特許異議申立
2018-700521
車両の加熱および/または空調方法
- 審判番号
- 2018-700521
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2015-087182
- 登録番号
- 特許第6258253号(P6258253)
- 請求日
- 2018年06月27日
- 審決日
- 2019年07月11日
- 公報発行日
- 2019年10月25日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】アルケマ フランス
- 【権利者代理人】越場 隆
- 【権利者代理人】越場 洋
- 【異議申立人】佐藤 日出子
- 審判長/審判官
- 審判長 紀本 孝
- 審判官 松下 聡
- 審判官 大屋 静男
- 分類
- P1651.121-YAA(F25B) / P1651.161-YAA(F25B) / P1651.537-YAA(F25B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第36条第6項第1号、特許法第36条第6項第2号、特許法第120条の5第2項、特許法第29条第2項、特許法第29条の2、特許法第120条の5第5項、特許法第126条第5項、特許法第126条第6項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第6258253号発明「車両の加熱および/または空調方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第6258253号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり訂正後の請求項〔1ないし7〕について訂正することを認める。
特許第6258253号の請求項1ないし7に係る特許を維持する。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
特許第6258253号の請求項1ないし7に係る特許は、2009年10月28日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2008年11月3日 フランス共和国)を国際出願日とする特願2011-533789号の一部を平成27年4月22日に新たな特許出願としたものであって、平成29年12月15日にその特許権の設定登録がされ、平成30年1月10日に特許掲載公報が発行された。
本件特許異議申立ての経緯は次のとおりである。
平成30年6月27日:特許異議申立人 佐藤 日出子(以下、「異議申立人」という。)による特許異議の申立て
平成30年9月12日付け:取消理由の通知
平成30年12月11日:特許権者による意見書の提出
平成31年1月29日付け:異議申立人に対する審尋
平成31年2月15日:異議申立人による回答書の提出
平成31年3月12日付け:取消理由(決定の予告)の通知
令和元年5月16日:特許権者による意見書の提出及び訂正の請求
令和元年5月22日付け:訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)
令和元年6月19日:異議申立人による意見書の提出
第2 訂正の請求
1 訂正の内容
令和元年5月16日付けの訂正請求書による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、次の事項よりなる(なお、下線を付した箇所は訂正箇所である)。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「上記冷却剤が2,3,3,3-テトラフルオロプロペンであり且つ上記システムが外部温度が-15℃以下でも運転されるシステムであることを特徴とする使用。」とあるのを、
「上記冷却剤が2,3,3,3-テトラフルオロプロペンであり且つ上記システムが外部温度が-15℃以下でも運転されるシステムであり、上記使用が外部温度が-15℃以下での自動車の客室の加熱での使用であり、ただし、2,3,3,3-テトラフルオロプロペンとPAG(ポリアルキレングリコール)を含む冷却剤の空調システムでの使用は除く、ことを特徴とする使用。」に訂正する。
2 訂正の目的の適否、新規事項の追加の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1
ア 訂正の目的について
訂正事項1は、訂正前の請求項1の記載における「第1熱交換器と、膨張弁と、第2熱交換器と、圧縮器と、冷却剤の流れの方向を逆にする手段とを有する、内部を冷却剤が流れる可逆冷却ループを用いて自動車の客室を加熱および/または空調するシステムでの冷却剤の使用」を、「上記使用が外部温度が-15℃以下での自動車の客室での加熱での使用」と特定するとともに、上記「使用」から「2,3,3,3-テトラフルオロプロペンとPAG(ポリアルキレングリコール)を含む冷却剤の空調システムでの使用は除く」とするものであるから、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項1における「上記使用が外部温度が-15℃以下での自動車の客室の加熱での使用」は、特許明細書段落【0015】及び段落【0020】に記載されたものであり、「2,3,3,3-テトラフルオロプロペンとPAG(ポリアルキレングリコール)を含む冷却剤の空調システムでの使用は除く」は、特定の冷却剤を、訂正前の特許請求の範囲の記載における「冷却剤」から除くだけのものであるから、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合するものである。
ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項1は、上記アのように訂正前の請求項1における記載をさらに限定するものであって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。
3 むすび
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1ないし7〕について訂正することを認める。
第3 本件訂正発明
本件訂正の請求により訂正された請求項1ないし7に係る発明(以下それぞれ、「本件訂正発明1」ないし「本件訂正発明7」という。また、これらを総称して「本件訂正発明」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された事項により特定されるとおりのものである(なお、下線を付した箇所は訂正箇所である。)。
「【請求項1】
第1熱交換器と、膨張弁と、第2熱交換器と、圧縮器と、冷却剤の流れの方向を逆にする手段とを有する、内部を冷却剤が流れる可逆冷却ループを用いて自動車の客室を加熱および/または空調するシステムでの冷却剤の使用であって、
上記冷却剤が2,3,3,3-テトラフルオロプロペンであり且つ上記システムが外部温度が-15℃以下でも運転されるシステムであり、上記使用が外部温度が-15℃以下での自動車の客室の加熱での使用であり、ただし、2,3,3,3-テトラフルオロプロペンとPAG(ポリアルキレングリコール)を含む冷却剤の空調システムでの使用は除く、ことを特徴とする使用。
【請求項2】
上記冷却剤が飽和および不飽和のヒドロフルオロカーボンをさらに含む請求項1に記載の使用。
【請求項3】
第1交換器および第2交換器が空気/冷却剤型である請求項1または2に記載の使用。
【請求項4】
上記冷却ループが熱機関の冷却回路に熱的に結合されている請求項1~3のいずれか一項に記載の使用。
【請求項5】
冷却剤と自動車の熱機関からの排ガスの両方が第1熱交換器を同時に流れる請求項1~4のいずれか一項に記載の使用。
【請求項6】
上記冷却ループが、自動車の熱機関に入る空気流または自動車の熱機関から放出される放出ガスと熱的に結合された少なくとも一つの熱交換器を分路(derivation)として有する請求項1~5のいずれか一項に記載の使用。
【請求項7】
上記冷却ループが、熱機関および/またはバッテリーからエネルギーを回収するために車両に設置されている請求項1~6のいずれか一項に記載の使用。」
第4 取消理由についての判断
1 取消理由(決定の予告)の概要
訂正前の請求項1ないし7に対して、当審が平成31年3月12日付け取消理由(決定の予告)により特許権者に通知した取消理由の概要は以下のとおりである。
[理由1]本件特許の請求項1ないし7に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内または外国において頒布された下記の甲第1号証の1ないし甲第7号証に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。
[理由2]本件特許の請求項1及び3に係る発明は、本件特許の出願の日前の特許出願であって、その出願後に出願公開がされた下記の甲第8号証に係る特許出願の願書に最初に添付された明細書又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、この出願の発明者がその出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消すべきものである。
<甲号証一覧>
・甲第1号証の1(以下、「甲1」という。):Vincent Pomme’(”e’”はeアクサン・テギュを示す),VALEO Thermal System "SAE Technical Paper 971772 "Reversible Heat Pump System for an Electrical Vehicle",1997年5月19日,19ないし24ページ
・甲第2号証(以下、「甲2」という。):Mark Spatz, Barbara Minor, "HFO-1234yf Low GWP Refrigerant: A Global Sustainable Solution for Mobile Air Conditioning" ,SAE 2008 Alternate Refrigerant Systems Symposium, June 10-12 2008(2008年6月10-12日), Scottsdale, AZ
・甲第3号証(以下、「甲3」という。):Mark Spatz, Barbara Minor, "HFO-1234yf Low GWP Refrigerant Update", International Refrigeration and Air Conditioning Conference at Purdue, July 14-17, 2008(2008年7月14-17日)
・甲第4号証(以下、「甲4」という。):特開2000-62446号公報
・甲第5号証(以下、「甲5」という。):特表2008-531836号公報
・甲第6号証(以下、「甲6」という。):特開平10-166847号公報
・甲第7号証(以下、「甲7」という。):特開2003-326960号公報
・甲第8号証(以下、「甲8」という。):特開2010-101553号公報(特願2008-272955号)
・甲第9号証(以下、「甲9」という。):"1997 VTMS 3 VEHICLE THERMAL MANAGEMENT SYSTEMS CONFERENCE PROCEEDINGS", Society of Automotive Engineers,Inc, May 19-22,1997 ,p19-24
・甲第10号証(以下、「甲10」という。):International Refrigeration and Air Conditioning Conference Technical Program ,p1-32
・甲第11号証(以下、「甲11」という。):Barbara Minor, Mark Spatz, "HFO-1234yf Low GWP Refrigerant Update",2008 ,International Refrigeration and Air Conditioning Conference, Paper 937 (URL http://docs.lib.purdue.edu/iracc/937),2349 p1-8
・甲第12号証(以下、「甲12」という。):"SAE 2008 Alternate Refrigerant Systems Symposium",EVENT GUIDE ,June 10-12, 2008 Resort Suites Scottsdale, AZ
・甲第13号証(以下、「甲13」という。):O.J Nielsen et al. "Atmospheric chemistry of CF3CF=CH2:Kinetics and mechanisms of gas-phase reactions with Cl atoms, OH radicals, and O3" ScienceDirect, Chemical Physics Letters 439(2007) p18-22, 21 March 2007
2 甲1、甲2及び甲3の公知性について
・甲1は、甲9の19ページないし24ページと記載されたページにおける「971772」論文と同一のものであり、甲9の2ページ目右下の記載によれば、本件特許の優先日前の1997年5月に発行されていること、及び甲1の1ページ左上に"COPYRIGHT 1997 SOCIETY OF AUTOMOTIVE ENGINEERS.INC"と記載されていることからみて、甲1は本件特許の優先日前の1997年に公知となったものと認められる。
・甲2(HFO-1234yf Low GWP Refrigerant: A Global Sustainable Solution for Mobile Air Conditioning)は、その第1ページ最下段に、"SAE 2008 Alternate Refrigerant Systems Symposium, June 10-12, 2008, Scottsdale ,AZ"と記載され、甲12のSAEによるイベントガイドには、その表紙(1/24と記載されたページ)に"SAE 2008 Alternate Refrigerant Systems Symposium",EVENT GUIDE ,June 10-12 2008 Resort Suites Scottsdale AZ"と記載され、5ページ目(8-9/24と記載されたページ)に"TUESDAY June10 ,2008 11:00amにおいて、"HFO-1234yf Low GWP Refrigerant; A Global Sustainable Solution for Mobile Air Conditioning"の講演がMark Spatz及びBarbara Minorにより行われたことが示されているから、甲2は、本件特許の出願(優先日)前の2008年6月10日にMark Spatz及びBarbara Minorにより行われた"HFO-1234yf Low GWP Refrigerant: A Global Sustainable Solution for Mobile Air Conditioning"の講演で発表されて公知となったスライドの内容を印刷したものと認められる。
・甲3(HFO-1234yf Low GWP Refrigerant Update)は、その第1ページ最下段に、"International Refrigeration and Air Conditioning Conference at Purdue July 14-17, 2008"と記載され、甲10のパデュー大学における会議のプログラムには、その25及び26ページに"WEDNESDAY-JULY16, 2008"において、"2349 HFO-1234yf Low GWP Refrigerant Update"の講演がMark Spatz及びBarbara Minorにより行われたことが示されているから、甲3は、本件特許の出願(優先日)前の2008年7月16日にMark Spatz及びBarbara Minorにより行われた"HFO-1234yf Low GWP Refrigerant Update"の講演で発表されて公知となったスライドの内容を印刷したものと認められる。
3 甲1ないし8の記載
(1)甲1
ア 甲1の記載
甲1には、"Reversible Heat Pump System for an Electrical Vehicle"(電気自動車用の可逆的ヒートポンプシステム)に関して次のような記載がある。(なお、下線は理解の一助のために当審が付与した。訳は当審による。以下同様。)
1a)
「
」
(19ページ左欄第1ないし17行)
訳:要約
本論文は、第一部において、電気自動車の客室部分の加熱及び冷却の両方を意図したヒートポンプシステムの従来構造を述べる。それは、特に、そのような種類のシステムの主な不利益および性能限界を示す。第二部は、追加の水/R-134a冷媒蒸発器と統合された部品を含む改良システムについて述べており、それらは、加熱容量の増加とエンジン区画部分でのそれらの統合に必要な容積の最適化を許容する。本論文は、加熱モードおよび冷却モードの両方に対して得られた測定性能を結論として示し、運転バッテリー温度を管理する能力のような提案されているシステムの他の可能性のある利点を示す。
1b)
「
」 (19ページ右欄下から3行ないし20ページ右上欄5行)
訳:このシステムの動作は、以下のように行われる。冷却蒸気が電動圧縮機の排出ポートから下流に向かって四方弁により最初に冷却されて飽和し、その後凝縮される室内熱交換器に導かれる。この熱力学的変換により放出された熱は、その後、自動車の客室部分の内側に生じた空気の流れに受け渡される。この後、この冷媒は膨張し、そして、その後、外部熱交換器(一般的に自動車の前方部分に設置されている)中で蒸発した後に、第二の電気ファンにより生じた外気の空気の流れから熱を奪う。この熱力学サイクルの終わりに、冷媒の流れは四方弁を介して圧縮機に吸引される。なお、このシステムで使用される作動流体は、塩素フリーの冷媒R134aである。
1c)下記"Figure N○1 "(図1)には、"External heat exchanger"(外部熱交換器)、"Expansion valve"(膨張弁)、"Internal heat exchanger"(室内熱交換器)、"Compressor"(圧縮機)、"4 Way Valve"(四方弁)を備え、内部を動作冷媒が流れるヒートポンプシステムが示されている。
「
」
1d)
「
」
(20ページ右下欄1行ないし6行)
訳:この基本的なヒートポンプ構造の性能を、風洞中、周囲温度-10℃においてテストをし、熱性能係数(COP、遷移相で2.5まで)、および、その限界(安定した状態でアイスを形成)を確認した。
1e)
「
」
(20ページ右下欄7行ないし21ページ右上欄10行)
訳:改良されたヒートポンプシステム
さらなる外部熱源
以前に示したように、周囲の空気は車両の客室を十分に暖めるために使用する唯一の熱源として使用することはできない。他に利用可能な唯一の熱源は、車両に搭載された全てのあるいは一部の電気機器から放出される熱である。この装置は少なくとも次の構成要素からなる。
-メインバッテリー
-駆動モータとその電力制御ユニット
放出される熱と一連の電気駆動装置(バッテリー、電気モータ、電気制御ユニット・・)との低い比率のために、補助的な熱源は<<低温>>の熱源と見なさざるを得ない。主な結論は、この熱量は、熱(機関)による車両で実現されているように客室の空気の流れを直接熱するために用いることはできない。
これが、これらの廃熱を効率的に回収するために電気駆動装置の冷却回路の中に二次蒸発器を挿入するように提案される理由である。
この手段によって、冷媒は外部熱交換器において一部が蒸発し、一部がこの二次蒸発器によって蒸発する。このことは、部分的にバランスし、先に述べた空気/冷媒熱交換機の霜の生成という負の効果を最小限とすることを助ける。
図N○3は、そのような蒸発器を含むヒートポンプシステムの可能な構造を表す。このケースの場合、冷却サイクルは、空気タイプの冷却回路と比較した場合、より高い効率であるという利点を示す液体タイプの回路(例えば、水及びグリコールの混合物)が想定される。
1f)下記"Figure N○3"(図3)には、External heat exchanger"(外部熱交換器)、"Expansion valve"(膨張弁)、"Internal heat exchanger"(室内熱交換器)、"Compressor"(圧縮機)、"4 Way Valve"(四方弁)のほか、グリコール・水/冷媒蒸発器が四方弁の後に装着されているヒートポンプシステムが示されている。
「
」
1g)
「
」
(23ページ左欄7ないし11行)
訳:実際の応用としては、電気圧縮機、四方弁、及び、グリコール・水/R-134a蒸発器から構成されたモジュールは、通常断熱されている。(図N○6には非表示)。この断熱には2つの目的がある。
1h)
「
」
(23ページ左欄37ないし43行)
訳:性能試験結果
試験条件
性能試験は以下の環境条件でおこなった。
低い周囲温度:-10℃
高い周囲温度:+45℃;湿度:40%、日照負荷:1000W/m2
1i)
「
」
(24ページ左欄1ないし7行)
訳:結論
加熱モード
このモードでは、-10℃のように低い周囲温度に対して、電気自動車の加熱機能は、遷移状態及び定常状態の両方において、非常に経済的に、提案されたヒートポンプシステムにより行われることを確認した。
1j)上記1b)から、外部熱交換器及び室内熱交換器は、外気あるいは室内の空気と冷媒との間で熱交換を行うものであるから、空気/冷却剤型であるといえる。
1k)甲1は、電気自動車用の可逆的ポンプシステムであることに加え、上記1b)、1c)及び図1の記載から、冷媒は、四方弁により可逆的に冷媒回路を流れることが分かる。
1l)上記1e)及び1f)並びに図3の態様において、1i)によると、ヒートポンプシステムは-10℃においても動作することが分かる。
イ 甲1に記載された発明
上記アからみて、甲1には次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されている。
「外部熱交換器と、膨張弁と、室内熱交換器と、圧縮機と、四方弁とを有する、内部を冷媒が可逆的に流れる冷媒回路を用いて自動車の客室内の加熱、空調を行うシステムでの冷媒の使用であって、冷媒がR134aであり、上記システムが周囲温度が-10℃においても自動車の客室内の加熱のために運転されるシステムである、使用。」
(2)甲2
ア 甲2の記載
甲2には、"HFO-1234yf Low GWP Refrigerant: A Global Sustainable Solution for Mobile Air Conditioning"(HFO-1234yf低GWP(地球温暖化係数)冷媒:自動車空調のための地球持続可能な解決策)に関して次のような記載がある。
2a)"Agenda... ・Path Forward"(スライド2)
訳:議題
・性能適性化試験
・HFO-1234yfの特性
-毒性
-環境特性
-水溶性/導電性
-乾燥安定性
・HFO-1234yf 取扱性/サプライチェイン
・将来性
2b)"HFO-1234yf Overview ... car sizes"(スライド3)
訳:HFO-1234yfの概略
・優れた環境特性・・・
・R-134aと類似した低毒性・・・
・R-134aと酷似したシステム性能・・・
・低燃焼性(制御可能)・・・
・地球規模での解決策・・・
2c)"Excellent Environmental Properties... Scientific Paper"(スライド18)
訳:優れた環境特性
・ODP=0
・100年 GWP(地球温暖化係数)=4(GWP134a=1430)・・
・大気寿命=11日
・大気化学の測定
-134aに対するものと同様の大気分解物
-高いGWP(地球温暖化係数)の分解物はない(例えば、HFC-23分解物はない)
-結果は、2008年、発表
・良いLCCP
・HFO-1234yfの環境特性は、独立して確認され、専門家に評価され、科学文献に発表された。
イ 甲2に記載された事項
上記アからみて、甲2には次の事項(以下、「甲2記載事項」という。)が記載されている。
「自動車空調のための冷媒として、HFO-1234yfがR-134aと酷似したシステム性能であり、R-134aよりも低GWPで環境特性に優れたものであること。」
(3)甲3
ア 甲3の記載
甲3には、"HFO-1234yf Low GWP Refrigerant Update"(HFO-1234yf 低GWP(地球温暖化係数)冷媒の最近)に関して、次のような記載がある。
3a)"Background ... weight"(スライド2)
訳:背景
・デュポン及びハネウェルは、特性及び性能の最良のバランスを提供する、より好ましい低GWP冷媒として、HFO-1234yf(CF3CF=CH2)を特定した。
・他の自動車産業の選択は、ある種の制限を有する。
-CO2:複雑性。エネルギー効率、および、緩和を必要とする。
-152a/第2ループ:性能、サイズ、重さ
3b)"・System performance very similar to R-134a ... -Potential for direct substitution of R-134a"(スライド3 上から3段落目)
訳:・R-134aに酷似したシステム性能
-優れたCOP及び容量・・・
-熱的に安定しており、R-134aの装置に対して代替し得る。
-R-134aを直接的に代替する可能性
3c)"HFO-1234yf Properties ..."(スライド4)
「
」
3d)"Excellent Environmental Properties ... ・Good LCCP"(スライド6)
訳:優れた環境特性
・ODP=0
・100年 GWP(地球温暖化係数)=4(GWP134a=1300)
測定は完了し、発表された。
CF3CF=CH2の大気化学
Chemical Physics Letters,439(2007)pp18-22
・大気寿命=11日
・大気化学の測定
-134aに対するものと同様の大気分解物
-高いGWP(地球温暖化係数)の分解物はない(例えば、HFC-23分解物はない)
-結果は、2008年に発表
・良いLCCP
イ 甲3に記載された事項
上記アからみて、甲3には次の事項(以下、「甲3記載事項」という。)が記載されている。
「冷媒としてのHFO-1234yfがR134aにシステム性能が酷似しており、R134aよりも低GWPで環境特性に優れたものであって、R134aを代替する可能性があること。」
(4)甲4
甲4には、「車両用空調装置」に関して、その段落【0001】、【0003】、【0021】ないし【0025】及び段落【0039】並びに図1の記載から、次の技術(以下、「甲4技術」という。)が記載されている。
「室外用熱交換器5、オリフィス38、室内用熱交換器42、コンプレッサ35及び四方弁36を備えた冷暖房を行う車両用空調装置のヒートポンプ式冷凍サイクルにおいて、室外用熱交換器5をエンジン30のラジエータ9に並設する技術。」
(5)甲5
甲5には、「フルオロオレフィンを含む組成物」に関して、その段落【0001】、【0006】、【0007】、【0010】、【0024】の【表1】、【0030】の【表2】、及び【0130】の記載から、次の技術(以下、「甲5技術」という。)が記載されている。
「HFC-1234yfを、不飽和ヒドロフルオロカーボンとしてのHFC-1243zf等、飽和ヒドロフルオロカーボンとしてのHFC-32等とともにヒートポンプシステムの冷媒として用いる技術。」
(6)甲6
甲6には、「車両用空調装置」に関して、その段落【0001】、【0015】及び【0019】並びに図1の記載から、次の技術(以下、「甲6技術」という。)が記載されている。
「車両用空調装置におけるヒートポンプサイクルの冷媒回路11に設けられた排気ガスエバポレータ13に、エンジンからの排気ガス回路16を通すことにより、エンジン排気ガスから冷媒回路11に吸熱を行う技術。」
(7)甲7
甲7には、「車両用ヒートポンプ式空調装置」に関して、その段落【0001】ないし【0003】、【0008】、【0012】、【0013】及び【0017】ないし【0020】並びに図1及び図2の記載から、次の技術(以下、「甲7技術」という。)が記載されている。
「車両用ヒートポンプ式空調装置において、冷媒が、冷房時にはエンジン11の前方のラジエータ32の前方に設けられた第1室外熱交換器12を、暖房時にはエンジン11の後方に設けられた第2室外熱交換器13を選択的に流れるようにする技術。」
(8)甲8
ア 甲8の記載
本件特許の優先日前の特許出願であって、その出願後に出願公開がされたものである甲8に係る特許出願には、「冷凍サイクルシステム及び該冷凍サイクルシステムを用いた車両用空調システム」に関して、その特許出願の願書に最初に添付された明細書又は図面において次のような記載がある。
8a)「【0001】
本発明は、冷凍サイクルシステム及び該冷凍サイクルシステムを用いた車両用空調システムに関する。」
8b)「【0004】
現在、地球環境を保護すべく、R134aに変わる新しい冷媒の研究・開発が進められている。そのような冷媒の一つとしては、例えば、R1234yf(テトラフロロプロペン:F3C-CF=CH2)をあげることができる。R1234yfのGWP(地球温暖化係数)は4であり、R134aの1300よりも格段に低い。
しかしながら、PAG(ポリアルキレングリコール)とR1234yfとを組み合わせた場合、PAGとR134aとを組み合わせた従来の場合より、潤滑油と冷媒とが分離する二層分離温度が低くなる。このため、PAGとR1234yfとを組み合わせた場合、従来と同じ運転条件では、凝縮器での作動流体の温度が二層分離温度よりも高くなる。そして、この結果として、凝縮器において潤滑油と冷媒とが分離してしまう。」
8c)「【0007】
本発明は上述の事情に基づいてなされたもので、その目的とするところは、凝縮器において相互に分離してしまう潤滑油及び冷媒を作動流体として用いているにもかかわらず、圧縮機の潤滑が確保され、且つ、良好な成績係数にて動作する冷凍サイクルシステム及び当該冷凍サイクルシステムを用いた車両用空調システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するべく、本発明の一態様によれば、二層分離温度を超える温度にて相互に分離する潤滑油及び冷媒が作動流体として充填される循環路に、前記作動流体の一の流動方向にて順次介挿された圧縮機、凝縮器、膨張弁及び蒸発器と、前記凝縮器に潤滑油が溜まることを防止する潤滑油返戻手段とを備え、前記潤滑油返戻手段は、前記作動流体が前記循環路を前記一の流動方向にて流動させられ且つ前記凝縮器の周囲の温度が前記二層分離温度よりも低いときに、前記二層分離温度での前記冷媒の飽和圧力以下に、前記凝縮器での前記冷媒の圧力を制限することを特徴とする冷凍サイクルシステムが提供される(請求項1)。
【0009】
好ましくは、前記潤滑油返戻手段は、前記圧縮機の吐出容量を調整する容量調整手段を有し、そして、前記容量調整手段を介して前記圧縮機の吐出容量を調整することによって、前記凝縮器での前記冷媒の圧力を制限する(請求項2)。
好ましくは、前記潤滑油返戻手段は、前記循環路での前記作動流体の流動方向を前記一の流動方向とは逆方向に変える流動方向逆転手段を更に有する(請求項3)。
【0010】
好ましくは、前記流動方向逆転手段は、前記循環路に介挿され、前記圧縮機の吐出ポート及び吸入ポートと前記凝縮器の入口及び前記蒸発器の出口との接続を切り替えるための四方切換弁を有する(請求項4)。
好ましくは、前記作動流体は、前記潤滑油としてのポリアルキレングリコールと、前記冷媒としてのR1234yfとを含む(請求項5)。
【0011】
また、本発明の一態様によれば、上記した何れかの冷凍サイクルシステムを備えることを特徴とする車両用空調システムが提供される(請求項6)。
【発明の効果】
【0012】
本発明の請求項1の冷凍サイクルシステムによれば、凝縮器の周囲の温度が二層分離温度よりも低いときに、潤滑油返戻手段によって、二層分離温度での冷媒の飽和圧力以下に、凝縮器での冷媒の圧力が制限される。このため、凝縮器での冷媒と潤滑油との分離が防止されるのみならず、凝縮器に溜まった潤滑油が冷媒と相溶し、冷媒とともに潤滑油が圧縮機に確実に戻る。この結果として、圧縮機の潤滑が良好に保たれるとともに、成績係数の低下が防止される。」
8d)「【0015】
請求項6の車両用空調システムでは、凝縮器での作動流体の温度が二層分離温度を超えてしまい、凝縮器に潤滑油が溜まってしまうような環境下であっても、潤滑油返戻手段によって、凝縮器に溜まった潤滑油が圧縮機に戻される。この結果として、この車両用空調システムは、世界中のあらゆる地域での使用に耐える。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
図1は、第1実施形態の車両用空調システムの概略を示し、この車両用空調システムによれば車室10内を所望の設定温度にて冷房可能である。
車両用空調システムは冷凍サイクルを実行する冷凍サイクルシステム12を備え、冷凍サイクルシステム12は、作動流体を循環させる循環路14を有する。
作動流体は、冷媒と冷凍機油(潤滑油)とを含み、冷媒と冷凍機油は、二層分離温度を超えると分離する。作動流体は、好ましくは、冷媒としてのR1234yfと潤滑油としてのPAG(ポリアルキレングリコール)とを含む。」
8e)「【0019】
吐出容量の制御方式としては、例えば、圧縮機22が吸入する作動流体の圧力(吸入圧力)を制御するPs制御方式か、圧縮機22が吐出する作動流体の圧力(吐出圧力)と吸入圧力との差(Pd-Ps差圧)を制御する差圧制御方式を採用することができる。
凝縮器24の近傍にはコンデンサファン33が配置され、車両の走行による車両前方からの風、コンデンサファン33からの風、又は、これらの両方によって、凝縮器24を正方向にて通過する作動流体は冷却される。
【0020】
膨張弁26は、好ましくは電子式膨張弁であり、制御装置32によって、膨張弁26の開度が調整される。膨張弁26は、正方向に流れる作動流体を膨張させる。
蒸発器28は、空調ユニットハウジング34内に配置され、空調ユニットハウジング34内には、ブロワファン36及びヒータコア(図示せず)も配置されている。また、空調ユニットハウジング34の入口には、内外気切換ダンパ38が配置され、空調ユニットハウジング34の出口には、吹出口切換ダンパ(図示せず)が配置されている。」
8f)「【0021】
ブロワファン36からの風によって、蒸発器28を正方向にて通過する作動流体は加熱され、蒸発する。この一方で、ブロワファン36からの風は、蒸発器28によって冷却されて冷風になり、この冷風が車室内10に吹き出すことで、車室10が冷房される。
一方、冷凍サイクルシステム12は、種々の情報を検知するセンサ群の1つとして、凝縮器24での冷媒の圧力(高圧)を検知するための圧力センサ40を有する。圧力センサ40は、圧縮機22から膨張弁26の入口までの循環路14の流域のどこに取り付けてもよいが、耐久性を考慮して、凝縮器24の直下流に取り付けられる。圧力センサ40によって検知された高圧は、制御装置32に入力される。」
8g)「【0023】
また更に、冷凍サイクルシステム12は、センサ群の1つとして、蒸発器28で冷却された空気の温度(蒸発器温度)を検知する蒸発器温度センサ44を有する。蒸発器温度センサ44によって検知された蒸発器温度は、制御装置32に入力され、例えば、吸入圧力の目標値又はPd-Ps差圧の目標値を決定するのに利用される。
好ましくは、循環路14には、四方切換弁46が介挿されている。具体的には、図2に拡大して示したように、四方切換弁46は、圧縮機22の吐出ポート及び吸入ポートと、凝縮器24の入口及び蒸発器28の出口との接続を切換可能である。」
8h)「【0030】
なお、凝縮器24での冷媒の圧力(高圧)を、外気温度での冷媒の飽和圧力以下に維持する手段としては、吐出容量の制限の外、コンデンサファン33の風量の増大、ブロワファン36の風量の低減、及び、内外気切換ダンパ38による内気循環モードへの切換のうち1つ以上を用いてもよい。
これに対し、第2潤滑油返戻モードに目的は、冷媒と潤滑油との二層分離温度が、凝縮器24の周囲の温度(外気温度)以上であるときに、凝縮器24に溜まった潤滑油を圧縮機22に戻すことにある。従って、寒冷地であれば、必ずしも第2潤滑油返戻モードを行う必要はない。」
8i)「【0033】
図5から、冷凍サイクルX-Y-V-Wは、非相溶領域を通過せずR134aとPAGとが二層分離しないことがわかる。このように、通常運転モードにおいて、冷凍サイクルが非相溶領域を通過しない場合、第1及び第2潤滑油返戻モードは必要ではない。
かくして上述した一実施形態の車両用空調システムに適用された冷凍サイクルシステム12では、通常運転モードの間、乗員の指示に基づいて車室10が冷房又は除湿される。」
8j)「【0036】
更に、上述した冷凍サイクルシステム12によれば、四方切換弁46によって、簡単な構成にて、潤滑油が圧縮機22に確実に戻される。
その上、上述した冷凍サイクルシステム12は、作動流体が、冷媒として、GWPが小さいR1234yfを含むため、地球環境に優しい。一方で、作動流体が、潤滑油としてポリアルキレングリコールを含むため、圧縮機22での良好な潤滑が確保される。
【0037】
上述した車両用空調システムでは、通常運転モードでは凝縮器22での冷媒の温度が二層分離温度を超えてしまうような環境下であっても、冷媒の温度が二層分離温度以下に保たれる。この結果として、この車両用空調システムは、世界中のあらゆる地域での使用に耐える。」
8k)図1には、凝縮器24、膨張弁26、蒸発器28、圧縮機22と、循環路14における冷媒の方向を逆転させる四方切換弁46を有する、車室内を空調する車両用空調システムが図示されている。
8l)上記8e)及び8f)から、凝縮器24及び蒸発器28は風、すなわち空気と熱交換を行うものであることが分かる。
イ 甲8に記載された発明
上記アからみて、甲8には次の発明(以下、「甲8発明」という。)が記載されている。
「凝縮器24と、膨張弁26と、蒸発器28と、圧縮機22と、循環路14における冷媒の方向を逆転させる四方切換弁46とを有する、冷媒が循環する循環路14を用いて車室10内を冷房又は除湿する車両用空調システムでの冷媒の使用であって、
冷媒がR1234yfであって、潤滑油としてPAG(ポリアルキレングリコール)を含む、使用。」
4 取消理由(決定の予告)に記載した取消理由についての判断
(1)特許法第29条第2項について
ア 本件訂正発明1
本件訂正発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明における「外部熱交換器」は、その構成、機能又は技術的意義からみて、本件発明1における「第1熱交換器」に相当し、以下同様に、「膨張弁」は「膨張弁」に、「室内熱交換器」は「第2熱交換器」に、「圧縮機」は「圧縮器」に、「四方弁」は「冷却材の流れを逆にする手段」に、「冷媒」は「冷却剤」に、「内部を冷媒が可逆的に流れる冷媒回路」は「内部を冷却剤が流れる可逆冷却ループ」に、「自動車の客室内の加熱、空調を行う」は「自動車の客室を加熱および/または空調する」に、それぞれ相当する。
また、甲1発明においては「冷媒がR134a」であって、甲1発明における「使用」から「2,3,3,3-テトラフルオロプロペンとPAG(ポリアルキレングリコール)を含む冷却剤の空調システムでの使用」が除かれているのは明らかであるから、本件訂正発明1と甲1発明とは「ただし、2,3,3,3-テトラフルオロプロペンとPAG(ポリアルキレングリコール)を含む冷却剤の空調システムでの使用は除く」点において一致する。
そうすると、両者の一致点及び相違点は次のとおりである。
[一致点]
「第1熱交換器と、膨張弁と、第2熱交換器と、圧縮器と、冷却剤の流れの方向を逆にする手段とを有する、内部を冷却剤が流れる可逆冷却ループを用いて自動車の客室を加熱および/または空調するシステムでの冷却剤の使用であって、ただし、2,3,3,3-テトラフルオロプロペンとPAG(ポリアルキレングリコール)を含む冷却剤の空調システムでの使用を除く、使用。」
[相違点1]
本件発明1においては、「冷却剤が2,3,3,3-テトラフルオロプロペンであり且つ上記システムが外部温度が-15℃以下でも運転されるシステムであり、上記使用が外部温度が-15℃以下での客室の加熱での使用」であるのに対して、甲1発明においては、「冷媒がR134aであり、上記システムが、周囲温度が-10℃においても自動車の客室部分の加熱のために運転されるシステムである、使用」である点。
以下、上記相違点1について検討する。
[相違点1について]
甲1発明は、「システムが周囲温度が-10℃においても自動車の客室内の加熱のために運転」されるものであるが、上記3.(1)1i)の甲1の記載によると、加熱モードにおいて「-10℃のように低い周囲温度に対して、電気自動車の加熱機能は、遷移状態及び定常状態の両方において、非常に経済的に、提案されたヒートポンプシステムにより行われることを確認した」ものである。
そして、上記甲2記載事項は、「自動車空調のための冷媒として、HFO-1234yfがR-134aと酷似したシステム性能であり、R-134aよりも低GWPで環境特性に優れたものであること。」であり、上記甲3記載事項は、「冷媒としてのHFO-1234yfがR134aにシステム性能が酷似しており、R134aよりも低GWPで環境特性に優れたものであって、R134aを代替する可能性があること。」であるから、これら甲2記載事項及び甲3記載事項は、冷媒であるR134aを低GWPで環境特性が優れ、システム性能が酷似するHFO-1234yfに代替する可能性を示唆している。
しかし、甲1発明において、甲2記載事項及び甲3記載事項における示唆により、冷媒であるR134aを低GWPで環境特性が優れ、システム性能が酷似するHFO-1234yfに代替したとしても、甲2記載事項及び甲3記載事項は、HFO-1234yfはシステム性能においてR134aとが酷似することを示しており、低温特性に関してHFO-1234yfがR134aより優れていることを示すものではないから、甲2記載事項及び甲3記載事項は、甲1発明のシステムを周囲温度が-10℃より低温の-15℃以下で運転することを示唆するものとまではいえない。
そうすると、甲2記載事項及び甲3記載事項は、R134aをHFO-1234yfに代替することを示唆するものの、甲1発明における「上記システムが周囲温度が-10℃においても自動車の客室内の加熱のために運転されるシステムである、使用。」における、「周囲温度が-10℃」を、より低温の「周囲温度が-15℃以下」として使用することを示唆するものではないから、甲1発明に甲2記載事項及び甲3記載事項を適用して上記相違点1に係る本件訂正発明1とすることは、当業者が容易になし得たとすることはできない。
なお、特開2001-130245号公報(段落【0061】)、特開2002-200917号公報(段落【0088】)によると、車両用空調装置を外気温-15℃以下の時に使用することは本件特許出願の優先日前に周知であると認められるが、これらの周知例において、車両用空調装置の冷媒としてHFO-1234yfを採用して外気温-15℃以下で用いることについては記載されていない。
また、甲4技術ないし甲7技術は、上記相違点1に係る本件訂正発明1の構成を開示するものではない。
したがって、本件訂正発明1は、甲1発明、甲2記載事項及び甲3記載事項並びに甲4技術ないし甲7技術に基いて当業者が容易に発明することができたとはいえない。
イ 本件訂正発明2ないし7
本件訂正特許請求の範囲における請求項2ないし7は、いずれも請求項1の記載を他の記載に置き換えることなく引用して記載されたものであるから、本件訂正発明2ないし7は本件訂正発明1の発明特定事項を全て含むものである。
したがって、本件訂正発明2ないし7は、本件訂正発明1と同様の理由で、甲1発明、甲2記載事項及び甲3記載事項並びに甲4技術ないし甲7技術に基いて当業者が容易に発明することができたとはいえない。
(2)特許法第29条の2について
ア 本件訂正発明1
本件訂正発明1と甲8発明とを対比する。
甲8発明における「凝縮器24」は、その構成、機能または技術的意義からみて、本件発明1における「第1熱交換器」に相当し、以下同様に、「膨張弁26」は「膨張弁」に、「蒸発器28」は「第2熱交換器」に、「圧縮機22」は「圧縮器」に、「冷媒」は「冷却剤」に、「循環路14における冷媒の方向を逆転させる四方切換弁46」は「冷却剤の流れの方向を逆にする手段」に、「冷媒が循環する循環路14」は「内部を冷却剤が流れる可逆冷却ループ」に、「車室10内を冷房又は除湿する車両用空調システム」は「自動車の客室を」、「空調するシステム」に、「R1234yf」は「2,3,3,3-テトラフルオロプロペン」に、それぞれ相当する。
そうすると、両者の一致点及び相違点は次のとおりである。
[一致点]
「第1熱交換器と、膨張弁と、第2熱交換器と、圧縮器と、冷却剤の流れの方向を逆にする手段とを有する、内部を冷却剤が流れる可逆冷却ループを用いて自動車の客室を空調するシステムでの冷却剤の使用であって、
上記冷却剤が2,3,3,3-テトラフルオロプロペンである使用。」
[相違点2]
本件訂正発明1においては、「上記システムが外部温度が-15℃以下でも運転されるシステムであり」、「自動車の客室を加熱および/または空調システムでの冷却剤の」、「使用が外部温度が-15℃以下での自動車の客室の加熱での使用であ」るのに対して、甲8発明における「車両用空調システム」が、「外部温度が-15℃以下でも運転されるシステム」であるか不明であるとともに、「車両用空調システムでの冷媒の使用」が「車室10内を冷房又は除湿する」ものであって、「外部温度が-15℃以下での自動車の客室の加熱での使用」ではない点。
[相違点3]
本件訂正発明1においては、「使用」が、「2,3,3,3-テトラフルオロプロペンとPAG(ポリアルキレングリコール)を含む冷却剤の空調システムでの使用は除く」ものであるのに対して、甲8発明においては、「車両用空調システムでの冷媒の使用」が、「冷媒がR1234yfであって、潤滑油としてPAG(ポリアルキレングリコール)を含む、使用。」である点。
そうすると、本件訂正発明1は、甲8発明と上記相違点2及び相違点3を有することとなり、甲8発明に対して周知慣用技術の付加や転換を行ったものとはいえないから、相違点2及び相違点3は実質的な相違点である。
したがって、本件訂正発明1は、甲8発明と同一であるとはいえない。
イ 本件訂正発明3
本件訂正特許請求の範囲における請求項3は、請求項1の記載を他の記載に置き換えることなく引用して記載されたものであるから、本件訂正発明3は本件訂正発明1の発明特定事項を全て含むものである。
そうすると、本件訂正発明3は、甲8発明と、少なくとも上記相違点2及び相違点3を有することとなり、相違点2及び相違点3は実質的な相違点である。
したがって、本件訂正発明3は、甲8発明と同一であるとはいえない。
第5 取消理由通知(決定の予告)において採用しなかった特許異議申立理由について
1 異議理由
(1)異議理由1
本件特許は、下記の点で特許法第36条第6項第1号の規定に違反してされたものであり、同法第113条第4号に該当する。
記
ア 本件特許明細書(段落【0034】ないし【0038】)では、「圧縮器の効率と、COP」を発明の効果として評価している。しかしながら、本件明細書の表2(段落【0037】)の結果を見ると、-20℃において「%Capと%COP」は何れも100%であり、実施例(HFO-1234yfの使用)と、比較例(HFC-134a)とでは効果の差異は認められない。
そして、「-15℃」付近での評価は行われていないから、少なくとも「-20℃以下~-15℃以下」については効果が得られないことは明らかである。
「
」
「
」
イ 本件特許発明1においては「システムが外部温度が-15℃以下でも運転されるシステムであることを特徴とする使用」が特定されており、0℃や+15℃の常温における使用も含むものとなっているが、本件特許明細書においてはこれらの範囲における使用においても効果が得られることをサポートする記載はない。
ウ 本件特許明細書(段落【0034】)においては、凝縮器温度を30℃に固定した冷却剤の性能のシミュレーション評価しか行っていないから、この結果が車両でのヒートポンプ運転されるシステムに一般化できるか否か不明である。
したがって、本件特許発明は発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えており、発明の詳細な説明に記載された発明ではなく、特許法第36条第6項第1号に規定される要件を満たしていない。
(2)異議理由2
本件特許は、下記の点で特許法第36条第6項第2号の規定に違反してされたものであり、同法第113条第4号に該当する。
記
ア 本件特許の請求項1においては、「システムが外部温度が-15℃以下でも運転されるシステムであることを特徴とする使用。」と記載されているが、「システムが外部温度-15℃より高い温度でも運転されるシステム」であるか否かが明らかでない。
したがって、本件特許の請求項1及び請求項1を直接あるいは間接的に引用する請求項2ないし7に係る発明は明確でなく、特許法第36条第6項第2号に規定される要件を満たしていない。
2 異議理由についての判断
(1)異議理由1について
ア 本件特許明細書における課題及び効果に関する記載は次のとおりのものである。
「【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、圧縮器の起動時に冷却ループの蒸発器へ空気が侵入するのを防止し、および/または、冷却ループの効率を向上させることにある。」、
「【0038】
HFO-1234yfは、蒸発器圧力がHFC-134aを用いた場合よりも高い。従って、系を極めて低い温度で運転する場合、空気が系に侵入するのを制限するのに役立つ。
HFO-1234yfは、同じ圧縮器で、極めて低い温度で、HFC-134aよりもの性能が良い。加熱モードで且つ凝縮温度が30℃の場合、HFO-1234yfは圧縮器の効率が良く、COPおよび能力が良い。」
ここで、表1(段落【0036】)及び、表2(段落【0037】)を参照すると、蒸発器温度が-20℃である場合に、HFO-1234yfの蒸発器圧力が148.64kPaであるのに対して、HFC-134aの蒸発器圧力が133.14kPaであり、HFO-1234yfの蒸発器圧力がHFC-134aのものより大きく、両者とも蒸発器圧力は大気圧(101kPa)よりも大きいから、両者において空気が蒸発器に侵入するのを防止するという目的や課題を達成できると認められる。
また、蒸発器温度が-15℃である場合において、技術常識によれば両者の蒸発器圧力は上記-20℃の場合より大きくなるから、両者において空気が蒸発器に侵入するのをさらに防止できるものと認められる。
さらに、蒸発器温度が-20℃未満の場合においても、表1(段落【0036】)及び、表2(段落【0037】)を参照すると、HFO-1234yfの蒸発器圧力はHFC-134aのものよりも大きいから、HFO-1234yfはHFC-134aと比較してより空気が系に侵入することを防ぐことができるものであるといえる。
そうすると、少なくとも、-15℃以下の低い温度で運転する場合において、HFO-1234yfはHFC-134aよりも蒸発器圧力が大きいから、より空気が系に侵入することを防ぐことができるという課題を解決できると認められる。
イ 本件訂正発明1においては、「上記使用が外部温度が-15℃以下での自動車の客室の加熱での使用」と特定された。
よって、0℃や+15℃の常温における使用は、本件訂正発明1の使用を含まないものとなった。
ウ 本件特許明細書(段落【0034】)に記載されるように、凝縮器温度を30℃に固定した冷却剤の性能のシミュレーション評価を行ったのは、凝縮器温度の30℃を車両用空調装置の暖房時に設定する代表的な温度として設定したものと認められ、この結果が他の運転条件において当てはまらないとすべき理由も見当たらないから、凝縮器温度を30℃に固定した冷却剤のシミュレーション評価しか行っていないことをもって、試験結果が車両のヒートポンプ運転されるシステムに一般化できないとまではいえない。
したがって、本件訂正発明は発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものではなく、発明の詳細な説明に記載された発明ではないとはいえない。よって、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定される要件を満たしていないとはいえない。
(2)異議理由2について
ア 本件訂正発明1においては、「上記使用が外部温度が-15℃以下での自動車の客室の加熱での使用」と特定された。
よって、外部温度が-15℃より高い温度で運転されるシステムでの冷却剤の使用は、本件訂正発明1における使用に含まれないものとなり、本件特許の請求項1の記載は本件訂正により明確となった。
したがって、本件訂正発明は明確であり、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定される要件を満たしていないとはいえない。
第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した申立ての理由によっては、本件請求項1ないし7に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1ないし7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2018-700521