特許異議申立
2018-700280
フレキシブルデバイス基板形成用ポリイミド前駆体樹脂組成物及びそれを用いたフレキシブルデバイスの製造方法、フレキシブルデバイス
- 審判番号
- 2018-700280
- 法域
- 特許
- 審判種別
- 異議申立(異議の決定)
- 出願番号
- 特願2015-106345外部サイト(J-PlatPat)へ移動します
- 請求日
- 2018年04月04日
- 審決日
- 2019年11月25日
- 公報発行日
- 2020年02月28日
- 結論
- 訂正認容
- 当事者
- 分類
- P1651.121-YAA(C08L) / P1651.537-YAA(C08L) / P1651.536-YAA(C08L) / P1651.113-YAA(C08L)
- 条文(本文から自動抽出・参考)
- 特許法第29条第1項第3号、特許法第36条第6項第1号、特許法第29条、特許法第36条第6項、特許法第120条の5第2項、特許法第29条第2項、特許法第36条第4項第1号、特許法第120条の5第7項、特許法第120条の5第9項、特許法第120条の5第4項
- データ出所
- 審決公報(SGML)
事件の表示
特許第6206446号発明「フレキシブルデバイス基板形成用ポリイミド前駆体樹脂組成物及びそれを用いたフレキシブルデバイスの製造方法、フレキシブルデバイス」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。
結論
【結 論】
特許第6206446号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1ないし7につきそれぞれ請求項ごとに訂正することを認める。
特許第6206446号の請求項1ないし7に係る特許を維持する。
理由
【理 由】
第1 手続の経緯・本件特許異議の申立ての趣旨
1.本件特許の設定登録までの経緯
本件特許第6206446号に係る出願(特願2015-106345号、以下「本願」という。)は、平成21年3月2日に出願人日立化成デュポンマイクロシステムズ株式会社(以下「特許権者」ということがある。)によりされた特許出願(特願2009-47876号、以下「原出願」という。)の一部を平成27年5月26日に新たに特許出願したものであり、平成29年9月15日に特許権の設定登録(請求項の数7)がされ、平成29年10月4日に特許公報が発行されたものである。
2.本件異議申立の趣旨
本件特許につき平成30年4月4日に特許異議申立人高橋美穂(以下「申立人1」という。)により、また、同日に特許異議申立人野田澄子(以下「申立人2」という。)により、いずれも「特許第6206446号の特許請求の範囲の全請求項に記載された発明についての特許を取り消すべきである。」という趣旨の本件特許異議の申立てがそれぞれされた。(以下、各人からの申立てをそれぞれ「申立て1」及び「申立て2」ということがある。)
3.以降の手続の経緯
以降の手続の経緯は、以下のとおりである。
平成30年 6月12日付け 取消理由通知
平成30年 8月14日 意見書・訂正請求書
平成30年 8月20日付け 通知書(各申立人あて)
平成30年 9月21日 意見書(申立人1)
同日 意見書(申立人2)
平成30年12月 6日付け 取消理由通知(決定の予告)
平成31年 2月12日 意見書・訂正請求書
平成31年 2月18日付け 通知書(各申立人あて)
平成31年 3月19日 意見書(申立人1)
平成31年 3月20日 意見書(申立人2)
令和 元年 5月21日付け 取消理由通知(決定の予告)
令和 元年 7月22日 意見書・訂正請求書
令和 元年 7月31日付け 通知書(各申立人あて)
令和 元年 8月30日 意見書(申立人1)
令和 元年 8月30日 意見書(申立人2)
(上記のとおり、令和元年7月22日に新たな訂正請求がされたから、平成30年8月14日付け及び平成31年2月12日付けの各訂正請求は、特許法第120条の5第7項の規定により、いずれも取り下げられたものとみなす。)
第2 申立人が主張する取消理由
各申立人が主張する取消理由はそれぞれ以下のとおりである。
1.申立人1の取消理由
申立人1は、同人が提出した本件異議申立書(以下、「申立書1」という。)において、下記甲第1号証ないし甲第5号証を提示し、具体的な取消理由として、概略、以下の(1)ないし(5)が存するとしている。
(1)本件特許の請求項1ないし7に係る発明は、いずれも甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができるものではないから、その特許は同法第113条第2号の規定に該当し、取り消すべきものである。(以下「取消理由1-1」ということがある。)
(2)本件特許の請求項1ないし7に係る発明は、いずれも甲第1号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その特許は同法第113条第2号の規定に該当し、取り消すべきものである。(以下「取消理由1-2」ということがある。)
(3)本件特許の請求項1ないし7に係る発明は、いずれも甲第4号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができるものではないから、その特許は同法第113条第2号の規定に該当し、取り消すべきものである。(以下「取消理由1-3」ということがある。)
(4)本件特許の請求項1ないし7に係る発明に関して、本件特許に係る明細書(以下「本件特許明細書」という。)の発明の詳細な説明の記載が不備であり、各請求項に係る発明を当業者が実施することができるように記載されておらず、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、特許法第36条第4項第1号の規定を満たしていないから、請求項1ないし7に係る発明についての特許は、いずれも特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであって、同法第113条第4号の規定に該当し、取り消すべきものである。(以下「取消理由1-4」ということがある。)
(5)本件特許の請求項1ないし7に関して、同各項の記載が不備であり、請求項1ないし7の各記載は、特許法第36条第6項第1号に適合するものではなく、同条同項(柱書)の規定を満たしていないから、請求項1ないし7に係る発明についての特許は、いずれも特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであって、同法第113条第4号の規定に該当し、取り消すべきものである。(以下「取消理由1-5」ということがある。)
・申立人1提示の甲号証
甲第1号証:特表2010-507829号公報
(平成22年3月11日発行。なお、申立人1は同文献につき「(国際公開第2008/050300号の国内公表)」と記載しているが、正確には、国際公開と公表公報とは別異の刊行物であり、書証として証拠提示されたのは公表公報であるから、上記のとおり表記し頒布日を認定する。)
甲第2号証:特開2002-363283号公報
甲第3号証:今井淑夫著、エレクトロニクス実装学会誌、第4巻、第7号(2001年)、第640~646頁
甲第4号証:特開平11-277699号公報
甲第5号証:国際公開第2009/081630号
(2009年7月2日国際公開)
(以下、上記「甲第1号証」ないし「甲第5号証」をそれぞれ「甲1-1」ないし「甲1-5」と略していうことがある。)
また、申立人1は、平成31年3月19日付け意見書に添付して、以下の参考資料1ないし3を提示している。
参考資料1:特開平6-184439号公報
参考資料2:特開平7-94834号公報
参考資料3:特開2006-321229号公報
(以下、「参考資料1」ないし「参考資料3」をそれぞれ「参1」ないし「参3」と略していうことがある。)
2.申立人2の取消理由
申立人2は、同人が提出した本件異議申立書(以下、「申立書2」という。)において、下記甲第1号証ないし甲第10号証を提示し、具体的な取消理由として、概略、以下の(1)ないし(4)が存するとしている。
(1)本件特許の請求項1ないし7に係る発明は、いずれも甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができるものではないから、その特許は同法第113条第2号の規定に該当し、取り消すべきものである。(以下「取消理由2-1」ということがある。)
(2)本件特許の請求項1ないし7に係る発明は、いずれも甲第1号証に記載された発明に甲第9号証及び甲第10号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その特許は同法第113条第2号の規定に該当し、取り消すべきものである。(以下「取消理由2-2」ということがある。)
(3)本件特許の請求項1ないし7に係る発明は、いずれも甲第2号証に記載された発明に甲第1号証及び甲第3号証ないし甲第10号証に記載された事項との組合せに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その特許は同法第113条第2号の規定に該当し、取り消すべきものである。(以下「取消理由2-3」ということがある。)
(4)本件特許の請求項1ないし7に関して、同各項の記載が不備であり、請求項1ないし7の各記載は、特許法第36条第6項第1号に適合するものではなく、同条同項(柱書)の規定を満たしていないから、請求項1ないし7に係る発明についての特許は、いずれも特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであって、同法第113条第4号の規定に該当し、取り消すべきものである。(以下「取消理由2-4」ということがある。)
・申立人2提示の甲号証
甲第1号証:特開2008-34790号公報
甲第2号証:国際公開第2008/050300号
甲第3号証:特表2010-507829号公報(甲2の邦訳文として)
甲第4号証:HD MicroSystems社が2006年6月14日の時点で公開していたものと認められる「PI-2611」なる商品名のポリイミドコーティング剤に係るMSDS
甲第5号証:ADVANCES in POLYIMIDE SCIENCE and TECHNOLOGY,Oct.30-Nov.1,1991,p.15-32
甲第6号証:Journal of Photopolymer Science and Technology,Vol.18,No.2(2005)p.327-332
甲第7号証:The International Journal of Microcircuits and Electronic Packaging,Vol.23,No.2,Second Quarter 2000,p.162-171
甲第8号証:Thin Solid Films,339(1999)p.68-73
甲第9号証:特開平4-224824号公報
甲第10号証:特開2006-259700号公報
(以下、上記「甲第1号証」ないし「甲第10号証」をそれぞれ「甲2-1」ないし「甲2-10」と略していうことがある。)
また、申立人2は、平成30年9月21日付け、平成31年3月20日付け及び令和元年8月30日付けの各意見書に添付して、以下の証拠を追加提示している。
<申立人2が追加提示した甲号証>
甲第11号証:特開平5-17672号公報
甲第12号証:SID 07 DIGEST,(2007)p.1680-1683
甲第13号証:特開2000-286514号公報
甲第14号証:特開平8-80580号公報
甲第15号証:特許庁編「平成17年度特許出願技術動向調査報告書 液晶表示装置の画質向上技術(要約版)」平成18年3月発行
甲第16号証:特開平5-43836号公報
甲第17号証:特公平6-51803号公報
甲第18号証:特開2004-43827号公報
甲第19号証:繊維と工業、Vol.50(1994)No.3、p.96~101
甲第20号証:スリーボンド・テクニカルニュース6,昭和58年4月1日、株式会社スリーボンド発行、第1~10頁
(以下、上記「甲第11号証」ないし「甲第20号証」をそれぞれ「甲2-11」ないし「甲2-20」と略していうことがある。)
第3 当審が通知した取消理由の概要
1.平成30年6月12日付け取消理由通知
当審が上記平成30年6月12日付けで通知した取消理由の概要は、以下のとおりである。
「当審は、上記申立て1及び申立て2を併合して審理した上で、
申立人1が主張する上記取消理由1-1並びに申立人2が主張する上記取消理由2-3及び2-4により、本件の請求項1ないし7に係る発明についての特許はいずれも取り消すべきもの、
と判断する。
以下、各取消理由につき、事案に鑑み、取消理由2-4、取消理由1-1及び取消理由2-3の順で詳述する。
・・(中略)・・
(3)小括
したがって、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載では、たとえ当業者の技術常識に照らしても、本件特許の請求項1及び同項を引用する請求項2ないし7に記載された事項を具備する発明が、上記解決課題を解決できるであろうと当業者が認識できるものとはいえないから、本件発明1ないし7が、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載したものということはできない。
3.取消理由2-4についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件の請求項1ないし7の記載は、いずれも特許法第36条第6項第1号に適合するものではなく、同条同法同項(柱書)に規定する要件を満たしていない。
よって、本件の請求項1ないし7に係る発明についての特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
・・(中略)・・
(6)検討のまとめ
以上のとおりであるから、本件発明1ないし7は、いずれも、甲2-2に記載された発明であるか、甲2-2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
よって、本件発明1ないし7は、いずれも、特許法第29条第1項第3号に該当するか、同法同条第2項の規定により、いずれにしても特許を受けることができるものではない。
4.取消理由1-1及び2-3に係る検討のまとめ
以上のとおりであるから、本件の請求項1ないし7に係る発明についての特許は、特許法第29条に違反してされたものであって、いずれも同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
III.当審の判断のまとめ
以上のとおりであるから、申立人1が主張する取消理由1-1並びに申立人2が主張する取消理由2-3及び2-4はいずれも理由があり、本件の請求項1ないし7に係る発明についての特許は、いずれも取り消すべきものである。」
2.平成30年12月6日付け取消理由通知(決定の予告)
当審が上記平成30年12月6日付けで通知した取消理由(決定の予告)の概要は、以下のとおりである。
「第6 当審の判断
当審は、上記申立て1及び申立て2を併合して審理した上で、
申立人1が主張する上記取消理由1-1及び申立人2が主張する上記取消理由2-3により、本件訂正後の請求項1ないし7に係る発明についての特許は、依然としていずれも取り消すべきもの、
と判断する。
以下、各取消理由につき詳述する。
取消理由1-1:本件特許の請求項1ないし7に係る発明は、いずれも甲2-2(下記1.(1)参照。)に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができるものではないから、その特許は同法第113条第2号の規定に該当し、取り消すべきものである。
取消理由2-3:本件特許の請求項1ないし7に係る発明は、いずれも甲2-2に記載された発明に甲2-1及び甲2-3ないし甲2-10に記載された事項との組合せに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その特許は同法第113条第2号の規定に該当し、取り消すべきものである。
・・(中略)・・
(6)検討のまとめ
以上のとおりであるから、本件発明1及び3ないし7は、いずれも、甲2-2に記載された発明であり、本件発明1ないし7は、いずれも、甲2-2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
よって、本件発明1及び3ないし7は、いずれも、特許法第29条第1項第3号に該当し、本件発明1ないし7は、いずれも、同法同条第2項の規定により、いずれにしても特許を受けることができるものではない。
4.取消理由1-1及び2-3に係る検討のまとめ
以上のとおりであるから、本件の請求項1ないし7に係る発明についての特許は、特許法第29条に違反してされたものであって、いずれも同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。」
3.令和元年5月21日付け取消理由通知(決定の予告)
当審が上記令和元年5月21日付けで通知した取消理由(決定の予告)の概要は、以下のとおりである。
「第6 当審の判断
当審は、上記申立て1及び申立て2を併合して審理した上で、
当審が職権で新たに発見した下記取消理由aにより、本件訂正後の請求項1ないし7に係る発明についての特許は、いずれも取り消すべきもの、
と判断する。以下、詳述する。
取消理由a:本件特許の請求項1ないし7に関して、同各項の記載が不備であり、請求項1ないし7の各記載は、特許法第36条第6項第1号に適合するものではなく、同条同項(柱書)の規定を満たしていないから、請求項1ないし7に係る発明についての特許は、いずれも特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであって、同法第113条第4号の規定に該当し、取り消すべきものである。
・・(中略)・・
(3)小括
以上を総合すると、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載では、たとえ当業者の技術常識に照らしても、本件特許の請求項1ないし7に記載された事項を具備する発明が、上記解決課題を解決できるであろうと当業者が認識できるものとはいえないから、本件発明1ないし7が、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載したものということはできない。
3.取消理由aについてのまとめ
以上のとおりであるから、本件の請求項1ないし7の記載は、いずれも特許法第36条第6項第1号に適合するものではなく、同条同法同項(柱書)に規定する要件を満たしていない。
よって、本件の請求項1ないし7に係る発明についての特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。」
第4 令和元年7月22日付けの訂正請求について
上記令和元年7月22日付けの訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)の適否につき検討する。
1.訂正内容
本件訂正は、本件特許に係る特許請求の範囲を、上記訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1ないし7について訂正するものであって、具体的な訂正事項は以下のとおりである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、
「液状の樹脂組成物を硬質キャリア基板上に塗布成膜して樹脂膜を形成する工程と、前記樹脂膜上に回路を形成する工程と、前記回路が表面に形成された樹脂膜を前記キャリア基板から剥離する工程と、を含む、表示デバイスとしてのフレキシブルデバイス基板の製造法に用いられ、フレキシブルデバイス基板となる前記液状の樹脂組成物であって、一般式(1)
【化1】
(一般式(1)中、Rは各々独立に水素原子又は一価の有機基を示し、R1は
【化2】
から選択される2価の有機基であり(但しR’は各々独立にアルキル基であり、アルキル基の水素原子はハロゲン原子で置換されてもよい)、R2は
【化3】
から選択される四価の有機基であり、nは繰り返し数を表す正の整数である。但し、R1がp-フェニレンジアミン残基であるとき、R2はピロメリット酸無水物残基ではない。)で表される構造単位を全構造単位中60%以上有する重量平均分子量が15,000~200,000であるポリイミド前駆体と、有機溶媒とを含有してなるフレキシブルデバイス基板形成用ポリイミド前駆体樹脂組成物。」とあるのを、
「液晶ディスプレイ基板形成用、有機ELディスプレイ基板形成用又は電子ペーパー基板形成用塗布液を硬質キャリア基板上に塗布成膜して樹脂膜を形成する工程と、前記樹脂膜上に回路を形成する工程と、前記回路が表面に形成された樹脂膜を前記キャリア基板から剥離(但し、加熱処理による剥離を除く。)する工程と、を含む、表示デバイスとしてのフレキシブルデバイス基板の製造法に用いられ、フレキシブルデバイス基板となる前記液晶ディスプレイ基板形成用、有機ELディスプレイ基板形成用又は電子ペーパー基板形成用塗布液であって、一般式(1)
【化1】
(一般式(1)中、Rは各々独立に水素原子又は一価の有機基を示し、R1は
【化2】
から選択される2価の有機基であり(但しR’は各々独立にアルキル基であり、アルキル基の水素原子はハロゲン原子で置換されてもよい)、R2は
【化3】
から選択される四価の有機基であり、nは繰り返し数を表す正の整数である。但し、R1がp-フェニレンジアミン残基であるとき、R2はピロメリット酸無水物残基ではない。)で表される構造単位を全構造単位中60%以上有する重量平均分子量が15,000~80,000であるポリイミド前駆体と、有機溶媒とを含有してなる、フレキシブルデバイス基板となる液晶ディスプレイ基板形成用、有機ELディスプレイ基板形成用又は電子ペーパー基板形成用塗布液。」
と訂正する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2に、「フレキシブルデバイス基板が、液晶ディスプレイ用基板、有機ELディスプレイ用基板又は電子ペーパー用基板である、請求項1に記載のフレキシブルデバイス基板形成用ポリイミド前駆体樹脂組成物。」とあるのを、
「有機ELディスプレイ基板形成用塗布液を硬質キャリア基板上に塗布成膜して樹脂膜を形成する工程と、前記樹脂膜上に回路を形成する工程と、前記回路が表面に形成された樹脂膜を前記キャリア基板から剥離(但し、加熱処理による剥離を除く。)する工程と、を含む、表示デバイスとしてのフレキシブルデバイス基板の製造法に用いられ、フレキシブルデバイス基板となる前記有機ELディスプレイ基板形成用塗布液であって、一般式(1)
【化4】
(一般式(1)中、Rは各々独立に水素原子又は一価の有機基を示し、R1は
【化5】
から選択される2価の有機基であり(但しR’は各々独立にアルキル基であり、アルキル基の水素原子はハロゲン原子で置換されてもよい)、R2は
【化6】
から選択される四価の有機基であり、nは繰り返し数を表す正の整数である。但し、R1がp-フェニレンジアミン残基であるとき、R2はピロメリット酸無水物残基ではない。)で表される構造単位を全構造単位中60%以上有する重量平均分子量が15,000~80,000であるポリイミド前駆体と、有機溶媒とを含有してなる、フレキシブルデバイス基板となる有機ELディスプレイ基板形成用塗布液。」
と訂正する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3に、「請求項1又は2に記載のフレキシブルデバイス基板形成用ポリイミド前駆体樹脂組成物を硬質キャリア基板上に塗布成膜してポリイミド樹脂膜を形成する工程、前記樹脂膜上に回路を形成する工程、前記回路が表面に形成された樹脂膜を前記キャリア基板から剥離する工程の各工程を含む、表示デバイスであるフレキシブルデバイスの製造方法。」とあるのを、
「液晶ディスプレイ基板形成用、有機ELディスプレイ基板形成用又は電子ペーパー基板形成用塗布液を硬質キャリア基板上に塗布成膜して樹脂膜を形成する工程と、前記樹脂膜上に回路を形成する工程と、前記回路が表面に形成された樹脂膜を前記キャリア基板から剥離(但し、加熱処理による剥離を除く。)する工程と、を含む、表示デバイスとしてのフレキシブルデバイス基板の製造法に用いられ、フレキシブルデバイス基板となる前記液晶ディスプレイ基板形成用、有機ELディスプレイ基板形成用又は電子ペーパー基板形成用塗布液であって、一般式(1)
【化7】
(一般式(1)中、Rは各々独立に水素原子又は一価の有機基を示し、R1は
【化8】
から選択される2価の有機基であり(但しR’は各々独立にアルキル基であり、アルキル基の水素原子はハロゲン原子で置換されてもよい)、R2は
【化9】
から選択される四価の有機基であり、nは繰り返し数を表す正の整数である。但し、R1がp-フェニレンジアミン残基であるとき、R2はピロメリット酸無水物残基ではない。)で表される構造単位を全構造単位中60%以上有する重量平均分子量が15,000~80,000であるポリイミド前駆体と、有機溶媒と、シランカップリング剤とを含有してなる、フレキシブルデバイス基板となる液晶ディスプレイ基板形成用、有機ELディスプレイ基板形成用又は電子ペーパー基板形成用塗布液を硬質キャリア基板上に塗布成膜してポリイミド樹脂膜を形成する工程、前記樹脂膜上に回路を形成する工程、前記回路が表面に形成された樹脂膜を前記キャリア基板から剥離する工程の各工程を含む、表示デバイスであるフレキシブルデバイスの製造方法。」
と訂正する。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4に、「ポリイミド樹脂膜の厚さが、1~20μmである請求項3に記載のフレキシブルデバイスの製造方法。」とあるのを、
「液晶ディスプレイ基板形成用、有機ELディスプレイ基板形成用又は電子ペーパー基板形成用塗布液を硬質キャリア基板上に塗布成膜して樹脂膜を形成する工程と、前記樹脂膜上に回路を形成する工程と、前記回路が表面に形成された樹脂膜を前記キャリア基板から剥離(但し、加熱処理による剥離を除く。)する工程と、を含む、表示デバイスとしてのフレキシブルデバイス基板の製造法に用いられ、フレキシブルデバイス基板となる前記液晶ディスプレイ基板形成用、有機ELディスプレイ基板形成用又は電子ペーパー基板形成用塗布液であって、一般式(1)
【化10】
(一般式(1)中、Rは各々独立に水素原子又は一価の有機基を示し、R1は
【化11】
から選択される2価の有機基であり(但しR’は各々独立にアルキル基であり、アルキル基の水素原子はハロゲン原子で置換されてもよい)、R2は
【化12】
から選択される四価の有機基であり、nは繰り返し数を表す正の整数である。但し、R1がp-フェニレンジアミン残基であるとき、R2はピロメリット酸無水物残基ではない。)で表される構造単位を全構造単位中60%以上有する重量平均分子量が15,000~80,000であるポリイミド前駆体と、有機溶媒とを含有してなる、フレキシブルデバイス基板となる液晶ディスプレイ基板形成用、有機ELディスプレイ基板形成用又は電子ペーパー基板形成用塗布液を硬質キャリア基板上に塗布成膜してポリイミド樹脂膜を形成する工程、前記樹脂膜上に回路を形成する工程、前記回路が表面に形成された樹脂膜を前記キャリア基板から剥離(但し、加熱処理による剥離を除く。)する工程の各工程を含む、表示デバイスであるフレキシブルデバイスの製造方法であって、
ポリイミド樹脂膜の厚さがヘ1~20μmであるフレキシブルデバイスの製造方法。」
と訂正する。
(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項5に、「ポリイミド樹脂膜のガラス転移温度が、300℃以上である請求項3又は4に記載のフレキシブルデバイスの製造方法。」とあるのを、
「液晶ディスプレイ基板形成用、有機ELディスプレイ基板形成用又は電子ペーパー基板形成用塗布液を硬質キャリア基板上に塗布成膜して樹脂膜を形成する工程と、前記樹脂膜上に回路を形成する工程と、前記回路が表面に形成された樹脂膜を前記キャリア基板から剥離(但し、加熱処理による剥離を除く。)する工程と、を含む、表示デバイスとしてのフレキシブルデバイス基板の製造法に用いられ、フレキシブルデバイス基板となる前記液晶ディスプレイ基板形成用、有機ELディスプレイ基板形成用又は電子ペーパー基板形成用塗布液であって、一般式(1)
【化13】
(一般式(1)中、Rは各々独立に水素原子又は一価の有機基を示し、R1は
【化14】
から選択される2価の有機基であり(但しR’は各々独立にアルキル基であり、アルキル基の水素原子はハロゲン原子で置換されてもよい)、R2は
【化15】
から選択される四価の有機基であり、nは繰り返し数を表す正の整数である。但し、R1がp-フェニレンジアミン残基であるとき、R2はピロメリット酸無水物残基ではない。)で表される構造単位を全構造単位中60%以上有する重量平均分子量が15,000~80,000であるポリイミド前駆体と、有機溶媒とを含有してなる、フレキシブルデバイス基板となる液晶ディスプレイ基板形成用、有機ELディスプレイ基板形成用又は電子ペーパー基板形成用塗布液を硬質キャリア基板上に塗布成膜してポリイミド樹脂膜を形成する工程、前記樹脂膜上に回路を形成する工程、前記回路が表面に形成された樹脂膜を前記キャリア基板から剥離(但し、加熱処理による剥離を除く。)する工程の各工程を含む、表示デバイスであるフレキシブルデバイスの製造方法であって、
ポリイミド樹脂膜のガラス転移温度が、300℃以上であるフレキシブルデバイスの製造方法。」
と訂正する。
(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項6に、「ポリイミド樹脂膜の100℃~200℃の範囲における熱膨張係数が、20ppm/K以下である請求項3~5のいずれかに記載のフレキシブルデバイスの製造方法。」とあるのを、
「液晶ディスプレイ基板形成用、有機ELディスプレイ基板形成用又は電子ペーパー基板形成用塗布液を硬質キャリア基板上に塗布成膜して樹脂膜を形成する工程と、前記樹脂膜上に回路を形成する工程と、前記回路が表面に形成された樹脂膜を前記キャリア基板から剥離(但し、加熱処理による剥離を除く。)する工程と、を含む、表示デバイスとしてのフレキシブルデバイス基板の製造法に用いられ、フレキシブルデバイス基板となる前記液晶ディスプレイ基板形成用、有機ELディスプレイ基板形成用又は電子ペーパー基板形成用塗布液であって、一般式(1)
【化16】
(一般式(1)中、Rは各々独立に水素原子又は一価の有機基を示し、R1は
【化17】
から選択される2価の有機基であり(但しR’は各々独立にアルキル基であり、アルキル基の水素原子はハロゲン原子で置換されてもよい)、R2は
【化18】
から選択される四価の有機基であり、nは繰り返し数を表す正の整数である。但し、R1がp-フェニレンジアミン残基であるとき、R2はピロメリット酸無水物残基ではない。)で表される構造単位を全構造単位中60%以上有する重量平均分子量が15,000~80,000であるポリイミド前駆体と、有機溶媒とを含有してなる、フレキシブルデバイス基板となる液晶ディスプレイ基板形成用、有機ELディスプレイ基板形成用又は電子ペーパー基板形成用塗布液を硬質キャリア基板上に塗布成膜してポリイミド樹脂膜を形成する工程、前記樹脂膜上に回路を形成する工程、前記回路が表面に形成された樹脂膜を前記キャリア基板から剥離(但し、加熱処理による剥離を除く。)する工程の各工程を含む、表示デバイスであるフレキシブルデバイスの製造方法であって、
ポリイミド樹脂膜の100℃~200℃の範囲における熱膨張係数が、20ppm/K以下であるフレキシブルデバイスの製造方法。」
と訂正する。
(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項7に、「請求項1又は2に記載のポリイミド前駆体樹脂組成物から得られるポリイミド樹脂膜。」とあるのを、
「液晶ディスプレイ基板形成用、有機ELディスプレイ基板形成用又は電子ペーパー基板形成用塗布液を硬質キャリア基板上に塗布成膜して樹脂膜を形成する工程と、前記樹脂膜上に回路を形成する工程と、前記回路が表面に形成された樹脂膜を前記キャリア基板から剥離(但し、加熱処理による剥離を除く。)する工程と、を含む、表示デバイスとしてのフレキシブルデバイス基板の製造法に用いられ、フレキシブルデバイス基板となる前記液晶ディスプレイ基板形成用、有機ELディスプレイ基板形成用又は電子ペーパー基板形成用塗布液であって、一般式(1)
【化19】
(一般式(1)中、Rは各々独立に水素原子又は一価の有機基を示し、R1は
【化20】
から選択される2価の有機基であり(但しR’は各々独立にアルキル基であり、アルキル基の水素原子はハロゲン原子で置換されてもよい)、R2は
【化21】
から選択される四価の有機基であり、nは繰り返し数を表す正の整数である。但し、R1がp-フェニレンジアミン残基であるとき、R2はピロメリット酸無水物残基ではない。)で表される構造単位を全構造単位中60%以上有する重量平均分子量が15,000~80,000であるポリイミド前駆体と、有機溶媒とを含有してなる、フレキシブルデバイス基板となる液晶ディスプレイ基板形成用、有機ELディスプレイ基板形成用又は電子ペーパー基板形成用塗布液から得られるポリイミド樹脂膜。」
と訂正する。
2.検討
なお、以下の検討において、この訂正請求による訂正を「本件訂正」といい、本件訂正前の特許請求の範囲における請求項1ないし7を「旧請求項1」ないし「旧請求項7」、本件訂正後の特許請求の範囲における請求項1ないし7を「新請求項1」ないし「新請求項7」という。
(1)訂正の目的要件について
ア.訂正事項1について
上記訂正事項1による訂正の目的につき検討すると、訂正事項1に係る訂正では、旧請求項1の「液状の」「塗布成膜」するための「ポリイミド前駆体樹脂組成物」に係る発明について、旧請求項1の「表示デバイスとしてのフレキシブルデバイス基板」の「表示デバイス」なる用途につき、旧請求項2に記載された事項に基づき、「液晶ディスプレイ」、「有機ELディスプレイ」又は「電子ペーパー」の3種であると限定して、新請求項1では「液晶ディスプレイ基板形成用、有機ELディスプレイ基板形成用又は電子ペーパー基板形成用塗布液」に係る発明とした上で、当該「塗布液」を使用するデバイス基板の製造方法において「(但し、加熱処理による剥離を除く。)」と剥離工程の一部を除外、「ポリイミド前駆体」の分子量範囲の上限値を旧請求項1における「200,000」から、明細書の発明の詳細な説明(特に実施例)の記載に基づき、新請求項1における「80,000」に下げることにより、旧請求項1に係る範囲を減縮しているものと認められる。
してみると、旧請求項1から新請求項1に訂正することにより、請求項1の特許請求の範囲が実質的に減縮されていることが明らかであるから、訂正事項1に係る訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものと認められる。
したがって、上記訂正事項1に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる目的要件に適合するものである。
イ.訂正事項2について
上記訂正事項2による訂正の目的につき検討すると、訂正事項2に係る訂正では、旧請求項2の旧請求項1を引用して記載していたものにつき、旧請求項1に記載された事項に対して訂正事項1に係る特許請求の範囲を減縮する訂正を加えたものを書き下して、独立項形式に改めた上、旧請求項2に記載されていた3種のデバイス種別につき「有機ELディスプレイ基板(形成)用」に限定したものと認められる。
してみると、旧請求項2から新請求項2に訂正することにより、引用形式で記載されていたものが独立項形式で記載されたものに改められるとともに、請求項2の特許請求の範囲が実質的に減縮されていることが明らかであるから、訂正事項2に係る訂正は、特許請求の範囲の減縮及び引用形式を独立項形式に改めることを目的とするものと認められる。
したがって、上記訂正事項2に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第4号に掲げる目的要件に適合するものである。
ウ.訂正事項3ないし6について
上記訂正事項3ないし6による各訂正の目的につき検討すると、訂正事項3ないし6に係る各訂正では、旧請求項3ないし6の旧請求項1を引用して記載していたものにつき、旧請求項1に記載された事項に対して訂正事項1に係る特許請求の範囲を減縮する訂正を加えたものを書き下して、新請求項3ないし6の独立項形式に改めたものと認められる。
してみると、旧請求項3ないし6から新請求項3ないし6にそれぞれ訂正することにより、引用形式で記載されていたものが独立項形式で記載されたものに改められるとともに、訂正事項1に係る訂正に伴い、請求項3ないし6の特許請求の範囲が実質的に減縮されていることも明らかであるから、訂正事項3ないし6に係る各訂正は、いずれも特許請求の範囲の減縮及び引用形式を独立項形式に改めることを目的とするものと認められる。
したがって、上記訂正事項3ないし6に係る各訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第4号に掲げる目的要件に適合するものである。
エ.訂正事項7について
上記訂正事項7による訂正の目的につき検討すると、訂正事項7に係る訂正では、旧請求項7の旧請求項1を引用して記載していたものにつき、旧請求項1に記載された事項に対して訂正事項1に係る特許請求の範囲を減縮する訂正を加えたものを書き下して、新請求項7の独立項形式に改めたものと認められる。
してみると、旧請求項7から新請求項7に訂正することにより、引用形式で記載されていたものが独立項形式で記載されたものに改められるとともに、訂正事項1に係る訂正に伴い、請求項7の特許請求の範囲が実質的に減縮されていることも明らかであるから、訂正事項7に係る訂正は、特許請求の範囲の減縮及び引用形式を独立項形式に改めることを目的とするものと認められる。
したがって、上記訂正事項7に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第4号に掲げる目的要件に適合するものである。
(2)新規事項の追加及び特許請求の範囲の実質的拡張・変更について
上記(1)に示したとおり、訂正事項1に係る訂正により、新請求項1及び新請求項1に記載された事項を書き下してなる新請求項2ないし7の特許請求の範囲が、旧請求項1及び同項を引用する旧請求項2ないし7の特許請求の範囲に対して実質的に減縮されていることが明らかであるから、上記訂正事項1ないし7による各訂正は、いずれも新たな技術的事項を導入しないものであり、また、特許請求の範囲を実質的に拡張又は変更するものではないことが明らかである。
してみると、上記訂正事項1ないし7による各訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定を満たすものである。
(3)一群の請求項等について
本件訂正前の旧請求項2ないし7は、いずれも旧請求項1を引用するものであるから、本件訂正前の請求項1ないし7は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。
(4)独立特許要件について
なお、本件の特許異議の申立ては、いずれも、旧請求項1ないし7に係る全ての発明についての特許につき、申立てがされているから、訂正の適否の検討において独立特許要件につき検討すべき請求項が存するものではない。
3.訂正に係る検討のまとめ
以上のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項1ないし7について訂正を認める。
第5 訂正後の本件特許に係る請求項に記載された事項
上記訂正後の本件特許に係る請求項1ないし7には、以下の事項が記載されている。
「【請求項1】
液晶ディスプレイ基板形成用、有機ELディスプレイ基板形成用又は電子ペーパー基板形成用塗布液を硬質キャリア基板上に塗布成膜して樹脂膜を形成する工程と、前記樹脂膜上に回路を形成する工程と、前記回路が表面に形成された樹脂膜を前記キャリア基板から剥離(但し、加熱処理による剥離を除く。)する工程と、を含む、表示デバイスとしてのフレキシブルデバイス基板の製造法に用いられ、フレキシブルデバイス基板となる前記液晶ディスプレイ基板形成用、有機ELディスプレイ基板形成用又は電子ペーパー基板形成用塗布液であって、一般式(1)
【化1】
(一般式(1)中、Rは各々独立に水素原子又は一価の有機基を示し、R1は
【化2】
から選択される2価の有機基であり(但しR’は各々独立にアルキル基であり、アルキル基の水素原子はハロゲン原子で置換されてもよい)、R2は
【化3】
から選択される四価の有機基であり、nは繰り返し数を表す正の整数である。但し、R1がp-フェニレンジアミン残基であるとき、R2はピロメリット酸無水物残基ではない。)で表される構造単位を全構造単位中60%以上有する重量平均分子量が15,000~80,000であるポリイミド前駆体と、有機溶媒とを含有してなる、フレキシブルデバイス基板となる液晶ディスプレイ基板形成用、有機ELディスプレイ基板形成用又は電子ペーパー基板形成用塗布液。
【請求項2】
有機ELディスプレイ基板形成用塗布液を硬質キャリア基板上に塗布成膜して樹脂膜を形成する工程と、前記樹脂膜上に回路を形成する工程と、前記回路が表面に形成された樹脂膜を前記キャリア基板から剥離(但し、加熱処理による剥離を除く。)する工程と、を含む、表示デバイスとしてのフレキシブルデバイス基板の製造法に用いられ、フレキシブルデバイス基板となる前記有機ELディスプレイ基板形成用塗布液であって、一般式(1)
【化4】
(一般式(1)中、Rは各々独立に水素原子又は一価の有機基を示し、R1は
【化5】
から選択される2価の有機基であり(但しR’は各々独立にアルキル基であり、アルキル基の水素原子はハロゲン原子で置換されてもよい)、R2は
【化6】
から選択される四価の有機基であり、nは繰り返し数を表す正の整数である。但し、R1がp-フェニレンジアミン残基であるとき、R2はピロメリット酸無水物残基ではない。)で表される構造単位を全構造単位中60%以上有する重量平均分子量が15,000~80,000であるポリイミド前駆体と、有機溶媒と、シランカップリング剤とを含有してなる、フレキシブルデバイス基板となる有機ELディスプレイ基板形成用塗布液。
【請求項3】
液晶ディスプレイ基板形成用、有機ELディスプレイ基板形成用又は電子ペーパー基板形成用塗布液を硬質キャリア基板上に塗布成膜して樹脂膜を形成する工程と、前記樹脂膜上に回路を形成する工程と、前記回路が表面に形成された樹脂膜を前記キャリア基板から剥離(但し、加熱処理による剥離を除く。)する工程と、を含む、表示デバイスとしてのフレキシブルデバイス基板の製造法に用いられ、フレキシブルデバイス基板となる前記液晶ディスプレイ基板形成用、有機ELディスプレイ基板形成用又は電子ペーパー基板形成用塗布液であって、一般式(1)
【化7】
(一般式(1)中、Rは各々独立に水素原子又は一価の有機基を示し、R1は
【化8】
から選択される2価の有機基であり(但しR’は各々独立にアルキル基であり、アルキル基の水素原子はハロゲン原子で置換されてもよい)、R2は
【化9】
から選択される四価の有機基であり、nは繰り返し数を表す正の整数である。但し、R1がp-フェニレンジアミン残基であるとき、R2はピロメリット酸無水物残基ではない。)で表される構造単位を全構造単位中60%以上有する重量平均分子量が15,000~80,000であるポリイミド前駆体と、有機溶媒とを含有してなる、フレキシブルデバイス基板となる液晶ディスプレイ基板形成用、有機ELディスプレイ基板形成用又は電子ペーパー基板形成用塗布液を硬質キャリア基板上に塗布成膜してポリイミド樹脂膜を形成する工程、前記樹脂膜上に回路を形成する工程、前記回路が表面に形成された樹脂膜を前記キャリア基板から剥離(但し、加熱処理による剥離を除く。)する工程の各工程を含む、表示デバイスであるフレキシブルデバイスの製造方法。
【請求項4】
液晶ディスプレイ基板形成用、有機ELディスプレイ基板形成用又は電子ペーパー基板形成用塗布液を硬質キャリア基板上に塗布成膜して樹脂膜を形成する工程と、前記樹脂膜上に回路を形成する工程と、前記回路が表面に形成された樹脂膜を前記キャリア基板から剥離(但し、加熱処理による剥離を除く。)する工程と、を含む、表示デバイスとしてのフレキシブルデバイス基板の製造法に用いられ、フレキシブルデバイス基板となる前記液晶ディスプレイ基板形成用、有機ELディスプレイ基板形成用又は電子ペーパー基板形成用塗布液であって、一般式(1)
【化10】
(一般式(1)中、Rは各々独立に水素原子又は一価の有機基を示し、R1は
【化11】
から選択される2価の有機基であり(但しR’は各々独立にアルキル基であり、アルキル基の水素原子はハロゲン原子で置換されてもよい)、R2は
【化12】
から選択される四価の有機基であり、nは繰り返し数を表す正の整数である。但し、R1がp-フェニレンジアミン残基であるとき、R2はピロメリット酸無水物残基ではない。)で表される構造単位を全構造単位中60%以上有する重量平均分子量が15,000~80,000であるポリイミド前駆体と、有機溶媒とを含有してなる、フレキシブルデバイス基板となる液晶ディスプレイ基板形成用、有機ELディスプレイ基板形成用又は電子ペーパー基板形成用塗布液を硬質キャリア基板上に塗布成膜してポリイミド樹脂膜を形成する工程、前記樹脂膜上に回路を形成する工程、前記回路が表面に形成された樹脂膜を前記キャリア基板から剥離(但し、加熱処理による剥離を除く。)する工程の各工程を含む、表示デバイスであるフレキシブルデバイスの製浩方法であって、
ポリイミド樹脂膜の厚さが、1~20μmであるフレキシブルデバイスの製造方法。
【請求項5】
液晶ディスプレイ基板形成用、有機ELディスプレイ基板形成用又は電子ペーパー基板形成用塗布液を硬質キャリア基板上に塗布成膜して樹脂膜を形成する工程と、前記樹脂膜上に回路を形成する工程と、前記回路が表面に形成された樹脂膜を前記キャリア基板から剥離(但し、加熱処理による剥離を除く。)する工程と、を含む、表示デバイスとしてのフレキシブルデバイス基板の製造法に用いられ、フレキシブルデバイス基板となる前記液晶ディスプレイ基板形成用、有機ELディスプレイ基板形成用又は電子ペーパー基板形成用塗布液であって、一般式(1)
【化13】
(一般式(1)中、Rは各々独立に水素原子又は一価の有機基を示し、R1は
【化14】
から選択される2価の有機基であり(但しR’は各々独立にアルキル基であり、アルキル基の水素原子はハロゲン原子で置換されてもよい)、R2は
【化15】
から選択される四価の有機基であり、nは繰り返し数を表す正の整数である。但し、R1がp-フェニレンジアミン残基であるとき、R2はピロメリット酸無水物残基ではない。)で表される構造単位を全構造単位中60%以上有する重量平均分子量が15,000~80,000であるポリイミド前駆体と、有機溶媒とを含有してなる、フレキシブルデバイス基板となる液晶ディスプレイ基板形成用、有機ELディスプレイ基板形成用又は電子ペーパー基板形成用塗布液を硬質キャリア基板上に塗布成膜してポリイミド樹脂膜を形成する工程、前記樹脂膜上に回路を形成する工程、前記回路が表面に形成された樹脂膜を前記キャリア基板から剥離(但し、加熱処理による剥離を除く。)する工程の各工程を含む、表示デバイスであるフレキシブルデバイスの製造方法であって、
ポリイミド樹脂膜のガラス転移温度が、300℃以上であるフレキシブルデバイスの製造方法。
【請求項6】
液晶ディスプレイ基板形成用、有機ELディスプレイ基板形成用又は電子ペーパー基板形成用塗布液を硬質キャリア基板上に塗布成膜して樹脂膜を形成する工程と、前記樹脂膜上に回路を形成する工程と、前記回路が表面に形成された樹脂膜を前記キャリア基板から剥離(但し、加熱処理による剥離を除く。)する工程と、を含む、表示デバイスとしてのフレキシブルデバイス基板の製造法に用いられ、フレキシブルデバイス基板となる前記液晶ディスプレイ基板形成用、有機ELディスプレイ基板形成用又は電子ペーパー基板形成用塗布液であって、一般式(1)
【化16】
(一般式(1)中、Rは各々独立に水素原子又は一価の有機基を示し、R1は
【化17】
から選択される2価の有機基であり(但しR’は各々独立にアルキル基であり、アルキル基の水素原子はハロゲン原子で置換されてもよい)、R2は
【化18】
から選択される四価の有機基であり、nは繰り返し数を表す正の整数である。但し、R1がp-フェニレンジアミン残基であるとき、R2はピロメリット酸無水物残基ではない。)で表される構造単位を全構造単位中60%以上有する重量平均分子量が15,000~80,000であるポリイミド前駆体と、有機溶媒とを含有してなる、フレキシブルデバイス基板となる液晶ディスプレイ基板形成用、有機ELディスプレイ基板形成用又は電子ペーパー基板形成用塗布液を硬質キャリア基板上に塗布成膜してポリイミド樹脂膜を形成する工程、前記樹脂膜上に回路を形成する工程、前記回路が表面に形成された樹脂膜を前記キャリア基板から剥離(但し、加熱処理による剥離を除く。)する工程の各工程を含む、表示デバイスであるフレキシブルデバイスの製造方法であって、
ポリイミド樹脂膜の100℃~200℃の範囲における熱膨張係数が、20ppm/K以下であるフレキシブルデバイスの製造方法。
【請求項7】
液晶ディスプレイ基板形成用、有機ELディスプレイ基板形成用又は電子ペーパー基板形成用塗布液を硬質キャリア基板上に塗布成膜して樹脂膜を形成する工程と、前記樹脂膜上に回路を形成する工程と、前記回路が表面に形成された樹脂膜を前記キャリア基板から剥離(但し、加熱処理による剥離を除く。)する工程と、を含む、表示デバイスとしてのフレキシブルデバイス基板の製造法に用いられ、フレキシブルデバイス基板となる前記液晶ディスプレイ基板形成用、有機ELディスプレイ基板形成用又は電子ペーパー基板形成用塗布液であって、一般式(1)
【化19】
(一般式(1)中、Rは各々独立に水素原子又は一価の有機基を示し、R1は
【化20】
から選択される2価の有機基であり(但しR’は各々独立にアルキル基であり、アルキル基の水素原子はハロゲン原子で置換されてもよい)、R2は
【化21】
から選択される四価の有機基であり、nは繰り返し数を表す正の整数である。但し、R1がp-フェニレンジアミン残基であるとき、R2はピロメリット酸無水物残基ではない。)で表される構造単位を全構造単位中60%以上有する重量平均分子量が15,000~80,000であるポリイミド前駆体と、有機溶媒とを含有してなる、フレキシブルデバイス基板となる液晶ディスプレイ基板形成用、有機ELディスプレイ基板形成用又は電子ペーパー基板形成用塗布液から得られるポリイミド樹脂膜。」
(以下、上記訂正後の請求項1ないし7に係る各発明につき、項番に従い「本件発明1」ないし「本件発明7」という。また、併せて「本件発明」と総称することがある。)
第6 当審の判断
当審は、上記申立て1及び申立て2を併合して職権により審理した上で、
申立て1及び申立て2において申立人1及び2がそれぞれ主張する各取消理由及び当審が通知した取消理由は、いずれも理由がなく、本件訂正後の請求項1ないし7に係る発明についての特許は、いずれも取り消すことができず、維持すべきもの、
と判断する。以下、詳述する。
I.各甲号証に記載された事項及び記載された発明
申立人1が主張する取消理由1-1、1-2及び1-3、申立人2が主張する取消理由2-1、2-2及び2-3並びに当審が平成30年6月12日付け及び平成30年12月6日付けでそれぞれ通知した取消理由は、いずれも各甲号証に記載された発明に基づいて、特許法第29条に違反して特許されたことをいうものであるから、各甲号証に記載された事項を確認し、当該記載事項に基づき、主たる引用発明の認定を行う。
1.申立人1が提示した各甲号証について
(1)甲1-1
平成30年6月12日付け取消理由通知においても示したとおり、申立人1が提示した甲1-1は、本願に係る原出願の出願日の後に公表された公表公報であり、特許法第29条第1項第3号に規定される「特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物」ではないから、取消理由1-1等に係る主たる証拠とすることはできない。
しかるに、申立人2が提示した甲2-2(国際公開第2008/050300号)は、本願に係る原出願の出願日の前に国際公開されたものであり、甲1-1と同一の文献である甲2-3が、甲2-2の訳文として添付されているから、当該甲2-3に係る項で記載事項を確認する。
(2)甲1-2
甲1-2には、無水ピロメリット酸と3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物とから選ばれる第1の酸無水物成分としてのいずれかの酸無水物と、第2の酸無水物成分としての2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパンとからなる酸無水物と、2,2’-ジ置換-4,4’-ジアミノビフェニル類からなる第1の芳香族ジアミン成分と、2,2-ビス(4-アミノフェノキシフェニル)プロパン類と1,1-ビス(4-(4-アミノフェノキシ)-3-t-ブチル-6-メチルフェニル)ブタンと2,2-ビス(3-アミノ-4-メチルフェニル)ヘキサフルオロプロパンとα,α’-ビス(4-アミノフェニル)ジイソプロピルベンゼン類とから選ばれる第2の芳香族ジアミン成分とからなる芳香族ジアミンとを有機溶媒中で反応させることによって得られる重量平均分子量20000~100000のポリアミド酸(【請求項1】、【0077】)、当該ポリアミド酸を閉環してなるポリイミド樹脂(【請求項2】)、金属箔基材上に上記ポリイミド樹脂からなる絶縁層を有する回路基板(【請求項3】)並びに金属箔基材上に上記ポリイミド樹脂からなる絶縁層を有し、その上に導体層からなるパターン回路を有する回路付きサスペンション基板(【請求項4】)がそれぞれ記載されており、上記ポリアミド酸の溶液を適宜の基材上にキャストし、適宜の雰囲気下、300~400℃の温度に数時間加熱して、ポリアミド酸を閉環、イミド化させることによって、ポリイミド樹脂フィルムを得ることができること(【0082】)も記載されている。
(3)甲1-3
甲1-3には、種々の芳香族テトラカルボン酸残基と芳香族ジアミン残基とからなるポリイミドのガラス転移温度及び有機溶剤溶解性につき記載されており(第641頁「表1」)、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸残基と1,4-ジアミノベンゼン(パラフェニレンジアミン)残基とからなるポリイミドが、「Upilex-S」又は「Upimol-S」なる商品名で上市され、いずれもガラス転移温度が355℃で有機溶剤不溶性であること(「表1」化学構造式3参照)並びに2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン残基と2,2-ビス(3-アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン残基とからなるポリイミドが、「Sixef-33」なる商品名で上市され、ガラス転移温度260℃で有機溶剤可溶性であること(「表1」化学構造式9参照)がそれぞれ記載されている。
(4)甲1-4
ア.甲1-4に記載された事項
甲1-4には、以下の事項が記載されている。
(下線は、元々あるものを除き、当審が付した。)
(4a)
「【特許請求の範囲】
【請求項1】芳香族テトラカルボン酸成分と芳香族ジアミン成分とからなり、p-フェニレンジアミンを必須成分とする芳香族ポリイミド中に微粒子状の無機フィラ-が分散されて、厚みが5-150μmで、寸法安定性が良好で、揮発物含有量が1.0重量%以下で、少なくとも片方の側の表面がプラズマ処理によって改質されたポリイミドフィルムの改質面に金属層が直接あるいは耐熱性接着剤を介して強固に積層されてなる金属層積層フィルム。
・・(中略)・・
【請求項5】ポリイミドフィルムがさらに下記の条件
(1)引張弾性率が500kg/mm2以上であり、
(2)線膨張係数(50~200℃)が1.0×10-5-2.5×10-5cm/cm/℃以下であり、
(3)加熱収縮率(250℃×2時間)が0.5%以下であり、
(4)比端裂抵抗値が11-25kg/20mm/10μmである。
を満足する請求項1に記載の金属層積層フィルム。
【請求項6】常圧プラズマ放電処理が、0.8-1.2気圧の気体雰囲気にて行われたものである請求項1に記載の金属層積層フィルム。
【請求項7】請求項1-6に記載の金属層積層フィルムを使用し、該積層フィルムのポリイミド層および金属層のいずれかに機械的、物理的および化学的処理の少なくとも1つの処理が施されてなる電子部品。」
(4b)
「【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、芳香族ポリイミドフィルムに金属層が直接あるいは耐熱性接着剤を介して強固に積層された金属層積層フィルムおよびその用途である電子部品に関するものであり、特に、芳香族ポリイミド中に微粒子状の無機フィラ-が分散されたポリイミドフィルムの常圧プラズマ放電処理改質面に金属層が直接あるいは耐熱性接着剤を介して強固に積層された金属層積層フィルム、およびこの金属層積層フィルムを使用した電子部品に関するものである。」
(4c)
「【0016】
【発明の実施の形態】この発明の金属層積層フィルムについて、代表的な実施の態様を示して詳しく説明する。この発明における芳香族ポリイミドフィルムは、例えば特願平9-63751号明細書に記載されているように次のようにして製造される。先ず3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、または3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物のいずれかの2種の組み合わせ〔線膨張係数(50~200℃)が1.0×10-5-2.5×10-5cm/cm/℃となるように適宜組成を決めればよい。〕からなる芳香族テトラカルボン酸成分とp-フェニレンジアミン1種、またはp-フェニレンジアミンと4,4-ジアミノジフェニルエ-テルとの2種の組み合わせからなる芳香族ジアミン(p-フェニレンジアミンが15-100モル%であることが好ましい。)とをN,N-ジメチルアセトアミドやN-メチル-2-ピロリドンなどのポリイミドの製造に通常使用される有機極性溶媒中で、好ましくは10-80℃で1-30時間重合して、ポリマ-の対数粘度(測定温度:30℃、濃度:0.5g/100ml溶媒、溶媒:N-メチル-2-ピロリドン)が1-5、ポリマ-濃度が10-25重量%であり、回転粘度(30℃)が500-4500ポイズであるポリアミック酸(イミド化率:5%以下)溶液を得る。
【0017】次いで、好適にはこのポリアミック酸100重量部に対して0.01-3重量%のリン化合物、例えば(ポリ)リン酸エステルおよび/またはリン酸エステルのアミン円などの有機リン含有化合物あるいは無機リン化合物および、好適にはポリアミック酸100重量部に対して0.1-3重量部のコロイダルシリカ、窒化珪素、タルク、酸化チタン、燐酸水素カルシウムなどの無機フィラ-(好適には平均粒径0.005-5μm、特に0.005-2μm)を添加してポリアミック酸溶液組成物を調製する。これらのリン化合物および無機フィラ-はフィルム層全体に均一に存在させてもよく、あるいは2-3層構造のフィルムを形成する場合には少なくとも片方の表面を含む層に前記の割合で含有させることが好ましい。
【0018】このポリアミック酸溶液組成物を平滑な表面を有するガラスあるいは金属製の支持体表面に流延して前記溶液の薄膜を形成し、その薄膜を乾燥する際に、乾燥条件を調整して(好適な条件は温度:100-160℃、時間:1-60分間)乾燥することにより、固化フィルム中、前記溶媒及び生成水分からなる揮発分含有量が30-50重量%、イミド化率が10-60重量%である長尺状固化フィルムを形成し、上記固化フィルムを支持体表面から剥離する。
【0019】前記のようにして得られた固化フィルムを必要であればさらに乾燥して、好ましくは乾燥フィルムの揮発分含有量が10-45重量%となるように調整した後、該乾燥フィルムの幅方向の両端縁を把持した状態で、キュア炉内におけるキュア炉入り口における温度(℃)×滞留時間(分)が前記出願明細書の図1の斜線の範囲内になるように乾燥後、最高加熱温度:400-500℃の温度が0.5-30分となる条件で該乾燥フィルムを加熱して乾燥およびイミド化して、残揮発物量1.0重量%以下、特に0.4重量%以下で、イミド化を完了することによって芳香族ポリイミドフィルムとして好適に製造することができる。」
(4d)
「【0035】この発明の金属層積層フィルムは、芳香族ポリイミドフィルムが高耐熱性および寸法安定性を有し金属層とフィルムとが強固に接合しているので、TAB用あるいはFPC用に好適に使用することができる。
【0036】この発明の電子部品は、例えば、前記の金属層積層フィルムに、必要であれば金属層積層テ-プとした後、回路を形成するなどして得ることができる。回路の形成は、金属層積層フィルムの金属面に例えばエッチングレジストを回路パタ-ン状(配線パタ-ン状)に印刷して、配線パタ-ンが形成される部分の金属層の表面を保護するエッチングレジストの配線パタ-ンを形成した後、それ自体公知の方法でエッチング液を使用して配線が形成されない部分の金属をエッチングにより除去し、エッチングレジストを除去することによって行うことができる。また、必要であれば、回路パタ-ン上面に直接あるいはシラカップリング剤のような表面処理剤で処理した後、コ-ト材(液状物)を塗布した後加熱乾燥してコ-ト層を形成する。」
(4e)
「【0037】
【実施例】(1)芳香族ポリイミドフィルムの製造例(1)
内容積100リットルの重合槽に、N,N-ジメチルアセトアミド54.6kgを加え、次いで3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物8.826kgとパラフェニレンジアミン3.243kgとを加え、30℃で10時間重合反応させてポリマ-の対数粘度(測定温度:30℃、濃度:0.5g/100ml溶媒、溶媒:N,N-ジメチルアセトアミド)が1.60、ポリマ-濃度が18重量%であるポリアミック酸(イミド化率:5%以下)溶液を得た。このポリアミック酸溶液に、ポリアミック酸100重量部に対して0.1重量部の割合でモノステアリルリン酸エステルのトリエタノ-ルアミン塩および0.5重量部の割合(固形分基準)で平均粒径0.08μmのコロイダルシリカを添加して均一に混合してポリアミック酸溶液組成物を得た。このポリアミック酸溶液組成物の回転粘度は3000ポイズであった。このポリアミック酸組成物をTダイ金型のスリットから連続的に、キャスティング・乾燥炉の平滑な支持体に押出して前記溶液の薄膜を形成し、平均温度:141℃で乾燥して長尺状固化フィルム(揮発物含有量は28重量%)を得た。
【0038】次いで、該乾燥フィルムの幅方向の両端縁を把持した状態で、キュア炉内でキュアして(入口における温度×滞留時間=200℃×2.5分、最高温度×最高温度滞留時間=480℃×3分)、厚み50μm、残揮発物量0.18重量%、イミド化率95%以上の長尺状の芳香族ポリイミドフィルム(0.2重量%のSiO2含有)を連続的に得た。この芳香族ポリイミドフィルムの物性を、次に従って測定した。
引張弾性率:ASTM D882-64T
線膨張係数(50-200℃):300℃で30分加熱して応力緩和したサンプルをTMA装置(引張りモ-ド、2g荷重、試料長10mm、20℃/分)で測定
加熱収縮率(250℃、2時間):JIS C2318
端裂抵抗(あるいは比端裂抵抗):JIS C2318
に従って測定した試料(5個)の端裂抵抗(あるいは比端裂抵抗)の平均値を意味する。具体的には、定速緊張形引張試験機の上部厚さ1.00±0.05mmのV字形切り込み板試験金具の中心線を上部つかみの中心線に一致させ、切り込み頂点と下部つかみとの間隔を約30mmになるように柄を取り付ける。幅約20mm、長さ約200mmの試験片を金具の穴部を通して二つに折り合わせて試験機の下部のつかみにはさみ、1分間に約200mmの速さで引張り、引き裂けたときの力を端裂抵抗という。試験片を縦方向及び横方向からそれぞれ全幅にわたって5枚とり、端裂抵抗の平均値を求め、端裂抵抗値として示す。比端裂抵抗値はフィルム厚み当たり(10μm換算)の端裂抵抗値を示す。
【0039】この芳香族ポリイミドフィルムの物性を次に示す。
引張弾性率:850kg/mm2
線膨張係数(50-200℃):1.2×10-5cm/cm/℃
加熱収縮率(250℃、2時間):0.3%以下
端裂抵抗:66kg/20mm
比端裂抵抗:13.2kg/20mm/10μm
【0040】(2)プラズマ放電処理
図1に示したプラズマ処理装置と同様の構成の常圧プラズマ処理装置(但し、プラズマ放電室は一室のみ装備、またプラズマ放電処理は1気圧で実施)を用いて、下記第1表記載のプラズマ放電処理室のガス組成とフィルム走行速度にてプラズマ処理を行った。電圧は200V/電極1本。電極内部は水冷(25℃)。
・・(中略)・・
【0043】(4)金属層積層フィルム(接着剤使用)の作製
プラズマ放電処理を施した芳香族ポリイミドフィルムまたはプラズマ放電処理を施していない芳香族ポリイミドフィルムと銅箔とを、フィルムのそれぞれの表面(フィルム製造時に支持体表面に接触していなかった側の表面であるA面、そしてフィルム製造時に支持体表面に接触した側の表面であるB面の双方)と接着剤とが接するように、下記の条件で金属層積層フィルムを作製した。
イ)接着剤:熱融着性ポリイミド樹脂(a-BPDA/TPER Tg:240℃)
ロ)銅箔:厚み30μmの電解銅箔
ハ)接着条件:銅箔に接着剤を薄く(乾燥後で20μm)塗布し、130℃で15分乾燥後、プラズマ放電処理ポリイミドフィルムを重ね、300℃、6.5kg/cm2で5分間熱圧着し、180℃で1時間加熱処理した。
ニ)接着強度測定:T剥離、剥離速度50mm/分
【0044】上記の条件で作製した金属層積層フィルムのA面およびB面の各表面の接着強度を第2表に示す。なお、プラズマ放電処理を施していない芳香族ポリイミドフィルムのA面とB面についての接着強度も併せて第2表に示す。
【0045】
【表2】(表は省略)
【0046】
第2表に示した結果から明らかなように、この発明の常圧プラズマ放電処理を施すことによって、p-フェニレンジアミンを含む芳香族ポリイミドフィルムは表面が活性化されて高い接着性を示す。
【0047】(5)金属層積層フィルム(蒸着-電解メッキ)の作製
プラズマ放電処理を施した芳香族ポリイミドフィルムのそれぞれの表面(フィルム製造時に支持体表面に接触していなかった側の表面であるA面、そしてフィルム製造時に支持体表面に接触した側の表面であるB面の双方)を、ホルダ-サイズに切り出して蒸着装置内に設置後、基板温度150℃、真空度2×10-4Pa以下、原料銅純度4N、蒸着速度10-25オングストロ-ム/秒の条件で0.2μmの厚みの銅層を形成した。さらに、その上に電解メッキで10μmの銅層を形成した。この積層体について測定した接着強度(25℃)はいずれも1.5kg/cm以上であった。
【0048】(5)電子部品の作製
上記の積層体である銅張板に常法に従いパタ-ニングを行い、次にエッチング、水洗・乾燥工程を経た後、コ-ト材を塗布・乾燥してフレキシブル回路基板を製造した。製造工程中、接着不良による剥離・カ-ル発生などのトラブルは発生せず、精度よく電子部品を作製することができた。」
イ.甲1-4に記載された発明
甲1-4には、上記記載事項(特に摘示(4c)及び(4e)の下線部)からみて、
「ポリアミック酸溶液組成物をキャスティングにより支持体上に押出して前記溶液組成物の薄膜を形成し、乾燥して固化し、支持体から剥離して固化フィルムとした後、キュアして芳香族ポリイミドフィルムを形成する工程並びに当該芳香族ポリイミドフィルム上に銅層を形成した銅張板にパタ-ニングを行い、エッチング、水洗・乾燥工程を経た後、コ-ト材を塗布・乾燥する工程を含むフレキシブル回路基板の製造方法に用いられるポリアミック酸溶液組成物であって、N,N-ジメチルアセトアミド(溶媒)中で、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物とパラフェニレンジアミンとを重合反応させてなるポリアミック酸溶液組成物。」
に係る発明(以下「甲4発明」という。)が記載されている。
(5)甲1-5
甲1-5には、「U-ワニスS-301」なる商品名で上市されている3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸残基とパラフェニレンジアミン残基とからなる「繰り返し単位(A)」のポリイミドを形成し得るポリイミド前駆体のN-メチルピロリドン溶剤によるワニス(溶液)を使用して、円柱状芯体外表面にワニスを塗布し、400℃まで段階的に加熱して、ワニス塗膜の乾燥・閉環固化させてポリイミド樹脂膜を形成した後、当該樹脂膜をチューブとして脱型してなるポリイミドチューブの製造方法が記載されている([0097]~[0101]及び請求の範囲[5]参照。)。
(6)参1ないし参3について
申立人が提示した上記参1ないし3につき、一応確認すると、上記参1ないし3には、いずれも、ポリイミド樹脂フィルムをシリコン基板などに積層する際に、接着強度の改善を意図して、ポリイミド樹脂(前駆体)に対して、アルコキシシラン化合物を添加使用することが開示されており、当該アルコキシシラン化合物の添加使用が、ポリイミド樹脂と他の材料との接着性改善を意図する当業者の周知技術であるものと認められる。
2.申立人2が提示した各甲号証について
(1)甲2-1
ア.甲2-1に記載された事項
甲2-1には、以下の事項が記載されている。
(1a)
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
IC整合基板とキャリアとの結合構造であって、
キャリアと、
前記キャリア上に形成され、前記キャリアに貼り付けられる第1誘電体層を備えるIC整合基板とを備え、
前記キャリアと前記第1誘電体層との間の付着力により、前記IC整合基板が製造過程において前記キャリアから剥離することがない一方、カット処理の際にIC整合基板が前記キャリアから自然分離されるように、前記キャリアと前記第1誘電体層の材料が選択されることを特徴とするIC整合基板とキャリアとの結合構造。
【請求項2】
前記キャリアと前記第1誘電体層との間には、何ら付着処理が施されていないことを特徴とする請求項1に記載のIC整合基板とキャリアとの結合構造。
・・(中略)・・
【請求項8】
IC整合基板とキャリアとの結合構造の製造方法であって、
キャリアを提供するステップと、
前記キャリアに貼り付けられる第1誘電体層を備えたIC整合基板を、前記キャリア上に形成するステップとを含み、
前記キャリアと前記第1誘電体層との間の付着力により、前記IC整合基板が製造過程において前記キャリアから剥離することがない一方、カット処理の際にIC整合基板が前記キャリアから自然分離されるように、前記キャリアと前記第1誘電体層の材料が選択することを特徴とするIC整合基板とキャリアとの結合構造の製造方法。
【請求項9】
前記キャリアと前記第1誘電体層との間に、何ら処理を施さないことを特徴とする請求項8に記載のIC整合基板とキャリアとの結合構造の製造方法。
・・(中略)・・
【請求項13】
前記IC整合基板を形成するステップは、
前記キャリア上に前記第1誘電体層を形成するステップと、
前記第1誘電体層上に少なくとも一の半導体デバイスを形成するステップとを含むことを特徴とする請求項8に記載のIC整合基板とキャリアとの結合構造の製造方法。
・・(中略)・・
【請求項15】
電子デバイスの製造方法であって、
請求項8~14のいずれか1つに記載の方法と、
前記IC整合基板をカットすることにより、カットされたIC整合基板を前記キャリアから自然分離させて、電子デバイスを形成するステップとを含むことを特徴とする電子デバイスの製造方法。
【請求項16】
前記IC整合基板は、テープ粘着、挟持具による挟み取り、または真空吸着によって、前記キャリアから自然分離されることを特徴とする請求項15に記載の電子デバイスの製造方法。」
(1b)
「【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、前述した従来の欠点に鑑みてなされたものであり、IC整合基板とキャリアとの分離を、容易に、素早く、かつ低コストに実現できるIC整合基板とキャリアとの結合構造およびその製造方法と、電子デバイスの製造方法を提供することを目的とする。」
(1c)
「【0030】
前述の構造と製造方法において、前記キャリアと前記第1誘電体層の材料を選択することにより、前記キャリアと前記第1誘電体層との間の付着力で、前記IC整合基板が製造過程において前記キャリアから剥離せずに、カット処理の際に、カットされたIC整合基板を前記キャリアから自然分離させる。本発明のいわゆる「自然に分離する」とは、外力を加えずに、若しくはわずかな外力を加えることで(例えばテープ粘着、挟持具での挟み取り、真空吸着などの方法)、IC整合基板とキャリアとが分離して、各部構造が破壊されないことを指す。
【0031】
この他、本発明における「IC整合基板」とは、従来のパッケージ用多層薄膜基板とは異なる。具体的には、本発明のIC整合基板は電気接続に用いられる多層配線構造、または、少なくとも一つの半導体デバイス、例えば、受動素子、駆動電子デバイス、薄膜トランジスタ(TFT)装置、およびその他の電子デバイスなど、またはその組み合わせなどを備えていてもよい。
【0032】
本発明の技術手段によれば、従来技術が溶剤やレーザなどの煩雑な方法で多層薄膜基板とキャリアとを積極的に分離する工程を有しているのに対し、本発明は、容易に、素早く、かつ低コストの方法でIC整合基板とキャリアとを分離でき、多層配線構造または少なくとも一つの半導体デバイスを備え、もしくは、その組み合わせである電子デバイスを製造することができる。」
(1d)
「【実施例】
【0033】
以下、図に示された実施例を参照して、本発明の目的の達成に使われる技術手段と構造の特徴を詳細に説明する。
【0034】
[実施例1]
図2は、本発明の実施例に基づく、IC整合基板8とキャリア10との結合構造28、およびその製造方法、および電子デバイス6の製造方法の工程図である。本実施例に示すIC整合基板8は、多層配線構造を備え、該多層配線構造は両面基板であって、その表面および裏面共に外部と電気接続される。尚、この両面基板は、表面が裏面と電気接続しているが、多層配線構造としてその他の接続方法によって接続してもよく、例えば、片面配線であってもよい。この他、多層配線構造の層数についても、特に制限はなく、各種応用に応じて適宜変更をすることができる。
【0035】
図2を参照すると、ステップS1において、200mmシリコンウエハをキャリア10とするが、このキャリアは、あらゆるサイズの基板、シリコンウエハなどを使用してもよい。
【0036】
図2が示すS2からS4のステップは、キャリア10に多層配線構造を有するIC整合基板8を形成する工程図である。まず、ステップS2において、キャリア10上に第1誘電体層14を形成する。具体的には、いずれの付着処理も施さずに、図2に示したIC整合基板8の第一誘電体層14を、キャリア10の全領域上に回転塗布する。次に、ステップS3からS4で第1誘電体層14上に金属層22、24、26と、誘電体層16、18、20とを順に交互に積層して多層配線構造を備えるIC整合基板8を形成する。
【0037】
IC整合基板8とキャリア10との結合構造28において、キャリア10と第1誘電体層14の材料を選択することにより、単純に両者間の付着力で(例えば、付着力強化処理が施されていない場合)、IC整合基板8が製造過程において発生する応力によってキャリア10から剥離することなく、また、最後のカット処理(ステップS5、詳細は後に記載する)の際に、カットされたIC整合基板8をキャリア10から自然分離させる。本実施例および以下で説明する各実施例において、いわゆる「自然に分離する」とは、外力を加えずに、若しくはわずかな外力を加えることで(例えばテープ粘着、挟持具での挟み取り、真空吸着などの方法)、IC整合基板とキャリアとを分離して、構造が破壊されないことを指す。
【0038】
この他、キャリア10とIC整合基板8の周縁外側に付着する残留誘電体層材料7(図2に示す太い曲線)も、両者を固定して貼り合わせる作用を有する。本実施例によれば、誘電体層14、16、18、20は、低誘電率(<4)のポリイミド(PI)(polyimide,デュポン社製,PI-2611)を使用し、厚みが8μmである。上金属層26および下金属層22は、Cr/Cu/Ni/Au構造のUBM(Under Bump Metallurgy)を使用し、後続のはんだボールに電気接続をするために用いられる。中間の金属層24は、Cr/Cu/Cr多層金属線を使用する。あるいは、各金属層は前記の金属層に限定せず、必要に応じて適切な金属層を使用してもよい。
・・(中略)・・
【0041】
最後に、図2に示すステップS5のように、適切な位置でキャリア10上のIC整合基板8をカットすることにより、IC整合基板8をキャリア10から自然分離させて多層配線構造を有する電子デバイス6が形成される。カットされたIC整合基板8とキャリア10との間には微弱な付着力のみが存在するため、両者は、自然に分離できる。例えば、真空吸着、挟持具による挟み取り、またはテープ粘着などの方法によって容易に両者を分離する。従来技術が溶剤やレーザなどの煩雑な方法で多層薄膜基板とキャリアとを分離して電子デバイスを形成しなければならないのに対し、本実施例は、簡単で迅速な低コストの方法でIC整合基板とキャリアとを分離し、サイズ精密度が高く、軽く、かつ可撓性がよく、多層配線構造を備える電子デバイスを製造することができる。この他、カット処理後、例えば、電子デバイス6の誘電体層の最上層と底層において、エッチング法やレーザドリル法により、導電ビアホールを形成して外部と電気的接続することができる。
【0042】
[実施例2]
図3は、本発明の実施例に基づく、IC整合基板38とキャリア30の結合構造40、およびその製造方法、および電子デバイス36の製造方法の工程図である。本実施例で示したIC整合基板38は、少なくとも一の半導体デバイス35を備え、例えば、受動素子、駆動電子デバイス、薄膜トランジスタ(TFT)装置、およびその他の電子デバイスの少なくとも一つ、もしくは、その組み合わせなどである。注意すべきは、図3では一つの半導体デバイスのみを備えるIC整合基板を示しているが、この分野の通常の知識を有するものであれば分かるように、IC整合基板は複数の半導体デバイスを備えることが可能であり、後続の工程でカットすることによって数百、数千の電子デバイスを製造することができるが、ここでは表示および説明の簡略化のため、一つで示している。
【0043】
図3を参照すると、ステップS1’において、200mmシリコンウエハをキャリア30とするが、キャリアは、あらゆるサイズの基板、シリコンウエハなどを使用してもよい。
【0044】
図3が示すステップS2’、S3’はキャリア30上に少なくとも一の半導体デバイスを備えるIC整合基板38を形成する工程図である。まず、ステップS2’において、キャリア30上に第1誘電体層34を形成する。具体的には、前記形成ステップはいずれの付着処理も施さず、IC整合基板38の第一誘電体層34をキャリア30の全領域上に回転塗布する。次に、ステップS3’において、第1誘電体層34上に少なくとも一の半導体デバイス35を有するIC整合基板38を形成する。IC整合基板とキャリアとの結合構造40において、キャリア30と第1誘電体層34の材料を選択し、単純に両者間の付着力によって(例えば、付着力強化処理が施されていない場合)、IC整合基板38が製造過程において発生する応力によってキャリア30から剥離することなく、最後のカット処理(ステップS4’、詳細は後に記載する)の際に、カットされたIC整合基板38をキャリア30から自然に分離する。この他、キャリア30とIC整合基板38の周縁外側に付着する残留誘電体層材料37(図3に示す太い曲線)も、両者を固定して貼り合わせる作用を有する。本実施例において、誘電体層34は、低誘電率(<4)のポリイミドPI(polyimide,デュポン社製,PI-2611)を使用する。
・・(中略)・・
【0047】
最後に、図3に示すステップS4’のように、適切な位置でキャリア30上のIC整合基板38をカットすることにより、IC整合基板38をキャリア30から自然分離させて電子デバイス36を形成する。カットされたIC整合基板38とキャリア30との間には微弱な付着力のみが存在するため、この両者は自然に分離できる。例えば、真空吸着、挟持具による挟み取り、またはテープ粘着などの方法によって容易に両者を分離できる。従来技術が溶剤やレーザなどの煩雑な方法で多層薄膜基板とキャリアとを分離して電子デバイスを形成しなければならないのに対し、本実施例は、簡単で迅速な低コストの方法でIC整合基板とキャリアとを分離し、サイズ精密度が高く、軽くて薄く、かつ可撓性がよく、少なくとも一の半導体デバイスを備える電子デバイスを製造することができる。
【0048】
注意すべきは、本発明においてキャリアは金属(例えば、アルミ)、ガラス、セラミックス、シリコンウエハ、サファイア基板、砒化ガリウム、ポリイミド(例えばKapton、PI-2611等の商用材料)等、あらゆる固体材料でよい。誘電体層の材料は、ポリイミド(PI)(例えば、PI-2611、Durimide 9005等の商用材料)、BCB(Benzo-CycloButene、例えばCyclotene 4024)、PMMA(poly(methyl-methacrylate))、液晶ポリマLCP(Liquid Crystal Polymer)等、あらゆる有機材料であってもよい。下記の表1は、実施例において採用される付着弱化処理と、種々キャリアおよび誘電体層材料の好適な組み合せである。表2は、実施例において付着処理を施していない場合の種々のキャリアおよび誘電体層材料の好適な組み合せである。
【0049】
【表1】(表は省略)
【0050】
【表2】
」
イ.甲2-1に記載された発明
甲2-1には、上記記載事項(特に摘示(1a)及び(1d)の下線部)からみて、
「シリコンウエハからなるキャリア上に誘電体層を回転塗布により形成する工程、誘電体層上に少なくとも一の半導体デバイスを有するIC整合基板を形成する工程及び最後のカット処理の際にカットされたIC整合基板をキャリアから分離する工程を含むIC整合基板の製造方法に使用する誘電体層形成材料であって、ポリイミドPI(polyimide,デュポン社製,PI-2611)である塗布用材料。」
に係る発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているものといえる。
(2)甲2-2及び甲2-3
甲2-2は、本願の出願日前の国際公開に係る英文文献であるところ、甲2-3の公表公報が訳文として提出されているので、甲2-2に記載された事項を甲2-3の訳文に基づき確認し、当該事項に基づいて甲2-2に係る引用発明の認定を行う。(なお、記載箇所の指摘に関しては、甲2-3における段落番号等により行う。また、下線につき、元々あるもの以外は当審が付した。)
ア.甲2-2(甲2-3)に記載された事項
(2a)
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
薄膜電子装置を製造する方法であって、
湿式成形処理を用いて、剛性担持基板に、プラスチックコーティングを設置するステップであって、前記プラスチックコーティングは、プラスチック基板を形成し、基板面に対して垂直な第1の方向では、前記基板面に平行な第2の方向に比べて、少なくとも3倍大きな熱膨張係数を有する透明プラスチック材料を有するステップと、
前記プラスチック基板上に、薄膜電子素子を形成するステップと、
加熱処理により、前記プラスチック基板は、前記基板面に対して垂直な方向に優先的に延び、これにより、前記プラスチック基板から、前記剛性担持基板を取り外すステップと、
を有する方法。
・・(中略)・・
【請求項6】
前記プラスチック材料の、前記剛性担持基板に平行な熱膨張係数は、30×10-6/℃であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一つに記載の方法。
【請求項7】
前記プラスチック材料は、ポリイミドを有することを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一つに記載の方法。
【請求項8】
前記プラスチック材料は、ポリ(p-フェニレンビフェニルテトラカルボキシイミド)を有することを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記取り外すステップは、前記プラスチック基板を、前記剛性担持基板から熱的に剥離することにより行われることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか一つに記載の方法。
・・(中略)・・
【請求項12】
前記剛性担持基板は、ガラス基板を有することを特徴とする請求項1乃至11のいずれか一つに記載の方法。
【請求項13】
前記湿式成形処理は、スピンオン処理を有することを特徴とする請求項1乃至12のいずれか一つに記載の方法。
【請求項14】
アクティブマトリクス表示装置を製造するための、請求項1乃至13のいずれか一つに記載の方法であって、
前記プラスチック基板上に、薄膜電子素子を形成するステップは、前記プラスチック基板上に、画素回路の配列を形成するステップを有し、
当該方法は、さらに、前記プラスチック基板から前記剛性担持基板を取り外す前に、前記画素回路の配列の上に、表示層を形成するステップを有することを特徴とする方法。
【請求項15】
さらに、第2の基板配置を製造するステップを有し、
前記画素回路の配列の上に、表示層を形成するステップは、前記第1および第2の基板配置を、両者の間に設置された光電子材料で取り付けるステップを有し、
これにより、前記アクティブマトリクス表示装置は、前記光電気材料が間に挟まれた第1および第2の基板を有することを特徴とする請求項14に記載の方法。
・・(中略)・・
【請求項20】
前記プラスチック材料は、ポリイミドを有することを特徴とする請求項16乃至19のいずれか一つに記載の薄膜電子装置。
【請求項21】
前記プラスチック材料は、ポリ(p-フェニレンビフェニルテトラカルボキシイミド)を有することを特徴とする請求項20に記載の薄膜電子装置。」
(2b)
「【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチック基板上のアクティブマトリクス表示装置のような電子装置の製作に関する。」
(2c)
「【発明が解決しようとする課題】
【0013】
従って、ガラス基板からの適正なリフトオフが可能であり、基板またはそれに取り付けられた部材に、クラックやバックリング(buckling)の生じない、加熱に耐え得る基板材料に対する要望がある。」
(2d)
「【0017】
担持基板面に対して垂直な熱膨張係数は、剛性担持基板面に平行な熱膨張係数の少なくとも5倍であることが好ましい。前記垂直な方向の熱膨張係数は、平行な方向の熱膨張係数の少なくとも10倍であることがより好ましく、15倍であることがさらに好ましい。
【0018】
プラスチック層材料は、例えばポリ(p-フェニレンビフェニルテトラカルボキシイミド)のようなポリイミドを有することが好ましい。これは、ある方向には、105×10-6/℃(105ppm/℃)の熱膨張係数を有し、第2の方向には、5×10-6/℃(5ppm/℃)の熱膨張係数を有するように配置することができる材料である。次に、大きな熱膨張係数が、ガラス基板に対して垂直となるように配置され、これは、湿式成形処理、特にスピンコート法のような成膜プロセスによって得ることができる。
【0019】
取り外し処理は、紫外レーザ光に暴露することにより実施される、熱剥離処理を有しても良い。紫外レーザ光は、200nmを超える波長を有することが好ましい。剛性担持基板は、ガラス基板を有することが好ましい。」
(2e)
「【0030】
本発明は、アクティブマトリクス表示装置の製造に特に適しており、本発明の一例について、以下説明する。
【0031】
図1には、本発明によるプラスチックディスプレイの製造例を概略的に示す。図には、本発明によって改善される、最終取り外し段階が示されている。完成ディスプレイ10は、ガラス基板12から取り外され、その後携帯電話14のような装置に使用される。
【0032】
図2には、従来の配置の一例を示すが、この場合、ポリイミド層22がガラス担体12上にスピンコートされる。ポリイミド層22は、レーザスピンオフ処理によって、ガラス担体12から分離された際に、基板を形成する。
【0033】
図3には、熱レーザリフトオフ処理の間に生じ得る、一つの想定される問題を示す。特に、例えば351nmの励起を有する高波長のレーザが照射に使用されると、レーザからの吸収エネルギーは、ポリイミド分子の完全な熱化が生じないまま分散され、最も弱い結合に分離が生じる。材料の局部的な加熱により、図3に示すように、ポリイミド層22は、バックリングし、これにより、基板の上部の層が損傷を受ける。
【0034】
以下、本発明に方法の一例について、詳細に説明する。ここでは、ガラス基板からのレーザ取り外し処理を用い、さらにディスプレイのカラーフィルタのインクジェット印刷、およびセル製作の際のVALC(液晶との真空アライメント)処理により、ディスプレイが製作される方法を示す。以下に詳細に示す例は、液晶(LC)表示セルの製造に関するものであり、これは、2つの対向(アクティブおよびパッシブ)基板の間に挟まれたLC材料を有する。本発明は、多くの他の表示技術および非表示技術に提供することができる。特定の例は、単なる一例に過ぎない。
図4には、ガラス担体板12と、プラスチック基板として機能するプラスチック層22とを示す。この形態の基板は、アクティブ板およびパッシブ板のベース部を形成する。
【0035】
プラスチック層22は、完成後のセルの壁の一つとなるよう、十分に高強度である必要がある。また、プラスチック層22は、透明で、理想的には非複屈折性である。また、プラスチック層22は、レーザエネルギーを吸収し、担体板12からプラスチック層22のリフトオフを行うことができる。
【0036】
本発明は、プラスチック層22の材料に関し、熱誘起リフトオフ処理に適した特徴を有するプラスチック材料の使用が提案される。
【0037】
プラスチック層22の基板材料は、200MPa>の引張強度を有し、非複屈折性である。また、例えばスピンコート法のような湿式成形処理プロセスを用いて、成膜される必要が亜ある。(当審注:「必要がある。」の誤記であるものと解される。)
【0038】
スピンコート法では、極めて高品質な表面が得られ、必要な場合、極めて薄い層が提供される。より重要なことは、プラスチック層22の湿式成形が可能なことである。従って、プラスチック層22は、オフセットリソグラフィまたはシルクスクリーン印刷法のような、ブレードもしくは印刷技術を用いた、塗布法により設置され得る。
【0039】
プラスチック層22から形成される基板は、多数の高分子を含む。
【0040】
高分子は、透明であり、溶液から湿式成形(例えばスピンコート)法で形成されても良いことは良く知られており、透明で好ましくは非複屈折性の膜が製造される。」
(2f)
「【0045】
図4には、垂直なCTEが平行なCTEよりも大きい、ポリイミドプラスチック層22を示す。
【0046】
前述のような特徴を有するプラスチック基板として使用されるポリイミドの一例は、ポリ(p-フェニレンビフェニルテトラカルボキシイミド)である(p-phenylene biphenyltetracarboximide)。この特定の高分子は、剛性ロッド状鎖を有する。これは、他の材料の示す値に比べて、有意に大きな熱膨張係数の異方性を有する。
【0047】
使用の際、ポリ(p-フェニレンビフェニルテトラカルボキシイミド)は、励起波長に暴露しても、歪んだり、クラックまたはバックリングが発生したりせず、これは、例えば200nm以上の高波長UVスペクトルであっても同様である。
【0048】
例えば、ポリ(p-フェニレンビフェニルテトラカルボキシイミド)は、ある方向では、105ppm/℃のCTE値を有し、第2の方向では、約5ppm/℃のCTEを有する。最大CTE値は、ガラス担体板12に対して垂直に整列され、熱またはレーザの印加方向と平行に整列される。
【0049】
CTEの大きな異方性は、材料(結晶量から得られる)および成膜処理プロセスの両方の特徴である。スピンコート法では、高分子分子鎖の面内配向が得られ、これは、高異方性に寄与する。
【0050】
スピンコート法は、高コストなプロセスであり、材料の多くが廃棄される。従って、スリットまたはブレードコーティング法が好ましい。この場合も、面内分子整列が得られ、必要な異方性が生じる。ポリイミドの粘度は、スリットコーティングに適した値に調整される。」
(2g)
「【0077】
前述の例は、アクティブマトリクス表示装置の製造に関するものである。別の態様では、本発明は、より一般的な、プラスチック基板上に薄膜回路を有する電子装置の製造に関する。従って、本発明は、より一般的には、剛性担持基板によって支持されたプラスチック基板上に、薄膜電子素子を形成することにも関し、その後、剛性担持基板は、プラスチック基板から取り外される。これらの装置は、例えば、太陽電池、大面積ライティングパネル、および着用可能なもしくは医療用のシステムに使用される、可撓性薄膜電子装置を有しても良い。また、プラスチック基板上に、薄膜電子装置(例えばTFTを有する)の処理を行う際に、実質的に従来の基板ハンドリング操作を用いても良い。湿式成形(例えばスピンオン)処理を用いて、平坦で高品質な表面を提供しても良い。
【0078】
湿式成形(例えばスピンオン)処理では、極めて薄い基板を形成することができる。例えば、基板は、3μmの厚さで形成されても良い。
【0079】
前述の詳細な製造方法の一例は、LCDディスプレイに関係するものである。しかしながら、示された各ステップに対して、多くの変更例が存在することは、当業者には明らかである。
【0080】
より一般的には、本発明では、まず、基板にプラスチックが設置される。プラスチック層の厚さは、通常、2μmから50μmの範囲である。このプラスチックは、最終的には、ディスプレイのプラスチック基板となり、ディスプレイ用途に使用される。適当な湿式成形処理プロセスは、スピンコーティング法、印刷法、および塗布法である。
・・(中略)・・
【0083】
次に、プラスチック/不動態化層の上に、TFTが形成される。TFT配列の製造は、a-Siまたは低温ポリ-Si(LTPS)TFT用の、ほぼ標準的な配列処理プロセス条件下で実施することができる。いくつかの細部の処理プロセスの変更を行うことにより、成膜された層の機械適応力を抑制することができる。極めて薄いプラスチック層がコーティングされた、標準的なガラス基板、および標準的な配列処理プロセスの使用は、この処理プロセスが既存のTFT製作プラントで行われ得ることを意味する。
【0084】
TFTは、前述の例のようなLCDのみならず、いくつかの異なるディスプレイタイプの多重化用のアクティブ装置素子として使用しても良い。ディスプレイタイプに関わらず、TFT配列が未だガラス上に積層された状態のまま、ディスプレイが製作される。これは、標準的なディスプレイ製造ツールおよび技術が利用できること、ならびにプラスチックの薄膜層の存在によって、いかなる有意な差異も生じないことを意味する。また、この時点では、ディスプレイドライバがディスプレイに結合されても良い。
【0085】
担体からプラスチック基板を取り外す際に使用されるレーザは、ガラス基板を介して印加され、プラスチックの底部に照射される。このためレーザは、通常の場合、ディスプレイの全面積を網羅するように走査される必要がある。波長が308nmおよび351nmのパルス化エキシマレーザを使用しても良い。
【0086】
本発明では、透明プラスチック基板の直接レーザ分離が可能となり、そのような基板は、透明および半透明LCD、ならびに高分子LEDのような、下方放射有機LED(OLED)を含む、全てのタイプのディスプレイに使用することができる。
【0087】
前述のように、液晶ディスプレイは、本発明による利点が得られる表示技術の一例に過ぎない。
【0088】
ポリ(p-フェニレンビフェニルテトラカルボキシイミド)は、本発明の一実施例における好適な材料の例として示されている。また、熱膨張係数の異方性が大きく、同様の特徴を有する材料が、同様の結果を得るために使用され得ることは、当業者には認識される。
【0089】
別の表示技術の例として、図6には、電気泳動表示材料を使用した、反射性表示装置200を示す。このタイプのディスプレイの一例は、Eインクディスプレイとして知られている。ガラス上のプラスチック層204上には、薄膜トランジスタ202の配列が形成されている。TFT配列は、窒化珪素不動態化層206および窒化珪素ゲート絶縁層208の上に提供され、高分子不動態化層212の上には、ITO画素210が形成される。ガラス基板は、図6には示されておらず、この図には、最終取り外し後の表示装置が示されている。
・・(中略)・・
【0094】
図6および図7の例は、本発明により製造されるが、多くの他の特定のディスプレイ構造、および他の電子部材構造を、前述の方法を用いて製作しても良いことは、明らかであろう。例えば、適当なディスプレイタイプは、OLED(有機LED)、PLED(高分子LED)、EL(エレクトロルミネッセント)およびPDLC(高分子-分散液晶)ディスプレイ、ならびにLCDを含む。」
イ.甲2-2(甲2-3)に記載された発明
上記甲2-2には、上記ア.の記載(特に甲2-3の【請求項1】、【請求項7】及び【請求項8】参照)からみて、
「湿式成形処理を用いて、剛性担持基板に、プラスチックコーティングを設置するステップであって、前記プラスチックコーティングは、プラスチック基板を形成し、基板面に対して垂直な第1の方向では、前記基板面に平行な第2の方向に比べて、少なくとも3倍大きな熱膨張係数を有する透明プラスチック材料を有するステップと、
前記プラスチック基板上に、薄膜電子素子を形成するステップと、
加熱処理により、前記プラスチック基板は、前記基板面に対して垂直な方向に優先的に延び、これにより、前記プラスチック基板から、前記剛性担持基板を取り外すステップと、を有する薄膜電子装置を製造する方法において使用されるプラスチックコーティングであって、ポリ(p-フェニレンビフェニルテトラカルボキシイミド)である透明プラスチック材料を有するプラスチック基板を形成することができるプラスチックコーティング。」
に係る発明(以下「甲2発明」という。)が記載されているといえる。
(3)甲2-4
甲2-4は、HD Microsystems社が2006年6月14日の時点で公開していた「PI-2611」なる製品に係るMSDS(Material Safety Data Sheet)であり、当該製品が、s-ビフェニル(テトラカルボン酸)二無水物とp-フェニレンジアミンとからなるポリマー10-30%とN-メチル-2-ピロリドン60%以上とを成分とすることが開示されている(第1頁下段)。
(4)甲2-5
甲2-5には、s-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)とp-フェニレンジアミン(PPD)とからなるポリアミック酸(PAA)である「PI-2611」が、数平均分子量(Mn)68100、重量平均分子量(Mw)157000を有すること(第21頁「TABLE I.」)につき開示されている。
(5)甲2-6
甲2-6には、「PI-2611」なる製品名の光非反応性のポリイミド前駆体につき、350℃で硬化した場合のポリイミドフィルムがガラス転移温度350℃で剛性度(PRCL)100%の物性を有すること(第329頁「Fig.1」)が開示されている。
(6)甲2-7
甲2-7には、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物とp-フェニレンジアミンとからなるポリイミド(前駆体)につき、波長可変マイクロ波による硬化を行った場合のポリイミドフィルムの物性、特に熱膨張係数につき開示されており、当該ポリイミド(前駆体)として、「PI-2611」なる製品名のHD Microsystems社の製品を使用したことが開示されている(「2.Experimental Work」の欄及び「Table 2」)。
(7)甲2-8
甲2-8には、Du Pont社の「2611」なる製品名のポリ(p-フェニレン ビフェニレンテトラカルボキシイミド)(BPDA-PDA)のポリアミック酸形態のN-メチルピロリドン溶液を使用して得たポリイミドの薄いフィルムにつき、厚みと熱膨張の異方性との関係性につき開示されており(文献題名及び「2.Experimental」)、フィルムの面方向と厚さ方向との熱膨張係数(CTE)が異なる挙動を示すことが開示されている(「Fig.6」及び「Fig.8」)。
(8)甲2-9
甲2-9には、s-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(sBPDA)とp-フェニレンジアミンとからなるポリアミック酸の溶液を製造する際に、sBPDAの量を化学量論的理論量の97~99.5%とした場合に優れた溶液特性を持つポリアミック酸溶液が得られ、また当該溶液から形成されたフィルム特性が向上することが開示され、分子量25000~80000程度のポリアミック酸が製造できることも開示されている(【0021】~【0023】)。
(9)甲2-10
甲2-10には、接着層とカバー層を有するカバーレイ基板において、カバー層ポリアミック酸前駆体として50000以下の重量平均分子量を有するビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)とp-フェニレンジアミンとからなるポリアミック酸(前駆体)を使用することが開示されている(【請求項1】ないし【請求項3】)。
(10)甲2-11
甲2-11には、ポリエステルとポリイミドから選ばれる縮合ポリマーとベンゾフェノン系の変性剤からなるデバイスの誘電層を構成する組成物が開示されており、当該ポリイミドとして「PI-2611」なる製品名のものが使用されることが開示されている(【請求項1】、【0004】及び【表1】)。
(11)甲2-12
甲2-12には、液晶ディスプレイ基板、有機ELディスプレイ基板又は電子ペーパー基板などのフレキシブルデバイス基板として耐熱性、力学的特性などに優れたポリイミドが使用されることが開示され、ガラス基板上にポリイミド樹脂膜を形成し、さらにその表面上にTFT等の電気素子を形成した後、ガラス基板を剥離してデバイス基板を形成することも開示されている(「Table 1」、「Figure 1」など)。
(12)甲2-13
甲2-13には、銅箔上に2種のポリイミド層が積層され、更に接着剤樹脂層が積層された接着剤付きフレキシブルプリント回路用基板が開示され、当該基板は、半導体素子や電気・電子部品を接着固定するものであることも開示されている(【特許請求の範囲】、【0001】)。
(13)甲2-14
甲2-14には、耐熱性樹脂に電気絶縁性の無機フィラーを配合した耐熱性樹脂組成物からなる内層とフッ素樹脂からなる外層とを有する定着用ベルトにおいて、耐熱性樹脂として、s-ビフェニルテトラカルボン酸/p-フェニレンジアミン単位を有するポリイミドと他のポリイミドとのブレンド物である定着用ベルトが開示されている(【請求項1】)。
(14)甲2-15
甲2-15には、液晶表示装置の画質向上技術において、基板の材料のみならず、表面処理、偏光板(位相差板)、カラーフィルター、液晶層、光源・駆動の各構成部材の選択により達成されていることが開示されている(「第1-3図」等)。
(15)甲2-16
甲2-16には、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を含むテトラカルボン酸二無水物とp-フェニレンジアミン類を含むジアミンとからなるポリアミック酸溶液ワニスが開示され、当該溶液から形成されるポリイミド樹脂膜が、低熱膨張性で優れたパターン形成能を有し、耐熱性、機械特性及び接着性に優れたものとなることも開示されている(【特許請求の範囲】、【0001】等)。
(16)甲2-17
甲2-17には、シランカップリング剤存在下にポリイミド形成材料を反応させて得られたポリアミック酸系重合体及び金属アルコキシドを含む組成物並びに当該組成物を加熱処理温度下で成形してなる成形物が開示され(【請求項1】)、当該ポリイミド形成材料として、ビフェニルテトラカルボン酸化合物及びフェニレンジアミン又はビフェニレンジアミン化合物が使用できることも開示されている(第2頁~第3頁「一般式〔1〕」)。
(17)甲2-18
甲2-18には、3,3’-ビフェニレンジアミン類とテトラカルボン酸二無水物とからなるポリイミド前駆体が開示され(【請求項1】)、上記テトラカルボン酸二無水物として、ピロメリト酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、シクロヘキサン-1,2,4,5-テトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ビシクロヘキシルテトラカルボン酸二無水物などが使用できること(【0042】)並びに上記3,3’-ビフェニレンジアミン類とともに他のジアミンとして、1,4-フェニレンジアミン、4,4’-ジアミノビフェニルなども使用できること(【0040】)もそれぞれ開示されている。
(18)甲2-19
甲2-19には、フレキシブルプリント回路やIC実装用フィルムキャリアのベースフィルムとして有用な「ユーピレックス」なる製品名のポリイミドフィルムが開示され(「1.はじめに」)、当該フィルムの製造において、原料化合物を反応させて一旦ポリアミック酸溶液とし、流延などによりフィルム状に成形した後、加熱しイミド化すること(「3.製造法」)並びに「ユーピレックス-S」なる製品名のポリイミドフィルムが、ビフェニルテトラカルボン酸残基と1,4-フェニレンジアミン残基とからなるポリイミドであること(「表2」)もそれぞれ開示されている。
(19)甲2-20
甲2-20には、接着破壊に係る理論が開示され、剥離、すなわち接着破壊時の剥離速度と剥離抵抗との関係につき、剥離速度が十分に低い場合に比して、剥離速度が大きい場合に剥離抵抗が極端に増大することが開示されている(「4-3 剥離のレオロジー」)。
II.各取消理由に係る判断
1.取消理由1-1ないし1-3及び2-1ないし2-3について
事案に鑑み、各甲号証に係る発明に基づいて、取消理由1-1ないし1-3及び2-1ないし2-3につき、それぞれ併せて検討する。
(1)甲2発明に基づく検討
ア.本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と甲2発明とを対比すると、本件発明1における「液晶ディスプレイ」、「有機ELディスプレイ」及び「電子ペーパー」は、いずれも「表示デバイス」なる薄型又は薄膜状の電子装置であるものと解するのが自然であるから、甲2発明における「薄膜電子装置」に包含されるものと認められ、また、甲2発明における「湿式成形処理を用いて、・・基板に、プラスチックコーティングを設置する」とは、当該「(液状の)プラスチックコーティング」を基板表面に塗布してコーティング(膜)を形成するものと解するのが自然であるから、当該「プラスチックコーティング」は、本件発明1における「塗布液」に相当するものと認められる。
また、甲2発明における「プラスチック基板」は、樹脂からなる膜状物又は板状物であることが明らかであり、「剛性担持基板」は、コーティングを施す硬質の基板であることが明らかであるから、それぞれ、本件発明1における「樹脂膜」及び「硬質キャリア基板」に相当する。
そして、甲2発明における「湿式成形処理を用いて、剛性担持基板に、プラスチックコーティングを設置するステップであって、前記プラスチックコーティングは、プラスチック基板を形成・・するステップ」、「前記プラスチック基板上に、薄膜電子素子を形成するステップ」及び「前記プラスチック基板から、前記剛性担持基板を取り外すステップ」は、それぞれ、本件発明1における「塗布液を硬質キャリア基板上に塗布成膜して樹脂膜を形成する工程」、「前記樹脂膜上に回路を形成する工程」及び「前記回路が表面に形成された樹脂膜を前記キャリア基板から剥離する工程」に相当するものといえる。
なお、甲2発明における「ポリ(p-フェニレンビフェニルテトラカルボキシイミド)」は、本件発明1における「一般式(1)(式及びその説明は省略)で表される構造単位を・・有する・・ポリイミド前駆体」に、ポリイミド系樹脂である点で一致するものと認められる。
してみると、本件発明1と甲2発明とは、
「塗布液を硬質キャリア基板上に塗布成膜して樹脂膜を形成する工程と、前記樹脂膜上に回路を形成する工程と、前記回路が表面に形成された樹脂膜を前記キャリア基板から剥離する工程と、を含む、デバイス基板の製造法に用いられ、デバイス基板となる基板形成用塗布液であって、ポリイミド系樹脂を含有してなる、デバイス基板となる基板形成用塗布液」
である点で一致し、下記の3点で相違するものと認められる。
相違点1:本件発明1では「表示デバイスとしてのフレキシブルデバイス基板の製造法に用いられ、フレキシブルデバイス基板となる液晶ディスプレイ基板形成用、有機ELディスプレイ基板形成用又は電子ペーパー基板形成用塗布液」であるのに対して、甲2発明では「薄膜電子装置を製造する方法において使用されるプラスチックコーティングであって、・・透明プラスチック材料を有するプラスチック基板を形成することができるプラスチックコーティング」であり、「表示デバイスとしてのフレキシブルデバイス基板となる液晶ディスプレイ基板形成用、有機ELディスプレイ基板形成用又は電子ペーパー基板形成用塗布液」であると特定されていない点
相違点2:本件発明1では「前記回路が表面に形成された樹脂膜を前記キャリア基板から剥離(但し、加熱処理による剥離を除く。)する工程」であるのに対して、甲2発明では「加熱処理により、・・前記プラスチック基板から、前記剛性担持基板を取り外すステップ」である点
相違点3:本件発明1では「一般式(1)(式及びその説明は省略)で表される構造単位を全構造単位中60%以上有する重量平均分子量が15,000~80,000であるポリイミド前駆体と、有機溶媒とを含有してなる・・塗布液」であるのに対して、甲2発明では「ポリ(p-フェニレンビフェニルテトラカルボキシイミド)である透明プラスチック材料を有するプラスチック基板を形成することができるプラスチックコーティング」である点
(イ)相違点に係る検討
事案に鑑み、上記相違点3につきまず検討すると、甲2-2には、「高分子は、透明であり、溶液から湿式成形(例えばスピンコート)法で形成されても良いことは良く知られており、透明で好ましくは非複屈折性の膜が製造される」ことが記載されている(第6頁第29行~第31行、甲2-3【0040】)ところ、甲2発明における「ポリ(p-フェニレンビフェニルテトラカルボキシイミド)」という「プラスチック基板」の材料となる芳香族系ポリイミド高分子は、通常の溶媒には溶解するものでないことが当業者に自明であり、溶液からの湿式成形法によりプラスチック基板を形成しようとする場合、当該ポリイミドの前駆体であるポリアミック酸形態の樹脂を有機溶媒に溶解した溶液組成物を構成し湿式成形法に供した後、硬化・閉環させてポリイミド樹脂膜(層)とするのが、当業者の技術常識又は慣用手段である(必要ならば甲1-2、甲1-4、甲2-9等を参照)から、甲2発明における「ポリ(p-フェニレンビフェニルテトラカルボキシイミド)である透明プラスチック材料を有するプラスチック基板を形成することができるプラスチックコーティング」についても、ポリ(p-フェニレンビフェニルテトラカルボキシイミド)の前駆体であるポリアミック酸形態の樹脂とそれを溶解できる有機溶剤との溶液組成物であると理解するのが自然である。
そして、上記「ポリ(p-フェニレンビフェニルテトラカルボキシイミド)の前駆体であるポリアミック酸形態の樹脂」は、本件発明1における「一般式(1)(R1基がp-フェニレン基、R2基が3,3’,4,4’-ビフェニレン基(4価))で表される構造単位を100%有するポリイミド前駆体」に相当することが当業者に自明である。
しかしながら、ポリイミド前駆体の分子量の点につき検討すると、甲2-5にも開示されるとおり、本願出願前において、「PAA(PI-2611)」なる重量平均分子量157000を有する「BPDA/PPD」(「3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物とp-フェニレンジアミンとからなる」ことを表す。)ポリアミック酸(溶液)が製品として上市されており、甲2-1などにも開示されているとおり、当該製品のポリイミド前駆体溶液組成物を使用して基板を形成することは当業者に少なくとも公知であるとともに、甲2-9又は甲2-10にも開示されているとおり、重量平均分子量80,000以下のポリイミド前駆体であるポリアミック酸溶液により、カバーレイ層、接着層又は絶縁膜を形成することも当業者に少なくとも公知ではあるが、甲2-2を含む上記全ての甲号証の記載を検討しても、フレキシブルデバイス基板に係る甲2発明における「ポリ(p-フェニレンビフェニルテトラカルボキシイミド)(前駆体)」について、「15,000~80,000」なる範囲内の重量平均分子量を有するものを選択して使用すべき動機となる事項が存するものとは認められない。
してみると、上記相違点3については、実質的な相違点であって、さらに、甲2発明において、当業者が所望に応じて適宜なし得ることということはできない。
(ウ)小括
したがって、本件発明1は、他の相違点につき検討するまでもなく、甲2発明、すなわち甲2-2に記載された発明であるということはできず、甲2-2に記載された発明に基づいて、たとえ他の甲号証に記載された事項を組み合わせたとしても、当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。
イ.本件発明2ないし7について
本件発明2ないし7につき検討すると、各発明ともに上記相違点3に係る事項を発明特定事項として含むものであるから、甲2発明との対比検討における上記ア.で示した理由と同一の理由により、他の技術事項についてはさておき、本件発明2ないし7は、甲2発明、すなわち甲2-2に記載された発明であるということはできず、甲2-2に記載された発明に基づいて、たとえ他の甲号証に記載された事項を組み合わせたとしても、当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。
ウ.甲2発明に基づく検討のまとめ
以上のとおり、本件発明1ないし7は、いずれも、甲2-2に記載された発明であるということはできず、甲2-2に記載された発明に基づいて、たとえ他の甲号証に記載された事項を組み合わせたとしても、当業者が容易に発明をすることができたものということはできないから、甲2-2(又は甲1-1)に記載された発明を主たる引用発明とする取消理由2-3及び取消理由1-2並びに当審が通知した取消理由1-1はいずれも理由がない。
(2)甲1発明に基づく検討
ア.本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と甲1発明とを対比すると、本件発明1における「液晶ディスプレイ」、「有機ELディスプレイ」及び「電子ペーパー」は、いずれも「表示デバイス」なる薄型又は薄膜状の電子装置であり、その誘電体からなる基板上にICなどの半導体装置が搭載されているものと解するのが自然であるから、甲1発明における「誘電体層上に少なくとも一の半導体デバイスを有するIC整合基板」に相当するものと認められ、また、甲1発明における「シリコンウエハからなるキャリア上に誘電体層を回転塗布により形成する」とは、「誘電体層形成材料」である「塗布用材料」をシリコンウエハからなるキャリア上に回転塗布して誘電体層(膜)を形成するものと解するのが自然であるから、当該「誘電体層形成材料」である「塗布用材料」は、本件発明1における「塗布液」に相当するものと認められる。
また、甲1発明における「誘電体層」は、樹脂からなる膜状物又は板状物であることが明らかであり、「シリコンウエハからなるキャリア」は、回転塗布を施す硬質の基板であることが明らかであるから、それぞれ、本件発明1における「樹脂膜」及び「硬質キャリア基板」に相当する。
そして、甲1発明における「シリコンウエハからなるキャリア上に誘電体層を回転塗布により形成する工程」、「誘電体層上に少なくとも一の半導体デバイスを有するIC整合基板を形成する工程」及び「最後のカット処理の際にカットされたIC整合基板をキャリアから分離する工程」は、それぞれ、本件発明1における「塗布液を硬質キャリア基板上に塗布成膜して樹脂膜を形成する工程」、「前記樹脂膜上に回路を形成する工程」及び「前記回路が表面に形成された樹脂膜を前記キャリア基板から剥離する工程」に相当するものといえる。
なお、甲1発明における「ポリイミドPI(polyimide,デュポン社製,PI-2611)」は、本件発明1における「一般式(1)(式及びその説明は省略)で表される構造単位を・・有する・・ポリイミド前駆体」に、ポリイミド系樹脂である点で一致するものと認められる。
してみると、本件発明1と甲1発明とは、
「塗布液を硬質キャリア基板上に塗布成膜して樹脂膜を形成する工程と、前記樹脂膜上に回路を形成する工程と、前記回路が表面に形成された樹脂膜を前記キャリア基板から剥離する工程とを含むデバイス基板の製造法に用いられ、デバイス基板となる基板形成用塗布液であって、ポリイミド系樹脂を含有してなる、デバイス基板となる基板形成用塗布液」
である点で一致し、下記の3点で相違するものと認められる。
相違点1’:本件発明1では「表示デバイスとしてのフレキシブルデバイス基板の製造法に用いられ、フレキシブルデバイス基板となる液晶ディスプレイ基板形成用、有機ELディスプレイ基板形成用又は電子ペーパー基板形成用塗布液」であるのに対して、甲1発明では「IC整合基板の製造方法に使用する誘電体層形成材料」である「塗布用材料」であり、「表示デバイスとしてのフレキシブルデバイス基板となる液晶ディスプレイ基板形成用、有機ELディスプレイ基板形成用又は電子ペーパー基板形成用塗布液」であると特定されていない点
相違点2’:本件発明1では「前記回路が表面に形成された樹脂膜を前記キャリア基板から剥離(但し、加熱処理による剥離を除く。)する工程」であるのに対して、甲1発明では「最後のカット処理の際にカットされたIC整合基板をキャリアから分離する工程」である点
相違点3’:本件発明1では「一般式(1)(式及びその説明は省略)で表される構造単位を全構造単位中60%以上有する重量平均分子量が15,000~80,000であるポリイミド前駆体と、有機溶媒とを含有してなる・・塗布液」であるのに対して、甲1発明では「ポリイミドPI(polyimide,デュポン社製,PI-2611)である塗布用材料」である点
(イ)相違点に係る検討
事案に鑑み、上記相違点3’につきまず検討すると、甲1発明における「ポリイミドPI(polyimide,デュポン社製,PI-2611)」は、甲2-5にも開示されるとおり、重量平均分子量157000を有する「BPDA/PPD」(「3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物とp-フェニレンジアミンとからなる」ことを表す。)ポリアミック酸(溶液)であるから、上記相違点3’は、実質的な相違点である。
そして、甲2-1などにも開示されているとおり、当該製品のポリイミド前駆体溶液組成物を使用して基板を形成することは当業者に少なくとも公知であるとともに、甲2-9又は甲2-10にも開示されているとおり、重量平均分子量80,000以下のポリイミド前駆体であるポリアミック酸溶液により、カバーレイ層、接着層又は絶縁膜を形成することも当業者に少なくとも公知ではあるが、甲2-1を含む上記全ての甲号証の記載を検討しても、IC整合基板に係る甲1発明における「ポリイミドPI(polyimide,デュポン社製,PI-2611)」について、「15,000~80,000」なる範囲内の重量平均分子量を有するものに代替すべき動機となる事項が存するものとは認められない。
してみると、上記相違点3’については、実質的な相違点であって、さらに、甲1発明において、当業者が所望に応じて適宜なし得ることということはできない。
(ウ)小括
したがって、本件発明1は、他の相違点につき検討するまでもなく、甲1発明、すなわち甲2-1に記載された発明であるということはできず、甲2-1に記載された発明に基づいて、たとえ他の甲号証に記載された事項を組み合わせたとしても、当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。
イ.本件発明2ないし7について
本件発明2ないし7につき検討すると、各発明ともに上記相違点3’に係る事項を発明特定事項として含むものであるから、甲1発明との対比検討における上記ア.で示した理由と同一の理由により、他の技術事項についてはさておき、本件発明2ないし7は、甲1発明、すなわち甲2-1に記載された発明であるということはできず、甲2-1に記載された発明に基づいて、たとえ他の甲号証に記載された事項を組み合わせたとしても、当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。
ウ.甲1発明に基づく検討のまとめ
以上のとおり、本件発明1ないし7は、いずれも、甲2-1に記載された発明であるということはできず、甲2-1に記載された発明に基づいて、たとえ他の甲号証に記載された事項を組み合わせたとしても、当業者が容易に発明をすることができたものということはできないから、甲2-1に記載された発明を主たる引用発明とする取消理由2-1及び2-2はいずれも理由がない。
(3)甲4発明に基づく検討
ア.本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と甲4発明とを対比すると、甲4発明における「フレキシブル回路基板」は「芳香族ポリイミドフィルム上に」「パタ-ニング」された「銅層を形成した銅張板」であるから、本件発明1における「フレキシブルデバイス基板」に相当するものと認められ、また、甲4発明における「ポリアミック酸溶液組成物をキャスティングにより支持体上に押出して前記溶液組成物の薄膜を形成し、乾燥して固化したフィルムとした後、キュアして芳香族ポリイミドフィルムを形成する」とは、「ポリアミック酸溶液組成物」を「支持体上」に「キャスティングにより」「溶液組成物の薄膜を形成して」、すなわち塗布によるものと同様の溶液薄膜を支持体上に形成した後、「芳香族ポリイミドフィルムを形成する」ものと解するのが自然であるから、当該「ポリアミック酸溶液組成物」は、本件発明1における「塗布液」に相当するものと認められる。
また、甲4発明における「芳香族ポリイミドフィルム」は、芳香族ポリイミド樹脂からなる膜状物又は板状物であることが明らかであり、「支持体」は、溶液薄膜を形成する硬質の基板であることが明らかであるから、それぞれ、本件発明1における「樹脂膜」及び「硬質キャリア基板」に相当する。
そして、甲4発明における「ポリアミック酸溶液組成物をキャスティングにより支持体上に押出して前記溶液組成物の薄膜を形成し、乾燥して固化したフィルムとした後、キュアして芳香族ポリイミドフィルムを形成する工程」及び「芳香族ポリイミドフィルム上に銅層を形成した銅張板にパタ-ニングを行い、エッチング、水洗・乾燥工程を経た後、コ-ト材を塗布・乾燥する工程」は、それぞれ、本件発明1における「塗布液を硬質キャリア基板上に塗布成膜して樹脂膜を形成する工程」及び「前記樹脂膜上に回路を形成する工程」に相当するものといえる。
なお、甲4発明における「3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物とパラフェニレンジアミンとを重合反応させてなるポリアミック酸」及び「N,N-ジメチルアセトアミド(溶媒)」は、それぞれ、本件発明1における「一般式(1)(式及びその説明は省略)で表される構造単位を・・有する・・ポリイミド前駆体」の一種である点及び「有機溶媒」である点で一致するものと認められる。
してみると、本件発明1と甲4発明とは、
「塗布液を硬質キャリア基板上に塗布成膜して樹脂膜を形成する工程と、前記樹脂膜上に回路を形成する工程とを含むフレキシブルデバイス基板の製造法に用いられ、デバイス基板となる基板形成用塗布液であって、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物とパラフェニレンジアミンとを重合反応させてなるポリイミド前駆体と有機溶媒を含有してなる、デバイス基板となる基板形成用塗布液」
である点で一致し、下記の3点で相違するものと認められる。
相違点1’’:本件発明1では「表示デバイスとしてのフレキシブルデバイス基板の製造法に用いられ、フレキシブルデバイス基板となる液晶ディスプレイ基板形成用、有機ELディスプレイ基板形成用又は電子ペーパー基板形成用塗布液」であるのに対して、甲4発明では「フレキシブル回路基板の製造方法に用いられるポリアミック酸溶液組成物」であり、「表示デバイスとしてのフレキシブルデバイス基板となる液晶ディスプレイ基板形成用、有機ELディスプレイ基板形成用又は電子ペーパー基板形成用塗布液」であると特定されていない点
相違点2’’:本件発明1では「前記回路が表面に形成された樹脂膜を前記キャリア基板から剥離(但し、加熱処理による剥離を除く。)する工程」を有するのに対して、甲4発明では「支持体上に押出して前記溶液組成物の薄膜を形成し、乾燥して固化し、支持体から剥離して固化フィルムとした後、キュアして芳香族ポリイミドフィルムを形成する工程並びに当該芳香族ポリイミドフィルム上に銅層を形成した銅張板にパタ-ニングを行い、エッチング、水洗・乾燥工程を経た後、コ-ト材を塗布・乾燥する工程を含む」点
相違点3’’:本件発明1では「一般式(1)(式及びその説明は省略)で表される構造単位を全構造単位中60%以上有する重量平均分子量が15,000~80,000であるポリイミド前駆体と、有機溶媒とを含有してなる・・塗布液」であるのに対して、甲4発明では「N,N-ジメチルアセトアミド(溶媒)中で、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物とパラフェニレンジアミンとを重合反応させてなるポリアミック酸溶液組成物」であり、ポリアミック酸の構造の割合及び重量平均分子量につき特定されていない点
(イ)相違点に係る検討
事案に鑑み、上記相違点3’’につきまず検討すると、甲4発明における「N,N-ジメチルアセトアミド(溶媒)中で、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物とパラフェニレンジアミンとを重合反応させてなるポリアミック酸溶液組成物」につき、甲1-4には、当該ポリアミック酸の特定測定条件下における対数粘度については記載されているものの、重量平均分子量については記載されていないから、上記相違点3’’は、実質的な相違点である。
そして、甲2-1などにも開示されているとおり、「PI-2611」等の製品のポリイミド前駆体溶液組成物を使用して基板を形成することは当業者に少なくとも公知であるとともに、甲2-9又は甲2-10にも開示されているとおり、重量平均分子量80,000以下のポリイミド前駆体であるポリアミック酸溶液により、カバーレイ層、接着層又は絶縁膜を形成することも当業者に少なくとも公知ではあるが、甲1-4を含む上記全ての甲号証の記載を検討しても、フレキシブルデバイス基板に係る甲4発明における「N,N-ジメチルアセトアミド(溶媒)中で、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物とパラフェニレンジアミンとを重合反応させてなるポリアミック酸」について、「15,000~80,000」なる範囲内の重量平均分子量を有するものを使用すべき動機となる事項が存するものとは認められない。
してみると、上記相違点3’’については、実質的な相違点であって、さらに、甲4発明において、当業者が所望に応じて適宜なし得ることということはできない。
(ウ)小括
したがって、本件発明1は、他の相違点につき検討するまでもなく、甲4発明、すなわち甲1-4に記載された発明であるということはできない。
イ.本件発明2ないし7について
本件発明2ないし7につき検討すると、各発明ともに上記相違点3’’に係る事項を発明特定事項として含むものであるから、甲4発明との対比検討における上記ア.で示した理由と同一の理由により、他の技術事項についてはさておき、本件発明2ないし7は、甲4発明、すなわち甲1-4に記載された発明であるということはできない。
ウ.甲4発明に基づく検討のまとめ
以上のとおり、本件発明1ないし7は、いずれも、甲1-4に記載された発明であるということはできないから、甲1-4に記載された発明を引用発明とする取消理由1-3は理由がない。
(4)他の甲号証に係る発明について
念のため、甲2-2(甲1-1及び甲2-3)、甲2-1並びに甲1-4以外の他の甲号証に係る発明に基づき、本件発明が、特許法第29条に違反する点で同法第113条第2号の規定に該当するか否かについて検討すると、キャリア基板にポリイミド前駆体溶液を塗布して乾燥・閉環しポリイミド樹脂膜として、デバイス基板を構成する点とその際のポリイミド前駆体として重量平均分子量15,000~80,000のポリアミック酸を使用する点とを組み合わせるべき動機となる事項が存するものとは認められないから、当該他の甲号証に係る発明に基づいて、本件発明が、特許法第29条に違反するものということはできない。
(5)取消理由1-1ないし1-3及び2-1ないし2-3に係る小括
以上のとおりであるから、取消理由1-1ないし1-3及び2-1ないし2-3は、いずれも理由がなく、本件発明1ないし7についての特許が、特許法第29条に違反してされたものということはできない。
2.取消理由1-5、取消理由2-4及び取消理由aについて
申立人1が主張する取消理由1-5、申立人2が主張する取消理由2-4及び当審が通知した取消理由aは、いずれも請求項の記載に係る明細書のサポート要件に係るものであるから、併せて検討する。
(1)本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された事項
本件特許明細書の発明の詳細な説明には、以下の事項が記載されている。
(本a)
「【技術分野】
【0001】
本発明は、低熱膨張、高耐熱性、靭性に優れる、各種フレキシブルデバイスにおいて、液晶ディスプレイ用基板、有機ELディスプレイ用基板、電子ペーパー用基板等の表示デバイスとしてのフレキシブルデバイス基板、薄膜太陽電池等の受光デバイスとしてのフレキシブルデバイス基板等のフレキシブルデバイス基板用であるポリイミド前駆体樹脂組成物に関し、特にフレキシブルディスプレイ用基板として有用であるポリイミド前駆体樹脂組成物に関する。また、本発明は前記ポリイミド前駆体樹脂組成物を用いるフレキシブルデバイスの製造方法及び前記製造方法により得られるフレキシブルデバイスに関する。」
(本b)
「【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、液晶ディスプレイ用基板、有機ELディスプレイ用基板、電子ペーパー用基板等の表示デバイスとしてのフレキシブルデバイス基板、薄膜太陽電池等の受光デバイスとしてのフレキシブルデバイス基板等のフレキシブルデバイス基板用としては、簡易な工程に適用でき、かつ、要求特性を高度に満足するものは知られていない。即ち、前記フレキシブルデバイス基板用としては、さらなる薄膜化の要求がなされ、また、工程上一旦キャリア基板上に薄膜を形成した状態でその上に各種回路を形成し、その後に剥離することができる液状樹脂組成物が要求されるが、このような工程に用いることができ、かつ、高度な要求特性を有する液状樹脂組成物は知られていない。
本発明は、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、電子ペーパー等の表示デバイス、太陽電池の受光デバイスであるフレキシブルデバイスにおいて、ガラス基板等のキャリア基板上に塗布することで簡単にかつ所望の膜厚の薄膜を形成し、その樹脂薄膜上に回路やディスプレイ層等を形成できるとともに、耐熱性に優れ、熱膨張係数の低いポリイミド膜となって、回路等の形成過程でキャリア基板層からのはがれやキャリア基板層のそりを生じさせず、回路等のはがれなどの欠陥も生じず、そしてその後、キャリア基板から欠陥を生じずに剥離ができる、液状のフレキシブルデバイス基板形成用ポリイミド前駆体樹脂組成物、これを用いたフレキシブルデバイス及びその製造方法を提供するものである。」
(本c)
「【発明の効果】
【0009】
本発明における液状のフレキシブルデバイス基板形成用ポリイミド前駆体樹脂組成物は、低熱膨張、高耐熱性、高靭性に優れ、表示デバイス又は受光デバイスの基板として適したポリイミド薄膜を形成できる。
また、現在の主流である、ベースフィルムとしてすでにフィルムとして成型されている、厚さの決まったものを用いるのではなく、デバイスの製造に即して塗布成膜する液状の組成物を使用するため、スピンコートやスクリーン印刷などによりガラス基板などのキャリア基板上に塗布できる。この時、塗布膜厚を変化させることにより、樹脂膜(ベースフィルム)の厚さを所望の厚さ、特に薄膜に調整することも可能となり、したがってフレキシブルデバイスのさらなる薄型化も可能となる。これにより、最終製品の小型化、軽量化も可能となる。
また、ガラス基板等のキャリア基板上に薄く塗布することで簡単にかつ所望の膜厚の薄膜として成膜でき、その上に回路やディスプレイ層等を形成できるとともに、耐熱性に優れ、熱膨張係数の低いポリイミド膜となって、回路等の形成過程でキャリア基板層からのはがれやキャリア基板層のそりを生じさせず、回路等のはがれなどの欠陥も生じない上、その後キャリア基板から剥がす際には、ポリイミド膜自体にも、その上に形成された回路等にも欠陥を生じることがなく、きれいに剥がせるものである。従って、これを用いた表示デバイス又は受光デバイスとなるフレキシブルデバイスの製造方法は、キャリア基板上に形成されたベースフィルムに直接回路を形成し、その後剥離することが可能となるため、再転写の製造工程を省略することができる。そして得られるフレキシブルデバイスは、薄くても靱性が高く、耐熱性にも優れるものとなる。」
(本d)
「【0011】
本発明の液状のフレキシブルデバイス基板用ポリイミド前駆体樹脂組成物は、キャリア基板上に塗布、乾燥、成膜し、次いで、好ましくは加熱等の手段により、脱水閉環させて、固体状のポリイミド樹脂膜を形成する工程、その上に回路を形成する工程、前記回路が表面に形成された固体状の樹脂膜を前記キャリア基板から剥離する工程、の各工程を含む、フレキシブルデバイスの製造方法に用いられるものである。この方法によれば、前述のように直接固体状のポリイミド樹脂膜(ベースフィルム)へ回路を形成することが可能となり、再転写の製造工程を省略することができる。
本発明における液状のポリイミド前駆体樹脂組成物は、以下の一般式(1)で表される構造を有するポリイミド前駆体と有機溶媒を含む。
一般式(1)
【0012】
【化4】
(一般式(1)中、Rは各々独立に水素原子又は一価の有機基を示し、R1は
【0013】
【化5】
から選択される2価の有機基であり(但しR’は各々独立にアルキル基であり、アルキル基の水素原子はハロゲンで置換されても良い)、R2は
【0014】
【化6】
から選択される四価の有機基であり、nは繰り返し数を表す正の整数である。但し、R1がp-フェニレンジアミンに基づく構造単位であるとき、R2はピロメリット酸無水物に基づく構造単位ではない。)
一般式(1)において、Rは、各々独立に水素又は1価の有機基を示し、1価の有機基として、炭素原子数1~20のものが好ましく、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基などが挙げられる。R1におけるR’としては、炭素原子数1~3のアルキル基等の炭化水素基が挙げられ、そのアルキル基の水素原子の一部または全部がハロゲン原子(フッ素、塩素、臭素、ヨウ素)で置換されていても良い。
ポリイミド前駆体は、一般に1つのテトラカルボン酸残基と1つのジアミン残基から形成される構造単位(括弧でくくられた構造単位)が繰り返し単位となって形成されるが、本発明においては一般式(1)で示される括弧でくくられた構造単位が、全構造単位中40%以上であることが好ましく、60%以上であることがより好ましく、80~100%であることが特に好ましい。
ポリイミド前駆体は、一般にテトラカルボン酸二無水物とジアミンとを重合することにより得られる。この重合は両者を有機溶媒中で混合することにより行うことができる。
【0015】
前記一般式(1)で示される構造を形成するために用いられるテトラカルボン酸二無水物としては、ピロメリット酸二無水物、シクロヘキシルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ビシクロヘキシルテトラカルボン酸二無水物が挙げられる。その他のテトラカルボン酸二無水物を併用することもでき、その例としては、4,4’-オキシジフタル酸二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、4,4’-スルフォニルジフタル酸二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物などが挙げられる。一般式(1)で示される構造を形成するテトラカルボン酸二無水物の使用量は、テトラカルボン酸二無水物の総量に対して、40%以上であることが好ましく、60%以上であることがより好ましく、80~100%であることが特に好ましい。
【0016】
また、前記一般式(1)で示される構造単位を形成するために用いられるジアミンとしては、p-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、ベンジジン、3,3’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、2,2’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、3,3’-ジエチル-4,4’-ジアミノビフェニル、2,2’-ジエチル-4,4’-ジアミノビフェニル等が挙げられる。その他のジアミンを併用することもでき、そのジアミンとしては、p-キシリレンジアミン、m-キシリレンジアミン、1,5-ジアミノナフタレン、3,3’-ジメトキシベンジジン、4,4’-(又は3,4’-、3,3’-、2,4’-)ジアミノジフェニルメタン、4,4’-(又は3,4’-、3,3’-、2,4’-)ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-(又は3,4’-、3,3’-、2,4’-)ジアミノジフェニルスルフォン、4,4’-(又は3,4’-、3,3’-、2,4’-)ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’-ベンゾフェノンジアミン、3,3’-ベンゾフェノンジアミン、4,4’-ジ(4-アミノフェノキシ)フェニルスルフォン、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2,2-ビス(4-アミノフェニル)プロパン、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、3,3-ジメチル-4,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,3’,5,5’-テトラメチル-4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジ(3-アミノフェノキシ)フェニルスルホン、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、2,2’-ビス(4-アミノフェニル)プロパン、5,5’-メチレン-ビス-(アントラニル酸)、3,5-ジアミノ安息香酸、3,3’-ジヒドロキシ-4,4’-ジアミノビフェニル、3,3’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル-6,6’-ジスルホン酸等の芳香族ジアミン、2,6-ジアミノピリジン、2,4-ジアミノピリジン、2,4-ジアミノ-s-トリアジン、2,7-ジアミノベンゾフラン、2,7-ジアミノカルバゾール、3,7-ジアミノフェノチアジン、2,5-ジアミノ-1,3,4-チアジアゾール、2,4-ジアミノ-6-フェニル-s-トリアジン等の複素環式ジアミン、トリメチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、2,2-ジメチルプロピレンジアミン、1,4-シクロヘキサンジアミンなどが挙げられる、ジアミンであるならば、この限りでなく併用できる。一般式(1)で示される構造を形成するジアミンの使用量は、ジアミンの総量に対して、40%以上であることが好ましく、60%以上であることがより好ましく、80%以上であることが特に好ましい。
【0017】
重合に使用する有機溶媒は、例えば、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、γ-ブチロラクトン、ε-カプロラクトン、γ-カプロラクトン、γ-バレロラクトン、ジメチルスルホキシド、1,4-ジオキサン、シクロヘキサノンなどが挙げられ、また、これらは2種以上を併用してもよい。ポリイミド前駆体樹脂組成物を生成後、粘度を調整するために、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルアセテート、プロピレングリコールモノエチルアセテート、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、トルエン、キシレン、エタノール、イソプロピルアルコール、n-ブタノールなどを用いても良く、これらは2種以上を併用してもよい。ポリイミド前駆体樹脂組成物におけるポリイミド前駆体/有機溶媒の質量割合としては、良好な薄膜を形成できる塗布性等の観点から、ポリイミド前駆体/有機溶媒で、5/95~95/5が好ましい。
製造されるポリイミド前駆体の分子量としては、硬化膜の伸び及び溶媒への溶解性の観点から、重量平均分子量で、15,000~200,000が好ましい。重量平均分子量は、ゲルパーミエ-ションクロマトグラフィー法により測定し、標準ポリスチレン検量線により換算して算出することができる。」
(本e)
「【0022】
本発明のフレキシブルデバイスの製造方法においては、以上のようにして形成したポリイミド膜の上に、表示デバイス、受光デバイスに必要な回路を形成する工程を含む。この工程はフレキシブルデバイスの種類により異なる。例えば、TFT液晶ディスプレイデバイスを製造する場合には、この上に例えばアモルファスシリコンのTFTを形成することが出来る。TFTは、ゲート金属層、窒化ケイ素ゲート誘電体層、ITI画素電極を含む。さらにこの上に液晶ディスプレイに必要な構造を、公知の方法によって形成することも出来る。本発明において得られるポリイミド樹脂膜は耐熱性、靱性等各種特性に優れるので、回路等を形成する手法は特に制限されない。
以上のようにして、回路等が表面に形成された固体状のポリイミド樹脂膜を前記キャリア基板から剥離する。剥離方法に特に制限はなく、例えばキャリア基板側からレーザー等を照射することで剥離を行っても良い。本発明により得られるポリイミド樹脂膜は、高い靭性を有するので、キャリア基板(支持体)と単に物理的に剥離することも可能である。
本発明における、フレキシブルデバイスとしては、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、電子ペーパーといった表示デバイス、太陽電池、CMOSなどの受光デバイスを挙げることが出来る。特に、薄型化かつフレキシブル性を付与したいデバイスへの適用に最適である。」
(本f)
「【実施例】
【0023】
(実施例1)
窒素雰囲気下の200mlフラスコに、p-フェニレンジアミン5.41gとN-メチルピロリドン181.03gを仕込み、15分間、40℃で加熱攪拌しモノマーを溶解させた。その後s-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物14.71gを加え、さらに30分間攪拌し、粘度1100mPa・s(25℃)の液状ポリイミド前駆体樹脂組成物を得た。このポリイミド前駆体の重量平均分子量は70000であった。
得られた液状ポリイミド前駆体樹脂組成物を厚さ625μmの6インチシリコン基板上にスピンコートで塗布した後、130℃のホットプレートで2分間ベークし、厚さ5μmになるように製膜した。次いで、硬化炉を用い200℃で30分間、さらに350℃で60分間加熱硬化してイミド化し、ポリイミド樹脂フィルムからなる樹脂膜を得た。イミド化後の膜厚は3μmであった。この樹脂フィルムをシリコン基板より剥離し、熱特性、機械特性を測定し、その結果を纏めて表1に示した。
・・(中略)・・
【0025】
(実施例2)
窒素雰囲気下の200mlフラスコに、p-フェニレンジアミン3.86gと1,3-ビス(3-アミノプロピル)-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン0.18g、N-メチルピロリドン85gを仕込み、15分間、40℃で加熱攪拌しモノマーを溶解させた。その後s-ビフェニルテトラカルボン酸無水物10.19gと1,3-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル酸無水物)-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサンを0.78g加え、さらに30分間攪拌し、粘度2000mPa・s(25℃)の液状ポリイミド前駆体樹脂組成物を得た。このポリイミド前駆体樹脂の重量平均分子量は80000であった。
得られた液状ポリイミド前駆体樹脂組成物を厚さ625μmの6インチシリコン基板上にスピンコートで塗布した後、130℃のホットプレートで45秒間、次いで160℃のホットプレートで45秒間ベークし、厚さ8μmになるように製膜した。次いで、実施例1に記載の条件で加熱硬化してイミド化し、ポリイミド樹脂フィルムからなる樹脂膜を得た。この膜厚は5μmであった。この樹脂フィルムをシリコン基板より剥離し、熱特性、機械特性を測定し、その結果を纏めて表1に示した。測定条件は実施例1に記載の条件に従った。
【0026】
(実施例3)
窒素雰囲気下の200mlフラスコに2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン11.99gとN-メチルピロリドン77gを仕込み、室温(25℃)で15分間攪拌しモノマーを溶解した。その後s-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物11.01gを加えさらに室温で30分間攪拌し、粘度7200mPa・s(25℃)の液状ポリイミド前駆体樹脂組成物を得た。このポリイミド前駆体樹脂の重量平均分子量は72400であった。
得られた液状ポリイミド前駆体樹脂組成物を厚さ625μmの6インチシリコン基板上にスピンコートで塗布した後、100℃のホットプレートで2分間、次いで130℃のホットプレートで2分間ベークし、厚さ13μmになるように製膜した。次いで、実施例1に記載の条件で加熱硬化してイミド化し、ポリイミド樹脂フィルムからなる樹脂膜を得た。この膜厚は9μmであった。この樹脂フィルムをシリコン基板より剥離し、熱特性、機械特性を測定し、その結果を纏めて表1に示した。測定条件は実施例1に記載の条件に従った。
【0027】
(実施例4)
窒素雰囲気下の200mlフラスコに、1,4-ジアミノシクロヘキサン5.59gをN-メチルピロリドン80gを仕込み、70℃で15分間加熱攪拌しモノマーを溶解した。その後s-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物14.41gを加え80℃で30分間攪拌後、自然冷却し粘度9200mPa・s(25℃)の液状ポリイミド前駆体樹脂組成物を得た。このポリイミド前駆体樹脂の重量平均分子量は53000であった。
得られた液状ポリイミド前駆体樹脂組成物を厚さ625μmの6インチシリコン基板上にスピンコートで塗布した後、100℃のホットプレートで2分間、次いで130℃のホットプレートで2分間ベークし、厚さ15μmになるように製膜した。次いで、実施例1に記載の条件で加熱硬化してイミド化し、ポリイミド樹脂フィルムからなる樹脂膜を得た。この膜厚は10μmであった。この樹脂フィルムをシリコン基板より剥離し、熱特性、機械特性を測定し、その結果を纏めて表1に示した。測定条件は実施例1に記載の条件に従った。
【0028】
(実施例5)
窒素雰囲気下の200mlフラスコに、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン1.49gと1,4-ジアミノシクロヘキサン4.78g、N-メチルピロリドン80gを仕込み、70℃で15分間加熱攪拌しモノマーを溶解した。その後s-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物13.01gと3,3’,4,4’-ビシクロヘキシルテトラカルボン酸二無水物0.71gを加え80℃で30分間加熱攪拌後、自然冷却し液状ポリイミド前駆体樹脂組成物を得た。このポリイミド前駆体樹脂の重量平均分子量は87900であった。
得られた液状ポリイミド前駆体樹脂組成物を厚さ625μmの6インチシリコン基板上にスピンコートで塗布した後、100℃のホットプレートで2分間、次いで130℃のホットプレートで2分間ベークし、厚さ15μmになるように製膜した。次いで、実施例1に記載の条件で加熱硬化してイミド化し、ポリイミド樹脂フィルムからなる樹脂膜を得た。この膜厚は10μmであった。この樹脂フィルムをシリコン基板より剥離し、熱特性、機械特性を測定し、その結果を纏めて表1に示した。測定条件は実施例1に記載の条件に従った。
【0029】
(比較例1)
窒素雰囲気下の200mlフラスコに、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル6.03gと1,3-ビス(3-アミノプロピル)-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン0.39g、N-メチルピロリドン85gを仕込み、室温で15分間攪拌しモノマーを溶解させた。その後ピロメリット酸二無水物3.46gと3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物5.11gを加え、さらに24時間攪拌した。その後80℃の加熱攪拌で粘度調整を行い、粘度1100mPa・s(25℃)の液状ポリイミド前駆体樹脂組成物を得た。このポリイミド前駆体樹脂の重量平均分子量は76000であった。
得られた液状ポリイミド前駆体樹脂組成物をガラス基板上にスピンコートで塗布した後、140℃のホットプレートで1分間ベークし、厚さ8μmになるように製膜した。次いで、実施例1に記載の条件で加熱硬化してイミド化し、ポリイミド樹脂フィルムからなる樹脂膜を得た。この膜厚は4μmであった。この樹脂フィルムをシリコン基板より剥離し、熱特性、機械特性を測定し、その結果を纏めて表1に示した。測定条件は実施例1に記載の条件に従った。
【0030】
(比較例2)
窒素雰囲気下の200mlフラスコに、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン8.07gと1,3-ビス(3-アミノプロピル)-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン0.26g、N-メチルピロリドン68g、ジイソブチルケトン17gを仕込み、15分間攪拌した。その後3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物6.67gを加えさらに30分間攪拌し、粘度1100mPa・s(25℃)の液状ポリイミド前駆体樹脂組成物を得た。このポリイミド前駆体樹脂の重量平均分子量は81000であった。
得られた液状ポリイミド前駆体樹脂組成物を厚さ625μmの6インチシリコン基板上にスピンコートで塗布した後、120℃のホットプレートで3分間ベークし、厚さ14μmになるように製膜した。次いで、実施例1に記載の条件で加熱硬化してイミド化し、ポリイミド樹脂フィルムからなる樹脂膜を得た。この膜厚は8μmであった。この樹脂フィルムをシリコン基板より剥離し、熱特性、機械特性を測定し、その結果を纏めて表1に示した。測定条件は実施例1に記載の条件に従った。
【0031】
(比較例3)
窒素雰囲気下の200mlフラスコに、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン8.93gとN-メチルピロリドン85gを仕込み、室温で15分間攪拌しモノマーを溶解した。その後s-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物6.07gを加えさらに30分間攪拌し、粘度500mPa・s(25℃)の液状ポリイミド前駆体樹脂組成物を得た。このポリイミド前駆体樹脂の重量平均分子量は78100であった。
得られた液状ポリイミド前駆体樹脂組成物を厚さ625μmの6インチシリコン基板上にスピンコートで塗布した後、80℃のホットプレートで2分間、次いで120℃のホットプレートで2分間ベークし、厚さ7μmになるように製膜した。次いで、実施例1に記載の条件で加熱硬化してイミド化し、ポリイミド樹脂フィルムからなる樹脂膜を得た。この膜厚は3μmであった。この樹脂フィルムをシリコン基板より剥離し、熱特性、機械特性を測定し、その結果を纏めて表1に示した。測定条件は実施例1に記載の条件に従った。
【0032】
ディスプレイデバイスの製造例
上記実施例1~5及び比較例1~3で得られた液状ポリイミド前駆体樹脂組成物を用いたフレキシブル液晶ディスプレイの製造例を示す。
図1に示すようにキャリア基板としてガラス基板を用い、ガラス基板上に各液状ポリイミド前駆体樹脂組成物を、スピンコートで塗布した後、130℃のホットプレートで2分間ベークし、厚さ約5μmになるように製膜した。次いで、硬化炉を用い200℃で30分間、さらに350℃で60分間加熱硬化してイミド化し、固体状の樹脂膜であるポリイミド樹脂フィルムを形成した。この膜厚は3μmであった。このポリイミド膜上に、既知の方法に従って図2に示すようにTFT電極を形成することができた。さらにその上に既知の方法に従って、図3に示すように液晶表示素子、カバーフィルムの層を形成することができた。その後、図4に示すようにガラス基板から、フレキシブルデバイスを剥離することができた。
このようにして得られる、実施例のフレキシブル液晶ディスプレイは良好な性能を示したが、比較例のものはポリイミド膜物性が劣るため、信頼性に優れるフレキシブル液晶ディスプレイは得られなかった。
【0033】
【表1】
表1に示したように、本発明の一般式(1)で表される構成単位を有するポリイミド前駆体を用いた樹脂膜は、ガラス転移温度、熱分解温度、熱膨張率などの熱特性、破断点応力、弾性率、伸びなどの機械特性に優れる。これに対し、一般式(1)で表される構成単位を有さない比較例1~3は、熱特性、機械特性に劣る。また、実施例のポリイミド前駆体は、薄膜の樹脂膜にもかかわらず、その上に形成した各種回路(TFT電極、液晶表示素子)にはがれなどの欠陥を生じさせることなくキャリア基板からの剥離性に優れる。」
(2)検討
ア.本件発明の解決課題
本件発明の解決しようとする課題は、本件特許明細書の記載(摘示(本b)及び(本c)参照)からみて、「液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、電子ペーパー等の表示デバイス、太陽電池の受光デバイスであるフレキシブルデバイスにおいて、ガラス基板等のキャリア基板上に塗布することで簡単にかつ所望の膜厚の薄膜を形成し、その樹脂薄膜上に回路やディスプレイ層等を形成できるとともに、耐熱性に優れ、熱膨張係数の低いポリイミド膜となって、回路等の形成過程でキャリア基板層からのはがれやキャリア基板層のそりを生じさせず、回路等のはがれなどの欠陥も生じず、そしてその後、キャリア基板から欠陥を生じずに剥離ができる、液状のフレキシブルデバイス基板形成用ポリイミド前駆体樹脂組成物、これを用いたフレキシブルデバイス及びその製造方法」の提供にあるものと認められる。
(2)本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載
本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載のうち実施例(比較例)に係る部分以外の部分(【0001】ないし【0022】)の記載を検討すると、本件発明の「一般式(1)・・で表される構造単位を全構造単位中60%以上有する重量平均分子量が15,000~80,000であるポリイミド前駆体」を使用することにより、上記解決課題に則した「耐熱性に優れ、熱膨張係数の低いポリイミド膜となって、回路等の形成過程でキャリア基板層からのはがれやキャリア基板層のそりを生じさせず、回路等のはがれなどの欠陥も生じず、そしてその後、キャリア基板から欠陥を生じずに剥離ができる」との効果を奏するに至る具体的作用機序につき、当業者が認識できるような直接的な記載はない。
しかしながら、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載のうち実施例(比較例)に係る部分(【0023】ないし【0033】)の記載を検討すると、「【表1】」の結果からみて、本件発明に係る実施例1及び2を含む実施例の場合において、比較例の他のポリイミド前駆体を使用した場合に比して、ポリイミド樹脂膜とした場合の耐熱性に係るガラス転移温度及び熱分解温度が概ね高くなり、熱膨張率が格段に小さくなることが看取でき、破断点応力及び弾性率等の機械的特性についても改善されることが看取できるから、当該実施例(比較例)の結果の対比などにより、本件発明に係る「液晶ディスプレイ基板形成用、有機ELディスプレイ基板形成用又は電子ペーパー基板形成用塗布液から得られるポリイミド樹脂膜」につき、上記解決課題に対応する「熱膨張係数の低いポリイミド膜となって、回路等の形成過程でキャリア基板層からのはがれやキャリア基板層のそりを生じさせず、回路等のはがれなどの欠陥も生じず、そしてその後、キャリア基板から欠陥を生じずに剥離ができる」との所期の効果を得られるであろうことを当業者が看取できるものと認められる。
してみると、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載に接した当業者は、上記請求項1ないし7に記載された事項を具備する発明につき、上記課題を解決できると認識することができるものというべきである。
(3)小括
以上を総合すると、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件特許の請求項1ないし7に記載された事項を具備する発明が、上記解決課題を解決できるであろうと当業者が認識できるものとはいうべきものであるから、本件発明1ないし7が、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載したものということができる。
ウ.取消理由1-5、取消理由2-4及び取消理由aについてのまとめ
以上のとおりであるから、本件の請求項1ないし7の記載は、いずれも特許法第36条第6項第1号に適合するものであり、上記取消理由1-5、取消理由2-4及び取消理由aは、いずれも理由がない。
3.取消理由1-4について
上記取消理由1-4に係る申立人1の主張を整理すると、本件発明に係る「回路が表面に形成された樹脂膜を前記キャリア基板から剥離・・する工程」につき、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、ポリイミド樹脂膜のキャリア基板と接している面に局所的に熱エネルギーを与える「レーザー照射による剥離方法」と「単なる物理的手段による剥離方法」とのみが具体的方法として記載されているところ、上記本件訂正で除外された加熱処理による剥離に相当する「レーザー照射による剥離方法」はさておき、「単なる物理的手段による剥離方法」に係る具体的方法が本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されていないことにより、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、本件発明1ないし7につき、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものではない、というものと認められる。
しかるに、申立人1が令和元年8月30日付け意見書において例示するとおり、「引き剥がし」による剥離は、当業者が典型的に採用するであろう「(単なる)物理的手段による剥離」であって、その際、回路等に損傷が発生しないような条件で行うことも、当業者の技術常識の範囲内のことであるものと認められる。
なお、甲2-1にも見られるとおり、回路を設けたIC回路基板のカット工程において回路基板とキャリアとが自然に分離することも、上記「単なる物理的手段による剥離」に相当するものと解される。
してみると、本件発明の上記剥離工程を行うにあたり、「単なる物理的手段による剥離」を選択した際、その手法又は条件を決定しつつ剥離を行うことは、当業者の通常の創作能力を発揮することにより、過度の試行錯誤を要することなしに実行できるものと解するのが自然である。
したがって、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、本件発明につき、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものということができるから、上記取消理由1-4は理由がない。
4.他の取消理由の存否について
なお、職権により更に検討しても、本件の請求項1ないし7に係る発明についての特許につき、取り消すべき理由を発見しない。
5.取消理由に係る検討のまとめ
以上のとおり、申立人1が主張する取消理由1ないし5及び申立人2が主張する取消理由1ないし4並びに当審が通知した取消理由aは、いずれも理由がなく、そのほかに本件の請求項1ないし7に係る発明についての特許につき、取り消すべき理由を発見しない。
第7 むすび
以上のとおりであるから、特許第6206446号の特許請求の範囲を令和元年7月22日付けの訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1~7につきそれぞれ請求項ごとに訂正することを認める。
そして、両申立人が主張する理由及び提示する証拠では、上記訂正後の特許第6206446号の請求項1ないし7に係る特許を取り消すことはできない。
また、そのほかに、上記訂正後の特許第6206446号の請求項1ないし7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、上記結論のとおり決定する。
審決本文(J-PlatPat)
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2018-700280