特許異議申立
2018-701069
大型セラミック板およびその製造方法
- 審判番号
- 2018-701069
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2017-047060
- 登録番号
- 特許第6350703号(P6350703)
- 請求日
- 2018年12月28日
- 審決日
- 2019年03月26日
- 公報発行日
- 2019年05月31日
- 結論
- 維持
- 当事者
- 【権利者】TOTO株式会社
- 【権利者代理人】紺野 昭男
- 【権利者代理人】井波 実
- 【権利者代理人】伊藤 武泰
- 【権利者代理人】田村 慶政
- 【異議申立人】市野 繁満
- 審判長/審判官
- 審判長 大橋 賢一
- 審判官 蛭田 敦
- 審判官 宮澤 尚之
- 分類
- P1651.121-Y (C04B) / P1651.536-Y (E04F)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第2項、特許法第36条第4項第1号
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第6350703号発明「大型セラミック板およびその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第6350703号の請求項1~13に係る特許を維持する。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
特許第6350703号の請求項1~13に係る特許についての出願は、平成29年3月13日(優先権主張 平成28年5月10日、平成28年8月26日)の出願であって、平成30年6月15日にその特許権の設定登録がされ、平成30年7月4日付けで特許掲載公報が発行され、その後、平成30年12月28日に特許異議申立人 市野繁満により全請求項に係る特許について異議申立てがされたものである。
第2 本件特許発明
特許第6350703号の請求項1~13に係る発明(以下、「本件特許発明1」~「本件特許発明13」という。)は、それぞれ、特許請求の範囲の請求項1~13に記載された事項により特定される以下のとおりのものと認める。
【請求項1】
JIS A1509-3(2014)に規定される吸水率が1%以下である大型セラミック板において、
結晶相としてムライトを含み、かつ長石由来結晶鉱物を20質量%以上40質量%以下含んでなり、
さらに、クォーツを含まないか、または、含む場合は、当該クォーツの濃度が0質量%超過20質量%以下であり、
CaO換算で0質量%超過1質量%以下のCa元素と、MgO換算で0質量%超過1質量%以下のMg元素とを含んでなることを特徴とする、大型セラミック板。
【請求項2】
ZrO2換算で3質量%以上15質量%以下のZr元素をさらに含んでなる、請求項1に記載の大型セラミック板。
【請求項3】
前記長石由来結晶鉱物は、アルカリ長石および曹長石からなる群から選択される少なくとも一種である、請求項1または2に記載の大型セラミック板。
【請求項4】
アノーサイトを含まない、請求項1~3のいずれか一項に記載の大型セラミック板。
【請求項5】
SiO2換算で60質量%以上70質量%以下のSi元素と、Al2O3換算で15質量%以上25質量%以下のAl元素と、K2O換算で0.5質量%以上10質量%以下のK元素と、Na2O換算で0.5質量%以上10質量%以下のNa元素と、CaO換算で0質量%超過1質量%以下のCa元素と、MgO換算で0質量%超過1質量%以下のMg元素とを含んでなる、請求項1~4のいずれか一項に記載の大型セラミック板。
【請求項6】
SiO2換算で45質量%以上65質量%以下のSi元素と、Al2O3換算で15質量%以上30質量%以下のAl元素と、ZrO2換算で3質量%以上15質量%以下のZr元素と、K2O換算で0.5質量%以上10質量%以下のK元素と、Na2O換算で0.5質量%以上10質量%以下のNa元素と、CaO換算で0質量%超過1質量%以下のCa元素と、MgO換算で0質量%超過1質量%以下のMg元素とを含んでなる、請求項2~4のいずれか一項に記載の大型セラミック板。
【請求項7】
1辺の長さが400mm以上3000mm以下である、請求項1~6のいずれか一項に記載の大型セラミック板。
【請求項8】
厚さが1mm以上10mm以下である、請求項7に記載の大型セラミック板。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載された大型セラミック板の製造方法であって、
(1)粘土鉱物と、(2)ガラス質鉱物とを含んでなる原料調合物を用意する工程と、
前記原料調合物を成形して、成形体を得る工程と、
前記成形体を焼成して、大型セラミック板を得る工程と、を少なくとも含んでなる、製造方法。
【請求項10】
前記原料調合物が、(3)ジルコニウム含有鉱物をさらに含んでなるものである、請求項10に記載の製造方法。
【請求項11】
前記(1)粘土鉱物が粘土であり、前記(2)ガラス質鉱物が長石である、請求項9または10に記載の製造方法。
【請求項12】
前記(3)ジルコニウム含有鉱物がジルコンである、請求項10または11に記載の製造方法。
【請求項13】
前記成形体を焼成する最高温度が、1100℃~1200℃である、請求項9~12のいずれか一項に記載の製造方法。
第3 申立理由の概要
特許異議申立人は、証拠として下記甲第1~11号証を提出し、請求項1~13に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである旨(以下、「理由1」という。)を主張している。
また、特許異議申立人は、本件特許発明1~13が長石由来結晶鉱物が含まれるセラミック板に係る発明であるのに対して、本件特許明細書では、カリ長石の熔融温度(1150℃~)を超える1170℃で焼成した実施例しか記載されていない点を指摘し、その場合、長石は当然に熔融して焼成後のセラミック板に長石由来結晶鉱物が含まれなくなる旨を主張している。そして、それにより、本件特許発明1~13をどのように実施するのか不明であり、本件特許明細書は当業者が本件特許発明1~13を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていないから、請求項1~13に係る特許は、特許法第36条第4項第1号の規定を満たしていない特許出願に対してされたものである旨(以下、「理由2」という。)を主張している。
甲第1号証:小林雄一 他、「石英-長石-カオリン系磁器素地の緻密化と
曲げ強度に及ぼす石英の効果」、Journal of the Ceramic
Society of Japan、日本セラミックス協会、1994年、102巻、
1181号、p. 99~104
甲第2号証:特開昭61-168560号公報
甲第3号証:素木洋一著、「わかりやすい工業用陶磁器」、第1版、
技報堂出版株式会社、昭和44年6月30日、p. 56~57
甲第4号証:特開平8-81259号公報
甲第5号証:本件特許(特許第6350703号)の審査手続において
平成30年3月30日付けで提出された意見書
甲第6号証:浜野健也 他、「カオリン-石英-長石系磁器素地の焼き締り
過程に関する研究」、Yogyo-Kyokai-Shi、窯業協会、1973年、
81巻、930号、p. 64~76
甲第7号証:新村出 編、「広辞苑」、第六版、岩波書店、
2008年1月11日、p. 1584、p. 1831
甲第8号証:リビエラ株式会社、「Un nuovo inzio 新しい始まりの予感
Riviera 2013-2014 LINEUP CATALOGUE Vol. 12」、
2013-2014年、p. 113
甲第9号証:福原元一 編、「日本工業規格 陶磁器質タイル JIS A
5209-1994」、第1版、財団法人 日本規格協会、
平成6年8月31日、p. 3
甲第10号証:ダントー株式会社、「2013-2014 タイル総合カタログ」、
2013-2014年、p. 202
甲第11号証:名古屋モザイク工業株式会社、「NAGOYA MOSAIC-TILE
CATALOGUE 2015」、2015年、p. 409 、p. 571
第4 甲各号証の記載事項
甲第1号証には、以下の記載がある。
1.甲第1号証(当審注:「・・・」は記載の省略を意味する。)
a「実験を行った磁器の配合組成は・・・石英0~50%、カオリン20~50%及び長石20~50%の範囲とした.蛙目粘土(常に10%配合した)とニュージーランドカオリンを,・・・20時間湿式ボールミル粉砕混合し,・・・長石及び石英を加えた後、・・・かくはん混合した.その後、・・・泥しょうとした.真空脱泡の後、角柱状に鋳込み成形した.試験片の焼成は,・・・室温から1000℃までは3.5時間,1000℃以上では毎分2℃で昇温し,所定の温度において1時間保持した後、炉内放冷した.」(100ページ左欄「2.2 試料調整」)
b「Table 1. Chemical and Mineralogical Composition of Raw Materials
」
c「長石/カオリン配合比が45/55の組成の素地に石英を配合すれば,広い温度範囲にわたって微構造を比較的一定に保ちながら緻密化の様子を検討することが可能となる.それぞれの素地を各温度で焼成したときの構成結晶相の量を図5に示した.」(101ページ右欄「3.2 石英の緻密化への影響」)
d「
Fig. 5 Effect of firing temperature on the content of crystalline
constituents. 0-40% indicate the quartz contents.」
第5 当審の判断
1.理由1について
(1)引用発明の認定
上記甲第1号証の摘記事項bによれば、甲第1号証に記載された磁器は、原料のGairome Clay(蛙目粘土)に、CaOが0.19%、MgOが0.39質量%含有されており、その他の原料となるFeldspar(長石)、Quarts(石英)、NZ.Kaolin(ニュージーランドカオリン)に含まれるCaO及びMgOの含有量が0.1%未満であることとから、CaO換算で0質量%超過1質量%以下のCa元素、MgO換算で0質量%超過1質量%以下のMg元素を含んでいるといえる。 また、同摘記事項dのFig. 5の再下段のグラフのデータ点によれば、1100℃以上で焼成したときの構成結晶相には、Mullite(以下、「ムライト」という。)が含まれていることが分かる。
したがって、上記甲第1号証の摘示箇所a~dから、甲第1号証には、石英を含まずムライトを含む磁器として、「石英0%、蛙目粘土10%、残部長石/カオリン配合比45/55の原料からなる素地を1100℃~1300℃で焼成した、CaO換算で0質量%超過1質量%以下のCa元素、MgO換算で0質量%超過1質量%以下のMg元素を含み、ムライトを構成結晶相に含む角柱状の磁器。」(引用発明1)が記載されていると認められる。
(2)対比・判断
ア 本件特許発明1について
本件特許発明1と引用発明1とを対比すると、引用発明1の「石英」、「構成結晶相」、「磁器」は、本件特許発明1の「クォーツ」、「結晶相」、「セラミック」に相当する。
したがって、本件特許発明1と引用発明1とは、「クォーツを含まず、CaO換算で0質量%超過1質量%以下のCa元素、MgO換算で0質量%超過1質量%以下のMg元素を含み、結晶相にムライトを含むセラミック」である点で一致し、下記の点で相違する。
相違点1:本件特許発明1の吸水率は1%以下であるのに対して、引用発明1の吸水率は不明である点。
相違点2:本件特許発明1は大型セラミック板であるのに対して、引用発明1は角柱であり、その大きさが不明である点。
相違点3:本件特許発明1は結晶相として長石由来結晶鉱物を20質量%以上40質量%以下含むのに対して、引用発明1は長石由来結晶鉱物の量が不明である点。
そこで、事案に鑑み、相違点3について、引用発明1の構成結晶相を上記の摘記事項dで確認すると、まず、焼成温度を1100℃以上とした場合、焼成温度が上昇するにつれて、ムライト相のX線ピーク強度が高くなっており、ムライトの生成量が増加しているものと推測される。他方、摘記事項dで長石(Feldspar)の含有量を中段のグラフから確認すると、焼成温度が1150℃以上ではX線ピーク強度がゼロとなっており、長石が消失していると推測され、また、焼成温度を1100℃とした場合ではX線ピーク強度が観察されるものの、900℃の場合と比較して、その強度比は1/10程度となっている。そして、かかるX線ピーク強度は、長石の含有量を直接示すものではないものの、その強度比からみて、原料の状態で長石及び蛙目粘土中に含まれる40%強の長石由来結晶鉱物が20質量%以上残存するとは考えられない。
そうすると、引用発明1は、結晶相にムライトと長石とを含む磁器を開示しているとまではいえるものの、本件特許発明1のように、ムライトを含みつつ、長石由来結晶鉱物を20質量%以上40質量%以下含む磁器を開示していない。
そして、甲第1号証のその他の記載及び甲第2~11号証の記載を参照しても、ムライトを含みつつ、長石由来結晶鉱物を20質量%以上40質量%以下含ませるという技術思想は開示されていない。
また、本件特許発明1は、本件特許明細書【0022】に詳細に説明されているとおり、長石由来結晶鉱物が残存し、かかる長石由来結晶鉱物を核としてその周囲に他の結晶相やガラス質相が結着することで焼成後の形状が良好になるという甲第1~11号証の記載からは予期し得ない効果も有している。
以上のとおりであるから、相違点1、2について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲第1号証に記載された発明及び甲第1~甲第11号証に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
イ 本件特許発明2~13について
本件特許発明2~13は、本件特許発明1の発明特定事項の全てを直接又は間接的に含むものであるから、上記アと同様の理由により、甲第1号証に記載された発明及び甲第1~11号証に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(3)異議申立人の主張
異議申立人は、上記の相違点3について、本件特許明細書において、本件特許発明1~13に係る実施例が1170℃で焼成されたために長石が熔融せずに残った旨が説明されているから、甲第1号証で1150℃で焼成した場合には、長石が残存する旨を主張している。
しかしながら、引用発明1において、1150℃で焼成した場合に長石がほぼ消失することは、上記(2)アで説明したとおり、上記の摘記事項dから明らかである。
2.理由2について
天然鉱物の熔融温度は、その鉱物に含まれる微量成分により変化することが当業者に周知であり、また、大型の被焼成物を焼成する場合には、炉温を設定しても被焼成物の内部温度が必ずしも炉温にまで上昇しないことは、当業者に自明なことであり、さらに、甲第5号証には、カリ長石について、工業的加熱条件では1150℃~1300℃で熔融すると記載されているように、長石由来の結晶鉱物は、必ずしも状態図に示される温度で直ちに熔融しないものと認められる。
してみると、長石由来結晶鉱物を20質量%以上40質量%以下残存させるという目的があれば、本件明細書に記載された1170℃であっても、所定量の長石由来結晶鉱物を残存させることは可能であると考えられる。
したがって、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件特許発明1~13を実施し得る程度に、明確かつ十分に記載されていると認められる。
第6 むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、本件の請求項1~13に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に、本件の請求項1~13に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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