特許異議申立
2018-700350
撮像システムおよび結像光学系および撮像システムの製造方法
- 審判番号
- 2018-700350
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2013-130922
- 登録番号
- 特許第6221399号(P6221399)
- 請求日
- 2018年04月26日
- 審決日
- 2018年11月09日
- 公報発行日
- 2019年02月22日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】株式会社リコー
- 【権利者代理人】工藤 修一
- 【権利者代理人】樺山 亨
- 【権利者代理人】本多 章悟
- 【異議申立人】キヤノン 株式会社
- 【異議申立人代理人】阿部 琢磨
- 【異議申立人代理人】黒岩 創吾
- 審判長/審判官
- 審判長 清水 正一
- 審判官 小池 正彦
- 審判官 樫本 剛
- 分類
- P1651.113-YAA(H04N) / P1651.121-YAA(H04N) / P1651.537-YAA(H04N) / P1651.851-YAA(H04N) / P1651.853-YAA(H04N) / P1651.857-YAA(H04N)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第2項、特許法第126条第6項、特許法第126条第5項、特許法第29条第2項、特許法第120条の5第4項、特許法第126条第4項、特許法第29条第1項第3号
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第6221399号発明「撮像システムおよび結像光学系および撮像システムの製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第6221399号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-11〕について訂正することを認める。
特許第6221399号の請求項2-12に係る特許を維持する。
特許第6221399号の請求項1に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯
特許第6221399号の請求項1~12に係る特許についての出願は、平成25年6月21日に特許出願され、平成29年10月13日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、平成30年4月26日に特許異議申立人キヤノン株式会社により特許異議の申立てがされ、平成30年6月28日付けで取消理由が通知され、平成30年8月31日に訂正の請求がなされ、平成30年10月24日に訂正請求書の補正(方式)がなされたものである。
第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は以下の(1)~(6)のとおりである。なお、以下の訂正事項の番号は、本件訂正請求における訂正事項の番号とした。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1を削除する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2に
「請求項1記載の撮像システムにおいて、
結像光学系のOTF:H(u、ν)と、該撮像素子のS/N比:SNRが、以下の条件:」とあるのを、
「被写体の像を結像させる結像光学系と、
該結像光学系から入射する光を受光する撮像素子と、
該撮像素子から出力された画像データに復元処理を施す画像処理部と、を有し、
前記結像光学系により前記撮像素子の受光面に形成される点像の有効領域が前記撮像素子の受光画素の3画素以上に亘る大きさとなるように構成され、
前記撮像素子のS/N比:SNRと、該撮像素子の1/2ナイキスト周波数における前記結像光学系のMTF値:Mとが、条件:
(A) SNR≧20log10(5/M)
を満足し、
前記結像光学系のOTF:H(u,ν)と、前記撮像素子のS/N比:SNRが、以下の条件:」に訂正する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項4に「請求項1ないし3の任意の1に」とあるのを、「請求項2または3に」に訂正する。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項7に「請求項1~6」とあるのを、「請求項2ないし6」に訂正する。
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項10に「請求項1~6」とあるのを、「請求項2ないし6」に訂正する。
(6)訂正事項6
願書に添付した明細書の段落【0013】に、「を満足する」とあるのを、「を満足し、前記結像光学系のOTF:H(u,ν)と、前記撮像素子のS/N比:SNRが、以下の条件:
(B) SNR-20log10{ΣΣH*(u,ν)/[|H(u,ν)|2+{10-SNR/10}]}≧15
を満足する」に訂正する。
2 訂正の目的の適否、一群の請求項、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1
ア 訂正の目的について
訂正事項1は、訂正前の請求項1の記載を削除するものである。
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項1は、訂正前の請求項1の記載を削除するのみであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項1は、訂正前の請求項1の記載を削除するものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合するものである。
(2)訂正事項2
ア 訂正の目的について
訂正事項2は、訂正前の請求項2が訂正前の請求項1を引用する記載であったものを、請求項間の引用関係を解消し、請求項1を引用しないものとし、独立形式請求項へ改めるための訂正であって、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に規定する「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とする訂正である。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
上記アのとおり、訂正事項2は、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとするものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
上記アのとおり、訂正事項2は、他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとするものであるから、訂正事項2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合するものである。
(3)訂正事項3
ア 訂正の目的について
訂正事項3は、請求項4において引用されている請求項1が訂正事項1により削除されたことにより、請求項4において請求項1の引用を削除するものであり、訂正事項3は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項3は、請求項4において請求項1の引用を削除するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項3は、請求項4において請求項1の引用を削除するものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合するものである。
(4)訂正事項4
ア 訂正の目的について
訂正事項4は、請求項7において引用されている請求項1が訂正事項1により削除されたことにより、請求項7において請求項1の引用を削除するものであり、訂正事項4は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項4は、請求項7において請求項1の引用を削除するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項4は、請求項7において請求項1の引用を削除するものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合するものである。
(5)訂正事項5
ア 訂正の目的について
訂正事項5は、請求項10において引用されている請求項1が訂正事項1により削除されたことにより、請求項10において請求項1の引用を削除するものであり、訂正事項5は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項5は、請求項10において請求項1の引用を削除するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項5は、請求項10において請求項1の引用を削除するものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合するものである。
(6)訂正事項6
ア 訂正の目的について
訂正事項6は、上記訂正事項2に係る訂正に伴い特許請求の範囲の記載と明細書の記載との整合を図るための訂正である。よって、訂正事項6は特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
訂正事項6は、上記訂正事項2と同様であって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
訂正事項6は、上記訂正事項2と同様であって、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合するものである。
(7)一群の請求項
上記訂正事項1~5は、一群の請求項に対して請求されたものであるから、特許法第120条の5第4項の規定に適合する。
上記訂正事項6による明細書の訂正に係る請求項は、上記訂正事項2による訂正に係る請求項と同じであって、上記訂正事項6による明細書の訂正は、一群の請求項のすべてについて行われたものであるから、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第4項の規定に適合する。
したがって、上記訂正事項1~6は、特許法第120条の5第4項及び同条第9項で準用する特許法第126条第4項の規定に適合する。
(8)小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1号、第3号又は第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項において準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項1~11について訂正することを認める。
第3 特許異議の申立てについて
1 本件発明
本件訂正請求により訂正された訂正請求項1~11に係る発明(以下「本件発明1」~「本件発明11」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1~11に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。また、請求項12に係る発明(以下「本件発明12」という。)は、特許請求の範囲の請求項12に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
ただし、(2A)~(12F)は当審で付与した。以下各構成要件を「構成要件2A」~「構成要件12F」という。
なお、請求項1は削除された。
(本件発明2)
(2A)被写体の像を結像させる結像光学系と、
(2B)該結像光学系から入射する光を受光する撮像素子と、
(2C)該撮像素子から出力された画像データに復元処理を施す画像処理部と、を有し、
(2D)前記結像光学系により前記撮像素子の受光面に形成される点像の有効領域が前記撮像素子の受光画素の3画素以上に亘る大きさとなるように構成され、
(2E)前記撮像素子のS/N比:SNRと、該撮像素子の1/2ナイキスト周波数における前記結像光学系のMTF値:Mとが、条件:
(A) SNR≧20log10(5/M)
を満足し、
(2F)前記結像光学系のOTF:H(u,ν)と、前記撮像素子のS/N比:SNRが、以下の条件:
(B) SNR-20log10{ΣΣH*(u,ν)/[|H(u,ν)|2+{10-SNR/10}]}≧15
を満足すること
(2G)を特徴とする撮像システム。
(本件発明3)
(3A)請求項2記載の撮像システムにおいて、
(3B)撮像素子から出力される画像のS/N比:SNRを基準として、
画像処理部で復元処理を施された後の画像のS/N比が、前記基準のSNRよりも
20log10{ΣΣH*(u,ν)/[|H(u,ν)|2+{10-SNR/10}]}
以上には下からないこと
(3C)を特徴とする撮像システム。
(本件発明4)
(4A)請求項2または3に記載の撮像システムにおいて、
(4B)結像光学系の被写界深度を拡張させること
(4C)を特徴とする撮像システム。
(本件発明5)
(5A)請求項4記載の撮像システムにおいて、、
(5B)結像光学系が、球面収差を意図的に付与されて、点像の有効領域の、被写体距離の変化にともなう変化を低減させるものであること
(5C)を特徴とする撮像システム。
(本件発明6)
(6A)請求項5記載の撮像システムにおいて、
(6B)結像光学系が、意図的に球面収差を付与するための位相板を有すること
(6C)を特徴とする撮像システム。
(本件発明7)
(7A)請求項2ないし6の任意の1に記載の撮像システムの結像光学系であって、
(7B)撮像素子の1/2ナイキスト周波数におけるMTF値:Mが、前記撮像素子のS/N比:SNRに対して、条件:
(A) SNR≧20log10(5/M)
を満足すること
(7C)を特徴とする撮像システムの結像光学系。
(本件発明8)
(8A)請求項7記載の撮像システムの結像光学系において、
(8B)撮像素子のS/N比:SNRに対して、OTF:H(u,ν)が、以下の条件:
(B) SNR-20log10{ΣΣH*(u,ν)/[|H(u,ν)|2+{10-SNR/10}]}≧15
を満足すること
(8C)を特徴とする撮像システムの結像光学系。
(本件発明9)
(9A)請求項7または8記載の撮像システムの結像光学系において、
(9B)球面収差を意図的に付与されて、点像の有効領域の、被写体距離の変化にともなう変化を低減させるための位相板を有すること
(9C)を特徴とする撮像システムの結像光学系。
(本件発明10)
(10A)請求項2ないし6の任意の1に記載の撮像システムにおいて、
(10B)画像処理部として、撮像素子から出力される画像に対して、ウィーナフィルタを利用した復元処理を施すものを用いること
(10C)を特徴とする撮像システム。
(本件発明11)
(11A)請求項10記載の撮像システムにおいて、
(11B)画像処理部として、ウィーナフィルタをフーリエ変換したカーネルフィルタを用いて復元処理を施すものを用いること
(11C)を特徴とする撮像システム。
(本件発明12)
(12A)被写体の像を結像させる結像光学系と、該結像光学系から入射する光を受光する撮像素子と、該撮像素子から出力された画像に復元処理を施す画像処理部と、を有する撮像システムを製造する方法であって、
(12B)使用環境に応じたS/N比:SNRを特定された撮像素子を用意する工程と、
(12C)該撮像素子の受光面に投影された点像の有効領域が前記撮像素子の受光画素の3画素以上に亘る大きさとなり、前記SNRと、前記撮像素子の1/2ナイキスト周波数におけるMTF値:Mとが、条件:
(A) SNR≧20log10(5/M)
を満足するようにした結像光学系を用意する工程と、
(12D)前記撮像素子から出力された画像に、前記結像光学系のOTFに基づいた復元処理を施す画像処理部を用意する工程と、
(12E)前記撮像素子と結像光学系と画像処理部を組み合わせる工程と、
(12F)を有することを特徴とする撮像システムの製造方法。
2 取消理由の概要
訂正前の請求項1、4~7、9~11に係る特許に対して平成30年6月28日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。
(1)請求項1、4、5、7、10に係る特許は、甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであり、請求項1、4、5、7、10に係る特許は、取り消されるべきものである。
(2)請求項6、9に係る特許は、甲第1号証に記載された発明及び甲第6号証に記載された発明に基づき、容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、請求項6、9に係る特許は、取り消されるべきものである。
請求項11に係る特許は、甲第1号証に記載された発明及び周知技術(甲第7号証参照)に基づき、容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、請求項11に係る特許は、取り消されるべきものである。
3 甲各号証の記載及び甲各号証に記載された発明
(1)甲第1号証
ア 甲第1号証の記載事項
甲第1号証(特開2010-213274号公報。以下「甲1」という。)には、「拡張された被写界深度の監視用撮像システム」(発明の名称)に関し、図面と共に次に掲げる事項が記載されている(下線は当審が付与した。)。
「【0036】
被写界深度DOF及び焦点深度DOF´は、レンズシステム10(後述する)の縦倍率MA及び横倍率MLによって関連付けられており、DOF´=(MA)DOF=(ML)2DOFとされているため、レンズシステム10は、便宜上「拡張された被写界深度」(EDOF)を有するものとして記載する。当業者であれば、この表現によりレンズシステム10が対応する「拡張された焦点深度」も有することを意味すると理解するであろう。よって、拡張された被写界深度EDOF又は拡張された焦点深度EDOF´は、以下において文脈に応じて用いる。」
「【0037】
図1は、本発明のEDOF撮像システム8の実施例の概略図である。EDOF撮像システム8は、物体面OPにおける物体OBの像面IPに像IMを生成するレンズシステム10を含む。レンズシステム10は光軸A1を有し、光軸に沿って最も物体側に第1レンズ群G1、最も像側に第2レンズ群G2を有する。まず、レンズ群G1は第1及び第2メニスカスレンズ素子L1及びL2を有し、各面をS1,S2、S3及びS4とする。最も物体側の第1メニスカスレンズ素子L1は、像面に対して凹である面S1及びS2を有し、最も像側の第2メニスカスレンズ素子L2は物体面に対し凹である面S3及びS4を有する。よって、二つのメニスカスレンズは相対するように配されている。」
「【0043】
レンズ群G1におけるレンズL1及びL2の表面曲率により、レンズ群G2によって生じたフィールドの収差の制御をしつつ球面収差SAを調整することができる。球面収差SAの量の選択は、タブレットD1の一以上の表面曲率を選択することにより設定することができる。実施形態では、レンズL1からL5のうち一以上のレンズがガラス製かプラスチック製である。」
「【0046】
レンズシステム10は、対応する回折限界レンズに比してDOFが増加するように上述の球面収差量を有するよう設計されている。図3は、EDOFレンズシステム10の一例の各面が寄与する球面収差SAの量を、Σで示される総量(「総和」)と共に示す概略図である。」
「【0055】
レンズシステム10の設計例を表2及び3に示している。これは、監視用に適した(そして特にCCTVカメラに適した)ものである。同レンズ例は、次の主なパラメータ特性を有する。
」
「【0056】
図8は、レンズシステム10のフィールドの任意の点について、瞳に関して正規化された瞳座標ρの関数として「波」λにおける光路差(OPD)を示す概略図である。図8に示すOPDは、球面収差の特徴を有する。レンズシステム10の設計の重要な特徴は、球面収差SAがフィールドに対する主な収差となることであり、フィールドの位置に関わらずほぼ一定であることである。この特徴により像フィールド全体にわたり均一な像の質及びEDOFを持続させることができる。この特徴はまた、ゼルニケ係数を選択する表4のリストにおいても明らかであり、ここではゼルニケ係数Z9は球面収差を示し、他の非点収差のゼルニケ係数(Z5及びZ6)やコマ収差のゼルニケ係数(Z7及びZ8)よりも実質的に大きい。」
「【0059】
図1に戻ると、EDOF撮像システム8は、上述のイメージセンサ30を含む。イメージセンサは、イメージセンサが像IMを受信し検出するように像面IPに配された光電面32(例えば、電荷結合素子列)を有する。この場合、像IMはまた「最初の」又は「未処理」画像とここでは呼ぶことにする。実施例では、イメージセンサ30は高解像度のCCDカメラ又はCMOSカメラであるか、それを含む。実施形態では、光電面32は3000×2208画素からなり、画素サイズは3.5ミクロンである。この小さな画素サイズのCMOSカメラでは、飽和容量は21000電子量まで減らされることになり、飽和レベルでは43.2dBという最小限のショット雑音となる。イメージセンサ30の例は、IEEE1394のFire Wireによってイメージプロセッサ(後述する)に連結されたPixelink PL-A781 3000×2208画素のカメラであるか、それを含む。アプリケーションはDLLのPixelinkライブラリによって提供されるAPIを呼び出し、カメラの撮像を制御する。」
「【0060】
実施形態では、EDOF撮像システム8は更に、コンピュータや同様の装置等のコントローラ50を含む。コントローラは、(例えば、コンピュータ読み取り可能な又は装置読み取り可能な媒体の中のソフトウエア等の指令を介して)システムの各部の動作を制御する。コントローラ50は、EDOF撮像システム10の動作を制御するよう構成され、イメージセンサ30に電気的に接続された画像処理部(「イメージプロセッサ」)54を有する。イメージプロセッサ54は、イメージセンサ30からのデジタル化された未処理画像信号SRIを受信し処理し、処理済み画像信号SPIを生成する。なお、詳細は後述する。」
「【0072】
イメージプロセッサ54は、イメージセンサ30からデジタル化された電気的な未処理画像信号SRIを受信し、対応する未処理画像を処理することにより、処理済みの、コントラストを向上させた画像を生成する。これは、空間周波数に関して連続的に減少し、好ましくはオーバーシュート、リンギング及び他のアーチファクトを回避する平滑関数としてMTFを回復させるように未処理画像をフィルタリングする。 」
「【0073】
ノイズ増幅は信号を鮮鋭にするためのフィルタリング処理(例えば、デジタル光学イメージのコントラストを上げる等)ではしばしば問題となる。したがって、一実施形態では、ノイズのパワースペクトルを考慮した最適化したゲイン関数(ウィナーフィルタと同様)を適用して、コントラスト向上処理時のノイズ増幅を削減する。 」
「【0075】
基本的には、MTFは、像から抜粋することができる情報や測定により知られている場合、デフォーカス距離に応じて回復される。図9は、ベストフォーカスから様々な距離における未処理の光学的MTFのプロット図であり、ここではデフォーカス距離ステップδF=1.33・ZFであり、ZFはZF=λ/NA2で定義されるフレネル距離である。NAはデフォーカスが測定された空間(つまり、「像空間」)の開口数である。異なるフォーカス距離の未処理MTFのプロットは、デフォーカスにより生じるMTFの分散を示す。デフォーカスの各ステップでは、デジタルフィルタリング機能は測定されたMTFに応じて処理済み画像にとって最良のMTFを回復させるのに使用される。このフィルタの利用にはデフォーカス量を知る必要があるが、当該技術分野において公知の技術のいずれかを用いれば測定できる。デフォーカスステップδF間で用いられるフィルタは、隣接するフォーカスステップの線形補間である。」
「【0077】
「向上」或いは「回復」OTF´は次のように定義される。
OTF´(u,v,d)=G(u,v,d)OTF(u,v,d)
ここで、OTFはインコヒーレントな光のレンズシステム10に関する光学的伝達関数である。OTF´はデジタル処理を含む撮像システムの均等OTFであり、Gは上記MTFのゲイン関数である。元の、回復されていないMTFに基づく「出力」MTF´の関係式は次の通りである。
MTF´(ω,d)=G´(ω,d)MTF(ω,d) 」
「【0083】
電源ノイズを抑制することは重要である。出力MTF´を得るために未処理MTFのゲインが高くなる距離においては、高い空間周波数において出力MTF´の傾斜を制御して大きなオーバーシュートを回避しつつ、像の信号ノイズ比とMTFレベル間の妥協点を決めることができる。メリット関数Mにおける第3の項は、エッジ広がりの相対的オーバーシュートの2乗であり、図12に示されている。ここでは、オーバーシュートはΔosにより与えられる。」
「【0089】
高解像度セキュリティ撮像等撮像用途によっては高解像度のイメージセンサ30を必要とする。このため、実施形態では、イメージセンサ30は、画素サイズが3.5μmである3000×2208画素列等多数の画素を有するCMOS又はCCDカメラであるか、それを含むものである。この小さな画素サイズのCMOSカメラでは、かかるイメージセンサにおける飽和容量は21000電子量まで削減され、関係するショット雑音の最小値は飽和レベルでは約43.2dBである。 」
「【図1】
」
「【図9】
」
イ 甲第1号証に記載された発明
段落【0037】、図1によると、EDOF(拡張された被写界深度)撮像システムは、「物体の像を生成するレンズシステム10」を有している。
段落【0059】、図1によると、EDOF撮像システムは、「レンズシステム10からの光を受光するイメージセンサ30」を有している。
段落【0060】、【0072】、図1によると、EDOF撮像システムは、「イメージセンサ30からの未処理画像信号を処理する画像処理部54」を有しており、段落【0077】によると、OTFに基づいた復元処理を行うことが明らかであるから、EDOF撮像システムは、「イメージセンサ30からの未処理画像信号をOTFに基づいた復元処理する画像処理部54」を有している。
段落【0059】、【0089】によると、イメージセンサ30の画素サイズは、3.5μmである。
段落【0055】によると、レンズシステム10の設計例が表3に示されている。当該表3に示されたデータ及び波長を656nm(本件特許明細書の段落0082に記載された波長)を用いて、一般的な光学設計・シミュレーション解析ソフト「code V」(Synopsys社製)により点像強度分布を再現する(サンプルピッチは画素ピッチ(3.5μm)の25分の1)と、点像の有効領域である点像分布関数の「1/e2」(本件特許明細書の段落0031)は8.3μmであり、点像の有効領域は3画素に亘る(異議申立書10頁8行~12頁7行)。
以上より、EDOF撮像システムは、「レンズシステム10よりイメージセンサ30の受光面に形成される点像の有効領域がイメージセンサ30の3画素以上に亘る大きさとなるように構成されている」といえる。
段落【0059】、【0089】によると、イメージセンサのS/N比(SNR)は、43.2dBである。
段落【0075】によると、図9は、ベストフォーカスからの様々な距離における未処理の光学的MTFのプロットである。
図9の異なるZF値のプロットにおいて最大値をとるのは、0ZF、すなわち「MTF0ZF」と認められ、1/2ナイキスト周波数(図9の横軸の「0,5」)における「MTF0ZF」の値は、約0.09と読み取れる(少なくとも0.0346より大きな値である)。
したがって、甲1の撮像システムにおいては、イメージセンサ30のS/N比:SNRは43.2dB、1/2ナイキスト周波数におけるMTFが0.09(少なくとも0.0346より大きな値)である。
以上まとめると、甲1には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている。
(甲1発明)
物体の像を生成するレンズシステム10と、
該レンズシステム10からの光を受光するイメージセンサ30と、
該イメージセンサ30からの未処理画像信号をOTFに基づいた復元処理する画像処理部54とを有し、
前記レンズシステム10より前記イメージセンサ30の受光面に形成される点像の有効領域が前記イメージセンサ30の3画素以上に亘る大きさとなるように構成され、
前記イメージセンサ30のS/N比:SNRは43.2dB、該イメージセンサの1/2ナイキスト周波数におけるMTFが0.09(少なくとも0.0346より大きな値)であることを特徴とするEDOF撮像システム。
(2)甲第2号証~甲第5号証
甲第2号証~甲第5号証は、次のとおりである。
甲第2号証:「Nikon D800E:Measurements-DxOMark」(https://www. dxomark.com/Cameras/Nikon/D800E---Measurements)、平成30年4月23日(出力日)
甲第3号証:「Sony Cyber-shot DSC-RX1:Measurements-DxOMark」(https://www.dxomark.com/Cameras/Sony/Cyber-shot-DSC-RX1---Measurements)、平成30年4月23日(出力日)
甲第4号証:「Pentax K-5:Measurements-DxOMark」(https://www.dxomark.com/Cameras/Pentax/K5---Measurements)、平成30年4月23日(出力日)
甲第5号証:「Olympus OM-D:Measurements-DxOMark」(https://www.dxomark.com/Cameras/Olympus/0M-D-E-M5---Measurements)、平成30年4月23日(出力日)
以下「甲第2号証」~「甲第5号証」を「甲2」~「甲5」という。
甲2は、「https://www.dxomark.com/Cameras/Nikon/D800E---Measurements」を平成30年4月23日に出力したものである。甲2自体は、本件特許発明の出願日より前に公開されたものではない。
また、「Nikon D800E」が、2012年4月12日に発売されたとしても、甲2に記載された計測結果が、いつ発売された「Nikon D800E」を計測したものか明らかでなく、甲2をもって、2012年4月12日に発売された「Nikon D800E」の撮像素子のISO感度100におけるS/N比がおよそ45dBであることが立証できたとは認められない。
甲3~甲5も、甲2と同様である。
(3)甲第6号証
ア 甲第6号証の記載事項
甲第6号証(特開2011-227421号公報。以下「甲6」という。)には、「光変調板および撮像レンズ」(発明の名称)に関し、図面と共に次に掲げる事項が記載されている(下線は当審が付与した。)。
「【0035】
本発明の光変調板10は、結像光学系からなる撮像レンズ100を被写界深度拡大光学系として機能させるためにこの撮像レンズ100の光路上に挿入されるものである。すなわち、結像光学系である撮像レンズ100と、光変調素子である光変調板10とを組み合わせた光学系は被写界深度拡大光学系として機能するようになる。」
「【0097】
図4A、図4B、図5A、図5Bは実施例1の撮像レンズ100に関する諸収差を示す図であり、図4Aは、広角端に設定され、かつ光変調板が装着されていない撮像レンズ100の諸収差を示す図、図4Bは、望遠端に設定され、かつ光変調板が装着されていない撮像レンズ100の諸収差を示す図、図5Aは、広角端に設定され、かつ光変調板が装着された撮像レンズ100の諸収差を示す図、図5Bは、望遠端に設定され、かつ光変調板が装着された撮像レンズ100の諸収差を示す図である。」
「【図1A】
」
「【図4A】
」
「【図4B】
」
「【図5A】
」
「【図5B】
」
イ 甲第6号証に記載された技術
以上によると、甲6には、次の技術(以下「甲6技術」という。)が記載されている。
(甲6技術)
「光変調板を挿入することによって球面収差を増大させる技術」
(4)甲第7号証
ア 甲第7号証の記載事項
甲第7号証(特開2013-26875号公報。以下「甲7」という。)には、「画像処理システム」(発明の名称)に関し、図面と共に次に掲げる事項が記載されている(下線は当審が付与した。)。
「【0004】
光学系のボケの低減化に用いるフィルタは、光学系の点拡がり関数PSF(Point Spread Function)に基づいて設計される。理想画像をf(x,y)、ボケ画像などの劣化画像をg(x,y)、PSFをh(x,y)とすると、以下の(1)式の関係式が成り立つ。
【0005】
【数1】
g(x、y)=f(x,y)×h(x,y) (1)
【0006】
式(1)を二次元フーリエ変換すると、(2)式が得られる。
【0007】
【数2】
G(u,v)=F(u,v)H(u,v) (2)
【0008】
なお、H(u,v)は伝達関数(Optical Transfer Function)と呼ばれる。(2)式の両辺に伝達関数の逆フィルタH-1(u,v)を乗じることにより(3)式に示すように、理想画像の二次元フーリエ変換F(u,v)が算出される。
【0009】
【数3】
F(u,v)=H-1(u,v)G(u,v) (3)
【0010】
さらに、(3)式をフーリエ逆変換することにより(4)式に示すように、理想画像を復元することが可能である。
【0011】
【数4】
f(x、y)=h-1(x、y)×g(x、y) (4)
【0012】
ところで、伝達関数H(u,v)の値がゼロである場合や、実質的にゼロである場合に、逆フィルタH-1(u,v)が無限大に発散してしまい、理想画像の二次元フーリエ変換F(u,v)を算出することが出来ない。それゆえ、従来は、逆フィルタH-1(u,v)の代わりにウィーナフィルタなどの画像復元用のフィルタが用いられる。
【0013】
ウィーナフィルタHw1-1(u,v)では、(5)式で示すように、分母に定数Γを付加することにより、発散が防止されている。
【0014】
【数5】
Hw1-1(u,v)=H(u,v)/[H2(u,v)+Γ] (5)
【0015】
(5)式において、定数Γの値を小さくするほどボケの復元強度は高くなる一方で、ノイズが増加する性質がある。上述のようなウィーナフィルタHw1-1(u,v)はボケの度合いが全方向に同様であれば劣化画像を十分に復元可能であるが、方向によってボケの度合いが変わる劣化画像を十分に復元することは出来ない。
【0016】
例えば、σ=1.5のガウス分布特性を有するPSFに対する21×21のサイズを有するウィーナフィルタの例を説明する。σ=1.5のガウス分布特性を有するPSFは、図7に示される。図7に示すように、中心部から同心円状に分布強度が減少している。
【0017】
このようなPSFに対して、係数Γを0.5にしたウィーナフィルタHw1-1(u,v)が、図8に示される。また、このようなウィーナフィルタHw1-1(u,v)をフーリエ逆変換した復元フィルタhw-1(x、y)は、図9に示される。
【0018】
図9におけるグラフの縦軸は、注目画素を原点とする座標(x,y)の画素に対する復元フィルタの要素を表す。図9に示すように、注目画素から同じ距離の画素に対する復元フィルタhw-1(x,y)要素は同じである。
【0019】
このような復元フィルタhw-1(x,y)を用いる場合には、空間周波数に対する伝達関数のMTFは行方向も列方向も同じ曲線となる(図10参照)。すなわち、上述の復元フィルタhw-1(x,y)の復元強度は行方向も列方向にも等しくなる。
【0020】
このような復元フィルタは、ボケの度合いが全方向で同等であれば、ボケ画像の復元に適している。しかし、ボケの度合いが方向によって異なる場合には、最適のフィルタとならない。」
イ 甲第7号証に記載された技術
以上によると、甲7には、次の技術(以下「甲7技術」という。)が記載されている。
(甲7技術)
「ウィーナフィルタをフーリエ逆変換した復元フィルタを用いてボケ画像を復元する技術」
4 判断
(1)取消理由通知に記載した取消理由について
取消理由は、上記第3の2のとおり、訂正前の請求項1に係る特許及び訂正前の請求項を引用する訂正前の請求項4、5、7、10に係る特許が、甲1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであり、当該特許は取り消されるものである、及び請求前の請求項1を引用する請求項6、9に係る特許が甲1及び甲6に記載された発明に基づき、容易に発明できたものであり、請求前の請求項1を引用する請求項11に係る特許が甲1に記載された発明及び周知技術に基づき、容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、当該特許は取り消されるものである、というものである。
しかしながら、上記第2の本件訂正請求により、訂正前の請求項1は削除され、訂正後の請求項4~7、9~11に係る特許は、訂正前の請求項1を引用しないものとなり、取消理由が通知していない請求項2を引用するものとなった。
したがって、上記取消理由は解消した。
(2)取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
ア 本件発明6、9:甲1に記載された発明に基づく新規性
特許異議申立人は、訂正前の本件発明6は、甲1に記載された発明であると主張する。
しかしながら、本件訂正請求により、本件発明2は、訂正前の請求項2を他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとなり、本件発明6は請求項2を引用するものとなった。特許異議申立人は、訂正前の本件発明2が甲1に記載された発明であると主張していないから、本件訂正請求により訂正前の請求項1を引用しないものとなった本件発明6について、甲1に記載された発明であるという主張は理由がない。
また、本件発明9も本件発明6と同様である。
よって、上記主張に理由はない。
イ 本件発明1、4、5、7、10、11:甲1に記載された発明に基づく容易想到性
特許異議申立人は、訂正前の本件発明1、4、5、7、10、11は、甲1に記載された発明に基づいて容易想到であると主張する。
しかしながら、本件訂正請求により、訂正前の本件発明1は削除され、本件発明2は、訂正前の請求項2を他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとするものとなり、本件発明4、5、7、10、11は請求項2を引用するものとなった。特許異議申立人は、訂正前の本件発明2が甲1に記載された発明に基づいて容易想到であると主張していないから、本件訂正請求により訂正前の請求項1を引用しないものとなった本件発明4、5、7、10、11は、甲1に記載された発明に基づいて容易想到であるという主張は理由がない。
よって、上記主張に理由はない。
ウ 本件発明12:甲1に記載された発明に基づく新規性及び容易想到性
(ア)本件発明12及び甲1に記載された発明
本件発明12と甲1に記載された発明とを対比するにあたり、本件発明12(上記第3の1)と甲1発明(上記第3の3(1)イ)とを再掲する。
(本件発明12)
(12A)被写体の像を結像させる結像光学系と、該結像光学系から入射する光を受光する撮像素子と、該撮像素子から出力された画像に復元処理を施す画像処理部と、を有する撮像システムを製造する方法であって、
(12B)使用環境に応じたS/N比:SNRを特定された撮像素子を用意する工程と、
(12C)該撮像素子の受光面に投影された点像の有効領域が前記撮像素子の受光画素の3画素以上に亘る大きさとなり、前記SNRと、前記撮像素子の1/2ナイキスト周波数におけるMTF値:Mとが、条件:
(A) SNR≧20log10(5/M)
を満足するようにした結像光学系を用意する工程と、
(12D)前記撮像素子から出力された画像に、前記結像光学系のOTFに基づいた復元処理を施す画像処理部を用意する工程と、
(12E)前記撮像素子と結像光学系と画像処理部を組み合わせる工程と、
(12F)を有することを特徴とする撮像システムの製造方法。
(甲1発明)
物体の像を生成するレンズシステム10と、
該レンズシステム10からの光を受光するイメージセンサ30と、
該イメージセンサ30からの未処理画像信号をOTFに基づいた復元処理する画像処理部54とを有し、
前記レンズシステム10より前記イメージセンサ30の受光面に形成される点像の有効領域が前記イメージセンサ30の3画素以上に亘る大きさとなるように構成され、
前記イメージセンサ30のS/N比:SNRは43.2dB、該イメージセンサの1/2ナイキスト周波数におけるMTFが0.09(少なくとも0.0346より大きな値)であることを特徴とするEDOF撮像システム。
ここで、甲1発明は、「EDOF撮像システム」の発明であるから、本件発明12と対比するに際し、甲1に「EDOF撮像システム」の製造方法が記載されているか検討する。
甲1の段落【0105】には、「以上の通り、当業者にとって、本発明の精神と範囲より逸脱することなく、本発明に対し多様な変更やバリエーションをなすことができることは明らかである。従って、本発明の変更やバリエーションが添付の請求の範囲やその均等物の範囲内に入るものであるならば、本発明は、それらの変更やバリエーションをその範囲に含むことを意味する。」と記載されている。
そうすると、単に、甲1発明の「EDOF撮像システム」の構成である「レンズシステム10」、「イメージセンサ30」、「画像意処理部」を用意し、組み合わせて「EDOF撮像システム」を製造する方法は、甲1に記載されているといえる。
甲1発明の「EDOF撮像システム」を製造する方法(以下「甲1発明’」という。)は次のとおりである。
(甲1発明’)
(a)物体の像を生成するレンズシステム10と、該レンズシステム10からの光を受光するイメージセンサ30と、該イメージセンサ30からの未処理画像信号をOTFに基づいた復元処理する画像処理部54と、を有する撮像システムを製造する方法であって、
(b)イメージセンサ30を用意する工程と、
(c)前記レンズシステム10より前記イメージセンサ30の受光面に形成される点像の有効領域が前記イメージセンサ30の3画素以上に亘る大きさとなるように構成され、
前記イメージセンサ30のS/N比:SNRは43.2dB、該イメージセンサの1/2ナイキスト周波数におけるMTFが0.09(少なくとも0.0346より大きな値)であるレンズシステム10を用意する工程と、
(d)前記イメージセンサ30からの未処理画像信号をOTFに基づいた復元処理する画像処理部54を用意する工程と、
(e)前記イメージセンサ30と前記レンズシステム10と前記画像処理部54を組み合わせる工程と、
(f)を有することを特徴とするEDOF撮像システムの製造方法。
なお、(a)~(f)は、甲1発明’の構成を区別するために、当審で付与した。以下、各構成を「構成a」~「構成f」という。
(イ)対比
本件発明12と甲1発明’とを対比する。
甲1発明’の「レンズシステム10」、「イメージセンサ30」、「画像処理部54」は、本件発明12の「結像光学系」、「撮像素子」、「画像処理部」に相当する。
a 構成要件12Aと構成aとを対比すると、「被写体の像を結像させる結像光学系と、該結像光学系から入射する光を受光する撮像素子と、該撮像素子から出力された画像に復元処理を施す画像処理部と、を有する撮像システムを製造する方法」として一致する。
b 構成要件12Bと構成bとを対比すると、「撮像素子を用意する工程」として共通する。
しかしながら、「撮像素子」が、構成要件12Bにおいては、「使用環境に応じたS/N比:SNRを特定された」ものであるのに対し、構成bにおいては「使用環境に応じたS/N比:SNRを特定された」ものではない点で相違する。
c 構成要件12Cと構成cとを対比する。
甲1発明’において、20log10(5/M)を計算すると、M=0.09の場合34.9dB(M=0.0346場合43.2dB)である。
イメージセンサ30のSNRは43.2dBであるから、M=0.09の場合、式(A) SNR≧20log10(5/M)を満足する(M=0.0346が式(A)を満足する下限値である)。
以上より、甲1発明’は、「イメージセンサ30のS/N比:SNRと、イメージセンサの1/2ナイキスト周波数におけるレンズシステム10のMTF値:Mとが、条件:(A) SNR≧20log10(5/M)を満足するレンズシステム10を用意する工程」を有しているといえる。
したがって、構成要件12Cと構成cとは、「該撮像素子の受光面に投影された点像の有効領域が前記撮像素子の受光画素の3画素以上に亘る大きさとなり、前記SNRと、前記撮像素子の1/2ナイキスト周波数におけるMTF値:Mとが、条件:
(A) SNR≧20log10(5/M)
を満足するようにした結像光学系を用意する工程」として一致する。
d 構成要件12Dと構成dとを対比すると、「前記撮像素子から出力された画像に、前記結像光学系のOTFに基づいた復元処理を施す画像処理部を用意する工程」として一致する。
e 構成要件12Eと構成eとを対比すると、「前記撮像素子と結像光学系と画像処理部を組み合わせる工程」として一致する。
f 構成要件12Fと構成fとを対比すると、「撮像システムの製造方法」として一致する。
(ウ)一致点、相違点
以上によると、本件発明12と甲1発明’との一致点、相違点は次のとおりである。
(一致点)
被写体の像を結像させる結像光学系と、該結像光学系から入射する光を受光する撮像素子と、該撮像素子から出力された画像に復元処理を施す画像処理部と、を有する撮像システムを製造する方法であって、
撮像素子を用意する工程と、
該撮像素子の受光面に投影された点像の有効領域が前記撮像素子の受光画素の3画素以上に亘る大きさとなり、前記SNRと、前記撮像素子の1/2ナイキスト周波数におけるMTF値:Mとが、条件:
(A) SNR≧20log10(5/M)
を満足するようにした結像光学系を用意する工程と、
前記撮像素子から出力された画像に、前記結像光学系のOTFに基づいた復元処理を施す画像処理部を用意する工程と、
前記撮像素子と結像光学系と画像処理部を組み合わせる工程と、
を有することを特徴とする撮像システムの製造方法。
(相違点)
「撮像素子」が、本件発明12においては「使用環境に応じたS/N比:SNRを特定された」ものであるのに対し、甲1発明’においては「使用環境に応じたS/N比:SNRを特定された」ものでない点
(エ)判断
a 新規性
上記(ウ)のとおり、本件発明12と甲1発明’とを対比すると、相違点があるから、本件発明12は甲1発明’ではなく、特許異議申立人の新規性がないとの主張は理由がない。
b 容易想到性
上記相違点について検討する。
甲1発明’における「撮像素子」を「使用環境に応じたS/N比:SNRを特定された」ものとする理由は、甲6、甲7をみてもない。
また、甲2~5については上記第3の3(2)のとおりであるが、仮に甲2~5により、本件発明12の出願当時にISO感度100におけるS/N比がおよそ39~45dBである撮像素子が周知であるとしても、甲1発明’における「撮像素子」を「使用環境に応じたS/N比:SNRを特定された」ものとする理由にはならない。
さらに、甲1発明’における「撮像素子」を「使用環境に応じたS/N比:SNRを特定された」ものとする理由はない。
したがって、特許異議申立人の容易想到性の主張は理由がない。
(オ)小括
以上のとおり、本件発明12が甲1に記載された発明であるという異議申立人の主張は理由はない。また、本件発明12が、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到できるものであるという異議申立人の主張は理由がない。
エ 記載不備(明確性要件違反)
(ア)「撮像素子のS/N比:SNR」について
特許異議申立人は、概略、次のように主張している(特許異議申立書21頁14行~末行)。
『本件特許2-12(本件特許1は訂正請求により削除された)は、その発明特定事項に「撮像素子のS/N比:SNR」を含むが、本件特許明細書の段落【0043】によれば撮像素子のSNRは測定環境を特定しなければ一意に定めることができない。また、同段落【0044】によれば、SNRの測定環境として「実際に使用される環境」としか定めておらず、「実際に使用される環境」は、客観性を欠き、「撮像素子のSNR」を定義するものではなく、「撮像素子のS/N比:SNR」を含む本件特許発明2-12は、明確でない。』
しかしながら、「撮像素子のS/N比:SNR」は、文言どおり撮像素子のS/N比という意味であって、文言的に明確である。また、「実際に使用される環境において測定されたSNR」(段落【0044】)も文言どおりの意味として理解でき、明確である。
そして、本件発明2~12は、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとはいえず、特許異議申立人の主張は理由がない。
(イ)「20log10{ΣΣH*(u,ν)/[|H(u,ν)|2+{10-SNR/10}]}」について
特許異議申立人は、概略、次のように主張している(特許異議申立書22頁3~37行)。
『本件発明2の「条件: (B) SNR-20log10{ΣΣH*(u,ν)/[|H(u,ν)|2+{10-SNR/10}]}≧15」が、以下の3つの点で明確でない。
a 本件特許明細書の段落【0114】によると、条件(B)の左辺の第2項は「周波数空間上での画像処理フィルタ特性の平均値」であるが、条件(B)の左辺の第2項は平均を演算するものでない。
b 条件(B)の左辺の第2項の二重総和に関して、総和を取る際に変化させるパラメータの上限と下限が規定されておらず、計算することができない。
c 条件(B)の左辺の第2項の二重総和に関して、総和を取る際に変化させるパラメータの離散化間隔(上限から下限の間でパラメータを何分割するか)が規定されていないから、計算することができない。』
上記各主張について検討する。
・上記aについて
条件(B)の左辺の第2項は「周波数空間上での画像処理フィルタ特性の平均値」であるから、「平均値」として理解でき、条件(B)に平均を演算することが記載されていなくとも、表記上省略しているだけで、平均であることが理解できるものである。
・上記bについて
u、νは周波数であるから、有意な上限、下限を有しているということは、当業者に明らかな事項であり、不明確とまではいえない。
・上記cについて
間隔をどのくらいにするかは、所望の精度や計算コストに応じて適宜設定されることにすぎず、不明確とまではいえない。
以上のとおりであるから、本件発明2~12は、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとはいえず、特許異議申立人の主張は理由がない。
第4 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、請求項12及び本件訂正請求により訂正された訂正後の請求項2~11に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項12及び本件訂正請求により訂正された訂正後の請求項2~11に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、請求項1に係る特許は、訂正により削除されたため、本件特許の請求項1に対して、特許異議申立人がした特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しない。
よって、結論のとおり決定する。
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2018-700350