特許異議申立
2018-700953
積層シートおよびその製造方法
- 審判番号
- 2018-700953
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2015-528279外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2018年11月27日
- 審決日
- 2019年09月19日
- 公報発行日
- 2019年12月27日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】AGC株式会社
- 【権利者代理人】特許業務法人 志賀国際特許事務所
- 【異議申立人】野田 澄子
- 分類
- P1651.121-YAA(B32B) / P1651.536-YAA(B32B) / P1651.537-YAA(B32B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第2項、特許法第29条第2項、特許法第120条の5第4項、特許法第36条第4項第1号、特許法第36条第6項第1号、特許法第120条の5第9項、特許法第113条第2号
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第6330810号発明「積層シートおよびその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第6330810号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔7-14〕について訂正することを認める。
特許第6330810号の請求項1~14に係る特許を維持する。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
特許第6330810号の請求項1~14に係る特許についての出願は、平成26年7月18日(優先権主張平成25年7月26日、平成25年12月25日、日本国)を国際出願日とする出願であって、平成30年5月11日にその特許権の設定登録がされ、平成30年5月30日に特許掲載公報が発行された。
本件特許異議の申立て以降の経緯は、次のとおりである。
平成30年11月27日 :特許異議申立人野田澄子(以下「申立人」という。)による請求項1~14に係る特許に対する特許異議の申立て
平成31年2月19日付け :取消理由通知
平成31年4月19日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
令和元年6月10日 :申立人による意見書の提出
第2 訂正の適否についての判断
1. 訂正の内容
上記訂正請求書による訂正請求(以下「本件訂正請求」といい、訂正自体を「本件訂正」という。)の内容は、訂正箇所に下線を付して示すと、次のとおりである。
(1)訂正事項1
本件訂正前の請求項7に「前記含フッ素樹脂が、反応性官能基を有するフルオロオレフィン共重合体の硬化物である、請求項1~6のいずれか一項に記載の積層シート。」とあるのを、
「前記含フッ素樹脂層の含フッ素樹脂が、反応性官能基を有するフルオロオレフィン共重合体の硬化物であり、前記含フッ素樹脂層の厚さが6~125μmである、請求項1~6のいずれか一項に記載の積層シート。」と訂正する。(請求項7を引用する請求項8、9、12、13についても同様に訂正する。)
(2)訂正事項2
本件訂正前の請求項10に
「前記含フッ素樹脂が、フルオロオレフィンに由来する単位を有する単独重合体または共重合体である、請求項1~6のいずれか一項に記載の積層シート。」とあるのを、
「前記含フッ素樹脂層の含フッ素樹脂が、フルオロオレフィンに由来する単位を有する熱可塑性の単独重合体または共重合体であり、前記含フッ素樹脂層の厚さが6~125μmであり、前記紫外線吸収剤が無機系紫外線吸収剤である、請求項1~6のいずれか一項に記載の積層シート。」に訂正する。
(請求項10を引用する請求項11、12、14についても同様に訂正する。)
(3)訂正事項3
本件訂正前の請求項12に
「膜構造建築物用膜材である、請求項1~10のいずれか一項に記載の積層シート。」とあるのを、
「膜構造建築物用膜材であり、前記ガラス繊維布帛の開口率が12%以下である、請求項1~10のいずれか一項に記載の積層シート。」に訂正する。
2. 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否、一群の請求項
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、本件訂正前の請求項7記載の「含フッ素樹脂」について、「厚さが6~125μm」である「含フッ素樹脂層」の「含フッ素樹脂」であると限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、本件特許明細書の、段落【0046】に「・・・含フッ素樹脂層は、含フッ素樹脂および紫外線吸収剤を含み」、及び、「含フッ素樹脂層の厚さは、透明性および加工性に優れる等の点から、200μm以下が好ましく、125μm以下がより好ましく、80μm以下が特に好ましい。含フッ素樹脂層の厚さは、耐候性および強度に優れる等の点から、6μm以上が好ましく、12μm以上が特に好ましい。」という記載があり、段落【0047】に「含フッ素樹脂としては、フルオロオレフィンの単独重合体や共重合体、および、反応性官能基を有するフルオロオレフィン共重合体の硬化物が挙げられる。」という記載があるから、訂正事項1は、新規事項を追加するものではない。そして、特許請求の範囲を拡張し、又は変更をするものではないことは、明らかである。
(2)訂正事項2について
訂正事項2は、本件訂正前の請求項10に記載された「前記含フッ素樹脂」を、「厚さが6~125μm」である「前記含フッ素樹脂層」の、「含フッ素樹脂」へと限定し、同「フルオロオレフィンに由来する単位を有する単独重合体または共重合体」を、「フルオロオレフィンに由来する単位を有する熱可塑性の単独重合体または共重合体」へと限定し、さらに、本件訂正前の請求項1~6を引用する請求項10は、請求項1に記載の「紫外線吸収剤を含む含フッ素樹脂層」を包含するところ、「紫外線吸収剤」について、「前記紫外線吸収剤が無機系紫外線吸収剤」と限定するものである。したがって、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、本件特許明細書には、段落【0046】の「含フッ素樹脂層は、含フッ素樹脂および紫外線吸収剤を含み、」という記載、段落【0047】における「含フッ素樹脂としては、フルオロオレフィンの単独重合体や共重合体、および、反応性官能基を有するフルオロオレフィン共重合体の硬化物が挙げられる。フルオロオレフィンの単独重合体や共重合体は、フィルムやシートに成形可能な熱可塑性を有するか、または、溶液コーティングが可能な溶剤溶解性を有するものが好ましい。」という記載、及び段落【0067】~【0068】に、「<紫外線吸収剤>含フッ素樹脂層に含まれる紫外線吸収剤としては、有機系紫外線吸収剤、無機系紫外線吸収剤等が挙げられる。・・・無機系紫外線吸収剤としては、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化セリウム、酸化鉄等が挙げられる。」という記載があるから、訂正事項2は、新規事項を追加するものではない。そして、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは、明らかである。
(3)訂正事項3について
本件訂正前の請求項12は、請求項1~10を引用するものであって、本件訂正前の請求項1に記載された「ガラス繊維布帛」を、その特定事項として包含するものであり、その「ガラス繊維布帛」について、「開口率が12%以下」とその構成を限定するものであるから、訂正事項3は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、本件特許明細書の段落【0044】には、「ガラス繊維布帛の開口率は、20%以下であり、15%以下が好ましく、12%以下がより好ましく、」という記載があるから、訂正事項3は、新規事項を追加するものではない。そして、特許請求の範囲を拡張し、又は変更をするものではないことは、明らかである。
(4)一群の請求項について
ア. 本件訂正前の請求項8、9、12、13は、請求項7に対する訂正事項1に連動して訂正されるものであるから、本件訂正前の請求項7~9、12、13に対応する本件訂正後の請求項〔7~9、12、13〕は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
イ. 本件訂正前の請求項11、12、14は、請求項10に対する訂正事項2に連動して訂正されるものであるから、本件訂正前の請求項10~12及び14に対応する訂正後の請求項〔10~12、14〕は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
ウ. 請求項12は、訂正事項3により訂正されることに加えて、上記ア.及びイ.に示したように、訂正事項1及び2によって訂正される請求項でもある。そうすると、訂正事項1~3を組み合わせて、本件訂正前の請求項7~14に対応する訂正後の請求項〔7~14〕は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
(5)本件訂正に対する申立人の主張について
ア. 申立人は、令和元年6月10日に意見書を提出して、本件訂正に対して次のとおり主張している。
(ア)本件訂正前の請求項7における「前記フッ素樹脂」という記載は、含フッ素樹脂中の樹脂を指すことは明確であるから、訂正事項1が、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する、明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当する旨の特許権者の主張は誤りである。(1ページ下から3行~12行)
(イ)本件訂正前の請求項10における「前記フッ素樹脂」についての訂正である訂正事項2も、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する、明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当する旨の特許権者の主張は、上記(ア)と同様に誤りである。(2ページ13~26行)
(ウ) 本件特許明細書の段落【0107】~【0114】には、「ETFEと酸化セリウム微粒子の組み合わせ」が示されているに止まり、それを上位概念化させた「フルオロオレフィンに由来する単位を有する熱可塑性の単独重合体又は共重合体と無機系紫外線吸収剤との組み合わせ」については一切開示されていない。したがって、訂正事項2によって、含フッ素樹脂と紫外線吸収剤の組み合わせを「フルオロオレフィンに由来する単位を有する熱可塑性の単独重合体または共重合体と無機系紫外線吸収剤との組み合わせ」と限定したことは、新たな技術的事項を導入するものである。
イ. 検討
上記ア.の申立人の主張について検討する。
(ア)上記ア.(ア)及び(イ)について
訂正事項1及び2における、「含フッ素樹脂」を「含フッ素樹脂層」のものとする旨の訂正は、上記2.(1)及び(2)に示したように、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定される特許請求の範囲を減縮を目的とするものに該当するから、申立人の上記ア.に示した主張は前提において誤りである。
(イ)上記ア.(ウ)について
上記2.(2)に示した本件特許明細書の段落【0046】、【0047、【0067】及び【0068】の記載から、本件特許明細書には「無機系紫外線吸収剤」として、本件特許明細書の段落【0107】~【0114】に記載された「酸化セリウム微粒子」に限られず、「酸化チタン、酸化亜鉛、・・・、酸化鉄等」(【0068】)も用いることができる旨記載されている。そうすると、本願特許明細書には、酸化チタン等の複数の「無機系紫外線吸収剤」を用いることが記載されているから、これらの記載に接した当業者であれば、本件発明の「紫外線吸収剤」として酸化チタン等の個々の化合物を包含する上位概念である「無機系紫外線吸収剤」を用いることが把握できる。
そうすると、訂正事項2が新たな技術的事項を導入するものであるとはいえないから、記ア.(ウ)の申立人の主張は採用できない。
3. 小括
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものに該当し、かつ、特許法第120条の5第4項及び特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、本件訂正後の請求項〔7~14〕について訂正を認める。
第3 訂正後の本件発明
本件訂正請求は、上記のとおり認められたから、本件特許の請求項1~14に係る発明(以下、「本件発明1」等という。)は、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲の請求項1~14に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「【請求項1】
フッ素原子を有しない樹脂を含むマトリックスと、前記マトリックスに埋設された、開口率が20%以下であるガラス繊維布帛とからなる繊維強化樹脂シートの層、および、
前記繊維強化樹脂シートの層の少なくとも一方の表面に設けられた、紫外線吸収剤を含む含フッ素樹脂層と
を有することを特徴とする、積層シート。
【請求項2】
前記マトリックスの屈折率と前記ガラス繊維布帛を構成するガラス繊維の屈折率との差の絶対値が、0.02以下である、請求項1に記載の積層シート。
【請求項3】
前記積層シートの全光線透過率が、85%以上である、請求項1または2に記載の積層シート。
【請求項4】
前記積層シートのヘーズが、30%以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載の積層シート。
【請求項5】
前記フッ素原子を有しない樹脂が、硬化性樹脂材料の硬化物である、請求項1~4のいずれか一項に記載の積層シート。
【請求項6】
前記フッ素原子を有しない樹脂が、熱可塑性樹脂である、請求項1~4のいずれか一項に記載の積層シート。
【請求項7】
前記含フッ素樹脂層の含フッ素樹脂が、反応性官能基を有するフルオロオレフィン共重合体の硬化物であり、前記含フッ素樹脂層の厚さが6~125μmである、請求項1~6のいずれか一項に記載の積層シート。
【請求項8】
前記反応性官能基を有するフルオロオレフィン共重合体が、フルオロオレフィンに由来する単位と、前記フルオロオレフィンと共重合可能な、反応性官能基を有する単量体に由来する単位とを有する共重合体である、請求項7に記載の積層シート。
【請求項9】
前記反応性官能基を有するフルオロオレフィン共重合体が、水酸基を有するフルオロオレフィン共重合体である、請求項7または8に記載の積層シート。
【請求項10】
前記含フッ素樹脂層の含フッ素樹脂が、フルオロオレフィンに由来する単位を有する熱可塑性の単独重合体または共重合体であり、前記含フッ素樹脂層の厚さが6~125μmであり、前記紫外線吸収剤が無機系紫外線吸収剤である、請求項1~6のいずれか一項に記載の積層シート。
【請求項11】
前記含フッ素樹脂が、エチレン/テトラフルオロエチレン共重合体である、請求項10に記載の積層シート。
【請求項12】
膜構造建築物用膜材であり、前記ガラス繊維布帛の開口率が12%以下である、請求項1~10のいずれか一項に記載の積層シート。
【請求項13】
請求項7~9のいずれか一項に記載の積層シートを製造する方法であって、
前記繊維強化樹脂シートを製造し、
次いで、前記繊維強化樹脂シートの片面または両面に、反応性官能基を有するフルオロオレフィン共重合体と紫外線吸収剤を含む硬化性樹脂材料の溶液を塗布し、溶剤を除去して前記硬化性樹脂材料の層を形成し、その後前記硬化性樹脂材料を硬化させて紫外線吸収剤を含む含フッ素樹脂層を形成することを特徴とする積層シートの製造方法。
【請求項14】
請求項10または11に記載の積層シートを製造する方法であって、
前記繊維強化樹脂シートを製造し、
次いで、前記繊維強化樹脂シートの片面または両面に含フッ素樹脂のフィルムまたはシートを積層することを特徴とする積層シートの製造方法。」
第4 取消理由通知に記載した取消理由について
1.当審が通知した平成31年2月19日付け取消理由の概要は、次のとおりである。当該取消理由通知により、全ての申立ての理由が通知された。
なお、申立人が本件特許異議申立書に添付した甲第1号証等を、以下「甲1」等といい、甲1等に記載された発明を、以下「甲1発明」等という。
●理由1(進歩性) 本件特許の請求項1~14に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
< 刊 行 物 一 覧 >
甲1:特開2005-319746号公報
甲2:特開2010-52370号公報
甲3:特開2011-213093号公報
甲4:特開平1-281934号公報
甲5:特開平2-286734号公報
甲6:特開2005-144896号公報
甲7:特公昭61-8088号公報
甲8:特開平5-287231号公報
甲9-1:特開平6-220742号公報
甲9-2:「ガラス糸 JIS R 3413:2006(GFA/JSA)平成18年9月20日改正 日本工業標準調査会審議」、(財)日本規格協会、平成18年9月20日第1刷発行、1~10ページ
甲10:特開2003-276113号公報
甲11:特開2006-212820号公報
甲12:特開2006-272651号公報
甲13:特開2006-272660号公報
甲14:特開2010-146833号公報
甲15:特開2010-146834号公報
甲16:「試験報告書」、 一般財団法人 カケンテストセンター 大阪事業所 資材ラボ、2018年11月15日
(1)本件発明1~14は、甲1発明及び従来周知の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(2)本件発明1~14は、甲2発明及び従来周知の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
(3)本件発明1~14は、甲3発明及び従来周知の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
●理由2(実施可能要件) この出願は、発明の詳細な説明の記載が次の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。
・備考
本件発明1は、「開口率が20%以下であるガラス繊維布帛とからなる繊維強化樹脂シートの層」を包含するものであるところ、本件特許の発明の詳細な説明には、開口率が20%以下の全範囲に亘るガラス繊維布帛を使用しても、防炎性を有する積層シートを製造できるように明確かつ充分に記載されているとはいえない。
●理由3(サポート要件) この出願は、特許請求の範囲の記載が次の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
・備考
上記「●理由2」に示したように、本件特許明細書の記載から、「ガラス繊維布帛の開口率」が「20%」の場合は、防炎性が不十分であると予測される。ここで、本件発明1が解決しようとする課題は、「防炎性及び透明性を有し、耐候性に優れる積層シート及びその製造方法を提供する」(段落【0006】)ものであるから、本件特許の請求項1の「開口率が20%以下であるガラス繊維布帛とからなる繊維強化樹脂シートの層」 との特定事項は、当該課題を解決しないものをも包含している蓋然性が高い。
2.当審の判断
(1)理由1(進歩性)について
ア.甲1発明を主引用発明とする理由1について
(ア)甲1発明
甲1には、段落【0079】~【0093】、【0105】の【表1】、【0112】の記載がある。これらの記載から、甲1には、次の甲1発明が記載されている。
「フッ素原子を有しないビニルエステル樹脂を含むマトリックスと、
前記マトリックスに埋設された、商品名「WEA116E(日東紡績株式会社製)」であって、60本の経糸が25mmに含まれ、58本の緯糸が25mmに含まれ、かつ隣接する経糸の間の隙間、及び隣接する緯糸の間の隙間が0.1mm以下であるガラス繊維織物とからなる、ビニルエステル樹脂にガラス繊維織物が含浸された透明不燃シートの層を有する、透明不燃シート。」
(イ)本件発明1と甲1発明との対比
本件発明1と甲1発明とを対比すると、少なくとも次の点で相違する。
<相違点1-1>
本件発明1は、「前記繊維強化樹脂シートの層の少なくとも一方の表面に設けられた、紫外線吸収剤を含む含フッ素樹脂層」を有するものであるのに対し、甲1発明は、そのようなものであるか、明らかではない点。
<相違点1-2>
本件発明1は、「ガラス繊維布帛」の開口率が20%以下であるのに対し、甲1発明の「ガラス繊維織物」の開口率は不明である点。
(ウ)相違点についての検討
a. まず、<相違点1-1>について検討する。
甲1には、次の記載がある。
「【技術分野】
【0001】
本発明は、透明不燃性シート及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
・・・そして、排煙設備や遮煙設備の一環として、オフィスビル、ショッピングモール等の建築物には防煙垂壁や遮煙スクリーンが設置されることが多い。
【0003】
防煙垂壁は、建築物の天井に取り付けられるので、一般的には、視野を妨げないように、透明な板ガラスが用いられている。また、遮煙スクリーンはエレベータ前などの天井部に設けた格納箱にポリイミド製フィルムの巻体を格納し、災害時にポリイミド製フィルムを引き出すことができるようにしている。板ガラスやポリイミド製フィルムは、不燃性に優れていて、火災の時にも燃えない。」
「【発明の効果】
【0015】
本発明の透明不燃性シートは、不燃性のガラス繊維織物を用い、かつ、硬化樹脂層の重量が所定範囲内であるので、不燃性になる。ガラス繊維織物と硬化樹脂層との屈折率の差が0.02以下であるので、ガラス繊維織物を視認できなくなり、透明になる。また、ガラス繊維織物と硬化樹脂層とのアッベ数の差が30以下であるので、ガラス繊維織物と硬化樹脂層との界面で、可視光領域の散乱が少なくなり、着色も抑えることができる。
【0016】
本発明の透明不燃性シートの製造方法では、透明不燃性シートを効率的に製造することができる。
【0017】
本発明の防煙垂壁や遮煙スクリーンは、無色透明シートであり、また、落下して割れることを防止することができる。」
b. そうすると、甲1発明は、防煙垂壁のように「建築物の天井に取り付け」られたり、遮煙スクリーンのように「エレベータ前などの天井部に設けた格納箱に・・・巻体を格納し、災害時に・・・引き出すことができるように」(【0003】)するためのもので、普段から屋外等の日光に照らされる場所に設置されるものであるとはいえない。
よって、甲1発明において、「紫外線吸収剤を含む含フッ素樹脂層」を設けることの動機付けが存在するとはいえない。
また、「防煙垂壁」のように「建築物の天井に取り付け」られたり、「遮煙スクリーン」のように「エレベータ前などの天井部に設けた格納箱巻体を格納し、災害時に引き出すことができるように」するものにおいて、「前記繊維強化樹脂シートの層の少なくとも一方の表面に設けられた、紫外線吸収剤を含む含フッ素樹脂層」を設けることは、甲1にも他の甲号証においても記載されていないし、示唆する記載もない。
本件発明1は、上記<相違点1-1>に係る構成を備えたことで、「防炎性及び透明性」に加えて、「耐候性」に優れる積層シートが提供される、との格別な作用効果を奏する。
c. また、甲1発明は、上記a.の段落【0015】に摘記したように、層間での光の散乱や着色を防ぐことを課題としているから、上記「紫外線吸収剤を含む含フッ素樹脂層」のような別の層を設けると、層間での光散乱や着色が増えることから、阻害事由があるといえる。
d. よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲2発明及び従来周知の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(エ)甲1発明を主引用発明とする理由1に対する申立人の主張について
a. 令和元年6月10日に申立人が提出した意見書で、申立人は次のとおり主張している。
甲1発明に適用される「紫外線吸収剤を含む含フッ素樹脂層」は、想定される厚みがμmオーダーであり、シートの暑さがμmオーダーで増えても全光線透過率にはほとんど影響しないとの周知事項A1を踏まえると、甲1発明において紫外線吸収剤を含む含フッ素樹脂層を設けても、透明性を損うような懸念が生じないことが明らかであり、甲1発明に甲4~8に例示されたフッ素原子を含む樹脂を含まず、かつ、ガラス繊維を含む繊維強化樹脂シートの表面に紫外線吸収剤を含む含フッ素樹脂層を設けることにより耐候性を付与するとの周知事項Aを適用することに、阻害要因は存在しない。
また、含フッ素樹脂層を表面に積層させたシートは全光線透過率が高まり透明性が向上するとの周知事項A2、及び、紫外線吸収剤を含む含フッ素樹脂層でも優れた透明性を実現できることの周知事項A3を考慮すると甲1発明に上記周知事項Aを適用することについては強い動機付けが存在するといえる。(4ページ2行~10ページ4行)
b. 検討
上記(ウ)b.に示したように、甲1発明は、防煙垂壁や遮煙スクリーンのように、普段から屋外等において日光に照らされる場所に設置されるものであるとはいえないから、甲1発明において、「紫外線吸収剤を含む含フッ素樹脂層」を設けることの動機付けが存在するとはいえない。
そうすると、上記a.に示した周知事項A1~A3が存在したからといって、甲1発明に上記周知事項Aを適用することが、当業者が容易になし得た事項であるとはいえないから、上記a.の申立人の主張を採用することはできない。
(オ)本件発明2~14について
本件発明2~14は、いずれも本件発明1を直接あるいは間接に引用する発明であるから、本件発明1の特定事項の全てを包含する発明である。
そうすると、本件発明1は、上記(ウ)c.に示したように、甲1発明及び従来周知の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、本件発明1の特定事項の全てを包含する本件発明1と同じ「積層シート」の発明である本件発明2~12と、当該「積層シート」を製造する方法の発明である本件発明13及び14も、甲1発明及び従来周知の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(カ) 以上のとおりであるから、本件発明1~14は、甲1発明及び従来周知の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、本件発明1~14は、特許法第29条第2項の規定に基いて特許を受けることができないとはいえない。
イ.甲2発明を主引用発明とする理由1について
(ア)甲2発明
甲2には、段落【0011】、【0029】、【0032】~【0034】、【0041】~【0043】、【0046】の【表2】の記載がある。これらの記載から、甲2には、次の甲2発明が記載されている。
「フッ素原子を有しない軟質塩化ビニル樹脂組成物を含むマトリックスと、
前記マトリックスに埋設されたガラス繊維織布とからなる樹脂シートの層、
を有し、当該ガラス繊維織布の使用糸として、経糸及び緯糸ともに9μm-75.0texのものが使用され、織り糸密度が経40.0本/25.4mm、緯30.0本/25.4mmを用いるものである、透明性複合シート。」
(イ)本件発明1と甲2発明との対比
本件発明1と甲2発明とを対比すると、少なくとも次の点で相違する。
<相違点2-1>
本件特許発明1は、「前記繊維強化樹脂シートの層の少なくとも一方の表面に設けられた、紫外線吸収剤を含む含フッ素樹脂層」を有するものであるのに対し、甲2発明は、そのようなものであるか、明らかではない点。
<相違点2-2>
本件特許発明1は、「ガラス繊維布帛」の開口率が20%以下であるのに対し、甲2発明の「ガラス繊維織布」の開口率は不明である点。
(ウ)相違点についての検討
a. まず、<相違点2-1>について検討する。
甲2には、次の記載がある。
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス繊維からなる基材と、その表裏全面に含浸塗布された、樹脂含浸被覆層とを含み、前記樹脂含浸被覆層が、軟質塩化ビニル樹脂と、少なくとも1種の芳香族リン酸エステル化合物からなる透明化剤とを含む軟質塩化ビニル樹脂組成物により形成され、前記透明化剤の含有量が、軟質塩化ビニル樹脂組成物の合計質量に対して40~80質量%であり、かつ、前記樹脂含浸被覆層の被覆量が、前記ガラス繊維の質量に対して50~500質量%であり、前記ガラス繊維の屈折率と、前記軟質塩化ビニル樹脂組成物の屈折率とをJISK7142に準拠して測定したとき、その差が0.03以内であることを特徴とする透明性複合シート。」
「【技術分野】
【0001】
本発明は透明性複合シートに係るものであり、例えば防火性を要求される領域で使用される間仕切、天井材、壁面構成材等として有用であって、高い透視性を有する透明性複合シートに係るものである。このような透明性複合シートは、光天井用シート材料、広告宣伝媒体用シート材料及びそれらの接合部構成部材として用いることのできる透明性接合用シートなどを包含する。
・・・
【0003】
建築物において使用される材料で特に天井付近に配置されるものには、高レベルの防火性能、すなわち不燃材料基準を満足する必要があり、例えば、光天井膜材用、シート型防煙垂れ壁用などは不燃材料の基準を満たす防火性能を有していなければならない。光天井は、通常バックライトの光源の明るさを落とさず膜材料で散乱させ、大空間を満遍なく照らす大型照明として利用されている。また、シート型防煙垂れ壁は、通常時には天井裏に収納され、火災発生の有事に降下して天井伝いに拡散する煙を遮断するものであり、このため、視覚的な障害物のない広い天井をレイアウトできるという利点がある。さらに、間仕切用途としては、例えば工場内で作業エリアを仕切るものとして不燃性能を有するシート材料で作製したものが多用されている。
・・・
【0009】
本発明は透明性複合シートを提供しようとするものであり、さらに詳しく述べるならば、本発明はガラス繊維材料或いはガラス繊維糸から構成されているシートに熱可塑性樹脂を含浸塗布することによって得られるシート材料において、それを間仕切り用途等に使用された際に間仕切の向こう側で働く人、置いてある物、並びに走行作動する搬送機及びロボットなどの存在及び動きを視認することを要する安全作業に、高い透視性を確保できる透明性複合シート材料、光天井材や広告媒体として用いた際に、光源の光度を下部空間にそのまま伝えることのできる透明性複合シート材料、間仕切り膜作製時の作業効率とシート材料の強度低下の発生しない良好な熱融着性を持った透視性のある透明性複合シート材料、及び光天井材や広告媒体の有効面積を不都合無く拡大することに好適であり、かつ不可欠なシーミングテープとして使用可能な透明性複合シートを提供しようとするものである。
・・・
【発明の効果】
【0011】
・・・
本発明の透明性複合シートは、大空間、例えば工場内、ホール内、体育館内、展示会場内及び店舗内などにおいて、大面積を必要とする間仕切として非常に有用なものである。また、これを光天井材として用いた場合、光源からの光を遮ることなくダイレクトに下部空間に伝え、非常に明るい空間照明をすることができる。しかも、本発明の透明性複合シートは、軟質塩化ビニル樹脂組成物を含浸塗布したものであるから、従来から一般に用いられている軟質塩化ビニル樹脂を塗工したシートの接合縫製に用いる汎用的な熱融着装置である高周波ウエルダー等を用いて熱溶着接合縫製することが可能であり、従って、複数のシートを接合して、シート面積を拡大することが容易であるから、市場の需用に対応してスムーズに供給普及することが可能である。また、本発明の透明性複合シートを、シーミングテープとして用いた場合、シートの接合部分に、シート重ね合わせの影が発生しないので、大面積の光天井膜や広告媒体を得ることができる。さらに本発明の透明性複合シートは、ガラス繊維からなる基材としてガラス繊維経緯糸による特定組織要件を満たす織布を選ぶことにより高い不燃性を付与することが可能であり、上記用途への合法的使用が可能である。」
「【0025】
本発明の複合シートの表面から裏面に光を透過させる際、細いガラス繊維と含浸塗布された塩化ビニル樹脂組成物の界面で両者の屈折率の差により光の屈折が起こる。この屈折がガラス繊維からなる基材を構成するガラス繊維の本数、ガラス繊維織布を構成するガラス繊維糸とガラス繊維の構成本数に依存して起こり、複合シートの透明性、透視性を低下させる。本発明においては塩化ビニル樹脂組成物中における芳香族リン酸エステル化合物からなる透明化剤の存在量を40~80質量%とすること、及びこのガラス繊維と塩化ビニル樹脂組成物の屈折率の差を0.03以内にするという条件を満たすことにより、両者界面で発生する屈折による光の屈折散乱を制御し、透明性、視認性を確保することができる。」
b. そうすると、甲2発明の「透明性複合シート」は、「大空間、例えば工場内、ホール内、体育館内、展示会場内及び店舗内などにおいて、大面積を必要とする間仕切として非常に有用なものである。また、これを光天井材として用いた場合、光源からの光を遮ることなくダイレクトに下部空間に伝え、非常に明るい空間照明をする」(段落【0011】)ためのものであって、普段から、屋外等の日光に照らされる場所に設置されるものではないといえる。
よって、甲2発明において、「紫外線吸収剤を含む含フッ素樹脂層」を設けることの動機付けが存在するとはいえない。
そして、「大空間、例えば工場内、ホール内、体育館内、展示会場内及び店舗内などにおいて、大面積を必要とする間仕切として非常に有用なもの」、あるいは「光天井材として用いた場合、光源からの光を遮ることなくダイレクトに下部空間に伝え、非常に明るい空間照明をする」ための「透明性複合シート」において、「前記繊維強化樹脂シートの層の少なくとも一方の表面に設けられた、紫外線吸収剤を含む含フッ素樹脂層」を設けることは、甲1にも他の甲号証においても記載されていないし、示唆する記載もない。
本件発明1は、上記<相違点2-1>に係る構成を備えたことで、上記ア.(ウ)b.に示した格別な作用効果を奏する。
c.また、甲2発明は、上記の段落【0009】に摘記したように、「ガラス繊維材料或いはガラス繊維糸から構成されているシートに熱可塑性樹脂を含浸塗布することによって得られるシート材料において、それを間仕切り用途等に使用された際に間仕切の向こう側で働く人、置いてある物、並びに走行作動する搬送機及びロボットなどの存在及び動きを視認することを要する安全作業に、高い透視性を確保できる透明性複合シート材料、光天井材や広告媒体として用いた際に、光源の光度を下部空間にそのまま伝えることのできる透明性複合シート材料、間仕切り膜作製時の作業効率とシート材料の強度低下の発生しない良好な熱融着性を持った透視性のある透明性複合シート材料、及び光天井材や広告媒体の有効面積を不都合無く拡大することに好適であり、かつ不可欠なシーミングテープとして使用可能な透明性複合シートを提供」することを課題とするものであって、そのために【請求項1】や【0025】に摘記したように、「塩化ビニル樹脂組成物中における芳香族リン酸エステル化合物からなる透明化剤の存在量を40~80質量%とすること、及びこのガラス繊維と塩化ビニル樹脂組成物の屈折率の差を0.03以内にするという条件を満たすことにより、両者界面で発生する屈折による光の屈折散乱を制御し、透明性、視認性を確保する」ことによって、当該課題を解決しようとするものである。そのような甲2発明において、上記「紫外線吸収剤を含む含フッ素樹脂層」のような別の層を設けることは、制御の結果得られた屈折散乱に影響を及ぼして確保できた透明性や視認性を損なうものとなるから、阻害事由があるといえる。
d. よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲2発明及び従来周知の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(エ)甲2発明を主引用発明とする理由1に対する申立人の主張について
a. 上記申立人が提出した意見書で、申立人は次のとおり主張している。
上記ア.(エ)a.に示したのと同様に、紫外線吸収剤を含む含フッ素樹脂層を表面に積層させることによって全光線透過率の向上が見込まれるとの周知事項A2及びA3を考慮すると、甲2発明に周知事項Aを適用することについては強い動機付けがあるといえる。(15ページ1行~18ページ5行)
b. 検討
上記(ウ)b.に示したように、甲2発明の「透明性複合シート」は、「大空間、例えば工場内、ホール内、体育館内、展示会場内及び店舗内などにおいて、大面積を必要とする間仕切として非常に有用なものである。また、これを光天井材として用いた場合、光源からの光を遮ることなくダイレクトに下部空間に伝え、非常に明るい空間照明をする」ためのものであって、普段から、屋外等の日光に照らされる場所に設置されるものではないといえるから、甲2発明において、「紫外線吸収剤を含む含フッ素樹脂層」を設けることの動機付けが存在するとはいえない。
よって、上記a.に申立人の主張を採用することはできない。
(オ)本件発明2~14について
本件発明1は、上記(ウ)c.に示したように、甲2発明及び従来周知の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
そうすると、本件発明2~14は、本件発明1を直接あるいは間接に本件発明1を引用するものであるから、上記ア.(オ)に示したのと同様に、本件発明2~14も、甲2発明及び従来周知の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(カ) 以上のとおりであるから、本件発明1~14は、甲2発明及び従来周知の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、本件発明1~14は、特許法第29条第2項の規定に基いて特許を受けることができないとはいえない。
ウ.甲3発明を主引用発明とする理由1について
(ア)甲3発明
甲3には、段落【0028】、【0029】、【0032】~【0035】、【0038】、【0050】、【図2】の記載がある。これらの記載から、甲3には、次の甲3発明が記載されている。
「フッ素原子を有しないスチレンモノマーが添加されたエポキシアクリレート樹脂を含むマトリックスと、
前記エポキシアクリレート樹脂に埋設された、厚さ0.03mmのEガラス繊維織物(ユニチカ株式会社製、商品名E03R)とからなるシートの層を有する透明不燃性シート。」
(イ)本件発明1と甲3発明との対比
本件発明1と甲3発明とを対比すると、少なくとも次の点で相違する。
<相違点3-1>
本件特許発明1は、「前記繊維強化樹脂シートの層の少なくとも一方の表面に設けられた、紫外線吸収剤を含む含フッ素樹脂層」を有するものであるのに対し、甲3発明は、そのようなものであるか、明らかではない点。
<相違点3-2>
本件特許発明1は、「ガラス繊維布帛」の開口率が20%以下であるのに対し、甲3発明の「Eガラス繊維織物(ユニチカ株式会社製、商品名E03R)」の開口率について、甲3に記載されていない点。
(ウ)相違点についての検討
a. まず、<相違点3-2>について検討する。
甲3発明の「Eガラス繊維織物(ユニチカ株式会社製、商品名E03R)」の開口率について、申立人は、一般財団法人カケンテストセンターに測定を依頼し(甲16)、その結果に基づいて、甲3の「ガラス繊維織物」の開口率が1.1%であるとし、本件発明1に特定された「20%以下」のものであると主張している。
b. しかし、それは上記申立人の依頼に基づいて測定した「打ち込み本数」や「ガラス繊維間距離」の測定結果から、計算によって得られた商品名「E03R」のEガラス繊維織物の開口率がたまたま20%以下のものであったにすぎず、「Eガラス繊維織物(ユニチカ株式会社製、商品名E03R)」そのものから「開口率を20%以下とする」ことの技術的思想を把握することはできないし、甲3にも「Eガラス繊維織物」の開口率についての記載はないから、甲3からも「Eガラス繊維織物」の開口率を「20%以下」とすることの技術的思想を把握することはできない。また、申立人は、甲10~15の記載から、防火性が要求される領域で使用される透明性複合シートでは、使用するガラス繊維布の「通気性」が0に近いほど(即ち、開口率が0%に近いほど)、好ましいことは技術常識である(特許異議申立書 53ページ21~26行)と主張しているけれども、本件発明1は相違点<3-2>に加えて相違点<3-1>を備えることで、「透明性を有し、耐候性に優れる積層シート」に、さらに「防炎性」を備えたものを提供することができる、との格別な作用効果を奏するものである。
c.そして、甲3の段落【0010】に記載されたように、甲3発明は透明とするために屈折率を調整することを課題としているから、さらに別の層を設けることには阻害事由がある。
d.そうすると、甲3発明に、<相違点3-1>及び<相違点3-2>に係る構成を備えたものとすることは、当業者が容易になし得た事項であるとはいえない。
(エ)甲3を主引用発明とする理由1に対する申立人の主張について
a. 上記意見書で、申立人は次のとおり主張している。
甲16は、申立人は、瑕疵ある特許を取り消すという社会正義の観点から、「ユニチカ製ガラスクロス E03R」を入手し、一般社団法人カケンテストセンターに送付して分析を依頼することにより作成されたものであり、試験対象自体は、間違いなく「ユニチカ製ガラスクロス E03R」である。また、甲16の最終頁には、一般社団法人カケンテストセンターがサンプルを取得した時点の写真が示されており、甲16の試験対象が「ユニチカ製ガラスクロス E03R」であることの信憑性を低下させる要因は何一つない。(22ページ1行~24ページ18行)
b.検討
上記(ウ)a.に示したように、一般社団法人カケンテストセンターで測定した上記「ユニチカ製ガラスクロス E03R」のEガラス繊維が、甲3に記載されたものと同じ構成を備え、その開口率が20%以下のものであったとしても、甲3発明の開口率を20%以下のものとするとの技術的思想を、当該Eガラス繊維から把握することはできないから、甲16に示される試験結果が、甲3に記載された「Eガラス繊維織物(ユニチカ株式会社製、商品名E03R)」と同じ構成を備えたものであったとしても、上記(ウ)に示した判断をかえるには及ばない。
(オ)本件発明2~14について
本件発明1は、上記(ウ)d.に示したように、甲3発明及び従来周知の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
そうすると、本件発明2~14は、本件発明1を直接あるいは間接に本件発明1を引用するものであるから、上記ア.(エ)に示したように、本件発明2~14も、甲3発明及び従来周知の事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
(カ)以上のとおりであるから、本件発明1~14は、甲3発明及び従来周知の事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、本件発明1~14は、特許法第29条第2項の規定に基いて特許を受けることができないとはいえない。
エ. 理由1の小括
以上のとおりであるから、本件発明1~14は、甲1発明~甲3発明のいずれかの発明及び従来周知の事項に基いて当業者が容易に発明することができたものではないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないとはいえない。したがって、それらの発明に係る特許は特許法第113条第2号の規定に該当することを理由として取り消すことはできない。
(2)理由2(実施可能要件)について
ア.本件特許明細書の記載
本件特許明細書には、次の記載がある。
(ア)「【0095】
(防炎性の評価1)
積層シートの試験片(30cm×30cm)を、試験片の表面が水平に対して45゜に傾斜するように固定した。アルコールランプの炎(長さ2.5cm)を試験片の下側から試験片に当て、試験片が着火するまでの時間を測定し、下記の基準で評価した。
○(良好):着火までの時間が30秒以上である。
△(可):着火までの時間が10秒以上30秒未満である。
×(不良):着火までの時間が10秒未満である。
【0096】
(防炎性の評価2)
積層シートの試験片(30cm×30cm)を、試験片の表面が水平になるように固定した。試験片の下方に綿を配置した。木材(2cm×2cm×2cm)に火をつけた後、木材を試験片の上に乗せ、綿が着火するまでの時間を測定し、下記の基準で評価した。
○(良好):着火までの時間が5分以上である。
△(可):着火までの時間が1分以上5分未満である。
×(不良):着火までの時間が1分未満である。」
(イ)「【0115】
【表1】
【0116】
【表2】
【0117】
【表3】
」
イ.当審の検討
上記ア.(イ)に示した【表1】~【表3】をみると、「フッ素樹脂」を含んでいる例1~6、8~10において、「ガラス繊維布帛の開口率(%)」(以下「開口率」という。)が3%~5%の例1~4、6、8~10は、「防炎性の評価1」及び「防炎性の評価2」のは、いずれもが「○(良好)」である。それに対して、開口率が21%の「例5」は、「防炎性の評価1」は「○(良好)」であるものの、「防炎性の評価2」は、「×(不良)」である。
そうすると、開口率が21%の例5は、少なくとも「防炎性の評価1」については、防炎性を有するといえ、さらに、開口率が3%~5%になると、「防炎性の評価1」に加えて「防炎性の評価2」においても、「○(良好)」となるのであるから、本件特許明細書の記載に接した当業者は、開口率が20%以下であるならば、少なくとも「防炎性の評価1」が「○(良好)」と評価しうる程度の防炎性を発揮することが理解できる。
以上のとおりであるから、申立人の「本件特許の発明の詳細な説明には、開口率が20%以下の全範囲に亘るガラス繊維布帛を使用しても、防炎性を有する積層シートを製造できるように明確かつ充分に記載されているとはいえない。」との主張は失当であり、採用することはできない。
ウ.理由2に対する申立人の主張について
(ア)上記意見書で、申立人は次のとおり主張している。
本件特許明細書には、開口率が21%の場合には防炎性が不十分になることが実験データで示されているにすぎず、開口率が12%(本件発明12の上限値)の場合、実験データが示されている開口率5%よりも開口率が2倍以上も高いため、本件特許発明が解決しようとするレベルで防炎性を付与できるかについては、具体的な実験データによる検証がない状況では類推すらできない。したがって、開口率12%以下であることを特定している本件特許発明12についても、実施可能要件及びサポート要件を満たしていない。
(イ)検討
上記イ.に示したように、開口率が21%の例5においては、「防炎性の評価1」が「○(良好)」と評価しうる程度の防炎性を発揮することが理解できるから、他の開口率が3%~5%の例とあわせて、少なくとも開口率が3~21%であれば、開口率が12%のものをも含めて、防炎性が不十分になるとまではいえない。
エ.小括
以上のとおりであるから、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではないとはいえず、特許法第36条第4項第1号に規定される要件に適合しないとはいえない。
(3)理由3(サポート要件)について
ア. 上記第4の1.の【理由3】に示したように、本件発明1が解決しようとする課題には、「積層シート」が「防炎性」を有することが含まれるところ、上記(2)に示したように、「ガラス繊維布帛の開口率」が「20%」以下の場合においては、少なくとも「防炎性の評価1」が「○良好」となるような防炎性を発揮するといえるから、上記1.●理由3(サポート要件)に示したように、「開口率が20%以下であるガラス繊維布帛とからなる繊維強化樹脂シートの層」 との特定事項は、当該課題を解決しないものをも包含している蓋然性が高い、とまではいえない。
イ.理由3に対する申立人の主張について
申立人は、理由3(サポート要件)について、上記(2)ウ.(ア)に示したとおりの主張をしているから検討する。
上記(2)ウ.(イ)に示したように、少なくとも開口率が3~21%であれば、開口率が12%のものをも含めて、防炎性が不十分になるとまではいえず、ひいては、当該課題を解決しないものをも包含している蓋然性が高いとまではいえない。
よって、本件発明1は、本件発明の課題を解決するものであるから、本件発明1と本件発明1を直接あるいは間接に引用する本件発明2~14は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載したものではないとはいえない。
したがって、本件特許の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に記載される要件に適合しないとはいえない。
第5 むすび
以上のとおりであるから、本件発明1~14に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件発明1~14に係る特許を取り消すことはできない。
さらに、他に本件発明1~14に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2018-700953