特許異議申立
2022-701056
ポリプロピレン系多層発泡シート表層用樹脂組成物
- 審判番号
- 2022-701056
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2017-194849外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 登録番号
- 7059554
- 請求日
- 2022年10月26日
- 審決日
- 2023年08月03日
- 公報発行日
- 2023年11月24日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】日本ポリプロ株式会社
- 【権利者代理人】小野 誠
- 【権利者代理人】金山 賢教
- 【異議申立人】渡辺 陽子
- 分類
- P1651.113-YAA(C08L) / P1651.121-YAA(C08L)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第113条第2号、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条、特許法第120条の5第1項、特許法第120条の5第2項、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(XML)
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特許第7059554号発明「ポリプロピレン系多層発泡シート表層用樹脂組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
結 論
特許第7059554号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1、2〕、〔3-5〕について訂正することを認める。
特許第7059554号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。
理由
理 由
第1 手続の経緯
本件特許第7059554号に係る出願(請求項の数5。以下「本件特許」という。)は、平成29年10月5日の出願(特願2017-194849号)であって、令和4年4月18日に特許権の設定登録がされ、同年同月26日に特許掲載公報が発行されたものである。
その後、令和4年10月26日に、本件特許1~5に係る特許に対して、特許異議申立人 渡辺 陽子(以下「申立人」という。)により、特許異議の申立てがされた。
以降の手続の経緯は、以下のとおりである。
令和5年3月16日付け 取消理由通知
同年5月17日 訂正請求及び意見書の提出(特許権者)
同年5月26日付け 訂正請求があった旨の通知
令和5年5月26日付けの通知に対し、申立人から意見書の提出はなかった。
申立人が提出した証拠方法は、以下のとおりである。
甲第1号証 特開2017-136702号公報
甲第2号証 特開2015-40213号公報
参考文献1 社団法人日本分析化学会高分子分析研究懇談会編「新版 高分子分析ハンドブック」p1724~1726(1995年)
参考文献2 特表2015-537089号公報
参考文献3 特開2003―268173号公報
(以下、甲第1号証及び甲第2号証を、それぞれ、「甲1」及び「甲2」という。)
第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
特許権者は、特許法第120条の5第1項の規定により審判長が指定した期間内である令和5年5月17日に訂正請求書を提出し、本件特許の特許請求の範囲を訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり訂正後の請求項1~5について訂正することを求めた(以下「本件訂正」という。また、本件特許の願書に添付した明細書を図面を含めて「本件明細書」という。)。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、
「プロピレン系ブロック共重合体(X)10~90重量%と、プロピレン単独重合体(Y)10~90重量%とを含有する」と記載されているのを、「プロピレン系ブロック共重合体(X)10~50重量%と、プロピレン単独重合体(Y)50~90重量%とを含有する」
に訂正する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項3に「ポリプロピレン系多層発泡シート表層用樹脂組成物が、発泡層の片面または両面に積層されてなるポリプロピレン系多層発泡シートであって、」と記載されているのを、「ポリプロピレン系多層発泡シート表層用樹脂組成物が、発泡層の片面または両面に積層されてなるポリプロピレン系多層発泡シートであって、ポリプロピレン系多層発泡シートの密度が0.18~0.31g/cm3であり、」に訂正する。
(3)一群の請求項
本件訂正前の請求項1及び2について、請求項2は請求項1を引用する関係にあり、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。また、本件訂正前の請求項3~5について、請求項4及び5は請求項3を直接又は間接的に引用する関係にあり、訂正事項2によって記載が訂正される請求項3に連動して訂正されるものである。
よって、本件訂正は、一群の請求項である訂正前の〔1、2〕、〔3~5〕について請求されたものである。
2 訂正の適否の判断
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、「プロピレン系ブロック共重合体(X)」と「プロピレン単独重合体(Y)との含有量が「10~90重量%」と「10~90重量%」であったのをそれぞれ「10~50重量%」と「50~90重量%」とするものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項1が実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないことは明らかである。
さらに、本件明細書には「本発明の表層用樹脂組成物は、通常はプロピレン系ブロック共重合体(X)にプロピレン単独重合体(Y)を混合して用いる。ここで、表層用樹脂組成物中におけるプロピレン単独重合体(Y)の重量割合は、0~90重量%、好ましくは10~90重量%、より好ましくは15~85重量%、さらに好ましくは20~80重量%、特に好ましくは50~80重量%である(但し、プロピレン単独重合体(Y)の重量割合は、表層用樹脂組成物を構成するポリプロピレン系樹脂の全量を100重量%とする。)」(【0027】)と記載されているから、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。
(2)訂正事項2について
訂正事項2は、「ポリプロピレン系多層発泡シート」について、「密度が0.18~0.31g/cm3であり、」という事項を追加するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項2が、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないことは明らかである。
さらに、本件明細書には、実施例として密度が0.30g/cm3、0.31g/cm3、0.29g/cm3、0.18g/cm3の「ポリプロピレン系多層発泡シート」が記載されている(【表3】)から、訂正事項2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。
(3)小括
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とし、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するから、本件訂正を認める。
第3 本件発明
上記第2のとおり、本件訂正は認められるから、本件特許に係る発明は、本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1~5に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
下記の(X-i)~(X-iii)の特性を有する10重量%以下のコモノマーを含んでもよいプロピレン(共)重合体(X-1)およびプロピレン-エチレン共重合体(X-2)からなり、メルトフローレート(MFR)が1~15g/10分であるプロピレン系ブロック共重合体(X)10~50重量%と、プロピレン単独重合体(Y)50~90重量%とを含有するポリプロピレン系多層発泡シート表層用樹脂組成物。
特性(X-i):(X-1)と(X-2)の割合は、(X-1)が50~99重量%、(X-2)が1~50重量%であること(但し、(X-1)、(X-2)の重量割合は、プロピレン系ブロック共重合体(X)全量を100重量%とする。)。
特性(X-ii):プロピレン-エチレン共重合体(X-2)中のエチレン含量が11.0~60.0重量%であること(但し、エチレン含量の重量割合は、プロピレン-エチレン共重合体(X-2)を構成するモノマーの全量を100重量%とする。)。
特性(X-iii):プロピレン-エチレン共重合体(X-2)の135℃デカリン中での固有粘度が8.0(dl/g)以上であること。
【請求項2】
プロピレン系ブロック共重合体(X)が多段重合体である請求項1に記載のポリプロピレン系多層発泡シート表層用樹脂組成物。
【請求項3】
ポリプロピレン系多層発泡シート表層用樹脂組成物が、発泡層の片面または両面に積層されてなるポリプロピレン系多層発泡シートであって、ポリプロピレン系多層発泡シートの密度が0.18~0.31g/cm3であり、ポリプロピレン系多層発泡シート表層用樹脂組成物が、発泡層を構成する発泡性ポリプロピレン系樹脂組成物(Z)のMFRに対して0.5倍以上2.5倍以下のMFRを有し、下記の(X-i)~(X-iii)の特性を有する10重量%以下のコモノマーを含んでもよいプロピレン(共)重合体(X-1)およびプロピレン-エチレン共重合体(X-2)からなるプロピレン系ブロック共重合体(X)10~90重量%と、プロピレン単独重合体(Y)10~90重量%とを含有する、ポリプロピレン系多層発泡シート。
特性(X-i):(X-1)と(X-2)の割合は、(X-1)が50~99重量%、(X-2)が1~50重量%であること(但し、(X-1)、(X-2)の重量割合は、プロピレン系ブロック共重合体(X)全量を100重量%とする。)。
特性(X-ii):プロピレン-エチレン共重合体(X-2)中のエチレン含量が11.0~60.0重量%であること(但し、エチレン含量の重量割合は、プロピレン-エチレン共重合体(X-2)を構成するモノマーの全量を100重量%とする。)。
特性(X-iii):プロピレン-エチレン共重合体(X-2)の135℃デカリン中での固有粘度が8.0(dl/g)以上であること。
【請求項4】
発泡層を構成する発泡性ポリプロピレン系樹脂組成物(Z)が、下記の特性(Z-i)~(Z-iii)を満たす高溶融張力ポリプロピレン(Z-1)を20重量%以上含む請求項3記載のポリプロピレン系多層発泡シート(但し、高溶融張力ポリプロピレン(Z-1)の重量割合は、発泡性ポリプロピレン系樹脂組成物(Z)を構成するポリプロピレン系樹脂の全量を100重量%とする。)。
特性(Z-i):230℃で測定した溶融張力(MT)が3~25gであること。
特性(Z-ii):メルトフローレート(MFR)が0.9g/10分を超え、15g/10分以下であること。
特性(Z-iii):歪み速度0.1s-1での伸長粘度の測定における歪硬化度(λmax(0.1))が6.0以上であること。
【請求項5】
請求項3または請求項4に記載のポリプロピレン系多層発泡シートが熱成形されてなるポリプロピレン系樹脂発泡成形体。
第4 特許異議申立理由および取消理由の概要
1 特許異議申立書の申立理由
(1)申立理由1
本件訂正前の請求項1~3、5に係る発明は、甲1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、これらの発明に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
また、本件訂正前の請求項1~3、5に係る発明は、甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであるから、これらの発明に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
(2)申立理由2
本件訂正前の請求項4及び5に係る発明は、甲2に記載された発明及び甲1の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであるから、これらの発明に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
2 令和5年3月16日付け取消理由通知で通知した取消理由
(1)取消理由1
本件訂正前の請求項1~3に係る発明は、甲1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、これらの発明に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
また、本件訂正前の請求項1~3、5に係る発明は、甲1に記載された発明及び甲1に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、これらの発明に係る特許は、特許法113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
第5 当審の判断
1 取消理由1について
(1)甲1に記載された発明
甲1の実施例6(【0052】~【0064】)に着目すると甲1には、以下の甲1発明1及び甲1発明2が記載されていると認められる。
(ア)甲1発明1
「窒素でパージした500mLの4つ口丸底フラスコ中に、250mLのTiCl4を0℃において導入し、撹拌しながら、10.0gの微細球状MgCl2・1.8C2H5OH、および9.1ミリモルのジエチル-2,3-(ジイソプロピル)スクシネートを加え、温度を100℃に上昇させ、120分間保持した後、撹拌を停止し、固体生成物を沈降させ、洗浄した固体触媒と、トリエチルアルミニウム(TEAL)およびジシクロペンチルジメトキシシラン(DCPMS)を、固体触媒に対するTEALの質量比が18であり、TEAL/DCPMSの質量比が10となるような量で、室温において5分間接触させて触媒系を得、これを、液体プロピレン中において懸濁状態で20℃において5分間保持することによって予備重合を行い、得られた予備重合物を、1段目の重合反応器に導入してプロピレン単独重合体を得、得られた重合体を、未反応モノマー類をパージした後、2段目の重合反応器に導入して共重合体(エチレン・プロピレン共重合体)を重合させて得られた、共重合体含有割合が30質量%、共重合体中のエチレン単位割合が30質量%、キシレン可溶分の、135℃のテトラヒドロナフタレン中での極限粘度が7.0(dl/g)、MFRが9.0(g/10分)であるポリプロピレン重合体に、酸化防止剤(BASF社製B255)を0.2質量%、中和剤(カルシウムステアレート)を0.05質量%配合し、ヘンシェルミキサーで1分間攪拌、混合した後、スクリュー直径50mmの単軸押出機で、シリンダ温度230℃で押出し、ストランドを水中で冷却した後、ペレタイザーでカットした、ペレット状のポリプロピレン樹脂組成物A1と、A1の製造に用いた予備重合物を重合反応器に導入した後、水素とプロピレンをフィードし、重合温度、水素濃度を、それぞれ75℃、0.25モル%とし、圧力を調整することよって、製造したプロピレン単独重合体を用いて、A1と同様にしてペレット状にしたポリプロピレン樹脂組成物B1との、A1:B1=6:4の質量比率である、発泡シートの表面層の形成に用いられる、溶融混練物。」
(イ)甲1発明2
「3層積層可能なTダイを用いて、下記のポリプロピレン系樹脂B1から発泡中間層を形成するとともに甲1発明1の溶融混練物から表面層を形成して、発泡中間層の両面側に表面層を積層してTダイから発泡シートを吐出させ、発泡シートの一方の面に空気を吹き付けることによって、発泡シートの他方の面を金属ロールの周面に密着させることにより冷却した、密度が0.64g/cm3である発泡シート。
【ポリプロピレン系樹脂B1】
窒素でパージした500mLの4つ口丸底フラスコ中に、250mLのTiCl4を0℃において導入し、撹拌しながら、10.0gの微細球状MgCl2・1.8C2H5OH、および9.1ミリモルのジエチル-2,3-(ジイソプロピル)スクシネートを加え、温度を100℃に上昇させ、120分間保持した後、撹拌を停止し、固体生成物を沈降させ、洗浄した固体触媒と、トリエチルアルミニウム(TEAL)およびジシクロペンチルジメトキシシラン(DCPMS)を、固体触媒に対するTEALの質量比が18であり、TEAL/DCPMSの質量比が10となるような量で、室温において5分間接触させて触媒系を得、これを、液体プロピレン中において懸濁状態で20℃において5分間保持することによって得られた予備重合物を重合反応器に導入した後、水素とプロピレンをフィードし、重合温度、水素濃度を、それぞれ75℃、0.25モル%とし、圧力を調整することよって、製造したプロピレン単独重合体に、酸化防止剤(BASF社製B255)0.2質量%、中和剤(カルシウムステアレート)0.05質量%配合し、ヘンシェルミキサーで1分間攪拌、混合した後、スクリュー直径50mmの単軸押出機で、シリンダ温度230℃で押出し、ストランドを水中で冷却し、ペレタイザーでカットした、230℃におけるMFRが10g/10分であるポリプロピレン系樹脂の、ペレット状のポリプロピレン樹脂組成物。」
(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明1とを対比する。
(ア)甲1発明1のペレット状の「ポリプロピレン樹脂組成物A1」における「ポリプロピレン重合体」は、予備重合物を1段目の重合反応器に導入してプロピレン単独重合体を得た後、得られた重合体を2段目の重合反応器に導入して共重合体(エチレン・プロピレン共重合体)を重合させて得られたものであるから、プロピレン単独重合体と、エチレン・プロピレン共重合体からなるブロック共重合体である。
そうすると、甲1発明1の、ペレット状のポリプロピレン樹脂組成物A1における「ポリプロピレン重合体」、「プロピレン単独重合体」、及び「エチレン・プロピレン共重合体」は、それぞれ、「プロピレン系ブロック共重合体」、「プロピレン(共)重合体」、及び「プロピレン-エチレン共重合体」である点において、それぞれ、本件発明1の、「プロピレン系ブロック共重合体(X)」、「プロピレン(共)重合体(X-1)」、及び「プロピレン-エチレン共重合体(X-2)」と一致する。
(イ)甲1発明1の「ポリプロピレン樹脂組成物B1」の「プロピレン単独重合体」は、本件発明1の「プロピレン単独重合体(Y)」に相当する。
(ウ)甲1発明1のペレット状のポリプロピレン樹脂組成物A1の「ポリプロピレン重合体」における「プロピレン単独重合体」と「エチレン・プロピレン共重合体」の含有割合の比は、「共重合体含有割合が30質量%」であることから、「プロピレン単独重合体」が70質量%、「エチレン・プロピレン共重合体」が30質量%であり、本件発明1の特性(X-i)で規定される、「(X-1)と(X-2)の割合は、(X-1)が50~99重量%、(X-2)が1~50重量%である」「(但し、(X-1)、(X-2)の重合割合は、プロピレン系共重合体(X)善良を100重量%とする。)」の範囲内の値である。
(エ)甲1発明1の「ポリプロピレン重合体」の「エチレン・プロピレン共重合体」における、エチレン単位の割合である「30質量%」は、本件発明1の特性(X-ii)で規定される、「プロピレン-エチレン共重合体(X-2)中のエチレン含量が11.0~60.0重量%」「(但し、エチレン含量の重量割合は、プロピレン-エチレン共重合体(X-2)を構成するモノマーの全量を100重量%とする。)」の範囲内の値である。
(オ)甲1発明1の「ポリプロピレン重合体」のMFRは9.0(g/10分)であり、本件発明の、プロピレン系ブロック共重合体(X)のメルトフローレートである「1~15g/10分」の範囲内の値である。
なお、甲1発明1のMFRは、本件発明のMFRと同様に、230℃、荷重21.18Nの条件下で測定されたものである(甲1【0014】、【0052】、本件明細書【0026】)。
(カ)甲1発明1の溶融混練物は、「ポリプロピレン重合体」及び「プロピレン単独重合体」を含み、「発泡シートの表面層の形成に用いられる」ものであるところ、当該発泡シートは表面層/発泡中間層/表面層からなる(【0062】、【表2】)多層発泡シートであるから、甲1発明1の溶融混練物は、「ポリプロピレン系多層発泡シート表層用樹脂組成物」である。
(キ)そうすると、本件発明1と甲1発明1とは
「下記の(X-i)及び(X-ii)の特性を有する10重量%以下のコモノマーを含んでもよいプロピレン(共)重合体(X-1)およびプロピレン-エチレン共重合体(X-2)からなり、メルトフローレート(MFR)が1~15g/10分であるプロピレン系ブロック共重合体(X)と、プロピレン単独重合体(Y)とを含有するポリプロピレン系多層発泡シート表層用樹脂組成物。
特性(X-i):(X-1)と(X-2)の割合は、(X-1)が50~99重量%、(X-2)が1~50重量%であること(但し、(X-1)、(X-2)の重量割合は、プロピレン系ブロック共重合体(X)全量を100重量%とする。)。
特性(X-ii):プロピレン-エチレン共重合体(X-2)中のエチレン含量が11.0~60.0重量%であること(但し、エチレン含量の重量割合は、プロピレン-エチレン共重合体(X-2)を構成するモノマーの全量を100重量%とする。)。」
の点で一致し、以下の点で相違する。
【相違点1】
本件発明1では「プロピレン系ブロック共重合体(X)」の「プロピレン-エチレン共重合体(X-2)」の135℃デカリン中での固有粘度が8.0(dl/g)以上であるのに対して、甲1発明1では「ポリプロピレン重合体」のキシレン可溶分の極限粘度が7.0(dl/g)であるが、「エチレン・プロピレン共重合体」の135℃デカリン中での固有粘度は不明である点
【相違点2】
プロピレン系ブロック共重合体(X)とプロピレン単独重合体(Y)との含有量に関し、本件発明1では「プロピレン系ブロック共重合体(X)10~50重量%と、プロピレン単独重合体(Y)50~90重量%」であるのに対して、甲1発明1ではポリプロピレン樹脂組成物A1とポリプロピレン樹脂組成物B1との含有量比が6:4である点
イ 判断
事案に鑑み、まず、相違点2について検討する。
(ア)甲1発明1において、「ポリプロピレン樹脂組成物A1」は、「ポリプロピレン重合体」に、酸化防止剤を0.2質量%、中和剤を0.05質量%配合し、ペレット状にしたものであり、「ポリプロピレン樹脂組成物B1」も同様にして「プロピレン単独重合体」をペレット状にしたものであるから、ポリプロピレン樹脂組成物A1とポリプロピレン樹脂組成物B1の含有量比が6:4であれば、それぞれに含まれる「ポリプロピレン重合体」と「プロピレン単独重合体」の含有量比も概略6:4であり、両者の含有量比は、「10~50重量%」と「50~90重量%」にはなり得ないとみるのが合理的である。
したがって、相違点2は実質的な相違点である。
(イ)次に、相違点2に係る事項が当業者に容易に想到し得たものであったかについて検討する。
a 甲1は、発泡倍率が高く且つ表面外観に優れるポリプロピレン系樹脂発泡シートを提供することを目的とするものであって(【0004】)、ポリプロピレン系樹脂発泡シートの発泡中間層を構成するポリプロピレン系樹脂の溶融張力指数と表面層を構成するポリプロピレン系樹脂の溶融張力指数の下限値をそれぞれ特定し、且つ、表面層を構成するポリプロピレン系樹脂の溶融張力指数がポリプロピレン系樹脂発泡シートの発泡中間層を構成するポリプロピレン系樹脂の溶融張力指数以上であることを特定することにより、表面の凹凸形成を防ぐことができ、表面外観を良くすることができることを開示する(【0010】、【0048】)。
そうすると、甲1は、発泡シートの発泡中間層及び表面層を構成するポリプロピレン系樹脂の各溶融張力指数の値及びそれらの関係を特定することにより表面外観を良くしようとするものであると理解され、甲1発明1の溶融混練物が表面層として用いられた実施例6も、これを具体化したものであるといえる。
そうであれば、そのような溶融張力指数の観点において特定の関係にある発泡シートに関し、発泡中間層とは独立に表面層を構成する組成物の組成を変更することの動機付けを見出すことはできないから、甲1発明1の溶融混練物において、ポリプロピレン樹脂組成物A1とポリプロピレン樹脂組成物B1の配合割合を変更して、ポリプロピレン樹脂組成物A1のポリプロピレン重合体とポリプロピレン樹脂組成物B1のプロピレン単独重合体との含有量比を「10~50重量%」と「50~90重量%」とすることが当業者にとって容易に想到し得たものであるとはいえない。
b また、甲1には「表面層用形成用樹脂組成物」に関して「表面層用ポリプロピレン系樹脂を含有」することや「好ましい表面層用ポリプロピレン系樹脂は、プロピレン重合体とエチレン・αオレフィン共重合体を含有」すること(請求項2、【0046】)が記載されているにとどまり、「プロピレン重合体とエチレン・αオレフィン共重合体」と「プロピレン単独重合体」を組み合わせて使用することは、実施例6を除いて何ら記載されていない。実際、実施例6以外の実施例ではいずれも「表面層用形成用樹脂組成物」として「プロピレン重合体とエチレン・αオレフィン共重合体」のみを含む。
そうすると、甲1はたまたま実施例6で「プロピレン重合体とエチレン・αオレフィン共重合体」と「プロピレン単独重合体」を併用して「表面層形成用樹脂組成物」を形成したことを記載したものと理解されるにすぎず、この点からみても甲1発明1において「プロピレン重合体とエチレン・αオレフィン共重合体」と「プロピレン単独重合体」との量比を調整することの動機付けがあるとはいえない。
c よって、相違点2に係る事項は当業者が容易に想到しうるものではない。
ウ 小括
上記イのとおり相違点2に係る事項は実質的な相違点であり、また、相違点2に係る事項は当業者が容易に想到しうるものでもないので、相違点1について検討するまでもなく、本件発明1は甲1に記載された発明ではないし、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(3)本件発明2について
本件発明2は本件発明1を引用するものであるから、上記(2)のとおり、本件発明1が甲1に記載された発明ではなく、また、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない以上、本件発明2も、甲1に記載された発明ではなく、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(4)本件発明3について
ア 対比
本件発明3と甲1発明2とを対比する。
(ア)甲1発明2の「発泡シート」は、ポリプロピレン系樹脂B1から発泡中間層を形成するとともに甲1発明1の溶融混練物から表面層を形成して、発泡中間層の両面側に表面層を積層してTダイから吐出させ、冷却したものであるから、「ポリプロピレン系多層発泡シート」であり、当該「ポリプロピレン系多層発泡シート」の表面層は甲1発明1の溶融混練物から形成される。
(イ)上記(2)ア(ア)のとおり、甲1発明1のペレット状の「ポリプロピレン樹脂組成物A1」の「ポリプロピレン重合体」は、「プロピレン系ブロック共重合体」である点において、本件発明1の、「プロピレン系ブロック共重合体(X)」に一致し、上記(2)ア(イ)のとおり、甲1発明1の「ポリプロピレン樹脂組成物B1」における「プロピレン単独重合体」は、本件発明1の「プロピレン単独重合体(Y)」に相当するところ、甲1発明1において、「プロピレン系ブロック共重合体」と「プロピレン単独重合体」の含有比率が概略6:4であるといえることは上記(2)イ(ア)のとおりであり、この値は、本件発明3の「プロピレン系ブロック共重合体(X)10~90重量%と、プロピレン単独共重合体(Y)10~90重量%」の範囲と重複する。
(ウ)上記(ア)及び(イ)、並びに、上記(2)アで検討した事項を併せ考えれば、本件発明3と甲1発明2とは、
「ポリプロピレン系多層発泡シート表層用樹脂組成物が、発泡層の片面または両面に積層されてなるポリプロピレン系多層発泡シートであって、ポリプロピレン系多層発泡シート表層用樹脂組成物が、下記の(X-i)及び(X-ii)の特性を有する10重量%以下のコモノマーを含んでもよいプロピレン(共)重合体(X-1)およびプロピレン-エチレン共重合体(X-2)からなるプロピレン系ブロック共重合体(X)10~90重量%と、プロピレン単独重合体(Y)10~90重量%とを含有する、ポリプロピレン系多層発泡シート。
特性(X-i):(X-1)と(X-2)の割合は、(X-1)が50~99重量%、(X-2)が1~50重量%であること(但し、(X-1)、(X-2)の重量割合は、プロピレン系ブロック共重合体(X)全量を100重量%とする。)。
特性(X-ii):プロピレン-エチレン共重合体(X-2)中のエチレン含量が11.0~60.0重量%であること(但し、エチレン含量の重量割合は、プロピレン-エチレン共重合体(X-2)を構成するモノマーの全量を100重量%とする。)。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
【相違点3】
本件発明3では、ポリプロピレン系多層発泡シート表層用樹脂組成物が、発泡層を構成する発泡性ポリプロピレン系樹脂組成物(Z)のMFRに対して0.5倍以上2.5倍以下のMFRを有するのに対して、甲1発明2では、この点不明である点
【相違点4】
ポリプロピレン系多層発泡シートの密度に関して、本件発明3では0.18~0.31g/cm3であるのに対して、甲1発明2では0.64g/cm3である点
【相違点5】
本件発明3では「プロピレン系ブロック共重合体(X)」の「プロピレン-エチレン共重合体(X-2)」の135℃デカリン中での固有粘度が8.0(dl/g)以上であるのに対して、甲1発明2の「甲1発明1の溶融混練物」は、「ポリプロピレン重合体」のキシレン可溶分の極限粘度が7.0(dl/g)であるが、「エチレン・プロピレン共重合体」の135℃デカリン中での固有粘度は不明である点
イ 判断
事案に鑑み、まず相違点4について、検討する。
(ア)本件発明3の「0.18~0.31g/cm3」なる密度と、甲1発明2の「0.64g/cm3」なる密度は異なるから、相違点4は実質的な相違点である。
(イ)次に、相違点4に係る事項が当業者に容易に想到し得たものであったかについて検討する。
甲1には実施例における具体的な実験結果として各発泡シートの密度が記載されている(【表2】)にとどまり、発泡シートの密度を調整することについての記載はない。また、上記具体的な実験結果として記載された密度は、いずれも「0.18~0.31g/cm3」の範囲外である。
そうであれば、甲1発明2において発泡シートの密度を調整することの動機付けは見出せず、ましてやこれを「0.18~0.31g/cm3」の値とすることに、何らの動機付けは見出せない。
よって、相違点4に係る事項は当業者が容易に想到しうるものではない。
ウ 小括
上記イのとおり、相違点4に係る事項は実質的な相違点であり、また、相違点4に係る事項は当業者が容易に想到しうるものでもないので、その余の相違点について検討するまでもなく、本件発明3は、甲1に記載された発明ではないし、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
(5)本件発明5について
本件発明5と甲1発明2とは、少なくとも上記相違点4で相違するところ、相違点4に係る事項が当業者に容易想到ではないことは、上記(4)のとおりである。
よって、本件発明5は甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
(6)小括
よって、取消理由1は理由がない。
2 申立理由について
(1)申立理由1について
ア 申立理由1のうちの本件発明5を対象とする新規性欠如について
本件発明5は本件発明3を直接又は間接的に引用するものであるから、本件発明5と甲1発明2との間には少なくとも上記相違点4が存在する。そして、相違点4が実質的な相違点であることは上記1(4)イ(ア)のとおりである。
よって、本件発明5は甲1に記載された発明ではない。
イ 申立理由1のうち上記ア以外のものについて
申立理由1のうち上記ア以外のものは取消理由1と同旨であり、上記1と同様の理由により、理由がない。
ウ 上記ア及びイから、申立理由1は理由がない。
(2)申立理由2について
ア 甲2に記載された発明
甲2の実施例1’(【0041】~【0043】、【0187】~【0258】)に着目すると、甲2には、以下の発明が記載されていると認められる。
「下記のポリプロピレン(X1)のペレットと、プロピレン重合体(YH)とプロピレン-エチレン共重合体(YC)からなるインパクトコポリマーペレット(Y1)の50:50(重量比)のポリプロピレン樹脂組成物(Z1)100重量部に対し、市販のホモポリプロピレンペレット「MAIB」を70重量部加えたMFR(230℃、2.16kg荷重、以下同じ)7.5g/10分の樹脂組成物(Z1’)100重量部に対し、化学発泡剤を0.5重量部添加し、十分に撹拌した後単軸押出機に投入し、液化CO2を注入しながら押出しシート状に付形するときに、2台の単軸押出機から、下記のインパクトコポリマー(Y3)を押出して両表層に積層して2種3層とした、密度が0.31g/cm3の多層シート。
【ポリプロピレンX1】
溶融張力(MT)(230℃)が3.5g、MFRが8.5g/分、歪み速度0.1/secで測定した歪硬化度(λmax)が9.4であるポリプロピレン
【インパクトコポリマーY3】
プロピレン重合体(YH)94.1wt%とプロピレン-エチレン共重合体(YC)5.9wt%からなり、YC中にエチレン含量が34.3重量%であり、YCの固有粘度(135℃、デカリン中)が14.3dl/gである、MFR14.0g/10分のインパクトコポリマー」(以下「甲2発明」という。)
イ 本件発明4について
(ア)本件発明4
本件発明4は本件発明3を引用するものであり、当該引用部分を書き下すと本件発明4は以下のとおりである。
「ポリプロピレン系多層発泡シート表層用樹脂組成物が、発泡層の片面または両面に積層されてなるポリプロピレン系多層発泡シートであって、ポリプロピレン系多層発泡シートの密度が0.18~0.31g/cm3であり、ポリプロピレン系多層発泡シート表層用樹脂組成物が、発泡層を構成する発泡性ポリプロピレン系樹脂組成物(Z)のMFRに対して0.5倍以上2.5倍以下のMFRを有し、下記の(X-i)~(X-iii)の特性を有する10重量%以下のコモノマーを含んでもよいプロピレン(共)重合体(X-1)およびプロピレン-エチレン共重合体(X-2)からなるプロピレン系ブロック共重合体(X)10~90重量%と、プロピレン単独重合体(Y)10~90重量%とを含有し、発泡層を構成する発泡性ポリプロピレン系樹脂組成物(Z)が、下記の特性(Z-i)~(Z-iii)を満たす高溶融張力ポリプロピレン(Z-1)を20重量%以上含むポリプロピレン系多層発泡シート(但し、高溶融張力ポリプロピレン(Z-1)の重量割合は、発泡性ポリプロピレン系樹脂組成物(Z)を構成するポリプロピレン系樹脂の全量を100重量%とする。)。
特性(X-i):(X-1)と(X-2)の割合は、(X-1)が50~99重量%、(X-2)が1~50重量%であること(但し、(X-1)、(X-2)の重量割合は、プロピレン系ブロック共重合体(X)全量を100重量%とする。)。
特性(X-ii):プロピレン-エチレン共重合体(X-2)中のエチレン含量が11.0~60.0重量%であること(但し、エチレン含量の重量割合は、プロピレン-エチレン共重合体(X-2)を構成するモノマーの全量を100重量%とする。)。
特性(X-iii):プロピレン-エチレン共重合体(X-2)の135℃デカリン中での固有粘度が8.0(dl/g)以上であること。
特性(Z-i):230℃で測定した溶融張力(MT)が3~25gであること。
特性(Z-ii):メルトフローレート(MFR)が0.9g/10分を超え、15g/10分以下であること。
特性(Z-iii):歪み速度0.1s-1での伸長粘度の測定における歪硬化度(λmax(0.1))が6.0以上であること。」
(イ)対比
a 甲2発明の「多層シート」は、ポリプロピレン樹脂組成物(Z1)100重量部に対し市販のホモポリプロピレンペレット「MAIB」を70重量部加えた「樹脂組成物(Z1’)」を発泡させながらシート状に押し出すとともに「インパクトコポリマー(Y3)」をその両表層に積層してなるのだから、「インパクトコポリマー(Y3)」が表層用樹脂組成物を形成して、これが表層を構成し、「樹脂組成物(Z1’)」が発泡層を構成するポリプロピレン系多層発泡シートであるといえる。
そして、「インパクトコポリマー(Y3)」及び「樹脂組成物(Z1’)」のMFRはそれぞれ「14.0g/10分」、「7.5g/10分」であるから、表層を構成する「インパクトコポリマー(Y3)」は発泡層を構成する「樹脂組成物(Z1’)」の概略1.9倍のMFRを有する。
また、甲2発明の「多層シート」の密度は、0.31g/cm3である。
b 表層を構成する「インパクトコポリマー(Y3)」は、プロピレン重合体(YH)とプロピレン-エチレン共重合体(YC)とからなり、(i)プロピレン重合体(YH)とプロピレン-エチレン共重合体(YC)の割合は、プロピレン重合体(YH)が94.1wt%、プロピレン-エチレン共重合体(YC)が5.9wt%であり、(ii)プロピレン-エチレン共重合体(YC)中のエチレン含量の重量割合が34.3重量%であり、(iii)プロピレン-エチレン共重合体(YC)の固有粘度(135℃、デカリン中)が14.3dl/gである。
そうすると、上記「インパクトコポリマー(Y3)」は、本件発明4の「(X-i)~(X-iii)の特性を有する」「プロピレン(共)重合体(X-1)」と「プロピレン-エチレン共重合体(X-2)」からなる「プロピレン系ブロック共重合体(X)」に相当する。
c 発泡層を構成する「樹脂組成物(Z1’)」に含有される「ポリプロピレンX1」は、(i)溶融張力(MT)(230℃)が3.5g、(ii)MFRが8.5g/分、(iii)歪み速度0.1/secで測定した歪硬化度(λmax)が9.4であるから、本件発明4の「特性(Z-i)~(Z-iii)を満たす高溶融張力ポリプロピレン(Z-1)」に相当するところ、当該「ポリプロピレンX1」の「樹脂組成物(Z1’)」中の含有割合は29.4重量%(=(50/(50+50+170))×100)である。
d 上記a~cに照らせば、本件発明4と甲2発明とは、
「ポリプロピレン系多層発泡シートの表層用樹脂組成物が、発泡層の片面または両面に積層されてなるポリプロピレン系多層発泡シートであって、ポリプロピレン系多層発泡シートの密度が0.18~0.31g/cm3であり、ポリプロピレン系多層発泡シートの表層用樹脂組成物が、発泡層を構成する発泡性ポリプロピレン系樹脂組成物(Z)のMFRに対して0.5倍以上2.5倍以下のMFRを有し、下記の(X-i)~(X-iii)の特性を有する10重量%以下のコモノマーを含んでもよいプロピレン(共)重合体(X-1)およびプロピレン-エチレン共重合体(X-2)からなるプロピレン系ブロック共重合体(X)を含有し、発泡層を構成する発泡性ポリプロピレン系樹脂組成物(Z)が、下記の特性(Z-i)~(Z-iii)を満たす高溶融張力ポリプロピレン(Z-1)を20重量%以上含むポリプロピレン系多層発泡シート(但し、高溶融張力ポリプロピレン(Z-1)の重量割合は、発泡性ポリプロピレン系樹脂組成物(Z)を構成するポリプロピレン系樹脂の全量を100重量%とする。)。
特性(X-i):(X-1)と(X-2)の割合は、(X-1)が50~99重量%、(X-2)が1~50重量%であること(但し、(X-1)、(X-2)の重量割合は、プロピレン系ブロック共重合体(X)全量を100重量%とする。)。
特性(X-ii):プロピレン-エチレン共重合体(X-2)中のエチレン含量が11.0~60.0重量%であること(但し、エチレン含量の重量割合は、プロピレン-エチレン共重合体(X-2)を構成するモノマーの全量を100重量%とする。)。
特性(X-iii):プロピレン-エチレン共重合体(X-2)の135℃デカリン中での固有粘度が8.0(dl/g)以上であること。
特性(Z-i):230℃で測定した溶融張力(MT)が3~25gであること。
特性(Z-ii):メルトフローレート(MFR)が0.9g/10分を超え、15g/10分以下であること。
特性(Z-iii):歪み速度0.1s-1での伸長粘度の測定における歪硬化度(λmax(0.1))が6.0以上であること。」
である点で一致し、以下の点で相違する。
【相違点6】
「ポリプロピレン系多層発泡シート表層用樹脂組成物」に関し、本件発明4は「プロピレン系ブロック共重合体(X)10~90重量%と、プロピレン単独重合体(Y)10~90重量%とを含有する」のに対して、甲2発明では「インパクトコポリマー(Y3)」100重量%からなる点
(ウ)判断
上記相違点6について検討する。
a 甲2は、表層である非発泡層に用いられる熱可塑性樹脂組について、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、プロピレン-α-オレフィンコポリマー、ポリ-4-メチル-ペンテン-1等のポリオレフィン、エチレン-プロピレンエラストマー等のオレフィン系エラストマー、またはこれらと共重合可能な他の単量体、例えば、酢酸ビニル、塩化ビニル、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル等の共重合体および混合物等を選択することができること、中でもリサイクル性、接着性、耐熱性、耐油性、剛性などの点からポリプロピレン、プロピレン-α-オレフィンコポリマーが好適であることを記載した上で、インパクトコポリマーが、剛性と耐衝撃性のバランスに優れるためより好ましいことを記載し、さらに、インパクトコポリマー(Y’)を含むポリプロピレン樹脂組成物を表面層に用いた場合には、得られたシートは表面外観が良く、かつ、熱成型時のセルの保持性が高いといった特徴を有するため最も好適であること、表面層に用いるポリプロピレン樹脂組成物中のインパクトコポリマー(Y’)の含量は、0.1~100重量%であることが好ましいことを記載する(【0180】)が、インパクトコポリマー(Y’)とプロピレン単独共重合体を組み合わせることについては記載も示唆もされてない。
そうすると、甲2には、甲2発明において表層として「インパクトコポリマー(Y3)」と組み合わせて「プロピレン単独重合体」を使用することの動機付けがあるとはいえず、ましてや、その含有割合を特定の範囲とすることが動機付けられるとはいえない。
b 次に、甲1を参照する。
上記1(2)イ(イ)aのとおり、甲1は、発泡シートの発泡中間層及び表面層を構成するポリプロピレン系樹脂の各溶融張力指数の値及びそれらの関係を特定することにより表面外観を良くしようとするものであると理解され、甲1発明1の溶融混練物が表面層として用いられた実施例6も、これを具体化したものであるといえる。
そうであれば、たとえ甲1の実施例6にペレット状のポリプロピレン樹脂組成物A1とペレット状のポリプロピレン樹脂組成物B1との、A1:B1=6:4の質量比率である混練溶融物で表面層を形成した発泡シートが記載されていたとしても、そのような溶融張力指数の観点において表面層と発泡中間層とが特定の関係にある発泡シートから表面層のみを取り出して、これを別の発泡シートの表面層とすることなど、何ら動機付けられない。
さらに、上記1(2)イ(イ)bのとおり、甲1にはたまたま実施例6で「プロピレン重合体とエチレン・αオレフィン共重合体」と「プロピレン単独重合体」を併用して「表面層形成用樹脂組成物」を形成したことを記載するにすぎず、「プロピレン重合体とエチレン・αオレフィン共重合体」と「プロピレン単独重合体」を併用することの技術的意味については何ら記載されていないことからみても、当業者が甲1の実施例6の表面層のみを取り出してこれを別の発泡シートの表層とすることの動機付けは見いだせない。
したがって、甲2発明に甲1の記載を併せ考えても、相違点6に係る事項が当業者に容易想到であったとはいえない。
c よって、相違点6に係る事項は、当業者が容易に想到し得たものではない。
(エ)申立人の主張について
a 申立人は、甲2には、表面外観が良く、かつ熱成形時のセルの保持性が高いシートを得ることを課題として、表面層に用いるポリプロピレン樹脂組成物において、インパクトコポリマー(Y’)の含量を0.1~100重量部とし、ポリプロピレンの含有量を0~99.9重量%とすることが開示されている一方、表面外観が良く、かつ、熱成型時のセルの保持率が高いシートを得ることは、甲1においても解決すべき課題であり、甲2と甲1との間で共通する課題だから、甲2において、表面外観が良く、かつ熱成型性が高いシートを得るという課題を解決するために、当業者が甲2において甲1の実施例6の記載に従って、ポリプロピレン系多層発泡シート表層用樹脂組成物が、10重量%以下のコモノマーを含んでも良いプロピレン(共)重合体(x)60重量%と、プロピレン単独重合体(y)40重量%とを含有するように適宜調整しうることは、容易に想到し得たことであると主張する(申立書p49、6行~p50、6行)。
しかしながら、上記(ウ)bのとおり、甲1は発泡シートの発泡中間層及び表面層を構成するポリプロピレン系樹脂の各溶融張力指数の値及びそれらの関係を特定することにより表面外観を良くしようというものであり、甲1実施例6の発泡シートから表面層のみを取り出してこれを別の発泡シートの表面層とすることは何ら動機付けられない。
よって、上記主張は採用できない。
b さらに、申立人は、甲2の実施例1’に加えて実施例2’、4’、6’、7、8、9を指摘するが、これらに基づいて甲2に記載された発明を認定したとしても上記(イ)~(ウ)と同様の事項が当てはまる。
(オ)小括
よって、本件発明4は、甲2に記載された発明並びに甲1及び甲2に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
ウ 本件発明5について
本件発明5と甲2発明とは、少なくとも上記相違点6で相違するところ、相違点6に係る事項が当業者に容易想到ではないことは、上記イのとおりである。
よって、本件発明5は甲2に記載された発明並びに甲1及び甲2に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
エ 小括
よって、申立理由2は理由がない。
第6 まとめ
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1~5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1~5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2022-701056