc粒子とアルミニウム(Al)マトリックスとの整合性が良いので、繰り返しの高温環境下でもAl3Sc粒子の粗大化はほとんど進行しないことがわかった。
【0010】
本発明の高温環境下で使用される半導体装置接続用のアルミニウム合金配線材料の一つは、スカンジウム(Sc)が0.15~0.5質量%および残部が純度99.99質量%以上のアルミニウム(Al)からなる組成を有し、強制固溶されたアルミニウム合金マトリックス中に再結晶組織を有し、ビッカース硬さが21~30Hvのアルミニウム合金である。
【0011】
また、本発明の高温環境下で使用される半導体装置接続用のアルミニウム合金配線材料の他の一つは、スカンジウム(Sc)が0.15~0.5質量%、ジルコニウム(Zr)が0.01~0.2質量%(ただし、ジルコニウム(Zr)はスカンジウム(Sc)の半分以下の量)および残部が純度99.998質量%以上のアルミニウム(Al)からなる組成を有し、強制固溶されたアルミニウム合金マトリックス中に再結晶組織を有し、ビッカース硬さが21~30Hvのアルミニウム合金である。
【0012】
上記2種類の本発明の高温環境下で使用される半導体装置接続用のアルミニウム合金配線材料は、配線後にその後の処理、加工工程に先立って200℃~450℃の温度範囲であらかじめ時効熱処理をしておくこともできる。配線後は、アルミニウム合金配線材料の形状が変化しないから、機械的強度が増加しても半導体チップ割れを起こすことがないからである。また、アルミパッドとの熱膨張係数の違いも小さいので、熱膨張・熱収縮の繰り返しによる接合界面でのクラックの進行もない。
【0013】
また、本願発明において、アルミニウム(Al)の純度が99.998質量%以上あると、99.999質量%以上の純度のアルミニウム合金とほぼ同じビッカース硬さを有するので、純度が高いほど好ましい。
・・・
【発明の効果】
【0017】
本発明のアルミニウム合金配線材料によれば、配線前は純アルミニウム細線のように軟らかく自由に配線でき、超音波接合も純アルミニウム合金細線と同様にアルミパッドと接合することができる。
他方、配線後は、アルミニウム(Al)マトリックスからAl3Sc粒子を析出させ、配線の機械的強度を強化することができる。スカンジウム(Sc)の添加量は少なく、かつ、析出物とアルミニウム(Al)マトリックスとの整合性が良いことから、Al3Sc粒子が析出しても接合界面から機械的ひずみによるクラックが発生することはない。しかも、析出したAl3Sc粒子は、電気自動車等のパワー半導体における繰り返しの高温環境下でもほとんど粗大化することがない。この効果は、4Nアルミニウム合金細線よりも5Nアルミニウム合金細線のほうがよりよく発揮されるが、価格を優先するときは4N8純度のアルミニウム合金細線が良く、パワーサイクル半導体に好適なアルミニウム合金配線材料となる。
・・・
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施例を説明する。
【実施例1】
【0020】
純度99.99質量%のアルミニウム(Al)と純度99.9質量%のスカンジウム(Sc)からなるAl-Sc 0.15%、Al-Sc 0.2%、Al-Sc 0.3%、Al-Sc 0.5% の4種類のAl-Sc合金を溶融し、連続鋳造により直径300mmアルミニウム合金インゴットを鋳造した。
この鋳塊を溝ロール圧延後、伸線加工して直径5mmのアルミニウム合金素線を作成した。次いで、この素線を630℃×120分の溶体化熱処理後、水中で急冷した。その後、直径0.5mmまで水中でダイヤモンドダイスを用いて連続伸線加工をした後、620℃×1分で調質熱処理をし、水冷した。
この試料を実施例1(サンプル1~4)とした。この実施例1をアカシ社製型式MVK-G3のマイクロビッカース硬度計で測定した。測定した硬さを表1に示す。
この実施例1をSiチップ(厚さ0.5mm)上のAl-1.0%Si膜(厚さ4μm)上に以下の条件で100個超音波接合をした。
・・・
【表1】
[図:0001432954000002.jpg]
(注1)Al原材料の純度は実施例1~3(サンプルNo.1~8)及び比較例1,2:99.99質量%、実施例5(サンプルNo.9):99.998質量%。
従来例Al原材料の純度は99.995質量%
(注2)実施例の溶体化後の冷却方法:水冷
【0030】
表1の試験結果から、実施例のサンプルNo.1~4は、Scの含有量が0.15質量%から0.5質量%に至るまで、Scの含有量が増加するにつれて調質後のビッカース硬さが大きくなるが、Sc含有量が0.5質量%の最大範囲でもビッカース硬さが27に抑制されており、チップ割れを生じることがない。
また、ワイヤボンディング後の時効処理によって、その硬さが大きく向上し、Sc含有量が最小の0.15質量%でもビッカース硬さは38に達し、熱衝撃試験結果は良好であった。
・・・
【0033】
また、Scに加えてZrを添加したサンプル5及び6から、Zrの添加により調質熱処理後の硬さは大きくなるものの抑制されてチップ割れを生じないが、ボンディング後の時効処理による硬さは著しく向上し、熱衝撃試験結果が良好であることが解かる。
ジルコニウム(Zr)は、スカンジウム(Sc)と同様の時効硬化作用があり、また、時効硬化したアルミニウム合金細線がその使用環境で温度変化にさらされるなどの温度履歴による劣化に対して安定化する作用があり、スカンジウム(Sc)の含有量の半分以下の添加量の範囲であれば、スカンジウム(Sc)と同様に扱うことができる。
【0034】
さらに、アルミニウム原材料の純度を一桁(99.998質量%)向上し、Sc含有量を最低限に抑制したサンプル9は、調質後の硬さはより低くなるが、時効処理後の硬さは38と高く維持されており、熱衝撃試験結果が良好であることが解かる。
・・・
【0036】
以上の試験結果から、半導体装置用配線として、スカンジウム(Sc)とアルミニウム(Al)とからなるAl-Sc二元合金は、Scが0.15~0.5質量%の範囲が適し、
また、スカンジウム(Sc)とアルミニウム(Al)とジルコニウム(Zr)とからなるAl-Sc-Zr三元合金の場合は、スカンジウム(Sc)が0.15~0.5質量%に対して、ジルコニウム(Zr)は第3の添加元素として、前記の含有量より低い微量な範囲においても効果を有し、0.01~0.25質量%の範囲で好適であった。ただし、ZrはScよりも硬さに対する影響が大きいため、その含有量はScの半分以下とする必要がある。
溶体化処理後のビッカース硬さについては、チップ割れ防止の点から、表1の21Hvよりも低くても、Sc添加により時効処理によって熱衝撃を向上できるため、その範囲は18Hv~30Hvまで有効であった。」
イ 引用発明
上記アの【0011】によれば、引用文献1には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。
「Scが0.15~0.5質量%、Zrが0.01~0.2質量%、残部が純度99.998質量%以上のAlからなる組成を有し、ビッカース硬さが21~30Hvのアルミニウム合金配線材料。」
(2) 引用文献3
ア 引用文献3の記載
本件特許出願前(優先日前)に公開された引用文献3には、以下の事項が記載されている。
「【技術分野】
【0001】
本発明は、表面を有する芯を含み、芯が主成分としてアルミニウムを含み、芯が成分として0.05%~1.0%の含有量でスカンジウムを含有する、ボンディングワイヤに関する。
・・・
【0019】
本発明の第1の態様はボンディングワイヤであり、
表面を有する芯を含み、
芯が、主成分としてアルミニウムを含み、
芯が、成分として、0.05%~1.0%の量でスカンジウムを含有することを特徴とする。
【0020】
特に区別しない場合、全ての内容物又は成分の配分(shares)は、ここでは、重量の配分として示される。特に、パーセントで示される成分の配分は、重量%であることを意味し、ppm(100万分の1)で示される成分の配分は、重量ppmであることを意味する。粒子(grains or particles)のような可算物に関する百分率の値について、示される値はその物の総数の配分である。
・・・
【0025】
本発明の好ましい実施形態の場合、スカンジウム含有量は、0.1%~0.35%の範囲内に最適化される。最も好ましい実施形態では、芯のスカンジウム含有量は、0.12%~0.25%の範囲である。
・・・
【0028】
ワイヤの耐腐食性を高めるために、芯が、好ましくは、10ppm~100ppmの含有量で、銅及びニッケルを含む群から選択される少なくとも1つを含有する。ニッケル含量又は銅含量が30ppm~80ppmであるのが最も好ましい。」
イ 引用文献3の記載事項
(ア) 上記アの【0019】、【0020】、【0025】によれば、主成分として「アルミニウム」を含み、成分として、「0.05~1.0重量%」、好ましくは、「0.1~0.35重量%」の「スカンジウム」を含有する「芯」を含む「ボンディングワイヤ」が記載されている。
(イ) 上記アの【0028】、【0020】によれば、「ワイヤの耐腐食性を高めるため」に、「芯」が「10~100重量ppmの含有量で、銅及びニッケルを含む群から選択される少なくとも1つを含有する」ことが記載されている。
(ウ) 以上によれば、引用文献3には、以下の事項(以下「引用文献3記載事項」という。)が記載されている。
「主成分としてアルミニウムを含み、成分として、0.05~1.0重量%、好ましくは、0.1~0.35重量%のスカンジウムを含有する芯を含むボンディングワイヤにおいて、ワイヤの耐腐食性を高めるために、10~100重量ppmの含有量で、銅及びニッケルを含む群から選択される少なくとも1つを含有させること。」
4 対比
本願発明と引用発明を対比する。
(1) 引用発明は、「Sc」と「Zr」を含み、残部が「純度99.998質量%以上のAl」からなる組成を有するものである。
そうすると、本願発明と引用発明とは、「少なくともSc、Zr」を含有する点で共通する。
(2) 引用発明は、「Sc」を「0.15~0.5質量%」含むものであるから、Scの含有量をx1[重量%]としたとき、「0.15≦x1≦0.5」であり、「0.01≦x1≦0.5」を満たす。
そうすると、本願発明と引用発明とは、「Scの含有量をx1[重量%]」としたとき、「0.01≦x1≦0.5」を満たす点で共通する。
(3) 引用発明は、「Zr」を「0.01~0.2質量%」含むものであるから、Zrの含有量をx2[重量%]としたとき、「0.01≦x2≦0.2」であり、「0.01≦x2≦0.3」を満たす。
そうすると、本願発明と引用発明とは、「Zrの含有量をx2[重量%]」としたとき、「0.01≦x2≦0.3」を満たす点で共通する。
(4) 引用発明は、「Sc」と「Zr」を含み、残部が「純度99.998質量%以上のAl」からなる組成を有するものである。
そうすると、本願発明と引用発明とは、「残部はAlを含む」点で共通する。
(5) 引用発明は、「アルミニウム合金配線材料」であるから、「Al配線材」といい得るものである。
そうすると、本願発明と引用発明とは、「Al配線材」である点で共通する。
(6) 以上によれば、本願発明と引用発明は、以下の一致点、相違点を有する。
[一致点]
少なくともSc及びZrを含有し、Scの含有量をx1[重量%]、Zrの含有量をx2[重量%]としたとき、
0.01≦x1≦0.5、及び
0.01≦x2≦0.3
を満たし、残部はAlを含む、Al配線材。」
[相違点]
本願発明は、「Niを含有し」、「Niの含有量をx3[重量ppm]」としたとき、「10≦x3≦500」を満たすのに対し、引用発明は、Niを含有することが特定されていない点。
5 判断
(1) 引用発明及び引用文献3記載事項は、いずれもScを含有するAl配線材である点で技術分野が共通しており、Al配線材は、耐腐食性を高める必要があるという自明な課題を有するものであるから、引用発明に引用文献3記載事項を適用する動機付けがある。
そして、引用文献3記載事項は、「銅及びニッケルを含む群から選択される少なくとも1つを含有させる」ものであるから、ニッケルを選択して引用発明に適用し、「Niの含有量をx3[重量ppm]」としたとき、「10≦x3≦100」の「Ni」を含有させて、「10≦x3≦500」を満たすようにすることは、当業者であれば容易に想到し得たものである。
また、本願発明の奏する作用効果は、引用発明及び引用文献3記載事項の奏する作用効果から予測される範囲内のものであり、格別顕著なものということはできない。
したがって、本願発明は、引用発明及び引用文献3記載事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(2) 請求人の主張について
ア 請求人は、令和6年10月23日提出の意見書の「〔3-1-3〕引用文献1、3又は引用文献2、3に基づく理由2(進歩性)について」において、
「(1)引用文献3に記載の発明(引例3発明)は、金属間相Al3Scの微分散を高めること、及び、当該金属間相におけるScの析出量をコントロールするにより、ワイヤの電気伝導率の改善という課題を解決する発明です(引用文献3の明細書の段落[0060])。
(2)引用文献3には、一般的な記載としてNiを含有することが開示されていますが、Niを含有する実施例は全く記載されていないことから、Niを含有することが引用文献3のワイヤの電気伝導率の改良という課題を解決するための特徴ではないと思料します。
(3)また、引用文献3の明細書の段落[0028]には、「ワイヤの耐腐食性を高める」ために、芯が銅及びニッケルを含む群から選択される少なくとも1つを含有することが開示されています。しかしながら、引用文献3には、本願発明の「ワイヤの耐食性を向上させ得ると共に、高温環境下における結晶粒の粗大化をより一層抑制する」(本願明細書の段落[0023])という効果が開示も示唆もされていません。」と主張する。
イ しかしながら、引用文献3の【0028】の記載は、「ワイヤの電気伝導率の改善という課題」とは別の、主成分としてアルミニウムを含み、スカンジウムを含有するボンディングワイヤの「耐腐食性を高めるために」、「銅及びニッケルを含む群から選択される少なくとも1つを」含有させることを示唆するものである。
そして、本願明細書の【0004】~【0005】で特許文献3として引用した特開2016-152316号公報に、
「【0032】
<Ni、Si>
本発明のアルミニウム配線材はNi、SiおよびPのうちのいずれか1種以上を合わせて800ppm以下含有していることを必須条件とする。NiとSiは似たよう効果を有するため、まず、この2元素について説明する。
【0033】
Ni、Siの最も大きな効果は、Alより劣る還元性にある。すなわち、Ni、SiはAlより酸化され難いため、アルミニウム配線材に含有させるとアルミニウム配線材自体が酸化しづらくなり、酸化防止に役立つのである。さらにはNi、SiはAlに比べて酸などとの反応性が低いため、耐腐食性の向上にも寄与する。すでに述べてきたように接合部の酸化膜が接合性を落とす大きな原因となっているため、これらの元素を含有する効果は大きく、実際にボンディングの際は発熱し酸化が進行し易くなるわけであるから、ますます酸化防止効果が発揮され、かつ、接合後の耐腐食性も向上して、高い信頼性を有する接合が可能となるわけである。
【0034】
Ni、Siの二番目の効果はアルミニウム配線材の結晶組織の制御にある。これらの元素を適量含有させることにより結晶粒径や形状を制御でき、強度、伸びのバラツキが少ない配線材を製造することが可能となるのである。アルミニウム配線材への特性要求はユーザーによりさまざまであり、個別に合わせ込む必要がある。例えば、アルミニウム配線材が硬すぎる場合、ボンディング時、ループ状に曲げた際、反発力が強く、特に接合面の酸化膜にバラツキがあったりすると均一な接合はできず、場合によっては接合できなかったりしてしまう。逆にループ性ばかりに注目して柔らかい材料とした場合には配線材の切断面にバリが発生したり、切りカスが多く発生して異物混入してしまうなどの問題を引き起こす可能性が高くなる。このため、ユーザー各々のニーズに対応するため、接合強度、伸び、そしてループやそれらのバラツキなどを調整する必要があり、このためにNi、Siのいずれか1種以上を含有させ、結晶粒径等を制御することが有効なのである。」(下線は、強調のために当審により付加した。)と記載されているように、アルミニウム配線材にNiを含有させることにより、「耐腐食性の向上にも寄与する」こと、及び、「結晶粒径や形状を制御でき、強度、伸びのバラツキが少ない配線材を製造することが可能となる」ことが公知であることを踏まえれば、「耐食性を向上させ得ると共に、高温環境下における結晶粒の粗大化をより一層抑制しAl配線材の強度を高いレベルにて維持する」との効果は、引用発明にNiを含有させる場合に予測し得るものといえるから、請求人の主張は採用できない。
ウ 請求人は、審判請求書の「(i)引用文献1に引用文献3を組み合わせることに阻害要因があること」において、「したがって、引用文献1に接した当業者は、引用文献1のアルミニウム合金に20質量ppmを超えるSc及びZr以外の元素(例えば、引用文献3に記載のNi)をさらに添加することには、阻害要因があると認識すると思料致します。」と主張する。
また、請求人は、審判請求書の「(ii)引用文献1に引用文献3を組み合わせても補正後の本願発明には至らないこと」において、「引用文献3の段落[0048]、[0062]及び図1の記載から、引用文献3には、引張強度が140MPa以上のAl-Scワイヤしか開示されていません。また、引用文献3に記載の発明では、少なくともワイヤを延伸する間、高い引張強さを有するボンディングワイヤを提供することを目的としています(段落[0013])。
したがって、高い引張強度を有する引用文献3のAl配線材を引用文献1のアルミニウム合金配線材に組み合わせても、引用文献3のAl配線材よりも引張強度の低い補正後の本願発明の構成に至らないと思料致します。」と主張する。
エ しかしながら、上記第2のとおり、令和7年4月24日にされた手続補正が却下されたことにより、本願発明は10~25質量ppmのNiを含有するものを含み、また、「引張強度」についての特定がないものであるから、請求人の主張は採用できない。
第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び引用文献3記載事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
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2025-006291