特許異議申立
2018-700297
マグカーボンれんが及びこれを使用した溶鋼鍋
- 審判番号
- 2018-700297
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2016-147563
- 登録番号
- 特許第6215409号(P6215409)
- 請求日
- 2018年04月10日
- 審決日
- 2018年11月14日
- 公報発行日
- 2019年02月22日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 【権利者】黒崎播磨株式会社
- 【権利者代理人】特許業務法人英和特許事務所
- 【異議申立人】品川リフラクトリーズ 株式会社
- 【異議申立人代理人】福井 豊明
- 審判長/審判官
- 審判長 豊永 茂弘
- 審判官 大橋 賢一
- 審判官 宮澤 尚之
- 分類
- P1651.113-YAA(C04B) / P1651.121-YAA(C04B) / P1651.851-YAA(C04B) / P1651.853-YAA(C04B)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第120条の5第2項、特許法第29条第1項、特許法第29条第2項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第6215409号発明「マグカーボンれんが及びこれを使用した溶鋼鍋」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第6215409号の明細書及び特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1~6〕について訂正することを認める。
特許第6215409号の請求項1~6に係る特許を維持する。
理由
【理 由】
第1.手続の経緯
本件特許6215409号は、平成26年7月27日に出願された特願2016-147563号の特許請求の範囲に記載された請求項1~6に係る発明について、平成29年9月29日に設定登録、同年10月18日に登録公報の発行がされたものであり、その後、その全請求項に係る特許について、平成30年4月10日付けの特許異議の申立てが品川リフラクトリーズ株式会社(以下、「申立人」という。)によりされ、同年7月10日付けの取消理由を通知したところ、同年9月3日付けの訂正請求がされ、これに対し、同年10月16日付けの意見書が申立人より提出されたものである。
第2.訂正請求について
1.訂正の内容
本件訂正請求は、次の訂正事項よりなる(下線部が訂正箇所)。
訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、
「CaOを0.3~3質量%及びSiO2を0.4~3質量%を含有する電融マグネシア」と記載されているのを、
「CaOを1.1~3質量%及びSiO2を0.6~3質量%を含有する電融マグネシア」に訂正する。
訂正事項2
明細書の【0009】に、
「(1)CaOを0.3~3質量%及びSiO2を0.4~3質量%を含有する電融マグネシア」と記載されているのを、
「(1)CaOを1.1~3質量%及びSiO2を0.6~3質量%を含有する電融マグネシア」に訂正する。
訂正事項3
明細書の【0034】に、
「表1に示した実施例1~6は、」と記載されているのを、
「表1に示した実施例2~4,6は、」に訂正する。
訂正事項4
明細書の【0035】に、
「表1に示した各実施例について具体的にみると、実施例1~3では、電融マグネシア中のSiO2含有量が増えるにつれて耐酸化性が向上するが、反面、耐食性は低下することがわかる。実施例4は、電融マグネシア中のSiO2含有量が上限の場合であり、耐酸化性に優れているが耐食性は実施例中では最も低い。実施例5は、電融マグネシア中のCaO含有量が0.3質量%と下限の場合であるが十分な耐酸化性が得られている。」と記載されているのを、
「表1に示した各実施例及び参考例について具体的にみると、参考例1,実施例2,3では、電融マグネシア中のSiO2含有量が増えるにつれて耐酸化性が向上するが、反面、耐食性は低下することがわかる。実施例4は、電融マグネシア中のSiO2含有量が上限の場合であり、耐酸化性に優れているが耐食性は実施例中では最も低い。参考例5は、電融マグネシア中のCaO含有量が0.3質量%の場合であるが十分な耐酸化性が得られている。」に訂正する。
訂正事項5
明細書の【0036】に、
「一方、比較例1はSiO2含有量が0.1質量%と本発明の下限を下回る電融マグネシアを使用した例であるが、実施例1のSiO2含有量が0.4質量%の電融マグネシアを使用し場合と比べて耐酸化性指数が100と大幅に低く実用的ではない。比較例2はSiO2含有量が3.5質量%と本発明の上限を上回る電融マグネシアを使用した例であるが、実施例4のSiO2含有量が3質量%の電融マグネシアを使用し場合と比べると耐酸化性は同等であるが耐食性指数が100と低すぎて実用レベルではない。比較例3はCaO含有量が0.1質量%と本発明の下限を下回る電融マグネシアを使用した例であるが、実施例5のCaO含有量が0.3質量%の電融マグネシアを使用し場合と比べて耐酸化性指数が90と低い。」と記載されているのを、
「一方、比較例1はSiO2含有量が0.1質量%と本発明の下限を下回る電融マグネシアを使用した例であるが、参考例1のSiO2含有量が0.4質量%の電融マグネシアを使用し場合と比べて耐酸化性指数が100と大幅に低く実用的ではない。比較例2はSiO2含有量が3.5質量%と本発明の上限を上回る電融マグネシアを使用した例であるが、実施例4のSiO2含有量が3質量%の電融マグネシアを使用し場合と比べると耐酸化性は同等であるが耐食性指数が100と低すぎて実用レベルではない。比較例3はCaO含有量が0.1質量%と本発明の下限を下回る電融マグネシアを使用した例であるが、参考例5のCaO含有量が0.3質量%の電融マグネシアを使用し場合と比べて耐酸化性指数が90と低い。」に訂正する。
訂正事項6
明細書の【0040】の【表1】に、
「実施例1」、「実施例5」と記載されているのをそれぞれ、
「参考例1」、「参考例5」に訂正する。
2.訂正要件の判断
訂正事項1について
訂正事項1は、請求項1に記載された「マグカーボンれんが」の発明において、構成成分である「電融マグネシア」中に含まれるCaO及びSiO2の含有量の数値範囲をより限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。そして、本件明細書の【0010】には、「また、より耐酸化性と耐食性の高いマグカーボンれんがとする場合には、電融マグネシア中のCaO含有量は1.1~2.0質量%、SiO2含有量は0.6~2.1質量%とすることができる。」と記載されていたから、この訂正は、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
訂正事項2~6について
訂正事項2~6は、明細書に記載された「本発明」及び「実施例」の説明を、訂正事項1により訂正された請求項1に係る発明に整合させるものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、訂正事項1同様、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
一群の請求項について
訂正前の請求項1~6は、請求項1を請求項2~6が引用するものであるから、一群の請求項である。
したがって、請求項1に係る訂正事項1は、この一群の請求項1~6について請求されたものと認められ、明細書に係る訂正事項2~6は、この一群の請求項の全てについて請求されたものと認められる。
3.むすび
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第3号に規定された事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び同条第9項において準用する同法第126条第4項~第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1~6〕について訂正することを認める。
第3.本件発明について
訂正が認められたことにより、本件特許の請求項1~6に係る発明(以下、「本件発明1~6」という。)は、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1~6に記載された次の事項により特定されるとおりのものと認められる。
【請求項1】
CaOを1.1~3質量%及びSiO2を0.6~3質量%を含有する電融マグネシアを65~97質量%、黒鉛を1~30質量%、並びに炭化珪素を1~6質量%含む耐火原料配合物を、有機バインダーとともに混練、成形した後、乾燥して得られる、溶鋼鍋のスラグライン部用のマグカーボンれんが。
【請求項2】
前記耐火原料配合物中の炭化珪素は粒度0.074mm以下が80質量%以上である請求項1に記載のマグカーボンれんが。
【請求項3】
前記耐火原料配合物中の電融マグネシアは、CaO含有量が1.1~2.0質量%、かつSiO2含有量が0.6~2.1質量%である請求項1又は請求項2に記載のマグカーボンれんが。
【請求項4】
前記耐火原料配合物中の炭化珪素の含有量が1~3質量%である請求項1から請求項3のいずれかに記載のマグカーボンれんが。
【請求項5】
前記耐火原料配合物はアルミニウム及び/又はアルミニウム合金を0.5~5質量%含む請求項1から請求項4のいずれかに記載のマグカーボンれんが。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれかに記載のマグカーボンれんがをスラグライン部に設置した溶鋼鍋。
第4.取消理由(申立理由)について
1.概要
申立人が主張し、当審が通知した取消理由は、
甲第1号証:特開2016-108187号公報
(以下、「甲1」という。)
甲第2号証:耐火物技術協会編「耐火物手帳 改訂12版」耐火物技術協会
2015.8.31発行,310頁
(以下、「甲2」という。)
を引用し、
「訂正前の本件発明1~5は、甲1に記載された発明であるから、その特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、また、訂正前の本件発明1~6は、甲1,2に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。」というものである。
2.判断
(1)甲1に記載された発明
甲1の【0001】には、
「本発明は、溶融金属容器等に、なかでもVOD鍋スラグラインとか特殊鋼取鍋スラグライン等、鉄鋼用精錬炉に好適に使用される低カーボンMgO-Cれんがに関するものである。」こと、
【0013】には、
「本発明は、マグネシア原料100重量部に対して外掛けで、合量0~7重量%のピッチ粉及び/または鱗状黒鉛が配合されている低カーボンMgO-Cれんがにおいて、前記マグネシア原料の粒度構成を適正化し、更に炭化珪素原料を併用することにより、低カーボンMgO-Cれんがの耐食性と耐熱スポーリング性を損なうことなく、耐構造スポーリング性を向上させることが出来るという新規な知見に基づいて完成させたものである。」こと、
【0033】~【0035】には、
「以下、本発明の実施例を説明する。
試料作製は特殊鋼取鍋用製品製造ラインを用いて行った。表1,2に記載の割合で原料を調合し、高速ミキサーで混練し、230×230×85mmの形状において、真空プレスにより成形した。乾燥はバッチ式ドライヤーにより、最高温度300±10℃で8時間保持により行った。
【表1】
」
ことが記載されている。
以上の記載によれば、甲1には、特殊鋼取鍋スラグライン用低カーボンMgO-Cれんがの実施例3として、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「電融マグネシア原料100重量部に対して外掛けで、3重量%の200メッシュ以下の炭化珪素、1重量%の金属Al、1重量%の金属Si、1重量%のピッチ、2重量%の鱗状黒鉛、2重量%のフェノール樹脂を配合し、混練、成形した後、乾燥して得られる特殊鋼取鍋スラグライン用低カーボンMgO-Cれんが。」
(2)発明の対比
本件発明1と引用発明とを対比すると、引用発明の「フェノール樹脂」が本件発明1の「有機バインダー」に相当するから、有機バインダー以外の原料を本件発明と同様の内割換算にすると、引用発明は、「電融マグネシアを約92.6質量%、約2.8質量%の200メッシュ以下の炭化珪素、約0.9質量%の金属Al、約0.9質量%の金属Si、約0.9質量%のピッチ、約1.9質量%の鱗状黒鉛」の耐火原料配合物を有機バインダーと混練したものと認められる。
してみると、本件発明1のうち、
「電融マグネシアを65~97質量%、黒鉛を1~30質量%、並びに炭化珪素を1~6質量%含む耐火原料配合物を、有機バインダーとともに混練、成形した後、乾燥して得られる、溶鋼鍋のスラグライン部用のマグカーボンれんが。」の点は引用発明と一致し、本件発明1の電融マグネシアが、
「CaOを1.1~3質量%及びSiO2を0.6~3質量%を含有する」のに対し、引用発明の電融マグネシアの成分組成が不明な点で相違する。
(3)相違点の判断
そこでこの相違点について検討するに、甲2の310頁には、電融マグネシアの化学組成について、
「
」
が記載されており、原産地の異なる電融マグネシアうちトルコ産のもののみが、CaOを1.1~3質量%及びSiO2を0.6~3質量%を含有するものと認められる。
しかしながら、甲1の【0023】には、
「本発明の低カーボンMgO-Cれんがに使用するマグネシア原料としては、電融マグネシア、海水マグネシア、天然マグネシア等が何れも使用可能である。そして、純度に関しては、不純物による耐食性の低下や過焼結の影響を避けるために95重量%以上の高純度のものを使用するのが望ましい。」と、引用発明で使用するマグネシア原料について、必ずしも電融マグネシアである必要がなく、さらに、耐食性の観点から不純物は少ない方が良いことが記載されている。
してみると、甲1,2の記載から、引用発明の電融マグネシアが、トルコ産のものであるとはいえないし、また、引用発明の電融マグネシアとして、不純物であるCaO及びSiO2を一定量含むトルコ産のものを選択することが、当業者に示唆されているともいえない。
さらに、本件明細書の【0012】には、
「本発明において炭化珪素は酸化防止材として使用する。炭化珪素は前述のとおり、れんが使用時の高温下においてSiC+2CO→SiO2+3Cの分解反応によりSiO2を生成し、電融マグネシア中のMgO、CaO、SiO2と反応することで、MgO-CaO-SiO2系の低融点物質を生成する。この低融点物質によりマグネシア粒子間の隙間が充填されるため、れんが中への空気の侵入が抑制され黒鉛(炭素)などの気相酸化が抑制される。その結果、れんが組織の強度低下が抑制され、耐磨耗性、耐食性が向上する。」と、本件発明1がCaO及びSiO2を一定量含む電融マグネシアを用いることで、耐食性だけでなく、気相酸化や強度低下が抑制されることが記載されており、このような作用効果を、甲1,2の記載から当業者が予期し得たとこととはいえない。
したがって、本件発明1は、甲1に記載された発明であるとはいえないし、甲1,2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。
本件発明1を引用する本件発明2~6についても同様である。
(4)申立人の主張について
申立人は意見書で、甲2記載のトルコ産の電融マグネシアだけでなく、中国産の電融マグネシアも、そのロット毎の組成のバラツキから本件発明1で特定する化学組成を満たすことがあるから、本件発明1には新規性、進歩性がない旨主張している。
しかしながら、組成のバラツキの結果、製造されたれんがにおいて、偶然に本件発明1の要件を満足する部分があっても、そのようなれんがが、本件発明1の作用効果を奏するとは認められず、また、本件発明1の作用効果を示唆するわけでもない。
したがって、上記主張によっては、本件発明1の新規性も進歩性も否定することはできない。
第5.むすび
以上のとおりであるから、取消理由(申立理由)によっては、請求項1~6に係る特許を取り消すことはできない。
そして、他に請求項1~6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
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