特許異議申立
2018-700947
繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物及びその成形体
- 審判番号
- 2018-700947
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2013-251133外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2018年11月22日
- 審決日
- 2019年06月03日
- 公報発行日
- 2019年09月27日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 分類
- P1652.113-YAA(C08L) / P1652.121-YAA(C08L) / P1652.537-YAA(C08L)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第29条第2項、特許法第36条第6項第1号
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第6330302号発明「繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物及びその成形体」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第6330302号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-7〕について訂正することを認める。
特許第6330302号の請求項3-6に係る特許を維持する。
特許第6330302号の請求項1及び2についての特許異議申立を却下する。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
特許第6330302号の請求項1ないし7に係る発明についての出願は、平成25年12月4日(優先権主張 平成24年12月7日)の出願であって、平成30年5月11日にその特許権の設定登録がされ、同年5月30日に特許掲載公報が発行され、その後、同年11月22日に、特許異議申立人 浜 俊彦(以下「申立人」という。)により、請求項1ないし6に係る特許に対して、特許異議の申立てがされたものである。
その後の経緯は、以下のとおりである。
平成31年1月25日付け 取消理由通知書
同年3月28日 訂正請求書、意見書
同年4月 5日付け 通知書(訂正請求があった旨の通知)
(申立人からの意見書の提出はなかった。)
申立人が提出した証拠方法は、以下のとおりである。
甲第1号証:特開2004-256806号公報
甲第2号証:特開昭60-135442号公報
甲第3号証:日本規格協会、「JISハンドブック プラスチック」
第1版、p.675-676(1994年4月20日発行)
甲第4号証:エドワード・P・ムーア・Jr.編著、保田哲男ら訳、
「ポリプロピレンハンドブック」、株式会社工業調査会
p.279-300(1998年5月15日発行)
甲第5号証:S.Hosoda et al.
”Degree of comonomer inclusion in to lamella crystal for propylene /olefin copolymers”
Polymer、第43巻、p.7451-7460(2002年)
(部分訳及び「甲第5号証のTable 1の記載に基づいて作成した資料」(甲5-2号証)を添付)
甲第6号証:特開平11-158306号公報
(以下、「甲第1号証」~「甲第6号証」を「甲1」等という。)
第2 訂正の請求について
1 訂正の内容
平成31年3月28日提出の訂正請求書による訂正(以下、「本件訂正」という。)の請求は、本件特許の特許請求の範囲を上記訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~7について訂正することを求めるものであり、その内容は、以下のとおりである。下線は、訂正箇所を示す。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項3に、
「プロピレン-エチレンランダム共重合体(ア)100重量部に対して、さらに下記の特性(エ-i)及び(エ-ii)を満足する熱可塑性エラストマー(エ)5~200重量部を含有する請求項1又は2に記載の繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物。
(エ-i):密度が0.86~0.92g/cm3である。
(エ-ii):メルトフローレート(230℃、2.16kg荷重)が0.5~100g/10分である。」
とあるのを、
「下記の特性(ア-i)及び(ア-ii)を満足するプロピレン-エチレンランダム共重合体(ア)100重量部に対して、下記の特性(ウ-i)を満足する繊維(ウ)10~180重量部を含有させることを特徴とする繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物であって、
前記プロピレン-エチレンランダム共重合体(ア)は、エチレン含量が0.1~5重量%であり、
プロピレン-エチレンランダム共重合体(ア)100重量部に対して、さらに下記の特性(エ-i)及び(エ-ii)を満足する熱可塑性エラストマー(エ)5~200重量部を含有する、前記繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物 。
(ア-i):DSC法により測定された融解ピーク温度(Tm)が110~150℃である。
(ア-ii):メルトフローレート(230℃、2.16kg荷重)が0.5~200g/10分である。
(ウ-i):ガラス繊維及び炭素繊維から選ばれる少なくとも1種である。
(エ-i):密度が0.865~0.92g/cm3である。
(エ-ii):メルトフローレート(230℃、2.16kg荷重)が0.5~100g/10分である。」
に訂正する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1を削除する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項2を削除する。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4において、「請求項1~3のいずれか1項に記載の」とあるのを、「請求項3に記載の」と訂正する。
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項5において、「請求項1~4のいずれか1項に記載の」とあるのを、「請求項3又は4に記載の」と訂正する。
(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項6において、「請求項1~5のいずれか1項に記載の」とあるのを、「請求項3~5のいずれか1項に記載の」と訂正する。
本件訂正前の請求項2~7は、本件訂正前の請求項1を直接又は間接的に引用するものであり、本件訂正前の請求項1~7は一群の請求項である。よって、本件訂正請求は、一群の請求項〔1-7〕に対してされたものである。
2 訂正の適否
(1)訂正の目的、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の有無
ア 訂正事項1について
訂正事項1は、本件訂正前の請求項3において、本件訂正前の請求項1又は2を引用していたものを、これらを書き下して独立形式に改め、さらに、「プロピレン-エチレンランダム共重合体(ア)」のエチレン含量について「0.1~10重量%」であったものを「0.1~5重量%」とし、(エ-i)で規定される「熱可塑性エラストマー(エ)」の密度について「0.86~0.92g/cm3」であったものを「0.865~0.92g/cm3」としたものであるから、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすることを目的とするものであり、また、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、本件特許明細書の【0024】には、「本発明に用いられるプロピレン-エチレンランダム共重合体(ア)は、エチレン含量が好ましくは0.1~10重量%、より好ましくは0.5~5重量%」と記載され、【0106】には、「(エ-i)密度 本発明に用いられる熱可塑性エラストマー(エ)の密度は、0.86~0.92g/cm3であり、好ましくは0.865~0.91g/cm3」と記載されているから、訂正事項1は、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
イ 訂正事項2~6について
訂正事項2及び3は、それぞれ本件訂正前の請求項1及び2を削除するものであり、訂正事項4~6は、それに伴い引用する選択的請求項の一部を削除するものであるから、いずれも特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。また、訂正事項2~6は、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。
(2)独立特許要件について
ア 特許異議の申立ては、本件訂正前の請求項1~6に対してされているので、本件訂正後の請求項1~6に係る発明については、訂正を認める要件として、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する独立特許要件は課されない。
イ 本件訂正後の請求項7は、訂正事項6により、特許請求の範囲の減縮を目的とした訂正がされた本件訂正後の請求項6を引用するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とした訂正がされたものである。そして、本件訂正前の請求項7は特許異議の申立てがされていない請求項であるから、本件訂正後の請求項7に係る発明については、訂正を認める要件として上記独立特許要件が課せられる。
そこで、本件訂正後の請求項7に係る発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かについて、以下に検討する。
本件訂正後の請求項7に係る発明は、下記「第3 本件発明」で述べるとおり、本件訂正後の特許請求の範囲の請求項7に記載された事項により特定されるとおりのものであって、具体的には、「シボ面を有する請求項6に記載の成形体。」に係るものである。
すなわち、本件訂正後の請求項7に係る発明は、本件訂正後の請求項3を直接的又は間接的に引用する本件訂正後の請求項6を引用するものであるところ、本件訂正後の請求項3に係る発明は、下記「第5 当審の判断」で述べるとおり、本件特許出願前に頒布された刊行物に記載された発明ではなく、また、本件特許出願前に頒布された刊行物に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもないから、本件訂正後の請求項7に係る発明も、本件特許出願前に頒布された刊行物に記載された発明ではなく、また、本件特許出願前に頒布された刊行物に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
そして、他に、訂正後の請求項7に係る発明が、独立特許要件を充足しないとする理由もない。
したがって、本件訂正後の請求項7に係る発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものである。
3 むすび
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法120条の5第2項ただし書き第1号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5、第6項及び第7項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-7〕について訂正することを認める。
第3 本件発明
前記第2で述べたとおり、本件訂正は認められるので、本件特許の請求項1~6に係る発明は、本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1~6に記載された事項により特定される以下のとおりのものである(以下、それぞれ「本件発明1」等という。)。
【請求項1】(削除)
【請求項2】(削除)
【請求項3】「下記の特性(ア-i)及び(ア-ii)を満足するプロピレン-エチレンランダム共重合体(ア)100重量部に対して、下記の特性(ウ-i)を満足する繊維(ウ)10~180重量部を含有させることを特徴とする繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物であって、
前記プロピレン-エチレンランダム共重合体(ア)は、エチレン含量が0.1~5重量%であり、
プロピレン-エチレンランダム共重合体(ア)100重量部に対して、さらに下記の特性(エ-i)及び(エ-ii)を満足する熱可塑性エラストマー(エ)5~200重量部を含有する、前記繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物 。
(ア-i):DSC法により測定された融解ピーク温度(Tm)が110~150℃である。
(ア-ii):メルトフローレート(230℃、2.16kg荷重)が0.5~200g/10分である。
(ウ-i):ガラス繊維及び炭素繊維から選ばれる少なくとも1種である。
(エ-i):密度が0.865~0.92g/cm3である。
(エ-ii):メルトフローレート(230℃、2.16kg荷重)が0.5~100g/10分である。
【請求項4】
プロピレン-エチレンランダム共重合体(ア)100重量部に対して、さらに下記の特性(オ-i)~(オ-iii)を満足するプロピレン系重合体樹脂(オ)5~50重量部を含有する請求項3に記載の繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物。
(オ-i):プロピレン単独重合体である。
(オ-ii):メルトフローレート(230℃、2.16kg荷重)が0.5~300g/10分である。
(オ-iii):DSC法により測定された融解ピーク温度(Tm)が155~168℃である。
【請求項5】
繊維(ウ)がガラス繊維であり、かつその繊維長が2~20mmである請求項3又は4に記載の繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物。
【請求項6】
請求項3~5のいずれか1項に記載の繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物を成形してなる成形体。
【請求項7】
シボ面を有する請求項6に記載の成形体。
第4 取消理由及び特許異議申立理由の概要
1 取消理由通知に記載した取消理由
取消理由通知に記載した取消理由は、以下のとおりである。
「1(新規性)本件特許の下記の請求項に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、その発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
2(進歩性)本件特許の下記の請求項に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。」
そして、具体的には、
(1)取消理由1(新規性)及び2(進歩性)について、甲1を主引例として、本件訂正前の請求項1、2、4~6について
(2)取消理由1(新規性)及び2(進歩性)について、甲2を主引例として、本件訂正前の請求項1~3、5、6について
(3)取消理由1(新規性)及び2(進歩性)について、引用文献8を主引例として、本件訂正前の請求項1~3、5、6について
取消理由が通知された。
ここで、上記(3)に関して、職権により以下の文献が追加された。
引用文献8:特開2002-3616号公報
参考文献9:特開2000-290432号公報
参考文献10:特開2005-255856号公報
2 特許異議申立書に記載した特許異議申立理由
特許異議申立書に記載した特許異議申立理由は、概略以下のとおりである。
(1)申立理由1
本件訂正前の請求項1、2、5、6に係る発明は、甲1に記載された発明であるから特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができない。また、本件訂正前の請求項1、2、5、6に係る発明は、甲1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件訂正前の請求項4に係る発明は、甲1に記載された発明及び甲1に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから同法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。よって、これらの発明に係る特許は同法113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(2)申立理由2
本件訂正前の請求項1~3、5、6に係る発明は、甲2に記載された発明であるから特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができない。また、本件訂正前の請求項1~3、5、6に係る発明は、甲2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであって同法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。よって、これらの発明に係る特許は同法113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(3)申立理由3
本件訂正前の請求項5に係る発明は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に適合するものではないから、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。
第5 当審の判断
以下に述べるように、取消理由通知書に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件特許の請求項3~6に係る特許を取り消すことはできない。以下、詳述する。
1 取消理由通知書に記載した取消理由について
(1)取消理由1及び2(甲1を主引例とした場合)(以下、「取消理由1及び2(甲1)」という。)について
ア 本件発明1及び2について
本件訂正により、請求項1及び2は削除されたから、取消理由1及び2(甲1)のうち、本件発明1及び2に係るものについては、対象となる請求項が存在しない。
イ 本件発明3について
取消理由1及び2(甲1)は、本件訂正前の請求項3を対象としていない。
一方、本件発明3は、前記第2(1)で述べたとおり、本件訂正前の請求項3を、独立形式に改めるとともに、「プロピレン-エチレンランダム共重合体(ア)のエチレン含量及び「熱可塑性エラストマー」の密度について減縮したものであるのだから、本件発明3について、取消理由1及び2(甲1)は、理由がないことは明らかである。
ウ 請求項4~6について
本件発明4~6は、本件発明3を直接又は間接的に引用するものであるから、イと同様の理由により、本件発明4~6についても、取消理由1及び2(甲1)は、理由がない。
エ まとめ
よって、取消理由1及び2(甲1)は、理由がない。
(2)取消理由1及び2(甲2を主引例とした場合)(以下、「取消理由1及び2(甲2)」という。)について
ア 甲2に記載された発明
甲2には、2頁左下欄11行~4頁左下欄13行(特に、実施例4~8)から、以下の発明が記載されていると認められる。
実施例4から、
「エチレンを5%含み、MFR50g/10分であるエチレンプロピレンランダム共重合ポリプロピレンを80%と、エチレン・プロピレンゴム(プロピレン26%、ジエン含有、MFR=3.5,ムーニー粘度24.4、日本合成ゴム製EP-02P)を10%と、長さ3mmのチョップドストランドを10%含む組成物。」(以下、「甲2-1発明」という。)
実施例5から、
「エチレンを5%含み、MFR50g/10分であるエチレンプロピレンランダム共重合ポリプロピレンを70%と、エチレン・プロピレンゴム(プロピレン26%、ジエン含有、MFR=3.5,ムーニー粘度24.4、日本合成ゴム製EP-02P)を20%と、長さ3mmのチョップドストランドを10%含む組成物。」(以下、「甲2-2発明」という。)
実施例6から、
「エチレンを5%含み、MFR50g/10分であるエチレンプロピレンランダム共重合ポリプロピレンを70%と、エチレン・プロピレンゴム(プロピレン26%、ジエン含有、MFR=3.5,ムーニー粘度24.4、日本合成ゴム製EP-02P)を10%と、長さ3mmのチョップドストランドを20%含む組成物。」(以下、「甲2-3発明」という。)
実施例7から、
「エチレンを5%含み、MFR50g/10分であるエチレンプロピレンランダム共重合ポリプロピレンを60%と、エチレン・プロピレンゴム(プロピレン26%、ジエン含有、MFR=3.5,ムーニー粘度24.4、日本合成ゴム製EP-02P)を20%と、長さ3mmのチョップドストランドを20%含む組成物。」(以下、「甲2-4発明」という。)
実施例8から、
「エチレンを5%含み、MFR50g/10分であるエチレンプロピレンランダム共重合ポリプロピレンを50%と、エチレン・プロピレンゴム(プロピレン26%、ジエン含有、MFR=3.5,ムーニー粘度24.4、日本合成ゴム製EP-02P)を20%と、長さ3mmのチョップドストランドを30%含む組成物。」(以下、「甲2-5発明」という。)
イ 対比・判断
(ア)本件発明1及び2について
本件訂正により、請求項1及び2は削除されたから、取消理由1及び2(甲2)のうち、本件発明1及び2に係るものについては、対象となる請求項が存在しない。
(イ)本件発明3について
a 本件発明3と甲2-1発明とを対比する。
甲2-1発明の「エチレンプロピレンランダム共重合ポリプロピレン」及びこれが「エチレンを5%含」むことは、それぞれ本件発明3の「プロピレン-エチレンランダム共重合体(ア)」及び「プロピレン-エチレンランダム共重合体(ア)は、エチレン含量が0.1~5重量%」であることに相当する。
甲2-1発明の「エチレン・プロピレンゴム(エチレン・プロピレンゴム(プロピレン26%、ジエン含有、MFR=3.5,ムーニー粘度24.4、日本合成ゴム製EP-02P)」は、本件発明3の「熱可塑性エラストマー(エ)」に相当する。
甲2-1発明の「チョップドストランド」は、本件発明3の「特性(ウ-i)を満足する繊維」「(ウ-i)ガラス繊維及び炭素繊維から選ばれる少なくとも1種である。」に相当する。
甲2-1発明において、「エチレンプロピレンランダム共重合ポリプロピレン」を100重量部とすると、「チョップドストランド」及び「エチレン・プロピレンゴム」の配合量はそれぞれ、「12.5重量部」及び「12.5重量部」と計算され、いずれもそれぞれ、本件発明3の「10~180重量部」及び「5~200重量部」の範囲に包含される。
甲2-1発明の「組成物」は、「エチレンプロピレンランダム共重合ポリプロピレン」及び「チョップドストランド」を含むことから、本件発明3の「繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物」に相当する。
してみると、本件発明3と甲2-1発明とは、
「プロピレン-エチレンランダム共重合体(ア)100重量部に対して、下記の特性(ウ-i)を満足する繊維(ウ)10~180重量部を含有させる繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物であって、
前記プロピレン-エチレンランダム共重合体(ア)は、エチレン含量が0.1~5重量%であり、
プロピレン-エチレンランダム共重合体(ア)100重量部に対して、さらに熱可塑性エラストマー(エ)5~200重量部を含有する、前記繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物 。
(ウ-i):ガラス繊維及び炭素繊維から選ばれる少なくとも1種である。
」
である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点1>
「プロピレン-エチレンランダム共重合体」について、本件発明3では、 「(ア-i):DSC法により測定された融解ピーク温度(Tm)が110~150℃である。」及び「(ア-ii):メルトフローレート(230℃、2.16kg荷重)が0.5~200g/10分である。」との特性を満足するのに対して、甲2-1発明では、「MFR50g/10分」ではあるものの、測定条件についての特定がなく、また、DSC法により測定された融解ピーク温度(Tm)についても特定がない点。
<相違点2>
「熱可塑性エラストマー(エ)」につき、本件発明3では、「(エ-i):密度が0.865~0.92g/cm3である。」という特性を満足するのに対して、甲2-1発明ではこの点についての特定がない点。
<相違点3>
「熱可塑性エラストマー(エ)」につき、本件発明3では、「(エ-ii):メルトフローレート(230℃、2.16kg荷重)が0.5~100g/10分である。」という特性を満足するのに対して、甲2-1発明ではこの点についての特定がない点。
上記相違点について検討する。
まず、相違点2について検討する。
甲2-1発明の「エチレン・プロピレンゴム」である「日本合成ゴム製EP02P」の密度は、「0.860gcm3」であり(甲6【0024】)、「0.865~0.92g/cm3」の範囲にはない。
よって、相違点2は実質的な相違点である。
そこで、上記相違点2に係る事項が、当業者が容易に想到し得たものであるかについて検討する。
本件発明3は、シボ転写性が良好で、表面の触感がソフトであり、ウェルドラインが抑制された高剛性・高耐熱性の繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物を提供することを課題とするものであり(【0009】)、熱可塑性エラストマー(エ)の密度を最適化して、成形体の剛性、耐熱性及び触感を低下せしめないようにするものと解される(【0106】)。
これに対して、甲2には、「グラスファイバー入りポリプロピレンにおいて耐熱変形温度を保持され、従来の欠点である落球衝撃強度が実用性のある強度となり、表面光沢とひねり変形が改良された組成物を得る」という目的が記載されている(1頁右下欄第11~15行)が、エチレン・プロピレンゴムの密度については何ら記載がなく、ましてや、エチレン・プロピレンゴムの密度を最適化して、成形体の剛性、耐熱性及び触感を低下せしめないようにすることについては、何ら記載も示唆もされていない。
そうであれば、甲2-1発明において、「エチレン・プロピレンゴム」の密度を「0.865~0.92cm3」として、成形体の剛性、耐熱性及び触感を低下せしめないようにすることは、何ら動機づけられない。
してみると、相違点2に係る事項は、当業者が容易に想到しうるものではない。
ここで、本件発明3は、シボ転写性が良好で、成形体表面の触感がソフトであり、ウェルドラインが抑制される等の効果を奏するものであるが(【0019】、【表4】)、これらの効果は、甲2-1発明及び甲2に記載された事項から当業者が予測できるものではない。
よって、相違点1、3について検討するまでもなく、本件発明3は甲2-1発明ではなく、甲2-1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
b 本件発明3と、甲2-2発明~甲2-5発明とを対比する。
甲2-2発明~甲2-5発明は、甲2-1発明と同様に、「エチレン・プロピレンゴム(プロピレン26%、ジエン含有、MFR=3.5,ムーニー粘度24.4、日本合成ゴム製EP-02P)」を含むものであって、いずれも、本件発明3との間に、少なくとも以下の相違点を有する。
<相違点2’>
「熱可塑性エラストマー(エ)」につき、本件発明3では、「(エ-i):密度が0.865~0.92g/cm3である。」という特性を満足するのに対して、甲2-2発明~甲2-5発明ではこの点についての特定がない点。
そして、上記aで述べたものと同様に理由により、上記相違点2’は実質的な相違点であるし、上記相違点2’に係る事項は当業者が容易に想到し得たものではない。
よって、本件発明3は、甲2-2発明~甲2-5発明のいずれでもなく、甲2-2発明~甲2-5発明のいずれかに基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
c したがって、本件発明3は、甲2に記載された発明ではなく、甲2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(ウ)本件発明4~6について
本件発明4~6は、本件発明3を直接又は間接的に引用するものである。
そして、上記(イ)で述べたとおり、本件発明3は甲2に記載された発明ではなく、甲2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもないのだから、本件発明4~6も甲2に記載された発明ではなく、甲2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
ウ まとめ
よって、取消理由1及び2(甲2)は理由がない。
(3)取消理由1及び2(引用文献8を主引例とした場合)(以下、「取消理由1及び2(引用文献8)」という。)について
ア 引用文献8に記載された発明
引用文献8には、【0032】~【0045】(特に実施例3)から、以下の発明が記載されていると認められる。
「ガラス繊維のロービングを張力下で引き揃えながら5%マレイン化ポリプロピレン(MP)/50%エチレン・オクテン-1共重合体(EO)(ゴム状重合体)/45%エチレン(E)-プロピレン(PP)共重合樹脂(EP)(日本ポリオレフィン(株)製、ランダムE-PP樹脂[E/PP=7/93(重量比)])を押出機でサイドから押出し、ガラス繊維の表面にポリオレフィン系エラストマーとポリプロピレンよりなる混合物を押出被覆し、長さ7mmのペレットにカットした、ガラス繊維/被覆材料との比率が60/40(重量比)である長繊維含有樹脂ペレットと、エチレン(E)-プロピレン(PP)共重合樹脂(EP)のペレットを、50/50(重量比)で混合した混合物。」(以下、「引用発明8」という。)
イ 対比・判断
(ア)本件発明1及び2について
本件訂正により、請求項1及び2は削除されたから、取消理由1及び2(引用文献8)のうち、本件発明1及び2に係るものについては、対象となる請求項が存在しない。
(イ)本件発明3について
本件発明3と引用発明8とを対比する。
引用発明8の「ガラス繊維」は、本件発明3の「特定(ウ-i)を満足する繊維(ウ)」「(ウ-i):ガラス繊維及び炭素繊維から選ばれる少なくとも1種である。」に相当する。
引用発明8の「エチレン(E)-プロピレン(PP)共重合樹脂(EP)(日本ポリオレフィン(株)製、ランダムE-PP樹脂」は、本件発明3の「プロピレン-エチレンランダム共重合体(ア)」に相当する。
引用発明8の「エチレン・オクテン-1共重合体(EO)(ゴム状重合体)」は、本件発明3の「熱可塑性エラストマー(エ)」に相当する。
そして、引用発明8の「混合物」において、「エチレン(E)-プロピレン(PP)共重合樹脂(EP)(日本ポリオレフィン(株)製、ランダムE-PP樹脂」を100重量部としたときの、「ガラス繊維」及び「エチレン・オクテン-1共重合体(EO)(ゴム状重合体)」の配合量はそれぞれ、「50.8重量部」及び「16.9重量部」と計算され、それぞれ本件発明3の「10~180重量部」及び「5~200重量部」の範囲に包含される。
してみると、本件発明3と引用発明8とは、
「プロピレン-エチレンランダム共重合体(ア)100重量部に対して、下記の特性(ウ-i)を満足する繊維(ウ)10~180重量部を含有させる繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物であって、
プロピレン-エチレンランダム共重合体(ア)100重量部に対して、さらに熱可塑性エラストマー(エ)5~200重量部を含有する、前記繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物 。
(ウ-i):ガラス繊維及び炭素繊維から選ばれる少なくとも1種である。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
<相違点4>
「プロピレン-エチレン共重合体(ア)」について、本件発明3では、「(ア-i):DSC法により測定された融解ピーク温度(Tm)が110~150℃である。」及び「(ア-ii):メルトフローレート(230℃、2.16kg荷重)が0.5~200g/10分である。」との特性を満足するのに対して、引用発明8ではこの点についての特定がない点。
<相違点5>
「プロピレン-エチレン共重合体(ア)」について、本件発明3では、「エチレン含量が0.1~5重量%」であるのに対して、引用発明8では、「E/PP=7/93(重量比)」である点。
<相違点6>
「熱可塑性エラストマー(エ)」について、本件発明3では、「(エ-i):密度が0.865~0.92g/cm3である。」及び「(エ-ii):メルトフローレート(230℃、2.16kg荷重)が0.5~100g/10分である。」との特性を満足するのに対して、引用発明8ではこの点についての特定がない点。
上記相違点について検討する。
まず、相違点5について検討する。
引用発明8の「エチレン(E)-プロピレン(PP)共重合樹脂(EP)」におけるエチレン含量は7重量%であって、「0.1~5重量%」の範囲にはないから、相違点5は、実質的な相違点である。
そこで、上記相違点5に係る事項が、当業者が容易に想到し得たものであるかについて検討する。
本件発明3は、シボ転写性が良好で、表面の触感がソフトであり、ウェルドラインが抑制された高剛性・高耐熱性の繊維強化ポリプロピレン系樹脂組成物を提供することを課題とするものであり(【0009】)、プロピレン-エチレンランダム共重合体(ア)のエチレン含量を最適化して、シボ転写性、表面の触感及び剛性を低下せしめないようにするものと解される(【0024】)。
これに対して、引用文献8には、「量産時成形品のバラツキの無い高耐衝撃性・高剛性熱可塑性樹脂成形品の製造するに適した原材料を提供する」という目的が記載されている(【0007】)が、エチレン(E)-プロピレン(PP)共重合樹脂(EP)のエチレン含量を最適化することについては何ら記載がなく、ましてや、エチレン含量を最適化することにより、シボ転写性、表面の触感及び剛性を低下せしめないようにすることについては、何ら記載も示唆もされていない。
そうであれば、引用文献8において、エチレン(E)-プロピレン(PP)共重合樹脂(EP)のエチレン含量を「0.1~5重量%」として、シボ転写性、表面の触感及び剛性を低下せしめないようにすることについては、何ら動機づけられない。
してみると、相違点5に係る事項は、当業者が容易に想到し得たものではない。
ここで、本件発明3は、シボ転写性が良好で、成形体表面の触感がソフトであり、ウェルドラインが抑制される等の効果を奏するものであるが(【0019】、【表4】)、これらの効果は、引用発明8及び引用文献8に記載された事項から当業者が予測できるものではない。
よって、相違点4、6について検討するまでもなく、本件発明3は引用発明8ではなく、引用発明8に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(ウ)本件発明4~6について
本件発明4~6は、本件発明3を直接又は間接的に引用するものである。
そして、上記(イ)で述べたとおり、本件発明3は引用文献8に記載された発明ではなく、引用文献8に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもないのだから、本件発明4~6も引用文献8に記載された発明ではなく、引用文献8に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
ウ まとめ
以上のとおりであるから、取消理由1及び2(引用文献8)は理由がない。
2 特許異議申立書に記載した特許異議申立理由について
(1)申立理由1について
上記1(1)で述べたものと同様の理由により、申立理由1のうち、本件発明1及び2に係るものについては、対象となる請求項が存在せず、本件発明3~6に係るものについては、理由がない。
(2)申立理由2について
上記1(2)で述べたものと同様の理由により、申立理由2のうち、本件発明1及び2に係るものについては、対象となる請求項が存在せず、本件発明3~6に係るものについては、理由がない。
(3)申立理由3について
申立理由3は、要するに、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載される全ての実施例において、樹脂組成物中に含有されるガラス繊維の「繊維長」は、0.45mm~0.7mmの範囲内であり、請求項5に規定する2~20mmの範囲に含まれないから、請求項5は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものであるというものである。
そこで、請求項5をみると、請求項5には、「繊維(ウ)がガラス繊維であり、かつその繊維長が2~20mmである」と記載されている。
これに対して、本件特許明細書の発明の詳細な説明には以下の記載がある。
ア「本明細書で繊維長とは、通常のロービング状、ストランド状の繊維である場合、溶融混練する前のガラス繊維をそのまま原料として用いる場合における長さを表す。」(【0082】)
イ「本発明の樹脂組成物は、溶融混練する混練工程を経て得られた樹脂組成物ペレット中、あるいは成形体中に存在する繊維(ウ)の平均長さが0.3mm以上好ましくは0.4mm以上2.5mm以下となる様な複合化方法にて製造するのが好ましい。」(【0120】)
ウ 「ウ-1:T480H(日本電気硝子社製) ガラス繊維、チョップドストランド(繊維径10μm、長さ4mm)」(【0132】)
エ 「(1)樹脂組成物の製造
前記(ア)~(オ)を、・・・下記の条件で混練、造粒し、樹脂ペレットを製造した。
・・・ここで、これらの樹脂ペレット中のガラス繊維(ウ-1)の平均長さは0.45mm~0.7mmの範囲内であった。」(【0134】)
上記記載事項アより、本件明細書における「繊維長」とは、「通常のロービング状、ストランド状の繊維である場合、溶融混練前のガラス繊維をそのまま原料として用いる場合における長さ」であるから、実施例における「繊維長」は、原料としてのチョップドストランドの長さである「4mm」であり(記載事項ウ)、この値は、請求項5に規定される「2~20mm」の範囲に含まれる。
してみると、請求項5の、「繊維(ウ)がガラス繊維であり、かつその繊維長が2~20mmである」ことは、明細書の発明の詳細な説明に記載され、そして実施例にも記載されている。
ここで、記載事項エの「0.45~0.7mm」は、「樹脂ペレット中のガラス繊維(ウ-1)の平均長さ」であるのだから、記載事項イで説明される、「溶融混練する混練工程を経て得られた樹脂組成物ペレット」または「成形体」中の、繊維(ウ)の「平均長さ」であって、請求項5の「繊維長」にはあたらない。
よって、申立理由3は、理由がない。
第5 むすび
以上のとおり、取消理由通知書に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては、本件特許の請求項3~6に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項3~6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、請求項1及び2は削除されたので、本件発明1及び2に係る特許異議申立ては却下する。
よって、結論のとおり決定する。
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2018-700947