特許拒絶査定不服審判
2017-008739
フラーレン誘導体、及びn型半導体材料
- 審判番号
- 2017-008739
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 拒絶査定不服審判(拒絶査定不服の審決)
- 出願番号
- 特願2015-517150外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2017年06月14日
- 審決日
- 2018年10月16日
- 公報発行日
- 2019年01月25日
- 結論
- 請求不成立
- 当事者
- 【請求人】ダイキン工業株式会社
- 【請求人代理人】特許業務法人三枝国際特許事務所
- 【請求人】国立大学法人大阪大学
- 【請求人代理人】特許業務法人三枝国際特許事務所
- 分類
- P18 .121-WZ (H01L)
- 根拠条文(結論部分から自動抽出・参考)
- 特許法29条2項
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特願2015-517150「フラーレン誘導体、及びn型半導体材料」拒絶査定不服審判事件〔平成26年11月20日国際公開、WO2014/185535〕について、次のとおり審決する。
結論
【結 論】
本件審判の請求は、成り立たない。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
本願は、2014年(平成26年)5月16日(優先権主張 平成25年5月16日、平成25年9月2日)を国際出願日とする出願であって、その手続の概要は、以下のとおりである。
平成28年 6月 2日:拒絶理由の通知
平成28年10月13日:意見書、手続補正書の提出
平成29年 3月 7日:拒絶査定(同年 3月14日送達)
平成29年 6月14日:審判請求書の提出
平成30年 5月 2日:拒絶理由の通知
平成30年 7月 9日:意見書、手続補正書の提出
第2 本願発明
本願の請求項1ないし10に係る発明は、平成30年7月9日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし10に記載された事項により特定されるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。
「【請求項1】
後記で定義される純度が99.2%以上である、
式(1):
[化1]
[式中、環Aは、C60フラーレンを表し;
R1は、水素原子、炭素数1~8のアルキル基、又は炭素数6~14のアリール基を表し;及び
Arは、フェニル基を表す。]
で表されるフラーレン誘導体からなるn型半導体材料。
前記純度は、炭素についての元素分析の分析値と理論値との差の絶対値、水素についての元素分析の分析値と理論値との差の絶対値、及び窒素についての元素分析の分析値と理論値との差の絶対値のうちの最大のものをDmax(%)としたときに、次式:
純度(%)=100-Dmax(%)
で定義される。」
第3 拒絶の理由
平成30年5月2日付けで当審が通知した拒絶の理由の概要は、次のとおりである。
[理由1](進歩性)本件出願の下記の請求項に係る発明は、その最先の優先日前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
[理由2](サポート要件)本件出願は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
[理由3](明確性)本件出願は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
記
●理由1(進歩性)について
・請求項 1-10
・引用文献等 1-7
●理由2(サポート要件)について
・請求項1-10
●理由3(明確性)について
・請求項8-10
<引用文献等一覧>
1.特開2012-89538号公報
2.特開2008-280323号公報(周知技術を示す文献)
3.特開2012-162506号公報(周知技術を示す文献)
4.特開2012-151171号公報(周知技術を示す文献)
5.特開2013-16669号公報(周知技術を示す文献)
6.特開2013-69663号公報(周知技術を示す文献)
7.特表2011-502363号公報(周知技術を示す文献)
第4 引用文献について
1 引用文献1の記載
引用文献1には、以下の事項が記載されている(下線は、当審で付した。)。
(1)「【0009】
本発明は、上記した従来技術の現状に鑑みてなされてものであり、その主な目的は、有機薄膜太陽電池の光変換素子用のn型半導体として優れた性能を有する材料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記した目的を達成すべく鋭意研究を重ねてきた。そして、5員環構造を有するフラーレン誘導体は、グリシン誘導体とアルデヒド誘導体の組合せにより一工程で得ることができ、これら2つの原料の組合せの選択肢が多いことから、構造上の多様性面で優れているという点に着目し、各種の誘導体について有機薄膜太陽電池用n型半導体材料としての性能に関して検討を重ねてきた。その結果、ピロリジン骨格を有するC60フラーレン誘導体の内で、特に、窒素原子に直接結合したアリール基を有する化合物は、その他のフラーレン誘導体と比較して、非常に高い変換効率を有するという従来全く知られていない事実を見出すに至った。本発明は、かかる知見に基づいて鋭意研究を重ねた結果、完成されたものである。」
(2)「【0017】
n型半導体材料
本発明の有機薄膜太陽電池用n型半導体材料は、下記一般式(1)で表されるフラーレン誘導体からなるものである。」
(3)「【0043】
上記方法によって得られる一般式(1)で表されるフラーレン誘導体は、必要に応じて、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製後に、HPLCで更に精製することができる。」
(4)「【発明の効果】
【0066】
本発明のn型半導体材料の有効成分である一般式(1)表されるフラーレン誘導体は、各種の有機溶媒に対して良好な溶解性を示す化合物であり、塗布法による光変換層の形成が可能であり、形成される光変換層は大面積化も容易である。
【0067】
また、該フラーレン誘導体は、p型半導体材料との相溶性が良好であって、且つ適度な自己凝集性を有する化合物である。このため、該フラーレン誘導体をn型半導体材料としてバルクジャンクション構造の光変換層を形成することによって、高い変換効率を有する有機薄膜太陽電池を得ることができる。」
(5)「【0070】
以下、本発明のn型半導体材料の有効成分であるフラーレン誘導体の合成例及び性能試験例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。」
(6)「【0076】
合成例2(化合物2の合成)
【0077】
【化10】
」
(7)「【0079】
合成例3(化合物3の合成)
【0080】
【化11】
」
(5)「【0126】
性能試験例
上記合成例及び参考例で得た各フラーレン誘導体をn型半導体材料として用いて、下記の方法で太陽電池を作製し、各フラーレン誘導体の機能を評価した。」
2 引用発明
したがって、引用文献1には、以下の発明が記載されている(以下「引用発明」という。)。
「
上記化合物2又は上記化合物3で表されるフラーレン誘導体からなるn型半導体材料。」
第5 対比
本願発明と引用発明を対比する。
1 引用発明の「フラーレン誘導体からなるn型半導体材料」は、本願発明の「フラーレン誘導体からなるn型半導体材料」に、相当する。
2 引用発明の化合物2又は化合物3で表されるフラーレン誘導体は、本願発明の式(1)[化1]の、[式中、環Aは、C60フラーレンを表し;R1は、炭素数6のアルキル基、又はフェニル基を表し;及びArは、フェニル基を表す。]で表されるフラーレン誘導体に、相当する。
3 そうすると、本願発明と引用発明は、以下の構成において一致し、相違する。
(一致点)
「式(1):
[化1]
[式中、環Aは、C60フラーレンを表し;
R1は、炭素数6のアルキル基、又はフェニル基を表し;及び
Arは、フェニル基を表す。]
で表されるフラーレン誘導体からなるn型半導体材料。」
(相違点)
フラーレン誘導体について、本願発明では「炭素についての元素分析の分析値と理論値との差の絶対値、水素についての元素分析の分析値と理論値との差の絶対値、及び窒素についての元素分析の分析値と理論値との差の絶対値のうちの最大のものをDmax(%)としたときに、次式:
純度(%)=100-Dmax(%)
で定義される」「純度が99.2%以上である」のに対して、引用発明では純度は明記されていない点で相違する。
第6 判断
1 引用文献1の【0009】には「有機薄膜太陽電池の光変換素子用のn型半導体として優れた性能を有する材料を提供すること」、引用文献1の【0010】には「他のフラーレン誘導体と比較して、非常に高い変換効率を有する」と記載されている。そうすると、引用文献1には純度については明記されていないものの、一般に、前記材料をより高純度とし、より高い変換効率とすることは、当業者が通常行うことにすぎない。
2 また、引用文献1の【0043】には「フラーレン誘導体は、必要に応じて、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製後に、HPLCで更に精製することができる。」と、複数の精製方法を用いて、フラーレン誘導体をより高純度とすることも示唆されている。
3 そして、有機太陽電池用途のフラーレン誘導体の精製にHPLC、シリカゲルカラムクロマトグラフィー、再結晶等の手法を用いることは、周知技術(必要であれば、引用文献2(特に、【0102】、【0125】参照。)、引用文献3(特に、【0087】、【0105】参照。)を参照。)にすぎない。
4 そうすると、上記1ないし3から、引用発明において、有機薄膜太陽電池における一般的な事項、引用文献1の上記1、2の記載事項やフラーレン誘導体をより高純度とする示唆、及び周知技術を考慮し、より高い変換効率とするために、引用発明のフラーレン誘導体の精製に、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製後に、HPLC、再結晶等の手法を採用し、より高純度とすることは、当業者が適宜なし得る事項にすぎない。
5 また、有機太陽電池用途のフラーレン誘導体の元素分析を行い、その構造を確認することは、周知技術(必要であれば、引用文献2(特に、【0103】、【0125】参照。)、引用文献3(特に、【0087】、【0105】参照。)を参照。)にすぎない。そして、上記4に記載のシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製後に、HPLC、再結晶等の手法を採用し、より高純度としたフラーレン誘導体を分析するかは、適宜行うことにすぎないことから、上記より高純度としたフラーレン誘導体の分析として元素分析を行い、当該元素分析の分析値と理論値を比較し構造を確認することは、当業者が適宜なし得る事項にすぎない。
6 本願発明の「純度が99.2%以上である」との数値限定について
本願の実施例2-1において前記純度が99.3%との記載があり、本願の比較例3-2において前記純度が98.8%との記載があること、また、本願発明で定義されている純度99.2%で顕著な効果があったとの実施例はないこと(平成30年7月9日付けの意見書において、「『99.3%
』に極めて近似する『99.2%以上』に限定しております。」と記載しているものの、実施例の純度より低い値にしている。)から、実施例、比較例を参酌しても、本願発明で定義されている純度の99.2%の数値を境に臨界的意義があるとは認められず、本願発明で定義されている純度の99.2%以上に、本願明細書の他の箇所を参酌しても、臨界的意義があるとは認めらない。加えて、本願発明の効果は本願明細書の段落[0015]に「本発明のn型半導体材料は、特に有機薄膜太陽電池等の光電変換素子用のn型半導体として有用であり、高い光電変換効率を実現できる。」と記載されているが、本願の比較例3-2は変換効率5.63%であり、実施例1-1の変換効率2.41%、実施例2-1の変換効率2.39%と記載されているように、高い光電変換効率は、n型半導体の本願発明で定義されている純度を高めることのみで実現できるわけではなく、この点からも当該数値限定に有利な効果が顕著性を有しているものとは認められない。
また、各元素の元素分析の分析値と理論値との差を求めることは、構造を確認する場合に、通常行っており、各元素の元素分析の分析値と理論値との差の絶対値で最大のものを純度と言うかどうかは、当業者が適宜決めることにすぎない。
7 そうすると、引用発明において、有機太陽電池用途のフラーレン誘導体における周知技術を考慮し、フラーレン誘導体の純度をより高め、元素分析を用いて測定し、当該元素分析の分析値と理論値を比較し構造を確認し、本願発明のようになすことは、当業者が容易になし得る事項にすぎない。
8 効果について
本願発明の効果は、本願明細書の段落[0015]に「本発明のn型半導体材料は、特に有機薄膜太陽電池等の光電変換素子用のn型半導体として有用であり、高い光電変換効率を実現できる。」と記載されているが、引用発明に記載された事項の効果(上記第4「1」(4))からみて、当業者が予測し得る程度のものである。
9 まとめ
以上のとおりであるから、引用発明に上記周知技術を適用して、相違点に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
第7 審判請求人の主張について
審判請求人は、平成30年7月9日付けの意見書において、「“少なくとも、HPLC純度がある程度以上になると、それ以上純度を向上させても太陽電池の性能は向上させられない、ということ”が推測されるところにおいて、元素分析による、特定の元素の組み合わせに着目した純度を向上させることによれば、より高い光電変換効率とすることができることは、当業者が予想し得たことではなく、また、当業者が通常行うことではありません。」と主張している。
しかしながら、引用文献1においてHPLC純度は記載されておらず、さらに、フラーレン誘導体を精製させても太陽電池の性能は向上させられないとの示唆もない。
加えて、本願明細書の段落[0054]-[0059]に記載の製造例を参照すると、シリカゲルカラムクロマト、分取GPCで精製後に、再結晶やHPLC(市販のカラム)で精製を行っており、上記周知技術で記載したように一般的に行われている精製方法を複数用いているにすぎず、特定の元素の組み合わせに着目した純度を向上させる特殊な精製方法とも認められない。
また、フラーレン誘導体の分析を元素分析で行うことは、上記第6にも記載したように周知技術にすぎず、本願発明では、炭素、水素及び窒素、すなわち、通常フラーレン誘導体を構成する元素を分析していることから、特定の元素の組み合わせに着目したものでもなく、単に、フラーレン誘導体自体の純度の測定に必要な元素を選択したものといえる。
そうすると、フラーレン誘導体の純度を向上させ、より高い光電変換効率とすることができるようにすることは、当業者が通常行うことである。
以上のとおりであるから、審判請求人の主張を採用することはできない。
第8 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び周知技術に基いて、その最先の優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
審決本文(J-PlatPat)
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